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垣根「初春飾利…かぁ…」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:41:11.53 ID:21MtWIQo
垣根 「初めてだったな…オレに歯向かった女は…」
垣根 「…また会いてぇえな…」
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【クリスマス・年末・年始】連休暇ならアニソン聴こうぜ・・・【避難所】 @ 2024/04/30(火) 10:03:32.45 ID:GvIXvHlao
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1714439011/

VIPでガンダムVSシリーズ避難所【マキオン】 @ 2024/04/30(火) 07:03:33.32 ID:jpWgxnqGo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1714428212/

今日も人々に祝福 @ 2024/04/29(月) 23:42:06.06 ID:cZ/b8n+v0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1714401725/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part12 @ 2024/04/29(月) 20:01:59.10 ID:OQox+0Ag0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714388519/

私が書いた文だ 一度読んでみて @ 2024/04/29(月) 13:03:50.96 ID:zomKow9K0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714363430/

私が書いた文はどう? @ 2024/04/29(月) 12:48:33.59 ID:6mJNXBCE0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714362513/

感情から生まれたものたちとの物語【安価】 @ 2024/04/29(月) 10:45:54.36 ID:0XsgiyN10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714355153/

【安価】タイトルからあらすじを想像して架空の1クールアニメを作る 2024春 @ 2024/04/28(日) 16:37:54.07 ID:PHuiugtM0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714289873/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:44:49.88 ID:L1ehqdQo
帝春!帝春!
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:45:29.82 ID:21MtWIQo
垣根 「住所は…うおお、オレの住処と近いじゃねーか!」

垣根 「運命…か…」
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 15:55:34.84 ID:bCBn2kDO
デスティニー! デスティニー!
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 16:54:09.64 ID:RpIdKsDO
きたあああ!支援
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 18:51:50.13 ID:JaEZ5us0
ディズニーの間違いじゃねェのか? メルヘン(笑)
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 19:33:50.08 ID:DM3/sLQo
>>6
翼の生えたホストが飛んでったぞ
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 19:46:53.89 ID:HgM0Y9I0
既に初春と垣根が結ばれたSSがあったな
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 22:29:26.09 ID:ePh3XiQo
>>8
なんて検索すればいいのかな?
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 01:17:41.66 ID:3BdSt.AO
実は今でも原作で密かに期待してる
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/22(金) 12:37:32.91 ID:q0ZIoMYo
俺が思い浮かぶのは某長期作品の奴かなぁ>初春とかっきー

一方通行「友達になってやンよ」上条「ハイ」

↑から始まる一連の作品。名作。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 15:21:04.83 ID:Xr3M/cs0
>>11俺もそれしか知らない。ってかそれ以上の垣春は知らない





で、誰か書かないの?
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 18:31:18.81 ID:C8v2xoAO
ま だ か ?!
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 18:44:06.28 ID:P8.LMYSO
デジタル上の存在になった垣根に唯一アクセスできる初春とか
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 04:02:59.39 ID:Ci0Ws560
>>14それいいな

相変わらず偉そうだけど女の子のあしらいうまい垣根となんかほっとけなくなった初春のカップリングSSか。
モニター越しの恋愛かwwww
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 04:15:50.43 ID:x7N14/.o
>>15
あれか、ネットで知り合って本音を言い合える仲になってオフ会で・・・なんだ燃えるじゃないか
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 08:30:26.92 ID:fJFYnEM0
>>16
オフ会で冷蔵庫に出逢うのか
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/26(火) 18:10:23.68 ID:hm8P1Rco
ていとう庫「おーい、GK氏ー!」タッタッ
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/26(火) 23:01:03.59 ID:w2YjBoAO
てなわけで誰か書いてくれ
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 03:26:39.50 ID:Ezaccp.0
それか、あるいは体が復活したかわりに一切の能力を失ってしまって、自暴自棄になった垣根と、過去のことは洗い浚い水に流して母性を発揮して優しく接する初春のSSとか、相手に甘えまくる垣根も見てみたいな
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 08:03:09.36 ID:siNEYwAO
>>20 の案を採用で!
それなら「黒春」や「売春」って呼称される心配はないなwww
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 11:05:16.96 ID:p31x5YYo
まだ>>1がいなくなってからそんなに経ってないけど平気かな? 誰もいないなら俺が書きます。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 11:33:49.96 ID:0tZ76AAO
>>22
頼むよ
24 :ではもし>>1が戻ってきたら中止して別スレでやりますよい [sage]:2010/11/01(月) 11:55:12.68 ID:p31x5YYo

                                 ※

遠くで声がした。

―――遠く? そうではない。……では、近く? ―――いいや、それも違う。

それは確かに手が届くような距離でありながら、同時に彼方から聞こえてくるサイレンのようでもある。
警報、警告、……だが注意報では、断じて無い。
背反した表現ではあるが、おそらく最も的確に例えるならばこうだ。

もっと言うのであれば、それは声だったのか。誰かの? ―――自分の? ……、……オマエの。




―――……gdlk……英wwfg;……、―――……、wwg雄das.;dsgk……




                 誰だ、お前は。




―――……spwa.g,……、aera/\rg,……、―――…、…、、、、、




                ここは、どこだ。




……、ab,.m@tkten―――……、dnagm……?



    ………、そうか、そうだったな。―――俺はテメェを知っている。よく覚えてるぜ。


         クソったれの……、

                      第1位の隣にいた……あのと……kinor./b,.v……、

25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:14:34.30 ID:p31x5YYo

                                ※

「―――ッ?!」


次に目覚めるとそこは見知らぬ駅。
学園都市の第2位が駅のホームで目を覚ますという行為はどこか景色に馴染まず、油絵を水彩画に塗ったようなミスマッチを演出する。
彼自分にとっても、おそらく彼を知る知人にとっても。

胸の鼓動は一際激しい。脈拍に異常はないことを確かめてから、ふと彼は思った。


(……、……? クソが。戻ったと思ったらまたか?)


そうして垣根帝督はそれが現実世界でないことを瞬時に悟った。
沈黙が支配する夜の駅。彼でなくても感じるはずだ。
そこは明らかに不自然だ。異質だ。

なぜならそこには本来あるべきはずのものが一切合切何もない。
それは人が生活するうえで常に肌身離さず身につけているものだ。


(音がしねえ)


いくら人気がない夜の駅といっても、虫の音や風の音、その他大気や湿気、様々な要因でそれは生じる。
暗部組織で名を馳せていた彼にとって、こういった情報の欠如は警戒心を余計に高まらせてしまう。
彼はゆっくりと立ち上がると首をこき、こきと二回鳴らした。


(―――演算、はできるな。さてどうする)


垣根が脳内で式を展開した後、彼の背中からはシルクの洗濯物を叩いたような歯切れのいい音が響く。
『未元物質』。その能力はもちろんのこと、機動力としても有用な彼の力。そして、


(序列はレベル5第2位。……ふん。今更“飾りもん”だな)


皮肉を自分で言った気がして、彼は視線を右下に落とす。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:36:37.73 ID:p31x5YYo

(どこからがシャバの景色だったか記憶が曖昧すぎる。腹も当てにならねぇな)

(かといってここに留まる理由もねぇけど)

(……やっぱり死んだ?)

(……、天国ってやつには、行けそうにねぇ。するとここがアレか、地獄ってやつかよ? やけに近代的だな。笑わせやがる)
 
(なんつーか、随分リアルなヴァーチャルを用意してくれたぜ、神様よ……)


そこで、止まった。


(待てよ、ヴァーチャル?)

(……電脳空間……、いや、ありえるな)


垣根が以前いた場所―――学園都市の技術を持ってすれば、ありとあらゆる方法で“個”を保存する術が存在する。

たとえば、クローン。
対峙してみたことなどあるはずもないが、彼と同じくレベル5の超電磁砲はその能力を買われ、自身のクローンを大量に製造されていた。
が、実際に製造された『妹達』の力はオリジナルの足元にも及ばなかったとか。

もしも―――。もしも自分があの時。あの戦いで脳に重大な損傷を負っているなら、その詳細がデータ化されていても不思議ではない。
失敗した生体クローンに成り代わり、今度は電子的なデータとして。イカれた科学者たちが考えそうなことではある。


(ち。死ななきゃいいってもんじゃねぇよなぁ。男は中身、なんてよ、都合のいい嘘だっつの)


そうは言ってもその考えにいたってからも特にあせった様子はない。
なぜならそれは自分にまだ利用価値があるということの裏づけになるからだ。
学園都市第2位の威厳は保てる。

そう、第2位の威厳は。


(―――クソったれの第1位が生きてやがるなら、尚更な……ッ!!!)


握り締めた拳から、ぎりぎりと、鈍くて深い音が響いた。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 12:55:33.90 ID:p31x5YYo

二人の決着は一瞬でついてしまった。
それは『ピンセット』という物品をめぐる暗部組織の対決の終結を意味し、彼―――垣根帝督の終末をも意味する。


(殺す……ッ!! あぁ、そうさ。俺は負けた。認めてやる)

(それでもな、あのときの音、熱、臭い、感情、光景―――ッ! 五感に触るすべてがムカついて離れねぇ)

(だ・か・ら・な一方通行。……たとえ俺という存在がどれだけ小さいものになろうが……ッ!! どれだけ惨めな存在になろうが……ッ!! 



             テメェは……テメェだけは………この手で必ず殺すッ!!!!)



垣根帝督という男は本来、あくまでクールな二枚目を演じている少年だ。
それは時に器量の大きさを敵に見せるほどのものなのだが、ゆえにそれは脆い仮面でもある。

感情を顕にすることを特に気にする他人が存在しないこの状況で、彼の表情は誰が見ても醜くゆがんでいた。



(だがまずはここから出ねぇとな。あるはずだ。理論的には内部からアクセスできないなら俺のデータを扱うことも抽出することも不可能)

(問題はイカれたボケナスどもがどこまで俺の動きを読み、どこまで壁を張ってるかだが、―――ナメんなよ)




(俺の未元物質に常識は通用しねぇ…ッ!)




垣根は口元を吊り上げると、自慢の羽で空を舞った。
金髪に長身、すらっとした長い足。そして誰が見ても整った顔立ち。
そして、背中から生える羽。


天使に見えるだろう。いや、彼は天使だったのかもしれない。

             ルシフェル
仮に堕ちた際に彼が堕天使になるかどうかは、今この瞬間にはまだ誰にも予想できないはずである。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 13:13:59.27 ID:p31x5YYo
                             
                            ※

場所はかわって、ここはとある現実世界。


「初春、お茶ですの」

「…………ふ、甘いですよ。私を誰だと思って……、そんなに壁は薄くないんですからね?」カチカチカチカチ

「……ういはる?」

「…………あはは、飛ぶんですか? へええー、すごい、それはすごい。でもですねぇ、こっちはとっておきの……」カチカチカチカチ

「スゥーーー………

      う!!! い!!!! は!!! るぅーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!」

「はふぁっ!?」


ジャッジメント、初春飾利はそんな素っ頓狂な声をあげてデスクから転げ落ちた。どたんばたん。
綺麗な放物線を描いて床に倒れこんだ後は、頭上に乗せている(?)丁寧に活けられた(?)花が甘い香りを放って揺れているだけである。
同じくジャッジメントの同僚、白井黒子はそれを見て一言。


「まったく。話も聞けないようでは交渉の余地はありませんのよ?」
「し、しらいさぁぁぁん! ひどいです! い、今いいところだったんですからぁっ!」


ぽかぽかと黒子の足元を叩きながら初春はそう言った。
彼女の声は飴玉の声を転がすような甘ったるい音を響かせる。白井黒子はそれを聴くとよりいっそう眉間にしわをよせて、


「……またやってたんですの?」

「あ」

「……やったんですのね?」

「は……はぅ……」

「おっしゃいなさいな。『私初春飾利は神聖なるジャッジメントの職場において、ネットゲームをしていました』と!!! さあ早く!!」

「………し、ししし、してないです…よ〜?」

「ほおう。まだとぼけるつもりですの?」

「とっ……とぼけてなんか……だ、だってほら、画面に何もうつってないじゃないですかぁ? ね? ね?」
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 13:29:24.63 ID:p31x5YYo

「そんなチャチな誤魔化しかしても駄目ですの!! どうせ一瞬のスキをついて画面から消したんですのよね?」

「えへ。ばれちゃってましたか」

「初春」

「はい?」

「歯ァ食いしばれィッッ!!!」


ごんっ! と石を樹木に落とすような音を立てて、白井黒子の鉄拳が初春飾利の頭上にめりこんだ。

初春は一瞬何をされたのかわからないと言ったような表情を浮かべていたが、すぐに涙目になる。
両手は整えられた(?)お花の上。すりすりと脳天をなでながら、彼女は白井に言葉を返した。


「い、いだいでずよ……何もなぐらなくたっていいじゃないれすかぁ……」

「いくらなんでもここでネトゲはおやめなさいな! 恥ずかしくないんですの!? 職場でゲーム廃人ってどういうことですのよ!?」

「別にいいじゃないですかぁ。減るもんじゃないし。ぶー。仕事はちゃんとしてますしー!」


彼女がやっていたゲームは最新型のネットゲームで、オンラインのそれだ。
学園都市のゲームは大抵が“外”の技術より数段進んだものであるが、ことネットゲームに関しては特に顕著である。
そして今回初春がやっていたゲームはずばり、『撲殺天使☆ミクロちゃん』。
最新鋭のオンラインゲームであるこのミクロちゃんは、学園都市で最も巨大なオンラインサーバーを借りて運営されていて、今その手の人々に大人気なのだ。

ちなみにゲーム内容は街から脱出しようとする天使をひたすら撲殺するという、なんとも教育によろしくないものになっている。


「初春。別にわたくしはあなたがゲームをやっていたから怒っているわけではありませんの。ええ、確かに減りはしませんわ」

「え? じゃあ、なんで怒ってるんですか?」

「……怪我、ほんとにもう大丈夫なんですの?」

「………」
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 13:31:39.15 ID:p31x5YYo
区切り悪いけど一瞬ご飯たべてきます
あ、ちなみに展開・お話的には>>14>>20を組み合わせてプロットをつくったかんじです。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 13:36:39.43 ID:u9sxE8Uo
きたいしえん
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/01(月) 14:19:15.16 ID:21N.Lxs0
ワクワクしてきたぞ、ところでこのSSのタイトルはどうなるんだ?
33 : [sagasage]:2010/11/01(月) 14:42:08.72 ID:p31x5YYo
>>32
タイトルは今のままで大丈夫です
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:31:35.88 ID:p31x5YYo

怪我、というのは以前にとある事件に巻き込まれたときの傷である。
正確には脱臼。彼女の右肩はこの街で二番目に優秀な演算能力を誇る男に、その能力を使わせることなくはずされたのだ。
デスクの前に座りなおした初春は、一瞬だけ唇をかみしめ、


(………っ)


もちろん実際に痛みが走ったわけではない。ないが、思わず右肩をおさえてしまう。
初春飾利は基本的に非戦闘員だ。後衛、遠距離から情報を収集、発信するナビゲーターに近い才能を宿してはいるが、
実際の戦場に赴くことはほとんどない。

痛烈、かつ新鮮なあの痛みは、おそらく生涯忘れることはできないだろう。
確かな死のイメージ。あの日、初春はこの街の闇に触れていた。


「大丈夫です。だって脱臼ですよ? 白井さんだってよくしてますよね? これくらい」

「初春。痛みに慣れたら兵士は終わりですの。わたくしだっていつも痛いし怖いですのよ」


白井はそう言って、初春の右肩にそっと手をのせる。
それを見た初春が軽く、なでながら手の甲をにぎると、対する白井は何やら複雑な表情を示した。


「……そうですよね。でも、平気です。本当に。あとは時間が解決して―――」

「―――でも、初春?」

「?」

「人の痛みに慣れるようになったら、それは人間として終わりですの」

「…………」

「わたくしは兵士である前に、人間でありたいものですのよ」

「……はい。わたしも、です」
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:47:26.13 ID:p31x5YYo

ふと思う。

たとえばあの時、自分が相手に抱いた感情は何色だっただろうと。
暖かい色ではないことはわかる。見ていて気持ちのいいものではないだろう。
パステルカラーとしては採用不可。多分芸術的には価値のないものかもしれない。

それでも、思う。


(……黒くなるのは、やだな)


自分はジャッジメントであり、この街の治安を守る立場。
大げさかもしれないが、天秤を持ち得るもの。

自分が今までかかわった事件の中には、間接的であれ、許せないものもある。
いや、許し“きれない”もの。

でもそれは多分、傷ついたのが他人だからだ。白井が言ったように、兵士である前に自分は人間。
大切な人を傷つけた相手に対しては、上記のとおり濁った感情をぶつけたくなってしまう。それは仕方ないと思う。

しかしそこまで考えると、逆説的に初春が達する結論はひとつだった。


―――私は律する人でありたい。
たとえば人を傷つけることがあるかもしれない。傷つけられることもあるかもしれない。
裏切られたり、嘘をつかれたり、騙され、憎まれ、壊され。忘れられないくらい嫌な思いもするかもしれない。

それでも、自分は律する人でありたい。
誰かを許せる人でありたい。痛みを受け止められる人でありたい。裁いたその後を、見据えられる人でありたい。
理由は? 決まっている。私は痛みに対して耐性がないから。先頭に立つ人ではないから。

だからこそ、だ。


(人間があって、兵士がある。でも―――兵士である前に、私は……)


“ジャッジメント”でありたい。ここ最近はそんなことを感じていた。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 15:58:25.79 ID:p31x5YYo

「初春は自分が思ってるよりもずっと大人ですのよ。このわたくしが保障しますの」

「ふぇ?」


まるで読心術でも心得ているかのように考えを見抜かれた気がして、思わずはっとする。
呆けた顔で白井を見ると、うっすらと笑っていた。
それを見て、初春もまた笑う。


「―――付き合い、長いですもんね」

「ええ。戦場の付き合いは10倍の早さで距離を近づけますの。わたくしはテレポーターですので、もっと早いかもしれませんの」

「ほんとはやいんですから。御坂さんに対してはもっと速そうですけどね」

「……、初春? 貴女いま、わたくしに啖呵をきれるご身分ですの?」

「うっ。……あ、私なんだか……急に右肩が…ッ…、あ、あたたた」


嘘つきは泥棒の始まりですの! と大声で怒鳴られた後、初春はしばらくの間、職場でのゲームを禁止されたのだった。


(………あの人)

(…………どうなったんだろ)

(………、だめだな私)

(でも……、だからってうらんだりは………してない、よね?)


そんな火種になる想いを、心に宿したまま。時間は無感動に、それでいてやさしく流れていた。
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:15:11.61 ID:p31x5YYo

――――――

そしてその日の深夜。
初春は自分の信念を疑うことになる。


(だぁーー、かっこいいこと言って結局ゲームしてる私ーーーっ)


天使をひたすら撲殺するチープなゲーム。が、転じてその中毒性は高い。これがこのゲームのキャッチコピーだった。
一応オンラインでチャット機能やメッセンジャーなどのオプションは完備してあるのだが、
初春はもっぱら内容重視のプレイである。


(ううっ……。なんだかすごく切ないことしてる気がする……。でも面白いしなぁ……)

(……チャットとかするのも面白そうだけど、きっかけないし)

(だ、だいたい、知らない人にいきなり声かけたりできないよっ! こわいよっ!)

(はぁ……、こんなのやってるから白井さんとか固法さんに白い目で見られるのかなぁ)


オンラインゲームの中毒性は内容もさることながら、行動を共にする同志に左右されることが多い。
そういう見方をするなら、初春の熱中の仕方はある意味異端な楽しみ方だといえる。

そもそも中学生が深夜にネトゲに熱中している姿はいくら初春のような童顔でも、異様に見えてしまうのだが。


(コミュニケーションツールになってるんだよね。ブログも、えと、なんとかいったー? とかもそうだけど)

(結局は誰かに発信したいとか、受信したいとか、そういう欲求に左右されるんだな、人間て)

(……う、ってことは私、もしかして……人間失格?)

(…………寝ようかな)


ふああ、とあくびをして、花柄のパジャマのすそのたるみを感じた、そのときだった。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:26:07.90 ID:p31x5YYo


==========================

??>>gnnfaahpk...fdnls出。、・¥g外―――kんfg、

??>>jfns,..,m.,mm,..,..,.,m,,mmmmmmmmmmmmmmmmmmmmm

==========================


(えっ……)


ぽちゃっ、と水が落ちるような音がして、画面に見たこともないページが現れる。
おまけにそのページにはやっぱり見たこともない言語が羅列されている。

暗号?―――というかいたずらのように見えた。


(チャット……? って、また出会い系……!?)


初春は以前、別のオンラインゲームで出会い系の業者に目をつけられ、
訳のわからない段取りでデートをこぎつけられたことがある。

結局その場所には行かず、後で調べたところ悪質なサクラだったと報告があったのだが、
気が動転していた彼女は同僚の白井や、親友の佐天涙子にあわや騒動をかぎつけられそうになる騒ぎだった。

初春の本来のスキルを利用していればすぐに摘発できそうなものなのに、
突然のことに頭が茹で上がってしまった彼女は当時まともにPCの画面を見られなくなっていたのだ。

もちろんそれからこの手のメッセージに警戒するようになり、あれ以来いざこざは起きていない。


(………、も、もお騙されないもん。純粋な乙女の心を弄ぶなっ)

(でもおかしいな。他人からのメッセージはブロックしてるはずなのに)
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:38:30.76 ID:p31x5YYo

あれこれ考え、一指し指を口元にあてて、うーん? と唸っているうち、画面があわただしく動き始めた。


==========================

??>>nmabraoek/.,/z.xcvb,..................................................

??>>,.bvxbmbgd;wa@//

??>>.......................

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==========================


(わっわっわっ、な、なんだろ? もしかしてバグ? の、覗いてみちゃおっかな……)

      ゴールキーパー
学園都市の守護神として一部に有名な彼女の好奇心をくすぐる出来事だった。
こう見えても彼女のそっちの実力は都市伝説になるほど。
ウェブの世界でなら常盤台の能力者ハッカー(レベル5ツンデレ)とも痛み分けに持ち込める実績も持っている。


(うーん、でも攻めと守りじゃ勝手が違うし。……ここのサーバのランクはなんだったっけな?)


==========================

??>>nmabraoek/.,/z.xcvb,..................................................

??>>,.bvxbmbgd;wa@//

??>>.......................

??>>..........................................................NAME.

==========================


(え)
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 16:48:30.12 ID:p31x5YYo


(NAME………、……名前?)


===============================

??>>NAME?
.NamE nAMeNAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENA
MENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMEN
AMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAMENAME
NAMENAMENamE NamE NnAMenAMenAMeamE NamE NamE NamE Nam
MENAMENAMENAMENAMENAMENAE NamE NamE NamE NamE NamEN
amE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamENa
mE NamE NamE NamENamnAMenAMenAMeE NamE NamE NanAMenAMe
mE NamE NamE NanAMenAMenAMenAMemE NamE NamE NnAMenAMen
AMeamE NamE NamE NamE NamE NamMENAMENAMENAMENAMENAME
AE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE NamE Nam

………

……



================================


(うわぁっ?!、ま、まずいかもこれ)


とっさにハッカーとしての第六感が働く。バグにしても性質が悪い。

アルファベット26文字の中から無作為に四文字を選んだ場合、英和辞典に載る単語になる確率はいくつだろう?
作為的なものかどうかを判断する材料にならないだろうか。
でも、NAME。NAMEは名前だ。


(明確な意志表示とも取れる……、って、そんなの机上の空論か)


不思議な感覚をその身に覚えつつも、初春飾利は一旦頭を冷やすことに勤めた。
そして、
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sagasage]:2010/11/01(月) 17:01:42.83 ID:p31x5YYo

==========================

HANA>>KAZARI.

??>>NA<E,Nあme>>NNA<KR.NAME?

HANA>>My name is Kazari.

==========================


かちり。

一言そう打つと、すぐにパソコンをシャットダウンした。


名前を教えた理由付けはいくらか付随させることもできる。

ひとつは、情報を落としておくことで接点を設置しておく。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたら、これは作為である。

ひとつは、疑問符に返信したことで相手からの出方を見る。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたら、これもやはり作為である。

ひとつは、Nameという単語が無作為に抽出されたアルファベットから形成され、自分の目の前に現れる確立は“高くは”無い。
これによって相手が今後もコミュニケーションをとってきたらそれも……。


(……あれ!? 結局全部一緒だよ?! っていうか無作為の場合でもうんたらかんたら)

(私のばか。お前は寂しいだけかっ。あほちんっ)


急に恥ずかしくなった初春は、転げ落ちるようにデスクから離れて、ベッドに潜り込んだ。
大したことはない。ウイルスなら駆除できるし、バグだったらホストに報告すればいい。

ウェブなら多少は修正がきく。言い訳なのかなんなのかよくわからないが、言い聞かせるようにしてその日はねた。


(はー。まあでも、ネットの友達ほしかったし。どっちでもいっか……)


しばらくしてから、飴玉の転がるような寝息が彼女の部屋で小さく流れ始めた。つぶやくように。それでいて深く。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:27:09.32 ID:p31x5YYo

                              ※

目が覚めると病室だった。
状況を理解しよう、と思うまでに20秒を費やし、そこからさらに状況を完全に把握するまでに57秒を費やした。


(……、なんとかなった、であってるか? 神様よ)


今度は音も聴こえる。
熱も感じる。五感が研ぎ澄まされているのがわかる。

―――生きているのが、わかる。実感としてこの胸にある。


電脳空間から抜け出すのは至難の業だった。
何せ明らかにこちらの能力が弱体化されている。
パーソナルリアリティは現実の中に妄想を現出させる異能だ。
ヴァーチャルに関してはどうやらその限りではなかったらしい。
もっぱら理解不能な出来事しか起こらなかった。


(とことんイカれてやがる、まったく。で、次のメニューはなんだ? フルコースにしちゃ前菜が重いぜ)


まぶたが重いのは麻酔のせいだろうか。
予測するにここは統括理事会直属の研究機関。
脳みそをいじくりまわすのが趣味というどっかの喰人鬼も真っ青になるこの街の底だろう。


(演算は組めねぇ。さすがに拘束されまくってんな。くそ、わけわかんねぇ管とおしやがって。俺は宇宙服かよ)


玄人はあせらない。
あせることが生む利益が皆無だと本能で理解しているからだ。

超能力者である垣根帝督も同様で、まずはその脳細胞をここから抜け出す方法の議論に注ぎ込んだ。

43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/11/01(月) 17:31:13.21 ID:DH37SHo0
クッソおもしれぇ
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:44:30.10 ID:p31x5YYo


(腹の虫はあてにならねぇな。時間が経ちすぎてる)

(ラボはあんまり顔出さねぇからちっとばかし手持ち無沙汰なのはいいとして……)

(―――、さて、どこから手札を切ろうかね)


キーワードはいくつかあった。

ドラゴン。レベル6。電脳空間。そして――――――、KAZARI。


(レスポンスがあったのはこのアホだけ。糸口になったのは助かるが、バカでかいサーバーの割りに目印がひとつしかつけられなかった)

(しかしアホみてえに広かったな。まるで迷路。ありゃなんだ? ツリーダイアグラムの雛形か?)

(―――仮に長期戦になるとしたらあの空間が拠点だな。体のほうは無理だ。まだ取り戻せそうにない)

(ま、死なせることはねぇはず。おたおたしてると脳みそ持ってかれちまうかもしれねーが)


ふう、と深呼吸をする。

そして、気づく。


(おいおい………スゲェな。ははっ、スゲェじゃねぇか)


乱れた呼吸をすると、同時に前方のセンサーが始動する。
どうやら垣根の体内の心拍数と連動していて、異常があった際には意識あるなしにかかわらず警報がなると予測できた。


(こんだけふんじばっても警戒されちまうってか。意識がなくても? 演算が組めなくてもか!?)


玄人は、―――あせらない。


(―――ははははははッ!)


(スゲェ。たまんねーなこりゃ。俺は恐竜かよ、統括理事会!! どうあってもこの俺を逃がさないって?)

(そうだよなぁ、俺はこの街の第2位だもんなぁ!? あは、はははははっ、ははハはハハハハッ!)
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 17:59:22.50 ID:p31x5YYo

(だけど、わりぃな)

(テメェらから逃げて電脳空間で生きてくA.I.になるってのも乙だけどよ。それじゃあ足りねぇんだよ)

(あのクソヤローに借りを返せてねぇ)

(神様だっけ? テメェはまだそこで俺を見てるんだろ。それとも天使か?)

(いいぜ、テメェはそこで指くわえて待ってろ。思い通りにはさせねぇ)

(俺は垣根帝督だ。第2位だ。伊達じゃねぇ、ガッチガチの本気だ)


(抗ってやる。ギャンブルタイム、コインを投げてやるよクソヤロー)





             ―――あぁわりぃ、裏表一体だけどな。



はき捨てるように唱えてから、垣根は静かに目を閉じた。
眠るのではない。

電子の海へともぐるため。
                                バーチャル
演算がリアルで組めないのなら、土俵が違うだけであちら側の組み立て方を会得すればいいだけのこと。
物理法則をゆがめる演算能力を持つ垣根にとって、新しい演繹体系を形成するのは十八番だ。
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 18:07:36.41 ID:0tZ76AAO
いやはや素晴らしい書き手が来たな
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 18:11:21.06 ID:p31x5YYo

(一方通行のクソは確かつれのチビの頭ん中に入ったんだったな)

(はは、言い方わりぃがそりゃ人権侵害だぜ? ロボトミー手術みてぇなもんだ)

(だが同時にその結果はある仮説を証明することになる)

(やべぇなくそったれ。AIMストーカーの豚女と出会っててよかったぜ)



そう。すなわちその方法とは。



(―――俺は俺をハッキングする……!!)



つまるところリモート操縦である。

たとえば―――、一方通行が手動演算によって打ち止めのウイルスを解除したように。

たとえば―――、滝壺理后が垣根の力をのっとろうとしたように。

ひとつだけ違うのは、残念ながら投げたコインは裏表一体ではなかった点だろうか。

だが―――


(関係ねぇな! できるに決まってやがる! 逆探知なんてチャチなもんじゃねぇ。いわば科学的自己催眠だ)

(あっちの世界で理論体系さえ組めれば、俺は俺をのっとれる。『未元物質』の力さえ手にすれば―――ッ!)

(フィフティなんてせこいことは言わせねぇ。100%だ。絶対的な未来をここに作り上げてやる)


ぴくりとも動かないからだとは裏腹に、垣根の心拍数は上がっていた。

警報が鳴り、廊下から足音が聞こえてくる。


(ち。今はひとまず逃げ腰で勘弁しろよ、アレイスター。―――たらふく肉くってから、また来るからよ)


ドアを開けたときには、垣根は深海の中だった。警報音は響く。やはり深く―――そして紅く。


物語はそして、ゆっくりと。ゆっくりと。その足を未来へと運び始めた。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 18:16:16.29 ID:p31x5YYo
ご飯たべてきます。
レッドブル二本のんだ。これで書つる。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 19:07:02.52 ID:E.YO7Ro0
>>48の背中から2対の羽が生えてやがる…
まさかアレが噂の未元物質か…ゴクリ
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:16:08.04 ID:p31x5YYo

                            ※

佐天涙子という女性がいる。
初春飾利とは浅からぬ仲。というより親友である。

一般的に女性が親友を求める理由は二つあるといわれている。


第一に、彼もしくは彼女がレズピアンである場合。
―――そして第二に、彼もしくは彼女が、心の脆さを知り得た場合。


では彼女たちは?
答えは無論後者だった。


「うーいーはー………るるるるるるるっ!!!!」

「あひゃあ!? も、もおおお佐天さん!? またですか!? 学ばない人ですねほんとにもう!」

「あっはっはーごめんねー。もうなんかあれだわあたし、えっと……パフの犬!」

「勝手に卑猥にしないでください!? パブロフの犬です! 条件反射の!」

「いいよー、初春ー、今日も冴えてんじゃーん」

「まったく………」

「………、………、………ピンク。 かわいいぞぉ初春♪」

「!!!」


初春飾利の日課には、佐天からのスカートめくりが組み込まれていた。
こういった行為はなんというか、慣れてしまったときが問題なのだ。
慣れは恐ろしい、とあらためて初春は思った。

人間である前に、露出狂は嫌だ。


(へ、変態さんの仲間入りだけは無理ですよっほんとに……っ)


貞操観念だけはデリートしないように、と初春は毎回思っているのだが。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:38:03.42 ID:p31x5YYo

二人が足を運ぶのは、馴染みのファミレス。
コーヒーを一杯といかないのが彼女たちの日常で、基本的にはやりたいようにやる。

その日佐天涙子はローライズのジーンズにヴィヴィットカラーのシャツを合わせ、初春飾利は白いワンピースを着ていた。
いずれもまだ夏服に属する。要するに軽装ということ。

残暑はどこまで居座るのか。たまに顔を出してひっこんだりする。
太陽さん、とうとうあなたもツンデレですか、と初春は時折憂鬱そうに空を見上げた。

今日の花は黄色。


「ねーねー、今度白井さんたち誘ってどっか行こうよ? 温泉とか」

「お金が問題ですよね。私さいきんちょっと出費が多くて」

「……ほう」

「違いますよ?」

「えーーー、つまんなぁい。初春ほんと春こないよねぇ」


ガールズトークにかまけていそうな初春であったが、頭の中は別のことで一杯だった。


例のバグについてだ。

一度会ったきり、で会わない人。この手のタイプは意外と忘れられる。
もう一度会いたいなぁ、などと考えるには世の中には人が多すぎるからだ。

はてさて初春はというと。



(あの返信から一向に言語は話さない。何回もうちのPCに張り付いてきてるけど、かといってハッキングをしているわけでもない)

(まるで一定の距離を保っているような。迂闊に近づかず、それでいて離れすぎず。時折見せる不審な動きは? 回線が重くなるのは?)

(……逆に考えてみよう。ホストサーバから来てるならあの中は広大な電脳空間になっているはず)

(―――、見ている? 私を。監視、している? 何のために。―――ううん)


「……手詰まりですぅ。もち札がたりないですよ〜……」

「はぁ?」
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:50:01.94 ID:p31x5YYo

「だいたいなんでただのバグがこんなに気になるのやら……」

「何? ペット飼ったの初春?」

「もうつっこみませんから」


へいへーいと返事をしてから机に突っ伏す佐天。
初春はそんな彼女の横顔をまじまじと見つめた。……が、机の下から伸びてきた手を叩き、見るのをやめた。


(―――やっぱり順当に考えるなら、向こうがこっちを監視してると考えるのが一番納得できる)

(けど……、なんで? 悪いことしてないよね、私……)

(それにその線でいくなら例のメッセージ。NAMEが説明つかない)

(職務質問じゃあるまいし、嘘だらけのネットで名前を聞いた意味は何?)

(ん〜〜、でもそれを無視するなら、向こうからアプローチかけて、こっちを見張ってるって考えるのが妥当だし……)

(私ならどうする? ―――うん、やっぱり名前は聴かない。ブロックをかいくぐるスキルがあるくらいならその気になれば個人情報も回覧できるはず)

(それが無理にしても―――、なんだろう、あの聞き方は、)

(助けてには見えなかった。そう、知らないことを聞きたいとかそういうものはなんとなくしっくりこない)

(なんだろう。まるで―――、―――、……人に甘えるような)


(うあーむりだ! ひらめけ初春飾利っ)


「どっかーーーーんっ!!!」

「!?」
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 19:58:43.25 ID:p31x5YYo

声と共に佐天は立ち上がって初春の顔に自分の顔を近づけてきた。
次々と浮かぶ疑問符の前に、な、なにやっとるんですか佐天さん、と一声かけるのが精一杯だった。


「難しいよ、初春。何考えてるかわかんないけどさ。自問自答は夜やりなさいって。今は昼。人と会話する時間だろー?」

「そ、そうですよね………。ごめんなさい……」

「………心配だよ」

「え?」

「白井さんから言われてないの? あたし、初春の怪我めっちゃ心配してたんだからね」

「………」

「あーもう! こういう言い方しちゃうとさぁ、恩着せがましいっていうかなんかアレだけどさぁ」


初春が返した反応は、そんなことないです、と言ってうつむきがちにコーラをすする動作。
普段ならかわいいなぁこのヤローぱんつ見せろぉ? 
とでも言ってきそうな佐天も、今はじっとその様子を見つめている。


「あんま考えるなって。言葉に出しなよ。まったくウェブ関係の人間はためこみすぎなんだよー、色々」

「どこの営業マンですか佐天さん」

「あはは」


そうだ。

だってこれは、たまたまゲームをしていて、たまたまちょっと不思議なことが起きて、たまたまそれが気になっただけ。


時間は無感動に、それでいてやさしく流れる。
多分半年もたたないうちに今日の出来事や最近の一連の不可思議な事項の多くは忘れてしまうだろう。

初春はそれっきりにしようとした。もうおしまい。げーむおーばー。
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:07:51.05 ID:p31x5YYo


「ゲームオーバー。コンティニューしないなら、コインはこちらから入れていいかい」


不意うちだった。
窓際の席に座っていた二人。奥につめているつもりはなかったのだが、今日は来るなりドリンクバーでひたすら時間をつぶしていた。
すると必然的に店員に注文を頼む機会は減る。

と? 初春から見て右側、佐天から見て左側の人の流れが、心理的死角を形成する。
あまりに突然だったので、初春からは何の反応も返せなかった。


「はじめまして、ではない、な」

「先生」


先に口を開いたのは佐天涙子。以前この人物―――木山春生とは少々もめた。
知り合い、という響きには聊か親近感がありすぎるように思えるが、和解は成立しているので問題はない。


「どうしたんですか」

「野暮用でね」


目の下の隅はもうない。この人は救われたんだろうか。
野暮な用事。もしかして、例の事件の続きですか、と初春が聞こうとした瞬間、木山と目が合う。


「君に用がある。とある事件の重要参考人らしい」

「――――――え?」

「お友達も一緒にどうぞ。何、私はただの使いだ。知り合いだからつれてくるといっただけでね」


かちり。

クリック音が頭で響いたような気がした。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:21:03.25 ID:p31x5YYo

――――――

こつん。
こつん。
こつん。

病院に響く足音は好きになれそうにないと思った。
先頭を歩いているのが木山春生。そして、隣にいるのはカエル顔の―――通称冥土帰し。
佐天涙子は最後まで一緒に来ると言い張ったが、必死の説得でなんとか押し戻した。

正解だったか不正解だったかはまだわからない。


「急だったね? 悪いことをしたね」

「あ、はい、まあ……」


腑に落ちない。重要参考人として呼ばれることにではなく、なぜ木山春生が同席する?

それにさっきから歩いている場所がどうもおかしい。
一般病棟からはどんどん遠ざかっていく。

まるで………、知られたくないものを遠ざけるような場所に、導かれているような。
振り向かない医者ほど怖いものはないと悟った。


「……重要参考人なんていうと仰々しく聞こえただろう? 要するに確認だよ」

「かく……にん?」

「一連の事件に君は巻き込まれた。そこで触れたもののうち、いくつかをこちらに教えてほしい」

「………」


やはり様子が変だ。そして胸騒ぎがする。
この先にいるのは誰だ? 仮に誰かがいるとして、なぜわたしがそこに行くのだろう。

初春の心拍数はみるみるうちに高まっていく。

どくん。どくん。どくん。
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:31:30.32 ID:p31x5YYo

「ここに、いる」


そこは病室ではなかった。見た目がどうこうの問題ではなく。

こんなところにいるのが病人のわけがない。間違っても自分はここに入りたくはない。
植物の幹が絡み合う姿にどこかグロテスクを感じるのと同じく。


絡み合ったチューブやコードはどこか有機的なものを感じさせた。

そこに、いる? いると表現されるのは、生き物だけだ。



「さ、君から入ってくれ。私と先生は後で入る」

                                             
なんだ。なんだこの状況は。     
自分はさっきまでどこにいた?    



                   
何を    何を
何を    を
たいてっ想
  い 何の話をしていた                  
 と  にからはじまっていた
ど   悩んで
まっ    め いた
 た   ばよ
        か
          った 




ガソリンのぬけた車のような、骨と骨とがずれるような。
それでいて痛みのない不協和音が頭首胴体足の先を貫いている。
重い。とにかく重い。



そして初春は見た。ベッドに横たわっていたのはもちろん、
57 :大丈夫、ちゃんと後半いちゃいちゃします。 [saga]:2010/11/01(月) 20:36:00.09 ID:p31x5YYo
      
                                ※


(おい、まだいるんだろ)


(わかってんだようぜぇヤローだ)




(……なぁ。またヒントくれよ? 結構つかえるんだぜ、俺)



(………なぁ?)



(ち)



―――kfjhj君lfanはfjadklgn少しばかり勝気が過ぎるからな。



(! は……これまでこれ一本でやってきたんだ。今更かえられるかコラ)



―――強要はしないよ。君が為せばそれgfhfmklでagahもいい。為さなくても構わん。


(いい加減名乗ったらどうだよ。


              『ドラゴン』?)
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:45:47.49 ID:p31x5YYo


『君たちは名前をつけるのが好きだな。最も、この程度の表現体系ではたかが知れているが』

「その言い方がムカついた。なんなんだテメェ? 天使とやらか? あのクソの隣にいたよな?」

『パラダイムという言葉の意味は?』

「……人の話を聞きやがれ」

『知ってるならば理解は易いだろう』

「はぁ?」

『君なりの形成方法でいいということだ。演繹体系をつくりたかったのだろ?』

「………」


「あぁ。でももういいや。あきらめた。出られねぇみたいだし」

「意味わかんねぇよ。公理決めて矛盾が最小限になるように編みこんだぜ? ところがどっこい、びくともしやがらねぇ」

『出るとは?』

「うぜぇ、きめぇ。テメェはなんだあれか? 哲学ヲタの集まりか? 見下してる臭いがプンプンしやがる。テメェみてぇなの一人知ってるぜ」

『ある意味では私は語りえないのだよ。そこにsdfasd優glala劣はない。気を悪くしないでくれ』



「あーはいはいわかりました。……要するに死ぬまでここにいるんだろ俺は」

『本当に理由がわからないのか?』

「あぁ?」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 20:54:24.94 ID:p31x5YYo


『例え話は得意じゃないが、やってみせようか、何、君の知り合いもそれである程度理解していたとは思う』

「………」

『あくまでたとえ話だ。厳密には嘘になるがいいかね』

「構わねぇよ、それで俺が戻れるならな」



『君が生み出した新しい演繹体系をかりに電流Aとする』

「あぁ」

『そしてあちら側に流れる演繹体系、つまり演算処理に使うロジックを電流Bとする』

「……あぁ」

『電流Aはαの部屋で使われている。電流Bはβの部屋で使われている。君がいるのはβの部屋だ』

「なんだか眠たくなってきたぞコラ。クソ天使、俺に小学校からやり直せっていいてぇのかよ?」



『さて、ここでαの部屋にある水溶液を電気分解したい。水溶液には電極が設置されていて電気を流せばいつでも分解が始まる。
 ただし君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで。目的をかなえるには何が必要だ』

「ドアを未元物質でぶちやぶる」

『残念。βの部屋のドアは同じく未元物質Xで構成されていて中からは壊せない』

「あぁ!? 禅問答か!? なんだそりゃ!」
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:05:30.30 ID:p31x5YYo



(ん? ―――電流? 電圧……?)



「……いや、待てよ」

『気づいただろう? 君の計画は最初から失敗している』

「―――俺一人では、な」


       トランスフォーマー
「必要なのは仲介人、だろ。要するにコンセント兼変圧器だ」



『たとえが合っているかどうかはさておいて―――だが』

「ははハ、なるほどな……。そりゃバカみてぇな話だ。つまり俺が探すべきは―――」



(―――俺がこの空間で生み出した演繹体系Bをあっちの演繹体系Aに変換できるヤツ!)




(考えてみりゃ当たり前の話だ。一方通行のクソの十八番はベクトル操作。使うのは同一ルールのロジックだったはず)

(この電脳空間のみ適用するスーパーボルトを、あっちの部屋にいる俺にぶち込むために―――)

(―――必要か。一人か二人。時間を考えるとできて一人だな。今から戻れるかどうか)



『さがしものは見つかりそうかね』


「さぁな。―――なぁ天使」
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:13:23.94 ID:p31x5YYo


「今俺とあのクソモヤシが闘りあったらどうなる」

『気になるか』

「当たり前だ。そのために戻るんだからな」

『知っても意味はないし、知らなくても意味はない』

「いい加減飽きてきたぞこのカマヤロー。あれだな、テメェら宗教家のやり口が読めてきた」


『―――話をしようか。君はヒーローたりえるかね?』

「藪から棒になんだ? テメェやっぱり馬鹿にしてんだろ?」

『―――彼らはなぜヒーローたりえる? 考えたことはないか。物語やフィクションの話ではない』

『彼らは現実にそこにいて、それを為した。君は為せるか?』



「興味ねぇな。クソ食らえだ」



『―――それもよかろう。ならば汝の欲する所を為せ。それが汝の法となakgらa;knhん』


「……説法かよ。つまなかったぜ、クソ天使。二度とツラ見せんじゃねぇよ」


『いずれ会う。また何処lkかのfag;haa;fhm;この場klfa;afh所でmkag:hf;』


(…………)
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:29:44.74 ID:p31x5YYo

――――――

垣根はαの部屋を覗くことにした。
覗くことしかできないというのは癪だ。


(まるで盗撮だな。趣味じゃねぇ。さらにいうなら統括理事会ってのが気にいらねぇ)

(だが目的はできた。なんとかして仲介人を探す)

(必要なのは異なる言語体系、ロジックを読み取り、“翻訳する”能力)

(暗部にツテはもうねぇ。もともとアナログな連中だしな)


(っておい………、あ……? なんだこりゃどうなってやがる)


「目覚めたね? 調子は? ……随分長い間お休みだったんだね?」


眼前に控えるのはカエル顔の医者。
そして見覚えのない顔が二つ。一人は遠い目で、一人は震えるようにこちらを見つめている。


(なんの冗談だこりゃ。また別のとこに出ちまった……いや)


前回目を覚ましたときは電気がついていなかったため、印象は変わってみえるが、間違いなく同じ部屋だった。
“天使”的にいうならαの部屋。仮初の自分の体に精神だけが宿っている。

「うん、血圧もだいぶよくなった。僥倖だね?」

ふざけんな―――と声を出そうとしたそのときだった。




「―――ッ! ……fuhmgiはbgなか、fdfln―――ッ!」



垣根はさきほどのたとえ話の本当の意味を理解した。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:42:32.86 ID:p31x5YYo






               君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで







(!? くそ……!! そういうことか……!!! あのヤロー、わざとぼかしやがったな……!!!!!)

同時に自分の服装に気づく。
今までなぜ気づかなかったのか。

垣根帝督はうす緑の、手術服を着ていた。
足には何もはいていない。まるで、ついさっきまでオペが行われていたかと思うくらい自然に、体に馴染んでいた。


「言語処理能力が著しく低下している。半身麻痺に失語症。や、この場合は若干例外だが」

「そっ、それじゃ、こ、この人は……もう」


(何を言ってやがる……、くそ、まるっきり部屋の外……、は、何が部屋βだイカサマヤロー……)


「うん? 具体的にはどのあたりが」

「意識はあるようだ。意志表示はできている。厳密な失語症は読む書く聞くのすべてができない」

「脳の障害とは別だと?」

「いや、もちろんそれもあるかもしれない。だが、それだけであれば私はここに呼ばれてないだろう?」

「そうだね。わかりやすい」


(手術服……、くそ脳をいじられた? だりぃ展開になってきやがった。仲介人を見つけても交渉できないなら意味がねぇ)

(この医者……見たことがある。確か……『冥土帰し』……!)
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:48:55.32 ID:p31x5YYo


玄人はあせらない。玄人はあせらない。玄人はあせらないあせらないあえらrんがあにえがんfbmdさなm、ds。fsbkぁ


気を抜くと頭の中まで言語処理が追いつかなくなりそうだった。
冷静になれと自分に命じるほど、呼吸は荒くなり、じっとりと粘り気のある汗が噴出してくる。


(ああああああ;あ;あああああッ!!! どうなってんだよ!!! 俺の俺のおれおおれおれおれおれおのおれのあたまあtmたrっまg、 )


吐き気を催した。だが、単語が頭をめぐってはすぐに消えていってしまう。

事実を知るのが怖い。
情報がこれ以上頭に入ってくることが怖い。

何ができなくなった。

何を失った。

たとえば1000個ある俺の力、持てるべき財のうち、これからひとつひとつをこの医者から告げられるのか。

俺は何個目まで耐えられるだろう。
どこまで普通の
頭でいられるだろう。

想像しただけでスイッチを切りたくなる。

だが、残酷な現実はそれでも許してくれない。






               君が移動できるのはβの部屋のドアの前まで





悪魔の笑い声が、垣根の脳内をいつまでも走り回っていた。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 21:59:26.64 ID:p31x5YYo

                               ※

その光景を見たとき、初春飾利は即座に失神していた。

それから誰かに起こされて、今度は先生たちと一緒にそこに来た。
横になっていたのは、あの時の少年。

ひどくやせている。
何より、金色に輝いていた髪に栄養がまったく届いていない。

正直最初に見たときは死んでいるのではと思った。
が、これでもまだ生きているらしい。


(垣根……帝督………、学園都市の第2位、この人が……)


想像したとおりではあったが、実際に目の当たりした凄みまではイメージしきれていない。
あのとき右肩にのしかかった足は今は細く、初春が乗っただけで折れてしまいそうである。
それでも部屋に入るなり、ぎゅ、とおさえた右肩は、どうしてか震えがとまらなくなった。


「統括理事会からの置き土産、だね?」


後ろからそんなことを言われた。え? と返すと、


「第2位は用済みらしいね? なんでも彼の能力はすでに解析済みのようだ。
 裏で処理しないことはそれでも珍しいんだよ。大抵は秘密裏に消される」


この医者はどうしてそんなことに詳しいのだろうと疑問が浮かんだが、あえて聞かずにおいた。
それよりも今は目の前の光景にあっけにとられてそれどころではない。


「……、治るんですか、彼」

「厳しいね? 彼みたいなのが一度運ばれてきたことがあるんだが、あれはタイミングがよかった。それに」

「まだわかっていないことが多い。おそらく通常なら即死してもおかしくないほどの何かに―――」
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:03:49.89 ID:p31x5YYo


「治らないんですか」

「……冥土帰しの名にかけて、否定形は使わないよ」


それが最大限の譲歩であることに気づいたとき、初春飾利はなぜか泣いていた。
自分でもなぜ泣いているのかわからない。
とにかく涙があふれてきた。

疑問系の単語が湯水のようにあふれてくる。だがどれにも答えはない。

ひとつだけ確かなのは右肩の痛みが止まらないこと。


「泣かないで、ね? 君に来てもらったのは不幸自慢をするためじゃない」

「…………え?………」

「見覚えがないか」


木山晴生が指差した先には、液晶モニターがおいてある。
よく見るとそのしたにタッチパネル式のキーボードが設置してあり、つまりそれはデスクトップのPCだった。

やっぱりここはただの病室じゃないんだ。

初春はもう自分の顔がどうなってるかもわからず、その画面をじっと見つめた。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:10:45.12 ID:p31x5YYo

===================

HANA>>KAZARI.
HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI.
??>>NA<E,Nあme>>NNA<KR.NAME?
HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI.

……………

………



====================


かたかた。
かたかた。


そこにはいまだに文字が淡々と打ち込まれている。
初春は瞬時にすべてを察した。

あのバグはこの病院からはじまっていた。
NAME。やっぱりあれは、助けてだったのか。

  花    飾り
「HANA>>KAZARI。君のことだろう? すぐにピンときたよ」

「できれば間違いであってほしかったが、あの事件当時の資料は開示レベルが緩くてね。なんとか私でもいけた」


ぱらぱらとファイルのようなものを木山が振る。
おそらく当時の事後処理やら何やらのまとめだろう。


「で、わかった。君はあの日この男と接触している。診察記録もばっちり。……あぁ、プライバシーは保護されない。残念だが」

「さて」


木山は立ち上がると、初春の近くでひざを落とす。

68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:19:31.63 ID:p31x5YYo


「この意味不明の暗号の羅列はこの少年の脳波とリンクしている。学園都市屈指の大型サーバーを使ってな」

「ゲームは僕もよくやるからね? 超大型サーバー『ANGEL』。でもあれは元々うちの緊急用の装置なんだ。使いまわしってやつだよ」


よく見ると垣根の耳元から小さなコードのようなものが伸びていた。
するとこの文字は、彼から発信させられているのか。


「答えろ。あの日何があった。君はこの男に何をした」


木山春生の目は特に変わっていなかった。
怒った様子も、悲しんだ様子もない。特段攻める様子も無い。

ただ純粋に知りたいことを教えてほしい、それだけが伝わってきた。


「……すこし、一人にしてください」


ようやくなれた部屋の間取りに、初春飾利はその重たい口を開く。

木山は一瞬ためらったが、冥土帰しに目で合図を送ると部屋から出て行った。


沈黙。いや、音はそこにあった。




かたかた。


かたかた。


かたかた………

69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 22:21:34.94 ID:p31x5YYo
ってわけで仕込みは以上です。あとは料理するだけ。
独自解釈や設定がちょこちょこ入ります。なんか重たい感じではじめちゃってすいません。
ただ垣根の末路を考えるとこうせざるをえませんでした。ちょっと寝ます。続きは夜中にでも。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 22:58:18.47 ID:UXn8YVko
乙なんだよ!
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 23:01:38.74 ID:siNEYwAO
>>69
おい!何を我慢してる!
お前は今眠っていい!!
眠っていいんだ…

>>1 乙かれ
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 23:31:27.12 ID:0tZ76AAO
>>71
何の作品の改変だったけ?見覚えあるんだが思い出せない
とりあえず書き手乙
良い感じに深みのある作風じゃないのさ
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 23:39:09.54 ID:NBQFJUSO
ううむ面白い
74 :眠って → 泣いて [sage]:2010/11/01(月) 23:57:58.06 ID:siNEYwAO
>>72
「スクライド」ってやつよ
OPの曲は最高だ!

【他の名言】
お前に足りないものは、それは!
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!
そしてェなによりも――――!!
速さが足りない!!!
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 00:17:41.17 ID:wRPmisAO
ああシェリスが死んだときの劉邦に対するカズマの台詞か
>>74
最終話で実は兄貴死んでないんだよな
小説まだかね、いまだに待ってんだが
後書きに次巻出せるようにワザとあんな感じで終わらせた云々書いてたのに
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/02(火) 03:17:58.18 ID:xwla9S.0
>>20の様子からもっとゆるめの話しを想像していたが、なかなかハード路線だな。
だがそこがいい。

後、情けない話なんだが、名前の後にある[sage]って何なんだ、付けないといけないものなのか?尤も付け方も知らないんだが・・

2ちゃんに書き込みしたのも一週間前くらいが初めてだから難しいことはよくわからん、こんな知恵足らずに最低限のマナー等教えてくれる奇特な方がいたらよろしくお願いします。
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 03:27:35.37 ID:SdsHd9co
>>76
メール欄に「sage」と入れるか、ブラウザとかならチェックボックスにチェックを入れれば入る
「sage」を入れないで書き込むとスレッドが上位に来て目に付きやすくなる反面、余計な人を呼び込むことにもなる
スレッドや投稿者の主義によって、あまり目立たせたくないという場合に使ったり、
SS投下された時だけ「sage」を外して更新の合図にしたりと使い方はその人次第って感じかな
それでも良く分からないようならROMって空気を覚えてくれる他無い
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 03:44:35.41 ID:BaRT6kAO
sageをすると、作者の投稿(更新)がない時には目立たないけど…
作者が作品を更新をする際に
sageをしないで投稿すると、そのスレッドが1番上にくるから
「作品の更新が始まったぜ!やったー!」ってすぐにわかるから便利。

だから自分が基本的に感想とか何かコメントをしたい時は「sage」をした方が良い。

でないと今の俺みたいに
「作者の更新が始まったぜ!やっふー!」って来た人が…、「まったく作者と関係なかったorz」
…と、落ち込むハメになるorz
79 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/02(火) 21:37:22.94 ID:ULA5eM.o
>>22です。酉つけました。
ちょっとずつ更新します。
80 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:09:58.61 ID:ULA5eM.o

――――――

初春はひとまず落ち着くために、部屋に常設されているコーヒーポッドに手を伸ばした。
この少年―――垣根帝督がコーヒーを飲めるとは思えないので、おそらく診察に来た医者や看護士、来客用だろう。

初春飾利は少年が座るベッドの脇から立ち上がると、まだ使い古されていなさそうなカップを手に取り、
丁寧にコーヒーを注ぎはじめた。


(半身麻痺に失語症―――、意識はあるのかな? ううん、もしあったらとっくに抜け出してるよね……。この人超能力者だし)


かくいう初春も一応能力者である。

能力名は定温保存(サーマルハンド) 。『持っているものの温度を一定に保つ』というレベル1の能力である。
一見するとなんの役にもたたなさそうな能力であるが、驚くことに何の役にもたたない。

……というのは言いすぎで、実際にはコンビニのお弁当を持って帰るときや応急処置(といっても本当に応急、でしかないが)に使い道があったりはする。

あるいは、こうしてコーヒーを暖かいままにしておくとか。
スプーン曲げ以上電子レンジ以下の、まあある意味雑草能力である。


(………どうせ才能ないもんねーだ)


たとえ自分には目の前にいる超能力者(レベル5)みたいな能力はなくたって、こうしてジャッジメントとして誰かの役に立つことはできる。
それはもしかしたらずるいことかもしれないし、微々たる才能かもしれない。
だが初春はそんな自分の技術を過小評価はしていないつもりだ。


(私には私にできることがある。大事なのは適所に適材、だよね)


それは以前白井黒子が言ったとおり、見かけ以上に大人な考え方かもしれなかった。

81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 22:15:00.68 ID:BaRT6kAO
>>79
戻ったかっ! 支援しえんC
82 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:27:04.59 ID:ULA5eM.o

木山が言った台詞を反芻していた。


―――あの日何があった。君はこの男に何をした。


そんなことを急に言われても、と思いかけたが、初春には鮮明に光景を思い浮かべることができる。
街を歩いていたら小さな小さな少女に出会った。それがあの日の始まり。
迷子を探す、と言い張る少女をつれて右往左往しているうちに、突然目の前にいる少年に絡まれ、そして―――


(………っ!)


ずきり。右肩が透明な痛みを放つ。

それは一瞬の出来事だったが、オープンカフェで少年に少女の行方を尋ねられた。
直感的に嘯いたが最後、こめかきに一撃、その後は述べたとおりだ。

それからの記憶は正直曖昧である。


(……実際、その後のことを私は知らない……)


気づけば自分は救急車で運ばれていて、次に目覚めたときは病室だった。
それ以来事件には巻き込まれていない。

その少女ともその後、結局は会わず終いだ。初春は日常に戻る。まるで何もなかったかのように。


(ジャッジメントとして調べては見たけど、私のIDで見られる場所からは何も出てこなかった)


機密度に応じて開示ランクを設定してくれるのはセキュリティ上助かるが、せめて自分が関わった事件くらいは調べさせてほしいと思う初春だった。

83 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:40:15.46 ID:ULA5eM.o


(………)


目の前の少年は、すうすうと寝息を立てている。ぴっ、ぴっ、と心電図の音が室内に響く。
右肩の疼きが消えるのと同時に、初春は自分から恐怖心が消えていることに気づいた。

半身麻痺に失語症。何に巻き込まれてこうなってしまったかはわからないが、自分の脱臼と比べてこの少年が失ったものはあまりにも大きすぎる。
初春でなくとも同情の念は隠しえないはずだ。

あくまで予測だが、大方初春からは想像もできないような事情で垣根はこのような代償を払ったのだろう。


(何があったんだろう。やっぱりあの日あの後、なのかな? 一体この人は何をしてたの……?)


コーヒーの温度を保ちながら、じーっとその表情を見つめてみる。

垣根帝督は確かに凶悪な能力者だろうし、実際自分も傷つけられている。
そして現在その身体はやせ細っていて、髪もボサボサだ。

が―――思うのは、その整った顔。おそらく街を歩いていたらかなりの人数が振り返るくらいの顔立ち。
こういう男性が二枚目というのだろうか。

あの時はぜんぜん意識していなかったが、こうしてまじまじと見つめているとそれがよくわかる。

と。


(―――っ!? な、何かんがえてるんだろ私、こんなときにっ!)


自分の思考回路に罪悪感を感じた初春は、これじゃあいかんっ!と言わんばかりにベッドに背を向けた。
その後、なぜかどこかからバスドラムを打つ音が聴こえるな、と思ったがやがてそれが自分の体内の楽器だと気づいた。


(ええっ、な、なんでぇ? うはー、こんな考え方だからだめなんだよ私っ! 最低だ……)


うだーっと自責の念に苛まれる初春。かたかた、かたかた。パソコンの音はまだ響いている。
84 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 22:52:33.09 ID:ULA5eM.o

―――どくん。

目を閉じて、胸を抑えて、静まれっ、静まれっ。初春は念じるように祈るように思った。
どれだけ飢えてるんだよ自分、などと思ったりもした。こんなとこ佐天に見られたらいい笑いものである。

振り返ってその感情が高まるのを恐れた彼女は、落ち着きを取り戻すためにその身をデスクトップの前に移す。
画面にはやはり文字の羅列。

かたかた。
かたかた。


(………ん?)


何かを思い立った初春は画面を凝視する。
聞きなれたファンの音、沈黙が支配する夜の病室、後ろには超能力者の少年。
その異様な状況が彼女に何をひらめかせたか。


(これって………?)


========================

??>>NA<E,Nあme>>NNA<KR.NAME?
HANA>>KAZARI.HANA>>KAZARI

―――dlkafg,fa―――akmgd,gkabmamdsjaaiji―――

―――ksnajg―――kkasg,aavri......jalkjgasdg?
......kamg!! kasm,vavkbnr,,,,,,,,,,,,,,,,

========================
85 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:04:16.88 ID:ULA5eM.o


(―――もしかして………?)


初春の頭に色も形もない、パズルのピースのようなものが浮かび始めた。
それらはまるで自分の居場所を求めるようにくるくると動き始める。


(感嘆符と疑問符)


彼女がひっかかったのはその二つだ。
コンピュータ言語の表記方法はいろいろあるかもしれないが、一般的にプログラムの中で感嘆符や疑問符が使われる場合、そこには必ずといっていいほど存在すべきものがある。
それはすなわち、対になるレスポンサーである。対話者である。


(やっぱりこれは―――じゃあ、……つまり?)


そこからの行動は早かった。
何かが宿ったように彼女はキーボードを叩き始める。


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――


病院の端末とはいえ初春は一流のハッカー、プログラマーである。
ことウェブに関しては超能力者とも張るほどの腕を誇る彼女は、常人とは思えない速度で何かを“書き”はじめた。


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――


(やっぱりただの文字の羅列じゃない。この人は意志を持って、情報を発信してる)


かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――

かたかたかたかたかたかたかたかたかた―――

………

……


86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 23:09:01.18 ID:wRPmisAO
パソコン打つときの表現はカナ半角の方が良いんじゃないかね
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 23:13:52.81 ID:JiBb73.0
>>86
いやひらがなでもいいだろ別に
88 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:17:01.35 ID:ULA5eM.o

                                 ※

垣根帝督は電脳空間に居た。

あのまま狭い病室で狂ってしまうくらいなら、せめて気分だけでもましになる場所に身を寄せるというのが人間の心理だ。
耳をふさいでみたり、走ってみたり、仰向けになってみたりしたがどれも効果はなく、結局はある体勢に落ち着く。



(くそっ……!! くそくそくそ糞糞糞糞……ッ!!!)



電脳空間の垣根は自己のイメージを投影するらしく、装いは薄緑の手術服のままである。
真っ暗な闇の中に一筋に当てられるライト。
足には何もはいていない。ついこの間まで来ていたホストのようなえんじ色の学生服はどこかに消えていた。

頭を抱えたままうつぶせになって座る彼の姿は、広大な空間で一際目だって見える。


(どうなってんだ……ッ! 畜生っ…!! 意識はある……視界も開けている……!)
 
ヴァーチャル
(“こっち”側ならどんなことでもできるッ! 羽も生えるし空も飛べる!! 未知の物体なんて目じゃねぇっ!! なのになのになのに……!!)

  リアル
(“あっち”で演算ができねぇっ………!! これっぽっちも何も動かねぇ……ッ! 動いてくれねぇ…ッッ!!!)



ぼりぼりと頭を掻き毟る垣根。すると地震が起きた。

―――よく見てみると、自分の足が震えているだけだった。
89 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:39:07.95 ID:ULA5eM.o

                                              トランスフォーマー
(確かにあのクソ天使が言うとおり、こっち側の俺があっち側の俺を動かすには仲介人が必要かもしれねぇ)

(そいつの力を借りて外から“電流”をぶちこんで動かないはずの俺を動かす。そして第一位をぶち殺す――――――はずだった)

(だがそれは“体が捕捉されている”という前提条件の元の計画だ)

(―――実際はどうだ? 俺の体は縛られてなんかいなかった!)

(…………半身麻痺だと? 失語症だと? ふざけんじゃねぇぞクソがぁッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!)


言葉と同時にぐおおっ、という音を立てて世界が歪む。
誰の反応もない、ただの八つ当たりだ。

何よりも彼を落胆させたのは、あの場所がおそらく統括理事会とは関係がなかったこと。

垣根帝督の強靭な精神を支えていたのは、彼が持つ能力の際限のない異質性。
てっきり自分は“回収”され、その圧倒的な力を利用することを望まれているのかと思っていた。
そのための設備。それこそ恐竜を封印するような、『未元物質』の力を押さえ込むための設備、と。


しかし現実は違う。
おそらく自分はすでに有用性をしぼりとられている。いわば果実の残りかすだ。
さらに体の自由は失われ、言葉さえまともに話すことができない。

それらの事実を予測した結果、学園都市で第2位の能力者を誇る彼のプライドはいとも簡単に崩れた。


               トランスフォーマー
(―――くそが―――仮に仲介人を見つけたとしても……一人でクソもできねぇってことかよ?
 …………畜生……畜生が、これが末路かよ………)



がたんっ!

当てられていたスポットライトが突然消える。無論それは彼の意志によるものだった。
永遠の闇。それは光が全くあたらない黒を越えた漆黒。垣根はここにきて、その思考を停止させることを望んだ。


(は、これが本当の“暗黒物質”ってか? ……笑えよ、くそやろう)


90 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/02(火) 23:59:18.87 ID:ULA5eM.o


(HANA、KAZARI……)


つぶやくように想った。はなかざりとは、つまり要するに花飾りのことだろうか?


(……あの天使、何がヒントだ。 確かに移動の目印にはなってるが、それだけで何もおきねぇ)


電脳空間でさまよっていたときに例の存在から投げられた言葉。
一定の間隔で頭をよぎったりはするが、だからといってどうなるものでもない。

自分に関係がある人物のことかと思ったりもしたが、そんな特徴のあるやつは知らない。
民謡にも出てきそうなキーワードだ、と垣根はその場でニヒルな笑みを浮かべた。


(……花、飾り………)



と。




かたかたかたかたかたかたかたかたかたかた―――ッ!



(あぁ!?)


目の前に巨大な文字が出現する。それらは自分を取り囲むように現れ、瞬時には状況を把握できなかった。


かたかたかたかたかた―――ッ!

91 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 00:12:20.38 ID:keqhNDUo


「―――ッ!? なんだこりゃ!? おいクソ天使、どこにいやがる!? またテメェの仕業かコラ!!!」


反応はない。

代わりに、漆黒の闇に白い文字が次々と打ちつけられていく。
何を意味しているのかわからないアルファベットの羅列。



【lafjga;hna........algfdklbmkjka/.,fkgkf,v.akb:kba:...................ak;lb;l;va;】



(くそッ! まさかあの病室からこっちにハッキングかけてきてんのか!? ……ここまで追い詰めて、まだやるってのかよ!?)



【lakbmgf:lm,!!! mamga? ;kam;kma;,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,msakbmkm,m,m,amb;faogro.....】



(―――クソヤローが。上等だコラ。テメェらがそこまでやりてぇってんなら、誘い出して返り討ちにしてやる)


垣根は反応を待った。

おそらくこれから何かしらの攻撃が始まるはずである。
……問題ない、自分はこの空間でなら向こうと同じか、それ以上の力を発揮できる。
ふう、と一呼吸おいてから、彼はその力を解放した。

―――『未元物質』。
背中から生えた六枚の羽が、優雅に漆黒の闇を切り裂く。
こき、と首を鳴らすと、さっきまでの表情とは一点、垣根は暗部特有の狼のごとき視線を文字に向ける。


(きやがれ)


かたかたかたかた―――かたかた―――かた……… 


それらの文字はゆっくりと、速度を落としていった。くるか? 垣根は息を飲み込む。
92 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/03(水) 00:13:05.13 ID:keqhNDUo
ちょっと休憩しまつ。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 00:13:44.57 ID:xnHl1k.o
94 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 00:37:07.88 ID:keqhNDUo


かた………かたかた………



【knfflagl;b,………mla…………

            ……………END】




(………っ!)


握った拳には汗がにじんでいた。
実際には電脳空間であるはずなのに、明確に分かる。なるほど、自分は緊張している。
それをご丁寧に投影してくれたというわけか。
極限まで追い込まれてるんだ、無理もない。だが、負けてやる理屈もない。

そして覚悟を決めた垣根は演算をはじめた。

END、の文字が見える。

来るなら、次だ。精神を一点に集中する。


(こいよ。バラバラにしてやる)






【………………………………

 …………………        

 …………
 
 ……

 こここおこここんにちわっ!! わ、わたたたたたたししししししははは】





世界が、止まった。
95 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:17:23.45 ID:keqhNDUo


(……あ?)

【あっ、……よかった。いきなり組んだからうまくいくか不安でした……】

(……なんの冗談だこりゃ)

【あっ、えっと。これはその、つまり―――貴方が発信する言語?の法則を解析して、元に即興でつくった翻訳プログラムで―――】


「おい、テメェ誰だ?」


………。反応はない。


(チッ。わけわかんねぇ。翻訳ソフト? 警戒して損したぜ。無駄使いさせるんじゃねぇよ)

【ごめんなさい、あっ、ま、まだ難しい単語は訳せないんですけど。急にやったんでアルゴリズムがまだ安定しないんです】

(!? こいつ……、プログラマーか?)

【え? あ、違います、えーと。私は……ただの学生で―――】

(!)


そこで気づいた。
このわけの分からない翻訳者は自分の思考をそのまま読み取って会話している。
そしてどんな手品を使ったかはわからないが、どうやらあちらの部屋にいながら自分と会話ができるようだ。


(俺の意識はまだこっちにある。ということはあの天使の例を使うと、こいつは部屋と部屋をつなぐ通訳の役割か)

(……スゲェな。一体どれだけの時間を割いて構築したってんだ? 並大抵の演算能力じゃできねぇぞ)


言いつつも、まだその対話者を信用できない。ここまでが罠の可能性もあるのだ。
垣根は手探りで情報をかき集めはじめた。
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 01:18:53.52 ID:3Jg6xQg0
南斗いうスーパーハカー
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 01:19:49.26 ID:xnHl1k.o
wktk展開すぐる
98 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:45:12.03 ID:keqhNDUo


【?? ええと、ちょっと何いってるか……】

(気にするな。自覚はある。……それより“翻訳者”さん、名前は?)


思考をコントロールするのは慣れこそ必要かもしれないが、普段から演算を欠かさない彼にとってはお手の物。
それに念じたことにより会話ができるなら、それは念話能力(テレパス)と変わりはしない。


【え? あ、……えっと。…………】

(どうした? 答えられねぇのか? ならテメェは俺の敵だ。話すことはねぇよ)

【………………初春です】

(初春……聞いたことねぇな。テメェは今どこにいる。誰の指示で俺とコンタクトを取った?)

【いや、そういうのじゃなくて……、私は単純に、その……興味からこれを構築して……】

(寝言みてぇな言い訳は信用できねぇ。暗部の差し金か? それとも統括理事会か?)

【……………】


(―――いずれにせよテメェはこの俺にまだ姿も見せていない。信用しろってのが無理な話だな)


【……………ごめんなさい】

(はっ)

99 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 01:58:15.53 ID:keqhNDUo


(馬鹿げてやがる)


垣根はため息をついた。

なんだこのデタラメな阿呆は。興味本位から俺にコンタクトをとってきただぁ?
何のために。利用価値でも見出したってのか。今の俺に?

―――深く考えようとして、やめた。
どうせ統括理事会は俺にもう用は無い。
暗部に戻ろうにも能力が使えない半身麻痺の障害者を受け入れてくれるほど、奴らも甘くは無いだろう。
一方通行に復讐するためにシャバに戻ろうにも、せいぜい車椅子から転げ落ちるのが関の山だ。
それ以前に、クソもメシも一人じゃこなせない。何もできない。本当に何も。

自分は無能力者。最低のゴミクズに成り下がったというわけだ。
一時は学園都市最強に啖呵をきっていた、この俺が。
能力が使えないなら生きている意味などない。このまま電子の世界で妄想に身をゆだねるのもいいかもしれない。
クソったれの無能力者。恥さらしだ。

笑えてくる。
情けなくて、笑えてくる。


【やめてください!!!!!】


(―――っ……あぁ?)

