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【禁書】ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【本編再構成】【上条×婚后】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :nubewo ◆sQkYhVdKvM :2011/02/06(日) 19:07:49.38 ID:Q0oCDZXl0
このスレはarcadiaでこれまで連載してきた同名のSSの最新話を投下していくスレです。
ここで書きたまり次第、加筆修正を行って、arcadiaに投稿するというスタイルをとりたいと思います。
これはこのようなやり方が、最も更新速度を速められるとの判断に基づいています。
どちらの規約にも反していないと私は判断していますが、何か問題が有りましたらご指摘願います。

SS速報VIPだけでも全文を読めるように初めから投下しなおすとかなりの量になりますので、
恐縮ではありますが最新の内容から投稿して行きたいと思います。
末永くお付き合いいただけますよう、お願い申し上げます。


あらすじ及びこれまでに書いた内容はこちらになります。

arcadia(ttp://www.mai-net.net/)
ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【とある禁書目録・超電磁砲】【再構成】
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=etc&all=19764&n=0&count=1

初夏のある日。
上条当麻は不良に襲われているところを、ひとりのお嬢様に助けられた。
佐天涙子は伸びない能力に向き合うため、ひとりのお嬢様に助けを求めた。
常盤台中学が誇る空力使い(エアロハンド)、"トンデモ発射場ガール"がヒロインのお話。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

バームくんへ @ 2025/06/11(水) 20:52:59.15 ID:9hFPsRzXO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749642779/

秘境 @ 2025/06/10(火) 00:47:53.81 ID:BDVYljqu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749484073/

【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749472989/

ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749227436/

【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1749139545/

貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1749038181/

阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748977273/

レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748866860/

2 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:08:38.33 ID:Q0oCDZXlo

「で。一番大事な方針が決まったけど、具体的なプランはまだ白紙だ。それもちゃんと考えないとな」
「そうですわね。当麻さんには何か妙案がおありなの?」
「いや、それは今からちゃんと考えようと」

今後の見通しが立つから方針を決めたわけではない。やりたいことがまずあるから方策を練るのであって。
だから別に無策なのを攻められる謂れはないと思うのだが、ジト目でインデックスに睨まれた。
光子にまであきれたようにため息をつかれてしまった。

「とうま……かっこいいこと言ってたけど、口だけなんだね」
「なにか案あってのことだと思ったんですけれど……」
「いや、ごめん」
「それで、インデックス。私たちはまず貴女の事情を聞いておかなくてはいけませんわね。
 魔術というものがあることを、私は受け入れますわ。
 だからもう一度、何故貴女がこうした境遇にいるのか、説明して頂戴」
「だな」

何をどうするにも、確かにそこが出発点だった。インデックスは何者で、何故追われるのか。
ソファに座った光子と当麻の間にインデックスは体を落ち着けて、今は光子にもたれかかっている。

「後悔、しない?」
「確認を取る必要はありませんわ。私も当麻さんも、それは今さっき済ませましたでしょう?」
「うん。ありがとう。……ねえ光子。この世の中には、魔術がありふれてるって言ったら、びっくりする?」
「そうですわね……そもそも、そんなものはあるはずがないとつい昨日まで思っていましたわ。
 今でも、ありふれているといわれても、ピンと来ないというか」
「普通の人にとってはそうだよね。でも魔術って、世界中のどこの文化にでも存在して、いつの時代も使われてきたんだよ。
 キリスト教徒もそれを使うし、キリスト教徒に敵対してきた人たちも、それを使ってきたの」

不意に太陽が雲に隠れて、陽気が部屋から遠ざかる。

「邪教なんて言い方をすると一方的だけど、普通の人の知らないところで、
 私たちは主の教えに従わない魔術師と戦ってきたんだよ」
「……私たち?」
「そう。『必要悪の教会<ネセサリウス>』って呼ばれる、イギリス清教の一番暗くて一番穢れた所」

主の怨敵を払う為。邪教に相対することはおろか染まることですら厭わず、あらゆる仕事を引き受けてきた部署。
自分のいるべき場所を、インデックスはそう説明した。

「私には魔術は使えないけど、代わりに、世界中のあらゆる集団のあらゆる術式に精通してる。
 どんな魔術師と敵対することになっても、どんな魔術なのか、
 どうすれば防げるのか、どうすれば倒せるのか、全部知ってる」
「つまりお前は、敵のステータスが細かいことまで全部乗ってる攻略本みたいな存在なわけか?」
「攻略本っていうのがよく分からないけど。
 私はイギリス清教が誇る最悪の蔵書、『禁書目録<インデックス>』なんだよ。
 私を手に入れれば、世界中のあらゆる敵を打ち滅ぼせる。
 だから私を追う人が、後を絶たないんだよ」
「じゃああの二人も、そういう連中だって訳か」
「別に確認してみたことはないけどね。まず間違いないんだよ」
3 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:09:31.41 ID:Q0oCDZXlo

なんでもないことのように、インデックスは淡々と話す。それが逆に背筋を空寒くさせる。
いつ終わるとも知れない、いや、いつまでも終わることのない逃避行は、
いったいこの少女の心をどれほど蝕んでいるのだろうか。

「ずっと、ですの?」
「え?」
「いつからこういう生活を続けてますの?」

きゅっと、光子がインデックスの頭を引き寄せた。
甘えるように薄くインデックスが光子の胸に鼻をこすりつけた。
だが、困惑したような、何かをはぐらかそうとするような微笑が、ずっと顔から消えなかった。

「え……っと。一年前から、だよ」
「それまでは、誰かと一緒でしたの?」
「……隠しても仕方ないよね。わからないんだよ」
「わからない?」
「うん。わたし、一年以上前のこと、覚えてないから」

さらりと、そう言った。
理由も分からないまま気がつくと日本にいた。
自分が何故ここにいるのか、自分にはどんな知り合いがいたのか、
そんなことはすっかり忘れているくせに魔道図書館としての機能にはこれっぽっちの傷も付いていなかった。
そしてそのまま、一年間、逃げ続けた。
……それが彼女の知る彼女の全てらしかった。

「なにも、覚えていませんの?」
「うん。気がついたら日本にいたの。『必要悪の教会』だとか、そういう知識だけはあったけど。
 それですぐに私を追ってくる敵が現れたから、ずっと逃げてた」
「一年間も、独りで、ずっと?」
4 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:10:21.26 ID:Q0oCDZXlo

光子は言葉を上手く継げなかった。あまりの苦境だと思う。何故この子が、と言わずにはいられない。
そしてそれは、当麻にとっても同じだった。

「なんだよ、それ……」
「とうま? どうして怒ってるの?」
「なんでお前がそんな目にあわなくちゃいけないんだ?」
「きっとそれが、私の決めた生き方だから」
「インデックス」

理不尽を嘆いても、誰も責めないだろう。
この幼い少女がこんなにも追い詰められた生活をしているのだ。嘆くぐらいは許されたっていい。

「何も覚えてないんだろ? 誰かに無理矢理押し付けられた生き方かもしれないじゃねーか」
「確かなことは分からないけど。でもねとうま。私が記憶している10万と3000冊を、他の人には背負わせられないよ。
 普通の人の普通の幸せを守るために、こんな狂信と敵対心の詰まった本を
 誰かが引き受けなきゃいけないんだったら、私はそれを引き受けるよ」

それはインデックスの、決意だった。決して人並みとはいえない辛い人生を、
すでにインデックスは自分で選択している。
光子も当麻も、それぞれ乗り越えなければならない壁や苦労を毎日背負っている。
だが切実さが、比べようもないほどインデックスとは違っていた。

「貴女も、私たちと同じような、平凡な幸せを満喫できればいいのに」

どこか悔しそうな、そんな響きを持った一言だった。
それを見てインデックスは笑う。当麻は怒ってくれた。光子は悔しがってくれた。
短い付き合いでも、そうやって思ってくれる人がいれば、まだ頑張れる。

「とうまとみつこがいてくれるから、これからは幸せだよ。ずっと一緒にはいられなくても、
 私のことを気にかけてくれる人がいるってことは、それだけで幸せなんだから」

むしろインデックスが二人を慰撫するように、優しく微笑んだ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 19:10:59.72 ID:D1P7uOJBo
おや、こっちでも始まるの。
6 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:11:30.72 ID:Q0oCDZXlo

「……結局、やっぱりゴールはイギリスの『必要悪の教会』ってことになるのか」
「そうだね。とうまとみつこに一生助けてもらうことは出来ないから。
 そこまで帰れれば、あとは同じ教会の人たちと助け合えると思う」
「それが、きっと良いのでしょうね」
「うん……」

まだ実感はないが、寂しさがないでもない。
それに結局、『禁書目録』という生き方をするインデックスを自分達の世界に引き入れることは出来ないのだ。

「あの、ホントにいいんだよ。私は、とうまとみつこがここで見送りをしてくれても、
 恨んだりしないし、もう、充分嬉しい気持ちにさせてもらえたんだから」
「それじゃ逃げ切れないって結論が出てるだろ。体調も万全とは言えなくて、
 しかもスタート地点からすでに相手にばれてるこの状況じゃ」
「それで、やっぱり飛行機でイギリスまで行くしかないということでよろしいのね?」

シルクロードを伝うなんてまるで現実的じゃない。
異教の民の渦巻くそのルートは、腹を空かせたライオンの群れの隣を歩いて帰るようなものだ。
船も長旅になる。補給も必要で、いつか船に乗り込まれてしまったらそこでおしまいだ。
相手を振り切って飛行機に乗って、そのまま一足で『必要悪の教会』までたどり着いてしまう、
それが唯一の方法だった。

「飛行機っていってもな……お前、パスポートとかあるのか?」
「ぱすぽーと? なにそれ」

相手はどうやって日本に来たのかも分からない少女なのだった。

「もしかしてこれかな?」
「ああ、持っていますのね。……って、これは」
7 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:13:13.98 ID:Q0oCDZXlo

懐から取り出したそれは、確かにイギリス国民のパスポート。しかし渡航暦は全くの白紙。
偽造でもないようだからちゃんと渡航はできそうだが、手続きのときに問いただされそうな不安を感じる。

「ま、まあ有るんなら飛行機には乗れるんだな」
「でも当麻さん。この子は学園都市のIDを持っていませんのよ?
 外の空港には出て行けないし、中の空港だって、IDのチェックで引っかかってしまいますわ」
「げ、そうか……」

情報の漏洩には厳しいこの街のことだ、こっそり飛行機に忍び込むなんて真似は、絶対に出来ないだろう。
つくづくインデックスがこの街に入ったことは困難の原因だと思う。これでは脱出もままならなかった。
申し訳なさそうに、インデックスがうつむいた。

「飛行機にさえ乗れれば、道は切り開けるってのに」
「そうですわね」

悩んでいる暇も、実はそうない。
すぐに襲ってくる素振りこそ見せないが、相手もインデックスを捕まえる準備をしていることだろう。
それに、黄泉川が警備員として、いずれインデックスをどうにかすることになる
。完全記憶能力を持った少女を学園都市がすんなり開放するわけがない。
黄泉川はそれなりに信じられる相手だったが、
黄泉川が従わざるを得ない学園都市の意思というのには、二人は信用を置けなかった。
当麻は街の裏路地を歩く程度には学園都市の『表』以外の部分を知っているが、
禁止薬物の売買や企業スパイなどとはさすがに無縁だ。
強引にインデックスをイギリスへと飛ばす方法が、思いつかなかった。
申し訳なさそうに、インデックスがうつむく。その頭をぽふりと光子が撫でて、

「二十四日の夜、ちょうど三日後ですわね、第二三学区で新型航空機の、性能実証試験がありますの」

すこし自慢げにそう言った。
8 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:14:37.23 ID:Q0oCDZXlo

「実証試験?」
「中型なんですけれど、戦闘機以外では学園都市どころか世界でも一番早い音速旅客機になりますわ。
 最高速度は時速7000キロ超。私、この旅客機を撫でる表面流の摩擦低減のための材料開発を担当していましたのよ。
 材料創生は私の仕事ではありませんけれど、どんな機能や構造を持った表面であれば望み通りの物性が発現するのか、
 理論的な側面から候補になる新規材料の評価とスクリーニングを手伝ってきましたの」
「光子、それって」

財布から光子が一枚のカードを取り出す。学生証とは別になった、機密の多い第二三学区への入区許可証だった。

「実証試験は、日本イギリス間の往復が課題ですわ。
 最高速度のベンチマークテストと、振動や騒音などの旅客機としての品質テストをやる予定ですの」

比較的イギリスには学園都市との協力機関が多い。
まさかインデックスとはなんの因果関係もないだろうが、その偶然はまさに渡りに船だ。

「部外者が乗れば勿論犯罪ですから、コンテナ辺りに忍び込むことにはなると思いますけれど。
 それでも普通の空港よりずっと確実でしょうね」
「……いいのか?」

失敗すれば、光子は極めて辛い立場に立たされることになるだろう。
上手く行っても、疑われるようなことがあれば同じだ。
はっきり言って、光子にとってはデメリットの多い行いになるだろう。

「あの飛行機はもう私の手を離れていますし。それに開発者としての信用が失われても、別に構いませんわ。
 そういう生き方をこれからもするつもりじゃありませんもの。ねえ当麻さん?」
「え?」
「こういう逃げ方はよろしくないのかもしれませんけれど。私が一番なりたいのは当麻さんの妻ですもの」

ぱしっと肩を叩かれた。インデックスがニヤニヤしていた。
そっぽを向いて頬しか見えないが、光子が真っ赤なのはよく分かった。
おそらく、当麻も同じなのだろう。

「そ、それじゃ、光子。いいんだな? そのプランで」

返事をせず、こっちも見ないで光子はコクコクと頷いた。

「それで、その二三学区っていうのは遠いの? この家からそこまでが、一番危険な道のりなんだよ」
「大丈夫ですわ。それにも、案がありますから」

つまりは、妙案を持っているのは完全に光子のほう、ということだった。
9 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:15:51.06 ID:Q0oCDZXlo

「あの子はどうだい?」
「さきほど少し見えました。傷は塞がって、歩けるくらいにはなっているようです」
「そうか。他に誰がいる?」
「あの少年達はいるようですね。それと家の持ち主は朝出かけました。それ以上は分かりません」
インデックスの匿われた部屋は、マンションの13階だ。
それなりに高い場所にあるせいで、1キロ以上離れたところにある高層ビルの屋上からしか中を窺うことが出来なかった。
しかも間取りを手に入れたところ、あの家はかなり広い。神裂から見えないところに、5人以上は匿えそうだった。
最悪の場合、あの家には禁書目録を手にした魔術師に加えて超能力者、そして魔術を打ち消す少年がいることになる。
その見積もりで行けば、人数でも実力でもこちらを上回る。
カーテン越しに横顔を見るのが精一杯の現状では、相手の会話を拾うことも出来なかった。
まさか禁書目録を相手に、魔術を使った盗聴など出来るはずもない。

「……幸せそうですよ、とても」
「……」

ステイルは応えず、カチンとライターの蓋を開けた。くわえた煙草に火をつける。
神裂は憂鬱そうな表情で、カーテン越しにごく薄くだけ見える三人の影を見つめた。

「あの少年達の真ん中に座って、三人で、幸せそうにしていますよ」
「儚い思い出さ。どうせ、あと一週間もしたら、なかったことになるんだ。全部ね」

淡々と、ステイルが紫煙を吐き出す。
神裂はいつも、こういう時のステイルの態度を測りかねていた。
強がりなのだろうか、それとも過去の出来事を乗り越えたのだろうか。
まさか、どうでもよくなったとか、そういうことではないだろう。
二年。あの子に忘れ去られて、あの子の敵になってからもうそれほどの時間が経つ。
それだけの時が流れてもなお、時折この境遇が神裂の心をギチギチと締め上げる。
10 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:16:40.16 ID:Q0oCDZXlo
「かつての自分達を、重ねずにはいられませんね。あの構図は」

神裂とステイルの間に座って、ああでもないこうでもないとはしゃいだインデックスの姿が、今でも脳裏に浮かぶ。
そしてそのヴィジョンにはいつも『最期』の姿がおまけとして付いてくる。
誰にも悟られないよう、胸につかえた鈍く重たい何かを、ため息と同時にそっと吐き出した。
――――全てを教えれば、あの二人はインデックスのために泣きじゃくるのでしょうか。
自分達の背負った苦しみを、あの二人にも背負わせてやりたいような、暗い気持ちがかすかに芽生える。

「関係ないよ。僕らはこれからずっと、あの子のためにあの子から全てを奪うんだから」

気負いのない態度で、ステイルはそう応えた。神裂にもその決心はある。
だが、きっと飄々とした態度のステイルのほうがきっと、神裂よりも強い覚悟があるのだ。

「それで。準備のほうはどうなっているのですか」
「あのマンションにうっかり焦げ痕を残したせいで、ちょっと近寄りがたかったけど、ようやく落ち着いてきたね」

ステイルは今、あそこに攻め込むのに必要な術式を組上げているところだった。
魔術は思い立ったらすぐ、で使えるほど便利なものではない。
相手を逃がさないだけの規模の魔術を構築するには、時間が必要だった。

「攻め入るまでに、どれほどかける予定ですか」
「60時間。僕はこれがベストだと思ってる。
 あっちがどういうつもりで篭城しているのかよく分からないけれど、
 あの子の回復を待っているのなら、ちょうどそれくらいの時間にあちらも動き出すだろう。
 未完成でも45時間後くらいで動けるようにはしておくから、何かあれば連絡をくれ」
「分かりました」

そう言ってステイルは、神裂のいる屋上の壁の目立たないところにルーンをぺたりと貼って、挨拶もせずに出て行った。
残り15万枚。マンションの周囲2キロに渡って、ステイルはルーンを刻み歩く。
神裂の仕事は、準備が終わるまで、幸せそうな一つの家庭を複雑な気持ちで眺める、それだけだった。
11 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:17:50.11 ID:Q0oCDZXlo

「おっふろ♪ おっふろ♪ おっふっろー♪」
リビングでインデックスが、そんな歌を歌っている。
昼からも何をするでもなくだらだらと家で過ごし、時刻はもう夕方だった。
インデックスが少し遅めの昼寝をしている間に、光子と二人で野菜や肉を調理して、
後は時々灰汁を取れば終わりの段階だった。
作ったのはカレー。光子に無理なく手伝ってもらえるし、分量も稼げるから便利だった。
……まあどこから見ても新品だった鍋を使うのに抵抗はあったが。
台所の横を光子が横切る。和室に置いておいた着替えを持ってきたようだった。

「それじゃ、入りましょうか。インデックス」
「うん!」
「当麻さんは、ちゃんとお料理の様子を見ていてくださいね?」
「あ、ああ。わかってるって」
「別に私達の様子を見にいらっしゃらなくって結構ですのよ?」
「しないって!」

まるで信用されていないことにトホホとなる。

「とうまは全然信用できないもん! ねー光子」
「信じられないなんて言いたくありませんけど、当麻さんは、ねえ」
困りますわよねえ、なんて感じでインデックスと頷きあって、二人はバスルームへ向かった。
「昨日のあれでは拭き残しもあったでしょうし、ちゃんと洗ってあげますわ。インデックス」
「うん。ありがとねみつこ」

ひとりで風呂に入らせるとまだ危なっかしいインデックスに、光子が付き添う。
扉二枚を隔てたその先にお花畑があるのが、ちょっと悶々とするところもある当麻だった。
邪念を振り払いつつ、カレールーのパックをあける。
軽く割ってぽいぽいと鍋に放り込んで、焦げ付いたりジャガイモが煮崩れたりしないように
少し注意しながら混ぜて、頃合を見て火を落とした。
ちょうどそこで、鍵がガチャリと開く音がした。
一瞬身構えたが、見知った長髪の美女、この家の家主だと気づいてほっとする。

「ふいー」
「あ、先生お帰りなさいです」
「へっ? ああ、上条いたんだっけか。ただいま。良い匂いがするじゃんよー」
「今日はカレーです」
「いいなぁ。帰ってきたらご飯を作ってくれてる同居人がいるって」
「彼氏作って同棲したらいいんじゃないですか」
「彼女持ちがそういうこと言うとムカつくじゃんよ」

軽く当麻を睨んで、手にしたリュックサックをリビングの所定の位置にやってうーんと伸びをする。
胸の揺れが大胆すぎて、思わず当麻は目を逸らした。まったく黄泉川は頓着しない。

「ご飯とお風呂、どっちにします?」
「ぷっ……上条、お前それ似合いすぎじゃん。それじゃあ風呂に入ってくるかな」

やけに主夫が板に付いた当麻の態度に黄泉川が噴出した。
独り暮らしをしてるんだから学園都市の男子はこんなもんだと思うんだけどな、と当麻は憮然となった。
12 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:18:17.39 ID:Q0oCDZXlo

「あ、先生。いまインデックスと婚后が入ってるんですけど」

黄泉川を当麻は止めようとした。さすがに三人目は入れないだろうし、待つ必要がある。
黄泉川は違う違うといった風に手を振った。

「分かってるよ。手を洗うだけだって」

そしてガラリと洗面所の引き戸を開けた。



「えっ? きゃあっ!!」
「あー、ゴメンゴメン」
「先生早くお閉めになって! 当麻さんに、その、あの……。当麻さん!」
「ごごごごめん!」

洗面所にはブラとショーツだけしか身に着けてない光子が、インデックスに服を着せているところだった。
インデックスはすでに服を気負えていたせいで、難を逃れた。
デザインは黄泉川先生並に色っぽい。布地が少ないとかそう言うことはないが、
清楚な常盤台の制服の下にあんなワインレッドの下着をつけているのかと想像すると、
なんというか、こう、当麻も男の子なのである。
胸を庇うように腕を畳んだ光子が可愛い。
スタイルには気を使っておりますし、自信もありますからと豪語する光子だが、さすがに不意打ちは恥ずかしいらしい。
……正直に言って、インデックスや黄泉川先生よりも、光子の体に当麻はドキドキした。
13 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:19:10.80 ID:Q0oCDZXlo

「……当麻さんの莫迦」
「う、でもあれは俺が悪いんじゃないと言いたい」
「間接的にでしたけど、きっと当麻さんが悪いんですわ」

髪を濡らしたまま出てきたインデックスとは対象に、光子はしばらく洗面所から出てこなかった。
唇を尖らせて文句を言う光子の頬は、まだ赤かった。

「でも、下着姿の光子、やばいくらい可愛かった」
「……もう。嬲るのはお止めになって」
「本当だって」
「どうしよう。今つけている下着がどんなのか当麻さんに知られてるなんて。落ち着きませんわ」

ひそひそ声で、二人はそんな会話を交わした。
今回は光子以外に被害がないので、怖いことはないのだった。恥ずかしがる光子がひたすら可愛い。

「あっ。て、天気予報の時間ですわ」

話を打ち切るように、テレビの前にいるインデックスの隣に光子が逃げた。
タオルでさらにインデックスの髪をぬぐいながら、一週間分の予報に耳を傾ける。

「良かった。24日は、夜までずっと晴れですわ」
「この街って天気の予知を無料で聞けるんだね。これって当たるの?」
「予報って言ってくれ。予知だとこの街じゃ別の意味になっちまう。
 で、この予報だけど、学園都市じゃ的中率100%だ。原理的に外れないんだよ」
「え?」
「お前だって算数くらいは出来るんだろ?」
「当たり前でしょ。馬鹿にしてるね、とうま」
「時速100キロで走る車は1時間で何キロ進むでしょうか」
「引っかけ問題なの? ……100キロに決まってるんだよ」
「なぜそう分かる?」
「なぜって……馬鹿にしてるの? とうま」

タオルをかぶったその顔で、インデックスは当麻を睨みつけた。

「そうじゃねーよ。今のは簡単な算数のレベルだけど、
 必要な情報をそろえたら未来のことでも分かる、ってのが科学だってことさ。
 もしこの地球に存在する全ての空気分子の動きを計算できたら、それって未来を予測できるって事だろ?
 学園都市の上に浮いてる『おりひめT号』って衛星に積まれた
 『樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>』ってスーパーコンピュータが、それをやってるんだ」
「分子? こんぴゅーた?」
「まあ、人間よりも計算の上手い機械に、一から全部計算してもらってるから正しい、って事だよ」
「ふうん。よくわからないけど、信じていいってこと?」
「……当麻さんの言っていることは間違いですけれど。およそ外れない、という意味では信じてよろしいわ」

黙って話を聞いていた光子が、仕方ないというように軽いため息をついて答えた。
そして間違いを指摘する時の先生のような表情で、光子が当麻を見つめた。
14 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:19:58.04 ID:Q0oCDZXlo

「当麻さんのそれ、よく巷で流れている説明ですけれど。そんなやり方で予測をしているはずがありませんわ」
「え……? そうなのか?」
「もう、計算科学なんて基礎の基礎……あ、ごめんなさい。自然科学系の能力者でもなければそうとまでは言いきれませんわね」

光子がタオルでインデックスの髪を拭くのを止めた。そして傍に置いたドライヤーで、髪を乾かし始める。

「たとえばここにある22.4リットルの空気。この中に空気の分子が一体いくついるかご存知?」
「アボガドロ個数個だから、6.02×10の23乗個だろ?」
「そうですわ。その全ての分子の、今この瞬間の情報を記憶するとしたら、どれくらいのデータ量になるでしょうか。
 仮に16桁の精度で位置と速度のベクトルを記憶したとすれば、
 三次元空間なら一つの分子につき384ビット、22.4リットルの空気なら2.3×10の26乗ビット、
 つまり200ヨタバイトくらいのメモリが必要ですわね。ヨタって分かります?
  当麻さんの携帯はあまり新しくはありませんからテラバイトくらいのオーダーでしょうね。
 たった22.4リットルの空気の情報を記録するのに、当麻さんの携帯が1兆個くらい要りますのよ。
 地球上の全ての空気は、その一兆倍でも足りませんわ」
「えっと……まるで実感が湧かないな」
「ええ。それだけの情報をメモリに保存して、読み書きをするのは大変なことですわよ」
「だから無理、ってことか?」
「無理な理由なんていくらでもありますわよ。
 空気の流れはナビエ・ストークス式で解くわけですけれど、その微分方程式を解くには初期条件が必要ですわ。
 つまり、計算の始点になるある瞬間の、
 世界中に存在する全ての空気分子の位置と速度のベクトルを把握する必要があるということです。
 そんなこと、超能力者でもなければ出来ませんけど、
 そんなことが出来る超能力者はレベル5程度ではありえませんわ」

空力使いだから、だろうか。なんだか口調が当麻をたしなめるようで、謝ったほうがいいのだろうかと思案してしまうのだった。

「それにこの世界は量子力学が支配していますから、どこまでも確かなこと、なんて絶対にありませんのよ。
 過去も未来は一つに定まらない、というのが科学の常識ですのに」
「えっと、その、すみませんでした」
「え? あの。……ごめんなさい当麻さん。口が過ぎましたわね」

はっと我に返ったように、光子が謝った。充分に乾いたらしく、インデックスの髪に当てていたドライヤーを切った。
途中から話についてくるのを完全に放棄したインデックスが、ぽつりと聞いた。
15 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:20:59.21 ID:Q0oCDZXlo

「結局、この人の言ってることって信じていいの?」
「ええ。原理上、100%なんてことはありませんけれど、99.9%くらいまでは正しいですから」
「なあ光子。『樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>』がそんなにすごいわけじゃないのなら、
 何で外と違って学園都市の予報ってこんなに当たるんだ?」
「それは私達、空力使いの努力の賜物ですわよ。確かに気象というのは予測のしにくいカオスな所はありますけれど、
 外の学者はカオスという言葉を言い訳にしすぎですわ。
 カオスではないものにカオスであるってレッテルを貼って逃げたりせず、真摯に誠実に、
 空気の流れというものを見つめれば、もっと精度の高い予測モデルを組み立てられる、
 それだけのことです。この街には空気の流れが『見える』能力者が多いですから、
 もちろん大きなアドバンテージを持っているわけですけれどね」
「へー……ごめん。完璧には理解できてないかもしれないけど」
「ううん。こっちこそ熱くなってしまってごめんなさい。
 でも、『樹形図の設計者』は力技で何でも出来る夢のスーパーコンピュータではありませんわ。
 結局、外から見てもたかだか30年しか進んでいない技術ですもの。
 分子レベルで世界の全てを演算することなんて、それ自体がこの街の最終目標そのものですわ」

小萌先生が時折口にする『SYSTEM<神ならぬ身にて天上の意思にたどり着くもの>』という言葉。
当麻はそれを思い出した。
軍事にも民生にもとてつもなく貢献しているレベル5の超能力者でさえ、学園都市にとっては副産物でしかない。
――神様にしか分からないことを理解するために神様みたいな人間を作る
超能力者の総本山は自分達のスローガンが神学的なことを、むしろ逆説的に愛していた。


バタリと、そこで風呂の扉が開く音がした。黄泉川先生が広から上がった音だ。
「あ、あいほが上がってきた。ほらとうま、早くおふろ入って。
 とうまがお風呂からあがってこないと晩御飯食べられないんだから」
「ん。わかった。けど先生がちゃんと出てきてからじゃないと動けないだろ」
「むー。それはそうだけど」

インデックスに苦笑いしつつ当麻は腰を上げる。自分の着替えを整えるためだ。
なんだかんだでインデックスがご飯を待ってくれるのは、実はちょっぴり光子が怖いからなのだった。
16 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/06(日) 19:22:56.49 ID:Q0oCDZXlo
とりあえず書き溜めはこんなところで。
おつきあいしてくださる方が増えれば良いなあと願いつつ。

あ、宣伝してアレですが、SS速報でもう一つ連載中です。
よろしければそちらもひとつ。
上条「もてた」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1280634052/
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 19:35:11.17 ID:1mc389ZAO
こっちでもやるのか。とりあえず期待しておく。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:03:25.72 ID:PN/BXwik0
【このSSはクロヤマアリに監視されています】

|    。o O( お砂糖の匂いがします)
|┏ ┏ 
|・ω・`) ジーッ…
|ゝ .ノ┐
|'、_丿┐
|   ┗
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:06:42.13 ID:KK2TzKPWo
佐天さんがどう話の筋に絡んでくるのか気になるところなんだよなー
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:38:01.18 ID:2xeHmiMY0
こっちでやるのか
向こうは会員制で支援出来なかったから、これで支援出来るな
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:42:40.91 ID:mKBCZX+X0
向こうでも読んでた者じゃけど、もてたの人じゃとは気付かんかったわい。
と言うわけでそっちも読んできます。
この前アニメで久し振りに婚后さん喋ってたけど、声が違うような気がしたのは俺だけだろうか。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 20:43:42.90 ID:D1P7uOJBo
会員制って……単に固定IDってだけだろうに。
にじふぁんと間違えてないか? あそこは感想書くのも登録制だから。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 21:20:59.28 ID:UpyneCpO0
乙ー
どっちも楽しませてもらってるよー
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 21:59:41.09 ID:qng0RR4AO
佐天さんが能力者になっちゃったらポルターガイスト事件をどうやって解決するんだ
やっぱりあれか、キャパシティダウンに上条さんのそげぶが炸裂するのか
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 22:41:55.69 ID:vGQ4Y58V0
 こっちの方が読みやすいからほんとに有難い!
末永く続けてくださいね!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/06(日) 23:51:42.41 ID:KK2TzKPWo
しかしワインレッドて。
常盤台の辞書に「年相応」って言葉は無いのか。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:28:06.87 ID:JLEXv3mEo
お、これ好きだったんだ
更新が滞っていたから諦めてたんだが再開してたんだ
28 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/07(月) 00:44:31.19 ID:0leuCdfeo
お、なんか沢山コメついてる。嬉しい。
先の話はネタバレになるんで、まあ内緒にしておくな。

>>26
婚后さんは年相応のプロポーションじゃないからなぁ
てか美琴も黒子も下着が年相応かといわれると、あれだな。
常盤台はみんなああなのか

>>27
先月末から再開した。
バトルを書くのがとにかく苦手でさ。それで止まっちゃってたんですよ。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 00:54:59.30 ID:xnSep9rb0
 しっかし……60時間、無理すれば45時間か。
一番微妙なとこに持ってきたな……
 これを乗り越えても、色んな戦いが婚后さんを待ってるんだな。
上条さんは大丈夫として、頑張れ婚后さん!!
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:02:35.98 ID:y2iZlGHpo
よっしゃ読んできた
うずまき涙子の今後に期待
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 01:11:14.11 ID:X+LD3ssAO
>>30
佐天「ラセン丸ッ!!」
ともかく乙
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 04:05:45.33 ID:otRrAVJ/o
移転してたのか!!
光子可愛いよ光子。
若い二人のいちゃラブとそれを惚気る彼女がたまりません。
33 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/07(月) 10:22:00.65 ID:0leuCdfeo
>>29
原作どおりの時間なコレ。なので三人が動く日は原作で言えばインデックスと銭湯行く日なのです。

>>32
移転って言うかここに一度書いてからarcadiaに上げるってことっす
50行くらいでさっさと投稿できると気が楽だから
34 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/07(月) 10:24:26.35 ID:0leuCdfeo

怪我をしてから、きっかり三日。
夕焼けが街を真っ赤に色づけている。その日が落ちれば、動き出すことになっている。
インデックスはこの三日でかなりの回復を見せた。
はじめて見たときと同じ、瀟洒な刺繍の入った修道服に身を包み、頭にフードを載せる。
もう一人で歩くくらいは、何の問題もなかった。
とはいえ、これから敵に追われてかなりの距離を走るのだ。それには不安がないわけではない。

「もう、走れますの?」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃなくても、走ることになるけどな」
「そういうこと。それじゃあ、二人の準備はもういいの?」

光子と当麻は、コクリと頷く。
光子がインデックスの服のよれを直した。

「ねえ。もう一度だけ聞くね。本当に、私についてくるの?」
「ああ」
「ええ」
「ここでお別れしたほうが、二人は幸せかもしれないよ」
「それはない」
「そんなことをしたら、ずっと後味の悪いものが残りますもの」

インデックスは、もうそれ以上は聞くまい、と思った。
もし、本当の本当に危機が迫ったなら、自分が囮になれば二人はきっと助けられる。
一度相手を振り切れば、あとは自分ひとりで何とかなるのだ。
これまでもそうやって生きてきた。
今ここで二人と別れない理由は、相手に補足されているからではないと、インデックスは分かっていた。
別れたくないからだ。この数日間が自分にとってかけがえのないほど暖かだったから、
それを手放したくなくて、自分は二人の好意に甘えているのだ。
……心のどこかでそう分かっていながら二人を突き放せない。
それは禁書目録を背負う強い少女の、弱さだった。

部屋の明かりはまだ点いていない。いや、今日はもう点ける予定のないものだ。
黄泉川に書置きは残さなかった。
保護してくれた人間を振り切って逃げるのに、ありがとうを言う資格はないだろう。
インデックスはついさっき、昼まではあったその部屋の穏やかな空気に別れを告げる。
真っ暗で人のいないリビングは、何も返事を返さなかった。

「じゃ、行くか」
「うん」
「まずはこのマンションを無事降りるのが一番の仕事だな」
「だね」

当麻が、ドアノブをひねる。
ガチャリというありふれた音が、戦いの火蓋を、切って落とした。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 15:53:12.59 ID:o/HDFfj20
支援するんだよ
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 17:10:09.33 ID:xnSep9rb0
 さあ征け!!
続き超楽しみです
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:14:05.36 ID:cCCxloj4o
この上条さんは頭が良すぎると思うの
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 21:29:47.68 ID:xnSep9rb0
 >>37
婚后さんとつきあっているから少しましになったってことにしようそうしよう
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 23:20:28.95 ID:x+efRHFS0
戦闘シーンなんて「ドゴーン」とか「ガッ」っていう擬音でいいんじゃない?
原作でも多用してるし
40 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/08(火) 10:41:35.67 ID:R75puLMno

「な、なんか拍子抜けするくらいだな」
「……」

マンションを出てすぐ。
インデックスは廊下をざっと見渡して、あの炎の巨人を呼び出すルーンがないことを確認した。
そしてエレベータが近くの階にいたのを見て、それで降りてきたのだ。
当麻と光子にしても三日ぶりの下界だった。

「人が、いませんわね」

社会人の帰宅には少し早い時刻。おかしいとまでは言えない。

「思ったより、速いかも」
「え?」
「もう私たちの動きを知ってて、人払いの魔術が発動してる!」
「っ……走るぞ!」
「はいっ」

目指すは駅。沢山の人を乗せた交通機関に乗れば、相手は手出しが出来ないだ。
だからそれは相手の最も警戒していることでもあるだろう。
これは鬼ごっこ。
逃げるこちらは三人。そして追うあちらは二人と、そして。

「とうま! 右!」
「くっ、おおおおおおおお!!」

何の拍子もなく不意に現れる、炎の巨人。
発現からノータイムで襲ってくるそれは、インデックスの指示がなければ対応すら出来ない。
黄昏時のなんてことはない道路が真っ赤に照らされる中、当麻の右手が炎と拮抗する。
当麻一人なら、もうこの時点で詰みだろう。

「当麻さん!」

バイクが滑空する。
鈍重で知性を感じさせない炎の巨人は、ぼんやりとそれを受け止める。
粘性のベシャリという音とともにそれは飛び散った。

「光子! 無理するなよ」
「このくらい! 平気ですわ」
「超能力は使いすぎると消耗するんだから、光子は温存してくれよ」
「はい。分かっていますわ。でも当麻さんが」
「大丈夫。何とかなる」
「二人とも! もうこっちは終わったから! 行こう」

壁に黄泉川家から持ってきた果物用のペティナイフで
何かをガリガリと刻んでいたインデックスが走り出す。
41 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/08(火) 10:43:44.63 ID:R75puLMno

やることは変わらない。
顕現の前触れをインデックスが読み取って、当麻に指示を出す。
当麻が炎の巨人の腕をつかんで動きを止める。
光子がそこらにある何かを投げつけて、『魔女狩りの王』を吹き飛ばす。
そしてまた逃げる。それの繰り返しだった。
10メートルに一度、インデックスが壁や木にナイフで何かを刻む数秒と、
50メートルに一度、顕現しなおして襲ってくる『魔女狩りの王』をいなす数十秒が、
3人の足を止める障害だ。
全力で走っているはずが、結局ゆっくり歩く程度のペースにしかならない。

「あっちがこのままだったら、乗り切れるんだけどな」
「うん。とうまとみつこがいればこの術式だけなら楽勝だね。でも」
「もう一人」

インデックスを背後から切りつけた、あの女がいる。
あちらにこちらの動きが知られているのは明らかだ。
ものの数分で襲ってくるだろう。駅までは幸い1キロもない。
問題は、そうなる前にどこまで逃げられるか。
42 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/08(火) 11:11:14.96 ID:R75puLMno

「そちらの首尾はどうですか、ステイル」
「予定通りだけど、人払いに忙殺されそうだ」
「では『魔女狩りの王』のみの参戦で貴方は裏方に徹するのですね」
「そうなるね。ま、止めは君に任せるよ」
「誰も死なせる気は、ありませんが」
「そうかい」

息一つ切らせず、神裂はビルの最上階から地上までを降り切った。
エレベータよりも自分で降りたほうが早い。
その膂力を遺憾なく発揮して、神裂はインデックスたちとの距離を詰めにかかる。

殺したくない、と神裂は思っている。
確証はないがインデックスを匿った少年少女は、禁書目録を悪用する気のある人間に見えなかった。
もっと素朴な好意で、匿っているように見えた。
昨日と一昨日の二日間は、チリチリと自分の中の思い出を焦がすような嫌な気持ちを感じるくらい、
彼らは極自然に、仲睦まじく見えたのだった。
自分の直感が正しいのなら、あの二人は自分が刀を振るっていい相手ではない。
――もちろん、インデックスを救うことよりそれは優先しない。
結局、自分は二人を死なない程度に痛めつけることになるのだろう。
誰も傷つかないで、誰もが幸せになることはもう、諦めていた。

「お願いだから、あの子を素直に渡してください」

まだ上条たちに対峙もしていない。
聞こえるはずのないお願いを誰にともなく呟く。
話し合いの出来る相手であって欲しい。
もしそれが叶う相手なら、まだしもましな未来を全員に配り歩ける。

神裂の目が夕闇を走るインデックスを捉えた。
純白の修道服はよく映える。
逃げられやすくなるという意味で不都合のはずだが、
足取りが確かであることに、神裂は安堵した。

「止まりなさい!」

その一言で、三人がびくりと振り返った。
だが覚悟は決めてきてあるのだろう。誰一人、足を止めなかった。

「言い方が悪かったですね。止まらないのもご自由ですが、その子の回収だけはさせていただきます」

ギリ、と自分を睨む少年の顔を見つめ返した。
――と同時にコンクリート辺が、神裂めがけて飛んでくる。
七閃でそれを落とす。神裂にとってどうということのない攻撃だった。

「そちらこそ、言葉一つで説得されてはいただけませんの?」
「申し訳ありませんが、そうもいかない事情がありますから」

意志の強そうな瞳。敵は少年一人ではないことを神裂は確認した。
43 :nubewo ◆sQkYhVdKvM :2011/02/08(火) 14:05:59.83 ID:zWiIYZf00
>>37
>>38の意見を採用する。
いやでもね、実際学園都市の学生ならこれくらい知ってると思うの
ちょっと神様(かまちー)が理系苦手なせいでああなってるけど。

>>39
いやー、それはそれで苦手でな
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 15:28:41.31 ID:AOdgwCuZo
>>43
二重で投稿になるが、理想郷の管理人にはちゃんとお伺いたてたん?
45 :nubewo ◆sQkYhVdKvM :2011/02/08(火) 15:40:37.45 ID:e/3Uxq9p0
管理人の舞さんは個別の案件に対応できない忙しさなので、ご本人にお伺いはしてないね。
利用規約に二重投稿は盗作疑惑がめんどいから、
どっちのサイトにも二重投稿してるってことを明記してくれってあるので、
いちおうその支持には沿ってるよー
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 15:43:18.40 ID:AOdgwCuZo
>>45
ならいいや
すまんな、ちょっと気になったもんで
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 20:21:49.54 ID:fdTz0irAO
理想郷で見かけて気に入ったのに更新が途絶えて残念だったが、こういう手法を取ったかw
何にせよ、更新の目処が立ったのはありがたい。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 00:20:54.59 ID:oMtYvrN10
こういうのを見ていると、上条さんには守られヒロインよりも共に闘うパートナー的ヒロインの方が相性が良いと思えるな
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 01:39:39.02 ID:OBY/2Gmb0
 >>48 どちらかと言うとそう思う。
しかもそれ相応に強くないと、
これから上条さんが戦っていく相手に一切歯が立たなくなっちまうし……
50 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/09(水) 10:25:49.73 ID:h338HegCo
追いすがる神裂に、もう一片、コンクリート片が飛んできた。
先ほどと同じ。神裂の足を全く緩めさせることのない無為な攻撃だった。
無駄と思いつつも、忠告はする。無駄と思いつつも、それで相手の心が萎えてくれればと僅かに願うからだ。

「無駄です。意思やコンクリートなど、一瞬と言われる時間に七度は切り捨てられますから」
「じゃあ、炎は切れるの?」
「えっ?」

久々に、あの子から話しかけられた。
不敵に笑った目で、憎憎しげに見つめられながら。

「――――っ!」

呼吸が止まる。瞬間、右に弾け飛ぶように逃げた。
『魔女狩りの王』が神裂のいた場所を抱きしめた。

「まさ、か。もう」
「ちょっと読むのに苦労したけど。ルーンなんて所詮はラテン文字の亜種なんだから。
 ゲルマン系とラテン系の古語を知ってれば知らない文字があっても読めるんだよ」

神裂は背筋が寒くなるのを感じた。
ステイル・マグヌスは失われたルーン文字を復活させ、新たに力ある文字を加えるほどの術者だ。
あの年齢にして、ルーン使いの中ではトップクラス。
そのステイルが己の全てをかけて編み出したのが『魔女狩りの王』だ
それを、インデックスはほんの一瞥で読み取り、それどころか逆手にとってしまっている。
それは魔術師としての底を見透かされたようなものだった。
インデックスという少女が蓄えた知識、それが凄まじいものであることは神裂も知っている。
だが、それを自分達に向けて振るうとどうなるのか。
――――手の内を明かしてはならない。
自分が何者なのかを知られればどんな『毒』を吹き込まれるか、分かったものではない。
神裂は、自身の使える魔術の大半を封じられてしまった。

インデックスが何かを呟く。
再び、『魔女狩りの王』は禁書目録の命に従い、神裂に襲い掛かった。
遠隔操作なのがまずい。ステイル本人が目の前にいれば、操作を奪い返すことも出来るだろうに。

「くっ!」

無様に『魔女狩りの王』から逃げる。
防ぐために魔術を使うことすら許されない条件では、神裂にもそれしか手がなかった。
いや、唯一手はある。
なんの手加減もせず、全力の抜刀術をもって『魔女狩りの王』と少年達切り殺せばいい。
正確には、何の手加減も出来ないのだが。
禁書目録は恐ろしい存在だが、単体ならただの非力な少女なのだ。
……だから三年前、自分は彼女の傍にいたのだ。

「切らなければ、ならないのですか」

神裂は呟く。出来ることなら、と辺りを見渡す。
幸い『魔女狩りの王』は鈍重だ。次に襲い掛かってくるまでに退路を確保しようとして、
『魔女狩りの王』が突然進路を変えて相手の少女に襲い掛かった。
51 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/09(水) 10:28:40.42 ID:h338HegCo
>>47
まあ連載そのものはちょっと前から理想郷で再開してたんだけどね。
コツコツ書くほうが平均として更新速度が速いことに気づいたから、
コッチで書くことにしたのよ。

>>48 >>49
守られヒロインはあっというまに窓際に追いやられるからなぁこの作品だとww
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 11:57:24.83 ID:OBY/2Gmb0
 乙!!流石インデックスとしか言いようがない……
インデックスだって、ちゃんと戦えるんだよとうま!!
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 14:22:20.59 ID:ObIMdqxDO
今日一気に読んだ
すごいおもしろい

佐天さんパートだけで一本書けるレベルのおもしろさ
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 15:49:32.00 ID:km7DzzkI0
婚后さんは原作ではあんまり強い方じゃないから化け物揃いの魔術師たちとどう立ち回るか
wktkが止まらない
55 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/10(木) 12:53:13.25 ID:LWcvl9pr0
>>52
インデックスと当麻は二人とも、魔術師にとって最悪のジョーカーだからな。
戦う場があればちゃんと戦えるんだよねー。

>>53
佐天さんパートが実は俺も書きたいんだけどなかなか出番がないっていう。。。
活躍はもうちょい先だなぁ。

>>54
ほんと苦労してるよ。。。光子さんはあまり汎用的な能力じゃないので。
まあでもだから面白いってのはあるな。

続きは夜にでもー
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/10(木) 19:51:14.56 ID:ON1SYQXR0
待ってるよ

戦闘シーンは他のSSを参考にするのもいいかも
57 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/10(木) 23:46:25.59 ID:9gn4ppiio

「光子!」

神裂とは違い、あちらの陣営には魔術に対するジョーカーがある。
上条の右手が『魔女狩りの王』の身動きをあっさりと封じた。

「そういうことですか。ルーンを書き換えた場所でしか、貴女は『魔女狩りの王』の制御を奪えないのですね」
「とうまがいればそれでも充分だけどね」
「そうですか?」

返事をするのと同時に七閃を繰り出す。
滑空する自転車と、神裂に向かっておかしな勢いで倒れこむ樹木を細切れにした。
どちらもあの少女の能力だろう。それで足止めをする気らしい。

「私の足止めが甘いように思いますが」
「もう終わったけど?」

上条が押さえていた『魔女狩りの王』が姿を消して、また神裂に襲い掛かる。
ルーンは木にナイフで刻むもの。習字のような丁寧なものではない。
『魔女狩りの王』が正しくあちらを攻撃するのは少しの間だけ。

「ふっ! ……成る程、厄介ですね」
「当麻さん! 速く!」
「おう!」

三人は住宅街の信号のない道を抜けて、駅前大通りに抜け出た。
閑静だった住宅路とは違い、いつもよりずっと少ないものの車の往来がある。
まさに今、人の気配が消えつつある場所のようだった。

「やっぱり。こんな大都市の駅前から5分で人を消すことなんで無理なんだよ」
「ってことは一旦逃げ切れたってことで良いのか?」
「楽観されては困りますね!」

『魔女狩りの王』を避けながら、こちらに神裂が追いすがってくる。
もうすぐにあちらも大通りに出てくることだろう。
こちらが開けたところにいて、あちらが隘路にいる。この一瞬がチャンスだった。

「光子」
「ええ。分かっています」

婚后光子の能力は、豪快だった。
本当は繊細な能力の使い方もあるのだが、本人の性格のせいか、とかく『ぶっ放す』ことが多い。
今しようとしていることは、その際たるもの。

神裂はチラリと目の前の少女と目が合ったのに気づいた。
それで、何かを仕掛ける気なのだと看破する。戦い慣れのしない、分かりやすい視線だった。
先手を取られる前にこちらから仕掛ける、そう決めて踏み足にぐっと力を込めたところで。

ぶわっと、足元から突風が吹き出した。呼吸が止まる。
この風速ではフルフェイスのヘルメットでもして口元の風を緩めないと息も出来ない。
体に先んじて吹き上げられた長髪に痛みを感じながら、神裂はなすすべなく大空に舞い上がった。

――――やられた。
神裂は空で自分を動かす方法を知らない。落下までの五秒がひどく緩慢だった。

「凶刃を振るう貴女に、手加減はしませんわ。この子を傷つけたことを後悔なさい」

視界の外から、冷ややかな声が聞こえた。
身の危険に戸惑っていた先日とは雰囲気が違う。
次の瞬間。
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ
圧縮空気が激しく空気をかき乱す音と共に、重量1200キログラムのそれが、持ち上がった。

「な……っ!」
「死なないように受身をお取りになることね」

神裂に出来るのは斬ることだけだ。だが切ってなんになる。運動量は切ったところで減りはしない。
目の前に迫る乗用車に対し、神裂に出来ることは何もなかった。

ガゴッ!!

神裂は、時速30キロで空を飛ぶ乗用車に、なす術もなく轢かれた。
58 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 00:42:47.66 ID:xXqqEL8Jo

ガヤガヤとしたショッピングモールを足早に駆け抜ける。
人払いが全く効いていないのか。それとも諦めたのか。
夕暮れ時の駅ビルの中は帰宅中の学生達で一杯だった。

「着いてきていますの?」
「わかんないんだよ。魔術の気配がしないから」
「それは逃げ切れたって意味じゃねーのか」
「探してるのは間違いないから。それに追いかけるのが専門の相手から逃げ切ることなんて簡単には無理」

土地勘のある上条の先導で人ごみを突き進む。
長髪の女に対しては、あれから三台くらい車を住宅路の先にねじ込んで、道をふさいでおいた。
迂回したのか乗り越えたのか、その光景に立ち会うより先に三人は駅前に飛び込んでいた。
今のところ、あの赤髪の神父からもあの女からも、見つかっていないように思う。
もう目と鼻の先には、最上階にあるモノレールの駅へ通じる広場があった。

「まだ走れますの?」
「大丈夫だよ。光子こそ、まだ疲れてない?」
「ええ。大したものは飛ばしておりませんから」

インデックスのしっかりとした足取りにほっと一息をついて、再び前を向いて走り出したとき。
光子はドシンと人とぶつかった。

「ごめんなさい」

一言謝って、あとは無視する気だった。知らぬ人の心象が悪くなったところで、どうでもいい。
だが、その人から、声をかけられた。

「あ、婚后さん?」
「佐天さん!?」
「どうしたんですか?」
「いえ、その」
「みつこ!」
「ごめんなさい、今急いでいますの。お話はまた今度」
「え?」

佐天は友達と遊んだ帰りに、駅前をぶらついているだけだった。
急に会って驚きはあったが、できれば光子にいろいろと報告したかった。
だが後姿はもう人影にまぎれ始めている。
――知り合いと一緒にいて、やけに焦ってるみたいだったなー。婚后さん。
この時間は五分に一度電車が来る。あんなに焦って一体どうしたのかと首をかしげた。
いや、焦りというよりはむしろ、緊張感に近かったような。

まあいいやと忘れようとしたところで、ふたたび背後からカツカツと足早な音を聞いた。
振り向くと、気持ち悪いくらいの赤髪の、長身の神父がいた。
終日禁煙指定の学園都市の公共スペースでくわえ煙草をするその姿は、衆目を集めずにはいられない。
佐天も多分に漏れず、その神父を凝視してしまう。
……と、その神父が辺りを見渡して、光子たちがいる方向に目線を合わせて、すぐさま歩き出した。

直感で、佐天はその神父と光子たちが関係が有るのだと、そう感じた。
光子たちは神父にまだ気がついていないように見える。
自然と次に佐天が取った行動は、思慮の結果というよりは、直感に近かった。

「婚后さーん! こっち!」

ぶんぶんと、探していた友達を呼ぶように手を振る。
それなりに声を出したから、近くの人たちがいっせいに佐天を見た。
もちろん、光子たちも。そして佐天の意図どおり、佐天以外の誰かを見つけたのだろう。
急に足取りを速めて、その場からいなくなった。

「チッ……」

忌々しそうな目で、神父がたっぷり三秒くらいこちらを睨みつけた。
それに対して目を合わせずに、あれーおっかしいなあ、という態度を佐天は繕った。
急いでいるからか、もとからそれほど佐天には興味がないのか、神父は目線を外すとすぐ光子たちを追い始めた。
そこまでして、佐天は自分の背中が嫌な汗で濡れているのに気づく。
さっきの神父の視線は、なにか普通と違う、嫌な視線だった。
もし光子たちが困っているのならなにか手伝ったほうが良いかもしれない。
そう思いながら、しかし佐天は足が前には向かなかった。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 05:42:52.83 ID:TYOGjj1PP
佐天さんは対一方通行の最終兵器だろ?
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/11(金) 09:23:50.32 ID:WHABq3Yc0
上条さんが攻撃を打ち消して、佐天さんが攻撃担当か
胸厚だな
61 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 11:46:07.98 ID:xXqqEL8Jo
「神裂、そっちは?」
「今、駅の改札にいます。彼らは今どこに?」
「間に合ったらしいね。こっちは今から広場に出るよ」

そう言った瞬間に、ステイルは広場に出た。中央のエスカレータを上れば改札だ。
階上にいる神裂と目線を合わせる。
距離にして30メートルくらいの二人の間に、ちょうどインデックスたちを挟みこめた。

「悪いね。モノレールの旅はまた今度にしてくれ」

三人に聞かせるでもなく、そう呟く。
ここを目指すであることは前日から予想できていたから、ここの地図は完全に記憶に入っている。
この配置で、次に逃げる位置はもう一つしかない。

少し遅れて三人は神裂に気づいたらしかった。慌てて進路を変えたのが分かる。
ステイルも神裂も、すぐには追いかけない。
都合のいい方向に逃がしていくのにちょうどいい距離、というものがあるからだ。
逆に言えばそれを測れるだけの余裕があるという意味でもあった。
三人が広場を後にしてきっかり15秒後、神裂とステイルは合流した。

「さて、それじゃあ仕切りなおそうか」
「ええ。あちらも充分消耗してきているでしょう」
「そういえばさっき、随分と外で面白そうなアトラクションが見えたね」

空を飛ぶ車に轢かれるという貴重な体験をした神裂が、ふんと鼻を鳴らす。
まんまとしてやられたのことに少し自分で苛立ちを覚えているらしかった。

「……どこかを損傷したということはありませんが全身を打ちましたから、本調子とは言えないですね」
「そうか」

それでも、別ルートから上条たちを追い抜いて改札に先んじるくらいのことは出来る。
神裂の受けたダメージついては、ステイルは問題ないと判断した。
これからは、振り出しに戻る、ということになる。
目の前の通路はエレベータと螺旋階段に繋がっていて、上に行けば袋小路、
それを避ければ下に、つまりまた街中へと出て行くことになるからだ。
五分に一度、百人単位で人を吐き出す駅前を無人にすることはかなり無理があるが、
人の流れに手を加えることは出来る。
彼らの逃げる先は人のいない、つまり『魔女狩りの王』とステイルと神裂、三人で立ち向かえる場所だった。

「エレベータがちょうどあったらしいね」
「こちらは間に合いませんね」

目の前で三人がエレベータに乗り込むのが見えた。
15秒遅れて、ステイルたちもたどり着く。

「そう速くないことを祈るね」
「走って降りても追いつけるでしょう。扉の開閉は時間の掛かるものですよ。
 ……ちょっと待ってください! ステイル」
「どうした、神裂」

ステイルは階段を下りようとして、立ち止まる。

「エレベータは上へ向かっています」
「……彼らは上に逃げたと?」

このエレベータは一階と、駅のあるこの階と、そしてビルの最上階の展望台にしか止まらない。
つまり展望台に上がってしまえば、逃げ場がないのだ。
非常階段で下りることは可能だろうが、それにしたって結局一階まで一本道。

「してやられたね。上と見せかけて下に行ったか」
「あるいは本当に上に逃げていて、こちらの予想を超える手立てがあるか、ですね。
 混乱をきたして愚策を選んだのかもしれませんが」
「二手に分かれるか?」
「手の内を読まれているあなた一人では苦しいでしょう、ステイル」
「……嫌なところを突いてくるね。」
「私が上に行きます。ステイルは下を探してください」
「わかった」

僅かな目配せ。マントを翻してステイルがその場をすぐに去った。
神裂は軽く息を整える。上に登りきったエレベータが、もうじき降りてくるところだった。
62 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 12:43:23.92 ID:xXqqEL8Jo

屋上展望台に出て、一息つくほどの暇も与えられないまま、
エレベータは再び下に降りて、新たに誰かをまた、ピストン輸送してきた。
……いや、誰かとは言うまでもない。心当たりが一人しかいなかった。

「ああ、ステイル。こちらにいましたよ。……ええ」

手にした携帯電話で、ひとことそんな連絡を取る長髪の女。
上条たちの後ろに、神裂火織が追いついた。

「それで、どうするつもりなのですか」

大きめの声で神裂が声をかけた。このビルの屋上はかなり広かった。
こちらから神裂まで、一挙手一刀足の距離とはいかないだろう。

「別に。覚悟を決めてた、そんだけだよ」
「覚悟、ですか。捕まる覚悟をしてくれたのならいいのですが。
 無駄と知りつつ、戦う覚悟でもしましたか」

真っ直ぐではなく、神裂は壁を伝うようにしながら上条たちに近づいていく。
非常階段がそちらにあるからだ。
下に逃げられたところでステイルがいるのだが、神裂はもう、ここでけりをつける気でいた。

「ちげーよ」

上条は、不敵に笑った。……正直に言うと、ちょっと恐怖心を隠していた。
インデックスは祈るような仕草をしていた。祈りたい気持ちは分からないでもない。
そっと目を開いたインデックスが、上条を前から抱きしめた。
唐突の抱擁に、神裂は混乱する。

「……な、何を」
「何の覚悟を決めたかって言うとな」

上条がカチャカチャとベルトを伸ばしてインデックスに巻きつけて、素早く留めた。
二人は屋上の端から2メートルくらい離れたところにいる。
上条が端に背を向けて、インデックスがビルの外を剥いていた。
そのインデックスの背に、とん、と光子が触れた。

「マジでコレ聞いたときは怖いって思ったんだよ。ちょっとそれで覚悟に時間がかかったんだ」
「酷いですわ。私、100キロ程度の質量を100メートル飛ばす時の誤差は50センチ以下ですのよ?」
「もうなんでもいいから早くして!!」

神裂はその言葉で、むしろ自分達が手玉にとられていたのだと悟った。
ついさっき、見せられたではないか。目の前の少女はトンを超える鉄塊でも飛ばせるのだ。
人間など、造作もないことだろう。

「地図を見れば分かることですから、お教えして差し上げますわ。
 この一体には数キロ四方に渡ってビルが乱立していますの。
 私達がどれを伝っていくのか、せいぜい頑張ってご推理なさるのね」
「くっ……させません!」
「もう遅いですわ」

神裂は分かっていなかった。
光子がインデックスに触れた瞬間から、気体のチャージは始まっているのだ。
常人離れした膂力で神裂が間合いを詰めるよりも早く、上条とインデックスは、空を飛んだ。

「いぃぃぃぃぃぃぃぃやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「うわぁぁぁぁ! ってインデックス! 落ち着け!」
「……だから大丈夫だって言ってますのに」

屋上から飛び降りた経験のある人にしかわからないだろう。
掴まるものが何もない空中から、街を見下ろすのがどれほど怖いことかなんて。
三人は、神裂を振り切って、空を伝って逃げ出した。
……あといくつも、これをやらなければならないのかと思うと、上条はゾッとした。
63 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 13:02:44.25 ID:xXqqEL8Jo
「ただいま。帰ったじゃんよー」

ガチャリと黄泉川は自宅の扉を開けた。
ようやく家に誰かがいて、ただいまというのが習慣になってきたところだった。

「あれ?」

部屋が、暗いのに気づいた。
さすがにもう明かりをつけないとやっていけない時間帯だ。
それに夕食の匂いもしない。こちらから要求こそしなかったが、子供達は毎日食事を作ってくれていた。

「おい上条、いないのか?」

……結果は明らかだった。
きちんと掃除された部屋、片付けられた自分達の布団。彼らの私物は一つもなかった。
ここを出て行ったと、いうことなのだろう。

「あんの馬鹿野郎ども……」

信じられなかったのか、それとも迷惑を掛けたくなかったのか。
どうでもいい。――――無事でいろよ。

黄泉川は荷物もおかずに、再び街へと駆け出した。
64 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 13:05:45.57 ID:xXqqEL8Jo
とりあえず『ep.1 Index 09 : トンデモ発射場ガール』はこんなもんかな。
しばらくしたら推敲してarcadiaに上げるべ。

……なあ展開読めすぎてしょっぱいとかそういうことないかな?
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 13:14:18.16 ID:GmwW5TDCo
読める読めないは置いて、
面白い面白くないで言うなら、充分面白い。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 13:50:09.39 ID:d1gPl9POo
インデックスがビルの外を剥いていた。

ビルの外装剥がすインさんwwwwww何やってんすかwwwwwwww
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 15:50:44.00 ID:axB43+F3P
そもそも再構成ものって読者の予想を完全に裏切るのはその性質上難しいしなー。
キャラがらしさを失わずに活き活きと動きまわってるし十二分に面白いと思う。

それにしてもメインタイトルがサブタイトルになるのってお約束だけど熱いな。
なるほど正にトンデモ発射場ガールだww
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 16:17:53.37 ID:SYaeBU48o
お、黄泉川先生まだ絡むのか
69 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 18:50:06.14 ID:xXqqEL8Jo

いくつものビルを飛び越えるうちに、インデックスがぐったりしてきた。
ヴァーチャルリアリティなりあれやこれやで、学園都市の人間は非常識に慣れているほうだ。
インデックスも魔術的な意味では非常識に慣れているだろうが、
さすがに人に任せて生身で飛翔するという行為は気疲れするらしかった。

「平気か?」
「もうそういう次元じゃないんだよ……」

インデックスは当麻の胸に顔をうずめたまま、もごもごとそう呟いた。
隣の光子の顔を一瞬気遣うが、まったく意に介していなかった。
それもそのはず。光子はそれを気にする余裕がないほど、疲弊していた。

「光子、そろそろ」
「大丈夫です。まだ、いけますから」
「……ん、分かった」

そっと、というには若干重たいどしんという音と共に腰から地面に落ちる。
地面というのは勿論どこかの屋上だ。さっきはビアホールの片隅に下りて悲鳴を上げられた。
だんだん、着地の瞬間が荒くなっている気がする。
光子にとって長距離を飛ばすことと落とす場所をコントロールすることは大した苦痛ではない。
ただ、壊れないようにそっと物を「降ろす」には細心の注意が必要で、
それが光子の集中力をガリガリと削っていた。
その光子に何もしてやれない苛立ちが当麻の中で募る。
右手はポケットに入れっぱなしだ。空中でうっかりインデックスの背中にでも触れようものなら、
その瞬間から垂直落下が始まるのだ。洒落にならない。

「……ごめんなさい当麻さん。これが多分、最後になりますわ。
 これ以上はもう当麻さんたちをちゃんとコントロールできなくなりそう」
「ここまで来りゃかなり引き離しただろ。このまま行けば逃げ切れるはずだ」
「ありがとね、みつこ」

ニコリ、と光子はくたびれた顔で微笑んで、インデックスの背中に触れる。
人間二人を持ち上げるだけの力が、その背中に加わる。
またインデックスの表情が苦しげになった。この瞬間は呼吸が止まるからだ。
人間の体は瞬間的な力には弱いが、ゆっくり掛けていけばかなりの応力に耐える。
この発射の瞬間も、光子の精神力を削る作業の一つだった。

「――――ぷは」
「うし、これで終わりだな? 外すぞ」
「ん……」
「終わり、ですわね」

最後のビルに飛び移ってすぐ。光子が浅い息をつく。
当麻はインデックスから離れて、光子を抱きしめに行った。
顎を伝う汗を指で拭ってやる。

「あ……ごめんなさい」
「いいって。お疲れ、光子」
「こんなの、大したとはありませんわ」

つんと澄まして強がる光子がつい可愛くて、頬と髪を撫でる。
ただ急いだほうがいいのは分かっているから、名残惜しくても慰撫するのはそれで終わりにした。

「とりあえず降りるか」
「ええ」

上条たちがいるのは4階で終わりのビルだ。
狙っていたわけではないが、階段なりエレベータなりを駆け下りるのに楽なビルだった。
70 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 18:53:52.07 ID:xXqqEL8Jo
>>65 ありがとう。あんまりウジウジせずに先書くわ。
>>66 てめぇ爆笑したじゃねーかww ごめんArcadiaに載せるときには直すね。ありがとう。
>>67
まあ確かにある程度レールに乗らざるを得ないもんなぁ。
メインタイトルをサブタイトル化はもっとドラマティックなシーンでやりたかったな。
コレしかないと思って直感できめちった。

>>68
黄泉川先生はこっから先、本編にもちょくちょく出てるし、まだ絡みはあるよー
小萌先生のポジションにいるわけだしね。
71 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/11(金) 19:48:25.61 ID:xXqqEL8Jo
下に降りると、幸いに大通りにタクシーがいくつも走っていた。
一番先に呼び止められたのが、幸運にも無人タクシーだった。
乗ったのが誰なのか、誰か一人の学生証の提示が必要だが、余計な受け答えはせずに済む。

「お待ちになって。私が先に乗りますから」
「え? ああ」

光子を先に乗せて、奥から光子、当麻、インデックスの順に後部座席に乗り込んだ。
当麻の身分証をかざして行き先を告げると、タクシーは静かに走り出した。
緊張をほぐすのに、数秒がかかる。

「なんとか、乗れたな」
「ええ……。当麻さん!」

ぎゅっと、突然光子に抱きつかれる。
反対側のインデックスも当麻の腕を抱いて、もたれかかってきた。

「ど、どうした二人とも」
「良かった。二人をちゃんと怪我させずに、運べましたわ」
「ありがとな、光子」
「嬉しい。こんなにも自分の能力が誰かのためになったことなんて、ありませんでしたの。
 自慢には思ってきましたけど。でも、やっぱり大切な人のためになるときが、一番嬉しい」
「みつこ、ありがとね」
「ふふ。礼には及びませんわ」

当麻の胸の辺りで、二人が見詰め合ってそっと微笑んだ。
当麻はそれで心が随分と癒されるのを感じた。
一人じゃないというのは、すごいことだと思う。
どんなに疲弊していても好きな子のためだから頑張れるし、
その子が微笑んでくれば、疲れさえ吹き飛んでしまうものなのだ。
それは、絶対に一人では起こることのないサイクルだった。

「どれくらいかかるの?」
「えっと、どれくらいで着きますか?」

誰もいない運転席に向かって問いかける。スピーカーが抑揚のない声で『あと20分程度です』と返事をした。
あと20分は、タクシーに任せて心と体を休めることが出来る。
その言葉に上条はほっとした。
上条自身は、出来ることのなど知れていると分かっていても、気を緩める気はなかった。
自分を頼って、安心してくれている二人がいるだけで、充分だった。
……同時に、良くないことだと知りつつ、光子の言ったその言葉に、嫉妬を覚える。

役に立っていないとまでは行かないが、上条当麻がこれまでずっと付き合ってきた、右手に宿る『幻想殺し』は、
さっきは光子の邪魔になる存在だったし、刀を振るうことを主体にしたあの長髪の女に対してはまるで無力だった。
別にヒーローになりたいって訳じゃ、ないけどな。

両手がふさがれているから、頬でインデックスの髪に触れる。
さすがに寝てしまうつもりはないのだろうが、かなりリラックスできているらしかった。
それを見て思いなおす。自惚れじゃなく、今二人の女の子が心の拠り代にしてくれているのは自分なのだ。
元から折れるつもりなどないが、それでも、自分が心折れてしまえば、きっと二人も崩れていくだろう。

「光子。好きだよ」
「……はい。ふふ」
「とうま。私にも何か言ってくれてもいいと思うんだけど」
「あー。好きだぞ? お前のことも」
「別に良いけどなんかみつこより言い方がぞんざいなんだよ」
「きっと照れ隠しですわよ。大丈夫。みんなが笑える未来を、手繰り寄せましょう」
「ん。そだね」

再び光子とインデックスが微笑み会う。
三人は、じっと絡まりあって、20分の猶予を過ごした。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/11(金) 20:55:30.76 ID:SYaeBU48o
>>70
や、原作1巻における小萌先生の出番はあと記憶の云々種明かしで、
そこはみっちゃんがいるしなー、と思ってたので。

きっと黄泉川先生に入れ替わってる事にも意味があるんだろうなぁ、
と期待の言う名のプレッシャーをかけてみるww
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 10:46:06.04 ID:XKTxWKhl0
姫神とか御坂とかの関係がどうなるのか楽しみだよ
この上条さんは彼女持ちだしなww
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 23:21:34.43 ID:v22adbifo
アルカディアからきますたww
いや、続きを読むのを我慢できなかったのです。
しかし、いいねえこのカップル。ラブラブで、お互いを大事にしてる青さがいい!
この先、世界のアレさ加減を知っても、いやさ知ったからこそ互いの信頼を
大事にして欲しいね!

次回も楽しみにしてますよー
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 12:10:39.07 ID:aGJL+sZO0
 この物語の加速の仕方がいいなあ
この上条さんは、婚后さんがいることによって
精神的支柱がより強固になてるから安心。
一巻部分のクライマックスが徐々に近づいてきてワクワクする。
 にしても、この婚后さんは、6,7,10,11巻なんか物凄く活躍が楽しみだ

 続きが待ちきれないぜ!
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/13(日) 23:15:48.56 ID:1VewM+uP0
この上条さんは精神的な安定感があるし、幻想殺しは攻撃補助タイプの能力だから相方との
バランスもいい

続き超期待
77 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/14(月) 02:35:38.23 ID:7jPxZpsuo
だー続き書くはずが下校したらもうこんな時間だ。年度末は忙しいねえ。
>>74 arcadia民もちょくちょく来てくれてるねー。
まああんまりあっちと差分はないんだけど、楽しんでくれたら嬉しい。
>>75 >>76
上条さんらしい上条さんて意外と書くの難しいけど、婚后さん補正があるんだと思えば言い訳にはなるかな。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 15:58:14.56 ID:D/5N69Vc0
とりあえず熱血な感じにしたら上条さんにはなるんじゃない?
あとは説教を控えて魔術師の襲撃に備えて強くなろうと修行したりするのもいいかも
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 16:27:48.71 ID:Sx1cjuGpP
上条さんに修行は似合わないと思うけどな
熱血はもう少し必要かも
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 16:41:43.25 ID:hj8uoEMJP
上条さん的に修行といえば日本語通じない相手にそげぶするために英語勉強したりだからな
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 20:52:19.85 ID:emmEj8EP0
この上条さんは原作より頭いいから知識を蓄えて対処するって感じかな?
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/14(月) 23:52:52.80 ID:syLoU+qX0
 ていうか上条さんの「耐久→説教→そげぶ」コースに
頭の良さや知識量が加わったら敵涙目……
83 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/15(火) 02:19:09.49 ID:LU9q2vu2o
お金を支払って、タクシーを降りる。
動き出したときには夕暮れ時だったのが、今はもう、夕焼けが遠い空に僅かに残るだけだった。
二三学区そのものはセキュリティの塊なので、車で入ろうとすると厄介だ。
だから降りた場所は、二三学区の近くの住宅街。
正規の入り口からはそれなりに離れた場所だった。

「なぁ、これ、乗り越えて大丈夫なのか?」
「ええ。そもそもこの広い学区の全域に監視の目を光らせるのはかなりコストがかかりますから。
 重要な施設の周りにだけ、重点的に監視網が敷かれていますの」

固体表面における気体分子の物性物理が専門の光子は、
航空産業の中心地である二三学区とはそれなりに関係が深く、内情をよく知っているようだった。
常盤台中学きっての空力使い、その面目躍如といったところだろう。

「だから、このフェンスなんていい加減でしょう? 本命の滑走路の近くにはもう一重に険しい障壁が有りますわ」

がしゃ、と光子が金網のフェンスに手をかけた。
イタズラをする子供への対策なのか金網の壁に返しがあって、上手く越えないといけない。
とはいえおざなりなものなので、越えられないようなことはない。

「じゃあ、これを登ればいいんだね?」
「そうですわ。あの、当麻さん。絶対にこちらを見ないでくださいね?」
「え? ……ああ、うん。わかった」
「こっちも駄目なんだよ?」

光子の貼り付けたような微笑に戸惑いを覚える。インデックスも光子の言わんとすることを理解していた。
登るときにも降りるときにも、光子の短いスカートは非常にきわどい光景を提供してしまうのだった。
インデックスは長いローブだから見えにくくはあるが、一度見えると胸元まで全部行ってしまう作りだ。
本音は極力出さないように努めながら、当麻は気にしていない風を装った。

ガシャガシャと音を言わせて揺れる金網に精一杯気を使いながら、
暗い学区の境のフェンスをよじ登る。
住宅の並ぶ手前とは対照的に、これから行く先はだだっぴろい場所だ。
アスファルトは打ち付けてあるが、ひび割れから草は生えているし、殺風景な印象しかない。

「あの遠くに、機首が見えますでしょう? あれに、忍び込むのが目的です」

三人でフェンスを越えて、フェンス際のライトから遠ざかる。
もう一般人には見つかることのない場所だった。これから見つかるとしたら、学園都市の治安部隊だ。
そしてそれはインデックスと光子の社会的死を意味する。上条は失うものに乏しいのだった。

「見つかれば勿論終わりですわ。あそこに近づいてからは、絶対に私の言うことを守ってくださいね」
「わかった」
「うん」
「それまではどうせ見つかる理由もありませんし、さっさと向かいましょう」

そして、三人は歩き出した。
学園都市の掟を破った、その第一歩目はなんてことがなかった。
見つかる心配の低い場所で、緊張感がなかったせいとも言えるだろう。
万が一に備えることは難しいことだが、一番体力のある自分がしっかりしなければと、当麻は言い聞かせた。

何歩目か、両手で足りる程度だろう。歩き始めてすぐの、すぐその時。
――――上条は左足のふくらはぎの辺りに、すっと何かが走る感触を覚えた。紙で指を切ったときに近かった。

「え? あ……あ、ぐ」
「とうま?」

隣にいたインデックスが当麻の声に不審がるより先に、当麻は足で自重を支えられずに、地面に倒れこんだ。

「不意打ちで恐縮ですが、これ以上先へ行かれると困りますので」

先ほどから、何度も聞いた声だった。姿はほとんど見えないが、誰なのかは聞くまでもない。
その追跡者の体の近くで、糸状の何かが、きらりと瞬いた。
神裂火織と名乗る、魔術師だった。
84 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/15(火) 02:21:01.23 ID:LU9q2vu2o
修行して強くなるヒーローではないかな、上条さんは。
そしてやっぱり、熱く書きたいね。
書いてる本人がそういう性格じゃなくて、ついついそれに引きずられて
冷静な考察で判断、みたいなつまんねー大人みたいな描写になっちゃうのよ。
なんかこっぱずかしくなっちゃってさ。
まあ、頑張ってみる。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 04:08:48.35 ID:8KILaapKP
書き手の特性(持ち味)もあるので、そこら辺はトレードオフで
正直、面白いぜ。あんたのSS
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 17:38:07.04 ID:fuvl3U8H0
 この上条さんも、充分心に炎を灯してるから大丈夫。
こういう判断力のある描写って好きだし。
もっと熱くなってもかっこいいし……
 要は続きが楽しみってことです
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 20:27:41.42 ID:VowwOhJKo
冷静=つまんねー大人って……
そんな厨二丸出しなこと言われると一気に冷めるじゃないか。
折角面白いSSなのに。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 21:20:00.68 ID:nnHJndiwo
更新乙です。
金網は原作の大覇星祭の時のかなあ、と思ったり。
しかしラッキースケベの上条さんが金網でありそうなイベントを回避するとは・・・ww
聖人のご加護とはこういうものか!

いちいち光子さんが健気でかわいい!
インなんとかさんもいい子ですねえ。

そして聖人、てめーには堕天使エロメイドがお似合いだ・・・ww

次回も楽しみにしております。
89 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/15(火) 22:05:43.91 ID:LU9q2vu2o
>>84 >>85
ありがとう。なるべく更新を切らさないように頑張るよ。
上条さん以上に早く佐天さんを動かしたいなー。

>>87
いや厨二ではないよww中二病も高二病ももう卒業した。
冷静なだけの大人はつまんねーなぁってのは実感と自戒ですよ。
世界に訴えかけられるだけのでかい仕事をやろうと思ったら、やっぱり情熱が必要だし。

>>88
場所は10巻のとはちがうつもりだけど、フェンスの作りはあれを想定してくれれば。
ここのインデックスは初めから彼女持ちの上条家に来てるから雰囲気違うよね。
別のところで書いてるインデックスが修羅場ってるから俺の中の違和感がすごいww
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 22:46:24.33 ID:nnHJndiwo
>>89
別のところ・・・だと・・?
理想郷ですか?
でなければ情報いただければ直ちに閲覧したいのです。
教えていただければありがたいのですよ、あうあう。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 22:57:35.64 ID:8KILaapKP
「もてた」のことじゃね?>別のところ
92 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/02/15(火) 23:01:43.98 ID:LU9q2vu2o

「当麻さん!」
「いぎ、が……」

熱い。左足がひたすらに熱い。ジリジリと当麻の理性は苛まれて、声は自制と関係無しに漏れていく。
急速にズボンが濡れていく感触がする。なぜ濡れているのか、当麻は察していた。

「心配には及びません。この程度なら死に至るまでには相当な時間がかかりますから、
 今すぐその子を開放していただければ、後遺症もなく完治しますよ」
「人を……切っておいて言うことはそれなの?」
「……ええ、それが何か」

神裂の反応は鈍かった。冷ややかというには切れの悪い答え。
それでもインデックスの心の中に憎しみの炎を灯すには充分だった。
光子は一瞬周りのことを忘れたように当麻さん、当麻さん、と声をかける。

「だい、じょうぶだ。インデックス。いいから光子と先に行け!」
「とうま。それは出来ないよ」
「俺と光子の目的が何か、忘れるなよ。いいからお前は早く逃げ切れ」

当麻は膝を立てて、腰を上げようとした。だが左足に全く力が入らなくて、再び崩れ落ちる。
光子が支えるように体に腕を回す。
当麻にじっとしていろとか、そういうことを言わなかった。
それはつまり、当麻が神裂の足止めをするという途方もない無茶を、呑んでいるということだ。
立っているのがやっとに近いが、上条はなんとか、神裂とインデックスたちの間に置かれた障害物になった。

「インデックス。走りますわよ」
「でも」
「でもじゃねえよ。良いからさっさと行け」
「……彼我の脚力差をよく考えてください。この遮蔽物のない場所でどうやって逃げ切るつもりです?」
「なんとでもして見せますわよ」
「やれやれ。神裂は優しいね。好きなだけ鬼ごっこに興じれば良いさ。
 その間に、僕はこの男を[ピーーー]よ。嫌なら逃げないことだね」

カチンと、ジッポを開く音がする。一瞬だけ長髪の赤毛が暗闇に瞬いた。
長い吐息は、紫煙を吐き出しているのだろう。煙草の小さな明かりがゆらゆらと揺れていた。

「とうまをこれ以上、絶対に傷つけさせないんだよ」
「馬鹿、違うだろ」
「違ってない。とうまの命と引き換えで助かるなんて、死んでも嫌」

当麻と神裂の距離は、およそ5メートル。
インデックスはその間に、立ちふさがった。

「逃げずに立ち向かう勇気を、賞賛する気にはなれませんね」
「別に、敵に褒めてもらう趣味はないんだよ。そっちの人はルーン使いの十字教徒みたいだけど、あなたも?」
「ええ。……あまり詮索をされても困ります」
「もう充分だよ。貴女がもう主の御名も無原罪の懐胎をした御母の名前も忘れちゃった人たちなのは、分かってるから」
「な――」
「ずいぶんと、あっちこっちの宗教を習合しちゃってるね。そっちのルーン使いより分かりやすいよ。貴女がカクレだって」
93 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/15(火) 23:02:37.32 ID:LU9q2vu2o
だーしまった。禁則処理でちゃった。
テストテスト。『殺す』
sagaで回避できるんだったよね?
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 23:04:23.77 ID:/TABFAzAO
ここのことかと

上条「もてた」
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1280634052/-20
95 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/15(火) 23:05:21.43 ID:LU9q2vu2o
>>90
この板で『上条「もてた」』を探しておくれ。

……そろそろ宣伝コピペしても怒られないかなぁ。立て逃げではないんだし。
以下俺の書いたSS

『エンゲージを君と』
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=type-moon&all=1034&n=0&count=1
Fate/stay nightのSS。長編。
なんてことはない穂群原学園の生徒、氷室鐘には婚約者がいた。
普段は言葉も交わさないはずの衛宮士郎とひょんなきっかけで接点を持ったその日の夜、
10年前の大火災で死別したその人の名前が士郎であったことを知る。
そんな不思議出来事をきっかけに、二人の距離は縮まって――――
FateのSSには珍しい恋愛モノ。

『上条「姉妹丼ってのを食べてみたいんだけどさ」』
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=etc&all=19900&n=0&count=1
とある魔術の禁書目録のSS。短編。完結済。
街中で御坂美琴、御坂妹と出くわした上条当麻。
ちょうどお昼時だったこともあって上条はクラスメイトに聞いた、
「姉妹丼」なるメニューを出すお店に行こうと二人を誘う。
よくわかっていない当麻、お子様の美琴、斜め上の方向に想像のかっとぶ御坂妹、
それにお姉さまの「妹」白井黒子が横槍を入れて、事態はとんでもない方向へ――――
すれちがいと勘違いが織り成すギャグテイスト短編。
事態はとんでもない方向へって実は本当にとんでもないことになります↓

『上条「姉妹丼ってかなり美味いよな」』(18禁)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=18&all=20181&n=0&count=1
とある魔術の禁書目録のSS。
『上条「姉妹丼ってのを食べてみたいんだけどさ」』の続編。短編。完結済。
変な勘違いをきっかけに、正しい意味で姉妹丼を頂いちゃうことになった上条さん。
均一な性質の女の子を五段重ねにして丸ごと平らげちゃうとかマジ鬼畜。
Sっ気のある上条さんが無垢な女の子達にあれやこれやしちゃいます。
上条さんが女の子と6Pするシーンが見たい人は是非。

『上条「もてた」』
ttp://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/38.html
とある魔術の禁書目録のSS。中編。
クラスメイトとの口論から、上条は女の子をデートに誘うことに。
偶然すぐ傍には、姫神秋沙がいた。その偶然が、二人の関係をガラリと変えていく。
いわゆる姫神大☆勝☆利!
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 23:06:29.85 ID:nnHJndiwo
インなんとかさんのターンきたああああああああああ!
と歓喜してみる。
しかし光子さんはかーいーなー。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 23:07:57.43 ID:nnHJndiwo
あー、エンゲージ大好きだわww
というか全部チェックしてるとかおいらなんなのwwなんなのww
やっべーテンションが有頂天だからエンゲージ読み直してくる。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/15(火) 23:25:18.20 ID:zhIe6mRz0
うおお
1巻のクライマックスが近いな

>>93
メール欄にsagaで回避できるよ
マジお勧め
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 00:13:16.39 ID:OWM4+9VE0
 乙です!!!
インデックスがかっこよすぎる!!!
婚后さんはほんと立派だなあ。
これなら上条さんと一緒に戦っていけるよ。

これはステイルと再戦か?さあどうなる……
100 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/16(水) 00:23:34.22 ID:EMaFCk2Fo

カクレキリシタン。
長崎の沖に点在する小さな島々にのみ生きながらえた、異質の十字教徒。
教えの記された聖書を失い、マリアという象徴を観音像に秘め隠し、
祝詞(のりと)の中にオラショを偲ばせ、彼らはかろうじて信仰を守ってきた。
長い年月を経ていつしか正しい教えは失われ、形式上のみ受けいれたはずの仏教と習合し、
もはや、彼らの自覚以外には、十字教徒であることを示すものが何一つない人々。

「なぜ」
「そっちの人が十字教徒なら、貴女もそうでしょ?
 なのに十字の一つも着けてないし、逆にケガレを忌避するアクセサリを着けてる。
 それだけ分かればあとは予想は簡単なんだよ。貴女がカクレだってことは。
 どこの宗派か知らないけど、西洋の教えとコンタクトを取ったのなら、正しい教えに帰依したら?」

取り合ってはならない。
世界を殺す毒の詰め合わせ、禁書目録が囁く『魔滅の声<シェオールフィア>』はもう紡がれ始めているのだ。
唇の形すら見てはいけない。
それだけで、神裂という一人の信徒の信仰がガラガラと崩壊するかもしれない。

体に繰り返し繰り返し刻み付けた、その挙動だけで刀の柄に手をかける。
鞘から刃は引き抜かない。ホルスターに手をかけて、ぱちんと鞘ごと外す。
刃渡り2メートルに及ぶ七天七刀は、鋭くなくとも長物として充分に役目を果たすのだ。

狙うはインデックスの鳩尾。話すのが困難になる程度に横隔膜を突いてやれば問題ないのだから。
視界から外したつもりで、インデックスの唇がどこかにちらついている。
いつもより切っ先がぶれてしまって戸惑う。もう、『魔滅の声』にやられてしまったのか。
――――違う。それより前に、自分はあの子を傷つけたのだ。
どんなことをしてでも救いたいと願った女の子をその刀で傷つけて、さらにもう一度振るおうとしている。
ちゃんと鞘に刃を仕舞ってあるくせに、ためらいが消えてくれなかった。
それでも充分素早く、神裂は突きを繰り出した。そのはずだった。

バシン、という音と共に鳩尾に目掛けて突いたはずの切っ先がぶれた。
婚后という名の少女が、闇雲に振り回した手に当たった結果だった。
再び神裂は腕を引いて、インデックスに突きの狙いを定める。

「無駄ですわよ」
「な?!」

バヒュッと音がして軌道が逸れた。もう初対面ではない。それで何が起こったのかは理解した。
神裂の手元から離れるように、七天七刀が荒れ狂う。
さして自慢でもない怪力で柄を握り締めていると、やがて鞘だけが遠くに飛んでいった。
神裂は歯噛みした。傷つけずにインデックスの意識を奪う術が、またひとつ失われた。

「超能力ですか」
「ええ」

インデックスが、神裂にだけ分かる言葉を呟き続ける。
意味は光子にも理解できるが、光子には何の意味もない言葉だった。
神裂が一瞬、呆然となった。
その隙を逃さず光子は、神裂の懐に攻め入った。
101 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/16(水) 00:26:36.21 ID:EMaFCk2Fo

「やめておくんだね」
「くっ! かは……」

ステイルが横から割り込んで、光子の通ろうとした場所に拳を置いた。
光のないところに『魔女狩りの王』を顕現させるのを嫌った苦肉の策だった。
能力で加速していた光子は、腹部にその拳をまともに受ける。
肺からずべて、息が出て行きそうになった。

「光子!」
「あ、ふ……」

根がお嬢様なのだ。そんな他愛もない一撃で、光子はうずくまるように崩れ落ちた。
インデックスが心配げに一瞥して、しかし言葉を乱さずに、神裂にだけ効く毒を吐き続けた。

「だ、大丈夫です。当麻さん」
「まあカウンターで静まれちゃってもね」
「……馬鹿な魔術師さん」
「なに?」
「私に触れておいて平気な顔ですの?」
「何?」

別に光子は、手で触れたものにしか術を使えないわけではない。
手で触ることは能力発動のトリガーとして優秀だが、お腹で何かに触ったって別に能力発動そのものは可能なのだ。
光子は数秒でステイルの腕に分子を集めていた。
分子の運動速度は、人よりずっと早い。
そもそも空気中で音を媒介するのが分子運動なのだから、音速以上の速さを持っていることは自然と分かることだ。
ステイルの腕にはそろそろ重みを感じられるレベルの分子が集積している。
ステイルに、光子は容赦をする必要を感じなかった。だから、人には決して用いたことのない制御を講じた。

多くの空力使いは空気を連続な塊とみなす。あるいは極稀な能力者が空気を粒の集合体とみなす。
それは神ならぬ人の身では、分子一粒一粒を見つめて制御することなど、到底あたわぬからだ。
だが、光子はそれらのどちらとも違っていた。婚后光子が制御するのは、分子集団の『可能性』。
一つ一つの分子がどう動くか、などという厳密なコントロールはしない。
分子から、好きなように動く、という可能性を奪う。ある一つの場所、固体の表面に留まってしまうように。
そうすれば分子は自然と集積されていく。そして溜めた気体を解放するときにも光子は可能性を束縛する。
ランダムな方向へ飛ぶはずの分子から可能性を奪い、99.99%の分子が同じ方向、個体平面に垂直な方向へと動くように仕向ける。
空気の集積とコントロールしつつの開放、それが光子の能力だった。
分子一つ一つを制御せず、状態の出現確率を収束し、可能性を限定する。その可能性の名は、エントロピー。
空力使いといえば流体力学の専門家、という常識に全くなじめない、異色の能力者だった。

ステイルがいぶかしんだ直後。
音速を優に超える、秒速500メートルで風がステイルの腕から噴出した。
悲鳴を上げる暇すらない。
ビシリという手の甲にヒビが入る音がステイルの耳に伝わるより先に、
その手がステイルの胸元に向かって体当たりならぬ腕当たりをぶちかました。
ガホ、という肺がつぶれる音と共にステイルはごろごろと転がって、暗闇の奥に横たわった。

「……残るは貴女ですわね」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 01:33:23.70 ID:fm8xAwIOo
安心のヤムチャもといステイルさんである
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 01:52:41.47 ID:VLtam8L9o
漫画表現で良くある任せとけって言いながら胸叩く動作で肺がつぶれたのか
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 06:21:55.99 ID:NtwEZRAIo
「片腹痛いわ!」で盲腸になって、
「腕が鳴るわ!」で腕の靭帯を切るようなもんか。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 09:27:27.07 ID:OWM4+9VE0
 乙です!!ヒロイン達がここまでかっこいい話も珍しいな

分子集団の運動方向の束縛、エントロピー減少の話をしているところで
光子を「こうし」と読んでしまって恥ずかしかった……
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 10:06:50.93 ID:hH0QsDIbo


>>105
このスレの上条さんは光子力で動くんですね、わかります
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 10:17:03.83 ID:eG9VJGya0
乙です
能力の説明が分かりやすくてスイスイ読めます
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 15:18:17.52 ID:I8Gvi6UAO
>>106
上条さんの右腕を切り離してエアロハンドで打ち出すんですね良く分かります
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 15:40:31.40 ID:OWM4+9VE0
 >>108
そして上条さん本体では中の人降臨、
余裕でチェックメイトですね分かります

婚后さん頑張ってどんどん能力上げて欲しいな。Lv5クラスまで……
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 19:47:26.88 ID:z3Td+YY4o
最近復活したのは知ってたがここに来てたのか
>>1応援してます
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 20:09:40.12 ID:KhaNZv1s0
婚后さんがLv5になれば最強の矛だなww
どんな攻撃でも消せる上条さんと夫婦だから最強の矛と楯でマジウルトラマンA
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:21:48.38 ID:IcE2eHrAO
光子さんがレベル5になったら人間ミサイルランチャーが人間大陸間弾道ミサイル発射台になるな
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/16(水) 21:25:25.23 ID:IYmIHuB5o
そうだよなー、魔術云々あっても肉体自体はもろいもんだよなー
じゃないと上条さんのコブシで解決しないもんなー

光子さんがとてもいいですねぇ
114 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/17(木) 00:13:12.66 ID:mn9B3Sd2o

優雅に髪を払って光子は神裂のいた場所へそう宣告する。
ステイルのそれは確かに油断だったし、光子のこれも、油断だった。
互いを読み切れない超能力者と魔術師のすれ違いだと、言えなくもないだろうか。

とすりと、傍にいるインデックスの胸元で軽い音がした。
気づけばそこには、長い神裂の髪が舞っていた。

「あ――――」

あっけない音と共にインデックスが気を失う。
呼吸を奪って脳髄に的確な一撃。それでインデックスは堕ちたらしかった。

「インデックス!!」
「チ。邪魔です」

当麻が自由の利かない体でインデックスをそのまま奪っていこうとする神裂に抱きついた。
それを振り払う隙に、光子が神裂の体に手を伸ばす。神裂はその手から必死で逃げる。
幸い、インデックスを奪われることはなかった。当麻が精一杯インデックスを庇いながら倒れこんだ。

再び、神裂が二人から距離を取った。
あちらもこちらも、一人ずつがリタイヤ。だがそれは決して痛み分けではない。
当麻はもう走れない。インデックスを背負って神裂から逃げ切り、
さらには学園都市のセキュリティまでかいくぐるというのは、あまりに無理がある話だった。

「……もう、いいではないですか」
「ああ?」
「どうして、そこまでその子に肩入れするのですか」
「つらい目にあってる女の子を助けるのに、あれこれ理屈をつけないと、動いちゃ駄目なのか?」

馬鹿馬鹿しい。

「俺はてめーがわかんねえよ。どこの誰に命令されたのか知らないが、
 こんな女の子を酷い目にあわせるのに、どうしてここまでやれるんだ。
 アンタは、人をいたぶって楽しむような趣味には見えない」

インデックスを横たえて、ずるずると当麻は立ち上がる。
神裂に隙はない。体勢や周囲の状況への気配りだけではなく、意思にも揺らぎを見出せなかった。
ただ、灰色に意思を塗りつぶしたような表情に、すこしだけ物言いたげな色がついた。

「……事情はあるのですが。貴方に説明する必要がありませんね。そこをどいてください」

す、と剥き身の七天七刀を神裂は当麻に突きつけた。
インデックスの前に膝を着いた当麻は、その切っ先が真っ直ぐ上条の額を狙っていても視線をゆるがせなかった。
これまでの疲労のせいか表情に精彩を欠いた光子が、当麻の少し後ろでじっと様子を見ている。
何度か牽制の視線が神裂から飛んできている。
不用意に動けば、当麻に危害が及ぶことが予想できて、自分から動けなかった。

「どいたら、どうする気だ?」
「以前も言った気はしますが、あなた方をどうこうする気はありませんよ。その子を連れて帰る気です」
「――――ハッ。連れて帰る、ね。インデックスは俺達の仲間だ。勝手なことをされちゃ困る」
115 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/17(木) 00:15:30.37 ID:mn9B3Sd2o

ズルズルと、当麻はインデックスから離れ、神裂に迫る。
左足の痛みが引いている。それはむしろ危険なことで、普段の当麻ならきっと不安を感じたことだろう。
後のことなんて、考えにも浮かばなかった。
神裂火織まで、ちょうど2メートル。これ以上進めば、突きつけられた切っ先が頬辺りに刺さることになる。
す、とその刃を退けようと腕で触れようとしたところで。

ガキィィィン、という音がして地面が急に目の前に迫ってきた。

「当麻さん!」
「ごっ、あ……」

光子は退けられた当麻の代わりにインデックスとの間に割り込もうとして、
ギン、と神裂に強い視線で睨まれて、足がすくんだ。
一瞬遅れて、どうしようもなく自分を恥じる。
ここで自分が守らねばインデックスが悪い魔術師の手に堕ちると分かっているのに、足が前に出ない。

「彼を痛めつけていることについて苦情を受け付ける暇はなさそうです。
 ですが貴女とはまだ話が通じそうですね。貴女の感じているものは人として当然の感情です」

それは遠まわしに馬鹿にされているのと同じだった。
婚后家の直系として、常盤台中学の学生として、あるいは上条当麻の隣を歩く人として。
正義が為されぬことから目をそむけてはならないと教えられているのだ。
これを不正義と言わずして何が不正義か。見栄とは、こういうときにも張るから許されるのではないか。

「ごめん遊ばせ。私もこの人と、志を同じくする人間ですわ」
「……くだらない面倒を、掛けさせないで下さい」

光子に触れると危険なことを神裂は理解している。
だから、光子に近く出来ないくらいのスピードで刀を振るって、こめかみを峰打ちした。
もう一度、先ほどと同じ鈍い金属音が響く。
悲鳴もなく、光子は崩れ落ちた。

「……最悪ですね」

皮膚が切れたのだろう。たった今峰打ちで倒した少女の頬にじわじわと血が伝うのが見えた。
少年の左足にはもっと酷い傷を負わせた。どちらの二人も、敵でなかったなら、好感を抱けるいい人たちだった。
インデックスを大切に守ろうとしてくれる、いい人たちだった。それを、こんなにも手ひどく傷つけた。

「本当に、最低の行いですね」
「そう、思うなら、なんで、やめねーんだよ」
「――――」

神裂が動くより前に足首をつかまれた。意識を飛ばすつもりでこめかみを打ち抜いたはずの、少年の手だった。

「魔術師ってのは相当えげつない連中だってインデックスは言ってたけど、アンタ、まともじゃないか。
 そっちのヤツはどうか知らないが、アンタはちゃんと人の痛みを分かってる。なのに、なんで」
116 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/17(木) 00:25:53.75 ID:mn9B3Sd2o
ステイルさんちょっと噛ませっぽくなりすぎたなぁ。理想郷に上げるときはちょろっと加筆しようっと。
>>105
俺いつもそれで困ってるw 量子、原子、分子、光子、ときたらそりゃフォトンのほうになるよね。
フォトンの話をするときは光量子って書こうかな。
まあ光触媒でも話に出さない限り光の量子の話は出ないと思うけど。

そして今回は光子さんが活躍したから人気だなー。
>>110 ありがとう。割とここの環境気に入ってる。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 09:08:05.75 ID:hvdURqs1P
ステイルさん好きだけど、この場面だと噛ませで仕方ない気もする
もちろん、加筆してくれるなら嬉しいけど
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 16:35:10.01 ID:sMjoQ+2f0
能力者VS魔術師だからWKTKするよ
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/17(木) 23:41:21.19 ID:icLlVxVPo
さて、守るべきインなんとかさんと、愛する彼女の光子さんがやられたんだ。
上条さんの怒りは有頂天だ。
ここからの上条さん無双に期待ww

そして、光子さん、ほんまええ女やわぁ。。。
上条さんが惚れるのも無理ないで・・・。

次回も楽しみにしてますよー
120 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/18(金) 02:14:53.29 ID:WM6Al8xQo

負けられない、と当麻は思った。
常識も良識も持ち合わせたこの女が、一体何に心折れたのか知らないが、
自分は折れてなるものか、引いてなるものか。
全く言うことを効いてくれない体をよそに、目線だけは神裂よりも強い意志に輝かせて、神裂を睨みつける。
神裂は無意識に、ほんの少しだけ重心を後ろに引いた。それは当麻には気づけないような極小さな変化でありながら、
神裂の意思を押し返したという、大きな意味を持っていた。

「なんで。アンタはこうまでしてコイツを地獄に陥れようとするんだ!」
「……違う! 私はそんなことしてない!」

足をつかんだ腕を、神裂は蹴って振り払う。乱暴なそれは上条を軽く吹き飛ばした。

「私やステイルがどんな気持ちであの子を追っていると思っているのですか!」
「知ら、ねえよ。事情も話さずに切りつけてきたのはそっちだろうが」
「それは……っ!」
「いつの間にか『アレ』が『あの子』に変わってるよな。
 アンタらがインデックスの敵なら、なんで、そんな呼び方するんだろうな」

当麻は、少し前から感づいていた。
インデックスの知識が必要なだけの人間にしては、気遣いが丁寧すぎる。
観念したように、神裂はボロボロの当麻から視線を逸らして言った。

「私達の所属は、『必要悪の教会<ネセサリウス>』といいます」
「それ、インデックスの」

その名は確かにインデックスの口から聞いた。敵対する魔術結社の名前などではなかった。

「ご存知のようですね。そうです、これはあの子の所属する場所の名前でもあります。
 あの子は、私とステイルの同僚にして――――大切な親友、なんですよ」
「……じゃあなんで、インデックスはお前達をどこかの魔術結社の悪い魔術師だなんて言ったんだ」
「あの子のこの一年を振り返れば、妥当な予測だろうね」

いつの間にか、遠い暗がりでステイルが起き上がっていた。
立つ気がないのか立てないのかは知らないが、足を伸ばして座っている。
とはいえ座っているから戦えないとは限らないのが魔術師だ。立っていても戦えない当麻とは違う。
脱臼でもしたのか、不自然に右腕をだらりと揺らしたまま、ステイルは左手で器用に煙草に火をつけた。

「あの子の記憶を消してから一年、ずっと僕らは追いかけてきたわけだし、ね」
「記憶を、消した?」

一年前から、記憶がないと確かにインデックスはそう言っていた。それからずっと追われているとも。
121 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/18(金) 02:15:38.79 ID:WM6Al8xQo

「ええ。この子がそれまで持っていた記憶を、私達と一緒にいたという事実を、
 この子の頭から消し去りました。私が、この手で確かに」
「なんで、そんなことを」
「まあ、話す義理があるわけでもないけど。その子は一年に一度、記憶をリセットしないと死んでしまうんだよ」

ぷかりと、ステイルが煙草の煙を宙に浮かべる。
追い詰めた側の余裕なのだろう。神裂は少し離れたところに飛んだ七天七刀の鞘を回収しに行った。

「死ぬってなんだよ」
「完全記憶能力、というのがこの子に備わった特殊な才能でね」
「それで10万3000冊、だっけ、訳のわからねーことが書かれた本をあれこれ覚えてるんだろ」
「ああ。そこまで知っているのなら話は早い。この子は、もうこれ以上何も覚えられないんだよ」
「え?」
「あんまりにも沢山のことを覚えすぎて、もう頭の中は一杯。人生、今は70年くらいかな。
 70年分もくだらないことを覚え続けられるほど、この子の頭に容量はないんだ。
 だから何かを捨てていかないといけない。魔導書を捨てられないなら、過去を捨てていくしかないよね」
「だから、私は、あの子の記憶を一年ごとにリセットするんです。楽しい思いでも、つらい思いでも、何でも」

再び五体満足な神裂がインデックスを取り巻く当麻たちの前に戻ってきた。
それは、確かに絶望的なサインだったはずだ。
だが当麻は意に介さなかった。もっと、問いたださねばならないことがあった。

「親友だって言ったよなお前。自分の親友からそんなにも大事なものを奪って、
 お前、それで平気でいられるのかよ! 何とかしようとか、そうは思えないのかよ!」
「思いましたよ! この子を助けられるのならと情報を集めましたよ!
 でも、これしかないんです。この子から記憶を奪っていくしか、方法がないんですよ。
 この子の中に『溶けて』しまった魔導書は、自分という書物が消えないために、
 ありとあらゆるプロテクトをかけてしまっているんです。
 この子から自分の記憶以外のものを奪おうとすれば、
 10万3000冊の魔道書を読んだ天才が必要になるんです」

それは自家撞着な結論だった。インデックスを救うには最低限、もう一人の『禁書目録』が必要になる。
神裂は説明が済んだとばかりに、一歩を踏み出す。

「話はもう終わりです。分かっていただけたでしょう。この子を、返してください」

足元のインデックスにチラリと目線をやる。
気がつくと、光子がインデックスに覆いかぶさるようにしていた。
焦点の合わないぼやけた目で、神裂を見つめている。

「どうして。この一年。インデックスの傍にいてあげませんでしたの」

光子がそれだけ言った。なじる様な一言だった。
後ろめたそうな感情が神裂の表情によぎった。
122 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/18(金) 02:19:34.39 ID:WM6Al8xQo
「何も、本当に覚えていないんですよ。この子は。
 どれほど忘れがたい思い出を作ったつもりでいても、写真を渡してもアルバムを渡しても、
 一年たてば、もう絶対に思い出せないんです。申し訳なさそうに、ゴメンとしか言わないんです」
「だから何だよ。また、思い出を作り直せば良いじゃねーか。
 一年で全てを忘れるんだとしてもそのたびにイチからでもやり直せばいいじゃねーか。
 それすらせずに何で一年も逃げ回るだけの生活なんてさせてんだよ!
 全部テメェらの都合じゃねえか! テメェらが勝手に見限って――」

「――うるっせぇんだよ、ド素人が!!」

当麻の言葉は鞘に入れた七天七刀の横殴りで遮られた。
インデックスから1メートル以上はなれた所に倒れこんで、その体に雨を降らせるように神裂が鞘を何度も突きたてた。

「私達がどんな気持ちで、あの子を追いかけているのか。あなたなんかに分かるんですか!?
 何度でもやり直せばいい? あの子との別れを経験したこともないあなたにそんなことを言う資格なんてない!!
 どんな思い出を作っても、あの子はもう二度とそれを思い出せないんです。
 記憶をリセットする度に、あの子は何度も何度も、幸せを失うんです。
 一年後にそれが来るのを分かっているあの子に、それでも毎年幸せを与え続けろというんですか?
 ……私には、もう耐えられないんですよ。あの子の痛々しい笑顔を見ることが」

肋骨が、いくつか酷いことになっている気がする。まともに息が吸えなくて酷く苦しい。
だがもっと苦しいことは、他にある。

「なんで、俺と光子はこんなに殴られてるんだろうな?」
「おいおい、今更命乞いかい?」

神裂が怒りに身を任せている間、ステイルはずっと煙草を吸い続けていた。
足で踏んで火を消すこともしないで、先端がまだチリチリと燃えた吸殻がいくつも足元に転がっている。
ステイルにの気負いのない風を装った態度の奥にはくすぶった思いがあることを、それが告げていた。
突然その吸殻がボッと瞬いて一瞬で灰になる。
冗談めかして命乞いかと聞いたステイルは、言葉の裏で、本気で不愉快を感じていた。

「ちげーよ。そんなことがしたいんじゃない。純粋に聞いてるんだ。
 この場所に、インデックスを不幸にしたいやつが一人でもいるのか?
 敵同士のヤツが一人でもいるのか? 傷つけあわないと幸せになれない理屈があるのか?
 ここに、敵はいないんだよ」
「……」

理不尽が苦しい。殴られたことではない。こんな馬鹿馬鹿しい殴り合いしか出来ない、自分達に怒りを覚えた。

「お前らだって、インデックスを助ける方法なんてもう見つからないってくらい探したんだろうさ。
 けど、人が多ければ開ける道はあるかもしれない。お前達二人が駄目でも、ほかに救い手がいれば、助かるかもしれない
 なんでそれを、その可能性を模索しないんだよ。ここは学園都市だぞ」
「学生の貴方達に、何かが出来るとでも?」
「ここの学生は超能力者だ。確かに俺は無能力者だし、光子だって記憶を操るような能力はない。
 けど例えば光子の同級生には学園都市最強の精神感応能力者がいる。その子なら出来るかもしれない。
 それにそもそも学園都市は科学技術だって世界最高峰だ。『治療』できる可能性だって有る」
「そんな言葉じゃ、僕らの考えが揺るぐことはないよ。正直に言って、
 あの子の頭を切り開いて脳を弄るような科学者達に任せる気にはなれない」
「随分と酷い偏見ですわね。……当麻さん?!」

足元の傷とはいえ、失血量はそれなりだ。加えて呼吸がまともに出来なくて、視界が定まらない。
――――くそ、せっかく道が切り開けるかもしれないのに。インデックスの未来を、変えられるかも知れないのに

「救いたく、無いのかよ」
「これまでも救いではあったと、思っていますよ。少なくともあの子を死なせてはこなかったのですから」
「それが救いだって? お前それ本気で言ってるのか? インデックスを救ったってお前胸張っていえるのかよ?!
 なんでそんなにも力があって、そんなにも強い意思を持ってるのに、可能性をもっと探せないんだよ。
 アイツを幸せにしてやるために、なんでできること全部やらないんだよ」

答えは無かった。
ふつりと、自分の意識の糸が切れたのが分かる。せめて、傍にいられるようにと、上条はインデックスに向けて倒れた。
光子、ステイル、そして神裂。
意識の残った誰かが動くよりも先に。

パッ、と五人を車のライトが照らした。拡声器から音が聞こえる。
『そこにいる連中! 全員大人しくするじゃんよ!』
警備員の服を身に纏った、黄泉川愛穂だった。
123 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/18(金) 02:24:35.22 ID:WM6Al8xQo
とりあえず『ep.1_Index 10: ここに敵はいない』が終了ってことで。
予定より長くなったなー。
>>119
上条さんは武力で物事を解決する人じゃないのでこうなりましたよっと。<無双
まあ『ここに敵はいない』が真理ですからなあ。

ようやく書きたかったことが書ける部分になってきた。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 02:25:28.98 ID:JcGtlYLXo
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 14:22:46.23 ID:jKatC6de0

原作と同じことを言わせる時にここまで自然なのって凄すぎやしませんか!?
こっからの物語の加速が無茶苦茶楽しみです!!

