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佐天涙子「何この子カワイイ!!///」ギュッ 真庭人鳥「うわっ!?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/24(金) 18:38:34.50 ID:67OF4pwr0
とある魔術の禁書目録×刀語 第弐弾

〜あらすじ〜

麦野沈利が『ゼロ次元の極点』で遊んでいたら偶然にも鑢七花を召喚してしまった。

七花は麦野を倒し(殺してはいない)、脱走。そのあと絹旗最愛や白井黒子、御坂美琴と戦い、捕まってしまう。

七花は木原数多に人体実験の実験台にされるかと思ったが、麦野が七花を救出。

麦野は七花を元の世界に返そうとするが、失敗。その代り、『毒刀 鍍』を召喚してしまう。抜身のそれを握ってしまった麦野は四季崎に憑依されてしまう。

四季崎は学園都市に完成形変体刀十二本と七花がかつて戦った敵…そして奇策士とがめを、『ゼロ次元の極点』で召喚する。

刀の毒で麦野は意識不明の重体に陥ってしまう。

七花はとがめと再度契約し、絹旗らアイテムと共に変体刀十二本を蒐集することを決定する。

とがめは学園都市の大能力者、結標淡希が『千刀 鎩』を所有しているという情報を掴み、結標の計画(原作八巻)を阻止するために動く美琴・妹達・上条当麻・白井黒子と協力し、見事撃破、『千刀 鎩』の蒐集に成功する。

そして、戦いから二日が過ぎた……。

完成形変体刀十二本を個人的に集めようと、そして学園都市の者でない人物を排除しようとしている土御門元春は、第七学区で捜索する為、上条を呼ぶが…。


科学と魔術と刀が交差する時、物語が始まる―――。


第壱弾→http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1303/13030/1303021082.html

禁書×刀語×BLACKLAGOONを検討中……。
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【クリスマス・年末・年始】連休暇ならアニソン聴こうぜ・・・【避難所】 @ 2024/04/30(火) 10:03:32.45 ID:GvIXvHlao
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1714439011/

VIPでガンダムVSシリーズ避難所【マキオン】 @ 2024/04/30(火) 07:03:33.32 ID:jpWgxnqGo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1714428212/

今日も人々に祝福 @ 2024/04/29(月) 23:42:06.06 ID:cZ/b8n+v0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1714401725/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part12 @ 2024/04/29(月) 20:01:59.10 ID:OQox+0Ag0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714388519/

私が書いた文だ 一度読んでみて @ 2024/04/29(月) 13:03:50.96 ID:zomKow9K0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714363430/

私が書いた文はどう? @ 2024/04/29(月) 12:48:33.59 ID:6mJNXBCE0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714362513/

感情から生まれたものたちとの物語【安価】 @ 2024/04/29(月) 10:45:54.36 ID:0XsgiyN10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714355153/

【安価】タイトルからあらすじを想像して架空の1クールアニメを作る 2024春 @ 2024/04/28(日) 16:37:54.07 ID:PHuiugtM0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714289873/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/06/24(金) 22:10:02.32 ID:dIc8mTC/0
一つ前スレ見てて気になったんだけど、
人鳥の一人称って「僕」じゃなかったっけ?
違うなら謝る
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/24(金) 22:36:25.84 ID:67OF4pwr0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――そして、その手は人鳥を襲った。


「何この子カワイイ!!///」

「うわっ!?」

人鳥は、ぬいぐるみの様に抱きかかえられた。



少し時間を戻そう、大体3分くらいか。

佐天涙子は初春飾利と一緒に街を歩いていた。

今度の火曜日から始まる大覇星祭を一緒に頑張ろうと、二人で景気づけに買い物に来ていたのだ。

本当は友人である、御坂美琴と白井黒子と一緒に来たかったのだが、一昨日に二人とも怪我をしたようで、仲良く入院という事らしい。

そう、隣にいる初春から聞いた。

「今日楽しみだね〜」

佐天は初春に話しかける。

「そうですね〜。何買いましょうか?」

初春は佐天に笑いかける。


本当に仲の良い二人だ。

二人は同じ中学校の同級生で、自分と友人の初春は同じ無能力者である。

では、なぜ強能力者以上しか入学できない常盤台中学に在籍している御坂美琴と白井黒子と友人関係であるかというと、

初春は風紀委員一七七支部に所属していて、黒子もそこに属している。

同僚同士である二人はそれぞれ、自分の友人を紹介した。それが4人の関係の始まりだった。

今ではもう、お互いに“親友"と呼べる仲になった。

……しかしその常盤台の二人は、今は入院中である。


「大丈夫かな〜二人とも……」

佐天は呟く。

「大丈夫ですよ」

と、初春は言う。

「昨日、電話で話をしてたんですけど、二人は元気だそうです」

「そう、よかった……」

息を少し大きく吐く。

「そうだ!…ねぇねぇ初春、今日二人のお見舞いに行こうよ!」

「あ、いいですね!行きましょう行きましょう!」

初春は手を合わせて喜ぶ。

「そうだ!佐天さん、二人にお土産とか持って行ってあげましょうよ!」

初春は近くにあった雑貨店のショーウィンドゥを見る。

「あ!これなんてどうですか!?御坂さんにピッタリな、シックなジャケットとか…」

フリルを付けた可愛らしいワンピースを揺らしながら初春は振り返りる。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/24(金) 23:44:22.21 ID:67OF4pwr0
「……あれ?佐天さん?」

しかし、佐天がいなかった。

いや違う。佐天はしゃがんでいたのだ。そして初春のスカートを掴んだ。

「うーいーはーるー!!」

バサァッ!とスカートを捲る。

毎回恒例の佐天による初春へのスカート捲りである。

「…ひゃっ……///」

顔を一気に真っ赤にする初春。

「……な、ななな、何するんですか!!」

「へ〜今日は水色の縞パンかぁ〜。ナイスチョイス!」

「もう!佐天さん!」

初春は親指を立てる佐天の胸を叩く。

一部始終を見た、通りすがりの若い男子は顔を紅くしている。

「止めてくださいよぉ!本当!!」

「はははは…」

佐天は笑いながら、道を歩き始める。

初春は紅い顔のまま、ブツブツ…と佐天に文句を垂らしながら彼女について行く。

そんな彼女を見て、佐天は微笑む。

ああ、本当に平和だ。

夏休みに色々な事件に巻き込まれたりしたのだが、やっぱり平和が一番だ。

初春のスカートを捲って一日が始まり、初春のスカートを捲って一日が終わる……。そんな日々がずっと続けばいいと思った。

「………!」

佐天は立ち止まった。

「…佐天さん?」

初春はそんな彼女を不審がる。

佐天の眼はクワッと見開かれていた。

「……初…春…」

「はい」

「あれ…」

佐天は震える手で進行方向を指さした。

「…?」

初春は指さす方へ顔を向ける。

「………あれ…なんでしょう…?」

初春は目を細める。人ごみが多くて何を指しているのかわからなかった。

「……ちょっと待ってて…」

と言って、佐天は指さした方向へダッシュして走っていった。

「……ちょっ…佐天さん!?」

初春はいきなり走り出した佐天を追う。

しかし、瞬発力ゼロ・持久力ゼロ・体力ゼロの初春には彼女に追いつけるはずがなかった。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 00:26:25.51 ID:SF807S7Y0
「ちょっと!待ってください佐天さーん!!」

初春は叫ぶ。

しかし、彼女のいう事なんて聞く耳も持たずに全力疾走する佐天。

しょうがないので、佐天が走っていった方へついて行く。

途中で、「何この子カワイイ!!」「うわっ!?」という声が聞こえた。

……嫌な予感がする。例えば人に迷惑をかけているとか。

100mぐらい走った気がする。

やっと佐天に追いついた。

「佐天さん、やっと追いつきました…ゼィ…ゼィ…。………あの……佐天さん?」

佐天は、地面にペタンと座り込んでいる。

初春からは背中からしか見えないので、正面の事がわからない。

「…あの…佐天さん?」

再度、初春は彼女を呼んでみる。

すると、佐天はいきなり初春を向いた。

「初春!!」

「………なんですかぁ……」

どうせまた、変な事なのだろう、溜息交じりで初春は答えた。

そんな初春を全く気にせず、佐天はあるものを見せた。

「この子カワイイ!!」

「」

初春が見たものは、佐天の胸に抱えられている子供だった。

「このちっこくい体!!つぶらな目!!キョロキョロした感じがたまらなく愛くるしい!!」

佐天は子供に頬ずりする。

「…ぅわっ!!…や、やめてくださいっ……!」

「初春!!この子、チョーカワイイ!!」

目をキラッキラさせて訴えてくる佐天。

「………佐天さん……」

初春はそんな佐天を無表情で見下ろす。

「………」

そんな彼女の表情とは逆に、子供の表情はパァァアと明るくなる。

その時、子供は、きっとこの人が助けてくれると確信したのだろう。

しかし、そんな夢は砂の城の如く崩れ去る。

「この子!すっごく可愛いです!!」

「………へ?」

つい素っ頓狂な声を上げてしまった。

「佐天さん!この子可愛いです!!ほっぺたをスリスリしたいです!!」

「ぇええ!?」

「だぁめ、この子は私のものですぅ〜」

「もう佐天さんったら」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 01:11:27.14 ID:SF807S7Y0

あははは…うふふふふ……。

今度は二人一緒に仲良く撫でまくる。

「…………」

少年は周りを見る。

「羨ましい……」「……チッ…狙ってたのに…」「ああ…あたしもモフモフしたい……」「…ゥッヘヘヘヘ…ウマソウ…」

周りで自分たちを見ている人達は皆、佐天と初春を羨ましそうに見ている。……一人ヨダレを垂らしている人がいたが、見なかったことにしよう。

「…………ハッ…いけないいけない…」

子供…少年の、非常に困惑した表情に気付いた初春は正気に戻った。

「佐天さん!その子、困っているじゃないですか!放してやってください!!」

初春は佐天に叱る。

「え〜……しょうがないな〜」

「え〜じゃないです!」

「び〜」

「び〜でもありません!!」

「……ちぇっ…」

佐天は渋々少年から手を放す。

「………やっと解放された……」

少年はゲッソリとした顔で地面にひれ伏す。

「ねぇ僕、君の名前は?どこから来たの?」

そんな少年に初春はお手本通りの質問をする。

「………」

「ねぇ?」

「お、お、お前らなんかに、な、名乗る名前は、な、無い!」

しかし少年は(どもりながら)反抗する。

そして立ち上がって尻をパンパンと払い、走って逃げだした。

「はいっ!ちょっと待ったぁ!!」

そんな少年を佐天はサッカーのゴールキーパーよろしくダイビングキャッチした。

「しょ〜ね〜ん、お姉さん達が親切丁寧に質問しているのに、その受け答えはないよね〜……そんな君にお仕置きだ!コショコショコショ!!」

「アハハハハハハ!!」

佐天は少年の脇腹をくすぐった。

「アハハハッ……やめ…やめて……アハハハハハハハハ!!」

「止めてほしかったら、誠意を示さないとねぇ!!コショコショコショコショ!!」

「止めてあげましょうよ、可哀そうです」

「はいはい」

佐天は少年の脇から手を放す。

「……はぁ…はぁ……。な、なにしゅるんでふかぁ……」

笑い過ぎて、紅くなった顔と舌足らずになってしまった少年の口調に、思わず佐天と初春…それと周りの見物人一同はキュンとなってしまった。

「ボ…僕?君の名前は?どこから来たの?」

またお手本通りの質問をする初春。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 01:47:45.66 ID:SF807S7Y0
「だ、だ、だから、お前たちに……」

「それでも抵抗するか!!コショコショコショコショコショォォオ!!」

「ちょっとま……アハハハハハハハハハハハハ!!……ヒー…ヒー…アハハハハハハ!!………わかった…わかったから……」

「ホントに?」

くすぐりながら佐天は訊く。

「本当です!!本当でうたら……アハハハハハ!!……やめてください!!」

佐天は少年から手を放し、初春の代わりに質問する。

「はい、君の名前は?」

「………真庭人鳥です」

「ぺんぎん?変わった名前ですね…」

「でもその名前の通り……チョーカワイイ!!」

佐天はまた、人鳥を抱いて、頬ずりをする。

「ああ!ずるいですよ佐天さん!私も私も!!」

「ああ、このままモフモフしたい……」

「……ちょっと…や、やめてください…」

嫌がる人鳥、しかし彼の事など完全に無視した二人は頬ずりをしまくる。

と、その時。

「……もう我慢できないわ!!」「そうよ!!私達にも触らせなさい!!」「そうだ!!皆の衆!出会え出会え!!」「フヒヒヒッ」

痺れを切らした、周りで見学していた女の人達が、一斉に人鳥へと駆け寄ってきた。

「わぁぁぁぁぁあああ!!?」

人鳥は悲鳴を上げる。

なぜなら、彼から見た、集まってくる人達の顔は皆、非常に恐ろしく映ったからだ。

女の群れが津波のように詰め寄って来る。



(………ぁあ、この世界は、地獄なのでしょうか……鳳凰様…)

なぜだろう…。“絶対な幸運”が売りの自分が、なぜこのような“不幸”な状況の中にいるのだろうか……。

人鳥は生きた心地がしなかった。

そして心の底から、不幸だ…そう思った。


しかし、人鳥は気付いていない。

周りにいた人達…男どもが、羨望と嫉妬の眼で自分を見ているという事を。

なぜなら、傍から見れば数多くの女の子を……しかも可愛い子ばっかりに頬ずりされている事なんて、一生の内には絶対にできない、いや、来世も来々世でもできないだろうシュチュエーションを、子供だが……やってしまうなんて、妬み恨みの一つや二つや三つや四つ、あるに決まっている。


……そう、今の人鳥は(本人はどうかは抜きにして)とっっっっても幸せな状況下にあるのだ。


まだ幼い人鳥は、その状況をただの迷惑としか思っていないのだが。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 01:58:04.81 ID:SF807S7Y0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

……女の子ってなんで小さくて可愛い男の子に弱いんでしょう…。俺の周りの女子もそうでした…、チョーウザかったのを覚えています。

さて、第二章が始まりました。今日から頑張っていきます。

感想・質問を受け付けます。どんなことでもどうぞ!

あと、人鳥のことを悪く言わないで上げてください。あれでもきっと彼は迷惑していると思いますから……。

ではまた。

P.S

………人鳥、爆発しろ…ボソッ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 02:16:01.50 ID:SF807S7Y0
そうそう、>>2の質問ですが。

人鳥の一人称は『僕』のようです。失礼しました。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 14:28:46.33 ID:Uxx8zCODO
人鳥は見た目ショタっぽいからあわきんが飛び付きそうだな
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 18:57:51.36 ID:yNdeMMOso
見た目ショタっぽいってかまんまショタ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 19:42:48.95 ID:SF807S7Y0
続きです。ボチボチ頑張っていきます。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 20:59:27.19 ID:SF807S7Y0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ちょうど人鳥が不幸(超幸運)な目に合っている頃……。


――――土御門元春は機嫌が悪かった。

「上やん、これはどういう事だぜよ…?」

「いや…あの…その……」

土御門の目の前には、上条当麻が申し訳ない表情をしていた。

「上やん…、お前って奴は…」

「すまん、本当にすまん!!」

上条は手を合わせて土御門に謝る。


――――では、なぜ上条は土御門に謝っているのだろうか?

○集合場所は第七学区のセブンスミストの前の公園。

○集合時間はに午前九時集合。

○所持金はそれぞれ3千円前後。

○出来るだけ動きやすく、且つ目立ちにくい恰好で来るように。

○今日は第七学区の北側から東側を捜索し、“刀”にまつわる情報を収集する…。

○もし出来るなら、その“刀”を回収する。

これは土御門が、昨日あらかじめ上条にメールで伝えた、今日の予定と集合場所と時間などだ。

上条はそれをキッチリ守ってやって来た。

何らかのトラブルで時間に遅れたなり、溝にハマったなり、犬に噛まれてズボンが破けたなり、財布を落としたなり、道に迷ったなり、車に轢かれたなり、不良・強盗・通り魔などに襲われたなり、幾つか“不幸”な体験をしてからここへ来るのが上条当麻という人間だ。

いつもの上条なら、大量の不幸と生傷を身に着けてやってくるはずだろう。


しかし、今日の上条は違った。

集合場所を間違えず、集合時間の一〇分前に到着。

財布もしっかりポケットの中にあった。

服装は注文通り目立たない恰好。

生傷どころか服には泥汚れ一つもない。

完璧だ。やっと、この超絶不幸体質の男が一人で無事にここまで来るとは……。

土御門は、息子がはじめてのお使いから帰ってきた時の母親よろしく、感動した。

しかしその時、土御門は信じられない光景を目にする。

そして、彼の機嫌の悪さはそれが原因なのだ。


「上やん…説明してくれ……なんでコイツがいるぜよ?」

「……面目ない…」

上条は頭を下げる。


「上条当麻、なぜお前が頭を下げる必要があるのだ?」


上条の隣には、吹寄制理が立っていた。

「……はぁ…」

土御門は頭を抱え、溜息をついた。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 22:29:21.03 ID:SF807S7Y0
「上やん、ちょっと…」

土御門は上条の首を半ば強引に掴み、ヒソヒソ話をするため吹寄に声が聞こえない所まで移動した。

「ぅおっ…!?」

イライラした表情の顔を上条の顔に押し付ける土御門。

「おいコラ…、なんでアイツを連れてきやがった…」

「……それは…」

歯切れの悪い上条に、さらに土御門はイライラする。

「テメェ…今日はマジメな事するって言ったよな?今日はマジでしなくちゃならねぇって言ったよな?」

「ああそうだ!だから誤っているんだ土御門!そして顔が近い!怖い!」

「うるせぇよ。謝る前になんで吹寄を連れてきたか、言い訳でもいいから話せ。もしつまらん回答だったら、首と胴体をオサラバさせるぞ」

「(やべぇ…こいつマジの眼だ……)………わかった…わかったから、落ち着け、落ち着け……な?」

上条は顔が近い土御門を強引に離す。

「まず…今日、学生寮をインデックス達を何とか誤魔化して、こっそり出てきた所を待ち伏せされたんだ……」

「はぁ!?………なんで?」

土御門にとって、予想もしない言い訳だった。

「わかんねぇよ……。実は昨日の夕方、一緒に遊びに行かねぇか?って誘われたんけど、土御門との約束があるからって断ったんだけど…」

上条は俯いてボヤく。

「そん時は大人しく引いてくれたけど、……今日は一緒について行くって聞かなくて……。どんなに説得しても、お前たち問題児が街をフラフラするのはどうしても気になる…って言ってて…」

「ぁあ…」

土御門は手を目に当てる。

そうだ、吹寄制理という女は問題児を見つけると、すぐさま更正させよう行動する、生粋の委員長人間なのだった。

それならしょうがないな……。

「って上やん、もっと吹寄を騙すのにマシな言い訳があっただろう!」

「しょうがねぇだろ!?それしかなかったんだから!じゃあどんなのがあったんだよ!?模範解答プリーズミー!!」

「あ!?……例えば…今日は可愛い彼女とデートなんだよ!……とか、嘘でもそう言えば良かったんじゃねぇか!!…」

「言ったよ!…悲しいけど嘘だけどな!!………そしたら『そうか!どれ、そのお前の彼女とやらはどんなのか気になる。紹介しろ』と言ってきて…」

「……」

女の勘という奴で、吹寄は嘘を見抜いていて、わざとそんな事を言ったのだろう……。それとも天然で言ったのだろうか……。きっと前者だろうな。

土御門は溜息をつく。

「しかも、それも断ると昨日のことをクラスに言いふらすぞって脅されて……」

「昨日の事?」

「…あっ」

上条は余計な事を言ってしまった口を押えた。

「いや、なんにもない……」

「…?……まぁいい、とにかく今はどうやって吹寄を帰させることだが……そうだなとにかく…」

と土御門は上条に妙案を出そうとしたその時……。


「ほう?…そうか、そんなに私がじゃまか?上条当麻・土御門元春」


ビクゥッ!!と背中を跳ねらせる二人。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/25(土) 23:56:09.66 ID:SF807S7Y0
吹寄は二人のすぐ後ろにいた。

「…あの…吹寄さん?い、いつからそこに……?」

「そして、どこからお聞きになられていたのですかにゃー?」

ギギギギギギ…。と固い機械音を鳴らしながら首を吹寄に向け、恐る恐る質問する。

「最初からだ。お前が土御門に首根っこを掴まれて移動した時、一緒について来たのだ。勿論二人の会話のすべてもツルっと丸々聞かされてもらった」

サーッと顔を青くさせる二人。

「ここで質問だ。………なぜ、お前たちは私を邪魔者扱いするのだ?十秒以内に答えないと……わかっているだろうな?」

吹寄はにこやかにでそう言った。………眼は笑っていなかったが。

二人の胸倉を掴み、持ち上げる。

女の子が男子高校生を片手で持ち上げるなんて…しかも二人…どういう腕力してるのだろうか…。

(…………土御門…)

(…………上やん…)

二人は顔を見合わせる。そしてこれから起こるだろう、恐怖の拷問…失礼、優しい委員長の質問タイムが始まった。






「で、結局上条は女持ちだったのは、どうしても私がついてくるのを阻止したかったからの嘘で。本当は土御門と一緒に二人だけでコッソリ遊ぶ予定だったと……」

「はい…そうです吹寄様…。な、なぁ土御門?」

「あ?…ああ!そうだにゃー。俺達はこれから二人でコッソリ遊ぶ予定だったんだにゃー」

「「あは、あははははははは…」」

ベンチで座る吹寄の前で、男二人は地べたに正座をさせられ、固い笑い声を発した。

ねぇねぇ、あの人達何しているの〜?___めっ見てはいけません!

気のせいか、遠くからそういう会話が聞こえてきた。……そうだ、気のせいだ……気のせいなんだ……。

「委員長!俺たちはだにゃー?別にお前が思っているような、怪しい事をしようって訳じゃねーんですたい。健全な、高校生らしい、安全第一の精神に則って、普通に遊ぶだけのつもりなんだにゃーこれが」

「そ、そうだ吹寄!俺達はだな?本当に怪しい事なんて、全く!これっぽっちも!全然しようとは思っていないから!!」

「そうだとも!俺達は普通の高校生だぜよ?そこら辺のスキルアウトとは違って、人様に迷惑なんてしようなんて思っていないにゃー!」

「なぁ土御門!?」

「そうだとも上やん!」

「「アハハハハハハハハハ!」」

嘘八百とはまさにこの事。

今日の予定を、学園都市の闇とは関係ない、全く知らない吹寄に絶対に知られてはいけないのだ。

だから二人はどんな無茶な嘘でも平気でつく。

「……怪しい…二人とも……。何か私に隠してないか?」

((ギクッ!!))

「……今、ギクッってなっただろ…」

「へ?え〜?な、なんのことかな〜。僕にはサッパリだよ〜土御門く〜ん」(裏声)

(馬鹿野郎上やん!変に誤魔化すな!見え見えだぞコンチクショウ!)

「目がこれ以上開けませんって言うぐらいに見開いてるぞ……上条当麻。………貴様、何か隠しているだろう」

「…な、何を言ってるのかにゃー。俺達はさっきから言っている通り、全く嘘なんてついていない無いにゃー」

「そうこういうお前もすごい汗だぞ?土御門」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/26(日) 00:24:04.79 ID:ULcpXQiJ0
「………」

「…………」

「ほれ、なんとか言え。それともなんだ、私にはどうしても言えない用事だったのか?……だったら尚更、私がついて行かなくてはならんな」

「あ、いや違うんだにゃー。ず、ずっと正座だったから、足が痺れていきんだにゃー。だから黙っちゃったんだにゃー。あと、俺は元々汗っかきなんですたい、だから汗が凄いんだにゃー。はあははははは」

土御門は自然に大笑いする(ようには見えなくはない)。

そんな土御門はサングラス越しで上条とアイコンタクトをとる。

(上やん、なんでもいい。どんなことでもいい。吹寄を誤魔化せる嘘を何とかして言え!!)

(はぁ!?ふざけんな!!お前知ってんだろう!?俺が嘘つくのがド下手だってこと!!)

(いいからお前が行け!!)

(嫌だよ!!大体お前、学園都市とイギリス清教のみならず、数々のスパイをしている多重スパイさんじゃございませんでしたか!?嘘なんてテメーの専売特許じゃねぇか!!)

(うるせぇぞ上やん!いいか!?こいつは今、俺のいう事なんてミジンコ一つも信じちゃいねぇんだぞ!?でもお前のいう事はある程度なら信じる!!絶対にだ!!)

(なんでそんな事を言えるんだよ!?)

(長年スパイとして生きてきた勘だ!!)

(なんだよ!?結局は勘かよ!?)

(いいから行け!!……はい!サン、ニー、イチ、キュー!!)

(な…ええい!!コンチクショウクソッタレェ!!)

「……ふ、吹寄!!」

「……ぅおっ!?…なんだ?いきなり大声で…」

(よぉし、行けぇ上やん!!)

「じ…じ…じ…実は!!(考えろ…考えろ…考えろ…)」

「うん」

「実は!」

上条は一旦大きく深呼吸し、何か決意したように顔を真剣にした。

「実は!!」

そして、土御門の肩を抱き寄せて、叫んだ。





「実は俺、土御門と付き合っているんだ!!!」





「……………」

「……………」

「……………」

その時、時間が止まった気がした。

土御門は何が起こったか、わからなかった。

吹寄は上条が何を言っているのか、わからなかった。

そして当の本人である上条も、自分が何を言っているのかが、わからなかった。

沈黙の空間と時間が三人を……いや、周囲にいたカップル・女子高校生のグループ・子供連れの親子……、そこに見合わせた全員が上条の爆弾発言で黙ってしまった。

遠くから、パシャッ…。と写メを撮った音がした。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/26(日) 01:20:03.08 ID:ULcpXQiJ0
「…………すー……あー、そうか…そうだったのか…」

数秒呆然とした吹寄は、静かに立ち上がった。

「すまないな…なるほど……確かに私は…邪魔者だな……」

吹寄は何かに気を使うように、上条の肩を叩いた。

どうやら、信じてくれたらしい。………もちろん嘘だが…。

上条は肩を抱いている土御門の方へ顔を向ける。

「土御門!……土御門?」

「………………」

へんじがない、ただのしかばねのようだ。

「って、おい土御門!しっかりしろ!!」

上条は土御門の肩を揺さぶる。

「……………ガクガクガク…」

一向に反応がない。本当に屍の様だ。

「土御門ォォォォオオ!?」

「よせ、上条当麻。彼は放って置け」

吹寄は上条の両肩を掴んだ。

「……吹寄?」

「上条当麻、私が悪かったな。危うくお前たちの邪魔をしてしまうところだった……本当にすまない」

土御門のことはともかく、吹寄はどうやら嘘を本当に信じきってくれたようだ。

「吹寄、信じてくれるのか?」

「ああ、勿論だ。お前たちが愛し合っているという事を信じる……………訳が無いだろォォォォォがァァァァァァ!!」

吹寄は上条の肩をしっかり掴み、上条の顔面に思いっきり膝蹴りを食らわした。

「ヒデブ!!?」

上条の体は吹っ飛び、地面に転がる。

「いってぇぇ」

起き上がろうとする上条に、吹寄はスクリュー式ドロップキックを繰り出す。

「アベシッ!?」

吹寄はそのまま、上条の体にのしかかり、マウントをとる。

「上条当麻、貴様…」

「はひっ!?」

上条の両の鼻の孔から血が出ているが、今の吹寄には関係ない。

というよりも…。

「よくもまぁ、そんな見え見えの嘘をつけるものだなぁ……」

彼女の顔は鬼の顔だ。

「えっと…信じて…貰えなかった…のでしょうか……」

ピキィッ…と吹寄の青筋が立つ音がした。

「ひぃっ…」

「当たり前だ!!」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/26(日) 01:34:47.60 ID:ULcpXQiJ0
吹寄は右腕を大きく振りかぶり、上条の横っ面にフルスウィングのフックをお見舞いする。

「ぐふっ!」

メキィッと頬骨が軋む音と共に上条の顔が右に跳ねる。

「貴様…いや、貴様らは私をおちょくっているのか?」

吹寄は右フックの反動で左に傾いた体を、今度は右に移動する。

そしてそれと同時に、フルスウィングの左フックを上条の右頬にぶつける。

「ゲファッ!?」

バキィッ!と上条の顔が今度は左に跳ねる。

しかしこれでも終わらない。

吹寄は右に傾いた体を左へ移動、同時にまた右フックが上条の左頬を襲う。

そしてまた、左から右へ、右から左へ……。

吹寄は上条に、マウント状態からのデンプシーロールを繰り出していた。


バキッ…ドコッ…メキィッ…ゴシャッ……。


上条の顔が右へ…左へ…右へ…左へ…また右へ…。

何発喰らっただろう…。

上条はそれを数えることはできずに、抵抗などできずに、

意識を失った。









――――――――――――――
今日はここまでです。

ありがとうございました。
――――――――――――――
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/06/26(日) 12:10:32.51 ID:G3+99fPF0
ようやく次スレ見つけられたわ
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/27(月) 18:39:18.29 ID:CZHu7WbU0
こんばんは、今日も書いて行きます。

いつものことなんだけど、コメがなかなかないな…と思ったら、もしかして>>19みたいに、このスレを見つけられてないのかな…。

ちょっと心配になってきた……。まぁ、もっとも心配なのは読んでくれている人がメッチャ少ないとかだけど…。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/27(月) 21:07:26.78 ID:CZHu7WbU0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……………み…じょう……か……み……じょう………とう……ま…」

声が聞こえる…。それも近くから。

「……ぅ…」

「上条当麻!!」

「!!」

上条はガバッと起き上がる。

「……ここは…?」

そこは、公園のベンチの上だった。

上条はそこで寝かされていた。

隣のベンチでは土御門が灰の様に真っ白に固まっている。

「………あれ?俺なんでこんな所で寝てんだ?………痛っ」

上条は急に来た頭痛で頭を押さえる。

「大丈夫か?」

吹寄が心配そうな顔で上条の顔を覗き込む。

「……ててて…。ってあれ?俺って何していたんだっけ?」

「覚えていないのか?」

「ああ…。土御門と一緒に正座をさせられていたトコまでは覚えているんだが……」

上条はクラクラする頭を何とか押さえ付け、立ち上がる。

「吹寄、さっきまで俺何をしていたんだ……?」

「……知りたいか…?」

「?」

吹寄はどうも言い難そうな顔をした。

「……あのな…上条…」

「止めておけ吹寄!」

と吹寄の肩を土御門が突然やってきて、突然掴んだ。

「なんでだ土御門?」

「いいから…ここは……」

土御門は吹寄の問いに首を振る。

「……あ、ああ…」

と、それを見た吹寄は納得した様に頷いた。

「…?。…土御門、一体何があったんだ?」

気になった上条は口を挟んだが

「上やん、人間には踏み入れてはいけない領域というのがあるんだにゃー」

と、土御門は固い笑顔で上条の肩をバシバシと叩いた。

「………?」

「ささっ、お二方!!今日は何して遊びますかにゃー?」

「は?」

「おお!?…やっとわかっててくれたか土御門!」

と、吹寄は安心した表情で土御門に応えたが、上条は変な顔をした。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/27(月) 23:32:26.70 ID:CZHu7WbU0
「いや待て土御門…!お前今日俺達……」

「上やん!!」

と、土御門は上条の肩をまた掴む。

「何もかもお前のせいだこのホモ野郎……!」

「…なっ!?」

上条は土御門に反論しようと大声を出すが、土御門は上条の喉元にナイフを突きつけた。

「」

密着している位置だから吹寄には見えない。

「さっき起きたこと、……忘れろ。俺にも吹寄にも聞くな、尋ねるな。そして一生思い出すな」

「はひっ…!」

上条は思った、この目はマジだと…。昨日の朝よりマジだったと。

「とにかくだ。今日は街中を見て回って、遊んでいる振りをして情報を集める」

「は…?どうやって?」

「それはまだ考えてない。まぁ安心しろ、元々俺が無理やり頼んだことだからな、お前に無理させるとこはない。……もしものことがあったら吹寄を頼む」

「?、…ああ。…って、早くそのナイフをしまってくれ」





「…で、土御門よ」

「なんだにゃー吹寄」

「これからどうするんだ?」

「そうだにゃー、とりあえずケンカ通りでも行きますかにゃー」

「ケンカ通り?」

吹寄は首をかしげる。

「ああ、吹寄は知らないよな。三九号線の木の葉通りの事だよ」

土御門の代わりに上条が説明する。

「あそこは表通りは賑やかで人通りも多いし大きい店もケッコーあるけど、裏に入るとスキルアウトとかの根城が多いんだ」

「で、そこでスキルアウトのあんちゃんたちが毎日毎日小競り合いをしている所ですたい」

「………まさかそこへ連れて行こうなんて言わないよな…?」

「んなまさか、行くのは表通りですにゃー。か弱い女の子?を連れて裏路地なんて行けないですよー?」

「ちょいと待て、なんで『?』が付く?」

「細かい事を訊く奴は嫌われますぜい?………実は表通りに美味くて安い本格中華が食える店が出来たらしい」

土御門はグラサンの縁を中指で上げる。

「そこの青椒肉絲は絶品らしく、他にも薬膳料理も美味いらしい」

すると上条は土御門に近づき、ヒソヒソと耳打ちをした。

「おい、それって本当だろうな?この前お前と一緒に行ったラーメン屋なんて喰えたモンじゃなかったぞ。それに健康オタクの吹寄が油ギッシュな中華に興味を持つ訳ねぇだろ」

「あれは青髪ピアスのガセネタだ。あの後たっぷりと仕返ししておいた。それに今回の情報源は我が妹の舞夏だ、信用できる。………それに、見ろ」

と、土御門は吹寄を指さした。

「?」

「そうか…本格中華か……いいなそれ」

「」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/28(火) 00:59:42.31 ID:PqLMxplt0
「中華料理は油が多く使われている為、非常に太りに易いと思いがちだが、実は非常に健康にいい料理の一つだ。元々、中国大陸は様々な種族が住んでいて、しかも広大な土地柄、数多くの気候が違う為、色々な料理がある。大きく分類すると、北に北京料理・南に江東料理・東に上海料理・西に四川料理に分けられる。水餃子などの北京料理は味が濃く塩味が辛いに対し、焼売などの江東料理は薄味で食材の味を活かす。また麻婆豆腐などの四川料理は唐辛子などの香辛料を大量に使うため非常に辛いが、小龍包などの上海料理は甘みが強い…。こう言った多面的な顔を持っているのが中華料理だ。…………土御門、今回行く予定のお店はどの料理だ?」

「……あ?…ああ、八宝菜から北京ダックまで何でもござれの珍しいとこらしい。そこのオーナーが本場で全ての中華料理をマスターしたらしい…」

「ふふふ、そうか、それは迷うな……。辛いものを食べて汗をかいて健康を維持するために生まれた四川か……。それとも漢方を用いたものが多くある江東料理か…。ああ、楽しみだな…」

「………」

いきなりウンチクを喋り出した吹寄に唖然とする上条。

流石は健康オタク。健康料理にも詳しかった。

「…な?上やん、喰いついてきただろう?」

「………ああ」

付け加えるとするなら、江東料理は『空を飛ぶものなら飛行機以外、四つ足は机以外、泳ぐものは潜水艦以外なんでも食べる』と言われるほど多くの食材を使う。燕の巣、ふかひれ、狗は有名だが、蛇やハクビシン、果ては蠍にセンザンコウからゲンゴロウ、ゴキブリまで食べると言う。

「さぁ!いざ行くぞ!!」

「…待つんだにゃー吹寄」

と、戦闘を立って歩いてズンズンと行く吹寄を土御門は止めた。

「今はまだ10時だ、昼飯にはまだ早い…。そこで、今からケンカ通りにある『ラウンド1』に行かないか?」

「いいな、よし乗った。上条もいいな?」

「あ、ああ……(おい、良いのか?このままじゃ…)」

「(ああ、大丈夫だ。ラウンド1で吹寄一人を置いていく…)よし、決まりだにゃー。早速レッツらゴーだにゃー!」

こうして、上条・土御門・吹寄御一行は、三九号線の木の葉通りにあるラウンド1へと向かうのであった。












――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日は以上です。ありがとうございました。
質問、感想、小ネタの提供などを募集しております。
では…。

……そういえば、七花くんの出番がないな〜。
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24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/28(火) 07:00:29.18 ID:KyB4Uq8IO
読んでる人は結構いると思うから、頑張ってくれ!!期待している
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/30(木) 21:52:06.80 ID:r2StKVnF0
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続き書いていいます。
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―――――午前8時___第七学区のとある病院


ここでは、白井黒子と御坂美琴が入院していた。

先日、とある計画の阻止をするために戦ったが、二人とも大怪我を負った。

それのせいでここの、退屈な病院生活を送っている。

そろそろ薄味の病院食も飽きた。学生寮のご飯が恋しくなってきた。

「ふぁぁ〜〜〜!」

御坂美琴はベッドから起き上がり、大あくびをした。

「おはようございますの、お姉さま」

「ああ、おはよう黒子」

サーっとカーテンが開かれ、美琴の後輩の、白井黒子が顔を出した。

「今日はいい天気ね」

「ええ、秋晴れですの。絶好の洗濯日和ですわね、お姉さま」

「そうね……っと」

美琴はベッドから降りて、窓まで歩いた。

「………っ!?………お姉さま!?足はもう大丈夫なのですか!?」

黒子はあわあわと驚き、美琴も右足を指さす。

「ああ、大丈夫。これだけ病院で食っちゃ寝食っちゃ寝しとけば治るわよ」

と、窓を豪快に開け、「あー気持ちいい!」と大きな独り言を言う美琴。

「………」

確か先日の戦いでは、その右足は刀で貫かれたのでは?

と黒子は疑問に思うが、まぁいいかと納得する。

結局、御坂美琴という人間は超人だった。で肩付けるのだ。

正義超人だろうが悪魔超人だろうが、バッタバッタの薙ぎ倒し、みごと超人オリンピックを制覇するのだろう。

そう、黒子はまじまじと思った。

「そういえば黒子、やっぱりまだ体のダメージ残ってんの?」

「…え?ああ、そうでございますの。それでこの体たらく…」

実は今の黒子は車椅子だ。

「おかげ様で一人では立ち上がれず、移動の際はえっちらほっちらと車輪を回して動かないといけないのですの……」

「そう、大変ね……」

美琴は窓から来る風を受け、髪をなびかせる。

本当に奇麗な髪だ。入院で二日間風呂に入っていないのに、サラサラとしている。


『このことは他言無用でお願いします…』


昨日聞いた、美琴の秘密の話が耳から離れない。この話を話した風紀委員の同僚、初春飾利もそうだろう。

あの実験は…あの物語は…余りにも現実の物とは言い難かった。

でも、もうとうの昔に終わった事だ。気にする必要はない。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/01(金) 00:40:47.94 ID:PhirjRZ40
そうそう、実は初春の方は『量産能力者計画』を事前に知っていたそうだ。

八月十日に美琴から電話が来て、何か暗証番号の様な記号を調べてほしいと頼まれたので、中身を見ずに美琴に送った。

しかし、それから全く何の記号か言ってこない。そこで自分で調べたのだ。

初春はそれを見て大変驚いたらしいが、計画は既に破綻していたし機会が無かったので、なかなか美琴に問う機会が無かったのだ。

しかも、『絶対能力者進化計画』が先日わかったのだ。黒子も初春も大きな衝撃を受けた。

『あの時、御坂さんが変だって、元気が無いって、白井さん言っていたじゃないですか。きっとその時だと思いますよ。御坂さん、相当ショックだったんじゃないですか?』

そう、初春に言われた。

そうだ。何をやっていたんだ自分は。日頃から『御坂美琴の露払い』とか『唯一無二のパートナー』とか散々言っておいてこの体たらく。


だから今度こそ誓う。

(わたくし、白井黒子はこれからずっと、御坂美琴お姉さまを出来るだけ、わたくしの微弱な力では出来る事は小さいけれども、守る。絶対にお姉さまを悲しい事から絶対に守ると、そう誓います)


黒子は美琴の横顔を眺める。

美琴は笑っていた。


(例えその笑顔が嘘でも、その笑顔が瞞着であっても、わたくし白井黒子はその笑顔を守る事をここに誓います)


と、黒子も視線に気づいた美琴は黒子に笑いかけた。

「どうしたの黒子?」

「…あ、いえ…なんにもありませんの……」

「ふ〜ん…。ま、いいか」

と丁度その時、看護婦が朝食を持ってきた。

「は〜い、御坂さん白井さん。朝食ですよ」

「は〜い」「わかりましたのですの」

看護婦(因みに七花尿瓶事件の看護婦)は両手に一つずつお盆を持ち、二人の机(オーバーテーブル)の上に置いた。

二人は早速ベッドに乗り、朝食を摂る。


「ほう、今日はご飯に味噌汁に玉子焼きにサラダにおしんこか…」

「いつも通りですわね」

「いい加減にこの味気ない病院食も飽きて来たわね」

「まったくですわ。ここの料理長は何をやっているのでしょうか…」

と、二人が愚痴を叩いていると…。

「まぁそう言わずにね?ここの病院食は君たち個人に合わせた味付けをされた、完璧な病院食なんだよ?」

と冥土返しが入ってきた。

こんな時に何の用だろうか。

「診断だよ?なにせ時間が無いからね?」

訊く前に答えられた。

「白井さん、昨日目が醒めたようだね?何か体に異変は無いかい?」

「いいえ。何も…」

「そう、なら良かった。じゃあ、今日にも退院だね?しばらくは歩けないけど」

「あ、はい。わかりました。……って、意外にあっさりしてますわね?」

「あの薬を作ったのは実は僕でね?大体のことはわかる。あれまだ試作品だったから心配だったんだよ?」

「あ…、そうでしたの……。(あの野郎…そういうもん飲ませたんですのぉ……!!)」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/01(金) 00:58:16.19 ID:PhirjRZ40

「御坂さん、足見せて?」

と、美琴は右足を冥土返しに見せる。

「……うん?御坂さん、何したの?傷口がもう塞がっている…」

「ああ、私考えたの。自分の体に…傷口の患部とかに電流を流せば、自分の体が活性化されて、傷の治りがメチャメチャ早くなるかもって」

「……因みに何V流したの?」

「そうね……。大体5000万Vくらいかな?そしたら見込み通り傷がグングン消えて行ったのよ。大覇星祭は明々後日だし、私がいなきゃ常盤台が敗けちゃうからね?」

美琴はエヘンッとした表情だった。

「流石ですわお姉さま!こんな高等技術を使えるなんて!!」

「へへんっ、どんなもんですか!」

この芸当は恐らく、美琴が夢で見た七花の過去…『悪刀 鐚』の能力を応用したのだろう。

しかし…。

「御坂さん…君、あまりそれしない方がいいよ?」

「へ?なんで?」

「だって、それって電気の力で細胞を活性化させて傷を治すってことだよね…?」

「……はい…」




「……それって、自分の寿命を削ってるようなものだよ?」



「…へ?」

美琴はキョトンとした。

「だって傷を治すって言うのはね?患部にある細胞が分裂して増殖し傷口の端と端を繋いでいるんだけどね?。でも人間の細胞分裂の数は決まっている。だから、急激にそれのペースを上げるってことは細胞が死亡する日にちを縮めているんだ。しかも細胞分裂を早めるってことは老化の促進を加速させている可能性もあるんだよ?」


「」

美琴はカチーンと固まった。

「だから、もうしない事…わかったね?」

「は…はい」

「でも、もう傷は治りかけてるかなね?白井さんと一緒に退院できるよ?」

「はい…ありがとうございました」

「まぁそう気を落とさずにね?寿命が縮んだって言っても、たかが何日何時間の話だから……きっと」

「………きっと…ですか…」

その日、美琴は朝食をあまり食べられなかったそうだ。

その理由は単に病院食が味気なかったのか、それとも別の理由か。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/01(金) 01:12:46.48 ID:PhirjRZ40
―――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

さて、このスレに並行して新しいスレを建てようと思います。

禁書のストーリーにしようか、エンジェルビーツ!にしようか、オリジナルにしようか…。

1.上条さん達がガチで野球する話。ギャグ。
2.エンジェルビーツ!の真面目な話。
3.普通の高校生が殺人現場に遭遇…。ありきたりなミステリ系

どれがいいでしょうか…?

まぁそれは明日考えましょうか…。
では…。
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29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 20:32:08.02 ID:Z1wKXtbA0
4.全力でこのスレを完結させる!
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2011/07/02(土) 01:31:09.48 ID:maT8Vy9K0
とりあえずこっちをちゃんと終わらせて欲しい
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/02(土) 03:15:07.50 ID:i/Qw2ZvAO
上に同じく

超乙
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 12:29:04.87 ID:99RgXfbs0
わかりました。とりあえずこのスレを片付けます。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 16:00:14.99 ID:99RgXfbs0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

午前11時30分 ケンカ通りのラウンド1


「………」

「………」

上条当麻と土御門元春は汗だくになっていた。

「……おい土御門」

「なんだ上やん」

「これはどーいう展開だ?」

「俺に訊くな。ただ、一つだけ言えることがある。あれだ、そう、あれだ」

「ああ、そうだな、あれだあれ」

上条と土御門はヒソヒソと話し合う。そして、



「「吹寄がどうしても振り切れない!」」


二人は後ろを振り返る。

「お〜い!次は何して遊ぼうか!」

吹寄制理がはしゃぐ声が聞こえる。

「はぁ〜」

溜息をつく土御門。

「おい土御門、アイツどーなってやがる」

「俺に訊くかにゃー上やん。俺にもさっぱりポンとわからん」

ラウンド1で遊び始めてから一時間と三十分たった。

ボウリングでは吹寄がスコア200を叩き出し、バッティングでは130km/hの球を全球ホームランという快挙を成し遂げ、ストラックアウトではパーフェクト(相変わらずフォークは落ちなかったが)、パンチングマシンでは400kgwというハードパンチャーっぷりを見せつけた。

結論、吹寄制理は超人だった。

「ただ一つ言える事は、アイツはバットを握らせれば高校球児顔負けのスラッガーになり、グローブを握らせればマイク・タイソンが女になったような奴だったってことだにゃー。どーしてこーなったのかは知らないが」

「あれだ、健康の為だといって近くのバッティングセンターへ通っていたり、密かに災誤に弟子入りして格闘技でも習ってんじゃないか?」

「ああ、そういえば女子寮の近くにバッティングセンターあったよな」

「あそこは確かMAX160km/hだ」

「それなら納得だぜい」

「ああ、結局、正義超人だろうが悪魔超人だろうが、バッタバッタと薙ぎ倒し、みごと超人オリンピックを制覇するのだろうな、アイツ」

「有り得るな、つーかそりゃもう完璧超人ですたい」

と、ボウリングでは全く相手にならず、バッティングではホームランなんて一つも当たらず、ストラックアウトなんて五つか六つが限界で(上条なんて不幸だから一つも当たらず)、400kgwなんて数字には遠く及ばなかった男二人は、どうにかして吹寄から逃げようと企んでいたが。

「どーやって消えるかだにゃー」

「さっきからまったくの失敗の連続だったじゃねーか」

そう、上条と土御門は先程から散々案を出し尽くし、吹寄から消えようと算段するも。

「全部気付かれて、首根っこを掴まれるんだにゃ〜これが」

「……ああ」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 17:53:09.65 ID:99RgXfbs0
「上条!土御門!どうした、何やっている?」

と、吹寄は二人の肩を掴んだ。

「ああ、吹寄、すまんが俺達ちょこっとトイレに行ってい来るから、待っててくれないかにゃー」

「ああ、わかった。待っているぞ」

「ありがとう吹寄」

と土御門は上条と一緒にトイレへ向かった。

(よし、上やんトイレの窓から逃げるぞ)

(ナイスだ土御門、流石は工作員)

しかし二人は気付かなかった、後ろで吹寄がじーっと二人を見ていたことを。





「よし、何とか気づかれずにいられたな」

「ああ、吹寄は全く気付いていなかったにゃー、これで長かった戦いにピリオドって奴が打たれるにゃー」

「そうだな、じゃあ早速窓から出ますか…」

と上条は窓を見る。……しかし。

「おい土御門」

「なんだ上やん」

「この窓……些か狭くないか?」


その窓、30×20=60㎠


「………無理だろ」

「いや何とか行けるぜよ」

「いやいやいや…」

「まぁ見ててくれぜよ」

と土御門は窓の縁に手を掛けた。

「ぃよっと…」

土御門は、狭い窓の中へ右腕と肩を入れる。

「人間の体で一番幅が広いのは肩幅だ。だから肩をこうして斜めに入れることができれば………よっとらせっと」

そして楽々と脱出した。

「この通り」

「おお」

「さあ、今度は上やんの番ぜよ、早くしないと吹寄に勘付かれちまうぜよ」

「おう」

上条は早速、窓に右腕と肩を入れ、先程土御門が実践したように、窓を潜る。

「んっしょっ!!」

「ほれ上やん、もう少しだぜい」

「つ…土御門…」

「どうした上やん?」

「挟まった…」

「」

「手…持ってくれ…」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 18:58:01.97 ID:99RgXfbs0
「しょうがねぇぜよ、ほら!」

「イダダダダダダダダダ!!」

「我慢しろ!」

ズボッ!

やっと上条は窓から脱出…いや抜けた。

「ご…がァアアアアア!!」

上条は土御門に引っ張られた反動で、2、3m程飛んで転げ落ちた。

「だ、大丈夫か上やん…」

「ああ、なんとか五体満足だ」

「じゃあ早速スタコラしますかにゃー」

「ああ、早くしないと吹寄に見つかっちまう」

と、二人はラウンド1の敷地の外に出た。

「そういえばラウンド1の支払いってどうなっているんだ?」

と上条は土御門に訊いた。

「ああ、吹寄には悪いがアイツ持ちにしよう」

「ヒッデェな」

「なに、アイツは部外者だ。この件に関わるぐらいなら安いもんだにゃー」

土御門と上条はその場から立ち去ろうとしたその時……。



「どこへ行くのだ?上条当麻、土御門元春」



「」「」

おかしい、後ろから聞いた事のある声がする。しかも数分前に。

「なぜ、トイレの窓から逃げようとした?」

二人はゆっくりと振り返る。

そこには、

「「なんでお前がここに?」」

吹寄制理が立っていた。

上条は唖然とする。

「ふ、吹寄さん?なぜそこにいるのです?」

上条は震えながら吹寄を指さす。

「ふふふ♪」

吹寄は可愛く微笑む。

「なんでそう、笑っているのですたい?」

「〜♪」

ニッコリと笑う吹寄。

そして、ポケットの中から、あるものを取り出した。

「……それはなんですか?」

上条が問う。

「ん?…盗聴器」

「」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/02(土) 19:04:45.52 ID:99RgXfbs0
今日はここまでです。もしかしたら今夜書くかも。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/03(日) 22:54:22.56 ID:97IciWvR0

〜おまけ・吹寄制理健康日記〜

七月十九日

一学期も今日で終わりだ。午前中で学校が終わり、クラスの友達と一緒に第十七学区の安くて美味しい喫茶店でお茶をした。

そうそう、上条当麻は先日行われた期末テストは相変わらず赤点祭りだったので、今年も小萌先生の補習地獄だろう。

さて、学生の本分は学問だ。夏休みの内にしっかり勉強に励まなければならない。

そこで学校から出された夏休みの宿題を今日からの三日間で片し、残りの三十九日を心理学や環境科学などの専門知識を習得しようと決め、さっそく家に帰って早速宿題をやった。

しかし夜にいきなり雷が落ちて来た。

あまりにも大きな雷だったからビックリした。

でも近くに落ちなかったようだったから、良かった。

…と言いたいところだが、その雷のせいで部屋中の電化製品が全滅した。

蛍光灯に冷蔵庫に扇風機に除湿機…、全てがショートしてしまった。

これは困った、でも起こったとこはしょうがない、とりあえず防災グッズの中にあった蝋燭に火を灯して宿題の続きをした。

無論この日記も蝋燭の火の下で書いている。





七月二十日

今日から夏休みだ。でも昨日の雷で電化製品は全滅しので、部屋の中は朝からジメジメしていた。

六時三十分に起床した私はエアコンも扇風機もない、温暖湿潤気候特融の多湿の環境に参っていた。

しかもだ、ベッドから起きたらシーツから下着までビショビショだった。あまりにも気分が悪いので水風呂を浴びた。

そうそう、水風呂は副腎を刺激することでアトピーや花粉症などのアレルギー反応を抑制し、またキメ細かい美肌にも有効らしい。

しかも抜け毛や薄毛などの髪トラブルも改善する効果があり、顔のリフトアップも期待できるそうだ。

熱いお湯でも良かったのだが、こうした健康法があるし、ガス代もかからない。

熱いお湯と冷たい水を交互に被る健康法もあるが、それはまた今度にしよう。

まぁ水風呂のおかげでさっぱりした後、部屋の喚起をしようとベランダの窓を開けた。

次いでにと布団を干した時、今頃上条当麻は学校で小萌先生に絞られているんだろうな〜とふと思った。

でもなんで私はあの毎日毎日二言目には『不幸だ』としか言わない男の事など気にしたのだろう…。

まぁいい、とるに足らんことだ。

布団を干した時、下に身長が2メートルほどあるロングの赤毛の神父の様な男の人が歩いていた。

良く見たら耳にはいくつかピアスをしてて、目の下にはバーコードの様な刺青をした『不良神父』という肩書きがとっても似合う容姿だった。

しかもその後ろには不良神父には届かないが、それでも十分丈の大きな人が着いていた。良く見ると胸がある。女の人の様だ、しかも胸の大きさは私より大きい。

でも一番気になったのは、彼女が持っている日本刀のような…、でも2メートルはあるような槍の様なものを持っている。

一応警備員に連絡しようかと思ったが、いつの間にか彼らは消えていた。

一体なんだったのだろう…。少し気になったが、私には関係ない事だ。

見なかったことにしよう。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/03(日) 23:56:51.12 ID:97IciWvR0

8月31日

今日で夏休みも終わりだ。

今年の夏休みはなかなか充実したものだった。

近くのバッティングセンターで150m/hのストレートをやっとホームラン打てたし、災誤先生から古武術と空手を習った、小萌先生には心理学について色々と学べた。

本当に収穫の多い夏だった。

でも、夏休み初日で全滅した電化製品は痛かった。あれのせいで全部買い替えをしなければならない状況になったからだ。因みに男子寮女子寮ともに全滅だったらしい。

きっと何百万単位でお金が取られるんだろうか…と思った矢先に、幸いにとある大学が電化製品一式の試作品の実験協力の募集があった。

寮の管理人のおばさんは男子寮の管理人のおじさんと話し合って、その募集に応募したようで、大学側もこれだけの大人数のデータを採らせてもらうのだから喜んでそれに応えたらしい。

でもその新しい電化製品にはなかなか慣れなかったのは別の話だが…。


さて、この夏休みには色々と変な事件が起きた。

ウチの学区の三沢塾はいきなり閉校となり、第十七学区の操車場は壊滅状態になったらしい。

しかも今日、近くで何故か建設中の工事現場が崩壊した。

別にこれは私には関係ない事だ…と思うだろう?違うのだ。

実は、三沢塾が閉校になった前日、その塾へ入る上条当麻の姿を見てしまったのだ。しかもあの不良神父と一緒に。あの時は特には気にしなかったが、まさか入った塾が閉校になるとは…。

それだけではない、第十七学区の件があった日、夜道をボロボロに走っているのを見かけた。

まさか上条当麻が今年の夏休みに起きた数々の事件に何等かの関わりがあるでは?

…と思ったが、考えるだけ無駄だと判断した。


そうそう、何故か小萌先生の家へお邪魔した時の事だが、何故か先生の家の屋根が吹っ飛んでいて、屋根の代わりにビニールシートが掛けられていた。

先生に何故かと訊いたが、先生は何も話してはくださらなかった。


今年の夏休みは色々あり過ぎたが、楽しい夏休みだったと思う。

今日は長く書いてしまった。明日は早いから、今日はもう寝よう。




九月一日

今日から新学期だ。今学期も張り切って行こう。

さて、二学期から転校生がやって来た、姫神秋紗だ。(彼女が紹介される前に上条当麻の知り合いが変な茶番をしていたが気にしなかった)

彼女はなかなか奇麗な人で、おしとやかなまさに大和撫子という言葉だ似合う人だった。

何か特徴的な雰囲気を醸し出していたが、私は気にしない。変わった人だろうと影が薄い子だろうと仲良くしていこう。

でも彼女は以外にも人見知りはしなく、青髪ピアスの冗談を軽々と捌き切っていた。きっと気軽な人なんだろう。このクラスならすぐに打ち解ける筈だ。


しかし、私が一番気にかかるのは上条当麻の事だった。昨日は無駄だと判断したのだが、どうも気になる。

挙動不審というか、落ち着きがないというか、教室に入ってきた時からキョロキョロした態度だった。

まるで初めてこの教室に入ってきた様だった。

よし、試しに話しかけてみよう。そして夏休みの数々の事件についての詳細を訊こう。

そう息巻いたが、タイミング悪くチャイムが鳴った。これから全校集会だ。しょうがないと、体育館で訊くことにした。

が、上条は消えていた。全校集会をエスケイプしたのだ。

教室に戻った後も、何度か訊こうと思ったが、それの度に先生や女子の友達に話しかけられたりして、結局話しかけられなかった。

結局は段々面倒くさくなって、訊くのを諦めた。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/04(月) 00:55:43.68 ID:qNY2xQAH0
九月二日

おかしい、視線を感じる。

そう思ったのは午後九時五十三分。いつも通り、自分の部屋で学校の予習をしていた。

数学の予習をしていた時だ。チクリと背中に何か視線を感じた。

そういえば前に…夏休みが始まって十日が過ぎた頃だ、私ではないがウチのクラスの女子が視線を感じるとか言って相談に来た時があった。

その時は数人の女友達と一緒に聴いていたが、その日からそこにいた女子数人も視線を感じると訴えてきたのを覚えている。

後日、彼女らは体調を崩した。

私は相談に乗った後すぐにパソコンで調べた。すると結構それについて悩んでいる人が多くいる事がわかった。


その人達の多くは高い強度を誇る能力者ばかりで、お偉い学者が言う一説には“自分だけの現実”が何等かの現象を引き起こしているのでは?というものだった…。


しかしあの日、相談してきた彼女らの強度は無能力者だけだった。

そして今日、私もその現象が起った。

知っての通り私は無能力者だ。件の学者が言った様なご立派な能力も強度も持ち合わせていない。

私は一つ深呼吸をした。

私は頭を一回整理した。


私を含め、私達の学校の女子(男子からそんな話は聞かないから恐らく女子だけだろう)の何人かが無能力者の癖に、背中に視線を感じるという症状を訴えた。

その症状が起ったのは夏休みが始まって十日を過ぎた頃…。という事は夏休み以前に何かがあった…?