100 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:05:51.85 ID:keqhNDUo


【ノイズが混じっていて全部は理解できないですけど……】


かたかた。かたかたかたかた。


【無能力者が恥さらしとか、生きている意味がないとか】


文字はゆっくりと垣根の前に列を生み出す。


【……そんな言い方、やめてください】


(…………)


【私の友達にもそうやって悩んでいた時期がありました。でも今は立派に生きてます。一生懸命生きてるんです。
 力が使えないからなんだっていうんですか? 能力が使えないから生きていちゃだめなんですか? 誰が決めたんですか?
 そんな借り物のものさしで人を測るのは、自分を蔑むのは―――やめてください】


(…………テメェに俺の何がわかる)


【貴方のことはわかりません。これっぽっちも。でも妄想に身をゆだねて、現実から目をそむけることが間違ってるのはわかります】


(…………)
101 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:22:30.89 ID:keqhNDUo


(失せろ)

【え?】


垣根の生み出した演繹体系はその周囲に意識を投影する。
世界は音を立て、侵入者を拒絶し始めた。


(ここから消えろって言ったんだよ盗撮ヤロウ!!! 人の思考を読み取って楽しいか、あぁ!?
 お前に説教される筋合いなんざどこにもねぇんだよ!!
 借物のものさし? は、世の中はそうやって人をカテゴライズすることで成り立ってんだ。食うやつと食われる奴を片っ端から判別してな!!
 加えて俺は暗部のトップを張ってた男だ、眠たい偽善なんざ聞き飽きてらァ!!!!
 実力社会で生き抜くにはてめえの力量くらい測れなきゃ食っていけねぇんだよ!!! じゃあテメェは責任とれんのか!?
 ものさし捨てた俺を保護できるってのかよ!? できねぇだろうが!!! 俺にとっては能力がすべてだった!!
 そしてそれはこれからも同じなんだよ!!! ずっと続くんだよ!!!!!!!!
 たいした覚悟もねぇくせに日和ったことぬかしてんじゃねぇぞコラ!!!!)
 

………。

反応はそれっきりなくなった。
再び訪れる沈黙。スポットライトは相変わらずあたっていない。
静寂と漆黒を軸に、境目のない地平線がどこまでも続いている。


(くそが……)


いつの間にか背中から消えていた羽をもう一度生み出し、垣根はまたうつむきに座った。
頭を抱えたあと、六枚の羽は器用にその体を包む。


その様子は遠くから見ると小さな卵のように見えた。

まるで誰かに暖めてもらうのを待っているかのような、寂しげなシルエットだった。

………

……


102 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 02:43:41.18 ID:keqhNDUo

                              ※

「何をしている」

「っふぁっ!?」


あまりにも熱中していたのか、病室に来訪者が来ていたこと、背後に人が立っていたこと、初春はそのどちらにも気づけなかった。
素っ頓狂な声をあげてしまう。あわてて画面を切り替えてから、瞬時にブラウザを閉じる。

最後に何か長文で発信されていたようだが、確認する前にリミットが来てしまったらしい。

背後に立っていた木山春生はその様子を、特に表情を変えずに見ている。
初春は「あはははー、ちょっと興味が……」とごまかしながら、おそるおそる後ろを振り向いた。


「……ん。そうか。君は確か、情報処理が得意だったね」


どうやら気づかれてはいないらしい。
ほっと一息ついてから、初春は手に取っていたコーヒーを木山に見せ、「飲みます?」と聞いてみた。


「うーむ、飲み物はカレーと決めているからな。……だが、うん、一口だけなら」

「保温しておいたので暖かいですよ」

「君の能力かい?……ああ、おいしい。それより、何かわかったことでも?」

「いやぁ……あは、ちょっと色々いじってはみたんですけど、難しくて」


舌を出しておどけてみせた。木山は一瞬首を傾けていたが、すぐに目を閉じると、「そうか」と一言だけ付け足して椅子に座った。
そういえば会ったときは気づかなかったが、この女性が白衣を着ているということは、今はこの病院で研究をしているのだろうか。
103 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:08:13.95 ID:keqhNDUo


「で? どうだ、話してくれる気になったかい」


足を組み、椅子を左右に動かしながら木山は言った。
その視線は垣根に送られていて、時折目を細めたりしている。
観察するような瞳。それは研究者としての性だろうか。


「……どうしてこの人にこだわるんですか?」

「愚問だな。彼は多かれ少なかれ脳細胞を破壊されている。おそらくは言語中枢絡みの部位だろうが、それだけでは説明できない点があってね。
 たとえば彼の意識は健常者のそれと変わらず、認識能力はここに来てから一定を保っている。これは従来の患者のケースと一致しない」

「つまり、専門の研究者として―――彼を“診る”ってことですか?」

「好きなのか」

「は?」


突拍子もない質問に戸惑う初春。
気づけば木山の視線は自分に移ってきていた。


「この少年のことだ。君の恋人か何かか?」

「なっ、ななな何いってるんですか?!」

「? 彼、なんていい方するのはそういうことだろう?」

「ちちちちち、違いますよっ!!!!」


まったくもう、と最後に付け足してから、初春は荷物をまとめはじめた。
コーヒーはまだ飲みかけだったが、構うことはない。
木山の言い草を信用するならば、これから“彼”が何かをやらされるということはないだろう。
垣根が放った最後の長文は気になったが、これ以上ここで話すことはない。

それに―――、右肩の話をするのは、正直、つらい。
104 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:22:31.27 ID:keqhNDUo


「かえるのか。―――まあいい。また気が向いたら来てくれ。私はしばらくここに滞在している」

「また隅つくらないようにしてくださいね」


どうかな、と木山は薄い笑みを浮かべる。
幻想御手(レベルアッパー) 事件のときは精神的にかなり病んでいる様子だった。
彼女があれほど熱意を注いで生み出したとあるシステムは、諸刃の剣ともいえる危険性を秘めていた上、凄惨な結果を招いた。

もっとも目的が果たされた今、再発の可能性はないだろうが。
初春は荷物をまとめて立ち上がる。


「ああ、すまない。最後に君の名前を確認したいんだが」

「え」

「来訪者の記録をつけないといけなくてね」

「あ、そうですよね。初春飾利です。ものごとの初め、の初。春は季節の春。飾るは装飾品の飾。利は利用の利」

「ありがとう」


まだ何かあるのかな、と思いかけて、初春は異変に気づいた。
椅子から立ち上がるとちょうど垣根のベッドのすぐ隣に位置する場所にポジションをとることになるのだが、
彼女が違和感に気づいて垣根を見たとき。


(えっ)


彼女のワンピースが垣根につかまれていたのだ。
105 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:33:50.85 ID:keqhNDUo


「? どうした?」

「あ、いや……な、なんでもないですっっ、さ、さよなら」


木山から見ると死角になっていたようなので、その右手で静かにつかまれた部分にある、垣根の手をどけた後、逃げるようにしてその場から立ち去った。
どくん、とまた何か聴こえた気がしたがおそらく気のせいだろう。
そう言い聞かせて。


(こっこれは私が悪いんじゃないよね? だ、誰だってどきどきするよっ、そんなのっ!)


病院の廊下を走る。
看護士が何かを叫んでいたが、無視して出口までたどり着いた。
はぁ、はぁ、はぁ。

目を白黒させながら、なんとかたどり着いた室外の空気を吸い込む。

次にごくりと唾を飲み込み、周囲を確認した。
休日の人通りは、初春は知るいつもの学園都市だった。


(―――ばれなかったかな)


そして取り出すのは薄型の携帯電話。と、USBメモリ。


(暫定版のプログラムだけど、なんとかこっちに詰め込めた。木山先生に見せてもよかったかな……いや、でも)

(垣根、さん? はすごく警戒してたし。もうちょっと調整しないと実践的じゃないし。―――伝えるのはそれからでいいよね)

(………手、あったかかったな)

(…………って、はい!?)


えっ?! 最後の何っ!? と自分に自分でつっこみを入れながら、初春飾利は街を歩き出す。
時刻はすでに夕暮れ。彼女の頬が赤いのは、果たして夕日に照らされていたからか。
それとも―――

………

……


106 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:49:41.94 ID:keqhNDUo

                            ※

かたかたかたかたかた。

木山春生はまだ病室にいた。
初春が残していったコービーをすすりながら一人、デスクトップのパソコンをいじる。


(―――やはりあの子は能力の才能こそないが、有する演算能力、情報処理能力には目を見張るものがあるな)


彼女が見ているのはパソコンの操作ログである。
初春のようにプログラムを生み出す力はなくても、木山もまた、学園都市が抱える優秀な研究者の一人。
打ち込まれたものを解析するくらいならば造作もない。


(あの様子だと私が出て行ってから戻るまでの数十分でこれを? 恐ろしいな。まるで都市伝説だ)

(―――だが、ふふ、今度からは飲み残しはしないようにしないとな。誰かにこうして啜られることもある)


ずず、と音をたててコーヒーを啜る木山。

かたかたかたかたかた。

パソコンは正直で、数十分の解析によって初春と垣根のログはほぼ把握できた。


(未完成の部分が多いが、基本的な言葉なら網羅されているか。一部ノイズが混じっているが)

(あの子はおそらくこれを抜き出して帰ったはずだ。さて、完成品になるまで何日かかるかね)

(―――しかし、……この中に気になる単語もある)

(統括理事会? ―――暗部? 絡んでいるのは大型の組織か?)

(加えてこの警戒心。まるで機密を知ったスパイだな。……少し泳がせて様子を見るか。解決の糸口が見えるかもしれない)


木山を動かしているのは純粋な気持ちだった。
かつて自分の研究が生み出した惨劇。眠り続けた子供たち。同じく眠り続ける垣根にそれを重ねているかはわからないが、ともかく彼女は心に決めていた。

これ以上、この街の犠牲者は出さない。
たとえ自分とは関係がないにしても、こと頭の中の話ならば、救い出してみせる。
それは彼女が一連の事件から学び、心に刻んだ信念だった。
107 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/03(水) 03:56:12.96 ID:keqhNDUo

一息いれるか、と彼女がその場を離れようとしたとき、閉じたはずのブラウザが再び起動しはじめた。

かたかたかたかたかた。


(…………?)


訴えかけるように流れる文字の波。
木山はそれを見逃さない。
コーヒーをモニターのすぐ横に置き、画面を凝視する。


かたかたかたかたかたかた。

翻訳ソフトは順調に起動していた。


【................初........春.....................................................................KAZA...RI........】

【............................初……………春Hあ季節n……春……】

【飾rU………装飾……kAZari…………】



かたかたかた――――――――――――












【初春飾利.............................かぁ..............................................】



………

……

108 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/03(水) 03:57:23.23 ID:keqhNDUo
スレタイ回収したところで今日はおしまい。
お疲れ様でした。
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 03:59:08.63 ID:ljnIkUAO
>>108
惜しみない乙を!
超乙かれぃ
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 04:00:57.22 ID:4VGThsAO

続きが気になりすぎてちょっと電脳空間いってくる
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 09:58:38.18 ID:AVB/gIDO
名スレの予感
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 14:43:57.36 ID:ljnIkUAO
その後の >>110の行方を
知るものはいなかった…
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 17:39:40.25 ID:Put5ciY0
帝春ktkr

もっと帝春SS増えねーかな
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 21:09:05.25 ID:ljnIkUAO
諸君 「>>1乙」をする場合は
>>1 にしてはダメだからな!

>>21」に 乙をするように。
115 :間違えた…orz [sage]:2010/11/03(水) 21:11:12.35 ID:ljnIkUAO
>>114
ちくしょう 間違えた…
>>22」だったよ…>>22だからな
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 22:24:51.69 ID:60dIPCYo
>>115
何の話かと思ったらそういうことか
だが>>1がこのスレを立てなかったら>>22も書く気にはならなかったのではないか?
まぁ何が言いたいかというと>>22
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:12:44.18 ID:1auTybc0
>>22乙です
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/3f/27ef4832a10ef5a56aa2bb55331885ea.jpg
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 23:28:32.51 ID:u1FsLnY0
わざわざ安価つけずにシンプルに乙でいいんじゃないの?

>>117
初春可愛いよ初春
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/03(水) 23:48:29.67 ID:hXZs1L20

初春とのラブ活になるのかバトル物になるのか気になるわ
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 04:20:57.92 ID:4z018AAO
みことにっきの人?
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 08:45:39.19 ID:XxD7cWc0
>>22 に乙!

>>120 え そうなのか?
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 22:02:51.95 ID:RehtgJc0
○○の人〜 とかどうでもいいのだわ

せめて俺だけでも、このスレ立てて>>22との出会いのきっかけをくれた>>1乙と言わせてもらおう
と思ったが>>116に先に言われてたな、さすが>>116だ、>>116乙!!
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 01:06:03.61 ID:DmHRPXgo

ほんと面白い、続きが気になる
124 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 05:33:09.43 ID:HzRU3Kco

おはようございます。遅筆ですが、書けるところまで続けておきます。
>>117
光りの速さで保存させていただきました。ありがとうございます。
>>120
気のせいです。
>>122
立てる方がいなかったら私も書こうと思わなかったと思うので、私からも>>1乙です。

でははじめます。
125 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 05:57:52.10 ID:HzRU3Kco

                               ※

「どうです? 企画としてはそこそこ面白いと思うんですよね」

「確かにここのところ息抜きはしていませんでしたの。ジャッジメントの仕事にかまけてお姉さまとも私生活では疎遠ですし……」

「でしょ? これから寒くなるし、温泉旅行、やっぱり当たりですよね! ……あー楽しみ♪ 初春はどぉ? お金平気?」

「…………」カタカタカタカタ

「おい? 初春? 初春飾利さーん?」

「………あっ」


慌てて開いていたノートパソコンを閉じる初春。
思考を取り戻してから耳に入ってくる喫茶店のBGMは、聞いたことのある歌だった。
人の個性を花に例えたヒット曲だ。花が好きな初春もお気に入りの一曲である。

頭を整理しながら、目をぱちぱちさせながら、眼球を動かして周囲を見渡すと、白井と佐天が不思議そうにこちらを見つめていた。
ん? なんの話題だったっけ? と手近にある飲み物を手にとってみたが、思い出せない。
また佐天の好きな都市伝説の話だろうか。


「こ、怖いですよねー、脱ぎ女! 私も思い出して眠れません、最近」

「はぁ? それはもう出没しなくなったって言ったじゃん! ていうか話題ちがうよ?」

「え? ……ご、ごめんなさい。ちょっと別のこと考えていて……」


頭を抑えながら舌を出す初春。佐天はため息を一息つくと、頭の後ろに手を組みながらソファに背中を寄せた。


「もー、これだからぁ。温泉旅行だよ、お・ん・せ・ん・りょ・こ・う! 前に話したでしょ?」

「へ? あ……、そ、そうですよね。いいと思います、私も楽しみです」

「え? 初春、お金ないんじゃないの?」

「……あ……そ、そうなんです、ここのところ出費が……」

「……妙ですわね」


言葉と同時に、隣に座っていた白井からは刺すような視線が飛んできた。
何か秘密がばれたような錯覚に陥り、ひっ……? と情けない声を出してしまう。
126 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:16:38.54 ID:HzRU3Kco


「な、なにがですかぁ白井さ〜ん……?」


肩を竦めながらジュースをすする初春。
保温が効いているだけあってまだ冷たい。初春の持つ飲み物の氷が溶けることは、彼女の能力をもってすればそうそうない。

……が、その手にある汗をかいたウーロン茶はまるで、彼女の心情を表しているかのように慌てふためいて見えた。
罰が悪いことこのうえない。たはは、と付け足してみたが効果はなさそうだ。

そんなバレバレの態度にいい加減見飽きていた白井は、目を細めてから呆れたように口を開く。


「初春、こんなところに来てまでお仕事ですの? 随分と仕事熱心ですこと」

「そ、そんな言い方はひどいですよ!! いいことじゃないですか、治安維持には大事なことです!」

「へえ? ならわたくしにも見せていただきたいものですわね? 初春の治安維持にたいする心意気とやらを」

「プ、プライバシーは保護されるんですっ! それが情報社会のルールなんですぅっ!」


まったく、と付け足す白井だったが、それ以上はつっこむことなく視線をそらす。
どうやらネットゲームをしていると思われたようだ。
ここは職場でないとはいえ、以前注意したばかりの白井にとってはいい気分がしないだろう。


「じゃあ、あたしが幹事で企画すすめますねー! えっと、今一番熱いところがですね………」


パンフレットをめくりだす佐天を尻目に、初春はこっそりとノートパソコンを開いた。
もちろん白井が横目でギロリとにらんできたが、別に悪いことをしているわけではない。
自分に言い聞かせてから、初春は作業を続ける。

―――翻訳ソフトのプログラム。


(やっぱり機械的に辞書をインストールしただけじゃダメか……。人間の言葉って複雑だなぁ。特に日本語は)


かたかたかたかた。
外に出ての作業はやはりはかどる。初春は生粋のプログラマー体質である。
一度書き始めたものを仕上げるとなると、それこそ寝食を忘れて打ち込む癖があった。
127 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:33:51.98 ID:HzRU3Kco


―――そういえば。

ふと初春は疑問に思った。
佐天は呼び出しの件について触れてこないな、と。
垣根帝督に会うことになったあの日、初春はとっさに機転をきかせて、彼女には同行しないように言った。

もっと反抗されるかと思ったが、思いのほかすぐに納得されたのだ。


(―――、でも本当は心配してくれてるんだろうな)


白井と初春も浅からぬ仲だが、佐天と初春ももちろん浅からぬ仲である。
泣き顔を見たこともある。

その事件のとき―――、多分誰にもいえなかったことを打ち明けられたとき―――、初春は必死になった。必死で心配したし、行動した。
だからこそ、彼女は待っていてくれているのかもしれない。

初春が自分の口から話してくれることを。


(……、っていっても別にまだ何か起きたわけじゃないし)


対角線上に座る佐天に目をやると、楽しげに旅行についての計画を白井に説明していた。

かつて彼女にあった、無能力者に対するコンプレックス。そんな彼女も今はこうして、何もなかったかのように快活に振舞っている。

―――不意によぎったその言葉を頭の中心で停止させて、初春は考えた。


垣根帝督。あの人もまた佐天と同じように、無能力者に対してコンプレックスがあるように見えた。

どうしてそこまで。なぜ。もちろん手元にある情報だけでは推察することしかできない。
あのときの会話から判断すると、自分が無能力者であるということよりも、第2位から転落したことについて苦悩しているように見えた。
自分に価値が見出せない。生きている意味がわからない。もしくは、無意識にそれを探してしまう。数字でしか自分の価値を、測れない。

そうはいってももちろん、会話のほとんどはノイズまみれで読み取れなかったのだが。


(―――そんなの、寂しすぎるよ)


初春は気を取り直してから作業を続ける。
のどかな日だった。店内にいても鳥のさえずりが聞こえてきそうなくらいの、快晴。
128 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:45:51.58 ID:HzRU3Kco



                   【初春?】



(……え)

不意にディスプレイに浮かんだ二つの文字。と疑問符。

初春はそれを見るなり慌ててしまい、机の下に膝をぶつけてしまった。
がたんっ! 予想外に大きな音を立ててグラスが揺れる。人気のない喫茶店だったので尚更だ。

佐天は大丈夫?とびっくりしてまばたきをする。
白井はいい加減になさいよ初春、と叱ってくる。

「すいません、なんでもないんです、あは、ちょ、ちょっとゲームの天使くんが……その……」

二人はその言葉を聞くなり、はぁ、とため息をついてから話を続けた。
一瞬場に流れた気まずいそれは、好き放題に空間を切り取ってからどこかへと消えていったようだ。
まったく気まぐれな空気である。


(え? こ、これって……垣根、さん?)

【そこにいるのか?―――初春、初春飾利? 返事をしてくれ】


やっぱりそうだ、とおもいなおしてキーボードを叩く。
プログラムは正常に起動している。
でも、こちらからは発信していない。

―――ということはこれは彼からの意思表示?
不思議なこともあるなぁと思いつつ、初春はレスポンスを返した。

【ごめんなさい、急だったのでびっくりしました。こ、ここにいますよ】

【そうか】


向こうから来たメッセージなのでもう少しフレンドリーなものを期待した初春だったが、それは変わらずのぶっきらぼうな返答だった。
少しだけがっかりする。
129 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 06:56:56.10 ID:HzRU3Kco


【な、何か用事ですか? ……というか私名前いいましたっけ?】


初春は白井と佐天にばれないように、少しだけパソコンの向きを変えた。
角度的にはこれで死角になるはずである。

何か他人にばれないように密談をしているようで少しドキドキする。


【木山とかいう女と話してただろ。それを聞いてただけだ。装飾品の飾るに利用の利だろ。あってるよな?】


するとこの人にはあの時意識があったのか、と記憶を掘り返す。

―――そして思い出した。
あの時の手のひらの感触。温度。不意につかまれたワンピースの裾。


(―――っ!)


白井と佐天からはディスプレイ越しなのでわからないが、初春は頬を染めてぷるぷると震えていた。
中学生くらいの年頃ならば、異性の手を取るという行為は要するに、そういうことだ。


【おい、どうした? ノイズが混じってるか?】

【なんでもないです…、見えてますよ。ちゃんと、見えてます】


本当はあの時、どうして裾をつかんできたのかを聞きたかったが、その言葉はぐっと飲み込んだ。
そんなことを聞いたら、返答次第で初春の頭は噴火してしまうかもしれない。
それよりも今は、コンタクトをとってきた真意を聞くべきだと判断する。


【暇なんだ。病室に缶詰だろ。話す相手もいねぇしよ】


ようするに寂しいということだろうか。脳波を直接読み取っているのだから、もう少し可愛げがあってもいいのに。
初春はいつの間にか自分が相手に応答の仕方を求めていることに気づき、また赤面する。
130 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:11:47.80 ID:HzRU3Kco


【でも……、そっちから発信されるなんて、びっくりです】

【俺もよくはわからねぇ。テメェは病室にはいねぇんだろ?】

【はい。今は喫茶店でお茶してます】

【優gagjl雅だな。こっちは半身麻anglkaskgkで管通されてんだぜ? 俺にもお茶くれよ、お茶】

【あはは………】


思ったより弁舌だな、と初春は思った。
あのときはかなり警戒していたみたいだったが、こうして話すと一般的な男性と変わらない。
木山との会話を聞いていたということは、その後の対応も見ていたのだろうか?
それとも?

様々な考えが回る。
そして、

―――発信できたのはなぜか。たとえば自分のパソコンは今、あのゲームサーバー―――


(ANGEL、って言ってたっけ)


その『ANGEL』と同期している状態にはあるが、基本的に端末は一方通行である。
こちらから扉を開くことはできるが、垣根の方からコンタクトは取れないはずだ。

アカウントは例の“HANA”というIDで接続しているので、理論的には初春を特定して見つけることはできると思うが、それにしたって手配がよすぎる。
そもそもそれができるならば病室にいる必要はなく、あのパソコンに脳波をリンクさせる必要はないのでは? とも思ったりする。


【悪かったな】


次に表示されたのはさらに予想外のメッセージだった。
131 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:24:25.36 ID:HzRU3Kco

何のことだろう、と初春は思った。
いきなりメッセージを送ってきたこと? そういえば最初に来たのはNAME、などというぶっきらぼうなものだった。

そこで気づく。

ああそうか、最初からこの人は私に直接情報を発信してきている。
ネットワークを介してだが、同じ理屈でこっちのプログラムにも入り込めたのかな。
やや不自然なロジックだったが、なんとか自分の疑問を押さえ込んだ。


【この前、ひでぇこと、言ってよ。テメェにあたるようなことじゃなかった】


ひでぇこととは何だろう。
もしかして、あのときのことだろうか。初春が右肩に傷を負った、あの日の。

         ラストオーダー
―――テメェが最終信号と一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ―――


確かにあれは、びっくりした。びっくりしたし、怖かった。
でも今となってそのときのことを掘り返すほど、初春も野暮ではない。
このひとは多分、何か大きな間違いを犯したんだ。やってはいけないことをやっていたんだ。
その代償が、失語症、に半身麻痺。

もう十分すぎるだろう。これ以上責めるつもりはない。


【……平気ですよ。私は気にしてません。それより体調、大丈夫ですか?】

【わかんねぇ。動かないとこは動かfaggぇしな】


そうですか……、と初春は返す言葉に詰まる。

半身麻痺というのはどの程度動かないのだろう。
確か、合併症で失語症を患うのは右片麻痺?足りない脳内の資料をめくってみる。
132 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:35:40.56 ID:HzRU3Kco


【どうもそれとは違うらしい。最gkg気づいたんだが、両kldgana手は動く】

【すると、上半身の神経には伝達されてるんでしょうか? 私は専門じゃないんでわからないですけど……】

【さぁな。不自由なクソっdagたrhの体になっちまったことに違いはねぇよ】


ノイズが入り混じっているが、なんとなく言いたいことは理解できた。
紛れもなく本心だろう。思考回路を見せ付けられているのだから。

―――やっぱり、演算能力を失ったことがショックなんだろうか。
思わずそれは違うよ、と言ってあげたかったが、やめた。
多分自分のような低能力者に何を言われても、彼は受け入れられないだろう。
御坂美琴のようなレベル5からの一言ならまだ違うかもしれないが、自分にできるのはこうして不器用な会話をしてあげることくらいだ。

あるいは―――、


【―――何か、したいことってあります?】

【あ?】


初春は数少ない可能性を頼りに、彼の望みを聞いてみることにした。
もしかしたら、何かできることがあるかもしれない。ケアしてあげられる部分があるかもしれない。

能力に関することは、さすがに手助けしてあげられそうにないが。


【今、垣根さんがしたいこと。私にできること。あ、でもなかったら無理にとはいいませんよ? なんていうか、ちょっとした興味で―――】

【―――外に出てみたい】


即答だった。
133 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 07:52:24.99 ID:HzRU3Kco


【寝てもさめてもいるのは暗い病dag室と暗いamg部屋。嫌になる。シャda;gバにいたときは気づかなかったけどよ】

【日の光りがあたらねぇ生活をしてた。それでも平気だった。―――けどそれは求めていないって意味じゃねぇ】

【要するにka選;aga;択sgaできないって状況がつれぇのかもな。ないものねだりだ】


でって感じだけどな、という文字が最後に付け加えられる。

文面には皮肉がこめられているように感じた。
垣根帝督は学園都市の第2位。学生かどうかもわからない人。
以前、御坂美琴や白井黒子から聞いたことがある。能力者特有の悩み。

たぶん、力を持つことはそれ自体幸せにはつながらない。
この人も、もしかしたら、幸せとはいえないような環境に身をおいていたのかもしれない。
凍えるくらい、寂しい環境。誰かに暖めてもらうことを待っている鳥の卵。
とっさのイメージにしては明確に思い浮かべられた。


【―――いいですよ】

【あ?】


次には初春の目が、燃える。
保温能力というのはもしかしたら、彼女の性格を反映してるのかもしれない。


【私が、垣根さんを外に連れてってあげます。絶対。必ず】

【オイオイ……、無茶いうなよ。俺は何もできねぇんだぜ? 外なんか歩けるわけが……】

【だから! 私が連れてきます! なんとしてでも外の空気を吸わせてあげますっ! いいですか、私が行くまでいい子にしててくださいね!】

【あ? い、いい子って……、お、おい初】


ぱちん。
そこで接続を切った。
134 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/05(金) 08:03:11.31 ID:HzRU3Kco

隣にははちょうど話題の最高潮を迎えていた白井と佐天。初春が立ち上がる様子を見てうなづく。


「あはは! 初春もやっとその気になったかー!」

「ふふ、いいですわね初春、お姉さまとはわたくしが相部屋ですのよ?」


はっはっはー!と二人して大笑いする親友を見て、初春もやはり頷いた。

その眉毛は10時10分を指している。
今にも鼻から出る息が見えそうなくらい、今日の彼女は燃えていた。

時間は―――よし、まだお昼過ぎ。

服装は―――よし、今日はばっちりオシャレ。

花飾りは―――よし、季節の色にそろえてきてる!


バイタリティだ、私は今日燃えている!
初春は自分に言い聞かせてからもう一度頷くと、手に取ったパソコンを持って店から出た。


後ろから何か、「ど、どこにいくんですの!? お、お金は!?」と叫ぶ同僚の風紀委員の声が聞こえたような気がしたが、今はそれどころではない。
これから自分は心のケアをしてあげるのだ。そんな些細なことに気を取られている場合ではない。


(―――あれ、でも今日の下着は……)


なぜかよぎった不純な思考回路におもわず転びそうになる。

な、なんでそおなるのっ!? とまたつっこみを入れる初春。
言いつつも今日の子供っぽい下着が気になる初春。

誰がどうみたって恋する乙女だ。彼女自身はまだ、その気持ちを母性本能ということで片付けている。
―――が、どうにも心の部屋の片付けが苦手な彼女は、どこに何をしまったかなどすぐ忘れてしまうだろう。

走る街角には秋の風がふきつける。

垣根のいる病院は、すぐそこだ。

………

……


135 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/05(金) 08:04:33.09 ID:HzRU3Kco
とりあえずここまで。
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 08:17:24.80 ID:8mYjzUAO
超乙ゥ
137 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/05(金) 09:44:25.19 ID:HzRU3Kc0
>>130の初春の感想、弁舌じゃなくて饒舌、ですね。
その他にも誤字がところどころ多くてすいません。
>>22の仕様です。
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 09:47:59.29 ID:IrPRvtU0
乙!
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 12:03:17.19 ID:vIYB0tY0
乙! 御坂の出番がまだみたいだが、ロシア編の時の時系列でやっているのか?
だったら凱旋してきたセロリも驚くなwwww
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/05(金) 20:02:04.33 ID:/6QWSVw0
微妙に勘違いしてるのがまた可愛いな
カザリさん、そいつあなたのこと覚えてないっぽいんですよ酷い奴ですね!

本当に関係ないがカザリさんって書くと日曜の朝に釣り釣られ合戦してる愉快な仲間たちの一人みたいだな
141 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 06:59:57.13 ID:0nUOcIco

おはようございます。
時系列については基本的に原作準拠ですが、展開からしてパラレルになることをご承知ください。
では少しずつですが書いていきます。
142 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 07:23:52.67 ID:0nUOcIco

                                  ※

患者としての生活は退屈そのものだ。

垣根帝督の食に関する欲求は別のものへと変化していた。
目覚めてからしばらくは融通がきかなかった体。
その頃は管を通して栄養素を摂取していたのだが、それは単に必要なものを体内に取り入れるという受動的な行為だ。

こと食に関してはしばしば哲学や文化論、はては宗教学その他の学問で議論されることがある。
うまいものはうまい。だが、腹に入れば何でもいいというのはうそだ。
哲学的な問いなど普段したこともないが、このような状況に陥ってからというもの、垣根は身を持って実感していた。


(クソったれな病院食も恋しくなるってもんだ。まぁ、摂取の仕方はぜんぜん能動的じゃねぇが)


垣根は暗部のリーダーを務めていた男だが、チームプレイで任務をこなすというよりは、単独で成果を収めるタイプの人間である。
サポートをしてもらうことはあったにしろ、誰かに何かをしてもらう、という行為にはなれていない。

上半身の自由をそれなりに(といっても両手を動かすくらいだが)とりもどしてからも、院内の看護士たちは自分の喉に食べ物をつめこんでくる。
何だかくすぐったいし、客観的に自分を見つめたら赤面モノの構図であったが、それこそ背に腹はかえられないといったところか。


(はぁーぁ、まるっきし植物人間ってわけじゃねぇけど、なんだかねぇ)


自暴自棄、まではいっていないような気がする。
だが、確実に精神状態はよろしくない。
そして、


(……、やっぱりあの天使)


何十回も繰り返した議論を再開する。

自問自答の毎日にはうんざりしていたとはいえ、それはある種の癖みたいな討論会だった。
司会、垣根帝督。論客、垣根帝督である。

143 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 07:53:03.88 ID:0nUOcIco


(こちらの体の自由は、少しずつ取り戻してる。が、一向に言葉は話せねぇ)

(―――たぶん俺の言語体系がこっちとはズレてんだ。演算体系も。……だがどこでズレた?)

(順当に考えるなら、俺の脳―――つまり“本体”があっち側にあるってことだ。根拠はあちら側での演算能力と自由度)

(目覚めた場所もあっちだった。するってぇと、俺の精神は電脳空間のみ適用する形式に変換されちまったって考えたほうがてっとり早いよな)

(それならあの天使の説明にも合点がいく)

(電子データとして、エンコードされた俺を元に戻す術……)

(は)


馬鹿か、と打ち込んだところで思考を停止させた。
どれだけのスーパーコンピュータが必要なんだ、と。

それに、仮に彼を補助できるだけのスペックをぶちこんだネットワークがそこにあったとしても、演算補助をするだけでは足りない。
それはミサカネットワークを介して能力を発動させる一方通行のものとは異なる理論だからである。

              リアル           バーチャル
あの能力はあくまでもこちら側にいる本体が、あちら側の力を借りる、といった理屈で構成される演算理論。
当然演繹体系はこちら側のルールに乗っ取って発信される。

だが垣根の場合は少し―――致命的でもあるが―――勝手が違う。
演算そのものをあちら側から発信するのだ。
彼や、彼が言うところの天使が想像したように、そもそも適用されない演繹体系をいくら組み込んだところで、何の変化も起こらない。


(……あー、気分悪い。もう少し寝るか)


あの対話者―――初春飾利に言ったとおり、寝てもおきても暗い部屋。
垣根は数十分前の会話についてほとんど忘れかけていた。

気分転換ができれば電子の世界はもう少し開けるのかもしれないが、
そもそも姿形もしらないUNKNOWNの人物を待つほど、期待はしていなかったということだ。
144 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:00:33.40 ID:0nUOcIco

が、こういうときばかり予想外の出来事は起こるものである。


「本当にいいんですか、先生。彼はまだ―――リハビリすらできる状態ではない」

「かまわないんだね。試作品はできあがっている、そして患者の意志を尊重するのも、医師の務めなんだね? それに―――」


ドアが開いたのと同時に声がする。あちらの世界へと戻ろうとしていた垣根にとっては、まさに寝耳に水の事態だ。
視界に入ってきたのは冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者、木山春生と名乗る脳科学者。
そして―――、


「―――こんな可愛いお客さんの申し出は、断れないんだね?」

「……えへへ」


(………は?)


あっけにとられる。
部屋に入ってきた三人は自分が目覚めていることに気づいたのか、そろえた表情をこちらにそのまま向けてきた。


「さあ垣根さん! ―――私と一緒に散歩しましょう」


……誰だ、この女。え、まさか。

145 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:08:28.69 ID:0nUOcIco


「え? あ。そっか。名前を教えてからは初めてでしたよね? 私、初春飾利です」


垣根はそのとき瞬時に、ネットの出会いとか、メール友達とか、そういった数多の電子上のやり取りが招く錯誤を理解した。

―――なんだよこいつは。まるで中学生じゃねぇか、ありえねぇ。
それにキャミソール? ない胸がもっとなく見える。色気もクソもねぇ。

やり取りから察するに年上か同年代だと思っていた。
蓋をあけてみたらどうだ、―――まぁ顔はそれなりに。


「ふぅん。……垣根さん。あの時もそういうこと考えてたんですね。ふぅん……」


そう言い放つ初春の瞳は細められ、垣根は味わったことのない汗を流していた。
たらり。あれ、なんだこの汗は。おい、なんだよおいおいおい、浮気がばれたみたいな効果音だしやがって。

それにあの時っていつだ? と考えそうになる前に、気づく。


―――そうだ、こいつは俺の思考回路をそのまま読み取れるんじゃねぇかよ……!


考えてみればそれは恐ろしい状況である。嘘はつけないし、やましいことも考えられない。
今は冷静だからコントロールできている思考回路も、これからどう転がるかわかったものではない。


「すごいんだね? それが―――翻訳プログラムかい?」

「ええ、まだぜんぜん改良の余地ありですけど。……、一応、携帯に入れられるくらいには」


なんてこった。
垣根は動かないからだの代わりに、頭の中で二度ずっこけた。
146 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:20:45.69 ID:0nUOcIco


「できればこちらも患者とのコミュニケーションのために、インストールさせてほしいんだが―――」

「かまいませんよ。USBにばっちりいれてきました」


次には木山春生とかいうバカ女が、初春の隣でとんでもないことを言い出す。
そんなことをされたらプライバシーもへったくれもあったものではない。
自分だって未成年の青少年(青いかどうかは謎だが)だ。

着ている手術服と肌の間を再び流れる汗の正体。垣根はそれを分析するのも忘れてあせっていた。
今初春が持っている携帯電話とPC―――どちらに何が表示されているのかわからないが、液晶に映る文字を想像するのが不安で仕方がない。

とにかく落ち着け、と自分に言い聞かせる。
俺は学園都市の第2位だ。未元物質だ。ええと、昨日の夕食は何を食べたっけ。
あ? そもそも俺、何がしたかったんだっけ。
ていうか何でこいつらがここにいるんだっけ。素粒子の存在確率の割り出し方は……。


「あれ、誤作動かな。なんか意味不明の単語が……」

「ふむ。改良の余地があるというのは本当らしいな。―――まだやめておくか」


測らずとも成功した目くらましに、心の中でガッツポーズをとる垣根。
でかしたぜクソ天使、やりゃあできるじゃねぇか、と珍しくあの存在を賛美してしまった。


「君ががんばってくれた間、僕たちも怠けていたわけじゃないんだね? ……これを」


話が切り替わったのか、最後に口を開いたのは冥土帰しだった。
147 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 08:43:13.79 ID:0nUOcIco

冥土帰しが差し出したのはちいさな黒い箱―――と、そこから伸びるイヤホンのようなもの。
形だけみれば、ライブやコンサートのときに裏方のスタッフが常備しているそれに似ている。


「……これは?」

「うん。診ていてわかったんだけどね、どうも彼の意識は体と遊離しているみたいだ」

「ゆう……り…?」

「正確に説明すると長くなってしまうんだね? 要は彼の脳からあの文字が発信されていたのではなく、
 脳自体があのサーバに移転していると思ってくれていいね」

「つまり、体は外付けのハードディスクのようなものって意味ですか?」

「……さすがだね? 
 当初の理解ではこちらにある意識があのネットワークを使って情報を発信していると思っていたんだが、それは逆だったんだね。
 ―――実際には彼の意識は電子的な何か、あるいはそれに準ずる別のデータに書き換えられていると思ってくれていい。
 運ばれてきてすぐにあれを使って彼の脳を分析しようとしたから、どちらに“彼”がいるのかには気づかなかった。
 そう考えれば言語障害や体の神経伝達の不具合も説明がつくんだね」

「……、それって」

「さて」


冥土帰しは初春が言いかけた言葉を遮るようにして説明をつないだ。
垣根の意識はそれを特に気にしなかったが、その場にいた彼以外の人物は気づく。

―――似たような症例が、以前あったような。


「幸いにも彼の意識ははっきりしている。そこで、この受信機の出番というわけだ」


いいながら軽くウインクをすると、受信機を垣根に渡してくる。
垣根は一瞬首をかしげたが、やがてイヤホンの部分を耳にとりつけた。
148 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:03:47.25 ID:0nUOcIco

何も、起きない。


「つまりは垣根くんの意識と体をつなぐ、ワイヤレスのレシーバだと思ってくれていいね?
 これで外に出ても、体を通してこの世界を見られるはずだよ」

「携帯やパソコンにはアクセスできても―――有機体の体にはアクセスできないからね」


その割にはチープなつくりである。
体に差し込まなくていいのか、と疑問が浮かんでしまう。


「心配はいらない。それに入っているのは音声ファイル。基準として出力されるのは君自身の脳波パターンだ。
 低周波だから音も何もしないはず。もっとも意識をつなぐだけしか、現段階ではできないが」


なぜか木山が口を挟む。物言いはどこか自信に満ちていた。
何かこのレシーバが応用された理論でも構築したことがあるのだろうか。
俺はラジコンかよ、と垣根はすかさずつっこみを入れた。


「そう、言い方は悪いが君の体はラジコンの車だと思ってほしいね。―――だからこそ、注意がいくつかある」

「まず地下には行かないこと。あくまで試作品だから、どこで意識が途切れるかわからない。途切れた後どうなるかもね?」

「次にバッテリーが続くのは最大で4時間。ああ、これは一般的な活動を行ったと仮定して、だね? 運動したり演算したりすると消耗は激しくなる。もっとも」

「今の君には―――、心配ないとおもうけどね」


空気が重くなる。

冥土帰しは基本的に患者の症状に関してはインフォームド・コンセントを怠らない。それは周囲の人間に対してもそうだ。
記憶がなくなろうが、脳細胞を破壊されようが、事実は裁量の範囲でしっかりと告げる。

そんな彼の発言を別の方向に受け取ったのか、初春は空気を裂くような声で、


「……じゃ、じゃあ垣根さん! いきましょうか!」


とはつらつしてみせた。
いくって、どこにだ。
149 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:14:51.32 ID:0nUOcIco

「そうですねぇ。あ! 病院食、そろそろ飽きてきたでしょ? おいしいもの食べにいきましょうか。大丈夫ですよね、先生」

「うん。胃に負担をかけるようなものでなければ平気だね?」

「私いいところ知ってるんですよ? ……じゃ、早速いきましょう」


初春はそう告げると、部屋の外から車椅子を運んできた。
垣根はそれを見てぎょっとする。

こんなもんに乗るのか? 俺が?


「文句言わないでください。……ほら、肩かして」


よっ、という掛け声を出してから、初春は垣根の腕を肩にかける。
……、なんだか照れくさい。
瞬間、彼女の花飾りがやわらかい匂いを放った。この花は何という名前だろう。

―――あ? 胸見えそう。まぁどうせ貧乳か。


「……垣根さん?」


はっと気づいて首を傾けると、ごごごご、という音がすぐ隣にある初春の顔から聞こえてきそうな気がした。
すぐに思考を別の方向へ飛ばす。

さて、宇宙に存在する素粒子の定義とは―――


「もお」


なんとか手伝ってもらって、車椅子に乗り込んだ。
これから外に出るのだ。

……外の空気。
久しぶりに吸うそれは、どんな印象を自分に与えるだろうか。
150 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:29:33.89 ID:0nUOcIco

――――――

昼過ぎの学園都市は相変わらず快晴だった。


【眩しい】

「お日様がでてるんだから眩しくて当然です」


初春は車椅子を押しながら、携帯電話をいじる。
どうやら初期設定をしながら様子を見ているようだ。
時折「うーん、なんか違うなぁ」などと言葉を挟み、細かい語尾を調整している。


【しかしテメェは色気ねぇな】

「……はい?」


私服を着るのは面倒だったようで、垣根は外に出ても手術服だった。
反抗的になった垣根の言動に、一瞬固まる初春。―――が、すぐにそれは彼が落ち着きを取り戻している証拠なのかもしれない、と脳内変換した。
ここはオーバーリアクションしておこうか。


「がーん!」

【……なんだそりゃ。コントか?】

「違いますよ! もお、せっかく人がノリのよさを見せてあげたというのに。……、あのですね、色気も何も私まだ中学生ですよ?」

【は、それこそ花も恥らう乙女ってか? 勘弁しろコラ】

「……私だって、もうちょっと時間が経てばですね」

【経てば?】

「いや、その……む、胸とか大きくなったり……足長くなったり……」

【残念だがその常識は通用しねぇだろうなぁ。モノポールが観測される方が先だろうなぁ】


ごんっ、と垣根の頭にチョップを入れる初春。普段ならこういったつっこみはされる側だが、なるほどやってみると気持ちがいい。
何しやがる!? と叫ぶ彼の文字は、携帯電話におさまるくらい小さかった。

単語の意味はわからないが、罵倒されたことは理解できる。初春はふくれっつらで信号待ちをしていた。
151 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:37:59.96 ID:0nUOcIco


「そういえば垣根さんの能力ってどんな力なんですか?」

【……未元物質】

「え? だーく……ま……?」

【未元物質だよ。この世に存在しない素粒子を生み出す能力だ】

「はわぁ………」


初春も学園都市の学生である以上、一応量子力学のイロハは頭にはいっている。
が、垣根が言うような能力はさすがに聞いたことがない。ゆえに、反応も曖昧になる。

そんな初春の心情をすくったのか、垣根は間髪いれずに説明を続けた。


【分類的には量子論の根幹に位置するタイプだな。観測不可能な事象……俺の場合は既存の物理法則を無視して演算を組む。
 テメェが想像したような“あるはずだけどない物質”を生み出すんじゃなくて、“存在しないはずのもの”を現出させる力だ】

「ふへぇ……」

【テメェ……理解してねぇだろ?】


あ、ばれました? と頭をかく初春。
なんでったって俺の対話者はこんなガキなんだ、と思いかけてやめた。
頭を叩かれるのはいい気分がしないからだ。


しかし。
―――そうか、なるほど。


「え?」

【だからこそあっちで融通がきいたのかもしれねぇな。電子データだろうがなんだろうが、俺の未元物質に常識は通用しねぇ】


肩をゆらしながら、携帯に出るのは【ふ、ふふふふ】という文字。
よくわからないが気分はいいらしい。初春は鼻歌を歌いながら信号を渡る。
152 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 09:52:41.70 ID:0nUOcIco


【じゃあ逆に聞くが、テメェは能力者か?】

「はい。レベルは1ですけど……」

【へえ。どんな能力だ、いってみろよ】

「うーんと」


初春は一瞬立ち止まって指で唇を押さえてから、


「こういう力ですね」


と言って―――垣根の無防備な右手を、両手で握った。
後ろから手をまわしていたので、ちょうど垣根の頭を抱えるような体勢になる。

……以前は赤面してしまった彼女のうぶな心境も、こうして看病してる分にはやましい方向に向かわないようである。


【おい】


触った瞬間、びくりと彼の体が動いた。
初春の能力は急激な変化を与えるものではないので、しばらく握ったままにしておく。


「? あれ、感じません? 今日は快晴だけど、風があるから体温は抜けていくと思うんですが……」

【……っ? ……あ?】

「あったかいでしょ? 保温能力なんです、私の」


にこりと笑いかける。携帯には何も表示されなかった。
あれ、うまく伝わらなかったかな、と首をかしげたすぐ後に、垣根に手を振り払われてしまった。


【いいから早く進めろ。おせぇんだよテメェ】


はいはい、と軽く返す。
もしかして照れてるのかな? などと思ったよりもうぶな垣根の態度に、思わず口元がゆるんでしまった。
153 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:03:06.30 ID:0nUOcIco


【……女に耐性がねぇわけじゃねぇだろが。メafngaハーsdgトのやつ見ても別になんもなかったし……】

(何の話してるんだろう)


そんなやり取りを交わしているうちに、たどり着いたのはとある飲食店。
季節の果物をふんだんに使った、絶品スイーツが売りの有名店である。
冥土返しは胃に悪くなければいいといっていたので、軽めのスイーツでも食べれば垣根の気分も晴れるだろうと踏んだのだ。

が、対する彼の反応は、初春の予想とは正反対だった。


【……オイ、まさかここに入るんじゃねぇだろうな】

「え? ここですよ? あ、果物嫌いですか?」

【いやそうじゃねぇだろ。この格好でさすがにここはねぇだろ! 俺を笑いものにする気かテメェ!?】

「? でもここ、おいしいんですよ? ……じゃあテイクアウトします?」

【そういう問題じゃねぇ、……あ、おい初h】


じゃあここでいい子にして待っててください、と言ってから初春は垣根を外においたまま、店内へと入ってしまった。

いい子。
この前もそんな言い方をしてた気がする。いや、その前に―――、


(こんなチャラチャラした場所に俺を置き去りにしてんじゃねぇよクソが……!!)


これはこれでまずい。
なんとかして身を隠そうと車椅子をこいでみるが、そこまで神経が伝達されていないようで、うまくこげない。
そうこうしているうち、店内から女性客が次々と出てくる。次々と。やたらと。

……見られている。すごく見られている。―――気がする。


(……なんの拷問だこりゃ)


垣根はため息をついて落胆した。
154 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:16:04.66 ID:0nUOcIco

――――――

しばらくしてから、初春が両手にカップを持って出てきた。
パフェのような形をしているその物体は、
およそ暗部に所属していた頃―――いやもしかしたら未来永劫―――自分が口にすることはないような未元物質Xだ。


「そこ、テラスになってるし座りましょう」

【もういい、好きにしろ】


半ば投げやりになって発信する。
初春はというと、今にも花畑に飛び立ちそうな表情で、ふんふん♪と鼻歌まじりに車椅子をおしていた。

―――頭の中までお花畑かよ。


「え? お花がどうしました?」

【なんでもねぇよバカ。……ってか思ったんだけど、その花飾り、IDとかけてんのか?】


適当に会話をつないだつもりの垣根だったが、直後、何やら不穏な空気を後ろから受信した。


「―――なんのことですか?」

【―――ッ!?】


……なんだこの空気は。

何か知らないがやばい。
聞いちゃいけないことを聞いたような、開けてはならないような箱をあけたような……!!
暗部の闇を彷彿させるような、それこそ身も凍えるような、冷たい空気。それは垣根を包むとすぐに収束した。

この圧倒的なプレッシャー、どこかで経験した覚えがある。
……!! そうか、第一位のヤローとやりあった時の……!


「はい、これ垣根さんのぶん」


気づいたときにはその空気は消えていた。
なんだ、気のせいか……。
155 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:26:22.24 ID:0nUOcIco

「じゃ、口開けてください」

【……は?】


座席を確保した直後、唐突に言われて固まる。


「あーん、してください。食べさせられないじゃないですか」

【なんだそりゃ? ガキあるまいし、そんなオプションいらねぇよバカ。自分で食える】

「だめです。外出してる時くらい甘えておかないと、後で寂しくなりますよ? はい、あーん」

【い、いらねぇって】


ばたばたと手をふる垣根を無視して、初春はカップに盛られていたクリームを口元に差し出した。
必死で首を振る垣根だったが、よくよく考えるとここで駄々をこねていたら逆に目立ちそうだ。

仕方なく、口を開ける。
もちろん、ピーナッツがかろうじて入るくらい、ほんの少しだけ。
するりと綺麗なカーブを描き、クリームは彼の口内へと滑り込んだ。


「おいしいですか?」

【しらん。わからん】

「あれ、そうですか? おかしいな、ここのクリームも絶品なはず」


味わってる暇なんかねぇよ、
と発信したつもりだったが、初春は携帯を確認せずに自分のぶんの未元物質Xを堪能していた。


「うん、やっぱりおいしい。―――あ」


垣根はこの後の初春の行動によって、さらにそのパーソナルリアリティを破壊されることになる。
156 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/06(土) 10:39:15.58 ID:0nUOcIco


「ご、ごめんなさい、クリームついちゃいましたね」

【あ?】


初春は垣根の口元に手を伸ばすと、人差し指でそれを拭い取った。
―――そして、


「はむ。……!! こっちのクリームもおいしいじゃないですか! ちゃんと味わってください!」

「;あmgrかgmbdぁ」

「え?」


―――何をやってるんだこの女は。わざとやってるのか? 天然なのかなんなんだふざけんな!?
俺は中学生に誘惑されてんのか? この俺が? ありえねぇ。 

……だいたいガキのくせにさっきから、こいつは節操がなさすぎる!
何が花も恥らう乙女だ! とんだ小悪魔じゃねぇかクソったれ!!

そんな試行錯誤もむなしく、垣根の口から発せられるのは意味不明の文字列。
隣に座る初春は携帯をほったらかして、「うーん、それでも口に合いませんでしたか?」などとほざいている。


【―――は、上等だくそったれ、そっちがその気なら俺も本気を出してやる。大人の魅力なめんなよガキ】


学園都市第2位にして元『スクール』のリーダー垣根帝督は、ついにその矛先を中学生に向けた。
―――逆算、終わるぞ。脳内では今まさに勝利の方程式が完成する直前だった。

……が。


「……あ!? わ、私、ごごごごめんなさい! そうだ、垣根さんは男の人でした! ……ち、ちちっちがうんです! そういうつもりじゃ……っ」


―――だからどっちなんだよテメェは。
彼の演算はくしくも花畑の住民に崩されるのだった。
157 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/06(土) 10:41:14.22 ID:0nUOcIco
今日はここまで。週末は旅行なので次回は週明けになりそうです。
お疲れ様でした。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 10:41:44.16 ID:Xq1nWAAO
乙ん。
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 10:47:17.65 ID:cd/y/0A0
>>1乙!
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 11:09:24.86 ID:BaGut0.0
あえて言わせて貰おう・・・
>>1乙!であると
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 11:55:59.60 ID:xCCSSPk0
初春かぁええのうかぁええのう
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 12:11:12.15 ID:82IrPMAO
>>161
何故かスケット団を連想した
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 13:02:46.49 ID:6wHjKAAO
追いついた。設定もいいし文章もいいな
感謝するぜ……このスレと>>22を出会わせてくれたすべての>>1
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 16:36:31.18 ID:3zomxsAO
乙!
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 20:16:30.12 ID:Y3vPykUo
>>155
>ばたばたと手をふる垣根を無視して、初春はカップに盛られていたクリームを口元に差し出した。

何故かGBのタレ銀次を思い出した

>>1
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 20:25:15.65 ID:UDqEQz2o
最高だ
理想郷がここにある
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 07:47:26.84 ID:Sdri6IDO
垣根くンのユカイな姿が見れるって聞ぃたンですがぁ!!
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 10:26:38.24 ID:buhW/kAO
>>167ロシアからご帰還ですかwwww
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 13:46:54.32 ID:XvVr0w60
>>168凱旋だろwwww
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 16:27:14.97 ID:lh.kOgAO
黄泉川へのお土産
つ「ウォッカ」
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/08(月) 18:44:58.74 ID:cQeenkAO
芳川へのお土産
つ「ジン」
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 21:11:42.27 ID:QLortQw0
冥土返しへのお土産
つ「ベルモット」

グループへのお土産
つ「バーボン」

こうですかわかりませんばーろー
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 22:18:51.16 ID:lh.kOgAO
>>171-172
ロシアと言えばウォッカなンだよ。
そして>>172
冥土「返し」じゃねェ
冥土「帰し」だァ!ばーろー
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 22:43:30.64 ID:ZALabYAO
続きは、続きはないのですかっ!?
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 09:25:25.84 ID:Il7/nYAO
続き読みたい
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 21:25:04.03 ID:F8XZTcAO
>>1 マダー?
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 23:04:10.49 ID:PgRGGkw0
なんか最近になって妙にこの板全体に早漏が増えたな
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 01:12:01.03 ID:UC3FiwAO
それだけ最高にイイんだろ。
179 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 14:51:31.22 ID:FBc85v6o

こんにちは。
お土産はない代わりに本日分は長めに投下しようかと思ってます。
がんばります。ではいきます。
180 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 15:12:05.49 ID:FBc85v6o

――――――

軽食を済ませた二人は飲食店を後にすると、秋の薫りが漂う町並みを歩き始めた。
学園都市は近未来的な佇まいをしているとはいえ、やはり季節の移り変わりにはそれ特有の色と匂いがある。


(―――なんか、いいな、こういうの)


初春飾利はその頭にある花飾りを季節ごとに変えているあたり、実はかなりのおしゃれさんだったりする。
彼女に自覚があるのかどうかは別として、車椅子を押しながらゆっくりと街を歩くという行為には、多少なりとも優雅なものを感じていた。


「ポカポカしていて気持ちいいですね。やっぱり季節の変わり目は好きです。春もこんなかんじですよね」

【秋も春もたいして変わらねぇだろ。寒いのか熱いのかよくわからねぇ。はっきりしろって感じだな】

「あれ、垣根さんは夏とか冬のほうが好きなんですか?」

【そういう意味じゃねぇよ。中途半端なのが嫌いなんだ。見ててイライラする】


そういう割に、時折手元から覗かせる垣根の表情は落ち着いている。
今の季節は療養にはもってこいの環境かもしれないし、彼なりにどこか心が休まっているのかもしれない、と初春は予測した。

―――実際のところは、普段触れていないものに目をやる機会があったので、新鮮さに圧倒されていたのだが。


「そうですね。たしかにどの季節が一番、とかはあんまり言わないほうがいいですよね。みんな違ってみんないいです」

【ちげぇよ。……だからぁ、テメェはなんでそうやって刺を抜くような発言をするんだよ?】

「だって、垣根さんの言い方はちょっと毒々しすぎてますから」

【……、そういう考え方が日和ってるって言ってんだ】

「――――――あ」


おい、聞いてるのかと発信したはずだが、振り向いた先の初春の視線は道端に向けられている。
……また厄介な食い物でも見つけたのか、と垣根がため息まじりに目をやったその先には、


「お花屋さん!」


やっぱり厄介なものがあった。
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 15:21:08.62 ID:UC3FiwAO
たしかに厄介だな
抵抗できないから花を…
182 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 15:32:29.32 ID:FBc85v6o

通りに面していて、これまた垣根には似合わないようなイデタチをしている店。
同時に、この中学生が好きそうな店でもある。
視界に入るなり後ろから、「寄ってきます?」と目を輝かせて垣根を見てくる初春。

―――どう考えてもテメェが寄っていきたいだけだろうが……。
垣根は半ばあきれ気味に、だが今度は抵抗することなく店の前まで車を移動させた。
そろそろ抵抗するのにも疲れてきている。

どうやら単純な花屋ではなく、店内は花を観賞しながらお茶が飲めるカフェスタイルの店らしい。


「うわぁ、きれいです! ……この花は、えっと」

【リンドウ】


そう言って揺れる携帯を見るなり、初春は少し驚いた顔をする。―――同時に、なんだかがっかりしたような。


「……お花、詳しいんですか?」

【詳しくねぇよ。常識の範囲内だろ】

「……うう、せっかく私が説明したり、花言葉を教えたりしようとしていたのに」

【バーカ。中学生にレクチャーしてもらうほど落ちぶれちゃいねぇ】


両手を広げてやれやれ、といったジェスチャーをする垣根。
ここまでを見る限りこの中学生は世話好きで、人に何かをしてやるのを生き甲斐にしてそうなお人よしタイプだ。
たまに意地の悪いところを見せてきたりはするが、大方花で俺を癒すとか、そういうケチなことを考えていたに違いない。

初春は垣根が何やら文字にできないところで思考錯誤していることを察したのか、ふくれっつらのままリンドウを一輪だけ、手に取った。


「じゃあ知ってるんですか? リンドウの花言葉」

【ん? ……花言葉は………、えーと……だな……】



「―――悲しんでいるあなたを愛する」



初春はそう言って、一輪のまま、それでも咲き誇るリンドウの花を垣根に渡した。
―――クセがなくて甘い。
ほのかに薫る匂いは、それでいて何度も嗅ぎたくなるような中毒性を秘めていた。
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 15:36:15.34 ID:EIdaGYDO
えんだーッ!
184 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 15:47:29.37 ID:FBc85v6o


【……なんだってこんなチンケな花の花言葉がそれなんだ?】

「リンドウは群生しないんです。花をつけるときは必ず一本ずつ咲く」

「もっともこれは学園都市で品種改良されたものかもしれないですし、この花はどうかわかりませんが……」

【群れないってことか?】

「はい。だからこそ、花言葉がそれなんです。一人でふさぎこんでいるような、悲しみにくれる人に対する言葉ですね」


初春はそう言いながら、リンドウの花をもう一本手にとった。
座り込んで花を眺める女子の頭には、草の冠のような花飾り。
不思議な構図だ、と垣根はつぶやく。


「ほら、垣根さんも今一人で寂しいとか、つらいとか、色々あると思うんですけど……」

「こんなお花でも立派に咲いているんだし、―――あ、歌でもあるじゃないですか、ナンバーワンにならなくてもいい、オンリーワンが……」

【寝言だな】


初春の言葉は無言で遮られた。


【なんだよそりゃ。残念だが、ナンバーワンになれないやつはオンリーワンにもなれねぇよ。はい論破】

「またそういうこと言う〜」


野暮な人ですねぇ、と言いたげに目を細める。垣根はというと、そんな初春を全く意に介さず、まるで演説するような態度を続けていた。


【それが真理だ。……何が、“ならなくてもいい”だよ。そんなの負け犬の言い訳じゃねえか】

「……そういう言い方はひどいと思います」

【そういうもんなんだよ。―――決まっt】


ぶち。

次には回線を引き抜く初春。
補助なしになった垣根は一瞬、電池のなくなったおもちゃのように車椅子に倒れこんだ。
185 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 16:00:57.28 ID:FBc85v6o


その後、ぷいっ、と視線をそらして、一定間隔おいてからワイヤレス受信機をはめてあげた。
“あちら側”から戻ってきた垣根は予想通り、烈火のごとく怒る。


【テ、テメェなにしやがる!? 死んだらどうすんだ!?】

「……垣根さんが風情を理解してくれないからですよっ。でも平気ですよ、本体はあっちにあるみたいだし」

【それにしたってやり方ってもんがあるだろーが!!! 下手したら人殺しだぞテメェコラ!!!】


はいはいわかってますよー、と軽くうなずいてから、初春は店内へと消えていく。
多分リンドウの花を買いに行ったんだろう。
説教臭い中学生はその他にもいくつかの花を選びながら、時折うーん、と頭をひねらせている様子がこちらからでも確認できた。


(最近の中学生は随分ワガママになっちまったもんだ。俺のときはあんなのいなかったぞオイ)

(……それにしたって、まぁ、……言いたい放題言いやがる)


―――ナンバーワン。
初春が放ったその言葉は垣根の心を別の角度から見つめていた。

ナンバーワンになれないやつはオンリーワンにもなれない。
おそらくそれは自分自身に言いたくなった。

あの日、あの瞬間まで、序列自体に対してのコンプレックスはなかった。多分。
目的はメインプランになることであって、そのための手段としてあの男に挑んだだけ。
ナンバーツーだろうがナンバーワンだろうが、他人がつけた序列なんざいつでもひっくり返せると確信していた。
だからこその執着のなさ。それゆえの余裕。プライド。反抗心。

……それが蓋を開けてみたらどうだ。
自分はあんな中学生の手を借りなければ散歩もできないし、相手にもしていなかった無能力者以下のクズに成り下がっている。
こんな自分を慰めてやることなどできるわけがない。
オンリーワンと言い張るだけの材料もない。覚悟も、決意も、―――情熱も。


(……まだ夢見てやがるのか? 馬鹿め、お前はとっくにチェス盤からはじかれてる)


自嘲するのも慣れてきたな、と垣根は無言で吐露していた。
186 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 16:22:46.56 ID:FBc85v6o


それからしばらくして店内から初春が出てくる。
今度はそんなに手間取らなかったようだ。小包を手に抱えて―――踊りだしそうな表情をひっさげて―――垣根の車椅子を押し始めた。

ニコニコと笑いかけてくる。垣根としてはどうやって返していいかわからないので、【さっさと行くぞバカ】とだけ文字で答えた。


「綺麗な花はいっぱいあったんですけど、だめですね、今見てたら時間とっちゃいそうです」

【別に待ってるだけなら平気だけど】

「でも、垣根さんがいい子にしてられるか心配ですから」

【……お前の中で俺はどんなキャラなんだよ】

「いたずらっ子です。……それにしても髪、のびましたね」


だから話を聞けよ、という前に初春が垣根の髪を触った。
なでられているようでくすぐったい。
やめろといってもどうせこのバカは聞いちゃいねぇだろうと考える一方で、「はいはい好き放題さわっていいですよー」、と発信するのも癪だったので、適当に会話をつないでおいた。


【そろそろまた、染めなおさねぇとな】

「あれ、これ地毛じゃないんですか」

【ちげぇよ。俺は純粋な日本人だバカ】

「じゃあ私、今度そめてあげますよ。染色剤もどこかで買ったらよかったなー」

【……テメェ、本当はわかってやってねぇか?】


自分のペースでどかどかと話を進める初春。どこかかみ合ってないような気もするが、これはこれでお互いのポジションが確立しているといえそうである。
一路は繁華街を越え、人通りの少ない道へと差し掛かっていた。

並木道ではあるが、ビルが影になっていて雰囲気は一変している。
187 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 16:37:54.38 ID:FBc85v6o


「こういう道もどうですか? にぎやかなのもいいですけど、これはこれで落ち着きますよね?」


落ち葉がひらひらと一定の間隔で落ちる。

そよ風や波の音の中には、人を和ませる効果のある周波が含まれているらしいが、たぶんそれはこの音にも存在しているのではないだろうか。
さっきは花を見て目を保養してもらったし、今度は耳を癒してもらおう。

初春の頭の中には、病院を出てから戻るまでの一連の散歩道が用意されていた。自慢げに歩きながら感想を垣根に聞く。
感想はどんなものでもかまわない。コミュニケーションが大事なのだ、と自分に言い聞かせて。

さきほど買った、進行の邪魔になりそうな花束は垣根の膝の上に置かれていて、これならば今までたまっていた分のストレスも解消されるだろう、と踏んだのである。


―――と。



【初春、鏡持ってねぇか】



「え?」

急に投げかけられて戸惑う。
鏡なんて何に使うのだろう。


【悪い、ちょっと顔の表情が気になってよ。ひさびさに人前に出たから。変じゃねぇかと思って】

「あ、なんだ、そういうことですか。……えっと、はいこれ」


このタイミングで鏡をねだられるのは想定外だったが、垣根もまだ少年といっていいくらいの年頃に見える。
男の人のことはよくわからないけど、案外女の子よりも外見を気にする節があるのかもしれない。


(今のままでも十分かっこいいけどなー)


と、初春が手鏡を差し出した後に思ったことはさすがに誰にも知られていないが。
188 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 16:49:20.17 ID:FBc85v6o


【やっぱりな】


鏡を見つめてからしばらくして、そんな文字が浮かび上がった。
もしかしてアレがばれたか、と思ったがそうではないらしい。


「ど、どうしました? 顔なら変じゃないですよ、ぜんぜん」

【初春。振り返らないでそのまま押せ。後ろは絶対見るな。あと―――ビルがあったらどこでもいいから入れ。歩調はそのままで】


急に饒舌になった垣根に戸惑う初春。
振り返らないっていうのはどういう意味だろう、と推察してすぐに、垣根が言いたいことに気づいた。

何を隠そう、彼女も一応、ジャッジメントである。


「……尾行?」

【多少雑だが、それなりに訓練されてるやつだな。素人相手じゃ気づかれねぇだろうよ】

【暗dagぶdgaの連中? いや、今更俺に用はないはず。それに統gdag事会は俺を捨てたといっていた。だとしたらどこから沸いてでた虫だ】


何やら意味深な単語が出ているようだが、まだカバーしていない単語らしい。
初春は心臓がぎゅっとなる、ピンチのときに特有な感覚を覚えた。
歩調をかえずに、それでいて慎重に道を進む。


「アンチスキルに連絡しますか……? もしくはジャッジメントに応援を」

【いらねぇよ。この程度なら簡単に巻ける。いいから言う通りにしろ。鏡、ありがとな】


そういって鏡を投げる垣根。
これで後ろを確認していたのか。あまりにも手馴れた動作に違和感を覚えた。
わかってはいたけど、この人は―――今まで一体どこにいたんだろう。
189 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 17:13:02.34 ID:FBc85v6o


初春はとりあえず目に入った建物の中で、自分たちが入っても平気そうなところを瞬時に選びとった。
決して焦らず、急いでいる素振りを見せないようにビルの正面から堂々と中に入る。

そのビルの下層は飲食店やブティック、上のほうは何かの研究施設になっていて、慌しく動く人々が目に映った。

垣根はさっきから一言もしゃべらない。
携帯電話には何の文字も浮かばず、それが逆に何か大事に巻き込まれるんじゃないかという、妙な想像力をかきたててしまう。

―――あのときみたいなことになるのかな。

右肩がまた、うずく。
今は自分にそれを経験させた張本人を介護している初春。
不思議な組み合わせに、彼女でなくとも危機感は隠しえない。


【いいとこ選んだな。……、あそこの角を曲がった先にエレベーターがある。入ったら奇数階のボタンをすべて押せ】

「えっ、ど、どこに降りるんですか? というかなんでそんなこと……」

【即席ですまねぇがフェイクだよ。表からだと死角になってるが、ここは5階から渡り廊下で反対側のビルにいける構造になってる】

【その前に誰か乗ってきたら、俺を言い訳にして同乗させるのはよせ。―――降りるときはドアの閉まり際に降りろ】


やっぱりやけに手馴れている。
まるで今までも何回かこうした状況を経験していたような。

―――そうだよね、こんな状態になるくらいの環境に、身をおいていた人だもんね。

反芻していると垣根に、【余計なことは考えるんじゃねぇ】といわれた。


【テメェは何も考えなくていい。黙って言われた通りにすりゃ愉快な散歩が再開できるからよ】

「……、愉快なのは私だけですか?」

【さぁな】


乗り込んだ先のエレベーターに同席する人物はいなかった。
尾行人も、見た限りでは視界に入らない。
190 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 17:32:04.15 ID:FBc85v6o

がたん、ごとん。

見かけのわりにエレベーターはかなり老朽化していた。
どうにも円滑さにかけた音が箱の中で響いている。

がたん、ごとん。


「……垣根さんって」

【俺の昔話が聞きてぇか? ま、テメェには借りがあるから別にいいけどよ】

「……別に、恩を売ってるわけじゃ……」

【恩かどうかは知らねぇが】


自分が今日こうして垣根をつれて、街を歩いたのは純粋な気持ちからだ。
あのときに肩をはずされて、そこに目をつけて、恩を売って、―――別に私はものが欲しいからこんなことをしているわけじゃない。

壁と向き合う垣根の表情は見えない。壁に鏡はついていなかった。

―――障害者用のエレベーターになってないってことは、やっぱり古いんだな、ここ。


【簡単にいうと、すっげぇ悪ぃことをしてた。多分テメェが知ったら卒倒もんだ】

「……それは……なんとなくわかります」

【人をぶっ殺したこともある。それも一人や二人じゃねぇ。どうだ、失望したか?】

「……!」

【は、ムカついたなら好きにしていいぜ。とっくに覚悟はできてる。なんならこのビルから突き落として―――】


パンッ! 

破裂音が狭い箱の中に響いた。
乾いている割に耳の奥まで届く、粘着力を伴った音である。
191 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 17:45:59.46 ID:FBc85v6o

垣根は頬を叩かれてからも特に変わった動作をする様子は見せなかった。
逆に叩いた初春のほうが、はっとなる。


「ご、ごめんなさい! ……痛かったですか?」

【別に】


文字を見るなり、初春は罪悪感に苛まれてしまう。
ただでさえ自由に動けない人に、なんで鞭を打つようなことをしてしまったんだろう。
私は一体何様のつもりなのだ。これ以上彼を追い込んでどうする。
―――でも。


「……正直、その……びっくりしましたけど………私はだからといって、垣根さんを……その……」

【無理すんな。言っただろ。俺は人殺しで無能力者で、つまるところ生きてる価値のねぇ最低のクズだ】

「……でも、たとえ垣根さんが今そう思ってるとしても、自分の命を軽んじていい理由にはなりません」

【なるね。俺みてぇなクズはぽっくり死んじまった方がいい。そもそも意識すらデータ化されて曖昧なんだ、今更死んだところで】

「なりません!!」


反響した声に答える文字はない。


「私が怒ったのはそういうとこなんですよ? 
 もし垣根さんが殺めてしまった人たちのこと、少しでも気にとめてるならそんな言い方はできないはずです。
 だからこそ、垣根さんは罰を受けたんじゃないですか? それをこれから償っていくんじゃないんですか? そのためにこうして―――」

【じゃあ俺は本当にくさってるんだな。償おうって気持ちよりも、さっさと楽になりてぇと思ってる。殺したやつの顔なんざいちいち覚えてねぇよ】

「…………」


ドア開いてるぞ、さっさと降りろ。初春はそれに答えることなくエレベーターから降りた。
重い空気はそこに残していきたいはずなのに、どうにも二人にまとわりついて離れない。
192 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 18:07:14.84 ID:FBc85v6o

――――――


【おい】


渡り廊下を通った先のビルから出た通り。
さっきまで歩いていたところよりも更に暗い場所だった。

こういう所のほうが自分には似合っている気がする。
垣根は無意識にそう感じたが、それは言語化されることはない。

初春飾利はエレベーターの中のやり取りから黙っていた。


【なんかしゃべれよ。間がもたねぇだろ】

「………、…………、…………、ナンカ」

【……、テメェはどこのクール気取ったスケだよ。ゲームの台詞でもいまどきねぇぞ、そんなの。すねてんのか、ガキのくせに】

「別に、そういうんじゃないです」

【めんどくせぇやつだな。テメェが聞きたいっていうから話したんだろ。俺に当たってんじゃねぇよ】

「だって、垣根さんの言い方ってなんか、冷たいんですもん。愛がないです、愛が」

【そういう言葉は俺以外のやつにとっとくんだな】


誰のせいで会話が続かないんですか、といいたい気持ちを抑えて、初春は車椅子を押し続けた。
さっきまではのどかに感じていた秋の風が、なんだか寂しげなものに変わっている。
街は夕闇を受け止める段階に入っていた。

秋の夕暮れがこういう形で心に響くのは、正直願い下げである。


(―――私が子供なわけじゃないよね、これは)


薄暗い路地のせいだ、と勝手に理由をつけて、初春は黙々と運転を続けていく。
193 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 18:20:32.24 ID:FBc85v6o

どうやら尾行していた人物はうまく巻けたらしい。
垣根が何も言わないところからしてそうだろう。


―――自分たちをつけていたのは誰なのか。


垣根のメッセージを解読することはできなかったが、察するに心当たりはなきにしもあらず、といったところか。

たとえば昔所属していた組織の誰かとか。
あるいは学園都市の研究員とか。
いやいや、もしかしたらアンチスキル? 
悪いことしてるっていってたし、前科がどうとかって……


【おい】


がたんっ!!


