高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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12: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 18:52:57.49 ID:hD9nuK1M0
六つか七つの頃、売られてゆくわっちにお前様はこういいあんした。

『のう、楓。どうせ芸者になるなら、天下一の芸者になってけろ。わしも天下に名乗りさ上げて、おまんの座敷ば呼ばれるような男になる。じゃからその時まで、決して泣くな。泣きたくなったら上向いて、洒落でも言うて笑い飛ばせ』

幼い時分とて、賢いお前様ですから。売られていく、というのがどういうことかはわかっていたのでしょう。
拳を固めてぶるぶる震わせながら、それでもニッカリと笑ってくれあんした。

そん言葉だけを糧に、わっちは今日までやってこれたようなもんであんした。

お前様はそう言ってくれあんしたけど、島原の芸妓とお百姓が一緒になることは無理でござんす。ゆえにわっちは、同じ空の下に生きていてくれるならそれで良いと、芸の道に努め、辛いしきたりも姉さま方からの折檻にも耐えられあんした。

よしんば来世のご縁におすがり出来たら、それでええなと思いながら。

「ばか」
「ばかか、わしは」
「ばか、あほ、ぼけ、唐変木、すけこまし」
「そこまで言うか」
「……お前様は、ばかです」
「すまん」
「虫も殺せないような人のくせに」
「……すまんな」

会津中将様のお座敷にお呼ばれ致したとき、お廊下にはべり、氷のような眼をして一分の隙もなく座していたお前様を見付けてしまった時、心の臓が止まるような心地でした。



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