もしもし、そこの加蓮さん。
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21:名無しNIPPER[saga]
2020/04/26(日) 22:35:03.58 ID:DTyxDqAB0

まばらな客は誰も加蓮の事など見ていませんでした。
大手のシネコンであればどうしたって紛れ込んでしまう無粋な客も、
夕暮れ前のミニシアターにまでは忍び込んで来られません。
心地良い孤独がアイスコーヒーを少し美味しくしてくれます。

開始時刻の三分前になり、
ぐんと絞られた照明が北条加蓮を何処かの誰かに限り無く近付けてくれます。
三分の一くらいしか減らせなかったアイスコーヒーを肘掛けのホルダーに収めると、
彼女は入れっぱなしだった携帯電話の電源を切りました。


さぁ、今日の映画はどんなのだろう。


映画を観ようと思い立ってからこのミニシアターに到着するまで、
どんな作品が上映中なのか、彼女は調べてなどいませんでした。
チケット売り場の前に立ち、二つあるスクリーンのどちらにしようか十数秒だけ逡巡して。
それで何となく選んだ方に、今こうして座っているという訳です。

映画好きが聞いたら呆れ返ってしまうような選び方かもしれません。
でもこれは、あくまで彼女のリラクゼーションですから。


注意喚起の映像が途切れ、絞られていた照明も完全に落ちました。
加蓮は背筋を少しだけ正して、流れ始めたフィルムに意識を傾け始めます。

今日の映画はどうやらサスペンスの様子。
悪くない、と心の中でだけ呟いて、
加蓮はゆっくりと暗闇に意識を溶かし込んでゆきました。


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