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【禁書】ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【本編再構成】 part2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :nubewo ◆sQkYhVdKvM :2011/05/18(水) 02:37:36.68 ID:2DxUlUzR0
このスレはArcadiaでこれまで連載してきた同名のSSの最新話を投下していくスレです。
ここで書きたまり次第、加筆修正を行って、Arcadiaに投稿するというスタイルをとっています。
これはこのようなやり方が、最も更新速度を速められるとの判断に基づいています。
どちらの規約にも反していないと私は判断していますが、何か問題が有りましたらご指摘願います。

あらすじ
上条当麻は不良に襲われているところを、ひとりのお嬢様に助けられた。
佐天涙子は伸びない能力に向き合うため、ひとりのお嬢様に助けを求めた。
常盤台中学が誇る空力使い(エアロハンド)、"トンデモ発射場ガール"がヒロインのお話。


まとめて読めるところ
Arcadia(ttp://www.mai-net.net/)
ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール【とある禁書目録・超電磁砲】【再構成】
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=etc&all=19764&n=0&count=1

前スレ
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1296986869/
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/18(水) 02:38:55.06 ID:2DxUlUzRo

「それじゃ、また行ってくるから」
「ああ」

姫神秋沙はもうこの一ヶ月ですっかりと慣れ親しんだ監禁部屋を後にした。
正確には、一週間ほど前からは監禁部屋ではなく、安全な居室になっている。
事情はこうだ。
日本最大手の大学受験用の進学塾、三沢塾。
そこが学園都市が秘匿しているさまざまな科学知識や教育の方法論を手にするため、学園都市に支部を設けた。
しかし当初の目的に反し、ゆがんだ方向に学園都市の知を吸収し、先鋭化した結果、
三沢塾学園都市校は科学カルトと呼んで差し支えないような、危うい存在となっていた。
そして平凡でないオンリーワンの能力者を神輿に担ぐために、『吸血殺し<ディープ・ブラッド>』の姫神秋沙は、幽閉された。
それが一ヶ月前の出来事だった。

「本当にこんなので、見つかるの?」
「蓋然。絶対を口に出来るわけではないが、この街に吸血鬼がいる可能性は高い」

『吸血殺し』を欲していたのは、三沢塾だけではなかった。
今、姫神の目の前にいる緑髪の長身の男性。アウレオルス・イザードもその一人だった。
アウレオルスは三沢塾を制圧し、姫神を匿い、そして吸血鬼を誘い出すために、二人は共闘していた。
アウレオルスは吸血鬼の持つ力、あるいは知識を手に入れるために。
姫神は吸血鬼を遠ざける力を手に入れるために。

「どれくらいで帰ってくれば良い?」
「夜の眷属の相手を夜にするのは危険だ」
「そう」

初めて聞いたアドバイスではない。夜までならどこで何をしても良いという意味の言葉だった。
姫神は普段着の巫女服に着崩れがないか軽く気にして、アウレオルスに背を向けた。
アウレオルスは姫神が外出する際にはいつも見送ってくれるのだった。
もちろん、それは親愛の情でなく、目的の成就のための行為であったのだろうが。
最新のエレベーターらしい制御の行き届いた音を聞きながら、姫神はそれに乗り込んだ。
無味乾燥な下りを経て、夏休みのために日中から生徒でごった返すフロアに出る。
巫女服くらいではたいして注目を集めないのが学園都市だ。
さっとそこを通り抜け、真夏の日差しがまだ強い外へと姫神は足を踏み出した。

「今日は何をしようかな」

夏休みであるという以前に、家出少女と化した姫神にはすべきことが何もない。
適当に財布に入れた所持金で、適当に歩き回ればいい。
本屋でも喫茶店でも、どこに訪れても構わない。
釣りと同じだ。自分は釣り餌で、釣り場の海をぷかぷかと浮いているだけの単純な仕事。
そういえば行きたいと思っていた高台の公園にでも行ってみようか、
それとも無料のクーポン券が余っているからそれを消費しに行こうか、
漫然とそんなことを考えて姫神はバス停へと向かった。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/18(水) 04:19:33.10 ID:kvBZ1uSOo
新スレ乙
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/18(水) 10:37:39.21 ID:wGAhzxqJ0
乙です。
吸血鬼がいるとわかったら、
■■さんの行動すべてが怖いな。
5 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/19(木) 01:05:47.68 ID:8eBUWJOVo

「よう、っておい! 無視かよ」
「あん? 返事して欲しかったのか?」

光子を見舞った帰り。インデックスを連れて当麻はスーパーへと足を向けているところだった。
そこに、正面から垣根が歩いてきた。
もとから目つきが悪くて軽薄そうな奴だが、今日はそうした態度に緩みが感じられた。
往来を突っ張って歩くのが不良の仕事なのに、どうも今日はにへらっとしているというか。
ちなみにインデックスはエリスの想い人と分かっていながら、あまり垣根のことが得意ではない。
当麻から一歩下がったところで垣根を眺めていた。

「別に挨拶して欲しいってわけじゃないけどさ、曲がりなりにも知り合いなんだから声くらいかけるだろ。
 つかお前、どうかしたのか?」
「あ? どうかしたってのはなんだよ」

垣根は内心で慌ててすっとぼけた。
顔には出していないつもりだが、先ほどから心の中ではずっとニヤニヤしているからだ。

「なんつーか、浮ついてる?」
「エリスと何かあったでしょ」
「え」「な」

漠然としか当麻が捉えられなかった機微を、インデックスがばっさり突いた。
男二人して、戸惑いを隠せなかった。
当麻にはまさかこの男が女がらみで浮つくほど初にも見えず、
垣根はまさかインデックスがそれほど鋭いことを言うとは思わなかったから。

「みつことベタベタしたあとのとうまとおんなじだもん」
「な、なんだよそれ。別にそんな風になったことねーよ」
「上条のヤロウがどうかは知らないが、俺がコイツ並にお花畑な脳味噌だと思われるのは不愉快だ」
「喧嘩売ってんのかよ……」

お互い嫌そうに、垣根と当麻は目を見合わせた。

「エリスにひどいことしちゃ駄目なんだよ」
「しねーよ。アイツを泣かせるような真似はな」
「ならいいけど。とうまもいつもそう言うけどよく喧嘩するし、信用は出来ないかも」
「コイツと一緒にするんじゃねーよ」
「……あの、インデックスさん? ひょっとして垣根をダシにして俺に嫌味を言ってるんでしょうか?」

なぜか自分が怒られている気になって、当麻は恐る恐るインデックスにそう尋ねた。
ところがインデックスは何かを思い出して怒りが再燃したらしく、つい、と当麻から顔を背けた。

「知らない。だいたいとうまはみつこのお見舞いにいく度に私を部屋から追い出してイチャイチャしてるし」
「なっ、イ、インデックス。何もコイツの前で――」

垣根が馬鹿にした顔でハンと笑うのが悔しかった。
ただ、当麻は気づかなかったが、エリスと当麻の仲にすこしくすぶる気持ちを抱えていた垣根にとって、
インデックスがひけらかしてくれた情報は色々と気持ちをなだめるような効果を持っていた。

「模範的な高校生じゃないか、上条。犬か猿みたいに盛ってる辺り、実に良い青春だな」
「だからお前は何でそんなに喧嘩腰なんだよ。……で、お前は何でそんなに浮かれてんだ? エリスとファーストキスか?」
「……さあな、てめーに言う理由がない」
「返事遅れたぞ。なんだ、図星か」
「テメェこそ喧嘩を売りたいらしいな?」

両者の目線が交錯する。一触即発の張り詰め方というよりは、
追い詰められた弱い犬同士が吼えあって体裁を取り繕っている絵に近い。

「エリスと、キスしたんだ」
「……な、なんだよ」
「別に、なんでもないもん」

じっと見つめるインデックスの視線に垣根は戸惑った。なにせエリスの女友達だ。邪険には扱えない。
しかしその視線がなんともいえなかった。
インデックスは唇を気にするようにそっと指で自分の顔に触れて――

「お、インデックス。もしかしてお前も年相応にキスをしてみたいお年頃か?」

ニヤニヤとした顔の、当麻に見つめられた。距離が意外と近くて、心臓が急に仕事をし始めた。
図星らしいインデックスの戸惑いを当麻が笑っていると、あっという間に、
その柔らかい唇の下からシャキーンと歯がその威容を現した。

「とーうーまーぁぁぁ! ばかばかばか! そんなんじゃないもん!」
「いでで! おいばか、人前でやるなっつっただろ!」
「人前で変な質問する当麻が悪いんだよ!」

呆れる垣根の目の前で、二人は取っ組み合いを始めた。
6 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/19(木) 01:48:59.04 ID:8eBUWJOVo
>>4
やっぱり吸血鬼出すと吸血殺し編はすっきりするよね。
姫神がちゅうぶらりんにならなくて済むし。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/19(木) 22:21:30.91 ID:tYfYqq0go
>>6
ひらがなで書かれたせいで、
口で吸い付いてぶら下がるミニ姫神を幻視した
8 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 02:04:08.56 ID:/NZCk9w1o

恋人同士のじゃれあいと言っても差し支えないような当麻とインデックスのバカップルぶりに、
付き合ってられるかと、垣根は二人の横を通り抜けようとした。

「あ、おい垣根。って――あれ」
「ん?」

車道を挟んだ向こうに、この辺を縄張りにする不良が二三人。
そして、いかにも場違いなもう一人の……女学生、でいいのだろうか。巫女装束を着た長髪の少女。
どう好意的に見ても、親しい仲間内の集まりには見えなかった。

「ったく、ここら辺の不良ってどんなもんかね。からかって遊んでるだけならいいんだけど」
「……お前、興味あるのか?」
「いや、興味って」
「絡んだって得することはないだろ。お前にも決めた相手がいるんなら」
「下心があるわけじゃねーよ。ただ、ほっとけないだろ。ああいうのに慣れてそうな子には見えないし」

繁華街から遠くないここには奇抜なファッションの学生も多い。
巫女装束もそれの亜種だと言えばそれまでだが、着慣れた雰囲気から類推するに宗教系の学校の子なのかもしれない。
男慣れ、いやそれ以上に不良慣れしているとは思えなかった。
……隣にいるインデックスを見る。今、不良たちのほうに行くのを躊躇しているのは、自分が女の子を連れているからだった。
その雰囲気を悟ったのだろう。怒るように唇をへの字に曲げた。

「とうま。私だってあれくらいの相手から逃げ切るくらいは大丈夫。行くんだったら、私もついていく」
「いや、お前みたいなのが諭しに来たら向こうは絶対舐めるだろ。
 ……垣根、ちょっとの間で良いからこいつの面倒見ててくれ」
「ちょっ……とうま! それじゃまるで私が幼稚園児か何かみたいなんだよ!」
「ちげーよ。あいつらと揉めたときにお前のほうに人が来たら困るだろうが」
「話を聞けよ」

はあっと垣根はため息をついた。
そもそも、知り合いでもなさそうな女の子をわざわざ助けるというのがもう垣根には信じられなかった。
不良どもとてこの往来でそこまで悪辣なことはすまい。捕まってしまう女学生のほうにも悪い点はあるだろうし、
目の前の一人を助けたからといって、それが何になるのだ。

「とりあえず俺はもう行く。後ろからそっちのガキがついてくるんなら止めはしねーよ」
「――ガキって、それ私のこと?」

インデックスはカチンときたらしい。馬鹿にしないでと言わんばかりの目を垣根に向けた。

「事実だろうが」
「ちょっと知り合っただけの相手をそんな風に馬鹿にできるなんて、人としての程度が知れるんだよ。
 自分を低く見せるってことはエリスを低く見せることと一緒だよ。彼氏さんのくせに」
「……エリスは関係ないだろ」
「おい、インデックス。落ち着けって」
「とうま。早く行こう。こんな女の人に優しくない人なんてほっておいて、さっさとあの巫女を助けてあげないと。
 とうまはみつこのものだから、エリスにはあげないけど。貴方よりとうまのほうがエリスを幸せにできるよ、きっと」

精神的にもタフそうな垣根の痛いところを突くにはエリスを引き合いに出すのが一番だとインデックスは思ったのだろう。
それは実際、正鵠を射ていた。そして当麻は垣根が唯一、上手く解きほぐせない隔意を感じている相手だった。
別に車道の向こうで不良に絡まれた巫女を助けなかったからといって、自分とエリスの関係が変わるはずがないと思う。
逆に助けたところで、これまた何も変わらないだろう。これからずっと、垣根が不良と戦っていく正義の味方でもやらない限り。
笑ってしまう役回りだ。この自分が正義のヒーローなんて。

「おい上条」
「あん? なんだよ」
「何でお前、そんなヒーロー気取りのことするんだ?」

あちらを気にして急かす当麻に、垣根は尋ねた。
至極、それは素朴な疑問だった。いつでもどこでも駆けつけるヒーローになんて、なれやしない。
当麻は垣根のその言葉に、背筋がむず痒くなったような顔をして、憮然と応えた。

「ヒーローって、そんなつもりはねーよ。ただ、見ちまったもんは、見過ごせないだろ」
「……」
「とりあえず行ってくる。インデックスを頼む」
「待てよ」
「あ?」

まだ引き止めるのかと迷惑そうに見る当麻の肩に、垣根は手をかけた。
青臭い当麻の物言いに、垣根は共感したわけではない。
これからも同じシチュエイションにであったとして、次は垣根は動かないかもしれない。
だけど、エリスを引き合いに出された上で当麻に負けたような気になることは嫌だった。

「テメェの出る幕はねーよ。さっさと止めればいいことだろ」

垣根は、二人に先んじて、車道を横断し始めた。
9 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 10:41:08.04 ID:/NZCk9w1o

「はあ? 何でお前が――」
「いいから散れっつってるんだよ。恨みたいなら存分に恨め」

ちょうど、垣根が誰なのかを知らず絡んできた不良を再起不能にしたのがつい先日のことだった。
それを覚えていたのだろうか、不良たちは対峙している相手が絶対に手を出してはいけない相手だとすぐに気づいていた。
そのおかげといえるだろう。散れ、の一言で、不良たちは腰を浮かして撤退に移っていた。

「とうま、役立たずだったね」
「うっせ」

あまりの手際のよさというか、展開の速さに当麻は立ち尽くすしかなかった。
何せ自分が絡みに行くと不機嫌になった不良が当麻に手を出そうとしたりして後処理が面倒なのだ。
能力者に蹂躙されるというのは不良達のコンプレックスを刺激するものだとは思うのだが、
さすがにレベル5が相手となると次元が違いすぎてあまり劣等感も沸かないらしい。

「おい上条。もういいか」
「え? あ、ああ。……なあ、大丈夫だったか」

当麻は絡まれていた巫女装束の女の子に声をかけた。
近づいたときから気づいていたことだが、飛びきりの美人だった。
色白の整った顔立ちに、攻撃性が皆無の穏やかな顔。
腰まで伸ばした髪も長さに似つかわしくないほど艶を保っていた。
その女の子が、こくんと首を縦に振った。

「大丈夫。喋りかけられていただけだから」
「そうか。まあ、ああいうのについていくと面倒が多いし、ちゃんと振り払えよ」
「別に。振り払うことも出来た。けどたまには路地裏を歩くのもいいかと思って」
「へ?」

当麻は間の抜けた返事をしてしまった。こんな牙を持たない兎みたいな子が狼の溜まり場に繰り出すって?
巫女服の女の子の態度が気に入らないのか、苛々とした態度で垣根が地面の意思を蹴った。

「ただの馬鹿女かよ。どうせ次は俺達がいないところで酷い目に遭うんだ。助け損だったな」
「振り払うことも出来たって、どうやってだよ」

垣根の言うことにも一理あると感じ、脱力しながら当麻は女の子に尋ねた。
返事がこれまた、電波の入ったヤツだった。

「私。魔法使いだから」
「…………」

三人全員が沈黙した。ただ、単なる呆れではなかった。
垣根は心の中で魔法使いという言葉の意味を反芻する。つい数日前までの自分なら、きっとそれを鼻で笑っただろう。
だが、垣根の惚れた相手は、自らを魔術師でもあると説明し、その秘術を見せてくれた。
だから魔法使いという言葉をただの冗談や妄想とは切り捨てられなかった。
それは勿論当麻にとっても同じような心境だった。そして隣を見ると、なんだかイライラと爆発しそうなインデックスの顔があった。

「魔法使いって何! カバラ?! エノク?! ヘルメス学とかメリクリウスのヴィジョンとか近代占星術とかっ!
 『魔法使い』なんて曖昧なこと言ってないで専門と学派と魔法名と結社名を名乗るんだよオバカぁ!」
「?」
「その服見たらどう考えたって卜部(うらべ)の巫女でしょ!?」
「うん。じゃあそれ」
「じゃあってなんなんだよ?!」

コンクリートの壁をばんと叩くインデックス。はぁと当麻はため息をついた。

「突然に魔法使いってなんだよ」
「……魔法のステッキ」
「いやそれ、痴漢撃退用の護身グッズじゃねーか」
10 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 10:42:54.51 ID:/NZCk9w1o

なるほど、彼女一流のジョークだったかとまたしても当麻は脱力した。
隣で、垣根はインデックスの言動に気になるものを感じていた。だってその物言いはまるで、魔術を知っているようで。
ただ確認してみるほどの気にはならなかった。
付き合っているのも馬鹿らしくなってきたところだったから、挨拶も面倒になったし帰るかと身を翻したところで。

「ん?」

同じスーツを着た20代から30代くらいの男達が、路地裏への入り口をふさいでいた。
垣根につられて振り返った当麻とインデックスも絶句していた。
退路を奪われるまでまるで気づかなかった。そしてすぐさま重心を落として敵襲に備える。
数の上でも位置取りでも、不利な条件だった。

「なんだ、てめえら」
「……」

垣根の誰何(すいか)に返答はない。
全ての人が硬直したその場で、ただ一人巫女服の女の子が動いた。

「大丈夫。もう解決していたから。ここにはもう用はないから次に行く」

姫神が黒服に向かってそう言うと、コクリと静かに頷いた。
どうやら、敵ではないらしい。

「ありがとう。助けてくれて。それじゃあ私はもう行くから」
「お、お前――」
「姫神」
「え?」
「私の名前。助けてくれたから。一応。名前くらいは」

それだけ言うと、さっさと姫神は黒服たちの間をすり抜けて、表通りへと帰っていった。
そして助けに入った三人だけが、残される。

「……今の、なんだ?」
「スーツの襟章に覚えがある。あれは確か、三沢塾のだ」
「三沢塾って、あの進学塾のか?」
「カルト化してるって噂だがな」
「え?」

垣根は一ヶ月ほど前に、三沢塾に誘われたことがあった。ウチの生徒にならないか、と。
まあ駄目で元々だったのだろう。
垣根にしてみれば塾生になったところで良い教育が得られるわけもないし、
お金にも住むところにも困ってなどいない。誘いに乗る理由が一つもなかった。
ただ、その時のスカウトに来た講師か社員かの、あの宗教めいた盲目さは記憶にあった。

「ま、助けを求める顔じゃなかったのはあの連中のバックアップがあるからか。
 よっぽど変わった能力なんだろうな」
「……何か厄介ごとにでも巻き込まれてるのか?」
「さあな。だが気にすることもないだろ? 宗教なんてどれもこれも似たようなもんだ」

垣根はそれだけ言って、じゃあなと呟いて路地裏から去っていった。

「とうま。私達はどうするの?」
「どうするも何も、問題は全部解決したんだし、帰るか」
「そうだね」

何か、釈然としない終わり方だった。
争いの後を欠片も残していない路地裏から、二人も立ち去った。
11 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 10:44:47.01 ID:/NZCk9w1o
『ep.3_Deep Blood 02: 仲直り』終わりっと。人が増えて登場時間の配分とかが難しいね。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/20(金) 12:41:21.12 ID:jxSFpONIO
おつんつん
全員全力で出せばいいじゃないか
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/20(金) 22:33:55.91 ID:Yz7fncFVo
乙だ!
わざとだったら申し訳無いんだが>>2の姫神が読点を使ってるぞ
14 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/20(金) 22:43:20.03 ID:/NZCk9w1o
>>12
光子さんが退屈すぎて病院のベッドで本読んでるだけのシーンとか、描いても仕方ないシーンってあるからさ。
そういうのも考慮に入れて出番の数を考えるのが難しいのよん。
退屈すぎて、つい寂しくなった光子が当麻を思いながら指で一人遊びを――っていかんいかんそれは18禁ですね。

>>13
やっべ。直します。姫神の句点抜きはすぐに忘れるんよね。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/21(土) 00:49:20.41 ID:hMhtCPmB0
一人遊びだと…すげー読みたい!
16 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 01:43:03.46 ID:hn+I8GhIo

コンコンと、光子は病室をノックした。

「はい。どうぞ、なの」

扉を開いた先には春上がいた。予想外の来客に、ぼんやりと首をかしげていた。それはそうだろう。
光子が春上と会ったのは、こないだの夏祭りの日に光子の見舞いに佐天が来たときだけだ。
碌に話をした覚えもなかったし、気が合いそうだとか、そういう予兆があった訳でもない。

「ごきげんよう、春上さん。私のこと覚えていらして?」
「あ、あの。確か佐天さんのお師匠様って」
「お師匠様……。ええ、間違いではないんですけれど、なんだか落ち着かない響きですわね、その呼び名」
「えっと」
「改めてご挨拶させていただきますわね。私、常盤台中学の婚后光子ですわ」
「あ……春上衿衣なの」
「春上さん、今、お暇?」
「はい」
「そう、それは重畳」

パタンと扇子を閉じて、なるべく優しく微笑む。
光子の目的は一つ。

「良かったら少しお話しませんこと? 私もう、暇で暇で――」

そうなのだ。光子はもとより体調不良などなく、体力を持て余している。
ここの医者は皆理由をつけてなんとか光子を引きとめよう、検査に付き合わせようとする。
そのあからさまな下心というか、そういう態度にうんざりして、光子はいい加減イライラが限界なのだった。
とはいえ能力の暴走は一歩間違えば重大な事故に至る。医者がうんと言わないと中々退院できないのだ。
そんな中、同じ病院に入院してくれた春上は、無聊の慰めになる格好の話相手だった。

「私も暇だったから。でも、もうすぐ初春さんが来るの」
「あら、そうでしたの。お邪魔かしら?」
「そんなことないの」

春上は初春と光子の仲を良くは知らない。
だが佐天がたびたび尊敬している旨を口にしている相手だし、一緒にいて嫌なことはないだろう。

「婚后さんは、彼氏さんがよくお見舞いに来てるって」
「えっ?!」
「佐天さんがそう言ってたの。かっこいい人だったって」
「そ、そうですの? もう、恥ずかしいですわ」

そんな風に言いながら、光子はまんざらでもなかった。
やっぱり彼氏を褒められるのは嬉しい。

「春上さんには気になる殿方はいらっしゃるの?」
「え? ううん。そういうの、良く分からなくて。男子は、ちょっと怖いの」
「そう。私もほんの2ヶ月前くらいはそんな風に思っていましたけれど、きっかけがあれば変わるものですわ」
「そうなのかな」

今でも、当麻以外の男性にはあまり近づかれたくない。恐怖感とは違うが、どう接していいかわからないのだ。
春上も同じようなものなのだろう。線が細く、儚げな雰囲気のある子だ。
少なくとも当麻くらいには落ち着いて女の子に接してくれる年齢じゃないと、釣りあわないだろう。
そんなことを考えていると、扉の向こうから音がした。

「春上さん、起きてますか?」
「あ、初春さん。どうぞなの」
「それじゃお邪魔しますね。おはようございます春上さん、って――」
「ごきげんよう、初春さん。愛しの春上さんを先にとっちゃってごめんなさいね」

上機嫌で扉を開けた初春の脳裏には春上しかいない病室が描かれていたのだろう。
光子を見てびっくりしたのか扉から一歩入った所で足を止めていた。
17 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 01:43:50.71 ID:hn+I8GhIo

「あ、いえ! そんな愛しの春上さんなんて」
「? 初春さん、私のこと嫌い?」
「え? えぇっ?! ち、違いますよ。そんなことないですけど、愛しのって」

真っ直ぐな友情以上の意味合いを含み持たされたその表現に、初春は反応して春上はまるで気づかなかった。
うろたえる初春を春上が不思議そうに見つめる。ぴょこん、と傾げた首に連動して一房くくった髪が揺れた。

「初春さん、それ」
「あ、はい。春上さんのお見舞いにと思って、ちょっと遠出して買ってきたんですよ」

間もなく甘く素朴な香りが病室を満たした。
光子にとってはなじみが薄い匂いだったが、先日、当麻とインデックスが買ってきてくれた屋台の食べ物の匂いがした。
ほんのり焦げ目のついた、小ぶりの鯛焼きが6つほど入っていた。

「第八学区にある話題のお店の鯛焼きです。春上さん、冷めないうちに食べましょう。婚后さんもどうですか?」
「え? 私もよろしいの?」
「はい。春上さんをお見舞いに来てくれた人ですから。それに、すみません。
 正直に言うと、婚后さんのお見舞いの品とか用意してなくて」
「別によろしいのよ。初春さんとはそこまで親しくしていたわけではありませんもの。むしろ気を使わせてごめんなさいね」
「いえいえ。機会があったらまた遊びましょうね」
「ええ」

佐天が間に挟まれば、そういうこともありうるだろう。年上でいながら御坂は親しくしているし、ああいう風に付き合えばいい。
初春が紙の箱の蓋を開けて、春上に仲良く並んだ鯛焼きを差し出した。
そのうち一つを摘んで、春上が驚いたように呟く。

「まだすごくあったかいの」
「あら、本当ですわ」

遠めに見た光子からも、出来立てと見間違うほどの湯気が立っていた。
第八学区というとここ第七学区から真北にある。
電車でこちらに向かったにせよ冷めるには充分なだけの時間がかかるはずだった。
不思議そうに春上と光子に見つめられた初春が、えへへと照れ隠しをするように笑った。

「実はこれ、私の能力なんですよ」
「えっ?」
「あら、初春さんの能力の話を聞くのは初めてですわね」

そう興味深げに光子が言うと、躊躇うような、光子には話したくなかったような、そんな顔を初春がした。
それでなんとなく分かった。春上にだけ打ち明けたかったのかもしれない。
高レベル能力者の前で自分の能力をするのは、嫌なことだ。
……光子は初春がほとんど誰にも能力の話をしたことがなかったのを、知らなかった。

「私の能力、『定温保存<サーマルハンド>』は持ってるものの温度を一定に保つ能力なんです。
 って言っても、私が触れる温度くらいの物だけですから、あんまり大したことは出来ませんけど」
「すごいの」
「な、何言ってるんですか。春上さんはレベル2なんですから私より上じゃないですか」
「私は受信専門だから。こうやって、何かに働きかけられる能力って羨ましい」
「も、もう。褒めても何も出ませんよ。ほら、あったかいうちに食べちゃってください」
「ありがとうなの」

優しく春上が笑う。その笑顔につられて初春もまた笑みを見せる。
第三者の光子は疎外感を感じないでもなかったが、初春も春上も良い子なんだな、
なんてお姉さんぶったことを考えていた。
18 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 01:47:15.22 ID:hn+I8GhIo

「おいしいの。初春さん、ありがとう」
「やっぱり優しい味がしますわね。この鯛焼きというお菓子は」

光子は当麻に、鯛焼きは数平方メートルの大きな鉄板で豪快に焼くものだと聞かされている。
粗製濫造な味かと思いきや、この素朴さはなんだか悪くないものだった。
熱々の皮がところどころとろりとしていて、またそれが良い。

「やっぱり有名店だけはありますね。もう一つ食べますか?」
「ありがとうなの」
「私はこれで充分ですわ。もう一つは春上さんに差し上げて」

優しく大人しげな少女と思いきや、春上はどうやら食欲は旺盛らしかった。
身近によく食べる女の子がいる光子としては、その勢いで食べて太らない体が羨ましい。
普通に食べる範囲で体重が増えたことはないので光子も気を使ったことはないが、
でも春上やインデックスの真似をすれば早晩当麻に愛想をつかされる体になるような気はする。

「んー、やっぱり鯛焼きは熱々ですね」

ふう、と初春が一息ついて、ティッシュを取り出した。もちろん口の周りを汚した春上に渡すためだ。
その後姿に、光子は先ほどから気になっていたことを口にした。

「初春さんの能力って、かなり変わっていますのね」
「え? あ、はい。温度のコントロールってあんまり聞かないですよね」
「そうですわね。でも、初春さんらしい能力ですわね」
「私らしい、ですか?」
「ええ、だって初春さんは情報処理系のスキルで右に出るものはいないって佐天さんに聞きましたもの」
「はあ。まあ情報理論にはそれなりに自信ありますけど、何か関係あるんですか?」
「あら、温度を制御するということはエントロピーを制御するということでしょう?」
「え?」

しまった、と光子は自分の短慮を気まずく思った。誰しもが自分と同じ知識を持っているわけではない。
情報系なら当然知っているかと思ったのだが、そうでもないのだろうか。

「情報学でもエントロピーという単語は耳にするんではありません? 情報量を意味する言葉として」
「あ、はい。それはわかりますけど」
「自然を支配する熱力学において、エントロピーは温度と対になる重要な概念ですわよ。
 『乱雑さ』なんて風に表現されますけれど」
「そうなんですか。あの、すみません。うまく話が見えないんですけど……」
「ごめんなさい。取り留めのない話し方をしては分かるものも分かっていただけませんわね。
 ……そうですわね、まずは氷と水の違いから話をしましょうか。春上さん、水と氷の違いって何でしょうか?」
「え、えっ? あの……水は流れてて、氷は固まってるの」
「そうですわね。マクロに見ればそれで正解ですわ。じゃあ初春さん。
 分子スケールで見れば、何が違うんでしょう?」
「えっと、氷は分子同士がガチガチに動きを止めてて、水はそうでもない、でしたっけ」
「あら、佐天さんよりはよくわかってますわね」
「まあ筆記試験は私、学年上位ですから」
19 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 01:48:13.18 ID:hn+I8GhIo

常盤台中学の二年生に褒められてまんざらでもないのか、頬を染めながら初春が頭を掻いた。

「初春さんの言うとおり、分子の動きの違いが水と氷の差を出しているんですわね。
 ところで初春さん、水と氷、どちらの持っている情報量が多いか、ご存知?」
「え? 情報量、ですか? ……そう言われても、ピンとこなくて」
「情報学の専門家としてではなく、直感的な言葉で考えてくださいな。情報量という言葉の意味合いも」
「はあ……。なんとなく水のほうが多そうな気はします」
「どうして?」
「動き回ってるってことは、それだけお互いの位置関係とか決めにくそうじゃないですか」
「正解。非常に模範的な答えですわ、それ」

早々についていき損ねたのか、三個目の鯛焼きをほお張りながらこちらを眺める春上を他所に、光子は講義を続ける。
最近は佐天がめっきり賢くなって、あれこれ指南してやることが減って寂しいのだった。

「氷は結晶です。つまり、たった一つの分子の位置ベクトルさえ与えてやれば、
 あとは格子定数というほんの少しの情報量だけで全ての分子の位置が再現できます。
 水は分子の相対位置が揺らぎますから沢山の情報がないとその状態を再現できないのですわ。
 ちなみに、水蒸気はさらに多くの情報量を蓄えています」

初春はその説明を聞いて、一つ納得していることがあった。
初春が情報量を処理するときには、普通底が2の対数を取る。
Xという現象に対しlog2 Xという値を計算することで、ビットという単位で表される情報量が定義できる。
8ビットを1バイトとして組みあがっているのが世のパソコン群だった。
そして世には初春が存在意義を理解できずにいた対数、自然対数なるものがあることを思い出した。

「オイラー数が底の対数を取ると……」
「そう! 筋が良いですわね。2の代わりにeを底に取れば、それが『自然』の情報量の数え方になりますわ。
 自然界のあらゆる現象は、そうやって可能性、あるいは情報量と名づけるべきものをやり取りして起こっているのですわ。
 もちろん情報量というのは単位の存在しない値ですから、
 エネルギーが支配する自然現象と結びつけるイメージがわかないかもしれませんわね。
 ――――情報とエネルギーを結びつける係数、それが温度ですわ」

初春はドキドキとする気持ちを抑え切れなかった。佐天があれほど光子の名を口に出す理由は、これだろうか。

「ねえ初春さん。私達空力使いは、すべからく空気の体積をコントロールする能力だとも言えますわ。
 そして体積と対になる変数が圧力です。現象の大きさをつかさどる体積という示量変数と、
 現象の強さ、テンションをつかさどる圧力という示強変数、この二つを常に意識せねばなりません。
 発電系能力者なら電流と電圧が、それぞれ対になるパラメータですわね」
「それじゃ私の場合は――」
「温度という示強変数をコントロールする能力者なら、必ず対になる示量変数であるエントロピー、
 すなわち情報量をコントロールする能力者でもあるということですわね」

例えば初春は、自分が手にしたお湯に温度計を差してじっと眺めたことがある。
温度を保つ能力というのだから温度計は必要だと思ったから、温度測定の勉強なんかは結構頑張ったことがある。
だけど、自分が手にしているモノ、系<システム>が保持しているものがなんなのかについて、思いをめぐらしたことはなかった。
自分が手にしているのが情報量なのだと、そうイメージすることは、やけに納得できることだった。
自然現象をそんな目で捉えたことはなかった。
20 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 01:51:30.33 ID:hn+I8GhIo
>>15
でも当分先までエロはかんべんなw

ふー、そして垂れ流したかった薀蓄をマタ一つ。
楽しかったです。やはりこういう読者の皆さんを置いてきぼりにするような話も好きです。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/21(土) 01:59:50.80 ID:M3XVuKczo
>>1

俺が婚后さんの言ってることが理解できないのは根性が
足りてないせいなのか・・・
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:01:08.01 ID:c2/RrfJvo
初春もレベルアップしちゃうなこりゃ
超電磁砲組がアイテム超える日も遠くないな
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/21(土) 02:01:28.24 ID:KuRQw1yxo
う、初春ぱわーうpフラグ!?
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2011/05/21(土) 02:08:49.49 ID:JM/7N+9s0
さすがの婚后さんだ
・・・中学生なんだぜこの子・・・
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:10:49.46 ID:aAMoCb4DO
乙です。

初春の能力ってサーマルハンドっていうんだ。
読み方は知らなかったからすっきりした。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:12:50.19 ID:atr5K5vDO
おつ
安定して面白いなぁ

ところで色んな場所で話題になることでアレなんだけど、
すべからく の使い方あってる?
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:48:37.29 ID:Tm2JfLDDO


すべからくは是非ともと同義
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 07:21:47.89 ID:tuNCB1m9o
乙乙
佐天が圧縮膨張で温度操作できるようになって初春涙目と思ったらエントロピーが出てきたでござる
極めれば一方さん並のチート能力になりそうだ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 09:21:35.97 ID:S/4Rm2j9o
エントロピーと聞くと「僕と契約して魔法少女になってよ」を思い出す
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 09:42:42.51 ID:7WnIG2Kqo
中学生でオイラーがわかるとか、さすが学園都市だな……
学園都市の中学って初春たちのところでも外の大学並みか。
31 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 10:28:16.82 ID:hn+I8GhIo
レスが一杯で嬉しい。

>>22
佐天さんほどは伸びませんけどね。まあ佐天さんがレベル4まで行けばアイテム超えしそうですね。

>>23
回収するかどうかは分かりません。。。

>>24
まあ俺と同等の知識を持ってるって設定だからなー

>>26-27
そういえば誤用だねコレ。おしなべてになおしとこう。

>>28
佐天さんとの差別化を図るとなると自然とこういう流れになるかなー
極めればチートってのは全ての能力者に言えることだけどな。

>>29
研究室にたくさんインキュベーターがあるからそれ見るたびにモヤっとする

>>30
自然対数は理系の高校数学だから、大学並みではないかな。婚后さんは大学波ですけども。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/21(土) 11:28:03.84 ID:5nRMvsRZo
乙ですたー
うん、安心のインデックスさん。
きっちりフラグをへし折る様は正に匠の技!
これなら光子さんも安心やでぇ…。

そして、ていとくんご乱心ww
だがそれがいいww
魔術サイドとの接点がこっからどうなるのか期待。

安心の光子さん。
教師モードの光子さんマジ教師。
ういはるの能力もそういうことになんのかー
得意分野とリンクしないからもやもや感あったけど、この流れは秀逸。
言ってること半分も分からんけどな!

そしてエントロピーといえば円環の理ww

次回も楽しみにしてますよー
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 11:28:46.02 ID:ppYc8ouIO
極めればチート…どこぞの絶対等速さんとかな
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/05/21(土) 15:05:40.41 ID:VhWf0o0Y0
初春の能力を聞いて最初に考えたのが「マクスウェルの悪魔」だったなぁ。

これって極めればチートという意味では時間すら遡行できる能力なのかも。
あれ・・・そう考えるとまどかマギカでほむほむが時間遡行するのはエントロピー的を
凌駕する魔法少女という風な解釈では自然なのね。神さまどかもそういえば時間軸無視できてたし。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/05/21(土) 15:11:23.98 ID:OpJGc2JF0
おいageんよ

sageろや
36 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/21(土) 15:44:36.92 ID:hn+I8GhIo
>>32
初春の能力が得意分野とリンクしないモヤモヤって俺も感じてた。
その答えがこれなんですけども。
というか、原作でリンクしていないからこそ彼女は低レベルなのかな、と。

>>34
あーこまるなあw似たようなこと考えてるからネタバレみたいになっちまう。
情報を持ってして自然現象に干渉するって、まさにマクスウェルの悪魔だよね。
俺も同じこと考えてる。
エントロピーの話をすると自然の不可逆性とも関わってくるから、そのあたりから時間にも話が関わってくるね。
とはいえ、時間旅行なんてのはただの魔術でもたかだかレベル5程度の能力でも不可能なんだと思うけど。

続きを書く暇がなかった。出かけるので続きは明日の夜以降な。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/21(土) 15:45:56.78 ID:VhWf0o0Y0
うげ、すまんsage忘れた
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/21(土) 16:39:05.38 ID:K9sxji5ro
文系の俺には何を言ってるのかさっぱりだ
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/21(土) 18:26:09.78 ID:lasFfErCo
良く分からんけど初春マジお花畑ってことだよね?
初春が海に手を漬けて定温保存したら対流止まってしまうのん?
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/21(土) 18:30:23.72 ID:VhWf0o0Y0
>>39
初春まじお花畑だよ。きっと能力でエネルギー固定してるから頭の花枯れないんだ。
対流は外部からのエネルギーがメインだからどうだろうなぁ。
とりあえず原発が事故っても手を突っ込めば放射性物質を選択的に外に漏らさないとか
そういうことができる子になる可能性が!
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/21(土) 21:19:23.37 ID:uOF/23WS0
ひさびさの光子ちゃん講義タイム。
俺の中では情報量=運動量になったんだけど
間違ってたらごめんなさい
42 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/22(日) 21:37:30.74 ID:m6YcsQano
>>38
ごめんな。Arcadiaに載せるときには加筆はするけど、きっとそれでも難解だとは思う。
雰囲気だけ分かってくれれば良いんだぜ。

>>39
いえす。初春マジお花畑!
マジレスすると定温保存で対流は止まらない。でも系外への熱の流出はない。

>>40
頭の花と能力は関係ないって設定を聞いた気がする。
けど能力で頭の花を枯らさないのも可能だと思う。
生体は生物活動で必死こいてエントロピーを増大させないようにしてるからな。

>>41
別に正しく分からなくても全然困らないんだけど、マジレスすると違うのぜ。
運動量は文字通り運動の量。エントロピーはどういう選択肢があるかっていう選択肢の幅の広さ。
例えば箱の中の気体分子が全員同じ速度でしか動けないなら、
速度の選択肢が1しかないので運動のエントロピーはゼロになる。(log e_1=0)
同じ運動量を持ってるシステムでも、分子の速度に分布があれば、
その選択肢の広さに見合ったエントロピーが存在する。
絶対零度では全ての分子の運動はゼロになり、温度を上げるにつれ分子の速度は早いものから遅いものまで幅広くなっていく。

すげーw俺マジレスの山で顔真っ赤w
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 22:29:03.44 ID:Ya0PN5oL0
今度から作者いがいageたら半年間ROMってろ!

いいな!!
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 22:41:37.50 ID:Ib17i4Qmo
>>43 どうしたよいきなり?なんかタドタドしいぞ

説明は流し読みで、婚后さんの楽しげな口元を想像することに全力を傾けるのが文系の作法
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/22(日) 22:55:08.24 ID:CRx84E5Vo
婚后さんが説明してくれてるのに流し読みとかできません><

それはともかく完全に理解できなくてもなんとなく曖昧なものを想像して楽しめる自分は間違いなく設定厨
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/05/22(日) 22:55:17.45 ID:Z0FBuTOLo
>>42
いやこっちこそ気を遣わせてスマン
面白いから気にせずどんどんそういうのやっちゃってくれ


高校時代に理系の授業を真面目に受けてればよかったな…
47 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/22(日) 23:09:00.99 ID:m6YcsQano

「初春さんの能力は佐天さんと同じで変り種ですから、上手く行けば面白い延び方をするかもしれませんわね」
「そう……なんですか?」
「温度の直接制御は珍しいですわよ。間接的に温度を維持するだとか、そういう能力にはありふれていますけれど」
「じゃ、じゃあ。伸びたら私、どんなことができるようになるんでしょうか」

その初春の態度に光子は少し感心した。佐天にあった必死さとは違う。
あくまで一歩引いていて、自分の能力を客観視する冷静さがあった。
同時にそれは、佐天ほどのがむしゃらさがないという言い方も出来るかもしれない。

「そこまではわかりませんわ。能力のことを一番理解しているのは、いつだって自分ですもの。
 でも、そうですわね。あれこれ想像してみることは可能ですわ」

ふむ、と一旦言葉を切って思案する。仮に自分の想像が的外れだった場合、初春をひどくミスリードしてしまう。

「何を直接的に扱う能力者なのか、というのはよくよく気をつけなければなりませんわ。
 初春さんが情報系のスキルをお持ちだからついエントロピーに話を膨らませましたけれど、
 全く無関係な可能性だって勿論あります。それはまず含み置いてくださいませ」
「はい」
「その上で、まず熱的な側面の応用から考えると、単純なのはやはり保持できる規模や温度の拡大ですわね。
 初春さん、どれ位の規模までなら保持できますの?」
「え、規模ですか? 持てるものくらいならどうにかなりますけど……」
「質量依存ですの? それとも体積依存?」
「質量依存です」

つまり、軽いものなら大きなモノでもコントロールできるということだ。

「では質量の限界は今のところどれくらいですの?」
「えっと、それが曖昧ではっきりしないんです。
 大きなものの温度を保とうとすると、ちょっとずつ保持が難しくなるんで、
 どこまでが限界っていうはっきりしたラインが引けなくて」
「そうですの。どれくらいのものなら問題ありませんの?」
「あの、この鯛焼きくらいが精一杯で……」

恥ずかしそうに初春が目線を下に落とした。
くいくいと、春上が初春の手首を掴む。

「鯛焼き美味しかったの。初春さんの能力、すごいの」
「あは、こういうときには便利で良いですよね」

たしかに、日常生活への実用性という意味では、この規模でも充分だろう。
カキ氷を食べるときなど随分重宝するに違いない。

「どういう能力かという話からは逸れますけれど、初春さんは自分の手にも熱が漏れてくるんでしょう?
 そういう能力発現の境界面設定はきちんとされたほうがよろしいですわね」
「あ、はい。いつも言われます」
「そうですの、ごめんなさい。余計なアドバイスでしたわね。
 それで、初春さんがレベル5になったときの話ですけど」
「レ、レベル5って」
「あら、夢は大きいほうが良いですわ。こういうときくらい良いじゃありませんの。
 ……対象物の温度を自在に制御、灼熱のマグマを一瞬で常温に、
 あるいは鉄の棒を一瞬で溶融させる、なんてのは如何?」
「はあ。そういう風になれたら良いなって思いますけど」
48 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/22(日) 23:10:35.24 ID:m6YcsQano

初春にとって、それは魅力的な想像図とは思えないらしかった。
まあ順当な伸び方をすればそうなるのだし、この程度の予想は初春だってしてきたことだろう。

「では割れたコップの復元なんてどうでしょう?」
「え?」

それは、定温保存と名づけられた自らの能力とかけ離れて聞こえた。

「コップと言う形に分子が束縛されている時に比べて、
 コップが崩壊していく過程というのは分子がばらばらになる可能性、つまり情報量が流入していく過程ですわ。
 もし割れたコップから『割れる』という現象の中で流入したエントロピーを排斥することが出来れば、
 コップは復元できますわ」
「えっと、それって温度と関係あるんですか……?」
「破壊に伴って僅かながらに熱が発生していますわ。すぐに散逸してしまいますから気づきませんけれど。
 後、情報寄りの解釈をすれば、もしかすれば精神感応系の能力者に対するシールド、
 というのも面白いかもしれませんわね」
「へ? え?」

どうしてそうなるのか、もはや初春にはさっぱりだった。

「温度を一定に保つと言うことは、初春さんが手にした物体は、
 外部とのあらゆる情報のやり取りをシャットアウトするということでしょう?
 それなら、精神感応系能力者による意識の読み取りも防げるんじゃないかな、なんて思いましたの。
 ……もちろん、こんなものは空想の域を出ませんわ。
 でも、色んな可能性を探ってみることは、決してマイナスではありません」
「それは、そうですね。……うん、佐天さんに置いてかれちゃうのは悔しいですもんね。
 私もちゃんと、前を向いて自分の能力と向き合わないと」
「ふふ。まあ、初春さんの能力は私からは遠くてアドバイスは難しいかもしれませんけれど、
 できることがあればお手伝いくらいはして差し上げますわ。
 温度と情報というつながりに手ごたえを感じているのでしたら、
 まずはマクスウェルの悪魔とお友達になることですわね」
「はい」

その表現に初春は苦笑した。
マクスウェルの悪魔はエントロピーの低い状態を作り出す仮想的なツールのことだ。
温度で言えば均一だった温度を不均一にする、例えば水だけのコップを氷の浮かんだ状態にするだとか、
あるいはスクリュードライバーというカクテルをアルコールとオレンジジュースに戻すだとか、
そういうことが出来る。
情報と自然現象を繋げば自ずとマクスウェルの悪魔の名前は出てくるものだが、
この学園都市で悪魔と言う響きを耳にすると、なんだかむずがゆくなるのだった。

「上手く行けば情報エンジン辺りの開発に協力する名目で奨学金の増額もありますわよ」
「はあ、情報エンジンってなんですか?」
「熱を食べて仕事をこなすエンジンと違って、情報を食べて仕事をこなすエンジンのことですわ。
 私も詳しくは知りませんけれど、開発が難航しているそうですの。
 初春さんなら、もしかしたら第一人者になるかもしれませんわね」

なんて言って、光子がクスリと笑った。
自分の生きるべき地盤は、計算、あるいは情報処理、そういうものだと初春は思っている。
これだけは誰にも負けない、一番好きな分野。
佐天ほど、急激に伸びる人間はきっと稀有だろう。
でもそれでも、自分の能力に突破口が見えたのかもしれないと、漠然と初春は期待に胸を膨らませた。
そんな初春の表情に、佐天の指導をしたときと同じ満足感を光子は感じた。

「そうそう、生体なんてエントロピーが増大しないように必死になっているシステムですから、
 うまくやればその頭の花飾りも差し替えずにずっと保存できるかもしれませんわね」

卑近な例だし、良いアドバイスを光子はしたつもりだった。

「なんのことですか?」
「えっ?」
「えっ?」

何のことか分からない風に、初春が首をかしげた。
49 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/22(日) 23:13:50.04 ID:m6YcsQano
>>44
それで全然構わないんだけど>>45的な楽しみ方をしてくれるともっと嬉しい。

>>46
この年になって勉強しなおすのも楽しいよ。
俺理系だから歴史とか嫌いだったけど最近好きになってきた。
日本人の源流ってのに興味ある。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(秋田県) [sage]:2011/05/22(日) 23:30:09.94 ID:ncIPB4FWo
光子さんの講義回ktkr
このSSみたいに、魔法的な能力の物理的根拠をしっかり説明してる話って大好きだわ
一般ラノベでいうとウィザーズブレインみたいやつ

禁書原作はその辺りがかなりテキトーだから、このSSにはこういう部分をすごく期待してる
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/05/22(日) 23:41:49.14 ID:gPqhZcWYo
そういや禁書原作には神道系はほとんど出てきてないよな。闇咲さんくらいなもんか。
イザナギイザナミから始まる日本神話も調べてみたら糞面白いよな。
そういうのも勝手に出せるのもssのいい所だし、バンバン使っちゃいなYO!
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/23(月) 02:12:58.29 ID:67MSf5ip0

マクスウェルの悪魔を飼いならす初春・・・常温の鉄を沸騰・・・
ああ、第4波動マスターするのは佐天さんじゃなくて初春だったんですね!
そうなったら運動する粒子は全部管轄内か、マジパネェな
>>51
お前つっちー忘れんなよ
土御門・安倍神道なんて超大御所じゃねえか
その宗家から生まれた天才で西洋魔術にも精通
自然、神道と陰陽道も到達者級以上になっちゃうとか
能力開発受けてなきゃ平安超人シャーマン晴明さんの再来レベルだぜ?
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/23(月) 04:06:26.19 ID:WPFpiS/1o
乙乙
情報処理の方へ振ったか
レベル6虚空記録<アカシックレコード>にはいつ到達するんですか?

個人的には、可能性の収束による未来の確定化とかも面白そうかなと思ったけど
初春にはビジョンがなさそうだから☆に利用されてそげぶされる未来しか見えなかった
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/23(月) 09:20:44.63 ID:YU/dFH4do

オチでワラタww
55 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/23(月) 12:07:41.70 ID:6tWHWzlro

春上の部屋から戻ると、当麻とインデックスがいた。

「あ、みつこおかえり。どこに行ってたの?」
「ごめんなさいね、インデックス、当麻さん。春上さんのところで、つい話に花が咲いてしまって」

あれから程なくして佐天や白井、御坂が来た関係で大いに盛り上がってしまったのだった。
昨日の今日で佐天もすっかり能力を回復させたらしく、好調そうな快活な笑みを浮かべていた。

「ねーみつこ。退院まだなの? とうまが全然遊んでくれないんだよ」
「仕方ねーだろが。宿題サボらせてくれるほど甘い環境に暮らしてねえ」

このところ晩御飯は毎日黄泉川家だ。作るのは当麻が7割黄泉川が3割といったところ。
黄泉川の帰りが遅い日はインデックスを一人にしないために遅くまで当麻も帰らないから、
すでに何日かは黄泉川家に泊まっている。完璧に通い婚の下地は出来ているのだった。
そうすると必然的に、宿題の進捗を黄泉川にチェックされることになる。
止めてくれてる恩義もある分、宿題をきちんとやらざるを得ないのだった。
まあ、当麻は何もなければきちんと宿題をやる人間なのだ。自発的意志としては、やる気があるのだ。
宿題が燃えたり消えたり濡れたり、あるいは当麻自身が病院送りになったりとそういう都合で無理になることはままあるのだが。

「あとどれくらいかかりますの?」
「え? ……まあ、20日くらい?」
「あ、ごめんなさい。毎日コツコツされるのね」
「……いえその、それくらいかけないと終わらないと言いますか」

八月の上旬から徹夜攻勢でガリガリと宿題なんてやりたくない、というのが本音だった。
情けない顔をすると、光子がちょっと拗ねた顔をした。

「もう。課題は早めに済ませませんと、アクシデントに見舞われたら後々困りますわよ。
 その、お嫌でなかったら私もお手伝いいたしますから」
「お、おう」
「私も理科と英語と歴史くらいなら助けてあげるんだよ」
「……はい、その、ありがとうございます」

インデックスは化学や力学には疎いものの、天体と人体にまつわる理科は非常に詳しい。
英国人として英語なんてのは前提知識として持っているし、歴史も19世紀以前の歴史ならどこのを聞いても完璧だ。
まあ、学園都市か日本の教育委員会かが認めていないオカルトな歴史も普通に混じっているので、
インデックスから歴史を教わるのはテスト対策としては危ないのだが。
ちなみに光子にはあらゆる教科で負けている。こちらはもう、ぐうの音も出ないのだった。
能力と違ってここは本来なら光子に勝っているべき分野だから、肩身が狭い。

「光子に愛想つかされないように頑張らないとな」
「そういうので愛想をつかしたりなんてしません。でも遊ぶ予定を潰されてしまったら、分かりませんわ。
 お盆の辺り、当麻さんがどうされるのかずっと気になっていますのに」
「え、お盆?」
「だ、だって。学園都市の外に出られるんでしたら、しばらく会えないかもしれませんし。
 それに、その。当麻さんのご実家とうちはそう遠くありませんから、外でもお会いできるかも、なんて」

光子が忙しなく扇子を開いては閉じた。
ちなみにお互いの家が近いなんて話は、初耳だった。
実家の場所の話もしたことはあったが、そこまで詳しくはしていない。
実家にあまり自分の居場所としての思い入れがなかったからだ。
56 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/23(月) 12:08:34.87 ID:6tWHWzlro

「そっか、近いんだったらウチに遊びにこれるな」
「とうま! 私のこと忘れてない?」
「え、いや。光子が泊めてやってくれるのかな、とか」

さすがに一人っ子の息子としては実家に女の子を連れ帰る勇気はなかった。
それを察して光子は当然といった笑みを浮かべた。

「インデックスの部屋くらい用意させますわ。なんなら私の部屋にベッドを足して、二人で過ごしましょうか」
「えっ? いいの?」
「ええ。それくらいのスペースはありますもの」
「じゃあ当麻も一緒にいればいいよね?」
「えっ?」
「えっ?」

インデックスはごく何気なく言ったつもりだった。
しかし、当麻が婚后家に行くという事は、当然光子の両親にも顔を合わせるということなわけで。

「そそそそんな、私まだ心の準備が」
「そ、そうだぞインデックス。別に嫌ではないけど、やっぱり光子の家に行くときにはそれなりに覚悟がいるというかだな」
「え? なんで?」
「……いやだって、光子のご両親にさ、『俺が光子の彼氏です』って言いに行くことになるわけだろ?」
「事実なんだから問題ないんだよ」
「あるの! だって、なあ」
「ええ……」

ドキドキと、光子は心臓を高鳴らせていた。
そうやって自分の家に当麻が来てくれることは、とても深い意味を持っているように感じられて。
……でも同時に、怖くもある。両親が当麻のことを快く思ってくれるだろうか。
箱入りで大事に育てられた娘だと自分でも自覚している。

「な、なあ光子」
「なんですの?」
「光子のご両親って、光子が俺と付き合ってること、知ってるの?」
「……はい。何も言ってきませんけれど。当麻さんは?」
「いや、言ってない」
「えっ?」
「なんか、恥ずかしいだろ?」

分かってもらえるかと思って打ち明けたのだが、光子はあからさまに拗ねてしまった。
インデックスは完全に光子の肩を持つ気なのか、当麻に鋭い目線を向けていた。

「とうま! そういうのは良くないんだよ」
「そういうのって何だよ」
「ちゃんと光子のこと認めてあげなきゃ、女の子は不安になるんだから」
「み、認めるって。光子は俺の大事な彼女だよ。そんなの間違いないことだろ」
「だからそういうのはちゃんと周りにも報告しないと。隠されてるみたいなのは不安なんだよ」
「イ、インデックス。もうそれくらいにしてくださいな……」

恥ずかしいらしく光子が控えめにインデックスを止めた。だが本音は今言ったとおりなのだろう。
我侭を言う時の目で、当麻をチラリと見た。
恥ずかしいのは恥ずかしいが、別に親に彼女がいることがばれたって何の問題もない。

「じゃあ、お盆前に帰るときに親にメールするよ。付き合ってる彼女がいて、
 家に帰ってからも彼女と遊ぶかもって。うちの母さんのことだから絶対にウチに連れて来いって言うんだろうけど」
「と、当麻さんのお宅に私が、ですの?」
「ほら、恥ずかしいだろ?」
「……」
57 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/23(月) 12:09:17.69 ID:6tWHWzlro

顔を真っ赤にして、光子がぼうっと当麻の事を見た。
まんざらでもない顔だった。
しかし急に、ハッと何かを思い出したように不安げに瞳が揺れた。

「光子?」
「あの、私のことを紹介したら、ご両親は困らないかしら」
「へ?」
「婚后の姓は珍しいですから、きっとすぐにお気づきになるし」
「ああ、良いところのお嬢様だってか?」
「……というかその、当麻さんのお父様が勤めてらっしゃる証券会社の日本支部にある証券取引対策室の長が、うちの兄ですの」
「え?」

親父は確か外資系のはずだ。婚后は当たり前だけど日本の財閥だから、なぜ?
そのへんの機微に疎い当麻は首をかしげるだけだった。
しかし光子は物凄く気を使った風に戸惑いを見せた。

「うち、婚后財閥と当麻さんのお父様の会社は色々な方面で提携していますの。
 それで人の出向がお互いにありまして、今は兄がそちらの会社に出向いているそうですわ」
「へ、へえー……。よくわかんないけど、光子のお兄さんが俺の親父の上司ってこと?」
「……あの、気を悪くされないで」
「いや、別に俺がどうこう思うようなことじゃないけど。改めて婚后って家はでかいんだなーと。
 てか、光子のお兄さんっていくつ年上?」
「自信はちょっとありませんけれど、12、3上だったはずですわ」

長をやるにはまだまだ若手といって良い年だった。当麻の父、刀夜も勿論30代半ばだからまだ若手の部類だったが。

「ってことは、上司の妹に息子が手を出している、と」
「……はい、そういうことに、なっていまして」
「事情が事情だけに、ご家族は皆このことを把握していると」
「い、いえ。うちの執事が事情を把握して、それがお父様のところには流れているのは確実なんですけれど。
 それにうちがあちらの証券会社の日本支部を人ごとそっくり買収する話もあると聞きまして、
 そうなると当麻さんのお父様も婚后グループの傘下の一人ということになるんですの」

はぁー、と当麻はため息をついた。あの親父殿も、事情を知ればため息しか出ないに違いない。
玉の輿が真逆の意味で成立する関係だった。

「ですからその、私が当麻さんのお宅に伺うと、ご迷惑かもしれませんし、きっときまずくて、その」

光子が残念さや不安を隠すように笑った。インデックスもそれに気づいたのだろう。口は挟まなかったが、当麻を見つめた。
その心配は、無用だろうと思う。

「まあ、大丈夫だろうさ。まずいとしたら俺だな」
「え?」
「父さんも母さんも、そういうので色眼鏡使う人じゃないから。まあ居心地が悪いのは保証するけどさ。
 絶対喜ぶか戸惑うかでてんやわんやにはなるだろうから。
 でも俺はもっと勉強しろだのなんだのと言われそうな予感がする」

正直に言うと、それは重荷だ。
光子のために頑張りたいと言う気持ちは勿論あるけれど、
頑張るべきことが高校の勉強だと思えばやる気が鈍るのが学生というものだろう。

「そんな、その。私、自分が婚后の出だからって当麻さんに負担を強いるの、嫌です」
「ん、でも仕方ないだろ。親は選べない。ってか光子だって親御さんには恵まれてるほうなんだから、
 こんなので文句言ってちゃ罰が当たるだろ。
 光子のお父さん並に光子を幸せにしてやれるかは分からないけど、
 やっぱりほら、頑張らないとな」
「……はい。当麻さん、大好き」
「ん、俺もだよ。光子」

うまく纏まったのを見届けてよし、と頷いたインデックスを軽く撫でて、当麻は光子にキスをした。
58 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/23(月) 12:14:54.14 ID:6tWHWzlro
>>51
オリキャラにオリ能力は構想がないでもないんだけど、話として出す必然性とか、そういうのって難しいからなあ。
まあしばらくはないと思う。自信がついたら出したい。

>>52
まあ、能力に関して特別な才能があれば、だな。
今回のはあくまでもどんな低レベル能力者でも夢なら語れるって話だから。
佐天さんみたいな爆発的成長のきっかけになるかは、未定。

>>53
初春がレベル6に到達する日は来るかなあ。

さてオリ設定ばんばんいれて勝手に話を膨らましちゃったぜ的な回でした。
59 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/23(月) 12:16:37.04 ID:6tWHWzlro
区切りが良いので『ep.2_PSI-Crystal 05: 統計が結ぶ情報とエネルギー』終わりってことで。
そろそろ時系列的にも話が確信に迫ってくる流れですねー。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/05/23(月) 14:55:18.14 ID:ROvj895AO
私はもうこんごーさんは俺の嫁という確信に至ってますがねー。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/23(月) 14:57:34.32 ID:35lX0Ed9o
お盆に都市外で上条夫妻と……さて、御使堕しで婚后の肉体が誰と入れ替わるやらww
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/23(月) 15:09:05.20 ID:vH7dIusw0
ラブコメ展開で御使堕しは地獄だな
受け入れればある意味浮気、受け入れなければ傷つけるとな
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/23(月) 17:03:20.80 ID:/XQFrZyO0
乙っす。
彼女紹介イベントか……
光子のお兄様がシスコンの場合上条さんやばいですよ。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/23(月) 17:05:32.97 ID:079c2lF9o
そう言えば原作読んだの大分前だから忘れたんだけど
御使堕しでは幻想殺しで入れ替わりをキャンセルできないんだっけ
アレって何で無理なんだっけ?
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/23(月) 17:54:00.55 ID:crfbjgoAO
幻想殺しは当麻自身の御使卸しの無効化と、御使卸しされた人を御使卸しの影響を排除して認識する
あくまでも触れている(生えている)当麻の影響だけしか消せず、魔術の核を消していないから
幻想殺しで触っても、離れれば直ぐに戻ってしまうのでは?
長文スマン
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/23(月) 17:55:21.24 ID:crfbjgoAO
幻想殺しは当麻自身の御使卸しの無効化と、御使卸しされた人を御使卸しの影響を排除して認識する
あくまでも触れている(生えている)当麻の影響だけしか消せず、魔術の核を消していないから
幻想殺しで触っても、離れれば直ぐに戻ってしまうのでは?
長文スマン
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/23(月) 18:13:40.96 ID:67MSf5ip0
焦って何度も書き込みボタン押すからそういうことに・・・

ってかエンゼルフォールとなると神裂さんの出番か
身を固めてる当麻相手でも堕天使メイド着るか着まいかって話になるのかしらん
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/05/23(月) 18:21:53.98 ID:UEp5I1aeo
当夜さんってまだ30代半ばなのか・・・。
おれももうすぐ30代半ばなんだが、未だにうんこちんこまんこーつってるのに、落ち着いてる30代半ばだ・・・。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/23(月) 18:22:54.94 ID:079c2lF9o
なるほど、サンクス
でも神裂さんは結界を張られた場所に居たから御使堕しの体の入れ替わりだけは無効化できたんだよね
てことは御使堕しの人物の入れ替わりと認識の入れ替わりは別ってことか
御使堕しがおきた時に手を繋いで寝てたりしたらキャンセルできたりするのかな?ww
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/23(月) 21:01:32.72 ID:/RrthqA+o
乙ですた!
きた、きたよ!
詩菜さんと光子さんの邂逅がきたよ。まだきてないけど。
それにしても、あれこれ煩悶とする光子さんは流石の可愛さ。
前段の教師っぷりとのギャップがもうなんかもう、こんちくしょーー!

詩菜さんとあれこれ相談して、上条体質のどうしようもなさ。
雑草が生えるがごとくフラグがぽんぽん出来るアレさ。
それを淡々と除去する大切さとかを学べばいいと思うの。

光子さん可愛い→結論

次回も楽しみにしてますよー
71 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/24(火) 01:44:08.51 ID:vKCbb8Yyo
>>61-63
二人の関係にいろいろ切り込めるから御使堕し編は調理のし甲斐がありそうだよねー
問題はそこに至るまでにアニメ後半と二巻と三巻を消化せんといかんところですよ。遠いw

>>65 >>69
ちょっと大人の理由というか、当麻と手を繋いでたから体の入れ替わりを回避したヒロインってのを書いたSSが存在するんだよな。
二番煎じは面白くないし、違うアイデアがあるから幻想殺しで入れ替わり回避って展開は今のところない予定。

>>68
刀夜さんはちょっと中年設定が酷いよねw正直あれは40代半ばくらいの設定じゃなかろうか。

>>70
なんか詩菜さんとの絡みを期待する声がけっこうあるような。
ちゃんと応えるようにしますんで、そのへんよろしく!
72 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/25(水) 01:03:20.17 ID:2zgTaSqio

春上を見舞った帰り。佐天たちいつもの4人組は自分達の家のほうへと帰っている最中だった。
検査を受ける春上と別れ、遅めのランチの上に長話を咲かせた結果、陽の色が薄赤く色づく時間になっていた。

「さて、初春。すっかり時間が遅くなりましたけれど、よろしければ今日すぐにでも、調べましょう」
「……わかってます。白井さんに言われなくてもやります」
「初春は私を恨んでいるのかもしれませんけれど、私だって面白半分だとか、
 そんなつもりで言ってるわけではありませんのよ」
「それも、分かってます」

先ほどまで楽しく談笑していたのに、初春はその一言で表情をこわばらせ、白井に頑なな態度をとった。
初春も、別に白井が間違ったことを言っているとは思っていないのだ。
ただ、あんなにも素直で、そして一生懸命な春上が色眼鏡で見られて、
嫌な立場に立たされそうなのを分かっていてなお問い詰める白井の態度に、どうしても納得できないのだった。
だけど、風紀委員が公平を期す存在なら、白井の態度のほうが、むしろ正しいのかもしれない。

すれ違いの原因は、学園都市をにぎわすポルターガイスト現象と春上の相関について。
関係を疑うのも馬鹿馬鹿しい、というのが当初の初春のスタンスだった。
だって、パッとしない普通の中学である柵川に来た転校生が、そんな特別な存在であるものか。
その一方で、白井のスタンスは逆だった。何度か見せたポルターガイストと春上の自失の同期。
それが偶然だとどうにも思えなくて、白井は春上からなにか事件の真相が手繰れないかと思っていた。
根拠に欠けるのが白井案の問題であり、そして初春の恨みを買った元凶でもあるだろう。

四人は風紀委員第一七七支部の扉をくぐった。入り口から離れたラックの奥に、初春のデスクはあった。
風紀委員でない美琴と佐天も勝手知ったる何とやらで、その初春のデスクの周りに集まった。

「あの、ちょっとこんがらがってきたから何を調べたいのか、整理したいんですけど」
「そうね。確認の意味も込めて事実確認と整理しよっか」

佐天の提案に、美琴が頷いた。

「まず、テレスティーナさんからの情報で、最近街で頻発している地震は正確にはポルターガイストで、
 そのポルターガイストはRSPK症候群の同時多発によるものだって分かってるんですよね」
「ええ。私と初春の出席した、風紀委員と警備員の合同会議でそう発表がありましたわ」
「RSPK症候群、まあ簡単に言っちゃえば『自分だけの現実』がゆがんで能力を制御できなくなる状態だけど、
 これって普通はそんな簡単に人から人へと感染するものじゃないわよね」
「ええ。まずそれが第一の疑問ですわね。
 心神喪失の状態にある人と接すれば自分自身も心的にストレスを溜める傾向はありますから、
 RSPK症候群が他人に伝播する可能性はありますわ。
 ですが、このような広範囲にわたっては考えにくい、というのが私達の直感的な感想ですわね」
「……そして、もう一つ気になってるのが、春上さんについてだよね」

春上のことを口にしたのは佐天だった。
白井が言うと、また初春が不機嫌さを見せるのではないかと案じてのことだった。
佐天が言ったからとて初春の態度が硬化しなくなるわけではないが、白井が言うよりましだった。

「無関係な可能性も、もちろんあります」
「そうですわね。そして、その逆も」
「ここで一番問題なのは、関係があるとしたら、どう関係があるのか説明が必要ってトコよね。
 ……第二の疑問、春上さんはこの事件と関係あるかは、結局第一の疑問が分からないとはっきりしないね」
73 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/25(水) 01:04:01.61 ID:2zgTaSqio

美琴がふうっとため息をついた。
能力の暴走状態を、どのようにして他人に伝えるのか。
もちろんそれがはっきり分かっている事柄なら、こんなに今苦労はしないだろうが。

「昨日の夜、必要な情報を選んで纏めるAIを組んでおきましたから、運がよければ情報が手に入っていると思います」

初春はきっぱりとそう言い、パソコンのディスプレイの電源をつけた。本体はずっと稼動していた。
ほどなくディスプレイに映し出されたのは、いくつかの論文と特許に関する文献。
およそ数百件に絞られたその情報を、初春のデスクにある複数のディスプレイに割り振って、四人でそれぞれ調べていく。

「げ、英語……」
「佐天さん、苦手なのはスルーしてこっちにまわして。さっさと数を処理していきましょ」
「ありがとうございます、御坂さん」

学術論文というのは大体がもったいぶった言い方というか、その道の専門家以外にはスラスラとは読めない文体なのだ。
どうやらそういうものが一番苦手なのは佐天らしい。なれた感じの三人に比べ、ペースが上がらない。

「えっと、『AIM拡散力場の共鳴によるRSPK症候群集団発生の可能性』かあ」

そのタイトルに、佐天は思わず手を止めた。そしてレポートの頭に貼り付けられた要旨に、ざっと目を通す。
専門用語の嵐は容易に理解を許さないが、二度ほど読み返すうちに、その論文が自分達の探している情報に近そうだと気がついた。
手を止めて読みふけっている佐天に気づいたのだろう。御坂が、身を乗り出してこちらを覗き込んだ。

「何かいいのあった? ……って、これ」
「難しいんですけど、これ、アタリのような」
「見つかりましたの?」
「佐天さん?」

美琴の様子でただならぬ雰囲気を察したのだろう、白井と初春も佐天の周りに集まってきた。

「これ、概要をざっと読んだだけだけど、なんかそれっぽくて。御坂さんも同じこと思ったみたいだし」
「違う。もちろんタイトルも関連がありそうだって思ったけど、そうじゃなくて」

美琴が佐天の言葉を訂正して、論文の一部に、そっと指を指した。
お決まりの書体で書かれた、著者の名前。

「ファーストが木原幻生、セカンドが……木山、春生」

論文を連名で投稿するときは、基本的に論文の執筆者名が筆頭に、そして研究に貢献した順に残りの著者名が並ぶ。
ファースト・オーサーが木原なのはプロジェクトリーダーであった木原が執筆したということで、
セカンド・オーサーが木山なのは、その研究で恐らく実働部隊としてもっとも精力的に活動したということなのだろう。

「それじゃこれって、あの実験の成果――」

美琴はいつか読み取った、木山の絶望をフラッシュバックさせた。
優しく微笑む置き去り<チャイルドエラー>の子供達。そして実験の失敗……否、成功。目を覚まさぬ子供達を前に立ち尽くす木山。
暴走能力の法則解析用誘爆実験。
目の前に表示されるこのレポートはきっと、木山が携わったあの実験の産物なのだ。
データをコピーして、四人はそれぞれ、その内容を読みふけった。
74 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/25(水) 23:54:28.81 ID:2zgTaSqio

「……みんな、読めた?」
「ええ、なんとか。事情を知れば褒め言葉なんてふさわしくないんでしょうけれど、良く書けた論文ですわね」
「そうね」

美琴の言葉に真っ先に反応したのは白井だった。
優れた研究者は優れた論文を書くものだ。それは人倫の道を踏み外した研究者にも適用できる法則だった。

「あの、すみません。目は通したんですけど、はっきり分からない所があって」
「私もです……」

佐天がおずおずと切り出すと、初春もちょっとヘコんだ顔をして同意した。

「私達も専門家じゃないし、完全に理解してるわけじゃないけどね。確認がてら、おさらいしようか」
「お願いします」

薄く笑って美琴が二人を慰めた。そしてページを冒頭にあわせ、軽く息を整える。

「研究の動機はRSPK症候群、つまり自分の能力のコントロールが出来なくなる病気に罹った能力者、
 そういう人に接した別の能力者もRSPK症候群を発症してしまう傾向があるらしくって、
 その解決なり予防なりをするための方法を開発するってことらしいわね」
「ええ。そしてRSPK症候群が他人に感染するメカニズムはAIM拡散力場の共鳴である、と言っていますわね」
「で、最後に感染速度と人口密度や能力の関係を定式化した被害者数予測モデルが書かれている、と」

ざっとまとめると、そういう内容だった。
初春が押さえ切れない感情を流出させるように、身を乗り出して尊に尋ねる。

「あの、それでこの内容って春上さんと関係ありますか?」
「論文に書かれてることそのものじゃ、分からないけど」
「お姉さまが覗き込んだ木山の過去とこの論文を両方参考にしなければならないというわけですのね」
「うん。……もちろん、本当の事はわかんないけど。
 でも、この論文に描いてある『RSPK症候群罹患者に協力を仰ぎ』ってフレーズ、引っかかるのよね」

マッドサイエンティストとして有名な木原だ。被験者をわざわざ探さずとも、作るほうが早いのは確かだろう。

「この被験者こそが、春上さんのお友達だと?」
「そこは、確証がないからはっきりしたことは言えないわよ」

だけど、木原と木山が共に実験に取り組んでいた時の論文が、木山の悪夢となったあの事件の時以外にあっただろうか。

「前に調べた限りじゃ、意識を失ったあの子たちは、いくつかの病院に分散して収容された後転院を繰り返して、
 今じゃもう居場所がたどれないの。それを例えば木山が集めて、覚醒させようとしてるなら」

覚醒させるための方法なんて良く分からない。だが、AIM拡散力場の共鳴というテーマは木山の専門だ。
このポルターガイスト事件を木山が起こしていると、そう考えるのに無理はない論文だった。
75 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/25(水) 23:57:19.07 ID:2zgTaSqio

「……木山にもう一度、会ってくる」
「えっ?」
「少なくとも、この事件には木山か木原か、そのあたりが絡んでる可能性は充分ある。
 関わってしまった人間として、私は目はつぶれない」

幻想御手を使った木山のやり方が良かったとは今でも思っていない。
もちろん木山が願って止まない、彼女の教え子達の回復を阻止したのが自分だということも、分かっていた。
だが誰かを弄んで目的を果たす気なら、きっと自分はまた木山の前に立ちはだかる。
それは、美琴の決意だった。

「私もお付き合いしますわ。……でもお姉さま。今日行けば確実に門限の時刻に間に合いませんわよ?」
「え? あ……。もうそんな時間だったんだ」
「ええ。それに拘置所の面会時刻にも限りがあるでしょうから、明日、じっくり話を聞かれては?」
「……そうね」

美琴が画面から目を離して伸びをし、時計を横目に見た。
佐天も人知れず、ため息をつく。

「これ、テレスティーナさんに報告したほうがいいのかな?」
「そうですわね。あの方がこの件の取りまとめ役だそうですし。……初春」
「私が連絡いれておきます。あの、白井さん」
「どうしましたの?」

おだやかに、白井が初春にそう尋ねた。現状、白井とて望んではいなかったが、先見の明、
あるいは治安維持に当たる人間としての直観力で、初春に勝ってしまった形になっている。
すなわち、春上が事件の関係者である蓋然性が高い。

「すみませんでした。白井さんは間違ったこと、言ってなかったのに」
「いいですわよ。友達に疑いをかけて、気持ち良いはずがありませんもの。
 というかそんな野暮な謝罪なんて、貴女の相棒であるこの私には要りませんわ」
「そうですね。相棒ですもんね。分かりました。
 御坂さんとのデートに仕事をかぶせちゃったときも私、野暮な謝罪はしませんから」

不敵に笑う白井に初春はそんなことを言い返して、初春は背筋をしゃんと伸ばした。
その裏で、佐天は美琴と苦笑いをかわした。
再び、初春が集めていた資料全てにざっと目を通した後、四人は腰を上げた。

「じゃ、帰ろっか」
「あ、私はテレスティーナさんに連絡入れてから帰ります」
「ん、ごめんね。門限は守れる日は守っとかないとね」

白井と美琴はもうそろそろ発たねばならない時間だった。
挨拶を交わす三人の横で、佐天がなにかを躊躇うようにしていた。
美琴はその様子を見て、首をかしげた。

「佐天さん?」
「あの、私、今から木山のところに、行ってみようかなって」
「え?」
「佐天さん? 急にどうしたんですか?」

案の定、皆が佐天の言葉に驚いていた。
それは一週間くらい前に、拘置所にいる木山を美琴が訪ねると言っていたのを聞いてから、考えていたことだった。
どれくらいの気持ちで、木山は幻想御手を作ったのか。自分の起こした事件ことを、今はどう思っているのか。
責める気持ちがあってのことではない。ただ、納得したかった。
幻想御手をきっかけとして能力を伸ばし始めた自分には、いつもスタート地点でずるをしたような、そんな引け目がある。
だからというわけではないが、一人で、木山に会ってみたかった。
76 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/25(水) 23:59:56.85 ID:2zgTaSqio

夕日を背に受けながら、佐天はようやくの思いで目的の建物へとたどり着いていた。
あれからすぐ、美琴と白井は寮に帰っていった。初春も、もう電話は終えて家路についている頃だろう。
乗り換えや簡単な地図を見ながらの道のりはどこか心細かった。
そして勿論、木山のいるこの拘置所、つまりゴールの前にたたずんでも、不安は和らぐことはなかった。
強化ガラス製の重たい扉を開けて、佐天は静謐な受付へと足を勧めた。

「こんにちわ。面会ですか?」
「あ、はい」
「面会時間は15分程度しか取れませんが、それでも面会されますか?」
「はい」
「ではあなたのお名前とIDの提示をお願いします。それと、面会希望の相手の名前を」
「佐天涙子です。えっと、木山春生……さんと、話をしたいんですけど」

IDを提示しながら、佐天は名前を告げた。
素っ気無い態度の事務員が、眼鏡の奥の瞳をいくらか揺らした後、その名前を検索にかけたらしい。
ほどなく想像通りの答えが出たのか、軽く頷いて事務員が佐天を見た。

「あの、木山春生は先日保釈が認められて、もうここには拘置されていませんが」
「えっ……?」

一瞬、予想外の事態に何をしていいか分からなくなった。
木山がいない、保釈されたって。

「あの! 保釈って、お金が要るんですよね?」
「え? ええ」
「自分で払って出て行ったんですか?」
「それぞれの人のことをお教えすることは出来ません。
 本人が払うケース以外にも、保証人をつけるケースだとか色々とオプションがあるのは事実です」
「えっと、それじゃどこに住んでるとかは……」
「申し訳ないですけど、それも教えられません。制度としては、申告した住居に住むことになっています」
「はあ」

完全に、無駄足だった。不安を胸に抱えてきたはずの道のりの無意味さに、脱力しそうになった。
いないんだったらこんなこと、しなかったのに。
そう考えて事務員に挨拶をし、再び扉をくぐって夕日に体を晒したところで、大事なことに気がついた。

「保釈されてるって事は。木山は今、目的のために動いてるって事……!」

そして、私達は、木山の居場所を知らない。
佐天は急いで初春に電話をかけた。

「どうしたんですか、佐天さん?」
「初春! 木山、もう保釈されてる!」
「えっ?」
「木山はもう拘置所にいないんだって。だから、ホントに木山が動いてるのかも!」

点と点を結ぶように、春上衿衣という少女から始まって、ポルターガイスト、RSPK症候群、
暴走能力の実験、そして木山春生へと話が繋がった。
もちろん偶然かもしれない。だけど、偶然と笑うには、そこに何かがあるという思いが強すぎた。

「佐天さん、落ち着いてください。木山先生の居場所は分かりますか?」
「駄目。拘置所が個人情報は教えてくれなかった。でも、申告した場所に住まなきゃいけない決まりがあるって」
「……分かりました。私、まだ風紀委員の支部にいますから。すこししたらもう一度連絡ください」
「もう一度って、それは良いけど。なんで?」
「木山先生の事件前のマンションなら調べられます。
 引き払ってるかもしれませんけど、すぐに見つかる手がかりはそれくらいですから」
「分かった。とりあえず、あたしはそっちに行くから」
「はい。細かいことはまた、後で」

初春はそれだけ言って、電話を切った。
佐天もそれを聞き届けてパチリと携帯を閉じる。
長閑な夕日が、陰りを見せ始めていた。
77 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/26(木) 00:01:17.35 ID:PIwClzp5o
むー、なかなか面白い展開が書きにくいですね。
今後に繋げるために必要な布石ではあるんだけど。。。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/05/26(木) 01:25:12.26 ID:oxbK1mVqo

大事な工程をこなすのには時に淡々としたものも必要ですぜ、アニキ
79 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:15:23.64 ID:nh2VzsUMo

初春の所に戻ると、ちょうど初春も出る準備を整えたところだった。
少なくとも罪を犯す前は仮初ながらに小学校の教諭をしていた木山だから、
住所を得るのは初春にとっては大したリスクもない簡単なことだった。

「案外、すぐそこなんだね」

二人でタクシーに乗り込んで、15分ほど第七学区内を走ったところで木山のマンションが見えてきた。
ごく普通の、セキュリティも大したことのないような建物。
不良たちに襲撃されればひとたまりもないだろう。
幻想御手を使った低レベルな能力者たちは皆、コンプレックスを嘲笑され、今、辛い立場にある。
誰しもが佐天のように幸運を手に出来たわけではない。
ここに木山が住み続けているとしたら、それは危険なことだった。

「家の周りとかポストとか見れば、分かるのかな?」
「はい。居留守かどうかくらいは判断できるはずです。
 風紀委員じゃなくて警備員のマニュアルですけど、そういうの、私持ってますから」

荒事に何かと首を突っ込む相棒を持った初春だ。その手の知識も、少しは持ち合わせていた。
だが、どうやらそれは必要なさそうだった。
ふと前を見ると、見覚えどころか乗った覚えすらある、青いスポーツカー。

「あれ!」
「え?」
「木山先生の車ですよ! あの青いの」

大通りに出るべくじわりと加速を始めたそのスポーツカーの前で、無人タクシーは清算のために減速していた。
あわてて座席を揺らし、AIに通じるマイクに叫んだ。

「待って! 前の車追いかけてください!」




バタリと浴室の扉を開けて、白井は美琴に声をかけた。

「お姉さま、お風呂空きましたわよ」
「んー、わかった」
「もう、食事をとってすぐだと言うのにベッドに寝そべってゲームなんてされて。太りますわよ」
「はいはい。もう、大丈夫だってば。ちゃんと管理してるし」
「確かに今日は控えめのようでしたけれど」

管理しているとは言うが、美琴が食事の量に気を使ったところなぞ見たことがない。
いくら食べてもとは言わないかもしれないが、美琴は太りにくいのは事実らしかった。
まあ、今日の少ない食べっぷりなら確かに大丈夫なのかもしれないが。

「さて、じゃあ私も入りますか」
80 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:16:14.25 ID:nh2VzsUMo

用意してあった着替えを手に取り、美琴は浴室へと向かった。
服を脱ぎ、浴室で軽くシャワーを浴びる。髪と体を洗う手つきはお座なりだった。
普段とて丹精を込めてというような洗い方なんてしないが、今日は特に適当だ。
理由は簡単。これから、汗を掻く予定があるから。シャワーはもう一度浴びればいい。
美琴は頭に、先ほど調べていた地図を浮かべなおした。
今はもう廃墟となっているはずの、木原幻生の研究所の一つ。
おそらくは春上の親友たちはそこで実験台にされたはずだ。
そこにいけば、何かしら、情報が手に入るかもしれない。
黒子が寝静まってから、部屋を出る気だった。




青いスポーツカーは淀みなく主要国道を抜けて、病院の駐車場に車を止めた。
タクシーの融通の利かなさが幸いして、少し離れた正面玄関に、初春たちはたどり着いた。
頭痛のするような額を支払って初春と佐天はタクシーを降り、木山の影を探した。

「正面からじゃなさそう……?」
「はい。あっちに関係者用の入り口がありますから、そっちから入ったんだと思います」
「それってこっちからじゃ追えなくなる?」
「えっと……大丈夫です。見たところ一般の入り口からと廊下が続いてますから」

入り口傍の地図を見て、初春がそう答えた。
時間はもう夕食時。だが夜の診察はこれからだ。
中は人でごった返していて、初春たちを不審に思う人はいない。
臆せず初春は表入り口から病院に入り、受付の目を盗んで中の廊下を進んだ。
目的は木山に会って話を聞くことだったが、病院と言う場所へ着いて二人の目的は少し変わっていた。
確証はないが、ここで、木山は意識不明の植物状態へと追いやってしまった春上の親友たちを匿っているのかもしれない。
そうであれば、その現場を押さえるところまでたどり着きたい。

「いたっ!」
「あっち、地下への階段ですね」
「……ここから先、関係者以外立ち入りをご遠慮願います、らしいけど?」
「私、枝先絆理さんの関係者ですから」
「風紀委員の初春が行くなら、別にあたしも問題ないよね」

前にいる木山をじっと見つめる初春に、佐天は苦笑を返した。
木山が階下へ姿を消したのを見計らって、二人も病院の関係者のみが出入りする領域へと足を進めた。
病院らしいいかにもなデザインの手すりが着いた階段を下り、木山の背中を探してぐるりと辺りを見渡す。
そこで。

「君達。ここは関係者以外立ち入り禁止なんだね?」

後ろから、カエルみたいな顔をした、白衣の壮年男性に声をかけられた。
うだつの上がらない風貌で、白衣のくたびれ方からも威厳のなさが伝わってくる。
悪いことをしている自覚はあったが、二人は怯まなかった。
初春が時折行うデータベースへの不正アクセスより、ずっと罪は軽いだろう。
何事かと振り返った木山にも聞こえるように、初春が大きな声でカエル医者に返答をした。

「私達は関係者です。木山先生、枝先さんのお見舞いに来ました!」
81 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:17:09.53 ID:nh2VzsUMo

二人の医者が、驚きに眉を動かした。
そして戸惑いのためか、硬直した木山に変わってカエル医者が嘆息した。

「なるほど、こんなところにお見舞いにこられる人がいるとはね?
 ……木山君。ここまで来られては隠しても何も変わらないだろう。この子達を案内してあげたらどうかい」
「ええ……。そうですね」

じっと、意図の読みにくい隈のできた目で、木山は二人を見つめ返した。

「こっちだ」
「……」
「確か君は、初春さんだったかな?」
「はい」
「こちらの子は、すまない。人の顔を覚えるのは苦手でね。会ったことはあっただろうか」
「いえ……」
「そうか。まあいい、こちらの部屋だ。枝先は、この一番手前のベッドで眠っている」

長くもない廊下を歩いて扉を開いた先。
そこには、目を覚ます見込みもない、十人くらいの男の子と女の子達がいた。
一人一人は個別のベッドに寝かされ、さらに透明のカバーがベッドにはつけられていた。
呼吸補助のマスクをつけているせいで、一人一人の顔もほとんど覗けない。
ただ、例外なく華奢な手足の、自分たちの同級生だったかもしれない子達、それを見せ付けられた瞬間、
清潔で静謐なその集中治療室はまさに地獄なのだと、空気が佐天と初春に思い知らせた。
子供達を覆うカバーが佐天には棺に見えて、その不吉なヴィジョンを振り払うように頭を振った。

「木山先生が、この子達を一箇所に集めていたんですね」
「ああ」
「どうして、ですか?」
「学園都市は、置き去り<チャイルドエラー>なんてどこまでも使い潰す気だ。
 生半可な治療では復帰を見込めないこの子達なんて、良くてお荷物、悪くて出来損ないのモルモットだ。
 ……むしろ教えてくれ。どこなら、この子達を救ってくれるんだ?」
「……」
「何を敵にしたって、私は絶対にこの子達を救うと決めたんだ。手を回してこの子達を集めるくらい、なんだというんだ」

扉の開く音がして、静かに医者が部屋に滑り込んできた。そしてバイタルデータを一括監視するモニターの前に座った。

「木山先生。それで、次は何をするつもりなんですか」
「さあな。なんだってするとは言ったものの――」
「地震を起こして、沢山の人を傷つけてでも助けるんですか」
「……相変わらず。君は鋭いな。この子達とRSPK症候群の同時多発の関係をどうやって発見したんだい?」

軽薄な驚きと賞賛が、木山の口からこぼれた。
軽薄さが揶揄している先は初春ではなく、むしろ木山自身の様に思えた。

「そんなことはどうでもいいです。それより木山先生、どうしてこんなこと、するんですか。
 幻想御手の時だって、先生は誰も傷つかないための努力はしてたじゃないですか」
82 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:18:14.08 ID:nh2VzsUMo

ポルターガイストによる被害者は、もう三桁に上っていた。
一歩間違えば死者もでかねない、危険な事故がいくつもあった。
そんなやり方で助かっても、きっと枝先たちは胸を張れないと、そう思う。
それをわからない木山ではないと、初春には思えたのに。
隣で見つめていた医者が口を挟んだ。

「君は、少し思い違いをしているようだね?」
「え?」
「これは我々にも計算外の事態だったんだね」

そういって医者は体を横にずらし、二人にモニタを見せた。
今映っているのは、誰かの脳波だろうか。

「静かな波形だろう? 活動中の人間のものではないんだね。
 だが、一ヶ月ほど前から時折、この子達は目を覚ます兆候を見せているんだ」
「え?」
「だけどこの子達は、正常には目覚められない。この子達の『現実』は、薬で滅茶苦茶になってしまっているから」
「薬、ですか?」

それは話に聞く、木山が騙されたあの実験での事だろうか。

「ああ、能力者を暴走させるための劇薬さ。能力体結晶、いや体晶のほうが通りは良いかな。」

まるで麻薬みたいな白い粉なんだけどね、と付け加えて、医者はモニターのデータ確認に戻った。
二人が視線を木山に戻すと、思い出した何がしかの感情に蓋をするように唇を噛んでいた。

「別に身の潔白を晴らしたいとも思わないがね、一応言っておこう。ポルターガイストの引き金は、確かにこの子達なんだ。
 もう、長い間は止められそうにもない。覚醒の間隔は短くなって、今にも目を覚ましそうだ」
「目が覚めちゃ、だめなんですか?」
「いいや。覚醒自体は悪いことではない。だがその過程で必ず、この子達は周りの能力者を巻き込んで、ポルターガイストを生む。
 それも酷く広範囲に、な。予想としては、学園都市の八割の学生を巻き込んだ、大規模災害だ」
「えっ?」

どう甘く見積もっても、そんな異常な規模のポルターガイストは、きっと学園都市を破滅的なところまで崩壊させる。

「それって」
「この子達をそのまま覚醒させれば学園都市は終わると言うことさ。
 まあ、この子たちのいるこの場所は地震くらいではどうにもならないから、この子達は無事だろうがな」
「……助けるためなら、手段を選ばないつもりですか」

初春と、そして佐天が身構えた。

「……天秤になど、かけられないよ。私はこの子達に人並みの幸せをあげたい、それだけなんだ。それだけで、いいのに」

それを学園都市は、赦さなかった。
佐天はうなだれる木山に尋ねずにはいられなかった。
83 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:19:20.36 ID:nh2VzsUMo

「なんとかっ、ならないんですか?」
「せめて、体晶の成分でも分かればね」

晶の字が付くくらいだ。
それが結晶構造を有する、すなわちたかだか数種類のペプチドないしたんぱく質群からなる薬品であることくらいは想像が付いている。
経口でも効き目が出るらしいから、酸にも強い構造なのだろう。それくらいは分かる。
だが、その程度の情報から蘇生を推定することなど、できるわけがない。
暴走能力者の脳内でのみ分泌される特殊な神経伝達物質、あるいはホルモン。
そのサンプルさえ手に入れば、大脳生理学の新進気鋭の天才として、絶対に木山はその生理を逆算してみせる。

「私は今、あちこちを駆けずり回って体晶のサンプルを探している。
 間に合わなければ、この子達が本格的な覚醒を始めて、学園都市は崩壊する。
 君達は、今すぐここを通報して、私を止めるかい?
 そして、最悪の措置としてこの子達を死なせることに、同意するかい?」

履いて捨てるほどいて、そして基本的に金食い虫でしかない置き去り<チャイルドエラー>。
それをほんの10人ほど、それも植物状態の子たちを死なせるだけで、学園都市の安全が担保されるなら。
学園都市は、一体どういう選択をするだろう。

「あの、木山……先生」
「先生をわざわざつける必要はないよ。それで、なんだい?」

佐天が初めて、一対一で木山に向き合った。
そして、一言、事実を告げた。佐天にとっての、惨めな軌跡。

「私、幻想御手を使いました」
「……そうか。私は君に、恨まれている人間だったのだな」
「恨んでないって言ったら、嘘になります。でも、私にだって弱い心があったのは、事実だから」
「漬け込む人間がいるのが悪いのだよ。私のことだがね。恨んでくれて、構わない」
「恨まれても……じゃなくて。そんなふうに傷つく人のことを、どういう風に思ってあの事件を起こしたんですか?」

それが佐天が一番聞きたいことだった。
麻薬でもタバコでも、あるいは自分を引きずり落としていく性質の悪い不良友達でも、そういうものは悪意をひけらかしたりしない。
堕ちていくとき、人の傍にあるものはいつだって優しい。幻想御手もまた、優しい薬だった。
犯人なんてものがなくても、心が弱い人はその優しさに溺れる。佐天は犯人を見つけたところで自分が癒されないのは分かっていた。

「考えていなかった」
「え?」
「救いたい人がいて、その子達のためなら君という被害者に、私は目をつぶれたんだ」
「……」
「正直な、答えだと思う。軽蔑したかい?」
「どうしようもない事態に、泣き喚くだけなら子供、何かを犠牲にして解決するなら普通の大人、
 誰もが幸せになれる第三の答えを生み出すことこそ、この学園都市が目指していることだって教わりました」

それは佐天たちの学校のとある先生が生徒に語る、お決まりのフレーズだった。

「いつだって、私はそれを目指しているつもりなんだ」

天才の名をほしいままにする大脳生理学者が、シニカルな顔で笑った。泣き顔みたいだと佐天は思った。
そしてすぐにその笑みは面から消えた。
84 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:20:16.78 ID:nh2VzsUMo

「まだ、この子たちには少し時間がある。私は諦めない。体晶のサンプルを手に入れて、この子達を助ける」

それは通告。
学園都市の中でも第一級の犯罪者になった女の、揺るがない意地だった。
人の脳を知り尽くしていながら人懐こさなど欠片も見せない科学者が見せた、それは母性だった。

――――冷徹な声が、佐天と初春、そして医者と木山の四人の後ろから聞こえた。

「学園都市は貴女の独断行動を容認しません。木山春生」
「なっ?!」
「テレスティーナさん?!」

現れたのは怜悧な瞳を眼鏡の奥に覗かせたテレスティーナと、そして配下のパワードスーツ舞台が数名。
病院に存在するには暴力的過ぎる存在。

「その子たちは、我々先進状況救助隊の施設で預かります」
「なん、だと……?」
「学園都市の生徒達を平気で意識不明に陥れる人間を、学園都市が自由にすると思っているのなら、それは勘違いね」
「テレスティーナさん?! 木山先生は別に!」
「初春さん。心配しないで。この子達は責任を持って、私が救ってあげるから」
「なぜ、ここが……」

呆然と、木山は呟いた。

「直前に初春さんと電話していたからね。尾行するつもりはなかったんだけれど、
 初春さんが木山を追っているらしいって分かってから追わせて貰っていたの。
 ここに踏み込む手続きに手間取ったけど、逃げられたりする前に確保できてよかったわ」