「きゃっ!?」


ぼーっとしていた初春はうまく前を見て進行することができていなかったようで、気づいたときには障害物か何かに衝突していた。
刹那、それは壁か電柱か、下手をしたら清掃ロボットかと推測する。

……が、どれも違う。

彼女が押した先にいたのは、


「いてえじゃねえかよ……」


見るからに人相の悪い、ああ、なるほどと言わしめる人々。
それは垣根のような存在とはまた違った悪臭を放つ生き物。
初春も仕事上何回か遭遇したことがあり、そのたびにいい想いはしていない。


この街ではそれらをまとめて―――スキルアウトと呼ぶ。


なんだってただの散歩をしているはずなのに、こうも悪い出来事ばかりに遭遇してしまうのか。
この不幸は自分のもの? それとも垣根のもの?

どっちかと考えようとして、やめた。
そんなことはどうでもいい。―――なんとかしなきゃ。
194 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 18:34:26.42 ID:FBc85v6o


「わ、私は、じゃ、ジャッジメントですっ! 手荒なまねをするなら……!」

「はぁ? 手荒なマネをしたのはそっちだろうが? けっ、こっちを見るなり悪党扱いはやめてくれよ、差別だぜ? なぁ?」


男が目配せをした先にはやはり似たような少年たちが数人。
おそらく仲間だろう。初春は車椅子の取ってを握りしめて、警戒する。
自分は前衛タイプではない。応援を呼ぶか、否か。

頭の中で展開を予測しているうちに、ゾロゾロと集まってくる少年たち。
初春が口を開く前に、激突した男が胸倉をつかんできた。


「う……ぐ、くるし……」

「あぁ悪い悪い、ジャッジメントってのは脆いんだな? 
 ……つかよ、ぶつかったらまず謝るのが筋じゃねえの? 風紀委員のくせに頭の下げ方しらねえのか?」

「う……」

「さっさと謝れよ」


謝ろうにも間接的に首が絞められていて、声が思ったように出せない。
初春はそれでもしぼりだすように、なんとか声を喉から発信しようとする。


「ご……ごめん…なさ…ぃ…………」

「あ? きこえねえな? はいもう一度おっきな声でぇー?」

「……う……げほ…ご………ごめんなさ……」


かすれた声で続ける初春だが、どんどん声は小さくなっていく。
ははは、こりゃ小心者のジャッジメントがいたもんだ、と大声で笑う少年たち。

そして、


「……あ?」


次には垣根帝督が男の腕をつかんでいた。
195 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 18:46:52.62 ID:FBc85v6o


「なんだお前? ふざけた格好しやがって、お散歩中でちゅかぁ?」


当人の垣根は無言で男を睨みつけ、それ以上は何もしない。
腕をつかんだまま、刺すような視線を保っていた。

興味が垣根に向いたのか、男は初春の胸倉から乱暴に手を離すと、今度は手術服の胸のあたりをつかみはじめた。


「おい。どうなんだよ」


返事はない。代わりに投げつけられるのは刺すような視線。
何が言いたいのかはわかるような、わからないような。

ただひとつ、反抗的だということははっきりとわかる。


「……! どうだって……聞いてんだよ!!!!」


男は垣根の胸倉をつかんだまま、その体を車椅子から放り投げた。
療養中だった垣根の体はやはり軽かったようで、簡単に2〜3Mは遠くに投げつけられる。
抱えていた花束はその場に散らばってしまった。

近くにあったゴミ袋につっこむ垣根の様子を見て、男たちは大笑いをしている。


「垣根さん!!!! ……!! これ以上何かするつもりなら、一人残らず連行しますッ!!!」

「おー、こえーこえー。じゃ、めんどくさくなる前にとんずらこきますか」


引き際を察しているあたり、こういったことは常習らしい。
最後に一言、


「あ、それと謝られてないんで、これでチャラな」


と垣根を乗せていた車椅子を足で蹴り飛ばして、男たちは夕闇に消えていった。
後にはやはり、重たい空気が残る。
たちの悪い台風だ、と初春はとっさに連想した。
196 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 18:57:25.95 ID:FBc85v6o


「大丈夫ですか? 怪我とか……、受信機外れたりしてませんか?」


携帯電話を拾った後、駆け寄って垣根の体を支えようとする初春。
それとほぼ同時に手元の携帯が振動する。

映し出された文字は、【触るな】。見た瞬間に固まってしまう。

垣根はゆっくりと体を両手で支えながら起き上がり、車椅子の方向に這っていく。
あまりにも痛々しくて見ていられず、初春はメッセージを無視して肩を貸してあげた。
反抗する様子はない。


「……あの人たち、今度なにかあったら絶対許さないです」

【あいつらが悪いんじゃねぇ】

「え?」

【俺が無能力者のくそったれだから、悪いんだ】


いうにことかいて何を、またそういう言い方して、さっきあれほど。―――色々いいかけて、やめた。

なぜって。
なぜって言われたら。


【笑えてくるだろ?】

【情けなくて、―――笑えてくるんだよ】

「………、…………、……………、……………………うそつき」

【うそじゃねぇ】


「じゃあ、

   ―――なんで貴方は泣いてるんですか?」


垣根帝督の頬を伝ったそれは、夕日に照らされてきらきらと光っていた。
表情は崩れてはいない。淡々と流れる涙の雫。
初春はもらい泣きしそうになる感情をなんとかおさえて、車椅子まで彼を連れて行く。
197 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 19:16:03.54 ID:FBc85v6o

車椅子に座らせてから、体についた埃やゴミを払ってあげる。
垣根の瞳は焦点が定まっていなかったが、何を見ているかはなんとなくわかった。
多分それは昔見た光景か、今見た光景か、もしくは、つかむことのできない何か。


【俺は悪党だが、たいていの場合、小物は見逃してやることにしてたんだ】

「………」

【あいつらを見たか? ぶん投げただけで帰りやがった。興味がなさそうに。それこそ小物を見逃すように。この俺を】


座っている垣根の正面で、初春は涙をぬぐっていた。
おそらく垣根自身、泣いていることに気づいていなかったのだろう。
言わないほうがよかったのかもしれないが、たぶん感情はぶつけたほうがいい。
それは涙という形だけでぶつけるには、少し大きすぎる問題だから。


【さっきはあんな言い方したけどよ】

【……こんな体じゃオンリーワンにもナンバーワンにもなれねぇ。枯れた花だ、俺は】


初春はその言葉を聞くと、涙を拭く作業を中断してから、静かに垣根の手を取った。
あいにく彼の手は冷たくなっていて、保温効果は効き目がなさそうである。
代わりに初春自身の体温を伝えてあげることしかできない。
手をとられた垣根はその焦点を初春に合わせて、まっすぐに彼女の瞳を見つめている。


「大丈夫ですよ」


携帯には、何が大丈夫だっていうんだ、と文字が浮かんでいたかもしれない。が、どちらにせよ初春が言うべき言葉は彼女のなかで決定していた。


「だってその花はこんなにがんばって、

         ……―――光を吸収しようとしてるじゃないですか」


ぎゅっ、と手にこめる力が強くなる。
垣根は一瞬何の反応も示さなかったが、少し間をおいてから、同じように初春の手を握り返してきた。


「それでも無理なら、私が水をあげます。貴方に光をあてて、暖めてあげますから、―――だから、大丈夫です」


彼からのレスポンスはそれっきりだった。初春は散らばった花束を集めてから、元通り車椅子を押し始める。
病院への帰路は行きよりも少しだけ、長く感じた。
198 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 19:27:04.37 ID:FBc85v6o
ちょっと休憩。
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 19:45:11.21 ID:EIdaGYDO
ひとまず乙
初春健気可愛い
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 20:00:19.21 ID:6fear6AO
かなわない 潤んだよ
201 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 21:16:17.26 ID:FBc85v6o

――――――

初春はそれから病院につくまで、自分の仕事の話をしていた。
ジャッジメントという組織について。
自分がそこでしていることについて。
同僚の話、失敗談、嬉しかったことや楽しかったこと。

それに耳を傾ける垣根は、たまに一言二言返してくるだけだ。
なんとか言葉の切れ端を拾って、どうにかこうにか会話をつないで、やっとのことで病院にたどり着いた。

スキルアウトともめてからここまでは何事もなくやってこれたので、垣根の情緒も多少は安定しただろうか。

文字に浮かぶだけでは正直、人の思考のすべては判断できない。
垣根帝督という男は素直ではないので、尚更だ。


「はい、つきましたよー。お疲れさまでした」

【おう】

「お花、大事にしてくださいね」

【やっぱりこれ、俺が持って帰るのかよ】

「当たり前です。垣根さんのすさんだ心を癒してくれる素敵な仲間たちですよ♪」

【……、俺は花じゃねぇ】


初春はかまわず、出発したときと同様に、ふんふん♪と鼻歌まじりに病院の入り口へと椅子を進めた。
辺りはすっかり日も暮れてきていて、これ以上はバッテリーももちそうにない。
いい気分転換になったかな、と初春は垣根に感想を聞きたくなったが、それを聞いてしまうのは野暮というものだ。

だいいち、こういうものは見返りを求めていい類の行為ではない。
本人がいい想いをしてくれたならそれでいいのだ。
―――少なくとも、今は。


【なあ】


入り口に差し掛かる直前、垣根は頭をかきながらそんなことを発信してきた。

202 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 21:27:38.33 ID:FBc85v6o

しかし発信させられたのはそれだけで、それ以降何か情報を受信する様子はない。

―――ははん。

これまで彼に接したうちの経験則から、初春は垣根がおそらく考えているであろうことを先読みする。


「心配しなくても、また来ますよ」


垣根は言葉を聞くなり、また肩をびくっ、と反応させた。
図星をつかれたときの彼の癖だろうか。
初春はとっさにさっきまでの殺伐とした状況と今を対比してしまい、おもわずくすりとふきだしそうになった。


【……誰もそんなこといってねぇ】

「そんなことってなんですか?」

【は? いやだから、また散歩とか……】

「? 私が言ったのは病院に、って意味ですけど? ……あれ、ひょっとしてお散歩、楽しかったんですか?」


垣根はしまった、といわんばかりにこちらをゆっくりと振り返ってきた。
顔には呆れたような表情が浮かぶ。
初春、このやろう、と今にも言い出しそうなそぶりである。

                           
【………、テメェ、本当は俺の考えてること、“それ”なしでもわかってんじゃねぇか?】

「えへへ。そうだったらもっと垣根さんに意地悪できちゃいますね」


勘弁してくれ、いじられるのは柄じゃねぇ、と返されたが、初春は別のことを想っていた。

―――よかった、楽しんでくれてたのか。
途中色々あったし、気まずくなっちゃうこともあったけど、もう一度って考えるってことは楽しかったってことだよね。

そう考えると介護する側の冥利につきるというものだ。
垣根に意地悪をするのは嫌いではない。なんだかそれはそれでコミュニケーションが取れてるような気がするから。
初春は仕込んでおいた仕掛けを見て、にやりと笑ってしまう。


(……いつ気づくのかなー)


スロープになっている部分を渡りながら、初春は心の中でそっとつぶやいた。
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 21:30:23.10 ID:zc38Wdw0
sIEnnNn
204 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 21:37:45.44 ID:FBc85v6o


「初春っ!!」


不意に後ろから呼び止められる。
スロープを登りきって、これからようやく院内に入るところだった。


「あ。……し、白井さん……に、佐天さん……?」


今度は自分がピンチである。

そういえば喫茶店から抜け出した後、支払いは一切していなかった。
どこに行くかの連絡も。
携帯電話の方も、垣根の翻訳プログラムをつけっぱなしにしていたので、もしかしたら散々自分を探していたのかもしれない。

うう、と罰の悪そうな顔をして、白井と佐天を見つめる初春。


「まったく! わたくしたちを置いていったのもそうですが、こんな遅くまで連絡なしに何をしていらしたんですの!?」

「ういはるぅー! 一言くらい言っていけよなぁー。心配して白井さんと捜査網展開しちゃったよ」

「ああ、もう門限が……だから貴女は本当に……仕事中にゲームはするし……、先輩にも言いつけて……、先が思いやられますの……」


ガミガミと文句を垂れる白井だったが、今回はさすがに自分が悪い。
いつの間にか周りが見えなくなっていて、連絡するのも忘れていた。
白井が怒るのも無理はない。


「ご、ごめんなさぁい……」

「ごめんなさいで済んだらジャッジメントはいらないですのよ!! 本当に貴女っていう人は、いつまでも子供というかなんというか。
 ……ん? 初春、その殿方は?」


視線の先にいるのは、にやにやと笑っている垣根帝督。
どうやら自分が怒られている様子が楽しいらしい。


【ほら、俺はもういいから行けよ。パソコンは没収しとくぞ。ガ・キ・ん・ちょ】


言われてカァァ、と顔が赤くなるのを感じた。―――そして、佐天が横目でこちらをにやついた表情で見つめているのも。


「へえー。……ほほう」
205 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 21:54:52.55 ID:FBc85v6o


「ちっ、違いますよ!? 何ですかその、『女子中学生は見た!』といわんばかりのにやけ顔はっ!?」

「あたしまだ何も言ってないんですけどー? ……しかし初春があたしたちを振り切ってそう出るとはねぇ。うーん、お姉さんちょっと複雑かも」

「……ぬぁるほど、どうもおかしいと思っていましたの。
 そういえば喫茶店にいるときもなんだか様子が変でしたし。……初春はわたくしたちをほっぽりだして殿方と密会してたんですのね」

「み、密会ってなんですか!? ちゃんと堂々としてました!! 別にやましいことなんか……、ほ、ほら垣根さんも何か言ってくださいよっ!!」


話をふると、垣根は自分の喉下をおさえて口をパクパクさせていた。
携帯を確認したところ、表示されたのは文字列。


【そうしたいのはやまやまなんだが、いかんせん日本語が使えねぇもんでな^−^】



ご丁寧に顔文字までついている。



…………。

―――そ、そういうことばっかり自分の状態をうまいこと使って!!


「まあそれなら仕方ないっちゃ仕方ないかぁ。白井さーん、この様子だとあたしたちの話ぜんぜん聞いてなかったんじゃないですかー?」

「許すまじですの。まるでお姉さまがあのアウストラロピテクスに毒されている様子を生で見ているようですの……!! ふ、ふふふ、ふ」

「どうしてそうなるんですか!? わっ、私はですね、健全な気持ちでこの人の看護をですねぇ!! と、とにかくちょっと待っ……」

「初春? 今日はもう遅いから見逃してあげますけど、明日以降――――――ひどいですのよ」

「な、何で……何でですかぁー!!」


……なんだか話がごちゃごちゃしてきた。
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 22:02:46.27 ID:06hPXs.0
^−^ニヤニヤ
207 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 22:04:00.66 ID:FBc85v6o

とりあえず収拾をつけねばと思い、車椅子を押そうとしたところ、

―――そこには秋の風がふくだけ。


(あれ?)


垣根帝督の姿はどこにもない。混乱した頭で携帯を開くと、





【パソコン、また今度取りに来い。

     ―――それまで“いい子”にしてろよ、中学生】





皮肉たっぷりのメッセージがそこにあった。
そうか、自分で押して中に入ったのか。もう少し話をしたかったが、こうなっては仕方がない。


(……先生にも色々言いたいことあったけど、また今度でいっか)

「何をシメに入ってますの? 帰り道、しっかりくっきりじっくりと、今日の詳細を聞かせてもらいますのよ?」


えっ、と焦る初春の両手は、二人の親友によってがっちりと捕まれていた。


「ほらほら、こういうホットな話題はみんなでシェアするべきだろー? 御坂さんにも連絡しなきゃ」


やめてくださいー! と叫ぶ初春の声は地球上のどこにも届かず、秋風に乗せられて流れていってしまう。
ゆっくりと流れた時間はこうして幕を閉じた。
その後、その馴れ初めから現在の状況まで、誤解を解くのに初春が必死になったことは言うまでもない。

依然、物語はまだ始まったばかりである。


………

……

208 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/10(水) 22:19:47.99 ID:FBc85v6o

                                  ※

車椅子を押して院内に入った垣根帝督は、今日の出来事を思い返していた。
もちろん考えていたのは花屋のことでも、未元物質Xパフェのことでも、スキルアウトのことでもない。

―――尾行していた、『誰か』について。


(ゴロつきじゃねぇことは確かだろうな。あの様子じゃ俺が病院から出てすぐに張り付いてたのかもしれねぇ。
 初春のバカに気をとられて気づけなかったか)

(ま、あんなので振り切れるようじゃそもそも話にならねぇが。―――どこの馬鹿だ、スクラップに興味を示す産廃業者は)

(……、暗部のスジはなさそうだし、下手すると接触したことのねぇ第三者か?)

(どっかの物好きの研究者? 俺の情報が流れた先で再利用を考えるのはそこらへんしかねぇ。顔おがんで殺してやりてぇが―――無理だな)

(……それにしても張り付き方が気になる、中途半端なんだよな、色々と。初春がいなかったらもっと接近してきたのか?)

(あるいは―――、様子を見てただけ? 何のために? 今更回収ってわけでもないだろうに)

「あら」


病室へのエレベーターをあがろうとしたところで、見覚えのある顔に出会う。
といっても彼が見知った中で記憶にある女性は数えるほどもいない。

ましてや気軽に話しかけてくるような女は、こいつだけだ。


「生きてたのね。入院先はここなの?」

                                  メジャーハート
ドレスを身にまとう14歳くらいの少女のコードネームは『心理定規』。

旧友とまではいかない。
一時仕事を共有した相手。それだけの女。

209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 22:25:04.58 ID:06hPXs.0
本妻きちゃったーーー!
いやまあスレによって距離感色々だし、そもそも原作からしてあんまり仲良くなさ以下略
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 22:27:03.40 ID:NjKDgIYo
ここから心理定規と初春と垣根のドタバタラブコメになっても私は一向に構わんしてください
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 22:37:37.90 ID:UC3FiwAO
astk wwktk!
212 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 22:38:48.68 ID:FBc85v6o


「それ、素敵なドレスね」


手術服をさして言ってきた。皮肉のつもりだろうか。
別に何とも思わないし、相手もそのつもりだろう。

それよりも、垣根は初春に端末をコピーさせてもらうべきだったと後悔した。
暗部組織にいて、かつあの抗争を切り抜けた人物はそうそういない。
もし会話ができたら、聞き出せそうなことは山ほどある。

そんな垣根をよそに、ドレスの少女は表情を少しも変える様子はなかった。
車椅子になった垣根を見ても、コメントは一言二言だけ。


「……不自由になったのは体だけじゃないのかしら? それでもまぁ、マシな方かもしれないけれど」


無言で頷いた後、口元にチャックをする動作をした。
心理定規はそれを見ると、かすかに微笑み、言葉を紡ぐ。


「それは大変。―――直接交渉権の話は、もうあきらめたほうがよさそうね」


両手を広げて肩をすくませる。
そういえばそんな話もあったな、といわんばかりに。


「すっかり時の人よ、貴方。そうだ、いいことを教えてあげましょうか。二つほど」


体をエレベーターの脇によせて、垣根は情報を受信する態度を示した。
心理定規の話し方は昔からこうだ。
どうにもこうにも食えない、わけのわからん世界の住人である。


「暗部の世界では貴方、もういなかったことになってるの。かくいう私も、これから再編成された新しいチームの一員よ」


それくらいはすぐ予想できる。
この女の能力は特殊で、駆使すればどこにいっても通用するだろう。
垣根は続けろ、といわんばかりにあごをしゃくった。
213 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:01:28.92 ID:FBc85v6o


「覚えてる? あのときやりあった、あの男。いたじゃない、私たちに勇敢に立ち向かってきた、王子さまみたいな無能力者」


―――いたっけ、そんなやつ。あまり記憶にないが、言われてみればそんな男がいたような気がする。


「相変わらず薄情ね。その人、あの第四位を追い詰めたのよ? 前に話したでしょ?
 あれと組むことになったの。貴方がボコボコにしたあの女の子、絹旗最愛も一緒よ」


ああ、そいつは覚えている。最後の最後で誇りを取った間抜けか。見逃しておいてよかったのか悪かったのか。
心理定規の転職先を考えると、結果的にはこの女のためにはなったようだが。


「そう。あの抗争を潜り抜けた残党を集めて、まぁようするに寄せ集めね。その新チームが今度発足するらしいわ。
 ……長続きはしないんじゃないかしら?
 先のことだからいまのところ、私たちの直接の上司になる女からは何もでていないんだけれどね。
 ―――どうやら学園都市の上層部は、彼―――浜面仕上を始末する方向で話が進んでいるらしいの。
 いっておくけれどこれは私が勝手に調べたことよ。ソースは聞かないでね、消されちゃうから」


聞こうにもしゃべれねぇよ、とジェスチャーで伝えたが、伝わったかどうかはわからない。


「何を持って始末しようとしてるのかはわからないし、正直あの男に何ができるのかも未知数。けど、それと平行してつかんだ情報があるの。
 ―――ねえ、貴方巷では冷蔵庫って言われてるのよ。ふふ、随分皮肉ったネーミングセンスよね。誰がつけたのかしら?」


冷蔵庫? ふざけんな。何を根拠にそんなことを言いやがる。馬鹿にするのも大概にしろ。おい言った奴出て来い。
俺のどこに冷蔵機能がついてるってんだ……と、脳内で文句をたれまくる垣根。―――まぁ、たしかに、意識自体はでっかい箱の中に閉じ込められてるが。


「何が言いたいかっていうとね。
   
  …………、貴方の体は学園都市のどこかに『回収』されている」


―――は?


「正確には、“回収されていることになっている”。
 脳みそは三つにわけられて、内臓をおぎなうために大きな装置を取り付けられた状態。
 想像できる? 私には無理だったけれど」


できるわけがない。なぜなら自分はここにいる。
―――そんなデマがなぜ流れる? 落ち着きを取り戻したはずの垣根の思考はぐらぐらと揺れはじめた。
214 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:17:37.29 ID:FBc85v6o


「この情報は浜面仕上の抹殺というプランに付随して出てきたもの。第四位ならともかく、なぜ貴方の名前がでてくるのかしら?」

「そしてなぜ貴方はここにいるの? 『回収』されたというデマが流れるのは? その目的は? 気にならない?」


ならないはずがない。
この女はわかっていて情報を流しているのだろう。
続きを、と視線を合わせたところで、ドレスの少女は顔をこれでもかというくらい垣根に近づけてきた。


「……動けない貴方も素敵。だけど、今日はここまでかしら。―――たぶん、私たちの接点も」


次には自分の唇に指をあててから、それを垣根の唇へと移す。


「私からのお見舞いはこれくらいしかできないわ」


それだけ言うとドレスの少女は振り返り、出口に向けて歩き出した。

情報は二つと言っていたが、残りは自分で探せということだろうか。
食えない女。隙がない。心の距離を操作することができるのは、彼女の性格が影響してる気がした。


「―――あ、ごめんなさい、もうひとつ忘れてたわ」


わざとらしく付け足してから、彼女はこちらをもう一度見た。そして、


「それ、似合ってるわよ? メルヘンな貴方の容姿に磨きがかかったんじゃないかしら」


くすくすと笑って手を振る心理定規。何のことだと思い直して、エレベーターに乗り込んだ。
そして気づいた。ここのエレベーターは鏡がついている。
……初春。初春飾利。次あったらとりあえず殴る。

垣根の髪の毛の頂上付近に、かわいらしい花柄のヘアピンがとめてあったのである。
ピンク色。何の花かは知らないし、知りたくもない。


……―――それにしても髪、のびましたね。


あのやろう。むしりとるようにそれをはずして床に叩きつけようとしたが、なぜかそれは垣根の手元に残ったままだった。
215 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:32:28.49 ID:FBc85v6o

――――――

病室に入ると、木山がパソコンをいじっていた。
垣根に気づくと首をかしげて、垣根が持つ花束と、彼の頭部を見つめてくる。


「……それは君の趣味か?」

【んなわけねぇだろボケ。殺すぞ】


パソコンに文字が表示される。
……、この女、結局見ていたんじゃねぇか。たちの悪い科学者だ。
そもそもこの町でまともな科学者なんか見たことはないが。


「なぜはずさないのかは置いておくが。どうだった、ひさしぶりに出てみた外は」

【初春に振り回されて終わった。あとは胸糞悪い馬鹿どもの相手をしただけだ。別に報告することはねぇ】

「あるだろう。尾行されていたんじゃないのか?」


しっかりと発信されていた情報は読み取っていたようで、木山は頬杖をつきながら垣根を凝視する。


【……、たいしたことじゃねぇよ。難なく振り切ったし】

「だが報告はしっかりしてもらわないと困るな。君は患者なんだ」

【テメェは医者じゃねぇだろ】


無視して車椅子からベッドへと体を移す。
どうにか木山の手は借りずにできそうだ。これからは多少なりとも自分のことは自分でこなしていきたい。


「―――他にもいろいろ、見知ったことはあるようだが」

【もったいつけねぇでさっさと話せ。どうせ俺の思考回路は筒抜けなんだろが。抵抗したりしねぇよ】


どかっ、とベッドに倒れこんで垣根は目を閉じた。
216 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:42:34.24 ID:FBc85v6o


「君から話してくれるのが一番助かるんだが……、そうだな。まず暗部とは何だ?」

【学園都市の裏にひそんでる組織の総称だ。俺が以前所属していた】

「今は?」

【商売あがったりだよ。見てわかるだろ。使い物にならなくなったおもちゃを集めるところじゃねぇ】



「……回収、というのは何だ」

【さぁな。どっかの馬鹿が流したデマだろ。俺は脳を三等分されて“冷蔵庫”になってるんだとよ】

「それはどこに保管されているんだ?」

【知らねぇし、実際そんなことありえねぇだろ。……、だが、俺の能力がやつらに利用されているかもしれねぇってのは、あんたでもわかるよな】

「………」

【んで、よくわかんねぇんだが、俺のデマはとある男の始末に関係してるんだとよ。ここの病院の患者じゃねぇのか、そいつ】

「名前は?」



【えーとなんだったかな。うま……うまづら? いや違う。はま……づらだっけ】




「調べてみよう」

【へいへい。もういいか?俺は寝るぜ。ガキの相手してて疲れてんだよ】

「かまわない。それなら私も出て行こう」


ノートパソコンを抱えて部屋から出る木山。
垣根は横目でそれを見ながらふと思った。それは初春のPCじゃないのか。
―――が、考えをまとめる前に睡魔が襲う。深い眠りが手招きをしているようだ。
騒々しい彼の一日は、こうして幕を閉じた。

………

……

217 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:53:45.80 ID:FBc85v6o

                                 ※

木山は部屋の外でパソコンを抱えたまま、顎に手をあてて試行錯誤していた。


(―――以前の暴走実験と何か関係があるのか)

(彼の意識が電子上のデータになってしまった経緯も、そこに?)

(尾行していたのは彼が考えたとおり、物好きの科学者というセンが一番筋が通る)

(……だが、それでもどうも釈然としない。そもそも彼の情報はそこらの能無しには漏れていないはず)

(だめだな。私のIDでは手に入る情報に限りがある。かといってあの子や彼に危険なことをさせることはできない)

(―――先生なら)

(冥土帰しの異名を持つ彼なら、もっと深いところの情報を得られるはずだ。いや、もしかしたらすでにつかんでいてもおかしくはない)

(何よりパズルのピースが足りていなさすぎる。彼がああなってしまった経緯、周囲の動き、―――尾行者、科学者……)

(タイミングを見計らって先生に問いただしてみよう。それまではお預けだな)


(……、あの件についても、……今は下手に組み立てられない、か)


そこまで思考をめぐらせた後、木山は暗い廊下を歩き出した。

―――こつん、こつん。

事件というものはある種、頭の回転の速さを軸として、それに準ずるものを巻き込んでいく習性がある。
木山もまた、その大きな渦の中に身をおいている人物の一人だ。

暗闇にいる誰か。かつての教え子。一万人の脳。低周波を使った干渉装置。

キーワードはめぐりめぐって彼女を支配する。
そうしてまた、物語は真相へと近づいていく。深い深い、この街の沼の底へと。


………

……


218 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/10(水) 23:54:56.57 ID:FBc85v6o

名残おしいですが今日はここまで。お疲れ様でした。
心理定規との三つ巴もそれはそれで面白そうなのですが、今回は純粋な初春とていとくんのお話になりそうです。
お付き合いしてくださった方はありがとうございました。

それではまた、近いうちに。
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 23:57:20.54 ID:06hPXs.0
おつおつ
枕を高くして眠れるぜー
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 00:02:06.44 ID:RQ6iWUDO
乙なんだよ!
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 00:15:30.70 ID:CaKvj.AO
惜しみない乙を!つまり超乙

>>219
誰かに狙われてるのか?
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 00:25:56.76 ID:I26vvEQ0
お疲れ様〜 まったり続きを待たせてもらうぜぃ
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/11(木) 01:33:26.60 ID:HNMEbyo0
乙〜

帝督が戦線復帰するの楽しみだわ
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/11/11(木) 01:48:03.60 ID:oBoF.3Q0
愛がないってところ、プラネテスの田辺思い出した。

225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 08:27:15.82 ID:Cpm0m.SO
おつ
果たして垣根復活はあるのか…
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 09:05:37.16 ID:dI0kkcAO
乙です。楽しみにしてるよ!
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 12:43:00.66 ID:Z4EXTc.o
追いついた〜とんだ良スレがあったもんだ。
応援してる。
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 17:23:52.68 ID:X/9EAPYo
追いついた……だと……?
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 14:40:56.34 ID:RyJ904w0
これは初春が狙われるということか
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 21:38:22.07 ID:AnTs2T.o
まだかしら
231 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 18:41:18.32 ID:3LvLLkc0
続きが気になってたまらないぜー
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 18:42:17.61 ID:3LvLLkc0
俺はレベル3なのか・・・ちょっと学園都市行ってくる
233 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 21:08:14.85 ID:DP2Oshk0
ねぇ、帝督まだなのかしら?
234 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 20:00:53.87 ID:JgR.IKwo
>>22です。遅くなってすいません。今から投下します。
直書きですので遅筆or誤字脱字はご了承ください。
ではいきます。
235 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 20:16:28.11 ID:JgR.IKwo

                                  ※

垣根との介護デート(?)から一夜明けた日、初春たち一向は再び集まっていた。
場所はもちろん例によって例の喫茶店である。

が、某日とは違い、一同の話題は温泉旅行から恋愛話へとシフトしていた。
今回の主役は初春飾利。

ゲストだけあって、さきほどから質問攻めにあっているところだ。

そもそも垣根との仲が恋愛関係とは一言も言っていないし、常識的に考えても病人を介護していたようにしか見えないはずなのだが、
思春期の乙女たちにその常識は通用しない。

彼女を囲む二人の耳は初春の言動を即座に脳内変換するだけのエンコーダと化していた。


「では、まず馴れ初めからですの。昨日は逃げられましたので」

「な、馴れ初めって……。だから垣根さんとはまだそういう関係じゃないって何度も言ったじゃないですか……!」

「初春ぅー? それはなんだぁ? 誘ってるのかぁ? つっこみどころ満載のリプライだぞー?」


佐天は元々こういうときのつっこみが非常にうまい。
初春がボロを出そうものなら、的確にその箇所をつっついてくる。
ボロを出させるためのきっかけ作りもうまい。もちろんそれは二人の間柄があってこそのものなのだが。

対する白井は白井で佐天がひろった言葉を広げて、瞬時に新しい質問をなげかけるのがうまい。
かわす手段は彼女の能力同様、瞬時に思考を切り替えても厳しいほどだ。
変なところで抜群のコンビネーションを発揮する、困った同僚たちである。


「するとあれですのね。初春の頭の中ではすでにあの殿方と合体するまでのプロセスが出来上がっていると。さすがですの」

「えぇー!? マジで初春?! ……はぁ、お姉さんが知らない間に初春は大人の階段を上ろうとしてたんだね……。ちょっとみくびってたわ」


だーかーらぁー! 
と半ば本気で抗議しにかかるが、二人は冗談でいってるのか本気でいっているのかわからない表情で、首を小刻みに振っている。

やれやれ、という文字が今にも見えてきそうな素振りだった。
236 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 20:26:42.16 ID:JgR.IKwo


「……、垣根さんは病院に入院してるんです。ちょっと、その……体にハンデを持ってる人で……」

「そんなのやり取りを見ていたらすぐわかりますの。わたくしたちが聞きたいのは……」

「な・ん・で初春はあの人と知り合ったの? ってことだよ? ん? わかる?」


佐天が人差し指で額をつついてくる。
あうあうっと頭を後ろに揺らす初春。人間の頭は結構重いはずなのに、簡単に前後に揺れてしまった。


―――しかしそう言われてみると、きっかけはどこからなんだろう。


あの事件のとき?

木山先生に連れて行かれたとき?

メッセージがサーバーから届いたとき?

……それとも、あのアホ毛ちゃんと出会ったから?

答えは出ない。考えてみると不思議な連鎖だった。
面白いように糸がつながっているし、おかしいくらいに自分はその中心にいる。

―――あの人の中心にいるかどうかは、わからないけど。


「……あー。だめだわ白井さん。こいつあっちにトリップしてる」

「まったく。今日は仕事中もぼーっとしていましたの。わたくしなんて最近はお姉さまと……ぶつぶつ……」

「へ、変な言いがかりはやめてください! 私が危ない人みたいじゃないですか! まるでお花畑にいってるみたいな……」

「「いってるだろ」ますの」


総ツッコミされてしまった。
237 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 20:38:15.11 ID:JgR.IKwo


「……えーとですね。ちょっと言いにくいんですけど」

「おっ。やっと口を開く気になった?」


身を乗り出してくる佐天&初春。期待に胸がドキドキ、いやドキがムネムネくらいの表情だ。

初春は迷った。彼についての情報、すべてを告げるべきか。

垣根帝督は学園都市、序列第2位の超能力者。
正確に経歴を聞いたわけではないが、とにかく悪いことをしていたらしい。
―――人も殺したことがあるとか。

そして何をしていたのは知らないが、以前白井が心配していた右肩の傷を負わせた張本人であり、面識は前からある。
その前後で失語症を患ってしまったらしいのだが、自分だけは彼の言語を理解することができる。というかそのシステムは自分が作った。

……素直じゃなくて、思考の上でも本音と建前を使い分けたりする。
意外とシャイ。意地悪。すぐひねくれたことを言う。
ナイーヴなところもある。髪の毛が綺麗、etc……。


(―――あれ、私……、こんな短い間に、なんで彼のことこんなに知ってるの?)


ふと浮かび上がる疑問は佐天と白井の視線に遮られる。
このまま話題をひっぱると余計面倒なことになりそうだったので、初春は一言で説明した。


「め………メル友………なんです」

「「はぁ!?」」


そんなにびっくりするほどのことか? と後に足したかったが土台無理な話だった。


「メ、メル友って……何それ、まだあるの!? そういう文化!?」

「ということは初春は相手が誰か知らずに交際をしていたということですの!?」


交際、という単語が若干気になったが、まああながち外れてはいないので頷いた。
238 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 20:52:40.20 ID:JgR.IKwo


(……、佐天さんはともかく、白井さんはちょっと私の交友関係に厳しいところあるし……)


以前初春が懇意にしていた女の子のことで白井と喧嘩したことがある。
白井としても、そのときの行動は初春を心配してのものだったし、あの一件については周りが見えなくなっていたのは自分の方だ。

だからというわけではないが、そろそろ自分も一人でトラブルを解決できるようにはなりたい。
もし何かあったときは、真っ先に頼ってしまうかもしれないが……。今のところはそんな様子もない。

……尾行されていた、というのは気がかりではあるが。

それを加味したとしても、木山先生やあのお医者さんもいることだし、無理に情報を流す必要はないだろう。
それに今回は単純に病人を介護するという名目で彼と接点を持っている。
少なくとも、今のところは。

この言い方なら余計な心配をさせずにすむ。軽く流してさっさとあしらってしまおう。


―――そう考えた彼女が甘かった。


「初春。いっておきますけれど、そういった出会いはわたくし、あまり推奨できませんのよ」


隣を見ると、当の白井は目を細めて顔を近づけてきていた。
ため息が出る。別に自分がまだまだ甘いというのは分かっているが、こうもキッパリといわれると、特に。


(でも白井さん、今時ネットとかメールの出会いって普通ですよ?)

「これだから考えが古い人はもう。言われるかもって思ったけど、やっぱりかぁ……」


「本音と建前が逆ですの!! というかわざとですのね!? わざとやってるのでございましょ!?」


顎と両の頬を片手でおさえられた。そういう穿ったことをいうのはこの口かっ!この口かぁ!と言わんばかりの表情で。
一方の佐天は呆れ顔で頬杖をついている。
239 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 21:09:10.74 ID:JgR.IKwo


「まぁまぁ。初春がいいっていうならいいんじゃないですかー? ……で、どうなの? うまくいってるの?」

「ふぇ? はにがでふか?」


目を光らせて顔をつかむ白井を放置したまま、初春は呂律が回らない気の抜けた声を出した。


「いやほら、会話とかさ……。メールとか毎日してるの? っていうか失語症なのにあれなんだ、意思疎通はできるんだね」

「えっと……はい……。い、一応、してます……」

「ならよろしいっ。がんばれ、初春」


フー!といきがる白井を抑えて佐天が言った。

口には出さないが、佐天は佐天でそういった出会いに抵抗があることはあるようである。
時の流れは怖いくらいに距離を近づけるもので、初春には実は誰よりも心配性な佐天の気持ちが手に取るようにわかった。


「あの、佐天さん」

「んー? ……あ、すいませーん!」


ばたつく白井を椅子になんとか座らせてから、佐天は追加のケーキを注文した。
モンブラン。初春の大好物である。


「へ、変ですかね、私。いやあの、本当に恋愛感情……とかじゃなくて、……なんだかほっとけないだけなんですけど」

「……」

「でも見ていてなんだか寂しそうだったり、つらそうだったり、……話を聞いてて、何かしてあげたいって思うんです。
 もちろん最初はメールから始まりました。いってしまえば他人だし、別に積極的に関わろうと思わなければいつだって……。
 それでもなんだか、ほっとけないんです。こういうのって、白井さんが言うみたいに……あ、あんまりいいことじゃないんでしょうか」

「べ、別にわたくしは初春が悪いことをしているとは……」

「わかってますよ」


申し訳なさそうにこちらを向く白井が愛らしい。以前のことを気にしているのは初春だけではなさそうだ。
初春は無言で白井の肩をつついてあげた。
240 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 21:41:05.04 ID:JgR.IKwo


「前も言ったじゃん。あんまり考えすぎるなって。今は何時だー?」


言われて時計を見る。
午後4時。先日に同じようなことを言われたときは、お昼だったような。


「初春がしたいようにしなよ。あたしたちの価値観はヒントにはなるかもしれないけど、答えじゃないし」

「ヒント……」

「初春が好きな唄あるじゃん? えーとなんだっけ……名前忘れちゃったけど」


垣根にその歌詞について語ったときは全否定された。
今考えてみるとあれはすごく失礼な言い方だったのかもしれない。
一方的に初春の価値観を押し付けたとも取れる発言だ。

佐天はそのときと同じ唄を軽く口ずさんでから、


「要するに! どうしたらいいとかこうしたらいいってベストな事柄は、選択する前のことであってさー。結果に対して誇れる自分であるべきなのだ!」


言うなり、あれ、ちょっと今のあたし、いいこと言ってない?とおどけてみせた。

佐天涙子はもともと理屈っぽいことが嫌いな女の子である。

理屈がなければ説得力はないだろうし、科学を重んじるこの都市ではそういった思考回路の人間が重宝される傾向にあるが、
彼女の言葉はいつだって無条件に心に響く。初春はそんな彼女の言葉に抵抗はない。

そこには“なぜ”も“なんで”も何もない。すんなりと受け入れられるくらい、当たり前のことだから。


「誰が見たっていいことをしてるんだよ、初春は。―――もしそれを否定する人がいたら、あたしたちが傍にいて、守ってあげる」


ウインクをして、ちょうど届いたモンブランを初春に差し出してきた。

次には肩をつんっとさされる。隣の白井がそっぽを向きながらフォークを使って押してきたようだ。
そのままケーキ皿に静かにおくと、照れたように一瞬こちらを見た。

―――そうですよね。そうなんですよね。

初春は二人の親友の心遣いを余すことなく味わうことにしたのだった。

241 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 21:48:46.53 ID:JgR.IKwo
ちょい一旦投下停止
242 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 22:07:47.62 ID:wRPR4QDO
ひとまず乙!
初春可愛いよ初春
243 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 22:31:25.85 ID:JgR.IKwo

そうこうしていると、不意に初春の携帯が震えた。
経験的に考えてこのもっともらしいタイミングでくるのは―――


「あー? もしかして、もしかしちゃう?」

「神様ってやっぱりいますのね」

「……いるとしたら、すごく意地悪です」


実は仕事の合間をぬってプログラムを改善していた初春。

垣根の思考を一方的に受信するのはさすがにどうかと思ったので、キーワードを抽出してそれに反応するようにした。
もちろんそれは垣根も了承済みである。
盗撮される趣味はねぇんだよ、と毒をはいていたことも付け足しておく。

語彙もだいぶ増やしたし、これで多少は専門的な会話もできるようになったはずである。
昨日は夜中までやり取りをしていてあまり寝ていないのは、秘密。

初春は今しがた口をつけたばかりのモンブランをそこに置き、静かに受信したメッセージを確認してみた。

するとそこに、




                        

                          【初春。会えるか?】





「おお」
「アツアツですの」

「さりげなく見ないでくれますっ!?」


ろくろ首のように首を伸ばして画面を覗く二人。
親友って何なんだろう、とさっきまで考えてたことを頭の片隅にしまいこんでしまった。
244 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 22:44:37.13 ID:JgR.IKwo

慌てて画面を胸に近づけて、二人の死角に携帯を配置する。
多分佐天と白井はにやにやしながら、

「初々しいですのねー、初春だけに」とか、

「春だねー、初春だけに」とか、

初春の名前にかこつけて何かうまいことを言っているのだろうがとりあえず無視した。
この二人のペースに付き合っていたら自分だって錯覚してしまいそうだ。

―――恋愛とか、そういうのじゃないもん。


【パソコン】


そうして次に画面に浮かんだのは、およそさっきまでの話題とはかけ離れた無機的な単語だった。
……気持ちが沈むような気がする。気がするだけだが。誓ってそうだ。うん。


【置いてっただろ昨日。暇なら取りこいよ。学校終わった?】

【……、期待してないですけど、それはそれでなんだか……もお】

【は?】


なんでもないです、と打って視線を横に流す。

そういえば置きっぱなしだった。
昨日は昨日で夜中までメールをしていたので気づかなかったが、初春も家にやることを持ち帰ったりはする。
このまま置いておくわけにはいかない。

が―――。


(はぁ。いつでも取りにいけるってことは、いつでも会えるってことだと―――ってちがうちがう!)


そうして頭をゆする動作はやはり親友二人をあおるだけ。
「うらやましいよ、初春」だの、「じぇらしーですの、初春」だの、この二人にはもう何を言ってもだめだと思った。
245 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 23:03:06.12 ID:JgR.IKwo


【わかりました。じゃあ今から取りにいきます】


完全下校時刻まではもう少し時間がある。
ここから病院までは近いし、取って帰るだけならすぐだろう。


【ん。……あー。あとさ】


垣根から情報を受信するとき、タイムラグは最小限に抑えられているはずだ。
だからこうやって彼が言葉につまるときは、大抵何かを隠しているときか、照れているときと相場は決まっている。
にやけそうになるのをこらえて、初春は返信を待った。


【……リンドウってどうやって育てるんだ? 花とか、その……よくわかんなくてよ】


意表をつかれた文字に絶句してしまう。
―――なんだかんだ、ちゃんと病室に飾ってくれてるのか。というか、やっぱりこの人シャイだ。それも変なところで。
初春に聞いてくるところもいじらしい。もしかして看護士や木山先生には聞けなかったとか。
お水とか日当たりとか、そういうのは他の人に任せてもいいはずなのに、律儀に自分でこなしたいということかもしれない。


【……変な妄想するんじゃねぇぞ】


刺すような文字が浮かび上がった。素直じゃないなーといいたい気持ちを抑えて、一言だけ返す。


【すぐ行きますよ。何か持ってきてほしいものありますか?】


初春飾利はこのとき、はっきり言って油断していた。
垣根帝督の精神年齢を測り間違えていたのである。だから次の返信でドキっとさせられるとは夢にも思わなかった。

後々考えればそれは彼なりの照れ隠し兼、初春をからかう旨のジョークだったのだろうが、それにしたってたちが悪い。神様って本当に意地悪だ。
赤面したのも含め、彼女に過失はない。念のため。


【―――また花言葉、持ってこれるか?】


………

……

246 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 23:22:01.53 ID:JgR.IKwo

                                  ※


(―――、まただ―――。)


同日、ほぼ同時刻、とある電脳世界にて。

垣根帝督を囲む環境は、悪化していた。


(―――ッ!! また―――、見てやがる)


意識を投影する鏡の役割を果たしているその部屋。
反映される意識は深層に位置する類のものであるらしく、彼の意志でコントロールすることはできそうにない。

そこを“部屋”と表現した理由は、少し前までは広大な空間を誇っていたはずの世界が、
初春と外に出た後には急激に収縮していたからだ。

あるのはレンガ造りの壁、壁、壁。部屋は立方体を模していた。

閉所恐怖症の人間ならば発狂するほどの狭さ。
もちろん垣根は精神的な訓練も経験している(といっても実際に監禁されるようなヘマはしでかしたことはないが)。

それでも、彼の気持ちが落ち着かないのは、なぜか。



(―――見るな。俺を―――見るな)



その部屋のレンガはところどころ砕けていて、その隙間から垣根を見つめる無数の――――――眼。

数にして数十から数百はある。それらは垣根を見つめるだけで何もしない。
ただ、じっと彼を観察しているだけだ。部屋のどこに移動しても自分を見つめてくる。


―――追いかけるように。責めるように。哂うように。


もちろん病院のベッドに戻ればそれからは開放されるのだが、眠りかけのときや起きたとき、彼が真っ先に目にするのはこの光景なのだ。
おかしくならないほうがどうかしている。

それでも、なんとかして狂いそうになる自分を抑える。
抑えて、それから、静かに彼は思考した。
247 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 23:34:08.70 ID:JgR.IKwo


(バランスってやつか。―――俺はよっぽど冷たいところにいたんだな)


理屈でなく、人間とは本能的に安定を求める生き物だ。
この場合の対義語は刺激ではない。死である。いや、正確にはそれすらも同義語かもしれないが。

死が安定をもたらすかどうかという議論はさておき―――心電図をイメージしてほしい。

大きな山のあとには、大きな谷が。
小さな山のあとには、小さな谷が。

主観的にそのバイオリズムを求めることで、人間は情緒の安定を図っているともいえるだろう。
そうでなければ偏ってしまう。偏ったリズムは、偏った価値観をもたらす。

上ったあとは下りたい。下ったあとは上りたい。ないものねだりのようなもの。

つまり山がなければ谷もない。この場合の安定は―――死、そのものだ。


(暗部にいた人間は夜行性。光に弱い、ってか)


ましてやついこの間まで自分はもっと深い闇を経験していた。
そこからあの中学生とのやり取り。

眩しすぎた。目がつぶれるくらい。
だから、見たくもない闇を見て、安定を図っている……?


あるいはこうだろうか。
この壁と眼は自分の意識下にあったもの。

レベル5から転落した自分を、無意識に自嘲せずにはいられない。
恥、卑屈、絶望、嫉妬、焦燥感。

単純にそういったものがここに生れている、とか。


(―――俺は何がしてぇんだ?)


苦悩する垣根に答える者はいなかった。
248 :黒夢とか聴く人いるんですかね。 ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/15(月) 23:53:11.80 ID:JgR.IKwo


自分はなぜあの中学生にすがるようなことをしているのだろう?

―――寂しいから?



なぜ受け取った花を捨てない?役に立たないものを、大切そうに。

―――わからねえ。



なぜ外に出たがる?世界は変わらず廻っていて、そこにお前の居場所はないのに。

―――抜け出したいんだ。



ではなぜ、外に出たがらない?矛盾している、育ちの悪い子供のような稚拙な論理だ。

―――人がみんな同じ顔で自分を哂っている。モラルと常識を糧にして、俺を哂っているから。



―――なぜ、俺は、こんな体に。


(誰も好きでこうなったんじゃねぇ。 こんなものを求めていたんじゃねぇ。俺は―――)



その薄暗い地下室には音がなかった。自分はこんなに弱かったのか。
昔誰かに説教したことがあった。甘言で塗り固められた理屈で、ご大層に悪党を語りやがった馬鹿に投げた言葉。

―――暗部に身を置いたのなら、徹底的に心を黒で染め上げろ。
それがここで生きるための覚悟。それが鉄則であり、唯一の救済法だと。


(俺は間違ってねぇ。間違ってねえはずなんだ―――!! なのに……ッ!)


ぎり、と歯と歯をかみ合わせたそのとき、地下室のドアが微かに開いた。
俺は多分そこから外に出るんだろう。枯れた花のくせに、光を求めて。

249 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 00:01:34.65 ID:xz7DG.AO
調べたら流石は夢は叶わないだけに休止やらを繰り返してるなwwww
250 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 00:12:40.56 ID:GvwVNzQo

――――――


「初gdasはhgam;;l;lag;s―――ッ!!!!!!!!!」

「え……?」


飛び起きた先で、自分が取った行動を理解するまでに時間がかかった。
感覚に最初に飛び込んできたのは匂いだ。
そして柔らかな感触。次に声。

事態を把握した後、静かに目を開けた先にいたのは、初春―――初春飾利。


「かっ……かきかかかかかきかきねささささ」

「これは本当に見ているこっちが浮いてしまうレベルですのね」

「初春っ! そこでこっちからもぎゅーってするんだよ! ほらはやく!」


隣を見ると、昨日初春と仲良く話していた二人組も一緒だった。
一人は呆れ顔、もう一人はにやけ顔。

初春はというと―――顔を真っ赤にしていた。


「ど、どうしたんれすは!? わ、わたしはここにいまするのですの!?」

「初春、それはわたくしに対するあてつけですの?」


とんでもなく近い位置に顔がある。
両手は拳銃を突きつけられたときのように手持ち無沙汰にあげられていて、目は焦点を定めないまま回転していて。

自分はそんな彼女の胸のあたりに顔をうずめて、しがみついていた。


「ほら! そこで母性本能発揮だよ! 頭をやさしくなでてあげるのがセオリー!」

「コ、コウレスハ?」


ぎこちなく垣根の頭をなでる初春。なんで片言なんだよ、とはつっこまずに抱きついていた腕をほどいた。
隣にいた長髪の女はそれを見て、つまらなさそうに「ちぇ」とつぶやいている。
251 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 00:24:14.32 ID:GvwVNzQo


「いやーしかしあれだねー、昨日見たときも思ったけど、美形ですねー、垣根さん」

「初春がイチコロになるわけですの」


適当なことをぼやく二人。多分この二人も中学生だろう、と垣根は瞬時に判断した。
―――どこを見て判断したかはもちろんいえないが。


「……ちゃんと表示されてますけど?」


初春が横から見つめていた。今にも「この浮気者」とでも言いださんばかりの表情で。
そう視線で訴えられても不可抗力は防ぎようがない。

やっぱりそのプログラム、改良の余地ありだ、とごまかしてみたがうまく伝わったかどうかはわからなかった。


「えっと、夜にお話ししましたよね? こっちがジャッジメントの白井さん。こっちは親友の佐天さんです」

「……ほお、わたくしは親友ではないと」

「白井さんは揚げ足を取るのが趣味なんでふぉッ!?」


言うなりほっぺたを両手で摘まれていた。
仲がよさそうだ。もしかして紹介しに来たのかと思い、垣根も態度をそれに合わせる。
この流れなら自分に分があると踏んだのだ。

さきほどのジョークに続き、先日のデートの借りを返してやるつもりでこう発信した。


     ・・・
【いつもうちの初春が世話になってるみてえだな。こいつ、甘えたがりだろ?】


三人は携帯を見つめた後、思ったとおりの反応を示してくれた。
初春はすぐに端末を死角に放り込んでしまったが。

これはこれでいじり甲斐がある。
252 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 00:44:01.14 ID:GvwVNzQo


「初春、いいやつでしょ? 確かにちょおーっと幼いところあるんですけど、本当はすごく献身的なんですよー」


佐天と呼ばれた娘が言ってきた。言葉尻からは初春を持ち上げようとする意図が感じられる。
なかなかいいトスだ、と垣根は感心していた。交渉や取引のときにこの手の人材は有効だ、とも。

持ち上げられた当の初春は、「い、いまそういうことは言わなくていいんです!」とかなんとか。
恥ずかしそうに振舞っているが、まんざらでもなさそうだ。すると次には、


「だから大切にしてあげてくださいね!」

【……?】


今度はジョークではなさそうである。

―――おい、なんだ?

垣根はそこで思考を一旦停止させた。
……なんでこの女は俺の前でそういうことを言い出す?
さっきのは冗談にしても、こいつらの中ではどういう流れで話が進んでるんだ?

あれ。


【……俺らって付き合ってるのか?】


きょとんとした顔で初春を見つめた。
見つめられた初春は、また赤面してから一言、


「……え? え、え? え????」


と、宇宙人にでも出くわしたかのような素っ頓狂な声を発していた。
ゆっくりと視線を佐天に向けると、彼女はこちらに見えないように肩を震わせて笑っているようだ。

―――なんだ、そういうことか。
253 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 00:57:07.53 ID:GvwVNzQo


【――わかった、大切にする。このガキんちょは甘えたがりの寂しがりだからな。身分は病人と介護人だが、俺の包容力にその常識は通用s】

「う、嘘も大概にしてください!! 佐天さんも、いちいちからかわないでくださいよっ!!」


途中で携帯を閉じられてしまった。
どうやらそこまでガキではなさそうだ。残念。もうちょっとで顔から湯気を出せそうだったのに。

目配せして佐天に作戦失敗を告げる。受け取った後、彼女は片目をつぶってウインクしてきた。
こいつとは息が合いそうだ。垣根は静かに、だが確かに直感でそう感じた。


「……、自分だって…………甘えんぼのくせに」


ぼそりと、それでいて聞こえるように初春が言ったのを聞き逃さなかった。


―――あ、あまえんぼだぁ?
お前は誰に向かってものを言っているのだ。

見開いた目で初春をにらみつけるが、彼女は背中を向けると、持っていた花を病室に飾りながら一言、


「じゃーもうお散歩してあげませんよー?」


と案の定すねていた。
これだからガキは、といいたくなるが、その提案は卑怯というものである。
垣根は思いつくかぎりの反論をしてみるが、どれも相手にされない。


「いやー仲がよろしくて。初春ー、あたしたち先に帰ってるねー」

「え、もう行っちゃうんですか?」


何かを察したように佐天が言い出したのはそのすぐ後だった。
254 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 01:13:45.96 ID:GvwVNzQo


「やれやれ。もう秋だというのに、この病室は残暑が厳しいですこと。熱に絆される前に退散しますのよ」

「………ちゃんと帰るんだぞっ♪」


嬉しそうに佐天が言って、ドアの向こうへと消えていった。一瞬初春は「?」という顔をしていたが、すぐに真っ赤になる。
わかりやすすぎて面白いが、本人は疲れないのだろうか。

にぎやかだった病室が、話の切れ目を境に急に静かになった気がした。
だがあの地下室のような寒気のする静かさではない。
凪のような、おだやかなそれである。


【なんだ、また花買ってきたのか。……鉢まで】

「えへへ。このお花は水栽培できないですからね。窓際においておきます」

【そのうちここがお花畑になっちまうな】


それはそれで素敵じゃないですか、といいながら初春は鉢の位置を調整している。
お花畑の意味わかってるのかよ、とは言わないでおいたが。

それはあまり見かけない花だった。リンドウではない。


「あと、これ。こっちは暇なときに読む用です」


それは表紙にはカラフルな花がたくさん印刷されている、図鑑のような本だった。
渡されてから適当にページをめくると、季節ごとに植物がまとめられている。

―――花言葉も。

わざわざどこでこんなものを調達してきたのか、と思うや否や、初春がページをめくっている垣根のすぐ横に顔をよせてきた。


【お、おい】

「えーとどこでしたっけ。ルピナス、ルピナス……あった」


垣根の顔とは距離にして10センチもない。横を向いたら頬に唇が触れてしまいそうである。
255 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 01:17:20.51 ID:GvwVNzQo
ちょっと区切りが悪いですが今日はここまでにします。続きは明日書きます。
ちなみにこのSSの垣根帝督は某アーティストの某楽曲をテーマにして描写してたり。どうでもいいことですが。

それでは皆様、おやすみなさい。
256 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 01:23:09.44 ID:xz7DG.AO
乙、鉢てことは根付くタイプのか
まあ現担ぎより会話ネタ優先だな
257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 07:39:39.97 ID:MPtbzO.o
病室に鉢はだめえええ
258 :しまった。 ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 11:42:04.99 ID:KqyG4u2o
大丈夫だまだあわてあわわてわわあわあわあわわあわきん
常識知らずなとこ見せて死にたいですが続き投下します。
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 12:07:18.98 ID:fy/SUUAO
ktー!!
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 12:09:31.53 ID:MZSWCf.o
常識は通用しない人だから大丈夫さ
261 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 12:22:58.20 ID:KqyG4u2o


「これですこれ。……こほん。ルピナスの花言葉はー、“母性愛“です! ふふ、垣根さんは甘えん坊さんですから?」


初春はページを指差してくすくすと笑っている。
自分は花言葉に詳しいほうではないが、どうやらひとつの花につき複数の言葉が設定されているらしい。

それはともかく、病人の自分に知識を披露するのがこいつはそんなに楽しいのだろうか。
垣根は慣れないやり取りにちょっと面食らっていた。

が、そこは年の功。
初春のペースに巻き込まれないように、すぐに頭を切り替えてこう切り出してみた。


【へえ。こっちの意味じゃねえの? 俺はてっきりこれかと】

「ん、どれですか?」


垣根が指差した花言葉は、『あなたは私の安らぎ』。


「えっ………」

【これでも俺、包容力はある方だと思うんだが。抱きしめてやろうか?】


初春は言われてから数秒間固まっていた。
意味が理解できないのか、あるいは―――。


「だっ、だからからかわないでくださいよっ!?」

【テメェはすぐ真に受けるからな】


声は出さないが、にやにやと笑っている。
窓辺から差し込む西日が、脱色された彼の金色の髪の透明感をさらに高めていた。

こうしてみると、元は茶色だったのかもしれない。
時間の経過で色落ちしたのか。

初春はやっぱり今度染め直してなげよう、とひそかに誓った。
262 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 12:41:24.27 ID:KqyG4u2o


「そ、それでですね」


距離感にようやく気づいたのか、初春は肩をびくっと揺らした後、ベッドから離れて何やら恥ずかしそうにもじもじし始めた。
まだ何かあるのか。

こういうときに言葉が使えたら便利だ。
携帯を使ってのコミュニケーションは、双方向に見えて実は一方的な側面の方が大きい。
初春が画面を閉じたらいつでも遮断できるように。
いくら垣根が彼女をいじって弄んだとしても、結局は彼女の方が優位な立場にあるのだ。

垣根にはなんとなくそれが気に入らない。


「……えっと。これからは、お水をあげにこようかと」

【は?】

「で、ですから、鉢にお水をですね……」


この中学生は何を言っているのだろう。
花壇に水くらい自分でやれる。もしかして一人では本当に何もできないと思っているのだろうか。

いや、その前にそもそも―――、


【あのな初春。俺は常識破りだが常識知らずじゃねぇぞ】

「へ?」


ため息をついて一呼吸おいてから、垣根はすっぱりと言い切った。


【お見舞いに花を持ってきてくれたのはいいけどよ。そのうち看護士やら医者やらに撤去されちまうぞ。
 テメェら中学生には常識はねえのかよ? 根付く花は病院じゃタブーだぜ。
 さっきの花畑っつーのはそういう意味だ。寝ついた俺に三途の川渡れってのか?】

「………ええと」


初春はその言葉に照れたわけでも申し訳なさそうな態度を返すわけでもなく、何か顎に手をあてて一考していた。
それは何かの言い方を考えているような素振りだ。
垣根にはその意図が分からず、【なんだよ】としか返せないが。
263 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 12:52:33.87 ID:KqyG4u2o


「白井さんにもそれ言われたんですけど、私はそうは思ってなくて」

【え?】

「……垣根さんの場合は、しっかりと地面に足をつけて歩いたほうがいいんです。ううん、歩けるようになれるはずなんです。
 それこそルピナスが地中に根を生やすように。垣根さんは枯れた花なんかじゃありません。この私が立派に育ててみせます」


窓際のルピナスは何も語らずにこちらを見つめている。
お前は俺についてこれるか? とでも言いたげに。
そのカラフルな花びらが、垣根に対して挑戦的な態度をとっているような錯覚を生んでいた。


【……ちょっと無理がねぇかそれ】

「い、いいんです! ちゃんと先生たちにもそう説明しましたしっ!」


そんな乙女チックな言い分でよく通用したものだ。
自分の未元物質だって良識は壊せないぞと垣根はあきれて返したが、初春は全く相手にしない。

代わりにまた、手を握ってきた。

―――いつも思うが、こいつは照れ症なくせに平気でこういうことをしてくる。
多分それは病人として接しているから平気、とかいうわけのわからん理屈なんだろうが、垣根にしてみればいい迷惑である。

本当に、“いい”迷惑だ。


「がんばりましょうね。私応援してますから」

【はっ、テメェは俺の主治医かよ】

「お世話係、って言ってください♪」


めんどくせぇ世話係だな、と答えて垣根も手を握り返した。
気づけばいくつかの花が自分の周りに咲き誇っている。

どの花が一番なのだろう。

どの花が唯一なのだろう。


などと、くだらないことを考えられるくらいには垣根の心は落ち着きを取り戻していた。
西日が眩しい。完全下校時刻はもうすぐだ。

264 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 13:00:34.05 ID:A5atLAAO
投下キター!
>>258 あわきんww
265 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 13:03:00.12 ID:.m2T3xso
うっひょー
266 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 13:22:10.28 ID:KqyG4u2o

                                     ※

荷物をまとめて病室から出ると、廊下に木山がいた。
腕を組んで、片手にはコーヒーを持っている。
カレー専門とか言ってたのは何だったのだろう。


「少しいいかい」


あまり時間はないが、おそらく垣根についてのことだろう。二つ返事で了承した。

そういえば彼女はまだ保釈中なのだろうか。
例の事件のときは借り出されて表に出てきていたようだが。


「私の話はいいだろう? 君に言っておきたいことがあってね」


首で合図を出して、廊下をゆっくりと歩き出す木山。
もったいつけた言い分は昔からだ。

初春と木山はそれなりに縁があって、何回か行動をともにしている。

最初は敵。次には―――仲間として。
難しい言葉を使ったり、奇怪な行動を取ったり、常識人の初春からしたら少し感覚がズレているタイプの天才だが、
行動の基準となる信念については一定の理解を示していた。


(それでもやっぱり……、簡単には許されないのかな)


罪に対する哲学について、特段の教養を有しているわけではない初春。
それでもなんとなくはがゆい感覚を覚えてしまう。

罪は許されるのか?という問いに答えるのは誰か。

それは垣根についても同様だった。

267 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 13:32:16.03 ID:KqyG4u2o


「彼を見ていて何か気づいたことはないか」

「え?」


廊下を歩きながら木山が言う。
単純に会話をつなぎたいのか、何かを掘り出そうとしているのかはわからなかった。


「……特には。何かよくない兆候でもあるんですか?」

「いや。これから君に説明することに差し支えがあっては困るんでね、確認みたいなものだ」


よく意味がわからない。
説明? 調べていて何かつかんだことでもあるのだろうか。


「その……、垣根さんは……、元通りになれるんでしょうか」

「私は研究者であって医者ではない。自分の領域ならばアドバイスしたり何かを作ったりはできるが……」


そう、ですよね、と気の抜けた声を出してうつむく初春。
絶対、という言葉は専門家である人ほど多用を避ける傾向がある。

冥土帰しですら、彼を完治させるという保障はしてくれなかった。
だからこそこうして死力を尽くして彼を診ているのだ。

子供っぽい自分の発想が少しだけ憎らしかった。


「ついたよ。中に入ってごらん」


立ち止まった先にあるのは、中庭へと通じるドアだった。
ドアはガラス張りになっていて、先には自然が詰まった開けた空間が広がっている。

―――庭園。初春にはすぐ、そこで車椅子をこぐ垣根が想像できた。
268 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 14:01:07.15 ID:KqyG4u2o


「そろそろリハビリを始めたらどうか、と先生と話していてね」

「リハビリ」


リフレインする。つまり垣根が正常な生活を送れるように訓練するということだろう。
そういえば、病院で最初に会ったときに比べて垣根はどこか人間らしさというか、生活感のあふれる表情をするようになった。気がする。

もっとも初春の記憶にあるのは彼が昏睡していたときと、昨日の記憶だけだが。
木山は少し間をとってから、ゆっくりと口を開いた。

どこから話し始めようか、と悩んでいる様子が伺える。


「……君は彼の意識が“向こう側”に存在しているというのは知っているね」

「はい」


電子の世界に存在する脳。
冥土帰しは


「これは仮説の域を出ないから断定表現はできないのだが―――。そもそも最初から彼のケースは非常に珍しかった。
 いや、珍しいを通り越して唯一のものかもしれない。医学の専門家である先生も頭を抱えるくらい、稀有な事例だ。
 意識ははっきりしているし、上半身の神経は問題なくつながっているのに、どういうわけか細部にまで命令が伝わっていない。
 それでいてこちらとコミュニケーションを取ることはできる。が、それも安定しない。
 私たちは彼の体が“端末”であり、サーバ内に存在する電子データが“本体”であるという予測をたてて彼を調べてみた。
 彼の脳は、あの巨大なネットワークの中に閉じ込められているのではないかと」


うんうん、と無言でうなづく初春。
木山はそこまで言ったところで、初春の顔をじっとみつめてきた。

何だろう、と戸惑っていると、


「―――何かに似ていると思わないか?」


すぐにピンときた。
昨日もそれは初春の頭を過ぎったことである。


「……、あのときの事件の……、佐天さんや……、先生の教え子たち」


木山は目をつぶり、続きを語る。
269 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 14:01:48.50 ID:KqyG4u2o
みすった。

冥土帰しは


ってとこ削除してください。
270 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 14:31:50.07 ID:KqyG4u2o

 レベルアッパー   
「あのときの症状と似ているだろう。何をきっかけにそうなってしまったかはわからないが、そう考えるのが一番自然だ。
 ちなみに彼のワイヤレス受信機の雛形はあれだよ。気づいていたかい?」

「えっ……! で、でもそれじゃ……っ」

「安心しなさい。あれは彼自身の脳波を受信する仕様になっている。改良を重ねたものだから昏睡する心配はないよ。
 君に怒られたらどうしようかと思ったがね。……それで、ここからが本当に仮説なのだが」


コーヒーは冷めているようだ。
木山は焦点をカップの中心にあわせた。小刻みに波をたたせている。


「……正直、リハビリといっても彼の意識化に直接干渉を与えるのは無理だ。君の考案したあの翻訳プログラムはツールとしては不完全。
 コミュニケーションというのは確かに情報の伝達ではあるが、そこには多分に意志や感情が入り込んでしまう。
 あれ以上改良してもおそらく同じだろう。だが、もしも“端末”である彼の体が、実は何かしらの情報を受信していたとしたら?」

「何かしらの……情報?」

「うん。例えが難しいが―――。君は情報処理が得意だから、それでたとえようか。
 音声ファイルの形式Aを再生するソフトがここにある。サポートしている形式はAのみで、他のタイプの拡張子は適応されない。
 が、君が再生したいのは形式Bの音声ファイルだ。さて、どうやって出力する?」


コーヒーをすする木山。初春は即座に自分の知識を脳内から掘り出した。

―――エンコード。ある形式のデータを一定の規則に基づいて別の形式のデータに変換すること。
基本中の基本だ。


「そう。仮説にたどり着くきっかけは君のプログラムだった。
 体も動かせているし、言語を自由に使うこともできている彼は、確実に本体から何かしらの情報を得ている。
 不完全だし、不安定なそれだがね。―――つまり彼の“本体”から発信されているはずの形式Bのファイルをこちらでエンコードしてあげれば、
 彼の体は元通りに動いてもいいはずなんだ。仮説が正しければ、だが」

「じゃ、じゃあ、エンコードするためのソフトさえ発明できれば、垣根さんは……!」

「ところがそうもいかない」


木山はきっぱりと言った。
271 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 15:02:09.95 ID:KqyG4u2o

                                     レベルアッパー
「仮説ばかりで申し訳ないのだが、彼の症状が私の開発した幻想御手と似たようなものであるならば、
 変換に使用するサーバー側の処理速度が圧倒的に足りない。シナプスという構造を知っているか? 
 人間の神経を自動で操るだけでも天文学的な数の命令を“変換”しなくてはいけないんだ、
 これに彼の演算能力を足したら、一体どれだけの数のスーパーコンピュータが必要だと思う?
 ―――さらに、あのサーバがもしも彼の脳をまるごと移植したものであるならば、すでにHDは彼の脳で埋め尽くされているに違いない。
 そこに追加した脳を外付けで足したらどうなる? またあのときと同じことの繰り返しだ。脳に取り込まれて、人が倒れる」


初春の脳裏にあの事件の顛末が浮かんだ。
『幻想御手』は音声ファイルを媒介に、共感覚性を利用して複数の人間の脳を繋げた「一つの巨大な脳」を生み出すシステム。
副作用として最終的にはシステムに意識が組み込まれてしまう。

垣根の演算能力や活動を支えるには、それ相応のスペックと容量を持つ何かが必要だということだろう。


「―――そんな危険なことはもうできない。場合によっては彼の脳がデリートされてしまうかもしれない。よってこの案は却下だ」

「じゃあ……、リハビリって? 何のためにするんですか?」

「仮説、といっただろう? 今話したことがすべて正しいとは私も思っていない。まだ調べることが山ほどあるからね。
 君に説明したのは何かつかんだことがあったら教えてほしいからだよ」


代案、といったところだろうか。
たしかに木山の言い分には一応の筋が通っているようには聞こえたが、垣根の意識がそもそも本当にあちらにあるのかどうかも断定するものはない。
ならば他の場合も想定して治療をする、多分そんなところだろう。


「これから毎日やっていくリハビリは簡単なものだ。歩行訓練をしたり、ゲームをしたり、音楽を聴いたり、―――花を見たりする。
 思ったことや感じたことを書き取ったり、足をつかんで動かしてみたり。なんでもいい。定期的にこちらから指示する」

「………」


ふと疑問に思った。リハビリの内容ももちろんそうだが、なぜ自分が?
院内にはリハビリのスペシャリストがいるだろうし、案について理解の深い木山や冥土帰しが行うのが一番なのではないだろうか。


「なんで私が、という顔をしているな」


木山は少しだけ微笑んでいた。
272 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 15:10:51.06 ID:KqyG4u2o


「簡単なことだよ。

  ―――君といるとき、彼は少しだけ饒舌になるから」


不意に言われて胸がきゅんとなる。
そうなのだろうか。自分としてはありのままに彼と向き合っているだけだし、見ている限り彼の態度は普段とあまり変わらないような。

―――と、その前に気づくことがあった。


「……、先生、あのプログラムを」

「ふう、ばれてしまったか。何、ちょっと覗いただけだよ。君がパソコンを忘れて帰るのがいけないだろう?」


どうやら垣根のプライバシーはどんどん保護されない方向に向かっているようだ。
気の毒だが仕方ない。
それよりもこれからのことが心配だ。うまくできるだろうか。彼を、救えるだろうか。


「大丈夫。こちらも全力でサポートする。君は平気なのか? 時間が取られてしまうぞ。年頃の娘には貴重な放課後じゃないのか」

「いえ。もう決めましたから」

「ほう」


初春は気づけば別の意味で脈を打っている胸をおさえて、目の前に広がる庭園を見た。
強い視線。誓うような瞳で。


「私は、彼に水をあげるって。約束したんです」


綺麗に咲くといいな、と隣で木山が言った。庭園には光と色が満ちている。

垣根の未来もこうだといいのに。初春はいつまでもそんなことを考えていた。

………

……


273 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 15:11:44.54 ID:KqyG4u2o
休憩。
274 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 15:21:21.23 ID:Dhr.hEAO
C

ていとくンマジ電子!
275 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 16:50:42.97 ID:7XBTvGIo
鉢に関してはなんとかなったなw

>>274
不覚にも……
276 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 17:26:00.41 ID:.m2T3xso
うひゅう……ふっひゅぅぅ……
277 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 22:05:58.15 ID:KqyG4u2o

                                   ※

【初春、三日坊主って言葉知ってるか】

「はい?」


片手間で返事に答えるのは初春飾利。
その片足にはなぜか二人三脚の紐がくくりつけられている。
今しがた二人は30Mほどの距離を肩を組んで走り抜けたばかりだ。

ぱっと見た感じ、運動会の競技でもやっているように見えるこの風景は紛れもなくリハビリである。
……天才医師と天才科学者のお墨付きの。

その証拠にガラスの向こう側では何人かの医師が何やら手元の資料に書き込みをしている。
垣根にしてみればまるで曲芸をやらされているような感覚だった。


【……、これで三日目だぞ。そろそろつっこんでいいよな?】

「えーと、これが終わったらあっちで私と大富豪です。その後は神経衰弱」

【聞けよクソボケ。 ていうか二人でやるのかよ? どんな格差社会だよ。やってて楽しいかそんなもん】

「あ、カードゲームは嫌ですか? ……ううん、そしたらあっちでお花の鑑賞会ですね! 私あれが一番楽しいです」


ため息しか出ない。
そもそも展開からしておかしかったのだ。

病院で眠りこけていることにも飽き、あの地下室の雰囲気は吐き気がするほど味わった。
初春からもらった本など、一日でほぼすべてを記憶してしまった。

その合間に入ってきた朗報が、リハビリ。それもいきなり。突然にだ。


最初に聞いたときはどうでもいいと思っていた。今更何を、とも。
そもそもこの体はまともなリハビリなんざ受け付けるはずがない。
かといってあの天使から聞かされたシステムをこの馬鹿どもに話したところで、理解はされど応用力のある補助装置など生み出せるはずがない。

だから、退屈しのぎくらいに考えていた。それなのに―――


【―――この馬鹿がはりきりやがるから】

「馬鹿って誰のことですか? ほら、次いきますよー」

278 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 22:20:53.73 ID:KqyG4u2o

垣根と初春の様子を書き留める医者たちの表情は真剣そのものなのだが、
実際にそれをやっている身としては逆にそれがこっけいに感じてしまう。
一体あいつらはどんな内容を書いているんだろう。
まったく意味がわからない。何の目的でやっているのかもわからない。というか恥ずかしい。それはもう色んな意味で。

……もともと退屈しのぎだったんだから、運動するだけならまだいいとして。
垣根がもっとも意味不明なのは、それ以外の部分だ。
この中学生とカードゲームをしたり、音楽を聴いて感想を言い合ったり、花を見て感想を言い合うとかいう拷問。


「垣根さーん、この花どうです?」
【花だ】
「いや、もっと色々……」
【赤い】
「………そうじゃなくて」
【植物】


とかなんとか、この程度のやり取りを記録して何になるのか。
結果、これはあの木山とかいう女が自分の気休めに考案したカウンセリングのようなものだと考えるに至った。
それにしたって、内容が幼稚すぎて失笑ものだが。


【……あのな。まず今みてぇな運動が意味ねぇのはわかるよな? 今だってほとんどテメェが俺を引っ張ってたじゃねぇか】

「う……、そ、それはあれですよ、垣根さんが掛け声出さないから! いちにっ、いちにって言わないから!」

【んな小っ恥ずかしいことこの俺がやるわけねぇだろうが! なんだその昭和の根性論みてぇのは?!】

「あきらめちゃだめです! どんなことでも最初は小さいことの積み重ねからです! 塵も積もればなんとやらですよ、垣根さん!」


俺は積もった塵をあいつらに捨てられてるような気がするんだが、とげんなりして返した。
初春が張り切っているところがさらに痛々しい。
ガラスの向こう側をにらみつけると、木山春生が笑って手を振っていた。

……くそったれ。

そうはき捨てるも、なぜかリタイアを言い出さない垣根帝督であった。
279 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 22:50:20.34 ID:KqyG4u2o


「じゃあちょっと気分転換しましょうか。今からやるのはシンパシーってゲームです。知ってますか?」

【はぁ、しりませんねぇどうでもいいですねぇ】


車椅子の前で正座している初春が持っているのはトランプくらいの大きさのカード束。
ぱさぱさと手際よくシャッフルしながら、楽しそうに解説してくる。
ほとんど抜け殻のようになった垣根はとりあえずやりたいようにやらせてやることにした。

―――と。そのとき不意に妙な考えが頭を過ぎってしまった。
世間的にこれはどう見てもカップルが部屋で遊んでいるようにしか映らないのでは。
暗部組織の住民が。中学生と。部屋で。


【中学生……、かっぷる……】

「あ、そうですそんなかんじです! 連想ゲームみたいな!」


否定するのも面倒になって、言われるがままに紙とペンを手に持つ。
そういえば、能力開発のときこの手のゲームは色々やった。
当時、自分は何か人がやらないようなことをするのが好きだった。また、受身な行動よりも自分で生み出す方が得意だったような。
複雑な形のブロックを組み合わせて斬新な形の建物をつくったり、おもちゃを分解して新しいおもちゃを作ったり。

―――あの頃は純粋にゲームを楽しめていた気がする。
暗部に入ってもあの手この手を使って相手を出し抜いたり、びっくりさせたりするときは楽しかった。
発現する能力が性格に関係しているというのは、案外本当かもしれない。


「じゃあお題です。……秋、ですね。この言葉から垣根さんが連想するのは何ですか? 書いてください」

【いいけど。これってどうしたら勝ちなんだよ】

「えーと……、よくわからないですけど、どれが勝ちってことはないみたいです」

【はぁ?】

「と、とにかく私もやるので、がんばりましょう!」


何をだよ、とつっこむ気力も失せた垣根は、失いかけた子供心をなんとか呼び覚まそうと苦心するのだった。
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 23:09:27.54 ID:smiTNwDO
初春かいがいしいのう
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 23:16:04.69 ID:UVhLFNwo
もォ、こいつら結婚しちゃえばいいンじゃないかな
282 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 23:23:05.50 ID:KqyG4u2o

――――――

そんな垣根と初春を見守るのは二人の天才。木山春生とカエル顔の医者、通称冥土帰しである。
同じ患者を癒すべくここにいる二人だが、その態度は対照的だった。
冥土帰しはくすくすと笑いながら終始楽しそうに様子を眺めているのに対して、木山は難しい表情を崩さない。


「こうして見ていると懐かしいものだね? 僕もあのゲームはよくやったよ」

「………」


木山の頭にあるのは“あの件”について。垣根帝督をつけていた何者か。正体不明の人物X。それに付随して彼を取り巻くバックグラウンド。
もちろんこれだけの情報で特定されるような存在などいるはずもないが、
垣根について詳しく知っている彼ならば心当たりくらいはあるかもしれないと。


(暗部、とかいう集団についても知っていておかしくはない)


そもそも木山が病院に呼ばれたのは特例である。
「脳科学およびAIM拡散力場の専門家がほしい」。伝達はこれだけだった。
“なぜ自分が呼ばれたのか”よりも“なぜ彼だけでは解決できないのか”の方が気になる。
冥土帰しはそんな質問に対して、


「単純に専門範囲の違いだね? 彼みたいなケースについては君の知恵もいるだろうから」


と称してうながしていたし、自分も最初はそんなものかと思っていた。

―――が、どうも臭い。あまりに手際がよすぎる。ワイヤレス受信機の開発はまるで予期していたかのように、すぐに形にしてくれた。
あの事件のときの様子からしても、彼に治せないものなどないのではと思わせるくらいの腕前なのだ。

それなのに自分を呼んだのはなぜ。
どこまでこの人は知っている?どこまでこの人は意図している?