ステイルや神裂の努力と覚悟は認めるけど、
インデックスを囲む状況(脳の容量の間違った情報etc)、
そしてインデックスの心情、自分たちの心(追い回されるインデックスは幸せか、
自分達が現実から逃げてるのではないか)ついて
もっともっと突き詰めるべきだったんだよね……
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 16:01:52.36 ID:VtR9UEF10
いや展開の自然さが凄いです
これなら上条さんの記憶喪失ネタも無しかな?
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/18(金) 22:00:34.35 ID:mNh4TOQa0
ここの黄泉川先生といいあっちの小萌先生といい
大人がちゃんとした大人やってるのはすごくいいね!
128 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/19(土) 01:17:11.87 ID:sYXl/fyyo

目を覚ますと、そこは真っ白い部屋だった。
窓の外には学園都市が見えている。場所を特定できるような風景はない。
自分が着ているのは、手術服とでも言えば良いのか、
緑一色の安っぽい化学繊維でできたローブだった。

「あれ俺、なんで」

まるで何日も寝たように、現実味がない。
確か、俺は二三学区で光子たちと――

「そうだ! 俺はあの二人組と戦って、それで」

二人がいない。
自分がいるのは病院だろう。なら、二人はどうなったのだ。
慌ててベッドに降りようとして、足に包帯が巻かれている感触があるのに気づいた。
自分でも思い出すとぞっとなるくらい、酷い傷をしたはずだ。
当麻は恐る恐る、布団をめくって左足を見た。
包帯でガチガチに固めてあった。ただ、指を動かしてみると問題なく動く。足首もスムーズに回る。
そっとベッドから降りてみると、それほど違和感なく左足は仕事をしてくれた。
チクチクとした痛みはあるが、激痛だとか、そういうのはない。
これなら、二人を探しにいける。そう思ってベッドから少し離れた扉に向かおうとしたところで。

ノックもなく、カラカラと音を立てて扉を横に引きながら、光子とインデックスの二人が入ってきた。
二人の顔は暗い。何かあったのだろうかと当麻はいぶかしんだ。
……自分が目を覚まさなかったのが理由だとはすぐに思い至らなかった。

「光子、インデックス」
「えっ?」
「え、当麻さん?」

当麻はすこし気まずかった。なんだかあちらの予想を裏切ったみたいで申し訳ないような気分だった。
光子もインデックスも、一瞬、呆けたようにベッドサイドの当麻を見て。

「当麻さん……!」
「とうま、とうま!!!!」

あっという間に二人に抱きしめられた。そしてそのままベッドに倒れこんだ。
当麻さん、当麻さん、とうま、とうま。
首筋に回されたのがどっちの腕なのかも分からないし、名前をこうも連呼されるとペットの犬になった気分だ。
なんでそんなにも、喜ばれるのかが不思議だった。

「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。なんか俺、死ぬはずの状態から生き返ったみたいじゃないか」
「縁起でもないことおっしゃらないで。当麻さん、どれくらい寝ていたと思っていますの!」
「そうなんだよ! もう、こんなに無茶して、こんなに傷ついて……」
「その、何日寝てたんだ?」
「ほぼ二日、ですわ。もうずっと目を覚まさなかったらって、私、心配で」

枕元にあるデジタルの時計には7月26日と書いてあった。時間は夕方というには少し早い、といった所だろう。
さすがに24時間以上意識を失っていた経験はないので、自分の体に不安を感じないでもない。
……というか、ほんの40時間やそこらで左足のあの怪我がどうにかなってるっておかしくないか?
129 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/19(土) 01:19:08.36 ID:sYXl/fyyo

「怪我のほうは、大丈夫ですの?」
「ああ。なんか、信じられないけど、折れたと思ったアバラもなんともないし、足の怪我もそれなりに治ってるぽいし」
「ここに連れてきてくださったのは黄泉川先生なんですけど、先生曰く、相当の名医だということらしいですわ」
「医者の腕っていうよりこれ物理に反してるレベルだと思うけど……まあ、再生医療の最先端ってこんなものか?」

医療は特許の塊であり、また科学のあらゆる分野の中でも特に倫理・道徳との折り合いが難しい学問だ。
学園都市の人間でも、学園都市の医療がどんな手法で、どんな治療を出来るのかをよく分かってはいなかった。
たいていの怪我と病気が治るので、あまり気にしないのだ。

「ほんとに痛いところとかないの?」
「かなり回復してると思う。それより、光子とインデックスは大丈夫だったのか?」
「ええ。ここの絆創膏も明日には取れるってお医者さんが言ってましたし」
「私は、どこも怪我はなかったから」

罪悪感をにじませて、インデックスはそう報告した。
確かに構図としては、巻き込まれた二人が傷ついて張本人が無傷だった、ということになる。
当麻はうつむくインデックスの頬をつねってやった。

「いひゃいよ、とうま」
「そういうの、気にすんなよ」
「うん……ありがとね、とうま、みつこ」
「それで、これからどうなるんだ? 何か分かるか、光子」
「二三学区進入の件は暴漢に襲われていたから逃げるためにやった、
 という風に処理したと黄泉川先生が言っておられましたわ。
 だから私達にお咎めはないんですけれど、近いうちにインデックスはどうにかしなきゃいけないって」
「それって」
「……このままではこの子は、警備員に拘束されることになります。
 私達は三人とも、病院から出ようとするのは禁止されていますわ。
 黄泉川先生は悪いようにはならないようにすると仰ってくれていますけど……」

どうにもならない事態に、光子は唇を噛んだ。インデックスは怒るでもなく光子を見つめていた。

「あの二人は?」
「あの場ですぐさま逃げて、それからは知りませんわ」
「そっちも問題か」
「ええ……」

本当ならもっと助かったことを喜び合いたい。明るい明日を、これからのことを語りたい。
丸二日を無駄にして、出来たことは少し事態を悪化させたことだけだった。
三人で、晴れやかとはいえない気分で見つめ合った。


コンコンと、扉がノックされた。どうぞと当麻が返事をすると。
――――病院にまるでなじむことを知らない、赤髪の神父と長髪の日本刀美女が、部屋に入ってきた。
130 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/19(土) 01:20:40.34 ID:sYXl/fyyo
自然といってもらえるのは嬉しいねー
あんまり書いてないけど今日はここまで
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 01:53:09.62 ID:wGhae6ym0
SS速報禁書sswikiに収録させて頂きました
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/785.html
>>1さんがんばってください!
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 18:53:04.29 ID:MDP6+dUW0
ほとんど毎日更新があってありがたいと思ってるよー
次も楽しみだ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 20:39:01.57 ID:P6Hn1zIB0
 やっぱり、こっちにも投下してくれるのは本当にありがたいです。
毎日のように読めるっていうのは読み手として恵まれてるなって思います。
134 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/20(日) 01:11:33.26 ID:7RiZwsx6o

「やあ、目が覚めたのが見えたんでね、失礼するよ」
「失礼します」

飄々とした態度のステイル。日本人らしい仕草で目礼をした神裂。
どちらにも、悪びれた風はない。

「何しにきたの?」

三人の誰よりも早く、インデックスはその二人の前に立ちはざかった。
声に憎しみを込めて、目に怒りを灯して、当麻たちと神裂たちの間に線を引くように。
神裂とステイルがそれで怯んだのが分かった。
一瞬の戸惑いを捨てて、再びステイルが軽薄そうな笑顔を浮かべた。

「お見舞いさ」
「ふざけないで。貴方達が、とうまとみつこを傷つけたくせに!」
「下手に動かないことですわね。私たちは警備員の方々に、少々目をつけられていますの。
 この部屋で荒事があればすぐ面倒なことになりますわよ?」

光子の冷ややかな声がする。相手を自分と同じ人と認めないような、軽蔑の篭もった響きだった。
当麻は二人の態度に少し、驚きを感じた。

「別にこちらに争う意図はないよ。ただ穏便に、禁書目録を渡してくれとお願いしに来ただけさ」
「まだ、そんなことを……!」

怒りに言葉がつかえているようだった。
インデックスが、瞳を揺らした。
逃げ延びるチャンスは減る一方で、返すあてのない借りばかりが当麻と光子にたまっていく。
自分が諦めさえすれば、という提案が、魅力的に見えた。

「インデックス」

びくりと、その背中が震えた。上条に釘を刺されたのだと理解したのだろう。
諦めさせてやるつもりなんて、これっぽっちもなかった。

「光子も。ちょっと落ち着いてくれ。今すぐ戦おうってんじゃないんなら、話もできるだろ」
「当麻さん?! 当麻さんは、あんなにも酷い怪我をさせられて、
 まだこの狼藉物と話をする余地があると思ってらっしゃいますの?!」

光子の中で、当麻が傷つけられたことは絶対に許せないことだった。
話し合う必然性だとか、歩み寄る余地だとか、そんなものはこちらにはない。
だって、あんなに酷く人を傷つけられる人間と、同じ言葉で会話できるとは到底信じられないのだ。

「光子。あの時、俺は言ったよな。ここに敵はいない、って」
「……」
「それで、あんた達には俺の言いたいことは伝わったのか?」
「……ええ、そのつもりです。だから問答無用にこの子を奪うことはしませんでした」

それも可能だった、と言わんばかりの口ぶりだった。
135 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/20(日) 01:12:41.05 ID:7RiZwsx6o

「僕としてはその必然性を感じなかったけど。どうせ」
「改めてお願いします。禁書目録を、こちらに引き渡してください。貴方なら分かってくれるでしょう。
 私達はこの子を、悪いようにはしません」

神裂はステイルの言葉にかぶせるように、上条たちにお願いをした。
その言葉に嘘はない、と上条は思った。
そもそも一昨日の話が真実なら、神裂はインデックスの親友なのだから。

「なあインデックス。こいつらが、どこの魔術しか知ってるか?」
「さあ。十字教徒みたいだからローマ正教のどこかの支部だとか、その辺じゃないのかな」

インデックスが興味なさげに呟いた。目の前の二人が、僅かに動揺を浮かべた。

「上条さん、でしたね。その話は止めていただけますか」
「断る。インデックス。こいつらの所属は、『必要悪の教会<ネセサリウス>』らしいぜ」
「えっ? ……そんなはずない! だってそこは」
「お前の所属する教会だ、っていうんだろ?」
「そうなんだよ。とうまが何を聴いたのか知らないけど、
 この二人は敵なんだから、そんなことありえないんだよ」
「違うんだよ。一年前、お前の記憶を消したのがこいつらで、
 お前は勘違いでずっと逃げ続けてきたんだって」
「そんなの嘘だよ。だって、この二人には何度も追い詰められかけたけど、
 一度だって仲間だとか、そんなことは言わなかった!
 逃げ場がなくて雨水を飲んだときも、どこかのお店の廃棄物を食べたときも、
 この二人はずっと敵だった!」

唇を噛むようにして、神裂がいたたまれなくなって目を逸らした。
その態度を、どう見れば敵だと思えるのか。
だがインデックスには神裂たちは敵以外の何者にも見えなかった。

「なあインデックス。お前は、『必要悪の教会』の中でも、飛び切りヤバイ存在なんだろ?
 だから色んな魔術師が追ってくるって思ったんだろ?
 だったら、なんで肝心の『必要悪の教会』の人間が、お前を一年間もほったらかしにするんだよ?」

……それは、何度も気になったことだった。どうして誰も救いの手を差し伸べてくれないのか。
だけど、もし。ずっと隣にいたのだとしたら?
敵だと思って逃げ続けてきた相手が、実は救いをくれる人だったのだとしたら?

「こいつらは、お前の記憶を消して、そしてまた一年後に同じことをするために、
 ずっとお前に付き添っていたんだとさ」
「そんな、はず……ないんだよ。だってそうなら、どうして」

どうして、あんな目にあわせたのか、と。
戸惑いのせいで言葉にならなかったそれは、容易に神裂とステイルに届いていた。突き刺さっていた。
記憶をなくしたインデックスに、それがお前のためだったのだ、と言っても仕方がない。
そして、これ以上は心が持たないと、そう思った自分達の弱さと向き合わざるを得なくなって、
結局二人は、何も出来なかった。
136 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/20(日) 01:13:52.16 ID:7RiZwsx6o

「一年間、幸せな思い出を作っても、お前はそれを失う運命なんだとさ。
 けど最初からそんなものがなければ、とびきりの幸せもどん底の不幸もない、そういう生き方が出来る。
 そういう選択肢を、お前に与えたって事だ。別に悪意じゃない。こいつらなりに考えた結果なんだろうさ」
「知らない。私、そんな一年が欲しいなんて、言った覚え、ない」

受け入れられないと、インデックスは頭を横に振った。
今はそれでもいい。感情的に納得できなくとも、一年で記憶をリセットしなければ生きていけないなんていう、
馬鹿みたいな呪いを解いた後に、ゆっくり失った時間を取り戻せばいい。

「事情は、一応これで説明したからな。俺たちは、いがみ合う敵同士じゃないんだ。
 これから、どんなことをしてでもお前の不幸を取り除いてやる。
 そのためにはこいつらとも手を組まなくちゃいけないんだ。……だろ?」

当麻は魔術師二人の目を、見つめた。
――――反応は、薄かった。

「……決して貴方の意見を馬鹿にするつもりはありません。ですがもう、遅すぎるんですよ」
「え?」
「あと二日。55時間くらいかな。それがこの子の『タイムリミット』さ」
「二日……だって?」
「一年前に記憶を消したといっただろう。そして一年しかこの子の脳が持たないともね
 ちょうど一年まで、あと二日なのさ」
「そん、な」
「貴方の気持ちはありがたく思います。ですが。あと二日でこの子は貴方達を忘れます。
 二日ではどうしようもないでしょう。静かに過ごしてくれるのであれば、そのときまで私達は身を引きます。
 ですから、どうか、この子の命が失われてしまうような真似だけはしないで下さい」

当麻は二人が何をしにきたのかを、ようやく理解した。リミットを告げて、諦めてくれと言いにきたのだ。
知らずに逃げて死なせては、それこそ誰の幸せにもならない。だから、お願いをしに、正面から来たのだ。

「ちょ、ちょっと待てよ! 二日じゃどうにもならないなんて保証もないだろ?
 それに、この二日で無理でも、次の一年があればこの街なら」
「この二日で急ごしらえで対策をするのですか? それが、確かな策になりえると?
 そして仮に、次の一年をこの街で過ごすとして、あなた方学生にこの子を預ける理由がありますか?」
「……」
「そもそも、我々は『科学』をそれほど信用できません。世界中の魔術を探して、
 それでもどうしようもないこの子の完全記憶能力を、科学ならどうにかできると?
 ……この子の脳をクスリに浸して、メスで切り刻んで、機械に犯されても、
 この子の命を無駄に削るだけに決まってる」

馬鹿馬鹿しい妄想だ、と当麻は言ってやりたくなった。
だが、逆に科学の支配するこの街でどうにも出来ないことがあって、魔術にそれが出来るとして、
はたして当麻は魔術を信じられるだろうか。きっと答えは、否だ。
どんな物理・生物的作用を持つのか訳の分からない儀式で、無駄に時間を使うだけだと思うだろう。
137 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/20(日) 01:15:23.47 ID:7RiZwsx6o

「この街は世界で一番科学が進んだ街ですけれど、その中でも一番進んでいるのが人間の脳を開発することですのよ。
 180万人もの被験者を使って脳のメカニズム解明、さらなる機能開発にいそしんでいます。
 それと同じことを、魔術はやってきましたの?」
「……」
「それに、随分と貴女の仰る科学とやらは猟奇的ですのね。
 この100年で生まれてすぐに亡くなる乳幼児の数が半減どころか100分の1にまで減ったことはご存知?
 きちんと食事を皆が摂れるように窒素とリンの化合物を安定供給したのは誰の功績かご存知?
 それまでの時代に、一体魔術は何をしていましたの?
 科学は、人に牙を向くこともありますけれど、使い方さえ誤らなければ、ずっと魔術よりも優しいものですわ」
「……その言葉で、我々の考えを改めろといわれても、できるものではありませんよ」
「なら。この場に要れば良いですわ。私達は今から、あらゆる手を使って、解決策を探しますから。
 それが貴方たちにとって許せないことだと言うなら、そこで考えれば良いでしょう。
 ……たとえ二日で叶わなくても、貴方達だって、この子を幸せにしてあげたいのでしょう?」

不信感。どちらの陣営もが相手に対して、それを抱いている。
手を取り合えば簡単なことが、往々にして出来ないのだ。人間には。

「とうま。みつこ」
「なんだ?」
「……私、二人のことを忘れるのは嫌だよ」

一年前から、記憶を喪失している。だからこの突拍子もない話にも、インデックスはリアリティを感じているのだろう。
ポツリとこぼれた言葉は、紛れもない、インデックスの本音だった。

「そうか。じゃあ、二日で何とかしないとな」
「なんとかなるかな」
「なんとかする。諦めちまえば、そこで終了だからな」
「……じゃあ当麻さんは、テスト前はいつも試験を受ける前から終了していますのね」
「う、嫌なトコつくなあ光子は……」
「あは」

不安が心を押しつぶしそうな局面だが、インデックスはまだ自分が笑えることに感謝した。
二人がいてくれれば、絶望なんてものと自分は無縁でいられる。
その幸福に、インデックスは小さく、心からの微笑を浮かべた。

「……ステイル」
「別に。僕は反対はしないよ。……あんな、微笑みを見るとね」
「率直に言って、私は自分があの輪の中にいないことに、やるせない思いはありますよ」
「そんなものは、過去に捨ててきたよ。どうするんだい、神裂?」
「私ももう、腹をくくりました」

そっと、二人は囁きあう。
もう分かっているのだ。二年前、目の前にある光子と当麻の席は、自分達のものだったのだ。
インデックスという少女の幸せを最後まで担ったのが自分達だったと、自負している。
二日という制約に縛られないほうが良いといえば良いのだ。
唯一つ、目の前にあるインデックスの幸せをまた、取り上げてしまうことだけに目を瞑れば。
――――二人にはそれが、出来なかった。

「やってみろよ。超能力者。けど、この子を弄ぶなら必ず殺す。いつでも殺す。何度でも殺す」
「訳の分からないことを仰るのね。私達がこの子を徒に死なせると?
 貴方こそ無理解の果ての勘違いで駄々を捏ねるようなら、容赦なく吹き飛ばしますわよ」

ここは病院。ならやることはまず、医者に話を聞くことだろう。
当麻はベッドサイドにある、ナースコールをカチリと押した。
小さな音で、五人がたたずむ病室に、可愛らしいメロディが響く。

それは、魔術と科学が手を取り合って。
インデックスという女の子の一年に一度全てを失うなんていう幻想<ふこう>をぶち壊す、
そんな反撃の狼煙だった。
138 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/20(日) 01:28:04.00 ID:7RiZwsx6o
短いけど『ep.1_Index 11: 反撃の狼煙』終わりかな。
きりが良かったので。ちょっと描写が薄い気もするので、arcadiaに乗せるときは加筆しよう。
あ、ここに書いたのよりarcadiaのやつのほうが細かい表現の修正とか、若干の描写追加とかあるんで、
通しで読むときはそっちに頼ってくれたほうが良いかも。

>>132 >>133
毎日感想もらえるってありがたいとこちらも思っていますよ。
物語が佳境に入って期待してもらえてるっぽいなぁ、という感じはしますし。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 01:35:36.91 ID:zAhyn/rEo
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/20(日) 02:02:17.71 ID:Gx+pMCe60
 自分が読んだ中で一番かっこいいインデックス編の
反撃の始まりの一つだと思う。静かに燃えるってのもいいなあ。
原作はクソ熱かったけど

 
 
141 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/22(火) 17:57:06.36 ID:u3HDSwKqo

「……で、あたしらに情報がないか、教えてもらおうと」
「妥当な判断だね? 人に聞くのを躊躇わなかったのは、正解だよ」

窓際に置物のように立った神裂とステイル、そしてベッドに腰掛けた三人に、
黄泉川先生とカエルみたいな顔をした中年の医者が向かい合っていた。

「こう言っちゃ悪いけど、要領を得ない説明だからな。こちらから確認していくじゃんよ」

今は一通り、事情を説明したところだ。
先生も隣の医者も、なんだか微妙な表情をして、こちらを見つめていた。
インデックスを救うことが、可能だよとも不可能だよとも言わない。
むしろ、なにか頓珍漢な答えを口にした学生を前にしているようだった。

「インデックスは、10万冊を超える書物を一字一句完璧に記憶している。
 そしてそれは脳の記憶容量を酷く圧迫する。
 現状でその占有率は85パーセントで、残り15パーセントを生命維持に使える。
 そして類稀な記憶能力のせいで、その15パーセントはきっかり一年で消費され、
 放っておけば死に至る。
 だから一年ごとに脳の容量を確保するために記憶を消している。
 なお、書物を覚えた部分の記憶削除は出来ない。
 ……こういう現状を、なんとか改善したい、であってるか?」

ちらりと、神裂たちを見る。コクリと頷いた。

「前提が、ずいぶんとおかしいんだね?」
「どういうことですの?」

困ったというように頭をかく医者に、光子が尋ねた。
ふむ、と黄泉川は嘆息して、

「婚后、お前常盤台の学生だろうに。まあいい、夏休みだから、
 今度上条と一緒に小萌先生の補習を受けるじゃんよ」
「はい?」
「記憶野が一杯になるなんてことが有ったとして、それで人が死ぬとお前本気で思うか?」
「呼吸は出来るでしょうし、食事も摂れるでしょうね」

情報を記憶する細胞と、生きるためのプログラムが書き込まれた細胞は別物だ。
生命維持に必要な部分を侵食するような『記憶』行為を、人は記憶するとは呼ばない。
指摘されてみれば、たかが記憶が一杯になった程度で死ぬなんて、おかしなことだった。

「この場合記憶って長期の記憶だろう? 短期、中期的な記憶は保持できるから、ある程度の会話も可能だな。
 喜怒哀楽を失うこともない。それに今まで覚えたことは忘れないんだろう?
 ……お前達の言うことを最大限信じたとして、インデックスはそれなりに人間らしい生活を送れるじゃんよ」

ステイルと神裂は、難しい顔をしたまま黙っていた。
科学的にはそれはおかしいことになっている、という議論を、どこまで受け入れるべきなのか。
神裂は、インデックスに一つ、尋ねた。

「……頭痛は、ありますか?」
「さあ? どうかな」
「ちゃんと教えてくれ。……その、どうなんだ」

弱みを神裂たちに見せるのにためらいがあったのだろう。だが今はその逡巡は不要だった。
インデックスは、嘘がばれたような顔をして、一言こぼした。

「二三日前から、時々ちょっと痛む、かも」
「ちょっとどころではないでしょう。一年前も、そうでしたから」
「……」
「あなた方が言うことと、矛盾しているように思うのですが」

神裂が黄泉川先生と医者に言った。

「矛盾、って言われてもな。そもそも85パーセントって数字の根拠はなんなんだ?
 1冊100メガバイトで計算して……10万冊なら10テラバイトか?
 記憶できる情報量で言えば、全シナプス数の1パーセントくらいだけどな、それ」

単純なフェルミ推定だ。100メガバイトという値に信憑性があるかは分からないが、
テキストデータなら本一冊100メガバイトは見積もりすぎだし、画像データとしてもそんなものだろう。
少なくとも、2桁も精度がおかしいことはないはずだ。

「学園都市ですら、脳細胞の何パーセントがどの機能を持つ細胞か、なんてのを完全には把握できてないじゃんよ。
 それを、お前らの誰が知ってて、誰が数字をはじき出したんだ?」

答えは、なかった。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 20:01:08.18 ID:6ikEZWobo
種明かしの巻ですね。
ここは読んでる時から思ってたので、光子さんのうっかり具合が
アホの子可愛い!
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 20:04:41.12 ID:ZRWqO1vjo
おお。
敢えてその部分は原作から変更したと思ってたので、ビックリした。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/22(火) 22:25:27.09 ID:ad6WGFL10
まあ、でも、泣く子も発狂する魔導書が10万3000冊だからなー
魔導書を知る魔術陣営なら脳を圧迫するって信じちゃうよね
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/22(火) 22:57:47.68 ID:/yreSiY50
説明が分かりやすいなー
146 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 01:29:04.46 ID:/zI3RXmgo

「おい、答えろよ。魔術師」
「……根拠、と言われましても。我々もこの事実は突きつけられたに過ぎません」
「知らない、ということですの? どうしてそんなあやふやなことでこの子を追いまわして……」
「理屈なんてどうでもいいだろう。……実際一年に一度記憶を失っていて、
 頭痛で意識さえ保てなくなってくるこの子を見ているのに、憶測でああだこうだと言われてもね」

成る程、現場がまず成すべき仕事は問題解決であって、解決法の改善だとか、
そういうのは現場に遠いことだから出来る、というのは事実だろう。
黄泉川も医者も、所詮は他人事だから、まるで現実に即していない憶測をあれこれ捏ね繰り回せる。

「別に難しいことじゃないじゃんよ。確かな事実の積み重ねにちょっとした推論を足しただけだろ」
「その確かな、というのがどこまで確かなのかは疑わしいね。科学に基づくと、なんていうと聞こえは良いけど、
 本当のところはこの子の頭に穴でも開けてみないとわからない癖に」

それは確かにそうだった。ある一個人の特性全てを、あらかじめ知ることは出来ない。
科学が把握しているのは、人間という生き物の平均的な姿と、平均からのずれ方だ。
禁書目録と名づけられたある一人の少女のことを、あらかじめ知っているわけではない。
黄泉川は科学者の直感として、インデックスがこれまでの脳生理学の常識を覆す、
人類初のケースだとは思えなかった。もっと、これまでの科学が集めてきた経験的事実で、
説明付けられるはずだ。
その態度は、科学を信仰する、そういうことを意味している。
すなわち。――――大概の事実は、すでに人類が持っている科学法則で説明が出来る。
そして異教徒である魔術師には、その言葉は届かなかった。

「僕からも言わせてもらうとね?」

口を挟んだのは、魔術師でも科学者でもない、医者だった。
科学よりではあるが、科学が持つ哲学、信仰としての側面には頼らない。
あくまで人を生き返らせることに最も重きを置く、そういう職業の人だった。

「考えてみるべきなのは、君たちらしい理屈で言って、
 この子を一年に一回、記憶喪失にさせるメリットはあるのか、だね」
「……答えにどんな意味があるかは分かりませんが。メリットはあるでしょうね」
「それはどんな?」
「この子を10万3000冊の書庫とするなら、その管理人が必要です。
 誰か一人がその任を独占してしまうより、一年の任期を与えたほうが健全と言えるでしょう」
「なるほどね。それじゃあ、科学寄りの僕の意見を言わせてもらおうか。
 記憶能力のせいで余命一年だという説明より、君が言ったような理由で、
 一年に一回何らかの処理を受けないと死んでしまう体にされてしまった、と捉えるほうがよほど自然だね」

ギクリ、と。神裂とステイルの顔が、はっきりと強張った。

「そ、そんなはずは――――」
「……あの女狐の好きそうなことだね。真実かどうかは分からないけど」
「しかし、我々に嘘をついて何の得が?」
「実に都合のいい存在じゃないか。あの子と仲良くなるのを避けているくせに、
 どこへ逃げるときにも文句一つ言わずずっと付き従って、僕らはあの子の監視だけをしている」
「それは……そうですが、しかし」
「別にこの医師の言葉を完全に受け入れたわけじゃない。ただ、一理ある、と言っただけだよ」
147 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 01:30:43.32 ID:/zI3RXmgo
いかん……眠すぎて書きながら寝てしもた。
投下したけどちょい心配。

>>142-145
まあ、どう展開させて行くのかは請うご期待、ということで!
148 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 10:18:06.64 ID:/zI3RXmgo

医者は、納得したように頷いて、もう一言添えた。

「その可能性を実証できるようなものは、あるかい?」
「実証ですか?」
「うん。一年に一度処理をしないとこの子を死なせてしまう魔術がこの子に掛けられている、
 そういう仮説を実証できる何かさ」

神裂が鋭い表情で、医者を見た。

「……まるで魔術師かのような言い方ですね」
「まさか。僕は医者だよ。人間にはさまざまな信仰を持つ人がいる。
 命を助けた上で幸せにするのに、必要な方便を沢山知っているだけさ。
 科学はいつでも人を納得させてくれるわけじゃない」

肩をすくめて、医者はそう言った。
超能力者を開発する科学者、学園都市の高校教師である黄泉川にはその柔軟性はなかった。
人の生死に近いところには、理性でカタのつけられない世界があるのだろう。
黄泉川は医者が魔術という言葉をそういう意味で使っているのだろうと理解した。

「神裂。この子の体に、なにか魔術を施されたような痕跡は?」
「……別にまじまじと見たわけでは有りませんが。そんな目立つものは、見えるところには……」

神裂は何度となく二人でシャワーや風呂を共にしたことがある。
そのときに、特徴となるような刺青や聖痕は見なかった。
わざわざ見ないような場所だとか、内臓に直接彫られているだとか、
そういうことなら分からない。

「レントゲンとMRIは撮れますの?」
「ああ。でもMRIは駄目だね」
「どうしてですの?」
「金属が体に埋め込まれてたら発熱が大変だよ。刺青のインクに金属微粒子が入ってた場合も危険だね」
「何をしようとしているのですか?」
「切らずに体の中を見ようとしているのですわ。それで何か分かるかもしれませんでしょう?
 仮にこの子の体に魔術が施されているとして、その場合どんな痕跡があるとお思いなの?」
「……そんなのあるかどうか分からないけど、人に施す術にはやっぱり刺青が多いんだよ」

まさに自分のことなのだ。気味の悪そうな顔をしながら、インデックスは答えた。
その答えに光子は考え込む。
MRIは原子の磁化変化を調べることで生体内の様子をイメージングする技術だ。
磁化の変化を促す磁場のせいで金属の発熱が促されると、40℃以上の熱に弱い生体に悪影響がある。
刺青には発色のため金属粉が混ぜられることがあるから、安易には使えなかった。
レントゲン、X線CTは原理が違うからこの心配はない。超音波イメージングも可能かもしれない。
……問題は、そういった技術でインデックスの体を隅から隅まで調べられるか、という問題だった。
むしろ、まずは触診を行うべきなのだろう。

「まあ、必要なら言ってくれれば用意はするよ。
 ……ところで、この子の上顎、軟口蓋の所に彫ってある魔方陣は、関係あるのかな?」
「えっ?」

インデックスがまず、一番驚いた。それはそうだ。知らないところで、自分の体にそんなものが彫られていたのだから。
神裂とステイルは硬直していた。別に、医者の言い分が正しかったのかは分からない。
ただ自分達が信じてきた前提がだんだんと不確かになって、全く別の可能性が存在感を増している。
当麻と光子は、インデックスを上向かせて口を開いた。医者がペンライトを渡してくれる。

意味など、二人に理解のしようもない。
だが、確かに、そう大きくもない紋章が一つ、インデックスの喉の辺りに、彫られていた。

「なあ魔術師」
「なんだい?」
「お前らならこの紋章の意味、分かるのか?」
「……君と違って、紋章の魔術的な意味を損ねることなく書き写すことは出来ると思うよ。
 意味を理解することが出来るかは、見ないとわからないね」
「そうか」
「だけどここには、10万3000冊の魔道図書館がある。これで何とかならないなら、どうしようもないさ」

ステイルは、どうせ何も二日では出来ない、と思ったことを自嘲した。
この子を救うのに、あと二日もある。それは、とても希望に溢れた事実に思えた。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 12:27:15.69 ID:ZKwRwXr3o
めっちゃおもろい
婚后さん可愛すぎるううう
150 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 13:56:05.92 ID:/zI3RXmgo

当麻はステイルと神裂に、インデックスに触れさせることを一瞬、躊躇した。
当麻以上に、インデックス自身にためらいがあった。
その隙を突くように、部屋にピリリリ、と携帯端末の音が響いた。

「はい黄泉川。……また、か。分かったじゃんよ。こっちは人を減らしても大丈夫そうだから、すぐ行く」

黄泉川が事務的な口調で二三言を交わして電話を切った。そしてステイルと神裂を見つめる。
……事情の説明のなかで、結局この二人と共闘することになった経緯が、きちんと伝えられなかった。

「上条。こいつらと、一緒で平気なのか」
「俺たちは一つの目的に沿って動いてます。こいつらは俺を信じてるわけじゃない。
 けど、インデックスを助けたいってことについてだけは、俺もこいつらも信じあえる」

ふん、と馬鹿にするようにステイルが鼻で笑った。
……青臭く信じる、なんて言葉を使われたことに対する照れ隠しだった。

「……わかった。それじゃあたしはちょっと地震対策のほうに顔を出す。
 悪いけど、病院からは出ちゃだめじゃんよ」
「黄泉川先生。また地震ですか?」

一番敏感に反応したのは医者だった。

「ええ。原因は特定されつつあるらしいですけどね」
「困ったな。僕も設備の点検をしておかなくてはならないね」

体で感じる規模の地震はここではなかった。だが精密機器の多い病院は、地震に神経質だった。
医者は当麻たちのほうを向いて、諭すように口を開いた。

「君達。何をするにしても、万が一の準備だけはしておくよ? ここは僕の病院だ。
 死なせないためのあらゆる技術を、ここなら提供できる。かならず相談してくれ」

神裂と、当麻と光子は、部屋を出て行く医者と黄泉川に向かって丁寧に頭を下げた。
151 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 13:57:40.98 ID:/zI3RXmgo

「さて。それじゃあ、調べようか」
「……」

嫌味な笑みだとか、そういうのを全部消して、ステイルが酷く真面目にそう宣言した。
手には当麻の手からひったくったペンライト。
インデックスが、きゅ、と上条の袖をつかんだ。
記憶を失ってしまった過去に、目の前の神父が仲間だったと言われても、
インデックスの警戒感は解けてはくれなかった。

「インデックス」
「わかってる。とうま」
「……こうしましょうか」

光子が、ベッドに座るインデックスを後ろから抱きしめた。
そして当麻が、インデックスの顎に手を添えて、口を開いて上向きにさせた。
ステイルはペンライトを当てて覗き込むだけだ。

「随分と厳戒態勢だね」
「悪く思うなよ」
「別に構わないさ」

胸元からメモ帳のようなものをペンを取り出してから、
ステイルはインデックスの喉にライトを当てた。

一瞬の硬直。

周囲の誰しもがその意味を窺う中、すぐさま我に返って、紋章の写しを取り始めた。
恐ろしく上手かった。中心に一文字あって、それを囲うように円が書かれている。
その円はよどみのない真円を描いているように見えるし、円を縁取る細かな文様までも、正確だった。

「……描けたよ」

さして時間も掛からず、ステイルは写した紋章をインデックスの手のひらの上に置いた。
神裂が身を乗り出してそれを覗き込む。

「……これで意味が分かるモンなのか?」
「君は黙っていろ。何も期待なんてしていないからね」

当麻は言い返してやりたかったが、全くそのとおりなので黙ることにした。
光子はインデックスを抱いた手を離さず、後ろから眺めた。

「私の知らないルーンが有るね」
「……ははっ」

乾いた笑いが、ステイルからこぼれた。軽薄な響きの癖に、怒りが篭もっているのが分かった。
152 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 13:59:19.20 ID:/zI3RXmgo

「どうしました、ステイル」
「いやなに、一応ルーン使いとしてそれなりの実力だという、そういう自負があったんだけどね。
 ……僕以外にこれだけのルーン使いが……いや。おかしい。僕が新たに加えた文字まで使われてる」

『必要悪の教会』に自分の知らされていないルーン使いがいるのかと笑ったステイルだったが、事態はもっと外道だった。
自分の編み出した術式を、丸ごと盗んで使った術者がいる。そういうことだった。

「あの女狐ならやりかねないな」
「こういう手が好きそうだというのは否定はしませんね。
 ……それでステイル。あなたはこれを読めるのでしょう?」
「ああ。当然だね。
 『姉妹よ、救済者が他のすべての女性たちよりもあなたを深く愛しておられたことをわたしたちは知っています。
  あなたが覚えている救済者の多くの言葉、あなたが知っていて、私達の聞かなかった言葉を私たちに話してください』
 だってさ」
「……どういう意味ですか?」
「福音書の一節だよ」

インデックスが、素っ気無く答えた。
ああ、とステイルが相槌を打つ。

「十字架に架けられ墓に埋葬された主が復活するくだりか。……こんなシーンだったか?」
「十二使徒に女性の使徒はいませんが」

原語のまま読めるステイルと違い、神裂はステイルの日本語訳を聞いただけだ。
別段聖書に慣れ親しんでいるわけでもない神裂には、ピンとこなかった。
いぶかしむ二人に、当麻は答えを急いた。

「これ、聖書の引用なのか?」
「……考えているところだ。せかさないでくれ」
「聖書の一節、ではないんだよ。聖書っていうのは、マタイ、マルコ、ヨハネ、ルカ、
 この四人の使徒が書いた福音書から出来てるの。これはこの四つとは違うね」
「これは外典からの引用なのですか?」
「むしろ偽典と言っていいかも。マグダラのマリアの福音書だね」
「マグダラの……あの罪深き女の守護聖人、ですか」

なるほど、と神裂は思った。あらゆる魔導書を取り込んだインデックスは、
キリスト教的価値観から言って、まさに罪深き女だ。

「マグダラのマリアの加護を、利用した魔術なのですね」

7つの悪霊をイエスに追い出してもらい、ほかの婦人達と共に自分の物を出し合って、
主イエスにガラリヤから付き従った女。
かつては娼婦であり、知性の足りぬ女という生き物が、それでも改悛をしたという象徴的な存在。
カトリックという教えの中で、売春婦達の心の拠り所であり続けた。

神裂は不愉快を、そっと心の中に押し留める。
誰かが穢れを引き受けなければならないから、それを引き受けただけなのに。
インデックスを罪深き人のように象徴することは受け入れがたかった。

「あなたもカトリックの人なんだね。とんだ勘違いなんだよ。
 マグダラのマリアが罪深い人だなんていうのは」
「え?」
「まあ、歴代のローマ教皇がそう認定してきたから、
 カトリックにとっては『そう』なのかもしれないけど」
「どういうことですか?」
153 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 14:00:39.72 ID:/zI3RXmgo

いぶかしむ神裂を尻目に、インデックスは光子に問いかけた。

「キリスト教は、その成立時点でかなりばらばらに分かれちゃったんだよ。どうしてだと思う?」
「それは……やっぱり主義主張の違いではありませんの?」
「例えばどんな?」
「例えば……ああ、聞いたことがありますわ。キリスト教はユダヤ教の派生として生まれたわけですけれど、
 たしかユダヤ教はかなり女性を低く見る宗教だったようですわね」

地政学の授業で聞いた話が、どことなくリンクしている気がした。

「そうだね。礼拝所に女性は入ってはいけない、なんて戒律があったみたいだね。
 そういう考えが自然な社会に、もし女性の高弟がいればどうなると思う?
 今まで皆を導いてきた救済者イエスが人としての肉体を失ってしまった後に」
「……仲たがいを、起こしましたのね?」
「確かなことはもう分からないけど。今のキリスト教を広めた12人の使徒の中に、女性はいないんだよ。
 聖書に載った『正しい』福音書にはね、マグダラのマリアは、主が復活したときに、
 びっくりしちゃって取り乱したって風に書いてあるの」
「マグダラのマリアが書いた福音書ではどうなっていますの?」
「主が亡くなって、教えを広めようとしたときに男性使徒はみんな怖気づいたの。
 異端の宗教である主の教えを広めれば、弾圧されるから。
 マグダラのマリアはそんな皆を慰めて、ほかの使徒たちに語られていなかった主の教えを伝えたの。
 そうしたら、ある男性使徒がこんな風に言ったって書いてある。
 『あの方がわたしたちには隠れて内密に女と話したのか。
  わたしたちのほうが向きを変えて、彼女に聞くことになるのか。
  あの方は、わたしたちをとびこえて彼女を選んだのか』
 って」
「時代や風土によって価値観は決まるものですから、悪いとは言えないのかもしれませんけれど。
 ……女は馬鹿だと、そういう前提があるのでしょうね」
「こんなことを言った人のお墓、『使徒十字<クローチェ・ド・ピエトロ>』の上に、
 ローマ正教の大聖堂は建てられているんだよね」

仕方ない側面はあるのだろう。
水が少ないあの土地では、月に一度、血で汚れる女はさぞかし穢れて見えるのだろう。
日本ですらそうだったのだ。そんな役目を引き受けた『合理的な』理由を考えれば、
自ずと女という生き物が男より罪深く、劣った存在だという答えが出てくるのだ。
マグダラのマリアと相容れなかったペトロは、ごく普通の価値観の持ち主だっただけなのだろう。
主に最も愛された女使徒は、いつしか元売春婦というレッテルが貼られ、教皇達によってそれが承認されてきた。
正しい過去は塗りつぶされ、罪深い女になった。

「……つまり、マグダラのマリアの福音書をわざわざ引用したのは」
「私の過去を否定する、そういう意味合いがあるのかも」
「ふうん、気が効いてるね。たとえこの子の紋章を見つけても、今までの僕らなら、
 この子を守るお守りに見えたわけだ。本当は首輪なのにね」

面白そうな口調で、ステイルはそんなことを言う。目が全く笑っていなかった。
154 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 14:01:56.66 ID:/zI3RXmgo

「それじゃあインデックス。この真ん中の文字は分かるかい?」
「ルーン文字だけど……アルファベットのMの借用文字だよね」
「マグダラのマリアのM、ということですか」
「どうかな。Mに象徴されるのは普通、聖母マリアのほうだろう。
 ……ああ、そういうことか」
「何か分かったの?」
「マリアをルーン文字で、それも黒に金粉を混ぜた墨で書いた意味はなんだろうね。
 ヒントは、銀髪で分かるように君がケルトの血を引いてるって事かな」

つまらなそうにステイルがヒントを出す。
科学側の二人にも神裂にも分からなかったが、それだけで、インデックスは分かったらしかった。

「黒いマリア」
「ご名答」
「説明してください、ステイル」
「あなたは日本人みたいだから知らないかな。ヨーロッパの各地に、黒塗りのマリア像があるんだよ。
 キリスト教では黒は罪の象徴なのに、マリア像に黒を塗るなんておかしいよね」
「では何故そんなことを?」
「君こそその心境をもっともよく理解する人だと思うけどね、神裂。
 キリスト教を押し付けられたケルトの民が、マリア像のなかに自分達の女神を隠したんだよ。
 いや、どこまでその認識が正しいかは君に聞いたほうが早いな。
 観音様の中にマリア様を隠した君たちは、それでもマリア様だけにすがったのかい?
 それとも観音様とマリア様、どちらにもすがったのかな」
「……」
「なんにせよ、マリアという存在に塗りつぶされて、ケルトの女神は名前すらも忘れられてしまったんだ。
 こう言えばもう、言いたいことはわかってくれたかい?」
「ケルト人のインデックスを、この名前すら忘れられた女神になぞらえている、と。そう仰りたいの?」
「よくわかっているじゃないか。全く、よく出来た仕掛けだね。
 この子を二重にマリアになぞらえる。過去を否定されて、いつしか娼婦になったマグダラのマリアと、
 過去を塗りつぶされて、いつしか聖母マリアに同化させられてしまった『黒いマリア』とにね。
 一人の人間からただ過去を奪うだけなのに、随分と凝った術式だ」

そして、術式を発動させるのは神裂火織なのだ。
正しい教えから離れさまざまな宗教を習合させてしまった、天草式十字凄教の元女教皇。
土着の信仰と習合してしまった『黒いマリア』の力を借りるのに、これほどうってつけの人材も少ないだろう。
神裂が使ってきたのは、主の教えから遠い天草式が、最も忘れないで保ってきたマリアの加護、それを利用する術式だった。
神裂ならマリアの力に頼ると分かっていたから、マリアの紋章に呪われたインデックスの、記憶消去を託されたのだ。
一人では、神裂はその紋章の深遠な意味に気づくことはなかっただろう。
それはとても、大きな意味を持っていた。

「確認をとります。私はこの子の記憶を消しましたが、新しい記憶は何度もそこに上書きされていると思っていました」
「違うらしいね。この術式、『黒いマリア術式』とでも名づけておこうか。これはこの子の記憶を消し飛ばすものじゃない。
 徹底的に否定して、隠匿する術式だよ」
「つまり、それは」
「この式を正しく解いたなら、私は今までのことを、全て思い出せるんだね」

神裂は、胸を押さえた。
とめどなく沸いてくる希望が、胸につかえて苦しい。
ステイルがニヤリと笑った。いつもどおりの嫌味な笑いを作るつもりが、失敗していた。
155 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 14:05:46.94 ID:/zI3RXmgo
勢いで書いたから足りない描写があるかもなぁ。
でも書いてて楽しかった。
学校行ってくる。今日は夕方から謝恩会だ。飲むぞー
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/23(水) 14:48:07.40 ID:U+11rVz2o
目新しい板は覗いてみるものだ、こんな面白いSSに出会えるとは
続き期待支援
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 14:57:42.07 ID:f8HyGB/Co
>>155

「首輪」の術式解釈がふるっててすごいぜ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 15:04:24.48 ID:cGh//dcAO
「地震」ってもしかしてポルターガイスト?
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 15:14:50.01 ID:6z+8ukG9P
ペンデックスさんの解釈面白いな
よくここまで書けるもんだ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 15:37:46.08 ID:ZKwRwXr3o
今思えば赤髪のステイルもケルト系か
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 15:52:05.63 ID:bHCb9dn50
宗教関係にもかなり突っ込んでて面白いわ
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 18:03:15.50 ID:kbQpiGA6o
うはあ。
読んでて鳥肌。
キリスト教は大学で勉強してたがここまで絡めてくるとは。
というかすごすぎる。
けしてステイルと神埼を嫌なキャラにしない描写の気配りに脱帽。
光子さんが一番かわいいけどな!

続きが気になるううううううううううううう
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 18:54:34.72 ID:Sk+8rwSMo
上条さん空気だなwwww
まあこの場面じゃしょうがないが
164 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 21:58:13.55 ID:/zI3RXmgo

「それが出来れば、インデックス、晴れてあなたも人並みの生活が送れますわね」

光子の心の中にはチクリと刺すものがあった。
全てを思い出せば、たった一週間を過ごしただけの自分達は、ちっぽけな存在になるだろう。
励ました言葉にキレがなかったことは認めるが、それ以上に、インデックスに喜んだ雰囲気がなかった。

「インデックス?」
「この人たちが私を助けるために頑張った人たちなら、それを忘れた私はどれだけ薄情なんだろうね。
 そうやって到底返せないような借りを、私は何人の人に対して作っちゃったのかな」

それは迷いでもあった。過去は時に重荷でもある。
人は誰しもその荷を下ろすことが出来ない。しかし換言すれば慣れているという意味でもある。
逆に今から背負わねばならないインデックスにとっては、過去を背負うことは漠然と恐ろしかった。

「……あなたに忘れられた私達ですが、それでも貴女を恨んだことなど、ただの一度たりともありはしません。
 きっと、歴代の、あなたの傍にいた人たちも全てそうでしょう」

神裂はそれに自信があった。それだけ、愛らしい少女なのだ。
その心に一年間触れた人間が、インデックスを恨むことなどありえない。それは確信できることだった。

「……で、結局なんとかなる、ってことでいいのか?」
「ステイル」
「原理は簡単なんだ。『黒いマリア術式』を解呪するには、『黒いマリア』の力を借りればいい。
 ただ、この便宜的な名前じゃなくて、ケルトの名もなき女神からマリアの要素をちゃんと差し引いた、
 本来の女神の力を借りられれればいいんだ。それも大規模な魔力は必要ない。
 その女神をその女神として看做す、それだけでいいんだけど」

ステイルがそこで言葉を切った。ルーンやカバラのように、莫大な知識を必要とする術式ではない。
そういう意味で簡単な術式だった。
……ただ、マリアと集合してしまう前の、古い女神の本当の姿さえ分かるなら。
神裂がインデックスを見る。インデックスが女神の真名を知っていれば、それで解決する問題だった。
インデックスは静かに首を振った。

「知らない、か。……真名に頼れないと長くなるけど、祈祷文を作ってみよう」

祈りを捧げるというプロセスで、女神の力を引き出す。
英国人には珍しくもない、ステイルもケルトの民の末裔だった。
正しい祈りさえ捧げられれば、力は問題なく発動する。
だがその正しい祈り、というのが難しかった。
マリアと習合してしまってからの、キリスト教由来の要素を全て排除した呪文を、作らなければならない。
この術式の最も大事なところは、マリアと女神をはっきりと区別することだった。

「なあ、俺の右手で触っちゃまずいのか?」

当麻は、ついそう聞きたい気持ちを抑えられなかった。
165 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 22:02:00.91 ID:/zI3RXmgo

「……最後の手段として、決して否定はしませんが。貴方の右手は何もかもを壊します。
 魔術という仕組みで通常走行している車から、突然エンジンを壊せばどうなります?」
「そりゃ、事故るだろうな」
「そういうことです。そんな壊し方をしては、戻る記憶も戻らなくなるでしょう。
 下手をすればこの子の命を脅かすことになるかもしれません」
「だから早まった真似だけはしないでくれよ」
「言われるまでもねーよ」

トントン、と地面をつま先で叩いて、無力感を紛らわせる。いま必要なのは不貞腐れることではない。

「いつやる?」
「今日やろう。時間はもう少し遅いほうがいいだろうね」
「インデックス。絶対に……救ってみせますから」
「……うん」

神裂の、万感篭もったその瞳に、インデックスはたじろいだ。
それが今の二人の距離感だった。いや、インデックス側の距離感だった。
神裂はしまったと後悔した顔を一瞬見せて、あとは事務的な表情に戻った。

「その、こういうのを聞くのはよくないかも知れませんけれど、
 失敗したらどうなりますの?」
「どうもならないか、正しい記憶封印の術式以外に晒されることでペナルティが発動して、
 この子の死を招くか、そんなところだろうね。まあこの子に魔力はないから、派手な死に方はしないだろうけど」
「では失敗したら、この街の医療に頼ることになりますのね?」
「……そうだね、魔術で、咄嗟にペナルティを解呪するのは難しいだろうね」
「そう。じゃあ、あとで医師の方に伝えておきますわ」
「頼みます」
「で、場所はどうするんだ?」
「……聞いてどうするんだい?」
「どうするも何も、そこに行くに決まってんだろ?」
「正直、魔術を使う場所に君は必要ないんだけどね。その右手がどんな悪さをするか分からないし」
「……」

そっと、当麻の袖をインデックスが引いた。

「とうまと、みつこに隣にいてほしい」
「魔術には、必要ないだろう? 君だって分かっているはずだ」
「二人がいてくれたほうが、私はずっと頑張れるから」

インデックスに真っ直ぐ見つめられて、ステイルは苦々しげに目を逸らした。

「好きにしなよ。だが上条当麻。お前はこの子からちょっと離れていることだね」
「……いいさ。理由は理不尽じゃない。従うよ」

話は、決まりだった。
インデックスという少女が、死を迎えるまでにあと2日。
それだけの時間を残して、今日、全ての決着がつく。
みんなが幸せになれる未来が手繰り寄せられるように、当麻はそれだけを決意に。
インデックスの頬をつねってやった。

「むー! いひゃいってば、とうま!!」
166 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/23(水) 22:08:06.03 ID:/zI3RXmgo
『ep.1_Index 12: 黒いマリア』おしまい。
理系の俺がコツコツ図書館に通って作ったネタでした。
それっぽい匂いがすればいいなぁ。
宗教史と古代史ってロマンの塊だよね。科学は未来の塊だけど。

>>163
勢いで書くと登場キャラの会話量のチェックがおろそかになるんだよなw
arcadiaに上げるときに調整する予定。

>>158
そう。ポルターガイストの影響ってヤツです。
知らない人のために言うと、アニメ版超電磁法の後期のネタな。
そういやちょっと説明が足りなかったね。

さて、本編より48時間早いけど、第一巻のクライマックスに突入しちゃうよー
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 22:43:55.95 ID:thF+KNvAO
乙!
俺もネタ集めに調べたりするけど、ユダヤ教やキリスト教はいまいち分からん
けど、科学の法則とか数式のほうがもっと分からんわ
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 22:52:46.69 ID:zwrej3s20

ついに第1巻のクライマックスかー
流石にこのインデックスさんは上条さんとこに居候しないよなww
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 00:01:05.93 ID:LNgKeKF/0
 正直凄すぎる……
マグダラのマリアの本史じゃないとこを持ってきて、
しかも銀髪→ケルト→飲みこまれた民族神……。
黒いマリアとか全然知らなかった。
で、そういうのをささーっと繋げてしまうとかもう鳥肌ものです。
 再構成ってこれくらいの力が要るものなのか。

 ステイルや神裂がしっかり活躍したり、心理描写されたりしてて引き込まれるなあ。
続きめっちゃ楽しみです!
170 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/24(木) 00:50:03.99 ID:jP00qpAio
おにぎりを頬張る。
時刻はもう夜といっていい時刻だった。
今日がなんてことのない平穏な日だったなら、夕食を囲んで談笑しているところだろう。
そうするほどに、明るい気持ちにもなりきれなかった。
あともう少ししたら、屋上に行くことになる。
星の見える場所で、インデックスにかけられた呪いを解く。
そういうことになっていた。今頃あの二人は準備をしているのだろう。
こちら側に出来ることは何もない。せめてその時まで、心を落ち着けて体を休めておくくらいだった。

「みつこ」
「どうしたの?」
「呼んだだけ」
「……ふふ。ちょっと待ってて頂戴ね」

三人は病院の個室にあるベッドに腰掛けて、売店で買った軽い夕食を摘んでいた。
インデックスは自分の分をさっさと平らげてベッドに転がっている。
座っておにぎりを咀嚼する光子の腰に腕を回して、じゃれ付いていた。

「ごちそうさんっと」
「とうま」

返事をせずに、当麻はベッドに倒れこんだ。
光子に抱きつくインデックスを、後ろから撫でてやる。
猫みたいにインデックスが目を細めた。

「ご馳走様でした。……もう、インデックスも当麻さんもお行儀が悪いですわよ」

そう言いながら、自分もインデックスの腕を解いて、ベッドに倒れこんだ。
すぐさまインデックスが光子に抱きつく。
たいして年齢差のないであろう二人なのに、ちょっと年の離れた姉妹みたいだった。
インデックスを撫でる光子と、目が合った。

「ほらインデックス。当麻さんが寂しそうですわ」
「ふーん」
「構ってあげたら?」
「やだもん。とうまはすぐほっぺたつねるから」
「照れ隠しですわよ」
「意地悪なだけだと思う」

酷い言われようだった。悪い子は、つねるしかない。
インデックスに手を伸ばすともう当麻の意図が分かっているのか、
すげなく手を払われる。

「なんだよ。触ったって良いだろ」
「良くないんだよ。っていうかとうまは男の人なんだから気安く触ってもらっちゃ困るんだよ!」
「まあ、そりゃ俺は男だけど。触っちゃまずいような体か?」
「とうまの意地悪!」

光子より体型が子供なのを揶揄されると毎回ムッとするのだった。
171 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/24(木) 00:51:32.61 ID:jP00qpAio

「もう。当麻さん。そういう意地悪は女の子にとっては嫌なだけですわ。
 こういう時くらい、ちゃんと向き合ってあげればよろしいのに」
「いいんだよ。私にはみつこがいるから」

光子の言葉を受けて、当麻はふむ、と考え込む。

「インデックス。これからのこと、怖いか?」
「え?」
「強がりだって、悪いことじゃないから何も責める気はないけどさ」
「……怖くないって言ったら嘘になるよ。でもね、とうま」

光子に抱かれたまま、インデックスが幸せそうに笑う。
インデックスが本音を偽れる悪女なら、相当の手練手管だろう。
本当に幸せを感じてくれている、自分達は幸せにしてやれていると、そう信じてしまう笑顔だった。

「こんなにもみつこととうまが私のことを気遣ってくれるから。それにあの二人も頑張ってくれてる。
 それを、不幸だとかそんな風には思えないよ」
「そっか。なあインデックス」
「うん?」
「こっち来いよ」

いつも、光子が抱きしめるインデックスを外から見る構図だった。
不用意に光子以外の女の子をべたべたと触るもんじゃないし、それで済ませてきたが、
インデックスを、抱きしめてやりたいという気持ちは当麻にだってあった。

腕を開くと、疑うことを知らないインデックスが、ぽふりと当麻の胸の中に飛び込んだ。

「えへへ、とうま」
「インデックス」

ぎゅ、っと。息が苦しくなるくらい抱きしめてやった。
光子より硬い印象のある抱き心地。光子より小さくて、やはり幼かった。

「とうま、力強いね」
「そりゃ光子よりはな」
「ねえとうま」
「ん?」
「大好き、だよ」

ドキリと、当麻の胸が高鳴った。
ほんの一瞬だけ隣に光子がいることすら忘れて、インデックスをもっと抱きしめたくなった。

サラリと、細い指が当麻の頬と首に絡みついた。
光子が、当麻の同意を取ることもなく、いきなりキスをした。
インデックスの見ている目の前だった。

「み、光子……」
「あー、みつこ今、妬き餅妬いたでしょ」
「だ、だって。当麻さんは私の恋人です!」
「別にとったりしないよーだ。みつこととうまは、お似合いだからね」

事実、光子の妬き餅は思い過ごしだ。
光子と当麻が仲良くしていると、インデックスも嬉しそうだったから。

予定の時間まで、あと20分。
互いの情愛を深め合うように、三人はベッドの上でじゃれあった。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 00:53:54.27 ID:oZOGrn+vo
向こうは修羅場ってるけど、こっちのインデックスは見事に妹ポジションを獲得したな
173 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/24(木) 01:01:08.77 ID:jP00qpAio
>>167
高校がカトリック系だったのもあって、興味があったんだよな。
あと高2病を発症したときに哲学にはまってキリスト教史とか勉強した蓄積は大きいな。
そしてニーチェ先生には本当にお世話になりました。神は死んだのさ。

>>168
居候問題はきちんと向き合わないと再構成できないねー。まあネタバレは避けるよ。

>>169
黒いマリアもマグダラのマリアも全部図書館で借りた本から引っ張ったネタですよ。
SSに登場させる魔術考えようとか思いながら読んでて、いいネタだなーと思ったのを、
今回うまいこと使うことが出来ました。
マグダラのマリアの福音書はグノーシス主義と繋がってくるのでそっちに話を広げても
面白かったんだけど、ちょっと知識不足だった。
書いてる本人はこれでワクワクしてるんで、読んでくれてる人が同じように思ってくれてたら嬉しい。
174 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/24(木) 01:03:58.23 ID:jP00qpAio
>>172
そうなんだよー。あっちとの対比が俺の中ではもうなんともいえない気持ちになってる。
美味しいタイミングでこうなってくれたなぁ、とw
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 01:07:28.73 ID:OG5W9tNAO
あっぶねー
グノーシスは今考えてるのでかなり使うから、正直そっちにしなくて嬉しいわ
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 01:15:06.15 ID:LNgKeKF/0
 乙です!!
こういう絆のよく現れるところを丁寧に描いてくれるから、
戦闘シーンとかがかっこよくなるのかな

 自分は本編再構成を考えてる者ですが、
そのために勉強することが山のようにあるし、
時間も相当使いそうだし、
今のような生半可な覚悟じゃダメだなって痛感します
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 06:34:20.83 ID:y5rHohwAO
>>167
食わず嫌いしないで旧約聖書読むのが一番良いよ。面白いから。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 07:01:08.83 ID:pq7Xg/Llo
>>177
読み物としては面白いよな
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 14:58:38.67 ID:LNvnO7750
旧約聖書とニーチェはクリエイターの必読書って言うしね
某監督とか某作家とか有名どころはみんな読んでたりする
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 15:07:52.12 ID:BA/HjX450
乙。ずっと楽しく読んでます

といいつつ今更こんなアホな質問で申し訳ないんだけど
タイトルの発射場の読みは普通に「はっしゃじょう」でいいの?
禁書っぽくクールなカタカナ読みとかあったりするのか?

教えれ
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 15:45:01.33 ID:pq7Xg/Llo
>>180
原作もそのままだったし、それでいいんじゃね
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 15:58:34.18 ID:LNgKeKF/0
 敢えてつけるにしても、俺にはそのまんまのLauncher(ランチャー)くらいしか思いつけない
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 16:16:58.36 ID:pq7Xg/Llo
>>182
ロケットだと某アニメと紛らわしい
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 18:55:24.83 ID:EAfMcMsu0


If long-range ballistic missile air to ground Aero
          発射場
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 19:33:08.80 ID:0nQIZMg/0
>>180-184
みんなありがとさん。はっしゃじょうガールでいいのな
ランチャーガールもエアロガールもロケットガールもすてきだけど

ところで婚后さんが上条さんを敵に向かってふっ飛ばして幻想殺しをぶち込む
愛と友情のツープラトン、「トンデモ上条ミサイル」を幻視した
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 21:27:33.76 ID:UAQCcdWio
はっしゃばガール
と読んでた

>>185
それは既に原作でアックアが通った道なのである
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/24(木) 22:53:04.74 ID:0nQIZMg/0
>>186
なんと。流石は神の右席なのである

じゃあさらに回転を加えた「トンデモ上条サイクロンミサイル」を幻視した
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/25(金) 00:04:20.49 ID:mRrZbOgCo
幻想殺しを左にも付けて2そげぶ!
いつもの二倍高く跳んで4そげぶ!
そしていつもの三倍の回転で12そげぶだぁぁぁぁ!
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 00:11:44.21 ID:WYx3AGMp0
婚后「当麻さんの1000万そげぶ!!プラス、わたしの1000万の風!!あわせて・・・2000万パワーズだ―っ!!」
190 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/25(金) 02:38:58.26 ID:ElU6Uzwto
>>176
正直再構成は続ける根気が一番大事だと思うよ。
設定の細かさを売りにしようと思ってるからそういうSSになってるけど、
別に面白いSSは他にいくらでも書きようはあると思う。
まあなんだ。書くのは結局自分のためなんだし、
途中で投げ出しても良いから書いたら良いと俺は思う。

あとタイトルなんだけど、「とんでもはっしゃじょうがーる」と俺は読んでる。
トンデモ・ラウンチャー・ガールの語呂は嫌いじゃないけど、うーん。
はっしゃじょう、という読みを公式だということにしておきます。
人それぞれ好きに読んでくれて良いけどね。勿論。

>>186
場を「ば」と読むとポテンシャル場とか場の理論とかしか思いつかないので、土地への名称は「じょう」と読みたい。
……柳馬場通りとか「ば」だけどさ。

>>185-189
じゃあ一巻の終わりはそういうノリで書くわwww
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 03:12:24.32 ID:7W1XE7qjo
今更だが魔術の設定のかまちーっぽさに感動した
わかったような気がするけど結局よくわからない感じがすごいそれっぽい
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 07:01:00.98 ID:a7p2Ym+AO
俺が今まで見たSSの中で一番違和感がなくて凝った作品だと思う
すげえ
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/25(金) 21:18:34.90 ID:LmL5spyAO
これはすごいSSだな
194 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/26(土) 01:11:46.33 ID:I29zP0Ago

医者と簡単な打ち合わせをして、当麻たちは屋上への階段を上る。
扉を開けて、物干し竿がいくつも並んだその先に、ステイルたちの影がうっすら見えた。
今日は晴天。明かりの豊富な学園都市の中だから、余り星は綺麗に見えないが、
それでも力強い光が、点々と見えていた。

「よう。待たせたか?」
「いえ、定刻までは我々もすぐことがありません。ちょうど頃合に来てくれましたね」
「もう準備は出来ていますの?」
「ああ。あとはその子に、ここに立ってもらえばいい。それだけさ」

空には月。地には、直径5メートルくらいの車輪模様に敷かれた護符。

「呪文は、もう練れたの?」
「ああ。ゴール語で文章を組み立てるのは無理だし、ラテン語だけどね」

ラテン語はケルトの民を攻め滅ぼした側だが、それは後世に資料を残した本人達だということでもある。
ラテン語から翻訳した英語で唱えるよりは、まだしも原点に近い。

「何かあれば、すぐ行くから」
「……とうまはよっぽどおかしいことがあるまでは、ちゃんとここで待っててね」

インデックスを中心として発動する、車輪の魔方陣よりさらに数メートル離れたところで、
当麻はインデックスを見送った。隣に光子も残った。
カツカツとかかとを軽く響かせながら、インデックスは車輪の内側へと足を踏み入れる。
そして中心点で、立ち止まった。

「それじゃあ、はじめるよ。だけどその前にもう一度確認しておこう。
 インデックス。君は今から僕の魔術に、命を託すことになる。
 失敗すれば死ぬ、と覚悟しておいたほうがいい。それは充分にありえることだ」

車輪のすぐ外に片膝を着いたステイルが、インデックスにそう尋ねた。
まるで止めておけというような、否定的な響きさえ感じられる言い方だった。
事実、ステイルに迷いがないとは言えなかった。
後一度、インデックスが全てを喪失してしまうことさえ諦めれば、
もっと時間をかけて準備をすることが出来る。
死ぬかもしれないリスクを、冒すべきだと断定は出来なかった。

「あなたは、失敗する気なの? 自信がないの?」
「こんな専門外の魔術に自信を持てというほうが無茶だとは思うけどね。
 ……はは。今の君に言っても仕方のないことだけれど。
 僕は今この瞬間のために、魔術の腕を磨き続けたんだ。
 なんにでも誓うよ。この命に代えてでも、失敗なんてするものか」
「ありがとう。貴方のことを覚えていない私に、そこまでしてくれて」

それはむしろ謝罪だったと思う。淡く笑って、ステイルはそれには返事をしなかった。

「こんな言い方をすると悪いけど、私は貴方の死を背負いたくはないんだよ。
 そういう風に誰かの命の上に生きていきたいとは、思えないから」
「こちらとて死ぬ気はないよ。……それじゃあ、やろうか」
「うん。とうま! みつこ! すぐ、終わるから」
「おー、途中で寝るなよ」
「そんな子どもじゃないんだよ! とうまのばか!」

ほっぺたをつねられるのも、こんな冗談を飛ばされるのも、インデックスは嫌いじゃなかった。
落ち込んだときだとか迷ったときに、こういう冗談でいつも気持ちをしゃんとさせてくれるから。
光子はニコリと微笑んで、頷いてくれた。
助かろうと、そう思える。あの二人がいなかったら、自分はこの魔術に頼ろうとしただろうか。
リセットされて困るだけの一年だっただろうか。
絶対に光子と当麻のことを忘れたくない、その思いがインデックスを奮い立たせてくれた。

「―――― O Fortuna imperatrix mundi」

ケルトの地に繰り返し現れる、出産、生と死、輪廻、車輪、そして運命をつかさどる女神の元型<アーキタイプ>。
一言一言を踏み締めるように、ステイルが祈るように手を組んで女神への祈りを唱え始めた。
195 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/26(土) 01:14:57.65 ID:I29zP0Ago
>>191
まー専門外だからな。結局よく分からない感じになるのはしゃーないんではなかろうか。

あ、ステイルの唱えたラテン語は、カール・オルフ作曲のカルミナ・ブラーナの終楽章から引っ張ってきました。
逆に陳腐に見えるかなーと心配もしてたり。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 03:47:56.83 ID:Na7n2OQgo
>>195
すまんやっぱり勘違いさせてしまったみたいだ
よく分からないのは自分に知識がないからであって別に内容に問題がある訳じゃないんだ
もっとそこら辺のことを書くべきだったすまん
197 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/27(日) 19:36:43.56 ID:YqlYn7iHo

ただの黒いインクで描いたルーン文字、それが光を帯びて、金へと変わっていく。
そして青色、赤色を経て黒い光を発し、そして金へと還る。
その中心で、インデックスは手を胸元に組んで、俯くように祈っていた。

朗々とステイルが祈りの文を読み上げる。
隣では神裂が目を瞑って、こちらも祈っているようだった。
祈りは救い。どのような身分でもいかなる時でも、人は祈ることが出来る。
科学の言葉で言えば、それは無価値な行いだ。
科学を信じる人にとって、世界を作り変えるのは祈りではない。主体的な行動だからだ。
だから当麻たちは祈ることが出来なかった。祈る以外に、すべきことを探してしまう。
当麻と光子は、徐々に光の強さを増していく魔方陣を、じっと見つめていた。

「――――Fortune plango vulnera stillantibus ocellis」

祈りによって熱を帯びた魔方陣が、光で飽和するように、ある瞬間を境に瞬き方を変えた。
地上からでも光が見えそうな、それくらい強い光を発している。
インデックスを含め、全員の顔を昼と遜色ないくらい見分けられる明るさだった。

「――――Ave formosissima, Ave formosissima, Ave formosissima」

車輪の外周に、少しづつ文字が現れ始めた。見た目からしてルーンというやつなのだろう。
はっと、インデックスが驚いたように唇を押さえる。
魔方陣に現れた文字は、インデックスに刻まれた紋章を打ち消すものだった。
それが完成したとき、解呪の魔術は成される。
再びインデックスが俯いて祈り始めた。

光子は、目の前の出来事に語るべき言葉を見つけられなかった。
魔術を見たのは初めてではない。『魔女狩りの王』に何度も追われているのだ。
だが、儀式めいた、魔術らしい魔術を見たのは初めてだった。
光を再現する分には、もちろん超能力でも可能だろう。
だが、心のどこかで理解できるのだ。これが超能力ではないことを。
この学園都市のみがたどり着いた一つの答えと、まったく矛盾する存在であることを。

七割、八割、そして九割。
もとより院長に許可を取って、屋上でやっている行為だ。邪魔が入るはずもない。
神裂も当麻も光子も油断はしていなかったが、警戒すべき外乱の影すら見当たらなかった。

――――そして、車輪を縁取るルーン文字が完成した。
魔方陣がひときわ強く瞬く。そしてステイルが何かを一言呟くと、
シュン、という音と共に、魔方陣から全ての光が失われた。
神秘的だった何かが失われていくのを光子は肌で感じた。

「……うまくいった、のか?」

その呟きが聞こえたわけでもないだろうが、ステイルの目線が一瞬当麻と交錯する。
そして小さな頷きが帰ってきた。
術式そのものは簡単だ。そして手ごたえもステイルの中にはっきりと残っていた。
だから、術式が用を成さなかったという意味の失敗は無いと断言できる。
問題は、解呪が済んだ後のインデックスに、ペナルティがかかるかどうか。

俯くインデックスを四人は注意深く見つめる。
どうなったのか、それを確かめるのが怖くて誰しもが足を進められなかった。
インデックスが組んだ腕をだらりと下ろした。
そして、顔を上げる。

危険な兆候はない。足取りは少なくとも確かだ。
だからステイルの中の期待が痛いほど膨らんでいく。
その目で見つめて、名前を読んで欲しい。微笑んで欲しい。
それだけで、全てが報われる気がする。

顔を向けたのは、ステイルのほうだった。
それはきっと記憶を取り戻したからだと、そうステイルは思った。
当麻のほうではなかったことに素朴な喜びと優越感を覚える。

読み取りにくい表情で、インデックスが双眸を開くと。

――――生来の緑を塗りつぶして、血のように紅い魔方陣が両目に浮かんでいた。
198 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/27(日) 20:07:22.66 ID:YqlYn7iHo

「ステイル!」

呆けるステイルを我に返らせたのは当麻の声だった。
咄嗟に体を捻ると、キュッという、自分のわき腹が焼ける音がした。

「が、あああああああああ!!!!」

理解できない。今自分は何をされた?
拳銃でも撃たれたのだろうか。それは酷く納得できる答えだった。
もしかして、なんて自分の頭の中を巡っている可能性に比べれば。

「ど、うして……あの子が、魔術を使えるんですか!?」

それは一番最初に本人から与えられた情報だった。
沢山の魔導書を読んだが、自分自身はその力を使えないのだと。
これは、その事実に反している。
そして説明の言葉はインデックスからはなかった。ただ、無機的なアナウンスが口から流れる。

「――――警告。第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum――禁書目録の『首輪』の消去を確認。
 10万3000冊の『書庫』の保護のため、侵入者を迎撃します」

突きつけられたインデックスの指から、再び赤い光が飛ぶ。
現代で言えば銃弾と同じような、目にも留まらぬ速さだった。
それを神裂は咄嗟に防いだ。

「神裂! ステイル! なにぼけっとしてやがる! どうすればいい? 何をすればインデックスは元に戻る?!」
「――っ! 発動しているのはこの子の緊急時を預かる『自動書記<ヨハネのペン>』です。これを止められれば」
「どうやれば止まる?」
「そんなこと……っ! 考えたこともなかったんです!」

次々と飛んでくる光の矢を、神裂は造作もなく弾き飛ばす。
埒が明かないとインデックス、いや『自動書記<ヨハネのペン>』は判断したのだろう。
ジロリ、と当麻を見つめたのが分かった。

「――――侵入者に対し最も効果的と思われる魔術の組み込みに成功しました。
 これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

インデックスの瞳に浮かんだ魔法陣が一気に拡大して、目の前に投影された。
直径は二メートル強。二つの魔方陣は互いに重なり合った。

「    、    。」

当麻と光子、いや神裂たちにも理解できない声で、『何か』をインデックスは歌う。
バギン、という空間がきしむような音と共に、黒いひび割れが空を這った。
それはまさしく雷の先駆放電であり、次の瞬間、二つの魔方陣から、黒い雷が奔流となって当麻に襲い掛かった。

「当麻さん!!!」
「お、お、おおおおおおあああああああ!!!」

誰もがその光を、人間など一撃で死に至らしめるものだと理解している。
当麻も勿論知っていた。だから、それに立ち向かう。自分がよければ誰に当たるかなんて考えたくもない。
ごく、手馴れた仕草で当麻は右手を突き出した。
自信があった。自分の右手は、それが超常現象なら、神様の奇跡だって打ち消してみせる――――!
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/27(日) 23:25:59.40 ID:XTUnAhnc0
1巻の最終回が近いな
期待乙
200 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 00:36:01.92 ID:kSY69CIvo

「『竜王の殺息<ドラゴン・ブレス>』って、そんな」
「どうしてこんな強力な魔術をこの子が……」

離れたところで魔術師達が呆然と呟いている。隣では光子が余波で尻餅をついていた。
ジリジリと右手が焦げていくような錯覚にとらわれる。秒単位で皮膚が削れていくようだった。
そして受ける圧力は、音速の風でも掴めばこうなるか、というような硬質な流れを感じさせる。
強風にガタガタと音を鳴らす窓のように、当麻の指をへし折りかねない、嫌な振動を指が起こしている。

「おい! ステイル! 神裂! 寝ぼけてねーで起きやがれ!」
「……く! 上条当麻! あの子の紋章を何とかするんだ! 少なくともそれでこの攻撃は収まる!」
「そうは言うけど、これじゃ」

動けない。馬鹿みたいな圧力で、足を踏ん張って立っているのがやっとだ。

「当麻さん! 今!」

気づけば光子が、数十個のコンクリート塊を頭上に打ち出していた。
能力で床にヒビを入れ、強引に砕いてはがしたらしかった。
雨の様に振るそれは当然ながらインデックスにとっての脅威。
迎撃のために視線が逸れて、当麻は自由になる。

「ステイル!」
「気安く名前を呼ぶな!」

当麻は、ステイルがカバーしてくれることを疑わなかった。
神裂はもう光子の隣に駆け寄って、手ごろなサイズのコンクリート塊を量産している。

神裂火織とステイル・マグヌスは魔術師だ。普通の人が決して背負わぬほどの誓いを、魂に刻みつけた人々だ。
これまでもその名に違わぬよう、道を外さぬよう、精一杯やってきた。
だが、これほど、今ほど、魂を震わせてその名を口に出来たことはなかった。
あの子を絶対に救い出す。幸せと笑顔を取り戻す。

「――――Fortis931<我が名が最強である理由をここに証明する>」
「――――Salvare000<救われぬ者に救いの手を>」

二人は同時に叫んだ。
そしてステイルが、胸元からありったけのルーンを取り出してばら撒た。

「顕現せよ、わが身を喰らいて力と成せ。『魔女狩りの王<イノケンティウス>』!」

インデックスに接近する当麻を、再びインデックスが捉えようとする。
その刹那。何かに突き動かされるように当麻は頭を下げて転がる。
一瞬後に頭のあった場所を太い『光の柱』が薙ぎ、そしてそれを炎の巨人が受け止めた。

「『魔女狩りの王』の発動を確認。反抗魔術<カウンターマジック>、
 『神よ、何故私を見捨てたのですか<エリ・エリ・レマ・サバクタニ>』を組み込みます」

瞬時に『自動書記』が対応を練る。
『魔女狩りの王』を一度も見せていなかったなら、もっと時間が稼げたかもしれない。
もし、たら、れば。全部無駄なことだ。現にステイルは、もうインデックスの前で手の内を明かしてしまった。
仕方ない状況があったとはいえ、それはインデックスと対峙する上で最もやってはいけない愚だ。
『魔女狩りの王』が『竜王の殺息』を受け止めて数秒後には、もう、ジリジリと押され始めていた。

「……く。上条当麻! 急いでくれ!」
「――――! 上! 避けてください!!」

相反することをステイルと神裂が叫んだ。
空には幾枚もの純白の羽。直感でそれが酷く危険な、『竜王の殺息』と変わらないものだと気づいた。
それを迂回するように当麻は光子から見てインデックスの反対へと回る。
それはどうしようもない隙だった。視線の外では『魔女狩りの王』とそれを成す全てのルーンが引きちぎられていた。

「こっちですわ!」
201 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 00:37:53.38 ID:kSY69CIvo

光子は歯噛みする。
自分には援護しか出来ない。しかも、援護のためにばら撒いたコンクリートが明らかに危険そうな羽根に変わるのだ。
だけど、数秒でもインデックスの視線を上条から逸らさないと、近づくことすらできない。右手で触れることが出来ない。
病院の床を削られないように、もう一度数十個のコンクリート塊を空に飛ばす。密度がなるべく低くなるように、散り散りに。
インデックスの視線が空をあちこちと掃引した。視界にあったいくつもの雲が引きちぎれる。
学園都市のあちこちで予報から外れた局地雨が振っていることだろう。下手をすれば衛星だって打ち落としそうな威力だ。
神裂の用意してくれる速さより、自分の能力のほうが遅かった。あっという間にこめかみに浮いた汗を袖で乱暴に拭う。
レベル4、学園都市に在籍する空力使いの中でも、ほとんどトップにいるはずの自分の力を持ってしても、

「間に合って! 当麻さん!」

あと50センチが足りなかった。
もう少しなのに。あと少しなのに。
当麻にたった1秒の猶予を与えてあげられれば、それで全てが解決したのに。
奥歯が割れるんじゃないかというくらい、光子は歯を食いしばった。

「おおおおおおお!!!!!!!」

叫び声を上げていなければ押し返されそうだった。
拮抗。神裂や光子は、二人の距離が近すぎて手を出せない。
あと5秒あれば、神裂辺りは妙案を思いついて何とかしてくれるかもしれない。
ただ、当麻にその時間がなかった。
ビキ、と小指の骨が割れた音がした。薬指ももう限界だ。
だが当麻は痛みを感じなかった。そんなちっぽけな痛みよりも、もっと救ってやりたい女の子が、前にいるから。

「俺はお前に誓ったよな。インデックス。お前といるせいで俺達は不幸になったりなんてしないって。
 言っとくけどお前もだぞ。俺たちといて不幸になんてさせるか! 呪縛なら俺が断ち切ってやる!
 お前が悪夢から覚めないってんなら、その幻想<ゆめ>をぶち壊してやる!!」

さらに耐えたその1秒で薬指が逝った。もう、光の奔流を押さえ切れなかった。
……だから押さえることを、諦めた。

「くっ、曲がりやがれえええぇぇぇ!!」

圧力に負けじと突っ張った体を無理矢理に傾けて、当麻は『光の柱』をいなす。
真横に伸びた巨大な円柱の側面を撫でるように、ザリザリザリと右手が壊れる音を耳にしながら、
上条は最後の距離を詰めて、インデックスの魔方陣に手をかけた。
――――学校の宿題のプリントを破るより、軽い抵抗しか手に残らなかった。

「――――警、こく。最終……章。第零――……。『 首輪、』致命的な、破壊……再生、不可……消」

カッと開かれていたインデックスの真っ赤な瞳が、色あせると共に閉じられていく。
倒れそうになるインデックスを、当麻は確かに胸に掻き抱く。
当麻は気づいていた。もう身長と変わらない所まで降りてきた、沢山の白い羽根に。
逃げ切ることは出来ない。右手はピクリとも動いてはくれない。せめて、インデックスに触れさせるまいとした。

遠くでステイルと神裂の叫ぶ声がする。ただそれは絶望的に遠かった。
くそ、こんなところで諦めてたまるか。俺たちはこいつのせいで不幸な目にはあっちゃいけないんだ。
それは、この少女との一番大切な、約束だった。
自分のせいで人が傷つけば、この少女はどれほど自分を呪うだろう。
記憶を取り戻して、これから幸せにならなければいけない少女なのだ。
その門出に、こんな理不尽はあってなるものか。
ギリ、と当麻は歯噛みする。諦めることだけは絶対にしない、そういうつもりだった。



「当麻さん! インデックス!」



ハッと周りを見渡す。その声は、やけに近くから聞こえた。
当麻はその声を聞いて、ニヤリとなった。
「愛してる、光子」
後で冷静になって考えれば、そんなことを呟く時間はなかったはずだと思うことだろう。
実際に呟いたのかどうかは誰にも分からなかった。
生身の人間が出してはまずいような神速の踏み込み。
光子は自分の能力に出し惜しみをせずに、死の羽根の舞うインデックスの傍へとたどり着いて、二人を抱きしめた。
そして、えげつない運動量をもってして自分ごと、その場から吹き飛んだ。
後にははらはらと舞い落ちながら消える、羽根だけが残された。
202 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 00:40:25.45 ID:kSY69CIvo
むー、バトルシーンが短いな。バランス悪いかも。
そういや禁書未読の人にはわからんくらい説明はしょったな。
べつにそう言う人のことを気遣う気は一切ないんだけど、
原作未読でも分かる程度に説明はするってのは一つのポリシーだし、
あとで加筆します。

……ということで一巻の山場、のりきっちゃった。
おー。なんか感慨深い。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 00:42:46.44 ID:BrLFMbn9o
おお、見事に記憶喪失フラグへし折ったな
1巻終わりそうなので次は向こうのヒロイン登場、それとも佐天さんパートかな?
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/28(月) 00:43:32.42 ID:arHxhiHZo
おつつ

ガオガイガーみたいに風力受けて上条さんが突進するのかと思ったら
光子さんがとんでったよ!
205 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 00:50:41.87 ID:kSY69CIvo
『ep.1_Index 13: ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール』がこれで終わりということで。
09にトンデモ発射場ガールってタイトルつけたけど後で変えておこう。

>>203
まだ大事なエピローグが残ってるんだぜb
その後は能力体結晶編の予定。プロットちゃんと書いてないから、
細かいことも大まかなこともこれから決めるわ。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 00:53:05.38 ID:Iw+yrUx60
記憶喪失になったら婚后さんがかわいそうだからな
そしてついに姫神登場来るか
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 01:18:01.91 ID:TZUFaDq90
「病室を間違えていませんか?」
「わたくしは当麻さんのことが、大好きでしたのよ」

みたいな展開がくるんじゃないかとビクビクしてましたが、杞憂だったぜ!
エピローグ、そして体晶編を楽しみにしてます

乙!
208 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 02:20:20.60 ID:kSY69CIvo

目を開くと、空が見えた。綺麗な星空だ。
体がズキズキする。擦り傷だらけで全身が痛いし、それ以前に右手が怖いくらい腫れている。
直ったと思った左足も筋肉痛を酷くしたような痛みがあった。

「当麻さん!」

綺麗な髪も調えてあった服もをぐしゃぐしゃにして、光子が抱きしめてくれていた。
よく見れば隣にはインデックスもいる。

「……なあ、問題解決ってことで、良いのか? ステイル、神裂」
「とりあえず『自動書記』による迎撃は止みました。というかほとんど『自動書記』自体も破壊したので、
 再びこの子が襲ってくることはないでしょう。そういう意味で、我々の身の安全はおおよそ確保されました」

煮え切らない言い方だ。それもそのはずだ。自分たちが何故こんなことをしたのか、当麻の頭から蒸発していた。
記憶の封印は、破れたはずだ。まだ目を覚まさず眠っているインデックスが起きたとき、それが本当の勝負なのだ。

「酷い怪我ですわね」
「まあ、あの医者なら何とかしてくれるだろ。それはそれで怖いんだけどさ」
「もうすぐ担架が来ますから」

気を失っていたのは一分やそこらだったようだ。こと頭への衝撃に限れば大したことはなかった。

「ん……」
「インデックス!」

僅かに漏れた声に、一番早く反応したのはステイルだった。

「おーい、起きたか?」
「インデックス?」
「とうま、みつこ……あ」

愕然と、何かに驚いたようにインデックスが目を見開いた。
くるりとステイルと神裂にも向けられて、二人の背中がビクリと震える。
息をすることすら忘れて、泣きそうな顔をして、こらえるように唇を噛んで、
インデックスは数秒間、何かを耐え忍んだ。

そして。
おぼつかない足でふらふらと立ち上がり、座り込んだ光子の肩に捕まりながら、
まっすぐ、ステイルと神裂の二人を見つめた。

「ごめんね、って言うのは二人に失礼になっちゃうかな。
 ……ありがとう。かおり、ステイル。ずっと私を見守ってくれて」

ひう、と女々しい吐息がこぼれた。
それが神裂のものだったからステイルのものだったか、当麻は分からなかったことにしてやった。
209 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 02:21:44.31 ID:kSY69CIvo

「インデックス。インデックス……っ!」

どたどたと、普段の足取りの切れの良さなんて微塵も見せないで、
神裂が倒れこむように、膝を突いてインデックスを抱きしめた。

「思い出して、っ……くれたんですか」
「うん」
「良かった。良かった……! ああ……」

ぽろぽろと幼子のように神裂は涙をこぼした。どちらが年上か分からなかった。
インデックスが、自分の知っている仕草そのままに、自分を抱きしめてくれる。
止め処のない喜びが後から後から溢れてきて、どうしていいか分からなかった。

「まったく、一年ぶりとは随分薄情だったね」
「ごめんね」
「……謝ってもらおうと思って言ったんじゃないんだけど」
「うん。ステイルこそ随分と時間をかけてくれたね」
「ごめん」
「……私こそ謝ってもらうことじゃないんだよ」

シニカルな口調が全然似合わない、少年みたいな笑い方だった。
ははっ、とステイルが空を見上げて息を漏らした。
上向きは、一番涙がこぼれにくい向きだった。

その光景を好ましく、しかし寂しく光子と当麻は見つめる。
自分たちだけがインデックスの仲間だったついさっきとは、もう事情が全く違うのだ。
これからはインデックスは目の前の二人と歩んでいくのかもしれない。
自分たちは、ほんの一週間の付き合いだから。

「みつこ、とうま」
「インデックス」

泣きすがる神裂に一言ごめんと告げて、インデックスは、
当麻と光子にしがみついた。

「約束、ちゃんと守ってくれたね。三人みんなで幸せになるって」
「おーい、体が結構痛いんだけど」
「ごめんね」
「馬鹿。いまのは謝るとこじゃないだろ」
「もう。みんなそれを言うんだから」

優しいインデックスの微笑を、当麻は可愛いと思った。
陰影のないその表情を、これからも守ってやりたい。
光子を見ると、同意するように、笑ってくれた。

遠くの扉が開いて、ガラガラとストレッチャーが運ばれてくる。
誰のためかといえば、そりゃあ自分のためだろう。
ああ、さすがに痛くて眠い。
もういいやとばかりに、当麻は自分の意識を放り投げて、
幸せそうに笑って、気絶した。
210 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 02:23:39.29 ID:kSY69CIvo
ちょっと追加しとこう。時間の連続性を考えるとここまで書いて切ったほうがよさそうだ。

>>207
そんな展開になったら俺泣くわwめちゃめちゃ重たいっすよそれ。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 05:15:54.06 ID:pAE82dzAO
こんごーさんがフラグそげぶしたああああ!
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 09:40:29.42 ID:U8gWBUaAO
インデックスの記憶が戻る設定初めて見たわ
いいね
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 10:36:31.26 ID:Y0OvutAy0
>>210
ガチで記憶喪失になるんじゃないかと恐れてた
なんかこう、全部忘れてしまった上条さんの前に突然名門常盤台中学のお嬢様が現れる
自分と恋仲だったと語る婚后さんの台詞に驚愕。戸惑いつつも健気で真摯で可憐な彼女に
DANDAN心惹かれてくものの、彼女が愛したのは前の、自分が殺してしまった上条当麻なのだと
苦悩する上条さん。お互いを想いつつもすれ違う二人。零れる涙、遠ざかる黄金の日々
そして巻き起こる新たな事件!あの素晴らしい日々をもう一度!なにこの長文キモイ

ステイルと神崎が報われてよかった
あとあれじゃね実はアウレオウスも報われるんじゃね?
おおおお!めでたすぎる。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 11:43:30.74 ID:71yD8d8g0
次回は後日談かな?非常に期待してる。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 13:00:11.58 ID:+ntF630Ko
>>213
姫神に土下座するヘタ錬が見えた・・・フラグ?
216 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/02/28(月) 13:03:48.21 ID:kSY69CIvo
>>211
そりゃあやっぱ上条さんの嫁ですから!

