高垣楓「あなたがいない」
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9: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:51:36.25 ID:kh3F9e+N0

「高垣です」
「どうぞ」

 簡潔なやり取り。
以下略 AAS



10: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:52:36.62 ID:kh3F9e+N0

「私とちひろ君が病院に着いた時にはもう、彼は、亡くなっていました。そして今、スタッフにはその事実を伝えました」
「……」
「ここからが、秘密にしていただきたいことです……ほどなくして、警察が病院に来まして、私とちひろ君、そして彼のお姉さんが事情聴取を受けました」
「えっ?」
以下略 AAS



11: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:53:35.48 ID:kh3F9e+N0

「彼は、自ら死を選んだんです……」

 それ以上、誰も、なにも、話せない。
 私は両手で顔を覆い、うつむく。
以下略 AAS



12: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:54:28.52 ID:kh3F9e+N0

 ちひろさんは帰ってこない。
 社長さんの指示で、スタッフ経由でアイドルたちに、Pさんが亡くなったことを伝える。
 仕方ないことだ。人の口には戸が立てられないし、いつどこから、彼が亡くなった事実を聞くか分からない。
 むしろ早めに手を打つことで、少しでも動揺を収束させる狙いがあった。
以下略 AAS



13: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:56:01.74 ID:kh3F9e+N0

 ちひろさんが帰ってきたのは、もう夕方になろうとする頃だった。
 私の顔を見て一言「ごめんなさい」と呟き、力なく社長室へと向かう。
 彼女がなにを話すのかなんて、私には分からないこと。
 だがちひろさんのまぶたはややはれぼったくて、相当に泣きはらしたのだろうということは容易に想像できた。
以下略 AAS



14: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:57:02.65 ID:kh3F9e+N0

「お姉さんに、ですか?」
「はい……弟がいろいろお世話になりました、と、お礼を言われて……」

 そう言うとちひろさんは、ぽろぽろと涙をこぼす。
以下略 AAS



15: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:58:18.62 ID:kh3F9e+N0

「ちひろさん? マンションまで送りましょうか?」

 私の提案に、ちひろさんはかぶりを振る。さすがに今の彼女をそのまま電車へ預けてしまうのは、不安でしかない。
 通りに出てタクシーを捕まえる。
以下略 AAS



16: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 22:59:30.24 ID:kh3F9e+N0

 車内。私は流れる街灯りをぼんやりと眺めている。
 今日は本当に、いろいろとありすぎた。目まぐるしく変化する状況に、理解が追い付かない。
 今こうしている間も、これが現実と思えない私がいる。

以下略 AAS



17: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 23:00:14.02 ID:kh3F9e+N0

 あれは、現実だったのだろうか。
 部長さんの落胆する表情。社長さんの苦悩の色。そして、ちひろさんの涙。
 耳には、スタッフの指示の声。そして。
『自死』の言葉。
以下略 AAS



18: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/13(日) 23:00:44.32 ID:kh3F9e+N0

 私は、彼ではないのだから。




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