過去ログ - 【聖杯戦争】やる夫はステゴロワイヤーアクションで戦うようです
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20: ◆ylCNb/NVSE
2012/08/30(木) 18:35:56.43 ID:K8r29XpB0

 そうこうしていると危険を知らせる水が小瓶の中で青白く光り始めた。
近くに誰かを害しようという意思を持った人間の存在を知らせる魔術礼装だ。

 道中、魚をさばく料理人に反応して、やらない夫はすっかりこの魔術礼装への自信を失っており、
真紅嬢もそれほど気に止めずに、どうせなら牛でもさばいてくれないのかしら、と私に向き直った。

 私も、そうですよね。と談笑していると軍人然とした男たちが部屋の戸を開けて姿を見せた。
身なりからして、大日本帝国の軍警察(憲兵)とは違うようすで、流暢な英語を操った。

 魔術か。とやらない夫はすぐに身構えたが、軍人はそこですかさず抵抗をやめるよう促してきた。

 異国のひとよ。神の御子の杯を争う儀式に加わる由(よし)ならば、我々に同行されたい。と男は言った。

 男は大佐の階級にあることを示す軍服を身にまとう上から、漆黒の外套を袖に腕を通さず羽織っていた。
その所作はぞっとするほど非人間的で、規律正しい動きというのだろうか、
体のそれぞれが別の生き物のように無様に働くようすが嫌悪感を覚えさせていた。

 沈黙を保つ我々に、男は名乗った。私は帝国陸軍所属、阿部高和大佐である。
我々に従ってもらおう。

 自由を奪われた我々は、彼らが管理する施設に運ばれた。
阿部大佐は相変わらず不自然な動きで我々の前に立つと、右腕のアザを見せた。

 これは聖杯戦争に参加する魔術師であることを証する印、「令呪」だ。
と阿部大佐はやや自慢するような調子で説明した。

 貴様ら、毛唐の野蛮人が我が神州で許しも得ずに怪しげな儀式をできるとお思いか?
俺たちは間抜けか、この目は節穴にあらざるぞ。我が帝国軍、大本営はこの聖杯戦争で
万能の願望機たる神の御子の杯を、天皇陛下に奉じることを、俺に命じられたのだ。と大佐は続けた。

 ご大層なことだな。とやらない夫はあざけった。
ヨーロッパ人の真似事は似合わぬ服装だけにしておけ。みっともない。

 我々が身の丈に合わぬ装いをしているのは、そちらに合わせたからだ。と大佐。

 だが合わせられぬ道理もある。魔術協会や聖堂教会、貴様ら毛唐が魔術の秘匿を
案じる由も解せぬ訳はないが、残念だが、ここは俺達の国だ。

 聖杯は神の御子のものだ。あんたらには関係ないだろ。とやらない夫。

 すべては心次第。我が大和民族は世界に冠する運命を背負う人種ぞ。
キリスト教も、飲み込んでくれよう。と大佐は大笑いした。

 この時ばかりは無生物的だった大佐が、息を吹き込まれたように感じられて、
私はその様子から、彼が西洋に過敏にコンプレックスを感じている、と分かった。



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