31: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/18(水) 23:41:33.07 ID:hD9nuK1M0
◇◇◇◇
「ふふっ、また私の勝ちですね〜」
酔いどれの楓さんがくるくる笑っている。
ちきしょう、何故だ。
何故、電車旅の小宴会とはこれほどまでに楽しいんだ。
座椅子は固いし席は狭いし、酒だってコンビニで買えるお手軽アルコールなのに、すごく楽しい。
これは海の家の焼きそば現象に匹敵する。
「それは、私と一緒に居るからですよ?」
こいつっ、直接脳内にっ……!?
「高垣楓と往く大人の遠足現象と名付けましょう」
なんてこった、そんなの桃源郷じゃねえか。
冷やせすらしない常温ハイボールが、通常の357倍は旨く感じるのも納得せざるを得ないというもの。
ちきしょう、俺ァ一体、前世でどんな高徳を積んだっていうんだ。地上にいながらにして極楽浄土じゃねぇか。
「というか、ぼくの頭の中を先読みしないでくださいよ」
「……プロデューサーの考えてることを、わたしがわからないわけがありませんよ?」
何言ってるんですか、貴方は? みたいな怪訝な顔しないでください。むしろ貴女が何を言ってるんだ。
「ウィスキ〜が、お好きでしょう……ふふっ」
プラスチックのカップでマドラーをかき混ぜながら、鼻唄を歌っている。
持参した氷は既に溶けてしまって、もはやただのぬるい炭酸割りだが、どうにもこれが旨い。
めちゃくちゃ旨い。
「もう少〜し〜喋りましょう……」
柔らかい車窓の陽射しの中に浮かぶ楓さんの横顔と、融けていくようなウィスパーな歌声。
美しさとしっとり感と無邪気さが合わさり、最強に見える。
「どうぞ、プロデューサー」
ありがとうございます、というと、楓さんはきちんと両手でカップを手渡し、にこりと笑った。
女神かよ。綺麗で、気遣いできて、優しくて。
……楓さん、ずっと言えませんでしたがじつは僕はあなたの事が――――
「ウィスキーが、うぃ〜、好きっす! ふふっ!」
ああ、うん。
やっぱり、僕のよく知る楓さんだ。
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