テレスティーナが優しい笑みを初春と佐天に向けた。

「木山春生。保釈されている貴女は抵抗しなければこちらから拘束することはしない。
 大人しく、その子達をこちらに引き渡しなさい」
「くっ……だが!」
「言ったでしょう? 解決を目指すのはこちらも同じ。ただ、貴女と違って私たちは一線を越えない」
「なんだと?」
「教え子のためなら一万人もの学生を昏睡状態にしても平気な貴女には、
 ポルターガイストの引き金になりかねないこの子たちを管理する資格などないと言っているのよ」

出来損ないの社会人を見下すように、テレスティーナは木山の隣をすり抜けた。
開けてくださる?と医者に声をかけると、ため息をついて医者はその以来に従った。

「ありがとう、初春さん、佐天さん。あなた達のおかげで重大事件は深刻な状態を免れそうだわ」
「……あの! 枝先さんたちは、助かりますか?」
「医者じゃないけれど、医者みたいなことを言わせてもらうわね。
 最善を、尽くします。私達の最善を、ね。……やれ」

そして立ち尽くす人間達をよそに、静かにパワードスーツ部隊が搬送を始めた。
85 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:21:37.67 ID:nh2VzsUMo

携帯を見て突然獰猛な笑みを見せた麦野に、滝壺と絹旗、フレンダは一様に驚いた。

「来た」
「来たって、何が来たの? むぎの」
「超面白そうな顔をしていますね」
「何々? 新しい遊びのネタ?」

興味を見せた三人に応えず、麦野は電話をかけ、指示を出す。
相手は何匹飼っているかも分からない兵隊の一匹。
お嬢様学園の寮を監視するという、トップレベルに安全で楽しい仕事をさせてやっている連中からだった。

「麦野、我々には超内緒らしいですね」
「そんなつもりはないわよ。シンデレラ・ガールが家を出たところって報告を受けただけよ」
「はあ。メルヘンですね」
「そうねぇ。さて、魔女としては何はともあれ招待状を拵えて届けてあげないと」

手元から取り出したのは、しつらえの良いメッセージカードだった。
刺繍入りの豪華な装飾に、嫌味のない花の香りが付いている。

「パーティでもするんですか?」
「ええ、と言っても私は参加しないで、主催者に内緒でシンデレラに紹介するだけだけれどね」

そこに書かれた内容は、とある路地裏の場所、時刻、それだけ。
差出人の名前は、親愛なる妹達より、と書いた。
そのパーティは毎日時と場所を変えて開かれているらしい。
必死の思いで麦野はそのスケジュールを手に入れて、
何の理由かは知らないが深夜に寮を抜け出そうという第三位に、優しくも招待状を送ってやろうというのだった。
品行方正、努力家、人当たりが良く頼れる、学園都市の模範的学生の筆頭。
そんな彼女ならきっと、このパーティに興味を持ってくれるだろう。
――――もっとも、12時を過ぎた後にはシンデレラは全てを失うのだが。

連絡を終えてすぐ、兵隊の一匹がその招待状を取りに来た。
すぐに、夜遊びの過ぎる御坂美琴を追い始めることだろう。
結末にあるものを予想して、麦野はニイッと犬歯を覗かせて笑った。


春上の転校をきっかけに、少しずつ手繰り寄せた真実に連なる糸。
最後に美琴が引いたのは、悪意ある誰かの混ぜた、全く別の糸だった。
86 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 00:23:45.38 ID:nh2VzsUMo
ふー、今日は筆に勢いがあった。
『ep.2_PSI-Crystal 06: 真実を手繰り寄せる糸』、おわりで。
ちなみに次のタイトルを予告しておくと
『ep.4_Sisters 01: 手繰り寄せた真実からは絶望の味がした』です。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/05/27(金) 00:39:37.56 ID:Qs1wQfW6o
美琴だけ急に別の物語へと迷い込んだのかー。こうくるとは思わなんだ。
ヒーローとその彼女がどう動くか超楽しみだ!
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 01:23:59.11 ID:x4GUnQRDO
アニメ見てた時も思ったんだけど、学園都市外で目覚めさせちゃダメだったのかねぇ。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/27(金) 08:01:20.03 ID:NVQoIfsNo
>>88
多分、学園都市じゃないと生命維持できないとかじゃね?
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 08:09:28.62 ID:JJQyMlQ00
>>88
「学園都市の外に、体晶は無い」
これが1番の理由じゃないかな。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 11:22:24.88 ID:x4GUnQRDO
>>89
直後ならともかく、昏睡状態で安定してるなら維持は簡単でしょ。植物状態でウン年なんてザラに存在してるし。
>>90
誘爆させる物が無いんだから必要なくね?ってこと何だけど。
目覚めそうだから、体晶なきゃやべーって話でしょ?
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/27(金) 12:49:00.43 ID:NVQoIfsNo
>>91
普通の植物状態と一緒かどうかわからんだろ
つか、考察したいなら素直に原作の考察スレいけよ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/27(金) 13:48:13.83 ID:C1lj+8mf0
乙です。
今回は静かに、だけど確実にそれぞれ物語が進行したな。
美琴はむぎのんに誘導されて実験を知るのか。
ヒーローには先にヘタ錬さんが待ってるけど
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 16:28:33.92 ID:x4GUnQRDO
>>92
そちらが始めたんだよ。
>>88はただ作者氏の意見が見たかっただけ。

そしてその考察に対してだけど。
もう直ぐ目覚めるんだよ
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/27(金) 17:12:10.83 ID:YRGtIgjAO
そんな事より、光子さんのおっぱいがどれ位大きいのか語ろうぜ
完埋パイズリが出来るかどうかが問題だ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/05/27(金) 17:45:54.76 ID:fRajnycF0
いくらデカいって言っても中学生だからなぁ
体が細くて小さいから相対的にデカく見えるだけかも知れん
まあ十分なんだけど
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 19:51:09.68 ID:JJQyMlQ00
確か、固法先輩と1〜2cm違い位だったよ
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 21:08:29.64 ID:FjlDLDyIO
なんか最近あっちこっちでやれ雑談すんなだの考察すんなだの喧しいのが増えたなペロペロ
99 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 22:44:18.30 ID:nh2VzsUMo
>>88
言われて初めて気づいたな、その打開策。
んーでも、能力者10人、それも植物状態のを学園都市の外に連れ出すって大変なんじゃ?
木山先生には無理かなーと思う。
この辺は話のロジックとして重要なので議論の対象にしたい。

>>95-97
胸でご奉仕は無理なんじゃねーかなあ。中学生だし。
つか悠々とそういうことできるサイズってEカップとかその辺からだよね?
>>97の情報はすごくソースが知りたいんだけど、俺の脳内では光子さんはCかDのあたり。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/05/27(金) 22:56:25.00 ID:Qs1wQfW6o
>>99
もてた方でも呼ばれてるし忙しいなwwwwww

Eなら余裕だが、お互い欲望に素直になれないとできねえよ。パイズリなんて。
上条さんみたいな童貞がいきなりそれはハードル高杉だろwwwwww
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(97) [sage]:2011/05/27(金) 23:08:05.39 ID:JJQyMlQ00
>>99
ソースは禁書/超電磁砲の解説Wiki「禁書目録 index」
婚后光子
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/314.html
B・W・H:84・[※39]・83(※超電磁砲BD5巻特典ブックレットにはW59とあるのでタイプミスかも)
固法美偉
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/1873.html
B・W・H:85・60・81
御坂美琴
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/167.html
B・W・H:78・56・79
上の2人と比べると美琴小さいように思えるけど、中学生にしては平均より少し大きいのかな?
アンダーとトップの差は不明だから、カップは水着回で想像するしかないね。
102 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/27(金) 23:20:46.17 ID:nh2VzsUMo
ありがとう。あんまり大きくないね。
『美少女、バストカップ数測定スクリプト』でカップを概算してみたんだけど、
固法先輩がDで光子がDに近いC、美琴がBって評価だった。
アニメの固法先輩の描写、あれどう見てもDどころじゃなかったような。

あ、光子のウエスト59cmで計算した結果な。39って病気でしょ。
39cmで計算するとなんとIカップに・・・・・・

>>100
忙しいうちが花ですな。うん。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/27(金) 23:56:40.94 ID:otBQHMNR0
>>99
でも最近の漫画版超電磁砲見る限りEカップぐらいありそうだよね。

話変わるけど、俺は今年の三月にこのSSに出会って、自分が理系の人間であるのも影響して完全にはまりました。
一度、初春の能力である『定温保存』が「発火能力」の亜種なのか、それとも>>1の言う通り情報操作系なのかじっくり話してみたいです。
僕的には能力が空間固定の一種で、成長した初春と出所した絶対等速さんがガチバトルするって展開を妄想してたりします。

そしてここ最近の漫画版超電磁砲における光子さんの優遇っぷり、正直>>1によって光子さんスキーにされてなっかったら今みたいに楽しめてなかったと思う。このSSのファンとして原作で光子さんが出てくると嬉しいし、素晴らしい二次創作にであえるのは原作のファンの特権だと思ってます。そのおかげで更新を待つのが毎日の、電撃大王の発売を待つのが毎月の習慣になってます。2倍どころじゃない相乗効果に改めて二次創作の意義を見出せました。もちろんSSとしてのクオリティーにはもう言及する必要はないでしょう。

長々と書きましたが、何が言いたいか説明しますと
『上条「光子ってかなり美味いよな」』胸でご奉仕編
を書いてくれると嬉しいなってことです。

長文失礼しました。たちの悪い感想程度に思ってください。

これからも執筆活動も応援してます。  
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/28(土) 01:21:19.24 ID:FWY37MF1o
乙ですた

子供を学園外にって話がありますが、学生の8割を巻き込むんですぜ?
それはとても貴重なデータになるっしょ。
箱の中のアレはむしろそっちを優先させるっしょ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/28(土) 04:09:27.77 ID:8FsakbJ6o
>>104
壊れちゃったらヒューズさん出れませんやんか
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/05/28(土) 07:59:24.32 ID:EOD+UjdBo
まあ、学園外に云々はぶっちゃけ☆の計画ですんじゃう話だし
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/28(土) 09:31:09.82 ID:LSQcwHpDO
ミサカネットワークみたいに距離があんまり関係ない、多少の減衰くらいの影響しかない、から離しても意味ないとか。

おっぱいの偉大さに大きさなどあまり関係ないようにな
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/28(土) 21:19:40.00 ID:O3GKOuWeo
木原一族ならこういうめんどくさい被験者が無断で都市の外に出ると
証拠隠滅のためにオートで脳死させる微少機械くらい仕込みそうだ。

学園都市から外出するときはなんか注射する って話があったよう
なのから考えてみた。
109 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/28(土) 23:23:49.30 ID:b4BV+tQLo
>>103
理系ホイホイを上手くかけてるとしたら嬉しいことだ。うむ。そして妄想は文に起こそうじゃないか。
このSSで原作の味が増したなら本当にありがたいですね。描いてる甲斐があるというものです。
光子さんが18禁シーンに到達するのは一体いつのことだろう。。。
作品の雰囲気壊すかなあと再構成じゃ18禁は自重するつもりなんだけど。未来編があれば、そのうち。
それか番外としてかな。

学園都市を出られないかって件はどうにでもなるから答えは出ないかな。うん。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/29(日) 00:53:04.30 ID:I/lUxFos0
久しぶりに覗いてみたらなにやら議論が白熱してるな。
学園都市から出られないって件は単純に、技術漏洩のリスクを考えればいいと思う。
学園都市のことだから外部の医療機関に被験者を見せるくらいなら、
処分してしまう可能性が充分考えられる。
ましてやチャイルドエラーともなれば生かして学園都市から出すわけないだろう、
文句をいう保護者も存在しないし。

コレならもっともらしいんじゃないだろうか?
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 06:50:12.38 ID:Ebt2fJSSO
真面目な話からおっぱいの話まで……忙しないなお前ら

若干おっぱいの話題の方が白熱しているっぽいのは気のせいか
俺が食いついてるだけなのか
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/29(日) 08:57:15.39 ID:oJjb+2tB0
それだけこの作品と光子ちゃんが好きなんだよ皆
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/05/29(日) 11:12:46.20 ID:DzsEJ3xh0
俺は光子だけじゃなくエリスや美琴やむぎのんのおっぱいも大s(ry
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/29(日) 13:23:32.44 ID:aQxjogh9o
おっぱいには喰いつきたくならないか?
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/29(日) 13:30:56.82 ID:dWAKM7v+o
むしろ手の甲や肘など、硬い部位で接触すると柔らかさが際立つと思うの。
これって、トリビアになりませんかね?
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/05/29(日) 13:37:29.88 ID:I/lUxFos0
お前たちがおっぱい大好きなのはよくわかった
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/29(日) 17:23:23.64 ID:CnAxGInAO
ただのパイオツじゃぁ駄目だ
おっぱい年齢と精神年齢に差があるほうが、よりおっぱいは輝くんだよ
例えば、ランドセルの紐で肩が引っ張られ、さらに強調されたEカップのロリデカパイには目が惹かれるだろ?
年の離れた姉や、小悪魔系お姉さんが四つん這いで迫って来たら、胸元から覗くまな板パイパイをガン見するだろ?
そう言うことだ
まあ、ロリ巨乳(合法ロリ含む)の方が、断然魅力的だがな
ちっぱい(笑)貧乳はステータス(爆笑)
118 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/29(日) 18:56:40.82 ID:SLlGMAMSo
お前らどんだけおっぱい好きなんだよw
なんかシリアスな続きを投下する俺が空気読めない人みたい。
119 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/29(日) 19:19:21.45 ID:SLlGMAMSo

「はぁ、夜を潰して来たは良いけど、空振りか」

軽くため息をついて、美琴は変装用のキャップのつばを整えた。
明日木山を問い詰めようと約束したその夜に、美琴は木山と木原幻生の勤めていた研究所を探っていた。
発電系能力者としての能力を最大限に活かせば、自分ひとりならセキュリティなんてどうにでもなる。
美琴はそう思って一人でここに来たが、電気も通っていないここにはセキュリティなどという言葉もなかった。
打ち捨てられた計算機に慎重に通電して調べては見るものの、中に入っているのは、
当然のことながら打ち捨てられて問題ないような、どうでもいいデータばかり。

「帰ろ。今からならちゃんと寝られるし、まあ、可能性を潰すってのも必要よね」

奥まった部屋を抜けて、大きな廊下へ出る。そして堂々と、明かりのないエントランスから美琴は外に出た。
治安対策なのか、無人のビルの外壁についたライトなどは光を放っており、
敷地を抜ければそこはもう、ギリギリ普通の世界の側だった。夜に女性の歩く場所ではないが。

「さて、どうやって帰るかな、っと」

帰りの足について考えをめぐらせようとしたところで、
美琴は進行方向を遮るように人が立っていることに気がついた。
――――気づかれてた?
腰を低く落として、敵襲に身構える。

「よう。御坂美琴サマ、で合ってんのかい?」
「……」
「まあ間違ってても、俺はアンタに渡すだけだからどうでもいいけどさ」
「私がその御坂美琴様だったら、何なの?」
「ちょっと手渡したいものがあってな」

そう言って、影に身を潜めて姿を見せなかった声の主が電灯の下に出てきた。
どこにでもいそうな、普通の不良。もしかしたら恨みでも買っていただろうか。
なんにせよ、恐らくは打倒するのに問題はない。
無能力者が相手なら銃を持っていたって、美琴は勝てる。あのバカ以外なら。

「スタンガンのショックでも手渡したいの?」
「そんなことは考えてねえよ。つか、御坂美琴って常盤台のレベル5の名前だろ?
 アンタがそうなら俺は何やったって勝てないんじゃないのか?」

口ぶりから、どうもこの不良はただのメッセンジャーなのだろう。

「誰の差し金でこんなことしてるわけ?」
「言わなかったらどうするんだ?」
「言わせるけど?」
「……兄貴だよ。兄弟じゃなくて、この辺の不良を取りまとめてた人だ。
 けどまあ、その兄貴も多分、誰かに頼まれたんだろうけど。そこまでは知らねえよ」
120 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/29(日) 19:23:01.34 ID:SLlGMAMSo

その兄貴とやらの名前を聞き出すか、と美琴が思案したところで、
不良が胸元から一通のメッセージカードを取り出した。
まるで似つかわしくない、ピンクとオレンジが可愛らしい、花柄のカードと封筒。

「とりあえず、これ受け取ってくれ。招待状だ」
「はぁ? 何処に案内してくれるわけ?」
「知らん」
「……」
「俺は頼まれて、お使いをしているだけだからな」
「ストーカーもやってんじゃないの?」

何処から美琴を補足していたのだろうか。
常盤台の寮を監視していたというのなら、まさにストーカーだ。

「俺は知らない。ほら、読んでくれよ」
「アンタが取り出しなさい」
「……疑り深いな、アンタ」

美琴はその挑発に取り合わない。
金属が仕込まれていないことは感覚で分かるが、好き好んで罠にかかる必要もない。
不良は無造作に、封筒からカードを取り出し、美琴に見せた。

「本日夜12時より、第七学区西端の廃車場にて、貴女をお待ち申し上げております。
 ――――貴女の妹達より」

読み上げた美琴の目線が差出人の名に届いた瞬間、美琴は表情を凍らせた。

「妹……達?」

ありえない。その名は。その計画は。だって消滅したはずだ。
美琴の驚きを理解しなかったのか、不良は美琴の驚きを眺めるだけだった。

「読み終わったか? なら招待状は置いていくから、好きにしてくれ」
「待ちなさい」
「……帰してくれよ。頼む」
「ふざけないで」
「ふざけてねえよ。怪我なんてしたくねえんだよ」
「じゃあ知ってること洗いざらい喋ってから消えなさい」
「何も知らねえよ。そうじゃなきゃ誰がタイマンでレベル5の前に立つか。
 っておい、落ち着いてくれ! 本当に何も知らないんだよ!」

男は美琴の背後でチリチリと放電が始まったのに怯えて、後ずさった。
聞けたのは、その先をたどることも出来そうにない、うだつの挙がらない不良の名前だけだった。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/29(日) 20:30:10.20 ID:q2NcWwxpo
はまづらっぽいような、そうでもないような

このスレは読者の長文考察が多いな、>>1の人柄かね
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/29(日) 20:46:03.80 ID:ozSNQp9AO
誰だろう? 乙
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/30(月) 01:10:38.82 ID:soDaN6vIO
>>121
元々の動画先の影響だろう
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/30(月) 01:11:16.99 ID:soDaN6vIO
投下先な
125 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/30(月) 12:02:05.20 ID:5G+BCwo6o

「ごちそうさん、っと。上条のメシ、結構いいじゃん」
「そりゃどうも」

夜ももう遅くになって帰ってきた黄泉川に、当麻は新妻並に甲斐甲斐しい世話を焼いてやっていた。
インデックスはテレビを見ているうちに眠ってしまっていた。
黄泉川が帰らないうちはベッドに入ってくれないから困り者だ。

「なあ上条」
「なんですか?」
「婚后は元気してたか?」

今日は黄泉川は病院に行かなかったらしい。まあ、保護者であるとはいえ他人は他人なのだ。
元気そうな光子のために毎日足繁く通うのは当麻とインデックスくらいだった。

「ひたすら退屈だって愚痴ってましたよ。まだ検査がしたいのかって」
「……」
「先生?」
「ああ、すまん。ちょっと、あそこの施設には気になることがあるじゃんよ」
「気になることですか?」

研究所というだけあって、病院らしさは少ないと当麻も思っていた。
しかし医師はちゃんと常駐しているし、清潔感もある。

「まあ施設がというよりは、所長のテレスティーナさんがな」
「いい人そうですよね。話したことはないんですけど」
「いい人、ね。確かにそう見えるじゃんよ」

ただ、黄泉川はテレスティーナと言う人に、どこか引っかかりを覚えているのだ。
いい人というのは目の前の上条みたいなのを言うんだろう。コイツはバカっぽくて、裏がなくていい。
打算を感じさせない点は好感がもてる。テレスティーナは、底が見えなかった。
その言い方に何かを感じたのだろう。上条がそういえば、という顔をした。

「夏祭りの日だっけな、夜に光子の見舞いをした帰りに、大学生くらいの女の人と喋ってるのを聞いたんですよ。
 内容とかはちゃんと覚えてないですけど、なんか怖い雰囲気でしたね」
「ふーん」
「なんだっけ、何かを頼まれて作ったような話だったと思うんですけど。体……晶だっけな」

当麻は、話の種にでもなればいいやという程度のつもりで話したことだった。
あやしげな薬なんて学園都市にはありふれているから、仮に当麻がかすかに聞いただけの話が真実だとして、
別に大したことだなんて思わなかったのだ。
だが、黄泉川の反応は予想と全く違っていた。
帰宅後の弛緩した空気を一瞬で吹き飛ばして、酷く真剣な表情だった。

「上条」
「は、はい」
「体晶って、お前言ったか?」
「いや、うっすら聞いただけなんで自信はないですよ?」
「そうか」

しかし黄泉川はそれを聞いても上条の話への評価を下げることはしなかった。

「春上と婚后に連絡はつくか」
「へ? 春上さんの連絡先なんて知りませんよ」
「……いや、春上はいい。婚后にとりあえず連絡して、明日すぐ、退院するように言え」
「はい?」

――黄泉川は、体晶という薬が持つ効力を、充分に理解していた。万が一能力者に投与すればどうなるかを。
だから、テレスティーナと体晶という言葉につながりを感じ、そしてそれを自分の直感で納得してしまった今、
彼女の元に春上と、そして光子を置いておく気にはならなかった。
幸い光子はもう退院できるだけの元気な体だ。自分の心配がただの杞憂なら後で笑えば済むこと。
明日にでも、当麻に迎えに行かせる気だった。
しかし春上は症状が根治したわけではない。病院が退院など許すはずはないだろう。
自分の疑いを確たるものにしておかなければ、のらりくらりとテレスティーナは追求を免れるに違いない。
遅い夕食の余韻もすっかり忘れて、黄泉川は明日自分がすべきことを練った。
126 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/05/30(月) 12:02:57.32 ID:5G+BCwo6o
>>121
はまづらは10月までスキルアウトで楽しくやってるんで、今はアイテム傘下にはおりませぬ。
というか極普通のモブのつもりでだしたんだよごめん。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/05/30(月) 19:13:56.76 ID:q59SOHu00
複数の視点から話を進めているからやはり忙しないな
全く問題ないがな

もてたの方ではああなってますが、こちらはどうなるのですかな
128 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/02(木) 01:19:42.91 ID:+xhrjPTeo

美琴は黙って道を進む。今いる場所はもう、表通りではない。
見えるところに姿こそないが、ここはもう学園都市にまつろわぬ学生達が跋扈する領域だった。
ドラッグをやろうが、純粋無垢な表の世界の住人の体を弄ぼうが、ここには止める人間がきっと来ない。。
きっと廃車場という施設がその雰囲気を垂れ流している原因なのだろう。

「妹達<シスターズ>……ね」

美琴は定刻よりも前に、窓ガラスが割れボンネットがぱかりと開いたグシャグシャの車が幾重にも重なった場所、
すなわち指示された廃車場に着いていた。
少なくとも美琴が感知できるような罠はない。
非金属で出来たトラップなら必ずしも感知はできないが、それも可能性としては低そうだ。
あと15分以上はある。眠気なんてあるわけもなくて、余った時間をどうするかと思案したときだった。



パズルのピースがはまるような感覚。あるいは自分の中のなにかが共振するような感覚。
言葉にしがたい不思議なシンクロニティを、美琴は感じた。



弾かれたように辺りを見回す。今、自分が感じているこれは、何だ?
改めて周囲を目視でスキャニングしていく。光学的情報を欲してのことではない。
美琴に近い大能力者の発電系能力者でもないと出来ない、視覚器官、つまり目を利用した電気力線の把握。
学園都市を広がる電磁波など、洪水同然だ。その中から意味ある情報など掬えるはずもない。
だが自分が無意識に発する電磁波なら話は別だ。それなら、特徴を知り抜いているのだから。
今、自分がどこかから感じ取っている電界の変化は、まさしく自分が纏っているそれに瓜二つだった。
――その事実が意味するところは、一体なんだろう。
答えはすでに自分の中にあるかもしれなかった。だが、美琴はそれに気づかないふりをして、発生源を探る。
フェンスの向こう、そう遠くない場所らしかった。

廃車場を後にして、広場に出る。
高速道路の高架下。擦れたタイヤが出すチリで周辺の建物が黒ずむあたりは、学園都市の外と変わらなかった。
その下に、誰に飲ませるためなのかと問いたくなるような、自動販売機が一台。
そして。その目の前に、良く知った制服に身を包んだ、女子中学生が三人。

「――――」

言葉が出なかった。何を言えばいいのか、頭が真っ白で分からない。
自分と同じ、御坂美琴の姿をした誰かが、そこにいた。
いや、誰かなどとは言うまい。招待状にあったではないか。『妹達』と。

「ネットワークに接続していない個体ですか。ナンバーを、とミサカは目の前のミサカに要求をしてみます」
「それは冗談ですか? 9982号」
「可能性としてありえないほうをミサカは口にしただけです。そしてどうやら目の前のこの方は、ミサカではない様子」
「ごきげんようお姉さま、とミサカはやや緊張しつつファーストコンタクトを取ります」

全く瓜二つの姿をした三人。いや、美琴を入れれば四人。
驚きを見せず無表情に見つめる三人と、ガラガラと自分の信じてきたものが崩れ、愕然とした表情の一人。
美琴は、世界がクラリと平衡感覚を失っていくのを感じた。

「なん、で――」

失敗に、終わったはずだ。樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>が間違うはずがない。
美琴のクローンを作ったとして、それはたかだかレベル2程度の、使い道のない能力者でしかないはず。
事実、目の前の三人から脅威になるような能力を一切感じない。
美琴の疑念に答えてくれるのか、三人のうち一人が、こちらを見て呟いた。

「お姉さまが能力を使って自動販売機から清涼飲料水を不法に奪取しているという噂は真実ですか、
 とミサカは今最も気になっていることを問いかけます」
129 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/02(木) 01:21:15.05 ID:+xhrjPTeo
いかん、締め切りが色々と多くてなかなか書けない。すまんの。

>>127
そうそう、視点が変わりまくるからそれがなかなか大変やね。
こっちも今回は一つ山場だなあ。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/02(木) 17:38:31.07 ID:nyxVdNYI0
もてたの方、お疲れさまでした。

自分気の長さに定評があるんで大丈夫っす
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/06/02(木) 22:17:44.01 ID:17OCPq3So
3つのエピソードが同時進行中か・・・・
どう影響しあっていくんだろ?

あと「もてた」完結お疲れ様でした。
132 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:51:28.99 ID:Q7AbDl8Oo

「え……?」

それは、冗談だったのだろうか?
あまりに場違いでくだらない、目の前の自分に瓜二つの少女が放った言葉に、美琴の脳は処理を上滑りさせた。
日本語としては理解しているはずなのに、何を言っているのか、さっぱり分からない。

「法規に反することを無闇にすべきでないことは我々も理解していますが、お姉さまがされるのであれば、
 我々が真似ても許容されることのように思います、とミサカは正当化の論理を並べてみます」

身構えたこちらが、馬鹿だったのだろうか。
彼女達が恐ろしい人間のように思えたのは、得体の知れない相手に自分が投影した恐怖だったのかもしれない。
素直な目で見れば、目の前の三人は、自動販売機に群がるただの学生にしか見えなかった。

「発電系能力者として、やはりお姉さまもインテリジェントな過電流で制御系を破壊もしくは書き換えたのでしょうか、
 とミサカはお姉さまが乱暴な真似をしなかった可能性を希望的に述べてみます」
「人を見境なく自販機を壊す破壊魔みたいに言わないで」
「違うのですか」

三人の瞳が、いっせいに美琴を貫いた。おもわず、それに怯んでしまう。

「アンタ達。私の――――クローンなの?」
「はい」

その即答はあまりに軽かった。しかし、そのあっさりしすぎた肯定は、美琴の心を打ちのめした。

「あの計画は、凍結した筈でしょ? 現にどう見たって、あんた達レベル2程度でしょ」
「我々は確かに、個々の能力はレベル2相当ですが、とミサカは事実を認めます」
「なんで、アンタたちが、ここに存在するの?」

答え如何によっては、暴力的な手段に訴えてでも尋ねる気だった。
その美琴の鋭い視線を受けても眉一つ妹達は動かさなかった。
その無反応ぶりは得体が知れなくて、ひどく美琴の心をざわめかせる。
三人のうち一人が、美琴に確認をとった。

「ZXC741ASD852QWE863'、とミサカは符丁<パス>の確認をとります」
「え?」
「やはりお姉さまはこの計画の関係者ではないのですね。それでは先ほどの質問にはお答えできません」
「いいから答えなさい」

パリッと、美琴の体から誘導電流が走った。
逃げ場を欲する電子の流れは、導体として妹達を狙っていた。
美琴がその気になれば、目の前にいる三人の発電系能力者など、無能力者と変わらぬ扱いを出来る。
そう、妹達に教えたつもりだった。

「関係者以外には計画の内容をお教えすることは出来ません、とミサカは規則を繰り返しお姉さまにお伝えします」
「いいから、答えなさいっつってんのよ!」
「いくらお姉さまといえど、関係者ではありませんから」
「力づくででも聞き出してやるわよって脅してんのがわかんないワケ?!」
133 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:52:22.98 ID:Q7AbDl8Oo

ミサカと自販機の隣に立った電灯が一本、犠牲になった。
大過剰の電流で派手にダイオードを散らして、辺りに暗闇をもたらす。

「お姉さまが拷問慣れしているとは思いませんが」
「それにやっても詮の無いことです」
「50万円の損失では、この計画は止まりませんから、とミサカは事実を端的に指摘します」
「……何を言っているの?」
「お姉さまが我々を毀損した場合に生じる不都合は、我々の製造コストである単価18万円の三体分と、
 製造と調整にかかる数日間という時間です。どちらも計画にとっては無視小です」

淡々と、化学試料の調整レシピでも語るように。
御坂美琴のクローンたちは、自分達の価値<コスト>をそう評価してのけた。
その、あまりに自己愛のない、突き放した感情に美琴は恐れをなした。
この子達は、自分が死ぬことを恐れていない。怖くないとか、そういう人間的な考えじゃない。
死ぬことに意味がないと思っているからだ。

「……聞いても口は割らないって、言うわけね」
「はい」
「そう。なら勝手にしなさい。どうせそのうち研究所か何かに戻るんでしょ? 勝手に尾けさせてもらうわ」
「……」
「で、今からあんた達は何するわけ?」
「ジュースを、買おうと思っていたのですが、とミサカはここにいる理由を説明します」
「ですが生憎、持ち合わせがありません」
「それでお姉さまの真似をしようかと、話し合っていたのですが」

自分達の話をするときとまったくトーンを変えずに、三人はもとの興味の対象である自動販売機に目線を戻した。

「言っとくけど私は電流で自販機を壊すなんてこと、滅多にしないわよ」
「普通は絶対にしないものですが、とミサカは法律遵守の精神に乏しいお姉さまをかすかに哀れみます」
「しかし困りました。正規の手続きでジュースを買い求めるには、我々には所持金が足りません」

妹達からは、一切の悪意を感じなかった。
会えば死ぬと言うドッペルゲンガーのような凶悪さもないし、性格を改変されたような痕跡もない。
ただ、希薄なだけだ。
警戒心を解いたつもりは、美琴にも無かった。だが美琴はポケットから紙幣を抜いて、自販機に突っ込んだ。

「お姉さま?」
「別に。これから朝まで付き合ってもらおうってんだから、喉を潤すくらい普通でしょ」

ピッという音の後に、スポーツ飲料が口から吐き出された。
自販機がくわえ込んだ残額を表示している。もう三本分くらいはあった。

「要るんならボタン、押しなさいよ」
「いいのですか? とミサカは太っ腹なところを見せるお姉さまに一応確認をとります」
「私の気が変わらないうちにさっさと押しなさいよ」
「……では、お言葉に甘えて」

誰がどれを選ぶのか、ああでもないこうでもないとにぎやかに話し合った後、
三人は紅茶とオレンジジュースとコーラを選択した。
134 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:53:29.64 ID:Q7AbDl8Oo

「いただきます」
「あーはいはい」

手つきになれないところは無かったのに、初めて見たようにじっと缶とペットボトルを眺め、
三人は三様に、ジュース類をぐびりとやった。

「舌に乗る渋味の収斂感がディンブラ三の茶葉のよさの一つとミサカは記憶していますが、
 これはそのような繊細さのある渋味ではありませんね。また保存料のデキストリンとビタミンによって
 紅茶以外の匂いがつき、またそれを隠すために香料で香味の上書きを行っています。
 水をまだしもマシな味にして飲むというお茶の起源に立ってみればこれでいいのでしょうが、
 ミサカはこれをお茶とは認めません」
「このオレンジジュースも加水加糖によってオリジナルの味からはかけ離れたものになっていますね。
 オレンジのpHを考えればペットボトルの量を気軽に飲めば胃の調子を悪くすることくらいは予想できますが、
 かといってこのように改変されたものをオレンジジュースと呼ぶことに違和感を覚えないものなのでしょうか」
「自動販売機で手に入る飲料にクオリティを求めるなど、おかしなことです。その点でコーラは完璧ですね。
 人口甘味料と香料で作られたこれは、劣化などという概念とは無縁です」
「アンタ達ジュース一つでどんだけ語るのよ……」

高々100円で買える飲料なのだ。
評論などそもそもするに値しないと思うのだが、あるいは彼女達はあれで楽しんでいるのかもしれない。

「そうは言いますが我々はこれも初体験のことですから」
「……そう。悪かったわね」
「お気遣いは無用です。むしろこのような楽しみに触れる時間があったことを喜ぶべきでしょう、
 とミサカはお姉さまにジュースのお礼を伝えます」
「いいわよ別に、これくらい。お礼がしたいんならアンタ達の秘密をばらしてくれればいいわ」
「それはできませんが」
「そ。……ならまあ、時間はあるんだから、符丁の解読でもさせてもらいましょうか。
 悪いけど、ここから動かないでね」
「これは……」

美琴は遠くの地面から、そっと砂鉄を引っ張ってきた。そして、手錠の形にして妹達の手に嵌めた。
三人は互いの手を繋ぎあって、そしてその端が電灯に噛んでいた。
そして自分はというと、その間となりにある公衆電話のボックスに入った。
端末を繋ぎつつ、初春に連絡を取った。もしかしたらもう寝ているかもしれない。

「もしもし」
「あ、初春さん。夜分にごめんなさい」
「どうしたんですか御坂さん? もしかして、木山の件で……」
「え? うん、ごめん。それとは違うんだけどさ、ちょっと、助けて欲しいことがあって」
「はあ……」
「ZXC741ASD852QWE863'って符丁、解読できる?」

暗号解読の話になった瞬間、初春が明晰な回答を瞬時に口にした。
学園都市が暗号のコーディングに使う数式や解読の仕方など、ざっと教えてもらって電話を切った。
何か、木山の件について話したがっている素振りがあったけど、今は聞く余裕がない。
それは確かに美琴にとっても重要なはずだったのに、今は気持ちを割く対象にならなかった。
135 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:55:37.94 ID:Q7AbDl8Oo

外をチラリと見ると、美琴の飲み残しのスポーツ飲料に手を出しているようだった。
わからない。暢気なその思考回路が、さっぱり理解できない。
一体何をするために、妹達は生み出されたのか。
符丁の解読が終わった。上位権限を持つ適当な研究者のアカウントをハックして、
美琴はその計画書に、手を届かせた。

「絶対能力進化<レベル6シフト>……?」

タイトルは、あまりに壮大だった。レベル2の能力者なんて使っても、どうにも届きそうにないような。
まだ能力者のクローンを軍事転用する量産能力者計画<レイディオノイズ>のほうが現実味があった。
騙されているのではないかというような、半信半疑な気持ちで美琴はディスプレイをスクロールした。
――――そんな優しい現実なんて、そこにはなかった。

いくらも読み進めないうちに、美琴は心の中でガラガラと何かが崩れていく音を聞いた。

学園都市の掲げる大目標の一つである、絶対能力<レベル6>の超能力者の輩出。
その高みに届く能力者はただ一人、学園都市第一位、一方通行<アクセラレータ>のみであると、
樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>がはじき出した。
通常の時間割<カリキュラム>では250年という非現実的な時間を要するため、
戦闘による能力の成長促進を試みる。その相手は、第三位、超電磁砲。
しかし超電磁砲を持ってしても進化には128回の殺害数を要し、
当然128人の御坂美琴を用意できないことから、その代替として、妹達を使う。
計画のために生産される妹達は20000体。その全ての殺害をもって、計画の完了となる。
――――そんな、計画だった。

「ハハ……さすがにこれは、嘘でしょ。こんな無茶苦茶なこと、できるわけ、ないわよ」

どさりと、電話ボックスの壁に背中を預けて、ずるずるとへたり込んだ。
透明の壁の向こうには、美琴を無機質に見下ろす、三対の目。
この計画書がダミーだというなら、一体目の前のクローンは一体なんだというのだ。

「ねえ」
「なんでしょうか、とミサカは問いかけに応じます」
「アンタは、一方通行に殺されるために、ここにいるの?」
「……計画書を読まれたのですね。それでは、隠しても無意味ですね」
「私達は絶対能力進化の一実験を実施するための部品です」

淡々とした返事を、ミサカたちは返した。
美琴はそれが、怖い。
136 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:57:29.86 ID:Q7AbDl8Oo

「なんで……。なんでアンタ達そんな平気な顔してんのよ!」
「どうしてと言われても。我々は単価18万円で替えの利くものですから」
「試料など、1グラム1万円、1ミリリットル1万円の世界でしょう。それに比べれば我々は使い捨てに向いています」
「それにもう、およそ1万体が消費されています」
「え?」

いちまん、たい――?
もう、美琴の頭の中は、いくつ機能を麻痺させただろう。
いっそ理性を麻痺させてくれればいいのに。美琴は本気でそう願った。
私が、私の選択が、1万人の妹達を、殺した?
あの日遺伝子マップを提供したことが、今日、今に繋がっている?

「今更我々三人が計画から外れたところで、何も変わりはありません、とミサカはお姉さまに現実をお教えします」

嘘だ嘘だと叫び倒す心と現実を把握しようとする心が、美琴の体を引きちぎりそうだった。
この計画書に従って、この子達が目の前に要る理由を考えれば。

「アンタ達。今から『実験』に行くつもり――?」

時計を見る。定刻はもう、過ぎている。
歩いて二三分の廃車場にはきっと、一方通行が待っている。

「行かせない」
「お姉さま?」
「アンタ達なんて好きでもなんでもないけど。目の前で、死なせたりなんてしない」

電流で手足の自由を奪ったっていい。
自分のせいで死んだ人がいるなんて、そんな事実を、美琴は認められない。
少なくとも、目の前の人を死なせるなんて。

「お姉さまの決意に水を差して恐縮なのですが、とミサカは前置きをします」
「え?」
「今日の実験は終了しました。我々は先ほどより、お姉さまの足止めを担当していました」

残り一万対もいるのなら、何も今日、この三人が実験に立ち会う必要はない。
どの妹も全く同じスペックなのだから。
美琴に掴まったあとにわざわざ振り切って実験に向かったりなど、する必要がないのだから。
誰か別の個体が、一方通行の『実験』に付き合えばいい。

「嘘」

そんなの、やめてよ。
冗談だって誰か笑ってよ。
今、妹達にジュースを奢って、暢気に調べものなんかしたりしたその裏で。
私のせいで、妹達が死んでたなんて。

137 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 00:58:39.44 ID:Q7AbDl8Oo
美琴の絶望感が出てるかな。。。
>>130-131
あっちもよんでくれてありがとうございました。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/03(金) 14:09:05.58 ID:ToPAwI6So
光子たんパートと比べると、どうしても目がすべるな
説明的過ぎて心にこない
厨二なポエム読んでるような
ミコトの内心ばかりじゃなくてもっと客観視な情報も欲しい

>>128
Synchronicityだぜい
139 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 14:50:48.73 ID:DRrPncIr0
そうかー。。。心にこない中二病的ポエムかあ。。
ちょっと二三日置いて書き直すわ。ごめんね。
まあ、反応が悪いから問題はあるんだろうなとは思ってたんだけど、
言われてみると必要な情報を並べることに傾注してしまってたような気はする。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 16:54:39.78 ID:yYF+iPlbP
なんかあんま面白くない部分だから反応しようがないってのはある
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/03(金) 17:22:21.05 ID:oHNoRfPD0
「乱雑開放」「吸血殺し」「アイテム編」「絶対能力進化」の4ストーリーに加えエリスと佐天さんの修行まで並行して複雑に展開してて、感想が書きにくいだけだから、あまり心配しなくてもいいと思うよ。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 17:24:15.67 ID:PCCiAtLW0
え。シスターズ好きだからかもしれないけれど、面白かったぞ、俺は。
少なくとも、垣根パートよりは面白い。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/03(金) 17:30:14.13 ID:Wj+T+8BJo
ここら辺は腕の見せ所だな。つっても、プロじゃねえんだからあまりごちゃごちゃ言ってもしょうがないとは思うが。
2,3日置くってことはさらにレベルアップするつもりだな!佐天さんほど急激なレベルアップ期待してんぜ!
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/03(金) 17:33:59.32 ID:5fcxN7Hko
俺も結構好きだな。ただ、最後はちょっとポエムすぎる気がした
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/03(金) 17:37:46.64 ID:5fcxN7Hko
俺も結構好きだな。ただ、最後はちょっとポエムすぎる気がした
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/03(金) 18:13:48.59 ID:IuwSGsmEo
ちょっと平板だけど、それは新しい話に入り始める部分だから仕方ない気も
する。いつもヤマ場ってのもちょっと疲れそうだし。
あと妹達編は題材に使う人が多いから読み慣れてるってのもあって斜め読みに
なっちゃうのかも。このエピソードを目新しくするのって大変そうだ。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/03(金) 18:53:07.38 ID:sWSqhq1po
乙ですた。
いや、ビリビリの絶望感とか色々描写のこってり感は流石の一言。
あえての独白表現は効果的だと思ったんすけどねー。
…自分はちょっと仕事が忙しくて反応できなかったのもあるのでちょっと反省。

いやほんと、相変わらずのクオリティと思いますよ?
妹達についても浮世離れした描写とかいいし。

まあ、何が言いたいかっていうと。
次回も楽しみにしてますよー
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/03(金) 19:06:18.58 ID:p7s5qEwr0
更新乙です。
原作には出てない吸血鬼のエリスが出てるから「吸血殺し」の方が進んでるときはハラハラする。
「乱雑解放」の方も佐天さんやら光子ちゃんやらのおかげで変わってるから楽しみである。
オリキャラやら一部のキャラの成長や参入のおかげで細部が変わって、先が読めない部分があるのは面白い。
けどどうしてもこの時点の「妹達」はは想定の範囲内って感じが否めない気がする。
>>146の言うとおりここを目新しくするのは大変かも知れませんが頑張ってください。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 20:04:27.24 ID:rwpyYnpI0
独白は「!}などが無く句読点がしっかりしてる分、美琴の感情が伝わり難くなってるかも?
それも見方を変えたら感情的にも嵐の前とも読み取れるし、特に書き直すことは無いと思うけど
やっぱり思う通りに進めるのが1番ですよ。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 22:58:43.78 ID:+++9NQcSO
貧乳がメインじゃ駄目だってことだよ
言わせんな恥ずかしい



本当に恥ずかしい
151 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/03(金) 23:37:34.79 ID:Q7AbDl8Oo
感想いろいろとありがとうございます。
反応してなかったけど>>138で教えてもらったスペルミスを思い込みでやらかした自分が恥ずかしいな。。。

感想がつきにくい件はあんまり悲観的にならんようにするね。
美琴と妹達の邂逅っていう原作のトレースをせざるを得ず、展開に目新しさがないのは、
まあ、確かに仕方のないところじゃないかなと思うし。
>>147みたいに謝ってもらうことなんて勿論何もないんだけど、
感想が付かないとブレてしまう書き手のメンタルもある程度斟酌してもらえると嬉しい。
とはいえ経時変化の羅列が過ぎるなと自分でも書いてて思ってたので、
そこは注意しながら加筆修正するようにします。

で、中二臭いといわれてしまった美琴の独白の所なんだけど。
うーんごめん、読み直しても、俺コレ嫌いじゃないわ。
ちょっと書き手が感情移入しすぎて描写が不足してるとは思うので、
消さずに加筆修正で対応しようかと思う。

……で結論なんだけど。
原稿の大幅修正はせずに、Arcadiaに投稿するときの修正だけで済ませようと思う。
納得しない諸氏もいるかと思うが、さっさと続き描いて佳境に飛び込んだほうが、
結果的にみんな幸せになれる気がするので。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/06/03(金) 23:57:11.54 ID:ch9diN5Go
だな。
ここの投稿は推敲前又はパイロット版・体験版で、
ちゃんとしたのはArcadiaに載せて俺らはそれと読めばすむ事だし。



ふと受信した電波。3つのエピソードそれそれにそげぶパンチが必要になって、
解決毎に光子が次の現場に向かって当麻を発射するのを思いついた。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/04(土) 00:18:34.90 ID:PcOg+rnNo
>>151
感想が欲しいっつうならいくらでも書くけど、スレ消費しちゃうから遠慮してるってのもあるぜよ。

ふと、説明文章で思い出したのが宮部みゆきの時代小説「ぼんくら」
主人公の井筒平四郎は信心をしない男である、ということを説明したところ。
ただ信心をしないということを延々4ページも割いて描いてるのに、主人公の性格と信仰への考え方を
糞面白く納得させてくれる文章。
プロの小説家ってのはやっぱりすげえなって思ったよ。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/04(土) 00:19:23.60 ID:PcOg+rnNo
>>151
感想が欲しいっつうならいくらでも書くけど、スレ消費しちゃうから遠慮してるってのもあるぜよ。

ふと、説明文章で思い出したのが宮部みゆきの時代小説「ぼんくら」
主人公の井筒平四郎は信心をしない男である、ということを説明したところ。
ただ信心をしないということを延々4ページも割いて描いてるのに、主人公の性格と信仰への考え方を
糞面白く納得させてくれる文章。
プロの小説家ってのはやっぱりすげえなって思ったよ。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/04(土) 00:20:22.45 ID:PcOg+rnNo
>>151
感想が欲しいっつうならいくらでも書くけど、スレ消費しちゃうから遠慮してるってのもあるぜよ。

ふと、説明文章で思い出したのが宮部みゆきの時代小説「ぼんくら」
主人公の井筒平四郎は信心をしない男である、ということを説明したところ。
ただ信心をしないということを延々4ページも割いて描いてるのに、主人公の性格と信仰への考え方を
糞面白く納得させてくれる文章。
プロの小説家ってのはやっぱりすげえなって思ったよ。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/04(土) 00:26:10.96 ID:BJt+TXdMo
なんという次元分離反転カキコww
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/04(土) 00:27:03.30 ID:J9+NajUYo
大事なことだけど一度しか言わないぞ
エラーが出てもサーバの方で書き込みの順番待ちしてるだけだから
数分待ってリロードしてみれ

>>1
ずっと追っかけてるよ。
美琴の心中は、言葉はいいと思うのだけれど
逡巡もなく筋書きを読み取り一瞬にして自分が悲劇のヒロインとして酔ってる感じがするように思う
溜めを入れればいいのかな?スマン具体的には分からん
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/04(土) 00:28:00.02 ID:PcOg+rnNo
すまぬ・・・!すまぬ・・・!
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/04(土) 00:39:44.46 ID:kuokl/cI0
乙乙! 妹達の可愛さを再認識しました。
シスターズはアクセロリータこと一方通行が出てこないとなかなか盛り上がらないのかな
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/04(土) 00:42:41.58 ID:cW6JzepG0
展開はグダグダするよりパッパと進んだ方がいいと思う。
自分はArcadiaの方も欠かさずチェックしてるからその方が好み。

この作品好きなんで頑張ってください。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/04(土) 02:21:00.76 ID:GAoQ9tS7o
目や口の動き、不自然だったりする動作、体温の変化や発汗、喉の渇き、とか、
そういう情報が少ないから>>1が思うほど美琴の感情の変化が伝わってこなくて
セリフとの温度差に驚くというか、醒めてしまうのかもしれないね
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/04(土) 07:25:11.84 ID:SseCE88Do
というか、このシーンの肝って妹達の不気味さの強調だと思うが
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/06/04(土) 11:21:22.85 ID:1d0vt0Ke0
>>159の言う通り、一方通行っていう敵がまだいないから
盛り上がりに欠けるンだと思う
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/04(土) 12:29:11.00 ID:NFyuYN3no
よくよく考えると美琴は中二なので厨二ポエム適齢期ではないか!
165 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:15:03.27 ID:v+p+OaQjo
>>152
まあ元々の趣旨はそうだしな。執筆ペースが速いってのも美徳だと思うし、なるべくスピードは高めで行きたいね。

>>153-155
ありがとう。でもいくらでもは書かなくて一つで充分なのよ?w
スレが消費されたら次のを立てるだけだから、どんどん感想くれたら嬉しい。
感想は続きを書く原動力だからな、やっぱり。

>>157 >>160 >>161
書いてる時って全ての描写が脳内にあるから、何を伝え忘れてるのかが分からないのよ。
二三日置いて推敲すると直せるんだけどね。でも書いたらすぐ上げて反応を見たくなるのも作家の性というか。
とりあえずArcadia版で修正するね。

>>159
どうしよう、普通に妹達は次で酷い目にあうんですけどw

>>164
言われてみるとそうだなw

166 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:22:23.71 ID:v+p+OaQjo

乱雑に積まれた廃車の上に腰掛けて、一方通行<アクセラレータ>は地上を見下ろす。

「あー、今日はだいぶ散らかしちまったなァ。ま、俺が掃除するンじゃねえからいいがな」

遮蔽物の多いここでの三人同時襲撃というのは趣向としては悪くなかった。
重火器を手に同期した動きを見せるあちらに対し、こちらは無手で一人。

「く……」

足首から先を失って動きの悪くなった妹達の一人が、一方通行に良く見える場所でうごめいていた。
骨も動脈もむき出しの傷からはオイルのように血液が流出していく。
一方通行はその様子を見て軽くため息をついた。
今日の三人はこちらの『反射』を上手く回避した立ち回りを演じてきたが、一人が落ちてからは瓦解までは一瞬だった。

「なァどうする? 俺はもうオマエから学ぶもンなんてないしな。」
「……?」
「アリを一匹一匹丁寧に潰すってのもよォ、いい加減飽きンだよ」

そういえば通り道にあった自販機には今週のローテーションにしているコーヒーがあった筈。
それでも飲みながら帰るかと思案する。一方通行の頭の中はすでに実験は終了していた。

「ミサカはまだ戦闘能力を喪失してはいませんが」
「そォは言っても、オマエ、何してくれるの?」

体勢すら整えるのに苦労をしながら遺されたミサカが自動小銃を一方通行に向ける。
ゆらゆらとぶれながらその照準が合うのを、一方通行は優雅に待つ。
自身の能力である『反射』は、銃弾の持つベクトルなどまるで意に介さない。
綺麗に軌道を演算して、元の銃口にお返ししてやることすら造作ないのだ。
カチンと、ミサカが引き金を引いた。
銃のではなく一方通行の近くに隠して設置した可塑性爆薬のトリガーを。

「おォ、ソッチからかよ」

バァァァン! と人気のない一帯に騒音が弾け飛ぶ。木の板を叩いた音を鼓膜が破れそうな音量にした感じだった。
その爆風を受けて、一方通行はふわりと舞い上がった。
もちろん爆風の持つエネルギーを全て受けていれば一方通行ははるか先まで吹き飛んだはずだった。
ミサカが空中の一方通行に滑らかに照準を合わす。そして今度は小銃の引き金を躊躇いなく引いた。
バババ、と断続的な炸裂音が始まった次の瞬間、手にした銃は弾け飛んだ。

「俺の計算能力を上回りたいンだったら、場をもっとグッチャグチャにしねえとなァ」

そう言いながら、一方通行はミサカの残った足の上に着地した。
グギリという骨が砕ける鈍い音。激痛に目を見開くミサカ。
そういうものを軽く干渉して、一方通行は悩む。

「まあ、ここまで来たし殺ってやるけどよォ、どんな殺やれ方がオマエの好みだろうなァ」

血流を全部逆流させて殺すのはもうやったことがある。
このまましばらく待てば恐らくあちらから電撃の矢でも飛ばしてくるだろう。
それで絶命されるのは面白みがなかった。

「あァ、体を流れてる生体電流を変えて遊んだことはまだなかったな」

優しい手つきで、一方通行はミサカの腕に触れた。
――――その瞬間。闖入者の存在を知らせる、カッカッというローファの足音が近づいてきた。
167 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:23:23.17 ID:v+p+OaQjo

さっきと、匂いが違う。
操車場を目前に、美琴が思ったのはそれだった。
鉄臭い匂いと、名状しがたい獣のような匂い。
そして突然の、耳をつんざくような轟音。
明らかにそこは、30分前に自分がいた場所とは、違っていた。

「何、コレ――――」

積み上げられた廃車が視界を遮らないところに出て、美琴はそこを見た。
頼りない電灯の光が、はっきりとした情報を映してはくれないけれど、
常盤台の制服を着た、自分に良く似た、いやさっき会った三人に良く似た髪の色をした誰かが、
地面に転がっていた。誰一人として、ピクリとも動かない。
それはそうだ。五体満足ではなくて、どう見たってこんなの、生きていやしない。

「あン? 処理係か。まだ終わってないうちから来ンのは初めてだな」
「え……?」

視界の目の前にいたのに、美琴は今はじめて、その男に気がついた。
明かりが逆行になって表情は良く分からない。
だけど、線の細い体格に真っ黒な服を着込んだ、若い男だというのは分かった。

「まァ待たすのは悪いしよ、さっさと殺るか」
「あ、ぐ……あ、うあぁぁぁぁぁっ」
「ちょ、ちょっと止めなさいよ!!」
「あ?」
「止めろって言ってんのよ!!」

美琴は勢いに任せて、雷撃を飛ばした。人に当たれば後遺症を残すレベルだった。
しかし目の前の男は、それを意に介さない。
妹は足元で激痛に目を見開き、折れた足首をぶらぶらと、
無い足首から血をだらだらと流しながらビクンビクンと震えていた。
そんな、おぞましい光景を生み出しながら、目の前の男はごく平静な様子だった。

「おいおい。止めろってオマエ何様だよ。っつーか、オマエラこそこれを望ンでるんじゃないのかよ」
「こんなこと、望んでるヤツがいるわけないでしょうが! アンタ、頭おかしいの?」
「イカれてンのは学園都市の上の連中だろ。……オマエ、他のヤツと随分違うな」
「何を言って――」
「まァいいや。とりあえずコイツで遊ぶのは満足したしな」

もう一度、男が妹に触れようとした。

「止めなさい!」
168 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:25:03.79 ID:v+p+OaQjo

美琴はもう能力に制限をかけなかった。後のことだとかに気を使う余裕は無かった。
磁力で集めた砂鉄の剣を地面から引き抜く。そして躊躇い無く妹に伸ばす男の手に振り下ろした。
高周波振動のブレードはたやすく腕を切り――――裂かない。

「え?」
「面白い能力の使い道だなァ。いいぜ、そういうの。でもこの俺を相手に近接戦はいただけねェよ」

あっさりと砂鉄は美琴のコントロールを離れた。
そしてぬるりと、男の手が蛇のように美琴を狙った。
それに本能的な恐れを感じて、美琴は崩壊しかけた砂鉄の剣を幕にして、男の視界を遮った。
そしてバックステップで至近距離を脱した。

「悪くない判断だな。ってこの出力、オマエ」

息つく暇を美琴は与えなかった。自動車なんて鉄塊みたいなものだ。
この廃車場には、美琴が弾に出来るものが山ほどある。
美琴は妹の位置を計算しながら、三台の軽自動車を砲弾にして目の前の男に突っ込ませた。
男は避けるほどの身体能力を見せなかった。特に何もアクションを起こさず、静かに自動車は男に突っ込んで。

「――――ッ!! くあ、あぁぁっ!」

次の瞬間、美琴に向かって飛んできた。
渾身の力で電場を歪め、その質量弾を横に逸らす。
噛み締めた奥歯が痛い。ハァハァと美琴は荒い息をついた。

「砂鉄の剣にこの大質量のコントロール。どう見てもレベル2や3じゃねぇよな。
 そっかそっか。オマエ、オリジナルかァ」

ニィ、と目の前の男が笑みを深くした。ゾクリとする爬虫類じみたその表情に、美琴は半歩後ずさった。
そこで、美琴で遊ぼうと決めたかに見えた男の視線が、ついと後ろに遣られた。

「待って下さい。一方通行」
「お姉さま<オリジナル>との戦闘は計画の大幅な修正を必要とします」
「突発的にそれを選択することはむしろ障害となりますので、ここは手を引いてください」
「それに本計画ではお姉さまを投入することは見送られたはず」
「世界にたった一つしかいない人間を無闇と消費することは赦されないことでしょう」

男は面倒くさそうな顔をした。

「今日はすでに実験に投入する個体の変更をしています。
 これ以上、計画を変更すれば樹形図の設計者による大規模な再演算が必要となりますから、
 計画遂行上の障害となるお姉さまとの戦闘は容認されません、とミサカは詳細に事情を説明します」
「チッ。はいはい分かった分かりました。ちょっとからかっただけだ」

言葉をリレーしながら、妹達が男にそう通告した。
いたずら心を先回りで牽制された子供みたいなすねた口調で男は妹達に従った。
その様子に満足したのか、妹達が次は美琴のほうを向いた。

「お姉さまも、速やかにここを立ち去ってください。我々はこれより死体の処理をしなければなりませんので」
「処理、って……アンタ達はコレ見て何も思わないの? こんなの、絶対おかしいわよ……」
「そうは言いますが、これは学園都市が主導する計画のひとつですが、とミサカは客観的な評価を口にします」

妹達の一人が現場の隅から、寝袋みたいな袋をいくつか取り出した。
169 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:26:27.19 ID:v+p+OaQjo

「ところで一方通行。貴方に課せられた今日の実験はまだ、終わっていないようですが?
 とミサカは確認をとります」
「え?」

さしたる感慨を持たぬ目で、妹達は這いつくばる自分の分身を見つめた。
痛覚をつかさどる神経を流れる電流を、いつもの数百倍流されて悶えてはいたが、
両足首から先を失ったミサカは、まだ絶命していなかった。

「あァ、殺さないと実験が終わらないンだよな。この規則は変えられないのか。
 今日がそがれた日に後始末をするのはかったりいンだよなァ」

美琴を無視して、男が傷ついた妹に、近づいた。
そっと、ポケットからコインを取り出した。
人にそれを向けたことは、どこかの馬鹿を除けば、一度もない。

「止めなさい」
「あ? 指図される謂れはねェよ。オマエの妹も皆賛成だぞ?」
「止めろって言ってんのがわかんないのかあっっ!!」

美琴は自分の中の引き金を引いた。
コインに先駆けて、男のこめかみまでの空気をイオン化する。
雷のような曲がりくねった大気の電圧破壊ではない。
整然と伸びた二本の直線、それはまさにレールと呼ぶにふさわしい。
数メートルの加速台一杯一杯に自分と言うコンデンサから絞れるだけの電流を絞り出して、
美琴はコインを加速させた。
人の認識速度を優に超える音速を獲得し、コインは急激な摩擦を持つ。
そして温度の四乗に比例して周囲に赤熱を撒き散らしながら、
美琴の奥の手、『超電磁砲』は目の前の男に襲いかかった。


――――直後。美琴は自分の耳元で、キュインという、風を切る音を聞いた。


「そん、な」

歩みを止めることすら男はせず、そしてつま先で瀕死の妹を小突いた。
ただの蹴りではなかったのだろう、怖いくらいにビクリと妹は震えて、仰向けに転がった。
真横を向いた顔を見ると、血も涙も、あらゆる体液を垂れ流しながら、目をかっと開いていた。
妹が今まさに死んだのだと、悟るのに何の無理もない有様だった。

「嘘……でしょ」
「なァ。今の確か、オマエの必殺技だよな。……いや、悪ィな。自信喪失なんてさせるのは申し訳ないなァ。
 でもまさか、そんなシケたもンとは思わねェだろ?」

気がつくとカチカチと歯が音を立てていた。
足が現実を支えていられなくなって、美琴はその場にへたり込んだ。

「実験は終了しました。これより現場の処理を行います。一方通行。速やかに退出してください。お姉さまも」
「了解、っと。なンだ、そう落ち込むなよ。俺も今日はかなり楽めたからなァ。ああそうだ、自己紹介がまだだったな」

汚れ一つない男が、美琴に近づいてきた。それを、美琴はどうすることも出来ない。
色素の薄い髪と肌、気色の悪い赤色の目。そんなものを美琴の視界一杯に映して、
そして忘れられなくするように、耳元で囁いた。

「学園都市第一位、一方通行<アクセラレータ>だ。ヨロシク」

それだけ告げて、揚々と一方通行は引き上げた。
呆然とする美琴の前で、妹達が、死んだ妹の部品をかき集め、無造作に袋に詰め込んでいく。
それを地獄と言わずして、なんと言うべきなのか。
美琴は、崩れていく自分の世界を修復することすら出来ないまま、ただ呆然とするほかなかった。
170 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/04(土) 14:27:13.45 ID:v+p+OaQjo
とりあえず今はここまで。夜に続き書くかなー
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/04(土) 16:31:47.18 ID:IuV238pDO
面白かったけど、なんか繋がってなくね?
書き直すの?
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/04(土) 18:38:36.65 ID:47RbDvdfo
乙ですた。
一方さんはやっぱ人でなしだなー。
非道だなー。
内心はどうあれやってることは虐殺殺戮だなー。
真正面からそこを描写するのはお流石です。
彼は一生その十字架を背負って生きていくんだろうなと思ったり。
自分が救われてはいけないと世を拗ねるのもむべなるかな。
いや、好きなんですけどね?

…しかし学園都市って高位能力者にはカウンセラーくらいつけろよと思ったりww
実験動物ならしゃあないけど、安定して成果を出すにはメンタルのケアも必要だろうと。
いやまあ、それやると物語として面白くなくなるのは分かってるんですけどね。
人格破綻者が多すぎだろと。
教師コンビくらいですよねまともな大人って。
そりゃ保護者も怒るぞ、と。
話がずれましたが。

次回も楽しみにしてますよー
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/04(土) 19:13:31.83 ID:8SeEitQzo
乙乙

どんな殺やれ方がオマエの好みだろうなァ

殺られ? 殺され?

今日がそがれた日に後始末をするのはかったりいンだよなァ」

興?
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/04(土) 21:40:32.41 ID:kuokl/cI0
乙乙! 御坂や妹達を一気に脇に追いやる一方さんは三国一やでぇ
175 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/05(日) 19:07:30.75 ID:t0jjKPEqo

「み、光子。……ちょっと、くっつきすぎじゃないか?」
「そんなこと、ありません。ふふ、当麻さん」

ラッシュアワー直前くらいの時刻。
当麻の二の腕にべったりと抱きついた光子にやや戸惑いながら、当麻は駅前を歩いていた。
光子が上機嫌なのは、実に一週間ぶりの外出だから。
光子はちょうど一週間前、ポルターガイストに巻き込まれ、『自分だけの現実』が歪んでしまったため、
テレスティーナ率いる先進状況救助隊(MAR)の研究施設兼病院に入院した。
主治医の主張ではまだ経過を観察する必要があるとのことだったが、精神的にも肉体的にも堅調で、
どうもポルターガイストに巻き込まれたレベル4を研究したいという彼らの都合のせいで、
不等に入院期間を延ばされているような印象が拭えなかった。
そして昨日の夜、急に黄泉川が光子に早期退院を勧めだし、今日、退院に向けて動いているのだった。
光子は早朝に迎えに来た当麻と一緒に、以前世話になったあのカエル医者の病院に赴き、
すぐさま退院して問題無しと言うセカンド・オピニオンを受け取ってきたところだった。

「ああ、それにしてもこれでやっと退院できますわ! 一緒に暮らすとインデックスと約束しましたのに、
 一週間も先延ばしにしてしまいましたし、本当、いい迷惑でしたわ」
「そうだよな。デートとか、する機会も減っちまったしな」
「もう、当麻さん。そういう嫌なことはもう思い出したくありません」
「ごめん」

悪態をつきながらも、光子の機嫌はすこぶるいい。

「当麻さんと二人でこうして歩くの、何日ぶりかしら」
「考えたら、インデックスが来てからはそんな時間、一度も取れなかったんだな」
「そうですわ。夏休みに入ってからこれがはじめてですのよ?」
「……俺が悪いわけじゃ、ないぞ?」
「それはわかっていますけれど」

せっかくの当麻とのデートなのに、急な出来事のせいで碌なお洒落もできず、
代わり映えのしない常盤台の制服を着ざるを得なかったのがちょっと不満だった。

「あ、そうだ。光子が退院できそうなら、昼からインデックスと合流するか?」
「え? あの子は確か、今日はエリスさんと遊ぶ予定をいれてましたわよね」
「そうそう。一人で電車乗り継いでな。そのために携帯まで持たせたし」

当麻と光子の携帯となら無料で通話の出来る、一番安い携帯だった。
渡されたとき、インデックスはまるで爆弾の起爆装置でも持たされたようなおっかなびっくりの態度をしていた。

「それじゃ、エリスさんはどうしますの?」
「どうするつもりかよくは知らないけど、まあアイツのことだから、
 エリスも含めて、俺達四人で遊ぼうって魂胆なんじゃないか?」
「はあ。……そんなにエリスさんとは、私親しくないんですけれど」

光子の入院中に当麻が親しくなった女の子だ。本人の気質とは別に、それが引っかかっている光子だった。

「まあ、これからあっちの病院でひと悶着あるだろうし、実際に遊ぶ余裕が出来るのは昼からだろうな」
「そうですわね。でも、悪いのはあの主治医の方ですもの。私、一歩も引き下がるつもりなんてありません」

早朝にここにいるのは、MARの医者達の目を盗んで抜け出したからだった。
他の医者の判断を求めるなどと言えば、あれこれと文句を言って足止めされるだろうし、時間も掛かる。
そして反則技を使った反動で、病院に戻れば紛糾するのは想像に難くなかった。

「んじゃ、その辺のことインデックスに伝えてやらないとな。さすがにもう起きてるだろ」
「あ、当麻さん。私が電話しますわ。インデックスが慌てるところを、私も見てみたいですから」

二人で意味ありげな笑顔をかわした。
インデックスは最新機器にすこぶる疎く、電話をかけると面白い反応をするのだった。
光子が携帯を取り出し、耳に当てた。駅の建物内に入ると電話はかけづらい。
光子はビルの手前で立ち止まり、インデックスと会話を始めた。
当麻も隣で漏れ聞こえる声に反応していたのだが、ふと、駅から続く歩道橋に、
見知った女の子が座り込んでいるのに気づいた。
いつも元気で、気丈な御坂美琴。
まばらな人通りから取り残されて、ぽつんと一人ぼっちに見えた。
176 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/05(日) 19:13:07.35 ID:t0jjKPEqo
>>171
うーん、特に繋がってないようには思わないんだけども。。。
まあ毎度加筆はしてるから、それで印象は変わるかもー

>>172
一方通行が妹達を殺めていたってのは原作どおりなので、
やっぱりそこをきちんと書かないと彼の今後の動きが
意味合いを帯びてきませんしね。
カウンセラーの件はたしかにそのとおりですよねぇ。
アレイスターの意図は置いといて、
自分が定年退職するまで学園都市がちゃんと維持され続けて欲しい研究者の人たちにしてみれば、
子供のケアをないがしろにしてる学園都市の現状は憂慮すべきものだと思うんですけど。

>>174
しかしこのSSでは第二位が目立つせいか一方通行は脇に追いやられ気味だというw


さあついに美琴と光子と当麻が互いに30メートル圏内に集合しましたね!
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/05(日) 19:28:09.08 ID:JQKaE8iA0
乙乙! って、天国と地獄すぎでしょwwまさに紙一重
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/05(日) 19:56:01.73 ID:nLhDgPB8o

完全に美琴への追討ちです本当に(ry
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/05(日) 20:13:07.76 ID:9YPQm3quo
>>176
そこらの理性的な感覚の麻痺が蔓延してる気がする>学園都市
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/05(日) 21:01:56.31 ID:dYB7KGRRo
光子当麻インデックスの絡みはいつもニヤニヤしちゃう
ここら辺は糞うまいよな
ここに美琴だなんて、残酷すぎるだろwwwwww
これだからドSだなんて言われるんだwwwwww
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/06/05(日) 22:50:50.83 ID:+7OKl1DL0
乙です

駅前で実験確認後ってことは状況的には布束さんの代わりかな?
確かに3人が近くにいるけど、婚后さんは電話してるし御坂は憔悴してるし
気がつかないにんじゃね?
>>1はまだ焦らすはずだ
182 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/06(月) 01:37:01.80 ID:MGvbANGxo
続き書く予定が、前話の修正に手間取って無理になっちった。すまん。
あ、Arcadiaのほうに修正版あげときました。

>>180
美琴のこと好きなのになぁ。だからひどいことしちゃうのだろうか。

>>181
次話を請うご期待なのですよ
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/06(月) 09:42:25.10 ID:2SHB6AVo0
あれ?当麻と光子ちゃんの絡みでニヤニヤしてたら美琴が出てきましたけど あれー?

次話楽しみに待ってます
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/06(月) 15:18:29.03 ID:EKz7GFzVo
乙乙
早く 早く美琴を楽にしてやってくれwwww
185 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/07(火) 05:35:25.29 ID:v7Mvyz9Wo

あれから、廃車場を立ち去って一体どうやってここに戻ってきたんだったか。
惰性でいつも自分が歩く町へ、日常へと戻ってきたくせに、自分の部屋に戻る気になれなかった。
時計は持っていない。携帯はポケットにあるはずだが、取り出すのも億劫だ。
ぼうっと、こうして歩道橋の花壇に腰掛けて早朝からどこかへ向かう人たちを眺めていると、
日常の世界にいるはずなのに、隔絶されたような、取り残されたような気になる。
……そんな表現がしっくりくる。なんてことはないはずの普通の日常の裏に、
あんなものがあるなんて知ってしまった今となっては。

「朝、か……」

いい加減に行動を起こさないと、教師の見回りが始まって、面倒なことになる。
だが、この期に及んで日常を取り繕う必要があるのか。
そんなことをしたって、あの地獄は、きっと今日も明日も関係なくやってくるのだろう。
いっそ、関わらなければいい。妹達は美琴のクローンだが、他人も同然だ。
美琴が何も干渉しなければ、きっと妹達は淡々と消費されて、何も無かったかのように実験は終わるだろう。
それなら、もうそれでいいじゃない。
その弱気は、きっと美琴らしくない。自分は絶対にそんな風に割り切れなくて、
ずっと気に病むに決まっているのだ。
だったら助けに行けばいい? それこそお笑い種だ。第三位なんて冠をかぶっていても、
第一位にとってはゴミ同然の実力だった。
努力だとか、そんなものでひっくり返せないと思うくらい、それは圧倒的な差だった。
自分は、助けることも出来やしない。
……結局、忘れることも積極的に問題解決することも出来ない行き詰まりのせいで、今ここにいるのだった。

「夜遊びは楽しかった?」
「え……?」

不意に美琴の前に影がよぎり、声がかけられた。
のろのろと見上げると、顔立ちの整った、大学生くらいの女の人。
ミニのワンピースにニーソックス。軽くウェーブしながら腰まで伸びる長い髪。
ベビードールみたいに胸の下をきゅっと絞ったデザインで、豊かな胸を強調していた。
知り合いではなかった。濁った美琴の頭は、ただぼんやりとその女の人の笑顔を見つめた。

「私が貴女に招待状を送ったのよ。やっぱり自分のことだから、知っておきたいかなって思って」
「え……」

一体、誰なの?
差出人の「妹達」というのが、嘘だったということだろうか。
でもそれなら、一体この人は、どうやってあの計画を知った?

「ったく。あんな程度でこんなに脳味噌バカになんのかよ? 元が緩すぎんじゃねェのか?」

見下ろす目が、はっきり嘲りを含んでいた。
その悪意で美琴の警戒心がマウントされた。
186 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/07(火) 05:36:55.69 ID:v7Mvyz9Wo

「……あなたの目的は何?」
「んー、面白半分かな」
「趣味が悪いのね」
「テメェほどじゃねえよ。ホイホイと遺伝子マップを渡して学園都市に弄んでもらうほどマゾじゃない」
「っ!」
「おいおい黙るんじゃないわよ。もうちょっと歯ごたえ見せるかブザマに泣きじゃくるかしろよ」
「もう一度聞くわ。あなた、何者?」
「内緒だよん。あれだけ重要な情報を教えてあげたんだもの。これ以上は簡単には教えてあげない」
「……力づくで聞きだしてもいいけど?」
「やだ、怖ーい! 第三位の本気なんて怖いわ。――まあ、第一位<アクセラレータ>には蟻みたいな扱いをされてたけど」

言葉の端々で、美琴の傷口が足で踏みにじられる。
そのたびに敵意で奮い立たせた意識が、折れそうになる。

「それで、これからどうするの?」
「あなたには関係ないわ」
「そうでもないんだけど、まあいいわ。勝てないけど足掻く、ってトコ? 泣かせるわね」
「イチイチ五月蝿いわね。それこそ第三位の本気で黙らせて欲しいわけ?」
「やってみろよ。優等生の立場を捨てて駅前テロやる気なら付き合ってあげる」

虚勢ではないように思えた。
目の前の女は、自分と、少なくとも絶不調の今の自分となら互角に遣り合えるのだろう。

「ま、超電磁砲<レールガン>から白星拾っとくのも悪くはないけど、本調子のを叩かないとね。
 今日のところは負けてあげるわ。惨めな顔も堪能したし、それじゃあね」
「待ちなさいよ。話はまだ終わってない」
「終わったわよ。私に構うより、助けてあげたほうがいい相手がいるんじゃないの?
 そんなこと無理だっていうのは、きっと自分が一番分かってるだろうがな。
 せいぜいぶつ切りの骨付き肉を増やさないように、無駄に足掻いてみたら?」

目の前の女の揶揄で、美琴は足をすくませてしまった。女が怖かったからではない。
自分が見殺しにした妹達、その死体が脳裏でリフレインして、泥沼に使ったように動けなくなった。
今の女が誰かは分からないけど、あの女を止めたところで実験は中断しないことは、予想できる。
一方通行か、計画を進める首謀者を落とさない限り、あの実験は終わらない。
首謀者はたぶん学園都市の上層部で、一方通行は第一位。
どうしようもなく、妹達の死体が増えるのを毎日数える以外にない、それが美琴の、絶望だった。

「おーい、御坂?」
「あ……」

知り合いの男子高校生の声が、不意に美琴の耳に触れた。
187 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/07(火) 05:38:48.42 ID:v7Mvyz9Wo
この時期は朝明るくなるのが早くていかん。
寝るとき明るいのは困るなぁ。

>>184
次あたり美琴を楽にしてやろうとおもう。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/07(火) 05:55:10.70 ID:1rXVkSk70
nubewoせんせー。絶望のどん底にいる人をそのさらに下へ落とすことを
、楽にすると言わないと思いまーす!!
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/07(火) 06:47:20.82 ID:xjUGOtVi0
いえ絶望につきおとしすぎることにより御坂の暗部落ちけってー

そしてあらたなlevel5こんごーせんせー出現

御坂は氏を快感だと思いすくわれるんだとおもいまーす
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/07(火) 07:30:27.08 ID:tXOfUPCwo

今の状態だとフラれてもショックに感じなさそう。
変に冷静になって妙な悟り開くんじゃね?
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/07(火) 08:12:10.22 ID:Hy8QtVXg0
おっつでーす
いやいや、楽にするっていうのはもっと直接的な意味なんだよ。
この世からの解放とか
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/07(火) 13:56:30.37 ID:DUCBRhkf0
普通に上条に縋りついたら婚后さんとインデックスを交えた修羅場になりそうなところへ佐天たちレールガン組合流じゃだめなの?
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/07(火) 13:59:06.83 ID:DUCBRhkf0
普通に上条に縋りついたら婚后さんとインデックスを交えた修羅場になりそうなところへ佐天たちレールガン組合流じゃだめなの?
今の上条さんだと自分から厄介事に首突っ込みまくるとかちょっと考えにくいし。
194 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 00:34:14.99 ID:zjjNypD7o

「あら、彼氏でも呼び出したの? 男に慰めてもらうなんていいご身分じゃない。
 まあいいわ。私はもう用はないし――――そうそう。
 テレスティーナをあまり信じないことね。あのアバズレも関係者と言えなくもないし」

当麻がこちらへ近づくのと合わせて、目の前の女が反対方向に立ち去った。
女を追っても別に良かった。だけどそうすればきっと、当麻はついてくるだろう。
正体不明の女、こちらに近づく当麻、そして突然聞かされたテレスティーナの名前。
どれから片付けるか迷っているうちに、女は視界から消えた。

「よう、御坂」
「……なんでアンタ、こんなトコにいんのよ?」

会いたく、なかった。美琴にとって当麻は幸せな日常の一ページに登場する人だったから。
自分は、とてもそんなところに戻れるような人間じゃないと思うのに。
当麻という人と言葉を交わすようなことは許されないはずなのに。

「朝早いのは事実だけど、別に歩いててもおかしいような時間じゃないだろ。
 それより聞きたいのはこっちだ。常盤台の学生は外出時も制服着用だろ?
 お前その格好、どうしたんだよ」

美琴が身につけているのは体の動かしやすいタイトなTシャツと短パン。そして顔を隠すキャップ。
お洒落をしているようには見えないし、何のつもりの服装なのか当麻には皆目見当がつかないだろう。

「なんでもないわよ、別に――」
「また夜更かしか? 人のことは言えた義理じゃないけど、結構夜は危ないぞ」
「煩いわね。私が何処で何をしようと、アンタにこれっぽっちも関係ないじゃない」
「いや、あるだろ」

何も聞いて欲しくなくて突き放した美琴の言い分を、当麻が真顔で否定した。

「お前知り合いが夜な夜などっかに繰り出してて、心配しないのかよ?」
「さあね。少なくとも私の心配なら要らないわよ。
 そこらの無能力者なら何匹かかってきたって相手にならないんだから」
「そういう問題じゃないだろ」

美琴の言い方が気に障ったのだろうか、当麻の声に、咎める響きが混じった。
なんでだろう、大したことのないはずのそれが、ひどく美琴の気に障る

「ああもう! アンタは私の保護者じゃない! 何よ、知った風なこと言わないで」

吐き捨てるように、美琴は当麻への苛立ちを吐き出した。
当麻はその言葉に戸惑いを見せて、嘆息する。

「まあ、お前が言うように俺は大してお前と親しい訳じゃないんだろうさ。
 俺みたいなのに偉そうに言われちゃ、ムカつきもするか」
「あ……」

自分が突っぱねたせいで、当麻が自分から距離をとった。
バカな話だ。自分でやっといて、寂しいような気持ちになってるなんて。

「ごめん」
「別にいいけど。……俺とお前のやり取りなら、普通こんなところで謝らないだろ?
 調子が狂うっていうかさ、なんか、お前が何か困ってるように見えるんだよ。
 それこそ余計なお世話かもしれないけど、心配しちゃ駄目か?」

いつも会ったときと変わらない、飾らない当麻の顔。
それが優しく見えて、美琴は泣きそうになった。
最悪だ。妹達を地獄に突き落とした自分が、こんな軽々しく泣いて誰かにすがることなんて許されない。
195 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 00:35:28.33 ID:zjjNypD7o

「なあ。聞いちゃまずいことだったら言わなくていいからさ。
 言って楽になるなら話してみろよ。昨日の夜何やってたんだ?
 もしかしておねしょでもして白井のヤツに嫌われたか?」
「……」

軽口で美琴を挑発してくれた当麻に、美琴は何も返せなかった。
そんな出来事だったなら、どれほど幸せだろう。
数時間前の記憶に、白井は出てこない。
バラバラでグチャグチャの妹達と、その肉片を無表情に拾い集める妹達と、そして、一方通行。
そして、眺めることしか出来なかった自分。
生々しい鉄臭い匂いがまだ鼻にこびりついている。
拭ったはずなのに、自分が吐き戻した胃液の匂いが服から漂っている気がする。
そういった話を全部、当麻にぶちまけたら。一体どんな顔をするだろう。
信じてもらえず笑われるか、それとも距離をとられるだろうか。

「アンタさ、もし取り返しのつかないくらいの迷惑を誰かにかけたら、どうする?」
「え?」

迷惑と比喩した自分の言葉を美琴は冷笑した。
迷惑なんて程度で済むような、可愛げのあるものだっただろうか。

「相当重いのか」
「例え話よ、あくまで。……絶対に弁償とか無理なレベルの、そういう迷惑」
「やらかして後悔してるのか?」
「……うん。すごく」
「謝って済むのか?」
「それはない。そんなレベルじゃないって話」
「……行き詰ってるな」
「そうね」」

行き詰ってないなら、御坂美琴はなんだって解決できるのだ。それだけの能力あるしも努力もできる。
綺麗でもない花壇の縁に、美琴は再び腰掛けた。自分のほうがもっと汚いから、服に土がつくことは気にならなかった。
その美琴をじっと見つめた当麻が、問いかけを続ける。

「お前一人じゃどうしようもないのか」
「なんで私の話になってんのよ。アンタが一人じゃどうしようもないことをやってしまったらって話」
「そうだったな。なあ、知り合いに助けてもらうのは無しなのか?」
「そんなの。許されないでしょ。誰に言ったって責められるくらいの大失敗してるの」

当麻が首をかしげた。納得の行かない顔をしている。
それはそうだろう。こんなどうしようもない設定の問題を与えられたら、誰だってああなる。
美琴はそんなふうに当麻の表情の意味を決め付けた。

「なんか、良くわかんないな」
「何が?」
「誰かに助けてもらうのは無しなのかって質問に、許されないって答えるのは答えになってないだろ」
「え?」
「絶対に一人じゃ取り返せない失敗をしたのに、一人で何とかしなくちゃいけないって、そりゃ設定が無茶だ。
 知り合いを頼るって方法は駄目なのかよ」

当麻の言っていることは、至極当たり前のことなのかもしれない。
だけど。

「それほどのことをした人間が、誰かにすがるなんて許されるわけないじゃない」

だってそうだろう。馬鹿としかいい用のない脇の甘い善意で遺伝子マップを提供して、
そのせいで二万体もの自分のクローンを無残な死に追いやる自分が、
ひどいことをしてしまったの、なんて誰かに打ち明けて楽になることが許されるものか。
196 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 00:38:17.46 ID:zjjNypD7o

「お前、真面目なヤツだな」
「……え?」

ふっと、当麻が笑った。

「それでやってこれた、って事なのかもな。自分でまいた種は自分で刈り取らないといけないんだな。お前にとっては」
「……」
「話してみろよ、御坂。一人じゃ取り返しのつかないはずのことが、皆で頑張れば意外と何とかなったりするもんだ。
 一般論で言ってるんじゃない。確かに、そういうことってのは、あるんだよ」

絶対に一年に一度、記憶を捨てなければいけないはずだった少女を当麻は知っている。
今は毎日、黄泉川の家で暢気に暮らしている。絶望ってのは案外何とかなることだってあるのだ。
そう諭す言葉を聴いて、美琴は初めて当麻のことを年上だと意識した。
考えてみれば、美琴の親しい相手に年上は少ない。いつも優等生の美琴は、いつだって頼られる側だったから。
……コイツに話して、どうなるとも思えないけど。
でも、話していいかな。それで少しでも楽になって、成すべき事に向き合えるようになれたら、意味はあるかもしれない。

「アンタに何が出来るって言うのよ」
「聞いてみなくちゃ、わかんねえよ。でも一人より二人のほうが、いいだろ」
「アンタにだって背負いきれるような話じゃないわよ」
「それなら、他にも助けてもらおうぜ。それじゃあ駄目なのかよ」

当麻がもう一度、美琴に笑いかけた。
言っても、信じてもらえないかもしれないと思う。話が壮大すぎて冗談にしか聞こえないから。
そして話したところで、どうにもならないに違いない。
もう、コイツにこんな風に言ってもらえただけで幸せなんだから。

「やっぱいいや。やめやめ」
「え? 御坂?」
「誰かに話を聞いてもらうのがアリってのは、納得した。
 まあ、その。今アンタに聞いてもらってちょっとスッキリしたから」

一方通行が潰せなくても、できることは他にだってある。
計画を遂行する研究施設や、空に浮いた無機質の意思決定装置。
壊せば美琴は捕まるかもしれないけれど、そんなのどうだっていい。

「……ま、いいか。今のはいい顔だったし」
「え?」
「お前は笑ってるほうが似合うよ。さて、悪い御坂、実は人を待たせてるんだ」
「何よ。お人よしが過ぎるんじゃないの? ほら、さっさと行きなさいよ」
「おう。それじゃ、行くわ」
「あ、あの!」
「ん?」

身を翻しかけた当麻を、美琴が引きとめた。

「その、ありがと。アンタが声かけてくれて、嬉しかった」
「ん。あんまり根詰めるなよ。ところでお礼を言うときくらい名前で呼べないのかよ」
「う、え?」
「アンタとしか呼ばれたことないだろ、俺」

だって。上条とか上条さんとか上条先輩とか、どれ一つとしてしっくり来ないのだから。
かあっと頭に血が上る。こんな呼び方、男の知り合いにしたことなんて、ないのに。

「あ、ありがと。と、と、と、とう――――」
「当麻さん? もう、一体どうされましたの?」

美琴の言葉を奪うように、誰かが当麻を呼ぶ声が、重なった。
197 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 00:42:11.82 ID:zjjNypD7o
>>188
楽になるのはずっと悶々としてた読者の皆だったろうか。うむ。

>>189
美琴暗部落ちかー。そう言う展開も面白いなあ。
何も考えてないんだよね、そこまで先のことは。

>>191
ショックで美琴が歩道橋から身投げでもするのだろうか

>>193
駄目なの?ってのはどう答えたらいいか分からんね。
まあ、展開は読んでのお楽しみということで。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/08(水) 00:46:53.81 ID:ibneaRewo
な、なんか絶望の底から拾い上げて直後に別の絶望の底へ叩き込む予\感・・・?
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 00:52:39.80 ID:mSUCRauDO
乙乙!ここからどう妹達と体晶が解決するのか本気でわからなくなった。
やはり御坂妹との遭遇までお預けなのか
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/08(水) 01:06:55.82 ID:9Co4OPL5o
作者鬼だなww
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/08(水) 01:44:05.64 ID:cA2v5K2vo
きゃあああ
これはすごいなマジで鬼

でも、この心境からとどめ刺されて美琴がどういうふうに考えるのかって
まったくシミュレートできないわ。期待期待
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/08(水) 02:20:22.08 ID:ltI7eAaNo
乙乙
流石の貫禄でワンパンKO狙いできたな
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/06/08(水) 02:25:51.24 ID:pSlt64lAo
上げて落とすか いいぞもっとやれ
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 12:19:43.24 ID:2g+eEKaKo
最後でどんでん返しがwwwwww
みこっちゃん一気に叩き落とされちゃう
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 12:52:51.80 ID:gWgG7eLDO
思わず口角あがったわ
御坂さん逃げてー!
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/06/08(水) 18:12:01.37 ID:j8MovUQG0
今すげぇニヤニヤしてる
俺キメェ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/08(水) 18:13:19.29 ID:1k6rM5loo
おつおつ!
流石の鬼畜っぷりやで…
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/08(水) 19:50:07.21 ID:pIXabDLP0
俺もニヤニヤしてるからたぶんそれは正常だ。気にするな。
問題があるとすれば作者の嗜好の方だろう。
この場面で現実を突き付けるとかアンタ鬼やでぇ。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 19:54:15.61 ID:po6G8lgIO
修羅場(?)か!?ここで恋人バレなの!?
職人さんはホントに美琴がキライなのでしょうか。
美琴嫌いの私でも若干ひいています。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 21:13:10.53 ID:R7t+CuQg0
やっぱり初恋は叶わないのか…
過酷な現実だが美琴には乗り越えてほしい
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/08(水) 21:34:23.80 ID:lMyFL4qwo
>>209
何言ってんだ、好きだからこそいじめるんだろ
212 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 22:05:12.14 ID:zjjNypD7o
少し時間は遡って。

「もしもし」
「は、はい! あ、あのこちらindex-librorum-prohibito……」
「インデックス?」
「えっ?!」

なんというか、どう見てもインデックスは携帯電話慣れしていなかった。
インデックスの携帯には明らかに婚后光子の名が表示されていたのだが、それに全く気づいていなかった。

「みつこなの? もう、とうまからしかかかってこないと思ってたから、びっくりしたんだよ」
「ふふ。それはごめんなさい。もう起きてましたの?」
「うん。別に朝は普通に起きられるけど、寝坊したってこの時間にはあいほに起こされるし」

黄泉川家は必ず七時には起きて夜は日付の変わる前には寝ることが義務付けられていた。

「私はあまり朝は得意なほうではないから気をつけないといけないわね」
「もうすぐみつこも一緒に暮らせるんだよね?」
「ええ。そのことですけれど、今別の病院で、退院を許可する診断をようやく貰ってきましたの」
「あ、それじゃ」
「昼から、インデックスはどうするの?」
「これからすぐにエリスの所に行って遊ぶ予定だから、昼から私達も光子と一緒に遊ぶ!」
「エリスさんは何て?」
「え? まだ会ってないからわかんないけど」

きょとんとしたその言葉に、苦笑いする。携帯電話で打ち合わせをするという考えはないらしかった。

「まあ、もし不都合がありましたら、また夜にでも会いましょう。
 今日は寮に帰らないといけないけれど、夕食は黄泉川先生の家で頂くつもりにしているから」
「うん! でもせっかくだから一緒に遊びたいな」
「ありがとう。でもエリスさんにご迷惑じゃないかしら」
「え? どうして?」
「だって、あまり私とエリスさんは面識があるわけじゃありませんし」
「大丈夫だよ。エリスはみつこのこといい人そうだって言ってたし。
 それに最近、彼氏さんが出来たって言ってたから、妬き餅焼かなくても大丈夫だよ?」
「べ、別にそういう心配してるわけじゃありません!」
「ふーん、でもみつこの学校の寮祭で、エリスに妬き餅焼いてたよね?」
「そ、そうだったかしら」
「誤魔化してもバレバレなのに。大丈夫だよ。とうまがすきなのか、みつこだもん」
「もう! そんな嬲らないで頂戴」
「えへへ。それじゃ電車の時間があるから、そろそろ行くね」
「初めてなんでしょう? よく気をつけてね」
「うん、それじゃあまたね」

楽しいことが重なったからかはしゃいだ様子のインデックスの言葉を聞き届け、光子は電話を切った。
自分の顔にも笑顔が浮いているのが分かる。
インデックスと三人で過ごせるのも楽しいし、昼間では当麻と二人きりなのだ。
もちろん病院でひと悶着あるだろうことは憂鬱だが、楽しさはそれを補ってあまりある。

「さて、当麻さんを探しませんと」

コールの途中で何かを見つけたのか、ふらふらとどこかへいった当麻を目で探す。
電話をしているにせよ、彼女を放っておくというのはどうかと思う。
大したことではないので起こることはないが、一言くらいは愚痴を言ってやりたかった。

「歩道橋を上がって行きましたわね、たしか」

カツカツとローファの音を鳴らして階段を上がる。
もう30分もすれば通勤客でごった返してろくに見渡せなくなるが、この時間はまだ人はまばらだ。
まして立ち止まっている人間は皆無だったので、特徴的なツンツン頭はすぐ見つかった。

「当麻さん? もう、一体どうされましたの?」

見ると、誰かと対峙していた。背は低いからきっと女の子だろう。
それだけでもうムッとするものがある。せっかく朝から二人っきりだというのに、また女の知り合いか。
そう思いながら、短パンにTシャツ、キャップで顔の良く見えないその女の子を凝視する。
髪の色で懸念を抱いて、そして光子のかけた声に反応してこちらを見た瞬間、自分の直感の正しさを確認した。
なんで、ここに?
――――光子が一番、チリチリとした嫉妬の炎をくすぶらせている相手。御坂美琴だった。
213 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 22:10:13.81 ID:zjjNypD7o
みんなノリノリだなw
美琴の心情に違和感を覚えて文句が出るかなーと不安があったけど、そうでもなかったかな。
みんな次の展開が読めなくなってきたみたいで、先の展開知ってる俺の優越感がパない。

>>209
俺は美琴大好きよ。好きだから苛めるんだよ。
美琴がホントに嫌いな人のSSには美琴が出ないか露骨なヘイトが混ざるだろうしな。
美琴の心情にそれなりに文字数割いてるし、やっぱりそこに愛はあるんですよ。
ほら、美琴が幸せになるSSなんて沢山あるし、癒されない思いはソッチで癒そうぜ。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/08(水) 22:22:29.19 ID:j6E8uBIR0
乙乙! 好きな子をいじめる男子小学生の言い訳ですね、分かりますwwwwwwwwwwwwwwwwww
美琴の気持ち次第でいくらでも未来があるから先が楽しみです
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/08(水) 22:32:01.16 ID:R/ozf3Cmo
乙ですたー
やっぱり禁書さんがいないとフラグが芽吹く上条体質は健在!
そして、そしてそしてああもう!
ぎゃー!
楽になるのかどうなのか。
いよいよ修羅場か、修羅場ラバンバなのかー!
なんだろう、この掌の上で弄ばれてる感ww
だ が そ れ が い い

次回も楽しみにしてますよー
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/08(水) 22:49:52.89 ID:660U5ZWd0
もし>>1が美琴嫌いなら「姉妹丼」なんて書かないだろ。
あれを書けるってことは>>1はかなりの美琴スキーのはず・・・

いやあれは6Pだから少なくとも常人の5倍は愛が重いのか・・・
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/06/08(水) 23:03:36.20 ID:j8MovUQG0
乙ですた

>>「昼から、インデックスはどうするの?」
これって婚后さんの台詞だから「どうしますの?」
の方が適当じゃないかな?
218 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/08(水) 23:55:57.39 ID:zjjNypD7o
>>217
ありがとう。確かにそうやね。意外と光子→インの言葉遣いは難しい。
かしこまりすぎると、二人の姉妹的な距離感がおかしくなってしまって。

ところで今日寝る前にもう数レス投稿するのは確定してるんだが、
さすがにコレは鬼畜すぎるかと自分でも思い始めたwwww
自重はしないんだけど。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 00:01:48.98 ID:YU5uYtvGo
まじか

ばっちこい

いあ! いあ!