>>212
これが後にどう響くのやら。。。。。。

>>213
それはそれで面白いんだろうけど、上条さんは影を背負うんじゃなくて、
王道を進んで欲しいという思いもありまして。
影のヒーローは別におられますからな。

>>214
次は後日談だね。
なんだけど次のプロット書いておかないとおかしくなりそうだから、
ちょっと時間掛けて考えようかと思ってます。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 13:12:40.02 ID:UEix15MNo
吶喊した光子さんの頭に羽根が当たってるんじゃないかと冷や冷やした。

「この婚后光子、恋人なんかいた記憶はございませんのよ!おーっほっほっほ!」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 15:36:34.64 ID:7TdWXI5DO
ハッピーエンドで良かったと思うけど、何かひとつ絶望があった方が禁書らしいかなとも思った。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 16:06:14.89 ID:3tYoiHeA0
完全に分岐したなー
今から2巻以降がどうなるかすげー楽しみっす
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/02/28(月) 20:04:57.96 ID:T2Lc0Xq30
>>218
あそこからの絶望系だと
上条さんが記憶喪失
婚后さんが記憶喪失
禁書さんが記憶喪失
の三択か?
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 22:57:13.26 ID:6z6ZEyV2P
まさかのステイル記憶喪失
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 23:01:26.18 ID:Iw+yrUx60
こんなレベル高い再構成は初めてだわ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 23:52:21.25 ID:PUMvBiLYo
あー。
すごくなんかもう、ありがとう。
幸せになってくれて嬉しい。
これからも多分七難八苦がやってくるんだろうけど、
彼らならそれを乗り越えてくれそうだ。

そしてみつこさん、かわえええええええええええ。
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 01:29:37.14 ID:bhLBZA610
>>218
個人的意見だが、禁書だと絶望というよりは何かしらの代償ってイメージが強いかな
上条さんでいえば入院や「死」、一方でいえば演算補助、暗部墜ちって感じで
この作品だと上条さんがやっぱりボロボロだし、婚后がいる分多少は緩和されていてもいいんじゃないかなって思うよ
禁書自体最初は絶望でも読み終わった時に良かったなって思えるハッピーエンドを書く感じだし
225 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/01(火) 01:40:01.68 ID:AF+POTHZo
>>217
そうなったら多分、知らない殿方(上条)がお見舞いに来たことに戸惑うと思う。
で、良いとこのお嬢様である光子さんは男子禁制の学び舎の園から出てこなくなるんだけど、
上条さんの会いたい攻勢に押されて、もう一度上条さんに惹かれ始めるんだろうな。
うん、コレはコレで切ないラブストーリーで良いんだけど。ちょっと重いかな。

>>218 >>224
言われると確かに禁書は代償を求めるような結末多いな。
……くっ。ネタバレ回避で黙っときます。喋りたい。

続きのプロットを書こうとしたら、それ以前に時系列のまとめだけで今日が終わってしまったでござるの巻
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 09:40:34.30 ID:4ndSDUTAO
まさかの俺が記憶喪失
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 11:52:41.66 ID:NZnoiHi2o
特に問題なくね?
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 13:11:44.24 ID:5nCedu9X0
まったく問題ないな
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/01(火) 14:14:57.58 ID:bvMpMMb1o
間を取ってカエル記憶喪失

トンデモ回復親父無しで上条さん長期ピットイン!
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 15:05:48.43 ID:VdRZLzFAO
みんな記憶喪失で平和
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 18:40:58.19 ID:Vb845+60o
ヒロイン記憶喪失はキャッツアイがよかったね。
もう一度恋ができるって 素敵やん?
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/01(火) 23:52:19.09 ID:HFy5QP4w0
>>229
何と何の間だよww
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 02:01:05.36 ID:OvGEdqif0
空と君との間

インデックスの記憶を復活させたのは痛快でした。あんなにかわいいステイルと神裂ははじめて見た
原作では失われたインデックスの過去については第三者からの断片的な情報しかないんで
そこをどうするかが1の腕のみせどころですな。楽しみすぎる

あとエアロハンドとイマジンブレーカー、合わせてエアロブレーカー!!
すげえ空気ぶち壊しそう!2人の愛の力とかで場の空気ぶち壊しそう!
ともあれ1乙!
234 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/02(水) 02:20:01.88 ID:Wz7AyTo0o
>>226-232
じゃあ俺も記憶喪失になってこのSS終了させようかw

>>233
インデックスの過去話を肉付けしすぎるとあとあと公式とずれが出てきそうで怖いな。
そしてこういう長文の感想ちょくちょく貰ってるけど、
実はコレってこの板だと稀有なことなんじゃないかと思い始めた。
みんなありがとう。一言でも勿論嬉しいけど、読み応えのある感想はつい何度も読んでしまう。

さて、じゃあちょっとだけ上げて寝る。おやすみ
235 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/02(水) 02:23:56.63 ID:Wz7AyTo0o

「部屋を間違えていませんか?」

当麻の第一声は、それだった。
困惑したような表情で、目の前にいる女性にそう尋ねた。

「貴方の容態を私が見に来るのはおかしいですか」

憮然とした神裂がそう返事をする。
実は目覚める直前におでこに手を当てて熱を測ったりなんてしたもんだから、
内心では結構、神裂はドキドキしていた。

「いや、なんつーか。最初に見たいのはやっぱ光子の顔かなって」
「起きて最初にすることが惚気話ですか。……脳に障害でも負いましたか?」
「その台詞シャレになってないぞおい」

確証は無いが、光子が助けてくれなかったら、あの舞い散る光の羽根は当麻に何をもたらしただろう。
死か、あるいは四肢の消失や人格の破壊か。本当に笑えない。
今更にちょっと背筋が寒くなるような思いをしている当麻の隣で、
これまでと変わった様子の無い当麻に神裂は安心していた。

「それで、インデックスと光子は? ……たぶん、そんなに酷い怪我は負ってなかったと思うんだけど」
「ご心配なく。経過観察――要は湿布の張替えに行っているだけです」
「そっか」

ほっと一息つく。二人に怪我が無ければ、当麻としては万々歳だった。

「そっか、ではありませんよ。貴方がそれほど酷い怪我をしては、あの子達が気を揉むでしょう」
「う、いやまあ、そうかもしれないけどさ」
「本当にもう大丈夫なのですか? 一応私も、治癒のための魔術に心得はあるほうだと自負しているのですが、
 貴方の体質に対しては全くの無力でして……。その、ここの医者を疑うつもりはありませんが、
 もう、なんともないんですか?」

ずい、と神裂が身を乗り出してそう尋ねてきた。
慌てて上条は怪我をしたところを思い出して、確認していく。
マズイ方向にぽっきり折れていた右手の薬指と小指はガチガチに固められている。
感覚が無いので、麻酔を打って手術でもされたのかもしれない。
ほかにも体中に絆創膏が貼り付けてあるが、どれも耐えられないような痛みを発するところは無かった。

「まあ、右手以外はほとんど大丈夫そうだな」
「そうですか」

神裂が、ふう、と安心するようにため息をついて優しく微笑んだ。
ドキリとする。背も高くてスタイルのいい神裂は、これまで当麻の前では厳しい顔や真面目な顔しか見せてこなかった。
よく考えれば、上条より年上の、ちょっと好みのタイプなのだった。
怖い感じだと好みだと感じることも無いが、優しく笑われると、こう。いやもちろん一番好きなのは光子なのだが。
心の中で光子への言い訳を考えていると、それが届いたのか、当の本人がインデックスを連れて部屋に入ってきた。
236 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/02(水) 02:25:53.43 ID:Wz7AyTo0o

「当麻さん! あ……」
「み、光子」
「しし、失礼しました。私はこれで」
「あ、おい」
「落ち着いたらステイルともう一度伺います」

こちらの確認も取らずに、神裂はあわただしく部屋を出て行った。

「私の知らないところで、随分あのひとと仲良くなっておられたのね?」
「ち、違うんだって光子! 今目を覚ましたばっかりで」
「目を覚ましてすぐに、口説き落とせるんですの? 私も当麻さんの手練手管に引っかかったのかしら」
「だから違うんだって」
「とうま、どういうつもりなの?」

慌てて光子に弁解していると、どうやらインデックスもご機嫌斜めらしかった。

「どう、って。ほんとにどうもこうもねえよ。つーか怒られてたんだよ。
 お前らに怪我がなくてよかった、って言ったら、俺が怪我してるせいで全然安心してなかったぞって」

当麻としては上手いこと言ったつもりだった。
……逆効果だった。
わが意を得たりといわんばかりに、二人は柳眉をきりりと吊り上げて、心配を不満に変えて当麻にぶつけだした。

「そうですわ! 本当に、本当に心配したんですから……!」
「そうなんだよ! ……私、全然覚えてないし、私が悪いんだけど、でもあんまり無茶しちゃ駄目なんだよ!」
「う、ごめん。いやでも、光子が助けてくれただろ?」
「あんなの、何度も出来る保証有りませんわ! 当麻さんが危ないって思ったら咄嗟に足が動きましたけど……。
 当麻さんの莫迦。もっとご自分のことお気遣いになって」
「そうは言うけどさ、光子。じゃあ、もう一度あんな場面があったとして、光子はどうする?
 次は危ないかもしれないから、インデックスを助けないのか?」
「……当麻さんの意地悪。二回目があったって、そりゃあ、同じことをしますわ、きっと。
 でもそういうことじゃありませんの! もう、怪我をした人はちゃんと反省してください!」

理屈抜きで怒られた。ただ、自分を心配してのことだと分かるから、嬉しい。
傷つけた張本人が自分らしいと言うのは聞き及んでいるらしく、インデックスは攻める口調を途中からトーンダウンさせた。
そのほっぺたを、つねってやる。

「むー」
「もっと怒っていいぞ。お前はお前に出来る一番の選択肢をちゃんと選んだんだ。いちいち細かいことで気に病むなよ」
「でも、とうまが」
「だーから、いいんだって! ほら、結局、なんとかなったんだし」
「……えへへ、とうま」
「おう」
「みつこも。ありがとね。大好きだよ」

くしゃりと髪を撫でてやる。光子が後ろからインデックスを抱きしめた。
そして、光子と当麻はそっと顔を近づけあって、軽いキスを交わした。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 08:18:27.79 ID:OvGEdqif0
「部屋を間違えていませんか?」

全力で回避したその台詞をあえてwwしかも神裂にww
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 09:44:11.30 ID:RmyTiB5AO
怪我の大部分はねーちんが……いやなんでもない。

こんごーさんまじかわいいよこんごーさん
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/02(水) 12:35:36.31 ID:+AG1ObB20
これからがすげー楽しみだ!
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 15:09:50.65 ID:wakt+aSy0
これからどうなるか予想できんなこれは
こんごーさんがいることでだいぶ変わって行きそうだ
241 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 01:58:42.77 ID:qCwx32fbo

「ん……」
「光子、愛してる」
「ふふ。私もですわ」
「だんだん遠慮しなくなってきたよね、とうまとみつこ」
「だって、あなたの前で隠すこともないでしょう?」
「んー、別にみつこが見られて平気なんだったら私はまあいいけど。
 でもちょっと目のやり場に困るんだよ。私は一応、イギリス清教の修道女(シスター)なんだし」

目を泳がせながら弁解をする光子に、憮然とインデックスが答えた。
当麻は慌てて話を変える。

「それでインデックス。お前、これからどうするつもりなんだ?」
「あ……」
「やっぱり、あいつらと一緒にイギリスに帰るのか?」
「……」
「当麻さん。そんな急にはインデックスも決められませんわ」

光子にそうたしなめられる。ただ、それも本当にインデックスのことを想ってというより、
自分の手元からインデックスが離れるのが寂しい光子自身が、時間を欲しているように見えた。

「ここにいたら、とうまとみつこに、迷惑かかるかな」
「えっ?」

インデックスの言葉は、二人にとっては意外だった。

「迷惑なんて事ありませんわ! でも、よろしいの?」
「うん……。最大主教(アークビショップ)が記憶を取り戻した私をどうするつもりか、分からないしね」

一度は記憶を全て手放す事を受け入れた。
それは強制ではなく、禁書目録として生きると心に決めたときに、最大主教に施してもらったのだ。
あの時は、それで良かった。今は、それで良いというには、捨てても良いというには、大切な思い出を貰いすぎた。

「もう一度、記憶を消されるのか?」
「危険な書庫をきちんと管理するには、正しい方法なんだよ。それは」
「だからって、受け入れますの!?」

チクリ、とインデックスの心に光子の言葉が突き刺さる。咎めるような響きがあった。

「それが嫌なら、どうしたらいいと思う?」
「俺たちか、神裂たちか、それ以前にもお前の面倒を見てくれた人がいるんだろ?
 その、誰かのところに転がり込むになるってことか」
「うん……そういうことを考えたときね、みつこととうま以外に、頼れる人はいないんだよ」
「え? もちろん、私達は全然構いませんけれど、どうしてあのお二人では駄目なの?」
「魔術師だから。いざとなれば私の知識を活かして、危険な魔術を行使できるから」

10万3000冊を自在に使う魔術師、畏怖を込めて人はそれを魔神と呼ぶ。
誰しもが憧れ、そして誰しもが恐れる魔術師だ。
イギリス清教の意思より優先するものを持った魔術師にインデックスを託すことは、リスクが大きかった。
インデックスの預け先になるには、魔術を使えないことが必要な条件になる。だから当麻と光子が適任だった。
242 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 02:01:13.43 ID:qCwx32fbo

「じゃあ、決まりだな」
「ですわね。身の振り方を考えませんと」
「え? あの、みつこ、とうま」

インデックスとしては、結構恐る恐る出した提案だった。
当麻にとっても光子にとっても、インデックスはイレギュラーな存在だ。
自分がいるだけで、今までどおりの生活は送れないだろう。
それだけの迷惑を、背負わせるのは心苦しかった。
だから、心のどこかで期待していながら、快諾なんてしてもらえるわけがないと思っていた。

「住むところが一番の問題だな」
「学園都市のID発行のほうが大変だと思うんですけれど」
「そっちは神裂辺りに相談してみよう」
「それでなんとかなると良いんですけれど。それで、家のほうは……私は」
「常盤台は全寮制だもんな。そうなると、まあ、俺の家か」
「……」

光子の沈黙の意味が当麻には分かっていた。
光子に合える時間は限られている。もとより学び舎の園という男子禁制の世界で生きている光子だ。
そうなると、当麻は光子の何倍もの長い時間を、インデックスと二人っきりで過ごすことになる。
きっと何事もないだろう、と光子は信じている。だけど、信じる気持ちと疑う気持ちは相反しないのだ。
不安に押しつぶされてしまう不安が、光子にはあった。

「住む場所って、そうだよね、一番大事な問題だよね」

てっきり、これからも黄泉川の家で暮らせると思い込んでいた。
だがそんなわけはないのだ。あそこはあくまで、間借りしているだけだった。

「……ちょっと、考えがないわけでもありません。でもまずは学園都市のIDが要りますわ。
 これが無いとどうしようもありませんし、警備員の黄泉川先生と知り合いである以上、
 インデックスがここで暮らすにはIDを作成するほかないでしょうね」

法の番人とは少し違うが、警備員は規律に厳しく有るべき立場の人だった。
なあなあで、インデックスを置かせてはくれないだろう。

「インデックスがここにいるのが一番だって点であいつらと合意が取れたら、
 やれることも増えるかもしれないだろ。あとでちょっと聞いてみよう」
「そうですわね」

そろそろ昼食時だ。そのうちステイルと神裂は来るだろう。
三人はステイルたちや黄泉川先生が来るのを、上条のいる個室でじゃれあいながら待った。
243 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 02:02:07.47 ID:qCwx32fbo
>>237
だから面白いんじゃないかw

ちょっと説明臭いエピローグだなぁ。。。。
意外と書くの難しい。今後に繋げる必要性ってのに縛られちゃうんだよね。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 10:44:22.29 ID:jrGu8we7o
次回の冒頭でくどくど説明するよりここで会話として
事後処理やっちゃう方がいいと思うよ。
主人公入院中で話すことしかできないんだし、平和な
ときだからこそ呑気に会話してほしい。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 14:17:36.68 ID:2UQhoM+80
小萌先生の家に居候って手もあるな
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 16:25:06.74 ID:aURl0s7AO
インデックスが正式に学園都市の住人になるなら学校に通う必要が出てくるな
……つまり佐天さんと同級生フラグか!
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/03(木) 16:49:58.42 ID:N0vJpxbp0
>>246
個人的な予測だが、インデックスは第十二学区の神学系の学校に行くはず
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 16:50:39.80 ID:N0vJpxbp0
sageを忘れていました。すみません
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 21:33:56.15 ID:UCJHuNGA0
>>71再び光子とインデックスが微笑み会う。
  三人は、じっと絡まりあって、20分の猶予を過ごした。

>>171予定の時間まで、あと20分。
   互いの情愛を深め合うように、三人はベッドの上でじゃれあった。

>>242そろそろ昼食時だ。そのうちステイルと神裂は来るだろう。
   三人はステイルたちや黄泉川先生が来るのを、上条のいる個室でじゃれあいながら待った。

俺がスレ覗く度にこの3人のイチャイチャシーンなんだぜ
俺 得 過 ぎ る も っ と や れ
250 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 21:58:19.48 ID:qCwx32fbo
>>249
だぁっwww抜き出すと俺のボキャブラリの貧弱さが明るみにwwwひでーなこれw
でも反省せずに書きますね。

>>244
そだね。励ましてくれてありがとう。
そして以外?と3人のいちゃいちゃシーン期待してる人いるのな。

いま悩んでる問題が>>246そのものでさ。ちょっと上手く触れられない。
でも佐天さんと同級生にはならないです。理由はいろいろあるけど黙っとくね。
251 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 22:54:42.97 ID:qCwx32fbo

インデックスがきょろきょろを外を見回している。
まさか高速道路を走る車に乗ったことがないのだろうか。
それについて尋ねると、

「"ハイ"ウェイがホントに高いところを走ってる国なんて日本くらいなんだよ」

とブリティッシュな答えが返ってきた。
ここは黄泉川の運転する車の中。空には茜色がかすかに残る、夕飯時だった。
面会時間を過ぎてすげなく病院から追い出されたインデックスと光子は、
今日はまた黄泉川の家に泊めてもらうのだった。なんだかんだで数日振りの部屋だ。
イギリスへと飛んでしまって二度とその部屋には戻れないことを覚悟していたから、
三人で幸せに過ごせたあの場所に戻れるのは二人にとって嬉しいことだった。
ただ、上条はいなかった。

「で、婚后。寮にはいつ帰るんじゃん?」

由々しき問題だった。
外泊届けは、二日前に期限が切れている。
黄泉川の取り成しで無断外泊という重大な校則違反こそ回避できたものの、
寮長に目をつけられているのは間違いないし、一週間くらいは謹慎が出てもおかしくなかった。
親にも怒られるかもしれない。甘やかされて育ってきたから、事実上、人生で一番の親に対する反抗だった。
……そういう現実問題を考えると、ちょっと頭の痛い光子だった。
まあ、一番の反抗は多分、当麻という彼氏と付き合い始めたことなのだが。

「明後日の朝に、と思っていますわ」
「明日はだめなのか?」
「明日の夜が、この子が突きつけられていた『本来の』期限ですわ。
 あの魔術師も見届けるそうですし、当麻さんも、当然インデックスもいます。
 そこに居合わせられないのは、嫌ですから」
「そうか。ま、お前の校則違反のレベルじゃ、今更だしな」
「そういうことですわ」

帰り際に、二人はステイル達と会っていた。
インデックスの今後について話す為にコンタクトを取って来たらしかった。
当麻の病室で話したとおり学園都市に在留する旨を二人に伝えたところ、
ある程度予想していたのか、それを受け入れて早速動き出したらしかった。
そしてその時に聞いたのが、明日の夜の予定だった。
それを見届けたら、二人は学園都市を去るということだった。

「あの二人、インデックスをあまり引き止めませんでしたわね」
「……そうだね。たぶん、私が決めるべきだって考えてくれてるんだと思う」

あれほどインデックスを救おうと努力してきた二人だ。
自分の気持ちを棚に上げて言うなら、あの二人はもっとインデックスに傍にいて欲しいといっても許されたと思う。
だが、インデックスが全ての記憶を思い出したのなら、一年ごとに代わったインデックスの保護者全てが、平等なスタートラインに立つ。
だからこそ、インデックスに誰を選ぶのかと委ねたのだった。

「それにしても、魔術って言葉に、えらく馴染んだじゃんよ」
「ですわね」

嘆息する黄泉川に光子はため息交じりの笑いで同意した。
あるわけがないと、そう思っていたものが今では自分の中でリアリティを獲得している。
今でも半信半疑なところがある。だが、もう魔術を鼻で笑って無視することはないだろう。

「あとどれくらいでつくの? おなかすいたかも」
「病院食は質素ですものね。あと20分くらいかしら」
「そんなところだろうな。けど晩御飯が出来るまでは一時間以上あるじゃんよ」

その一言でインデックスがげっそりとなった。
黄泉川が差し出してくれた眠気覚まし用のガムはおなかの足しにはなりそうにない。
ぐでー、ともたれかかってきたインデックスに膝枕をしてあやしながら、
光子は隣に当麻がいない寂しさを感じていた。
……夜、晩餐に当麻がいないときには、もっと寂しさを感じた。
252 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/03(木) 23:25:31.68 ID:qCwx32fbo

「おはよ、とうま」
「ごきげんよう、当麻さん。お加減はいかが?」
「おはよう。二人とも。まあ手以外はもうほとんど大丈夫だ。手は固められてるからよくわかんねーんだ」

黄泉川家で一晩過ごし、朝一番に二人は上条の病室を訪れていた。
どうせ今日の夜までは落ち着かないし、それならここにいるのが一番だという結論だった。
社会人たる黄泉川の都合に合わせた光子たちも、することがなくて早く寝た当麻も、
夏休みとしては充分朝早い時間から、しゃっきりと目が覚めていた。

「悪いんだけどさ、これからすぐに検査があるから、ちょっと待っててくれるか」
「あら、そうなんですの」
「ごめんな」
「ううん。当麻さんのベッドで二人で待ってますわ」
「……あ、うん」
「どうかしましたの?」

当麻が歯切れの悪い返事をした。理由に特に思い当たらない。
座り心地の悪いソファよりはインデックスも自分もこちらのベッドに腰掛けるほうが楽だった。
別にベッドに座られるのが嫌だということはないだろうと、思う。隣のインデックスも首をかしげた。

「ベッドで、彼女が待つってさ」
「え……あっ! もう! 当麻さんのエッチ!」
「とうま何考えてるの……」
「そうですわ! 私達って私言いましたわよね? まさか当麻さんインデックスまで」
「馬鹿! 違うって!」

結構光子はエッチな話に免疫がないのだった。
それでいてキスのときとか、表情が中学生と思えないくらい大人びていて、当麻はつい惹き込まれる。

「うー、みつこ。とうまはエッチだからこの部屋にいないほうがいいんだよ。ここにいたらうつされるかも」
「人を変な病原体の保持者みたいに言うな」
「むー! ほっへたはあめあんだよ!」

頬をつままれて呂律が回らないままインデックスは抗議する。
摘んだまま、当麻が手を頬からビッと離すと、歯を見せてぐるぐるとインデックスが唸った。

「とうま。怪我は治ったんだよね?」
「え? 今から検査だけど」
「治ったんだよね?」

返事を聞いちゃいなかった。
靴を脱いだかと思うと、すぐさまインデックスがベッドの上に上がって、掛け布団の上から当麻にまたがった。
ちょうど当麻の腰の上に、インデックスが腰を下ろした位置関係だった。

「お、おいインデックス」

当麻の戸惑いは、インデックスが怒っていることにではなくて、きわどい体位にインデックスがいることに起因していた。
それにまったく気づかず、インデックスはキシャァッと鋭い歯を見せて。

「止めろって、おい、あいででで! 痛い、痛いって!」
「これは仕返しなんだよ! いつもいつもとうまはみつこには優しくするくせに私にはいっつもいっつも意地悪ばっか!!!」
「そ、そんなことないだろ! それに光子は彼女だ!」
「別にみつこといちゃいちゃしてもいいけど私にももっと優しくして欲しいんだよ!」

文句を雨あられと降らせながら、インデックスはガジガジと上条の頭皮を削っていく。
ちょっと健やかなる毛髪の育成が心配になる当麻だった。

「わ、わかったわかった。じゃあ何すればいいんだよ? 光子みたいにキスしろってか?」
「え――――」

勿論、冗談だった。冗談ぽく聞こえるように言ったつもりだった。
だというのにインデックスがピタリと硬直して、さっと頬をピンクに染めて、誰もいない窓のほうを向いた。
隣にいる光子が頬に手を当てて、ふう、とため息をついた。

「あらあら当麻さん。とてもおもてになる当麻さんは、私一人ではやっぱり満足ましていただけませんの?
 よりによって、インデックスだなんて。むしろ勇気があるって褒めてあげるべきなのかしら」
「い……いやいやいや! 違うんですよ光子さん! 今のは、決して」
「……とうまのばか」

ちょっぴり顔を赤くしたまま当麻のベッドを降りるインデックス。
貼り付けたような朗らかすぎる笑顔が消えるまで、当麻はひたすら謝りとおした。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 23:49:05.88 ID:YuAKL1b5o
もげろ
254 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 00:41:15.31 ID:Vsa9bsXOo

当麻のいないベッドで、光子とインデックスはごろごろする。
検査のためについさっき出て行ったばかりなので、当麻の温かみと、匂いが残っていた。
インデックスが枕をぎゅーっとしているのが気になる。
それは自分がしたい。というか、まさかとは思うが当麻の匂いを求めて抱きしめてるんではなかろうか。

「その枕、そんなに好きですの?」
「え? 別にそんなことはないけど。光子はベッドで横になると抱きつくもの欲しくならない?」
「いえ、あまり……」

なるほど、と光子は納得した。
寝ている間にインデックスに抱きつかれた覚えが、インデックスと同じ家で寝た夜のと同じ回数分だけあった。
二度ほど、あろうことかインデックスは当麻のほうに行こうとしたこともあった。
どうも悪気がなさそうだったので、あまりやきもきせずにきたのだが、それは当たりらしかった。
まあ、インデックスが本気で当麻に気が有るのなら、自分はインデックスと一緒にはいられないだろう。
インデックスは美人だ。あと数年もすれば、きっとすごいことになると思う。
そのときに、自分がインデックスよりも魅力的な人でいられるだろうか。
人は外見だけではない。そう思いつつも、焦りが無いといえば嘘だった。

「えへへ、ねーみつこ」

とはいえ、今においては全くの杞憂。
当麻の匂いなんてまるで気にしていないのだろう。ぽいっと枕を近くにおいて、インデックスがぎゅっとしがみついた。

「なんですの? インデックス」
「こうやってだらだらするのもいいね。とうまがいないとちょっと物足りないけど」
「ふふ。でも当麻さんがここにいたら、またほっぺをつねられますわよ?」
「あれほんとにひどいよね。わたし、悪いことしてないのに」

光子は当麻の気持ちが分からないでもない。可愛いからつい意地悪をしたくなるのだ。
当麻のまねをして、インデックスのほっぺたをつまんでみる。
むー、と拗ねる顔を期待したのだが、軽く驚いた後インデックスは笑い返してきた。そして光子の頬をつねった。
別に痛くはなかった。当麻のつねり方はもう少し強いのかもしれない。

「みふこがはなはないほはなひてあげない」
「いんでっくふこそはきにはなひて」

ぷにぷにと頬を上下させながら、わかるようなわからないような会話を続ける。

「正直に言うとね、インデックス」
「なあに?」
「どんな事情であれ、私と当麻さんの所に残ってくれるって決めたこと、嬉しかったですわ」
「……邪魔じゃなかったかな? 私がいなければ、とうまとみつこはふたりっきりになれるし」
「いいんですのよ。あなたがいなければ、黄泉川先生の家であんなに同棲みたいな事をすることも出来ませんでしたわ」

損得勘定をすると、得だったかもしれないとさえ光子は思う。
補習三昧の当麻とは、毎日会える時間も知れているだろう。夏休み前の延長みたいな、そんなデートしかしなかったと思う。
インデックスを間に挟んでだが、当麻との距離がすごく縮まったのを光子は感じていた。

「良かった。ちょっと、邪魔だって思われてないかって気になってたから」
「じゃあこれからはもう気にしないことですわね」
「うん。とうまもおんなじかな?」
「きっとそうですわ。ふふ、気になるなら後で聞いて御覧なさい。きっと、つまんねーこときくな、ってほっぺをつねられますわ」
「うー、それは嫌かも」

心底嫌です、といった顔を作るインデックスにクスクスと笑いかけて、そっとフードや修道服の乱れを直してやった。
ついでに短めの自分のスカートも直した。
検査がどれくらいかかるのか分からないが、あまり長いと寝てしまいそうだと思う光子とインデックスだった。
255 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 02:57:38.48 ID:Vsa9bsXOo

ザリザリという音をさせながら、当麻は階段を上る。
砂とホコリで汚れた階段だ。無理もない。打ち捨てられてそれなりの年月を経たビルだった。
隣には、光子とインデックスと、黄泉川。

「夜の屋上は、やっぱり落ち着きませんわね」

階段を上り詰めて、空を見上げて発した第一声がそれだった。
まあ、言いたいことは分かる。
当麻は屋上で重症を負ったし、光子はギリギリのところで当麻の死を回避した。
そしてインデックスは無意識にせよ、それほどの窮地へと二人を追い込んだ本人だった。
あの時と同様に、床一杯に張られたルーンと、そして二人の魔術師。

「随分と回復したようだね。上条当麻」
「ああ、おかげさまでな」
「貴方の治癒に関しては、我々は何も出来ませんでしたが」

時刻は午前零時。
インデックスが何の処置も受けなかったらそこで死ぬはずの予定時刻から、ちょうど十五分前だった。
全ては解決したと、おおよそ誰もがそう思っている。だがこの死線を潜り抜けるまでは、安心できない。
何かがあってもいいようにと選んだのがこの廃ビルの屋上だった。

「インデックス。正直に答えてください。頭痛など、体の不調はありませんか?」

真剣な目で、神裂がインデックスを見つめた。
もちろんずっとと奥から見守っていたから、そんな素振りを見せなかったことは知っている。
だが、それでも確認はしておかねばならない。

「大丈夫だよ。体におかしなところはないし、晩御飯も一杯食べたから」
「ふふ。あれは食べすぎです」
「育ち盛りだしいいじゃないか」
「ステイル。あれが適正な量に見えたのですか?」
「なんだ。正直に言うほうが正解かい? あれじゃ、太るよ」
「……ふんだ」

思ったより反応が薄いことにステイルと神裂は少し戸惑った。
少なくとも一年前なら、ひと喧嘩やらかすくらいのネタだったはずなのだが。
すこしお互いの距離感を測りなおす。

「そうだ、インデックス。これを」
「え? これ何?」
「学園都市のID……ですわね」
「こんなもの、どうやって手に入れたじゃんよ?」

疑うような声で黄泉川がそう尋ねた。
当然だ。偽造カードを見過ごせる立場の人ではない。
この場くらいいいじゃないかと、思わなくもなかったが。

「正式に統括理事会から発行されたものだよ。
 僕ら魔術師は超能力なんてものがこの世に存在するのを認めてない。
 どうじにこの街のトップも魔術師を認めてない。それが建前さ。
 だけど、裏ではちゃんと話を通すためのラインが繋がってる。むしろ当然だと思って欲しいね。
 こっちとそっちの上が話し合って、決まった結果がこれだってことさ」
256 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 02:58:28.90 ID:Vsa9bsXOo

ステイルはインデックスの手のひらからIDを取り上げて、黄泉川に渡した。
偽造技術もレベルの高い学園都市で、チェックを目視でやるのは無意味に近かったが、
黄泉川はカードのおもてから裏まで全ての情報をきっちり読んだらしかった。

「ま、事務所に帰ってきちんと調べるじゃんよ。それで婚后。
 インデックスがこの街に残るなら、相談があるって言ってただろ。ちょうど暇だ、今でいいか?」
「ええ、私はそれで構いませんわ」

ちらりと、光子が当麻のほうを見た。それに頷き返す。三人で話し合って、決めた結論だった。
とはいえ、結論などと胸を張って言えるものじゃなくて、誰にどうお願いするか、ということなのだが。

「インデックスを誰がどこに住まわせるか、が問題ですわよね」
「だな」
「私達が預かるからこそ、『必要悪の教会』はインデックスの在留を認めたのですわ。
 ですから、少なくとも私達のどちらかは、この子と同居する必要があります」
「どちらか、な。まあ常識で言って上条はないじゃんよ」
「となれば私が一緒にいることになりますけれど、私は今、常盤台中学の寮にいるのですわ」
「だから、現状では一緒には住めない、と。ここまでは分かってる。で、何が決まったんだ?」

三人はすっと、姿勢を正した。離れたところで神裂も同様にしていた。

「この子と私の二人を、先生の家で面倒を見ていただくことはできませんでしょうか」
「……」

皆、腰をきちんと折って、そうお願いした。

「答える前に質問だ。婚后、それって可能なのか?」
「はい。自律を促すため、という名目で常盤台の学生は学生寮に住むのですわ。
 もちろん能力者として価値の高い学生を集めていますから、セキュリティ上の都合もありますけれど。
 逆に言えばこうした問題をクリアできるなら、申請すれば学生寮以外の場所に寄宿することも認められていますの。
 監督責任者が親類でないこと、信頼できる身分の人間であること、女性であること、といった条件ですわ」
「まあ、あたしは適任って事か。で、婚后。いつまでいる気だ?」
「……短いほうがよろしいのでしたら、他に引き受けてくれる方をなるべく早く見つけるようにします。
 それと、高校は自由の利くところを選ぶようにしますから、私が卒業するまで、最長で一年半です」
「ほかの引き取り手に心当たりは?」
「……今のところは、その」
「ふむ」

黄泉川の中で、答えはすでに出ていた。実はそれほど抵抗もなかった。
たぶん問題のある学生を泊めるのが好きな知り合いの教師の影響だとは思う。
それと、光子の性質もそう悪くはない。
調べた限り相当のお嬢様だったが、家事などもそれなりに積極的だった。
甘やかされてはいたのだろうが、他人のために尽くせるいい性根の持ち主だ。
出来の悪い子好みな性分から言えば上条のほうが導き甲斐があるが、まあ、同居人に求める資質ではない。
257 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 02:59:31.82 ID:Vsa9bsXOo

「上条」
「はい」
「仮に、婚后とインデックスがうちに住むとして、お前はどうするんだ?」
「いや、俺は男ですし、一緒には無理ですよね?」
「要するに、お前が通い婚をするわけか」
「通い婚って……まあ、会いに行っても良いなら、行きたいですけど」
「そうか」

当麻も、ちゃんと線引きは分かっているらしかった。
なら構わないだろう。

「婚后、インデックス。一年半先までどうなるか保証は出来ないけど、しばらくはウチに来い。面倒見てやろうじゃんよ」
「ホント? いいの?」
「もちろんお客様じゃない。別に楽をしたいわけじゃないけど、家の仕事をきちんと引き受けてもらう」
「当然ですわ。あの、それじゃ、ご迷惑をおかけしませんよう気をつけますので、どうぞよろしくお願いいたします」

再び、光子がぐっと頭を下げた。
当麻とインデックスもそれに習う。黄泉川が神裂に目をやると、神裂も御礼をした。

「無事に決まって、こちらとしても安心しています」
「さて、それじゃあ後はインデックスのデッドラインを見届ければ、めでたくハッピーエンドだな」

当麻は時計を持っていない。
後何分あるかは分からないが、万が一に備えて、治ったばかりの右手を確かめるように握り閉めた。

「もう終わったよ」
「え?」
「君たちがお気楽そうに話をしている間に、もう時間がとっくに過ぎてしまったよ」

光子が慌てて時計を見ると、零時十七分を差していた。
インデックスを見ると、まるでなんともなかった。
杞憂は、無事に杞憂のままだった。

「さて、それじゃ長居しても仕方ない。帰ろうか、神裂」
「そうですね」

荷物らしい荷物もない二人は、軽く身だしなみを整えるだけで、もう出発の準備を終えた。
当麻は傍らのインデックスを、ぽんと押し出してやった。
一瞬インデックスがこちらを見て、そして神裂とステイルのほうへと歩き出した。

「ありがとね、ステイル、かおり」
「礼を言われるようなことじゃあないよ」
「そうだったね」

その答えに二人は微笑んだ。ずいぶん遠い昔に交わした約束を、インデックスが覚えているという証明だった。

「また、会いに来ます。暇はあまりありませんが、年に一度くらいは、必ず」
「うん。待ってるね」

ぽん、とステイルがインデックスの頭に手を置いた。神裂がインデックスを抱きしめた。
それに微笑を返す。

「それじゃあ、また」
「うん」

別れはとてもあっけなかった。
むしろ隣で見ている光子と当麻、そして黄泉川のほうがそれでいいのかと気にするくらいだった。
258 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 03:00:51.03 ID:Vsa9bsXOo

黄泉川家に帰ってきて、インデックスは光子たちに気づかれないように、そっとため息をついた。
ようやく、この心苦しさから少し開放された。
それは根本的な解決ではない、というか、解決なんて一生しないものだ。

インデックスは記憶を取り戻した。それは、嘘ではなかった。
初めて神裂とステイルに会ったその瞬間から別れ際まで、時系列に沿って全ての思い出をインデックスは書き出せる。
とても幸せな日々だった。確かに記憶は、戻ったのだった。

でも。例えば。
インデックスにとって、神裂とステイルとの幸せな日々の始まった日は、大好きな『先生』と別れた日でもあるのだ。
『先生』も自分にはよくしてくれた。必ず思い出させてみせると、不幸な境遇から救い出してやると誓ってくれた。
そんな『先生』を、自分は、どれほど恩知らずで恥知らずでもやらないほど完璧に、忘れたのだ。
『先生』が涙して、自分も涙して、お別れをしたその数時間後には、自分は神裂とステイルと仲良くなり始めていた。
そして一年後、自分はまた、『先生』の時と何も変わらず、ただ、隣にいる人だけをとっかえて、泣きじゃくっていた。
次に目を覚ましたときも、神裂とステイルがいてくれた。二人を思い出せない自分に、絶望する顔が鮮明に浮かぶ。
薄情にも許される限度があるだろう。これは殺されていい程度だと、自分でも思う。
二年目の二人は、疲れていくばかりだった。一年目と比較できる今なら、ようやく分かる。
不安と諦めが、二年目の終わりの二人には会った。こんなによくしてくれた人を、よくもここまで苦しめられるものだ。
自分の浅ましさに、窒息しそうになる。
そして、三年目。自分は一体どんな感情を持っていただろう。
勿論それだって覚えている。これは記憶を消されていない部分だから当然ともいえるが。
神裂とステイルに、憎しみを覚えていた。二人は理不尽の象徴だった。
人と関わることを許さないように、つかず離れずで二人はインデックスを追い詰める。
どうして私が、と誰に対しても吐き出すことの許されなかった苦しみを、心の中でインデックスは全て二人に背負わせた。

そんな最低の自分にできることはなんだろうか。
謝ることなんて、もう無意味だ。とても償える額の負債ではなかった。
せめて、喜ぶ二人のために、一年前か、二年前の自分でいてあげようと思う。
確かにそれも、自分だったのだから。

インデックスは一年以上前のことを、確かに思い出した。
ただそれは、記録としての記憶に、アクセスすることが可能になった、というだけ。
記憶を、自分の記憶として引き受けたという、そういう意味ではなかった。
リアリティがないのだ。いつ、だれと、どこで、何をしたのか、それを全て覚えている。
だというのに、それを行ったのが自分だったという実感だけが、得られない。
それは当然だった。ステイルや神裂といた頃の自分は、その時点でもっていた記憶だけを頼りに生きる自分だった。
こんな俯瞰的な視点で過去を見た自分は今までにいない。
今の自分は、もう、いままでのどのインデックスとも別人だった。
救おうとしてくれた人の期待に応えるインデックスでは、ない。
神裂とステイルが愛したインデックスは死んだ。死んで、しまったのだ。
259 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 03:02:37.30 ID:Vsa9bsXOo

自分にとっての救いは、光子と当麻だった。
彼らに愛されたインデックスは、自分だ。
正しいことは分からないが、自分にとって幸いなことに、
自分は光子と当麻が好きなインデックスだという、自覚があった。
だから、こうして、ソファで三人座っている今の時間が、たまらなく幸せだ。
だけどそれは、二人にとっての幸せではない。
あれだけの人に支えてもらいながら、光子と当麻にしか心からの感謝を見出せない自分は、
きっと二人にとってもお荷物だと思う。嘘つきだし、不誠実だ。
そんな内面を、二人に説明するのが怖い。
嫌われたら、沢山の人に沢山のものを貰ったはずの自分が、全てを失った人になってしまう。

テレビがよく分からない番組を流している。
画面越しに見る人くらい、自分が空虚になった気がした。

「インデックス。もう眠い?」
「えっ? ……うん、そうだね」
「もう遅い時間ですものね」

明日の朝から早い家主が、一番風呂だった。三人はこれからお風呂に入る。
眠くもない目をこすると、光子が布団を敷くといって出て行った。
当麻と二人きりになる。じっと、見つめられた。
その視線にドキリとするより、当麻の言葉のほうが早かった

「お前、隠し事、何かしてるだろ」

答えなんて、言えるわけがない。むしろ指先が震えそうだった。
真夏の、冷房もまだろくに聞いていない部屋で、そんなことになったら怪しまれるに決まってる。
今でももう怪しまれているのだから。

「隠し事、って?」
「あいつらを見送ったとき、お前は何かを取り繕うような顔をしてた」
「別にそんなことはないんだよ」
「あいつら、気づいてたかな」
「……」
「浮かれてたから、そうでもなかったかもな」

インデックスはむしろ、当麻にこんなことを言われていることに驚いていた。
心の機微に気づくなんてことからは、遠い人だと思っていたのに。

「お前、全部を思い出したはいいけど、昔のことを割り切れてないんじゃないか?」

目をあわせられない。糾弾する人の顔を見られないのは、疚しい自分にとって当然だった。
だが、無理矢理にでも目を合わせるようにと、当麻がインデックスの正面に回った。
逃げられずに、目を合わせてしまう。
怖いとは、思わなかった。意外だった。
優しい目をしているわけではない。ただ、案じてくれて、すがりたくなる、そんな目だった。

「でも、私を助けてくれた人たちのために、私は、その人たちのインデックスでいなきゃいけないんだよ。
 救ってくれた人に、せめて、それくらいは」
「ばーか」
260 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 03:04:37.55 ID:Vsa9bsXOo

本当に馬鹿にするように、当麻がそんな返事をした。むっとする。

「救われたのはお前じゃないんだよ。きっと」
「え?」
「お前が幸せでいてくれることで、救われるやつってのがいるんだよ。
 まあお人よしって言うんだけどな、そういう連中のことは。
 ……そういう連中にとって一番は、今、お前が幸せでいることだろ」
「でも、私、それじゃ何も返せない」
「代償が欲しくてやったと、思ってるのか?  そういう側面も有るだろうさ。
 けど、例えばステイルと神裂にとって、一番大切な目標はなんだったと思う?
 自分たちを思い出してもらうことか?
 それとも、記憶を失うことで不幸になる、そういうお前を救い出すことか?」
「……」
「仮面を取り繕ったって、誰も幸せにはならねえよ」
「そう、だね」

でも、どうすればいいのだろう。もう一度神裂とステイルにあったとき、落胆させればいいのだろうか。

「また仲良くなれよ。喧嘩でもして仲悪くなったと思えばいい。ただの仲直りだ」
「うん」
「俺たちとだって、そうやってやり直せばいい」
「え?」
「会って高々一週間の付き合いだ。気まずさなんて、すぐ薄れるだろ? だから――」

それは勘違いだ。居心地が悪いのにここにいるわけではない。本心を偽って、ここにいるわけではない。
唯一ここ、当麻と光子の隣は、自分の居場所なのだ。

「光子と当麻には、嘘ついてないよ」
「じゃあ、一緒にいたいって、本当に思っていてくれてますの?」

振り返ると光子がいた。当麻とは全然違う、優しい顔だった。
二人がいてくれて良かったと、インデックスは思った。
過去に向き合う勇気を当麻はくれた。今という居場所を光子はくれた。

「みつこ、とうま」
「ん?」
「なんですの?」
「大好き。すっごく、大好きだよ」
「私もですわ」
「俺もだよ。……言ってて恥ずかしいな」

もう、とたしなめるように光子が当麻に笑う。
そして光子と二人で笑いあうと、当麻が髪を撫でてくれた。

「ま、それじゃあこれからもよろしくな、インデックス」
「うん」

あっさりとした、そんな言葉のやり取り。
幸せな日々をはじめるのだと、そうインデックスは笑って誓った。
261 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/04(金) 03:08:23.42 ID:Vsa9bsXOo
『ep.1_Index 14: 記憶回復の代償、そして未来』 おわりっっっ
これでEpisode 1 "Index"は終わりになります。
お付き合いくださった皆さんありがとうございました。

あーねむい。。。。
ちょっと勢いで書きまくりすぎた。
そしてトンデモの字数がこれで20万字超えた。
400字詰め原稿用紙に目一杯詰めて書いても500枚か、ちょっと感慨深いかも。
小説一冊分くらいにはなったかもなー。

おやすみ。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 03:14:10.52 ID:Cru4wIWKo
乙だ!!
記憶を失ってた人に上条さんが説教するっていう構図が面白いな
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 10:23:37.01 ID:sHFcLSg80
乙!
とうとう1巻分が終わりかー
2巻以降がどうなるかガチで楽しみだ
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 11:54:21.35 ID:6UzZ0AESo
>>1乙! 心のそこから乙!

そして上条さんが不幸じゃない……だと……?
インデックスの食費で苦労しない上条さんとか想像がつかないぜ
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 11:57:44.47 ID:jqirB8nHo
1巻完結乙!

あれ、これって通行止めが路頭に迷うフラグ?
それともまさかの同居かww
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 15:10:37.69 ID:LleVWy4Y0
>>265
小萌先生という選択肢もあってだな
そうなると結標と同居になる可能性があるけど
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 20:00:24.66 ID:ZwVInQZl0
エカテリーナ「みんな一緒に住めば良いんじゃね」(チラッ
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 20:39:17.77 ID:9nbLtwvlo
>>265
ゲコ太病院でミサカ達と一緒という線も
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 21:23:09.58 ID:GUHX5VCDO
これは予想してなかったわ!

この分だと通行止めも意外なことになりそ
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 22:29:47.48 ID:Z8V0uf5DP
おつかれさまー
2巻分の伏線も出てきたし、『先生』がどうなるのか楽しみ

でも仲間になっちゃうとあの能力強すぎるよな
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 23:09:26.90 ID:hs180S1Qo
『先生』はヘタレな印象が強いけど、捨てキャラにするにはもったいない
果たしてどう料理されるのだろうか?
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 23:45:52.46 ID:T8HDhzLp0
先生は、横でインデックスに「大丈夫だよ」とか言われながら手を握ってもらえば何でもできるんじゃないか?とか思ったり。
確かに仲間になったら強すぎるな。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 23:50:42.94 ID:J2Nk2NUE0
一方通行以上だからなー
仲間になったらバランス悪いかもしれんww
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/05(土) 00:47:55.27 ID:QiZkrOd40
乙です

>>昔のことを割り切れてないんじゃないか?
上条さんお前が言うな
275 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/06(日) 01:41:26.68 ID:Q3uQWixTo
>>265
実はこれっぽっちもそのことを決めてないw
でも同居ってすげー面白そうだよな。小萌宅であわきんとギスギスな生活もありだけど。
ゲコ太病院もありか。

>>267
なかなか登場させてあげられなくてごめんねエカテリーナちゅわんスリスリ

276 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/06(日) 02:01:45.96 ID:Q3uQWixTo

びっくりするほど、昨日は暇だった。
どうも噂では学び舎の園の外にあるほうの学生寮は鬼寮監がいるらしく、光子のようなケースは厳しい罰が与えられるらしい。
こちらの寮監はそれほど苛烈ではない。男子禁制の空間の中だから緩いのかもしれなかった。
とはいえ、一週間近く外泊をした上、最後の数日は警備員、黄泉川からの連絡で延長したものだった。
夏休みといえど、そして事情があったといえど、慎み深い生活を送ってくださいねと諭す寮監の言葉に、
光子はきちんと従わざるを得なかった。
何せ、来週からは黄泉川で暮らすことになるのだ。
寮で暮らさないだけで不良みたいな目で見られかねないのに、これ以上学校から睨まれるのは面倒だ。
それで、早朝に黄泉川家から戻って以来、寮内で謹慎していたのだった。
ついさっきまでは。

「大義名分が出来て、本当に助かりますわ」
「いえいえ。っていうか、どうして謹慎なんてことに?」
「こないだ駅でお会いしたでしょう? あのときの関係ですの」
「あー、なんか、その」
「ごめんなさい佐天さん。ちょっと、お話し辛い事情がありますの」
「あ、私のほうこそ変なこと聞いちゃってごめんなさい」
「気になさらないで」

学び舎の園の入り口の程近いバス停で、光子は佐天と話をしていた。
昨日、ちょうど佐天から連絡があって、話している内にまたレッスンをすることになったのだった。
こう暑いと本を読む気にもならず、暇を持て余していた光子にとっては幸いだった。
そしてやけに歓迎されたことに戸惑いを覚え、佐天は光子が謹慎中であるという事情を知ったのだった。
面倒だと思われないのなら、佐天は光子に自分の伸びを是非見て欲しいと思っていた。
光子にとってはまだまだちっぽけかもしれないが、この数日でまた能力が伸びたという自覚があった。
最初に自分の能力を芽吹かせてくれた人だから、報告したかった。

「それにしても婚后さん、ちょっと会わないうちに、なんか雰囲気変わった気がします」
「えっ?」
「なんだか優しくなった、っていうか。あ、すみません。変なこと言っちゃって」
「ふふ。妹が出来たからかもしれませんわ」
「はあ、妹さん、ですか?」

親元から離れている自分たちに、それほど年の離れた妹が出来たとして、果たして関係が有るだろうか。
そう佐天が首をかしげていると、光子が訂正するように笑った。

「正しく言えば妹分、ですわ。血縁のある妹という意味ではありませんの」
「はあ、要はその妹さんの面倒を見るようになった、と?」
「そういうことですわ」

笑い方が、前より絶対に優しいと思う。そしていい傾向だと佐天は思った。
初めて会った、一ヶ月ちょっと前と比べて、ずっと親しみを感じる人になっていた。
妹が出来たからだというが、彼氏が出来たからじゃないかとも佐天は思う。
だって、人としての輝き方が、なんだか嫉妬してしまうくらい綺麗なのだ。

「バスが来ましたわ。近い距離ですけれど、お付き合いくださいな」
「はい」

謹慎中で商店街に近づけない光子にあわせて、バスに乗った。
行き先は一度佐天がいったことのある場所、常盤台中学内の別棟、流体制御工学教室だった。
277 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/06(日) 02:02:32.71 ID:Q3uQWixTo
ちょっと今週末はこれ以上かけないや。次は早くて月曜の夜なー。
それまでノシ
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 03:10:16.11 ID:JrjBVGmQo

能力開発ターン来た
これでかつる!
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 03:11:20.43 ID:ELoeGSrAO
ついにアウレオルスが救われる時が来るのか…!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 12:46:18.83 ID:yG3y0Ahq0

サテンさんがどこまで行くか楽しみ


同居に関しちゃ一方通行たちが上条さん宅に居候というのもありだと思うわー
インさんが上条さんと同居しないルートに行ったし
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 14:04:00.09 ID:UKwc1ZKno

一方通行の同居先は木山センセでもいいんじゃねww
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 14:22:44.85 ID:KyVMI96Vo
布束……チラッ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 16:04:48.57 ID:2ptYyl5XP
木山先生と通行止めの絡みとか何それ俺得すぎるだろご飯三杯はいけるぞ
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 16:20:25.02 ID:RfuqsP0Ao
一巻の終わりということで最初から再読した。
みつこさんかわええわぁ。
インキュベーターさんもマスコットかわいい!

そして楽しみなのが、上条さんとみつこさんが付き合うことになった詳細だわ。
ここの描写がいつ出てくるか、すっげー楽しみ。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 14:47:40.41 ID:mhbyJVzU0
木山先生…ありだな!
286 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/07(月) 20:48:23.74 ID:QE26hFq0o
>>282-283 >>285
木山先生活躍させたいねー。そして布束さんもモブにしとくの勿体無い。
あのひと暗部落ちは確定なんだし。

>>284
見てないけどインキュベーターさんって名前はきっとトラウマ級の酷い名前な気がするw
まあインキュベーターなんて研究室で見慣れたあの冷蔵庫みたいなやつしか思い浮かばんのですけど。
その名前で可愛く見える生き物はないわー

さて続き書こう。
やっぱ科学サイドは動かしやすいわ。スラスラかける。
287 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/07(月) 20:49:06.13 ID:QE26hFq0o

「お、おじゃまします……」
「そんなに緊張なさらなくても良いですわ。それに初めてではありませんでしょう?」

おしとやかな女学生ばかりが歩く常盤台中学のキャンパスをここまで歩くと、
やっぱり縮こまってしまう佐天だった。この建物は静かだからなおさら緊張する。

「いやー、やっぱりここに来るとどうしても落ち着かないんですよね」
「知り合いが少ない場所ですから、仕方ないかもしれませんわね。
 コーヒーでもお飲みになる? こないだと違って実験から始める気はありませんから、
 気持ちをほぐす意味でもよろしいんじゃありません?」
「あ、はい。確かにちょっと喉が渇いちゃったかも」

佐天がそう言うと、光子がまだ行ったことのない部屋へと案内してくれた。
扉を開くと、コーヒー豆の匂いが鼻をくすぐる。休憩室なのだろう。
事務的で常盤台にしては質の悪い明るい色のソファと、
無機質な感じのするガラスのテーブルが置かれていた。
部屋の端にはコーヒーメイカーとポット、そして個人のものなのか綺麗な瓶に入った茶葉があった。

「すぐ淹れますわね。って、あら、湾内さんに泡浮さん」
「まあ婚后さん。ごきげんよう」
「それに、佐天さんも。どうなさったの?」

対面で全部で10人くらい座れるソファの端に、水着の撮影会で知り合った湾内と泡浮が座っていた。
大き目のポットで二人分淹れた紅茶を、二人で仲良く飲んでいるところのようだった。
ポットとカップ、ミルクサーバーが綺麗な絵をあしらったボーンチャイナで、
絶対にあれは高いだろーなー、なんてことを考えてしまう佐天だった。

「こんにちは。湾内さん、泡浮さん。実は婚后さんにちょっと能力のこと、色々教えてもらってるんです。
 今日も面倒見てもらえたらなって思って、押しかけちゃったんですよね」
「まあそうでしたの! じゃあ、すごく筋の良いお弟子さんというのは、佐天さんのことでしたのね」
「え?」
「ふふ。名前はお伺いしなかったんですけれど、自分のことみたいに婚后さんが自慢なさって、
 ちょっと後輩の私達が妬いてしまうくらいだったんですよ」
「もう。恥ずかしいですから嬲るのはお止めになって、お二人とも」

コーヒーを二つサーバーから淹れて、光子がソファへと佐天を誘った。

「そう仰っても、私達、婚后さんにお聞きしたいことはたくさんありますのよ?」
「そうですわ! ねえ、佐天さんも気になりませんこと?」
「え?」
「婚后さんの、お付き合いなさっている殿方について、ですわ」

二人ともおしとやかなのだが、やっぱり女の子なのだった。
そりゃあ常盤台という女子校の中にいると、出会いは少ないだろう。
そうでなくてもこんな話、盛り上がらないほうがおかしい。
……とはいえ佐天は、気になるけどちょっぴり聞きたくないような気持ちもあるのだった。
婚后光子は、感覚で言うと『師匠』に近い。
彼女もまた人なり、ということは分かっているが、恋愛だとかそう言う浮ついた話と、
自分の才能を花開かせてくれたすごい人という感覚が、どうも相容れないところがあるのだった。
とはいえまあ、勿論話は聞かせてもらう気なのだが。

「ちゃんと聞いてなかったですけど、やっぱり彼氏さん、いるんですか?」
「え、ええ……まあ、その。イエスかノーかといわれると、イエスですわ」
「当麻さん、って仰るんでしわたよね?」
「もう泡浮さん! ちょっと名前を漏らしただけなのに……もうお忘れになって!」
「悪いですけど、お断りしますわ。ね、湾内さん?」
「ええ。苗字をお教えいただくまでは忘れようにも忘れられませんわ」

そんなものを聞いた日にはもっと記憶が確かになることだろう。
こっそり佐天も心の中にメモをする。

「付き合ってどれくらいなんですか?」
「もう、佐天さん。お答えするの恥ずかしいですわ、そんなの」
「そろそろ一ヶ月半くらい、ですわよね?」
「もう!」
「婚后さん、かなりばらしちゃってるんですね」
「だって、その」

聞かれたらつい喋ってしまう、そういう性格なのだった。光子は。
だって惚気話をするとつい幸せになってしまうのだ。
288 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/07(月) 20:51:10.39 ID:QE26hFq0o

「初デート前日の慌てっぷりといったら、もう幸せそうで見ていられませんでしたもの」
「ええ、明日友人と遊ぶのですけれどどの服がよろしいかコメントくださる?って」
「女友達とならあんな風に迷ったりなんてするわけありませんのにね」
「ですわよねえ」

光子は顔が火照ってきてどうしていいかわからなかった。
お座なりに佐天に勧めて、自分が先にコーヒーに口をつける。

「婚后さん」
「なにかしら、佐天さん?」
「もうキスしたんですか?」

ぶほ、という返事があった。慌てて光子がテーブルを拭いた。
向かいのソファでは、まあ、という顔で二人が光子を見つめていた。
晩生(おくて)の二人には、ストレートすぎて聞けなかったのかもしれない。

「さ、ささささ佐天さん?! なんてことを聞きますの?」
「え、だって恋人同士なら普通じゃないですか? キスくらい」
「そんなことありませんわ! 結婚もしてない男女が、その、そのようなこと……」

常盤台らしい、貞淑な価値観だと思う。光子が口にするのは。
だが佐天は口ぶりとは裏腹に、どうも光子は経験があるらしい、と踏んだ。

「別に恋人同士ならキスくらいは普通だと思いますけど」
「知りません!」
「キスしてないんですか?」
「知りません!」

鋭く突っ込む佐天を、対岸の二人は頬を赤く染めながらわぁぁ、と期待した目で見つめていた。
そこまでは、二人は聞けなかったのだった。
佐天はそっと、光子の肩に手をかけて、耳元で囁いた。もちろん全員に聞こえる音量でだ。

「……やっぱりレモンの味なんですか?」
「そ、そんな味するわけありませんでしょう?」

あ、と光子が漏らす。他愛もない。語るに落ちるとはこの事だった。

「じゃあどんな味だったんですか? 婚后さん?」

まさかカレーの味だったというわけにもいかない。
というか、なんでばらしてしまったんですの私の馬鹿、と頬を染めながら自省し、
でもちょっぴり話せて嬉しい光子なのだった。

「いつごろ、しましたの?」
「もう、許してくださいな……」
「それじゃあ、いつしたのかだけお聞きしたら、もう止めますわ」

引き際を心得た二人は、そうやってもう一つ余分に情報を聞き出す気だった。
光子は光子で抗えないのだった。

「20日……ですわ」
「夏休み初日ですわね」
「まあ、じゃあ婚后さんは夏休みをキスからお初めになったのね」
「それじゃあ、この先はもっと……きゃあ! 婚后さんってば大胆すぎますわ!」
「ちょ、ちょっと泡浮さん?! 私そんな破廉恥なことしませんわ!」
「そうは仰るけど、だって、初日にキスですもの!」
「ねえ? 佐天さんも気になりませんこと?」
「やっぱりキスよりもっと先の――――」
「もう佐天さん! それ以上言ったら今日はここで終わりにしますわよ!」

それは困る。
まあ、冗談だろうと分かってはいたが、武士の情けで今日はここまでにしてあげることにした。
……先は長い。ここでなくとも、いくらでも、光子をからかう機会はあるのだった。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 21:03:23.21 ID:cJAV6rZAO
>トラウマ級の酷い名前
まあヤツはウルトラマンゼロに目を付けられ、さらにゼットンから恨みを買ってるらしいからな
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 22:42:43.18 ID:NbPUrXNLo
更新乙です。
おにゃのこのキャッキャウフフがほほえましいww
というかもっとやれwwwwww

しかし、みつこさんあっけなくしゃべりすぎだろwwwwww
いやー、おにゃのこのキャッキャウフフはいいですねえ。
いざ巻き込まれるとそうでもないんでしょうがww

続きを楽しみにしてますー
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 23:13:18.47 ID:CoU3vWGq0


こういう雰囲気いいね
292 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/07(月) 23:37:47.80 ID:QE26hFq0o

「そう言えば、お二人はここでどんなことをしてるんですか?」

話が変わってほっとしている光子を横目に見ながら、佐天は二人に質問した。
能力の話をしたことはなかったが、ここにいるということはやはり流体操作系の能力者なのだろうか。

「今日は今開発中の発電システムの改善点の洗い出しに来ましたの」
「私と泡浮さんは他の方と何人かで同じプロジェクトに関わっていますの」
「発電、ですか?」

そう聞くと発電系能力者の仕事のようにしか佐天には思えなかった。
ピンとこないので首をかしげていると、二人は丁寧に説明してくれた。

「海洋深層水ってご存知ですか?」
「あ、はい。化粧水とかに入ってるアレですよね?」
「そうですわ。ちょっと非科学的な宣伝が出回っているせいで誤解もあるんですけれど、
 基本的には、表面の海水と比べて冷たくて清潔で、栄養分が豊富で、酸素が少ないただの海水ですわ」
「それを汲み上げて、温度差で発電しますの」

表面海水は東京近海なら年間を通して10℃程度はある。一方深層水は2℃くらいだ。
冬で8℃、夏で30℃くらいの水温差を利用して、発電を行うのだった。
通常、発電用のタービンを回すのは水蒸気だ。
原子力や化石燃料を燃やして作った高熱源体に水を触れさせて蒸気を作り、
水が気化するときの膨張仕事をタービンのトルクに変え、電力に変換し、
最後に低熱源体で蒸気を再び水に戻してリサイクルする。
水を使うのは量が豊富で安いこと、入手簡単なこと、捨てやすいことなど利点が多いからだ。
しかし湾内と泡浮の携わる海洋温度差発電プラントは、高熱源体に30℃程度の表面海水を、
低熱源体に深層水を利用するシステムのため、気化・凝縮のサイクルを繰り返す媒体に、常圧の水を選ぶことは出来ない。
減圧して10℃くらいで水を気化するか、加圧してアンモニアを気化させるか、
といったちょっと面倒なコントロールが必要なのだった。

「私は不得意ですけれど、ちょっと気体も扱えますからアンモニアと水の熱機関部の開発に携わっていますの」
「へえー」

おっとりとした湾内が語るその内容が、佐天には眩しく見えた。同時に、すこし嫉妬も感じる。
何かを成した人とそうでない人の差がそこにはあった。
だが、能力者を眺める無能力者の卑屈さはそこにはなかった。

「私は排水の応用の幅を広げているんです。この間、第七学区でお魚や貝のお祭りみたいなセールをしたでしょう?」
「あ、私行きました。生物プラントじゃない、海水養殖の学園都市産、っていうのが売りでしたよね」
「そうですわ。プラント培養は癌化などの問題を抱えていて、多品種少量生産は苦手ですから。
 一番確かなのはやっぱり海水を利用した養殖ですのよ」

学園都市に海はない。だから海産物は日本の周辺都市から仕入れるか、生物プラントでの培養に頼ることになる。
だが生物プラントは生物の複雑な仕組みを再現するのは苦手だ。だから牛や豚、鶏のような比較的大きい生物の、
ロースやバラ、ももといったそれぞれの部位を培養し、製品化することになる。
生物全体を食べる貝などは苦手な品目だし、内臓で作る製品、イカの塩辛や魚醤のようなものはそもそも作れない。
それを打開するのが泡浮の仕事の一つだった。
発電に使った水は、ミネラルを多く含んだ排水とほぼ純水の二つに分かれる。
それらをポンプを使って学園都市まで輸送し、純水は飲料に、
ミネラルの多い排水を海由来の肥料としてそのまま利用することで、
恒常的に富んだ海を内陸部に作るシステムを構築していた。

「世界の海に温度差が有る限り、無尽蔵にエネルギーを取り出せるシステムですから、 開発する価値は充分にありますわ」
「濃縮海水からは金やウラン、希土類も回収できますから、学園都市が自前で元素を確保する意味合いもありますし」
「はー、なんか、すごいですね」

人の生活に密着したところで、それほどの業績を上げられるのは、本当にすごいことだと思う。
だが謙遜なのか、二人は軽く笑って手を振る。

「でもこれ、外の世界でも、15年位したら普通に実用化するレベルの技術ですの」
「それに熱効率が悪いから、原子力みたいな出力はなかなか得られませんし」
「まあ、私達にはちょうどいい課題、ということですわ」
「それでもやりがいはありますもの」

ね、と二人は笑いあった。
外の世界に持ち出せる程度の技術のほうが儲かり、そしてそういう簡単な技術をレベル3程度の能力者に開発させる。
このレベルは学園都市の、一番の稼ぎ頭なのだった。
293 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/07(月) 23:42:02.80 ID:QE26hFq0o
>>290-291
ごめんキャッキャウフフする人たちが普通に理系の話しちゃった。
294 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 00:41:01.22 ID:ahLj9amNo

「長くお引止めしてすみません。それでは、婚后さんも佐天さんも、頑張ってくださいな」
「また機会があったら一緒に遊びましょうね」
「はい、それじゃあまた」

湾内と泡浮の二人に自分の学校の同級生には見せないような丁寧な挨拶をして、佐天は光子を振り返った。

「それじゃ、レッスンを始めましょうか」
「はい、お願いします」

きゅっと顔を引き締めた佐天の顔を光子は気に入った。
学んで自分を伸ばしたいという、前向きな意欲で満ちている。

「微積分の講義のほうはどうですの?」
「えっと、流体力学に使う簡単な微積分はだいたいマスターしました」
「そう」

微積分といっても、応用先は山ほどあるし、数学的に厳密なことを言い出すといくらでも深みに嵌れる。
佐天が今必要としているのは厳密な証明などではなく応用のためのツールとしての微積分だ。
得に流体であれば時間発展の微分方程式を解けることが最重要となる。
それに必要な知識は、大体身についていた。

光子は佐天が暗算できそうな問題をいくつか出して、それを解かせた。
飛行機の翼周りの流れ、湾曲した円管内の流れ、固体表面へと吹きつけた空気の流れ、
そういったもの一つ一つに佐天は的確に答え、正解した。
解くのに構築した演算式を聞くとまだまだ計算コストの低い方法はいくらでも考える予知があったが、
それはこれからブラッシュアップしていけば良いものだ。
前に会ってから9日、充分すぎるだけの伸びといってよかった。

「満点、ですわね。よく努力されましたわね、佐天さん」
「ありがとうございます!」
「こう言ってはなんですけど、一緒に受けた二年や三年の先輩方より出来が良かったのではなくて?」
「あ、途中から私、担任の先生が付きっ切りで見てくれるようになったんです。
 だから上の学年の補習に顔を出したのは一日だけで、そのへんはよく分からないです」
「そう。では言っておきますけど、これだけできれば十中八九、佐天さんの学校では佐天さんがトップですわね」
「え?」
「私も去年レベル2であまり上位の学校にはいませんでしたから予想がつきますわ」

誰かと比べてどうか、ということは佐天にはよくわからなかった。
自分が数日前の自分と比べて明らかに伸びたことは分かるのだが。
295 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 00:42:11.40 ID:ahLj9amNo

「そういうの、気にしちゃうと私調子に乗っちゃいますから。あんまり見ないほうが良いって先生も思ったのかもしれませんね」
「違いますわよ。佐天さんほど伸びる学生を他の学生と混ぜてしまっては玉と石を自分から混ぜるようなものですわ。
 特別扱いは当然のことですから、お気になさらないことですわね」
「はあ」
「それで、計算能力が上がったのは確認できましたけれど、能力そのものの開発はされましたの?」
「はい。うちの学校で扱ってる一番強い薬、貰いました」
「もしかしてトパーズブルーの粉薬ですの?」
「そうです」
「それでどんなことを?」
「えっと、どういう方程式の解き方で流体を解くのが一番かっていうのを、相談しながら色々探したんです」
「そう。好みだったのは連続場と粒子場のどちら?」
「粒子場でした」
「やっぱり」

佐天は、空気の粒が見えるといった。そういう世界の描像の持ち主なら、当然の選択だろう。
決まっていないなら、光子もそれを勧めるつもりだった。

「それと、渦を作り方も数式として纏めるようにしたんです」
「あら。今日それをやろうと思っていましたのよ。もう出来てますの?」
「あ、これで良いかは分かりませんけど……」
「どういうものか説明なさって?」
「はい。えっと……」

佐天は説明のために、先生と一緒に勉強した理論の名前を思い出す。
数式ならすぐにでも書けるのだが、言葉にするのがちょっと難しかった。

「ランジュバン方程式に向心力を足した式を解く、ってことなんですけど……」
「ランジュバン? それって確か、コロイドの……ああ、成る程」
「はい。ブラウン運動をランダムウォークで再現したあれです」

コロイド、身近な例で言えば花粉だとか、あるいは牛乳の濁りの元になっている油液滴だとか、そういうもののことだ。
これらは水中で、不規則で無秩序な運動、いわゆるブラウン運動をしている。
この不規則な運動は、分散媒である水分子の揺らぎによって、瞬間的に不均一な力がコロイド粒子に加わることで、
酔歩のような、予測できない動きをする現象だった。

「どうしてそんなものが出てきますの?」

それが光子の素朴な疑問だった。
確かに空気の粒という考え方は、確かにコロイドとイメージが近いかもしれない。
ただ、あまり空力使いとはなじみのない現象だった。

「えっと、まずはじめに考えたのは、渦を作る式を作ることだったんです」
「ええ、それで?」
「そしたら、中心力を入れようってまず考えるじゃないですか」
「まあ、それは分かりますわね」

中心力は、何かの中心に向かって働く力のことだ。
たとえばそれは磁力だったり、電力だったり、重力だったりする。
渦の中心に向かって空気の粒を引き寄せるような力を考えれば、
確かに空気の粒を回転させたときに生じる遠心力と上手くつりあって渦が作れそうだ。
296 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 00:43:48.28 ID:ahLj9amNo

「でもそれだけじゃ駄目だったんです」
「どうしてですの?」
「星と同じで、綺麗な軌道の粒子だけが残っちゃったんです。後のは全部、ぶつかっちゃって」
「ああ……」

沢山の無秩序に動く粒があって、それがある一つの中心に向かって吸い寄せられる系(システム)。
それは原初の宇宙そのものだった。ブラックホール周りの星系はそんな感じだったろう。
だが今では、天体は、極めて美しい均衡の取れた周期を形成している。
たとえば地球は随分と長い間、他の星と衝突して星の形を歪めるような出来事を体験していない。
宇宙には無限に星があって、それらは動き回る上、互いに引き合っているのにだ。
これはお互いにぶつかってしまうような周期のかみ合わせの悪い星同士はすでに衝突を終えて、
今我々の目の前にある宇宙は、お互いに均衡の取れた、秩序ある宇宙に落ち着いてしまっているからだ。
向心力によって空気の粒がある一点の周りを回る系を作ると、
宇宙と同様にあっという間に粒子が衝突・合一してしまい、鈍重で遅い、
綺麗な軌道の渦しか残らないという問題があるのだった。
これでは、渦の演算に使える式ではない。

「それで、お互いがぶつからないようにするのと、もっと乱れた流れを作るために、
 何かいい方法はないかなって色々考えたんです」
「その結果が、コロイドのブラウン運動でしたのね」
「はい。あれって、なんかすごくイメージに合うんですよね。無秩序に、こう、ゆらゆらっと」
「要は向心力と遥動力で渦を制御する、と」
「あ、はい! そうなんです」

とてもシンプルで、佐天はその結論を気に入っていた。
渦を作る『種』は向心力だ。
まるで太陽のように、あるいはブラックホールのように、空気の粒をある一点へと引き寄せる力。
だがこれだけでは渦の軌道が整然とした、逆に言えば内包するエネルギーに乏しいものになってしまう。
だからそこに、揺らぎを加える。
無秩序な揺らぎを加えることで、渦は乱雑で、そして複雑怪奇な軌道を描くようになる。
渦は普通は二次元だ。だが佐天は、この揺らぎによって三次元の球形の渦すらも作り出せるのだった。
渦を巻きながら強く強く圧縮された空気の球を作る、それが佐天の得意技だった。
この支配方程式の良いところは、遥動力という唯一つのパラメータでさまざまな渦軌道を作り出せ、
そしてその空気玉の規模というか威力を、中心力、まあ言ってみれば佐天の気合一つで決められる、
非常に扱いやすい方法論であるところだった。

「えっと、お聞きした範囲では、非常に理にかなっていて良いように思いますわ」
「本当ですか?」
「ええ。何より佐天さんが気に入っておられるのでしょう?」
「はい」
「なら、当面はそれで能力をコントロールすればよろしいわ。
 ここまでよくまとまっているんでしたら、能力の伸びを再測定して、
 あとは一番大事なところに手を伸ばせそうですわね」
「大事なところ、ですか?」

佐天は首をかしげた。
どういう演算式で能力をコントロールするか、というのが一番大事なことだと思う。
それ以上のことなんて、あっただろうか

「ええ。能力開放の仕方、ですわ」
「あ」

渦を作るのが楽しすぎて、暴発でしか能力を終わらせられないことを、すっかり忘れていた佐天だった。
297 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 00:45:03.38 ID:ahLj9amNo
はー、この手の話は書いてて楽しい。
けどみんなおいてけぼりかなぁ……?
分からなくても本編的には何も困らないんだけど、もっと説明詳しくとか、内容を簡単にとか、
そもそもそんなに面白くないとか、そういう意見ない?
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:53:27.61 ID:HTL9mtNTo
文系だけど面白く読めてる。
ただ、知識として頭には入ってなくて、
単純に物語のガジェットとして読んでる。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:54:45.62 ID:UFukzQfc0
向心力を向上心と読んで、えらい力技だな、と思ってしまった。

今全く関係なく天文の基礎の軌道とか本読んでるから凄く面白い。
能力開発パートはなんちゃってな理系を楽しめていいわ。
あと、こんごうさんかわいい。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:54:49.93 ID:UcvfH5WA0

むしろ原作がその辺曖昧で個人的にモヤモヤしてたんでこういう考察は大歓迎
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 00:57:36.56 ID:RTSdTWWC0
こういうのは好きだから楽しんで読ませてもらってます
説明もこれくらいでいいんじゃないかなぁと
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/08(火) 02:20:32.99 ID:acH0FVW7o
>>298
全く同じだ。書きたいことが100%書いてあった。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 03:31:37.23 ID:iP3cxMKpP
薀蓄量がすごいな……元から知識としてもってるのか、それとも調べて書いてるのかは知らないけど、頭が上がらないぜ
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 03:46:32.98 ID:vhw//VMAo
ガッチガチの文系だけど楽しめてるから他の人も多分大丈夫だと思うぞ
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 06:39:11.23 ID:RuviUjHuo
薀蓄臭がすごいんで、もうちょっとテンポ良く進めば尚いいな
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 06:43:40.82 ID:GUQlfyYDO
>あとは一番大事なところに手を伸ばせそうですわね」
>「大事なところ、ですか?」

ほぅ…
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 08:33:22.95 ID:ycHa82/e0
ふむ…
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 14:14:00.06 ID:GXmbRnIX0
原作は能力開発云々が端折られすぎてるからいいんじゃないかな?
SFものっぽいぞ
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 18:47:24.61 ID:hs8hvxtTo
雰囲気雰囲気。
それがいいからすっと読める。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 20:07:12.99 ID:HW1ZhhLAO
昔、大学で流体力学とか勉強してたので、面白く拝見させてもらってます。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 23:40:54.82 ID:8e3S2RQ00
雰囲気いいからスラスラ読めて問題無いよ

ところでここの一方通行は女で行くの?
原作は男で確定っぽいけど
312 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 23:48:24.94 ID:ahLj9amNo
みんなありがとう。まあここまでで合わない人は切っちゃってるだろうし、
だいたいこの方向性でやっていこうかな。
>>305 テンポ悪くしたら確かに元も子もないよね。ちゃんと出しすぎには気をつけていくよ。

>>298
ガジェットって表現カッコイイな。もうそういう楽しみ方をしてくれたら全然それで構わないっす。

>>303
科学ネタは、まあ一応理系の学生として今もずっと勉強してるから、蓄積はあるな。
魔術は図書館で勉強しました。でもコレも結局は今までの蓄積がベースではある。
哲学系の本を分かりもせんのに読んだとか、大学三回生のときに突然古代史が好きになったとか。

>>310
あー怖い人きたw 流体力学は自信ないんで、おかしいトコあったらニヤニヤしててください。
無関係ではないんだけど、俺自身は使わないんだよね。流力。

実は教育的配慮(笑)もあって、高校生くらいならキーワードくらいには触れたことあるって表現をなるべく出したいと思ってる。
コロイドとかブラウン運動とかに、自分の好きなもの(ラノベとかSS)でちょっと触れてると、
後で学校で習うときに、勉強する動機付けになるし。
積極的に文系を選んだ人は良いんだけど、理系嫌い→文系って人が減るといいなぁ。

ということで、これからもそれっぽい単語と理論を出していきたいと思います。
313 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/08(火) 23:50:10.12 ID:ahLj9amNo
>>311
原作で男だし、普通に男の予定ですよん。
原作の非科学的な部分には逆らう気だけど、そこは改変する予定ない。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 23:58:04.41 ID:yPQlvM/DO
自転アタックも変わるのかな?
柳田理科雄によると、日本消滅らしいが
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 00:15:06.13 ID:gIy6tAioo
熱膨張ネタだけは面白いから原作残してよ
316 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 00:32:12.97 ID:JQD/Z2Szo
>>314
あれは採用できんなw かまちーはエネルギー保存則を勉強すべき。
一日の長さを一回5分短くしたら、もう地球が滅ぶまでそのまんまやんねえ。
誰かが地球の回転を加速しない限り。
あとなぜか気を失うだけのGが飛んでる間ずっとかかり続ける謎の高速旅客機もなんとかしねーとな。
1Gの加速で200秒もあれば7000キロになるっての。

>>315
あれちょっと検証するわ。熱膨張率とかちゃんと調べて。
コーヒー程度の温度じゃ無理だとは思うけど。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 00:37:59.84 ID:pad06LUy0
もう原作の科学設定も大幅に変えていいんじゃないかな?
ここの上条さんは原作より頭良いしさ
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:03:33.43 ID:venX2Q490
というか科学的に正しいことを追求していくと美琴とかろくに戦えない気がするな
空気中で10億Vの放電とかレールガンとか熱やら反動やらで自爆技にしかならないんじゃ
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:07:59.40 ID:lZBGRJKr0
まあ、個人的には変にリアル路線追及して、更新が遅くなったり書けるものも書けなくなっちゃったなんてことにはならないようにしてほしいかなと思う。

要は面白ければそれでいいってことよ。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 01:16:48.97 ID:gIy6tAioo
美琴がレールガンの反動でなんでミンチにならないか
前からもの凄く謎だったんだが、答えとかあるの?
電磁波を操るくらいじゃ反動は殺せないだろ
321 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 01:46:04.49 ID:JQD/Z2Szo
>>319
確かにそれが一番大事だな。うん。

>>320
わりとニコニコの動画にいい解釈が載ってたので、それを答えにしようかな。
sm13590024『【空想科学】美琴の”超電磁砲”の威力を検証してみた【レールガン】』
美琴はレールガンの砲身そのものではないので、反作用を受けることはない、かな。
322 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 01:47:32.73 ID:JQD/Z2Szo

「これまでずっと、発動した能力を終わらせるときは、暴発でしたの?」
「あ、はい。先生もどうしていいのかよく分からないみたいで」
「まあ流体制御の能力者には普通存在しない悩みですものね」
「そうなんですか?」

渦というキーワードが重要となってくる自分の能力は、確かに変り種だとは思う。
とはいえ、そんな根本的なところで人と違うのか、と首をかしげる佐天だった。

「空力使いは普通、気体を『流す』能力者ですわ。
 自分の意思で空気の流れを作るのを止めれば、また自然な状態に還っていくだけですから、
 空力使いが能力の終わりで悩むことはほとんど有りません。
 一方、私と佐天さんは、空気を『集める』能力者でしょう?
 集めたからには開放しないといけない、という理屈で、私達は変わり者なんですのよ」
「あー、なるほど。言われてみればそれって確かに変わってますね。
 ……自分で言うのも変ですけど」

言われてみて、確かに気づくことがある。
渦として空気を集める以上、解放しなければいけないのだ。
そういう能力を授かった身なら、終わりまでコントロールしきって一人前。
半分しか出来ない自分は、半人前だということだ。佐天はそう、増長しそうな自分を戒める。
その姿勢はもはや無能力者の、そして劣等感に苛まれたかつての佐天とは一線を画していた。

「それで、解放の練習は何かしましたの?」
「あ、いえ。何をしていいのか、全然手がつかなくて……」
「そう。暴発、と表現してきましたけど、まずはそれから見直しましょうか。
 弱い威力でよろしいから、渦を作って、ここで解放して御覧なさい」
「はい」

光子が指導者らしい口調になったのを受けて、佐天は姿勢を正した。
そして言われたとおり、10センチくらいの小さな渦を作って、
光子がじっと見つめているのを確認してからいつもどおりコントロールを止めた。

ボワ、という鈍い音が小さく響いて、風肌を撫でる。
光子はその空気の流れをじっと見詰める。

「これはこれで、綺麗ですわね」
「え?」
「かなり等方的、どの方向にも均一に広がっていますのね。もっと歪なのかと思っていましたの。
 使い勝手は良くないかもしれませんが、これも一つの解放の様式、でしょうね」
「はあ……でもこれ、ただ広がってるだけですよ?」
「その通りですわね。制御が簡単、というな無制御でこうなる分イージーですけれど、
 その分、利用価値がないですわね。等方的というのはそういうことですけど」

方向によって性質が異なること、異方性というのは重要なことだ。
分子を並べる方向によって光の反射・屈折特性が変化することを利用して液晶ディスプレイは出来ているし、
工業的に重要な触媒が重金属に偏っているのは、重金属がd軌道電子という極めて異方的な軌道を持つ電子を持つためだ。
佐天の能力で言えば、佐天が蓄えた100の力を、全ての方向に均一に散逸させれば、威力の減衰があっという間に起こってしまう。
それでは佐天の蓄えた渦という高エネルギー体の利用価値はあっという間に損ねられてしまうのだった。

「えっと、すみません。どういうことを考えたらいいんですかね?」
323 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 01:48:56.67 ID:JQD/Z2Szo

答えそのものを聞く学生になってしまったことを恥ずかしく思いながら、佐天は光子に尋ねる。

「そうですわね……。私の言葉で言えば、相転移を考える、ということかしらね」
「相転移?」
「流れている渦にこの言葉を使うのは不適切かもしれませんけれど、渦という一つの相(フェイズ)から、
 全くそれとは別の相(フェイズ)へと劇的に転移させる、という考えですわ。
 球形の渦が佐天さんにとって、一番自然な相なんでしょう。
 そこから、不安定だけど利用価値のある相へとガラリと転移させるのですわ」

相転移というのは、気体から液体、あるいは固体といったように相を転じる現象一般を指す言葉だ。
鉄の磁化も相転移だし、ただの伝導体が超伝導体になるのも相転移だ。
そういう、ある温度や圧力、磁場強度を境としてガラリと状態が変わってしまうことを相転移という。
『流す』能力者と違って、『集める』能力者は何かをトリガーに劇的に状態を変化させないと、
価値ある現象というのを引き起こしにくいのだった。

「相転移、うーん、すみません。ちょっとピンとこなくて」
「私も言葉が悪かったかもしれませんわ。要は、式に入力する値を変えるなどして、
 全く違った状態に変化させる、という意識を持てということです」
「あ、はい」
「ためしにやってご覧になったら?」
「はい……えっと、適当にいじるので、どうなるか分かりませんよ?」
「構いませんわ」

佐天はいつもどおり、渦を作る。そしてしばし眺める。
いい仕上がりの渦だ。一週間前に自分が作っていたものが稚拙に見えるほど、
巻きが安定していて、それでいて内部に大きなエネルギーを蓄えている。
その渦の制御式の遥動力の項に、今までに入れたことのないようなパラメータを代入する。
どうなるかはやってみないとわからない。とはいえ、予想はつくのだが。

さっきと変わらない、ボワ、という音。先ほどと同じような風が、二人の肌を撫でる。
それだけといえば、それだけだった。

「綺麗に広がった先ほどと違って、今は随分と広がる方向が乱雑でしたわね」

光子は違いに気づいていた。
槍の遥に、天上に向かう風が二条、そして足元に向かう竜巻が一つ。
水平方向には大体同じような広がりだった。

「変な値を入れて渦を目茶目茶にすると、こうなっちゃうんですよね」
「簡単なことですの?」
「え? まあ、数字を変えるだけですから」
「……」

考え込む光子を邪魔しないよう、佐天は黙る。
そして同時に自分でも考える。要は、全ての方向に均一に広げなければいいのだ。
それだけでも使い道は生まれてくる。そして、ある方向にだけ延ばすとなると……

「槍みたいに吹き出させれば、いいんですかね」
「あら佐天さん。私と同じ答えにたどり着けましたのね」
324 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 01:52:11.21 ID:JQD/Z2Szo

軽く驚いたような顔をして、すぐに褒めるように笑いかけてくれた。

「私がイメージしたのはさっき佐天さんの話に出た天体ですわね」
「え?」
「重力崩壊する星はパルサーと呼ばれる電磁波を放出しながら崩壊するのですわ。
 その放出方向は全方向にではなくて、大体自転軸に近い方向にのみ吹き出しますの。
 ちょっと試しに、やってくださらない?」
「あ、はい。……どうしたらいいですか?」
「そうですわね、まずは、一つの回転軸を中心に回る渦を作ってくださる?」
「はい」

それは簡単だ。
佐天は手のひらの上に、渦を作る。
水風船を回したときのように、垂直に渦の中心軸が出来るような流れを作る。

「それを上手く変化させて、全ての運動量を軸の方向に噴出させられませんか?」
「これを垂直にですか? それは……えっと」

こんな感じだろうか、とアタリをつけて値を入力し、渦に変化をつける。
再び鈍い音と共に、渦は破裂した。

「うーん……」
「イマイチ、でしたわね」

僅かに狙ったような傾向は見えたものの、結局は全方向に空気が散ってしまった。

「もし代案があれば、そちらを試してもよろしいのですけど……」
「ちょっと、思いつかないですね。すぐには。
 それに狙った変化を起こすのに必要なパラメータが今は予想できないので、なんとも」
「まあ、焦る必要は有りませんわね。毎日意識しながら能力に向き合っていれば、いずれ妙案を思いつきますわ」
「それで、大丈夫ですかね?」
「心配はもっと時間が立ってからされればよろしいわ。佐天さんはたった二週間くらいで、こんなところまで来ましたのよ。
 まずはもっと喜んで、自慢に思っても罰なんて当たりませんわ」

そういって光子が笑いかけてくれた。
勿論、そんなことは重々承知していた。毎日が嬉しくて、渦を作りまくっているのだから。

「それは大丈夫ですよ! あたし毎日、能力が使えなくなるまで渦を作ってから寝るようにしてるんです」
「いい心がけですわね」
「おかげで長袖のパジャマで寝てるくらいですからね」
「え?」
「渦で熱を集めて窓の外に捨てるって、婚后さんのアドバイスにあったじゃないですか。
 あれ毎日夜にやってるんです。おかげで今週はクーラーいらずでした」
「ああ。ほら、やっぱりそういう練習が一番続くでしょう?」
「ですね。あはは」

光子に自慢をするつもりで、佐天は手のひらに、一番巻きの強い渦を作り出す。
体を力ませないように気をつけながら、全力で。
出来た渦は中心が揺らめいていた。高圧に圧縮した空気の屈折率が変化するせいだ。
それは内包するエネルギーが相当強くなった、三日前くらいにようやく出来た現象だった。

「……ここまで、巻けますの?」
「え?」

驚いたあと、光子は予想に反して少し厳しい目をした。褒めて欲しかったのだが。

「あ、ごめんなさい。すごいですわね。目視で分かるくらい、渦の中は物性が違っていますのね。
 ……とても、レベルが上がってから一週間やそこらの能力者、それもレベル1とは思えませんわ」
「はあ」
「もちろん褒めているんですのよ。ごめんなさい、同じ空力使いとしてつい」

何気に、その反応は嬉しかった。レベル4の光子が遠い存在なのは、勿論分かっている。
だからこそ、その光子が無視できないだけのものを作れた自分が、嬉しかった。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 05:39:13.98 ID:wy/7a0JDO
乙でした。
佐天さん急成長にみっちゃんの内心が楽しみ。

>>321
俺は放電で生じるβ線やγ線の方が心配だわ。
何時もパリパリしてるし。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 08:19:03.31 ID:6Tw1bXlAO
ああ、ダメだ佐天さん、手から槍はダメだよ…
厳密には異なるけど、それは原作に出てる能力者と被る…
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 08:23:12.98 ID:jXrS/i3Oo
>>326
どっちかというとドリルじゃね?
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 08:32:05.81 ID:6Tw1bXlAO
手からドリルか
つまり佐天さんはグレンラガンになるのか
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 10:24:08.76 ID:XA9UT1mO0
佐天さん伸びてきたな
原作の最新刊にも登場したし、このSSでの活躍に期待だ

一方通行と戦えるかな?
330 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/03/09(水) 10:52:00.18 ID:/UqqaF6E0
>>329
まだ読んでないからそれ以上のネタバレはストップだ!
よろしくたのむ。

>>325
ベータ線とガンマ線出るもんなん?
そういうのって原子核崩壊しないと出ないと思うんだ。専門外だけど。
放電はただの電子軌道の励起で、かなり長波長の成分が多いんじゃないかな。
まあ、紫外線は出るかも知れんけど、X線って呼ぶほど強い光はそんなにないような。
なんか情報持ってたら教えてくれ。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 12:05:56.37 ID:4MTuu1SAO
佐天さんが地中に潜って加速すると聞いて
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 12:13:19.81 ID:9aLb89dTo
五個くらい近接して展開できれば結構な神砂嵐になりそうだ。

光子さんいま充実してるなあ…
女として上条さんに必要とされ
姉としてインデックスに必要とされ
能力者として佐天と必要とされてる感じか
これぞリア充、爆発しなくていいので発射してください。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 14:21:40.52 ID:lZBGRJKr0
ちょっと専門分野と違うから多分間違ってるかもしれんが、蛍光灯一つでも可視光だけでなく紫外線やら赤外線なんかも出てたりするからわずかだろうけど出てる可能性はある
まあ正直電磁波出してる時点でガンマ線くらいは出てる気がしなくもないし、特定の波長成分のみを出すなんてこともレベル5にかかれば簡単なことかもしれないし

でもまあそんなこと言いだしたらイノケンティウスとかどう説明すればいいのよって話になるし
3000℃だぞ、3000℃
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 22:14:16.53 ID:pad06LUy0
ここの上条さんと婚后さんは18歳16歳になった途端学生結婚しそうだなぁ
335 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 23:13:55.35 ID:JQD/Z2Szo
>>333
今wikiで見たらエックス線とガンマ線はともに電磁波なので同じもので、
発生機構で便宜的に呼び名が変わるだけらしい。はじめて知ったw
光子(こうし)であるエックス線とか紫外線は出るだろうけど、
電子からなるベータ線は出ないだろう、というのが>>321への回答になるかな。
こういう細かい知識を詰める勉強になるんだよね。SS書くのって。

>>334
上条夫妻はかなり若いうちに結婚してるからまあ、
息子が同じ道をたどっても文句は言えないよな。
婚后家は大変なことになるだろうなw
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 23:32:10.49 ID:Lvk+mm+AO
>>333
イノケンさんは表面じゃなくて内部が3000℃だと解釈すればなんとかいけるかもしんない
337 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 23:46:03.67 ID:JQD/Z2Szo

「……ふうっ」
「ここまでにしましょうか」
「はい」

3分間、佐天は散り散りになりそうな渦を耐えに耐えてコントロールした。
平均で直径30センチ、渦をスイカくらいの大きさで30気圧くらいに制御して、
それだけの間、渦を崩壊させないで維持したことになる。
規模、時間、あらゆるファクターで一週間前の倍以上をマークした。

「素晴らしい伸びですわね。佐天さんのポテンシャルが、それだけ高かったのでしょうけれど」
「あはは、ポテンシャルなんて。褒めすぎですよ」
「何を仰いますの。短期間でこれだけの伸びを見せるなんて、
 努力でコツコツとでは得られませんわよ。こういうのを才能と言いますのよ」

佐天は落ち着かなかった。そりゃあ伸びれば嬉しいし、褒められるとついにやけてしまう。
だが、どうも才能なんて言葉と自分が結びつかないのだ。

「まあでも、すぐに頭打ちになりますわ。能力の伸びにまだまだ知識が追いついていませんし、
 体に染み付けないと、次のステップに進めないなんて事は山ほどありますわ」

光子のその言葉はむしろ佐天を安心させるような言葉だった。
苦労しながら伸ばすのが能力というものだろう。
壁に突き当たれば苦しい思いをするのかもしれないが、
順調に伸びていて能力を使うのが面白くて仕方ない今は、
そんな困難の一つくらい気合で乗り切ってしまえ、
なんて風に心の中が勢いづいているのだった。

「さて、それじゃあ午前はこんなものにして、お昼にしましょうか」
「はい」
「どちらで摂りましょうか。学外の関係者の方々の利用する食堂があちらにありますけれど、
 それよりは、私達学生用の食堂かテラスのほうがよろしいかしら」

常盤台女子は男子禁制の学び舎の園の中にある。
しかし、レベル5を二人も要することからも学園都市の最高学府のひとつであることは間違いない。
当然のことながら、学生と共同研究を行う男性の研究者は沢山いて、常盤台の中に来ることもある。
人目に触れないように常盤台の外れに案内されるので大半の人間には気づかれないが、
実は結構、常盤台には男性が入ってくることがあるのだ。
そして彼らは食事を摂りに出かけることすらままならない。
そういう研究者向けの食堂が、この常盤台の外れに一つあるのだった。
とはいえ佐天は服装以外はここにいてもなんらおかしくない女子中学生だし、
常盤台に知り合いがいないわけでもない。

「あー、視線を集めるのはちょっと嫌なんですけど、初春……友達に、
 ぜひとも常盤台の皆さんのお食事している場所がどんなのか、その目で見て教えてください、
 って頼まれちゃってるんで」
「はあ。別に大したものはありませんわよ」
「常盤台でもですか?」
「私達も、佐天さんと同じものを食べる同じ女学生ですもの」

クスリと笑って光子は腰を上げた。
佐天と知り合いなのは湾内と泡浮、そして御坂と白井だろう。
湾内と泡浮となら、上手く行けば会えるかもしれない。
居心地が悪いであろう佐天にとっては知り合いが多いほうが良いだろう。
なるべく知り合いを探そうと思いながら、光子は佐天を食堂へ誘った。
338 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/09(水) 23:49:33.09 ID:JQD/Z2Szo
『interlude02: 渦流転移』おわりっと。まあ前編みたいなものなので普通に話は続きます。

>>336
3000℃の表面が出す輻射熱って火傷するレベルだし、赤熱で直視なんて出来んよね。
だから内部だけってのは割と妥当なのかも。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:01:15.05 ID:SXJPWSiUo
鉄工所で事故って顔面ケロイドの人とかザラだもんね。怖い怖い
340 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/10(木) 01:44:29.56 ID:6toVfk8Oo

休憩室を覗いて、湾内と泡浮の二人を探す。食事に行ったか、あるいは出かけたか、二人はいなかった。
夏休み中で、昼に学外へと昼食を摂りに行くのもアリだから、そうしたのかもしれない。
待っても仕方ないし、二人は流体制御工学教室の学舎を出た。

「あつー……」
「分かってはいますけれど、外はたまりませんわね」

光子は扇子を取り出してパタパタと仰いでいる。
渦を作って、佐天も首筋に風を作り出した。
風も生ぬるいので、あまり意味はないのだが。

「冷たい麺類にしようかしら」
「あ、いいですね」
「割とあの食堂の冷製パスタは気に入ってますの」
「パ、パスタですか」

ちょっと予想外だった。てっきり冷凍麺で作った冷やし中華やうどん、そばだと思ったのだ。
この学校の雰囲気にはパスタのほうが合っていた。

「細かく刻んだ蛸の食感とバルサミコ酢のさっぱりした感じが、暑い日には軽くて良いですわ」
「へー」

とりあえず佐天の昼は決まった。具体的な説明があるとつい味を想像してしまう。
聞いたところ材料はそう突飛でもないし、バルサミコ酢は家にないが黒酢なら有るから、
家で真似することも出来るだろう。

「おーい、佐天さん! 婚后さん!」
「あら?」
「あ、御坂さん」
「ごきげんよう佐天さん。それと、婚后光子」
「どうして呼び捨てにされなければいけないのかしら? 白井さん」

別の建物から出てきたらしい二人、白井黒子と御坂美琴に返事を返す。
どうも光子は白井と反りが合わないのだった。
いや、反りが合わないというか、光子としては普通に接しているつもりなのだが、
どこか光子の態度が白井には合わないらしかった。
レベルは同じだが、学年は一つ上なのだ。
もう少し態度に敬意があれば、光子のほうから歩み寄る気にもなるのだが。

「これは失礼しましたわ、婚后先輩」
「過ぎた慇懃は無礼と同じ、それくらい学びませんでしたの?」
「私は精一杯丁寧にお詫びを申し分けただけですわ、婚后先輩」

先輩という響きは、あまり常盤台では聞かれない。慣例としてさん付けが多いのだ。
その先輩というフレーズを強調する白井が、やっぱり気に入らない光子なのだった。
そしてお姉さまに比べて自慢げでお嬢様な態度をとりがちな先輩の婚后が、どうも気に入らない白井なのだった。

「ま、まあまあ。それで佐天さん、今日も婚后さんにレッスン受けてたの?」
「はい。そうなんですよ」
「佐天さんは物凄く伸びがよろしいですわ。二学期が始まる前が大変でしょうね」
「……え? なんでですか?」
「転校されるんだったら、どこに移るかは大事なことだと思いますけれど」
「え? 佐天さん転校するの?」
「え? いや、私まだ考えてないですけど……」

サラリと光子が言ったことは、先生には言われていたが、光子とは話をしたことがなかった内容だ。
突然だったので動揺してしまった。

「今の段階で、通ってらっしゃる中学ではもう一番だと思いますわよ。上の学年も含めて」
「へー! 佐天さんそんなに伸びたんだ。すごいじゃない!」
「い、いや、全然実感がないんで分からないんですけどね」
「今、レベルはいくつですの?」
「まだレベル1ですけど」
「すぐに上がりますわ」

光子が隣でそう断言した。
レベル2なら、中堅の学校を狙う段階だった。支給される奨学金の額が全く変わってくるからだ。
きりもちょうど良いし、確かに順当に行けば転校が自然なことなのかもしれない。
341 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/10(木) 01:45:44.65 ID:6toVfk8Oo

「でも、初春さんと別れちゃうのは寂しいよね」
「そうですね。入学してからずっと一緒に遊んでましたし」
「大丈夫ですわ。あの子は転校したくらいで忘れる薄情者じゃありませんし、
 風紀委員の支部に来れば毎日でも会えますわよ」

白井と初春の信頼関係は、自分と初春のそれとは違う。
二人がスキンシップを取っているようなところは見たところがない。
なんというか、相棒なのだ。そういう関係が羨ましくないこともなかった。

「ねえ、立ち話もなんだし、さっさと食堂に行きましょ」
「ですわね。お姉さま、今日は何にしますの?」
「んー、麻婆豆腐の気分かな?」
「御坂さん、この暑いのによくそんなもの召し上がりますわね……」
「今日は東洋の気分なのよねー」
「東洋、ですの?」
「お姉さまの共同研究先、今回は東洋医学の方々らしいですわ」
「え、御坂さんが医学、ですか?」

発電系能力者というのはそんなこともするのか。佐天は軽い驚きを感じた。

「まあね。ちょっと殺気の感じ方を勉強しようかと」
「え?」

食堂に入る。中はそこそこ混んでいて、僅かに並んだ人の列の最後尾で四人は立ち止まる。
美琴の不思議な発言に、白井が軽く顔を片手で覆っていた。

「変わった依頼をお引き受けになったと思ったら、マンガが動機ですの?」
「別に良いじゃない。それなりに成果をまとめる自身があるから引き受けたんだし」
「西洋医学でも発電系能力者を必要としているところなんて山ほどあるでしょうに」
「そういうところに協力したこともあるわよ。今回はそういうので見てないところに切り込もうってだけ」

オーダーの順番が回ってくる。佐天と光子は冷製パスタを、美琴は麻婆豆腐、
黒子は炊き込みご飯のランチセットを手早く頼む。

「御坂さん、東洋医学と電気、というのはどういう組み合わせになりますの?」
「ん? ほら、人間の体にはツボってあるじゃない? 足の裏のある場所を押すと肩こりがほぐれる、とか。
 お灸や鍼もあるよね。経験則として東洋医学はこれを体系化してるけど、東洋医学でここにツボがある、
 っていう場所を切開しても、西洋医学では何も見つけられないんだよね。
 で、この前黒子に肩揉んで貰ってて、ふと気づいたのよ。皮膚の表面電位の特異点とツボって関係してるっぽいって」
「お姉さま……もしかして、黒子がお役に立って、いましたの?」
「え? うんまあ、あの後手が急に胸に伸びてこなきゃ感謝しようと思ったんだけど」
「じ、事故ですわ」
「随分と意図的な事故だったように思うけど?」

嬉しそうに目をキラキラさせたかと思うと、一転して冷や汗を垂らす白井だった。

「ま、まあそれでさ。考えれば当たり前だなーって。脳は人間の体を制御する重要な部位だけど、
 国家だとかと同じで、中枢が何でもかんでも裁くわけにはいかないでしょ。
 細かいことは現場、人間で言えば皮膚が知的な処理ってのを行っててもおかしくないのよね」

空いた席に適当に座って、四人はランチを始めた。
常盤台の常識なのか、座ってきちんといただきますを言う三人に佐天も唱和する。
細いパスタ、カッペリーニに黒みがかったソースと蛸を乗せて、口に運んでみる。

「あ、美味しい」
「でしょう?」
「さっぱりしてていいですね」
「辛っ……」
「お姉さま、かなり辛いと書いてありましたの、読みませんでしたの?」
「い、いや学食のメニューなんてもっと万人向けじゃない? 普通は」
「数量限定メニューですわよ、これ」

白井があきれた目で炊き込みご飯をパクつきながら、涙目の美琴を眺めた。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 01:52:13.97 ID:6D4A84oAO
>>335の光子(こうし)を振り仮名があるにも拘わらず光子(みつこ)と読んだ婚后さんファンは俺だけじゃないはずだと信じたい。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 02:29:42.15 ID:Jir3dtYSo
婚后さんのファンだからこそ こうした読み間違いをするんだよな
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 08:01:49.39 ID:stoFcKlAO
おれは光子力研究所に就職する
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 11:18:20.20 ID:sUEqyP43o
光子力(みつこちから)か・・・。
ハイパー化には気をつけないとな。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 12:07:12.36 ID:HtAVCVQSo
現役鍼灸師が興味深く美琴の発言を見ています。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 14:58:56.18 ID:+qkRgqgEo
そういや今日は佐天さんの日だったな
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/03/10(木) 15:08:01.71 ID:8ctCjaxt0
御坂は婚后さんと上条さんの事知ってんだっけ?
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 15:20:59.42 ID:3OAk3zfYo
熱膨張って原作読んでないから詳しく知らないんだけど、機関部に水分が侵入したて事ならともかく
紅茶・コーヒーが掛ったくらいで誤作動起こすような機構って兵器としての信頼性の点であり得なくね?
発火で出る熱とかガス圧とかの方がよっぽどきついんじゃね?
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 15:23:57.00 ID:uDk4Dp/lo
まあ、だからねぼしねぼしと言われてるわけで…
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 16:16:58.44 ID:8hUFLd4A0
>>349
というか、熱膨張云々も勿論だけど機関部に水が入って撃てなくなるのも現代以上の技術で作られた、それなりの質の銃としてはあり得ない
参考動画:
ttp://www.youtube.com/watch?v=ON9xwQ5S62k&feature=player_embedded
件の銃が実用性皆無のヴィンテージものか、恐ろしいほどの粗悪品だったのでもなければな
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 17:26:21.69 ID:Y7tYx5sHo
>>336
「イノケンさんは」を「イノケンサンバ」と読んだ俺は死んでいい
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 17:48:31.30 ID:WShGLOCDO
>>351
薬莢内に水が入り込んだ可能性と偶然不良弾に当たった事が考えられると思う。

>>335
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1355701778
β線とは違うけど、電子線は出ない?
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 18:56:50.28 ID:3OAk3zfYo
>>353
そうだとするとねぼししちゃった上条さん恥ずかしいなwwww
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 20:12:05.42 ID:QI6hAzfJo
>>354
理屈が合ってるかどうかとは別次元で
アレは恥ずかし格好良いだろwwww
356 :nubewo ◆sQkYhVdKvM :2011/03/10(木) 22:04:49.79 ID:ar5PSotx0
せっかく新約を買ったはいいが家に帰れねぇ。しばらくネタバレ回避進行で。あと更新も無理かもしれん。

>>353
電子線は出るでしょうな。プラズマになってるんだからよく考えたらそれは当然だったね。
まあ、美琴はスタンガン当てられても平気な人だし、電子線は大丈夫なんでない?
というか電位を操れるってことは生化学反応の反応電位もコントロールできるんよね。
アンチエイジングとか余裕だな。いつまでたっても綺麗な若奥様フラグ来たなこれ。

>>351
おー、いい情報ありがとう。ここまで水に強いもんなんだな。
ねぼしはよく考えて話を書くことにしよう。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 23:04:49.96 ID:Q3RggUuc0
まあねぼしって当分先の話だしな
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 23:36:01.82 ID:Wknv2IWQ0
更新待ってるぜ
何しろ毎日このスレをチェックするのが日課になってるんでね
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 23:53:45.80 ID:uuW5rbuSo
>>356
ミサカ19090号が興味を持ったようです、とミサカはあなたの書き込みにあばばばばbbbb
360 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/11(金) 00:46:38.68 ID:qcpTqTzOo
なんとか日付変更くらいには帰ってこれた。
とりあえず書いたらすぐ投下していく。
>>359
19090号はどう登場させようかなー。出番欲しい?w
361 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/11(金) 00:54:41.25 ID:qcpTqTzOo

「そういえばお姉さま、お昼からはどうされますの?」
「え? 昼から? んー」
「婚后さん、私達は?」
「昼からは佐天さんは猛特訓ですわ。へとへとになって意識が混濁するまで頑張ってもらいますわよ」
「え、意識が、混濁ですか?」

ニコニコとたおやかに微笑む光子の裏に、ゆらっとオーラが見えた。
スパルタ指導者の雰囲気というか、そんな感じだった。

「ええ。昼からは外部の研究者の方もいらっしゃって、
 航空機のエンジン開発の手伝いをしてもらう予定ですわ。
 あら佐天さん。そんな顔はおよしになって。
 新薬の被験者に応募するのの倍くらいはお小遣いが手に入りますわよ?」
「自由になるお金が増えるのはありがたい事ですけれど、
 そんな直截的な言い方ではあまりに品がありませんわ。
 裕福な家庭の子女の多い常盤台ですけれど、それだけに成金上がりも多いですから、
 どうぞ言葉遣いには注意なさったら? 婚后さん」
「素敵な箴言をくださってありがとう、白井さん。でも杞憂ですわ。
 婚后は旧くからの名家ですし、その子女として厳しく躾けられてきましたもの。
 私が強調したかったのは、学園都市や両親から与えられたお金ではなくて、
 自分の努力で手にしたお金が手に入る、ということですわ」
「ああ、そうでしたの。それは失礼しましたわ。婚后さんがそのようなことを仰るとは思い至りませんでしたの」
「分かってくだされば結構ですわ」

ふふふふ、と本音を見せずに微笑みあう婚后と白井を見て、仲がいいんだか悪いんだかと佐天は心の中で呟いた。

「それで、御坂さんは昼から何するんですか?」
「あ、うん。私は佐天さんたちと違ってもう学校に用事はないから、ちょっと出かけようかなって。
 黒子は確か風紀委員の仕事よね?」
「そうですけれど、それが何か?」
「いや別に、ちょっと確認しただけ」

ちょっと、黒子には聞かれたくないことだった。
だがそれに何か感づいたのか、黒子がクワァッと目を開いて、手をわななかせた。

「おおおお姉さま。まさか、殿方と?」
「へっ?」
「いけません、いけませんわそんなこと!」
「ハァ? アンタ突然何言ってんのよ。私デートなんて一言も」
「デートっ!? お姉さま、今デートと仰いましたの?!」
「だから落ち着け! ったく」
「これが落ち着いていられますか!」

両手を頬にぎゅっと押し付けてアッチョンブリケな表情をして黒子があとずさる。
傍らには椅子が倒れていた。

「お姉さまは最近、変ですもの」
「へー、御坂さんのそういう話、ちょっと気になるなー。ね、婚后さん?」
「ええ、まあ」

そうでもない光子だった。彼氏持ちの余裕だった。
とはいえここは佐天と白井にあわせたほうが面白そうなので、相槌を打っておく。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/11(金) 01:00:25.78 ID:Dbs+rt8oo
修羅場の予感・・・・
なわけないか
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 01:05:51.10 ID:/u9/VP1+0
いつばれるのか
とりあえず御坂さんに合掌
ここの上条さんは盤石だもんな
364 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/11(金) 01:12:17.08 ID:qcpTqTzOo

「佐天さんと婚后さんまで……もう、別に遊びに行くわけじゃないわよ」
「ふうん……白井さん、御坂さんって気になる人、いるんですか?」
「そうなんですのよ佐天さん! 私というものがありながらお姉さまったら最近はことあるごとに、
 あのバカは、あのバカなら、あのバカと、なんて『あのバカ』さんの話をなさいますのよ」
「グガホゲホゴホッ! わ、私は別にそんな何度もアイツのことなんか――」
「やっぱりいるんですね! 気になる人!」
「ちちち違うわよ! 大体す、す、好きな人にあのバカとか言うわけないでしょ!」
「好きなんですか?」
「だから違う! 逆、逆よ。大体頼みもしないのに助けてくれちゃったりさ、
 正義の味方気取りの調子に乗ったヤツなのよ!」

ん? と光子は首をかしげる。なんとなく引っかかりを感じたのだ。
となりで歯噛みする白井と目を爛々と輝かせた佐天が容赦なく追及していた。

「御坂さんが不良に絡まれてるときに、助けに来てくれたってことですか?」
「え、ああ、うん。まあ勿論手助けなんていらなかったし、余計なお世話だったんだけど。
 ……ってああもう! この話はもういいでしょ?」
「分かりました。それじゃあ次行きましょう。どんなところに惹かれたんですか?」
「だーかーらもう、佐天さん! からかわないでよね」
「アハハ。ごめんなさい。でも、御坂さんも可愛いとこありますね」
「か、可愛いって……。そ、それより! 佐天さんはどうなの?」

攻撃は最大の防御と言わんばかりに、美琴が佐天に矛を向ける。
光子は美琴の恋愛事情よりは興味があった。自分の弟子の話だからだ。

「私も聞きたいわ。佐天さんは気になる殿方はいらっしゃるの?」
「え? やだなぁ、そういうの、今はないですよ。今は初春一筋ですから」
「えっ?」

美琴が凍りつく。なにせ、『そういうの』の実例が自分の同居人にして今も隣に座っているのだ。
そういう趣味には見えなかったのだが、言われてみれば佐天はかなり初春とのスキンシップが好きだ。
それも、結構濃くて、初春が真っ赤になるような感じの。

「初春ですの? それじゃ同性じゃありませんか」
「え?」
「? 何か?」

不審な目で白井を見つめた光子に、不審げな視線が帰ってきた。
自分の普段の行いをまるで振り返っちゃいない態度だった。

「白井さんだって御坂さんのこと好きでしょ?」
「ええ、心の底から体の先、髪の一本一本に至るまでお姉さまのことをお慕いしていますわ」
「気持ちだけなら受け取ったげるから離れろ黒子!」

イカかタコのようににゅるりと腕を滑らせて白井が美琴に絡みつく。
見事な手裁きで美琴の脇の下に差し込まれた腕は、明らかに美琴の慎ましい胸にタッチしていた。

「私も初春のこと、なんかほっとけないんですよね。
 クラスの男子は皆ゲームだのなんだのってはしゃいでて、あんまり興味もてないし」
「じゃあ佐天さんは年下の男性が好みですの?」
「え? 年下……って私達の年じゃ年下っていくらなんでもピンとこないですよ」
「まあそうですわね」
「婚后さんは年上の人とだからいいのかもしれませんけど」
365 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/11(金) 01:49:14.28 ID:qcpTqTzOo

「婚后さん、彼氏いるの?!」
「えっ? ええ、まあ……」
「あなたに……? まあ、物好きな殿方もいらしたものね」
「少なくとも白井さんに懸想する殿方よりは普通だと思いますけれど」

こんなお姉さまLOVE!という空気を撒き散らす女子生徒に寄り付く男のほうが、当麻よりも物好きだと思う。

「そういえば私も聞いてなかったですけど、どんな方なんですか?」
「どんなって、その、ちょっとエッチですし何かとおっちょこちょいなことをして不幸だなんて呟きますけど、
 格好よくて、いざというときにはすごく頼りになって、私には優しくって……」
「へー……好き、なんだね」

白井が露骨にイラッとした顔を見せ、佐天と美琴は困ったように顔を見合わせた。
惚気話というのはこんなにもめんどくさいのか。
独り者のやっかみかも知れないが、正直長く聞いていたい代物ではなかった。

「そ、それはやっぱりお付き合いしているんですもの。好きに決まっていますわ」
「一応聞いておきますけれど、ちゃんとお相手の方からも愛されていますの?」
「と、当然ですわ! 失礼なこと仰らないで」
「ごめんあそばせ。でもそんな顔をその方の前でされたら千年の恋も冷めますわ」

当麻は光子の怒った顔も結構好きなのでそんなことはないのだが、光子はくっと堪えて自制する。
そしてスカートのポケットから丁寧に鍵入れにしまった鍵を取り出す。

「物で証明するのは浅ましいとお思いかもしれませんけれど。
 あの人は家の合鍵を、私にくれましたわ」
「おおおおおおおーーー!」
「う、わぁ。それ、確かに常盤台の寮の鍵じゃないよね」
「ええ、それはこちらですもの」

違う寮に住んではいるが、光子の寮の鍵は美琴のと同じ意匠だ。
光子が手にしているのはいかにも下宿の鍵、という感じの鍵だ。それにちょっと劣等感を覚える美琴だった。
光子はまあ、率直に言って相当に我侭なお嬢様っぽい感じがするが、スタイルもいいし間違いなく美人だ。
受け答えも知り合った頃、一ヶ月前より丸くなった気がする。
彼氏に対してあまり我侭ぶりを発揮しないのなら、付き合いたいという男が山のようにいてもおかしくはない。

「はぁー、婚后さん、大人だね。年上って言ってたけど、三年生? それとも高校生?」
「高校一年の方ですわ」
「近くに住んでるの?」
「ええ、同じ第七学区の学校に通っておられますの。寮もこの学区内ですわ」
「じゃあ出会いのきっかけってナンパとか……そういうのですか?」
「違いますわ。その、不良に追われてらっしゃったのを私が助けたのがきっかけなんですけれど」
「あ、それじゃ御坂さんと逆なんですね」
「そうなりますわね」

あれ、と美琴は首をかしげる。
そういやこないだ、あのバカを追いかける不良どもを軽く焦がしてやったっけ。
なんとなく引っかかるものを感じた。

「それからどうやって仲良くなったんですか?」
「佐天さん、もうよろしいんじゃありませんこと? 婚后さんが話したくってうずうずされてますわ」
「べっ、別にそんなことは……!」
「惚気たいって顔に書いてありますわよ。まあ、恋人が出来るというのはそういうことなのかもしれませんけど」
「まあいいじゃないですか白井さん。ね、御坂さんも気になりません? 街中で知り合った男の人と仲良くなる方法」
「え? そ、そんなの別に興味ないわよ!」
366 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/11(金) 01:49:45.90 ID:qcpTqTzOo
こんなもんかな。意外といつもどおりの量だな。うん。
おやすみぃ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 03:54:21.57 ID:RboZA9JFo
ミサカに出番が出来ると聞いてすっ飛んできましたが既に>>1が居ないことに愕然としつつ
もーどーでもいーやとの思いを隠ながらミサカは投げやりに>>1乙と言っておきます
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 15:38:35.53 ID:u4UHV0Fe0


いつかばれるなコレはww
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 14:40:37.35 ID:4Dqyf0Kgo
対地震のテンプレ、拡散してくれ。
もし避難する事になったら通帳・判子等の現金はちゃんと確保しておく事 これはズボンなどに突っ込んで肌身離さない
ラジオは持っていくといい
それ以外に避難用に持って行くと便利なものがある
・ゴミ袋(大きい方がいい・給水車の飲み水を入れるバケツ代わりになったり色々と使い道が多い)
・ラップ(頑丈な奴が便利・皿に敷いて洗う用の水を節約したり傷に巻きつけて止血や木と一緒に巻いて包帯代わりになる)
・クッション(生地が厚い奴がベスト・外に避難する時は頭を守れるし避難生活中は枕にすると少し体力を維持し易い)
・通気性の良いスニーカー(通気部分以外はガッチリした奴・頑丈な靴だと足元に散らばってる破片で怪我をし辛い)
通気性が良いと水の中を安全に歩けるから クッションはあればでいい

全部持っていくのは大変だが、1つでもあると便利だから
優先順位は真っ先にゴミ袋・続いてラップ クッションはあれば程度でいい
いいか、外に避難する時は頭と足に気をつけろ!!怪我せず安全に避難することが大事だ!