「君は子供は好きかな?」

「あ……、……え?」


ぼーっとしていたところを話しかけられたので返事に戸惑う木山。
283 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/16(火) 23:41:55.48 ID:KqyG4u2o


「なぜそんなことを聞くんです? 先生なら知っているでしょう」

「おや、否定しなくなったんだね? 成長したのかもしれないね」


微笑を浮かべてこちらを振り向く冥土帰し。瞳は年齢相応の優しさと、達観した光がうつっている。


「……三歳までは天才的な絵を描く子供が、たった10年のうちにこの世の既成概念にとりこまれてしまう。
 本来ひとは自由な発想を持ちえる生き物なんだね。感性を守りぬけた人々はおそらくいつまでも若い。
 ゆえに、大人の目から見たらそれが時々、この上なく危うく見えたりもする。そしてしだいに過保護になる。
 ―――それが彼らの想像力を蝕んでいるとも知らずにね?」

「………」


冥土帰しが言っていることがどのポイントについてのことなのかはわからなかったが、そのセンテンスで木山は理解した。
―――やっぱり、この人はすべてを知っている。
おそらく木山を呼んだ理由も、垣根帝督の背景にあるものも、すべて。


「―――なぜ危険にさらすようなことを推奨するんですか。先生は彼らの背後にあるものを知っているでしょう」

「痛みを知って学ぶこともあるからだね。いや、痛みと癒し、その両方がないと人は成長できない」

「暴論です!!」


周りにいた医者が、声を荒げた木山の方を振り向いてきた。
はっとなってからうつむきがちになる木山を、今度は正面から見て冥土帰しは口を開く。


「君は少し責任感が強すぎる。ときにはいいことだけれどね」

「私は……、もう自分の前で、人が眠ったままになるのは……」

「ならなかった」

「………」


ぎり、と拳を握る。慰めに聞こえたわけではない。単純にあのときの光景を思い出してしまったから。
284 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 23:50:01.20 ID:.m2T3xso
うひょっひょー
285 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/17(水) 00:01:49.43 ID:cGf0bPAo

「少し語ってもいいかな」


木山から少し離れた場所に椅子があった。
手招きしながらそこに座すと、顎の前で手を組み、冥土帰しは話し始める。


「元来、人の命は本来僕たちが手をつけていいものではないのかもしれないね。なぜなら僕たちは神様ではない。
 ないし、多分なってはいけないんだ。それでも僕は人を治す。それもなぜかって? 善悪の判断ができないからだね。
 いいことと悪いことの価値観は星の数ほどあるけれど、目の前で苦しんでいる人を治すという行為はおそらく正しい。
 これが僕の正義だ。そして、そこまでの正義なんだよ。そこから先は患者が決めることであって、僕が決めることではない。
 だから僕は患者が誰だろうと彼らを治す。たとえその先に地獄が待っていようとも、また戻ったこの地で、彼らを必ず救いだす。
 ―――冥土帰しの名にかけてね」

「戦地に人を送るくらいなら、私は―――」

「木山くん。君も僕の患者だよ?」


冥土帰しの声色は変わってはいなかった。語調も、表情も。
それでもその言葉には刺すような説得力がある。
木山は反論できない。なぜなら、彼が語っていることは、まぎれもない正義だから。


「君は立派に教え子たちを救い出した。それは誰にも否定しようのない事実なんだ。もう過去の自分を責めるのはやめなさい。
 そして、君の亡霊を彼女らに押し付けることもやってはだめだ。あの二人はきっと立派に歩き出すよ。多少は放っておいてもね」

「………」

「ああそれと―――、例のアレ、もうそろそろいいんじゃないかな? 暴走の心配はテストしなくても平気だろう。
 僕が調べたからね。若干期間が短いが、うん、まあなんとかなるだろう」

「……!? なぜそれを……」


冥土帰しは立ち上がる。ヘヴン・キャンセラー。その名に恥じぬ威厳と、信念を携えた男。


「―――僕を誰だと思っている?」


………

……

286 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/17(水) 00:07:33.97 ID:cGf0bPAo
本日ここまで。説明不足なのは仕様なのもありますが、なにぶん口下手でわかりにくかったらすいません。
ではまた近いうちに。おやすみなさい
287 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 00:45:03.18 ID:CVWHHHoo
> 「―――僕を誰だと思っている?」
やっぱゲコ太先生かっこいいな 乙
288 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:06:22.16 ID:U3K1KQSO
さくしゃーん?
289 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 01:17:37.77 ID:/iNfzwSO
まぁ病的ではあるが
良い怪我人を治す事と悪い怪我人を治す事とは違う
学園都市という悲劇の温床を作ったのはゲコ太と言っても過言じゃない
290 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 02:11:45.35 ID:QZljVsAO
誰が悪い怪我人で誰がいい怪我人かなんて個人の価値観では判断できないって意味じゃないのか?そうじゃなかったらアレイスターみたいなことにもならなかったわけだし
ともあれ乙 先が楽しみだ
291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 22:30:33.01 ID:59q1DEDO
無糖コーヒーをわけてください一方さん
甘くて死にそうです
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 19:04:21.00 ID:mBf2zhI0
ここは俺の脳内か
甘甘で大歓迎だぜ・・・
293 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 21:48:52.68 ID:sQpQuhQo
こんばんわ。
いけるとこまで更新します
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 22:00:15.46 ID:0Y6ncw2o
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
295 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 22:03:31.72 ID:ca0A8Aco
うっひょおおおおおおおおおおお
296 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 22:19:18.06 ID:sQpQuhQo

                                      ※


「それじゃあ、最近は放課後ずっと病院に行っているんですの?」


時刻は昼と夕とがすれ違う時間帯。

白井黒子と初春飾利の両名はひさしぶりの支部の掃除に勤しんでいた。
とある先輩曰く、「白井サンの能力を使えば簡単でしょー?」と色々なことを無視した要求をのんだ結果である。

頼んだ当の本人はなぜか帰宅している。
白井は当初不満をもらしていたが、本来掃除というものは始めてからは手がとまらなくなるもの。
能力を使って部屋の整理をしながら、今では軽く会話をかわすくらいに作業ははかどっている。


「はい。リハビリですよ、リハビリ♪」


対する初春はなんだかいつも以上に飴玉の転がるような声を発して答える。
まるでその言葉が持つ響きに酔っているかのようだ。「末期ですわね……」と白井がつぶやくのも無理はない。


「何かいいましたか?」

「いえ、なんというか、傍から見たらわたくしもそんな感じに映っているかもしれませんの……」


「?」と首をかしげる初春はさておき、白井は掃除に専念することにした。
いくら拠点だからといっても汚い環境で仕事をするのは気分的にもいいものではないだろう。
ああ、こんなところまで埃が……、と独り言を言いながら作業をこなしていく。


「……、……白井さん」

「? どうしましたの? 恋の相談ならお断りですのよ、わたくし忙しいので」


こんな状態で惚気られたらたまったものではない。
そもそも二人はどこまで進んだ関係なのだろうか。初春はおそらくおくてだろうが、あの垣根とかいう殿方がどうかわからない。
―――もしかしたら、すでに公共の電波にのせては放送できないとこまでいっているのでは。


「……このッ!! このシミめッ!!! このシミめがァッ!!」

「あ、あの……、話していいですか……」


シミにあたっても仕方がない。
297 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 22:36:32.93 ID:sQpQuhQo


「えっと……。の、惚気じゃないですよ? というかそもそも私と垣根さんはそういう関係じゃなくてですね……」

「ええいっ! 余計に腹が立ちますの!! さっさと仰りなさいな!」


持っていた雑巾をほっぽり出して椅子にどかっ!と腰掛ける白井。
初春はガラスを拭くのに使っていた新聞紙を片手に何やらもじもじと、誰が見ても惚気オーラ満々である。


「……お、男の人ってあれですかね、やっぱり手料理とか、そういうの食べてみたいって思うんですかね」

「いや惚気てるじゃないですの!? 何なんですのよ!?」


近場にあったモップに手を触れ、テレポートで初春の頭上より少し高い位置に移動させる。
「ああっ!?」と奇声を発して倒れてしまう初春。
衝撃自体はそれほどでもなかったのだが、急に頭を叩かれてびっくりしてしまう。ひどいですよーと付け足してももう遅い。
白井は呆れ顔で頬杖をついて言った。


「男性経験が希薄なわたくしに聞くという行為そのものがナメてやがりますの……。
 そんなもの、アレコレ考える前に行動に移してしまえばよろしいのに」

「でも……、ううん……、うまく作れないかも……」

「まだ続けるんですの!? 体内に直接送ってあげてもいいんですのよ!?!」


初春がそんな白井の台詞に構う様子はない。
ぼーっとした、思春期の乙女が放つ独特の表情を保ったまま宙を見つめている。
白井はあきらめて掃除に戻ることにした。くだらない。これ以上付き合いきれたものではないと。


(まったく……、まぁ本人が幸せそうならいいんでしょうけれど……)


初春や白井を取り巻く環境はそうでなくたってトラブルに巻き込まれやすい性質を備えている。
以前はそれで喧嘩というか、なんだか気まずい関係になったし、これでも割と気を遣って接しているのだ。

心配かどうかと聞かれたら、当然心配だが。


(どーせメル友とかいうのも嘘でしょう)


そんなに浅い仲ではない。が、静観できるほどには彼女も成長したということだろうか。
298 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 22:44:28.67 ID:GmkasUDO
新妻初春……




(*゚∀゚)=3
299 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 22:58:29.35 ID:sQpQuhQo


「わたくしもお姉さまについて惚気たい気分ですのよ、まったく。……で? 今日もそのカキネサンのところに?」

「あ……、ええ、はい。えへ、ちょっと今日はですね、無理言って長くいられそうでですねー」

「はいはい。ではさっさと掃除、終わらせますのよ。遅刻しては迷惑がかかるのでしょう?」


雑巾を持って作業に戻る。
詳細を聞くのはもう少し期間を置いてからでもいいだろう。初春だって成長していないわけではない。
おそらく彼女なりのタイミングで打ち明けてくれるはずだ。
これ以上白井がアレコレ詮索するのは、それこそ野暮というものである。


(……はっ! この発想、どう考えても中学生のそれではないのでは……!?)


つっこんでくれる相手は当然いない。自分の達観しつつある姑思考に若干の不安を抱く白井だった。


――――――


帰り道。

もうあたりは夕闇がつつみはじめている。思ったよりも時間がかかってしまった。
この時期の夕暮れは肌寒い。白井も初春もこういう日には手袋くらいは持ってくるべきだった、と反省しながら帰路を急いだ。


「初春、時間は平気ですの? もしも都合が悪いようなら、わたくしが送ってさしあげても……」

「あーはい、多分大丈夫です。今日は遅くなるかもしれないって伝えておいたので」


ならいいのですけれど、といいつつ足取りは軽い。
白井なりに気を遣っているのだが、初春は気づいているだろうか。


「そんなに急がなくても平気ですよ」


気づいていた。それはそれで恥ずかしい。


「べ、べつにわたくしは応援してるわけではなくて、ですの」


初春は答えず、ニコニコと笑って返すだけ。はあ、とため息まじりに急ぐ秋の道の寒さはどこかへ行ってしまった。
300 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 23:11:30.01 ID:sQpQuhQo


「―――白井さん」


初春がまた白井を呼んだ。
少し前を歩いていた白井は最初、「まーた惚気ですの? 続きは病院でやってくださいな」といいかけて、やめた。

なんだか声の雰囲気が違う。振り返ると初春は立ち止まっている。
口調的に、真剣な話らしい。何も今しなくても、といいかけてそれもまた、やめた。


「その……。色々と、話してないことがあるんです。秘密ってわけじゃないんですけど。
 別にここで全部白井さんに話したからってどうなるわけでもないし、……むしろ話すべきなのかもしれないです、けど」

「……、初春、話をするときは整理してからにするべきですのよ」


ごごごめんなさいと謝られるが、白井は相手にしない。
それよりも伝えるべきことがあると思ったからだ。気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと初春に近づき、その口を開いた。


「貴女が誰とどこで何をしていようが、わたくしが取る立場はひとつに決まっていますの。貴女のパートナーとして、悪をくじく。
 初春が道から外れそうなら、それを正す。ときには協力して、ときには敵対しても、ですのよ。わかっているでしょう?」

「白井さん」


別に説教をするのが得意なわけではない。

でもなし崩し的に、信頼関係を甘んじられるのもどうかと思う。
核心が知りたいという気持ちはあるが、もっとそれは初春の中で整理されるときがあるはずだ。
そうなる前に自分のスタンスはしっかり伝えておきたい。そう思っただけのことである。


「だから、ええと、垣根さん……がどんな人でもわたくしは口出ししたりはしませんの。間違っていると思ったら間違っていると言う。
 危険にさらされたときは助ける。それだけのことですのよ。―――それだけ、わたくしは貴女を信頼していますの。
 初春はわかってくれていると思ったのですけれど」


言われて頷くところを見ると、自覚はしていたらしい。けれど確証がないといったところか。
初春らしいといえばらしいが、相変わらずこういう部分はセンチメンタルだなぁと思ってしまう。


(そこが初春のいいところでもあるんですけれどね)

301 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/20(土) 23:41:27.24 ID:sQpQuhQo


「ま、難しい話はまた今度でいいですの。………、それより初春、これ」

「はい?」


白井から手渡されたのはUSBメモリのようなもの。急に渡されたのできょとんとしてしまう。
それは本来初春から渡すことはあっても、白井から受け取るのは珍しい一品だ。


「こほん。まぁー……その、温泉旅行について佐天さんとですね、企画していましたのですが……。
 お姉さまはどうも都合が悪いらしくて一人欠員が出そうなんですの。
 わたくしは……そのぅ、病気のことはよくわかりませんが……ま、まぁリハビリというのもほら、あれですのよ、つまり」


―――今度は白井の方が混乱している。それも初春以上に。

要するに、垣根も誘ってみたらどうか、という意味だろうか。


「そこに一応パンフレットをインストールしておきましたの。あーで、ですがそのあれですのよ? 部屋は別室で、ふ、不純なことは……」

「白井さん……!」


次には飛びついていた。
離れなさいですの! 寒くなんかないですの! と叫ぶ白井を無視して、初春は受け取ったばかりのUSBを握り締める。


……垣根は旅行好きだろうか。

というかそもそも誘って乗り気になってくれるだろうか。

面倒くさそうに、【ありえねえ】とかなんとか、ぶっきらぼうに言われたりはしないだろうか。


(……、でもでも、お花の本は読んでくれてるみたいだし……)


平気だよね、と自分に言い聞かせる。

白井はもう歩き始めていた。
ぶつぶつと照れ隠しをしながら夕日の方向に進む優しい同僚。
自分の周りには素直じゃない人が多いなぁ、などと、寄せ付ける人種を思い返しながら初春は病院へと向かった。
302 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 00:10:51.56 ID:BXb7uR.o

                                    ※

白井と別れて病院に入ると、木山が迎えてくれた。
この環境で、この科学者と会うという状況そのものが当たり前になっている。
いつもなら軽く談笑してから病室に向かうのだが、どうも様子が変だ。
なんだか険しい表情をしているし、髪の毛がいつもにも増してボサボサ。ため息を何回もついていたところが想像できた。


「な、なにかあったんですか?」

「まあ、入ればわかる」


初春は一瞬首を傾げたが、木山が口を開く素振りがないので案内されるがままに病室へと直行する。
いつもは病室で垣根に挨拶してからすぐにリハビリ場に向かうのだが、木山の言い方からして当人に何か異変があったようだ。

今日はしないのかな、リハビリ。初春は少しだけがっかりしたような気持ちを覚えた。


「当人があれではな……」


含みのある言い方が気になるが、とりあえずはついていくしかない。
口調的に垣根の容態が悪化したとかそういう類の事情ではなさそうだが、それにしたって気になる。
こつんこつんと、相変わらず音が響く廊下を歩いて病室にたどり着いたとき、木山がそっと耳元で言った。


「……まぁ、なんというか。頼むよ」


何のことだろう、とやっぱり首をかしげるが、木山は返答しない。
首で部屋を指すだけだ。ままよと思い立ち扉を開いたところ。


「………!」


びっくりするような光景がそこに広がっていた。


303 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 00:26:39.57 ID:BXb7uR.o


「ど、どうしたんですか……これ……」


部屋は相当散らかっていた。
垣根の病室にはそもそも置いてある物品の種類が少ないとはいえ、
そこらじゅうにカップや茶碗、お盆や本などが乱雑にぶちまけられている。
強盗でも入ったかのような光景だ。ベッドの位置もおかしい。点滴や椅子の位置も。何もかも。

おそらくこうした本人だと予測できる垣根帝督は、何事もなかったかのように車椅子に座り、窓の外を眺めていた。


「……何か……、いやなことでもあったんですか?」


初春の質問に答える様子はない。携帯はさっきからぴくりとも動いていなかったからだ。
誰かが入ってきたことは気づいているようで、初春の二つ目の質問を聞いてようやく垣根は体をこちらに向けた。

虚ろな目、というわけではないがどこか濁った印象を覚える。
今まで見たことがない顔だ。

―――この表情を一番うまい言葉で例えるなら、なんだろう。次の言葉をどうやってつなごうか、
などと考えているうちに、手元の携帯が振動を始めた。

慌てて手に取り画面を見ると、




                                      【散歩】




とだけ表示されていた。
散歩……? 散歩をしたい、ということ?


「で、でも垣根さん、今日はリハビリしないと。早く回復してですね、そのうち外も歩けるようになって……、
 あ、そうそう、この前紹介した白井さんっていたでしょ? あの人が気を利かせて」

【散歩。散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩散歩!!】


聞き分けのない子供のように次々と文字が打ち込まれる。
垣根を見ると車椅子の取っ手の部分を両手でガンガンと叩いていた。まるっきり聞き分けのない子供のような仕草だ。


304 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 00:49:12.28 ID:BXb7uR.o


「……そういうわけだ。頼んでいいかい」


声をかけられたその先を見ると、木山がため息をつきながら壁に寄りかかり、こちらを見ていた。


「今朝からずっとあの調子だ。何を言っても聞かない。まったく、子供みたいだと思うだろう? 
 リハビリに飽きただの、初春はどこだ、だの、うるさくて適わない。検査もすっぽかしてこの様だ。
 よっぽど君に会いたかったようだな」

「…ぇ……」


言葉をつなぐのとほぼ同時に、垣根は近くに転がっていた雑誌を投げつけた。
すいと身を起こしてかわす木山。携帯には【余計なこと言ってんじゃねえ】とだけ。

―――そういうことか。

それにしても、やっぱり自分の周りの人間は素直じゃない。垣根は思考の中でも嘘をつく。
初春はプライバシー侵害を避けるために日中は通信を切っていたのだが、それが裏目に出たようである。


【……で、どうすんだよ】

「どうするもこうするも……、はぁ、仕方がない子ですね」


だから俺をガキ扱いするんじゃねえ、と続くのだが、最早初春は見向きもせずに木山にワイヤレス受信機を用意するように頼んでいた。
中学生の前で無視される学園都市第二位。
傍からみてもちょっと憐れな光景だった。


「今日はもう遅いから、ちょっとだけですよ? 明日からちゃんとリハビリ、がんばってくださいね」

【いいから早く】


せかす垣根は少しだけ恥ずかしそうだった。
305 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 01:25:34.99 ID:BXb7uR.o

――――――

日が落ちるのは早いもので、辺りはすっかり暗くなっている。
初春の寮は門限に厳しいほうではないが、さすがに以前散歩したようなルートは辿れないだろう。


「はい、じゃあどこにいきますか? あんまり遠くにはいけないし、お店もそろそろ閉まっちゃいますけど」

【どこでもいい】

「……垣根さん、怒りますよ? 私だって神様じゃないんですから、どこが落ち着く場所かなんてそう毎回毎回……」

【本当にどこでもいいんだ】


垣根の発言には声色というものが存在しない。
だから彼の思考を読み取るとき、初春は表情を見てその意図を判断する必要がある。

今は後ろから車椅子をおしているだけなので、どういう意図でそれをいったのかは不明だが、
あの病室をみる限り精神的にかなり不安定になっているのかもしれない。

考えてみればそれは当たり前のことだ。

狭い病室で、治るかどうかもわからないリハビリに付き合わされ、不自由な体に悩まされる毎日。
話し相手は自分や木山やあの医者くらいなのだろう。垣根は人付き合いが得意そうには見えない。饒舌なのは認めるが。
電脳空間というものがどういった世界なのかはわからないけれど、こんな状況でストレスがたまらないほうがおかしい。

これ以上感情を逆なでするのはやめて、おとなしく言うとおりにしようとした。

目的もなく、とりあえず外の空気を吸うだけでも気分転換になるはず。
ゆっくりと。本当にゆっくりと道を進むことにした。

話題は何にしようかな、とどこかしら漂う妙な気まずさを感じながら初春が口を開こうとすると、


【初春。花の話をしてくれ】


唐突に話しかけられた。

306 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 01:50:28.19 ID:BXb7uR.o


「えっ? 花ですか? ……花……、花の話っていわれても……」

【前にテメェが言ってた歌でもいい。あれはどういう歌詞だっけ】


なんでそんなことを聞くのだろう。以前はあれだけ否定していたのに。

ナンバーワンにならなくてもいい。そんなものは負け犬の言い訳。
ナンバーワンになれないものはオンリーワンにもなれない。

無粋な言い方だなあとは思ったが、正直それを否定する理屈を初春は持ち合わせていなかった。
心ではきっちり筋が通っているつもりなのに、頭の中でうまい言葉にできない。
だからこそ垣根に伝えたかったのに。

ごまかしてことなきを得たのはいいけれど、やっぱりそれは言い訳なのだろうか。


「でも、垣根さんが言うことも一理あると思いますよ。た、確かに、がんばらなくていいってことではないですよね!」

【がんばっても意味ねえやつもいるけどな。才能がねえのにひーこら言ったり。まるで茶番だ】


初春は携帯を見て胸が苦しくなる。

……それはあのリハビリのことを言っているのだろうか。
確かに、あれは正直リハビリといっても精神治療のようなものだ。

お前は子供をあやすような気持ちであれをやっていたのではないか、と聞かれたら言葉につまってしまう。

同情とか憐憫とか、それは多分聞かれて気持ちいいものではない。
しない善よりする偽善とはよくいったものだが、そこに感情が加わるとまた話は別だ。
垣根は本心では迷惑だと思っていたのかも、しれない。

とっさに気の利いた台詞を言おうとするも、初春の口から出てくるのは取り繕うような台詞ばかり。


「……、それはそうですけど……、リハビリだって、木山先生たちが頑張って考えてくれているんだし、効果なら……多少は、その」

【別にテメェとああいう茶番をするのが嫌なわけじゃねえよ。勘違いすんな】


え? と返してもそれ以上返事が返ってくることはなかった。
再び訪れる沈黙。

そよ風に垣根の金色の髪の毛がなびいていた。
307 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 02:27:32.20 ID:BXb7uR.o

道なりに進んできて、折り返してもいいくらいの距離は歩いただろうか。
今度こそ本当に話すことがなくなった初春は、とりあえず花についての知識を一方的に語ることに時間を費やした。
垣根はたまにそれに頷いたり、一言二言感想を付け足したり。終始受け身の態度を崩さなかった。

つまらないのかな、と思ったりもしたが多分垣根は感傷的になっているだけな気がした。
なんとなく、だがほとんど確信して。


「そろそろ戻りますか? どうです、すっきりしましたか?」

【ああ。これ以上ないくらい、中学生の雑談に付き合ったからな】


憎まれ口を叩けるくらいなら上等だろう。
「その雑談に感心していたのは誰です?」とお決まりの返答を投げて、初春は車椅子の向きを変える。

この道を曲がれば、病院の入り口に別方向からアクセスできるはずだ。


(よく考えてみたらこれもリハビリの一環だよね。垣根さん落ち着いたみたいだし、今日もいい時間だったな)


にやけそうになる顔を両手で叩いてから、垣根の顔を覗き込み一言、


「では戻りますよー! 今日もいい子でしたね?」


憎まれ口にきっちり利子をつけてお返しをするのは二人特有のやり取りだった。
この二人の関係はどちらが優位なわけでもなく、お互いがお互いをからかうタイプのものなのだ。
多分じっとしていたらすぐにまた皮肉で返されてしまうだろう。
とりあえずは車椅子を進めて、何を言われてもはいはいとうながすつもりだった。


―――過去形なのは、絶妙のタイミングで彼女は言葉を失うことになったから。


【嘘ついた】

「え」


初春が声をあげたのは垣根の言葉を聞いたからではない。

理由は、

彼の冷たい手が、初春の頬に触れていたから。
308 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 02:38:39.24 ID:xggrAMAO
来てたか、結構な量だし明日じっくり読むか
ちと早いが乙
309 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 02:49:42.78 ID:BXb7uR.o


                    【すっきりなんかしてない。まだ帰りたくない】


それは初春が彼と接した中で、最も明確な意思表示だった。
そして同時に、その内面の中で最も無垢なものを見た気がした。
初春の頬をなでる手のひらは風にさらされて冷たい。けれども、多分それは末端に温度が伝わっただけだろう。

どこが冷たくなっているのか。どこが、凍えそうになっているのか。

彼がどこに帰りたくないかはすぐにわかる。でも、だからといって―――。


「―――でも、じゃあ……、ど、どこに行きたいんですか……?」

【いわせんなばか】


ぎゅっ、という音をたてて、垣根は初春の頬をつまむ。覗きこむ体勢になっていたので表情がまるわかりである。
闇に支配されているこの時間帯では、彼の頬の色までは把握できないが、このときの初春にはそれすらもわかった気がした。


【……初春の家、誰か他のやついるのかよ】


次には固まっていた。なぜ彼女が固まったのかというと、思い当たる理由は色々とある。

―――そもそもこれは本来、女の子が言う台詞じゃないのか? ほらよく、映画とかの別れ際とかに。
逆の立場だったら自分がいうべき台詞なんじゃ……?

―――そして彼はなぜこんな乙女な台詞を本心から言ったの?
こっちがにやけてしまうような台詞を? 嘘をつかずに、本音を吐露して……。

―――最後に、(若干順番がおかしいが) え、うちに来るってどういうこと?
え? なぜ下着のことが頭をよぎるの? ………!!!!


【嫌か?】


垣根帝督は遠慮もせずどしどしと、初春の心のある一室にあがりこんでくる。
気づいたときにはつねられた頬がまた、優しくなでられていた。
ずるい、と思った。本人は意識せずにやっているのだろうが、別に恋愛経験がなくても、これは―――。


「……いやじゃないです、けど……」


そう言って返すのが精一杯だ。
310 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:19:59.64 ID:j7tuSbQo
うっ、うふっ、ふひゅひゅぅぅぅぅ
311 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:35:30.90 ID:B2XwHsAO
変なところで終わったから>>310が壊れちゃったじゃないか。
312 :ごめんなさいコーヒーつくってました ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 03:36:37.36 ID:BXb7uR.o


【ならいいだろ。俺といるのは退屈か?】


なんだか今日の垣根はやけに積極的である。
でも、家に来るっていうことは、つまり、泊まっていくということだろうか。
さすがにそんな事態を想定してはいなかったし、来るなら来るで色々と準備がある。

もちろん主に心の方面の話だが。


「そういうんじゃなくてですね、先生たちがいいっていうかもわからないし、それに……」

【それに?】

「その………、」


少しは気にしてください、といおうかと思ったが、それではまるで自分だけ意識しているみたいなので飲み込んだ。

垣根と自分とはあくまで患者と世話係、の関係だ。
不純な気持ちで舞い上がっては、垣根もやりづらくなるに違いない。多分初春が考えるよりもずっと心は冷え込んでいるのだろう。
自分みたいな、それこそ中学生に哀願するなどいつもの彼なら考えられないことなのだから。


「……寮に男の人を入れてもいいかって、確認しなきゃいけないし……」

【介護っていえばなんとでもなるだろ。……頼むよ。一人になりたくねえんだ】


訴えるような瞳でこちらを見つめてくる垣根。
そんな表情をされたら母性本能を刺激されてしまう。

ただでさえ自分は垣根をケアしてあげたいという気持ちでいっぱいなのだ。
彼が望むことなら、できる限り何でもしてあげたい。それこそ何でも。

―――な……ん…………でも……?


「かっ、垣根さんのえっち!」

【は?】


覗き込む体勢に疲れたのと、今度はこっちが赤面してしまいそうだったので身を引いた。
初春飾利は―――乙女だ。
313 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:39:13.54 ID:j7tuSbQo
っしゃあああああああああああ!!
おっしゃあああああああああああああああああ!!!!
314 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:39:50.20 ID:cDNdZIgo
オウフwwwwこれはこれはwwwwデュフwww
315 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:42:23.66 ID:1W6Dc.AO
コーヒー作ってた>>312萌えぇぇ!
316 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 03:43:53.99 ID:NIqc46E0
初春マジ女の子wwww
317 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 04:03:24.45 ID:BXb7uR.o


「……じゃあ、一応先生にきいてみますけど、駄目だったらあきらめてくださいね」

【大丈夫だ。俺のわがままに常識は通用しねえ】

「自覚してるならこういうわがままは……、その、もうちょっと自重してください……、もお」

【心配するな自覚はしねえ。さあいくぞ初春。ようそろー】


急に元気になった垣根を尻目に、初春は今度こそ車椅子を進めだした。
頭の中ではすでに計算がなされている。まずは木山先生と冥土帰しに許可をもらって、それから寮に電話して―――。


(―――え、でもそしたら料理とか、色々……。あ、垣根さんお風呂とかちゃんとはいってるのかな? ……!)


きらーん。何かが頭でひらめくのを感じた。
垣根とは毎日会ってはいるし、リハビリも誠心誠意をこめて付き合っているつもりだが、まだまだ自分にはできることがある気がする。

そうだ、そう考えてみれば介護の真髄とは24時間体制のそれにあるのではないか。

お風呂やトイレ、料理、その他もろもろ……すべてをフォローしてあげてこそ、真の介護士たる資格を手に入れられるというものだ。


(な、なんか燃えてきたっ! それならそれで、がんばって元気になってもらお!)


手元では垣根から【お、おい初春ちょっとスピード出すぎてねえか】などと意味不明のメッセージが送られてきているが気にしない。
目的が増えた以上、こちらも本気でやる。初春飾利は燃えていた(二回目)。


(……、でも木山先生おとなだし、許してくれそうにないかなぁ)


ちょっぴり不安を感じてしまうあたり、やっぱりそちら方面の事柄から頭が離れないのだろう。
なんていったって、初春は乙女なのだから。


………

……


318 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 04:05:30.81 ID:j7tuSbQo
うっひょー
319 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 04:08:09.13 ID:jqPoJWko
>>318
お前はちょっと賢者になれ
320 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 04:13:21.11 ID:j7tuSbQo
>>319
侮辱はやめてくれないか
321 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 04:34:57.20 ID:cDNdZIgo
……賢者タイム、終わるぞ
322 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 04:38:48.21 ID:BXb7uR.o

                                  ※

「垣根さーん、お風呂わきましたよっ」

【あ?】


気づけば二人は初春の寮にいた。
ここにいたるまでに紆余曲折があったわけではない。思ったよりもずっとスムーズにことは進んだ。
病院に戻ってから木山に事情を話すと、一瞬何かを考えていたが、やがてこう切り出された。


「……年頃の男女とはいえ、垣根くんはこういう状態だしな。入ったの出ただの、面倒な問題も起こるまい」


とかなんとか、さらっととんでもないことを口にして許可をくれた。
彼女としては精神面の安定のほうを優先したいようだ。

ワイヤレス受信機のバッテリーまで用意してくれていて、まるでこうなるのを予測していたかのような手際のよさである。
本来木山は研究者として病院に来ているというのに、今や垣根の主治医の地位として紹介しても差し支えないくらいの敏腕っぷり。
「何かあったらすぐに連絡するように」とだけ言われて病院を出た。

それから寮に一応の許可(こちらは少々てこずったが)をもらい、介護という名目で垣根は部屋にあがっていた。
とはいっても初春の部屋は手すりやその他のバリアフリー的なものが備えられているわけではないので、部屋の真ん中で座っているだけだが。

ちなみに初春が帰りにもろもろの日用品を買い込みすぎていたのは言うまでもない。


「お風呂です。冷めないうちに入りましょう」

【熱いのは好きじゃねえ。………いや、つーか……、“はいりましょう”?】

「え? だって、一人じゃ入れないでしょ? 体、洗ってあげますよ」

【い、いいよいらねえよ、一人で入れる】


そう言って両手を使って立ち上がろうとする垣根。
が、うまく動けずにすぐに床にびたっ!と張り付いてしまう。見るにみかねて初春は肩を貸してあげた。
323 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 05:00:20.92 ID:BXb7uR.o


【いいって。一人ではいれるって。……ってテメェ、何服脱がせようとしてんだよ、このエロ春!】

「あっ。……そ、そうですよね、ごめんなさい。タオル貸しますね。見たりしませんから、そこは大丈夫です」

【そこじゃねえよっ!!!】


無理矢理ふりはらってから床を這いつくばるが、すぐに初春につかまってしまう。
その様子はまるで子供に注射を強要する医者のようだった。

初春の装いは動きやすい短パンとTシャツに着替えられていて、どうやら濡れても平気な仕様になっているようだ。
対する垣根は相変わらずの手術衣。帰りに服も買っていこうとしたのだが、あいにくとお店はどこも閉まっていた。


「もお、言うことを聞いてください! ほら、お風呂も垣根さんが来たから特別仕様ですよ?」

【……おい】


半ば強引に垣根を連れ去って浴室の扉を開くと、そこには信じられない景色が広がっていた。


一面にちりばめられた花、花、花。


赤を基調とした派手な色で埋め尽くされている。
浴槽に入れられた入浴剤はラベンダーの香りを含んでいて、垣根は見るなり絶句して白目を剥きそうになった。


【テメェはどの方角に向かってるんだよ……?】

「これ、造花なんですよ? 綺麗ですよね! 私もはじめてやってみたんですけど、これならリラックスできること間違いなしです!」


初春としては純粋に垣根の精神面を心配しての行動なのだろう。
垣根はいくらメルヘンを自覚しているとはいえ、こんなファンシーな空間に溶け込むのは断固拒否したいところだ。


―――が、できそうにない。


【くそったれ……、それもこれもこの馬鹿げた体のせいで……】

「はい、タオルです。目つぶってますから、巻いてください」


がさがさと衣擦れの音が部屋に響いた。
324 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 05:21:19.87 ID:BXb7uR.o


「いいですかー?じゃあゆっくり入りますよー?」

【ちげぇからな。こういうのを予期してたわけじゃねえからな。ほんとだからな】

「はいはい、わかりましたわかりました。あ、すべらないようにしっかり捕まってくださいね?」


テメェ今さらっと流しただろそうだろ! という文字が浮かぶ画面を初春の眼前に押し付けながら垣根は浴槽に入った。
よいしょ、と掛け声を出して湯船につけてあげる。こういうときにリハビリの効果はあったのかもしれない。
二人三脚やパントマイムの成果といったところか。

今は両手がふさがった初春に変わって今は垣根が携帯端末を持っている。
ワイヤレス受信機はぬれないようにビニールでぐるぐる巻きにしてあるのでなんとかなりそうだが、
やはり体の不自由な人を風呂に入れるだけでも一苦労だ。

逆にそれが初春の介護士としてのHeartに火をつけていたりも、するが。


「お湯あつくないですか? のぼせそうになったら引っ張ってくださいね」

【……ん。ちょうどいい】

「面倒だからこのまま髪と体、洗っちゃいましょうか」


返事をする前に初春はシャンプーを垣根の頭にぬっていた。耳元が濡れないように丁寧に泡立てていく。
くすぐったいような感覚。湯船にはいっているせいだろうが、頭がぽかぽかする。


「私が手を入れてたら冷めたりしないんですけど、ちょっと無理そうですね。あ、どこかかゆいところはありますかー?」


聞いてから携帯を見ようとすると、垣根は目にもとまらぬ速さで画面を閉じてしまった。
何か都合の悪いことでも聞いたのだろうか。

まあそもそも美容室でかゆいところを聞かれても、頭の箇所を説明するのにどう言っていいかわからなかったりするし、
単純に答えるのが面倒になっただけかもしれないが。

―――【こんなの見せられるか、クソボケ】とひそかに表示されていたのは、ここだけの秘密である。
325 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 05:42:50.87 ID:BXb7uR.o


「いつもはどうやってお風呂はいってるんですか?」


背中を流しながら初春が聞いた。さめないように保温効果で体を温めながら、やっぱり丁寧に、それでいてごしごしと垢をとしてあげる。
垣根の背中は見た目通り綺麗な肌をしていた。


【一人で入ってるよ。さすがに素っ裸なんか見せられねえだろ。院内は設備も充実してるしな】

「なるほどー。でもたまにはいいでしょ? こうやって誰かに洗ってもらうのも」

【まあ否定はしねえ】


言いつつ素直に従っているところを見ると、どうやらそれなりに居心地がいいようだ。
初春もやりがいがあるというものである。

前も洗ってあげようとしたらさすがに怒られたので、そこは自重した。


【テメェな、もう少し節操っつーもんを考えたほうがいいぜ】

「え? でも患者さんに尽くすのが介護士でしょ?」


初春の頭の中にはネジの性質をかえる未元物質でもあるんじゃないか、
という懸念はさておき垣根は黙って身をまかせることにした。

鼻歌まじりにせっせと手を動かす初春。多分将来は面倒くさい主婦にでもなるんだろう。
結婚するやつは本当に哀れだな、と垣根はまたつぶやいた。


【つかいつも先に湯船に入ってんの? オッサンだなテメェ】

「ちっ、違いますよ!! 今日だけです! 出たり入ったり面倒でしょ? そもそも……、お湯を張るのもひさびさですし」

【初春はオッサンっつーことでいいんだなー】


話を聞いてください! と怒るが今度は反応を返さない。
しゃべれない、というのはこういうときに言葉をかわすための技術でもあるらしい。


まったく狡猾な第二位だった。
326 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 06:39:25.08 ID:j7tuSbQo
ラブラブ過ぎワロタ
327 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 06:44:32.93 ID:BXb7uR.o

――――――

部屋に戻って垣根にドライヤーをかけてから、初春はすぐにシャワーを浴びた。
相手は垣根なので「覗かないでくださいよ」とは言わなかったが、やはり部屋に男性を置いて浴びるシャワーはなんだか妙な気分になった。

手早くすませて部屋に戻ると、垣根は二段ベッドに背中をつけてパソコンをいじっている。
見ているのはニュース。世界情勢について調べているようだった。


「最近物騒ですよね。あちこちでデモがおこったりなんだり」

【……、別にどこで何が起ころうと今の俺には関係ねえけどよ】


失策だったと思った。これでは追い詰めるような発言になってしまう。

外とつながりたいという垣根の欲求は確かにそこにあるのだろうが、
初春としてはネガティブな事象よりも今はポジティブな事象について話してほしい。

何か話題はないかとタオルで髪をふきながら頭をひねっているところで、思い出した。


「あっ! そ、そうだ、垣根さん、温泉とか好きですか?」

【温泉?】


そうです温泉、といいながら机の上においてあったUSBメモリを手に取る。
多分ここには垣根の心を癒すような画像がてんこもりのはずだ。

旅行ということで話題にもことかかない。まさに白井黒子さまさまのネタである。


「私たちの仲間で温泉旅行に行こうという話があってですねー、一人欠員が出たらしいんです。
 それで垣根さんを誘ってみてはー、っていう話がありまして」

【テメェの仲間? あーそりゃいいな。ハーレムじゃねえか俺】

「……、ま、まぁ、でもあの二人は好きな人が、いま、したようないなかったような……」


佐天に恋仲の人物がいるかどうかは謎だが、なんとなく気に入らなかったのでそう返しておいた。
328 :オウフwwwwこれはこれはwwwwデュフwww ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 07:03:51.94 ID:BXb7uR.o

ぶっ続けで書いたので少し休憩させてください。続きはお昼からにでも。
レスくれる方はどうもです、はげみになります。
では一旦失礼します。お疲れ様でした。
329 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 07:23:07.86 ID:wyBcMsDO
ひとまず乙!
330 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 07:31:59.97 ID:kDMwvxgo
学園都市第二位のハーレムに常識は通用しねえ
331 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 09:35:17.15 ID:uiERtLMo
おつにゃん
332 :上条 [sage]:2010/11/21(日) 11:17:20.01 ID:SUYHSwDO
くそっ…
俺もこんな甲斐甲斐しいかわいい女の子に会いたいぜ畜生…
333 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 12:15:39.36 ID:o.iXd.AO
はーい みなさん
楽しい楽しい異端審問の時間だよ!
被告>>332 だよ。判決は?
334 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 12:44:08.19 ID:PGRX/AQo
死刑確定ね
335 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 14:17:54.25 ID:V94q1860
続きが気になるよぉおおおおおお
初春はマイエンジェル!
336 :五和 :2010/11/21(日) 14:49:35.16 ID:zclY3YAO
>>332

  
      <●><●>
      ///   ///
337 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 15:18:59.89 ID:j7tuSbQo
くそ!!!!
昼どころか、もう夕方近いぞ!?
338 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 15:22:18.33 ID:1bPVI.DO
>>332
テメェ五和という存在がありながらその台詞が吐けるとは上等じゃねぇか
339 :遅くなりました ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 17:15:07.44 ID:lnmAUgIo
いきます
340 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 17:26:36.17 ID:j7tuSbQo
っしゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
341 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/21(日) 17:48:33.96 ID:lnmAUgIo


「えっとですね、待っててください、今ページ開きますから……」


言って、垣根のすぐ隣に座り込む初春。
彼がいじっていたPCを膝の上にのせて、器用にキーボードを叩き始めた。
画面を覗きこむような形で、ちょうど垣根の頭が初春の頬のやや右下に位置している。
垣根は体のバランスが取れていないのか、初春の肩に手をのせてじーっと液晶を見つめていた。
初春から見えるのは彼のつむじ。
シャワーから出たばかりなのでまだ若干髪は濡れ体が火照っているが、垣根は何も気にする様子がない。


(いまさらだけど、やっぱり魅力ないのかな、私………、)

【どうした?】


なんでもないです、とつぶやいてから、タンッ! という音をたてて勢いよくファイルを開いた。
そこにあったのはもちろん―――。


「……さぁ、活目してください垣根さん! これが、貴方が行くべき夢の―――ッ?! って、ええええええええっ!?」

【……、なんだこりゃ】


展開したファイルの中身はとある中学生の寝顔。もしくは私生活を撮った画像ファイル。

どれも妙に体のディティールに執着していて、際どい位置からの光景をうまいこと収めている。
あからさまに隠し撮りされているらしく、そこに映る学園都市第三位の女性はカメラの方向を向いていない。
完全にこれは白井の趣味だろう。というか、あれだけいいことを言っておいて渡すものを間違えるとはどういう了見だ。


【……テメェってそっちの気があるの?】

「こっ! これは何かの間違いです! 間違いなんですぅ!!!」


慌ててノートパソコンの画面を閉じる。垣根を見ると、目を細めて訝しげな視線と表情をこちらに向けていた。
違う。これは違う。自分はそっちの人ではない。白井はどうかわからないが。
というか垣根も垣根でそっち方面で誤解するのはおかしい。
そもそもファイルの中身は温泉旅行のパンフレットじゃなかったのか。


(―――な、なんで御坂さんの写真集と間違えてるんですか!? 白井さんのばか!)

342 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/21(日) 17:49:37.30 ID:lnmAUgIo
ごめんなさい急用が入ってしまいました……。
帰ってきてからたくさん進めておくので、明日以降にでも読んでください・・・・・・・・申し訳ない
343 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 18:04:03.49 ID:73WlFAAO
気にすんな!乙乙!まってるぜ
344 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 18:06:13.48 ID:o.iXd.AO
気にしなさんな
俺達は待ってるZe!
345 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 00:32:42.28 ID:A82.tJM0
>>332
ダンプカーで市中引き回しの上、股裂きの刑および斬首の刑ですね。
346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:17:39.06 ID:CkXIJ.DO
>>1から一気に読みましたけど…

超面白いですね。頑張って下さい。
347 : ◆le/tHonREI :2010/11/22(月) 03:21:40.74 ID:4GhzsKko

間違いなんです違うんです私は普通の女子中学生です、と釈明しても垣根は意地の悪い笑顔を崩さない。
舐めるように初春を上目遣いで見つめ、携帯には【へんたい】という文字を表示する始末だ。
このままでは垣根の自分に対するイメージが崩壊してしまう。あわてて画面を他のページに飛ばしてみた。

別にこれ以外の話題なら最早なんでもいい。

かちかちかち。

かちかちかち―――。


初春の目はくるくると回転しながら液晶をなんとかとらえようとする。


「お、温泉ですよ温泉! 温泉にいくんですよ垣根さんわわわわわ」

【へえ、じゃあ早く見せてくれよ、その温泉とやらを】


言いながら初春の肩に頭をのせる垣根。

……、前も思ったが、これはどう考えても女の子がとるべき態度じゃないのか。
というか垣根はさっきから妙に体をよせてくる。
多分人肌恋しくて無意識にやっているのだろうが、こんな美形の男子に顔をよせられたらそれなりにこっちだって意識してしまう。
もちろん自分が介護しているときはそんな不純な動機で相手をしたことはないが、それにしたって―――。


【ほら、早く見せてみろよ、がきんちょ】

「待ってください今すぐみせま―――ってぎゃあああああっ!?」


今度はもう弁解の仕様がないページにたどり着いてしまった。
アダルトサイト。18禁。混乱した思春期の乙女のミスはときにとんでもないところにたどり着くという例だ。

348 : ◆le/tHonREI :2010/11/22(月) 03:31:41.90 ID:4GhzsKko


【ほお】

「ちっ、違いますからね! わ、わたわた私は普通の………」


垣根に目をやるとじーっと画像を見つめている。
初春のうぶな脳みそでは想像もできないような映像がそこにあった。とても描写できたものではない。

どきどき鳴る胸をなんとか抑え、反射的に垣根の両目を手でふさぐ。


「み、みちゃだめです! これは―――、これはですね」

【これは?】

「あの、その……、どこ……ぞの……!!」

【なあ】


そう言って、垣根は、垣根帝督は―――、


【―――初春って、こういうの慣れてねえのか】


初春の膝に頭をのせて倒れこんできた。
頭を太ももの上にのせて、両手を初春の腰まわりにまわす。単純なことだ。恋人なら当たり前の情景。

それでも初春には状況が理解できない。理由は言うまでもない。


「か、垣根さん……?」

【こうされるの、嫌か?】


その聞き方はずるい。そうやって甘えられたら、こっちだって甘えたくなってしまう。
この状況で初春ができることは、パソコンの電源をシャットダウンして、両手を手持ち無沙汰に持ち上げることだけだ。
349 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 03:42:27.38 ID:jS3xcISO
来 て ん じ ゃ ん ! ! ! !



K I T E N J A N ! ! ! !
350 : ◆le/tHonREI :2010/11/22(月) 03:44:38.40 ID:4GhzsKko


「だ、だめです、私と垣根さんは―――か、患者と介護士で……」

【こうしてると安心する。嫌なら言ってくれ、離れるから】



……、……、……。

その文字を見て、理解した。



垣根帝督はつまるところ安心する居場所を求めているのだ。ただ、それを純粋に渇望している。

その気持ちに名前などない。恋でも、友情でも、寂しさでも、語弊を恐れずに言えば愛でもなんでもない。
そこにある暖かなぬくもりに身をゆだねたい。それだけの単純なこと。

その感情はおそらくびっくりするくらいの明度を誇っていることだろう。

透明に近い色で。かすかに味わえるくらいの儚さで。吹いたら消えてしまうくらいの繊細さで。
だがそれでもそれは、確かにそこに存在している。


初春は不純な妄想をしていた自分が急に恥ずかしくなった。
そして、今しがたあれこれ話題について考えていたことが馬鹿らしくなる。

自分がするべきことはそういう部類の行動ではなかったのだ。

すごく単純なこと。彼を、暖めること。


「―――今日はいつもより、あまえんぼさんですね」


言って、ゆっくりと髪を撫でた。少しだけ初春を抱く両手の力が強くなる。
ドライヤーで丁寧に乾かした垣根の髪の毛はふわふわとした質感を保っていた。


【テメェの傍は居心地がいいんだ】


多分実際にしゃべっていたら言っていないであろう垣根の台詞がそこにあった。
今は本音をそのままここに記している。そんな気がするし、そう信じたい。
351 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 03:47:22.54 ID:jS3xcISO
この二人には幸せになってほしいと本気で思った
352 : ◆le/tHonREI :2010/11/22(月) 04:00:09.05 ID:4GhzsKko


それから沈黙が、在った。


散歩していたときはすごく邪魔だった。

話題はないかとあれこれ考えた。

それを壊すために本も買った。花も買った。

口を使って、試行錯誤して、なんとかしてそれを、排除しようとしていた。



―――だけれど今やそれは他の何にも変え難いメロディに昇華している。




旋律は吐息、リズムは心臓の音。


どちらも決して争うことはない。ゆらいで、光る。

ゆっくり、ゆっくりと。


「ぎゅってしていいですか」

【………、うん】


初春は垣根の身を起こして抱きしめた。よこしまな気持ちはない。
凍えそうなものを丁寧に暖める。暖めて、伝えようとする。


もう心配しなくていいと、言葉よりも明確に。もっとクリアに。


【俺は無様か】

「同情なんて、……してるわけないじゃないですか」


二人の感情は言葉にしなくてもいいくらいに調和していた。
353 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 04:17:24.35 ID:4GhzsKko


【―――あっちに行くと、狭い地下室で誰かが俺を笑うんだ】

「………、」

【テメェはもう用済みだと。才を失ったガラクタ。見世物みてえに、なじるような視線で、俺を見ているんだ】

「………、」

【俺はくそったれだ。何がくそったれって、終わってしまったものにまだすがりついている】

【どこかのバカみてえに語れる美学もねえ。戻ったところでもう何もないのに、いつまでも、いつまでも……】


それから初春は垣根の顔をまっすぐ見た。
少年。本当にあどけない表情をした少年。

人を殺したことがある、少年。
その少年を―――、


「―――それでも、自分は律する人でありたい。誰かを許せる人でありたい。痛みを受け止められる人でありたい。
 裁いたその後を、見据えられる人でありたい……」


泣きながら、聖書を読むように伝えた。
返事はもちろんない。

代わりに、目を閉じられた。

デスクの上のダンコウバイがこちらを見ている。


【これは何なんだろうな】

「私にも……わからない、言葉にはできない、です―――」


それっきりだ。

気持ちは唇にのせることにした。もちろん、深く深く、ちゃんと心の芯にまで伝わるように―――。


………

……

354 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 04:19:14.55 ID:SV9pR.AO
もうだめだ


やばい





やばい…
355 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 04:21:04.63 ID:ipWkzeQo
エンンダアアアアァァァァアッァアアアアア!!111
356 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 04:38:34.73 ID:4GhzsKko

――――――

ややあって。

垣根は初春にしがみついたまましばらく動かなかった。
初春もぼーっとしながら彼の頭をなでている。携帯電話は反応を示していない。


(……、初めて、かぁ……)


唇を触って感触を確かめる。
それはもちろんキスのことなのだが、そういうことを想う日がこんなに早く来るとは思わなかった。
かつては足蹴にされた存在と、今はこうして部屋でゆっくりと流れる時間を共にすごしている。
人生とはわからないものだ、と中学生にして良き教訓を得た初春飾利だった。


【―――で、初春】

「ふぇっ?」


突然携帯の画面を眼前に突き出される。
垣根は相変わらず太ももに頭をのせたままだ。もしかしてまた意地悪なことを言ってくるのかと警戒していたところ、


【……エロいことしないの?】

「なっ……!?」


さっきまでの純な空気はどこにいったのだ。
また垣根のことがわからなくなってしまった。初春の服に手をかける垣根を制止して叫ぶ。


「な、ななななな何を期待しているんですっ!?」

【だってよー、こういう状況になったらすることあんだろ。あ、テメェ処女だよな? 腰の振り方教えてやろうか】


バキィッ! と鉄槌で一閃。【何しやがるこのガキんちょ!】と表示されても知ったことではない。
すぐに垣根の頭をどかせて立ち上がった。貞操の危機だ。

―――だいたいムードってものがある。それにデリカシーも。

初春はふてくされて垣根に言った。「垣根さんのばか!!! 最低!!」。もちろん首をかしげられたが。

357 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 04:42:01.12 ID:jS3xcISO
ああ、こりゃ最低だわ
358 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 04:49:15.38 ID:ipWkzeQo
無理やり迫らない優しさでもあると思うけどね
359 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 04:55:11.50 ID:4GhzsKko

                                  ※


「……、ちょっと飲み物買ってきます。垣根さんは頭を冷やして反省していてくださいっ!」

【あ? いいけどよ。大丈夫なのか、こんな時間に】

「ここで垣根さんと一緒にいるより安全ですよーだ!! ふん!」


プンスカ言いながら初春は部屋を出て行ってしまった。
垣根はその様子を見て薄笑いを浮かべる。これ以上は今はだめだ、と自分に言い聞かせるように。

―――初春、初春飾利。

あの天使が言っていたキーパーソンらしいが、それはこういうことだったのか。
なぜか一緒にいると心地よい。甘えたくなるし、普段より素直になってしまう。あのリハビリをはじめてからは特にそうだ。

同時に、垣根の中では一種のジレンマのようなものが生れていた。


(……、もうこのままでもいいかって、なっちまうだろが)


渡り鳥は穏やかな気候の場所に安住はしない。いつかは枯れてしまう土地にとどまることは、愚か者がすることだ。
さっきだってあれ以上甘えていたら、今以上に依存してしまうだろう。
それこそ回復しなくてもいいとか、そういうネガティブな方向で。離れるのが嫌になるくらいに。麻薬のように。

垣根だって健全な男子だし、初春に言ったような欲求がないことはないが、
今のタイミングで切り上げなければもっともっと深みにはまってしまう気がした。


(つっても俺がこんな体だし、どーせ何もできねえんだけどな)


自嘲気味に笑う。笑って、思った。
初春が自分に尽くしてくれるのは純粋な気持ちからだ。だから、諦めるわけにはいけない。
どんなに望みが薄かろうと、あの馬鹿が信じてる限りは、自分も。

だいたい借りっぱなしは性に合わないし、あの中学生はこんな体の自分の回復をおそらく本気で願っている。


(―――あんなバカに相手されたら適わねえよ。テメェのためっつか、こっちがボランティアみてえだな)


それでも少しは前向きになれた。その分の借りは返そう。垣根は心に誓ったのだった。
360 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 05:19:03.73 ID:4GhzsKko


そして次に彼が想ったことは果たして何だったのか。


(―――ッ!?)


考える間もなく垣根の視界は暗闇に包まれていた。
何が起こったのか理解できてしまうくらい、懐かしい感覚。


「―――まあ、定石ですよね」


男の声がする。窓を割る音はしなかった。
暴れようとしてもうまく動けない。無理もない、こんな体で抵抗したところでたかがしれている。


                      ・  ・ ・ ・ ・
「そういうわけで、そういうわけです、元『未元物質』さん」


聞き覚えはなかったが、手口からして慣れている様子だった。
油断していたというのは理由にならない。言い訳も通用しない。

これは、そちらの世界の匂いだ。

口元と鼻をふさがれて確信した。しばらく忘れていた、あの緊張感。
恐怖と暴力が支配するこの街の底の感触。


(なのに、は―――、なんだこれは? 安心、して、るのか……)


意識が飛ぶ寸前、デスクの花が見えた。
右手で倒れこむようにそれをぶちまける。幻聴かどうかもわからない笑い声が、いつまでも垣根の耳に響いた。


「お帰りなさい」


………

……



361 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 05:31:00.47 ID:4GhzsKko

                                   ※

初春は両手に寮内の自販機から取り出したカレー缶を抱えて部屋に戻ろうとしていた。
もちろん思考はあちらの方向に旅立っていたが。


(……あ、あんな言い方ないよっ、ばか)


かといって自分は垣根の恋人でも何でもない。あくまで患者と介護士の関係。
キスをしたのはなんとなく、それがあの場に一番ふさわしい行動だと思ったからであって、それ以上でもそれ以下でもない。
垣根が服をつかんできたときはやっぱりドキドキしたけれど、いくらなんでも唐突すぎる。


(わ、私だって……、別に、嫌じゃないというか……、いや違う、でもあの言い方はヤダ! ……もっとほら、他のやり方っていうか、……うううう)


せっかく気持ちが通じ合って、なんだか崇高な関係になれそうだったのに、あの一言ですべてがうやむやになってしまった。
ドアの前で立ち止まる。どうやって話を、と、これではまた沈黙を恐れる関係に逆戻りだ。


(―――でも部屋に戻ったら、また……)


ううむと一瞬頭をひねったが、こういうことはうじうじしていても仕方がない。
入ったら真っ先に怒って、それで手打ちにしよう。

垣根とはこれからもリハビリを続けていく仲になるのだし、ここで気まずくなってもメリットはないし。
意を決して扉を開く。


「ただいま! 垣根さん、そもそも貴方という人はですね――――………?」




………、


誰もいなかった。


からーん、と、持っていた飲み物が乾いた音をたてる。
窓も開いていない。ただ本来そこにあるべきものが、なくなっていた。
362 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 05:33:13.83 ID:jS3xcISO
なん……だと……?
363 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 05:46:35.70 ID:4GhzsKko


「おやおや、こちらもお帰りなさい」


声がした。

―――と思ったら、喉元にすさまじい衝撃が走る。


「がっ……!?」

「あなた達が別々になるのは待たなくてもよかったんでしょうがね。一応、ってやつですね」


何をされたかが理解できない。誰にやられたのかも理解できない。
何かがものすごい勢いで自分の喉につっこんできた。

ただそれだけ。それ以外の何もわからない。


「ジャッジメントの初春飾利さんですね。あ、喉はつぶしたので無理しないほうがいいですね」

「………う……か……?」

                              キルポイント
「名前ですか? なんでも構いませんがね。……『死角移動』だけは勘弁してくださいね」


目の前に立っているのは高校生くらいの少年。ダウンジャケットを着ていて、片手には警棒のようなものを装備している。
どこから入ってきたのかもわからない。
いや、それよりも垣根は―――?


「いやあ、声を出されると困りますのでね。少々陰険ですが、一人ずつ処理させてもらいました。これで回収は完了」


言って、警棒をわき腹に叩きつけられる。
喉をつぶされたようだが、それでも声にならない声が部屋に響いた。

直感する。この男は、別世界の住人だと。

364 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 05:58:23.38 ID:4GhzsKko


「―――しかし振り切られたときはびっくりしましたね。あの人、能力がなくても超人ですね。
 ま、目的は達成できたのでよかったのですけれどね」

わき腹を押さえて床に倒れこむ初春を、元『メンバー』の一員、査楽が見下していた。
もちろん初春にそれを知る由はない。
ただ、何となく男の口から漏れる情報で、以前自分達を尾行していた人間だということは理解できた。
だが何のために。聞こうにも声が出せない。

いや、そもそも―――自分は、ここで―――?


「詳しい事情は、残念ながら説明できませんね。なぜってあなたはここで死にますから。まあ適当に想像してください」


警棒を振り上げる様子が見える。
垣根は無事なのだろうか。いや、ここで自分が倒れてからの彼は、一体どうなってしまうのだろう。
自分が消えてしまっても平気だろうか。寂しがったりしないだろうか。それだけが気になった。


(垣根―――さん………)


ぱくぱくと口を動かそうとするが、やはりしゃべれない。
無表情で初春を見つめる査楽。
死のイメージが、すぐそこにある。


「少々しゃべりすぎました。さよなら」


振り下ろされる前に痛みで意識が飛びそうになっていた。
次に初春が聞いたのはゴスッ!!! という警棒が振り下ろされる音。




―――ではなく。



「本当にしゃべりすぎですわね、ゴミ野郎」



聞きなれた同僚の声だった。
365 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 06:02:12.45 ID:ZU8elUAO
どうしよう…黒子カッコいい///
366 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 06:20:24.29 ID:4GhzsKko


不意に宙に現れた白井黒子が放った蹴りは、ダウンジャケットの首の付け根を正確にうちおろした。

響くのは鈍い音。そして壁に叩きつけられる男。
あたりには再び沈黙がもどる。


「三流の悪党は死亡フラグにお気をつけあそばせ」


次にはぴくぴくと痙攣する少年に向けて捨て台詞を放っていた。


「まったく、渡し間違えたものを取りにきたらこの始末ですの。……初春、平気ですの?」

「……か………あ……」


やはり声は出ていない。
警棒で喉笛をおしつぶされてしまったようだ。白井は優しく初春の肩を抱くと、なぐさめるように頬を撫でた。
手近にあったパソコンをそばによせて、キーボードを打たせる。

―――かたかたかたかた。


【白井さん、ごめんなさい】

「……、謝罪はこのゴミ男から聞くべきものですの。今すぐにでも殺してやりたいくらいの気持ちですけれど。それより事情は?」

【家に垣根さんを連れてきていたんです。外に出て戻ってきたら、いなくなっていて……。どうしましょう、アンチスキルに通報を……?】

「慌てては駄目ですのよ。もちろん後々に抑えておくべきポイントではありますが……。垣根さんは一体どこに? 心当たりは?」

【それすらもわからないんです。でも……】


初春が指差すのはデスクに転がっている花瓶だ。
外から戻って部屋に入ったとき、室内は出かける前とほぼ同じ状態にとどまっていた。

唯一均衡をやぶっていたのは倒されていた花。
花の名前はダンコウバイ。小さな小さな梅の花。改良種だろうが、室内で咲く梅は珍しいと思い、先日購入したものだ。

花言葉は――――――


【―――“私を見つけて”。きっとさらわれたに違いないです】

367 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 06:46:57.21 ID:4GhzsKko


「―――、とにかく、一度ここから離れたほうがよさそうですわね」

【木山先生に報告を】


表示された名前を見てびっくりする白井。


「木山……? 木山って、木山春生ですの? なぜあの女の名前が? 以前病室を訪ねたときにはそんなこと一言も……」

【病院にいったら全部話します。今は、垣根さんのことが……】


泣きそうな表情を必死にこらえているのが伺えた。
おそらく心は今にも張り裂けそうなのだろう。

現時点では誰が敵で誰が味方なのか、白井に判断することはできなかった。
もちろんそれは垣根も含めての話だ。

唯一はっきりしていることは、目の前に座る心優しい親友を傷つける相手は、誰であろうが許さないということ。
ただそれだけの単純な話である。


「……、これは、長い夜になりそうですの」

【白井さん……】

「このゴミ野郎も一緒につれていきますわよ。何かつかんで―――」


白井が振り返った先、今までそこにいたはずの少年の姿が消えている。


「空間移動……? ……、急所に正確に打ち込んだはずなのに……!?」

【『死角移動』って言ってました。詳細は不明ですけど、おそらくレベル4の能力者?】

「―――。」


それから白井は無言で初春に触れて、外へとテレポートした。
何かが始まっている。嫌な予感はぬぐえず、部屋には静けさだけが残された。

………

……

368 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/22(月) 06:48:11.07 ID:4GhzsKko
ここまで。以降バトル描写が多くなりますがご容赦ください。
>>21は一応原作既読ですが、何かあったらご指摘願います。お疲れ様でした。
369 :まちがえた ◆le/tHonREI [sage]:2010/11/22(月) 06:49:05.50 ID:4GhzsKko
>>22ですねすいませんすいません
370 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 07:02:12.65 ID:d8yUs6w0
371 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 07:02:30.42 ID:SV9pR.AO
シリアス展開来た! これで勝つる!
372 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 07:21:15.14 ID:CFEahsU0
うひゅぉっぉおお
甘甘も大好きだがこの展開も燃えるな
373 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 13:06:27.85 ID:bRYIw2Qo
一瞬海原かと思ってびびったぜ

頑張れ初春超頑張れ
374 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 13:07:09.30 ID:VtzXn1Yo


>花言葉は――――――


【―――“私を見つけて”。きっとさらわれたに違いないです】

ていとくんまじヒロイン
375 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 13:21:08.40 ID:SV9pR.AO
目をつぶったのもていとくんだよな?
さすが第二位だぜ、俺たちの常識が通用しねえ
376 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 13:21:22.17 ID:tEjoeEgo
放置しててごめん、早急に書き溜めて投下する
それもこれも>>22を含む数ある良スレの書き手のおかげだぜ!!!
377 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 14:55:26.10 ID:u6PJBcQo
禁書キャラ難し過ぎワロタ
特にていとくんのせいで変な癖ついたわ
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1263211.jpg
378 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 15:04:39.60 ID:..k1y8.o
あぁもう!おつ
黒子カッコよすぎだろこれ。
しかし作品としての流れが綺麗だな
379 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 15:42:01.33 ID:CFEahsU0
>>376>>1か?
wwktkが止まらないんですけど
帝春マンセー!
380 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 16:19:07.45 ID:o48IhEAO
正直今更戻ってこなくてもいいのにと思った
381 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 16:51:57.35 ID:u6PJBcQo
>>380
しっ!
382 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 17:49:54.55 ID:tEjoeEgo
>>376
違う違う、別スレの人だからここの>>1とは無関係だ
383 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 19:08:04.92 ID:FTRIIQAO
ていとくんマジヒロイン
384 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 20:53:57.63 ID:kxeq0Dw0
>>377
上手いと言えば上手いけど
なんか初春の頭頂部
髪の薄い中年男性みたい
385 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:21:23.34 ID:ZSqO1QY0
384のコメ見てから画像見たら声出して笑ってしまった。
377の人ごめん。でも笑った。
386 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:27:06.10 ID:LAyj2cDO
まあ、でも。有り体に言えばへたくそな絵だよね。
387 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:36:38.64 ID:rzxTzG60
>>386
書けば何でも評価するとか言うのは大嫌いだし、なんでもマンセーするのは逆に侮辱行為だとも思うが
俺はお前を軽蔑するよ
結構割とマジで
388 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:54:43.57 ID:gC4r5kY0
絵師()は荒れる原因だから自重しろと
389 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/23(火) 02:09:28.68 ID:La1iWwSO
よくも絵一枚でこんなにはしゃげるな
390 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 04:46:57.14 ID:ol76cl6o
永遠の中学生だからな
391 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 11:01:08.64 ID:dxzBk2AO
永遠の中学生だからな(キリッ
392 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 16:54:05.28 ID:RekRFqYo
放置スレって神スレになる確率割と高いよな
393 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 21:19:56.81 ID:eYEqYgco
【初春、お前の下の花が見たい】


こういえば初春もその気になったかもしれんのにな
394 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 01:40:05.11 ID:80RDWwAO
なんか何処かで見た花がいっぱい落ちてるけど>>393は何処にいったんだろ…
395 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 01:28:46.24 ID:msZLkc.o
マダー
396 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 13:13:42.18 ID:Wd3e0O20
ダークマダー
397 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 14:07:03.63 ID:ZCOjkYAO
>>396
こんなのに吹いちまったwwww
398 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 14:39:25.28 ID:3i2JdQAO
>>396
不覚wwwwwwゲフゥwwww
399 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/25(木) 22:33:16.52 ID:6onS01M0
まだかなぁまだかなぁ
400 : ◆le/tHonREI [saga sage]:2010/11/26(金) 12:28:25.07 ID:CUGG84Eo

こんにちは。相変わらずのだらだら遅筆ですが進めておきます。
今日はいつもよりも書くのが遅くなりそうなので、sage進行でおいときますね。
夜にでもどうぞ。

>>377
素敵な絵をありがとうございます///
401 : ◆le/tHonREI [saga sage]:2010/11/26(金) 12:30:14.22 ID:CUGG84Eo

                            ※

暗闇から目を覚ますのはこれで何回目か、と垣根はうんざりしていた。
尤も、あちら側の世界に弾かれるわけではなく、意識のない状態から目覚めるのはこれで二回目だ。

あの時は確か駅で目が覚めた。
そして今度は―――


(車か。神様ってやつはよっぽど俺を廃人にしたいみてえだな。ひょっとしてこっちが夢なんじゃねえか)


視界があまり開けていないので確認はできない。
が、不愉快に体に響くアスファルトの感覚と、窓の外に下りている夜の帳はかろうじて知覚できた。
流れる光が垣根の体を通り抜けていく。上半身はシートに固定されているようで、腕が動かせない。

やがて彼の周囲にあった諸々の物品がその姿を現し始めた。

窓の外に広がる光と同一視していたそれらは、よく見ると無機質な機材たちだった。
あちこちで点滅するライト。揺れるメーター。車体はおそらく大型のワゴンだろう。
測定器の類ではなさそうであったが、光景と経験から垣根は自分が置かれている状況を悟る。

目的は不明だが、やはり何者かに拘束されたようだ。
運転席はそれほど離れていなかった。小声だが、誰かが話す声が聞こえてくる。


「同系統の能力者にやられる気分はどうだったかね」

「もちろん最低ですね。打ち所が悪ければ死んでいましたしね」

「個体は? まさか置いてきていないだろう」

「処理しましたよ。問題ないでしょう、それとも追跡するんですか?」


ひとつはついさっき始めて聴いた声。もうひとつは―――、いつぞやの声。


「放っておく。―――その気になれば私の『オジギソウ』でいつでも始末できるからな」

402 : ◆le/tHonREI [saga sage]:2010/11/26(金) 12:53:54.53 ID:CUGG84Eo

とっさに垣根は頭を巡らせて状況を整理していた。
助手席に座るのはあの時の科学者。
馬鹿げた美学を語っていた上に、ナメた口をききやがったから消したはずの男。

口調から判断するに、自分を誘拐したのは運転席の男だろう。

どちらも暗部の人間だ。確か組織名は『メンバー』。
始末したはずの人間がなぜ生き残っているのかはこの際置いておいた。
どの道あとで聞き出すことになるだろう。自分をさらった目的も含めてだ。

一番の気がかりはそこではない。
会話から読み取れたのは“始末”だの、“処理”だの、物騒な言葉ばかりだ。
自分はこうしてまだ息をしている。ということは、


(初春―――。)


そう、初春飾利は無事なのか。垣根の思考はその一点に留まった。


幸い、部屋には初春だけに伝わるようにメッセージを残しておいた。
ああ見えて彼女はこの街の風紀委員、すなわちジャッジメントだと話していたし、
冷静さになって花言葉を紡げば何かしらの行動を起こすだろう。
それがどのような形であれ、誰かが後を追ってきたとなれば、それが初春の無事を確認したという返信に繋がる。

即席のアイデアだったが有効なはずだ。
それでもできれば彼女自身には出向いてきてほしくないが、しかし、初春自体が“始末”されてしまっては意味がない。

……別に自分が生にすがりついてるというわけではないのは、前述したとおりである。


(初春―――、初春、いねえのか……?)