でもそれ以前にそういう症状は全くなかった…。また訴える人もいない…。

という事は夏休みが始まる頃から、その十日後に何かがあったのだ。


七月二十日から三十日の間に…。

三沢塾が潰れたが…それは関係ないだろう…。

月詠先生の家の屋根が吹っ飛んだ…これも関係ないだろう…。

第十七学区の件は…あれは八月に入っている、関係ない。

じゃあ…夏休みに入って…何か大きな事件……。

私は行儀悪いが、鉛筆を咥えながら考えた。

とその時、ふと携帯電話を見た。


近頃どこかの工業系の大学での発表があった。

携帯電話で通話している人は、していない人よりも癌にかかる確率が高いというものだ。

原因は携帯電話から発せられる電磁波で、それが細胞に悪影響を及ぼすため癌ができるらしい。


でも私は考える、私は日常から様々な電磁波を受ける。例えばパソコンの無線LANから発せられる電磁波だったり、電子レンジの電磁波だったり…。

それらはいつも私達の体を通り抜ける、即ち細胞に悪影響を与えているのだ。だから携帯電話を持とうが持たないが関係なく、癌になる確率が高いのだと。携帯電話があっても意味はないのだと、そう考える…。


そう考えた時、私は思い出した。


そう言えば夏休み初日に電化製品は全滅し、とある大学の試作品を代わりに置いたのではなかったか?しかも一式全部。


40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/04(月) 01:26:09.31 ID:qNY2xQAH0

嫌な予感がした。ツーッと額に汗が滲む。

私は引き出しの中からドライバーやニッパーなどの工具一式を取り出し、まずは手始めにコンセントを分解し始めた。


予感は的中した。


小型カメラだった。


私は溜息をついた。

そして、沸々と怒りの感情が湧いてきた。

もしかして、他の電化製品にもあるかも知れない。

そう思って、次は電子レンジを分解した。

すると、冷却用の空気穴から小型カメラが取り付けられていた。

それを見た瞬間、私の怒りは頂点に達し、部屋中の家具という家具を全て分解し、中身を調べた。



嗚呼、なんてことだろう。

恐ろしい事に、あの大学から貰った電化品の全てに盗聴器やら小型カメラが仕込まれていたのだ。

どうやら私の怒りの頂はまだ上があったようだ。

脳の血管が破裂しそなくらいに血が昇っていた私の顔は、鏡を見なくてもわかるくらいに真っ赤になっていた。

冷蔵庫、テレビの画面の隅、エアコンの網目に洗濯機…。様々な所に、しかも器用な事に目立たない所に設置されていたのだ。

しかもしかも、悪質な事に、風呂場の給湯器にはご丁寧に防曇レンズのカメラを忍ばされてあった。

もっとも悪質だったのが、トイレの電気便座の裏側にもカメラがあった事だ。


気が付けば部屋中、電化製品だった粗材ゴミが散らばっていて、窓の外には明るい朝日が部屋を照らしていた。


そして今、怒りのままで日記を書いている。

とりあえず寮の管理人のおばさんに直談判して、早くこの寮の電化製品の取り換えを要請し、かの大学に真相を確かめよう。

そう、心に誓って、日記を閉じる。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/04(月) 02:19:24.51 ID:qNY2xQAH0
九月三日

今日は悲しい事ばかりだった。

私はあの後、寮のおばさんに直談判した。おばさんは私の要求に応えてくれて、あの日取り替えた電化製品を全て撤去するよう業者さんに頼んでくれた。

そして怒りに燃える寮のみんな全員と教師代表の月詠先生とであの大学へ行った。

しかし門前払いされた。

意味がわからなかった。

が、代表として月詠先生が真相を聴いてきてくれた。

だが帰ってきた先生の口からとんでもない事が放たれた。

曰く『あのカメラは試験者が日頃どのように試作品を使用しているかのデータを採る為の物で、悪意はない。またそういった行為をわかっていたから引き受けたのでは?と言われました…』と。

涙目でそう報告した、全く相手にされなかっただろう先生はずっと私達に謝っていた。

皆の力になれなくて本当にごめんなさいと…。


私はますます怒りに沸いた、他のみんなもだ。

その夜、私達は学校のファミレスを貸切って、決起集会を開いた。

こうなったら訴訟でも暴動でもやってやろうじゃないかと息巻いていたのは言うまでもない。


とその時、ファミレスにこの問題には全く関係ない、どこに住んでいるのか全く謎の先輩… 雲川芹亜先輩が入ってきて、私達に事情の説明を求めてきた。

この先輩は住所どころか所属クラスもわからない謎ばかりの先輩で、学校のみんなは『名前だけは知っている美人の先輩』と認識されている。

私達は、この先輩に今回の事件についての経緯を全く隠さずに話した。

でもなぜだろう?この先輩は全くの外部なのに…どうしてあんなにペラペラと話してしまったのだろう?

まあいい、味方は多いほうが一番だ。

まず私達は学校と駅周辺で署名活動でもして、第一学区に訴えようと計画した。

計画は明日から行う。

私達は絶対に真相を暴いてやろうと寮に住むみんなと雲川先輩とで、ファミレスのソフトドリンクで盃を交わした。




九月四日

さて、昨日の決起集会の余韻をそのままに登校した私だが、学校の図書館で読んだ今日の記事を見て驚いた。

あの変態大学が潰れたのだ。

唖然とした私は記事を読む。

どうやら学長始め、殆どの教授が汚職に手を染めていたらしく、昨日の夜…あの決起集会の後に警備員の一斉検挙を受けたらしい。

そこで私達の事件は取り上げなかったが、こう書かれてあった。

その大学が開発していた電化製品はすべて盗作で、しかもその盗作電化製品にカメラを忍ばせ、他の大学の生徒の弱みを握って脅し、無理やり所属大学の研究データを献上させていたらしい。

私はその新聞を持って月詠先生の所へ行って、記事のことを話した。

でも実は先生は昨日の夜にそのことを知っていたらしい。

しかも検挙した警備員は隣のクラスの担任の黄泉川先生とのことだ。黄泉川先生には何かお礼をしておかなければ…。

そして放課後、家に帰ると、なぜか部屋には真新しい電化製品が置かれていた。


差出人はなんと学園都市統括理事会所属の一人、貝積継敏だった。

管理人のおばちゃん曰く、昨日の事をしった貝積継敏は心を痛めて寮に住む私達全員に電化製品の全てを送ってくれたと、運搬業者さんと一緒にいた貝積継敏の側近と名乗る人が言ってたらしい。

納得いかないが、事件が解決したからいいか…。

しかしなぜ、統括理事会の一人が、ただも無能力者である私達の事を知っていたのだろう。

そう疑問に思ったが、とりあえずそれはまた今度考えよう。そう思って日記を閉じる。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/04(月) 02:21:28.14 ID:qNY2xQAH0
――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

なぜ貝積のジーチャンが出てきたのかは…わかりますよね♪
――――――――――――――――――――――――――――――――
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/04(月) 21:36:02.60 ID:qNY2xQAH0
テストが明日ありますので、今日は休みます。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2011/07/05(火) 12:42:12.93 ID:A5yGLrbM0
お疲れsummer
45 :名無しNIPPER [sage]:2011/07/05(火) 13:07:53.78 ID:GxWsg4ZDO
乙。
ところで今更なんだが初春って無能力者じゃなくてレベル1じゃない?
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/05(火) 13:28:28.65 ID:78mrRVw10
初春は自分の能力を春上しか話していないので、佐天さんは初春が低能力者とは知らないかな〜と思いました。

佐天パートはあくまで佐天さん視点なので、彼女は初春を無能力者と思っているのでしょうね。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/05(火) 21:04:04.63 ID:78mrRVw10
さて、続き書いて行きます。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/05(火) 22:40:46.92 ID:78mrRVw10
「to…cho…ky…?」

上条は首を傾げる。

「盗聴器だよ、上条当麻。ほら、お前のズボンのベルトにマイクが引っ掛かっているだろう?」

「え…?……ああ!!」

上条は服のしたに隠れたベルトを見る。

そこには小さなマイクがチョコンと引っ掛けられていた。

「いつの間に!?」

「お前が気絶しているときだ」

吹寄は顔を青くしている上条に盗聴器を投げ、飛んでくるそれを上条が受け取る。

「ナイスキャッチ」

「ああどうも……って、そうじゃなくて!!なんでお前がこんなモン持ってんだ!?」

「ああ、実は今月の頭に盗聴器騒ぎがあっただろ?」

上条は首をかしげる。

「ああそうか、男子には言ってなかったっけ?ほら、夏休みの前日に大きな雷が落ちただろ?」

「…?」

上条は『なんのこと?』顔に書いた。……もしかして、記憶喪失以前の出来事か…?

「…覚えてないのか?上条」

「…え?ああ!!あれか!!あれ!!もちろん覚えてるぞ!?」

危ない、夏休みの…七月二十七日以降の記憶が無いのがバレてしまう所だった…と上条は心の片隅で汗を拭う。

「ああ、あれか」

と土御門は口を挟む。

「あれのせいでウチの寮の家電が全滅して、一斉にどこかの大学の試験品と取り替えたんだっけか?」

「そうだ、でも実はその大学は取り替えた電化製品の全てに小型カメラと盗聴器を忍ばせていたんだ」

「うわ〜、それは悪質な…」

上条は嫌そうな顔をする。

「で、いざ訴えようとしたら、その大学は閉校になり、しかも学園都市の統括理事会の一人が私達の電化製品を全て取り替えてくれたんだ」

「おっ、いい人じゃないか」

「ああ」

「……で、その時仕込まれていた盗聴器の一つがこれかにゃー?」

「ああそうだ。あの後何かに使えるときが無いかなと思って、改造に改造を加えて一昨日できたばかりの奴だ」

「で、その使えるときってのが、今日か…」

土御門は上条に『ちょっと貸してくれ…』と言って、上条から通信機を受け取った。

「なるほど、なかなかいい部品使ってやがるぜい。流石はお上からお金を貰っている変態大学生ですたい。…つーか吹寄、どうやってこれを改造したんだにゃー?」

「ああ、本屋に行ってそう言った本を買って、それを読んだ」

「……だけ?」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/06(水) 00:54:22.96 ID:C+4R5YqG0
「うん、だけ」

「」

上条は驚く。なんだって、いままで普通の女子高校生で、ただのクラスメートとしか認識が無かった吹寄に、こんな能力があったなんて思っていなかったからだ。

「まぁ上やん、上やんには必要ない技術だぜよ」

「ああそうだな………って、……あれ?」

と上条の頭の中で、何かが横切った気がした。

あれ?何か違和感があるような…。

「―――――……はっ!?」

とその時、上条の頭に一つ、違和感がはっきりした。


なぜ、吹寄制理はワタクシ、上条当麻に盗聴器を付けたのでしょうか



上条の額に汗が滲む。

「――――――…………吹寄」

「どうした上条当麻」

「どうして…お前、俺に盗聴器を仕掛けたんだ?」

「ああ、それか…。だって最初っからお前たち、私に嘘ばっかりついていただろ。まるで私を除け者にしようとして…」

「…」

「私が邪魔なら素直にそう言えば、私も素直に帰るのに…。まるで何かを隠している様な感じで気に食わん」

バレれた。

「……吹寄様もしや、すべてお見通しで?」

「モチのロンだ」

「ああ…」

「それにしても、散々人を影で酷く言ってくれていたな」

「へ?」

上条は素っ頓狂な声を発す。

「誰がマイク・タイソンだって?誰が完璧超人だって?誰が妖怪メスゴリラだって?」

吹寄は手をボキボキボキッと鳴らす。

それを見た上条は顔を真っ青にして、彼女に訴える。

「…お、落ち着け!!吹寄落ち着け!!最後の奴は誰も言ってねェ!!つーかそれ以外言ったのは……土御門だ!!」

上条は自分の胸倉を掴む吹寄を何とかして説得する。

つーか怖い。

「お、おい!土御門!!さっきから黙ってないで、お前からも何とか行ってくれ!!」

「…………」

上条は土御門に助けを求めるが返事がない。

「土御門!!」

上条は返事も応答もない相棒に苛立ちを覚え、土御門を見る。

しかし…。

「………土御門?」


土御門元春は、もうそこにはいなかった。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/06(水) 01:25:37.28 ID:C+4R5YqG0

「………」

上条はつい、無表情になってしまう。

「………」

胸倉を掴んでいた吹寄も無表情だ。


チャラチャチャチャー♪

シーローイ ナーミートー ワイキキビーチ(アロハ♪)

ウーカーブ ウーカブー ………♪

Pi!

「……メールだ…」

上条は胸倉を掴まれたままポケットからケータイを取り出す。

相手はあの、消えた土御門からだ。


『はぁ〜い上やん!スマンにゃー勝手に消えちゃって♪ごめんにゃー。(m´・ω・`)m ゴメン…

んで、今日の予定なんだが、急用思い出したから中止だにゃー!

って、こ・と・で、上やんは吹寄と一緒にデートでも楽しんでくれですたい。

上やんにとっては、初☆デートだにゃー……つっても常盤台のお嬢様とのお忍びデートがあったか、失敬失敬www


じゃあ上やん、あとはよろしくお願いしますだにゃー。

例の中華の店は、一緒に地図を送っているからそれを見て行って来てくれにゃー。感想を聞き次第、俺も舞夏と一緒に行くからにゃー

んじゃまた。


PS.くれぐれも変な気を起こして、吹寄と変な関係を持たないようににゃーwwww


ツッチーより♪』



「………」「………」

上条はこれを読んだ瞬間、ケータイをイスカンダルへと届くぐらいまで遠投しようかと考えた。

そう、土御門元春は…。



「……トンヅラこきやがった…」



上条はケータイを閉じ、ポケットの中へしまった。

「……不幸だ」

「またそんな事を言うか」

と、吹寄は上条から手を放す。

「!?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/06(水) 01:30:46.00 ID:C+4R5YqG0
今日はここまでです。ありがとうございました。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 00:11:17.29 ID:7WLfFp2Zo
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/08(金) 22:46:10.77 ID:XUZ2qEOl0
すいません今日はやすみます。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 08:35:05.67 ID:kl3NQR1j0
吹寄って基本女口調じゃなかった?
何か違和感……
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 11:32:02.20 ID:nX/lM+mW0
>>54 一旦アニメ見てきます。

吹寄は姫神や小萌先生には優し口調なんだけど、三馬鹿デルタフォースにはキツイ口調になるとイメージしていたもので…。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 16:21:49.40 ID:nX/lM+mW0
見てきました。

すいません>>54さんが言っていた通り、吹寄の口調は基本女口調でした。

なんかどこぞの生徒会長みたいになっちゃって、申し訳ないです。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 01:02:56.14 ID:6lVEVPZ80
では、吹寄女子の口調を調整して、続きを書いて行きます。

短いかもしれないですが、頑張って書いて行きます。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 01:44:45.23 ID:+ElQfXzK0
しかしこの上条さん凄いな
のどにナイフ突きつけられても
普通に友達やってるとか……
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 01:47:38.87 ID:6lVEVPZ80
――――――――と、吹寄は上条から手を放した。

「!?」

きっと殴られるか蹴られるかと思っていた上条には、彼女のその行為はとても意外だった。

「バカ、いくらなんでも事あるごとに人を殴らないわよ」

と吹寄は以外そうな上条の顔を見て言った。

やっぱり自分の顔はそんなに正直なのか…。

「まぁいいわ、邪魔者はいなくなったし……」

「は?」

「あ!ああ、いや、なんでもない」

と固い笑顔で何でもないよと手を振る吹寄。

「と、とにかくだ。例の店へ行くわよ!」

吹寄は顔を紅らめさせて、上条の右手を掴んでシャカシャカと足を運ぶ。

上条はそれに引っ張られる。

「あと、今日私あまりお金持っていないから、支払よろしくね」

「はぁ!?なんでそんな事しなくちゃならないんだ!?」

「しょうがないでしょ?今月の親からの入金まだだから、あまりお金を使いたくないのよ!!それで、今日は交通費引いて1200円しか持って来てないの!!」

「そ、そうか…」

自分も親からの入金を頼りに生活している身だ、気持ちは痛いほどわかる。

「……ん?」

と、そこで彼はある事に気づいた。

「あ!、おい吹寄!!」

「ん?なんだ上条当麻、トイレか?」

「いや、そうじゃなくて」

上条は立ち止まり、吹寄も立ち止まる。

そこで上条は、先程行ったラウンド1を指さした。

「お前、あそこの支払いどうしたんだよ!」

そうだ。三人分の料金が1200円では少し足りない。

まさか、逃げてきたとか…?

「アホ、私がそんな犯罪に手を染めるとでも?…もちろん支払ってきたわよ」

吹寄は上条を一睨みして、ポケットの中から財布を一つ取り出して上条に突き出した。

「あんたらみたいにセコイ手を使わないわよ」

「……吹寄、お前は二つ言いたいことがある」

「言ってみろ」

「まず、一つは俺は盗みとか万引きなんて、神様に誓ってした事が無い。つーかしても見つかって捕まる。不幸だから。…そしてもう一つ」

「うん」

「お前がさっきから俺に向かって突き出している財布なんだが」

「うん」



「それ、俺の財布」

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 03:24:50.55 ID:6lVEVPZ80

「ああ、こっそりスッておいた」

「あんた思いっきり犯罪犯してんじゃないか!!」

「いいじゃないか、お前と私の仲だろう?」

「黙れ!!」

「………」

「………」

「じゃあ早速行きましょうか」

「テメェーさっきの間はなんだ!?つーか件を無かったことにしようとしてんじゃねェェェェェエ!!」

「…………上条」

「あぁ!?」

「昨日の事、学校中に言いふらしていいか?上条当麻に犯されかけたって」

「なっ!?あれは不可抗力!!」

「保健室の件は?」

「」

「あれは無かったことにはさせないぞ」

「…ぅ…」

「では、いざ行きましょうか」

「ちょっと待て!その前に財布返せ!!」

「何を言っている」

「は?」



「今日は上条の奢りなんだろ?」



「……え?あれ冗談じゃないの…?」

「当たり前よ」

「………マジ?」

「マジ」

「ふ、ふふふふふふふふふ………不幸だァァァァァァァアア!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 03:52:05.87 ID:+ElQfXzK0
DQNばっかwwww
上条さん不幸だな……

あ、>>1乙です
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 11:33:55.73 ID:6lVEVPZ80
こんにちは、今日も頑張っていきます。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 12:04:13.51 ID:6lVEVPZ80
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

上条が吹寄に手を繋がれて歩いている頃、上条宅…。


「………スー…スー…スー…」

とある計画を建て、先日それを実行したが失敗に終わった、とある組織の首謀者 結標淡希は、上条当麻の自宅に居候してた。

とは言ってもあの日以来意識はなく、上条のベッドの上で眠ってい続けていた。

今はリズム良く寝息を立てている。

同じく上条当麻の居候 インデックスは、そんな結標の可愛らしい寝顔を見つめていた。

「良かった、どうやら術は成功みたい」

「ええ、良かったわ。あの術の後遺症とか出て来たら大変なことになっていたと思うからね」

とインデックスの言葉に応える声が一つ。

「否定姫は本当に魔術の覚えが早いね、天才だよ!」

「あら、ありがとう」

否定姫、インデックスはそう彼女を呼んだ。


彼女も上条当麻の居候だ。インデックスと同じくいつの間にか出て来て、いつの間にか部屋に居座っている。

しかも彼女の従者、左右田右衛門左衛門もこの部屋にいる。

一体上条はこの狭い部屋に何人居候させているのだろう。


まぁそんなことはさておき、否定姫は持っていた扇子で結標の頬を突いた。

「う〜ん、でも起きないわね〜」

「大丈夫かな…」

「ふふ♪大丈夫じゃな〜い?その内起きるわよ。インデックスちゃん、しばらくその子のことはよろしくね?」

「うん!わかった!元々修道女は神にお仕えすると同時に、恵まれない人たちに希望の光を与え、病気の人達を看病するのが仕事だからね!!」

「そう、なら任せたわ。何かあったらすぐに私を呼んでね?」

「ラジャー!!」

「私はちょっとやることがあるから、少し静かにしててね?」

「うん!」

と、否定姫は部屋から出て行った。


とその時、インデックスは一つ疑問を呟いた。


「…………どこへ行ったかわからないのに、どうやって呼べばいいの?」


彼女の問いには、足元で寝転がっている猫…スフィンクスも答えなかった
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 16:58:30.53 ID:6lVEVPZ80
「…ぅ…」

とその時ベッドから声が聞こえた。結標からだ。

「う〜ん」

インデックスはベッドへ向く。

「あ、起きたかも!・・・だ、大丈夫?」

しかし彼女はそうではないらしい。どうやら魘されているようだ。あと顔が紅い。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「あわわわ…は、早く否定姫を呼ばないと…でもどこにいるかわからないし……」 ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿

「…はぁ…はぁ…」

インデックスはウロウロとして、顔を青くしている。

とその時……。


「あん///」


「」

「あ///…いい…イクッ…イッちゃうっ!!///」

「………」

「当麻くん…当麻くぅん……///」

「…………」

「ああん///」

結標は当麻の掛布団を抱き、腰をカクカクと動かしている。

いったい夢の中で上条と何をしているのだろうか。

「…」

「いいよ、出していいよ///もちろん中で♪」

「……」

枕に顔を埋めて悶えている結標を、インデックスは冷たい目で見つめていた。

「…大丈夫みたいかも…」

そして、インデックスは無表情のままで部屋から出て行った。


「はぁ///はぁ///………はっ!」

インデックスが出て行ってから数分後、結標はようやく夢から覚めた。

「…夢……?」

キョロキョロとあたりを見渡す結標。

先程見た夢を脳内で反復する。

「な、なぁ…///」

結標は沸騰したヤカンみたいに耳まで顔を紅くし、顔を覆う。

「え?ええ!?えええええ!?ナニナニナニナニ!?なんであんな夢を!?」

もう本当に頭から湯気がでそうになる。

「あ、あああ。ま、まぁ夢だし、たかが夢だし!!あははははははははっ!!」

結標は起き上がる。と、結標はある違和感に気付いた。その違和感は股に感じる。結標はそーっとパンツの中を覗いてみる。

「……最悪ね」

結標は静かにそう、呟いた。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 17:00:22.23 ID:6lVEVPZ80
次の更新は八時くらいです。

キャラ崩壊も大概にしろよ(#゚Д゚)
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/07/10(日) 17:11:26.44 ID:ZBtEa+7e0

待ってますよ大統領!
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 22:39:10.61 ID:6lVEVPZ80
遅くなりました。続きです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――

結標淡希は一旦深呼吸する。

そうだ、今はこんな変な茶番なんてしている場合ではない。

一体ここは何処なのか、なぜここに連れられて、眠っていたのか。

結標は辺りを見渡す。

部屋はキレイに整頓されていて、目立った汚れや散らかりは無い。

42型の薄型テレビ、少し大きめな足の低いテーブル、大きな窓、その横に釣られている青いカーテン、そして自分が乗っているベッド…シーツが自分の涎と体液で少し濡れているのは無かったことにしよう。

結標はベッドから降り、ベランダに出て下を見る。

どうやらここは学生寮のようだ。

結標は部屋に戻り、ベッドの上に座った。

色々と見たが、きっと部屋の主は几帳面な男の人だろう。

もし女の子だったならば、カーテンや壁紙はもう少し明るい色…ピンクや赤などの暖色系の色を多用すると思う。…自分は違うが。

また棚はシックなブラウン、絨毯はしておらず、暗い色のフローリング…。

棚には布を被せてあったり、明るい色の絨毯を引いたりする、女子特有の感じがしない。

まぁそんな部屋にいる男子は結構前に流行った『乙男』とかいう人なのだろう…。自分には関係ないが。

「……ん?」

と結標はテーブルの上に置いてある一冊の手帳を見つけた。

「……これは…」

生徒手帳だ。恐らくこの部屋の主の物だろう。

結標はその手帳を開く。

そこにはある男の顔の写真が写っていた。結標は写真の下に書いてある名前を読んでみる。

「上条…当麻!?」

結標の頭の中に、あの夜…そしてあの朝方の記憶が蘇る。

『うるせぇ!気絶しているお前をここまで運んでやったのは誰だと思ってんだ!?』

「ああ、そうだ。私、気絶していてて…。それであの子に助けられたんだ」

結標はフフフッと笑う。

そうだそうだ。なんで私は忘れていたんだろう?

しかもただ助けられただけじゃない。この肩に背負っていた、重苦しい重圧、後悔、苦悩の全てを、あっという間に消し去ってくれた。

『テメェの涙はなんだった?なんで泣いた!?』

『そ、それは…』

『怖かったんだろ!?自分の手が赤く染まるのが!!悔しかったんだろ!?それを止められない自分が!!後悔してんだろ!?そうしてしまった事実を!!』

そう、あの時はなぜか自分は関係のない、ましてやその日に初めて出会った上条に自分の苦しみを打ち明けてしまった。

そして上条はそれをひとつ残らず吹き飛ばした。

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 23:12:53.09 ID:6lVEVPZ80
そして、殺人鬼の自分に…化け物の自分に彼はこういった。

『だったらお前はまだ化け物じゃねぇええ!!未だに可哀そうな女の子だ!!』

と。自分でも笑ってしまう。

『泣いたっていいじゃねぇか!!恐がっていいじゃねぇか!!』

ああ、思い出したら段々その続きも釣られるように脳裏に浮かんでくる。

『誰だって後悔する!!誰だって罪を背負う!!それが人間ってもんだろう!!?』

彼が自分の頬を両手で優しく包んでくれた感触を思い出す。

『俺の目を見ろ!!』

『』

『俺が、お前を化け物みたいに見る目か!?違うだろ!!お前を見ているのは上条当麻と言う人間の男で、俺が見ているのは結標淡希っていう人間の女の子だ!!その事実は誰にも変えられねぇ!!誰にも変えさせねぇ!!』

『………ぅ…ぅっ…!』

『だからお前は泣いていいんだ!!涙を流していいんだ!!人間らしく!女の子らしく!!それは誇っていいんだ!!否定したらダメなんだ!!』

『…ぁ……ぁぁ……』

『もし誰かがお前の涙を哂う奴が現れたら!お前の泣き顔を蔑む奴が出てきたら!!この俺がぶっ飛ばしてやる!!!!!!!』

彼は、上条当麻は自分の体をぎゅっと、優しく抱いてくれた。あの時の彼の心臓の音が今でも耳に残っている。

『だから泣け!!ここで泣け!!俺は哂わない!!蔑まない!!俺はお前が泣き止むまで一緒に泣いてやる!!!!』

『…ぁ……ぁ…ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


そして、あの日の暁は本当に奇麗だった。

「はぁ〜〜、泣いちゃったな、私。ふふふっ」

一つ笑ってみる。

それのせいでまるで堰をきったみたいに笑いがこみあげて来た。

「ふふふ…あはははは……あはははははははははははははは!!」

結標は上条の手帳を抱いてベッドの上に寝転び、ゴロゴロと転がる。

ああ、彼の事を考えると、なんと気持ちの良いものか。

比喩するなら、心が嬉しそうに踊ってい。

擬音を付けるなら、ワクワクとかドキドキとか、そういうものだろう。

とにかく心地いいのだ。快感と言ってもいい。

そう言えば先程見た夢の中の自分も、幸せな気持ちだった。………いやあの夢は忘れよう、本当に恥ずかしい。

はぁ…なんだろう……この気持ちは……。

結標はふと思う。

心当たりがあるというなら、よく少女マンガであるような、そんな気持ち。


「私…恋…してるのかな……」


自分でもわからない。なにせこんな幸せな感情を持ったのは初めてだから。

だって自分には仲間がいるが、恋などと甘い話を気軽にできる友人はいなかったし、少女マンガやドラマは所詮架空の世界だと思っていたし、自分のタイプは背の低くて、童顔で、可愛げがある子。…まぁショタとか言われたことはあるけど…。それはツッコまないでほしい。

「とにかく、なんだろう。この気持ち…」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/11(月) 00:34:28.55 ID:BUbCRJit0
とその時、自分の背中に何か固いものが当たっていることに気付いた。

「?」

なんだろう?なぜか掛布団に包まっている“それ”を手に取る。

「!!……こ、これは……!!」

それは『千刀 鎩』の一本だった。

いや、最後の一本だ。

結標はそれを手に取る。

「……『鎩』…」

結標は『鎩」を抜いてみる。

相変わらず奇麗な刀身だ。今にでも吸い込まれそうな危うい空気を孕んでいる。

「そうだ、私はこの刀のせいでここまで堕ちたんだ。この刀のせいで…」

結標は『鎩』を睨む。

目の前にはテーブルがある。

今すぐ、この『鎩』をこれで叩き割ってしまいたい……。という衝動に駆られた。

結標はベッドから手ちあがる。

『鎩』を両手で持ち、テーブルを見据えた。

結標は大きく見開いた目で、『鎩』を背中まで振り被る。

そして思いっきり『鎩』を振り落した。



―――――が、その刀身はテーブルの角に達する直前で止まった。


「………」

結標は止めた『鎩』を鞘に戻した。

ふーっと息をつく。

「止めた。私、これが無かった飛べないし、この刀には借りがあるし…」

結標はまたベッドの上に寝転び、右手に握られていた『鎩』を掲げる。

「ねぇ、あなた。私をどう思っているの?」

そう『鎩』に問いかける。

「……馬鹿馬鹿しい、刀が喋るわけないわよね…」

そう呟いた。


それから数秒たった。

結標はベッドから飛び起きた。

いきなり、ピピピピピピッと電話が鳴ったからだ。

条件反射で電話に出ようとする自分を抑え、鳴りやむのを待つ。

当たり前だ、男子寮に女子が出たらまったくもって不審だからだ。

十秒たって、やっと電話が鳴りやんだ。

代わりに留守番電話機能に切り替わり、掛けてきた相手の声が流れてきた。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/11(月) 01:05:16.74 ID:BUbCRJit0
『…あ、もしもし?俺だ、当麻だ』

ガタッと結標はまたベッドから飛び起きる。

上条当麻だ!この電話を取ったら彼の声が聴けるのか。ああ、是非とも聴きたい。そして話したい。会話がしたい!!

『あ〜…冷蔵庫の中にある昼飯をレンジでチンして食べておいてくれ、俺は今からケンカ通りの中華料理屋で外食してくるから、きっと遅くなる。ああ、勿論お土産も買ってくるから!!な!?』

「…ん?」

おかしい、なぜだか脅えているような口調だ。

『じ、じゃあ、色々とよろしくな!』

『上条当麻!まだか!?いい加減にしないと席が埋まっちゃうわよ!?』

「」

女の声だ。しかもまるで圧力をかけているような喋り方…。

『ああ、すまん!……ってイテテテテテテテテェ!!み、耳を引っ張るなぁ!!』

しかも暴力を振るっているようだ。…ていうかしている。絶対にしている。

『ほら、さっさとしなさい!!さもないと学校中にあの話をバラ撒くわよ!?』

『おい!だからあれは不可抗力……イタタタタタ……』

それに付け加え、何かの弱みを握っているようだ。

『じゃ、じゃあよろしくな!!…おい!だから耳を…ぎゃぁぁ!千切れ…』

そこで電話が切れた。

「…………」

どうやら、上条当麻はどこかの馬の骨かわからない女に脅されて、好き勝手に連れまわされているようだ。

結標は手に持った『鎩』を強く握りしめた。

「……さな…い」

そう何か呟いて、ベランダに出た。

「確か…第七学区の中華料理屋……だったわね…。どこの馬の骨だか知らないけど…好き勝手にはさせないわ。そして許さないわ、絶対に」

そう断言して、結標淡希は座標移動でベランダを去った。





もし、全ての状況が知っている者がいるならば、ツッコまないで上げてほしい。

お前よりも吹寄の方が上条との付き合いが長いぞと。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日はここまでです。ありがとうございました。

どうでしょうか、上条×吹寄&上条×結標は。

そこにビリビリが加わり、大食いニートシスターも加わり、神裂も加わり、姫神も一応加わって…。そういうのを妄想すると笑えて来ます。


感想、質問、小ネタ…色々と、なんでも募集しております。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 01:53:30.65 ID:Qq+nij0P0
>>1乙!
ヤンデレあわきんカワイイ
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 00:26:10.69 ID:yBGCvz4G0
このあわきんはかわいい
吹寄もかわいすぎて仕事したくない\(^o^)/
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/07/12(火) 21:36:41.21 ID:zMU5QmXU0
ちょっと考えたけど

錆白兵が誰かと戦おうものなら学園都市の二次被害半端ない気がする
七花と戦ったときでさえ巌流島半分消し飛んだし、
とはいえ錆白兵の出番が待ち遠しい私がいる。

ええ、そうですよ”ときめいています”よ。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/12(火) 23:10:24.07 ID:xC8bXZFB0
こんばんは、続きです。

ぼちぼちやっていきます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

午後12時11分

携帯電話の液晶にはそう記されていた。

「はぁ、もうお昼か…」

御坂美琴は松葉杖を突きながら、第七学区を歩く。隣には学校の後輩の白井黒子が車椅子で歩道を進んでいた。

「しょうがないですわよお姉さま。あの先生、他の先生にお姉さまの裏ワザについての説明会を始めたんですもの」

「まったく、おかげでお昼喰いそびれたわよ」

まぁその説明会の原因は、美琴の裏ワザを見た研修医の一人がカエル顔の医者に熱心に質問したからで、冥土返しは彼にわかりやすく説明した。

するとすると、それを見たまた別の研修医がやってきて、その彼にまた説明すると、また別の研修医がやってきて…。

結局は全ての研修医や手の空いた医者や看護婦が集まってきてしまったので、カエル顔の医者はしょうがなくホワイトボードを引っ張り出し、長々しい講演会を始めてしまったのだ。

『いやぁ〜ごめんね?おかげで勉強になったよ。お礼とお詫びの代わりに、これをあげよう』

と、あのカエル顔の医者が申し訳ないように封筒を一枚、美琴に手渡したのを思い出す。


「つーか、もう歩けるのに何で松葉杖なんて突かなくっちゃいかないのよ。どこかでコッソリ捨てちゃおうかしら」

「ダメですわよお姉さま、まだ治りかけなんですから…。歩いていて足が悪化したらどうするんですか」

「そんなもん唾つけときゃ治るわよ」

「はぁ〜、いつの時代のセリフですか…」


「そうだ、結局この封筒の中身なんなのかしら」

「そうですわね…、お金とか?」

「いや、そんな人じゃないわよ、リアルゲコ太は。きっと何かの商品券じゃないの」

と、美琴は封筒を開け、中身を確かめる。

中身は…。

「…やっぱり商品券だったわね」

「いや、ちょっと違うみたいですわよ、お姉さま。どうやらどこかのレストランのお食事券ですわね」

「え?……あ、本当だ。なになに…?『中華レストラン 洛陽園 学園都市店 2000円分お食事券』」

「洛陽園ってこの前、新しく出来た易くて美味しい本格中華が食べられるお店が出来たって、初春が言っていたような…。なんでもそこのオーーナが本場中国ですべての中華料理を修行してきた人だとか…」

「へ〜…。で、そのお店のお食事券が三枚か…」

「誰と行きましょうか…」

「まぁいいじゃない」

と、美琴はそのお食事券の裏の地図を見ながら、その本格中華レストランとやらへ松葉杖を突いて向かう。

「今日は二人だけで行きましょ」

「……お…ねぇ…さま……」

黒子の体がふるふると震える。

「……黒子?」

「お姉さまっ!」

「…なっ!?黒子っ、いきなり抱き着くな!!」

「お姉さま 嗚呼お姉さま お姉さま お姉さまったら お姉さまぁん!!」

黒子はスリスリと美琴の胸へと頬ずりをする。

松葉杖を持っている美琴にしては、車椅子に乗っている黒子がそういう行動をするというのは、非常に危ない。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/13(水) 00:32:09.92 ID:XVjsezvb0
「は…なれ…なさい!!」

「あぁん、お姉さまのケチィ…」

美琴は車椅子を思いっきり蹴り飛ばした。

「この変態!!」

「ぁあん、もっと…もっとわたくしめを罵ってくださいましぃ〜!」

「……ど、ド変態!!」

美琴は黒子に電撃を落とす。

「あばばばばばばばば!!」

シューッ…と黒子の体から湯気が出ている。しかもピクッ…ピクピクッ…と痙攣を起こしている。

相当な電圧だっただろう。

しかし黒子は……。

「イイ…。イイですわ!!お姉さま!!もっと!!……もっとォォォオ!!」

「……」

ドン引き。美琴、圧倒的ドン引き。次いでに周りにいる通行人も、圧倒的ドン引き。

「………ヒソヒソ……」「……ねぇ、なにあのコンビ…」「知らねェよ…」「おい、よく見たら常盤台じゃね?」「うっわホントだ、常盤台のお嬢様ってドMの変態ばっかなのか?」

「………〜〜〜〜〜〜〜!!///」

顔を怒りと恥辱で真っ赤にする美琴。

「お姉さま〜、ささっもっとわたくしめに電撃を!!電撃を〜〜〜!!」

一方の黒子は相変わらず、変態的な言動をする。

「…アンタ…」

「はひ?」

「私や学校の顔を…ベッタベッタと汚してんじゃないわよ!!」

美琴の怒りのボルテージは最高潮に達し、黒子に高電圧の電撃を浴びせる。

「ふんぎゃぁぁぁぁぁっあぁぁぁぁぁっぁああああ!!」

「叫ぶな変態!!」

美琴は再度電撃を浴びせる。

「ぎゃぁぁぁっあぁぁぁああ!!イクっ!!イクゥゥゥゥウウウウウウウ!!」

「まだまだぁ!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」




「はぁはぁはぁ……やっと黙ったか…」

美琴は数十発くらい電撃を浴びせて、やっと黒子は大人しくなった。

「…………」

辺りに焦げた臭いが立ち込める。

黒子はその名前の通り、真っ黒焦げになって車椅子の上で絶頂した…満足げな顔で気絶していた。

「アンタはここでお留守番よ、黒子。ここで伸びているか、病院へ逆戻りか…どっちかにしなさい」

美琴はそう、吐き捨てて去っていった。

「…この券…どうしようかしら…」

そうがなく、美琴は本格中華レストランへ一人で向かう。


そう、そのレストランとは偶然にも、上条当麻と吹寄制理が向かっている店だということを、彼女はまだ知らない。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/13(水) 00:51:14.06 ID:XVjsezvb0
今日はここまでです。

次回は面白くなりそうですww
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 02:38:51.82 ID:8X8yTqIN0
>>1
修羅場か……
姫神もこっそり参加しててほしいww
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/07/13(水) 10:36:12.03 ID:3Mo5SB9N0
否定姫とインなんとかさんも追加で倍プッシュだ
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/07/14(木) 17:24:02.93 ID:VQVAtD700
ここでまさかの変体刀所有者に遭遇とか・・・
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/14(木) 20:30:05.60 ID:E2ENcJQN0
続きです。頑張っていきます。

さて、来週から大学のテスト期間なので全く書けないと思うので、一、二週間お休みします。まぁボチボチ書くかもしれないんですが…。


とりあえず今日は書いて行きます。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/07/14(木) 20:43:16.12 ID:VQVAtD700
待ってました大統領!
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/14(木) 21:32:33.14 ID:E2ENcJQN0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さてその頃、上条当麻は吹寄制理に耳を引っ張られながら、ケンカ通りにある中華の店へと向かっていた。

「吹寄!ちょっと待ってくれ!!」

「何を言っているの!早くしないと席が埋まってしまうと、何度言ったらわかる!?」

「だからって人の耳を引っ張りながら速足で歩くな!耳がもげる!!イデデデデデデデデ!!」


上条は足の速め、吹寄の隣へ並ぶ。

「ほら、いい加減に放せ!!もう逃げないから!!」

そして耳たぶを抓っている吹寄の手を強引に引き剥す。

「…なっ!?おい放さないでよ!」

と、ツカツカツカ…!!と速足で…二人三脚よろしく並んで歩く二人。

吹寄は上条に強引に剥された手で、今度は上条が引き剥した手を掴む。

「お前なぁ!?なんでこうも暴力ばっか振ってくんだよ!?暴力反対!痛いのダメゼッタイ!!」

「そういってお前はまた逃げだすんだろ!?土御門みたいに!」

「ああもう!わかった!!重々わかったから!!」

上条は足を止め、吹寄の見る。

「こうすればいいんだろっ!?」

と上条は吹寄の手を握った。

「これから手を繋いでいけば、俺は逃げ出せないし、お前は暴力を振るう理由もなくなる!」

「…なっ!?」

「ほら、行くぞ!」

「なっ、ちょっ…これじゃあまるでっ……」

まるで恋人だ…。吹寄がそう言いかけたが、上条はそんな吹寄の心の声などに気付かずに、足を進めた。


「ふふふ…頬笑ましいわね…」「あら、仲睦まじいこと…」「中のよさそうなカップルだね…」「おい見ろよ…」「リア充( ゚Д゚)<氏ね!」

なぜか幻聴が聞こえる。

(は///…恥ずかしいったらありゃしない…)

とその時…。



「はぁ〜い!見てらっしゃい見てらっしゃぁい!!」

と、大きな声が聞こえてきた。

通りかかった公園だ。

疎らだが、人だかりができている。

「上条…」

「ん?」

「なんだあれ?」

二人は人だかりの方へ歩み寄る。

「さ〜て不思議不思議、今から一つ俺様のとっておきの一発芸をお見せしちゃうよ!!」

なんだか特徴のある口調だ。

上条は吹寄の手を取ったまま、その声の持ち主の顔を見るため、人だかりの中心へ向かう。

「上条。なんだ?あの格好は…。忍者に限りなく近い恰好で、鎖を腹にグルグルに巻いていて…」

「知らねーよ。たぶん大道芸人だろ。大覇星祭も近いし、そこで一儲けしようとしてんじゃねーか?」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/14(木) 22:33:21.94 ID:E2ENcJQN0
「ああなるほど、納得した」


「さぁて、さてさてさて。今からお客さん達にビックリ仰天って奴を見せてやるぜ!?」

その真っ黒な忍者のような装束を着た大道芸人は足元に転がっている一輪車を足で蹴り飛ばして立ち上がらせ、そのまま乗る。

器用にバランスを取りながら、大道芸人は周りの客に向かって言った。

「あっとその前に…。一人、俺の助手として手伝ってくれねぇかな……。え〜と、そうだな……」

大道芸人は黒い手袋をはめた手で、客席の中から一人指さす。

「よし、アンタに決めた」

「えっ…?私?」

吹寄だった。

「おっ!?おっとおっと〜?仲良くお手手を繋いでまぁ〜あ?彼氏さんと逢引中だったかぁ〜?」

「なっ…?違っ…!」

大道芸人はヒューヒューと茶化す。

「そんな謙遜しなくてもいいのいいの!…んじゃ彼氏さん、彼女さんを一、二分だけお借りしますね」

「ああ、別にいいですけど…」

「な、上条!……うぁ!?」

「それじゃ、早速お手伝いをさせてあげようかな!キャハ、キャハキャハ!!」

大道芸人は変な笑い声を発しながら吹寄の手を掴んで、中央まで引っ張った。……無論、二輪車に乗ったまま。


「はいお嬢さん、そこの地面に落ちてある箱の中に入ってある玉を俺に向かって投げてくれないか?」

と、大道芸人は吹寄は箱の中の野球ボールを五つ拾った。…因みにその箱の中に入ってあるのは玉だけではなく、バットにグローブが入ってあった。

(野球でもするつもりなのか…?)

「さてお嬢さん、その玉を早く投げて?……出来るだけ顔に向かって」

「あ、はい。わかりました…」

吹寄は大道芸人の要求通りに顔に向かって、ヒョイと軽く投げる。すると…。

「パクンッ………ゴックン……」

「」

喰った。……ボールを喰った。吹寄は唖然とする。

大道芸人は右手でクイクイッと吹寄に次のボールを投げるよう指示する。

吹寄は唖然としながらその指示に従って、ボールを投げる。

ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。


吹寄は全てのボールを投げ終えた。そして、大道芸人はその全てのボールを食べた。

「さぁて、お次だ。…お嬢ちゃん、そこの箱から何枚か硬貨が入っているはずだ。それを取ってくれ」

吹寄はコインを箱の中から取り出す。一円玉、五円玉、百円玉、五百円玉、そして何故か、一セント硬貨

「じゃあまたなんだけど、例に倣って投げてくれなぇか」

ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……ヒョイ…パクッ…ゴックン……ヒョイ…パクッ…ゴックン。……。

「っと…これで全部だ…。ああもういいよお嬢ちゃん。これでお役御免だ、ありがとな」

「あ…はぁ…」

「さて、さてさてさてさてぇ…。って、あららら…みなさんビックリ仰天しているねぇ…。いやこれがそれを通り越してドン引きっていうのかなぁ?……まぁいい、さて先程お嬢ちゃんが投げて、俺が食った硬貨は、一円玉、十円玉、百円玉、五百円玉、そして一セント硬貨……あってるよな?お嬢ちゃん」

吹寄は頷く。

「さて、じゃあ彼氏さん、好きな硬貨を言ってくれ」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/14(木) 23:38:35.87 ID:E2ENcJQN0
「え?俺?」

上条は自分を指さす。

「そう」

「んじゃ…。百円玉」

「よし来た………おぇっ」

と、大道芸人は口から何かを吐き出した。

「………これであってるか?」

そのコインの表に描かれてあったのは……桜の絵。

「あってます…」

「どうだ…すげぇだろ?」

「ええ、すごいですけど……」

「でも?」

「ヨダレでベットベトで汚いです…」が

「……」


大道芸人は周りを見た。

「………」「…………」「………」

しーん


どうやら、ここの住人はキレイ好きのようだ。

そう、大道芸人は思った。


と、その時。後ろから警笛の、甲高い音が聞こえた。

「コラァアア!!何をやっているじゃん!!」

周りにいる客を含め、大道芸人はその声の方を向いた。

「そこの忍者もどき!ここでの大道芸は条例で禁止されてるじゃん!!」

「げ!警備員だ!!逃げろ!!」

客の誰かが言った。それが合図になったのか、周りを囲んでいた客たちがバラバラになって逃げて行った。

「あ、ちょいと待つじゃん!!」

警備員が慌てて彼らを止めようとするも、もう遅い。殆どがもう消えていた。

「ほら、吹寄も!」

上条は吹寄の手を掴み、その場から逃げだそうとする…が。

「はいちょっと待つじゃんよ」

警備員に襟首を掴まれた。

「げっ!?」

「逃げようとしても無駄じゃん……って、お前ら月詠先生のとこの…」

「あっ、隣のクラスの黄泉川先生!!」

吹寄は警備員の名を呼ぶ。

「げ…」

上条は頬を引きつかせる。そう言えば九月一日でお世話になったっけ…。あのお礼はまだだったような…。

「何してんじゃん!?男女の不純異性交遊には感心しないじゃん?」

「そ、そんなんじゃねーよ!」「そんなんじゃありません!!」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/15(金) 00:50:51.04 ID:MlcXksv80
「なんだ…」

「なんでそんなつまらなそうな顔すんだよ。教師だろアンタ」

「私はハッチャケタ奴らを片っ端からとっ捕まえて更生させるのが唯一の楽しみなんじゃん」

「うっわ質悪…」

「黄泉川先生。世間話もいいでしょうが、あの大道芸人の方はもうよろしいのですか?」

と吹寄は言った。

「あ、そうだ。あのベッタベタ芸人!!………あれ?」

大道芸人はすでに消えていた。

「気が付いたら消えていたじゃん」

と黄泉川。

「誰かが逃げようとしたときには、もういなかった。まるで煙の様にな……。なぁいったいなんだったじゃんよ」

「知らねーよ。ただわかっているのは、特技は人間ポンプだってことだよ」

「それとそれが物凄く滑っていたことです」

「はぁ…そうか。まぁいい、たまにあるんだよ。この街の学生に芸を見せたり占いとかをやっている輩が…」

黄泉川は一つ溜め息をつく。

「ああそうだ、二人に聴きたいことがある。……この写真を見てくれ…」

黄泉川がポケットから取り出した一枚の写真…。それを二人に見せる。

「先日、この街に侵入してきた男なんだが…」

「」

上条は、その男の写真を見て凍りつく。

「なんですか?この人…顔とか体中に傷がいっぱいついていて、しかも背が大きい。髪が黒くて長くて、来ている服が着物って…」

その男…鑢七花だ。

「………」

「どうした上条当麻、急に黙って」

「いや、なんでもない……」

「?」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




それから、二人は黄泉川にあの大道芸人の特徴などを聞かされて、三十分ほど時間をつぶしてしまった。

そして今…。


「走れ上条当麻!!」

「だから耳を引っ張るな!!イダダダダダダ!!」

「じゃあ腕!」

「ぎゃぁぁあ!!腕がもげる!!」

文字通り引っ張りまわされていた。

「早くしないと店の席が埋まってしまうぞ!!」

「じゃあなんで道草喰った!?」

二人は全力疾走で街を駆け抜ける。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/15(金) 02:51:31.52 ID:MlcXksv80
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方御坂美琴は…。

「ここらへんよね…」

片手に券を握り、何とか道に迷わずに中華料理屋へと向かう。

「……何あれ…?」

美琴は公園の人だかりを見る。

「そう言えばここって、なんかの集まりって禁止だったわよね…?………まぁいいか、関係ないし」

美琴は人だかりを無視し、足を進める。

「…ん?」

と前に一人、知人を見かける。

「あ、黄泉川先生…」

「おお、御坂じゃん」

黄泉川はどうやら街をパトロールしていたようだ。

「どうしたじゃん御坂、こんなところで」

「はい、これです。この券の中華料理のお店に行こうと思っているんです。……あ、ちょうどよかった。このお店の道順を知りませんか?」

「ああ、この道をまっすぐ行ったらすぐじゃん」

「そうですか、ありがとうございます」

「ところで…、あの公園でなにかあるのか?そう言った報告はないのだが…」

「ああ、何か集まり見たいなものをしてましたよ。良くわからないけど…」

「おっ、そりゃ条例違反じゃん。んじゃ早速行ってくるじゃん!」

「…なんでそんなに嬉しそうなんですか?」

「そりゃお前、違法をこっそり犯している輩の邪魔をするのはメッチャ楽しいじゃんよ」

「うっわ質悪…」

「何か言ったじゃん?」

「いーえなにも…。じゃあ私はこれで」

「おう、じゃあまた何かあったらよろしくじゃんよ!」

そう言って、黄泉川は走って去っていった。



数分後、黄泉川に教えられた通りに道を進んだ所に、中華料理屋があった。

美琴は早速店内に入る。

「……と、結構混んでるわね…」

店内はほぼ満席状態。

「いらっしゃいませー。御ひとり様ですかー?」

と、店員(アルバイトの様だ)がやって来た。

「あ、はい。……やっぱり満席ですか?」

「いいえ?一つだけ席が空いていますので、大丈夫です」

店員は優しくニッコリと笑う。

完璧と言いたいほどに接客態度が良い。

「ではこちらへどうぞ」

「あ、はいっ」

美琴は店員に連れられて、店内の奥の席…ちょうど四人座れるほどの広さの席に腰を落とした。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/15(金) 03:07:13.76 ID:MlcXksv80
「では、ご注文がお決まり次第、そちらのブザーでお呼びください」

そう言って、店員は去っていった。

「さーて、何にしようかな……」

美琴はテーブルの隅に置いてあるメニューを手に取る。

結構分厚い。ラーメンや麻婆豆腐から杏仁豆腐やマンゴープリンまで、なんでも揃っていた。しかも安い。パッと見、平均で600円前後。

「まぁ、お金がある私からすれば安いとか高いとか関係なんだけれどね」

もし、この台詞をあのツンツン頭の馬鹿が聞いたらどういうだろう。

きっと怒るだろうな。そして悲しい顔をして、自分の貧乏を呪うだろう。

「う〜ん、ちょっと迷うな…。どれもおいしそうなんだけれど…、全部中国語でメニューが書かれているからどんなメニューかわからない…」

と少しボヤいていると、先程の店員がやって来た。

「あの〜すいません…」

「はい」

「新しいお客様がやってきて来られたので…、相席でよろしいでしょうか…?」

どいうやら自分の席に相席をさせたいようだ。

美琴は快く承諾する。

「はい、別にいいですよ」

「ありがとうございます。…では」

また、店員は去っていった。

「相席って…初めてよね…?」

少し緊張する。もしもかっこいい人だったらいいのに…。

と店員が早くも相席の相手を連れてきた。

「どうも…相席で、すいません」

その相手が挨拶をしてきた。

「あ、はいこちらこそ…」

美琴は礼儀正しく応える、が。

「……………」

「……………………何してんだ御坂」

「アンタこそ何やってんのよ」

「上条、この子は誰なんだ?」


御坂美琴の目の前にいるのは……、上条当麻だった。


しかも女の人を連れて…。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/15(金) 03:07:53.28 ID:MlcXksv80
今夜はここまでです。

ありがとうございました。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 05:10:34.03 ID:SsKZXhnP0


で、さりげなく姫神さんも隣にいるわけですよね?
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga]:2011/07/15(金) 17:07:38.38 ID:mgO+Tfjy0
エンジョイしてるな〜蝙蝠。
まぁ他にやることもなさそうだけどw
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/07/26(火) 21:51:24.44 ID:YaCinNPt0
一、二週間って地味に長いな
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 13:03:41.19 ID:blMeVZz50
土御門と吹寄がDQNにしか見えない
友達にナイフ向けたり財布盗んだり弱み握って脅したり……
上条さん訴えたら勝てるレベルだぞ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/27(水) 20:01:05.25 ID:sLeMSURy0
どうもこんばんは。

お久しぶりです。>>1です。

今日もテストでした。科学と物理でした。

明日もテストです。教科は数学。明後日は化学。

土日は何とか書けそうですが、月曜は歴史のテストなので、日曜は短いかも。

んで、本格的に書けるようになるのは月曜からです。

もう少しで書けます。

ああ、長かった。


>>92、もし不快でありましたら、謝ります。

キャラ崩壊しててすいませんでした。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/30(土) 21:46:22.03 ID:zxvKFRRS0
こんばんは、ご無沙汰しております。>>1で御座います。

先日の予告より、少々遅くなってしまって申し訳ないです。

では、続きです。

大体十二時くらいまで書く予定です。

がんばって書きます。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/30(土) 22:19:25.53 ID:zxvKFRRS0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「佐天さん、お昼どうします?」

初春飾利はそう言った。

「え、お昼?」

初春の唐突な質問に佐天涙子はマヌケな返事をした。


ここは第七学区三九号線・木の葉通り。

休日である為か、十代の若者たちで賑わっている。

また火曜日から始まる大覇星祭の準備が行われており、のぼりや看板、バルーンなどで、その宣伝をしている。


「うーん、セブンスミストの中でもいいけど…。たまには違うとこでもいいかな…」

「…人鳥くんはどうする?」

「……この街の事は良くわからないので、どうでもいいです…」

「どうした?元気がないぞぉ!?」

「……気のせいです」

佐天と初春の二人に挟まれ、あたかもお姉さんと幼稚園か小学低学年の弟かのように、二人に手を繋がれている。

人鳥はその状況をあまりよろしくは思っていなかった。

ボクはそんなに子供じゃない!という人鳥くらいの男の子の気持ちだろう、とても嫌な顔をしている。


でも二人は手を放さない。

なぜなら手を放したら彼が迷子になるからだ。

だったら手を繋ぐのは一人で良いのでは?となるが、そこは妥協してほしいところ。


さて、佐天・初春・人鳥御一行は、第七学区三九号線・木の葉通り…通称ケンカ通りを歩いていた。

無論、生まれて13、4年の二人は不良の喧嘩などとは縁遠く、そんなのはルーキーズかドロップの世界だろうと思っている。

まぁ頭では実際にいるのだろうと理解しているとしても、いまいちピンとこない。

生まれも育ちも平和に過ごしてきた証拠だ。


「あ、そうそう!」

初春は肩に下げているバックから何か、紙を取り出した。

「実は最近、ここの近くに新しい本格中華料理屋さんが出来たらしいです。本格ですよ本格!!」

「へ〜、どんなの?」

「え〜っとですね……?」


読者の皆さんに説明するのは三回目なので、説明を省く。

決して書くのが面倒くさいとか、今日一日パソコンの前にいて目が痛いから早く終わらしたいから、テキトーでいいや〜とか、どういう事ではない。

決してない。


要するに初春が指しているのは、今、上条と吹寄と美琴が鉢合わせしている中華料理屋なのである。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/30(土) 22:40:57.54 ID:zxvKFRRS0
「おお、なるほど。それは興味がありますな〜」

佐天が顎に手を付けて頷く。

「ちゅうか?」

「あれ?人鳥くん、中華料理しらないの?」

「……中華…っていったら、大陸の?」

「…大陸…って言うか、中国だね。中国の料理だよ」

と初春は、生きていて(人生はとうに終わったが)一口も『中華料理』とやらを食べていない人鳥に説明した。

「で、ここのお店がとっても安くて美味しいらしいんですよ!!」

「ここなら、こっからすぐ近くだからイイね。行こうよ!」

「そうと決まれば、いざ鎌倉へ!」

「初春、鎌倉じゃないよ」

「いや、佐天さん…諺です…」

「え…、そうなの…」



柵川中学コンビが、つまらん漫才を繰り広げている時、人鳥は思った。

一体いつまでこのままなのだろう…と。

あと、後ろからの痛い視線(熱い視線)がビンビンくるから、早くここから脱したい。

と…。


真庭忍軍十二棟梁が一人、真庭人鳥の受難は続くのだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さて、その頃。

佐天・初春・人鳥御一行が足を進めている先の例のお店では…。


「ねぇ、あんた。…これはどういう状況?」

「答えなさい、上条当麻。…この子はお前の知り合いか?」


不幸の化身 上条当麻は、まさに今、修羅場というものを体験していた。


鬼だ。鬼が見える。


自分の隣に一人。

テーブルに一人。


二人とも、自分を鬼の形相で見ている。



……というのは幻覚で。


傍から見ると、二人ともニコニコしている。とても円滑だ。

しかし、それは“傍から見れば”の話だ。

この状況の中心にいて、しかも二人の恐ろしさを十二分に体で覚えている自分にとってすれば、

二人の顔がいかに弥勒菩薩か聖人キリストか聖母マリアの様な笑顔でいても、

超能力どころか霊感もない上条でも、二人からドス黒いオーラが滝の如く溢れ出てくるのがわかった。

どうやら江原さんの様な徳の高い人にでもなったのだろうか、自分は。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/30(土) 23:19:55.37 ID:zxvKFRRS0
「上条、質問に答えろ」

上条は「はひぃ!」と男のくせに女の様な悲鳴を上げる。

「そうよ。あんたねぇ、いったい何をしているの?」

「……あの…」

美琴は席から立ち、吹寄は上条の腕を掴んだ。

二人はズイズイズイズイと上条との距離を詰める。

「さぁ…」

「さぁ…」

「さぁ…!」

「さぁ…!」

「だぁぁぁ!!チキショウ!!」

上条は二人の肩を掴み、強引に席に押し込む。

「わかった!わかったから!!一から十まで、なんなら百も千までも説明してやるから。今は黙ってくれ!!周りの迷惑だ!!」


因みにこの席は六人掛けのテーブル。

吹寄と美琴は隣同志。美琴が窓側。

上条はその向かい。

これなら美琴の電撃にもすぐに対応できるし、吹寄の頭突きもそうはできまい。

上条当麻、史上最大の奇策!!と、どこかのちびっ子奇策士の如く言ってみても、ただの席の場所だし、元ネタの彼女の奇策とやらは何か信用できないような…。

まぁ今はどうでもいい。


「と、とにかくメニューを決めようぜ?俺はもう腹が減って背中と腹がくっつきそうだ!」

上条はテーブルの窓側の隅に置いてあるメニューを手に取る。

「その前に、この人は誰なの?」

「ああ、そうだな。すまんな美琴。まずは紹介からな。すまんすまん」

上条はメニューを置いて、改めて…。

「御坂、コイツは俺の高校のクラスメートの吹寄制理だ。いつもよくしてもらっているし、クラス委員もしてて、大覇星祭の実行委員もしてる」

「…どうも…」

と、御坂は一礼。どうやら年上とは思わなかったらしい。流石の常盤台のお嬢様でも、目上の人への礼儀をわきまえている。

「んで、吹寄、コイツは俺も友達の御坂美琴」

「どうもよろしくね」

と吹寄は美琴に挨拶した。良かった、どうやら穏便に事が進みそうだ。

…しかし、美琴は気に食わない顔をした。

「……だけ…?」

「え?」

「私の紹介…それだけ?」

「…と、いいますと?」

「あんたねぇ!吹寄さんの紹介の時は後ろにコメント的なモンがくっ付いてたでしょうが!なんで私の時だけ皆無!?ノーコメント!?私には何もないのか!?私は砂糖の入っていないプルーンヨーグルトか!!」

「ああスマン!!でもな!?、あれだ!!俺達には事情があるんだよ、事情が!!」

そうだ、美琴の肩書は『学園都市に七人しかいない超能力者』『天才』『常盤台中学のエース』『超電磁砲』『ビリビリ中学生』

いずれも無能力者の吹寄からしたら『嫌味』にしか聞こえない。

だから上条は吹寄に、美琴の事をあまり知ってほしくないのだ。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/31(日) 01:22:20.68 ID:vh/uzftR0
「なによ事情って!?なんなのよ!?」

「それはだな…えっと…」

上条は困り果てた。どうしよう、どうやってこの状況を打破すればいいのか。


「御坂美琴」


「?」「!?」

と吹寄がいきなり口を出した。

「学園都市に七人しかいない超能力者の一人で、順位は三位。でも、もともとは低能力者で、努力のみで超能力者に上り詰めた。

能力名は『超電磁砲』。最大出力10億Vまでの放電が可能。……まぁこんなものね」

「私の事知ってるの?」

美琴は心底驚いている。

「知ってるも何も、こっちのクラスの担任の先生が授業中に沢山言っていたし、それに常盤台の制服を着ている『御坂美琴さん』はこの世に一人しかいないし」

そう言えば小萌先生が『このように、努力したら必ず強度も上がります!!そしたら……』と口を酸っぱくして言っていたような…。

と、ちょうどその時、店員がお冷を持ってきた。やはり混んでいるのか、持ってくるのが遅い。

吹寄はテーブルに置かれたお冷を手に取り、一口飲む。

「無能力者の私に気遣ってくれているのは有難いけど、私はそんなに子供じゃないわよ。そんなくらいで嫉妬しないわよ。上条当麻」

「……」

「……」

ついこないだ、無能力者の自分が嫌だと言ってたくせに…。と上条は心の中で静かにツッコむ。

「…っと、さて。自己紹介も済んだし、メニュー頼もうか」

上条はテーブルの上のメニューを手に取り、一つを二人に手渡す。

「ああ、ありがとう」

上条からメニューを受け取ったのは美琴だった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――


すいません、眠いんで落ちます。

明日も書くと思います。

ではまた。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 02:19:39.96 ID:pMfS2joIO
荵吶シ
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/01(月) 22:40:01.97 ID:fOBK1aRj0
こんばんは、>>1です。

やっと>>100に来ました。長かったです。

コメが以前よりも少なかったせいか、>>1の更新の進度の亀の如き遅さのせいかは置いといて、やっと>>100です。ああ、長かった。

まぁそんな事はどうでもいい話で、今夜もやっていきます。がんばって書いて行きますんで、どうぞよろしく。


さて、新約禁書の新巻が八月十日に発売です。超楽しみです。

あと、ステイル外伝も同日発売ということらしいので、余計に楽しみです。


では、ステイルはまだ出て来てないけど、美琴×吹寄(×結標)の修羅場の、はじまりはじまり〜♪



ああ、あと、恥ずかしい事を訊きますが、>>99さん、『荵吶・』って、どういう意味ですか?
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/01(月) 23:35:57.68 ID:fOBK1aRj0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さ〜て、何にしようかな〜♪」

美琴はメニューを見てそう呟いた。

「……」

横から奪われた風にメニューを取られた吹寄は、少し眉をヒクッと上げさせたが、ここは我慢した。

そんな彼女の事はつゆ知らず、上条は安堵した。

(はぁ〜、やっと円滑に事が進められる…)

実は上条は二人が出会った瞬間、嫌な予感に駆られた。

なぜなら二人からはドス黒いオーラが爛れ出てきたからだ。

しかし今はそんな影は欠片もない。

ひとまず、山を一つ越えた。………予想はしていなかったけど。

「さて、俺もなに頼もうか…」

上条は早速とメニューを開いた。

「中華か…そう言えばあまり食ったことないな〜」

といっても記憶消失の上条にとって、これが初めてなのだが、それは今はタブーだ。

「なに〜?あまりにも貧乏すぎて、外食にも行けないの〜?」

と美琴。

「あまり茶化すなよ。ウチの家計はな、外食ばっかしてっといつかは破綻すんだよ」

「じゃあなんで今日は外食?」

「色々とあるんだよ、色々と。それのせいで今日は吹寄の分まで支払う目に会っちまった…」

「自業自得だ」

と吹寄が言う。

「はぁ〜ん。まぁ“事情”とやらは知らないけど、お金に困っているようね〜」

「まぁそうなるな…」

「そうゲンナリしなさんなって!」

美琴は項垂れる上条の肩をバシバシと叩く。

「あ、そうだ!!」

と、美琴はポケットからある物を取り出した。そうやら紙の様だ。

「これな〜んだ?」

「…?……紙?……いや、商品券?どこのだ?…………ここのじゃねーか!!」

「大正解!」

「……」

「で、どうしたい?」

「………ください…」

「聞こえない」

「ください!!」

「よし、なら条件があるわ」

美琴は腕組みをして笑う。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 00:40:01.05 ID:OUSV4eVr0
「それ、どうしての?」

と吹寄が訊く。

「後輩から貰ったんです」

「後輩って…白井から?」

「そう。で、条件なんだけど……」

ぞくっと上条の背中に悪寒が襲う。

一体、この中学生はどんな事を言い出すのだろうか。


「今度、私に奢りなさい」――――――絶対、普通のイチ学生の上条さんには払えない額の物を頼む事が予想される。

「私の為に働きなさい」―――――――どこのドラマのセリフだよ!とツッコミたくなるが、もしかしたら言うかもしれない。

………とか、色々と考えられるが、そんなことは一部のマニアしか喜ばない訳で、健全な高校生である上条さんは全く興味がありませんことよ!?