・逃げるなら車よりも自転車 みんな同じ考えで渋滞の危険がある
・もし車から逃げるならキー差して逃げろ 後で救急活動のときに退かし易い
・近所に高台があるならとにかくそこを目指せ 目算でも10mあれば十分なんとかなる
・津波は2回目3回目の方が前回のパワーを吸収して威力が上がる 絶対に油断するな
・警察、消防に繋がりにくくなるため安否確認での電話の使用は控えること
・災害伝言ダイヤルttp://www.ntt-west.co.jp/dengon/も利用すべし
・逃げる場所は鉄筋鉄骨コンクリのガッチリした建物 出来れば4F以上が望ましい
それと、危ないと思ったら荷物も捨てる覚悟で!!命大事に!!!

気をつけて。こういう時の好奇心はマジで人を[ピーーー]からな
裏山とか川とか畑とか海の様子を見に行くなよ!
あと、韓国の援軍は口蹄疫持ってくるからな!
呼ぶなよ!絶対呼ぶなよ!
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 14:41:39.68 ID:DjdAZ60oo
残念、韓国の援軍受け入れちゃったね
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/12(土) 23:09:57.56 ID:898CzGGz0
1から読もうと思って理想郷行ったら落ちてるな…
心配だ
372 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/13(日) 01:18:29.41 ID:R/tuIcG1o
arcadiaは当分復旧しないかもね。
東京にサーバーがあって機器と管理人さんが健在でも、当分は節電しないといけないし。
東北ならもっと深刻だし。。。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 01:28:17.01 ID:ePLC7HoAO
おお、ご無事で
とりあえずよかったよかった
374 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/13(日) 01:37:42.42 ID:R/tuIcG1o
こちら関西圏なので、私や係累は健在です。
関東の皆様どうぞご自愛ください。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 16:15:52.19 ID:qnktCyDQ0
arcadia復旧してたよ
まあ今後輪番停電とかでどうなるかわからんけど
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 21:18:08.59 ID:hZkcRrcAO
計画停電か…
377 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/13(日) 23:18:27.65 ID:R/tuIcG1o

こういうとき素直になれないのが美琴なのだ。佐天はそれが分かっているから、光子を誘導する。
光子も佐天の意図に気がついた。
白井に嫌味を言われたことだし、自慢にならないように美琴のアドバイスになるように言葉を選ぶ。

「助けて差し上げた関係で初めて会ったその日に、
 ファストフードのお店でアップルパイをご馳走していただきましたの。
 それもあってたまたま街中で二回目に会ったときも、自然と立ち話をできましたの。
 あと15分で卵のタイムセールがおわっちまう、一人二パックまでいけるんだ、なんて仰るから、
 つい面白くなってお手伝いしましたの。そうしたらまた同じ店でアップルパイをご馳走してくださって」
「へー、結構家庭的な彼氏さんなんですね」
「そうですわね。私より、料理の腕は確かですもの。ちょっと悔しくなってしまいますわ」
「おー。じゃあ、気になる男の人がいる御坂さんに何かアドバイスは?」
「ア、アドバイスですの? そんなこと言われましても、その方がどんなことか分からないことには……」

面白くなさそうな白井の横で、『わ、わたしそんな話興味ないわよ!』という顔をしながら耳を済ませている美琴を見る。
露骨に動揺して、『うぇっ、だ、だから好きとかそんなんじゃないって』という感じだった。

「御坂さんも隠すのは得意なほうではありませんわね」
「か、隠すって何よ。私は別に、アイツのことなんか気にしてないし!」
「じゃあ例えば他の女性がその方と仲良くしていても問題ありませんのね?」
「そりゃ、そりゃそうよ。私とアイツはなんでもないし……」

ズズズズガラガラガラガラと氷っぽくなった紅茶を吸い上げて、美琴がガジガジとストローを噛んだ。
隣の佐天がわかりやすいなあ、と苦笑いを浮かべていた。

「その人って高校生ですか?」
「も、もうこの話はいいでしょ?!」
「何言ってるんですかこれからですよ!」
「高校生の方とお見受けします」
「え?」
「ブツブツと部屋で呟いているお姉さまの口の端から聞こえてきた情報ですわ」
「ほっほーぅ、婚后さん、御坂さんも高校生が好きらしいですよ。何かアドバイスを!」
「さ、佐天さん。もう……そうですわね、やっぱり、あまり妬き餅を焼かないことですわね。
 口げんかをするとすぐに年下扱いされて、同い年ではありませんことを思い知りますの。
 クラスメイトの女性の方と離す当麻さん……あの人を見たことを有りますけど、
 やっぱり私では子どもなのかしらって、悔しくなってしまって」
「……」

今光子はなんと言っただろう。
ドキリ、として美琴は咄嗟に相槌を打てなかった。
こっそりとネットワークにハックして手に入れたアイツの情報。
名前が、似ている気がした。ただ聞き返すわけにも行かない。

「ですから天邪鬼な態度はお止めになったほうがよろしいわ、御坂さん」
「え?」
「好きなら好きだって言ってくれたら嬉しい、って。あの人とお付き合いする前に言われたことですわ。
 素直じゃないところも可愛いけど、素直なところが一番可愛いからって」
「はぁー、もうっ! 婚后さん惚気すぎですよ」
「さ、佐天さん。今のはアドバイスであって惚気とかそんなんじゃ……」
「まったく。もうお姉さまを解放してくださいまし。昼休みが終わってしまいますわよ」
「ごめん遊ばせ。御坂さんが可愛らしくて、つい」
「可愛いって、もう、婚后さん」
「ふふ。ごめんなさい。でも御坂さんはお綺麗だし、その方にアタックすればきっと」
「しないって!」
「それでお姉さま。お昼から、その方のところでないのなら、どちらへ?」
「ああ、うん」

急に醒めたように、美琴が浮ついた表情を消して、椅子に腰掛けなおした。

「木山のところに、行ってみようかなって」
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/14(月) 15:41:04.05 ID:Co/13gpl0
木山先生くるか
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/16(水) 00:30:47.01 ID:ijLZwepb0
東京行くみたいな話してたけど、大丈夫か?
380 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/16(水) 00:37:56.41 ID:J/hh/cY3o

美琴たちと別れ、再び先ほどの教室へと戻る道すがら。

「佐天さん、どうされたの? あまり顔色が優れませんようですけれど」
「あ……」

光子は気がそぞろになった佐天の様子が気になっていた。
集中できないとあまりレッスンにも意味がない。
そして佐天は、何気なくであったのに、光子にそう尋ねられたことに息が詰まりそうな思いを感じていた。

「木山春生っていえば、確かあの幻想御手<レベルアッパー>事件で主犯格として拘束された人でしたわね」
「……」
「その方の逮捕に白井さんが関わっている、というのはまだ分かりますけれど、
 どうして御坂さんが……って、佐天さん? あの」
「ごめんなさい」

唐突に、佐天が光子に謝った。
反射的に問い返そうとして、追い詰められたような佐天の表情に口ごもった。

「……謝って欲しいと思うようなことは、ありませんでしたわ。
 嫌なら、これ以上はお聞きしません。もし話を聞いて欲しいなら、いくらでも付き合いますわ」
「……あの、わたし」

右手をきゅっと握り締めて足元を見つめた佐天が、そこで言い淀んだ。
初めてアドバイスをしたときもこういうことがありましたわね、と光子は思い出した。
気を重たくさせぬように微笑んで、僅かな仕草で空気をかき回す。

「婚后さんが今言った幻想御手、私、使ったんです」
「えっ? それって――」

確か、一時的に能力は伸びたが、暴走によって使用者全員が意識を失った大事件だったはずだ。
テレビでそう話しているのを光子は見た覚えがあった。

「前に一度、言いましたよね。私、一回だけ能力が使えたことがあって、それで空力使いだって分かったって。
 何の能力かもわかんないくらいの無能力者だったのに、いきなり能力が使えるわけないじゃないですか。
 ……幻想御手<レベルアッパー>で、私はズルをしたんです」
「そう、でしたの」
「ごめんなさい」
「どうして謝りますの? それに後遺症とかは、大丈夫でしたの?」
「はい。後遺症とかはぜんぜんなくて……でも、大事なことなのに、婚后さんに黙ってました。」

自分から沈み込んでいくように、佐天が懺悔を続ける。
佐天が謝る意味を、ようやく光子は理解し始めていた。

「ずるいやり方で能力を伸ばしたから、私に謝っていますの?」
「……はい」
「別に、気にする必要なんてないと思いますわ。だってそういう人、普通にいますもの」
「え?」

困惑するように佐天が光子を見上げた。
流体制御工学教室、と書かれた見知った建物に佐天と光子は再び入り、
二人のために用意した部屋へと戻る。
冷房の行き届いた部屋で汗が引くのを待ちながら、光子が続きを話した。

「私は開発官が勧めてくれた未認可の薬を何度か服用したことが有りますわ」
「え?」
「レベルが2の頃でしたから、今みたいな細かなチェックをしていただけるわけもありませんし、
 健康に対するリスクから、人数の多い低レベル能力者への投薬を認められていないものでしたわ」

学園都市の大半は、無能力者や低いレベルの能力者だ。そして学生達をチェックする大人の数は、かなり限られている。
その結果、当然のこととして大半の人間に与えられる能力開発の試薬は効き目がマイルドで、安全な物が多い。
能力を伸ばすために高レベル能力者が使う試薬に手を出す、それはある種の禁じ手でありながら、
功を焦る開発官と劣等感に苛まれる学生の利害の一致から、しばしば横行する反則技だった。
反則技になる理由は簡単だ。管理できないほどの人数に、強い幻覚剤を与えて安全なことなどあるはずがない。
副作用で精神的な障害を負うことだってないとは言えないのだ。
そういう危険を承知で、細かなチェックをすることでリスクを潰しながら、
数の少ない高レベル能力者は作用も副作用も強い薬を服用していく。
381 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/16(水) 00:39:35.33 ID:J/hh/cY3o

「皆やっているから、でこういうことを許すのが良いとは限りませんけれど、
 開発の現場で、反則行為というのは横行しているものですわ」

佐天は光子の表情の意味を読み取れなかった。
微笑みを浮かべているものの、表れた感情は佐天への同情とも、反則を正当化するような意思とも、
いずれとも違っているように見えた。

「あの。責めるんじゃないですけど、そういうことをして、悪いなとか、良くないなって思いませんか?」
「……普段は考えないことにしていますわ。みんなしていることだ、とあの時開発官は繰り返しましたから。
 それに、身につけてしまった能力は、たとえ私が好まざろうとも、もう私のものですわ。
 それを間違ったものだといっても、もう、捨てることも嫌うことも出来ません」
「……」
「だから、といってしまうのは浅ましいかもしれませんけれど。
 どんな方法を使ったにせよ、確かに佐天さんは能力を伸ばしたのですわ。だからもう、それでいいじゃありませんか」

光子の返事は答えというより、正当化の理屈、だっただろう。現に佐天は釈然としない思いを感じている。
言われてみれば幻想御手という反則は、実は気に病むほどの行為ではなかったのかもしれない。
でも、だけど。

「婚后さんはもう、吹っ切りましたか? また勧められたら、またやりますか?」

それを、聞かずにはいられなかった。光子が目を伏せながら笑った。

「勧められたこと、ありますの。でも断りましたわ。当麻さんの顔を思い出したら、やめようって思いましたの」
「彼氏さん、ですか」
「ええ。能力を伸ばしても、あの人に胸を張れないのは嫌ですの。
 あの人に褒めてもらうのがすごく嬉しくて、今は頑張っていますから」

当麻はレベル0だ。だが、それに卑屈になることのない人だった。
そんな人と心を交し合えたおかげで、レベルなんてものが、本当の人の価値を測る定規ではありえないことを理解できた。
手段を選ばずレベルを上げるような人間じゃなくて、あの人に尊重される人でありたい。
その考え方の変化を、とても光子は気に入っていた。

「はぁー……。彼氏さんが出来るって、いいことですね」
「あ、ごめんなさい。また惚気だって叱られますわね」
「でも羨ましいです。そういう風が隣にいるって」
「恋人じゃなくても、佐天さんの隣には、きっと素敵なお友達がいるんじゃありませんこと?」

真っ先に思い浮かべたのは、初春の泣き顔。佐天が幻想御手の副作用から意識を回復させた後に真っ先に見た表情。
ちょっと鼻水が出てグズグズの情けない顔だったのに、すごく嬉しかった。
頼りなくて涙もろい友達だけど、初春には胸を張って能力を伸ばしたい。

「レベル4の能力者にアドバイスを頼むのも、一応反則技ですのよ?」
「え? そうなんですか?」
「規則としては、開発のサポートは開発官にしてもらうものですから」
「……でも。婚后さんに教えてもらって、私はすごく、嬉しかったです」
「そう。まあ、駄目と規則に書かれているわけでは有りませんし、いいじゃありませんか」
「そうです、ね。もっと、頑張って伸ばします」
「ええ。私も負けないように頑張りますわ。ね、佐天さん」
「はい、あっ……」

不意に、光子に抱きしめられた。いい匂いがして、ドキドキする。
婚后さんってこんな人だったのかな、と佐天は不思議に思った。
こんなにお互いに仲良くなってからも大して経っていないと思うのに、すごく優しい人だと感じる。
ナデナデと頭を撫でられて、目の前でそっと微笑んでくれた。

「ふふ」
「こ、婚后さん、あの」
「照れてる佐天さんも可愛らしいわ」
「ちょっと、もう、恥ずかしいですよ……」

普段は初春に抱きつく側だし、年上の美琴もこういうスキンシップを佐天にとってくることはなかった。
年下扱いも、意外と悪くなかった。

「さてそれじゃあ、続きのレッスンをしましょうか。スパルタで行きますわよ?」
「はい! 望むところです!」

意識を切り替えて、二人は実験室へと向かった。
382 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/16(水) 00:41:22.21 ID:J/hh/cY3o
>>379
学会で立川?の方に行く予定だったけどさすがに学会そのものが中止になった。
なのでなんともない。ありがとう。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/03/16(水) 01:03:05.32 ID:6v68Y3zYo
さっきだいぶ揺れたから当分関東には近寄らない方がいいかもなー
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/16(水) 01:06:45.76 ID:ZU6/2xc1o
東海だが揺れだが大勢に影響ないぜ!
それより俺も金剛さんに抱きしめられたい
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 01:12:30.51 ID:APd9uAwEo
ストロング金剛「>>384、任せろ!」
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/16(水) 03:26:00.03 ID:gH+4f7ESO
こういう状況を安心させられる金剛とか言われると
金剛番長の方を思い浮かべてしまうぜ
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/16(水) 13:06:43.86 ID:4dc1PKB40
器のでかいいい女な婚后さん素敵

1のせいでいつのまにか一発変換で婚后と出るようになってしまったZE!

388 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/17(木) 01:14:05.75 ID:icZcqOYwo
>>387
いい兆候だ。みんな頑張って婚后と打てるようになってくれ。
俺はとっくに用例登録してる。
389 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/17(木) 01:14:55.51 ID:icZcqOYwo

先日、燃料を爆発させる実験をやったときの部屋の辺りに、佐天は連れてこられた。
実験室は四畳くらいの小さな部屋だったはずなのに、部屋と部屋の区切りが取り払われて、
教室二つ分くらいの広さになっている。
そのせいで前と同じところに来た実感をいまいちつかめなかった。

「あちらがこのプロジェクトのリーダーですわ。事実上、学園都市で一番の空力使いです」

常盤台に外部から来ているからなのか、スーツ姿の研究者達がパソコンと向かい合う中、
少し大人びた感じのする常盤台の女学生が微笑んで会釈した。もしかしたら三年生だろうか。
佐天もペコリとお辞儀を返した。
空力使いにレベル5はいない。だが、おそらくレベル4の空力使いはかなりいるだろう。
能力の分類でいえば念動力使い<サイコキネシスト>や発電能力者<エレクトロマスター>と同様、
カテゴライズされる人間の多い、平凡な能力だ。

「一番ってことは、あの、婚后さんよりも?」
「ええ。数字の上では、私より上ですわ」

向こうがその光子の一言に苦笑いを浮かべた。だが、瞳の中に謙遜の色はない。
事実そうだと言い、負ける気は無いという気の強さを感じさせる目だった。

「ま、このレベルまで来ると比べてもあまり意味がありませんわ。
 個々の能力に特色がつきすぎて、比較が無理矢理になってきますから」

もとよりこの話は続ける気はないのか、光子が佐天をラボの端の机の島へと案内する。
島ごとにチームが分かれているらしい。

「今日佐天さんがお手伝いするのはここの班ですわ」
「よろしくお願いします」

にこやかに笑いながら、先生とは違う雰囲気を持った大人たちが対等な感じで自分に会釈をしてくれた。

「最初は私もお付き合いしますわ。慣れてきたら私も担当のブースに顔を出しますけれど」
「え? 婚后さんは別のところなんですか?」
「ええ。ここには超音速旅客機をつくるグループが集まっていますけれど、私は機体表面の設計グループの長ですから。
 エンジン設計のグループであるここは、担当外になりますの」

ここのプロジェクトリーダーは、先ほどの生徒とは別の空力使いらしい。もちろん常盤台の学生だ。
よく見るとちらほらいる常盤台の生徒には皆研究者とは別の大人が付き添っている。
一瞬秘書かと思ったが、どうやら先生らしい。
能力的には天才の集まる常盤台であっても、所詮は皆中学生だ。指揮を執る才に恵まれた人ばかりではない。
おそらく、そういうなれない部分を補佐するために、マンツーマンで先生がついているのだろう。

「婚后さんには先生、いないんですか?」
「私も普段は助けていただいていますわ。今日は非番ですの。一応佐天さんの面倒を見るつもりでしたから」
「あ、なんだかすみません」
「いいんですのよ。メリットを出せるかどうかは佐天さん次第ですけれど、絶対に損をするとは限りませんから」

心臓が緊張に跳ね上がるのを佐天は自覚した。
試験などとは違う形で、佐天は今、試されているのだ。
うまくやれれば、ここで自分は誰かのために能力を使うことが出来る。
駄目でもともとと思われているかもしれないが、でも、失敗すればお荷物になって、貴重な他人の時間を浪費させてしまう。
姿勢を正して、目の前の人たちにもう一度挨拶した。

「出来るだけのことは、やります。よろしくお願いします」
390 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/18(金) 02:09:43.32 ID:j17mS762o

光子が佐天の担当部署の長にあたる同級生らしい人に声をかけ、佐天を紹介してくれた。
そしてすぐさま、仕事を割り振られる。説明は簡素だった。おそらく光子が細かいことはしてくれるとの判断だろう。

「さて、それじゃ始めましょうか」
「あ、はい。えっと、これとあれを比べればいいんですよね?」
「ええ。そうですわ」

手元には、データの入った小さなメモリと数式の書かれた紙の束。そして指差す先には燃焼試験室。
佐天が割り振られた仕事は、その二つを比較してコメントしてくれ、というものだった。
光子が事情を理解した顔をしているので頼ることは出来るだろうが、佐天は何を頼まれたのかよく分かっていなかった。

「あの、比べるって、なんていうか」
「佐天さんはあまりレベルは高くありませんでしょう?」
「あ、はい」
「そういう人が研究開発に従事するとき、まずすることは何かご存知?」
「え? えっと」

下っ端がすることといえば、お茶汲みかコピー取りじゃないのだろうか。あるいは掃除か。
すくなくとも渡されたデータの重みは、そんなレベルじゃないように感じる。

「測定装置代わりになること、ですわ」
「装置の、代わり?」
「ええ。研究というものは最終的な目標がまずあって、それを達成するために何をすればいいのかを明らかにし、
 どうやって達成していくか計画を立て、それを実践する、そういう流れになりますわ。
 でも佐天さんにいきなりその流れに沿って何かをやれといっても難しいでしょう?
 だからまず、研究をする側の人ではなくて、研究者に使われる測定装置になってもらいます」
「はあ……あの、それはいいんですけど、何をしたらいいんですか?」
「まず、このデータを拝見しましょうか。数式の意味は理解できる?」
「えっと……これがよく分からないんですけど、あとは」

論文というか報告書というか、ファイルになったその紙をめくっていくと、
基本的には佐天が慣れ親しんだのと同じ手法で表現された流れの支配方程式が並んでいる。
ただ発熱に関する部分が、化学反応、どうやら燃料の燃焼に関する式で書かれているらしく、そこだけ怪しかった。

「ああ、これは結局、気体自身が発熱するんだと思えばよろしいわ。細かい化学反応の部分は後でも理解できます」
「あ、はい」
「それで、佐天さんはこれを解析できます?」
「……たぶん、なんとか」

じっとその数式群だけを見つめながら、佐天はそう返事をした。扇子で隠した口元で、光子は満足げに微笑んだ。

「ではこれに従って流れを想像して御覧なさい」
「はい」

書かれた式を脳裏に思い浮かべ、数値演算で無理矢理解けるよう、式を変形しながら連立していく。
そして書かれた初期条件、境界条件を丁寧にイメージし、確かな幻を作り上げる。
あとは解くだけだ。集中力はいるけれど、もう不可能なことは何もない。
微積分を習う前には、レベル1になって渦を作れるようになった後でもそれは出来なかったことだった。
391 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/18(金) 02:11:59.55 ID:j17mS762o

ケロシン、航空燃料の充満したチェンバー。エンジンの心臓となるその空間を、複雑な形状まで注意深く想像する。
演算を開始する。内壁の一部が気体を押しつぶすように内へ内へと向かう。
佐天にとってそれは、シミュレーションボックスの端、つまり境界条件の動的変化に相当する。
そしてボックスの圧縮率がある敷居値を越えた瞬間、佐天にとってのブラックボックス、化学反応式がトリガーされる。
暴虐的な熱と運動量が、何もないところから生じる。
もちろんケロシン蒸気で満ちているから、何も無いというのは佐天の主観だが。
そして爆発によって起こった気流が内壁を押し返し、その壁が接続されているプロペラを回す。
プロペラへ伝わる動力は佐天にとっては抵抗としてのみ意識される。
仕事を終えた内壁が再びチェンバーを圧縮すると同時に、排気とケロシンの再噴霧が行われる。
……これが、1サイクル。
1秒間にエンジンの中では何千回と起こるそれを、佐天はたっぷり1分はかけて計算した。

「……ふぅ」
「どう? 再現できましたの?」
「あの、1サイクルだけ」
「そう。初期条件の人為性を消して、ちゃんと定常状態を計算するには1000サイクルくらいは要りますわよ?」
「そっか。そうですよね。……ちょっと待ってください。色々整理します」
「ええ、どうぞ」

こちらの思考を邪魔したいようにだろう、光子が少し離れた自分のデスクで報告書を読みに行ってくれた。
そう高くもなさそうなコーヒーの香りを味と僅かに楽しんで、頭をスッキリさせる。
もう一度佐天は数式から、現実を頭の中に組み立て始めた。

二度目は振り回されない。佐天が解くのは計算機と同じ方程式でありながら、機械と佐天は決定的に違う。
何でも出来る計算機は、特化が出来ない。そして何かに特化すれば、それは汎用性を捨てることとイコールだ。
佐天は違う。経験を元に、この方程式に特化した演算処理システムを作る。そしてそれはいつでも忘れられる。
式の解き方と特化するための方法論だけを記憶して、重たいものを忘却できる。それを生かすのが能力者だった。
勿論、佐天の作るそれはたとえば光子と比べてまだまだ稚拙だ。
それでも二度目は、1サイクルの演算を20秒で済ませた。1000サイクルを、これなら6時間くらいで計算できる。
現実的か非現実的か、どっちとも断言しづらいギリギリのラインだった。そこまで持っていくのが佐天個人の限界だった。
この計算時間では今日は何も、ここにいる人たちに渡せるものがない。焼け石に水と知りつつ5サイクルを演算。
そこで、佐天は思考を中断した。疲れてそれ以上は上手く出来なかった。

「どう?」
「あ、20秒くらいには縮まったんですけど……」

佐天は聞かれるままに、自分の組み立てた解法を光子に伝える。

「佐天さん、その三つの式は対象性がよろしいから、ベクトル化できますわ」
「あ、そうですね」
「それとこの式だけ随分と精度の高い式で解いていますわね。精度は一番悪い式に引きずられますから、
 この式の精度は落としてもよろしいでしょう。指数関数の展開が簡単になりますから」
「はい」
「それとこの式の展開型、ラプラス変換で一度変換してから戻すと多項式近似で綺麗に近似できますわ」
「おー……婚后さん、すごい」
「そりゃあ、一応レベル4の空力使いですから」

佐天が解釈しなおした式を紙に書き出すと、それが真っ赤になるほどに訂正を加えられる。
知恵熱を出しながら解いたのがバカらしくなるほどの修正だった。
そんな計算コストの削り方があったのかと、目からうろこが落ちるようなテクニックがあれこれと出てくる。
それは宝の山だった。逸る気持ちを必死に押さえる。自分の能力の演算にこのテクニックを応用したら、どうなるだろう。
だけど今は目の前の式を解くのが先だ。
392 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/18(金) 02:13:07.73 ID:j17mS762o

もう一度初めから、佐天は1サイクルを計算した。
正確な数字は分からなかった。だって、1秒以下の時間を正確に測るのは佐天にも難しい。

「1サイクル1秒……!」
「まあ、こんなものですわ。1000サイクルで1000秒、17分ですわね」

それはもはや非現実的な数字ではない。
早速演算をしようとする佐天に、光子が薬を差し出した。こないだから飲み始めた、トパーズブルーの薬。
演算能力を一時的に伸ばす薬だった。

「昨日は使っておられませんわよね?」
「はい」
「なら大丈夫。うちの先生を通して佐天さんの担任には報告しておきます。明日はお飲みにならないで」
「分かりました」

水と共に渡されたそれを、佐天は嚥下した。
聞いてくるまでの数分間を、座り心地のよいソファに寝そべって過ごす。
これっぽっちも眠くはならない。誰かの邪魔だったかもしれないが、それをあまり気にかけなかった。
薬が効いてきたら、どれほどのことをできるだろうという期待で周りがよく見えていなかった。

「ころあいですわね」
「はい。ちょっと冴えてきた感じがします」
「じゃあ、時間を計りますから。……どうぞ」

さらり、と現象が紐解けていく。そんな流麗な印象を、自分の演算に対して佐天は感じた。
初めて能力が使えたときの、あの爆発的な全能感とはまた違う。
自分の世界が広がっていくような、トロくさかった自分の世界の流れが加速するような、広がりを感じる。
清流の滞りがなきが如く、1ステップずつ、1サイクルずつがさらさらと解けていく。

―――17分と見積もられたその演算、複雑な現象であるエンジン内の爆発現象を、佐天は10分で再現しきった。

「……できました」
「そう。予想よりかなり縮めてきましたわね。さて、正しいかどうかの検証は私達では出来ませんから、
 データに頼りましょうか」
「あ、そのためにあるんですね」
「そういうこと、ですわ」

言われて見れば当然だが、佐天は自分の演算結果を見える形に表現できない。
可視化できないということは、光子と議論が出来ないということだ。
そこでこのデータを使うのだった。
光子が自分の計算機にそれを差し込むと、中には数値のままの生データが入っていた。
カチカチと可視化プログラムにそのデータを投入して、見やすいように色などを調整する。
二人の目の前に1000サイクル分があっという間に表示された。

「どう?」
「……大まかに言うと一緒なんですけど、最後のほうは同じとはいえない感じ、です」
「流れの一部一部が同じでないことは別に構いませんわ。熱量の規模だとか、風の流れだとかは大体あっていますの?」
「それは、はい。だいたいあってます」
「ならよろしいわ。計算はサイクルが進むに連れて計算誤差の影響を膨らませていきますから、ずれは仕方ありませんし」

労うように光子が佐天に微笑を向けて、リラックスを促すように自分も椅子に腰掛けなおした。

「少し休憩しましょう。それが終わったら、本格的に定常化した流れのデータをお渡ししますから、次はそれで演算しましょうか。
 それが済んだら実験に向かいますわね」
「はい」
393 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/18(金) 02:17:16.10 ID:j17mS762o

佐天はそれでようやく、自分がかなり汗をかいていることに気がついた。
すこし気持ち悪い。ハンカチで軽く拭くが、乾くまではしばらくかかるだろう。
ふうっ、と息を吐く。頭が熱を持っているような感じがする。
それを覚ますように手近にあった紙束で自分を仰いだ。

「あ。これ、かなり過敏になってるなぁ」

誰も自分に注視していないのをいいことに、そう独り言をもらす。
部屋中の空気の流れを感じる。目を瞑っているのに、全てが分かる感じ。
それを手元に集めればどうなるだろう、という考えに心が惹かれるが、迷惑なのでさすがにやらない。
そのまま5分くらい、佐天はじっとしていた。

「さて、そろそろ再開してもよろしくって?」
「はい。やりましょう」

光子が、膨大なデータを佐天に見せた。16桁の数字の羅列。大体100万行くらいだ。
カタカタとデータを間引きして、読める量にする。さっきの演算とは違い、あらかじめ気流にベクトルが与えられている。
うねる炎の流れを時間ごと止めたようなデータ。そこから演算を始めることで、定常的なエンジンサイクルを再現できる。
佐天はあっさりとそのデータを読み込み、脳内でそのシミュレートを始めた。

どかん、ぐるん、どかん、ぐるん。
爆発とプロペラ回転のとめどないサイクル。それが内燃機関の基本原理だ。
1サイクル1サイクルは微妙に動きが違っている。だが、大きくは変化せず、ある平均的な状態に近いものばかりが再現される。
ようやく佐天は、再現に必死なだけではなくて、それを冷静に横から見つめる視点を得られ始めていた。

「そろそろよろしい?」
「はい。また1000サイクルくらいはやれました」
「あら、また少し早くなりましたわね。それで、余裕は出てきました?」
「かなり。こういう閉じ込められた空間で出来る渦って不思議ですね」
「ああ、佐天さんは制限空間は専門外ですものね。ところで、何か気づいたことはありません?」
「気づいたことですか?」
「ええ。ここで空気抵抗が大きいなとか、そういうことですわ」

ああ、と少し佐天は納得した。それを見つけるのが、自分の仕事なのか。

「排気弁の近くが、流れが汚いって思いません?」
「そう……かもしれませんわね」
「この辺とこの辺の流れがぶつかって渦が出来るんですけど、
 弁から飲み込むにはサイズが大きいから変にほどかないといけないじゃないですか」
「ああ、言われてみれば」
「だから、弁を大きくするとか」
「ふふ。さすがにそれは厳しいですわ。この形は色々な都合で決まっていますから」

特定の部分、部品に熱と圧がかからないように、必要な出力が得られるように、
化学反応で煤が出ないように、なんて風にエンジンには沢山の『都合』が存在する。
そしてそういう都合を全て満たすような答えが、これまた無数に存在する。
その答えの中で一番いい答え、最適解がどんなものか、それを見つけるのはとても難しいことだ。
計算機上でエンジンをデザインし、その演算をすることは簡単なことだ。だが、それでは局所解しか得られない。
エンジンと名のつくあらゆる可能な形状の中で、どれが一番優れたエンジンなのかはあらかじめ分からない。
全ての可能性を調べつくすことも出来ない。エンジン設計はアート、芸術の世界なのだ。
だから、新しい風をいつも必要としている。今までの人々とは違うものが見える人を。
もちろん、エンジンに限らずあらゆるものの設計にそれは通じていることだが。
成功するかはさておき、光子は佐天にそういう期待をしていた。
394 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/18(金) 02:18:45.92 ID:j17mS762o
だんだんポルターガイスト編が近づいてきてるけど、よく考えたらあれ地震の描写があるなあ。
まあ、まだ先だし、書いても怒られないかな。。。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/18(金) 02:22:48.33 ID:IAw8q48uo
物語に必要な要素だから仕方ないけど不快に思う人もいるだろうと思うので
投下前に地震描写がある旨の書き込みくらいの配慮があればいいんじゃ無いかと思う
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/18(金) 03:08:05.31 ID:mPfFlRuHo
このクオリティーヤヴァい
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/18(金) 09:23:12.56 ID:V+6P5DfCo
佐天さん好きな俺としては佐天さんの成長がわかる描写は嬉しい
そして佐天さん超人化の予感
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/18(金) 14:13:53.26 ID:+7sVr3hT0
これはもしかしたら一方通行VSサテンさんという夢の対決あるかも
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/03/18(金) 22:09:59.18 ID:ZO0VkpWi0
一方さんと佐天さんが二人して
「圧縮圧縮、空気を圧縮ゥ」してプラズマをぶつけあうんですねわかります
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 22:15:43.13 ID:qPE5JTEX0
佐天「圧縮圧縮空気を圧縮ゥッ」

一通「圧縮圧縮空気を圧縮ゥッ」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/18(金) 22:17:13.95 ID:qPE5JTEX0
か ぶ っ た 
402 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 00:17:19.49 ID:tRHoUaWmo
>>395
そうだな、書く際にはひところ入れるようにするわ。ありがとう。

>>397
今日いっぱいの執筆内容くらいはご希望にそったようなものになるはず。

>>399 >>400
期せずしてそんなんかぶるもんかwすげーな。
とりあえず祝福したげるから結婚な。
403 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 00:17:53.74 ID:tRHoUaWmo

「さて、それでは本題に参りましょうか」
「あ、はい」

充分に今までもタフな作業で、それが本題でないことなどすっかり忘れていた。
疲労は充分にある。だが、まだやれる。まだやりたい。
実験を行うところはどこもないのか、燃焼試験室の近くはがらんとしていた。

「あ、これ」
「気づきましたのね。そう、さっきからずっと計算していたエンジンのレプリカですわ」
「えっと、まあ、形は一緒ですけど……」

数値としてのスペックは勿論、シミュレーション条件だから全て佐天の頭に入っている。
だが目の前のそれはどうも与えられた数値よりも小ぶりに見える。
佐天の身長よりも高いはずのエンジンは、腰までくらいの高さしかなかった。
そして何より、エンジンという無骨な響きに反し、それは全ての部品が透明だった。
視界を遮らないいくつかの部品は鋼鉄製なのだが、エンジンの外壁がガラスか何かで出来ていて、中まで丸見えだった。
なるほど、おそらくそれが目的なのだろう。

「流れを見るために、あえてこうしているのですわ。あとスケールが小さいのは小さな熱で済ませるためです。
 ガラスでも、さすがにエンジン内部の熱には耐えられませんから」

例えば、飛行機の羽根を設計したとして、揚力がどれくらい得られるかを実験するとしよう。
それを試すのに、設計図どおりの大きさに羽根を作り、空を飛ぶときと同じだけの風速を巨大な扇風機で作り、
実機どおりのスペックでデータを得ることも、一つの手段ではある。
だが、それにはあまりにお金がかかるし、スケールが巨大すぎる。気軽にはとても実施できない実験になる。
そこで利用されるのが、実験のスケールダウンだ。羽根のサイズを10分の1にして、上手く同じものが見ようという思想になる。
だがこれには問題もある。羽根を10分の1にしたとき、ほかの条件、たとえば風速はどのようにスケールダウンすればいいだろう。
もちろんそれにも制約があって、レイノルズ数とマッハ数が一定に保たれるように決める、ということになる。
エンジンには燃料の爆発というプロセスがあるから、さらに制約は増える。
中が透けて見えるエンジンを作る、ということはそれだけで大きく困難な現象だった。

「佐天さんが計算したあのエンジンよりも全てが何分の一かの規模ですけれど、現象としては相似なはずですわ。
 今から点火しますから、よくよく流れをご覧になって、先ほどのシミュレーション結果と比べて頂戴」
「わかりました」

光子が目配せをすると、いつの間にいたのか、佐天の協力部署の人たちが何人か実験の手伝いに来ていた。
コンソールのボタンを押すと、エンジンに付いたピストンが緩やかに動き、エンジン内部に吸気が始まった。

「これを」

光子に暗視用の眼鏡を渡される。
燃焼試験室と測定室の間を隔てる透明の壁は強すぎる光を遮断してくれるのだが、万が一のための保護眼鏡だった。
それをつけると、いきます、と研究員の人が佐天たちに声をかけた。
404 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 00:25:16.98 ID:tRHoUaWmo

爆発だから、ドン、と音がするものだと思っていた。
――エンジンなのだから鳴り響くのは唸るような音だった。1秒間に数千回の爆発が起こる音とは、そういうものだった。

「どう?」
「どうって、これ目で追えないくらい早いんですけど」
「そう? 本当に?」

本当だった。視覚は、まるで用を成さない。佐天の動体『視力』はそこまでハイスペックじゃない。
だが、空気の流れを感じる佐天の第六感は、大量に情報を間引きながらも、その空気の流れを捉え始めていた。

「どこまで真に迫れるか知りませんけれど、可能な限りこの流れを追って御覧なさい。
 全ての現象の元には、必ず『観測』という行為がありますわ。
 大きく、詳しく、正しく現象を観測できる人ほど、大きな能力を使えます。
 世界を観測することと世界に干渉することはコインの裏表、
 それがハイゼンベルグの不確定性原理が暗にほのめかしたことで、そして超能力の生まれる源でもありますわ」

わかる。光子の言っていることが、佐天には納得できる。
空気の流れを感じる時、それはその流れを制御できる時だ。
目の前の超高速の爆発サイクル、エンジンを佐天は掴みきれない。だから操ることは出来ない。
だけど、手の届かないほど不可思議な現象じゃない。

取っ掛かりは、爆発直前の渦。
ディーゼルエンジンに点火部はない。空気と混合した燃料を圧縮することで、自然発火させるのだ。
その基点となるのは、いつも渦だった。一様に圧縮されたエンジン内部の中で局所的に圧力の高まる、流れの特異点。
渦が出来る位置はサイクルごとに微妙にずれはするが、エンジン形状に固有の、渦の出やすいポイントは存在する。
そこのことなら、佐天は誰よりも観測が上手い能力者だ。レベル5相手なら知らないが、光子にだってこれだけなら勝てる。
幾度となく繰り返される爆発を観測し、佐天は脳裏に渦の平均的な姿を浮かび上がらせた。
次は爆発。
渦はその中心に、外へと広がる滅茶苦茶な運動量を発生させる。そしてその高温高圧の空気はあっという間に広がる。
広がるときにも、渦を作りながら広がる。複雑な形をしたエンジンの内壁は、流れを乱す要因になるからだ。
壁の近くに出来た渦のいくつかは、その回転周期と内壁の振動周期を一致させ、ブーンという騒音を発生させる。

「ここ、渦酷いですね」
「え? ……そうですわね、渦が共鳴して、騒音の元になっていますのね」
「これってやっぱり、よくないことですか?」
「ええもちろん。振動が助長されると壊れる原因になるし、騒音公害の元にもなりますから」

渦共鳴は時に冗談にならない破壊力を生み出す。ほんの少しの強風が自動車用のつり橋を壊したことがあるくらいだ。
佐天の指摘した部分は、致命的ではないがこのエンジンが抱える問題点のうち、まだ知られていないものだった。

「まだご覧になる?」
「あ、そろそろ……すみません、集中力のほうが限界かも」
「ふふ。この実験はこれくらいでいいでしょう。
 佐天さん、少し休憩したら、今みたいな調子でこのエンジンの問題点を洗いざらい書き出してくださいな。
 他に影響を及ぼさない改善案まで出せればもっといいんですけれど、さすがにそこまでは注文しませんから」
「わかりました」

すこしふらふらする。渦に集中しすぎたせいだろう、小説にのめりこんだ時みたいに、
頭の中にぐるぐる回る渦と、眼球が脳に送ってくる情報の、どちらが現実なのかよく分からなかった。
405 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:41:47.50 ID:tRHoUaWmo

光子は佐天を置いて休憩室に入り、携帯をチェックする。
当麻からの連絡が恋しいこともあるが、もうじき引っ越すさきの家主である黄泉川からも連絡が多い。

「もう、当麻さん」

朝七時にきちんと起きた光子と同様、黄泉川にたたき起こされて当麻も早起きしたらしい。
他愛もないことがつらつらと書かれていた。
返事に、佐天のことをあれこれと書く。別に当麻は佐天のことを直接は知らないのだが、
光子が何度となく話に出しているから、当麻も佐天のことはよく知っている。

すぐにきびすを返して実験室の前のラボに戻ると、佐天がエンジン開発部のメンバーから質問攻めにあっている。
開発部長は確か1年で、そしてレベル3だ。光子に気づいて微笑み付きの会釈をしてきたが、心中は穏やかでないだろう。
レベル1だと聞いているだろうが、佐天のあの結果を、一体誰がレベル1の成果と見ることやら。
常盤台ですらないレベル1の学生に刺々しく当たれば、むしろ自分の株を落とすことくらいは分かっているらしい。
だから指摘が嫌味にならないように気をつけながら、鋭い指摘になりえるものを必死に探しているのが分かる。

「えっと、すみません。これくらいしか、思いつくことがなくて」

大人の研究者達が営業スマイルで佐天を褒めた。よく頑張った学生をおだてることくらいなんでもないし、実際面白い結果だった。
開発部長の1年がやや褒めすぎなのは、複雑な感情の裏返しだろう。
それを裏でそっと笑う自分もまた、同じようにレベルという序列の世界にいることに気づく。
当麻の顔を思い出して、自戒した。優越感は劣等感の裏返しでしかない。

「ご苦労様、佐天さん。皆さんも申し訳ありませんけれど、最後に一つ山場が残っていますし、こんなところで」
「婚后さん」
「休憩はもう充分?」
「え? いやあの、今まで話しながらずっと頭の中で計算してて……」

しんどいという感想を正直に顔に出して、佐天がそう言った。
クスリとそれを笑いながら、光子は休憩はいらないだろうと思った。
最後の仕事は、何かの実験を追いかけるような内容ではない。

「最後のは、佐天さんに渦を作ってもらう仕事になりますわ」

予想通りだった。少し笑ってしまう。その一言で佐天の顔が変わったのだった。
疲れが抜けたのではなくて、疲れていてもなおやりたいという顔に。

「やります」

答えはすぐさま返ってきた。
406 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:43:02.81 ID:tRHoUaWmo

ようやく試せる、と佐天は胸を高鳴らせた。
別にちょっと失礼と一言言って屋外に出ればいつでも試せたことだが、
佐天は渦が作りたくて、仕方がなかった。
だってまた、能力が伸びたことに気づいていたから。
これまでとは違う。渦を発現させてみてから能力の伸びに気づくパターンではない。
使う前から、きっと伸びていると確信があるのだ。

感覚が研ぎ澄まされている。もう、空気の粒は見えない。
それは香水の匂いに似ている。匂いは確かにあるが、慣れてくると意識されなくなるのだ。
す、と指で文字を書くように空気をかき混ぜる。
それにつられた風の流れを、粒と思うこともなく、佐天は粒として処理した。

「やって欲しいのはこないだと同じ、燃料を渦で圧縮して点火することですわ。
 エンジンの内部にカメラや温度計を差し込むことは簡単ではありませんから、
 佐天さんの渦を使うことでその代替をしようという試みですの」
「わかりました。けど、その前に普通の空気でやってもいいですか?」
「ええ、もちろん。納得するまでやってから、声をかけてくださいな」

燃焼試験室は、四畳くらいの狭い部屋だ。それでいて天井は高い。
その部屋の中の空気を、余すところなく、手中に収める。
ファンがあって外から空気を取り込めることが感じとれる。
たぶん、今までで一番大きな渦になるだろう。空気の量で言えば。
それをどこまで圧縮できるかが、勝負になる。
圧縮すればするほどコントロールが難しくなるから、
部屋一杯の空気を、運動会で使うような大玉に出来ればいいほうだろうか。

「とりあえず、作ります」
「ええ。頑張って、佐天さん」

気負いはない。ただ、発動の瞬間にカチン、と頭の中で何かが噛みあったような音がした。
一瞬遅れて、現実にも、音が響いた。

ガッ、という硬質の音。それは佐天が風を集めた音だった。
今までと桁が一つ違う速度だった。稚拙な能力でゆるゆると集めていた頃には起こらなかった空気の悲鳴。
音速の10分の1を超え始めた、突風の音だった。隣で光子が息を呑んだのが分かる。
次は集めた空気をタイトに巻いていく作業だが、これも、あっけないくらい簡単に完了した。
それなりに大きな部屋の空気全てを、一つのスイカの中に詰め込むくらい。
佐天が思ったよりも、それは高圧縮になった。

「……ねえ佐天さん」
「はい」
「何気圧くらい、ですの?」
「100、ってとこです」
「そう」
407 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:43:49.80 ID:tRHoUaWmo

光子は、佐天に危機感を覚えた1年を笑った自分を、笑った。
こんなものがレベル1であってたまるものか。
淡々とした佐天の表情がむしろ空恐ろしい。どこまで、上り詰めたのだろう。
どこまで自分に追いついたのだろう。

「すみません、なるべく上下に逃がしますけど」
「構いませんわ。好きに解放して頂戴」

顔をしかめた佐天が、渦を手放した。
ボンと鈍い音がしてすぐ、試験室と観測室を隔てるガラス壁がビリビリと音を立てた。

「すごいですわね」
「あ、はい……。それで、実験は」
「ああ、やりましょうか。すぐ用意しますわ」

佐天にも光子にも戸惑いがあった。
あまり喜んだふうに見えない佐天と、素直に喜んであげられない光子。

「それじゃ燃料を噴霧しますから、上手く纏めてくださいな」
「はい」

プラグの先から、霧吹きみたいに燃料が飛び出す。
佐天はそれを苦もなく集めて、待機する。あわただしく周りがカメラやセンサをセッティングしているのが分かるからだ。

「……できましたわ。佐天さん、いつでもどうぞ」
「それじゃ、いきますよ」

佐天はその緩い渦を、握りつぶす。
周りが何を望んでいるのかは知っている。コントロールなんてされていない、無秩序に広がる爆炎が見たいのだ。
佐天はそれに逆らう気だった。そうしたいという気持ちに抗えなかった。

燃料の爆発、それはすさまじいエネルギーを渦の内部に生じさせる。外から取り込むのではない。
佐天はそれを、コントロールできる気がした。そしてするべきだと思った。べきだ、という思いに合理的理由はない。
ただ、心のどこかで気づいていたのだ。
――――あの程度のエネルギーなら、『喰える』と。

慎重に渦を束ねていく。内へ内へと巻き込み、渦を圧壊させていく。
何度かの経験で、爆発限界は肌で感じ取っていた。その一線を、超える。
カッと光が周囲を照らす。佐天はそれを失敗だと感じた。違うのだ、自分の能力は、こうじゃない。
全てのエネルギーを飲み込んで、漏らさない。そんなイメージの渦。それが今の佐天に思い描ける理想だった。
光るということは輻射熱が漏れるということ。それは美学に反している。だから気に入らない。
ある程度エネルギーを散逸させたところで、渦は落ち着いた。渦のままだった。

「嘘……」
「婚后さん」
「あれを、押さえ込みますの?!」

光子の焦りが少し、気持ちいい。師の予想を上回るというのは愉快なことだ。
ようやく気持ちが舞い上がってきた。
そう、そうなのだ。自分の力は、こうなんだ。ベースは確かに空気。だけど、それだけじゃない。
エネルギーを、外に漏らさず蓄えて、そしてさらにそのエネルギーを内へ内へと向かう力に変える。
『爆縮する渦流』、きっとそういうイメージなのだ、自分の能力は。
ただ、爆縮には限界がある。いつかは外へ向かう、いわゆる爆発へと転じなければいけない。
何とか束ねようとして、それには失敗した。
408 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:48:48.08 ID:tRHoUaWmo

ガウゥゥンンンン!!

間延びした爆発音が、試験室を満たす。生じた煤はあっという間に流されて、綺麗な部屋の光景がすぐに戻った。
ほぅ、とため息を一つついたつもりが、膝の力まで抜けてしまう。

「佐天さん!」
「あ、すみません、婚后さん」
「かなりお疲れのようですわね」
「はい、なんか急に、思い出したみたいに疲れちゃって」

申し訳ないとは思うのだが、抱きついていたい。ちょっと幼い自分の思考回路を佐天は反省する。

「あの、婚后さん」
「なんですの?」
「私今、あの爆発を纏められ、ましたよね?」

半信半疑だった。確信があったはずなのに、渦を消したらなんだか霧散してしまった。
そんな佐天に、にっこりと光子が微笑んだ。棘のない、褒めてくれる笑顔だった。

「ええ、自分でも覚えているんじゃありませんこと? その感触を」
「はい……はい!」
「すごかったですわ。よく頑張りましたわね、佐天さん」
「はいっ!」

褒められて、なんだかじわじわと嬉しさがこみ上げてきた。ようやくだった。
佐天はぎゅっとそのまま光子にしがみつく。ぽんぽんと背中を撫でてくれた。

「あーどうしよ、嬉しくってなんか変です、私。
 あの、なんだか少しだけですけど、自分の能力がどんなにか分かった気がするんです」
「そう、良かったですわね。少し落ち着いたらまた聞かせてくださいな」
「はい。本当に婚后さん、ありがとうございます」
「私も佐天さんがすくすく育って嬉しいですわ」
「あはは、すくすくって子どもみたいですね」
「あらごめんなさい」

そこでようやく、光子が回りに目で謝っていることに佐天は気がついた。
そりゃそうだ、ここには沢山の研究者がいて、しかも自分は実験中だったじゃないか。

「あ、ごめんなさい! つ、続きを……」
「その様子じゃ無理ですわよ。まあ、初めての参加でここまでやれたなら合格……でよろしい?」

光子がプロジェクトリーダーに話を振った。ええそうね、と気前のいい返事が返ってきた。
409 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:50:32.54 ID:tRHoUaWmo

「だそうですわ。まあ、これからも参加してもらいますから、覚悟なさって」
「はい! こちらこそ望むところです」
「そうそう、このデータ、あとで佐天さんの学校に送っておきますわ」
「はあ、別にそれはいいですけど」
「明日には新しい学生IDが交付されるでしょう」
「えっ?」

佐天のIDカードは、まっさらだ。なにせ変えてから一ヶ月もたっていないから。
変えた理由は、レベル0から、レベル1に上がったから。
飛び上がるくらい嬉しくて、貰ったその日はずっと眺めたくらいだ。
それが、もう一度変わるというのは。

「何を驚いていますの。あの測定値ならどう低めに見積もってもレベルは上がりますわ。
 システムスキャンなんてする必要もありません」

システムスキャンは、能力者としての実力の測り間違いがないよう、総合的なチェックを行うものだ。
だが、レベルアップの認定にそれは必ずしも必要ではない。
ギリギリレベル2に上がれる程度ならいざ知らず、
誰が見てもその規模がレベル2相当だと分かる能力を発動すれば、そのデータをもってしてレベルアップの根拠に出来る。
佐天はすでに、その域にいた。それだけだ。

「えっと、なんか前より実感ないですね」
「ふふ、システムスキャンをしたほうが通過儀礼がちゃんとあって、締まりますものね。
 でもレベル1と2は待遇が全然違いますから、早めに取って損はありませんわ。
 夏の間にもっとのびるかもしれませんし、ね」
「やだなあ。これ以上伸びたら、それこそ出来すぎですよ」
「まるで伸びないような物言いね?」

くすりと、光子が笑った。

「ね、佐天さん。もう実験はよろしいですけれど、また休憩したらなるべく皆さんと仲良くなって、顔を覚えるとよろしいわ」
「はい。また勉強させてもらえるんだったら、そうしたほうがいいですよね」
「それもありますけれど、常盤台の学生とは、いずれお友達になれるかもしれませんでしょう?」
「はあ、年は近いですけど、私バカだしあんまりお嬢様みたいに振舞えないですよ。
 雲の上の人みたいに言うと、婚后さんは怒るかもしれないですけど」
「私が言いたいのは、いつか同級生のお友達になる人がいるかも、ということですわ」
「え?」

佐天は、自分が柵川中くらいのレベルに身の丈があっていると思っているから、全く気づけなかったのだ。
周りの常盤台の学生達が、佐天のことをどう見つめ始めているのか。そして、光子がどう見ているのか。
戸惑う佐天に向かって、光子がちょっと挑戦的で、誘うような目を向けた。
きっとすぐだと、光子は思うのだ。

「佐天さん。常盤台の入学基準は品行方正な女生徒、そして、レベル3の能力を有していること、たったそれだけですのよ?」
410 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 02:52:07.56 ID:tRHoUaWmo
うーん、ちょっと冗長だったかなぁ。
『interlude04: 爆縮渦流 - Implosion Vortex -』おわり。
佐天さんこれでレベル2だー
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/19(土) 03:13:33.56 ID:DmkBDWKNo
佐天さんまじ螺旋丸
クカクカ言いながらプラズマを創る日も遠くない

普段理系っぽい話から遠い自分としては面白く読ましてもらってます
説明もわかりやすいので冗長とは思わなかったですね
これからも期待してます 乙!
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/19(土) 14:21:35.28 ID:meDMus/u0
これでもまだレベル2かー。3、4になったらどれだけの規模になるか楽しみ。
能力名は英語の訳そのままで爆縮過流(インプロージョンボルテックス)?
なんか名前だけ見ると婚后さんより強く見えるなwwやったね!佐天さん
413 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/19(土) 19:09:13.60 ID:tRHoUaWmo
>>411
ちょっと話中の時系列がだらだらしたかなって。
一方通行とはどうなるんかねえ。まだ固めてないので不明。

>>412
お、食いついてくれる人がいた。
ちなみに過じゃなくて渦なんだ。渦流は俺の創作語なので変換はしてくれない。
かりゅう、と読ませたいけどうずりゅうで変換するのがいいかな。福井県の地名っぽくなるな。
ボルテクスとインプロージョンの並びは逆でもいいんだけど、とりあえず能力名の候補ではあるな。
ただレベル2で名前はそうそう付かないと思うし、まあ未定です。
婚后さんは「空力使い」っていう一般的な名称しかまだつけてないのよ。
いずれ彼女も自分の本質を悟ることがあれば、名前をつけるかもね。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/19(土) 19:11:03.26 ID:A7rOmUt30
佐天さんはこのまま本編に絡むのかが気になるな
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/03/19(土) 20:28:30.56 ID:Rq0llp1AO
佐天さん無双すぎてやばいな。かっこいい。
100気圧とか日常で便利ってレベルを遥かにこえてるww

ちょっと読解力なくてききたいんだが、昨日のって、
ある程度圧縮したら起こされる爆発を、さらに無理矢理内包して圧縮しつづけた、ってことでok?
圧縮力半端無いな。

レベル5や6になったらブラックホールつくりだすんじゃね?
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/19(土) 20:45:01.70 ID:YFbZMWYco
すでにレベル3くらいには見えるんだがww
成長すれば雨乞い晴れ乞い自由自在の気象使いになれそうだ。
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/20(日) 12:56:52.73 ID:zhPByXyf0
佐天「うーいはるーっ!」ゴォォォ

初春「」
418 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/20(日) 14:40:02.44 ID:3bWdwT26o
>>414
そりゃー絡むんだぜー。

>>415
そゆことです。というか爆発と爆縮って反対の言葉なのよ。
たとえばレーザー核融合だと、核融合反応の種に向かって四方八方から高出力のレーザー当てて、
光が持ってる圧力で超高温超高圧の状態を内へ内へと閉じ込めるのさ。
そんで核融合が起こる太陽レベルの条件に持ってくの。爆縮ってそういうイメージ。

>>416
まあ気象の中でも竜巻が得意そうですねwあぶねぇ

>>417
すっぽんぽんフラグktkr

さて、予告もなかったけどいきなり新キャラくるぜー
419 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/20(日) 15:06:20.45 ID:3bWdwT26o

「ここか」
「……」
「気に入らないか?」
「別に、そんなことないけど、この都市の教会っていうのがどんなものか分からないもん」

当麻は朝から、インデックスと二人である教会までやってきていた。
イギリス清教の主流派、聖公会の流れではなくピューリタン系の弱小会派、ということらしい。
詳しいことは当麻には分からなかったが。

「まあそう言うなって。学園都市の住人になるからには学校に通う義務が当然あるし、
 まさか超能力開発をやる普通の学校には通えないしな」
「それはそうだけど、『必要悪の教会』はカトリック寄りだし、
 こんなプロテスタント側に寄った学校にしなくてもいいのに……」

まあそりゃあ、不安はあるだろう。聞いたところ、学校に通うのはこれが生まれて始めてらしい。
読み書きは手の空いた修道女達に交代で教えてもらい、算術や暦の読み方など、
魔術を学ぶ上で必要となる専門的な素養は『先生』に叩き込まれたのだそうだ。

「とりあえず、中に入るぞ。暑くてたまんねーし」
「うん」
「どうしても嫌って言うなら、まだ考え直せるけど」
「いいよ。これ以上の場所はないのも、分かってるから」

受け入れるように薄く笑ったインデックスを見て、当麻は大仰な扉につけられたノッカーに触れた。
コンコンと音を鳴らして、二人は中へと入った。



「……確かに、イギリスからの紹介状ですね」
「はい。時期的に突然で申し訳ないんですけど、面倒を見てやってくれると助かります」
「我々に拒む理由はありませんよ。ええと、インデックスさん、君が望んでくれるなら」
「……あの、おねがい、します」

教会の長となる司祭であり、また神学校の校長でもある老齢の男性は、
頭を下げたインデックスにニコリと微笑んで、立ち上がった。

「今は夏休みで、授業は特に開いていません。本格的に通うのは九月からになりますな。
 隣の寮に移るのを希望されるのであれば、手配をしておきましょう」
「あっ、あの。ここじゃなくて、今いるところから通いたくて」
「そうですか。まあ、友達を作ったりするのもそれからでいいのであれば、また九月に来なさい。
 それとも一人で寂しいようなら、毎週の礼拝と、掃除を手伝いに来ても構わないよ」
「はい」
「ああそうだ、せっかくだから敷地の中を見ていくといい。私がしてもいいが、手続きの書類を纏めないとね」

そう言って、司祭は応接に使う木のデスクから離れ、近くにいたシスターに二三言、何かを呟く。
シスターが待っていてくださいねとこちらに告げて出て行った。案内してくれるのだろうか。
ようやく人目から解放されて、当麻とインデックスは辺りを見渡す余裕が出来た。
コンクリート製の建物に、あちこち絨毯がしかれている。おかげで近代的な建造物の安っぽさは隠れていた。
見渡すところにある調度品には木製のものが多く、これも教会らしさをかもし出しているほうだろう。
だが、いたるところに電源があり、そして無造作にパソコンが置かれている所は良くも悪くも学園都市らしいといえる。
ここはかなり保守的だが、それでも宗教を科学する、そういう教会の一つなのだった。

「案内は君と同じ学生が良いと思ってね、今、連れてきてもらったよ」

司祭がそう言って、一人の少女を紹介してくれた。
年恰好は、たぶん光子と同じくらい。僅かにインデックスよりは大人びて見えた。
司祭やシスターも含め日本人の多い場所にあって、金髪碧眼は目だって見えた。

「こんにちわ。エリス・ワイガートって言うの。これからよろしくね」

それじゃあ案内するね、と言って、エリスはインデックスと当麻を教会の敷地、教室のあるほうへと誘った。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/20(日) 15:09:18.04 ID:gYr2JN4I0
こいつエイワスじゃね
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/20(日) 15:16:23.88 ID:aMsUr5Voo
エリスってどっかで聞いたことのある名前だと思ったらゴーレムか
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/20(日) 17:53:01.05 ID:FGHAAamDO
>>418
レーザー核融合は光圧で爆縮してるのとは違う筈
レーザー推進と同じように固体が気化した反作用で中を圧縮って感じ
423 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/20(日) 18:18:09.26 ID:3bWdwT26o
>>422
ごめん調べたら言うとおりだわ。光圧だと思ってた。
固体の昇華に伴う外向きの圧力と光圧がつりあうもんだと。
重水素と三重水素で作った中空のシェルをレーザーで加熱して、
シェルが外向きと内向き両方に広がるから、これで作用反作用の法則を満たしてるわけね。
どうも勉強になりました。
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/20(日) 19:14:06.13 ID:SJcEA7d8o
実家が三重なおれは三重水産と普通に読んでしまった
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/20(日) 23:05:39.72 ID:oHWcXN2AO
>>424安心しろ、三重漁連の美味しい海苔を食べてる俺もそう読んだ
426 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 02:13:58.24 ID:QI43m94ko

「さて、とりあえず場所の紹介は全部終わったけど」
「うん」
「これからどうするの?」
「どうするの? とうま」
「お前のことだから自分で把握しとけよ。インデックス。
 ……そろそろ書類もそろってるだろうし、必要事項書かなきゃな」
「だって。ありがとね、エリス」
「うん。頼まれごとだったし、それはいいんだけど」

当然のことかもしれないが、エリスと当麻たち二人は初対面で、
互いの間に引いた一線を越えられないまま、他人行儀に過ごしてしまった。
それがエリスには少し、気になっていた。

「せっかくあそこのオレンジが綺麗に生ったからご馳走しようかと思ったのに」
「えっ? そ、それはとっても嬉しいかも。
 施しをしてくれる人を拒むのは良くないって主の教えにもあった気がするし、
 くれるんだったら、断るのは良くないよね。とうま、すぐ追いかけるから」
「ちょ、おいインデックス。まあ、いいけどさ」

当麻にもエリスの気遣いはなんとなく伝わっていた。
保護者の自分がいると仲良くもなりにくいだろうし、先に行くかと思案した。
……とそこで。
ぐに、と足元の感触が芝生とも石畳とも違う感触を伝えた。
ホースのゴムらしい感触だった。おまけに中に水が流れている。
視線の先には、シスターらしい人が掃除に水を撒いているところが映る。
返す刀で、水の根元をたどると。

プシャァァァァァァッッッ

「きゃあっ!!!!」
「ひゃっ! な、何? 水?」

当麻から少し離れた地面、まさにエリスとインデックスがいる辺りでホースが外れて、二人に水が襲い掛かっていた。
白に金刺繍のインデックスと、白に紺のカーディガンとフードのエリス。どちらも、濡れるのに弱い服装というか、そういう感じで。
光子に言われて付け始めたらしいホックなどのないブラをつけたインデックスの上半身と、
こちらはインデックスよりは主張のあるラインを描いた背中から透けるブラのラインがドキッとするエリスの背中が見えた、

「ご、ごめん。えっと、その、大丈夫でせうか……?」
「とーーーうーーーーまああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「お、おい止めろってインデックス、その、透けて、あいででで痛い痛いって!」
「なんていうか、お客様に文句を言うのはあれだけど、エッチだね」
「いやその、ごめん、悪気は……なっ!!!」
「死ね」

突如、男の声が後ろからして、当麻は反射的に身をよじった。
後頭部が合ったところを拳が突き抜ける。
427 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 02:16:33.06 ID:QI43m94ko

「ちょっとていとくん! お客さんにいきなり手を出さないで」
「だから帝督だって。ちゃんと呼んでくれよ、エリス」
「いきなりそういうのは駄目だよ。垣根くん」
「だからそうじゃなくてさ。まあいいや。ところでエリスの透けた修道服の中を見ようとしたコイツは誰だ?」
「いや、事故だって点ははっきり言わせてくれ。それと、そっちこそ誰だよ」
「俺か? 俺はエリスの彼氏だ」
「ちがうでしょ、ていとくん」
「否定しなくてもいいだろ」
「もう。あ、インデックス。それと上条くん、こちら、垣根帝督くん。高校の名前忘れちゃった」
「かまわねーよ。どうせ通ってない。転校三昧だし」

当麻は知らなかった。目の前にいる人が、学園都市第二位の超能力者であることを。
まあ言われても咄嗟には受け入れがたかったかもしれない。
当麻より10センチは背が高く、シックな服装に身を包んだその垣根という男は、
受け取る側に迷惑をかけない程度の数輪の花を持って、エリスに相対していた。

「垣根、でいいか。まあそっちに謝る理由はない気もするけど、
 エリスに水をかけたのは悪気あってのことじゃない」
「ていうかとうま、私には一言もないの?」
「い、いやそりゃ悪いと思ってるけど」
「お前、名前は?」
「上条だ」
「そうかい、なあ上条。悪気がないんならこれ以上は言わないが、エリスに手を出す気ならまず俺に勝ってからにしな」
「ていとくん?」
「なんだよ。文句あるか」
「私、ていとくんとはお付き合いしないって言ったよね?」

う、と垣根が怯むのが分かった。そんなに惚れているのか。
結構光子の方から熱を上げてくれたので、実は当麻はここまでのアプローチはしたことがない。

「とうまにはみつこがいるから、心配要らないんだよ」
「そういうこと。もう、変な言いがかりはつけないでよね。こっちが困るんだし」
「ふん……」

「エリス。とりあえず着替えが欲しいんだよ」
「そだね。ほら! 上条くんもていとくんも、反省してここにいること!」
「コイツは分かるがなんで俺が」
「文句言わない!」

二人でお互い見せたくないところを隠すようにしながら、室内へと逃げ込んだ。
当麻は垣根と二人、燦燦と太陽の降り注ぐ死ぬほど暑い神の庭に取り残された。
428 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 02:18:26.60 ID:QI43m94ko
新キャラにていとくんが絡んでるから受け付けないってひともいるかなーと、ちょっとビクビクしながら出してみたり。
過去語りはなるべくしたくないんだけど、必要なのでこのあと肉付けとして描写します。

>>424-425
まさか三重ネタから突っ込み繰ると思わんかったw
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/21(月) 02:26:46.40 ID:WZcwg2cLo
まさかの2位かよwwwwwwwwww
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/21(月) 02:49:13.26 ID:WiuxDy3ho

またタブが一つ増えた
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/21(月) 08:24:37.61 ID:07eERv+3o
ここで二位登場かー
オリキャラはこれからの掘り下げ如何だと思います。
が、ここまでの描写から安心してます。
むしろ楽しみ。
しかし上条さんのラッキースケベは健在ですな。

何気にブラ付け始めたインデックスにほほえましいものを感じた。
なんとなく、三人で家族みたいだなーと。

次回も楽しみにしてます。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/03/21(月) 10:15:49.55 ID:oPspOqqAO
このエリスって、あのエリス?
いや、でもあのエリスはあん時に死んでエリスになってるし…
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/03/21(月) 11:10:42.72 ID:XBDQD/6w0
>>432
わかるけどわからん
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 11:25:57.52 ID:Me1rpGo3o
まさかていとくんが出てくるとは思わんかったww
435 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 13:46:38.64 ID:QI43m94ko
>>430
タブ?

>>431
そうだね、ちゃんと描写で補足していかないとあきませんね。
そしてインデックスくらいのとしだったらやっぱりブラつけてると思うの。

ていとくんとエリスについてはネタバレになるからあんまり触れられないけど、
みんなあーだこーだ言ってくれると俺はうれしいんだからねっ///
436 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 13:50:01.88 ID:QI43m94ko

「暑い」
「黙れよ」

罰としてちゃんと日差しの当たるところにいないと後で文句を言われそうなので、当麻はその場で直立している。
垣根は早々に近くの影に逃げていた。

「お前、エリスに惚れてるのか?」
「ああ。それと上条、エリスを下の名前で呼ぶな」
「いやあっちがそう呼んでくれって言ったんだし」
「チッ、それでも気を使えよこの三下野郎」
「はあ? 気を使うってお前にか? 垣根」
「お、やる気か? 誰でも殴るほど分別がないつもりはないが、エリスが絡むなら話は別だ」
「やらねーよ。だからあの子に手を出す気はないって言ってるだろ?」
「ならいい。ま、やる気があってもお前じゃ相手にもならねーけどな」
「だから喧嘩を売るなよ。殴り合いで怪我でもしたら困るのはエリスだろ?」
「俺に傷がつくわけねーよ。悪いが犠牲者はお前一人だろうさ」
「いや俺が怪我したってエリスは困るだろ」

街のチンピラよりは分別があるのに、物言いがチンピラそのものだった。
自分は無害な子羊なのだ。何も好き好んで牙をむき出した生き物の近くに寄りたくはない。

「……」
「……」

沈黙が息苦しい。時々牽制のように垣根からきつい視線が飛んできて、当麻の神経をピリピリさせる。

「お前のほうこそ、インデックスに手を出す気はないだろうな?」
「あるわけないだろ。お前こそあんな色気のいの字もないガキにお熱か?」
「ちげーよ、惚れた子は別にいる」
「じゃあ何であのガキと二人でいるんだよ?」
「俺と彼女とで、インデックスの面倒を見ることになったからな」
「ふーん、まあ、刺されろ」
「は?」
「ガキだからいいのかもしれねーがな、女を二人同時に囲うのは男としてよっぽどのクズかよっぽど出来たやつだ」
「囲うって、だからインデックスは違う」
「そーかい」

別に対して興味がないのだろう。当麻の弁解を垣根は適当に聞き流した。

「なあ垣根、エリスのどこが好きなんだ?」
「い、いきなりだなおい」
「別に話したくねーならそれでもいい。暇だから聞いてみただけだ」
「……ほっとけないんだよ、アイツ」

靴の裏にこびりついた泥をこそぎ落とすように石にガリガリと踵を擦り付けながら、
垣根はボソッと呟いた。
437 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 13:56:19.90 ID:QI43m94ko

「どういう境遇か知らないが、人懐っこいわりに最後の一線踏んで立ち入るのは許さないんだよ。
 そういうの、ムカつくだろ? で、今は追い詰めてる最中だ」
「追い詰めるって、ひでー言い方だな」
「本気で拒まれてるんならとっくに止めてる」
「それにしても、なんでこんなところにいるエリスと出会ったんだ?
 お前も普通に能力者だろ?」
「普通じゃあないが、超能力者には違いない。にしても上条。
 大して興味もないのに出会ったきっかけなんか聞くなよ」
「言いたくないなら言わなくていい」
「……あいつ、俺より能力が上なんだよ」
「? ……で?」

結局喋りたいのかよコイツと思いながら、当麻は話を続けさせた。
自分も光子の方が圧倒的にレベルは上だし、ちょっと気になったのだった。
それなりに自分の能力に自身のありそうな男だ、レベル1や2ってことはなさそうだが。

「第二位にそう思わせるってのは無茶苦茶なことなんだよ」
「第二位?」
「あん?」
「お前、『未元物質<ダークマター>』の第二位か?!」
「サインでもやろうか?」
「いらねーよ。っていうか、ちょっと待て。第二位のお前より上って、エリスはそれじゃ、あの」

ガスッと、当麻は何かを額にぶつけられた。痛い。
足元を見ると乳白色の玉が合った。ピンポン球くらいだが、金属並みに重たい感触だった。
なんてことはない石に見えるが、これが『未元物質』というやつだろうか。

「いってーな、おい」
「なあおい、あのクソ野郎とエリスを並べるとか死刑ものだぞ?
 ってか、お前もクソつまらねぇ噂を信じてるクチか?
 あのいけ好かない『一方通行』の野郎が女だとかいうアレをよ」
「いや興味ないから知らねーよ。っていうか、お前の言い方だったらそうなるだろ。エリスが学園都市第一位だって」

チッ、とまた垣根は舌打ちをして、当麻の足元に視線をやった。
そちらを見ると、ふっと雪が解けるように、あの白い玉が消えてなくなった。
そしていつの間にか、垣根の手のひらの上に、それと同じものがある。

「ありがたく思えよ。『未元物質』について俺が直接講義をする相手なんざほとんどいないんだ。
 俺の能力はこの世にはない物質を生み出す能力だ。素粒子のレベルで全く違う、そういうものをな」
「……で?」
「エリスは俺にも作れない『物質』を作れる。惚れるより前に気になった理由はそれだ」

大して知識もないが、上条は思案する。
第一位と第二位は、その特殊さで群を抜いている、というのが定説だ。
この世にない物質を創作する能力なんて、『未元物質』以外に聞いたことがない。
発電系能力者<エレクトロマスター>や空力使い<エアロハンド>とはレア度が違うのだ。

「それって、エリスも相当な能力者ってことじゃ」
「私がどうかした? 上条君」

濡れた服を動きやすそうなジャージに替えて、エリスが当麻の後ろから声をかけた。
後ろには同じ格好のインデックスもいる。学校指定の体操着なのだろうか。
エリスはそのまま近くの物干し竿に二人の服をかけた。この日差しだ、ものの30分もあれば乾くだろう。

「それで何の話をしてたの?」
「垣根のやつが、エリスは自分以上の能力者だって」
「え?」

驚いた顔をして、エリスが垣根を見つめた。
そしてすぐ、申し訳ないような、だけど嫌そうな、そんな顔をした。

「ていとくん。そういう話、誰かにされるの嫌」
「え? その、悪い」
「うん、私の方が我侭言ってるの分かるから、謝らなくていいけど、もうしないで。
 上条くんもあんまり気にしないでね。別に私、ただのレベル1だし」
「あ、ああ」

お前何やってんだよ、という視線を当麻は垣根に送った。
知るかよ死ね、という視線が返事だった。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/03/21(月) 13:57:35.44 ID:sFIvuRzAO
定規たん垣根に捨てられてカワイソス
ほら、俺の所においで
439 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 17:05:07.03 ID:QI43m94ko

「案内してくれてありがとね、エリス」
「サンキュな」
「うん。またね、インデックス」

二度と来んなという垣根の視線をスルーして、当麻はインデックスと教会内へと戻った。
ちなみに垣根が声に出さなかったのはエリスに足を踏まれているからだ。

「……そんなに、気にしてたのか。エリス」
「ていとくんは自分がすごい人だって分かってないよ。
 そんな人が『俺よりすごい』なんてこと言ったら、私が目立っちゃうし」
「悪い」
「ん」

そんな一言で、エリスは許してくれた。その気安さに救われている自分を、垣根は感じた。
安い同情を買いたくなくて突っぱねているが、学園都市第二位というのは中々に不愉快な立場だ。
友達になれるヤツなんて数えるほどしかいない。だってクラスメイトという概念が垣根にはないのだ。
絶滅危惧種なのに実験動物、垣根は学校にいるときの自分をそう思っていた。

「ていとくんが私以外とあんなにおしゃべりしてるとこ、初めてみたかも」
「そうか? 街の不良相手なら結構喋るぜ」
「上条くんはそういうのには見えないけどなー」

垣根はガラでもない、と思いながら頬が火照るのを自覚した。
安い好意を売りたくないと思いながら、ああいう気さくなヤツが垣根は嫌いではない。
……悟られるのが嫌で、垣根は手元に石つぶてを用意して、上条に投げつけた。
相手のレベルなんぞ知らないが、周りの物理を何も歪めはしないただの石だ。

「あっ、もうていとくん!」
「いいんだよ」

ぶつかったって怪我にはならない。それにあっちが切れたって万が一にも負けることはない。
反抗の子どもっぽさに垣根は目を瞑った。

エリスが気をつけてと当麻に言うよりも先に。垣根は突然当麻が振り返ったのに気づいた。
そして、当麻の右手が未元物質で出来た石を、軽くはたいた。

「すごーい! 上条くん、背中に目でも付いてるみたい!」
「どうしたの? とうま」
「垣根テメェ! 喧嘩売ってんのかよ!」
「買いたいんなら売ってやるぜ」
「いらねぇよ。馬鹿」
440 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 17:06:27.20 ID:QI43m94ko

やってられるかと当麻が垣根に背を向けた。隣ではてなマークを浮かべるインデックスを急かした。

「アイツ、自分のことを一切喋らなかったが、なるほどね」

正体は不明。だが垣根の能力を、何気なく消し飛ばした。
燃やしただとかテレポートしただとか、そんなチャチな能力じゃない、もっと何か得体の知れない能力の片鱗だった。

「ていとくん!」
「エリス、いてててて!」

耳を引っ張られた。こういう態度をとってくれるのが嬉しくて、つい露悪的に振舞う。
垣根自身、自覚はしていなかったが、エリスといるときは少し精神年齢が低くなるのだった。

「ああいうのよくないよ。友達減っちゃうよ?」
「大丈夫だ。友達ってのは正の整数しか取れない変数だ」
「え?」
「ゼロから何を引いてもマイナスにはならん」
「友達いないの?」
「この身分と性格じゃ、な」
「そうかなぁ。上条くんは友達になってくれそうだよ」
「はあ?」
「ちゃんと仲取り持って、あげようか?」
「うぜえ」

別にあんなヤツとつるまなくても、エリスがいればいい。それが本音だった。
さすがにそれをストレートに言うのは躊躇われてた。
エリスがとことこと垣根から離れて、木に生ったオレンジに手を伸ばした。
低いところの実は採りつくしたのか、微妙にエリスには届かない。

「ほら」
「ありがと、ていとくん」
「帝督、って呼んでくれよ。呼び捨てでいい」
「そういうのはお付き合いしてる女の人にお願いしなよ」
「いねぇよ。エリスに、そう呼んでほしいんだ」
「駄目って、前にも言ったよ?」

垣根はもう二度ほど、エリスには振られている。
付き合ってくれというお願いにはっきりとノーを突きつけられたのだ。
ただ、一度も、嫌いだとか、迷惑だとか、あるいは付き合えない理由だとかを教えてはもらえなかった。
そして垣根がここを訪れるたびに、裏表のない優しい顔で、エリスは迎えてくれる。

「ねえ、ていとくん」
「ん?」
「ていとくんってやっぱり私の体が目当てなの?」

息が一瞬、詰まった。

「俺はエリスの心も体も全部自分のものにしたい」
「……ていとくんは、いつも直球勝負だね」
「変化球のほうが好みか?」
「ううん。直球が一番。ところで私が言いたいのはそういう意味じゃないよ」

分かっていた。初めて会ったときに、垣根がエリスに釘付けになった理由は、それだから。
エリスという女性に一目ぼれをしたわけではなかった。
441 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 17:07:07.96 ID:QI43m94ko

「知りたいって気持ちがないわけじゃないが、エリスに嫌ない思いをさせる気はねえよ。
 エリスが教えてくれる気になれば、聞かせてくれ。その心臓のこと」
「私は誰かとお付き合いをしたことはないけど、そんな人ができても教えるつもりはないよ」
「それでもいい」
「でも、だめ。好きな人には全部知ってて欲しい」
「じゃあ教えてくれ」
「だめ」

垣根は当麻に、ぼかして話を教えていた。
エリスが能力を使うところなんて、垣根も見たことがない。
ただ知っているのは一つ。
――垣根ですら見たこともない元素で、エリスの心臓は出来ている。

「なあエリス」
「うん?」
「こないだ誘ったやつの、返事が欲しい」
「うん……」

数日後に第七学区で行われる、花火大会。垣根はそれに誘っていた。
教会の修道女が行くにはいささか晴れやか過ぎるイベントだが、この教会はそういうのに緩い。
エリスの意思以外に、障害はなかった。

「前向きに検討、っていう時期をさすがに過ぎちゃったね」
「本気で検討してくれるんなら、当日の昼過ぎにでも俺はここに来るぜ」
「あはは、それは悪いなあ」

この教会に寄宿してから、かなり経つ。エリスはその間一度もここから出たことはなかった。
だから少し怖いというのもある。
だけど、垣根の熱意に絆されている部分も、確かにあった。

「じゃあ、行こうかな」
「よしっ!!」

珍しく斜に構えていない、本気の垣根の喜んだ顔を見られた。
エリスはそれに笑顔を返す。

「浴衣とか、着たいか? もしそれならなんとかする」
「え、いいよ。そんなの悪いし」
「気にするな。どうせあぶく銭が捨てるほどあるんだ。この教会丸ごとかって釣りが出るくらいには」
「もう。お金持ちをひけらかすのは格好悪いよ。……ていとくん、見たい?」
「見たい。死ぬほど見たい。エリスの浴衣」
「……じゃあ、私のことは私が何とかするから」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫。見たいって言ってるていとくんに買わせるのは、私が嫌だから」
「……わかった。ありがとなエリス、それと愛してる」
「莫迦」

垣根提督に夏休みなどない。
昼間に時間を作って会いに来てくれる垣根を、エリスとて憎からずは思っていた。
ただ。

「ていとくんは優しすぎて、どうしていいのかわかんないよ……。
 こういう時、相談に乗ってくれる相手がいればよかったのにな。ね、シェリーちゃん」

胸元に手を当てて、ずっと昔に別れた親友の名前を呟いた。
442 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/21(月) 17:10:49.30 ID:QI43m94ko
『interlude05: ローレンツ収縮が滅ぼしたもの』終了、ということで。
今回のタイトルは謎かけにしてみた。意味が分かった人は今後の展開が読めるかも?

次は美琴と木山先生の話かなー

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 17:18:40.83 ID:WZcwg2cLo
俺の弱い頭ではわからへん
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/21(月) 17:25:12.59 ID:rGcaAUGbo
なるほど、わからん!

だがしかし、好意を向けられると嬉しいよね!
なんかもう、背中がかゆいのがイイ!

しかし、何気に光子さんからアプローチだったのかー。
まー、そうだよなーあの鈍感じゃあ無理だよなーとものっそい納得。

エリスの体目当てで色々考えたおいらは汚れてるww
伏線も張られてますが、気にせず物語を楽しみます。
次回も楽しみにしております。

それと、能力って、戦闘の強弱じゃあなく、社会貢献できるかどうかってのも大きいよね。
第二位を出す前に延々とサテンさんの実験描写はそういう意味かなーとも思ったり。
世の中は、無数の普通の人によって運営されてます。みたいな。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 18:32:25.97 ID:l6QqG7TSO
これは…エリスさんの実年齢が気になるところや…
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/21(月) 18:39:54.39 ID:5eVpMBx50
何気に上条さんの予知能力というかニュータイプ能力にも触れてるなぁ
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/21(月) 19:34:56.58 ID:WiuxDy3ho
oh...ってことはいないのか?
と言うか丸っきり変わってるのか?