本来ならば花言葉の方が予防線で、どちらにせよ初春の携帯に思考を送り込むつもりだった。
が、今はそれでもできそうにない。


(くそっ……、返信がねえし、電脳空間にも潜れねえ。送り続けるしかねーか。……初春、初春―――)


名前をリフレインする垣根。
が、それらの考えは次の一言によってどこかへと飛んでいった。


「さて、そろそろ話しかけてもいいかな。ちなみに初春というのはあのエンジニアのことか。優秀な人間じゃないか、是非紹介してほしいね」

403 : ◆le/tHonREI [saga sage]:2010/11/26(金) 13:20:38.26 ID:CUGG84Eo

さすがの垣根も驚きを隠し得ない。
思考を読み取った点もそうだが、それを踏まえたとしてもこいつらはどこまで噛んでいるのか。

博士は続ける。


「安心したまえ。どうやら難は逃れたようだ。処理されたというのはこの男のことだよ」


遠くてよくは見えないが、どうやら博士は手元のパネルのようなもので垣根の思考を読み取っているようだ。
初春が開発したものとはまた別種の構造になっているのか、それとも同じ構造なのかは伺えない。


【……くそったれが。ゴミみてえに処理されるべきなのはテメェの方だろうが】

「急に正論を振りかざされても困る。君も似たようなものだろう。自覚はしているはずだが」


暗部にいたときの懐かしい空気があたりを包んでいた。
そして、垣根はやはり自己矛盾にたどり着く。
病院で目覚めて、自分が拘束されているのではないかと錯覚したとき。さきほどここで目覚めて、拘束されていたとき。
確かに価値を感じた。存在理由を自覚できた。
それはいつでも同じ。やはり自分はコンプレックスの塊なのかもしれない、と。


「私はそのエンジニアを含めた君たちを過小評価はしない。放っておけばいずれ面倒なことになるだろう。
 時期が今でないだけだ、そのうちに処理するよ。あれは君のデータを解析してプログラムを組んだのだろう?
 歳にもよるが天才的だな。評価に値する。会う機会がないのは残念だ」

【……は、相変わらずナメてやがるな。聞きてえことは山ほどあるが、その前にチンケなその胸に刻んでおきやがれ。
 ―――テメェはこの世に塵も残さずこの俺が処理してやる。あのときみてえにたっぷり絶望を味あわせてな】

「以前はそれが君の捨て台詞だったな。年甲斐もなく響いたよ」


反論すらしてこない。それもそのはず、垣根は別にこのような拘束をされていなくとも反撃などできない。
永遠に。たとえば目の先にいる男が濡れたタオルで自分の顔をつつめばそれですべては終わってしまう。
その程度の儚い命だ。

逆にいえば、だというのに何故自分をさらう必要などあるのだろう。何故思考を読み取れる?
どうやって自分の居場所を? 処理された、とはどういうことだ? この二人は自分にどの程度関与している?

疑問は尽きなかった。
404 : ◆le/tHonREI [saga sage]:2010/11/26(金) 13:56:27.11 ID:CUGG84Eo


「混乱しているな。無理もない。まあ、後で事情くらいは説明してやろう。私は学者畑の人間だ、堕ちても説明好きでね」


余裕の態度は崩れそうもなかった。
垣根はもう何かを聞く気も失せて、不愉快な車のゆれに身を預けてしまうことにした。

初春は無事だと言った。
信頼はできないが、信用はできそうだ。だからこそ次の発言が気になる。

なんとかしなければ。なんとかして……、どうすれば?


「あきらめないことは肝心だな。私も常日頃難題にぶつかったときはそう諭している。
 しかし君の場合は確率0の事象にしか思えないのだがね。―――そして未来も。君の居るべき場所はここにはない」

【……、こんなガラクタ集めにハマっちまってるとはな。救えねえゴミだ】

「自嘲的になったのは環境のせいか? 拡散力場が乱れているぞ。……まあ、確かに」


一呼吸おいて博士はこちらを振り返る。
にたり、と、およそ美学を追求する人間が浮かべる表情とは思えないそれを向けながらだった。


「ガラクタ、という表現はある意味正しい。君の体はガラクタだ。体はな」


………

……


405 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 14:54:30.93 ID:o8gq5UAO
来てたー!!
406 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 15:05:26.47 ID:aMZjqII0
待ってましたあああああああ
407 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 00:31:05.99 ID:mxERdDA0
乙!!
待ってた
408 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 08:16:11.82 ID:HX725yko
ん?続きはどうしたんだぁあああああ
409 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 14:32:59.86 ID:zO8k.UDO
ぎゃあああああああああああああ
410 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 14:39:44.20 ID:WXeP9Zo0
待ちきれん!待ちきれんぞおおおおおおおおおおお
411 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 18:16:05.91 ID:a4BBkwAO
焦らしがうまいぜェ!
412 :遅くなってごめんなさい ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 21:24:48.49 ID:VzQzGSUo

                                     ※


「コーヒー、飲むかい」


木山春生が手渡したのは、初春が以前病室を訪ねたときに使ったカップ。時刻は夜の21:00を回ったところだった。
一同が会するのは木山が宿泊場所として一時的に借りている病院の一室だ。
病室とはいえそれなりに身辺整理がされていて、あたりには生活感が漂っていた。


「先生、ごめんなさい……」

「君に過失はないよ。許可を出したのは私だ」

「……、でも」


いいつつ初春はふと、木山の態度が気になった。
たしかに担当の研究者として彼女の言い分は正しいのかもしれないが、そうではなく、妙に落ち着いている。
まるでこうなるのを予期していたかのように。そういえば木山は垣根の思考回路を読み取る例のソフトを拝借したと言っていた。

思い当たるのは尾行されていたときのこと。
彼女ほどの頭脳をもってすれば、そこからこの事態は予測できていたのかもしれない。


「その割に落ち着いていますのね」


白井黒子が、居心地が悪そうにこちらを見ていた。若干刺がある言い方で声を出す。
壁に身を寄せて腕を組む様は、かつての敵を見るような視線だ。
もちろん最終的には諸悪の根源を初春らと叩き伏せたのだが、やはりこういったトラブルが絡むとあの時のことを思い出すようである。


「白井さん」

「わかっていますの。ですが初春。お姉さまも貴方もそうですが、人に対するガードが甘すぎますの。
 警戒する誰かがいなくては駄目だと思いますのよ」


曰く自分は露払い。ストッパーになる人間がいなくてはならないと。
立場が違うだけで、彼女が考えることは初春と同じなのだ。


「気にしない。警戒されて当然のことはしてきた。これから君たちがするべきことも、同じかそれ以上の緊張感が必要だろうしね」


口ぶりからしてある程度のことは把握しているようだ。
413 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 21:47:26.59 ID:VzQzGSUo


「何が起こっているんですか? 垣根さんは一体……」

「彼は暗部の人間だ」


視線を落として、コーヒーを飲みながら木山が言った。
暗部。耳にしたことはないが、目にしたことはある。垣根が発する思考の中に何度か混じりこんでいた単語だ。


「私も詳しいことは知らないし、この目で見たことはない。が、話によるとそれらは学園都市の影で行動する組織群の総称らしい。
 これは資料が少なくて人づてに聞いたことだがね。―――彼はその組織のひとつ、『スクール』という部隊のリーダーを務めていた」

「過去形ということは、今は脱退しているんですの?」

「おそらく。だが私たちが考えるよりもずっとそちらの世界は複雑なようだな。何せ統括理事会が絡んでいるくらいだ、
 彼が狙われる事情は定かではないが、任務はそれこそ表沙汰にできないようなことばかりなのだろう。何があっても不思議ではないね。流血や殺人など日常茶飯事だろう」


人を殺したこともあると垣根は言っていた。なるほど、と初春は無言で頷く。
聞いたら卒倒するくらいの“悪いこと”。初春は聞いていたことなのでそこまで抵抗がなかったが、一方の白井はそうではないようだ。


「……、そんな危険な組織を……、統括理事会は野放しにしているというんですの?」

「野放しというよりはもう少し積極的に指示を出しているようだな。詳細は定かではないが」

「初春、貴方はそれを知っていたと?」


全部ではないが、把握していた点もある。罰が悪そうに首を縦に振った。白井はそれを見るなりため息をついて肩を落す。
さすがにそれくらいは教えてほしかった、といわんばかりの態度である。
初春としてもこの辺は、せめてこんな状況になる前に教えておけばよかったと思う。


「それで、じゃあ、垣根さんはその、……暗部絡みの一件でさらわれたんでしょうか」

「確定はできないがそう見るのが妥当だろうな。……だが解せない点もある」


カップを置いて立ち上がると、木山はデスクの上においてあった資料を取り出した。
おぼつかない手で受け取る初春。表紙には太字で、“統括理事会:急患につき保護依頼”とのこと。


「……、ただの人間にこんな大層な資料を作るほど、理事会も暇ではないでしょう」


隣で白井がつぶやいた。まったく同感だ。
414 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 22:09:55.95 ID:VzQzGSUo


「一般人に見せていいものではないのだが、まあ君たちは特別だろう。ここを見てほしい」


木山は初春の手にある資料のページをぺらぺらとめくった。
行き着いたのは最後の部分だ。
そこに書いてあったのは、


「……『尚、本件に関して統括理事会は今後一切関与しない。不備があった際にはそちら側で処理されたし』」

「妙だと思わないか」


妙も何も、疑問符ばかりだ。白井が言っていたが、こんな大層な資料をつくったわりにはこちら側に丸投げ。
木山の話では統括理事会と暗部はかなり密接に関わっているらしい。
もしも彼が暗部にさらわれたならば、このような資料を作った理事会を疑うのが当然の帰結だろう。


「思わせて、やっぱり裏で手をひいているだけでは?」

「そう考えるとキリがないが、それにしても不自然だろう。主治医の話では彼は組織から追放されたことになっている。
 言い方は悪いが、理事会にとっては“用済み”であるはずなんだ。そもそもここまで予測していたならば最初から病院に預けたりはしないだろう?」


言われるとそれはそれで筋が通っているような気がする。


「……、つまりまとめると、垣根さんは暗部の人間であり、今回の件もそれに関係しているかもしれない。
 ですがそのセンでいくと、本来理事会から見放された彼を病院で保護させたという点に矛盾が生じる、ということですの?」

「そうだ。仮説ばかりで悪いがね」


木山の口癖になった台詞を聞いた。
初春も必死に頭をめぐらせようとするが、何度考えてもここにある素材だけで真相にたどりつくのは無理があるように思える。
可能性の話ばかりで、根拠となるものが何もないからだ。
あるのは垣根がさらわれた、という事実のみ。


「その通りだ。そしてここでアレコレ考えていても事態は好転しない。わかるだろう」


針を刺すように木山が言った。
415 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 22:25:51.15 ID:mxERdDA0
来てる、だと……?
416 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 22:29:01.08 ID:VzQzGSUo


「定石ではここは兵力にまかせて人海戦術でアテを探すものですの。初春、垣根さんの手がかりはありませんの?」

「えっ……、いや……、最後に通信があったのは……えっと」

「それを通報する際に伝えておきませんと」


聞いて、なんとなく違和感を感じてしまった。

人海戦術。つまりそれはアンチスキルに通報して彼を探索するということだ。
この時間に通報を受け付けている部隊があるのか。いや、あるだろうが、間に合うのか。
垣根の安否を危惧する初春としては、今すぐにでも行動したい気分である。誰かに任せるのではなく、自分の手で……。

悠長なことを言い出す白井になんとなく苛立ちを感じてしまった。その選択は正しいことは、正しいのだが―――。


「で、でも、事態は一刻を争いますし……っ! 私たちのほうが身軽だし、それに機動力が……」

「彼をその場で始末せずに誘拐したというなら、まぁすぐに何かあるわけではないと思うがね」

「それも可能性の話じゃないですかっ!!!!」


木山の落ち着いた声に激昂してしまい、机を叩いて大声を出す初春。
しん……、と空気が凍るのを感じた。
無表情に白井と木山が自分を見つめている。落ち着け、といわんばかりの表情で。


「……ごめんなさい……。こういうときこそ冷静に、ですよね……」

「いや、構わないよ。通報は私がしておこう」


言いながら木山は立ち上がった。
瞬間、何か白井に目配せをしたように見えたのは勘違いだっただろうか。
部屋に立ち込める重い空気。たしかに、こういった大掛かりな事情は専門分野の大人に任せるのがいいのかもしれない。
だいいち、自分は垣根のところに駆けつけたところで、何ができるわけでもない。
せいぜい言葉をかけて、彼とコミュニケーションをとるくらいのことだ。肝心の翻訳ソフトも、今はどういうわけか起動していない。
これでは人は救えない。こんなチンケな能力では……。


「―――さて、行きますわよ初春」

「えっ……?」


見上げた先では白井黒子が、彼女の太ももに常備されている武器を確認しているところだった。
417 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 22:40:54.22 ID:VzQzGSUo


「行くって……、どこにですか……?」

「……はぁ。定石、という言葉の意味まで忘れるほど呆けていたんですの?」


―――定石。

将棋、囲碁で昔から研究されてきて最善とされる、きまった指し方。転じて物事をするときの、最上とされる方法・手順。
つまりそれは、私情を滅して、目的達成のために取るべき手はずのこと。

この場合、余計な行動はせずに、アンチスキルにすべてを任せること。
余計な行動は、せずに。


「―――クソ食らえですの。
 結果がどうであれ、本当に大切なものは自分で取り戻さなくては意味がない。そうでしょう、初春」


ツインテールの髪を書き上げて、白井は部屋のドアを開きながらこちらを振り返った。
うっすらと笑っているようにも見える。


「じゃあ、……え、え、さっきのは……?」

「ま、事後処理はわたくしたちだけでは面倒そうですし? 物事には順序というのがありますでしょ。
 ……アンチスキルに垣根さんを保護されて、この部屋で立ちすくんでいて、貴方はそれでいいんですの? 
 わたくしなら我慢できない。たとえ危険が及ぼうとも、人に任せて安心していられるほど大人にはなれませんのよ。
 だから、……行きますわよ初春。大丈夫、貴方を傷つけるような輩にはこの白井黒子が容赦しませんの」


手を差し出して、今度ははっきりと笑いかけた。
つまり白井は最初から“その気”だったのだ。もしかしたら初春を冷静にさせるために一芝居うっていたのかもしれない。
やられた、などとは思わない。信頼こそすれ、迷うことなく初春はその手をつかんだ。


「やるならば徹底的に。貴方の殿方に手を出したことを後悔して、一生のトラウマになるくらいにやってやりましょう」

「それは……、さすがに」

「あら、やっぱり初春は冷静かもしれませんわね」


冗談を返せるくらいになった初春を見てほっとしたのか、白井は向き直って部屋の外に出た。
手をにぎる音が聞こえる気がする。開戦の合図は思ったよりもずっと暖かかった。
418 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 22:47:10.32 ID:WXeP9Zo0
黒子かっけー
419 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 22:59:53.45 ID:VzQzGSUo

部屋から出ると、通報を終えて戻ってきた木山が出迎えてくれた。二人をどこか遠い目で見つめている。
彼女も初春の心中を察していたらしい。尤も、本来ならば彼女の性格的に賛同してくれることはわかっていたのだが。


「もっていきなさい」


白衣から取り出したのは―――垣根のワイヤレス受信機、に似ている。


「これは?」

「15分だ。それ以上は絶対にやめるように。使い方は、君ならわかるだろう」


それからぶつぶつと、何かをつぶやきながら木山は部屋に戻ってしまった。手元に残された受信機を見つめて首をかしげる。
予備電源だろうか。そういえばそろそろ垣根の充電が切れる頃。
だが、15分……? 病院の廊下を歩きながら疑問を浮かべていると、


「ああ、大事なことを忘れていましたの」


不意に、白井が立ち止まってミニサイズの携帯を取り出した。
なれた手つきで携帯を叩く。


「ああ言ったものの、さすがに相手が木山のいうような組織絡みでは、わたくしと貴女だと少々戦力的に不安が残りますわね」

「……まったく、本来ならばこういったことには巻き込みたくないものですけれど、勝手に行動したらまた起こられますの。
 以前はそれでちょっとした喧嘩になってしまいそうでしたし」

「白井さん?」


独り言のような、愚痴のような。
それはやれやれというべきか、仕方ないというべきか、複雑な感情をはりつけたような声。


「―――戦争には大砲が必要でしょう? ひとつで軍隊を蹴散らすくらいの、大砲が」


………

……


420 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 23:06:30.70 ID:VzQzGSUo

――――――

とある寮内。
パートナーが出て行った部屋で雑誌を読んでいた。

少し出てくるだけ、と言っていたがアレの少しは当てにならない。
嘘をつかれるのは自分のためを思ってなのだろうし、信頼しているからこそのそれなのかもしれない。
それにしたって、あからさまにやられるとどうもイライラしてしまう。出て行くときの表情に嘘はなさそうだったのだが。


―――これはただ自分が短気なだけなのか。大人にならなくてはいけないな。

この分だと面倒なことに巻き込まれているのかもしれない。
でも、あの子は何かあって、本当に必要なときにはきっと頼ってくれるはずだ。
自分が、そうするように。


余計なことを考えるのはやめて立ち上がり、そろそろ入浴を済ませてしまおうとした。


―――ヴー、ヴー……。


布団の上に転がる携帯が音をたてる。

読んでみると、その内容は丁度今しがた考えていたことと一致していた。
こういうときばかり予測はあたるもので、案の定も案の定。展開が分かり安すぎて納得してしまった。

立ち上がって、制服に着替える。ヘアピンをとめて、短パンをはいて。

そして―――


(―――本当に退屈しないわね、この街は)


コインを投げて、つかんだ。


………

……



421 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/11/27(土) 23:07:47.76 ID:VzQzGSUo

本日はここまでです。本当は昨日のうちに書き上げたかったんですが、遅くなってすいません。
説明部分には色々とわからない部分があるかと思いますが、そこは文才が足りないということで脳内処理してください。
では、また近いうちに。お疲れ様でした。
422 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 23:17:43.94 ID:spthb/Ao
おい…まさか…まさか!

うおおおお続きが楽しみだぜぃ!
423 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 23:28:13.39 ID:rUy3X.AO
ついにやつが出てきたか……!
424 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 01:59:17.85 ID:UYWo1kAO
最高位が一角のご出陣か
425 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 02:05:24.32 ID:GDt0IJwo
彼女がこんなにかっこよく書かれたSSは初めて読んだ
426 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 02:49:27.40 ID:w5Rocc.0
何気なく開いたのに気づいたら一気読みしてた
なにこれすごい
427 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 12:54:41.45 ID:qfEx0HIo
はじめっから面白いのに尻上がりに面白くなっていくとかどんだけチートだよって思うわ・・・
428 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 14:16:35.03 ID:eJMnHDoo
これは燃える。すげぇ。乙
429 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 23:26:59.01 ID:AUQQosDO
すごく、すごくおもしろい
430 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:08:11.72 ID:I3J0IbU0
>文才が足りない
それは卒論を2回も落としている俺への戦線布告ですね?
431 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 00:10:49.26 ID:kLdM0hIo
>>430
×戦線布告
○宣戦布告

まあなんというか卒論大変だろうけど頑張って
432 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 18:32:39.75 ID:xMlXSsAO
おもしろいなー
433 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 22:04:25.62 ID:3J0Kg82o
超電磁砲がこんなにかっこいいのは初めてだわ。マジ楽しい
434 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 00:57:07.64 ID:dozMxuko
面白過ぎておっきしたお
435 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 01:09:23.48 ID:ajm8V020
>>431
良いこと教えてやろう
  も  う  す  で  に  論  文  落  と  し  た

  祝  留  年  三  回
436 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 01:37:18.21 ID:L8ihxF2o
>>435
辛いだろうが、お前はもうちょっと頑張れwwwwww

マジで頑張れ(・p・`)
437 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 17:47:42.20 ID:cyT2BqIo

こんばんわ。たくさんのレスありがとうございます。励みになります。
とりあえず書いたところまで投下してゆきます。
説明描写が多いですが勘弁

>>435
留年なんて降りるべき駅をひとつ間違えたようなもんだ、っておばあちゃんが言ってくれませんでした
438 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 17:53:25.33 ID:cyT2BqIo

                                       ※

数十分後、垣根帝督が搬送されたのは見たことのない大型の研究施設。学園都市のどこに位置しているかは分からない。
が、雰囲気から推測するに場所が表沙汰にされていないことは確かだろう。
どのみち暗部の人間が利用できる場所など限られている。

以前垣根たちは素粒子工学の研究所を襲撃したことがあった。あれは確か『ピンセット』の奪還を試みた際のこと。
とある能力者との戦闘によって破壊してしまったから、今あそこがどうなってるのかは分からない。
あえていうなら現在の場所はあの施設に少しだけ似ていた。もちろんそれは漂う空気の話だが。

                                バンク
「ここは電子工学の研究施設だ。以前は学園都市の『書庫』を始めとした情報管理素材の開発に使われていた。
 紆余曲折あって、現在この建物に駐在する者はいない。表向きにはな」


博士と呼ばれた男が垣根を乗せた担架のような、車椅子とは似て非なるモノを部下に引きずらせながら言った。
居心地の悪さはこの上なく最悪だ。
できることなら一刻も早くその目的を聞き出したいところだが、もちろん拘束されている身としては自由に話題を進めることはできそうにない。

文字でのやり取りはなんだか歯がゆかったりする。それは初春と対話していても同様だ。
博士は廊下を歩きながら、査楽の他、何人かの研究員らしき男たちに指示を出していた。


「すぐに始める。解析の準備はできているな」

「はい。ですが博士―――」

「なんだ、問題があるなら言いたまえ」

「いえ、散布したナノデバイスから情報が入りまして。どうも査楽氏が逃がした輩が、」

「問題があるなら、言いたまえ」

「あ、いえ……、し、失礼しました」


必要なことだけ簡潔に述べろ、という意味らしい。
立場がはっきりしているな。と垣根は密かに思った。

              アンダーライン
ナノデバイスというのは『滞空回線』のようなものだろうか。この男なら開発してもおかしくない。
もっともアレイスターが敷いている実際のネットワークほどの緻密さはないだろうが。
439 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 17:56:11.50 ID:cyT2BqIo


思ったのはそれだけではない。

査楽が逃がした、ということは、おそらく追っ手として誰かがここを探索しているということか。
もしもそれが自分の奪還を目的とするものなら、おそらく初春は無事なはず。メッセージは届いたということ。
これだけなら希望的観測とも聞こえそうだが、こんな短時間に都合よく追跡者が現れることは常識的に考えてもありえない。
これで十中八九、彼女の安否を確認できた。


「何をほっとしている? さすがに迎え撃つまで待っているような性分ではないぞ。大切な友人なんじゃないのか」

【……バーカ、来ねえよあいつは。そこまで馬鹿じゃねえ。来るのは通報を受けたアンチスキルが関の山だろ。
 加えてやつら相手にド派手にやらかした場合、都合が悪いのはテメェらだ。こんな場所に連れ込んだのは失敗だったな? 
 戦闘部隊が総動員されりゃあ、重火器であっという間にぶっ潰されちまうぜ】

「さて、どうだろうな。さすがに『オジギソウ』を都市内で遠隔操作するには距離が離れすぎているが、
 処理する時間は問題ではない。君の解析さえ終わってしまえばなんとでもなる」

【あ?】


博士は言うなり目をつぶると、口元をつりあげて微笑を浮かべた。


「ほう。たった三人か。くっくっく、吉報だよ垣根少年。それなりに人望はあるようだな。アンチスキルよりもよっぽど頼もしいじゃないか」

【………!!】


バカ春。何を考えている。
それからは思考が停止してしまった。

440 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 17:59:08.24 ID:cyT2BqIo


「査楽」

「ま、そうなるでしょうね。やられっぱなしはさすがに嫌ですし。殺しても構いませんよね」

「侮るな。さきほどの戦闘の二人ならば数で圧倒できるだろうが、残りの一人はおそらくレベル5の『超電磁砲』だ。
 お前程度では手に負えんだろう。時間を稼げればそれでいい」


査楽と呼ばれた男はそれっきり返事を返すことなく、その場から消えた。

一方の垣根は会話に違和感を覚えていた。

こちらの動向が伝わっていたのはナノデバイスによって理解できるが、なぜリアルタイムで情報が分かる。
見る限り博士は垣根の思考を読み取るパネルのようなものを見ているだけである。
サイボーグ、という言葉が頭の中をよぎったが、次に聞いた台詞はそんな垣根の予想を大きく上回るものだ。


「君と同じだよ。私の頭脳はあの箱の中だ」


箱。大型サーバー“ANGEL”。このタイミングで頭脳という単語が出てくるとしたらそこしか考えられない。

ということは、この男も電脳空間の中にいるということか。


「頭の回転は衰えていないようだ」

【バカな。テメェが俺と電脳空間を共有しているってのか? ありえねえ】

「それは少し表現が違うな。正確には君のホストにあたる存在だ。


    ―――私はもとから脳をデータ化している。君と最初に会ったときからずっと、な」


【何?】

441 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:05:15.62 ID:cyT2BqIo


「私から見た君は『下位個体』。……ああ、ハッキングをかけようとしても無駄だ。今の君はあちら側に戻ることはできない。
 君の脳波を双方向にするのも単方向にするのも私次第だ」


つまり、自分の心と体は今現在この腹の立つ男の傘下にあるということか。
なんのことはない、この男も心と体をバラバラにしていたのだ。自分と同じように。
そして推測するなら、自分をこのような体にしたのもこの男だろう。

たしかに、電子化した脳ならば今までの情報の筒抜け具合にも納得できる。
リアルタイムで散布したナノデバイスに脳波を飛ばせば、この街のいかなることでも見通すことができてしまう。まさに千里眼だ。
査楽が以前自分たちを追跡していたのは隙あらば今日のように自分と初春を処理しようとしていたからだろう。

あの日に二人が離れる機会はないと見て踏みとどまっていたのか。

だが、それでも疑問は残る。なぜこいつは五体満足でしゃべることができる?
そして、一体何のために自分を回収しようとしていた?


「君を再び回収することになるとは思わなかった。やはり若さが持つ発想力はすばらしい。
 そうでなければ君はもう用済みだったんだがな。このパネルは例のプログラムを解析して君の思考を正確に読み取っているのだよ。
 こちらの受信機といい、翻訳機といい、見事だな。いかんせんバッテリーの燃費が悪いのが難点だが」


そちらは木山が開発したものと知ってか知らずか。いずれにしろ博士は最大級の賛辞を送っていた。


「あの娘―――初春飾利は天才だ。
 何をもってその才能が開花したのかは知らんが、この私が断言する。それも金メダルを授与したいくらいのな」


時間は四時間をとうに回っている。
それでも回路がこちら側に止まっているのはバッテリー部分を手持ちの電子パネルで消費しているということだろう。
根拠のない推論を展開する垣根。だが、そこは重要なポイントではない。


【……、テメェの汚ェくそまみれのメダルなんかあいつは欲しがらねえよ。やはり最初から初春のこと知ってやがったんだな】

「もちろん君を観察していた途中で知っているだけだ。面識はない」


願望はあるがな、と言い残して博士は廊下を進んでいく。
442 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:11:03.88 ID:cyT2BqIo

――――――

やがて垣根を乗せた担架は広大な研究室―――、いや、実験室に運ばれていた。
あたりを埋め尽くすのは数えただけで100はありそうなモニター。
ソフトの起動実験にでも使われるものだろう。
中央を起点として放射線状に広がる画面と机は、無機質ではあるのにどこか有機的な不気味さを放っている。

垣根はその中心にある椅子に座らされた。彼を見つめるのは数多の研究員と、身を不思議な装いにつつんだ戦闘員らしき人物たちだ。


「さて、どこから話そうか」


博士は垣根の目の前に腰を落とした。


【……、何のために俺を回収した】

「至極単純な理由だ。君を生体兵器として利用するためだよ。来るべき戦争に備えてな」

【戦争?】

「順を追って話そうか。―――君はあの日、第一位によってその体を破壊された」


ぎり、と言葉と共に歯軋りをする垣根。
今の今まで忘れていた、苦い記憶。血の匂い。あの時の光景。五感にさわるすべてがフラッシュバックする。


「我々がアレイスターの命によって動いていたのは知っているな。
 脳がもとから電子の塊であった私に死という概念は存在しない。これもただの入れ物だ。
 体がなくなっても入れ物を変えるだけで何度でも復活できる。
 極秘裏に君を追跡していた我々は、あの戦いの後君を回収することに成功した」

【……、】


思い当たるのは以前、心理定規が言っていた例の話について。
ピンセットをめぐる一連の騒動のあと、自分は学園都市に回収されたことになっている、という話。
自分がここに存在している以上、ふざけたデマだと思っていた。あくまでも、思っていた。過去形。

混乱する頭をどうにか冷やしてみる。が、思うようにできない。
様子を見た博士は立ち上がると、何やら近くにいた研究員に目配せをした。

443 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:18:14.03 ID:cyT2BqIo


「回収した君の脳を電子化することはそんなに困難なことではなかった。いくら超能力者といっても元は人間だ。
 能力を伸ばすのでも発現するのでもなく、単純に移植するだけなら大したことではない。
 ……アレイスターはもともと未来を予見する力に秀でた存在だ。
 あの日のいざこざによって今後存在するであろうイレギュラー分子を始末するため、
 君は意志を持たぬ生体兵器としてよみがえるはずだった」


垣根はこのとき、本来感じるべきモノを感じることができなかった。
それは、あれほど渇望していた己の価値。
奇しくも自分はいまだこの腐った街に必要とされるほどのなにかを宿していたというわけだ。
だが、それはこんな形ではない。言わずとも本能で理解している。


「副産物としてチャチな兵器はいくつか造ることができたが、本体の君に動いてもらわなければ話にならない。………が、そこで問題が生じた」

「脳を移植することには成功したが、どうあがいてもこちらの世界に君を導くことができない。
 何が原因かはわからないが、バグのようなものがあの箱に存在しているらしく、どうやっても君の体は活動を開始しなかった」

【人の体と電子脳をつなぐなんてこと、そんな簡単にできねえだろ】

「我々の技術をもってすれば、五体満足で動けるのが普通なのだよ。これもナノデバイス。あとはわかるだろう」

【……! まさか、大気中に散布したネットワークで自律神経を……?】


以前戦ったときからナノテクロノジーに関する造詣はそれなりに深い様子だった。
シナプスと呼ばれる構造を模した擬似的な神経回路。理屈では理解できても、実感はない。

もちろん博士の場合と垣根の場合では勝手が違う。
垣根の神経をつないでいるのは単純な有線回路、もしくは幻想御手を模した木山のネットワークによるものだ。


「現に君以外は問題なく作動している。君だけが特例なんだ。
 ―――さて垣根少年。先ほど私は“君の体”という表現を使った。
 だが、君は一体全体、自分が自分であるとどうして主張できる?」

【どういう意味だ? 俺はここにいる。脳が電子化されようが、体はここに】

「だからこそだ。その体が君自身だと、どうして確信できる」

【―――?】

444 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:19:42.16 ID:cyT2BqIo

ぎぎぎ、と運ばれてくるのは大型の筒のようなもの。
棺に見えたのは垣根帝督の精神状態のせいかもしれない。

それを運んでくるのは博士から合図を受け取った研究員だった。

垣根の前で足を止めた男は、ゆっくりとその扉を開く。



ゆっくりと、ゆっくりと。



そして、




そこにいたのは。



【―――ッ!!!!】



とっさに『心理定規』の台詞が頭で響く。


―――正確には、“回収されていることになっている”。

―――脳みそは三つにわけられて、内臓をおぎなうために大きな装置を取り付けられた状態。

―――想像できる? 私には無理だったけれど。




はたして、“本物の”垣根帝督がそこにいた。


「そういうことだ。君の今の体は垣根帝督ですらない。ただの入れ物。偽者のガラクタさ」


445 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:22:53.95 ID:cyT2BqIo

絶句したまま己の体を見つめる垣根。
それは彼女が言うとおり想像の範疇を越えた姿をしていた。

むき出しになった己の脳。奇妙に捻じ曲がった体。内臓をえぐるように取り付けられている装置。

これは最早人間として原型をたもってはいない。ゴミだ。産業廃棄物の類だ。

―――だが。


【……はっ、ははハはハ………】


今更それがどうしたというのか。哲学的な博士の問いに答える必要などどこにあるのか。
答えたところで未来が変わるのか。今が、変わるのか。
そんなことは到底ありえない。あるのは絶望。広がるのも絶望。
この世の底から彼方まで、闇を宿した水平線がどこまでも続いているだけだ。


「さすがだな。一瞬乱れた拡散力場がすぐに収束した。
 ……今の君の体はエンコードされた脳をインストールするためにに造られた特別な個体。
 要するにクローンだ。いわば意志を持たない傀儡」


それはあの日、あの戦いの後、目覚めてすぐにひらめいたことだ。
垣根帝督の体は垣根帝督であってそうではない。本物は、目の前にある、―――ゴミ。


【……、俺を再び回収したのは、初春のシステムで意志疎通が可能になったからか】

「その通り。もっとも君の複製ならばいくらでも作れるし、実際に個体は何百と量産した。
 だが、理解不能の言語を話し、半身不随とはいえ体を動かせたのはこの個体だけだ」


垣根を取り巻く座標上に点在していたプロットが、次々に線で結ばれていく。
そこに爽快感はない。あるのは喪失感。何か大切なものが崩れ落ちるような。


「あのプログラムを応用して君を解析すれば、生体兵器として量産できるかもしれない。
 もともとあの病院に君を預けたのは、垣根帝督の死亡を病院側の不手際として処理させるための口実だった。
 だが状況が変わってな。今からでも君を使えば当初の計画にシフトすることができる。言っただろう、レベル5など何体でも作れるとな」

【………】


吐き捨てる台詞もない。
おそらく自分以外の複製は病院にすら入れられずに処理されていることだろう。

446 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:28:19.69 ID:cyT2BqIo

……あの病室で目覚めたときの錯綜した記憶。今考えてみると妙だった。
そこが研究施設なのか病室なのか、どうして見分けがつかなかったのか。
答えは簡単であり、電子化された脳が一種の錯覚を起こしていたに違いない。


【戦争ってのはなんだ。まさか世界征服でもしようってのか】

「今の君に言っても仕方ないが、……まあいい。自我をなくす前に教えてやる。
 今からそう遠くない未来、この世界は三度目の大戦を経験することになる。これはほぼ誤差なしに決定していることだ」

【……アレイスターのくそったれだな、絵を画きやがったのはよ】

「細かいことは知らんよ。私は末端の構成員にすぎんしな。


   ―――だが」


博士が右手を振り上げると、目の前にあった“垣根帝督”は音もなく崩れた。
『オジギソウ』。特定の周波数に応じて反応する合金粒子。


「こうして君を壊すことはたやすい。絶望したかね?」

【あてつけのつもりかクソ野郎。せいぜい安い優越感に浸りやがれ】


垣根の台詞が届いていたのかいなかったのかは分からない。
博士は再び目で合図をすると、今度は垣根帝督の視線にその濁った瞳を合わせた。


「はじめようか。君にとっては二度目の絶望だ」


三度目だよ、と言い返す間もなく“兵器”への道が開かれていった。
彼が祈るのはただひとつ。

超電磁砲だのジャッジメントだの、かかわりのない他の奴らが犠牲になろうがそれは知ったことではない。

ただ。
馬鹿でお人よしのあの女だけは、ここにたどり着いてほしくない。それだけだ。


………

……


447 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/01(水) 18:29:27.91 ID:cyT2BqIo

思ったよりも少なかった。
夜にかけたら続き投下します。
448 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 18:30:50.94 ID:0LAV2O6o
乙なんだよ!!
449 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 19:00:15.09 ID:78yfk9g0
乙です
うおおおお!!wktkがとまらないっっっ
450 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 19:33:18.38 ID:dhoEKxIo
おもしろすぎわろた


わりとまじで
451 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 20:36:04.41 ID:X3sDMcQ0

ていとくん……
452 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 23:11:30.84 ID:xTJBqwAO
乙!
453 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 03:10:58.74 ID:BVHf4YAO
超乙です

論文ってさ…何十年も前からいろんな卒業生が書いていて、やりつくされてるだろ…orz
新しい発見をしない限りさ…orz
454 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 04:59:49.70 ID:tNxeiQo0
おもしろそうなスレタイだしまあ暇潰しにはなるかなと思って開いたらいつのまにか全部読んでた。びっくり。
455 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/02(木) 05:01:17.72 ID:tNxeiQo0
おもしろそうなスレタイだしまあ暇潰しにはなるかなと思って開いたらいつのまにか全部読んでた。びっくり。
456 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 00:42:30.60 ID:iVgbokDO
びっくりしすぎだ
457 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 01:07:43.35 ID:Q69mEQAO
大事なことなので
458 :続き ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:44:01.34 ID:JGVoBi2o

                                   ※


「『やっぱりな』が3割、『ふざけんな』が7割ってとこね」


夜の公園、ちかちかと点滅するライトの下で御坂美琴が口を開いた。
表情からは疲れと怒り、それに決意の光が等分されて瞬いている。

白井の提案によって会した彼女たち。
今後の行動、および垣根の探索方法について会議をしているところだ。

夜の街は確かに危険である。
が、白井が言うところの“大砲”を携えた今、下手に室内にいることは得策ではないと判断した結果だった。



「お姉さまはご存知でしたの? 暗部、という組織群について」

「知らなかったわよ。でもまぁ、……私も色々と見てきてはいるから。今更驚いたりはしないかな」

「……、」


色々、の中身については聞かずにおいた。
白井も白井で、御坂には言わずに危険に身を投じたことはある。
すべてを共有することが必ずしも信頼関係を築く条件になるとは限らない。

話したいことがあれば、話す。そうでなければ、聞かずとも信じる。
初春に言ったような関係はここでもしっかりと息をしているようだ。


459 :続き ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:45:49.71 ID:JGVoBi2o


「最後に通信があったのはこの場所?」

「はい。さっき説明したとおり、垣根さんの体は『幻想御手』の改良品を介して脳波を受信しています。
 私の翻訳プログラム自体はサーバーから直接彼の思考を読み取るものなんですけど、
 逆を辿って彼の体にアクセスすることも理論的には可能なはずなんです。
 通信が切れた、というより、痕跡がなくなっていた、という表現の方が正しいかもしれません。
 ……まるで妨害が入ったかのように」

「ふーん……」


御坂は言うなり遠い目をしてあたりを見回す。
何かを探しているような雰囲気。雰囲気だけで、意図はわからない。
真剣な面持ちでそれを見る白井、緊張しながらどぎまぎと二人を見比べる初春。

学園都市の夜の公園は意外と薄暗い。元々夜に外出することを前提として設計されてはいないのだ。
レベル5とレベル4の二人がいるとはいえ、これから起こるであろう出来事は浮ついた気持ちで乗り越えられるはずがない。
それでも周囲の様子も重なって、何かすっきりしない、落ち着かない。

初春が感じていたのは漠然とした不安感だ。垣根を救うという使命感を加味しても、やや足りない。
それは何よりも、彼女自身が己の無能さについて自覚しているからである。


「……うーん、恣意的なジャミングが入ってるなら、ソースを特定しないと私の能力でも追跡できそうにないわね。
 場所に心当たりはないの?」

「はい……、すいません……」

「暗い顔しないの。初春さんがいなかったら、こうして私たちが集まることだってなかったんだから」


言いつつも視線はやはり彼方を見つめたままだ。

……彼女は何を探しているのだろうか。
460 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:48:09.84 ID:JGVoBi2o

やがて自分を見つめる後輩二人に気づいたのか、御坂は目をぱちぱちさせてから微笑を浮かべた。
これではフォローになっていない、と思ったようである。


「……それにしても、意外だなー。初春さんに先越されちゃった。
 あ、変な意味じゃなくってね。なんていうか奥手そうだし、はは」

「……、お姉さま、やっぱり……」


びくっ、と体を震わせる御坂。
初春は会話の意味が理解できず、視線の意味を変えた白井と御坂を交互に見比べている。
見比べられた当の御坂は、慌てふためいて苦しい弁解を始めた。


「ち、ちがうわよ。別にあの馬鹿と比べたわけじゃなくて」

「……、わたくし、まだ何も言ってませんの」


あの馬鹿、とは誰のことなのだろう。
初春は初春でいきなりの話題転換に驚いたが、すぐに励ましてくれているのだと理解した。

御坂美琴は意外にも後輩や年下の人間に対して友好的な少女である。
白井のような癖がありすぎるルームメイト以外には、道端でバイオリンの指導をしてあげてしまうくらい、おせっかい焼きで世話好きなのだ。

きまりが悪そうに顔をひくつかせた御坂は、呆れ顔の白井を見てやや後ずさりをしていた。


「う……。ね、ねえねえ初春さん、それでどうなの? 結構いいかんじなの??」

「いいかんじって……、いつの時代の言葉ですの……? だいたい、初春ごときがそんなに進んだ関係にいたってるわけがありませんの。
 せいぜい手をつないでルンルンくらいのオチですのよ。ねえ初春?」

「わっ、わっかんないじゃないのよそんなの! 今時手をつないだくらいでこここ、恋人とかそんなわけないじゃない馬鹿じゃないの!
 ま、まああれよね、か、間接キスくらい……、ね、初春さん?」

「……、…………、えっと……」


話題を振られるなり、初春は一瞬目を泳がせた後、……顔を真っ赤にしてうつむいた。
薄暗いライトの明かりに照らされて、下唇を噛んでいるのがよくわかる。
名門中学の女生徒二名はそれを見て、「「え」」とほぼ二人同時に驚き、そして、絶句。

何か踏んではいけない地雷というか。文字通りこちらが爆死するようなネタを振ってしまった気がした。
目を点にして初春を見つめる二人。

461 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:50:22.26 ID:JGVoBi2o


「………、」

「………、」

「……あっ!! ち、ちちち違いますよ!? そういうのじゃないんです!! 
 お風呂に入ったのだって患者と介護士としてだし、決してそういう邪な感情は―――」



「おっ」
「ふろっ!?」



今度は魚雷を投げつけられた気がした。

お風呂。お風呂とはすなわち、お風呂のことだろうか。お風呂ちゃんまじお風呂。

御坂と白井の脳内で瞬時にとても放送できそうにない映像が広がる。
白井はやや青ざめた顔、御坂はりんごのような赤い顔。
二人そろって綺麗なコントラストを演出していた。


「ま、まあ……、つ、付き合ってるわけですし……」

「つつっつ付き合ってないですよ!! 何度も言ってるじゃないですか!!」

「そ、そうよね。それくらいは……、し、してるわよね……」

「違うんです誤解です!!! というか今はそんなことを話してる場合じゃなくてですねーっ!! ―――あ」


最後に初春が素っ頓狂な声を発して、会話が途切れた。

もちろん聞いていた御坂と白井は『こ、これ以上どんなトンデモ話が……っ!?』
という中学生としては至極当然な思考回路で会話の流れを予想していたのだが、内容は再び180度回転して、元の話題に戻っていた。


462 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:51:28.84 ID:JGVoBi2o


「これ、木山先生からもらったんですけど……」

「? なにそれ、ポータブルCD?」


初春が取り出したのは木山に渡されたイヤホンつきワイヤレス受信機。
意味深な言葉を残して渡された一品だが、バッテリー交換のために持たせたのだと推測できる。
使い方、という言い方がやや気になるが、初春が言いたいのはそういうことではない。


「これにも垣根さんの脳波が飛んできているはずなんです。
 ということは、こちら側を解析すれば垣根さんにアクセスできるかも。
 ジャミングされているのは多分、垣根さんが持っていた受信機を介してですし」

「……、なるほど、サーバーから分岐した脳波を読み取るということですのね。
 確かにお姉さまの能力と初春のスキルを合わせれば、できないことはなさそうな……」

「はい! 御坂さん、これならなんとか場所の特定くらいは―――」


しばらくぶりの笑顔を御坂に向けて、異変に気づいた。
さっきまで顔を真っ赤にしていた中学生の女子は、今はもうそこにいない。




いたのは、レベル5の、――――――“超能力者”だ。




「その必要はない―――みたいね」


463 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:54:07.72 ID:JGVoBi2o

額に皺をよせて初春の後方を見つめる御坂。
白井もすぐに異変に気づいたようだ。こき、と首をならして腕まくりをする。


そして最後に、初春飾利が振り返った先にいたのは、


(――――――ッ!?)

「そんなに驚かないでくださいね。まあ、その反応は嫌いではありませんけどね」


『死角移動』と名乗ったダウンジャケットの少年。
それだけならばまだ驚かない。

初春が驚いたのは、そこではなくて、人数とその容姿の問題だ。


数えたところ、同じ顔をした人間が10人いる。それも全く、同じ表情で。
まるで合わせ鏡の中の世界にいるような、奇妙な存在感。
初春は自分の足が少し震えていることに気づいた。


「―――はぁ、ホンット、胸クソ悪いわ」


御坂が呆れたように言い放った。見る限りあまり驚いているようには見えない。

こちらはただただ、慌てふためいて情報整理をするのが精一杯。
どうもこの事件に関わってから自分は驚くことが多すぎる。
ジャッジメントの仕事をしていてもここまでの驚愕はなかなか味わえないというのに。


「貴女が『超電磁砲』ですね。確かにこれは、時間稼ぎするだけで精一杯かもしれませんね。
 ―――ああ、それと初春飾利さん。受信機を辿っても無駄ですよ。博士は彼の脳波自体をジャミングしている。
 アクセスできるのは特殊な方法のみでしょうね」

「……、博士……?」


464 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 12:58:13.70 ID:JGVoBi2o

続きを話すのは、また別の少年。


「貴女を殺すだけならすぐにできそうですね。面倒ですから先に処分してしまいましょうか。
 人質としても使える。戦闘能力のない、頭でっかちの貴女はこの場所にふさわしくありませんからね。
 つまり我々にとっては玩具という名の有用品、あなた方にとってはガラクタという名の不用品です」


ぎり、と拳を握る初春。そんなことは自覚している。自分でも何度も反芻しているし、御坂や白井もふくめて、それこそ周知の事実だ。

だからこそ、悔しい。
あんたなんかに何がわかるといってやりたい。不用品だからどうだっていうんだ、と。

そして―――できることなら自分の力で救い出してあげたい。
彼を。寂しがりの、垣根帝督を。それができないから、今こうしてここにいるというのに。

―――それでも結局、無能だ、自分は。何もできないことに、変わりはない。だけど、だけど。


「やってみせなさいな」


うつむきそうになった初春の視線を上げてくれたのは、肩にのせられた白井の手だった。
まっすぐと査楽を見つめて、一歩踏み出してから白井は言う。


「……こちらとしても、貴方みたいなゴミ男が来てくれて好都合ですの。死ぬほど痛めつけて洗いざらい吐かせてやりますのよ」


続いて、御坂。帯電した電流を小刻みに漏出させて、目をつぶったまま、話す。


「悪いわねー、とある事情で同じ顔をした人間を見ると頭に血がのぼっちゃうのよ。
 アンタ自体に罪があるかどうかはわからないけど、―――逃がさないわよ」


御坂が目を開いた瞬間、響くのはビリビリビリィッ!! という空間を裂く音。それが開戦の合図だった。


「いきますよ。ショータイムですね」

465 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 13:00:00.26 ID:JGVoBi2o

瞬時に10人の人間が目の前から消える。


キルポイント。名の通りの能力。


襲われたときもそうだった。不意打ちに特化した能力だ。
喉は一時的に冷やして、応急処置をすることでなんとか発声できるようになったが、今度は助かるかどうか。

初春はこれから、この場所で想像を絶する血みどろの戦いが繰り広げられると想像していた。
たぶん御坂と白井の二人は自分を守りながら戦うだろう。


……自分は足手まといだ。もしかしたら自分がいることで戦況が不利に働くかもしれない。
時間稼ぎと査楽は言っていたが、自分のせいで二人が傷を負ってしまったらどうしよう。

どう行動するのが最善なのか。取るべき選択肢は。


―――すべて杞憂だった。





「がっ―――!?」






初春が視線を思考の向こう側へと飛ばしている一瞬で、すべては終わっていたからだ。



466 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 13:03:12.56 ID:JGVoBi2o

かろうじて見えたのは断片的な映像だった。

御坂が裏拳で背後の査楽の顔面を殴り、
続いて右後ろ、左後ろの上空から襲い掛かろうとする人影が電撃をあびて崩れ落ち、
白井がそのうちの一人をヘッドロック、すぐさま両手で拘束する。
他の9人は地面に倒れたまま動かなくなった。

といっても、すべては結果から予想される顛末にすぎない。

勝負はまさに刹那のうちに、ついた。


「死ぬほど手加減してやったわよ。この後どうするかはアンタの返答で決める。起きなさい」


地面にうずくまる査楽の髪をつかみながら、御坂は極めて冷静に言葉を吐いた。
その背中には少年の両手に関節技を決めて、自由を奪う白井がいる。
断続的に痛みを与え続ければ、さすがの査楽といえども逃げることはできないからだ。


「キル・ポイント。なるほど、やはり死角に入り込む能力ですのね。ですが相手が悪かったようですの。お姉さまの能力に360度死角はない。
 ―――わたくしですの? 死角からしか攻撃してこないなら、逆に行動範囲を狭めているだけですのよ、お馬鹿さん」

「……ぐ、これは……、さすがに驚きました……、ここまでだとは……っ…数が……少なすぎましたか、ね…」


言ったところで、地面に倒れる少年にゆっくりと顔を近づけた御坂は髪をつかむ手のひらに一層の力をこめた。


「1000人いても結果は同じよ。垣根さんとやらをどこにつれていったの? 
 三つ数える間に答えたほうが身のためだと思うけど。灰になりたくなかったらね」


どっちが悪者だかわからないような発言をする。
が、おそらくそれはハッタリだろう。御坂は簡単に人を殺せるような生き物ではない。

自身が圧倒的優位にある際、交渉する上で大事なのはプレッシャーを与え続けて選択肢を削ること。
初春は御坂の行動に舌を巻いていた。これは誰が相手でも情報を吐くしかない。

―――あるいは、他の要因が彼女に作用していて、過激な発言をさせたのかもしれないが。

467 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 13:05:48.69 ID:JGVoBi2o


「いち」

「う……ぐ………」

「にい」

「短いショータイムでしたの。返金は結構ですので、返事をくださいな」


コインを査楽の額にあててカウントを始める御坂美琴。

白井はそれを見ても表情をまったく変えなかった。
すべては垣根帝督奪還のため。逆に逃げられないようにつかんだ腕をさらに締め上げる。
対する御坂は演出のつもりか、周囲に電撃を撒き散らした。

圧倒的なプレッシャー。視線を含めたすべてが二人を演出している。

完全に確立されたコンビネーションだった。
この二人のやり取りには一分の隙もない。

どこでこんな動きを覚えたのか。初春は何か、二人の暗い部分を垣間見たような気がした。



「さん」

「―――仕方ありません、ね………」



ビリィッ!!という音を立ててまた空気が裂ける。御坂は電撃をあびせて気絶させるつもりだったらしい。
が、そこに査楽の姿はない。文字通り、音も立てずに消えた。

服だけを、残して。


「……!? 消えた……? いや、くずれ、た……?」

「テレポート……ではないですわね。自壊?」

「………、みたいね」


御坂が首を振って白井に合図をする。
初春もつられて周りを見ると、今までそこに散らばっていたはずの9体の人間が、同じように服だけを残して消えていた。

468 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 13:09:02.54 ID:JGVoBi2o


「寮にいたときも……、消えていましたよね」

「ええ。ですがあれは他の人間……、まぁ、さきほどのコピー人間にやらせたと考えるほうが妥当でしょう。
 これは少し、勝手が違う」


初春から見ていてもその消え方は明らかに不自然だった。
建物の風化をハイスピードで再生したような、消え方。
同じ顔をした10人の男たちといい、謎は深まる一方だ。


「それよりも、垣根さんの居場所に関する重要な手がかりが……。
 初春の受信機も使えないといいますし……、ひとまずは病院に戻って―――」

「大丈夫、手がかりならもらったから」


え? と答える白井と初春。
御坂美琴は立ち上がった後、再び当初の視線を取り戻していた。遠い目。
何かを探しているようだったそれは、一点に留まって空を見つめている。


「今のバカの体からは磁力線に似た波が常時放出されてた。崩れる瞬間、一斉に収束する光の道が見えてね。
 おそらく電気的な何かを使って遠隔操作、あるいは電波を受信していたみたいね。言ってなかったっけ? 私、そういうの目視できるの。
 ここに来たときは垣根さんの波の痕跡をさがしていたんだけど。―――光が伸びていたのは、あっち」


指差した方角をにらみつける。


そういえば以前白井から聞いたことがある。レベル5のエレクトロマスターともなれば、電磁力線をその目で追うことができるとかなんとか。
瞬時に伸びた光を見逃さなかった御坂の慧眼に脱帽する初春だったが、今はそんなことを考えている余裕はない。
一刻も早く、たどり着かなければいけない場所があるから。
469 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/03(金) 13:12:01.47 ID:JGVoBi2o


「研究施設か何かじゃない? ま、手当たり次第にぶち壊してもいいけど、近くにいけばそれらしきものは見つかるはず。
 急ぎましょ。初春さんのこともそうだけど、個人的に気になることが増えたから。

  
       ―――ことと次第によっては、徹底的に潰す」



「……、お姉さま、さっきの電撃は……」

「黒子、テレポート。急いで」


それ以上は追求しなかった。


白井が感じていた違和感の正体は、その威力についてだ。
もちろん手加減はしていたと思うが、あれはハッタリにしては強すぎた。
鍛えられていない人間ならば下手をしたら重大な障害が残ったかもしれない。


御坂の演算能力は学園都市でも最高峰のものだ。演算を誤ったとは思えない。

それはおそらく、感情的な問題。

妙に落ち着いていた態度が、青く燃える炎を彷彿させる。
本来ならば竹を割ったような性格の彼女から発せられた、機械的な言葉の数々。

御坂をそうさせた理由。意図。意味。考えても答えはでないだろう。だが、ヒントはある。


一方の初春は、垣根に渡すべきワイヤレス受信機を握り締めて、決意を新たにしていた。
これからいくところでも戦闘は避けられない。それでも行かなくてはいけない。


(……垣根さん―――!)


見上げた先の空はまだ、暗かった。


470 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/12/03(金) 13:13:21.63 ID:JGVoBi2o
続きはまた今度。
471 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 13:35:20.63 ID:Q69mEQAO
この時間からの投下とは…
とりあえず乙!
472 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 15:19:24.13 ID:h.q8fmko
第三位が第三位っぽい!すげえ!

心理カーチャンは来るのかな…
473 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 16:05:44.29 ID:5xHsMgDO
こっちではカーチャンではないんじゃね?
474 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 18:04:06.54 ID:8ZkZcsAO
ああっ!続きが待ち遠しいっ!ああもうっ!ちくしょうっ!
475 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 21:38:41.43 ID:vWTB40Ao
>>472
> 第三位が第三位っぽい!すげえ!

俺の言いたいことを全て言ってくれた
476 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:11:59.72 ID:PqEzWDIo
こんにちわ。さくさくっと投下しておきます
477 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:12:53.73 ID:PqEzWDIo

――――――

目標にたどり着くまでに費やした時間はものの数分だった。
夜空を舞うテレポーター。機動力に関して右に出るものはそうそういない。

そうして三人がやってきたのは、見るからに無機質な佇まいをそこに模した、建物。


「ここは……?」

「……、電子工学の研究施設。それも旧来の」


御坂美琴は施設の入り口に立って、これ以上なく苦そうにつぶやいた。心なしか視線が少し泳いでいる。
それは探し物をしているようなものではなく、動揺しているようなものでもない。
あえて言うなら、何かを推察をしているときのもの。


「なぜここに……、いや、どう考えても正規の研究が続いてるとは思えない……」

「……、」

「裏でコソコソと……、まさかまた馬鹿げた実験でもやろうっての……!? あれだけの犠牲を払っても、まだ……!!」

「お姉さま」


張りのある声で御坂の思考を断絶する白井。
瞬時に泳いでいた目が定点に戻る。

初春は御坂にとって、白井黒子という人間がいかに重要な存在かを改めて知った。
自分が言えた義理ではないが、御坂美琴という人物はなんというか、いい意味でも悪い意味で直情的である。
力におぼれるような人格は宿していないとはいえ、その戦闘力や正義感はときに無茶を誘発することもあるだろう。

そんなときには第三者の鶴の一声が必要になるものだ。
自身は露払いであると自称した白井。こんなところでも彼女は冷静さを保っていた。


(といいつつ、実は熱血少女なのも知ってるけど)

「初春……、貴女って人はどうしてそんなに分かりやすく顔でしゃべるんですの……?」

478 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:14:09.29 ID:PqEzWDIo

盛大につっこみを入れたいところだったが、そんな時間はすぐになくなった。
施設の入り口に会する三人の前に、ぞろぞろと、奇妙な装いをした“何か”が姿を現したからだ。
その数はおそらく十数人。身長はそれぞれ優に180を越えていた。

即座に構える三人の能力者。対する相手の第一声は、


「お引取り願おう。言っても無駄だろうが」

(……、見たこともない部隊)


奇妙と描写した理由。
それは彼らの身にまとう仮面のようなもの。
のっぺりとしたそれは金と白で装飾されていて、縦幅が顔の二倍以上はある。

不気味だった。表情が見えない敵というのはそれだけで奥深さを感じてしまう。


「決定的ね」


御坂は言う。訪問しただけでここまで大掛かりな出迎えなどあるわけがない。彼らは明らかに戦闘員だ。

―――間違いない。ここに、いる。

じり、と足を地面に一定のスタンスで開き、御坂は続けた。


「黒子、アンタは足が利くから、テレポートを使って初春さんを中に運んであげて」

「……、ですがお姉さま」

「わかってるわよ。でも今はすべきことがあるでしょ。大丈夫、こっちが終わったら後から行くわ」


初春たちの目的は垣根帝督の奪還であって、組織の壊滅ではない。
もしかしたら延長線上にそれはあるのかもしれないが、それこそ白井の言った定石をふまえてのことだ。

会話は明らかに目の前の戦闘員からでも聞き取れるような音量だった。
それが癇に障ったのか、一人の男が身を乗り出して言った。
479 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:14:59.43 ID:PqEzWDIo


「通すと思うか? “道具”風情が。調子にのるなよ」

「―――ッ!」


瞬間、初春の視界が閃光で銀色に染まる。
何かをされた、と思ったときには白井に抱えられていた。初春たちとは反対側に御坂がいる。

どうやら左右に飛んで交わした様だ。
とんとん、と軽くステップを踏みながら、御坂が啖呵を切った。


「ハッ! 上等じゃないの、道具呼ばわりしたこと後悔させてあげるわ。アンタらみたいな猿に扱えるほど、簡単なシロモンじゃないっつの!!」

「その猿にあしらわれる気分を味わうことになる」

「へえ、その割にずいぶん洒落た格好してるわね。進化の賜物かしら」


険しい表情で相手を見つめる御坂。

一方の初春は、別のことにその視線を捉われていた。


(―――っ!? あれは―――)



そう。
男たちがかぶっている仮面。

そこに浮かび上がった文字。


(―――Equ.DarkMatter……、それって……)


無論、いつぞや聞いた垣根の能力名と同名であった。
よく見ると彼らからは翼ような物体が伸びている。

さきほどの攻撃は閃光、ではなく物理的なものだったのか。
それにしたって、やや理解できない。まるでこの世の物質とは思えない動きを見せていたから。


「ここで処理させてもらう」
480 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:15:51.52 ID:PqEzWDIo

その合図と共に一斉にこちらへと向かってくる翼たちは、グロテスクな触手を連想させた。

あたれば致命傷は避けられない。




―――が。



「黒子ッ!!!」

「いきますわよ、初春!!!」


叫んだ御坂に対する白井の反応は早かった。

ビリビリビリィッ!! という音を放ったのち、あたりが光に包まれる。

はたして、男たちが視界を取り戻した先に、白井と初春の姿はない。
どうやら一瞬の隙を突いて建物の内部に潜入したようである。


仮面の男たちはたった一人の超能力者を前に、少しだけあたりを見回したあと、目標を変更、構え直した。


「……閃光弾か。さすがは第3位、応用力では群を抜いているな。だが二度は通じんぞ」

「バカと能力は使いようってね。安心して、別にアンタらをナメてるわけじゃないわよ。
 単純にムカついたからぶっとばしたいだけ、それと……」


言いながら帯電した電気を右手に集める。
相手は訓練されている軍人か何かだろう。手加減は必要としないくらいに、武装しているようだ。
御坂美琴は久方ぶりに味わう緊張感を、どうにかして集中力と融合させようとしていた。

冷静と情熱の間。頭は冷やしつつ、心は熱く。
大丈夫。殺しさえ、しなければ。


「―――本気でやれる機会は、あんまりないから」


タンッ! と地面を蹴って飛び出す第三位。
一秒もたたぬうちに、あたりは戦場と化した。

481 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:17:58.13 ID:PqEzWDIo

――――――


「初春、手当たり次第に探索を!! 施設さえ分かれば構造も……!!」


潜入した施設の内部を走る初春と白井。

もちろん白井の能力を使えば絶対座標を用いることでもっと効率よく探索できるかもしれないが、
潜入する際には人の動きに慎重になる必要がある。
うっかりミスは許されない。ゆえにあえての疾走だ。

研究施設とは言っても、その全体が動いているわけではなさそうだ。明かりがともっている通路は限られている。
また御坂のように目視はできなくとも、ソースがわかれば動きながらでもこの施設で何かが行われている場所を特定できる。


「こっちです!! この先!!」


片手で携帯をいじり回しながら、初春が叫んだ。後を追う白井。
心なしか、いつもより初春の走る速度が速い気がする。
いや、それは勘違いなどではないだろう。


(……垣根さん……!! 垣根さん!!!)


査楽に言い放たれた己の無力さ。それを、払拭するかのように初春は走った。
言い換えれば、今は走ることしかできない。
結末はどうなっているかわからない。すべてが無駄になってしまうかもしれない。

それでも走る。
この上なくシンプルな行動基準に、なぞられて。


(私は―――、垣根さんを―――)


救うと決めた。だから、走るのだ。

やがて二人の前に姿を現したのは、巨大な扉。
鍵がかかっているかどうかを確認する必要はなく、初春に追いついた白井はその壁を通り抜け、そして―――。


「垣根さん………っ!!!!!!!!!!!」


そこに、たどり着いたのだった。
482 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:18:58.58 ID:PqEzWDIo


「ほう。早かったな。なるほど、『超電磁砲』はよほど性能がいいらしい。ふむ、君が初春飾利かね」


その部屋の中心にいた男は、初老を過ぎた男性。
査楽が言っていた、『博士』なる人物だろうか。いや、そんなことはどうでもいい。


(何なの、この場所は―――)


入り口から奥に至るまで、あますことなくモニターが設置されている。
各テーブルには何かを打ち込みながらそれを見る研究員のような男が何十人といた。

また、初春と白井が部屋に入った際、それまで壁際で待機していた男たちがゆっくりとこちらを振り返り、見つめてきた。

さきほどの仮面の男たちと同じ。戦闘員だ。


「……、……?」


垣根帝督は探す必要もなかった。部屋の中心に位置する椅子に座らされたままで、ぐったりと、倒れていた。

―――そう、ぐったりと。



「え…………?」

「そういうことだ。もう終わった。正真正銘のゲームオーバーだよ」


何を言っているのか理解できない。


―――ゲームオーバー? もう終わった? 

それは単純な日本語のはずなのに、初春の脳内をすり抜けては消えていく。


何が、終わったっていうのだ。

何を、言っている。

483 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:20:39.27 ID:PqEzWDIo


「……ちッ!」


対する白井黒子の行動は冷静そのものだ。
一瞬のうちに垣根の元へと移動し、タイムラグの限界ギリギリの速度でこちらへと戻ってくる。

奪還、成功である。


「ふむ。そっちの君はテレポーターか」


だが、博士はその様子を見ても少しも驚かない。表情すら変えずに、こちらを見つめている。


「あ……」

「初春!! しっかりなさい!! やるべきことを忘れたんですの!?」


かつがれてきた垣根帝督を初春に抱かせて白井は怒鳴った。
放心状態になって垣根を抱きかかえる初春はそれでも、何を言っていいのかがわからない。


「彼の脳はさきほど処置を終えた。
 意識がかすかにサーバー上に残ってはいるが、あとはデリートするだけだ。何、数分で終わるよ」

「で……りーと……?」


おや、知らなかったのか、と付け加えて、博士はゆっくりと、本来垣根が座っていた場所に腰を落とす。


「彼はデータ上の存在だよ。本来すでに体は失っている。生体兵器として生きながらえるために、私が生み出したフィクションだ」

「………ふぃく……、しょん……?」

「そう、フィクション。まがい物、虚構だ。ちなみに私も、だが」

484 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:23:17.51 ID:PqEzWDIo

まあ詳しいことは説明する義務も義理もないがね、と博士は興味がなさそうに言って、椅子を回転させた。
初春はここまできて、ようやくことの顛末を理解する。


―――垣根の心は今まさに、閉ざされようとしている。


おそらくモニターを介して研究員たちが行っているのは、接続した生体兵器としての自我を、垣根の意識に埋め込む作業。
これにて彼らの目的は成就されることになる。

数分後には完全に、本来の垣根帝督としての自我を失うことだろう。

かといって、それを知ってどうする。打つ手はない。
わかっているから博士はこんなにも落ち着いているのだ。


「……、……! 初春、ここはひとまずひいて……」

「声が震えているぞ、白井黒子。無駄だというのはわかっているんだろう。
 距離は問題ではない。大事なのは、ここだ、ここ」


博士は微笑を浮かべて自分の額を、指で叩いた。それもわかっている。
すべて、わかっている。

それでも、打つ手が思いつかないからといって碁盤をぶち壊すことなどできるわけがない。


「こんなことをして……! 何が楽しいんですの……!?」

「楽しい、か。いや、普通なら否定するのだろうがね。私は楽しいよ。美学を追求することはいつだって楽しい。そのためのこの体だ」


言いながら立ち上がった博士は、あたりの研究員に作業を催促した。
白井は足を震わせたまま、動くことができない。

どうしていいのか、本当にわからない。
仮に垣根帝督と初春をつれてここから出たところで、本体がデリートされてしまうのなら何の意味もないからだ。

今までにだってこんなことはなかった。

485 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:24:46.29 ID:PqEzWDIo

「逃がしてもいいのだが、後々面倒なことになりそうだ。超電磁砲はまだ外だろう? 
 戦力を割いて足止めした価値はあったようだな。査楽のやつには元々期待していない。用済みの情報は綺麗に消去してやったよ。
 さて、君たちにも退場願おう」

「この……ゴミ野郎が、ですの………!!!」


体を震わせて吐き捨てる白井。
辺りの戦闘員はこちらへとゆっくり足を勧めてきていた。

その、白井の傍らで、初春飾利は―――、


(……、垣根……さん……?)


ゆっくりと、垣根帝督の頬を撫でていた。あどけない寝顔。少年の顔。


それは病院であったときと変わらない。

初春が、淡い気持ちを抱いていたあの頃と、今の気持ちも、―――変わらない。

タイムリミットはもう一分を切っているだろう。
データの打ち込みが終われば、インストールするだけだ。




―――もう、おしまいか。


今までの、全部は、フィクションだったのか。


―――あの日の散歩も。

―――リハビリも。

―――少し前の、同居生活も。



すべて………。
486 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:27:03.43 ID:PqEzWDIo




――――――、――――――、違う。



(………、そんなわけがない。そんなこと、この私が認めないッ!!!!!!!!!)




「初春……?」


瞳には決意がにじんでいた。光を集めた迷いがない煌き。
決意。その決意とは。



「―――私が直接、垣根さんにアクセスします……!」


「な」

「ほう」



抱きかかえる垣根を横目に、初春が再び取り出したのはワイヤレス受信機だった。
幻想御手を元に、垣根の脳波を受信するための装置。リアルタイムで飛ばされている脳波は、まだ生きているかもしれない。

それを初春自身がつかまえて、データの更新を妨害するということ。
方法はそれしかない。


「初春!? 貴女それがどういうことかわかってますの?!」

「わかってます。他人と脳波を共有する場合、最終的には脳に意識が取り込まれてしまう可能性がある。
 でも、あの時木山先生に言われたときの台詞を思い出したんです。今からでも私の意識を媒介にして、呼びかければ、もしかしたら―――」

「興味深い推察だが、それはこの上なく危険な手法だぞ。博打もいいところだ。
 我々が打ち込んでいるデータがインストールされれば、君の自我も崩壊する。共有された脳を通してね」
 
「覚悟の上ですっ!!」


487 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:29:00.34 ID:PqEzWDIo

言い放った初春は迷うことなくイヤホンを耳に当てる。
白井はそれに対して何かを叫んだが、かといって代案などない。


「まあ、その前にそんなことはさせないがね。……、殺せ」


博士が片手を振り上げるのと同時に、四方八方から仮面の男たちが放った翼が流星のように降り注いだ。
狙いどころはこの上なく正確。あたれば―――、もちろん。


目をつぶる、初春。

白井が一瞬迷って、初春と垣根に手をあてようとするが、それが間に合うのが先だったか。




(……垣根さん―――!!!)