誰かを選ぶということは誰かを選ばないということだ。
覚悟はいいか?俺はまだだww

だが、明朝にそれを目にするのは楽しみにしてるんだぜ。

ちなみに、ああ。
あくまで光子さんを応援するぜ!
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/09(木) 00:13:56.51 ID:a/nlcLZQo
インデックスと三人で過ごせるのも楽しいし、昼間では当麻と二人きりなのだ。

昼まで?
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/06/09(木) 00:36:19.68 ID:cF3QqKKP0
おらワクワクしてきたぞ
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/09(木) 00:49:00.44 ID:dQkrc8fq0
サイヤ星王子「これからが本当の地獄だ・・・」

佐天さんはまだかなーチラチラ
223 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:02:14.58 ID:zr9MmJcMo

割り込むように響いた声に、美琴は振り返った。
少し離れたところに、見慣れた常盤台の制服を着た、美琴の同級生がいた。
美琴とは少ししか身長が変わらないのに、体つきはずっと大人びていて、
その長く綺麗な黒髪とあいまって、ちょっと容姿では負けてるような、そんな気になる相手。
親しいというほどではなかったが、悪い人間でないことは知っている。
つい最近、彼氏がいるという話を聞いた。二つ上の、高校一年の人と付き合っている。
幸せそうにはにかむのが、羨ましかった。

「婚后さん……」
「御坂、さん?」

二人の疑問で満ちた視線が絡み合う。そして次の瞬間、キッと光子の視線が鋭くなったのを美琴は感じた。
美琴はわけも分からず、心に湧いた不安に戸惑うほか無かった。

「どうして、御坂さんがいらっしゃいますの?」

ごきげんようとか奇遇ですわねとか、そんな言葉ではなかった。柔らかさのない、端的な切り口。
どちらかというと婉曲な物言いの多い光子の言葉としては不自然だと美琴は思った。

「み、光子?」
「なんですの、当麻さん。私、ちょっとびっくりしてしまっただけですわ」

光子の声に棘を感じて躊躇いがちに声をかけた当麻に、光子は思わずなじる響きが言葉に篭もったことをはぐらかした。
その二人の会話に、美琴の心は混乱という名の思考停止に陥った。
もちろんそれは無意識の逃避で、美琴自身は気づかない。
だが昨日の夜から、美琴の心は何度もそれを行い続けているのだ。
自分の心の働きを具体的には美琴は理解していない。
だけど、自分が何に直面しているのか、手にかいた汗や急に浅くなった呼吸が、じわじわと美琴に悟らせた。
不安が心の中を染めていくのを、止められない。

「それでお二人で朝から何を談笑してらしたの?」
「え? いや、御坂のヤツ朝帰りらしくてさ」
「さっきいた場所からここまで距離もありますのに、良くお気づきになりましたわね」
「……いや、花壇に座ってる子がいるのが見えて、横顔で御坂っぽいって思ってさ」
「そう、ですの」

光子が、美琴ではなく当麻と話をした。
本来なら、それはおかしなことだ。常盤台の学生とうだつの挙がらない高校生の当麻に接点なんてあるわけがない。
だから、光子は美琴と話をするはずなのに。当麻と話なんて、するはずがないのに。他人だから。他人のはずだから。
光子が美琴と話さない理由は、嫉妬の矛先を美琴に向けてしまいそうだったから。
盛夏祭、常盤台の寮祭で、綺麗なドレスで着飾った美琴が当麻と話してるのを見た。
その二人が親しげで、とてもただの知り合いなんて距離には、見えなくて。
それ以上親しくなって欲しくない、美琴と会って欲しくない、当麻にそんなことは言わないが、
光子は内心では、そう思っていた。
理不尽な理由で長い入院をする羽目になって、その間にも当麻は美琴と夏祭りにだって行っていた。
勿論それが二人っきりでないことは知っている。だけど、それでも。
美琴と当麻が二人でいることに、どうしても割り切れない思いを、光子は感じてしまうのだ。
じっと、光子は当麻を見つめた。それで気持ちは伝わった。
当麻は、いつか光子にした約束を思い出す。
――――光子と光子以外の女の子は、ちゃんと分けてる。もっと光子にも伝わるように、努力するから
あの時も、光子を嫉妬させてしまった原因は、美琴だった。
224 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:03:15.35 ID:zr9MmJcMo

「御坂」
「っ――!」

ビクリと、美琴が肩を振るわせた。その瞳に浮かぶ不安に当麻は戸惑った。
なんだか、大好きなおもちゃを取り上げられた子供みたいな、そんな顔だった。
さらにもう一つ、自分が美琴からおもちゃを取り上げるような、そんな悪者になった気分。
錯覚だ、と当麻は思うことにした。美琴は何か事情があってかなり落ち込んでいる。
直接伝えたことはたぶん美琴は光子が自分と付き合っていることなんて知っているはずだと思うし、
別に、今さらだろう。ちょっとくらい惚気たって。

「知ってると思うけど。光子とさ、俺、付き合ってるんだ」
「あ――――」

僅かに照れて、でもどこか誇らしげに。
頭をかきながら当麻が美琴にそう伝えた。
そしてちらと光子のほうを見て、ごく軽く引き寄せた。
光子が嬉しそうに、当麻の体に寄り添った。
美琴が見つめた光子の瞳の中には、どこか、優越感めいた感情があるように見えた。
そのあからさまな構図に、美琴はひどく打ちのめされた。

「御坂?」
「え……?」
「いや、なんか無反応だとこちらもどうしていいか困るっつーか」

その言葉で、自分でも不思議に思う。どうしてこんなに、私はショックを受けているのか。
ただ、知り合いと知り合いが、実は付き合っていましたって、それだけなのに。
慌てて、返事を返す。頭がまるで仕事をしていないから、何を言っているのか自分でも分からない。

「ごめん。その、知らなかったから」
「え?」
「アンタ達が、その――」

その先の言葉を口に出来なかった。きっと口がカラカラに渇いているせいだ。
そういえば妹達にスポーツドリンクを横取りされてから、何も口にしていない。
吐いた口元を洗うのに含んだ公園の水道水くらいだ。

「あれ、知らなかったのかよ。白井と佐天さんと初春さんには話したから、
 お前もてっきり知ってるものと思ってたんだけど」
「知らな、かったわよ。――――そっか、私が、知らないだけだったんだ」

なんて、自分はものを知らないのだ。
自分は何も知らないで、自分の狭い世界で、あれこれを楽しい思いをしていたんだ。
本当はそんなの、幻想なのに。

「そう。御坂さんは、私のお付き合いしている方が当麻さんだって、ご存じなかったのね」

光子が薄い笑顔で、確認するようにそう言った。

「いつだったか、他の方も交えて好きな人の話までしましたのにね。
 当麻さんと御坂さんがお知り合いなのは、私もつい最近知ったから人のことは言えませんけれど」
225 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:04:30.46 ID:zr9MmJcMo

おぼろげにしか美琴も覚えていないが、光子は彼氏のことをどう評していたんだったか。
たしか、「不幸だ」が口癖で、格好よくて、いざという時には頼りになる人。
――――どうしてあの時、疑わなかったんだろう。そんなのコイツのことに決まってる。

「そっか。婚后さんが言ってたの、コイツ――ごめん。この人のことだもんね」

友達の恋人をコイツ呼ばわりは出来なかった。「この人」なんて、使ったこと無かったのに。

「ええ。私の知っている当麻さんと御坂さんがご存知の当麻さんは、別の顔なんてしていませんでした?
 当麻さんはすぐ色々な女性と仲良くなるから、みんな別の顔をしてるのかなんてつい思ってしまって」
「お、おい光子。そんなわけないだろ。顔色の使い分けとか、そういうのはしねーよ」
「そうかしら」

当麻が、妬いた顔を見せる光子の背中に軽く手を触れた。その気遣いは、一度だって美琴に向けられたことはない。
そりゃあ、そうか。婚后さんって彼女が、いるんだもんね。
当然のことか、と嘆息するつもりなのに。ギリギリと締めあがる肺が苦しくて、何も出来ない。
その美琴の内心の動きを知ってか知らずか、光子が思い出したように呟いた。

「そういえば御坂さんにも気になる方がいらっしゃったのよね」
「えっ……?」
「確か当麻さんと同じ、高校一年の方なのよね」
「あ、あ……」

あの時、光子が惚気話をした隣で、自分は誰の話をしたんだった?
好きな人の話ではなかった。何度も自分はそう断った。
でも、自分は、誰のことに言及したのだったか。
光子は、気づいていないのだろうか。美琴が、他でもない自分の恋人である当麻の話をしたことに――――

「お! 御坂、お前好きなヤツいるのか?」

隣の当麻が、面白い話を聞いたという顔をした。
それが、たまらなく悲しい。そんな人、いるわけないのに。
どうして、よりによって当麻が、そんな風に聞くのだ。

「御坂さんは頑なに否定されていましたから、本当のところはどうか分かりませんけれどね」

光子は会ってからずっと、美琴の表情を見つめていた。
もう、全部分かっていた。
美琴はあの時、おせっかい焼きの正義の味方気取りと言った。
そして、当麻の前で美琴は、恋をしている女の子の顔をしている。
光子は今この構図を、気の毒だとも、申し訳ないとも思わなかった。
当麻は、自分のものだ。美琴になびくなんて絶対に許さない。
当麻の気を惹くなんて、絶対に許さない。
二人の間に何かが起こる可能性が目の前にあったら、それを摘み取ることに光子は躊躇いなんて無かった。

「あれから御坂さんはその殿方と進展はありましたの?」

あ、は、と美琴は自分の吐息が震えるのが分かった。
何でかわからない。今まで、ずっと言ってきたことを、ただ繰り返すだけなのに。
口ごもる美琴を見て、光子は情けをかけることを、止めた。

「あの、間違っていたらごめんなさい。御坂さんの話に出てきた殿方って、もしかして」
「っ!」
「でも、御坂さんは確か好きっていうのは否定されてましたわよね」
「光子? 話が良く分からないんだが」
226 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:06:16.31 ID:zr9MmJcMo

もう、やめて。聞かないで。
そう当麻に言いたかった。言えなかった。

「その……御坂さんの話に出てきた方が、当麻さんみたいな方で」
「え?」

当麻がその意味を理解しようと、頭を捻る。
美琴に好きな人がいるかも、という話があって、その相手が、自分みたいな男らしい、と。
……そして自分はこの二ヶ月、何かと美琴と会うことが多かった。

「ち、違うわよ! だからあれは黒子の勘違い! 私が、コイツのことなんて、好きなわけないでしょ」

もう、そう言うしかなかった。それ以外の逃げ道が美琴に無かった。
……いやその理屈はおかしい。実際、自分はこのバカのことなんてなんとも思ってないんだから、
婚后さんのためにもちゃんと否定してあげるのは、正しいことのはずだ。

「やっぱり、白井さんのはやとちりでしたのね。あの方は御坂さんのこととなると冷静でいられなくなりますものね」

困ったものだというため息交じりの笑顔で、光子が美琴の言葉に同意した。
当麻がそれを聞いて、なんだ誤解かと納得したようだった。
自分の放った言葉が、瞬く間に事実として、固まっていく。

「ホント迷惑すんのよね、黒子の暴走にはさ」

なんで、そんなことを自分は笑っていえるのだろう。
顔だけを取り繕ってそう言っていることに、美琴は気づいていた。
今、自分を言ったことは嘘なのだ。だって、言葉にしてみたらどうしようもなく分かる。
自分が言った言葉に、真実の響きが無かったことを。
そして、さっき言ったのが嘘だったのなら、自分の「本当」はどこにある?
黒子のアレは勘違いなんかじゃなくて、私は。コイツのことを。
――――心の中が、真っ黒に染まっていく。
自分の大好きなもので彩った綺麗な部屋に、きつい匂いのタールをぶちまけるように。
美琴が大事に大事に、自分でさえ気づかず育てていたその気持ち。
それが今この瞬間に立ち枯れてしまったことに、美琴はようやく、気がついた。
後の祭りだった。いや、いつ手遅れになったのかといえば、今日なんかじゃない。
ずっと前から、自分が心のどこかで当麻に会えるかもしれないと視線をさまよわせていたときから。
目の前の二人は疾うに中睦まじくなり、優しい言葉を交し合っていたのだ。

「さて、それじゃ光子、これからのこともあるしそろそろ行かないと」
「あ、そうですわね。それでは御坂さん、ごきげんよう」
「うん……」
「ま、ちょっと元気出たか? 頼りが欲しいなら、声かけろよ。俺も、光子も多分、力になるから」
「ん。ありがと」

立ち去る準備を、二人が整えた。また美琴は一人ぼっちだった。
そして去りがけに、何かを思い出したように当麻が空を見上げた。

「そういや俺が声かける前に話してた人、お前の知り合いか?」
「え? ……さあ、別に。あっちは顔知ってたみたいだけど」
「あれ、御坂は知らない人なのか。光子のお見舞いに行ったときに、
 あの病院でテレスティーナさんと話してるのを見た覚えがあったから、知り合いかと思ったけど」

まいいや、と言って、当麻が光子と手を繋いで、美琴のもとを去った。
涙は出なかった。そういうものじゃ、ないのだ。なくした瞬間というのは。

「私、知らないことばっかじゃない。バカすぎるよね」

妹たちのことを知らなかった。自分の気持ちを知らなかった。
――――だから、失くしてしまったのだった。
227 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:06:57.01 ID:zr9MmJcMo

もう、やめて。聞かないで。
そう当麻に言いたかった。言えなかった。

「その……御坂さんの話に出てきた方が、当麻さんみたいな方で」
「え?」

当麻がその意味を理解しようと、頭を捻る。
美琴に好きな人がいるかも、という話があって、その相手が、自分みたいな男らしい、と。
……そして自分はこの二ヶ月、何かと美琴と会うことが多かった。

「ち、違うわよ! だからあれは黒子の勘違い! 私が、コイツのことなんて、好きなわけないでしょ」

もう、そう言うしかなかった。それ以外の逃げ道が美琴に無かった。
……いやその理屈はおかしい。実際、自分はこのバカのことなんてなんとも思ってないんだから、
婚后さんのためにもちゃんと否定してあげるのは、正しいことのはずだ。

「やっぱり、白井さんのはやとちりでしたのね。あの方は御坂さんのこととなると冷静でいられなくなりますものね」

困ったものだというため息交じりの笑顔で、光子が美琴の言葉に同意した。
当麻がそれを聞いて、なんだ誤解かと納得したようだった。
自分の放った言葉が、瞬く間に事実として、固まっていく。

「ホント迷惑すんのよね、黒子の暴走にはさ」

なんで、そんなことを自分は笑っていえるのだろう。
顔だけを取り繕ってそう言っていることに、美琴は気づいていた。
今、自分を言ったことは嘘なのだ。だって、言葉にしてみたらどうしようもなく分かる。
自分が言った言葉に、真実の響きが無かったことを。
そして、さっき言ったのが嘘だったのなら、自分の「本当」はどこにある?
黒子のアレは勘違いなんかじゃなくて、私は。コイツのことを。
――――心の中が、真っ黒に染まっていく。
自分の大好きなもので彩った綺麗な部屋に、きつい匂いのタールをぶちまけるように。
美琴が大事に大事に、自分でさえ気づかず育てていたその気持ち。
それが今この瞬間に立ち枯れてしまったことに、美琴はようやく、気がついた。
後の祭りだった。いや、いつ手遅れになったのかといえば、今日なんかじゃない。
ずっと前から、自分が心のどこかで当麻に会えるかもしれないと視線をさまよわせていたときから。
目の前の二人は疾うに中睦まじくなり、優しい言葉を交し合っていたのだ。

「さて、それじゃ光子、これからのこともあるしそろそろ行かないと」
「あ、そうですわね。それでは御坂さん、ごきげんよう」
「うん……」
「ま、ちょっと元気出たか? 頼りが欲しいなら、声かけろよ。俺も、光子も多分、力になるから」
「ん。ありがと」

立ち去る準備を、二人が整えた。また美琴は一人ぼっちだった。
そして去りがけに、何かを思い出したように当麻が空を見上げた。

「そういや俺が声かける前に話してた人、お前の知り合いか?」
「え? ……さあ、別に。あっちは顔知ってたみたいだけど」
「あれ、御坂は知らない人なのか。光子のお見舞いに行ったときに、
 あの病院でテレスティーナさんと話してるのを見た覚えがあったから、知り合いかと思ったけど」

まいいや、と言って、当麻が光子と手を繋いで、美琴のもとを去った。
涙は出なかった。そういうものじゃ、ないのだ。なくした瞬間というのは。

「私、知らないことばっかじゃない。バカすぎるよね」

妹たちのことを知らなかった。自分の気持ちを知らなかった。
――――だから、失くしてしまったのだった。
228 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/09(木) 01:08:21.42 ID:zr9MmJcMo
だーごめん。最後のが重複してしまった。
とりあえず今日はここまで。

>>220
サンクス。修正します。

>>222
もうちょっと先だな、佐天さんは
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/09(木) 01:09:57.85 ID:Gg4f8DRuo
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

光子の気持ちも結構分かるよなあ
こんな朴念仁のあちこちにいい顔する男だとこういうことも言いたくなる
「この人は私のものだ!」てな

それにしてもほんと、よくぞここまで溜めに溜めたww
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/09(木) 01:13:11.89 ID:qrpR8vVjo
昨日も書いたがもう1度だけ書きたい
ホント作者鬼だなww
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 01:22:50.76 ID:tvj4dy2DO
光子さん怖っ!これまでの不安をここぞとばかりにぶつける光子さんめちゃ怖っ!!
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 01:40:16.60 ID:uz55ZyS7o
びゃっはは!ふぎゃああああはっはあああっ!ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃwwwwww

カキケコカカキクケキキコクケキコキカカカーーー(´;ω;`)
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/09(木) 01:46:13.23 ID:jKbDnSH0o
御坂美琴さんのご冥福をお祈りします…
ホンマ作者は鬼畜やでぇ…
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/09(木) 01:48:01.16 ID:+fkoO6rno
婚后さんの容赦のなさがかわいすぎて困る

そうなんだよな。女の嫉妬って相手の女に対して攻撃的になるんだよなあ。
禁書じゃとうまあああとかって上条さんに噛み付いて嫉妬を表現してるんだが、なんか違和感あったのはそれか。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 02:04:22.08 ID:N+nmduCU0
これは御坂さん
まさかの暴走の果てに暗部おちするのか??

暗部おち の方がうれしいけどw
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 03:12:58.32 ID:05teGeaj0
まだ美琴には友達がいる…んだが、本編で妹達対策を一人でやってたのを考えると…こういう事があっても、自分一人の中で抱え込んじゃうんだろうなぁ…、人の心情の変化に鋭い佐天さんは婚后さん寄りだし…初春は春上さんのことで頭が一杯だし…黒子気付いてくれぇぇぇええええ ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 05:10:24.75 ID:c3c260YDO
みつこかわいいよみつこ
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/09(木) 06:57:03.34 ID:UhvczBP8o

まあ、きっちりトドメ刺してくれただけ、光子さんはまだ優しい方だと思うけどねえ
とりあえずこの状態で食蜂さんあたりにつけ込まれなきゃいいが……黒子の頑張りに期待しておく。
暗部落ちとかなったらさすがに光子さんも寝覚め悪いだろうし


>>234
インデックスは精神的にお子様だからね
マーキング行為と思えば可愛いww>噛みつき
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/09(木) 07:15:48.67 ID:0VPdb8hAO
みっちゃんかわいいよみっちゃん
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 08:56:08.61 ID:ghy/SKlI0
一方通行!最終的にやられちゃうのはしゃーないけど、上条さんの手足の5、6本はヘシ折ることを許す!ヤっちゃえ!!
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 09:05:37.28 ID:to/mqko90
ここの美琴は孤立無援すぎて、暗部落ちしても納得するレベル。
妹達率いたら、一気に最大構成員数を誇る暗部誕生ですwww
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 09:26:00.93 ID:hrQYWQRIO
暗部落ちよか、一方さんに挑んで死ぬ、が一番有りうる状況じゃね?
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/09(木) 09:45:38.27 ID:ND7qae6Q0
好きな子をいじめる書き方をする作者は、実は小学生であることが判明しました。
っつかいじめってレベルじゃねぇぞ。テメェの血は何色なんだ?

光子はただ立ち位置を表明しきっぱりさせただけ。
長い目で見れば、美琴の為になることをしてると思うんだけどね。
もてたの頃から思ってたけど、こういう失恋した女性の表現の仕方は上手いと思う。

>>212の「とうまがすきなのか、みつこだもん」は「とうまがすきなのは」だと思うのですが
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 10:13:14.11 ID:tgvTwipto
光子さんのそげぶこええそしてタイミングが悪いww
誰も悪くないだけにきつい物があるな
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/09(木) 10:57:37.59 ID:O6DaJoA4o
ドタバタ展開で場を明るくするのかと思ったら、
婚后さんの凄まじい一本勝ちだった。
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 12:39:51.92 ID:lHx5zrqZo
乙乙
鉄橋イベント後だったらもっと地獄だったのにね☆ミ
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/09(木) 18:20:19.05 ID:dQkrc8fq0
光子が今の美琴の状況をいつか知ったら、凄まじい自己嫌悪に陥りそうな気が。
なんだかんだで人を思いやれるお嬢様なんだし
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 19:14:22.05 ID:Xma+PSNIO
妹達の話を知ることがなくても、普通に自己嫌悪はありそうだけど。
そう考えるのはおれが男だからか?
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/09(木) 20:24:31.06 ID:JchJXgNgo
乙ですた!
女の闘い!
負けられない戦いが、そこには、ある!
そんなお話でしたねー。
きっちり容赦なく恋敵(未満)を粉砕する光子さんはかわいい!
きっちりと、光子さんとそれ以外を区別してのけた上条さんも頑張った!
こういう場面をきっちり描写するのはお流石ですわ。
落ちるとこまで落ちちゃったビリビリの明日はどっちだ!

…まあ、絶望→暗部とかいう構図が良く分からんのですよね個人的には。
ビリビリちゃんは、それでも、前を向いて立ち上がれるおにゃのこだと思うので。

次回も楽しみにしてますよー
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 21:12:08.38 ID:FI5Ht6QK0
作者鬼やな……
まあここで光子がきっぱり態度を表明したのは、むしろ僥倖だと思うけど。
本気の欝話だと、このまま美琴と上条さんを交流させて、上条さんは無自覚に美琴を支え、極限状態の美琴はどんどん上条さんに依存していき、やがて一線を越えそうなところで光子登場、真実暴露、てな展開になるところだろうし。

個人的に、美琴は「格好いい失恋」ができるキャラだと思ってるんだけど、今は色々追い詰められてるしなぁ。
どうなることやら。
251 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/10(金) 00:15:17.70 ID:tMAT+MSuo

コンコンというノックの音で、まどろんでいた春上の意識は覚醒した。

「おはよう、春上さん。朝早くにごめんなさいね」
「あ……おはようございます、なの」

病院が本格的に活動する前からパリッと紺のスーツを着こなしたテレスティーナが、にこりと春上に微笑みかけた。
それに少し恥ずかしくなりながらお辞儀を返す。一応、もう起きていないといけない時間だった。

「体の調子はどう?」
「大丈夫なの。普段は、なんともないから」
「そう、よかったわ。実は朝からちょっと検査をしようと思っていたの。
 食事前でないと困るから、起きてすぐで申し訳ないけど、準備してくれるかしら」
「わかったの」

ベッドから降りてスリッパを履き、ざっと髪を整える春上を笑顔で眺めながら、
テレスティーナがカーテンを開くスイッチを押した。
夏の嫌になるような強い太陽が、燦燦と外の世界を照らしていた。

「いい天気ね」

朝から仕事で疲れるのよね、なんて感じにテレスティーナが伸びをする。
その隣で細々としたことを済ませ春上がテレスティーナのほうを向いた。

「お待たせしましたの」
「ううん。大丈夫よ。さ、それじゃ行きましょうか。今日はいいものも見せてあげられるわ」
「いいもの?」
「ええ」

テレスティーナは多くを語らず、いつもと違う方向へ春上を案内した。
そしてある一室の扉を開ける。

「ここがそうよ」
「ここ……?」
「うん。ポルターガイスト事件の核になっている子供達を保護することが出来たの。
 あなたのお友達も、いるんじゃないかしら」
「えっ?!」

絆理ちゃんが、ここにいる?
ずっとずっと会いたかった、春上の親友。
待ってるじゃ会えそうにもなくて、退院したら、初春に助けてもらって絶対に見つけようと思っていた。
その、枝先がこの部屋にいるとテレスティーナは言う。
10床以上ベッドが並び、各々が衝立で仕切られているから、何処に誰がいるかが分からない。
ふらふらと枝先はベッドを一つ一つ調べ、テレスティーナの言を確かめていく。

「あ……!」

こげ茶の髪、そばかすの浮いた頬。
手足がガリガリとやせ細って見るに耐えないけれど、その顔を、春上は間違えたりなんてしない。

「絆理ちゃん! 本当に……絆理ちゃんだ!」

痛ましい。どうして、こんな風になっているのだろう。
そう思いながら、春上は枝先のこの姿を驚きはしなかった。
あれほど、悲痛な声で自分に呼びかけをしていた枝先のテレパシーを思い出すと、むしろ納得すらしてしまえそうだった。
シーツの横から手を差し入れて、そっと枝先の手を握る。ほっと春上は息をついた。普通に、人の温かみを持っていたから。

「あ! そうだ、初春さん連絡してあげなきゃ!」
「ごめんなさい春上さん。検査の装置、使う予定がつまってるから、すぐ測らせて欲しいの。
 春上さんの検査で、この子達を助ける方法が分かるかもしれないから」

申し訳なさそうなテレスティーナの声に、春上はハッとなった。
検査の後でも、初春さんには連絡できるよね。それより、一秒でも早く、絆理ちゃんたちを助けてあげなきゃ。

「ごめんなさいなの。すぐ、行くの」
「うん、頑張りましょうね」

慌てるように春上は部屋の外へと向かった。その後姿をテレスティーナが微笑みながら見つめた。
――ニィ、と犬歯をむき出しにして。
数十分後、従順な春上はベッドの上で、全身麻酔によって意識を手放した。
252 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/10(金) 00:18:02.67 ID:tMAT+MSuo
今回からしばらく、視点が飛びまくるので頑張ってついてきてくれー。
Arcadiaでの1,2話分かけて、沢山の人を動かしつつクライマックスに持って行きますんで。
さあいよいよ佐天さんが戦場に赴く日がきますねぇ。
あの日バットしか持てなかった佐天さんの姿を変えたくてこのSS描いてきたからな。
作者的にはワクワクしてる。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 00:21:13.56 ID:rIwjrsTDO
キャラ視点のトライアスロン、だと・・・

かまわん、やれ
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 00:23:37.16 ID:em4Bbr4IO
と、いうことはある種このSSの最終回が近いということなのか。
楽しみだ
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/10(金) 00:25:06.25 ID:9NgULL0Po
乙ですたー
うん、どんだけ ビリビリが傷心でも、世の中は変わらず動くもんね。
そして、いよいよクライマックスかー。
楽しみ。超楽しみ。
もはや予想とか無理だし。
次回も楽しみにしてますよーー
256 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/10(金) 00:28:31.78 ID:tMAT+MSuo
昨日の話は俺の好きな展開が出まくりでしたなぁ。反応がよくて物凄く嬉しい。
感想貰うとやっぱ頑張れますな。

>>230 >>233 >>>>250
鬼ってのは褒め言葉と受け取っておこう。
原作でずっと当麻が好きってフラグを温め続ける訳だから、
SSではやっぱりへし折るのが原作との差別化という意味で良いと思うのですよ。
ここの上条さんには光子さんがいるしね。もう。

あと暗部落ちの話は>>249の言うように、絶望→暗部落ちと直接は繋がらないね。
美琴がヤケになるって言ったって、街の暗部に関わるようなことにはならないようなー。
美琴の心持よりもアレイ☆の思惑が優先だろうし。
……でも☆がこのSSのストーリーラインで美琴をどう弄るか、原作とは異なることになる可能性は充分にあるかも?

>>247-248
俺光子さんは落ちこまねーんじゃないかと思った。
だってあそこで当麻が美琴に優しくしたら絶対惚れるやん? もっとドロドロよ?
257 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/10(金) 01:11:45.05 ID:tMAT+MSuo

朝の病院を、黄泉川はカツカツと進む。
服装はいつもの緑のジャージではなく、警備員のジャケットに身を包んでいた。
もちろんこの格好の教師が山ほど街中を歩いているから、これで威圧感を覚える人間などいないだろう。
だが、立場をはっきりさせる意味で、黄泉川はこれを着ていた。

「朝から精が出ますわね」
「ああ、アンタを探してたんだ。おはようございます、テレスティーナさん」
「おはようございます、黄泉川先生」

アッサリとした薄い笑顔の黄泉川と、いつもどおりの優しい笑顔をしたテレスティーナ。
黄泉川はテレスティーナの笑顔の作為感に改めて違和感を覚え、
テレスティーナは黄泉川の教師ではなく警備員としての笑顔に警戒感を抱いていた。

「ちょっと仕事があさから立て込んでてね。ところで、春上の見舞いに行こうとしたら止められたじゃんよ」
「ああ、春上さんは午前一杯は検査になりますわ」
「検査? 春上自身にはほとんど問題なくて、原因はポルターガイストの引き金になる子供達だろう?
 何で今更、春上の検査を?」
「事情が変わったんですよ。正式には午後にも警備員のほうへ連絡を入れるつもりだったんですけれど。
 ――――木山春生が匿っていた懸案の子供達の身柄を保護しました」

微笑を消して、テレスティーナが重要な事実を告げた。
黄泉川も営業用の軽めの笑みを消して、テレスティーナの続きを促した。

「彼らの覚醒を手助けする上で春上さんの検査を行うことは有意義と判断した次第です」
「……そうか。まあ、医者がそう言うんなら、あたしには反論はないじゃんよ」
「ご協力感謝しますわ。ところで、その子達を見ていかれます?」
「ああ。頼む」
「わかりました」

テレスティーナが、病院の奥、搬入口に程近いほうに黄泉川を案内した。
その道すがら。

「そう言えばテレスティーナさん」
「はい?」
「ここって体晶のサンプルを扱ってるのか?」

黄泉川は、僅かにテレスティーナから遅れるようにして、肩越しにそう聞いた。
何気ない口調で。
テレスティーナは、ピクン、と肩を揺らした。足捌きは、澱みながらも止まりはしなかった。

「体晶のことは知っているんだな」
「黄泉川先生。その単語には、さすがにびっくりしてしまいますわ。……知っています。
 研究テーマが近かったこともあって、その悪魔の薬のことは、聞き及んでいましたから」
「ふうん。で、ここにサンプルはあるじゃんよ?」
「いいえ。正式な令状でもお持ちなら、捜索なさってください。
 疑われるのは心外ですけれど、身の潔白を証明することにやぶさかではありませんから」

黄泉川は優しげなテレスティーナの微笑みの裏に、僅かに優越感を感じた。
きっと、本当にないのだろう。

「それにしても、急に能力体結晶の話なんて。黄泉川先生、どうしたんですか?」
「ん、昨日上条が……ああ、入院していた婚后の彼氏であたしの暮らすの生徒だ。
 そいつがテレスティーナさんが大学生くらいの女と体晶の話をしていたって言ってな
 聞き間違いかもしれないが、無視するには重い情報だろ?」

黄泉川は包み隠さず、そう話した。
一瞬テレスティーナが見せた苛立ちの瞳の中に、冷酷なものが混じったのを黄泉川は感じた。

「体晶は学園都市の生んだ狂気の結晶ですから、確かに危険ですけれど。
 そんなものがここにあると疑われるのは残念です。
 とある能力者の方と、能力開発に使う薬品の話をしていただけですよ」
「そうか。悪かった。変に疑って。それと婚后が朝からここを抜け出しているだろう。
 たぶんもうじき別の医師の診断書をもってここに来ると思う。
 テレスティーナさんには不愉快なことだと思うが、一週間拘束されて婚后も相当カンカンだったらしい。
 出て行くって聞かなかったじゃんよ」
「ああ、そういうことでしたの。主治医が困っていたから何かと思ったんですけど。
 黄泉川先生の指示でそうされたわけではないんですね。まあ、一週間もいれば我侭になるのかもしれません」

光子は確かに黄泉川の指示で動いたのだが、しれっと黄泉川はそれを誤魔化した。
黄泉川はもう、別のことを考えていた。
テレスティーナは、放置するにはあやしすぎる。昏睡状態にある子供達も、ここにいて安全かどうか分からない。
警備員として最短で行動を起こす方策を考えながら、黄泉川はベッドに横たわる子供達を眺めた。
いつかの、自分の過去を思い出して、平静でいることは大変だった。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/10(金) 01:15:33.09 ID:9EyGJx+50
美琴があんな状態になったり吸血鬼が出たりで先が読めねぇぜ。
垣根くんの活躍も含め楽しみにしている。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/10(金) 01:47:27.88 ID:14H/kw4/o
ここはあっさりと美琴には退場願いたいとこだな
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/06/10(金) 02:12:59.72 ID:EraLsqGr0
作者が鬼でしたの回
だけどそのおかげですごく面白い展開になってる。
前にもコメントしたかもしれないけど、ぬべをさんは恋愛系がやたら上手い。
まだ先のことかもしれないけど、次回作も恋愛系を読みたいな。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/10(金) 15:12:15.75 ID:V06ZFwjAO
そろそろイコスピさんが唐突に出てくる頃
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/10(金) 23:52:34.86 ID:+6oGP29Ko
乙ですた!
黄泉川せんせーかっこいいー!
ほんとリアルで知り合ったら結婚を前提に友達になるレベル。
衣装一つにメッセージを込めて戦場に赴くとか、素敵やん。
「スーツは男の戦闘服だ」
という言葉を思い出しましたよ。ブランカ…。
こういう、大人同士の暗闘は大好物っすわ。

次回も楽しみにしてますよー
263 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 01:16:16.03 ID:dNyH0m1Co
>>258
ようやく先が読めないと言ってもらえるようになってきたwまあ再構成モノはそのが難しいな。

>>260
手を広げすぎるとアレだから自重してるけど、インデックスのコテコテ恋愛モノか美琴の調教系18禁モノが書きたい。
恋愛モノは筆の進みがいいのは事実だねー

>>261
誰?

>>262
大人の暗闘は旅掛さんとか刀夜さんの情報がもっと揃えばトンデモ中でも遣りたいんだけど、なかなかねえ。


あ、ごめんなさい。続きは明日ということでお許しを。。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/11(土) 01:23:04.80 ID:bYeOMWQe0
>インデックスのコテコテ恋愛モノか美琴の調教系18禁モノが書きたい。
>美琴の調教系18禁モノが書きたい。
>美琴の調教系18禁モノ

お、お相手は?
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/11(土) 03:01:05.39 ID:q6iGdIylo
インデックスの読んでみたいな
他のキャラとのカップリングばっかでインデックスメインは案外少ないし
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 03:18:29.00 ID:zjjiUNfl0
まあインデックスはまさかのステイルかも?
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/11(土) 05:41:57.17 ID:cSP/5ebN0
地の文ありのいちゃいちゃ上インがいいなぁ

過去にほとんどないからパイオニアになれますぜ

あぁ… でも原作があるか……
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/11(土) 06:22:32.03 ID:KgZBSn7M0
原作を超えちゃいけないなんて誰も言ってないぞ。
故にインさんお願いします。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/11(土) 08:26:15.28 ID:iicxsefro
一瞬、インデックスのコテコテ恋愛で美琴の調教系18禁モノに見えて茶ふいたww
俺って馬鹿
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/11(土) 09:41:58.68 ID:rboaoeG80
まあ自分としては熱膨張が読んでみたいので末長くこの話が続くことを希望してます
271 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 09:58:19.04 ID:dNyH0m1Co

「……ええ、分かりました。では制服と下着の替えを預けておきましたから、
 お姉さまも体をお安めになったら合流なさってくださいませ」

朝、さまざまな商業施設などが門戸を開く時刻。
白井は昨日から帰宅しなかった美琴にようやく連絡を取れていた。
あのバカと遊んでた、なんていう言い訳に大きくため息をついて、
白井は私服では寮の部屋に戻れそうにない美琴のために、
駅前のホテルのクロークに美琴の着替えを預けたのだった。

「御坂さん、なんて?」
「どうもこうもありませんわ。また、あのバカさんと遊んでいたのだとか」
「夜通しって、それってやっぱり、そういうことなんですかね?」

佐天がどこかぎごちない笑みでそんな茶々を入れた。
普段ならいくらでも佐天と初春は盛り上がるネタだろう。
だけどなんだか考え込んだ風の初春と、
場をはぐらかそうとして滑ったような佐天の二人の様子はいつもらしくなかった。
今、白井は初春、佐天と共にとある病院の前にいる。
木山春生がポルターガイストの原因となっている子供たちを匿い、
そしてつい昨日、初春と佐天の目の前でテレスティーナにその子たちを「保護」された病院だった。

「まあ、お姉さまのことはよろしいですわ。それより、木山春生のことです」
「……うん」
「昨日の夜、テレスティーナさんが昏睡中の子達を保護してから、木山はどうしましたの?」
「別に、何かしたとかはなくて……呆然、って感じでした」

なんとなく、初春は木山に共感できるようなものを感じていた。
きっと、木山は学園都市を敵に回したって、その子達だけは絶対に助ける気だったのだと思う。
だからテレスティーナのやったことは、正しいのかもしれないけれど、
母親から子供を取り上げるようなことみたいだった。
木山の喪失感に溢れた顔が、見ていられなかった。
立ち尽くす木山を励ますことも出来なくて、カエル顔の医者の采配で佐天と初春はタクシーで自宅に帰されたのだった。

「木山先生、まだいるでしょうか」
「……帰る場所はあるんだし、そっちかもしれないけど」

昨日の夜、暗くなってから訪れたのとではすこし印象が違う病院の入り口をくぐる。

ぽつりぽつりと診療に来た人たちはいるものの、片手で数えられる位だった。
そして広い待合室の奥隅に、カップのコーヒーを持ったまま、うなだれている長髪の女性の姿が会った。
無造作な髪と、いつにも増して濃い目の下の隈。木山春生その人だった。

「木山先生」
「……君達か」

ちらりとこちらを一瞥して一言呟くと、木山は再び地面を見つめ、佐天と初春、白井に取り合わなかった。

「あの、昨日は……ごめんなさい」
「謝るのはよしてくれないか。君たちが悪いわけでは、ないのだろう?」

迷惑だという響きをはっきり込めて木山はそう初春に返した。
実際、謝罪を必要とすることはなかった。
犯罪を犯して保釈中の木山の手元から、昏睡中の子供達の身柄を保護し、しかるべきところに移す。
初春たちはその出来事に、間接的に関わっただけだった。
だけど、目の前の木山は失意の泥に沈んでいて、痛ましい。

「それで、何をしに来たんだ」
「その、木山先生はどうしているかなって……」
「見てのとおりだよ」
272 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 09:59:47.77 ID:dNyH0m1Co

自嘲を頬に浮かべて、木山は氷も溶けてぬるくなったコーヒーの残りを飲み干した。
味が薄くなってひどくまずい。

「昨日の夜から、何もすることがなくなってしまってね。ずっと後ろ向きなことを考えていたよ。
 もう少しだったのに、なんて思い出すときりがなくてね」
「木山先生……」

木山は、初春たちに恨み言を言うことはなかった。だが本当に恨みがない、ということはないと思う。
その態度は、初春の勘違いかもしれないが、間違ったことをしていない学生を叱ることはしないという、
ごく教師らしい考えを木山が守っていることのように思えた。
だってこの人は、研究にしか興味がないような態度でいながら、とても生徒のことを愛せる人だから。
教師だからといって誰にでもできることではない。
だけど、だからなおさら、昨日木山から子供達を取り上げてしまった自分達の行いが、正しかったと胸を張れない。
かける言葉を失った初春の代わりに、白井と初春の後ろにいた佐天が木山に歩み寄った。

「あの……木山先生って呼んでいいですか」
「昨日も言ったが、君は私を恨む資格がある。なにも敬称をつける必要などないよ」
「いいんです。初春もそう呼んでるし、木山先生は、先生って呼ぼうって思える人ですから」
「そうかな……そう言われるとむしろ居心地の悪さを感じるよ。私は学生の敵だからな」

関わった13人の小学生を昏睡に陥れ、後に自らの作ったプログラムで一万人の学生を意識不明に陥らせた女。
たしかに学生達にとって悪魔と言える実績だった。
でも、やっぱり佐天には恨めないのだった。初春が木山に感情移入しているせいもあるかもしれない。

「先生はこれから、どうするんですか?」
「どう、というのは?」
「あの子たちをテレスティーナさんが助けるまで、何もしないで待っているんですか?」
「……彼女には救う手立てがあるのだろう。前科持ちの私の協力なんて、向こうが願い下げだろう」
「信用されないかもしれないですよね。確かに。でも」

木山は見上げた佐天の瞳に強くこちらに問いかけるものがあるのに気がついた。
気丈に自分の目の前に立つその女の子は、一時は幻想御手で意識不明になったことがある。
何を言われるのか、木山には見当がつかなかった。

「先生はあんなズルをしても、叶えたい思いがあったんですよね。
 だったら、ズルがばれて信用されなくなったって、もっと足掻かなきゃいけないと、思います。
 じゃないと、あんな目にあった私達が、浮かばれないです。
 ズルをしたら、絶対にしっぺがえしがあるんです。それはきっと当たり前のことなんです。
 でも、だからって生きていくことを止められるわけじゃないですよね」

幻想御手を使ってあの子たちを助けるという手を、佐天はさすがに認められはしない。
だけど、やってしまったのなら、
後には引かず、信用されずともあの子たちのために最善を尽くすことだけは、止めてはいけない。
佐天は自分にも、同じ事を言い聞かせる。
幻想御手を使ってでも能力を伸ばしたいと思ったなら、それが失敗に終わっても能力と向き合うことを止めてはいけない。
……それがきっかけで、幸運にも自分は大きく能力を花開かせられたのだ。

「あの女に、協力しろと君は言うんだな」
「それが、一番あの子たちのためになる道じゃありませんか?」
「……そうだな。取り戻すのは、もう無理だろうから」

木山は内心にくすぶる、理論的でない憎悪を噛み殺す。
テレスティーナは職務を遂行しただけだ。決して、自分からあの子達を面白半分に奪ったのではないのだ。

「体晶のサンプルがあれば、ワクチンが作れるところまでプランは構築してあったんだ。
 引き継いでもらえるとも限らないが、やれることをやる義務が、私にはあるんだったな」

初春が潤ませた瞳で、立ち上がった木山を見つめた。
白井は二人と木山の表情を見て、そっと笑みを浮かべた。
273 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 10:03:41.50 ID:dNyH0m1Co
>>264
上琴です。ほかのカップリングはそんなに……

>>265-269
上インの話を想定しているんですが、今このSS書くのが楽しいので当分はお預けかなぁ。

>>269
これは尖った内容のSSになりそうwww
裸で縛られて転がってる美琴の隣でファーストキスに緊張するインデックスか。

さて、今日は今からお茶のお祭りに言ってくるノシ
ルピシアのダージリンフェスティバルってやつ。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/11(土) 10:45:23.52 ID:iicxsefro
>>273
いや、インデックスが美琴にヤンデレで監禁して調教するのかとww
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/11(土) 20:17:40.40 ID:F8KX+8Dto
>>273

それ俺も先週行ってきたww
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/11(土) 21:36:21.82 ID:KgZBSn7M0
第四土曜日に地元でやるから、その祭り行ってみようかな。
乱雑解放編に進展ありか。そろそろていとくんのターンかな?
乙です。
277 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 23:29:56.85 ID:dNyH0m1Co

カギを開けて、美琴はホテルの一室に崩れ落ちる。
昨日の夜からさっきにかけて、随分とめまぐるしく自分を取り巻く世界は変わっていた。
酷使した体は急速を欲していて、このままベッドに身を預けてしまいたい。
……それにも、罪悪感を覚えるのだった。心の均衡を失った人は、まず、眠れなくなるものだ。
だが美琴は、あの廃車場から離れて駅前でうずくまっているときにも、うつらうつらと意識を手放したし、
きっと今も、目を瞑れば眠れるだろう。
自分は、これだけの目にあって、まだ眠気を覚えるくらいに不貞不貞しい。
眠れないほどに苦しんで当然なのに。

「シャワー、浴びなきゃ」

玄関でだらしなく座り込んだ体を起こすでもなく、だらだらと這ってユニットバスへ向かう。
服は全て捨てるつもりだった。酷い汚れがこびりついているし、何より、
今日に繋がる思い出なんて、何一つほしくない。
キャップを外し、髪を括ったゴムを外す。それを、躊躇い無くゴミ箱に突っ込んだ。
靴下とシャツを脱ぎ、短パンと合わせてこれもゴミ箱へ。
下着を脱ぐ。ゴミ箱の中からシャツを取り出して、シャツに下着を包んでこれもゴミ箱へ。
まだ着られる服を捨てる後ろめたさが、また美琴に引っかかる。
後ろ向きな時は、どこまで行っても後ろ向きな考えが出てくるのだった。

「木山のところ、か」

合流地点は白井に連絡を貰っていた。もちろん、無理なら来なくていいとは言っていた。
その言葉に甘えてしまおうかとも思う。だって、もう、何もかもがどうでもいい。
浴室に入って、シャワーのコックを捻る。
夏場のことだからぬるめのお湯なら温度なんて適当でよかったから、
湯加減なんてほとんど見ずに美琴は頭から水に近いお湯をかぶった。
皮脂と埃で濡れにくくなった髪がシャワーのお湯を素通りで下に垂らしていく。
汚れた髪は、指で梳きながら濡らさないといけなかった。

「気持ち悪い……ホント、最悪」

しばらくばしゃばしゃとやって体全体を濡らして、ようやく汚れが落ちていくような気になる。
小さなパックに詰められたシャンプーを取り出して、髪につけた。
泡立ちの悪さに苛立ちながら、ふと隣の姿見を見る。
――昨晩、死んだあの子たちと同じ顔だった。
将来に希望なんて感じさせない、無表情。生気の無さで言えばいまの美琴のほうが酷い。
生まれてから、あの子たちは何度髪を洗うのだろう。
自分が今使っているシャンプーは、値段はそれなりに張るもののはずだ。
そういう女の子らしいおしゃれを、あの子たちはするのだろうか。
女は女に生まれるのではない、生まれてから女になるのだ。
――――偉い人はそう言った。なら、妹達は女ではないらしい。
それにおしゃれをするとして、それに意味はあるだろうか。意味があるかを決めるのは誰だろうか。
道具は、作られる前から作られる目的があらかじめ決まっている。
人間は、作られてから後に、自分が何者であるのかを決めていく。
妹達は、どちらだろうか。
シャワーで、シャンプーを洗い流す。それでようやく、人心地ついた気がした。
トリートメントで髪を整えて、続いてスポンジにリキッドソープをつけて泡立てる。
昨日、美琴の体にこびりついた何もかもをそれで剥がしとっていく。
その間にふと思い出した。靴を、まだ捨てていなかった。
278 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 23:32:28.84 ID:dNyH0m1Co

カギを開けて、美琴はホテルの一室に崩れ落ちる。
昨日の夜からさっきにかけて、随分とめまぐるしく自分を取り巻く世界は変わっていた。
酷使した体は急速を欲していて、このままベッドに身を預けてしまいたい。
……それにも、罪悪感を覚えるのだった。心の均衡を失った人は、まず、眠れなくなるものだ。
だが美琴は、あの廃車場から離れて駅前でうずくまっているときにも、うつらうつらと意識を手放したし、
きっと今も、目を瞑れば眠れるだろう。
自分は、これだけの目にあって、まだ眠気を覚えるくらいに不貞不貞しい。
眠れないほどに苦しんで当然なのに。

「シャワー、浴びなきゃ」

玄関でだらしなく座り込んだ体を起こすでもなく、だらだらと這ってユニットバスへ向かう。
服は全て捨てるつもりだった。酷い汚れがこびりついているし、何より、
今日に繋がる思い出なんて、何一つほしくない。
キャップを外し、髪を括ったゴムを外す。それを、躊躇い無くゴミ箱に突っ込んだ。
靴下とシャツを脱ぎ、短パンと合わせてこれもゴミ箱へ。
下着を脱ぐ。ゴミ箱の中からシャツを取り出して、シャツに下着を包んでこれもゴミ箱へ。
まだ着られる服を捨てる後ろめたさが、また美琴に引っかかる。
後ろ向きな時は、どこまで行っても後ろ向きな考えが出てくるのだった。

「木山のところ、か」

合流地点は白井に連絡を貰っていた。もちろん、無理なら来なくていいとは言っていた。
その言葉に甘えてしまおうかとも思う。だって、もう、何もかもがどうでもいい。
浴室に入って、シャワーのコックを捻る。
夏場のことだからぬるめのお湯なら温度なんて適当でよかったから、
湯加減なんてほとんど見ずに美琴は頭から水に近いお湯をかぶった。
皮脂と埃で濡れにくくなった髪がシャワーのお湯を素通りで下に垂らしていく。
汚れた髪は、指で梳きながら濡らさないといけなかった。

「気持ち悪い……ホント、最悪」

しばらくばしゃばしゃとやって体全体を濡らして、ようやく汚れが落ちていくような気になる。
小さなパックに詰められたシャンプーを取り出して、髪につけた。
泡立ちの悪さに苛立ちながら、ふと隣の姿見を見る。
――昨晩、死んだあの子たちと同じ顔だった。
将来に希望なんて感じさせない、無表情。生気の無さで言えばいまの美琴のほうが酷い。
生まれてから、あの子たちは何度髪を洗うのだろう。
自分が今使っているシャンプーは、値段はそれなりに張るもののはずだ。
そういう女の子らしいおしゃれを、あの子たちはするのだろうか。
女は女に生まれるのではない、生まれてから女になるのだ。
――――偉い人はそう言った。なら、妹達は女ではないらしい。
それにおしゃれをするとして、それに意味はあるだろうか。意味があるかを決めるのは誰だろうか。
道具は、作られる前から作られる目的があらかじめ決まっている。
人間は、作られてから後に、自分が何者であるのかを決めていく。
妹達は、どちらだろうか。
シャワーで、シャンプーを洗い流す。それでようやく、人心地ついた気がした。
トリートメントで髪を整えて、続いてスポンジにリキッドソープをつけて泡立てる。
昨日、美琴の体にこびりついた何もかもをそれで剥がしとっていく。
その間にふと思い出した。靴を、まだ捨てていなかった。
279 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 23:35:50.79 ID:dNyH0m1Co

「靴……も捨てればいいか」

お気に入りのスニーカーだったが、妹の血がついていた。
洗っても、染みは消えないだろう。
……妹の血を汚らしいものと考えている自分に嫌気が差す。
だけど、やっぱりあのスニーカーをもう一度履くのは嫌だった。

「私のこと、恨めばいいのに」

だが妹達に、そんな素振りはない。それがむしろ重圧だった。
美琴がこれからしなければいけないことは決まっている。
無駄かどうかなんて、やってみないとわからない。無駄でも、やらないといけない。
でも、あの実験を止めるなんて大きなこと、出来る自信がない。
頭から、美琴はシャワーをかぶる。
起伏に薄いその体からさらさらと泡が流れ落ちていく。
助けて欲しかった。話を聞いてくれるだけで、いい。
一番に浮かんだのは、母親だった。でも言えるわけがない。
すごく可愛がってもらった。今だっていつも気にかけてもらっている。
そんな人がお腹を痛めて生んだ自分と同じ顔の子たちが、毎日ラットみたいにダース単位で死んでいるなんて。
両親には、言えなかった。
そして自分を頼ってくれる、かわいい後輩や友人達にも。第三位が何も出来ない状態で、何を話せというのだ。
そう考えれば、話せる相手は一人だけになる。
だけど、美琴は昨日の夜から朝までずっと、その人の顔を思い出しては、期待しては駄目だと言い聞かせていた。
来てくれるはずがないから。迷惑だから。嫌われるかもしれないから。
現実は、もっと美琴に冷淡だった。当麻は、美琴の前に来た。一番来て欲しいときに来てくれた。
――――ただし、彼女を連れて。
嫉妬だったのだろう。あれほど、明確な敵意を婚后に向けられたことなんて、無かった。
それで、美琴は頼れるかもしれなかった最後の人を、失った。

「っ……」

シャワーを頭から浴びる。
汚れた体は思考を鈍化させていた。それを洗い流すと、峻烈な後悔と悲恋の味が心についた傷に染みた。
泣くのも許さることじゃないと、美琴は思う。だから、必死に嗚咽を隠した。
シャワーの音が煩いのが幸いだった。


しばらくして、シャワーを止めた。
体を拭き、浴室から出る。ざっと髪を乾かして、下着を身につけた。
そしてバスローブを羽織って、美琴はベッドでシーツにくるまった。
当麻は、自分のことを恋人としては見てくれない。
そう分かっていたのに、美琴の心を支えてくれるのは、光子が現れる前にかけてくれた当麻の言葉だった。
それを反芻しながら、美琴は1時間、意識を手放した。
280 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/11(土) 23:39:06.50 ID:dNyH0m1Co
またやってしもた、ごめん。
専ブラが落ちて、見直したら投稿されてなかったから投稿したはずなのに。

ダージリンフェス面白かった。
>>275仲間がいるとはw
>>276大都会岡山の人かな。ダージリンが100種類くらい試飲できるし、面白いよ。無料だし。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/11(土) 23:58:25.75 ID:SuTUeDJb0
上条と光子と美琴の関係を円満に保ってかつこの件にケリをつける方法がおれには一つくらいしか思いつけないので作者さまがどんな手品を魅せてくれるのか今後の展開がとっても楽しみ。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/12(日) 14:03:36.98 ID:49LJNhiSo
 お姉さまも体をお安めになったら

安めの美琴か…

ふぅ…
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/06/12(日) 22:51:39.79 ID:T5cHuRZJ0
誤字が最近ちょこちょこあるような?

>>212
すきなのか→すきなのは
起こる→怒る

>>224
伝えたことは「ないが」

かな?
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 01:42:47.85 ID:WNrWiD4m0

いくつもの話が並列して動いているので
どう収束するのか楽しみでしかたない

>>277
急速を欲して → 休息を欲して
でしょうか?
285 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/13(月) 01:46:36.29 ID:ZRczv2nKo
誤字酷いなwごめん、ありがとう。。。
続きはまた明日でー
プロットの矛盾修正で手間取っちまったい。
286 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/14(火) 00:25:52.68 ID:qHGqgt8To

駅前にたどり着いて、インデックスは辺りを見回した。
目の前のエスカレータを上った先に改札があって、奥のプラットフォームから出る電車に乗れば、
ほどなくエリスのいる、インデックスが通う予定の神学校へとたどり着ける。

「うー……暑いんだよ。東洋の夏はどうしてこうジメジメするのかな」

当麻が歩く結界の機能を完膚なきまでに破壊してくれたおかげで、この豪奢な修道服は、
夏場の日本で着るには少々厳しかった。
とはいえそれくらいで元放浪少女の健脚がへこたれるはずもなく、
記憶のとおりにインデックスは目的地を目指す。

「おー、誰かと思ったら、懐かしい顔が見えるにゃー」
「え?」

その声が誰なのか、一瞬インデックスは分からなかった。
忘れたからではない。いるはずのない知り合いの声だったから。
警戒しながら横に振り向くと、金髪にサングラスをかけた、いかにもチャラい男子高校生がいた。
上半身はボタンを留めないでアロハを羽織っていて、痩せぎすでいながら無駄のない筋肉をさらしている。
胸からは二つほど金色のネックレスを下げていて、まあ、お世辞にもかっこいいとはインデックスは思わなかった。
昔とはあちこち雰囲気が違うけれど、その軽薄さだけは変わらない、土御門元春がそこにいた。

「どうしてあなたがここにいるの?!」
「いやー、色々と最大主教<アークビショップ>の人使いが荒くてにゃー、こんな敵地もいいトコに単身赴任だぜい」

どんな重要な話をしているときでも、はぐらかす気なら土御門はこんな態度を取る男だ。
学園都市に何をしに来たのか、それを探るのは難しい相手だった。
ただ。

「単身赴任っていうのは嘘だよね。妹がいるんでしょ?」
「んー? 妹カフェは嫌いじゃないけど特定の子と仲良くなるには出費がきつくて難しいにゃー」
「はぐらかしても無駄だよ。舞夏もこの学区にいるんだし」
「――知ってるのか」

その声の響きにインデックスは本音の匂いを嗅ぎ取った。
舞夏のことを、インデックスには知られたくないような、
いや、「そっち側」の人間を忌避する響きだったように感じた。

「舞夏は知り合いと一緒に行った学校で会った」
「ああ、常盤台でか。まさか面識ができているとはにゃー。保護者の二人はどうしてる?」
「べつにあなたに言う必要なんてないけど?」
「おいおい、冷たいぜよそれは。日本語を教えてやった仲じゃないか」
「あなたに教わってない! だいたいちゃんと日本語喋れるのに変な日本語しか教えない人なんて信用できないんだよ!
 かおりがいなかったら大変なことになってたんだから」

はっはっはと笑う土御門をインデックスは睨みつけた。

「で。一体何の用?」
「え? いや別に、見かけたから声をかけただけぜよ。
 今日はいい天気だし、この駅はあっちこっちの遊び場に繋がってるからにゃー、
 声をかければ誘いに乗ってくれる可愛い子もきっといるに違いない! ってな感じで」

土御門元春は軽薄な男である。それは作った顔というよりも地の一部な気がする。
だから、その態度が作り物か本音か、見分けがつかなかった。
287 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/14(火) 00:28:23.67 ID:qHGqgt8To

「実はさっき巫女装束を着た超絶美人がコッチに向かってるのを見かけてにゃー、
 何人も玉砕してたから、ここは一発自分を試してみようかと」
「……そう」

時間に余裕は持たせてきたからいいが、すでに予定の電車に乗り損ねるのが確定している。
これ以上付き合ってエリスに迷惑をかけるのは嫌だった。

「それじゃ私はもう行くんだよ。その格好で清楚な女の子を口説くって成功率を舐めてるとしか思えないけど」
「それはどうかにゃー。なあ、答えを聞かせてくれるかい?」

土御門が、インデックスの後ろの、ごく近くに向けて声を投げかけた。
振り返るとすぐ傍に巫女服の少女、姫神秋沙がそこにいた。

「格好は。気にしないけど」
「おおっ! 八人目にしてついに脈アリ!!」
「そもそも私は君に興味がないから」

地面にのの字を書く土御門を尻目に、インデックスは姫神を見つめる。

「今日はこないだの人達、連れてないの?」
「きっとそのあたりにはいると思うけど」
「ふうん」
「気になるの?」
「……普通はあんな人たちを連れたりなんてしないんだよ」
「そうだね。でも。私は普通じゃないから」
「どう普通じゃないわけ?」
「わたし。魔法使い」
「だからそんなわけないんだよ!」

学園都市にそうそう魔術師なんているわけが――
――目の前で落ち込む当代きっての陰陽術師には目を瞑った。

「そんなわけないって言われても。私は魔法使いになるのが目標だから」
「なるのが目標って。それなら、あなたはやっぱり魔術師じゃないんだね。魔術なんて使えないんでしょ」
「……使える」
「え?」
「最悪の。だけど」
「どういう意味?」

姫神はそれには取り合わなかった。

「あのー……よかったらそろそろ声かけてくれると助かるにゃー」
「あ、まだいたの?」
「インデックス、それは冷たいにゃー」
「知らない。って、私もう行かなきゃ」

長居すればもう一本、電車を遅らせることになる。
それでも遅刻は免れるが、ギリギリで走るのは嫌だった。
……のだが。すっと、姫神が胸元からチケットらしきものを取り出した。
すぐ目の前にあるクレープ屋の、無料試食券。

「お礼」
「え?」
「この前。助けてくれたでしょ? そのお礼に。一枚あげてもいい」

今日は朝は当麻がいなくて味気ない朝食だった。まだまだ、胃には空きがある。
――――インデックスはその瞬間、電車一本分遅らせることを容認した。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/14(火) 03:31:38.61 ID:zfjLyU4so

エリス逃げてー
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 07:03:22.00 ID:wJdhwjgSO
え?
インデックスについてくのん?
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/14(火) 18:24:23.82 ID:CH8ZjQZ30
そろそろていとくんのターンか
291 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/14(火) 22:42:31.04 ID:rfcOpu4co

ピリリリとけたたましく鳴る音で、美琴は意識が僅かに覚醒した。
起きなきゃ、という義務感だけで体を何とか引き起こして、アラームを止める。

「う……」

惰性で顔を洗いに行こうとして、軽くふらっと体が横に揺れた。
調子がおかしい。いや、こんな精神状態で好調とはいかないだろう。
だが、気のせいかと思ってもどうも見過ごせない、確かな不調を美琴は感じた。
そんな自分の失態に、起きてまだ間もないのに、もう苛立ちを覚えている。

「熱なんて……最近出したことなかったのに」

心のどこかで、無理もないと囁く自分がいる。
深夜から次の日の昼前まで町を徘徊したし、思い出したくないこともいくつもあった。
戦闘もしたし、胃からなくなるまでトイレで吐いた。体力を失って当然だ。
……それが許せない。そんな理由で、自分は許されることなんてないのに。
しんどければ休んでいい学校とは違う。どんな目にあったって、動けるのなら動かなきゃ、いけないんだから。
夜までに、しなければいけないことが美琴にはあった。
――――テレスティーナさんに、絶対能力進化実験のことを、聞き出す。
実験を止めるのに、主役である一方通行を排除することと、妹達を逃がすことの二つは選択できない。
どちらも、美琴には止められないから。
それを再確認するだけで、足がすくんだ。
超電磁砲は美琴の唯一の必殺技ではない。手数の多さ、応用力がきっと一番の武器だとは分かっている。
それでも、やはり二つ名にもしている技をあっさり封じられたことは、ショックだった。
結局、美琴に出来るのは絶対能力進化実験に関わる施設を破壊し、プロジェクトを進行不可にすることだけ。
ハッキングによって手に入れた関連施設は、どこも美琴になじみがない。日中にはアクションを起こせなかった。
今、美琴がアクションを起こせるのは、口の悪い大学生くらいのと当麻の残した、テレスティーナという糸だけ。
もしテレスティーナが学園都市の暗部、こんな非道に手を染めているのなら、春上が危なかった。

「早く、行かないと」

木山のところに行くという白井たちには悪いが、そちらに付き合う気はなかった。
なにか重要な情報があれば三人がそれを手に入れて、何とかしてくれるだろう。

不快な寝汗をタオルで拭ってから、まごつきながら美琴は制服を身につけた。
テーブルに置いた携帯を見ると、白井からの連絡が入っていた。
曰く、木山と共にMARの病院を目指すらしい。行き先は、これで同じになった。

「合流しても……ね」

あちらはもう着く頃だろう。むしろ、会わないほうがありがたかった。
自分だけでテレスティーナに対峙するつもりだった。
自分がやったことのツケを誰かに払ってもらおうなんて考えれば、きっと良くないことが起こるのだ。
朝の、あの瞬間がフラッシュバックして、ボタンを留めていた手で美琴は胸を押さえた。
誰かにすがるのは、怖かった。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/14(火) 23:43:50.98 ID:jSbj/N5R0
原作だとわかり難いけど上条さんと美琴って相当ハードなスケジュール過ごしてたんだな。
293 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 00:28:10.06 ID:Be1vJluJo

「おはよう! エリス!」
「うん、おはよう」
「ギリギリ間に合ったよね?!」
「大丈夫だよ。っていうか、遅れてもそんなに気にしないけどね。寮まで来てもらったんだし」

ぜいぜいと息をつくインデックスにエリスは苦笑いを返す。
寝坊でもしたのか、随分急いで来たらしかった。

「家を出るのが遅かったの?」
「えっ? えと……うん」

なんというか嘘なのがバレバレの態度だった。
理由は良く分からないが、迷ったか道草を食ったかどちらかだろう。
行きがけに奢ってもらったクレープは非常に美味しかったが、
それにつられて遅刻寸前になったとエリスに告白するのはさすがにインデックスも恥ずかしかった。

「さて、今日は何しよっか。いいなあ、インデックスは宿題ないんだよね?」
「え? うん。まあ別にあってもすぐ終わるけどね」
「へー、優等生だったんだ」

そりゃあどんな内容だってインデックスは一度聞けば全てを記憶できるのだから。
理解は記憶することと違い必ずしも一瞬ではないが、人よりはずっとアドバンテージがある。
記憶力は生来のものだし、ズルをしていないのだからインデックスはそれを恥じることはなかった。

「ここの勉強ってどんなの?」
「え? まあ普通の学校の内容と大部分は同じだよ。宗教の授業が追加されるくらい。
 ここは修道士を育てるとか、そういう場所じゃなくて、言ってみれば孤児院みたいなところだから」
「ふーん」
「インデックスもすぐ慣れるといいね。それで、何したい?」
「あ、今日は行きたいところがあるんだけど……」
「どこ?」
「みつこの病院。今日、退院するって言ってたから」
「あ、そうなんだ。おめでとう」
「うん!」

エリスはその誘いに付き合うか、迷った。この教会の敷地の外に出るのは、怖い。
吸血鬼の遺灰から取り出した抽出物を埋め込まれ、自身が吸血鬼になってすぐにエリスはここに逃げ込んだ。
そのときから外の世界への恐怖心はずっとあったけれど、
ここ数日は、垣根の前で我を忘れたあの瞬間を思い出して、殊更外出に臆病になっているのだった。

「それで、エリスがよかったらとうまとみつこと一緒に、お昼ごはん食べて遊びたいな、って」
「うん」
「どうかな?」
「……いいよ。そうだね、ちょっと最近外出してなかったから、体を動かしに行こうかな」
「本当? やった! エリス、準備はできてる?」
「うん。って言っても、出かけるのにそんなに準備もいらないからね」

エリスが棚の一つを空けて必要なものをポーチに詰めていくのを眺める。
準備は本当にあっという間だった。

「よし、行こっか」
「うん」
294 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 00:30:35.06 ID:Be1vJluJo

さっき乗ってきた電車のホームにインデックスはトンボ帰りすることになる。
ちょっとそれがおかしかった。真夏の炎天下ではあるが、駅まで遠くはないし、日陰もそれなりにあった。
寮の入り口を出て、教会の敷地と大通りを隔てる門をくぐる。

「エリスは指輪とかつけないの?」
「えっ?!」

インデックスが、お洒落なワンピースを来たエリスにそんなことを尋ねた。
ちょっと唐突過ぎる質問だった。
思わずそれにわたわたする。なにせ、インデックスが垣根との話を振ってくるとは思わなかったのだ。

「ま、まだ早いよ。帝督君とお付き合いしだしたの、ついこないだだし」
「そういうものなのかな? 最近、みつこがとうまにねだってたから、エリスも欲しいのかなって」
「え、えーと。それはやっぱりあれば嬉しいけど、上条君と婚后さんみたいに長い付き合いのカップルじゃないと」
「とうまとみつこもそんなに付き合ってから長くないって言ってたよ」
「そうなの?」
「うん。まだ二ヶ月くらいって」
「二ヶ月かあ……」

自分と垣根の関係の、十倍以上の長さがあった。
あっという間なのかもしれないが、今の自分にとってはずっと先に思える。
それまでに、何度、帝督君はキスしてくれるんだろう。それに、その先、とか。

「エリス?」
「なんでもない」

インデックスにばれないように、一瞬妄想に浸った自分を自戒しつつ、エリスは足を進めた。
程なくして、駅にたどり着く。時間のせいもあるだろうが、人はまばらだった。
二人で切符を買って、モノレールに乗り込む。

「この電車ははじめてなんだよ」
「私も」
「……ちゃんと着くかな?」
「大丈夫だとは、思うけど」

不慣れな二人で顔を見合わせて、モノレールの進みに身を任せた。

「ねえエリス」
「うん?」
「エリスの彼氏さん、私のこと何か言ってた?」
「え、帝督君が? どうして?」
「こないだとうまと一緒に歩いてたら会ったんだよ。
 それで、とうまみたいなことを言うからつい、いろいろ言っちゃって」
「色々って?」
「エリスを泣かせちゃ駄目だよとか、そういうの」
「……もう、恥ずかしいよ」
「エリス、キスしたんだよね……?」
「えっ?! もう、だからそういうのは恥ずかしいから駄目」
295 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 00:32:32.80 ID:Be1vJluJo

さすがに友達に根掘り葉掘り聞かれるのは恥ずかしくて、エリスは強引に会話を切った。
チラチラとインデックスも照れた感じでこちらを見つめてくる。
なんだろう、上条君がキスするところとか、見慣れてるんだよね。だったら何でこんなに気にしてるんだろう。
それがエリスの疑問だった。問いかけないから答えはないが、インデックスにとっては、
当麻と光子のキスはもう別物というか、それは当たり前のことなのだ。
しかしやっぱり自分の友達が彼氏を作ったと聞くと、なんだかやっぱり女の子めいた気持ちになるのだった。
何か別の話を振らなきゃ、と二人が思案していると、本日二度目となる携帯のコールが鳴った。

「わっわっ、またなんだよ! 誰なのかな、直接会いに来てくれればいいのに」

さっき光子に笑われたので、ボタンを押す前にディスプレイを見る。知らない番号だった。
インデックスはそれでむっとなった。やっぱり、携帯電話は全然ひとにやさしくない!

「は、はい。こちらIndex−Librorum-Prohibitorum……です」
「……久しぶり。誰だか分かるかい?」
「ステイル?!」

携帯から聞こえてきた声は、今まで一度も電話越しでは聞いたことのない、かつて身近にいた人の声だった。

「今いいかな?」
「えっ? うん、いいけど……」
「ちょっと学園都市に来る用事があってね、良ければ、あって話せればと思うんだけれど。
 ……君にもかかわりのある、問題ごとが起こっていてね」
「えっ?」
「なんにせよ電話じゃ心もとない。どこかで会えないかと思ってさ」

ちらと横を見る。エリスが首をかしげてこちらを見つめ返した。

「ステイル。それって、急ぐのかな?」
「え? ああ。遅らせるほど事態は悪化するからね、今日がいいんだけど」
「そう。私、いまみつこのいる病院に向かってるんだけど、場所とかわからないよね」
「いや。上条当麻と婚后光子の場所なら把握しているよ。
 困ったことに君がそこにいなかったから、なんとかして電話番号を手に入れたんだけど」
「……じゃあ、みつこのいる病院で待ち合わせでいい?」
「ああ。そこで合流しようか」
「うん。他に用はある?」
「え? い、いや特にはないんだが」
「ごめん。友達と一緒にいるから、切るね」

返事を聞かずに、インデックスは通話をオフにした。
ドキドキと、緊張に心臓がなっていた。自然に、話せただろうか。
ステイルの期待するインデックスで、いられただろうか。
こわばった顔のインデックスを、エリスが見上げる

「あの、どうしたの?」
「エリス、ごめんなさい」
「え?」
「もしかしたら、遊べなくなっちゃうかも。ごめんなさい。せっかくここまで来てくれたのに……」

はしごを外されて、エリスは戸惑った。インデックスが誘うからためらいのあった外出をしたのに。
だがすぐに思いなおす。インデックスにとっても予想外だったのだろう。そして楽しそうなことはなさそうだ。
それなら、責めるのも悪いだろう。垣根とも連絡を取れば会えるかもしれないし、
光子のお見舞いというか、浴衣の件でお礼を言いにいくちょうどいい機会ではあった。

「ん。いいよ。もし駄目になったら、帝督君誘ってどこかに行くから。それに婚后さんにもお礼を言わなきゃね」
「ごめんなさい」

もう一度いいよと言って、エリスは窓の外を見た。病院まではもうそう遠くない。
自分にインデックス、光子と当麻、そして入院中の春上、最後にステイルという名の男の子。
なんだかにぎやかになりそうだなと、意外と人嫌いではないエリスは考えながら景色を見つめた。
296 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 00:34:29.63 ID:Be1vJluJo
>>292
夏休みの最後のほうとかやばいよ。当麻さんは。
23冊も本出してて原作中で三ヶ月しかすすんでないんだからなぁw

>>289
姫神さんはクレープ恵んでやったらすぐにどっか行きました。
三沢塾からあまり遠くにはいけないので、基本第七学区をうろついてます。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/15(水) 00:37:32.78 ID:YMjv3xzo0

めっちゃ人集まってるー!
カオスの予感がするぜ……
298 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 01:38:05.49 ID:Be1vJluJo

「さて、言われたとおりのことは済ませてきたぞ、アレイスター」

ドアもなく、階段もなく、エレベーターも通路もない、建物として機能するはずのないビル。
その中で、土御門元春はシリンダーの中に浮く男に声をかけた。
足を上に、頭を下に向けた銀髪の人間。緑の手術服を着て、赤みを帯びた液体に使っている。
真っ暗な部屋を彩るように数多くの計器とモニターが光を発しているが、部屋の全体を照らしてはいない。

「ご苦労。事はつつがなく進んだのかね?」
「ああ。これで禁書目録と吸血殺しが繋がった。これはどういう目的だったんだ?」
「君に旧友と会う時間をあげたのが不満だったかい?」
「ぬかせ。貴様のプランに無関係なわけがないだろう」
「ふむ。繋いでおくと役に立つ線というのもあるのだよ。特に今回の件は私の采配でことを運びにくいのでね」
「ハン。さんざん今ここでステイルをけしかけたんだろう?」
「魔術師の考えることは私には分からないさ」
「お前が言うとジョークとしてもブラックに過ぎる」

男性のように、女性のように、老人のように、子供のように。
アレイスターの笑みは友好的な表情のはずなのに、土御門はそこから何も読み取れなかった。

「ところで吸血鬼とやらはどうなっている?」
「とやら、などと知らないような言い方をするな。お前の手のひらの上で踊っている駒だろう。
 今は禁書目録と行動を共にしているようだな。それとも第二位との関係のほうが知りたいのか?」
「どちらも気にはなっているよ。アレが私の第二候補<スペア・プラン>と交流してくれるのなら、
 プランの相当な短縮になる」
「どうせお前が手引きをしたのだろう?」
「まさか。人と人の交わりはそう簡単には操れぬよ」
「そうは思えないがな。何せ第五架空元素<エーテル>と未元物質<ダークマター>の組合わせだ」

報告を済ませて、さっさと土御門はここを立ち去る気だった。
だがもう数分は、迎えの空間移動能力者<テレポーター>が来ない。
地面を這うコードの一つをつま先で弄びながら、土御門は気になっていたことを問いかけた。

「科学の最先端を統括するお前が、今更第五架空元素に興味を持つ理由はなんだ」
「考えすぎだよ。計算外の事態、吸血鬼を探す錬金術師が学園都市に忍び込んだのでそれを活用しているだけさ」
「空にあんなモノを浮かべておいて、言うに事欠いて『計算外』とはな。
 なあアレイスター。科学は一度第五架空元素を捨てた。それは知っているだろう」
「今更ローレンツ収縮の講義かね? 学園都市の長である私に向かって」
「お前が忘れるわけがない。お前にとっても転機となった年に発表された理論だからな。
 科学がその理論体系から第五架空元素を排斥した1904年。
 ――――それはお前が、守護精霊エイワスと交信し、『法の書』を書き上げた年だろう?
 そして100年後の今、お前は科学にソレを拾わせようとしている。
 お前は、それで何をするつもりなんだ」

アレイスターは浮かべたままの微笑を少しも変えずに、こう答えた。

「汝の欲する所を為せ。それが汝の法とならん」

299 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/15(水) 01:40:03.36 ID:Be1vJluJo
『Intersection of the three stories: 繋がる人と人』これでおわりっと。
さーカオスに向かって下地を作りましたって感じですね。
ちょっと最後のは強引かもしれないなあと思いつつ、出したかったネタなので書いた。
法の書をアレイスターが書いた年とローレンツがエーテルを否定した年が一緒、というのは史実です。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/15(水) 02:32:09.76 ID:a04vqdCbo
乙です
くうぅ、ドキがムネムネするぜいwww
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/15(水) 06:46:01.50 ID:2deCZnCl0
乙です。
史実ってマジかよ。
その年科学ではエーテルの時代は終わり、魔術では十字教の時代は終わったんかい。
上条さんはどこまで乱雑解放に関わるのかねぇ?
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/15(水) 08:19:36.46 ID:nfVNbIWDO
乙ですた。
なるほど、☆はあれか、暗黒神の信徒なのな。
ほんであれやこれやはコールゴッドの儀式と。
そんな馬鹿な!

ちょっと笑ったw

次回も楽しみにしてますよー
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/15(水) 08:23:36.57 ID:AOCTzKpDO
乙乙! 樹系図は落ちてなかったのか。あわきんと木原くぅんがやばいな
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/15(水) 08:37:24.51 ID:9tbpl0mwo
>>302
☆のあれは「法の書」の有名な一節だよ
ぐぐるとPDFが落ちてるはず
ちなみに著作権は切れてる
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/15(水) 16:36:21.21 ID:SN4EvhPAo
海原「さて、掃除のおばちゃんに化けて御坂さんの捨てた着衣を回収しましょうかね」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/15(水) 18:33:15.27 ID:bqiacXFI0
某風紀委員「ころしてでもうばいとる」

>>296
ドミノ倒しなのか世間が気づかないだけで今までもそんなペースで人類滅亡クラスの荒事ばかり起こっていたのかww
上条さんはもうしばらく北極圏でのんびりしてても良かったと思うの
307 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/16(木) 01:27:35.23 ID:mAs0o1dxo

木山の車に乗って、初春と佐天、白井の三人は先進状況救助隊(MAR)の病院にたどり着いた。
いつものとおり春上への面会を申請すると同時に、テレスティーナへの面会を希望する。
今までもこの事件がらみの話ならすぐに対応してくれたから、当然今日もそう思っていた。
しかし。

「あのう、申し訳ないんですが今日はスケジュールが埋まっていまして。所長への面会はできません。
 それと春上衿衣さんへの面会も、申し訳ないんですが」

気の弱そうな顔をした受付の男性が、さらりとそう知らせた。
その言葉に、初春は動揺を隠せなかった。

「は、春上さんに会えないってどういうことですか?! あの、まさか」
「ええと……詳しいことは私にも分かりませんが、容態が急変したとかで、面会謝絶です」
「そんな……昨日まで、なんともなかったじゃないですか!」
「ちょ、初春落ち着いて。受付の人に当たっても仕方ないよ」
「彼女は春上さんのクラスメイトで、風紀委員をしていますの。きちんと話をしていただければ、学校への連絡はしますわ」
「はぁ……」

木山はそのやり取りに不審な思いを抱いていたが、春上とは直接かかわりがないので口を挟まなかった。
そして学生三人が春上のことを聞きだそうとしているのに、困り顔を少しも変えない受付が、一言も説明を加えなかった。
その受付の態度が気になった。作り物のように木山には思えたのだった。
頻繁に通ってきていたらしいこの三人に、完全に情報を遮断する理由はない。

「これはこの街の安全にも関わる重要な案件だ。ここの所長のテレスティーナ氏もそれは分かっているだろう。
 まずは取り次いで、彼女自身の判断を仰いでくれ」
「いえ、しかし。執務室にずっといるわけではありませんので……」
「テレスティーナさんは携帯持ってるじゃないですか」
「いえ、しかしそちらに連絡するのは緊急時に限られていまして」
「だからそれが今だと言っている!」

声を荒げた木山に、周囲の患者達が不安げな顔をした。
ここは普通の市民病院ではない。そのせいか数が少なく、どうやらポルターガイストに巻き込まれた被害者達らしかった。

「そ、それではメールで折り返しの電話をするよう連絡を入れておきますので、お待ちください」
「それなら電話をまずすればよろしいんじゃなくて?」
「いえ、しかし……所長はあまりこういうことで煩わされるのを好まないと申しますか、その」

その一言で木山はこの受付の態度の意味を察した。
要は怒られるのが嫌らしかった。もちろんテレスティーナが忙しいというのもあるのだろうが。
事務方のこういう態度には苛立つ。古今東西、事務とはそういうものかもしれないが。
これでは折り返しの連絡を求めるメールとやらも、テレスティーナが目に留めないような代物になりかねない。

「仕方ない。ならば、執務室の前で待たせてもらおう」
「それは困ります!」
「ではすぐ連絡してくれ」
「ですが……」
308 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/16(木) 01:28:04.36 ID:mAs0o1dxo

歯切れの悪い受付に、学生三人の苛立ちが募っていく。
佐天が噛み付こうとしたときだった。後ろから、いつもより怜悧な声が投げかけられた。

「あら、どうしたの?」
「テレスティーナさん!」

テレスティーナはいつもの親しみやすい笑みを薄くして、どこか、こちらに興味がなさそうな顔をしながら近づいてきた。
初春、佐天、白井と顔を見て、木山のところで視点を固まらせた。

「どういった用件かしら?」
「あの! 春上さんが面会謝絶って!」

木山より、初春のその言葉のほうが早かった。
それを聞いてテレスティーナは、ああ、と安心させるように笑顔を浮かべる。

「大丈夫。春上さんは変わりないわ。今はちょっと検査のせいで眠っているけれど、またすぐに連絡があるわ」
「あ、だ、大丈夫なんですか?」
「ええ。ただ、お友達と一緒の病院に移るよていだから」
「え?」
「ほら、あなた達は関係者だから分かっていると思うけど。
 昨日、春上さんのお友達を含めた、13人の暴走能力者の子供達を保護したでしょう?
 この病院じゃちょっと対応しきれないから、別の病院に移ってもらう予定なの」

テレスティーナの笑顔に、木山はクラクラと、眩暈をするのを覚えた。
あの子たちを、転院だって?
それは何度も何度も繰り返された出来事。
悪辣な実験の『証拠品』でもあるあの子たちは、足取りを分からなくするために何度も転院してきた。
まるで、その続きが始まったみたいな。

「何処へやる気だ?!」

掴みかからんばかりに近づいた木山とテレスティーナの間に、近くにいた救助隊員が割って入った。
まあ、無理もないのだろう。木山は頭に血が上って咄嗟に理解できなかったが、木山は前科のある人間だった。

「まさか、あなたに教えられるとでも思っているの? 木山春生」
「くっ……」
「昨日、あなたからあの子たちを取り上げた理由を分かっていないのかしら。
 納得してもらうためなら何度でも言わせて貰います。犯罪者である貴女には、あの子たちを管理する資格はありません」

それは、木山の心を軋ませる言葉。
誰よりもあの子たちのためにいるのは、自分なのに。
こんな、信用できない女よりも自分のほうがあの子たちのためになることをしてやれるのに。

「木山先生」

冷静な声が、隣からかけられた。佐天という名の、自分が幻想御手で意識不明に陥らせた少女。
309 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/16(木) 01:29:02.81 ID:mAs0o1dxo

「やっちゃいけないことをした人は、それ相応の目でみられても、仕方ないんですよ」
「……だが!」
「信用されていないのは悲しいわね。春上さん、佐天さん、それと……ごめんなさい、名前を覚えていないんだけれど」
「白井ですわ」
「そう、白井さんね。それと御坂美琴さんね。春上さんのお友達である貴方達には、いずれちゃんと教えてあげるから」
「今すぐは駄目なんですか?」
「ええ、だって隣に木山がいるもの。悪いけれど、少し時間を置かせてもらうわね。……用件はこれだけ?」

テレスティーナが露骨に時計を見た。
そしてためらいを見せる木山を、佐天は促した。

「木山先生」
「……わかった。これが、あの子たちのためになる、一番の方法なんだろう?」

木山が小脇に抱えていた厚手のファイルと、スティック上のメモリをテレスティーナに差し出した。
ぎゅっと紙に食い込んだ親指が、内心の葛藤を訴えていた。

「これは?」
「あの子たちを救うために、私が作ったワクチン作成スキームだ。
 体晶のファーストサンプルさえ手に入れられれば、それの組成・構造解析をして、ワクチンを作成できる」
「そう」

もう一度、テレスティーナが時計を見た。そして、ニコリともせずに受け取る。

「ご協力感謝するわ、木山さん。私達の最善を尽くして、あの子たちに向き合うことを約束します」
「よろしく……頼む」
「それじゃあ、これで用は終りね?」

最後にニコリと笑顔を見せて、テレスティーナは踵を返した。
遠くからはパワードスーツの駆動音が聞こえる。転院のための作業でもしているのだろうか。

「これで……良かったのだろうか」
「きっと、そうですよ。せめて皆が元気になってくれたときのことを考えて、いろいろ準備しましょう」

木山を、いや、自分を励ますように初春がそう呟いた。




カツカツと音を立てて、テレスティーナは関係者専用の廊下を歩く。
その道すがらのゴミ箱に、バサリと木山の資料を捨てた。

「ったくよォ、どうせ見ないんだからいらないっつうんだよ。あーせいせいした」

取り繕うのに、随分と不愉快な思いをした。
ようやく偽善者ヅラから解放されたと思っていたのに、まだあんな面倒が残っていた。

「ったく、朝から警備員には目ェつけられるし」
310 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/16(木) 01:30:31.62 ID:mAs0o1dxo

それがきっかけで、テレスティーナはもう少しだけ外面を取り繕うのを止めなかったのだ。
もう、テレスティーナの希望の星、春上衿衣は手元にある。
そして使い潰しの重要な部品も、ようやく回収できた。あとは、あの置き去り<チャイルドエラー>どもを、暴走させるだけ。
ニィ、とようやく自分らしい笑みを浮かべられることをテレスティーナは感謝した。
今日の夜までには、自分は報われる。
クソジジイ様から貰った長年の狂気<ユメ>を、ようやく叶えられる。
――――体晶による暴走を利用した、絶対能力進化。
それがテレスティーナの、追い求めるものだった。




足取りの空虚さに、木山自身戸惑いながら病院を出た。

「木山先生。……その、元気出してください。そうじゃないとあの子たちだって」
「初春さん」
「はい?」
「本当に、あの女は信用できるのかい?」
「テレスティーナさんを疑うんですか?」

佐天は、その木山の態度を好ましく思えなかった。
だって、悪いことをしたのは、木山だ。
信用をなくしてしまったのは自分なのだから、誰かを疑うなんて筋違いもいいところなのに。

「……転院なんて、する必要があるとは思えない」
「どうしてですの?」
「あの子たちは覚醒しない限り、ただの植物状態の患者だ。
 ベッド数も足りているし、人口密度の低い地区にあるこの病院は、立地としては悪くない」
「でも、あたし達には分からない事情が、あるかもしれないじゃないですか」
「それは、そうだな」

そういう可能性があることは、木山にだって分かっているのだ。
だけど、必死に一人一人探して、手元に集めていったあの子たちが、
またあっさりと自分の知らないところへ消えていくのを、どうしても、指をくわえて見てはいられないのだ。

「……初春さん、それに白井さんだったな。私が、これからあの子たちを移送する車を尾行すると言ったら、止めるかい?」
「木山先生?! どうして」
「約束する。場所を見届けて、そこが納得できる受け入れ先だったなら、私は何もしたりはしない。
 ……私の被害妄想だというなら、笑ってくれ。だけど、もう、嫌なんだ。あの子たちがこの手からこぼれていくのは、嫌なんだ」

木山がガリ、と頭に爪を立てて、相呟いた。俯いたその瞳が揺れていて、初春は、それを見て何も言えなくなった。
佐天も、その本音の吐露を見過ごすことは出来なかった。見届けるくらいなら、いいのかもしれない。

「白井さん。私が木山先生に付き合うって言ったら、止めますか」

初春が白井を見た。
黙って経過を見ていた白井は、はぁっと嘆息すると、諦めたように笑った。

「約束にたがえることをしたら、勿論止めますわ。でも、見届けるだけなら、いいでしょう。私も付き添いますわ」
「あたしも、付いていきます」
「……そうか、すまないね」

少し離れたところで、こちらをうかがうことになるだろう。
木山はそう考えながら車のカギを開けた。
311 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/16(木) 01:33:52.14 ID:mAs0o1dxo
ふー、ここは書きやすかった。

>>301
マジよマジ。まあ、1900年から1905年の間ならローレンツ収縮は何処で提唱されたって言ってもあながち嘘じゃないけど。

>>302
>>304みて察するに、法の書の引用を使ったソードワールド?あたりのネタを元ネタと思った感じ?
まあ、クロウリーとクトゥルフはあっちこっちに使われてるせいでわけわからんよね。

>>303
今までみんなスルーしてたから黙ってたけど、実は樹形図さん健在です。これが美琴をさらに絶望させることに……?
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/16(木) 01:44:35.13 ID:CbVrzx0Wo
さらなる絶望が待ってるのかよ・・・!
あんたほんに美琴を追い詰めるのがうまいでえ
暗部とかはないだろうけど、コレで性格が今まで通りだったらもはやおかしいレベルになりそう
絶対少しは曲がっちゃうよね・・・ww
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 01:55:18.79 ID:VeVswaWDO
前から気になってた樹系図の行方がさらなる絶望に、だと?
楽しみになってる自分は〉〉1に毒されつつあるな
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/06/16(木) 02:33:19.46 ID:jwQXmIHU0
アニレーの最後の方で一人で突っ走ろうとする美琴が佐天さんに窘められてたけど、
「でもまたこの後妹達編で一人で抱え込むんだよな美琴は…」となんかスッキリしない気持ちに襲われた。

でもこうやって妹達を正史より先に知ることで、そこらへんも辻褄が合うんだなあ。
ましてここの美琴だと、上条さんと光子さんのこともあって、更に人に頼ろうとしないだろうし。
うーん、面白い
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/16(木) 08:04:58.23 ID:yNafk36Lo
>>314
深刻度で考えれば何の不思議もないんだがな
むしろアニレー最終回のことがあったからこそ頼れなくなったと思う>妹編
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/16(木) 08:28:25.29 ID:vGGSmOEv0
レベルアップした佐天さんの戦闘シーンまであと少しって所ですか?
そのまえにキャパダウンなんとかしなきゃな。
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/16(木) 08:43:48.83 ID:fMYax8Vho
ほとんど同時進行になるだろう、三沢塾戦も気になるなー
禁書の記憶が回復してる事実を知った先生がどうでるか……

一番の懸念はていとくんだけどな!
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/16(木) 14:40:28.83 ID:3xLiYPdr0
このSSで初のダークマター(メルヘンな翼的な意味で)が出るか!?
魔術関係と知り合いになってるから、色々変化ありそうだよね
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/16(木) 19:06:34.58 ID:LAivWPsf0
ダークマター?んなもんよりエーテルだろう、夫婦の共同作業的に考えて
320 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 01:41:59.33 ID:XvRnwEjbo

道すがらに誰とも会うことなく、美琴はテレスティーナの病院にたどり着いた。
門をくぐると、敷地内がいつもより騒がしい。
馬力の出る車がスタンバイしている音だった。

「何かを、運び出す気なの?」

病院の現状は、美琴にはそういうふうに映った。
普通の入り口からは離れた場所にある搬入口は遮蔽物が多くて良く見えないが、
人の動きがチラチラと見えていた。
受付には行かず、美琴はそちらを目指した。
どうせ、正攻法で聞いて教えてもらえるようなことを聞きに行くつもりはないのだ。
大きなトラックの間を縫って、搬入口の見えるところにたどり着く。
誰かは分からないが、どうも患者を運んでいるらしかった。
呼吸器をつけられたままストレッチャーに乗せられた人達が見えた。
そして美琴の姿に気づいたMAR隊員の一人が、視界を防ぐようにやってきた。

「君! ここは立ち入り禁止だ。立ち去りなさい」
「テレスティーナはどこ?」

美琴はその警告に取り合わなかった。

「所長? ……用があるなら受付でアポをとってくれ。さ、退いて!」

美琴はその隊員を値踏みした。
この人は、『計画』に携わる側の人間だろうか。それとも、善良な人だろうか。
いっそ悪いヤツで確定なら、もっと簡単に暴れられるのに。

「いい加減に話を聞け! 力づくで排除してもいいんだぞ?」

そんなことは不可能だ。パワードスーツを着たって、レベル5には勝てるわけがないのだから。
美琴は動かず、さらに運ばれてきたストレッチャーに目をやる。
業を煮やした隊員が、前言を言葉どおりに実行すべく動こうとするのを押しのけると、
ベッドで眠るその女の子の顔が見知ったものであることに気づいた。

「春上さん?!」
「お、おい! クソッ」

隊員の顔が、露骨にマズいという顔をした。
そしてスタンガンを取り出して、美琴に押し当て制圧しようとした。

「寝てろ! ……何っ!」
「寝てるのはそっちね」

腕に押し当てられて擦り傷が出来た。それを無造作に撫でて、美琴は電流を男に返した。
コレが麻酔銃だったなら話は変わったかもしれなかった。

「ねえ。話を聞かせて欲しいんだけど?」

美琴は、建物の中から搬入口の外にいる自分を見下ろすテレスティーナに、声をかけた。
321 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 01:42:45.18 ID:XvRnwEjbo

「随分とうちの隊員に手荒なことをしてくれるわね」
「そっちが先にやったんでしょ。立ち入り禁止区域に入ったくらいで、ここの隊員はスタンガンで対応するの?」
「病人を運んでいるときっていうのは、デリケートなものよ。不法侵入で開き直るのはいただけないわね」

テレスティーナの瞳が、今まで美琴に見せてきたのとは全く違う、冷たい色をしていた。
美琴に、というか人間に興味がないような、そんな視線だった。

「春上さんをどうするつもり? 昨日の夜まで、元気そうだったわよ?」
「麻酔で寝ているだけよ。貴女も知っているでしょう?
 昨日、初春さん達が木山春生の集めていた置き去り<チャイルドエラー>の居場所を教えてくれたの。
 春上さんもお友達と一緒のほうがいいだろうから、移すだけよ。これで満足?」

もう話は終わった、とばかりにテレスティーナが美琴から視線を外し、隊員たちに指示を飛ばし始めた。
聞いた話は、また、美琴の知らないものだった。
実際には白井はずっと電話で知らせようとしていたが、美琴の声色から様子を察して口をつぐんだのだった。
もしテレスティーナがいつもどおり柔和な笑みを浮かべていたなら。
そして、美琴が決して見逃すことの出来ない、あの事件に気づいていなかったなら。
美琴はここで踵を返して、日常に戻ったかもしれない。
春上は春上で、きっと枝先と共に幸せに暮らすのだろうと、そんなことを思ったかもしれない。
……全てはifの話だった。

「体晶……って知ってるわよね?」

テレスティーナに聞こえるよう、美琴ははっきりとそう尋ねてやった。
聞き流せなかったのだろう、ピクリと反応があった。
煩わしさを目じりから放ちつつ、テレスティーナは振り向いた。

「いきなり何かしら。こういう病院にいれば、それが何かくらいは知ってるわよ、当然ね」

反応してしまった時点で、テレスティーナの負けだった。
美琴はその反応に、手ごたえを感じた。
まさか、何度もあったその人が、という思いを捨てきれない。
だけど目の前の、テレスティーナの態度は、美琴の知らない裏の顔があることを、如実に知らせていた。

「絶対能力進化<レベル6シフト>――――」
「……」
「コッチも、知ってるわよね? ちょっと詳しい話を聞かせてもらいたいんだけど」

そのためなら実力行使も辞さない、と美琴は目線で伝えた。
恐らくそれは伝わったのだろう。数秒に渡って目線が交錯し、チッとテレスティーナが舌打ちした。

「誰に聞いた」
「大学生くらいの、嫌味ったらしい女が教えてくれたわよ。色を抜いた髪がウェーブががってて、腰くらいまであるヤツ」
「……あンのクソアマ、要らなくなったらお払い箱ってことかよ。ハン、主役になれない第四位の味噌っカスが」

ひん曲がった口元、としか言いようのない表情だった。
上品な髪留めで髪をまとめ。パワードスーツ用の綺麗なアンダーウェアに身を包んだその外見にはひどく不釣合いだ。
もう、隠すものがないということだろうか。急に振る舞いが攻撃的というか、貞淑さを失った。
322 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 01:45:04.42 ID:XvRnwEjbo

「アンタもレベル6なんていう馬鹿げた妄想に取り付かれたクチ?」
「ハァァ? 妄想? バァッッカじゃねぇの? 大真面目だっつの。学園都市の最終目標だぞ?」
「こんな人間には出来ないような酷いマネしなきゃたどり着けないようなものを最終目標だなんてお笑い種よ」
「テメェの言ってることのほうがよっぽど意味不明だろうが? お嬢様のお綺麗なお研究で達成するものだとでも思ってんのかよ。
 大体、誰にも生きることを望まれてないあんな生き物、何匹使い潰してもかまやしねぇだろうが」
「……」

それで、美琴は割り切れた。この女を、死なせないくらいにならどんな風に扱っても良いと思えた。
妹達は望まれない子だったのかもしれないが、それでも、使い潰していいはずなんてない。
それは美琴にとって、譲れない思いだった。
――――置き去り<チャイルドエラー>の枝先たちを使い潰してもいいというテレスティーナの言葉の真意を、誤解していた。
テレスティーナは絶対能力進化<レベル6シフト>に関わっていると自供した。
一体、体晶やその他テレスティーナの持ち駒が妹達や一方通行とどう関わるのか知らないが、
テレスティーナが自由に動かせるもの全てを壊す、それを美琴は決心していた。

「議論は平行線しかたどらないわね」
「箱入りのお嬢様とは喋ることなんざねえんだよ」
「そう。じゃあ、潰すわ」

美琴のその短い一言を、テレスティーナは嘲りを込めた笑みで迎えた。
雷撃を頬に向かって投げつけようとしたところで、横から機械の腕が手を出した。
MAR専用の、パワードスーツ。恐らくは手下の隊員が操っているのだろう。

「邪魔!」

美琴と力比べなど、パワードスーツ如きでは不可能だ。
美琴の作った電磁界に囚われた鉄製のパワードスーツは、僅かに耐えた後形をゆがませ動力を破壊された。
装甲を一枚はがして武器に変えつつ、数メートル先のテレスティーナに迫る。

「大人しくしなさい!」

人間スタンガンの美琴につかまれて無事な人間はいない。
だから美琴との間に遮蔽物のないテレスティーナは、もう捕まえたも同然。
そう思ったのに。

「バーカ。無策で突っ立つヤツがいるかっての。カカシと間違えんじゃねえよ」

テレスティーナが何かのスイッチを押した。
――――キィィィィィィィ、と耳障りな雑音がどこかのスピーカーから響いた。

「あ……れ?」

美琴はテレスティーナのところへの跳躍に、静電反発を利用したブーストを利用していた。
常人とは一線を画する速度で懐にもぐりこむはずだった。
なのに、不意に能力の演算がゼロで割り算をしたみたいに値を沸騰させて、
その奔流が美琴の頭の中を暴れまわった。
323 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 01:46:33.85 ID:XvRnwEjbo

「あ、づッ!」
「覿面覿面、効きすぎかもなぁ。大丈夫かよォ? ほら、コレくれてやる」

簡単な格闘の修練を受けているテレスティーナにとって、フラフラと慣性で寄ってくる美琴は美味しいカモだった。
綺麗にタイミングを見計らって、美琴の腹に膝を叩き込んだ。

「ゴハ、あ、が、げ……」

ヒューヒューと喉が音を立てる。逆流しないのは胃の中身がないからだ。
テレスティーナの足元に、なすすべなく美琴は崩れ落ちる。

「テメェはコレ、初めてだったか。ざーんねん、キャパシティダウンは高レベル能力者ほど良く効くんだよ」

単なる音波でありながら、劇薬過ぎる効き目のある能力者対策装置。
偶然の産物だったが、テレスティーナの元で開発されたこれは、絶大な利用価値があるのだった。
洗いたての美琴の髪を無造作に握って持ち上げ、テレスティーナは美琴の顔を覗き込んだ。

「満足した?」
「ふざ……けないで」
「ギャハハ! 『ふざけないで』? なーんかテンプレどおりでつまんねェ台詞だな。
 コッチのプランを潰しにきた悪役ならもうちょっと面白いことを言えよ」
「あの子たちを消費して……一方通行をレベル6にするなんて、悪役はそっちでしょうが」

テレスティーナの冗談を笑って流せなくて、美琴は精一杯の怒りを込めて睨みつけてやった。
それを見て、テレスティーナが「ん?」と首をかしげた。
そして数瞬、事情を理解するために間をおいて。


「ぶひゃ」
爆笑した。


「アハハハハ! テメェ、まさか勘違いでここまで来たのかよ?!」
「……え?」
「絶対能力進化<レベル6シフト>ってプランネームは一緒でも、コッチは部署が違うんだよ!
 テメェが言ってるのは一方通行を……ああ! テメェ、クローンのコピー元じゃねーか!
 そうか! 自分のコピーを使わないで下さいってお願いしに来たのかよ! ゴメーン!
 ココ、そういうところじゃないんで……ギャハ、アハハハハハハ!」
「嘘、そんな……」
「ここは私が管轄してるほうの絶対能力進化<レベル6シフト>だよ!
 説明してあげる。暴走能力者から抽出した体晶を一人の能力者に大量投与することで、
 私はレベル6へといたる能力者を作るつもり。木山の壊しかけたモルモットと春上衿衣は、
 いい実験材料になってくれたわね」

それじゃあ、自分が、ここにいる意味は。
いまこうしてロスしている時間の分、一体何人の妹が、殺される?
その恐怖に、美琴は完全に思考を停止した。

「さて、暇ならお前が泣いて許しを請うまで遊んでやるんだが、時間がねーんだ。
 ……これで遊ぶくらいはいいか?」

美琴はズキンズキンと頭を鳴らし続けるそれに歯を食いしばる以外のことが出来ない。
テレスティーナへの返事なんて、無理だった。
どこかから拾い上げた高出力スタンガンを、テレスティーナは美琴の首に押し当てた。

「スタンガンも平気な最高位の発電系能力者<エレクトロマスター>さん、この状況なら電流はどうだい?」

返事も待たずに、テレスティーナは笑ってトリガーを引いた。
324 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 01:53:03.94 ID:XvRnwEjbo
また美琴を可愛がってしまった……ふう。俺歪んでんのかな。

>>314-315
まあ美琴さんは自分で解決しようとする傾向が強いよね。
アニレーの事件でそういう独断専行のまずさを勉強したかと思いきや、
そのへんまるで学習しなかったと捉えることも可能だしねー

>>316
あと当麻チームとインデックスチームが病院にたどり着くので、
佐天さん回はそれより後だなー

>>319
幸せに結婚してくれたらいいよね(´;ω;`)
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 01:55:52.94 ID:FyNHBAcDO

どうみても相撲流のかわいがりです本当にありがとうございました
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/17(金) 01:56:21.37 ID:XBWKgYMNo
良い・・・可愛がりだったね・・・・
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 02:05:50.13 ID:2sa1PzbDO
一方さんに美琴の可愛がり方のベクトルを黒子と一緒に変えてもらったほうがいい(褒め言葉

あと言っておいてなんですが、泣かないでめっちゃ不安になるから!!
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/06/17(金) 02:42:37.02 ID:FTmg7yvDo
乙です
美琴はそろそろ救われるべき
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 03:26:39.78 ID:IVYVhm9DO
対テレス戦は御坂不参加か?

