呆れメロス
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12:名無しNIPPER[saga]
2019/12/06(金) 23:34:01.17 ID:o9kFpOMF0


ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。

そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。

すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、

母の股間の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら聖水が湧き出ているのである。


その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬すくって、一くち飲んだ。

ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。

歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生まれた。

義務遂行の希望である。わが身を殺して、なろう作家を馬鹿にするための名誉を守る希望である。

斜陽は赤い光を窓から投じ、母の目は「おまえは本当カスだけど、ま、私もなろう作品が大嫌いだからね!」と言いたげにウインクしているように見える。

日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。

少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。

私は、信じられている。私のアカウントなぞは、問題ではない。

世間的に死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。

私は、なんとしてもアニメ化したなろう作家、なろう王を粛正せねばならぬ。

「やれやれ、またなろう作家がやっちゃいました?」

いまはただその一言をネットにアップしなければならない。呆れ! メロス。


私は呆れている。私は呆れている。

先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。

五臓が疲れているときは、なろう作品って実は面白いんじゃ……? などと夢を見るものだ。

メロス、おまえのなろう作品批判は恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。


再び立って走れるようになったではないか。ありがたい!

私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。

ずんずん沈む。待ってくれ、エリーチカよ。

私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままなろうを批判して、死なせて下さい。


路いた母を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。

部屋前の洗濯カゴをどかせ、ドアを大きな音をたてて開け、室内のネコを仰天させ、ネコを蹴とばし、

妹の部屋のタンスから下着を抜き頭にかぶり、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く行動した。




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