高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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30: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 23:40:15.49 ID:hD9nuK1M0
「あーせんせぇ! かおるも抱っこしてよー!」
「仁奈も! 仁奈には肩車してくだせー!」
「おう、順番じゃ、順番」
「……おのれはしてもらわんでええんか、晴」
「んなっ!? も、もうそんなトシじゃねーよ! なぁ、いーから剣術やろうぜー、オレ荒木又右衛門やるから、せんせー河合甚左衛門ね」
「いいじゃろう、鍵屋の辻の講談は、何度聴いても“まったえーもん”じゃからのう。はっはっは」
「うわっ、さぶぅ……」
「喋らねばええ男なんじゃがな……」

子供らに引かれ、抱き上げ、頭を撫でる手。その同じ手で彼は、容赦なく人を斬った。
銭のために、と、彼は言った。
その手が、愛しい女を抱いたことがあったのだろうか。
子供らと手を繋ぐ、陽の射した後ろ姿が、川島に語りかけた。

――――惚れた女に命尽くすのが、男じゃねえのか。弱ぇ女子供のために命張るのが、男じゃねえのか。
忠義だ大志だ武士道だ、そんなのはわからねぇよ。けどな、男の死ぬ理由は、いつだって一等、それじゃねえのかよ。

何が正しくて、何が間違っているのか。本当は彼ら自身にも、なにもわからなかったのかもしれない。彼らもまた、時代の黒潮に呑まれて行く藻屑である。
ただ、その背中は、己の死に場所をすでに知っているのだと、川島には見えた。




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