高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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13: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 18:54:06.99 ID:hD9nuK1M0
『浅葱のだんだら血に染めて、四条の辻を鬼が通る』

数年前の池田屋と蛤御門の事変の折より、京でその名を知らぬものはありんせん。
いかな貴人であろうとも、お役目とあらば問答無用で叩き斬ってしまう、泣く子も黙る恐ろ恐ろしい壬生浪。
否、壬生狼の事でござんす。
わっちが、過ぎた望みを胸に秘していんしたから、御神仏さまがかような悪戯をしてしまいんしたか。
お前様が日ごろ言っていたような、下らぬ洒落話であれば、何かの見間違いであればどれほど良かったことか。
お前様は、あの時と変わらぬ顔のまま、人斬りの顔になってしまっておりました。

「……お逢いしとう、ございました」
「……わしもじゃ」

わっちが、どれほどその想いを胸のうちで焦がしてきたか。
その一念が、わっちを今日まで生かしました。
今生では叶わぬであろう思いつつも、せめて一目、息上がる前に、そのように夢想して、雨の日も風の日も、なんとか生きて参りやんした。
まさかこったな形になろうとは。
およそ、人斬りなぞ出来るようなお前様ではございませんでしたのに。
どれほど身と心を削ってこられたのか。
この先、血にまみれた末の報いが来ぬわけはございませぬのに。

「……お前様は」
「うん」
「来世のご縁というのを、信じておりますか」

世の中の行く末がどうなるかわからずとも、人を斬り続けたお人の行く末がどうなるかは、明らかです。
その知れ切った往生の、わからぬお前様ではありますまい。

「信じぬよ。わしは信じぬ」

まして尊王攘夷だの大義だの、そんな志士めいたお題目をただの百姓であった、お前様が胸に秘めていたわけではありますまい。
幼い日の、とるに足らぬままごとのような約束を守るために、生き方も変え、何もかも棄てて、こったなところまで来てしまいましたのでしょう。
もはや引き返せぬところまで、来てしまいましたのでしょう。

「今世の縁は、今世のうちに果たさねばならん。来世の縁にすがって望みを託すなど、男子の生き方ではあるまいよ」

お前様は、ばかです。


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