そして、美琴が口を開いた。


「…………今度の大覇星祭、私と勝負しましょ!!」


「………は?」

「だから、今度の大覇星祭で、私とあんた、勝負しましょと言ってるの!」

「……いや無理だろ。大体、俺は高校生、お前は中学生。学校も違えば競技も違うし」

「じゃーこうしましょう。私の学校と、あんたの学校、どっちが高得点とれるか」

「はぁ!?んなモン出来る訳ねーだろーが!!こっちは無能力者バッカの無能高校!!そっちは強能力者以上しか入学できねぇ超エリート校!!勝てるわけねぇーだろーが!!巨人の一軍と横浜の二軍並の戦力差だぞ!?」

「大丈夫!大丈夫!!いける!いける!!」

「いけねぇよ!!ボロ負けだよ!一軍でもボロ負けなのに二軍とやったら余計ボロボロだわ!!」

美琴は「あはははっ」と笑うと、


「いや、いけるかもしれない」


と、吹寄が口を挟んだ。

ってか何言ってくれてるんですか、吹寄さん。

「否!勝ってやる!!」

吹寄は立ち上がり、右手を握りしめる。

「私達の様な弱小校が、超エリートで名を馳せる常盤台中学に勝ちに行く…。なんというドラマチックな展開!!燃えて来たぞ上条当麻!!」

いや、勝手に盛り上がらないで下さいよ吹寄さん。

「御坂さん!!私達は全力を尽くして!!あなた達、常盤台中学を倒しに行きます!!」

吹寄は御坂の手を握りしめた。………つーかお前そんなキャラじゃないだろう。…いやもう遅いか、前スレから原作のキャラから逸脱していらっしゃる。

「ええ、こちらも全力で迎え撃ちます!!」

おい、なに手を握り返してんの御坂さん!?面白くないんだよ!!なに!?正々堂々戦いましょう的な空気は!?

「「で、上条(あんた)はどうするの?」」

急にハモるな、ここは合唱部じゃねーんだよ。おかしいな、腹立ってきた。

「……お前ら…俺の事も考えてくれよな…」

「え〜?ほら、ここにある商品券が欲しくないの〜?」

金で釣ってくるのが余計に腹立つ。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 01:33:30.66 ID:OUSV4eVr0



「あれ!?何しているんですか?上条ちゃん!!」



と、急に横からやけに甘ったるい舌足らずな声が聞こえた。

この声には聴き覚えがある。というより、この声を喉から発する人間は一人しか知らない。

「小萌先生?」

「と私、姫神秋紗」

上条と吹寄の担任、月詠小萌とクラスメイトの姫神秋紗だ。

「あれ?なんでお前らがいるじゃん?」

と、もう一人……、えーと誰だっけ?

「黄泉川先生?」

と吹寄。そうだ、黄泉川先生だ。隣のクラスの担任で、以前に色々とお世話になった。

「…つーか吹寄と御坂…お前らなにやっているじゃん?」





「と、いう訳です!!」

「いい案だと思いませんか?」

吹寄と美琴は、先程の話を熱血教師二人に説明していた。

「…いいですね!ナイスアイディアです!!」

「これは燃えてきたじゃん!!」

「…私は別にどうでもいい…」

これはなかなかの好感触だ。………上条にとっては不幸な事にだが。

「ですよね!」

「これなら両校との交流ができるし、ウチの学校の生徒にはいい刺激になるじゃん!」

といや、むしろ自信なくして逆効果だと思いますが、黄泉川先生?

「常盤台とすれば、一般的な高校との交流で一般常識が学べるいい機会になると思います!」

御坂さん、大覇星祭当日では我々無能力者に向かって火の玉とか空気砲とかドドン波とか撃ってくる集団に、どう一般常識を教えればよろしいのですか?………あ、高校と中学は当たらないからいいか。

「なんなら、共同で球技大会とかどうです?」

余計な事を言ってくれるなよ小萌先生!
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 02:12:07.99 ID:OUSV4eVr0
「おお、いいですね」

「なかなかのアイディアじゃん!!」

「やりましょうよ!」

「…どっちにしろ、空気である私には関係ない」

あれ?俺抜きで話が決まっているような…。

「じゃあそういう事で!」

「ええ、じゃあ私から常盤台の校長に言っておきます」

「ありがとじゃん、御坂」

「空気と同化している私には関係ない…」

あ、あの…。今のワタクシ、上条当麻は姫神さんよりも空気と同化しているんですけど!?シンクロ率400%なんですけど!?

「あ、注文した料理がもう来ましたよ?」

「おお、美味しそうじゃん!」

「青椒肉絲の人ー?」

「あ、私です!」

「……私は麻婆豆腐…」

いつの間に注文したんだお前ら!?おい!!上条さんまだ注文どころかメニューもロクに見てねーんだぞ!?

つーかさっきから…ていうか昨日から俺の扱い酷くねぇーか!?お前ら俺に何か恨みでもあんのか!?

これじゃあ完全に地の文扱いじゃねーか!!天の声じゃねぇーか!!俺は若本規夫じゃねーんだよ!俺は!!

「おいしい!!」

「これでたったの450円か…安いじゃん」

「確かにこの味でこの値段は安いですね!」

「……おいしい」


こうして、上条ら六人は満足した形に昼食を終えた。


「……ちょっと待てぇい!!」

「どうした上条、折角人が話しているときに」

「どうしたんですか?上条ちゃん」

「え…!?あれ…!?……さっき、みんな勝手に俺抜きで飯食ってなかった?」

「?……なにを言ってんのあんたは」

「またお前は寝ぼけてたのね?」

「……だったと思う…。つーかそうであって良かった」

上条は深い溜息をつき、頭を抱えた。

「あ〜、良かった…」

とそんな上条に吹寄が問いかけた。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 02:41:17.61 ID:OUSV4eVr0

「で、今回の話なんだが、呑むのか?呑まないのか?」

「うっ!?」

「そうです。上条ちゃんが話の発端ですから、上条ちゃんが呑まないと話が進みません」

「月詠先生、良く行った!」

「あとはあんた次第なのよ!?」

「…別に空気ネタの私には何の役には立たないけど…」

「………くっ…」

上条を除く女子五人は一決したらしく、というよりどうしてもやりたいというのが顔に出ている。

美琴に関しては、ニヤニヤしながら商品券をちらつかせているのが腹立たしい。


「……ええい!!わかった!!やってやる!!やりゃあいいんだろコンチクショウ!!」


「よ〜し、そうと決まれば早速食べるじゃん!!今日は奢りだからたんと喰え!!」

「あ、黄泉川先生。良かったらこれ使ってください。ここの商品券1000円分が3枚あります」

「ああ、いいじゃん。これはまた来るときに取っとくべきじゃん」

「………じゃあ俺は何の為にあの条件を呑んだんだ?」

上条の密かな呟きには、誰も気づかなかった。

いや、横にいた姫神は上条の肩を優しく、ポンポンと叩いてくれた。

「………うぅ…」

他の四人は何もなかったかのように、メニューを注文してゆく。

「あ、私、青椒肉絲ください」

「私は回鍋肉でいいじゃん?」

「じゃあ私は…月詠先生、これって何て読むんですか?」

「乾焼蝦仁(エビチリ)ですよ吹寄さん」

「じゃあそれで。先生は?」

「じゃあ八宝菜でお願いします」

「……私は麻婆豆腐…」

「御坂が青椒肉絲、私が回鍋肉、月詠先生が八宝菜で、吹寄がエビチリ、姫神が麻婆豆腐…。上条は何にする?」

「………ただのラーメンで…」

「よし、店員さーん!注文いいですかー!?」

「ちょっと黄泉川先生、注文はこっちのボタンをおして言うんですよ?」

「おっと、すまんすまん。居酒屋の雰囲気でやってしまった」

「黄泉川先生ったら〜」


はははははは………。



…………。なぜだろうか。確かに、幸運にも昼飯を奢るという罰ゲームは回避できた。

でも、なぜだろうか…。なぜ……こんなに敗北感がするのだろう…。

と、上条当麻はただ一人、心の中で打ちひしがれていた。

そんな彼の肩を姫神はまた、ポンポンと叩いた。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 02:44:07.12 ID:OUSV4eVr0
――――――――――――――――――――――――――――――――

遅いんで落ちます。

ギャグをやってみました。どうだったでしょうか、感想をお待ちしております。


……………いつになったら、あわきんは登場するのでしょう…?
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 02:58:00.29 ID:cD/CBSpu0

姫神ェ……

>>99はたぶん文字化けだと思いますよー
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 09:49:55.89 ID:FTQMTv4a0


そして鳳凰様と錆はいつ出るのか…。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 22:07:06.31 ID:OUSV4eVr0
こんばんは、今日も頑張っていきます。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 23:05:01.04 ID:OUSV4eVr0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…あれ?いっぱいだ…」

佐天涙子はそう呟いた。

「えぇ!?折角楽しみにしてたのに…」

「残念だったね。初春、人鳥ちゃん」

「ぼ、僕は、男です。ちち、ちゃん付けで、よ、呼ばないでください!」

「はは〜、反抗する顔も可愛い〜」


上条達がちょうどメニューを頼んでいる時、佐天・初春・人鳥御一行は、例の中華料理屋の扉の前にいた。

佐天が店内の様子を見て行き、店員に『ただいま満席ですので…』と言われてきた。

席が空くのを待つという手もあったが、今は午後一時半だ。

今でも腹の虫が鳴るのを抑えているのに精一杯の状態で、美味しそうな香りで充満する店内で待っているのは、食べ盛りの中学生には酷というものだろう。

しかも、待っている人数がハンパな数じゃない。

順番が着くころには餓死してしまうかもしれない。


「しょうがない、別の所へ行きますか」

「佐天さん、近くにいつものファミレスありますけど、そこに行きます?」

「うん。結局いつもと変わらないね〜」

「いえいえ、今日は人鳥くんがいらっしゃいますから、今日は特別ですよ〜!」

と初春は人鳥を抱え込む。

「わっ!?っちょっと…や、やめてください!!」

「ああ!初春ズルーイ!!私もモフモフしたーい!!」

「ああ、また…や、やめてくだ…さ…いぃぃ……」


こうして、まだまだ人鳥の受難は続くのであった。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/02(火) 23:23:44.96 ID:OUSV4eVr0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「で、御坂と吹寄と上条はどうして一緒にいるじゃん?」

「へ?」

回鍋肉を箸で突く黄泉川の質問に、青椒肉絲を口に持って行った美琴が反応した。


上条以外のメンバーの手には白米が盛られた茶碗が握られていた。ないしテーブルに置かれていた。

白米が無い状態で脂っこい物を食べるなんて、いささかシンドイものだと思い、黄泉川が全員分を注文した。

無論上条以外だが。


「だって、フツー考えられない組み合わせじゃん。優等生の吹寄と学園都市第三位の御坂、それと落ちこぼれの上条なんて…」

「黄泉川先生、上条ちゃんをそんな風に言わないでください」

と黄泉川を小萌が注意する。

黄泉川は「すいません、先生」と軽く謝る。つーか俺に謝れよ、と上条はツッコんだ。

「で、どうなんだ?御坂。もしかしてデートじゃんか、んん?」

「ちょっと、なんでそうなるんですか!?た、ただこのお店のこの席に座っていたところに、この二人が相席で座って来ただけです!」

「ははっ、そう照れるな御坂!!………つーか上条、吹寄…いつも間にそんな仲になったじゃん?」


黄泉川のその発言は、御坂と吹寄と姫神の眼の色を変えさせた。


「ちょっとあんた、まさか吹寄さんと付き合ってるなんて言わないよね!?」

「……それには少々…いや、大いに興味がある」

「いや…そんな訳が…」

「だったら何で今日一緒に仲良く一緒に来てたのよ!!……まるで……で、ででで、…デート…見たいだったじゃい!!」

美琴は余りにもテンパり過ぎて話している言葉が日本のものとは少し違う言語になってしまっている。

「……しかも吹寄、いつもとは違っておめかししている…」

「………ッ!?」

姫神の指摘を聴き、美琴は改めて吹寄の服装を見てみる。


(今時のファッションをしっかり押さえていて、尚且つ自分をキチンと表現している。『雑誌を見てそのままの服を着てみました〜』というのは全くない。……確かに結構オシャレしている。というよりパーフェクトじゃない!?)


(………しかも、いつも私と遊ぶ時はTシャツの上にパーカーして下はジーパンなのに…。それが今日は結構値打ちしそうな洋服を着ている…。今日の吹寄は本気かも…)


「……あの…お二方…、どうしたのでございますか…?」


日頃、学校の制服しか着ることが許されない女と、かつて巫女装束しか着ることしかできなかった女が、吹寄の恰好を見てすごい剣幕になっている。

とその時、当の本人が口を開いた。


「…何バカなことを言ってるんですか黄泉川先生もみんなも、冗談も大概にしてください」

「……じゃあその服は?」

「これは私の手作りよ。いちいち何千何万とする服に貴重な金をかける余裕が無いのよ」

「えっ!?本当に!?スゴイッ、どうやって作ったの?」

と美琴が詰め寄る。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/03(水) 00:47:26.63 ID:zwwhbfm/0
「簡単よ、雑誌にあった服の参考にして作っていくだけだから」

「良かったら教えてください!!」

「ええいいわよ、じゃあメールアドレス交換しましょ?また今度機会があったらまた会いましょ?」

と吹寄と美琴はそれぞれ携帯電話を取り出し、メルアドを交換する。


「なぁ〜んだ、つまらないじゃん」

「黄泉川先生、生徒の不純異性交遊を肯定していいんですか?」

「だって月詠先生、ウチのクラスのガキ共みんなみんなクソマジメな奴ばっかだから、そんなオモシロイコトをほっとけないじゃん?」

「いいんかい、教師がそれで。PTAが喧嘩しに行くぞ」

と、上条がツッコむ。

「まぁ実際にそんな奴がいたら、いいタイミングで捕まえて、ムードをぶち壊すのが一番の目的なんだけど」

「タチ悪ぃーな!!」


「そう言えば黄泉川先生、警備員のお仕事どうしたんですか?さっきまでお仕事してたじゃないですか」

と、美琴が黄泉川に訊く。

「ああ、今は昼休憩じゃん。ちょうどこの店の手前で月詠先生と姫神にバッタリ会って、ここで飯にしようって話になったじゃん。んで、偶然にも相席になったのが、お前ら三人だったってことじゃん」

なんという偶然かと美琴が心で思っていると。

「……っと、すっかり仕事を忘れていたじゃん、いけないいけない」

黄泉川が立ち上がる。

「私は先に出るじゃん、さっさと仕事場に行かないと上司に怒られるし。……では月詠先生、またあとで」

「はいです〜」

「お代はここに置いていくじゃん。月詠先生あとはお願いします」

「了解したのです〜」

「お前ら、帰る時は真っ直ぐに気を付けて帰るじゃんよ。それじゃあまた学校でな〜」

と、黄泉川は去っていった。

「あれ?小萌先生、この後先生たちでなにか用事あるんですか?」

上条が訊いた。

「はい。夜に先生たちで大覇星祭の無事を祈って、宴会です!!」

「どうして大人って奴は…」

これでもイチ教師ですかと上条は呆れた。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/03(水) 02:02:04.02 ID:zwwhbfm/0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「御馳走様でした〜」

店内から小萌先生が出てきた。

「先生、今日はありがとうございました」

と吹寄が礼を言った。

「いえいえ、生徒の面倒を見るのが教師としての義務ですから」

と小萌先生は胸を張る。

「さて、私と姫神ちゃんは帰りますが、みなさんはどうします?」

「ああそうだった。俺たちはどうする?吹寄」

「今日も目的はもう達成したからな、もう解散で良いんじゃないのか?」

「だな。…っと、今日はタマゴの特売日だったな、さっさと行かなくちゃな」

「あ、じゃあ私も一緒に行く。ちょうどタマゴ切れたんだった」

と吹寄。

「そうか…。御坂はどうする?着いてくるか?」

「へっ!?…わ、私!?……わ、私はどっちでもいいわよ?」

「んじゃあ御坂も一緒に行くか」

と上条が吹寄と美琴を引き連れて、寮の近くのスーパーへ足を薦めようとしたその時…。




………ミツケタ…



ぞくっ!!

と、上条の背中に、今日一番の悪寒が襲った。

まるで背中に氷を大量にブチ込まれた様な感触だ。

「どうしたの上条当麻、ウロウロキョロキョロとして」

「いや、いきなり寒気が…」

「なに風邪?……ちょっと顔が青いわね」

と美琴が上条に前に出た。

「…なんだよ御坂」

「ちょっと屈んでオデコ貸しなさい」

と美琴は背伸びして、上条の額と自分の額をくっ付けた。

「―――……ッ!!?」

「ん〜、熱はないようね…」

「あの…御坂さん?」

「…( ゚д゚)ハッ!」

美琴はバッと上条から離れた。

目の前の上条と、後ろで吹寄が少し紅い顔をしているのに気が付いた。

「こ、これは、ち、ち、ちちちちちち、違う!!こ、これは…///」

美琴は否定の合図をするため高速で両手を振った。

「こ、これはぁぁぁぁ///!!」

ヤカンよろしく、顔を真っ赤にしていると…。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/03(水) 02:44:51.66 ID:zwwhbfm/0
バリバリッ!!と額から紫電が走った。

「…ちょ…御坂さん?オデコから電気が漏電していらっしゃるのですが?」

「う、うるさいわねぇ!!もとはと言えば!!あ、あんたが寒気がするとか言わなければよかったじゃない!!が、我慢しなさいよ我慢!!」

美琴は右手を上条に突き出し、叫ぶ!!

明らかに上条に向けて…いつもの如く電撃を食らわせるつもりだ。

「ちょいと!!それ不可抗力!!そして理不尽!!」


「ぅ、うるさぁぁぁぁぁぁい!!」


美琴はいつものように、(照れ隠しで)電撃を上条に食らわそうとした。

がしかし。



喉元に冷たい感触がいきなり現れた。



「…なっ!?」

あまりにも冷たく、そしていきなりのことだったので、美琴は思わず飛び跳ねる。

いや、飛び跳ねられない。

野生の勘が飛び跳ねていけないと、条件反射を羽交い絞めにした。

前を見ると上条と吹寄がビックリしたような顔をしていた。

一体、自分に何が起こっているんだ!?

美琴はそーっと視線を右下に移す。

「……ッ!?」

その目に映ったのは…。


「…こ、これは!」


それは、一本の刀。


美琴は知っている、この刀の名前を。


「『千刀 鎩』!!」


そして、美琴はもう一つ知っている、この刀の持ち主を。



「動くな」



後ろから声がする。若い女の声。


「結標…淡希…!」


美琴は前を向いたままその刀の持ち主の名を呼ぶ。

「あら、お久しぶりね。どう?足の方は」

「おかげ様でいい病院生活を送れたわ」

「どういたしまして♪」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/03(水) 03:13:36.48 ID:zwwhbfm/0

「ふふふふふ……」

「あはははは……」


「………」

上条は一瞬、戦慄が走り、二、三歩後ずさる。


なぜか?

二人の雰囲気に押されたからだ。

あまりにも重くて黒い。


「ねぇ、あの事件はとうの昔にカタがついたわよねぇ」

「ええそうよ御坂さん?」

「なのになんで、こんな物騒な物を持って来てしかも私の首元に当ててくるかな〜」

「それはあなたを心底、殺したいと思っているからよ?御坂さん♪」

「ほぉ〜。いつもならやれるもんならやって来いとか言っちゃうけど、特別に訊いてあげる。どうしてそんなことをするの?理由は?」

「あ〜♪自覚無いんだぁ〜♪殺したいわ〜♪心底その腹クソ立つ首をチョンパして犬の餌にしたわ〜♪」

「女の子がそんなはしたないこと言うもんじゃないわよ。で、理由は?」

「あんた、上条当麻くんに何しようとしたの?」

「なにって…、なんにも?」

「惚けっちゃってるんじゃないわよ、メス犬が。さっき高圧電流、上条くんにブチ当てようとしてたでしょ。お姉さん見てたわよ♪」

「なんであんたとあのバカが関係あるわけ?部外者はさっさと帰ってなさい」

「残念ね、ホントに残念。実は二日前に計画が失敗した私は危うくどこぞのマッドサイエンティストに実験動物にされそうになったのを、上条くんに助けてもらってたの。思いっきり部外者じゃないわね、ヤッタ♪」

「ほぉ〜へぇ〜。そうですかそうですか…、またあのバカは余計なことしてやがったのか…はは〜ん」

「という訳で…。あなたには私の命の恩人である上条くんに謝罪しなさいな。そして一生彼の目の前に出てくるな。近づくな、半径50km圏内!!」

「なんでそんなことになんのよ!?意味わかんない!!あんた頭のネジ吹っ飛んでんじゃない!?」

「生身の人間に高圧電流流す人間兵器様には言われたくはないわねぇ!!」

「そっちは日本刀千本飛ばして来たくせにナニほざいてんのよ!!」

「うるさいわね!!じゃあ何?私達同じ穴の貉ってこと!?ふざけてんじゃないわよ!!この異常者!!」

「異常者はそっちよ!!このサラシグルグル露出狂女!!」

「なんですってぇ!?このビリビリチビッ子まな板娘!!」

「こんのぉぉ!!やんのかゴラァ!!」

「ああやってやるわよ、その汚い顔にもう一度泥を塗ってあげる。良かったわねぇ、泥パックよ?お顔が奇麗になるじゃない!!」

「……ッッ!!…………黙ってないで、なんか言いなさいよこのバカ!!!」

「あら、口喧嘩に負けたからって上条くんにすがるの?かっこ悪いわねぇ第三位!!……ねぇ?上条くん?」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/03(水) 03:28:13.89 ID:zwwhbfm/0
と、二人は上条の方へ向く。

……しかし、


「………あれ?」

「………いない?」


上条の姿がない。

次いでに吹寄もいない。


「おかしいわね…確かにそこにいたのに…」

と美琴が呟くと、結標は美琴に怒鳴った。

「あなたが怒鳴るから上条くん逃げちゃったじゃい!!」

「はぁ!?何言ってくれてんのよキチガイ!!あんたも思いっきり怒鳴ってたじゃい!!」

「あなたよりもマシよ!!電気ウナギは大人しくアマゾンにでも帰ればいいじゃない!?」

「なんですってぇ!?」

美琴がいい加減に切れて、結標の方へ振り向いた。

「言わせておけば、いけしゃしゃあとペラペラと!!真っ黒焦げにするわよ!!」

美琴は結標のブレザーの胸倉を掴んだ。

「やれるものならやって見なさいよ!!この木偶の坊!!」

結標も御坂の胸倉を掴む。



そして、二人は戦闘…もとい喧嘩を始めた。それも子供の様な理由の。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


さて、一方消えた上条と吹寄は……。

「ぜぃ…ぜぃ…ぜぃ…」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

美琴と結標のいる所から数キロ離れた公園に来ていた。…もとい逃げてきた。

「もうだめ…走れない…」

「一体何キロ走ったの…?」

「わかんねぇよ……。とにかく、あの二人が本気の戦闘を始めたら俺はともかく、吹寄が危ない」

「上条…///」

「とにかく、ここでいったんキューケイ…!……だぁ疲れた」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日は遅いんで、ここで終わりです。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 00:54:10.64 ID:3LqjYDyIO
あ、帰ってきてる
乙です
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga  ]:2011/08/05(金) 09:19:52.79 ID:jhB2Uhg20
おいおいまた刀の毒にやられてんのか〜w
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/05(金) 23:03:22.11 ID:QdfrI2V20
すいません、今日はもうクタクタなので休みます。

>>118 一応『鎩』一本分の毒とヤンデレ成分による症状という設定です。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/05(金) 23:05:19.52 ID:QdfrI2V20
すいません、今日はもうクタクタなので休みます。

>>118 一応『鎩』一本分の毒とヤンデレ成分による症状という設定です。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:02:57.97 ID:MJYALLDH0
連投すいません。

さて、続きを書いていきます。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 00:43:23.34 ID:MJYALLDH0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そういえば、人鳥ちゃんってどこから来たんですか?」

初春はいつものファミレスで、向かいの席に座っていた真庭人鳥にそう聞いた。

「……ぼ、僕にそんなことを聞いて、ど、どうするんだ?」

「いや、大した意味はないんですよ?ただ、こんな子供が一人街を歩いているなんて風紀委員として見過ごすわけにはいきませんからね!」

と初春は胸を叩いて言った。

「じゃっじめんと?」

「この街の警備をする人達のことだよ。そんなこともわからないの?」

と人鳥の横(ちなみに人鳥は窓側である)に座ってスパッゲッティを食べている佐天に言われた。

ムッと人鳥は眉を顰めたが、ここは大人しく我慢しよう。

いちいち感情を表に出すのはいけない、一人の忍びとして。

「ちょっと佐天さん、失礼じゃないですか!」

と初春が佐天を叱った。

「いや〜ごめんね、人鳥ちゃん」

「あ、謝るのだったら、ちゃん付けで呼ばないでください」

「はいはい、人鳥くん」

くん付けも何だかこしょがしい。

今と思えば真庭忍軍の者達は皆、自分の事を『人鳥』と呼び捨てにして読んでいたからだろう。

まぁ今としては関係ないか、そもそもあの懐かしい日々には戻れない。

なぜならあの者達はもう…。


「……人鳥くん?」

「…うわ!?」

人鳥は悲鳴を上げる。

なぜなら佐天の顔がものすごく近くにいたからだ。

「どうしたの?いきなりボーッとして」

「い、いや、な、なんでもない……」

人鳥は数回恥ずかしそうに咳払いをする。

「ま、まぁ、くん付けは正直嫌だけど、ち、ちゃん付けよりは、マ、マシだから。いいとしましょう」

「やった!よろしくね!人鳥くん!!」

「だから引っ付かないで!!」

人鳥は相変わらずしつこく引っ付いてくる佐天を手で押し返す。

と初春はスクッと立ち上がった。

「どうしたの初春?」

「すいません、電話です。すぐ戻りますので…」

と、ヴヴヴヴ…と細かく震える携帯電話を持って、初春は席を立って行った。

「…………どうしたんだろ…初春」

佐天は初春が去って行った所(お手洗いのようだ)を見つめた。

「……」

人鳥はこの絶好の機会を見逃さんと、佐天の魔の手からコッソリ逃げようとした。

「…なっ!?」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/08(月) 01:19:18.33 ID:X14otFgAO
いつになれば七花でんの
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 01:50:38.53 ID:MJYALLDH0
よし、成功だ。

人鳥はテーブルの下を潜り、走って逃げた。

「ま、ちょっ……待てぇ!」

待てだって?冗談じゃない。早くここから逃げ出して、鳳凰様に会わなければ。

人鳥はファミレスの開いた自動ドアから脱兎の如く逃げる。

「すいません佐天さん、また白井さんが入院したって……うわっ!?どうしたんですか!?」

「初春も捕まえて!」

「へ?」

「逃げたの!」

「えぇ!?だって、あの子まだこの街のこと全く知らないのに!?危ないですよ!?」

「そうよ!なんて言ったって私はまだ、モフモフしたりないんだから!!」

「いやそっちですかっ!!」

佐天と初春は走って逃げた人鳥を追いかける。

「あっ!お客様!お会計!!」

「あっ!」

初春は店員に手をつかまれた。

「〜〜っ!佐天さん!お会計は私が払うので、先に行っててください!!」

「わかった!!」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 01:51:34.53 ID:MJYALLDH0
佐天は先程人鳥が通ったドアを通り、あたりを見渡す。

あの小さな子供だ、まだ近くにいる筈。

と、左手の歩道にチョコチョコと走る小さな影があった。

「……見つけたっ!!………って、おいっ!!」

しかし、人鳥が走っていく先を見て、佐天はギョッとした。

人鳥が向かっているのは、横断歩道。

しかも信号は赤。

もちろん信号の存在を知らない人鳥は信号が赤だろうが青だろうが、その横断歩道を渡ってしまうだろう。


なんせ先程のファミレスへ行くときなど、信号が赤になっているというのに彼は車道に右足を踏み出そうとしていたのだ。

その時はとっさに止めが、やはりあの時ちゃんと注意しとくべきだった。


そんな佐天の気も知らず、人鳥は赤信号の横断歩道に第一歩を踏み出した。

佐天は背中に嫌な気を覚え、とっさに人鳥の方へ走った。

「待って!!人鳥くん!!」

「!?」

人鳥は佐天の声に反応し、振り返る。

しかし彼がいるのは車道のど真ん中。

「…戻って!!」

と佐天は叫ぶ。ヤバい、何か嫌な予感がする。

と佐天がそう思っていた時、ププーッ!!と車のクラクションの音がした。


佐天の予感が当たった。

人鳥の横から、一台のトラックが走ってきた。

「…ッ!!」

佐天の顔が青ざめる。

このままでは、あの小さな少年が危ない!!

「ウォォォォォオオオオオオオオ!!!」

佐天は雄叫びと共に走った。

速く、速くあの子をたすけなければ!

彼女は横断歩道から飛び込み、彼の体を抱きかかえた。

そして、横からトラックが………。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 02:20:44.45 ID:MJYALLDH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そうだ、吹寄」

「なんだ上条」

上条当麻と吹寄制理はとある公園で休んでいた。

二人の片手にはそれぞれ缶ジュースが握られていた。

「大派星祭の準備はうまくいっているのか?」

「ああ、順調だ。あとは当日を迎えるだけね」

「なるほど。まぁ確かに、仕事がまだだったら今日は遊んでなよな」

「当たり前よ。ま、当日は楽しみにしてなさいよ、今年は史上最高の大派星祭だってみんな息巻いているんだから」

「へ〜、じゃあ楽しみだな」

「去年のお前なんて、毎日毎日怪我ばっかしてたからな。今年は気を付けなさいよ?」

「へいへい(っとは言っても、上条さんは記憶がないから知らないんですけどね)」


とそんな二人がいる公園の隅に一台のワゴン車が止まった。色は黒で、なかなか目立たない色だ。


「さて、もう休憩はいいでしょう。さっさと行かないと、タマゴが売り切れるわよ」

「おっとそうだった。じゃあ行きますか」

と二人は立ち上がり、上条は背伸びをする。

そのせいで、さっき飲んだジュースからの尿意が起こった。

「……っと、すまん吹寄、ちょっとトイレ…」

「しょうがないわね、さっさと行ってきなさい」

「ああ、すまねぇ」

上条は小走りで公園の中の公衆トイレへ駈け込んでいった。

「まったく、しょうがない奴ね……」

まぁ上条らしいと言ったららしいが…。


と吹寄が一人ごちていると、後ろから音がした。

ざっざっざっ…っと、足を忍ばしながら自分に近づく音…。

吹寄は何だろうと後ろを振り返る。

するとそこにいたのは……。



十何人の人が吹寄を見ていた。



いや、正確には男だ。

だが顔はマスクで覆われていて、表情が伺えない。

だが一つわかること、それは彼らは笑っている。

笑っている、ニヤニヤとクスクスとフフフフと、嫌な笑みを作っているに違いない。

勘が言っている。

ここから即刻逃げなければ危ない。

吹寄は彼らから逃げようと、振り返って走り出した。

がしかし、いきなり柔らかい壁にぶつかり、尻餅をついてしまった。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 02:40:04.41 ID:MJYALLDH0
なんなんだと見上げると、そこには大きな男がもう一人立っていた。

いや違う、彼の隣にも一人……いやまた違う、その彼の隣にももう一人……またその彼の隣にもまた一人……。

そう、吹寄の周りにグルリと一周するように、男たちが囲んでいた。

まるで今から、かごめかごめをしようとでも言うかのように。


「な、何あなた達……?」

吹寄は顔を青ざめながら男達に聞く。

「……………」

「……………」

「……………」

しかし男達は全く口を開かない。

その代り、ジリ…ジリ…ジリ…と吹寄との距離を詰めている。

「ちょっと…なんなのよあなた達!?」

吹寄は立ち上がり、前にいた男一人を思いっきり殴り飛ばした。

「!?」

「!!」

「?!」

男達がビックリして固まっている隙に、吹寄は脱兎の如く走り出した。

(なんなのよあの男達は?!気持ち悪いッたらありゃしない!!)

吹寄は脇目も振らずに走る……が。

ドンッ!!とまた壁にぶつかり、また尻餅をついた。

「……!?」

また何にぶつかったのだ!?吹寄は見上げる

そこには、またあの先程ぶつかった大きな男が立っていた。

「!?…??」

可笑しい、と吹寄は混乱する。

「なに…これ……?」

なぜなら“自分はさっきまで、走り出すまでの場所にいるから”だ。


混乱して、頭がこんがらがっている吹寄の両腕を一人の男が羽交い絞めにして持ち上げた。

「ちょっと!放しなさいよ!!」

強制的に立ち上がらされた吹寄はジタバタと足をばたつかせて抵抗する。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 02:53:03.20 ID:MJYALLDH0
そこへ、先程吹寄が殴り飛ばした男が指を鳴らしながらやってきた。

男は首をコキコキと鳴らして、ようやく口を開いた。


「よう、よくもやってくれたな?」


男は右手を強く握り、吹寄の腹部を思いっきり殴りつけた。

「……こふっ…!」

吹寄の体がくの字に曲がり、激しく咳き込む。

「ゲホッ…ゲホッ……オェ…」

後から激しい吐き気が襲ってきた。


しかも意識が徐々に薄れて来た。

ヤバい、本当にヤバい。





「上条…助…け…て……」



吹寄は公衆トイレにいるだろう上条に助けを求めた。

しかし、その言葉はあまりにも小さかった。



そして吹寄の意識が完全に途絶えた。


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 03:21:45.23 ID:MJYALLDH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「気ぃ付けろ!!バカヤロウ!!」

そういって、トラックは去って行った。

「すいませんでした!!」

佐天は深々と頭を下げた。


さっき、彼女の隣にいる人鳥が信号を無視し、赤信号で渡ろうとしたところをトラックが来て、危うく人鳥を轢いてしまうところだった。

そこへ佐天が飛び込み、人鳥を助けたという訳だが…。

「このバカチンが!!」

佐天は人鳥に拳骨を食らわした。

「イタイッ!!」

「当たり前だよ!!」

佐天は人鳥の体を抱きしめる。

「あんなのに轢かれたら、こんなもんじゃ済まさないんだから!!」

「………」

「謝りなさい!!」

「……ごめんなさい」

「声が小さい!!」

「ごめんなさい」

「もっと!!」

「ごめんなさい!」

「よし!!」

佐天はバッと人鳥から体を放し、頭を掴んで顔を信号に向かわせた。………首から嫌な音がしたが。

「いい?あの信号が赤の時はこの道は渡っちゃダメなの!んで、渡っていいのは青の時だけ!!わかった!?」

「…わかった」

「よろしい!!」

佐天は人鳥の体をもう一度抱きしめた

「……心配したんだから…」

佐天の呟きが耳を撫でる。


いつ振りだろうか?こんなに人に優しく抱きしめられるのは。そう、人鳥は思った。

真庭忍軍の者達…蝙蝠や川獺や狂犬を含め、みんなとは仲良くやっていた。むしろ嫌いな者などいなかった。

がしかし皆が皆、他人の事には興味がなく、常に個別に行動する。まぁ弱い自分は鳳凰に付きっきりだっかが。

とにかく、こうして暖かい感情で真正面から向き合い、しかも優しく抱きしめてくれる者はいなかった。

皆、真庭忍軍十二棟梁の中の一人の真庭人鳥としてしか見ていなかったからだろう。

常に一線置き(蝶々と鴛鴦、それと虫組は違ったが)、いつ裏切り裏切られてもすぐに殺せるようしていた。

まぁそれは忍びとしての“性”という奴だろう。それがあるからいつでも冷徹残酷な決断・行動ができるのだ。


ようは人鳥はこの暖かい感情をどう扱えばいいのかわからなかった。

が、それと同時にそれは心地いいものだと思った。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 03:41:20.56 ID:MJYALLDH0
「佐天さ〜ん!人鳥く〜ん!」

赤信号の横断歩道の向こう側に初春が息を切らして立っていた。

「大丈夫ですか〜!?」

「うん!大丈夫!!」

佐天は元気よく手を振る。

とその時…。


いきなり佐天と人鳥の目の前に一台のワゴン車が現れた。


色は黒色で、そんなに珍しくない車種の。

そんなワゴン車の後部座席のドアが開けられ、二人の男が降りてきた。

「えっ!?なに!?」

その男は二人ともマスクをしていて、表情が伺えない。

が嫌な予感がする。

というより、この人たちは人攫いとしか見ようがない。

「ちょっと、何なんですか!!」

男の片方は佐天の腕を掴んだ。

「いやっ!!放して!!」

佐天は必死に抵抗する。

右手が男の顎に直撃した。

焦った片方の男は佐天の口を布で覆った。

「フガッ!?……ぅぅ」

布を口に覆われて、佐天はカクンッと魔法のように気絶した。

「ち、ちょっと、な、な、なにをするん、で、ですか!?そ、その人を、か、返してください!!」

慌てた人鳥は、手を握っている方の男の足を掴んだ。

が、その男はある黒い物を突き付けた。



拳銃だ。



ギョッと人鳥は硬直する。

脳裏にあの死の瞬間の記憶が早送りしたかのように再生される。

『炎刀 銃』

それに酷似した黒い物が人鳥に突き付けられている。


そして拳銃の引き金が引かれた。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 04:04:47.14 ID:MJYALLDH0

パァン!!という小切れのいい発砲音と共に、ワゴン車は消え去った。

「………」

人鳥は茫然として地面に立っていた。

「ぺ、人鳥くん!!」

初春は走って近寄ってきた。

「大丈夫ですか!?」

初春の顔は真剣な眼差しになっていた。

「だ、大丈夫、そ、それよりあの人は!?」

人鳥は叫ぶ、なぜなら佐天が連れ去られたからだ。

「それよりも!人鳥くん、あなた撃たれたのよ!?銃に!!」

「」

「どこか怪我はない!?」

初春は人鳥の体のあちこちを触り始めた。

「だ、大丈夫…。ぼ、帽子を少し、か、掠めただけだから…」

確かに彼の帽子の右側は焦げた線が一つあった。

「良かった…」

「よ、よ、よくない!だって、あの人攫われた!あ、あなたの友人ではなかったのか?」

「大丈夫です。そのために私たちがいるんですから…」

「は…?」

初春は右ポケットから携帯電話を取り出し、電話を掛けた。

「あ、もしもし?警備員ですか!?こちら風紀委員第一七七支部所属、初春飾利です!午後13時35分、誘拐事件発生。場所は第七学区三九号線・木の葉通り三丁目のファミレスの近くの交差点です!

犯行に使われた車は黒のワゴン、ナンバーは『学園都市000-み-0000』です。誘拐されたのは佐天涙子、13歳。柵川中学の一年生、性別は女!」

『わかりました、ただちに犯人を追跡します』

「はい、よろしくお願いします」

そう言って、初春は電話を切った。

「これで、大丈夫……大丈夫……大丈夫……」

自分を言い聞かせるように呟き、目を閉じる。

「よし!!」

初春は目を開けると、人鳥の手を取って走り出した。

「ち、ちょっと、ど、どこへ!?」

「決まっているでしょう!?佐天さんを追うんですよ!!」

「えっ!?だって!?」

「大丈夫です!!私は決して諦めません!!絶対に!!……だって、私の友達ですから!!」

そう叫んで、初春は人鳥と共に街を駆けて行った。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/08(月) 04:07:54.73 ID:MJYALLDH0
今日はここまでです。

>>123、七花くんの今回の登場は遅めです。

出てこないってことは無いのでご安心を。とても“イイトコロ”で登場します。

主人公は遅れて登場するってことです。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/09(火) 23:13:01.19 ID:wyTRBABq0
こんばんは >>1です。

今夜も書いて行きます。


明日は禁書の新巻の発売日ですね。明日は開店前の本屋に並んで買うつもりです。

もちろん新約二巻とSS、二冊とも買います。チョー楽しみです。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 00:14:44.99 ID:4ghGfCBz0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガラッと車のドアを開ける音がした。

「すまねぇ、遅くなった」

ドアからマスクを被った男が三人が順番に乗車してきた。

最初に中肉中背の男、次に体が大きな体男、最後に頬に殴られたような痕がある男。

体が大きな男と頬に殴られたような痕がある男は後部座席、中肉中背の男は助手席に乗った。

そして大きな体の男の腕には、ロングヘアの女の子が抱えられていた。ダランと髪が垂れているからして、どうやら気絶しているらしい。

彼女は後部座席に乗った男二人の間に座らされた。


「なに手こずってたんだ、女一人に」

車の運転席から、呆れたような声が聞こえる。

声の主は野球選手が掛けている様なグラサンを掛け、鼻にピアスを開けた男だった。因みに彼はマスクをしていない。

彼はハンドルに腕を乗せて、口に煙草を咥えていた。


「うるせぇ、こちとらバレねぇ様に慎重に慎重に仕事してんだ。文句言うならテメェが一人で行ってきやがれ」

「お前が慎重になったのを俺は見た事が一度もないし、そしてトランプ敗けたお前が悪い。とっととずらかるぞ、シートベルトつけろ」


グラサンを掛けた男は煙草をマイ灰皿に入れ、車のエンジンをかけた。

丁寧にアクセルを踏み、丁寧にハンドルを回す。


「相変わらずテメェはバカみてぇにテイネーなヤツだな。なーんでシートベルトなんざ着けなくちゃならねぇ?事故る訳でもあるまいし」

「何を言ってる。こうして誘拐という犯罪を犯しているからこそ、丁寧に且つ、安全に行動しなければならないのがわからんのか。万が一事故が起こって、今回の事が露見したら俺達は牢屋の中だぞ?」

「アッタマのカテーヤツだよまったく。これだから彼女にフラれるんだよ」

「それとこれとは関係のない話だ。まぁ、油断して女に殴り飛ばされるよりは100倍マシなのだが」

「ンだとコノヤロー!!」

「ここは車の中だ。静かにしないと叩き出すぞ」

「まぁまぁ、二人とも…」

と大きな体の男が仲裁に入る。


いちいち○○の男とか□□の男とか△△の男とかと呼ぶには面倒だ。

だからこの男達を紹介しようと思う。


まず、グラサンを掛けていてこの車を運転をしている男はヤンと呼ばれている。無論、中国人でも台湾人でもない。列記とした日本人だ。常時あだ名で呼ばれている。

次に頬に殴られた痕がある男、彼はシン。勿論、彼も日本人であるし、その名もあだ名である。

ヤンは常に慎重な…時より慎重すぎる男であり、逆にシンはガサツで辛抱弱く、思ったことはすぐに実行する男だった。

まさに鏡に移したように真逆な二人である。

よって、ことある事に喧嘩をおっぱじめ、その都度その現場を台風が過ぎ去った後の様に散らかすのだ。

そう、この二人は仲が悪い。知り合った時から仲が悪いそうだ。

なにせヤンがシンに放った第一声が『お前の部屋、汚いだろ』だ。確かに彼の部屋はその通りだが、図星か、それともその言葉に怒ったのか、シンはヤンを殴り飛ばした。

それが二人の喧嘩の歴史の末端である。


体の大きな男はマンション。文字通りの体の大きさだからだ。ヤンとシンの仲裁役に良く駆り出さられる。この“組織”の中でも一番大らかでオットリした性格の持ち主だ。

中肉中背の男はヤマ。この男は普段はいても居なくても変わらない男なのだが、ヤマの“能力”は誘拐という“仕事”に大変便利なのだ。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 01:30:55.60 ID:4ghGfCBz0
「喧嘩してないで、ね?二人とも」

オットリとした口調のマンションの言葉に二人は押し黙る。

「ああ、そうだな…」

「すまねぇなウルサクしちまってよう…」


あの喧嘩腰で如何にも殴り合いが強そうな二人がまるで水を撒いた焚火のように大人しくなる。

なぜだろうか?

答えは簡単だ。“マンションがこの車の中にいる人間の中で、もっとも能力が強いからである”

まぁ彼の性格上、その“能力”とやらはあまり使われないのだが…。


「しっかし“リーダー”も人使い荒いよな〜」

「それは珍しく同意する。この三日間ずっと働きづめだ。毎日学校に通う俺の身にもなってほしい」

「大学生のテメェは毎日暇だろーが。まぁ高卒ニート様の方が暇を持て余してるんだけどねぇ」

「確かに“狩る”人数、前より結構多くなっているよね」

「一昨日は五人、昨日は三人、そして今日は八人だそうだ」

「ハハッ、大収穫じゃねぇか。いっそ大漁旗でも掲げっか?」

「冗談ではない、警備員に逮捕されるリスクが常にある俺達の事も考えてほしいものだ」

「ああ、それは言えてる。俺ぁ中坊の時、独房に叩き込まれた事があってよう。あん時は酷かったねぇ。なんでかって、そん時の警備員がクズ中のクズでよう、一晩中腹とか蹴られまくった上にケツ掘られたからな」

「あまり気色悪い事を言うな」


とヤンは左のウィンカーを上げハンドルを勢いよく回し、デパートの地下駐車場に入った。


「あと、その捕まったのはお前がシンナーの吸い過ぎで頭がおかしくなったのが原因だろう。結局はお前のドジだ」

「うるせいやい。まぁおかげでシンナー病は完全に抜けちゃったけどねぇ。ケツでいっぱい抜かれっちゃったケド」

「だから気色の悪い事を言うな」

「でもその警備員さんって、結局キミが殺っちゃったじゃないか」

「たりねぇーよ。五体をバラバラにしてもたりねぇ。精肉機に掛けさせてもたりねぇな。もっとバイオレンス&エキサイティングな殺し方がしたかったね。中坊の頭じゃあダメなモンはダメなんだなぁこれが」


車は地下五階まで入り、相当数のある駐車中の車の中にある数少ない空いた駐車スペースに、例に倣って丁寧に駐車した。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 01:31:53.28 ID:4ghGfCBz0
「着いたぞ。さ、さっさとでるぞ」

「さて、移動だい移動だい」

「よいっしょ」


四人は車から出た。…女の子はマンションが抱えている。

シンは隣に泊まっていた、一台の小型のバスのドアにノックをした。


「俺だ、シンだ」

『合言葉は?』


ドアの中から声が聞こえた。


「『都には貴族の栄華がある。この物語は、そういう古い世のことだ。しかし人間が歔くこと笑うことは、いまもむかしもかわらない』」

『よし入れ』


ドアが開けられ、カーテンが閉められた真っ暗な空間に、一人の男が出てきた。

黒髪の短髪。背は平均よりもやや高めで、筋肉は結構ついているように見える。

「おっすジョンさん。相変わらずメンドクサイ合言葉が好きだねぇ」

シンがバスに乗り込んだ。

「これくらいにするとバレても覚えきれないと思ってな」

とジョンと呼ばれた男の弁。

「仕事の毎に覚えさせられるこっちの身にもなってくれ。しかし今日の合言葉は一体なんの呪文だ?」

「司馬遼太郎の小説、『義経』の冒頭だ。そうだろう、ジョン」

とヤンがバスに入ってきた。あとからマンションとヤマも入ってきた。

「ああそうだ、俺の好きな小説でな。……で、それがお前らの今日の収穫か」

「ああそうだ。なかなかの上玉だろう?」

とシンが得意げにジョンに話す。

「顔立ちもいいし、髪も奇麗だ。何よりオッパイが大きい。大体EかFあたりかなぁ〜。ヘヘッ♪」

シンは彼女の豊満な胸を鷲掴みにする。

「汚いヨダレで汚すなよ。あとあまり触るな、起きたらどうする」

「大丈夫だよ、ヤマちゃんの“能力”があるんだからよ」

「万が一を考えてだねぇ…」

「はいはい、またそれですか。いちいち毎度毎度。こっちは耳にタコどころかクラーケンが出てきそうなんですが?」

「……〜〜〜〜さっきから言わせておけば!!」

「はいはい、二人とも喧嘩しないで、ね?」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 02:11:23.77 ID:4ghGfCBz0


「ブッハハハハハハハ!!いっつもいっつも、良く飽きずにそんなコントができるなお前ら。ハハハハハハハハ………」


とバスの後ろから豪快な笑い声が聞こえた。


ジョンもヤンもシンもマンションもヤマも……“みんな”その声が聞こえた後ろを見る。

そこには、一人の男が座っていた。

その男、紅いTシャツに黒いジャケットに黒いズボンとなかなかの身のこなしなの大男が一番後ろの真ん中の席に堂々と座っていた。

左手には大きな2リットルのコーラが、右手には顔と同じくらいの大きさの巨大なハンバーガー握られている。

彼はそのハンバーガーを一口二口で食べ、2リットルのコーラを一気に飲み干した。


そして何もなくなった両手をそのまま横に置いてあるリュックサックに突っ込み、また先ほどと同じくらいに大きなハンバーガーと2リットルコーラを取り出した。


「またそんなものを食べてる……。健康に悪いですよ、“リーダー”」


とジョンが呆れたように“みんな”から“リーダー”と呼ばれる大男に言った。


「別にいいだろぉが。喰いたいモンを喰いたい時に喰って何が悪い?」

重い、堂々とした声だった。

“リーダー”と呼ばれた彼は、ハンバーガーの包装を破り、コーラーのペットボトルのキャップを片手で、どこぞの栄養ドリンクのCMよろしく開けた。

「なーにを白いヒゲのオッサンみたいなこと言ってんスか、リーダー」

とシンは空気を読まずにツッコむ。

「そうですよ、エドワードさんでもニューゲードさんでもないですから。若いうちから添加物ばかり摂ってると早死にしますよ?」

とヤンも続く。

「ふ、二人とも空気は読もうよ…」

「マンションの言う通りだ。つーかお前ら仲悪い癖に一緒にツッコむんだな。ホントは仲いいだろ」

とジョンがツッコむ。

「なんでこんな堅物ヤローと仲良くしなくちゃならねーんだよ」「私は現実を言ったまでです」

「……わかった、お前らの息の良さは重々わかった」

ジョンは溜息を一つ吐いて、運転席に移った。

「よっしゃ、んじゃあマンション、その抱えているブツを降ろしてさっさと手錠つけろ。………って、着けたか」

「慣れてますから♪」

「よし、んじゃあバス出すぞ〜」


とジョンはエンジンをかける。電気自動車特有の静かなエンジン音がバスの中で微かに聞こえる。


「ヤマ、お前の“能力”はちゃん働いているだろうな?」

ヤマはコクンッと頷くと、横にいたマンションは「オッケーだそうです!」とジョンに伝えた。

「よっしゃ、じゃあ出発するぞ〜」


バスは静かに動き出し、去っていった。

そして、かつてバスが停めてあった隣には、黒いワゴン車が駐車されていて、そのナンバープレートのナンバーは『学園都市000-み-0000』だった。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 02:45:03.10 ID:4ghGfCBz0
『あ、そうだ』とシンとマンションとヤマは鬱陶しそうにマスクを脱いだ。……ヤマはそうでもなさそうだったが。




バスは立体駐車場を出る。


日がまだ高い日中の9月上旬の日差しが閉じられたバスのカーテンを潜り、車内を淡くだが、明るく照らす。


まずジョンの憂鬱そうな顔が照らされた。

次に助手席で地蔵の様に座るヤマが照らされた。

その次にマンションの柔らかな表情が照らされた。

その次にヤンの真剣な眼差しが照らされた。

その次にダルそうに座るシンが照らされた。

その次にハンバーガーを頬張るリーダーが照らされた。


バスは完全に外に出た。

真っ暗だった車内は明るくなり、“満席の車内”の様子がわかるようになった。



さて先程、『“みんな”その声が聞こえた後ろを見る』という著述した。

もしかしたらこのスレを読んでいるかもしれない読者諸君に一つ誤解を与えてしまったかもしれない表現だった事をここに謝罪する。

ではなにを誤解しているのだろう?