>>435
お気に入りと解釈してもらえれば>タブ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 19:36:43.21 ID:WZcwg2cLo
タブって専ブラ使ってればわかるのに(´・ω・`)
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/21(月) 20:03:20.72 ID:G8hOJMGyo
タブ機能をブックマーク的に使うかどうかは人によると思う
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/21(月) 23:50:21.03 ID:o6CJyy5IO
途中コピペが入っててワロタwww
これがシリアルな笑いか
普段ワロタなんて書き込まないのにwww

451 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/22(火) 00:33:41.26 ID:IPrRzJ5no
>>443
ローレンツ収縮、まあ相対性理論でもいいけど、それによって否定されたある『概念』があるのですよ。

>>444
能力開発は趣味半分、指摘してもらったとおりの意図が半分、ってトコかな。
なかなか人には出来ない描写を、って考えたとき、普段自分がしてる研究室での研究だとか、
学会発表って皆からは遠くて面白い話かなって。

>>447
おーそういうことか、ありがとう。チェックしてくれて。

>>448-449
専ブラつかってるけどタブで多重窓にしたことなかったから思いつかんかった。

>>450
食いついてくれる人がいてよかったw
452 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/22(火) 02:28:48.16 ID:IPrRzJ5no
あー注意注意。
アニメに準拠してるんで次の話は漫画版超電磁砲とは若干のズレがあります。
別に問題なく読めるとは思うけど。。。
453 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/22(火) 02:30:20.38 ID:IPrRzJ5no

「久しぶりね」
「……ああ、君か。元気そうだな」
「そりゃ夏休みだからね」
「学生はそんな時期になるのか。こう空調が行き届いた場所にずっといると、実感がなくてね」

美琴は窓越しに、そんな言葉を交わした。
目の前にいるのは、美琴の知っている姿と同じスーツ姿の木山春生だった。

「ところで、何の用だい? こう見えて色々と、忙しいのだがね」
「随分と暇そうな場所にいるように見えるんだけど」
「そうでもないさ。以前言った気がするが、私の頭はずっとここにあるんだ。
 考えないといけないことなんていくらでもある。やれることもある」

気だるそうで何を考えているのかよく分からない木山だが、その瞬間だけ、怜悧で明晰な思考を覗かせた。

「あれだけのことをしても、救えるかどうか怪しいんでしょ? ……その、どうにかなるものなの?」
「君は優れた能力者だが、研究者としての哲学はまだ持っていないようだね。
 どうにかならないものをどうにかするのが研究だよ。工学とはそういうものだ」

それは答えのようでいて、答えではなかった。

「それで、繰り返しで悪いが、何の用だい?」
「う、いやえっと。アンタの過去を覗いちゃった身としては、あのまま忘れることも、出来なくて」
「ああ、そうだったな。そうか、君は私の教え子の身を案じてくれたのか」
「そりゃあ、ね」
「そして特にそれ以外の具体的な目的はなかったと」
「う」

実のところ、それが実情だった。あのヴィジョンは、生々しく脳裏にこびりついている。
それがずっと気になるせいで、つい話を聞こうと思ってしまったのだった。

「知ってしまったら、忘れて戻ることは出来ないわ」
「君は優しいな、ありがとう」
「何か、出来ることはない?」
「ならここから出してくれないか。君のレベルなら、相当の額を持っているだろう。保釈金が欲しい」
「……それは駄目」
「何故?」
「アンタはまた、幻想御手<レベルアッパー>みたいな方法で、誰かを犠牲にしようとするかもしれない」
「犠牲は出さない予定だったがね。 ……まあ、あんな予測していなかった化け物を出した身で、言えた事ではないか」

少し前、美琴は木山のやろうとしたことを食い止めた。
幻想御手というプログラムによって、能力者と能力者をネットワークで繋ぎ、
それを統括することで巨大な演算能力を手に入れる。
『樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>』を利用できなかった代わりの、苦肉の策だった。
幻想御手が安全だったという保証は、ない。結果的に後遺症を残した人はいなかった。
だけど、あれを使ったことで、傷ついた学生がいたのは確かなのだ。
だから間違ったことをしたとは思っていない。
しかしその一方で、木山が救おうとした教え子達を、目覚めることのない今の状態から救い出すのを阻止したことを、
美琴はずっと気にかけていた。

「そういやさ、アレは幻想御手を使った人たちの思念の集まり、だったのかな?」
「データを取る暇もなかったんだ、推察でしかないが、そうだろう。君もそう感じたんじゃなかったのか?」

木山が演算を暴走させた瞬間生まれた、幻想猛獣<AIMバースト>。
暴走するそれを美琴は打ち抜いた。そのときに、沢山の能力者たちの声を聞いた気がする。
だから、アレが生まれるきっかけが、能力者たちの思念だったことに疑いは持っていない。
しかし。

「ずっと気になってたのよね。幻想御手でネットワークの部品になっていた能力者たちを解放した後も、
 アレはずっと自律して存在してた。それって、変じゃない?」
「そうか、話す暇がなかったな、そういえば」
「え?」
「虚数学区、五行機関、そういう名前に心当たりはあるか?」
「よくある都市伝説のひとつでしょ?」

脱ぎ女だとか、どんな能力も打ち消す能力だとか、そんなのと同じだ。
……と言おうとして、どちらも真実だったことに思い至る。

「アレがそうだ」
「え?」
「虚数学区という言葉を大真面目に使う研究者達が記した論文にはね、常にAIM拡散力場の話が出てくるんだよ。
 あの幻想猛獣はそのものではないにせよ、確実にその系譜に身を連ねる何かだ。
 ふふ、分野はかけ離れているが、その方面の学会で発表すれば最優秀研究者として賞をもらえるのは確実だな。
 なにせ虚数学区を実体化させた人間なんて、まだいないのだから」

そこまで言って、ピクリと木山が体を震わせた。
そしてすぐ、何かを笑い飛ばすように、ふっと息を吐いた。
454 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/22(火) 02:32:05.19 ID:IPrRzJ5no

「何よ」
「いや、考えすぎだとは思うがね。……私の試みは全て誰かの敷いたレールの上を走っていて、
 あの幻想猛獣を形作らせること、それを目的にした人間がいるんじゃないか、ってね」
「考えすぎ……って、言えないのかな」
「私の意思と無関係に、全く別の人間が描いたレールの上を走って、私は教え子を傷つけた失格教師だからな。
 そういうことに、鈍感ではいられないんだよ。それに、荒唐無稽とも言いきれない、根拠もある」
「え?」
「君は発電系能力者<エレクトロマスター>の頂点に立つ能力者だったな」
「ええ、そうよ」
「ネットワークを構築するものといえば、普通はパソコン、電気で動くエレクトロニクスだ。
 君の能力は、精神操作系の能力と並んで、ネットワーク構築に向いている。
 なまじ物理に根ざしている分、扱いやすいくらいだ」
「……何が言いたいの?」

いらだつ美琴に、木山はぼんやりと答えた。
二人の会話に同席している保安員が、ちらり、と木山を見た。

「私は何度も『樹形図の設計者』の使用申請をして、すべてリジェクトされた。
 一般に募集されている計算リソースの割り当て枠にはいくつかのジャンル、素粒子工学の計算や、
 天体の多体問題計算、生物工学なんてのがあるんだがね、私は脳神経工学で応募していたんだ。
 そして、同じ採用枠で競っていつも負けた相手がね」

木山の目が、美琴を捕らえた。
得体の知れない不安に、背筋が寒くなる。

「『学習装置<テスタメント>を利用した発電系能力者ネットワーク構築のための理論的検討』という題目だよ。
 よく似ているだろう? 私の研究と。ちなみに主任研究員は長点上機の学生だったよ」
「発電系能力者<エレクトロマスター>の、ネットワーク?」
「ああ。学習装置を利用して特定の脳波パターンを全ての能力者に植え付け、
 それを使って複数の発電系能力者の意識を繋ごう、という計画さ」
「そんなの、無理に決まってるじゃない!」

それは発電系能力者としての、美琴の正直な感想だった。

「そうだな、もし実行していれば、私と同じ結果になるだろう。
 そんなことはね、『樹形図の設計者』を使わなかった私でも理解できるし、たどり着ける程度の高みなんだよ。
 だから私は自分のプロジェクトの優位性を何度も申請書に書いたし、あちらの批判を書いたこともある。
 率直に言って、あんなお粗末なプロジェクトが一位として採用され続けるはずがないんだ」
「どういうこと?」
「……おかしいと思わないかい? プロジェクトに関わって意味がある程度の、高レベルな能力者が一体何人いるだろうな?
 そして、君を外す理由なんて、あるだろうか?」

それはそのとおりだ。発電系能力者にとってそれほど大きなプロジェクトなら、美琴が関係しないわけがない。
たとえ何らかの理由でプロジェクトから外されても、そういうものがあること自体は、知っていなければおかしいのだ。

「君の知らないところで、有力な発電系能力者を集めることなんて不可能だ。じゃあ、彼らはどうしたんだろうね」
「……」
「一つの答えは、新しく作ればいい、さ」
「作るって、誰にどんな能力が宿るかは、予測不可能ってのが定説でしょ?」
「そうだな。だが、そんなまどろっこしいことはしなくてもいい。
 例えば、レベルの高い能力者の遺伝子からクローンを作って、ソレに能力を使わせればいい」
「えっ……?」
「再生医療と遺伝子工学、そちらの方面でもよく見た名前があるんだ。能力者ネットワークの研究と同じ名前をね」
「それって、まさか」

暗に木山が言っていることを、じわじわと美琴は理解し始めていた。
能力者のクローンを作って、同じ能力者を大量に用意する、それは倫理的な問題に目を瞑ればシンプルな思想だ。
そして、サンプルに使う発電系能力者は高レベルなほうがいいだろう。
――美琴には、過去に遺伝子マップを提供したことがあった。
その事実に心が重たくなっていくのを感じる。

「ああ、そろそろ面会時間が終了のようだ」
「待って! 詳しい話をもう少し」
「悪いね。実を言うとこれ以上詳しいことは覚えてないんだよ」

そう言って、木山はとんとんと地面を叩いた。
ハッと美琴はその意味に思い当たった。正当な方法で得た情報だから、木山はここまで隠さなかった。
そして不正に得た情報を、どうやって得たのか説明つきで語ることは拘置所では到底出来ない。
そういうことらしかった。

「そうそう。長点上機のその優秀な生徒の名前だけは教えておこう。論文を読むといい。勉強になるからな」
「……」

保安員に促されて立ち上がった木山が、別れを惜しむでもなく美琴に背を向ける。
その別れ際に、一人の名を呟いた。

「布束砥信(ぬのたばしのぶ)だ」
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/22(火) 02:54:58.30 ID:vRwTHdtO0
まさかここで布束が出てくるとは…
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/22(火) 15:27:09.15 ID:vFHLlA4ro
OVA版に出てくるヤツだっけ?
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/22(火) 15:52:32.50 ID:vRwTHdtO0
>>456
マンガ超電磁砲の妹達編にて登場
学習装置の生みの親
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/22(火) 16:10:49.67 ID:vFHLlA4ro
>>457
あいつか
サンクス
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/22(火) 23:06:30.13 ID:LjgxsE0v0
こうやってあらためて見ると学園都市上層部ってやってることがショッカーっぽい
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/23(水) 00:55:42.69 ID:WYuqIqLeo
『世紀末帝王HAMADURA=浜面仕上は改造人間である。彼を改造した”学園都市”は世界制覇を企む悪の秘密結社である。

世紀末帝王HAMADURAは人間の自由の為に”学園都市”と戦うのだ。』

大体合ってるな
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/23(水) 01:26:41.46 ID:5qrX22+so
布束についてkwwsk
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/23(水) 01:48:57.39 ID:kJN4n76fo
>>461
>>457
463 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/23(水) 02:03:43.04 ID:VOAwRq/do

拘置所を出ると、夕方というにはまだ早く、夏の日差しがようやくほんの少しの翳りを見せた頃だった。
今から風紀委員の仕事に借り出されている白井のところに向かえば、ちょうどいい時間になるだろう。
しかし美琴は、その足を寮や白井のところへは向けなかった。

人通りは途切れないものの、数は多くなく、また中を覗かれにくい公衆電話を探す。
手ごろなものを一つ見つけて、手持ちの端末を繋いで、ネットワークにアクセスした。
公衆電話からのアクセスで与えられる権限は"ランクD"、これは美琴自身が持っているものと同じだ。
細かな能力開発の履歴を閲覧しないならば、個人情報の取得は一般教師の保有する"ランクB"で事足りる。
指先に意識を集中させる。電磁誘導で端末の回路の一部に、自分の意思を反映した電流を流した。
美琴は電気現象のスペシャリストだが、情報工学のスペシャリストではない。
電流を制御するのは誰より上手いが、0と1で表されたバイナリデータそのものを読む力には乏しい。
端末には、普段は使わないデータ翻訳用のコアが積んであった。
ハッキングが違法なのは美琴にとってもそうだから、このコアと搭載した特殊な処理系は完全に自作で、
ハッカーとしての美琴の唯一にして最大の武器だった。

難なく、場所も知らないありふれた高校のパソコンの一つにアクセスし、
そこのランクB権限を使って、長点上機学園の生徒一覧を参照した。

「布束砥信、長点上機学園三年生、十七歳。
 幼少時より生物学的精神医学の分野で頭角を現し、
 樋口製薬・第七薬学研究センターでの研究機関をはさんだ後に本学へ復学」

ありがたいことに、今は名の知れたエリート高で普通の学生をしてくれているらしい。
さらに調べればあっさりと学生寮の場所までつかめた。

「ま、家で大人しくしてるかどうかまでは知らないけど」

カチャカチャと手早くケーブル類を回収して、美琴は布束の家を目指した。思い過ごしであればいいと、そう思う。
木山春生という人間を、自分は半分信じて、半分疑っている。
人並みに誰かを慈しめる人だということは疑っていない。だから好意で美琴に情報をくれたのかもしれない。
だが、昏睡状態にある教え子たちを救うためならかなり手段を選ばないことも、疑っていない。
例えばこうやって美琴を動かすことも、木山の手の一つで、まんまとそれに自分は乗っているのではないか?
そんな不安も、拭い去ることは出来なかった。

「おーい」

電車とバスを乗り継いで、大きな駅前に出る。
長点上機学園は第一八学区にあるから、電車を使ってある程度の遠出をすることになる。
門限破りもありえるが、美琴の足は引き返すほうには動いてくれなかった。

「おーい、って聞いてないのかビリビリー」
「だぁっ! うるさいわね! ビリビリじゃなくて私には御坂美琴って名前が――――って、え?!」
「ん? どうかしたのかビリビリ、じゃなくて御坂。随分暗い顔して」
「……アンタはやけに幸せそうね」

上条当麻が、目の前にいた。
464 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/23(水) 02:05:33.89 ID:VOAwRq/do

つい昼に、光子や佐天、白井たちとの話で出てきたばっかりの人だから、ドキリとする。
まさか、誰かと噂をした日に会えるなんて。
だがそんな美琴の内心の動きになんてまるで気づかず、当麻は幸せそうにニコニコしていた。

「いやー、さっきショートカットしたら路地裏でマネーカード見つけてなあ。
 1000円だぜ1000円。人生でお金拾ったのなんかコレで何回目かな。
 最高金額の記録がこれで10倍になったな、うん」
「ショボ」
「んな?! おい、お前今なんて言った? ショボイとかおっしゃりやがったんですか?!」
「そりゃ1000円拾ったら私だってラッキーって思うけど、アンタ喜びすぎでしょ。
 カジノで一山当てたくらいの喜び方じゃない? それ」
「人の喜びに水を差すなよ。こんなラッキーなことなんて俺にとっちゃ奇跡みたいなことなんだよ」
「ふーん」

美琴は当麻に、少しだけ苛立ちを感じていた。
悩みのなさそうな明るい顔で、今焦りを感じている自分の気持ちと、対照的だったから。

「おい、御坂」
「――――え?」
「なんかやけに元気ないな」
「別に、そんなことないわよ」
「そうか。なら、いいけど。ところでどこ行くんだ?」
「なんで言わなきゃいけないのよ」
「言いたくないなら別にいいさ。でも軽く聞いたっていいような内容だろ?」

それはそうだ。白井のところに行くのなら、美琴だってはぐらかしたりはしない。
ただ、今はそう納得させる余裕が少し欠乏していた。

「アンタこそどこ行くわけ?」
「どこって、そこら辺のスーパーに行くだけだ」

インデックスは神学校の見学から帰るとすぐに暑さでばてて、
『買い物はとうまひとりでがんばってね、応援してるよ』とのことだった。

「そ、じゃあさっさと買い物して晩御飯の仕度すれば」
「まあそのつもりだけど。……俺がイライラさせたんなら謝る。けど今日のお前、なんか変だぞ?」
「変って、アンタに私のことがなんで分かるのよ? 大して会ったこともないくせに」
「回数は知れてるかもしれないけど、夜通しで遊んだ女の子なんてお前しかいないぞ?」
「う」

かあっと顔が火照るのが分かる。コイツの言葉に他意なんてない。
けど、まるで、それじゃあ私が特別な女の子みたいで――ッッ

「……ちょっと人探し」
「人探し? この時間に? 完全下校時刻ももうすぐだぞ?」
「まあいいじゃない。そういうのにうるさく言える立場じゃないでしょ、アンタも」
「そうだな。それで、名前は?」
「え?」
「探してるやつの名前」

ジトリと、当麻を睨みつけてやる。
軽く受け流すようになんだよ、と呟く態度が気に入らない。

「何で聞くわけ?」
「まだ時間はあるから付き合ってやってもいいし、そうでなくても俺の知り合いだったら話は早いだろ?」
「知り合いなわけないわ。レベル0のアンタとじゃ一生接点のなさそうな相手よ」
「そうは言うが、レベル0でもレベル5のお嬢様と知り合いになったりはするんだけど?」

もっともな切り返しに、美琴は口ごもった。
別に、名前ならいいかと思う。長点上機の三年生という点を伏せておけば、それ以上探られることもないだろう。
やましいことを美琴はしたわけではないが、どこか、細かな説明をするのは躊躇われた。

「探してるのは、布束砥信、って人。知らないでしょ?」
「……」
「ほら、さっさと買い物済ませて帰りなさい」
「あの目が……ええと、パッチリしてる三年生か?」

顔写真を見た美琴にも、よくわかる外見の説明だった。パッチリというのは男性の当麻が見せた女性への気遣いだろう。
美琴なら迷わず、目がギョロっとしていると言うところだった。

「……なんでアンタが知り合いなのよ」
「いや、知り合いって程でもないけど、これ絡みで」
「え?」

そう言って当麻が見せたのは、例のマネーカードだった。
465 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/23(水) 02:14:22.44 ID:VOAwRq/do
二次創作だから人をぽんぽん出しても皆問題なく付いてきてくれるしねー。
そのへんがやっぱ楽でいいわ。オリジナルはつらい。

たぶん超電磁砲は漫画とアニメに精通してる人少ないよね。小説の禁書に比べたら。
布束さんについてはあんまり未読の人を置いてきぼりにしないように一応気をつけます。
まずいとこあったらarcadiaで直しておくから、恥ずかしがらず質問してなー
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/23(水) 02:23:13.65 ID:HuWGQoEUo
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 11:27:39.40 ID:RUSaOdF+0
美琴ェ…
すでに彼女持ちだと知ったらどうなるかww
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 11:33:44.09 ID:/KyO9Tq+o
戦う前から敗北している美琴が不憫過ぎるww
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/03/23(水) 14:03:32.67 ID:HyxNCwjG0
アニメも漫画も見てるぜ
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/23(水) 15:42:08.47 ID:FytpVAvP0
上条さん彼女持ちのせいか
対応に余裕があるというか美琴の転がし方がうまいな

原作じゃ特定のヒロインとくっつかないようになのか
恋愛面ではお約束的な鈍感主人公を余儀なくされてるけど
ちゃんと一人を選んだここの上条さんはこのくらいしっかりしててもいいと思った
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/23(水) 15:51:39.77 ID:mrtRG/ROo
いろんなSSが混じってるぜwwwwww

このSSでは上条は光子と付き合ってるんだったのか・・・

上琴を一瞬でも期待してしまった俺は馬鹿だ
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/23(水) 17:36:52.47 ID:n24z/CJH0
上条「もてた」を読んできたばかりだというのに
こっちでも美琴がフルボッコになるのを見るのか…
姉妹丼読んでくるノシ
473 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/03/23(水) 19:04:42.30 ID:ekqXWN8s0
修了証書もろたー。これで幼稚園から初めて人生で六回目の卒業か。

>>467-468 >>472
よく考えると美琴に対してSだな俺ww でもやめないww

>>470
でも美琴の好意に気づかない鈍感ですけどね。うむ、罪作りだ。

>>471
美琴が光子から彼氏を寝取るとかマジ鬼畜な展開だな。一瞬採用するかどうか考えたけど。
まあ、ないとは言わないが予定はない。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/03/23(水) 19:47:35.63 ID:zmw/6XG2o
アニレーしか観ていない人は、是非マンガも読んで欲しい、
絶対損している。

美琴は大人になったらすげぇ良い女になりそうだよなー。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/23(水) 20:10:41.38 ID:n24z/CJH0
一瞬アニレーレって何のことかわからなくて、アニェーゼの親戚か何かと思っちまった
ぶっちゃけとあるシリーズは超電磁砲の漫画が一番面白いな
個人的に女どうしのきゃっはうふふとかそんな好きじゃないからアニメは微妙
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/03/23(水) 20:22:25.15 ID:dSKXmqXAO
アニメレールガンで一番印象に残ってるのはテレスさんのはっちゃけ具合だな
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/23(水) 21:12:04.22 ID:4JdQSdQco
アニメレールガンで一番印象に残ってるのは木山せんせの脱ぎっぷりだな。
あれはあかんて。あかんて。

後はあれだ。そう、あれ。
無駄にイケメンな上条さんww
478 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/24(木) 01:10:39.81 ID:7XuKyodao

「それ絡みって、どういうこと?」
「お前知らないか? ちょっと前から噂になってるらしいんだけど、
 学園都市の裏通りを歩いてるとマネーカードを拾える、って話」
「知らない」
「……まあ、常盤台の学生ならこの額じゃ小遣い以下か」
「別にそんなんじゃないわよ。噂を仕入れるような情報網を持ってないだけ。
 その手のソーシャルネットワークサービスとか嫌いだし」
「そっか。ごめん。常盤台だから、みたいな色眼鏡で見てものを言うのは良くないよな」
「う、うん。分かってくれればいいわよ」

まさか謝られるとは思ってなくて、美琴は思わずたじろいだ。
だけど嬉しくもあった。話す前から自分との間に壁を作る人は少なくない。
常盤台の人だから、あるいは第三位だから、そんな風に美琴を遠ざけて話す人は多い。
そんなものを取っ払って、気安く話してくれるところは、とても高評価で。
……そんな思考を振り払うようにブンブンと頭を振った。

「で、マネーカードの噂と布束って人の関係は?」
「これ置いてるのが、その布束先輩だ」
「はぁ?」
「なんかよくわからないけど、こないだ会ったときには街の死角を潰すため、とか言ってた」
「死角を、潰す? 何のために?」
「なんかよく教えてもらえなかったけど、止めたい実験があるんだってさ」

そのフレーズに美琴はピクリと反応してしまった。
起こって欲しくなかったことが、あったのかと、そう疑ってしまうような一つの事実。

「こないだ布束先輩がカードを置いて回ってて不良に絡まれたところに偶然居合わせてさ」
「それじゃあ、もしかして」
「人通りも多かったし、今日はこの辺でやってるのかもな」
「ありがと。良い情報貰ったわ」

近くにいるのなら、取り逃がす前に捕まえるに限る。
美琴は早々に会話を打ち切って、路地裏へと歩き出した。

「で、ビリビリ、なんで布束先輩探してるんだ?」
「……なんで付いてくるのよ?」
「探すなら二人のほうが早いだろ?」
「仲良く歩いてちゃ意味ないでしょうが」
「それもそうだな。じゃあちょっと携帯貸してくれ」
「え?」
「俺のアドレス教えとくから」
「えっ? え、あ……え?」
479 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/24(木) 01:12:03.56 ID:7XuKyodao

急にピタリ、と美琴が立ち止まった。セカセカと歩いていたので急変に当麻はびっくりした。
手分けをするのなら連絡先が必要だ。
美琴のアドレス帳にアドレスを登録して、自分の携帯には着信履歴を残す気だった。
自分の携帯にはさすがに美琴のアドレスを載せる気はなかった。
可愛い彼女に操を立てる意味も込めて、必要がない限り女の子のアドレスは登録しないようにしていた。

「ちょ、いいの? そんなにあっさり」
「いいのって、そりゃむしろお前の台詞だろ。お前こそ嫌なら止めるけど」
「だ、大丈夫。私だってアンタに知られて困ることなんて別に……」
「よし、じゃあ貸してくれ」

びっくりするくらいの急展開だった。
アドレスが手に入るって事はつまり、いつでも、寝る前にだって連絡できるし、
朝起きてすぐにだって連絡できるし、休み時間のたびにだって連絡できるし、
会いたいときにはいつだって連絡できるし、例えば明後日の盛夏祭、
美琴たちの暮らす常盤台中学の寮祭に当麻を招待する事だって、できるのだ。

当麻派おずおずと差し出された可愛らしい携帯に何もコメントすることなく、
カチカチとアドレス送信の手続きを行った。
処理に問題など生じるはずもなく、上条当麻という登録名のアドレスが、美琴の携帯に一つ増えた。

「……なんだよ、ぼうっとして」
「なんでもない」
「で、お前はどっちのほうを探す? 土地勘あるか?」
「あ……」

そもそもそういう話でアドレスを貰ったのだが、今から当麻と離れることになるのに、美琴は不意に気づいた。
そしていきなり心のどこかで、一緒に歩いていても視線が二つになるだけでかなり違うのではないかとか、
二手に分かれて当麻のほうが布束に接触した場合、自分が駆けつけるまで待ってくれないかもしれないし、
そういえば当麻と布束は知り合いでしかも待ってる間は二人っきりなのかそうなのかと、
そんな言い訳みたいななんともいえない思考が沸きあがってきた。

「場所は、あんまりわかんないかも」

嘘だった。風紀委員の白井に付き合ってそれなりになじみの場所だった。

「そうか。……まあ、お前の実力なら危ないトコに迷い込んでも俺より安全な気はするけど、
 でも女の子がそういう場所にフラっといっちまうのを見過ごすのも嫌だしな。
 効率悪いけど二人で探すか……って、ありゃ」
「え?」

当麻が突然会話を打ち切って、目線を横に滑らせた。
その先を美琴も追うと、絵に描いたような不良が5、6人と、その真ん中に白衣の女子高生。
耳の下までくらいの濃い黒の髪をピンピンと跳ねさせ、ギョロリとした瞳を揺らすことなく不良に付き従っている。
当麻には会った覚えが、美琴には見覚えのある人が、そこにいた。
布束砥信、その人だった。
480 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/24(木) 01:16:57.04 ID:7XuKyodao
接点が増えたよ、やったね美琴ちゃん!
……美琴ってさ、動かしやすいのよ。上条さんを意識してくれるからさ。俺Sだなぁ。

実は漫画よりアニメ派だったりー。俺はキャッキャウフフ好きだ。
でもテレスティーナを字で表現するの大変だなぁ。
あとポルターガイスト編の初春は本編と違いすぎて困る。。。
両者の中間狙いでかくことになりそうだなー
木山先生は動画になることでけしからんことになってたね。うん。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/24(木) 01:17:20.60 ID:IhFszRZUo
タイミングが良すぎるぜ
さすがフラグの神様
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/03/24(木) 01:43:25.44 ID:BKhli/cAO
ただもう嫁がいるんだがな
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 02:01:49.96 ID:goQoLFlvo
美琴がかわいそうだああああああああああ
やめてくれええええええええええええええええええええええ
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 02:09:13.26 ID:htlhfs7DO
上条さんは彼女が出来ると鈍感補正が軽減して、しっかりするよな

>>473
寝取りはちょっと……
御坂が誘惑するけど、それに負けないなら読みたい
上后が気に入ってるのもあるけど、「もてた」の方は苦味があるから
こっちでは甘いのが読みたいんだぜ
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/03/24(木) 02:10:19.39 ID:8/GwEqUso
486 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/24(木) 02:23:06.74 ID:7XuKyodao
物陰から、美琴は様子を窺う。当麻自身が言ったとおり、この場面での実力で言えば間違いなく美琴が最強なのだ。
身を潜めるべきは自分じゃなくて当麻だろう。
だというのに、仲の良い知り合いのふりして助けてくる、無理なら布束をこちらに誘導するから適当に逃げて、
あとはうまくやってくれ、と言うのだった。

「大人しくしてくれりゃー手荒なことはしねぇからよ。ウチのリーダーは女子供に手出すの禁止してるからな」
「砥信! 悪い、遅れた」
「お、にーちゃん彼氏か? こえー顔すんなよ。俺たちがお世話になりたいのはカラダのほうじゃなくてカネだけだ。
 出すもんだしてくれたらすぐ立ち去るぜ。紳士だからな」
「こっちにも事情があってやってるんだ。悪いけど、お前らの小遣いにしたいわけじゃない」
「……いいわ」

ちらりと当麻が布束を見た。布束の首が横に振られたのが見えた。
鞄が不良たちに預けられる。躊躇いなく開かれたそこからは、たった2枚のマネーカード。

「おいおい、コレだけしかないのか? その懐に溜め込んでんじゃねーの?」
「砥信に触るな」
「あぁ? 誰に口聞いてんだ?」
「落ち着けよ、お前こないだ彼女に振られたばっかりでひがんでんのか?」

いきり立つ不良を、上司らしい男が揶揄する。周りがそれで爆笑していた。

「格好良い彼氏君よ、お前がやって良いからポケット全部探りな。手ぇ抜いたら俺らがやるぜ?」
「……ごめん」
「構わないわ」

プツプツと制服の上から来た白衣のボタンを外し、白衣と制服のジャケットについたポケットを、当麻に改めさせた。

「ホントにコレだけかよ。おい彼氏君調べ方が足りないんじゃないか? おい、代わりに調べてやれよ」
「ああ、まー好みの顔じゃねえけどなぁ」
「お前もっとババァでもいけるだろ?」
「ひでー」

そんな下品なやり取りをして布束に手を伸ばそうとした不良の動きを、当麻は遮る。

「触るなっつってんだろ」
「ああ?!」

額をこすり付けそうな距離で、不良が当麻を睨みつけた。
怯まない当麻より先に、不良は脅す視線ににやりと嘲笑を混ぜて、距離をとった。

「大して可愛くもねー女にお前よくそんな惚れてるなあ」
「惚気話でも聞きたいのか?」
「面白そうだから言ってみろよ。カラダは悪かねーし、ソッチ方面がいいのか?
 もしそうなら俺にもやらせてくれよ。金なら出すぜ?」
「くだんねー話で砥信を汚すな」

イライライライライライライライライラ
当麻はこないだ知り合ったと言っていた。明らかに彼女とは違うような口ぶりだった。
だからこれは演技だからこれは演技だからこれはただの演技。
美琴はずっとそう言い聞かせながら推移を見守っていた。

「砥信、あっちから出れば繁華街に近い。先に行ってろ」
「……それは申し訳ないわ」
「いいから」

そう言って、当麻がこちらを見た。
意図は、布束を回収してうまく逃げてくれ、だった。
美琴はそんなお願いを聞いちゃいなかった。

「……いい加減にしなさいよ」
「え、おい、ビリビリ隠れてろって」
「お? 嬢ちゃんがもう一人?」
「なんだ? お前ら、どういう関係?」
「話がこじれたじゃねーか、ビリビリ」
「どうせこの子にも手を出せるわけじゃねーしなあ、サクっと貰うもん貰って彼氏君と楽しく遊ぼうぜ。
 ……ところで俺らと楽しいことする気はない?」

美琴が好みなのか、不良の一人がそんなことを言って誘ってきた。
いい加減、我慢の限界だった。
美琴のそんな様子を察した当麻が、空を仰いだ。
この結末を回避させてやりたくて、不良のために当麻は努力を尽くしたのだが。

「悪いけど、外野は寝てて」
「あん? っておぎぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

ビリっと一発、人間から人間への志向性を思った放電、道具なしのスタンガンが炸裂した。

「アンタ達、事情はきっちりと聞かせてもらうわよ」

ジロリと立ったままの二人、布束と当麻を美琴は睥睨した。
487 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/24(木) 02:31:43.41 ID:7XuKyodao
>>483
だが容赦しないw 別に美琴アンチではないのよ? 上琴の18禁だって書いたことあるし。

>>484
まあそう言う意見が多いかなあとは思ってる。そして参考にはしてる。
とはいえ恋愛に駆け引きはつきものですし、どうなるかは描いていっていずれ明らかにするということで。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/24(木) 02:57:20.59 ID:5z26rGkh0
姉妹丼美味しいです^q^
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/03/24(木) 17:39:38.29 ID:i2E/K8GAO
ここのていとくんはエリス>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>一方さんなのか
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 20:25:50.00 ID:goQoLFlvo
>>487
美琴の18禁のって、何だ!
タイトルは?
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 20:26:40.99 ID:goQoLFlvo
>>490
ぬあ
ごめん
姉妹丼のやつか

この機会に過去の作品晒してくれないかね(´・ω・`)?
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/24(木) 21:14:46.63 ID:/WE6M/fYo
理想郷で、酉検索すると幸せになれるかもー
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/24(木) 21:39:33.38 ID:5z26rGkh0
>>95で既に晒してるよ
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/24(木) 22:20:47.96 ID:goQoLFlvo
>>492
arcadiaは知ってたがこっちは知らんかった
サンクス

>>493
どもん
忘れっとった(´・ω・`)
495 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 03:18:14.34 ID:qbKuWFaFo

「アンタ達、どういう関係な訳?」

場所を移そうと提案して歩き始めたばかりだというのに、美琴が待てないのか早速食って掛かってきた。

「どういうって、こないだも路地裏で不良に絡まれてたから、ちょっと声かけたんだよ。それだけだ」
「Don't worry. 私達の関係は誰かが嫉妬する必要のない程度のものよ」
「わ、私は別に」

嫉妬なんて、と続く言葉が口から出なかった。
目の前にいるのが高校生二人組で、子ども扱いされている感じがムカつく。
まるで動じた風のない布束に当麻がすみませんねと謝っているのが、嫌だった。

「なんにせよ、まずはお礼を言うべきだったわ。ありがとう」
「先輩、喧嘩慣れしてないんだったら気をつけたほうがいいっすよ。
 口では金以外に興味はないって言ってたから、助けなくても良かったかもしれないけど、
 何かあってからじゃ遅いです」
「そうれはそうね。でも、やれることはやらないと」
「こないだも教えてもらえませんでしたけど何やってるんですか?
 ……ってそういやビリビリ、御坂がなんか聞きたいことがあるって」
「そう……。あなた、オリジナルね」
「え?」

もとより気安い人間ではなさそうな布束だが、美琴に向けられた視線が、どこか余所余所しさにかけるというか、
初対面ではないような雰囲気を持っていた。
そして、聞き逃せない単語を、呟いていた。
オリジナル、という言葉の裏には、コピー品かイミテーションか、そういうものの存在を感じさせる。
人間においてコピーであるというのは、それは。

「やっぱりアンタあの噂のこと何か知ってるの?! 教えて!」
「あ、御坂」

返事は鞄の角だった。ガスッと、美琴の頭に突き刺さる。

「いたっ」
「長幼の序は守りなさい。あなたは中学生、私と彼は高校生」
「前回俺もやられたなあ。つか御坂、俺にも敬語使ってくれたって良いだろ」
「ふざけんな、なんでアンタに! って痛い、ちょっといい加減にして……下さい」
「常盤台の知り合いは他にいるけど、そっちは敬語使ってくれるんだけどな」

布束先輩は上条先輩に敬語を使わない美琴もNGらしかった。また鞄の角が振るわれる。
そして当麻は、俺の彼女なのにとは気恥ずかしくて言えなかった。

「それで話を戻すけれど。噂というのは?」
「あ、その」

話そうとしたところで、隣にいる当麻が気になった。
聞かれたくなかった。気にしすぎだと笑われるのは嫌だったし、
自分の懸念が正鵠を射たものだったとして、頼れるわけでもない。
何があったとしても、それは自分がまいた種で、そして自分はレベル5なのだ。

「悪いけど。ちょっと外して……下さい」
「俺が聞いちゃまずいか?」
「うん。ごめん」
「わかった」

美琴を立てて、当麻は言うとおりに従ってくれた。
そうしたのは美琴のプライドと、それを尊重する当麻の気遣いだった。
布束がなんてことはない廃ビルのちいさな階段を上り始めた。
当麻はそれに従わず表で待ち、そして美琴は、布束についていった。
496 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 03:19:11.39 ID:qbKuWFaFo

「それじゃあ、話を聞きましょう」
「私のDNAマップを元に作られたクローンが軍用兵器として実用化される、なんて噂があるじゃないですか。
 それについて何か知りませんか?」

コクリと布束が頷いた。それは悪い知らせ。だが、覚悟はしていた。
布束というこの女子高生の専門をくまなく調べれば、薄々分かること。

「噂にはそう詳しくもないけれど、事実についてはあなたよりは詳しく知っているわ」

布束のほうも美琴が自分にたどり着いたことの意味は理解していた。
冗談では済ませられないほど確度の高いソースを持って、事の真偽を、そして真実を求めに来ている。
そりゃあ、自分のことなら知りたいと言う気持ちはあるだろう。それは分からないでもない。

「教えて、ください」
「『妹達<シスターズ>』、私がかつて関わったプロジェクトの名前よ。
 今ではもう目的も内容も変わってしまったようだけれど」
「それって」
「あまり深追いしないことね。知っても苦しむだけよ。あなたの力では何もできないのだから」
「それはあなたが決めることじゃない」
「そうね。……アドバイスはしたわ」

布束は、それ以上を語らなかった。
たとえ御坂美琴がレベル5であっても。レベル6に群がる大人たちにはかなわない。
今自分与えた単語で、どこまで辿れるだろうか。
きっと、本当に深いところまでは、来られないだろう。
それで良いと布束は思う。学園都市は御坂美琴そのものは表の顔として綺麗なままにしたいらしいように見える。
それならそれで、幸せを謳歌すればいいのだ。
レベル5であっても、御坂美琴本人はその程度の利用価値だから。

「あまり彼を待たせても悪いから降りましょうか」

廃墟に取り残されたデスクの引き出しから書類を取り出して、火をつけながら布束が言った。
もう話は終わりだと暗に告げる布束に、美琴はこれ以上声をかけなかった。
だって、噂が事実なのなら、あとは全力で探すだけだから。

僅かに焦げ後を残した廃墟から出て、当麻と合流する。律儀に待っていたらしかった。
降りてくる二人に気づいて、表通りまでの近道をナビゲートしてくれた。

「先輩、もうあんまりやらないほうが」
「そうね。今日のも尾行されていたみたいだし、やり方には気をつけるべきね。
 それじゃあ、私はこちらに帰るから」
「あ、はい。それじゃ」
「どうも」

長点上機の近くに住む布束が真っ先に別れた。
気になっていたはずなのに、あっさり布束を解放した美琴の様子に当麻は首をかしげた。

「いいのか?」
「うん。これ以上は話してくれなさそうだし、自分で調べるから」
「困ったことがあれば連絡入れろよ。まあ、大して力にはなれないけど」
「私を誰だと思ってんのよ、アンタに頼るほど落ちぶれちゃいないわ。じゃね」
「御坂、それじゃな」
「うん」

駅前で、素っ気無く美琴は別れた。
余計な心配をされるのが嫌だったし、別れ際が気恥ずかしかったからだった。
そして、心のどこかで、アドレスを知っているから繋がっているような、そんな思いもあった。
497 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 03:20:46.59 ID:qbKuWFaFo

「さて」

スーパーに向かう当麻を見届けて、美琴は町をうろついた。
昼下がりと同じ、公衆電話を探してだった。

目的は一つ、樋口製薬・第七薬学研究センターにアクセスすること。
幼少期なら長年にわたり布束がいた場所だ。『妹達<シスターズ>』という計画に、一番関わっていそうだった。
最低限、場所の見取り図を。そして出来るのなら、全ての情報を。
美琴は直接潜入することも辞さぬつもりで、その前段階として情報を得るつもりだった。
まさか、機密がこんな簡単に手に入るわけはないだろう。

初めから、美琴は全力で逆探知回避の策を講じ、
そして私企業のプライベートデータにアクセスできるだけの権限を偽装した。
ネットワークから一切切り離された情報には美琴はアクセスできないから、
本当に大事な情報は手に入らないつもりでいた。

「見取り図はこれ、と。意外に緩いわね」

施設として機密性の高いところを探し、潜入すべき場所にアタリをつけていく。
電気的なセキュリティはリアルタイムに無効化できるからあまり気にしない。
警備員の配置についても情報がある。まあ人はスケジュールどおりに動かないものだが、ないよりは良いだろう。

必要な物をそろえた上で、次は研究データの探索に当たる。
これは一番大事な情報だから、当然セキュリティも極端に厳しい。
すべて量子暗号によってデータは暗号化されていた。

「……バックアップのためにデータが流れてる」

どういう手続きで中身を見るかが問題だった。
誰かの権限で正規の手続きを踏んで情報を見るのも一つの手だが、
その場合、閲覧したという履歴自体を消さなければならない。
それよりも、データバックアップで流れている暗号化されたデータを傍受するほうが確実だった。
理由は簡単。それは原理上、出来ないことになっているからだ。
光の量子状態を巧みに操って行う量子暗号は、観測に弱い。
それを逆手に取ることで、送り手と受け手以外の誰かが送信されたデータ内容をどこかで傍受、
すなわち観測すれば、それによってデータそのものが変質し、第三者による傍受がすぐに検出される。
そういう『理論上第三者による情報の傍受を絶対検知できる』という性質を量子暗号は持っているのだ。
だから、普通のやり方なら、傍受なんて諦めて別のハッキングを試すことになる。

美琴は、だからこそその逆を行く。
光という電磁波を、美琴は制御下における。超能力によって、量子の基本原理すら捻じ曲げて、
物理的に不可能とされる量子暗号の傍受を行い、その痕跡を完全に消し去るのだ。
こんな風にはっきりと犯罪に当たる行為に使ったことはなかったが、技術としてすでに美琴は身に着けていた。
そして、コレをやれる能力者は、発電系能力者でもレベル4では不可能だろうと実感している。
つまりこの美琴の破り方を警戒している研究者はいないし、ましてや対策が講じられていることなんてあり得ない。

「何もアラートはならない、わね」

情報を横から掠め取る。傍受はばれるときはすぐさまばれるはずだから、それが無いということは、
このセキュリティは美琴にまるで気づいていない、ということだった。
流れる情報を手元の端末で逐一デコードし、解析にかける。
ほぼ全ては無関係で不要なデータだが、美琴が集中している間に、いつの間にか一つヒットしていた。
集中を切らさないよう気をつけながら、そのファイルを開く。

「超電磁砲量産計画、通称、『妹達』……その最終報告書」

タイトルからして間違いなかった。
498 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 03:22:44.01 ID:qbKuWFaFo
>>493
まあ案内のとおりなのでよかったら読んでなー

眠い……。そして布束さん動かしにくいよ。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/25(金) 03:30:12.19 ID:7OJ3Rrhy0
この流れだとポルターガイストの前に一通さんか?
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/03/25(金) 11:37:59.34 ID:HwWdEpeF0
妹達編に婚后さんはどこまで関わるのだろうか?
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 11:44:47.33 ID:XNnx2VCvo
なぁなぁ
超電磁砲と禁書目録ってアニメも漫画も作画が安定しなさすぎだと思わんか?
なんであんなにバラバラになるんだろ・・・
この美琴可愛い!って思ったら次の瞬間あらぁ・・・
ってなるんだよね(´・ω・`)
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/03/25(金) 15:19:13.12 ID:SjsFldX90
禁書のアニメは色々ほめられる出来じゃなかったな
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/25(金) 18:40:32.67 ID:HQJvUGS60
作画担当の多くが育成中、とかじゃない?腕が半端でも実践経験積むのは大事だし
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/25(金) 18:51:46.77 ID:7OJ3Rrhy0
俺は逆に作画作画といちいち騒ぐ人の気持がわからん
そんなに気になることか?まあ勿論限度ってものはあるが
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 18:57:21.41 ID:XNnx2VCvo
漫画は限度を超えてるぞwwwwwwww
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/25(金) 20:53:17.37 ID:4LZeFLNQo
他のラノベのコミカライズ見れば近木野と冬川という二人が
いかに恵まれてるかがわかるよ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/25(金) 21:26:56.15 ID:tHDA6nOlo
好きなキャラが動いて喋るだけで満足なおいらはだめなのだろうか。
きーはーらーくぅーん!
ミサカハミサカハ…
が聞けただけで大満足なのですよ、あうあう。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/25(金) 23:07:33.96 ID:Yc72e5OO0
超電磁砲ってそんなに絵変かな

フレンダが天使すぐる
509 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 23:41:40.84 ID:qbKuWFaFo
あんまり作画の質は気にしたことないな。ヤシガニをリアルタイムで見たときも俺気にならなかった人だしw
あとフレンダが天使にはマジ同意。セイヴェルン姉妹書きたいなぁ。
510 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 23:44:18.54 ID:qbKuWFaFo

「あったんだ……噂じゃ、なかった」

カチカチと歯が音を立てたのが分かった。
美琴を対等な一人の人間として認め、腰を落として尊の目線に合わせ、
そして握手を求めてくれた、そんな科学者がいた。
美琴のDNAマップを使って研究をして不治の病を治したいのだと、
そう言った彼と彼の患者を救いたくて、美琴は首を縦に振ったのだ。
それが、まるで冗談、酷い嘘だったことを突きつけられた。
今日、今も、この町のどこかで御坂美琴の外見をした御坂美琴ではない生き物が、
御坂美琴のふりをして生きているかもしれない。
あるいは、美琴を研究するために、非道な実験に使われているクローンがいるかもしれない。
それは、おぞましい可能性たちだった。

真夏の電話ボックス内で、美琴はぶるりと震えた。
誰かに混乱しまくった頭の中をそのままぶちまけたくなる。
始めに思い浮かべたのは何故だか、ついさっき別れたばかりの、当麻の顔だった。
今なら、探せば会えるかもしれない。声を聞けるかもしれない。

「って、アイツに相談したってどうしようもないでしょうが。
 ……悪いのは、私なんだから」

つまらないことを考えた自分の弱気を振り払うように、美琴は髪を掻き上げた。
そして端末の実行キーに、人差し指を触れさせた。ページをめくるのが、怖い。
……アイツは、事情に一切気づいてなかったのに、私のことを気にかけてくれた。
もし、どうしようもないくらい困ったことがあれば、あのバカはきっと、力になってくれる気がする。
いつでも、連絡は出来るのだ。メールだって電話だって、出来るのだ。美琴の意思一つで。
その事実はどうしてか、美琴の気持ちを軽くしてくれた。
どうせ水にはいられない資料、不安という名の呪縛を振り払って、美琴はキーをそっと押し込んだ。
カタ、と音を立ててページが送られ、資料の内容が表示される。

「本研究は超能力者<レベル5>を生み出す遺伝子配列パターンを解明し、
 偶発的に生まれる超能力者<レベル5>を100%確実に発生させることを目的とする。
 ――――本計画の素体は『超電磁砲』御坂美琴である」

イントロダクションの一行目で、美琴は自分の不安がそのまま現実になったと、そう理解した。
ああ、と心の中で声が漏れる。現実が歪んでいく。どうしようもないことを、自分はしたのだと、ようやく理解した。

心の底に降り積もった絶望をさらに追い増しするように、続きを読む。
乾いた笑いすら口からこぼれる今の美琴の心境では、もう、苦痛とすらも感じなかった。
ここまで堕ちれはもう同じ、そんな気分だった。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/03/25(金) 23:45:26.93 ID:HwWdEpeF0
冬川の絵は上手いと思うけど
512 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/25(金) 23:49:14.73 ID:qbKuWFaFo

美琴のDNAマップの入手経路、そしてクローンの合成法、
美琴の成長と同じ年月、すなわち14年をかけずとも美琴程度の肉体にまで急速成長させる方法、
布束砥信の作成した『学習装置<テスタメント>』による教育、いや機械的な知能の注入法、
そんなエクスペリメンタル・メソッドの説明に目を通す。
これまで、グレイゾーンに足を突っ込む科学者も多い、なんてのを平気で喫茶店で話してきたくせに、
完全にブラックな所にいる科学者のことを考えられなかった自分を、美琴はあざ笑った。
よく書けた論文だ。主観を排除して必要な情報をきちんと列挙した、お手本のような実験手法の紹介。
扱っているのがラットでもカエルでもないこと以外は、まっとうだった。
御坂美琴のクローンを作ることが、極めて低コストに実現可能であること、それがよく分かる内容だった。

「それじゃ、学園都市には私の知らない私が歩いてるって、そういうことなんだ。
 ――――あれ?」

それ以上に細かなチューニングには興味はなくて、読み飛ばす。
成功物語の報告書かと思いきや、少し違う感じのするストーリー展開だった。

――『樹形図の設計者』に演算を依頼、『妹達』の能力について計算を依頼。
――その結果として、『妹達』はどのようなチューニングを施しても、レベル2程度の能力しか宿さないことを確認。

「本計画よりこうむる損害を最小限に留めるため委員会は進行中の全ての研究の即時停止を命令。
 超電磁砲量産計画『妹達』を中止し永久凍結する」

あとはデータの取り扱いの細かな支持だけだった。

「……ったくなによ。ほいほいこんな能力コピーされちゃたまったもんじゃないわよ。
 ま、レベル2なんて量産する意味、あるわけないし。これで資金に困った研究者あたりが、
 飲み会の話のネタにでもしたのが噂になって広まった、ってのが実情かな」

ほー、と息をつきながら、美琴はずるずると壁にもたれかかったままへたり込んだ。
もう歯の根がかみ合わないことはなかったが、腰が砕けたように、起き上がる力が入らなかった。

「にしても、あの時のDNAマップが、ね……。過ぎた事は言ってもしょうがないか」

端末を回線から丁寧に落として、ケーブルを回収する。
とそこで、コツコツと外から透明のボックスの壁がノックされた。
外には、豊かな胸元を無骨な警備員のジャケットで覆った挑発の美女がいた。

「おーい、もう完全下校時刻過ぎてるぞ。なにしてるじゃんよ」
「あ、すみません。すぐ帰りますから」
「常盤台のお嬢様がこんなことしてちゃ、寮監が黙ってないだろう」
「知ってるんですか?」
「まあな。常盤台の学生でお前と同じ不良少女を知っているんでな」
「はあ。あの、すみません、帰ります」
「おう、まだ明るいけど、細い道は通るなよー!」
「はい」

足取りも軽く、美琴は帰路に着いた。
自分の犯したミスに、美琴は気づいていなかった。
513 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/26(土) 00:56:26.67 ID:dofA1B6Oo

「麦野ー。持ってきたよ、カーディガン」
「ありがと。まあ、無駄になっちゃったけど」
「え? もう終わったの?」
「ええ。あちらの完勝でね」

悔しくもなさそうに、そう呟いた麦野がうーんと伸びをして自分の端末を閉じた。
胸元は大きいと言うほどでもないが、大人びたルックスとそれに見合うスタイルの持ち主である麦野の、
妖艶すぎない、均整の取れた色香に遠目で見ている男達の視線が釘付けになる。
来ているビキニの布地も、面積は少なめだった。
冷たい無表情で男を見返すと、皆目線をすっと外した。

「終わったんなら麦野も泳ぐ?」
「当然。滝壺は……ホントにあの子浮いてるのね。絹旗は?」
「さっきまであっちのプールサイドで昼寝してたみたいだけど」
「ふうん」

滝壺はクラゲそのものと言った感じで、色気のないスクール水着みたいなワンピースを着て、
髪を広げながら水面に浮いている。絹旗は中学生にはちょっと早いんじゃないかというデザインのビキニ、
目の前のフレンダは逆に、ちょっとメルヘン過ぎるくらいの可愛いフリルが着いたビキニだった。
ちなみにそんな装いなのに四人で歩くと一番視線を集める胸は滝つぼの胸なのだった。
楚々とした女の子ほど狙いたくなるのが男の性かもしれないが。

手元のジュースに口をつける。味が薄くなっているのに麦野は顔をしかめた。
意外と、集中していたのだろう。
ここのトロピカルジュースとスモークサーモンのサンドイッチはお気に入りだったのだが。
外はかなり暗くなって、窓の外には光の海が広がっている。
この一体で一番高いビルである超高級ホテルの、最上階のプール。麦野たち四人はそこで遊んでいた。
いや、許しがたいことにリーダーである麦野沈利にだけ、仕事が割り振られたのだった。

「それにしても、麦野にそんな仕事を頼むなんて変な仕事だったねー」
「そうね」
「結局、どうなったの?」
「ん? さっきも言ったでしょ、あっちの勝ちだって。全部情報は取られちゃったし」

フレンダは首をかしげた。麦野沈利という女が、負けてこんな態度のはずがない。
そしてそもそも、電脳戦で負けるなんてことがあるはずがない。仮にもレベル5の発電系能力者が。
その表情から言いたいことを汲み取ったのだろう、超然とした微笑を麦野は浮かべた。

「負けたのは私が加担した側ね。私個人では、勝ってるわよ」
「なんだ。まあ当然だよね。結局麦野が一人が散って訳ね」
「結果はそうだけれど、なかなか面白い相手だったわ」
「へえ」

麦野にそう言わせる相手は、遊び相手として面白いくらいの実力があって、そして麦野に完敗した相手だ。
電脳戦そのものにはそう強いわけでもない麦野だが、ひとつだけ、専門があった。

「発電系能力者<エレクトロマスター>ってのは電子や光子一粒、ってくらいの世界になると、
 途端に甘さを露呈しだすのよね。まとまった流れが無いと扱えないのかもしれないけれど」
「ふーん?」
「あれ、麦野、終わったんですか?」
「ええ。絹旗は泳いでいたの?」
「来たからには超泳いでおかないと損ですから」
514 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/26(土) 00:58:26.36 ID:dofA1B6Oo

こちらに気がついたのか、フラフラと滝壺も漂いながらこちらに近づきつつある。
麦野はちゃぷ、とプールサイドで水を掬って、自分の足にかけた。
もとから体を濡らしていた三人はすでにプール内で待っている。
軽くだべりながら、ビニールの玉でバレーもどきの遊びをするつもりだった。
太ももに塗り、胸にかけ、足を浸す。四人ともそうだが、真夏にこの髪型は暑いことこの上ない。
じゃぽんと音を立てて水に入って、髪を濡らすと気持ちよかった。

麦野が引き受けた仕事は、今晩、ハッキングされるかもしれないある研究施設を、監視することだった。
もちろんネットワーク上で、だが。
つまらない仕事のつもりだったから、わざわざプールサイドにまで出てきて、せめてもの慰めにするつもりだったのだ。
だが、意外な収穫があった。
たぶん、自分が今日情報を抜き取っていく様を眺めていたその相手は、御坂美琴。
最強の発電系能力者だ。

麦野は自分を発電系能力者だと思っていない。電子に関わる能力でありながら、麦野は電流操作なんてほとんど出来なかった。
電磁場の制御なんて、きっと麦野は御坂に逆立ち下って勝てないだろう。
それを悔しいとは思わない。魚に嫉妬する水泳選手がいないのと同じだ。

ただ、唯一の自分の土俵で、麦野は勝った。
仮に麦野がレベル4ならあちらには勝てないだろうから、自分の土俵といっても相手が何も出来ないほどの場所ではない。
そういう場所だった。
具体的に言えば、量子的な情報の盗みの上手さについて、だ。

この世に存在するあらゆるものは波でありそして同時に粒である。
観測によって粒らしさ、波らしさのどちらの特性を発現するかは決まるが、観測されない限りはそれは『未定』なのだというのが、
いわゆるコペンハーゲン解釈だ。
麦野はそんな物理の常識を超越する。人間の五感、理性においては矛盾するはずの二つの特性、
それをコントロールするのが最も上手い能力者が、麦野沈利だった。
御坂美琴とて相当の手練であり、実際研究所のセキュリティはまるでハッキングに気づいていなかった。
だが、その美琴に、自らが監視されているのを気づかせないだけの実力が、麦野にはあった。

「ねえ、例えば、自分のクローンが突然目の前に現れたら、どう思う?」
「気持ち悪ーい」
「超嫌ですね」
「私は、あんまり気にならないかも」

返事はどうでも良かった。一番聞いてやりたい相手は、御坂美琴だったから。
美琴がひったくったものを、麦野もこっそり閲覧していた。
学園都市の『闇』の中でもトップクラスに生ぬるいプロジェクトの、最終報告。
ハン、と麦野は笑う。超電磁砲がアレで満足したんなら本当に脳みそお花畑だ。

「そんなのがもしいたら、ちゃんと本人には伝えてあげるのが、優しさよね」

店先でお気に入りのおもちゃを見つけた、そんな顔を麦野は見せていた。
ニィ、と嬉しそうな笑顔を浮かべて。

学園都市最強の発電系能力者<エレクトロマスター>は御坂美琴だった。
だが、量子の風の使い手、学園都市最強の『電子使い<エレクトロン・マスター>』としては、
第三位、『原子崩し<メルトダウナー>』麦野沈利のほうが上、そういうことだった。
515 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/26(土) 01:03:30.35 ID:dofA1B6Oo
あーまちがえた。三位じゃねえむぎのんは四位だ。
長くなったから分割で、
『interlude06: 能力者を繋ぐネットワーク』
『interlude07: 最強の電子使い<エレクトロン・マスター>』
が終わりって訳よ。
布束さんの口調は改定しとかないとイマイチだなあ。
あと結局超とかそういう表現を出すのはとにかく面倒って訳よ。

次は当麻と光子さんのイチャイチャ分が不足してきたので補充する予定。
それでinterlude終わりにして本編再開かなー
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/26(土) 01:55:19.25 ID:Q9RKu+m8o

ちょこちょこ誤字あるけど疲れてるなら休んだ方がいいぜぃ
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/26(土) 01:58:10.53 ID:U4HOMCBe0
超乙です

このスレはフレ/ンダ好きが多いな
アイテムなら俺はモアイが一番かな
518 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/26(土) 02:39:13.36 ID:dofA1B6Oo
>>516
いつもより多かったかな?
あんまり気にしないでここでは書こうと思ってるのよ。<誤字
表現に手を入れるのってさ、つい読み返しちゃって先を書かなくなる原因だから。
arcadiaで修正するからまあ、ある程度は多めに見てちょ。
それと心配してくれてアリガトー。明日は早朝から知り合いの引越しの手伝いだ。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/26(土) 08:59:29.78 ID:PnJmggJUo
おおう。
なんかねー、超能力って戦闘能力の上下じゃないってのがいいね。
特性と土俵次第でどうなるかもわかんない。
原作でははまづらはそこらへんを徹底的に利用して勝ちを拾ったんだし。
こっちではむぎのんにも優しい未来があるといいなあ。

そしてイチャイチャ分来るのか。それは嬉しい。
楽しみ。ものっそい楽しみ。

乙でした!
520 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/03/26(土) 13:34:46.51 ID:gOeRPLIi0
>>516
いま読み直したんだけど本当に今回ひどいなww確かに疲れてたのかもしれん。

>>517
フレンダが好きです。でも最愛ちゃんはもっと好きです。
フレンダの立ち居地が難しい。仲間を売ったような設定と妹思いな設定があって、感情移入できる側に寄せるか主人公たちと対立的な視点に置くか、扱いに困る。

>>519
麦野と美琴はかなりのとこまで引き分けになるペアかなー。
万能タイプの美琴は基本的に優位だけど、一点集中の麦野に押されちゃう、てな感じで。
ハッキングも量子暗号の絡まない領域でなら美琴の圧勝、でもこの一点では麦野が完勝ってね。
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/27(日) 14:10:41.97 ID:QoEATEQX0
フレ「結局私が一番」

ンダ「可愛いって訳よ!」
522 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/27(日) 18:55:45.70 ID:DnB6+VJ8o

「これとこれは、もう要りませんわね。勿体無いですけれど、仕方ありません」

確認するように光子は自室でそう呟く。
もうじき黄泉川家へと引っ越すので、その荷造りの前段階、要らないものを捨てる作業に入っているのだった。
光子に割り当てられたスペースはここの半分くらいだ。
それなりに私物は捨てるなり、実家に送るなりしなければならない。

「せっかく揃えましたのに……。飾るスペースがないのでは仕方ありませんけれど」

大きな棚を埋め尽くすように静かに座った西洋人形たち。
光子の部屋にはもう一つ棚があって、そちらには主に文学小説が並んでいる。
棚の端っこには漫画がある。当麻に借りたものと、話を聞いていて気になったものだった。
当麻と同じ物語を共有したのが嬉しくて、ここ最近で一番読んでいるのは漫画だった。
この棚の半分以上は実家に送らないと、黄泉川家には入らない。
一番広い部屋を貰えたとは言え、黄泉川家は庶民向け家族用マンションだ。
そんなところペットのニシキヘビ、エカテリーナのための巣箱とエサ用冷蔵庫、
さらには勉強机まで置こうというのだから、すでにそれだけで手狭だ。
ちなみに光子はベッドも入れようとしたのだが、計画段階で黄泉川に駄目だしをされてしまった。
常盤台の寮で使っているベッドは光子の実家から持ち込んだもので、ゆうにダブルベッド級のサイズだった。
カーペットが敷かれただけの床に直接布団を敷いて寝る、というのが、
布団は畳に敷くものという常識を持っている光子には仰天モノだった。
そのアドバイスに従ったのは黄泉川の一言のせいだ。
曰く。下宿暮らしなら珍しいことでもないじゃんよ。それに、上条はお坊ちゃんじゃないぞ?
あいつと暮らすならこれくらい慣れとかないといけないじゃんよ。
だそうだ。その一言で光子の腹は決まった。
婚后の家が当麻を応援すれば、光子は今と同じ暮らしをずっと出来るかもしれない。
でも、そういうものがなければ、財閥の令嬢の暮らしをきっと当麻は維持できないと思う。
若くて収入がないっていうのは、きっとそういうものなのだ。
惨めな暮らしをしたくないとは思う。本音としてそれはある。
だけど、いつか迎えたい当麻との未来において、あれこれと文句を言うだけのお嬢様になんて、
絶対になりたくない。できるなら当麻と苦楽を共にする、パートナーでありたい。
部屋が狭いくらいで、床に直接布団を敷くくらいで、文句を言うようじゃきっと駄目なのだ。
……ファミリータイプのマンション暮らしよりも新婚生活は貧しいであろうことまでは予想の埒外だったが、
光子はそういう決意を持って、黄泉川家に引っ越すのであった。

捨てるものをまとめて、部屋の隅に置く。
時計を見ると、いつも当麻と電話をする時間だった。
電話は何時間でもしたくなるけれど、大体20分から1時間くらいと決めていた。
会えなかった日は必ず、どちらからか電話をする。
デートをした日は今日の楽しかったことを二人で思い出して、短めに切る。
当麻と同じ屋根の下で暮らした日々のギャップで、一人でいることがいつもに増して寂しかった。
今日はインデックスの通う学校に挨拶しに行ったはずだから、それも聞いておきたい。
光子は鞄に入れてあった携帯を取り出し、なれた手つきで当麻に電話をかけた。
523 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/27(日) 18:56:45.64 ID:DnB6+VJ8o

「もしもし」
「あ、当麻さん。私です」
「おう。元気してるか、光子」
「はい」

受話器の外の喧騒がいつもと違った。アニメらしい爆発音や女の子の声がする。
この時間のアニメではないから、録画だろうか。

「もしかして黄泉川先生のところにいますの?」
「よくわかったな」
「後ろでカナミンの音がしますもの」
「あー、なるほど。いまインデックスが必死だよ。いけーだのやれーだの」

そんなこといってないもん! という声がうっすら聞こえた。

「でも当麻さん、こんな遅くに先生の家から帰るのは危ないですわよ」
「大通りならまだまだ人はいるけどな。でも今日は泊まることになるかもな」
「え?」
「こないだから地震多いだろ? それも不自然なのが。そのせいで対策会議だの資料作成だのが大変らしくて、
 まだ先生帰ってきてないんだよ。インデックスを一人にするのも良くないしさ、帰ってくるまではいようと思って」
「そう、ですの」
「光子?」
「当麻さんは、インデックスと二人っきりですのね。まだ私だってそんなことしてませんのに……」
「い、いや仕方ないだろ? それにインデックスといたって何もないって」
「それは、信じていますけれど」
「だって考えてみろよ。光子と俺が二人っきりだったら、俺は理性保てない自信がある」
「えっ? も、もう! 当麻さんの莫迦。エッチなことばっかり仰るんだから」
「へー? 具体的に光子はどういうこと考えたんだ?」
「知りません! もう」

ちょっと声が大きくなったのを自覚して、光子は慌てて布団にもぐりこんだ。
顔までシーツをかぶって声を漏らさないようにする。

「インデックスに替わろうか?」
「あ、はい。でもカナミンに夢中じゃありませんの?」
「今終わったところだよ。ほれ、インデックス」

途中から当麻の声がインデックスに向けたものになる。

「あ、みつこ?」
「元気にしてますの? インデックス」
「うん。っていうか一昨日まで一緒だったんだからそこから急に変わるわけないよ」
「風邪でもひいていたら話は違うでしょう?」
「風邪とかは大丈夫だから。ねえねえみつこ」
「どうしたの?」
「今日、とうまと一緒にこれから私が通うっていう学校に行ってみたの」
「そうでしたわね。どうでした?」
「学校を経営してる教会は胡散臭すぎてちょっとどうかと思うけど……。
 でも司祭様もシスターの人たちも、あと友達になったエリスも、みんな良い人だったよ」
「もうお友達が出来ましたの?」
「うん。校舎を案内してくれたの。あー、それとね! 聞いてよみつこ!
 当麻が水道から出たホースを踏んだせいで私とエリスの服に水がかかったの!」
「あら、それは災難ですわね」
「私もエリスも服が透けてきちゃって、とうまがジロジロ見てくるし」
「あらあら。当麻さんはやっぱり、当麻さんなのね。どこに行っても、何をしても」
524 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/27(日) 19:00:40.57 ID:DnB6+VJ8o

お、おいインデックスと当麻の戸惑う声がする。
光子は当麻への恨みを書いた心のノートに、この一件をしっかり記録した。
いずれ、電話ではないところできちんと問い詰める必要がある。
インデックスが話してくれた続きを聞いて、再び電話を当麻に替わってもらった。

「当麻さんのエッチ」
「む、替わってすぐがそれかよ」
「だって。一緒にいられないときに当麻さんはすぐそうやって他の女の人と仲良くするんですもの」
「そんなことないって」
「じゃあ今日は他の女の人とは会いませんでしたの?」
「ないない」
「もう……疑いだしたら切りがありませんから、これくらいにしておきます」

この流れで、当麻は布束先輩と美琴に会った話をする勇気はなかった。
実際、別にナンパだとかそういうわけではなかったのだし。

「光子は、今日は何してたんだ? たしか昼過ぎにはあの佐天って子の面倒を見てるってメール見たけど」
「ええ。今日は朝から佐天さんにお会いしていましたの。あの子、今日また一つ、レベルが上がりましたのよ」
「へぇ。たしか一ヶ月前にはレベル0だった子だろ? すごいな、そんなに上がるものなのか」
「才能がおありなんですわ。私と違って」
「そう言う光子はレベル4だろ?」
「……たぶん、レベル3もすぐですわ、あの子。私と肩を並べることも充分ありえると、最近思いますの」

今日佐天は、簡易検査でレベル2認定を受けた。
それは、幅広い知識を身につけ自分の能力を最適化することや、
反復練習によって能力をより深く体に刻み込むことなしに、
とりあえずで取れる点数がレベル2クラスだったということを意味している。
能力を使えるようになって一ヶ月どころか、まだ三週間にも満たない。
『慣れ』という最も強い武器を未だ手にしていない佐天が、あと一ヶ月でどこまで伸びるか。
レベル4に届かないでいて欲しいと、そう嫉妬する自分がいるくらい、佐天は先が知れなかった。

「あの子みたいな方を、たぶん、天才というのですわ」

いい師だと自画自賛するのは気が引けるが、おそらく、彼女は指導者にも恵まれたのだろう。
ほんの少しの間に学べたことが、あれもこれも、能力を伸ばすのに活きている。
同時に心配の種でもある。これからは、むしろ花開くまでに時間の掛かる知識を詰め込む作業になる。
今までの伸びが急激なだけに、伸び悩みに屈しない気持ちの強さを持てるかどうか、それが問題だった。

「天才……か。そう言うって事は、光子もライバルって意識し始めてるのか」
「そうかもしれません。最近、私自身は伸び悩んでますの。だから余計に」
「そっか。ま、能力は人それぞれ。誰かと競争するものじゃないしさ、あんまり気にするなって」
「ええ。そうですわね」

それで良いと思う。光子も最近気づいたのだが、よく考えれば光子は誰とも競ってなどいないのだ。
自分の能力、可能性を広げたい、その思いでこの街にいるのだから、他人は関係ない。
学園都市は競争原理を持ち込んで能力者の開発をしていて、
小さい頃から先生に誰彼より上手い、下手だなどと言われなれているせいでつい引きずられてしまうが、
仮にレベルが0のままだったとして、別に、誰かより劣るなどと考える必要はないのだ。
本当にこれっぽっちの劣等感も感じさせず、レベルで人を測らない当麻を、光子はとても尊敬していた。
自分には中々それが出来ないがゆえに。
525 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/27(日) 19:02:12.22 ID:DnB6+VJ8o

「俺もレベルが上がれば生活は楽になるから、それだけは羨ましいんだけどなあ」
「ふふ。でも当麻さんみたいな『原石』の方には、レベルという概念自体が無意味なのかも知れませんわね」
「原石?」
「そういう名前が付いていると、常盤台指定のヘアサロンで耳にしましたの。
 学園都市に来るより前から、何らかの能力を身につけていた人のこと、らしいですわ」
「へー。たしかに俺、その定義のとおりだな」
「私達が養殖で育った能力者で、当麻さんが幻の天然超能力者、ということなのかしら」
「なんかそれ全然嬉しくないぞ。ブリか鯛みたいだ」
「ごめんなさい。でも、原石なんて意味深ですわよね」
「え?」
「だって、磨けば光る、ということではありませんの? 当麻さんの能力も、もしかしたら」
「んー……、別に、昔っから何も変わらないけどなあ」

あまり興味なさそうな当麻だった。
電話している時間はかれこれ20分くらいだろう。
布団の中に篭もっている光子のほうが、実はいつも先に眠くなるのだった。
当麻の声を聞いた後、そのまま眠るのが習慣になっていた。

「ねえ、当麻さん」
「どうした? 光子」
「明日、お暇はありますの?」
「特に予定はないけど、宿題やらないとな」
「もし、よろしかったらですけど、常盤台の寮祭にいらっしゃいませんこと?」
「寮祭?」

光子は、今日佐天に言われて思い出したことを、当麻に伝えた。
盛夏祭は学び舎の園の外にあるほうの寮でやるイベントなので、あまり興味がなかったのだ。
だが、当麻に会える唯一の手段となれば話は別。

「私も忘れていたんですけれど、明日は寮を外部の方に公開する日なのですわ。
 インデックスも暇でしょうし、それに」
「そこなら、俺と会える?」
「……はい。当麻さんの顔が、見たくって。来てくださいませんか?」
「勿論。俺も、光子に会いたいからさ」
「当麻さん」

光子はベッドの中で目を瞑る。布団の暖かみを当麻の抱擁に重ねて、抱きしめられているときを思い出す。
526 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/27(日) 19:04:36.88 ID:DnB6+VJ8o

「好きだよ、光子」
「私も。大好きですわ、当麻さんのこと」
「じゃあ明日はデートするか。常盤台の寮で」
「は、恥ずかしいですけれど……。そこでしか、会えませんものね」
「佐天って子も来るのか?」
「ええ。時間があったら紹介いたしますわね。あと、湾内さんと泡浮さんも」
「おー、話にしか聞いてなかった光子の友達と会えるんだな。楽しみだ」
「私じゃなくて、私のお友達の女性と会えるのが楽しみですのね」
「光子が一番なんて、言うまでもないことだろ?
 受付なんだったら、出会い頭にそこでキスでもしようか?」
「だ、駄目ですわ! そんなの恥ずかしすぎて死んでしまいます! 大体当麻さんだって、恥ずかしくて出来ないくせに」
「さすがに人前ではなぁ。だから光子、人のいない場所、探しといてくれよ」
「え?」
「会ってキスの一つもできないんじゃ、寂しいだろ?」
「……はい。わかりました」
「ちなみに人前で手を繋ぐのは?」
「あの、ごめんなさい。先生に目をつけられると、困りますから」
「そうか、それじゃあ、人前ではあんまりそういうのできないんだな」
「ごめんなさい」
「いいって。光子、声がだいぶ眠たそうだけど、もう寝るのか?」
「あ、はい。もういい時間ですし、このままがいいです」
「そっか」

当麻が歩く音がした。
ガラガラとベランダの窓を開く音がして、家の中の音が遠ざかった。
理由はなんとなく分かった。きっと、恥ずかしいのだろう。

「光子」
「はい」
「愛してる」
「ぎゅって、してください」
「ぎゅーっ。……はは、光子可愛いな」
「当麻さんのためだったら、いくらでも可愛くなりたい」

目を瞑って、当麻に抱きしめられているつもりになって、話をする。
話の中身だとかには僅かに差異があるが、この中身のない甘甘のピロウトークはほぼ毎日の、寝る前の儀式なのだった。

「こないだ町で俺の同級生に会っただろ? アイツ、あれから羨ましいしかいわねえんだよな」
「そうですの」
「正直、光子と付き合ってなくて、光子みたいな可愛い子の彼氏やってる友達見たら、羨ましいしか言うことないと思う」
「嬉しい。もっと褒めて、当麻さん」
「光子は最近可愛くなった。なんか、甘え方が上手になった気がする」
「ふふ。ずるくなったとは言わないで下さいましね?」
「ずるくても可愛いからいいよ」
「じゃあ、もっとずるくなりますわ。……ねえ当麻さん、外は暑いでしょう?
 そろそろ私は寝ますから、当麻さんも部屋にお戻りになって」
「ああ、じゃあそうするな。光子、お休み」
「キスして、下さい」
「ん」

ちゅ、という音が耳に聞こえる。キスを聞かせるのが、互いに随分と上手くなった。

「光子も」
「はい」

耳に当てていた携帯を目の前において、音の受信部に口付けをする。
自分の気持ちが全部、当麻に伝わるようにと願いながら。

「光子、愛してる」
「私も。当麻さん、愛してます」
「それじゃあ、おやすみな」
「はい、おやすみなさいませ」

電話を切るのは、いつも当麻のほう。寂しくて切れない光子のかわりにやってくれる。
もちろんそれは寂しいことでもあるが、光子はいつまでも余韻に浸っていられる。
寝る準備は、もう済ませてある。
光子はベッドの中から出ることなく、リモコンで明かりを消して、眠りに付いた。
当麻が傍にいてくれる光景を、心の中に浮かべながら。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/27(日) 20:26:10.05 ID:3TzMFSh6o
甘甘だー!
いやんもう光子さん可愛い!

そしてストロベリってる中でもさりげに原石についての言及ががが。
色々と考察されてはいるけど、独自?解釈が楽しみです。
いや、別にそっちは放置でもかまわんけどww

次回は佐天さんと上条さんの邂逅かー、楽しみ。
佐天さん、もうレベル3が視野に入ってるのか。すげえな。

次回も楽しみにしてますー。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/27(日) 20:34:44.71 ID:7qqeDiAzo
みっちゃんかわゆす
まったく当麻め・・・
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/27(日) 20:40:31.21 ID:hBvHzaKKo
おい
これは美琴との修羅場フラグだろ
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/27(日) 20:40:41.38 ID:II++SqJ7o
レベル5は自分の稼ぎで結構金あるみたいだけど、レベル4だとどんなもんなんだろうね。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/27(日) 20:41:54.22 ID:hBvHzaKKo
>>530
レベル5もレベル4も奨学金でしょ?
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/27(日) 20:54:20.39 ID:II++SqJ7o
実験に協力してお金もらってるのは二次設定だったっけか?
失礼。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/03/27(日) 21:00:33.98 ID:asHHS8rAO
>>529
いや、原作の科学と魔術のごとくニアミスするフラグかもしれん
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/03/27(日) 23:38:08.94 ID:ZVan7DqF0
乙です!
エロいっすね!あと可愛いですね!もうエロ可愛いですね!

アニメの婚后さんより可愛い!乙女!
535 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 01:31:25.29 ID:do/FF4yno

あと、1プッシュ。それで届く。

ディスプレイに映るのは、
『今日はありがとね。あなたのおかげで、すぐに布束さんが見つかったし、問題も解決しました。
 お礼って程じゃないけど、もし明日暇なら、常盤台の寮祭に来ませんか?
 もしよかったらだけど、来てくれたら案内くらいはします』
というメッセージ。ホントに、ガラでもない。
アイツに敬語なんて使ったこと、一度も、いや、布束に言われたとき以外にはないのに、
なんでこんな丁寧な表現のメールにしたんだか。
理由は、今日の夕方のやり取りだった。アイツには、常盤台の知り合いが他にいるらしい。
その子はきちんとした言葉遣いで話すらしい。まあ常盤台ならそのほうが普通だ。
年上の男の人なんだし、生意気にアンタなんて呼ばれてうれしい事は無いと思う。
だから、お礼のメールくらいはちゃんとしたほうがいいのかな、とか、
でもいつもとギャップがありすぎたら絶対笑われるし、本音の部分では軽く見ているのだと思われるのは嫌だ。
黒子にばれないように何回も分けて推敲を重ねたのに、送らないのも勿体無いわよね。
……まあ、あのバカに寮祭なんてそれこそ勿体無いかもしれないけど。
お嬢様の多い場所で鼻の下なんか伸ばしたら承知しないんだから。

ルームメイトの白井は、今ちょうど入浴中だ。何をするにも、今ならばれない。
扉の向こうの音は、ちょうど髪か体を洗い流しているらしいシャワーの音を立てていた。

「やっぱり、電話にしようかな」

誰にともなく、そう呟く。電話なら言葉遣いで戸惑うことなんてない。いつもどおり喋ればいい。
頭の中で会話をシミュレートする。
『もしもし』『御坂美琴です』『おうビリビリか』『今日はありがとね。ねえ、明日うちの寮に来ない?』
『え? 何しに?』『寮祭があってさ、その、案内くらいはするから』

「ああもう……。お礼に寮祭って絶対変じゃない。別に来てもらったって大してお礼は出来ないし。
 ってかアイツにお礼するほどのことしてもらってない!」

それならそもそも当麻を誘うという発想自体が要らないのだが、その考えに美琴はたどり着かない。
急にメールの内容まで陳腐に見え出して、送信ボタンを押す勇気がまた萎えてしまうのだった。

「『ウチの寮祭に興味ある?』っていうのは……なんか『はい』って言われても下心が見えてイヤ。
 かといって明日寮に来なさいって命令するのは全然話が通ってないし……」

ごろごろとベッドの上を転がる。
『明日よかったら、ウチの寮祭に来ない? 案内するから』ではどうだろう?

「駄目駄目。こんなんじゃ私がアイツに来て欲しいみたいじゃない。――――そんなわけ、ないんだから。
 っていうか、私の誘いなんか、むしろ断るほうが普通よね。追い回してばっかりで、仲良くなんてしてこなかったんだし」
536 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 01:32:37.01 ID:do/FF4yno

断られたときをシミュレートしようとして、1ケース目で挫折した。
『よかったら明日、寮祭があるから来て』『悪い、忙しいんだ』『そっか、ごめんね?』『おう、じゃ』
この反応ならいいほうだ。せっかく誘ったのに、断られたら怒ってしまうかもしれない。
『来て』『忙しい』『せっかく誘ってやってるのに何よその態度!』『はあ?』
……こうなるとお終いだ。次に会ったときにもうこれまでどおりには話せなくなる。
電話をするからには、疎遠になんてなってはいけないのだ。

「やっぱりメールにしようかな……。でも、男の人にどれくらい顔文字とか付いたメール送っていいかわかんないし。
 それに黒子とでも内容の取り違えで喧嘩するんだから、アイツとならなおさら……。
 よし、腹をくくれ御坂美琴。ただ電話をちょろっとかけるだけじゃない。ハッキングと違って、緊張なんか要らないのよ」

メールを保存して、アドレス帳を開く。上条当麻という名前の検索は10回以上はしたので、慣れたものだ。
あとは、これまた1プッシュで当麻に電話が繋がる。

押せ押せ押せ押せ。あとそれを押したら、もう後はなるようになるに決まってる!
たかが寮祭にちょっと誘うだけじゃない! つまんないことでウジウジするのは私らしくない!
ほら、さっさと指、動いてよ! 動けっつってんのよ!

力の入らない親指を、コールボタンの上に乗せた。あとはぎゅっと押し込むだけ。
左手を上から添えて、出力不足を補う。
これを押して、アイツを誘って、寮の中を案内したりお昼ご飯を二人で食べたり、
その後のヴァイオリン独奏を聞いてもらったりするだけじゃない!
別に変な意味なんてないし、さっさと電話すればいいのよ!

「もう一度息を吸ったら、ボタンを押す!」

それは自分への宣言だった。残った息を肺から追い出す。
急に仕事をしだした心臓に苛立ちを覚える。なんで緊張してるみたいにドクドク言うのだ、今このタイミングで。
スゥゥゥゥゥ、と美琴は息を吸い込んだ。
もうどうにでもなれ、と思いながら親指にグッと力を込めて――――

「ああ、いいお湯でしたわ。お姉さまも早くお入りになったら……って、何をしていますの?」
「なななななななんでもない! 別に何もしてない! ちょっと携帯弄ってたらベッドから落ちただけ!」
「だけ、って。それは充分おかしなことだと思いますけれど。
 それでお姉さま。まだ入られないんでしたらお風呂のライトを消しますわ」
「入る入る! すぐ入るからそのままにしといて!」
「はあ。……まあ、言われた通りにはしますけれど」

テンションが高いというか、やたらめったらに慌てている美琴にいぶかしみながら、黒子は体を流れる水の雫をぬぐった。
美琴は開きっぱなしの携帯をベッドに上にぽんと放り出して、パジャマと下着の準備を始めた。
537 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 01:37:04.76 ID:do/FF4yno

「もしもし? なあ、返事してくれビリビリ」

返事がない。ただのいたずら電話のようだ。
……とはいえかけてきたのが御坂美琴なのは電話番号で分かっているので、いたずらなのかもよく分からない。
何かの緊急事態かとも一瞬身構えたのだが、
後ろで、『お姉さま、ご一緒させていただきますわ』『黒子アンタいま入ったところでしょうが!』
なんて平和な声が聞こえるので、どうもそういうわけでもなさそうなのだ。

「ねーとうま。またみつこから電話?」
「いや違う。光子は寝たからな」
「じゃああいほ?」
「いや、先生もいい加減電話くれても良いと思うけど……今のは違う」
「じゃあ誰」
「まあ、知り合い、かな」
「女の人だよね」
「え?」
「とぼけても駄目だよ」

インデックスに、なぜか睨まれている。
それなりに遅い時刻に女の子から電話を貰ったというのは、
光子になら謝らなければならないような気もするが、
インデックスには、こう言ってはなんだが関係ない。

「言っとくけど、俺からかけたんじゃないぞ。それに御坂のやつ、
 かけてきた癖に出やがんねーんだよ。わけがわかんねえ」
「ふーん。……浮気じゃ、ないんだよね」
「当然だ。ってかあっちも俺のことなんて別に気にしてないだろうさ」
「ならいいけど」
「俺と光子が喧嘩したら、心配か?」

インデックスの髪を撫でてやる。
お風呂上りだからか、乾かしたものの僅かに湿りを帯びて、柔らかい。

「当たり前なんだよ。みつこは、とうまに嫌われたら絶対に落ち込むもん」
「いや、俺も光子に嫌われたら本気で落ち込むけど」
「とうま、やめよう。そういうの考えるの嫌だよ」
「だな」

くぁ、とあくびしたインデックスが、ソファに座った当麻の隣に腰掛け、そのままぽてんと倒れた。

「眠いなら布団に行けよ」
「まだ起きてる。あいほが帰ってこないし」
「そういいながら俺の膝を枕にするな」
「しらないもーん。とうまだからいいの」

腰に手が回されて、ぎゅっとインデックスがしがみついた。
テレビの音量を落として、髪を梳いてやる。ものの数分でインデックスは落ちたようだった。
まるで子供をあやしながら夫の帰りを待つ主夫みたいだな、と自分の境遇を自嘲しながら、当麻は黄泉川を待った。
538 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 01:44:59.53 ID:do/FF4yno
光子さんと美琴さんと対比がね、こう泣ける。

>>529 >>533
さぁどっちでしょうねぇ。なんにせよ明日は寮祭なのですよ! 当麻と光子と美琴が一つの敷地内に!

>>530-531
俺の勝手な設定なんだけど、レベルに応じた基本の奨学金がまずあって、
これだけならそこまで大した金額の差にならないけど、
レベルが上がると色んな研究に参加するようになって、
プロジェクトのほうからお金が出る、と俺は考えてる。
そしてそのお金も、給料扱いすると子供に労働させてることになるから、
形式としては奨学金という体裁をとっているはず。
なので高レベルになると奨学金を稼げる、という設定。
原作だとそのへん曖昧だね。たしか。

>>534
アニメの婚后さんは脇役だからギャグ担当だけど、このSSじゃメインヒロインですからなあ。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/28(月) 02:18:05.24 ID:p6aIc8qa0
>まるで子供をあやしながら夫の帰りを待つ主夫

アッー!濃厚なホモシーンを想像してしまったww
ビリビリこんなに可愛いのにふられるのか…
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 11:56:56.62 ID:4VtCqT8DO
今までの態度が可愛いとは言えないし、上条さんはもう彼女いるしフラれるんじゃないか?
541 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 11:59:22.85 ID:do/FF4yno

「佐天さーんお邪魔しますよー、って、寒っ!! なんですかこれ?!」
「あ、ういはるー。いらっしゃい」

今日は、七月の終わり。冷房のない外はうだるような暑さで、
当然のことながら初春は半袖のシャツとスカートという夏向きの軽装である。
ところが初春を招いた佐天はと言うと、モコモコの半纏を着て、季節外れのコタツに入っているのだった。

「なんでコタツが出てるんですか……」
「え、なんでって。鍋にはやっぱコタツでしょ?」
「そもそもこの季節に鍋っていうのが分からなかったんですけど」

初春はさっき電話で、鍋するからうちにおいで、と佐天に誘われてきたのだった。
突拍子もないことを考える友人なのは知っていたから、夏に鍋ということはさては相当辛いヤツか、
と覚悟していたのだが、どうやらおかしいのは鍋じゃなくて室内温度のほうだった。
電気代が、すさまじいことになっていると思う。

「エアコン何度にしてあるんですか?」
「ふっふーん、エアコンは切ってあるよ」
「え? じゃあ」
「うん。窓から熱だけ追い出してる」

窓を見ると半開きになっていて、それをハンパにふさぐようにダンボールが目張りされている。
窓の上下二箇所が開いた状態になっていて、どうやらそこから換気扇みたいに空気をやり取りしているらしい。

「片方の口から部屋の中の空気を追い出して、もう片方から外の空気を入れてるの。
 んで、外の空気は取り込むときに熱だけ私の渦の中に溜めておいて、一杯になったら外に捨てるって訳」
「こないだも人間エアコンやってましたけど、なんか随分性能上がりましたねー……」

この前は、室内で渦を作って、佐天が窓際に歩いていって渦を捨てる、という動作を必要としていた。
今日はどうやら、窓のところに定常的な渦を作って、それを制御しているらしい。
ぶるりと初春は体を震わせた。エアコンの設定温度なんてどれだけ頑張っても20℃くらいのものだが、
この部屋の温度は、どう考えてもそんなレベルじゃなかった。

「ほら見て初春。なんかキラキラして綺麗でしょ?」
「え、ちょっ……佐天さん! それダイヤモンドダストです! 冷やしすぎですよ!」
「え? ダイヤモンド?」

知らずに作っている同級生に初春は頭痛を覚えた。
道理で寒いはずだ。まさか、氷点下とは。高い湿度、緩い風、確かに好条件は整っている。
すでに準備が終わっているらしくコタツの上にはガスコンロと切った野菜、そしてお肉が並んでいる。
電灯付近でキラキラ瞬く細氷のせいで文字通り肉が霜降りになりかけていた。
ここで夏服の自分が過ごすのは、どう考えても無理というか無茶苦茶というか。
542 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 12:00:16.96 ID:do/FF4yno

「ほら初春。そんなカッコじゃ風邪引くよっ」
「あ、ありがとうございます。じゃなくて佐天さん! 何もこんなに冷やさなくても」
「え、でも今からお鍋だよ? 寒いほうが美味しいじゃん」
「やりすぎです! 佐天さんのご実家だって、まさか氷点下の室内でお鍋なんてしないですよね?」
「当たり前でしょ。それに空気は寒いんだけど、床とかが全然あったかいんだよね。だから大丈夫」
「あ、ホントだ……」

佐天は空気なら冷やせるが、他のものは間接的にしか冷やすことが出来ない。
真冬の建物は真冬並みの温度になっていてすこぶる冷たいものだが、ここはそれとは違い、
地面なんかは真夏の温度から冷えていっているところなのだ。
地べたに座り込んでも、腰が冷えるような感覚は覚えなかった。
……意外と、いいかもしれない

「じゃ初春、さっさとご飯にしよっ。私のこの能力も、長くは持たないし」
「あの佐天さん、食べながらコントロールするって大変なんじゃ」
「んー、でも毎日やってるからね。もう慣れたかな?」

佐天は今月の電気代を見るのが楽しみだった。
エアコンを自分が肩代わりすると全くといっていいほど電気が要らないので、
恐らくは春先よりも電気代は下がるだろう。自己最安値を更新するだろうと見込んでいた。
エアコン修行は、何気に一番お気に入りの修行だった。
帰宅から就寝までの5時間くらい、常に冷やさないとあっという間に室温は上がるし、
お風呂上りを涼しくしたいなら入浴中も能力を保たないといけない。
そして渦の形や熱吸収の効率など、工夫するポイントはいくらでもある。
……それが本当はレベル1の能力者にとってどれほど過酷なはずの修行なのか、
アッサリと今日、レベルアップを果たした佐天にはまるで分かっていなかった。

「実用性のある能力が使えたらレベル3っていいますけど、佐天さんってもうその域にあるんじゃ」
「うーん、でもエアコンのほうが疲れないわけだし、実用性って言われると微妙じゃない? あ、でも、ほら」

佐天は財布からIDカードを取り出した。光子は交付は明日だと言っていたが、面倒見のいい担任が、
今日のうちに認可して、カードを作ってくれたのだった。レベル2と刻印された、佐天のカードを。

「えっ……? レベル、2?」
「うん。今日、上がったんだ」
「すごい! すごいじゃないですか佐天さん! こんなにあっという間にレベルがまた上がるなんて。
 これちょっとした話題になるレベルですよ。大ニュースです!」
「あは。ありがとね、初春」
「ゆくゆくは御坂さんを超える逸材に……」
「ちょっと、それは無理だって。御坂さんレベル5だよ?
 レベル2になっても大人と子供くらいの差はあるんだから」
「じゃあ白井さん超えで」
「いやレベル4もあんまかわんないでしょ。そういうことは、もっと伸びてから言わないとね」

謙遜する佐天を初春は見つめる。レベル4の白井に並ぶことを、無理とは言わなかった。
さすがに学園都市で7人なんていう超エリートは見据えていなくても、
佐天は今、とても高い場所を見つめている。憧れではなくて、手の届く場所として。
そんな風に親友が前を向いてくれてるのが嬉しかった。

「佐天さん。お腹すきました。晩御飯食べましょう」
「だね。じゃあ、ささっと用意するから」

足が冷えてきたのでコタツにもぐりこむ。
真夏に半纏とコタツで鍋をする、というのも、意外と悪くないものだと初春は思った。
543 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 12:03:10.23 ID:do/FF4yno
>>539
アッー! しまった間違えたw

>>540
まあ、二股はかけられないしね。
544 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/28(月) 12:05:49.44 ID:do/FF4yno
『interlude08: 電話をする人しない人』おわりです。
次からはホントに寮祭ですー。
女の園で上条さんはやっぱり上条さんだなあと再確認することになるような予感!
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/03/28(月) 12:09:55.90 ID:/1vpHBYPo
霜降り違うww
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/03/28(月) 15:43:02.78 ID:8l73+FqH0
御琴もかわいいけど、それいじょうに婚妃さんがかわいい
完全に新婚夫婦すぎてさいこうだ
初春と佐天さんも負けず劣らずだけどww
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 17:24:21.55 ID:6Y42jEXqo
あれ?
初春と佐天さんって同室じゃなかったっけ???
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/03/28(月) 18:14:45.44 ID:XAYkh6PZ0
人間冷凍庫になってもレベル2なのか…

レベルが上がったらルートサイクロンの掃除機みたいに、人間掃除機になったり
降ってくる雨水を一か所に集めて傘いらずの暮らしをしたり出来るのだろうか
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/28(月) 18:38:33.15 ID:0LO4CpRw0
SATEN-3
電力の要らないただ一人のエアコンです
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/28(月) 19:13:48.49 ID:6Y42jEXqo
空気操れる能力者ならできることなんじゃね?ww
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/03/28(月) 19:18:00.91 ID:UL9AmO4mo
>>547
違う
で、後に春上さんが初春と同居
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/28(月) 19:22:26.67 ID:6Y42jEXqo
>>551
そうだっけ(´・ω・`)
もう一回アニメみなおして来ます
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/03/29(火) 01:22:39.24 ID:f41mZoP80
ところでこの佐天さんの能力の射程距離というか、渦を自分から離して制御する限界距離はどのぐらいなの?
能力維持したまま入浴とかを考えると数メートルはありそうな感じだけど
554 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/29(火) 01:25:16.53 ID:5+JJIqZGo

「光子」
「当麻さん! 会いたかったです!」
「ん、俺もだ」
「おはよ、みつこ」
「インデックスも来てくれましたのね」
「とうまが遊びに行くのにおいてけぼりはやだもん」
「あの、こんにちは」
「ええと、ごきげんよう」

昼前の、常盤台中学女子寮。
二つあるうちの、光子たちが今いるのは学び舎の園の外にあるほうだ。
普段光子が暮らしているのはこことは別で、美琴や白井が住む場所となる。
今日は盛夏祭、つまりこの女子寮の寮祭で、一般に対して寮が開放される日なのだった。
光子は朝から、入り口で受付の仕事をしていた。当麻が来るというので急遽引き受けた仕事だ。
ここなら絶対に当麻に会えるので、好都合だった。実際、一目見ただけで光子は心が躍るのを感じていた。
……そして光子が戸惑いながら挨拶を返した相手についてだが。

「昨日知り合ったばかりなんですけど、インデックスが遊ぼうって言ってくれたからついてきました。
 この子が二学期から通う学校の生徒で、エリスって言います」
「インデックスがお世話になりますのね。こちらこそよろしくお願いしますわ。
 私の名は婚后光子と申しますの」
「はい、お二人から色々伺ってますよ。上条君の、彼女さん……なんだよね?」
「ええ、そうですわ」

にこやかに会話をするエリスと光子の隣で、当麻はぶるりと震えた。
いつもの五割り増しで愛想を振りまく光子の顔が、明らかに怒っている時の笑顔だった。

「あらあら当麻さん。初対面の私達をほったらかしにして他の女生徒に目移りなんて、
 よっぽど当麻さんったら私じゃ退屈なのかしら」
「えぇっ? いや、そんなことないって!」
「……ふふ。上条君は婚后さんに頭上がらないんだね」
「う、茶化すなよ、エリス」
「あはは。ごめん」
「……本当、当麻さんはどこでも女の人と仲良くなってくるんですから」

面白くなさそうに光子が呟いた。

「本人の前でいうのもアレだけど、エリスとはなんでもないって。第一、エリスには惚れてる相手がいるし」
「もう! 上条君、ていとくんのことを言ってるって分かるけど、そういうのじゃないよ。私とていとくんは」

ちょっとエリスは光子に申し訳なく感じていた。そりゃあ彼氏が知らない女と一緒に歩いていれば気に入らないだろう。
エリスが同伴した理由は、第一には教会に取りに来てもらう予定だった書類を届けることになったついでだからというのと、
本音としては垣根と二人で夕方の街を歩く前に、女の子の知り合いがいるところで、日中に出歩いておきたかったから。
垣根には悪いが、一番初めが男の子と二人っきり、というのは、やっぱり怖いのだった。
その点、インデックスとは話しやすいし、同伴の上条は彼女持ちだからエリスをそういう目で見ない。
そんなこんなで、急遽、光子には不本意であろう形で話が決まったのだった。

「みつこ。その、エリスは私が連れてきただけだから。今回はとうまは悪くないんだよ」
「もう。みっともないって分かりましたから、あまりフォローもしないで頂戴」

エリスに嫉妬して当麻と光子の空気が悪くなったのを察したのだろう。
今回に関してはその一因を担っているインデックスが、一言挟んだ。
その状況を察したのだろう。エリスがインデックスに声をかけて、当麻から少し距離をとるようにしてくれた。

「当麻さんの莫迦」
「む、俺は光子以外の女の子に愛想振りまいたりなんてしてないぞ」
「じゃあどうして女性の知り合いが増えますの?」
「どうしてって、たまたまだよ。……ところで光子、受付、しなくていいのか?」
「えっ?」

名前くらいしか知らない、受付担当の生徒達が興味津々と言う顔で光子たちのほうを見ていた。
慌てて光子は当麻と距離をとった。
555 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/29(火) 01:37:02.75 ID:5+JJIqZGo
>>546
この新婚らしさは当分続くんだぜb

>>550
空力学で発熱はあんまり意識されないのよね。
マッハ超えしないと空気の圧縮性は関係なくて、熱は関わってこないから。
なので普通の空力使いはエアコンは無理だと思う。そのかわり佐天より扇風機になるのは上手い。
学問で言えば空力学よりは熱力学のほうが佐天さんには重要ですからなぁ。

>>547
>>551のとおりだな。むしろ佐天さんが相部屋なら誰と同居してるのかが気になる。一人なのかな。

>>553
ちゃんと決めてるわけじゃないけど、一度渦を作ってしまえば、数メートルくらいは余裕かなー。
もちろん規模とのトレードになるけどね。制御性は。
壁越しで見えないところに、最大威力の渦を維持することはできないつもり。
ちなみに五感で認識できない空間に渦を発生させることは出来ない。
壁の向こうとかには渦は作れない。維持は出来るけど。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 02:10:01.30 ID:oIk779IDO
佐天さんと相部屋の人はいないと思う
幻想御手を使って倒れた時部屋に誰もいなかったし
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/29(火) 02:12:51.78 ID:HfE26d1C0
なんかこの佐天さん、第四波動に目覚めそうだw
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/29(火) 02:22:19.42 ID:OqD5cdsfo
上条遺伝子のXY型は尻に敷かれる運命なんだな
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/29(火) 12:03:26.75 ID:PGFfEPQg0
上条は自分から荒事に首突っ込むし、フラグ体質もあるから
手綱取ってもらった方がうまくいくと思う
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/03/29(火) 17:20:30.55 ID:+CQ+ESNco
光子は佐天さんにちょっとした危機感を感じてもいるようだけど、もうこれ以上は伸びないのかしら?
互いに刺激し合うようなさらにいい関係にもなり得ると思うけど
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 17:35:29.67 ID:Vwe4zxLhP
将来的にはそういう関係になるのも見据えてたとしても、
ついこないだまでレベル0だった人間が短期間で自分に追い付きそうだったら危機感も覚えるかと
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/29(火) 22:40:35.87 ID:wqVJh8k8o
更新乙ですた。
しかしあれやね、上条さんの配偶者になるとしたら
自覚なく乱立しやがるフラグを一つ一つ丹念にへし折り、
寄ってくる虫を除虫しなきゃあいけないんだろうなあww
まだ相手が初心なおにゃのこだからいいけど、これは将来大変そうww

まあ、光子さんは実験とかでルーチンで精神が磨耗することもないだろうから
その意味では安心かもしらん。

次回も楽しみにしてますよー。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/29(火) 22:46:22.07 ID:L6j0ICF/o
>>562
そこら辺はまぁ詩菜さんからノウハウを伝授されるんでしょう
夫婦喧嘩で辺りの物を手当たり次第投げる方法とか
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/03/29(火) 23:38:21.96 ID:mTTzEEbAO
光子さんがやったらちょっとシャレにならないことになるな
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/30(水) 00:20:18.05 ID:kHoIshMYo
Flying刀夜さんか…
566 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/30(水) 23:23:15.73 ID:OmIYzOCso
>>556
やっぱ一人だよね。マコちんとかアケミとかはルームメイトじゃないよね。

>>560
伸びないわけじゃないけど、佐天さんと比べるとどうかねぇ。
婚后さんは美琴と同様、秀才だと思って俺は書いてる。
天才、佐天涙子とくらべるとどうかねー

>>563-564
はやく詩菜さんと光子を会わせたいw
きっと幻想殺しがあるのをいいことに、音速で手当たり次第にものをぶっぱなすんだろうなぁw

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/30(水) 23:27:01.47 ID:ZprCtYDoo
>>566
婚后光子は佐天涙子の師匠だったと語られるということですかわかりますんww
光子さんはそれでも心が折れないと信じたい。
むしろ、生粋の天才を目の当たりにしてそれすら自らの肥やしにしてくれそう。

そして光子さんと詩菜さんの邂逅は楽しみすぐるwwwwwwww
互いにフラグ建築士の配偶者を持ち、排除に勤しむ同志だww
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/30(水) 23:27:13.37 ID:yd84iaNPo
理想ってのは自己完結したら終わりやねん
569 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/03/30(水) 23:29:41.58 ID:OmIYzOCso
>>562
そう言う意味で、安定した恋人関係を続けられるかは難しいとこやね。

>>557
もともとはこのSS,佐天さんの話をする予定はなかったのよ。
光子さんとのイチャイチャを数話書いて終わるつもりだったからさ。
でも第四波動ネタを知って、科学的に整合性を持たせながら、
佐天さんの成長物語を書くのもいいかなぁって。
だから第四波動に似てるのは仕様です。

ちなみに佐天さんの開発話を書くのに、影響を受けたSSがあってね。
原作違うから紹介するのもアレなんだけど、
Fate/stay nightのSSでBrilliant Yearsってのがあるのよ。
UBWルートの後日談で、ロンドンに主人公達が留学した後の話なんだけど。
これが物凄く丁寧に、研究チックな話をしててなあ。
しばらく前に閉鎖して読めなかったんだけど、Internet Archiveってサイトで読めることを知って、
昨日から読みふけってる。……続き書かなくてすまん。
元ネタが分かる人はすごくオススメよ。まあ、完結しないまま終わっちゃったんだけど。
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/30(水) 23:35:50.55 ID:UX2ZYyW5o
上条両親に当麻&光子がご挨拶

例によって刀夜さんが光子にフラグ構築

詩菜さんが「あらあら刀夜さんたらまたなのかしら(怒」
は当然として
当麻まで「今俺は確信した俺の親父は(略」となって

まで妄想した
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/30(水) 23:35:54.57 ID:ZprCtYDoo
>>569
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
それ、それものっそい好きなSSだああああああ!
あの、丹念な研究の描写はすごかった!
そっかー読めるのかサンクス!
あれはイン ブリテンと並んで初期fate ssの最高峰と勝手に思ったりー。

>>1が筆を折る日が来ないことを
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/03/30(水) 23:37:42.27 ID:ZprCtYDoo
途中送信失礼

このSSシリーズが完結して欲しくもあり、続いて欲しくもあり。

次回も楽しみにしておりまするるるー
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/03/30(水) 23:42:34.74 ID:uOR3Cn300
おいおいいつまでも続いてほしいんだぜ?
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 19:26:53.10 ID:su+WI4e+0
よく練りこまれてるなー
二次創作は原作ありきとはいえこれは凄い
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/03/31(木) 19:43:30.12 ID:kpyjY6ME0
正直読んでて原作よりもワクワクするからな
無駄だと分かっていても待ちどうしくてつい何回もスレをチェックしてしまう
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/31(木) 23:14:13.51 ID:ujixzblT0
>>1

できればBrilliant YearsのURLを貼ってくれない?
いや貼ってください
探しても見つからない…
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/31(木) 23:26:58.91 ID:+DeHH/4Io
>>576
>>1じゃないけど、ほい
ttp://www.k3.dion.ne.jp/~hemil/index.html
578 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/01(金) 00:46:11.71 ID:d/XfguB4o
>>570
妄想したなら書くべし!

