【ミリマスR-18】満月の夜、狼と化した横山奈緒に襲われる話
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3:満月に目覚めた狼 2 ◆yHhcvqAd4.[sage]
2020/10/08(木) 17:42:38.88 ID:CXB6n4GJ0
 ハリボテの木々を抜け、仮設スタジオの出口へひなたが姿を消したのを確認してから、奈緒は後ろ手に小屋の鍵をかけた。物音のしない空間に、カチリという無機質な音がこだました。そして、反響した金属音をかき消すかのように、小窓のカーテンも閉ざされる。

「で、相談ってなんだ、奈緒。別にこんな薄暗い場所でなくても劇場の中で――うわっ!」

 前方からの衝撃に視界が回転した。さっきまで二人がいたベッドに体重を受け止めてもらい、一瞬閉じた目を開くと、きらめく牙が映った。

「へへ……捕まえたでぇ……」
「おい、奈緒……奈緒?」

 雲に覆われていた月が姿を現したのが、天井の穴から見えた。普段の夜空に浮かぶものよりもずいぶんと大きな、不気味ともいえる赤みを帯びた満月。魔翌力を発しているかのようなその月光を遮りながら、奈緒が俺を見下ろしている。肩で息をして、湯気が立ち上りそうなほどに、汗ばんだ頬を上気させている。涎が垂れかけているのか、唇の端が暖炉の明かりを反射して、ぬらりと光った。紫色の瞳が赤みがかった輝きを帯びている。

「私、事前に色々調べて、さっきの撮影、めいっぱいオオカミになりきったんです」
「あ、ああ……こっちが怖くなるぐらい、迫力あったぞ」
「今日はお月さんがでっかくてキレイやなぁ……って思ってたら……フゥ……撮影本番中、めっちゃ気分が盛り上がってきて、興奮……しすぎて……」

 底抜けに明るい声のトーンは、激情を抑えつけるかのように下がっている。途切れ途切れの言葉が一音節ずつ耳の奥へ忍び込んでくる。

「ハァ、ハァ……私もう、我慢でけへん……」

 餓えた獣が、獲物を前にする舌なめずり――とろみのついた唾液を纏ったピンクの舌が、艶々したリップの輪郭をねっとりとなぞった。理性の薄れた瞳は妖しく爛々と輝き、目に刺さる月光が追い打ちをかけてきた。目をつぶった瞬間、横たわる俺の腰を挟み込む、スカートの下の引き締まった太腿の圧迫感に気づいた。

「……したい……プロデューサーさんと、ここでしたい……」
「よ、よせ、こんな所で。ここ屋上だけど、誰か来ないという保証は――」
「今すぐやないと、あかんのですっ!」

 仰向けになった体を起こそうとしたら、両手首を掴まれてベッドに押し付けられた。マウントを取って歯を見せた奈緒の、犬歯がやけに目立っている。

「はぁ……はぁ……大人しゅうしといて下さいよ。こんな時間に屋上来る人なんてまずおらへん。大声出さんとけば大丈夫ですって」
「嘘だろ……う……動けない……!?」

 年下の女の子を振りほどくのなんて造作もないこと、と考えていた俺の予想は裏切られた。一体なぜ? 俺の力が入らないのか、奈緒の力が強すぎるのか、腕を持ち上げることができなかった。この小さな異世界には、謎の力場でも発生しているのか? それとも、目の前のオオカミが、何らかの魔術でも使った? ありえない。ここは現実世界、現代の東京だ、そんなファンタジーめいたことが起こるわけが――

「うっ……!?」

 首の根元と肩の境目に温かい息がかかったと思ったら、硬いものが刺さった。噛みつかれた。この尖ったものは奈緒の犬歯か。俺の首筋に顔をうずめている。皮膚を突き破られる感覚こそ無いものの、ガリガリと歯が、いや牙が俺の体の表面を品定めしていく。動揺から湧いてきた汗がこめかみを伝っていくのを感じると、ぬらぬらしたものが追いかけるように、それを舐めとった。ぞくぞくするくすぐったさに思わず身をよじる。

「ええ顔しはりますね、プロデューサーさん。あ〜……めっちゃそそる……ホンマ美味しそうやわぁ……♡」
「な……奈緒」
「奈緒やない。今の私はオオカミさんやで」
「……オオカミさん、俺を……食うつもりなのか?」

 捕食なんて馬鹿げている、と考える自分も確かにいたが、馬乗りになって月明かりの陰になりながら、ギラついた目で俺を見下ろすこのオオカミが、今にも喉笛を食いちぎってきそうに――この部屋に充満する異様な空気に酔いかけていた俺にはそう思えた。牙の刺さった感覚が、皮膚にまだ残っている。肉食獣に捕らわれ、今にも食われる瞬間の哀れな獲物は、こんな心境でいるのだろうか。



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