レールガンと禁書は元が同じでも別作品だから、歪みが出ても仕方ないんでね?
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/17(金) 07:20:19.56 ID:+EQgZ1fj0
乙です。可愛狩りってあんた……。
この状況でまだ佐天さんの活躍は来ないのかい。
これじゃていとくんの活躍はまだまだ先ってことかよ。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/17(金) 08:09:09.52 ID:Xp9HP+3so
>>329
頭悪い自慢か?
光子の登場時期以外はつじつまは合ってるよ
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/17(金) 13:30:46.03 ID:JxVMJ0h9o
>>324
最近ヒロインの光子さんより登場してるから美琴への愛は感じてるよww
あれだ…好きな子の机にトカゲ入れたりする一種の求愛行動だ、きっと。
うちの猫も夏になるとカエルとかトカゲとかセミとかくれるよ!
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/17(金) 19:56:58.03 ID:J6VIcPU4o
やっぱり女の子が暴力を振るわれるようなシーンは結構読んでて辛いな
だからこそきれいなもんが綺麗に見えるんだけどね
334 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 23:13:58.74 ID:XvRnwEjbo

腕組みをして指でトントンと二の腕を叩く光子の隣で、
どこかおっかない気持ちになりながら当麻は光子の顔色を伺う。
光子がつい今朝抜け出してきた先進状況救助隊の病院に戻り、
退院の許可を求めて主治医と遣り合う気だったのだが、
忙しいから待てという理不尽な扱いをされたまま、もう15分は受付前のベンチに座っている。
あとどれくらい待たされるのか、待てば会えるのか、そういうこともきちんと説明されなかった。

「ああもう、そろそろインデックス達もこちらに着きますのに」
「そうだな」
「本当、どうしてこんな病院に収容されなければいけなかったのかしら。
 文句があるならいいに来ればよろしいのに、個室のカギをロックして私の荷物を人質に取るなんて、
 やり方が陰湿ですわ」
「ま、まあ落ち着けよ」
「落ち着いていないように当麻さんには見えますの?」
「う……いや、まあ」
「……ごめんなさい」

口を尖らせて拗ねながらも謝る光子が可愛かったので、当麻は撫でてやった。
一瞬はそれで機嫌が直るのだが、どうも根本的には解決しそうにない。
光子の主治医が応対に出てこない理由は、嫌がらせだけではないように当麻には見えた。
というのも、さっきから病院の敷地を出る車が何台か続いていて、忙しい印象を受けるからだ。
ここは通いの病人を診るより、事故などの救急がメインのはずだから、
学園都市のどこかで大事故でもあったのかもしれない。

「何か、あったのかしら」
「なんかあっちの方、荷物積んだりストレッチャー運ぶ音がしたり、忙しそうだよな」
「ええ。また、ポルターガイストが起こったのかもしれませんわね」

不穏な空気を感じるほかの病人と共にぼうっと建物の奥を眺めていると、当麻の携帯が震えた。
ディスプレイには黄泉川先生と表示されていた。

「あれ、先生だ。……もしもし」
「上条か」
「あ、はい。そうですけど」
「お前と婚后、今何処にいる?」

長い世間話は特に好きでもない黄泉川だが、今日のはいつにも増して口調が端的だった。

「MARの病院にいます。退院の交渉したいんですけど、先生が来なくて待ちぼうけしてます」
「そうか。上条、頼みがある」
「何ですか」
「婚后が、たしか春上と面識があるだろう。すまないが見舞いたいと申請してみてくれるか」
「はあ、それはいいですけど。でもなんで?」
「風紀委員でもないお前を使っておいて何だが、色々と一般人には話せない事情があるじゃんよ。
 すまないが、事情を聞かずに見舞ってくれ。それで、もし断られたらすぐ連絡をくれ」

電話越しの黄泉川の声に、焦りの響きを感じて当麻は詮索するのを止めた。
警備員として腕の確かな黄泉川の指示だ。反論だの事情の詮索だのよりまずは、指示に従うべきだろう。

「わかりました。じゃあ、光子とお見舞いに行ってみます」
「頼む」
335 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 23:16:14.62 ID:XvRnwEjbo

それだけ言って、黄泉川は素早く電話を切った。
話の途中から表情の変わった当麻を見て、光子も何かを感じていたのだろう。
目が合うと、先ほどの苛立ちを消して当麻の言葉を待っていた。

「ちょっと、春上さんのお見舞いに行かないか」
「え?」
「先生に頼まれたんだ」

受付が近いから、当麻は黄泉川の名前も警備員という単語も出さなかった。
それでも当麻の顔色から、意味合いを汲み取ってくれたらしい。
光子が怪訝な顔をするでもなく、朗らかに応じた。
互いに、なんだかそれが嬉しかった。修羅場を潜り抜けたこともあったおかげか、阿吽の呼吸で分かり合える。

「当麻さんが春上さんに鼻の下を伸ばしてはいけませんから、ちゃんと見張りませんと」
「おいおい、そんなことしたことないだろ?」
「知りません。私、当麻さんが春上さんや他の女性のお友達と夏祭りに行ったとき、一人でここにいましたもの」
「なんか俺が女の子を引き連れて歩いたみたいな言い方止めてくれよ。後ろから離れてついていっただけだって」
「ふうん。何処を眺めながらお歩きになったの?」
「何処って、そりゃ景色だよ。……あの、すみません」

自然な感じを装うのにどうしてチクチク責められるのかと若干理不尽な思いをしながら、当麻は受付に再び声をかけた。

「はい」
「春上……下の名前なんだっけ?」
「春上衿衣さんに、お会いしたいのですけれど。私の用件のほうは待たされるようですから」
「春上さんですか……あの、すみませんが、それは出来ません」

黄泉川の危惧が的中したらしかった。

「どうしてですか?」
「春上さんは先ほど、転院するためにこちらの病院を出ましたので」
「えっ? 転院、ですの? そんな話は昨日、一度もお聞きしませんでしたけれど」
「まあ、今日決まったことなので……」
「そんなに急なこと、ありますの?」
「はあ、まあ……」

それだけ言うと追求を恐れてなのか、受付が事務室の奥へと引っ込んだ。
バタバタと忙しない病院、そして急に転院した春上。そしてそれを危惧する黄泉川。
何か、不穏な空気が病院を流れていることを、当麻と光子は気づき始めていた。

「とりあえず、先生に電話するか」
「ええ。それと当麻さん、ちょうど受付の方もいませんから、私と春上さんの病室まで行ってみましょう」
「ん、わかった」

転院したのが本当なら当然そこはもぬけの殻のはずだ。
無駄足かもしれないが、確認の意味はある。
当麻は携帯を操作して、黄泉川へとコールを入れた。そしてその足でエレベータに乗り込んだ。
エレベータが上りきるだけの長いコールを経て、ようやく黄泉川に繋がる。
336 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 23:17:31.87 ID:XvRnwEjbo

「上条、どうだ」
「春上さんには会えませんでした。何でも今日突然、転院することが決まったらしいです」
「……そうか」

光子の先導で、春上の病室の前に来た。ネームプレートはまだ掛かったままで、
中を見るとまだ私物が残っていた。ただ、部屋の主はいなかった。

「今春上さんの病室に来ました。荷物はあるんですけど、本人はいません」
「了解した。上条、助かったじゃんよ。婚后の件は今日じゃなくてもいい。
 とりあえず今日のところは、家に戻って来い」
「あの、手伝えること、ないですか」
「上条、お前は常日頃から厄介ごとに首を突っ込む馬鹿野郎だ。何度も怒られてもう分かってるじゃんよ。
 この街の問題に対応するのは警備員の仕事だ。お前はさっさと帰れ。婚后を泣かせたいか?」
「う……わかりました。帰りますよ」
「ん、そうしろ。それじゃ切るぞ」

また一分に満たない時間で、黄泉川が電話を切った。
事情を問う顔の光子に、当麻は軽く首を振った。

「なんか厄介事らしい。光子の退院の件も保留でいいから、今日は家に帰れだってさ」
「春上さんが、行方知れずですのに?」
「一応この病院が手続きしてるんだぜ。誘拐とはわけが違うさ」
「でも……」
「なんか普段は俺が怒られるのに、俺が光子を諭すって不思議だな」
「当麻さんに毒されたんですわ、きっと」

ただの一般人である自分達が帰らされるのは、言わば当然のことだ。
だけど放っておけないはずの人を放っておくのは、何だか居心地が悪い。
行動を起こせないことに歯がゆさを覚える辺り、光子は、当麻と考えることが似通い始めていた。
……お互い、実はそれもちょっと嬉しかった。

「とりあえず、下に降りよう。それで医者の先生に会えなかったら、帰ろう。インデックスにも連絡しなきゃな」
「そうですわね。もう、これで帰ることになったら、インデックスには随分と足労をかけてしまいますわね」

二人はそう言い合いながらエレベータで再び下に降りた。
二人きりのボックスの中で、光子は当麻の二の腕をかき抱く。
もう随分と自然になった。こうやって当麻に甘えるのはなんだか楽しいのだった。
――だというのに。

「当麻さん?」

エレベータを出る。いつもならもっと気遣いの一つくらい見せてくれる優しい当麻が、
軽く振り払うように光子の腕を解いて、光子とは違う方向を見た。

「御坂!」
「えっ?」

その名前に、光子の心臓がドキンと跳ねた。
だって、また会うなんて、思っていないから。
朝の一件から時間も立って、ようやく嫉妬がどろりと流れ出すのは収まっていたのに。

だが、当麻の影で死角になっていた美琴の姿を目にすると、そんな気持ちは、一瞬で吹き飛んだ。
――――美琴は気を失って、ストレッチャーの上に寝転がされていた。
337 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/17(金) 23:24:03.17 ID:XvRnwEjbo
可愛がりって確かに相撲のほうの可愛がりだったなw
美琴はヒロインを張れるだけのキャラだけに、これからも俺にはハードな可愛がられ方をするのかもしれん。

>>329
漫画電磁法と原作小説は結構矛盾なく行ってるね。アニレーが一番矛盾を抱えてる。
まあ、漫画にも春上さんが出てきて、乱雑解放編は書かれなかっただけで正史扱いはするみたいだけど、
問題は光子さんの登場時期と、あとはもう一個だなー。
別にみんな気にしてないんだろうけど、先を見据えるとこちらで新しい解釈を与えてやらないと矛盾が生じるポイントがあるんですよ。

>>332
光子さんは一般人だからあんまり話の中心に来ないよねぇ。むーん。
それと猫マジこええw俺飛び上がるわ

>>333
まあ、ガチの再構成モノをやってるつもりなので、ある程度は必要だよね。
いずれは当麻さんも男女平等パンチをあわきんとか誰かにお見舞いするかもだし。

さー今日中にもうちょっと書けるかな。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/17(金) 23:30:55.73 ID:MM1T7Q7Io
乙ですた
物知らんことが恥ずかしいですだよー
でも勉強になるですだよー

思うことは一つ。
ああ、光子さんと上条さんの絆は尊いなあということ。
潜った修羅場は確実に彼らを結び付けているな、と。
やっぱりそこいらへんがここの魅力だなあとおいらは思うのです。
いいなあ、こういうカップル。

そして黄泉川せんせーの安定度合いもいいですね。
年少者をあくまで守りながら上条さんに頼みごとをするというのがもうたまりません。
大人の仕事だと思い切ってるのにねえ。
彼女が(自分はお相手いないのに)微笑ましいカップルにできるだけ負荷をかけないようにする姿は美しいですね。

登場人物にそれぞれ見せ場があり、リスペクトがあるこのトンデモワールドが大好きです。

次回も楽しみにしてますよー
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/17(金) 23:33:40.07 ID:6zmDHx300
乙乙! この辺りで斬られるとちょっと生殺しだったから嬉しいですわ^^
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/17(金) 23:58:13.31 ID:+EQgZ1fj0
乙っす。
エカテリーナ共和国並みに重要人物がこの病院に集まってくるな。
341 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/18(土) 00:28:14.77 ID:0GMF2Bq4o

「お、おい御坂! 大丈夫かよ?!」
「御坂さん! あの、御坂さん!」

二人で声をかけるが、一向に目を覚ます気配はない。
眠っているというよりは、完全に意識を失っているらしかった。
ただ、幸い呼吸は確かで命に別状は内容に思えた。

「どうしてコイツ、ここにいるんだ?」
「さあ、私にも分かりませんわ。朝と服が違いますし……」

さらに分からないのは、美琴の横たわるストレッチャーが、一般の病人からは見えないところ、
なんとトラックや救急車用の搬入口に置かれていることだった。
治療をする医師もいないし、これから病室に運ぶという様子もない。
先ほどから騒がしいことと関係があるのかもしれない。

「そこで何をやっている!」

敵意に近い警戒感のある声が、廊下の奥から飛んで来た。
パワードスーツ用のアンダーウェアを纏った男だった。MARの退院だろう。
鍛えてあるらしく体つきは良かったが、目つきが陰湿だった。

「この子、俺達の知り合いなんです。どうして気を失ってるんですか?」
「さあ、詳しいことは知らないね。さあ、退いた退いた」
「お待ちになって。御坂さんは今からどうなりますの?」
「それはお前等の知ったことではないよ」
「待てよ。知り合いだって言ってるだろ?」

「彼女は他の病院で治療することになった。詳しいことは、目が覚めてから本人と連絡を取ってくれ」

露骨にチッと舌を鳴らして、その男は面倒くさそうに当麻を睨んだ。
そしてもう話は終わったと言わんばかりに、男は美琴の乗ったストレッチャーをトラックに載せようとした。

「待てよ!」
「……病人の移送を邪魔するなら、警備員に通報してもいいんだぞ?」
「そっちこそ通報されて大丈夫か? 春上さんを無事に運びたいんだろ?」

当麻は、それでカマをかけたつもりだった。情報の一つでも引き出せればいいと思ってのことだった。
だが、効果は覿面すぎた。

「ほう。随分と困ったことを知られたものだ」
「な?! が……っ!?」
「当麻さん?!」

当麻は突然飛んできた拳を腕でなんとか受け止め、数歩後退した。
光子は突然の荒事に硬直した。
その二人の隙を突いて、男は美琴の乗ったストレッチャーを近くに控えるトラックのほうへと押し始めた。

「どうせ今日の夜にはコトは全部終わってるんだ。証拠隠滅も、適当でいいよな。
 ――おい! このクソガキをさっさと積み込め! これが最後の車両だ。遅れると所長に殺されるぞ!」

その返事を聞いていたのだろう、トラックから運転手らしい男が降りてきて、後部のコンテナ部分を開いた。
後部のドアが開くタイプではなく、車両のサイドの壁が持ち上がるガルウィングドアで、
中にはパワードスーツが一着、積み込まれていた。
男はそれに飛び乗り、手馴れた仕草で起動する。

「さて。お前たち二人もこれから怪我人になる。我々と一緒に目的地まで行こうか」
「簡単にそれを許すと思いますの?」
「ああ、思っているよ。なにせ学園都市で三番目に貴重なサンプルでも、このザマだからな」
「えっ?」

男は躊躇わずに、病院の敷地全体に届くスピーカーのスイッチを入れた。
圧倒的なスペック差をつけた状態で蹂躙するのが好みだった。
342 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/18(土) 00:29:40.69 ID:0GMF2Bq4o

――――キィィィィィィィ

当麻はその不快な音に眉をひそめた。長く聞いていると気分が悪くなりそうだ。
……その程度では、光子はすまなかった。

「あ……あ、う。これ、は――」
「光子? お、おい大丈夫か?」
「当麻さ、ん……頭が」
「突然に、どうしたんだよ」
「『キャパシティダウン』さ」
「何だと?」
「能力者のみに作用する、ジャミングの音響兵器だ。効果はすさまじいよ。そちらのお嬢さんのようにな。
 それにしても、レベル4の能力者に付きまとう男が無能力者とは、みみっちいと自分で思わないのか?」

当麻はその言葉に取り合わなかった。
ただ、光子の体に右手で触れても、耳や頭に触れても様子が変わらないことを確認した。

「音を止めろ」
「ああ? お前ももう少し実力差を考えて言葉を選べよ。ほら!」
「クッ!」

ひどく緩慢な動作で、男はパワードスーツの腕を振り回した。
生身の人間より遅いそれをかわそうとして、軌道の先に光子の体があることに気づいた。
光子を退けるように、抱いて横に運ぼうとする。
――幸い、光子には当たることはなかった。

「が――――は、ア?!」
「当麻さん? 当麻さん……!?」
「ほう、これは謝罪せねばならんな。すまない少年よ。君は中々高潔な人じゃないか」

わざわざこの構図を狙って作っておいて、男は慇懃に笑いながら当麻に謝った。
この方式を気に入ったらしい。

「さて、第二撃だ。彼女は動けないぞ?」

光子は状況把握も正確に出来なくなった脳裏で、歯噛みする。
力が使えないどころか、当麻が傷つく、その理由にされるなんて。

「ゴハァッ!」
「当麻さん……!」

ダメージは運動量に比例する。速度は遅くとも、大質量の鉄塊は充分な威力だった。
そしてダメージの蓄積部位は速度に依存する。
高速な物体ほど体の表面を壊し、遅い物体はダメージを体に浸透させる。
たった二撃で、当麻は足元が覚束なくなった。
そして三撃目。当麻を目掛けて繰り出されたそれは、鋭く腹部に突き刺さった。

「あ……が……」

当麻は必死に打開策を考える。逃げるのは可能かもしれない。でもそれは自分だけならだ。
そして超能力なんて使えない自分は、パワードスーツなんて相手と戦うのは、そもそも不可能だ。
学園都市のパワードスーツは発火能力者や発電系能力者を意識して作られているに決まっているのだから、
そこらからガソリンを拝借して火をつけたくらいじゃどうにもならない。
トラックで轢いてやればダメージはあるだろうが、そんな悠長なことは出来ないし、そもそも運転も出来ない。

「く、そ……」
「さすがに三発でギブアップか。さて、時間がないのが悔しいところだな。
 隣の彼女が傷つく様をなすすべなく見る彼氏、という構図は中々に悲劇的で悪くないが、
 生憎凝った事をする余裕がなくてね。……本当に残念だ。生身なら触り甲斐もあったろうね」
「やめろ! 光子に触るな!」
「と言われても。言っただろう? 君もこの子も、学園都市の裏の世界についてきてもらわなきゃならないんだよ。
 何、どうせここで私が手を出さずとも、遠からずこの子は慰み者になるさ。レベル4がそうそう価値もない」

パワードスーツの腕で、抵抗の出来ない光子を男が掴み挙げた。
そして肩に担ぐようにして、トラックへと運ぼうとする。

「くそっ、待て! 待てよ!」

足が言うことを聞かない。倒れないように必死に二歩三歩と進むうちに、男はずっと先へと進んでしまう。
どうすれば。何をすれば光子を助けられる?!
当麻は、なす術のなさに頭を真っ白にしかけた。
その瞬間だった。

「みつこ!!!」
「やれやれ、上条当麻。君はこの状況じゃ本当に使えない男だね」

聞きなれた女の子の声と、小憎たらしいどこぞの赤髪の神父の声がした。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/18(土) 00:34:26.68 ID:Jx6K4hQ9o
なにこの燃える展開。
ヒロインたる光子さんの危機になにもできない上条さんとかいいよ!
普通にほんとに、役立たずである自分の無価値さを感じるとか最高!
こっからの巻き返しが期待できるなんて、ナイスな展開じゃないか!

そしてシリーズを通して無能扱いなすているがここで頼りになりそうというのはすごいわww

これは次回を楽しみにせざるをえないww

乙ですたー!
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/18(土) 01:18:31.52 ID:407HcC290
この状況はどう考えてもステイル無双と言う俺得な状況デス。
本当にありがとうございます!
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/06/18(土) 01:21:13.80 ID:FYVw8jZQo
ペロッ、これは格好いいステイル!
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/18(土) 01:31:51.19 ID:n6flvYSAO
>>345
ステイル「あぁスマン、ちょっと待っていてくれ。今ルーンを張っているんだ」ペタペタ
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 07:24:45.95 ID:wP6PqDjDO
乙!
戦場が指定できるときのバーコードさんは強いからなぁ
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/18(土) 07:43:08.69 ID:ya9C/dnvo

そういや光子と年一緒だな、ステイルww
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/18(土) 08:15:40.34 ID:8rN04grvo
だがステイル登場前の駆動鎧が火に強いがうんたらかんたらのせいで一抹の不安を拭えないwwwww
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/18(土) 09:30:31.15 ID:PBTIFPq30
俺らのイノケンさん舐めてんじゃねーぞ。
モブキャラ程度に防げる火力じゃねぇんだよ。

科学の力の前じゃ手も足も出ない上条さんの心境とかいいな。こういうの好き
次回も楽しみにしている。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/18(土) 10:47:24.70 ID:xbBG6WEio
頑張れステイル!
かっこよく決めればインさんの好感度大幅アップだ
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/18(土) 13:38:33.43 ID:Ppp+SOveo
ステイル活躍フラグッ!これは期待するしかない
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/18(土) 23:33:52.43 ID:SX4dhmR+o
そしてやってくるかおりん。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 09:32:54.74 ID:+NfMKOlSO
>>353

あれ?ステイルが噛ませになる未来が見えてきたぞ?
355 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/19(日) 12:30:23.14 ID:LTHCXpTDo

「おや、新手かい?」

男が余裕ありげに振り向いた。
光子がどさりと美琴と一緒のトラックに載せられたところだった。

「能力者が束になるとかなりの脅威なんだがね。今はキャパシティダウンの稼動中だ。
 その間に動ける君達は、つまりレベル0なんだろう?」

2メートルを越す身長の男は、生身なら脅威かもしれない。だがパワードスーツを着ている限り肉弾戦では敵ではない。
後ろにいる銀髪と金髪の二人など論外だった。
むしろ、憐れみすら覚えた。どちらも逃がすわけには行かない。
と言うことは、今しがたトラックに載せた女と同様、この二人にもそう明るい未来は残されていまい。

「レベル0というのは、確かこの都市の能力者のランク付けのことだったね?」
「ん?」

その物言いからして、目の前の赤髪の神父は学園都市外の人間らしい。
尚更、脅威と見るに値しない存在だった。
だがその事実を理解していないのか、神父は悠長に煙草をふかしている。
目の下のバーコードや過度に纏いすぎたアクセサリの数々が、
オカルトというでも信奉しているような、蒙昧な印象をかもし出している。

「僕は超能力者ではないからね、レベル0で合っているのかな」
「開発どころか検査も受けていない人間にレベルは与えられないさ」
「ああ、それもそうか。……ところでインデックス。僕は、科学<かれら>に能動的に干渉することは禁じられているんだけど」

インデックスは、ステイルの言っていることが魔術師としてごく常識的であることは理解していた。
だけど、そんな悠長なことを言うような場合では、ないのだ。
放っておけば、光子がさらわれかねない状況だから。
光子を助けようと走り出したインデックスを止めたのがステイルだった。
そんな原則論を持ち出すのならなぜ自分を止めたんだと、インデックスは非難を込めた目で見つめ返した。
う、とステイルが怯んだ。

「……僕が言ったのは正論だよ。まあ、どうせ彼は僕らも逃がす気はないだろうしね。それで合っているかい?」
「そうだな、反論はしないよ。君に「需要」はないが、後ろのお嬢さん達には価値がある。さあ、寝ていろ」

男は当麻を無視して、ステイルと、その奥にいるインデックスとエリスの方を向いた。
そして無造作にステイルに腕を振り上げた。それを見て、ステイルは口の端を釣り上げた。
フィルター前までしっかり吸いきった煙草をピッと指で投げ捨てる。
こちらから露骨なアクションは取れなくても、反撃なら許されるのだ。

「仕事だよ、魔女狩りの王<イノケンティウス>」
「なっ?!」

煙草の吸殻を基点に、爆発的にオレンジがかった光が広がる。
それはあっという間に人型を成し、人の身長を越える。ちょうど、パワードスーツを来た男といい勝負のサイズだった。

「やれやれ、不穏な空気を感じてあらかじめルーンをバラ撒いておいたのが役に立つとはね。
 さて、一応聞くけど。その機械仕掛けの鎧から降りて、降伏する気はないかい?」
「貴様。なぜ能力を使える?!」
「さあ。どうしてだろうね」
「くっ!」
356 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/19(日) 12:31:25.24 ID:LTHCXpTDo

ブゥン、と一度止めた腕を男は振り下ろした。魔女狩りの王がそれを受け止める。
その二者の接触面が軋みをあげ、猛烈な勢いでパワードスーツのセンサーがアラームをかき鳴らした。
異常な熱を検知した報告だった。すぐにこれでは腕が駄目になる。
炎の塊から遠ざかるために男は反射的に後ろに下がって、そして愕然とした。
重さを感じさせない炎の塊が、自分の腕を掴んだままついてくる。
なのに振り払おうとすると、今度はパワードスーツの力に負けない強さで、その動きに逆らう。
その間も、腕はあっという間に熱を持って、その温度を見過ごせない温度にまで上昇させていく。

「その装甲。何度まで耐えられるんだい? さすがは学園都市製と、もう充分褒めるに値する健闘ぶりだけど」

魔女狩りの王の内部温度は、三千度程度。
それは温度で言えば、タングステンやダイヤモンドなど、強靭な物質を溶融させるにはやや心もとない温度だ。
だが、魔女狩りの王が司るのは熱ではない。酸素の存在を暗黙の前提とする、「燃焼」という現象だ。
酸素雰囲気下の三千度。それだけの条件で解けも燃えもしない物質は、学園都市のどんな生産プラントでも作れない。
この世に存在しない物質を作れる、ある男を除いては。
勿論パワードスーツの装甲はそんな物質ではなかった。

「は、離せ!」
「どうしてだい? まずはお互い、分かり合うために対話をしようじゃないか」

炎の恐怖に顔を引きつらせる男に、ステイルはゆっくりとした動作で語りかける。
目の前で怯える人がいて、それに微塵も流されない。

「くそっ!」

男が何かを決心した顔で、開いた腕に銃をマウントした。そして、それをステイルに向け、引き金を引いた。
魔女狩りの王がステイルを庇い、腕を離した。

――ガンガンガン!!

それはもう、周辺にいるあらゆる人を警戒させるに足る音だ。
速やかに、この神父を制圧しなければならない。
炎の塊に阻まれて神父がどうなったのか見えないが、これが消えないと言うことは。

「残念。その程度の口径の銃が魔女狩りの王を貫通することは出来ないよ。
 以前、高速度の飛翔体に対する対策を考えさせられる経験があってね。
 魔女狩りの王にはかなりの粘りを持たせてある」

ステイルがチラリとうずくまる光子に目をやって、そう呟いた。
魔女狩りの王の中身は木炭や石炭の溶けたものだ。もちろんそれは魔術的、象徴的な意味であって、物理的な正しさはない。
三千度の炭の液体などというものが実際に存在するはずもないが、もしあれば、それは水よりさらりとしていておかしくない。
温度が上がると粘度が下がるという物理法則に、魔女狩りの王が従う必要は無かった。

「にしても、面倒だな。君を殺すのはちょっと問題がありそうでね。出来れば無力化したいんだが」
「うるさい、死ね!」
「ああ、会話にならないのか。君に科学を講釈するのは釈迦に説法というやつかも知れないけれど。
 ――――熱膨張って知ってるかい?」
357 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/19(日) 12:33:10.20 ID:LTHCXpTDo

ステイルに向けられた銃の機構部分を、魔女狩りの王が優しく掴んだ。
恐怖にやられたのか、男は自動小銃をフルオートで打ち始めた。
だが、それも長くは続かない。

――――バンッ!!!
「うあっ! な、なんで――」
「この温度で銃が正しく動作するわけがないだろう。さあ、魔女狩りの王。そろそろ戯れは終わりだ。彼に熱い抱擁を」
「止めろ! 止めてくれ!」
「それを言った上条当麻に君はどんなリアクションをとったっけね? ――やれ」
「うわぁぁぁ!」

男は、緊急脱出用のコマンドを躊躇いなく実行した。
そしてもぬけの殻になったパワードスーツの外骨格に、魔女狩りの王が絡みついた。
弾性を維持するために熱に弱い関節から順に、あっという間に破損していく。
そして装甲が発火したところで、ステイルは魔女狩りの王を引き離した。

「クソ、なんでこんな――」
「よう」
「え?」

先ほどとは打って変わって、腰を抜かした男はいつの間にか当麻の足元にいた。
当麻は手加減なんて微塵も考えなかった。
全力のストレートを、男にぶち込んだ。

「寝てやがれ!!!!」
「ガハァッ!!!」

ガツンと頬骨が折れる音とともに、男が吹き飛ばされて転がった。
そして当麻はすぐにトラックの運転席で事態を怯えながら見つめていたMARの隊員を睨んだ。

「今すぐこの音を止めろ!」

魔女狩りの王がすっとトラックの前に立つ。逃げ切るより自分が殺されるほうが早いと悟ったのだろう。
当麻にぶちのめされた男よりも小心か、あるいは根が腐っていないのか、コクコクと頷いてキャパシティダウンを止めた。
すぐさま当麻とインデックスが光子の下に駆け寄る。

「みつこ! 大丈夫?!」
「ええ……。頭痛はもう消えましたから。すぐに良くなるとは、思いますわ」
「ごめんな、光子」
358 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/19(日) 12:34:22.58 ID:LTHCXpTDo

当麻の表情を見て、光子は切ない気持ちになった。
何も出来なかったことを悔いている顔だった。当麻はレベル0だ。こんなとき、何も出来なくたって誰も責めやしないのに。
自分を庇って、助けようとしてくれただけで、恋人の自分は充分に満足なのに。

「当麻さん、気になさらないで。本当に別に、私何ともありませんから」
「ああ……」
「まあそういう感傷的な事は後にまわしてくれないか」
「っ」

面白くなさそうに煙草をケースからとんとんと取り出しながら、ステイルが後ろで呟いた。
エリスはステイルからも離れて所在なさげにしている。

「悪い。ステイル、助かったよ」
「別に君たちが被害にあうだけなら止めなかったけどね。この子に手を出すと宣言したそこの彼にでも感謝したらどうだい」

不調でうずくまる光子を見ても全く容赦のないステイルだった。
だが恨みがましい目でインデックスに見られると、居心地悪そうに目線を外した。

「なあ、ステイル」
「なんだい?」
「さっきの運転手を操るとか、そういうことって出来るのか」
「……そんなことを何故聞くんだ?」
「光子」

ステイルに取り合わず、当麻は光子を撫でた。
それだけで、光子は当麻の言いたいことを全部理解した。
そして答えに言葉を尽くす必要なんてない。

「私は当麻さんについて行きます」
「おう。じゃあステイル、頼んだ」
「状況くらいは説明しろ」
「インデックスの友達の一人、春上さんって言うんだけどな、その子がこいつらに誘拐されてる。今から、助けに行くぞ」

運転手を操った上でトラックを運転させ、前方の車両に追いつく。当麻が考えているのはそういうことだった。
事情を確かめるように、戸惑ったステイルはインデックスを見た。
懇願する目で、コクリと頷いた。

「魔術師として、この学園の超能力者と戦うのは駄目なんだよね。そういうのは、しなくていいから。
 だからお願い、ステイル」

ろくに吸ってもない煙草を投げ捨て、足でグリグリと踏みにじる。
正義を語るようなおこがましい趣味はステイルにはない。だが、そういうインデックスの顔には、弱かった。

「ああもう、僕は知らないぞ」

この場の全員に聞こえる大きな舌打ちをして、ステイルは運転手のほうへと向かった。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/19(日) 12:35:11.20 ID:lihwo6nro
ねぼしきたー!
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/19(日) 12:36:01.94 ID:WU1Q02KAO
ねぼし北―――――!
361 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/19(日) 12:37:31.91 ID:LTHCXpTDo
なんか俺の意図を超えて突然にステイルがねぼしった。
格好よく書けたかなー
これで『Intersection of the three stories: 其処に集う人達』おわりっと。
今までで最長の話かな。さークライマックス目前だ。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/19(日) 12:38:31.57 ID:y347MPzLo
ステイルー!!
イノケンさんかっこいいよ!
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/19(日) 13:35:13.12 ID:cSJ7Pexuo
これが真ねぼしか……
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/06/19(日) 13:40:16.03 ID:4sMvFqNj0
このねぼしは正しいww
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/06/19(日) 13:43:14.02 ID:y347MPzLo
まあ3000°Cで掴まれたらさすがにねぼしっても不思議じゃない気がするな
まさに真ねぼしww
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/19(日) 14:04:38.10 ID:WJtjH84ho
ステイルがかませではなく本当にかっこいいいとは…
真・ねぼしも見られるとはww
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/19(日) 14:33:01.21 ID:BDYUsd5AO
イノケンさんはかっこいいなぁ
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/19(日) 17:15:03.64 ID:+IsSgkEQ0
乙。
これが教皇級の力をもつイノケンさんから繰り出される真ねぼし、か。
やはりイノケンさんは、ただものじゃないっすね。
あと、美琴は大丈夫か?
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/19(日) 19:39:52.72 ID:yqNakjvS0
乙乙! 対魔術対策してない科学は辛いなぁ。
ステイルさんかっこいい!抱(イノケンティウス
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/19(日) 20:05:21.01 ID:CQ+elfLYo
素晴らしいねぼしだった
371 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/20(月) 12:03:23.61 ID:VthU6ESKo

カタンカタンと、トラックが高速道路の継ぎ目を通るたびに規則的な音が室内に響く。
簡易ベンチに当麻と、光子にインデックスが座り、ストレッチャーに乗せられた美琴が横にいる。
三人から離れ噛みタバコを噛むステイルと、その全員から離れたところにエリスが座っていた。

「まったく。僕にも用があって、ここに来たんだけどね」

ハッとため息をついて、ステイルが肩をすくめた。
そういう文句はもうこうなってから、三度目くらいだ。

「いやだから、来てくれるのはありがたいけど、来いって言ったわけじゃないだろ?」
「別に僕は君達に用はないから、あそこで別れても良かったんだけど」
「ごめんね。でも、私にとっても、他人じゃないもん」

ステイルはインデックスに謝られて向ける矛先を失い、フンと鼻を鳴らした。

「それにしても、追いつくのに時間が随分と掛かるね」
「この辺は高速が狭くて追い越しとかほとんどねーんだろうさ。差がついちまってるんだから、仕方ないだろ」

当麻たちを乗せたトラックは今、春上を乗せたトラックを追いかけている。
差がついているのは、当麻たちがパワードスーツを着た男と争ったのもあるが、
その後にトラックから予備のパワードスーツを下ろすのに手間取ったからでもあった。
走っている途中で遠隔操作で自爆なり脱出ポッドの強制排出なりをされてはたまらない。
だが、あんな重い機械を手で運べるはずもなく、手間取ったのだった。

「もっと彼女が、早く手を貸してくれていれば良かったんだがね」

そう言ってステイルが、エリスを横目で見た。
インデックスが不安げな顔をする。一人、エリスだけが皆から離れているのは、ステイルの采配だった。




――――MARの病院で、ステイルが運転手を操ったところでその事態は起こった。
エリスは一般人だ。ついて来たところで足手まといになるのは明らかだった。
当麻がそれを心配したのがきっかけだった。

「エリス。ここからは危ない。悪いけど、近くの通りまで出て、タクシーで帰ってくれないか」
「上条君……。インデックスは、構わないの?」
「ステイルの魔女狩りの王<イノケンティウス>、見ただろ? インデックスはそういうのが出来る連中の一人なんだ」
「まあ戦力外だろうけどね、今回に関して言えば」
「そんなことないもん!」

ステイルの揶揄にインデックスがむっとした顔を返す。
それは心配の裏返しだった。魔術師の中でなら、インデックスは驚異的な力を発揮する。
だが、彼女の能力は超能力者の中にあっては、一般人と大差が無かった。
あらゆる信仰を論破するインデックスをして、太刀打ちできないのが科学だった。

「君が行かなきゃ、僕も行かなくて済むんだけど」
「……別に来てくれなんて、言ってない」
「だけどさっきみたいなことがあれば、君の保護者二人はまた戦力外になる。
 彼らが怪我をするのは僕の知ったことじゃないが、インデックス、君に関しては違う」
「じゃあ、ステイルは私と一緒にここに残って、
 とうまとみつこが怪我をするのが一番いいって言うんだね?」
「それは……」
「私も行く。それは私が決めたこと。ステイルがついてこないのは自由だけど」

春上とは、少し話した程度の間柄だった。
夏祭りに行った日に話したのだが、その時も主に世話になったのは浴衣を着付けてくれた佐天で、
ほとんど春上とは接点を持たなかった。
でも、もう春上は、インデックスの友達の一人だ。
苦しんでいるところを見過ごすことの出来ない、そういう相手に入っていると思う。
それは当麻にとっても、光子にとっても同じことのようだった。
デートしているときに突然、自分の家のベランダに引っかかった女の子を助けて、
そしてずっと一緒にいてくれるようなお人よしなのだ。
インデックスは、自分の決断を間違っているとは思えなかった。
372 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/20(月) 12:05:27.34 ID:VthU6ESKo

「ああもう。分かった、行くよ」

ステイルはざっと髪をかき上げ、エリスに目をやる。

「君にも、親切で一応言っておくと、着いて来ない方が良いと思うよ。
 いざと言うときに、足手まといが要ると困るからね」
「ステイル! そんな言い方しなくてもいいでしょ!」
「事実だよ。……さて、上条当麻。トラックに積まれた機械の鎧が邪魔だな。
 動かして車の外に出してくれ」

ステイルは無理と分かっているのだろう、当麻はその嫌味に苛立ちを覚えた。
この場で当麻は、今のところ何も出来ていない。

「無茶言うな。こんなモン、ロックが掛かってて部外者には動かせねーよ。
 手で動かすには重すぎるしな。さっきの運転手にやらせるか?」
「不可能じゃないけど、時間が掛かる。僕の魔女狩りの王は動かすのは可能だけれど、
 トラックも壊しかねないし、あまり作業には向いていない」
「じゃあ、私がやるよ」
「エリス?」

意を決したように呟いたエリスに、インデックスが戸惑いながら尋ねた。

「やるって、どうやって?」
「エリスさんは、それほどレベルは高くないんでしょう? できますの?」

美琴のストレッチャーの隣で座り込む光子がそう確認する。
トラックから地面まで1メートルくらいの段差がある。
エリスの能力なんて良く知らないが、空間移動、念動力、
そういう能力でこのパワードスーツを動かすにはそれなりのレベルが必要だった。
どうする気なのかと尋ねる光子に、エリスはあっさりと、自分の秘密を打ち明けた。

「ううん。私、ホントはね、超能力者じゃないんだ」
「え?」

驚くインデックスに、エリスは微笑んだ。
それは仲のいい知り合いに、また一つ嘘をつく後ろめたさを隠すための笑みだった。
エリスは、本当は超能力者でもある。
だがその「でもある」をきちんと目の前の皆に説明することは出来ない。
だからこの場では、エリスは自分の超能力者としての側面を隠した。

「あの、エリス……」
「ちょっと待ってね」

エリスはポケットから、印鑑入れのようなケースを取り出した。
それを開くと、中には白いチョークのようなものが入っている。
その質感から、インデックスはそれが微細な塩を油とワックスで固めたもの、オイルパステルの一種だと推測した。
エリスはかがんで、そのチョークめいた白色の棒で地面に紋章を描き始めた。
超能力者の、わけの分からない理屈ではなくて、むしろ自分の良く知った理論に沿って。

「エリス……嘘、どうして」
「ごめんね、今まで、言わなくて」

それはいい。だって、インデックスだって自分が魔術師だなんて一言もエリスに言わなかった。
もちろんindex-librorum-prohibitorum、すなわち禁書目録というフルネームを見れば、
魔術師ならインデックスが何者かなんて言わなくても分かるだろうけれど。

「私の可愛い土くれシェリー。あのトラックの上のパワードスーツを、どけて頂戴」
373 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/20(月) 12:07:16.29 ID:VthU6ESKo

エリスが一言そう呟くと、硬いコンクリートの地面が突然、ぐにゅりと音を立てた。
コンクリートがひび割れ、その下から茶色い泥が、人の形を作るようにぬるりと這い上がる。
そして割れたコンクリートを身にまとい、ステイルより一回り大きい程度の人形、ゴーレム=シェリーが完成した。
作り方を親友に教えてもらった、魔術師エリスの最高位の技。もちろん、魔女狩りの王となんて比べ物にならないが。
親友の名を冠したゴーレムに、エリスは笑いかけた。
シェリーがこれを見れば、自分と同じ名前をいかついゴーレムにつけたエリスのことを一体どう思うだろう。

「……ふうん、君は魔術師だったのか」
「うん」
「インデックスに近づいた目的は?」
「逆だよ。あの子が私のいる学校に来なければ、私からコンタクトすることなんて無かったもの」

すこし寂しそうに、エリスがインデックスに笑いかけた。
その微笑には表裏が内容に感じられて、インデックスは、エリスを信じたいと思った。
だけど、魔術師同士であるということは、そう簡単には埋められない距離があることを意味していた。

「エリスは、どうしてこの街にいたの?」
「……インデックスには、話してもいいよ。もう帝督君には教えちゃったから」
「じゃあ」
「でも今は、嫌だな。インデックスの知り合いだからって、誰にでも喋りたいことじゃ、ないから。
 ……例えばステイルさんは、私に学園都市に来た理由を話せるの?」
「まさか。どの結社に所属する魔術師かも分からない相手に、そんなことができるものか」
「だよね。ほら、これでおあいこ」

ステイルの言い分はもっともだった。
とある錬金術師が、「吸血殺し」という究極の対吸血鬼集蛾塔のようなものを手に、
本気で吸血鬼を集めようとしているなどという話が知れたら、
普通の魔術師なら何を差し置いても、「吸血殺し」か吸血鬼の横取りを目論むだろう。
だがエリスは、ステイルが内心で考えていることなんて当然知りえない。
シェリーを見上げ、トンと触れた。

「さあ、早く仕事をなさい。急がなきゃいけないから」

シェリーは物も言わず、重たげな音を立てながらパワードスーツを退けに掛かった。
――――そんな経緯で、シェリーはステイルの警戒心を買い、インデックスから離れて座っているのだった。




トラックの中の沈黙を、インデックスが破る。

「ねえ、エリス」
「何かな?」
「また、落ち着いたら。一緒に遊べるかな」

ステイルのほうを、エリスはチラリと見た。返答は無言だった。

「私はこれからもあの学校にいるし、インデックスが通ってくるなら、一緒に遊ぶこともあるよ」
「うん、そっか」
「インデックスこそ、私を避けたほうがいいのかもしれないよ?」
「……そうだね、ステイルは、そんな顔してる」
「なあエリス。お前はさ、友達としてのインデックスを、裏切る気なんてあるか」
「ないよ」
「じゃあ、俺らから聞くことはもうねーな」
「……ありがと、上条君」

光子が当麻の手を握って、当麻と一緒にエリスに笑いかけた。
そして目線を横にやると、ストレッチャーの上の毛布が、もぞりと動いたのに気がついた。

「御坂さん?」
「ん……」

美琴が、意識を覚醒させたらしかった。
374 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/20(月) 12:08:17.64 ID:VthU6ESKo
すげーねぼしが好評でわらってしまったw真ねぼしって表現いいなあ。
さて今回はエリスの番でした。まあ、基本彼女は技術的には低スペックな魔術師・能力者です。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 13:28:31.08 ID:5DQDBRu+o
シェリー死んでるのか?
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/20(月) 14:29:24.35 ID:c4FLJ955o
互いが互いの名前をゴーレムにつけてるのか
泣ける……ブワッ
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/20(月) 17:03:27.60 ID:EuvKyCPFo
乙です、しかしイノケンさんに銃を握られたら熱膨張しなくても溶けるか変形するかしそうですね
それ以前に銃弾が暴発するかなww
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/20(月) 17:54:27.14 ID:2Cmf/P0T0
乙です。
お互いにゴーレムの名に親友の名前をつけているのか……
はやくエリスとシェリーが再会するところを見たいです。
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/20(月) 18:06:46.56 ID:Zu68KF3f0
美琴と魔術組のかなり早い邂逅がどう影響するのか、佐天たちがどう動くのか楽しみです^^
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/20(月) 18:28:53.10 ID:OkZ8sWMQo
乙ですた!
ねぼしってなにかわかんねえからぐぐったら笑ったww

自分の無力を責める上条さんとそれを気遣う光子さんに悶え苦しんだ。
[ピーーー]気かー!
やっぱこの二人の絆はいいわ。

さて、ビリビリが目覚めてどうなるかわくわくですな。

次回も楽しみにしてますよー
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/20(月) 18:30:27.64 ID:xMTrl7Jdo
美琴が早い段階で魔術サイドと接触か……皮被りさん大歓喜ですね!!
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(秋田県) [sage]:2011/06/20(月) 22:27:57.23 ID:AlcL/Ivwo
>>381
原作の上条勢力は上条さんが魔術サイドと科学サイドの両方に顔が利くだけで、科学と魔術が直接協力なんてしてなかったからな。
このSSだと思いっきり協力することになりそうだから、上条勢力の危険度も増大。
アステカ仮面にも監視じゃなくて最初から抹殺命令が下るかも。
あれ? そうしたら美琴に惚れる時間がなくね?
383 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/21(火) 01:24:07.31 ID:2Y3LuJj4o

誰かの話し声が気になって、美琴は目を覚ました。
はじめに目に映ったのは、頼りない感じのするベッドと、灰色の壁だった。
ここ、どこだろ。
そんな暢気なことをぼんやり考えていると、御坂さん、と知っている誰かの声が背中にかけられた。
誰だっけ、知り合いの声なのは確かだけど。そう思いながら、気だるい体を横に向ける。
初めに目線を合わせた相手は、ツンツン頭の、見知った高校生だった。

「御坂、大丈夫か?」
「え……?」

どうして、コイツが?
理由は単純だった。美琴のストレッチャーの隣に当麻が座っていたから。
もちろん美琴にそんなことが分かるわけがない。
心臓が、トクリと高鳴った。目を覚ましたときに、傍にいてくれるなんて。
今この状況も、数時間前の記憶も、そういうものへの理解をせず、
美琴の心は当麻の気遣う声が聞こえたことを、素直に喜んだ。
……それは決して、幸せではないことなのに。

「御坂さん、大丈夫ですの?」
「え? 婚后、さん……」

肺が苦しい。ギチギチと、急に呼吸が苦しくなった。
なんで、って。そうだ。今朝、話をしたんだ。コイツと婚后さんが、その、付き合ってるって。
よく見れば、確かインデックスとエリスという名前の美人の外人さん二人組に、知らない赤髪の人までいた。
呆然とする美琴に、当麻が立ち上がって手を触れた。
おでこに、当麻の温かみが広がる。夏だからか美琴は額に汗がにじんでいて、触られるのが恥ずかしかった。

「お前、熱あるだろ」
「え?」
「さっきからお前、『え?』って言ってばかりだな」

きっと普段なら、美琴が弱みを見せたらまずはそこを攻めにかかると思う。
いつも倒す倒されるみたいな話ばっかりしてたから、今だってそうだと思った。
なのに、馬鹿だな、なんて顔をしているのに。当麻の笑みの中に美琴をいたわるような優しさが合った。
それは、隣に光子がいなければ、どうしようもなくなるくらい嬉しいことのはずなのに。

「ほら、喋れるか?」
「……ば、馬鹿にしないで」
「だったらちゃんと喋るんだな。こうなってるお前に無理言う様な事して悪いけど、
 聞かなきゃいけないことがあるからな。……お前、どうして倒れてたんだ?」

当麻の顔が、真面目なものになった。
それでようやく美琴も、自分の意識がなぜ飛んでいたのか、思い出した。

「私、テレスティーナさん……テレスティーナにやられた。スタンガンで」
「あれ、お前、そういうの平気だっただろ?」
「なんか、あの音でおかしくなって」
「キャパシティダウンだっけか。そうか、お前もアレにやられたってことは、能力者であれば即アウトか」

美琴が首をさすり、傷を探した。
手に触れると、ざらりとした感触があった。ズキンと痛みが走って、そこがひどいやけどになっているのが分かった。
384 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/21(火) 01:26:43.75 ID:2Y3LuJj4o

「痛っ……」
「ひどいな……それ。跡が残らないといいけどな」
「残ると吸血鬼っぽくて嫌ね」
「冗談言ってる場合かよ」
「いいでしょ、それくらい。なんでアンタが私の心配するのよ」
「しちゃいけないか?」
「……うん。駄目」
「そうか」

アンタには、婚后さんって彼女がいるでしょうが。
……それを、声に出すことは、現実を認めてしまうことになるから、言えなかった。
もうその現実が覆らないことは、薄々分かっているけれど。

「今、これ車に乗ってるんだよね?」
「ああ」
「どこに向かってるの?」

それも、聞いておかなければならないことだった。
規則的な振動から、どうもこの車は高速道路を走っているらしいとわかる。
しかも医者らしい人は乗っていなくて、救急車じゃなくてもっとゴツい、トラックのような車だった。
美琴のために別の病院へ、という感じではなかった。

「……体調悪いお前には悪いけど、この車は、春上さんを乗っけたトラックを追いかけてる」

やっぱり。
美琴は自分の予想が正しいことを確認して、そしてこう、思ってしまった。
私は、こんなことしてる場合じゃ……
そしてすぐに自分を責めた。
今、自分は春上と妹の命を天秤にかけて、優先順位を決めようとした。
それは、やってはいけないことだと思う。
そんな風に命に値段をつけるということをやってしまえば、妹達には、
どうしようもないほどの客観的な値段がついている。
それが許せなくて、自分は動いているはずなのに。
……だけど、妹達と一方通行の作り出したあの惨劇が脳裏にこびりついていて、
それがどうしようもなく美琴の焦燥感を掻き立てるのだ。

「朝から悩んでたの、この件だったのか? とりあえず、警備員の知り合いには連絡してある。
 どれくらい切羽詰ってるのか、詳しいことは御坂に聞きたいんだけどさ、
 ここにいるヤツはみんな、荒事に付き合ってくれる気で来てる。
 だからまあ、頼れよ」
「……うん」

美琴は当麻の勘違いを正さなかった。
やっぱり、あれは当麻にも話せることではないと思うから。
そして、いつか美琴がどうしようもなくなった最後には頼れる、そんな希望が感じられるから。
もう、それで良いと思った。今は、春上を助けることに集中しよう。

――不意に、当麻が美琴の髪をくしゃりと撫でた。
その感触に美琴は目を瞑ったのに、当麻の手は名残を見せずにすっと美琴から離れた。
385 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/21(火) 01:30:31.39 ID:2Y3LuJj4o

「ごめんな」
「えっ……?」

不意に、謝られた。意図が分からなかった。

「お前、朝から随分追い詰められてたよな。もっと、ちゃんと聞いてやればよかったな」
「……別に、アンタに聞いてもらったって何も変わらないわよ」
「そうか?」
「そうなの。ったく、お人よしにも程があんのよ。そんなんじゃ、アンタ」

美琴はそこではじめて、ようやく、光子のほうを見た。

「婚后さんにすぐに愛想つかされるわよ」
「御坂さん……」

それは、敗北宣言だった。
だって、当麻はもう光子の恋人で、自分の居場所はそこにはないんだから。
友達としてなら、当麻の傍にはいられるように思う。だから、もうそれでいいじゃないか。
年上の、なんだかお互いにじゃれあいたくなるような、仲のいい男友達。

「愛想つかされるって、別に光子は」
「御坂さんの言うとおりですわ。当麻さんは、もっと反省してくださいませんと」
「え、光子?」

戸惑う当麻に光子が僅かに咎める視線を送った。
美琴はその光景を見ていられなくて、腕で、視界を覆い隠した。

「お、おい御坂。変なこというから」
「当麻さんはあちらに座ってらして」
「え、ちょっと、光子」

光子が強引に、当麻を自分の席に押しやった。
美琴の体がわなないて、何かを堪えるように唇がきゅっと横に引かれたのを見て、
光子は当麻に見えないよう、美琴の頬にハンカチをそっと押し当てた。

「婚后さん……?」
「これが、嫌味なことに思えるんだったら、ごめんなさい。朝は、私もつい……ごめんなさい」
「いいよ。別に婚后さんは、悪くない」
「ええ、それは私も、譲れません。でも御坂さん、私、御坂さんとお友達でいたい」
「え?」

光子はそれ以上、言葉を重ねなかった。
ただ、美琴の気持ちに共感するように、空いた美琴の手をとって、ぎゅっと自分の手を重ねた。
覆った腕の隙間から、美琴は光子を見た。
真摯な目で、優越感とかそういうのとは無縁に、美琴を慰撫してくれる表情だった。

「……ありがとね、婚后さん」
「お礼なんて」

美琴は光子の手を握り返した。
優劣がついて、明暗が分かれて、蹴落とした側と蹴落とされた側になったのに。
今この瞬間が今までで一番、美琴と光子が友情を交し合えた時だった。
386 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/21(火) 01:35:02.56 ID:2Y3LuJj4o
>>375
死んでるわけじゃないのよー。単に>>376が正解。

>>377
銃表面の溶融
銃部品の熱膨張による銃身の変形
装填された火薬の自然発火
この三つの兼ね合いだから、意外と複雑なんだよな。
ねぼしじゃない暴発だった可能性は否定できないね。

>>379 >>381-382
アステカのお兄さんの行動はちょっとよく考えないといけないね。確かに。

>>380
光子さんがいい子過ぎて書くのが辛い……なんでリアルでおらんのんや

さて次あたりから佐天さん来るかなー
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/21(火) 04:01:19.24 ID:WJJFxHjDO
シェリーとエリスは互いの近況を知らないはずだからな。シェリー襲来が楽しみだ。

この婚后さんはアニメとは違う声で喋ってる感じがする。もうちょっとおしとやかな声が聞こえるよ。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/21(火) 06:50:41.62 ID:IycmGt760
美琴にはこれから新しい恋を見つけて欲しいっす。
光子ちゃんと美琴にはいい友情を育んでもらいたい。
そして吸血鬼の前で吸血鬼みたいって。
吸血殺しのときは頑張ってほしいっす。
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/21(火) 08:34:05.28 ID:aNUL76En0
>そして吸血鬼の前で吸血鬼みたいって。
無神経、とかじゃなくて、そういう“すれ違い”“行き違い”を丁寧に描き込んでてスゴイなあ、と思います。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/22(水) 20:35:15.37 ID:g7SklrL0o
乙ですた

…あちらでもねぼしは好評で笑ってしまったっすわww

さてここで光子さんとビリビリの関係に一応の決着。
なかなか気持ちのいい関係になりそうでこれからの描写に期待。

ところで、今さら感はすごくあんだけど、上条さんと光子さんの馴れ初めはこれ以上描写はないのでしょうか。
幾度目かの再読でそこが一番もやもやしてたんだけど。

次回も楽しみにしてますよー
391 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/23(木) 03:04:22.25 ID:lnPqWcnSo
ちょっと続きを書く暇がここんとこないなー。すまんす。

>>387
うん、おしとやか路線を強調しすぎてるかなあという思いはたまに抱いたりする。
このへん難しいんだよね。脇役として書かれたアニメのキャラづくりじゃ脇役にしかなれないというか。

>>388-389
あざといかなと思わなくもないんだけど、こういうすれ違いがあるとニヤッと俺はしていますw

>>390
んー、実はその馴れ初めの加筆ってのはやろうかどうか悩んでる。
漫画版のほうで光子さんのバックグラウンドがかなり厚みを持ってきたので、
書こうと思えばかけるかな、と最近思い始めてたり。
でも書くとなると一ヶ月くらいはストーリーが進展しなくなるので、
読んでくれる人が離れちゃったりする心配ががが。
光子との馴れ初めをキンクリしちゃってることを不満に思うコメントを頂いたことも何度かあって、
書いたほうがいいのかなと気にはなっています。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/23(木) 05:09:18.28 ID:/RMtVbPAO
一つエピソードが一段落したら、次との合間に挟むのはどうだろう。

いや、俺が読みたいだけなんだども。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/23(木) 09:35:17.23 ID:G6wwFzlC0
書いてくれた方が俺は嬉しいっす。
この三つの話を終わらせた頃にでもやってほしいっす。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 11:51:42.24 ID:BfshROhDO
是非とも読みたいす
ニヤニヤしたいす
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/23(木) 19:33:26.65 ID:L1i28h1S0
一か月もかかるとか、なんという大長編・・・
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/23(木) 21:23:51.71 ID:nC4Y3Oe/o
おー、当初は構想になかったのですか。
是非ともあの鈍感の極みである上条さんを光子さんがどうやって陥落したのかが読みたいです。
我は求め訴えたり!
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 21:52:37.80 ID:lQBU+OFDO
妹達編が終わってから書いたらどうでしょうか?
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 23:06:53.80 ID:qdSa8srNP
色々一段落ついてからなら、佐天さんあたりにせがまれて馴れ初めを語らせられるとかそういう流れで書けそう
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/23(木) 23:25:03.76 ID:yfHa47tao
佐天さんが軽い気持ちで馴れ初め聞いたら婚后さんの一ヶ月にも及ぶ大オノロケ発動ですね。分かりますん
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/23(木) 23:37:12.49 ID:Yl3ARSCg0
乙です。
美琴と光子の関係、かなりしっかりとした所に落ち着いてくれて一安心です。
ここでうやむやにして後々で修羅場に発展すると、どう転んでも美琴がますます追い込まれることになりそうだからなぁ。
しっかり自分の中で決着をつけて、みっともないことにならないように意地も通して。格好いい失恋をできた美琴さんは立派だと思います。
しかし、御坂関連の問題は、まだまだ山積みなんだよなぁ。
401 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 00:09:00.68 ID:yQ67roNoo
まあ一ヶ月ってのはちょっと多めに見積もってますけども。
読みたいって人はやっぱいるよねえ。
光子の設定が色々出てて、作中でお盆になるより前に一度修正が必要なのは把握してたから、
妹達編が終わったら書こうかな。っていかん。プロット考え出すと書きたくなってきた。
あと、書く時は回想じゃなくて、やっぱりprologueに差し込みたい。
初めから読み直すと、光子さんが世間知らずの女の子だったのが、だんだん当麻とかの影響でいい子になって、
インデックスとの邂逅でお姉さんになって、みたいな感じに成長していくのが分かるようにしたいなと。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/24(金) 00:28:51.06 ID:kbmzMfXy0
上条流マイ・フェア・レディ、だと・・・詩菜さんが息子の将来を不安がる気持ちが分かるわー
403 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 00:31:50.12 ID:yQ67roNoo

「初春、何をしていますの?」
「なんだか、前を走ってるトラックの台数がおかしい気がして……」

木山の運転するスポーツカーで移送中の春上や枝先を尾行している最中、
助手席で端末を操り始めた初春に、白井がそう声を投げかけた。
病院を去るときに見たトラックは4台だった。
死角にいて見落としたかもしれないが、それならもっと多いことになる。
目の前を走るトラックは3台、数が合わない。
……もちろん全てのトラックが春上や枝先の輸送に絡んでいる保証はないので、
数が合わないことが即、異常というわけではない。
だが、例えば今追っているトラックは実は全く別の目的のトラックで、
自分達が勘違いしてる、なんて事があっては困る。
それで、下っ端警備員の権限でも閲覧できる監視カメラの映像を漁っているのだった。

「――我々がミスリードされている、と?」
「え? ああ、そういうんじゃなくてただ勘違いで、ってことです」
「そうか。君もそういう危惧を抱いたのかと思ったのだが、違ったか」
「え?」

木山が吐露した懸念に、佐天は首をかしげた。
トラックは百メートルほど先を車の流れに乗って走っている。
高速道路の上だから突然いなくなることはないし、そもそもあの巨体だ、隠れることは無理だろう。

「何かおかしなことでもあるんですか?」
「おかしなことではないかも知れないがね。目の前のあのトラック、相当の重量のものを積んでいるようだ」

軽い段差にタイヤが差し掛かるたび、積荷に衝撃が行かないようスプリングが揺れを緩衝する。
その揺れの周期が、どうにも重たげだった。トラックに詰めるだけ子供達を積んでも、あれほど重くはない。

「確かになんか、重そうですね」
「ああ。……そしてね、普通あの仕様のトラックに積むのが何か、君達は知っているか」
「えっと……」

考え込む佐天の隣で、風紀委員の白井はその答えがパワードスーツであることを知っていた。
それを告げようとしたところで、白井の携帯電話が音を立てた。
ディスプレイを確認すると、見慣れた同居人の名前。

「お姉さま?!」

慌てて白井はコールに答えた。
そして美琴の声からはかけ離れた、野太い声がしたことに戸惑った。

「よう、白井か」
「……誰ですの?」
「悪い、上条だ……って言って分かるか?」
「上条さん……ああ、婚后さんの彼氏、でしたわね」
404 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 00:35:33.63 ID:yQ67roNoo

さん付けでなどほとんど呼ばない相手をそう呼ばざるを得なかったことに僅かに顔をしかめながら、
白井はいったいどういう状況なのか、確認に努める。なぜ、婚后光子の彼氏がお姉さまと?

「わかってくれてよかった。ちょっと御坂のヤツに携帯借りてるんだ。聞きたいことがあってさ」
「あの、お姉さまは?」
「んっと、実は今ちょっとダウンしてる」
「ダウン?! 何がありましたの?」
「えっと、その御坂の件と俺の聞きたいことが関連してるんだけど……いいや、先に答えたほうが早いな。
 御坂のヤツ、それと後から俺と光子……婚后もだけど、あの病院の関係者に襲われた」
「えっ?!」

白井の驚きは二つあった。
いままで足繁く通った病院の関係者が、こちらに牙をむいたこと。
そして、それによって、学園都市最強の発電系能力者である美琴が、やられたこと。
その不穏な雰囲気を察したのだろう。後部座席、すぐ白井の隣にいる佐天はもちろん、
前にいる初春と木山の二人も聞き耳を立てた。
それを見て音量を上げつつ、白井は心を落ち着かせながら、情報の把握に努めた。

「そっちも病院に言ったって聞いた。大丈夫だったのか?」
「ええ。少なくとも、私達が病院に伺ったときには、暴力的なことはありませんでしたわ。
 ただ、春上さんやそのお友達の枝先さんという方たちが病院を移るから、
 面会をすることは出来ないと一方的に通告されましたの」
「そうか。御坂はそれを止めようとしてやられたらしい。
 んで、俺達はやられた御坂がどっかに連れて行かれかけたところに出くわしたんだ」
「そう、ですの。……まずはお礼を。上条さん、お姉さまを助けてくださってありがとうございます」
「……俺は礼を言われるほどのことは出来なかったけどな。それで、今はどうしてるんだ?」
「私達は今、MARのトラックを追跡しています」
「え? そっちもか」
「ということは、上条さんたちも?」
「ああ。かなり離れてるが、MARのトラックを一台かっぱらった」
「そうでしたの。あの、お姉さまに替わっていただけませんか?」
「そうだな、いきなり俺がかけて悪かった」
「いえ、緊急時ですから」

謝罪もそこそこに、上条は受話器を美琴に返してくれたらしかった。
荒事の真っ最中だが、当麻はちゃんと落ち着いていて、話し合えるいい相手だった。
携帯から耳を離さずにいると、程なくして美琴の声が聞こえた。

「……黒子」
「お姉さま! ご無事ですの?!」
「ああ、うん。アンタのキンキン声で耳が鳴ってる以外は平気」
「そんな言い方、つれないですわ」
「で、私に替わってって、何かあった?」
「いいえ。お姉さまのお声を聞いて、黒子の励みにしたかっただけですわ」

本心は違っていた。声を聞いて、美琴が大丈夫かを確認したかったのだった。
白井の『お姉さま』は普通に戦って傷つくような実力の人ではない。
だからそれが折られたとなれば相当な事態だと思えるし、安否はきちんと聞いておきたかった。
もちろん、ストレートに心配なんてしたら、この天邪鬼のお姉さまは大丈夫だって言い張るに決まっているのだ。

「……そ。ならもう補充したわね。またアイツに替わればいい?」
「ああ、待ってくださいお姉さま。出来ればもっと黒子を優しく励ましてくださいまし」
「ったく。世話の焼ける。ほら、頑張んないと夏休み後半の予定、アンタ以外の知り合いと遊ぶので埋めるわよ」
「え、ちょっとお姉さま、そんな酷い――」
「白井か? また替わった。それで、これからのことなんだけど」

美琴にもう少し言い募ろうとしたところで上条にまた替わってしまった。
当麻には聞こえないようにはあとため息をついて、もう一度その声に応える。

「なんですの?」
「行き先とか、そっちは把握してるかって――」
「白井さん! 御坂さんたちにも教えてください! 前のトラック、多分ダミーです!!」
「えっ?!」

当麻との会話を遮るように、助手席の初春が突然に叫んだ。
405 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 00:36:27.53 ID:yQ67roNoo
>>402
詩菜さん書きたいなー
406 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 01:42:56.31 ID:yQ67roNoo

「初春! どういうことですの?!」
「今、MARの病院近くの監視カメラの映像にアクセスしたんですけど、私達が前方のトラックを追ってから、
 後発のトラックが別方向に向かってるんです! それに前のトラック、私達が追いつくまでかなり低速運転してます。
 見た感じ、あっちが本命ですよ!」
「そちらのトラックの行き先は?!」
「えっと、高速に乗って初めの分岐で曲がってますから……」
「人も少ないし、病院も少ない学区のほうだな」
「そうですね」
「……木原幻生の、研究所がある。そちらには」
「え?!」

まさか、と初春は思った。
木山と枝先たちが巻き込まれた悪夢を取り仕切った研究者。
そんなところに、転院するはずの枝先たちが、行くはずがない。

「おい白井! 今木原って名前が聞こえたけど」
「え、ええ」
「それテレスティーナの親類か?」
「え!? どうしてですの?」
「あの人のフルネーム、パンフレットで見た。テレスティーナ・木原・ライフラインだ」
「そんな……」

ガンッ! と木山が力任せにハンドルを殴りつけた。
けたたましいクラクションが鳴って、何事かと周囲の車が不審げな挙動をとる。
その中、木山は周りの迷惑を一切意に介さず、乗客三人に光告げた。

「舌を噛まないように気をつけろ!」
「え?!」
「反対車線に出る!」

言うが早いか、木山が高速道路の真上で、駐車でもするときのように非常識な角度までハンドルを捻った。
タイヤがギャリリリリリリリとアスファルトに爪を立てた。。

「うわわわっ!」
「きゅ、急すぎますわ!」
「へ、えぇぇぇぇぇっっ?!?!」
「お、おい! 大丈夫か?」

上条が悲鳴に反応してこちらをうかがう。未だ続く横殴りの加速度に抗いつつ、白井は怒鳴り声を返す。

「今から木原の研究施設に向かいます! お姉さまの携帯……いえ、
 佐天さんの携帯から婚后さんの携帯に目的の場所を転送しますから!」
「わかった! ……ってそっちは青のスポーツカーか! コッチから無茶苦茶な車が見えた!」
「それですわ。こちらも一台きりのMARのトラックを確認しました。難しいでしょうが、
 上条さんたちも早く引き返してくださいませ!」
「ああ、わかった。とりあえず用件は済んだけど、しばらく繋いでるぞ」
「ええ。話があれば私がすぐに出ますから」

白井は当麻にそう告げて、車と車の間をすり抜けていく木山の横顔を見つめた。
大切な生徒の、無事を願う顔だった。
407 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 02:32:46.47 ID:yQ67roNoo

当麻は白井との話を一旦打ち切って、ステイルに声をかけた。

「ステイル、こっちのトラック、後発の癖に先発のダミーを追いかけてる!」
「そんなこと僕に言われても知るものか」
「責めてるんじゃねえよ。すぐに行き先変えてくれ!」
「チッ……どう指示すればいい」
「どうって」
「行き先の名前は? それも分からずあの運転席の男に命令するのは難しいぞ」
「行き先はこちらです!」

光子が佐天から送られてきた情報をステイルに渡す。
すぐさまステイルがトラック前部の男に話しかけ始めた。

「上条さん! 聞こえています?」
「なんだ白井」
「ダミーのトラックが!」

当麻はその言葉に反応して、ステイルの隣から前方を覗いた。
3台のMARのトラックが、強引に車を止めていた。
そしてハッチを開き、その重たい鋼鉄製の積荷を開帳した。
合計、九台のパワードスーツ。対テロ制圧用クラスの重装備で、
普通の学園都市の生徒など相手にもならないレベルだった。

「マジかよ……」

当麻はうめくように呟いた。トラックではこの込み合った高速でスピードも出ないが、
高機動パッケージを積んだパワードスーツなら白井たちのスポーツカーにも追いつけるかもしれない。
そして、鈍重なトラックしかない自分達など、到底逃げ切れないだろう。
当麻の後ろで、光子が美琴に歩み寄った。

「御坂さん」
「婚后さん?」
「御坂さんは、レベル5の、常盤台のエースでしたのね」
「へ?」
「私、つい最近まで存じ上げませんでしたの。ごめんなさい」
「それはいいけど……」

突然のその言葉に、美琴は戸惑った。
どこか、美琴を試すように、あるいは勇気付けるように、光子が挑戦的な笑みを美琴に向けた。

「ねえ御坂さん、このトラックから、対向車線を走るあの車に、取り付くことはできますの?」
「え?」
「一番の戦力が、こんなところで足止めなんていうのはおかしな事ですわ」
「……」
「あの邪魔な追っ手なら露払いを済ませて起きますから、御坂さんは白井さんたちと先に行って頂戴」
「婚后さん……」
408 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 02:34:34.63 ID:yQ67roNoo

美琴は改めて、自分に問う。
こんなことを、自分はしている場合だろうか。
ここで力を使って、テレスティーナを止めても、妹達を助けるのに何一つためにはならない。
だから、この事件は誰かに任せて、自分は自分のことをすべきだろうか。
美琴は自分を見つめる光子から視線を外して、光子の、彼氏の背中に目をやった。
赤髪長身の、ステイルといっただろうか。その人といがみ合いながら必死に打開策を練っている。
ふっと、それを見て美琴は笑った。
今、ここを離れても、自分は絶対に後悔するのだ。枝先や春上たちを放っては、やはりいけないのだ。
それが、御坂美琴という人間なのだと思う。後で後悔だってするかもしれないけれど、それでも、動くのだ。

「ありがと、婚后さん」
「お礼なんて要りませんわ」
「うん」

それだけ言葉を交わし、美琴は当麻のほうに近づいて、乱暴に押しのけた。
このトラックのハッチを開くボタンがそこにあったからだ。

「お、おい御坂、なんだよ」
「邪魔。……私、行くから」
「へ? 行くって?」
「ありがと、と、と、とう、ま」
「え、なんだって?」
「なんでもない! じゃ!」
「あ、おい!」

光子の顔は見なかった。小声で言ったから気づかれなかったかもしれないし。
もう、能力は本調子。
ちょうどおあつらえ向きに迫ってきた、見覚えのあるスポーツカーに向かって、美琴はダイブした。
相対速度は、時速100キロくらいあった。

「光子、御坂のヤツ」
「あれでいいんですわ。ステイルさん、車のターンはまだですの?」
「今、減速しているだろう。もう少し待つんだね」
「……ということは、運転手の方への指示は済みましのね」
「ああ。済んだけど」
「それは重畳」

クスリと笑って、光子はステイルの背中に優しく触れた。
気味悪げに、ステイルが光子の顔を見た。

「なんだい」
「みつこ?」

光子は当麻とインデックス、そしてエリスの顔を見渡した。

「当麻さん。可愛らしい女の子二人だからって、変な気はくれぐれも起こさないで」
「へ?」
409 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 02:37:04.82 ID:yQ67roNoo

当麻に、自分が浮かべられる飛び切りの笑顔にちょっとだけ嫉妬を混ぜて、気持ちを伝える。
そしてまだ疑問顔のステイルに、光子はため息をついてやった。
光子の能力で気絶さえしたことが有るというのに、触れられて無頓着とは、どういうことか。

「婚后。君は一体何を――」
「私達は口より手を動かすのが先ですわ」

そう言って、自分とステイルに蓄えていた気体を、光子は噴出させた。

「うわっ!」
「みつこ!? ステイル!」
「インデックス! こちらは私達に任せて!」
「君は一体何を! 僕がいなくなったらトラックの行き先は変更できないんだぞ!?」
「大丈夫! 私が何とかするから!」

超能力者エリスは、人の心を操ることが出来る。
魔術師としてのエリスを知る他の面子は、エリスが魔術でそれをするものと思い込んだ。
勘違いをエリスは正さない。

「光子……」
「当麻さん。適材適所、ですわ。私はここで、あちらの方々を制圧します」
「……無茶するなよ」
「あら、それは当麻さんこそ自分で自分にお言い聞かせになって」

トラックがギヤを入れ替え、アクセルを踏んだのが分かった。
名残を惜しむ場面でもない。しばし光子は当麻と見詰め合って、そしてすぐさま目の前の課題に集中した。
ステイルはさすがに荒事には慣れていた。やれやれという風にため息をついて、起動を完了させたパワードスーツを眺めた。

「ひどい無茶をやってくれたものだ」
「あら、そうは思いませんわ。超能力者の事情には関われないのでしょう?」
「もうとっくに巻き込まれているだろう」
「目の前のあれは、超能力とは全く関係のない、ただの最新鋭のブリキのおもちゃですわ」
「それにしては随分と攻撃的だ」

それに取り合わず、光子はステイルの腰に腕を回した。

「遠距離戦では周りに被害が出ます。とりあえず肉薄しますから、さっさと必要なビラ配りは済ませて頂戴」
「ビラとは失礼な。それと、準備は5秒で事足りるよ」

光子はステイルを引き連れ、敵地へと赴いた。
自分達がパワードスーツの連中を見逃せば、インデックスに危害が及ぶかもしれない。
インデックスを人質に取っていることになるのは不本意だが、
ステイルが本気で目の前の連中を足止めするだろうことには、光子は自身があった。

炎の魔術師と風の超能力者、それに対するは9機の学園都市製パワードスーツ。
気に食わない相棒だが、相性は悪くない。
光子はステイルを信頼して、今この瞬間は、背中を預けることに決めた。

「行きますわよ!」
「ああ!」
410 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/24(金) 02:38:32.68 ID:yQ67roNoo
話数的にこの辺で切ろうかな。
佐天さんがまだ動いてくれんかった。

あと、バトルは勢いで書かんと勢いが出ないので、ちょっと情報不足があるかも。
Arcadiaの段階ではきちっと修正します。ごめんよ。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/24(金) 07:02:38.18 ID:Yq55mI5AO
イノケンさんの中の人はよく働くなぁ
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/24(金) 07:41:18.16 ID:/Z79ZrNIO
このタッグ…かっけぇなぁ
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/24(金) 09:40:59.41 ID:KyStswpN0
マジかっけえ。ハイウェイの見せ場がどうなるのかと思ってたけどこう来たか。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/24(金) 10:20:14.82 ID:QfwN3eLco
光子がんばれー
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/24(金) 10:53:49.90 ID:5bYkxDyX0
またイノケンさんの活躍が見れるのか。しかもこの二人という異色のタッグ。
こりゃ見逃せんわい。
前にも言ったことあるかもしれないが、白井の上条さんへの対応が普通で、逆に違和感を感じてしまう。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/24(金) 11:29:51.60 ID:xYXMfgDRo
黒子は上条さんが光子と恋仲であることを知ってる上に、
その二人が浮気するような人間じゃないと考える程度には信用してるんじゃね?

逆に美琴が二人の関係を知らなかったことを知らなくて、
まさか憧れのおねえさまが横恋慕なんてすることもあるまい、と。

そういう前提なら黒子にとって上条さんは只の高校生でしかないわけで、
良い意味でも悪い意味でも特になんとも思ってなさそうだ。
まあ光子の恋人っていう意味でいろいろ呆れるところとかはあるのかもしれんが。
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/24(金) 18:03:57.84 ID:xE5OKHOZo
上条さん、光子がいない間に女の子の集団に放りこまれるのか・・・
フラグ乱立しちまうぞwwwwwwww
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/24(金) 18:39:25.22 ID:ZMIOZXLPo
>>417
本気で言ってるなら病院へゴー
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/06/25(土) 00:50:09.04 ID:4MguiaFAO
たとえフラグが立っても光子さんが根こそぎへし折るから問題無いさ
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/25(土) 04:30:19.86 ID:KuzSN5Dao
上条体質ならフラグ建築もあるだろう。
だけんども、相手がいると知っていると心構えが違うのではなかろうか。
光子さんや禁書がばっさばっさとへし折るだろうし。
黒子が光子さんと和解(?)するきっかけになるかもしらんしね。

しかしかつて矛を交えた二人がタッグを組むとか熱い展開やね
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/25(土) 06:56:00.88 ID:1lHWy2xAO
おお暴れするイノケンさんと
ステイルミサイルとマグヌスボンバーで奮闘するこんごーさんか。

ハイウェイが熱くなるな
422 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/25(土) 12:26:59.46 ID:yJN/4XUmo
ハイウェイの見せ場を考えてるうちに、このタッグは自然と決まったな。
ベタベタの王道ネタだけど、こういうの好きです。

>>415
まあ、>>416の言うような感じで、俺はこういう普通な対応だと思うのよー

>>419
光子さんがそれ本気でやりだしたら結構怖いよね。自分でそういう描写しといてなんだけど。

>>421
もうやめて! ステイルのHPはとっくにゼロよ!
423 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/25(土) 12:28:07.48 ID:yJN/4XUmo

木山がスポーツカーのアクセルを踏み、美琴たちの乗ったトラックとすれ違おうとしたその時だった。
白井は窓の外に、とんでもない無茶をやる美琴の姿を見た。

「お姉さま?!」
「えっ?」

戸惑う佐天と初春をよそに、白井は窓を開け、身を乗り出す。

「ちょっと、み、御坂さん?!」

呼吸が苦しいのか顔をしかめた美琴が、加速中のスポーツカーに追随していた。
もちろん足で走ってのことなどではない。
糸で繋いだタコのように、スポーツカーの斜め上に浮いているのだ。
糸の正体は、美琴の生み出した磁力だった。

「くっ、お姉さま! 無茶にも程があります!」

白井は窓を前回にして、ほぼ半身を乗り出す。
佐天は驚いて、白井の下半身に抱きついて支えた。

「手を! お姉さま!」

無言、というか返事する余裕のない美琴に手を伸ばす。
レベル5の面目躍如というか、力任せすぎる出力でスポーツカーとの距離を詰め、
そして白井の伸ばした手に自らの手を重ねようとする。
だが美琴の体を時速数十キロの突風が乱流で上下左右に振るせいで、なかなか繋ぐことが出来ない。

「ああもう!」

相対速度がこれだけ近ければ問題ない。白井はそう判断して、シュン、と車内から姿を消した。
そして美琴の隣に現れ、首根っこにしがみついた。

「お姉さまっ」
「黒子?!」
「戻りますわ!」

高速で走る車からのテレポート、そして空気抵抗で減速する前に帰還。
それを一瞬で済ませ、黒子と美琴は後部座席に返り咲いた。

「いたっ!」
「ちょ、ちょっと白井さん。危ないですよ!」
「何を仰いますの佐天さん。レベル4の空間転移能力者として、この程度は当然可能なことですわ」

フッと白井はそう不敵に笑って、そして美琴へのスキンシップを再開した。

「もう! お姉さまったら昨日の夜からどちらにお出かけしていましたの?
 黒子はそれはそれは心配しましたのよ」
「……ごめんね、黒子」
「え? あ、はい。分かっていただければ……」
424 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/25(土) 12:30:06.80 ID:yJN/4XUmo

素直な美琴の態度に、白井は面食らってしまった。

「あの、それで何をしてらっっしゃいましたの?」
「ちょっと、ね。この件の調べ物をしに木原幻生の研究所に忍び込んだんだけど、空振りでさ」

美琴はそれ以上を語るつもりは無かった。
そしてポケットの軽さに気づいて、美琴は携帯を忘れてきたことに気がついた。

「携帯はあっちに置いてきちゃったか」
「ああ、そういえば上条さんにお渡ししたままですわね。お姉さまの携帯とまだ、繋がってますけれど」
「じゃそのままでいいわ。あのバカに、後で延滞料金つきで返しに持ってきなさいって言っといて」
「はあ。……あのバカ、さんにですのね?」
「え?」

白井は美琴の不用意な一言で理解した。美琴の言う「あのバカ」が一体誰なのかを。
言われてみれば、なるほどという気はしないでもない。
レベル0の癖にこんな厄介ごとに首を突っ込んで、無茶をやっているなんて、確かにバカそのものだろう。
そういう意味では、光子よりも美琴のほうが、相手として納得が行くかもしれない。あの上条当麻の連れ合いとしては。
だって、いつだって自分の大切なこのお姉さまは、見過ごせないものを見過ごさない、カッコいい人なのだ。

「なんでもありませんわ。後で上条さんにお伝えしておきます。それで初春、この車なら追いつけますの?」
「追いつくのは無理です。距離が離れすぎてますから。でも、行き先は分かりますから問題はそこじゃありません」

前方の景色と手元の端末の映像とに忙しく視線を往復させながら、初春はそう返事する。
問題は、追いつけないだとかそういうことではなかった。

「木山先生、春上さんたちを乗せるのにトラックって何台必要ですか」
「二台もあれば事足りる」
「……白井さん。追いかけてるトラックは、四台です。ちなみにさっきのトラックには、
 一台あたり三機のパワードスーツが積まれてました」
「つまり、六機にいずれ襲撃される、と初春は言いたいんですのね」
「はい」

しばしの沈黙が、車内にエンジン音を響かせる。
美琴がその懸念を、ハン、と鼻で笑った。

「上等。邪魔するなら、退場してもらうだけね」
「ですわね。で、あちらとの接触はどこになりそうですの?」
「あっちがどう動くかによります。すぐにじゃないと思いますけど、正確なことはわかりません」
「じゃあ皆でしっかり周りに注意してろってことだよね」
「はい。木山先生は運転に集中してください」
「ああ、分かっている」

美琴が割り込んで白井と絡まっていたのを強引にはがし、窓側に座る。
白井は何かがあっても自力で逃げられるし、こちらから手を出す際にも窓際にいる必要がない。
美琴は反対の窓側にいる佐天を見つめた。

「御坂さん?」
「何度かチラッと見ただけだけど。佐天さん、もう充分に戦力になるよね」
「えっ?」

そう言われるのが嬉しくて、佐天は思わず胸を高鳴らせた。
レベルなんて勿論関係なくお付き合いしているが、美琴は、誰もが憧れるレベル5の人だから。
425 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/25(土) 12:32:04.06 ID:yJN/4XUmo

「無理はしなくていい、ってか出来ないだろうけど。ノーマークの能力者がいるって、それだけで脅威だから」

美琴も、そして風紀委員の白井もある意味有名人だ。その二人についてはあちらも警戒しているだろう。
そこに、空力使いが紛れ込むことは、決してマイナスではない。
断片的に見た佐天の能力者としてのセンス、そして光子から伝え聞くそのポテンシャルの高さ。
レベル3相当なら、少なくともかく乱には充分使える。

「私、頑張ります!」

佐天がそう宣言した直後だった。
初春と木山が見つめる前方、高速道路が別の路線へ分岐するポイントで。

「バリケード!?」
「MARのマークが入っている! 封鎖でこちらの足止めか!」
「御坂さん! あれ壊せますか?」

初春が振り返って美琴に訪ねる。

「止まらないと無理。レールガンじゃ、あれは壊せない」
「時間が、惜しいのに……」

目前、あと200メートルに迫るバリケードは、赤い三角コーナーとプラスチックの棒で出来たような粗末なものではない。
鋼鉄製の骨子が格子状に組まれ、トラックでも止められそうな頑丈なヤツだった。
恐らくは鉄製だから美琴の磁力は通じるから、至近距離に近づけばどうとでもなる。
だが、ポケットの中のコインくらいでどうこうできる質量ではなかった。
悪態をついて、木山がブレーキに足を伸ばした。
それを。

「待って!」

佐天が止めた。
バリケードの張られたジャンクションまで、もう100メートル。

「あれ越えよう!」
「佐天さん?! 私と黒子じゃ無理!」

白井のテレポートはこの車を動かすだけの力はない。
だから美琴たち二人には無理なことだった。
ただ、佐天の言葉は他力を願う響きではなかった。

「大丈夫です! 私が飛ばします!」
「佐天さん?!」

初春が驚いた目で佐天を見つめる。

「木山先生! スピード上げて! 時速150以上!」
「……分かった。君を信じる」

時間を惜しんで、木山は自分の納得を脇に放り投げた。
佐天がさっきの白井みたいに、初春のいる助手席に割り込んで、そして窓を開けて半身を乗り出す。
426 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/25(土) 12:34:33.21 ID:yJN/4XUmo

「初春、支えててね! お尻触ってもいいから」
「さ、佐天さん! こんな時に何言ってるんですか!!」
「こんな時だからだよっ! ――――いくよっ!!」

佐天は、突き出した左手に、ありったけの空気を集めた。
この車が、スポーツカーでよかった。
鈍重なトラックや風の流れに無頓着なファミリーカーなら、こんなマネは出来なかった。
美琴は車内から佐天の能力を見つめる。空力使いではない自分に佐天のしていることは目に見えない。
だが、その威力の大きさはすぐ実感することになった。

「なっ?!」

バリケードの直前で、木山は慌ててハンドルにカウンターを当てた。
佐天のいる助手席側に、車が急に曲がっていったからだ。原理は野球の球が曲がるのと同じ。
問題は、佐天の手のひらの、たった数センチの渦が車を動かすだけの出力を誇っていることだった。

「先生! 絶対ブレーキ踏まないで!」
「失敗すれば死ぬのは君だぞ!」

バリケードは格子状だからしなやかだ。恐らく、車内の四人はぶつかっても生き残れる。
半身を乗り出した佐天はどう足掻いても無理だった。
だが、そんな状況に、佐天は一向に不安を抱いていなかった。
だって、コレは、自分ならできることだから。賭けだとか、そんなんじゃない。
渦流の紡ぎ手たる自分が、こんなことを出来るのは、ごく当たり前のことだ。

「佐天さん……!」

バリケードが迫る。もう、ブレーキを踏んだって衝突を回避は出来ない。
初春が祈るように佐天の名前を呟く。

「はああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

佐天が車のボンネットに、いや、その少し先に向かって、何かを投げつける仕草をした。
――直後。
ブワッという鈍い音がして、木山のスポーツカーの鼻先が、バリケードの少し上まで持ち上がった。

「きゃっ!」
「佐天さん! 車! 落ちちゃう!」

幅跳びをする選手のように、スポーツカーは絶妙な高さでバリケードを越えた。
そして車内で誰かが悲鳴を上げたとおり、高さ1メートル50センチまで持ち上がれば、上がった分だけ落ちるのだ。
佐天はすでに次の渦を、手元に用意している。数は、四つ。
こっちのほうが、むしろ佐天は不安だった。
――――渦の同時生成はもうできる。けど、問題はその四つを独立に制御すること!
乱暴に持ち上げ、そして突風にさらされたスポーツカーは、タイヤを綺麗に地面にむけていない。
真っ直ぐ落ちれば佐天の後ろの助手席側後輪が一番に落ちて衝撃を受けることになる。
こうした問題を調整するには、それぞれのタイヤの下にクッションとして置く渦を、独立に操らないといけない。
佐天は目を凝らしタイヤと地面の位置を測る。
そして五感で検知できない風の流れを読み取って、いつ、どんな出力で渦を解放すべきか、決定する。
その演算能力は、実用レベルとされる水域に、充分に達していた。

「ふっ!」

まずは左後輪。そこに置いた渦を、佐天は歯を食いしばって維持する。
トンのオーダーに迫る重量の車重に耐えるのは、酷くコントロールを要求されることだった。
そして、その間に残ったタイヤの下に三つの渦を配る。
真っ先に落ちてきた左後輪の対角にある右前輪の渦だけ出力を落とす。
これなら、細工は流麗、なんて言ってもいいだろう。

「後は仕上げをご覧あれってね!」

威力を丁寧に振り分けた渦が四つ、同時に破裂した。
スポーツカーは車体の傾きを直しながら、四つのタイヤで見事に接地を果たす。

「わっ! これ、大丈夫!?」
「オフロードはもっと酷いよ。大丈夫だった。やるじゃないか」
「へへ。私、役に立てましたよね」
「やりますわね、佐天さん」

車内に戻ってバサバサになった髪を直す佐天を軽く横目に初春は見つめる。
ちょっと置いていかれて悔しい感じは擦るけれど、眩しい笑顔が、格好よかった。
そして再び、ディスプレイに目を落とす。
自分の戦う場所は、ここだ。まだすべきことが終わったわけじゃない。
遭遇するかもしれないパワードスーツの部隊との接触に備え、情報を集めることが必要だった。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/25(土) 12:45:53.61 ID:W8PKfYqX0
マッハ号かwww
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/25(土) 12:48:06.50 ID:BeN+EF0I0
佐天さんのお尻を支える役目は任せろ―(バキバキ
でもこれでレベル3とか高レベル能力者の凄さが半端ない。

原作は魔術サイドのトンデモが多いですしね
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/25(土) 13:00:48.16 ID:E7CWrU6Zo
スーパー佐天さんタイムが格好良すぎて師匠である光子さんより凄そうに見えるから困るww
成長していく過程とかも読んでる分描写の濃さが光子さんより多いせいかなぁ
ステイルと光子の共闘にも期待してます!
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/25(土) 13:08:28.67 ID:4d/4+97a0
乙かれ。
皆それぞれできることがあるっていうのはいいことだな。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/25(土) 15:18:43.45 ID:1lHWy2xAO
おい初春そこ代われ
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 15:42:07.15 ID:CMURiMjF0
佐天さん「お尻触ってもいいから」
サワ ヾ(//▽//)ノ゛ サワ

お疲れ様です
盛り上がってきましたねー!
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/06/25(土) 15:44:41.31 ID:tZNvrkSJo

なんのかんのいっても黒子は気の利く良い子だねえ
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/06/26(日) 06:15:45.47 ID:8MJ+FbaYo
茶店さんより黒子のすごさがやばい
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/26(日) 11:02:40.94 ID:8gYGFlsFo
お尻触ってもいいからアッー!