>>571
おー! 他に知ってる人がいたー
Fate In Britainも名作ですね。どっちも熱狂的にはまったなぁ。

>>574-575
全俺が泣いた(´;ω;`)ありがとう。

>>576
>>577のアドレスベタ打ちじゃ読めないので詳しく書いとく。
Internet Archive
ttp://www.archive.org/
ここにアクセスして、検索バーに、
>>577に書いてあるアドレスにhを足したのを入力、検索する。

今から続き書く。1レスくらいは上げて寝るようにすんべ。
579 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/01(金) 02:34:34.44 ID:d/XfguB4o

「じゃあ、光子が仕事終わるまで、適当に見て回ってるよ」
「はい、時間になったら、待ち合わせ場所にすぐ向かいますから」
「おう」

当麻の後ろにも入場希望者が集ってきている。迷惑にならないように、当麻は光子の傍を離れようとした。
インデックスとエリスはすでに先行して、敷地内をふらふらしているようだ。

「ごきげんよう婚后さん」
「お勤めご苦労様ですわ」
「ああ、湾内さんと泡浮さん」
「あの! もしかして、こちらの方が?」
「えっ? ええ……はい。そうですわ」

少し光子より背の低い子達が、当麻のほうを振り返った。
茶色がかったふわふわした髪の女の子と、清楚な感じのストレートな黒髪の女の子。
どちらも穏やかな顔をしていて、当麻の知っている二人の常盤台の女の子、
光子と美琴のどちらよりもとっつきやすい感じの女の子達だった。
どうやら光子の知り合いらしい。

「あの! お名前でお呼びして不躾ですけれど、当麻さん、でいらっしゃいますか?」
「あ、うん。そうだけど」
「はじめまして。私、婚后さんの後輩で、湾内絹保と申します」
「私は泡浮万彬と申します。婚后さんにはお世話になっています」
「あー! 光子のよく話してくれる二人だな。俺は上条当麻だ。
 俺が言うことじゃないかもしれないけど、光子と仲良くしてくれてありがとな」
「お名前を存じ上げていなくてすみません。上条さん、でいらっしゃいますのね」
「本当に婚后さんにはお世話になっていますし、その、失礼ですけれど上条様のお話も、
 いつもとても楽しく聞かせていただいておりますわ」
「いつもって、光子はどんな話してるんだ……」
「上条さんとどこへデートで行っただとか、どんなふうに髪を撫でてくださったかだとか、
 あとは、その……ね?」
「ええ、これはご本人の前では言えませんわ」

きゃっと頬に手を当てて、二人で恥ずかしがりながら微笑みあう。
つい昨日、ファーストキスの日付をばらしてしまった光子は、二人の反応の意味を理解して真っ赤になった。

「み、光子。別に話されて困ることはないけど、さすがにあんまり詳しくは……」
「ご、ごめんなさい。でも私だってなるべく惚気話なんてしないように気をつけていますのよ」
「まあそうでしたの? 婚后さん。私達も楽しみにしていましたけれど、婚后さんもそうとばっかり」
「もう! からかうのはおよしになって! 当麻さん、受付の仕事もしなければいけませんから、
 そろそろ中にお入りになって。交代の時間になったら、待ち合わせ場所に伺いますから」
「お、おう。そうだな」

女子校で自分の彼女と、その彼女から色々聞いた女の子達に囲まれる。
なんというか、ちょっと嬉しいのだが、動物園の動物になった気分になる。
さっさと退散してインデックスに合流するかと当麻が思ったところで。

「もしよかったら私達が案内しますわ。上条さん」
「え?」
「あら、湾内さん、積極的ですわね」

泡浮が少し驚いた顔をした。
湾内は女子校育ちで、学校の先生のような人を除いて、基本的に男の人が苦手だからだ。
たぶん、分類で言えば当麻は苦手な部類に入るはずだ。
580 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/01(金) 02:35:40.94 ID:d/XfguB4o

「心配してくださらなくて大丈夫ですわ、泡浮さん。知らない殿方にはやっぱり怖い感じを受けますけれど、
 なんだか上条さんは大丈夫ですの。婚后さんに優しい方だと聞いておりますし、
 今お会いして、そのお話に間違いないように思いますから」

ね、と微笑んでくれる湾内に当麻はドキッとした。
年下の子の年下らしい可愛らしさというのはこういうものだと思う。
光子よりはストレートに可愛らしい感じだ。もちろん、惚れてるのは光子にだが。

「あらあら当麻さん。鼻の下がずいぶん伸びてらっしゃいますわ。治してさしあげたほうがよろしい?」

おっとりと困ったわねえ、という表情で頬に手を当てて光子が首を僅かにかしげる。
遠めに見るとホントにちょっと困ったという感じの態度のお嬢様にしか見えないのだが、
ゆらりと立ち上る気炎はぶっちゃけ当麻にはよく見えるしちょっとドス黒い感じなのだ。

「そそそそんなことないって!」
「鏡なんて当麻さんはお持ちでないし、気づかれないんでしょうけれど。本当に伸びてますもの。
 もう、どうしたら当麻さんはこの病気を治してくださるのかしら」
「だから別に鼻の下なんか伸ばしてないし、光子以外の女の子に気持ちが言ったことなんてないぞ」
「……もう」

周りを気にして当麻が小声でそう伝えると、まだまだ言い足りなさそうな顔をしながら、
光子はしぶしぶと引き下がった。受付の仕事を再開しないと、受付に人が並んでしまいそうだ。

「それで、話を戻しますけれど。もしよかったら私達でご案内しますわ」
「あ、ああ。連れが他にいて、そっちもまとめてでお願いしたいんだけど」
「承知いたしました。それでは参りましょうか……あっ、湾内さん」
「えっ?」

そこで。突然泡浮に呼ばれた湾内が、振り返った。事情は当麻にはよく分からなかった。
ただ、湾内は当麻の横を抜けて先導しようとしたところであり、
よばれた自分ではないのに当麻も振り向いてしまったことで、
自分と湾内の位置関係があやふやになったのは確かだった。


ふよん、と手の光に柔らかい感触が乗ったのを、当麻は感じた。


「へ?」
「あっ……えっ。あの」

お互いになんだか分からない顔をして、至近距離で湾内と当麻は見つめあった。
湾内にとって、人生で最も、男の人に接近された経験だった。恋人との距離、と言える短さだ。
一瞬の無理解が生んだ空白を経て、湾内はさあっと頬に血が上って行くのを自覚した。
初めて、男の人に胸を触られた。

「ごめんっ!」

すぐに当麻が真剣な顔をして謝った。湾内もショックだったが、だけど嫌悪感のようなものはなかった。
事故だとすぐに分かったし、謝ってくれる態度が誠実だったから。
動転しながらも赦す笑みを返すとほっとしたように当麻が笑い返してくれて、そして満面の笑顔の光子に睨まれていた。

「婚后さん、お許しになってあげてくださいな。上条さんは悪気はありませんでしたから」
「でも。それにあの、大丈夫でしたの? 湾内さん」

男性恐怖症を知っている光子が、心配してくれる。

「はい。その、上条さんにでしたら、私」
「えっ?」
「わ、湾内さん?!」

酷く驚いた光子と泡浮に、湾内はきょとんとなる。そしてすぐに、自分の言った言葉の意味に気づいた。

「ちち、違いますの! そういう意味ではなくって、婚后さんのお付き合いされてる男性だから、
 気にならないというだけですの! 別にその、婚后さんがいま思い浮かべてらっしゃるようなことじゃなくて!」

真っ赤になった湾内が、弁解という名の泥沼にはまるのを、一緒に溺れながら当麻は優しく見つめた。
この先どれほど当麻に問題がなかろうとも、湾内が余計なことを言うたびに、光子の沼が深くなるのは確定なのだった。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/01(金) 03:05:51.04 ID:0LG/LXWe0
ふぅ…二日ぶりのハイパーニヤニヤタイムだぜ
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 03:20:45.91 ID:UM1AXjG40
>>577>>578
2人ともありがとう
型月厨の俺にとって素晴らしいssだったよ
まだ全然読めてないけど
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/01(金) 05:29:37.90 ID:MWs3RHZS0
上条さんを女子中連れてくるなんて危険すぎたな
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/01(金) 15:03:00.57 ID:UI2EEhCV0
相手が決まった上条さんだと一直線だから見てる側からすると
嫉妬は原作の噛み付きみたいなもんだな
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 20:28:10.50 ID:AVfqY86DO
流石上条さん
呼吸するようにフラグを建てるな
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/01(金) 23:18:40.73 ID:ulAfupRq0
ラッキースケベ後なのに株を上げているように見えるのは気のせいだろうか
原作上条さんはなんだかんだ言って謝るより先に言い訳するからなww
587 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 00:33:44.28 ID:7bhUb5Hlo

当麻の後姿が建物の中に消えたのを確認して、光子は軽いため息をついた。
乙女の園、常盤台中学に当麻を呼んだのは浅はかだったかもしれない。
まだ建物にも入っていないのに、あんな風に湾内と仲良くなった。
湾内もあんな思わせぶりなことを言わないでくれればいいのに、と思う。

心の中にわだかまるモヤモヤしたものを顔に出さないようにしながら、
笑顔と元気よい挨拶をして入場者を迎えていく。当麻と同年代の男子はほとんど来ない。
多くは来年常盤台に入るつもりらしい小学生の女の子達や、その保護者らしき人。
そして同年代であろう女子中学生たち。
……その中に、見知った顔があった。うち一人は寮など見ずとも、つい昨日常盤台の敷地にいたくらいだ。

「ごきげんよう、佐天さん。それと、初春さん、でよかったかしら」
「は、はい! ご、ごきげんよう、婚后さん」
「初春が真似しても全然しっくりこないね。こんにちは、婚后さん」

昨日もそうだったが、街中で会うよりも佐天の装いが両家の子女らしい感じになっている。
襟も袖もきちんとあって、スカートも常盤台の制服より長い。
初春のほうも同じで、薄手だが長いスカートを履いていた。いつものことながら、髪飾りに生けた花が可愛らしい。

「昨日は寮祭のこと、思い出させてくださって助かりましたわ」
「どういたしまして、って……もしかして、婚后さん?!」

佐天が寮祭のことを話に出してくれたおかげで当麻と会えた。そのことに礼を言うと、目を煌かせて佐天がこちらを見た。
まあ、言いたいことは、分かる

「……ええ。お呼びしましたわ。だって、会いたかったですもの」
「おおおおおおおおおお!!!」
「え? どうしたんですか?」

話を聞いていないらしい初春が、困惑しながら光子と佐天の顔を往復で見た。

「婚后さんの彼氏さんが、今日ここにきてるんだってさー!」
「ちょ、ちょっと佐天さん! 声が大きいですわ。先生方に見つかったらなんて言われるか……」
「あ、すみません。でも気になるよね初春っ! ……初春? ちょっとどうしたの?」
「婚后さんのお付き合いしてる人……はぅ。どんな人なんでしょう。やっぱり婚后さんにつりあう人ですから、
 いいところの育ちで、すっごく紳士な感じなんでしょうか」
「聞いてないや、こっちのこと」
「もう……変な想像はしていただいても困るんですけれど」

普段の言動から佐天にはなんとなく初春の脳内のイメージ図が予測できた。
おそらく白馬にでも乗っているのだろう。あと歯はキラリと輝いているはずだ。
初春の想像ズの雰囲気は察せた光子は、なんともいえない気持ちになった。
残念ながら当麻は光子の、というか常盤台の学生にふさわしい印象の生徒ではないだろう。
客観的に見てそうだということは、分かっているのだ。だけど勿論、当麻のことが大好きだ。
もし、初春が当麻を見てがっかりしたりするなら、それはすごく嫌だなと、光子は思う。
落胆されるようなところなんて、当麻にはないのに。
588 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 00:35:31.15 ID:7bhUb5Hlo

「それで、待ち合わせは……ああ、ちょうど来ましたわね」
「あ、ほんとだ。おーい御坂さん、白井さん」
「ごきげんよう、佐天さん。それと初春……の燃えかすですの? これ」
「燃えかすって酷いですよ白井さん!」
「なんか考え事してたみたいだけどどうしたの? あ、おはよう」

初春のトリップに早速突っ込んだ白井と、一歩後ろから美琴が挨拶をした。

「婚后さんが彼氏さん呼んだらしいですよ」
「へぇー! そ、そっか。やっぱそういう子もいるのよね。そしたら仕事終わったら会うの?」
「え、ええまあ。呼んだからには会いますけれど」
「寮祭でカップルがイチャつくというのは随分と斬新ですわね」
「別に二人っきりで会うわけではありませんもの。私達の共通の知り合いも含めて案内するのですわ」
「そうですの。良かったですわ、婚后さんが破廉恥なことをなさる学生でなくって」
「ええ、貴女とは違いますもの。良識くらい、わきまえていますわ。白井さん」
「私が非常識なような物言いですわね」
「違いますの? 御坂さん」
「う、私に話振っちゃうか。……悪いけど黒子、フォローはしないから」
「そ、そんなっ! お姉さまの露払いとして恥ずかしくないよう、精一杯振舞ってきたつもりですわ」
「ああそう。アレが、そうだったのね」

ジットリと睨みつけられた白井が怯んだ。
いつものやり取りらしく佐天と初春は苦笑いで見ていたのだが、ハッと気づいたように佐天が美琴のほうを向いた。

「そうだ! 御坂さんは気になる人、呼んだんですか?」
「へっ? い、いやそんなわけないじゃない!」
「えー、呼ばなかったんですか?」
「昨日もお会いしておりましたのに?」
「ぅえぇっ?! 黒子なんでアンタ……!」
「お姉さま、まさか」

ちょっとカマをかけただけなのに過剰反応する美琴を見て、白井が絶望的な顔をした。

「べべべべつに会ってなんかないわよ! それに別に誘うようなヤツじゃないんだから!
 あんなヤツここに来たらどうせ女の子みてヘラヘラするに決まってんのよ!」
「……」

ちょっと共感してしまった光子だった。まあ、殿方というのはそういう生き物なのだろう。
自分とて、きちんとした服装と仕草を身に着けた好青年と、だらしない青年なら、どちらに愛想良くするか。
おそらく平等には扱うまい。そういう論理で納得は出来ないが、そういうものなのだろう。

「それじゃ、時間も勿体無いですからそろそろ行きませんか?」
「そうですわね。初春が待ちきれないようですし」
「だってせっかくの常盤台ですよ! 今日はは最初から最後までリミッター解除ですから!」

ふんす、とこぶしを握り締めて初春が鼻息を荒くした。

「彼氏さんをまた紹介してくださいね、婚后さん」
「え、ええ。まああの人に佐天さんは紹介してくれって頼まれていますから」
「へっ?」
「よく私が佐天さんの話をしますのよ」
「あー、あはは。なんかちょっと恥ずかしくなってきました」
「それじゃあね、婚后さん」
「ええ、御坂さん。独奏頑張ってくださいね」
「うん、ありがと」

彼氏を呼んだ光子を羨ましそうな目で一瞬見つめてから、美琴は白井を連れて二人を案内しだした。
589 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 00:37:35.58 ID:7bhUb5Hlo
>>583
ですよねー
光子の敗因はそれですね。負けてないけど。

>>586
原作でラッキースケベで好感度上げたりなんかしたら上条さんのフラグが有頂天になるだろうがw
彼女が確定してると、むしろそうなったほうが美味しいんだぜ。物語的に。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 03:01:26.17 ID:R65FYkJDO
超電磁砲見直してたら、盛夏祭は男子高校生っぽいの結構いるみたいだよ
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/02(土) 03:07:15.80 ID:/KLxxEtIo
上条さんが美琴と会った時の修羅場を想像すると恐ろしいな
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/02(土) 03:13:08.16 ID:50zG80wgo
両家の子女
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/02(土) 08:20:40.42 ID:Rh9KCHC3o
両津家の子女。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 09:10:37.93 ID:Ra7f5nyl0
これはもしかして、主人公補正で
ニアピンのまま、
上条婚后御坂の修羅場回避で話が進むのか?
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 11:49:23.95 ID:lSXYSsTDO
交際がストーカーに発覚して命がヤバい的な修羅場か…
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/02(土) 13:05:34.40 ID:WDsn0/Hw0
修羅場はいいけど上条さんが御坂に理不尽にぼこされるだけなのはやめてもらいたい。
女子が男を殴るだけなのは表現するのが面倒だから放棄しているとしか思えない。
597 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 15:05:31.05 ID:7bhUb5Hlo
>>590 >>592
なおしとくー。ありがとう。
そして>>593はないだろw

>>596
別にそんなノリのSSじゃないから安心しておくれ。
俺は恋愛描写をネットリやりたい人だ。
598 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 15:06:04.95 ID:7bhUb5Hlo

はしゃぐエリスとインデックスを後ろで見守りながら当麻が歩いていると、
後ろから歩いてきた集団に見覚えのある女の子がいるのを見かけた。
向こうも気づいたらしい。

「あっ。こんにちは」
「おう、こんにちは。たしか風紀委員の」
「初春です」
「ああそうだ、下の名前は覚えてたんだけど」

飾利という名前は髪に付けたアクセサリとよく対応しているからだ。
だがそれをどうも気障ったらしい意味合いに受け取ったのか、隣の常盤台の女の子が不審げな顔をした。

「初春。こちらは?」
「えっと……上条さん、でよかったですか?」
「ああ」
「こちら、固法先輩の中学時代のお知り合いの方で、上条さんです。
 春先くらいに町をパトロールしてるときに、ちょっとお世話になったんです」
「固法先輩の?」
「なんか親しそうだったんで固法先輩の好きな人だったりしないかなーって思ってたら、
 上条さんから固法先輩の本命の相手を教えてもらっちゃったんですよね」
「……初春。その話は後でじっくりしましょうか」
「いいですよ、白井さん」

ニヤ、と二人で笑ったところを見ると、どうやら常盤台の女の子、白井のほうも風紀委員らしい。
固法も大変だなあと当麻は心の中で思った。
一昔前はワルの側にいてうるさいことは言わなかったのに、
進学校に行って風紀委員になってからは固法はどちらかというと会いたくない相手だった。

「そういや固法のやつを遠くでチラッと見かけたな」
「あ、そうなんですか。ところで上条さん、今日は誰に誘われたんですか?」

うっ、と当麻は初春の興味津々な態度に怯んだ。
あまり物怖じしない子だなとは以前会ったときにも思ったことだが、
誰に誘われたのかを話すのはちょっと恥ずかしい。
入場チケットは当然、常盤台の生徒から貰っているはずで、それが誰かといえば、彼女からなのだ。

「あーうん、まあ。常盤台の知り合いからさ」
「知り合いじゃなくて彼女でしょ、とうま」
「イ、インデックス」

離れていたはずのインデックスが引き返してきて、女の子と中よさそうにしている当麻を睨みつけていた。
他の女の子に、光子を彼女ではないかのように説明するのは、インデックス的にはアウトなのだった。
それは、浮気である。

「上条さんって常盤台の彼女さんがいらっしゃるんですか?!」
「あ、ああ」
「あの! もしかしてそれって、婚后さんて人だったりしませんか?」
「へ? なんで……」

黒髪の可愛らしい女の子が、光子の名前をスバリと当ててきた。思わず怯む。
599 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 15:07:31.42 ID:7bhUb5Hlo

「私、佐天涙子って言います」
「お! それじゃ光子の教えてる子って」
「はい、私です。ほら白井さん、昨日話してた、婚后さんの彼氏さんですよこの人」
「どうして分かりましたの?」
「いまそっちのシスターの子が、下の名前呼んでたじゃないですか。それで」

佐天と白井がインデックスのほうを見つめると、むーーっ!!と敵対的な目でにらみ返された。
連れと思わしき金髪の女の子が一歩離れて苦笑していた。

「とうま。この人たちとどういう知り合い!?」
「どういうって、初春さんは友達の後輩って感じで、佐天さんは光子がアドバイスしてあげてる子だ。
 言っとくけど疚しいことは何にもないぞ」
「……まるで彼女に弁解するような口ぶりですわね」

光子の彼氏であるはずの当麻がインデックスの知りに敷かれているのを見て、白井は困惑していた。

「コイツはインデックスって言って、今度光子が一緒に暮らす相手だ」
「暮らす? 常盤台の学生は全て寮暮らしですけれど」
「あれ、知らないか。光子は今度寮を出て、インデックスと一緒に別のマンションで暮らすんだよ」
「そうなんですか? 全然昨日婚后さん言ってませんでした」

微妙に佐天が悔しそうな顔をした。佐天は光子の弟子、インデックスは光子の妹。
ちょっとポジションがかぶってお互いに面白くないのであった。

「にしても。婚后さんとお付き合いする殿方にしては、いささか普通の印象の方ですわね」
「ちょ、ちょっと白井さん」

白井がストレートな感想を当麻の前で臆面もなく吐き出したのを見て、初春が焦った。
自慢が多く高飛車な婚后光子の事だから、彼氏もさぞかしお高く留まったお坊ちゃんだろうと思っていたのだ。
それが意外と、率直に言ってみずぼらしいどこにでもいそうな高校生なので、拍子抜けしたのだ。

「まあ、言いたいことは分かるけどな。光子がお嬢様なのは確かだしさ。
 でも裏表のあるタイプじゃないしさ、うまいこと付き合ってやってくれるとありがたい」
「……ええ、そうやって頼まれた以上は、ある程度は応えますけれど」

軽く頭を下げた当麻に、白井は困りながら応えた。
あまり好きではない相手の彼氏だが、普通の感覚を持った人間のようだし、
頭を下げられたのを無碍に扱うのは常盤台の学生としての沽券に関わる。

「これからどちらへいかれますの? よろしければご案内しますわよ」
「ああ、ありがとう。でももうじき光子と合流できるからさ、大丈夫だ」
「そうですの」

エリスが頭を下げ、インデックスが不満げに佐天から視線を外す。
待ち合わせ場所は食堂だ。少し早いが、込む前に食べたほうがいいだろう。
当麻は軽く手を上げて、佐天たちから離れた。

「後で御坂さんにも教えてあげなきゃいけませんね。
 婚后さんの彼氏って、結構いい人みたいでしたよって」
「別に私はどちらでもよろしいですわ。どうせそんな話をしたら、上条さんなどそっちのけで、
 ご自分の気になる『あのバカ』さんのことでお姉さまの頭の中は一杯になるのですわ」

ふんっと詰まらなさそうに白井がため息をついた。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/02(土) 16:11:07.30 ID:Dq7V0oiho
追いついた
うんちくのテンポと要約が良くて面白い
>>1の原子崩しの解釈をゼロ次元含めて見てみたい
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/02(土) 16:41:15.56 ID:Rh9KCHC3o
乙!
インデックスマジお目付け役ww
そして彼女の線引きは正しいww
きっちりフラグができそうなフラグはへし折るさすがです。

次回も楽しみー
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 17:48:57.06 ID:N/RwttXxo
光子vs美琴

が見たい
てかそうなるでしょ

いや・・・・・
美琴が大胆になって当麻にアタックしまくるってのもいいけど・・・・・
うん
妄想が進むのう
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/02(土) 17:59:09.37 ID:dEKewpmeo
無意識とはいえ「彼女いませんよ」的言動がいかんのやね・・・
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/02(土) 18:02:56.54 ID:D1yaGDtS0
オツムが弱い俺でもなんとなく理解できるように書いてあるのがありがたい
605 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/02(土) 18:37:34.44 ID:7bhUb5Hlo
いま図書館で新しく本借りてきたんだけど、江戸時代の日本にも『禁書目録』ってそのままズバリな名前の本があるんですね。
検閲された本の中に俺の中二病をくすぐる名前がいろいろあってニヤニヤした。
本編にいないキャラを出してみたいなぁ。特に日本の古代史とかと絡めて。ギリシアでもいい。アイデアはあるんだけど。

>>600
それゲームで出た新情報か。
むぎのんは量子力学に深く関わる能力だからテレポートとも結びつくけど、
11次元をもう普通のテレポートに使っちゃったからかっこいい単語探してゼロ次元にしたんだろうなぁ。。。
しかしテレポートの上位種的な能力を出したところで、別にアレイスターが求めてるような能力者になれないような。
量子論出したなら時間旅行あたりを出したほうが世界の本質に迫れる気はするけども。
まあ禁書に時間旅行の概念を出すと収拾付かなくなるし、必殺技になりにくいから、
テレポートの上位版みたいにしたのかな。でもそれって結局テレポートだよねっていう。

能力の解釈とか将来性とかは超語りたいんだけど、ネタバレすると後が残念なので黙っておくんだぜ。
ちなみに俺が今からネタを考えるために勉強するのがEPRパラドクスだ!
質量は光速を超えないが情報は光速を超える、ということかなぁ。

>>601 >>603
光子に代わってフラグを折るとか確かに親切だなw

>>602
問題はいつどこで、どれくらい修羅場らせるかってことさ。

>>604
なんとなくでも理解してくれてありがたい。
俺はかまちーよりは理系だし、うまいこと説明したい。
でもむぎのん出てきて量子論の話が増えて、専門外だから苦しんでる。
気体分子の動きとかならいくらでも喋れるんだけど。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/02(土) 20:55:33.75 ID:mHFPF30J0

美琴が絡まんと黒子と上条ってけっこう普通に相性いいよね
つーか原作も最初はそうだったような気もするけど

美琴のヴァイオリン独奏がどうなるか
演奏中に見つけちゃったらフリーズもんだよなー
607 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 01:01:15.10 ID:q54sfmYco

「ごちそうさま、っと」
「よく食べましたわね、当麻さん」
「バイキングだとやっぱな。……まあ、あっちには到底かなわないけど」
「当麻さんより食べるって、どういうことなのかしら」

光子と合流して、当麻たちは昼食を摂り終えたところだった。
エリスとインデックスは当麻と光子から離れ、料理に近い場所に席取っている。
エリスがこちらに遠慮をしたのもあったし、インデックスが料理に心奪われたのもあった。
ようやく二人っきりになれて、光子は食事をしながらチクチクと当麻に恨みつらみを吐き出していたのだが、
お腹が一杯になって怒りも収まったのか、ようやく態度が柔和になってきたところだった。
……のだが。

「あれ、舞夏か」

インデックスの席に近づくメイドが一人。当麻のクラスメイト、土御門元春の妹の舞夏だった。
光子はいつもなら瞬間的にさっと嫉妬の炎を燃え上がらせるものだが、
余りにも今日は回数が多いので少々反応は鈍かった。
とはいえ火種は深いところまで浸透しているので、完全な沈火がいつもより大変なのだが。

「当麻さん。次は誰ですの?」
「い、いや。クラスメイトの妹だよ。兄貴が寮の隣部屋に住んでてよく飯を作りに来てくれてるらしい」
「そうですの。それはそれは、当麻さんとも仲がよろしいんでしょうね」
「そんなことないって。第一、舞夏に手を出したら土御門のヤツに殺される」
「そのわりには下の名前でお呼びになって」
「それは兄貴と区別するからで」
「じゃあお兄さんのほうはどうして苗字なんですの?」
「男同士で下の名前で呼ぶのはないだろ」

当麻が必死に光子をなだめているのを横目に、インデックスは舞夏に問いかけた。

「それで、あなたは何をしにきたの? バイキングだし、沢山食べて怒られるのは納得行かないんだよ」
「怒ってはいないぞ。料理の責任者だから、食べてもらえて勿論嬉しいからな」
「じゃあ何?」
「まだ食べるのか聞こうと思ったんだ。それなら用意しなきゃいけないからな」
「んー、もう八分目だし、あとはデザートかな。エリスももういい?」
「私はもうとっくにおなか一杯になってるんだけど……」

初めてみたインデックスのすさまじい旺盛さに引きながらエリスは半笑いになった。
清貧を旨とする修道女として、この食べっぷりはどうなんだろう。
というか同じ学校で同じ釜から食事を食べる身になったらどれだけ大変なのだろう。
608 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 01:04:36.49 ID:q54sfmYco

「にしてもちっこいのによく食べるんだな」
「む、そっちだって小さいくせに」
「名前はなんていうんだ?」
「インデックス。……名前を聞くんだったらそっちから言うのが筋だと思うけど」
「これは失礼した。私は土御門舞夏である」
「つち……みかど?」
「どうかしたのかー?」
「もしかして、まいか。にゃーにゃー言う変な日本語のお兄さんがいたりしない?」
「兄貴はいるけど、もしかして知ってるのか?」
「なんでもない」

まさかそんなわけはない。土御門元春は陰陽師の大家で、事情があって『必要悪の教会』に入った男だ。
妹が超能力者の街にいるなど、冗談が過ぎる。
……あやうくおかしな日本語を教え込まされかけて、身に付く前に神裂に訂正してもらった身としては、
土御門元春には恨みのあるインデックスなのだった。
なんにせよ、知り合いのほうの土御門と目の前の舞夏は似ていないし、人のよさも違う。

「えっと、私はエリス。デザートってまだないみたいだけど、出てくるの?」
「うん。昼食にはまだ随分早い時間だったからな、デザートは今からだ」
「よう舞夏」

インデックスが詳しくデザートの話を聞きだそうとしたところで、当麻が横から割って入った。

「あれ、上条当麻じゃないか」
「エリスとインデックスに何か用か?」
「大した用事はないぞ。というか知り合いなのか?」
「ん、まあな。そういや土御門のやつは来てるのか?」
「チケットは渡したし、昼ごはんを食べに来るかもなー」
「とうま。まいかとどういう関係?」

またか。またなのか。
いい加減にして欲しいとため息をつきながらインデックスは当麻を睨む。
光子のほうを見ると、向こうもこちらを見て頷いた。女二人の意図はよく一致している。
エリスもなんとなく当麻という人間が分かってきたのか、苦笑いの中に咎めるような雰囲気が混じった。

「上条君。彼女さんを大事にしてあげたほうがいいよ」
「え? なんだよ急に」
「女の人の知り合いが多いって、それだけでも不安になると思うけどな」
「……って言われても、なあ」

ちらと当麻が光子のほうを見ると、あからさまに視線を逸らされた。
光子はこれからまた一度仕事に戻る。
そのあとはインデックスとも離れて本当に二人っきりになる予定なのだが、
この調子ではそのときに機嫌を回復させられるかどうか。

「女難か? 上条当麻」
「ほっといてくれ」

世の男性の恨みを一身に集めそうな贅沢な悩みを抱えて、当麻は不幸だとため息をついた。
609 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 01:07:53.84 ID:q54sfmYco
人間関係の消化をしないといけない都合もあってちょっとダラダラと話しが続いてきたけど、
いよいよお次は上条美琴さん出てきますよー。
アニメ見れる人は暇なら盛夏祭の上条美琴ニアミスシーンを見直してみてください。
さあどうなることやら。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/03(日) 01:18:00.67 ID:Sh3NO4g/0
上条美琴さんだと…!ケコーンしたのかと思っちまった
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/03(日) 01:32:16.63 ID:nXAFABkno
盛夏祭で上条美琴漫才やると聞いて(ry
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 02:14:23.28 ID:654NyX74o
ついにあの二人が結婚したと聞いて・・・・・・ってこのSSだとほぼ決着付いてるんだよなあww
まああの二人のイチャイチャはSS界隈では飽和状態だし、ここでは婚后さんとのラブラブを楽しませてもらうんだぜ



・・・余談だが”こんごうみつこ”で婚后光子に一発変換できるGoogleツールバー△
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/03(日) 02:34:51.42 ID:qOjRpKMLo
しかし本当に上条さんは女の知り合いが多いな
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/03(日) 09:33:39.70 ID:98WwY+Mg0
土御門がインデックスに日本語を教えたっていう設定が斬新でいいな。

インデックスの完全記憶能力で変な日本語は暗記しているから、ローラと会話する時だけ引き釣られてお互いへんな古文調になってしまい、それを神裂に指摘される。

ここまで妄想した
615 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 12:34:55.45 ID:q54sfmYco

「ちょっとトイレ行ってくる」
「うん、ごゆっくり。光子によろしくね」
「……おう」

トイレを装って自然に席を外す予定だった当麻に、インデックスがにっこりと笑みを返した。
となりのエリスがクスリと笑う。インデックスにも内緒で光子に会う気だったのが、バレバレだったらしい。
場所は中庭。先ほどまではオークションが行われていたらしいのだが、
次は常盤台の学生によるバイオリン独奏とのことだった。
特に興味はなかったが、なにやら人が多いのと、あらかた見回ってしまった都合もあって、
光子を除いた三人は演奏を聴くための座席を確保していた。

校舎に入って、周囲を見回す。
待ち合わせ場所は確かこの先を曲がったところのはず。
……だったのだが、光子はいない。そして初めてきた場所だということも会って、
なんとなく自分が場所を間違えたのではないかという気もしてくる。
どうするか。待つか、探しに歩くか。
昼ごろから機嫌の悪かった光子だ。ここでさらに待たせると、謝っても簡単には許してくれないかもしれない。
結局、間違ったところで待っているのが一番機嫌を損ねるだろうという判断から当麻はとりあえず足を動かすことにした。
1階で待ち合わせておいて階段を上り下りするほどの方向音痴ではないが、
学校というのはどこの廊下も似たような作りで、しかも曲がりくねっているからなかなか把握しづらいのだ。
ぐるっと歩いても光子どころか人影も見当たらないし、待ち合わせの場所だったような気がする場所が二箇所になって、
どうしたらいいものか当麻は途方にくれてしまった。
……ようやく、人の影を捉える。当麻はほっとしてその子に声をかけた。





「やだもう、へんな汗でてるし。なんでこんな……胸がドキドキしてんのよ」

昼食後、初春と佐天の案内から離れて、美琴は着替えを済ませていた。
そして自室で弦を拭き、弓に松脂を塗り、軽くヴァイオリンの音出しをする。
プログラムには明記されていない、本日の最終イベント。
御坂美琴によるヴァイオリン独奏がこれからあるのだった。
別に、美琴の腕が学園一というわけではない。下手なほうではないと思うが、上には上がいるものだ。
なんとなく、音楽の実力以外の要素のせいで、客寄せパンダに任命されたような居心地の悪さがある。
それなのに白井はおろか、初春や佐天も期待してます、なんて目を輝かせて言うものだから、
なんだかいつもの自分らしい調子というのが狂って、落ち着かないのだった。
手にしたヴァイオリンもなんだか心もとない。一通りチューニングは済ませたが、
昼下がりの日光に晒されるあんな環境で弾けば、すぐにまた狂ってしまうことだろう。
もしかしたら真夏の炎天下を嫌って常盤台きってのヴァイオリニストたちは辞退したのかもしれない。
そんな考えが、ぐるぐる美琴の頭の中で渦巻いていた。
616 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 12:36:25.13 ID:q54sfmYco

近くのパイプ椅子に楽器を置いて、ため息をつく。
この校舎の扉を開ければ、すぐステージ裏だ。もう五分もしたら、そこで待機しないといけないだろう。
――これって緊張? いやいやいや、私に限って、そんなまさか。
軽く息を整えてみる。だけどそれも上手く定まらなくて、気持ち悪い。
そんな風に美琴が戸惑っている傍に、不意に人が近づいてきた。

「ああもう、しっかりしろ!」
「あのう。お取り込み中すいません。実は……って、あれ、ビリビリ?」
「なっ?! あ、が、う……」

信じられない。この、タイミングで、なんで、コイツが。

「ちょっと知り合い探してんだけどさ、悪いけど教えて――」
「――んでここにいんのよ」
「へ?」
「なんでこんなトコにいんのかって聞いてんのよ!」

があーと美琴が吼えた。ちなみに顔は真っ赤だった。

「な、なんでって。招待状もちゃんと持ってるし」
「人の発表を茶化しにきたわけ? 慣れない衣装を笑いに来たわけ?!」
「い、いやちげーよ、ってか普通にきれ」
「ばかー!!!!!!!!!!」
「うぉわ、落ち着け、落ち着け御坂」
「何よ何よ何よ! 見てわかんないわけ? コッチはいま取り込み中!」
「いやこっちも困って、ってだから落ち着け! その綺麗な格好みたらお前の事情は大体分かるから!」
「えっ?」

きれ、い?
絶賛爆発中だった怒りを全て萎れさせてしまうくらいの破壊力が、その一言にはあった。
振り上げていたパイプ椅子を、美琴はそっと下ろす。

「落ち着いたか? 落ち着いたな? お前あれだろ。今から何かやるんじゃないのか?」
「……うん」
「そのヴァイオリンか?」
「……そう。私より上手い人がいるってのに、何で私が」
「まあ、お前レベル5だろ? この学校の顔じゃないか」
「それとヴァイオリンは関係ない! こんな歩きにくい格好までさせられちゃってさ」

スカートの端を摘む。サマードレスだから暑くはないのだが、汗が気になる服だった。
髪飾りも、いつもよりもずっと大仰で、視界にチラチラ入って鬱陶しいことこの上ない。

「そうは言うけど、よく似合ってるぞ」
「馬子にも衣装って分かってるからそれ以上言わないで」
「そんなこと言ってないだろ。ってか、褒められるのがイヤか?」
「え?」
「普段のお前と違って、やっぱり女の子らしい格好すると映えるもんだな。
 ……まあなんだ。別に自分で駄目だと思う必要なんてねーよ。自信持っていけ」
「ア、アンタに言われたって嬉しくないんだから」
「ところで下に短パン履いてるのか?」
「このドレスでんなわけあるかあっ!」
617 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 12:37:37.90 ID:q54sfmYco

顔が火照って、胸がさっきとは違うドキドキで満たされて、全然コントロールが聞かない。
心なしかスカートも下もいつもよりスースーするし、落ち着かない。
そして当麻は、さすがに履いてないか、と心の中で呟いていた。
とはいえ見えるわけでもなし、さして興味はなかった。
なにせ、自分が一番可愛いと思う女の子は美琴じゃなくて光子なのだし。
もうちょっと後になったら、相対してるだけの美琴とは違って、光子の体に触れ、唇を啄ばむ気なのだし。

「ところで話戻していいか? 実は知り合いとの待ち合わせ場所がどこだったか迷っててさ」
「あ」

誘ってなかったのに、当麻が来てくれた事に色々と感じ入っていた美琴が、
そこでようやく、とても大切なことに気がついた。
ここに当麻がいるということは、この学園の誰かが当麻に招待状を送ったということだ。
白井に当麻のことは知られていない。だからどういう思惑にせよ、白井が当麻に送った筈はない。
だから、当麻に会いたいと思った女の子が、きっとこの学園に、いる。
そしてコイツは、その子に、会いに来たんだ。

「……アンタ、誰に誘われてここに来たの?」
「へ? 急になんだよ」
「なんでもない。ごめん、変なこと聞いた」

それ以上、問い詰められない。だって何でそんなことを尋ねるのかと問われても、何も言い返せないから。
質問を無視された形の当麻と、質問を投げつけておいて横に捨てた形の美琴の間に、沈黙が流れる。
それを破ったのは男の声だった。

「おーいカミやーん。本番前の女の子をナンパするなんて、ほんと困ったヤツだにゃー」
「げ、土御門」
「また会ったなー。上条当麻。御坂も元気してるかー?」
「……何、アンタ土御門と知り合いなの?」

咎めるような美琴の声に、当麻は戸惑った。
当麻が呼びかけた兄、土御門元春と親しくしていて怒られる理由が分からない。
……そうか、御坂は兄貴を知らないのか。

「御坂。コイツ、土御門舞夏の兄貴だ。俺のクラスメイト」
「あ、どうも」
「どうも妹がお世話になってますにゃー」
「なあ舞夏、ちょっと聞きたいんだけど」

なあんだ、と美琴はほっと息をついた。
舞夏が自分の兄とクラスメイトに招待状を送ったのなら、別にいい。
見てても当麻と舞夏の間におかしな空気はない。
……って、何を安心してるのよ私は! どういうことよ。

「あれ、やっぱあそこで合ってるのか」
「待ち合わせなら早く行ってやれよー」
「おう、そうするわ。御坂。それじゃ悪いけど俺行くから」
「あ……うん」
「演奏、頑張れよ」
「言われなくてもいつもどおりやるわよ、バカ」
「ん。もう大丈夫そうだな」

最後に微笑んで踵を返したその当麻の表情に、美琴は胸が高鳴るのを感じた。
バカみたいに突っかかって喧嘩をしていた以前には、一度も見せてくれなかった、こちらを気遣う優しい顔。
いつの間にか、心の中のパニックが嘘のように引いていた。
熱を散々放出してクリアになってきた頭の中と、そして胸の中にだけ、ぽっと灯った静かな高揚。
一番、自分がノッているときの状態だった。
618 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 12:52:43.29 ID:q54sfmYco
>>614 採用。……するかどうかはわからんけど。

イチャイチャシーンでしたー。次もイチャイチャシーンですー。
大好きなあの人と。
仲良くなれたよ、やったね美琴ちゃん!
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/03(日) 13:02:26.14 ID:1hhkno7ho
上げて落とすと言うよりは勝手に上がって落ちる展開ww
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 13:11:10.56 ID:654NyX74o
順調にフラグを立てていると思いきや実は仏陀の掌の上で踊っていたに過ぎないという悲劇
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 13:17:51.89 ID:ylFjRLfno
これは酷いぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
おいwwwwwwwwwwwwwwww

まさかのマジで演奏中にってパターンか
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/03(日) 13:28:10.44 ID:qOjRpKMLo
ひでえwwww
最後の言葉から虚淵臭がしたぞww
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/04/03(日) 13:44:13.87 ID:nIa3k4wAO
御琴は緊張で気付いてないんだな…
上条さんが一緒に来たはずの土御門たちと合流してんのに、人と会う約束が、って言ってることに
カワイソス
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/03(日) 14:01:32.10 ID:aBn1mLp30
美琴のヒロインかませ臭が酷い
原作と違って完全にくっついてるからもう立ち入る隙も無いしwwwwww
しかもまだ二巻前とかww
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/03(日) 14:03:36.35 ID:Sh3NO4g/0
まあ人間は事実よりも信じたいことを信じるもんだしな
無意識に土御門が待ち合わせの相手だと思い込んでもしょうがないんじゃなイカ
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/03(日) 14:10:41.90 ID:lO571gS80
これはひどいww
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/03(日) 14:14:43.08 ID:R7EX5GZKo
後のヤンデレールガンである
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 14:35:24.53 ID:rI5ESmgao
乙でした!
いやー上条さんのフラグ建築能力はとどまるところを知らないww
しかしビリビリが原作以上に空回りで可愛いですねえww

型月作品で某きのこが「秋葉は報われることがないのが魅力」とか
あった、と思う。
当時はえーって思ったけど、似た様な意味で御坂は空回ってるのが
一番魅力的な状態なのかもしれない。

次回も楽しみにしてますー
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/04/03(日) 14:48:57.72 ID:1HYouush0
修羅場はいつになるのだろうか
一方通行戦の後に病室で鉢合わせ、なら全体としての被害が一番小さい気がするけど
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 15:05:24.84 ID:4xzh6Kcd0
ここの上条さんみてると俺までドキドキするんだけどこれは…恋か…!
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/03(日) 15:51:37.93 ID:pynE58n00
>>630
上条さんにはもう彼女がいるのですことよ

御坂vs婚后さんってレスを見るけど精々口喧嘩程度なんじゃね
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 16:01:21.90 ID:rI5ESmgao
同じレベル5だったら
御坂「アタシが勝ったら当麻をもらうからね!」
光子「いいですことよ?常盤台の真のエースが誰なのか白黒つける
    いい機会かもしれませんわね?」
御坂「前からアンタのそのすかした態度、気に喰わなかったのよね。
    安心なさい、命までは取らないから」
………
上条さん「何で私こと上条当麻は賞品扱いで綺麗に梱包されてるのでせうか…
      不幸だ・・・」

まで妄想した。でも光子さん、戦闘向きじゃあないもんなww
それにしても上条さんマジヒロインww
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 16:03:50.43 ID:ylFjRLfno
>>632
いやいや
そんな事になったら上条は光子を守るだろ





多分
634 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 16:51:37.04 ID:q54sfmYco
うおっ何このレス数。みんなありがとう。
行数から考えてここで『interlude09: 盛夏祭開始!』終わりにします。

みんな可哀想っていいながら美琴の境遇を楽しんでるように見えるのは俺だけか?w

>>628
鮮花もそんな感じだったなぁ。まあ根が同じキャラだからそうだけど。
美琴はたしかに空回ってるシーンが多いから12巻の一瞬みたいなのに萌えるんだよなー。
……まあ、それを逆手にとって原作よりえげつない扱いにしてるんだけど。

そして>>632はどんな方向にストーリーを展開させたいんだwギャグものじゃねーかそれw

なんていうか、傷が浅い終わり方にはそうそうならんと思いますよ。
そういう運命なのです、美琴は。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 17:07:29.82 ID:rI5ESmgao
>>634

632をギャグで膨らますならww
光子さん→ラムちゃん(もはや女房
禁書→テンちゃん(お目付け役兼マスコット
御坂→シャンプー(恋敵

そんなるーみっくわーるどで漫画化したら日常編で単行本30冊はいけるww
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/04/03(日) 17:28:33.26 ID:1HYouush0
黒子が板挟みにあいそうだな

「御坂の笑顔のため」御坂の片思いを応援する、と
「御坂を独占するため」婚后と上条の恋を応援する、の間で

そして、いずれにせよ黒子に追いかけまわされる不幸な上条さん
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 20:21:06.73 ID:INkEtFDM0
原作の上条さんは恋愛フラグは消しているけど、
実際彼女ができたら本人の自覚なしに徹底的に恋愛フラグを立てまくるキャラになるんじゃないかしら
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/04/03(日) 21:36:32.76 ID:2zU+Z3YTo
>>636
それはどうだろう、変態だしww
639 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 23:21:06.73 ID:q54sfmYco

「ごめん! 光子」
「……」

うつむいて、光子はその場に立ちすくんでいた。
遅れたことに関しては、光子の側が悪かった。
つい服装に乱れはないかと、わざわざ遠回りしてトイレの鏡でチェックして遅れてしまったのだ。
そして、当麻に落ち度がないことも分かっていた。
目と鼻の先で、御坂美琴と、土御門兄妹と話をしていたのも、そもそもは自分を探してのことだった。

「光子がいなかったから、場所間違えたのかと思って、つい」
「……御坂さんと、仲がよろしいのね」
「え?」

知らなかった。自分は莫迦だ、と思う。
常盤台中学どころか、学園都市をも代表するのが七人しかいないレベル5の超能力者たちだ。
そのうち2人までもがこの学園にいるというのに、光子は今まで、その顔と名前をきちんと覚えてこなかった。
レベル5の『ビリビリ』、当麻が何度かその名前で呼んでいた相手が、まさか、自分の友人の中にいたなんて。
鉛を飲み込んだような、重たい感覚に体が支配されている。
だって御坂美琴は、自分とインデックスを除いて今まで一番当麻と親しくしてきた女だから。
知り合いの女性の多い当麻の口から、今まで一番多く出てきた人。
自分と会う直前に美琴に見せた当麻の笑顔に、光子は滅茶苦茶に嫉妬していた。

「み、光子?」
「朝はエリスさんを連れてきて、湾内さんに破廉恥なことをして、
 さきほどは白井さんや佐天さんや初春さんに会ったといいますし、
 繚乱のメイドともお知り合いのようですし。
 それで、挙句の果てに御坂さんですの」

なんだ、と馬鹿馬鹿しくなってくる。呼ぶんじゃなかった。こんな場所に。
自分が大して愛されてもいないんだって、思い知るような結末なら、いらなかった。

「……光子以外、見てなかったよ」
「嘘。当麻さんはいつもデレデレしてましたわ」
「そんなことないって。……見つかるとまずいだろ? 移動しよう」
「見られたら困ることでもありますの?」
「俺にはない。なんなら御坂の前でキスでもしてやろうか?
 言っとくけど、ホントに光子と二人で会えるのを楽しみで、ここに来たんだからな。
 ……ほら、見つかると、これから先デートがしにくくなるだろ?
 行こうとしてた場所に、案内してくれよ」

僅かに目線を下げて、高さを光子に合わせてくれた。
そして髪を撫でられる。この状態でも先生に見つかったら大問題だ。
これくらいでは納得も出来ないし当麻を再び信じることも出来ないけれど、
貰った優しさを動力に、光子はとぼとぼと逢瀬の場所を目指した。

「ここ……」
「人来ないのか?」
「調理室の火が落ちましたから。夕方までは誰も来ませんわ」

夏にはほとんど用のないボイラー室、そこの鍵を開けて光子は中に当麻を案内した。
クーラーの効いていないそこは、二人でいればすぐ蒸し焼きになりそうだ。
でも、誰も来ず、安心していられる場所は少ない。
外から見えにくい場所の窓を申し訳程度に開けて、当麻は光子に向かい合った。
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 23:29:28.78 ID:rI5ESmgao
うわー見られてたのかーそーなのかー
光子さん思ったよりダメージ受けてるな。
がんばれ、そんな光子さんを応援してる。
641 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 23:46:13.97 ID:q54sfmYco

「当麻さんが……悪いんですわ」

いきなり、ほろりと光子の瞳から涙がこぼれた。
泣かせたことは、あんまりなかった。

「み、光子?!」
「昨日の夜、当麻さんをお誘いしてからずっとずっと、楽しみにしていましたのに。
 朝来る前からもう、私以外の女の人と一緒にいて、さっきだって。
 私と待ち合わせをしているときに、御坂さんと会わなくたっていいでしょう?」
「……ごめん」
「仕事をしている間も、ずっと不安で、イライラして」
「ごめん」
「こんな嫉妬深い女なんて嫌われるってわかっていて自己嫌悪もしますのに」
「いい。光子ならなんだって可愛い」
「でも、当麻さんが他の女の人と親しくしているのは、嫌なの」
「光子と光子以外の女の子は、ちゃんと分けてる。もっと光子にも伝わるように、努力するから」

ぎゅ、と光子は当麻に抱きしめられた。安心する。だから余計に涙が出てくる。泣くのは悲しいからではないのだ。
自分が悲しいということを、当麻が分かってくれると思うから当麻の胸で泣くのだ。
ぐずぐずと鼻を詰まらせながら光子は当麻に自分の涙をしみこませる。

「光子」
「……御坂さんとは、いつからのお知り合い?」
「光子とはじめてあった日の、前の日から」
「私が追い払った不良は、前日御坂さんを助けたときに絡まれた相手でしたのね?」
「そうだ」
「……莫迦みたい。当麻さんの特別な人になれたと思っていましたのに、私は、
 御坂さんのおまけでしかありませんでしたのね」
「光子は莫迦だな。俺が光子を、どれだけ特別だと思ってるかわかってないよ。
 ……こんなに好きな女の子、光子が初めてなんだからな。まあ、初めて付き合った子だし」
「嘘」
「嘘じゃねえよ」
「じゃあどうして、御坂さんにあんな甘い顔をしますの?」
「してたか?」
「していました! 私にはそんな顔、ちっとも見せてくださいませんのに」
「そんなことないだろ? つーか御坂のやつにどんな顔したかなんて思いだせねーよ」
「私が一番なら、もっとそういう態度、見せてください」

拗ねた光子が今までで一番可愛かった。やっぱりかなわないな、と当麻は思うのだ。
だって、こんな顔を見せられたら。惚れ直さないわけがない。
気丈な光子が涙で僅かに目を腫らし、幼さを感じさせるような上目遣いで、こちらを見ているのだ。
抱きつかれたときにほつれた髪を、そっと直してやる。

「キス、するぞ?」
「……どうしてお聞きになるの?」
「今までより激しいの、するから」
「えっ? あ、ん……」

薄暗がりの中、唇で唇に噛み付くように、当麻は光子に口付けをした。
驚いて少し腰を引いた光子を捕まえる。腰にぐっと手を当てて、自分の体に密着させる。
642 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/03(日) 23:48:06.10 ID:q54sfmYco
>>635 うる星わからないんよー。若干年代が違うというか。
>>636 そうなるには黒子が美琴の惚れた相手が誰なのかを知る必要があるな。どうなるんだろ。

お砂糖警報ー
血糖値の高い人は自信の健康に留意して、用法用量を守って正しくお読みください。

643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/03(日) 23:53:00.82 ID:rI5ESmgao
>>642
お砂糖警報?
望 む と こ ろ だ
というか既にニヤニヤが始まってるww

あー、例え古くてごめんよー
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/04/03(日) 23:56:10.09 ID:AK0Ljdwro
ワッフルワッフル
645 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/04(月) 00:04:12.09 ID:ynDQyI+8o

「ん、ん、ん」
「光子、可愛いよ」
「ふあっ」

光子の目が大きく開かれた。当麻が、キスをせずに光子の唇を舌で舐めたから。
そのまま光子の下唇を、噛んだり、舐めたりする。
しょっぱい味がした。残念なことに自分のこめかみから流れた汗の味だった。

「ごめん、光子。汗が」
「ううん。気になさらないで。私もその、汗はかいていますし。それに当麻さんのなら私、気にならない」
「そっか」
「だから、その」

もっとして欲しい、という言葉は言わせなかった。言われなくても分かっていたから。

「ん、ちゅ、あ……」

当麻は、舌を光子の歯と歯の間にねじ込んだ。噛まないようにと、光子が慎重にキスに応じる。
よく分かっていないせいか動きの緩慢な光子の唇に強引に自分の唇を押し当てながら、
光子の奥深くへと舌を滑り込ませ、蹂躙していく。

「あっ! あ」

ガクリと、光子の膝が落ちた。
抱いた両腕でそれを支える。むしろその方が良かったのかもしれない。
ぐいと引き上げられて、光子の唇が、より当麻に接近した。
光子の瞳の中から強い輝きが失われた。代わりに艶のある、にびた光がとろんと浮かぶ。
当麻を求めてくれているのだと、そう感じさせる瞳だった。

「光子、愛してる。俺が見てるのは、光子だけだから」
「……当麻さんは誰にでもそんなことを言いますの?」
「そう思うか?」
「知りません。だって、光子はいつも、当麻さんに騙されていますもの」
「騙してなんかないよ。むしろ、俺がどれくらい本気で光子の事好きなのか、分かってくれてないみたいで悔しい」
「わかりませんわ。だって、当麻さんはいっつも、あ、ん、だめ、だめ……」

嫉妬をくすぶらせる光子が可愛くて、つい、当麻は耳を噛んだ。
そのまま舌でつつつ、と耳をなぞると、ピクンピクンと光子が震えた。
そして耳の裏へ舌を滑らせ、汗を舐めとる。

「あ! 当麻さん! そんなの、いけません。汗なんて」
「いいって言ったの、光子だろ? 俺は全然気にならないよ。しょっぱくて、光子の匂いがする」
「あ、汗の匂いなんて駄目ですっ! 匂いなんて嗅がないで……」
「いい匂いだけど」
「そんなはずありませんっ! もう、やだ……あ! だめ、です。当麻さん」
646 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/04(月) 00:15:29.23 ID:ynDQyI+8o

調子に乗って、当麻は耳の裏の髪に隠れた辺りを強く吸った。

「痛……えっ? 当麻さん、いまのまさか」
「ん、おー。痕、ついてるな」
「嘘、嘘! 当麻さんの莫迦。私、この後皆さんと片づけをしますのよ?! そんなときに見られたら……!」
「困るのか?」
「困るに決まっています! だって、見られたら当麻さんと何をしていたのか、皆さんに」
「今、何をしてるんだ?」
「えっ?」
「光子は今俺に、何をされてるんだ?」
「……莫迦」

上目遣いの瞳が、可愛い。

「耳噛まれたり、首筋にキスされるの、嫌か?」
「……そんなことはないですけれど、でも、恥ずかしい。それに力が抜けてしまいます」
「じゃあもっとすればいいんだな?」
「当麻さんの、好きになさって」

ぷいと目を逸らして素っ気無く光子は言った。
その口元が、期待に緩んでいるのを当麻は見逃さなかった。

「光子、舌、出して」
「え? んん、ちゅ……」

当麻の舌が、再び口の中に入り込んできた。
ゾクゾクする。背骨に沿って、得体の知れない感覚がぞぞと這い上がってくるのだ。
快感というには、まだ、光子の体がそれを受け入れられていなかった。
おずおずと、光子は舌を当麻の舌に絡める。舌と舌で互いを撫であうような、不思議な感覚。
当麻の鼻息が頬にかかってくすぐったい。でも、自分のだってきっと当麻にかかっていることだろう。
息苦しくて、吐息を気遣う余裕はなかった。

「ん?! んーっ」

突然、舌を当麻に吸われた。当麻の舌と唇で、光子の舌は蹂躙される。
腰の辺りがじわりと重たくなるような、不思議な反応を体が見せ始めた。
体つきは大人びていても、自分の体が当麻に与えられる刺激でどんな風になるのか、光子はよくわかっていなかった。
知識としてはいろいろなことを知っていても、経験で言えば、光子はインデックスと代わらない、初心な少女だった。

「どうだ? 光子」
「ふぁ……おかしく、なりそう」
「次は逆に、俺のも吸ってくれよ」
「当麻さんはエッチですわ」
「え?」
「どこでこんなこと、覚えてきましたの?」
「覚えてって、俺も初めてだよ。だから光子に嫌な思いさせてないか、ちょっと不安だ」
「……なんでも、してください」
「え?」
「当麻さんのなさることで、光子の嫌なことなんてありませんもの」
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/04(月) 01:49:36.54 ID:jWIulRyBo
まさかこっちのスレでも砂糖警報が来るとは…
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/04(月) 01:56:08.76 ID:s5UB4rSdo
大人のキスは中学生には早いすよ上条さん・・・
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/04(月) 02:14:02.48 ID:03CLBsNu0
ふぅ…エロ描写が濃ゆい再構成だな
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 02:18:47.60 ID:OL3L+ZSYo
おい
ここに御坂登場とかやめろよ

美琴がかわいそうすぎる
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 03:28:49.24 ID:YmIfoJ3DO
さすがにボイラー室までは来ないだろ



来ないよね?
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/04(月) 06:40:53.45 ID:77H9gIuxo
くるに決まってんだろ
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/04/04(月) 07:20:00.13 ID:cdVIo8o3o
>>651
こないだろ
つか、佐天さんあたりにバレくらってそうな悪寒
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/04/04(月) 09:27:23.33 ID:b+2Z1Qq+0
>>653
初春「白井さんにも佐天さんの能力を見せてあげたらどうですか」

佐天「別にいいけど、白井さん?どこかクーラーがきいていない部屋知りませんか」

白井「それなら、ボイラー室がいいと思いますの。あそこなら熱気が充満していている上に夕方まで誰も来ないはずですので、能力の披露にはもってこいの場所だと思いますわ」
655 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/04(月) 10:51:36.74 ID:ynDQyI+8o

光子を見つめると、優しく微笑んでくれた。
暑い。それは気温のせいでもあるが、たぶん、高ぶってきた自分の気持ちのせいでもある。
光子の後頭部を抱きかかえるようにすると、じわりと汗で湿っているのが分かる。

「ん、あ」

鼻にかかった声が光子から漏れて、それがたまらなく当麻をくすぐる。
光子のほうからも舌を積極的に出しはじめて、キスにぴちゃりぴちゃりと水音が混ざる。
腰砕けになった光子はすっかり当麻に体重を預けていて、豊かな胸のふくらみが当麻の胸板でつぶれていた。

「光子」
「はい……ん」

キスで口の中に溢れてきた、自分と光子の唾液が混ざったものを、掻き出すように光子の口に中に注ぎ込む。
驚いた顔をした光子。キスを止めずに、至近距離でずっと見つめてやると、コクンと、それを飲み込んだ。
ほう、と蕩けた様なため息を漏らした。

「味は?」
「莫迦。しませんわ……」
「嫌だったか?」
「当麻さんのですもの」

軽くキスをしてやる。そして口付けたまま動きを止めると、光子は一瞬戸惑った後、口を動かした。
そして、おずおずと光子の唾液を返してきた。

「んッ」

強く吸い上げて、光子の口の中から残さず唾液を搾り取る。そして当麻も飲み込んだ。
ぼんやりとよく分からないといった顔をした後、光子がじわじわと喜びを口元に表した。

「ちょっと、光子のほうが冷たいかな」
「当麻さんのは、熱かったです。どうしよう……こんなことされて嬉しいって、私変なのかしら」
「俺も嬉しいよ」
「じゃあ私は変なのですわね」
「俺は変態扱いかよ」
「だって、当麻さんはエッチですもの。あっ!」

エッチなんていわれたら、期待に応えるしかない。
光子のお尻から15センチくらい下、太ももの裏に、当麻は手のひらを当てた。
そうしてすうっと撫でながら、手を上に滑らせていく。

「あ、あっ、あ……当麻さん駄目、それ以上は」
「止めて欲しい?」
「だ、だって。スカートが」

常盤台のスカートは短い。こんな風に太ももから直接撫で上げていけば、それは当麻の邪魔をしないのだ。
つまり、スカート越しじゃなくて光子の履いた下着に、直接触れることになる。
優しい肌触りの布の縁に、当麻の指がかかった。そこは太ももの終わり、お尻の始まり。
当麻はキスをする。そうして顔をどこにも逸らせなくなった光子の、真っ赤になった顔を眺めながら、
当麻は下着の上からお尻に触れた。

「ああ……駄目って、言いましたのに」
「柔らかいな」
「莫迦」

女の子のお尻だった。ぷっくりと丸くて、柔らかい。
泣きそうな顔の光子が可愛くて、つい、お尻を撫でたまま強引なキスをする。
656 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/04(月) 11:04:39.26 ID:ynDQyI+8o

舞台に立って、お辞儀をする。
足元の座席には、白井と初春、佐天がいた。
うっとりした表情の白井にイラッとし、同じ表情の初春には苦笑してしまった。佐天と目が合うと、微笑んでくれた。
それらを落ち着いて眺めながら、もう一度チューニングをした。

寮祭はそれほど大規模ではない。おそらく、この時間には大体皆飽きてきたのだろう。
人は結構多くて、色んなところから見ていてくれる。
自然に辺りを見回しながら、美琴は一曲目を奏で始めた。

「ああ、御坂さん……なんて美しいんでしょう」
「初春があっという間にトリップしちゃった。白井さんはいつもだけど……」
「お姉さま、ああお姉さま、お姉さま」

実際、美琴の演奏は上手かった。
佐天はクラシックに造詣などないが、器楽を専門にしていない一人の中学生の演奏としては、
なによりまず、堂に入っていると思う。曲の世界観をちゃんと表現できていた。

演奏しながら、美琴には余裕があった。
あ、湾内さんと泡浮さんだ。婚后さんは……仕事だっけ。アイツが見えないのよね。
でも、この場にいたから。土御門の兄あたりとだべっているのかもしれない。
音楽に興味がありそうには見えなかったし。
だけど構わない。たとえBGMでも、自分の音は、きっと当麻の耳に届く。
自分が立っているのが舞台だなんてことを忘れて、美琴は気持ちの乗った演奏を続けた。
結局当麻に連絡を取れなかった昨晩からついさっきに至るまでの、どんよりした気持ちは吹き飛んでいた。
音を奏で、届けたい人に届けられることが楽しかった。
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 11:34:24.81 ID:4xAA7KYOo
美琴ェ・・・
いっそもう楽にしてあげて・・・
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 12:25:22.80 ID:VbKN6L4bo
実際は人気のない場所でチュッチュしてたのを知ったらと思うと美琴が不憫になってくる・・・
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/04(月) 12:43:01.14 ID:vbiH68QK0
美琴がピエロ過ぎるwwwwww
このまま焦らし続けるのもありだよな
熟しきった所でぽっきりと
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/04(月) 13:17:53.77 ID:03CLBsNu0
もうやめて騎士長
美琴のライフが0になる
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 13:18:08.98 ID:OL3L+ZSYo
やめてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
それ以上俺を苦しめるな
いや、面白いよ?
面白いけど美琴がああああああああああああああああああああああああああああ

ぐは
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/04/04(月) 13:26:25.36 ID:Hewo7RXYo
妹達で更に堕ちていくんだろ、いやぁ大変だなー美琴さん
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/04/04(月) 13:35:38.87 ID:YiPnhBlho
>>662
それを上条、光子、インデックスが引きずりあげるんだろ、JK
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 14:28:00.48 ID:Rci1mv/X0
ほっといたら行き着くとこまで行きそうだな上条さんはww
そして美琴ェ…
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/04(月) 14:50:59.39 ID:IPb1/6dM0
nubewoさんは恋愛ものを書くのもうまいけど
エロ書くのはもっとうまいよね
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/04(月) 17:16:18.45 ID:5wD+/EM10
ここの上条さんはかなり積極的だな。




いいぞ、もっとやれ
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/04(月) 17:39:13.68 ID:DlIjSUebo
光子さんの度量が狭くなって不信感むき出しモードが
ちょっと唐突な感じを受けるな。
嫉妬じゃなくいきなり不信感というのが…なんだろ?
心理掌握のかるい悪戯とか考えちゃうな。
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 17:42:25.29 ID:OL3L+ZSYo
>>667
あの性格が極悪と言われている心理掌握がこんな軽いいたずらなんてしないから大丈夫だww
多分ww
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/04(月) 18:26:44.79 ID:DpEFMPO3o
インデックスみたいに魔術とか、取り巻く状況とか特殊な相手ならともかく、
常盤台で自分に近しい立場の女の子が相手だと嫉妬や心配が抑えにくいのでは?
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/04(月) 18:34:34.25 ID:NKxHfvTxo
>>667
レベル5にまでフラグ建築してるとか焦るだろ
少なくとも学園都市の女で最上位なんだから、それ以下にも立てられぬ道理がない
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/04(月) 20:44:07.15 ID:c9a2fvN7o
なんと昼間の更新乙です。

あかんて・・・愛撫はあかんて・・・ww
上条さんはきっとAVとかエロ本の知識を総動員して頑張ってるはずww

それにしても、浮気疑惑?で雰囲気が悪くなると体で有耶無耶にするとか
天然ジゴロですねww
ええ、普遍的に有効なのが腹立たしいww

次回も楽しみにしてますよー
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 20:54:54.82 ID:6uZhcfVIO
>>1は本当に美琴が好きなんだな
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/04/04(月) 21:15:40.04 ID:4MW8QplAO
好きな子ほどイジメちゃうんですね、よくわかります
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 22:17:03.77 ID:us+tW3Qa0
婚后さんの嫉妬は素直で可愛いなー
噛み付きもビリビリもないし(あれはあれでいいものだけど)
675 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/05(火) 01:12:14.30 ID:gIWWDR2So

「あ……」

遠くで、ヴァイオリンの音が聞こえ始めた。
優しい音色が、二人の熱気と荒い吐息で満たされたボイラー室にまで届く。
すぐに、光子が窓を閉めた。聞こえる音量はそれで半分くらいになった。もう耳を澄まさないと聞こえない。
光子の、それは妬き餅だった。

「当麻さん、だいすき……」
「俺も好きだよ、光子」
「もっと……ああ」

腰ではなくて、下着の上から鷲づかみにしたお尻をぎゅっと持ち上げて、光子を自分のほうに引き寄せる。
窓を閉めてさらに部屋は暑くなった。密着した二人の頬で汗が交じり合って、光子の胸元へ滴っていく。
光子、と耳元で吐息混じりに呟いて、じっと目を見つめた。

「とうま、さん」

真剣で、燃えたような当麻の瞳に見つめられて光子はクラクラと眩暈を覚えていた。
心臓が痛いくらいにドキンドキンと鳴っている。
なにか、重大な言葉を告げようとしているのが、光子には分かった。

「もっと触りたい。光子に」
「……」
「胸に触っても、いいか?」

答えられなかった。イエスと言うべきなのかもしれない、だけど、答えはノーだから。

「光子が嫌なら、絶対にやらない。でももし、望んでくれるんだったら」
「……嫌いにならないで、くださいませ」
「え?」
「怖いの……」

遠まわしに、気持ちを伝える。告げた言葉が全てだった。
当麻を怖いと思ったことはない。手つきはずっと優しかったし、体が目当てなのではないと、
光子の心を欲してくれているのだとも分かっていた。
だけど、あまりに深い関係は、光子をひどく不安にしてしまう。
一度越えてしまえばもうきっと戻れない。容易に失ってはならない純潔を、流されて、捧げてしまいそうになる。
それではいけないとも、光子は思うのだ。当麻のためにも。
当麻にも光子にも、将来を添い遂げる覚悟はない。いや、覚悟をしたくても、幼さがそれを許さない。
だから、怖い。

「怖がらせてたんなら、ごめん。光子が可愛いからさ」
「ううん。当麻さんが怖いんじゃないの。だけど……。ごめんなさい

もう一つ、光子には怖いものがある。
遠くから聞こえてくる、この曲。御坂美琴という友人の気持ち。
常盤台の生徒にしてはざっくばらんな性格で、好ましく思っていた。
面倒見が良くて、いつも大人びた感じのする同級生だと思っていたのに。
当麻に見せた顔は、光子の知らない顔だった。
本音むき出しで、すこし幼さすら見せる感じで。当麻という人に、甘えているのがよく分かった。
それを当麻も自然と受け止めていて、すごく、お似合いな気がした。
高飛車で我侭で、当麻を困らせてばかりの自分より、美琴のほうが当麻も好きなんじゃないかと、
そんな後ろ向きな気持ちが、心の片隅にずっと引っかかっているのだ。
676 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/05(火) 01:14:02.86 ID:gIWWDR2So

「光子」
「えっ?」

さらさら、と髪を撫でられた。
優しい当麻の笑顔に、無条件に安心してしまう。

「なんか今日は変だな」
「そうですか?」
「……俺が色んな女の子と喋ったからか?」
「だって、嫌ですもの。御坂さんとだってあんなに仲良く」
「んー、光子が何で御坂をそんなに気にするのかがわからないんだけど」
「……」
「う、ごめん。泣くなよ」
「泣いてません!」

ちろりと目尻を当麻に舐められた。
女の涙腺は一度緩むと、止めどがないのだ。

「よくわかんないけど、光子が嫌なら、御坂のやつとは距離を置くようにするから」
「嫌な女ですわ、私。そうして欲しいって、思ってしまったの」
「光子が他の男と仲良くしてたら、俺だって絶対にそうなるから。だから、気にするな。
 光子、キスするぞ。分かってもらえるかわからないけど、俺が惚れてるのは光子だって、キスで教えてやるから」
「はい……」

光子が、当麻の頭を抱くように手を伸ばした。
耳にかかるように置かれた光子の手のせいで当麻は美琴の音楽を見失って、光子の甘い吐息だけに集中した。

「ん! ふぁ……あ、あん」

耳を噛み、首筋を舐め、唇と舌でぐちゃぐちゃに光子の口内を犯す。
壁に光子の体を押し付けて、さらに自分の体を押し付ける。二人が一つに溶け混じりそうだった。

美琴の演奏が終わって、中庭に喧騒が戻るまでの間、二人はそうやってキスを続けた。
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/05(火) 01:16:49.44 ID:DdM/32k5o
BGM涙目wwwwwwwwww(´;ω;`)
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 01:20:41.67 ID:OCaTGE0Go
美琴の扱いに俺、本気で泣くぞ?
つか泣いてるぞ?

面白いけどな
679 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/05(火) 01:22:57.05 ID:gIWWDR2So
>>657
携帯アドゲットまで行っちゃってるんで、美琴さんはもう原作以上に上条さんに惚れてますよ!
……ああうう、可哀想に。

光子と付き合ってるトコからスタートさせたことが活きてくる展開になってますねえ。
ミコトスキーの諸兄は別のSSで美琴味の砂糖を補給しておいてくれ。
このSSではちょっと楽しめそうにない味だ。

>>665
ありがとうwでも俺エロなんて書いてないよ?w
キスでエロとかないんだぜー。

>>667
ずっと光子は、当麻が常盤台のレベル5、「ビリビリ」さんと仲がいいの知ってたのよ。
でも、どうせレベル5だから嫌なやつでしょ?とか、自分より可愛いことはないし、
当麻と仲がいいわけもない、みたいなことを思ってたのよ。
でも蓋を開けてみると、自分がいいヤツだと思ってた美琴がまさにその人で、
しかも当麻との会話が自分には出せない軽快なリズムで、
しかも美人だしそのうえ光子が見たことないような可愛い顔してるわけよ。
それで嫉妬がマッハになったの。
……という描写を足しておくね。

>>671
抱いて機嫌をとるとかずるいテクですよねーwww
今回はお尻タッチとディープキスで止めましたから、
あと何段階の進展があることやら。

>>672
美琴大好きよ。なのにいじめちゃう。

680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/04/05(火) 01:46:37.23 ID:AN74qFaR0
尻を鷲掴みするのはエロですww
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 03:05:10.97 ID:zP34WDLDO
婚后さんは上条さんだけじゃなくて、いまいち自分も信じ切れてないんだな
と思う。

こういうときは「自分は可愛い!当麻さんには私しかいない!」と自信を持つといいのじゃよ。

ま、そんな経験無いんだけどね。
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 04:27:52.59 ID:yQpKGEc/0
ナニこの演出?皮肉過ぎて乙

哀れ美琴。よりによって、このシーンのBGM扱いか。
美琴嫌いの私でも、さすがに泣けてきた
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/05(火) 06:52:21.32 ID:bYbBhp8Ao
エロいかどうかは行為のレベルでは無くて描写で決まると思うんだぜ
その基準で行くと明らかにエロいんだぜ
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/04/05(火) 07:59:46.06 ID:P0s/wX8+o
>>679
フラれても光子相手なら納得する気がせんでもない
ただ、光子泣かすと禁書と一緒に上条〆そうだがww
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/04/05(火) 08:20:54.64 ID:X3iqappZo
ここで上条さんが強行して胸を触りまくっていれば、

「ああ、この人はおっぱい星人なんだ…それならわたくしの大勝利ですわ!」

って光子さんの中で丸く収まったかもしれないのにw
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/04/05(火) 08:23:29.91 ID:X3iqappZo
なんだよ、おれのID逆から読むとおっぱいが微妙に
隠されてるシーンみたいじゃないかorz
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/05(火) 08:54:11.64 ID:WDqxMvjpo
>>686
×微妙に
○大雑把に
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/05(火) 13:00:20.74 ID:HXrRBOkVo
胸や尻以外にも、愛撫するところはたくさんあるだろう上やん
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/04/05(火) 14:17:37.91 ID:S0YWVOlco
>>632
婚后さんはアニレー最終回で
多数の敵の銃撃を回避しながら敵に接近してエアロハンドで敵をちぎっては投げちぎっては投げと活躍した設定だから
戦闘できるはず
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/05(火) 16:14:45.84 ID:ifXu1wpDo
美琴哀れすぎるwwwwwwwwwwww




哀れすぎる……( ;∀;)
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/05(火) 20:48:38.00 ID:l1stSHnZo
更新乙です!

いやー、ビリビリの演奏が素晴らしい小道具になってますね。
演奏を締め切り、音が彼らの間から消えていく描写は素晴らしかったです。
そして年頃のおにゃのこのべそべそ泣く描写もすごいわww
やはりこの二人がイチャイチャするのはいいですねえww
これで光子さんの機嫌も戻るし、どこか艶めいて綺麗になって皆のところに戻るのでせうww
冷やかされるんだろーなーww

次回も楽しみにしてますよー
692 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 00:08:25.95 ID:q/Gt2K7Xo

日もまだ翳るには早い夕方、当麻とインデックスはエリスを送って教会の前にまで来ていた。

「今日はありがとね、インデックス。それに上条君も」
「また今度ね、エリス
「次は夏祭りだな」」
「うん、ありがとう。それじゃあね」

数日後の夏祭りでまた会うから、挨拶は軽いものだった。
あの後、当麻と二人で過ごしてかなり機嫌の回復した光子は、エリスともある程度打ち解けてくれた。
インデックスに加えてエリスの浴衣の着付けまで引き受けたようだった。
……実はエリスが垣根と逢瀬をするつもりなのだとわかって安心したから打ち解けたのだった。
光子もエリスも、そういう事情を当麻にはわざわざ教えなかった。
扉を閉めるまで手を振ってくれたインデックスに笑顔を返して、エリスは中庭へ出る。

「お帰り、エリス」
「あ、ていとくん……」

いつもどおりの態度で迎えてくれた垣根が、どこか拗ねているのに雰囲気で気づいた。
ちょっと後ろめたく思った自分の態度が、垣根の本音をうまく説明している。
形として、エリスはデートに誘ってくれた垣根を差し置いて当麻と遊んだことになる。

「ていとくん。今日のこと、話すね」
「いいよ。……そういうので怒るほど、了見は狭くない」
「私が嫌だから、話をさせてほしいんだ」
「そうかい。ならまあ、聞くけど」

そっぽをむいた垣根の唇がわずかながらに尖っている。妬き餅を焼かれるのは、嬉しい。
良くないことと知りつつ、垣根に好意を向けられるのを喜ぶ自分がいた。

「今日は常盤台の寮祭に、インデックスと一緒に遊びに行ってたんだ。
 ていとくんが怒ってるように、上条君とも一緒だったけど」
「へー」
「上条君の彼女さんに怒られちゃった。
 もちろんインデックスも一緒だったけど、上条君とも一緒にいたから。
 でも彼女、婚后さんにも悪いから、上条君とは一度も横に並ばないようにしてたよ」
「並びたかったんなら、並べばよかっただろ。あのヤロウの彼女がどんなもんか知らないが、
 エリスより可愛いことはない。すぐに追っ払えたんじゃないか?」
「ふふ。そんなことするわけないでしょ。上条君はいい人だけど、別になんとも思ってないし」
「なんとも思ってないのは、アイツだけじゃないだろ?」

フンと自嘲めいた笑いをこぼす垣根に、心が引っ張られた。
違うんだけどな、と心の中でエリスは呟いた。

「ていとくんは、特別扱いしてあげてるよ?」
「そうなのか?」
「……もう。夏祭りの約束、忘れちゃったほうがいい?」
「上条とでも行くんじゃないのかよ」
「あ、ていとくん。今の妬き餅の焼き方、好きじゃない」
「別に妬いてねーし」
「上条君は彼女さんと一緒だし、そうじゃなくても、一緒には行かないよ。
 私を誘ってくれたのは、ていとくんだったし」
「そーかよ」

ずっとエリスを直視しないその横顔が僅かに緩んだのを見て、エリスももう、と笑った。
当麻はたぶんいい人だが、インデックスがいつも間に挟まるために、すこし遠い人だった。
光子がいなくても、たぶんその次はインデックスに遠慮していただろう。
光子がいない世界がもしあるなら、二人はもっと恋心を抱きあうような関係になっている気がするから。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/06(水) 00:10:52.21 ID:OTGIMEEUo
ていとくんかわいいなぁ
694 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 00:11:34.49 ID:q/Gt2K7Xo

「ね、ていとくん。私のお小遣いそんなに多くないけど、それにあわせてくれる?」
「別にいいぜ。全額出すくらいのことはなんでもないけど、それが嫌なら、エリスにあわせる。
 夜店で遊んで晩飯食えるくらいはあるのか?」
「うん。でも品数はあんまり揃えられないし、半分こしよ?」
「お……おう」
「あーていとくんがデレた」

予想外の反応。ストレートなお願いに、垣根が戸惑っていた。可愛いと思う。
しかしすぐさま気を取り直して、また気障を装った。

「なんなら全部口移しでもいい」
「いいよ? じゃあそうしよっか」

また、照れさせるつもりでエリスはそんな冗談を言った。
だけど、垣根のリアクションは真面目だった。

「本当に、いいのか?」
「えっ……?」
「そこまで俺に踏み込ませて、いいのか?」
「……」

それは垣根の気遣いだった。
三度も垣根の告白を拒み、あと一歩の距離を譲らなかったエリスが見せた油断に、つけ込まなかった。

「……ごめん」
「いつでも本気にしてやるから、その気になったら言ってくれよ」
「ねえ、ていとくん」
「ん?」
「そういえば、私が何歳かって、ていとくん聞いてきたことなかったね」
「どうでもいいからな。エリスが何歳でも、エリスはエリスだ」
「もしかしたらていとくんよりおばさんかもしれないよ?」
「そうは言うけど年上の余裕を感じないぞ? エリス」
「むー」

垣根はそれで悟った。おそらく、エリスは自分より年上なのだろう。
冗談めかした言い方に、真実を混ぜている味がした。
でも、本当に関係ないと思う。

「ね、ていとくん。オレンジ剥いてあげるよ」
「ん、サンキュ」
「でも届かないから……手伝って」
「……いいぜ」

垣根は能力者だから、手の届かないところにあるオレンジをとる事なんて、工夫次第でなんとでも出来る。
だけどそれを言い出さなかった。エリスが望んでいるのはそういうことではないと思うから。
かがんで、エリスの腰を抱く。突っ張った態度の裏で、とんでもないくらい垣根は動揺していた。
エリスの優しい匂いに、クラクラする。
悟られないように足を踏ん張って持ち上げると、抱いた手に、そっとエリスの手が重ねられた。

「ありがとう、帝督くん」
「エリス、重いから手早く頼む」
「もう! ていとくんのバカ!」

ずっと抱きしめていたいけど、そんな気持ちを悟られるのが嫌で垣根は意地悪をした。
エリスはそんな垣根の態度も、分かっていた。そして自己嫌悪にそっと蓋をする。
こんな風に好いてくれる人を弄んでいる自分は、なんなのだろう。
ずっと一緒にはいられないと分かっている癖に。自分の事情に未来ある人を巻き込んではいけないと分かっている癖に。
当麻が悪いのだ。あんなに、恋人との幸せそうな光景を見せ付けるから。
人とのつながりが、ぬくもりが、エリスは恋しかった。
695 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 00:45:19.34 ID:q/Gt2K7Xo

「こんなトコ、かな」

美琴は自室の脱衣所件ドレスルームに備え付けの大きな鏡の前で、軽く髪を手でほぐす。
別になんてことはない。演奏が終わったというのに着替えもさせてもらえず、
挨拶ばかりやらされていたのがちょうど終わって、ようやく制服に戻れたところだった。
ただ、髪飾りを、変えてみただけ。

「まあ前のもこれもママがくれたヤツだし、世代交代しても文句は言われないわよね」

ちなみにコレを渡した当のママ、御坂美鈴は美琴に向かって、
恋するお年頃なんだからアクセサリくらい気を使ったら、と言っていたのだが、
当麻と知り合う前だったので聞き流してしまった覚えていないのだった。

自分が髪飾りを代えようと思った心境を、美琴はちゃんと把握していなかった。
綺麗だと言ってくれた当麻の、その言葉が引き金だった。
白いサマードレスは着替えざるを得ないけれど青リボンをあしらった花飾りを取る段になって、
いつもの素っ気無い髪留めに戻すのが味気ないと感じたのだった。
とはいえドレスに合わせた髪飾りは実用性が低いし、これだけ目立つと寮監のチェックが入る。
そう思って、アクセサリーの入った小箱から取り出したのが、
小さな花を二つ並べたm母に貰った髪留めだった。

「ま、これなら別に誰にも何も言われないでしょ」

白井は当然出会い頭に大仰に驚くのだが、そこに美琴は気が回らなかった。
そろそろ、戻らなければならない。片付けはそこかしこで行われているから手伝わなければ。
疲れもあまり感じていなかった。
大仕事としておおせつかったヴァイオリン独奏が会心の出来で、楽しんでいるうちに終わってしまったから。
歩きつかれた客が休憩するのにちょうどいい程度の時間でプログラムは終わったし、まだまだ手伝える。

「土御門が皿洗いやれってうるさかったし、あそこに行けばいいかなっと」

足取りも軽く、美琴は自室の扉を開いた。
今日は一日、楽しい盛夏祭だった。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/06(水) 00:47:56.53 ID:a8jJd2TX0
書き貯めじゃなかったのか
697 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 00:52:47.92 ID:q/Gt2K7Xo
みんな大好き美琴さんが第二章までのinterludeを締めてくれました。
これで『interlude10: キッス・イン・ザ・ダーク』が終わり。
次からは第二章が始まるよー。ついにアニレー最終章に突入だ。

>>680 >>683
ちまたのエロ小説ってちらっとしか読んだことないけど、
頭の悪そうな隠語連発してるだけでこれっぽっちも燃えないと俺は思う。
なんというか、普通の恋人がする行為を普通の言葉で書けばいいじゃないかと思うのですよ。
キスとお尻タッチだけで充分エロいと思ってもらえたなら書き手としては満足だ。
698 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 00:54:59.96 ID:q/Gt2K7Xo
>>696
毎日その場で書いては上げてるよん。書き溜めて推敲して、ってのはarcadiaに上げるときで、
ここへは書けたらすぐ投稿してる。執筆→投稿って流れと推敲ってプロセスを分離することで、
執筆ペースが向上することが分かったので。あれだね、つい読み返すと読みふけっちゃうから。
自分のSSなのに。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 01:23:28.80 ID:5s679ohLo
もうやだ・・・・・
美琴が、美琴がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


泣けてきた
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 01:28:15.62 ID:6U13ywR80
いつ御坂は光子とつきあってるのを知るのか……

その後御坂は美琴スキーの方々にお持ち帰りという……
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/06(水) 02:20:46.45 ID:PPTNzVti0
エロっていうよりエロスかな

エロく感じるのは行為だけじゃなく、婚后さんの反応とか言動が
そう感じさせてると思う
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/06(水) 02:51:42.73 ID:9vscRgm0o
あん、だとか喘いでるのをセリフにされる度に萎えるが
いわゆる官能小説ってのもこんな感じなのかな、仕方ないことか
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/06(水) 04:23:38.51 ID:lxyurR9Co
ボイラー室でセックスしました。
って書いてあってもエロいと思わないけど
キスと尻タッチだけでも>>1みたいに描けばエロい

さらに美琴の演奏BGMでエグみまで出てる
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2011/04/06(水) 09:09:59.77 ID:ZlHViQObo
まあ、テレス戦あたりまでにはバレるっしょ
このSSで起きるのかはしらんがww
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/04/06(水) 09:35:38.23 ID:qHfqREQAO
なに二次作品にマジになってるんだよ…
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 09:41:21.62 ID:yRhHlhp+0
毎度毎度ageんな沖縄
あとたいがいにしろよ関東甲信越
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/06(水) 14:03:10.88 ID:7ERgnYb/0
仲良く1が来るのを待とうや。
スレの雰囲気壊すような無粋な真似はよくないぜ。
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/06(水) 16:38:20.15 ID:0eCel+Vro
テレス戦やるとなるとキーアイテムの佐天バットの代役が必要になるな。
アニレーなぞるならここの佐天さん行動不能になるし。
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/06(水) 17:01:41.19 ID:4SZaxdNzo
>佐天バットの代役
インデックスの噛み付きだな
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/04/06(水) 17:05:04.31 ID:qqDEvnFAO
むき出しの顔面を上条さんがぶん殴ればおk
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/06(水) 19:01:41.95 ID:XUDAk3+uo
顔殴る前にジャマーなんとかせいww
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/06(水) 19:22:15.30 ID:ZlHViQObo
>>706
専ブラのsageチェック外れてたスマソ
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/06(水) 19:34:35.59 ID:4SZaxdNzo
>>712
サトイモが悪いんやな・・・
714 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/06(水) 22:39:51.61 ID:q/Gt2K7Xo
>>706 >>713
地域を取り上げて非難しても雰囲気良くなることはないし、そういうのは無しで行こうぜー

>>702
エロって人によって好みが分かれやすいのかなぁ。
まあ、お口に合わなかったらごめんよ。

テレスティーナ戦がどうなるかは大体決めてるけど当麻さんの動きが決まらない。。。
なるようになるだろう、きっと。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/06(水) 22:42:58.55 ID:GNWaxejzo
しかし、キッス・イン・ザ・ダークか。
そのとおりなんだろうけど、映画の欝さ加減がビリビリの未来を暗示してるっていうwwww

もてた の続編を発見したので読んで来ます。

次回も楽しみにしてますよー
716 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/07(木) 01:26:51.30 ID:zi4x+mN+o

「あの子たちに鎮静剤を。大至急だ」
「わかりました」

時刻は日付の変わる少し前。
医者であっても当直や救急でなければとうに仕事を終えている時間に、
カエル顔の医者は病院の廊下を早足で歩いていた。
向かうは地下、一般の患者の立ち入りを禁じた一区画に、医者は少年少女たちを寝かせていた。
学園都市に捨てられた子供たち、いわゆる置き去り<チャイルドエラー>であり、施設で育った子たちと聞いている。
いずれも、目を覚まさない。医者の超人的な力を持ってしても、覚醒する見込みそのものがたっていなかった。
子供たちのいる治療室に入り、医者はバイタルデータ、心拍数や脳波と、AIM拡散力場の変位測定装置を見た。
脳波は、むしろ正常だった。植物状態で示す異常値に比べて、ずっと波形が覚醒した人のそれに近い。
そしてAIM拡散力場は。

「……木山君は、明日保釈か」

解決策に最も近い、頼みの綱の知人の名を呟く。
覚醒を始めた子供たちを、再び眠りに引き戻すことしか出来ないことを憂う。
だが、こうしなければ、危険なのも事実。

「今日の乱雑開放<ポルターガイスト>が小規模だといいが」

木山に依頼をされて、初めてこの子達を覚醒させようとしてから数ヶ月。
だんだんと、薬で沈静させるのが難しくなりつつあった。覚醒の周期も早まっている。
いつしか止められなくなる日が来る。それは、もう遠くない未来だった。
それでも医者は絶望しない。希望を捨てず、淡々と意欲的に、解決策を探す。
無痛針をカシン、カシンと押し当てられていく子供たちを見つめながら、医者は考え続けた。




紅茶に手を伸ばすと、紅茶が逃げた。

「えっ?」

読書用のデスクに置いたカップに、光子はナイトキャップティとして薄く淹れたアールグレイを注いでいた。
カップの中で紅茶は激しく揺れ、いくらかこぼれていた。
自分の手でカップを突き飛ばしたかと、一瞬疑う。だがそんなことがあれば気づくだろう。
元の位置より10センチは動いていると思うから、こんなに動くくらい手を当てれば痛みの一つも残っているはずだ。

「……気のせいかしら」

そう呟くのと同時くらいで、カタリと音を立てて、棚に座らせた人形が一体、床に落ちた。

「誰ですの?!」

飾るくらいに人形の好きな光子だ、こんな風に情けなく倒れ落ちるような座り方はさせていない。
現に人形が落ちたことなんて今まで一度もなかった。
そしてデスクを離れたとたん、今度はカップががしゃんと、床に落ちて割れた。

「私を常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの?」

一番に思いついたのは、自分の姿を隠せる能力者。
一ヶ月ほど前に実際に襲われた経験があるので、常盤台にそんな能力者が侵入するわけがないと一蹴は出来なかった。
だが返事はない。人の気配も感じられない。
先生を呼ぶべきか、と考えたところで、ふと自分自身に違和感を感じた。
能力使用中に動転してしまった時のような、力がコントロールを外れる感覚。それを光子は感じていた。
その感覚が光子の混乱をさらに呼び、その混乱が光子の感覚をさらに乱す。

背中に視線を感じて、光子は部屋の中で大きく振り返った。
人などいるはずもなかった。代わりに、いつの間に動き出したのか、お気に入りでコレクションした西洋人形達が、
覆いかぶさるように重なりながら、ガラスの目で光子を見つめていた。
普段人形を愛でる光子を、恐ろしいという感情一色で染め上げるほどにそれは、シュールな光景だった。

「いや……っ、いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 13:41:07.18 ID:vAfKsKLl0
重箱の隅をカーボンナノファイバーでつつくようなことを言って非常に申し訳ないんだが、
×違和感を感じた ○違和感を覚えた
どうしても気になったんだ、ごめん
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/07(木) 16:22:22.01 ID:mhvTp5b4o
違和感を感じる、は誤用でもなんでもねーよ
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 18:39:28.32 ID:meT8pUyDO
自分が正しいと疑わないで指摘するあたりに笑う
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/07(木) 18:43:12.16 ID:ZlW93N7R0
バカってどこにでもいるんだな
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 18:49:27.09 ID:vAfKsKLl0
誤用だとはいってないよ。いや正確には誤用なんだけど、そんなんじゃなくて重複表現が気になったってだけ
別に直してもらおうがもらうまいがいいんだけど、俺がどうしても言いたかっただけ
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 19:28:47.54 ID:DE9O1yuE0
まあ、頭痛が痛いとか馬から落馬したとかのレベルだと気になるけどな

ところでアニレーのオリジナルエピソードを悉く見てないんだけど
ポルターガイスト編とかどう?面白い?
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/07(木) 19:45:49.70 ID:HJJZI4MSO
Read the air
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 19:48:53.82 ID:HJJZI4MSO
ってあげちまった俺が言っても説得力ねぇな
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/07(木) 19:58:19.19 ID:G96KHuX7o
      _
      /,.ァ、\
     ( ノo o ) )
      )ヽ ◎/(. 
    (/.(・)(・)\ 
    (/| x |\)
      //\\
   . (/   \)
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/07(木) 20:14:21.89 ID:f8rM98Pio
新章突入ですね。
そういや、ポルターガイストの被害受けたの光子さんだったか。
でも人形って夜見るとほんと怖いよね。
正直苦手ww

次回も楽しみにしてますよー
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/07(木) 20:16:51.14 ID:mhvTp5b4o
>>721
だから誤用でも重複表現でもねーよ
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 21:07:20.97 ID:vAfKsKLl0
>>727
いや、誤用については詳しい人でも意見が分かれるだろうけど、重複表現は重複表現だよ?
流石にそこは譲れないわ、いくらボロクソに言われようとも
重複表現が一概に悪いとされてる訳じゃないけど俺は気になったっていう、それが言いたかっただけ
俺出しゃばりすぎだな。すまん。日付変わるまでおとなしくしとくわ
ごめんね>>1、俺が悪かった。無視してね
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/07(木) 21:21:00.97 ID:zXPGnHpF0
俺は国語は詳しくないが
このssに限れば、前後の文章で
「感じられない」「感じていた」などが出てくるし、
「自分自身に」との接続を考えれば「感じた」で問題ないように感じる
730 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/04/07(木) 21:47:20.48 ID:fc7VSdbK0
なんか白熱してるなww
昼に>>717の指摘見て、普通に俺は直そうと思った派だったww
「感を感じる」ってのはちょっと気持ち悪いと思う。
勢いで書いてるからそういうの気にしないのよねん。ここに上げるときは。
まあでもぶっちゃけ、どっちでもええんじゃなかろうか。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/07(木) 21:52:02.13 ID:f8rM98Pio
まー、推敲は理想郷に載せる時でええんじゃないか
勢いでここにカキコでいいと思うのですよ、あうあう。

732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/07(木) 22:03:21.50 ID:mhvTp5b4o
違和感が“違和+感じる”じゃねーんだから重複もクソもあるか
頭痛が痛いなんかとは違う
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/04/07(木) 22:52:19.77 ID:WI1V/EYAO
終わった話を蒸し返すな
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 22:53:30.94 ID:DE9O1yuE0
日本語は難しいな。「竹馬から落馬した」は重複なのか誤用なのか
はてしなくどうでもいいや。終わりにしようぜ

個人的には光子の「ですの」口調のが気になった
もちろんお嬢様だから使っても全く問題ないし、正しいんだけど
どうしても黒子に引っ張られちゃう。黒子つえー
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/04/07(木) 23:07:53.07 ID:WI1V/EYAO
黒子は「ですの」
光子は「ですわ」
個人的にはこんなイメージ
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/07(木) 23:16:06.77 ID:vAfKsKLl0
おとなしくするって言ったろ俺・・・。まぁID:mhvTp5b4o個人へのいちゃもんということでひとつ。
前にもこの手の議論をしたことがあるんだが、どんな辞書で見ても違和感は
「ちぐはぐな感じ」とか、「どことなくそぐわないという印象」って説明されてるんだよ。
違和感に限らず温・冷感のように生理的な意味での「感覚」ではなく、なおかつ末尾に感の付く言葉は
「〜な感じ」となるわけだ。広辞苑の「感覚」の項で言うAの用法だな。
となると違和感を〜は紛れもなく重複表現だよねって思ったの
学者でもそういうのを学んでる学生でもないから正しいかどうかは分からんけど
俺は俺なりに根拠あっての発言だったことだけ言っとくわ
あー終わり終わり。もう絶対今日は書きこまねー。重ねてマジごめん>>1
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/07(木) 23:17:17.99 ID:ucG3sihBo
春だなあ
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 23:41:32.78 ID:meT8pUyDO
歌を歌う。指を指す
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/07(木) 23:59:00.83 ID:mhvTp5b4o
>>736
“しっくりこない感じ”を“感じる”のどこが重複表現なんだよ、落ち着け
劣等感なんかと同じ
740 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/04/08(金) 00:10:34.05 ID:1PNUZ6Sz0
まだ伸びとるwwお願いだから明日の発表スライドを夜が明けるまでに作らせてくれー。
今日は続き無理やわー。新学期は忙しいね。
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/08(金) 00:16:20.51 ID:gw29fnQso
>>740
あー、寝るなり資料作るなり頑張ってくれ。
生存報告さえあれば、十年は戦える。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/08(金) 00:17:30.32 ID:4eoJDg9Uo
待ってるよーがんばれー
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/04/08(金) 00:19:51.75 ID:kLQ08HL/o
>>736
そもそもお前の御高説読むスレじゃないんだよ。
わきまえて今日といわずずっと黙っててくれ しつこいそして邪魔。
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/08(金) 00:20:50.53 ID:gw29fnQso
>>743
いちいち攻撃的にならんでもええやんww
ここは光子さんの可愛さを愛でるスレだぜ?
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/08(金) 00:41:01.54 ID:QnIWQso30
完璧に終わってる話を蒸し返すお前もしつこいし邪魔だ
別に作者のレス以外は飛ばしゃいいじゃねえか。俺はそうしてた
どんだけ出しゃばりなのお前
地震で荒れてんのか知らんがお前がわきまえろ

>>740
無事だったか、頑張ってね
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/08(金) 00:43:11.91 ID:+eH4uKcq0
なんかどうでもいいことで伸びてるな
>>1の投下がなくて残念だぜ
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/08(金) 01:58:34.33 ID:lTSnb6bAO
>>715
続き楽しみにしながら「もてた」スレに行ったら騙されたww

あっちも読みたいが、こっちも読みたいジレンマ…
これも>>1が素晴らしすぎるせいだな

>>1超乙です!
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/08(金) 13:02:40.00 ID:vpQxqdel0
>>736
もうバカは黙ってろよ
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/08(金) 20:44:33.49 ID:9TnB7gJ0o
このスレ作者も信者も痛い…
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/08(金) 23:12:49.86 ID:pEck/el6o
わざわざラノベの二次創作のスレを見に来てる奴がなにをww

つまらない、と思うなら、そっとスレを閉じればいいし
SS自体は読みたいけどその他のレスが不快なら、まとめwikiやらブログで見るのがオススメ
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/04/08(金) 23:50:50.18 ID:JwWQKv8h0
春だなぁ
とりあえずみんな落ちつけよ
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/09(土) 00:51:51.68 ID:riiAHigO0
>>748
その話し終わってるっつってんだろ空気嫁
>>749
スレ閉じろ

お前ら一足早い5月病か?かまって欲しいのか?
>>1来るまでじっとしてろよ
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 04:33:44.06 ID:lWnp87/SO
あんまり喧嘩腰な感じはやめましょうぞ
スレのふいんきが悪くなるばっかりっすよ
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/09(土) 14:38:51.22 ID:ROhNx5cf0
>>736
うざい
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/04/09(土) 14:41:19.97 ID:dK3UWrY3o
こんな流れで作者さんが投稿出来ないってのだけは勘弁して下さい
続き楽しみに待ってます
756 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/09(土) 15:25:32.86 ID:I9syiT+6o
朝、初春はいつものようにざっと食事を摂って髪を整え、制服に着替えた。
風紀委員をしている限り、夏休みでもこうやって制服で仕事をしに行くのは普通のことだから、
寝坊もせず定刻どおりに起きて生活することは、初春にとって別段大変なことでもなかった。
とはいえ今日は、風紀委員の仕事とは別だった。担任の先生から呼び出されたのだ。
頼みごとがあるとのことだった。

「失礼します」
「ああ、おはよう、初春」
「おはようございます、先生」

そこは初めて入る部屋だった。教室や職員室ではなく、応接室。
掃除当番で入室する生徒もいるようだが、ほとんどの生徒にとっては卒業まで縁のない場所だ。

「座ってちょっと待っていてくれるかい?」
「はあ」

担任は、つけ始めてすぐで慣れないのか婚約指輪を気にしながら、そんなことを言った。
ますます初春には事情が分からない。

「そういえば昨日、地震があったみたいだけど君の寮はどうだった?」
「大丈夫でした。こっちは全然揺れませんでしたから」
「そっか。不思議だね、同じ第七学区でも揺れた場所と揺れなかった場所があるなんてさ」
「そうですね。……何か、普通の地震とは違うんでしょうか」
「地球科学は僕の専門外だからなあ。ところで初春。佐天とは確か、仲良かったよね」
「あ、はい」
「来月からのこととか、何か聞いてないかな?」
「え?」

佐天とは夏休みに入ってからもほとんど毎日一緒に過ごしているが、改まった話をした覚えはない。
いつもおやつの話だとか、テレビの話だとか、宿題の話だとか、そんなのばかりだ。
だけど先生の言うことに心当たりはあった。佐天はもう、柵川中学では並ぶものがいないレベルの能力者だ。

「それって、佐天さんが転校するかも、っていう話ですか?」
「話をしているのかい?」
「いいえ。佐天さんからは何も。でも、あれだけレベルが上がったらそのほうが自然ですよね」
「そうだね。もっと高みに上れる人は、上を目指したほうがいいとは僕も思う。
 ただ、そういう話を進めてみたはいいけど、佐天のほうから音沙汰がないんだよね」

良かれと思ってレベル2のIDをすぐ発行し、そのときにも改めて聞いたのだが、
それから数日たっても何も言ってこなかった。
親友と離れがたいのが一因かと思い探りを入れたのだが、そのあたりはよく分からなかった。

「まあいいや。今日は転校は転校でも別件でね」
「はい?」

ちょうどタイミングよく、コンコンと扉がノックされた。
入っておいで、と担任が言うと、控えめな感じに扉が開かれた。
初春と同じくらいの体格の少女で、柵川の制服を着ていた。
髪の一房をゴムで縛ってちょっと触覚みたいにしてある。
大人しくて優しそうな印象の女の子だった。

「新学期からの転入生の子だ。実は君のルームメイトになる」
「へ、えぇっ?」
「いやーごめん、急に決まったことでさ。こういうとなんだけど、
 わが校の風紀委員として、この子の力になってあげて欲しいんだ」
「あ……はいっ!」

そうやって任されるのは、初春とて悪い気はしなかった。
少女に向き合うと、緊張した面持ちで、ぺこりと頭を下げてくれた。

「春上衿衣(はるうええりい)……なの」
757 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/09(土) 15:27:05.78 ID:I9syiT+6o
やーごめん、ちょいと週末が忙しかったもんで。
今から買い物と昼飯なんで続きは夜なー

にしてもアニメのノベライズは必要な情報を過不足なく盛り込むのが意外とめんどくさい。。。
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/09(土) 15:33:14.55 ID:7kQ6YqoNo

衿衣タソ、ハァハァ
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/09(土) 15:36:47.30 ID:P2BvxLQF0


ちょっとスレが荒れ気味だけどめげずに頑張ってくれ
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/09(土) 17:18:27.63 ID:riiAHigO0
乙、体を分子レベルで固めて夜を待つぜ

触覚みたいに「してある」のかwwww
不思議ちゃん萌えにはドストライクだよね春上さん
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 17:18:34.53 ID:B1eoCGKY0
乙!

