高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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99: ◆jsQIWWnULI
2021/03/04(木) 20:15:44.57 ID:+fCS+15r0
「あ、藍子ちゃん。ここの水路を左に曲がってくれる?」

しばらく練習用コースを進んだ後、アイさんがそう言った。甘い香りがした場所は、ここからそう遠くはなかった。

「あ、はい」

私は言われた通りにゴンドラを漕ぐ。家々が立ち並び、少しだけ影がちになっている水路を進む。しばらくすると、風に乗って鼻にかすかな甘さが通った。

「あっ……昨日とおんなじ匂い……」

「うんうん。甘い匂いが香ってきたね」

アイさんも匂いに気が付いたらしく、頷いている。アリア社長も鼻をひくひくさせている。

ゴンドラを進めるたびに、その匂いは強くなっていく。しばらく水路を進んでいくと、光が強い場所が見えてきた。

「もうちょっとだよ」

アイさんが言う。私はその言葉を受けて、少しだけゴンドラを漕ぐスピードを上げる。

「わぁ……!」

その水路を抜けると、急に視界が開けた。そして、目の前には緑色のキャンパスにオレンジ色の点々をまぶしたような光景。息をするたびに鼻に抜ける甘い香り。これが、昨日の甘い匂いの正体だった。

「これが、匂いの正体だったんですね」

「そう。これはね、キンモクセイって言う植物なの。秋の始まりになると、必ず花を咲かせるんだよ。その時には必ず、この甘い匂いも出てくるんだ。マンホームにはない植物だね。昔はあったらしいんだけど」

「キンモクセイ、ですか……」

私はオールを片手で支えながら、もう一方の手で首からぶら下げたカメラを持ち上げると、今見えている風景を写真に収めた。

「キンモクセイの匂いは私たちにとっては甘い香りがしてとても良い匂いなんだけど、虫にとっては嫌な匂いなんだって。蚊とかも寄り付かないらしいよ」

「そうなんですね……不思議……」

キンモクセイは中庭のような場所に生えていた。ゴンドラを付けて上陸すると、キンモクセイの様子がよく分かった。こんもりした緑は木から生えている葉っぱであり、そこから小さいオレンジ色をした花が顔をのぞかせている。

「ここは日当たりも良い場所だから、良く育ってるね。前に来たときよりも大きくなってるんじゃないかな」

アイさんはキンモクセイの花を見ながらそういった。

「前にも来たことがあるんですか?」

「うん。偶然ここを見つけたの。それこそ、私がまだシングルだった時、藍子ちゃんたちと同じように、アーニャとあずさと見つけたんだ。それ以来、秋になるとここに来てるの」

「そうだったんですね。だから、昨日の私の話を聞いて、ここに連れてきてくれたんですね」

「うん。私もちょうど来たかったから」

アイさんは微笑みながらそう言った。

「さて、それじゃあお日様も出てて暖かいし、もう少し行ったところに同じような中庭があるから、そこに行こうか」

「はい」

私たちはゴンドラへと戻る。最後にめいいっぱい空気を吸い込んで肺をキンモクセイの香りで満たす。そんなはずないのに、口から出す息がなんだが甘くなったような気がして、少し可笑しかった。


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