…ふぅ
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/26(日) 11:11:44.42 ID:LIHNWpSjo
まあ、初春はサービスマンレベルに露出してるからな
437 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/28(火) 02:39:03.64 ID:rzbHFZ1No
みんな佐天さんのお尻が好きなんかw

次ちょっと戦闘シーンで難産だ。。。
ちゃんとキリの良いとこまで書かないと展開の全修正がありえるからなあ。バトルは。
明日には書きあがるかなー
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/28(火) 03:01:01.44 ID:MHvF4lFio
ああ、お尻は大好きであるが何か問題あるのであるか?
待ってる
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/28(火) 07:13:04.54 ID:HH5bVQ4AO
お尻が嫌いな人なんていません!
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/28(火) 12:14:26.82 ID:qttiOGmC0
佐天さんの心も顔も胸もお尻も全部好きですがなにか?
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/06/28(火) 17:45:09.19 ID:u2JeP1Jc0
佐天さんのお尻とか超好物です
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/28(火) 23:13:24.06 ID:4fv6JWpvo
よく考えたら小学生に毛が生えたような尻だな佐天さん
まだ中一になって半年だし
443 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:23:34.17 ID:5HY5pH0go

ステイルと光子が九機のパワードスーツの元へとたどり着くのと、
あちらがスタンバイを済ませたのはほぼ同時だった。

「早く準備をなさって」
「人使いの荒いことだ。分かっているよ」

ステイルは文句を言うより先に、すでに手を動かしていた。ルーンを刻んだカードが、
意志を持ったように周囲の壁という壁に張り付いていく。
パワードスーツの一団は、六機が高機動パッケージを装備し、残り三機がこちらの相手をする腹積もりらしい。
もちろん光子は、一機たりとて逃がすつもりはない。

「いつでもどうぞ」
「ご苦労様ですわ」

光子はステイルを労うと、まるで無警戒に、パワードスーツに近づいた。
ここからさっさと立ち去り、当麻や美琴たちに迫ろうとしているほうの一機だった。
そのパワードスーツは光子の行動の意図を読めなかったのだろう、警告すべきか、無視すべきか、
戸惑いをその動きに反映させた。
その機体の太もも辺りをコンコンと叩いて、光子は中の人間に声をかけた。

「常盤台中学二年、婚后光子と申します。春上衿衣さんを誘拐した件についてお伺いしたいのですけれど?」

慇懃に、光子は笑いかけてやる。
当麻の目の前ではこんな底意地の悪い顔をしたことはないが、今は別だ。
返答が、スピーカー越しの声で帰ってきた。

「誘拐とは何のことだ? 我々は彼女を看ている救助隊の者だが」
「その救助隊が一体どうして高速道路の往来でそんな物騒なものをお出しになっているの?」
「言わなくてもそちらが知っているだろう。すまないが、話をする暇はない」
「そう。強引に突破するというなら、お友達の皆さんを守るために、私達はあなた方を制圧します。正義がどちらにあるか、ちゃんと理解なさっていますわね?」
「ああ。若さゆえの過ちというのは誰にでもある。幸い君の歳ならまだ前科もつかないだろう。後で社会の常識をきちんと学ぶといい」

ステイルは先ほどから、このやり取りに興味がないのかそっぽを向いてタバコを吸っている。
それが決して油断を意味しないことを、光子は分かっていた。流れてきたタバコの臭いが鬱陶しくて、軽く扇子で払った。
……良くない傾向だ、と思う。ステイルといると、なんだか悪役<ヒール>めいた笑顔を浮かべたくなってくるのだった。
あくまで楚々と、自分らしい仕草や身のこなしで悠然と振舞いながら、光子は瞳の中にだけ侮蔑を込めて呟く。

「暴走能力者を利用して体晶の投与実験を行おうとするあなた方が、常識を語りますの? 本当、社会になじめないクズほど、臆面もなく開き直りますのね」

クズ、という表現を光子は生まれてはじめて使った。
自分の中の攻撃的な側面が、それでカチンとスイッチが入ったように動き始めたのが分かる。
つい一ヶ月前までは純粋培養のお嬢様で荒事なんてまったく経験が無かった。
当麻と二人でインデックスを助けるために危険に身をさらし、そして今、戦うためのメンタリティというものを光子は身につけつつあった。
暴力を振るうことは良くない、という金科玉条を抱いてきたこれまでの光子には考えられない変化だった。

「……君は物知りだね。さて、我々は患者の安全を守るため、君達を排除する。抵抗しなければこちらも酷いことはしないよ」
「それなりに面白い冗談だ。君の同僚が僕らの前で、秘密を知った人間は元の世界には帰さないって言った後だから尚更ね」

ステイルがフィルター前まで吸いきったタバコを地面に捨てた。
それが、合図になった。
444 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:24:23.22 ID:5HY5pH0go

ギュアッ、とアクチュエーターの音を鳴らしながら、パワードスーツが光子に腕を伸ばした。
今光子と話をしていたのとは別の、ここで光子たちの相手をする気の一台だった。

「ステイルさん!」

その相手を、光子はしない。
一言ステイルの名を叫ぶと、光子の変わりに魔女狩りの王<イノケンティウス>がパワードスーツと力比べをする格好になった。

「なっ!? クソ、発火能力者<パイロキネシスト>か」
「さあ、それはどうだろうね」

ステイルがそう嘯く。その隣で高機動パッケージを積んだほうのチームが動き出した。

「かなり遅れをとっているんだ。追いつけるうちにさっさと行くぞ」
「させませんわ!」
「退け。怪我をしたくないならな」
「別にあなた方の進路に身をさらしたりなんてしませんわよ?」

声色に笑ったような響きを込め、光子はトントンと靴のつま先で地面を叩き、ローファの履き心地を確かめた。
そして最後にもう一度、ステイルと視線を交わした。

「ステイルさん、では、はじめましょうか」
「手短にやろう」

そんな短い一言を交わして、光子は扇子をぱたんと閉じた。
そして先ほど迂闊にも光子に接触を許したパワードスーツに仕込んだ、風の噴出点を開放する。

――――ゴウァッッッ!!!

「うわっ! な、なんだ?! お、おおおおぉぉぉ!!」

高機動パッケージを積んだ六機の先頭にいたパワードスーツが、突然自分の太ももから噴出した突風に、体の制御を失った。
尻餅をつくようになすすべなく後ろにこけて、同僚を巻き込む。
その隣で魔女狩りの王と取っ組み合いをしていた一機が装甲を溶かす熱量に怯えながら毒づいた。

「クソッ、いい加減に離れろ!」
「わかった。離れよう」

ステイルが新しいタバコを胸元から取り出しながら、応用に応じた。
突如として、魔女狩りの王はそのパワードスーツの前から消え去る。

「何?!」

驚いた声を出しながらも、目の前の恐怖が去ったことに、一瞬パワードスーツの仲の男は安堵を覚えた。
だがその油断が、まさに余計。
魔女狩りの王が突如として男の後ろに現れ、機体に抱きついた。
計器がエラーをがなりたて、男は一瞬にして混乱の渦に落ちていく。
445 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:25:19.11 ID:5HY5pH0go

「ヒッ?! ああっ?! 嫌だ! 火が、火が! 誰か離してくれ! 背中に火が!」
「脱出用の仕組みがあるんだろう? 別に君が死んでも僕は……ああ、今回は死なないでいてくれたほうがありがたいのか。
 おい、頑張って助かりなよ」

いかなる存在であっても、学園都市の人間を殺すのは魔術師ステイルにとっては剣呑だ。
インデックスを傷つけると明言した相手だから、超能力者でないこの男達はどのように扱っても揉み消すのも無理ではないが、
要らぬ貸しを作るのは面倒だった。

「クソ、おそらく連中はレベル4だ! アレを起動しろ!」
「ステイルさん!」
「分かっているよ」

連中がキャパシティダウンを起動させようとしているのは、すぐに分かった。
ステイルとて9対1は御免こうむりたいので、光子の指示に従う。
キャパシティダウンは見た目はただの大型スピーカーだ。
ハッチを開きっぱなしなので、それを積んでいるトラックは一目瞭然だった。
魔女狩りの王は、ルーンで決めた領域の中なら顕現する場所を好きに決められる。
パワードスーツ部隊の誰かがキャパシティダウンを鳴らすより先に、
ステイルは魔女狩りの王をそのスピーカーに触れさせた。

「!? 起動しません!」

隊員の一人が叫ぶ。取り乱した隊員とは別の隊員が、ステイルに銃口を向けて檄を飛ばす。

「あの赤髪が無防備だ!」
「させませんわよ」

光子はパワードスーツの連中の注意が自分から逸れたのを利用して、トンと地面を蹴って飛躍した。
目の高さより上にあるものを人は中々認識しないものだ。
そんな高さを滑空し、光子はタンタンと二機の頭部を足で踏みつける。
優雅なステップだったが、その足取りはスケートリンクの上の踊り子よりずっと速い。

「馬鹿が! あのメスガキに触られるな!」
「えっ?!」

光子の能力発動のトリガーが接触であることに、隊員の一人が気づいた。
だが察しの鈍かった二人はコレでリタイアだった。
バシュゥゥゥゥッッッッ!!
銃もその他装備も満足にあったのに、二機はそれを活用することなく、メチャクチャな縦回転をしながら吹き飛ぶ。

「えええああああっっ?!」
「なんだ?! おい、うわあああああ!!」

特にカーブもない、ストレートな高速道路だから壁の高さも強度も無かった。
二期はぐしゃんと透明のプラスチック壁に衝突し、それを壊しながら下に落下した。
学園都市の安全機構なら、アレでも死なない位のことはやってのけるだろう。
戦闘機動は取れなくなるだろうことにも、光子は確信があった。

――――あと、五機。

後ろを振り返ると、一般人が車を乗り捨て、走って逃げていた。
無理もない。20メートル先でこんな大立ち回りを去れれば誰だって身の危険を感じる。

「余所見をするな!」

ステイルのその叫びで光子はハッとなる。
目の前には、ようやく反撃の体制を整えたパワードスーツが、こちらに銃口を向けていた。
ステイルがいつの間にか光子の隣を駆けていた。
目指す先は誰かの乗り捨てた大型のワゴン。
446 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:27:27.23 ID:5HY5pH0go

「バリケードを!」
「分かりました!」

魔女狩りの王が仕事を追えてステイルや光子とパワードスーツの間に顕現する。
狙いを定めるのが速かった敵との射線をそれで塞ぎ、えられた一瞬で光子はワゴンの扉に触れて横に倒した。
そして防壁の役目が済んですぐさま、魔女狩りの王を敵に襲い掛からせる。
銃は振り回すわけにいかない武器なので、魔女狩りの王に狙わせやすい。
ひと握りで銃を無力化し、戸惑う一機を後ろから再び抱擁する。
コレで四機。足の速いのはこのうち三機だった。

「おい! 逃げられるぞ」
「大丈夫。人を積んだ装置が出せる加速度なんて高が知れていますもの」

射線とワゴンの間から、身を低くしつつ光子は人のいなくなった乗用車の間に走りこんだ。
そこは、光子にとっての弾頭置き場みたいなものだ。
お決まりのデザインの軽トラックに、黒いセダン、赤のワンボックスカー。
何処にでもある普通の車にトントントン、と手のひらを押し当てていく。
エンジンが掛かっているかどうかなんて関係ない。ついでに言えば重さもほとんど関係ない。
光子が集積した気体がゴウッと噴出し、車は本来の前方などお構いなしに、
適当な方向と角度を向いてパワードスーツに飛び掛った。

「え? ……うわぁ!!」

3Dグラスをかけて見た映画みたいに、パワードスーツを着た隊員たちの目の前に乗用車が文字通り飛んでくる。
高機動パッケージの加速より、それは速かった。当然だ。
光子の能力によって実現できる最大速度は分子の平均速度そのもの、音速の1.3倍程度なのだ。
パワードスーツといえども受け止められないだけの運動量を持った鉄塊が、隊員たちの背中に衝突する。
三機のうち二機が乗用車に跳ねられ、下敷きになった。
残り一台も、光子が進路を車で障害物だらけにしたせいで立ち往生した。

「あっけないものですわね。この程度ですの?」
「そういうのは勝ってからにするんだね……上だ!」
「えっ?!」

気がつくと、静かにパリパリパリと空気をはためかせる音がしていた。水平なプロペラを回転させて飛ぶ機体、軍用ヘリだった。
光子はその音に気づかななかった。ヘリが、こんなに静かにこちらに肉薄するとは思っていなかったのだ。

「まずい! 早くアレを打ち落とすんだ!」
「ええ!」

光子は手ごろな弾を探して動こうとし、突然ステイルに腕をつかまれた。
動こうとした先が、蜂の巣にされた。
高機動パッケージを搭載した最後の一機と、本来光子たちを足止めするはずだった最後の一機、
その二機のパワードスーツの援護射撃だった。
ヘリとあわせて三方向から銃を向けられるのは不利だ。今いる、往来のど真ん中はまずい。
447 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:29:04.88 ID:5HY5pH0go

「あちらに!」

光子がステイルの腕を掴んで走り出した。
無策に見えるその背中に一瞬ステイルは怯んだが、感じた恐怖をかみ殺して光子の後を追う。
向きを整えたヘリがこちらに照準を合わせた。地上の二機もそれに習う。

ザリザリリリリリリリッッッッ
ガガガガガガガガガガガガッッッッ

断続的な発砲音がステイルの後ろで鳴り響いた。緊張に背中がこわばる。
だが、同時に聞こえた鋼鉄とアスファルトの奏でる不愉快な擦過音のせいか、ステイルに直撃は無かった。
後ろを振り向く。

「うわっ!」
「何を驚いていますの! これは私が制御しています!」

横倒しになったMARのトラックが、ステイルのすぐ後ろを追っていた。
逃げる先に弾除けがないから、弾除けを併走させればいい。
数トンの質量を平気で操る人間の、まさに暴力的な発想だった。
ドン、とステイルと光子は高速道路の壁にぶつかって体を止めた。
追随したトラックがちょうど、二人の目の前で止まる。隙間は2メートルなかった。

「このトラック以外の弾は取りにいけませんわね……」
「これを空に飛ばせるかい?」
「可能です。でも、重力に逆らう方向には動きが遅いですから、避けられますわね」
「つまり君に対空兵器はないと」
「ええ。……ヘリが、問題ですわね」

ヘリが二人の真上を取るために動き始めている。
もう数秒しか安息の時間はない。

「ヘリは僕が引き受ける」
「えっ?! ……わかりました。では私が地上を」

光子は引き寄せたトラックにもう一度触れた。気体が集積していく。ただ飛ばすだけだから、能力に衰えはない。
これを飛ばせば、一機は無力化できる。だが共倒れを危惧して離れている二機を、同時に落とすことは出来ない。
こちらに銃を構え今か今かと待ち構えるもう一機を、光子は生身で倒すしかなかった。

「合図で動こう。スリー、トゥ」
「ワン、ふっ!」

最後のワンカウントを光子に奪われ、ステイルはフンと笑った。
辺りに撒かずに手元に残したカードを三枚、くしゃりと右手で潰す。

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ
 それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり
 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」
448 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:30:54.94 ID:5HY5pH0go

自分に、あるいは世界に言い聞かせるように、ステイルは決まりの言葉を口にする。
違うのは、ここから。

「その名は炎、その役は鉄槌
 限りなき願いをもって、災厄の緒元をなぎ払わん

魔女狩りの王は、ステイルが決めた世界でしか動くことが出来ない。
だから例えば、空を飛びまわる相手を落とすことは出来なかった。
かつて煮え湯を飲ませてくれた敵は不思議と今自分の隣にいるのだが、
ステイルは足りないものを足りぬままに放置することは、しなかった。

――――魔女狩りの王にして淫蕩と私欲の教皇、インノケンティウス八世。
その生涯に残した、ヨーロッパ全土に激しく広がる魔女狩りの、短所となった回勅。
ステイルがその名を冠した、それは。

「『魔女に与える鉄槌<マレウス・マレフィカールム>』!!」

ステイルの傍に侍っていた魔女狩りの王<イノケンティウス>がその形を溶かし消え去る。
それと同時に、重質の真っ黒い油が棒のように延び、ハンマーを形作った。

「はあああぁぁぁぁぁ!」

ステイルはヘリを見据え、『鉄槌』を真上へなぎ払った。。
魔女狩りの王と同質の素材からなるその槌は、柄を湾曲させながらしなやかに伸び、ヘリに襲い掛かった。
ヘリが照準を合わせ、引き金を引くのより僅かに速く、それはヘリの窓ガラスに届いた。

「火あぶりでどうこうなるかよ! ハッ!」

ステイルに聞こえない声で、ヘリの中の隊員が笑う。
高速回転するプロペラが健在だし、いかな高温の炎といえど、この一瞬の接触で学園都市の兵器が壊れるわけがない。
……そう思っていた。

「な、なんだ?!」
「魔女狩りを象徴するこの炎が、そんな淡白なわけないだろう? もっと粘着質だよ」

サッと消え去る炎かと思いきや、そんなことはない。
ジクジクとその炎は勢いを保っていた。気がつくと、皮膚が熱い。
ガラス越しにこれほどの輻射熱を伝える温度は、無警戒で済ませられるものではない。

「ヤベェ! お、おいこれ消せないのか?! 消化装備とかないのかよ?!」

並ぶボタンを一つ一つ目で追いながら、隊員は必死に打開策を探す。
救急隊でありながら、火災現場になど行った事もないし、そんなことを考えたこともなかった。
だから、あるはずの装備を探せない。
戸惑う隊員を下から眺めて、ステイルは『魔女に与える鉄槌』を肩に構えなおした。
タバコをその火で付けようとして、あっという間に先が炭化してしまって渋い顔をした。

「もう一発、いくかい?」

ステイルが『鉄槌』を振り上げるのと、ヘリの乗組員がヘリを脱出するのは同時だった。
449 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:32:25.43 ID:5HY5pH0go




ステイルの動きの裏で。
光子は飛ばしたトラックでパワードスーツを一機落とすのと同時に、もう一機に迫っていた。
射線をステイルから外すために、一旦折れ曲がった経路を光子は走った。

「く、寄るな! 死ね!」

救助隊員にあるまじきことを口走りながら、男は光子に照準を合わせようとする。
この時点で、光子は一つ賭けに勝っていた。
もしステイルを狙ったなら、それを阻害するためにコインで相手の銃を狙わなければならなかった。
打ってからも照準の微調整が出来るのが光子の能力だが、細かい演算が必要で、自分のほうが足を止めてしまう。
その心配無しに走れるのは、とりあえずは僥倖だった。
だが賭けに勝ったから安全というわけではない。むしろ、自身の身をさらすという意味ではこちらのほうが危ない。
光子は自分に真っ直ぐ銃口が向いたところで、能力を限界まで使ってブーストをかけた。
目標は、相手の少し上。肩口にでも手が触れられれば良かった。

――――ガガガガガッッッ!

パワードスーツが引き金を引いた。
当麻が見ていたらきっと卒倒くらいはするだろう。
ほとんど水平になった光子の体の下、1メートルくらいのところを銃弾が交錯した。

「はああぁぁぁぁっ!」

――タンッ!
光子の反撃は、始まりはいつも静かだ。能力の性質上、かならずチャージを必要とするのがその理由。
銃を持つ右腕の付け根、肩当ての部分に光子は手を触れさせて、そのままパワードスーツの後ろへと飛び去る。
光子の体にはもうチャージがない。だから自分の足で走って逃げるほかない。
そして自分の体も、相手の体も、吹き飛ばすにはあと3秒はチャージが必要だった。
その間を、光子を取り逃がして焦るパワードスーツは逃さない。

「逃げるな! 死にな!」

男が振り向いて、光子に照準を合わせに掛かった。あと2秒のチャージタイムは、余裕で光子を殺すだろう。
男も光子にチャージが必要なのを理解しているらしかった。動きの端々に、勝者の余裕、いや油断を見て取った。
光子は不敵に笑った。
腰と肩の関節をぐるりとやって、銃口が光子の方にあと少しで向くという、その瞬間。

――――バギン!
パワードスーツの間接が、音を立てて壊れた。
鈍重な装甲を生身の筋力では支えきれず、男はそのまま銃を腕ごとだらりと下げた。

「な、なんだ?」
「膨潤応力<ソルベイション・フォース>ってご存知?」
「はぁっ?」
「あらゆる材料には微細なヒビがある。その隙間に滑り込んだ流体は、その隙間を押し広げるように力を加えますの。
 その力って、条件によっては1000気圧に届きますのよ? 金属材料でも、これには抗えません」

何も、固体の表面に空気を集めてぶっ放すことだけが光子の得意技なのではない。
表面に集めた空気は容易に超臨界流体となり、液体の表面張力と空気の拡散速度を持った流体として、
ほんの少しの亀裂や、あるいは亀裂でなくても金属材料の結晶粒界に滑り込み、それを拡張し、
材料の剛性を著しく損ねさせることが出来るのだった。
脆化した関節は、ほんの少し操縦者が振り回しただけで破断し、そして目の前の結果に至ったのだった。

「本当、トンデモ発射場なんて不本意なあだ名は、止めていただきたいんですけれど。
 貴方に言っても詮のない愚痴でしたわね」

光子は足元から砕けたコンクリート塊を拾い上げ、数個、男に向かって飛ばした。
集中的に健在だった左肩を攻撃され、攻撃能力を失った男は戦意を消失させた。
ふう、と光子はため息をついた。

「そっちも済んだかい」
「ええ。で、この方に運転してもらえばよろしい?」
「そうだね。とりあえず機械の中から出てもらおうか」

光子に合流したステイルが、病院でやったのと同じく、半壊のパワードスーツの中にいる隊員に暗示をかけた。
今から追いかけたのでは、先行した二台に追いつくことはないだろう。

「当麻さん、インデックス。それに御坂さん達も。……無事でいてくださいませ」

日が傾いて、夕暮れの雰囲気を出し始めた空を仰いで、光子はそう呟いた。
450 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/29(水) 00:35:24.12 ID:5HY5pH0go
ようやくステイル光子のシーンが書きあがった。ふう。
ちょっと光子の活躍シーンが短いかもなー
次はもっかい佐天さん出番ですね。テレスティーナさんマジ待ちぼうけ。

>>442
佐天さんのお尻に毛なんて生えてません!

じゃあそのうち佐天さんのお尻回かくわ。
……嘘だよ!
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/29(水) 00:38:17.60 ID:Q5JMB+4AO
>>450
嘘かよ…、鬱だ死のう…
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/29(水) 01:44:52.63 ID:q/BOpFyro
何だうそか…
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/29(水) 02:19:03.72 ID:GSvMTjQX0
そんなこと言っといて、事件が一段落したらみんなでお風呂でキャッキャウフフを描いてくれる、って信じてる。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 03:55:46.62 ID:zGq2U1jDO
乙です。

新たな名台詞ソフご誕生!真ねぼしに続きいい台詞ですな。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/29(水) 07:33:42.82 ID:Z5LxIoEAO
イノケンさんもこんごーさんもかっこいいじゃない。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 07:44:44.74 ID:yx/OppfDO
1には失望した。

鬱憤を晴らす怒涛の攻防とはまさにこの事。
上条さん、このままだととどめ専門のマジヒロイン枠入り
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 21:06:06.18 ID:Gmvy7x3z0
乙です
婚后さんと14歳さん、なかなかいいコンビだねー
佐天さんのお尻回は諦めるが…OVAの銭湯…お胸回は期待していいんだよね?ね??

>>456
上条さんの能力は対能力者や魔術師には強いけど、純粋な武器や科学の前だと一般人と大差が無いのは仕方ない
何にでも強い完璧な能力じゃないからいいんだ。
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/29(水) 22:50:04.05 ID:GHqZ+L5Mo
原作だとそげぶのほうが目立つせいであんまりそういうシーンないよね
主人公を目立たせないといけないから仕方ないんだろうけど
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/29(水) 22:56:51.20 ID:2xorv/TAo
真ねぼしかっけー!
有効な戦術だね!
こんなにイノケンさんが使えるなんて…
そして戦闘モードの光子さんが格好いい!

おにゃのこが制服で戦うとか、素敵やん?
460 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/06/30(木) 01:21:47.19 ID:RNmfv+bio
みんなお尻回希望ですかw
確かにレールガン組がお風呂でキャッキャウフフはやりたいかも。
……ちょっとね、シリアスの書きすぎでほのエロが書きたくなってきた。
短編でも書いてどっかに投下しようかな。

>>454
ソフって略は無理あるなw
バトルはカッコよくてナンボなので、カッコよく思ってもらえてるといいなぁ。

>>457
ステイル・光子コンビってこのSSくらいにしか出てこないよな、と思いながら書いた。
OVAは知らないんだけども、ちゃんと日常は日常で描きたい。お風呂も。

>>458
考えてみると、原作は上条さんが無力なシーンに出会わないように結構気を使ってあるね。


続きは明日やなー。ごめん。どうしてもバトルが遅筆になる。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/30(木) 11:01:09.57 ID:eNAT3ONc0
お嬢様から戦士にジョブチェンジした光子ちゃん。
ステイルやら聖人やらペンデックスと対峙したからこの程度はお茶の子さいさいかいな。
イノケンさんマジ惚れる。

日常シーンには期待してるぜい。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/30(木) 11:16:08.22 ID:Qn8UsbwS0
上条勢力にデコっぱちコンビ爆誕す
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/30(木) 11:26:41.72 ID:9H5Lvv1AO
イノケンさん、みっちゃんにぶっ飛ばされたことがよっぽどトラウマになってんのかwwww
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/30(木) 21:37:46.98 ID:ia3OUeF10
科学と魔術の共闘って原作でもほとんどやらないネタだから見ててどれも楽しい^^
超能力戦隊レベルファイブVSローマ四天王神の右席とか誰かやんもんかww
465 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/04(月) 01:11:22.13 ID:J8JwmIWDo

「ええいクソッ、こんなときに部隊の出し渋りなんて、それじゃあたしらは何のためにあるじゃんよ!!」

警備員<アンチスキル>部隊が運用するトラックの中で、黄泉川がガンと壁を叩いた。
周囲の同僚達が何事かと振り向く。
きっと上に、圧力が掛かっているのだろう。テレスティーナ・木原・ライフラインが体晶を使ってやろうとしている何か、
それは随分と、学園都市のお偉方に気に入られているらしかった。

「高速道路の封鎖許可まで出すとはな……親玉はどんだけ上なんだか」
「あの、黄泉川先生。先行している学生というのは……」
「常盤台の高レベル能力者を中心に10名弱、だそうじゃんよ」

今、黄泉川が上層部から受け取った命令は、先進状況救助隊を襲撃しようとする学生を止めて来い、というものだった。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。なぜあの子たちが動いたのか。どれだけMARがいかがわしいのか、調べればすぐ分かることなのに。
学生達の名前を聞いて、黄泉川はやっぱりなとしか思わなかった。
春上の元にたびたび訪れていた初春たち、そして光子や当麻にインデックス。自分の見知った学生達であった。
ため息を一つついて、黄泉川は自分の苛立ちを整理した。警備員になって数年。こうしたことには、常に悩んできた。
不良の起こす瑣末な事件になら、警備員は完璧に対応できる。その子達自身とも向き合える。
だけど、こうして時折学園都市の暗部とでも言うべき事件が起こると、
むしろ自分達はその暗部の体のいい手先として、使われていることがあるのだ。
今回だってそうだ。排除すべき相手を守り、守るべき相手を排除する、そんな仕事を任される。
体晶に、子供達が食われそうになっていて警備員がそれを見過ごすなんて、絶対にあってはいけないのに。
子供達を非行から救い上げ、どうしようもない暴力から守り抜くのが、自分達の仕事なのに。
――せめて、やれることを。
黄泉川はそれを言い訳と分かっていながら、自分にそう言い聞かせるほかなかった。

「さて、我々の任務はMARに協力して子供たちを止めることですか?」

隣に座っていた同僚が、黄泉川に問いかけた。
薄く、ニヤリと笑った顔。黄泉川の考えていることを、分かっている顔だった。

「あのバカ連中にはお仕置きは必要じゃんよ。荒事なんて、首を突っ込むべきじゃないからな」
「それは、そうですね」
「でも、それは後でできる。あたしらが一番にすべきことは、先進状況救助隊が、
 体晶を使った実験をしようとしているって噂の事実確認からだ」
「それがもし事実だったなら?」

黄泉川が顔をキッと挙げて、虚空を睨みつけた。

「先進状況救助隊の実験阻止を最優先に動く」
「まあ、この装備じゃ高速道路に展開した数部隊を止めるので精一杯ですけどね」

黄泉川が動かせたのは自分の所属する支部の隊員と、そして懇意にしている数支部の隊員だけ。
テレスティーナからは相当遅れた場所にいて、あちらが実験を始めるのに間に合わない可能性が高い。
この一件で、最も攻撃的で最も先行しているのは、学生達だった。
実験の阻止に失敗し彼女達も癒えない傷を負う、そんな最悪のシナリオも充分ありえるのだ。
光子や当麻に電話をかけて止まれと言ったところで、絶対に止まらないだろう。
学生を先鋒にするなんて最低の大人だと思いながら、黄泉川は結局それを受け入れ、行動するしかなかった。
466 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/04(月) 01:12:54.28 ID:J8JwmIWDo
光に透かすと赤く輝くその結晶。手のひらにおさまるくらいのガラス製の円筒に入ったそれを、テレスティーナは優しげな瞳で眺める。
15年位前から、それは彼女の宝物だった。
大好きな祖父で、敬愛する研究者である木原幻生。その人が、テレスティーナに残してくれたものだから。
――――お前は学園都市の、夢になるのだよ。
テレスティーナの脳から体晶を抽出・精製するその直前に、祖父が残してくれた言葉がそれだった。
嬉しかった。大好きな祖父の力になれることが。学園都市の追い求めるものへと、なれることが。
……結果は、失敗だった。
テレスティーナが1年近くかけてようやく目を覚ましたとき、そこにはもう祖父はいなかった。
遺されたのは、自分から取り出した体晶。
何度か祖父に会おうとしたが、祖父の秘書なのか、誰とも分からない人々に多忙を理由に無理だといわれた。
テレスティーナはそれをむしろ、当然だと思った。
思い通りの結果が出たなら、自分はまだ祖父の隣にいることだろう。そうではなかったのだ。
テレスティーナから作った体晶では、駄目だったのだ。だからきっと、祖父は自分の手元に体晶を遺してくれたのだ。
自力で高みに登ってきなさい、と。きっと祖父はそうメッセージを、この体晶に込めてくれたものだと思っている。
テレスティーナは自分と体晶が等しくゴミとなったからまとめて捨てられたのだという、その事実に達したことは一度も無かった。
体晶を使った暴走能力者がレベル6に至ることはないという、樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>の結論を、テレスティーナは知らなかった。
ひとしきり宝物を眺めて心を落ち着けたところで、身につけたパワードスーツからザッと無線の入った音がした。

「イエローマーブルよりマーブルリーダー。現着しました。これより搬入を開始します」

テレスティーナは最速で現地入りし、すでに実験のスタンバイを整えてある。
今の連絡は、枝先を初めとした13人の暴走能力者と、テレスティーナに成り代わって学園都市の夢になる春上衿衣が、
ここ、第二十三学区の木原幻生の施設研究所へと到着したことの連絡だった。
ここまでは予定通り。問題は、こちらを追っている木山春生と常盤台の学生、そしてオマケの数名だ。

「パープルマーブル。そっちの首尾はどうだ?」
「こ、こちらパープルマーブル。警備員<アンチスキル>がこちらに疑いをかけてきて、その、交戦中です!」
「あぁん?」

戸惑いと焦りにしどろもどろとなった部下の言葉を、テレスティーナはいぶかしむ。
たしか首尾としては、警備員はこちらの行動を最低でも黙認はしてくれるはずだ。
無線の向こうにも聞こえるよう、チッ、とテレスティーナは舌打ちした。
そういえば、警備員には黄泉川という名の、面倒くさそうな女がいた。
この件の警備員側のとりまとめなのだし、体晶という言葉にも心当たりがあるようだった。
おそらくは、あの女の働きなのだろう。面倒なことをしてくれる。

「警備員なんてどうせ殺傷装備も持ち合わせてない雑魚だろうが。三分で殺れ」
「は? やれ、って。警備員を敵に回すなんてそんな無茶な」
「テメェは私と警備員とどっちを敵に回したいんだ? 言われたことはさっさとやれ!」
「りょ、了解――」

返事を聞くより先にスイッチを切る。
パープルマーブル隊は、追ってくる木山達の排除に配置した部隊だ。
それが機能しないとなると、ここまで連中が素通りでやってくることになる。

「ドイツもコイツも無能ばっかりじゃねぇかよ。
 レベル6にたどり着く人間以外、全部どれもこれもゴミなんだ。踏みにじるのに躊躇なんざしてどうする。
 イエローマーブル隊! 指示が無くても手順は分かるな?! 私はアレで出る」
「了解しました」

テレスティーナはパワードスーツのバイザーを下ろし、きちんと武装をする。
そしてそれを着たまま、パワードスーツより二回り大きなその機体に、目をやった。
無骨な足腰、そしてニッパー状の両手。パワードスーツの上から着る仕様の、工作機械だった。
ブルーカラーの労働力が慢性的に不足する一方でエネルギーとテクノロジーが余っているこの街では、
建設にはこうした機体が借り出されることがよくある。
祖父、木原幻生はこの研究所の建設・メンテナンスのためにという名目で用意したのだろうが、
建築と工作に必要な高出力以外に、俊敏さまで備えた整備と改造が施されている。
木原幻生も単に、工作機械としてコレを導入したのではないことは明白だった。

「邪魔な羽虫はさっさと潰しておかないとな。プチっとよぉ」

テレスティーナは上機嫌に、大きな機体のコックピットを目指した。
十年来の夢が、今、叶うのだ。

「お爺様。私が、学園都市の夢を叶えて見せますから……!」

人知れず、テレスティーナは純真な少女のように、そう一人呟いた。
467 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/04(月) 01:26:53.66 ID:J8JwmIWDo
ごめん。。。土日ですすまんかった。

>>461
アツい展開になるかと思って3ストーリー重ねてみたけど、
一度佳境に入ると日常シーンがとおいってデメリットがあるんやね。
若干それも苦しいモンですね。

>>462
デコっぱちてw光子さんはおでこオープンしてる人だけどw

>>463
彼は出来なかったことはちゃんと対応してくる優等生なんですよ。

>>464
原作は両方に手を出すのが当麻とせいぜい一方通行だけだしねー
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/04(月) 23:30:50.31 ID:MEOQCYz+o
乙ですた!
ああ、ここの黄泉川せんせー大好きだわ。
きっちり大人をされてます。
色々なものを背負って、それでもきちんと子供を守る大人をされてます。
組織で働いてると彼女の選択がどんだけハイリスクかってわかるわー。

これで煙草を吸わなければお付き合いを前提に結婚を申し込むのに・・・ww

こちらの大人たちが魅力的すぎて、彼らの邂逅なんかも見たいですね。
ビリビリママとか詩菜さんとか、絡ませたら面白そう。

ほんと、すごく面白かったです。

次回も楽しみにしてますよー
469 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/07(木) 01:30:47.32 ID:XGIYn1Jko

無人の高速道路を、木山の駆る青いスポーツカーが疾走する。
あちらが高速道路を勝手に封鎖してくれたのは幸いだった。
おかげで開いていた差を、かなり詰められた。

「あと10分くらいで高速の出口ですね。降りてからはすぐです」
「そうか。その10分というのは、あちらの邪魔が一切入らない場合の数字だな?」
「はい」

初春が言ったのは単純に距離を時速で割っただけの数字だった。
木山が気にしているそのとおりに、おそらくは妨害があることだろう。

「急ぎだし、時間通りの進行でいきましょう」
「だね」

茶化して言った佐天の言葉に、美琴が同意する。
カタカタとキーボードに数値を打ち込んだり映像を複数再生したりと忙しない初春が、
よしっ、と呟いて顔を上げた。初春なりの、解析結果が纏まったらしい。

「向こうは、高速出口の手前にある、別の線とのインターチェンジで待ち構えているみたいです。
 そこを塞げばこちらに逃げ道ないですから」
「バリケードはあるの?」
「金属の格子で作ったバリケードはありません。
 さっきと違って、脇道のほうじゃなくて本線を走りますから」

先ほどバリケードで塞がれたのは、別の線へと乗り換えるための一車線の道だ。
確かに、三車線ある本線を丸ごと封鎖は出来ないだろう。

「じゃあ、この広い道をどうにかして塞いでるってことかな」
「二台のトラックを横にして道をかなり塞いでますね」

初春のディスプレイには、一車線ぶんくらいの隙間を残してトラックが道を塞ぎ、
残った隙間にもパワードスーツが展開している光景が映し出されていた。
それを見て、美琴は木山に問う。

「パワードスーツが塞いでる隙間なら、抜けられる?」
「可能だ。こちらの時速を見れば向こうは回避するだろう。でなければ死ぬ」
「無人機で塞いでたら?」
「その場合は君達の援護がいるな」
「私が超電磁砲<レールガン>で隙間をこじ開けるか、佐天さんに飛ばしてもらうか、二択ね」

佐天はその発言を受けて、すぐさま軌道の演算に入る。
パワードスーツの高さは2.5メートル近くだ。それを飛び越えるのは先ほどより大変だが、可能だろう。

「御坂さん」
「何?」
「銃弾、止められますか?」
「金属ならね。この車にむけて飛んでくるヤツ程度なら防ぎきれる」
「じゃあ御坂さんの仕事はそれですね」
「ま、そうなるわね。一番の懸念はそれだし」
「銃弾、というが。レベル5の君はある意味で人質みたいなものだろう。
 おいそれと君を死なせるような判断をするだろうか」
470 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/07(木) 01:32:06.29 ID:XGIYn1Jko

その木山の考察を、つい昨日までの美琴なら真剣に受け止めて考えもしただろう。
だが、あの忌まわしい計画の、名前を知ってしまったら。

「テレスティーナは別にレベル5に執着なんてしないわよ。
 今から、それ以上の高みを、アイツは目指す気でいるんだから」
「それ以上……?」

美琴の言っていることを理解できないのか、ぼんやりと佐天が復唱した。
レベル5は、学園都市がこの数年でようやくたどりついた高みだ。
レベル4までの能力者とは一線を画す、天賦の才の持ち主。
それより上なんて、それは。

「佐天さん」
「は、はい」
「さっきみたいに乗り越えられる?」
「私なら大丈夫です。御坂さん。アレくらいのことなら、あと10回はいけますから」
「10回ね。それだけあれば充分でしょ。……佐天さん、レベル3はあるね」
「そうですね。自分でも、自覚はあります」
「うん。頼りにしてる」

美琴が佐天に、ニッと笑いかけた。その笑みが、美琴の隣に立てたことが、嬉しい。
佐天は、自分の実力を謙遜しなかった。さっきだって、窮地を脱する力があることを証明できたから。

「御坂さんは防御に専念してください!」
「わかった。初春さん、あとどれくらい?」
「ちょうどですね。もうすぐ、見えてくると思います」

美琴と佐天は、シートベルトを外した。急ブレーキでも踏もうものなら、きっと大変なことになるだろう。
だがそういう危険に目を瞑り、二人は、来る一瞬に備える。
運転手の木山が声を上げた。目視で、敵方を捉えたらしい。

「見えたな。あれか……」
「はい。最後の追撃部隊ですね」
「トラックの数がおかしくないか?」
「えっ?」

初春は、慌ててディスプレイの情報と目の前の光景を照合する。
監視カメラからの映像は一分くらいはタイムラグがあるのだろう。
どうやら一台、つい今しがた増えたらしい。
471 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/07(木) 01:33:54.25 ID:XGIYn1Jko

「MARじゃない……?」
「そのようですわね。あれは警備員のロゴですわ」

どういう状況なのかと白井はいぶかしんだ。
敵なのか、それとも見方なのか、それが問題だ。
不意に、ピリリと携帯がコールを訴えた。
上条を保留にしてそちらに出る。

「はい」
「白井か? 警備員の黄泉川だ」
「黄泉川先生?」
「そっちからあたしらの車両がみえてるじゃんよ?」
「え、ええ」
「手短に済ます。これは警備員として言ってはいけないことだけど。
 ……頼む。あの子たちを、助けてやってくれ。目の前の連中はコッチで何とかする」

苦渋がにじみ出たような、そんな声だった。
学生に危険分子排除の尖兵をさせるなんて、確かに警備員の理念の間逆だろう。
でも、レベル5の能力者を擁するこちらのほうが、確かに駒として上だった。

「一人の教師である黄泉川先生が、学生をそうやって案じてくださることを嬉しく思います。
 背中は預けますから、どうぞこちらを信頼してくださいまし」
「ああ、頼む」

白井はそれだけで、会話を打ち切った。
もう、パワードスーツの部隊まで200メートルくらいだったから。

「木山先生、車、右に寄せてください」
「右? それはいいが、どうする気だ?」

三車線ある高速道路の両端を、トラックが塞いでいる。
そしてトラック同士の間にあいた隙間を、パワードスーツの部隊が固まって塞いでいる状態だった。
トラックよりはパワードスーツのところのほうが背は低いのだし、そこを狙うものと木山は思っていた。
佐天の答えはシンプルだった

「対向車線側にはみ出します」
「佐天さん!? あっちは封鎖されてませんから、対向車と正面衝突しかねませんよ?!」
「大丈夫。べつに、対向車線を走るわけじゃないから。ちょっと説明してる時間ない!
 木山先生、言う通りにしてくれますか?」
「壁に向かって走るというのは中々精神的に負担のかかる行為なんだがね」

フウ、と木山が呼吸を整えて、正面を睨みつけた。

「速度は?」
「さっきと同じで」
「わかった」

多くを木山は問わなかった。
ただ、アクセルをクラッチみたいにガンと踏みつけて、中央分離帯に向かって車を加速させた。
472 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/07(木) 01:35:36.91 ID:XGIYn1Jko
>>468
考えたら黄泉川先生って当麻や光子より詩菜さんに近い世代だよね。
確かに絡ませるの面白そうかも。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/07(木) 16:38:17.87 ID:MjdjEM3Lo
おつ
黄泉川無理して負傷しそうな勢いだな
死なない程度にがんばれー

>>472
「じゃーん!じゃーん!」

「あらあらあらあら」

こんな風景しか見えません!
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 17:51:29.94 ID:HaIuAjbIO
>>473
「じゃーん!じゃーん!」

ゲェッ関羽!?
かとおもた
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/07(木) 19:51:13.46 ID:VKDL/nOv0
上条親子からすれば詩菜さんも関羽も同じようなものだろう。
ん?誰か来たみたいだな。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 21:48:30.93 ID:s2JhGPVE0
黄泉川先生はやっぱりいい先生だ。
しかし、どうにも原作でアンチスキルは噛ませ犬ポジションだから、実行力が伴ってない言葉っぽく聞こえちゃうんだよなぁ。
まあ有志の教師によるボランティアなんだから、ある意味当然なんだけど。暗部だの魔術師だのが関わってくるのは、問題のレベルが違うだろうし。
どっかでアンチスキルの名に相応しい、対能力者戦闘のスペシャリスト、みたいなとこを見てみたい気もする。木原くんみたいに。
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/08(金) 01:12:36.81 ID:0leyUIHWo
>>472
あれだよね。
禁書と光子さんの身元引受人だし、普通に挨拶くらいはありそうだよね。

大人世代の邂逅とか、新しいかもしれんね。

上条の嫡男を連れ合いに選ぶとはこういうこと!
とばかりに無双する詩菜さんとかいいかもww
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga sage]:2011/07/08(金) 10:37:51.01 ID:byTuSG11o
>>475
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゙  .:::::::::::゙i''',    .,ィンニ、、,ヾ,、.λ あらあらあらあら
  .:::::::::::::| ヽ、_ィィ/´ ̄二`ヾV ',  刀夜さん、またですか?
  .::::::::::/ゝ,  ヾ;'|;;|  ,ノヽ l;;|  ',
 .:::::::::/  `'-、 ヾ|;;|;-;;゙;;;;;;;;;;;゙ハ;l  .',
.:::::;、r<     `'‐|;;ト、;;;;;;;;;;;;;;;| ';|  i
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       ` 、  !;;゙;l;;;;;;;;;;;;;;;l l;;ト、 ',
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479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/08(金) 12:50:32.81 ID:gR/o38lDo

                 _      _
             r土 ̄ _」┬┬ ト.、 _」      \_WWWWWWW_/
             |   ||== ⌒=||       ≫       ≪
           _|‐ ' ´  ̄ ̄O ̄ |        ≫     げ ≪
.            ,':ri‐:':::二二::: ̄::;´::`!       ≫   詩  え ≪
           l::l.l:::/     `''´ ヽ:!、       ≫      っ ≪
.            !::|l::〉 /⌒_' ........,'⌒'| ',     /     菜    ≪
          /ヽ!l| "::::'´ o.!::::::::l´o.}:! |     ̄≫         ≪
         | 9.|l u   ̄    .| ̄ |! |     /~MMMMMMM~\
.         `ーl.l.       _ j  ,'
            | ',   〃,.-―-jl,'
           .| ヽ  {l '-一-'.,i′
.           ,rv'   ` .'l  .,;;;,./
          _/ハ::::::\    `ヾ;;;/ハ
      /::ノ:::ヽ:::::::::`:..、.  `/:::::\
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/09(土) 00:43:40.49 ID:k2HbBXyV0
>>478-479
お前ら仲いいな
481 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/09(土) 13:03:39.05 ID:6g6geXOKo
パワードスーツを着た男が、焦った表情で黄泉川に怒鳴りつける。

「だからあの車を止めるのが任務だと言っているだろう!」
「学生の乗った車を銃撃するような真似を任務にする部隊は学園都市にはない!」

黄泉川は自分の言が嘘だということを知っている。そんな非道な部隊くらい、きっと学園都市には山ほどある。

「学生だとはいうが、能力でバリケードを越えてくるテロリストだぞ!? こちらの安全を考えてくれ」
「お前等の何処に大義名分があるって言うんだ! さっさとテレスティーナ・木原の計画について聴取を始めるぞ!」
「勝手に所長を呼び出してやってくれ! こっちは仕事があるんだ!」
「おい! パワードスーツを動かすな! そっちがその気なら、こちらも動くしかないじゃんよ!」
「いいからやれ! 所長にどやされたいのか!」

リーダー格の男が、黄泉川から視線を外し、部下のほうに振り返って指示を出した。
封鎖した高速を走ってくる青いスポーツカーは、もうすぐそこに迫っている。
あれを止めねばここにいる全員、すなわちマーブルパープル隊はテレスティーナに殺されかねない。
町の公権力よりも、自分達のボスの非道さのほうが恐ろしいことを隊員達は理解していた。
躊躇の感じられる動きだったが、それでも5機のパワードスーツは、銃を持ち上げるのを止めなかった。
それを見て黄泉川は、さあっと瞳に怒りを走らせた。
学園の名を冠するこの都市に、こんな出来事があってはならない。
子供達が夢を叶え幸せになるための町なのに、それを弄ぶような人間は、いてはいけないのだ。

「パワードスーツの連中を制圧する! 子供達に怪我なんてさせちゃいけない!」
「了解」

黄泉川の後ろに控えていた警備員達もまた、黄泉川と意志を同じくしていた。
町を巡回する美観・治安維持用ロボットを先行させて盾にしつつ、警備員のメンバーは
パワードスーツが狙う美琴たちとの射線の間に、自分達の体を割り込ませた。

「あっちは子供に銃を向けてるんだ! 遠慮なんて要らないじゃんよ!」
「当然です!」

パワードスーツに乗った隊員たちがスポーツカーに照準を合わせようと、警備員を振り切るよう鬱陶しげに動く。
だが局地戦で細かな動きでマーカーを振り切るのに、パワードスーツは不都合だった。
慣性の法則を捻じ曲げる力は、超能力者にしかない。
パワードスーツを着るということは、慣性を増やし、鈍重になるということだ。
それをもちろん出力で補ってはいるが、細かなストップアンドゴーにおいては、生身にパワードスーツは叶わない。
警備員達は、盾を用意しているとはいえ生身だ。パワードスーツから発砲されれば無事ではすまない。
だが、隊員達はその選択肢を選べなかった。
警備員は、警備員を傷つけた相手を、決して許さない。それが学生なら話は別になる。
だが、学生に仇(あだ)なし、そして警備員にも仇なした相手には容赦がない。
上からの指示で今はこの目の前の数人以外は押さえつけられているが、
この数人に手を出せば、あっという間に自分達を追い詰める猟犬が100倍に膨れ上がる。
それを隊員たちが恐れているのを知っているから、警備員達は自分の身を、果敢にさらしているのだった。

「クソッ……近いぞ! 抜けさせるな!」
「やらせるか!」
482 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/09(土) 13:04:40.03 ID:6g6geXOKo

スポーツカーは、もう視界の中で充分な大きさを主張している。
ここに到達するまで、もう数秒だ。
黄泉川は目の前のパワードスーツに、非殺傷用の銃弾を躊躇わず発砲しながら、僅かに振り返ってその車の動きを見た。

「くっ、邪魔するな!」
「お前らこそ子供に銃なんてむけるんじゃない!」
「ガキは使い潰すもんだろうが! それが学園都市だ!」
「そんなこと、あたしが許さない!」

ギャリっと、タイヤが歪みながらアスファルトを蹴りつける音が聞こえた。
突然直進していたスポーツカーが、中央分離帯に向けて進行方向を曲げた音だった。

「なっ?!」

黄泉川は一瞬、それに絶望する。タイヤが銃で狙われ、パンクしたのだと思ったからだ。
このスピードでその事故は、あまりに致命的だ。
パワードスーツなど何の関係もなく、それは搭乗者を死に至らせる。
バカにしたように、ハンとパワードスーツに乗った男が笑った。
――――だがそれは、ただの勘違い。


スポーツカーから、髪の長い女の子が、上半身を出した。
黄泉川はその姿を見て、駄目だ、と叫んだ。
突然の出来事に、おかしな行動をとったのだろうか。
駄目だ、あんなことをしては、助かるものも助からない。
そんな黄泉川の心配をよそに、その少女、佐天涙子は目を細めて真っ直ぐ前を見詰めていた。
呼吸すらままならない風速に耐えながら、佐天が手を虚空にかざした。
黄泉川も、そして隊員も、判っているようで判らないことがある。
超能力者とは、つまり自分達とは違う、パーソナルなリアリティに生きる人間なのだ。
同じ世界を共有しながら、それを見るためにかけた眼鏡が全く違うのだ。
空力使い<エアロハンド>の佐天が生きる世界においては、佐天の行動は奇異なものでもなんでもない。


――――ガッ、と空気の軋む音がした。


「なっ?! そんな、空力使いだと?!」

隊員が驚きながら、そう叫んだ。無理もない。黄泉川だって知らなかった。
あそこに、あんな高位の空力使いがいるなんて。
そうか、アレが婚后の教え子か、と場違いに黄泉川は感心した。
スポーツカーが、その巨体をものともせず、跳躍した。

「どうする気だ!?」

黄泉川は思わず叫んだ。
MARが封鎖したのは、こちらの車線だけ。スポーツカーが向かう先には、沢山の対向車。
黄泉川の視界の先で、佐天が地面に向けて何かを放った手を、再び振りかざした。
空気を吸い込み、集めるように。掃除機なんかよりずっと暴力的に。
見えない壁を佐天が掴んだみたいに、スポーツカーの軌道が、直線ではなくなった。
その軌跡はブーメラン。中央分離帯という仕切りを斜めに飛び越え、
MARのトラックという障害物を回避して、そして再び空中で方向を歪めながら、
そのスポーツカーは元の車道上へと、その進行方向を戻した。

「なん……だと? クソッ、抜けられた! 追え!」
「無茶言わないで下さいよ! コッチには高機動パッケージはないんです!」
「それでもやれよ! 所長に殺されたいのか?!」

黄泉川の前で隊員たちが失敗に歯噛みしていた。
スポーツカーは、速度を一度も緩めなかった。
一秒で40メートルを走破するその速度によって、あっという間に銃の射程外へと逃げたのだった。

「……やるじゃん」

自分の心配が杞憂だったのを、黄泉川は軽く笑った。

「すまん。学生を前に出すなんて、駄目な警備員だ」

聞こえないのを判っていて、黄泉川はスポーツカーに乗った子供達に、そう謝った。
せめて、自分はここの後始末をきっちりつけないと。
混乱する隊員達に銃を向け、黄泉川は自分が次にすべきことを、為し始めた。
483 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/09(土) 13:08:27.79 ID:6g6geXOKo
>>473
じゃーんじゃーんって銅鑼の音かと思ったw

>>474-475
お前らのせいで古代中国の先生達が出てきちゃったじゃないかw
>>478-479
お帰り下さい。

>>476
>アンチスキルの名に相応しい、対能力者戦闘のスペシャリスト
なんかそれいいアイデアかも。出す場所を考えてるわけじゃないけど、そういうのいいね。

>>477
俺も詩菜さん無双書きたいな。うん、夏はやっぱり帰省だね。
光子さんの実家の設定もいろいろ明かされたし、
キンクリした馴れ初めの部分をちゃんと書いてお盆は光子と当麻に帰省してもらうべ。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/09(土) 16:14:57.59 ID:hktOBeCc0
ブーメランスネイク……だと!?
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 16:25:16.12 ID:nKFjoxJEo
乙ですた!
うあー!
黄泉川せんせーすてきー!
結婚してー!

ああ、組織の論理につぶされない意志を持つ人って素敵!
惚れてまうやろー!

そして、警備員がボランティアであるが故のモラールの高さがここで凄味を出しましたね。
いやあ、サテンさんのブーメランスネイクもそうだけど、すごくカタストロフィでした。

こっからさらにクライマックス。
楽しみです。

そして詩菜さん無双、ものっそい楽しみです。
ハーレム体質の主人公を勝ち取った女の凄味を味わいたいです!
そして光子さんが詩菜さんにフラグブレイカーを伝授されるのが楽しみ!

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/09(土) 17:29:12.77 ID:Q8hAKmpr0
佐天さんの進化を目撃できて幸せ
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/09(土) 17:56:03.13 ID:wzHrKkrv0
そろそろ中ボスのご登場といったとこですか
488 :475 [sage]:2011/07/09(土) 18:17:33.16 ID:IJlkZPUf0
作品の舞台裏では頑張ってるはずなんだよなぁ警備員。
それが出たのが6巻ぐらいなだけで。

ブーメラン佐天さんいいな。
成長度マジパネェ。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 19:04:49.07 ID:aRkeyvUK0
佐天さんスゲー。
2トン位あるスポーツカーに対してあんな動きさせるなんて
レベル4位の実力があるんじゃなイカ。

これだけ高位超能力者になったと考えると佐天さんの常盤台転校
なんて話も面白いかも。柵川中学で高位超能力者って存在が浮き
そうだしね。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/09(土) 19:29:53.28 ID:TVBmXCL7o
初春と佐天さんが常盤台に入って「超電磁組」結成か!(婚后組だと「女王」がねえ…)

美琴も婚后先生の授業受けてくれないかなあ…汎用性が売りなのに力任せが多すぎてもうねえ…
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/09(土) 19:47:31.71 ID:EcLi2z1AO
>>489
こんごーさんは12tトラックを空に打ち上げてる
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 20:03:23.24 ID:Q8hAKmpr0
佐天さんは今のところは、LEBEL4に近いLEBEL3じゃないかな?
これからの実戦でLEBELの壁を乗り越えてほしいね。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/07/09(土) 20:43:37.36 ID:LH+5WA+5o
>>483
乙!
>>492
LEBELでぐぐったら頭髪化粧品だったでござる
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 20:47:08.69 ID:3K2kwJqFo
夏休み明けに合わせて転校かなこれは
能力を伸ばすことが楽しいわけだし
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/07/09(土) 20:48:54.50 ID:IuyKZ1E4o
少なくとも論文をスラスラ読んで理解できないとレベル4は届かないんじゃないかな?
このSSじゃ意図的にそう書いてるし。

逆に固法先輩みたいに、伸び悩む時期が来て苦悩する佐天さんを婚后さんが導くってのも読んでみたい気もする。
最近は佐天さんも賢くなって講義する機会も減ってるしねwwwwww
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/09(土) 21:03:13.12 ID:mQfA5+Xbo
もうやったじゃんそれ
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 23:59:26.56 ID:v8/HE/Oo0
いやまあ、有志の教師によるボランティア、ということを考えれば、事件の中心に関われないのはむしろ当然なんだけどね、警備員。
もし学園都市に侵入した魔術師が普通に警備員に逮捕されたら、それはそれで非常に困ったことになるだろうし。

むしろ、そういう政治レベルの話が関わる事件に感情だけで突っ込んでいって介入できちゃう個人が割りと沢山いる、てのが学園都市の問題な気もする。
佐天さんもそんなとんでも個人の仲間入りを果たしたっぽいなぁ。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 00:52:58.49 ID:mNF2Iu0WP
法に則った対応が不可能だから
友人知人殺されてぶち切れた個人が介入、と言う結果なんだと思う
暗殺や人体実験が横行で親船とか良識派は無力、と言うのが学園都市の実態だし

良識派が主流ならそもそも上条さんや御坂の出る幕は無かった筈
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/10(日) 13:21:35.29 ID:ORKiX8000
法も常識も意味を持たない・・・なんだ、ただの世紀末救世主伝か
500 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/12(火) 03:03:08.31 ID:gtvU7gjdo
>>484
それ思い出しながら書いた。

>>485
苦みばしった大人の格好よさはあんまりかけてないかもだけどね。。。
若者とは違う苦悩があるし、それはそれで書いてて面白そうだけども。

>>490
美琴がテクに走ると微妙だなってのもあると思う。
一方通行相手なら応用力を十全に生かして挑むのも格好いいけど、
そういうところ以外では、主人公らしくパワー型でシンプルに魅せる要請があるというか。

>>492
Levelなんだぜ。

>>499
実態っていうか日常レベルで世紀末なのに学園都市に子供が集まるっておかしいよね。


んーごめん、続き2レスくらい書けたけど納得できないんで明日あげます。。。
なんか日曜にちょっと浮気して吹寄SS書き始めたらそっちが楽しくて時間とっちった。
そのうち総合スレかどっかに上げようかな。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/12(火) 04:03:27.24 ID:JUWfoqaM0
Level に応じて奨学金もらえるからなぁ。
Level 0 の高校生である上条でさえ、仕送りとあわせてインデックスと2人食べていける額貰ってるみたいだし。
お金を払って普通の学校に行かせるのと比較して、学園都市を選ぶ家庭も多かろう。
それにしても、仮に約115万人いるLevel 0に毎月5万円出すと、それだけで6090億円/年。
残りの半分にはさらに多額の奨学金、寮、学校設備、etc
☆はどうやって資金調達してるんだ…
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/07/12(火) 06:43:55.86 ID:RaV/5uMAo
>>501
技術の切り売りや特許料じゃね
あと、武器輸出
503 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:01:22.90 ID:srZnSgCXo

「佐天さん、グッジョブ!」
「へへ。木山先生、車、大丈夫ですか?」
「ああ。少なくとも残りを走りきるのに不安はなさそうだ」

ドキドキと心の高鳴りを伝える心臓を沈めながら、佐天は美琴に微笑を返す。
車にも、あまり負担をかけずに済んだようだ。
調子がいい、と佐天は思った。
別にいつもとそれほど出力や制御がいいわけではないが、いつもどおりを土壇場でやれるのは、絶好調だと言えるだろう。
このドライブの目的は春上たちを助けることで、失敗すれば、沢山の不幸を招くことになる。
だから楽しいなどと思うのはきっと不謹慎なのだが、佐天は逸る心を抑えるのに必死だった。

「あと、残ってる部隊はある?」

美琴が初春に問い直す。
コレで終わりなら、ほとんど消耗せずに本拠地に乗り込める。
あまり本調子ではない美琴にとっては、ありがたいことだった。

「結構調べましたけど、多分あれで終わりだと思います。
 ただ、木原幻生の私設研究所のほうに装備があれば、何かしてくるかもしれませんけれど」
「そう。とりあえずは、しばらく体を休めてればいいのかな」
「そうですわね――――?!」

ズガンッ!!!!!
白井が相槌を打つより先に、突如、重たい音と振動がスポーツカーに伝わった。

「一体何?! パワードスーツは振り切ったはずじゃ」
「違いますわ! お姉さま、後ろ!」
「え? ってなによアレ?!」

衝撃は、コイツの着地音だったのだろう。
スポーツカーの後ろを、巨大な二足歩行型のロボットが走っていた。
距離は50メートルくらい、後方だろうか。
安全第一と書かれた外装をまとい、カニバサミ型の手を持っている。
見かけはよくある、学園都市製の建築・工作用機械だった。

「ったくよォ、使えねえ部下を持っちまうと、苦労するよなぁ」
「この声、テレスティーナ!?」

スピーカーから響いた声で、その大型機械の搭乗者が誰なのか、美琴は理解した。
佐天が、窓を開けて後ろを覗き込む。

「あれが、テレスティーナ……?」
「ええ。たぶん、あの口調が地なのよ」

美琴を除く四人は、汚い口調のテレスティーナの声を聞くのは初めてだった。
つい昨日まで、優しげに接してくれた人の声とは到底思えなかった。

「ほんっと、ちょこちょこといつまでも付きまとう羽虫ったらうぜーよなぁ。
 ここまで来た事は褒めてやるからよ、テメェらさっさと、逝っちまえや!!」
504 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:02:13.57 ID:srZnSgCXo

聞こえないだろうから当然だが、テレスティーナはこちらの返事を待たなかった。
工作機械がその腕を振りかぶる。こちらからの距離はかなりあるし、腕が届く距離には見えなかった。
だが。

「佐天さん! アレ、飛んでくる!」
「御坂さん止められますか!」
「っ……地上なら、そりゃなんとか。でも車の上は結構キツい。佐天さんは?」
「私も威力を落とすのは出来そうですけど、完全に止めるのは無理そうです」
「じゃ」
「二人でやりましょうか!」

後部座席、左右の窓から美琴と佐天は身を乗り出した。
スピードを落とせばそれだけ時間のロスになるから、木山にはブレーキを踏ませない。

「ほうら行くぞ。上手く避けないと、ブッつぶれちまうぞォ?」

笑いながら、テレスティーナはそう宣告した。
振り上げた腕を、すっとこちらに向けて振り下ろした。

「そォ、れっ!」

バン、という音と共に、1メートル近い鋼鉄のアームがスポーツカー目掛けて飛んできた。

「佐天さん!」
「――はい! 止まれぇぇぇぇっっっっ!」

能力をフルに解放して、佐天は気体を集めていた。それを、飛んできたアームの正面で、解放する
ボワァァァァァン!
初めに、膨らむような音がした後、すさまじい破裂音が美琴の耳を叩いた。
音速に近い勢いで膨らんだ空気が音を鳴らしたのだった。
いつか佐天が、初春と春上に倒れ掛かる電灯を払いのけた時には、佐天は渦を手元で制御していた。
この場合は佐天の腕にも破裂の衝撃が行くが、今みたいに、体から離して使えば被害は減らせるのだった。
だが気体の膨張仕事を逃がす先が多い分、エネルギーのロスは多くなる。
止め切れなかったアームが、スポーツカーに伸びてきた。

「佐天さん、ナイス」

防壁は、二段構えだ。美琴はアームに向けて手を伸ばした。
美琴から放射状に形成された電磁場が、美琴とアームの間に斥力を生み出す。
馬鹿にならない質量だったが、スポーツカーの手前で、アームは相対速度を失った。
ガランガランと地面を転がりながら、スポーツカーからアームが遠ざかる。

「ほぉ、頑張るじゃねぇか。それなら、真上からはどうだ?」

受け止められたほうのアームを有線で回収しながら、もう片方をテレスティーナは投げつける。
狙うはスポーツカーの上空、そして充分に飛んだところで、アームの回収ワイヤを引き寄せた。
放物線が歪んで、大体真上からアームが落ちてくる。
505 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:03:23.61 ID:srZnSgCXo

「くっ! 邪魔!!」
「さぁ二発目はどうだぁ? お、やるじゃねーか」

佐天が歯を食いしばって渦を巻き、アームにぶつける。
アームそのものがそこまで鈍重でなくて良かった。これで車並みに重ければ、どうしようもなかった。
佐天がアームの落下速度を殺したところで、美琴が電磁場を操ってそれをスポーツカーの横に逸らして落とす。
背後から一直線に襲われても、投げ落とされても、どちらも防御に掛かる労力は大差なかった。
……大差ないというのは、どちらにせよ何度もしのいでいる内に疲弊していく点では同じ、ということだ。

「初春! あとどれくらいでつくの?!」
「このスピードで10分です!」
「そんなに?!」
「佐天さん、厳しい?」
「だって、このままじゃ1分に4発ペースですよ!」
「そうね」

とはいえ、あちらが一方的に有利というわけではない。
高速を降りればこの工作機械は身動きがとりにくくなる。つまり、美琴たちを高速道路上で仕留める必要があるのだ。
一方、美琴たちは疲弊してしまえばただの女子中学生になる。
研究所に立ち入って春上たちを助けるには、演算を続ける集中力を残しておかねばならない。

「私と佐天さんじゃ、止めるのが目一杯か」
「お姉さま」

白井が美琴に声をかける。
美琴は、その声に含まれた響きだけで、白井の言いたいことを理解した。

「……私が、最後にあのアームを止めればいい?」
「! はい! 要は回収用のあの釣り糸を切ればよろしいのでしょう?」
「そうね。でもアンタ、乗り物の中から物を狙うの、苦手でしょ」
「ええ。でも、私だって日々進歩してますもの」
「そ。じゃあ、任せたからね」
「はいですの!」

白井は美琴に愛想良く返事をして、佐天を視線を交わす。
美琴の相棒は譲らない、そんな不敵な笑みを浮かべていた。佐天も白井に同じ笑みを返す。
そして視線を戻すと、テレスティーナが、また腕を振り上げていた。

「あぁ、面倒すぎる。まったく、お爺様ももっとちゃんと武器は残して置いてくださったらよかったのに。
 そら、さっさと潰れろよ! ちょっと変化つけてやるからよぉ!」

テレスティーナが先ほどと同様、こちらに向けてアームを構える。
そして先端にある二本の鉤爪を、グルグルと回転させた。
触れると危険なくらいの回転速度になったところで、再び射出した。

「くっ……一発!」
506 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:04:59.28 ID:srZnSgCXo

佐天は、右手に蓄えた渦を、アームに突き出す。
流れをかき乱すその動きは、佐天の渦の威力を半減させるものだった。
テレスティーナもそれを見越してやったのだろう。
その渦だけでは、アームはそれほど速度を落とさなかった。

「二発目!」

佐天の左手から、蓄えていたもう一発が解き放たれる。
一発だけより制御が甘いから一発の威力は落ちるが、二発分なのでトータルではさっきを上回れる。
もちろん、精神的疲弊が大きいのとの、引き換えなのだが。

ボワァァァンッッッ!!!

今度こそ、アームは回転も推進力すり減らして、ふらふらと美琴たちに近づく。
補足するのは簡単だった。美琴が、磁束を手のように伸ばして、それを捕まえる。

「黒子!」

美琴の呼びかけに、黒子は返事をしない。
そんな余計なことにリソースを割かず、黒子は車の床につま先を立て、膝を座席に触れさせた状態でじっとアームを見据えていた。
理由は簡単。車が伝える地面の振動を、つま先と膝をクッションにして目と脳に伝えないためだった。
白井黒子を初めとするほとんどの空間移動能力者<テレポーター>は、ある絶対的な縛りを課せられている。
それは、かならず自分自身を原点にとらなければならない、という制約だ。
その制約は、いくつかの条件下では、かなりのマイナス要因として働く。例えば車内にいる今がそうだった。
白井は車と一緒に、地面に対して揺れている。
その白井を原点に採るということは、つまり地面こそが揺れている、と演算式上では扱われるということを意味している。
ただでさえ蛇のようにのたうつワイヤーに、自分自身の揺れまで加算して、演算しなければならない。
50メートル以内ならミリ精度で飛び道具の行き先を調整できる白井をして、ワイヤーの狙撃を困難にするファクターだった。

「――ふっ!」

呼吸を止めて、白井は手元の金属棒を空間転移させる。
手元に弾はたっぷりある。惜しまず、10本をまとめて転移させた。

「どうです!?」

結果を白井は美琴に問う。後部座席中央では、その成果は良く見えない。
キンキン、と澄んだ音と共に白井の愛用する武器が金属ワイヤに食い込んだ音が、美琴の耳には届いた。
それを合図に、美琴はアームを無造作に投げ捨てた。

「御坂さん!」
「大丈夫」

テレスティーナがアームを回収しかけたところで、バツン、とはじけるような音と共に、アームがワイヤーから引きちぎれた。

「あ? なんだよ」
「やった!」
「黒子。ナイス」
「黒子に掛かればこの程度、お茶の子さいさいですわ」
507 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:05:46.88 ID:srZnSgCXo

ガランガラン! とすさまじい音を立てながらアームが後方に流れていく。
高速で追いかけっこをしながらのことだから、落としたものはすぐさま消えていくのだ。

「もう一回いける? 黒子」
「当然ですわ!」
「あー、ったく、往生際の悪いクソ虫どもだ。まだこっちには一発残ってるんだよォ!」

テレスティーナがスピーカー越しに愚痴を呟きながら、残る片腕を、工夫無く振り上げた。
そんなもの、美琴と佐天、そして白井の敵じゃない。

「今更すぎんだよ! とっくに実験は始まってるし、もうすぐ春上は高みにたどり着く。
 テメェらにもう出番なんざねぇんだよ!!」
「嘘です! 枝先さんたちを運び入れてまだ15分です。まだ実験なんて始められるわけありません!」

テレスティーナの言葉に、初春がすぐさま否定を返した。
その声はテレスティーナ自身に届くことは無いが、佐天や美琴には届く。

「落ち着いてあれを落としてください! テレスティーナがいなければ、どうせ実験なんてまともに進まないはずです!」
「それは、まかしといて、初春」

それは初春の願望も混じってはいた。だが、断言してしまえば、人は自ずと前に集中するものだ。
初春に佐天が笑って言葉を返した。
目の前で、テレスティーナが残った左腕を飛ばした。

「来ます!」
「うん!」
「了解ですわ!」

佐天が、再び両手に蓄えた渦でアームの威力を殺ぐ。そして美琴が電磁場でそれを留め、白井が切断する。
もう一度、綺麗な連係プレーが成立してアームは本体から断裂した。

「やった!」
「! 違います御坂さん!」
「なっ!」

三人の努力の裏を掻くように、テレスティーナは速度を上げ、機体をスポーツカーに肉薄させた。

美琴は、咄嗟にポケットからコインを取り出そうとした。それが、一番威力があって、一番速く出せる技だから。
だがスポーツカーのウインドウから半身を乗り出した、不自然な格好からはコインが上手く取り出せない。
まごついた数秒は、命取りだった。

「詰めが甘かったなぁ。本体を沈黙させてないのに、やったぁ、は速すぎんじゃねぇの?」

ニヤニヤとした、テレスティーナの嫌味な笑み。
美琴の不手際の間に、テレスティーナの駆る工作機械は、肘より上しかない腕を振り上げた。

「アンタにはやらせない!」
508 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:06:41.81 ID:srZnSgCXo

テレスティーナは佐天を眼中に捉えていなかった。それはレベルの問題もあるだろう。
美琴が身動きできない環境を用意すれば、勝ちだと思って無理は無い。
もちろん、それはテレスティーナ側の慢心だった。
佐天は、車と工作機械のコックピットの間、僅か3メートル位の空間で、最大出力の渦を打ち放った。

――バァァァァァァァンン!!!

ビリビリと後部座席の窓が震える。
思わず白井と初春は目を瞑り、木山は車のスリップに備えた。美琴も吹き飛ばされない努力で精一杯だった。
突然のその一撃から、白井は立ち直り、周囲を見渡す。
気づくと、佐天がいるべき座席のところに、その体が見当たらなかった。

「佐天さん……佐天さん?!」
「えっ?!」
「な、まさか?!」

前方にいる木山と初春が、佐天の姿が見えないことに戸惑った。
状況をつかめない三人をよそに、美琴がぽつんと呟いた。

「飛んでる……」
「え?」

白井は、窓越しに後ろを見た。
爆発に巻き込まれ、また工作機械は十数メートル車から離れていた。
そして、その車と、テレスティーナの間に佐天は飛んでいた。

「そんな……佐天さん! 危険ですわ!」

こんな無茶、レベル4でも早々はやらない。いや、やれない。
バサバサと髪を、セーラー服を、スカートをはためかせながら。
佐天は、空に浮いていた。

「佐天さん! 戻って! この距離ならレールガンで!」

だがその声は、遠く離れた佐天には届かなかった。
それにレールガン一発でどうなるものでもないのも事実。
佐天が、何をする気なのか、それが美琴には読めなかった。

「ふぅっ!」

佐天は、息を整えて、前、いや後ろを走るテレスティーナを見つめた。
いつ似なく、神経が研ぎ澄まされているのが判る。
何しろ、今佐天には、床にカーペットが見えるくらいだから。
車という物体は気流をかき乱し、その後方に連なった渦を生成している。
カルマン渦と名づけられたそれは、束ねた孔雀の羽模様みたいに渦の目を鈴なりに作るのだ。
佐天はその全てを一つ一つもぎ取り、自分の渦にした。
それだけでもう、空力使いの自分にとってのカーペットが、空に出来上がる。
飛翔は、苦手だろうと佐天自身も思っていた。渦で空を飛べれば苦労しない。
だが、応用次第では空を翔ける少女になら、なれるのだ。
ダンダン!と踏み締めるごとに渦を消費しながら、佐天はテレスティーナに肉薄する。
509 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:08:23.46 ID:srZnSgCXo

「あん? テメェ、殺されたいのか?」

爆発に振り回され、一時的に視界を失っていたテレスティーナが再び見たものは、アップで映る佐天の姿だった。
それを見て、テレスティーナは戸惑った。低レベルの能力者が、一体この工作機械に近づいて何をする? 何が出来る?
そのテレスティーナの混乱を、慢心とは言うまい。
佐天の伸びを正しく理解しているのは、この世でただ二人、佐天自身と婚后光子だけだった。

「――――ふ、やぁっ! ……ったぁ」

推進力を持たず、空気抵抗によって減速するのは佐天だけだ。
僅かについた工作機械との相対速度を、機体から出た落下防止用の手すりに掴まることで強引に殺す。
どう考えても、明日は腕の筋肉痛で苦しむことになりそうだ。
今、佐天がいるのは腰の辺りだった。
すさまじく大きな機体だけあって、佐天が掴まって体を落ち着かせるだけのはしごがついている。

「そんなところにいて、テメェ、休憩する余裕あんのかよ?」
「ほっといたら御坂さん達、着いちゃいますよ?」
「テメェを始末するのに時間なんかいるかよ。乳臭いガキが英雄気取りか?」

短くなってしまった腕でも、充分に届く位置に佐天はいる。
腕で自分の腰を叩けば工作機械は傷つくだろうが、人間を引き裂くのに必要な力なんて大したことは無い。
テレスティーナは腕を振り上げた。その一瞬のロスで、佐天には充分だった。

――――ガタガタガタガタン!

突然、テレスティーナが振り上げた腕が酷い振動を起こし始めた。
コックピットの中にまで、その異様さがはっきりと判るほどの騒音が鳴り響く。
テレスティーナは何事かと腕を止めた。むしろそれが命取りだった。

――――ガタガタ、バキン!

右腕が、肩から先を折って吹き飛んだ。あっという間に後方に流れ、機体は佐天へ干渉する術を失った。

「何?!」
「渦流共鳴<ボルテクス・レゾナンス>とでも申しましょうか、なんちゃって」

ちょっと高飛車な感じの師の口癖を真似て、佐天はそんな風に言った。

「おうちに帰ったらタコマ橋でググってみるといいですよ!」

カルマン渦は、固有の振動数を持っている。それが対象物の持つ固有振動数と一致する場合、
渦は物体と共鳴を起こし、すさまじい応力を物体にかける。
それは、かつて川にかけたコンクリート製の大橋すら崩壊させた現象だった。
高速で走る複雑な形状の物体、つまりこの工作機械にはうってつけの技だった。
振り上げた腕にまとわりつくように渦の巻きや直径をコントロールし、
佐天は自然の力を利用して工作機械の太い腕をへし折ったのだった。
510 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:09:49.83 ID:srZnSgCXo

「テメェ……殺す手段が他にないと思うなよ?」
「そっちこそ、あたしがコレやりたくてこっちに来たと思ってんの?」
「あぁ?」
「春上さんたちのところに、あなたを行かせない!」
「雑魚がいっちょまえに吼えてんじゃねぇよ!」
「学園都市の学生を見下すことしか出来ないあなたには、成長って言葉の意味は判らないんだね!」

佐天は、カルマン渦を使って、また同時に複数の渦を生成した。
腰というのは、機体の重心なのだ。それは二足歩行するシステムの基本だ。人間でもロボットでも代わらない。
そして、重心には重たいものが来る。
人間で言えば太い胴に詰めた内臓、特に膀胱であり、このロボットにおいては、エンジンだった。

「学園都市でも、コレだけ大型の機械を動かすための動力に電気は使わない。
 さっきからディーゼルが排ガス出してるもんね。じゃあ問題です。
 エンジンにきちんと空気が供給されなくなったら、どうなると思う?」

返事を佐天は待たない。
エンジンの吸気口付近で、佐天は渦に大量の空気を食わせた。
弁によって負圧となり、エンジンに流れ込むはずの空気が、渦に取り込まれてきちんと供給されなくなる。
酸素が無ければ燃料なんてただのガスだ。
すぐに、工作機械がスピードを落としたのがわかった。

「テメェ、止める気か! やらせるかよ!」

腕と出力がなくなっても、テレスティーナが切れるカードがなくなるわけじゃない。
テレスティーナはガンと片足についたブレーキを蹴りつけた。
ギャリギャリと音を立てながら、工作機械は円舞を踊りながら、急ブレーキをかけた。

「うあっ! う……く……!」

遠心力が、佐天を振り回す。
髪やスカートが引きずられ、手すりを掴んだ指に佐天の体重がのしかかる。
佐天の腕は、その加速度に耐えられなかった。

「あっ……!」

あっけなく、佐天は機体から引き剥がされた。
地面まで、5メートルくらい。そして自分は時速50キロくらいで吹っ飛ばされている。
何もしなければ、死ぬのは確実だった。
だけど佐天は、その心配をしない。それより先にすることがあるから。

「あばよ。さて追うかぁ」
「いってらっしゃい」
511 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:11:25.46 ID:srZnSgCXo

クスッと冷淡に笑い、小声でそっとそう呟く。
渦で吸気を絞りあげることなんて、永続的には出来ない。
むしろ本題はこっちだったのだから。
佐天は、ありったけの渦を、さっきは妨害をした吸気口に、全弾ブチ込んだ。
エンジンの排気量なんて、たかだか50リットル。
それは佐天の作る渦の体積と、ほとんど変わらない。
そんな狭い空間に、100気圧の渦を解放して気流を流し込めば、一体どうなるだろう。
答えは、ガウゥンッ!と、エンジンが吼える音だった。

「なんだっ!?」

テレスティーナは、加速するためにレバーをいつもどおり倒しただけだった。
エンジンはその入力に対応しただけの動きをするはずだった。
だが、あまりに過給気になったエンジンは、その出力を暴走させた。
人間の顔が引きつるくらいの加速を、工作機械が始めた。
もうテレスティーナの制御など、受け付けない。ブレーキすらも意味など無い。

「お、おい。止まれ! クソッ、壁が――。くあぁぁぁぁぁぁッッ!!」

両腕を失った、木原幻生の工作機械。
スポーツカーを凌駕する加速度でそれは高速道路のフェンスに突き進み――

ガッシャァァァァァァァァァァ!!

――すさまじい破壊音と共に、高架下へとダイブした。

「最後っ!」

佐天はそれをほとんど見届ける暇なく、自分のためのクッションを用意する。
スポーツカーを支えたノウハウがあるから、衝撃吸収にそんなに不安は無かった。
一番面積のある背中を下に向けるのにやや抵抗を感じつつ、佐天は渦を自分と地面の間で破裂させた。

バン、バン、バン。

断続的に渦を破裂させ、何度もバウンドしながら位置エネルギーと運動エネルギーを殺してゆく。
100メートルくらいかけて、佐天はようやくアスファルトの上に、どすんと落ちた。

「いったぁ……てか地面熱っ。でも、へへ」

微笑が、止まらない。
自分はやれたんだという思いが、佐天の中ではじけていた。
気づくと、青色のスポーツカーが、キュっと自分の傍で止まった。

「佐天さん! 佐天さん! なんて無茶するんですか!」
「あ、初春。急いでるんだから。私もすぐ追いかけたのに」
「そんなこと言ってる場合ですか! ほら、こんなにすりむいて」
「擦り傷はすぐ治るよ」
「他に怪我はないですか?」
「うん。まあ、ちょっと腕が痛いけど、骨折とかはなし!」
「良かったぁ……」

涙目の初春を、佐天は撫でてやる。
目線を挙げると、美琴と目が合った。

「すごいね、佐天さん」
「あたし、頑張りました、よね?」
「これだけやれるレベル2なんて、詐欺もいいところですわ。レベル3かも疑わしいと言いますか」
「もしそうなら、白井さんに並びますね」
「さあ、そう簡単には抜かせませんわよ。さ、急ぎましょう」
「はい!」

まだ、なすべきことがある。春上たちを助け出すまでは止まれないのだ。
随分と疲弊して、今後に問題があるのは間違いなかったが、
充足感で満ちた佐天は、それをものともしないくらい、気分が乗っていた。

512 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/13(水) 02:14:24.12 ID:srZnSgCXo
あー、やっと書けました。お待たせしてごめんなさい。
『ep.2_PSI-Crystal 09: 渦流共鳴 - Vortex Resonance -』おわりってことで。
バトルは書き直しの不安からどうしてもまとめて投稿になっちゃうねえ。
またコメントいただけると嬉しいです。

>>501
学園都市の経済はあんまり考えちゃ駄目な気がするので考察してないw
まああんまり経済のこと知らないんだけどさ。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 04:04:40.13 ID:IDHfgNKdo
佐天さん無双かもしれない、で乙

ああ....美琴の見せ場が消えてゆく....
まあコレはこれでアリだが
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 04:25:32.00 ID:IDHfgNKdo
>>508

うーん。渦から渦へ、次々に飛び移っていると思えばいいんでしょうか?

一瞬、一方通行の「黒翼」を連想したけど、やはり飛んでいるのとは異なるのかな。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/13(水) 09:30:57.29 ID:lMOCBgXz0
とんでもないもの生み出しちゃったよ光子ちゃん。
かっこよくなりやがって

>>500
そ、それはもてたの方で話題になった吹寄ssのことですかな?
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/13(水) 10:36:57.49 ID:h7SijcePo
おつ

>一番面積のある背中を下に向けるのに

一番体積があるところなら胸だったんだが…残念だ
いやおしりか、またおしりなのか!
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/14(木) 16:57:39.40 ID:FllGYWwAO
お尻なら仕方ないな
518 :476 [sage]:2011/07/14(木) 23:43:29.00 ID:LXuLrtRu0
>アンチスキルの名に相応しい、対能力者戦闘のスペシャリスト

おう、作中でネタにしていただけるなら、こんなに嬉しいことはない。
しかし忘れてはならない。このフレーズとほぼ同じ名乗りを上げたキャラが、既に原作にいることを。
そう、我々は忘れてはならない。学園都市の闇が生んだ都市型モンスター、内臓潰しのモツ鍋さんのことを。
……モツ鍋さんの対能力者戦闘術ってどんなんだったのかなぁ。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 23:47:08.14 ID:UxzF75Z1o
乙ですた!
いやあ、怒涛のバトル、かっけー!
サテンさんかっけー!
アホの子扱いだったのにくすりと笑って攻撃するとか師匠に似てきたーww

いや、能力をいかに使いこなすかという意味では師匠筋ですね。
持てる武器を最大限に活かす。素敵ですやん。

次回も楽しみにしてますよー
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 00:28:20.11 ID:GYspGX670
超乙です
威力は婚后さんに劣るけど、能力の汎用性は超えてるかもしれないね
佐天さんの身体検査⇒レベル判明⇒転校?が気になるところ
521 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/15(金) 13:57:08.01 ID:OBy97OHQo
>>513
美琴の見せ場は減るわなぁ。。。このSSでは主人公ではないわけで。
まあ、モブに成り下がるわけではないのですよ。
活躍の場が変わるということで。

>>514
そのとおりです。渦を足で蹴ってるので、空を飛んでるわけじゃない、という解釈ですね。
まあ地面に足着いてないんだから飛んでるともいえるけど。

>>515
もてたと同じスタート地点ではないです。というか全然違うところからひらめいて書いたからさ。
あとおっぱい成分濃い目で短い予定。もてたは長かったからな。

>>516-517
お尻スキーが釣れたwあんたがた佐天さんのお尻と胸に執着しすぎやw

>>518
どのキャラか分からんかったぞw SS2の人か。

>>519
不肖の弟子が師匠越えなるか。佐天さんは伸びまくりですね。

>>520
その話は作中のお盆の頃にやる予定ー
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/15(金) 14:36:39.37 ID:aMnzsUmAO
こんごーさんもやり方次第でまだまだ伸びしろ有りそうだけどなぁ。
触らなきゃいけないのは制限でも有るけど、色々応用利きそうに思える
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/15(金) 16:29:20.37 ID:qGEjYxnSo
おー 佐天さんエンジンの研究手伝ってた甲斐があった。

私事でいっぱいいっぱいで散漫な万全とは言えない
御坂の不足を十二分に埋めてくれそうで期待
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/15(金) 22:30:31.93 ID:N5AAWmQQo
圧縮比せいぜい10くらいのエンジンに100気圧の圧搾空気叩き込んだら
暴走する前にエンジンのヘッドが吹っ飛ぶと思うの(´ヘ`;)
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/15(金) 22:33:50.09 ID:cvC0p+QFo
そこはあれだよ、学園都市製のエンジンはヘッドが飛ばずに暴走しちゃう優れものなんだよ
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 23:20:11.00 ID:ZxnQt6eIO
さいせんたんのかがくぎじゅつってべんりだね!
527 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/15(金) 23:24:06.40 ID:OBy97OHQo
>>524
機械は実はあんまりよくわからんので頑張って調べたんだけど、
エンジンブローの原因になってるのってデトネーションによる機械的破壊か、異常加熱による溶損なんよね?
吹っ飛ぶってのはシリンダー内が100気圧の空気押し込まれて異常な圧力になったことで、
機械的に破壊されるってことだと思うんだけど、100気圧程度ならしばらくは耐えるんじゃね?
弾性限界を迎える応力って気圧に直すともっとでかい数字だし、
実際デトネーションで出る衝撃波が加える応力って、瞬間的だけど1000気圧はあるみたい。

……だから5メートルくらいは故障する前に大暴走するのも無理はない、って主張するのは無理かな?w
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/15(金) 23:32:03.66 ID:2QuEmTqlo
面白ければよし
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/15(金) 23:44:08.54 ID:u9I4F3dt0
20〜30年くらい進んでるから、そこまで問題にはならないんじゃね。

でも考えてみたら、ちょっとしょっぱい未来技術だな。
[たぬき]に辿り着くには1世紀半以上かかるし^^;
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/15(金) 23:52:17.89 ID:sOffP8KDo
30年進んでいるならあれは原子炉じゃなくて核融合炉だったのかしらん
531 :524 [sage]:2011/07/16(土) 00:23:21.16 ID:zMXVPzVro
>>527
いつも楽しく読ませてもらってます。佐天さんの活躍をみて初春さんも一念発起するのかなぁと妄想しつつ、今後の展開にwwktkしております。


 いやはや、自分自身は文系で自動車弄って遊んでるようなレベルの人間なんで具体的な数字出されるとチョッと
苦しいところ、あくまで経験則的なところから導いてるんで、実際どうなるかはやって見ないと判らないといった感じです。
 自分が想像してたのは暴走するのではなく、緩やかに停止するような感じで、
エンジンブロック自体が歪みはすれど大きな損傷を受けず、異常な高圧の空気を突っ込んだことによって
バルブか折損してエンジン終了か、それだけに留まらずバルブ自体が吹き抜けてヘッドカバーごと吹っ飛ばすんじゃないのかな・・・・?
といった感じです。まぁブロックとシリンダが無事なら高圧の圧縮空気で蒸気機関車のごとく動きそうですが・・・・(´ヘ`;)
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/07/16(土) 00:52:48.02 ID:TXjAhoH4o
単車でやらかした経験からしたら
異常過給によるブローなら普通はヘッド飛ばない
ピストン破損してコンロッド突き出して
それでもまだ圧がアレならバルブが飛んでタンクに刺さる

今回の描写だと
ブローしてるのにに暴走だから
ディーゼルの利点生かしてスーチャー的な感じで
排気からも動力とっててそれが異常高圧拾っちゃった…みたいな
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/07/16(土) 00:58:09.62 ID:TXjAhoH4o
あと思い出したんだけど
多気筒の同時ブローの場合
トラブったエンジンを分解する時
分解しやすくするために吸気側から
無理やり水圧かけてちょっと回すこともある
これはボート以上船未満のやつのケース
534 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/16(土) 01:38:00.54 ID:gKHRPC68o

二人っきりのトラックのコンテナ内。
当麻の傍に寄り添うインデックスが、そっと声をかけた。

「とうま」
「ん?」

シャツの袖をくいっと引っ張られ、当麻はインデックスのほうを向いた。
インデックスの瞳に現れていたものは、戸惑い。

「エリス、ちゃんと運転手を操ってるみたい、だね」
「だな。ちゃんと封鎖されてた道のほうに進んでるみたいだし、進路はあってるらしいな」
「そうだね」

当麻とインデックスは、エリスと三人で、先行する美琴たちを追いかけている。
車の運転なんてできない三人は、MARの隊員に魔術で暗示をかけて運転させているわけだが、
当初その役を受け持っていたステイルは今、後方で光子と別働隊の足止めに借り出されている。
だから、その代わりをエリスが引き受けているのだった。
きちんとトラックが正しい道を走っているということは、エリスが魔術を使えるという証明だ。
だから、それがインデックスにはショックで、不安の種なのだった。

「……エリスは、どうして学園都市に来たのかな」
「さあな。気になるか?」
「うん。私は必要悪の教会<ネセサリウス>の人間だから。エリスの所属してるところとは、相容れないかも」

それが、インデックスの不安だった。
必要悪の教会はイギリス清教に仇なすあらゆる怨敵を滅ぼす機関だ。
エリスがイギリス清教に与さない魔術師だったなら、つまり自分とエリスは敵同士だということになる。
……魔術を持たない人となら、こんな心配は要らないのに。インデックスは内心でそう苦悩した。
魔術世界の歴史は嫌になるほど遠大だ。それは人類の歴史とイコールで結ばれる。
その長い時間の中で、あらゆる魔術結社が互いにしがらみを作り、憎しみあっている。
インデックス個人には、簡単に解きほぐせるようなものではない。

「なあインデックス」
「何? とうま」
「さっきエリスには聞いたけど。エリスがもし必要悪の教会の敵だったら、お前はどうするんだ?」
「どう、って」
「殺し合いをするのか?」
「そんなの、やだよ。せっかく……友達になれたと思ったのに」
「なら、それでいいじゃねーか。エリスはお前を裏切らない、エリスはそう言ったぞ」
「うん……」

内心に抱える悩みは、エリスへの疑念ではなかった。
そんなことじゃなくて、もっと二人を縛るしがらみが、敵対することを強制するような、そんな不安。
自分は、確かに好き勝手に誰とでも仲良くして、おいそれと何処へでも行っていい存在じゃない。
魔術世界の最低最悪の兵装、禁書目録<インデックス>なのだから。
ぽふん、と当麻に頭を撫でられた。

「むー、また叩いた」
「難しいこと考えすぎだろ。エリスはいいヤツだ。彼氏はぶっちゃけ口の悪い野郎だけど。
 なにか一緒にいるのに問題が生まれるんなら、その時は皆で頑張ってなんとかすりゃいい。
 それだけだろ?」
「うん、そうだね」
535 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/16(土) 01:39:09.45 ID:gKHRPC68o

冷房の効いた室内で、インデックスはベンチに座ったまま当麻の二の腕に頭を預ける。
インデックスの大好きな当麻は、基本的にこういう人だ。
物事をなんでも楽観的に考えていて、問題が生じたら自分でそれに立ち向かう人。
きっと、今当麻が言ったことを、何かあれば当麻は実行するだろう。
今、知り合いの春上に起きたことを、解決するためにここにいるように。

「とうま」
「ん?」
「とうまって、ホントに変な人だよね」
「……なんだよそれ」

急にそんなことを言われて顔をしかめた当麻にインデックスは微笑む。
自分とエリスは、春上たちの求め向かう最前方の魔術師だ。ステイルはかなり遅れている。
きっと、自分達にも役目があるだろうという思いがインデックスにはあった。

「手遅れにならないうちに着いて、なんとかしなきゃ」
「ああ」
「そういえばとうま。さっき、みつこが苦しんでた音なんだけど」

インデックスには、ずっと引っかかっていることがあった。
その言葉を受けて、当麻が病院での出来事を思い出した。
光子を助けられなかったことに、ズキリと心が痛んだ。
それをインデックスに気取られないよう、表情を変えずに答えた。

「ああ。キャパシティダウン、だっけか」
「あれってどういう仕組みか、とうまはわかる?」
「いや。さっぱり。っていうかあんな便利であぶねえモン、もっと有名でいいと思うんだけどな。
 それに他人の能力に干渉するのって、結構難しいことのはずなんだけど」

当麻は首をかしげた。キャパシティダウンの仕組みがわからないのは勿論だが、
それよりもインデックスの言いたい事がわからなかった。
インデックスが学園都市のテクノロジーに興味を見せるのは珍しい。
鋭い目つきであの音を反芻し、インデックスは端的に自分の考えを口にした。

「たぶん、あれには魔術が使われてるんだよ」
「は? 魔術?」
「それもすごく原始的なものだね」
「いや、だってあれ学園都市製だろ? まさか学園都市に魔術師がいて、そいつが作ったって言うのか?」
「ううん。もしそうなら、もっと酷いものを作るんだよ。超能力者に魔術を使わせれば、死なせることは簡単なんだから。
 まあ、そんなことをすればきっと超能力者と魔術師が正面衝突することになって、酷い争いになるからやらないだろうけど」
「お前の言ってることが、全然判らないんだが」
「魔術っていうのは、結構簡単に起こっちゃうんだよ。必要な手続きを踏みさえすれば、誰でも使えるんだから。
 極端に言えば主や聖母マリアに祈りを捧げているだけでも、発動するものなんだし。
 なんのきっかけかは分からないけど、きっと試行錯誤の中であの音楽が出来ちゃったんだろうね。
 たぶん、あの音を聞いたら、すごく原始的な魔術が発動するんだと思う。
 私達魔術師にとっては無意識に防御できちゃうくらいちっぽけなのだけど」

インデックスが、心配げに前方を眺めた。もちろん壁で何も見えないのだが。
ついさっきここにいた美琴や、白井、初春、そして佐天。
皆、超能力者のはずだ。無事でいてくれることを、インデックスは祈った。
536 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/16(土) 01:45:31.42 ID:gKHRPC68o


エリスは、トラックのコンテナ内で交わされた当麻とインデックスの会話を、助手席で聞いていた。
後部の音はマイクで拾われ、運転席に聞こえているのだった。
こちらの声も、伝えようと思えば伝えられる。だがエリスはそうしなかった。罪悪感が、それを邪魔した。
今、運転手を暗示にかけているのは、魔術ではない。エリスの使える超能力だった。
もちろん、そんなこと言える訳がない。さっき、ゴーレムのシェリーを見せてしまった。
超能力と魔術を同時に使えることを、知り合いに明かすのは怖かった。
ザッ、と無線の入る音がする。

「こちらイエローマーブル隊。マーブルリーダーおよびマーブルパープル隊、応答願う!」

何度も繰り返された呼びかけだ。リーダーというのは、何度か話に出たテレスティーナという人だろうか。
一向に呼びかけに応じないというのは、どういう事なのだろうか。
そう思いながら、エリスは前方に目を凝らした。ふと、無人のはずの高速道路上に大きな何かが見えたから。

「何だろ、あれ……? ちょ、ちょっと止めて!」

それがなんなのか、シルエットがはっきりしたところで、エリスは慌ててトラックを静止させた。

「上条君! インデックス」
「どうした? エリス」
「ハッチ空けるから、外に出てみて! なんか大きいのが」
「わかった」

エリスも助手席の扉を開き、慎重に足場を固めながらトラックから出た。
すぐさま、二人と合流する。

「大きいのって?」
「あれ」

エリスは当麻に問われ、さっと指を差した。そこには、高さ1メートル強の鉄塊が転がっていた。
二人には、どことなく見覚えのある形状。

「これ、建設現場でよくある機械の……」
「腕、だな。でもなんでこんなトコに?」
「とうま、エリス! こっち!」

気づくとインデックスが少し先へと走っていた。
そちらを見ると、高速道路の側壁が、ごっそりと破壊されて外の世界をのぞかせていた。

「コレやっぱり、交戦の後か」
「下に何かあるんだよ!」

当麻とエリスはインデックスに追いつき、恐る恐る、下を覗き込んだ。
そこにあったのは、先ほど二人が想像した、建設現場の工作用機械の本体だった。
ただもちろん、高速道路から落ちた分の衝撃で、下半身が酷く壊れていた。

「中に乗ってたのが、あいつらって事はさすがに無いよな……?」
「そりゃ、こんなのに乗ったってメリットないしね」

エリスとそう頷きあう。
ならば、乗っていたのは恐らく、MARの人間なのだろう。
そう思いながら、ふと当麻は気づいた。
工作機械は、股関節が破壊され上半身が前につんのめった形になっている。
その背中、人が入るにしては大きいハッチが、あまり壊れていない状態で解放されていた。
人が死んでいないのは関係すべきことかもしれないが、それでも、無人なのは気になる。
搭乗者は誰で、一体何処に行ったのか――

「とりあえず、見に出たはいいけど、何にもなさそうだね」
「うん。とうま、早く戻って追いかけよう!」
「お、おう」

二人に促され、当麻はふたたびトラックに戻った。
――――それが、佐天たちが目的地である木原の私設研究施設を制圧したのとおよそ同時刻だった。
537 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/16(土) 01:49:15.68 ID:gKHRPC68o
>>531
あ、ごめんなさい。つい理系のノリで……。
まあ、好意的に解釈すれば作中みたいな挙動を起こさないとも言いきれないので、
テキトーに言い感じに脳内補完して置いてください。
しかし自動車弄るってスゲェな。そういう、自分の手を動かして何かできるんはいいですね。

>>532
うーん、ごめんなさい。
専門用語が多くてちょっとイメージがしにくいんですが、
まあ、良いようにとれば暴走もありかも、ってことでいいでしょうか。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/07/16(土) 09:04:41.77 ID:kJbSYDewo
>>537
魔法の言葉をどうぞ
っ【仕様です】
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/16(土) 12:23:13.20 ID:oeJ2N5yD0
エリスのフラグが積み重なっていってるようにしか見えないけど、その分、ていとくんの活躍が楽しみでござる
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/07/16(土) 22:45:28.48 ID:69UXrDjAO
まあマッハ2で飛行する戦闘ヘリに比べればこのくらいは…
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/17(日) 02:30:15.73 ID:Ixxzs49M0
今はていとくん雌伏の時だ後に見せ場が来るそうだよね作者さん。

吹寄スレがたってて俺狂喜乱舞
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/07/17(日) 12:04:51.34 ID:tBJk62yAO
そういや時速1000キロ以上でるバイクもあったな
ほんとなんでもありだな学園都市
543 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/17(日) 19:21:19.04 ID:F2SCVadmo
>>539 >>541
ていとくんが頑張ってくれなかったらエリスはすごく不幸になるしなぁ。きっと。
今は登場してないけどそのうち頑張ってくれるはず……!

