3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/11/30(水) 18:41:38.23 ID:7FZgc2Oz0
自動車の走行音。靴がアスファルトを打つ音。どこかの店から漏れ出た楽しそうな声。輪郭のない喧騒。感傷的になっているのかもしれない。排ガス、雨の匂い、曇り空。信号の点滅。
女性の髪とマフラーが風に揺れた。身を縮こめる行き交う人々は随分と厚着だった。
ぼくは意識して足を前にだす。気を抜けば、もっとどうでもいい情報を掬い上げてしまう。でも、意識を逸らしても逸らしきれなくて、寂寥感を募らせていった。
だから、信号を越えた先に、とりわけ目立つ本物の金髪を見つけて、ぼくは心浮かれた。ただ歩いているだけなのに、その背中は愉快そうで、不思議とこちらの気持ちまで明るくしてくれる。
逸る気持ちを抑えて、それでも抑えきれない気持ちに足取りは自然と速くなる。白のダッフルコートに身を包んだフレデリカに追いついて、横に並んで覗き込むようにしてぼくはようと声をかけた。
「久しぶり」
くりくりとした緑眼は大きく広がって。それからすぐにフレデリカは足を止めて、無邪気な笑顔を作ってくれる。
「おぉー! 久しぶり! 二十年ぶりぐらい?」
「生まれる前に会えてたなんて運命的だなぁ」
「うんうん、運命良いよね。ジャジャジャジャーンって感じで」
「ベートーヴェンをジャジャジャジャーンなんて呼ぶのは、お前ぐらいだよ」
「名前より長いもんねー」
「あだ名に使う言葉じゃないからね」
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