それは、“みんな”という表現だ。

もしかしたら読者諸君は“みんな”とは、ジョン・ヤン・シン・ヤマ・マンション、そしてリーダーの6人だと思っているだろうと想う。

しかし私が言いたいのは、その皆が思っている“みんな”と私が思っている“みんな”は違うのだ。

遠回りな表現で申し訳ない。要はこういう事だ。



“みんな”とは、上の6人だけではないのだ。




また先程“満席の車内”と言ったが、6人で満席ではない。もしも“みんな”は6人だったら空席が大いに目立つ。




―――――――――なぜならこのバスは、20人乗りのバスなのだからだ。




シンの隣の席にも、マンションの前の席にも、ヤンの後ろの席にも、彼らと同じような男達が座っていた。



そして、リーダーの目の前には…………。


あたかも荷物の様に、地面に『置かれている』若い5人の女の子達がいた。




その中には、吹寄制理と佐天涙子がいた。



139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 03:12:12.70 ID:4ghGfCBz0

「はぁ〜いいねぇ、いいねぇ…」

リーダーは機嫌がよさそうに呟く。

右手で握っているハンバーガーを一気に口へ押し込み、それをコーラーの一気飲みで流し込む。

「〜♪」


汚れた右手を舐め、左手で座席に置いてある、ある物を手に取った。


「あ〜、本当に気分がいい。本当に…」


それは黒く、長細い物だった。


「こんなに気分がいいのは久しぶりだ……。ああいいねぇ…いいねぇ…」


その黒く、長細い物は“刀”の形をしていた。


「ああ、俺はなんていい拾い物をしちまったんだ…」


リーダーはその“刀”の形をした物の柄を握り、抜いた。


「奇麗だなぁ…ホントに奇麗だ…」


うっとりとした眼でその刀身を…刀身にギザギザ模様がつけられた、見るからに『なんでも斬れそうな』刀身を眺めていた。



「これはなんて名前なんだろうなぁ…。ああ、斬りたい、また斬りたい……」




――――――――『斬刀 鈍』



この刀の名前だ。

彼はリーダーはその名を知らない。無論、四季崎記紀が造りし完成形変体刀が一本など知っているはずがない。

しかし、彼はそれが“刀”と言う物だということ位は知っているし、

不良やスキルアウトや自分らの中では、もう有名になっている噂の『手に入れれば例え学園都市最強の七人の超能力者でも倒せる』という刀だというのは知っている。

証拠にこの刀は何でも斬れる。石だろうが鉄だろうが、生きた人間を何人何十人斬っても刃毀れしなかった。


「さぁて、今日は何を斬ろうかなぁ…?」


リーダーは『鈍』の刀身で丁度近くにいた、佐天の髪を撫でた。


ハラリと数本の髪の毛が斬れ落ちるのを見ると、リーダーはニマリと笑い、『ふふふ…あははははは!!』とまた豪快に笑った。





彼らは皆、学園都市の学生で、超能力と言うものを扱う。メンバーの中には『無能力者』はいない。

なぜなら彼らは『無能力者』という存在はこの街のゴミクズの様な物だと考えているからで、自分たち『強・大能力者』は崇高な人間のもちゃとして扱うからだ。


俗に、彼らを人は…いや、自分たちも自覚はあるだろう。


彼らは、『無能力者狩り』と呼ばれる若者達である。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/10(水) 03:19:01.06 ID:4ghGfCBz0
今日はここまでです。

ここから段々禁書から刀語の世界へ潜りこみます。


誤字脱字は読者の皆様の脳内再生でよろしくお願いします。

便利ですね、脳内再生って…。


さて、まどろっこしい表現ばっかで申し訳ないです。

ようは大食いリーダー率いる『無能力者狩り』は六人だけの小組織でなく、

二十人三十人といる大組織なんだってことがわかれば、国語の評価が3の作者は大満足御座います。



では次は明日か明後日かに更新しようと思います。

明日ってか今日の禁書の新巻を楽しみにしつつ、今日は筆を置かせていただきます。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga  ]:2011/08/10(水) 10:49:44.06 ID:soLJcJfq0

なんとなくやってみた

「私の名前は【冥土の舞夏】、冥土の土産を余りにも大盤振る舞いする接待好きの性格って訳だぞー」





うん引っ込むね。ごめん
142 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/10(水) 19:58:53.58 ID:6YInNnIG0
続きが楽しみだなぁ〜♫ってミサカはミサカは期待してみたり〜〜♪
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 01:13:44.00 ID:gSYrHYDDO
イチャイチャ展開から
まさかの斬刀登場!?

しかし無能力者はいいことないなぁ・・・
144 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/11(木) 10:20:38.35 ID:ZiUSoW3C0
この話がアニメ化したらどうなるんだろ〜?
ってミサカはミサカは興味を持ってみたり〜〜♫
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/11(木) 12:23:00.99 ID:RIaHBcPj0
画像的な意味でも気になるな
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/11(木) 23:13:30.69 ID:aJgSo6aG0
すいません、今日は休みます。


昨日、『文学少女見習いの初戀』を読みました。感動しました。

今日、禁書の新巻読みました。容量オーバで頭パーンしました。

そして今、そう言えばこのスレ…>>146を書いてるのを何年か前か見た夢で見たな〜と思ってます。

ええ、デジャブってますとも。

あと、パーンしたのは俺だけじゃないはずだ…………きっと。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/12(金) 13:26:14.81 ID:XK4N+EEh0
こんにちは、今日は昼からお邪魔します。

でも盆前の掃除に駆り出されるかも……いや、駆り出されるのは絶対なので、更新は途切れ途切れだと思います。

そこんところはよろしくお願いします…。

では頑張って書いて行きます。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 13:58:21.60 ID:XK4N+EEh0
――――――――――――――――――――――――――――――――

『ほら、立てよ』

『ほれほれ、はよ金出せや』

『俺たちさぁ、ゲーセンに行くための資金ってものが欲しいの。わかる?』

『早くしねぇと頭文字G誰かに取られっぞ。急げよ』

『パパ、お小遣いちょうだい?一万くらいでいいから』

『キメェww』


――――――なんで、お前らなんかに僕が自分の金を出さなくちゃならねぇんだ…?



『なんだぁ?その目は…睨んでも怖くねぇんだよ!!』

バキィ!!

『お、いいねぇ。人間サウンドバック♪』

『ばか、それじゃあ音が鳴るカバンだろうがwwwサンドバックだ、サンドバック』

『おい、もう頭文字G取られたって』

『え〜?マジかよ〜…。オイオイ、どうしてくれてんだぁ?』

『そうだぜ、お前がさっさと家賃払わねぇから放課後の楽しみ取られちまったじゃねーかよぉ』



――――――なんでだよ、僕が何したってんだよ、畜生!!



『お〜い、コイツいっちょ前に睨んでくるぜぇ?あ〜コワイコワイww』

『キャー!タスケテェーー!!』

『気持ち悪いからヤメロww』

『……ってコラ。さっきたらガン垂れてんじゃねぇ!!』

バキィッ!ドコォ!メキィ!



――――――殴るな…。痛い…。痛いだろ…!



『……〜〜!!コイツ中途半端にガードすっから、気持ち良くボコボコにできねぇな…』

『それなら、あそこの公園の鉄棒に縛り上げて、サンウンド…じゃなかった、サンドバックみたいにしてタコ殴りしようぜ!!』

『おっ!いいですなぁ、無料パンチングマッスィーンじゃございませんか!!丁度良くここにチェーンがある事だしww』

『気前がいいなぁww』



――――――なんで僕がこんな目に会わなくちゃあならないんだ!?



『よぉし、早速拘束拘束!……っておい、暴れるな!!』

ドスッ!!

『ボディに一発ゥゥウ!!そして挑戦者立てなーい!!見事なKO勝利ぃぃ!!』



――――――お前らなんか、なんで僕が…。


149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 14:20:45.47 ID:XK4N+EEh0
『ぅっわ!こいつ俺のズボンに吐きやがった!!』

『ハハッダッセェ』

『なにしくさってくれてんだ!!!』

バキィ!ゴスッ!ガスッ!ベキッ!バキィ!ドスドスッ!!ガキッ!!

『おお、スッゲェコンビネェーション…』

『伊達にボクシング部の主将やってねぇなww』

『でもまぁ、こんな街じゃあ俺なんてカス同然だからよ。さっさと辞めちまったけどな』

ガスガスガスッ!!ベキッバキッ!!バキ!!

『ホラホラホラァ!!まだまだ寝るのは早ぇぞ!!テメェには一張羅のズボンにゲロ吐いた分の弁償代くらいは働いてくれなくっちゃなぁ!!』



―――――――――僕が吐いたのは、お前が僕の腹を思いっきり殴ったからだろ?自業自得じゃないか。



『ハァハァハァ…。ああイイ運動した…』

『おい、大丈夫か?顔の形が思いっきり原型留めてねぇぞ?』

『大丈夫大丈夫!こいつは体が丈夫なのしか取りえないから。明日にもなってりゃあ戻ってるさ』

『んなマンガみたいなww』

『デデデ大王の城かってぇのww』

『ハァイ♪続きましたぇ!第二試合を行いまぁす!!』

『ははは!!じゃあ次はオレな!!』

『そん次俺!!』

『おい誰かゴング鳴らせ!』

『レディ…ファイッ!!』

『カーン!!』



――――――――なんで、僕はこんなに幼稚で、下らない奴らに、こんなにも傷め付けられなくっちゃあならないんだ……。



『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』



――――――――ああ、なんだか、前が霞んできた。



『アタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!ホォワタァァァア!!……北斗百裂拳!!』

『にてねぇww』

ハハハ……。ハハハハハハ……。



『あ、電話だ…』

『んだよ、また彼女からかよww』

『いいだろ?つーかお前だって美人な彼女いんじゃん』

『あいつさぁ?俺という超絶イケメンで超性格最高な彼氏がいるってぇのによぉ。浮気してたんだぜ?しかも二、三十年上のオッチャンと!!……どこぞの大学の教授様だとよ』

『そうか、援交だったという事を心から祈るよ………あ、もしもし?チアキかぁ!?どぉした?』

『どっちもヤダよぃ…っと。…………さて、このサンドバックどーしまっか?』

『別にいいだろ?このままで』
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 14:45:45.88 ID:XK4N+EEh0
―――――――――ああ、僕もその方が有難い。お前らの顔も見たくない。……ごもっとも、三時間ほど殴られ続けてたから、目なんて殆ど見えてないけれど。


『ハイハイ!!わたくしめに提案があります!!』

『はいなんでしょう?』

『この公園の大きな木の幹に……』



―――――――――おい、今度は何をするつもりだ!?



『素っ裸にして吊し上げましょう!!』

『賛成!!面白そうだ!!』

『明日の新聞記事に載ってたら面白いぜ?“全裸男が木の幹に縛られ、みっともない租チンを大衆に大公開!!』

『ハハハハッ!!それ最ッッ高!!賛成賛成ッ大賛成!!』



―――――――――ふざけるなっ、どうして、こんな……。



『ひゃっひゃっひゃっ!!コイツのチンポちっせぇwwwww』

『拳銃とか護身用とかじゃねぇwww豆鉄砲だぁwwwwあっははははは!!三センチもねぇwww』

『ヒ…フー…ミー…ヨー……ヤフー!おい!こいつの財布ん中に三万入ってたぜ?』

『ミニマムチンコの癖に財布ん中はでけぇの入ってんじゃねぇか?おい!!チンコの改造手術でも受けてショットガンチンコにでもしようってか?』

あはははははははははははははははあ!!!

『じゃあこれからカラオケ行くか!!』

『今日はこのミニマム租チン豆鉄砲クンの奢りだ諸君!!』

『っと、その前に……マジックない?出来るなら油性』

『租チンくんのカバン中にドデカいのがあった。……ホイパス』

『サンキュ……んで、コイツの体にアートってモンを刻んでやる。……“こんにちは、ボク租チン君だよ♪出来るならフェラしてくれると嬉しいな♪”…どうでぃ!』

『甘いな、砂糖を大量に入れたばぁちゃんの卵焼きよりも甘いな。俺に貸してみろ……“僕のお尻はみんな専用だから、いつでも入れていいよ?By肉便器より♪』



――――――――――どうして、僕が……どうして……どうして……。



『じゃあな、租チン君。三万ものチップありがとう!誰かにフェラでもアナルでもいいからやってもらってねぇwwww』

『バイナラwww』

『ヒャッハッヒャッハwww』




―――――――――こうしてアイツラは、僕を弄んで弄んで、普通に小学生の子供がいる公園の中で裸にして、恥を掻かせて、去っていった。



―――――――――どうして、僕は、こんな、めに、あ、わ、なければ、なら、n、あ、け、れ、ば。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 15:07:37.40 ID:XK4N+EEh0


殺してやる。


アイツラを。



僕をこんなにまで恥と苦痛で汚したアイツラを。




そして、こんな僕を助けない、周りの奴らも。






同じ目に会わせてやる。





縛り付けて



殴って



顔の形が変わるくらいの殴って


殴って



裸にして



もしも女なら子宮が壊れるくらいに犯して、もしも男なら牛肉と見分けが着かなくなるくらい磨り潰して。

もしも美人なら、顔に硫酸をぶっかけて、もしも奇麗な瞳を持っているなら、その眼を抉り取って。

もしも優しい奴だったら、その性格が崩壊するくらいになるまで拷問して。

もしもアイツラの様なクズの人間なら、泣いても縋っても、ハンマーで殴り続けて。

もしも泣いて叫んで謝って来ても、火炙りで焼き豚にして。

もしも怒って反抗するなら、その手足を拘束して、溶かした鉄の湖に落とし。

もしも恐れて抵抗するなら、腹を空かした鮫の群れがいる海に、手首を斬り落として叩き落とす。



『ああ、僕はなんて恐ろしい事を考えているんだ』と、そう思う。

でも仕方ないだろう?

中学に入ってから、毎日…毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日!!!!!!!!


ずーっと同じ様な目に会わされたんだ。

恨み、辛み、悲しみ……。数多な負の感情が大雪の日の様に僕の魂に降り注いで、重く圧し掛かる。

そう、僕の…中学三年生の僕の心の中の感情は、もう限界だった。

負の感情の重圧に耐えきれず、僕の魂は潰れかけていた。真っ黒に染まりかけていた。

血の臭いしかしない、真っ黒な闇の色に……。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 15:16:04.84 ID:XK4N+EEh0










そしてある日、その真っ黒な重圧に、僕は負けた。









その日から、僕の……俺の心の感情は一つしかなくなった。







アイツラヲコロス。


ゼンイン、ブッコロス。


女ダロウガ、男ダロウガ、子供ダロウガ、年寄リダロウガ

美人ダロウガ、奇麗ナ目ノ持チ主ダロウガ、優シイ奴ダロウガ、クズダロウガ

泣イテヨウガ、怒ッテヨウガ、恐レテヨウガ……。




コノオレガブッコロシテヤル。







殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス






――――――――殺したくない…。

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 19:09:16.88 ID:XK4N+EEh0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ〜すっきりした〜」

上条は公衆トイレからやっと出てきた。実は先程まで便器の上で踏ん張っていたのだ。

彼は常時ハンカチを持ち合わせない主義の人間なので、濡れた両手をズボンで拭く。

「ってオイ、なんか曇って来たな〜、雨が降りそうだ」

頭上には黒に近い灰色の分厚い雨雲に覆われた空が広がっていた。

「一雨降る前にさっさと卵を買わなくっちゃな……」

上条は吹寄が待っている場所へと走って行った。

「オーイ、吹寄〜!」

上条は彼女の名を呼ぶ。しかし…。

「ってあれ?いない…」

上条は確かに先程いたばずの吹寄制理を探す。

が、やっぱり………いない。

「おっかしいな…アイツ待ちくたびれて先に帰っちまったのか?んでもそんな奴じゃないし……」

上条は後頭部に手を当てて考える。

もしかしたら雨が降りそうな天候から、どこかに避難しているかもしてない。

「しょうがない、どっか探すか……」

と上条はあってもいない予想に従い、あたりに雨宿りできる場所を探す。


「っと、ここなんてどうだ?」

上条は公園の隅に設置されていた、大きくなく小さくもない、普通のサイズの屋根付きのベンチを見つけた。

しかし、ここには吹寄の姿はない。

「ここじゃないか……。じゃあここは?」

ジャングルジムの隣に植えられている、高さが5m程の紅葉の木。もう秋だ、これから段々紅くなっていくだろう。これら四、五本が集まるように植えられている。

しかし案の定…。

「いない…。じゃあどこにいるんだ…?」

上条は木の幹に手を当てて考える。

「…………ん?」

すると紅葉の木の一本…上条からして、右手にある一本の紅葉の木に、ある異変を見つけた。

「なんだこれ?」

それには何かの痕だった。

木の幹に何か、そう例えば……。

「自転車のチェーンとか鎖とか…そういった硬い何かで表面を削ったような痕だな……」

上条はその痕をそぉっと撫でる。

「っと、こうしている場合じゃない。さっさと吹寄を探さなくっちゃな」

こんな所で油なんか売っている間などないと上条は振り返る。さっさとしないと雨が降ってしまうじゃないか。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/12(金) 19:26:56.27 ID:XK4N+EEh0
しかし、振り返った上条の視界に映る風景は、公園のそれではなかった。

目の前には何かの服のような物でいっぱいになり、布の生地の様な肌触りを、鼻先で察知する。

危ない、誰かにぶつかりそうだった。

若干ビックリとハラハラした心臓を宥め、後ろに立っていた人に謝る。

「すいませんっ、ぶつかってしまって!」

「不構、構わん。大丈夫だ怪我はない」

「………あれ?」


この低音ボイス、この肩が苦しくなるような口調……。これらを扱う人物を自分は知っている。つーか自分のウチの居候の召使い。


「テメェ、左右田右衛門左衛門!!どっから湧いて出た!?」

「不湧、私は温泉の様に下から湧き出てはいない」

「例えだ例え!!ホントに湧き出たら怖いわ!!つーかいつの間に後ろにいた!?」

「不少、貴様の質問はいつも多い。少しは落ち着きを出してから問答をすることはできんのか?常識を知れ」

「それを言うお前はなんでいつも後ろを取る!?昨日だって夕飯作っている時にもいつの間にか後ろにいたよなぁ!?それをヤメロ!!お前の方が常識知らずだ!!」


ギャーギャーとまた二人は口喧嘩をする。……とはいっても上条だけが叫んでいるのだが。



「要するにお前はウチにいる否定姫に、『暇だから学園都市でオモシロイ事があるかどうか調べてらっしゃい♪』と言われて、外に出て来たってのか………。誰かに見られたらどーする…」

「不要、お前の粗悪な心配など要らん。まぁ、それも今日の私の仕事だが、もう一つ仕事がある」

「なんだ?」

「………お前の監視だ」

「…なんですと?」

「不笑、笑えない、全く笑えない。お前のその奇妙な返事は何とか出来んのか。…………姫様曰く、貴様に着いて行ってれば、面白い事が芋の様に出てくるだろうとのことだ」

「否定したいけど、否定できないことが悔しい……」

「……時に、小童」

「なんだオッサン、話を変えるな」

「貴様、こんな所で油を売っている間があるのか?」

「…………」

「…………」

一間、大体三秒。

「ああ!そうだった!!吹寄さがさなっくっちゃ!!………お前、吹寄しらねぇか?」

「不知、彼女がどこへ行ったかは知らない」

「そうか…、すまねぇな。じゃあ探して行くよ」

上条は木陰から走って出て行く。

ヤバい、本格的に雨が降ってきそうだ。

「待て小童」

「あ?なんだよ?」

「確かに私は彼女が何処へ行ったかは知らない。しかし、彼女がどういう状況下にいるかは知っている……」

「は?」


「貴様の連れの少女、先程に連れ去られたぞ」
155 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/12(金) 21:45:51.78 ID:mruGX7CC0
やっぱり映像で見るとグロイかも〜〜(^〜^;)
ってミサカはミサカは苦笑いしてみたり〜〜(;´∀`)
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 00:38:11.07 ID:cw17BIax0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんでなんですか!?どうしてナンバープレートがわかっているのに、その車が見つからないんですか!?」

携帯を片手に、初春飾利は怒号を飛ばしていた。隣にいる真庭人鳥は大人しそうな彼女の怒鳴り声に脅えている。

『しょうがないでしょ、確かにそのナンバープレートのワゴン車は存在してるし、その持ち主も特定できてます』

電話の相手は登条という警備員だ。黄泉川と同じ警備員第七三活動支部に所属している。

『しかしその車は三日前に盗難されていて、しかも何故か路上の監視カメラには写ってないんですよ!?十中八九能力者の犯行ですが、その能力の詳細もわからず、仕舞には先日起った“残骸事件”の捜査も現場のレストランと公道の復旧もまだで、黄泉川さんや鉄装を始めとしたウチの警備員が出っ張ってて、とにかく人手不足なんです!!猫の手でも風紀委員の手でも借りたいくらいですからね!!』

「大の大人が寝言を言わないでください!!相変わらず口数だけが多い人ですね!!こっちだって主力の白井さんはその名の通り真っ黒焦げになってて!残りは先程先生が言ってた事件に出向いているんです!!お願いします!!」

携帯を握りしめる初春の手からギリッと機体が軋む音がした。

「じ、じゃあ他の学区から警備員と風紀委員の要請を降ろすことができないのですか!?」

『それはとうの昔にやりました!でもねぇ!?三日前から貴女と同じ様な事件が数多く勃発してましてね!?ウチでは今日あなた一件だけでしたが、第十三学区では昨日から二件、第二十学区では一昨日から四件、そしてなんと第二十二学区では八件だとか。今は他学区のお世話をしている暇などないんですと!!』

「何やってんですか!?明らかに同一犯の犯行ですよね!?なんでみんながみんな協力しないんですか!?」

『学園都市の警備員や風紀委員がみんな仲良くしてる訳でないし、勤勉で真面目な人ばかりじゃないんですよ!隣の学区の風紀委員長が嫌いだとか、一つ向こうの警備員のトップは昔の犬猿の仲だったとかでねぇ!?とにかくこうした小さく分断された組織はいがみ合いいが多いんですよ!!』

と登条が苦しそうに続ける。

そうだ、どこぞのイルカの人形を愛用している少女が言ってた様に、世界中のみんなが仲良し子良ししたい訳ではない。小学生が洗脳の様に歌わせられる歌の歌詞の様に世界が平和ならば、今日の誘拐事件など、絶対に起らなかっただろう。

『各学区ごとに治安率(犯罪数÷学区内人口)と摘発率(逮捕数÷犯罪数)の平均でランキングが出されて、成績の良い上位三つの学区の警備員と風紀委員それぞれが表彰され、警備員には給料up、風紀委員には奨学金追加と学費免除が報酬として出され、無論上位に入ればその分報酬が多くなるというシステムは知ってますね!?』

「それがどうしたんですか!?」

『まず風紀委員にはそんなことないのですが、警備員の最下位から三つの学区は給料削減というバツゲームが待っているんです。あと治安率と摘発率の悪化の値が高ければ高い学区にも、そのバツゲームはやってきます』

登条は恐らく受話器の向こうで眉間にシワを大量生産しながらパソコンの前で奮闘しているのだろう。機体音痴なのに…。

『要約しますとね!?これは競争であり戦争なのです!!確かに全ての学区で協力して事件を解決するのは一番いい。みんなそう思っているでしょう。しかしですね!?この大量に発生した事件はチャンスなんですよ!上位三学区に入れる!!』

受話器から『あーもう!!』とパソコンのエラーの表示が出てくる時の音がいくつか聞こえた。

『そしてこれは大ピンチなんですよ!もしもこの自分の学区内で起こった大量の事件を自分の学区内で無事に摘発しなければ、“摘発率”はバカみたいに暴落する!ナイヤガラの滝みたいにねぇ!!しかもそれが他の学区の警備員や風紀委員に犯人を盗られたとしたら、その学区に差をつけられる、ないしは順位を逆転される!!椅子取りゲームの様で滑稽ですけど、こっちは生活が懸かってるんです!?今じゃあ第二十二学区の皆さんが目を真っ赤にして探してますよ!!』

「……………〜〜〜〜〜〜〜!!…………結局お金ですか…!?これだから大人って人は勝手で………!!」

『おい、初春さん!?それは聞き捨てならない……初春さ〜ん!?』

初春は登条の言葉など全く耳も貸さずに、携帯を乱暴に切った。

「…………佐天さん…」

悔しそうに唇を噛み、項垂れる初春。それを見て、人鳥は心配そうに見上げる。

「う、初春……」

「大丈夫です…、佐天さんは必ず、絶対に助け出します」

と彼女は聖母の様に笑うが、内心は不安でいっぱいで、心臓は相変わらず絶賛暴走中だ。

考えろ…。考えるんだ初春飾利…。その頭は飾りか……。

この学区の警備員も風紀委員も、他学区のそれも、今じゃあ使い物にはならない。

でも自分ひとりでは何もできない。

自分は暖かい物をそのまま長時間暖かいままにすることが出来たり、冷たい物をそのまま低温に保てる能力。

まず戦闘向きじゃないだろう。むしろ足手纏いだ。

じゃあ他の人は?例えば白井さんとか御坂さんとか……。あの二人ならどんな強敵でも粉砕可能だ。

でも白井さんは病院で御坂さんには連絡つかないし……。

「……ん…?御坂さん?」


そうだ!御坂美琴は部外者だ!!風紀委員でも、ましてや警備員でもない!!だから御坂美琴という第三位の超能力者が犯人を一網打尽にしたら、風紀委員も警備員も摘発率の差は出ないだろう。

これしかない。もう御坂美琴に、本当の部外者だが、藁でもストローでも掴もう。


「とりあえず、御坂さんに連絡……」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 00:59:59.16 ID:cw17BIax0
初春は携帯電話のアドレス帳の中の美琴のフォルダを開き、彼女に電話を掛けるため、携帯電話の受話器ボタンを押した。


―――――――――――その時。



ドカァァァァァァァン!!


と前方で爆発が起きた。

「!!?」

「ひゃっ!?」

初春はビクゥッと身を固くし、人鳥は尻餅をついた。

「な、な、ななな、なんだ!?」

「わ、わかりません…とにかく行ってみましょう!!」

人鳥と手を繋いだ初春は、見た。

爆発の直前、近くにあった電灯にピリピリッと電流が走った事を…。

「この感じ…もしかしたら……」



騒ぎを聞きつけた人混みを必死に掻き分け、初春は人鳥を連れてやっと、人混みの中央に出た。

そこにいたのは……。


「なかなかやるじゃない、流石は電気ウナギ姫様ねぇ」

「電気ウナギじゃないわよ、このスットコドッコイのサラシ女」

「なんですってぇ〜〜、この不細工短髪静電気が、貴方の活躍なんて、冬の静電気だけで十分十二分わよ。わかったならさっさと家で寝こけてなさいな」

「黙れこのブンブン女。ちゃっちゃかちゃっちゃか、ひょいひょいひょいひょい。座標移動ばっかしやがって、お前は夏に飛んでる蚊よ蚊!!蚊取り線香でも焚いとこうかしら」


………オイオイなんだ?喧嘩か?………女同士のだよ、しかも常盤台VS霧ヶ丘のお嬢様同志のキャットバトルだってよww………行ってみようぜ!?




「……………」

「……………」

初春と人鳥は少々固まった。

が、初春は咳払いを一つ二つして、ガンをたれ合っている二人の仲裁に割って入った。

「はいはい、そこまでです!」

「あっ、初春さん?なんでここに!?」

「それは後です。………は〜い、ギャラリーのみなさんはさっさとお帰りくださ〜い」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日はもう遅いんで、今日はここまでにします。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 16:54:15.52 ID:cw17BIax0
さて、続きです。

えっちらこっちらと書いて行きますんで、よろしくお願いします。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 21:11:52.09 ID:cw17BIax0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
……え〜?なんだよ、いいとこだったのに……。………滅多に見られないもんな〜キャットバトル。…………なぁ、さっきから気になってたんだが、それってキャットファイトじゃないか?

「………よし、みんな散らばりましたね………」

無関係なギャラリーを散らせたのを確認して頷いた初春は美琴の方へ振り返った。

「御坂さん!実は御坂さんに頼みたいことがあるんです!!」

「…………ごめん、初春さん。その頼みを聴きたいのはやまやまだけど、こっちのケンカを片付けてからでいいかしら……」

美琴は右の手の指を鳴らしながら、日本刀を持ったサラシの少女…結標淡希を睨んだ。

「ごめんなさいね、そこのお花畑の子。先にこちらの用事を済ましてからにしてくれないかしら?………まぁ、済んだ時には御坂さんは使い物にはならないようになるけどね?」

フフフフ……と結標は楽しそうに哂う。

その結標のセリフに美琴はカチンッと来たようで、額からバチバチッと紫電を鳴らした。

「へぇ…言ってくれるじゃない……。邪魔なギャラリーはいなくなったし、さっさと決着をつけますか!!」

「いいわよ、今度こそ串刺しにしてあげる♪」

「ただしその頃にはあなたは真っ黒焦げになってるけどね……」

「やれるもんならやってみなさいな、さぁ早く!」

「後悔しても私知らないからね…!」

同時に臨戦態勢に突入する二人……。

「初春さん…と、そこのペンギンみたいなボクも下がってて……」

と美琴は初春の危険を案じ、右手で初春の体を後ろへ下がらせた。

初春は声にならない雄叫びを発するような顔をした。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 21:36:41.82 ID:cw17BIax0
美琴は、トンッ…と美琴の手は初春の胸を押した。

初春は三歩程後ろへ下がった。……いや違う。下がらせられたのだ。

「………〜〜〜〜〜〜ッ!!」

心の内側でガス爆発したような感情が、初春を襲った。

「御坂さん!!」

初春はとっさに美琴の右手を掴んだ。

「初春さん?!…………痛っ!?」

掴まれた右手から鋭い痛みが走る。

「どうしたの初春さん!?手痛い…!」

「御坂さんは勝手です!!」

「!?」

「いつもいつも、勝手です!!木山先生の時だって、春上さんの時だって、先日の残骸事件の時だって………妹達の件だって………どうして!?いつもいつもいつも!相談してくれない!!非常に勝手です!!!」

初春の発言で美琴、それと結標の目の色が変わった。

「……ちょっと待って、初春さん?なんで妹達のことを…?」

「そんなどうでもいい話はいいんです!!!!」

「っ!!」

初春は虎の様に吠えた。

いつもは飼い猫やウサギの様に大人しい彼女が珍しく。

「……………佐天さんが誘拐されました」

「……ッッ!?」

美琴は彼女が何を言ったのかわからなかった顔をした。

しかし“誘拐”という単語の意味は十分知っている。

「………このところ数日、佐天さんの様な誘拐事件が各学区で多発していて、ここの警備員も使い物にならなくて、ウチの風紀委員も残骸事件の調査と復旧で人手打足りなくて……。だから御坂さんしか頼れる人がいなくて……」

ポロポロ……と初春の目から大粒の涙が零れ出た。

「……ック…ヒック…………だから……このままでは………佐天さんが………」

美琴はどうしようかわからないようで、あわあわとしている。

一方彼女の後ろで何か興が醒めたような顔をしながら手に持った刀を鞘におさめた。

「初春さん……」

美琴はポケットからハンカチを取り出し、涙と鼻水でグジョグジョになった初春の顔を拭こうとした。

「だから……!!」

「!!」

初春はその手を逆に掴んで握った。

「…………助げでぐだざい…」

「………」

ずずーーー!!と女の子なのに汚く鼻水を啜り、初春は頭を下げる。

「……助けてください!!」

「初春さん……」

「助けてください……お願いです。もう御坂さんしか佐天さんを助けることはできません……お願いです………お願いです!!」

「頭を上げて初春さん……」

「…………」

「なにが、どうしたの……?話はそれからよ」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/13(土) 23:04:59.44 ID:cw17BIax0
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「テメェ!!なんでそれを早く言わなかった!!……いや違ぇ、なんで黙って見てやがった!?」

上条当麻は、真っ赤な顔をして自分より背の高い人物の胸倉を、フーッフーッと荒い息を立てながら掴んでそう叫んだ。

彼に胸倉を掴まれている人物、左右田右衛門左衛門は“不忍”と書かれた仮面で表情は見れないが、恐らく冷たい目で上条を見ているだろう。

見ているのだ、決して睨んでいない。ただ、見ているのだ。

「答えろ……、なんで吹寄が連れ去られたのを黙って見てた…。テメェにはそんぐらい阻止できる力があったはずだ!!答えろ!!その力は使えないのかよ」

「不使。使えない……いや、使わないの方が正しいか」

と、右衛門左衛門は氷よりも冷たい言葉を上条に浴びせた。

「私のこの力はそこら辺中にいる小童共の相手に使うものではない。我が主、否定姫様の為に使うものだ。勘違いをするな、小童」

「………なっ!?」

「それにだ。今回、姫様は『お前の監視をしろ』と仰ったからには私はこれに従うだけだ。そして、あくまで私は貴様という下賤な小童を監視するだけだ。貴様の連れなど、構っている暇も無ければ義理も無い」

上条の頭の中で、ブチンッと言う音がした。

「……………テメェには正義ってもんが無いのか!!!」

上条は右の手で拳を握り、右衛門左衛門の頬へそれを突き出した。


「………不当。当たらないな、そんな陳腐な拳など…」

という言葉を残し、右衛門左衛門は消えた。


「――――――――ッ!!?」

どこに行った!?と上条は振り返ろうとするが、

いきなり上条の左腕と後頭部を掴まれ、紅葉の木に叩き付けられた。

「言った筈だが、私は姫様から貴様の監視を命じられている。姫様の命令など無ければ貴様など、とうに命はない」

「が…ぁ……」

上条は顔面と幹の衝突で額に激痛が走る。

「わかっただろう、貴様が私に指図する事、ましてや胸倉を掴む事など舐めた事をやってくれるな」

右衛門左衛門は上条の左手を極め、頭を幹に押し当てる。

「貴様、この木の幹の痕を見ていただろう…。この”鎖で何度も小さく擦った様な”痕だ……」

上条の頭を右に向けさせ、幹につけられた痕を見せさせた。

「これは私の推測だが、これは人間を一人鎖で縛り、殴るなり蹴るなりして拷問した時につけられた痕だ」

幹にへばり付く形でいる上条の耳元にまで顔を近付け、そしてその耳元でこう、呟いた。

「…………貴様もそのように、してもらいたいか?」

「………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

ゾゾッ…と背中に鳥肌が立つのがわかった。



――――――――――これは…………本物の殺意だ。



歯がカチカチカチ…と鳴る。

「不縛。私は縛らんよ……。少年を鎖で縛るという特殊な性癖は無い……冗談だ。これで先程の暴挙は忘れてやる」

と右衛門左衛門はしてやったりという風にニヤリと笑う。

しかし上条はまだ夏が過ぎたばかりの初秋なのに、まるで真冬の様にガクガクと震えている。

「不笑。笑えないな、いや笑うしかないか。まさか私の気に当てられたくらいでそこまで怯えるとは、流石に脆弱な小童には少々過酷過ぎたか」

ニヤニヤと笑う右衛門左衛門。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 00:26:11.95 ID:MwCGRwme0
「――――――ふ……ざけんなよ……?」

「……………」

上条はブランとだらけた右手に力を込める。

「ふざけんなって言ってんだろうがぁっ!!!」

油断している右衛門左衛門の胸倉を再度掴み。

そして振りかぶった右拳を思いっきり右衛門左衛門の左頬へ殴りつけた。

「……ぶっ!?」

今度は右衛門左衛門の頬へクリーンヒットし、3m程殴り飛ばした。彼の『不忍』の仮面が外れ、地面に転がる。

「ふざけんじゃねぇ!人をガキみたいにバカにしやがって!!テメェに俺がいいてぇのはなぁ、あのワガママ女の召使いとしてのお前じゃなくて、テメェ自信に訊いてんだよ!!左右田右衛門左衛門!!」

上条は吠える。

「テメェはアイツが…吹寄が誘拐されたってのに……テメェはボーッと立って見てたってのか?それともあの女の命令があるから、助けたいけどしょうがなく呆然と立ってたのか?テメェは血も涙もない殺人兵器か?実は血も涙もある、暖かい人間なのか?どっちだ!?」

上条は右衛門左衛門が倒れている所へ歩み寄り、『不忍』の仮面を拾った。

「もう一度訊く、テメェは黙って見てた!?」

呼吸を三つ程数えた頃だろう、右衛門左衛門が淡々と答えた。

「不答。その答えには答えられないな。『左右田右衛門左衛門はどういう人間か…?』そう訊いたな…?私は一度死んでいる。いや、二度か」

右衛門左衛門はムクリと立ち上がった。

彼の仮面で隠された表情が露わになる。

「………ッ!?………テメェ…顔が……?」

「……一度目の死の時だ。私は顔の皮を剥された時だった。その時は敵に捕らわれ、丁度後ろの木の幹に鎖で縛られた後に奪われた…。顔の皮はその人間の存在を表す。――――それ奪われたのだよ、私は」

「………〜〜〜〜ッ」

わかる。いや彼の様な経緯ではないが、わかる。

しかし上条は七月二十八日から記憶がない。そう、上条当麻という人間は一度死んでいるのだ。

「失意と絶望のどん底にいた私を救ってくれたのが姫様……否定姫様だ。だから私は姫様の為ならこの命、幾らでも差し出す」

自分と対峙しているこの男は自分と同じだ。いや、自分よりも凄まじい。

上条だって、気が付けば病院で目を覚まして、一人の女の子を嘘を吐くことで彼女を絶望から救ったし、一人の特殊な血を持つ少女を錬金術師から救い、一人の超能力者と一万人の彼女の妹達を地獄の実験から救い出した。

――――――二人とも一度死に、でも生きている。そして誰かを守っているのだ…。

「それに、私は忍びの端くれだ。常に残酷な思考を持ち、時に残忍な行動に移す場合がある。すべては姫様の為だ」

「でもよ、それじゃあテメェは報われるのか?」

「不憂。あまり憂うな、気色の悪い」

「なっ!?」

「不叫。叫ぶな、うるさい。まったく自分らしくもない、なぜこのような小童に私がこんな話をしなければならないのだ」

と自分で悪態をつく。

「ついでだ、教えてやる。吹寄とか言った少女は三人の布を被った男に連れられた。大きな男と中肉中背な男と少女に殴られて、頬が腫れている男だ」

(うっわ、吹寄に殴られたんだ……。痛そ〜)

「三人はそこの道に泊めてあった、自動車なる乗り物に少女を乗せ、去っていった。色は黒、大きい物で、北へ去っていった」

「…………」

上条は目を丸くした。

なにせ、あの肩っ苦しい事この上ない右衛門左衛門がこうも協力的なのだからだ。

「何を呆けている。追うならさっさといかないか」

「あ、ああ。じゃあ行くから……じゃあな、ありがとうな」

と、上条は呆けたまま車が去っていったという北へ去っていった。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 01:04:31.82 ID:MwCGRwme0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数分たった。

右衛門左衛門は公園の時計を見る。

長い針が目盛を三つばかり進んだかと思う。

ふ〜っと長く息を吐き、紅葉の木に寄りかかった。



「――――――これでよろしかったでしょうか?姫様」



と誰もいないのに、誰かと話しように喋り出す右衛門左衛門。

もしも誰かに見つかったら明らかに変人だろう。

だが、ポツポツと小さいが雨が降ってきたから、この公園には誰もいない。

元々、ここは“呪われた公園”と言われ、夜になるとここで自殺した霊がうろつくという噂が存在していて、なかなかここは人が来ない。

科学の街なのに非科学的な…と言われるが、結構目撃情報があるのだ。

っと、脱線したが話を戻す。

傍から見れば右衛門左衛門は一人で勝手に喋っているように見えるだろう。

しかし彼はそういう人物ではない事は、明らかだ。それは読者諸君が最も知っているだろう。



『――――――ふふふ、上出来よ、右衛門左衛門♪』


とどこからか声が聞こえた。

出所がわからない。まるで心の中へ語り掛けられているような……そんな気がする。

「あまりいいものではありませんね。演じていながらも、吐き気がしました」

『その割には余計な事も喋っていたじゃな〜い♪右衛門左衛門が珍しいわね、自分の過去を赤の他人に話なんて』

「……………」

『そう怒らないでよぉ〜。冗談よ、冗談♪』

「あの小童には不思議な力がある……と、私は感じました」

『………言って頂戴?』

「はい。私はあの小童が苦手です、吐き気がする程に。しかし、私は小童の問いに何故か少々おまけをつけて答えたしまった。本来なら姫様が命じた『吹寄制理がどの方向へ連れ去られたかを教えよ』という命令に。本来ならばその重要な所だけを言ってしまえばいい所なのにです」

『いいじゃない、見ているこっちは楽しかったわ♪珍しいのを見せてもらったからね〜。ありがとね♪』

「喜んで頂き、有難う御座います」

『とりあえず今後もあの馬鹿の監視よろしくね♪』

「かしこまりました」


そして一つ礼をして、右衛門左衛門は姿を消した……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

否定姫は上条が住む学生寮の屋上にいた。因みに人払いのルーンを刻んでいるので人が入ってくることはまずない。

彼女は気になる事…いや、納得がいかなかった。

それはどうして、“上条当麻に自分の通信魔術が通じなかったのか?”

そう、先程右衛門左衛門と否定姫が話していたのは、彼女が現在一緒に生活している少女から教わった魔術に自分なりの改造を施した、特殊な魔術だった。

だがしかし、上条には通じなかった。右衛門左衛門には通じたのに…。

「これは面白いわー♪」

と呟いて、彼女はニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 01:09:22.73 ID:MwCGRwme0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

一つ訂正をします。

>>162の『丁度後ろの木の幹に鎖で縛られた………』ですが、正しくは『丁度後ろの木の様な木のの幹に鎖で縛られた………』です。

申し訳ありませんでした。

何度も言いますが、間違い、キャラの口調の違和感、何かのミス、ボンミス……etc.


脳内再生でお願いします。


今日はここまでとして筆を一時置かせていただきます。

では、おやすみなさい…。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 14:23:59.63 ID:MwCGRwme0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
気が付けばそこは血の海だった。

『奴ら』の体から溢れ出た真っ赤な液体が公園の土を染め、『奴ら』を縛り付けた紅葉の木の幹も真っ赤に染まった。

まだ春なのに可笑しいな〜と笑ってしまった。

『奴ら』はもういない。

なぜなら僕が『奴ら』にされた事をそのまま『奴ら』にしてあげたからだ。

ああ、なんて達成感だろう。

僕をあんな目にした、恥を掻かせた『奴ら』はもういない。

いや、正確に言うならば“『奴ら』だった物”は僕の目の前の紅葉の木の幹にいる。

……“いる”?

いや、“置いてある”?

それとも“座っている”?

じゃあ“潰れている”?

まぁいいさ。僕はただ、彼らにお返しをしただけだ。今日まで散々傷め付けられた分をいっぺんで返済してあげたんだから……。

これで満足だ。……と言いたいことだが、一つ可笑しなことがある。

なぜ彼らはあんなに怖がり、恐れ、怯え、怒り、震えていたのだろう…?

可笑しい、僕は今日までの三年間のお返しを精一杯してあげただけなのに………。

そうそう、もう一つ可笑しな事があった。

僕は『奴ら』と付き合わされていた女の人達も『奴ら』を殺った後に『奴ら』同様にしてあげた。

別に今日はじめて対面したから、そんな理由も義理もないと思うだろう?

でもね、彼女は恐らくあの邪悪で卑劣で、悪魔の様な『奴ら』――――いや悪魔だ、『奴ら』は――――に散々に嫌々と交尾を強制させられたんだろうと考えた。

だから僕は優しいから、彼女達を『奴ら』の穢れた精液を浄化しようと、徹底的に犯した。

その後だ、彼女らは自ら『いっそ殺して』と嘆願してきた。

……可笑しいだろう………?

なんで君たちの為に浄化してあげているのに、なんで拒む?

『奴ら』より僕の方が有能な血が流れているのに?

下賤で卑劣で悪魔の様な奴らよりも僕の方が神聖で気高く、そして尊いと言うのに?

まぁ僕は『奴ら』と違って優しいから、『奴ら』と同じように殺ってあげた。

そして周りは一層紅くなった。

地面も、木の幹も、僕自身も。

まるでカンヌ映画祭の赤絨毯の上を赤タイツを着て歩くような、そんな滑稽な絵になった。

はははっと僕は笑ってしまう。

なぜ人はこうも下の者を貶すのだろう?

なぜ人はこうも上の者を蔑むのだろう?

なぜ人はこうも同類の者を嫌がるのだろう?

わからなくなる。

でもアリストテレスの様な崇高な哲学者になった気分がキモチイ。

私は同じ気高き、同じ部類に入る仲間に『奴ら』と『奴らに散々付き合わされた、哀れな女の人達』を空間移動で地下に埋めてもらった。

そして僕はそのハイな気分でこの場を去った。

その翌日に新聞で彼らが行方不明だというホンの小さな記事を見つけ、フフフッと笑った。

その日の夕飯のハンバーグはとても美味しかった事は三年たった今でも覚えている。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 15:02:32.14 ID:MwCGRwme0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『わかったわ初春さん!じゃあ私とこのサラシ女で佐天さんを連れ去ったとか言う車を探すから、初春さんはそこのボクを連れて風紀委員の詰所で私達に指示して!?』

と言って御坂美琴が結標淡希を連れて消えたのは大体三十分前。

初春飾利はタクシーを拾い、真庭人鳥を連れてホームである風紀委員第一七七支部へ向かっていた。

あの結標さんって、もしかして残骸事件の首謀者だった人じゃ……?と首を傾げたが、初春はそんな余所事を頭を振って追い払った。

今は自分が出来る事をしなくては……。

初春は常時持ち歩いている自前のPCを取り出し、電源を付けた。

外ではポツポツと小雨が降っていた。

この空の様子じゃあ大きくなるだろう…。

初春はPCのキーボードを撫でると、ウィーーン……と起動音が静かにするのがわかった。

(とりあえず今日を含め、この数日で誘拐された人、行方不明になった人を確認しないと……。犯人の目的がわかれば捜査がしやすいですからね……?)

スタンバイし終わったPCにパスワードを打ち込み、早速警備員にしか入ってこない情報をハッキングして盗む。

伊達に『守護者』と呼ばれるだけでない。スルスルとセキュリティを掻い潜り、情報を掴んだ。

その間、わずか一分。


(今日で誘拐されたのは、第七学区と第十三区と第二十学区と第二十三学区でしたね………計十六人。この数日では……三十人!?……多い、明らかに多い、多過ぎる!!)

これはもしかしたら相当大きな…というより巨大な事件じゃないのか?

この数日で三十人とは多過ぎる。

しかし、これを利用する以外に手はない。

なぜなら……。

(……これは被害者の共通点を洗う最大のヒントになる!!)

初春は直ちに被害者の共通点を見つける為、顔写真とある程度のプロフィール、そして『超能力』の能力と強度のデータを自分のPCに落とし、そのハッキングした場から立ち去る。

(これでよし、セキュリティに引っ掛かった痕跡もないし、追手は来ない)


丁度、タクシーは風紀委員第一七七支部に到着した。

「ありがとうございます!!」

と運転手に礼をして、初春は人鳥の手を引いて急いで降車した。

二人は風紀委員の詰所の入口まで急ぐ。

「ほら、人鳥くんも降りますよ!?」

初春は雨で濡れて、滑りやすくなった人鳥の手を強く握りなおす。

しかし、人鳥は彼女の手を無理やり引きはがした。

「………人鳥くん!?何やってるんですか!?」

初春は叫び、彼の手を取ろうとする。

しかし、人鳥はその手を払いのけた。

「…………僕も……」

人鳥は小さく呟く…。

しかしその声は初春の耳に確かに聞こえた。

「僕も、佐天さんを助けに行きます……!」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 15:39:05.08 ID:MwCGRwme0




僕は、ただ運がいいだけの人間だ。

例え目の前で百人の弓兵隊が僕に向かって弓を引いていようとも、矢が勝手に僕を避ける。

もしも弓より遥かに強力凶大な威力を誇る鉄砲を三千丁持って来て、僕に同時に撃っても、掠り傷も与えることはできないだろう。

なぜなら僕の忍法、忍法運命崩しはどんな飛び道具を強力に改造して撃っても、どんなに近距離から撃っても、僕に当たることはできない。

しかしその忍法には弱点がある。

それはこの忍法は飛び道具にしか効果が無いのと、ゼロ距離からでは避けようがない事。

それと、見方が僕の幸運で、不幸な目に会う事だ。

敵の得物が鉄砲や弓矢でなく刀や槍だったら、僕の忍法は発動しないし、口に鉄砲を突っ込まれたりして発砲された弾がすぐに自分の体に着弾するのだったら避けようがない。

それに、僕に当たるはずだった弾が勝手に避けるという事は、隣にいた味方に当たる可能性が高まるのだ。

この忍法は真庭忍法最強とか言われるが、紙の無い障子の様に穴だらけなのである。


―――――――それに、この忍法のせいで母は敵の火縄銃で蜂の巣になった。


僕はこの忍法が嫌いだ。

出来るものならこの隙だらけの忍法でなく、蝶々さんの様な忍法足軽や蝙蝠さんの様な忍法骨肉細工の様な便利且つ敵の殲滅できる忍法が欲しかった。

でも生まれた時から運が良かったせいで、この忍法を扱う事だ決定された。

だから僕はこの忍法が嫌いだ。

あの時、あの大きな車が僕を襲った時、僕は死ぬだろうかと思った。

しかし僕はその考えをすぐに否定した。いや、結局この車が止まるか横に反れるかで僕は助かるだろうと。

でも、あの佐天という女は僕を助けるために飛び出してきた。

僕は戦慄した。

また、母の様に自分の忍法で人を死なせるのか!?

だが、彼女は死ななかった。

僕を抱きかかえ、向こうの道へ飛び込んだのだ。

ビックリした。なぜなら、今日初めてであった子供になぜ、そこまでする?

彼女は僕を抱えたまま少し泣いていた。

良かった…良かったよ…と。


母も、僕が任務から帰ってきた時、僕を抱いて『どこか怪我をしていない?嫌な事が無かった?』と良く心配してくれた。

その忘れかけていた温もりを、彼女は同じ様に再現したのだ。


だから……。

今度は僕が彼女を助ける番だ!!

僕があの時逃げ出さなければ、道に飛び出さなければ、攫い屋に連れ去られることは無かった………!!

今、彼女は命の危機に陥っている。

だから僕はこの命に賭けても、彼女を助けなければならない義務がある。

佐天さんの友人である初春さんは何故?という顔をした。

答えは一つだ。



それが男というものだと、教わったからだ。

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 21:54:52.15 ID:MwCGRwme0



「人鳥くん!?」

初春は踵を翻し、小雨が降る歩道を走り去る人鳥に叫ぶ。

「あなたは引き続きあの二人の援護をしていてください!!僕は個人で佐天さんを助けます!!」

「待ってっ!小さいあなた一人じゃあ……!!」

初春は人鳥を捕まえようと手を伸ばすが、すでに彼は姿を消していた。

「……〜〜〜〜っ」

詰所と人鳥が向かった方向。初春はチラチラと両方見る…。

今にも美琴と結標は誘拐犯の情報が欲しいはず、しかし今去っていった人鳥も放っておく訳にはいかないのも事実。

果たして、彼女はどっちを選ぶ…?

初春は歯を食いしばり、決断した。

「えぇい!もう勝手にしてください!!」

初春は詰所をへ入っていった。

人鳥の方は心配だが、背に腹は返されない。意味すぐにでも情報が欲しい。

初春は事務所のドアを開ける。

「あ、初春さん!!」

事務所の中で慌ただしく作業をしていた人物が一人いた。

「……固法さん………」

固法美偉。風紀委員の先輩にあたる人物だ。

「聞いたわよ、佐天さん、誘拐されたんだってね」

「はい、それで至急にその犯人の足取りと情報を探しています」

「あなた一人で?白井さん再入院したって聞いたけど……」

「御坂さんとその友人(じゃあないけれど)の結標さんって人に手伝ってもらっています」

初春の毅然とした返事に、固法は呆れたように溜息をついた。

「………あなたって人は、あれほど一般人を巻き込まないようにしてって言ったのに……幾ら警備員や私達があまり動けないからって……」

「始末書なら何十枚でも書きます。でもそれが最善の選択ですからしょうがないし、私が始末書を書くだけで佐天さんが助かるって言うんなら、私は何百枚も書きていいですよ?」

初春は早速、詰所に置いてある、自分が改造に改造を咥えた大きなPCを起動する。

「みんな勝手です。警備員も風紀委員も御坂さんも白井さんも、みんなみんな勝手すぎです。だから私、もうみんなの勝手に付き合うのを止めました。自分が信じて進む道を突き進みます。そう決めました」

はぁ〜。ともう一度溜息をする固法。

「みんなその勝手に揉まれながら成長するものよ。…………とりあえず、残骸事件の調査と復旧作業は中断。この大多数誘拐事件に全力を挙げて調査することが決まったわ。第十三学区と第二十学区、それと第二十三学区の風紀委員が協力してくれるそうよ」

「え?どうして?各学区同志で争っているんじゃ…?」

「それは大人の方の話。確かに警備員はいがみ合っているそうだけど、実のところ子供の方はそんなに対抗意識が無いの。皮肉な物ね、大人の方の警備員より、子供の方の風紀委員がちゃんとした正しい方法を選ぶなんて…」

初春がキーボードを叩く音が響く。相当急いでいるのか、カタカタカタとした音でなく、マシンガンの様にカカカカカカッという細かく高速に叩く音だった。

「まぁそこのトコロの話は私がそれぞれに交渉したけど、みんな相当テンパってたそうよ?上からのプレッシャーで相当参っていたとか」

「良かったですね、第七学区の警備員の人達はそんな硬い頭の持ち主ばかりでなくて」

カカカカカカカッ、タンッ!とEnterキーを叩く音がした。

「これを見てください。ここ数日の誘拐被害者、または行方不明の方々のプロフィールです」

初春はタクシーの中で落としたデータを固法に見せる。

「凄いわね、もうここで調べたの?」
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 22:38:25.94 ID:MwCGRwme0

「はい。で、これで被害者の共通点を探して、犯人の目的を発見するんです」

初春は目の前で佐天が連れ去らてた時を思い出した。

「彼らの犯行の手順はテキパキとしてて、効率が良かった。恐らくプロ…ってのはおかしいけど、相当慣れ込んだ人達でしょう。きっと彼らはその犯行を実行した何らかの目的はある筈です。それを考えます」

「ええ、犯罪の調査の最初は、犯人がどうしてその犯行に至ったかを調べる事が基本だからね」


初春は調べた(ハッキングして盗んだとは口が裂けても言えない)顔写真付きのデータをスクロールした。

その中には佐天涙子と吹寄制理の顔もある。二人は並んで写っている。


「まず被害者の方たちは皆、女性という事が一点。そして中学生から高校生の間が多い事が一点…」

「髪が長いとか、短いとか。目が大きいとか小さいとか。茶髪とか金髪とかの同じ容姿の人を攫っているような感じじゃないし、お金持ちの子供を狙っている可能性も低いわね」


固法は腕を組んで続ける。


「お金持ちの子ってみんな常盤台とか長点上機学園とか霧ヶ丘女学院とかのお金持ち学校の生徒を狙うじゃない?証拠に普通の中学の普通の家庭出身の佐天さんが被害者にいる。そもそも身代金の要求はされていないし」

「でもそれはカモフラージュで、三十人四十人の人質を取っているから身代金ウン十億持って来いってことはないですね?」

「その線はありそうだけど、だったらなんでいちいちチマチマと女の子を集めるの?それだったら一気にお金持ち学校のスクールバスを襲った方が効率がいいじゃない?」

「確かにそうですね……。では犯人の目的は……?」

「もしかしたら何かの能力が欲しいからじゃない?この大人数の中に特殊な能力を持ってる人がいるとか…」

「あ、それはあるかもですね!探してみます……」

と初春はデータの中の被害者のプロフィールを漁り、彼女ら名前と書庫から落としたデータと照らし合わせる。



「………だめです、みんな無能力者ばかりです……」

初春は困難の表情を見せ、固法は歯痒い表情を見せた。

「くっ…、なんなの?犯人は何がしたい!?」

「……嘆いても仕方ありません。まだこのデータには無い情報があるかも知れないので、そこを調べてみましょう!」

そしてまた、初春はキーボードを高速で叩き始めた。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/14(日) 23:28:59.60 ID:MwCGRwme0
――――――――――――――――――――――――――――――――――

初春と固法が頭を抱えていたその頃、上条当麻は走っていた。

上条は公園を去った時、走りながら警備員に吹寄が誘拐された事を通報した。

通報した警備員はなぜか口が多い人で、愚痴を零す様に、こう上条に言った。



―――――――学園都市中で同様の誘拐事件が多発しているようだと。


上条はひたすら、昨日の朝の様に走っていた。

走れメロスの様なという表現は二回目だから省くが、まさにそれだった。


空から小雨がポツポツと降ってくる。

いずれ大きくなるかも知れない。

段々と雲の色が濃くなってきているし、厚くなってきているようだ。

急がなければ、吹寄が待っている。彼女の命が危ない。

上条は走る。走る。走る……。


「って、どこへ走っていけばいいんだよ!!」


上条は自らにツッコみを入れた。

そう、あの公園で左右田右衛門左衛門に『車は何処の方向へ走っていったか』とは教えてもらったが、『何処へ走っていった』と教えてもらっていない。

「ああ〜くそっ、一体どこへ行ったんだ!?」

どうだっ、こういう時こそ自分の人望を試すとき!!

