高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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29: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 23:39:05.82 ID:hD9nuK1M0
「おい、ワシも剣を取って戦うぞ。薩長なんぞ一捻りじゃけぇ、二度と京に火つけなどさせん」
「ほんとにお前らはのう、せっかくの別嬪じゃというのになんと猛々しい……」
「……せんせい」
「ん? どうした、雪美」

目付きをきつくした巴のさらさらの髪を、かいぐりかいぐりとしてると、裾を雪美が引っ張ってきたので、振り返る。
ちょこんと摘まんだ手が、震えていた。

「どんどん焼けの火……怖かったの……昼間みたいに明るくて、熱くて……鉄砲、大砲、ごうごう……怖かったの……」

会津藩主・松平容保の排除を目的として長州派がクーデターを起こした禁門の変は、京市中を戦禍に巻き込み、およそ三万戸が焼失する『どんどん焼け』と呼ばれる未曾有の大火事に発展した。
北は一条、南は七条まで多くの市民が焼け出され、この際の大火が原因で現代まで修復作業が続行中である山車が存在しているなど、市民生活に多大な影を落とした。

「心配するな、雪美」

雪美をひょいっと持ち上げ、カタカタと震える小さな体を抱き締めた。
禁門の変はもう数年も前の出来事だというのに、この小さな体には当時の恐怖が焼き付いて離れないのだろう。
戦争の被害を被るのは、いつの時代も力なき者達であった。

「なーんにも心配するな。絶対もう、怖い思いはさせん!」
「ほんとう……? 父様も……母様も……ぺろも……怖い思い、しない……?」
「ああ。わしらが、必ずなんとかする。雪美はいつも通り、いっぱい遊んで、一生懸命手習いばして、ぺろと一緒にぐっすり眠っておればええ」

にかっと笑うと、雪美の小さな白い腕が、男の首筋にきゅっとしがみついた。
川島は、胸の締め付けられるような、たまらぬ思いがした。
新撰組とて、鉄砲や大砲の威力を知らないわけではない。まして足掛け五年以上もこの国の内乱の最前線で戦ってきた彼らが、西洋式のガトリングやスペンサー銃を相手に、関ヶ原の頃と大して進歩もしていない、チャチ弾鉄砲や刀剣素槍で立ち向かえばどうなるか、わかっていない筈がないのだ。
せいぜい、肉の壁となって弾除けになるくらいしかやりようはあるまい。



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