【ミリマス】松田亜利沙「同級生から、コクハクされちゃいました……」
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4:自縄自縛 3/9[sage saga]
2021/03/05(金) 18:04:08.18 ID:sro8Zma60
 翌日の土曜日、曇り空は雨雲に上書きされていた。目立つ場所を避けるために待ち合わせ場所に設定した、駅から少し離れた広場の一角からは、こんな天候なのに忙しなく通りを歩く人々が見える。誰もかれもが傘の向こうに顔を隠していて、雨音とびしゃびしゃ踏まれていく水溜りの音から耳を背けているようだった。

 透明なビニール傘、黒に茶色に……。流れていく傘の中から、エメラルドグリーンがこちらに向かって歩いてきた。

「すみませんプロデューサーさん、ちょっと遅れちゃいました」

 傘の隙間から覗いた頭に、いつものツインテールは無かった。茶色いセルフレームの伊達眼鏡に、キャスケットまで被っている。

「変装してたか。声をかけてくれなかったら分からなかったかも」 
「雨降ってると、ありさアンテナが濡れちゃうんで」
「……そうだったな」

 丁寧に編まれた2本のお下げが、腰まで伸びている。リボンで束ねられたその毛先を初めて見てから、まだそれほど経っていなかった。いつもと違う姿を見せて目を引けるのは女性の特権かもしれない、と思うと、思わず口元が緩んだ。膝の少し下までレインブーツに隠れていて、あの靴擦れは治癒したのかどうか、彼は一瞬それが気にかかった。

「やっぱり、編んだ髪も似合ってるな」
「あの……か、かか、可愛いって言ってくれたんで……ちょっと、調子乗っちゃったりとか……えへ」

 消極的なぎこちない照れ笑いに過ぎなかったが、亜利沙の笑った顔が見られたことにプロデューサーは胸を撫で下ろした。

「時間を置いて、少しは落ち着いたみたいだな」
「ホントに……少しは、ですけど。頭の中、ちょっとだけ整理はできました。でも、まだモヤモヤしてます……」
「……分かった。じゃあ早速、話のしやすい所に行こう。この時期の雨って冷たいしな」

ふぅ、と吐き出した息は、白くもくもくと広がり、空気に溶けていった。


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