俺は少しくらいミスがあってもいいと思うぞ!ミスがないと怖いしなww
762 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/10(日) 01:32:07.81 ID:no1dcsplo

春上を紹介されてから数時間。すっかり日は真上まで上り詰めて、お昼時を示している。
二人は今、初春の自室の前、これから春上にとっても自室となる寮の扉の前で立ち尽くしていた。

「ちょ、ちょっと佐天さんに連絡とってみますから! 白井さんも来てくれると思うし、そうすれば」
「はいなの」

慌てて携帯を耳に当てる初春を春上は戸惑いながらぼんやり眺めた。
二人の目の前には、うず高く積まれた春上の私物。
引越し業者のダンボールに詰められたそれは、扉を開けられないように置かれていた。
見慣れないマークの引越し業者で、信じられないような対応の悪さだった。
事の次第はこうだ。
朝一番に春上の紹介を受けた初春は、大急ぎで帰宅して片づけをした。
なんでも今日の昼に引っ越してくるらしかったからだ。
引越しのトラックとは別にやってくる春上を駅まで向かいに出ている間にトラックが着いたらしく、
信じられないぞんざいな対応で、荷物をごっそり扉の前においてさっさと引き上げたらしかった。
動かしてもらおうにもその業者の電話はずっと通話中で、まるで当てにならない。

「あ、佐天さん? 今どちらに……あ、はい。わかりました」

電話を切った初春が春上のほうを見て、にっこりと笑う。

「力持ちが来てくれそうなので何とかなりそうです」
「力持ち?」
「まあ、力を使わずに物を運べる人なんですけどね、正しくは」

白井を自分の住む寮に招いたことはなかった。
だが、転校生の話を聞いた佐天が白井と美琴を迎えに行ってくれているらしい。

「ういはるーぅ。お待たせ」
「あ、佐天さん。それに白井さんと御坂さんも」
「やっほー」
「ごきげんよう……で、コレはなんですの」
「引越しの業者さんが置いて行っちゃったんですよ。春上さんを駅に迎えに行ったのと入れ違いで。
 ……あ、それでこちら、新入生の春上衿衣さんです」
「はじめまして、なの」
「んでこちらが私達と同じ柵川中学の佐天さん、それと常盤台中学の白井さんと、その先輩の御坂さんです」

よろしくねと笑いかけた美琴に春上は微笑を返す。
その隣ではこれ運ぶの大変なんですよー、と白井の眼を見つつ初春が言ったのに、白井がため息をついていた。

「お昼も近いことですし、さっさと運びませんとね」

そっと白井がダンボールの山に手を触れる。ただそれだけのことで、目の前から荷物が文字通り消えた。
白井の能力、空間移動<テレポート>が発現した結果だった。この程度の重量と距離なら、白井にとっては造作もない。

「白井さん、助かります!」
「おおぉ〜」

春上が口を可愛らしく開けて驚いていた。それを見て、素直な賞賛に白井は気を良くした。

「これだけのことができる空間移動能力者はそうおりませんのよ?」
「とってもすごいの」
「さて、それじゃあパッパと済ませちゃいますか」

初春が扉を開いて五人は荷物の整理に取り掛かるべく、靴を脱いで部屋に上がった。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 04:36:56.93 ID:CRRf4fL70
まさか寝落ちか?

764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/10(日) 09:32:20.27 ID:gkMii1fAO
何言ってんだい、何時もこんな感じじゃないか
765 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/10(日) 12:03:09.74 ID:no1dcsplo

春上の荷物をてきぱきと仕分けし、新しい居場所であるこの部屋に仕舞っていく。
重い荷物は白井がささっと移動させてしまうため、非常に手早く済んでしまった。
ぱんぱんと服の汚れを払いながら立ち上がった佐天がにこっと笑って春上を見た。

「これでおしまい、でいいのかな?」
「うん、これで終わりなの。皆さん、今日は手伝っていただいてありがとうございました。
 とっても助かりました……なの」
「どういたしまして。それにしても、おなか空いたわね」
「朝もあれだけ召し上がりましたのに、もうですの?」
「あれだけって、いつも通りじゃない。それにもうお昼摂ったっておかしくない時間でしょうが」
「皆さん! これから一緒にランチしましょう!
 春上さんはこの辺りのこと良く知らないし、懇親会もかねて!」

文句を言い合う白井と美琴をよそ目に、初春がそう提案した。
春上はよくわかっていないのか、ぼんやりした顔をしている。佐天がそれを見て微笑みながら、賛成と手を上げた。
しかし白井があきれた顔で初春を見つめた。

「初春、忘れましたの? 私達はこれから合同会議ですわよ?」
「へ? あっ……。そうでした」
「合同会議? 誰との?」
「風紀委員と警備員の、ですわ。このところ地震が頻発していますでしょう? その関連だそうですわ」
「地震で、風紀委員と警備員が合同会議?」

議題がピンと来ないのか、美琴が首をかしげた。
実際、白井と初春にも趣旨が良く分かっていなかった。
せっかくのランチ計画が、とうなだれる初春を見て、もう、と佐天が笑った。

「それじゃあお昼はうちで冷や麦にしましょう」
「え?」
「テーブルが足りないからちょっとお行儀悪いかもしれないですけど、いいですよね」

頭に買い置きの薬味を思い浮かべる。しょうがとすりゴマは常備しているし、
タイミングよく大葉と茗荷もあった。冷や麦は実家から大量に送ってもらったから問題ない。

「賛成! 賛成です! 佐天さんありがとうございます」
「いいってことよ。初春のルームメイトなんだから春上さんは私にとっても親友候補だもんね」
「ですよね! クラスメイトとして仲良くやっていきましょう!」
「あ……」
「えっ?」

急に、佐天の勢いがしぼんだ。それでハッとなる。
春上のタイミングがやけにおかしいだけで、転校シーズンはむしろこれからだ。
夏休みを使って転校先を探し、二学期から編入というのが王道のパターン。
そして、佐天はそうやって栄転する可能性の高い、そういう立場にある人だった。

「ご、ごめん。雰囲気悪くしちゃったね。さっ、うちに行きましょう! 早速準備しますから」

佐天自身も、未だ身の振り方を決めあぐねている、そんな段階だった。
まだ一週間くらいは、何も動かなくても間に合う。そういう考えに佐天は甘えていた。
766 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/10(日) 12:05:05.12 ID:no1dcsplo
>>760
本人はどういうつもりで触覚はやしてんだろうねw可愛いとは思うけど。

>>763-764
実はホントに寝落ちだったんだぜw
まあでもプロローグは慎重に書かないとあとに響くので、更新ペースが上がらないってのはあるかもなあ。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/10(日) 13:31:19.81 ID:94mvsnmro
>>766
「これがあると感度がいいなの」
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/10(日) 14:11:15.36 ID:uk8I7ixZ0
>>767
な、何の感度かな?
お、おじさんに教えてくれるかいハァハァ
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/10(日) 14:26:55.26 ID:YxAMs80v0
夏休み中にLv3行かないと常盤台には入れないのか
770 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 00:35:42.58 ID:8j8S0N7no
「それではこれより、風紀委員と警備員の合同会議を始める。あたしは警備員の黄泉川だ。
 今日の議題に関しての担当になる。……前置きは別にいいだろう、それでは早速説明を始める」

アンチスキル第七学区本部第一会議室、会議室というには大きく、
演壇とそれに向かい合う沢山の座席からなるホールであるそこに、
初春と白井を含めた風紀委員の学生、および警備員を務める教職員が集まっていた。
少なくとも風紀委員の側は、地震に関する議題だとは知っているもののそれ以上の情報は与えられていないらしく、
皆一様に落ち着かないような、そんな雰囲気だった。

「このところ頻発している地震について判明したことがある。結論から言えば、これは地震ではない。
 正確には、これはポルターガイストだ」
「ポルターガイスト……?」
「普通は家具が宙を舞うようなものですわよね」

白井と初春が小声で会話する。その声が演壇上の黄泉川に聞こえるはずもなく、淡々と説明が進んでいく。

「地震は波動の伝播メカニズムの違いにより、P波とS波という伝播速度の異なる波を必ず生じる。
 だが一連の揺れにはこれがなく、またその発生地域が極めて局所的だ。この点で所謂地震ではないことが分かる。
 また地震、というと語弊があるがこの現象は全て学園都市内でのみ起こっている。
 この事からも、この学園都市に固有の事情でこの揺れが生じていると見るのが自然だ。
 こうした事実から我々はこの揺れがポルターガイストの一種であると仮説を立て、調査を行ってきた。
 その結果先日、この仮説が実証された。今日はその仮説の中身について説明していく。
 調査と実証の手法についてはレポートにまとめてあるから興味のあるものは各自読んで、
 提供できる情報があるならあたしの所まで連絡をくれ」

黄泉川はそこまでを通しで喋って、舞台袖をチラリと見た。
そちらと目配せで情報をやり取りしてから、再び聴講しているこちらへ体を向けた。

「この現象、地震にも似た局所的な揺れは、端的に言うとRSPK症候群の同時多発によって引き起こされたものだ。
 詳しいことは先進状況救助隊のテレスティーナさんから説明してもらおうじゃん」

黄泉川が舞台袖に体を向けて、壇上中央に招くように手を差し出した。
それに答えるように、カツカツと小美味いい音を立てて、スーツ姿の女性が姿を現した。
年は二十台半ばくらい。理知的な印象を与える丸い銀縁の眼鏡と、ピンできちんと留められた髪。
ヒールを履かずともそれなりに背丈もあるところは異なるものの、
髪の色や毛先をカールさせているところは白井に似ていなくもなかった。雰囲気はかなり違うが。
テレスティーナが黄泉川からマイクを受け取って、息を整えた。

「先進状況救助隊って……白井さん、知ってました?」
「いいえ。まあこの手の研究機関は山ほどありますし、その一つではありませんの?」
「えー、ただいまご紹介いただきました、先進状況救助隊のテレスティーナです。
 RSPK症候群とは、能力者が一時的に自律を失い、自らの能力を無自覚に暴走させる状態を指します」

スクリーンに『Recurrent Spontaneous PsychoKinesis(反復性偶発性念力)』という名称が示される。
この症候群そのものは、割と学園都市では有名だった。というのも能力発現とこれは裏表の関係だからだ。
超能力は普通の現実から人を切り離すことで発現する。
例えば佐天が能力発動に至った鍵である幻覚剤の投与、他にも五感の遮断などによって学園都市は超能力を開発する。
そして、これとは違う現実からの切り離し方として、子供にトラウマを植え付けたり、
安定した庇護を受けられない環境に追いやりストレスを与えるといった行為が挙げられる。
このようにして不安定かつ暴走的な形で能力を発現させた子供の例は学園都市が出来る以前よりしばしば見られ、
RSPK症候群の一種、いわゆるポルターガイストを発現させることが知られていた。
児童虐待と能力開発の関係は、反面教師として教職員には周知であり、また学生達も能力開発史の授業で学ぶことだった。

「RSPK症候群が引き起こす現象はさまざまですが、これが同時に起きた場合、暴走した能力は互いに融合しあい、
 一律にポルターガイスト現象として発現します。さらにこのポルターガイスト現象がその規模を拡大した場合、
 体感的には地震と見分けが付かない状況を呈します。これが今回の地震の正体ということになります。
 RSPK症候群が同時多発した原因については目下調査中ですが、一部の学生の間ではこの現象を具にもつかない
 オカルトと結びつけ、それによって集団ヒステリーなどが起き、被害が拡大することも考えられます。
 今回風紀委員の皆さんに集まってもらったのは、そのような噂を学生達が面白半分に広めないよう、
 注意を促してもらいたいからです。私からの発表は以上となります」
「今日の内容を後で各自の携帯端末に送っておく。風紀委員の皆にはそれを熟読してもらい、
 学生への周知を図ってもらいたい。……風紀委員の皆への用件はこれで終わりになるじゃんよ。
 何か質問はあるか?」

テレスティーナからマイクを受け取り、黄泉川が皆にそう尋ねた。
終わりとばかりに腰を上げ始める白井の隣で、一緒に座っていた固法が首をかしげていた。
771 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 01:43:25.78 ID:8j8S0N7no

「思いのほか、早く終わりましたね」
「警備員はこの後もミーティングなんですって」

会議室から退出した白井と初春、固法は各自の端末に届いた今回の一件の報告書にざっと目を通しつつ、
外へと足を向けているところだった。
注意喚起は受けたものの、することは別段これまでと変わらない。
受け持ちの場所のパトロールやその他の雑務をするだけだ。

「白井さん、これからどうします? 私、春上さんと佐天さんと御坂さんに合流しようと思うんですけど」
「私もご一緒しますわ。どうせ今日は非番ですし」

うーん、と白井が伸びをしたところで、視界の端に二人の男女が映った。
風紀委員の腕章をつけていないし、そもそも今退出を命じられた会議室のほうへと逆行している。
それを奇妙に思ってまざまざと観察すると、つい先日見覚えのある、ツンツン頭の高校生と修道服の少女だった。

「あれは……」
「え、上条君?」
「固法! ちょうど良かった。警備員の先生達ってこの先か?」
「え、ええ……。でもまだ会議は続くわよ」
「こんにちわ上条さん、風紀委員の退出に合わせて短い休憩を取ってますから、今なら大丈夫かもしれませんよ」
「そうか、サンキュ」

固法はそれなりに久々だったし、初春にも挨拶抜きの対応だった。
当麻の後ろをインデックスがペコリと軽く頭を下げながら追いかけていく。
事情をつかめない三人が怪訝な顔をするのを後ろに放っておいて、当麻とインデックスは黄泉川のところを目指した。
幸い、タバコを吸いに来た黄泉川を二人はすぐに見つけることが出来た。

「先生!」
「上条。どうした? 早く婚后のところに行ってやるじゃんよ」
「いや、光子の入院先を教えてくれてないじゃないですか」
「しまった、すまん」

合同会議もあってうっかりしていたのだろう。端末を取り出してサッと当麻に転送する。

「みつこ、大丈夫なの……?」
「先生はさっき別条はないって言ってましたけど」
「ああ。まあ……あんまり研究者の都合をぶっちゃけてしまうのもアレだけど、
 この一件でポルターガイストに巻き込まれた被害者は全部経過は良好で、最近じゃ入院なんてさせてないんだ。
 ところが婚后のやつがレベル4なのを知って病院側が目の色を変えてな。だから本人は元気そうだったじゃんよ」
「そうなんだ」

当麻の伝聞だけでは落ち着かなかったのだろう、黄泉川の説明でようやくインデックスがこわばった顔を緩めた。

「それじゃ、悪いけどあたしはもう戻るじゃんよ」
「忙しいとこすみません。ありがとうございました」
「おう」

休憩中に一服できなかったことに僅かにイライラしつつ、黄泉川は再び会議室へと足を向けた。
ぽん、と優しくインデックスの頭を撫でながら、当麻はすぐに光子のいる病院への経路を頭に描く。
『先進状況救助隊本部・先進状況救助隊付属研究所』という病院らしくない響きの施設に、光子はいるらしい。

「あの、上条さん。どうかしたんですか?」
「え? ああ、初春さん。いや実はさ、昨日の地震……っていうかポルターガイストなんだっけ、これ。
 とにかくそれが原因で光子のやつが入院してるんだ」
「ええっ? 婚后さんがですか?」
「ああ、それで見舞いの場所が分からなくて、聞きに来てたんだよ」
「警備員の先生に、ですの?」
「光子は来週から黄泉川先生の家でこいつと一緒に暮らす予定だからな。それで知ってるんだよ。
 ……それじゃ悪いけど、早く見舞いに行きたいし、俺たちはもう行くわ」
「あ、はい。婚后さんによろしく伝えてください」
「ありがとう。それじゃ」

挨拶もそこそこに、二人はまた足早に、建物の外へと出て行った。
婚后光子とそりの合わない白井がふんっと息をつきながらこぼした。

「……いい殿方ですわね。肝心の付き合っている相手は好きになれませんけれど、
 上条さん本人の態度には好感が持てますわ」
「そうね。……にしても意外。上条君が彼女作って落ち着いちゃうとはねぇ」
「はぁ、よく女性にモテる人だったんですか?」
「うん。けどまあ、朴念仁だったからね、彼は」

過去を知る固法が嘆息した。
772 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 01:46:17.36 ID:8j8S0N7no
>>769
このSSの佐天さんくらいの急上昇なら二学期初日の転入が無理でも余裕で常盤台は拾ってくれます。
だからレベルアップがそれ以後でも常盤台には上がれます。……という設定です。


ようやくアニレーのトレースから解放されそうだ。頑張ろう。
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 01:50:32.83 ID:J9shfwGRo
おつん

さ〜
サテンさんはどうするんだろーかね
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 02:12:29.19 ID:WVuP0xAc0
佐天さんにとってはきついよな
上を目指すか友達のいるところにのこるか
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/12(火) 03:24:56.11 ID:PvmVxlGN0
面白くなってきたな
ここからどう転がしていくのやら
776 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 22:16:49.87 ID:8j8S0N7no

暇を持て余した病室で光子がまどろんでいると、不意にコンコンと扉が鳴った。

「光子、入るぞ」
「あ……」

夢と現の境目にいたせいで弱弱しい返事しか返せなかったが、当麻はこちらの反応を待たずに扉を開けた。
ベッドの背を高くして本を読めるような姿勢にしていたから、そのまま当麻と目が合う。
当麻が痛ましそうな目でこちらを見つめた。

「みつこ、みつこ……っ」

当麻の影からインデックスが飛び出してきて、ぼふりと光子の胸に飛び込んだ。
何も言わないインデックスに、そのままぎゅっと抱きしめられる。
すこし遅れて傍に立った当麻が、光子の頬に触れた。

「大丈夫か……?」
「あ、はい。その、別に何ともありませんのよ?」
「無理しなくていいんだぞ」

寝起きの頭を必死にしゃっきりさせようとしているのを、強がりと取り違えられてしまったらしい。
いつになく優しい手つきで、当麻が抱き寄せてくれて、おでこにキスしてくれた。
なんだか贅沢をしているような嬉しい感じ。だが同時に、どうも分不相応というか、
自分の現状から乖離した余計な心配をさせているように思う。

「あの、寝起きでちょっとぼうっとしてますの。ごめんなさい」
「やっぱり昨日は、眠れなかったのか?」
「事情、お聞きになったの?」
「ああ、黄泉川先生からの又聞きだけど、ポルターガイストに巻き込まれたって」
「そうですわ。でも、他の人もそうですけれど、何ともありませんのよ」
「そうは言うけど……無理しちゃ駄目なんだよ、みつこ」
「ありがとう、インデックス。でも、今日は退院できませんから、
 インデックスの楽しみにしていた浴衣は着せてあげられませんわね。
 あと、エリスさんにもご迷惑をおかけしてしまいますわ……」

今日は予定では、光子と当麻、インデックスは夏祭りに出かける予定だったのだ。
インデックスには光子のお下がりを、そしてエリスは持参した浴衣を、
それぞれ光子に着付けてもらう予定だったのだが、それも光子が入院となっては無理な相談だった。
ちなみに常盤台は夏祭りに出かけられるような門限にはなっていないので、
黄泉川に監督を委任しつつも常盤台の寮に部屋を残した期間、
要は引越しの猶予をちょうど今日からに設定していたのだった。

「仕方ないよ。みつこがこんなところにいるのに、お祭りになんて行けないし。
 エリスには連絡して、何とかしてもらうようにするから」
「ごめんなさいね。インデックスはお祭り、初めてなのにね」
「今日はずっと、ここにいるから」

絶対に離れないといわんばかりに、インデックスが光子の胸の中でそう宣言した。
それを可愛く思って微笑む。そして髪を梳いてやりながら、困ったことに思い当たった。

「あの、気持ちは嬉しいけれど、夕方になったら検査なんですの。
 それなりに時間がかかるそうですから、お二人を待たせてしまいます」
「そうなのか。それって夜まで会えないのか?」
「いえ、ここの面会は結構遅くまで大丈夫のようですから、夜にはお話できます。
 それに合わせて黄泉川先生は来てくださると仰っていましたけれど……」
「んー……それじゃあ、もしかしてちょうど夏祭りに行ってれば暇を潰せるのか?」
「ああ、言われて見ればちょうどその時間ですわ」
「よし、それじゃ晩飯はそこで摂ることにするよ。
 光子の分まで楽しんでくるから、申し訳なくは思わなくていいからな。
 まあ、俺たちが遊んじまった分の恨みは、後で聞くし、埋め合わせもするから」
「ふふ。私そんな狭量な人間のつもりはありませんわ。しっかり楽しんでいらして」

ちょっぴり保護者っぽい微笑を二人が交わしたところで、光子の携帯が音を立てた。
誰でしょうかと思いながら、光子はディスプレイに目をやる。佐天らしかった。
777 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 22:18:18.97 ID:8j8S0N7no

「もしもし、婚后です」
「あ、婚后さん。……その、電話大丈夫ですか?」
「ええ」
「昨日の地震で入院したって聞いたんですけど……」
「あら、情報が早いのね。お恥ずかしながら、そのとおりですわ」
「お体は大丈夫なんですか?」
「なんともありませんわ。医師の方が酷いことを仰いますのよ。
 レベル4でのポルターガイスト発現例は珍しいから調べさせてくれですって」
「はあ。それじゃホントに元気なんですか?」
「ええ。外因性のもので、私自身が心的ストレスを感じてポルターガイストを
 発現したのではありませんし、体調不良もありませんもの。
 病院食が美味しくないというのは本当につらいことですわね」
「よかった。元気ならそれが一番ですよ。それで、もし婚后さんがお暇だったら、
 みんなでお見舞いに行こうかって話になってたんですけど、どうですか?」
「暇……まあ、取り急ぎの用事はありませんけれど」

言葉を濁したその返事に、佐天はピンと来たらしかった。

「彼氏さんが来てるんですか?」
「え、えっ? あの、どうして」
「やだなー、素敵な彼氏さんだって婚后さん言ってたじゃないですか。
 もしかして今も隣で抱きしめてくれてたりするんですか?」
「そそそそんなわけありませんわ! もう、嬲るのはおよしになって」

思わず当麻のほうを振り返ると、はてなマーク付きの表情だった。
当麻とのスキンシップは控えめだった。
インデックスが抱きついているからであって、二人きりなら佐天の言に図星だったかもしれない。

「それじゃあ、夕方くらいに皆で行ってもいいですか?」
「あ、五時から検査ですの。ですからその前なら……」
「五時ですね。わかりました。そのときにみんな、ええと、私と初春と白井さんと御坂さんと、
 あとうちに転校してきて初春のルームメイトになる春上さんを連れて行ってもいいですか?
 婚后さんに失礼かとも思うんですけど、転校したての春上さんを放っておくのも悪いし、
 それにこれもお見舞いのついでにはアレですけど、夏祭りに行こうとも思ってて」
「かまいませんわ。佐天さんのお友達なら、またご縁もあるでしょうし」

そこで、ふと思い至る。
光子が元気そうだから気を使わないでくれたのか、これから夏祭りに行くことを教えてくれた。
それなら頼みごとを聞いてくれるかもしれない。

「そうそう、佐天さん。夏祭りって、服はどうされますの?」
「え? 浴衣をみんなで着ようかって」
「皆さん着付けられますの?」
「ええと、分かりませんけど私と御坂さんは大丈夫です」
「そう。……あの、お願いがあるんですけれど、
 着付けを二人前ほど追加で引き受けては下さいませんこと?」
「それは構いませんけど、誰のをですか?」
「私の連れのインデックスと、その友人のエリスさん……たしか盛夏祭でお会いしたんではありません?」
「あ、はい。わかります」
「あの二人の着付けをお願いしたいの」
「いいですよ」

良かった、と光子は安堵した。インデックスには最悪謝ればすむし埋め合わせも出来るが、
連れのエリスは当麻以外の男性と逢引と聞く。
さすがにそんな一大イベントを控えた女の子に事情があるとはいえ断りを入れるのは心苦しかった。
もう二三言交わして、光子は佐天との電話を切った。

「浴衣、着付けてくれるって?」
「ええ。助かりましたわ」
「だな。エリスに申し訳ないと思ってたところだし。集合場所はどうしたらいいんだ?」
「ここは中心街から遠いですから、駅前のほうで都合をつけるのが良いと思います。
 佐天さんたちがここに来たら、当麻さんは落ち着きませんでしょう?
 その、追い出すようなつもりはありませんけれど、入れ違いでインデックスの服を取りに言ってくださったら……」
「わかった。気にしないでいいよ、光子」

優しい手つきでまた当麻が頭を撫でてくれた。
目を合わせると、軽いキス。
突発的な入院のせいで夏祭りデートは中止になってしまったが、心の寂しさはすこし埋められた光子だった。
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/12(火) 22:46:04.05 ID:2XmbLQ71o
入れ違いってのがいいなww
美琴だけ、まだ上条さんのことを知らないままってのにニヤニヤしちゃう
779 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 22:55:47.09 ID:8j8S0N7no

インデックスの浴衣を取りに黄泉川家へ戻ったあと、エリスと合流して当麻たち三人は光子に聞いた場所を目指す。

「ごめんね、上条君。彼女さんが大変なのに手間かけちゃって」
「いいって。浴衣着れなかったら垣根のヤツが可哀想だしな」
「む、私のためじゃないんだ」
「いや、そういう言い方するとアレだろ?」

エリスのために都合をつけた、という言い方をするとむーっと怒る女の子が二人ほどいるのだ。
現に隣で咎めるように当麻を見る銀髪の女の子と、ただいま入院中の当麻の本命が。

「ふふ。尻に敷かれてるね、上条君」
「それくらいがいいんだよ。俺と光子は」
「とうまはすぐ他の女の人と仲良くなるんだもん。怒られて当然なんだよ」
「ひでえ。そんなことないだろ。……っと。ここらしいな」

柵川中学の学生寮。どうやら目標はここらしかった。
詳しい場所は分からないから、当麻は光子に教えてもらった番号に電話する。

「はい、もしもし」
「あ、佐天さん、かな? 上条だけど……」
「こんんちは。もうこちらに来てらっしゃるんですか?」
「ああ。寮の目の前にいる」
「ちょっと待ってくださいね。……あ、いたいた、こっちです。おーい」

途中から声が電話じゃなくて直接聞こえるようになった。
見上げると浴衣姿の佐天が手を振っていた。髪を結っていて、可愛らしい。
……もちろん当麻はそんなことを口には出さないが。
佐天は身軽にタタッと階段を下りてきてくれた。

「鏡があるし、私の部屋に案内しますね」
「サンキュ。それじゃあ、二人は着替えてきてくれ」
「はーい。とうま、変な人に声かけられちゃ駄目だからね」
「ふふ。インデックス、彼女さんみたいだよそれ」
「ち、ちがうもん! 私はみつこの代わりに怒ってるだけ」
「それじゃ、あの、佐天さん。着付け、お願いするね」
「よ、よろしくおねがいします……」
「はい。任せてくださいな」

フランクながら丁寧な感じのするエリスのお願いとは対照に、
インデックスのは敬語慣れしていない子供の挨拶みたいだった。
それに苦笑いしつつ、当麻はインデックスに浴衣とインナーの入った手提げを渡してやった。

「そういや他の子はいないのか?」

こちらの女子メンバーも光子の見舞いからもう帰ってきているはずだった。

「あ、白井さんと御坂さんは寮の門限をこっそり破るらしくて、今は一旦帰ってます」
「こっそりって、大丈夫なのか? 常盤台なんて厳しそうだけど」
「白井さんはレベル4の空間移動能力者<テレポーター>ですからね」
「へー」
「あと、初春と春上さんって子は自分たちの部屋にいると思います」
「そうなんだ」

盛夏祭で会いはしたが、肝心の演奏はほとんど聴いていなかったので美琴とは微妙に会いづらい。
というか、先ほどの光子が受けた電話の辺りで、
ようやくこのメンバーと美琴が知り合いだと知ったところなのだった。
またいずれ、きちんと自分が光子の彼氏なのだと、一応言っておかねばなと思う当麻だった。
もちろん美琴に対してではなく光子に対しての気遣いとして。

佐天に連れられて階段を上るエリスとインデックスを見送る。
さすがにこの距離なら変なアクシデントも生じない、と思った矢先。
慣れない荷物のせいでつま先を階段に引っかけてすってーん、とインデックスがこけた。
当麻も何度も見た事のある、白い綿のパンツが夕日に照らされた。
……何度も見たことがあるのはその、偶然と不幸の成せる技であって
決して自分に負い目はないと当麻は思っている。

「とーーーうーーーーまーあああああああ!! ばかばか! こっち見なくていいんだよ!」
「す、すまん!」

……つい見てしまうのは実は当麻のスケベ心のせいなのは、当麻自身気づかないようにしていることなのだった。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/12(火) 22:57:06.43 ID:IH+2iEc+0
入れ違いか…
でもインデックスと御坂は出会うのか

となると御坂がkjと光子がつきあってるのをいつ知るのか?
781 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 22:58:07.01 ID:8j8S0N7no
ふう、オリジナルな描写が出来るようになると筆が進むのう。
>>774
まあでも、似たような悩みを進学校を受ける受験生も抱えるわけだし、普通に上を目指すんじゃないだろうか。

>>778
まだもうちょっとだけひっぱるんじゃw


……女の子のパンツが見えたらつい目が言っちゃうのは仕方がないよね、無罪だよね。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/12(火) 22:58:59.89 ID:mOKPs1fS0
佐天さんが余裕で言いそうだけどな
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/12(火) 23:07:11.00 ID:xp/ucxQxo
ひっぱり続けてくれないと読み続けるのが辛くなっちゃう!
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/12(火) 23:12:33.97 ID:uz3Z9jVxo
>>781
無罪ですがおにゃのこは怒っていいんです
785 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/12(火) 23:32:46.57 ID:8j8S0N7no

「私達はあっちで待ち合わせなんで」
「上条さん、失礼します」
「おう」
「佐天さん、今日はありがとうね」
「ほら、エリスが挨拶してんだしお前もちゃんとしろよ」
「……え? あ、ありがとね、るいこ」

夕焼けの川沿いを春上、初春、佐天と当麻、インデックス、エリスの六人で歩いてきた。
全員が中学生くらいの女の子達なのでちょっと居場所のない当麻だったが、
いつもの保護者気分でいると最後のほうはなんかもう慣れてきたしどうでもいいやという感じだった。
ちなみにインデックスが歯切れの悪い挨拶をしているのは人見知りのせいではない。
珍しくストレートに、当麻に可愛いよといわれてしまったせいで戸惑っているのだった。

「婚后さんにいつもお世話になってるののお礼だから、気にしないでいいよ。それじゃあ、またね」

ぺこりと頭を下げたインデックスに笑い返して、佐天は土手を登った。
日本人ではない二人に着物を着付けたのだが、やはりエキゾチックな魅力というのはあるなあ、と思っていた。
インデックスは光子のお下がりを貰って喜んでいたが、銀髪との対比が鮮やかな、いい色選びだったと思う。
光子の事だからいくつかあるお下がりから選んだのではないかという気がする。
一方エリスも、自分で選んだとのことだったが、やはり黒髪と金髪では同じ色の服を着ても印象が全く違う。
ちょっと羨ましく思う佐天だった。実際、当麻にもインデックスが可愛らしく見えたらしかった。
……改めて、光子ではなくインデックスと当麻の関係が気になる佐天だった。

「あ、春上さん。ちょっと着崩れてる。キャミが見えちゃってる。こっち向いて」
「ありがとうなの」

ちょっと隣で初春が悔しそうな顔をするのを見て、佐天はクスリと笑った。
お姉さんぶりたいのだろうな、なんてクラスメイト相手に思ってしまったのだった。

「お待たせしましたわね、皆さん」
「おー、春上さんも初春さんも、佐天さんも素敵ね」

ようやく寮監の監視から解放されたのか、すこし遅れて白井と美琴がやってきた。
運良くというか、全員上手く色がばらけて、綺麗に並んでいた。
白井の紫や初春の桃色にはなんだか納得。
そして美琴のオレンジ、というか黄朽葉色の浴衣は五人の中でも落ち着いた色で、すこし大人っぽく見える。
本当はもっと可愛らしいデザインのを着たいんじゃないのかな、なんて邪推を佐天はするのだった。

あたりはそろそろ夜。
鼻をくすぐる祭りの匂いが濃くなって、なんとも食欲が出てくるのだった。
こういうときの切り込み隊長を自認しているので、佐天は勢いよく言った。

「あっ、あっちのほう、かなり夜店出る! ん〜っ、我慢ならん!」
「ちょ、ちょっと佐天さん! 土手を走ったらこけますよ」
「私も行こうっと!」
「あ、お姉さま! そんなに走っては……んもう!」

次に続いたのが美琴だった。白井は着崩れるのが嫌らしく、走らずに能力で飛んできた。

「春上さん、私達も」
「うん!」

いちばんおっとりしている春上・初春組も祭りの雰囲気に当てられて、はしゃいでいるようだった。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/13(水) 00:16:09.42 ID:rteGG+c30
乙です

御坂は偽彼氏大作戦の時に知るのかな?
787 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/13(水) 00:38:10.84 ID:nRmafCiPo

とりあえず、五人でたこ焼きを食べた。
春上はそれから林檎飴を完食し、ベビーカステラを食べ、お好み焼きをほおばり、そして今、
スーパーボールすくいをやる初春の後ろでフランクフルトをかじっていた。
風紀委員の癖で自分では使い切らない量のティッシュを持ち歩く初春も、そろそろストックが切れそうだった。
とにかく春上は、良く食べる上にほっぺたにソースだのをつけるのである。
可愛い顔をしているせいか不思議と怒る気にはならないのだが、
このペースだと近いうちにソース類を初春はお気に入りのハンカチで拭いてあげることになる。
染みが残るのはちょっぴり嫌なのだった。

「春上さんはやらなくていいんですか?」
「うん。見てるだけで、すごく楽しいから。こんなに色々遊んだの、初めてなの」
「やりたいのがあったらいつでも言ってくださいね、私も得意じゃないですけど、お教えしますから!」
「うん! ありがとうなの」

気持ちはわからないでもないが、春上は金魚すくいで実際に掬うのをやらずとも、
水槽の中の金魚を眺めるだけで満足できるらしかった。

「もうちょっとしたら花火ですね」
「そうなの?」
「ええ。大きな川が流れてる学区は限られてますから、ここの花火は学園都市じゃ大規模なほうで、人気なんですよ」
「おおー」
「一時間くらいありますから、食べ物を買って食べながら見ましょうか」
「うん。そうするの」

普段からあれこれ遊んでいるせいでカツカツの初春は、実はもうあんまり食べられないのだった。




「はぁぁ……」

ぽやー、と美琴は一点を見つめていた。視線の先には、お面のかかった屋台。
デパートの屋上でやるヒーローショーで熱くなれるくらいのお子様向けのものだと言っていいだろう。
そこに何の因果か、ゲコ太のお面がかかっていたのだった。
奇跡のようなめぐり合わせに、美琴は身動きが取れないほど魅了されていた。
だって、このお面がそう売れるとは思えない。現に美琴が見つめている間に売れていったお面は、
どれもこれもヒーローモノや女の子向けの魔女っ子アニメのお面なのだ。
ゲコ太は子供のなりきりたいキャラではないので、到底売れそうにもない。
……ふと気づくと、隣には銀髪の女の子。
こちらもぽやーっとお面、どうやら超起動少女(マジカルパワード)カナミンのを見つめているらしい。

「おーい、インデックス。何見てるんだ」
「と、とうま。なんでもないんだよ」
「お面? ……って、御坂じゃないか」
「んなっ、ななななななななんでアンタここにいんのよ?!」
「第七学区の夏祭りにいたらおかしいのかよ……。で、ビリビリお前は何みてんの?」
「へっ? いやっ、うえぇっ?」

隠せるわけもないのに、お面の屋台を当麻から隠すかのように美琴が手を広げる。
その様子を見て、インデックスが深いため息をついた。

「とうま。この女の人は誰?」
「えっ……?」

美琴はガツンと頭を殴られたような衝撃を覚えた。
どう見ても年下にしか見えないこの少女は、今、なんと言っただろう。
まるで恋人が嫉妬しているかのような、そんな口ぶり。

「え? 常盤台の寮祭で会ってなかったっけ」
「知らない。会ってたら私、絶対覚えてるもん」
「光子の同級生だよ」
「ふーん……」
788 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/13(水) 00:42:17.50 ID:nRmafCiPo

まるで二人の会話が頭に入らない。二人の距離が、仕草が、あんまりにも近すぎる。
友達だとか知り間とかの距離じゃない。もっと、近しい人たちの距離感だ。
お祭りの熱が急に冷めそうなくらい、美琴は嫌な汗をかいていた。

「その、あ、あ、あんた達って、つつ、付き合っ……」
「ん? ああ、違うぞ」
「え? そうなんだぁ……でででもっ、じゃなんで二人で」
「いや、ホントはもう一人いたんだよ。それだけだ」
「そ、そっか。じゃあ、なんでもないんだ」
「ん、まあ、そうだな」
「確かに恋人とかそう言うのじゃないけど、なんでもないって言われるのは心外かも。この人こそ当麻の何なの?」
「何って、知り合いだよ」
「どういう?」
「……俺たち、どういう知り合いなんだろうな?」
「私に振るな!」

ふーふーと美琴は荒い息をつく。
そしてさすがに周りの目を集めていることに気づいて、ちょっと心を落ち着けた。
どうやら、目の前の少女の詳しい情報を集めるに連れ、心は落ち着いてくれたらしい。良く分からないが。
そして向こうにも余裕が出来たのか、思いついたようににやりと当麻が笑った。

「で、インデックス。お前、これ欲しいのか?」
「い、いらないもん。こんな子供っぽいの、買ったってしょうがないんだよ」

それを聞いて当麻はさらににやっとした口元を歪める。
チラチラみるインデックスの視線が、言葉と裏腹だった。
そしてもっと面白いのが、美琴だった。
インデックス以上に年上だと当麻も思っているのだが、なかなかどうして、可愛いところがある。

「御坂。お前もこういうの、子供っぽいと思うか?」
「……あ、当たり前でしょ。中学生にもなってこんなの!」
「買ってやろうか?」

当麻は二人に声をかけた。値段は良心的で、二個で五百円だ。

「ば、馬鹿にしてんじゃないわよ!」
「そうなんだよ! 私のこといつもいつも子供扱いして!」
「お前ら子供だなあ。童心に帰ってお面を買うのが恥ずかしいとか、むしろガキの証拠じゃねえか」
「え?」
「子供じゃないってのは、たまには遊びでこういうの買うものアリかなーって思う余裕があって言える事だろ」

高校生論理を振りかざして、当麻は上から目線でニヤニヤと二人に諭してやる。
なんだか全く新しいものの見方を覚えたような顔で、二人はぼんやりと当麻と、そしてお面を見た。

「ほれ、インデックスはカナミンで、御坂、お前はこのカエルか?」
「カエルじゃなくてゲコ太! ……じゃなくて! なんで、それって」
「お前の携帯、たしかこのモデルだろ?」
「うん……」

当麻が自分のことを知っていてくれたのが不意にうれしくて、美琴は口ごもった。

「よし、おじさん、これとこれ二つ!」
「あいよ!」
「ほれ」

当麻が財布から硬貨を取り出して、僅か数秒。
インデックスと美琴は、それぞれ内心で欲しいと思っていたものを、ゲットしてしまった。

「むー、だから私は別に」
「ほらインデックス、かぶるのが恥ずかしかったらこうやって帯に留められるから」
「別に、私アンタに欲しいって言った覚えないし」
「だな。別に礼はいらないぞ?」
「……ありがと」

これ以上、恥ずかしくていてもたってもいられなくなった美琴は、そのまま当麻の前からフェードアウトした。
素直に喜びを表せなかったことがちょっぴり悔やまれるのだった。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/13(水) 00:47:55.76 ID:6VHQSAvYo
ニヤニヤがとまらないww
もうちょっとと言わず、もっともっと引っ張ってもいいとも思う
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/13(水) 00:48:23.20 ID:aZ8BuUAFo
上条さんのフラグ構築能力がインデックスのフラグブレイカーを回避するようになってやがるww
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 00:52:01.17 ID:ZHRii/Vk0
んー、御坂に早くネタバレしないと光子が
光/子になっちまう
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 00:55:59.00 ID:8+DuKJRxo
みことおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/13(水) 01:08:21.97 ID:2PzZAfnZo
乙ですん
こーの絶妙なすれ違いとほのかな勘違い
これはひどいwwwwwwww
そして禁書さんのお目付け具合がいい感じww

家族の、絆を!大事に!維持する!

上条さん相手なら油断大敵ですね。
ほんと光子さんは苦労するなあ。
はやく詩菜さんと会うべきそうすべき。


次回も楽しみにしてますよー

794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/13(水) 01:19:54.23 ID:oQChiIAAO
なぜだろう
テンションや態度は原作のインデックスなのに、原作よりちゃんとしてる…!

これはあれか、上条さんに既に彼女が居るからか
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/13(水) 01:50:27.42 ID:8B27j/7v0
まさか婚后がここまでかわいいとはな…
796 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/13(水) 01:59:50.55 ID:nRmafCiPo
今日はここまでだなー。たぶんもうちょっと書いて二話分にする予定。

>>789
賛否両論なんで、どうなるかはもう決めちった。あとはハラハラしててくれい。

>>790
上条家の男はそういうめぐり合わせの人なのでw

>>791
誰がバラすんだw

>>793
ホント美琴が出てくるとすぐにこうなっちゃうの。
今回もアニレーにあった美琴がお面買うシーンを書こうと思っただけなのに、
なんでかインデックスが出てきて当麻が付いてきて、ああなっちゃった。
プロットにはなかったのに。

>>794
原作の雰囲気でてるかなー。原作と別人ていわれる可能性には常に不安を抱いてるからねえ
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 02:29:39.93 ID:/uD+gP0ho
さりげなく上条さん自ら彼女の正体ばらしてるのに気付かない美琴wwwwww
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/13(水) 02:44:48.38 ID:rteGG+c30
>>797
彼女だとは言ってないけど名前で呼んだら分かりそうなのにな
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/13(水) 02:54:02.32 ID:jX8W0aHR0
おいおいニヤニヤが止まらねーぞ
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/13(水) 08:34:06.55 ID:uj7eu0Ldo
偽デートのエツァリとの会話でトドメさされる悪寒ww
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/13(水) 21:47:25.95 ID:Tq9V9LQNo
乙、2828が止まらん

「あっ、あっちのほう、かなり夜店出る! ん〜っ、我慢ならん!」

かなり夜店出てる

かな?
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/13(水) 22:32:56.95 ID:mOrCMOdSO
夜店って言葉が卑猥な意味持ってたらヤバかったな
803 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/13(水) 23:27:22.49 ID:nRmafCiPo
>>801 ありがとう
>>802 どんなだよw

さて今日もつらつら書いていこう。
804 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/13(水) 23:29:14.38 ID:nRmafCiPo

辺りに白井がいなくなったのに気づいて、美琴は集合場所へ向かう。
花火がそろそろ始まるから、穴場に向かうとのことだった。

「あ、お姉さま。どこへ行ってらしたの……って。そのお面」
「なによ」
「別に、人の趣味をとやかく言うのは好みではありませんけれど、お姉さまは常盤台のエースとしての風格を……」
「あーもーうるさいわね。別に自分で買ったんじゃないし」
「え?」
「な、なんでもない。いいじゃない。童心に返ってこんなの買ったって」
「お姉さまは童心に返るのではなくてずっとお子様なだけでしょうに」

もう、と白井が嘆息していると、次々に佐天と初春、春上も集まってきた。

「お、みんなそろってるねー。それじゃ、案内しますよっ。イ・イ・ト・コ・ロ♪」
「佐天さん、言い方がいかがわしいですよ……」

もふもふとベビーカステラをほおばる春上がコクンと頷いた。

「変なところじゃないですよっと。ちょっと川上にある公園にテラスがあって、そこから良く見えるんです」
「それじゃそこでゆっくりと眺めますか」

美琴が佐天に並んで、目的地を目指して歩き始めた。



ドーン、と空振が花火から自分たちの下へと伝わってくる。
パリパリとした肌を撫でるような響きと、お腹の底にくるような響き。
花火につきものの夏の風情を体で感じながら、五人は空を見上げる。

「ほら! また上がりますわよ!」
「おー」

珍しく白井まではしゃいで、空を眺める。

「すっごくきれいなの……」
「そうですねえ」
「飾利、キミの瞳のほうが、ずっと綺麗だよ」
「……なんの真似ですか佐天さん」
「真似じゃないよ。心の底からそう思ってるの」
「はあ……」
「うーん、初春ノリ悪い」
「佐天さんがはちゃめちゃなんですよ!」
「ふふっ」

初春と佐天の馬鹿なノリを見て春上が笑った。

「どうしたんですか? 佐天さんが面白かったですか?」
「初春……それ取りようによっちゃ酷いこと言ってる様に聞こえるんだけど」
「気のせいです」
「初春さんと佐天さん、仲、いいんだなあって」
805 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 01:29:38.60 ID:a02BRrIdo

きょとんとした顔で、初春は佐天と見詰め合ってしまった。
春上が胸元から、ペンダントを取り出す。それをそっと握り締めて、語り始めた。

「思い出してたの」
「……何を?」
「あのね、昔、私にも佐天さんと初春さんみたいに、仲のいい友達がいたの」
「そうなんですか。でも佐天さんみたいな人、珍しいですよ?」
「だから初春、なんか酷いこと言ってない?」
「そうですか?」
「佐天さんとはちょっと違う感じだったけど、明るい子で、ぼんやりしてる私を色んなところに連れてってくれて……」
「へー。……えっと、昔ってことは」

そこで不意に、昔語りに頬を緩めていたところに何かが憑いたような、そんなぼんやりした表情を春上が見せた。
何かに耳を傾けるように、顔を上げて辺りを見渡す。

「あの、春上さん?」
「……どこ?」
「え?」
「また、呼んでるの」
「春上さん、どうしたの?」

突然の豹変に初春と佐天は戸惑う。
そして二人の混乱をよそに、春上は踵を返して、テラスから公園内部へ続く階段を上り始めた。

「あ、ちょっと! 待ってください春上さん!」
「どうしたの?!」

慌てて初春が追い、佐天も遅れてその後を追う。
隣にいた白井と美琴は、どうやら花火の音にかき消されてこちらの異変に気づかなかったらしい。
のほほんとした目で離れていく初春たちを見ていた。




声が、聞こえる。
少し前からたびたび感じる、誰かに呼ばれている感覚。
低レベルとはいえ精神感応者<テレパシスト>である春上にとって、
音や、言語というものすら媒介としない思念の交感は未経験のものではない。
ラジオが時々予期しない電波を拾うように、何かが聞こえてくることというのはある。
だけどこの声は違っていた。
迷子になったときみたいな不安を乗せた、助けを求める響き。
そして声の主は、どこか懐かしいというか、聞き覚えがあるような声で。

「どこなの? ねえ、応えて……」

その声は、日に日に春上の現実感を奪っていっている。
初めてその呼び声に気づいたときには、いつものノイズと同様に意識からカットしていた。
なのに何度も呼びかけに気づき、戸惑っているうちに、いつしか春上は引きずられていた。
まるで自分も居場所が分からない迷子になってしまったかのように、
不安を埋めるために互いを引き寄せあい、共鳴し、そして声の主とのリンクをより太くする。
こうなったときの春上は決まって意識を手放したり、
そうでなくとも声が聞こえなくなって数分が立つまで白昼夢を見ているかのように硬直したりする。
今が、まさにそうだった。
春上にはもう、初春と佐天は見えない。

「どうしたんですか? 春上さん、春上さん!」
「どこかわからないよ……教えて。絆理(ばんり)ちゃん」

ガタリと、地面が揺れた。
806 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 01:30:51.89 ID:a02BRrIdo

「えっ? じ、地震?!」
「絆理ちゃん……」
「春上さん! 動いちゃ駄目です!」

本震に先行する疎密波、先触れとなるカタカタとした小さな揺れを経ることなく、唐突に地面が揺れている。
フラフラと歩いていこうとする春上を抱きとめて、初春は足を踏ん張って揺れに耐える。
そうしなければ躓いてしまいそうなほどの揺れ。

「御坂さん!」
「お姉さま!」

階下のテラスでは、その一部がガラガラと崩れかけていた。
慌てて白井がテレポートを使って美琴と共に安全圏へと非難する。

「良かった。初春も気をつけて!」
「私は大丈夫です! 佐天さんこそそんな場所危ないですよ!」

佐天は階段の中ほどにいた。確かに、倒れれば一番危険な場所だ。
幸いに揺れも収まってきたから初春のほうに歩いていこうと、そう思ったときだった。




ギギギギ、と金属が軋む音がした。
テラスの崩れる音にまぎれて、その音源が階上の電灯であることに、佐天以外の誰も気づいていなかった。
電灯の足元、数百キロの金属棒が倒れこむその先にいる、初春と春上でさえ。

「初春! 危ない!」
「えっ? くっ――! 春上さん!」

地震の引きと同時に崩れていた春上を助け起こして横へと逃げるのは、非力な初春には無理だった。
それでも、せめてもの助けになれればと逃げずに春上に覆いかぶさった。

「逃げて!」

佐天は、その一部始終を見たところで、初春達に目を向けるのを止めた。
自然と、本当にごく自然と、体が動いていた。
――超能力なんてものは、たいそうな名前をつけて特別視するようなことじゃない。
そんなことを、しばらく前から佐天は感じ始めていた。
自転車をこぐことを、現代日本人は別段特別視しない。
二輪車に体を預けてバランスを取る行為は、ほんの100年前まで一部の酔狂な人だけの行為だったのに。
それと同じなのだ。超能力なんてものは、使える人にしてみれば、咄嗟にでも使える自分の身体能力の一部でしかない。

佐天の意識しないところで、呼吸が整えられる。
スッと必要なだけの息を肺に留めて、視線の先に渦を作った。
階段の隣の上り坂、その足元。佐天の歩幅よりいくらか広い間隔で数個並べられたその渦を、佐天は躊躇いなく踏みつける。

「初春!」

その試みは初ではない。佐天の想像力の範囲で、すでに試したことのある応用。
――渦で蓄えた高圧空気を踏みつけて、バネ代わりにして加速の手助けをする。
文字通り一足飛びに、佐天は坂を駆け上がる。
ポールの倒れこむタイミングは、佐天の測ったとおり。まさに佐天の鼻先を掠めるところ。
それに、佐天はフックの軌道で掌打を叩き込んだ。

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

浴衣の着崩れなんてお構い無しに、手のひらに作った最大出力の渦をぶつけた。
佐天のコントロールを離れ爆縮をやめた渦が、そのエネルギーを撒き散らす。
その爆発の方向性をちゃんと制御することは出来なくて、電柱の落下軌道を変えるだけの運動エネルギーの一部が
佐天にも伝わり、右手は激痛を発しながら弾け飛ぶように電柱から離れた。
807 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 01:32:23.93 ID:a02BRrIdo

ドゴォォォォォンンン

数メートルの電柱は共鳴しながら重い音を吐き出して、地面に転がった。
初春と春上の、すぐ30センチ隣。アスファルトを舗装しなおさなければならないような深い爪あとが刻まれていた。

「あ、ぐ……いったぁ」
「初春さん! 佐天さん!」
「大丈夫ですの?!」

すぐさま白井と美琴が駆けつける。だが当たらなかった電柱は、当然ながら春上と初春には何の危害も及ぼさなかった。

「あれ……?」
「大丈夫? 初春」
「佐天、さん?」

初春は、目の前で右手を胸に抱いて顔をゆがめた佐天が自分を見つめているのに気がついた。
自分の下にうずくまる春上にも目をやったが、怪我はなさそうだった。

「これ、もしかして佐天さんが?」
「うん。意外と、こういうときに体って動くもんなんだねぇ」
「な、何のんきなこと言ってるんですか?! こんな危ないこと、しちゃ駄目ですよ!」
「でも初春と春上さんを、守れたよ。へへ……」
「それはそうですけど……って、佐天さん!?」
「ちょっと手を拝見しますわ!」

風紀委員の実働部隊として怪我慣れした白井が、すぐさま佐天の右手を診た。
ほんの一瞬前のことだ。佐天自身が感じている痛みを別にすると、外見的には手には何の変化もない。

「痛みますの?」
「……正直、かなり」
「出血はありませんけど、骨折の類、ひびくらいは覚悟されたほうがよろしいわ」
「まあ、仕方ないよね。この怪我と取引にしたのが何かって考えたら、全然安いけど」
「とりあえずすぐ病院に行きましょう。春上さんは?」
「原因は分かりませんけれど、気を失ったみたいです」

地震も収まり、ようやく状況が落ち着いた辺りで、遠くからカシャンカシャンと機械音が近づいてきた。
災害用パワードスーツ、それもあまりいい趣味とはいえないピンク色の期待だった。

「怪我はない? 大丈夫?」
「MAR……先進状況救助隊?」
「そうよ。その子、怪我?」
「はい! 咄嗟に私達を庇ったときに自分の能力で右手を……。あとこっちの子はちょっと気を失っただけです」
「そう。あちらに救急車両を用意してあるから、まずはそちらに行きましょう」

そう言ってパワードスーツは顔の部分のスモークを解除し、素顔を見せた。
長い髪をきちんと留めた、流麗な素顔の女性。

「貴女は……!」

つい数時間前、会議室で公園をしていた女性、テレスティーナだった。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 01:49:34.63 ID:ZZC7AhlDO
乙です!

佐天さんが風遁・螺旋丸を使うとは……!
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 01:53:28.47 ID:fsPQlbf4o
佐天さんぱねえっす
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/14(木) 02:00:50.87 ID:yrGwsVqI0
乙!
もう光子ちゃんと同じような事ができるのか・・・
佐天さんが竹のごときスピードで成長してるな
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/14(木) 02:29:42.66 ID:vD+HTnEF0
佐天「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきくきこきかかかかきくこけくけくきくきくきこきかかか――――――!!」

いつか近いうちにこれが拝めるかと思う胸熱
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/14(木) 02:44:29.11 ID:Go3ax7SR0
木原戦レベル0の人いないとキツくないか
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 04:43:14.02 ID:mXQgvf44o
この使い方は螺旋丸っていうより空圧拳だな
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 07:24:56.32 ID:ZOnt0Fhs0
公園→講演な

俺が言えた口じゃないがもう一個の方に投下するときに直してもらえるとたすかる
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/14(木) 14:13:38.83 ID:3/De8SvZ0
>>814
理想郷に投下する時は直しはいつもやってるはず
こっちに落とす時は書いてすぐだから誤字が目立つ
って>>1が言ってた
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/14(木) 16:04:43.83 ID:CbnrQCPbo
むしろここでの投下は誤字脱字の推敲も兼ねてるみたいだからガンガン突っ込んでいいと思う
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 17:20:41.78 ID:8/moND+L0
空圧拳、空手裏剣、空圧掌、空舞葉、空子旋、空狂乱
子忍、「風の涙子」も夢ではないな
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/14(木) 19:10:34.99 ID:yrGwsVqI0
そのうち風の傷なんかも使えるようになるよきっと
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/14(木) 21:07:19.11 ID:aKtbv+Wfo
風の龍さんが見えるんだな
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/14(木) 21:15:12.14 ID:9D26JPCz0
ここでまさかの「封魔の弦」が出てくるとは、
天国の闇咲さんが微笑んでいるのが目に浮かぶよ
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/14(木) 21:15:20.14 ID:/KAbjJZjo
しかし、この佐天さんはすでにレベル2超えてるぽいね。
それに婚后さんよりも応用力ありそう。
触れなくても渦が作り出せるんだし。
レベルが上がれば、台風くらい作れるようになるんじゃね?wwwwww
822 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 22:32:51.59 ID:a02BRrIdo
実はナルトも忍空もちゃんとは読んだことないから、みんなのネタが良く分からないwごめんね。
あとレベル2にしては能力すごすぎなんですけど、これは意図してのことです。
超能力者のレベルは丸一日使うシステムスキャンで総合的に判定するものなので、
ちゃんとスキャンしてない佐天さんは数字が実力に追いつかないのです。

>>814 サンキュ
誤字は大体は推敲で潰せるので、実はarcadiaのを読んで指摘してくれるのが一番ありがたかったり。
823 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 22:33:49.85 ID:a02BRrIdo

当麻とのキスは、たっぷりソースの味がした。

「ん、ふ……」
「光子、可愛いよ」

誰もいない二人きりの病室で、花火を遠目に見ながら当麻と光子はキスを交わした。
光子にあてがわれた個室は窓の大きい部屋だから、花火見物のちょっとした特等席だ。
当麻は唇を離して、傍らに置いたたこ焼きに手を伸ばす。

「もう一つ、食べるか?」
「ええ、くださいな、当麻さん」
「ん」

夏祭りの会場である川沿いから時間をかけて持ってきたので、中がほろ温い程度にまで冷めている。
当麻はたこ焼きが口から少しはみ出るようにくわえて、もう一度光子に口付けをした。
最初は恥ずかしがっていたが、もう三個目だ。当麻から口移しで食べさせてもらうのにも、慣れてきていた。

「ん……」

当麻と唇をはしたなく触れ合わせて、当麻に歯を立てないよう気遣いながら、そっとたこ焼きを噛みちぎる。
たこの足が中々噛み切れなくて、まるで舌を吸い合うような深いキスをしたときみたいに、
長く口を押し当ててしまう。なんだかそれが、やけに恥ずかしい。
唐突に当麻が、自分の後頭部を抱いたのに光子は気づいた。そのまま、ぐっと唇を強く押し当てられる。

「んっ! んぁ」

当麻の口から貰った分け前、まだ咀嚼すらされず光子の舌に乗ったたこ焼きの中身に、当麻が舌をねじ込む。
ソースの旨みが絡んだ半熟のたこ焼きのトロリとした感触と、当麻の舌が舌を撫ぜる感触。
性欲と食欲をぐちゃぐちゃにかき混ぜて楽しむようなその行為に、
光子はいけないことだ、汚いことだと忌避感を感じる裏で、ひどく、体を高ぶらせていた。
食物は神の賜物、スパイスは悪魔の賜物。上手い格言があるものだ。
背徳という名のスパイスは、確かにキスを極上の味に仕立て上げるものだった。

「っふ、はぁ……。と、当麻さん。もう、だめですわ。インデックスが帰ってきてしまいますから……」
「見られても、別に困らないけどな」
「困ります! こ、こんないけないキス、見られたわ死んでしまいますもの……」

だんだん、当麻に流されている。光子は最近の自分を振り返ってそう思っていた。
常盤台の、それも立ち入り禁止のボイラー室で貪るようにキスをしたり、今だって、
口移しなんでレベルじゃなくて、もっといやらしいキスをしたり。
……嫌ではないのだ。ついその行為に溺れてしまう自分がいるから歯止めがきかないのだ。
このままでは、すぐに、引き返せないところまで行ってしまいそうで、不安になる。

「ま、まあ、今のはちょっとやりすぎだったかな」
「当たり前です! こんなの。だって私、出店のたこ焼きを頂くのだって初めてだったんですのよ?」
「え、そうなのか。……光子の初めて、もらっちまったな?」
「――――っっっ!! 当麻さんの莫迦!」

何を揶揄したのかすぐに光子は理解して、顔を火照らせた。
もう一言言ってやろうと思ったところで、これ見よがしな音量でコンコンと扉をノックされた。

「もう、みつこもとうまも病院なんだからもっと静かにするんだよ。
 廊下までイチャイチャが聞こえてて、入りにくかったもん」
「なっ――」
「みつこも、とうまに久々に会えたから嬉しいのは分かるけど、とうまのエッチに引きずられちゃ駄目だよ」
「……」

何も言い返せない光子と当麻だった。
肌を重ねているところを子供に見られた夫婦のように、酷く居心地の悪い思いをしながら、
光子は病院着の襟を正して、口元を拭いた。

「お、俺。トイレ行ってくるわ。ついでに飲み物買ってくる」

インデックスと二人で残された光子の恨めしい視線を見ないようにしながら、当麻はその場を逃げ出した。
824 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 23:34:18.81 ID:a02BRrIdo

トイレを済ませて自販機を捜し歩いていると、曲がり角の先で二人の女性が向かい合っているのに気づいた。
どちらも長髪で、一方は二十台半ばのスーツ姿、もう一方は洒落たコートを着た大学生くらいの女性だ。
口論というわけでもないのだが、剣呑な雰囲気を醸し出している。思わず当麻は一歩下がって耳を澄ませてしまった。

「ようやくお勤めは終了? 随分と待たせてくれたわね」
「こう地震が続くと、先進状況救助隊体長ってのは、寝る暇がないくらい忙しいのよ」
「そう。きっとお肌のお手入れも大変なんでしょうね」
「ええ、本当に困ってしまうわ。あなたももうすぐ同じ境遇だから、気をつけることね」

ギスギスとした雰囲気。だが表面上だけでも冗談を飛ばしあっているのは、互いを牽制する狙いがあってのことだ。

「それで、こちらの依頼していた品は出来上がったの? 木原さん?」
「私の姓は『ライフライン』よ。テレスティーナ・木原・ライフライン。
 変にミドルネームで呼ばないで頂戴。第四位さん」
「これは失礼したわね」
「それで、依頼の品だけど」

テレスティーナは、ポケットから無造作に、目薬より一回り大きいくらいの、透明なケースを取り出した。
中には粉薬が入っている。

「学園都市で最高純度の体晶よ。ありがたく思って欲しいわね」
「もちろん。混ざり物の多い体晶で一発で壊れられちゃ、使いどころに困るもの。いいものを渡してくれたわね。
 ……で、これって貴女の脳味噌から取り出したの?」
「さあ? それを聞いてどうするの」
「暴走しない程度に舐めてみようかと思ったんだけど、貴女の脳汁だって思うと躊躇っちゃうのよね」

麦野はファミレスで雑談を交わすのと同じ顔で、そんな言葉を吐き出していく。
テレスティーナは丁寧に作った顔で応対するのが、だんだん馬鹿馬鹿しく感じてきた。
どうせ目の前にいるのは、顔は整っているがただの下種だ。

「体晶はどれもこれも全部脳汁だろうが。気にいらねえんならさっさと返せよ」
「だから気に入ってるって言ったでしょう? そちらこそ、予算が欲しいんなら下手なことはしないことね」

二人の会話の中身は聞き取り辛く、また出てくる単語の多くが当麻には良く分からなかった。
……夜の病院でああいう会話をされると、やけにいかがわしいというか、犯罪めいた匂いがするよな。
そんな自分の考えを鼻で笑いつつ、こっそり逃げるのもおかしなことかと思って自販機にコインを入れてボタンを押した。
ピッ、ガシャコン、と自販機はお決まりの音を立てて、目的のジュースを吐き出した。
後ろを振り返ることなく、当麻は病室へと戻った。
825 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/14(木) 23:36:11.00 ID:a02BRrIdo
『ep.2_PSI-Crystal 02: 友を呼ぶ声』おわりっと。
さて、今回は次話のタイトルを予告しておこうと思う。
『ep.3_Deep Blood 01: 第五架空元素』です。請うご期待!
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/14(木) 23:47:18.05 ID:/KAbjJZjo
オリジナルになると筆がよく進んでる感じだねww
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/15(金) 00:28:43.84 ID:Sp4RgBel0
乙です
Deep Bloodってことは次は姫神編?
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/15(金) 00:52:39.45 ID:99VU0V2I0
■■の事を本気で忘れていた…
一通さんの前にヘタレの錬金術師だよな
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/15(金) 02:59:17.24 ID:awq7o2bp0
この設定だとヘタ錬どうなるんだろうな、インデックスの記憶戻っちゃってるし
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/15(金) 09:27:21.91 ID:zjG8CyVS0
戦う理由がもう無いよな
インデックスが説得するルートになるのか
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/15(金) 14:29:50.52 ID:ip7wLIRdo
ヘタ錬より姫神がどうなるかなあ
そこが怖いんだが・・・
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/15(金) 14:54:22.88 ID:ujE7S//v0
■■の能力ってつかい道によっては吸血鬼をつかえるんじゃね?
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/15(金) 20:36:05.84 ID:bs6Wjv8jo
更新乙です!
むぎのんきた!
なんか、かまちーが設定活かし切れてないっぽい能力者キタ!
ここらへん、どう料理するのか楽しみです。

あと、イチャイチャ度合いがエスカレートしてて実にいい!
光子さんが可愛すぎてもう…!

次回も楽しみにしてますよー
834 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 02:51:09.72 ID:mTqV+RSio
秋沙さんの出番はもうちょっとだけ先かなぁ。
>>830あたりの問題を受けての俺の答えがこの先の10レスくらいになるので、まあ、見ててくれ。
835 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 02:51:57.19 ID:mTqV+RSio

川の向こうに上がる花火を、エリスと垣根は黙って見つめていた。
お腹はいっぱいだ。エリスの予算に合わせてそれなりに遊んでそれなりに食べた後、
エリスが申し訳なく思わないギリギリの所まで、垣根がおすそ分けだなんて言いながらおごってくれたから。

インデックスたちから離れ、垣根に会った瞬間の、あの顔を思い出してクスリとなる。
自惚れじゃなく、あの顔は自分に見とれている顔だったと思う。
まあ、本人の口から綺麗だなんて言ってもらえたから間違いはないだろう。
その後ここまでのエスコートをしたのが当麻だったことに妬き餅を焼いた垣根をなだめて、夏祭りを堪能したのだった。
花火は、もうすこししたら終わってしまうだろう。
はっきりとは門限のないエリスだったが、さすがにもう遅い時間だ。帰らなければならない。
そしてそれを知って、さっきから垣根が何かのタイミングをうかがっていることに、エリスは気づいていた。

「花火、綺麗だね」
「お前のほうが綺麗だよ、エリス」

お世辞が即答で帰ってくる。とても軽薄な調子だった。
垣根が本音を言うときはそうやって誤魔化すのだと、エリスはもう知っている。

「ありがとう」
「……」

調子が狂うとばかりにへっと垣根がそっぽを向く。これは照れ隠しだ。
自分の行動パターンを見透かされたせいで、戸惑っているのだ。

「ていとくん、可愛いね」
「あ? この顔のどこに可愛らしさがあるんだよ。エリス、コンタクト買え」
「ふふ。ツンデレに萌えるってこういうことなのかなぁ」
「……」

きっとお祭りのせいだった。いつもなら垣根をこんな風に追い詰めたりしない。
もっと距離をとって、近寄られてもいなせるように、ずっとエリスは気を遣っていたのに。
本当に今日は楽しかった。浴衣を着て、気になる男の子と夏祭りの屋台を見て歩いた。
その幸福感に、大切なことを忘れてしまっていたのだろうか。
エリスの隙を突いて、垣根が、エリスを強引に抱き寄せた。

「ててて、ていとくん……?」
「エリス」

名前を呼ばれて、ドキンとなる。主導権をとってるはずなのに、あっという間に奪い返された。

「今度こそ逃げずに、真面目に、俺に向き合って欲しい」
「……駄目、だよ」
「どうして?」
「駄目なものは駄目」
「本気で俺に向き合ったら、惚れちまうからか?」
「さあ。……ていとくんは気障だね。そういうの、女の子は本気にしちゃうから駄目だよ」

それは半分本当で半分嘘だった。垣根は格好の良い男なので、気障なことを言われるとクラリとなるのは事実。
だけど、今更エリスはそれでなびいたりはしない。だって、もう、エリスはとっくに。

「なあエリス。俺のことを気障だとか口が上手いとか散々言うがな、俺は童貞だしファーストキスもまだだ」
「えっ?」
「……さすがに俺も傷つくから聞き返すなよ」
「うん、ごめん。でも意外」
「エリス以外に惚れた女がいないんだから当然だろ」
「……」

そういう言葉に、女は弱い。エリスだって弱い。
また、エリスは垣根にもっと強く惹かれた自分を感じた。
……だけど、駄目なのだ。垣根とは、一緒にいられない。
836 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 02:52:58.62 ID:mTqV+RSio

「ていとくん」
「エリス。俺は何度振られたって言い続ける。俺と、付き合ってくれ」
「……あのね、嬉しいとは、思ってるんだよ」
「事情があるから、俺のお願いに応えられないんだろ?」
「うん……」
「お前が教えないでいること、教えてくれ。全部、俺にも半分背負わせてくれ」
「いつもいつも、ごめん。それは、出来ないから」

また、いつもの返事だった。こんな言葉で、いつもなあなあとはぐらかされてきた。
だけど、今日は引かない。そう決意したからこそ、垣根は胸の中にエリスを抱く。

「絶対に、駄目か?」
「……絶対に、駄目、だよ」
「じゃあ、こうされるのも迷惑か」
「それは……」
「嫌ならはっきりとそう言えよ。俺は小心者だからな、お前に本気で拒まれたら、きっと俺は追えやしない」
「嘘だよ。ていとくん、何度断っても付き合ってくれって言いに来るもの」

エリスは、これまで本気で垣根を拒んだことはなかった。
好きだと思うほど価値がない相手だとか、嫌いだとか、あるいは他に好きな男がいるとか、
そういう断る理由を、明確に提示してこなかった。
垣根が言う、本気の拒否というのはそういうものだ。そしてエリスにはそんなことは出来ない。
だって、垣根は魅力的な男の子で、嫌いなことなんて全くないし、垣根以上に好きな男もいないから。
今だって、エリスが腕に力を込めて離れようとすれば、垣根は抗わないと思う。だけど出来ない。
好きだといってくれる男の子に、真正面から気持ちをぶつけられて、嬉しくない女なんていないから。

「エリスはいつだって、本気で拒んでない」
「あー、そういう思い込みは良くないんだよ?」
「茶化すなよ、エリス」

頬に、手を当てられた。川沿いとはいえ真夏は暑く汗をかいているから、垣根に触られるのが恥ずかしい。
視線をぶらさず、真摯に見つめてくる垣根の瞳に、エリスは身動きが出来ないでいた。

「キス、していいか」
「えっ……?」
「順番がおかしいけどな。踏ん切りがつかないんだったら、ちょっと強引にでも唇を奪っちまうぞ」
「あ……」

垣根は、待たなかった。エリスの逡巡を見透かしていたのかもしれない。
あっという間に、唇と唇の距離を詰められる。
思わずそれに流されそうになって。

「駄目!!」

はっきりと拒否の意を示すように、バッとエリスが垣根から逃げた。
そして傷ついた垣根の表情に気づいて、エリスは自分のしたことの意味を悟った。

「ご、ごめん。ていとくん……」
「……いや、謝るのは俺のほうだろ。すまん、悪かった」
「違う、違うの。その、ていとくんを拒んだのとはちょっと違って」

必死でエリスはフォローの言葉を考えた。
垣根に嫌われるのが、怖い。ずっとアプローチしてきてくれる垣根に甘えていたせいだ。
拒んでいるくせに、決定的に自分の下を去られてしまうこともまた怖いのだということを、つい忘れていた。
酷い女だと自分でも思う。
踏み込まれたくない一線の一歩手前で、ずっと垣根には留まって欲しい。
何度も告白をしながらそのつど自分に断られる、そういう状況で満足して欲しいと、自分はそう思っているのだ。
それはきっと、叶わないだろう。
837 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 02:54:35.02 ID:mTqV+RSio

「エリス。どうあっても、俺に諦めろって言うのか」
「……」
「エリスの元に、俺はもう現れないほうが良いか」
「駄目……やだよ」
「じゃあ、どうすれば良い?」

垣根は、泣きそうな顔のエリスを見て、抱きしめたい衝動に駆られる。
エリスが大好きで、エリスのために尽くしてやりたいと思う垣根にも、出来ないことがあった。
たぶんエリスが望んでいるであろう、近すぎず遠すぎない今の関係を、ずっと維持することはできない。したくない。
もっと、エリスと深い仲になりたい。

「ごめんね、ていとくん。私にもわかんないや……」
「背負わせてくれ。エリス、お前は何か俺に遠慮するような事情があって、ずっと拒んでるんだろう。
 それを、俺にも背負わせてくれ。人より、俺は少しくらいは役に立つと思う。
 俺の力が、エリスのためになるなら、こんなに嬉しいことは無い」
「ていとくん……」
「エリス。俺のことは、嫌いか?」

だまって、エリスが首を横に振った。

「俺に踏み込まれるのは、嫌か?」

また、首を横に振った。

「そうか、じゃあキスするぞ」

返事は無かった。ただ、何度も拒まれたのに、今回は、それが無かった。
だから垣根は迷わず、再びエリスを胸の中に抱きしめた。

「ていとくんは、女たらしだね」
「お前を口説き落とすテクならいくらでも磨かないといけないからな」
「……ねえ」
「ああ」

エリスが、初めて、垣根の胴に腕を回した。きゅ、と抱きしめられる感触がする。
たったそれだけでも、垣根は頬が緩むのを止められなかった。
エリスが初めて見せてくれた、弱さだった。

「結構、ヘビーな内容だよ」
「そうか。俺も結構笑えない人生送ってるぜ。不幸自慢でもするか」
「ふふ。ていとくんの話も、聞かせて欲しいね」

エリスは、一線を越えてしまった自分の心に、後悔を感じる反面、
重荷を下ろせる安堵と、垣根を受け入れられる嬉しさを噛み締めていた。
もう、自分は堕ちてしまった。
学園都市第二位の実力者は、きっと、自分のために大変な苦労を背負うことになる。
垣根を不幸にするのは、きっと自分だ。
……でも、きっと垣根を幸せに出来るのも自分じゃないかと、必死にそう思いこむ。

「ねえ、ていとくん。私の心臓の話、しようか」
「……ああ」

そっと、エリスは自分の胸元に手を当てる。
いつもと変わらぬ拍動が、エリスという存在を主張していた。
だが心臓を構成する材質は、ヒトとは決定的に異なる。
838 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 02:56:55.75 ID:mTqV+RSio

「第五架空元素」
「え?」
「私の心臓を形作っている元素の名前。ていとくんは、聞いたことあるかな?」
「いや……。というか、魔術(オカルト)じみた単語だな、それ」
「うん。だって、その通りだから」

エリスは苦笑いした。垣根は典型的な学園都市の生徒だ。オカルトには、勿論疎い。
とはいえそう科学と無縁なものでもないのだ。

「1899年まで、科学者も信じていた元素だよ。ローレンツ収縮が滅ぼすまで、
 それは優れた科学者達が皆躍起になって観測しようとしていたもの」
「……」

垣根はその情報を元に、思索をめぐらす。
ローレンツ収縮は、当時大きな矛盾を抱えていた二つの学問をすり合わせるために考えられた仮説だ。
今では正しい理論だとされ、科学の体系の中に、特殊相対性理論という名前で組み込まれている。
互いに矛盾していたのは、力学の中で公理となるガリレイ変換と、マクスウェルが完成させた電磁気学。

「光の速度についての取り扱いの話、だったっけか」
「そうだよ。さすがは第二位の超能力者、だね」
「科学史の成績で能力は測れねーよ」

電磁気学は、そして、現代の物理学は、光が誰にとっても一定速度であるということを根本的な事実と捉えている。
これは、常識的な感覚からするとおかしなことだ。
100キロで走る車から、100キロで走ってくる対向車を見つめれば、相手は200キロで走っているように見える。
これがガリレイ変換だ。力学の大前提といえる。
これを適用すると、太陽に向かって進む人間から見た光と、太陽から遠ざかる人間からみた光の速さは、違うことになる。
だから日の出の時と日の入りの時に光速を測定すると、値が違うことになるはずなのだ。

「力学の常識で言えば光の速度は人によってまちまちのはずなのに、電磁気学は誰にとっても一定の値だと要請する。
 この矛盾を、1899年以前の人たちはどう解決する気だったか、ていとくんは知ってる?」

それで垣根は、エリスが第五架空元素と呼んだそれが何か、ようやく気づいた。

「宇宙を満たすエーテルによってその矛盾は説明される、って『信仰』だったっけか」
「そう。結局はアインシュタインが特殊相対性理論を完成させて、エーテルは科学からは見捨てられたんだよね」
「……なんか引っかかるな。科学からは、ってさ」
「うん。言葉どおり、科学からは、見捨てられたんだよ」

いつしか花火はやんでいた。騒音が無くなり、遠くから喧騒が再び聞こえるようになっていた。
エリスは暑くなって、そっと垣根の腕を振り解く。そして自分の腕に絡めて、寄り添った。

「エーテルって言葉には、とても沢山の意味があるよね」
「化合物にもあるしな」

科学は、1899年に捨てたのとは別の意味、揮発性の有機物にもエーテルの名を冠していた。

「魔術でもね、沢山の意味があるんだよ。属性の無い魔力そのもののの塊もエーテルって呼ぶし。
 そのときには架空を抜いて第五元素って呼ぶんだけどね」
「……なんつうか、俺の常識には無い話だな。それ」
「うん、魔術なんてていとくんは信じてなかっただろうけど、聞いて欲しい。
 あと受け入れられなくても、納得して。
 私の心臓を形作る物質はね、天空に架かるほうの第五『架空』元素なの。
 古代の叡智を結晶化させた哲学者、アリストレテスが天に見出した、
 永久に瞬く天体の構成元素。それが第五架空元素(エーテル)なんだよ」
「エリスの心臓は、それで出来ている?」
「うん、そう」
「……どう納得して良いかわからないけど、信じることにする」

垣根は心のどこかでエリスの説明に納得しているのだ。
この世に由来しない『未元物質』を創出する垣根にとって、
第五架空元素が発する特有の雰囲気は、オカルトで説明されたほうが納得できそうなくらいだった。
839 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 03:00:03.61 ID:mTqV+RSio
今日はここでギブった。眠い。
ていとくんが魔術サイドに引きずり込まれはじめてますなぁ。

>>833
かまちーは粒子でも波動でもない電子がそこに「ある」なんていっちゃうからなあ。
「ある」って表現は完璧に粒子性を意識した表現だよね。
粒子でも波動でもないなんて、最先端の科学者の理解すら超える概念を、
小説で書き尽くすなんてとても大変なことだと思うんだけれど。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 03:03:58.24 ID:iBIh5OK7o
おつん
かまちーは地味に難しいとこに触れてるのかwwww
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/16(土) 03:07:30.71 ID:riLNAdmBo
原作を知らないけど、原作者は科学も宗教も味付け程度なんだろうね。
ターゲットは中高生だろうし、それほど濃く説明しなくてもOkって感じなのかもしれんけど。

このSSはもうちょっとその味を濃くしてるのかな?
マグダラのマリアとかかまちー知らないんじゃねえのかなwwwwww
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 03:12:24.45 ID:kmUhX3TDO
おっつん

投下終わっるのROMって待ってるやつ多すぎだろww
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 03:39:59.54 ID:CQY8pVt40
乙!
書き手はめっちゃ頭いいな エリス×ていとくんいいな
ていとくんは冷蔵庫にしないでくれよ!まじで
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 05:57:23.02 ID:kcCsv1WDO
乙!

垣根とエリス関係で気になるのはスクールとシェリーだな。
特にシェリーはもう少しで来るし、どうなるんだぜ?
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/16(土) 07:43:51.84 ID:v4mOUf4g0

「神が住む天界の力の片鱗」とエーテルの組み合わせとか胸熱すぎる
っていうかエリスはシェリーが彼女の命を助けるために作った
ゴーレムの心臓で動いてるとかだったら泣く、いろんな意味で。
>>841
科学に関してはもうぐうの音も出ないけど、魔術・宗教は結構そうでもないよ
原作wiki読めば分かると思う
アニメを見てたのなら続きからでも原作を読んでみることをおすすめする
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/16(土) 10:46:30.93 ID:IbT6AaCDo
乙!
この垣根は冷蔵庫化したらちょっと切ないな
847 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 11:44:50.56 ID:mTqV+RSio
>>841
魔術は読み手の俺らに基礎知識自体が無いからな、そういう意味じゃ俺もかまちーも浅いのかもしれん。
かまちーが詳しくても、濃く書きすぎるとラノベから外れていくし。
あとキリスト教関連は、俺が初期キリスト教の話が好きなのに比べて、
かまちーは教義が確立して以降の聖人の話とかが好きだからな。ちょっと題材が違うってのはある。
だからあっちにはマグダラのマリアは出番が無いんじゃなかろうか。

>>843
ぼくたくさんべんきょうしてるからね!
冷蔵庫って皆気がはえーよw何巻先の話だ。まるで決めてない。

>>844
巻数で言うとシェリーもはるか先だぜ。時間で言うと一ヶ月なんだけど。

>>845
ずっと前からていとくんは魔術との親和性が良いと思ってのよねん


あ、後出しで数字変えてアレなんだけど。
ローレンツ収縮がエーテルを否定した年を、1904年に改めようと思う。。。
ローレンツが論文を発表したのはコッチの年だった。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/16(土) 11:52:20.26 ID:slA96xG1o
乙!
なんとなく某所で最初から読み返したらトンデモな分量になってたww

あらためて、光子さんと潜った修羅場というか歴史がすごいなーと思ったり。
これは記憶をなくしでもしないとビリビリの逆転無理だわww

ていとくんが思ったより純情ボーイでびっくりした。
それすら駆け引きのテクかもしれんけど。
サクランボは自分でサクランボって中々言わないもんねww

次回も楽しみにしてますよー
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/16(土) 12:30:54.93 ID:zeJgsbZMo
京極道シリーズもラノベだし、あれくらい濃くてもいいんだけどなあ。
850 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 13:44:40.54 ID:mTqV+RSio
>>848
はじめから読むと何時間くらいかかる?
振り返るとそれなりに長くなってきたねえ。arcadiaでも話数は大したこと無いほうだけど、
一話の長さを考えるとそこそこの長編になってきたかな。

>>849
京極夏彦読んだことねーや。母親が大好きで実家にはあったんだけど。

さてじゃあネタばらし回いっくよー
851 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 13:45:43.26 ID:mTqV+RSio

「それで、そんな変わった物質が、エリスの胸の中に納まってる理由はなんなんだよ?」
「うん……それを話すとね、酷い話をいくつもしなきゃ」

元素の名前を漏らしたところで、エリスに痛痒はない。
垣根に本当に話せなかった話は、ここからだ。

「ちょっと回りくどいけど、ていとくんには『魔術』を受け入れてもらわなきゃいけないね」
「……魔術、ね。マジックって単語にゃ手品って意味合いがついて回るからな、この街じゃ」

時代遅れの理論を振りかざす魔術は芸の一つとして実演される手品と同じ、というのが学園都市の基本的な理解だ。
受け入れろといわれて、どう受け止めたら言いのかが分からない。

「Magic(マジック)じゃなくてMagick(マギック)、って呼ぶといいかもしれないね。
 私が話をしようとしてるのは、手品じゃないほうの、オカルトとしてのマギックだから」
「そんな呼び分けがあるのか」
「うん。アレイスター・クロウリーっていう世紀の大魔術師が、
 ただの手品や不完全な魔術から本当の魔術を分離するために、そう名づけたの」
「アレイスター……クロウリーだと?」

聞きなれた名前だった。
なんてことはない、この学園の人間なら大半が知っている、学園都市理事長の名前だった。

「逆さ宙ぶらりんのホルマリン野郎と同じ名前じゃねえか」
「うん。もしかしたら本人かもしれないね。……それで話を戻すけど。
 ていとくんはこの世に無い物質を作れる人だよね。
 もし、ていとくんが作った物質だけで出来た世界があったら、その世界はなんていう名前なのかな?」
「はあ?」
「そこに息づく人も、そこを貫く物理法則も、全部この世とは違う世界。
 ……なんだかこの街が捨て去ってしまったはずの、宗教的な概念に近づくの、わかる?」
「はっ。俺が神様だとでも言いたいのか? 此方(こなた)に無い世界は彼方(かなた)、天国か地獄だろ」
「そう。……ねえていとくん。ていとくんは、超能力でそんな『在りもしないもの』を創れる人だよね。
 これまでの歴史の中で、超能力とは別の概念で、それを成し遂げた人がいないって言いきれる?
 うーん、これで受け入れてもらえるかは分からないけど、ヒトが天界という概念を手にしたのは、
 誰かが天界を創ったからじゃないのかな。これまでにも、ていとくんとは違う方法で、
 ていとくんと同じ高みに上り詰めた人がきっといたって、そんな風には思えない?」

垣根は、漠然とエリスが魔術と呼びたいものの存在を、匂いとして感じ始めていた。
人がオカルトを信仰した理由を、心理学を初めとした科学書ではあれこれ説明してある。
麻薬や、集団心理、機の触れた人間の見る幻覚。
学園都市の人間は疑うことなく、魔術とはそんなものだと信じている。
だけど、科学の教科書にはこうも書いてあるのだ。物理法則は絶対だ、と。
そんな教科書の常識を、垣根は軽くすっ飛ばす。
魔術など無いと垣根に保証してくれる書籍の全てが、垣根の超能力などありえないと保証している。

「超能力だけが、物理法則を超える唯一の手段じゃない、と?」
「そう。魔術が無いってことは、科学的に証明されたことじゃないもんね」
「……具体的にじゃあ魔術ってなんだよ」
「うーん……これでどうかな」

エリスが木の枝を拾って、辺りに四つ、何かの紋章を描いた。
ぼそぼそと何かを呟き、天を仰ぐ。
するとそれぞれの紋章の上に、盛り土が突如として生まれ、水が地面を濡らし、
小さな炎が立ち上り、そしてぶわりと土ぼこりを舞わせた。
852 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 13:46:55.62 ID:mTqV+RSio

「どう?」
「どうって、エリスの能力を知らないからな。超能力でもこんなこと、出来るだろ」
「そうだね。……えいっ」

エリスが突然、垣根に顔を近づけた。垣根はその行為にドキリとなって、
……そのまま、身動きが取れなくなった。

「私の能力は精神感応系のだよ。物理に作用するものじゃないの」

エリスが目線を離すと垣根の体は硬直から解放された。
レベル1だと言っていたが、きっともう少しは高いだろう。
そして確かにエリスは、全く異なる能力を、多重に展開した。
いや、物理に働きかけたのが魔術だというなら、魔術師にして超能力者ということか。

「超能力は一人一つしか宿らない。だから、今のはかたっぽが魔術なの。
 私はね、学園都市が魔術師と手を組んで、
 魔術と超能力を同時に使える人を作り出すために行った実験の最初の被験者なの」

エリスの言葉に、垣根は表情を凍らせた。
ずっと、目の前の少女は学園都市の暗部とは無縁な人だと思っていたのに。

「結論から言うとその実験は全て失敗でね、能力開発をした後に魔術を使った子供たちは、
 全員、体中を破壊されて死んでしまったんだ」
「じゃあ、エリスは」
「うん。もう、私は、死んじゃってるんだ。享年は……何歳だったかな。
 その実験が行われたのはもう20年位前だから。私、ていとくんより10歳は年上なんだよ」

垣根は、エリスを確かめたくて、近づいてそっと手を伸ばす。
しかしエリスが同じだけ距離をとって、垣根の接近を拒んだ。

「それじゃ、俺の目の前にいるエリスは、なんなんだ?」
「ゾンビですって言ったら信じる?」
「信じろって言うなら、信じるさ。それしかないだろ。エイプリルフールには随分遅いが、
 嘘だって言うならなるべく早めに頼む」
「うん。ゾンビっていうのは嘘。だけど、死んじゃったのは本当なんだ。
 ただの人間には、魔術と超能力を受け入れるキャパシティがないから」

どうしたらいいのか、垣根には分からなかった。
エリスとの間に開いた、二メートルくらいの距離。今すぐそれを詰めて、抱きしめたい衝動に駆られる。
だけど、無闇にそんなことをしても、エリスに逃げられる気がした。

「あ、でも精神年齢はきっと、見た目どおりだよ。
 死んでから10年くらいは、冷蔵庫で保存されてたから、成長して無いし」
「……エリスは20年前に命を落として、10年前に、生き返った」
「そう。計算速いね、ていとくん。私が適合者だって、誰かが知ってたんだろうね。
 10年前に、この心臓を植えつけられて、私の人生は再開してしまったんだ」
853 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 13:49:36.87 ID:mTqV+RSio

生を謳歌できることを、喜んでいるような響きはこれっぽっちも無かった。
そのまま死んでいたほうが、幸せだったというかのように。

「その心臓は、一体なんなんだ」
「――第五架空元素。って、今ていとくんが望んでるのはその答えじゃないね。
 これはね、10年位前のある京都の寒村で集められた遺灰から、生成されたものなの」
「遺灰?」
「そう。私と同じ、エーテルの心臓を持った人――ううん、生き物の遺灰」

垣根には、またしても話がピンと来ない。
だってこの世のどんな生き物の灰を集めたって、この世の物質しか得られないはずなのだ。

「ああ、ようやく話の最後にたどり着いちゃったね」

また一歩、エリスが遠ざかる。暗くてもう、エリスの表情が見えない。

「この心臓を持つ生き物はね、本来は異界に住むべき生き物なんだよ。
 人間界で生きていくには、人間にしか作れないものを、人間から摂取する必要があるの。
 私を含めたこの生き物はよく漫画とか映画なんかで出てくるんだけど、ていとくん、わかるかな?」

可愛らしくエリスが首をかしげたのが分かる。いつもの仕草だ。
だけど、暗がりにいるせいでそんな仕草までが、なぜか暗い色を伴って見えた。

「もう、何がなんだかわからねーよ。魔術なんてさ、小説でしか出てこないようなものだろ。
 エリスが言いたいソレが、俺にはどうしても実感を伴って受け止められないんだ」
「ていとくん。ていとくんが私をどんな生き物だって予想しているのか、教えて」

決定的なことを、エリスは垣根に言わせる気だった。




「――――――吸血鬼」
「ご名答。ていとくん」




クスリとエリスが笑う。エリスが得体の知れない淫靡な笑いを浮かべたように見えて、
垣根は思わず、エリスを恐れた。
854 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 14:02:17.33 ID:mTqV+RSio

「もちろん、私は無計画に血を吸ったりはしない。だってご飯のほうが美味しいもんね。
 それに仲間を増やしたりもしない。こんな体になって幸せな人なんていないもの。
 でも私は、ていとくんの知らないところで、ていとくんの知らない人から、血を啜ってるの」
「……」
「もう成長期を過ぎたから、わたしはこれからずっとこのままなんだ。
 私は100年でも200年でも、ずっと生き続ける。ていとくんを置いてね」
「……」
「だから、ごめんね。ていとくんは、こんな化け物に関わらなくていいんだよ。
 ていとくんを幸せにしてくれる人間の女の子が、きっとどこかにいるから」

また一歩、エリスが遠ざかった。電灯がさっとエリスを差して、その表情を垣根に見せた。
ギリ、と垣根は歯噛みした。自分は馬鹿だ。大馬鹿だ。一瞬でもエリスに距離を感じた自分を殴りつけたくなる。
……エリスの頬が、濡れていた。

「お前のことは、誰が幸せにするんだ」
「えっ?」
「お前の隣にいて、お前のことを幸せにしてやるヤツは、誰なんだよ。候補でもいるのか?」
「どうだろうね。私は一人ぼっちの吸血鬼だから。どうやれば同類に会えるのか、これっぽっちも知らないんだ」
「探さないのか」
「この町を、私は出られないから。目を覚まして、運良く研究所から逃げられたけど、
 きっと今でも学園都市は私を探してる。IDもない私は、この街の端の、あの壁を越えられないんだ」

吸血鬼といえど、自分の力をどう振舞えばいいのかわからないエリスは、ただの人間と変わらなかった。

「それじゃずっと、独りで、生きていくつもりなのか」
「そういう運命なのかなって、諦めたんだけどなあ。ていとくんと会う前は。
 ……ヒトより強い生き物なのにね」
「だったら、俺が」
「駄目だよ。ていとくんも、いつかは私を置いて死ぬ。そうなる前にだって、
 追われる私をずっと匿うことなんて出来ないし」
「関係ねーよ」

イライラとした垣根の口調に、エリスが黙った。

「幸せに、なりたいか?」
「……」
「解決方法なんていくらだってある。その心臓を、別のものに差し替えられればいいんだろう?
 簡単には無理だからこその吸血鬼だろうが、俺が、何とかしてやる。『未元物質』を侮るなよ。
 それに仮に人間に還ることが無理でも、俺がお前と――」
「駄目! 私は、絶対にそんなこと、しない。ていとくんを私の地獄(せかい)に引きずり込んだりなんて、しない」
「……。ならいい。俺は勝手に、自分でお前と同じになる」
「え?」
「第五架空元素、か。はん。その底を理解すりゃ、俺はお前と同じになれるんだろう。
 2000年前の人間に理解できた概念だ、俺に出来ないわけがねえ。
 どんな風に助かりたいか、どんな風に幸せになりたいか、毎日考えろよ。
 俺はお前の幻想(ふこう)を全部理解して、全部解いてやる」

ザリッと音を立てて、垣根はエリスへと足を向けた。
怯えるように、エリスも一歩後ろに下がった。だが浴衣のエリスは、そう大きくは動けない。
躊躇いなんて、もう垣根には無かった。二歩三歩と進めると、エリスの表情がくっきりと目に写った。
不安、そして、垣根のうぬぼれでなければ、歓喜。
きっとエリスは、自分に傍にいて欲しいと、思っている。
垣根は再びエリスに腕を回した。
855 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 14:15:12.19 ID:mTqV+RSio

「駄目、なのに。ていとくん……」
「帝督って呼んでくれ」
「もう。今はシリアスなときじゃないのかな」
「真面目に言ってるんだよ。俺を、お前の彼氏にさせてくれ。エリス」
「帝督、君」

くしゃりと、エリスの顔が歪んだ。見られまいとしてエリスが垣根の胸に、顔をうずめた。
初めて、エリスが垣根を求めてくれた瞬間だった。
エリスを好きだという気持ちが、心の中から溢れていく。自分のそんな心境に、垣根は笑ってしまう。
こんなにも人生が色彩鮮やかに、意味を持って自身の瞳に写ったことが無かった。
エリスを幸せにするために生まれたんだと、本気で思えるくらい、垣根はエリスがいとおしかった。

「愛してる、エリス」
「愛してるは早いよ、帝督君」
「じゃあ好きだ、エリス」
「うん。……帝督君が、悪いんだよ。気持ちの弱ってる女の子にこんなに言い寄るんだもん」
「悪いってなんだよ」
「私と幸せになるなんて、絶対、割に合わないよ。もっと、帝督君は別な幸せを手に出来たはずだもん」
「俺はエリスが良かったんだ。俺がエリスを選んだんだ」
「うん……嬉しい。ごめんね。すごく、すごく嬉しいの」
「謝るなよ。それより、お前の口から、俺だって聞きたいんだ。エリス」

垣根がそっと、エリスの頬に手を当てた。
エリスの泣き顔をそっと持ち上げて、垣根はじっくりと眺めた。
涙に腫れた瞳すらも可愛い。

「私も、帝督君のことが、好き」
「そうか。……初めて、言ってくれたな、エリス」
「だって言っちゃ駄目だって思ってたもん。
 初めて告白された日からずっと好きだったけど、帝督君に迷惑だからって」

またぽろりと、耐えかねた気持ちが目じりからこぼれた。それを垣根は拭ってやる。
何度悲しみにエリスが泣くことがあっても、絶対に、泣いたままになんてさせない。

「エリス、好きだ」
「うん……」

もう一度だけ、垣根はそう言った。それで、エリスも垣根の意図を察したようだった。
垣根の手に抗わず、エリスはそっと、垣根に唇を差し出した。
さらに溢れた涙を垣根は指で拭って、エリスの髪を撫でた。

「ファーストキスだな」
「私もだよ」

エリスは、たまらないくらい嬉しい気持ちで、垣根の温かみを感じていた。
好きな人と口付けを交わすなんて、こんな幸せな時間、叶わないと思っていた。
目をいつ瞑ろうかと、ドキドキしながらエリスはちょっと身を硬くしていた。
856 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 14:15:51.06 ID:mTqV+RSio
よし、じゃあ昼ごはん食べに行こう。続きは夜ー
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/16(土) 14:18:16.37 ID:OpGPzSoWo
ていとくんかわいすぎわろた
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/16(土) 14:20:13.02 ID:snH0Ntfq0
そして姫神フラグ
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/16(土) 14:20:23.72 ID:slA96xG1o
乙ですたー

やだ、このていとくんカッコイイ…
なるほど、自分も人外になることすら躊躇わぬか。
かっこいーねー。
錬金術と未元物質かー
どうやりあうのか楽しみですな

次回も楽しみにしてますよー

それと、既にイッキ読みできる分量じゃあなかったとだけ言っとくww
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/16(土) 14:27:36.53 ID:RxBbPzTlo

シェリーさんの学園都市襲撃の動機が変わりそうだな
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/16(土) 14:46:07.70 ID:f4XHW72h0
この後エリスが爆裂しちゃうのか思ったが、そうではなかったんだな。
ほっこりするぜ
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/16(土) 15:03:29.01 ID:hzd7uyXAO
何でだろう、明らかにていとくん暗部落ちのプラグにしかみれない
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/16(土) 16:00:19.59 ID:v4mOUf4g0

いやあぁあああぁぁああぁ姫神いやぁあああああぁああ!!
あれ?これは姫神を殺そうとするていとくんが何も知らないヘタ錬と戦うフラグか?
キャスト入れ替えでヘタ錬戦ということか?
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/16(土) 16:31:06.13 ID:jkgxERhi0
上条「もてた」では姫神の女の魅力を引き出し、
ここでは『吸血殺し』を最大限に活かすストーリーを展開させる。

nubewoさんの描く姫神はキャラが立ってるからもう■■なんて呼べないな
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/16(土) 16:46:05.87 ID:slA96xG1o
禁書の魅力も溢れてるよな。
もうここではインなんとかさんとか呼べないww
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/16(土) 19:43:12.32 ID:wc1BVTzW0
やばいwwwwww
作者さんの考える展開が面白すぎる
続きが気になってしょうがないぞ
てかていとくんもうメインキャラじゃね?
867 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 22:26:22.13 ID:mTqV+RSio






不意に、とても甘くていい香りが、エリス鼻をくすぐった。
ラフレシアみたいに自分を惹きつけて放さない、椿みたいな香り。






「エリス? なあ、エリス?」

分からない。どこから匂い、するんだろう。
風上はあっちだから、川の上のほうからかな。
弱い匂いだから、距離はあるのかも。

「なんだよ、嫌なのか。どうしたんだよ?」

隣でうるさい声がする。
匂いが消えてしまった。
風向きのせいかな。
あんなにいい香りのする血なら――――

「エリス!」
「えっ?!」

ハッと、エリスは我に返った。そして自問する。今、自分は何を考えた……?
わけが分からない。如何に生きるうえで必要な血液とはいえ、あんなに渇きを覚えたことなんて、一度もない。

「突然どうしたんだよ?」
「帝督、君」
「やっぱり、急だったか?」
「えっ?」

垣根が、不安げな顔をしていた。
それでエリスは気づいた。呆けた自分の態度が、垣根には拒否として伝わったらしいと。

「違う、違うの。ごめん。ちょっと、動転しちゃって」
「う、ごめんな。こういうの慣れてなくて」
「帝督君は悪くないよ。私のほうが、謝らなきゃ」

せめて、垣根に嫌な思いをさせないようにと笑顔を繕った。
それに安心してのことだろうか、垣根もまた笑顔を返してくれた。
それだけで、ほっとする。垣根に笑いかけてもらえるだけで、自分の微笑みが本物になった。

「嫌じゃないんだったら、止めないからな」
「うん。その、お願いします」
「お、おう」
868 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 22:27:22.48 ID:mTqV+RSio

再び、仕切りなおし。
垣根がエリスの肩を抱いて、ぐっと引き寄せた。
もう一度、エリスは垣根の唇を、至近距離で見つめた。



――――ああ、なんて美味しそうな唇。めくって齧ったら、どんな味がするのかな。



「っっっ!!!!」

どんっ、と、垣根は思い切りエリスに、突き飛ばされた。
まるで無防備に、強かに腰を地面にぶつける羽目になった。

「エリ、ス……?」
「ごめん……ごめんなさい。帝督君。ごめん、私どうしてこんな、なんで……っ!」

もうさっぱり、垣根には訳が分からなかった。
ただエリスにはっきりと拒まれた事実だけが、垣根を真っ暗にさせる。
だけど同時に、エリスの様子がおかしいことも分かるのだ。
なんだか突き飛ばした側のエリスのほうが、何かを信じられないような愕然とした顔をして、
心臓の辺りをギリギリと爪を立てながら鷲づかみにしている。

「ごめんなさい、帝督君。どうしよう、私」
「エリス。嫌なんだったら、きちんと言ってくれ」
「違う! 私そんなこと思ってない!」
「じゃあ、なんなんだ。今の」

垣根はしまったと、自戒した。突き飛ばされたことにショックを感じているのは事実。
だけど、それをいらだちに変えてエリスにぶつけてはいけないのに。
エリスが怯えた目で垣根を見つめた。

「帝督君……次に、次に会うときはまた普通に戻ってるから。
 私のせいなの。帝督君は全然悪くないから。だから、ごめんなさい。
 嫌な思い、させちゃったよね。ごめん。それじゃ!」
「あ、エリス!」

エリスは、浴衣の合わせが崩れるのもお構い無しで、駆け足でその場所を後にした。
それ以上、聞きたくなかったのだ。自分の中から聞こえてくる声を。
おぞましいことを言う、自分自身の声を。

「なんで、なんで……っ!」

とめどなく涙が溢れて、視界が一定しない。
好きな人とキスをしようとしただけなのに。当たり前の行為のはずなのに。
どうして、私は恋焦がれたヒトに、食欲を覚えるのか――
気色が悪い。自分という生物のありように吐き気がする。
そして、どうしようもない事実に、死にたくなる。
絶対に嫌われた。あんな拒み方をして、まだ好いて貰おうなんて虫が良すぎる。

「あはは……私、人間じゃないんだ」

かつんかつんと下駄がせわしない音を立てる。
たぶん当てもなく自分が向かっている先は、駅とは反対方向なのだろう。まるで人がいない。
自分が人の世に蔓延る悪鬼の一種だと、そう思い知らせるような静寂だった。

「化け物は化け物らしく、なのかな。こんなところ、来なければ良かった」

催眠術で周りの人を騙して作った、自分のためのゆりかご。
そこでずっと暮らしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。
なんで、私はこんなことになったんだろう。

また、椿の匂いを、嗅いだ気がした。きっと錯覚だ。
ぼてぼてと真っ赤な花弁を開かせ、甘い匂いを撒き散らす、品の無い花。
ほんの少し、それがエリスの五感を撫でただけで、
エリスは垣根のことも忘れてその匂いを反芻することだけに集中してしまう。
自分という存在が突然に汚らわしく思えて、エリスは時々えづきながら、街を彷徨った。
教会に戻るのに、信じられないくらいの時間がかかった。

――垣根は教会に、訪ねてこなかった。
869 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 22:28:08.94 ID:mTqV+RSio

「ごちそうさま」

独り、姫神秋沙(ひめがみあいさ)は神社の境内でたこ焼きを完食した。こういう味も、悪くない。
真っ白な襦袢にソースをつけないよう気を使いながら袋にたこ焼きの入っていたトレイを仕舞う。
ポーチに入れたウェットティッシュで手を拭って、耳に挟んでいた長い黒髪をストレートに垂らした。

「……もう。帰ろうかな」

夏祭り会場にいながら、姫神は一人だった。
友人がいないわけではないが、誰かとここに来た訳ではない。
目的を考えれば、巻き込むわけには行かないのだから当然だった。

姫神が人通りの多い夏祭りに足を向けた理由は、ひとつ。
人ならざる、ある存在を呼び込むため。
一般に吸血鬼と呼ばれるそれを、姫神は探しているのだった。
……いや、正確には、姫神自身は釣り餌でしかない。
姫神の体を循環する、物質的にはなんてことも無いはずの血液。
だかそれは『吸血殺し(ディープ・ブラッド)』という名のついた、
吸血鬼のための最強最悪の毒物なのだった。匂いは、たまらなく良いらしい。
もちろん姫神本人は人間だから、匂いまでは良く分からなかったが。

今日もまた、何も収穫の無い一日だった。
いるかどうかも分からないのが吸血鬼だ。だから、仕方ない。
いつか出会えるまで、自分はこれを続けるだけだ。
姫神はごみ捨て場にごみを捨てて、帰路についた。

870 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/16(土) 22:31:56.06 ID:mTqV+RSio
『ep.3_Deep Blood 01: 第五架空元素』終わりっと。
次回からはまた体晶編に戻ります。

>>859
そんなに長かったかなw

>>861
ごめんエリス爆死しちゃった。

>>864
せっかく吸血殺しがでるんだから、そりゃ吸血鬼出すよねっていう話ですよ。
姫神とは何かと縁があるなw

>>866
そう思ってもらえると嬉しいなぁ。ていとくんは確かにメイン級かも。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/16(土) 22:46:53.15 ID:mN2BmvESO
エリスが爆発しちゃう……
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/16(土) 22:52:36.76 ID:qHWpPTj90
サイドストーリーが充実してるなぁ
佐天さんや垣根を主人公にしたスピンオフも書けそう
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/04/16(土) 23:50:11.31 ID:m0oDDbjAO
この話が上条さん、佐天さん、ていとくんの3主人公に見えてしょうがない
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/16(土) 23:58:48.06 ID:nLsZvTExo
相変わらず糞うまいなあ。
禁書2次創作でうまいと思ったのは2,3人いるけど、この作者もその1人だなあ。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/04/17(日) 00:12:11.78 ID:mv52UngW0
時間軸的にポルターガイストとヘタ錬って同時進行か?
てっきりテレスティーナは上条さんがそげぶすることになるもんだと思ってたが
マジでどうなるんだこれ>>1の手腕に期待
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/17(日) 06:39:48.38 ID:PBtDRFDSo
たしか「吸血殺し編」とTVの「超電磁砲」のエンディングが同じ日(8/9)だったかな?
上条さん視点では「吸血殺し編」は実質一日で解決しているように見えたから、婚后とは話が並行しても違和感はない。
が、個人的には婚后が上条さんと共に魔術サイドにからむ話が見たい。
877 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/18(月) 01:30:06.58 ID:AhOUnfzOo
更新しなくてごめんよん。今日は就職したサークル友達と飲んでた。
関東電力と経済産業省に就職した別の友達の話で盛り上がったのはご時世だなぁ。
それと次はもうちょっと遅れるかもしれない。
このまま体晶編をほぼアニメどおりにトレースする予定だったんだけど、
もっと面白い展開を思いついて、プロット書き直そうと思ったので。

>>872-873
原作も15巻とかスピンオフみたいなもんだしな。
ああいう風に主人公が変わるザッピングシステムのSSにはなりそうな感じ。

>>874
ありがとう。いや、ほんと褒められるとやる気になるわ。

>>875-876
時系列を数日弄るだけで話ががらっと変えられるから、いま色々と調整中。
面白くなるように頑張るよ。うん。
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 02:58:37.54 ID:wnW46Di/0
垣根…

姫神さんさ自重しようぜ まじで 本当に怒るよ?
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 03:53:02.04 ID:Ws5u406DO
>>878
姫神は悪くない、悪くないんや

もっと面白い展開だって!?期待してます!
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/18(月) 04:01:07.66 ID:wnW46Di/0
いや>>879

それは分かっている けど姫神は許せん だがそれ以上にエリスに俺は怒っているのだ

せっかく垣根といちゃラブになれたのに… エリスは殺さないでよ1 けっこう気に入ってるから
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 04:39:42.09 ID:wKDPksq+o
>>1が思うように書きにくくなるような身勝手な要望や展開予想は自重しようぜ

>>874
あとのふたりをこっそり教えてくれ
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/04/18(月) 12:27:44.52 ID:LK5gZSqw0
姫神は、次に吸血鬼を殺しそうになったら、その前に自分が死ぬ決意をしてる
エリスの事情知ってたら、別の方法考えるだろ

エリスだって悪くない。吸血殺しのこと知らないし、他の吸血鬼と会ったこと無いなら、
吸血鬼の本能だけでおかしくなったと考えても仕方ない
10年以上他人と深く関わらないように生きてきたから、動揺しながら相手を信じるのも難しい
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/18(月) 18:36:07.66 ID:/54Yl+zHo
>>881
とある星座の偽善使い
中の人は女の人かな?むぎのんの心理描写が素晴らしいと思うのです。

御坂「名前を呼んで
美琴の視点で進む物語が切なくていいと思うのです。

他にもいいと思った二次創作はあるけど、上の2つとnubewoさんのは別格かなあ。
あんまりスレチになってもいかんので、ここまでで。
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/18(月) 21:23:21.35 ID:wKDPksq+o
>>883
おおありがとう
投下を待ちながら、じっくり読ませてもらうよ
885 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/19(火) 02:02:00.95 ID:PlJ7xhpZo
>>878
エリスに肩入れしてくれる人がいるのは嬉しいなあ。半オリキャラだし。
ただまあ、どういう風になるかはストーリーの流れで決まってくるので、必ずしも要望には応えられない。
……とはいえ、原作でもそうそうメイン張るキャラは死んでないでしょ?