いや、あるいは。




―――ヴンッ。




刹那の後、あたりに爆発音が響き、部屋の電力が落ちた。


「やりすぎだ、馬鹿め」


博士が暗闇の中で声を放つ。
爆風があたりに吹きすさび、視界には何も映らない。

次に博士、およびその場にいた研究員の瞳を捉えたのは、モニターに移る、



―――文字だった。

488 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:30:06.87 ID:PqEzWDIo










  
                                【痛ってえな】










489 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:35:36.43 ID:PqEzWDIo

                          【ざまあみやがれクソ天使】

  【考えてみれば単純なことだったんだ】         【木山が何も考えずにいるわけがねえ】

           【あの天使も言っていた】           【共感】

      【初春?】    【ああそうさ】          【仲介人】

        【ナメてやがるな】              【愉快な死体にしてやる】

    【花だ】       【赤い植物】                 【テメェらは一人も逃がさねえ】

      【秋から連想できるもの】                【ギャンブルタイムだ】

          【暖かい】 【俺らって付き合ってるのか】          【また花言葉、持ってこれるか?】
 
    【テメェは医者じゃねぇだろ】    【なあ】         【誰もそんなこといってねえ】

       【俺の未元物質に常識は通用しねぇ】      【くそったれの天使】    【これが未元物質だ】   

   【HANA】 【花飾り】 【ノーヒントでここまで】   【俺を信じろ】

    【二人ならできる】     【お前は何も考えなくていい】        【多分そういうことだ】 

 【抗ってやるよ】 【クソもメシも一人じゃできねえが】 【まだ終わっちゃいねえ】    【ぶっ殺す】

                【俺が移動できるのはBの部屋の入り口まで】    【冷たい】

     【俺は絶対に忘れねえ】    【失敗だったな】

      【絶望しろコラ】   【そのための実験】     【変圧器】

              【ロジックを読み取る】        【リアルタイムで共有】



「―――!!」


そこに君臨するのは学園都市の第二位。
闇から抜け出した、もう一人の天使だ。


「―――よう。来場ありがとよ。これからテメェらには楽しい楽しいメルヘンランドの招待券をくれてやる」


初春飾利を両手で抱えながら、その天使は、この世に舞い戻っていた。

490 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/04(土) 06:36:41.54 ID:PqEzWDIo

ここまでです。やっとかけたよここ。
続きはまた今度。しばらく間隔があきます。

次回で前半戦はお終いになりそうです。お疲れ様でした。
491 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 07:50:38.95 ID:0U35gR6o
復活きたああああああああああああああああああああああああ
492 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 09:52:13.93 ID:ApwCUK2o
復活きたなり!!!
493 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 10:26:24.99 ID:ydCS9UDO
ど、どういうことだ……?
しかし復活きたああああああ
乙!
494 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 11:10:11.52 ID:gGHBjNQo
来たか…

第二位!
495 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 11:32:18.62 ID:lbXQ6voo
ていとくんかっこいいいいいいいいいいいいいい
乙!!
496 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 12:58:43.97 ID:l7ExxG2o
面白い・・・・・・けど


俺ポルナレフ状態wwwwwwwwwwww
497 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 14:36:53.11 ID:MsXazgAO
ふぅ…
498 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 14:55:29.41 ID:gGHBjNQo
常識が通じないから仕方ないな
499 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 15:07:37.24 ID:KZRFv9co
こちらの戦力は第三位と第二位だって思うともうね
対抗するなら第一位でも持って来い雑魚がwwwwwwww

もうこのカタルシス最高
500 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 16:35:10.48 ID:LXgp5qko
>>499
第一位を連れて来ても、初春達の戦力が(ry
501 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 16:41:47.10 ID:QXvlQa2o
敵に第一位が来ると第三位以下が戦力から良くて雑魚殲滅要員に格下げじゃないですか
502 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 16:44:14.68 ID:MNonMgYo
一方さンマジ天使が相手なら、垣根くンは冷蔵庫に逆戻りだなァ
503 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 16:50:06.11 ID:y7mrM3oo
>>502
第一位さん何してんすか
504 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 19:45:27.82 ID:L8huiU6o
第一位を連れてきたら、そこで試合終了だァ
505 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/04(土) 21:34:23.10 ID:JCEUHGs0
最初から読んだ。超おもしれぇ。
俺も文才と想像力が欲しい。
506 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 00:42:36.98 ID:SRfcYtso
どうしよう、おもしろすぎる
507 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/05(日) 01:42:00.55 ID:COvPTTc0
テンションあがるわ
毎回引きがウマ過ぎて悶絶
508 :499 [sage]:2010/12/05(日) 14:05:37.95 ID:.l0JLYgo
なんか妙な流れ作っちまったようでスマンwwwwww
第一位がこの流れで敵側になる事は考えられないし、お前らもう詰んでるよザマァwwwwwwって位の意味で言ったつもりだったんだ・・・
実際第二位と第三位が味方側って状況はSSでもあまり見られないしつい興奮しちゃってさww
509 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/06(月) 00:52:27.12 ID:bX35mDc0
復活きた!!

覚醒帝督のバトル楽しみ
510 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 10:42:51.76 ID:iNRa5X20
か、間隔があくのか…
まてないよう、まてないよう
でも、終わるのもやだよう
511 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 02:30:41.97 ID:2T19NkSO
最初から読んで、今追い付いた


色んな所が勃っちゃいs(ry
512 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 06:12:28.13 ID:cqR.5G6o
何この良スレ、面白すぎて一気に読んじまったぞくっそう
俺の中で最近激アツだった帝春に更なる燃料を投下してくれやがって…
513 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/08(水) 12:37:22.95 ID:BWAA39o0
続き来てたー!!!!!!!!!!!!!!
514 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:18:46.22 ID:Ylrx5i.o

こんばんわ。たくさんのレスありがとうございます。
ちょっと切る場所が悪かったですね。
説明も含めてちょっとだけ投下します。あんまり進まないので注意
515 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:20:25.30 ID:Ylrx5i.o

――――――

夜の病室は静かだ。

木山春生は垣根帝督に関する書類を一通りまとめた後、彼に関するデータの総括をパソコンに打ち込んでいた。
片手にはコーヒー。本当ならばここはホットカレーを飲むのだが、気づけばいつも彼女の手元にはコーヒーがある。
誰の影響かは、わからない。


「見送りは済んだのかい?」


声は病室の入り口からした。冥土帰し。
今更驚いたりはしない。たぶんすべて知っていたのだろう。


「……、本当は私が使うつもりでした。あの子を危険な目にはあわせたくなかったから……」

「知ってるよ」


どこまでもお見通し。当然だ。
“あれ”の使用許可を出したのも彼だし、以前そのことでアドバイスを受けている。

もともとあれは垣根に渡すつもりで造ったものではない。
彼のパートナーである初春飾利が身につけ、はじめて意味を為すもの。
説明を省いたのは、それでもできれば使ってほしくはなかったから。


「先生、これでよかったんでしょうか。……、あれは未完成、というより完成品には決してならない。制限つきの欠陥品です」

「それは君が決めることじゃないよ。大丈夫、彼女たちなら使いこなせるはずさ。信じたからこそ渡したんだろう。
 それに……、君は彼女の代わりにはなれないだろう?」

「……はい」

「知識や技術に善悪はない。使う人間の問題だよ」


真理をさらっと語る医者。

516 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:22:01.36 ID:Ylrx5i.o

…………。



―――かたかたかたかたかた。


それからしばらくは乾いたキーボードの音が響いた。
冥土帰しは部屋の様子を見て、何かに気づく。


「……、そうか。そろそろ時間だね。次に行く場所のアテはあるのかい」

「昔なじみの研究者に呼ばれています。論文をまとめる手伝いをしてくれ、だとか。
 それが終わったら、そろそろ自分がしてしまったことと向き合ってもいい頃かと。渡り鳥のような生活もどうかと思いますし」

「……うん、そうかもしれないね」



かたかたかたかた。

―――たん。


最後の音。冷たく響いてすぐに消えた。

木山はすでにまとめられていた荷物を手にして、立ち上がる。
その後、データをまとめたUSBを無言で渡して、少しだけうつむいた。


「大丈夫。あの二人は僕が責任を持って“診る”。君は自分がするべきことをすればいい」


木山が横を通り過ぎる瞬間、冥土帰しはそういって肩を叩いた。
少しだけ立ち止まる。そして、一歩、また一歩と病室の出口へと進む。

人の罪はどうやって償えばいいのか。
罪を忘れずに引きずっていれば、いつか償えるのか。



「―――お世話に、なりました」


それっきり、木山が病院を訪ねることはなかった。


517 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:23:35.93 ID:Ylrx5i.o

――――――


(ど、どうなってるの……?????)


初春飾利は困惑していた。


なぜか自分の腰に手を回してそこに立っている垣根帝督。
知らないうちに抱きついて首に手を回す自分。

白井黒子は呆然としたまま、垣根の背中から生える翼―――を見つめている。
どうやら攻撃から彼女を守っていたらしい。


―――片翼だった。


もしかしたら彼の能力なのか。いや、問題はそこではない。


この状況はどういうことだ。
自分は彼を助けるためにワイヤレス受信機をはめて、それで―――。


考える間にも頭の中には次々と、処理するべきデータが飛び込んでくる。
が、どれも意味不明な文字の羅列ではない。

翻訳プログラムを開発したときと同じ。
まるでゲームのように、その文字を脳内で変換する。すると。


「―――邪魔くせえな」


垣根が翼を一振りする。

たちまち烈風が吹きすさび、その場にいた戦闘員が何名か吹っ飛んで壁に叩きつけられていた。
残りの部隊にも動揺が走っているのが見ていてわかる。

518 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:25:35.75 ID:Ylrx5i.o

どういう理屈かはわからないが、翻訳された事象が、自分だけの現実となって目の前に姿を現している。
そして何故か、処理を終えた後何が起こるかが理解できる。
まるで超人にでもなったかのような感覚だ。


「か、垣根さんっ……? ……って、ええええっごごごごごめんなさ」


初春が気を取り直して、密着する体を彼から遠ざけようとすると、制止してきた。


「離れるな」


ぎゅっと、力強く寄せられる初春の体。抱きしめたことはあっても、抱かれたことはない。
赤面してしまう。顔が近い。どきどきする。


―――いや、それより、こんなに胸板、厚かったっけ、なんか変な気持ちに、あうあうあう。


意味不明の言葉を発してしまう彼女に呆れながら、垣根が口を開いた。


「バカ春、テメェがいねえとうまく動けねえだろうが」

「え」

「羽が対称じゃねえと飛べないっていってんだ。背中見てみろ」


振り返って確認したところ、初春の背中からも垣根と似たような翼が生えていた。
しかしそれも片翼。垣根とは生えている方向が別で、合わせることで対になっている。


「え、ええええっ!? な、なんですかこれわっ!?」

「リアルタイムで俺の演算をテメェが“こっちの形式”に変換してるんだよ。……ったくあの女、とんだ天才だぜ。
 耳につけたそれでテメェの脳と俺の脳は一時的に共有されている。外からアクセスしてくれたおかげでこっちに戻ることができた」


その言葉で初春は理解した。


そういうことだったのか。

519 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:28:36.52 ID:Ylrx5i.o

以前木山が病院で言っていた理論。
垣根の脳内データをこちら側の形式に変換するための処置。

スーパーコンピュータを介しても足りないといっていたが、それはあくまでコンピュータを使った場合の話だ。
人間の脳を特殊な状態に導いて変換装置として使用する。


第1位のケースとは決定的に違い、1万もの脳を代理演算に使う必要はない。
本体である垣根の中ですでに演算は終えていて、単にそれを“変換”するだけの操作。
ホストである博士とは別の方向から彼の意識にアクセスをかけたことで、その封が解かれた。

『未元物質』の唯一の仲介人。変圧器の役割を初春が果たしているのだ。


「木山は何分持つと言っていた」

「え、あ、……じゅ、15分……?」

「充分すぎてお釣りがでるな。これが終わったら部屋の続きをしようぜ? 釣り銭で最高級のホテルおさえてやるよ」


余裕の表情で言い捨てる垣根。
これは―――、勝利を確信している。笑みは妖艶で、怖いくらいに整っていた。


……部屋の続きとは、要するに、アレの続きということだろうか。


そう考えると脳を共有しているという言葉はそれだけで官能的である。
まさに一心同体。電子レベルでつながっている状態だからだ。

初春はまた赤面する。それを見て、垣根が笑う。
二人の心は、あのときと同じ。調和して揺らいでいる。

流れる光のように、規則的に。




―――とはいっても、膨大なデータを変換するのに適した状態というのはそう簡単に維持できるものだろうか?



520 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:35:26.40 ID:Ylrx5i.o


「で、でも、リアルタイムで人間の神経までを演算することなんて、わ、私には……」

「できるさ。テメェと俺ならできる。何のためのリハビリだったよ」


幻想御手の理論を支えているのは共感覚性。
二人が行っていたリハビリは、考え直してみればまさにそれだった。

刺激を受け取った際の反応を、少しずつ、時間をかけて調和させる。
くだらなく見えたゲームや鑑賞会の数々。それもすべては―――。


「あれは俺たちの共感覚性を養うためのものだったんだ。無意識に変換するくらい、テメェなら訳ねえだろ。だから―――」

「え……、」

「―――だから、できる。俺を信じろ」


垣根は腰に添えた手を、初春の肩にまわしていた。
やわらかな感触が伝わる。心臓は鼓動をやめてはくれない。

眼前にはまだ戦闘員が残っている。
こちらの様子を伺いつつも、仕掛けるタイミングを狙っているようだ。

後方では白井が、手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。


「う、初春、これは……?」

「白井黒子か。テメェはそこで見てろ。何、すぐ終わるさ」

「いくぞ」


ダンッ! と飛び上がってから、垣根と初春の背中から広がる翼。

月灯りが室内を照らしている。
まるで世界の中心がシフトしたかのような高揚感。
垣根は言った。


          トランスフォーマー
「―――よくも俺の初春を傷つけてくれたな。小物は見逃してやる、今のうちに尻尾まいて逃げろコラ」


521 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/08(水) 23:36:19.11 ID:Ylrx5i.o

続きは近々。ういはるまじてんし
522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 23:37:51.16 ID:1dxluWgo
乙乙!
初春マジ初春!
523 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 23:40:54.81 ID:4ZaXnQAO
メルヘン野郎がメルヘンバカップルに成って還って来やがった
524 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 23:41:05.27 ID:XKjMYEAO
ひたすら乙ゥ!
アドレナリンの放出が止まらん
525 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 23:58:37.31 ID:6Dur6xgo
二人で一人の天使だと!?
メルヘン過ぎんぜチクショウ!
526 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:12:04.76 ID:ma8dT.c0
乙!!
Romanticが止まらない

527 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 00:12:52.30 ID:t3fq43.0
やべえ超やべえ
テンション激登り
528 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 00:18:13.90 ID:5hd57YY0
うひょおおおお
529 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/09(木) 05:37:45.92 ID:ef6pjz.0
うひゃああああああwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwきてるwwwwwwwwwwwwwwwwwwww朝からまじテンションあがったwwwwwwwwwwwwwwwwww
530 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 05:55:14.06 ID:lco2Rrso
終わったら、部屋の続き書いてくれよ!
531 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 08:12:38.25 ID:bkZAzgAO
おおおお、乙ぅ!
532 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 11:56:27.65 ID:kRk18a60
テンション爆上げwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおもしれェ
533 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 12:37:05.49 ID:VDTwPEAO
続きが待ち遠しすぐる
534 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:10:35.09 ID:6PCcU6AO
かきねんとかざりんマジウルトラマンエース!
535 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 22:23:59.59 ID:g3ixPQgo
比翼の鳥ってやつか
536 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 16:04:49.83 ID:LGarMC2o
二人じゃないと飛べないとかまじうひょおおおおおお
537 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 18:48:42.59 ID:wLi32Fg0
>>534
でもあれ途中からソロで変身してたけどな!
538 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/11(土) 21:18:37.34 ID:3m3Vsego
「「二人でひとつの未元物質だ!」」
539 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 18:33:56.96 ID:L5laP320
ていとくン!うるはるゥ!

さあ、お前の罪を数え(ry
540 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/13(月) 01:45:01.03 ID:JN33fnw0
保守でございます
541 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 01:54:54.94 ID:gu2dWuk0
せめてsageてほしかった…今のトキメキは胸にしまっておくぜ

542 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 07:36:30.62 ID:wUkPBC6o
>>540
製作は初めてか?
vipと違って保守はいらんのだぜ


というテンプレを言ってみた
543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 18:45:47.54 ID:usL7cfAo
なんてスレを見つけてしまったんだ。
まさかSS読んで失恋した気分になるとは思わなかった…。
ほんとに初春好きなんだな俺。
書き手さんに乾杯だわー。
544 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 17:00:37.27 ID:Fcs61Ak0
まだかーまだかー
待ちきれんー
545 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/14(火) 17:01:32.83 ID:eHdL0FU0
やべえなこれ、おもしろすぎだ
546 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/16(木) 12:26:20.44 ID:Gimi2AAO
あぁ待ち遠しい、毎日確認しに来てしまう
547 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 13:38:54.84 ID:Q.nIaCI0
>>546 よう俺
548 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/16(木) 22:48:35.45 ID:hQ/EbGUo
>>546
せめてsageてくれよ。更新したと思って舞い上がったこの気持ちをどうしてくれるんだ。
549 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/17(金) 11:37:31.79 ID:qT3S0ug0
きっと土日には来てくれるはず・・・
550 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/18(土) 03:12:56.05 ID:t5gJnw.o
追いついた 帝督SSの中で一番面白い
551 : ◆le/tHonREI [sage]:2010/12/18(土) 09:41:03.05 ID:1FVqSNQo
おはようございます。

更新ですが、もうしばらく時間をくださいませ。年内には投下したいと思ってます。
たくさんのレスにお答えできなくてごめんなさい。

見てくださっている方々はありがとうございます
552 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 11:28:14.38 ID:MTcwpISO
年末は忙しいからな。
気長に待ってる
553 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 14:11:26.33 ID:QTEPKdso
工場のバイトで忙しいんですね
554 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 14:55:33.86 ID:Aboi1FI0
いつまでも待つ
ゆっくり仕上げてください
555 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 16:32:42.55 ID:WetLsto0
お疲れ様です
楽しみに待ってます
556 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 00:32:54.22 ID:8srPDcAO
面白すぎて2日で追い付いてしまった…。
マジで歴代トップクラスだわコレ。
垣春好きだけじゃなく、もっと多くの人に読んでもらいたい。
垣根帝督くんマジメルヘン天使。
私男だけど帝督クンニなら掘られても良い///

長くなったが>>22マジ乙。
興奮冷めやらなくて変な文章になってるが気にしないでくれ。
後これからも頑張ってくれ!
557 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 00:55:23.93 ID:uFU7w5o0
ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/84/34098499fc57e31bd6c50e51c0c1e992.jpg

最近お絵かきできなかったから、久しぶりに描きたかったモチーフが描けてしあわせ
558 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 01:21:19.59 ID:R8q9qZAo
>>557
羽もふもふ
559 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 01:22:28.27 ID:tLhYUkIo
どこかで見た絵柄だ
多分俺のお気に入りに登録済み
翼もふもふかわいいよ
560 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 08:42:04.14 ID:azQGkpco
>>557
よくやった
工場で働く権利をやろう
561 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 22:18:11.16 ID:pIfQ.YDO
ていとくん頭でか!!
せんとくんみたいだ
562 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/23(木) 02:30:34.58 ID:vsZgtmg0
っすごく熱い展開
あーもうお二人方明らか反則だろうッ!
563 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 00:10:12.87 ID:t9Oov4Eo
初春が小顔なんじゃねえの?
564 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 02:24:57.08 ID:I6PdRcMo
おい。人の睡眠時間減らしてんじゃねえよ。
イッキ読みしたじゃねえか!
565 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 15:37:29.84 ID:KFIL74ko
うおおおおおお
おんもしれえええええええええええええ
566 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 17:21:46.02 ID:uQBoMZ60
これ見て帝春にハマった・・・
567 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:45:05.87 ID:pAU4voco
俺のメリークリスマスに常識は通用しねえ
568 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:47:30.27 ID:pAU4voco

飛び立った二人から放たれる烈風は室内を駆け巡る。
だが、もちろんそれは本筋ではない。

垣根が脳内(正確には彼の電脳空間を通して)演算処理した結果を、初春が“変換”する行為。
中にはなんだか妙な処理というか、およそ何が起こるかわからないような演繹体系が頭に刷り込まれてくる。
躊躇はしない。なぜって。彼女もまた、一種のトランス状態にあったからだ。


「気概があるやつらは嫌いじゃねえよ。

    面倒だ、死にてえやつからかかってこい」


また羽ばたいた。

言葉というものが説得力を持つのは、目の前に起きた出来事、すなわち事象に左右される。

安い挑発だと思った。
それでものってくるのは、その安い挑発にのってしまうくらいの安いプライドに支えられた生き物たち。
等価交換ではないというのにだ。命を付与させていることに気づいていない。

だからそこを叩き伏せる。


風が舞う。



猛る。



うちつけ、破壊し、絡み取る。




為す術はない。
Equ.Darkmatterの力はあくまでも雛形だ。親が子に勝てる道理は、少なくともこの場には存在しなかった。

地球規模で見るならば小さな嵐。
だが、事象をマクロに観測できるのは神のみ。
目の前に起きた世界の、小さなミクロの嵐に翻弄される者たち。

垣根と初春の戦闘力は圧倒的だった。それこそ瞬間的に波に飲まれる。

人が、倒れていく。
569 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:48:56.62 ID:pAU4voco


「これが『未元物質』……?」

「軽く羽ばたいただけだよ。もっと面白いモン見せてやる」


首をかしげる初春。少しばかり頭をひねらせて、だがすぐに“彼”の胸に頭を預けた。
ここは安心する。心臓の音も聴こえる。

とくん、とくん―――。

甘い雰囲気に心をゆだねていたくなった。以前とは逆の立場だ。

―――いや、逆?

違う。リハビリでやったのと同じだ。二人で一つ。
どうして自分はこんなときにこんなことを考えてしまうのだろう。


(……それは)


場違いな思考が頭をよぎるが、特段それを否定しようとはしない。

だって、今は心もつながっているのだから。
こんな状況でにやけてしまう自分に少しだけ良心が痛んで、すぐに消えた。
消えて、抱きしめて、思う。


もう離れたくない。


(花言葉。花には名前をつけないと、だから、これは―――)


何を言うのか。その言葉だけは絶対に考えないように。でも、忘れないように。

彼女は変換を続けた。

570 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:51:14.78 ID:pAU4voco


さきほどまで多勢を誇っていた部隊が、気づけばほとんど“処理”されていた。
抱きかかえた初春はそのままに着地して、やがてゆっくりと、死刑執行を告げるように垣根が言った。


「―――どかぁん」


右手を振り上げただけだった。


爆ぜる。


そして目下数十名が消えうせる。比喩ではない。

本当に消えた。

正真正銘の瞬殺。まばたきよりもずっと早い速度で処理する。
御坂よりもずっと早い。光と電波を操作する彼女よりも。
初春には何も見えなかった。が、理解はしていた。
白井の能力なら絶対座標を介して何かを目撃していたかもしれない。

―――否。


(観測できないんだ)


直感で再度、理解する。

この世界に存在しえない物質で彼らをつつんで、互いが干渉できないような空間に送り出した。
パラレルに枝分かれしか空間のどこかに。いや、正確には“つつみこんだ”。
まるで手品のように。未知の物質で出来たブラックボックスに閉じ込める妙技。

未元物質の真価はここにある。あるいは進化、だ。


「王手」


ストンッ、と博士が座っていた椅子の目の前、デスクの端に腰を落とす。
初春を抱えながらだというのに身軽なものだった。

571 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:54:02.13 ID:pAU4voco


足をくんでから、一言。


「距離は問題じゃねえ。大事なのはここだ、ここ」


博士の真似事をして額に指をあてた。
対する博士の表情は、一瞬くすりと笑っただけで変わっていない。
絶対的な敵同士が、向かい合って座るさまは中々にして絵になった。


「飛車が成って空を飛んだか」

「ついでに馬もな。こいつはじゃじゃ馬だが」


普段ならわからない言い回しもなぜか理解できた。
花飾りは角じゃありません、といいたい気持ちを抑えて、代わりに垣根の首にからめる腕に力をこめる。


「逃げ場はねえよ、電子の王様。縦と斜めからダブルでチェックメイトだ。さあどう返す」

「よく囀る」

「自覚はあるさ」

「ふむ」


初春も思っていたことだ。
電子でいるときの垣根のイメージは、もっと幼い、少年のような声を想像していたし、語調もその類だと思っていた。

今こうしてみている彼は、あくまで冷徹。残酷で戸惑いがない。そのくせ演説のような語りを好む。
放たれるのは妖艶にして冷ややか、危険性と色気が入り混じった奇妙な空気。極限までとがった月を眺めているようだった。

本来の垣根は、こんなにも存在感を放つ存在だったのか。
違和感よりも、アンバランスな差異にやっぱり心を奪われてしまう。
572 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 14:57:07.50 ID:pAU4voco


「“どっちで”ケリをつける? こちら側で体をふっとばしちまってもいいが、テメェは俺のホストの役割を果たしていると言ったよな。
 俺たちにとってこちら側の常識に大きな意味はねえ。その主従関係もこの女のおかげで対等になっちまったみたいだが」

「あっ……」


また引き寄せられる。


「それとも玉砕覚悟でもう一度勝負してみるか? いっとくが、俺はテメェをぶち殺すことに寸分の容赦もしねーぞ」

「あ、あなたがしなくても私がします!! 人殺しなんて……」

「黙ってろ」

「………ほう」


静寂。

思考が止まる。垣根の真意がわからない。


「語る時間はなさそうだな。いいのか、私を殺せば君は生涯その不自由な体を抱えたままだぞ」

「それがどうした? 思ったより居心地がいい。テメェにも味あわせてやりてえくらいだ」

「痴れ事を言う」

「戯言だよ、クソ野郎」



そして、



「では、こうしようか」



博士は、



自壊した。

573 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:00:14.40 ID:pAU4voco


「あの野郎……」


消える直前に少しだけ、口元がつりあがるのを目撃したような。

何かまだ隠し玉を持っているのか。あれはそういう笑いだった。少なくとも初春にはそう見えた。
一方で、垣根との思考はリンクしているはずなのに、真意はいまだ読み取れない。

真意。真意とは。


(殺すという二文字にはたしてどれだけの重みがあるのか)


今、自分は目の前で人が消えるところを目撃している。

なのに、否定したい感情よりも先に到底名前をつけることなどできそうにないものがこみ上げてくる。
隣に座る男の方向から、絶え間なくぶつかってくるものがある。心をたたいてくる。
初春は高鳴る音をもはやいかようにも解釈できてしまうことに気づいていた。
おさまれ、おさまれと念じてみたが。

無駄だった。


「あ、あの人はどこに?」


問いかける。言葉に出さなくても伝わるのに、コミュニケーションをとりたくなるのはなぜだろう。


「あっち側に戻ったんだな。それより、初春」


名前を呼ばれた。

まただ。

また、心臓を叩かれる。



「―――はじめまして」



574 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:02:35.09 ID:pAU4voco

垣根は笑った。
無垢な笑顔だった。でも、笑顔は何も語ってくれない。
たぶん心も、初春に悟られないようにカモフラージュしているのだろう。
本当なら何を考えて何を言って、何を意識しているのかもわかるはずなのに。
やっぱりこの男はずるい。


「……は、………、はじめまして……」

「どうした、いい男すぎてびびってんのか」

「……、ばか」


敬語を使うのも忘れて呆気にとられる。胸を軽く叩いた。今度は現実的に叩いてあげた。
手をとられる。


「続き」


冗談で言っているのはわかるのだが、いかんせん心が言うことを聞いてくれない。


「……そうやって調子のって……」

「くちびる柔らかいのな」

「……あぅ………」


垣根帝督はきっとこんな状況でも愉しめる男なのだ。たぶん人生とか苦境とかを笑える男なのだろう。
それがよくわかった。どんな状況でも舞台に見立てて生きることができる上、観客へのサービスも忘れない。
演じる自分が無意識に動き出しているのがよくわかる。
今まで自分が見ていたのは、彼の影だったんだ。


「ああ、だが光がねえと影はできねえ」

「っ! か、感情を読むのは禁止ですっ!」

「お前が散々俺にやってきたことだろ?」


確かに。
そういわれると立つ瀬がない。初春は顔に色をつけた。もちろん暖かいものだ。

だからこそ、次の絵に反応できなかったわけだ。
575 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:04:54.11 ID:pAU4voco

突如として開かれる扉。

乱暴にこじあけられたのはかろうじて把握できる。




「―――ごめん黒子遅くなったっ!!!! 

 ……、……!? な、何よこれ!? 何があっ初春さん!?
 そいつが敵!? 敵なの!? そうでしょそうに決まってる!!」

「み、御坂さ「「お姉さま!?」



遅れてやってきた客。
あまりにもタイミングがよすぎたせいか、一瞬だけ白井がつっこむ間を失う。

直後、



「おっのれええええええええええええええええ!!! ナメてんじゃないわよッ!! 初春さんどいてそいつ殺せない!」



第三位から第二位に対して放たれる刃が、空気を裂いた。


(いや撃ってますし。もう何がなんだか)



白井が胸中でつぶやいたのは秘密だ。





576 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:07:23.01 ID:pAU4voco

―――――

「……ご、ごめん……なさぃ………」


ややあって、小さな声で顔を染める第三位。一同は曲折を経てこの場所に会していた。
まだ時間は残っているようで、ネットワークは相変わらず共有されている。


「ったくいきなりぶちかましてきやがって。テメェが超電磁砲か。うわさどおりの単純バカだな。カルシウム足りてんのか」


両手を広げて呆れ顔を演出する垣根。御坂美琴はそんな態度に驚きと怒りと恥ずかしさが混ざった奇妙なもので応える。


「だ、だから謝ったでしょ! ……、ちょっと初春さん、言っちゃ悪いけどこんなのが彼氏なの? わ、私はもうちょっとやさしい人を想像していて……」

「あ、いや、ですから、か、彼氏ではなくて……ですね」

「じゃあ何だよ? 俺はテメェの何ですか」

「え……、そ、それはその……」

「はーやれやれ、そうかよテメェは彼氏じゃない男と風呂に入れるんだな。傷ついちまったわー」

「はぁうっ!? そ、それは禁句ですっ!! 私の気持ち知ってるくせにっ!」

「ううう、何よ何なのよこの空気はっ!? ……黒子、アンタ知ってたの?」

「いやまぁ……、一応顔は見たことありますし。というかお姉さまわりとマジでぶっ放していましたの」

「だ、だって仕方がないじゃない!! どう見ても悪人顔じゃないの!! しかも第二位ですって!? 聞いてないわよそんなの!」

「わりぃ男が好きなんだよな、初春は」

「すっ、すすすすすすす」

「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうっ!! 収拾がつきませんの! お姉さまも大人になってくださいまし!」

「わっ私は大人よッ!! ふんだ、何よ偉そうに」

「へえ。もう済ませてんのか。最近のガキははえーな。腰が軽い女は苦労するぜ」

「「「な」」」


そんなやり取りが一通り続いた。

577 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:08:38.51 ID:pAU4voco


「――要するに、初春さんと二人で能力を発動できるってことよね」

「ロマンチックですの」


白井の視線が痛い。


「で? もう片付いたわけ? 見たところ一掃されてるようだけど」


いまだ埃が舞い散る室内。
倒れた部隊の人間は起き上がる気配がない。

まさか殺してはいないと思うが。


「まだ終わっちゃいねえ。王様がサーバーに逃げた」

「やっぱり……、あの崩壊の仕方は見覚えがありましたの」

「………そこでだ、初春と超電磁砲。ちょっとだけ力を貸せ」

「言うと思ったわ。たぶん私と初春さんが協力すれば送りこめるけど……、そこまでする必要があるの?」

「必要、じゃねえな。だが―――」


一瞬だけ視線を初春に向ける。
そろそろタイムリミットが近そうだ。


「―――あれは、見覚えがある目つきだった」

「?」

「すぐにつないでくれ。向こうについたら後は俺がやる。白井黒子、テメェは俺がもぐっている間に全員を連れて外に出てろ。手出しするなよ」


さきほどまで博士が座っていた椅子に腰掛けてから、初春のイヤホンをはずそうとする垣根。


578 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:11:00.21 ID:pAU4voco

と。

気づけば初春が、垣根の手術衣の胸のあたりを小さな手でつまんでいた。
目が少しだけ泳いでいる。

服を、すこしだけゆすられる。
何かを目が語っている。


だが、今の二人の間に境界線はなくなっていた。
何が言いたいかは言わなくてもわかる。光の速度で。



「……、」

「……、」



少しの沈黙があってから、初春はイヤホンを無言でとった。


言葉を失う垣根。
電子の海へともぐりこませるべく、すぐに御坂が方法を提案する。
サポートするのは初春。船出には絶好のメンバーだ。



「………、待ってますから」



つぶやいてから、垣根が微笑むのを確認した。


………

……


579 : ◆le/tHonREI [saga]:2010/12/25(クリスマス) 15:13:08.36 ID:pAU4voco
ここまで。あんまり進まなかったけど。更新おくれてごめんなさい。時速280万キロでプレゼントくばってました。
垣根の能力については多少インチキです。そこは勘弁してやってください。
ってわけでお疲れさまでした。また近々。
580 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:21:46.13 ID:X3WH3.AO
きてる……だと……?
581 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:22:51.44 ID:0KgvFIAO
乙です。ここの帝督はカッコ良すぎる…そして初春が可愛過ぎる
582 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:23:09.53 ID:bpPH56AO
クリスマスってあなどれないな……乙。
583 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:24:06.88 ID:HcTvVAAO
ていとくん格好良すぎるっ!!!
また次を楽しみに待ってます
584 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:35:38.02 ID:x6j1IRQo
クリスマスに初めて感謝したよ…ありがとう、ありがとう
585 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:41:30.21 ID:g1BvPPI0
きてるううううううううううびゃあああああああ
ハッピーメリークリスマスううううううううう
586 :あっ ◆le/tHonREI [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:44:13.01 ID:pAU4voco
>>557

言い忘れたけど素敵な絵を本当にありがとうございます!
おかげでモチベーションがうなぎのぼり。
587 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 15:56:18.40 ID:lr8C6j60
もう最高だよ死んでもいいこれが終わるまで死んでも[ピーーー]ない
588 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 17:40:46.14 ID:HS4dshAo
うひょー
続きも楽しみにしてるぜ
589 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 17:53:28.72 ID:i3Huabw0
クリスマス終了しないでよかった……
590 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 20:04:05.04 ID:FlCiXQAO
素晴らしいプレゼントをありがとう!
591 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/25(クリスマス) 23:00:30.53 ID:NWkYRHYo
乙ww
美琴からみた垣根はラリアットが得意技なのかwwww
592 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 00:06:00.91 ID:H9ETMoE0
乙!
ちょっと過ぎたけど最高のクリスマスプレゼントだったよ!!
593 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 09:41:08.78 ID:QcMtfIAO
乙!乙でした!
594 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 22:01:10.02 ID:cHfvRic0
まだサンタの来てない俺にとっては最高のプレゼントwwwwww
595 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 02:00:33.74 ID:VqV59h.0
やばいどらまになってる
596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 11:32:35.20 ID:AaPRPXUo
初春の能力も活かして欲しい
597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 11:53:10.27 ID:w4M6F.AO
保温をエッチな方向に活用する方法を考えてしまった。ちょっと絶望させられてくる
598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/28(火) 17:18:23.18 ID:aMHZzOw0
>>597
なにそれ
599 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/30(木) 14:59:01.61 ID:3yVUBVs0
年内に完結ってのは無理そうなのかな・・・?
年末は仕事があるとこはどこも忙しいしなぁ・・・
600 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:08:13.84 ID:hZtZgB.o
ちびちび投下しちゃいまするー
601 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:10:36.78 ID:hZtZgB.o

                                          ※

夕日が見える。

赤く染まった空が垣根の目の前に広がり、構えているのだ。
遠くから押し寄せ、時より吹きぬける風。揺れる草、丘、木々。
最後にきたときはいびつな形をしていた空間に、今は色があった。
もちろん、これはホストとしての博士と垣根をつないだ世界なのだが。


「きたな」


博士は草を見つめて座していた。
視線はそこから離さぬまま、独り言のようにつぶやく。


「ああ。人間観察は得意でな。目つきで何をたくらんでやがるかくらいはわかる」

「だから追ってきた。テメェがそう仕向けたからな」


対する垣根は特に警戒したような素振りを見せず、やや離れた位置から博士を見つめていた。
風が髪を撫でる。
絵画のように完成された光景がそこにあった。


「……テメェ、もうあきらめてんだろ」

「なぜそう感じた」

「理屈じゃねえな。あれはそういう目つきだった。何を悟ったかわからねえが、気にいらねえ。余裕こいたそのツラもな」

「……、」


揺れる草のにおいはかろうじて知覚することができた。
せつなさはそのままに、それでいて暖かい。
夕焼けの持つ色と朝焼けの持つ色、同じ太陽光が違った景色を生み出すのはなぜなのだろう。

602 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:14:36.58 ID:hZtZgB.o


「人間の欲求には種類がある」

「長い話か」

「それなりに。閉幕するなら今すぐにでもかまわんよ」

「最期に演説くらいさせてやるよ」


言うなり垣根は翼を広げた。
この空間において、二人がこうして対峙できているということ、それがすでに垣根の優位性を確保している。
電脳空間で演算を組むシステムを作り上げたことは無駄ではなかったわけだ。

一方の博士は草木と風、夕日に目をやるだけで垣根に焦点を合わせようとはしていなかった。


「絶望の話はしたな。では今回は希望の話をしようか」

「眠たそうだな。あくびが出ても怒るなよ」

「ふん」


他人の語りはえてして退屈なものだ。


「―――本当に綺麗なものを見つめたかった。本当にそれだけだ。悪意も善意にも興味はないが、これだけはどうしても捨てられなかった」

「……、」

「……、しかし、求めるには人間の欲は幅が広すぎる。欲求は我々が飼いならすことのできない怪物だ。食べれば食べるほどに満ち足りない。
 あれもこれもと芝を眺めているうちに、儚い我らは時間をチップにして美学に負け戦を挑んでいるのだ。わかるか」

「異論はあるが、まぁわかる」

「だから三大欲求をカットすることを思いついた。時間の概念もだ。知的好奇心と美的探究心を残してすべてを捨ててしまえば、ただ純粋に美しいものを見つけられる。
 いや、見つからなかったとしても、追い求めることはできる。今の君ならばわかるだろう。
 次に何かあると思って生きているのと、惰性に身を任せてチップを切るのとは大違いだ」

「……、」

603 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:16:15.37 ID:hZtZgB.o


「君ならどうする? 本当に手に入れたいものがあるなら、犠牲を払うことに躊躇はしないだろう。
 いや、否定はできないはずだ。そういう人間が集まるところだ、暗部という場所は」


この男は一人でしゃべっているのだと感じた。
壁と会話をしているのと同じ状態だ。遺言にしてはいささか知的だと思った。


「本当はアレイスターの計画などどうでもいい。純粋に追いたいものを追いかけられる場所にいられればそれでよかった。私は子供だろう、垣根少年」

「……ああ。最低のクソガキだよ。もっとも、そうじゃなけりゃこんなバカなことも思いつかねえんだろうが」

「つまるところ覚悟だ。我々には覚悟が必要なのさ。だから己を賭けてみた。馬鹿馬鹿しい子供のような私の感性をすべてチップにかえて。その結果がこれだ。笑うかね」

「……それで、見つかったのかよ? 綺麗なもんは」

「どうかな」


ようやく焦点を垣根に合わせ始めた。
希望。整ったもの、心を撫でるもの、何かを訴えるもの。
伝えたい欲求と享受したい欲求。

博士の言い分はなぜかすんなりと心を通過していた。


「さて、閉幕は自分でしようと思うのだが。観客が少なくて残念だ」

「贅沢はいうな。それに俺も今さらどうこうするつもりはねえ。―――テメェは小物だからな」

「言うのは野暮というものだ。送ってくれるならそれも悪くはないがね」

「それこそどっちでもいいぜ。俺の未元物質で半永久的に閉じ込めてやるっていう手もあるが」

「真の永久には価値はあるかもしれんが、そうでないなら何もない。最期くらいは散らせてくれ」

「好きにしろよ」

604 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:17:53.77 ID:hZtZgB.o

揺れる木々を通り抜ける風が、その勢いを少しだけ強めた。
博士は一定の曲線を描くグラフを生み出しながら崩壊していく。
直感でその図を思い浮かべることはできなかったが、たぶん綺麗なカーブを描いていたことだろう。


「そうだ。ひとつだけ」

「あ?」


半身をすでに失いかけた博士が、思いついたというよりは用意していたように飾った言葉を吐いた。





「君たちの翼はなかなか美しかったよ」





「……はっ」


笑いかける博士。穏やかな顔だった。


「ごきげんよう、垣根少年」


それっきり。
風化した博士のデータは彼方へと分解されながら旅に出た。
終着駅なのか、乗り換えなのか、誰にもわからない。

無言で見送る垣根の背中を、夕闇が包み始めていた。


………

……

605 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/01(正月) 04:19:50.11 ID:hZtZgB.o
ここまであけおめ!
年内に完結は無理か、という話がありましたが、ここらへんまでが前半で後半はもっと内面的な話にシフトしたりしなかったり。
おつかれさまでした。今年もよろしくねっ
606 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 04:53:45.56 ID:SfpS3ZIo
あけましておめでとう
今年も楽しみに続き待ってるぜ
607 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 05:54:27.45 ID:E9UxuMw0
博士かっけえ
原作で垣根の次の次の次に好きなキャラだからこういうあつかいは嬉しいな
608 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 06:15:49.65 ID:ZGwuF72o
遅くなったけどあけおめ!
もう佳境に突入したのかと思ったけどここまで前編だったのか。
うれしい限り!
今年もよろしく楽しみに待ってます。
609 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 08:44:45.53 ID:zwTCSgUo
電人HALを思い出した

あけおめ乙
610 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 12:35:31.47 ID:Au9ZDboo
あけおめ。
>「君たちの翼はなかなか美しかったよ」
新年初鳥肌
611 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 12:45:07.77 ID:uGuVID2o
あけおめ乙
お年玉来てるー 博士かっこいい
612 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 14:34:07.34 ID:eVwqaYAO
あけおめ&>>1乙!
安定の面白さだった
初春の可愛さよりも帝督の格好良さが卑怯だわwwwwww

ふと思ったんだが、一方通行×絹旗最愛が窒素通行(ナイトロジェンレータ)なら、こっちはやっぱ定温物質(サーマルマター)なのか?
613 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 15:07:41.82 ID:PdiDDOoo
どっちかっていうと 未元保存(ダークハンド)
・・・何この温度差。初春さん仕事してくださいよ。
614 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 15:41:58.95 ID:uGuVID2o
ナイトロジェンレータ読み長すぎワロタwwww
615 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 21:12:05.00 ID:FqQwmx.0
ここに出てくる男は全員かっこよくて女は皆可愛いとかどういうことだよ!
しかもそろそろラストかとか思ったら前半かよ!
最高だよ!
616 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 21:20:32.52 ID:CCMK5Goo
初春の能力って熱量の保持じゃないんだよな
熱いものをずっと熱く、手で触れようとも変わらない(手が熱を奪ってるのに)
ってことは熱量の操作みたいなもんだよなぁ
617 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 09:45:00.44 ID:8s/8Hg20
>>616
それってつまり熱量の保持じゃね?
618 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 12:04:51.86 ID:e5r25YAO
そういや絶対等速が物体を一定の方向に一定の速度で移動させることしかできない念動力って設定の二次創作があったな
つまり初春のは物体を一定の温度に保つことしかできない熱量操作ってところか
619 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 20:18:42.20 ID:d0YsqMUo
つまり空気と手が奪う熱量と同量の熱量を与え続ける能力という訳か
620 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/02(日) 20:57:27.00 ID:m5y2S/.0
LEVEL5になれば自分の回りの熱を自在に操れるようになって
焼き[ピーーー]ことも凍死させることもできるという訳か
恐ろしいな・・・
621 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 23:11:28.30 ID:2zvJ6gAO
やっぱりそう考えると一方さんの能力はチートだな
622 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 23:56:10.59 ID:Ms3jMmso
LEVEL1 触れている物体の熱量の保存、保持
LEVEL2        〃        操作
LEVEL3        〃        
LEVEL4        〃      
623 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/02(日) 23:59:04.79 ID:Ms3jMmso
ミスった
LEVEL1 触れている物体の熱量の保存、保持
LEVEL2        〃      の限界増加
LEVEL3        〃      の操作
LEVEL4        〃  、空間の熱量の操作、移動、拡散
LEVEL5 もうどうにでもなーれー
最後やっつけなのは否定しない。俺バカだもん。
624 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 00:10:25.07 ID:xmQOu8I0
初春って能力自体悪くないし、演算能力高そうなのになんでLEVEL1なの?
教えてエロい人
625 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 00:12:46.32 ID:umTT7zAo
演算能力自体は高いのだけれど『自分だけの現実』(パーソナルリアリティ)が脆弱。ハードがよくてもソフトが弱い
626 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 00:19:47.72 ID:xmQOu8I0
妄想力が弱いというわけですね先生
627 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 00:28:43.10 ID:X23lYgAO
初春の能力でコンドーム温めといてもらえるていとくんマジ裏山
628 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 01:05:11.06 ID:FWXr1FA0
博士かっこいい…
なぜかしんちゃんの豚のヒヅメの別れシーンを思い出したよ…
629 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 01:06:07.02 ID:FWXr1FA0
しまった、sage忘れすまない…
630 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 02:16:46.05 ID:dzD5TNEo
>>628
おい・・・今読み返したらまた泣けて来たじゃないか・・・
631 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 02:21:18.75 ID:bnFAn.AO
臼井先生もぶりぶり左右衛門と同じ場所へ…(´;ω;`)
632 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 03:19:51.00 ID:tc1Ymrko
>>631
おい、やめろ
633 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 06:53:54.10 ID:Pt28XEI0
今まで初春は自分の中で好きなキャラランキングかなり下位だったのに
このSSのおかげですごい評価あがったわ
ていとくんは元から上位である。
634 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/03(月) 09:12:43.11 ID:rjBEWO2o
需要を増やした好例だな。おれも同じだわ。
>>1の書くキャラ全部惚れちゃいそう
635 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/03(月) 20:33:38.30 ID:xmQOu8I0
上条「幸せだ・・・」
636 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:45:16.69 ID:GKBiCKwo

                                   ※


(……―――っ?!)

「? どうしたの、初春さん」

「いえ……、なんでもないです」


背後に視線を感じたが、すぐに消えた。
ついさっきまで小さな戦争が起きていた電子工学施設。

初春たちが博士と対峙したあの瞬間、実はアンチスキルがすぐそこまでたどり着いていたようだ。
さすがにあれだけ派手に戦闘があれば通報がなくても嗅ぎつけるだろう。
とはいっても、敵の動向、および目的が不明確なため突入にはかなりの時間を要したらしい。
結局彼らが行動に出たのはすべてが片付いた後だった。今は現場の状況把握に四苦八苦している。

―――そもそも事件の証拠などほとんど残っていなさそうだし、統括理事会が絡んでいる以上はもみ消される事実も多々あるだろうが。
つまりは事後処理と銘打った、ただの作業なのだ。


「白井さん……、一人で大丈夫でしょうか。やっぱり私も戻ったほうが」

「ううん、あの子は平気よ。それに必要なら私が戻るから」

「でも……」

「心配なのはわかるけど、優先順位はしっかりつけなきゃだめ。それに、何かあったら人のことを頼れるくらいには、あの子も強くなったから」


見習わないとね、と自嘲気味に付け足す。
少し背伸びした発言。その視線には優しさが含まれていた。


(頼れるくらいには、か……)


白井の提案で、アンチスキルからの面倒な質問は白井が一人で引き受けることになった。
もちろん後日、報告という形で初春も顔を出そうとは思っているが、白井におされてこうして一足先に帰路についている。

垣根のワイヤレス受信機については予備を持っていたため、時間はそれほど気にする必要はないのだが、それにしたって落ち着いていられるわけがない。
637 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:46:54.61 ID:GKBiCKwo


「ねえ、どういうところが好きなの?」

「えっ」


唐突な質問。

決死の覚悟をして電脳空間に飛び込んだ垣根を待つ身としては、どこか不謹慎にも思えた。
が、すぐに御坂が取り繕うように腕を頭の後ろで組み出したので、なるほど、気遣ってくれているのがわかる。


「こんなときにごめんね。でも、信じて待つしかないじゃない、こういうのって。女は辛いわよねー」

「……御坂さんも経験があるんですか?」

「えっ? 私?」


ピタッ、と一瞬だけ足を止めてから、また目を見開く御坂。
それから目を少し細めて、微笑。

諦めたように、悟ったように言った。


「……なんだかなぁ。でも、初春さんは教えてくれたし」

「???」

「……ま、そういうこと。秘密だよ」

「……? ……、……あっ」


そこまで聞いて、理解する。
御坂も誰かに、心を叩かれていたということだろうか。
638 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:48:15.95 ID:GKBiCKwo


「私の場合は初春さんと違って、なんていうか……、まだスタートラインに立っただけなんだけど」

「わ、私は別に……………………って」


もはやテンプレのようになった文言にうんざりする。

そろそろ認めてもいいだろう。

一時は体を重ねるどころか、心を重ねた仲なのだ。
相手の気持ちは遂にわからなかったが……。


「……もういい加減いいですよね、こういうの」

「気持ちはすっごくわかるけど、認めちゃったら少しだけ楽になったよ、私は。……考えることも増えたけどね」

「御坂さんみたいな人にそう思わせちゃう人って、なんていうか……、幸せ者です」

「ほんと、そう思うでしょ? ……の割には鈍感だし不幸だとかすぐ言うしデリカシーないし……ぶつぶつ……」

「……?」


はっ、と息を呑んで、また立ち止まる。
恋する乙女はいつだって盲目なのだ。


「こほん。……さ、参考までにね、初春さんがどういう気持ちで好きになったのかなぁって、ちょっと気になるっていうか……」

「気になる? えーと、それは乙女の情報共有ってことですか?」

「う、初春さんってちょっと意地悪なとこあるの?」

「えへへ」


邪気のない顔で頭を掻きながら話す初春。
尻尾は出ていないようだが、表情の端から無邪気な悪意がこぼれていた。
少しだけ出した舌に小動物的な愛らしさが宿る。
639 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:50:25.97 ID:GKBiCKwo


「……私も正直、これが恋愛感情なのか何なのかはわかんないんです。
 最初は彼の冷えた心を暖めてあげたいって、それだけだと思っていましたし、今でもその気持ちは残ってます。
 これからもこの人に何かあったら支えてあげたいと思うし、私にできることがあったらなんでもしてあげたいって思うし……」

「……、」

「でも、患者と介護士っていう言葉にこだわってたのは、私の傲慢だったのかもしれないです。
 なぜって、彼と心を重ねたときに感じた気持ちは、私が何かしてあげたいっていう気持ちだけじゃありませんでしたから」

「……、……」


一呼吸。


「なんていうか……、わ、私も……、その……、わ、わ、私のこと知ってほしいなって思ったんです……」


顔を真っ赤にしてうつむく初春。
欲求が確かに胸にあって、吐露しただけ。でも、その明度の高さに心が耐えられなくなったのだろう。


「……み、みみみみ御坂さん!」

「は、はい!」

「―――この気持ちって不純ですか?」


と、次には視線を御坂に移す。訴えかけるような瞳が転がっている。
この目は真理を尋ねるときのものだ。

いや、移されたはいいが……、


「えーと…………」

(ど、どうしよう……、初春さん私よりぜんぜん大人なんだけど……!!? そんなのわかんないわよ……!?)

(ふ、不純って……、なんてハイレベルな単語を投げかけてくるの……!? 初春さん、どこまでしちゃったわけ……!?)

(いや、でも電子的に脳を共有してたってことは……ええええええっ、それってもう……ええええええ)


これである。
640 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:52:22.16 ID:GKBiCKwo

御坂としては可愛い年下の少女から少しでもヒントを伺えないかと思っていたのに、
この初春飾利という女の子はすでに自分よりもはるか先の地点に至っている。

対する自分はといえば、気持ちに気づいて足踏みをする毎日だ。心を重ねるなんてとんでもない。
よって、答えられるわけがない。が、このまま何も言わずにもいられない。


「そ、そうね……、でも……、えっと……、が、我慢はよくないと思うわよ、うん」

「そ、そうですよね」

「う、うん。そうよ! やっぱり人間欲求にはある程度正直なほうがいいのよ! うん!」


はははー、と自分に言い聞かせて歩き出す。
そういうものか、と初春が熱を保った顔を片手で押さえながら後をつけようとしたとき、


(……え………)


ここしかないというタイミングでそれはきた。



着信音、

そして―――




          【そうだぜー初春。欲求には正直にな】





垣根帝督が車椅子の背もたれにぴったりと頭をつけて、意地の悪い笑顔を向けながらこちらを見ていた。
世に言う最悪のパターンである。
641 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:53:44.93 ID:GKBiCKwo


「か、かかかかかかかかきかきかき!?」

「え?」


【いい反応するじゃねえか。んで? 初春はもっと気持ちを知ってほしいのか? 

        あんなに近くにいたのにつれねえな。体の隅々までつながった仲だろ?】


とんでもないことを言い出した末、両手で初春の頬を押さえつける垣根。
押さえられた初春は「はひへはんほひへはんへふは!?」とかなんとか、意味不明の言葉を発していた。

御坂はその様子に気づいたようで、ゆっくりと振り返ると声をかける。


「あ、戻ってきたの?」

【おう、だいぶ前にな。そんで超電磁砲、テメェも恋する乙女かよ。お兄さんに相談してみろコラ】

「!? な、ななんあなななななななななな!?」


初春の手から掠め取った携帯を御坂に見せながら、声を出さずに大笑いする垣根。
どうやらかなり前に帰還していたようで、たぬき寝入りを決め込んでいたらしい。


「ひっ、ひどいですよ!? 乙女の会話を盗み聞きするなんて!?」

「そっ、そうよ!! プライバシーの侵害だわ!! だいたい戻ってきたなら早く言いなさいよ!! 誰のおかげで向こうに行けたと思ってんの!?」

【ピーピーうるせえなあ。そもそもプライバシーだなんだって、テメェらが言えた義理かよ。なあ初春?】

「う……、またそういうこと言って!! 垣根さんだって、私に甘えたりしてたくせに!」

【……『わ、私も……、その……、わ、わ、私のこと知ってほしいなって思ったんです……』】

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」


てんやわんやの掛け合いだ。
642 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 06:56:09.59 ID:GKBiCKwo


「……それで、“王様”はどうなったのよ」

【探し物が見つかったから、帰るってよ】

「?」


不意に少しだけ遠い目をした垣根が気になった。
初春もその変化には気づいていたが、こうして無事に帰ってきたのだから今は問い詰める必要はないだろう。

すぐ後、焦点を現実に合わせて、垣根は打って変わって真剣なまなざしを造り始める。


【それで? 俺をどうこうする気はねえのか】

「……?」


初春からは見当はずれの質問に見えた。
ここにきてその問いなのか。
前々から思っていたが、垣根帝督という男は本当に暗部にいたのか?
妙な違和感を覚える表記だった。


【―――今日だけでも未元物質で最低20人は殺してる。俺は極悪人だぞ。見過ごしてていいのかよ。初春、テメェもだ】

「………、でも、あれは仕方がなかったというか……、そう言うなら、私も共犯ですし……」

【そういうレベルの話じゃねえ。言っただろ、俺はこういう人間だ。テメェらと同じところにいるべきじゃねえのはわかってる。
 別に偽善で言ってるわけじゃねえよ。俺は俺だ。生き方を変えるつもりもねえ。ただ忠告として―――】

「―――そんなの、私も同じよ」


御坂美琴は垣根に合わせるような鋭い視線を投げかけてきた。
自分たちが光の立場にいると思い込む彼に、根本的な違いはないと諭すように。
643 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 07:00:00.61 ID:GKBiCKwo


「アンタが何人殺したとか、そんなことは知らないけど。数でいうなら私もたくさん殺してる。

     ―――そうね、一万人くらいは」

「え」


空気がとまる。御坂美琴が言っている言葉の意味。一万人?


【……、そうか、テメェは確か……。ハッ、それがテメェの責任感ってやつか?】

「……ごめん、初春さん。これだけは言わせて。
 垣根帝督。アンタが何を考えていようが、どこかで誰かを殺す最低のクズだろうが、そんなの関係ない。
 勝手にやって勝手に地獄に堕ちればいい。ただ、生き方を変えないことで私の周りの誰かを傷つけるなら、

 ―――容赦しない。例え第二位でも、全力でぶっ飛ばすわよ」



【……調子のんなよガキ。本気出せばテメェなんざ片手で殺せるんだぜ。もっとも、初春が力を貸してくれねえだろうが】

「……、……あの……」

「だ・か・ら、忠告は必要ないってこと。初春さんには悪いけど、私はアンタをまだ完全には信用してない。初春さんがいるから、安心できる。それだけよ」


初春は御坂の背中から立ち上がる電流の余波を、確かに見た。


「……ふ、二人ともやめてください……、か、垣根さんもほら……」

【……、】

「……、」

「……もお、……せっかくみんなで頑張ったのに、これじゃ台無しじゃないですか……」


はぁー、とため息をつく初春。
表情からは今の会話が小競り合いにしか見えていないのがよくわかる。

―――が。


(………、初春さん)
644 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/06(木) 07:03:37.61 ID:GKBiCKwo

一方の御坂美琴は彼女の心を別の角度から分析していた。
というよりは、二人の関係性について、と言ったほうが正確かもしれない。


(貴女は気づいてるの? ……恋愛感情はわからないけど、貴女とこの男は精神的に依存し合ってるんじゃないの?
 たぶん、心が通じ合ってるから、お互いを知ってるから、そうなるんだと思うけど………、
 でもね初春さん、それって通じ合ってる分、お互いがお互いを支配できるってことなのよ? 
 
 ……それが何かの拍子に……、もしかしたら―――)


もちろん言葉には出さない。いや、出せない。


さきほどの垣根に対する暴言くらいは自負しているのだ。これ以上言っていいものかと聞かれたら、答えはNOだろう。
それでも心配は拭えないが、ここから先、うまく心をナビゲートしてあげられる自信はなかった。
適当な言葉を投げかけるのは無責任というものである。


一縷の望みは夜空に預けて、三人は重たい帰路を歩み続ける。



そして。




【―――何か、重大な見落としをしている】

「え?」


ノイズが混じってそれ以上は観測できなかった。



…………

……





To be continued.
645 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/01/06(木) 07:06:06.39 ID:GKBiCKwo
以上で前半は終了です。

前半戦はどちらかというと二人のハード面の話。
後半戦はどちらかというと二人のソフト面の話。

次の更新はちょっと遅くなりそうですが、がんばって書きます。
お疲れ様でした。
646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 07:28:41.21 ID:YBP7ooAO
更新キター!!!
>>1もとい>>22乙!
初春可愛いよ初春(*´ω`*)
647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 08:07:08.70 ID:LTTGebE0
ふおお待ってました!!
初春可愛いよ これ読んでから一番好きな禁書キャラが初春になった
648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 09:38:01.14 ID:EQrxF3so
とうとう追いついたああああああああああああああああああああああああ
まじ>>1>>22乙!
649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 19:39:34.80 ID:cxdjyUAO
お疲れさまです
超面白すぎます
650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 19:59:37.92 ID:zXFtXVwo
おっつおっつマジ乙です!
651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:26:41.72 ID:5d2X7kc0
毎日ここをチェックするのが日課です!
新作が来てた時の喜びは異常。
あといまさらですが◆le/tHonREI さんはsageる必要ないのでは?
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 23:48:23.15 ID:oFGeloIo
これでまだ半分なの?もう半分もこんなん続けられたら俺のハートが持たねぇよ!
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 12:01:27.38 ID:XLUpKsAO
>>651
いちいち「◆le/tHonREI さん」…と
表記するより「作者さん」のほうが簡単で良いと思うんだよ!
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/07(金) 14:57:37.96 ID:zTNPB0so
うーむ、面白い
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 03:15:24.94 ID:HVVFGMAO
>>22 超乙ですの!
656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/09(日) 19:28:54.10 ID:2KqrMBZ+0
この二人のギャップがいいなぁ。
乙です!
657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 17:42:12.57 ID:uEoMfdYDO
>>22乙!超乙!!
初春可愛いよ初春マジ天使!
これ見て帝春に目覚めました。
さてはるもいいけど帝春がこんなに萌えるカップリングだとは思わなかった……。
あぁ、wwktkがとまらなぃぃいい
658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 21:12:32.95 ID:lX7V9eo40
乙!!
でも自力で能力使えないと生き残るの大変そうだな
659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 12:00:29.91 ID:l84SsLcAO
そういえば一連の事が片付いたんだし、番外編として部屋の続きを…
660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 19:01:31.43 ID:Yii/cL1DO
部屋の続き待機。
おい、早くしないと風邪ひくだろwwwwww
661 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/01/12(水) 04:21:38.25 ID:ukOdF9o1o
部屋の続きではありませんが、ちょっとした番外編をば
662 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:23:47.26 ID:ukOdF9o1o




               #TIPS1:『踊る天使と不機嫌な花束』




リハビリの基本は支え合いとか。


別にそんな言葉ハナからアテにはしてねえが、こうも手のひらを返されるとさすがにピキッとくる。
俺にその言葉を言い放った本人は今、支えあう気持ちなどどこ吹く風、ガラスの向こうから俺を観察しているからだ。

―――木山。
食えない女。歳のわりに落ち着いてやがるのがさらに気に食わねえ。

こっちはすぐにでも逃げ出したいというのに、外野は熱心なことこの上ない。
―――いや、内野もか。


「さ、垣根さん。早速はじめましょう。記念すべき第一回目のリハビリです」

【……、】


うんざりといった調子でため息をつく一方で、内野のエースは元気一杯に愛嬌を振りまいていた。


【……やっぱりやめたいってのは】

「なしです」

【……、あっそ】


即答即効大否定だ。いえい。くそが。
暇つぶしにはもってこいだと思ってたのに、やらされていると自覚したとたんにつまらなくなる。

興味をそそられたのは最初の一瞬だけだ。
退屈しのぎを通り越して、なんだこの羞恥プレイみたいな展開は。



なんで目の前に各種ゲームが取り揃えられているんだ。
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 04:25:01.77 ID:azIz19vbo
舞ってたぞ
664 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:26:11.28 ID:ukOdF9o1o


「私もよくわからないんですけど、大丈夫ですよ。一生懸命取り組んでいればきっといいことありますし」


根拠も説得力も中身も何もない発言だ。……まあ、こいつはへそを曲げると本当に面倒くさい。
適当にあしらっておくのが一番だ。飽きたらそういえばいい。
撤回するにはもう少し付き合ってやるか。

俺はひとまず、言いたい言葉をすべて飲み込むことにした。


【んで、どれやるんだ】

「え? あ……、か、垣根さんが好きなゲームでいいですよ……」


………?
なぜ顔を赤らめる。
そしてチラチラとなぜゲームの方を見る。

こいつの視線を辿って、病院内の庭園においてあるゲーム一覧を見てみる。


……なるほど。


【なあ、これにしようぜ。ツ……ツイスター……ゲーム?】

「……え……」


当たり。

これを見てもじもじとしてやがったのか。これはからかってみる価値ありだ。
どうせやらなきゃいけねえなら、こっちが優位に立ってからかってやるのが一番。

よくわからねえが、この中学生のことだし、思春期特有のわけのわからねえ妄想をしているに違いない。
確かツイスターゲームってのはあれだよな、光る床を音に合わせて踏むゲーム?

ん、違うのか。やったことはねえ。

けどまあ、このガキをからかうことができるのは間違いない。
いじれそうなところはいじって楽しんでやる。


これくらいの反抗は許されるよな?
665 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:28:11.44 ID:ukOdF9o1o


「……、でもそれって……、その……」

【あ? なんだよ、あれだけ張り切っておいて逃げ腰か。口ばっかだな初春は】

「………、」

【はーぁ、切ねえなあ。初春にも見捨てられた俺は一体どこに行ったらいいんだ……】

「う……。わ、わかりましたよ……、やりますよ、やります……」


ぷんすかと怒りながらゲームをセットする中学生。こういうところは素直で見ていて面白い。


「……、垣根さんって……、……遊び人なのかな……」


相変わらず顔を染めながら何かつぶやいていたが、知ったことではない。
無視して準備を催促した。


「えっと……、ス、スカート着替えてきま」

【ちょっと待て初春。俺はこのゲームのルールを知らねえ】

「……は?」

【だから、やり方を知らねえんだよ。教えろ】


時が止まる。
いちいち反応が笑える。


「じゃあなんでこれを選んだんですか……?」

【うるせえ。早く。あと俺は待つのはあんまり好きじゃない。着替え禁止】

「……、……、……、わかりました。ちょっとまっててください」


初春はそれだけ言うと、俺たちの観察をしている外野のところに足を運ぶ。
不意にガラスの向こうで木山が笑いをこらえているのが目に入った。

……なんだ? 何故あいつが俺を見て笑っている。
666 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:29:15.76 ID:ukOdF9o1o

対するお花畑中学生はというと、
「……患者さん、患者さん、垣根さんは患者さん」とかなんとか、お経のように唱えながら歩いていた。
なに勘違いしてんだこいつら。

そんなに面白いゲームなのか。
あれじゃねえのか、光る床を踏むゲームじゃねえのかこれ。


ん? でもそうだとすると俺は足動かねえし。
疑問は尽きない。


「よっと」


しばらくして、木山と何かを話していた初春がスカートをめくって、短く縛りだした。

細い足があらわになる。
健康的というよりはどちらかというと、食生活について心配になりそうなそれだ。

―――え? そんなに動くゲームなのか? あ、そうかこいつが床を踏む役か。
あれだろ、ジャカジャカと音に合わせて色のついたこの丸をぽちぽちと踏むんだろ。

……ん? でもそうすると、俺は一体何をする役なんだ……。


「あ、あんまり見ないでください……。な、長いとほら、邪魔になったりするので……」

【そんなに動くゲームなのかよ?】

「……やってみればわかります……」


どうでもいいが、さっきからずっと顔がリンゴみたいな色になってるのはどういう了見だ。
こいつが恥ずかしいってことは俺も恥ずかしい思いをするってことじゃねえの?

なんだか不安になってきた。

俺はガラスの向こうの木山にSOSのサインを送ってみる。

無視された。ムカついた。ぶっとばしたい。
667 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:30:54.18 ID:ukOdF9o1o


「……いいですか垣根さん。そこにルーレットありますよね」


初春が指差した方向には、確かにルーレットらしきものが置いてあった。
視界には入っていたのだが、あれがこのゲームの付属品とは気づかなかったのだ。

……なんだ? ルーレットも使うのかよ。


まるで想像力が働かない。
どうやってこれで遊べというのだ。


「そこに両手両足の部位と、それに対応した色が描かれてるでしょ? 
 交代にまわして、指示された部位で指示された色を触るんです」

【……ほう】

「えっと、垣根さんは両足が動きませんから、私が代わりに動かします。
 本当は倒れたら負けなんですが……。今回は体をひっぱっても触れる場所がなくなった方が負けだそうです」

【……、】


どうやら完全に主旨を間違えていたようだ。

……なんだよ、つまらねえ。クソみてえに単純なゲーム。子供だましみてえなもんだ。

何を初春は戸惑っていたのだろう。これではからかうことは難しい。
どこに赤面する要素があるというのだ。指示されて丸を触るだけだろ?

―――はぁ、結局は退屈しのぎが余計な退屈をつれてきちまった。

さすがにやってられねえと投げ出すのは気が重かったので、まあどちらかが負けるまでは付き合ってやろうとした。







………、それが間違いだった。
668 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:32:09.33 ID:ukOdF9o1o

――――――


「か、垣根さん……、あ、足もうちょっと下げて……ぅ、あ、今変なとこ触ろうとしたでしょ!」

【う、うるせえな! 動かねえんだよ! それよりテメェこそ俺の首に顔をうずめるな! く、くすぐったい!】

「え? 何で私の腰をタップするんです? き、木山せんせいー! 垣根さん何て言ってますーー?!」


数分後には絡み合う二匹のマンドラゴラがそこに生成されていた。
ちょうどバカ春が俺の上に覆いかぶさる形になっている。

首と首がうまいこと合わさっていて、身動きがとれない。
花畑の肉感の薄い太ももが俺の腰のあたりで小刻みに動いている。



―――なんだこれは。

しかも密着しているからわかることだが、ガキのくせに心臓がドキドキと音をたてて高鳴ってやがる。
このエロ春。

………ん? でも心臓って、こっち側についてねえよな。


まーそんなことはどうでもいい。
ちっくしょう、まさに墓穴を掘った。

初春が赤面していたのはこういうことか!



【おい木山! なんとか言えコラ!! この中学生が重い! 重すぎる!】

「なっ……!? い、今なんとなく第六感ですごく失礼なことを言われた気配を感知しましたよッ!! 
 ―――っ!? ちょ、ちょっと垣根さん、吐息がこそばゆいです……あっ……」

【木山ーーーーーーーッ!!!】

「あ、か、垣根さん暴れないで……ってきゃあああああああ!」
669 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:33:19.29 ID:ukOdF9o1o


「あたたた………」


バランスを崩して二人で床に倒れこんだ。
俺からは見えないが、なんとなくわかる。木山は今頃大笑いしてるだろう。

なんちゅーくそなゲームだ。考えたやつは今世紀最大の変態ヤローだ。

こんなもんをパーティで選ぶやつの気がしれねえ。
ましてや異性とこれで接近しようとか、そういう気持ちの悪い……。


―――はっ。

俺の中で何かが警報を鳴らした。

この流れは―――。


【……初春、違うからな】

「は? な、なにがです?」


転がっていた携帯を拾って初春に見せる。


【お、俺は本当にこういうゲームとは知らなかったんだ。本当だ】




「……、……、……、…………………、ふーん」

【嘘じゃねえよ。床を踏んで踊るゲームあるだろ、あれかと思って】

「………、へぇぇぇ?」



―――あ。


まずい。


主導権をとられたような―――気がする。
670 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:35:05.86 ID:ukOdF9o1o


「へえへえほうほう、そうやって言い訳しますか。なるほどなるほどぉ」

【………テ、テメェ】

「垣根さんはいつも私のこと思春期の青臭い中学生って馬鹿にしてるくせに、
 自分だってきっちり思春期だったんですねー。
 なんというか、若いですねえ垣根さん。その上言い訳するだなんて……やれやれ」

【く……】


やられた。

いや、自爆した。

誰かこの調子づいた中学生を殴り飛ばしてくれねえか。
角がとがったものはねえか。

ないか。そうか。


「まあでもそういう要望にこたえるのも介護の大切な役目ですし。うん。私は平気です」

【……、】


なだめられると余計にダメージがでかい。
まるで欲望におぼれるガキをなだめるように、アイツは俺の頭を撫でてきた。

頭の中がくらくらする。

そして、あいつはついにとどめの一言を口にしようとしているようだ。
はっきりとわかる。
671 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:36:01.22 ID:ukOdF9o1o



「あれですよね、

    ―――つまり、垣根さんは甘えたかったんですよね」



やめろ。

や、やめてくれ……。

それ以上は―――。

自尊心って言葉を知らねえのかよテメェは―――ッ!?






「―――満足しましたか?

         い・い・子・い・い・子♪」



【ッぎゃあああああああああああああああああッ!】



プライドを木っ端微塵にツイストされた俺は失神した。
近くで初春が何かを叫んでいたが、そんなものもうどうでもいい。






一言だけ言わせてくれ。

俺は知らなかったんだ。



#TIPS1:終
672 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/12(水) 04:36:51.50 ID:ukOdF9o1o
たまにはこんなのもアリかしらと。
失礼しました。
本編の続きはもうちょいまっててね
673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 04:37:17.20 ID:azIz19vbo
2828が止まらない
1ということは期待してもいいんだな?
期待するぞ
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 05:03:00.25 ID:Seu3U0jHo
ていとくんぺろぺろ(^ω^)乙
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 05:37:35.72 ID:C+H+NrRqo
素晴らしい
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 06:43:07.71 ID:8avRXqmmo
わっふるわっふる
677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 09:04:27.79 ID:Eu1Bf/PAO
やべえ可愛いぃぃ
678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/12(水) 14:31:35.80 ID:Au6yWI0+0
一気読みしてきたぜ……
続きも楽しみにしてる
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/12(水) 16:25:38.20 ID:cq/mKPjDO
いつの間にか来てたwwwwww

うっはwwwwwwwwwwww
初春かわえぇwwwwwwwwwwww
にやにやが止まらんwwwwww
帝春こそ俺の求めていた理想郷だ
いいぞもっとやれ

本編wwktk
680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/14(金) 01:08:30.24 ID:kHgBvbQJo
板移転みたい
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 01:13:15.54 ID:slM3hUiR0
ああもうばか!もうばか!!ほんとばか!!ありがとう最高!!
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 01:15:31.18 ID:YiGa/V99o
klm、;:@
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 02:05:56.01 ID:ljaeAjdPo
代理で依頼出します。◆le/tHonREIには了解取っとります
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

684 :真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 04:46:03.86 ID:5FEZHICDO
移転乙
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 17:46:28.58 ID:lCeGv76DO
移転乙。
初春可愛いよ初春
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 20:08:14.85 ID:MPA8IHwv0
http://iup.2ch-library.com/i/i0224401-1295176003.jpg
なんとなく描きつつ
<<22を待つ。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 20:09:12.11 ID:MPA8IHwv0
↑間違えた、>>22だったorz
はずいwwwwww
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 00:40:51.54 ID:7DzMN8jAO
>>687
乙!
垣根と初春マジ電子!
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/19(水) 11:40:36.79 ID:UUulwyzm0
なんか、二期新OPの歌詞が、このSSにめっちゃマッチしてると思った
まだ確定してないけど↓

これ以上遠くまで飛べない鳥がいて
傷もない 立派な羽で青空をなじった

この場所も悪くない
あの空は高くない
この場所も良くはない

身体で感じる速度を恐れてる
誰にでもチャンスは持てる
その先へ行けない
本当は遠く飛べない
本当は遠く立ちたい
今 叶えたい願いは向こうで輝く

君がいる
瞳に映す未来だって いつも強くて
こんな君は僕さ
君はまだ 眩しいけど
同じ気持ちで この手伸ばして
いつか掴む 現実の僕ら
君になるよ



691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/21(金) 00:56:30.87 ID:f/Fn6f5P0
原作であれぽっちしか絡んでないのに
帝春はしっくりくるなあ
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/22(土) 14:53:46.89 ID:xj21ggEY0
ちょっとだけのつもりがいつの間にか帝春しか考えられなくなっていた。
なんて破壊力。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/22(土) 21:51:27.53 ID:cEcucYJw0
同じく。
ていとくんの嫁は初春だし初春の旦那は垣根しか考えられない

続き超期待
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 01:19:08.12 ID:1ia/RXbDO
ていとくン復活とかプラン崩壊で総括
理事ちょ涙目wwwwwwww
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 07:33:14.87 ID:a8jrg0RAO
おい、ていはるいいじゃないか。こうなると佐天さんの相手も探したくなる
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 09:53:07.28 ID:reHh3WY/0
垣根や初春だけじゃなく、
黒子、佐天、美琴、木山、冥土帰し、査楽、博士、心理定規
全部のキャラが魅力的に描かれていて、すごすぎる
中でもやっぱり垣根と初春の魅力が一番引き出されていると思うけど
>>22は垣根or初春(もしくは両方)が元々好きなのかな?