さて、最近浮気してまして。
吹寄「上条。その……吸って、くれない?」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310749926/
エロい吹寄さんが書きたくなってカッとなってやった。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/17(日) 22:11:38.37 ID:ZgFhmalZ0
佐天さんとテレスのガチおっぱいバトルが始まると聞いて(ry
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 22:33:30.64 ID:j9e9GvTQ0
吹寄と聞いて(ry
早速読ませてもらいます!

テレスティーナのおっぱい見たいと思わないから
佐天さんのおっぱい大勝利。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/18(月) 07:39:00.40 ID:IduVwwyAO
あちらではおっぱいを
こちらではおしりを
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 09:52:48.54 ID:Unt5PSrDO
おしり対決なら、美琴も黒子も初春も参戦だな。

読み返してて、転校なら試験ネタもあるのかな
548 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 16:56:47.40 ID:EBQJ1zI1o

カツカツと、佐天たち五人は階段を下りる。
研究所にたどり着いてすぐ、佐天達は研究員達の無力化を済ませた。
武装をほとんど道中に配置したせいか、この施設にはパワードスーツの一体もいなかったので制圧は容易だった。
その後すぐに初春が電源の管制室をハックして調べた結果、施設の最下層の消費電力が不自然に多かったため、
五人はそこへと向かっているのだった。

「この下に、春上さん達が……」
「きっとね」
「無事で、いてくれ……!」

先頭を走るのは木山だった。
五人の中で飛びぬけて最年長というのもあるが、普段全く体を動かさないのだろう。
一番息が切れて辛そうだった。だがそんな体の都合なんてお構い無しに、木山は誰より先を急ぐ。
その努力をするかしないかで、自分の教え子達がまた悪夢の泥の中に沈んでいくなんて、想像するのも恐ろしい。
カツカツとパンプスのかかとを響かせ、木山は無骨なつくりの階段を駆け下りた。

「これで終わりか」
「着きましたの?」

五人とも息を整えながら、最下層の入り口をくぐって、辺りを見回した。
天井が随分と高い。壁際には鉄骨がむき出しになっていて無骨な作りをしている。
おそらく、そこはさっき佐天が退けたあの工作機械があったのであろう。
床は全て金属板の打ちっぱなしで、おそらくその広さは普通の学校の体育館より大きい。
明かりらしい明かりが無く、全て計器類の放つ光だったから、視界がかなり限定されていた。

「あの子たちは……!」
「木山先生、あっち」

佐天が、入り口から横手のほう、10メートルくらい離れたところに何かを見つけた。
皆でそちらを振り向く。どうも、横たえられた筒のようなものが見えた。
そちらに早足で近づくと、それが人を中に横たえた、シェルターなのが判った。
そして、中に誰がいるのかも。

「春上さん! 春上さん!」

初春が駆け寄り、アクリルでできた透明のカバーをドンドンと叩く。
中で、春上はベージュの病院着を着て静かに眠っていた。
初春の呼びかけか、あるいは衝撃音か、それに反応して春上がうっすらと目を開ける。
ういはるさん、と唇が動いたのが、初春の目に見えた。
良かった。春上さん、おかしくなってない。
わっと喜びが心の中を駆け巡る。
そして音が聞こえないのに気付いて、慌ててカバーを外そうとあれこれ見回す。
その初春を優しく見つめ、木山は春上の寝かされたシェルターより先の、手すりで遮られた先にある闇に目を凝らした。

「これがライトのスイッチかな、っと。……お」

遠くで、ぱちりと佐天がスイッチを押した。
初春たちがいる入り口近くに小さな明かりがいくつか灯り、そしてそれと逆に、
木山の見つめていた先が、大きくライトアップされた。
急な光量の変化に目を薄くしつつ、木山と、そして近づいてきた四人がその先を見つめた。

「あ、みん、な。よかった……!」

心の底から教え子を案じた、木山の漏らした声がフロアに響く。
学生の四人もそれを聞いて、嬉しくなった。
そうやって学生のことを心から好きでいてくれる先生がいるというのは、やっぱり嬉しいことだから。
549 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 16:57:31.10 ID:EBQJ1zI1o

「木山先生、すぐシステムをハックします。はやくあの子たちを助けてあげましょう!」
「あ、ああ。そうだな。この施設になら、体晶のファーストサンプルもあるかもしれない」
「じゃあ私達はそれを探します!」

しばらくすれば、当麻たちも追ってきてさらに人では増えるだろう。
黄泉川にしかるべき相談をすれば、体晶の捜索を警備員に手伝ってもらえるかもしれない。
開けた未来に心を軽くして皆がなすべきことをなそうと、決意した。
――――その瞬間だった。

「佐天さん! 後ろ!」
「えっ?」
「……この、クソ餓鬼どもが!」

破損の酷い紫のパワードスーツ。そしてスピーカー越しに何度も耳にした、その声。
工作機械と共に退けたはずの、テレスティーナがそこにいた。
佐天たちに見えないところで、カチンとある装置のスイッチを入れる。

「――っ! あ、ぐ?!」
「さっきの礼だ!」
「がっ!!」

パワードスーツの回し蹴りが、佐天の胴をなぎ払った。
1メートルくらい飛んで、さらに地面をごろごろと転がる。
その痛みに、佐天は意識が飛びそうになった。息が苦しい。横隔膜が、きちんと働いていないらしかった。
そして何より、頭が痛い。ズキンズキンと痛みを訴え、あらゆる演算が滅茶苦茶になる。
背後で、キィィィィィィィィィと、耳障りな音がしていた。

「これ、さっきの――くっ」

壁に手を着いて、美琴がテレスティーナを睨みつける。
美琴にはこの音に、聞き覚えがあった。

「あぁ、お前は知ってるだろ? キャパシティダウンさ。
 まさかここにはないと思ってたのかぁ? お花畑はほどほどにしろよ?」
「貴様ぁ!!!」
「あん?」

キャパシティダウンに、学生達四人は苦しんでいた。
白井が最も酷く、立てなくなって地面に膝を着いている。
初春もシェルターに手を着いて耐えていて、なかの春上が心配そうに呼びかけているらしかった。
佐天は特別テレスティーナに気に入られたのか、さらに弄ばれようとしているところだった。
そして残った木山が、生身でテレスティーナに挑みかかる。

「馬鹿かよ」
「ぐ、あ、ガハッ!」
550 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 16:58:40.75 ID:EBQJ1zI1o

パワードスーツを着ている時点で、生身の木山との間には大きな開きがある。
ましてテレスティーナはある程度格闘のたしなみもある身だ。
お勉強ばかりの研究者に、負ける要素など無い。
なんの衒いも無い前蹴りを木山は喰らって、佐天とは別の場所に蹴り飛ばされた。

「さて、お前、たしか佐天って名前だったよなぁ」
「――う」
「ちゃんと返事くらいはしろよオラ!」
「あ、ぎ、ぎ」

テレスティーナが横たわる佐天の頭の上に、パワードスーツの足を乗せた。
鉄板の地面との間で佐天の頭蓋がギシギシと歪んだ音を立てる。
その音に、心がすくむ。このまま頭を壊されてしまうんじゃないかと、不安が募る。
何より楽しそうなテレスティーナの声が、佐天の勇気を奪っていく。

「はい、お名前を教えて頂戴? じゃないと、次は内臓潰しちまうぞォ?」

ガン、と肩を蹴りつけて、佐天を仰向けにする。そして腹の上に足を乗せ、踏み潰し始めた。

「さて、ん、さん……!」

美琴は殺すくらいの視線で、テレスティーナを睨みつける。
それに気付いたテレスティーナが、涼しげにその視線を受け止めた。

「まあ落ち着けよ。次はテメーを潰してやるからよ。
 コイツは大金星を挙げたんだ。私がお爺様に頂いたあの機械をブチ壊すってマネをよぉ」
「うあぁぁぁ!」

グリ、とテレスティーナが足を捻る。不自然に腹に食い込んだその足に、佐天は悶絶した。

「やめなさい……!」
「なら止めてみろよ。ったく、レベル5のテメェを警戒してたのが仇になったぜ。
 伏兵にやられるなんてよ。このガキは褒めるに値するから、ちゃんとご褒美をやらねーとなぁ。
 ……にしても、テメェのショボさにはむしろ文句を言いたいくらいだ。余計な警戒しちまったからな。
 『場の統合者<インテグレータ>』の開発コードが泣いてんぞ?」
「インテグ、レータ?」
「……あ?」

聞きなれないその響きを、美琴が反芻する。
知らなさそうな素振りにテレスティーナも首をかしげた。
551 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 17:00:40.68 ID:EBQJ1zI1o

「お前、絶対能力進化<レベル6シフト>の計画知ってるんだろ? 自分の開発コード名も知らねえのかよ。
 まあ、序列の第三位ってのに比べて、絶対能力進化のプランの中ではお前は絶望的な落ちこぼれ扱いだがな」
「何を言ってるの?」
「隣に11次元を観測する能力者が侍(はべ)ってるのだってそれが理由だろ?
 あらゆる場を統合するにはそれだけの次元に渡って能力を展開する必要がある」
「え? 黒子は、そんな――」
「まあその辺りはどうでもいい。テメェは汎用性っつう素晴らしい特徴があって、学園都市に愛されてるんだ。喜べよ。
 お前のコピーが一番使いやすいってのは、いろんな意味で真実だからなァ」
「――っ!」

そう言って、テレスティーナは美琴が心に負った傷を抉る。
なぜ、体細胞クローンの作成の対象となったのが自分だったのか。
それはテレスティーナの言うとおり、発電系能力者<エレクトロマスター>という能力の普遍性にあるだろう。
能力の素性がわかりやすいし、応用も幅広い。それが仇となったのだろうということは、わかっていた。
そしてふと、テレスティーナの言ったことが耳に引っかかった。
――いろんな意味で、とはどういう意味だ?
美琴の顔を見てテレスティーナは満足したのだろう。佐天を踏みつけるのを止めて、壁際へと悠然と歩いた。

「コレ、なんだかわかるか?」

左手に、大振りで細長い砲身を持った何かを装着して、テレスティーナがニヤニヤと美琴のほうを見た。
銃の先を誰かに突きつけるでもなく、見せ付けるように全体を美琴の視界に入れる。
その砲身に刻印されたアルファベットに、美琴は気付いた。
『FIVE_Over
 PROTOTYPE_"RAILGUN"』
「それ――」
「プロジェクト・FIVE_Over。そういうのがもう始動してるのさ。
 テメェに拮抗するには必要かと無理矢理横流ししてもらったんだが、別に必要なかったな。
 ま、テメェのお友達は全部コレで殺してやるから、喜べよ。
 お前の能力はホント、大量殺戮に向いた良い能力だよなぁ」
「!? そんなの、させない――!」
「んなこたァ自分で動けるようになってから言えよ」

その武器は、おそらく、自分の能力を元にして開発された最新の兵器なのだろう。
美琴は、その刻印で悟った。
また、だった。良かれと思い必死になって磨いてきた自分の能力。
誇りにさえ思っていたのに。知らないところで、誰かがそれを利用している。
それも美琴の望まない、最悪の応用方法で。
それが、たまらなく悔しくて、怖い。自分の能力で、友達が死ぬなんて。
睨む美琴など眼中になく、哄笑を撒き散らしながら、テレスティーナは春上のほうへと近づいた。
進路上の白井と木山を蹴り飛ばし、シェルターの前に進む。

「やらせ、ません……!」
「ったく、メンドクセーんだよ」
「あ、ぐっ!」

開いた右手で初春を掴み、横に投げ飛ばした。

「お前、春上と仲良かったよなぁ。先に死なせるのは興ざめだな。
 ちゃんと、春上がこの学園都市の夢になるところを、見届けてから死にな」

カタカタと片手でテレスティーナがコンソールを操作する。
シェルターの中に何かが噴霧され、くたりと春上が意識を失って倒れた。
552 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 17:01:48.42 ID:EBQJ1zI1o

「春上、さん……」

誰も、動けない。誰しもが動け動けと、体に言い聞かせているのに。
その悔しげな顔を、テレスティーナは愉快そうに見下ろしている。

「やめ、なさいよ……学生は、アンタ達のモルモットじゃない!」
「いや? モルモットだろ? 一番弄ばれてるお前が一番わかってるんじゃねーかよ」
「私は……そんなの認めない!」
「別に認めてくれとは言ってねえよ。モルモットを実験に投入するのに本人の意思確認なんてするわけ無いだろ?
 さて、準備は出来ちまったぞ? ほら、コレで暴走能力どもから神経伝達物質の抽出が始まった。
 春上に届くまで、もうちょっとだ。喜べよ。お前らは、レベル6が生まれる瞬間に立ち会えるんだ」

タン、と始動キーを押して、プレゼントの包装をあける子供みたいにワクワクとした目でテレスティーナは前を見つめる。
心の中で、髪を撫でてくれる優しい祖父を思い出す。またきっと、これで会える。また褒めてもらえる。また愛してもらえる。

「お爺様。不肖のテレスティーナですけれど、これでお爺様と私の夢を叶えて見せますから……!」

喜びに、体中が震えそうなくらいだった。
このときのために自分は生まれて来たのだと、テレスティーナは思った。

「あの子たちにそんな衝撃を与えたら、覚醒してしまう……!」
「えっ?」

木山がガクガクと足を震わせ、必死に立ち上がろうとする。だがまるで下半身が反応していなかった。
無理もない。パワードスーツに痛めつけられたのだから。佐天も、同じ境遇だった。
頭を踏みつけられたせいで、首が不自然な痛みを訴えている。動かすとビキリと痛みが走る。
内臓を踏みつけられたせいか、体全体が酷く重い。血を吐かずに済んだのは、行幸なのだろう。
木山の発した言葉に、テレスティーナが反応した。

「ああ、そういやコイツラ、そういう面倒があるんだっけな」
「早く、止めないと……」
「別に良いだろ。レベル6が誕生すれば、学園都市なんざどうなったって」
「え?」

呟いた佐天を、テレスティーナが見た。
ヒトを見つめる、視線ではなかった。

「この街は実験動物の飼育場だろ? テメェもそういや木山のモルモットだったらしいじゃねえか」
「それは……」

木山が、反論を失ったように歯噛みし、テレスティーナから視線を逸らす。
否定できない事実だった。確かにそんな風に、木山は学生を私欲のために使ったことがあった。
……その表情を見て、佐天は思う。あれが、学生達を実験動物扱いした人のつくる表情だろうか。

「違う」
「お?」
「木山先生は、アンタなんかと違う。人をモルモット扱いして笑ってるアンタなんかとは――!」
「まあ、そうだな。私のほうが、ずっと高みにいるからな。さて、しばらく暇なんだ。
 もう一回相手してやるよ。その生意気な目をさっきみたいに怯えさせるのは、楽しそうだ」
「くっ……!」
553 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 17:03:36.04 ID:EBQJ1zI1o

ガシャガシャとパワードスーツを揺らし、テレスティーナが跪く佐天の前に立つ。
ゴルフグラブでも振るように、左手に装着した砲身で佐天を殴り飛ばした。

「あがっ、う……。い、あ、あぁぁぁぁぁ!!!!」

転がった佐天の右の腱に砲身を突きたてグリグリと踏みにじる。
激痛が体を走り抜けて、嫌なのに、抗いたいのに、顔から鼻水と涙がこぼれて視界が乱れた。

「そうそう! その顔! 良いねぇ、もっとやれば命乞いでもし始めるか?」

折れるもんか、と佐天は強がる。
そうしないと、折れてしまえば、どこまでも自分が卑屈になる気がした。
痛いものは痛い。怖いものは怖い。そう開き直るのは、甘美な誘惑だった。
次の一撃が来るのに耐えていると、ふと、テレスティーナが視線を上げた。

「きた! 早いじゃないか。よし、お前も春上の晴れ姿、見たいだろ?」
「うぁ! あああ!」

ブチブチと髪が嫌な音を立てる。
パワードスーツの腕が無理矢理佐天の髪を引っ張り、佐天を引きずっているのだった。

「さてん、さ……」
「お前も特等席だ」
「あっ!」

どさりと、佐天は初春と一緒に春上のいるシェルターの前に転がされた。
中で、春上は静かに気を失っている。

「ほら、見てみろ。あの無痛針の中にある液体に、体晶が溶け出してるんだ」

宝物を自慢する子供のように、あるいは自分の仕事を自慢する親のように、
テレスティーナはシェルターの中の様子を佐天と初春に解説する。
胴を押さえつけられ身動きの出来ない二人は、それを眺めることしか出来ない。

「……春上さん! 目を開けて! 逃げて!!!!」

もう、そんな悲鳴を上げることくらいしか初春には出来なかった。
どうにもならない現実だけが、淡々と時間を勧めていく。
すっと、春上の首元に、無痛針が押し当てられた。

「あ……そんな」
「さぁて! やっと、このときが来た! ほら春上、さっさと目覚めな!」

喜色満面で、テレスティーナが声をかける。
防音性の高いシェルター越しにその声が届いたはずも無いが、ぱちりと、春上が目を開いた。
ぼんやりと、天上を見つめる。

「どうだ? 新しいお前のための世界は、一体どんな風に見える? なあ春上」
554 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 17:04:58.47 ID:EBQJ1zI1o

テレスティーナが、聞こえもしない春上に、そんな優しい声をかけた。
母親なのだ、テレスティーナは。そんなつもりで、彼女は春上に声をかけていた。
そっと半身を起こして、春上はテレスティーナを見つめ、そして初春と佐天に目をやった。

「春上さん!」
「私です、初春です! わかりますか!」

その呼びかけに、春上はまるで反応を示さない。
やがて、なにか自分の体に違和感を感じたようにうつむいて、そして。


どろりと、鼻や口から、血をこぼした。


「春上さん!!」
「大丈夫!?」
「なんだと!? おかしい、こんなはずじゃない!」
「こんなはずって、春上さんを止めて!」
「指図してんじゃねえよクソガキが!」

春上が、シェルターの中で咳を続ける。そのたびに押さえた手の隙間から血がこぼれた。
空いた手で握り締めたシーツが、あっという間に赤く染まる。

「クソッ! 何でだ! ちゃんと全部、プランは上手く行ってた!」

コンソールを叩き、実験を中止しようとするテレスティーナ。
そこに、けたたましいアラームがなった。

「なんだ? ……地震か! クソ、この面倒なときに……!
 まあいい。あの連中の体晶は用済みだ。死ねば地震は止まるんだし、もうお払い箱でいいか」
「やめろ!!」

木山の悲痛な叫びが響く。気付けば回りで、低く唸るような音が始まっていた。
一体、どれほどの人間を巻き込んで、ポルターガイストが起こるのだろうか。
あの子たちを、絶対に死なせたくない。
それが木山の願いだ。だけど、それが酷く空虚に聞こえる。

「こんなの、ひどいですよ……」
「初春」
「何処から止めたらいいのか」
「泣いちゃ駄目だよ。出来ることを、探さないと」
「でも、この音が」

それが、一番問題だった。
これがある限り、木山以外はまともに歩くことさえ出来ない。
そして行動を何も起こせなければ枝先達がテレスティーナに殺される。
春上だって、テレスティーナの手に負えないかもしれない。死んでしまうかもしれない。
そんなのは、絶対に嫌だ。
佐天は、シェルターの縁に手をかけて、必死に立ち上がる。
チャンスが欲しい。今一瞬だけでいいから、皆が幸せになれるためのチャンスが。

「――佐天!!!!」
「えっ?」

その時。どこかで聞いた男の人の声が、フロアに響いた。
たしかそれは、ツンツン頭の高校生の。
上条当麻の声がした。
555 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/18(月) 17:08:58.97 ID:EBQJ1zI1o
『ep.2_PSI-Crystal 11: 踏みにじられる想い』おわりっと。
さて、次辺りフィナーレっすね! やっときた!

>>544
おっぱいとかそんな雰囲気じゃねーだろばーかばーか
……ごめん、さすがに期待はされてなかったと想うけど、こちらはガチバトルです。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/18(月) 17:30:03.55 ID:ayE88P/eo
乙〜
きゃー、マジ上条△(棒)
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/18(月) 19:07:20.41 ID:twKkJFr80
上条さんはシステムを壊す代わりに自爆装置を起動させそうで困る。
原作よりすごいことになってきたな
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 19:54:50.89 ID:uNaz5ucTo
原作は佐天さんだけが動けたからキャパシティダウンをどうにかできたんだったな

上条さんはキャパシティダウンを止めろとどんだけ言ってもテレスティーナに殴りかかりに行きそうな気がするが
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/18(月) 21:09:52.72 ID:sYsFAGGgo
上条説教パンチ→テレス吹っ飛ぶ→キャパシティダウンにぶつかる
これね!
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/18(月) 21:50:56.94 ID:FALzyjW6o
パワードスーツ着たただの人相手じゃ上条さんは役に立たんだろう
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/18(月) 22:15:10.92 ID:WoIBuZB8o
乙です
インデックスさんがキャパシティダウンのことを魔術だって言ってたしインデックスさんの活躍が来るかな?
しかし皆がピンチな時に駆けつけるのはやはり王道でカッコいいな
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/18(月) 23:03:35.79 ID:sYsFAGGgo
そういえばそんな伏線があったな
上条さんがいるだけで音の波長が歪んで効果を発揮しなくなって
復活した能力者連中にフルボッコとかそんなんだろうか
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/18(月) 23:34:27.56 ID:Z3OdbXo7o
いいところで切るなあ…
次が凄い気になる
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 02:50:08.49 ID:MbAWhOp30
まとめから一気読みしてきたぜぃ
なんか誰かとくっついた上条ちゃんって段階で面白い。

あとひどい話だがこれだけ報われてないのに、どこの美琴より可愛いと思ってしまったw
次回も期待
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/07/19(火) 07:42:30.38 ID:Gf7IrI8Ro
>>561
インデックスも活躍ほしいね
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/19(火) 12:17:34.46 ID:QUw2HTcv0
バカって言ったそっちの方がばーかばーか

乱雑解放終わったらエリス&ていとくんのターンだな
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/19(火) 14:21:36.22 ID:gzpC4ZIN0
> 「――佐天!!!!」
こんなときでもスルーされる美琴たんww
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/19(火) 18:15:51.44 ID:bgKBCf8Ao
今のところ描写を見る限りで一番重傷を負ってそうなのが佐天さんだからじゃないかな<美琴スルー
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 18:21:22.85 ID:6c6gPKhIO
>>554

あ〜アレだ。こちらのSSの伏線からだと、上条さんが触れている能力者はキャパシティダウンの影響からは逃れられそうだが、能力自体が使えなくなるので本末転倒だな。はたして上条さんに見せ場があるのだろうか。インデックスたちに期待。

キャパシティダウンの働きがあくまで音波(振動?)なら、空力系の能力者は自分自身ぐらいなら防御できそうな気がするが……。無理?
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 19:29:08.34 ID:Y444SHO00
超乙!
佐天さんの大切な体が心配過ぎるぅー
この状況、上条さんはわからないけど…インデックスとエリスがキーポイントになりそう
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/19(火) 22:28:32.82 ID:PTmSJCbf0
佐天さん重傷で流石に妹達編介入は無理かな。
妹達と遊ぶ佐天さん達とか見てみたかったが・・・
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/19(火) 22:58:45.89 ID:LfWpWt5Mo
夏休みは佐天さん転校準備とかもありそうだしなぁ
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/07/19(火) 23:26:49.68 ID:ati8Z8rU0
それでも冥土帰しなら、冥土帰しならきっとなんとかしてくれる…!
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 19:01:19.77 ID:zyqH1B9S0
>>570
 トラックの中でのインデックスと当麻の会話でキャパシティダウンの事を
 「私達魔術師にとっては無意識に防御できちゃうくらいちっぽけなのだけど」
 というのが気になる。
>>571
 一方通行のプラズマを婚后さんと佐天さんの師弟コンビがが吹き飛ばすんですね、わかります。
 妹さんの出番が…姉妹揃って空気になりそう。

>>572
 実際に常盤台に転校するとしてレベル4の奨学金で常盤台の学費&寮費払えるのかな…
 まあ、その前に常盤台の授業に佐天さんがついていけるかわかりませんが
 よく他のSSで美琴が当麻の家庭教師やる話があるけどこの場合は左天さんの家庭教師やるかも。
 黒子のセクハラに耐えかねて佐天と美琴が同室、というのも面白いかも。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 00:10:20.49 ID:pRSlNiqB0
>>573
冥土帰しなら全治三日ぐらいで治しそうですね。

>>574
>レベル4の奨学金で常盤台の学費&寮費払えるのかな…
あれだけの施設を学費だけで運営できるとは思えないから逆に学費や寮費は格安か無料なんじゃないかな。
576 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/21(木) 02:03:20.21 ID:lJO/VxKRo
んーこっちも更新したかったが時間が無かった。すまん。

>>574
レベル4なんて常盤台でも希少だし、お金を理由に学生を弾くことはないっしょ。

>>567-568
描写が不足してたね。ごめん。後で直します。
一番スポットライトの当たってるのが春上のいるシェルター付近で、
そこでテレスティーナから初春と春上を庇う感じに佐天が立ってるので、
上条さんは佐天さんを呼んだ、というのが真相。美琴は影にいたのよ。

>>564
ご新規さんいらっしゃい。嬉しい。
美琴を可愛く思ってもらえてありがたいです。あれだけ美琴の扱いが鬼畜なのにw
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/21(木) 03:00:29.41 ID:kbKaIxI/o
佐天さんは完璧レベル4扱いか
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/21(木) 19:45:00.93 ID:rkyAAbzc0
公的にはレベル2、実質はレベル3くらいじゃないかな。
でも竜巻を作りだせるなら限定的な天候操作・・・むむむ
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 22:23:42.86 ID:HE+f1o7qo
空力系というか渦を操る佐天さんの場合、彼我が高速で移動している状況は自分に都合のいい戦場で、レベル以上に戦果があったのだと思う。同じ空力系でも婚后のように能力の条件が違うと、こう上手くはいかない気がする。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 22:36:43.86 ID:aPajcBH+0
>>576
 常盤台には約200人中47人がレベル4らしいのでそんなに珍しい訳では
 無いけれど、学園都市から見たら貴重なレベル4ではあるよね。
 なあ、学園都市からの奨学金+学校からの奨学金でなんとかなるかも。
 (ちなみに現実の世界で慶応大付属中学で年間約150万だそうです)
>>578
 渦作って空を飛んだ段階でレベル4な気がするな。
 
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/21(木) 23:26:04.76 ID:kbKaIxI/o
レベル5の希少性と金持ちっぷりから逆算すると
レベル4ともなると子供の手には多すぎるくらいの給料出ると思う
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/21(木) 23:30:42.44 ID:LhIr5tkHo
それに、光子経由で実験に参加すればその分の謝礼も入るし、ゆくゆくは独自プロジェクト打ち立てられることもあるし
奨学金以外でもどうにか金稼げそうだ
583 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:02:23.39 ID:Bel3T35Uo

「上条さん! 音を、止めてください!」

スピーカーから響く当麻の声に、佐天は自分が出せる精一杯の声で返事をした。
このキャパシティダウンさえ、これさえ消えれば、戦況はきっとひっくり返せるのだ。

「チッ。時間をかけすぎたか」

僅かに内省を込めた声で呟いたテレスティーナが、佐天を殴り飛ばす。

「うぁっ」
「面倒なことになる前に、とりあえずテメェら三人、始末しといてやるよ」

佐天が殴られた頬に手を当てながら振り向くと、さっきから地面に這いつくばったままの白井や美琴が、
ちょうど佐天とテレスティーナを結ぶ直線の延長上にいた。
テレスティーナは右手に構えたレールガンの銃口を三人に向け、見下ろしながらニタリと笑った。

「恨むんならこんなテクノロジーを開発したそこのレベル5を恨むんだな」

大型の馬上突撃槍みたいな、円錐型の尖ったフォルムを持ったその大砲が、その真の形を展開した。
砲身の周りを覆っていた滑らかな円錐が均等に裂けて、パラボラアンテナ様に広がった。
美琴は、そのレールガンが周囲の時空に干渉し、『レール』を作り上げていくのをその目で見た。
その機構はまさに、美琴のそれと同じだった。
なんら機械的機構を必要とせず、プロジェクタイルに通電してローレンツ力を印加し銃弾となす、
言わば砲身自体も電磁場で構成してしまうのが美琴の超電磁砲だ。
テレスティーナの持つそれは明らかに金属製の砲身を持ってはいるが、加速を行う砲身は、
美琴と同様に機械部分よりも先、佐天の体を突き抜け、美琴のすぐ傍まで真っ直ぐに伸びていた。
三人まとめて殺す気なのが、良くわかった。問題は、美琴の体が動かないことだけだった。
動くのなら、止めようだってあるのに。

「させない……! 絶対に!!」
「佐天さん! 動けるなら射線から離れて!」

佐天が笑う膝を叱咤しながら、中腰くらいまで立ち上がった。
爛々とその目がテレスティーナを睨みつける。心は、折れていなかった。
だって、当麻が、きっと音を止めてくれるはずだから。
それは信頼というには独りよがりだったかもしれない。
別に、佐天は当麻にそれほど親しみがあるわけじゃない。どれほど信頼できる人かは知らない。
だけど、ここに来て、苦しむ春上たちを助けようとしてくれた人だから。
きっと、状況を打開してくれるものだと、信じている。
その希望的観測を、テレスティーナが鼻で笑った。

「いい顔しちゃってよぉ、自殺願望でもあんのか?
 まあいい。それじゃあ逝ってらっしゃい、ってなァ!」

テレスティーナがトリガーに手をかけたのが判る。
もう、このままでは三人の命は、数秒で終わってしまうのだろう。
だが、佐天は希望を捨てない。それは、最後まで機会を逃さぬ意志の表れ。

「さてん、さん――逃げて」
「やめろ! ……お願いだ。止めてくれ」
584 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:06:13.71 ID:Bel3T35Uo

遠くで、木山と初春がうめくようにそう叫ぶ。
地面の奥深くから聞こえてくるような地鳴りが、酷くなる一方だ。
佐天からは見えないけれど、きっと春上もまた、シェルターの中で苦しんでいるのだろう。

こんな、酷い「終わり」なんて許さない。
あっていいわけない。
学園都市は、沢山の子供達の夢と希望を詰め込んだ、世界一幸せな場所じゃなきゃいけないのに。
こんな悪夢を、あたしは絶対に認めない!

テレスティーナが笑みをひときわ強くした。
邪魔な佐天たちを排除できると、確信の笑みを浮かべたその瞬間だった。




先ほど、上条が佐天をよんだそのスピーカー越しに、三声聖歌<シンフォニア>がフロアに響き渡った。




「えっ?」
「……あん?」

互いに主題を変奏し掛け合わせながら、女声が二声、主奏と助奏を入れ替えつつメロディを奏でていた。
まるで教会の中でしか聞けないような、聖歌のように。
佐天が、そしてそこにいた全ての能力者が、そのメロディに聞き覚えを感じていた。
そして、漠然と理解する。
通奏低音のように間延びしたトーンでメロディを奏でている三声目、
その音こそが、この場でずっと自分達を苦しめてきた音であることに。
それは奇妙なハーモニーだった。
頭にギチギチと食い込んで、ずっと自分を苦しめていたはずのその音が、
まるでその役目を忘れたみたいに、綺麗に残る二声と唱和している。
それが実際に、インデックスとエリスによって為された、
魔術のキャンセルであることには誰も気付かなかった。
戸惑う佐天の後ろで、先に美琴が、「その事実」に気付いた。

「佐天さん!」
「えっ? あ!」
「な、動けるのかよ!? うぜぇんだよテメェら!!!!」

美琴はなすべきことを、もう理解していた。
佐天と白井を庇うために、テレスティーナの射線から身をかわす。
白井がたぶん演算をまだ回復できないこと、佐天はもしかすれば動けるかもしれないこと、それくらいは脳裏にあった。
ちらと視線をやると、佐天も射線から身をずらし、的を分散させていた。
美琴は息をつく。これで全滅はもうない。
誰かにテレスティーナが銃弾を浴びせても、残り二人が絶対にテレスティーナを食い止めてくれる。
そして、きっとこの破滅的状況は、なんとか打開されるだろう。
美琴はポケットからコインを取り出した。
たぶん、これでテレスティーナが狙うのが、自分に決まるだろうから。
585 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:07:27.17 ID:Bel3T35Uo

「レールガン対決か、面白いじゃねェか!」

案の定、テレスティーナは一番の脅威が御坂美琴だと見て取って、レールガンの照準を合わせた。
その裏で、ようやく体の自由を取り戻した佐天が、為すべきことを探して視線をめぐらせる。
美琴と目が合った。その視線に、佐天はいぶかしんだ。
――ごめん、後は頼んだから。
そんな風に、美琴の目が言っているみたいだったから。

「えっ?」

おかしい、と佐天は思った。
美琴の手のひらの上のコイン。レールガンを打つときは、確かもっと、その腕の周りに火花が散っていたはずなのに。
今はただ、力なくコインが乗っかっているだけのように見えた。
それもそのはずだ。いかな御坂美琴とて、あれほど手ひどくうけたキャパシティダウンの影響から、
たった5秒で超電磁砲の複雑な制御を可能とするところまでは、回復できない。
そのコインは、友達を巻き込みたくなくて美琴がとった、ブラフだった。
打てて、チャージの足りない生半可な一撃だけだろう。
美琴は、何も自己犠牲のつもりでそうしたのではない。
誰かが傷つくのを、横で黙って見ているような真似が出来ない、損な性分なだけ。
美琴は改めてテレスティーナを睨みつけた。刺し違えてでも、絶対に止める。
意識の矛先をテレスティーナに収束させた美琴には、瞬間的な佐天の動きが、見えなかった。

「御坂さん! 駄目です!」
「!? 佐天さん、こっちに来ないで!」

佐天は美琴の意図を汲み取った瞬間、気付かないうちに足を動かして美琴のほうへと走りこんでいた。
美琴と同等の威力のレールガンを打とうとするテレスティーナに、自分が一体何を出来るかなんて、考えもせずに。
だって、佐天だって、大切な友達が苦しんでいるのを、横で指をくわえているのは嫌だったから。
能力を、不可能を可能にする奇跡の力を手に入れたのだから、傍観者に甘んじることなんて、絶対にしない。
間に合ってと願いながら、のこるほんの1メートルを、必死に埋める。

「くっ……!」
「それじゃあな、あの世で元気にやってろよ!!」

見下したテレスティーナの目が美琴を苛立たせる。
早く、アレを止めなきゃ! 佐天さんを巻き込んじゃう!
なけなしの出力じゃ何の意味も無い。
美琴には時間が足りなかった。
テレスティーナの右手に装着したその砲身が赤熱し、プロジェクタイルの投射準備が整った。
そして絶望的な、ガチンという、電気二重層キャパシタが落雷に匹敵する大電流を砲身に流し込む音が聞こえた。

「御坂さん!!!」
586 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:09:23.70 ID:Bel3T35Uo

白井が割り込めない理由は、空間移動<テレポート>という大能力と引き換えに得たその演算の難しさだった。
美琴が立ちすくんでいるのも、また同じ。強力な能力の代償を演算コストという形で支払う二人には、この状況は致命的だった。
だけど、佐天は違う。
佐天は稚拙な能力者だ。応用なんて、ほとんどない。自分は渦しか作ることが出来ない。
だけど、ただそれだけなら。
毎日毎日、それが楽しくて、寝ているとき以外ならほとんどいつでもそれをやっていたから、
ただ渦を作って、テレスティーナのレールガンを逸らすことくらいなら、自分には出来る……!!

「あああぁぁぁぁっ!! 止まれえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ギッと、テレスティーナの砲身のその目の前に、佐天は己の能力で渦を作る。
もっと強く、もっと大きく……!
キャパシティダウンの影響か、稚拙な巻きをした、児戯に等しい渦しかできない自分に発破をかける。
銃弾の大敵は空気抵抗だ。威力さえ落とせば、きっと美琴が何とかしてくれる。
そう心を定め、佐天は渾身の力を持ってただ風をかき集める。
それでもなお、状況は絶望的だ。白井が、来るべき未来を覚悟して、目を瞑った。
絶望的な目で木山と初春はこちらを眺めている。
その後ろには、血まみれで生死をさまよう春上と、
学園都市を巻き込んだ超巨大地震を引き起こしながら、覚醒を始めた13人の少年少女たち。
美琴は、まだ希望を捨てていない。
そして佐天の目は、目で銃弾を押し返さんばかりに強く、銃口を睨みつけている。
そんな中。テレスティーナの放った真っ赤に焼けた弾丸が、佐天の渦に、直撃した。
佐天の口元が、僅かに笑みを形作っていた。
恐怖に、では無い。
いつだったか、常磐台中学で光子に指導して貰った時にケロシンの燃焼熱を丸ごと喰らったあの時と同じような印象を、受けていたから。
佐天涙子は知っている。御坂美琴の、超電磁砲<レールガン>の威力を。
それと同等の力を持つ、テレスティーナの一撃。
それを佐天は。
――――『喰える』、と思ったからだった。
赤熱が白熱に変わって、そのフロアにいる誰も彼もが、一斉に眩しさに目を瞑る。

「……あ」

誰かの、間の抜けた声がフロアに響き渡って。




――――無音。




その、突然の静寂に、辺りは一瞬呆然となった。

「あはは」

佐天の上げた笑い声に、美琴がぎょっとして振り返った。
587 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:12:22.24 ID:Bel3T35Uo

「なん、だと……?!」
「できた、できた……!」

今度は、音も漏らさなかった。ほんの少し、ジリジリと弱い光が漏れているが、これ位ならいいや。

「嘘……」

美琴が驚きに目を見開く。
佐天の渦が虚空に揺らめいていた。だがそれがただの空気で作った渦ではないことを、美琴の感覚が告げている。
それはそうだ。金属弾と、そしてそれを音速の8倍以上の速度で飛ばすだけのエネルギーを食った渦なのだ。
内部に金属蒸気どころか電離した流体を内包して、プラズマ渦流になってたって何もおかしなことはない。
おかしいのは、そこに存在する渦のエネルギー密度が、佐天のレベルなんて軽く凌駕していることだけ。
佐天は逸る気持ちを抑えて、渦の取り扱いを冷静に考える。不思議なくらい、頭の中がクリアだった。冷徹でさえある。
きっと、これをいつものようにあちこちにブチ撒けてしまえば、大変なことになる。
じゃあ、どうすればいい? どうやってこれを解放すればいい?
佐天は、美琴に声をかけた。すべきことが、瞬時に脳内にプランとして組みあがった。

「御坂さん! コントロール!」
「え?」
「荷電流体なら、御坂さん操れますよね?!」
「……!」

美琴は返事をしない。ただ全速力で、佐天の渦のもとへと走りこむ。

「チッ、この死に損ないどもが!」

テレスティーナが、二発目の装填を始めた。あれが解き放たれる前に、決着をつける――――!
だってそうしないと、あんなものを跳ね返されて無事でいられるわけがない。
チャージに必要な数秒が、ひたすらテレスティーナを苛立たせた。
その猶予を最大限に生かして、美琴が佐天の渦に肉薄し、手を添えた。
準備はそれで充分だ。美琴は、電場を使って何かを加速したり寄せ集めたりする必要は無い。
手のひらで、正確には手のひらに展開した電磁場で、制御するだけでいいのだ。

「電界は添えるだけ、ってね!」

佐天にニッと笑いかけ、美琴は渦の周りに、一箇所だけ口のあいたケージを作る。
勿論その口は、テレスティーナに向いている。
その渦流の制御を、佐天が手放した。それだけでプラズマが出口を求め、美琴の作ったケージの中で荒れ狂う。
一瞬を置いて、高エネルギー荷電流体がテレスティーナに向けて一直線にほど走った。

「フザけんな! 私は、この街の夢を叶えるんだ!」
「そんな悪夢(ユメ)、絶対に認めない!!」
「この、クソがァァァァァァァァァ!!!」

慌ててテレスティーナがチャージも未完のままレールガンを解き放とうとする。
だが、自らが放った最大出力の一撃をそのまま鏡面反射したその一撃には、それでは太刀打ちなどできるはずもない。
佐天の渦は回収したエネルギーの全てをプラズマアークに変え、テレスティーナに突き刺さった。

ジィィィィィャァァァァァッッッッッッ!!!!

「くっ!」
「目が……」

アーク放電によるすさまじい光量が周囲を襲う。誰もその一撃を直視することは出来なかった。
ただひたすら、鉄が沸騰する音を聞きながら、その一撃が終わるのに耐えた。
588 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/23(土) 23:15:52.69 ID:Bel3T35Uo
うーん、加速感が出てないかもと一晩悩んだけど、あんまり上手いこと改定でけんかったかも。

>>580
>>579の言うとおり、やっぱり自分に対して空気が結構な相対速度で流れてる場に佐天さんは強いね。
そういうのを差し引くとまだまだそこまで高レベルじゃなかったかもしれないけど、この最後でどこまでいったかなー
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/23(土) 23:54:07.68 ID:Wd3kRJ8Q0
乙乙! キャーサテンサン!電磁砲組の組み合わせやばすぎww

そんな中で上条さんマジ空気、バットないから装置こわせんから仕方ないが・・・
夜に期待しておくか、禁書目録&未元物質無双な気がしないでもない気がするけど
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/07/24(日) 00:02:40.15 ID:zSmnbht8o
この佐天さんレベル4余裕でいってそうww
どこまで伸びるんだろう
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/07/24(日) 00:22:59.93 ID:2WxqdUzoo
上条さんェ…
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/24(日) 06:44:24.76 ID:A/IKLaPWo
うっわー。
サテンさんうっわー。

「食える」

この一言に鳥肌立ったわ。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/24(日) 10:58:34.88 ID:86JcDLKAO
みっちゃんもそろそろレベルアップしないと立場無いな
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/07/24(日) 11:05:47.28 ID:jSUZCcOoo

インデックスとエリス、佐天と美琴スゲーww
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/24(日) 11:52:31.28 ID:uTo/X2IWo
この合体技はえげつない威力だなww
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/24(日) 12:48:04.87 ID:PjJe6Js0o
このシーン、テレビで見たら映像映えするだろうなあ…。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/24(日) 14:56:35.35 ID:2s4OYdSlo
でも映像だとこの作者の魅力でもある薀蓄語りが上手く表現できないだろうなぁ
しかし佐天さんとインデックスさんが見せ場を持っていってしまって、上条さんは一体今何をしているんだろうか……
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/24(日) 15:12:25.37 ID:ECqb8CNzo
ヘタレさん轟沈させるために透明の竜王さんと懇ろってます
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/07/24(日) 16:46:38.24 ID:NmghOEAAO
何この荷電粒子砲wwww
佐天さん凄すぎる
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/24(日) 20:09:14.73 ID:6ulzWMlF0
やっと御坂にも出番が。
白井が完全に空気だなあ。原作でもそうだったけど。
しかしこのスーパー佐天さんっぷりにはにはまいった!

光子は何にも無いところからのパワー、佐天さんは応用力が強みか、
どっちが上位かと言われると普通は後者なんだけどね。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/25(月) 00:51:53.94 ID:b8yN3JKE0
上条さんおいなにしてんだよ
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/25(月) 01:10:36.02 ID:txGNKzsDO
このままだと、某スレのそげぶミサイルくらいしか目立つ手段が
603 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:18:03.04 ID:DpZ7UGQso

当麻は急いで階段を駆け下りる。
随分と地下最下層は遠いのだが、エレベータの一つも見つけられなかった。
テレスティーナや美琴、佐天の声を頼りにそちらに向かっていると、たどり着く直前に、
すさまじい発光と音がしたのを、当麻は聞いた。
それ以上加速は出来なかったが、走りを緩めずにその場に当麻はたどり着いた。

「佐天! 御坂! 大丈夫か!?」

扉をくぐり、開けたフロアを一瞥する。
何かの焼けた異臭が立ち込め、煙が広がっているせいで視界が良くない。
一番近くに倒れていた女の子のところに近づく。白井だった。

「白井!」
「私なら大丈夫です。それより、お姉さまと佐天さんは?」
「私はこっち」
「あたしはこっちです。って御坂さん、お互い随分と吹き飛びましたね」

しゅうしゅうと煙が立つ一角から数メートル離れて、二人はバラバラに倒れていた。
手ひどく痛めつけられた佐天はともかく、美琴はそう酷い怪我はない。

「私がバックファイアをせき止められるのは電導性のあるものだけだからね。
 普通の爆風はどうしようもなかったし」
「あ、ごめんなさい。それってあたしの仕事ですよね」
「別にいいわよ。ただの風なら、そんなにヤバくはないんだし」

美琴が防いだものの中には、金属蒸気が冷えて出来た微粉末があった。
冷えて尚高温のそれを浴びていたら、かなりの火傷になっていただろう。

「で、無事解決なのか? その割には揺れが収まってないけど」
「! そうだ。まだ春上さんを何とかしなきゃ! あの子たちも!」

テレスティーナは、フロアの片隅で完全に沈黙していた。
鋼鉄のレールガンを大破させ、パワードスーツも脇の下辺りが溶解して完全に機能停止しているらしかった。
恐らくは死には至っていないと思うが、それを確認するより、先にすべきことがあった。
初春と木山が、もう春上や枝先たちを助けるために、動き出していた。
シェルターへのハックを済ませ、カバーを開く。
むっと、むせ返るような血の匂いがした。それはもう、死の匂いといってもいいのかもしれない。
あれほど酷く喀血していながら、まるでそれに気付かないで、嗚咽を漏らしながら頭を抱えている。
そのヒトらしさからかけ離れた振る舞いに、初春は反射的にゾッとなって半歩後ずさった。

「はる、うえさ、ん……」
「ねえ木山、何とかする方法わからないの?」
「……無理だ!」
「え?」
604 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:19:07.08 ID:DpZ7UGQso

美琴が木山に尋ねると、ガンとコンソールを殴りつけて木山が叫んだ。

「この子に投与されたのはあの子たちからの抽出物と体晶のファーストサンプルを混ぜたものだ。
 成分がわかれば時間をかければ何とかなる。だけど、この子はそれに耐えるだけの時間がない」
「そんな!? けど!」
「あの子たちも……」
「えっ? アンタ、あの子たちなら助ける方法知ってるんでしょうが!」
「ファーストサンプルならきっとあの女が持っているだろう!
 だがそれでも駄目なんだ。暴走を始めて、もうかなりの能力者と共鳴を始めている。
 ああなってしまったら、止めようが無いんだ!」
「無理だ無理だって、そんなこと言ってないで打開策考えてよ!」
「科学はそんなに万能じゃない!」

何が、大脳生理学の権威だ。
木山はそんな肩書きを僅かでも誇ったことのある自分を罵った。
今、この場でこの子達を救えないものに、一体何の価値がある?

「御坂」
「何よ?」

当麻が、美琴に声をかけた。今は一刻を争うのだ。状況の飲み込めていない男の相手なんて、している暇はない。
そっけなく美琴が返した返事に、ひどく真面目に当麻が言葉を返す。中身はいつもどおり、突拍子もなかった。

「アレ、止めればいいのか?」
「え?」
「この地震、ポルターガイストなんだろ?」
「う、うん。そうだけど」
「ならそれは任せろ。先生……アンタはその後のことを頼む。
 それと、春上さんのことも、何とかできるヤツがもうじき降りてくるはずだ」
「えっ? それって」
「科学が駄目なら、別のに頼ればいい」

戸惑う佐天に、当麻がそんな良くわからないことを呟いた。
そういえば、いつの間にかあの歌声は聞こえなくなっていた。
もちろんキャパシティダウンと共にだ。
恐らくは、うまく止め方を見つけたのだろうと思う。
あの歌声には聞き覚えがあった。佐天がいつだったか、浴衣を着付けてあげた、二人の声。

「ちょ、ちょっとアンタ! 地震を止めるってどうやる気よ?!」

春上に必死に声をかける初春の裏で、美琴はそう当麻に詰め寄った。
ポルターガイストを止めるなんて、そんなことをやれる人間なんて聞いたこともない。
実体の無いものに干渉することは非常に困難だ。学園都市で一番の精神干渉系の能力者でも、こなせるかどうか。
だが当麻は、いぶかしむ美琴に至極あっさりと返事をした。
605 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:20:31.32 ID:DpZ7UGQso

「アレを止めればいいんだろ?」
「だから、アレって何よ!?」
「よく俺にもわからねーけどさ。別にいいだろ、御坂。嫌な夢なんて誰も見たくない。
 あの子達の上に浮かんでるアレが学園都市の悪夢(ユメ)だっていうなら、俺はそれをぶち壊すだけだ!」

当麻はそれだけ告げて、覚醒を始めた少年達へと走り出す。

「――アイツ、AIM拡散力場が、見えてるの……?!」

呆然と美琴はそう呟いた。だって、そうでもなければ。
一体アイツは、何を殴りつけるというんだ?

「おおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ!!!!」

当麻が自分よりも背の高い打点に向かって、拳を振り上げた。
そして体のバネを使って、打ち下ろすように腕を振りぬく。
何か、ぶよぶよとしたものに当たったような不自然な抵抗を見せて、

――パキィィィィン、と何かが割れるような音を響かせた。

それをきっかけに、地震の揺れが速やかに減衰していく。
ポルターガイストを阻止したのは、明らかだった。

「木山!」
「もうやっている!」

美琴が振り向くと白井がテレスティーナの体から体晶を探り当て、木山に渡していた。
そこからはもう、何度も何度も頭で反芻し、練習してきた手続きだった。
ここからならもう、木山は自分の研究の全てをぶつけて、あの子たちを救うために動ける。
体晶の組成をチェック。充分に予想の範囲内だった。
そのまま、解析をしてワクチンを作成し、あの子たちに投与する。
木山はそのためのプログラムのバッチファイルを起動させた。
あとはただ、無事目覚めてくれることを祈るのみ。

「とうま! 大丈夫?!」
「インデックス、エリス! こっちに来てくれ! 春上が!」
「えっ?!」
「お願いです! もし方法があるんだったら、春上さんを助けて……!」

初春が涙でぐしゃぐしゃになった顔でインデックスにそう懇願する。
もう救急車なら呼んだ。警備員も呼んだ。そして待っていればきっと助からないことも、分かっている。
人を癒せる能力なら良かったのに。初春は、そんな無いものねだりをする自分を叱咤する。
希望を捨てたり、有りもしないものに縋ったって、春上を救えたりはしないのだから。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/25(月) 01:20:58.18 ID:b8yN3JKE0
初リアルタイム
607 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:21:26.23 ID:DpZ7UGQso

「初春さん、だよね?」
「え?」
「祈ってあげて。祈るって行為はね、どんなに苦しい人にも等しく許された、とっても尊い行いなんだよ」
「……わかりました」
「エリス」
「わかってる。インデックス、さっきもそうだけど、いまは所属がどうとか関係ないよ。友達を助けるためだから」
「うん。それじゃ、術式の行使はエリスがやって。私は、今だけエリスの魔道図書館になる」
「いいよ」

インデックスは呼吸を整え、血まみれの春上に躊躇いなく触れた。
呼吸と脈拍を測り、瞳孔を調べる。医術は決して魔術と無縁ではない。
インデックスには、そうした心得があった。

「――解析完了。大丈夫。与えられた毒が何かはわからないけど、それは最悪のものじゃない」
「助けられる?」
「助けてみせる。エリス、さっきみたいに、私の歌うとおりに歌って」
「うん」

呆然と、佐天や美琴、そして白井がその光景を見詰める。
隣では時折春上に視線を送りながらも、木山が枝先たちのバイタルデータにずっと注意を払っていた。
そして初春はインデックスとエリスを疑わなかった。
そんな非科学的なことに何の意味もないのに、手を組んでただ春上のために祈っていた。

「ごめんね、とうま」
「気にするなよ。俺は離れてる」
「うん、ありがと」

謝る当麻に微笑を返して、インデックスは声を、フロアに響かせた。
決して声質や声量が優れているわけではないのに、それは聞くものの心にすっと染み込んだ。
エリスが、インデックスの紡ぐメロディに抗わず、その位置とリズムを巧みに同期させながら、同じメロディを輪唱した。
手持ち無沙汰という理由も、あったかもしれない。
いつしか佐天も、白井も美琴も、そっと組んだ手を胸元に当て、うつむいて目を瞑った。
そうさせるだけの神秘的な何かが、そこにはあった。
魔術の臭いなんてほんの少しも感じ取れないその五感でいながら、皆、感じ取っていた。
――救いと呼ばれる、何かを。


朗々とした詠唱が三分ほど続いたところで、メロディがフィナーレを結んだ。
ふう、とインデックスとエリスが息をつき、こめかみを滴り落ちる汗をエリスが手で拭った。

「終わった……の?」

美琴が、インデックスに声をかけた。
半信半疑のその顔に、インデックスはコクリと静かな頷きを返した。
それに弾かれたようにして、初春が春上の元に駆け寄った。
シェルターに横たわる春上の様子を、何も見逃さないつもりでスキャンするように眺める。
血まみれなのは当然血まみれなままだった。血が消えるようなことはないらしい。
だが、さっきまで見たいな開いた瞳孔で何処を見ているのか判らないような様子はない。
目を瞑り、おだやかな呼吸をしていた。とりあえず、その様子にほっとする。
美琴たちも集まって様子を眺めると、やがて春上は目を覚ました。
608 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:22:14.54 ID:DpZ7UGQso

「あ……ういはる、さん……?」
「ぁ……春上さん! よかった。よかった……!」

こらえられない様に、初春の目じりに一杯に涙が浮かぶ。
伝えたい言葉はいくつもあるはずなのに、せいあがってくるのは嗚咽ばかりだった。
だけど、悪いことじゃない。だってその嗚咽は、嬉しさのせいで出てくるものだから。
涙ぐむ初春のとなりで、コンソールがアラームを奏でた。
それは、体晶によって能力を暴走させられていた、
置き去り<チャイルドエラー>の子供達の治療が終わったことを示すものだった。
パシュ、と軽い音を立てて、子供達が寝かされていたシェルターの蓋が開いた。

「あ……」

ふらふらと、足取りも不確かに木山が子供達の方へと歩み寄る。
こんな目にあわせた張本人だから、罵られるかもしれない。恨まれるかもしれない。
それでも良かった。この子達が、再び目を覚まして、太陽の下を歩ける日が来るのなら。
手近なベッドに眠る子の顔元に、木山は近づく。頬にそばかすの浮いた女の子、枝先だ。

「ん……せん、せ」

一体、それは何年ぶりに発した声だったろう。
すっかり弱って、記憶にある張りのある声からは程遠い、か細く弱った声だった。
でも、それでも。その声は、その顔は、紛れもなく枝先のもので。

「ああ……」

頬が自然と上がって、笑みを形作っているのが判る。
おかしいな。自分は無表情で、素っ気無いのが普通の、駄目な教師のはずなのに。
視界がもう、まともに確保できない。
涙の粒がこぼれるたびに一瞬だけ戻る視界の中で、枝先もまた、微笑んでいた。

「先生、助けてくれたの」
「……助けただなんて、私は」
「ありがとう」

この子達には、きっと土下座をしたって許されないことをした。
助けてくれたなんて勘違いはすぐにでも糺して、自分がいかに酷い人間か、教えてあげるのがフェアだろうに。
嬉しい。ただ、この子達が目を見開いて呼びかけてくれることが嬉しい。
はっとなって、木山は立ち上がった。

「他の子たちも、見てくるよ」
「うん」

枝先は、自分が何故ここにいるのかも判らない状況にいながら、それほど酷い混乱を覚えなかった。
目を覚ましたその瞬間に、木山先生がいてくれたから。
そして、ずっとずっと混濁した意識の中で呼び続けた大切な友達が、すぐそこにいることに気付いたから。
609 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:23:35.87 ID:DpZ7UGQso

――――衿衣ちゃん

心の中で、そっと呼びかける。
起き上がる力もない自分からは姿は見えないけれど、春上に、その声が伝わったことに枝先は自信があった。
数メートル離れたシェルターの中で、初春に見つめられたまま春上が目を瞑る。
嬉しい。ただただ、嬉しい。
その声が聞けるだけで満足だった。大切な友達が、ずっと会いたかった友達が、声をかけてくれたから。

「絆理ちゃん……」

枝先に聞こえるほどの声ではない。だけど、きっと思いは通じた。
自分と枝先は、深い絆で繋がっているから。

「枝先さんも、目を覚ましたんですね」

我が事に様に喜んでくれる初春をみて、春上は嬉しくなった。
そうだ、元気になったら枝先を紹介して、皆で遊ぼう。
引っ込み思案で友達なんてほとんど作れなかった自分だけど、そうやって、
枝先と一緒に、初春と一緒に、沢山の友達を増やしていくのだから。


初春たちからは少し離れたところで、当麻はインデックスの頭をぽんと撫でた。
そうやって労われて、インデックスは素直に嬉しそうな顔をする。
魔術は人を幸せにするものだ。
現実はしばしばそんな牧歌的な考えを打ちのめすが、
こうやって幸せのために役立てることがあると、
救った側もまた、救われるものだ。
隣にいるエリスと、当麻がハイタッチを交わした。

「ありがとうな、エリス」
「お世辞なんて。水臭いよ、上条君」
「そうだな」

だって、エリスもあそこにいるみんなの友達なのだから。
しがらみだとか、そういうもののことを考えるのは野暮だった。

「ありがとうございました、上条さん」

かけられた声に振り向くと、白井が皆から離れて上条のもとに来ていた。

「おう。まあ、礼なんていいさ。水臭いだろ」
「今のお礼は、お姉さまを助けていただいた分のものですわ。
 前日から、少々無理を重ねていたようですから。
 あちらの病院でお姉さまを救っていただいたことには、御礼をしませんと」
「こっちも成り行きで助けただけだからな。気付かなきゃ、そのままだった」

美琴のほうを振り向く。佐天と、なにやら話しているらしかった。
610 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:25:39.01 ID:DpZ7UGQso


佐天はどっと出た疲れに耐えかねて、どすんとその場に腰を落とした。
行儀が悪いのは百も承知だが、そのまま床に寝そべることの魅力に抗えなかった。

「なんとか、できましたね。御坂さん」
「そうねー」

あちらも同様につかれきっているのだろう、美琴が佐天の隣に座った。

「あたし、がんばれました、よね?」

佐天が美琴にそう尋ねた。
誰かにそれを確認したかったのだ。
だが、予想に反して美琴の沈黙は長く、佐天を戸惑わせた。

「あの、御坂さん?」
「うん。佐天さんの活躍は、それこそレベル2なんて肩書きを持ってるのがおかしいくらいだった」
「あは」
「レベル3でも、おさまるか判らないわね、もう」

そこで言葉を切り、美琴はテレスティーナのほうに視線をやる。
アーク放電がもたらした破壊は美琴のレールガンのそれを上回っていた。
それを、佐天はどうやってもたらしたんだったか。

「まさか佐天さんに止められちゃうなんてね」
「え?」

それは佐天を馬鹿にした物言いのつもりはこれっぽっちもなかった。
だって。

「あれ、止めたのはまだ二人しかいなかったんだけどな」

学園都市第一位の能力者と、学園都市唯一の風変わりな無能力者。
その二人だけだったのに。
佐天涙子が、三人目として美琴の脳裏に刻まれた。
仲間だから、決して敵視をするつもりなんてない。
だけど、さっきのあの瞬間から、美琴にとって佐天は見過ごせないだけの実力の能力者となっていた。

「ま、私の研鑽がもう終わったわけじゃない。影は踏ませても、本体にはまだまだ届かせないわよ。
 ……佐天さん、お疲れ」
「はいっ!」

パン、と今日一番の功労者二人が、タッチを交わした。
能力者として美琴の隣にいることというのは、きっと大変なことのはずだ。
うぬぼれかも知れないが、佐天は美琴の隣にいて、きっと自分の能力は恥じることなんてないと、
そう思えるようになっていた。

「さて、あたしも、これからのことちゃんと考えなきゃね」
「これから?」
「明日、あの屋台のクレープとうちの近くのアイス屋がセールするんです。
 どっちにするか、ちゃんと考えないとってことですよ」

美琴にそんな冗談を返して、佐天は初春のほうを見つめた。
迷いは、吹っ切れていた。
自分の可能性を信じて、これからも真っ直ぐに進んでいきたい。
実技もそうだが、きっと猛勉強しないといけないだろう。
美琴や白井、そして光子と同じ学校の生徒になるならば。

「あいたた」
「佐天さん?」
「結構痛めつけられたんで、しばらくは病院通いかなぁ」

たぶん、クレープもアイスも明日は無理そうだった。
でもそんなこと、気にならない。
ここにいる誰しもの頬に、笑みが浮かんでいる。
きっとまた、皆で幸せな日常を過ごせる。
そんな「当たり前」を取り戻せたことが嬉しくて、佐天は顔一杯に笑みを浮かべた。
611 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/25(月) 01:30:33.68 ID:DpZ7UGQso
『ep.2_PSI-Crystal 12: 渦流の正しい使い方 -Advance in Implosion Vortex-』終了、
そしてこれでepisode2の体晶編が終了だっ!!! よっしゃっ!!!
はー、やっぱり一つストーリーが纏まると感慨もありますね。
作中ではすぐにまたクライマックスなんですけども。

>>上条さんスルーを嘆いたみんな
上条さんがいないと地震がそげぶできなかったのよ。そういう関係で、こうなりました。
微妙な活躍だったかな?w

あと、佐天さんと美琴の連係プレーに燃えてくれたみんな、ありがとう。
BGMにアニレーのOPかけながら勢いで書きました。
>>596
そういうコメはなんか嬉しい。ちょっと気恥ずかしいけど。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/25(月) 01:36:26.90 ID:b8yN3JKE0
つまり体晶編をまとめると佐天さんのレベルアップストーリーだったと。
実際異能力者という肩書は詐欺。
次は待ち望んだていとくんとエリスのターンか
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/25(月) 01:38:50.65 ID:YVnHe6tio
乙!!
さーて次のお話も楽しみにしてるんだぜ
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/25(月) 06:22:06.91 ID:2pklZ5WAO
セロリ編では一緒に圧縮圧縮空気を圧縮出来そうな佐天さん
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/25(月) 13:47:09.70 ID:b8yN3JKE0
佐天さんがカ行笑いするのか
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/25(月) 14:15:53.70 ID:LhJTxFRqo
実に充実した投下だったよ。おつ
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/25(月) 19:26:06.06 ID:VICR81OF0
乙乙! 超電磁砲組は笑顔が似合うわあ。佐天さんは治療と受験勉強でお休みかー。

テレスさん即死したと思ったが、プラズマ直浴びしてよく生き残れたもんだ。
あれか、やっぱりジジイの怨念ならぬご加護があったのだろうか
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 06:13:10.81 ID:9oBgYiiS0

ついに佐天さんも常盤台転校を決意したか
初春の事を気にしていたけど自分の将来を優先したんだろうね
ま、初春もすぐに追いかけてきそうだけど、そのとき春上さんはどうするのかな?。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/07/26(火) 22:15:41.77 ID:FHmu4IYE0
乙!
もう初春も春上さんもりっちゃんもまとめて光子さんに師事すればいいと思うよ!
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 23:02:44.18 ID:rj+WdRt0o
佐天さんもいよいよ転校かー
アニメで常盤台の制服着た事あるから
どういう姿かは想像が付くな
そういや眉毛ちゃんって出てきたっけSSで?
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 23:04:02.40 ID:rj+WdRt0o
佐天さんもいよいよ転校かー
アニメで常盤台の制服着た事あるから
どういう姿かは想像が付くな
そういや眉毛ちゃんって出てきたっけSSで?
622 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/07/26(火) 23:43:26.32 ID:qBH1HaPIo
>>612
その通りだったね<レベルアップストーリー

>>616
ありがとう!!

>>617
ジジイは全然テレスに愛情ないけどなw
美琴が本心からは笑えない状況にいるけど、まあやっぱり四人のときは笑顔がいいよね。

>>618
もとより初春のために渋ってたわけじゃないのよん。
急激な環境の変化に対する臆病って誰にもある、というだけです。
今回の事件がなくても、いずれは転校していたでしょうね。

>>619
絆理のりをとってりっちゃんかwまぁしゅがの声はわかりやすいから言いたい事は良くわかるけども。

>>620
眉毛ちゃんのせいで光子が入院したシーンならある。
あのへん加筆する予定だけど、書いたプロット見直しても全然彼女は存在感がない。

さて、次のプロットを固めるのでちょちょっと時間を下さいな。
プロット無しで書ける吹寄のおっぱいのほうはコツコツ書きますんで、よろしければ>>543もよろしく。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 23:54:27.39 ID:rj+WdRt0o
佐天さんもいよいよ転校かー
アニメで常盤台の制服着た事あるから
どういう姿かは想像が付くな
そういや眉毛ちゃんって出てきたっけSSで?
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/26(火) 23:59:41.54 ID:Zo41IEiKo
落ち着けよwwwww
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/27(水) 00:15:01.34 ID:NAD+tZ5no
ブラウザがバグってたっぽいなww
一回しか送信ボタン押してないんだが
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 01:33:40.46 ID:TV0JXhXIO
>>1って何者?ほんとに半端ないssだと思う


……俺も理系に進もうかな
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/07/27(水) 08:00:04.16 ID:qlwNIN/4o
重福さん、可愛いのに……
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/27(水) 11:26:35.84 ID:/MbDr/xD0
一息ついたところで>>1に聞きたいんだけどさ。
ss速報で3つスレ建てて全部上条さん主人公の恋愛ものじゃん。
その3人の上条さんって設定上でなんか違いとかある?
例えば上姫の上条さんは原作より鋭いとか。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/27(水) 11:58:29.65 ID:G4zmy7yAO
四つじゃね?
630 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [sage]:2011/07/27(水) 12:46:11.99 ID:7AkAoLCc0
>>626
ありがとう(´;ω;`)もっと褒めてもいいのよ
科学ネタの濃さに関しては、人より相当長く勉強してるからだな。大学入ってからもう8年だし。
文理選択は「好きなほう」で選ぶのがいいよ。理系の学問が「苦手」だから文型、というパターンだけは勧めない。

>>627
どうしよう、あんまり重福さんに萌えてない……

>>628
俺の中では根っこは全て同じ上条さんだな。
特にそこを変えようと思ったことはない。
ただ、付き合ってるヒロインとの掛け合いの中で、
それぞれ違いはあるだろうと思う。
読者のみんなの見え方はまた、書き手とは異なるしね。

>>629
立てたエピソードが三つ、スレが五つだな
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/07/27(水) 12:58:55.99 ID:qlwNIN/4o
>>630
メインにからむ黒子ですら薄いから仕方ないさ
脇の百合っ子は不憫なのが宿命
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/27(水) 17:39:17.17 ID:8H0fjyQAO
追いついた
追い付いてしまった
佐天さんがかっこよすぎる
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/07/27(水) 18:18:49.01 ID:NTlnNW4bo
このssの光子ちゃんは、「あ、ちぎってはな〜げ、ちぎってはな〜げ」なんて自慢話するのは似合わないなww
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/27(水) 20:39:03.01 ID:YR+xwxyG0
上条さんに褒めて褒めてと話す姿の方が似合ってるな。
ところで、佐天さんの初春パンツはいてるかチェックはどこまで進化するのだろうか
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 21:33:19.04 ID:Ge0tmaYx0
遠距離から双眼鏡を覗き、狙撃手のように渦を飛ばし
初春のスカートだけをめくって
携帯で『今日のぱんつは水玉か〜♪』
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 21:56:20.23 ID:nOlqaX8jo
竜巻で上空に持ちあげて下からじっくりと観察
「今日は白黒のしまぱんかぁ〜♪」
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/27(水) 22:29:32.43 ID:n2v0tFsIo
常盤台中から竜巻を発射して柵川中の初春のパンツをめくるくらい朝飯前だよ
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 23:23:45.17 ID:J2aetcZSO
初春の部屋を盗撮すればいいんじゃねぇの?
違うか
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 00:13:27.33 ID:U+I7YP5IO
能力を使ってというのが味噌
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 01:52:46.29 ID:CNkbaXWM0
能力でめくろうとして下着が吹き飛ぶのか
「今日のパンツは、えっ!?」
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/28(木) 08:57:03.80 ID:5/xtk39q0
空気中の光の屈折率を変化させて、こう、スカートをめくらずに……ってそれじゃ意味ねー!
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 12:12:05.59 ID:RpnitqXIO
お前らほんと初春のパンツと佐天さんのおしり好きな
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/28(木) 14:54:56.98 ID:Mm1fsj4AO
何度でも言います

お尻が嫌いな人なんて居ません!
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 18:49:46.03 ID:OAFy/RcIO
>>610
ここ佐天さんは、個人的に 抱かれたいキャラNo.1 になってる。
ーーー『喰える』にはゾクッとした。
そして佐天さんの笑顔で結ばれて、乙。

すっかり佐天さん話が続き、このSSが、上条さん×婚后、だということを危うく忘れるところでした。

上条さんの見せ場と役割には納得でしたが、上条さんにAIM拡散力場を知覚することは可能でしたか?たしか能力者でも通常は知覚することは無理だった気がする。

過密なまでにパラレルで話が進行していたので、原作での上条さんや美琴の役割を垣根、エリス、婚后や佐天さんが分担して事を解決してゆくと予想していましたが、『超電磁砲』の終盤はほぼ全キャラ総当たりで意外でした。
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 19:36:17.04 ID:y7VvBIC20
>>644
上条×婚后じゃなくて婚后×上条じゃないかな?w

このSSは上条さんが婚后さんと付き合うことで
周囲の運命的なものに影響して、行動や結果がどのように変化するのか
ってところが面白いよね。だから主役はその時、活躍する誰かだって認識してる。

646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 19:36:57.77 ID:qD1vH4ENo
初春のパンツを足元に設置した渦で引き下ろして確認だな 毎朝。
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 19:49:02.87 ID:d1Q/W9nMo
>>646
パンツ引き下ろして確認したあと、渦を解放してスカートめくるのか
股間が熱くなるが流石に同性でも犯罪になるな
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/28(木) 20:20:01.61 ID:8xD8xccjo
>>645
>上条×婚后じゃなくて婚后×上条
カップリング表記って「攻め×受け」だからあってるんじゃないか?
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 21:46:31.86 ID:U+I7YP5IO
どっちでも正しいんだよ
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/28(木) 22:50:47.93 ID:tB1nuxgn0
うむ、この二人ならば石破ラブラブ天驚拳(そげぶver)を必ずやマスターするだろう
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/28(木) 23:15:10.05 ID:YSuARcgRo
そんなエスカレートした佐天さんのスキンシップに耐えかねて、初春さんが対抗できるようにレベルアップできるよう頑張るのが頭をよぎった
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/29(金) 01:38:03.22 ID:jf3h8kpjo
>>651
保温機能が温度調節自在になって、頭のお花がビオランテですね分ります
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/07/29(金) 18:46:10.20 ID:B1xBwkclo
ふと思ったが、プロットなしで吸ってくれないか書けるとか、作者は相当なドエロだな。
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 22:49:39.00 ID:/Y2zHwn2o
>>650
ここはあえて超級覇王電影弾!
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/30(土) 10:56:42.69 ID:6TDqZaD20
>>654
それは佐天さんだろ、うずまき的に考えて
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/07/30(土) 11:25:19.96 ID:FTW4Tz6Ko
佐天さんが上条さんを発射・・・・
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/30(土) 12:41:39.14 ID:S8RhOnxMo
婚后さんでも噴射点を複数にしてヘイルロケットみたいにすればできるぞ
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/30(土) 18:47:11.49 ID:6TDqZaD20
ロケットか、これでいつベツレヘムの星が浮上してもそげぶできるな!
あと残るはイタリア編の水中そげぶのみ・・・
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/30(土) 22:20:06.13 ID:S8RhOnxMo
水中は湾さんと泡さんに頼んで下さいしあ、空力使いに水中は鬼門だわ
美琴で電磁推進って手もあるけど全部まとめて電撃で片付けようとしそうで困る・・・
660 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/01(月) 01:57:57.02 ID:uUtS2c0Uo
ごめん、気がついたら一週間も更新してないのか。
あ、明日こそは……。

>>632
それなりに長いSSになってきたけど、新規の方がいるってのは嬉しいな。

>>634
それ採用

>>644
おー、燃えてくれる人がいて嬉しいな。熱いシーンって読んでる人を白けさせてないか、やっぱ不安なもんでね。

661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 01:52:47.83 ID:ktQD5f1+o
待ってるんだぜ
662 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/03(水) 02:17:09.83 ID:Xj7Z416Lo
今日も帰ってきたらこの時間やった。。ごめん。
明日は研究中間発表→飲み会で、明後日から三日ほど学会行ってくる。
更新は先になりそうやなぁ。
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/03(水) 02:55:55.53 ID:KnWAQfUJ0
乙ー
無理せずnubewoさんのペースで更新しておくれ
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/08/03(水) 10:49:06.85 ID:ap/yYkpL0
ゆっくり行こうぜ
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 23:29:11.09 ID:eIDeN8u70
主さんのペースで頑張って下されー
ここの佐天さんは格付けでレベル5認定受けてても不思議じゃないなww
6位になったりしてね
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 13:50:29.76 ID:PSGzfjaIO
>>665
お前はいろいろ間違えている
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/04(木) 21:48:54.34 ID:hJnA3X6Ko
>>665
おおぅ・・・
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/06(土) 23:42:21.54 ID:/BkAXI5R0
週末に学会とか大変だなぁ
669 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/08(月) 11:43:27.10 ID:VhUH4pfVo
>>668
まあしゃーないね。とはいえ今日も学校に行くので休みががが。
今日は夜に続きかけると思うー
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/08(月) 21:55:29.11 ID:/tprKMmz0
お疲れ様ー。楽しみにしてますね
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 22:19:06.49 ID:6W4d0XRIO
期待
672 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/08(月) 22:54:28.40 ID:VhUH4pfVo

「ただいまー、っと」
「ただいま戻りました」

誰もいないマンションの一室、慣れ親しんだ黄泉川家に向かって当麻と光子は声をかけた。
リビングには西日が差し込んで、テーブルからの照り返しが目にまぶしい。
二人で目を細めながら中に進んで、定位置にあれやこれやの荷物を片付ける。
先進状況救助隊(MAR)の付属病院から回収した衣服を詰めたキャリーケースは、近日中に光子の部屋になる予定の一室に置いた。
主に当麻が頑張って片づけをしたおかげで、そこはもう黄泉川の私物はほとんどない。

「はー、なんか長い一日だったな」
「そうですわね」

スーパーの袋に入れた夕食の材料を冷蔵庫に仕舞いながら、キッチンで肩をくっつけて微笑みあう。
夕日にさらされた光子の髪が綺麗だった。さっき褒めたら、暴れて埃まみれになった後だったので逆に怒られた。
決してお世辞ではなく、当麻は本心でそう思っていたのだが。

「晩飯の用意は……まだでいいか」
「そうですわね。インデックスからも黄泉川先生からも、まだ連絡がありませんし」

インデックスはステイルと会う用事があって今はいない。
夕食はもしかすれば二人で摂るかもしれないし、連絡するようにと言ってある。
必要なら当麻が迎えに行く用意もしなければならない。
黄泉川先生は、今日の午後に起こったMARによる学生の略取および非合法な人体実験に関する事件の後処理に忙殺されている。
病院でほんの一瞬だけ会ったとき、被害者の子供達が全員、いずれは元通りの日々を送れると聞いて笑った顔が印象的だった。
こんな仕事で忙しいんなら大歓迎じゃんよという言葉を遺して、颯爽と仕事に戻ってしまったので、
今日の夕食をどうするのか、こちらも聞きそびれた。

「二人とも帰ってこない、なんてことはないよな」
「……黄泉川先生はわかりませんけれど、インデックスにそれを許す予定はありませんわ。
 偉そうな態度をとれる歳ではありませんけれど、インデックスもまだ子供なんですから、夜遊びなんて」
「だな」
「誰かさんは、深夜まで女の子とお戯れになったそうですけれど」
「え?」
「……そうやってすっとぼけるのは、本当に心当たりがないからですの?」
「い、いや、その」

美琴が誰のことを好きなのか、光子は知っている。
そしてその美琴が思い人とどんなことをしたのかも、聞き及んでいる。
どうやら自分と付き合う前のことらしいので責めるのはお門違いと分かってはいるが、
一度もそんな遊びに誘ってくれたことがないのを根に持っている光子だった。

「御坂さんとはして、私とは嫌なんですのね」
「違うって」
「じゃあなんですの」
「あれは、ただ追いかけられてただけだって。それに、光子と街中を夜歩くのはちょっとな」
「どうして?」
「面倒くさいのに絡まれるのは御免だ。光子となら、こうやって部屋でくっつけるし」
「それは、そうですけれど……」
「光子」
「え、あっ……」
673 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/08(月) 22:55:53.38 ID:VhUH4pfVo

言い訳を言葉でするのが面倒くさくなって、当麻は光子を抱き寄せた。
背中が棚にぶつかって、中の皿がかちゃんと音を立てた。

「ちょっと先の話だけど」
「はい」
「ナイトパレードは、二人っきりで見ような」
「あ……」

大覇星祭と呼ばれる、学園都市全体で開催する巨大な体育祭。
その最終日には学園都市の電力という電力をすべて光に変え、盛大なライトアップを行う。
学園都市の住人の多くがカップルでそのイベントを過ごすことに憧れ、
直前の時期にはあれやこれやとイベントが起こるものだ。
光子も当麻も、当然恋人とその時間を過ごすことを夢見てきた。

「はい! 当麻さん、嬉しい……!」
「すぐの事じゃないし、インデックスには悪いことするけど、やっぱし恋人同士のイベントだからな」
「ええ。やっぱり、当麻さんと二人でいたいときも、やっぱりありますから」
「インデックスには……沢山弁当でも用意してやればいいか」
「もう。あの子は確かに良く食べますけれど、それでつるような言い方をしてはまた怒られますわよ」

くすくすと光子が笑って、レジ袋から野菜を取り出すのを再開した。
最後にじゃがいもと玉ねぎを冷蔵庫の脇のカゴに入れて、思い出したように呟いた。

「そうそう当麻さん」
「ん?」
「絶対に、他の女の方とおかしなことになって遅れるようなことは、なさらないで下さいましね?」
「へっ……?」

冷蔵庫の冷気に当てられたのか、不意にヒヤッとしたものが背中を伝う。
当麻の身長で背中に冷気が当たることはないと思うのだが。
髪に隠れて僅かしか見えない光子の横顔が、薄く笑っているように見えた。
なぜか、どうしてもそれがいつもの朗らかなそれに見えないのだった。

「さっきだって当麻さん、私と二人っきりだって言うのに、あの巫女服の方と……」
「い、いやいや光子さん? 別に姫神とはなんでもないって」
「なんでもない方の、どうしてお名前をご存知なの?」
「そ、そりゃ教えてもらったから」
「教えてもらった……? あらあら当麻さん。困りますわ。当麻さんったらまた、また、
 また無自覚にそうやって女性の気を引いたり名前をお知りになったりしましたのね。
 一度ちゃんと言って聞かせたほうがよろしいのかしら……? 私、とっても嫉妬深いほうだって」
「ごごご、ごめんって! 別に変な意図はないんだよ!」
「悪気がないのが尚更悪いですわ」

ふう、と光子はため息をついた。
この家にたどり着く前、駅前で二人は姫神に会ったのだった。
もちろん光子のほうは姫神を知るわけもなく、上条の女友達と出くわすという最悪のシチュエーションだったわけである。
インデックスにお菓子を奢ってやった関係でちょっと姫神の態度が気安くなっていたのが災いした。
そのときは一言、小言を言われただけだったのだが、どうやら許したとか気にしなかったとか、そういうことではないらしい。
どうもピリピリした光子の空気に居心地が悪くなって、つい当麻は逃げた。
674 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/08(月) 22:57:46.27 ID:VhUH4pfVo

「お、俺、黄泉川先生にとりあえず電話するわ」
「……ええ、じゃあお願いしますわ」

チロリと向けた視線に怖いものを感じて、当麻はキッチンから逃げ出す。
ソファに座って、黄泉川の携帯を呼び出した。
夕日を眺めながら、コールを数回待つ。

「はい黄泉川」
「あ、先生。上条です。今日の晩御飯どうします?」
「あー、悪い。食べられるような時間には帰れないな」
「じゃあ作り置きしておくってことでいいですか」

キッチンに目をやる。買ってきた食材から考えて、それは問題なかった。
帰ってきて軽く暖めれば食べられるだろう。

「そうしてくれると助かる。悪いな」
「いや、いいですよ。それで帰りはいつ頃に?」
「わからん。日付は変わるだろうな」
「俺、帰ったほうがいいですか」

一応、お伺いを立てておく。黄泉川がいない日には、当麻は深夜になるまでに帰ることになっているからだ。

「……いや、あんな事があった日だ。お前も婚后もインデックスも、あまりバラバラは落ち着かないだろう。
 泊まっていいぞ。ただ、婚后と間違いは犯すなよ」
「わかりました。約束します」
「ん。じゃあな」
「はい。それじゃ」

携帯の通話をきり、一息つく。
キッチンの片付けも済んだのか、光子が隣に来て、スカートを調えながら腰掛けた。

「黄泉川先生は、なんて?」
「今日は午前様だとさ。いろいろあったし、今日は俺も泊まっていいって」
「えっ?」

淡々と当麻が伝えた言葉に、光子はドキリとなった。
今ここには、光子と当麻の二人きりだ。
もちろんいずれはインデックスが戻ってくるのだろうが、
今日はこれから随分と二人っきりの時間を過ごせる上に、
夜まで当麻と触れ合って、話し合って、そしてすぐ近くで眠れるのだ。
それがなんだか無性に嬉しい。ほっとする。

「嬉しい。ずっと当麻さんと、一緒にいられますのね」
「寝る布団は別だけどな」
「もう、それは当然です! 部屋だって別なんですもの」

口で当麻を拒絶するようなことを言いながら、光子は当麻の肩にそっともたれ掛かっていた。

「当麻さん。大好き」
「俺も好きだよ、光子」
「ふふ」

見詰め合って、そのまま軽いキスを、二人は交わした。
暗くなり始めた部屋の中で、二人の影が重なり合う。

「光子」
「はい?」

当麻がソファから体を起こして、光子を抱き寄せる。
何をするのかと光子が不思議がっていると、当麻がソファの背もたれに手をかけて引き寄せ、カチンと留め金を外した。
完全に、それで背もたれが真横に倒れる。

「あ、これ」
「ああ、こないだ気付いたんだけど、背もたれが倒れてベッドになるんだよな」
「当麻さん……?」
「嫌だったら、嫌って言えよ」

もう一度、当麻がキスをした。
そしてそのキスでそのまま、光子の体を押し倒していく。
当麻が何処までする気なのかわからないし、抗うべきだと光子の理性は訴えていた。
だが、これまで何日も溜め込んでいたもの、そして今日の出来事で感じた不安、疲労、
そういったものが抗うことを光子に躊躇わせる。
当麻と、触れ合いたかった。撫でて、抱きしめて、キスして欲しいと思っていた。
少しくらい、深いところまで行っても自分を止められないような、そういう気がしていた。

675 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/08(月) 22:59:57.61 ID:VhUH4pfVo
とりま今日はここまでで。
ひさびさに光子さんとイチャイチャするシーンかけて作者が嬉しい。
長いことかけて育てたヒロインだけに。
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/08(月) 23:33:44.64 ID:GdK6xGwbo
乙!
いいとこで終わらせやがって、このやろう!
これは大覇星祭もやるつもりということなのか?
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/08/08(月) 23:38:29.35 ID:XYf715fi0
超絶に乙!
2828が止まらん、早く続きが読みたいー!
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 00:56:40.44 ID:7VtBYdaDO
乙乙! 俺も嬉しい
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/09(火) 09:53:27.03 ID:RvegmvcA0
頬の筋肉が全く動いてくれないんだが、どう責任とってくれるんだよ
680 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:45:03.31 ID:KftB2l8go

「あ、あの当麻さん」
「ん?」
「その、今日は汗をかきましたから……」

髪を撫でる当麻に、一応そうやって抗ってみる。
実際、シャワーを浴びてからのほうが、匂いの心配はしなくていい。

「そっか、まあ俺もだ」
「え? そ、そうですわね」

当麻が光子の髪から手を引っ込めた。
もっと強引に来てくれるものと思っていたので、光子は肩透かしを食らった気分になる。
伺うように当麻のほうを見ると、いたずらを思いついたときの顔でニッと笑っていた。

「一緒にシャワー、浴びるか」
「え、えぇっ?! そ、そんなの、いくらなんでも急ですわ!」
「嫌か?」
「い、嫌ってことはありませんけれど、でも、そんな」
「じゃあ、行くか」
「えっ?」

突然の展開にあたふたする光子を尻目に、当麻がソファから立ち上がり、光子の背中と足の下に手を差し入れた。

「ふっ!」
「あ、きゃっ!」

結構気合の入った掛け声を出して、当麻が光子を持ち上げた。
当麻と光子の身長差はそれほどないので、当麻にとって結構光子は重かったりする。
とはいえ持ち上げておいてそんなことを言うのは万死に値すると当麻も分かっているので、根性でなんとか体を安定させる。

「意外と、できるもんだな」
「これ……」
「光子、俺の首に手を回してくれ。支えがないときつい」
「あ、はい」

腕を当麻の首に絡めると、二人の顔がぐっと近くなった。
キスだってしたことがあるのに、なんだか物凄くドキドキとするのだった。
当麻に体の全てを預けて、抱かれている。
ちょっと首を傾けると当麻の胸に耳が触れて、心音が伝わってきた。

「当麻さん……」
「痛くないか?」
「ううん。大丈夫。当麻さんこそ、重くありませんこと?」
「まあ、羽根の様に軽いとは行かないな。ごめん、力なくってさ」
「そんなことありませんわ」

一瞬、それまでの経緯を全て忘れて、光子はうっとりとなった。
結婚式のことに思いをはせたりして、なんだか嬉しくなるのだ。
……すぐさま、当麻が何を思ってこれをしたのかを思い出させられる羽目になるのだが。

「それじゃ、浴室まで行こうか」
「え? あっ……! 当麻さん、そんな」
681 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:45:55.92 ID:KftB2l8go

この姿勢は光子に移動の自由がない。自力で降りられる姿勢でもない。
当麻が笑ってなくて、真剣にこちらを見つめているのが一層の混乱を加速させる。
もしかして、当麻さんは本気で言ってらっしゃるの……?

