【ミリマス】松田亜利沙「同級生から、コクハクされちゃいました……」
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3:自縄自縛 2/9[sage saga]
2021/03/05(金) 18:02:57.32 ID:sro8Zma60
 トーク番組への影響が懸念されたが、特に支障も無く収録は進んだ。制服から着替えてメイクアップが済む頃には、いつもの亜利沙になって「ふおお、共演するアイドルちゃんが!」と鼻息を荒くしていたのだから、単なる杞憂に過ぎなかったか。だが、楽屋を後にする時、亜利沙の顔からは笑顔が剥がれ落ち、今日の天気みたいに雲が立ち込めていた。

「プロデューサーさん」

 局の廊下を少し離れて歩いていた亜利沙は、「相談したいことがある」と口にした。スローテンポな固い足音が、廊下の壁をジグザグに反響する。

「やっぱり、何かあるな。どうしたんだ?」
「プロデューサーさんに、聞いてほしいことがあるっていうか……で、でも、まだありさの頭の中、グルグルしてて、よく分かんないんです……お仕事は、何とかなりましたけど」
「……どこかで話すには、もう遅い時間だな」

 時計の針は、あと二時間で日付を変えてしまう。ここから亜利沙を家まで送り届けるだけでも四〇分以上はかかる。彼女は未成年なのだ。「帰りの車の中で話を聞こうか」とプロデューサーは切り出したが、何かは分からない動揺に亜利沙はまごつくばかりで、すぐにまとまった話ができる様子でも無さそうだった。

「明日、オフが重なってるな。予定を特に入れてないからゆっくり話を聞けるが、どうする?」

 駐車場の車を発進させながら、彼が尋ねた。バックミラーに映る表情には、惑いというよりも憔悴がこびりついている。

「えっ? ……そんな突然、プロデューサーさんの迷惑になっちゃいます。せっかくの貴重なお休みなのに、ありさなんかのために……」
「……そんな力無く『ありさなんか』って言うんなら、決まりだな。亜利沙の力を借りたい用事もあったから、丁度いい」
「い……いいんですか?」

 俯いてスマートフォンに指を滑らせていた亜利沙が、顔を上げた。「いいとも」と答えたプロデューサーの返答を耳にしても、
「……すみません」
 と、笑顔がそこに戻ることはなかった。

 ――ストーカー被害か。高校でイジメに遭っているのか。他所の事務所からのしつこいスカウトか。それとも、劇場の子との不仲? まさか、アイドルを辞めたくなった、なんてことは、流石に無さそうだが……。

 根拠のない無意味な憶測が、頭の中に浮かんでは消える。黙って窓の外を眺める亜利沙にかけるべき言葉が、その時の彼には見つからなかった。


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