5: ◆JfOiQcbfj2
2018/03/14(水) 23:58:42.38 ID:IScO5bqg0
「ふぅー」
浴室からの湯気が洗面所に溢れると同時に夕美が姿を現した。タオルを胸の上から腰に掛けて巻くスタイルだが殆ど拭き取っていない為重力の影響を受けた滴が綺麗な肌を伝って下に下にと降りていく。
「あ、暖房付け忘れてた……」
浴室とリビングを隔てる扉から少しだけ顔を覗かせた夕美は入り込んでくる冷たいといっても過言ではない空気に思わず顔を顰めた。
暦月で言えば既に春、むしろ夏に向かっているというのに現実はまだまだ寒い。お風呂上りに湯冷めして風邪を引くわけにもいかないので寒い季節はいつも暖房をつけて部屋を暖めておくのが彼女の習慣であった。今日みたいに忘れることもたまにあるが。
「うー……」
暖かい部屋で身体をしっかり拭いて、その後ドライヤーで髪を乾かそうと考えていたスケジュールが崩れた。洗面所で身体を拭いたり髪を乾かせないわけではないが、やはり手狭なそこに比べて広い部屋の鏡の前でゆったりとやりたいというのが彼女の本音である。
(寒いけど暖房だけつけてこよう)
少し悩んだ彼女は暖房をつけて暖まるまでに洗面所で身体を拭いて、その後髪を乾かすという方向に予定を変更した。
タオル一枚だけ巻いた姿で薄暗い部屋に入る。
「うぅっ、さむいっ……」
途端に襲ってくる肌寒さに身を縮みこませながら暖房のリモコンが置いてあるところまでヒタヒタと歩く。テレビの下に置いてあったそのリモコンを手に取ると即座にオンのボタンを押す。
当然だがピッ、という電子音の後に暖房の起動音が部屋に響きだした。
(あとは洗面所に戻ろう……)
最悪シャワーをもう一度浴びることも思考の隅に考えながら戻ろうとしたその瞬間だった。
「っ!」
ゴト、と物音が部屋に響いた。それなりに大きな音だったせいで夕美は反射的に身体をビクと反応させた。
「な、なに?」
部屋が薄暗いせいで音の原因がわからない。
何か落としたか、まさか清潔だと思われるマンションの高い階層に鼠だとか小動物が出ることはないはずだと、若干混乱しながらもひとまず部屋の電気をつけるためにスイッチまで行こうとした彼女だったが、それは叶わなかった。
「きゃあっ!?」
腰に何かゴム質の物が巻き付く感触と同時に、グイッと力強く抱き寄せられるように引かれ、夕美は思わず悲鳴をあげた。
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