上条は携帯電話を取り出し、メールアドレス帳の友人欄を見た。

「……まずは…土御門!!」

友人であり、その中で最も頼りになる男、土御門元春へ電話を掛けた。

プルルルルルルル………。プルルルルルルル………。

無機質な音が受話器から流れる……。

コールが十回した後に、ガチャッと電話に出る音がした。

「!!……土御門か!?大変だ!吹寄が!!」

『ただいまぁ〜、マミのご主人様は電話に出ることがぁ〜出来ないんだよぉ〜。だからぁ〜、また時間を空けてぇ〜掛けてくれたらぁ〜、マミうれしいなぁ〜。じゃあ、バイバイ☆』

ピッ!

上条はとっさに電話をきった。

土御門の代わりに『天才♪美少女メイド☆マミちゃん』が代わりに出た。火曜の深夜三時に入っているにゃーと言ってたのを思い出す。

しかしこのシリアスな展開にこの留守電はなんだ!?場違いのギャグにも程があるわ!!


「……しょうがない、こうなったら小萌先生!!」

『すいません、只今ドライブ中なので電話に出ることができませんなのです〜。なので、後から掛けてくださいなのです〜』

ピッ!

「…………また留守電……」

そう言えば今日って京都競馬で大事なレースがあるって昨日の学校で呟いてたっけ…。

いやそれは関係ないッ!!

「しょうがない…!見返りが怖いけど!!本当は嫌なんだけど!!…………あの否定姫にしようか……」

上条は自宅の固定電話の番号を押した。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 00:36:10.22 ID:8OiVFUC90
prrrrrr……prrrrrr……

がちゃっ。

『はい、Index-Librorum-Prohibitorum ………じゃなかった、こちら上条です!!』

「あ、インデックスか!?」

『どうしたの?とうま。もしかして迷子になっちゃった?』

「お前じゃないんだ、安心しろ。…っとそれよりインデックス、そこに否定姫いないか!?」

『ひていひめ?』

「どうだ!大至急だ!!」

『いないよ?』

「はぁ!!?(#゚Д゚)」

『!!……とうま、いきなり大声出さないで欲しいかも…。ひていひめはね?むすじめが目覚める前にどっかいっちゃったんだよ?』

「なっ…なんですとぉ!?なんでだよ!?そんなフザケタカッコウしてんのに外ウロつくなよ!!」

『で、未だに見つかんないの。……で、とうまはなんの用だったの?』

「いや、いい。お前には関係ない…むしろお前が来たらややこしくなる」

『はぁ!?とうま!!それって聞き捨てにはできないかも!!……ってとうま!?おーい、聞こえてる!?とう…』

ピッ!



――――――どうやら、神は相変わらずワタクシ上条当麻を嫌っているようだ……。


上条はガックリとした。

しょうがない、項垂れていても犯人がやってくるでもなし。

自分から走っていくしか、ない。

「クソッ!やってやる、ヤケクソだろうが知った事か!!」

上条が嫌になったように叫びながら突っ走る。

さーっと雨降り特有の湿った風が向かい風として吹く。



―――――――――その時いきなり上条の視界が真っ暗になった。



172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 00:56:41.88 ID:8OiVFUC90

「……っ!?」

なんだ!?いったい何が起こった!?

何か顔に柔らかくて暖かくて妙に甘い匂いがする物体が上条の顔面にめり込んだ。

「んんん!!んんんんんん!?」

息ができない。が、何か自分の中の鎖が打ち破られるような感じと、母性的な心地よさに包まれるような感触は……?

上条は両手で前の状況を触って確かめる。

まるで正面から飛び乗られて、頭を胸でギューッと抱き締められているようだ。


「………って、ぇえ!?」


と、訳が分からない状態の上条の頭上で聞いた事のある声が聞こえた。

「当麻く〜〜ん♪」

「………この声は!!」

声の主は若い女の子の声だった。

彼女は上条から体を少し放す。

上条は少し空いたスペースから彼女の顔を確認する。

「お前は…結標淡希!?」

「こんにちは、やっと会えたわぁ当麻君♪」

「………お前…そんなキャラだっけ?」

「やだぁ///いつもこんな風だったじゃない、私達♪」

「おいヤメロっ!!照れ隠しで『鎩』で俺を叩くな!!いつからそんなにデレデレしてんだ!?上条さんはそんな桃色フラグを立てた覚えは皆無なんですが!?」

「いいじゃない。当麻くんは私の命の恩人で、王子様なんだから♪」

「おいっ!さっきと明らかにキャラが180°反転してんぞ!?………ハッ…!」

そこで、上条は気が付いた。



…………もしかして、さっきまでこうして抱き合ってる結標淡希のこの、豊満に膨れる二つの突起物に自分は顔を埋めていたのでは…?


「……………」

キューーッと熱したヤカンの如く、上条の顔は真っ赤かになった。

「……は、離れろっ!!///……つーか離せ///離してくれ…///頼む、理性が壊れるうちに!!///」

「当麻くんカワイイ♪別にいいのに、当麻くんなら………私の初めて…あげても…///」

「ッッッ!!?//////」

上条はバッと鼻に手を当てた。

ヤバい、鼻血が出る。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/15(月) 01:12:04.11 ID:JonHmayDO
この『』の部分は千刀ツルギでいいんですよね?
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 01:17:35.57 ID:8OiVFUC90

「〜〜♪」

結標はそんな上条の頭を優しくナデナデしている。

(……クソッ、なんてこった。高校一年生の二年生の間に、こんなにも差があるだなんて……。恐るべし、高校二年生…)

大丈夫だ、全国の高校二年生の女子はみんなこうではない。

もしもそうであれば、作者はとうの昔に童貞など卒業している。


結局、結標が上条限定で淫乱なだけである。

もっとも、彼女は小中高と女子校だった為であるが、女子校に通っていた者には三種類の人間になると言われている。


一つは他校の男子と上手に付き合いが出来る者。

これは普通の女子だろう。


一つは余りにも男成分が無いため男の耐性が無く、男子に対する恐怖から同性同士の恋愛を興ずる者。

これは二人の同意が重要で、片方がノンケだった場合、ノンケの方はいい迷惑だ。御坂美琴と白井黒子はいい例だろう。


一つは上とは逆に、男子の耐性を埋める為、少女マンガや少女小説、又は自分勝手な妄想などで“男という生き物”の間違った定義を定めてしまった者。

これが男としたら一番タチが悪い。いちいち女の妄想に男が付き合わなくてはならないからだ。


結標は後者の人間で、上条は彼女のその間違った“男の定義”というヒーロー像…というより王子様像にピッタリ当てはめられてしまった。

そしてこの発情期の猫の様なデレ方をしてしまったのだ。

まぁこういう風なのが好きな方はどうぞなのだが…。

その気の無い男とすれば動物としての本能と毎々戦わなくてはならないし、全く関係のない周りの人間からすれば羨ましすぎて、いっそ男をボッコボコにしたい衝動に駆られるからである。

そう、上条はそれを恐れていた。


そして、最も怖い存在を上条は知っている…。

結標と共の行動していたりする場合なら、もしかしてもう来る頃か……。

上条が背中に冷たい存在を意識する。



その時、ビリビリッと嫌な音が鳴った。


「…………」

サーッと顔から血の気が無くなってくるのがわかる。


「アンタ、人がこうもシリアスな感じで走り回ってんのに、なんでこうもラブコメ的なシチュエーションを楽しんでんのかなぁ……?」


上条は首をギギギギ…と後ろに回転させる。

そこには傾がった笑みでこっちに向かってくる御坂美琴がいた。

額には青筋と紫電が走っていた。



「……アンタの様な類人猿は……いなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!」



美琴の渾身の電撃は、上条と結標へ向かった。

結標はとっさに座標移動で回避したが、上条は幻想殺しが宿る右手を突き出す間は無く。美琴の電撃をモロに直撃してしまったのだった。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 01:39:46.05 ID:8OiVFUC90
今日はここでお終いです。

>>173 はい、そこは『鎩(ツルギ)』であってます。

『千刀 鎩』の『鎩』は普通で出てこなく、手書きで出してます。

また、『千刀』を『せんとう』と打って変換すると、
『戦闘』や『銭湯』と言った血とお湯という物騒な物と平和的な物という真逆な物になってしまうという、少々ややこしい字です。


明日は少し用事があるので書けないと思います。

では明後日、お会いしましょう。

感想・質問をお待ちしております。

ではまた…。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/16(火) 18:31:12.73 ID:farL5G5wo
177 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/16(火) 21:36:28.26 ID:/UgKZddT0
そういえば今のところ
ミサカの出番が少ないかも〜
ってミサカはミサカは
肩を落としてみたり〜(´へ `;)
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:09:17.84 ID:01TM8IdW0

こんばんは。

今日は短めですが、よろしくお願いします。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:29:34.00 ID:01TM8IdW0
ああそうそう、打ち止めは前スレで登場する予定でしたが、尺が無くて急遽取り消しにしてました。

打ち止めファンの皆さんは暫しお待ちを…。


まぁ登場する予定だったと言っても、ただ妹達の司令塔である彼女が残骸事件の細かい真相を一方通行に報告するというシーンで、原作・アニメとてんで変わらないです。

まぁ前スレの時、ノリで軽く設定した中国マフィアは天井亜雄が内通していた組織と一つ絡んでいたかもしれないという、外にいる妹達の調査結果を打ち止めが報告するという内容です。

あの設定はBLACKLAGOONにのめり込む様にハマった時期で、そのせいで考えてしまった設定でした。

設定は生きていますが、実際にこれが重要になってくるのはまた別の話だったし、

そう言えば原作で学園都市に残っているミサカは四人だけだったけど、このスレの場合は全員学園都市にいると言う、二次創作特有の設定だから外からの情報は言ってこないじゃん!

………ってことなのでカットしましたという事です。


まぁいずれ妹達オールスターを出すかもしれないので、暫くお待ちしてください………。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 01:40:31.83 ID:01TM8IdW0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これは実際に俺が体験した不思議な体験だが……、学園都市の外の…ドコかは言わねぇ、だがスゲェぐれぇの田舎だってことは言っておく。…そこに旅行に行った話だ」


息を呑む声が聞こえる。

しん…と静まり返った空気を確認すると、すぅ…と息を吸った。


「夜中だ。俺は終電のバスに乗った。その時期は丁度、盆時期でな、里帰りしてきた奴やそこの祭りに来てた奴らが乗ってたが、人数は満席じゃねぇ、二、三席は席が空いてた。そこの一番奥の席に俺は座った」


話し手は、ゆっくりと、そして静かにその体験談を話す。


「みんな浴衣だったりオシャレな服着てたりしてた。『楽しかったね』『来年も行こうね』とみんな楽しそうに話している中、バスは走り出した。田舎だったから頻繁にバス停は無いからな、バス停とバス停の間が1、2kmなんて事はざらにあった」


男は静かに続ける。まるでヒソヒソ話をするように。


「……俺が乗った所から次の所はまさにそれだった。しかも周りは田んぼか畑か山ばっかだからし、そして何よりそのバスはオンボロでよ、いつ壊れても可笑しくない様な骨董品だった。だから走っている時は、いつもより長く感じたし、バスの蛍光灯もなんだか薄暗かったのを今でも覚えている」


しかし男の声は良く響く。

なぜなら今、この場でこの男の話を聞いていない者は誰一人としていないからだ。

誰も、喋らない。


「そんな道のりの中で、とあるトンネルが見えてきた。……でもなんでかトンネルの横にもう一並んでいて、ウン十年前に作られたような、コケだらけで古びた、灯りが付けられていないようで、向こう側が見えないまでに真っ暗なトンネルがあった。

バスが通る道はその左側のトンネルに繋がっていて、右のトンネルはあまり使われていないようだった。………しかしだ。その右側のトンネルの前で一人の警官がチカチカ棒を持って立っている。

その警官が言うには先程、自動車同士の衝突事故があったらしく、死人が出たらしい。その惨状があまりにも酷いので、隣の古いトンネルを通ってくれないか?というものだった。」


空気が、また、さーっと冷たくり、聞き手の背中に氷を落とす様に寒気をもたらす。


「しょうがない。運転手はそう言って隣のトンネルへ続く道路へハンドルを回したんだ

「俺はゾクッとした。他の乗客もそうで、あんなに喋っていたのに黙り込んでしまった。シンと静まり返ったバスは、暗ぁい、暗ぁいトンネルの中へ入っていった……乗客の一人が、『早くトンネル終わるといいね』って」


男は少しのジェスチャーを交えながら分かり易く……、いや相手に印象付けさせる為に話す。


「………しかしトンネルの丁度真ん中らへんで……いきなりバスはエンストした……!」


男は声のボリュームを上げた。聞き手の一部が驚きの声を上げる。


「ボロボロのバスだから突然エンストしてもしょうがなかったが、前触れもなく真っ暗になったバスん中は小さいパニックになった…!

乗客の女の人は『キャー!』と甲高い悲鳴を上げた。他の乗客もザワザワと騒がしくなったが、流石の運転手もビックリしたらしく、『お、落ち着いてください!』とヒステリックに怒鳴って、エンジンをつけ直した…。

そのおかげで、バスの中は直ちに明りが付き、元の明るさに戻った。すると、俺達乗客も運転手もみんな落ち着きを取り戻した。

………バスはそのまま何ともなくトンネルを潜り抜け、その後も何もなく各地のバス停を廻っていた。

その度に一人…また一人……また一人……乗客は降りて行き、そして残りの乗客は俺を入れて、終点に降りる三人だけになった」


周りはホッとした空気になった。

しかし、


「………十数分経って、やっと終点に着いた。俺は古い座席から腰を上げて、ギシギシと音を立てながら出口へ行き、運賃を払って、バスを降りた。




降りたのは……俺、一人だけだった………」



181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 02:17:06.49 ID:01TM8IdW0


「あれ?おかしいな……?俺の他に二人、終点のここに降りる筈だ。この後バスは元へ来た道を戻って、バス会社にある車庫へ行くはずだ。………俺は気になって、バスの中を確認しようとしたが、もうバスは出発していた。もちろんあの乗客二人を乗せて……。

まぁいいや、他人だし。あっちでホテルにでも止まるかタクシー捕まえるかしてるだろう…と俺はその時、そう考えていた……」


話は一段落して、あたりはふと緊張が解けかける。


「………数日後…。俺は泊まった旅館でその日に出た新聞を見た。田舎の新聞だ、昨日のトンネルの事故の記事も載ってあるだろうと思ったからだ。その事故は100km/hで走っていた乗用車同士が真正面から正面衝突したらしく、車に乗っていた人は即死だったらしい。……そして、その記事があった、そのページの右端の小さなスペースに、こんな記事があった……」


再度…いや、先程より、もっと冷たい空気が辺りを包む……。


「『深夜の最終バスが消える…。運転手が行方不明……』」


しんっ……と耳が痛くなるような静けさが襲う。



「その記事の事件……丁度俺があの時いた町で起こった事件で、昨日起った事らしい……。


…………そう、俺が乗っていたバスの事だ……」


オォ…とどよめきがした。


「…………それともう一つ……」


………ゴクンッ…と、聞き手の一人が息を呑んだ。

緊張感がピークを迎え、心拍数が淡く上がる。





「俺がバスから降りた時……、乗ってた乗客の数は二人…………。……………そして………」


男は一拍くらい間を置き、息を吐いて吸った。







「………そして………あのトンネルでの衝突事故での死者は…………二人だったという……………。




さて、あのバスに乗っていたのは、何者だったのだろうか………?」
















182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 02:19:14.88 ID:01TM8IdW0









































































183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 02:21:24.36 ID:01TM8IdW0




























「……………………………ソレハ、俺ノ事カ…………?」









































184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 03:08:13.05 ID:01TM8IdW0





「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」






バスの中が小パニックになる。

ジョンは「うるせぇ!!」と怒鳴る。

「あっはははははは!!」

と話し手であった、明るい茶髪の男…メンバーからはシンと呼ばれる男はメンバーのあまりのパニックぶりに爆笑する。

「なんという話をしてくれているんだ、お前は!!」

と彼の右前に座っていた、野球選手が持っていそうなサングラスを掛けているヤンはシンに拳骨を食らわした。

「イッテェ!!……ん何してくれてんだ!?」

「お前こそ、なんでいきなり前触れもなくそう言う話を持ち出す!?」

「まぁまぁ二人とも…」

シンとヤンの仲介役である、大きな体格の男…マンションは喧嘩腰になりかける二人の間に立ち、何とかこのバスの中でドンパチさせないようにしていた。

彼の仲介が役に立ったのか、ヤンは元の座席へ戻っていった。

それを見てマンションも元の座席へ戻る。

「おいおいシンよ、丁度バスを運転している人間が聞いたら心臓が悪くなる話はやめてくれないか?」

と運転席でギアをサードからセカンドに換える男…メンバーからはジョンと呼ばれる。

「それにこん中でドンパチもやめてくれ、先月やっと手に入った専用車なんだからな?」

「ぶはははははは!!ジョン、そういうお前はこの前、このバスより倍に高い車買っただそうじゃないか?」

一番後ろで巨大ハンバーガーを食い漁る彼らのリーダーが豪快に笑う。

その声を聞いて、ジョンは少し顔を青くした。

「…やっぱ耳に入ってましたか…。そうです、一昨日学園都市から出だ時の為に、キャンピングカーを買ったんです。それで日本一周しようかと……」

「おいおい、水臭ぇぜジョンさんよ!俺達退けモンかよ!!」

とシン。

その間の抜けたセリフにバスに乗っていたメンバーはハハハハッと笑った。





彼ら『無能力者狩り』を乗せたバスは止まった。信号が赤色だったからだ。




丁度いいことにそこは、ツンツン頭の男子高校生とビリビリと紫電を鳴らす女子中学生とサラシを胸に巻いた女子高校生がじゃれ合っている横だった。


(………なんだ?男と女の三角関係の修羅場か?)

と、ヤンは窓の縁に肘を置いて、ケンカ通りのショッピング街を眺めていると、男子高校生と目があった。

(………………?)

ヤンは何か違和感を感じたが、気にすることもなかった。

そして、バスは信号が青になった為か、緩やかに動き出した。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 03:09:13.00 ID:01TM8IdW0
今日はここまでです。

短くと言ったのに、遅くなっちゃった……。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2011/08/17(水) 16:31:35.97 ID:2tg2VB5k0

支援
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 18:40:50.47 ID:NFgJI2Fp0
こんばんは、今日もボチボチ書いて行きます。


お盆が過ぎて夏の終わりの足音が聞こえてきそうな気がする今日この頃、日々の夜更かしと昼まで睡眠という不摂生極まりない生活にいよいよ喝を入れなくてはならない時期がやってきました。

で、早く寝て早く起きる習慣をつけたいと思い、今日は早く更新しようかなと思いました。


さて、いよいよこの物語が動き始めました。これから突っ走っていきますんで、どうぞよろしくお願いします。

右衛門左衛門のセリフを書くのは楽しいです。でも難しいのが難だけど。

まぁ妹達よりはマシなんですが。

以後、キャラのセリフのミスがあった場合は遠慮なく注意していただければ、嬉しいです。


PS.今週の神様ドォルズのせいでテンション低くなったのは俺だけでしょうか……。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 20:44:14.14 ID:NFgJI2Fp0
――――――――――――――――――――――――――――――――

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

真庭人鳥は小雨が降る裏路地を突き進む。

どれくらい走っただろう…、荒い息を宥める。

しかし人鳥は走り続けた。花畑の様な髪飾りを着けた彼女にあれだけ啖呵を切ったのだ。結局何もできず、手ぶらで戻るなんて男としての誇りに傷がつく。

自分でできる事をせず、ただ指を咥えて見物しているというのは吐き気がするほど嫌だった。

確かに人鳥の能力は運の絶対的な強さだ。

でも彼はただそれだけで真庭忍軍十二棟梁の一角を勤め上げられるのではない。


(ここは『第七学区』と呼ばれる、『学園都市』という巨大な教育施設が集中している土地の、殆ど真ん中に存在する地区…僕が現在いる場所は北よりの位置にいる)


彼のもう一つ高い能力…、それは情報蒐集能力である。

かつて四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本の情報を同僚である真庭川獺、真庭蝙蝠と共に調べ上げた経歴がある。


(………情報によると攫い屋は北へ向かった。そしてここから二里(8km)ほど車を停める為の建物へ入ったらしい。………だからこのまま走っていけば……)


突っ走っていた人鳥は路地裏を出た。

ケンカ通りとかいう大通りではなく、小さな通りだった。車の交通量もそこまで多くない。

人鳥は先程と同じ轍は踏ませないため、道路に車はいないか左右を見た。

右には車はないない。左にもいない。いや、置くから一台、車が曲がってきた。

結構距離もあったから、人鳥は走って道路を渡ろうとした。

――――――――……が。

「………あっ!」

人鳥の短い足は地面にできた小さな窪みに取られ、すてんっと転んでしまった。

「……いててててて…」

人鳥はズキズキと痛む膝を押さえる。

とその時、横からプププッー!とラッパを吹く音がした気がした。

………否、気のせいじゃない。

猛速度で走ってくる車が、人鳥へと走ってくるではないか!

「あわわわわわ………」

このままでは轢かれて死んでしまう。

しかし立ち上がろうとするも、足がすくんで立ち上がれない。

ここまでか……?

人鳥は死を覚悟した。


―――――――――――その時。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 21:31:30.19 ID:NFgJI2Fp0
すいません、本当にすいません。

用事が出来たので、今日はここまでにしていいでしょうか?

明日、ネタが出来たら投稿します。

すいません、本当にすいません……(m>_<m)
190 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/18(木) 22:32:27.95 ID:u6lq2E5P0
生きてるよね〜ヾ(;´Д`●)ノ
ってミサカはミサカは
不安感をあらわにしてみたり〜〜(゚-゚*;)オロオロ(;*゚-゚)
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/08/20(土) 10:02:13.15 ID:Xah/AVAB0
数百年後の世界には愛されてはいない人鳥、けど
炎刀:銃の弾は全て当たった訳ではない・・・・・・・これはどちらにも転ぶ可能性があるな。



個人的には今までの登場人物にまぎれて蝙蝠が登場していたとかいう展開が好きだなw
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 15:15:58.73 ID:+ReXfXYL0
こんにちは、お久しぶりです。

ボチボチ書いて行きます。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 16:00:11.55 ID:+ReXfXYL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺が『あいつ』と初めて出会ったのは、『あいつ』がまだ中二の春だった。

『あいつ』は数人のスキルアウト達にリンチにされていた所を俺が助けた時だったのを、よく覚えている。

俺は疑問だった。

なぜなら、『あいつ』と『あいつ』をリンチにしているスキルアウト達はお互い、幼稚園からの幼馴染だった筈だ。そう、人伝から聴いていた。

『あいつ』は公園の紅葉の木の幹に縛られ、ボコボコにされているのを、俺はゲーセン帰りの道で偶然通りかかり、見つけた。

俺はすぐさまスキルアウトの奴らを止めにかかった。

でも、奴らの人数があまりにも多くて、逆に反撃にあい、『あいつ』と仲良く裸で木の幹に縛り付けらてた。


縛られた『あいつ』と俺。

それが俺達の、初めての出会いだった。


『あいつ』は縛られた木の幹で、俺に言った。

なぜ、助けに来たのかと。あの人数では、勝ち目など、ましてや自分を助けることなど出来る筈もないのに……と。

その質問に俺は答えた。

当たり前だ、あの状況で助けに行かない奴はいないだろう?…と。

俺の父親は警察官で、叔父は弁護士だった。

その二人から他人が困っていたり、酷い目に会っていたら、すぐに助けに行けよと、ガキの頃から口酸っぱく言い聞かされていた。

だから、その呪いのせいか、気付いたら奴らの目の前にいたってことだと言う事も言った。

そのことを言うと、『あいつ』は『ははは…それは面白い話だね…』と笑った。

『…じゃあ、どうして風紀委員にならない?』とも言われた。

それは担任の教師や親にも言われたことだったから、百万回目のセリフになるだろうか。

でも俺は胸を張っていった。


「風紀委員って、いっつも雑用ばっかだろ?例えば道の掃除とか、ゴミの片づけとか…。俺って元風紀委員だから、そればっかだからやらされていたよ。んで、ゴミを焼却炉に運ぶ時、偶然不良共が弱い奴にカツアゲしてたんだ。

常套手段なんだよ。奴らはワザと道を汚して、俺達が掃除している間に好き勝手する。

俺はバカバカしくなったんだ。

肝心な時に働かない風紀委員になんて籍を置いたらダメだ。俺の“正義”ってものが貫けなくなるって………だから風紀委員を辞めてやったんだよ」


『あいつ』は俺の話を聴くと、また笑った。


「確かに…。あははははは、なんてこった、俺達が素っ裸で木に縛り付けられているってのに、奴らはゴミ掃除しているってことかい?はははっ、これは傑作だ!」


『あいつ』は笑っていた。

でも、目からツーッと涙が零れていた。


「ハハッ、なんだよ、チクショウ……。なんで助けに来ないんだよ……、ふざけんなよ……、ふざけんなよ………」


笑い声が、泣き声に代わり、『あいつ』嗚咽した。

そして、俺は訊いた。なんで……奴らは……お前をこんな目にするんだ?幼馴染だって聞いたけど…と。結構言いにくかったが、やっとの思いで口にした。

『あいつ』は俺の問いに、まるで鬱憤を晴らすかのように吐き捨てた。


「ああそうさ、奴らと俺は幼稚園時代からの幼馴染さ……。俺と奴らは小学校の時から無能力者のままで……ずっと惨めな思いをしてきた……。でも…中学に入ってすぐに……俺はレベルが上がって低能力者になった……。俺は嬉しくて…奴らに報告しに行ったんだ……そしたら奴ら……急に俺をリンチしやがって……そして今日にまで至っているのさ……。チクショウ……」


『あいつ』は最初は強い口調だったが、だんだんと涙声になって、最後は鼻水を垂らしながら泣いていた。


「そうか……辛かったな。……すまなんだな、助けてやれなくって………」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 16:31:49.65 ID:+ReXfXYL0
「ハハッ、何言ってるんだい?こんなのもう慣れっこだろうよ」


と他人事他の様に笑う、自分のことなのに……。

でも…その目はとてもというには大きすぎるほど……悲しかった。


「君もこれほどにした方がいいよ。僕に関わると、毎日が生き地獄だから……」


本人は我慢しているのだろう。涙を堪えながらそう言った。


「今日はありがとう…助けてくれて……、きっと忘れないよ、絶対。本当に……ありがとう……」


ポロポロと地面に涙が零れた。

でも俺は、ある事を思いついた。


「な、なあ、お前、低能力者なんだよな?」

「?…うん、そうだよ。レベル1の肉体強化(パワーアッパー)。おかげでどんなに殴られようが蹴られようが、ある程度は耐えられるようになっているんだ」

「奇遇だな、俺も低能力者だ。能力は予見能力(ロックアハンド)。なんと三秒後の未来を見ることが出来る」

「凄いじゃないか、未来を読めるだろ?」

「なに言ってるんだ?たかが三秒後だ。未来を読むだけで、変えられることはできないし、予言する暇もないさ」

「なんだ、じゃあ二人とも役立たずの能力なんだね?」

「はははっ、言ったな?コイツ!」


俺達は楽しそうに笑いあった。

そして俺は一つ提案があった。


「なぁ、俺達強くならないか?」

「………え……?」

「強くなるんだよ。必死に力つけて、奴らを見変えすくらいの、奴らがもうお前に近付けられなくなるくらいになるまで」

「………できるのかい?」

「できるさ。『やればできる。やらねばならぬ、何事も』俺の親父の口癖さ。なせば成るさ」

「…………ねぇ……約束だよ?」

「ああ、約束する。俺達は一緒さ」

「…………ありがとう」

「どういたしまして」


これが、俺達の最初の約束だった。


しばらくして、やっと通報を受けてか風紀委員がやって来た。

偶然にも、俺の知り合いだったのは別の話だが。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 17:27:05.72 ID:+ReXfXYL0

俺と『あいつ』は毛布にくるまれて、風紀委員の支部へ行き、取り調べを受けた。

一通り奴らの事を言った。

俺の知り合いの風紀委員曰く『顔が割れたし、彼らにアリバイも無い。鎖から指紋も取れれば逮捕間違いなしね』とのこと。

関係ない事だが、知り合いは女だ。モチ、俺達のナニも目撃済みで少々顔が紅い。

オッパイデカくなったなと言ったら鉄拳制裁が訪れた。


俺達は別の着替えを貰い(自分の制服は財布諸共奴らに持っていかれた)、支部を出た。

俺と『あいつ』は寮が別方向だったから、支部の玄関でお別れだった。

その時、『あいつ』は一ついいかい?と言ってきた。


「……えっと…君……なんで、僕の為にここまでしてくれたの?」


その答えに俺は即答だった。


「そりゃあもちろん、俺の“正義”の為さ!」


二間くらい『あいつ』はキョトンとした。

そして愉快そうに笑った。


「ははははっ、そうか、君らしいね」

「ははっ、今日初めて会った人間にそう言うか?」

「そう言えば、名前聞かなかったね?」


そう言えば忘れていた。いけないいけない…。


「俺の名前は“汪誠者(オウ タダヒト)”だ。沢東中学に在籍している」

「珍しい名前だね、どんな字だい?」

「こんな字」

俺は壁に指で自分の名を書いた。

「中国の人かい?」

「いや、父型のひい爺さんが中国から来たんだ。まぁ中華四世ってことかな。お前は?」

「ああ、僕は■■■■■。柵川中学の一年だよ」

「ああ、柵川か。確かにあそこは不良が多いな。まぁそんなことはどうでもいい、これからよろしくな!」

「うん、よろしくね。ジャン!」

「…………なんだ?ジャンって」

「なんだって、あだ名だよ、あだ名。記念につけてみた」

「ははっ、そうかい。わかったよ、俺の事そう呼べよ?■■■」

「わかった。じゃあ僕、こっちだから」

「ああ、じゃあな!!」



こうして、俺達の運命は動き出したのだった。


196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 22:26:12.46 ID:+ReXfXYL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

人鳥は目を閉じ、体を丸めた。

車は風を切り裂いて襲い掛かってくる。

もう駄目だ。

人鳥はそう直感した。


―――――瞬間、人鳥の体が飛んだ。……そんな気がした。


僕は、車に吹っ飛ばされ、轢き殺されたのだろう。

その内、自分の体は地面に叩き付けられ、首の骨が折れてしまうのだろう。


しかし……可笑しい。

車とぶつかった時の衝撃と痛みが無い。それに滞空時間が長いような気がする。


頭に疑問詞を付けた人鳥はゆっくりと目を開けた。

すると、目の前には、よく見知った顔があった。

彼は人鳥を抱きかかえ、空を飛んでいた。

いや違う。

地面から近くにあったビルの屋上まで跳んでいたのだ。

彼は着地点であるビルの屋上に着地し、人鳥を腕から降ろした。

そして彼は人鳥にこう言った。



「よう、久しぶりだな?そして大丈夫か?―――――同朋」



彼…その男、漆黒の眼をし、漆黒の忍び装束を身にし、そして漆黒の鎖帷子をしていた。

そう、そこ男こそ……。



「真庭……蝙蝠………さん?」



「久しぶりだな?人鳥、元気にしてたか?」

「お、お久しぶりです!こ、蝙蝠さん!!」

「久々にお前さんのどもり声を聴いて安心したぜ。しっかしまあ、運だけが取り柄のお前が珍しいな、車になんざ轢かれかけるなんてよ」

蝙蝠は人鳥の頭をガシガシと撫でまわした。

「………ぅ……っ……ぅ………うぅ……」

「おいおい、泣くなよ人鳥。忍らすくねぇな」

「……だ、だって、し、しょうがない、じ、じゃない、で、ですか。だっ…て…ま、ま、また死ぬかも、し、しれ、しれないじゃないかって、お、おも、思ったんですから……」

蝙蝠は人鳥の頭をコツコツと軽く叩く。

「お前は忍だ。だから泣くんじゃねぇよ…。鳳凰の奴にどやされるぜ?」

はははっと笑う蝙蝠が自分の頭に乗せる右手を、人鳥は払った。

ピクリと蝙蝠は眉を動かすが、すぐに彼特有のニヤニヤとした顔になった。

一方人鳥は緊迫した表情でこう言い放つ。

「…………こ、こ、蝙蝠さん…お、お願いがあります…」

と頭を下げた。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/21(日) 23:55:06.65 ID:+ReXfXYL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だぁ!!もう、お前らなんかと遊んでいる場合じゃねぇんだよ!!」


上条は背中に乗っかる結標を払い落とし、美琴に指さした。


「なんでだよ、なんでこうも俺の邪魔する?遊んでんのか俺で!」


上条のその言葉で美琴はカチンと来たらしく、上条に突っ掛った。


「はぁ!?何言ってんのよ!それはこっちのセリフよ!!なんでアンタとそこのメス豚がイチャついてんのよ!!」

「知らねぇよ!結標が勝手にデレただけだ!!」

「上条くん、そこのガキンチョとばっか話してないでお姉さんとお話ししない?」

「「お前は黙ってろ!!」」

「うぐっ……」

「……あんたのそこんところが腹立つのよ!!人の気も知らないで、別の女とイチャイチャイチャイチャ……!それが腹立つのよ!!こっちはメチャクチャ真面目な展開になってんだから!!」

「それはこっちもだ!!こっちは絶対そっちよりもシリアルかつピンチな状況なんだよ!!」

「はんっ!こっちはねぇ、友達が誘拐されてんのよ!!急いでんの!!文句ある!?」

「なにを〜〜!!こっちだってなぁ、吹寄が変な奴らに攫われ…た……っていう……から……」

「……………え…?………吹寄さんが……?」


五秒くらいか間を置く二人。


口を開いたのは、二人同時だった。


「……………もしかして……あんたも?」「……………もしかして……お前も?」


シーンと静まり返った空気を見て、黙ってろと言われていた結標もボソリと呟いた。


「………なるほど、連続犯ってことね」


美琴はハッとして、上条に聞いた。


「ねぇ、なんで吹寄さんが誘拐されなくっちゃならないのよ!」

「知らねぇよ、ちょっと目を放した隙にいなくなっちまったんだ!人をほっぽってどっか行く奴じゃねぇし、何より携帯に何度も掛けてもでねぇ!目撃情報もある!」

「………実は、佐天さんっていう私の友達も何者かに捕まって、そのまま行方知れずなの……。風紀委員も警備員も、この前の残骸事件の真相も復旧もまだで、その上こんな風な事件が学園都市中で起こっているからテンテコ舞いになっているから使い物にならないらしいの」

「………そうか、だから電話での警備員の態度が悪かったのか……」


因みに彼の通報を受けたのは初春と電話をしていた登条である。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/22(月) 00:35:29.36 ID:0V5xsAhe0
「……で、なんで結標がいるんだ?」


と上条が訊いた。


「この女と一緒にいたから、花畑の彼女に強制的に頼まれたの」

「……それもあるけど、残骸事件の借りの分よ。しっかり払っときなさい」

「………ぬぬぬぬ……」


ギシギシと歯ぎしりし、フンッとそっぽを向いた結標。


「なによ、別に私はその佐天さんとか吹寄さんとかと面識ないし、その人達のことを助ける……」


『つもりは無いから帰る』と言いかけようとした。

しかし……


「結標、お前も助けてくれるのか!?」

「っ!?」

「ありがとう!!恩にきる!!本当にありがとう!!」


と上条は結標の両手を掴み、顔をグイッと寄せた。


「〜〜〜〜〜//////!!」

「……でも、面識ないのになんで助けようとしたんだ?」

「……ハッ……。あ……あの…///。か!……上条くんの///…友達が、困ってるんだ…から……当たり前、じゃない…///!!」


おーい、言葉が途切れ途切れだぞー、と美琴は心の内でツッコんだ。

例え好きな男の子に自分から積極的にボディタッチできる女の子でも、彼からいきなり手を握られると顔を真っ赤にしてパニックになってしまうのが、結標淡希という乙女である。

美琴からすれば上条と結標のバックには薔薇畑が見えていて、非常に面白くないのだ。


「………だから……イチャイチャすんなぁぁぁぁぁあああああ!!」


美琴は上条に電撃の槍を繰り出した。


「ぅわちっ!!」


今度は上条も反応した。右手を結標から放し、幻想殺しで電撃を打ち消した。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/22(月) 01:09:47.78 ID:0V5xsAhe0

ピリリリリリリ……ピリリリリリリ……ピリリリリリリ……

誰かの携帯が鳴る電子音が聞こえた。


「誰のだ?結標?」

「私じゃないわ。だって私、携帯は前のあれで壊れたんだもの」


上条の問いに結標は首を横に振った。

じゃあ…?と上条と結標は美琴の方に向けると…。

案の定、美琴だった。美琴は「あ、私私…!」

とポケットの中からカエル型の可愛らしい(幼稚的な意味での)携帯電話を取り出した。


「……はい、もしもし。…あ、初春さん?手掛かり掴んだ?」

「あ、御坂か…」

「ていうかあのデザイン……」


美琴はうん…うん…と頷く。


「ごめん。今、同じ境遇で友人が誘拐されたって言う知り合いの人といるんだけど、ハンズフリーにするから、もう一回奴に説明して?………ば、馬鹿な事言わないでよ///!!」


と美琴は顔を紅くしながら怒鳴ると、上条の目の前に携帯を向けた。


『もしもし?聞こえますか?…私は風紀委員第一七七支部所属の初春飾利です』


と何か甘ったるい声がスピーカーから聞こえた。まぁ小萌先生よか甘くないが。


『今回の事件を御坂さんと結標さんとで独断で調査しています。………その……上条さんでよろしかったですか?』

「ああ、そうだ。何か手掛かりは掴めたか?」

『残念ながら決定的なものは………』

「そうか…」

『でも、犯人の足取りは何とか掴めました!』

「そうか!良かった!!」

『はいっ、警備員が犯行に使われた車を追跡する時、監視カメラは車を映していなかったんです。警備員は能力者の仕業かと捜査していましたが、実はこれはハッカーによる仕業で監視カメラの映像を昨日の物をすり替えられていたんです。ただちに今日の物に直し、犯行の車を追跡した所、あなた達から北へ5kmの場所にある立体駐車場へ向かいました』

初春は続けて。

『結標さん、大変有能な空間移動系の能力者だと聞きます。現場の地図を送りますので、御坂さんと上条さんをそこまで空間移動してくれませんか?』

「……空間移動じゃないわ、座標移動と呼びなさい。わかったわ、とりあえず二人を移動させればいいのね?(…上条くんの為ですもの…フフフッ)」

「ちょっと待ってくれ初春、結標」


と上条が横から口を入れた。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/22(月) 01:57:40.10 ID:0V5xsAhe0
「俺の右手には幻想殺しっていう、いわゆる異能の力なら何でも打ち消せる力があるんだ」

『……はい?』「いまじん…ぶれいかー……?」

「……〜〜〜わかりやすく解釈するとだな!!」


〜〜上条、幻想殺しの説明中〜〜


「……ってことだから、結標の座標移動では俺を移動することはできないって事だ!」

『ああ、なるほど…。だから御坂さんが……「ああ〜!初春さん、そこまでっ、ストップ!!」

「だからあの時の超電磁砲を受け止められてのか……」


前スレの>>744を結標は回想する。

と携帯から初春の困った声が聞こえてきた。


『しかし弱りましたね。これじゃあ三人一緒に行動できないですな……』

「いいよ俺は個人行動で」

『そうですね、すいません。……話はそれだけです。ではよろしくお願いします…』


と電話を切ろうとする初春に、上条はちょっと待ってくれと言った。


『はい』

「ごめんな初春。その、犯人の目的とか動機とか、そう言ったものはわからないのか?」

『すいません、そこの所も必死に洗っているのですが……どうしてもわからないんです。被害者の共通点は女性だってこと以外はわからくて…。

学区も学校も学年もバラバラ。実家もお金持ちの人もいるかと思ったら、普通のお家庭の人がたくさんいたり。何かの能力実験かも知れないと彼女らの能力も調べていてもみんな無能力者で……』

「……っ!?………無能力者!?」


と初春の声に、反応した者がいた。


「どうした結標?」

上条は訊く。

「被害者は無能力者ばかり……?………ねぇ、それ本当かしら?」

『ええ、報告されている被害者リストに載っている方々のデータを書庫で調べました。間違いありません』

「………上条くん…御坂さん…お花畑の人…」

『初春です』

「初春さん……。これは、ただの誘拐事件じゃないかもしれないわ………」

『というと…?』

「……?」

「どういうことよ?」


結標は息を一旦吸って、吐いた。そして、彼女は残酷な予想を、三人に言い渡す。



「もしかしたらの話よ?犯人っていうのは、『無能力者狩り』なんじゃない?』



まだ、ポツポツとしか振っていなかった雨がだんだんと、強くなった気がした。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/22(月) 01:58:25.82 ID:0V5xsAhe0
今日はここまでです。

ありがとうございました。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/23(火) 17:46:11.82 ID:ABAHlK2g0
乙です!やっと追い付いた。「刀語」も「とある」も好きなので楽しく読ませてもらってます!
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/23(火) 23:44:15.99 ID:iJoqSGmr0
どもども!こんばんは。

>>202、もしかして前スレから一気ですか?もしそうだったらお疲れ様です。

さて、今日も書いて行きますが、時間が時間なだけに短いかも……。

今度はMASTERキートン にハマりました。知る人ぞ知る名作です。興味があったら是非…。


役者は揃ってきました。

あとは上条組と人鳥・蝙蝠コンビと『無能力者狩り』のあんちゃんたちと彼らに攫われた吹寄と佐天が、それぞれどう接点を持って行くのか!?

上条は吹寄を救えるのか!?美琴は佐天を見つける事が出来るのか!?結標は一体何がしたいのか!?

人鳥は否定姫の思惑とは!?人鳥のはじめてのおつかいのは!?右衛門左衛門は一体どこから上条を見ているのか!?

『無能力者狩り』の目的とは!?

『僕』と『俺』とは一体誰の事なのか!?そして彼らに何があったのか!?

そして七花は一体いつになれば登場するのか!?一応このスレの主人公だぞ!?………一応だけど。



なんやかんやのそんな訳で、『無能力者狩り編』後半戦、はじまりはじまり〜♪









………………これで刀語っぽくなったかな…?……………いや、無理か…………。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 00:09:51.47 ID:NoELr3cx0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次の日、『あいつら』は無期限の停学になったそうだ。あの、僕たちを保護してくれた女の風紀委員さんに教えてもらった。

僕の中学、柵川中学は無能力者が多く、たまに低・異能力者がいるくらいだ。

だからその高位能力者を妬む人も多い。まぁ、みんな表面には出さないのだが。

しかしあの『あいつら』の様な輩もいる。

その被害に受けていたのが僕だった。

まさに地獄の日々だ。低能な奴らにボコボコにされなくてはならないからだ。


しかし昨日、ある人が僕を地獄から救ってくれた。


名前は汪誠者、あだ名はジャン。

“者”の字を音読みにすれば“ジャ”になる。それを名前っぽくしたのが“ジャン”だ。

今日からそのジャンと、自分の強度(レベル)を上げる為の特訓をすることになった。

………まぁ最初の内は何をするかわからなかったから、テキトーにつるんでいただけだったけど。

でもなんとなくコツを掴んできて、少しずつ。ホントにミミズが歩いている様な進歩だったけど、僕達は進化していった。
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 01:21:54.38 ID:NoELr3cx0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

例の無能力者狩り達を乗せたバスは、どこかの広い廃墟に着いた。

バスはとある建物の前に停車した。


「ぅおーし、着いたぞ〜」


ジョンがドアの開閉ボタンを押すと、横に付いてあったドアが開いた。

すると、中から大あくびと大伸びをしたシンが降りてきた。


「はぁ〜〜〜、やっと着いた〜〜。疲れた疲れた」

「お前は怪談の後ずっと寝てただろうが」

「ああ、あの怪談は怖かったね、本当に怖かった」


後ろからヤンとマンションも降りてきた。


「おーいオメーら、今日担当したモンは自分で運べよ」


とジョンの声がした。


「すいません、今後気を付けます」


とヤンが謝ると、三人で一番力が強いマンションがすかさず再度バスの中へ入っていった。

マンション達が担当したモン…いわゆる攫ってきた吹寄制理を担いで降りてきた。

その後ろから、ゾロゾロと男達も降りてきた。数人は吹寄の様に担がれている。佐天涙子も然りだった。

最後にリーダーが降りてきた。

肩に巨大なリュックサックを担ぎ。

右手に一リットルのコーラが持って。

そして左手には『斬刀 鈍』が握られていた。


運転手のジョンは全員が降りた事を確認すると、「俺はヤマと一緒に書庫までバス停めてくるから」と言って去っていった。


それを見たリーダーは周囲にいるメンバーに向いた。


「よし、今日の“猟”はここまでだ、みんなお疲れさん。これからこの後“いつもの”やるだけだから、みんなはこのままアジトへ行っていいし、家に帰ってもいい。個人の自由に任せる」


と言い放った。まるで野球の試合後のミーティングの様だ。

その時、メンバーイチいい加減な男でムードメイカーであるシンが口を挟んだ。


「な〜に言ってんスか。その“いつもの”が楽しみで俺らは要るんでしょうが」


「ははははは…」「確かにww」「ごもっともじゃねぇか」と小さい笑いが起こった。

その声にリーダーも豪快に笑い。


「わかったわかった、じゃあみんなブツをアジトへ運ぼうか、“奴ら”が待ってる」


そう言って、メンバーの中を横切る。


「テメーら、今日も楽しく行こうじゃねぇか!」


リーダーは自ら先頭に立って、アジトの中へと入っていき、周りのメンバーも彼の後を続いて行った。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 01:30:54.18 ID:NoELr3cx0
今日はここまでです。

明日は朝早くから書こうと思います。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/08/24(水) 10:47:45.28 ID:wXOO2arb0
七花が3番目に強いと称した蝙蝠、はたして再開はあるのか!
蝙蝠が変身する最初の禁書キャラは!

wkwkがとまらな〜い!!
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 13:17:12.69 ID:NoELr3cx0
こんばんは今日も書いて行きます。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 14:13:52.07 ID:NoELr3cx0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺と『あいつ』はあれから強くなるため色々として見た。

最初はなかなか成果が上がらなかったが、コツを掴んできて、ミジンコほどのだったがちゃんと進化というものをしていった。

それと同時進行で、『あいつ』に色々と教えてやった事もある。

例えばケンカの仕方とか、麻雀の遊び方とか……。まぁそんな所だ。


そして『あいつ』とつるんで半月がたった頃から、少しずつだが“同志”のような奴らが入ってきた。

俺の幼馴染だったり、『あいつ』の中学でイジメられていた奴だったり、学校での優等生だったり、俺達の噂を聞いた奴だったり。

みんな俺の同じく“自分の正義を貫きたい”という奴らだったり、『あいつ』の様に“スキルアウトに酷い目に会わされていた”という奴らだったり、“自分を見下していたヤツらを見返したい”という奴らだったりと、色々といた。


ただ、みんなの共通点は二つ。

“強くなりたい”という気持ち。

“全員が低能力者以上の能力者”

だったという事だ。

ただそれだけだ。

他は恰好も趣味も学校も歳も性別も、関係なかった。まぁ全員男で、性別もクソもなかったが。………オカマはいたけど。


二か月になると、もう立派な大組織なっていた。


リーダーは俺。

副リーダーは『あいつ』。


幹部は三人。


まずは俺の弟だ。水は血よりも濃いと言うし、俺のことを昔から慕ってくれている。俺と『あいつ』がいない時は組織をまとめ、メンバーに指示を出す役目を任せてある。

昔から女みたいで可愛い弟だったが、もう大人の顔になっていた。俺はそれを見て嬉しかったが、あの可愛い弟の顔が見たいなと思うとなんだか寂しくなった。


次に参謀のヤン。こいつは頭が切れる奴だったから、組織の参謀に任命した。

軍じゃないのに何故だと言われたが、あれだ、ノリだ。

元不良のシンとは犬猿の仲で、顔を合わせればいつも能力を使って喧嘩をする。見ていて面白いけど、巻き添えを喰らうので正直止めてほしい。


最後にサブ。こいつはただのラップを刻むアフロ頭だ。常時ラップ口調で会話する。だからメンバーは疲れてあまり話さない。が、意外と鋭い所を突いてくるし、能力も高い。だから組織の相談役とし、幹部として活動してもらった。


その下の奴らもいい奴らだ。

図体がデカいが気は子猫より弱いマンション。ガラは悪いが、気が良くてムードメーカーである、元不良のシン。クラスメイトと教師によるイジメのせいで声が出なくなってしまったヤマ。警備員のあまりにも横暴な態度に腹を立てたボン。

みんな何かの理由と傷を負ってこの組織に入った。

俺もそうだ。『あいつ』もそうだ。

だからリーダーとして俺はコイツらを全員、守らなくてはならない。

そう思うと、なんでかワクワクしてきた。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 15:09:39.21 ID:NoELr3cx0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

少しだが、間が空いた。

それは何故かと言うと、結標淡希の発言が原因である。


「もしかしたらの話よ?犯人っていうのは、『無能力者狩り』なんじゃない?」


「……………むのうりょくしゃがり?」

「なんなのよ、それ」


上条と美琴の疑問の声が重なる。

しかし受話器の向こうの初春飾利は緊張した様な声だった。


『聞いた事があります。弱い無能力者を有能力者が、あたかも狩猟の様に狩っていく人たちの事ですね?でもそれって噂じゃないんですか?』

「いいえ?これは本当に起っていることよ?実際に無能力者が多い小学校とか中学校を狙った事件が年に一、二件だけだけどあるの」

『でもそれって自分の能力を試したかったっていう犯人の供述がありますっ』

「その犯人の供述なんていくらでも嘘が言えるわ?それにこの話はまだ温い方なの。私の様な“裏方”の人間になるとね、本当に血生臭い事件やら悲劇やらを見る機会が多いのよ。…………っと、口が滑っちゃったわ…」

『……………』

「いい?一つ忠告しておくわ?学園都市の闇ってのはね?超電磁砲のみたいな、甘っちょろい物じゃないの。そしてそこへ首を突っ込んだら即お終い。突っ込んだ首が飛ぶことになるの。だからあまり危ない所へは近づかない事ね。この事件は以外と大きいのが絡んでいる可能性がある。だから貴女はこの件から手を引きなさい。貴女の首が飛ぶ前に」

『お断りします』

「………貴女、自分が言っている事はわかっているの?下手すると死ぬわよ?闇に堕ちたら二度と戻れないわよ?死ぬ以上の苦痛を味わう事になるのよ?」

『どれでも構いません。ただ私は佐天さんと、攫われた人達を助けたい。ただそれだけの意志で動いています。だから何があろうと辞める事はできません』

「…………いい死に方は期待できないわよ?あなたという人は」

『それだけ自分の“正義”を守れるなら本望です』

「…………勝手にしなさい」


そう言ったは結標は何故か笑っていた。


「御坂さん、上条くん、初春さんに話したい事はある?」

「いや、特に」

「私も無いわ。でもね……アンタに一つ訊いていい?」


と美琴はフルフルと指先を振るわせ、上条と結標の間を指した。

なぜなら……。


――――――――結標の右手と上条の左手が恋人の様に握られていたからだ。


「なんなんだそのラブラブハッピーな手はぁぁぁぁぁぁあ!!」

「うおっ!?いつの間に!?」

「へへ〜上条く〜ん♪」

「いい加減にせんかアホォォ!!」


美琴はなぜか上条に電撃を浴びせる。が例の如く幻想殺しで打ち消される。


「何すんだ!?俺は何もしてない!!」

「うるさいっあれだ!あれ!!」


とこんな風に上条と美琴が夫婦漫才をしていると、横の道路に一台のバスが停まった。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 15:50:26.10 ID:NoELr3cx0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…………ヤダね」


真庭蝙蝠が冷たく言った。

その回答に真庭人鳥は金槌で頭を叩かれた衝撃を受けた。

彼は蝙蝠に佐天涙子の捜索の助けを求めていたのだ。


「えぇ!?な、なんでなんですか!?」

「ほらあれだ、面倒だし、何よりお前の命を救ってくれた奴の事なんて知ったこっちゃねぇからよ」

「そんな……」

「確かに俺は暇だ。こんな人殺しが全く起きない平和ボケしたクソッタレな世界で俺は大道芸人をして飯を喰っている。正直やる気ねぇよ、なんと言ったって自分が血ヘド吐いて手に入れた忍術をこんなくだらない事で使ってるんだからよ」

「………」

「でもよ、それよりやる気ねぇのは無償かつ何の見返りもないのに、なんで俺が命を賭して戦わなくちゃならねぇって事だ」

「………」


人鳥の言葉が詰まる。


「何か言いたい事があるような顔だなぁおい。じゃあ聞いといてやる。ほれ、俺を納得する理由があるのか?きゃは、きゃはきゃは」


相変わらず気味の悪い笑い声だ。

蝙蝠の言っていることは最もだ。しかし、人鳥の手の中には一枚のジョーカーがあった。

それも、蝙蝠が大好物だ。


「こ、蝙蝠さん。あ、あ、あなたさっき、暇だとか、ひ、人殺しが全く起きない、へ、平和ボケした世界でとか言いましたよね……?」

「ああ、どうだったな〜。本当にもう血の色を見ねぇと禁断症状が起るって程に退屈しているぜ?」

「………じゃ、じゃあ、これから血の色を流しませんか?も、勿論、攫い屋の血で」

「……………何がいいたいんだ?おめぇ」

「だ、だから、ぼ、僕とあなたで、あ、あの攫い屋を討伐するんですよ、も、勿論皆殺しで。こ、蝙蝠さんは久しぶりに人を殺せるし、ぼ、僕は佐天さんをき、救出できる。り、り、利害は一致しています」


蝙蝠は人鳥の提案を聴き、ニヤニヤと顎を撫でる。


「きゃは、きゃはきゃはきゃはきゃは。確かにそうだ。利害は一致している、頭からケツまで、いいねぇ…それは思いつかなかった……きゃはきゃはきゃはきゃは!!」


蝙蝠はまた不気味に笑った。


「乗った!乗ったぜ!?丁度芸の観客の誰かをぶっ殺そうかと悩んでいたところだった…。丁度いい、この冥土の蝙蝠さまが協力してやろうじゃねぇか!!」


そしてまた、気味悪く笑った。
212 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/24(水) 16:53:33.40 ID:kB0aIqGK0
蝙蝠ってやっぱり単純かも〜〜♪
ってミサカはミサカは鼻で笑ってみたり〜〜(;´_ゝ`)
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 13:05:49.85 ID:ANX2mJlDO
零閃!! )))))

・・・すみませんでした
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/08/25(木) 15:28:30.70 ID:3OSMf32r0
けど蝙蝠って>>207でも言われてたけど真庭の中じゃ相当の実力者だからなぁ
位置づけとしては2勤めててもおかしくないし
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/25(木) 15:35:26.85 ID:hYTIZZYH0
その無能力者狩り共の持ってるのが「斬刀 鈍」ってのがまた皮肉だよな
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/08/28(日) 23:04:54.04 ID:3J8UmfPc0
刀語のSSってさっぱり無いなあ
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/30(火) 10:46:11.06 ID:BsV3MxpS0
こんにちは。

すいません、しばらく更新できなかったです。

木曜日から友人がいる東京にいます。

で、東京にいる友人の家でコッソリ更新すればいいか〜♪って思っていました。

しかしなんと、その友人の家はネットを繋いでいないということ。

大変ショッキングでした。

ちなみに今はネトカフェにいます。キーボード超打ち難いです。


というで訳で暫く更新できません。

ネトカフェは毎日来ると料金高いし、見れなかったアニメを見るので精一杯だってことが現状です。

大体一、二週間くらいでしょうか、更新が難しいです。

>>212->>216 皆さん、応援ありがとうございます。


ではまた。



零閃!! )))))

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
218 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/08/30(火) 12:48:43.21 ID:XzAnhnAo0
残った宿題終わらさなきゃ〜( ゚д゚)!
ってミサカはミサカは
少々焦ってみたり〜ヾ(;´Д`●)ノぁゎゎ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
219 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/09/01(木) 18:56:15.02 ID:jju9ACUc0
学校の宿題はできたけど、
塾の宿題がまだだったり〜〜( ゚д゚)!
ってミサカはミサカは
再び焦ってみたり〜ヾ(・Д・`;)ノぁゎゎ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/04(日) 21:56:34.57 ID:cPN8fxLE0
迷彩とあわきんか組んだらかなり強いよね。いちいち千刀を配置する手間が省けるし

今更ながら吹寄って上条の事常にフルネーム呼びじゃあなかったような気がする。間違ってたらごめん
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/04(日) 22:07:19.00 ID:cPN8fxLE0
弱者を守るつもりが回り回って弱者を見下すようになった訳だ
人間堕ちるモンやね
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/04(日) 23:58:06.39 ID:yKpwMsUv0
そういえば、ここの上条は原作10巻の姫神のシーンの後で
刀語12巻の七花のように完了状態になるのだろうか。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 00:22:44.33 ID:V7PRnqUw0
禁書キャラと刀の組み合わせを考えるのが楽しいです

絹旗の強度で双刀を持てるのかな?
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 14:05:07.84 ID:OcWaDg+/0
土御門が悪刀使ったら魔術が使えるようになる
やったね!土御門!
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 14:12:19.64 ID:OcWaDg+/0
現在8巻語9巻前だけどこのストーリの長さだと大覇星祭まで行くんだろうか
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 14:57:48.94 ID:OcWaDg+/0
八巻後九巻前だけどこのストーリの長さだと大覇星祭まで行くんだろうか
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/05(月) 19:15:26.83 ID:GW4E06Ax0
薄刀とか扱える奴いるのか
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 20:39:13.05 ID:OcWaDg+/0
聖人レベルなら扱えるはず
出番だ!神裂火織(18)!
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/06(火) 13:59:16.57 ID:Fvvg2aLc0
誠刀なんか誰が使うんだ
微刀とか人と組んだらむしろ弱くなるらしいし
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/07(水) 08:33:07.60 ID:Thl/sVNj0
刀と能力を使った限定奥義が楽しみだ
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/08(木) 00:16:01.23 ID:AfWZsHXh0
そういや、七実って冥土返しに治療してもらったらその技術を『見稽古』できるのか?
もしできたら、それこそ二代目冥土返しとして君臨できそうだな。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/08(木) 16:01:07.35 ID:SnRct8Q40
230>
絹旗+双刀=装甲之戌 とか?
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/08(木) 19:13:08.30 ID:A7b+mzySO

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/09(金) 00:59:17.91 ID:aYnOnRy50
刀語の現代版の服装が見てみたい
不忍はタキシードか執事服だろうなw
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/09(金) 15:40:04.22 ID:pCj+TW360
元からそんなかんじだしな
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/10(土) 22:56:05.70 ID:l9+fZ2EJ0
とがめはやっぱり派手な服装しそう
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/09/11(日) 15:24:31.87 ID:PnRV27rL0
賊刀は駒場に盗られたんだよな、ってことは素の校倉が見れるのか……
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/11(日) 20:38:21.01 ID:oGyClETR0
こんばんは、>>1です。

やっと東京から帰ってきました。

やっとネットが出来る。

やっと続きが書ける。

(n‘∀‘)η ヤァーッホォー!


