【ミリマスR-18】満月の夜、狼と化した横山奈緒に襲われる話
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8:満月に目覚めた狼 7 ◆yHhcvqAd4.[sage]
2020/10/08(木) 17:49:24.42 ID:CXB6n4GJ0
 ホンマすんません、と、私服に着替えた奈緒が四回目の謝罪を口にした。

「そんなに重ねて謝ること無いだろ、もう分かったよ」
「や、だって……他の人も撮影に使うトコなのに、シーツ汚してもうたんとか、他にも色々」
「マットレスまでは染みていなかったから大丈夫だ。もう洗濯したし、明日の朝一には乾いてるだろ。衣装が汚れてないのは幸いだったよ」

 あまりにも濡らしてしまってそのままでは履けず、せめてもの足掻き、と手洗いして応急処置を施したショーツを、奈緒はドライヤーで乾かし続けていた。腰から下を覆うバスタオルの下で手がモゾモゾと動いている。自分が仕事をするデスクのすぐ隣で熱風を吐き出す音がごうごう鳴っているのは、なんだか間が抜けていた。

「途中から夢心地になってしもて、記憶もあやふやなんですけど……勢いあまってつい、首の所に歯型つけたんは覚えてて、その、手首も……跡、残ってますやんね」

 奈緒に噛まれた箇所をスマホのインカメラで覗いてみると、確かに、犬歯の刺さった跡が一か所、Yシャツの襟から見えてしまっている。拘束されている間ずっと握りしめられていた両手首には、まだ赤い筋がくっきりと浮かび上がったままだ。ちらりと視線を向けると、その手首を奈緒がじっと見つめ、頬をほんのりと染めていた。

「左手は腕時計で隠せるから平気だろう。首は……まぁ、湿布でも貼っておくか。右手が問題だが……それは後で考えたいな」

 全身が情事の倦怠感に包まれている。業務報告を作成する指に力が入らなかった。

「……それにしても、担当アイドルに襲われるとはな」
「あ、逆の方が良かったですか? ええですよ、何やったらまだ体ぽかぽかやし、下に何も履いてへんから、今ここで襲ってくれはっても……♡」

 口元を緩めて笑みを浮かべ、赤らんだ顔のままの奈緒が、誘う表情になった。いつもの陽気さからは想像もつかない、艶を帯びた視線から、思わず目を逸らす。

「ね、はよ……♡」
「無茶言うな。こっちが死んでしまう。それに、ゴムの手持ちだって無いんだ」
「……処方してもらった薬は忘れず飲んでるから平気ですよ。さっきだって一度もつけへんかったやないですか」
「できるだけの安全策は取らせてくれって」

 あのオオカミは、自分がくたびれて満足するまで、俺を解放してくれなかった。忙しさにかまけて溜まってはいたが、その貯蓄も全て吐き出してしまってもうスッカラカンだ。

「なぁ奈緒。あの馬鹿力は一体何だったんだ」
「えっ、プロデューサーさんが何の抵抗もせえへんかったんと違います? 『あ、口ではイヤやー言いながらもホントはしたいんや』って思ってましたけど」
「いや、思い切り腕に力を込めていたんだが、全く振りほどけなかったんだ。どうなってるんだ。『事前にオオカミのことを調べてなりきってみた』で説明がつくことじゃないぞ……」
「……オオカミ男? いや、私女の子やから、オオカミ女? あるやないですか。満月の夜、人間がオオカミに変身してまうって……」
「今日は確かに満月だが……それは……そんなはず……ないだろう」
「せやろかー……今日、日が沈んでからなーんか、いつもと違う気分なんですよ、ずっと」

 満月が人を狂わせる――都市伝説であるらしいが、潮の満ち引きが月の満ち欠けに影響を受けるように、そういった現象は遥か昔から物語として伝承され……現在だって、科学的根拠が無いとされているのにそういう話を信じる者は多い。オカルトじみた話には懐疑的な俺も、否定に対する確信を持つことはできなかった。

「……まぁ、それを今考えても仕方がない。奈緒、そろそろ乾いてるんじゃないか? もう夜も遅いし、家まで送るよ」
「あっ、ありがとうございますー! で、ウチまで送るって、今日はプロデューサーさんのおウチにお泊りしてってええってことですか?」
「そんなアホな。奈緒の家に決まってるだろ。明日もレッスンあるんだからちゃんと寝なさい。ただでさえ寝坊しがちなんだから」
「あいた〜。『送り狼』やろかーって思ったんやけどな〜!」

 単調なBGMになっていたドライヤーの音が止んだ。視界の右端でバスタオルがモゾモゾ動き、静まり返った夜の事務室で、衣擦れの音が生々しく鼓膜をくすぐってくる。クタクタになった体の疲労で誤魔化されていなければ、心をザワつかせてそわそわしている所だ。程なくして奈緒が椅子を立ち上がるのが見えた所で、俺もラップトップを畳んだ。


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