「駄目、ですわ……」
「俺と一緒は嫌か?」
「そういうことじゃありません。恥ずかしいの」
「光子の裸、見たい」
「っっ!! 駄目……駄目です」
「なんで?」
「だ、だって」

恥ずかしいに決まっている。そんなの。
だいたい、今日まで病院で不健康な生活をしていたのは誰だと思っているのだ。

「もう一週間くらいも、外に出ないで不摂生していましたのよ。
 そんなときに体のラインを見せるなんて……」
「光子、それって普段ならアリだって言ってるのか?」
「ちち、違います! もう、当麻さん、嬲るのはおよしになって」
「ごめん。光子が可愛いからつい、な。さて、浴室に到着っと。
 自分で脱ぐか? それとも、脱がされるほうがいいか?」
「えっ?! あ、あの、当麻さん。本当に、一緒に入りますの……?」

光子は高鳴る心臓を押さえ切れない。半分以上、当麻が本気なんじゃないかという気がしてきた。
心の準備は、正直に言ってない。裸を見せるなんて、恥ずかしいの一言に尽きる。
だけど嫌なわけじゃない。そして当麻の希望を裏切るのも心苦しい。
好きな人にだから、全てを捧げても良いという気持ちも、どこかにはある。

「光子」

名前を呼んで、当麻が光子の体をそっと下ろした。足を着いて、光子は自分の体を自分で支える。
二人ともいくらか服が着崩れていて、そして、密着していた。

「当麻さん……」
「好きだよ」
「んっ……!」

二人で見詰め合う。キスをするタイミングを理解して、磁石で惹かれあうみたいに、互いの体を引き寄せあった。
そしてくちゅりと、舌と舌で濡れた音を立てる。

「ん、ん、ん」

当麻にくいくいと舌を吸い込まれる。同時に当麻のほうから唾液が流れ込んできて、咽そうになる。
必死になって息を吸い、僅かな余裕でコクリと口の中に溜まったものを嚥下する。
唇はもうベタベタだった。クーラーなんて全然効いてないし浴室はそもそも暑い。
当麻のこめかみから伝った汗が口の中に入る。しょっぱい感じはするけれど、嫌だとは光子は思わなかった。
682 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:47:00.79 ID:KftB2l8go

「ごめん」
「全然、気になりません」

それよりもキスを中断されたほうが不満だった。もっとして欲しい。
目を見てそれを感じ取ってくれたのか、当麻がもっと激しく光子の口を吸い上げた。

「んんっ」

両手で当麻が、光子の背中とお尻を撫でる。
そのちょっと乱暴なくらいの仕草が、今の光子の気持ちの高ぶりに良く合っていた。
今までで、一番エッチな手つきだと思う。
お尻を撫でるとかそんなんじゃなくて、全体をぐっと手のひらに収めて形を楽しむような触り方だった。

「当麻さん、手がいやらしいですわ……」
「そうかな」
「ええ。当麻さんは、いっつもエッチなんだもの」
「そんなつもりはないけどな」
「嘘を仰っても駄目ですわ」
「……ならもっと、正直になろうか?」
「えっ?」

至近距離で囁くのを止めて、少しだけ当麻が上半身の距離を離す。
そして、お尻を触っていた手を滑らせて、光子の胸のすぐ下、横隔膜の辺りに添えた。
それが意図するものを、光子はすぐに察した。

「あ……」
「駄目、か?」
「恥ずかしくて、その……あの」
「ん?」

光子の表情が、明確なノーではないことに当麻は気付いていた。
ただ、服を脱がせて直接触るようなことは拒否される気もしている。
光子を傷つけないギリギリまで、当麻は行きたかった。

「光子、可愛いよ。光子が彼女になってくれて、ホントに良かったって思ってる」
「わ、私もですわ。……でも当麻さん、急にそんな話をしても、はぐらかされませんわ」

そうでもなかった。結構単純な光子は、そうやって褒められるとついつい当麻に甘くなる。

「胸、触ってもいいか?」
「……」

潤んだ瞳で、光子が当麻を見上げる。
もう一押し、というところだろうか。

「光子の綺麗な体のこと、全部知りたいんだ」
「当麻さんのエッチ。何処でそんな言い方、覚えてきますの」
「覚えてきたとかじゃなくて、本音だって」
「莫迦……」
683 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:47:41.84 ID:KftB2l8go

トンとごく軽く、光子が当麻の胸を叩いた。可愛らしい抗議の仕草だった。

「じゅ、十秒だけ……」
「え?」
「十秒だけ、ですからね……?」

それが光子の妥協できる限界だった。
だって五分も十分もされたら、どうなるかわからない。
恥ずかしすぎて自分は死ぬかもしれない。
当麻はその提案に乗るか、検討する。
まあ、今回はこんなところだろう。

「両手で触っていい?」
「そ、そんなの知りません! でも、ちゃんとキスをしてくれないのは、嫌ですわ」
「わかった」

胸に興味があるからと胸ばかり弄ばれるのは絶対に嫌だ。
そういうのは全然嬉しくない。
当麻はそれを察してくれたらしかった。
壁際に、光子は押し付けられる。そして両手を当麻に繋がれて自由を失う。
そのまま当麻が覆いかぶさって、光子を文字通り押し倒すようにしながらキスをした。

「ん! ああ……」

キスをしてすぐに、首筋を舐められる。
ゾクゾクとした何かが体を這い上がって、腰が砕けそうになる。
思わず目を瞑ると、平衡感覚も失いそうになった。
執拗に当麻に攻められる。光子は理性を全部失うんじゃないかと、不安になるくらいだった。

「それじゃ、触るな?」
「あっ……」

当麻が与えてくれる快感に陶然となっていると、待ちかねたように当麻がそう宣言した。
心理的な抵抗は、もう随分と磨り減っていた。
当麻は、安心させるためにもう一度、優しくて軽いキスをする。
恥ずかしそうにしながらも、僅かに笑った光子の表情が可愛かった。

「光子、愛してる」
「私も……。ふあぁ……」

ふにゅりと、両手で当麻は光子の胸をすっぽりと包み込んだ。
その温かみだけで、光子が可愛らしい声を上げた。

「すげ……」
684 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:48:54.94 ID:KftB2l8go

重みがしっかりあって、手のひらにおさまりきらない。
中学生を恋人にしておいてこう言うのもなんだが、スタイルが良すぎるような気がしないでもない。
なんだか不思議な感動を感じながら、ハッと当麻は我に帰る。
今、何秒使った?
勿体無いという気持ちが猛烈にこみ上げてくる。
なんというか、もっとこう、こねくり回さないと。

「あっ! あ、当麻さん、駄目、んんっ! あぅ、ん」

パンでも捏ねるように、両手で当麻は光子の胸の形を変える。
下から救い上げ、押し上げるように。
抗議を上げる光子の口をキスで塞ぐ。行き場を失った光子の手が当麻の肩に触れる。
当麻を押しのけるような力を光子はかけたりしなかった。それを確認して、さらに続ける。

「んーっ! んんん……んは、ん」

苦しげに光子が息を吸う。そんな余裕すら与えたくなくて、ひたすら当麻は胸に触れ続ける。
親指で、その胸の先端あたりの布をこする。何かその『痕跡』を見つけたいのだが、
ブラ、ワイシャツ、サマーセーターと三重に防御策を張り巡らせた常盤台の制服は、
中々『それ』の存在を当麻に悟らせなかった。
仕方ないから、摘むようにして先端を執拗に攻めてみる。

「はぁぁん!」

吐息や鼻声じゃなくて、光子がはっきりと甘い声を漏らしたのを当麻は聞いた。
そのびっくりするくらいの色っぽさと女らしさに、むしろ当麻のほうがやられそうだった。
可愛い彼女だし、大好きだったけれど、こんな風に自分の手で女としての側面をさらけ出したところは、初めて見た。
その生々しいリアクションに、当麻のほうがドキドキしてどうにかなりそうだった。
だがどうやら光子は自分で自分のした事に気付いていないらしく、
手を動かすのもキスをするのも止めてしまった当麻を不安げに見つめていた。

「当麻さん……?」
「あ、悪い」
「ん……」

なだめるようにキスをすると、光子が安心した顔をした。
なんとなく、それで当麻も胸を触るのを止めることにした。
もっと、こんな一足飛びな感じじゃなくて優しく光子を導いてやりたい。

「光子、大好きだよ。光子が可愛すぎて、どうにかなりそうだ」
「嬉しい……。当麻さんに喜んでもらえるのが、私、一番嬉しいの」

光子が当麻の首に腕を回した。
それに応えて、当麻も光子の背中と腰をぎゅっと抱いてやる。
汗が混ざり合うのも気にせずに、二人は深く深く、キスをした。
夕日が存在感を失うくらいまで浴室の暗がりで、ずっと。
685 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/09(火) 11:50:32.65 ID:KftB2l8go
>>676-679
πタッチまで行っちまった。時々このカップルは暴走するね。
大覇星祭までいけるといいなー。いつになるやら。。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 12:32:43.75 ID:TFzOIqIIO
おっぱい

じゃなかった>>1おつ
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 13:31:36.77 ID:7VtBYdaDO
乙π。

早速約束破るもげじょーさんは先生に鉄拳制裁もといお説教されてしまえ!
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/09(火) 14:25:07.44 ID:RvegmvcA0
パイは投げられた。乙

上条さんは光子ちゃんのをもんだので、自分は上条さんのをもぎます。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/09(火) 15:23:50.84 ID:PDrdh+LAO
そしてサジは投げられた!

おつー。
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/09(火) 17:55:38.74 ID:tDKbOrmAO
乙。
確かにみっちゃんはスタイルいいよなぁ。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2011/08/09(火) 19:09:00.14 ID:WD9K1Ays0

でも上条さんが男前過ぎてなんか違和感あるな
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/09(火) 19:17:52.31 ID:MqZpsptWo
あれだ、記憶破壊されてないからって考えればいいのさ
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 21:07:35.52 ID:3EG4qJ5bo
なるほど初代か、まあ確かに男前にすぎる感じはあるな。彼女持ち故かな
インデックスの記憶保持をどう扱うかが個人的には楽しみ
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/09(火) 22:14:10.25 ID:u0tDrR+qo
乙ー
上条さんの下条さんはイマジンブレイクしろ!
695 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:39:31.36 ID:mygNeroMo

「あたたたた……」

佐天は体のあちこちに出来た擦り傷が染みるのに耐えながら、ぬるいシャワーを浴びる。
警備員の、たしか黄泉川という先生の紹介で案内された病院で、
佐天は今日一日の汚れを落とし、治療を受けるところだった。
各種測定で、骨折や内臓損傷などの深刻な怪我はないことがもうわかっている。
足の腱が一番の大きな怪我だったが、きちんと治療すれば後遺症もないと聞いている。
そんなこんなで一息ついて、経過観察のために今日は入院なのだった。

「佐天さん……大丈夫ですか?」

間仕切りの向こうから、初春の声が聞こえる。
初春自身の怪我は佐天よりさらに軽いが、あちらも経過観察入院だった。
美琴と白井は、今診察を受けているところだ。

「染みるのは擦り傷だけだから、別に問題はないよ。
 まあ、痛いのは痛いんだけど」
「……」

シャワーの音の向こうで、初春が痛ましそうな顔をしたのがなんとなく佐天にはわかった。
たぶん、怪我の程度の差を、初春は申し訳なく思っているのだと思う。
春上たちを助けるために体を張った度合いが自分は少なくて、役に立てなかったとかそんな気持ちを感じているんだろう。

「怪我、早く治りそうですか?」
「なんかゲコ太っぽいあのお医者さんが言うには、全治一週間だって。完治までは二週間くらいかかるってさ」
「そうなんですか」
「しばらくは食べ物は少なめで、優しいものをだってさー。困っちゃうよね。直るころにはお盆も終わっちゃってるし」
「でも、こんなこと言ったら何ですけど、それ位ですんで良かったです」
「あはは、まあそだね」

地味に、髪があまり傷つかなかったのは嬉しかった。肌と違って元通りになるのに時間も掛かるからだ。
シャンプーをとって、髪を泡立てる。爪を立てないように、髪の根のほうからきちんと汚れを取るように指を動かしていく。

「ねえ初春」
「なんですか?」
「ホント、良かったよね。みんな無事でさ」
「そうですね。春上さんも、ひどくないみたいですし」

声に安堵と喜色を込めて、初春が頷き返した。
一番の重症と思われた春上も、検査の結果は予想外に良好で、
失血による一時的な眩暈や疲労を除けば後はそれほど時間も掛からず復調するとの事だった。
口や首、胸の辺りを血まみれにして呻いていたあの時のことを思えば、信じられない結果だ。
696 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:41:39.14 ID:mygNeroMo

「アレは、一体なんだったのかな」
「え?」

問い直してから、初春は自分で佐天の言わんとしたことに思い当たった。
インデックスとエリスが、春上に一体何をしたのか。とても、超能力とは思えなかった。
そもそも他人の人体に干渉して、医者以上の結果を叩きだせる能力者なんてそうはいない。
佐天が不思議がるのはむしろ当然だった。

「祈りが届いたんですよ」
「え?」

だが、なんだか初春はあの時起こった出来事に、
科学的な見方をわざわざ持ち込んで不可思議だとか言うのは、野暮な気がしていた。

「なんとなく、判らないままっていうのが一番正解に近い気がします」
「……ふーん」

佐天はそういう姿勢をあまり受け入れられなかった。
あの時、真っ先に春上のために祈りを捧げた初春との、差がそこにはあったのかもしれない。
佐天はまあいいかと思って、シャンプーを洗い流し、トリートメントをつける。

「佐天さん」
「んー?」
「今日の佐天さん、すごかったですね」
「……ありがと」

褒められるのは、勿論嬉しい。だけどなんだか佐天は寂しくもあった。
初春と、距離が開いてしまったようで。

「佐天さんは、システムスキャン、また受けたりしないんですか?」
「退院したら受けようかな、って思ってる」
「きっと、またレベル上がりますよ」
「そだね。……偉そうに聞こえたらごめんだけど、たぶん、上がると自分でも思ってるんだ」
「そうなれば柵川中学でトップですね。レベル3以上は、うちには一人もいませんから」
「うん……」

初春が朗らかにそう言ってくれるのが、寂しさの裏返しのように聞こえた。
柵川中学でトップというよりは、事実上、もう転校するべきレベルだということを、意味しているから。

「ねー初春」

トリートメントを洗い流し、スポンジを手にして佐天は初春に声をかける。
なんですかと返事が来るより先に、間仕切りを迂回して、初春のシャワールームに乱入する。

「えっ、ちょ、ちょっと佐天さん!?」
「んー、可愛いお尻だね」
「ひぁっ?! な、なんで触るんですか!!」
「え、駄目? あたしのも触っていいけど?」
「別に触りたくないです! っていうか狭いところに二人って無理がありますよ」
697 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:42:33.03 ID:mygNeroMo

一人分のスペースしかないところにいるものだから、肘や膝や、
太ももや上半身のきわどいところなどが時々触れたりする。
そのたびに彼我の戦力差というか、女らしい佐天の体つきに、初春はくっと呟いてしまうのだった。
身長は7センチ差なのに、バストはそれ以上差があるって一体どういうことなのか。

「ほら、洗いっこしよ」
「え? さ、佐天さん。それ本気で言ってます? それとも私をくすぐる口実ですか?」
「どっちも正解かなっ」

ボディソープをスポンジにとり、お湯を含ませ揉む事でしっかりと泡立てる。
口ではくすぐるようなこともほのめかしたが、実際は特にそういう気はなかった。

「あっ……」

初春の背中に、そっとスポンジを当てる。
傷がないかをよく確認しながら、怪我のない部分をこしこしとこすっていく。

「どう初春? 気持ちいい?」
「え、えっと……。なんか落ち着かないですけど、気持ちいいです」
「そりゃ良かった」

弟を風呂に入れてやったときの要領で、佐天は腕、首筋などを続けて洗ってやる。
あっという間に初春が文句を言うのを止めて、佐天の優しいタッチに身を任せていた。

「佐天さんって、やっぱり格好良いなって思います」
「もう、突然どしたの?」
「同級生にこう言うのは変ですけど、なんだかお姉さんな感じで、優しくて」
「こ、こら初春。照れるでしょ。ほら前向いて」
「え?」
「洗ったげるから」
「い、いいです! そこは自分でやれます!」
「まあまあ。ほら、初春の全てをお姉さんにみせてごらん?」
「そのお姉さんって表現はいかがわしいですよ……」

胸を隠すように腕を前に回した初春に、佐天は笑ってスポンジを渡してやる。
やっぱり初春をからかうのは、楽しかった。
初春がそそくさと体の前を洗うのを見届けると、初春が振り返った。

「じゃあ次は、私ですね」
「ん。お願いね」

初春はソープを足して、少し泡立てなおした。
そして自分よりちょっとだけ背の高い佐天の背中に、そっとスポンジを当てる。

「んっ、たた……」
「あの、ごめんなさい佐天さん」
「いいって。さすがに染みないように洗うのは無理だしね。一思いにやっちゃってよ。ゴシゴシと」
「ゴシゴシって、そんな洗い方しませんよ」
698 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:43:19.29 ID:mygNeroMo

傷に直接触れることは避けながら、初春は佐天の綺麗な肌に泡を付けていく。
時々目に入る紫色の痣が痛ましかった。
快活ではあるけれど、やっぱり佐天にこんな傷まみれの肌は似合わない。

「もう、なんて顔してんのよ、初春」
「だって……」

どれくらい痛かったのだろう、と想像すると、眉が自然ときゅっとなってしまうのだ。
そんな初春の様子を、佐天は気にした風もなくあっさりと笑う。

「別に気にしてないよ、あたしは。だってあの時、心は折れなかったから。
 怪我はしても、ずっと前向いてたから。だからこの怪我は勲章なんだ」
「男の子の言い分ですよ、それ」
「大事な人を守れた人の言い分なんだよ、正しくは。……ってちょっとカッコつけすぎか」

てへっと笑う佐天に、もう、と仕方なく初春は笑い返した。
確かにあの時、佐天はとびきりに格好よかった。
美琴に引けをとらず、どうしようもないとすら思った状況をひっくり返して、
ハッピーエンドを強引に手繰り寄せた。
きっと自分は、そんな佐天に憧れているのだろうと、初春は思った。

「ん、ありがと。じゃあ前よろしく」
「……はい。いいですよ。佐天さんがして欲しいなら、してあげます」
「え? ちょ、ちょっと待って! もう、恥ずかしがってくれなきゃ困るでしょ?」
「恥ずかしいですけど、別に嫌って訳じゃないですから」
「え、えっ? ……ごめん初春。あたしが恥ずかしいので、スポンジを下さい」
「もう、だったら最初から言わなければいいんですよ」
「だって初春からかうの、好きだからさ」

照れ隠しに、さっと佐天も体の前を洗う。
初春が洗い流すシャワーを用意しようと、コックに手を伸ばした。
そこを、佐天はもう一度急襲する。

「ひゃっっ?! ささささ佐天さん?」
「大好き、初春」
「なななな何を言ってるんですか?」

ぬるりと、肌が石鹸膜越しに触れ合う感触がする。
素っ裸で、二人っきりのシャワー室で、初春は佐天に抱きつかれていた。
背中にピッタリと、佐天のおなかや胸が張り付いた感触がする。
ここまで来るともうなんだか、友達の一線を越えちゃうんじゃないかっていうくらいのスキンシップだ。

「さ、佐天さん?」
「……」
「あの」
699 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:44:27.95 ID:mygNeroMo

初春を抱きしめてからしばらく、佐天は言葉を発さなかった。
その雰囲気が、なんだか真剣なのに気付いて、初春は言葉を急かしたり、暴れたりするのを止めた。
やがて、ぽつんと佐天が言葉を漏らし始めた。

「初春や春上さん、クラスの皆と柵川中学で過ごすの、楽しいよね」
「……そうですね。もし、佐天さんがいなかったら寂しいですね」
「そう、かな。寂しがってくれるかな」
「当たり前じゃないですか。佐天さんは明るくて、クラスでも人気ありましたし」
「……じゃあ、二学期からはそんな感じで行こうか」
「もちろん、大歓迎ですよ」
「そっか」
「……でも。佐天さんは、別の選択肢のことも、考えてるんですよね」
「うん」

初春から、佐天の表情は見えない。だけどわかる。だって自分は佐天の親友だから。

「佐天さんは、どっちの道を進みたいですか?」
「あたしは……」

心の中で、もうほとんどは、決まっていることだった。
だけど寂しくて、忘れられそうで、初春の前ではなかなか、それを口に出来ないでいた。
決定的なことを言うのが、怖かった。

「応援してます!」
「う、初春?」

突然、ぐっと拳を握って初春がそう叫んだ。

「私、佐天さんのこと応援してますから!
 佐天さんはもっと伸びるに決まってます! そのために、できることはきっとあります!
 転校したら、一緒に遊べる時間は減っちゃうかもしれませんけれど、別にいつだって会えるんです!
 だから、だから……っ」

勢いの良かった初春の声が、だんだんぐすぐすと鼻声に替わっていく。
なんだか、その雰囲気に佐天も中てられそうだった。

「ちょっと初春。なんで泣くのよ。こっちまでなんか変になるでしょ」
「電話もします。メールもします」
「あたしだって、するよ」
「だから、あのっ……!」
「うん」

初春を抱いた腕を放し、正面を向かせる。
そして、初春の目を見て、佐天は初めて、きちんと自分の決心を伝えた。
700 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:45:34.08 ID:mygNeroMo

「あたし、転校するね。もっと自分の能力を伸ばせる場所で、もっとビッグになってくるから」
「……はい、っ。がんばっで、さてんさん。ふえぇぇ」
「あーもー、泣いちゃだめでしょ。後ろ髪引かれちゃうじゃない」
「だ、だって、覚悟はしていましたけど、やっぱり佐天さんから聞いちゃうと、本当なんだなって……!」
「うん。あたしも、初春に言ったら、なんか寂しく……っ。ほらもう、もらい泣きしちゃったじゃない」
「佐天さぁぁぁん」

シャワー室でわんわんと涙をこぼしながら、佐天は初春と抱き合った。
悲しいだけではない。何でこんなことになったんだと二人で変に爆笑しながら、また泣いた。
佐天のもらい泣きが一通りおさまって、冷たいシャワーをぶっ放してクールダウンさせるまで、初春は泣き通しだった。
強い子だと思っていたからなんだかそれが意外で、そういう側面を見れたのもきっと親友だからだと思って、佐天は勇気付けられた。
二人でバスタオルを巻いて、脱衣所へと戻る。

「初春、落ち着いた?」
「……はい。佐天さん、冷静になるのが早いです」
「って言われても。初春は泣き虫だったねえ」
「だって佐天さんが転校するって言うのに……!」
「あーほらもう、また泣いちゃ駄目でしょ。あたし、転校できなくなっちゃうよ?」
「駄目ですっ。佐天さんは、頑張らないと」
「そだね。まずは初春に勉強教えてもらわなきゃ」
「もう、それじゃ全然足りないですよ」

文句を言い合いながら、二人でおそろいの下着を身につけていく。
ちなみに可愛げのまったくないオーソドックスな中学生用下着だ。
縞模様の青いヤツだった。病院が用意してくれるのは、これしかないらしい。

「んー、可愛いお尻だね」
「もう、さっきもずっと見てたじゃないですか」
「下着を着けてるところをみると、安心するね」
「毎日ちゃんと履いてます!」
「これからも、忘れちゃ駄目だからね」
「なんで忘れると思うんですか……」

そして上から、病院着をすっぽりかぶる。下はハーフパンツ状だった。
夏真っ盛りなこともあって、軽い素材だった。

「初春がスカートじゃないと、めくれない」
「当然です! 言っておきますけど、ずり下げたりしたら絶交ですか、ら……う」
「あーもう、自分で言って自爆しない」

絶交なんて、このタイミングでは聞きたくない言葉だ。
また初春の目じりに涙が浮かぶ。

「大丈夫だって。転校したって、また普通に会えるから。白井さんや御坂さんともちょくちょく会ってるでしょ?」
「白井さんは風紀委員で一緒ですから……。でも、なんでお二人の話が?」
「あ、あたしが受けるつもりの学校、まだ言ってなかったね。
 って言っても、受かるかどうかわかんないし、相当無茶やってるのは、自分でもわかるんだけど」

言うべきときは、今だと思う。
まだ誰にも、断言はしてこなかったこと。
最初に初春に言えるのは、嬉しかった。

「あたし、常盤台中学、受けるつもりだから」

それで覚悟は決まった。
いい顔をして宣言した佐天に、飛び切りの笑顔を初春が返した。
701 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/10(水) 11:54:16.15 ID:mygNeroMo
『ep.2_PSI-Crystal 13: 幸せな結末』でした。これで体晶編は完結っと。次話のタイトルは
『ep.3_Deep Blood 03: 不幸せな結末』を予定しています。エリス、ていとくん……(´;ω;`)

>>>>691-693
惚れた女にカッコいいこと言うくらいは甲斐性あるでしょ、ということでひとつご勘弁ください。
誰とも付き合ってない原作上条さんとはちょっとくらい差があってもいいかなー、とか。
上条さんって意外と原作らしさを出しにくいんですよ。

あと誰かのリクエストに応えてお風呂会にしてみた。
四人組じゃなくてごめんね。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/10(水) 12:09:07.32 ID:X4tEby5AO
お尻お尻ハァハァ
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 12:33:40.40 ID:Ay3n89tb0
乙。
佐天さんマジかっけぇ
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県) [sage]:2011/08/10(水) 12:53:25.34 ID:Q3o2mPL10
佐天さんのお尻回がと仄めかされていたら初春のお尻回だったでござる。どっちも大好きですけど!
しかしこの二人、見ようによっては上条さんと光子さんより進んだカップルに見えてしまうな
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/10(水) 18:56:11.73 ID:dxmvJYcH0
乙乙! 佐天さんも初春もどっちも可愛いよ!

>>701
それでもイケメルヘンなら・・・イケメルヘンなら常識を覆してくれる!
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/10(水) 19:20:45.14 ID:m0M+lrwU0
ていとくんのターン、来たああぁぁぁぁ!
原作では日の目を見なかった第二位の力を思う存分発揮してくれぇええええ!!
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/10(水) 21:13:18.63 ID:+1zuT7zUo
タイトル不吉すぎワロタwwwwww
ワロタ・・・
708 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:15:26.00 ID:v8ol2l+uo
帰省から戻ってきました。書き溜めた分をどかっと投下しますー。
長めのエピソード丸ごと一つだから結構な量だな。
709 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:17:58.70 ID:v8ol2l+uo

ありふれた夕方の雑踏の中を、インデックスは早足で歩く。
記憶を振り返れば、それは慣れ親しんだペースだった。
長身のステイルと神裂にとっては遅めで、インデックスには早め。
仲良くみんなの中間を取った早さを、インデックスの体は覚えていた。
そしてもちろん、隣を歩くステイルがそれを忘れるわけもない……はずなのだが。
どうも、一挙手一投足に流麗さがないというか、ありていに言って緊張していた。

「ようやく、落ち着いたね」
「うん」

体の動きは言葉と裏腹なのだが、ステイルはそうインデックスに切り出した。
二度と、ないだろうと諦めていた。こんな風にインデックスと一緒に歩くことなんて。
だからこそ、ぎくしゃくするものがあるのだ。
例えば全てを忘れてしまう直前に、自分はこの子になんと約束したんだったかとか、
そういうことを考えるとステイルは歳相応の緊張を強いられてしまうのだった。
こんな醜態、インデックスと二人きりでもない限り絶対にさらすことのないものだ。

「で、昼からまるで無関係な仕事をこなしたあの一件については、結局、円満に解決したってことで、いいのかな?」
「うん。みんな、最悪の事態は避けられたみたいだから」
「そうかい」

無難な質問を、ステイルはこなしていく。
婚后光子に高速道路のど真ん中に放り出され共闘させられたせいで、事の顛末はあまり知らされていないのだ。
とりあえずステイルが打倒した側がわかりやすい非道であったのが有難かった。
どちらが正義かわからないような、そういう判断の難しい案件だったら手を出すのは余計に躊躇われただろう。
そういう意味で、一般人に危害を加える結社の類を妥当するのが生業のステイルにとってはいつもの仕事に近いといえた。
だが同時に、学園都市という名のこの町に、改めてステイルは空恐ろしいものを感じてもいた。
この事件を打開した立役者だとか言われていた、長髪の黒髪の女の子と、
トラックに同乗したあの御坂とかいう女の子を思い出す。
どちらも、ただの素人にだった。心構えという一面で見ればステイルからすれば甘いにもほどがある。
聞けば普段は女子中学生だとかいう。
少なくとも『必要悪の教会<ネセサリウス>』という団体に所属するステイルとはまるで立ち居地が違う。
だというのに、そんな女の子ですら、ステイルが危機と感じるような敵を相手に大立ち回りを演じ、
そして自分たちの望む未来を手繰り寄せられる。
この町の子供たちが何気なく手にし、日々開発している能力。
それがいかに強大で危険か、外部の人間だからこそステイルは思い知らされていた。
この町では、何気なくすれ違う学生の中に、ステイルが脅威と感じるような人間がいくらでも存在している。
そんな日が来ないことを祈るばかりだが、この町が中心となってまとまった科学サイドと魔術サイドがぶつかることがあるなら、
この町は確実に脅威となる。
ステイルは沈み込みかけた意識を引き上げ、インデックスに再び問いかける。

「彼女は……エリスって言ったっけ、あの後、どうしたんだい?」

それも気になることだった。こちらは困ったことに学園都市で知り合った同業者だからだ。
土御門には連絡を済ませ、問題があれば対処が行われるだろうが、少なくとも今日は、
ステイルがあの少女に関わっている暇はない。
すぐにでも片づけるべき別の案件を抱えているからだ。

「……ごめんね。ちゃんと聞いてなかったから、私もよく知らない」
「そうかい」
710 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:18:53.11 ID:v8ol2l+uo

二人を取り巻く景色は、歩みを進めるたびに変わっていっている。
駅前の繁華街を歩いているので人通りは多い。
今は飲み屋街の赤提灯が並ぶ通りを抜けて、ラブホテルの並ぶ一角を抜けている。
ステイルはなんとなくそのことに落ち着かない気持ちでいるのだが、
インデックスの横顔があまりわたわたとしていないので、平静を装っていた。
そのホテル街も抜けて、再び駅のホームにほど近い場所へと戻ってくる。
雑踏にまぎれて話をして、誰かに注目されるのを避けているのだった。
インデックスがステイルのほうを振り返って、わずかに首をかしげた。

「ねえ、それで話って何かな?」
「え?」

インデックスの態度に、ステイルは戸惑っていた。素っ気無いような、そんな風に感じるのだ。
大体真面目な話を始めれば、旧交を温めるような優しい気持ちになどなれないのが『必要悪の教会<ネセサリウス>』だ。
それをインデックスも分かっているだろうに、こうさっさと本題に入ろうとするのは寂しい気持ちにならなくもない。
……ステイルはそんな自分の心を戒める。
素っ気無いなんてのは、久々にこんな機会を得て動転している自分が勝手にインデックスにかけた色眼鏡だ。
インデックスは真面目な子だ。学園都市にステイルがわざわざ潜入するほどの事件があると知ったなら、
それについてもっと詳しくなろうとするのはおかしくなんてないはずだ。
ステイルは短くなったタバコを新しいものに替えながら、気持ちのスイッチを入れ替える。
そして、言葉を選びながら説明を始めた。

「察しているとは思うけど。僕は君と旧交を暖めに来たわけじゃなくて、ある任務を帯びてここにいる」
「……どんな?」
「とある場所に、女の子が監禁されている。その子を助け出すってのが僕の仕事なんだ」

インデックスはそのステイルの言葉を聞いて考えを巡らせる。
科学の町でステイルが事件に首を突っ込むというのだから、それは間違いなく魔術絡みなのだろう。

「敵は誰?」
「ちょっと回りくどいけど、事情を追って説明するよ」

端的に言う、ということをステイルは避けたかった。
決してインデックスにとっても無関係の事件ではないから。
順を追って説明することで、インデックスに感じさせる負担を減らしたかった。

「三沢塾って、さすがに君も知らないかな」
「うん。聞いたことはないんだよ」
「日本で最大手の進学塾さ。日本は大学に入学するための試験がかなり難しいらしい。
 まあ科挙に始まる東洋の普遍的な現象だね。で、より高難度な試験を課す大学ほどステータスのある大学なんだ。
 で、その難しい試験に合格するために、日本の高校生は高校以外に学習塾というやつに通ってさらに勉強をする。
 その学習塾で一番大きいのが三沢塾なんだそうだ。その支部が、学園都市にもある」
「それで、魔術とどう関係があるの?」
「日本が珍妙な国だといっても、この街ほどじゃない。日本に広く展開している三沢塾そのものは、
 何の変哲もない教育機関なんだけどね。学園都市の方式だとかを取り込むためにここに作った支部が、
 いつしか思想的に先鋭化して、科学宗教と化した」
711 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:19:45.74 ID:v8ol2l+uo

そこまで聞いて、インデックスはあらましの予想が十分ついた。
新興宗教とはどれでも多くはそうだが、現状に対する強い不満を抱えているがゆえに、
そして信徒を多く獲得する必要があるがゆえに、過激な行為に手を染める傾向がある。
三沢塾の学園都市支部とやらも、恐らくそうなのだろう。

「その顔を見ると予想がついてるらしいね。彼らは象徴として、自らの手に希少価値のある能力者を欲したんだ」
「それで間違って、魔術師でも捕まえちゃったの?」

イギリス清教の信徒だったとか、そういうことだろうか。必要悪の教会の人間だとは思いたくないが。
そのインデックスの質問にステイルは首を横に振った。

「いいや。その程度なら話はまだ簡単なんだけどね。三沢塾が監禁した女の子の保持する能力は、
 とてもじゃないが魔術師にとっても無視できる代物じゃなかった」
「どんなの?」
「『吸血殺し<ディープブラッド>』さ」
「えっ?!」

その単語に、インデックスも聞き覚えがあった。
存在するのかもはっきりしない、ある生き物。
いや、見た人がいるという記録がないだけで、痕跡だけなら人類は何度も目にしているのだ。
西洋から遠く離れたここ日本とて例外ではない。10年ほど前に、京都のとある寒村で観測されている。
ソレは、生物というカテゴリに当てはめるべきかもはっきりしない。
なにせ、文献に言われる通りであれば、およそ生物としての限界だとか枠組みを超越した生き物だからだ。
その名を、吸血鬼という。
そして『吸血殺し<ディープブラッド>』は、その吸血鬼を集め、殲滅する異能を指す言葉だ。
なぜ発現するのかもはっきりせず、またその効果も実証された例などないはずなのに、あるとされている異能。
不確かなことが多いが、伝承を全面的に信じれば、三沢塾は吸血鬼を捕獲する下地を構築した状態にあるらしい。
それも、恐らくは本人達はまるでそのことを理解しないままに。

「この情報が魔術サイドに流れた時点でいろいろと問題になっていたんだけどね、
 吸血殺しそのものは生来の異能、つまりは超能力の一種に属する。
 だから案件としては完全に科学寄りで、僕らの手出しする余地はなかったんだけど、
 つい最近、事態はかなり変化したんだ」
「……」

インデックスは静かにステイルの言葉の続きを待つ。
夕日は刻一刻と傾き、一日を終えようとしている。
夜は魔術師の時間だった。そして、吸血鬼の時間でもある。

「顛末を言ってしまうと、三沢塾は乗っ取られた」
「え?」
「思想としても不確かで、ついでに言えばただの学習塾上がりだ。魔術師に襲われればひとたまりもないよ」
「それが、私たちの敵なんだね?」
「……」

ステイルは答えに窮した。敵と、インデックスの前で断定したくなかった。
712 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:21:16.07 ID:v8ol2l+uo

「所属はどこなの?」
「今はフリー、のはずだ。術者としての系統は、チューリッヒ学派の錬金術師、だね」

ドキリ、とした。
インデックスは、知り合いにチューリッヒ学派の錬金術師がいるから。
とてもお世話になった人だ。ステイルと神裂とともにインデックスが行動するようになる、一年前に。
ステイルの顔を見上げる。その、何かを悟ったような、そしてインデックスを気遣うような顔が、気になった。

「その魔術師は昔、必要悪の教会に所属していたんだ。……君は、すべてを思い出しているんだろう?
 もうそれが誰か、言わなくてもわかっているだろうと思う」

ステイルが名前をはっきりと告げなかったのは優しさというより、その存在を認めたくないが故の躊躇いだった。
そばを徘徊する清掃ロボに、ステイルは吸殻を投げつける。
灰皿を携帯するよう警告するその声を無視して、ステイルはインデックスのリアクションを待った。

「……先生、なの?」

ステイルはその響きに、ドキリとした。
考えてみれば当然だ。相手は自分と同じ、かつてインデックスの傍にいた人間なのだから。
吸血殺しを監禁した錬金術師、アウレオルス・イザードは、まぎれもなくインデックスの『先生』だったのだから。
だが、それでもステイルにとってその気安い先生という呼称は気持ちをざわめかせるものだった。
自分の知らないインデックスを目の当たりにするのは、決して心地よいものではない。
それは、本気で、心の底からインデックスを救いたい、幸せにしたいと思った男に共通の、ある種の感情だった。
すがるようなインデックスの視線に、ステイルは冷淡な答えを返す。

「ああ。吸血殺しを監禁し、吸血鬼を手に入れようとしている魔術師。
 現在あらゆる魔術結社から狙われるその人間こそ、君のかつての師であるアウレオルス・イザードさ」
「どうして、先生がそんなこと……」

するはずがない。インデックスの知るアウレオルスは、そういうやり方を好む人ではなかったと思う。
もちろん魔術師だから、自らが魂に刻んだもっとも大切な目的のためなら何をやってもおかしいことはない。
だが、人類の歴史上、まともに御したこともないような吸血鬼の力なんて、いったいどう使う気なのか。
そうしてまで叶えたいことなんて、一体なんだろう。

「インデックス」

ステイルが、静かに呼びかけた。
その瞳を、じっと見つめ返す。

「君と知り合った二年目、そして君を追いかけ続けた三年目、僕らは何を胸に抱いて、行動をしていたんだと思う?」
「……あ」
713 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:22:35.31 ID:v8ol2l+uo

今だから、インデックスはわかる。
常にインデックスを追い続けた二人を、憎悪すらしていた。それほど執拗に二人がインデックスを追った理由。
――――自分を、助けたいが故だった。
世界に20人くらいしかいないはずの聖人である神裂が泣きじゃくっていた。
そしてステイルが最後に真剣な表情でかけてくれた言葉、インデックスはそれを思い出す。


『――――安心して眠ると良い。たとえ君は全てを忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに君のために生きて死ぬ』


どれほど、重い言葉だろう。どれほど、自分を案じてくれた言葉だろう。
そして、そのステイルの残像すら脳裏から消えないうちに、インデックスはまた別のシーンを思い返す。
アウレオルスが、眠り際の自分にかけてくれた言葉を。その時の表情を。
……ステイルの表情と重なったというのは、どちらにもきっと失礼なことだろう。
とても思いつめて、本気で言った言葉だったのがよくわかる。

「嘘、だよね……」
「そうなら、笑い話なんだけどね」
「先生は、私を」

それ以上先が言葉にならない。
だが言いたいことはステイルには伝わっていた。

「そう。記憶を失ったままのはずの君を助けるために、アウレオルスは吸血鬼という禁断の果実に手を出そうとしているんだ」
「……」
「インデックス」

思わず足を止めたインデックスに、そっとステイルが声をかける。

「彼を止めるのに、力を貸してほしい。
 遅れれば、恐らく学園都市に侵入した他の魔術結社との間で吸血殺しの取り合いが始まるだろう。
 それに吸血鬼を認めない教会勢力によって、彼の抹殺も試みられるだろう。
 君がいなければ、僕一人でそれを止めるだけの余裕はない。
 アウレオルスの生死を気にすることはできずに、吸血殺しの少女を助けるだけで精一杯だろう。
 まあ、君に助けてもらってもなお、それが限界かもしれないけどね」

他意なく、ステイルはアウレオルスに対しては冷淡だった。
魔術師が願いをかなえるために行った事のツケを一緒に払う気はない。

「ステイル。お願い、先生の所に、私も連れて行って!」
「こちらとしても手間が省けて助かるよ。幸い、吸血鬼がこの近くにいるという情報はない。
 すぐ行動に移れば、説得をしてあっという間に解決できるかもしれないね。
 それと、一応君の保護者になっている、あの二人には知らせるのかい?」
「あ……」

夜遊びは厳禁だと釘を刺されたところだった。
説明をすれば、二人は絶対に駆けつけてくれるだろう。だけど、必要以上に心配をかけそうだった。
そして、自分の過去にまつわる話に、二人を触れさせるのが怖かった。
二人は、今のインデックスの居場所だったから。

「呼んでたら時間かかるし、私とステイルだけで、大丈夫かな?」
「戦闘にでもならない限り足手まといだからね。君の説得をメインにするなら、基本的には不要だ。
 ……大所帯も面倒だし、今回は僕らでやろうか」
「うん。ステイル、なんとか先生を、止めなくちゃ」
「……ああ、そうだね」
714 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:23:26.54 ID:v8ol2l+uo

ステイルが、足を駅のほうに向けた。
今すぐに、その三沢塾へと向かう気なのだろう。
インデックスとて準備は整っている。ステイルのすぐ後ろを追った。

「そうそう。吸血殺しの担い手について、きちんと話していなかったね」

ステイルがシャッと一枚の紙を胸から取り出し、インデックスに広げて見せた。

「えっ?!」

驚きに、インデックスが目を見開く。
そこに描かれていたのは、知った顔だった。
腰まである黒髪に薄い表情の女の子。姫神秋沙だった。




歩きなれた第七学区の雑沓を垣根は颯爽と通り抜ける。
機嫌は、かなり良かった。エリスから会いたいと連絡があったから。
今、垣根のいる場所は割と治安の悪い通りだ。
その道を、ショートカットになるからとまったく臆さず進んでいく。
女の子が歩けばいろいろと面倒事の起こりそうな場所だが、垣根は女の子でもないし、
そもそも銃による遠方からの狙撃ですらも危害を加えるのが難しい人間だ。
誰一人垣根に近づく人間はいなかった。
そんなわけで、足取りも軽く革靴をカツカツ言わせていた垣根だったが、
ふと視界の隅に、女の子を見つけてチッと舌を鳴らした。

「あの馬鹿女、またかよ。阿呆なのか?」

ここはコスプレで歩くような通りではない。
何の趣味かは知らないが巫女服で一人歩きなんぞ、ある意味スキルアウトの連中にケンカを売っているようにも見える。
襲ってみろ、と言わんばかりの不用心さだ。
いつぞやのようにバックには黒服の連中が山ほど控えているのかもしれない。
放ってもいいだろうとは、思う。というか普段の垣根から確実に無視だ。
だが、もう一度、舌打ちをする。自分に向けて。

「善行なんぞいくら積んでもエリスのご利益は変わらねぇけどな」

垣根は足を向ける。不良に絡まれ、腕をつかまれている姫神のほうへ。
そんなことをしたって別にエリスに報告する気もないし、何も変わらないのだが。
だがもし無視を決め込んで、それをエリスに教えたら、きっとエリスは自分を咎めるだろう。
そういう、エリスの良しとしない在り方はなんとなく避けておこうと思うのだ。
垣根はため息をつきつつ、不良たちに声をかけた。
715 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:24:28.95 ID:v8ol2l+uo

「おい、散れ」
「あ? なんだ、彼氏さん登場か?」
「ちげーよ、こんな馬鹿女の連れ添いなんぞ御免だ」
「随分と。酷い言いようだね」
「好き好んでこんなところを歩くお前を馬鹿女と言って何がおかしいんだ」
「用がある。だからここにいるだけ」
「……まあいい。とりあえずお前はここから出てまともな道に戻れ」
「なぁおい、随分仕切っちゃってくれるけどよぉ、お前、なんでそんなに偉そうなの?
 背後から角材でカチ割られたい?」
「悪くないな、それぐらいの悪辣な手で攻めて来たほうがいいぞ。やりたいなら」
「……この通りでそんな台詞を吐くやつがいるなんてな。テメェ、顔は覚えたよ」
「お前より偉い奴はとっくに覚えてるよ。ほら、隣のやつの蒼白な顔見てからもう一回考え直せ。で散れ」

言葉を吐くのも面倒くさい。雑魚の始末なんて、どんなものであっても面倒の一言しかない。
一番威勢のよかった不良が仲間の耳打ちを聞いて、同様にまずいという顔をした。

「……クソ、あんた趣味悪いぜ。隅っこで生きてる奴を蹂躙するのが趣味かよ」
「だったらもっと煽ってるよ。近道に通っただけだ。今度からはそっちが避けるんだな、災害みたいなものだと思って」

姫神を残して、不良たちが路地のさらに奥の通りへと立ち去って行った。
恨めしそうな視線をくれてやった奴もいたが、それには取り合わない。
姫神のほうを見ると、礼を言うでもなく、じっと垣根を見つめていた。

「彼女さんに会いに行くの?」
「な」
「この前。シスターの女の子に会ってもう一人の男の子と君の話を聞いたから」
「……聞いてどうすんだよ」
「別に。学園都市第二位でも。人並みの恋愛するんだね」
「学園都市第二位でも、人並みの人間なもんでね」

そういって垣根は目線を外し、会話を打ち切った。

「もういいだろ、それじゃあな。用事が何かは知らないが、精々頑張れよ」
「うん。言われなくても。私はすることをするだけ」

垣根はもう姫神のほうを見ることはせず、その場を立ち去った。
その背中に、ありがとうと声がかけられる。
礼を言われるほどのことをした覚えはなかったので、返事はしなかった。
そのまま路地裏を脱し、駅前に出る。待ち合わせの時間まで少し待っていると、やがて遠くからエリスが現れた。
よそ行きな感じのする、かわいらしい服装だった。それを見ただけでにやけそうな自分を戒める。

「お待たせ、帝督君」
「ん、今日も可愛いな、エリス」
「あは。嬉しいんだけど、出会い頭にそのストレートな褒め言葉は顔が火照っちゃうね」
「そうか?」
「今日も帝督君がカッコよすぎて、ドキドキしてる」
「べ、別にそういう仕返しはいらねーんだよ」
「ほら帝督君も照れた」

くすくすとエリスが口元に手を当てて笑う。柔らかいブロンドが風に揺れた。
首元に汗で張り付いた数本の髪が、夏らしい色っぽさを感じさせた。
716 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:26:37.33 ID:v8ol2l+uo

「今言ったこと、嘘じゃないからね?」
「俺も、嘘じゃなくて本気で言った」

一呼吸分、二人で見つめあう。そしてどちらからともなく、軽く手をつないだ。

「エリス、どこに行きたい?」
「えっと、ごめん。急だったから、私もあんまり考えてないんだ」
「そうか。場所、どうする? この辺りは遊ぶところは多いけど、教会の近くまで戻るか?」

垣根の家がここから近いし、MARの病院からエリスの住む教会への戻り道の途中だからと、
二人は第七学区のとある駅前で落ち合っているのだった。
ちょっと、怖い気持ちもある。あの異常な匂いに心を乱されたのは、第七学区でやっていた夏祭りでのことだったから。
ここにいたら、また遭ってしまうかもしれない。あの香りの持ち主に。
……きっと、大丈夫だよね。こないだと同じ川沿いは避けて、人の多いところも避ければ。

「ここでいいよ、帝督君。そのほうが長く遊べるし」
「そうか。まあ、とりあえずここにいても仕方ないし、歩こうぜ」
「うん」
「さっきまで、何してたんだ?」
「あ、えっと……。それ、ちゃんと説明しなくちゃね」
「んじゃ、お茶でもするか?」
「うん。えっと、公園でもいいかな? 人に聞かれるとよくない話だから」
「いいぜ」

人込みを、垣根とエリスは手をつないで歩きぬける。
猥雑な駅前の空間を通り抜け、近くの公園に足を運ぶ。
暑い季節のことでつないだ手があっという間に汗ばんできたが、どちらも手を放そうとはしなかった。
垣根は視界の隅に、また見知った顔を見つけた。先ほど姫神との話でも出た修道服の少女、インデックスだ。
遠目でもわかる真っ白な服を今日も来ているらしい。そして目立つ理由がもう一つ。
妙にお似合いな、身長が二メートル近い、ガラの悪そうな赤髪の神父と一緒に歩いているからだ。

「エリス、教会にもうじき通うっていうお前の友達、あれも彼氏持ちか?」
「え? あ、インデックスだ。あの子もここに来たんだね。
 えっと、隣の人はステイルさんって言って、まあ、あの人がインデックスを好きなのは確定だね。
 ただ、インデックスのほうはそういうのにあんまり興味を持ってない感じなんだよね。
 一番好きなの、たぶん上条君だと思うよ」
「アイツは確か、別の女がいるんだろ?」
「うん。だからインデックスの好きは婚后さんって彼女がいることと矛盾しないような好きってこと。
 こういったら怒られるだろうけど、まだちょっとそういう事には幼いんだろうね」

二人は駅のほうへと向かっていく。恐らくは別の場所が目的地なのだろう。
上条たちと待ち合わせでもしているのだろうか。
なんにせよ垣根はたいして興味もないので、視界から二人が消えると同時に二人のことは忘れ去った。
717 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:27:49.09 ID:v8ol2l+uo

「じゃあ、この公園でとりあえずイチャイチャするか」
「うん。帝督君が、優しくしてくれるなら、私は全部任せるから」
「お、おう」
「ふふ。デレた帝督君ってすっごく可愛いよ」
「からかうなよ」

エリスが腕をぎゅっと絡めた。そんなには大きくないが、やっぱり柔らかい胸の感触が腕に当たるとドキドキした。
指摘するとパッと離れてしまうかもしれないので、垣根は黙ってその感触を楽しむ。
そしてあたりを見回し、人通りの少ない場所にあるベンチを見つけた。

「あそこでどうだ?」
「うん。二人で座ろっか」

目の前が雑木林で、見た目にも悪いベンチだった。
だが内緒話をするのには悪くない。ついでに睦みあうのにも。
そこを垣根は手で払い、葉っぱを払い落とす。ゴミがないのを確認してから、エリスに腰掛けさせた。

「ありがとう、帝督君」
「エ、エリス」

ギュッと、抱きつかれた。なんだか積極的なエリスの態度に垣根は戸惑った。
勿論嬉しい。だが、かつてこれほどエリスが垣根に積極的に抱きついてくれたことはなかった。

「どうしたんだよ? 今日、なんか」
「……うん。私も自覚ある。上条君が悪いんだよね」

またあの野郎か、と垣根はいら立ちを覚えた。誰であれ彼女の口から出てくる男の名前なんて気に入らないものだ。
それを慰めるように、垣根の胸にエリスが髪を触れさせる。

「別れ際に婚后さんと、おもいっきりイチャイチャしてるの。目に毒っていうくらい。
 あれで自分たちは自重してるつもりなんだからいい迷惑だよね。たぶん、今もどこかでベタベタしてるんじゃないかな」
「……」
「それにやっぱり、中てられちゃったんだよね。私も帝督君に、優しくしてほしいなって」
「してやるさ、いくらでも」
「うん」

垣根はエリスの肩に腕を回す。そこそこゆとりのあるベンチのど真ん中で、二人はぴったりくっつきあった。

「そういうことする前に、今日の話、しちゃうね」
「え?」
「あのね、インデックスと遊ぶはずだったってことしか、帝督君には言ってないと思うんだけど、
 あれから、結構危ないこととか、あったんだ」
「危ないこと?」

初耳だった。エリスはいろいろと問題を抱える身だ。
厄介ごとからは遠ざかっているべきだし、気になる話だった。

「何があったんだ?」
「私も、完全に話を把握してるわけじゃないんだけど……」
718 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:29:07.53 ID:v8ol2l+uo

そう言いながら、エリスはかいつまんで出来事について垣根に話す。
学園都市の各地で起こっていた、局地的地震について。それを引き起こしていた暴走能力者の子供たちについて。
そして体晶のことに触れると、垣根が表情を鋭くして、エリスの話を注意深く聞いた。

「それで、MARの所長だったテレスティーナは、体晶を使ってレベル6の能力者を作る、
 絶対能力進化<レベル6シフト>っていうプロジェクトに加担していたみたい」
「……」
「あの、帝督君?」
「エリス。しばらく、その一件で会った奴からは離れたほうがいい」
「えっ?」

問い直すと、垣根の顔がいつになく真剣だった。

「そのプロジェクトはマジでヤバい。学園都市の本丸だ。
 多岐にわたったでかいプロジェクトの、恐らくは末端に触れただけだろうが、
 もうそれ以上は関わらないほうがいい」
「詳しいこと、知ってるの?」
「誘われたことがあるんだよ。俺もな」
「えっ?」
「第二候補<スペアプラン>なんてふざけた名前を教えてくれたおかげで蹴ってやったがな。
 学園都市第一位の人間を主軸に、今も動き続けているはずだ。
 学園都市の悲願をかなえるための、もっとも重要な計画だよ。それは」

レベル5など、単なる通過点でしかない。それは何度も開発官から言われ続けてきたことだ。
現状に垣根は満足したことなどないが、それでもレベル4と5の間に横たわる深い溝よりもさらに幅広いものが、
自分の前には広がっているはずなのだ。それを越える具体的なプランを垣根は持ち合わせていなかった。

「そんなに、危ないものなの?」

エリスは確かに外道な実験の一部を垣間見たが、自分自身も実験動物であった過去を振り返るに、
それと一線を画するような外道さではなかったと感じていた。

「漏れ聞く話じゃあ、一万単位で人間を使い潰したって話を聞くがな」
「一万って。それ、ホントなら学園都市の学生の間でもっと大きな騒ぎになるんじゃ」
「やり方ってのは、いろいろあるんだよ。エリスが会った実験体だって、
 置き去り<チャイルドエラー>を利用して問題を露呈させないようにしてたわけだろ?」
「それは、そうだけど……」
「まあ、もう絶対にかかわるな。俺も連中とは接触もしないようにする。
 平穏な暮らしを続けられるのが一番だろ?」
「うん。帝督君がいて、静かにあの教会で暮らせれば、私はそれで十分だから」

それはエリスの本心だった。
あそこが、自分の居場所なのだ。
いずれ老いない自分があの場所にいられなくなるまで、ずっとエリスはそこで暮らしたかった。
そして垣根は、そんなエリスの平穏を、守ってやりたかった。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/18(木) 18:30:16.92 ID:yyceNixM0
つ、ついに来てたー!
720 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:31:11.18 ID:v8ol2l+uo

「今日も、教会の門をくぐるまでちゃんと送るよ。外出するときは、
 よっぽどのことがない限り、しばらくは俺と一緒の時にしてくれ」
「んー、そういうのは私一人じゃ決められないよ。教会の都合だってあるし。でも帝督君が、もっと来てくれるなら」
「そうするよ。エリスは、絶対に守るから」
「うん。じゃあ、守られます。私も帝督君に飽きられないようにしなきゃね」
「馬鹿野郎。飽きるわけ、ないだろ」
「そうだといいな。上条君と婚后さんも、なんだか初々しい感じだったし、ああいうのがいいな」

それを聞いて、垣根がむっとした顔になった。それに気づいてフォローをする。

「もう、上条君の名前を出すと、すぐに焼き餅焼くんだから。
 私、上条君に特別な気持ちとか、そういうの全然ないよ?
 婚后さんの幸せそうな所を見て、私も、カッコいい誰かと幸せになりたいなあって」
「そのカッコいい奴ってのが誰か、見当もつかないな」
「もう、帝督君って自信家なのに、こういうところは控えめだね」
「能力なら客観的評価がいくらでもある。だけど、エリスに好かれるかどうかはそういうのじゃ測れないだろ」
「そうだね。でも、私は結構単純だから、普通に優しくしてくれたら、好きになっちゃうよ」
「俺以外でもか?」
「もう。そんなんじゃないよ。帝督君は、特別……」

ちょっと満足げな顔を垣根がした。そしてそっとエリスは抱き寄せられる。
背中から垣根のほうに倒れこみ、支えてもらう。
垣根の首に腕を回すと、顔と顔が至近距離になった。

「俺は、エリスにとってカッコいい男になれてるのか」
「うん。帝督君が彼氏さんなんて、夢みたいだもん」
「好きだ、エリス」
「うん。ね、キスしよ……」

ねだるように、エリスが垣根を見上げた。
邪魔な髪を指で優しく払いのけ、エリスの唇をあらわにする。
震えたりはさすがにしないが、それでもたどたどしい自分の手つきにいら立ちながら、垣根はキスの準備を整えた。

「エリス」
「帝督君……」

名前を呼ばれるのが嬉しい。
他でもない自分が求められているのだという気がするから。

「ん……」

唇を押し当てる。夕方とはいえ夏の公園だから、二人とも汗ばんだ感じの唇だった。
しっとりとしたその感触に、しばしの間神経を集中する。
隠すようにそっとついたエリスの吐息がかわいらしかった。
垣根のほうは、我慢しすぎると余計にエリスに気を使わせそうだったので、ちょっと乱暴目に息をつく。
そして一度、離した。
721 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:33:13.18 ID:v8ol2l+uo

「ふう……」
「息、そんなに無理しなくていいぞ」
「えっ? もう、帝督君! 恥ずかしいんだから、隠してることを指摘するのは減点だよ?」
「でも、無理しないほうがいい」
「それは、そうかもだけど」
「これから息継ぎなしじゃ苦しいキスするからな」
「え? あっ……!」

エリスがびっくりするくらいにギュッと体を抱きしめて、垣根はもっとディープなキスに取り掛かった。
ここに来る前から、今日はそこまで行けたらいいなと思っていたのだった。
雰囲気も悪くないし、エリスは受け入れてくれる気がした。

「エリス」
「帝督、君……ん」

ちゅ、と音を立てながら、垣根はエリスの唇に自分の唇を合わせ、そして強引にその間に舌をねじ込んだ。
どうしていいかわからないエリスの戸惑いが、その唇の動きに表れていた。
こちらも引くべきなのかもよくわからず、そうやってエリスの唇を蹂躙することをやめない。
するとやがて、おずおずとエリスが歯の間を開き、垣根の舌が自分の口の中に侵入していくことを許した。
その隙間に、垣根は躊躇わず舌を差し込む。
はぁ、と悩ましい吐息が出ていくのと入れ違いに、垣根はエリスの舌に舌を触れさせた。

「んっ」

エリスの舌と、舌が絡み合う。
大面積にねっとりとからみつくものかと思いきや、案外と舌と舌というのは触れ合わないものらしい。
垣根が抱いた感想は、そんなものだった。

「エリス。もっと」
「え……? どうしたらいいの?」
「舌、出してくれ」
「う、うん」

そうリクエストすると、素直なエリスは垣根の求めに従ってくれた。
ニチニチと、舌と舌が音を立て始める。
途端に、そのキスが性的な意味を帯びた、とても親密なものに豹変した。

「ん、ん、ああ……」

エリスが頬を染めて陶然とした声を出した。それが可愛くて、夢中になる。
垣根の首に回した手から力が抜けて、エリスの体が弛緩する。
それをしっかり抱きとめると、エリスは嬉しそうな顔をした。

「帝督君は、ぶっきらぼうだけど優しいね」
「誰にも言うなよ」
「どうして?」
「ガラじゃねえんだ。本当にな」
「うん。大好きな帝督君を独占したいから、そうするね」
「エリスもその可愛いところ、俺以外に見せるなよ」
「見せないよ。っていうか、帝督君以外にこんなに甘えられないもん」
「エリス」
「私、帝督君にこうやって可愛がってもらえるだけの価値のある人じゃないかもだけど、
 本当に、こうしている時間は幸せで、すっごく楽しいんだ」
「そういう卑下はやめろよ」
「うん。でも、ただの卑下じゃなくて、いろいろ事情のあることだから」
722 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:35:26.75 ID:v8ol2l+uo

それでも、嫌だった。
惚れた女に、ほんの一欠けらでも負い目を負わせることなんて。

「エリス。そういうつまらない事は、忘れさせてやる」
「うん。帝督君といると、嫌なことなんて全然思い出さないよ」
「今思い出してるだろ?」
「もう。そういう揚げ足取りは却下です」
「悪い」
「帝督君、大好き」

もう一度、エリスの口を吸い上げる。
結構ディープキスというのは体力を使うのか、あるいはくっつきすぎているせいなのか、
二人とも随分汗をかいていた。もちろんそんなことは気にならないけれど。

「エリス、今日は、どこまでしていい?」
「どこ、って」

正直すぎるその質問に、エリスは視線を虚空にやった。

「帝督君の、好きにして……」
「いいんだな?」
「……知らない。あっ!」

垣根がエリスの二の腕を抱いていた手を、肩に滑らせた。
その腕がどこに近づいているのかを、エリスは察した。
だが、だめだとは言わなかった。

「エリス」
「帝督君……」

いよいよと、垣根が覚悟を決め、エリスがその時をそっと待ったその時。
タッタッと軽快なスポーツシューズの音が聞こえた。

「えっ?!」

ババッと二人で瞬時に元の姿勢に戻る。誰かはわからないが、後ろを誰かが走り抜けていった。
夕方の公園だ。ジョギングする人がいたって、おかしいことはない。

「い、行ったかな……?」
「ああ」
「びっくりしたぁ……」

はー、と息をついてエリスが姿勢を崩す。
人の視線のある中でやれるほど、二人とも肝は据わっていなかった。
放心した垣根がエリスを見つめると、視線が合った。
そしてさあっと、エリスの顔が羞恥に染まった。
723 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:37:23.33 ID:v8ol2l+uo

「わ、て、帝督君。今私、すっごい顔してたよね」
「え?」
「み、見ちゃ駄目。今はナシで」
「突然どうしたんだよ、エリス」
「恥ずかしいの!」
「恥ずかしいって、さっきまでキスしてたってのに」

そういうことではないのだ。
だって。胸を触られるかも、というその時に、エリスは陶然とした顔をしていた。
内心を思い返せばわかるが、たぶん自分は嬉しそうな顔をしていた。
なんというか、それじゃ自分がそういう性的なことを受け入れたみたいで、恥ずかしい。
駄目なのだ。垣根がエッチで自分にそういうことをするのは駄目ではないが、
自分がそうしてほしいと思ったというのはアウトなのだ。

「て、帝督君。のど乾かない? 私お茶かジュース買ってくるから!」
「エリス? ちょっと落ち着けって」
「ちょっとクールダウンなの! すぐ帰ってくるから、帝督君はここで待ってて!」
「あ、おい!」

エリスは腰を浮かせた垣根の肩を抱いてベンチに座らせ、小走りにそこを離れた。
なんだか一人残されるのは落ち着かなかった。ちょっと、やりすぎたかと反省する。
胸ってのはサイズによってはコンプレックスの塊だし、エリスにもいろいろあるのかもしれない。
煙草でもあれば吸えば恰好もつく間だろうが、あいにく垣根に喫煙の習慣はなかった。
ぼうっとエリスの帰りを待つ。ただ、思い返してもこの傍に自販機はなかった。
帰ってくるまでに、往復で五分以上はかかりそうだった。
何の面白みもない雑木林を眺め、嘆息する。
不意に、後ろから声をかけられた。

「彼女と。何かあったの?」
「あん?」

振り向くとそこには、先ほど助けた巫女服の少女。
恰好が悪くて、垣根は睨みつけながら舌打ちをした。

「テメェ、見てたのかよ。趣味が悪いな」
「大丈夫。今ここについたところで。あなたの彼女の顔もほとんど見てないくらいだったから。
 直前に何をしていたのかは。憶測しかできない」
「邪推なんざいらねえよ。忘れてさっさとどっかへいけ」
「そうだね。ここにいて。彼女さんを困らせるのは悪いし」
「つうか、人通りの少ないところを徘徊するのはいい加減にしろよ。
 助ける義理もないし、これからお前がひどい目にあったって俺の知ったところじゃないがな」
「じゃあどうして忠告してくれるの?」

表情を一つとして変えず、無表情に近い姫神がわずかに首を傾けてそう尋ねた。
垣根は足元の小石を蹴っ飛ばす。

「たとえば、自分の女になら絶対にしてほしくないようなことをしてるんだよ、テメェは。
 お前なんぞどうでもいいが、それでも関わった知り合いにその程度のことを忠告するのはそんなに変か」

姫神は髪を揺らしながら、首を横に振った。

「ありがとう。意外と。いい人なんだね。でも忠告には従えない」
「そうか」
「理由があるから。こういうことをしているの。探し物なんだけれどね」
「そーかい。見つけるまで頑張ってくれ。幸せの青い鳥<ブルーバード>は案外近場にいるらしいぞ」

姫神は垣根に背を向け、歩みを再開した。
空気に紛れるように、そっとつぶやく。垣根に聞かせる気はなかった。

「吸血鬼<ブルーブラッド>は。なかなか見つからないんだけどね」

案の定もはや姫神から興味を失っていた垣根はそのつぶやきを耳に入れなかった。
724 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:38:44.50 ID:v8ol2l+uo

ガシャコン、と軽快な音を立てる自販機の前で、
エリスはようやく早鐘を打つ心臓が落ち着いてきたことにほっとしていた。

「あのまま、しちゃってもよかったかな」

嫌だとはこれっぽっちも思わなかった。
垣根は優しい手つきだったし、エリスの不安をよく察して、リードしてくれていた。
さすがにホテルや垣根の自室にお持ち帰りされるのは困るが、あれくらいなら許してもよかったと思う。

「落ち着けるところが、いいなぁ」

それが本音だった。やっぱり公園だとか、そういうところは誰かが来る不安が付きまとう。
もっと二人っきりの所で落ち着いて睦みあいたかった。
インデックスが愚痴った話によると、光子と当麻は半同棲状態らしい。何ともうらやましいことだ。
自販機から二本のジュースを拾い上げ、エリスは抱くように持った。冷えすぎていて握るには冷たい。

「あんまり待たせたら悪いよね」

早足で、垣根の所へとエリスは戻る。
その道すがら、垣根のいたほうから一人の女性が歩いてきていた
たぶん、垣根と同い年くらいだろう。長い髪の毛が綺麗で、うらやましい。
もしかしたら垣根の横を通って、その時に垣根が黒髪に見とれたかもしれないと思うと、ちょっと嫉妬を覚えた。
とはいえ無関係な人なので、とくに話す気もなかった。
急ぐこちらを気にしてか、わずかに道を譲ってくれたので、会釈をした。




――――カランカランと、手に持ったはずの缶ジュースが地面に落ちた音がした。
幸せが、手からこぼれた音だった。




725 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:40:40.00 ID:v8ol2l+uo
「え?」

気づくと手の中にはさっき買ったジュースがない。
いつ落としたのか、まるで気づかなかった。
――へこんでたらやだな。帝督君に渡す時に恥ずかしい。
そんなことを考えながら、早く拾わなきゃと腰をかがめようとする。
いや、したはずだった。
だというのに体はいつまでたっても行動を起こさない。ずっと自分のすぐそばに視線をやったまま微動だにしない。
――困ったな。巫女服着ててこの人も変だと思うけど、絶対私のことも変って思われてる。
事実、目の前の女性は驚きに目を見張り、一歩二歩と、あとじさりを続けていた。
まるでこちらが、危険な何かのように。
――それにしても、綺麗な人だよね。
額に掛かるようまっすぐ切りそろえられた前髪も、
服装や顔つきにっては野暮ったいだけなのに目の前の女性がやると綺麗だった。
長い黒髪は、肩までしかないブロンドのエリスにはあこがれの対象だ。
垣根は日本人だし、黒髪好きならエリスとしては困る。
ブロンドは尻軽な印象のある髪の色なので、自分でもちょっと好きになれないところがあるのだ。
それにこの人の香水がまた、悔しいくらいにその服や顔立ちに似合っているのだ。
柑橘系のポップな感じじゃ似合わない。この人の香りはまさに、椿だと思う。
匂い立つような甘い椿の香りに、惹きこまれそうになる。
香水ひとつで印象が変わるなんてのはずるい話だと思うが、本当にこの人はきれいで。


――まるで、食べてしまいたいくらい。


何かがかみ合わない。
自分がおかしなことを考えているのか、それとも正常なのか、よくわからなかった。
そういえば、さっき自分は何かを拾わなきゃと思ったはずなのに。
もうどうでもよくなっていた。だって拾うにはこの人から視線を外さなきゃいけない。
――ああ、どうしよう。随分この人、離れちゃったな。そろそろ追いかけないと、逃げられちゃう。
エリスは今はいている靴が割としっかりしたものなことをありがたく思った。これなら全力で走っても脱げたりしない。
のどが渇きを訴える。もちろんジュースで癒えるほうの渇きじゃない。だがエリスの脳裏ではもうそれらの区別はつかなかった。
吸血衝動と食欲を分けて考えるほうが、異常なのだ。エリスは、そういう生き物なのだから。
――なんか変な人たちが出てきた。邪魔だな。別にこの人たちは美味しくないのに。
いつしか巫女服の少女はエリスから随分と距離を取っていた。
そしてエリスの視界から巫女服の少女を隠すように、黒服の男達がぞろぞろと現れる。
だがエリスは居場所を見失うことはない。こんなにかぐわしい椿の香を残してくれるのに、見失えというほうが無理だ。
黒服の人間がエリスの肩をつかんだ。だがそれをエリスは意に介さない。
アリが靴にたかったのを気にする人間がどこにいる? どうしても邪魔なら払いのけるだけのことだ。
――早くあの人でのどを潤して戻らないと。じゃないと。
そこで、エリスはハッとなった。

「私、今」

そうだ、自分は今、垣根とデートをしている。
これからも幸せでいようと、ずっと一緒にいようと言ったところだ。
ちょっとアクシデントがあってエリスが席を外したが、垣根は今もあのベンチでエリスを待っている。
だから、落としたジュースを拾ってすぐに垣根のもとに走らないといけないのだ。
それを、すっぱりと忘れていたことに、エリスは気が付いた。

「やだ、そんな」

しなきゃいけないことは、頭で理解している。
だけど。
足が、手が、巫女服の少女を追うために、機能していく。
細胞の一つ一つが活性化したように、体中に力がみなぎっていく。
こんな経験、一度としてなかった。
だって吸血鬼である自分を認めたことのないエリスは、生物として強靭なその力を十全に発揮したことなどないから。

「てい、とくく――」

名前を呼ぼうと、した時だった。
ラフレシアみたいに濃密で醜悪な、かぐわしい椿の香がエリスの鼻腔をくすぐる。
それだけで、もうだめだった。

「あ――」

エリスの心の中の何かが、ぼとりと首を落とした椿の花みたいに、散った。
726 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:42:59.55 ID:v8ol2l+uo

垣根はそろそろエリスが出かけてから十分が経つのを、イライラとしながらベンチで耐えていた。
時計でその十分が過ぎたのを確認すると、さっと腰を上げた。

「エリスのやつ、電話にくらいは出ろよな」

自販機を探してエリスが走って行った方向へと垣根も進む。
人っ子一人いない、夕方の公園の光景がそこには広がっている。
人がいないのは違和感を覚えないでもないが、垣根はそれ以上は考えなかった。

「ん?」

道の真ん中に、缶ジュースが転がっている。
別に、それくらい気に留めるようなことではないはずだが、
随分と缶が汗をかいていてまだ冷たいらしいこと、
そしてその銘柄が自分とエリスの二人が好きな組み合わせであること、
その二つを看過することはできなかった。

「開けてもない缶を、棄てるってどんな馬鹿だよ……」

冗談を飛ばしたのは、自分を落ち着かせるためだった。
嫌な汗が、ジワリと背中を伝う。
離れるな、といったのは誰だった? ほかでもない垣根自身だ。

「エリス! いるか?!」

声を上げて、エリスを探す。だが返事は静寂しかなかった。
影一つ、動く気配がなかった。

「おいおい、冗談じゃねえよ」

声が、震えた。最悪の予想が脳裏を駆け巡る。
杞憂ならそれでいい。後で笑えばいい。
垣根はあたりを見渡す。何か、僅かでもいいからヒントがほしい。
そう念じていると、視界の隅、植木の隙間に黒い何かが見えた。
近づいて、それを引きずり出す。
気絶した黒服の男だった。胸元の襟章を見る。

「……」

三沢塾の、姫神を守る黒服が、どういうわけか気絶し、
そしてそれを隠ぺいするように茂みに隠されている。

「クソッ、おい起きろ! すべて話せ!」

垣根は数発ほど容赦のないビンタを張って、黒服の覚醒を促す。
だが起きる気配のない黒服にすぐ業を煮やし、公園の一番近い出口に走った。

「エリス……!」

どこにもいない、大切な女の子の名前。
呼びかける先さえ分からないまま、垣根は茫然と呟いた。
727 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:44:53.72 ID:v8ol2l+uo

全力で走った後の荒い息を、必死に整える。
吸血鬼の身体能力は姫神の比ではない。だから全力で走った。
公園を抜けた先に用意された、黒塗りの車。
姫神はそれに乗り込み、道路交通法を無視して走るその車で、
アウレオルスの居城、三沢塾を目指していた。
姫神は携帯を取り出し、慣れた手つきである番号をプッシュした。
携帯電話の通話機能とは違うメカニズムで、それはどこかと繋がった。
彼女が共闘する、錬金術師のところへ。

「どうした?」

誰何すらない、端的な質問。
自分とアウレオルスの間にあるのは、そういう関係だった。
だから自分も、一言だけ返す。それで通じるのは間違いなかった。

「会えたよ」

アウレオルスはすぐに返事をしない。
その邂逅を噛みしめるような、一瞬の間があった。

「そうか。それでは、速やかにこちらへ誘導を」

あらゆる準備を整えた希代の錬金術師は、万感の思いを込めてそう呟いた。
728 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/18(木) 18:47:53.95 ID:v8ol2l+uo
『ep.3_Deep Blood 03: 不幸せな結末』おわり。
姫神さん大活躍でしたね。

>>707
タイトルに偽りナシだったと思います。うん。不吉すぎたね……

15レスの大量投下は連投規制も面倒になるな
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/08/18(木) 18:50:11.54 ID:Eok0AbPLo
乙。
いよいよ「吸血殺し」編か。
記憶があるインデックスとアウレオルスの対面、垣根の参戦、色々楽しみにしてるわ。
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 20:08:18.78 ID:zQvQDff6o
乙、待ってました。
いい、いいなこの姫神ッ…!しかし使えない能力が使える場面がこんな事になるとはな…
二巻再構成は少ないのでこれからも期待。全部漫画版が悪いんや…
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/08/18(木) 20:48:31.26 ID:5jBzBzHko
ここは垣根に姫神以下皆殺し希望
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 20:54:01.50 ID:zQvQDff6o
まだエリスが死ぬと決まったわけではあるまいに。早漏すぎるわ。
二巻の二人には原作より幸せになって欲しいが、さて…
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 21:08:10.46 ID:O97gFkAWo
上条さーーーーーーん!!
早く来てくれーーーーーーっ!!
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/08/18(木) 23:06:46.20 ID:gWtIu/2Ao
>>上条さーーーーーーん!! 早く来てくれーーーーーーっ!!

よっぽどイレギュラーが出現しない来ない限り無理だ。(上条達は知る由も無い)
ある意味詰んでいるわ、これ。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/18(木) 23:33:40.82 ID:nki3fjoK0
ていとくん頑張れ超頑張れ。
これくらいしか言えない自分が憎い。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/18(木) 23:34:19.66 ID:yyceNixM0
乙乙! このままじゃ全員が不幸になる未来しか思い浮かばない・・・

というか、先生や姫神の生存フラグもぼっきり折れたとしか^^;
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/08/18(木) 23:46:15.65 ID:aG9pLigpo
そういやていとくんが暗部に堕ちた理由とかあまり見ないな。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 23:51:44.59 ID:zQvQDff6o
原作でも詳しく書かれないまま帝凍庫になったからな…

二次でも確かに少ないが大体は能力実験で好きだった娘を殺したが多いような。
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/19(金) 01:03:35.36 ID:XNBwOwbFo
大量投下乙です
姫神が目立っていて嬉しいww


重箱の隅をつつくようで悪いけどアウレオルスはネセサリウスじゃなくてローマ正教所属じゃなかったっけ?
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/08/19(金) 05:59:15.17 ID:BTjcPonAO
多分ミスだとは思うが再構成だから設定が変わった可能性もある。
どうせなら設定変更にして欲しいな。
741 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/19(金) 17:49:07.02 ID:hHNGkLRJo
>>739
二巻調べたらそうみたいね。修正します。
ありがとさん。

>>740
そういう闇雲な設定変更は自分の首を絞めるからなぁw

>>731
そんだけ思い入れてもらえるのはありがたいね。
まあ、皆殺しとかそういう展開は考えてないんだけど。
俺には姫神や先生にヘイトはないし。

>>737
原作でああいう風になった経緯ってのを書けたらいいなってのもこのSSの目標の一つだったり。

>>729
どうしよう、ここから先のプロット、実はまだあんまり出来てないんよね。
ホント皆どう動くんだか。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/19(金) 19:06:03.58 ID:guU7NvH60
つまり暗部入りは避けられないのか・・・
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/19(金) 20:57:26.47 ID:mnKSFFV2o
おつ
椿の花に喩えたセンスが素晴らしいよ
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/19(金) 21:30:08.15 ID:JsgYMPsAO
インデックス「ごめん、もう治った」
アウレオルス「えっ」

アウレオルス「ごめん、もう辞める」
姫神「えっ」

これで解決しそうなんだが
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/08/19(金) 21:36:23.53 ID:guU7NvH60
イン・アウ・姫神「「「ごめん、二話終了した」」」
nubewo「えっ」
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/19(金) 21:40:59.38 ID:IOM6T6Kzo
nubewo「ごめん、もう三巻に行くわ」
俺「」
747 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/19(金) 22:26:14.03 ID:hHNGkLRJo
>>743
ごめん。ちゃんと言ったことなかったね。
これ、「顔のない月」っていうエロゲーで使われてた椿の花に着想を得て真似しています。
なので俺のセンスかというと微妙だね。まああのゲームじゃ吸血鬼とか全然関係ないけど。

>>745-746
エリスのことを忘れないであげてください(´;ω;`)
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/19(金) 23:22:16.72 ID:BLQt6gGUo
乙ですた!

光子さんとのラブラブいやんがこういう形でカウンターになるとは・・・
流石のねっとりとしたラブシーンにハァハァしたのに提督んにはこの仕打ちとかww

でも、彼もまだヒーローになる可能性はあるわけですよね。
思い人が恥ずかしくない自分になることを決意したていとくん。
彼の選択は、まずは厄介なことからは遠ざかって安穏に彼女さんと暮らすことでした。

それは暗部に関わった彼の選びうる最上の未来だったのでせう。

しかし現実はいつだって無慈悲です。
彼に、彼らに降りかかるのはあまりにも無惨な試練。

でも、それでも。

主人公たる幻想殺しがいない舞台でも、いないからこそ、ていとくんがやってくれると思ったりです。
彼は救われる存在じゃあ、ありません。
傲然と想い人を救い上げる人だと思います。

いつもながら、流石のストーリーテリングには感嘆の一言です。

次回も楽しみにしてますよー
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/21(日) 04:05:27.20 ID:YNIQatEDo
顔のない月とか懐かしすぎワロタ
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/22(月) 00:18:34.47 ID:rYlG+uFAO
友人に「禁書の面白い再構成モノがある」と聞き、吹寄スレを含めて一気読みしました。
いやぁ、すごいですね。
メインヒロイン婚后さんのイチャエロ、佐天の成長、そして垣根とエリスというまさかの組み合わせ、etc……。
姫神が学園都市にいる限り、エリスに平穏は訪れない。果たしてどうなるのか……。
これからも期待してます!

長文失礼しました。
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 01:08:21.01 ID:9QkfSzfIO
縦読みかと思った。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 15:05:01.17 ID:gw32TIAIO
4文字ずつ飛ばして読むと……
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/24(水) 22:36:17.33 ID:25u7aHYAO
暗部入り確定な時点でもう………
ていとくんェ………
754 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/08/25(木) 01:31:49.66 ID:wtXdoyVjo
>>750
ご新規さんいらっしゃいー
長いSSになると新規の方がいるという報告にほっとしてしまうね。

9月が怒涛の忙しさなので色々準備に忙殺されてしまう。。。
ごめん、時間を見つけてまた書きます。
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/25(木) 01:50:58.43 ID:vvBS5CgAO
>>754
リアルは大事。
楽しみにしてるよー
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/08/25(木) 17:41:27.41 ID:/zyEmcgz0
更新速度だけが取りえのゴミSSなんだからとっとと書けよ
二次作者の分際で読者待たせるとかただでさえ糞みたいな展開なのに何考えてるんだ?
原作者に謝れ
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/26(金) 00:25:30.02 ID:fEG2My7IO
このSSもアンチが湧くほどの人気になったか
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/26(金) 00:25:57.26 ID:fEG2My7IO
このSSもアンチが湧くほどの人気になったか
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/26(金) 00:27:08.33 ID:fEG2My7IO
このSSもアンチが湧くほどの人気になったか
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 01:09:05.65 ID:/fq/zU+IO
三回書き込みをした。
これは、アンチも信者も一旦散開という彼のメッセージではないだろうか。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/26(金) 01:41:54.35 ID:DibzQBomo
苦笑ww

アンチというか、夏でそ。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/26(金) 01:51:07.75 ID:UVy8yA4Qo
単純に重いから連投になったんだろ。焦っちゃダメよ?

…今年も残暑は厳しいざんしょ?
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 01:53:58.77 ID:kcXDlZ4/o
猛暑だからね……もう、しょうがないんだよ!
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/26(金) 03:11:15.14 ID:lK5is05/o
連投事故いろんなスレで発生してるな
サバが重すぎる
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/26(金) 17:50:40.86 ID:cwCCTBEYo
結局、鯖の祟りって訳よ!
766 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/01(木) 01:47:30.25 ID:rTwvwe0Bo

バタン! と勢いよく扉が開くのを、アウレオルスは感慨もなく見つめる。
当然だ。この三沢塾という建物の中で起こったあらゆることを、彼は把握している。
息を切らせ、協力関係にある姫神が駆け込んでくることも、事前に気付いていることだった。

「……安全な場所は。どこ?」
「扉を閉めろ。この部屋にいれば、何処でも安全だ」
「そう」

4つのビルからなる三沢塾学園都市支部の、北棟の最上階、
そこにある校長室という名の煌びやかな一室に、姫神は駆け込んでいた。
その部屋は実質的にアウレオルスの居室であり、魔城と貸した三沢塾の、まさに本丸だった。
だが、部屋の広さや装飾の華美さはアウレオルスの趣味によるものではない。
アウレオルスは実用性からこの場所を選んだだけで、
内装の悪趣味さは、単に前の支配者たる校長の趣味を反映しているだけ。
アウレオルスの醸し出す空気は、そうしたものに一切頓着しない虚無さだった。
姫神は、しつらえのいいソファに腰掛け、荒い息を整える。
つい今走ったのは、黒塗りのリムジンを出て建物の正面にあるエレベータに乗り込むまでと、
このフロアに着いてからの僅かな距離だけだ。
こんなもの、健全な女子高生の姫神秋沙にとってはどうというほどの距離ではない。
息が切れて、心臓がバクバクとあわただしく拍動しているのは、単に疲労のせいではなかった。
理由は、怖かったから。安全の保証されないその場所に、1秒でもいたくなかったから。

「ご苦労だった。後は私の仕事だ」

労う言葉にほんの少しのいたわりも込めずに、無機質にアウレオルスがそう言った。
なんとか、この安全な結界の中まで逃げ込めた。
ここなら、大丈夫だ。
――――ここまで逃げ込めたなら、自分があの子を殺すことは、ない。
姫神は自分の心配など欠片もしていなかった。
自分の能力は、絶対なのだ。例外などない。
吸血鬼は、何をどうやっても、自分に危害を加えるようなことは出来ない。
そして、何をどうやっても、自分に相対した吸血鬼が死ぬことも、絶対なのだ。
どれほどその吸血鬼が善良であっても、ヒトの群れの中で穏やかに暮らせる個体であっても。
恐怖に笑う膝を、姫神は手のひらを当ててグッと握りつぶすように力を込めた。

「アウレオルス=イザード」
「何だ」
「約束は。覚えている?」

自分の中の弱い気持ちを押し殺して、無表情に、姫神は問いかけた。
それは何度か繰り返した、確認事項。
アウレオルスは冗談を返さない男だ。まさかこの段に至って、それを崩すこともないだろう。
あっさりと、アウレオルスは首肯した。

「ああ。ここに呼び込んだ吸血鬼を、殺すことはしない。
 私は私の目的を果たすために、説得または生け捕りを行うことになる。
 説得は私の一存で叶うものではないが、
 最悪でも生かしたまま捕らえるに留めることは保証しよう」
「そう」

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
767 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/01(木) 01:48:02.07 ID:rTwvwe0Bo

それが、アウレオルスとの約束。
姫神は、吸血鬼を殺す自動機械みたいな自分をどうにかしたくて、ここにいるのだ。
もう、誰も死なせたくないから。
かつて京都の寒村で自分を可愛がってくれた村の皆を虐殺した姫神秋沙の、誓いだった。

「あの子の。彼氏が追ってくるかも」
「それは、人間か?」
「うん」

姫神が、なにもかもをブチ壊しにしてしまうほんの数分前まで、
吸血鬼の少女は、幸せなひと時を満喫していたのだ。
年頃の女の子らしい、なんてことはない、普通の幸せを。
吸血鬼なんて、ファンタジーの世界にしか出てこないような響きを持った種族でありながら、
実際の吸血鬼は皆、普通の世界でありふれた幸せを手にする人々だった。
それをまた、姫神は台無しにしてしまったことを、後悔する。
事実を知れば、何度か言葉を交わしたこともあるあの彼氏はきっと姫神を恨むだろう。
姫神を殺そうとするかも知れない。
それほど深い知り合いではないが、好きな人には一途で、他人には冷淡なタイプに見えた。

「気をつけたほうが。いいと思う」
「何に?」
「彼氏に。たぶん。学園都市の第二位だから」

会話の断片や、噂で流れてくる風貌と本人の顔の比較から、
姫神は捕らえようとしている吸血鬼の女の子の恋人が、
垣根帝督であることにほぼ確信を持っていた。

「レベル5の超能力者は。人という括りに分類すべきじゃないって言われる力の持ち主ばかり。
 警戒は。しておいたほうがいい」

もう、きっとあの子は自分を追ってこの建物に入る頃だろう。
後には、引けないのだ。ならばせめて失敗はしないよう、アウレオルスに忠告する。
だが、返事は素っ気無いものだった。

「ふむ、もちろん、全ての敵対者に対し必要な準備をしよう。
 だがこの建物は超能力者であっても、一足飛びに走破できるものではない。
 私とて、常人の括りからは逸脱した存在であると、自負している。
 私を破ることは、世に二十を越えぬと言われる聖人であっても、易々とは叶えさせん」
「そう」

姫神は、アウレオルスを信じることしか出来ない。
懇願の込められた姫神の視線を一顧だにせず、アウレオルスは傍らのデスクに手を置いた。
そして残るもう一方の手で懐から長い鍼を取り出し、痕がいくつも残る首筋へと、すっと突き刺した。
自らの術に対する自負を、そうやって捨てる。機械へと成り代わる。
目的に達するには、自我すら余計だった。

「決然。では侵入者の迎撃と、吸血鬼との対話ないし捕獲を始めよう」

誰にともなく、アウレオルスがそう宣言した。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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768 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/01(木) 01:49:47.11 ID:rTwvwe0Bo
短くてごめんよー
もう9月とか早すぎるよなぁ。授業のある学生さんは頑張っとくれ。
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769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 07:30:40.07 ID:TCGnwy1DO
きましたわー。
相性は悪くないバトルになりそう、エリスがいなければ
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770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/01(木) 09:17:43.36 ID:ACE1j7e/0
乙〜。
黄金練成vs未元物質に期待
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771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 09:32:09.87 ID:SZnrSoODO
乙!
最強のかませ対かま……いやなんでもない
それにしても毎回毎回話のもって行き方が本当にうまい
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772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/01(木) 15:40:09.03 ID:l541Is9AO
乙〜。
インデックスが間に合えば、インデックスが間に合えばまだ不幸せな結末は回避出来る!!
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773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/02(金) 00:52:19.66 ID:JUQ1jVKL0
乙。
針を刺したらあの口調に変わるのね。
二人とも原作じゃイマイチだったけど、よく考えればめちゃ強なんだよな。
作者のバトルには期待している。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/02(金) 01:36:25.41 ID:hPpUR9PBo
ヘタ錬とメルヘンの激突か…

でもていとくんこのSSだとイケメルヘンだしなあ
どっちがかませになるやら…
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 07:33:05.91 ID:cXnNVqkIO
告知消えたな
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 18:29:31.92 ID:XYMpZuJV0
だんだんこのスレも過疎ってきたなあ。
続編プリーズ!
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/09/09(金) 18:37:39.57 ID:gNtR/b8So
過疎ってるのか?無駄にスレ進行させないようにおとなしく待ってるんだぜ!
778 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/10(土) 02:04:50.72 ID:PL/4xJCfo
やー、今週で一つでかいイベント乗り切った。週末にちょっと位は書くようにしますわ。

>>773
なまじチートなだけにまともなバトルをさせてもらえなかった二人だからな。
上手く書きたい。
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/10(土) 03:26:27.96 ID:TRTN95nw0
ホンマ焦らすのが好きなお方や。
待ってたで。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/10(土) 21:45:36.18 ID:+egbAYQK0
授乳プレイの更新来たのでこっちも期待
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/09/11(日) 14:24:41.52 ID:KOQ4KsMq0
ゴミみたいなSSだな
見て損したわ
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/11(日) 17:39:37.74 ID:/r1ZzL2S0
わざわざageてまで書き込む奴って、何がしたいのかよく分からん
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 19:47:55.30 ID:oM32NZnIO
そんな安い釣り針にわざわざ掛からないでいいだろ
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/12(月) 10:17:17.92 ID:htEG8B4z0
まあゴミなのは同意だけどね
全部が気色悪いし
原作読み直せって感じだわ
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/12(月) 11:15:36.25 ID:DO3c0Fm9o
今度はここ荒らすつもりですか?
自称批評家様(笑)W
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/09/12(月) 12:38:13.28 ID:0BcSuUiZo
それは置いといて、超電磁砲の大覇星祭編は婚后さんの出番が多そうで楽しみだな。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 22:58:01.23 ID:WJ8ZMYhNo
そういやこのSSもいつかみさきちが出るんだろうか
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/12(月) 23:27:09.54 ID:pz9a0xNW0
このりんにも期待
上条と知り合い設定をもっと活かすべきだと思うんだ
789 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/13(火) 01:34:10.15 ID:3RHCL6jBo
九月はイベント目白押しだ。明日から名古屋に出張。
とりあえず今から1レスか2レス書くわ。

>>786
漫画版の光子の可愛さがやばい。アレはやばい。

>>787
みさきちは出しにくいんだよね。
原作での動きが謎だから、迂闊に出すと後々齟齬が……
同じ理由で第六位も登場させられん。
790 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/13(火) 02:10:31.84 ID:3RHCL6jBo

花柄をあしらった薄手のワンピースを着た少女が、三沢塾の扉をくぐる。
やや、場違いな雰囲気はあった。
勉強をするために施設に赴くにしては、装いが晴れやか過ぎる。
スカートは長めだし首の露出も少ない清楚な装いではあったが、
それは確実にデートのためだとか、そういう目的にふさわしいような、控えめな女の子の勝負服だった。
さらさらとブロンドを揺らすその女の子に、きっと、周りの誰もが注目するだろう。
学習塾という場所に対する、服装だとか、勉強道具一つ持っていないことだとかのミスマッチさも理由になるし、
なにより、そのモデルみたいな可愛らしさと、その奥にある不思議な妖艶さは男女区別なく惹き付ける力がある。
だけど。
誰一人として、彼女に注視する人間はそこにはいなかった。
路傍の石にでも、もうちょっと人は視線を向けるものだろう。
その完璧に少女を蚊帳の外に置く態度は、不自然と断言して差し支えないものだった。
だが、それを少女は一向に不思議がらなかった。
理由は簡単。周囲の学生なんて、彼女にとってもまた、路傍の石と変わりないものだから。

「上、かなぁ」

おっとりした声で、少女はそう呟く。
率直に言って彼女は困惑していた。
とても芳しい、椿の香りをたどってここに来たのだ。
このエントランスに入るまでは、確かにここまでその匂いが連続していた。
だが、なんだか霧散したみたいに、このエントランスで香りが急にぼんやりとして、
そして、何処に続くのかがはっきりしなかった。
この匂いをたどれないなんて、そんなこと自分に限ってあるはずがないのに。

「……あれ?」

ふと少女は、傍らから漂う麝香(ムスク)のような甘く粉っぽい香りに気付いた。
悪くない香りだ。ただ、生涯であれ以上はないというほど芳しい香りをした、
あの椿の香りに酔いしれた後だから、どうしても陳腐な印象が拭えない。
彼女は匂いに誘われる自分を、戒めた。
だって素晴らしい晩餐の直前に、コンビニで買えるスナックをつまむ趣味はないから。

「き、貴様、は……そんな、まさか、嘘だ」

麝香の匂いの元、エレベータ横の壁際に立てかけられた騎士鎧が、そんな声を立てた。
おそらく、ここから先はエレベータに乗るべきだろう。
そういう理由でそれに近づいた少女が、匂いの強さに顔をしかめた。
芳しい匂いの香水でも、一瓶丸ごと地面にぶちまければ、醜悪な濃さの匂いになるのだ。
脳裏で反芻する椿の匂いが麝香の匂いに染まってしまう前に、少女はそこを立ち去りたかった。
エレベータのスイッチに手を触れさせると、カチンとボタンが動いて、適当な階にあるエレベータを呼び出した。
ちょっと、首をかしげる。今、スイッチは自分が押し込むより前に、勝手に動いた気がしたから。
もちろんどうでもいいことだ。匂いの元から少々距離をとって、エレベータが降りてくるのを待つ。

「知らせ――ないと、抹殺対象に、コレが、接触する前に」

意味の分からない独り言だから、少女は無視した。
騎士は、もう長くないその命の残り火を、消えないように必死に使って、自分の所属する一団へ連絡を送る。
万が一のためにと持たされた道具が、あってはならない事態が起こっていることを、伝えていた。
目の前の、この楚々とした少女が、ヒトではなく、伝承の中に語り継がれるある生き物であることを、伝えていた。

「吸血鬼が、なんで、こんなにタイミングよく――」

見積もりが甘かったのかも、知れない。
吸血鬼なぞ、探して見つかるものではない。むしろ偶然にしか、会うことは叶わない。
吸血殺しを所有したとしても、博打のアタリが0.001パーセントから0.01パーセントに変わる程度のものだと、思っていたのに。
ここで吸血鬼を待つあの男もまた、偶然に掛けるだけの魔術師だと思っていたのに――

「行くな、止まれ――――」

か細い声で、右腕に『Parcifal』というコードネームを刻まれたその男が、精一杯に静止を促す。
もちろん無駄だった。その吸血鬼の少女はその声を全く意に介さず、
チン、と軽い音を立ててエントランスにたどり着いたエレベータに、乗り込んだ。
騎士凱の中で、男は自分の無力を呪う。何も出来ず、吸血鬼を錬金術師の元に、近づけてしまうことを。
眼前で吸血鬼の少女――エリス・ワイガート――をなすすべなく見送って、男は無力感と死の絶望感にがっくりと首をうなだれた。
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/16(金) 22:27:42.51 ID:UI7otvYSo
まさかセガのプライズでフィギュア化か。おめでとう婚后さん
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/22(木) 01:05:59.02 ID:h5emzSSO0
結構更新無いけどリアルが忙しいのかな?
応援してるので無理せず頑張ってください
793 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/22(木) 01:26:00.55 ID:YSOv1FO4o
うーん、忙しいのと、あと纏まった時間がないと書きにくい部分なのよね、この辺。
プロット良く読み返しながら矛盾を遺さないように書こうとすると、パッパと書くってのが難しくて。
すみません。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/22(木) 09:14:58.34 ID:4AdDGRIf0
モーマンタイ。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/22(木) 23:13:42.89 ID:4yisTyYD0
すごく・・・楽しみです・・・
796 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/09/29(木) 23:10:57.56 ID:ETNvY2y+o
長々と更新をしないでどうもすみません。
たぶんすんごい忙しいのは明日で終わりなので、来月あたりから再開できるかなと。
作者の都合に興味はないかと思うのですが言い訳をしますと、
今月は学会二つ(片方は運営スタッフと発表者を兼ねる)をこなしていました。
また、明日からは二ヶ月ほど短期留学しますんでその準備に追われてました。
海外で研究するほうが日本でしているより雑用がない分時間に余裕があるので、
たぶん執筆できると思います。週末は別ですが。
まあ、私の近況はこんな感じでした。お待たせして恐縮ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/09/29(木) 23:30:49.56 ID:I5LPvZuFo
学会のスタッフに短期留学…だと…
理系の研究者なのか。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/09/29(木) 23:58:21.82 ID:B5TKR25Ho
母乳研究者は忙しいな。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/09/30(金) 00:03:18.60 ID:iLhn9ShAO
まさかマジに光子力研究所勤めだったとは……
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/30(金) 00:46:43.77 ID:3IGf/WJ00
言い訳のレベルが高すぎて言い訳に聞こえない
たしかにそんな人が書いているならかまちー涙目なのもわかる気がする
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/30(金) 01:41:37.10 ID:VOhwNxWxo
理系の研究者が書くエッセイは面白い物が多いんだが
SSもそうだとはな
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/30(金) 11:24:47.05 ID:XYBxUszN0
留学頑張ってこいよ。
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 12:42:50.11 ID:YlmzE1NDO
理系の物書きっていうと真っ先に森博嗣が浮かぶ