更新は明日からします。



さて、みなさん。応援ありがとうございます!

嬉しいです。本当に!!


>>232 絹旗+双刀=装甲之戌 上手いですね!参考にさせていただきます!

まぁこれはワタクシの勝手な妄想なんですけど、『双刀 鎚』って七花でも持ち上げられなかった程の重量を誇っています。それも床にめり込むほど……。

………じゃあ一体何キロなんでしょうか?

ワタクシはどこぞのハンマーみたいにマンモス三頭分とか考えているんです。

…………果たして、モアイちゃんは双刀を扱えるのでしょうか?


>>234 それはそれで面白いですねw

絹旗が七花ととがめと一緒にしまむらに行って、二人の服を買ってあげる話!

んで、七花はジーパンとかフツーのズボンは嫌だとか言ったり、とがめはとがめでこんな安っぽいのは嫌だとか言って、高級ブランド物を買い込んだりとか!



>>237 このスレの設定上、校倉さんは登場できないかもしれないです。

理由は言えません。ネタバレになっちゃうんで。

でも、その設定には例外というものがあるのですが……。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/09/11(日) 21:11:41.41 ID:PnRV27rL0
>>1ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!

待っていたぞーーーー!!!!!!!!

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 00:02:26.49 ID:0AzRRytB0
やっと来たか1コノヤローーーーーー!!
マンモス三当分って懐かしすぎるぞとっつあん!
応援してまーす!
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 00:05:04.30 ID:0AzRRytB0
俺のネタを拾ってくれてありがとーーーーーう
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 00:21:56.25 ID:0AzRRytB0
神裂+薄刀=聖剣唯一だな
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 00:27:09.07 ID:0AzRRytB0
いや聖賢開眼だ!!
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 00:51:52.47 ID:0AzRRytB0
七花がメイドを見て不思議とかわいい感じがした理由が明らかになるっていうのはどうですか
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 01:05:37.09 ID:0AzRRytB0
あわきんは刀が自在に飛び交う事から
千刀金殺と座標移動の融合限定奥義「凶器乱舞」
−と名付けてみた
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 01:14:31.52 ID:0AzRRytB0
妹達+千刀=千人千色だな
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/12(月) 02:12:46.31 ID:0AzRRytB0
重さで言えばかなり密度が高いんじゃないかな
一センチあたり〜キロとか
別のssでその密度を利用して小型ブラックホール作ってたけど
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/12(月) 11:21:02.50 ID:APxQgnGw0
空想科学読本でなんか双刀の話があったような気がしなく無くも無い

ところで限定奥義は全部刀の名前と既存の言葉を掛けてるけどそこんとこどうなのよ
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 16:18:35.87 ID:l5RacNFu0
こんにちは、今日から再開です。

>>248 空想科学読本ですか。あれは面白いですよね。

中学高校大学とその本が図書室に置いてあったので読んだ事があります。

笑いを堪えながら立ち読みしていたので、変な目で見られたことがありましたね。ああ、懐かしー。


さて、禁書SPを読みました。

本編よりも面白いんじゃない?

と思っていたり……。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 16:27:17.50 ID:l5RacNFu0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

丁度、上条と美琴が夫婦漫才をしているその時、横にある道路に一台のマイクロバスが停まった。信号待ちの様だ。

上条はそのバスに乗っている、乗客(?)と目が合った。

プロ野球選手がしてそうなサングラスを掛けた大学生あたりの男だった。

彼も外を見ている。

と、男は外に向けていた目線を下げた。


「……………」


目が合った気がした。

何か変な気がしたので、上条は目線を下げ、バスの側面に書いてあったロゴを見た。


『桜蘭高校 野球部』


(……あれ?あんな高校あったっけ?)

上条が首を傾げると、バスは発進し、信号が青に変わった交差点を右に曲がった。


「………なぁ、二人ともさぁ……」

「なに?」


額に青筋を立ててビリビリと紫電を鳴らす美琴が応えた。


「桜蘭高校って、あったっけ?」


美琴は全く予想していなかった質問に少し、眉をひそめた。話を反らしやがったなと。


「………いきなり何を訊いてんのよ」

「いや、どっかで聞いたことがあるような無いような……」

『桜蘭高校は結構有名な学校ですよ?』


初春が代わりに答えた。


『何しろ、特殊な部活があって、その名も『ホスト部』という部活で……』

「おっと初春さん、そこまでよ?」


結標は横槍を入れた。


251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 16:28:23.57 ID:l5RacNFu0

「どうしたの上条君、いきなり関係のない事言い出して」

「ああ、さっき行ったバスがそうだったから……」

「へぇ〜、珍しいのね。あんなセレブの学校がこんな所を通るなんて……」

「もしかして、あの高校の奴らは練習試合か何かなんだろうな」

「? どういうこと?」

「だから野球だよ。あの高校の野球部の。ほら、『桜蘭高校野球部』ってバスにも書いてあったし……」


上条がそういうと、美琴と結標と、電話の向こうの初春が黙った。

何を言っているのだろう? と言っているかのような表情だ。


『……上条さん…』

「なんだ? 初春」



『桜蘭高校には野球部がありませんよ?』



「………え?」

『だから、セレブの高校である桜蘭高校には野球部はないんです。あっても文化系の部活ばかりで、体育系のはテニスやゴルフとかで、野球みたいに泥塗れになる部活はないんです』

「………」

『上条さん……あなたは見たバスって、一体なんだったんですか?』



――――――――――――――――――――――――――――――――――
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 19:07:28.80 ID:l5RacNFu0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「リーダー」


無能力者狩りの三人の幹部の一人、ヤンは組織のリーダーを呼んだ。

リーダーは歩きながら、顔と同じ大きさのハンバーガーを頬張っている。


「なんだ、ヤン」

「一つよろしいですか?」

「言ってみろ」

「あのバスなんですけど…」


ヤンは一つ息を吐いた。


「なんでロゴがあんなのなんですか? 『桜蘭高校野球部』って、なんというツッコみを入れればいいんですか?」

「ああ、俺はバスの事は殆ど手ぇ付けてねぇからわからんが、ジョンに訊けばわかる」



今、リーダー率いる無能力者狩りと呼ばれる組織のメンバーは誘拐してきた女の子5人を抱えて、組織のアジトの廃墟の中にいた。

長く、薄暗い廊下を20人の男がズラズラと歩いていた。

目的はアジトの中にある客間に女の子を運ぶためだ。と言っても、その客間は廃墟だから当然汚く、しかも客間と言っても普段から自分たちのたまり場となっている。

客間に運ぶのは、とある人物が彼らを待っているからと、それと別の人物を迎える為に。



「まぁいいか、どうせロゴはシールが何かで、すぐに取り替えて別の物にするでしょうし」


ヤンは息を強く吐いた。

目の前に小蠅が飛んでいたからだ。


「しかしいい加減ここも掃除した方がいいですね。ほら、そこの天井の隅に大きい蜘蛛の巣があります」

「気にするな、気にしたら負けだ。そう思えばいい」

「リーダー、それは面倒だから掃除したくないと言う事でいいですか?」


リーダーは少し黙ったが、プッと吹きだし、豪快に笑った。

肯定だろうとヤンは推測した。

まぁいい、あとで自分で勝手にしよう。


先頭を切って歩いていたリーダーが立ち止まった。彼の目の前には両開きのドアがあった。

長い廊下が終わったのだ。

丁度玄関から距離にして100m程だろう、ここは何かの研究所か何かだったらしく、しかも表には決して出なさそうな研究をしていたようで、その為か抜け穴があったり、隠し部屋があったり、廊下がRPGのダンションの様に入り組んでいたりしていた。

恐らく警備員のガサ入れ対策だろう。これでは簡単には捜査が進まないし、研究内容という名の証拠は隠し部屋に隠せるし、見つかったとしても抜け穴から脱出できる仕組みになっている。

結局、その研究とやらは中止となったようで、研究資料も機材も撤去され、研究内容もわからず、まさに蛻の殻(もぬけのから)になった。


無能力者狩りという犯罪組織である彼らは、そんな好都合な物件に目をつけ、そこをアジトにしたのだ。


253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 21:10:51.74 ID:l5RacNFu0
リーダーは両開きのドアを開けた。

ギギギギ…と嫌な音がしたが、もう慣れていた。


「帰ったぞ、お前ら」


リーダーは相変わらず大きな声で言い放った。

ズカズカと室内に入るリーダーの後を、後ろからついて来ていたヤンを始めとするメンバーたちが入ってきた。


室内は廃墟である癖に意外と小奇麗であった。

広さは大体ビジネスホテルのロビーくらいで、奥にはバーがあった。品揃えはまずまずだが。

床は白いタイルが張られていて、大きな窓には白いカーテンかけられている。

天井は高く、大きなシャンデリアの様な電灯があり、薄暗い室内を照らしている。

そして部屋の中には、十数人ほどの人間がいた。

リーダーは部屋の中心に置いてあるソファーにザックを置き、その横にどっかりと座った。


「ヘイ♪ お帰りリーダー♪」

「サブか」


リーダーは後ろを振り返る。

声の主はリーダーが入ってきたドアとは別のドアから入ってきた。


「Yes♪ リーダー仕事オワタ?♪YAHAA」


サブは三人の幹部の一人である。

常時ラップ口調で大きなアフロ頭が特徴だ。


「俺達の仕事♪ 先程オワタ♪ ブツの搬送♪ 今からやるトコ♪」

「下手なラップを刻むなメンドくせー」


とシンがツッコんだ。


「いいか?テメェのラップは音も韻もメチャクチャなんだよ」

「カンケーねー カンケーねー 別にイインジャねー?♪ YAHAA」

「……………っ!」

「まぁそう怒るな、コイツは入ってきた時から全く変わっちゃあいない」


リーダーはそう言った。


「ヤン、バーからウイスキー持って来てくれ」


ヤンは命令されて、バーの方へ向かった。


「何にします?」

「ほら、この前“お得意さん”から貰ったヤツ、30万の最高級だとか言ってたの。あれくれ」

「わかりました」
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 21:58:21.38 ID:l5RacNFu0
「どうするんだ?」

「これから来る“客”に出す。俺達じゃあ勿体ないだろ?………ああ、ヤン、ロックでな」


リーダーは立ち上がり、後ろにいたメンバーに指示を出した。


「とりあえず、いつも通り俺達が掻っ攫ってきたブツに“首輪”付けたら下に運んでくれ。シン、今日の“客”は誰だ?」

「雑貨稼業の兄ちゃんと第一学区の大学のお偉いさんだってよ」


とシンは告げた。彼の手には一つの手帳の様な物があった。


「しかしよ、最近俺達働き過ぎじゃね? だってよー今週だけでもう十件だぞ?」

「………………」


リーダーは何も言わない。


「金が欲しいのはわからなくはねーよ。 俺達の能力を独学で進化させるのはそれなりの金が要るし、ケンカ向けじゃねー奴らが持っている銃の弾もロハじゃねー。 でも頭一つ盗ってくんのにどんだけリスクがあるか、あんたにはわからないだろーな」


場の空気がシン…と重たくなった。

この発言はマズイ。明らかに喧嘩を売っている。

しかしこの事は他のメンバーも同じように思っていた。もしも警備員に見つかり、捕まったらタダじゃいないし、裏世界の住人がやってきてリンチにされるかもしれない。

でも、いつもなら空気を読んでいて、しかも楽天家のシンがこの台詞を出すとは、一同夢にも思わなかった。


「シン…」


マンションがオロオロとしながら口を開いた。


「マンションは黙っていてくれ。 テメーには大事な妹がいるだろーが。 もしも警備員に捕まったりしたら、一番悲しむのはお前の妹だ。違うか?」

「……………」


マンションは押し黙った。

三秒ほど、また静かになった。

するとやっと、リーダーが口を開いた。


「…………正論だな」


この言葉を聞いて、マンションは明るい表情になった。

…………が。


「しかし、それを聞いてやることはできない」

「……なっ!? おいっ!それはどういう事だよ!?」


シンはリーダーに歩み寄り、胸倉を掴んだ。


「もう一遍言ってみろコラ!」


「おい!やめろ!!」と顔を青くしたヤンが怒鳴った。


「こっちは警備員の眼ぇ掻い潜って女共を掻っ攫ってよー! んでもって必死こいて逃げて帰ってきてんだ!! それに比べてテメーはバスん中でウマそーにハンバーガーばっか喰いやがって!!」


シンには過去、警備員に連行され、理不尽な暴行を受けた過去があった。それは彼の精神に大きな、いや大きすぎる傷を残したのだ。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 22:50:36.99 ID:l5RacNFu0
「テメーがふんぞり返って座っているそのイスもな、全部は俺達がデッケーリスクを払って仕事してきた結果だ!! ヤンのヤローが持っているウィスキーも!!俺達が乗ってきたバスも!! 全部が俺達が働いて来た結果の結晶だ!!」

「………前置きはいい。要は何が言いたい?」

「この馬鹿でかいリスクがくっ付いて周る仕事を減らせ」


シンはリーダーを睨む。


「テメー、知ってっか? 今、学園都市の中は騒然としている。特に警備員と風紀委員だ。なんせこの一か月で行方不明者が三十七人、異常な数字だ。それの原因はなんだ? 一目瞭然、俺達だ! これらみんなリーダーであるお前の命令だ。でもなぁ…実質実行したのは俺達だ!!」


二人の顔と顔の距離は数センチ。額と額をくっ付けて、シンは怒鳴る。


「アイツらは血眼で俺達を探している。学園都市中、第一学区から第十三学区まで、東西南北 隅々までだ!!」


「おい、よせ!」


ヤンはウィスキーを置いて、シンに駆け寄るが、


「テメーは黙ってろ!!」


と一蹴された。


「この前まではこんなんじゃなかった。月に3、4人攫ってくる程度で、能力開発の金もアジトの維持と銃と弾と武器の発注の金もお偉方との“商売”で出来た金と俺達がバイトして来た金を寄せ集めて、何とかやってきた。それもテメーの命令だ」


怒鳴り過ぎて喉が涸れたのか、声が掠れる。でもシンはそれでも怒鳴り続けた。


「確かにアンタにゃあ恩もあるし、ある意味尊敬はしている! でもこれはやり過ぎだ!! 利益とリスクをちゃんと天秤に掛けろ!! これじゃあいつかは俺達は豚箱行きか闇に呑みこまれる!!」


掠れた声が部屋中に響く。

震える腕。ギリギリと音を立てる歯。獣の様に血走った眼。

彼は今、自分の…いや組織の仲間の存在を想い、リーダーに訴えかけているのだ。


「俺はこの組織の古株の一人だ。まだこの組織が小さかった頃からいるだから入ってきた奴、やめてった奴、死んだ奴も腐るほど見てきた」

胸倉を掴むシンの両手に力が入り、リーダーの服に大きなシワが出来る。


「伊達に二十三まで生きちゃあいねぇよ! 嫌なモンも理解できるようになってきたし、入ってきた時みたいになんでもかんでも突っ張っちゃあいねぇ。ある程度は我慢もできる」


そして、もうこれ以上声が出ないかもしれないかように、訴えた。


「でも我慢の限界だ! このままじゃあ俺達はメチャクチャだ! そして何より!!




―――――――――アイツが報われねぇだろうが!!」





256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/12(月) 23:18:13.98 ID:l5RacNFu0
「…………………」


まだ、リーダーは黙ったままだ。


「………なんだよ、だんまりかよ。勝手に黙秘権使ってんじゃねーよ」


ワナワナと怒りを露わにし、シンはリーダーの胸を叩く。


「ふざけてんじゃねーよ!!テメーはいつからそんな風になっちまったんだ!!あん時はアイツに金魚の糞みてーにくっ付いて回っていた癖に!!」


シンの怒髪は天を突いた。


「アイツは……そうじゃなかった。あいつは真っ直ぐで! 正義感が強くて! 誰よりも強くて! 仲間の為なら命も賭けた! そう言う奴だった!! テメーならわかるだろう? なぁ!!」


しかしリーダーはそれでも口を開かない。

それを見たシンは顔を真っ赤にした。


「ふざけんなよ……、これじゃあアイツが報われねーじゃねーか………。ジャンは………!!





「言いたいことは終わったか?」





いきなり、リーダーは口を開いた。

氷よりも、冷たい言葉だった。冷たい目だった。


そして、シンの真っ赤にしていた顔は、氷水を浴びせたかの様に真っ青になった。



次の瞬間、シンの体に衝撃が走り、5m向こうにある壁に突っ込み。陥没した。


「だったら黙れ」


と冷たく吐き捨て、シンが飛んで行った方向と逆の方向の壁にあるドアへ向う。

ドアを開けて出て行こうとする彼をシンと同期のヤンは止めた。


「どこへ行くのですか?」

「電話だよ、ピザの出前の。ミックスピザ100人前だ。…………そしてそこでのびているバカに伝えとけ」


リーダーは振り返り、白目をむいて陥没した壁伸びているシンを指さした。


「もうすぐだ。もうすぐで目標の金額に辿り着く。 あと1、2回程だろう、それまでの辛抱だ」


そう言って、リーダーは部屋から出て行った。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/13(火) 00:02:06.35 ID:ZbrkWCxP0

リーダーが出て行った部屋は、しばらく静かになった。

時間が止まったかのようだった。

三十秒ほどだろう、ヤンは手を叩いた。


「とりあえず固まっていても始まらない。マンションとサブはシンを医務室まで運んで手当してやってくれ。あとのみんなはブツに“首輪”を付けて下まで運んどいてくれ」


ヤンの声を聞いて、ハッと我に返ったメンバー達は早速作業に取り掛かった。

が、誰も一言もしゃべらない。黙々と手と足を動かしている。


この組織には、鉄の掟がある。

それは自分の能力より高い能力者には決して逆らわない事。

この掟に、メンバーは縛られているのだ。


この掟を建てたのは先程部屋を出て行ったリーダーである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「…………わかっていない…。わかっていないよ、リーダー。 あんたは何もわかっちゃあいない……」


部屋の外。

誰かが呟く声がした。


薄暗い空間の中、影は二つ。


呟いたのは、バスを車庫の入れて帰ってきた、ジョン。

そして彼の前には中肉中背の男、ヤマが佇んでいた。


「ああ、どうしてこうなったんだろう…」


メンバーの目の前には絶対に見せない様な、まるで泣き出しそうな、悲しそうな顔で天を仰いだ。


「あの人……。汪誠者は……兄さんは………絶対にこんなことを望んではいないよ………リーダー……」




かつてこの組織にはある男がいた。

男の名は汪誠者。メンバーは彼のことをジャンと呼んだ。彼の名の者の字を音読みにして、それを名前っぽくしたものだそうだ。

彼は初代のリーダーであり、メンバーからは好かれ、尊敬されていた人物だった。

また、彼には弟がいた。一つ年下で、名前は汪善緒(よしお)。あだ名は兄と同じく、緒の字を名前っぽくしたものだった。

そう、今、天を仰いでいる、ジョンその人である。


組織は今、ジャンとは別の人物が頭をしている。


彼はかつてジャンが組織をまとめていた時代には副リーダーとして君臨していた人物である。

そう、あの紅葉の木で縛られていた彼である。


そして、汪誠者はこの世にはもう、いない。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/13(火) 00:04:12.79 ID:ZbrkWCxP0
今日はここまでです。

ありがとうございました。

ロウきゅーぶ!最高
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/13(火) 03:53:41.78 ID:sIas7y/50
桜蘭高校ホスト部www
小ネタが尽きないなwそこが好き
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 04:08:52.34 ID:UQaRDAYIO
前スレから追いかけてるんだが、小ネタや余計な登場人物を増やしてるせいで前スレ程の緊迫感や期待感が薄れてきているように感じる。両作品共に魅力ある個性的なキャラが多いので、そこを生かした方が良い気がする。

なにはともあれ、乙。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/13(火) 07:56:01.81 ID:sIas7y/50
ああなるほど...
そういうのも考えなあかんのか
面白い話書くのは難しいな
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/13(火) 13:27:44.62 ID:ZbrkWCxP0
>>260 了解っす、小ネタを控えめで行ってみようと思います。

一件落着したらネタを出来る限り出そうかな。

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/14(水) 22:19:57.28 ID:zRrtbsZi0
こんばんは、今夜も頑張ってきます。

最近モンハン始めました。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/14(水) 22:23:40.87 ID:zRrtbsZi0
そういえば、前スレでオリキャラでしゃばり過ぎだとかで怒られたような記憶が…。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/14(水) 22:30:29.99 ID:o9WBxr7Y0
無能力者狩り編の刀語成分が少ないのも難やな
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/14(水) 23:20:53.07 ID:zRrtbsZi0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

雨脚が、段々と強くなってきた。

時計の針が午後3時を回った頃だろう。だが彼の身の回りには時計は無い。日の位置で大体の時刻はわかる人もいるが、そんなのわからないし、だいいち分厚い雨雲が太陽を隠している。

上条当麻は走っていた。

隣には、結標淡希が共に走っている。


「上条くん、さっきのバスはこの通りに行ったの?」


結標は右手で目を覆いながら上条に訊いた。雨で目が見えないのだろうか。


「ああ、ケンカ通りの事なら大体わかる。あの交差点を左へ曲がったんだから、ここしかない。あの大きさのバスが通れる道はこの一本道だ」


上条達が走っているのは、第七学区三十九号木の葉通りのとある交差点を左へ曲がった、県道である。

この道は二車両と広い道だが、横へ行く道は細く、とてもバスが入れる広さじゃない。

だから上条達はこの県道を真っ直ぐに走っているのだ。


「しかしゴメンな、お前の能力ならあのバスにすぐに追いつくのに…」

「いいの、あのバスを見て覚えているのは上条くんだけだったし、上条くんを置いてけぼりになんてできないから」

「………ああ、ありがとう///」


結標は上条に優しく微笑んだ。

その不意討ちに上条は、思わず顔を紅くしてしまった。


(何やってんだ、こんな異常事態に……)


上条は顔をパンッと叩く。


(今は、あのバスに追いつかなくちゃならない。それができないなら、せめてがどこへ行ったかは把握しないと)


上条は持久走には自信がある。結標も結構ついて来ているから彼女もそれなりに自信があるのだろう。

………まぁ実際には空元気なのだ、結標は上条に弱い所を見せまいと意地を張っている。

幸いにもこの道には信号機が多い。だからバスは信号に引っ掛かっててそんなには進んでいないはずだ。

上条達は歩道の信号を渡るとき、車とぶつからないよう注意しながら渡る。


「にしてもいきなり御坂が抜けたのはマズかったな」

「そうね、でもしょうがないわよ。いきなりだったんだもの」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 00:00:02.86 ID:O6jctn4R0

『四の五の言ってられないわ!そのバスを追うわよ!さぁ、待ってなさい悪党共!』

「…………って、御坂が血相変えてバスを追うとして、三歩目で………」

「豪快にすっ転んでしまったのよね……」

「それのせいで捻挫して……」

「しょうがないわよね、雨で地面が濡れてて滑りやすくなってたし、新しい革靴だったから走りにくかったのが原因よね……」

「まぁ、よくある事だよ。…………よくある事なんだ……」


上条と結標は走りながら遠い目をした。

しかし今はそんなことはどうでもいい。(……そんなことを言ったら雷が落ちそうだ、物理的に)

今はあのバスを見つけ出さなければ。



だいたい500mほど走った頃だろう、九つ目の信号が見えてきた頃だ。上条が呟いた。


「……………見つけた……」

「え!?……どれ!?」

「ほら、信号待ちしている、手前から三番目のバス!」


上条はそのバスの後ろ10mの距離まで追いついた。

そのバスの横に書いてあるロゴは『桜蘭高校野球部』。


「………ビンゴだ」


上条はバスに追いつき、側面に触った。…………が。

信号は青に変わってしまった。


「……しまったっ!」


バスはまた走り出してしまった。

上条は歯痒い表情でバスを睨み、バスに着いて行こうと走り出す。

だが、バスに人間が着いて行ける筈がない。が、幸いにも信号があるので引っ掛かっている時に追いついた。

がしかし追いついた途端に信号は青に変わり、折角追いついたバスが走り出してしまった。

それを上条は追いつこうと走り出す。


こんな状況が500mほどつづいた。


「ぜぇ…ぜぇ……」


上条の呼吸が酷く荒くなる。

肺は冷たいくせにその他がバカみたいに熱い。

しかも雨のせいで前が見えない。


「………もう……だめ……」


と後ろから声が聞こえた。

上条が振り返ると、後ろで結標が膝をついていた。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 00:35:15.03 ID:O6jctn4R0
「結標!!……無理してたのか」

「いいから……先に行ってて……」

「…………ごめん」


結標は右手で行って行ってと手を振り、左手で口を押えた。

上条は後ろ髪を引かれる思いをするものの、走り出した。


(……くっそ……動け俺の脚……!)


乳酸が脚に溜まり、筋肉の伸縮の邪魔をした。

上条は自分の太腿を右拳で叩き、喝を入れた。

これが超能力か魔術なら打ち消せるのに………。

この右手に宿る幻想殺しは異能の力を障子を破るかの如く打ち消せるが、この状況を打破することはできない。

上条は苛立ちを覚えながら、攣りそうな脚を何とか鞭打って動かした。


すると、バスのスピードが緩んだ。


「…ッ!?」


どうやらバスの前の軽自動車が右の小道へ入ろうとしているのだ。

上条は久しぶりに神様という者に久し振り感謝しようと思った。

バスとの距離、約20m。

上条はこの短い距離へ詰めようと、ラストスパートを駆けた。

(届け……届け……届け……)

上条は悲鳴を上げる脚を無視し、ただひたすらに走る事を優先した。

(届け!届け!届け!届け!届け届け届け届けぇぇぇぇえぇぇぇぇええええええええ!!)


「ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


上条は右手を伸ばした。車体の後ろ。

このバスは後ろの面に梯子が並んでいた。きっと屋根に荷物を乗せる時に必要な梯子だろう。

そこに、上条は全ての体力を費やし、右の掌で梯子を掴まんとした!!




――――――――――が、上条の体力はそこまでだった。




ズサァァァァァァ!!と派手に転ぶ音がした。

上条は結局、足がもつれ、あと数センチの所で、あと一歩、いや半歩進んでいたら掴めていたところで、力尽き、転んでしまったのだ。



「………ッ……チクショウ!!」


上条は叫び、コンクリートの地面に右拳を叩き付けた。

脚はもう動かない。立とうにも生まれたての鹿のようにガクガクと膝が笑っていた。

集中力が切れ、これまで我慢してきた物がどっと流れてきた。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 00:55:05.23 ID:O6jctn4R0


「ゲホッ……ゲホゲホ………ぅえっ!!」


咳と吐き気が押し寄せる。

しかし上条は諦めなかった。あのバスの中には吹寄がいる。

上条は前を見た。

バスは走り出したが、次の信号に捕まれば、追いつく。


「ゥオオオオオオオオオオオ!!」


上条は爆笑する膝のまま、立ち上がった。

そのまま右足を上げ、踏み出す。

左足も強引に蹴り上げ、前に出す。

まだ上条は諦めていない。

諦める筈がない。

なぜなら、まだ吹寄が助かってないから。彼女が無事に助からなければ、上条は絶対に諦めない!


…………筈だった。




「…………嘘……だろ?」


上条は左足を踏み出したまま、固まった。

ただ、呆然と。

固まっていた。

なぜなら、この県道は終わっていたから。

バスは違う道へ入ったからだ。

そこは……。



「高速…道路……だと……?」



上条はペタンと座り込んでしまった。

もう、追いつけない。追いつけるはずがない。

生身の人間が高速道路に入れないし、それ以前に100km/hを軽く超えるスピードをだすバスに勝てるほどバケモノじみた存在ではない事を、上条は理解している。


「………クソッタレェエエエ!!」


上条は天に吠えた。

どれだけ吠えても、バスは戻ってこない。

わかっている。わかっているが、吠えるしかない。

まさしくこれが負け犬の遠吠えだった。


「………吹寄……すまん……」


上条は地面に項垂れ、いない人間に謝罪した。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 01:32:38.79 ID:O6jctn4R0
「……上条くん……」

「……結標か…」


もうある程度回復したのか、結標が『鎩』を杖代わりにして追ってきた。

彼女に、上条は淡々とした。


「……だめだった」

「そう……大丈夫?」

「ああ、心配ない」


上条は項垂れたまま、結標に返事した。

くそっと悪態をついた。

過去に反則的な強さを持った敵達と幾度と戦ってきた。

それはチートの様な錬金術師だったり学園都市最強の超能力者だったりと様々だった。

が、なぜこの様な普通のバス一台を追跡するのが精一杯なんだろうと、つくづく思った。

一瞬で移動することもできないし、言ったことを現実に変える力もないし、ゴーレムを造ることもできない。


ああ、なんて無力なんだ、俺は。


後ろから、結標の小さな声が聞こえた。

「上条くん、ごめん……足を引っ張って」

「結標のせいじゃない。むしろ謝るのはこっちだよ。お前最初にバスを見つけた時から、もうバテてたんだろ? だからその時あのバスに座標移動できなかったんだ。 ゴメンな?無理させて」

「いいの、あなたの為なら何でもするって決めたから」

「………そんな事言わないでくれ、恥ずかしいから。……それより、携帯を貸してくれ。初春に報告したい」

「ええ……はい、どうぞ」


実は美琴と離れるとき、美琴から携帯を預かっていたのだ。

理由は初春飾利と連絡を取る為。

上条はカエル型の携帯の電話帳の中の『初春飾利』のフォルダから電話番号を見つけ、通話ボタンを押した。

初春はキッチリ3コールで出た。


「ああ、初春か。………ダメだった。ごめん……」



結標は初春と話す上条の小さな背中を見ていた。

あの日はあれだけ大きな背中をしていたのに……と。


「え? 現在位置? あー、近くにあるのは、コンビニと靴屋とそれと……ああ、高速道路の入り口…だよ……」


と上条は前を向いた。高速道路の入り口がある。

上条はそれを見て、また固まった。


「? 上条くん?」


結標は不審がり、一つ呼びかけた。しかし上条は彼女の呼びかけには動じず、今度は笑い始めた。


「……………は…ははは……はははははは」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 02:34:56.70 ID:O6jctn4R0
「ゴメン、一つ訂正いいか? ……………全くダメってことじゃなかったよ。…うん、首の皮一枚繋がったって感じ」


上条はそう言って、高速道路を指さした。いやその上か。

結標はその指に釣られ、上条が指さす方へ視線を向けた。


「………あ、そうか」


結標は納得した、上条の言った意味を。



「初春、あいつらの行先がわかった、大体だけど。………ああ、第十九学区だ!」



上条が指さすもの。

それは高速道路がどこへつながるかを示す看板。

緑色に塗装されたその看板に書かれていた白い文字。



『学園都市 第七学区⇒第十九学区』





そう、あの無能力者狩りは第十九学区にアジトを構えていたのだ。





「初春、ここのコンビニにタクシーを手配してくれないか? …………ああ、バスをタクシーで追うって手もあったんだが、金が無かったんだ」


上条は近くにあったコンビニへ足を向けた。きっと、コンビニのATMでタクシー代を引き出しに行くのだろう。


「……え? タクシーじゃなくて、先輩がバイクで送ってくれるって? ありがとうな初春」


上条は立ち止まり、そのあといくつか初春と話したあと、電話を切った。


「ああ、結標、もう大丈夫か?」

「ええ、だいたいは。 座標移動もできると思う」

「だったらこの携帯を御坂のところまで持って行ってやってくれないか? それとあいつの傍にいてやってくれ、流石に捻挫した足で移動するのはキツイし」


上条は結標の方へ向いて美琴の携帯電話をパスした。結標はそれを2,3回お手玉したが、なんとか落とさずに受け取った。


「わかったわ、でもあなたはいいの? そうなると一人で何人いるかわからない敵と戦うことになるわよ?」

「いいさ、それでも吹寄を……いや、吹寄と御坂の友達を必ず連れて帰ってくる」


上条はやけに自信ありげに言った。

いや違う、闘志を燃やしているように見える。




「いいぜ、誰だか知らねぇが、俺と御坂の日常をメチャクチャに壊していくってんなら………。まずは、その幻想をぶち殺す」




上条はそう呟き、右手で拳を作り、左の掌を叩いた。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/15(木) 02:38:06.84 ID:O6jctn4R0
今日はここまでです。

設定上、美琴は退場させていただきました。

そのシーンは書いてはみたんですけど、明らかにネタなんだお蔵入りしました。

まぁあれ自体がネタみたいなものか…。


ではまた。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 13:32:00.41 ID:qAjijKpB0
こんにちは、今日も書いて行きます。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 15:18:43.18 ID:qAjijKpB0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はい………そうですか…………。じゃあ、現在位置はわかります?………はい…はい…」


初春飾利はPCのキーボードを叩きながら、上条と電話をしていた。


「じゃあ十九学区ですね……はい………てか、タクシー使うなら最初から使えばよかったじゃないですか………ああ、それならしょうがないですね」


後ろからガチャッとドアが開いた音がした。


「どう? 犯人捕まった?……ってゴメン、電話中だったわね」


初春の先輩の固法美偉だ。

先程、席を外していたのだ。

初春はPCのメモ帳を開き、固法に詳細を伝えた。

『ホシは第七学区から第十九学区へ行く高速道路へ入りました。きっとアジトは第十九学区でしょう。上条さん達はタクシーで第十学区へ行くそうです』

ふむふむと固法は頷いた。


「わかったわ。じゃあ私がバイクで送って行ってあげる。タクシー呼ぶより、ここから出た方が断然早いし。ただし一人だけだけどね?」


それを聞いて初春はそれを上条に伝えた。


「あ、上条さん? 私の先輩の固法さんが、一人だけ第十九学区まで送ってくれるらしいです。……はい、わかりました。ご武運をお祈りします」


電話を切り、初春は固法に上条がいる場所を伝えた。


「上条さんは第七学区の木の葉通りの近くの高速道路の入り口付近にあるコンビニの駐車場にいます。 上条さんはツンツン頭が特徴ですのですぐにわかると思います。 と、これがそこまで行く道の最短距離の地図です」


初春はコピー機から吐き出された紙を固法に渡した。

固法はそれをざっと見て、ロッカーの中に入ってあった革ジャンを取り出し、羽織る。


「うん、わかったわ。ありがとう、初春」


固法はそういってさっさと出て行った。

そんな彼女を見た初春はどこか違和感を覚えながら、またPCへ向かった。

今度は高速道路にあるスピード違反車の発見用カメラを使って、例のバスを追わなくては。


「……………しかし、なぜ固法先輩は私を呼び捨てにしたのでしょう……。いつもはさん付けで呼ぶのに……。っと、そんなことは置いといて、ちょっとおトイレ…」


初春はこれから長丁場になるだろうから先にトイレを済ましておこうと立ち上がった。

外からはオートバイが走り去っていく音がした。きっと固法が颯爽と駆けて行ったのだろう。

初春は女子トイレのドアを開け、奥から二番目の個室へ入る。


さて、これからどうなるのだろう……。

犯人は無能力者狩りと呼ばれる能力者の集まりだろう。上条だけで大丈夫なのだろうか?彼には特殊な能力があるとかどうとか言っていたが、どうも信用ならない。

なぜなら、書庫によると彼の強度は無能力者。全く能力を出せない者だ。

まるでネズミが大蛇へ勇み足で立ち向かっているとしか思えない。


「やっぱり、止めるべきでしたね……」


初春は一つ溜め息をついた。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 16:10:53.71 ID:qAjijKpB0
とその時。


「ん〜〜〜!んん〜〜〜〜〜〜!!」


「ほえ!?」


初春はビクッとした。

なにか、誰かが唸る声がした。


「え? なに!?」

「ん〜〜〜!! んん!! んんんん!!!」


どこかで聞いた事がある声だ。

でもどこから発せられているのかが、わからない。


「え? 誰ですか!? どこにいるのですか!?」

「んんん〜〜!!んん!!」


初春は個室を出て、キョロキョロとあたりを見渡す。

しかし、どこにもいない。

と思ったその時…。


ドンッ!ドンドンッ!!


と力強くドアを叩く音がした。

初春はビックリしながらその音がした方向を見る。


音がしたのは、トイレの一番奥にある、小さな掃除用具入れだった。


初春は用具入れの前まで来ると、一つ声を掛けた。


「あの〜、この用具入れですか?」

「んん!!」


YESだそうだ。

初春は用具入れのドアを開けた。そこに入っていたのは……。


「………えぇ!? 固法先輩!?」


固法美偉が、何でか全裸の状態で縄で縛られていたのだ。簡単には身動きが取れないよう、何か特殊な縛り方で縛られていた。しかも縄で猿轡されていていて、なんだか厭らしい。

初春は慌てて、彼女を束縛していた縄を解いた。

腕や足に胸などには縄の痕がクッキリと残っていた。きっときつく縛られていたのだろう。

次に猿轡を取った。縄には固法の唾液がタラリと垂れていて、なんだか色っぽい。


「だ、大丈夫ですかっ!? 固法さん、一体何があったんですか!?」

「襲われたのよ、真っ黒の服を着た男の人に…。………ああ、犯されると思った……」

「いつ!?」

「さっき席を外していた時よ。後ろから襲われて身ぐるみ剥されて、口から取り出したロープで縛られて、ここに閉じ込められたのよ。まったく、冗談じゃないわ。ヨダレでベッタベタなのよ? このロープ! 汚いったらありゃしないわ!!」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 17:16:42.29 ID:qAjijKpB0

「…………!!」

「どうしたの? いきなり黙って」

「………おかしいですよ、だって……固法さん、さっきまで私と一緒にいたじゃないですか!!」

「そう、そいつは私の偽物よ!! あいつ、私を縛り付けた後、私に化けてったのよ!!ああ、気持ち悪い」


固法はそのシーンを思い出したのか、ぶるっと震えた。

能力者か。こんな時に。

初春は頭を抱えた。


「どんな人でしたか?」

「まずは黒い服装をしていて、身長は170cm前後、特徴的なのは笑い方。ぎゃはぎゃはと笑うのよ」

「………いるのですか?そんな人」

「いるったらいるの。それで?奴は何をしていたの。まさか襲われてたんじゃないでしょうね」

「いえ、何もしませんでしたよ。 たださっき、固法さんのバイクに乗って誘拐犯を追っていた上条さんの所へ行きました」

「上条さんって……また一般人巻き込んだわね?」

「いえ、被害者の友人という事で協力しますということでした」

「………まぁいいわ。ああ、知らない男に裸にされるし、バイク盗まれるし、ああもう……」


固法は全裸のままでトイレの出入り口へ向かった。

が、何か思い出したのか、ピタッと立ち止まった。


「初春さん……」

「はい」

「……悪いけど……、服を……貸してくれないかしら?」


流石に風紀委員が全裸で徘徊するのは頂けないか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


晩御飯を作るんで、一旦休憩します。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/09/16(金) 19:24:23.51 ID:2mMZB3uv0
蝙蝠良い良い良い良い良い良い良い良いいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんてことおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
そこは普通男からだろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 22:06:20.88 ID:qAjijKpB0
どもども、では早速再開です。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/16(金) 22:49:37.44 ID:qXn30UNF0
そういや能力者って肉体変化<メタモルフォーゼ>とかいたんだっけ
学園都市に三人しか居ないとか
端から見たら蝙蝠はそれに該当するな
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/16(金) 22:51:27.66 ID:qAjijKpB0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


運命というものは、残酷だ。


そう、誰かが言った。

いや、誰もが言うだろう。

僕が住んでいる世界は残酷で、外道で、常識外れで、そして悲劇に塗れている。




運命というものは、幸せだ。


そう言う、誰かがいた。

いや、誰もが言ったのだろう。

僕が住んでいる世界は友愛で、温暖で、常識的で、そして祝福に溢れている。




前者も後者も、どれも本当だろう。

真実だろう。本心だろう。誠のことだろう。実像だろう。

しかし、どれもが逆なのかもしれない。

虚実だろう。虚心だろう。嘘のことだろう。虚実だろう。



ただ、僕自身がはっきりと理解しているのは、それらを全て含んで、悲劇も祝福も実像も虚実も何もかもを全て集合させたのが、この世界の正体なのだ。

中学生の分際で何を考えているんだと、思われただろう。

だが、この目で見た世界はそういうものなのだ。

世界の半分は祝福で、もう半分は悲劇で。

何もかもが二分の一で分割され、光と影のに分けられている。

それらは決して交る事はせず、絶対にお互いの領域というものには踏み込まない。

しかもこの地球は広いから、その分、影も酷いくらいに広い。

両者を隔てる壁はエベレストよりも高くそびえている。

しかしその癖、その壁はブラックミラーで出来ているらしく、向こうからはこっちは決して見えないが、こっちから向こうは全てが丸見えなのだ。

腹が立つことに、光の中に住む、光の住人は影の世界に住む、影の住人より、何十倍も幸せに暮らしていて、

影の住人は皆、劣等感と羨望と嫉妬で自分を傷つけながら生きているんだ。



そう、僕は影の世界の住人だったんだ。



僕はあの光の住人の嬉しそうな顔を見ると失望と苛立ちで心を歪ませ、怒りと憎しみを堪える為に拳を強く握り、そしてそれを光の住人に悟られぬよう、顔は笑顔を貫いた。



しかし、しかしだ。

俺のこの生活は終わりを告げた。

あの人が、ジャンが俺の前に現れたその時から。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 00:14:58.74 ID:+PUuTl5z0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あれあら、一年がたった。

俺と『アイツ』とで創った組織は、段々と大きくなってきた。

メンバーは50人を超え、とうとう立派な大組織になってしまった。

良い事だ。なぜなら、同じ能力を持っているヤツ同士、お互いコツを教え合ったり、ライバルを作って競い合ったりと、メリットは沢山ある。

良い事だ。確かに良い事なんだが、重大なデメリットがあった。


「アジトが欲しい」

「アジト……ですか?」


まだ中坊だが参謀を務めているヤンが応えた。


「ああ、地元の第七学区か隣の学区のどっかに無いかねぇ、アジトみたいの。 ホラ、ウチもう50人超えてんじゃないか? もう立派な組織だ。だったらこの大所帯がまるまる入れる建てモンないかな、そこにアジトを構える」

「う〜ん、まぁウチは学生が学生による学生のための無償で行う塾みたいなもんですからね。そう簡単には学生に部屋を貸してくれる不動産屋は無いと思うし、そもそも大きな人数ですからね……」

「お前はいつもカッテェ考えばっかりじゃないか。んなんじゃねぇよ。だから彼女にフラれるんだよ」

「それは関係ないでしょ。ってなんで知ってるんですか!?」

「シンから聞いた」

「シン…貴様ぁああ!!」

「まぁ待て待て。 俺が言ってるのは、小奇麗なビルの一室じゃなくて、どこぞの廃墟で十分なんだよ」

「……はぁ…」


会話を聞いてか、副リーダーの『アイツ』と幹部の一人のサブが話してきた。


「だったら第十学区ならどうかな。『ストレンジ』って所には結構廃墟があるし。どう?ヤン」

「ああ、確かにあそこなら手頃にアジトを見つけられるけど……。あそこ、スキルアウトの根城だぞ?」

「HEY! だったらYo! 第十九学区の安生真空管研究所なんかどうダ〜イ♪ もうすぐ潰れるって話だYo♪ あそこキレイね〜♪」

「おお! いいなぁそこ、どうです?ジャンさん?」


ヤンが俺に話しかけてきた。

が、俺の心に決まったのは違った。


「いや、第十学区にしよう。 えっと……ストレッチだっけ?」

「っ!? 正気ですか!? そこはスキルアウトの巣窟です! ウチにはまだ低能力者の奴がいるのに!? それとストレンジです!!」

「バーカ、違ぇよ。 50人中で上位のヤツだけがその『ストレンジ』に行く。んでそこのアジトでもう一段階上の方法で強度を上げる。下のモンは変わらずここで活動をする。 まぁ無能力者とケンカになったらなっただけど、普段はあんまりしない。つっても奴らが何か悪い事をした時はシメる。 テメェの正義も守れねぇ奴にはこの組織にいる資格はないしな」

「と言って、実は最近やけに活発になってきているスキルアウト連中を壊滅させる為とか言うんじゃないでしょうね?」

「ハハッ、流石はヤン。鋭いじゃねねか。あはははははははは!!」

「何言ってるんですか。どうせ一人で行くつもりだったんでしょ? 行かせる訳ないでしょう」

「そうだZE♪ リーダー」

「ああ、そうだよ」

「…………そうだよな、お前らはそうだもんな。喧嘩なんてしたくないし、血も見たいくねぇって奴らばっかで……」


「「「俺(僕)も行く!」」」


「………え?」

282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 00:15:41.23 ID:+PUuTl5z0

「だってそうでしょう。ジャンさんがいくら強いからって、一人で行かせるわけにはいきませんよ。俺も行きます」

「ヤン……」

「そうだZE、YOU! 奴らはフツーにピストル持ってるんだからYO!」

「そうだよ。怪我の手当てをするのは誰だと思ってるの?」

「サブ、それにお前も………。ありがとうな」

「なにいってんだい? 君がリーダーになった日から僕たちは君について行く事を誓ったじゃないか」


『アイツ』がそう言うと、ヤンとサブも頷いた。

ああ、なんてこった。目の前が霞んで見えてきた。

とその時、シンが飛び込んできた。


「おっすオッハー。何の話してんだ!? ………ってリーダーが泣いてる!? オーイ!リーダーが泣いてるぞ!!」

「あっ、貴様。待て!それ以上言うな! それと貴様、よくも俺のフラれた話を言ったな!?」

「おっと、実はもう組織中に広まってるぞー」

「貴ィィィィィィ様ァァァァァァァァアアアアアアアア!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


………え?なになに? リーダーまた号泣? …………またヤンとシンの喧嘩が始まったかww …………はははははははっ、やれやれ!………

そしていつもの様な騒がしいになった。

流石に50人という人間たちが集まると、本当に五月蝿くなる。

でもそれが心地よく感じるのだ。



当時、初期のメンバーはそれなりに強度を上げた。

ヤンとシン、それとサブは強能力者になったし、弟のジョンは異能力者。そしてリーダーである俺は大能力者になった。

入ってきた時はあんなに小さかったヤンとシンとジョンは、能力と比例して大きくなっっていった。

順調だった。


ただ、一つ。

『アイツ』だ。

『アイツ』だけが、変わらない。

能力も、体も。どちらも大して成長しなかった。出会った時から、殆どその時のままだったのだ。

それが、俺のただ一つの心残りだった。



そしてあの日、アジトの移動場所の決定こそが、俺と『アイツ』の運命を、薄氷を金槌でカチ割るかのように、決定的にぶち壊したのだ。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 01:18:53.70 ID:+PUuTl5z0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガチャガチャ……ガチャン。


まるで手錠を掛けるような音がしたのと首の周りに違和感を感じた。

あれ? おかしいな、立っているのに重力が体の側面に感じる。

…………いや違う。どうやら横になっているのか、自分は。

地面が硬く、冷たい。

どうやら自分は、硬い床の上に寝ていたのだと、その時理解した。



「………あれ……ここ………どこ…………?」


吹寄制理はうっすらと目を開けながら、そう呟いた。


(……なんか変な夢を見ていた気がする……)


だが思い出せない。まぁ思い出せない夢は過去に何度も見た事あるし、ほって置こう。


「ってあれ? 今まで何をしていたんだっけ?」


確か、上条と土御門とで遊んでいて、土御門が抜けた後、木の葉通りの中華のお店で、上条と常盤台のエースと呼ばれる、あの御坂美琴と月詠先生と黄泉川先生、それと姫神秋紗と一緒に中華を食べていたんだっけ。

その後、いきなり謎の女の人が現れて、御坂さんと喧嘩を始めて、私と上条は慌てて逃げた……。結局あの女はなんだったんだろう? あとで上条に問いただそう。

逃げて来たのはどこかの公園で、そこから上条と一緒に夕飯の食材を買う為、スーパーに行こうってしたら、上条はトイレに行って………。

そしたら、変な男が三人現れて……。急に増えて………。


「あ……私、攫われたんだ」



吹寄はスクッと立ち上がり、辺りを見渡す。

一体ここはどこだ!?


そこはそこかの建物の中だった。

吹寄がいるのは四方が大体8mの正方形の部屋だった。

四つの壁はなぜかガラス張り。ガラスの向こうには自分がいる部屋と同じような部屋が三つ。簡単に言うと『田』の字の様な配置になって並んでいた。

部屋の天井は高く、吹寄から見て正面の壁の5m程の高さになると、その高さからこっちを見下せるような部屋があり、白いカーテンが掛けられていた。


「一体ここはどこなのよ!?」


吹寄はキョロキョロと見る。


「人売り屋(ボディーセールス)よ」


後ろから声が聞こえた。ビックリした吹寄はバッと振り返った。


「…………っ!?」


後ろにいたのは、一人の少女。自分と同い年くらいだろう。

そして彼女の周りと自分の前には15人ほどの少女たちがいた。彼女らは、年齢も、髪型も、人種も、バラバラだった。

きっと歳を平均すると16,7あたりだろう。だが上はもう大学生あたりの女性、下はまだランドセルを担いでいても可笑しくは無い年頃の女の子。髪型バラバラで腰までありそうな長い髪の子やボーイッシュの髪の子もいる。

人種も然り。殆どが日本人だが、二人…、さっきランドセルを担いでそうな女の子と吹寄とすぐそばにいる女の子は日本人の髪の色とは違っているから、きっと外国人なのだろう。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 02:06:11.72 ID:+PUuTl5z0

吹寄は先程、自分に話しかけてきた少女を見る。

同じくらいの歳。だが、目元にはくっきりとクマがあった。服装はどこかの学校の制服で、なぜが所々白く汚れていた。彼女は制服をキチンと来ておらず、胸元がはだける様に着崩れていた。そしてなぜか異臭が微かに放たれていた。

少女の表情は何故か落ち着いていて、というよりは何かに諦めたような雰囲気、それと微妙に絶望感を漂わせていた。

ただ、これらが無ければ、間違いなく美少女だろう。

そんな彼女の膝の上には、外国人らしき小学生くらいの女の子が眠っていた。


吹寄は先程彼女が言った言葉について訊いた。


「あの……」

「なぁに?」

「さっき……なんて言ったのですか?」

「人売り屋よ」

「どういう意味ですか? その…ボディーセールスって」

「読んで時の如くよ。人を売るの。自分の体じゃなくって、他人(ひと)の体を売るの。 だからボディーセールス。 まぁ私が勝手に付けたんだけど」

「それって…人身売買じゃないですかっ!? そんなの学園都市にあるはず……」

「それがあるのよ。現にあなた謎の男三人組に誘拐されたじゃない」

「……………」


吹寄は押し黙ってしまった。

どういう事だ? なぜ自分がこんな目に会わなければならない!?

吹寄は頭の中でグルグルと何かを回すような現象に陥っていた。

軽い知恵熱を出していた吹寄に少女は話しかけた。


「ねぇ、あなた。名前なんて言うの? 歳は? 私と近そうに思うけど」

「……え? あ、はい。 吹寄制理と言います。 高校一年生です」

「あら、私も高校一年よ? よろしくね? 笹斑瑛理(ささむら えいり)っていうの。短い時間だけど、よろしくね?」

「はぁ、よろしくお願いします……」

「同い年なんだし、そんなに敬語使わないで? こっちがお固くなってしまうわ」


ふふふっと笑う笹斑。吹寄はそんな彼女の言葉の所々に少々引っ掛かった。


「わ、わかったわ。じゃあこれからよろしくね」


吹寄はそう言い、笹斑に右手を差し伸べてた。それを見た笹斑は目を丸くした。


「……?」

「ふふっ、ええ、よろしくね? 吹寄さん」


笹斑はニッコリと笑い、吹寄の手を握った。

吹寄はわからなかった。なぜ笹斑は握手をする前、泣きだしそうな顔をしていたのか。






「………はれっ!? ここどこ!?」


佐天涙子が目覚めたのは、これの直後の事である。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 02:08:14.54 ID:+PUuTl5z0
今日はここまでです。

なんでこうもオリキャラが出てくるんだろう……。頭を抱えます。

ああ、笹斑さんに膝枕されていた子はオリキャラじゃないですよ?
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 00:01:28.56 ID:D0tNq4WI0
こんばんは、今夜も書いて行きます。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 03:39:20.20 ID:D0tNq4WI0
すいません、結構な長さの文章を書いてたらいきなり書いてたら、いきなりPCが飛んでしまって折角書いた文章のデータが全てパーになりました。

んで、ちょこっと遅れます。


…………こんちくしょう。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 04:48:41.77 ID:D0tNq4WI0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「私、佐天涙子っていいます! 第七学区の柵川中学の一年やってます!」


佐天涙子が右手を挙げて元気良く自己紹介した。

吹寄制理と笹斑瑛理もそれに続いた。


「私は吹寄制理。第七学区の高校一年生よ、よろしく」

「笹斑瑛理よ。第二十学区で水泳をやってたの。吹寄さんと同じ高一ね」


この部屋にいるメンバーがそれぞれで自己紹介しようと言うことになった。

言いだしっぺは佐天である。

数分前に目が覚めた佐天は、あまりにも重すぎる空気に我慢できず、ヤケクソに提案してきたのであった。

その提案に吹寄は「いいわね、お互いのことは知っておきたいし。それに信頼感があった方がいい」と言い、仕切り屋の性のせいか司会の様な事を始めた。

仕切り屋は早速、司会をつづけた。


「じゃあ右の人から……」

「はい、私は天導好子(てんどう よしこ)って言います。今日連れてこられました! 因みに私は第十学区で彫刻やってました! 中学三年生です!」

「私は音無絢実(おとなし あやみ)。天導とクラスメイト。第二十二学区でこの子と一緒に誘拐されたわ。そうね、天導が彫刻と言ってたけど、私の専門は油絵よ」

「満潮燦(みちしお さん)です。第二十一学区で海洋生物学をしている高校二年生です。今日、彼氏と一緒に街にいたら誘拐されました」

「社叶柄(やしろ かなえ)です。第十二学区で高崎大学付属高校のニ年です」


この4人は今日誘拐され、ここへ連れてこられたそうだ。

満潮と社は心配そうな表情だったが、天導と音無は比較的表情は明るい。心が強い子たちなのか、またはただバカなだけか。

外へ行く様な、小洒落た格好をしていた。

今日、連れてこられたのは、吹寄と佐天と上の4人だけだった。


一方、それ以外の少女たちは表情がまるで違っていた。

みな表情は暗く、絶望感を漂わせていた。


「納雅未晴(のうが みはれ)。昨日からここにいる。中学三年。」

「………木縞春花(きじま はるか)です。………高校一年生です。………昨日、ここに入れられました。…………もういいですか?」

「九重絵彌(ここのえ えみ)……。昨日…………ぅぅ……ぅう……………………もう……嫌……」


とうとう泣き出した者が出て来てしまった。

納雅はずっと壁に背を預け、小さく体育座りしていた。木縞はずっと下を向いていて、九重は目の下は真っ黒になっていた。

先程の4人と比べ、彼女らは

しかし、一体彼女たちに何が起こったのだろう? と吹寄は考えていた。


一方、佐天はなかなか第一印象が大きいメンバーに驚いていた。

特に印象深かったのは二人。


まずは自分が目覚めた時からずっと笹斑の膝の上で眠っている、小学生くらいの女の子。

奇麗な金髪とフリフリとしたワンピースを着ていた。

眠ったままなので、代わりに笹斑が紹介してくれた。


「この子はフレメア。フレメア=セイヴェルン。昨日入って来たの」
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 05:19:07.74 ID:D0tNq4WI0

「へ〜、奇麗な金髪だったから外国の子かなぁ〜って思っていたら、やっぱりそうだったんですか!」


と佐天は目を輝かせた。


「ふふっ…。実はね? あなた達が目覚める直前までずっと、フレメアちゃん起きてたの」


目を輝かせている佐天が面白いのか、笹斑はクスリと笑った。


「昨日の夕方にやってきて、ずっと泣いていたわ。あまりにも辛いものね、ここは。 それで私は慰めていると、やけに懐かれちゃってね」


笹斑は微笑みながら、フレメアの髪を撫でる。


「そうそう、昨晩ずっとこの子の話を聴いててね? この子には優しいお姉さんと、いつも遊んでくれる大きいお兄さんがいるんだって。それで、大きいお兄さんが絶対に助けてくれるって言うのよ? 可愛い子よね、全く」


笹斑はまたクスリと笑ったが、佐天は方は何か神妙な顔になった。


(助けてくれるか……。そうよね、学園都市に七人しかいない超能力者の御坂さんや風紀委員の初春や白井さんが絶対に助けてくれるんだから!)



