“らしくない私たち” に 祝福と喝采を
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8:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 23:09:04.50 ID:j/IZGaDe0

───────────────────side:如月 千早

 薄々気付いていた。戻ってきた時の、そして目の前に佇む彼女の様子が少しおかしいということには。

 再三のため息にひきつった笑顔──本人は何でもないように振る舞っていたけれど、彼女をよく知る者が見れば必ず違和感を覚えたはずだ。だって私だけじゃない、静香も伊吹さんも、それに気付いていたのだから──さっき耳に届いたあの不穏な呟きが、何よりの証だ。
 もちろん春香だって、今の彼女を目にすればきっと気付いていたはずだ……目にしていればの話だが。でもそれは叶わないこと。春香は今頃、きっとこの瞬間にだって“パーティーの準備”に追われているはずだから。

 だから、劇場に戻って来たはずの未来の姿が見えなくなった時、何かがあったのだろうと当たりをつけた。それと、人間誰しも一人になりたい時だってある、ここは少し時間をおいて様子をみよう──とも。どこにいるのかさえ把握しておけば、やみくもに事を大きくする必要なんてない、心が落ち着くまで待ってみようと。天真爛漫で根がポジティブな未来の事だ。きっとすぐにでも笑顔を見せてくれる──私達は、そう高をくくっていた。

 けれど、彼女はいつまで経っても戻って来なかった。三十分が過ぎ一時間に近付いても、彼女は姿を見せなかったのだ。

 あらかじめ青羽さんに聞いておいて良かった。未来には“落ち込んだ時のおまじない”があって、レッスンや仕事が上手くいかなかった時には度々屋上を開けてあげていたんだと……そして、今日もこっそり開けてあげたということも。

 だから私が来たのだ。

『アイドルとして直面したトラブル』──年の近い同期には話しにくい事でも、年上であり先輩でもある自分にならば、打ち明けやすいのではないかと考えたから。春香や水瀬さんよりも、彼女とあまり接点のない自分の方が、却って話しやすいのではないかと考えたから……が、結論から言えば、その目算は甘かった。“いつもの私”ではこの子の強がりを崩せなかったのだ。



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