697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 11:00:21.72 ID:pBJchX6IO
ふと思いたって確認してみたら>>1が立ててから10日かそこらで書き始めてるんだな。
もともと書くつもりだったみたいだけど
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 02:12:06.95 ID:FOCfG6nm0
続きが楽しみでならない。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/29(土) 22:19:35.32 ID:2BxV95OT0
まだかあああああああああああ
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 00:47:00.04 ID:s4uY3VIDO
かきねのかきねのまがりかどー
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 06:13:33.98 ID:N85LPXyco
たきびだたきびだおはなだきー
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 12:22:54.44 ID:gga9BpBIO
一気に読んだ。
続きが楽しみで困る
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 18:38:10.62 ID:pByw7e0i0
続きが気になって夜も眠れません
704 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/01/31(月) 19:15:14.25 ID:fExqhohAO
こんばんは>>22です。
続きについてですが思い付かないのでやめることにしました。



なんちゃって!うそです。
やりたいことも展開も決まってますが、出だしで苦戦しております。もうしばしお待ちくだされ。ゴメンナサイ………、

レスにもついてましたが、歌のイメージってありますよね。
お詫びとして、このお話全体としてのテーマソングを紹介します。

B'zのlove phantomです。
展開的にリンクしてるので、お暇があればぜひ。妄想にご利用くださいませ。

寒い日が続きますが、一緒にがんばりませう!ではまたー
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 19:34:24.07 ID:O8ufH2VH0
>>22キタッ!
期待してます
706 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/01/31(月) 19:41:12.89 ID:fExqhohAO
あっ!あと>>687さん素敵な絵をありがとうございます;v;

挿絵は貴重なので毎回嬉しいです……!
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 21:01:51.92 ID:EbEaZm8AO
本当にびっくりしたわ…
でも良かった〜〜〜
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 21:12:37.25 ID:pByw7e0i0
びっくりしたああああああああああああああ
よかったあああああああああああああ
待ってるぜえええええええええええええ
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 21:32:56.55 ID:AioDH5Luo
吃驚しすぎて一瞬涙でてきましたよ…

頑張ってくださいいいいい
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 22:05:51.37 ID:X6xOeXXCo
絶対許さない。絶対にだ。
許して欲しかったら完結させた後死ぬほどクソ甘い帝春を大量投下するんだ。
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 22:13:07.19 ID:z8uU2vwAO
いらない 何も〜
捨ててしまおう

って歌だな
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 22:47:40.23 ID:nWm5WFZvo
甘すぎて糖尿病になるくらいの帝春を用意しとくんだな……ッッッ!!
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:19:30.99 ID:oVQNxkXDO
続き楽しみに待ってますね!
love phantom…カッコイイ曲だが歌詞はこのSS的にはどことなく不吉だ…
どうかハッピーな帝春になりますように…!
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/31(月) 23:49:06.27 ID:zmfRA7cS0
君がいないと生きられない
熱い抱擁無しじゃ意味がない
ねぇ 二人でひとつでしょ yin & yan
君が僕を支えてくれる 君が僕を自由にしてくれる
月の光がそうするように 君の背中に滑り落ちよう








(そして私は潰される)
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 08:21:51.20 ID:rNCvebJSO
まあ大丈夫だとは思うけど、ジャスラック管理下の楽曲の歌詞書くと奴ら乗り込んで来る事があるから注意な
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 11:32:35.78 ID:MMG6UVty0
>>704
ショックすぎて一瞬心臓止まったwwwwww

楽しみにしてます!あなたのSSが大好きだ!
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/01(火) 21:07:13.09 ID:wMVydQ880
love phantomの歌詞見たけど、不安だ……
美琴も何か危惧しているみたいだし
ううう、ぜひともハッピーエンドで頼むよ
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 03:54:54.03 ID:RQighSFDO
公式化しちゃっても何ら違和感無いレベルだと思う。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 14:28:27.52 ID:r3S3++IAO
>>そして私は潰される

押し花ですね
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 17:41:48.21 ID:TXvlnCpDO
>>687です。
うぉぉおおおお〜〜!!>>22いつの間にかきてたぁぁぁぁぁああああああああああああ〜〜!!
続きが楽しみで仕方ないんだよ!
さてはるもいいけど帝春もかなり萌えるんだよよwwwwww

そんなわけで続きを気長に楽しみに待ってるから>>22>>22のペースで投下してください。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 22:04:56.92 ID:msMHS67+0
>>22 超待ってます。初春は超天使。
>>1も乙
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 21:56:23.50 ID:t3565kpC0
>>22
乙です ここのSS好きだぞー 帝春いいよね!!

>>719
なんかツボったぞこの野郎wwww
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/04(金) 19:23:14.12 ID:ULhfMSKm0
Mr.Childrenのand I love you聴いてたら
このスレの初春と帝督を思い出した・・
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/04(金) 21:33:16.82 ID:Sl25Qs1P0
>>723
歌詞見た見た
この曲もスレにすごく合ってるなあ

妄想が止まらないぞ
急かす気はないけど待ちきれないよ>>22
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 05:36:39.14 ID:C1eqMq0AO
定温物質が俺のジャスティス
726 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:08:46.21 ID:LOsYNK/Mo
お待たせしました。今日はひたすら更新します。
書き溜めはほとんどないので、直書きで遅めの更新になりますが。

あと、今までもでしたが改めて注意です。
このSSは独自解釈を元に作成しています。
とある魔術の禁書目録はすべて読みましたが、お話の性質上「うーん、それってほんと?」みたいな設定がいくつか出てくるかもしれません。
なるべく筋が通ってるようにはするつもりですが、どうかご容赦ください。


初春とていとくんのラブストーリーと思ってくれたらよいです。他は飾りみたいなもんです。初春だけに。痛い痛いモノを投げないで



さて、それでは“救った後の話”はじまりはじまりー!

※and i love youもいいですね><!
727 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:10:58.75 ID:LOsYNK/Mo
 
















               「垣根さんのことが……、……好きだから、じゃだめですか?」
















728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 10:12:10.35 ID:QYN/DhAb0
キターッ!!
729 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:15:44.12 ID:LOsYNK/Mo

                  『―――ふむ。気dasgがfah変わった』

                      【知るかよ。テメェにだけいいカッコウさせたくないだけだクソボケ】
               
        「たまには甘えさせてください、―――天使さん?」


                               「だからオマエは二流なンだよ」

              【―――……何のマネだ】

                            『聞かせfagfhてもらおうかifha君の答えを』

        【殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――ッ!!】

                    「他でもねェこの俺の前で見捨ててみろ。絶対に許さねェ。今度こそぶっ殺してやる」

                         「初春の気持ちも……、考えてあげてください」

          【……、いつか言ってたよな。テメェは俺にとって何なのかって】
 
                            「“ANGEL”―――!!何故気づかなかった……―――ッ!!」

             「全然わかってねェよ。―――“アイツ”がオマエみたいな輩を見ても、同じ台詞を吐く」


                『くっくっく、成る程、あdagのときdagのキミに重ねているからか』

                              「テメェは無力なんかじゃねえ」







                   【これは―――

                        ……俺の物語だからな―――ッ!!!】





                            ……… ………… …………
         
                                    …………
 
                                      ……
730 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:18:12.87 ID:LOsYNK/Mo

                                ※


                           「            」


声はやはり、彼方から聞こえてくる気がした。
ここに確かに意識はあるはずなのに、一振りの暴力によって世界が音も立てずに崩れた。

それは体には1ミリたりとも触れることのないもの。
だがしかし、人間である以上は避けて通れない痛みを伴うもの。


「答えろ」


かつて死闘を繰り広げた二人の間にルールなどない。
少なくとも、暗黙の了解は存在しない。


殺すつもりだったし、殺される覚悟もあった。

だが。


鼓動はさっきから鳴り止まない。鳴り止んでなどくれない。
景色が揺らぐ。美しく見えていたものが、何もかも歪んで見えてくる。
意識はこの上なくハッキリしているのに、自分がここまで築いてきたものが両断されたように感じる。

アイデンティティと呼ばれる自己投影の鏡の中心から、放射線状に亀裂が走っている。


なぜなら。

なぜなら―――


【俺は………、】


「答えてみろよ、メルヘン野郎」




答えが、出ていないから。
731 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:24:58.11 ID:LOsYNK/Mo

そうして。


垣根帝督は地に堕ちた。

敗因は一つだけだ。


守ろうとしていたものの重みに負けた。
今日までのイエスが、明日からのノーに変わった。

他でもない、最大の目標によって、垣根帝督のベクトルは彼方へと飛んでいったのだ。


「―――無様だな」

【……、……ッ!!】


反論する意志も溶けて消えそうだ。

なんとか言葉を振り絞って、自分の体内にあるものを吐き出そうとする。

目の前の男に、対抗するカードを頭の中で並べ立てる。



………、…………、―――ない。




見つからない。
この男に打ち勝つ、起死回生のジョーカーなど持ち合わせていなかった。


「垣根……さん……?」

732 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:29:37.80 ID:LOsYNK/Mo


「なンでオマエが勝てないか教えてやる」


がたがたと震えだす体。

わかっている。そんなことはわかっている。

見下した態度に腹が立つ。

口の中がカラカラに渇く。

チリチリと、頭の隅で黒い気持ちが増幅するのを感じる。



なのに―――、なのに反論できない。


花の名前を胸に刻むことで、精一杯だった。


………

……



733 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:40:58.61 ID:LOsYNK/Mo

                                      ※

「はい、また私の勝ちーーーー!」

【……、……】


舞台は巻き戻り、うってかわってとある日常。
三度目の世界大戦を乗り越えた世界。

少女は花飾りを揺らしながら、ガッツポーズを決めていた。

いった側、垣根がコントローラーを床に落とすのを横目で確認。
ついでに表情も見てみる。それなりに悔しそうだ。


「いやあーこれで通算私の45戦45勝ですねー」


わざと聞こえるように、というかほとんど煽るようにして告げてみる。


【……、だってこれ、やったのはじめてだしな】

「さて、次はどれで勝負します?? あっ、それじゃあ垣根さんがやったことあるやつでいきましょう。それなら文句ないですよね、うんうん」

【……つーかそもそもゲームとか得意じゃねえしな……】

「あれー? ん? 『俺の演算能力ならゲームごとき余裕だ』とかなんとか……、あれー?」

【ぐ……。格闘系のやつにしようぜ。それなら負ける気がしねえ】

「ほうー? そうなんですか? じゃあ何か賭けます?」

【…………、やっぱ音楽系がいい】




―――二人は初春の部屋でゲームにいそしんでいた。
734 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 10:55:01.49 ID:LOsYNK/Mo


【……、つかよ、初春ってゲームオタクなの】


今度は不意打ちで別角度から優位性を確保しようとする垣根。
急に言われたので思うように対応できない初春は、上ずった声で返答を誤ってしまった。


「ち、ちがいますよっ!? 何を急に言い出すんですか! 負けてるからって!!」

【図星かよ。ったく、中学生のくせにゲームばっかしてんじゃねえよ。勉強しろ】


ふふん、と得意げにコントローラーを振り回す垣根。
服装は相変わらずの手術衣だった。
病院からはすでに退院しているのだが、長いこと親しんでしまった衣類に妙なこだわりが出てきたらしい。


「いっ、今の話題と関係ないじゃないですか!! それに、……垣根さんの教え方、なんだか怖いんですもん」

【それでも的確な指導だっただろ? 理論構築は演算の基本だ。甘やかしてどうする。
 だいたいテメェは頭の回転は速いくせに、肝心の『自分だけの現実』が弱すぎる。宝の持ち腐れってもんだ】

「……、それはそうかも、しれないですけど……」


なんだかゲームには勝ったのに、負けたように沈んだ気持ちになる。
いつだってこの男は油断できない。もちろん肯定的な意味でだ。
こうしてる間にも、自分をいじめる算段を頭の中で繰り広げているに違いない。
まったくもって、プライドの高い男だった。


(―――べつに、嫌じゃないですけど)


初春はしょぼくれた顔で窓の外を眺めた。

735 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:06:47.67 ID:LOsYNK/Mo


「終わったんですよね」

【……、みてぇだな】


しみじみと、学園都市の町並みを瞳に浮かべながらつぶやいた。
第三次世界対戦の勃発。経緯。末路。
直接的な戦場は海外がメインだったとはいえ、当然この街にも情報は下りてくる。

何をしていても。

食事をとっていても。

テレビを見ていても。

―――二人でいても。


そこまで考えたところで、初春は気づいた。


「―――っ! ご、ごめんなさい」

【いいよ別に】


はっ、と息を吸い込んで垣根の表情を再度確認したときには、彼の表面から温度が消えていた。

迂闊だった。

かつてはこの街の中核にいた人間。いくら垣根帝督がこの体を選んだとはいえ、何も感じないはずがない。
意図的に戦争に関する情報は避けていたのが、初春には痛いほどわかっていた。


(……やっぱり、それもプライドが許さないのかな)


なんとなく、この手の話をすると沈むのも、わかる。
736 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:15:34.51 ID:LOsYNK/Mo

本来ならば、初春の力を借りた上なら彼の能力は元に戻ったも同然だ。
あのとき博士が言って聞かせたように、確かに世界大戦ははじまり、終結した。

わかっていたなら、自分の能力の生かし方を考えないわけがない。
それでも垣根は戦争に関して、自分からどうしたいだの、戦況はどうだだの、初春に言葉を投げてくることはなかった。

理由は―――わかるような、わからないような。


(……私を巻き込みたくなかったから?)


それは垣根に対する希望的観測なのか。


(生き方は変えないっていってたのに)


それを喜んでいいのか、悩んでいいのかもまた初春の判断が揺れるところではあった。
もっとつっこんで話をするなら、彼の中での自分の位置とか、行動の意味とか、そういったところもそうだし、

―――何より、……あれから何回もこの男と会ったが、時折見せる暗い表情が気になっていた。


(……、でもまぁ、今はこうしてるだけで楽しいし、いいのかな)


多分垣根は垣根で考え事をしているのだろう。
いくら意志共有ができるからと言って、話したくもないところに踏み込むのはタブーだ。
いつか話してくれるその日まで、ゆっくりと彼を見守ろう。

初春はそんなふうに自己完結した。



737 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:28:32.52 ID:LOsYNK/Mo


【初春】

「……は、はいっ!」


携帯の震えに反応して焦点を垣根に合わせる。
瞳からはうかがい知れないが、意志ならば文字として読み取れる。

初春が開発した、垣根専用の翻訳プログラムである。


【ちょっと体を動かしたい。つないでくれるか】

「あ。いいですよ。ちょ、ちょっと待っててください」


あわてて立ち上がり、彼と自分とをつなぐ、とあるイヤホンつきの装置を探す。
見た目はポータブルCDと変わらないこちらは、木山春生が作成した特注のソフト。

これを初春が装着することにより、擬似的に垣根と初春の意識は統合され、不自由だった垣根の体、言語能力が回復する。
制限時間は15分。それ以上はおそらく、意識が垣根に取り込まれてしまう。


(そろそろ慣れてきたかな……)


もちろん、博士との一件から何もせずにいたわけではない。
演算の練習もしたし、垣根の能力を支える理論の勉強も教えてもらった。
(直接的に演算をするのはもちろん垣根なのだが、彼いわく理解があったほうが何かと便利とのこと)

また、人間が発する複雑な信号を、スムーズに翻訳するための訓練も定期的に行っている。
今ではほとんど無意識に垣根をサポートできるくらいだ。


(……正直、意識を共有するってけっこう恥ずかしいんだけど……)


慣れとは恐ろしいものだ、と初春は不意に思った。
738 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:39:34.67 ID:LOsYNK/Mo

それにしても珍しい。
意識共有の練習ならばいつもは外で行っていた。
そしてたいていの場合、初春が誘ってみても受け流される。


(そりゃまぁ……、ずっとずっと一緒ってわけにはいかないし)


そもそも垣根の生活はある程度のハンデを背負っていく他はないのだ。
共有トレーニングはあくまでも気分転換、また有事の際のためという名目だった。

違和感を感じつつも、垣根の前に座る。
着ていた花柄のワンピースを折り曲げ、丁寧にイヤホンを耳に取り付けた。



キ……ーーーィン……―――ッ!


装着する際に微かに意識が飛びそうになるのは元からだ。
これだけは何回やっても直らない。



「………ふう。こんにちわ、垣根さん」

「あぁ」


にこりと笑いかけた先にある、垣根帝督。
体の細部をうまく動かそうとして、足の指を閉じたり開いたりしている。


「俺の意識って直接テメェに流れてるんだよな」

「えっ? はい、そうですよ? 複合的なメッセージまでは理解できませんが、明確に発信している気持ちなら―――」

「そうか」

「………え」

739 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:47:08.36 ID:LOsYNK/Mo


「じゃあ俺が今、何考えてるかも、わかるだろ」

「―――っ! え……、えっ……、えと………その………」


うつむいて視線をそらそうとしたのに、肩をつかまれた。
華奢な体がびくっと震える。

顔が真っ赤になる。視線がどこにも合わせられない。


「だ、だめですよ垣根さん……、だって……ええと」

「何が?」


次には垣根の整った顔がすぐそこにあった。
どこにも逃げられない。どうせ自分の考えてることは筒抜けだ。
初春はまだ、意識共有の際の発信をうまくコントロールできていないのだ。


「何がじゃなくて……、は、恥ずかしいし……、それにこういうのって、ず、ずるいです!」

「前にしただろ、ガキんちょ」

「しましたけど、しましたけどぉ……、前にしたときだって、その……、い、勢いみたいなものだったし……」

「そのわりに気合が入ったキスだったけど」

「―――ッ!?!」


もう
740 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:47:43.31 ID:LOsYNK/Mo
しまった興奮しすぎてみすったwもっかいw
741 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:50:19.03 ID:LOsYNK/Mo


「じゃあ俺が今、何考えてるかも、わかるだろ」

「―――っ! え……、えっ……、えと………その………」


うつむいて視線をそらそうとしたのに、肩をつかまれた。
華奢な体がびくっと震える。

顔が真っ赤になる。視線がどこにも合わせられない。


「だ、だめですよ垣根さん……、だって……ええと」

「何が?」


次には垣根の整った顔がすぐそこにあった。
どこにも逃げられない。どうせ自分の考えてることは筒抜けだ。
初春はまだ、意識共有の際の発信をうまくコントロールできていないのだ。


「何がじゃなくて……、は、恥ずかしいし……、それにこういうのって、ず、ずるいです!」

「前にしただろ、ガキんちょ」

「しましたけど、しましたけどぉ……、前にしたときだって、その……、い、勢いみたいなものだったし……」

「そのわりに気合が入ったキスだったけど」

「―――ッ!?!」


もう言葉さえ失って、光の速度で自分の混乱を伝えることしかできなかった。
742 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 11:59:37.87 ID:LOsYNK/Mo


「こ、このためにつながせたんですか……!?」

「さあな。いいから顔あげろ。押し倒したほうが好みかよ? じゃあこうする」


どんっ、とやや手馴れた手つきで初春を床に押し付ける。
初春は初春で、言いつつもしっかり、無意識のうちに彼の行動を翻訳してしまっているのだからおかしなものである。


「ま、またそうやってかき乱すようなこと言ってっ……。垣根さんはずるいですよ!ずるいずるいずるい!」

「嫌か」

「………、も、黙秘します」

「とかいって意識は明確に伝わってきてるんだけどな。光の速度で。嫌ならはずせば?」

「―――好きにしてください、もお……」


観念したように目をつぶる初春。

何でこの男はこのタイミングで唐突にこんなことを思いついたのか。
もしかして、欲求不満とかいうやつだろうか。
そういえば佐天涙子というおせっかいな知人がいつぞや言っていた。

男の人には急にそういう衝動にかられる瞬間があるとかないとか―――。


「で、でも、きすだけですよ……」

「わかってるよ、エロ春」


見透かされたようにつぶやいてから、唇を重ねた。







743 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 12:08:45.99 ID:LOsYNK/Mo

――――――


「その……、聞きたいことがあるんですけど」

「ん」


伝わってきたやわらかな感触をごまかすようにして、言葉を紡ぐ。


「……やっぱいいです。よ、読み取ってください」

「嫌だ」


押し当てた唇をそっとどけて、髪を撫でる垣根。
それだけでもう、なんだか溶けてしまいそうになる。
次の言葉を捜すのにこれだけ苦労するのは、この特殊な環境のせいだろうか。


「なっ。なんでですか! というかもう伝わってるんじゃないですか?」

「というか、もやもやしていてよくわからん。テメェの口から聞かせろ」

「………、」


もちろん聞きたいことはいくつかあるが、この状況で投げかけたいことはひとつしかない。
でも、言葉に出していいか迷う。

―――伝わっているのはわかっていても、迷う。

怖い。


可能性がどれだけ大きくても、ないといってしまえばそれはゼロになる。



「わ、私のこと………、ど、どう思ってるんですか……?」

744 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 12:17:54.77 ID:LOsYNK/Mo


「………、」


瞬間、垣根の表情に透明な絵の具が貼り付けられた。
そうして今度は押し黙ってしまう。
直前に何か、意識からはみ出した情報があったような気もするが、読み取ることはできなかった。


「あ、ええと……、ちがうんです、その……。へ、変な意味じゃなくって」

「……、」

「つまりですね……、な、なんて言えばいいのか……、私の気持ちは……」

「……、はっ」

「えっ……」


次の言葉を捜していたそのとき、垣根の手が初春のイヤホンに伸びた。

離れる合図。

足の支えを失った垣根が初春に倒れこむ。シャットダウンというやつだ。


「……垣根さん……?」

【今日は帰る。悪かったな】


やや離れた位置で携帯の文字がささやいていた。
745 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 12:25:43.85 ID:LOsYNK/Mo

車椅子まで肩を貸して、垣根を運ぶ。
玄関先におきっぱなしのそれは、すっかり持ち主に馴染んでいる。


「お、送ってきますね」

【一人でいけるさ。またな、初春】

「そう……ですか」


携帯電話の文字はかわいらしいフォントで表示されるようになっているのに、浮かび上がった言葉から明確な拒絶が感じられた。
一人にしてほしい。こういうときは決まってそう続くのだ。

これ以上何かを求めても、妙な空気が流れるだけだろう。

初春も深く追求することなく、彼の背中を見送った。


――――――


(…………、…………)


ばたん。

扉を開いて玄関先で立ち尽くす初春。
もやもやした気持ちは、こんなことで解消されるはずもない。
むしろ余計に大きくなったような気がする。

初春だって女の子なのだから、惚れた相手に気持ちをかき回されるのは少しもおかしなことではないのだが。


(……、何なんだろう、私って)


それが。

―――それが、欲張りな気持ちであることはわかっていた。

746 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 12:33:36.01 ID:LOsYNK/Mo


(だめだよ、私のばか―――)


自分は垣根帝督の側にいるだけで幸せだ。
その気持ちは変わっていない。むしろ大きくなっている。

二人で遊んだり、じゃれあったり、

―――キスをしたり。

初春の心にともった小さな炎の色は、蒼かった。
決して派手に火花を散らしたりはしない。だが、その温度はもはや管理することのできないところまで達している。

ついさっきまでは「深追いはしない」だの、「話せるときに話してもらおう」だの、体のいい言い訳をしていたというのに、だ。


(……、よくないな……こんなの)


座り込んでしまう。


―――正直、依存している。


垣根帝督がどうなのかはしらない。もちろん、初春が相手に依存されているところはあるのかもしれない。
彼の生活にとって、もはや自分はなくてはならない存在になっている。

だけどそれはハードの問題だ。物理的なもの。形だけのもの。


(その、“依存されている状況”に、私は依存してるよね)


まじめな初春にとっては忌むべき問題だった。
747 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 12:40:21.41 ID:LOsYNK/Mo

では逆に、垣根に自分は何を求めているというのか。
何を欲張っているというのか。

その欲張りの正体にはもちろん、初春も気づいている。


(一言でいいのに。……一言で、いいのにな……)


初春が聞きたかったこと。別に自分の思い通りでなくてもいい。
そのときは傷つけばいいのだから。でも、あんな風にそらされたら余計に気になる。

何かいえない理由があるのか、とか。

もしかしたら自分のこと、とか。

―――甘えてるだけ、とか。



(名前をつけてほしいんだ、私。私と垣根さんにもそうだし、私の、垣根さんの中での、居場所に―――)



ここまで踏み込んだ関係になっておいて、



キスまでしておいて、



抱きしめて、意識を共有して、自分を恋に落としておいたくせに―――。






(私は―――、垣根さんの何なんですか?)






………

……

748 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/02/05(土) 12:41:09.63 ID:LOsYNK/Mo
休憩!ご飯たべてきます
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 12:57:53.71 ID:RMXokQepo
更新を待ち続けてやっと読めてすげえうれしいのにこれ以上読んだらまた心が痛くなってしまいそうで。
いやもう痛いんだけどね!読むよ!見届けるよ!
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 13:15:39.96 ID:5bEmZNU/0
乙過ぎて涙が出る。初春がこんなに可愛いいSSは他に無い。
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 13:22:51.87 ID:+CzzwbXl0
乙です ほぼタイムリーに遭遇できて嬉しいぜ
752 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 13:58:46.35 ID:LOsYNK/Mo

                                   ※


(バカ春。―――テメェだけ悩んでるわけねぇだろうが)


垣根帝督は嫌になるくらいの光の中、学園都市を車椅子で徘徊していた。
学生として登録されているのかどうかすらもはやあいまいだったが、一応のところ住処はまだあった。

費用については口座から引き落とされていたらしい。


以前の彼の能力は唯一無二のものだった。
得られる科学的な価値は計り知れない。その分だけ、富が舞い降りる。そんな生活。


(………ふん)


すれ違う人間が奇妙な顔つきで自分を見る。



この視線だけはいつまでたっても慣れない。馬鹿にしてるやつもいるだろうし、哀れんでいるやつもいるだろう。
どこかのお花畑中学生みたいに、もしかしたら手を差し伸ばしてくる輩もいるかもしれない。

以前なら、悪態をついてそれで終わりだ。でも今は、違う。


(弱点が増えたとも言える。あのときまでは、くだらねぇ体。くだらねぇ生活。くだらねぇ毎日だった)



当初は学生服を着て生活しようと思っていたが、正直車椅子の生活ならば手術衣のほうがしっくりくる。
開き直りにも近いだろう。


だが。

たとえそうであっても、あの時、博士を追い込んで元の体を捨てたこと自体には後悔はしていない。

753 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 14:11:10.92 ID:LOsYNK/Mo


(―――俺だって馬鹿じゃねえ。テメェが抱いてる色も形もないそれの名前くらい知ってる)


無垢な少年ならば戸惑って、ここで哲学的な思考に迷い込んでいたかもしれない。
だが、垣根帝督は少なくとも、相手の心に映ったそれを理解するくらいには成熟している。

―――どこかの誰かとは、違う。

だけれど、自分が抱いている気持ち。
初春飾利を自分の中のどこに位置づけていいかがわからないのだ。

キスをしたら、心は落ち着く。

手をつないだら、心は落ち着く。

つながったら、―――やはり同じ。


でもこの暖かい気持ちに軽はずみに乗りかかっていいのか。
本末転倒のように思えるかもしれないが、つまるところ垣根帝督は急激な自分の心境の変化に戸惑っている。
それもそうだ。学園都市の暗部生活に長い間身をゆだねていた。

そして転落。そこからの復活。胸に残ったもの。

いったい誰がこのジェットコースターに混乱せずにいられるというのか。


(くだらねぇよ。くだらねぇよな。俺は誰だ? 誰だと思ってる。ふざけるな。暗部にいた人間だ。適当にすればいい。
 ごまかして、利用して、うそをついて、―――踏みつければいい。なのに、なんでこんなことを真面目に考えてる。馬鹿か、俺は)


(何なんだ。認めるのが嫌なだけじゃねぇ。俺は―――俺じゃなくなる。何にこだわってるか? それも……わからねぇ)


(恋だの愛だのを否定する気もねえが、積極的に肯定する気もねぇ。だけど、だけど何なんだ)


(何にこだわってる。垣根帝督。お前は何を―――忘れてる)



疑問が浮かんでは消えていく。

754 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 14:26:19.27 ID:LOsYNK/Mo

胸のうちの何かが、彼が初春飾利に依存するのを恐れている?

―――違う。

依存した関係はすでに出来上がってしまっているのだ。
できあがってしまったそれに、名前がつけられないのだ。

―――なぜ?


(……、あいつの前で、一言いうのは簡単だし、実際できるかもしれない。でも、許さない俺がいる。俺は、まだ俺を捨てていない。
 捨てられないものと、捨てたい気持ちがどこかでぶつかっている。そうとしか考えられねぇ)


その通り。

できあがってしまった関係に向き合うことで。

その暖かな感情に素直になったときに、失うものがあるから、恐れるのだ。


―――では、何を?

垣根帝督は何を恐れている。すべてをなげうった自分が。

能力や体の自由、暗部としての生活、すべてをなげうった自分が。

何を失うことを、恐れている。何を失うのを恐れて、名前もつけられず、居場所にも答えられない。


(俺は……、何か大切なことから目をそらしている。その事実はわかる。わかるんだ。でも、それが何なのかがわからない)


思考を整理する。学園都市の光はまだ、まぶしい。


(俺の中にまだ残されていて、俺が手放せていないものの正体は―――)

「あれ、垣根さん?」


思考の迷宮に、不意に出口があらわれた。


755 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 14:45:18.32 ID:LOsYNK/Mo


「こりゃまた奇遇ですね。初春は一緒じゃないんですか?」


―――佐天涙子。

初春飾利の親友。
それなりに交友はあった。何回か三人で会ったこともある。

ふざけた振りが得意なタイプ。
初春を二人でいじるのは、楽しかった。なかなかに相性はいい。

彼女をダシにして初春に焼きもちをやかせるのが好きというのは、今のところ秘密である。


【あいつは引きこもり体質らしい】

「ぷっ。なんですかそれー! 新しいいじり方?」


冗談を飛ばすのは毎回のことだった。垣根は車椅子をとめてリラックスした態度を無理にでもとってみせる。
どうやら相手も帰宅途中らしい。「押しますよ」の一言で垣根は車椅子を預けた。


「だいぶよくなったんですね」

【何が?】

「体調。ほら、いろいろあったみたいじゃないですか。……私はその、蚊帳の外でしたけど」


ははは、とおどけて見せるのがなんとなく、らしいといえばらしかった。
佐天が能力に対してコンプレックスがあることは理解している。

自分が初春と出会う前にいろいろとあったらしい。
そしてその末、彼女なりにそれを乗り越えたというのも、初春から聞いている。





756 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 14:51:42.58 ID:LOsYNK/Mo


「まぁほら、あたしがいてもすることなかったですし」

【そりゃわからねえな。テメェがいたらそれはそれで愉快だったかもしれねぇぜ?】

「え?」


佐天に見えるように、携帯の液晶をつきつける。
こちらは一人でいるときのための、意思表示ツール。


【少しからかっただけで顔を赤くしやがる。あのときもそりゃあ見事なリンゴ面だった。テメェがいたらもっと膨らんだかもな】

「………、あはは」


声のトーンを聞いて、失言だったかと戸惑う。
フォローをしたつもりだったが、逆効果だっただろうかと。

だが、その実は違った。


「その……、あたしが言うにも何ですけど……」

【……あ?】

「初春の気持ちも……、考えてあげてください」


ぐさり。

遠距離からテレポーターに攻撃されたのかと錯覚する。
一番言われたくない台詞。

それでいてど真ん中に刺さる台詞。


「あ、いや! 垣根さんが、考えてないって意味じゃないんですけど……」

【かまわねぇぜ。続けてみろよ】


威圧感を出さないように告げるのは不得意だった。
757 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 15:09:17.37 ID:LOsYNK/Mo


「あいつ……、世話好きなくせに不器用だから、うまく気持ちを伝えられてないと思うんですけど」

【………】

「でも、心はすごくきれいな子だし、まっすぐだし、垣根さんのことだって、……ああ、だめだ、あたしが言っちゃだめ」

【そんなの、知ってる。あいつの気持ちもな】

「……、え」


足が止まったところを見るに、先ほどの初春との一件は本当にタイミング的なものだったのだろう。
思惑とは別方向、垣根帝督には初春の気持ちが痛いほど伝わっていた。

光の速度で。直感するよりも、早く。


【……、テメェには悪いが、……、いろいろあるのは、あいつだけじゃねぇ】

「そっ……そうですよね! あははー、あたしすぐにこうやって……」


―――そうして佐天は車椅子を前に進める。


―――こうやって、いつものように暖かい感情に寝そべって。


【それより、そっちはどうなんだ。ハブられてしょぼくれてたんだろ】

「……、うーん、垣根さんやっぱ意地が悪いなー。それじゃあ初春しか落とせないわけだ、うん」


―――うるせぇ、と念じて、他愛のないやり取りをして。


「うわ、今日混んでるなぁ道……」

【初春がいたら『未元物質』でふっとばせるんだけどな】


―――家までの岐路の途中、人通りが多いこの道で。




          神はサイコロを振ったに違いない。



「というか! いいんですよ、私は。ほら、初春の好きな歌と一緒です! 

           ナンバーワンに、ならなくても―――――――――」



その瞬間、その言葉。すべてがリンクする。
垣根の視界にうつったものは、


        ――――――白い影。
758 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 15:17:07.93 ID:LOsYNK/Mo


    「―――引っ張るな。タダでさえクソみてェに混ンでやがるンだ」

  「どうして? はぐれたら大変なんだよってミサカはミサカは訴えてみたり!」


                ―――、―――、―――。


          (……………ッ!!!!!!!!!!)


思考が停止する。

見間違いのしようがなかった。

すれ違った。確かに。今、この瞬間。


ここに、いた。

同じ空気を吸っていた。


「垣根さん? 垣根さfagapknん? fnhafmhak―――、―――」




佐天涙子が後ろで何かを言っているが、もはや垣根には届かない。

周りの風景すら灰色になる。

次に、墨汁が真っ白な布の中心からジワジワと広がるような感覚を覚え、直後に安定した。


             (そうか。………あはハはハハハハハ、そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか)


笑う。

笑ってしまう。


こんなにも単純で、唯一のものを、どうして忘れていたのか。
759 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 15:27:48.50 ID:LOsYNK/Mo


                       『ナンバーワンに、ならなくてもいい』



その歌は皮肉に響いていた。

忘れていたのは、そうだ。唯一無二の、絶対的なプライド。
捨てられないのは、そうだ。垣根帝督を包む、病的なまでのコンプレックス。
それもこれも、すべてはあの日、あの瞬間にはじまったこと。
なぜ今まで気づかなかったのか。

理由は簡単だ。自分が甘えていたから。
逃げていたから。

垣根の思考が収束する。AIMの波が一定のパルスを刻み出す。
血管が収縮して、どこかで破裂している。懐かしい感覚を取り戻す。

忘れていた、捨てられなかったあの闘争心。



(だめだな。初春飾利。俺はやっぱり俺だ。捨てられねえ。譲れねえ。俺に二文字を刻んだあのクソヤロウを、思い出しちまった)



「ど、どうしたんです? 垣根さん、気分でも―――」



パァン!!!


液晶画面にあふれた文字を確認するや否や、携帯電話の画面が破裂する。
周囲の人間が驚いて一瞬立ち止まるが、すぐに人通りは元にもどった。
片手で「気にするな」のジェスチャー。進む車椅子。


そして。


点滅する壊れた液晶。



【殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――ッ!!】



………

……

760 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/05(土) 15:29:22.24 ID:LOsYNK/Mo
今日はここまで。なんだか途中わかりにくいところがあったかもしれません。申し訳ない。
あと後半戦は間にちょこちょこ小話でもはさんでいこーかなーと思ってます。
続きはまた近々。お疲れ様でした。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:29:37.14 ID:yL7Ig7rW0
したらばがいいなら
http://jbbs.livedoor.jp/netgame/7949/
または
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/netgame/3491/1245939910/
がいいんじゃないかな
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:30:34.25 ID:yL7Ig7rW0
ごめんなさい凄い誤爆した\(^O^)/

乙乙!毎回良い所で切るなぁ。楽しみに待ってます
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:34:08.45 ID:uvKyuEyDO
リアルタイムktkr
ニヤニヤしながら見てたら路線間違えて目的地と真逆の電車に乗ってたぞどうしてくれる
764 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/02/05(土) 15:34:23.41 ID:LOsYNK/Mo
エンタメの基本はハッピーエンドと信じていたり
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:34:46.69 ID:EJpE2U4ao
お疲れ様ww
今回も面白かったですww
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 15:36:18.10 ID:JDPW5hnAO
>>764
!!!!!!!!!
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 16:11:51.64 ID:iQfuSoX+0
うおおおおおおおおお
乙です
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 17:03:50.50 ID:5bEmZNU/0
ぅぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおつ
垣根が男前すぎる。そうだよな、1位じゃなきゃダメだってプライドとコンプレックスが垣根の本質だよな。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:02:45.99 ID:luKQ0idDO
うっひょい、ほぼリアルタイムで出会えるとは…!
ういはるマジ天使、ていとくんマジイケメン、乙です
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 18:10:11.53 ID:MDekgVjCP
やっぱり上条さんに殴られないと校正は無理なのかー
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:24:58.07 ID:wGBv6LQ/o
うおおおおおおおおっしゃぁぁぁぁぁ!!!
この二人の邂逅を待ってたぜええええ!!!
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 19:45:47.62 ID:oR6rslzV0
 面 白 く な っ て ま い り ま し た
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:18:53.66 ID:0anUy+iDO
切ないすれ違いからハラハラな展開に…ていとくんの中の闇は今だ消す事ができず、か…
ていとくん、いや垣根!戦うなとは言わない、でも自分で自分を傷付ける真似だけはやめるんだ!
初春が悲しむに決まってるんだから

>>22さん乙でした。続きのんびり待ってます
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:36:29.79 ID:iuwqJzad0
初春が垣根の闇を何とかしてくれると信じる!
それにしても今後

垣根と初春の初対面(原作十五巻の方)
てんやわんやの温泉旅行←個人的にここ重要

が触れられることはあるのかな?
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 21:58:23.20 ID:5bEmZNU/0
堕ちた天使・垣根帝督と超天使・初春飾利が出会うとき、物語が超始まる・・・
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:24:45.89 ID:RMXokQepo
後編のイントロを改めて読んだら泣きそうになった。
どんな結末であっても、二人が溶けてしまわないことを祈ってる。
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 22:47:39.04 ID:MPJoPmJF0

やはりどんな形であれ決着をつけねばならないのか・・・!
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/05(土) 23:10:01.80 ID:5bEmZNU/0
よくよく考えれば、二人とも補助無しだとかなりの障害者だね。
上半身は力のある車イスていとくんと、杖歩行貧弱アクセラレータのヨロヨロ合戦だったら、結構いい勝負じゃね?
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:31:55.00 ID:nUHuidaAO
>>778
最終的に殴り合いで勝負をつける展開が浮かんで胸熱だったが、空気読まずに白翼出しちゃう一方が見えて絶望した
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 00:42:42.80 ID:rhk8aEauo
>>778
杖という絶対なリーチ差が……
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 02:28:57.53 ID:2SLt5ux20
love phantomの歌詞は、若干不吉なところもあるがまだ普通の純愛系だからきっと大丈夫だ
なんだかんだでB'zの恋愛絡みの曲は、明るい曲調でとんでもない破滅的な内容だったりするからなぁ
デビュー曲からして「アンタうっとおしいからあっち行け」だし
YOU&IとかHole in my heartとかじゃなくて良かったよ
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 03:08:06.77 ID:IU7SVcPi0
乙です!
まだまだどうなるかわからんなぁ・・・
とりあえず幸せになってほしいぜ…
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 04:47:27.55 ID:Y3E3f5Vh0
キスにもラストの展開にもドキドキしぱなっしだ

このSSのせいで帝春が公式という幻想を見ています
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 09:31:36.56 ID:9PuynxbH0
乙!! 一方さんとの遭遇ktkr

一方さんが電極のスイッチ入れるだけなことに対して
ていとくんは初春居ないと能力行使できないから不利だよな
本質を理解した未元物質の力も見てみたいところですがね
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 21:55:08.43 ID:ONIt1wgfo
ふぅ・・・イイねぇ
ニヨニヨしながら一気読みしてしまった
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:53:52.95 ID:NGP0DRJw0
チョーカー型デバイスの電池制限15分と、初春の活動限界15分。
最後は殴り合う障害者。呆れ顔の初春と打ち止め。帝春の方がラブの大きさで勝ちだな。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:32:54.21 ID:8IEv/A4h0
>>786
>最後は殴り合う障害者。

一方さんの方が瞬殺されるだろうがwwwwwwwwwwww

ていとくんは足で間接外すだけあってきっと喧嘩も強いのよな
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:36:35.50 ID:9OydDlvvo
>>787
まぁ見た目ホストだしなんかただの殴り合いならそこらのチンピラと同じくらいかもしれんしな
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 02:43:16.98 ID:UxUbLxkTP
でも一方通行ってステイルを一発で倒した上条さんのパンチを数発耐えたよね
タフネスはそれなりにありそう
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:09:01.31 ID:f69tlyxAO
>>789
ステイルは顔に衝撃食らうと回転して気絶する特別体質
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 16:42:00.57 ID:KeaT9qst0
>>790
真のモヤシはステイルだったのか
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 16:47:59.50 ID:o/USZrMAO
ステイルは魔術行使に体力の大半持ってかれてるからね
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:18:42.71 ID:qYkkgJcE0
>>791 衝撃の事実ww 年齢も中学生くらいだしな 高校生に殴られたら一撃でダウンだよ
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:41:12.93 ID:UxUbLxkTP
まぁガリ勉の中学二年生が相手なら、路地裏で喧嘩ばかりしている高校生男子のグーパン一撃で当然か……
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:51:38.23 ID:GO+vpZiAO
上条さんは浜面と渡り合えるんだから普通に強いわな
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 23:52:12.59 ID:FTWnXziDO
能力なしの殴り合いなら無能力者勢が強いかな
削板は例外だと思うが
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 02:31:22.72 ID:VMqhcnv7o
麦野さんは殴り合いも強そうですね!
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 02:39:10.24 ID:OLgLlt+DO
むぎのんは超能力使わない方が絶対強いと思う。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 04:12:48.61 ID:B9zOKrZIO
並のプロレスラーくらいの力はありそうだよな
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 04:40:16.15 ID:K/wvOXCxo
脳内でレオタードのむぎのんが華麗に浜面にジャーマンスープレックス決めたじゃねえかどうしてくれる
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:51:41.18 ID:blG/koDDO
いつの間にか来てたかwwwwww

>>22乙!
帝春が可愛すぎてニヤニヤがとまらねぇ!!
続きがめちゃくちゃ楽しみだぜwwwwww
やべぇよもうここ三ヶ月くらいはさてはるから帝春のことしか考えられなくなったよどうしてくれるwwwwww
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 19:06:42.78 ID:kbkCsARAO
定温物質いいわ〜
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 04:35:34.94 ID:x4Euv1hAO
定温物質が俺のジャスティス
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 19:20:26.81 ID:LKP/v6+D0
いいから電撃文庫さんはこの作者をさっさと確保すべきだ!
こんな・・・もうこんな!やばい!最高です!
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/10(木) 09:07:22.43 ID:V+3gK6QAO
続き 見たい
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 10:05:59.18 ID:cxcl2vSDO
やっぱり決着付けなくちゃいけないのか垣根くん・・・
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 14:45:53.08 ID:2b3kFwKAO
ホームページからとんできました。
みことにっきのころから応援してます。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 16:25:14.27 ID:v6iUhUUAO
後3日でアレの日…
本編の続きでガチなのが来るか、はたまた番外編でゲロ甘なのが来るか…
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 17:48:42.97 ID:BVXSSHJAO
私的には常識の通用しない激甘を期待する

まあ>>22の作るSSはどれも良いんですがね
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 00:29:22.21 ID:dqJ0pVrDO
禁書18話神回すぎた……。
興奮しすぎたから定温物質の妄想してたらもっと興奮しちまったぜ……。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 01:59:08.39 ID:ltLNtGZ80
>>810
関西は明日なんだよ畜生が
木原君出てくれててたら昇天するわ
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 20:51:06.59 ID:z13SrIQAO
未だに木原神拳をちゃんと会得できた人居ないからな

光すら通さない隙を突くとかマジ天才

後は敵意なしに殺意だけで動けるのも神業
813 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 16:56:25.39 ID:VXvxGJ8Vo
ちっとばかし早いがこの俺のバレンタインに常識はねえ
814 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 16:59:28.17 ID:VXvxGJ8Vo




                    #TIPS2:『Temps doux et amer』




初春「………ふう」

垣根【……】


初春「いやー、なんていうか、やっぱり正解でしたねっ、垣根さんっ」ニコニコ

垣根【………】


初春「おや? おやおや? どうしたんでしょうねー垣根さん、元気ないような」ニコニコ

垣根【………、………】



初春「白井さん、なんだか垣根さんが元気ないです、なんででしょう」

白井「はぁ、そうですわねえ、なんででございま……ふんッ!!」カコーンッ

初春「佐天さん佐天さん、垣根さんがですね……」

佐天「うへあっ!? あーまた取られちゃった。やっぱりうまくスマッシュ打てないなあ」

白井「こういうのは力任せに振ってもだめですのよ。空気抵抗と球のとらえ方によりますの、ふふん」

佐天「あっちゃー、だからかあ。よーしもう一回!!」

初春「あははは、二人とも楽しそうでなによりです。ね、垣根さん」

白井「おほほほほ甘いですのよーーー!! いただきですのよーーー!!」カコーンッ!!

佐天「ひゃああああ!? また速くなってる!?」



垣根【………おい】
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 16:59:55.64 ID:XWdNzTiQo
きてたあああああああああああああああああ
816 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 17:01:28.58 ID:VXvxGJ8Vo


初春「ほら、私たちもやりましょうよ! 卓球やるのなんて久々です! 
    ここはゲーマーとして燃えてきました、うんうん」

垣根【………おいっつってんだろ】

初春「え? どうしたんですか?」

垣根【……だ・か・ら・よ。テメェな、今が戦争中ってのは知ってるんだよな】

初春「へ? あ、……いや、まぁ……はい。そうでしたっけ?」

垣根【そうでしたっけじゃねえよ!!】ポカッ

初春「ひいっ!? じょ、冗談ですよ……。ほらなんていうか、実感薄くて……あ、あは」

垣根【テメェはジャッジメントだろうが! つまりな。俺たちは今どこにいるんだよ。言ってみろよコラ。ほら早く】

初春「え、……あはは」ポリポリ

垣根【ごまかすんじゃねえよッ!!! バカ春っ! ボケ春っ!!】







初春「…………、お、温泉……ですけど?」
817 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 17:03:21.74 ID:VXvxGJ8Vo

垣根【ですけど? じゃねえよクソボケ!! 
    どこの国に戦争中に温泉旅行いく馬鹿がどこにいるんだよ、あぁ!?】

白井「ここにおりますの。車椅子にのってますわね」カコーンッ

佐天「手術衣を着てたりしますねー!」カコーンッ

垣根【……ぐっ】



初春「……そ、そんな怒らなくてもいいじゃないですかぁ……。
    それに……、気を遣って一応、い、一泊だけにしましたし……」

垣根【バカ、怒る怒らない以前の問題だろうが。テメェらは風紀を守るジャッジメントだろ? 仕事ねえのかよ……】

初春「今日明日だけ無理いって、お休みもらったんです」

垣根【どんだけ適当なんだよ!!】

佐天「でもこれ、垣根さんの退院祝いって名目だったじゃないですか。ねー初春」

初春「!」コクリコクリ

白井「まあ、色々あって延期になっていましたし。休養も大事ですの」

初春「!!」コクリコクリ

垣根【ちっ。……ったく、退院してからの第一声が、
    『垣根さーん温泉いきましょそうしましょ、明日です荷物まとめておいてください』ってどういうことだこのバカ】

初春「あだっ! な、殴らないでくださいよう……、垣根さんのばか」

垣根【ふん】




垣根【つかよ、テメェら身内は超電磁砲と付き合い長いんじゃねえのかよ】

白井「あいにくとお姉さまは音信不通ですの。わたくしとしてもたいっっっっっへん不本意ですのよ」

垣根【……、テメェは口だけは減らねえよな、黒井腹真っ黒子】

白井「まったく、どこで何をしているやら……」ブツブツ

垣根【な………!! む、無視しやがった……!! こ、こここ、この俺を………!!】

初春「まあまあ」ナデナデ
818 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 17:05:04.64 ID:VXvxGJ8Vo

佐天「というか御坂さん、寮に戻ってないんですか?」

白井「ええ。ちょっとここのところわたくしも忙しくて寮を空けていたので……。
    また妙なことに首をつっこんでなければいいんですけれど」

佐天「いうても戦争中ですしねー。ほいっ!」カコーンッ

白井「ああっ!? ふ、不意打ちは卑怯ですのよーーーーーーっ!!」

初春「……とっ、とりあえず私たちも卓球やりましょ? 温泉といったらまず卓球ですよね」

垣根【付き合いきれねえな。はー初春、喉渇いた。外いくぞ外】

初春「え……、あ、はい……」

白井「……あらぁ?」

垣根【あ?】



白井「ほーほー。なるほどなるほど」

垣根【………なんだその目は。格下を見下すようなその目は。見逃せねえぞ】

白井「いやぁ? 垣根さんはあれですのね、……ぷぷ」

垣根【……あぁ??】

白井「いやいやいやいや、いいんですのよ、うん。
    そうですわよね、二人でゆっくり甘えたいお年頃という………ぷぷぷ」

垣根【な、なんだと……? おい待てコラ聞き捨てならねえはっきり言いやがれこの変態女】

白井「なっ……へ、へ、へ変態とはどういう言い草ですの!? とんだ言いがかりですわねまったく」

垣根【いやテメェはどう見ても変態だろ。


             ―――変な写真集持ってたしよ】


白井「ぎくっ!!」

初春「ぎくっ!!」

佐天「??」
819 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 17:07:26.21 ID:VXvxGJ8Vo

白井「う……、初春あなた、まさかあれを……」

初春「さ、さーて私はちょっと外の空気を吸って、それからお風呂でも入って、
   そうです温泉に来たからにはまずはおんせへぶおぁっ!?」ボコッ

佐天「おー、いいスマッシュ!」

白井「ふう。……これはハッキリさせたほうがよさそうですわね」

垣根【……やるってのかガキ】

白井「上等ですのよ」



垣根【ハッ。大能力者風情が調子のんなよコラ】

白井「あらあら。負け犬ほどよく吼えるものですのよ? 垣根さんこそ平気ですの? 
    相当なハンデがおありのようですけど?」

垣根【バーカ、テメェは所詮レベル4の雑魚だからな? 車椅子くらいのハンデが丁度いいんだよ?】

白井「まあ? メルヘンとして有名な垣根さんのことですし? 言い訳を作っておくのは大事だと思いますの?」

垣根【おーおー、吼えるな? 雑魚がよ? あームカついた? ひさびさにムカついた?】

佐天(なんで会話が疑問系なんだろう……)


初春「い、いだだだ……。って、垣根さん!? な、なんか険悪な雰囲気に?!」

佐天「うーいーはーるー!」ダキッ

初春「ふぇっ!? な、なんで私に抱きつくんです!?」

佐天「(面白そうだから見てようよっ)」ヒソヒソ

初春「(なっ……、ま、またそうやって楽しみだして!)」ヒソヒソ



垣根【―――初春、そいつを貸せ。
    この腐れテレポーターに、俺のスマッシュに常識は通用しねえところを見せ付けてやる】

白井「―――ふん。そういうのを死亡フラグといいますのよ。
    佐天さん、この腐れダークマターに次元の差異を見せ付けてやりますの」


佐天(なにこれ……面白そう……!!)ドキドキ

初春(なんで? なんでこうなるの??)
820 : ◆le/tHonREI [sagasage]:2011/02/13(日) 17:09:15.29 ID:VXvxGJ8Vo


―――――数分後。


白井「よっしゃ勝ちましたのおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

垣根【……………ッッ!! …………ッッ!!!!】

初春「………えっと……垣根、さん……」

垣根【…………!!! な、ななな………!!】


白井「ハァハァ……。い、いやーなんというかアレですのね、ハァハァ……。
    いくら超能力者といってもまぁこの程度といったところでございましょ。
    さきほどまではあーーーーーーーんなにいきがっておられましたのに、
    実際のところの実力はミジンコより若干緑色くらいですのね、おほほ」

佐天「し、白井さん、言いすぎ言いすぎ……」


垣根【………ふ、ふふっ】

初春「………?」

垣根【………ふう。いやあ、まあ、今のはな、ほらあれだ、花を持たせてやるっていうかよ。
    さすがに弱い者いじめになっちまうしな。そうだよな初春】

初春「え……、」

垣根【そうだよな初春。俺は小物は見逃すよな。そうだよな】

初春(か、垣根さんの目がすわってる……!)

初春「そ、そうですよね! 垣根さんは本当はす、すごいんですよね! す、すまっしゅとか!
   だーくまたーあたっくですよね!」

佐天(な、なんだろうそれ………)

垣根【そうだ。俺はすごいんだ】

初春「あっはっは!」

垣根【あっはっは!】





白井「あら、言い訳は終わりましたの?」


垣根【】カチンッ

初春「あっ」

佐天「あっ」
821 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:11:37.81 ID:VXvxGJ8Vo

垣根【………おい初春飾利】

初春「は、はい」



垣根【―――つなげ】



白井「いっ?!」
佐天「へっ!?」
初春「え”っ!?」


垣根【は・や・く・し・ろ】

初春「つ、つなぐったって……い、今ここでですか……?」

垣根【いいからつなげ早くつなげテメェ仲介人だろなんとかしろすぐに電脳空間にダイブしろ俺と脳波を共有しろ】ユサユサユサユサ

初春「かかかかかかかきねささささんおおおおおおおちついてくださいいいいいいい」ガクガク



白井「(ま、まずいですの……! 正直やりすぎましたの!!! ど、どどどどっどどうしましょ!!)」

佐天「(だから言ったじゃないですか! そ、そんなにヤバいんですかあの人の能力!!)」

白井「(やばいってもんじゃありませんの!! じょ、序列元第2位ですのよ!? お姉さまより上ですのよーーーーー!?)」


白井「わ、わたくしちょっと温泉に入ってこようかと……」

佐天「あ、あっはははは! あたしもなんだか汗かいちゃったし温泉に………」



キィーーー………ーーン!!!!



白井「!?」
佐天「!?」



垣根「………おい、待てやコラ。逃がさねえぞ。能力解禁でもっかい勝負だクソが。だーれが負け犬だぁ?」

白井「で、ですからわたくしは温泉に……!!」

初春「………ごめんなさい、付き合ってあげてください……」

白井「な、何でこうなるんですのーーーーーーー!!!」

垣根「うるせえ。テメェはここで絶望させてやる」


仲居「あの、お客さんそろそろお荷物をお部屋に運んでもらいたいんですが………」

垣根「俺のスマッシュにその常識は通用しねえ。行くぞ初春!!」

初春「はぁ……」

仲居「あの……」


………

……

822 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:12:40.06 ID:VXvxGJ8Vo


――――――


初春「よいしょっと」

佐天「わー! 結構いい部屋じゃん! 広ーーい!」

白井「まあ確かにこの戦争真っ只中に温泉に来る輩などいませんし、格安で提供してもらってますの」

垣根【だから誰もいねえのか。妥当だな。いいじゃねえか、女どもで使うなら広すぎるくらいでよ】

初春「とりあえず浴衣に着替えて、温泉いきましょう温泉! その後はご飯たべてー、夜はゲームゲーム♪」ガサゴソ

佐天「……初春またゲーム持ってきたの? マニアだなーほんとに……」ガサゴソ

白井「ふ、ふふふ……この日のためにお姉さまの部屋から盗み出したこの……くふ……ふふふふ」ガサゴソ



垣根【―――で、初春、俺の部屋はどこだ。だりーから少しだけ横になりたいんだが】

初春「あっ、垣根さんの浴衣は私が着せてあげますからね。もうちょっとまっててくださいね」

垣根【は? んなもんいい、じ、自分で着れる。ってかそうじゃねえ。俺の部屋はどこだよ】


白井「?」

初春「?」

佐天「垣根さんの部屋?」

垣根【…………あ?】
823 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:13:44.61 ID:VXvxGJ8Vo

白井「そんなもんあるわけがありませんの」

垣根【な、何……?】

初春「ごめんなさい、一人になりたかったですか? 
   でも、人数も丁度四人だし、安いといってもお金がかかりますし」

垣根【そんなもん俺の口座からぶっちぎればいいだろが。ていうかそうじゃねえ!】

白井「?」

初春「??」

佐天「………ははん」ニヤニヤ


垣根【いや、だからよ、テメェらは女だろうが】

白井「は? 何を当たり前のことを」

初春「垣根さん変ですよ」

垣根【い、いや……、それで俺は男だろうが】

初春「知ってますよ」

白井「さっきの卓球で頭でも打ちましたの?」

佐天「………ぷっ……くく」
824 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:16:37.34 ID:VXvxGJ8Vo

垣根【だから、着替えとか、寝るときとか色々あるだろうが。そういうの】

垣根(暗部にいたときは男女混合なんざ当たり前だったけどな……)

初春「なんだ、そんなことですか。着替えなら目をつぶっていてもらえばいいだけですし」

白井「垣根さんなら寝ていても襲われる心配もありませんの。何を思春期の中学生みたいなことを」

垣根(な、ナメてやがる……! 麻雀の安全牌を切るときの感覚だろテメェ黒井黒子……!!)

初春「垣根さんのえっち」

垣根【………ぐぐっ】

垣根(な、なんで俺がガキみてえな扱いになってんだ……?!)


佐天(……………、)

佐天「……そうですよねー、初春も気を遣えって話ですよねー」

初春「えっ」

白井「えっ」

垣根【?】



佐天「いやほら、垣根さんくらいになるとあれですよね。
    初春が夜中に寂しくなったときに、こっそりたずねてくることを考慮してたりするんですよね?」

初春「なっ……!? なんですかその無茶な理由づけは!?」

垣根【………! ……おー、そうだそうだ。初春は寂しがり屋だしよ。テメェらの前じゃ甘えられねえだろ。
   そういうときのためにだな、別室が必要だっつー話だ】

初春「ちっ、違いますっ! わ、わたわた、私は寂しがり屋じゃありません!
    むしろそれは垣根さんのほうであって……」

佐天「そういえばこいつこの前言ってましたよー、お花畑に迷い込んだみたいな顔しながら、
    『か、垣根さんっていい匂いするんですよ……。なんていうか、あ、安心します……』とかなんとか」

初春「ぎゅああああああ佐天さんそれは秘密って言ったじゃないですかああああああああ!!!」

白井「……ほおおおおおおお???」

垣根【ったく、これだからガキんちょは仕方ねえよな。やれやれだぜ】

佐天「やれやれだぜー」


初春「う、ううう……、二人ともひどいですよ……ぐす」

佐天(あぁんすねてる初春かわいいよう!)

白井(どっちもどっちですの……。まったく……)


佐天「じゃ、浴衣着替えて温泉いきましょっ」

垣根【外出てる。着替え終わったら呼べ】

白井「そうそう、さすがに温泉は別々に入るんですよ(キリッ」

初春「えっ? でも垣根さん、大変そうだし……」

白井「これ以上いちゃいちゃすんなやゴルァアアアアアアアアアアアアアアア!!」


………

……

825 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:17:43.07 ID:VXvxGJ8Vo


―――――女風呂。


佐天「ふう」

初春「はあ」

白井「ほう」


カコーン………


初春「いやはや極楽ですなあ」

佐天「初春おっさんくさいよ」

初春「垣根さんちゃんとお風呂入れてますかねー」

佐天「四苦八苦してそうだけど平気じゃない? 『意地でも一人で入る』って言ってたし」

初春「むー。広いお風呂だから溺れてないか心配です……」

佐天(あんたは母親かっつの………)



白井「でもまあ、やはり広い湯船はなぜかリラックスできますわね」

佐天「あたしこの、湯船に入る瞬間の感覚が好きなんですよね」

白井「あっ、ちょっとわかりますの」

初春「じわーって、体に馴染む感じですよね」

佐天「そうそう。ちょっと熱くてもさあ、あの感覚がやめられないよねえ」

白井「かといってずーっといるとのぼせてしまいますの」

佐天「こう、入った瞬間に、ふうううううっって息はくのがまた、………くうー! クセになりますねー!」

白井(さ、佐天さんのほうがおっさんなのでは……?)


初春「でもそれってなんだか真理っぽいですよねー。




          なんでも、入る瞬間が一番気持ちいい、かぁ………」




佐天「!?!?」バシャッ
白井「!?!?」バシャッ
826 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:18:31.93 ID:VXvxGJ8Vo

初春「………ってあれ? へ? 私なんか変なこと言いました?」

佐天「う、ういはる……」

白井「も、もう一回言ってみてくださいですの……」

初春「え? どれですか? 

      

          は、入る瞬間が一番気持ちい………って……!?」



佐天「」
白井「」


初春「ちっ!?!? 違いますっ!!!!! な、ななななな何を卑猥な想像をしているんですかっ!?」


佐天「…………、」

白井「…………、」


初春「やめてくださいよおおおおお!! 汚いものを見る目つきで私を見ないでくださいーーー!><」

佐天「垣根さん……、やっぱヤリ手なんだなあ……そうだよなあイケメンだしなあ」

白井「ジャ、ジャッジメントとしてこれは……ううしかし、初春を拘束するのはさすがに気が引けますの……」

初春「だから違うって言ってるじゃないですかー!!! また都合のいいように解釈しおってからにーーー!!」


佐天「えっ違うの?」
白井「そうなんですの?」

初春「あ、当たり前じゃないですか! 私が垣根さんとつながったのは脳波だけです!!」

佐天「つ、つながる………」
白井「お、おういえーす、ですの………」


初春「もうやだこの二人………」ブクブクブク
827 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:20:08.65 ID:VXvxGJ8Vo

白井「ま、初春の言いたいことはわかりますのよ」

初春「?」

佐天「あれ、白井さんの哲学トークですか?」

白井「そんな大層なものではございませんけど。そもそも慣れというものは安定と怠惰をもたらしますの」

初春「安定と、怠惰」

佐天「てっつがくぅ」バシャッ

初春「佐天さんそれが言いたいだけでしょ………」


白井「最初の刺激はいつまでも続きませんし、刺激的だったことが刺激的に感じられなくなるのは、それはそれで健全といいますか……。
    別に悪いことではありませんの」

初春「ふむふむ」コクコク

佐天(初春ってほんと素直だなあこういうの)
    
白井「ですがそれはある種の警告かもしれませんわね。ちょうどよい距離というものを測るのが大切かと。
    甘ったるいだけのカンケイなんて、えてしていいことはないものですのよ。
    たまには顔をしかめるような渋みがあってこそ、よきカンケイを築き上げられるというもの」

初春「なるほど………」

白井「要はバランスですの。距離をはかるには、湯船につかったままではいけませんのよ、初春。ま、精進あそばせ」

初春「……むむむ、奥が深いんですねえ……」

白井「あとたまには色仕掛けをしてもいいと思いますの。多角的な刺激を与えてみるとか」

初春「………うー、でも私、色気ないですし……」

白井「それは装飾とかディティールでなんとかなりますのよ。今度教えますの」

初春「! ぜひ教えてくださいっ! 白井せんせい!」

白井「うむ、よきにはからえですの」

佐天(なんか途中から変な方向に話が……)



………

……

828 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:21:28.63 ID:VXvxGJ8Vo


――――――


初春「あれ、垣根さん? 先に出てたんですか?」

垣根【遅すぎんだよ。暇すぎてこのクソくだらねえゲームやるハメになっちまっただろうが】

佐天「あー! これ知ってるー! 日本舞台にして大金持ちになるやつですよね!」

白井「四人でやるゲームの王道ですの。ちなみに初春は一人でもやってますの」

初春「い、いらないこと言わなくていいですよ! 
    そうですね、まだ時間ありますし、ご飯までみんなでやります?」

垣根【はん、この手のゲームはさすがに負けねえぞ】

佐天(なにこれ……ていとく天使って………役職?)



垣根【テメェらって、あれだよな。木山と面識あるんだろ】

白井「あら。知ってましたの?」

初春「あ、私がちょっと、話しました……」

垣根【光の速度でな】

初春「もう」

佐天「あたしなんかはあんまりいい思い出ないんですけどね。……まぁ最後は仲直りしたけど」

垣根【幻想御手、か】

白井「そう考えるとなつかしいですわね」

佐天「……その、さっきの装置も、その原理なんですよね」

白井「改良は加えたといってませんでしたっけ」

初春「今のところ問題はないので心配ないですよ、佐天さん」

垣根(…………、)




垣根【おらっ、死ね初春】

初春「ぎゃああああああ!?!? か、鹿児島から出られなくなった!?」

白井「ではわたくしも」

初春「ああああああああ!! 今度はお金があああああ!!」

佐天「じゃーあたしもついでに」

初春「カード! カードが! ……なんで私ばっかりいじめるんですか!! ひどいです! 友達なくしますよ!!」

佐天・白井・垣根【「「テメェがダントツすぎるからだろうが!!」」】


初春「……………えへ」
829 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:24:39.97 ID:VXvxGJ8Vo


――――――


白井「そういえば木山は病院を出て行ったそうですわね」

佐天「えっ。そうなんですか? あたし会ってないや……」

初春「もともと垣根さんの治療のために呼ばれてたみたいです。今は研究に戻ってるのかも」

垣根【あの女は昔からあんな調子なのかよ。なんつーか、覇気がねえ】

初春「そういう言い方はだめです」ペチッ

垣根【いてえぞコラ】

白井「まーよくわからない女ではありましたわね。……信念は通ってたみたいですけれど」

佐天「できればもう少し前にあたしたちと出会っていればなー」

初春「過ぎたことを言っても仕方ないですよ。御坂さんでもそう言うと思います」

佐天「そういうもんかなあー」



佐天「それにしても人の出会いって不思議だねー。昨日会ったかと思えばもういなくなってるんだもん。
    お姉さんついてけないよ」

白井「この街特有の流れかもしれませんの。
    さらにいうなら、わたくし達の周りもまた、トラブルにことかきませんでしたし」

初春「垣根さんと出会ったのも、そういえばトラブルが原因というか……えっと」

垣根【あん? あーまぁ、そーだな。



            テメェが木山に呼ばれたときなんだろ? あんときは暴言吐いて悪かったな】



初春「え……、」

白井「あら、そうでしたの」

佐天「こいつ、最初メル友とか言ってたんですよー??」

垣根【はっ? なんだそりゃ、今時はやらねーだろんなもん】

初春「…………、」

垣根【……?】

初春「あ、あははは。だって恥ずかしいじゃないですかー! まったく……あはは……」

佐天「………?」


初春「ごっ、ご飯たべましょ! ちょっとゲームしすぎです!!」


………

……

830 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:26:12.99 ID:VXvxGJ8Vo


――――――――


初春「これで料理は全部ですか?」

仲居「はい。食べ終わりましたら外においてくださいませ」


垣根【なんだか急ピッチだな。一泊だから仕方ねえけどよ。しかしまあ、うまそうだ】

初春「びょ、病院食よりおいしそうですか……?」

垣根【そんなもん当たり前だろバカ】

初春(……ほっ)

白井「垣根さんは超能力者なわけですし、舌も肥えてそうですけれど」

垣根【一通りは知ってるが、まあうまいって感覚にはそこまで大差ねえよ。
    ある程度までいったら雰囲気と斬新さ、調和の度合いが味の決め手だ】

佐天「おおーなんかそれっぽいですね」

初春「さーさー食べましょう! ここはお魚がおいしいみたいですよー」

白井「いただきますですの」



垣根【うーん。まぁ……、うん。食える】

初春「な、なんて高飛車なことを……」

垣根【うるせえな。うめえっていえばいいのかよ。はいはいうまいうまい】

初春「………料理調べたりしなければよかった……」ボソ

垣根【あ?】

初春「なんでもないですー!」

佐天「てゆか初春なんで、『あーん』ってやらないの? いつもやってるんでしょ??」

初春「やってませんよ!?」

垣根【あーやってるな。最初に散歩したときもやってたな】

初春「なんで垣根さんが偉そうなんですか!!」



白井「……………けっ」モグモグ

佐天「白井さん、目つきが、目つきがおっさん」


………

……

831 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:30:34.56 ID:VXvxGJ8Vo


――――――


垣根【―――んでその後はゲームやったり初春をいじったりと】

初春「………!!」

垣根【ま、それなりに楽しめたわけだ。な? 初春】

初春「(しっ、静かにしてください……!!)」

垣根【いや俺しゃべってねえし】

初春「(うぐ)」

垣根【油断してただろ、テメェ】

初春「(だ、だって……、うう……さすがに……ううう)」ドキドキ

垣根【ばーか。寝るってなってからが本番だろうが。元暗部ナメんな】



佐天「うーん………むにゃ」zzz

白井「お………おねえしゃま……、は、はいるしゅんかんが、い、いちばんでしゅの……すぴー」zzz



垣根【こりゃ愉快だな。白井の額に肉って書いておくか。あ、雌のほうがいいな】

初春「(………、ば、ばれちゃいます……)」

垣根【お前も携帯でやり取りすればバレねえよ。てか腕枕。もっと近くがいい】

初春「(もお……、みんなの前だと強気なくせに……)」

垣根【うるせえ。俺はいつでも強気だ。早くしろよ。だいたいテメェが油断してるのが悪い。
    俺みてえな障害者に潜り込まれてるんじゃねえよ、ウスノロ】

初春「(………ああもう!)」カチカチ



初春【布団の中で むかいあって 携帯でやり取りって 多分世界で 初ですよ 私たち】カチカチ



垣根【馬鹿が、この背徳感を楽しめるようになれよ、ガキんちょ】

初春【ばかは そっちです】

垣根【いいにおいがする】

初春「っ!!」ビクッ

垣根【なんてな。……ん? 心臓の音が早いな。どうした初春飾利。がんばれ】

初春「…………、うう」
832 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:31:49.44 ID:VXvxGJ8Vo

垣根【―――で。さすがに布団の中に忍び込んでくるとは思わなかったか】

初春【思うわけないじゃないですか こんなの 普通の人なら しませんよ】カチカチ

垣根【だから常識が通用しねえんだって】

初春【やっていい非常識と やっちゃだめな非常識が あるんです】カチカチ

垣根【へー。これはどっちなんだよ?】ギュー

初春「…………、」ドキドキドキドキ

垣根【ほう。また音が早くなったな。大丈夫か初春飾利。もっとがんばれ】


初春【垣根さん 嫌い】

垣根【俺もテメェ嫌い】

初春【じゃあ 私は もっと嫌い 大嫌い】

垣根【じゃあ俺はもっともっと嫌い 超嫌い】

初春「…………、」


初春【ずるいです 垣根さんは】

垣根【ずるいとこが好き?】

初春【ばか なんで 今日は 意地悪なんですか】

垣根【いつものことだ。テメェはいじり甲斐があるからな。佐天涙子の太鼓判つきだ】

初春「(うう………、)」



白井「OHHHHHHH!!!! おっねえええさまあああああん!! HOT! HOT!!!」zzz

佐天「えっ………へあ……となかいっているんだあ……」zzz



垣根【………、】

初春「………、」
833 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:32:54.63 ID:VXvxGJ8Vo

初春【じゃあ 私も わがまま いいます】

垣根【へえ。言ってみろよ。そういやテメェには何かしてもらってばっかりだったな】

初春「(えっと………その……)」

垣根【……………エロいことするの?】

初春【ばか さいてい だーくまたー】

垣根【なんだよ早く言え。じらされるのは好きじゃねえ】



初春【う】



垣根【?】



初春「…………」



初春「…………………………」




初春「………………………………」




垣根【はやくしろっつの】


初春「(う)」

初春「(う……うでま、くら)」
834 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:33:56.73 ID:VXvxGJ8Vo

垣根【ぷっ】

初春「……!!!」

初春【笑いましたね 今笑いましたね 馬鹿にしましたね 垣根さんのばか】カチカチカチカチ

垣根【いや、別にいいけど。つか俺もやってもらってるけど】

初春【もういいです 一生いいません してあげません 垣根さんなんか知りません】カチカチカチカチ

垣根【おいおい落ち着けよ。わかった。たまには貸してやる。こっちこい】グイッ



初春「(あ)」

初春「…………、」


垣根【満足か甘えん坊】

初春【垣根さんに 言われたくないです】

垣根【―――あれだな。こういうカンケイは珍しいかもな】

初春【こういう カンケイ?】

垣根【別に大層な経験があるわけじゃねえが。なんていうんだ、俺とテメェはどっちが上でも下でもねえっつか】

初春【それは そうかも】カチカチ

垣根【楽でいい。本質的な意味でな。テメェはいじり甲斐もあるが、居場所としても安心する】


初春「(…………、)」

初春【かきねさんは】カチカチ


垣根【ん】

初春【やっぱり なんでもないです】

垣根【またかよ。テメェあれだな? 優柔不断で買い物するときめんどくせえパターンだな?】

初春【なんでもないんです!怒】

垣根【はいすねた。めんどい。はいめんどい】
835 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:35:10.66 ID:VXvxGJ8Vo


初春「……今は、甘いのかな……、苦いのかな……ううん……」


垣根【あ?】

初春【ねむいです ねます】カチカチ

垣根【ん。じゃあ適当に寝ろ。テメェが寝たら戻る】

初春【ねがお はずかしい】カチカチ

垣根【知るか】


初春「………」

初春「(クセになっちゃ、だめですよね……)」

垣根【?】

初春【おやすみなさい】

垣根【……、】


…………

……

836 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:36:26.59 ID:VXvxGJ8Vo


――――――


佐天「ねーねー! 出発する前に写真取りましょうよー! 浴衣で!」

垣根【俺が撮ってやるからテメェら並べよ】

初春「何言ってるんですか! 垣根さんがいなかったら意味ないです!
    仲居さんに頼みますから! ……すいませーん!!」

垣根【いや俺はいいって……】

白井「……このメルヘンバカップルは……けっ!」



佐天「うはーなんだか旅行っぽい!!」

垣根【おいこら。く、くっつくな初春】

初春「へー。昨日とは大違いですねー。へー」

垣根【テメェ待てそれ以上いったら殴るマジで殴る】

白井「………朝からいちゃこら……、けっ!!!」



佐天「垣根さんもうちょっと自然な顔にしなきゃ」

垣根【わかんねえよんなもん】

白井「アホ面でよろしいんでは?」

垣根【テメェは帰ってからまた卓球やってぶちのめす】

初春「……って垣根さん態度悪すぎです! ちゃんと足とじて! 手は膝の上!!」

垣根【な、なんだそりゃ、証明写真かコラ】



仲居「とりますよー」


初春「おねがいします! ほら、垣根さん笑顔ですよー」

佐天「いえーい! 温泉サイコー!」

白井「早めにお願いしますの。ふん」

垣根【…………、………、】
837 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:37:23.05 ID:VXvxGJ8Vo



垣根【………、】

垣根【―――、全然苦くねえっつの、バカ春】




http://imgup.me/e/iup0672.jpg



#TIPS2:終
838 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/13(日) 17:38:19.54 ID:VXvxGJ8Vo
はいしゅーりょー!絵は無理いってお願いしてしまいました>< 感謝!
ハッピーバレンタイン!甘くて苦い恋をしてくださいませ。
ではまた次回。お疲れ様でした
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 17:38:34.44 ID:XWjKYC2Zo
サテンさんのおはな…

乙です、あめぇよくそ
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 17:46:58.10 ID:YsBfR26ho
あまああああああああああああああい

841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 18:07:45.50 ID:VQMQpSdH0
よいしょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお乙。

>初春【ばか さいてい だーくまたー】
超絶萌えた。初春超天使。
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 18:36:18.00 ID:fYHJHIqAo
くそがぁぁぁぁもげろリア充うわあぁぁぁぁぁ!!

