松田亜利沙「大好きを繋ぐレスポンス」
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13: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/10/29(日) 23:17:58.60 ID:s1IKgLXf0

「……まだ、残ってるかなぁ」

 もぞりと布団を抜け出して、勉強机を漁ってみる。引き出しの中に大事にしまわれたそれは、すぐに見つかった。
 大学ノートの下には学習帳、その下には自由帳、さらに奥底には、コピー紙をリボンで束ねたような紙束まで。
 どの表紙にも、ありさメモと表紙に大きく書かれている。
 アイドルちゃんノートとか、アイドルちゃん研究とか、添えられた言葉はそれぞれ違ったけど、どれもありさが積み重ねてきた好きの集大成だ。

 全部引っ張り出して、ベッドの隅に積み上げた。うつ伏せでもう一度布団に潜り込んで、枕の上に一番上の一冊を開く。

「…………よかった」

 ちゃんと覚えてる。
 39プロジェクトのオーディションを受けるって決めた時に新調したやつだ。765プロのアイドルちゃんたちを改めてリサーチした内容がまとめられた一冊。
 書かれていることはどれもアイドルちゃんとしての一面を切り抜いたものだったはず。
 でも実際に先輩として接してみたら、その何もかもがありのままのあの人たちだったから驚いたんだっけ。

 ぱらぱらとページをめくれば、39プロジェクトのみんなについても手当たり次第にリサーチした跡が見えた。
 合格したことが嬉しくて色んな子に話を聞いていた記憶は残っているけど、文章にまで舞い上がった様子がにじみ出ているとは、書いた時には思いもしなかった。

 こそばゆい気持ちになりながら、一冊、また一冊とありさメモを読み返す。
 昔のノートに遡るほど、当然ながら文章も文字も、まとめ方も拙くなっていく。元より誰かに見せるつもりなんてないけど、それでもやっぱり恥ずかしい。

 ああ、でも。楽しかった気持ちは、全部ちゃんと残ってた。
 書き連ねた感想から、どんなライブを見たのかだって思い出せる。
 時には忘れちゃってるものもあるけど、こうしてメモを読んで感じ取れるんだから、なかったことになんてならないよね?

 小学校の頃に書いたであろう、アニメキャラが表紙に描かれた自由帳まで遡ると、流石に文字を追いかけるのも大変になってきた。
 へたっぴな絵も増えてきて、さながら絵日記状態だ。
 これ以上は、軽く流し読みするくらいにとどめようと飛ばし飛ばしにページをめくろうとして、ふと。

「あ……。ぷっ、はは……っ」

 気づいてしまった。
 描かれている絵に登場する女の子は、その多くが、茶色い色鉛筆で描かれた、細長い二本の尻尾を垂らしたような髪形をしているって。

 ちゃんと文を読んでみると、アイドルソングを歌ったらパパがコールを入れてくれたとか、ダンスを覚えて真似てみたらママが驚いて褒めてくれたとか、そんなことばかり。
 絵の中のありさはどれも笑顔で、眼鏡をかけた男の人も、やっぱり茶色で髪を塗りつぶされた女の人も、全部笑顔で描かれている。

 ありさもアイドルちゃんになりたい。
 探してみれば、たくさんたくさんその言葉が書いてあった。
 きっと、アイドルちゃん好きのパパが喜んでくれるのが嬉しくて、もっともっと褒めてほしくて、そんなことをずっと思っていたんだろう。

 ほんと、ばかみたいだ。これじゃあ今のありさより、パパとママ、たったふたりのファンのためにキラキラしてたありさの方が、ずっとアイドルちゃんしてるじゃないか。

 笑いながら、ぽたりと紙の上に灰色の染みが落ちてしまったことに気づいて、大慌てでノートを閉じる。
 丁寧に積みなおして、枕元に置いてあるお気に入りのぬいぐるみをぎゅーっ、と抱きしめた。

「…………がんばろ」

 ……大丈夫。もう何度も繰り返した言葉は、今度こそ本当だよ。
 だって、ちゃんと思い出せたから。ありさが何を大切にしたくて、何を信じていたくて、何が好きなのか。

 ぽふ、とそのまま横に倒れてベッドに体重を預ける。
 涙は溢れてなかなか止まらなかったけど、気づけば意識は真っ暗に落ちていた。



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