412: ◆MOhabd2xa8mX[saga]
2020/11/11(水) 01:36:50.55 ID:/k/kpvsQo
私は耳をほんの少しだけ傾けた。傾けなければよかった。
技術の差というものはこれほどまでに残酷な現実を突きつけるのか、私は今この瞬間になって初めて本物の天才と出会った。
僅かな強弱が凡百との旋律に大きな差を、絹糸を結うかのように滑らかかつ繊細な手指の動きが旋律に命を吹き込んでいた。
幽霊部員「♪」
演奏が終わったあとには中学生の演奏とは思えないほどの歓声が沸き上がっていた。
私が今まで経験してこなかったことばかりだ。
今にも崩れ落ちてしまいそうな足を精一杯の力でステージまで運ぶ私の姿はさぞかし滑稽だっただろう。
幽霊部員「あーあ」
歓声の中ですれ違う凡百と天才。
天才はすれ違いざまに信じられないことを吐き捨てた。
幽霊部員「久しぶりに弾いたけどまあまあうまく弾けたっす」
作曲「えっ――」
思わず足が止まってしまった。
無視してしまえばどれほど幸せだったことか。
作曲「ぃ……いっ……いつぶりなの?」
幽霊部員「1年ぶり?くらいっすね」
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