>>882
いい考察してるねえ。姫神の決意、忘れてた。

>>883
へー。時間が出来たら読んでみるべ。

ちょっとプロット練るのに時間かかってます。すまん。
妹達編まで見通し立ててからじゃないとこの先が書けないので大変だ。
ホント、八月はスケジュールがタイトすぎる。
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/19(火) 10:32:18.31 ID:K73xx4Auo
「――――――ゴーレム」
「ご名答。ていとくん」
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/04/19(火) 15:26:22.58 ID:547v8ajI0
おいww
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/19(火) 19:27:48.95 ID:tMmgOUfx0
>>886
シェリー「エリスちゃんマジ最高傑作」
889 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/21(木) 01:24:14.30 ID:sy1bF40qo
ふいー。ようやくプロットが固まってきた。けど今日は時間切れなんで明日書く。
ちょっと週末に実家に帰省するので、今週末も書き進まないような気がする。ごめんにょ。
せっかくamazonでとある魔術の禁書目録ノ全テを買ったので、今日はこれ読もうっと。
これについてる地図が便利すぎる。

>>886-888
吹いたw ていうか、吸血鬼ってことに気づく前はみんなこんな感じだったのかな?w
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 01:38:26.86 ID:jyxfKw1V0
もしゴーレムならエリスちゃんきえてるだろうがぁあああああああああ
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/21(木) 09:06:55.13 ID:8FgtY8qEo
>>890
シェリーさん、おちけつww
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 10:07:47.05 ID:E0URvKHn0
乙。エリスかわいいよエリス、シェリーとの再会はあるのか?
でもちょっと気になる点が。原作に

 >>ただ一つ、部屋の中央に置かれた小さな少年の像以外には。
  等身大の大理石像の台座には、Ellisと刻まれている。
 >>「自分の身を守るための人形を作ってから、そいつの名前を決めようって段になった時、
  真っ先に浮かんだのがあいつの名前だった。未練がましいのは分かってんだけどさ」

みたいな記述があったので、俺エリスってずっとシェリー初恋の男の子だと思い込んでたけど、
考えてみりゃ女性の名前だよなー。術式の都合で少年像なのか、それともやっぱ男の子なのか
性別明記されてたっけ?だれかコミックスのシェリー回想シーンとか覚えてる人いたら教えれ
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/04/21(木) 17:49:55.95 ID:veE2T0z60
男女で少年/少女と区別するのが一般的だけど、本来「少年」って言葉は男女問わず年若い者を指す言葉だから、そっちの解釈をすれば女性で問題ないと思う
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/21(木) 18:17:11.93 ID:OYhCTd2Mo
男の娘ってことだろ
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/22(金) 04:17:03.74 ID:n7IRDzUT0
エリスの脳内では男になってたんだよォ
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/23(土) 13:58:21.03 ID:N/BTA81a0
漫画版を見る限りだと男の子っぽいよな
ロリシェリーかわいい
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/04/23(土) 14:46:20.37 ID:pQMbtgSgo
まあ、二次創作だし性別なんぞ作者の好きにすりゃええ
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/23(土) 16:09:59.35 ID:bkFIIitAO
エリスはそげぶしたら消えちゃうの?
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/23(土) 17:07:55.87 ID:rBhjKDfHo
心臓取り出して触ったらアウトじゃね?
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/23(土) 17:13:32.29 ID:8+BjtyFy0
上条さんがずっと触った状態で頭でも殴りゃ蘇生できなくて死んじゃうんじゃないかな
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 01:10:35.64 ID:BmOy/YSg0
吸血鬼に性別などない
アーカードの旦那だって少女になるしな
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/24(日) 02:08:42.58 ID:LiH3zS1Z0
むしろ心臓取り出して生きてる生物ってなんだよ
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/04/24(日) 21:24:08.36 ID:ohDfdZ9AO
>>902浦飯幽助
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/24(日) 21:35:44.80 ID:LMwEbyg1o
>>902
ダーク・シュナイダー
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/04/25(月) 00:32:47.98 ID:MBR2SZBf0
もはや別作品やないですか
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/25(月) 00:44:44.87 ID:2oGX4sfc0
>>902 キル・バーン

女性名のエリスはElisだな
禁書原作だとEllisだから姓の方で、つまり性別不明
漫画版だと少年っぽい雰囲気だったけど、明確には描かれてないと思う
友達を姓で呼ぶのも変な気がするけどどうなんだろ。かまちーも混同してたのかも

まあElis Ellisで女の子にしちゃってもいんじゃね
ちなみにErisだと「不和と争いの神」らしい。なんか暗示っぽいな
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/04/25(月) 18:43:59.67 ID:bxJpbehV0
>>902
DIO

原作だと親友だとしか描写されてないんだから、別にいいじゃない!
吸血鬼の灰から再生された時点でそういう「生前」の細かい設定は意味をなくすと思うんだ!
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 10:42:52.74 ID:rnDE3lpX0
今充電中かな?
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/26(火) 11:29:49.48 ID:8HLZLJDDO
吸血中じゃない?
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/26(火) 13:41:39.28 ID:LvA8kvLFo
充血中だろうな
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/04/26(火) 20:20:58.52 ID:GAEXnJc30
流血中ではありませんように

ついに漫画版に出たな婚后さん。もうすごいキレイ
あとエカテリーナちゃんカワイイ
912 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/04/27(水) 00:03:06.27 ID:3jozAFOto
地味に>>910が正解かも
ちょっと新学期で書かなきゃいけない書類が多すぎてPC見たくない。。。目が乾いて。
ホントなんなのこの数。そりゃ書くと書かないで俺と研究室に入るお金がすっごい変わるから書きますけど。
200万円ってそこそこ大金だよね。みなさんの税金おいしいです(^q^)

にしてもエリスが苗字で性別は男らしいってのはうっかりしてたなぁ。
調べるときにも気にはなってたのよ。エリスって姓名としてのほうが通りがいいってのは感触として思ってた。
まあ、もうこのSSじゃエリスは女って方向で頼む。すまん。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/04/27(水) 00:23:45.78 ID:espiqhD+o
>>912
生存報告乙っす!
私の血税を吸って…。
貴方はそれができるの…(Zガンダム的な意味で)

エリス…。
男の娘…。
いや、なんでもない。

なんでもないんやー!
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/27(水) 01:47:52.48 ID:9EET/h4Bo
乙ー
パッと検索すると「Ellis」が男性名で「Ellise」が女性名なんて話もあったり
それはそうと超電磁砲の漫画に光子さんと心理掌握の名前が出たで
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 09:03:58.07 ID:t+abN46K0
まだ??
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/04/29(金) 16:55:42.22 ID:C/Gmi+ZIo
>>912で忙しいって言ってるんだからもう少し待ってようぜ
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/04/29(金) 22:44:31.39 ID:2i2qzfvR0
>>914
心理掌握の名字って食蜂だったよな?
918 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/06(金) 10:53:58.97 ID:wgOfjF+go
GW中は帰省してたから書く環境がなかったのさー。
今日は学生実験のアシスタントがあるから仕方なく帰ってきたけども。
つーか学部生もこんな日に実験とかかわいそうに。講義ならサボれるけどなぁ。

>>914
姓も男性名も女性名もあるとなるともうようわからんね。つづりだって絶対的なものじゃないだろうし。

>>917
ついに出てきたんやね。食蜂でしょくほうさんですか。

じゃあ1レスだけ上げていくわ。
919 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/06(金) 10:55:36.57 ID:wgOfjF+go

「うん、春上さんはあれから何もないみたいだし、佐天さん、あなたももう包帯は外して大丈夫ね」
「やたっ!」

夏祭りの日、ポルターガイストに巻き込まれてから数日が経っていた。
災害現場のすぐ傍にいた先進状況救助隊の隊長、テレスティーナが病院に連れて行ってくれて、
春上の介抱と、能力を使って右手を痛めた佐天の治療をしてくれたのだった。
春上はその日のうちに目を覚まして寮に戻れたし、佐天も幸い、軽いヒビで済んだ。
飲み薬を飲んで、佐天の右手もほとんど完治していた。
そして今日で、ちょっと遠くて面倒だった通院も終わりになる。
目の前で優しくニッコリと笑うテレスティーナに微笑を返して、佐天はぐぐっと右手を握った。
もう鈍痛もない。まあ、右手に渦を握りしめるのはまだ止めておいたほうがいいらしいけれど。

「よかったですね、佐天さん。これで無事にピクニックにいけますね」
「お弁当、たのしみなの」
「期待しててくださいね。気合入れて作りましたから!」

朝食からまだ一時間やそこらなのにもう昼食に思いをはせる春上に、初春が元気よく返事をしていた。
佐天はこっそり苦笑した。
今日、初春が作っていた海苔巻きは、以前佐天が初春に作ってやったものと同じレシピなのだ。
まあ、そのレシピは佐天も母親に教わったものだし、母親もきっと本で見たか、誰かに聞いたものだろう。
そう思えば誰にレシピを教わったかで優劣のつくものではないか。
佐天は調味料に間違いがないといいなと思いつつ、待合室のソファから腰を上げた。

「初春、春上さん、それじゃあいこっか。テレスティーナさん、どうもお世話になりました」
「といっても私が診たわけじゃないし、通りすがりだけれどね」

くすっと苦笑いをしながら眼鏡を直して、テレスティーナは小脇に挟んだファイルを軽く揺らした。

「それじゃ、私も仕事があるからもう行くわね。学生さん達は良いわね、夏休みが長くて」
「それが学生の特権ですから」
「ありがとうございました、なの」
「失礼します」

初春も今日は風紀委員の腕章を外して、涼しげな私服姿だ。当然、春上も佐天もだ。
とはいえピクニックにいこうと言いながらスカートを履くのはどうだろうと思いつつ、
三人は電車の駅へと向かうため、病院の出口をくぐった。




三人であれこれと話をしながら電車を乗り継いで、第二一学区の自然公園にたどりつく。
前日のうちから計画を立てて朝早くに家を出たおかげで、昼ごはんまでにひと遊びできそうな時刻だった。

「さあ着きました! 春上さん! 何しましょうか」
「えっと……」
「初春、アンタ気合入り過ぎだって」
「そうは言いますけど佐天さん! あと遊べる時間はもう5時間くらいしか無いんですよ!」
「充分だと思うけど……」

春上と一緒にいる初春は、ずっとこうだった。
春上は転校したてで右も左も分からない状況だし、そもそも性格のせいか抜けたところがあるというか、
ぽややんとした状態がデフォルトなので、初春がやたらとお姉さんぶって甲斐甲斐しく世話をするのだった。

「あれ」
「え?」
「あれに乗ってみたいかも、なの」

すっと春上が無表情に指を差した。
無表情というのは知らない人から見たらそう見えるという話で、実際にはいつもより楽しそうな感情が浮かんでいる。
指の先を初春と一緒に見つめると、公園の真ん中にある大きな池の対岸に、貸しボート屋が店を構えていた。

「ボートかぁ、いいね」
「三人ならお金も問題なさそうですね」
「じゃあ決まりっ!」

善は急げといわんばかりに、池の外周を歩いて貸しボート屋に行き、荷物を預けてボートを借りに行った。
中学生にしてみればここまでの交通費とボート代をあわせるとそこそこ手痛い出費なのだが、
春上の気晴らしにと企画したのだ、パーッと使ってやろうと佐天はむんずと財布から千円札を取り出した。

「おおっ、佐天さん奢ってくれるんですか?」
「えっ? いいの?」
「ちょ、ちょっとちょっと。いくらなんでもそれは酷いでしょ。
 あたしだって夏休みの軍資金はまだまだおいときたいんだから」

ボートは極普通の形で、アヒルさんのデザインなんてしていない。
なので、一時間でお札が一枚もあれば足りるのだった。
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/05/06(金) 11:44:10.45 ID:fjMbnD/Qo
お帰り〜〜
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/06(金) 23:19:38.63 ID:D0FtZvNj0
待ってたぞ
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/06(金) 23:51:13.71 ID:jCVusP3Ao
そして待ってるぞ
923 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 01:35:48.46 ID:LaaoBOXqo

「それじゃ一時間後にここにボートを持ってきてね」
「わかりました」
「よーしいこっか!」

初春たちのいるこの公園は別段大きいところでもない。
サクサクと借りる手続きを済ませ、佐天はオールをかついでボートの縁に足をかけた。

「ほら、ボート支えてるから乗った乗った」
「ありがとうなの」
「すみません佐天さん」

スカート組を先に乗せて、初春にオールを渡す。たぶん初春が漕ぎ役を買って出ると思ったからだ。
膝より下まである長めのスカートを履いた春上はどうということもなかったのだが、
なんでそうしたのか、初春は膝上までの黄色いスカートなので、大股でボートに飛び移ると下着が良く見えた。

「初春ーぅ。そのパンツはじめて見たよ。スカートとあわせたの?」
「さ、佐天さん! あっちでおじさんが聞いてるじゃないですか……!」

貸しボート屋の主人がはっはっはと笑いながら手を振った。よくある役得なのかもしれない。
もう、と呟きながら初春はぎゅっとスカートの裾を膝まで伸ばした。
その仕草を笑いながら、ぐっとボートを佐天は蹴り押した。

「え?! さ、佐天さん?」
「いってらっしゃーい、なんてね」
「初春さん。も、戻らないと」

春上も佐天が陸に残されたのに気づいて、慌てて初春に指示を出す。
しかし抵抗に乏しい水の上のこと、すぐにボートは陸から二メートルくらい離れた。
佐天の渾身の一押しだった。

「大丈夫だって。私もすぐに追いつくから」
「え?」

まさかもう一台ボートを借りる気なのか、と初春がいぶかしんだところで。
佐天が足元を気にした。見えない何かを踏むように。
……いや、見えないと思ったのは一瞬だ。土ぼこりを吸って、あっという間に渦が可視化された。
ぶよんぶよん、と佐天が踏みつけるたびに弾性変形する。
何をやろうとしているのか、咄嗟に初春には分からなかった。春上も首を傾げるだけだった。
二人は、ついこないだ佐天が行ったそれを目撃していなかったから。

「んじゃ、いっくよー」

湖に来た時点で、佐天はやりたくてうずうずしていたのだ。
東洋の神秘、忍者の秘術。水面歩行。
水流操作系の能力なら簡単だろう。体重と同じ力を水面下からかければいい。
空力使いも、風で自重を支えれば擬似的に水面歩行は出来る。
他にも佐天の師である光子は足底に空気の膜を作り、
水との界面張力をコントロールすることで、かなり苦手ではあるが最も正当な水面歩行が可能だそうだ。
佐天はそういうのと比べると、一番スマートさに欠ける。
――水面近傍で渦を踏みつけ爆発させて、それで垂直方向の運動量を稼ぐ。
水面上で静止することの叶わない、ダイナミックな方法だった。

「ほっぷ、すてっぷ、じゃんぷ、っと」

渦を三つ、70センチの間隔で。
湖面にさざなみを立てつつ生じた渦に目掛けて、佐天は足を踏み下ろした。
渦の下が硬い地面では無いから、その分反発で得られる力は小さいはずだ。
うっかり飛びすぎるのはいい。だが出力不足で池に落ちることだけは避けなければならない。
ぐぐっと踏むと同時にコントロールをストップ。それで、渦の持っていたエネルギーが佐天の足に伝わった。
……勿論、水面にも。

「え? わわっ、さ、佐天さん!」
「冷たいの……」

ばしゃん、ばしゃん、ばしゃん! と盛大に音が鳴る。
水溜りを容赦なく踏んだときの水跳ねをもっと酷くしたような感じだった。
佐天の移動のほうは問題なくて、無事ボートに着地した。
そして予想通り、滅茶苦茶に揺れた。

「お、落ちちゃう……」
「春上さん、掴まって!」
「って初春に掴まっても一緒に落ちるよ?」
「この揺れの張本人がのんきに言わないで下さい!」

この揺れなら大丈夫だ。佐天の運動量を奪って、ボートはさらに沖のほうへと進みだした。
それにあわせて、そっと佐天もボートに腰掛ける。
場所は春上の後ろ。ぴょこんとはえたアンテナみたいな一房の髪を眺めつつ、
正面の初春のパンツが拝める場所だった。
924 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 01:36:53.58 ID:LaaoBOXqo
もう1レスくらい書こうと思ってたのに、台所に現れたGと格闘したせいで無理やった。。。
あーもう、憂鬱だ。。。。。。出てくるなよな。。。排水溝の掃除せな。。。。。。。。。。。。
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/08(日) 02:11:37.06 ID:12o1EYzTo
乙!
どうでもいいけど、佐天さんが「ホップ、ステップ、ジャンプ」っつったら、アミュレットハートしか思いつかない件w
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/08(日) 03:50:14.10 ID:rK8+VBvV0
来た!ついに来た!乙!!
Gの出る排水溝ならパイプユニッシュ系がオススメです。早いし確実

ところで、下に何があっても「渦」を踏むんなら力は一緒なような気がした
確か渦の中心軸から上下に風が吹き出してるんだよね
地面効果とかいうやつの類・・・ではないよな。渦は物体じゃないし
インパクトの瞬間に軸から出る風を上方向に限定する為の補助の役割なのかな
まだここの佐天さんの能力がちゃんと理解できてないな俺・・・
この後の展開に関わってくるだろうし悔しい
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/08(日) 07:20:31.26 ID:jsemrQ3Ro

佐天さんは重度な初春のパンツ中毒ダナ
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/08(日) 08:07:38.80 ID:8KdB/bL0o
更新乙ですた
きた、干支忍来たこれ!
しっかし能力を楽しそうに使うね、佐天さんは。
そしておにゃのこがキャッキャウフフするのはとてもほほえましいものだ。
百合的な意味じゃなく、ね。
そこいらへんのさじ加減が実に好みどすえ。

んで、パンチラの機会を逃さない佐天さんマジおっさんww

次回も楽しみにしてますよー

後、Gには食器用洗剤がマジお奨め。
数秒で死ぬから命中さえすればマジ直死。
片付けも畳以外だったら楽だしね。
929 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 11:46:24.11 ID:LaaoBOXqo

「さて、んさんっ、代わって下さいよ」
「えーやだ。汗かいたら春上さんとくっつけなくなるし」
「あはは……でもちょっと暑いかも」

後ろから春上は佐天に抱きしめられていた。湖上で涼しいとはいえ真夏の昼前だ。暑くないわけがない。
それを初春ははーはーと大きく肩を上下させながら恨めしげに見つめていた。
疲れて足がガクガクするたびにパンツが見えると佐天に指摘されるので、
ただでさえ辛いボート漕ぎが何倍も大変だった。

「ほらっ、はるうえさん、も、嫌がってるじゃないですか」
「えっ? 春上さん、もしかして嫌だった?」
「え? そんなことはないけど……。佐天さん、優しいし」
「ほーら初春。春上さんは嫌じゃないって」
「もう、だめですよ、春上さん。佐天さんが付け上がり、ます」

もうこれ以上は腕が動かない、といった風情の初春を見て、さすがに佐天も悪いと思ったらしい。

「もう、それじゃあ代わってあげよう」
「お願いします。それじゃオール――」
「いらないよん。佐天さんは自分の力で泳ぐのだッ」

春上を抱きしめた手を離して、二人に背を向ける。そしてサンダルを脱いでちゃぷんと足を池に浸す。
そして背中を春上に預け、手でしっかりとボートを押さえた。

「じゃあ、行きます!」

数日前に咄嗟に足元に渦を作ってから、佐天は渦の発生場所を手に限定しなくなった。
四肢の先端、つまり手に加えて足でも問題なく発動できるようになったのだ。
さらに言えばそういった「指し示すもの」を一切使わなくても目の前に渦は作れる。
手はあくまでも補助の一つだったということを、佐天は理解していた。
残念ながら、遠く離れたところには渦を作れないが。

両足元に、渦を作る。
そしてその空気塊を水に浸けて、すぐ解放する。
水のはねるじゃばっという音と泡の発生するぼわっという音が混じったような音がした。

「ひゃっ? ま、またですか?」
「でも冷たくないの」
「そりゃそうよ、さっきと違って水しぶきは全部後ろに流れてるからね」
「……それはいいんですけど、ほとんど動いてませんよ」

振り返るとジト目の初春と目が合った。
うーんと今の行いを反省する。足に伝わった運動量は、渦の持っていたそれの二割程度。
ロスがあまりに大きかった。人間三人分の質量を動かす運動量なのだから、
もっと効率を上げるか渦の出力を上げるしかない。

「んー、この方式イマイチだね。これで足の骨にヒビ入れたら絶対怒られるし」
930 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 11:50:53.95 ID:LaaoBOXqo

渦の暴発という瞬間的な現象で運動量をまかなおうとすると、
瞬間的に佐天の足に大きな応力がかかる。
渦の出力が佐天の体の破壊に繋がるレベルに達していること、
それがこの間初春を助けるときに怪我を負った原因でもあった。
――やっぱり、連続的に仕事をする渦じゃないと駄目だよね。

「気液の二相混合流とかコントロールできるのかな……」
「え、佐天さん?」
「ああうん、ごめん、ちょっとコッチの話」

少しだけ、佐天は友達二人を忘れて自分の能力に没頭した。
佐天の作る渦は基本的に球形だ。
それは自然界によくある円筒状の渦とは大きく形が異なる。
だが円筒型のものも、別に作るのに苦労があるわけではない。

「円筒の渦を作ったら、あれなら色々吸い上げられるよね」

アメリカに発生する竜巻など、車や家畜ですら吸い上げるのだ。
ああいうイメージで、空気で作った渦の中に水を引き込めば、
渦が水を吸い、吐き出すときの反作用で船が動かせるだろう。

「よっと」

足、というか骨が一番頑丈なかかとの先を基点に、竜巻を作る。
そしてそれをほんの一部だけ、水に触れさせる。
空気の吸引口に水が混じりこむように。

「おっ、おっ、おっ」
「あのー、佐天さん?」
「ごめん初春いいところだから!」
「もう」

初春は自分の世界に入り込んだ佐天にため息をついた。
能力が急激に伸びていて嬉しそうな佐天を見るのは嫌ではないが、
今日は春上の気晴らしにとここへ来たのだ。
春上と目が合ったので謝意を目線で伝えると、気にしていないという風に笑って首を振った。

「佐天さん。すごいね」
「ありがとー。んくっ、コントロールが難しい」
「あれでレベル2って嘘ですよね」
「うん、私もレベル2だけど、あんなにすごいことできないの」
「実用レベルってレベル3からですもんね、普通」
「柵川中学にはレベル3の人っていないんだよね?」
「はい。だからたぶん、佐天さんはうちで一番だと思います」
「すごいの」

後ろの会話をほとんど聞き流しながら、かかった、と佐天は感じた。
エンジンが始動から定常回転を始めるように、渦が水を噛む時の状態が、上手く安定した。
そして緩やかに、ボートが動き出す。

「あ、動いたの」
「ホントだ。佐天さん、上手くいったんですか?」
「うん。なんとか」

初春は再び春上と苦笑を交わす。
コントロールに必死なのか、佐天が会話に乗ってこなかった。

「さてそれじゃあ佐天さんが運転手をしてくれてる間、私達はこの空気を堪能しましょうか」
「はいなの」

うーんと初春は伸びをしながらそう宣言した……のだが。
後に佐天が方向転換は出来ないと知って対岸にぶつかりしたりしそうになって結局大変なのだった。
931 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 12:00:19.60 ID:LaaoBOXqo
>>925
しゅごキャラってやつ? 全然わからんwかな恵ちゃんつながりか。
伊藤かな恵はかわええなあ。前向女学院は毎週聞いてるわ。研究しながら。

>>926
佐天さんの渦は球形で、そのまま暴発させると全方向に等しく広がります。
これを足と地面の間で暴発させると、暴発によって解放された多量の空気が、
足と地面の隙間から広がるわけ。で、そのときにエネルギーの一部を足と地面を押すのに使うわけさ。
ここで地面が水面だった場合、水面は変形によって空気の逃げやすさを助長するので、
渦のエネルギーが散逸しやすく、足に伝わる分のエネルギーが減っちゃうだろう、という理屈です。

ダイナマイトで建物を破壊するとき、地面に直接おかずにコンクリにわざわざ穴をあけて
そこに突っ込むのと理屈は同じかな。エネルギーが散逸しないようにって。

>>927
親友がパンツはいてるのかって大切だからね!

>>928
うん、洗剤で逝ってもらいました。あれが一番確かだね。はぁ……

932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/08(日) 12:54:04.28 ID:QS/IPQKy0
更新乙、そしてありがとう。

待ってた、待ってたよ。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/08(日) 13:33:28.58 ID:enri6Eyqo
乙ですた!
おおう、今度はモーターギア?
武装錬金を思い出しましたよ。
しかしぐんぐん伸びる佐天さんマジ筍!

こういった日常があると、転校という選択を選ぶことの重みがマシマシですなあ。

次回も楽しみにしてますよー
934 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 13:49:14.49 ID:LaaoBOXqo

「ふいー、漕いだ漕いだ。もうお腹ぺっこぺこだよ」
「全部食べちゃ駄目ですからね」
「はいはい。っていうかそれは春上さんに言ったほうがいいんじゃないかな?」
「え?」

春上がきょとんとした顔で佐天を見た。3人の中で飛びぬけて大食漢であることにまるで自覚がなかった。
貸しボートを満喫して、今はもう早めの昼食時だ。早起きした三人にとってはもう待ちきれない時間だった。
さっそく初春の持ってきたボックスを開ける。

「おー」
「すごいの」

夏だからと酢を利かせた酢飯で巻いた海苔巻き。
定番の厚焼きやらキュウリやらで巻いたそれは、ちゃんとしたすし屋のには見劣りしても、
そこいらにあるスーパーの出来合いの一品となら勝負になる出来上がりだった。

「朝から頑張りましたから。さ、それじゃ食べましょう」
「いただきますなの」
「ほら待った、春上さん手拭きなよ」
「ありがとう」

ウェットティッシュを春上と初春に渡して、自分も手を拭く。
そして6本も作られた海苔巻きの一つに丸のままかぶりついた。
佐天好み、というか佐天が母から教えてもらったあの味がする。

「んー、んまい」
「おいひいの」

両手で縦笛みたいに持った海苔巻きを春上がもっきゅもっきゅと食べていく。
失礼を承知で言うと、ちょっと食べ方が汚いというか、豪快なのだった。
ほっぺたにご飯粒がぽつりぽつりと付いている。

「もう、春上さん。ほっぺにご飯粒付いてますよ」
「うん」
「やっぱりこういうところで食べる海苔巻きはいいですね」
「うん。ピクニックって感じがするよね。夏のうちにまたやってもいいなぁ」
「じゃあまた計画しましょう。秋の紅葉とかも良いですし、二一学区は冬には雪が降るらしいですし、
 せっかく中学に上がったんですからこういうとこに旅行するのもいいですよね」
「うん……」

初春はこの先の計画に思いをはせて、ぐっとこぶしを握った。
しかし、それに対して佐天が淡く返した微笑が気になった。

「佐天さん?」
「いやさ、二学期から、どうしようかなって」
「あ……」

そのことを思い出して、初春は表情を翳らせた。

「初春さん、佐天さんって、2学期に何かあるの?」
「えっと……」
「転校、しようかなって思ってるんだ」
「転校?」
「うん」

自慢するように、手のひらに渦を集める。そしてそれを池に投げ入れると、ばしゃんっ、と水音を立てた。
佐天の表情は、あまり誇らしげでなかった。
そしてどうしようか、ではなくて、転校しようかと佐天が言ったことに、初春は気づいた。

「あたしのレベル、これだったら3に行くんじゃないかなあ」
「そう思うの。だってこれ、レベル2の威力じゃないの」
「システムスキャン、受けたらあがるかも知れませんよ?」
「うん。多分上がると思う」
「じゃあ」

どうして受けないのかと言おうとして、なんとなく初春は理解した。
柵川中学にレベル3の学生はいない。レベル0と1、そしてたまに2。それが柵川のランクなのだ。
レベル3の認定をもし受けてしまったら、まず間違いなく柵川にはいられない。
だからきっと、佐天は先送りにしているのだ。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 13:55:18.23 ID:TV/1XzN4P
一通さんみたいに背中に竜巻くっつけて空飛ぶ日も近いな
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/08(日) 14:16:24.86 ID:aKRtLHXTo
>>935
人間竹とんぼ状態の佐天さんを想像したww
937 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 14:21:49.01 ID:LaaoBOXqo
>>935-936
できそうな気がするw

続き書こうと思ったら教え子のお母さんから竹の子を
頂いたので今から茹でてくる。
夜は竹の子ご飯かなー。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/05/08(日) 14:36:57.28 ID:jxYeG5ki0
待ってたよ!

竹の子は喉が痛くなるから食べらんないだよな……
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/05/08(日) 20:31:06.64 ID:U4a0jdfAO
混合気流ときいてダイの大冒険の黒子ダイルの技思い出した
940 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 23:26:27.21 ID:LaaoBOXqo

「……佐天さん、近いうち、システムスキャン受けましょう」
「え?」
「もっと能力を伸ばしたいって思ってるなら、ぜったいそうするべきです!
 それで出来るだけいい学校に行って、お小遣いで私と春上さんにパフェご馳走してください」
「パフェ? ……あは、もう、初春。いま結構シリアスな話だったよ?」
「私は大真面目です」
「うん。そっか」
「佐天さん。転校したって、私と友達でいてくれますか?」
「え? ……それは、私が言うことだよ」
「質問に答えてください。私は、ずっと佐天さんのこと友達だって思ってますから」
「ありがと、初春。私だって、初春のことずっと友達だって思ってるから」
「じゃ、今までどおりですね」
「そだね。うん、それじゃあ転校前に春上さんともっと仲良くなっとかないとね」

二人で春上を見つめると、にっこりと笑い返してくれた。
そして、どこか羨ましそうな響きを込めて、ぽつんとこぼした。

「佐天さんと初春さん、仲良いね」
「え? うーん、それはどうかなぁ」
「佐天さんなんか今さっきといってること違いませんか……」

いつの間にか完食した海苔巻きの容れ物から残ったご飯粒を摘み上げて、初春が佐天を見つめた。
そんな様子が、ますますやっぱり仲良さげに見える。春上は胸から下げたペンダントに軽く触れた。

「私にもね、すっごく仲のいい友達がいたの」
「え?」

過去形のその言葉に、佐天と初春は返事をし損ねた。
その二人の様子に構わず、春上は言葉を続けていく。

「私とその子、どっちも置き去り(チャイルドエラー)で、施設で育ったの。
 ある日その子はどこかに引き取られて、離れ離れになったの。
 最後の日に、また会おうねって行ってくれたから、それをずっと待ってたの」
「春上さん……」

佐天自身も、そして友人にも、置き去りという境遇の人間はこれまでいなかった。
そのせいで、どんな言葉を返すべきなのか佐天はわからなかった。
春上は決して自分の境遇を悲観しているようには見えない。
その表情を曇らせているのは、友達と離れたこと、それだった。

「そのお友達、今は」
「分からないの。しばらくしたら、連絡も来なくなっちゃったから」

憂いを帯びた声で、春上が首を振る。
佐天はかけるべき声を見失って、しかし初春は春上と距離をとらなかった。

「探しましょう」
「え?」
「私、こう見えて情報収集とか検索とか、そういうのは得意なんです。だから」
「ありがとう」
941 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/08(日) 23:39:52.40 ID:LaaoBOXqo

初春の声に、春上が声を重ねた。眩しそうに初春を見上げて、笑う。

「初春さんと佐天さんには、たくさん勇気を貰ったの。待ってるだけじゃ、だめだよね」
「みんなで探せば、きっとすぐ見つかりますよ。そのお友達も」
「何か手がかりとか、ある?」

自身もあまり積極的なほうとはいえなかった初春の気持ちの強さを嬉しく思うと同時に、
自分もちゃんとしなきゃと省みつつ、佐天も春上に声をかけた。
だが、気楽にしたはずの質問が、春上の表情を暗くさせた。

「声がね、時々聞こえるの」
「声?」
「うん。私、精神感応者(テレパシスト)なんだけど、その子の声が時々聞こえるの」
「それなら、その子と話をすれば」
「私、受信しかできないし、それにあの子、何か変なの」
「変?」
「うん。なんだか、苦しそうで」
「春上さん、こないだの夏祭りの夜のって」
「うん、たぶんそう。あの子の声を聞いたらいつも私、何も他のことが分からないくらい、混乱しちゃって」

佐天は初春と顔を見合わせた。
あの日、鮮明に残っている記憶は二つ。不意にふらふらと歩き出した春上と、そして地震。
結びつけるなというほうが、無理があった。

「もしかして、それってポルターガイストと――」
「ちょ、ちょっと佐天さん。いくらなんでもそんな、飛躍しすぎですよ」
「けど、春上さん。春上さんがその友達の声を聞く日って、地震とか――」

どうしてそんな悲しいことをきくのか、と初春は佐天に問いたかった。
春上に、すぐ否定して欲しいと顔を向ける。
佐天も佐天で、この新しい友達が厄介ごとに無縁でいてくれるなら、それに越したことは無い。

「……春上さん?」

返事が、なかった。
あまりに唐突な、会話のやり取りの拒否。
意図しての無視とも違う、本当にいきなり佐天と初春が眼中に入らなくなったような、そんな自然な無視だった。
目線がやけに奇妙だった。佐天とも初春とも違う、何も無い方向に向いていながら、焦点はすぐその辺りにあわせられている。
――――まるで、すぐ傍にいる誰かを探すように。

「どこ? どこから呼んでるの?」
「春上さん……もしかして」

冗談が過ぎるようなかみ合わせ。
今まさに春上の口から聞いたその状態に、春上はなっていた。
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/09(月) 01:48:21.00 ID:+eKuWyOY0
乙!
>>931
なるほど、そういうことでしたか
能力で作った渦を装薬にして人間砲弾になってたんだね。
風の球は常に定位置に浮翌遊してて、体重が乗った瞬間に出力を上げるだけだとばかり・・・
「踏む」って書かれると「ああ、踏むんだ」としか考えられない俺の貧困な想像力ェ
943 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/09(月) 22:56:31.14 ID:H4eElp24o

「春上さん! しっかりしてください、春上さん!」
「何をそんなに苦しんでいるの? ねえ、どこ?」
「ちょっと、春上さん。初春どうしよう」

風紀委員として怪我の応急処置や心臓発作などの対処は習っている。
だが、突然夢遊病にでもかかったような場合なんて、聴いたことも無い。
初春は呼びかけるほかに出来ることを知らなくて、ひたすら声をかけた。

「春上さん! こっち向いてください!」

だが佐天は、それを一瞬躊躇した。
友達と能力で交信していること自体には、何の問題もないのだ。
この呼びかけで二人が会えるなら、それは悪いことではない。

「お願い、何を言ってるのか、分からないよ」

どうしよう、止めるべきか、止めるとしてどうやって止められるか。
そんなことを逡巡していると、不意に、意識にノイズが走ったような違和感を覚えた。
なんとなく、自分の能力が自分から遊離していくような。
渦を出す意思なくしては発動しないはずの渦が、なぜかそこに現出してしまうような。

「――あ」

まずい、と佐天は思った。
池のほとり、草の刈り取られた広場に、佐天は渦を見出してしまった。
ちょうど、お昼時で地表が強く熱されて上昇気流が起こり、冷たい湖面の風が流れていく場所。
軽く舞った砂埃が、ゆらりと弧を描いた。

同時にシャラシャラと木々が葉をこすり合わせ始めた。
湖面はさざなみを打ち、そして突如、ドンと深く低い音と共に、公園全体が揺れだした。
人が危険を感じるレベルの揺れをもつ、地震だった。

「そんな! 地震?! 春上さん! とりあえず開けたところに――」
「待って! 駄目、初春」
「佐天さん?!」

慌てて佐天は初春を引き止める。春上は相変わらず、茫然自失のままだ。
佐天は焦りを隠せない初春の向こう、広場を指差した。
そこには空へと向けて立ち上る、砂埃の柱。

「竜巻!? こんな時になんでっ」

竜巻、つまり空気の渦は自然界にも存在するものだ。
佐天が作ってしまったのは、小さな渦だけ。
だがそれは、種さえ与えてやれば、周りのエネルギー、すなわち気圧差や温度差を喰らって自然に成長する。
日本で生じる竜巻など規模は高が知れている。数十秒もあれば、消えうせるだろう。
だが、地震の最中に広場を占有するそれは、間違いなく人を危険に晒しかねない危険物だった。

逃げ場を探して辺りを見回す。
宙に浮いたボート、不自然に回転するブランコ、木々の間を縫って現れる断層。
そらへと逃げ惑う鳥達の羽音が耳障りだった。

「とにかく! 木の隣は危ないからあっち行こう!」

少しでも安全なところへと、二人は春上の手を引いて必死に動いた。
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 23:46:12.66 ID:1APhEaEIO
3日かけてやっと追いついたぜ>>1おつ
ていとくんとエリスの告白のシーンで号泣しちまった
945 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/11(水) 02:10:37.98 ID:3/2f0Flbo
>>944
三日かかるようになったかw
それだけ没入してくれる人がいると書いて良かったなあと思う。ありがとな。
最近更新ペースがアレだけど、頑張るよ。
946 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 01:32:05.81 ID:JpYrljZQo

低く、うめくようにざわめく待合室。佐天はそこに一人座っていた。

「夕方からまた通院なんて、ついて無いわね」

見上げると、そこにテレスティーナがいた。朝一番に、声をかけてくれた相手だった。
再び会った理由はこれまた単純だ。
数日前に佐天が怪我をしたのがポルターガイスト事件で、今回も同じ。
そして救助の先鋒を担うのがテレスティーナ率いる先進状況救助隊、そういうことだ。

「あまり気にしないことよ。あなたはポルターガイストに巻き込まれただけ。
 あなたを加害者にカウントするなら、あそこにいた学生の全員が容疑者で、
 そのうち何割かは実行犯。そんなこと、考えるだけ馬鹿らしいでしょ」
「……」

実際、ここにいる怪我人の大半は地震による転倒や落下物による傷害ばかりだ。
佐天が種を作った竜巻はたぶん、きっと、誰かを怪我させたことはないと思う。
だけど。
佐天は、あの阿鼻叫喚の図を描いた側の一人だった。

「ショックで能力のコントロールを失う学生って結構いるのよ。
 もし自分の能力に不安があるなら、いつでもいらっしゃい。ここの医者が相談に乗るわ」
「はい。……すみません」
「お大事にね。貴女のお友達も、もう面会できるはずよ」

超能力を使えるようになって、佐天は初めてその孤独を感じていた。
自分を取り巻く世界をどう観測するか、それが人と異なる人間を超能力者という。
佐天の持つ「自分だけの現実」は、文字通り他人には理解されないものだ。
そしてそれが歪んでしまった今、それをどう直せばいいのか、正しい答えを知る人はいない。
目の前がまた、ゆらりとなる。それが佐天には怖い。
能力を使おうと思っていないのに、いつの間にか渦を作ってしまいそうで。
それで誰かを、傷つけそうで。

「初春……」

診察室から出ると初春はいなかった。
外傷もなく意識もはっきりした佐天より、春上の元に向かうのは変なことではない。
自分も行こうかと、腰を上げたところで、病院に入ってきた美琴と白井、そしてもう一人の教職員に気がついた。
街で見かけたこともある、たしか警備員の先生だっただろう。

「佐天さん! 大丈夫だった?」
「お怪我は大丈夫でしたの?」

顔を見るなり、美琴と白井が駆け寄って、佐天を心配してくれた。
慰めてくれる人がいると、やっぱりほっとした。

「はい。私は怪我とかなんにもなしですから。初春もちょっとの擦り傷だけです」
「春上さんは」
「……あの、またこないだみたいに」

それだけで二人は察したのだろう。その意味を考えるように、沈黙した。

「その春上って子には面会できるのか?」
「え? はい。もうできるみたいです」
「そうか、じゃああたしも話し聞かせてもらうじゃんよ。
 ああ、自己紹介もまだだな。あたしは警備員の黄泉川だ。ポルターガイストの件のとりまとめをやってる」

ざっとそれだけ説明すると、黄泉川は春上の病室へと、先陣を切って歩き出した。
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/12(木) 02:51:52.50 ID:xs1vwN+ao
あれ、転校取りやめになっちゃう展開?
それともここから乗り越えてさらにな展開かな
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/05/12(木) 02:57:22.86 ID:UA/Y5V3i0
乙!
けどあれ、この時点だと佐天さんって特別講習で黄泉川先生と既に会ってるのでは?
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/12(木) 09:08:08.92 ID:4Xz/pmy8o
>>948
黄泉川の方が覚えてないんじゃね
950 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 10:27:11.40 ID:JpYrljZQo

「ん……」
「あ、春上さんっ!」
「初春、さん?」

日の長い夏の太陽が真っ赤に染めた、春上の病室。
検査中も覚醒しなかった春上がようやく意識を取り戻してくれたことに、初春はほっとした。
こないだの花火大会のときにも、こんなに長く意識を失っていることはなかった。

「大丈夫ですか? どこか痛い所とか、無いですか?」
「え? うん、別になんともないの。それより私、どうしてたんだろ」
「また地震があったんですよ。それで春上さん、気を失っちゃって」

その説明は、正確ではなかった。
春上がおかしくなったのは、ポルターガイストが起こるより数秒は前だった。
だから地震は、春上の意識の混濁とは別の話だろう。

「そうなの。私、また――――あっ、ない!」

また、呼ばれて意識を失ったのかと続けようとして、春上は習慣となった仕草、胸元のペンダントを確かめようとした。
そしてそこが寂しいことに気づく。

「大丈夫、検査の前に私が預かってただけですから」
「あ……」

それで春上はほっとした。初春が手のひらにジャラリと出してくれたそれを、両手で受け取る。
付けようかと思ったところで、コンコンとくっきりとしたノック音が響いた。

「はいなの」
「失礼します――って春上さん。目が覚めたんだ」
「あ、佐天さん。それに白井さんと御坂さんも。あと――」
「悪いな。あたしは事情聴取に来た警備員だ。元気そうなら話が聞きたくてね」
「私も失礼するわね。一応、所長さんだし」

愛想のない黄泉川と、病院を気遣うスマイルなのか、柔らかい笑みのテレスティーナが後から入ってきた。

「春上さん、あなたが意識を失っている間にやった検査の結果なんだけれど、
 健康に害がありそうな病気などは見当たらないわ。急に意識を失ったその原因さえハッキリすれば、
 別に退院してもらっても構わないんだけれど」
「テレスティーナさん、それじゃここで質問をしても構わないのか?」
「はい。あまり負担をかけない範囲でお願いします」
「わかってるじゃんよ」

話をするために、黄泉川はカラカラと椅子を引っ張ってきて、春上の隣に置いた。
友人の一人、初春が警戒するように春上と黄泉川の間に収まっていた。
それに苦笑する。
951 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 10:27:50.05 ID:JpYrljZQo

「春上さん、今日、意識を失ったのは何でだったか、覚えてるじゃんよ?」
「えっと……覚えてないけど。たぶん、また呼ばれたからなの」
「呼ばれた?」
「うん。……昔の、お友達に」
「もうちょっと詳しく教えて欲しいじゃん」

意識を失った後に、この話を医者にしたことならある。だけど、警備員に話したことはなかった。
警備員に目をつけられるのは学生にとっては面倒ごとでしかない。春上は不安げに髪を揺らした。
それでも、聞かれたことには答えていく。
自分がチャイルドエラーであること。施設時代に親友がいたこと。
その子が引き取られてからほとんど交信していないこと。
ひと通り話すと、納得したように黄泉川が頷き、初春が小言をもらした。

「どうしてそんなこと聞くんですか?」
「白井に聞いたんだよ。春上さんが、地震発生より前に不安定になったってな」
「白井さん?! なんで!」
「な、なんでって。……私おかしいことをしたとは思っていませんわ」

白井が春上を黄泉川に売った、と言わんばかりの表情だった。ただ白井にだって言い分はある。
このポルターガイスト現象はRSPK症候群の同時多発によるものだ。
つまり、何らかの理由で能力者が同時に複数人暴走するのである。
偶然ではありえず、それならば原因、あるいは基点となっている人間を探すというのが筋だろう。
事件の犯人というものに悪意があるとは限らない。それに犯人でなくとも、
ポルターガイスト発生より先んじて自失する春上に、何の注目もしないことのほうが不自然だ。

「今回だって、怪我人を70人も出してるじゃんよ。このまま放置ってわけには行かない。
 手がかりが欲しいところなんだ。友達に疑惑がかかるのは気持ちのいいことじゃないかもしれないが、
 これ以上被害を出さないためだと思って、わかって欲しいじゃんよ」

初春は納得いかないという目で黄泉川を見つめ返し、後ろで春上が気にしていないという風に黄泉川に首を振った。

「にしても、春上さんの友達って、どこに行ったんだろうね」

話を変えるように、美琴が春上の傍で呟いた。
初春が黄泉川に食って掛かっても止められるようにと傍にいたのだが、杞憂に終わってほっとした。
思い出を反芻するように、春上が笑った。

「置き去りの子たちは施設から出ると、中々連絡が取れなくなっちゃうの。だから仕方ないかなって。
 でも元気にやってると良いなあって、思うの」

病院の個室で、黄泉川は思わず煙草を探してしまった。胸糞の悪くなるような話だった。
……なぜ施設を出た置き去りの子供の足取りをたどるのが難しいのか、黄泉川は知っていた。
テレスティーナと目が合う。煙草を探したことを悟られたのだろう。目で謝ると、ニッコリと微笑まれた。
そしてそんな大人たちの仕草に気づかず、春上はペンダントに触れて、友達の写真を美琴と初春に見せた。

「枝先絆理(えださきばんり)ちゃんって言うの」
「この子……!」
「え?」

驚く美琴に、周囲が不思議そうな表情をした。あわてて取り繕う。

「な、なんでもないって。ちょっと知り合いに似てただけ」

そんなことはなかった。
いつか見た、木山春生の記憶。
彼女の教え子であり、人体実験の被験者にされ、今も目を覚まさない子たち。
春上が胸に下げたペンダントに映るその顔は、紛れもなくその子達の一人だった。
952 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 10:29:30.98 ID:JpYrljZQo
>>947
さあどうでしょう。まあすぐ答えは書く予定。

>>948でやべしまった、と思ったが>>949が上手い解釈を考えてくれたので採用する。
953 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 11:05:40.97 ID:JpYrljZQo

負担になるからと、短い時間で面会は終わらせた。
初春、佐天、白井、美琴、そして黄泉川とテレスティーナ。
帳が落ちて電灯の光が明るく照らす廊下を歩きながら、美琴はさっき見たものを報告する。

「つまり、春上が茫然自失となるきっかけはその親友の枝先からのテレパシーだと」
「そして、その枝先さんって子は、幻想御手(レベルアッパー)事件の主犯、
 木山春生の人体実験によって植物状態へと陥っている」

黄泉川とテレスティーナは、考え込むようにうつむく。

「いやあの、関係があるとは限りませんけど……」
「まあ、な。春上が枝先からテレパシーを受信することとRSPK症候群を同時多発させること、
 この二つの相関が全く取れてないからな」
「そうですね。ただ……木山の携わったその『暴走能力の法則解析用誘爆実験』というのが気になりますね。
 名前で全ては分かりませんが、その実験結果を手にしている木山は、
 能力者を暴走させるための条件を知っているのかもしれませんね」
「……」

大脳生理学の新進気鋭の研究者にして、AIM拡散力場のコントロールによる複数能力者の演算能力を纏め上げるという、
倫理的な面に目をつぶれば革新的としか言いようの無い成果を出している木山だ。
ポルターガイストを起こさせることは、彼女の才能なら可能だろうとは、黄泉川も思っていた。

「木山はあの子たちを救う為になら、なんでもするって」

木山のやったことではないが、美琴は自分の体細胞クローンを作られかけた被害者だ。
学園都市は、それが利益になるなら平気で人倫の道を踏み外す連中の集まりだと肌で理解していた。
木山の行動には美琴でも納得できるだけの理由がある。未だ死者を出さないポルターガイスト現象。
きっとこれくらいなら、木山は許容範囲内だと思っていることだろう。

「……面会時間は終わりだな。明日でも様子を見に行くか」

黄泉川が独り言をもらす。

「初春。なるべく春上の傍にいてやれ。あたしらが疑うのをお前は善しとしていないが、
 どっちに転んでも風紀委員が傍にいることはマイナスにはならない」
「言われなくてもやります」

詰まらなさそうに、黄泉川から露骨に目線を外して初春は返事をする。
その態度に気を悪くした様子も見せず、黄泉川は続ける。

「あたしは『風紀委員』のお前に言ってるんだ。警備員もそうだがな、身内だからってのは理由にならない。
 犯人が分からない今、手がかりを探すのは当然のことだ。友達想いで風紀委員の本分から外れるようなら、
 今だけでもその腕章は外しておけ」
「大丈夫です。言われなくても、やりますから」
「そうか」

ハラハラと見守る周囲をよそに、初春は態度を買えず、黄泉川も怒りを見せずにやり取りを終わらせた。
黄泉川は時計を見ながら、この後のことを考える。家に帰るのはまだ先になりそうだ。
新しい同居人のインデックスのおかげでまちがいなく上条が食事を用意してくれているので、
最近残業が楽になった黄泉川なのだった。

「婚后の顔だけ見て帰るか。テレスティーナさん、春上は、今日は?」
「今日というか当分、こちらで経過を見てみたらどうかと思っています」
「なぜ?」

短く、黄泉川は聞き返した。二人の視線が交錯する。
テレスティーナの瞳は戸惑いに揺れた。誰の目にも、そう見えた。

「私の学位論文のテーマが近いこともあって、この病院はAIM拡散力場の測定装置が充実しています。
 ここなら春上さんのことを細かく調べられますし、それにここは普通の病院と違って人が少ないですから。
 仮に春上さんを中心に被害があったとしても、ここなら怪我人を少なく出来ますから」
「……そうか、わかった。協力に感謝します、テレスティーナさん」
「ええ、早急に原因を突き止めましょう」

真摯な目で、テレスティーナが黄泉川を見つめ返した。
954 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 12:00:46.44 ID:JpYrljZQo

「さて、それじゃあ婚后さん、またね」
「ええ。御坂さんも、それに皆さんもお元気で。お手数をかけてすみません、黄泉川先生」
「いいじゃんよ」

春上の病室から出た後、テレスティーナを除いたメンバーで光子の病室を訪ねた。
暇を持て余していたのがありありと分かる態度だった。いつもより饒舌な光子に白井が辟易していた。
ここから帰宅するとそれなりの時間になるため皆で帰ろうとする中、佐天は一人、ここに残ったのだった。

「元気ありませんわね、佐天さん」
「……ちょっと」

それは春上の病室にいたときと、立場が逆になったせいだった。
負担をかけまいと、さっきは平静を保っていた。
だけど。

「ちょっと婚后さんに、相談に乗って欲しくて」
「あら。なんですの?」

病室に押しかけて病人にすがるというのはおかしな話だが、
それでも光子の優しい微笑みに、ほっと佐天は息をついた。

「あの、婚后さんもたしかポルターガイストで、ここにいるんですよね」
「ええそうですわ。本当、私を巻き込んでこんなことをするなんて、
 どなたか存じ上げませんけれどいい迷惑ですわ。
 せっかくまたエカテリーナちゃんのお世話を出来ると思ったのにまた人に頼む始末ですし」

想像を絶するサイズのニシキヘビを飼う光子だ。エサやり代理はどんな気持ちなのだろう。

「怖く、ないですか?」
「えっ?」
「……私も今日、巻き込まれて。それで、今までちゃんと見えてたはずのものが、急に歪んで見えて」
「そう。佐天さんも被害にあわれたのね」
「はい……」

光子はベッドから体を起こして、シーツから出た。そして佐天にベッドに座るよう促した。

「えっと、失礼します」
「ええどうぞ。能力は勝手に暴走しますの?」
「え? いえ、そんなことはないですよ。でも」
「時々見えてるはずの世界が歪む?」
「はい。なんていうか、渦を作る気が無いのに、空気がゆらってなるんです」
「そうですの。……あまり気になさらないことですわ」
「え?」
「そういう不調って、起こす人は起こすものですわよ。事件とは関係なく」
「そうなんですか?」
「ええ。自転車に乗っていてこけるのと、何か違いまして?」

その比喩の意図を、佐天は探る。
出来なかったことが出来るようになるという意味で、自転車に乗ることと超能力を使うことは似ている。
それは何度か光子が比喩として説明したことだった。
そして、補助輪を外した後、小さい頃に自転車にこけた後というのは、乗るのが少し怖いものだった。
またこけてしまうのではないかと思うから。まあ、予想に反し慣れればそうこけるものではないのだが。
むしろ包丁の扱いのほうが佐天にはしっくり来た。手を切ったって調理を止めるわけにはいかないし、
また手を切りそうだと不安に思う反面、そうそうそんなことは起こらない。

「心配しなくても、使ってみれば案外大丈夫ってことですか?」
「ええ。だって私、今強がっているように見えて?」
「いえ、別に」
「でしょう? お恥ずかしい話ですけれど、コントロール失敗をきっかけに不調になったことなんて、
 何度もありますもの。今更一度の暴走でくよくよなんてしていられませんわ」
「え? 何度もあるんですか?」
「よ、四回くらいですわ」

正直に言うと年に一回くらいのペースだった。
特に人より早熟で初潮がきた時など、自分の体の激変によって能力がまるで使えなくなって、
能力者としての自分は終わったなどと本気で悲観したものだ。

「どうやって、復活したんですか?」
「どうもこうも、落ち着いた頃に能力を使ってみればまた普通に使えますわよ。
 思いつめたほうが後々酷くなりますから、気にしないことですわ」
「はあ……」
「不安ならここで、荒療治してしまいましょうか」
「え、ええっ?」

随分と、光子は師としての振る舞いに慣れ始めていた。
佐天がどういう弟子かも分かってきていたし、たぶん、すぐに治せるだろう。
ベッドに乗り上げて、佐天を後ろから抱きしめる。
955 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 12:02:56.92 ID:JpYrljZQo

「ちょ、ちょっと婚后さん! その、シャワーとか浴びてませんし」
「……そんな色っぽいことはしませんわよ?」
「い、色っぽいって、そそそんな別に、私は」

当麻のせいで耐性が出来たのか、ついそんな冗談を飛ばしてしまった。
まあなんにせよ、汗の匂いが気になることは無かった。そのまま髪を撫でる。

「ほら、まずは落ち着いてもらいませんと」
「はあ。そう言われても……」

そう言いながら、光子に撫でられるのは気持ちが良かった。
お姉さんって良いなと、やっぱり思う。
髪の手入れの話や、ファッションの話、そんな他愛も無いことで時間を使うと、
意外なほどに佐天の立っていた気が治まった。
疲れで眠かったのも、あるかもしれない。

「さて、それじゃあ渦を作ってみましょうか」
「えっ」
「ほら、指を突き出して」

佐天の右手を握って、光子は手を広げさせた。
そして佐天の目の高さへと持っていく。
手のひらに上にはまだ、渦は無い。

「発動させなくてよろしいから、手の上に渦を思い描いて御覧なさい。
 一つ一つ手順を私に説明しながら」
「はい。えっと……
 手のひらの上の空気を、粒に見立てます」
「そうね、それが佐天さんの原点ね。どんな粒なの?」
「球体です。スケールはマイクロオーダー。……今思うとこの粗視化粒子、分子よりはるかに大きいですよね」
「百万倍くらいの違いですわね。粒、見えました?」
「はい」
「どんなのか説明して頂戴」
「えっと、特定の方向は持ってなくて、普通にブラウン運動しています」
「ブラウン運動って言ってしまうと完全にコロイドですわね」
「ですね。でもこうやって見立てておくと埃とかのエアロゾルが混じっても把握が楽で良いですよ」
「成る程、確かにそうですわね。さて、それじゃあ渦を回す前に、どうやって回すのかを説明して頂戴」

光子は抱きしめて囁きながら、よし、と心の中で呟いた。
不安で集中を失っていた佐天が、目の前の一つの渦に、ちゃんと集中している。

「粒の一つ一つに、ある一点へと向けて収束する力と、ばらばらに乱れる力を持たせると、自然と巻きます」
「そう。今把握している領域を渦にしたら、どれ位の規模になりますの?」
「中心圧力が2気圧、サイズは直径8センチくらいです」
「わかりました。では作って頂戴」
「はい」

佐天はほんの少しだけ失敗の恐怖に冷たい汗をかきつつ、粒に意志を通していく。
結果は、なんてことはなかった。尻込みしていたのが無駄だったといわんばかりに、極普通に渦が巻いた。

「あ、できた……」
「でしょう?」

渦が予告どおりの規模であるのを見届けて、光子はさっと抱擁を解いた。
分かればたいしたことはないのだった。
そして褒めて欲しそうな佐天の顔を見て、髪をまた撫でてやった。

「失敗なんてこんなものですわ。落ち着いて、自分の原点にちゃんと立ち戻れば、それで回復します。
 だって佐天さんにはレベル0からここまで、ちゃんと歩いてきた道がありますもの」
「ありがとうございます! あは」

佐天はもう一度、渦を巻いてみた。なんともない。なんだ、心配して損した。
持つべきものは先達だと、佐天は思った。
自分の苦労をまるで自分しかしたことの無いもののように捉えていたけれど、そんなはずはない。
同じ悩みを抱え、克服した人は必ずいるのだった。

「ほら、そろそろ完全下校時刻までに帰れなくなりますわよ?」
「あ、ほんとだ。あのっ、なんかドタバタですみません。婚后さん、ありがとうございました!」
「佐天さんの元気な顔が見られて何よりですわ。それじゃあ、また」
「はい!」

さっきまでよりずっと足取り軽く帰路につけることを嬉しく想いながら、佐天は病室を後にした。
当麻に電話をするのは何時にしようかと思案しながら、光子は佐天に手を振った。
956 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 12:07:22.56 ID:JpYrljZQo
ふー、やっぱり原作トレースの部分は書きにくい。オリジナル部はサクサクだ。
長くなったので、ここまでを
『ep.2_PSI-Crystal 03: 水遊び、湖畔の公園にて』
『ep.2_PSI-Crystal 04: 暴走する能力』
の二つにしたいと思います。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 15:05:53.33 ID:Kqk1bZtIO
おつおつんつん。この師弟はほんといいなぁ。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/12(木) 15:20:01.12 ID:BkH6I4xAO
みっちゃんマジ良い子
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/12(木) 16:23:21.65 ID:bOnLUVnIO
佐藤教授こんなとこでなにやってんすか??

乙おつ。
960 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/12(木) 23:19:41.05 ID:JpYrljZQo
>>959
佐藤教授?
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/05/13(金) 00:22:41.09 ID:HSJQlzUAO
あれ、美琴ってこの時点ではシスターズの存在には気づいてなくね?
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/13(金) 02:25:54.93 ID:WzZbj9dw0
妹達量産計画1stシーズンが中止になったまで読んだんじゃなかったか?
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/05/13(金) 08:28:36.60 ID:HSJQlzUAO
アニメ超電磁砲の最終回が8月9日、シスターズの存在を知るのがその翌日の10日、だったはず
964 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/13(金) 08:57:37.20 ID:eqg8+G4Do
>>961
公式では>>963が正解、そしてこのSSでは>>962が正解。
>>512で美琴はレベル5の能力者の量産計画がかつて存在し、
そして失敗したことを知っています。
965 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/13(金) 10:38:37.40 ID:eqg8+G4Do

「ねえエリス。調子が悪いなら、ちゃんと言ってね」
「ありがとう」

顔色のすぐれないエリスに声をかけてくれるシスターに礼を言って、エリスはまた自室に戻った。
ここの人たちは皆、優しい。神父もシスターも、そして教会で暮らす子供たちも。
それはずっと、嬉しいことだった。当たり前だ。周りの人が自分のことを気遣ってくれていやなはずが無い。

「ふう……」

だけど。
あの日、垣根を拒んで夜遅くに帰ってきた時から、この優しい世界が白々しい世界に変わってしまった。
原因は彼らにあるわけではない。完全に自分のせいだ。

エリスねーちゃんあそばねーのー、という声に、ちょっとしんどいからと返事をして、ベッドにうずくまる。
ぐるぐると頭の中で巡るのは、垣根の顔。それも優しいのじゃなくて、怒った顔。
垣根をそんな風にさせたのは、自分が垣根を突き飛ばしたからだ。これもまた、悪いのは自分。
あの日、自分に口付けをしてくれようとした垣根を振り払って、浴衣を着崩しながらとぼとぼとここまで帰ってきた。
外出すらもほとんどしない引っ込み思案のエリスだ。
だからボーイフレンドと外出したというだけで、神父さまたちは驚き、喜んでくれた。
頑張っておいでと送り出してくれたその後でボロボロになって帰ってきたエリスを見て、酷く彼らも驚いていた。
垣根に弄ばれたのかと、誤解に任せて口走ったシスターもいた。
当たり前の如く、説明を求められた。
何もかもがそのときは煩わしくて、もう二度としないはずのことを、してしまったのだ。

学園都市のIDすら持たないエリスは、ここにいるために皆に暗示をかけていた。
エリスがここにいることを不自然に思わないように、と。
超能力者としてのエリスには、それが可能だった。
今にしても、自分で聡明な判断だったと思うが、エリスはその最低限の暗示以外、
自分の保護者達の精神を歪めることはしなかった。だから、気持ちよくここにはいられたのだ。
悪さをすれば叱られる。だからこそ、愛してもらえたときには素直に喜べる。
だというのに。
今、この教会と学舎に、エリスが垣根と出かけたことを思い出す人間は、一人もいない。
傷を抉るのは止めてくれと、エリスは超能力を持ってして、彼らに厳命してしまったから。
だから、彼らはいつもどおりにエリスに接してくれる。
顔色が優れなくても、エリスが大丈夫だといっている程度ならそう干渉してこない。
当たり前だ。普通にしててくれとエリスが強制したのだから。
けれど。彼らが普通であればあるほど、エリスだけには、現実が白々しいものに感じられるのだった。
966 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/13(金) 10:41:12.04 ID:eqg8+G4Do

あれから、もう何日経つだろう。普段も垣根は毎日は来ない。だからいつものペースだと言えばそれだけのことだ。
だけど、もう二度と来ないかもしれないと、そういう覚悟もすべきだろう。
自分が垣根にやったことは、おおよそ、彼氏に対して最も酷い対応だったと思うから。
嫌われて文句など言えるはずも無い。
それに、垣根が来るよりも、自分が謝りに行くほうが筋だ。
家の場所も学校の名前も聞いているのだから、その気になれば、エリスは会いにいけるはずなのだ。
それを、もしかしたら試されているのかもしれない。
そして、例えば一週間くらい待って、もし私が来なかったら。帝督君はもっと他の女の子と――
ジクジクと心が膿んでいくのが分かる。垣根が他の女に惹かれるなんて、絶対に嫌だった。
窓から外を眺めると、ようやく太陽が仕事を終えて地平の先に落ちようかという気配を見せたところだった。
まだまだ明るくて、グラウンドで年下の寮生たちがサッカーをしている。
普段なら自分だってあれに混じったりするのだが、今はそんな気になれなかった。
扉の向こうにふと気配を感じる。コンコンと、控えめなノックがされた。

「エリス、起きてる? 垣根君が来てくれて、エリスが調子悪いって言ったらお見舞いするって」
「えっ?!」

エリスはそれで、ベッドから跳ね起きた。
どうしよう。
会うべきか会わざるべきか。
優しい垣根の笑顔なら、見たい。問い詰められるなら、見たくない。
来てくれたということはまだ愛想を尽かされていないのだと思うけれど、
でもさよならを言うために来たのかも知れない。
会うことが、エリスにとって禍福のどちらをもたらすのか。
あるいはあざなえる縄の如く、どちらもなのか。

「エリス? せっかく来てくれたんだし顔だけでも出してあげなよ」
「う、うん……」

会うしか、なさそうだった。
起き上がって身だしなみを再確認する。別に、いつもどおりだった。
髪を本当はもう少し整えたいが、子供たちと遊んだ後ならこんなもんだろう。
ドアノブに手をかけて、一瞬逡巡した後、ぐいと押し開いた。

「悪い、エリス。中々来れなくて」
「えっ? そ、その、そんなことないよ」

すらりとした長身、年齢よりも大人びたファッションスタイル、髪を切ったのか前より整っている。
やっぱり、垣根は格好良いと思う。顔に惚れた訳でなくとも、格好良いからドキッとしてしまう。
その垣根が、まず、謝ってくれた。謝られることなんて何一つ無い。
だけど、そうやって心を開いてもらえたら、どんな悩みを伝えるのも、謝罪をするのも、
とても気が楽になるものだ。
エリスは涙が出そうになった。きっとたぶん、まだ、嫌われていないと思う。

「じゃ、ごゆっくり」

ニヤニヤとした顔で立ち去る寮の仲間のことなんてすっかり眼中にいれず、エリスは垣根だけを見た。

「狭いところだけど、その、入って」
「ああ、お邪魔するな」

二人っきりの密室で、垣根と向かい合ったのはこれが初めてだった。
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/05/13(金) 11:07:03.33 ID:HSJQlzUAO
>>964
そういえばそうでしたね
読んでからだいぶ時間がたってたんで忘れてました
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/13(金) 18:53:41.71 ID:B4S/WQ5W0

「能力をもってして」ではなく「超能力をもってして」・・・
もしかしてエリスは心理掌握なのか・・・?
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/05/13(金) 23:18:32.23 ID:UYau53kAO
>>968
能力的には俺もそうおもったけど、心理定規の方が、後々の展開的にはしっくりくるよな〜
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/14(土) 00:22:08.54 ID:VQrgGIJ6o
乙ですた!

なんという鬼引き・・・
ふられたていとくんがどう動くのか。
そして何より安定の光子さんかわいい!
百合じゃないキャッキャウフフでかわいいのがいい!
こんな師匠キャラでも、上条さんの前では乙女なんだぜかわいい!

こんなかわいい光子さん見たら、また一から読み返すしかないじゃない!

えーと、次回も楽しみにしてますよー。
971 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/17(火) 01:59:42.30 ID:X9dtfqr0o

エリスの部屋は洋風の質素な見た目だ。
ここは宗教施設に併設された学生寮だから清貧であれという思想が当然あるのだろうが、
しかし由緒などあるはずもないこの学生寮が、少なくとも見た目には木造らしいつくりなのは、
おそらく普通の学生寮より内装が高くついているだろう。
見た目の清貧さのためにお金がかかっている辺り、なんとも学園都市らしい。

「エリス」

いっそ垣根が部屋を隅から隅まで見尽くしてくれれば良かった。
それなら、冗談めかして怒ることも出来た。
だけど、垣根はエリスから真剣な目を一向に逸らさない。
呼びかけに、エリスは応えられなかった。何を答えてたらいいのか分からない。

「その、まずは謝らせてくれ。ごめん。あの後、本当は追いかけるべきだった」
「えっ?」
「エリスを一人になんて、させるべきじゃなかった。一人にしちまって、ごめん」

その謝罪が嬉しかった。嫌われてないことの証明だから。
その資格はないと分かっていながら、恨んでいないといえば嘘だった。
垣根に追ってきて欲しかったと、エリスは思っていた。

「いいよ、帝督君。だって帝督君は全然悪くないから」
「でもさ、エリスをきっと傷つけただろうとは、思うんだよ。
 悪い。やっぱ突き飛ばされるとまあ、足が竦むっつーかさ。
 ……笑ってくれ。俺はお前に嫌われるかもしれねえって考えると、
 結構チキン野郎になるらしい。喧嘩沙汰ならいくらでも強気になれるんだがな」
「おあいこだよ。私も、帝督君に嫌われたって思って、あれからずっとうじうじしてたから。
 だから、私もチキンだね。……ね、帝督君。座って話しよ」
「え?」

エリスの部屋には勉強机にあわせた椅子がある。
だがエリスがぽんぽんと叩いたのは、自分も座るベッドの上だった。
その場所に二人で腰を落ち着けることは、特別な意味を持っているようないないような。

「変なことしたら多分すぐに人が飛んできちゃうよ?」
「し、しねーって」

よく自分のことをチンピラみてーなヤツなんて評する垣根だが、今日は特にそんな感じだった。
それを好ましくエリスは思う。人間としての底が浅いんじゃなくて、天才なのに愛嬌があるのだ。
この街で天才だということは、決して幸せなことではないことをエリスは理解している。
エリスの超能力は、人ならざる身に変貌してなお、
直接人を視認することで相手の記憶や認識を少し歪めることが出来る程度だ。
ヒトであった頃にはそんなことすらも出来なかった。
それでいて、エリスは学園都市のエリートだった。だから、実験に投入された。
垣根提督という能力者を作り出すのに、一体学園都市はどれほどの高みまで堕ちて行ったのか。
きっと、まともな良心なんて育たなくて普通だろう。
だけど、垣根は冷血でも、淡白でもなかった。
普通の男の子と恋愛はしたことがないけれど、垣根に感じている追慕の情は、
きっと普通の女の子が抱えるものと同じだとエリスは思う。

「帝督君。ほら」
「お、おう」

恐る恐る、垣根が横に座った。軽く腕に触れると一瞬と惑った後、そっと腰に腕を回してくれた。

「嫌なら、言えよ」
「帝督君こそ。嫌だったらしなくていいからね」
「馬鹿。それならそもそも来ねーよ」
「うん……」
972 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/17(火) 02:00:32.66 ID:X9dtfqr0o

次に話すべきことを持っているのは自分だと、エリスは自覚があった。
なぜ、あの日垣根を突き飛ばしたのか。
なぜ、ぐしゃぐしゃの泣き顔を見せながら、逃げ帰ったのか。
それを説明しなければならない。
自分が嗅いだ、あの匂いのことを話さなければならない。
一度嗅いだら気にせずにはいられないなんて特徴は下水や腐った何かの匂いそのものの特徴で、
それでいながらエリスにとってはたまらないくらい芳しく、甘い匂い。
そしてきっと、化け物にしかわからない。ヒトには、それは気づけない。
脳裏であの匂いを反芻する。それは自発的な行為ではない、発作だった。
嗅覚が何かのシグナルを捉えたとき、少しでもあの匂いに通じる雰囲気があれば、
自分はすぐさま回想に入って、耽溺してしまうのだ。
それが食事のときでも、友人と話しているときでも、垣根と口付けをするときでも。
今、この瞬間だって――

「エリス?」
「えっ?! あ……」
「その、言いにくいことが有るのかもしれない。急かして悪い」
「ううん、違うの」

また、だった。気づかないうちに、そうやって自分は蝕まれているのだ。
怖かった。友達と楽しく遊んでいるその真っ最中に、何かのクスリの中毒者みたいに、
突然に立ち止まって全ての状況を忘れ去って、ぼうっとしてしまいそうで。

「私、おかしいんだ」
「え?」
「このところ、ずっとぼうっとしちゃって。
 ……原因は、原因の根本は分からないけど、夏祭りのときに、変な匂いを嗅いでから」
「匂い?」
「うん。甘い匂い。椿の匂いみたいなの」
「……俺の知ってる中に椿と似た匂いのドラッグはないな」
「そういういけないおクスリじゃないよ。だって帝督君には分からなかったもの。
 目の前に、帝督君の顔があったあの瞬間に」
「じゃあ、なんでエリスだけ反応したんだろうな」

エリスは、泣きそうになった。
吸血鬼なんだとバラしたときより、それは二人の距離を感じさせる。
ただの記号としての吸血鬼じゃなくて、今から自分の言うことは『人外』を強く意識させるから。

「椿の匂いみたいなのに、それはね、血の匂いなんだよ。
 きっとそれは、帝督君の感覚系じゃわからないんだ。
 AIM拡散力場を感じられない多くの人にとって、超能力の予兆が感じ取れないようにね」
「……」
「血の匂いなんて、鉄臭いだけだと思わない? 私はそう思えないんだ。
 血の味と匂いを嫌悪する気持ちはもう薄れちゃった。
 それでも普段は美味しいと思ったことなんてなかったはずなのに。
 ……あの匂いの持ち主は、なんだろうね。吸血鬼を蛾か何かみたいに、集める人」
973 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/17(火) 02:01:52.21 ID:X9dtfqr0o

シーツの端を、ぎゅっとエリスは握った。
また不安がぶり返してきた。だけど多分、それは垣根が隣にいてくれるからでもある。
慰めもなく、狭い部屋で鬱々としているうちに鈍磨していた感情が、
垣根に触れてまた鮮やかになったからだ。慰めて欲しいから、抱えた気持ちがこみ上げてくる。
エリスの期待に、垣根は間髪いれずに応えてくれた。
腰に回していた手が肩に回され、そしてもう一方の手もエリスを抱きしめてくれた。

「帝督君」
「これで、エリスがちょっとでも安心してくれると助かるんだけどな」
「もっとしてくれないと、駄目かも」
「そうか」
「ひゃっ?」

エリスの躊躇いがちの我侭を、垣根は見逃さなかった。
エリスの足の裏に腕を差し込んで、ぐいと持ち上げて自分の膝の上に下ろした。
ベッドに座った垣根の膝上にエリスが寄り添う形になった。

「えっ、えっ?」
「……なんだよ。嫌なら下ろすぞ」
「い、嫌じゃないよ」
「じゃあ、腕、回してくれよ」
「うん……はい」

膝上に乗ったエリスと、垣根の視点はそう変わらない。わずかにエリスのほうが高かった。
そして垣根の首に腕を回せば、二人の顔は自然と近くなる。

「あ、あの」
「エリス。そこまで打ち明けたんだ、俺にも協力させてくれよ」
「え?」
「問題があるなら、解決すればいい。オカルトやら超能力が絡んでいようと、問題解決の方法論は変わらない。
 ほらあれだ、苦楽を共にするのが寄り添う二人のあるべき姿、だろ?」
「……ふふ。帝督くん、ガラにもないこと言って背中が痒いですって感じ丸出しだよ」
「わ、悪いかよ」
「ううん。悪くない。帝督君、そういうとこ格好良いよ。帝督君、大好き」
「だ――――」
「大好き」
「お、おう」

気持ちをぶつけられるほうには免疫がないのか、垣根が恥ずかしげにそっぽを向いた。
可愛らしい反応だった。

「ねえ、帝督君。私を選んでお得なことなんて絶対にないよ」
「んなことは絶対にない。お前は佳い女だよ、エリス」
「これ以上迫られたら、私帝督君に頼っちゃうよ。頼りきりにはならなくても、頼りにしちゃうよ」
「望む所だって、言ってるだろ?」
「うん――」

もういいや、とエリスは思った。
こんなにも自分のことを求めてくれる人だから。
楽な道ではないし、終わりに悲劇があるのかもしれないけれど。
この人に、寄り添ってもらおう。この人と、歩いていこう。
重荷を背負わせることになるなら、同じだけの荷を背負ってあげよう。
それが叶わぬときのことは、後で考えよう。
エリスは垣根の髪の匂いを嗅いだ。垣根の匂いがした。
それは椿の匂いなんかじゃなくて、男性の、好きな人の匂いだった。

「エリス」

真剣な目で、垣根に見つめられた。
三度目の正直には、邪魔は入らなかった。
緊張した手つきでエリスの頬に垣根の手が添えられて。

「――――ん」

とてもとても幸せで、嬉しくなってしまうような、そんなファーストキスを。
垣根とエリスは、静かに交わした。
974 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/17(火) 02:05:25.24 ID:X9dtfqr0o
>>968-969
エリスは心理掌握や心理定規とは別人ですよ。
精神系の能力者って基本的にチートだし、
高度な心理戦で動きにかけるからかまちーが出さないだけで、
学園都市にはきっとありふれていると思う。
そういうどこにでもいる能力者の一人のつもりです。

>>970
佐天婚后ペアは安定してるからなー。
婚后さんもだいぶおねーさん役に慣れてきて、こういう母性を発揮する瞬間があってよいですね。
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/17(火) 10:09:12.67 ID:n4aviiiB0
乙です。

ていとくんの存在感ぱねぇっす。
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/05/17(火) 13:31:29.70 ID:rT4UW+Fv0
乙です。

暗部抗争編になったら垣根どうなるんだろ?
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/17(火) 18:53:43.81 ID:5BNgV/oQ0
婚后さんがおねーさま……。
これはもう佐天さんが常盤台に転校したらスールになっちゃえばいいんじゃないだろうか
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/17(火) 21:27:07.29 ID:V+5zPxDW0
「涙子、タイがまがっていてよ」
「光子様…///」
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/05/17(火) 22:00:18.91 ID:jT4NUJjAO
更新お疲れ様でした。但そろそろ満スレなんで次スレに誘導して欲しい‥‥‥
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/05/17(火) 23:20:12.93 ID:s4i/HqOn0
黒子病に感染して婚后さんに変態的行為を繰り返す常盤台佐天さんを想像してしまったじゃないか
981 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:42:36.69 ID:2DxUlUzRo
>>975-976
ていとくん主役になっちまったもんなあ。ほんとこの後どうなるんだろ。吸血殺し編のことしか考えてないや。

>>977-978 >>980
マリ見て大好きだ俺w
パンツチェック大好き佐天さんだからガチ百合になるのかなぁ

さて、次スレ立てましたんでご報告します。
【禁書】ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【本編再構成】 part2
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305653856/
こっちではもう書かないから皆さん移転してください。
982 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:44:55.54 ID:2DxUlUzRo
埋めるついでに、私nubewoがこれまでに執筆したSSを紹介させていただきます。

『Portraits of EMIYA -士郎のいる象景-』
【原作】Fate/stay night, Fate/hollow ataraxia
【状態】打ち切り
【ジャンル】大長編(の予定だった)・ロンドンもの(の予定だった)
【掲載場所】私立アール図書館
【あらすじ】
Unlimited Blade Works編のGood End(Sunny Day)直後の士郎を取り巻く日常・非日常を描いた作品。
構想としては伏線を張りつつロンドンものへと話を展開する予定だった。
【コメント】
処女作なのに大長編プロットを描いて序盤で頓挫するという絵に書いたような初心者の過ちをやったSS。
しかしプロット練りのために調べたことが今後のSSで役に立ったりと、決して無駄ばかりでもなかった。
読者の方には無駄な時間を割かせてしまったかもしれない。


『エンゲージを君と』
【原作】Fate/stay night, Fate/hollow ataraxia
【状態】塩漬け
【ジャンル】中編・恋愛・シリアス
【掲載場所】Arcadia TYPE-MOON板
【あらすじ】
なんてことはない穂群原学園の生徒、氷室鐘には婚約者がいた。
普段は言葉も交わさないはずの衛宮士郎とひょんなきっかけで接点を持ったその日の夜、
10年前の大火災で死別したその人の名前が士郎であったことを知る。
そんな不思議な出来事をきっかけに、二人の距離は縮まって――――
【コメント】
二作目。Portraits of EMIYAが長大すぎること、また執筆力の低さに困った結果、
短編を書いて実力をつけようという意図から書き始めた。
ところが士鐘モノ、しかもセイバーend後という設定から強い批判も受け、
設定と描写の緻密化に試行錯誤した結果、短編で終わらなくなった。
そして書き手の構成力の限界から、続きを書くのが難しくなり中断。
終わりまでが遠くないので処女作と違い続きの執筆を諦めきれずにいる。
「マリア様がみてる」という小説の影響で女性の心理描写を濃くすることに面白さを感じ、
以降の自分のテイストが出始めるきっかけとなった。


『上条「姉妹丼ってのを食べてみたいんだけどさ」』
【原作】とある魔術の禁書目録・とある科学の超電磁砲
【状態】完結
【ジャンル】短編・恋愛・ギャグ
【掲載場所】Arcadia その他板
【あらすじ】
街中で御坂美琴、御坂妹と出くわした上条当麻。
ちょうどお昼時だったこともあって上条はクラスメイトに聞いた、「姉妹丼」なるメニューを出すお店に行こうと二人を誘う。
よくわかっていない当麻、お子様の美琴、斜め上の方向に想像のかっとぶ御坂妹、
それにお姉さまの「妹」白井黒子が横槍を入れて、事態はとんでもない方向へ――――
すれちがいと勘違いが織り成すギャグテイスト短編。
事態はとんでもない方向へって実は本当にとんでもないことになります↓
【コメント】
三作目。エンゲージの中断から数年ぶりに執筆したSS。
絶対に完結させるという目的のため、短編で終わることを強い枷として書いた。
面白いアニメを見る→アフターストーリーを妄想→他人のSSを読む→自分で書きたくなる
という王道のルートを数年ぶりにたどって執筆熱が沸いた。
またギャグという路線は初めてだったため、読了感の出し方が分からなかったことを今でも後悔。
数年前と比べ自分で描いた空想への没入感が浅くなり、アニメに燃えられなくなった自分を感じると同時に、
空想を自分から突き放せるようになったことでSSを書くことが昔より楽になったのを実感。
983 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:45:56.59 ID:2DxUlUzRo
『上条「姉妹丼ってかなり美味いよな」』
【原作】とある魔術の禁書目録・とある科学の超電磁砲
【状態】完結
【ジャンル】短編・恋愛・18禁
【掲載場所】Arcadia xxx板
【あらすじ】
『上条「姉妹丼ってのを食べてみたいんだけどさ」』の続編。
変な勘違いをきっかけに、正しい意味で姉妹丼を頂いちゃうことになった上条さん。
初二つの女の子達を五段重ねにして丸ごと平らげちゃうとかマジ鬼畜。
Sっ気のある上条さんが無垢な女の子達にあれやこれやしちゃいます。
【コメント】
18禁も人生経験だし書いておくか、というよく分からない動機で書いたSS。
自分が最も興奮を覚える文体の官能小説とはこのようなものであると思う。
作家とは自分を切り売りする生き物だと言われるが、
確かにこのSSで自分はまぎれもなく性癖を公開したのであろう。


『ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール』
【原作】とある魔術の禁書目録・とある科学の超電磁砲
【状態】連載中
【ジャンル】長編・原作再構成
【掲載場所】Arcadia その他板, ss速報vip
【あらすじ】
初夏のある日。
上条当麻は不良に襲われているところを、ひとりのお嬢様に助けられた。
佐天涙子は伸びない能力に向き合うため、ひとりのお嬢様に助けを求めた。
常盤台中学が誇る空力使い(エアロハンド)、"トンデモ発射場ガール"がヒロインのお話。
【コメント】
短編の予定が長編になるという失敗をまたやらかしたSS。
しかし以前と違い、構成力の不足で執筆を断念する気配は今のところ無い。
アニメで好きになった婚后光子を活躍させたいという思いが動機のひとつ。
もうひとつは、どうやら描写の濃さが自分の売りらしいと自覚しはじめ、
それならば原作を超える描写の量で説得力を確保し、
原作では落ちこぼれ扱いだった佐天涙子を成長させようというもの。
現在、自分の作品中で最長の作品。文庫一冊分を超える文字数となっている。


『上条「もてた」』
【原作】とある魔術の禁書目録
【状態】連載中
【ジャンル】中編・恋愛
【掲載場所】製作速報vip, ss速報vip, まとめwiki
【あらすじ】
とある魔術の禁書目録のSS。中編。
クラスメイトとの口論から、上条は女の子をデートに誘うことに。
偶然すぐ傍には、姫神秋沙がいた。その偶然が、二人の関係をガラリと変えていく。
いわゆる姫神大☆勝☆利!
【コメント】
どうやら時代は2chタイプの掲示板にレスという形で連載するものらしいということで、
そういう環境で書いてみたくて立ち上げたSS。
行数が少なくても投稿が可能で、しかも感想が気軽につくため、大きなメリットを感じた。
これに影響を受け、トンデモもss速報で掲載してからArcadiaにまとめるというスタイルを採用した。
エンゲージで好きになったコテコテの恋愛モノをそのまんま禁書でやった感じ。
984 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:47:18.81 ID:2DxUlUzRo
以下はnubewoのお気に入りSSのまとめです。
知りたい人がいるかは分かりませんが、興味がおありでしたら、是非読んでみてください。

『凍った時』
【原作】痕(きずあと)
【状態】打ち切り
【ジャンル】長編・後日談
【掲載場所】最果ての地
【あらすじ】
千鶴end後、次郎衛門の記憶を取り戻した耕一がその記憶と恋人たる千鶴への想いの間で葛藤する話。
他ヒロインendで得た設定などをきちんと昇華しつつ、鬼との混血という彼らがこれから
どう生きていくのかにきちんと向き合ったSS。原作に無い道教の要素を取り入れているところも非常に面白い。
【コメント】
原作後すぐから始まり本編が残した課題に向き合う、というスタイルが確実に『Portraits of EMIYA』や『エンゲージ』に影響を与えている。
また、道教の要素を足すことで原作から一歩進んだ世界観を作っているところは、『トンデモ』に影響しているかもしれない。
いくつかのKanon SSと並び、SS界に自分を引きずり込んだ一作。


『最強格闘王女伝説綾香』
【原作】To Heart
【状態】連載中
【ジャンル】超長編・バトルもの
【掲載場所】なつのき会
【あらすじ】
全年齢版にあった来栖川綾香ルートの後日談。
浩之は惚れた相手である綾香に勝つという大きな目標を胸に、格闘技の研鑽を積むことに。
作中では触れられるだけだった格闘技大会エクストリームに浩之が参戦するなど、
格闘技の要素をつよく押し出している。
【コメント】
大量のオリキャラによってもはや原作からはかなり離れている。
ガチの格闘技モノであり、バトル描写は物凄い。
そしてなにより物凄いのは3日〜2週間に一度の更新ペースで10年以上ずっと執筆し続けていることだろう。


『二分の一の恋愛劇』
【原作】Kanon
【状態】完結
【ジャンル】長編・並行世界モノ
【掲載場所】参加することに意義がある!!
【あらすじ】
美汐が死んだ世界の祐一と栞が死んだ世界の祐一の話。
【コメント】
起承転結が美しく、読了感が非常に良い。
SSとは書きかけて投げるものだと言って良いほど途中で終わるSSは多いが、
並行世界モノであることの意味をきちんと描いてきちんと終われたSSという意味でも高評価だと思う。
985 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:49:01.33 ID:2DxUlUzRo
『I LOVE MY FATHER』『LOVE LOVE MY FATHER』
【原作】Kanon
【状態】完結
【ジャンル】短編・娘モノ
【掲載場所】(本文で検索を)
【あらすじ】
祐一と佐祐理さんの間に生まれた娘の話。
【コメント】
本文の一部、
『公序良俗とかモラルとか世間体ってのは、きっと本気で人を好きになった事が無い人が言い始めたんじゃないかと私は思っている。』
『つまるところ自分は若さを持て余したお母様とおとうの『一時の過ち』の産物なのだと気付いたのは、私が人知れず『女』になった日の午前0時を回った頃だったと記憶している。』
で検索すると読める。HPに掲載されているのではない様だ。
すさまじい隆盛を誇ったKanon SSの中では娘モノなどありふれたネタでしかないが、文体にとても惚れていた。


『Proto Messiah』
【原作】Fate/stay night
【状態】打ち切り
【ジャンル】長編・本編再構成
【掲載場所】on the lock
【あらすじ】
言峰に拾われていた「言峰士郎」が遠坂凛と組んで聖杯戦争を戦う。
【コメント】
序盤で更新停止。しかし文体に惚れる。
言峰士郎モノは書ききった例を知らないが、これは一番有名な部類ではなかろうか。


『Brilliant Years』
【原作】Fate/stay night
【状態】打ち切り
【ジャンル】長編・後日談
【掲載場所】なし(web archivesで読むしかない)
【あらすじ】
Unlimited Blade Works編Good End後の話。ロンドンもの。
ルヴィアゼリッタと親交を深めつつ、研究を通してゼルレッチの第五魔法を目指す。
【コメント】
更新停止を最も惜しんでいる作品。
研究生活を主題においたSSは後にも先にもこれしかないのではなかろうか。
その設定のすごさには引き込まれるばかり。
『Portraits of EMIYA』でロンドンものをやろうとしたきっかけであり、
『トンデモ』で佐天の能力開発をやろうとしたきっかけの作品である。
たぶん一番影響を受けているSS。


『クロスゲージ』
【原作】Fate/stay night
【状態】完結
【ジャンル】長編・三次創作
【掲載場所】Arcadia TYPE-MOON板
【コメント】
『エンゲージを君と』の続きをnubewoが一向に書かないことに業を煮やした中村さんが書いて下さった三次創作。
掲載前にnubewoの了解を取り付ける、作品の雰囲気を壊さない、ちゃんと完結させるという、非常に模範的な姿勢で書いていただけた。
正直に嬉しい。ただ、続きを書こうかという煮え切らない自分の態度のせいでまだ未読である。申し訳ない。

986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/18(水) 03:38:40.58 ID:qHQDh/NKo
移動把握梅
打ち切り塩漬けwwww
ここは是非完結してほしいぜ
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/18(水) 10:32:17.87 ID:wGAhzxqJ0
これが楽しみで生きてる
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 17:56:22.55 ID:2Ma4c8sDO
埋め
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/20(金) 08:36:55.73 ID:hTgNN/6o0
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/20(金) 21:24:02.39 ID:zONzc1WTo
うめ
991 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 22:44:40.70 ID:/NZCk9w1o
>>986
あと原作何巻分かかにゃならんのだろうw

>>987
他に楽しみを見つけてくれw人の生死に責任は持てねえ
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/05/20(金) 23:33:58.43 ID:+/DZpn7qo
ていとくんが出るあたり、アウレオルス=イザードとのチート対決がどうなるか期待大!
しかし、原作にない吸血鬼を1人いれるだけで物語がガラっと変わるね。
2次創作の面白い所だ。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/21(土) 10:46:02.93 ID:fjDVNmNAO
乙うめ
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/21(土) 13:34:51.49 ID:MLbSNTYso
うめ
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 16:01:57.25 ID:c2/RrfJvo
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 18:50:46.57 ID:/bgp9pgIO
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 19:44:33.03 ID:UYVNxkuBo
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/21(土) 20:17:02.54 ID:lasFfErCo
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/05/21(土) 20:33:58.50 ID:9LE0v9zco
うめ
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/21(土) 20:34:38.61 ID:9LE0v9zco
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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   '⌒ァ::::::::..::. :::.::::;lヘ‐ ´ヘハi´'´jハY 「|「 ̄ ̄ ̄ ̄ 「 ̄ ̄ ̄ ̄「 ̄
     ̄7;.ィ::{::::l::l::ljレr=、ヽ,rヘ ゞ-' _,j !|______l____j__    / ̄ ̄ ̄ ̄
     ∠ハ:::ヽハl:{' {!´};リ } 、 ` ̄´   !::::|            |.    | |    |   今度は貴方のお話、読ませてくださいね
      'イ::`:::lヘハヽ.__´/  ヽ_    j___!________|___!__j   .ノヘ.____
      {;.イ/::!:::::::lヘ      く_,)  ,ィ:|      r、   /)!   {
       ' !::::|:::::::|`^ヽ .___ /,ノrー――― ノ } ///)一'
       /::::::!::::::::!:::::::::_r' ー--、fr、|      / '-' / ' /ノ
       イ:::::::!:::::: :ヽ'´:.{    ト.ゝく!___  /      ´/l
       'イ:::;rヘ:::..::. :ヽ:.:ヽ.  |イヘ:;イ     /      _二つ
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