おつ
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 19:04:15.25 ID:mYxH/NAto
萌え禿げた
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 19:36:27.79 ID:nWYMDasuo
うわあ・・・・これは乙だわ・・・・・・
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 19:58:36.89 ID:o5tIpf3AO
佐天さんマジとなかい


能力使用卓球とかやばいだろ
物理法則に従わない変な打球になるぞ
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 21:13:59.08 ID:hxfd9cmDO
乙!
不思議とハーレムな感じがあまりしないのはこのメンツ故なのだろうか
ところでチョコより甘〜いお二人に寒空のロシアで激戦中の第一位様より無糖の激苦ブラックコーヒーをプレゼントだそうです
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 22:48:13.58 ID:1cy6OgoDO
第一位サマは、ロシアで爆乳天使に新たなフラグ立てやがった
じゃないですか。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:50:59.95 ID:DNT0+XrSO
このスレに出会ったせいで帝春以外考えられなくなったじゃねえか!
また今回もいちゃいちゃしやがってッッ!




ありがとうございます、超ご褒美です。
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 10:41:43.29 ID:rUUto2mO0
小物に本気になっちゃうていとくンマジお茶目
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 12:25:59.47 ID:ogp7YFXC0
うわあああ投下きてたあああああ超乙です

どんなに辛いバレンタインでもこれで超生きていける気がしました。
初春さんはていとくんに手作りチョコを超あげてください!
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 16:22:04.55 ID:qxyeRXXAO
更新乙!
ていとくんも初春もマジ天使
そろそろ甘すぎて悶死するで…
だが肝心のチョコを渡すシーンが見当たらない
これはまさか…?
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 16:45:18.52 ID:7TlW9nOAO
乙〜!
ていとくんは打ち止めを庇った女の子が初春と気づいてないのか

さあどうなる
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 19:58:39.69 ID:QgyR4/RAO
超乙。ところで佐天さんの寝言の意味がわからないのは俺だけですか?
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 21:04:03.34 ID:yZUG+AsY0
佐天「えっ…何言ってるんですか、トナカイは架空の動物ですよね?
   あんな空飛ぶ生き物いるわけないじゃないですか!」

とある“ラジオ”の超電磁砲 第12回より
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 21:22:23.12 ID:J6dWylnNo
あずまんがかよ
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 18:19:37.53 ID:Mx8AQgM2o
ああ中の人はそういう人だったな・・・
家電製品っつってんのにトイレって答えたり
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 19:33:45.09 ID:fsQVc3WAO
ちょっと認識がずれてると言うか 天然?
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 22:47:57.40 ID:xo/OIcn+o
画像見れんかった…
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 04:40:33.67 ID:H76YwisDO
初春が可愛すぎて萌え死ぬwwwwww
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:33:09.16 ID:u4JwAeYV0
>>858 これで我慢しろ
ttp://decors.tumblr.com/post/242511789
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:47:02.90 ID:+8iRcftpo
うわあすっげえいい。
>>858じゃないけどありがとう。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 22:52:11.76 ID:313dVpYP0
ていとくん初春があのお嬢さんだって気づいたらどういう反応するんだろう
ドキドキだぜ
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 12:18:03.51 ID:ttKGUO+DO
そういえば>>22さんはオリジナルでていとくんの過去とかやらないんですか?
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 23:00:47.68 ID:DgTJuRZIo
>>860トンクス
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 02:04:12.40 ID:Se6SjKPAO
ピクシブで「帝春」「定温物質」で調べると幸せになれる
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 03:03:38.76 ID:gL160ZMa0
あれだけの接触にしては人気がありすぎるとカプだと思うんだ
帝春に常識が通用しねえ
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 10:36:30.14 ID:PZ/B9QyL0
お互いの魅力を最大限に引き出せるカプだよね
正直禁書の中で一番好きなカプ、というか組み合わせかも

>「アホ面でよろしいんでは?」に吹いたw
黒子の悪態つきっぷりが面白いw
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 12:37:06.74 ID:nHhSYgZn0
>>865 神。
869 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 20:57:06.02 ID:ejdL4ij+o
とりあえず書いたとこまで投下。
このスレで初春とていとくんの絵が出てくると意欲が増幅する法則。
これがエントロピーなんちゃらか・・・。
870 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 20:59:00.28 ID:ejdL4ij+o


                              ※


佐天涙子とは家の前で別れた。深くつっこんではこなかったが、多分バレているだろう。
悪意をコントロールするのは無理だ。うまく隠そうとしても、どこかから影がはみ出してしまう。

部屋にもどってすぐ、戸締りを確認する。
お世辞にも今の自分にマッチしているとはいえない、整った玄関先。車椅子から手すりへとスムーズに体重をシフトさせる。
後ろ手に鍵を閉める動作にも慣れてきた。そのままずるずると、足を引きずって居間へと移動する。

光を求めて足掻く聖者の行進。


(……聖者? 貧者の間違いだろ)


病院から出てわかったことは二つ。
一つ、障害を持った人間が一人で生きていくことはどんな泥をかぶるよりも羞恥心に響く。
二つ、一人でいるときのほうが、自分を客観視してしまう。矛盾しているが、まさに、だ。

資産については余裕がある。退院する直前に初春に手続きを手伝ってもらった。
現在の住居は、寮とは名ばかりの介護施設のようなものだ。
自分の他に住人はいないらしい。

週に一回、初春飾利が部屋に来る。身辺の整理その他、初春は一言も言わないが負担になっているに違いない。

学籍についてはどうなっているかわからない。元々他人から教わることなどあるようでない。
理論構築から実践まで、学ぶには少しだけ光のあたらない場所に身をやつせば足りる。

垣根帝督の人格が形成されるまでの道のりにはいつだって他人の悪意があった。


(そいつを踏んで生きてきた。否定はしねえ。後悔すらしてねえ。俺は俺だからな)


人間は他者を通じて自分を視るといった学者がいた。
今の垣根帝督には通用しない理論だが。


(……俺が俺を視るとき、他人の目で自分を測る段階はとうに乗り越えた。今は、自分で自分を評価している。これからも)


自分は本当の意味で自立していない。
障害を持っているのだから、物理的に他人に依存しないで生きていくことはおそらく不可能だ。
そのことについては異論はない。納得もしている。

そういう話ではない。
871 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:00:16.60 ID:ejdL4ij+o


(―――そいつを踏んで生きてきた。否定はしねえ。後悔すらしてねえ。俺は俺だからな)


人間は他者を通じて自分を視るといった学者がいた。
今の垣根帝督には通用しない理論だが。


(……俺が俺を視るとき、他人の目で自分を測る段階はとうに乗り越えた。今は、自分で自分を評価している。これからも)


自分は本当の意味で自立していない。
障害を持っているのだから、物理的に他人に依存しないで生きていくことはおそらく不可能だ。
そのことについては異論はない。納得もしている。


(俺が依存しているのはもっと内面的なものだ。その上で―――)

(―――一方通行を殺すことが、俺が俺であるための必要条件だ。精神的な自立、……そうじゃねえのか、垣根帝督)


頭を整理するためにソファに体を落とす。

自問自答はここ最近の日課になっていた。こちらとあちらをつなぐ端末を受信機からパソコンに移して電脳空間へ。
かつてはホストである博士によって多くを占拠されていた広大な空間。

垣根の心理を反映する場所でもある。誰にも言っていないことだが、第三次世界大戦がはじまってからの風景は―――、



砂漠だった。
872 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:01:26.67 ID:ejdL4ij+o


(初春に言ったら何ていうかな。泣きながら同情してくれるか。いや、体を寄せて慰めてくれるか。
 ―――そうだろうな。……そうだろう)


精神を集中する。バラバラになっている情報と、自我のかけらを集めて道筋を形成する。
現実にあるどんなパズルよりも難解な手作業だ。ピースをつなぐのは凹凸ではなく、倫理と論理と感情の入り混じった突起物。

だが、それがどうしたというのか。超能力者である垣根帝督は自身の演算能力について、絶対的な信頼を寄せている。

ここからは自分のフィールドだ。誰にも口は挟ませない。邪魔はさせない。
垣根の周りに、悪意という名の風が収束していく。


(シンプルに考えろ)


座して手のひらを組んだ。顎によせて目を閉じる。


(………、結論はもう、出てるだろ。―――出てるだろ)


具体的な方法論として、今の自分が自分を取り戻すためには初春飾利を利用するしか手立てはない。
なぜなら自分は彼女がいなければただの無能力者だからだ。

手段は選ばなくていい。それがルールでありセオリーだ。


(アイツを騙して一方通行と対峙する。簡単なことだ)


結論を急いでいるわけではない。
どう考えても垣根帝督のいうところの『自分だけの現実』を取り戻すための方法が、それ以外にないのだ。

明確すぎる。明確に見えるからこその悩みだ。


(―――かつての俺はあの男のくだらねえ美学に負けた。負けたということは、勝ったやつが正しかったということだ)

(守る守らないのくだらねえ二元論に負けたんだ。ふざけやがって。ふざけやがって……!!)

(アイツを殺して俺は再び俺のやり方を証明する。そのための生贄は―――)

(……ッ! いけ、にえは………!!)







『a;mfg;am―――、頃合だな。助け舟を出しdagてやろうか』

「っ!」
873 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:02:42.45 ID:ejdL4ij+o

背後に気配を感じて振り返る。
そこにいたのは、あの時自分にロジックを説いた天使だ。


『なかなか興味がある話題だ。しかし……。うむ、君は変わったな』

「……なんならテメェでもいいんだぜ。ストレス発散に殺してやろうか。ウォーミングアップ代わりだ」


こき、と首をならして立ち上がり、演算を展開する。
即座に12枚の羽根が優雅に宙に描かれた。視線で圧倒しようとするが、当の相手は余裕を浮かべてたたずんでいる。


『ほう、それもいいな。試しに私とやりあってみるか。君の物語の結末をここで飾るのも、一興だ』

「調子のんなよ、クソ天使。あの日にテメェに触れたのは伊達じゃねえ。容赦しねえぞ」

『そういうな。私を消すことは序列にこだわる君の価値観の延長線上にあることだぞ。彼はこの手で叩き伏せているからな』

「……! なんだと?」

『くく、思考がシフトしたな。そういうわけだ。私を倒せば理屈の上で君は彼を越えたことになる。それで目的達成だ。
 “君が本当に序列にこだわっているのなら”、な』

「……、」


垣根が一瞬沈黙したのを逃がさない。
天使と呼ばれた存在―――エイワスはそれでいて、はっきりとしない表情をやはり保っていた。
笑っているのか、泣いているのか、怒っているのかどうかもわからない曖昧なものを顔面に飾り付けて、垣根をじっと見つめている。


『やはりな。これではっきりした』

「……なに?」
874 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:05:43.68 ID:ejdL4ij+o


『君は本当の意味では序列になどこだわってはいない。自分を否定した存在を、再び自分の手で否定したいだけだ』

『君は何番目であろうがいいのだ。彼を否定できればいいのだ。そうだろう。気づいているはずだが』



「……、」

『それでいて、君の仲介人との間にある、今の不確実な関係に意味を見出しつつある。
 かつての君が否定した美学だ。
 それは君たちが使うところの―――、そうだな。『信頼』。『保護』。『依存』。『誠意』。
 これらの言葉たちと極めて深い親和性を示している。

 ……では何故君がその言葉に対して生理的な嫌悪感を感じるか』


他人に自分の心を削り取られるような感覚を覚えた。
エイワスが語る垣根の心理描写は、否定しようがないくらいの説得力を誇っている。
身震いを押さえるのに必死になるが、どうにもならない。電脳空間でも、汗はかくのだ。


『一種のアレルギーのようなものだ。君が長い間、灯りのない場所にいた名残のようなものだ。
 効率を阻害するものは、いつの世でも感情。
 それでいて、君は裏切ることができないのだ。君と彼女の間にあるものを。

 一定の温度を保つ、未知の物質を』


「―――テメェは……、ごちゃごちゃと……、」


じりじりと、脳内で乱れる興奮物質を知覚する。
これは、だめだ。このタイプの煽りは、論外だ。

垣根は拳を握った。


『君は彼女を優先することが、そのまま君自身の自己否定につながると思っているのだろう。
 過去に否定した美学であるなら、まあ自然だ。
 だが自己否定すらできないような人間は進化しない。この世界ではそういう人間を何というか知っているか? 
 ………、“子供”、だよ垣根帝督。
 くく、わからないか? 君がよく使う言葉で言ってやろうか? ―――『ガキんちょ』、だ』


そして次の瞬間、何かが音を立てて切れた。


「―――……ッ!!!!!!!」
875 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:06:53.12 ID:ejdL4ij+o

跳んだ。

音を立てて12枚の羽根が再び広がる。今度はためらうことはなかった。
一蹴りで間合いをつめて、即座に相手をデリートするべく12本の白いナイフで攻撃を開始する。

一方通行を叩き伏せたと自称する天使だろうが、そんなことは知ったことではない。
感情の赴くまま、えぐられた心の対価を支払わせるべく、垣根帝督は自身の演算をすべて破壊に注ぎ込んだ。


が、


『今度は八つ当たりか。忙しい男だな、君は』

「ッ!?」


12枚の羽根に対して、エイワスから伸びた羽根はたったの二枚。
青ざめたプラチナを纏う物体が、一瞬にして垣根の攻撃を打ち下ろした。
垣根が攻撃するまでにかかったのは現実の時間に換算してみても、まばたき程度のものだろう。

かろうじて知覚できたのは、イメージの身体に突き刺さる、天使の攻撃だ。気づいたときには地面に付していた。


「がっ……!!! なん……だぁ、こりゃあ……!!」

『ああ、すまない。手加減はできないようだ。このagd空daga間はやはり、どうもajyejj安dgagag定しないな』


天使が放った攻撃は腹部を貫通していた。
痛みを知覚しているということは、データに何かしらのダメージを追っているということだ。
広大な砂漠の中で、地面にはりつけられる。さながら処刑されるキリストのようだった。


『―――君を見ているとあの男を思い出す。手術衣と髪の色が対照的でな』

「……テメェは……、ぐ……、本物の化け物かよ……、え、演算が……」

『君たちの常識で測ってもらっては困る。一方通行はそれでも何かしらのヒントを得たようだが。……まだやるか?』

「……、デタラメだ……、くそが……」

両手を挙げて降参を示す。


『賢明だな』
876 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:11:33.27 ID:ejdL4ij+o


『さて、私は戻るとしよう。石は投げた。あとは君がどう拾うかだ。楽しませてもらうよ。興味をひいたのは君だ。
 失望させるなよ』

「へ……、勝手に取り上げたのはテメェだろうが……。期待されても、困る……な」


砂漠に倒れこむ垣根帝督は、ここでもそのプライドを保っていた。
おそらく現存する言葉で彼を説得できるものは存在しないだろう。
形のないものを動かすには、形のないもので対抗するしか手段はないのだ。



『……科学は疑うことにより発展し、宗教は信じることによって発展した。
 美学については、疑いようもないものを訴えることで発展する。
 ふ。“ナンバーワンにならなくてもいい”。皮肉だが、発想は評価しよう。
 どちらを選ぶも君の自由だよ、垣根帝督。


 
    ―――君にgafgとfhaってのfaha彼af女fadhaは何だ?』





つぶやきのようなものを発して、最後にははっきりとした笑みを見せて消えた。
もちろんどういった種類の笑みなのかはわからない。
垣根は視線の端で天使をとらえようとするが、気づいたときには姿はない。

不思議なことに、さきほどまで激痛を放っていた腹部の傷が、何事もなかったかのように修復されていた。
体をつつんでいた汗も消えている。


(説教を………、説教をしにきやがったってのか。―――この俺を。―――テメェも俺を見下すのか)


ふつふつと、体内に沸き立つ黒い感情を隠すことができない。
天使が放った言葉が、どういう意図であれ、バラバラになっていく垣根の自我をつなぎとめた結果だ。

何かに近づいている。ピースが合わさっていく一連の流れを実感する。
877 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:13:16.61 ID:ejdL4ij+o

半ば開き直りにも近い。
子供と罵られて、煽られた挙句、自分の思考が意図とは別方向に移動している。

だがしかし、それは確かに脳内でひらめいて、直後に閉じた。


(―――なるほどな、そういうことかよ)

(……そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ。そういうことかよ―――ッ!!)


電子の海の中で、世界の支配者にでもなった気分だった。
砂漠が、黒く塗りつくされ、漆黒の夜が気障な横顔を現している。


(俺が生れてから今日にいたるまで、お世辞にも順風満帆な人生を歩んできたわけじゃねえ)

(たとえばあの第一位と対峙したとき。ジジイを追い詰めたとき。―――初春飾利に、触れたとき)

(その場限りの感情もあっただろうが、俺は確かに振り回された。ああそうだ。俺は成熟している人間じゃねえ)

(あの天使が言っていた名もない未知の物質に身をゆだねそうになることも、これから先いくらでもあるだろう)

(振り返って今日を思い出すとき、俺が自分を見つめなおしたとき。これからも俺は変わっていく)

(だが。だけどな、垣根帝督)


エイワスから与えられた選択肢はどちらもある意味では正しくて、ある意味では間違っている。
自覚しているからこそ、選択した手について確固たる決意を持って進まなければならない。
ベターである手を、ベストである手へと変化させるのは、自分自身だ。


(それでも、どんな状況に身を移そうが、これから先死ぬまで、絶対に変えられないものがある。
 泥をかぶっても、“自分に嘘をついて”でも、変わっちゃいけねえものが、ある。確かに存在している)




(―――俺が、俺であることだ。初春飾利。テメェを利用することで、俺は今の俺から決別する。それでいい)
878 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:16:13.01 ID:ejdL4ij+o



言い聞かせてすぐ、電脳空間からの離脱を試みた。

まだ時間はある。
今からでも初春に連絡を取り、口先八丁で一方通行との対峙にまで持っていけばいいのだ。

初春は当然拒否するだろう。ならもっと利口なやり方でハメてしまえばいい。
狡猾に、感情を撫でて支配すればいい。
できないことではない。迷うな。もう迷うなと、自分自身を洗脳すればいい。

垣根帝督はこのやり方が、自分のプライドに反する手法であることを理解していた。
それは彼がいうところの、“小物”のやり方だ。力のない、ずる賢くて下卑た人間のやることだ。

それでも、かまわない。自分はそういう人間なのだ。
逆説的な言い方をすれば、コンプレックスとプライドの糖衣を切り捨てた自分の本質なのだ、と。


電脳空間を飛び回る天使。
現実へと帰還するべく、経路を辿る。その表情はかつての垣根帝督そのものだった。


(くく、そうだ。すっきりしたじゃねえかよ。笑いがとまらねえ。
 アイツをどうやって騙すか、すでに頭の中で手があふれかえっている)

(どうする。拒否されたらどうする。くく、なら回線を通じてアイツの体を乗っ取るか。
 完全に脳を共有させて、ガラクタにしちまうか)

(俺がガキか。……ああ、認めてやる。それなら、俺を縛り付けているアイツの存在をぶち壊しちまえばいい。
 何故こんな単純なことができなかった)


(―――これだよ。この感覚だ。俺は本質的に悪意を渇望しているんだ)

(それを切り捨てて名もない物質に甘んじるだと? できるわけがねえ。
 ―――できるわけがねえだろうが!! そうだよなぁ、一方通行!!!)

(テメェに俺が突きつけた刃は、そんな生半可なものじゃねえだろ。
 どこで何をしたかは知らねえが、逃げられるものじゃねえだろ……!!)

(テメェも闇に溺れたんだろ。俺を否定できても、また他の何かに否定されたんだろう。
 今もあがいているんだろう! この街の闇がそんなに浅いわけがねえ!!)

(……ならもう一度、今度は腐った外道のやり方で、テメェを否定してやるよ……ッ!!)


意識と身体をつなぐ出口がすぐそこに見えた。

そして、
879 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:17:23.73 ID:ejdL4ij+o


――――――


「垣根さんっ!!!」


【―――、―――!】


意識が体に戻ったときに、真っ先に、目の前にあったのは花飾り。
飴玉を転がしたような甘い声。垣根帝督にとってはなじみの深い音だ。


「大丈夫ですか? す、すごい汗ですよ……、」


ソファに座る垣根を、真正面から初春飾利が捉えていた。
時間帯を確認する。夜もそれなりに更けだしている。
初春はポケットから取り出したハンカチで、丁寧に垣根の頬を伝う汗をふき取っている。


(な……、)


絶句して戸惑っているのは、誰の目に見ても明らかだった。
そんな垣根の様子に気がついたのか、初春は少しだけおどけて、顔を垣根に近づける。


「びっくりしましたか? 佐天さんに、ちょっと気分が悪そうだったって教えてもらって………。嫌な夢でも見てたんですか?」

(なん……で……、)


視点が定まらず、初春の表情のどこに焦点を合わせていいかわからない。
電脳空間に悪意をまるごとおいてきてしまったのかと錯覚するほどの違和感だ。

一方の初春は、そんな違和感を別の意味で受け取ったようで、少し視線を下げながら今度はこう言った。
880 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:22:41.08 ID:ejdL4ij+o


「……それとも、もしかして、わ、私が……。変なこといったからとか……、そういうのなんでしょうか……」

(ッ!!)


胸が締め付けられる。
神という存在がもしもこの世にいるのなら、垣根の存在に対してそんなにも否定的な態度をとるのは何故なのか。

言葉が出てこない。

さきほどまで、あれほど練った作戦が、一言も出てきやしない。
相手には垣根の思考を汲み取る様子はない。

初春飾利は言葉を次々と紡いでいった。


「……あれからちょっと考えてて。結論を急ぐようなのって、ダメですよね。私の気持ちは、別っていうか……」

【……違う】


さきほどまで対峙していた天使と、口調も意図も全く違うものなのに、同じような痛みを感じる。
心臓の裏側を針で刺されるような、おそらく垣根が最も苦手とするタイプの痛みだ。


「私が変なこと言ったから、ですよね。……な、なんか急に言っちゃったから……。本当にごめんなさい」

【……ッ、……違う】


初春飾利の表情は少し火照っていた。
天使が言ったいくつかの単語が連想される。名前も形もない、一定の温度を保った未知の物質。


「なんていうか、今はやっぱりそういうのって置いておこうかなって思ったんです。
 私の気持ちは多分、垣根さんにも伝わってるかなーって思ってたりするし……、あはは……。
 だから―――」


【―――違うッ!!!!!!!!!!!】

「えっ……」
881 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:24:27.88 ID:ejdL4ij+o

反射的に肩を掴む。華奢な体。

多分このまま、練った作戦をそのまま実行すればこの少女を闇に葬ることなどたやすい。
イヤホンを取り付けさせて、共有させて、こちらから初春の脳内にハッキングをかけてしまえばいい。
演算能力では自分とそれなりの勝負をするだろうが、脆弱なパーソナルリアリティでは取り込まれるまで数分と持たないだろう。

それだけのことなのだ。初春飾利は自分にとって、それだけの存在に、しなければいけないのだ。

なのに―――。


【なんなんだよテメェは……】

「えっ……、ど、どうしたんですか……?」

【なんで俺に……光を向けるんだよ………!!】

「………、」


うつむきながら、携帯電話越しに意志を疎通させていた二人だったが、初春はその言葉を聞くと同時に、垣根を優しく抱いた。
何のことを話しているのかはわからないが、心配しなくていいということを伝えるためだ。
髪を撫でられる。鼓動が伝わる。心に照明を当てられていることは疑いようもない。


ここでも、やはり同じ。


形のないものを伝えるには、言葉をもはや必要としない。

それから抱きしめて、耳元で、小声で囁かれた。


「そんなの……、決まってるじゃないですか」



「垣根さんのことが……、

     
        ……好きだから、じゃだめですか?」




………

……

882 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/19(土) 21:24:54.16 ID:ejdL4ij+o
とりあえずここまで
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/19(土) 21:30:01.82 ID:330kfWTAO
超乙。ヤバい面白過ぎる
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:30:10.65 ID:3HW+H4dQo
うほっほー乙!
ていとくんったら素直じゃないなぁwwww
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:38:49.19 ID:FO5O4SfAO
かっこエイワスは好きです…けど素直になれないていとくんはもっと好きです。

このスレが帝春に目覚めたきっかけ。お手本だぜ
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:40:13.63 ID:kj7UTR4O0
乙です
>一定の温度を保つ、未知の物質を
本当に素敵な表現が上手いなあ
ドキッとしちゃったじゃないですか
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:47:21.36 ID:nHhSYgZn0
超乙。初春マジ天使。ていとくんマジだーくまたー。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 21:52:10.05 ID:P5Y2pOXI0
これが本当の定温物質ってやつか…

あと、後半戦のイントロ?にあった台詞が次々と回収されていくのがいいですね
何が起こるか予想できそうでできない
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 22:57:14.10 ID:m0LoqmPDO
エイワスさんも帝春派か。流石天使。分かってるねー
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 22:59:11.39 ID:Se6SjKPAO
更新乙
>>886の通り『一定の温度を保つ、未知の物質を』でゾクゾクしてしまったww
>>22の描く定温物質に常識は通用しないな…
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 23:03:40.01 ID:MbUkAIcAO
乙だ!

天使はエイワスだったか 定温物質ktkr
台詞に混ざると味が出るな
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 00:02:21.58 ID:Nf3bL0EDO
エイワス「大丈夫。私は、そんな素直になれない帝督を応援してる」
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:00:33.58 ID:9mt/gSODO
闇とか光とか善とか悪とか存在理由とか関係ねえ!
「俺を一人しないでくれ」本当はただ、そう思ってるだけなんだろ。だから一方通行に否定しながらもこだわる。どんなに自分を黒に染め上げごまかしたって、初春を傷付けて不幸にすることをテメェはこれっぽっちも望んじゃいないんだ!!
それでもまだ悪意と闇が自分自身だって言うのなら、垣根帝督……まずは、その幻想をぶち[ピーーー]―――ッッ!!!


以上>>22乙でしたー
ていとくんは一度そげぶされて来なさい。全くもう……wwww
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:04:46.47 ID:nTjrZM+zo
理論と実践、設計と製造、これらには絶対的な壁があるんよなあ。
依存と寄生と共生で立ち止まらずにその先へ進んで行って欲しいぜ。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 21:37:40.35 ID:BT42kOqw0
帝春もだけどていとくんを応援したくなるスレだな
>>22超乙
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 02:54:48.22 ID:PgufEWcCo
ニヤニヤがとまらねえ

乙です。
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 10:32:23.84 ID:wYl5z1hDO
超乙。
待ってたよ〜。
最後の初春マジ天使!

またイラスト描きたくなったじゃないかwwwwww
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/21(月) 15:11:11.62 ID:0PWhcjKIO
>>890
常識が通用しないンじゃねェ。
>>22は今まさに新しい常識を作りあげてンだ!
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 22:07:36.44 ID:91K2I1hk0
ダメだ・・・ もうこのスレしか、俺の生きる楽しみが無い・・・
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 23:00:26.92 ID:e4c7wQaAO
>>899
残り100レスが生命線とな…… 儚いね

帝春いいよ帝春
結局、もっと多くの人が知るべきカップリングだと思う訳よ
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 13:08:02.64 ID:0dS4xst00
帝春は超色んな人に知れ渡らないと超勿体無いです!

原作で帝春やられたら嬉し死にする
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 21:50:31.76 ID:rGkryup90
なんかもうコレ原作でいいんじゃない。
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 22:55:12.50 ID:HDWD1ya00
俺も冷蔵庫と一体化したら、キンキンに冷えた俺の心を、
マジ天使な初春が温めに来てくれるってことだな?

よし、ちょっとヨドバシカメラで相談してくる。
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 23:07:24.48 ID:XpyQJJ5AO
>>903
脳を三つに分けるのなら任せてくれ
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/25(金) 01:36:40.94 ID:KDbpEC4D0
>>903
ヨドバシに不審者が出るかもしれないって警察に通報しといたほうがよさそうだな
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 01:38:48.99 ID:x+wUaL8AO
アンチスキルに通報しますた
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 01:40:34.65 ID:a46pyr2C0
なんでageたんだ・・・ 来たかと思ったじゃねぇか。クライマックスの時に無駄にあげんじゃねえよ。
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 19:19:33.07 ID:M/QmQeV/0
もうクライマックスなの?
909 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:44:12.28 ID:67HibobUo


                              ※


ソファの上で抱き合って、お互いの感触を確認する。
生きていることを実感するだけならば、温度をこうして分け合うだけで十分だ。

身体的につながることすら必要としない。
お互いが持っているものを、熱量の法則に任せて等分すればいいだけの話。

これが善意のもとに成り立っていようが、悪意のもとに成り立っていようが関係ない。


初春はその夜、柔らかな唇を何度も奪われた。


接続状態は良好。垣根は初春の首筋にそっと唇をすべらせる。
くすぐったいような、じらされているような不思議な感覚。
それは皮膚の表面で無邪気に遊ばれているような、初春がまだ経験していないそれだった。


「あ……、垣根さん……、」

「怖いか」

「……………、ちょっとだけ……」

「頭の中はつながってるのに?」

「……そ、そういう問題じゃなくて……」

「わかってるよ」


言葉と同時に体を倒した。真っ赤に染め上がった顔、ピンクのワンピースに、花飾り。
―――心の中は、蒼い。瞳の奥には欲情を越えた優しさが瞬いている。

不思議だった。

自分はこんなにも汚れているのに、どうしてこの中学生は拒絶しないのだろう。
好意を抱かれていることもわかっているし、自分も悪く思っていないのは自覚している。
だけれど、どこかで矛盾している。

理屈の上での矛盾ではない。
理屈ではない何かがすれ違っている。どうしようもないくらいに。
910 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:44:56.26 ID:67HibobUo


「……これって、その……」


頬を撫でながら、耳の付け根を舐めた。
びくっ、と肩を震わせて、初春は垣根の手術衣をつかむ。
がっしりとではない。指先で、ほんの少し。


「こうされるの、嫌か」

「………またそうやって……、なんでそういうこと聞くんですか……、もう……」


胸を小突かれる。嫌じゃないのはわかっている。
わかっていても、聞きたくなる。恋人同士なら当然のじゃれ合い。


「リラックスさせたいだけだ。わかるだろ。初春は経験が少なそうだからな」

「垣根さんは……、……経験、豊富っぽいですよね。……私なんか……、……ッ!?」


一手先を呼んで唇をふさぐ。
キスをしながら、頭でつぶやいた。


【悪い子にはしゃべらせねえ】

【……ずるいです……、……垣根さんのばか……】

【いいじゃねえか、それに最後まではしないよ。もうこれだけつながってるんだ、満足だろ?】

【お、女の子にそこを答えさせるのは反則……あ】


それもそうだな、と発信してから、静かに抱きしめた。
911 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:47:47.86 ID:67HibobUo

――――――

それからしばらくお互いを暖めあった。
一線は越えてはいないが、何回も何回も、熱を伝え合った。

少女は脳波の接続を解除して、相手に身をゆだねている。

垣根の胸に収まる初春。
時刻はすでに真夜中。門限などとっくにすっぽかしている。
一応の連絡は入れてあったが、あとでバレたら説教モノだろう。

時計の針が空気を叩く音が、絶え間なく、何かを追い詰めるように響いていた。


【なあ】

【―――人を殺したいほど憎んだことはあるか】


唐突に彼の口からそんな言葉が出てきた。攻撃的な台詞に戸惑う。
聞くということは、もちろん……。


「どうしてそんなこと聞くんですか……?」

【俺がそう思ってるからさ】


言うなり、さらに強く抱きしめられる。
肌と肌とが触れ合う圧力が高まった。

体感してみてわかることだが、“強く抱きしめたい”という衝動が沸き起こる原理は、おそらく相手との一体感を求めてのことだ。

しかしこれもまた不思議なもので、脳波を共有した仲であってもきつく抱かれたくなる。抱きたくなる。
この心情は説明ができないものなのかもしれない。

多分人間にはそのひとつ一つの動作に果たすべき役割が備え付けられているのだ。

言葉でしか伝えられないこと。
体でしか伝えられないこと。
それぞれが持っている要素を、最大限に利用するだけ。


「……、殺したい人がいるんですか?」

【……、】
912 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:49:07.76 ID:67HibobUo

沈黙。

どうしてこの人は大事なときに黙るんだろう。
自分の考えていることは多分筒抜けなのに。部屋に戻ったら自分の思考をコントロールする練習をしようと思った。


【初春】

「はい……?」


嫌な予感がする。文字が見えているだけなのに、状況と表情、自分を抱く彼の腕から、なんとなく内容を察する。
こういうときの発言は、大抵の場合は望んでないほうに動く。

そして、




【―――今の時点で……、お前の気持ちには応えられない】




「………、え……」


ずきり。


指示語が指し示すものを即座に理解する。
気持ちをさらけ出した自分に対しての、彼なりの返答なのかと。

二文字の単語と、それに付随する邪な想いが瞬時に頭を回った。


―――優しさで自分を抱きしめた?

―――何のために? 

―――どうして?

―――そんなのずるいよ。

―――だったら最初から。


言葉には出せないけれど、歳相応の『どうして』が頭を流れては消えていく。
913 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:49:45.43 ID:67HibobUo


【……、バカなこと考えてるな】

「ば、バカなことって、そんな言い方……」

【そうじゃねえ。そうだったらこんなことしてない】

「だったら………、私は、だったら………っ」



―――だめ。


言いたい言葉を寸前で飲み込む。

だめだ。これは言っちゃいけない。
ズルい女の子になりたくない。

だって、自分だってこうされるのを望んでいた。損得計算でこの人と関係性を築き上げたくない。
何かを差し出したから対価を示せ、なんて、傲慢な考えでしかない。

自分は与えたんだ。それに彼が答えてくれたんだ。
ただそれが、心ではなく体だったというだけで……。

たとえばこれから先、仮に望まない結末を迎えたとしても、その事実は変わらない。


それならそれでいいと思いたい。


思いたい。


思わなきゃ、


思わなきゃ、なのに。



「―――あれ?」



瞳からはおかしなものが零れ落ちていた。
914 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:52:08.39 ID:67HibobUo


「あれ、あれ。ど、どうしてですかねー。なんだか胸が痛いです、なーんて……。あはは……」

【……、】

「あ、大丈夫です! いやぁ私、め、めんどくさい女じゃないですし……、えへへ……これはその、なんだろ、えーと……」


説明をしようと頭の中の辞書を引っ張り出してみても、どこにもその単語は載っていなかった。
ぽろぽろと、何をもってしてもそれ以外に表現できない感情の塊が、とめどなく瞳からあふれてくる。

だいいち、めんどくさい女ってなんだろう。
自分で言ってて思った。その言葉の意味なんて、雑誌やテレビでかじっただけだ。
こういうときに、相手に何かを押し付けるのがよくないのはわかってる。
だから、そういう、誰かの見知った経験を、自分が知っているふりをして言葉を紡いだ。

つまり、嘘だ。デタラメだ。フィクションだ。

本心は―――、そうじゃない。自分はどうしようもなく面倒で、これ以上ない独占欲の塊だ。

こんなの絶対見せたくない。
強がって無理してでもいいから、大好きな人には知られたくない。

だから精一杯強がっているというのに、対する垣根帝督は言葉を容赦なく続けてくる。


【だから違うんだ。初春。俺の声を聞いてくれ】

「何を聞けっていうんですか……!」


抱かれた体を引き離そうとする。暴れても、上半身の力ではまだ垣根のほうが上だ。
すぐになだめられてしまう。

そうだ、何を聞けっていうんだろう。
もう限界だった。喉の奥で止めていた台詞が、勝手に口から漏れた。


「だって……、だって垣根さんは私のこと……、

       ―――す、すきじゃないんでしょ……?」



【好きだよ】



「……? ……え?」
915 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:53:43.39 ID:67HibobUo

頭が混乱してきた。
初春は上目で垣根の瞳を刺す。嘘をついているようには見えなかった。

でも、だったらどうして?
考えているうちに、頬を伝う涙を、指でそっとふき取られた。


【もう一度、つないでくれるか。今から“俺”を見せてやる】


垣根はそういうと、初春の耳元にさきほどまで二人をつないでいた装置を差し出した。

視線は初春に向けたままだ。
迷っているような、何かに怯えているような瞳がそこにあった。


「……、」

【まだ話してないこと。俺がずっと考えていたこと、考えていること。そのすべてを伝える。
 俺の全部をテメェにやるよ。それが、気持ちに応えられない理由だ】

【本当は伝えないつもりだった。でもな、もう限界だ。俺には初春を裏切ることも、壊すこともできねえ。
 このクソったれな世界で、テメェだけは傷つけられない。
 だけど、俺はガキだから、俺自身を騙すことも同じようにできねえ。
 ……ああ、理屈の上じゃあくだらねえことだってわかってる。こういうのは言葉じゃ説明できねえんだ。

 

        ―――だから、もう一度、今度は俺と景色を共有してくれ】



言っていることの意味はわかるような、わからないような、だった。
垣根帝督は自分に話していない部分で、何かに悩んでいたのだろうか。
脳波を共有していたのに、そんなことには少しも気づけなかった。

同時に、今しがた自分が考えていた幼稚な発想に嫌気がさしてしまう。

垣根が気持ちに応えられない理由とは何だろうか。
何故か右肩がうずいていた。



ゆっくりと差し出されたイヤホンを手に取る。
そして、


「………ッ!!!! ……ッ!!」


キィーー……ン……!!


次の瞬間、真っ黒な垣根の悪意が、初春の脳内を駆け巡った。
916 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:55:26.14 ID:67HibobUo


(……ッ!! これ……コレハ………コレハナニ……!?)


つないだ瞬間、脳内にすさまじいスピードでスライドショーが展開された。

何百枚という数の写真のようなものが高速で流れていく。
高速でめくられるおびただしい数の風景、人の顔、抽象的な感情をあらわしたもの。
おそらく実際に目の前で見せられたとしても、理解ができないだろう。

だが、今の自分は違う。
どの光景も、一瞬見ただけで垣根の気持ちを共有することができる。
電気信号をもってして、垣根帝督が直接初春の脳内に情報を発信しているのだ。


(………!! ……………ッ!!)


情報量の多さももちろんそうだが、一つ一つの光景が放つ意味の重さに、初春は吐き気を催していた。

怖い。

何かにつぶされるような感覚を覚える。
自分の想像力を持ってしても、普通に生きている限りこの悪意に触れることはないだろう。

嫉妬、憎しみ、破壊欲、劣等感、―――目を背けようとしても、頭に直接送られてくるのだから拒否することはできない。


そしてまもなく、理解した。

居場所。

名前。

かつての闇。

一方通行。

第1位。あの日、あの時の―――、



「っ!!!」

【……、】


強制終了。


イヤホンを耳から勢いよく抜く。吐息が漏れて、額には大粒の汗が張り付いていた。
呼吸が安定しない。乱れた脈拍を定着させるべく、体が拒絶反応を示した。

垣根帝督が内在していた悪意は、初春の善意に対して毒気が強すぎたのだ。
拒絶の意図はないにしろ、これ以上データを受け取ってしまったら自我が崩壊してしまいそうだった。
917 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:57:16.95 ID:67HibobUo


(―――そう、だったんだ………、)


あの日。
オープンカフェで自分に接触した後、この男はこの街の第一位と接触している。
その末路が、今の彼に内在する根本的なコンプレックスの起点だ。

幸か不幸か、これ以上ないくらいのタイミング―――能力が回復した段階で、二人は再会した。


これですべてがつながった。日ごろ、垣根が揺れている内容にも触れることができた。
同時に、あのサーバー―――“ANGEL”の中に存在する何かについてもヒントが少し。

記憶が混乱しているのか、自分とあの場所で会ったことは忘れているようだったが、それにしたって、これは―――。


(言葉でどうにか説得できるものじゃない……、)


もしも彼の思考を読み取ることができなかったなら、初春は垣根帝督に持論を説いていたかもしれない。
そんなことをしたって何の意味もないとか、劣等感なんてどうでもいいではないか、とか。
自分がいればいいじゃないか、とか。そういう自分勝手な理屈を。

だけれど、理屈でなく感情で理解してしまった今。
そんなチープな言葉で垣根を説得することが、いかに意味のないことかを思い知った。


なぜなら彼自身が、『子供の感情』であることを理解しているのだ。

間違っていることがわかっていても、止められないのだ。
すべてが分かった上で、素直になれない自分を正当化しようとしているのだ。

この人の中で、理屈の上での自問自答はすでに煮詰まっている。
対立する価値観をぶつけてもそんなものは焼け石に水だ。無責任な偽善だ。

初春としてはもちろん、感情を理解した上でも、倫理的に彼のやろうとしていることを見逃すわけにはいかない。
でも、だからといって理不尽な説得を試みて、彼のアイデンティティを崩壊させてしまっては意味がない。
918 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:58:01.96 ID:67HibobUo


(―――それでも)

(それでも自分は律する人でありたい。“ジャッジメント”でありたい……!)



だから、



初春は、




「―――私に……、あなたの罪をください」




【何?】

「まだ根本的な解決なんて、思いつかない。だけど、……あなたを一人には、させません」



ともに歩く道を選んだ。
上から諭すわけでもなく、突き放すでもなく、羽を貸して、ただ一緒に進むことを選んだ。
919 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 19:59:32.83 ID:67HibobUo


「あなたの目的は、……この街の第1位と再び対峙すること。彼を殺害すること」

【そうだ、その通りだ】

「……その中で、その……私の存在に………」

【名前がつけられない。居場所が確保できていない】


遠慮のない台詞だった。
もっともさきほどの通信で分かりきっていたことではあったが。


「それなら私は、垣根さんと一緒にその人の前に行きます」

【……テメェはそれでいいのかよ】

「……どんな結末を迎えるにしても、一人になんか……させない。一緒にその人の前に、立ちます」


(―――その上で……、)


……だが、これ以上は伝えることはできない。余計に混乱させてしまうだろう。
すばやく感情を押し殺して、言葉を飲み込む。

ここからは、自分の勝手な妄言になる。


初春飾利の瞳には再び決意がにじんでいた。

垣根は呆けた顔をして、そんな初春を見つめている。
多分、結局巻き込んでしまったとか、これが利用でなくて何なのだとか、そういうことを考えているのかもしれない。

今更そんなこと水臭いと思ってしまう。自分と垣根はもう、一種の運命共同体なのだ。
利用するとかしないとか、そういうレベルの問題ではない。

気づいていないのだろうか。この関係性に。いや、気づいていないはずがない。
感性では理解ができても、知性で理解ができていないのと同じだ。
920 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 20:02:15.91 ID:67HibobUo

二人はその夜、それ以上の会話をすることなく寝床についた。
初春飾利は垣根をベッドへと運んだ後、彼の隣に滑り込む。

暖かかった。甘えてしまいたくなるくらい、居心地がよかった。
たとえばこのお話が悲劇的な終わり方をしたとしても、それでもいいと思ってしまうくらいだった。


―――だがもちろん、彼女の頭の中では、この悲劇を塗り替えるための作戦会議が展開される。


(―――方法は、あるはず)


かちり。
初春の脳内でスイッチが入る。

……もちろんさっきまでの会話は建前だ。本音は違う。
どうにかして、この人の心の闇を、自分が浄化する。それだけだ。


(―――曖昧に不完全燃焼させて、なかったことにするなんて、この人にはきっとできない)

(………相手と対峙しないうちに、この問題が解決することなんてありえない)

(だからといって、このまま黒い気持ちに身を任せていたら、垣根さんはきっと壊れてしまう)

(そんなのは………嫌だ)

(あるはずだよ、初春飾利。―――だから、その方法を探す)

(第一位……、その相手と対峙したときに……、何かを伝えることができれば。アクションを起こすことができれば)

(………、…………、)

(相手を打ち倒して自分の正当性を主張するなんて、間違ってる)


当然の理屈だった。
垣根に協力するといったのは、そのための譲歩だ。

自分がしたいことはただ一つ。
大きな悪意に流されているような、この物語の展開に逆らいたい。

垣根と自分の間にあるものによって、最高の未来を掴みたい。


だから。


(終わらせない)

(―――このままでは……、悲劇では、終わらせない―――ッ!!)



………

……

921 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/02/25(金) 20:02:59.51 ID:67HibobUo
とりあえずここまで。もうすぐ次スレいきそーですが気になさらずどーぞ。
ではまた近々。
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 20:04:32.02 ID:TfcOAXsa0
ぬあっ!?
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/25(金) 20:07:45.37 ID:Z2nNvcxM0
ここまでぇ!?

くう……乙!
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 20:11:35.41 ID:02einBp1o
夢にでそうです…

乙!
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 20:12:06.60 ID:x+wUaL8AO
乙…中学生にしていながら二十代〜三十代の女でも身につかんほど女として出来た女だ初春…おまえこそがていとくんの嫁だ…!

もう女としてレベルがダンチですよ初春さん
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 20:20:15.89 ID:1mYBtyRh0
乙!
ドキがムネムネしてたまらん
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:07:28.48 ID:WYhTq/BJo
うおおおおおいいところでえええて!!
乙!
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:11:04.81 ID:a46pyr2C0
初春超天使。こんなに天使なスレは初めてだ。>>22はどっかでSS書いてた人なのかな。天才過ぎる。
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:29:15.04 ID:XKgXRIUAO
定温物質=愛って方程式が頭に定着しそうだよ乙
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:36:55.72 ID:Uuwu7f8DO
乙!
通行止めは闇の中の一方さんを打ち止めが光を照らし引き上げてあげる
帝春は初春がていとくんと闇の中をあえて共に歩み光へと向かう
在り方は違うが迷える堕天使な男共を支える女の子達はマジ天使だ
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:50:14.25 ID:GHY30agAO
超乙。初春天使すぎる。佐天さんで占められてた俺の頭にお花畑が侵食してきやがった
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 22:12:57.69 ID:SrqH4rdAO
ぐぬぬ…… 焦れるぜぇ
ともかく超乙!マジで乙!

さて初春この状況をどうするか
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 23:00:29.18 ID:SxLOINuDO
超乙。
またイラスト描かせてくださいお願いしますていうかもう見ていたら描きたくて描きたくてしょうがなくなったから勝手に描くからねっ!!
定温物質万歳!
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 23:01:51.14 ID:DYKXDWUDO
初春・・・お前こそが垣根の本当の翼だったんだな
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 03:04:46.90 ID:NlBTVHsK0
乙。
垣根を支えて一緒に歩いていけるのは初春だけだ。
どうか幸せになってくれ。
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 20:03:22.91 ID:WfNHh2bAO
誰も言わないから言うけど、垣根さんマジロリ…
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 20:30:44.68 ID:lcP6qHur0
垣根はロリコンじゃない
ウイコンなだけだ

このSSの面白さには限りがないのか!
ちくしょう毎回楽しみすぎる
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 20:59:03.93 ID:Ldh8d/kAO
もう初春は翼を生やして良いレベル。まさにこの二人は比翼の鳥
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 21:32:03.08 ID:d7w/p/UL0
なるほど。垣根の天使のような白い羽と、初春マジ天使。帝春こそが公式カップルだな。
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 22:56:55.93 ID:tr95ovzYo
学園都市のツートップがそろってロリコンとは
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 00:32:37.89 ID:Dub7MKVAO
そういやていとくんって高校生か? 大学生には見えんが
一方さんは長点上機だから高校生だが
942 : [sage]:2011/02/27(日) 00:44:21.21 ID:jA5EsOVAO
>>940
打ち止めって0歳だからベビー・コンプレックスなんじゃ・・・・
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 05:15:52.81 ID:7ByQGRyEo
>>941
なんか禁書の登場人物の能力者って上限が高校生なイメージが拭えない
もちろん大学生の能力者もいるんだろうけど
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 13:01:47.03 ID:SX8iMApe0
ハイムラーのHPではヤクザ予備生と新人ホストをイメージって
書かれてたけど、確かにそれだけじゃ高校生か大学生かわからないよね
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 21:27:57.68 ID:Dub7MKVAO
やっぱ高校生なのかな

暗部に居るってことは学籍だけ置いてるタイプかな
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 22:07:52.41 ID:thVsXHYk0
このSSで帝春ハマったよ・・・
毎回楽しみにしてるよ
http://uproda.2ch-library.com/348021K1G/lib348021.jpg
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 03:22:15.02 ID:fAjkjhKa0
ふぅ……。
とりあえず定温物質二枚目。
ってもうID変わってるかwwwwww
http://uproda.2ch-library.com/348109UKp/lib348109.jpg
夕暮れっぽく描いてみた。

http://uproda.2ch-library.com/3481108vi/lib348110.jpg
勝手に映画化。
>>22がんばってください。
定温物質こそジャスティスであり理想郷。
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 03:34:02.07 ID:33Z8LfnD0
>>946
帝春マジ天使どっちも天使可愛すぎるああああ

>>947
GJ 本当に映画化してほしいわ

>>22いつも応援してます
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 23:22:33.73 ID:yps8fq3z0
続きが気になりすぎて毎日夜中まで起きてる…
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 15:26:12.59 ID:iw1iu4db0
支援支援。
続きまだかな
951 :sage :2011/03/09(水) 00:37:33.41 ID:ERtobCmk0
帝春ううううううううううう
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 00:45:30.39 ID:YJJqrnTAO
>>951
落ち着けwwwwそして落ち込め

名前欄に入力してどうする
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 00:55:33.53 ID:ERtobCmk0
>>952
すまんwwwwww
待ち遠しすぎてつい
更新期待させてしまったなら申し訳ない
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 04:44:47.52 ID:I955cQXAO
暇つぶしでこのスレ開いたらいっきに全部読んでしまった…
明後日受験なのに睡眠時間が…
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 10:32:21.03 ID:kgQ9ieiu0
>>22の事だ
きっとホワイトデー近い頃に「俺のホワイトデーに常識は通用しねえ」と言いながら
クソ甘い帝春を投下するに決まっている
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 19:29:19.99 ID:Ei0KQNbAO
>>954
お前wwww アホスww

だが、そんなお前の帝春への愛は本物だ 誇っていいぞ
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 17:05:34.17 ID:SQVBrA5v0
>>22無事か

地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
958 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/03/11(金) 20:34:33.60 ID:RqsZddh4o
大丈夫です!><ありがとうございます。
更新はもう少しだけお待ちください。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 20:45:02.78 ID:g9qXN2EAO
>>958
良かった、生きててくれた

更新楽しみにして待ってます
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 21:14:01.21 ID:e3TV2x3DO
>>958
無事で良かった。
待ってるぜ。
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 22:31:31.96 ID:EDhJDIDSO
>>22
吐く程楽しみにしてます!

地震嫌だなぁ…
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
962 :度々失礼 ◆le/tHonREI [sage]:2011/03/12(土) 19:08:12.14 ID:eSLV6AB+o
なんか月並みだけど・・・。

もしもいまここ読んでくれてる人で身体的、精神的にきちゃってる人がいたら、諦めないでね。
その代わり、落ち着いた暁には私の文才を振り絞ってさいこーなクオリティのSSを書き上げるって約束します。
だから、不安な気持ちに打ち勝ってください。こんなことくらいしかできないし気休めですが・・・。

ちょっと大げさかな。たびたび失礼しました。
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 19:13:48.22 ID:9YIZJWYAO
やる気でてきた
ありがとう

楽しみに待ってる
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 19:43:19.46 ID:z5+J98GAO
このSSの完結を見るまで[ピーーー]るか!俺頑張る
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 20:28:44.97 ID:PZhUIEyAO
励まされた
ありがとう

帝春も>>22もマジ天使
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 19:17:47.02 ID:rlrBxCPAO
孕まされた
ありがとう

帝春も>>22もマジ鬼畜
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 13:45:24.45 ID:+CrHDr2AO
>>966

不謹慎
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 14:01:52.61 ID:AgjujzDIO
えっ
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 14:06:16.66 ID:7JAaMn83o
多分 励まされた の打ち間違いなんじゃね?
二度見してやっとわかったが
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 14:25:43.54 ID:cMsbxWtIO
>>969
打ち間違い・・・打ち間違いかこれは?w
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 14:27:02.24 ID:7JAaMn83o
もしもし なら いつもどんな変換してるかがわかる感じじゃね?
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 15:22:48.17 ID:BSc1/0kqo
ネタだろ
こんな事まで不謹慎とか言ってたらなんもできねぇだろ・・・


俺が釣られた?
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 17:31:12.83 ID:9OlFHBDAO
どう見てもネタだろ
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/15(火) 17:36:07.00 ID:3uZOqN0DO
どうでもいいがもうすぐで>>1000行くぞ。
975 : ◆le/tHonREI [sage]:2011/03/16(水) 01:38:28.65 ID:YMemoW+Xo
こんばんわ。お待たせしました、今晩より更新します。
がんばります。
976 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:39:59.01 ID:YMemoW+Xo

                               ※

翌日目覚めると、ベッドに初春の姿はない。
よほどぐっすりと寝付いていたのか、出て行く気配すら感じなかった。
暗部にいたときはこんなに安心して眠ることもなかったというのに、まったくどういう心境の変化だと自嘲する。

それから身体の代わりに気だるさを寝かしつけて、ゆっくりと起き上がった。
いつもと変わらない朝。日光は相変わらず鬱陶しいままだ。


メールでも入っているかと思いきや、携帯電話には何の履歴もない。
書き置きすらなかった。こうもあっさりと帰られるとそれはそれで、何か物足りない。
わかってはいるのに、幼くて未成熟な感情がひっそりと垣根の心に影を落とした。


―――、あの言葉は本当に本当なのか?


昨日まで感じていた彼女のぬくもりをすくい取ろうと、枕にうずくまる。
同時に、自分の心の乱れを確かめるように、心の鏡に向き合ってみる。


(……、わかってるさ。あいつと会った後は必ず、こうやって自分の醜態を見つめちまうんだ)


心の光と影が導き出すものはすなわち、バランスだ。
初春飾利と接すれば接するほど、光に寝食される自分を見てしまう。

彼女が放つ光が強ければ強いほど、心の闇が浮き彫りになっていく気がする。
やさしさに包まれた後に残るものは、不完全な自己の不明確な不安感だ。

この奇妙な初春との関係を最も的確に示すのは、きっと陰陽マークといわれるイン&ヤン。
光のあたらないところに影はない。だが、影の中にも光があることを教えてもらった。
見つめ合う二つの白と黒。多分、どちらに傾きすぎても自分たちの関係は崩壊する。

そして、調和しているうちは平気だとしても、何かをきっかけにそのバランスが崩れている。そんな気がする。

垣根帝督にとっての初春飾利は、ある種完成された存在だった。
能力がどうとか、そういう話ではなく、―――人間として、自分のすがる場所として、一点の汚れもない透明な花。
花に例えるならそれこそ白百合だ。柄でもないが、初春にもらった図鑑は頭に張り付いたままだった。
977 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:41:12.51 ID:YMemoW+Xo


それから数秒もたたないうちに、垣根の思考はこの街の闇へとゆっくりと下っていった。


(……いい。今は忘れろ。問題はこっからだ。どの道“アイツ”がいねえと話にならねえ。一方通行のクソとどうやって向き合うか)

(―――方法はいくつかある。提案できるだけでも三通り。念話能力を使えばもっと楽なんだろうが、ツテがねえ)


A.滞空回線を使って一方通行本人を見つける。
B.脳波ネットワークに無線電波を使って侵入する。
C.初春飾利にジャッジメントの権限を使用させてこの街から炙り出す。

違いはあれど、現実的な手段としてあげられるのはこの三つだろう。


(……ちっ、Aのプランが一番手っ取り早いが、さすがに情報網がたりねえ。
 ジジイは滞空回線を使って俺たちを監視してたらしいが……、置き土産にはもらえなかったな。
 ―――手段にこだわらないのなら、『最終信号』をぶち殺すって手もあるが……、)


かつて第一位と垣根が対峙した際、彼はその手を選択しようとした。
理由は単純に、以前は“一方通行を倒すこと”が目的なのではなく、“直接交渉権を得ること”が目的だったからだ。
あのときの自分は道筋を選ぶ余裕があった。結果が全て、そのために殺す、それだけ。

だが、


(今は違う)

(あいつの存在が消えてなくなることが問題じゃねえんだ。能力者として、この手で、この力で、正面からぶち殺さないと意味がねえ)

(―――それでこそやっと俺は……、俺を本当の意味で取り戻すことができる。そうだろ初春)


拳に力を込める。
初春がどこにいったかは分からないが、連絡をすればすぐに返答があるだろう。
先に手段を確立させておくべきだ。
978 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:46:44.07 ID:YMemoW+Xo


(………Bだな。ヤロウのネットワークに直接ハッキングかけたほうが早い)

(あのバカにメッセージを直接伝えるのは無理か。ならばやはり『最終信号』にアクセスするか?)

(いや、だめだ。俺とじゃ波長が違いすぎる。戦闘する前に各個体の脳を焼き切っちまう可能性が高い。
 廃人のカスをぶちのめしても意味がねえ)

(……? 待てよ。そもそも冥土返しや木山春生はどうやって俺の脳波を初春と調和させていたんだ?)

(共感覚性を養った場合であっても、さらにその上で脳波をリンクさせるには何らかの技術が必要なはず)


垣根は手元にあった、イヤホン型デバイスを手に取り、見つめた。


(―――、それなら)

(一時的に脳波をガキに合わせて、こちらからメッセージを送信するだけなら、できるんじゃないか……?)

(そうじゃないなら理屈が合わない。確かに俺と初春の脳波は視覚的に酷似した波を生んでいるだろう。
 だが、ほぼ完全な形で一致させるには何らかのカラクリがあるはず)

(相互にやり取りをすることは難しいだろうが、こっちの脳波を瞬間的に向こうの周波数に合わせてやりゃあ、“伝達”くらいはできるはずだ)

(……決まりだな。こいつをバラして構造を調べあげ、『最終信号』にメッセンジャー役を買ってもらうか)

(―――はっ)


垣根はふと思う。

データの集合体である自分は、ある点においては生身の身体を持つ通常の人間よりも優位にある。
手段を問わなければ、もっとシンプルに第一位の息の根を止めることができるかもしれない。
そもそも演算機能を停止させてしまうという方向性ならば、面倒な手段に固執する必要はないのだ。
それなのに正面からの勝負にこだわっている自分が滑稽に見える。

まるでセイギノミカタだ。


(何をやっているんだ俺は。止める気もねえが、まったく褒められたもんじゃねえ。何を……、)


言いつつも、すでに脳内では演算が始まっていた。
ミサカネットワークへの侵入の手筈と、対峙した際の算段について、細胞を動かして設計図を組み立てる。
己の知恵を振り絞って学園都市の第一位を打ち負かすという未来を現実にするためだ。
その点についての躊躇いは消えているから。

あとはどう腹をくくるかだ。その先にまっている未来がどんなものであっても、受け入れ、享受する覚悟。


(初春に引け目は感じない。歩いてくれるなら、従う。だけどな)

(……同じ理由で、この物語に救いなんざ求めてねえんだ。

    ―――俺はクソヤロウと一緒に地獄に堕ちるんだよ。なぁ? 一方通行………ッ!!)


………

……

979 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:49:01.67 ID:YMemoW+Xo

                          ※

もっとうまくできればいいのに、と初春は自室で紅茶を入れながら思った。
具体的にどういうことが“うまくやる”なのかはわからないが、今の自分の状況は絶望的ではないにしろ、閉塞している。

あれからずっと頭をひねらせて、垣根帝督を闇から引きずりあげる方法を考えているが、まだ見つからない。
垣根を言葉で説得できないのなら、演算をごまかして戦闘中に交渉をしようかと思ったが、そうもいかない。
何せ集中力を常に一定に保っていないといけないのだ。
戦いの場に借り出されたらどうしようもない。何より、垣根に悟られてしまうだろう。

鏡を見つめると目の下に少し隅ができていた。こう見えてもジャッジメントを務めている分、徹夜にはそこそこ強い。
多分精神的な問題だろう。

何も言わずに部屋から出たのは、なんとなくだ。

あのまま甘えていたら、本来の目的を自分が忘れてしまうかもしれないから。
闇にのまれるなんて物騒な表現を使いたくはないが、きっといい方向には進まないような気がした。
これは直感的なもので、理屈ではない。


そして同時に直感で思ってしまう。だめだだめだと思考の舵取りをしても、どうしても頭から、言いようもない不安感が離れない。



―――果たして本当に自分はこの泥まみれの脚本を塗り替えることができるのか?



これから自分が飛び込む場所は、あの時の、―――右肩の痛みの発信地と同じ場所。
無事で済むわけがないのはわかっているのだが、その覚悟がないというよりは、方法論の話である。


(どうにかしないと……、白井さんや御坂さん、佐天さんに連絡して……、うう……、でも……)


あのメンバーは確かに垣根を受け入れていたが、その反面彼に対しての警戒を解くようなことはしなかった。
白井と佐天は多少、踏み込んでいたかもしれないが、御坂美琴にいたっては警告までしていたくらいだ。

もしも自分がこのことを伝えたら、彼女たちは自分を巻き込まないように手筈を整えるような気がする。
垣根から自分を遠ざけたりするのではないだろうか。あるいは、彼女らが解決したりはしないか。

何よりも、あの人はきっとそれを裏切りと感じるだろう。助勢は求めてない。私を巻き込むことにも躊躇していた。
余計な助けを私が勝手に提案したらどうなる? 後に残るのは不信感だけだ。

だめだ。それではだめなのだ。

垣根の思考を理解した今なら言える。ここで信頼を失ったらどうしようもない。
打算的な自分の考えに吐き気がするが、事実なので仕方がない。

根本的なところは二人で解決しなくてはだめだ。頼りたくても、頼れない。
花飾りをくしゃくしゃにしたくなる。
980 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:50:01.29 ID:YMemoW+Xo


(………あ)


ふと思いとどまった。
閉じていた血管が勢いよく脈を打ち鳴らす。どくどくと、霊的なひらめきが広がる感覚がそこにあった。


―――第一位はどこにいるんだろう。


(そうだ……。先に私の方から、第一位に交渉することはできないだろうか)

(本人じゃなくても、あのときのアホ毛ちゃん……、『最終信号』、だっけ。あの子に関わることができれば)


あのとき行動を共にした少女と、問題の第一位がつながっているとは思わなかった。
初春としては彼と直接の面識は―――意識が朦朧としていたからかもしれないが―――ない。

だが、垣根との通信をもってして、そのプロファイルは受け取っている。
過去のデータ。ミサカネットワーク。チョーカー型デバイス。ベクトル操作、etc....

色々な意味で垣根帝督とは似て非なる存在だった。
同属嫌悪とまではいかないが、彼が敵対視してしまう理由もなんとなくわかる気がする。


初春も初春で、垣根が考えそうなことは把握しているつもりである。
おそらく正面からの対決を申し込むだろう。

そのための手段として、データの集合体である彼が脳波を使ってミサカネットワークなるものに接触することは想像に難くない。
宣戦布告というやつだ。

第一位―――通称『一方通行』の人格は垣根の主観が混じっているのでなんともいえないが、気難しさはあれど対話ができる範囲の存在でありそうだ。


(学園都市の『書庫』を閲覧すればもっと詳しいデータが得られるかも。でもこれは私的利用だし、越権行為だ。
 ―――今更そんなこと言ってられないか)


普段は『書庫』を守る立場である自分だが、こんな局面で贅沢は言ってられない。
すぐにPCを立ち上げ、電子の海へとダイブする。
潜水技術は学園都市のお墨付きだ。迷わない。例え闇に伏していても、光を放ちながらデータの波を進んでいく。


かたかたかた―――。
981 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:51:13.58 ID:YMemoW+Xo


(っ!だめ、時間が足りない。同時進行で学園都市の監視カメラを起動しよう)

(……第一位が垣根さんに口説かれる前に捕捉して、こっちからアクセスする)

(口先八丁じゃなくて、誠意で説得するんだ。垣根さんとは違って、ジャッジメントの私には情報面でアドバンテージがある)

(―――有線回路じゃだめかな)


ミサカネットワークというシステムを完全に理解したわけではないが、おそらく自分と垣根をつないでいる脳波ネットワークと構造的には同じものだろう。
直接つないでしまえば脳に異常が出てしまうかもしれないが……。


(……、垣根さんならどう考える)

(直接対決を望むなら、代理演算役の女の子に危害を加えるなんてことはしないよね。あの人ならどんな手を使ってでも一方通行本人と接触する)

(―――、イヤホン型デバイスを解析する? うん、私ならそうする。私がそうするってことは、当然彼も……)


初春はこれら一連の思考を繰り広げながら、『書庫』のデータを閲覧し、また学園都市の監視カメラでこの街を洗っていた。
本来初春の情報処理能力はこういった面に優れているのだ。

一つの問題を花に模した構造で捉え、多角的に解決する。
システム構築の際の思考方法だが、基準が現実の出来事になったとしても、その方法はまったく同じ。


(あの人なら構造を理解して、瞬間的にでも脳波を合わせるくらい、ほんの数時間でやっちゃいそう)

(私の言葉は、相手の判断材料としてでもいい。どうにかして理解してほしい。がんばらなきゃ)


かたかたかた―――。


(垣根さんがデジタルな手段でメッセージを送るなら、私はアナログ式でいきます。直接会って伝える)

(―――奔走なんかさせませんよ。だって、一緒に進むって言ったじゃないですか)


(……、離れていても心は一つです。


   ―――地獄になんか行かせてたまるか………ッ!!)



かたかた、かたかたかた―――。


………

……

982 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 01:52:39.30 ID:YMemoW+Xo
残りがやばいのでキリのいいとこでこのスレはおしまい。
次スレたててきます。
983 : ◆le/tHonREI [saga]:2011/03/16(水) 02:05:53.61 ID:YMemoW+Xo
次スレ→http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300208236/
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/03/16(水) 02:11:54.90 ID:VIhQUcK5o
次スレ乙です
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/16(水) 02:19:09.91 ID:3yZWNDVjo

                ┌――――――‐─┐
                 |   帝凍庫クン   |
                 |________________|
                 |=========|
                 ../|     -、__,      ..||\       <梅
               / l   rデミー'  'ー'  .|ト、 \
      r、      /  .!〕  ゛`ー′ /でン  .|| \ \      ,、
       ) `ー''"´ ̄   / |     、   .ゝ ゛   ||   \  ̄'ー‐'´(_
     とニ二ゝソノ ̄ ̄''''   .|    `ヾニァ'     .||      ̄''―ヽ(、,二つ
                       |__________j|
                 |´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`i|
                       |〕常識は通用しねぇ   ||
                 |___________j|

986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 02:42:40.35 ID:8+RMNWJDO
ていとくんは闇に飲まれたあげく地獄に堕ちるのが自分の常識(うんめい)だと思っているのか……
そんな常識なんの自慢にもならないぞ!初春ガンバレ、マジガンバレ!

>>22さん乙でしたー。次スレも慎んで楽しませていただきますv
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/16(水) 02:47:19.94 ID:aBsrohKDO
帝春は漏れのジャスティス
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/16(水) 02:51:33.12 ID:UVR5dLaAO
超乙ゥァァァ!

最初の頃はだれも 次スレまで到達するなんて予想なかっただろうなww
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/03/16(水) 02:53:57.98 ID:UVR5dLaAO
大変なことに気づいてしまった…

次スレからは 「>>1乙」って言えることに…!?
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/03/16(水) 02:54:43.67 ID:cvY3In3Ho
帝春最高ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 03:01:10.56 ID:Y8lYMUuno
乙乙
俺も次スレに到達するだなんて思ってもいなかったよ・・・
奪還作戦の時は物凄く興奮したっけなぁ
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/03/16(水) 03:22:49.78 ID:Elsl5miUo
帝凍庫に冷凍食品を入れてスペース埋め
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/16(水) 03:39:09.03 ID:ZU6/2xc1o
                ┌――――――‐─┐
                 |   帝凍庫クン   |
                 |________________|
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                 ../|     -、__,      ..||\       <梅
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      r、      /  .!〕  ゛`ー′ /でン  .|| \ \      ,、
       ) `ー''"´ ̄   / |     、   .ゝ ゛   ||   \  ̄'ー‐'´(_
     とニ二ゝソノ ̄ ̄''''   .|    `ヾニァ'     .||      ̄''―ヽ(、,二つ
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                 |´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`i|
                 |               ||
                 |               ||
                 |  俺の容量に    ||
                 |               ||
                 |      __     ||
                 |    /    \   ||
                 |´ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`i|
                 |               ||
                 |  常識は通用しねぇ||
                 |               ||
                 |〕              ||
                 |               ||
                 |               ||
                 |               ||
                 |___________j|
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 04:52:49.79 ID:mcbDHchDO
>>22乙。
次スレでもよろしく。

じゃあ>>1000までksk
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/03/16(水) 07:15:18.93 ID:QC17hNfAO
いやあ 遂に来たね次スレ 楽しみにしてます 梅梅
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:22:34.97 ID:dkVZDsM80
ラヴィン
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:33:58.27 ID:X/5tMlzIO
うめ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:34:25.40 ID:X/5tMlzIO
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:34:58.96 ID:X/5tMlzIO
うめ
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 08:40:24.21 ID:EXU+h96DO
1000なら常識は通用しねえ
1001 :1001 :Over 1000 Thread
____   r っ    ________   _ __
| .__ | __| |__  |____  ,____|  ,! / | l´      く`ヽ ___| ̄|__   r‐―― ̄└‐――┐
| | | | | __  __ |  r┐ ___| |___ r┐  / / | |  /\   ヽ冫L_  _  |   | ┌─────┐ |
| |_| | _| |_| |_| |_  | | | r┐ r┐ | | | /  |   | レ'´ /  く`ヽ,__| |_| |_ !┘| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|‐┘
| r┐| |___  __|. | | | 二 二 | | |く_/l |   |  , ‐'´     ∨|__  ___| r‐、 ̄| | ̄ ̄
| |_.| |   /  ヽ    | | | |__| |__| | | |   | |  | |   __    /`〉  /  \      │ | |   ̄ ̄|
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マラドーナのマラどうなん? @ 2011/03/16(水) 07:47:37.73
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TeamSpeak3で鯖を立てたいんだが @ 2011/03/16(水) 07:32:06.94 ID:HugZHMcb0
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お勧めの禁書・超電磁砲SSを教えろください7 @ 2011/03/16(水) 06:13:28.66 ID:eKJQ6VRIO
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浜面「血を吐きながら続ける哀しいマラソン?」 @ 2011/03/16(水) 02:55:21.32 ID:3+pQlKc00
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初春「花束をあなたに」 @ 2011/03/16(水) 01:57:16.70 ID:YMemoW+Xo
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もうどうにでもなっちまえ @ 2011/03/16(水) 00:53:52.22 ID:dS3zRFuho
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【終わりが】俺・ロリ・ショタ、無限大25【見えない】 @ 2011/03/16(水) 00:50:40.79 ID:KDLChtB3o
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眼鏡うp 俺メモ:一週間 @ 2011/03/16(水) 00:36:39.59 ID:CkZG7msJP
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