11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/20(金) 00:38:11.12 ID:b4qt7MSMo
シートに座っていたアライグマさんは、短い足と尻尾を使って器用にちょこんと立ち直すと、私に向かってお辞儀をした。
『はじめましてお嬢さん。一周の旅は短いですが、どうぞよしなに』
綾乃「はぁ、ど、どうも」
つられるがままに私もお辞儀をする。
アライグマさんは制服の襟をぴしっと整えると、手をちょこんとあげてガラス扉の向こうに向けて言い放った。
『それでは、しゅっぱつしんこーう!』
観覧車の合図って出発進行でいいの? という私のどうでもいい疑問をよそに、ゴンドラは動き出した。
この子はこの観覧車の案内役なのだろうか。何度か見ているはずのこの夢だけど、私以外の誰かが乗ってくるパターンはたぶん初めてだ。
アライグマさんは大きなしっぽをたたんで向かいの椅子に座りなおすと、楽しそうに話しかけてきた。
『さて、それじゃあお話でもしよ?』
綾乃「お、おはなし?」
『ウチにいろいろ聞かせてや。お嬢さんの世界のこと』
お嬢さんの世界とは、私の現実世界のことだろうか? となればこの子は、さながら夢の住人といったところか。
綾乃「お、おはなしって言ったって……私、面白い話なんか何も思いつかないけど」
『ううん、作り話やなくてお嬢さんのことを聞かせてほしいんよ。たとえばそう……お嬢さんの “好きな人” の話とか、なぁ』くすくす
綾乃「っ!」どきっ
『あははっ。観覧車といえばやっぱり恋バナに限るよなぁ〜♪』
綾乃「そ、そうかしら……」
『ちなみにこの観覧車、お嬢さんのおはなしでウチが満足できない限り、永久に元の降り口までは戻られへん仕組みになっとるから、そこんとこよろしくなー?』
綾乃「え……ええええーっ!? 何よそれ!!」
いきなり告げられる衝撃の真実。今までは楽しく乗っているだけでよかったはずなのに、急にハードな条件が課せられてしまった。
『まあまあ、そんな重く捉えんでええって。楽しくおはなしできるだけで、ウチはすぐ満足できるから』
綾乃「……そ、そう?」
75Res/105.50 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。