高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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30: ◆jsQIWWnULI
2020/08/08(土) 19:28:25.78 ID:b+VIQ/E60
「だいぶ漕いでるけど、アリア社長の姿、見当たらないね」

「そうですね」

アリア社長の後を追いかけて狭い水路に入ってから、いったいどれくらいの時間がたっただろうか。私たちの頭上には空があって、お日様が辺りを照らしている。そしてその恩恵を受けようと、洗濯物が水路をまたいで架かっている。ネオ・ヴェネツィアのよく見る風景。日常に溶け込んだいつもの景色。だけど、これは……

「なんだか、生活感がないですね。この水路」

あやめちゃんがぼそっと呟く。私もそれに同意する。

「うん。なんというか……ここだけ、ネオヴェネツィアじゃないみたいっていうか……」

オールが水を切る音だけが響く。いつものネオ・ヴェネツィアにはない静けさ。これは、私がここにきて日が浅いことに由来する、ネオヴェネツィアの新しい姿、というわけではなさそうだった。

「あ、藍子殿!」

あやめちゃんが急に指さす。あやめちゃんの示した先には、水路の出口があった。

「出口ですね」

「うん」

少し急ぎ目にゴンドラを漕ぐ。そして、ひらけた空間に出る。

「わぁ……」

「ここは……たぶん、アクアに人々が入植した直後の建物群の跡地ですね……」

「まだ、火星だった時の……」

「はい」

鉄骨むき出しの大きな建物の数々が、錆びて朽ち果てながらもそこには残っていた。ネオ。ヴェネツィアでは見ることのないコンクリート造りの建物は、表面をボロボロにしながらも一定の空間を保って並んでいる。その一定さが、入植した当時の科学技術をふんだんに使った効率的で機械的なものだということを私たちに訴えかけてくる。そのたたずまいからは、俺たちのおかげでアクアが出来たんだぞ、という昔の人々の意思を感じた。

パシャリ

私はそんな建物たちをレンズに収めるためにシャッターを切った。

「時代を感じますね」

あやめちゃんは感慨深げに言う。

「うん……そうだね……」

私はカメラを下ろし、再び自分の目でその建物たちを見る。今ではもう使われなくなって、静かに眠っている建造物たち。その姿には、やはりどこか哀愁めいたものがあった。

「……さ、行こうか。アリア社長を見失っちゃうといけないし」

私はこの空間から去ることを名残惜しく感じながらも、オールを動かす。

「はい。行きましょう」

あやめちゃんも頷く。ゴンドラが再び動く。


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