特に印象に残ったもう一人、それは自己紹介が一番最後だった人だった。

吹寄は部屋の隅で正座で座っている少女だった。………いや、少女というには少々大人びて見える。だいたい19かそこら、いってても20代前半だろう。少女というより、女性と言った方がいい。

安っぽいジーンズの短パンを穿き、安っぽいTシャツを着ていて、その上に大きめのパーカーを羽織っていた。

パーカーの帽子を被っている為、目元から上の表情は見えない。


「ああ、私か」


凛とした、可愛らしい声だった。だが、芯が強く、ハッキリとした物言いだった。どこぞのお姫様の様な印象を受ける。


「私はきさ…………ゲフンッ……」


『きさ』で自己紹介を中断し、彼女は指を唇に当てて考え込んだ。

数秒して、彼女は顔を上げた。


「咎咲櫛芽(とがさき くしめ)だ。以後、宜しく頼む。今日から入った新人だ」

「咎…咲……?変わった苗字ですね?」

「何を言っておる佐天とやら、『十八娘』と書いて『ねごろ』読んだり、『一』と書いただけで『にのまえ』と読む者のいるのだ。私のなど、遠くに及ばんよ」

「………は、はぁ……」


佐天は咎咲のあまりにもの慌てぶりに、思わず押されてしまった。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 05:36:27.38 ID:D0tNq4WI0
一方、吹寄はこれまで得た情報の整理を始めた。


「これで全員ですね。計16人、小学生が1人、中学生が5人、高校生が10人。私と佐天さん天導さん音無さん満潮さん社さん咎咲さんの7人が今日入ってきて、あとは昨日。笹斑さんだけが、一昨日入ってきた。………これでいいですね?」


笹斑に訊く。笹斑はyesと答えた。


「容姿、髪型、学区、学校、育った環境……etc. 私達には何の共通点もない。 しかし何故あいつ等は私達を連れ去ったの?」


吹寄は唇を噛んだ。

佐天が提案した自己紹介コーナーを情報が欲しいと思って乗ったが、集まったのは絵柄が違うピース達だった。

これらを無理やり合わせると、まるでモザイクのような様になってしまう。

だが、このモザイクの遠くから見ると、案外絵となって見えるものだ。

また、モザイクを見せて『これはなんでしょう?』と問題を出しても、答えを知っていればそのモザイクの向こう側が見えてきたりする。



そう、だから、吹寄はその回答を知っている。またはそのヒントを持っている者に、それを訊いた。


「笹斑瑛理さん。……笹斑さんって、ここが何だか知っているのよね?」


笹斑はやっと来たかその質問と顔に書き、一言言った。


「だから言ったじゃない?『人売り屋』だって」

「だからそれはなんだと言いたいの。人身売買をするって言ってたけど、そこを詳しく」


吹寄の言葉に、佐天は目を丸くした。そう言えば彼女はあの時はまだ眠ったままだった。満潮と社もそうだったのか、豆鉄砲を喰らっていた。

そんな三人を見て一つ長い溜息をついた笹斑は、声を低くしてこう言った。


「そうね、いずれ嫌になるほど思い知る事になるけど、先に行った方が気が楽になるわね。……………わかったわ、話してあげる。ここがどんな所か」



291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 06:35:55.53 ID:D0tNq4WI0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

16人の少女たちがガラス張りの部屋で話している、そんな光景を無能力者狩りのメンバーの一人、ボンは客間の大きな窓のカーテンの隙間から眺めていた。

この窓の向こうは、狩ってきたブツが直接見下せるようになっている。

下の部屋は四つ。『田』の字状に分けられた部屋の右手前にブツが保管されている。因みに在庫は16だ。

あとの三つは……あとのお楽しみの部屋だ。


「……へっ、お気楽なもんだぜ。自分がどんな目に会うのかわからねぇってのによ」

「まぁそう言うな。食用の豚だって、まさか今日首切られて、解体されるなんて事を思っちゃしないだろうと同じだろう?」

「あ、リーダー。ちわっす」


リーダーは手にLサイズより一回り大きな、LLサイズのピザを食べていた。


「もうすぐお客が来る。確か雑貨稼業の兄ちゃんだったっけか」

「はいそうです。あと5分したら来るそうです。希望の商品は『なんでもいいから、サンドバックが欲しい』との事です」

「まぁ、どんなモンが欲しいかは客の目次第だ。おい、今日収穫したモンのリストくれ」

「はい、どうぞ」


ボンは口が上手い為、出来るだけ高額な値段で取引することが重要な商売人、セールスマンの役割を担っている。

その為、誘拐してきた商品のリストを持っている。勿論、組織のハッカーが書庫から盗んできた物なのだが。

ボンは16枚の紙がクリップで束ねられたリストをリーダーに渡した。


「ほ〜、結構いい粒が揃ってんじゃねぇか」


リーダーはリストとカーテンの隙間を交互の見比べた。


「この吹寄制理って奴はいいな。顔は良いし胸も大きい。大体Fかそこらだろう」

「はい、結構高値で売れそうです。ざっと50万あたりかと」

「ん〜、もうちと上げてくんねぇかな。 60万とか」

「ああ〜それはちょっと無理が…」

「じゃあ55万」


まるで何かの商品を取り扱っているかのような会話だ。彼女らの事を全く人間として見ていない。


「まぁいいか、そこん所はお前に任すわ」


とリーダーはパラパラとリストを捲った。

が、最後の一枚に目が留まった。

その様子を見て、ボンは不思議に思い、リストを覗き込んだ。


「まだJCながらも結構いいですよ。45万あたりでしょうか」

「…………」


ボンの調子のいい言葉は、その時はリーダーには届かなかった。

リーダーの目に止まったのは……。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 06:42:16.65 ID:D0tNq4WI0


『佐天涙子』

年齢:13歳

身長:160cm

体重:46kg

所属:柵川中学一年

能力:風力使い

強度:無能力者

普通の一般家庭に生まれる。小学校進学と同時に学園都市内の公立校に進学。今年の七月に『幻想御手』を使用。一時意識不明に………。




「柵川……か」

「リーダー?」

「いや、なんでもない」


リーダーはリストをボンに突き返した。


「時にボン」

「はい」

「あいつ、笹斑っだったけか? あいつ、ここに来て3日目だよな?」

「はい、在庫期限限界日の3日目です」

「そうか……」


リーダーはボンにもわからない様な小さな声でボソボソと呟き、一つ手を叩いた。


「よっしゃ、もうじきお客が来る。ボン、いい仕事を頼むぞ?」

「はい、任せてください」


リーダーは巨大ピザを頬張りながら、踵を返した。

彼の前には十数人の部下が、待っていた。




彼ら、無能力者狩りが主に行う、無能力者の少女たちの誘拐の目的、それは狩ってきた彼女らを人身売買し、闇ルートへ流す、ようは生産者兼卸売業者の様な物だった。

そしてもう一つ理由はある。それは………。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/18(日) 06:46:44.43 ID:D0tNq4WI0
今日はここまでです。ありがとうございました。

気が付けば、朝でした。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage saga ]:2011/09/18(日) 16:42:18.67 ID:3eeqT6/u0
咎咲櫛芽……っは!まさかあなたは!ん?窓の外に四本腕の人形が見える……
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/18(日) 19:29:41.55 ID:vBvG+cCk0
いやいやwwwwwwwwwwまさかっつーかバレバレだs・・・
おや?なんかメイド服着てる>>294に向かっていった人形と顔の似たロボットが来t
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 15:55:11.88 ID:X136Oo1G0
こんにちは、今日も書いて行きます。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 16:50:26.70 ID:X136Oo1G0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

僕たちは第十学区のストレンジで結構広く、かつスキルアウトには目立たないだろう、絶好の物件探し当て、さっそく引越しをした。

引っ越して行ったのは能力が高い、上位20人の仲間たちで、

今まで使っていたアジトは下位30人の仲間たちに任せた。

と言っても、僕はその下位の30人の一人なのだが。


結局、ジャンを筆頭にした初期メンバーはみんな出て行ってしまった。

ジョンもヤンもシンもみんなみんな……。

寂しいと言えば、正直嘘になる。

だが、下位のメンバーを頼んだぞとジャンに言われた。だから僕はこのアジトのリーダーとして、頑張らければならない。

でも、心配事が一つあった。


僕にはある秘密があったのだ。


それは決して仲間にはバレてはいけない。

バレてしまえば、みんなの首を締めることになるからだ。

あの忌々しい事実を、吐き気がする日常を、仲間の前では封印し、常に無いものとして振る舞う。

それを続けてもうじき一年になるか、それが僕の精神を柱を食い潰す白蟻の様に蝕んで行った。

いずれその柱という僕の精神は崩壊し、崩れてしまっても、僕はそれも常に無いものとして、振る舞うだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺達上位のメンバーが『アイツ』に前のアジトを残して、第十学区のストレンジに引っ越してから、三週間がったった。

結構いいアジトだ。広いし、交通の便もいいし、夏は涼しく冬は暖かそうだった。そして何よりスキルアウトにはこの場所はわからないだろう。

ジョンもヤンもシンも……みんな気に入ったようだ。そうだ、『アイツ』を一度ここに連れて来よう!

『アイツ』もきっと気に入るだろうな。


そうそう、『アイツ』と言えば、この頃様子が変だった。

何かボーとしてて、呼びかけても耳には入っていないようだった。そんなにここに来れないのが嫌だったのか?

でもそんな奴じゃない。あいつは上下関係にはあまりこだわりがない奴だ。

じゃあ何なんだ、一体。

まぁこれはいずれ本人に聞いておこう。


さて、今日の事だ。いきなりスキルアウトと喧嘩になった。

原因は小学生のガキをアイツらがボコボコにしていやがった。

敵は十人。その一人のズボン(話で聞くと10万するらしい)にガキがコケてアイスを溢したんだと。

俺達は止めに入り、それが大乱闘に変化した。

まぁアイツらはマンガの様にボコボコにされ、マンガの様に『覚えれやがれ』と吠えて逃げて行った。


俺はあの様な理不尽に暴行する奴らが大っ嫌いだ。きっと仲間もそうだろう。

だが風紀委員や警備員は何もしない。

だから俺は能力を上げた。この理不尽な暴力から弱い人達を守ろうとして。


……今から思えば、これは間違いだったと心から思う。

なぜならこれは、暴力を暴力で返すと言う、恐ろしいほどに滑稽な姿だったからだ。

これに気が付いたのは、これの二か月先の事だった。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 17:40:47.57 ID:X136Oo1G0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「………で、なんでアンタがここにるのよ」


そう、御坂美琴が言った。


「しょうがないじゃない。足捻ったんだから、座標移動させてでも運ぶしかないじゃない」


そう、結標淡希が返した。


「それに、上条くんに頼まれたのよ。貴女の傍にいてやってくれって」

「べ、別にアンタの手なんて、借りなくてもやっていけるわよ!」

「無理しないの。ほら、足出しなさい」

「ちょっと、やめて……」

「はい、これ痛い?」

「イダダダダダダ!」

「うるさいわね。じっとしてなさい」


結標は美琴の革靴と靴下を座標移動させ、少し赤くなった右足首を見た。


「うん、ちょっと腫れてるけど、軽い捻挫だと思う」

「〜〜〜〜〜〜っ!」

「なぁ〜に痛がってんのよ。この前あなた革靴ごと足を串刺しにされたでしょ」


結標はペチンと叩いた。


「〜〜〜〜〜〜!! アンタねぇ〜〜〜!」

「はいはい、じゃあ私は上条くんの所へ行くから、さっさと帰ってなさい」

「はぁ!?なんなのよ、それ!?」


と二人がまた口喧嘩していると……・。

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 17:41:24.40 ID:X136Oo1G0
ブォォオオン!とバイクが大きな音を立てて通り過ぎた。

強い風が、二人の体を撫でた。


「……っと、なに!?バイク!?」


結標は風で上がるスカートを抑える。


「あ、固法先輩」

「あれが、頭がお花畑の子が言ってた先輩!?」

「うん」


真紅のジャケットを着たライダーを、美琴は見た。夏休みに一回、あの背中に捕まってバイクに乗った事があるから、すぐにわかった。

固法が乗ったバイクは、颯爽と駆けて行き、あっと言う前に美琴の視界から消えた。


「……速いわね。あれから20分も経ってないけど」


結標はポケットに入ってあった携帯電話で時刻を確認した。

一方、美琴は何か喉に引っ掛っているような顔をした。


「……………先輩らしくない…」

「?」

「固法先輩はどんな事があっても、公道で猛スピードを出して走ったりする人じゃないと思ってたのに……。さっき、明らかに100q/h出してたよね?」


と呟くと、美琴のポケットの中に入ってあった携帯に、着信が入った。美琴はそれを取りだし、液晶を見た。

相手は初春飾利だった。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 17:44:03.48 ID:X136Oo1G0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕飯作るんで、一旦休憩です。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 20:16:45.17 ID:X136Oo1G0
再開です。やっと300行きました。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 23:08:38.17 ID:X136Oo1G0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

固法が上条の所に到着した時、上条は戸惑った。

理由は二つ。

まずは固法美偉という人物は想像以上の美人で、爆乳だった事。

そして固法が乗ってきたバイクは大型二輪車で側車は無く、『上条君は後ろに乗って』の事。

えっ?体をくっ付けて乗るの? と鼻の下を伸ばして乗車したのは数分前……。



上条は今、高速道路内のトンネルにいた。


「ぁぁぁぁぁぁぁああああ!!固法さん!? ちょっと飛ばし過ぎじゃありませんかぁぁぁぁぁぁああああ!?」


「大丈夫よ!! 100q/hしか出てないから!!」

「ちょっと待てぇええ!! 思いっきり制限速度オーバーじゃねぇぇか!! 大型二輪は80q/hまでなんだよぉぉぉぉぉぉおおお!」


上条の頭上には赤い、トンネル特有の灯りが流れていった。

かやってくれるなよよ、ヘルメットを被っている上条だが、心の底から心配だった。

雨に濡れてしまった服も、風で殆ど乾いてしまったのは、小さな幸運か。


白井といい固法といい風紀委員はみんなこうなのかと上条は本気で思っていた頃、上条の視界にある文字が見えた。


「固法さん、あと200m先に第十九学区への出口です!」


すぐ目の前には『第十九学区出口』の看板。固法はわかったと頷いた。

バイクは左のウィンカーを上げ速度を落とし、颯爽と出口へ入った。





第十九学区の第一印象は簡単に言えば、『寂れた街』。

ボチボチと立っている高層ビルは所々汚れていて、シャッターを下ろしている店舗が目立つ。

高速道路から出たのは、第十九学区のメインストリート“だった”場所だろう。

バイクはスピードを落とし、例のバスの捜索を開始する。

どこかにある筈のあのバスは必ずここを通ったはずだ。


「まず、この大通りから見て行きましょう」


固法はバイクを操り、キョロキョロとあたりを見渡す。

交通量はゼロに等しく、そして通行人もいない。

まるで絵の中に入り込んだような風景と静けさだ。


「やっぱり見つかんねぇ」


上条はボヤく。

と、前からエンジン音が聞こえてきた。


「? なんだ?」


前から来たのは、一台のバイク。固法のとは違って、出前の配達用のだった。有名な某ピザ専門店の物だった。

バイクは上条たちとすれ違ったところで右に曲がった。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/20(火) 23:09:24.45 ID:X136Oo1G0
すいません、今日はここまでにします。ありがとうございました。
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 10:35:53.78 ID:J0QyIe/T0
こんにちは、今日も頑張って書いて行きます。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 12:06:28.62 ID:J0QyIe/T0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『スキルアウトを狩っている能力者集団がいる』俺達の噂は、あっという間に広まった。

間違っちゃあいないが、あくまで『悪事を働いた奴らを懲らしめた』だけで、無暗にあちらを攻撃していない。

それに俺達は先に手を出さない。必ず受け身で攻撃する。

だがスキルアウトの奴らは『俺達の縄張りを荒らした』とか言って攻めてきた。

無抵抗の人に暴力を振るって、薬をキメているお前らに言われたくいはない。

俺達はそう言って、奴らを次々と粛清していった。

また、スキルアウトの他にも、一般生徒で弱い奴をイジメている奴も徹底的に粛清した。


そう言えば、こんなこともあった。

ほとんどのスキルアウトは素手やナイフだったが、一人二人は拳銃を持ってきていた。

スキルアウトでも学生は学生だ。銃を持っているのはおかしい。

しかも、いくら有能力者の俺達でも流石に飛んでくる鉛玉は防げない奴らが多い、俺もそうだ。

そこで、奴らの銃の入手ルートを探った。

どうやらどっかのバカが重火器を横流しにしているらしい。

俺達はそのバカ、もとい武器商人の所やその製造所も襲った。

しかし、すぐにマジモンの軍隊がやってきた。

みんな命からがら逃げたが、何とか製造所を破壊し、武器商人に天誅を加えた。


ああ、言い忘れていたが俺達は人は殺さない。あくまで粛清するだけで、人が人を殺すと言う行為は絶対にしない。


そうしたこともあり、一時、一般学生の間で微妙に噂になった。

まるで正義の味方の様な組織だと。

『スキルアウトにボコられた事があって、アンタらの事を訊いてスッキリした』とか、『イジメていた奴らがいなくなって助かった。ありがとう』とか、感謝された事もあった。

『アイツ』が言うには、そのおかげで入ってくる奴らが増え、てんてこ舞いらしい。

だがそれと同時にスキルアウトの奴らと、『学園都市の闇』とやらに関わる奴らに睨まれる様になった。

街を歩けば不良に絡まれ、『闇』の奴らに陰湿な嫌がらせが来たりと、色々とあった。


ある日、あの日俺と『アイツ』を助けたあの風紀委員が直接会いに来た。

あいつは『これは風紀委員の仕事だからやめてくれ』と、俺は『ここまでやっているのは、お前らがちゃんと働かないからだ』と言い争い、喧嘩になった。

それ以来、喧嘩別れとなっている。




でも、それがなんだと、俺達は間違った道を突き進んだ。

その先には、荊の道しかないと言うのに……。

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 14:48:50.28 ID:J0QyIe/T0
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上条と固法がバイクで右往左往しているその頃。

吹寄、佐天ら七人。今日誘拐された組が、笹斑瑛理を囲んで座っていた。


「……ここはね、ハッキリ言えば、誘拐した女の人を学園都市の闇に売り捌く場所なの」


笹斑は声を低く、かつ淡々と言い切った。

彼女が言うには、ここは第十学区にある元研究施設らしい。

何でかは不明だが、この施設が閉鎖された後、あの男達がここを乗っ取ってしまったとか。


「普通、要らなくなった建物はすぐに取り壊される筈なんだけど、ここは第十学区、取り壊すお金がない。よって建物はそのまま。だからあいつ等がここを根城として使ってるの」

「なぜここにいるのかはどうでもいいわ。 私が知りたいのは、彼らは私達を誘拐という犯罪を犯す理由よ」


と吹寄。

笹斑は、はぁと息を吐いた。


「まぁそう焦らないの。 学園都市には色々と噂があるのは知ってる? その中の一つの話。…………まぁ、これは私の高校で聞いた噂なんだけど」


隅っこで不安そうに、満潮が息を呑んだ。


「この街には女の子を攫って食べる化け物がいるらしいって、噂なんだけど」

「あ、知ってます! ネットで見ました!! 学園都市のとある研究所で秘密裏に作られた合成獣が、夜な夜な、帰宅途中の女学生を攫って、自分の巣に持ち帰って食べてしまうって話!」


とウワサが大好きの佐天。


「それなら話が早いわ。 ……でね? 佐天さんと同じ、噂好きの私の親友がその噂の真相を突き止めようとあちこち調べまわっていたの。刑事ドラマが大好きだったから、その影響を受けたのね。 彼女、可愛いのよ? 調べたことをいちいち私に報告してくるの。 あたかも刑事ドラマの様にね?」


笹斑は懐かしいのか、遠い目をしていた。


「彼女が知ったのは三つの事。一つは人を襲っているのは合成獣でなく、人間だと言う事。二つ目は人間が単体で動いてるのではなく、巨大で、しかも組織だった集団だったと言う事。そして三つ目、彼らは攫った人間を実際に食しているのではなく、どこかに売り捌いている事」


それは全て的を得ていた。無能力者狩りは人間で大組織だし、誘拐してきた人間を闇の住人に売り捌いている。

どうやって調べ上げたのだろうか、笹斑は最初は大変驚いたらしい。

そして、何もかも知ってしまった彼女に闇の影か襲った。


「でもある日、その子は姿を消した。理由は簡単、奴らに睨まれて、口封じのために攫われたの」


それも笹斑の目の前で。その日は下校途中だった。

歩道を歩いていると、前の車道に停まっていたワゴン車から急にマスクを被った男三人が出て来て、攫って行ったのだ。

笹斑は後ろで靴紐を結んでいて、先に言っててと言った矢先だった。


「それが一週間前。あっという間の出来事だった。 そして一昨日、それを目撃した私も誘拐されたって事」


きっと『誰かに自分たちの事を話してないか』と拷問されたのだろう。


「なにをされたかってのは、ここにきて十分すぎるくらいにわかったわ」

「 質問 」

「はい、吹寄さん」

「ここで、何をするの?」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 15:22:00.21 ID:J0QyIe/T0
「…………」


笹斑は黙った。

吹寄はもう一度言った。


「ここで、何をするの? 奴らは」

「…………恐れを知らないのね?」

「知りたいの、私は。 ここで一体何をするの?奴等は。私達は何をされるの? そしてあなたの親友は何をされたの?」

「…………」


笹斑は黙る。表情に出さない様にしているが、まるで思い出したくないものを思い出してしまった様な顔だった。


「笹斑さん?」


しまった、言い過ぎたか。心配になった吹寄が言いよると。

横の方で突然、



「いい加減にしなさいよ!! もう!!!」



と怒鳴り声が発せられた。

九重絵彌だった。


「いい加減にしなさいよ!!こっちはねぇ、あんた達がペッチャクッチャとクッチャべっているのが耳障りなのよ!!」


鬼の見幕で睨む九重。そこにオドオドと木縞春花が抑えた。


「九重さん……落ち着いて……」

「アンタは黙ってなさい!!」

「きゃっ!」


九重は木縞を力一杯張り倒した。木縞は隅の方で座っていた咎咲にぶつかった。

ぶつかった衝撃で咎咲の顔を隠しているフードは頭から取れ、顔面を壁に強打した。


「ぎゃふん!」

「す……すいません」

「…い、いや、どうとしたことはない。……あ。」


咎咲は頭にフードが無い事に気付いた。とっさにフードを頭にかぶり、顔を隠す。


「……あの………」

「ほ、ほれ、さっさとあの者を止めぬと大変なことになるぞ」

「……あ、そうだった。すいません。…………九重さん、落ち着いてください……」


木縞は怒鳴り散らす九重を止めにかかるが、また張り倒された。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 16:04:58.01 ID:J0QyIe/T0
興奮しているのか、荒く呼吸をする九重は笹斑を指さす。


「何よ、まどろっこしい!! 言ったらいいじゃない、事実を!!」

「事実ってなんですか?九重さん」


佐天は訊いた。


「……いい質問ね。いいわ、話してあげる」

「止めて、九重さん」


笹斑は言いとめた。懇願とも言える。


「はははっ。いいじゃない、別に。どーせこの子達も昨日の私達と同じ目に会うのだから!!」

「自棄になるのは止めて頂戴。フレメアちゃんが起きちゃうから」

「うるさいわね!! 何時からお前はベビーシッターになったのよ!! それに自暴自棄になるのは当然よ!! あんな臭いモン舐めさせられて、汚いモンぶち込まれて!! どうやったらそんなに冷静になれるのよ!?」

「…………」

「はんっ、だんまりですか、そうですか。 いい?そこの新人七人! ここはねぇ確かに攫ってきた女たちを売り捌く場よ? でもね、必ず“売れ残り”ってモノが出てくる」

「………やめなさい」

「当然よ、顧客は一日に一人か二人。多くて三人だもの、一人頭安くて2、30万。多くて50万。一人買っていくのが限度。 そして昨日の売れ残りってのが私達!」

「やめなさい」

「でね?売れ残りである私達が、後でどうなると思う? それは……」

「やめなさい!!」


笹斑は吠えた。

ずっと静かに、そして冷静だった彼女のその声に、九重は臆した。

笹斑を囲んでいた吹寄も佐天も天導も音無も満潮も社も。それに横で呆けていた納雅も、九重に張り倒された木縞も、その他のメンバーも、九重と同じく臆した。

ただ、フレメアはまだ眠っていて、咎咲は全く動じなかった。


「………へ、へぇ。あなたも吠えるのね。でもね、真実ってモノはちゃんと知らせなきゃ、酷ってモノでしょ? ねぇ、売れ残りのアバズレ野郎!!」

「ぐっ!!」


九重は笹斑を殴りつけた。


「笹斑さん!」


佐天が駆け寄った。

が、笹斑は佐天を制した。


「いいの佐天さん」

「でも、血が……」

「ただの鼻血よ」


九重はジンジンと痛む右拳を無視し、笹斑を睨みつけた。


「お優しい事ね。…いいえ、優しいを通り越して甘いわ!!」

「九重さん、謝ってください!」


佐天は九重と笹斑の間に立った。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 16:51:24.43 ID:J0QyIe/T0
「別にあなたに言っている訳ではないの」

「そんな事を言っているのではありません。笹斑さんをぶった事を謝ってください!」

「はっ、何と思えば、そんな事か……。ふざけんじゃないわよ!!……まったく、私がここに来てから、あなたはずっと冷静沈着で、言っていることは過ぎが通っていて……。それなのに、あなたはそこのガキを守る為に……そこん所がムカつくんだよォ!!」


九重は佐天を押し退け、笹斑の襟首を掴み、また殴りつけようとした。

………その時。



「おい、そこの小娘」



部屋の隅の方で、奇麗に澄んだ声が聞こえた。

咎咲櫛芽だった。


「なによ、なにか用?」

「そうだ貴様だ。 さっきから何をきゃんきゃんと何を吠えておる」

「それが何よ!」

「吠えるな。耳が痛い。まったく、少しは静かにできんのか。躾のなっておらぬ子犬じゃあるまいし」

「あんたねぇ!!」


九重は咎咲へ詰め寄った。

咎咲の襟首を掴み取った九重は彼女の体を持ち上げ、奥の壁の角に押し当てた。

ずっと咎咲は座っていたからわからなかったが、彼女の体形は華奢で、見るからに軽そうだった。実際に軽いのだろう。

九重は怒号を飛ばす。


「もう一回言いなさい!!」

「良かろう。再度、いや、今度はわかりやすく言ってやろう。 耳が痛いから少しは静かにできんのか?」

「調子乗ってんじゃないわよ!! さっきからフード被って顔を見せないで!! いい加減顔見せんなさいよ!!」


咎咲は小さい為、吹寄ら14人には顔どころか体さえも九重に隠れている状態で、九重は咎咲のフードを強引に取っ払った。

フードを取られた咎咲の表情は晒された。

が、その顔は先程も言った通り、九重の体で隠れていて伺える事は出来ない。

ただ、九重は絶句していた。


「…………なによ、その眼……髪………おかしいわ、おかしすぎる! なんなのよ、あなたは!!」


「何と言っても、私は私だ。 それ以上でもそれ以下でもない」


咎咲はそう言って、フードを被り直した。

そして、九重の耳元でそっと囁いた。


「とにかく落ち着け。さもないと……………………………………………………だ。わかったか?」

「……」


九重は何も言わない。どうやら肯定らしい。


「なら良し。だったら静かにしておるのだぞ?」


九重はペタンッと座り込み、ガタガタと震えだした。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 17:19:53.01 ID:J0QyIe/T0

「さて、話を続けるがよい」


咎咲はそう言って、元の場所へ戻った。


笹斑は呆然としていたが、ハッと我に戻った。


「そうそう、言い忘れていたけど、みんな、首を触ってみて? 違和感ない?」


笹斑は首、喉あたりを手で当てた。


「ここ? そう言えば起きた時に違和感があった様な…」

「そうそう、何か付けているような感触!」


と同じ学校のクラスメイトという二人、天導好子と音無絢実。

そう言えばそうだったなと、吹寄は思い出してみる。


「実は細くて透明なんだけど、輪っか状の糸の様なのが巻かれているの。これがある限り逃げても無駄なの。何処にいるかわかってしまうから」

「GPSですか…」


と吹寄。


「そう、これには番号が振られていて、あいつ等は私達を番号で呼ぶの」


だったら……と社叶柄は千切ろうとするが、笹斑はそれを止めた。


「無駄よ。これ、結構硬いし。それに、この輪の内側に指を入れると、天井から雷が落ちてくるから」


笹斑は天井を見上げる。一同もそれを見上げる。

天井には出っ張りがあった。形は先端が丸い円柱。歩兵(ボーン)や僧正(ビショップ)を連想出来る。


「雷発生装置か……。まさに首輪ね」


吹寄は忌々しく呟いた。


「さて、笹斑さん。悪いけど、訊きたい事があるんだけど、いい?」

「ええ、いいわよ。………って言いたい所だけど」


笹斑は自らを嘲笑ように笑った。


「ごめんね、時間切れよ」


そう言って、笹斑は上を見上げた。

吹寄は笹斑が見つめる所を見ると、そこは上の階の窓だった。

先程は閉められていたカーテンは広げられ、そこには三人、男がいた。


「本当にごめんね。 最初から何を言っても、運命って変わらないんだけど」


笹斑は顔には出さなかったが、悲しそうだった。

本当に、本当に悲しそうだった。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/22(木) 17:21:50.98 ID:J0QyIe/T0
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今日はここまでです。有難う御座いました。

さて、咎咲さんは一体何者でしょうか?

わかった人、何も言わずに、しばらくは心の中に仕舞ってくださいね。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/22(木) 18:47:42.20 ID:Ukx5s3370
だからバレバレっつてんだr・・・?なんか向こうからげらげら言ってるオレンジ髪の変な奴がきtぐぁうえwwがえあういrhじゃうぁ
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/23(金) 17:11:36.92 ID:Bmwa3K6q0
こんにちは、今日も書いて行きます。
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/23(金) 18:58:30.70 ID:Bmwa3K6q0
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もうすぐ客が来る頃だ。

時計を見てボンは、一緒にいるアシスタントにそう言った。


「今日は豊作だからな、高値で売れるな」

「ああ、そうだな。そう言えばボン、今日来る客ってどんな奴だ?」

「ああ、そうだったな。お前は今日が初めてだったな」


ボンは頭を手に持っていたペンでカリカリと掻いた。片方の手には商品リストと顧客データがある。


「今日来るのは二人。今来るのが、雑貨稼業ってのをやってる奴だ」


ボンはデータをパラパラと捲った。


「コイツはもっぱらの闇の住人様でよ、第十五学区の高級マンションにいる。名前の通り、雑貨を売ってんのよ。つっても売ってんのはマトモなモンじゃねぇし、今日の希望は『サンドバックが死んだから新しいサンドバックが欲しい』ってよ」


アシスタントは口笛を吹いた。


「もう一人は第一学区の大学にいるお偉いさん。常連さんなんだが、コイツは闇とは殆ど無関係な奴だよ。ただ根っからのクズでな、自分の大学にいる、落第寸前の女子学生に種付けしまくっているエロオヤジだよ」


ボンは部屋にあるバーへ足を運び、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口飲む。


「で、そこの種付けした女生徒が妊娠しちゃったから、ギャラ払うからそちらで処理しちゃって☆ って言ってきたのが去年の話。 まぁボテ腹プレイが大好きな奴が買ってったけど」


ボンはアシスタントにリストとデータが記された紙束を放り投げた。


「カンケーない話はここまでだ。とりあえずお前は今日のデータを頭ん中に叩き込んどけ。今日からお前は俺のアシスタントだ。よろしく頼むよ、相棒」

「ウイッス。精々精一杯頑張らせていただきます」


と、アシスタントが軽く口を叩くと、ドアから声が聞こえた。


『おい、雑貨稼業のにぃちゃんが来たぞ』

「そうか。……よっしゃ、いっちょいってきますか」

「ボンさん、今日は宜しくお願いします」

「ああ、こっちもな」


二人はドアの前に立ち、客の到着を待つ。

扉が開いたのは、三分後の事だった。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/23(金) 19:08:59.20 ID:Bmwa3K6q0
――――――――――――――――――――――
夕飯食べるので、暫しお待ちを…。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/23(金) 22:33:01.83 ID:Bmwa3K6q0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

僕は心配だった。

リーダーが、ジャンがやっている事は危険すぎると言う事を僕は知っていた。

当初は僕も賛成だった。

でも、いざ蓋を開けてみると、臆病な僕の本能が、警鐘をガンガン鳴らした。

夢という箱を喜んで開けると、中には毒蛇が何百匹と入れられていた様だった。

例えその箱の底に夢と希望があり、それを取ろうとして手を突っ込んでも、途中で毒蛇に噛まれ、息絶えてしまう。

でも、僕は止められなかった。

なぜならその危険を感知していたのは、組織の中で僕だけだったからだ。

みな、自分たちはヒーローだと勘違いしいて、とても言い出せる空気じゃなかった。

実際、僕はそれどころの話じゃなかった。自分の問題で手一杯だったし、何より副リーダーというのは名前だけで、発言力も無に等しかった。

いや、常に傍観者として見ていた僕だったから、この危険に気付いたのかもしれない。

この暴力を暴力で撲滅させる。血を血で洗うような行為は、身分不相応だった。

イカロスが蝋で造った翼で塔から脱出したが、太陽に近すぎ過ぎて蠟が融け、墜落してしまう。

そんな未来が頭を横切った。


そんなある日。僕の元に来客がやって来た。

あの日、僕とジャンがであった日に、僕たちを助けてくれた、あの風紀委員の人がやって来た。

僕に伝えて欲しい事があるらしい。

この組織を直ちに解散させて欲しいと言う事だった。


彼女が言うには、僕たちの組織は風紀委員、警備員ともに問題になっているらしく、近日、武装した警備員による大粛清を実行するそうだ。

対暴走能力者集団のアジトを襲い、一網打尽にする名目だそうが、実際には裏の事情があるとか。

作戦はこうだ。

第十学区にあるスラム、通称ストレンジをグルリと円状に二重三重に包囲し、円を縮めさせる様に人間を捕獲、逮捕していく。

抵抗、反抗して来た者は風紀の名の元に、徹底的に排除する。


これは風紀委員の機密事項だったが、単独で僕に伝えてきた。

彼女とジャンは昔からの馴染みで、ジャンの善人さは十分知っている彼女の反省文以上の罰覚悟の行動だった。

この事をジャンに伝えてちょうだいねと、そう言って彼女は帰っていった。



しまった。

あまりにも無暗過ぎた。

恐らく、あの武器製造所、並びに武器商人の強襲が引き金になったのだ。

学園都市の上層部、この街の闇は僕たちを危険組織と断定し、ちょうど問題視していた警備員上層部に話を持ちかけたのか。

もう、遅い。


既に、毒蛇は僕らの腕に喰らいついていたのだ。


317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/23(金) 23:27:03.33 ID:Bmwa3K6q0
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「あれか」


上条は壁の隅から顔を出した。


「そうみたいね」


上条の頭上に固法の顔もある。

「しかしラッキーだったな、まさかこんな寂れた街にスポーツカーが走ってんだから」

「おかげですぐに見つけられたわ」


それは今から数分前の事。

街の中を右往左往としていると、突如後方から一台のスポーツカーが爆音を伴って走ってきた。

明らかに怪しいので、追ってみると、ビンゴだった。

スポーツカーはどこかの廃墟に入り、数人の男がそれを出迎えた。

車の中から大学生くらいの男が降り、出迎えた男の中の一人が車を運転し、駐車場だろうか、どこかに移動した。

男は残りの出迎えと共に廃墟に入っていったが、上条と固法は駐車場へ行った車を追った。

あのバスがあるかも知れないと上条は考えたのだ。

車は廃墟の裏手の駐車場へ入っていった。

すると、上条の予想は見事にビンゴ。バスは駐車場の隣の車庫の中に駐車してあった。ちゃんと側面に『桜蘭高校野球部』と書いてあるのが証拠だ。

いや、書いては無く。良く見るとシールか何かで張ってあって、コロコロと塗装が代えられるようになっていたのだ。


「ご都合主義とか言われそうなくらいにトントン拍子で見つかったな」

「きっと私のとっておきのお守りの効果があったのね」

「なにそれ」

「時に上条君、なんで敬語使わないの? さっきまで使ってたけど。それに私は君よりも歳は上よ?」

「100q/hで爆走する先輩には尊敬に値しません」


上条はどうやた本気で恐かったらしい。実際バイクの二人乗りは危険だし、スピードの出せば出すほど危険は増す。


「時に固法さん。あんたがさっきからずっと担いでいるバックはなに?」

「ああ、これ? 気にしなくていいわよ」


固法の背中には小さな子共が一人入れるくらいのザックが担がれていた。

実は上条をバイクに乗せる前からずっと担いでいた。


「まぁいいか。 とりあえず……どうする?」

「そうね、とりあえず待機しましょう」

「はぁ!?」

「しっ、静かに」


固法は上条の口を押える。

廃墟から、数人の男達が出てきたのだ。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/24(土) 00:12:53.31 ID:L6aV1jn80
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「おっす、元気にやってるか?」


『雑貨稼業』

そう呼ばれる男が部屋に入ってきた。

彼を汚れのない笑顔でボンと、そのアシスタントは出迎える。


「いらっしゃいませ、今日は頭一つお探しでしたね?」

「ああ、そう言ってたっけか」


雑貨稼業は惚けたように笑顔を見せる。

やはり常連となると、お互いに信頼が生まれるものだ。世間話に花が咲く。


「しかしお前らもでっかくなったな。あの清掃作戦から何年たった?」

「えっと、当時、わたくしは中学三年生でしたから、ざっと八年ですね」

「実はあん時、俺もそこにいてよ。危うく牢屋にブチ込まれるところだったんだ」

「それは大変でしたね」

「あれは酷かった。なにせ逃げ場がなかったからな。西も東も、地上も地下も、まるで死角なし」

「逃げ場を失い、袋の鼠となったストレンジにいた住人の殆どは警備員に一斉粛清され、第十学区の少年院に入れられました」


接客を生業とするボンと雑貨稼業。二人共、口が上手いし喋り口だ。立て板に水とは正にこの事。


「噂によると少年院に入れられた者達はほんの一部で、殆どが何かの実験に使われたとか」

「ああ、でもそれを調べるのは至難の業。 過去に調べた奴はみな生きて帰ってこなかった」

「結局、噂は噂のままで世に出回り、あの清掃作戦の事を知っているのは当時作戦を実行していた警備員と、被害者の私達」

「あの時はお前らのリーダー…確かジャンとか言ったか? あいつのおかげで俺はここにいる。お前らには感謝しつくせないよ」

「それはありがとうございます」


二人共、本職は落語家か漫才師か何かかと疑いたいくらいだと、すぐ隣で黙っていたアシスタントは後にそうボヤいたと言う。

それから一つ二つ雑談をしていると、当初の目的を思い出したのか、雑貨稼業は話を打ち切った。


「おっと、そろそろ世間話もこれ位にして、今日の商品を紹介してくれ」

「はい、かしこまりました。 今日のご希望の商品は頭一つでしたね?」

「ああ、そうだったんだが、実は今日急用で一人二人注文があったんだ。それで急遽だが、追加で頼んでもいいか?」

「ええ、結構ですよ。 こちらへどうぞ」


ボンと雑貨稼業は部屋の窓際へ足を運んだ。

ボンはアシスタントにアイコンタクトでカーテンを開けさせるよう指示を送った。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/24(土) 01:25:52.96 ID:L6aV1jn80

アシスタントは窓の横に吊ってある紐を引くと、カーテンはササーッと開けられた。

ボンと雑貨家業は窓の外を見下した。

下には16人の商品があった。


服が少し汚れている商品1人を5人が囲んでいる。どうやら何か話しているのだろう。

その他にも、寝っ転がっていたり、壁の隅で泣いていたり、絶望のせいか目が虚ろだったり。

まるで動物園の檻の中を眺めているような感触だ。


「おお、結構粒がいいじゃないか」

「はい、今日仕入れた商品は、結構上物が多いのです。 希望商品は何に致しましょう?」

「ああ、実はお客から大量に注文されててね、今日は大人買いだ。テキトーにアイツとアイツとアイツと………」


まるで喫茶店のメニューを見て、コーヒーを注文しているかのようだ。

雑貨稼業は商品を十人、順々に指さして選んだ。


「コイツらはウチの商品として扱うから丁重に扱ってくれ」

「かしこまりました。では、商品はそのままですか?」

「ああ、どこかの実験に使うんだとよ。惨いことだよな、きっとあいつ等、薬漬けにされた後、タマネギみたいに微塵切りにされてるぞ?」


第三者がいれば、お前らには言われたくはないと言うだろう。


「商品は以上でしょうか? 実は今日、とてもいいものを仕入れてきましてね?」


とボンは自分が持っているのとは別の、商品リストを簡単にまとめた二枚の用紙を雑貨稼業に渡す。


「どれだ?」

「12番です。自分用としてどうですか?」


雑貨稼業はリストと窓の外を見る。


「スタイル、特に胸も大きいし容姿も良い。 少し気が強い様にも見えますが、調教すれば大丈夫でしょう」

「いや、すまないが、金がないんだ。実はこの前、商品の一つとして第十五学区のマンションの一室を買ってね? それのせいで金欠病だなんだ。それに今日は商品とサンドバックを買いに来ただけで、それ以外は買わないようにしてるんだ」

「そうですか…。ならしょうがないですね」

「ああ、あのくらいの胸は俺の好みなんだけでね、しょうがないさ。抱いてもいいって言うのなら喜んで抱くね。因みに幾ら?」

「55万ですね」

「なら買わなくて良かった。俺の所持金、今月あと30万しかないから。 あとサンドバックなんだけど……アイツでいいや。あの大人しそうな子」

「かしこまりました。調教しますか?」

「いや、いいさ。そんでアイツは持ち帰りする。帰って早速あれで遊んでやるんだ」

「かしこまりました。では、さっそく準備いたします」


ボンはアシスタントにまたアイコンタクトで指示を送った。

アシスタントは早速その指示にあった事を実行する為、部屋を出た。

雑貨稼業も踵を返した。目的の物を買ったため、部屋を出るのだろう。


「じゃあ受け取りはいつも通り別室だったな。 じゃあまた来るよ」

「はい、ありがとうございました。 またのご来店をお待ちしております」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/24(土) 01:35:39.23 ID:L6aV1jn80
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今日はここまでです。

次回、R-18になっちゃうかも。

お楽しみに。
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/24(土) 23:32:21.75 ID:KD5o654v0
寒いな
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 00:21:08.01 ID:M+4TGIQq0
こんばんは、今日は短めですが書きます。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 01:21:12.97 ID:M+4TGIQq0
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上条と固法がいる場所は、敵アジトらしき廃墟から50m程離れた塀の外の隅。

上条達から見て、右手に駐車場。左手に廃墟という構図だ。

アジトから出てきた数人の男達は廃墟の玄関らしき場所から出てきた。

上条は出てきた男達の顔を見る。

その一人は先程この廃墟に入っていった大学生ほどの男だったのが、遠くだが見えた。

彼は何か黒色をした、丁度人間一人ほどのバックを肩に担いでいた。

男はそれを重そうに担いでいる。


「なんだ……あれ?」


上条は口にして疑問を上げるが、嫌な予感しかしない。

そう、まるであのバックの中に本当に人間が入っているのではないか?

それは誘拐した女の人ではないか? 最悪の場合、吹寄かもしれない。御坂の友達かもしれない。


「固法さん、俺、ちょっと行ってくるから、待っててくれ」

「待ちなさいっ あなた、周りの見張りの数が目に入らないの?」


上条はそう言われて、あたりを見渡す。

玄関に数人…、ざっと五人か。それに駐車場に三人程が広がって配置されている。


「動いたら一斉に彼らはあなたに襲い掛かり、あなたは死ぬ事になるわ」

「……バカヤロウ…」

「なに?」

「バカヤロウって言ってんだよ!」


上条は叫んだ。


「もしもあの中が誘拐された人間で! それも吹寄や御坂の友達だったらどうする!? それ以前に、例え赤の他人だったとしても俺達は助けに行かなくちゃならねぇ!! 違うか!!」
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 01:28:10.15 ID:M+4TGIQq0



「な…っ バ、バカ! 何言ってるの!?」


固法は上条を咎めた。

だが、上条が言った事は正論だ。でもそれは奇麗事で、犬死になる可能性が殆どだ。

しかし固法はそれを咎めたのではない。


上条の声が大きい事を咎めたのだ。


『おいっ、誰だ!?』『どうした?』『あっちから声が聞こえたんだ。侵入者だ!』『なに!? 侵入者だ!!誰か来てくれ!!』『どうした?』『侵入者がいる。あっちからだ!!』『ああ、さっき俺も聞こえた』

遠くから複数の声が聞こえてきた。

段々それが近づいてきたのがわかった。


「こっちは隠れている事を自覚しなさいっ」

「あ、やべっ」

「とにかく逃げるわよ」

「了解っ」


二人は立ち上がり、ダッシュで逃げる。

『あっ!あそこだ!! 追え!!』

どうやら見つかったようだ。上条は後ろを向き、追手の人数を数える。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、いつ……げぇ!九人もいやがる!」

「しょうがない、とりあえず二手で別れましょう」

「賛成!」


上条がそういうと、二つの分かれ道にさしかかった。


「俺は右! 固法さんは左!」

「合点承知!」

「うまく撒いたら元の場所に!」

「ええ、わかったわ!」


上条と固法は左右に分かれた。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 01:47:09.08 ID:M+4TGIQq0

二、三分走り続けただろうか。上条は後ろを見る。

追手は来ているのだろうか? 出来るなら来ないでほしいが、自分の不幸体質を缶考えるとそれは不可能だ。


だが、上条には珍しく、誰も上条を追っては来なかった。


「……あれっ!?」


上条は立ち止まる。

もしかして、諦めてくれたのだろう。


「よかった〜。そう言えば初めてだよな、こういうシーンで誰にも追われないってこと」


上条は胸を撫で下ろした。

が、一つ。ある嫌な予感が横切った。


もしかして、追手の全員が固法美偉の所へ行ったのではないのだろうか?


固法は風紀委員だが、女子だ。力も弱そうだし、必ずしも何かの能力者とは言い切れない。

上条はなんだか不安になって来た。


「もしかして、固法さん捕まってたりしないよな?」


自然と、足は元来た方向へと進んでいた。


(やっぱ気になる!! あの人に何かあったら御坂に合わせる顔が無い!!)


上条は走り出した。




が、いきなりの出来事が上条を襲った。


何者かに首筋を手刀で叩かれた。

体の自由が利かなくなり、段々と意識が遠くなる。


「な……っ?」


膝をつき、次に胸から崩れ落ちた。

遠くなる意識の中、上条の耳に声が聞こえた。



「悪ぃが、ちっとばっかし眠ってくれ」



それは男の声だった。


それは聞いた事のある者の声だった。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 01:53:18.77 ID:M+4TGIQq0
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今日はここまでにします。

季節も寒くなり、半袖で一日を過ごすことが辛くなってきました。

体に気を付けて更新していきますので、どうぞよろしく。


上条を襲った男とは!? 固法(?)は一体どうなったのか!?

また次回よろしく、では。


PS.季節と共に、色々と寒くなって来たなと、一旦読み返してそう思いました。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 21:13:30.84 ID:M+4TGIQq0
こんばんは、今日も書いて行きます。

明日から大学が始まるので、更新できない日があると思いますので、ご容赦ください。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 21:44:51.43 ID:M+4TGIQq0
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『アイツ』には秘密があるようだ。

確かではない。だが、一年も一緒にいるんだ、それくらいは直感でわかる。

でもそれは『アイツ』自身の問題だろうと思い、俺はあまり言わなかった。

『アイツ』も俺に言わないという事は、あまり話したくはないのだろう。

気にはしたが俺はそれを頭の隅っこに置き、いつか時が来たら話そうと、そう計画した。


最近、風紀委員と警備員の動きが気になる。アジト周辺に怪しい奴らを見かけるようになった。

近日、ストレンジを一斉に取り締まりに来るそうだ。

『アイツ』からそう報告された。

この前の武器の横流しした奴らの件で御上に睨まれたらしい。

いよいよ俺達も大きく見られるようになっちまったか。


俺はすぐにメンバーにここから避難するよう命令した。

戦うと言った奴もいたが、相手は対能力者戦術のプロだ。相手にはならないだろう。

あらかじめ、強襲された時にと掘っていた脱出用トンネルが役に立ちそうだ。

俺達は明日、アジトにあるPCは大事なデータを持って全部破壊し、トンネル、一般道路と班を二つに別け、散らばる様に退散する。

きっと警備員の作戦…清掃作戦と呼ぼうか、清掃作戦は武器の準備からして明後日に執り行われるだろう。

このアジトは警備員が来たときには蛻の殻。

俺達は外の学区で、ざまぁ見ろ警備員と笑っている訳だ。


でも、遅かった。


――――――――――――なぜなら、清掃作戦はその日に実行されたからだ。


329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 22:37:37.85 ID:M+4TGIQq0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

僕には秘密があった。

ヤンにも、シンにも、マンションにも、ヤマにも、ジョンにも言っていない。もちろんジャンにもだ。

僕の秘密。それをここで綴ろうと思う。

僕の秘密、それは………。





僕の地獄は、まだ続いていたからだ。





僕の地獄とは、あの忌々しい毎日だった。

理由もなく硬い拳で殴られ、何気なく罵倒され、どうしようもなく恥を掻かされた、あの毎日だ。

しかし違ったのはあの、顔を見れば吐き気がする程に憎たらしい『アイツ』らじゃなかった。


僕のクラスメイト全員だった。


僕は柵川中学に通っていた。

その柵川中学に通っていたのは、あの組織の中では僕だけ。

しかし柵川中学の全校生徒は、組織の噂を知っていたのだった。常識と言われるほどだった。

普通、世の中に出回っている噂は『スキルアウトを狩っている組織』という噂だったが、この学校のは少々湾曲していた。


『無能力者を無差別に狩っている組織』という噂だった。


なぜこの噂が流れたのかはわからない。

しかし僕はその組織の副リーダーとしてその間違いを正す義務がある。

僕はその噂を正そうと、自分をその組織のメンバーだと名乗って誤解を解こうとした。


しかしそれは信じてはくれなかった。


むしろそのメンバーだからと恐れられ、逆に罵倒され、暴力を振るわれた。

組織を作った時から何故か全く能力が上がらなかったのが災いとなり、僕は檻という名の教室の中で、クラスメイトにしつこく且つ様々な暴力を受けた。

そして、学校中に噂は広がり、全校生徒からも責め立てられた。

人間とは自分とは異種なる者を軽蔑し、迫害するらしい。

しかし僕は君たちを同じ人間だ。同じ赤い血が流れている。同じ髪の色、同じ目の輝き、同じ肌の色をしている!!

ただ、強くなって、身を守るだけの能力を手に入れたいと願ってあの組織に入っただけなのに、なぜ迫害されなければならない!?

先生もグルなのか、言っても扱ってくれない。

学校中から迫害を受ける毎日。

学校には行きたくない毎日が続いたが、あの優しい両親が頑張って仕送りを送ってくれるから、何とか学校へ行けた。

だけど学校という檻はあまりにも残酷だった。

授業では周りから自分を罵倒する文字が書かれた紙屑を投げられた。給食には鉛筆削りのカスを入れられた。教科書とノートはマジックで真っ黒にされた。家から履いてきた靴は鋏でズタズタにされた状態でドブに捨てられていた。内履きに画鋲が入ってない日は無かった。机は彫刻刀で凸凹にされたまま、授業を受けた。満点の自信があったテストはすり替えられ、ふざけた内容の物になっていた。椅子に座れば剣山が置いてあってそれに座ってしまった時がある。掃除の時間はいつも一人で押しつけられた。体操服というものは無かった、なぜならズタズタに切り裂かれていたからだ。放課後、学校の裏で十人にリンチにあった。たまに掘られたこともある。冬に外で裸の状態で縛られて朝まで放置された。全校集会で吊るされたこともある。体育の時間は孤独だった。いつもボールをぶつけられたりした。例えばバスケット、蹴られたたり殴られたりしてもファールを取られなかった。パスなんて貰った試しがない。家に帰ると鍵が壊され、部屋はグチャグチャに破壊されていた。大事なお金を全額盗まれた。山奥で埋められた。コンクリ詰めにされ、プールから落とされた。首吊り殺人ごっこと題して、首に縄を掛けられ屋上からバンジーしたこともあった。

たいした怪我もなかったのは、自分の能力があったとしても奇跡だろう。鬼籍に入っていたとしてもおかしくは無い。

これが僕に秘密だ。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 22:48:29.49 ID:M+4TGIQq0
これをジャン達には絶対に知られてはならない。

なぜなら、彼らが僕の学校の奴らを攻撃することは即ち、『無能力者を無差別に狩っている』という噂は真の事になるからだ。

僕は虐められながらも誤解を解こうとした。でも聞いてくれない。

ああ、なんて冷たいのだろう。

学校とは何て冷たいのだろう。


でも、凍えた僕には暖かい場所があった。それは無論、あの組織だった。

例を挙げるなら、凍えた手を暖炉で温めるような、天国にいるような感触。

ジャンがいて、ジョンがいて、ヤンがいて、シンがいて、ボンがいて、ヤマがいて……。

僕は彼らがいれば何でもよかった。

彼らと一緒にいれば、どんな地獄にいても我慢できた。

例え彼らが第十学区に行ってしまっても、彼らの分まで下の組織を支えられた!