更新待ってる
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/01(土) 10:34:18.74 ID:Z7NuX00AO
まいど自分語りキツいな……

805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/01(土) 19:38:53.61 ID:CfeWMlyS0
ゴミみたいな言い訳はいらないんだよ
原作よりつまらないんだから精々速く更新するように心がけてくれない?
見てやってる人のことを考えて欲しいわ
後もっと原作のいい所を見習え
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/01(土) 19:39:43.70 ID:CfeWMlyS0
ゴミみたいな言い訳はいらないんだよ
原作よりつまらないんだから精々速く更新するように心がけてくれない?
見てやってる人のことを考えて欲しいわ
後もっと原作のいい所を見習え
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/01(土) 21:12:56.95 ID:NGN25TWn0
>>805
原作は商売
>>1はお金をもらっているわけではないんだよ
あんたが他の読者を見習うところから始めような
808 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:52:32.56 ID:p8a8YSw5o

「おい! ブロンドの女の子が通らなかったか!?」
「え?」

おそらく、黒服の連中から遅れること10分程度。
三沢塾の正面入り口、そのすぐそばで談笑する学生たちに、垣根は強引に割って入った。
エリスのことを問いただしても、誰しも見せるのは困惑の顔だった。
本当に、何も知らなさそうな態度をとっているように見えた。
そんなはずはないのだ。だって黒塗りの車が、この建物の正面に停まっていたのだから。
そんな目立つことがあったからには、誰一人として騒ぎの雰囲気を感じていないなんて、ありえないのに。

「クソッ!」

正面ゲートの自動扉が開くのを待たず、強引に体を滑り込ませる。
ウインドウ越しに唖然とする学生たちの表情にいら立ちが募る。
そんなにも、日常を見せつけたいのか。異常なんてここにはなかったのだと、
自分が見当違いの所を探しているのかと焦りを覚えている垣根に知らしめたいのか。
そんな、はずはない。状況証拠が整然とここを指示していたはずだ。
エリスと入れ違いで姫神が現れた。そして彼女の取り巻きである三沢塾の黒服が、
人目をはばかるように茂みの中に隠された状態で失神していた。
エリスは買ったジュースをそのまま地面に置いて、どこかへ消えた。
これだけの事実があれば、誰だって三沢塾を疑うだろう。
怪しんで、何らおかしくない。ただ、垣根にははっきりとした事実が必要なだけだった。

「……ん?」

ゲートをくぐった瞬間、わずかにクラリとなるような感覚を覚えた。

「何だ……?」

初めは匂いかと思った。視覚的には何も歪みはないし、靴裏から伝わる感触も普通のリノリウムのものだったから。
だけど鼻を利かせてみても、あるのはどこにでもありそうな街や学校の匂い。
瞬間的に感じた違和感を、垣根はうまく把握できなかった。

「ちょっと君! 何か用かい?」

強い口調で、スーツを着た教師らしい男がこちらに近づいてきた。それで自問を中断する。
後ろに追随するガードマンも、いたって普通のガードマンらしい服装だった。
チッ、と垣根は舌打ちをする。どちらもあの黒服の、画一的で無機質な印象からは遠かったからだ。
今は問題の核心に近づけそうな分、黒服のような物騒な輩のほうが嬉しかったのだが。

「なんだか大きな声が聞こえたけど、どうかしたかい」

教師が垣根を値踏みする。それを垣根は鼻で笑ってやった。科学に溺れた連中が、まさか自分の顔を知らないなんて。
おそらくは勉強道具ひとつ手に持たないことを理由に、不良のレッテルでも張ってくれたのだろう。
こういう態度は順位のせいで下手に出られるよりはマシだが、いずれにせよ今は構っている暇はない。

「なんでもねえよ」
「あ、待ちなさい!」

垣根は教師に取り合わず、さっとエレベータを目指す。
追及されないうちに体を滑り込ませ、入口エレベータで行ける最上階の5階を押した。
809 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:55:02.86 ID:p8a8YSw5o
久々だと思ったほどかけなかった。ごめん。
つぎはエリスのターンかな。しばらく視点変化が続くかも。
810 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:55:15.77 ID:p8a8YSw5o
久々だと思ったほどかけなかった。ごめん。
つぎはエリスのターンかな。しばらく視点変化が続くかも。
811 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:55:40.40 ID:p8a8YSw5o
久々だと思ったほどかけなかった。ごめん。
つぎはエリスのターンかな。しばらく視点変化が続くかも。
812 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:55:48.86 ID:p8a8YSw5o
久々だと思ったほどかけなかった。ごめん。
つぎはエリスのターンかな。しばらく視点変化が続くかも。
813 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:55:55.31 ID:p8a8YSw5o
久々だと思ったほどかけなかった。ごめん。
つぎはエリスのターンかな。しばらく視点変化が続くかも。
814 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 13:58:06.91 ID:p8a8YSw5o
なんじゃこりゃwごめんなさい
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/02(日) 14:05:36.24 ID:5fZ844UE0
超大事な事なので5回言いました
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 16:12:55.73 ID:5bvTiKfSO
ねえねえ今どんな気持ち?のAAを貼りたい気分
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/10/02(日) 19:57:17.43 ID:pARvobvWo
忙しい中、乙っす
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/02(日) 20:25:23.15 ID:uncP4zjw0
垣根がどれだけ焦っているかを五回発言で表したんだよな。
乙。
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/10/02(日) 21:07:30.23 ID:PN4zuun80


留学ってどこ行くの?米?
820 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/02(日) 23:03:42.03 ID:hKQGgYato
いやほんとすみませんw
>>819 700人くらいデモ隊が拘束されてモメてるところの割と近く。時差ボケがようやく直ってきた。
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 23:21:41.44 ID:y6hp2hov0
乙です
とりあえず水には気を付けてくださいね
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/03(月) 00:22:41.63 ID:WoxrkkQf0
乙乙! あの辺りなら、まだまともな食事がとれそうだね
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/10/03(月) 00:39:02.87 ID:5qan5a0mo
新着レスの数から期待してひらいたらこれだよ
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) :2011/10/03(月) 01:21:25.04 ID:gnLNH8uAO
なす板
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/10/03(月) 02:40:22.17 ID:RZlhb60AO
極光と偽善使いとここのSSはガチ。
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/04(火) 06:33:51.92 ID:A604sHJx0
マジかよ気をつけてくれ続き読みたいからな。
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 10:48:23.16 ID:a1Yf30NAO
向こうから更新したら名前欄とこってどうなるん?
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2011/10/04(火) 19:41:42.54 ID:qoquotjw0
コテハンなら何も変化無いだろう
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:04:45.89 ID:9b5BrmJSO
>>805

807の言うとおりだ。まず原作よりおもしろいSSなんて存在しないから。他人にあれこれ忠告する前に世の中の常識を学んでこいヒキニート。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 01:19:56.64 ID:2dM2RTrIO
真・スルー 何もレスせず本当にスルーする。簡単なようで一番難しい。
偽・スルー みんなにスルーを呼びかける。実はスルーできてない。
予告スルー レスしないと予告してからスルーする。
完全スルー スレに参加すること自体を放棄する。
無理スルー 元の話題がないのに必死でスルーを推奨する。滑稽。
失敗スルー 我慢できずにレスしてしまう。後から「暇だから遊んでやった」などと負け惜しみ。
願いスルー 失敗したレスに対してスルーをお願いする。ある意味3匹目。
激突スルー 話題自体がスルーの話に移行してまう。泥沼状態。
疎開スルー 本スレではスルーできたが、他スレでその話題を出してしまう。見つかると滑稽。
乞食スルー 情報だけもらって雑談はスルーする。
質問スルー 質問をスルーして雑談を続ける。
思い出スルー 攻撃中はスルーして、後日その思い出を語る。
真・自演スルー 議論に負けそうな時、ファビョった後に自演でスルーを呼びかける。
偽・自演スルー 誰も釣られないので、願いスルーのふりをする。狙うは4匹目。
3匹目のスルー 直接的にはスルーしてるが、反応した人に反応してしまう。
4匹目のスルー 3匹目に反応する。以降5匹6匹と続き、激突スルーへ。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/10/06(木) 01:41:49.11 ID:RMpNKPr20
原作以下の糞な出来なんだからもっと丁寧にやって欲しいね
ただでさえインデックスじゃなくて
光子なんてゴミなキャラをヒロインにしたりと不出来な面が目立つんだからさあ
もっと原作を読んで勉強してきたら?
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/06(木) 08:59:57.27 ID:EqjZClH2o
本スレ荒らすの飽きたのか?
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 06:37:25.26 ID:0J7FrpsSO
>>830
ありがとう。スルーについて詳しくなった。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/10/07(金) 12:17:05.10 ID:TBuzxt640
カスな作品にはカスな信者しかいないのな
原作に対して喧嘩売ってる二次書いて作者は恥ずかしくないのだろうか
原作読んでたら鼻で笑う程度の出来だし
話もキャラも糞
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/07(金) 12:27:46.06 ID:DvOR8gvfo
うん、それでいいから、わざわざゴミ箱覗かずスレ閉じな
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/10/08(土) 07:53:32.69 ID:OHWw/ivg0
ゴミ箱という自覚はあったんだな
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/08(土) 12:29:27.95 ID:BfsdqErLo
>>836
お前みたいなゴミが覗いてるからなww

838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 06:49:07.60 ID:Prl4/0PSO
>>837
毎日チェックしてるところをみるとただのツンデレ信者みたいだし、黙って真スルーしようぜ。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/10/09(日) 15:49:49.99 ID:zWImjoQb0
しかしつまらん作品だ
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/10/10(月) 12:54:08.77 ID:vwBqxC0Po
ああ、流れるような作品だな
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 17:53:27.51 ID:+JLqIVqIO
愛知県の発言が面白いな
投下までのいい暇つぶしになる
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/10(月) 17:57:35.95 ID:TmxGb7v4o
興味深いよな。
もっと長文で自分のアイデンティティを語ってほしいものだ。
そんなに長文書くほど知能がないであろうことが残念だ。

しかし光子力研究所に就職するためにはどんなスキルがいるんだろうか…
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 18:08:21.95 ID:q8mfRviIO
スルースキル
冗談は置いといて、計算能力とか想像力とか?
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/10(月) 22:02:11.00 ID:gDLkloSQ0
冶金工学の知識があると有利そうだな。
学園都市は大脳生理学は必須か?
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 04:30:40.74 ID:bDLD5pfIO
まだかなー
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/15(土) 17:03:08.54 ID:3JlS/Wwy0
>>1は最近おっぱいのほうに力を入れています。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 19:21:00.29 ID:6YG5yt0SO
おっぱいなら仕方ない
848 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/17(月) 12:51:07.47 ID:dvoJhYr8o
いやほんと、申し訳ない。。
おっぱいはノリで書けるからなあ。
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/10/17(月) 19:04:55.70 ID:5QPVKfloo
おっぱいに力を入れてもやわらかいままなんだぜ?
触ったことないけども
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 03:18:32.04 ID:b9ahUgpIO
しかしこっちの上条さんも光子のおっぱいデビューをしたばかりですね
吹寄ほどの規格外で無いにしても、光子も中学生レベルをはるかに越えた戦闘力をお持ちのようですし、
どちらもこれからが楽しみですね(おっぱい的な意味で
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 00:14:43.51 ID:B8j9LfU+0
アニメ版の佐天さんも五ヶ月前まで小学生だったは信じられない実力者。
そちら方面では普通な女子中学生の美琴や初春が戦闘力下位なんだから、
学園都市の戦力は恐ろしいものがある。
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/10/23(日) 12:44:21.97 ID:Hj7euwLSo
美琴は能力者としてはレベル5でもおっぱいはレベル1
佐天さんは能力者としてはレベル0だけどおっぱいはレベル5

さてどっちが幸せなんだろうか
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/23(日) 19:12:31.76 ID:X81hJiHo0

能力者幸せレベル表(偏見)

麦野   能力5 おっぱい5 合計10
光子   能力4 おっぱい5 合計9
淡希   能力4 おっぱい4 合計8
固法   能力3 おっぱい5 合計8
SS佐天 能力3?おっぱい5 合計8

越えられない壁

美琴   能力5 おっぱい1 合計6
原作佐天 能力0 おっぱい5 合計5
黒子   能力4 おっぱい0 合計4
初春   能力1 おっぱい0 合計1
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/23(日) 19:13:00.95 ID:X81hJiHo0

能力者幸せレベル表(偏見)

麦野   能力5 おっぱい5 合計10
光子   能力4 おっぱい5 合計9
淡希   能力4 おっぱい4 合計8
固法   能力3 おっぱい5 合計8
SS佐天 能力3?おっぱい5 合計8

越えられない壁

美琴   能力5 おっぱい1 合計6
原作佐天 能力0 おっぱい5 合計5
黒子   能力4 おっぱい0 合計4
初春   能力1 おっぱい0 合計1
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 09:39:36.96 ID:SniheeVIO
しかしさすがに放置長くないか?
忙しいのはわかるが1レス更新以降月単位で更新がないとさすがに内容忘れるぞ
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/10/24(月) 12:03:14.91 ID:TtocXYKHo
ひと月くらい留学してるんだから無理もないよ。
気長に待とうぜ。
更新は書く人の自由なんだし。
忘れた頃にまた来てみれば良いんじゃないか。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/25(火) 01:24:03.17 ID:L+Bpd61jo
まぁ文句言う権利もあるし待つ権利もある
続きを諦める権利もな
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/27(木) 20:55:58.39 ID:JdO0JtqI0
下らない作品がやっと終わったか
ここまで糞にしたんだから原作に謝れよ
ま、実力を弁えてもう二度と書かない方がいい
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/27(木) 23:28:19.69 ID:YGYfsJ9F0
おっぱいの魔翌力恐るべし
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 02:39:54.39 ID:dm7wyb2SO
愛知のツンデレちゃんチーッスww
861 :sage :2011/10/28(金) 08:38:55.98 ID:QvQD+mXF0
今日も百合板あらすの?ww
批評家様(笑
862 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:43:19.03 ID:DKa41pXso

チン、とエレベータがアラームを鳴らして、扉を開いた。
扉の上のインジケータには5階と記されている。
別にエリスが望んだわけではないが、なぜか他の階を指定しようとしてもボタンが反応しなかったのだ。

「あ……この階、食堂があるんだ」

悪くない香りが、廊下に漏れ漂っている。
エリスはまた空腹を刺激されて、ちょっと苛立ちを感じた。
先程から、ずっと鼻を利かせているのに一向に捕まらない、あの匂い。

「誰か、邪魔してるのかなあ……」

換気扇や脱臭剤程度でどうにかなるようなものじゃない。
エリスからそれを遠ざけるには、かなりの意図的な工夫が必要だと思う。
そういう直感を、エリスは覚えている。いらだちまぎれに自分の髪を弄んでから、軽く整えた。

「あの、巫女服を着た黒髪の女の人、来ませんでした?」

そばを通り抜ける学生に問いただしてみる。
だが、返事は一向にない。どころかエリスの方を一瞥すらしなかった。

「……ここの人、なんでこんなに他人に興味ないのかな」

聞えよがしに言ったつもりだったが、またも返事はなかった。
はあっとエリスはため息をついた。いい加減、焦れてきたのだった。
食堂になら山ほど人もいて、話も聞けるかもしれない。
そう思って、エリスは食堂の扉に手をかけた。

「あれ?」

ぐっと力を込めて引いているのに、一向に扉が動かない。
鍵がしまっているとか、そういう風でもなく、
ただ、ガタつきもなくびくともしなかった。

「もう!」

この建物に入ってから、なんだかうまくいかないことが多い。
あと少しで、あの甘美な香りに包まれて陶然となるはずだったのに。
それが、どうしてうまくいかないのか。
どうせ周りの学生は、また無視を決め込むことだろう。
もう一度、力いっぱい扉を揺らす。だがそれでも、扉は開かなかった。

「ここ、入口だよね?」

さすがに女の子として、力いっぱい扉と格闘するのは恥ずかしい。
いくら非力とはいえ、こうも強情な扉というのはどうなんだろうと思いながら、
エリスは扉から離れた。別段、この中に執着があるというほどでもないのだ。

「でも、行く宛、ないんだよね。ほんと、どうしてわからなくなっちゃったんだろ」

エリスが今いる世界は、いわば「コインの裏」と言うべき世界だった。
塾生たちのいる「表」の世界とは、世界を共有していながら、
裏にいるエリスの方から表に干渉することができない。
だから扉は、文字通り、びくともしないのだった。
弱く引いても、強く押しても、活性化したエリスの体が、
人の膂力を軽く越えた力をかけても、微動だにしない。
だから、エリスは気付かなかった。
自分の体が、人らしく生きてきた今までを捨てて、
より強靭な生命として、活動を始めていることに。
863 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:44:11.23 ID:DKa41pXso

「破壊も厭わず、『吸血殺し』を探しまわるものかと思ったが」

静謐さの支配する校長室で、アウレオルスが目を閉じたままそう呟いた。
姫神は突然のその呟きの意味を、汲み取れなかった。
それも当然だ。ここには、別段ディスプレイがあって、映像で吸血鬼のあの少女を監視しているわけではない。
アウレオルスが自らの作り出した結界の中を、五感とは別の何かで感じ取っただけだった。

「あの子は。どうしているの?」
「『吸血殺し』の匂いを見失い、手近なところから歩き回っている、というところか。
 魔術を行使して探索をする気配は今のところない」
「そう」

もとよりアクシデントが起こった程度で心を乱すことはないアウレオルスだが、
それにしても、呆気ないと評さざるを得ない吸血鬼の振る舞いだった。
これでは、人と何ら変わらない。

「言ったでしょ。吸血鬼と言っても。私たちと何も変わらない心の持ち主。
 だから。人が周りにいるところでむやみに力を振り回したりしない」
「であれば、我々の目的も容易く叶えられる。
 あらゆる可能性への警戒を怠る気はないが、この現状は歓迎しよう」

アウレオルスは微動だにしない。懐に忍ばせた鍼を使う必要もなかった。

「あの子は今。どんな風?」
「その質問からは、どのような返答を望んでいるのかを推し量れん。
 明快な回答を得たいなら明快な質問をすることだ」
「誰かの血を。吸おうとは?」
「していない」
「私を探すために何かを破壊したことは?」
「ない」
「そう。……だったら。まだ戻れるのかな。話し合う余地は。あるんだね」
「可能な限り、まず対話から、というのがお前との取引条件だ。
 この流れであれば、その条件を飲めるだろう」

今も記憶に残っている。自分が死なせた、村の人たち。
ヒトにあらざる生き物となった彼らが心の底から化け物にでもなるのなら、
あの時、まだしも姫神は救われただろう。
だが、吸血鬼に「成る」というのは、そういう豹変を意味しないのだ。
彼らの精神は、人としての心や倫理観を完全には崩さないまま、ゆるやかに、連続に変化をするのだ。
空腹時には食欲を満たす行動が優先されるように、
睡眠欲が強いときは居眠りをしてしまうように、
行動を決める欲求のひとつに、吸血衝動が加わるだけ。
ただ、それは三食満ち足りた人間の食欲のように、我慢のできるようなものではない。

「どうやって。話をするの」

それは、アウレオルスにとっても最大の難関だった。
吸血衝動に犯された吸血鬼に、握手を求めるような友好的な態度は通じるのか。
それともある程度の物理的、または精神的な拘束を課した上で交渉に望むべきなのか。
彼女の機嫌を損ねて、敵対されればどれほどの困難に直面するのか、想像がつかない。

「今少し、対象の行動原則を測りたい。答えは、それを待って見極めることにしよう」

アウレオルスは指一つ動かさず、心の中で、エリスの対面する扉に、開けと命じた。
食堂には、たくさんの学生がいる。コインの裏表、別の世界にいるエリスは学生たちに干渉は出来ないが、
その状況でどのような手に出るか、例えば手荒な手段を厭うかどうか、調べるつもりだった。
864 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:47:20.77 ID:DKa41pXso

「あれ、開いた……」

誰かが開けたのかなと思案したが、エリスの目の前で、食堂の扉は自動扉みたいに開いたようだった。
まあ、なんにせよ目的が果たされたのでエリスとしてはどうでもいい。
真っ白な4人がけのテーブルが20ほどと、一人用のカウンターが壁際に並ぶ、小さめの食堂。
夕食時だからだろう、テーブルは全て埋まっていた。
ところどころ置かれた観葉植物は、おそらく教室よりはまだしもこの部屋の空気を和らげているのだろうが、
それでも堅苦しいというか、勉強至上主義的な、そういう「塾」らしさの抜けきらない部屋だった。

「あの! ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

定食や麺類、あるいはパスタなどを食べながら、テストの点数や問題の解き方を話しあう学生たちに向けて、
エリスは大きめの声で呼びかけた。だが返事は一向にない。完全に、エリスは空気のように意識されない存在だった。

「ちょっと、いいですか?」

食事を終えたところだろう。トレイを返して退室しようとする少女たちに歩み寄り、
その肩に手をかけて呼び止めようとした。

「あっ!」

その手を、圧倒的な力で振りほどかれた。崩れかけた体勢を、たたらを踏んで元に戻す。
ふりほどく素振りがあったわけじゃなくて、まるで機械みたいに、
エリスの手から力を受けても頑なにその動きを変えなかったように見えた。

「なんか、変」

気のせいかとも思ってきたが、どうやらそうではなく、
物理に反した何らかの異常がこの空間を取り巻いているらしいと、
エリスは悟りつつあった。

「能力……? っていうより、魔術」

超能力には、能力者が現象を観測しなければならないという制約がある。
必ずしもそばに能力者がいる必要はないが、能力は「設置する」という行為に向かない。
むしろ箱庭を作ってそこを支配する方式は、魔術が得意とするものだった。

「上の方……かな」

それは直感的に得た結論だった。椿の香りは依然としてエリスの鼻をくすぐらないが、
少なくとも結界の起点らしきものは、上のフロアにあるのが感じ取れる。
おそらくは、匂いの元もそちらな気がした。
865 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:48:21.96 ID:DKa41pXso

アウレオルスは、そのエリスの様子を見て吸血鬼たる彼女の危険度を推し量る。

「存外に、攻撃的な側面を見せないものだな」
「言ったでしょ。吸血鬼って名前が付いても。心は人と変わらない」
「では、心性が変わらないならば、あちらの精神への干渉は可能か?」
「……知らない。でも。心の作りが人と同じなのは確か」
「そうか」

アウレオルスは逡巡する。
エリスは既に三沢塾の中にいるから、彼女が人ならば、その意識を乗っ取ることは容易かった。
人と同じメンタルを持つ、人以外の生物。それにアウレオルスの術式が通じるかは不明だった。

「あの子を追いかけて来た人は?」

姫神は、もう一つの懸念事項を口にする。
たった一人でいながら、姫神とアウレオルスの野望を完全に叩き潰しかねない大勢力。
いっそ彼がナイトさながらにあの少女を救い出してくれるのなら、姫神はそれでも構わなかった。
アウレオルスとおそらくは垣根であろうあの青年とが拮抗して、
全てを台無しにしてしまうよりは、ずっと。

「アレがこの建物に入って後に新たに入ってきた学生十余名の居場所はすべて把握している。
 アレは位相のずれた世界に進ませたが故に、侵入者がアレを見つけることは叶わん。
 おそらくは問題にはなるまい。だが、私には能力者の位階を判断することはできん。
 姿と成りを説明しろ」
「身長は180センチはある。茶色がかった髪。ワックスとかで固めたりはしていない。
 服はさっきと同じなら。すこしフォーマルな感じのジャケットと革靴」
「……ふむ」

三沢塾の建物は、アウレオルスの意のままに支配できる世界だ。
それは学生の心であっても例外ではない。いわば木偶人形のように、アウレオルスは学生たちを操れる。
だが、例えばトイレを借りに来ただけの人間だとか、そういう立ち寄っただけの人間まで取り込むのは、
逆に管理の都合上損でもある。学生を取り込む条件として、入塾の契約書へのサインをトリガーにしていた。
今、建物の中にいながらアウレオルスの管理下にない人間の中で、姫神が口にした特徴をもった者を探す。

「五階か」
「それって……」
「アレと、なかなか近い場所にいるものだな」
「大丈夫なの?」
「無論。言ったはずだ。同じ場所でありながら、アレがいるのは隔絶された世界だ」

予想以上に、吸血鬼の少女が攻撃的な面を見せないのが好都合だった。
錬金術師という存在にとって、想定内の出来事ばかりが起きる状況というのは、
およそ失敗とは無関係でいられることを意味している。
アウレオルスは胸元の鍼を弄びながらも、使うことはしなかった。
事の推移を自らの制御下に置けることを疑っていなかった。
866 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:49:28.30 ID:DKa41pXso

「エリス!」

叫ぶ垣根のほうを、何事かと食堂にいる学生たちが振り向いた。
荒々しく人の流れをかき分けて、垣根は食堂内にいる人間を確認していく。
居合わせたのは当然のごとく日本人ばかり。エリスのあの、綺麗なブロンドは影もなかった。

「チッ」

雑な調べ方なのを、垣根は自覚していた。
一つ一つの部屋を入念に調べていれば、それだけで丸一日はかかる。
三沢塾は大手だけあって、それなりに中は広かった。
だから、めぼしい大部屋を回るくらいしかできない。
食堂をのぞき込んだ理由も公算あってのことでなく、広い部屋だからという理由だけだった。

「おい、金髪の女の子がここに来なかったか?」
「え、い、いや、知りませんけど」

一人で食事をとっていた男子学生が、垣根の攻撃的な態度に明らかに怯えながら返事をする。
周りの誰の表情を見ても、困惑ばかりだった。
すっとぼけているのかと、詰問したい気持ちを垣根は抑えた。おそらく、時間の無駄だ。
もう一度当たりを見渡す。どこにも争っただとか、何かを急いで隠したような痕跡はない。

「あれだけ堂々と正面から入ったのに、気配も無しか」

裏口でも使っているのであれば納得も出来るのだが、
一般学生がたむろする正面ゲートに堂々と車を止めて出入りしているのに、
学生の中にそれを不審に思う人間が皆無なのが、気になるところだった。
この建物にいる学生の精神を能力で書き換えるとなると、
そんな大規模な操作はせいぜい学園都市で一人しかできない。

「……違う、気がするな」

建物に入った瞬間に感じたかすかな違和感を、垣根はずっと引きずっていた。
精神操作に関しては垣根は門外漢で、相性は悪い部類に入る。
だから、相手が精神操作の最高位であるなら、垣根が何かを感じ取るなんていうのは考えにくい。
むしろもっと、物質に根ざした、何かがおかしいような気がしていた。
だがその違和感を言葉に変えることが垣根には出来ない。
字幕もなしに外国の映画を見たような、わかるようで分からないもどかしさ。

「チッ。頭を冷やせ、馬鹿が」

垣根は、いつになくコントロールがきかず苛立っていく自分の心を罵った。
頭を使うというのは、もっと冷徹な作業だ。沸いた頭で妙案など思いつくはずもない。

「……上を、目指すか」

関係者以外は立入禁止の区画に、足を踏み入れたほうが話は早いだろう。
後々面倒なことになるかもしれないが、そんなことは今は全く考える気にならなかった。
がしゃんと乱暴に食堂の扉を開けて、垣根は呆然とする学生たちの目の前から姿を消した。
867 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:49:58.99 ID:DKa41pXso

「エリス!」
「えっ?!」

突然の声に、エリスは思いっきりびっくりして、振り返った。
呼ばれた名前はもちろん自分のものだったし、その声にも覚えがあった。

「帝督君……?」

エリスが感じたのは戸惑いと不安だった。
だって、公衆の面前で、いきなり名前を大声で呼ばれたら、
何か自分がいけないことをしてしまったのだろうか、怒られるのだろうかと思ってしまうものだ。
困惑しながらも垣根に返事をしたのだが、その垣根は、一度だってエリスに目線を合わせてくれなかった。
そして、エリスのすぐそばをすり抜けて、気弱そうな男子学生に詰め寄った。

「おい、金髪の女の子がここに来なかったか?」

垣根に尋ねられた学生は、ひどく動揺してぼそぼそと返答をしていた。
そりゃそうだろう。自分の彼氏さんだから怖いと思わないが、垣根は目付きがきついし、
身長の高さもあって威圧感が結構あるのだ。
それにしても、一体何の冗談だろう。
目の前にエリスがいるのを露骨に無視して、誰かもわからない人に、自分のことを尋ねるなんて。
それに、恥ずかしかった。あんな奇行のせいで、部屋中の誰しもが垣根に注目している。

「ちょっと、帝督君! どうして私のこと無視するの?」

その呼びかけにも、一向に垣根は応えない。完全に無視を決め込んでいるようだった。
それは、まるで他の学生たちと同じようで。

「もしかして……帝督君、私に気づいてない?」
「あれだけ堂々と正面から入ったのに、気配も無しか」

なにか毒づくような言葉を吐きながら、垣根が再びエリスの隣に立って当たりを見渡す。
だけどその視界の中に、明らかにエリスは映っていなかった。

「やっぱりここ、何か変だよね」

エリスはそれを、ようやく確信していた。
だって、垣根が自分をこんな形で無視するなんて、ないと思うから。

「なんで帝督君は、こんなところに来たのかな?」

呼び掛けるように声に出しながらも、返事はあまり期待していなかった。
案の定、垣根は少しもこちらを振り返らない。
エリスは用事があってここに来たわけだが、垣根はこんなところに用はないだろう。
学園都市で、二番目に勉強のできる人だ。こんな塾なんて、来る必要がない。

「……あれ?」

そういえば、さっきまで、垣根と二人っきりだったのに。
別れて自分が一人だけ、ここに来たのはどうしてだったっけか。
理由はもちろん分かっている。だって、ここにはアレがあるから。
だけど。何か。おかしい。
868 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:50:37.51 ID:DKa41pXso

「私、なんて言って帝督君と別行動したんだったっけ」

あのキスは、恥ずかしいくらい甘かった。
誰かに見られるかもしれない場所だったからドキドキしたけど、
自分の目の前で優しく微笑んでくれる垣根の表情に、エリスも陶然となったはずだった。
そんな空気を打ち破るなんて、結構乱暴というか、自分勝手な真似のはずだ。

「ああ、そうだ」

途中で恥ずかしくなって、ジュースを買いに逃げたんだった。
そして、そこで。
あのたまらない香りの持ち主に、ようやく出会えたんだった。
脳裏に黒髪の少女を思い出すと同時に、胸が切なくなる。
そりゃあ、仕方ない。垣根にはこれからも会えるけど、あの香りにはもう会えないかもしれない。
見つけた以上は、優先してしまうのは仕方ない。

「帝督君には、吸わせてもらったあとで謝ればいいよね……?」

なんだかんだで、垣根は自分には優しい。
だから、血を吸ったあとで、垣根にあってきちんと事情を話せば。

「あ……」

何を、話すことになる?

「え、でも。仕方ないよね?」

エリスの呟きが、虚空に向かって溶けていく。
何度確かめても、計算間違いが残っているような違和感。それをエリスは感じていた。
それは、気づいてはいけないことのような。どこか後ろめたい出来事のような。
でも、仕方ないのだ。だって、あんな香りをかげば、そりゃあ、誰だってそちらを優先してしまうだろう。

「ねえ、帝督君」

呼びかけずには、居られなかった。振り向いて微笑んでもらえれば、自分の心の平穏を守れる気がしたから。
だけど垣根はやはりエリスのことなんて見てくれなくて。

「……上を、目指すか」

キッと踵を返して、エリスのそばを離れていった。
誰一人エリスに気づかない世界に、エリスは取り残された。
垣根にすがれなければ、エリスが頼りに出来るのは、もう一つのあの香りだけだった。



静かな校長室のソファに腰掛け、姫神はアウレオルスの変化を探る。
目に映るのは、わずかな変化すらも見せない、機械のようなその姿だけ。

「あの子は。どうなったの?」

雰囲気を一切変化させないアウレオルスに対しては、問いかけるしか、外のことを探る術がなかった。
姫神のことを振り返りもせず、ただ、アウレオルスは答えを口にする。

「予測どおりの結果を得たのみだ。アレが知己と邂逅することは回避した。
 これまでの様子を観察する限り、対話も可能だろう。
 あとはアレをしかるべき場所へと案内するのみだ」
「そう」

ほっと、姫神はため息をついた。最悪の事態だけは、避けられそうだった。
このまま、あの子とアウレオルスが取引をうまく交わせればそれでいい。
まだ、あの子は引き返せる。自分という猛毒から離れれば、きっと元通りの暮らしを送れる。
そして自分は、命を絶たなくとも、誰の命も奪わない平穏を得られることだろう。
少しだけ、頬が緩むのを、姫神は止められなかった。
869 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/28(金) 11:56:25.31 ID:DKa41pXso
いやほんと、長らくお待たせしてすみません。
難産でした。3レス位はすぐにかけていたんですが、
今後の展開を練り直すたびに書き直しになったりしまして。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 15:06:10.96 ID:JzcYzURw0
>>1

一日千秋の想いで舞ってました!
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 15:16:49.10 ID:Esq1Q4ASO
おおおお乙
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 17:36:20.05 ID:dm7wyb2SO
わーい待ってたよぉ!
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/28(金) 21:37:19.76 ID:ZrprYRD/0
乙だよバカヤロウ。
何時まで待たせてたんだよバカヤロウ。
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/28(金) 23:51:39.59 ID:3NXnykfA0
乙乙ゲンジバンザイ!! これまでさんざんビビらされた割に穏やかーな出だしだな。
まあ、この作者ならそれをマイナス方面でぶっちぎってくれるんだろうけどな!
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/29(土) 04:30:21.93 ID:U79pZSr7o

すぐ対面するかと思ったら焦らしてくるねぇ
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/29(土) 10:05:33.61 ID:FvVFo2lGo
乙ですた!
なんかもう、なんかもう!

本能をいじくられたエリス、おかしいのにそれに気づけないエリス。
そしてていとくん!

お前は、お前がヒーローだ!
ヒーローになってくれ頼む!

なんかもう、ものっそい感情移入しちゃうわー。

■■さんが望む通りに穏便に解決したらそれにこしたことはないんだけど…。

漂うバッドエンドの香りに戦々恐々としながら、次回も楽しみにしてますよー
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/29(土) 17:34:34.20 ID:0Efuid330
おかえりぃぃぃ!!!
これからも>>1の納得できるペースでいいのでお願いします!



しかし久々に愛知県が書きこんだ後すぐに帰ってきてくれるとは……
愛知県は俺らのラッキーボーイかもしれないなwwwwwwwwww
878 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/29(土) 22:24:16.38 ID:+8c7wuh6o
みんなバッドエンドの香りとかマイナス方面とかひでーなあ。
このまま何も起こらなければアウレオルスさんはきっと無事にインデックスと和解してハッピーエンドですよ。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/29(土) 22:34:22.24 ID:55dsKnCgo
つまり何か起こる宣言ですね…おおもう…
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/29(土) 22:48:00.20 ID:MuWkfNaT0
作者自らフラグ立てるとかやだー
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 23:02:42.75 ID:Ckq+1XEU0
とりあえず久々の投下乙
静かに待ってるよ
882 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/30(日) 07:16:02.66 ID:Asu0jsI3o

「あれが、三沢塾なんだね」
「ああ」

インデックスは背の高いビルを見上げ、傍らのステイルに呟いた。
視界に入り始めた三沢塾は、どうというほどもない普通の建物だ。
12階建てのビル4棟からなる施設でそれぞれのビルから中空に陸橋がかかっている辺りは、
一応は学園都市の中でも変わっている方なのだが、
魔術師二人組にはいかんせん何もかもが奇妙に見えるので、二人とも特に気にしなかった。

「準備は大丈夫かい? ま、君に聞く必要はないだろうけど」
「うん」

インデックスは短く答える。
もとより武器を手にすることも、何らかの儀式の準備を必要とすることもない。
彼女の最大にして唯一の武器はその知識だった。
最も今回は、できればそれも振りかざしたくはない。
相手が、自分の知った人だから。とてもお世話になった人だから。
沢山笑顔を向けた覚えがある。
先生は、喜怒哀楽をあまり表さない人だったが、
それでも自分と一緒にいることを歓迎してくれた気がする。
折を見て幾度となく自分のもとを訪れてくれたあの好意を、ありがたいと思う気持ちは今でも本当だ。
……嬉しいと、心の底から思えるインデックスはもう亡いけれど。

「全く、異常は見当たらないね」

そのステイルの言い回しを、インデックスは正直には捉えない。
その意図するところを、瞬時にインデックスは察していた。

「そうでもないよ」
「君は何か、気づいたかい」
「ステイルは自分で魔術を大量に練っている人だから気づかないんだよ思う。
 あそこからは、少しも魔力が漏れてこないんだよ。まるで、枯れてるみたいに。
 なんていうのかな。死んだ魔塔……うん、遠くから判断するのは不確かだけど、
 外敵から身を守るための結界でなく、内に入り込んだ敵を逃がさないための殺界、かな。
 モデルケースはエジプトのピラミッド――クフカ王の墓かな」
「……逃したくないその敵とやらは、果たして僕らか、それとも」

それ以上はステイルも語らなかった。
言うまでもなく、気づいていることだから。
それだけ、アウレオルス・イザードが本気であることに。

「……小細工は無用だ。さっさと正面からお邪魔しよう」
「うん」

ステイルに気取られぬよう、決然とした表情をしているその裏で、インデックスは決意を固めきれずにいた。
甘い、と自分でも思う。仲間内でもそれが必要なことなら焼き払うことを命令されるのが、自分のいた場所だ。
それをインデックスは、自分で選択したはずなのに。

「ん?」

ステイルはふと傍らのインデックスから、振動音がするのに気がついた。

「電話、鳴っているよ」
「えっ? あ、ちょ、ちょっと待ってて」
「ああ。突入前に、気づいてよかったよ」

ニッと笑ってステイルが嫌味を言う。
たしか、こういう時には自分は怒った顔を見せたはずだ。
だから、もう、と一言言って軽く睨むと、ステイルがふっと笑った。
きっと正解だったのだろう。そして、電話の相手は、当麻だった。
その名前を見てインデックスは緊張を覚える。
上条当麻は今、自分の面倒を見てくれている人だから。
かつてステイルが、そしてその前には先生がそうであったように。
883 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/30(日) 07:16:40.00 ID:Asu0jsI3o

「もしもし」
「お、インデックス。ちゃんと出れたか」
「……とうま。どうして第一声がそういう私を信用してない言葉なのかな」
「だってお前機械関係については信用できねーじゃん。物覚えいいのに」
「それとこれとは直接関係ないかも! で、どうしたの」
「ん。何時に帰ってくるのか聞こうと思ってな。」
「あ」

そういえば、ちゃんと報告していなかった。
光子や当麻と別行動を始めたときには、こんな展開になるとは予想していなかったのだ。
正直に言うと、これからのことはインデックスにも全く読めなかった。
アウレオルスという個人と、自分とステイルの交戦だから、規模としては小さい。
長引いたって明日じゅうには終わるだろうが、今日の夕食までの一時間やそこらで片付くとは思えない。

「ごめん。ちょっと、遅くなるかも」
「ちょっとって、どれくらいだ?」
「えっと、いつもあいほが帰ってくるくらい……とか」
「はい? お前、その年でそんな夜遊びって、しかもステイルと」
「え?」
「……もうちょっと早く帰ってこい。つかステイルに替われ」
「な、なんで?」
「どういうつもりか知らないが年頃の男女が夜の十時を過ぎて夜遊びとか上条さんは許しませんのことよ!」
「とうまがどの口で言うかな! もう、もうちょっと早く帰るようにするから、
 とうまはちゃんと家で待ってて! みつこを泣かせちゃダメなんだからね!」

あたりまえだろ、となぜかやや狼狽えたような声でいう当麻の声を聴きながら、
インデックスは強引に電話を切った。
あまり長く話すと、自分が危険なことをしようとしているのを気取られそうだったから。

「全く。上条当麻が関わると何もかもが滅茶苦茶になる」

必要悪の協会の人間が日常的に感じている、チリチリとした危機感。
そういうものが吹き飛んでしまった。ステイルは間をもたせるようにタバコに火をつけた。

「上手く誤魔化せたんだろうね?」
「……たぶん、大丈夫だと思う」
「なら結構。さっさと済ませてしまおう。もうすぐそこだ」

一口吸って、ステイルは煙を吐き出す。真新しいそれを、ステイルは道端に投げ捨てた。
それでステイルも、インデックスも日常と決別した。
そこから先は、何年か前までは日常だった、彼らの非日常だった。
884 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/30(日) 07:17:13.79 ID:Asu0jsI3o

「当麻さん。それで、結局インデックスは?」
「んー、歯切れ悪い返事だったな」

そろそろ夕ご飯の用意をしませんと、なんて言いながら、当麻と光子はまだソファに腰掛けたままだった。
昼間の一件でずいぶん疲れたのもあって、べったりくっついたまま優雅に昼寝を決め込んでしまったからだった。
そのおかげか、すこぶる光子の機嫌がいい。
やはり久しぶりに、たっぷりをスキンシップを取ったおかげだと思う。
インデックスには悪いが、二人っきりというのもよかったのだろう。

「アイツも意外と夜遊び好きなのかね」
「も、っていうのはどういうことですの? 当麻さんに似て、ということかしら」
「ステイルも、って言いたかったんだよ。ってか、なんで俺のことだと思うんだよ」
「だって」

それ以上は言わなかった。昼寝前にも一度詰ったので、あまり蒸し返すと当麻が起こるかもしれないと思ったから。
……まあ、乙女心は空模様と同じなので、当麻が迂闊なことをいえば、蒸し返したくなるかもしれないが。

「インデックスの分の夕飯はどうしますの?」
「まあステイルと食べちまうかもしれないけど、一応作っとこう。どうせ黄泉川先生の分も作る予定なんだし」
「そうですわね」
「あとまあ、あんまり遅くなるようなら、悪いけど迎えに行くわ」
「当麻さん、私も」
「女の子に夜道は危ないからって迎えに行くのに、光子を連れていってどうするんだよ」

ふっと笑う当麻に、ちょっと光子はムッとした。
口にしたりはしないが、腕一本の当麻よりも能力者の光子の方が安全かもしれない。
それになにより、そういうきっかけで外出しては、適当な女の子と仲良くなって帰ってくるに決まっているのだ。

「……拗ねても、ダメだからな」
「あっ」

上条が、なだめるように光子を抱き寄せた。
もとからくっつきあっていたが、さらに密着する。
衣擦れの音が胸元から聞こえた。姿勢のせいか、当麻に胸を押し当てるような状態だからだ。
それにちょっとドキドキしつつ、光子は抗わなかった。

「もう。誤魔化さないで」
「誤魔化すって、なんだよ」
「知りません。あっ、ん――」

目覚めのキス、というにはインデックスに電話をしたあとだったが、くちづけを交わす。
触れ合う時間は長めだけれど、舌を絡めたりはしない軽いもの。

「ねえ、当麻さん」
「ん?」
「お夕飯、主菜は私が作りますから」
「ん。ほかのは手伝うよ」
「はい。一緒にって、嬉しい」
「頃合になったら、インデックスを迎えに行くわ」
「ええ。お願いします」

嬉しそうに笑う光子に、当麻はもう一度キスをして、抱き寄せた。
だがその目は、光子の方を見てなかった。
さっきのインデックスの電話を、反芻する。なにか、引っかかりを感じていた。
885 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/30(日) 07:18:05.85 ID:Asu0jsI3o

「死にたくなければ退避しろ。我々とて無為な殺戮は好まん」

インデックスとステイルの通行を阻むように、中世の騎士鎧に身を包んだ男がそう通告する。
ローマ正教一三騎士団の一人、『ランスロット』のビットリオ=カゼラと名乗ったその男は、
まるで自分たちの怨敵に出会ったかのように、最新の注意を払って二人を警戒していた。

「……人払いは、君たちのものだったか」
「いかにも。無駄に被害を広げることもないと判断したのである」
「何をする気なのか、尋ねれば教えてもらえるのかな?」

騎士に負けず、ステイルもあからさまにならない程度に腰を落とし、戦闘に備える。
インデックスは定位置たるステイルの後ろに控え、周囲の分析を試みていた。

「なかには突入しないんだね」
「……」
「外からの攻撃であの建物をどうにかするには、13人じゃ心もとないんだよ。
 むしろ、ここには何かを引きつけるための信号しかないね」
「それはつまり、援軍がいると?」
「……グレゴリオ聖歌でも、届ける気?」
「聞きしに勝る聡明ぶりだな。破邪顕正のためとはいえ、汚れた蔵書で脳を埋めた魔導図書館というのは」
「インデックス。それって」
「何人の聖呪を重ねる気か知らないけど、バチカンから直接神罰を下す気みたいだね」

『ランスロット』が後ろを振り返り、準備の進捗を確認した。
インデックスの見立てでは、もう完成までいくばくもない。

「あの錬金術師を我々は甘くは見ていない。これをもって吸血鬼の殲滅が叶うかはわからないが、
 少なくともあの男だけは確実に葬らねば、これからの世界にどれほどの禍根を残すか想像すらできん」
「……今、なんて言った?」
「悠長におしゃべりに付き合う暇は尽きたようだ。
 貴様らにも、聖地バチカンに集められし三三三三人の修道士の聖呪が神罰を下す瞬間を見届けさせてやろう」
「待て! そんな人数で作った大魔術、この建物を完全に壊す気か?!」
「――先生!」
「なっ?! インデックス!」
「愚か者が! 自らの生をないがしろにするなど、神の僕たる我ら修道士のすることか!
 ――勝手に死んで地獄に落ちるがいい!」

そんな罵声を背中に受けながら、インデックスは三沢塾の建物へと走り込む。
アウレオルスを、死なせたくなかった。お世話になった人だから。笑顔をくれた人だから。
呼びかけたところでどうにかなるものではないかもしれない。だが、それでも。
のろのろと開く自動扉に体をぶつけながら、インデックスは三沢塾の中に滑り込む。

「先生!」
「馬鹿か君は! 君まで死ぬ気か!?」
「でも!」
「クッ、文句は聞かないよ! もう時間はないんだ。逃げるぞ!」

体格差のおかげでステイルは幸いにもすぐ追いつけた。
抱きかかえるようにして、インデックスを建物の外に追い出す。
外では最終段階に入った、その大魔術を唱える声が響いていた。

「ヨハネ黙示録第八章第七節より抜粋――――」

辺りにいた騎士が一斉に腰に差した大剣を掲げる。
またたく間に、それらが淡い赤色に、輝き始めた。

「――――第一の御使、その手に持つ滅びの管楽器の音をここに再現せよ!」
886 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/10/30(日) 07:20:26.18 ID:Asu0jsI3o
とりあえずかけたところまで。ひとつ詰まってた山超えたんでこのへんは割とすぐでした。
外は今年の初雪が五センチくらい積もってる。
明日無事にフィラデルフィア行けるかな…
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 08:17:16.29 ID:QFV/jQWSO
いってら
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/30(日) 09:07:45.35 ID:7tvoGXC40
乙。
風邪はひかないようにお気をつけください。
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 09:18:27.73 ID:M8uY0+TF0
いち乙!

明日はハロウィンなんだよ……。

890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/10/30(日) 19:37:11.90 ID:m400riO7o
NYでオーロラが見えたら、無線機を使って交信してみるといいぞ!過去のおっさんと話せるよ!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/31(月) 10:04:04.76 ID:dCyRBlYA0
やっぱりゴミだわ
改悪された気持ち悪いキャラしかいない
あの原作をここまで貶めるとかもうどうしようもないな
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 11:53:38.75 ID:phdmY3iSO
結局見に来ちゃうのか愛知w
ツンデレも大概にしろw 素直に応援してると言えないのかw
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/31(月) 18:01:06.04 ID:uc7FsUOS0
ばか野郎!
無能な自分のことを棚に上げて実力のある人を叩いて自分を保っているんだよ
まさにスキルアウトか介旅みたいなキャラクターじゃないか
愛知県は>>1がスキルアウト編を書くときのためにスキルアウトの心理を表現してるんだよ
立派じゃないか
894 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/01(火) 15:53:23.22 ID:peKGyPcBo
ハロウィンパーティで女の子のお尻とかおっぱいとかあたりまくりの一日やった。
更新はまたで。

>>890
なんのネタかな?

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/01(火) 16:19:19.78 ID:jR+Dq4mAO
>>894
爆発し…やっぱしちゃダ……爆裂しろ!

昔そんな内容の映画見た記憶があるなぁ。
オーロラの影響で古い無線機が突然どこかに繋がって、その繋がった先は過去のその無線機で、対応してるのは死んだ親父で……ってやつ。
タイトルは忘れたからググったら『オーロラの彼方へ』だった。

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896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/01(火) 17:33:19.64 ID:mGwd1gxAO
雑談のときはあげんでほしいなあ

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897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/01(火) 18:28:26.54 ID:kwqkdHYR0
>>894
コミケとかで人気BLブースのコーナーに突撃したら無駄にきょぬーな腐女子たちの身体に腕とかが当たりまくるけど不可抗力だから仕方ないよね

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898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/01(火) 19:46:10.85 ID:abIpuM8B0
>>894
続きは読みたいから手と頭だけは残しておいてやる。

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899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(静岡県) [sage]:2011/11/01(火) 19:54:54.18 ID:TFKx2m9T0
>>894
保安官さん、この人death

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900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 06:13:55.26 ID:RB2DtwYSO
静かだな
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 15:31:26.35 ID:YBTGhwCIO
吹寄スレのほうで馴れ初め投下予定であると宣言が来た
902 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:21:39.19 ID:AO6GJLQao
ただいま。
ちょっと申し訳ないんですけど、>>885の投稿を一部修正したうえで、
続きを上げさせてください。投下後のを修正すんのは不本意ですが、後に差し障りまして。

ということで、>>885を次のレスに差し替えたうえで、もうちょっと投下します。
903 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:22:13.97 ID:AO6GJLQao

「死にたくなければ退避しろ。我々とて無為な殺戮は好まん」

インデックスとステイルの通行を阻むように、中世の騎士鎧に身を包んだ男がそう通告する。
ローマ正教一三騎士団の一人、『ランスロット』のビットリオ=カゼラと名乗ったその男は、
まるで自分たちの怨敵に出会ったかのように、最新の注意を払って二人を警戒していた。

「……人払いは、君たちのものだったか」
「いかにも。無駄に被害を広げることもないと判断したのである」
「何をする気なのか、尋ねれば教えてもらえるのかな?」

騎士に負けず、ステイルもあからさまにならない程度に腰を落とし、戦闘に備える。
インデックスは定位置たるステイルの後ろに控え、周囲の分析を試みていた。

「なかには突入しないんだね」
「……」
「外からの攻撃であの建物をどうにかするには、13人じゃ心もとないんだよ。
 むしろ、ここには何かを引きつけるための信号しかないね」
「それはつまり、援軍がいると?」
「……グレゴリオ聖歌でも、届ける気?」
「聞きしに勝る聡明ぶりだな。破邪顕正のためとはいえ、汚れた蔵書で脳を埋めた魔導図書館というのは」
「インデックス。それって」
「何人の聖呪を重ねる気か知らないけど、バチカンから直接神罰を下す気みたいだね」

『ランスロット』が後ろを振り返り、準備の進捗を確認した。
インデックスの見立てでは、もう完成までいくばくもない。

「あの錬金術師を我々は甘くは見ていない。これをもって吸血鬼の殲滅が叶うかはわからないが、
 少なくともあの男だけは確実に葬らねば、これからの世界にどれほどの禍根を残すか想像すらできん」
「……今、なんて言った?」

それはとても聞き流せない情報だった。
アウレオルス・イザードの殺害にとどまらず、吸血鬼の殲滅を目標としているなどというのは。
それはつまり、この建物の中に吸血鬼が既におり、アウレオルスが捕獲しているということにほかならない。
ステイルは恐れていた自体が現実のものであることを悟った。

「悠長におしゃべりに付き合う暇は尽きたようだ。
 貴様らにも、聖地バチカンに集められし三三三三人の修道士の聖呪が神罰を下す瞬間を見届けさせてやろう」
「待て! そんな人数で作った大魔術、この建物を完全に壊す気か?!」
「――先生!」
「なっ?! インデックス!」
「愚か者が! 自らの生をないがしろにするなど、神の僕たる我ら修道士のすることか!
 ――勝手に死んで地獄に落ちるがいい!」

そんな罵声を背中に受けながら、インデックスは三沢塾の建物へと走り込む。
アウレオルスを、死なせたくなかった。お世話になった人だから。笑顔をくれた人だから。
呼びかけたところでどうにかなるものではないかもしれない。だが、それでも。
のろのろと開く自動扉に体をぶつけながら、インデックスは三沢塾の中に滑り込む。

「先生!」
「馬鹿か君は! 君まで死ぬ気か!?」
「でも!」
「クッ、文句は聞かないよ! もう時間はないんだ。逃げるぞ!」

体格差のおかげでステイルは幸いにもすぐ追いつけた。
インデックスを抱きかかえるようにして、ステイルは駆け出した。
外では最終段階に入った大魔術を唱える声が響いていた。

「ヨハネ黙示録第八章第七節より抜粋――――」

辺りにいた騎士が一斉に腰に差した大剣を掲げる。
またたく間に、それらが淡い赤色に、輝き始めた。

「――――第一の御使、その手に持つ滅びの管楽器の音をここに再現せよ!」

光が、雷のような轟音とともに、ビル全体を引き裂き貫くような崩壊へと姿を変えた。
グレゴリオの聖歌隊によって具現化された破壊の閃光は、三沢塾を狙い撃つように真上からビルを串刺しにする。
はたから見れば棒状のビスケットにフォークでも突き立てるように、
ガラガラとビルが頭から崩れていったことが分かっただろう。

「クッ、間に合え――!」

ステイルは既に建物の上部が崩れ始めた音を聴きながら、なんとかエントランスホールのゲートをくぐり抜けた。
抱きかかえたインデックスが、もはや間に合わないであろうことを無視して、必死に叫んでいた。

「先生! お願い、逃げて!!!」
904 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:22:55.38 ID:AO6GJLQao

「えっ?」

5階のエレベータホールで、エリスは急に明るくなった窓に、戸惑いを覚えた。
エリスはつい垣根の方を振り返ってその顔を見た。だが、視線が絡み合うことはない。
それは何らかの異常を示すものなのは間違いないが、それよりも寂しいという気持ちをエリスは感じていた。
だが文句を呟く時間すらもなかった。訳も分からぬうちに、轟音と共に崩壊がもたらされる。

「くっ!」
「きゃあっ……!」

視界がまず光で奪われた。
そして、足元が崩れ自分を支えてくれるものを失う感覚は、
飛行する手立てを知らないエリスにとってはひどく混乱をもたらすものだ。
人としてのエリスは、おそらくこの瞬間になす術なく、この状況に振り回されてしまっただろう。
だが。

「シェリー!」

鋭くその名を呼んで、エリスは虚空にオイルパステルを走らせた。
この建物は誰かに支配されている。
エリスはその支配が、扉に手をかけて力をかけてもそれが扉を開くという結果をもたらさないという、
いわゆる因果関係への干渉を行う魔術というより、物質そのものを支配し、
その結果として、エリスを因果に干渉させなくさせているように感じ取っていた。
それはつまり、シェリーを召喚するにはこの建物の構成物質の支配権を、
誰かから強引に奪い取らなければならないことを意味している。
この建物をまるごと支配できる魔術師など、
自分とは比較するのもおこがましいほどの高位にあるのは間違いない。
エリスが仕掛ける支配権の横取りなど、プロにアマチュアが真剣勝負を挑むようなものであるはずなのに、
自分が競り負けることを、エリスは不思議と心配しなかった。

「おいで。そして私を守りなさい!」

瞬間。自分を取り巻いていた粉塵や、自分を潰すように飛んできた瓦礫が、
意志を持ってエリスの傍らに集い始めた。
エリスは自身がその瞬間に魔法陣に流し込んだ魔力が、
魔術構成の稚拙さと全く対照に巨大であることを自覚していなかった。
そしてシンプルな魔術であることが、逆に功を奏していた。
どこまでも尽きることのない魔力を再現なく流し込んで、エリスは巨大なシェリーを傘に神罰から身を守り続けた。
そして、身の安全を確保すれば、次に気になるのはもちろん垣根のことだった。

「帝督君、帝督君は?!」

シェリーのせいで視界は限られている。
また、そうでなくても強烈な光と当たりを舞う粉塵で視界は無いに等しかった。
だから叫ぶ。精一杯、垣根に届くように。今まで届かなかったことなんて忘れて。

「帝督君っっ!!!!!」
905 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:24:10.51 ID:AO6GJLQao

「クソッ! 一体なんだ!?」

閃光と破壊に包まれた世界で、それでも垣根は理性を一切揺らがすことなく、状況を把握する。
それはこれだけの環境でありながらなお、垣根にとっては危機的状況ではないから。
毒づきながら、能力を展開する。
自分の知識の中にいくつも蓄えてある『未元物質』のレシピ。その中から一つを選択した。
垣根の操る『未元物質』そのものは、ただひとつの『物質』だ。垣根はそれしか創れない。
だがそれで十分だった。垣根の創る『未元物質』からはいくつかの素粒子が生まれ、
そしてそれは数種類の原子に化け、分子を構成し、さらにその分子がメゾ・マクロな物理構造を形成していく。
その結果として、万や億に届くバリエーションを垣根にもたらす。
あらゆる物質の根源にある、超バネ、ひも、膜などと呼び習わされるそれが根本的に異なっているが故に、
垣根の作った物質はあらゆる意味で現実の物質とは存在が異なっていた。
垣根の能力名である『未元物質』は、正確には素粒子よりもさらに細かなある一種類の粒子の名前であると同時に、
人の目に見えるスケールにまで構築された、多彩な物性を示す材料の総称でもあった。

「……ビルが崩壊か。クソ、エリスはどこだ」

垣根は透明な球体に包まれていた。
薄手でいながらコンクリートなどよりもはるかに硬いタイプの『未元物質』だった。
自分の安全は確保出来たが、そんなことは当たり前だ。問題は、エリスの行方。

「エリス!」

外に向けて、声を響かせる。だがその崩壊の轟音は、垣根の声をかき消すに十分すぎた。
能力を使い、あらゆる方法でエリスを探しながら、
それでも叫ぶという原始的な手段を取りたい衝動を垣根は抑えきれなかった。

「エリィィィィィィス!!!!!」

垣根が、腹の底からその名を叫んだ。
――――それは、インデックスの叫びと、そしてエリスの呼び声と、同時だった。

906 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:24:40.04 ID:AO6GJLQao

アウレオルスが、すっと目を開き顔を上げた。
そのやや突然の動きは、何かがあったと姫神に気づかせるだけのものだった。

「何か。あったの?」
「どうやらローマ正教は事の他、この一件を重要視していたらしい。
 在職中にここまで目をかけてもらった覚えはないが」

それは余裕の表れか。アウレオルスが珍しく皮肉をこぼした。

「おそらく、この建物が崩壊する」
「えっ?」
「それなりの数の修道士を集めて滅びの喇叭<ラッパ>を再現すれば、街一つでも容易い」
「止められないの?」
「止める術はない。錬金術師の職掌に外界へ働きかける力は無い」
「……落ち着いているってことは。対策はあるんでしょ」
「当然。内界たるここに、私の意に従わぬものなどない」

窓の外が真昼みたいに明るくなったのに、姫神は気づいた。
その横で、アウレオルスがすっと鍼を首筋から引き抜いた。
それは、精神を整え、予定調和を守るための儀式。
ヒトという不完全な存在にすぎない自分が、十全、完璧を要請される大魔術を使うために必要なことだ。
精神が、引き締まるのを感じる。それは人間らしさを手放したことと同義だった。
こうしてアウレオルスは揺るぎない精神を手にした、そのはずだった。
ただひとり、求めてやまない少女以外になら、その堅固さは守られたのだが。

「先生! お願い、逃げて!!!」
「な、に?」

声が、聞こえた。
見知った声だった。もう何年も直接は耳にしていないはずなのに、
それは聞こえた瞬間に、誰の声なのかをアウレオルスに悟らせるのに充分だった。
ガラガラとビルが崩れ繊細な制御を必要とするその瞬間に、
アウレオルスの集中力をかき乱すのに、充分だった。

「インデックス……!」

混乱がアウレオルスを襲う。歓喜を伴っているのが、この瞬間には余計だった。
先生と、呼ばれることを何度夢見たことか。
だが、それは自分の手を下さねば成し得ないことのはずだ。
あの少女は、記憶を失うことでしか、生き続けられないのだから。

「アウレオルス!」

後ろで、姫神が叫んだ。その声に現実に引き戻される。
そしてすぐに気づいた。この崩壊を巻き戻さねば、インデックスの命が失われかねないことに。
事情はわからない。だがそれは最優先事項だった。
引き抜いたばかりの鍼を、もう一度首に突き刺す。
対して効果を感じる時間すら取れないままに、厳かにつぶやいた。

「――――元に戻れ」

それで、全てがもどるはずだった。時間を逆向きに進ませるように。
少なくともアウレオルスは、それを実行できる程度には平静を取り戻している自信があった。
だが、その身中に虫<バグ>を飼っていることに、アウレオルスという獅子は気づいていなかった。
アウレオルスをはるかに凌駕する魔力で建物を侵食する吸血鬼と、
『未元物質』をばら蒔いて建物を汚染する学園都市第二位の能力者という、
抱えるにはあまりに大きすぎる虫が、身中に巣食っていることには。
907 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:25:30.06 ID:AO6GJLQao

「帝督君っっ!!!!!」
「エリィィィィィィス!!!!!」

その声は、二人の思いが通じたように、互いに届けられた。
耳に届いたそれは、互いにとって希望そのものだった。
喜びが心を占め、互いが互いを探し求め、己の能力を行使する。
互いに互いの位置を把握できるような能力者ではない。
だが、それを補って余りあるほど、互いを見つけたいという気持ちがあった。
垣根は糸状の未元物質を周囲に張り巡らせ、エリスの位置を探る。
垣根は気づいていなかったが、崩壊前にはすぐ目と鼻の先にいたのが幸いだった。
ほどなくして、垣根は伸ばした糸の一つがエリスにたどり着いたことを確認した。
エリスもその糸の意味にすぐ気づき、シェリーを動かして必死に垣根に近づく。
ほどなくして、二人は崩壊する瓦礫の中、互いの姿が見えるところまで肉薄した。
だが、依然として落下は続いている。垣根はすぐさま声をかけた。

「帝督君!」
「エリス、大丈夫か!」
「うん! 帝督君、来てくれたんだ……!」
「ごめん! お前を、見失っちまった」
「大丈夫。私ちょっと用事があってこっちに来ちゃったんだけど」
「……そうか。怪我してないか?」
「うん。これくらいじゃなんともないよ」
「話はあとだ。とりあえずこっちに来い!」
「うん!」

どこか会話がかみ合ってないような気がしたが、エリスの変わらぬ姿にほっとした。
そして垣根は、手のかわりに未元物質を伸ばした。
エリスの身に何があったのか、きちんと理解しなければならないことはまだあるが、
とりあえず、これでエリスの安全は確保できる。
そう、垣根が思った瞬間だった。突如、あらゆる瓦礫が、落下をやめた。

「えっ?!」
「なっ?!」
「帝督君!」

気づけばエリスも浮かんでいた。物理法則が、破綻していた。
エリスの後ろでシェリーが再び瓦礫に戻った。まるでエリスの手を離れ、再び誰かの手に戻ったように。
その一方で、まるで救いの対象から外れた罪人のように、垣根が落下していく。
未元物質と、それに包まれた垣根はアウレオルスの制御の埒外だった。
再び、二人の間に埋めがたい距離ができる。
そして時計のネジを逆巻きにするように、瓦礫は瓦礫となる前の整然としたビルの形を目指して、再び動き始めた。
ただひとり、垣根を除いて。

「帝督君!」
「俺は大丈夫だ! エリス、今そっちに行くから待ってろ!」
908 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:28:20.49 ID:AO6GJLQao

未元物質で風を創出し、垣根は反動で飛び上がる。瓦礫の動きは落ちるときよりはいくらか緩慢で、
また軌道の予測も十分に可能なレベルだった。
隙間を塗って、垣根はエリスが居るはずの場所へ、向かっていく。
エリスはちらつく垣根の影を見ながら、再び自分のもとに垣根が来てくれる瞬間を待った。
危ないことをなるべくして欲しくない。
良くはわからないが、この現象はエリスを傷つけないよう動いている節があった。
だから、自分の近くにいれば、垣根はきっと安全だと思う。

「帝督君、こっち!」

エリスは叫ぶ。声で垣根を誘導する。

「エリス。手を伸ばせ!」
「うん!」

垣根の影がやがて大きくなって、もうじき手が届く。
互いの顔と顔が見えて、どこも怪我などをしていなさそうなことにほっとした。
もう、あとちょっとで手を繋ぎあえる、その瞬間だった。

「あ……」

――あの香りをエリスは再び感じてしまった。とろけるような甘さの、椿の匂い。
エリスはその香りがどこから立っているのか、理解してしまった。
もっと上の階、それもこのビルではなく崩壊しなかった別の棟。
垣根がいる下のほうとは、真逆のほう。

「あぁ……」

垣根の姿がチラリと見えた。それが、エリスの心にヒビを入れた。
自分の心は、明白に垣根よりもその椿の香りを求めていた。
あの巫女装束に身を包んだ少女の、その血を。
垣根の身を案じるだとか、垣根に心配をかけさせないだとか、
そしてもっと大切な、垣根が好きだという気持ちよりも、
あの少女の血を吸いたいという気持ちの方が、何百倍も強い。
それに、気づいてしまった。

「私、なんで」

愕然となる。理性が整合性を求めてガンガンと頭の中で警鐘を鳴らす。
そこにもう一度、椿の香りがかすめた。
誰かの悪意を疑わずに居られない、不自然さだった。
だけどエリスの意識はもう、そんな事に築けるような余裕はなくなっていて。

「あ……あ、あ、ああああアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

獣じみた、衝動に忠実な叫び声を、あげた。
909 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:28:56.46 ID:AO6GJLQao

「どうして! アウレオルス!」
「慙愧。……予定調和が狂ったことを、素直に認めよう。この状況においてこれは避けられぬ次善の選択肢だった」
「そんなこと。だってこれじゃ。あの子は」

姫神は、咄嗟にアウレオルスがしたことを、許せなかった。
直接見えたわけではなかったが、姫神は、吸血鬼の少女があげたその声で、全てを察していた。
アウレオルスが、何らかの事情で再び姫神の香りをあの少女に嗅がせ、理性を剥奪したことを。
それは、不可逆な変化なのだ。姫神の香りに犯されれば犯されるほど、戻れなくなる。
人らしさを失い、吸血鬼としての本能に従わざるを得なくなる。
あの少女は、一体どこまで堕ちてしまっただろう。
再び、幸せを取り戻せるところで止まっているだろうか。それを自分は、無力に願うことしかできない。

「アウレオルス・イザード」
「なんだ」
「次は。ないから」
「……」
「次にあなたが同じことをやれば。私は自分で命を絶つ」

ここに来る前からもう覚悟は決めてあるのだ。
誰かを殺すことになるなら、その前に、ナイフで胸を突いて死ぬと。
あの少女の幸せを奪ってまでは、自分を生きながらえさせたりはしないと。

「――当然。それでは我が願いは果たされん。死んでもらっては困るな」
「だったら。これ以上その手は使わないで」
「分かっている。そもそも、もうその必要はない。アレはこちらを認識した。
 じきにこちらに向かってくるだろう。そちらの扉から隣の部屋に行け。
 お前を目の前において、交渉はできん」
「……わかった」

真剣な姫神の視線と、無感動なアウレオルスの視線が交錯する。
その噛み合わさに今更ながらに苛立ちつつ、姫神はアウレオルスの指示に従った。

「……インデックス。今、お前を助けよう」

アウレオルスは独り、虚空に向かってそうつぶやく。
先程のインデックスの声を思い出す。珍しくアウレオルスは自分の記憶に自信が持てなかった。
あるはずがないのだ。アウレオルスのことを、あの少女が思い出すことなど。
あれが自分の願望が生み出した幻聴でなく、
自分が救うまでもなくインデックスが記憶を取り戻している可能性を、アウレオルスは考えるのをやめた。
希望的観測にしたがって全てを失うのは愚か者のすることだ。
吸血鬼を捕獲し、取るべき手を取れるようになってから、インデックスについては改めて問いただせばいい。
それは、アウレオルスのたったひとつの悲願なのだ。だから、失敗するわけにはいかなかった。
吸血鬼の少女、エリスを迎えるためにアウレオルスは呼吸を整え、鍼を首に刺した。
910 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/26(土) 15:30:22.94 ID:AO6GJLQao
『ep.3_Deep Blood 05: その名を呼ぶのが重なる時』でした。
みんな間の悪いこと。続きはまた。
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県) [sage]:2011/11/26(土) 15:36:27.16 ID:9xHl1Ezxo
アメリカ人のおっぱいに揉まれてた割には元気そうじゃないか。
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/26(土) 16:58:18.67 ID:bjlde6e90
やっと来たか…待ってたぜ…
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/26(土) 19:56:08.87 ID:27ywXeHz0
受験前だと言うのに……更新再開おめでとうだ。
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 10:13:18.40 ID:nWNLf1Rc0
乙、おかえり
915 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/27(日) 10:13:53.04 ID:LfKRRNq4o
ブロンドねーちゃん綺麗しスタイル良いけど見てると疲れてくる。
>>913
まあそういう時ほど手を出した小説が面白いよな。気をつけて。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 10:56:09.67 ID:kgjMwJwYo
エリスって男の子じゃないの?
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 18:38:45.37 ID:eDedlJzFo
こんなにかわいい娘がおんなのこのわけがない
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/27(日) 23:53:30.46 ID:SYGRVMtbo
さいしんのちゅういをはらう
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/28(月) 18:49:18.82 ID:U8oGHrS80
久々の投下だから流れをおさらいするために読んでてふと思った
ここの美琴は一方通行に対して磁場を使うことは考えつかなかったんだろうか
時間変化から体内で強い電場を発生させれば真っ当な攻撃になるだろうに
まああの時点じゃ一方通行の能力に関して情報不足か
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/29(火) 18:05:44.97 ID:DWdlRJVD0
原作をここまで汚して原作者に申し訳無いと思わないのか不思議だわ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東日本) [saga sage]:2011/11/29(火) 19:51:34.26 ID:xDlkmTQD0
読まなきゃいいじゃんw
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/29(火) 19:54:35.63 ID:LGusZZyyo
>>920
お前がそう思うなら(ry
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/29(火) 20:03:06.60 ID:Wl+0NQv/0
900越えてんだから変な話題で伸ばすことはないだろ
感想とかで伸びていくならいいことだが
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/29(火) 20:11:50.10 ID:6TjG/qYoo
>>920

新しいコピペとして使わせて貰うぞ。
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/30(水) 01:13:11.12 ID:rxEo24+A0
お、愛知県が来たという事はもうすぐ投下か
有難いジンクスだ
926 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/30(水) 01:48:26.46 ID:D1taqQuko
更新じゃなくて悪いんだけど。
>>919
最後の行が真理なのは横に置いといて、その磁場で攻撃するって話の原理が気になる。
どういうことかな?

>>916
原作に性別は明記されていない。
また「エリス」というファーストネームは男女共にありうる。
しかし漫画版でシルエットだかなんだかが男っぽかったとか、
どちらかというと男という説が有力になる情報がちらほら。
でもまあ、このSSでは解釈の余地ってのを利用して、女だということにしている。
そんな感じ。
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 05:15:54.09 ID:WDf04zpAO
つまりTSか
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/30(水) 07:57:58.96 ID:9E2Cibhr0
>>926
ベクトルとかテンソルとかに詳しいみたいだから磁場って言うだけで通じるかと思ったけどダメだったか
反射できないもので攻撃すればいいんじゃね、っていう誰もが考える原理でしかないよ
そんなもんあるわけないとみんな思ってるんだろうけど、実はそうでもないというだけの話

磁場は反転時にちょっと特殊な挙動をするベクトルなのよ
例えばx軸方向を鏡写しにした場合、速度や運動量や電場みたいな普通のベクトルはx成分にマイナスがつく
だけど磁場の場合はx成分「以外」に、つまりy成分とz成分にマイナスがつくという挙動になる(B=rotAだから)
これは他の方向についても同じなので、3次元的にひっくり返すと全成分に2個ずつマイナスがつく
つまり磁場は反転をかけると2重に反転されて元に戻ってしまうため、反射が意味を成さない
一方通行の反射の原理が鏡像というか空間反転的なやり方とは限らんけど、
全方向のベクトルを反転するなら右手系を左手系に載せ替えるような処理が必ず必要になるはずで、
そこで磁場の定義に含まれるレヴィチヴィタ記号が悪さをして同じように反射膜を素通りするはず
詳しくは「擬ベクトル」か「軸性ベクトル」で調べてくれ
929 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/11/30(水) 08:43:34.52 ID:D1taqQuko
賢い人来たwごめん、電磁気学からは逃げてたから知りませんでした。
どっちかというと化学よりの専攻なもので。
まだ100%は理解してないんだけど、ちょっと勉強してみる。ありがとう。

・・・・・・俺からは対策案を考えられないような気がするので聞きたいんだけど、
「磁場とはそういうものである」と当然知っているであろう一方通行は、
じゃあどんな対策取れるんかな? 知ってても防げない?
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/30(水) 09:58:27.22 ID:9E2Cibhr0
擬ベクトルでも回転と拡大縮小は普通にできるけど、一方通行じゃ0倍するってのはできないからなあ
俺が一方通行だったら「体表面と並行になるよう回転する」という対策を取るかな
ただ、回転角がケースバイケースだから、反射膜みたいな無意識発動ができるのかという問題は残る
他に角運動量とかトルクとかも擬ベクトルな物理量だけど、
その辺はそれを持ってる物体や素粒子そのものを弾けば基本的に問題ないはずだし

もしくは全てを台無しにする解答として、
「そもそも一方通行は例え擬ベクトルでも謎の理論で反射できる能力だ」と解釈するのもあり
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 10:13:33.37 ID:WAdkd8sIO
頭がポッポッしてきたお
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 11:04:21.58 ID:nZGra3Tno
まあ11次元も反射できるらしいしな
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage saga]:2011/11/30(水) 14:57:34.24 ID:81c7+U3d0
>>927
TSって訳じゃないだろ
原作で男エリスが出てきてないんだし
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/30(水) 17:49:09.74 ID:Za91cWyi0
こういう頭いい会話見てると物理学びたくなるな。
大学入ったら物理取って、この会話に参加するぜ。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県) [sage]:2011/11/30(水) 18:04:15.41 ID:Us7tBfSwo
磁場なんか使ったら、一方通行さんの血行がよくなって肩こりがほぐれるかもしれんだろ。
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(静岡県) [sage]:2011/11/30(水) 22:37:05.57 ID:uD4CCvgk0
よく通販の磁力ネックレスが幸運を呼んだり奇跡を起こしたりモテモテになったりするのも頷けるな
937 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/12/02(金) 01:16:46.20 ID:8/yDviMAo
>>930
いろいろ教えてくれてありがとう。
電磁場を「場」として解かずに光子の運動問題として取り扱うことで磁場の反射も可能、
ってのは一つの答えになりうるのかな? 間違ってたらごめん。
まあ光子に質量はないから、必然的に波動方程式を解くことになるんだろうけど。

>>932
それ気になるよね。反射するには知覚できないといけないと思うんだけど、
それってつまり一方通行は11次元空間を知覚できてそのベクトル操作も可能なんだから、
テレポートも可能って結論が出てくるような。

>>934
大学に入ったら物理と言う授業はほとんどないだろうなあ。
力学とか電磁気学とか熱力学とか、そういう個別の学問になる。理系ならね。

・・・・・・内容の更新じゃなくて申し訳ないです。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 01:18:21.34 ID:hEmE/Bzwo
申し訳ないならageんなよ
かまってちゃん臭がすごいです
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/02(金) 03:51:01.03 ID:Am4F3llV0
光子(みつこ)の運動か、エロいな
じゃなかった、電磁場の量子化ね、それは思いつかんかった
QEDはさすがに専門外だわ
だけど専門外ながらに考えると、電磁相互作用はフォトンの交換で発生するわけだけど、
そもそもその交換相手をどうやって見つけてるのかがわかってない(だよね?)以上、
反射膜を挟んだ上で交換相手を見つけられるのかって今の物理じゃ推測しようがない気がするんだよね
そう考えると>>930の素粒子弾けばオッケーってのも怪しいな
うん、間違ってたらゴメン

11次元はあれだ
一方通行が時間方向にベクトル操作できるかが未知数なんだよね
できないんだとしたら、テレポートの反射で11次元中10次元分だけ反射して妙なことになるのも納得だし、
自分をテレポートも同じく妙なことになってもとの4次元時空に帰ってこれなくなるだろうからやる気にはならんだろう
という1つの仮説

ところで、この物理談義でSSの進行を妨げてる気がしてならないので、
話を進めてくれると読み手としては嬉しいわけだがww
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/02(金) 03:54:39.88 ID:Am4F3llV0
あ、あとSSの投下でないレスではsageた方がいいというのは俺も思う
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 07:24:19.51 ID:0+XArQfAO
ここの>>1のキモイ自己アピールさえなければもっと気持ちよく読めるんだけどな
どうせまたしれっとあげるよ
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage saga]:2011/12/02(金) 18:05:05.86 ID:IA9kRjpL0
>>1のスレなんだから好きにさせろよ
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/02(金) 18:34:56.86 ID:vHf5i1PCo
根性さえあれば物理演算なんて要らねえんだよ!!
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/12/02(金) 18:44:37.60 ID:tzs5QBrc0
>>1の雑談が嫌なら推敲もされてるしアルカディアで読む事を勧める
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/12/02(金) 18:48:53.57 ID:fG9OAuMdo
>>944
難癖言いたいだけだろ
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 21:59:04.13 ID:XIaHGuZM0
>>941
お前……そんなホントの事思ってても言うなよ
かまってちゃんには適当にかまってあげて続きを書いてもらうのが読者の仕事だ
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 23:17:40.25 ID:CizOpivIo
なにがひどいって前回更新から40近くも伸ばしといて、まともな感想が殆ど無い件
お前らちゃんと感想も書いてやれよ
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/12/03(土) 07:03:54.77 ID:gkiIO0mKo
>>947
普通に理想郷で書くだろJK
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(静岡県) [sage]:2011/12/03(土) 09:28:19.70 ID:cJWkz4v50
まともな感想か・・・ふむ、吸血殺し編は光子もほとんど出てきてないから絶対的におっぱいが足りんな
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 09:30:17.53 ID:Kbn2PHKSO
>>944
言えてる。
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/03(土) 10:05:03.43 ID:eDfNGRHC0
所詮原作を貶めるSSなんだからまともな感想なぞ付くわけがない
まったくよく書いて平気でいられる物だ
つまらなすぎて泣けてくるわ
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/12/03(土) 10:12:46.04 ID:gkiIO0mKo
そんなこと言い出したら二次創作自体が原作軽視のゴミだろ
アホかww
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/03(土) 10:24:09.91 ID:r1QShHMOo
>>952
ほっとけ。
その愛知はただのキチだ
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/03(土) 11:05:39.54 ID:XqfGr0NAO
なんという民度の低さ
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/03(土) 14:00:19.90 ID:Dw4rZuG2o
お前らのコントにワロリン
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 18:15:00.62 ID:SjcGHRPS0
つまりあれか、>>1やおまえらの見解としては

・ここは理想郷に載せるための下書き的な場所である
・こういうやり方が>>1的には都合がいい、規約的に文句はあるまい(キリッ
・感想は理想郷で書けよJK
>>1の自分語りや宣伝や長文議論がウザい連中は理想郷で読めよJK
・雑談が楽しいので>>1は更新なくともガンガンageます、それが嫌なら理想郷

こんな感じでいいのか?
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県) [sage]:2011/12/03(土) 18:47:17.53 ID:qhq+9LdP0
俺みたいな日魔神は両方に感想を書いてもよい。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/03(土) 18:55:59.10 ID:XqfGr0NAO
まあ、>>956の通りだろ
かまって欲しくてあげちゃう>>1かわいい
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 01:14:26.57 ID:1RwQkcASO
>>956
ぐだぐだ遠回しに嫌味を言ってもキモいだけだからはっきり言えば良いのに・・・。まだpart1から清々しくキチの道を突っ走ってる愛知の方がマシ。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 03:28:25.07 ID:7L9pSG+IO
かまってちゃん辞めろとか言いながら結局構ってあげてるお前らの優しさに泣いた
お前らが構わなければいいだけなのでは?
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) :2011/12/04(日) 03:51:15.91 ID:ZPdeIaW10
文句言いつつ構った挙句ここまで読んでる>>958かわいいww
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/04(日) 09:28:30.26 ID:r0Xa4hds0
まったく愚かな読者ばっかりだ
下らない作品にはそれに準ずる奴らしか集まらないな
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/12/04(日) 09:34:54.09 ID:Yg/2zoqVo
そこに書き込むお前もその一員だ、おめでとうww
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 19:18:33.42 ID:z9VlOmSbo
うおおお荒れてる
こりゃあれだな、理想郷で読むべきかな
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 20:19:42.16 ID:1RwQkcASO
>>962
ツンデレ愛知さんちーすw
part1の投下当時からここまで読んでるなんて読者の鏡やんw

俺も見習いたいけどニートの粘着には流石に敵わないな。
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 23:19:25.22 ID:IGxFHxBIO
節目節目の読了感(正しくは読了ではないが)が心地よいss
展開がどうなるのか楽しみ
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/05(月) 23:49:36.02 ID:W0jPDAX+o
早くサテンサン成長物語の続きが読みたいです
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/06(火) 20:47:59.56 ID:uDn3daAmo
そうだな
主に乳と尻の成長を
969 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga sage]:2011/12/07(水) 01:38:43.09 ID:okPocZnYo
荒れとるなあ。
ええと、ageると気にされる方がいるので、雑談をsage進行でやるようにします。
あと、
・ここは最新の内容を常に投下する場所、arcadiaは後からの推敲したのを載せる場所。
・早いレスポンスで感想がつくことがモチべ向上の助けになるので、こちらで感想をつけるのも大歓迎。
・雑談をしながら投下するのが好きなのでこちらはそういうスタイルでいきます。雑談を避け淡々と読みたい方はarcadiaへ行くことを推奨。
といったところです。私の中でarcadiaとここは相補的な役割にあるので、優劣は別にないです。
もう一年以上連載しているわけですが、そういう息の長さを保つのにいい方法だと思っているので、どうかご理解ください。

それなりの量を更新したかったんですが、ちょっと叶いませんでした。1レスでごめんなさい。
970 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/12/07(水) 01:40:17.04 ID:okPocZnYo

「あ、ああ」

三沢塾の外の路上で、騎士鎧に身を包んだローマ正教の使徒たちがその光景を呆然と見つめていた。
はるかローマの地から聖呪を届け、下したはずの神罰。
その神の威光がビルから立ち上り、天へと戻っていく。一体どこまで戻るのか、騎士達は理解していた。
がしゃんと、誰から膝から崩れ落ちて金属の擦れ合う音を立たせた。

「そん、な――」

ありえない。三三三三人もの敬虔なローマ正教徒を集め練り上げた聖呪に、
たったひとりの錬金術師の力が勝るなどということは。
一体それがどれほどの天使の力<テレズマ>を内包した一撃なのか、
それを見積もれば、およそ一人の人間に取り扱える量ではないはずなのだ。
だがそのごく常識的な判断が、まるで目の前の現実とかみ合わない。

光が騎士達の前から、否、学園都市から消えた。
見ていれば分かる。これは、「巻き戻し」なのだ。
ローマの中心、バチカンで祈りを捧げる修道士達を基点としてこの学園都市へと向けられた天使の力は、
そっくりそのまま、再びバチカンへ戻ることになる。
そして志向性を失くした天使の力は、その役目を終えるためにバックファイアとして修道士の体に跳ね返る。
・・・・・・祈りを捧げた修道士の末路がいかなるものか、想像に難くなかった。

「――」
「――」

絶望に崩れ落ちる騎士達のすぐ傍で、インデックスとステイルもまた、呆然とその出来事を見つめていた。
宗派が違うとはいえ、それは十字教が敗北する瞬間だと言っても、過言ではないだろう。
十字教最大宗派の最大威力を誇る一撃がこともなげに跳ね返されたのだから、それは彼らにとっても充分驚くに値することだった。
だが、騎士達とは二人の態度は異なっていた。絶望に、思考を全て投げ捨てることはしない。
それは『必要悪の教会<ネセサリウス>』と名づけられた一派に属する者としての、一種の覚悟だった。
その職業柄、彼らは常に、意外性と相対している。
教えの矛盾を突く技や、異教、邪教の御業を振舞うものに対し、思考停止するのは敗北とイコールだ。
だから、ありえないはずの出来事に会いながら、心の片隅でその異常の異常さを見積もる。

「コレは、つまりアウレオルス・イザードがあの想像上の生き物を手に入れたと、そういうことかい?」
「ううん。これは、魔力の多さで実現できる術式じゃない。だからステイルの思ってることとは、違うかも」
「……どれくらい状況を正確に把握してる?」
「ステイルも分かってるよね? これは、技法としては完成しているけど、
 詠唱時間が非現実だから、誰にも為せないはずの術式」
「その難題を、彼はどうやってクリアしたと?」

二人が言及するその術式の名は、黄金練成<アルス=マグナ>という。
万物の理を見通すことを目的とする錬金術師の、前人未到の究極の到達点。
端的に言えば、頭の中に描いた出来事を、現実にそのまま具現化させる術式だった。
それを行使するための方法論、すなわち詠唱呪文は確立している。
問題は、詠唱時間を概算すると数百年はかかり、一人の人間がそれを行使するのは不可能だということだった。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 09:05:29.65 ID:xj0I6yMAO
アレイスター「あれ?俺なら数百年とか余裕じゃね?」
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 12:25:33.25 ID:TbgVOopZ0
子萌「せんせーでもいけるかもですねー」
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/07(水) 16:25:54.02 ID:QMqGeCxS0
乙です
自分としては雑談も楽しみなのでageてもらっていてもよかったんですが、頭おかしい奴が湧くくらいならsage進行でも仕方ないか
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/07(水) 17:51:13.71 ID:lQxNC/Gh0
>>971ビーカーの中では
アレイスター「ガボゴボボゴ
…」
こうなります。
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(静岡県) [sage]:2011/12/07(水) 19:33:37.69 ID:0eCVyqxz0
大主教「さあ、ビーカーから出るのであることよ!ハリーハリーハリーハリー!!」
976 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 13:23:37.27 ID:+iSzR6qS0
荒れるのはつまらないから
まあ原作の足元にも及ばない駄作だからしょうがないか
見てるだけで不愉快な気分になってくるからな
まったく
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/09(金) 15:13:25.61 ID:HstdAf60o
なかなか上手い縦読み
978 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/12/15(木) 01:29:50.33 ID:cdfJDcqlo
「はっきりとは分からないけど、たぶん先生が吸血鬼を捕まえたのは今日か、最近の事のはず。
 だから、これは別の方法で成し遂げたんだと思う」
「方法は分かるのかい?」
「……あそこは、学生が集まる施設なんだよね?」
「そうだね。それで?」
「一人で詠唱すれば数百年掛かる呪文も、二人で頑張れば時間はその半分、十人で頑張れば数十年で終わる。
 そうやって、沢山の人を利用すれば、詠唱時間は短く出来る」
「安直なアイデアだね。錬金術師なら誰でも考え付きそうなアイデアだろう」
「うん。だけどこれも結局難しいから、今まで実現化したことはなかったんだよ」

コンピュータでもそうだが、並列演算というのは、一つの脳を用いて術式を行使するのとはわけが違う。
一人ならばそもそも存在しない、「お互いの同期を取る」という仕事が新たに増えるため、それに忙殺されてしまうのだ。
数百年分の詠唱を人数分に分けて、ただ漫然と同時に始めさせて並べたところで呪文の形は成さない。
分割した場合の歌い方をまずアレンジし、その上で、
詠唱の重なりが適当となるよう誰かが指揮者として詠唱者を統括しなければならない。
感情という名の揺らぎを常にもつ人間に、その指揮者を勤めるのはほとんど不可能に近かった。
だからこれまで誰も、この安直なプランを実行し、成し遂げたものはいなかったのだが。

「あそこにいる学生を使って同時に呪文を詠唱させたんだったら、その中心にいる先生は……」

もう、人として笑い、怒り、あるいは悲しみに暮れるといった人間らしい行いを、行えるはずはない。
人の身にして、人の身に余る大魔術を行使する代償としては安いだろう。
魔術師であれば、目的を果たす代償が自らの感情でいいのなら、喜んで差し出す輩はごまんといる。

「フン。心を失って機械に成り下がるのは、錬金術師としては本望な気もするけどね」

錬金術師はそれを目指す生き物だ。だから、ステイルの言うとおり。
先生は、後悔なんてしていないかもしれない。いや、本望なのだと思うほうが当然なのだ。
だがインデックスは、それを受け止められなかった。
錬金術師として、アウレオルスの名を告ぐ高名な一族の末裔として、先生が本懐を遂げているのかもしれないのに。
インデックスの記憶にある先生の、その素朴な笑顔は、このあまりにも良く出来た練成の塔とは、似つかわしくなかった。

「……ステイル」
「何だい?」
「先生に、私の声が届くか、分からない」
「だから?」
「私のことも、分からないかもしれない。それに、ステイルのことも。だから安全とは限らない」
「元よりそんなイージーな見込みなんて持って来ちゃいないけどね」

死地に向かう気で、ステイルは来ている。いつものことだった。
いつもと違うのは、何があっても絶対に傍らに立つインデックスを、傷つけさせないという覚悟。
それはむしろ、ステイルを鼓舞するものだった。そのために戦えることは、幸せだ。

「そろそろ修復も止む。入ろうか」
「うん」

ステイルは、近くで依然としてへたりこむ騎士達に最後の一瞥を送った。
戦意を喪失し、誰も三沢塾へと向かわないのを見届けてから、彼らのことは二度と振り返らなかった。
彼らに背を向け、魔塔へと進める歩みを止めることなく、十字を切った。
目の前の塔の中で一人失われたパルツィバルという騎士と、沢山のバチカンにいる十字教徒のために。
979 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2011/12/15(木) 01:31:28.88 ID:cdfJDcqlo
>>971
アレイスターって生きててもまだ140歳くらいだからなあ。生まれてすぐ唱えててもまだ終わってない。
また1レスでごめん。
980 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 03:21:31.07 ID:PnPy/xmDO
乙です

もう帰ってきてるんだっけ?
981 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 13:50:59.88 ID:iPCxLWVK0

1レスだとさすがに感想が書きにくいww
次回は新スレちゃんを立ててドカッと投下ちゃんがあることを期待してる
982 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 17:57:27.79 ID:Ji83wkfa0
何でこんなカスな作品が作れるのやら理解に苦しむわ
あの原作をここまで貶めるとは涙が出てくる
消した方がファンのためだ
983 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 18:15:54.35 ID:Sw8YTu5To
そんなスレ覗くお前はゴミ以下だなww
984 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:48:21.43 ID:ebw/oa6AO
1レスだけ更新されてもなー
985 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:55:48.83 ID:25HCFwz2o
乙ですた!

なんか、先生が助かる絵図が見えないww

そしてバチカンもそういや同じ十字教徒でしたね。
ステイルとか信仰があるとは思えないのはなぜだろうww

インデックスの活躍に期待です。
次回も楽しみにしてますよー
986 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 22:19:24.53 ID:OstvQL+K0
レールガン新刊の光子が物凄くかわいい
アニメ版よりいいな
987 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 22:20:33.18 ID:OstvQL+K0
レールガン新刊の光子が物凄くかわいい
アニメ版よりいいな
988 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 11:07:53.37 ID:zvGanC6SO
すげえ、愛知のレスだけ特定できるww 自分に都合の悪い反論は全て無視して一人荒らしまくる姿はニートの証拠やんww
989 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 00:10:11.04 ID:RCW1eJmt0
そろそろ次スレでしょうか?
>>1の投稿と同時に立てた方が荒れないと思いますし、スローペースで行きましょう。
このレスへのレスは不要です。
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/01/08(日) 00:00:43.51 ID:VYmp3AbY0
投下が来ないのは年末年始は忙しいだけならいいけど、体調には気を付けてください
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/01/08(日) 10:44:58.61 ID:TAtLTZFy0
ゴミみたいな作品の投下なぞ誰も喜ばない
このまま消え去るのが原作ファンのためだな
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 11:54:37.64 ID:2ao45Ta7o
愛知のツンデレにワロタ
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 01:56:46.09 ID:z2ponkBC0
もはや愛知のコメ見るとほんわかするわ
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 23:22:09.58 ID:inpOA0USO
ちうごくで誘拐されてないよな?
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/16(月) 13:42:57.53 ID:iaCJV7190
そろそろ最後の投下から1ヶ月、このままエタるとか勘弁してくれよ?
残りがもうないから応援のレスも迂闊にできないし……
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/16(月) 16:49:12.43 ID:qSCZS1e2o
おっぱいの方には投下あるから心配すんな
997 :nubewo ◆sQkYhVdKvM [saga]:2012/01/16(月) 23:48:25.00 ID:wrqG6LRbo
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326725017/
新スレ立ててきた。
出来ればちゃんと書き溜まってから新スレに投下したかったんですが、ちょっと間に合いませんた。
>>981ごめん。
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 19:59:18.83 ID:6xHuTDnY0
une
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/17(火) 20:51:51.67 ID:77Oji1C80
uhe
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/17(火) 20:53:24.31 ID:YcvvQdduo
>>1000なら次スレにて上条さんのエクスカリバーが唸る!……かも
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
嫁宣言して60分以内に嫁AAにお断りされなければ結婚避難所 @ 2012/01/17(火) 20:52:45.89 ID:b60Gb6JF0
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ほむら「テイマー魔法少女……」インプモン「デジモン☆マギカ02!」 @ 2012/01/17(火) 20:12:32.79 ID:BsS/2Wp60
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男「・・・・・?」少女「・・・・」ツンツン @ 2012/01/17(火) 19:56:36.97 ID:Q0JSvUaSo
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「セフレが増えるよ!」「やったねトメちゃん!」 @ 2012/01/17(火) 18:59:28.66
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桂「中に」言葉「誰も」エリザベス『いませんよ(※プラカード)』 @ 2012/01/17(火) 18:58:26.79 ID:JUgi1Nux0
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律「閉ざされた世界」 @ 2012/01/17(火) 18:37:20.52 ID:mvyE/vRa0
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眼鏡うpデシ @ 2012/01/17(火) 16:26:29.52 ID:ZYQrAjb70
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ハムスタ一速報作ったったwwwwwwwwwwwwww @ 2012/01/17(火) 15:05:05.72 ID:Tixk0YSC0
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