でも、僕の天国はあっけなく破壊された。




331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/25(日) 23:32:34.49 ID:M+4TGIQq0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なによ、どうなってんのよ!?」


御坂美琴は叫んだ。

彼女は一緒にいる結標淡希の能力、座標移動で第十九学区に到着し、とあるビルの中にいた。

外は雨が強く、すでに二人の服はビショ濡れだ。


『はい、だから先程上条さんの方へ向かったのは固法先輩ではありません! 偽物です!!』

「初春さん! 出来事の詳細を!」


電話の相手、初春飾利は詳細を伝えた。


『で、偽物の特徴は黒い服装。身長は170cm前後で、笑い方が『きゃはきゃは』だそうです』

「……きゃは?」


美琴は顔をしかめた。


黒い服装、身長は170前後、笑い方は『きゃはきゃは』。

思い当たるのは一人しかいない。


(あいつか〜〜〜〜)


真庭蝙蝠。

真庭忍軍十二棟梁の一人。別名、冥土の蝙蝠。驚異の変身術『真庭忍法骨肉細工』を使う、真庭忍軍の猛者の一人。


(いささか、あいつが固法先輩に変身したんだろうな…)

「とりあえず、私と結標はあの馬鹿の所に行くから、アイツの携帯のGPSで居所わかる?」

『はい。第十九学区、旧安生真空管研究所の近くです。場所はメールで地図送りますので!』


数秒後、初春からメールが来た。

美琴と結標は携帯の液晶を覗き込み、地図の内容を頭に叩き込んだ。


「OK、すぐにあの馬鹿の所へ行くわ」


美琴は携帯を閉じた。

濡れ鼠となった結標は一旦ブレザーを脱ぎ、パンパンとはたいて水けを飛ばした。胸に巻かれているサラシは何とか透けていない。


「結構雨が強くなってきたわね」

「今日の予報は晴れだった筈だけどね」

「『樹形図の設計者』がない学園都市の気象予報なんて、壁の外の世界とあんまり変わらないわ」

「それよりも早く、上条くんを見つけないと」

「それと誘拐犯と佐天さんと吹寄さんを助けなくっちゃね」


美琴と結標は頷き合う。

結標はすぅ…息を吐き、美琴を連れ、座標移動で雨の中へ飛び出した。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 00:24:09.52 ID:czt1oaT30
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「一応、御坂さん達には連絡が取れました」

「そう…」


初春飾利は手に持った携帯を仕舞い、作業を再開した。彼女の後ろには先輩である固法美偉がいる。彼女の今の服装はジャージだ。

固法が「なんでジャージがあるのよ」と聞いたら「家から忘れてきた時に取りに行くのが面倒だから」と返ってきた。いくら柵川中学内だからと言っても…。


固法はコーヒーを飲みながら、何か無いかと資料を探っていた。

因みに何か情報があれば他の学区の風紀委員に連絡するという約束がある。誘拐犯らしき組織のアジトが第十九学区にあるという情報は学園都市中の風紀委員に言い渡した後である。

今頃、被害者が出た各学区の風紀委員と警備員が第十九学区に突入しようと準備が始まるだろう。

ふと、固法は呟いた。


「まさか学園都市中の風紀委員と警備員が一つの組織を寄ってたかって逮捕しに行くなんてね」

「それだけの犯罪を犯したってことです。当然の報いです」

「まぁそうだと思うんだけどね。 そうそう、実は八年前にもあったのよ、似たような事件が」

「そうなんですか?」


固法は遠い昔の事を思い出す様に、目線を上にあげる。


「八年前のことよ。当時、第十学区のストレンジにある組織があったの。当時もストレンジはスキルアウトの巣窟。でもその組織は違った」

「何の組織だったんですか?」

「全員、強能力者以上の能力を持った人達だったの。それも20人、その内5人は大能力者」


固法は立ち上がり、その時の資料を探す。 資料は本棚の一番奥にあった。


「当時の風紀委員の人の記録よ。 リーダー格は汪誠者、当時沢東高校一年。在日中国人の四世で、一年前の成績は中の上、強度は低能力者。でもその一年後には大能力者にまで上り詰めた」

「凄いですね。一体何をしたんでしょう?」

「それはわからないわ。 ―――かつて汪は元風紀委員で記録を書いた風紀委員と幼馴染だった。しかし汪は風紀委員に反発し辞表を提出した経歴がある。それからは一匹狼として有名だったんだけど、ある転機が訪れた。 それはある人物との出会い。『彼』は汪にある変化を与えた」


固法はページを捲った。


「『彼』は汪と第七学区柵川中学前公園の紅葉の木に裸で晒されていたのを、記録した風紀委員は保護した。それが彼らの始まり。 汪は『彼』にある提案をした。それは風紀委員に反発した彼らしい物だった」


―――――なぁ、俺達強くならないか? 強くなるんだよ。必死に力つけて、奴らを見変えすくらいの、奴らがもうお前に近付けられなくなるくらいになるまで。


「それが『組織』創設の始まりだった。 はじめは二人だった。汪と『彼』は最初は何もしなかったそうだけど、何かコツを掴めたようで、ミミズが進むような速度だけど、着々と能力を上げて行った。」
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 01:19:41.84 ID:czt1oaT30
記録に綴られる文は奇麗で丁寧だ。どうやら記録者は女の人らしい。


「彼らの噂を聞きつけてか、段々と仲間も増えて行った。初期のメンバーは9人。みな、風紀委員や教師に反発した者。学校で虐めにあった者。それぞれの精神には傷があり、それを癒す者がいなかった者達だったことが『事件』の後の取り調べでわかったそうよ」


初期メンバーの9人は、一癖も二癖もありそうなメンバーだった。

弟のジョン。参謀のヤン。ラップ口調の相談役のサブ。不良のシン。図体の癖に優しいマンション。虐めにより声が出せなくなったヤマ。


「その後も彼らは着々と能力を伸ばし、また組織も大きくなっていった。……しかし」

「しかし?」

「一年たち、組織に名を連れられる者が50人を達した頃、初期メンバーの数人は強能力者に、汪は大能力者になったのに、ただ一人、『彼』だけが低能力者のままだったの。それも中学二年生という成長期のど真ん中なのに身長も1cmも伸びない。 また『彼』には何か秘密がある、と汪は記録した風紀委員に相談していたそうよ」



―――――――『アイツ』だけが、変わらない。 能力も、体も。どちらも大して成長しなかった。出会った時から、殆どその時のままだったのだ。 それが、俺のただ一つの心残りだった。


でもそれはそれ、組織は風船のように巨大な物になってゆく。


「汪はある決定をする。それは当時第七学区に拠点を置いていた『組織』の拠点を、第十学区のストレンジに移す事。 50名にも及ぶ組織の能力ランキング上位20人をストレンジに連れ、そこで汪は日々犯罪を犯すスキルアウトの撲滅運動を始めた。ヒーローだったのよ?あの人達。 そのせいか組織はますます大きくなり、とうとう100人にまでなった」


固法の小学生時代には、中学生になったらその『組織』に入ると言っていた同級生がいたとか。


「そうそう、昔にね、黒妻綿流が言ってたの。小学生の頃、小さな貯金を溜めて買ったアイスを不良のズボンに溢してしまって、ボコボコにされた時、喧嘩がバカみたいに強い能力者集団に助けてもらったって」


きっと、その組織のリーダー、汪誠者は筋の通った人物だったのだろう。

違法薬物の流通を食い止めたり、弱い人間に暴力を振るっている者を制裁したりと、上の許可なしでは働かない風紀委員や警備員よりも活躍していた彼らは、表に出ないものの一躍時の人。ヒーロー伝説は学園都市中に飛び回ったと言う。


「しかしそんな絵に描いたような絶頂時。ある事件が起こる。 警備員の重火器の生産を行っている武器製造工場を彼らは襲撃した」


―――――――どうやらどっかのバカが重火器を横流しにしているらしい。 俺達はそのバカ、もとい武器商人の所やその製造所も襲った。


「理由はそこの工場で作られた重火器の一部をスキルアウトに横流ししていた者がいて、その銃が彼ら組織の人間を傷つけた。 彼らは工場を襲撃、横流しした工場の責任者をリンチにした後、警備員の特殊部隊が到着したため逃走。結果としては工場は大破。責任者は病院送りにされたけど、退院後即座に逮捕され、警備員は襲撃した組織を危険犯罪組織としてブラックリストに入れた」


これが、組織の運命を決定的に変えさせたのだ。


「また、組織は武器の入手ルートが無くなったスキルアウトから嫌がらせが頻繁に起こった。街を一人で歩いていたら集団で襲われたり、家がメチャクチャに荒らされたり。また学園都市の方からも何かあったそうよ?」


―――――――だがそれと同時にスキルアウトの奴らと、『学園都市の闇』とやらに関わる奴らに睨まれる様になった。街を歩けば不良に絡まれ、『闇』の奴らに陰湿な嫌がらせが来たりと、色々とあった。


「それはそうよ、だって学園都市からすれば彼らがやっている事はただの犯罪なんだから」

「でも固法さん、彼らは自分が正しいと思ったことをやったじゃないですか。 なんで責められなきゃならないんですか?」

「初春さん、どれだけ強くても、人が多くても、正規軍が認めない義勇軍は義勇軍じゃないの。 正規軍と反発する義勇軍なんて、それはただの犯罪組織かチンピラよ」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 01:58:56.18 ID:czt1oaT30
「そんな中、この記録を書いた風紀委員は汪に会いに行ったの。今の私と同意見だったのね、こんなヒーローごっこはやめてくれと、風紀委員と警備員が必死になって働いているのを無駄にしないでくれと」


――――――――ある日、あの日俺と『アイツ』を助けたあの風紀委員が直接会いに来た。


「そこ頃は風紀委員と警備員の信頼は下がっていたの。生徒たちはみな不満を上げたわ。お前らが働かないからスキルアウトみたいのが出て来るんだってね」


――――――――あいつは『これは風紀委員の仕事だからやめてくれ』と、俺は『ここまでやっているのは、お前らがちゃんと働かないからだ』と言い争い、喧嘩になった。


「それ以来、この風紀委員は汪とは会っていないそうよ。 そして事態は動き始める」


それはある事件だった。それは今回起るだろう事とよく似ている。


「それは『第十学区スラム『ストレンジ』内スキルアウト一掃作戦』。通称『清掃作戦』。 表向きはストレンジに根城を構えるスキルアウトを一斉に逮捕していく作戦。しかしそれは口実、本来の目的は汪誠者率いる組織の殲滅」

「なぜそんな面倒な事をするんですか? その組織のアジトを直接叩けばいいのに」

「それがそのアジトの在り処がわからなかったのよ。それに直接叩いてしまえば批判が出るし、ついでにスキルアウトを一斉検挙できる」

「なるほど」

「それを知ったこの記録を書いた風紀委員は、秘密裏にその組織の副リーダーをしていて、下位メンバーの指揮をしていた『彼』に組織の解散を迫った」


――――――――僕たちを助けてくれた、あの風紀委員の人がやって来た。僕に伝えて欲しい事があるらしい。この組織を直ちに解散させて欲しいと言う事だった。


「それとこの作戦がある事を伝えた。なぜなら警備員は当時の最新式の重火器と戦車、それと軍用ヘリを用いて来るから」


――――――――第十学区にあるスラム、通称ストレンジをグルリと円状に二重三重に包囲し、円を縮めさせる様に人間を捕獲、逮捕していく。抵抗、反抗して来た者は風紀の名の元に、徹底的に排除する。


「当時は最新式のテストとして採用されたけど、内容はまさに大粛清。弱い者虐めの殲滅戦。 それを聴いて彼女は心配だった、汪が死んでしまったらどうしようかと。 だからその組織の在り方に不安と心配をしていた『彼』に相談した」


――――――――僕は心配だった。リーダーが、ジャンがやっている事は危険すぎると言う事を僕は知っていた。当初は僕も賛成だった。でも、いざ蓋を開けてみると、臆病な僕の本能が、警鐘をガンガン鳴らした。


「でも組織をただちに解散させようとした計画は結局は失敗に終わる。理由は相談した『彼』には発言力は無かったから。なぜなら当時は未だ低能力者のままだったから」


それでも作戦の内容は汪誠者の耳に届いた。しかし結局、汪はその戦火に巻き込まれることになる。


「なぜなら、彼の耳に届いたその日が、作戦の実行日当日だったのよ」
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 02:21:32.10 ID:czt1oaT30
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

雨脚が強くなってきた。

固法美偉は上条当麻と行動を共にしていたが、敵の見張りに見つかり、逃走していた。

が二手に分かれ、追手を撒く作戦にでた。

今、分かれ道で別れた。分かれ道から10mも走っていない。

後ろには追手はなかなか足の速い。もう20mも差は無い。

誰かが待てと叫びながら追ってくる、

固法は敵は何人追ってきたのか確認する為、後方を見る。

が、その時、何故かあった泥に足を取られ、派手に転んだ。


「きゃあ!」


固法は起き上がる。

が、追手がもう迫ったいた。


「へへへへ、もう逃げられねぇぜ」


追手の一人が漫画で出てきそうなセリフを吐きながら退路に立つ。


「さぁ、あそこで何を見ていた? 言ってみろ!!」


一人が手から小さな火を出した。どうやら発火能力者なのだろう。

彼の隣の男は、ふと固法の腕に着けてある腕章を見た。


「おい、コイツ風紀委員だぜ?」

「誰かリーダーに報告だ。 もうここのアジトがバレたってな。それともう一人の方も風紀委員だろう、そっちはそっちで追っとけ」

「わかった」


男の一人が携帯電話を取り出し、男数人が上条が通った道へ行こうとしたその時、固法は叫んだ。


「待って、行かないで。 私なんでもするから!」


その言葉を聞いた男の一人は一瞬、何を言っているのかわからない顔をしたが、何かを考え付いたのか怪しい顔をした。


「そうかい姉ちゃん。じゃあ、それなりの代償…ってヤツを貰わねぇとなぁ。 ちょうど、イイモン持ってることだし……」


男は固法に近づき、肩を触り、その手を胸のあたりまで滑べらせた。


「なぁ……そう、おもわねぇか?」


すると、固法は少し悩んだ顔をして、その後不安そうに言った。


「…………誰にも…言わないって約束ですよ?」


その言葉は肯定と踏んだ男は固法の胸と股に手を当て、押し倒そうとした。


その時……。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 02:42:11.34 ID:czt1oaT30




「………………なーんてなあ」




固法の声が低く変わった。


周囲の男たちは急な事で驚く。



「………ぎゃごっ!」


ゴキィ! と何かが折れる音と共に男の悲鳴が聞こえた。


そしてドサッと何かが崩れ落ちる音が遅れてやって来た。




二つとも先程、固法にヨダレを垂らしていた男だ。


彼は首を有り得ない方向にへと向きながら白目で寝ていた。


否、死んでいた。



「…………は?」


男の誰かが言った。

そして別の男が言った。


「いやぁ、駄目だぜえ? 最初は口づけから始めるもんだ。こういうモンはよ。 きゃはきゃはきゃは」


いや、男でなかった。女であった。女である固法美偉は、なぜか男の声を発していた。それも気味の悪い口調と笑い方で。

その光景を目にし、追手をしていた男たちは固まる。

これは何の珍百景だと。

固法はそんな中、追手の人数を数え始めた。


「ひぃふぅみぃよぉ……九人か。 よかったなぁ、俺は接待好きだからよう、一人お前らを殺す時に一枚ずつ脱いでいく事にした。 よかったなぁ最後の奴はこーんな別嬪の女の裸を眺めながら死ねるなんて、輪廻転生を千回繰り返してもできねえぜ?」


固法は首元で縛ってあるスカーフを解いて脱ぎ捨てた。


「はい、いーち」


男たちの一人は顔を真っ青にして「あ……ああ……ああああああああああ!!」と情けない雄叫びと共に逃げて行った。

それに釣られ、他の男達は一目散と逃げて行った。


「ほーら逃げろ逃げろ、泥棒と岡っ引き、敗残兵と落ち武者狩り、攻守交代だ。きゃはきゃは」


固法は見るからに吐き気がするような笑みを浮かべながら、普通では有り得ない足の速さでかつては自分を追っていた者達を追いかけて行った。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 03:10:25.17 ID:czt1oaT30

「はーいっ にー!」


固法は男達で一番送れて走っていた、小太りの男を捕まえた。


「ああああああああ、やめてぇぇぇぇええええ!! かぁちy」

「はーい、ざんねーん」


固法は近くにあった木の枝を折り、その尖った先端で男の首筋の上部、頸椎に刺した。

男は母の名前もを呼べずに崩れ落ちた。


固法は次に靴と靴下を脱ぎ捨て、裸足となった。 一枚ずつと言ってたが、なぜ二枚も脱いだのか?


「おまけだ!」


おまけだそうだ。

固法は次に足がもつれて転んだ男を標的にした。


「次はお前だ」

「ひぃぃいい!!」


男は情けない叫びを上げると、手から氷柱を作りだした。どうやら物体から温度を奪う能力者で、雨から氷を作ったのだろう。

それを男は氷柱を順手で右手で持ち、固法へと突きつけた。


「なんだ、そんなモンじゃ人間は殺せねぇよ」


固法は男の手首を左手で持ち、右の手で肘を曲げさせる。

するとストンと氷柱は男の心臓へと突き刺さった。


「残念だったな、根性なし。 はい、さーん」


今度は上の服を脱ぎ、ブラジャーの上に着るシャツの姿となった固法は、男が持っていた氷柱を心臓から抜いて逆手で持ち、次の獲物へと駆けた。

その次の獲物は燕をマスコットにした球団の帽子を被った男とその隣で並走する虎をマスコットにした球団の帽子を被った男だった。


「待てぇー」

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」」


固法はきゃはきゃはきゃはと不気味に笑いながら、まずは左にいた虎の方の男の目を氷柱でタコ焼きの様に差した。

虎男はガクンと崩れた。

それを隣で目撃した燕男はさらに足の回転をあげ、固法を突き放そうとするも。


「あああ、あああああああああああああああああ!!」

「よーん、ごー」


氷柱を眉間で刺され、『生け花』ならぬ『生け氷柱』にされた燕男。

彼のことなど固法はとっくに忘れたのか、シャツとスカートを脱ぐ。

巨乳ブラジャーと美しいクビレの下のパンツという美女が男を追っている。普通の男だったら喜んで向かいに行くが、この場合は非常に違う。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 03:34:01.95 ID:czt1oaT30
不気味な笑顔は悪魔の様。

一枚布を脱ぐ度に人を一人殺すと言う死神の如き所業。

そしてそれを楽しんでいると言う鬼の再来。


「ひゃあああああああああ!!」


危険信号が赤を通り越してぶっ壊れ、思考回路がおかしくなったのか、次に殺されるかと踏んだ男の一人がナイフを持って振り回してきた。

そのナイフはビリビリと電気が流れているようだ。

どうやらナイフ男は電撃使いだろう。


しかしそんなショボイナイフなど意味もなく、固法は男の後ろを取った。

固法は首を抱いて、回した。男は首を梟の様に回転させ、息絶えた。


「はーい、ろー…」


固法はブラジャーを脱ごうと、手を後ろへ回す。

とその時、男の一人が固法の両手を羽交い絞めにした。


「テメーよくもやりやがったな!! やれぇぇぇええええええええ!!」

「おうよ! 喰らいやがれぇ! 俺が三年間培ってきた、力をォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」


前から男が炎で出来た玉を前に構え、突進してきた。

しかし、男の玉が体に着弾する直前に、固法は地面を蹴り、羽交い絞めしていた男の後ろへ回った。そして固法は逆に男を羽交い絞めした。

当然、玉は固法に羽交い絞めされた男の腹に着弾し、あっという間に男は火達磨なった。


「あ、しまった!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


男はとっさに上着を脱ぎ、仲間を苦しめる炎を消そうとするが。


「お前、馬鹿か?」


固法は男の顔を足で炎の中へと踏みつけた。


「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


あっという間に人間の丸焼きと顔焼きが完成した。


「はーい、ろーく、なーな」


固法は今度こそブラジャーを外し、パンツを脱いだ。



そして、彼女は全裸になった。


全裸になった固法は正面を向き、こう女の声で言った。



「おめでとう、あなたが最後ね?」



最後の一人の男は腰を抜かして、カタカタと手を震わせながら、拳銃を構えていた。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 03:55:28.11 ID:czt1oaT30
「あら、なぁに? そんなにこの胸がお嫌い?」

「う、うるせぇ! なんなんだよ、お前。人間じゃねーだろ!! なんなんだよ!!」


涙を流しながら、拳銃を構え、威嚇をしながら吠える男。

しかしそんなオモチャ、なんなのだと固法は言っている様で、まったく気にせず、男に近づいて行った。


「おっかしいわね、こんなに柔らかくて気持ちいいお乳なのに」


固法は自らの豊満な胸を揉み始めた。


「……あん/// ほら、キモチイ」

「…おかしい、おかしすぎる……頭沸いてんじゃねーか!?」

「………」


むっ、と顔をしかめさせる固法。


「言ったわよね? 私、接待好きなの。で、立派に鬼ごっこに最後まで勝ち残ったあなたに満足して、逝ってもらいたいと思ったのよ。 わかる?」


固法と男の間合、わずか1m。

子供でも的に当てられる距離だ。男は銃の引き金に指を掛ける。


「そこでね?あなたに満足して貰う為に、お姉さん、せっかく考えたのに……」


ぱぁん!!


乾いた音がした。

そして、ズサァと固法の体が吹き飛ぶ音がした。


「は……やった、やったぞぉ!! ヤッホォオオオオオ!!」


男は歓喜した。たかが女一人殺すのに、何やってんだかと思ったが、男はそれでも歓喜した。

しかし。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 04:06:06.33 ID:czt1oaT30

「あーあ、残念だ。本当に残念だ」


男の声がした。自分ではない。先程死んだ仲間の声ではない。

だったら誰のだ?

答えは一つ。


固法だ。

男の声を発し、固法はムクリと立ち上がった。


「あ。 あ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「うるせぇよ、まったく」

「ごっ!?」


固法は男に蹴りを食らわす。

そのせいで銃を手放してしまい、銃は宙を舞う。それを固法はナイスキャッチした。

男は目の前の光景に目を疑った。


「お前…死んだんじゃあ?」

「ばーか、あんなに手が震えちゃあ一尺しか離れてなくても当たらねーよ。まぁもっとも、俺さまの白い右腕には当たっちまったがな」


右の二の腕には焦げた銃創があった。


「しかぁし! こんなもん、俺さまに取っちゃあ怪我の内には入らねぇ」


男はまた目を疑った。

なぜなら、固法の右腕の傷はみるみると治っているからだ。


呆然とする男を軽く無視し、全裸の固法は男の胸の上に座った。


「忍法骨肉細工っていってな? 実は俺さまには特殊能力がある。 本来は他の人間の姿かたちを、自分の骨と肉を変形させる技で。自分の肉体を好きなように、形状から質感から色素から声帯の形から、自由自在に作りかえることができ、しかも現実に存在する人間ならば、どんな肉体をも変成することが可能。身体の大きさはおろか、男女差すらもこの忍法の前では意味をなさないっつー、おっそろしー技なんだけれどよー」


傷がとうとう治ってしまった。


「なんとそれを応用すれば、直接死に至るほどでもない傷なら、すぐに治っちまうって訳、今の現象は、そーいうこと。わかったか?」

「……化け物……、そ、そんな超能力、み、見た事ねぇ」

「ああ、これはお前らの言う超ナントカじゃねぇからな。………これは、忍法だ。 覚えておけ、冥土の土産に」


固法は先程手に持った拳銃の銃口を男の左胸に当てた。


「さて、もう一つ冥土の土産だ」


固法はまた、きゃはっと笑った。



「 …………女の乳でも拝みながら死ね」





ぱぁん!!

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/26(月) 04:07:37.93 ID:czt1oaT30
―――――――――――――――――――――――――――――――――

今日はここまでです。

今日から学校です。朝起きられるかなー。

殺人ストリップの夢を見ないよう祈りながらお休みさせていただきます。


感想、お待ちしております。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/26(月) 04:24:55.16 ID:W4HOTj290
真庭忍軍って原作でも別のssでもかませだったからなー
蝙蝠無双はかなり爽快だった
みんなまにわに舐めすぎだよね

乙!
343 :名無しNIPPER [sage]:2011/09/26(月) 07:45:28.51 ID:kWfvr+EDO
それにしてもこの蝙蝠、ノリノリである。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/27(火) 20:25:30.04 ID:+oUw8pRs0
むしろ女の乳を見れたら死んでいいやって奴もここにはたくさん居る・・・んだよな?
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/28(水) 22:41:28.68 ID:LcTWYLWi0
こんばんは、遅いですがやってみます。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/28(水) 23:29:25.18 ID:LcTWYLWi0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺がアジトからの脱出を命じたその時だった。

遠くから、爆発が起こった。

何なんだと、どよめきが空気を固く変化させる。

どうせどこぞのスキルアウトが花火を打ち上げに失敗して爆発したんだろう。

そう思いたかったが、俺達は嫌な予感を拭いきれず、外へ出た。

いつも普通に通っている廊下が長く感じる。

頭の中で糸を張るような緊張感とガンガンと警鐘を鳴らしまくる危機感が混ざり合った様な感覚で、心臓が締め付けられる。

一体外で何が起こっている!?

外では……。



戦争が行われていた。



いや、違う。殲滅戦と言った方が正しい。

銃が火を噴く音と火薬の臭いと若い人間たちが痛みか恐怖で上げる悲鳴という声が遠くで聞こえた。


パパパパパパパッと複数の人間がマシンガンで銃弾をバラ撒いている音がする。

おそらく警備員が編隊を組んでスキルアウトを包囲して、抵抗した奴を撃ったのだろう。


ドンッ…ドンッ…と腹の底にズシンッと圧し掛かるようなひくい轟音が遠くから響く。

どうやら戦車がスキルアウトが隠れているだろう、建物を破壊して回っているのだろう。


バラバラバラバラバラ……と何枚もの羽が空気を高速で切っている音がした。

きっと軍用ヘリが空からスキルアウトを探し、見つけ次第発砲するのだろう。


いや違う。

あの警備員の編隊は俺達を狩る為に組まれたのだ。 あの戦車は俺達のアジトを破壊する為に走らせたのだ。あの軍用ヘリは俺達を空から全滅させる為に出撃させたのだ。



全て、俺達が目的なのだ。



ここまでするかよ……。

誰かが言った。俺もそう思う。みんなもそうだった。

しかし現実は目の前にあった。あの機械の怪物達は俺達を探しにこっちにやってくる。

リーダーである俺は、以下20人の命を守らなければならない。誰も死なせるわけにはいかない。でも下手すれば全滅する可能性がある。

音はまだ遠い。時間はまだある!


俺は即座に命令した。

非戦闘向き能力者は直ちにPC内のデータを破棄。ただちにHDごとPCを破壊し、地下トンネルへ脱出。

俺を含む初期メンバーと戦闘向き能力者上位10人は敵の足止め。治療系能力者は足止め組と一緒に行動。

脱出組には、無事に脱出できたら連絡を寄こすようトランシーバーを持たせた。


午後4時44分。

火薬の埃の臭いが漂うスラムの惨劇は、こうして始まった。


これが、俺達の組織の最後の日の事であった。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/28(水) 23:38:51.76 ID:LcTWYLWi0
―――――――――――――――――――――――――――――――

すいません、頭回らないんで、今日はここまでにします。ホントすいませんです。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/28(水) 23:56:57.02 ID:pCH+osNS0
こういうのはどうだ

御坂が悪刀に電気を充電してエネルギーを自身の肉体に解放
超人的身体能力を発揮する限定奥義「武御雷」(たけみかづち)
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 00:03:55.32 ID:bvzyw2kDO
俺の輪廻ちゃんの出番はありますか?
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/29(木) 00:58:52.09 ID:vEh41REb0
汽口先生は!?
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 20:39:18.81 ID:MOX8O+Gp0
こんばんは、今日も書いて行きます。

>>348
ユニークな提案有難う御座います。

>>349
輪廻ちゃんは無能力者狩り編には登場しませんが、暫しお待ちを……。いずれ登場します。

>>350
汽口先生は……。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 21:20:43.87 ID:MOX8O+Gp0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ザ——―ッと強い雨が素肌を叩く。

一人の女が一糸纏わぬ、素っ裸の状態で雨に当たっていた。

女はこの雨があたかも10年ぶりにこの地に降り注いだ、乾いた大地を潤す雨かの様に、灰色の空を仰ぐ。


「………きゃは……」


女は神に感謝を表すかのように手を広げる。

そして気味悪く笑った。


「きゃはきゃはきゃは……!」


女(女の体でも男の声をしている)は笑い続け、雨を一心に当たり続けた。 乾いたこの身を潤す様に。

天から落ちてくる雨は、女の…固法美偉の裸体を叩き、雨水となって顔や胸や背中や尻などの体の表面を川の様に流れ、髪から、指先から、乳首から、股の下から、滴となって地に落ちた。

こうして彼女は体中に付着した返り血を雨で洗っているのだ。

固法は笑いながら、殺人という行為をしたあとの興奮が醒めぬのか、またそれとも余韻に浸っているのか。

ウットリとした表情で、手を股にあて、クチュクチュと音を立てる。

固法は荒い息をし、猟奇的な興奮を性的な興奮に代え、興奮を抑えようと必死になって指を動かす。

数秒経って股から大量の水が飛び出た。

フーッと強く息を吐き、固法は御満悦な表情で深呼吸した。

久し方の快感だ。この快感の為に自分は殺しをやっていると言ってもいい。

やはり、人を殺すのは最高だ。


彼女の背後には九つの男の死体がある。 それらはかつて彼女を追っていた者達だったが、今では首筋に木を生やしていたり、丸焼けになっていたりと様々だ。

そしてその死体どもの近くには固法が来ていた高校の制服が散らばっていた。

まるでひとり人を殺す度に一枚ずつ身を包んでいた衣服を脱ぎ捨てて行ったかのようだ。

それらはもう血と雨と泥で汚れていて、とても着れる物ではない。



「蝙蝠さん…」


不意に、後ろから声が聞こえた。

後方には真庭人鳥と呼ばれる幼い少年が怪訝な表情で立っていた。

この少年にこの姿を見せるには、少々酷だろう。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 21:50:07.33 ID:MOX8O+Gp0

「人鳥か…。どうだ? 奴さんの方は」

「ま、まだ気付かれて、い、いないです。 今の内なら大丈夫かと」

「そうかい…」


固法美偉は姿を変えた。

体中の骨が砕け、蛸の様に体格を変形していっている。 顔の形、首の太さ、胸の大きさ、腹の筋肉の付き方へから、さっきまで指を突っ込んでいた女性器は長細い男性器へと移り変わってゆく。

忍法骨肉細工。体中の骨や肉を自在に操り、子供から年寄りまで、男から女まで、さまざまな“人間”にへと変身できる、真庭の里で代々伝わる忍法だ。


男の姿へと姿を変えた。 固法は右手で腹の底を力強く押した。


「…ぉぇええっ!!」


すると一つのビニール袋が口の中から飛び出した。胃液と唾液でベトベトになったそれを固法は持ち、人鳥に見せる。


「にしても、この時代の風呂敷は便利だな。 なんつったて、どんだけ雨に打たれようがが涎でベトベトになっていようが、中身は全く濡れないんだぜ?」


固法はビニール袋を開け、自分の漆黒の忍者装束を取り出し、着替えだした。


「取りあえず、敵地侵入だ。 邪魔が入らないようにコッソリ忍び込む。それでいいか、人鳥」

「は、はい。ぼ、僕の目的は佐天さんを助け出す事ですから」


二人は雨の中を高速で走りだす。

その足運びはまさに忍者。

それもそうだ、彼らは忍者なのだから。


真庭蝙蝠。

先程まで固法美偉と呼んでいたのは彼である。真庭忍軍十二棟梁が一人に数えられる実力者で、あの虚刀流七代目当主 鑢七花が初めて戦った男だ。

その鑢七花が言うには、真庭蝙蝠は真庭忍軍の中でも上位の強さを誇っていたらしい。

そんな彼は今、ある目的のために動いている。

それは『殺し』。『人殺し』である。

彼は死んでからこの世界に飛ばされ、一回も人を殺していはいなかった。 殺人衝動に抑えが利かなくなっていた所を人鳥の提案がやって来た。

そして今、その殺人衝動を開放する為、人を一人でも殺すため、真庭蝙蝠は雨の中をひたすら進む……。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 22:38:23.91 ID:MOX8O+Gp0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

御坂美琴結標淡希とは初春飾利から送ってもらった地図にあった、上条当麻と固法美偉に変装した人物がいた場所にいた。

先程よりさらに雨が強いせいか、周りがよく見えない。

が、遠くに二人の男がいることが辛うじて分かった。

二人は何か話しているかのようだ。

一人は大きな傘をさしている男。もう一人は大きな細長い、二つに曲がったバックを肩に担いだ男。

二人は相合傘でもしているかのように道を歩く。

美琴は二人が何を話しているのかが、気になっていた。


「なんとかあの会話が聞けないかしら」

「それならいい方法があるわよ。あなたの携帯の電話番号教えて?」


と結標。彼女はポケットから自分の携帯電話を取り出した。

美琴は自分の携帯番号を告げると、結標はカタカタと慣れた手つきでボタンを押す。

すると、美琴のカエル型携帯が鳴り響いた。


「電話を出て」


美琴は携帯の通話ボタンを押す。


「『どう? 聞こえる」』

「? ええ」


すると、美琴の携帯はいきなり消えた。


「へ? ……ちょっ、どこへやったのよ!?」

「あそこ」


結標は美琴の怒った顔に興味もくれず、件の男二人の方を指さす。


「あの男が担いでいる男のバックの中」

「ちょっとォォオオオ!?」

「大丈夫、気付かないわよ」

「でもっ!」

「しっ、話が聞こえない」


結標が器用にバックの中に忍ばせた美琴の携帯電話。 ちょうど男達の近くなので、話が聞こえてきた。


『いや〜しかし、ホントにあんた等んとこって安いよな』

『それが私達のモットーで御座いますから』

『人身売買ならフツー、安くて500万すっからよ、それの約十分の一だ』


『人身売買』その単語に美琴と結標は耳をピクリとさせた。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 23:01:19.84 ID:MOX8O+Gp0


『さっそく今日買ったオモチャで殴って遊ぶんだ。 お前もどうだ?』

『いえいえ、私なんて売れ残った商品で細々く遊んでいます』

『そうかい。じゃあ、俺はここでお暇するよ。 またコイツが使い物にならなくなったら連絡する』

『本日はどうもありがとうございました』


男の一人、バックを担いだ方の男は近くにあったスポーツカーに近寄り、キーを開けた。

きっとあのスポーツカーに乗って、自分の家に帰っていくのだろう。


その時、急に15歳くらいかの少女の声が聞こえた。


『……あ…あれ? ここどこ!? なに?真っ暗!? ヤダッ!!誰か助けて!!』


その声と同時にバックがウネウネと動き出した。


『うるせぇぞ! ゴミムシ!!』

『ゴフッ!』


男はバックのフルスウィングで殴った。


どうやらあのバックの中は人間、恐らくまだ10代中頃の少女が入っていると見た。

男は一発だけじゃあ物足りぬらしく、拳を次々と拳を少女へと浴びせて行く。

しばらくして少女は気絶したのか、動かなくなった。


『…はぁ…はぁ……。はん、暴れんじゃねぇよ、ウザったらしい』


男はそう吐き捨て、助手席には少女が入ったバックを乗せ、スプーツカーに乗り込んだ。


『じゃ、俺はこれで』

『はい、ありがとうございました』


エンジンをかけ、スポーツカーは猛スピードを出し、爆音を叩き出して颯爽と去っていった。



男二人の行動と会話の一部始終を全て見ていた美琴と結標はギシギシと音を立たせながら歯を食いしばり、血管がはち切れんほどクッキリと青筋を額に浮かべていた。


「ねぇ、これからどうする? 御坂さん。 なにかやりたいことある?」

「そりゃあ、一つしかないでしょう?」


二人はスクッと立ち上がり、鬼の顔でこう叫んだ。




「「 あのクソヤロウを叩きのめす!! 」」






美琴と結標はヒュンッと虚空に消えた。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/29(木) 23:35:13.18 ID:MOX8O+Gp0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

バンッ! とドアが勢いよく開けられた。

吹寄制理はビックリした表情で開けられたドアを見る。

そこには3人の男が入ってきた。

その3人組の内、一人が一枚の用紙を持っている。彼はこの組のリーダーなのか、二人に指示を出した。


「2番〜11番まで入荷だ。包装までさっさとやるぞ」


その男の命令にキビキビと他の男達が動き出した。


入荷? 包装? いったいなんなんだ?

吹寄は手を顎に当てて考える。

しかし、その思考を悲鳴が妨害した。


「 イヤァァァァァァァァァァァァァァアアアアアア!! 」

「 痛いっ!! 放して!!」


二人の女の人が髪を引っ張られて引きずられて、部屋の外へ連れ去られていった。

吹寄は絶句した。隣にいた佐天もそうだった。彼女だけではない。天導も音無も社も満潮も、今日初めてこの光景を見た者は誰一人、驚かなかった者はいなかった。


「な、なんなの!? なんなんですか?!」


佐天は近くにいた笹斑に訊いた。


「そうね、簡単に言えば、彼女らは商品として選ばれたの」


淡々と笹斑は言った。


「例えるなら、これは100%の獲得率を誇るUFOキャッチャー、私達は商品のぬいぐるみ。さっき上にいた若い男がプレイヤー。 それであの男3人組がUFOよ」

「なに気軽なこと言っているの!?」


吹寄がそう言うと、彼女と顔が知っている少女が掴まれた。

九重絵彌だ。


「いやっっ、離してっ! 離しなさい!!」


九重は髪を掴んだ男に平手打をしようとしたが、その手を掴まれた。

男は彼女の手を後ろに回し、腕を極め、ポケットから玩具の銃の様な物を取り出した。

それを九重の首筋にあて、引き金を引いた。


パンッ!!


小切れの良いが、どっからどう見ても体に悪い音が周囲に響き渡る。

九重はガクンッと白目をむいて崩れ落ちた。

357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 00:29:23.80 ID:ltBarblb0
「 イ…イヤァァァァァァアアアアアア!! 」


近くにいた満潮は悲鳴を上げた。


「心配すんな、死んじゃあいねぇよ」


と九重を抱え込んだ男が言った。


「でもなぁ、いくらピーチクパーチク言っても助けは来ねぇ。これは絶対だ。 それに、あんまりうっさくしてっと、俺の銃が火ィ噴くぞ」


玩具の銃……いや、よく見るとリヴォルバー式の護身銃をもった男は満潮の耳元を撃ち、壁を粉砕させた。


「つっても、噴くのは空気圧で撃ち出された空気の弾だがよ」

「 『空気銃(エアガン)』……」


吹寄が言った。


「聞いた事がある。 鉛玉を圧縮した空気を爆発させて撃ち出す銃」

「おっ、知ってんのか? 無能力者でも博識な奴がいるんだなぁ〜。 でもちっとばっかし外れたな」


男は自慢げに銃を吹寄に見せた。


「これは俺の能力だよ。『圧縮空銃(エアピストル)』っつてな? 高圧に圧縮した空気を弾丸にして、別に圧縮した空気を爆発させて撃ち出す能力だ」


男の本来の能力は空気を圧縮し、膜を張る能力。

射出された空気の弾は物体に衝突すると、膜がはがれ、高圧に圧縮された空気は解放される。すると衝撃波を発生させて爆発し、物体を破壊する。

弾は空気。火薬も空気。当然、弾切れも弾詰りもない。


「言ってみりゃあ、空気で出来た、弾が∞ある実銃だ。 しかも弾丸は爆弾っつーおまけつきのな」

「……それを人に…。なんて酷い事を……。 同じ人間だとは思わないの!?」

「だから死んでねぇよ。大事な商品なんだから。 それに“テメーラみてぇな虫ケラどもが俺らと同じ人間な訳ねーだろうが”」


圧縮空銃の男は吹寄に発砲した。弾は吹寄の鳩尾に当たり、衝撃波を発生させながら爆発する。


「カハッ!」


重量級のボクサーのボディーブローをモロに喰らったかのような感覚だ。呼吸ができない。

吹寄はあまりの苦しみでうずくまった。


「ホラホラホラァ! 虫ケラが調子こいてんじゃねーぞ!!」


無抵抗の吹寄に非情にも男は次々と発砲する。

しかし九重に向かって撃った弾よりも空気の圧が低いのか、気絶はしない。

とは言っても、石を延々と投げられているかのような錯覚に陥る。 いたぶるのを楽しんでいるのか?

吹寄の意識は朦朧としてきた時、組のリーダーらしき男が止めた。


「おい、やめろ。大事な商品なんだ」

「…へいへい、わかりましたよ。 よかったな、ゴミクズ。 テメーラ無能力者が俺達に楯突くなんざ、一万年と二千年も早ぇんだよ」


男は吹寄の頭を足で踏みつけた後、踵を返し、再度仕事を続けた。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 01:09:36.57 ID:ltBarblb0
「だ、大丈夫? えっと…吹街さん」

「吹寄です……。ええ、何とか」


吹寄は顔を上げる、声を掛けてくれたのは木縞春花だった。

近くには佐天涙子が心配そうな目で見ている。


「ありがとうございます」

「いいの、それよりお腹大丈夫?」

「ええ、なんとか」


吹寄と木縞がこんな風に話している間にも、次々と同室の者たちが連れ去られてゆく。


「……また…超能力か」


吹寄が呟いた。

無能力者は、能力者ではない。

ただの人だ。 この学園都市という檻の中では、ただの落ちこぼれのゴミクズだ。


「私は…無力だ」


「そんな事ない」


と、涙ぐんだ吹寄の隣で、木縞が力強く言った。


「無力なんかじゃない」

「どうしてそんなこと言えるの? 私は…いつもはクラスの委員長で、女子には頼られてて、男子がバカやっていると注意してて、先生からは信頼されていたと思う。 きっとクラスのみんなもそうだったと思う」


吹寄は頭を抱えて、涙を流した。


「なのに、私にはこんな地獄の様な状況を、打破する力なんてこれっぽっちも持っていない。 10億Vの電圧を出す事も出来なければ、空間移動もできない。それどころかスプーン一つも曲げられない……。 そんな私はどう考えても無力よ」


でも、あいつなら、あのツンツン頭のクラスメイト、三馬鹿デルタフォースの一角とも言われる、あの馬鹿なら、きっと………。

はは…馬鹿だな、私、どうしてあんな馬鹿を頼ってしまったのだろう?
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 01:24:42.60 ID:ltBarblb0
吹寄はの脳裏に数々の出会った人達の顔を思い出す。

そんな吹寄に、木縞は肩を叩いた。


「吹寄さん、あなたは絶対に無力じゃないわ? だって、あんな怖い人達に真っ向から反抗していったじゃない。 それにあなたが言っていることは真っ直ぐで、凛としていてて、私、勇気もらっちゃった!」

「木縞さん…」

「私も無能力者なの。 しかも私にはお姉ちゃんがいてね? お姉ちゃんは風紀委員をしていた大能力者だったの」


木縞はその優秀な姉とよく周囲から比べられて、悔しかったそうだ。


「でもお姉ちゃん、昔 死んじゃった。 だからもうお姉ちゃんには会えないし、追いつかない。 私、ずっと絶望してたんだ」


今日まで、周囲からの期待感と失望感に挟まれ、しかも誘拐され、酷い仕打ちを受けた木縞。


「でもね、今日の吹寄さんを見ていたら、勇気が出て来たの。 だから今日、吹寄さんに出会って、心から良かったって思っているの!」


木縞は涙で濡れた吹寄の顔を拭う。そして抱いた。


「だから泣かないで? あなたの声が、姿勢が、きっとみんなの心を動かすと思うから」

「木縞さん……。まって、それって……?」


吹寄は思った。木縞のその優しい言葉は……。




遺言の様に思えたから。





「おい、最後はお前だ」


木縞の後ろには、あの『圧縮空銃』の男が立っていた。


「木縞さ…」


吹寄が木縞の名前を呼ぶ前に、男は木縞の首根っこを掴んだ。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」


木縞は男に抵抗した。小さな抵抗だ。恐怖で顔がこわばっている。

手を振りほどき、男の腹を殴りつけた。

が、それは力弱く、女の子らしい猫パンチだった。


「あぁ? なんだテメー」


男は銃を構えた。先程の『圧縮空銃』だ。


「木縞さぁぁぁぁぁん!!」



―――――――……じゃね、吹寄さ……


ぱぁん! ぱぁん!

360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 01:34:47.90 ID:ltBarblb0
――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。


さて、『圧縮空銃』についてです。 オリジナルの超能力を即興で創りました。


銃はリヴォルバーが基本。雷管は要らず、空洞に圧縮した空気の弾を二つセットします。

ハンマーを上げ、引き金を引くと、普通の銃と同じ原理で後ろの空気の膜が剥がれ、爆発します。

その衝撃で前の空気が飛び出し、真っ直ぐに飛んでいきます。

んで、弾が対象に当たると、弾を包んでいた膜が剥がれ、爆発します。

ようは爆発する弾丸です。


銃はリヴォルバーだけでなく、ショットガンや火縄銃でもできます。

即興ながら良い能力を考えたものだwww
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/30(金) 01:50:49.67 ID:ENz0cp5R0
蝙蝠さんおもいっきり殺っちゃって下さい!
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/09/30(金) 14:51:04.95 ID:F6z9NHFY0
うっかり殺さなくてもいい奴まで殺しちゃう。だって、蝙蝠だもの。
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/09/30(金) 17:01:43.73 ID:FkOlt5G60
蝙蝠さーん、ここにいる男全員殺してくださいお願いです!
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/30(金) 19:05:00.79 ID:ENz0cp5R0
殺してしまえ!
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 21:51:23.49 ID:ltBarblb0
こんばんは、今日は長らく書いて行きます。…………きっと。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 22:38:23.87 ID:ltBarblb0
――――――――――――――――――――――――――――――――


一台のスポーツカーがいつ歩行者が通ってくるかわからない公道を、100q/h 以上叩き出して突っ走っている。


「そ〜ら〜をこ〜えて〜ラララほ〜し〜のか〜なた〜♪」


そのスポーツカーの運転手、本名はわからぬが 『雑貨稼業』と周囲から呼ばれる男は、頭に浮かんだ随分古い曲を口ずさむ。

口には煙草を吹かしていて、高速で突っ走っているにも拘らず、片手はハンドル、もう片手は助手席の背もたれに掛けられている。

車内はキツイ香料の臭いで充満し、荒い運転を繰りかえす。

隣の助手席には一つの革製のカバンがある。大きさは人一人入れる程だ。


「いくぞ〜アトム〜ぜぇっとのかじぃいり〜………ん?」


と、雑貨稼業の男は眉をひそめた。

もうすぐ高速道路にはいる頃。 前方に誰かが立っていた。

女だ、それも中学生くらいの女の子。

まるでこの車を通せんぼしているかのようだ。


「あぁ? なんだアイツ………。 まぁいいか」


面倒だから、轢いて行こう。

男はそう思った。

いや、やっぱり連れて帰ろう。 気絶するほどのスピードで当たり、連れて帰る。

んでもって、今日買った商品と一緒に吊し上げてサンドバックにしよう。いやそれとも、ベッドの上に縛り付けて犯そうか。

一通り考えたが、雑貨稼業はとりあえず轢いても死なない程度になるまでスピードを落とそうと、ブレーキを踏む。

キキーッと甲高い嫌な音を響かせ、黒い轍を刻みながら スポーツカーは少女へと突進する。

そこで、男はある異変に気付いた。


「…………あ?」


少女は指でコイン(?)を取り出し、指で打ち上げた。

何してるんだ……? と疑問に思ったが、雑貨稼業は無視した。

しかし次の瞬間、命の危機を迎えることになる。





いきなり、少女の指先から光線が目の前へと迫った来たからだ。




367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 23:13:38.32 ID:ltBarblb0


「ぇ…? ……ちょちょちょっ!? ぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」


一閃。

たった一閃の光線が、スポーツカーの屋根を破壊した。

雑貨稼業はハンドル操作を誤り、近くのガードレールに突っ込んだ。


「アタタタタタ……。 まったく、どこの破壊兵器だよ!」


飛び出したエアバックに頭を突っ込ませて、雑貨稼業は叫んだ。

スピードを落としていたのが幸いし、死なずに済んだ。

破損したのはちょうど彼の真上。 激しい雨が体を叩く。

高級ワックスでセットした髪は無残にズブ濡れになった。 新しく買ったブランド物の服も然り、ついでに自慢じゃないが、自分が持っている車で一番高級なスポーツカーの中も洪水状態だった。


「誰だ、こんなことする奴は!!」


雑貨稼業はさっき少女がいた場所を見る。 いったいどこの誰だ、指先から破壊光線を出すヤツは。 どこのグレンダイザーだ。

しかしそこには誰もいない。


「あれ!? さっきまでそこにいたのに……」


男はゾクッと背中震わせた。


とその時、コンコンッと誰かがすぐ横の窓をノックした。


「あぁ!?」


雑貨稼業はノックした誰かを睨む。


そこには、サラシを胸に巻いたブレザーを羽織った高校生くらいの少女だった。


彼女はニコニコと人の良さそうな顔でこちらに手を振る。

雑貨稼業は頭に『?マーク』を立てると……。



少女はいきなり、どこからか持ってきた日本刀の鞘で、窓のガラスごと雑貨稼業を殴った。



「っぐぅっ!?」


少女は割った窓から車の鍵を開け、戸を開ける。

そして数本歯が折れた雑貨稼業の腕を掴み取り、車の外へ引きずり出した。


「……ぅぅ……って、ちょいと待て!! ………イテッ…がぁあ……っ!!」


頭からコンクリの地面へと落下した雑貨稼業は、痛みを抑えようと頭を押さえるが、少女は待ってくれない。

ツカツカと革靴を速足で鳴らして足を進める。ザラザラした地面が雑貨稼業の頬の皮を削った。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/30(金) 23:45:37.06 ID:ltBarblb0
「アデデデデデッ!」


悲鳴を上げる雑貨稼業、しかし少女はそれを無視。 それどころか、近くにあった落書きだらけの壁に叩き付けた。


「ぐほぉっ!」

「言いなさい」

「はぁ!?」


少女は低い声で、無表情で言った。


「あなた、あの廃墟で何をしていたの? 答えなさい。 お姉さん優しいから3秒待ってあげる。 はい、イチ」

「はっ、なんだよ、何言ってんだ?」

「 ニ 」


雑貨稼業は叫んだ。


「それよりも、なんなんだよお前は!? 人の車メチャクチャにしやがって、あれはなぁ! サリーンの新モデルなんだぞ?!」

「 サン 」

「おい!! 聞いてんのか!?」


苛立ちを隠せなくなり、憤怒した雑貨稼業は立ち上がり、少女の胸倉を掴んだ。

雑貨稼業は少女の、奇麗な頬を殴ろうと、右拳を振りかざした。


「おい!! 喋れ雌豚!!」


―――――――が、その手は彼女の頬には届かなかった。


「あ?」


少女は、雑貨稼業とは離れた場所にいたからだ。 しかも後ろを向いてる。

………あれ? なんであいつ、あんな所にるんだ?

畜生、空間移動系の能力者か!


きっと、自分の攻撃を回避する為、空間移動したのだろう。 雑貨稼業は分が悪いと踏んでか、すぐに走ってでも逃げようとした。


―――――――しかし、そうは問屋は降ろさなかった。


「………あ、あぁ!? なんだよ、なんだよコレ!? どーなってんだよこりゃぁあ!!」


雑貨稼業は動けなかった。

なぜなら、彼の両手両足が……。



地面に埋もれていたからだ。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/01(土) 00:56:19.22 ID:1/XQ+2m40
コイツマジでゴミやな
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 00:56:41.98 ID:odm7S2Kc0
椅子に座っている様な体勢で、膝から下は地面の中へと入りこんでいて、腰の横には手首から先が地面と一体化していた。

イメージなら、掘り炬燵で寛いでいる感じだ。


だが、現実は温もりを与えてくれなかった。



「あ、あ、ああああ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



公道のど真ん中、車が普通に通るこの道で、地面に埋もれた男は、恐怖と驚きで涙目になりながら絶叫した。


「いい様、よき様、 すごい様……。いい声で鳴いてくれるじゃない……」


少女は雑貨稼業に微笑む。 天使の様な悪魔の笑顔だった。


「ほら、言って御覧なさい? あの廃墟で何をしていたの? ほら、言ってみなさい?」

「ああ…ああああ」


雑貨稼業の耳には少女の言葉は入っておらず。自分の手足の無事を最優先させた。 結果として、少女の問いには全く応えなかった。


「そう、それでも答えないの……」


少女は雑貨稼業の目の前に一瞬で移動し、右手で持っていた一本のまだ鞘に収められたままの日本刀で雑貨稼業の横顔をぶん殴った。


「がっ!」

「答えないなら、ちょこっとだけ痛めつけることになるけど……いいかしら?」

「は、はぁ!? ……………ぐぁっ!!」


少女は雑貨稼業を殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る、殴る!


「がっ、ごっ、ぐっ、がぁっ、うぇ……………」

「ほらほらほら、さっさと話さないと死ぬわよ? 殺すわよ?」


顔の原型を留めなくなった雑貨稼業の顔は真っ赤に腫れ上がり、まるで蛸の様になった。

少女はフィニッシュとして顎に蹴りを食らわせた。

雑貨家業の口から何本かの歯が飛んだ。


「あ、あが……」

「ほら、さっさと話しなさい?」

「は、はなふ、はなふ……(話す、話す……)」

「うん、いい子ね。 じゃあ行って御覧なさい? ほら、お姉さん聞いてあげるから……、ねぇ…?」


少女は天使の様に笑う。 雑貨稼業は腫れた口で何とか話した。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 01:19:15.63 ID:odm7S2Kc0
「あ、あそこは、無能力者狩りの…アジト……」

「うん、それで? それだけじゃないでしょ?」


少女は手に持っていた刀を抜き、抜身の真剣を雑貨稼業の首に当てた。


「知ってる? 頸動脈って、ここから約3cmの深さにあるんだって? ………試してみる?」

「ひぃ!! わ、わかった、わかったから……」

「なら、話しなさい?」

「あいつら…は、無能力者のガキ……を、ランダムに攫って……、売っている……」

「誰に? 用途は?」

「学園都市の研究所に、……実験体として……。 あと、学園都市の上層部や、……どこぞの……金持ちの……奴隷として……。 俺が、知っているのは、これだけ……」

「本当? まだ知ってない?」

「ホントだ! 知らない!」

「そう、残念だわ。 この刀に血を吸わせるなんて」


少女は、刀に力を入れた。 雑貨稼業の首の皮が斬れ、ぷっと血が出てきた。


「あああああああ! 知らねぇ! 知らねぇ!! やつら、何か金を溜めようとしていたけど、俺は全く知らねぇ!?」

「………本当みたいね。 いいわ、信じてあげる」

「本当か!? だったら解放してくれ!!」

「ええ、してあげる」


少女は雑貨稼業の命乞いに肯定した。 しかし、その言葉とは逆に、彼女の右手は、 刀を持った右手は高々く掲げられた。

その刃は、雑貨稼業に向けられていた。


「ひぃ。 ひぃいいいい!!」


「じゃあ、サヨナラ。 哀れなクソ豚さん?」























372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 01:46:46.13 ID:odm7S2Kc0
――――――――――――――――――――――――――――――――――

「終わったかしら?」

「ええ、奴らの目的は大体わかったわ。 全くとんだクズよ、あいつ等もこいつも」


御坂美琴の問いに答えた結標淡希は、肩をすくめ、親指で後ろを指す。

彼女の後ろには白目を剥いて気絶している男が一人。

先程、結標が尋問(彼女が言うには)をしていて、吐き出させた後、黙らせるために眠ってもらった。

『千刀 鎩』で斬り殺そうとしていると見せかけ、鞘を持っていた左手で首を叩いたのだ。 しばらくは雨に打たれながら眠っているだろう。


「それにしても、よくあんなことしたわよね。 地面の中に人を突っ込ませるなんて……。 トラウマなんでしょ?」

「ああ、それはもういいの。この刀のおかげで大体は克服したようなものだから」


と結標は言った。 ああ、それと、と結標は続ける。


「実はあれ、最初から空洞なの。 あいつを飛ばす前に、足と手のサイズと同じくらいの大きさの空洞を座標移動で作って、そこにあいつを突っ込ませたの」

「………簡単に言うけど、それって結構演算がややこしいんじゃない? よくそんな器用なマネできるわよね?」

「ああ、それはね? ほら、千本の刀を同時に演算したじゃない? それのおかげで演算能力が上がったみたいなのよ」


前スレから読んでくれていた人ならわかるだろう。 結標淡希は『千刀 鎩』を所有していて、千本の刀をバラバラに操作し、敵を嬲り殺しにする技。いわば『座標移動版 千刀巡り』をしていたのである。

それの演算が以上にレベルが高く、脳の負荷がかかりやすい。

それを使用したので、演算能力が上がったのだろう。 と結標は言っている。


さて、そんな話は置いておいて。

結標は御坂に近づき、一つ訊いた。


「で、そっちはどう? まさか死んでましたってオチじゃないわよね?」

「うん大丈夫。 さっき殴られたので怪我しているけど、命には別条ないみたい」


眠っている男のスポーツカーの助手席には一つのカバンが、大きさは人が一人入っているくらい。

その中には、大人しそうな女の子が一人、顔に痣を残して眠っていた。


「とりあえず、どこか安全な場所にまで運びましょう」

「そうね、お願い」


結標は美琴とカバンに入っていた少女と一緒に、どこか安全な場所へと座標移動し、消えた。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 01:50:05.58 ID:odm7S2Kc0
――――――――――――――――――――
今日はここまでにします。 ありがとうございました。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 21:57:34.63 ID:odm7S2Kc0
こんばんは、今日も書いて行きます。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 23:28:54.56 ID:odm7S2Kc0
――――――――――――――――――――――――――――――――

僕はあの日、アジトにいた。

アジトでジャンの帰還を今か今かと待ちわびていた。


あの風紀委員さんがこのアジトに来て、僕に『清掃作戦』について話してくれたのは、昼。

会議の後、パトロールと偽り、コッソリとこのアジトに来たという。

風紀委員としての立場からすれば、命懸けだ。もしもバレれば、あの風紀委員さんが体験するであろう事は大体は予想ができる。

なにせ、恐らくこの作戦を立てたのは、警備員のタカ派の人間だろう。 きっと酷い事をされる。


ジャンからの指示はここで本隊が帰還するまで待機。 数人は車を出し、あちらのアジトから続いているトンネルで非戦闘員の保護をする。

あの風紀委員さんの為にも、そして何より仲間の為にも、『清掃作戦』の火の手から、仲間が無事に生還するのを成功させなければ。


しかし、僕らは彼らの為に何かできないのか?

僕は疑問に思った。

他のメンバーたちもそうだった。

特に最近、空気を圧縮し その周りに膜を作る能力を持つ奴は、こう言った。

『 俺達はあんたと違って、この組織に入った時から何倍も能力が上がった! だから俺達はリーダーを助けられる!! だから俺達はリーダー達を助ける義務がある!!』

と。

彼のその言葉に賛同する者も多数いた。 大体80人の内の約6割だろう。

それはもっともだ。 ジャンさんと僕たちが警備員を挟み撃ちにすれば、ジャンさんが助かる可能性は高くなる。

でも、それは机上の空論どころか子供の絵空事に過ぎない。


なぜなら、あの風紀委員の人曰く、警備員の装備は今まで見てきた物とは全くの別物だからだ。

敵の標準をオートで合わせるマシンガン。

最高速度300q/h を超える暴走戦車。

空から500K/hで敵を追い、機関銃とミサイルでそれを殲滅する軍用ヘリ。

しかも、超人的な動きが出来るようになる鎧が新兵器として出て来る。

これらは今回の作戦でテストとして出撃させるそうな。

そんなバケモノ共が、ストレンジをぐるりと二重三重と囲んでいる。
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/01(土) 23:29:42.02 ID:odm7S2Kc0
そんな強靭な壁に体当たりした所で、精々 低能力者か異能力者の僕たちが勝てるわけがない。 ただぶつかるだけ。

もし奇跡が起こり、その壁を通り抜けたとしよう。 それでも、第二の壁が僕たちを待ち構えている。


それを言うと、彼は啖呵をきった。 やって見なければ、わからないと。

それに今度は反論した。 それは勇気ある行動だ。でも、十中八九、それで君は死ぬ。結局 無駄死になるだけだ。


結局、彼にはわかってもらえなかった。

彼は、賛同した仲間たちと共にジャンを助けに行こうと、部屋から出て行った。


やはり、僕には副リーダーの素質はないのか。 もしジャンなら、一言二言でみんなを説得し、その場を仕切る。

僕にはそれができない。

そう僕は頭を抱えた。 仲間を失ってしまうのか。


しかし、先程 部屋を出て行った彼らは戻ってきた。

僕はキョトンとして、どうしたと尋ねる。

その問いに、あの大きな啖呵をきった彼が、青ざめた顔でこう答えた。

『外を見ろ』と。

僕は窓から外を見る。 ………そこには。





―――――――――――武装した警備員がアジトを包囲していた。


377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/02(日) 00:15:24.17 ID:D519l3SL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――

俺達は足止めなんてものじゃない。俺達はいわば、決死隊だ。

俺はそう直感で思った。

他のみんなもそうだろう。


俺の目の前には、細い道路の壁をガリガリと破壊しながら一台の戦車が、200q/hオーバーでこちらに向かってきた。


アジトから3q離れた地点の一本道だ。 この道を真っ直ぐ行くと俺達のアジトがある。

ここへ来ることが分かったのは、俺の能力『予見能力(ロックアハンド)』で予見したのだ。

一年前じゃあ3秒後しか見えなかった未来も、今じゃあ1時間後まで見える。

とにかく、この一本道は絶対に死守しなければ。 ここを通させるわけにはいかない。


俺が『アイツ』から聞いた情報と予見した未来の通りなら、この戦車は学園都市最新式戦車だ。

この戦車の重量は60t。最高速度は300q/h。 前に突いている砲弾はビルを一発で半壊させる威力を持ち、砲台は左右に360度回り、上に180度反転する。

いわば、どの角度にどの位置に敵がいようとも、この戦車には関係ないのだ。 敵が逃げてもそのチートの様なスピードで追跡し、人間の足じゃあすぐに押しつぶされてしまう。

まさに無敵の陸の王者という名に相応しい強さだ。

でもどんなに最強の王者でも、弱点はある。


今、この戦車は200q/hでこちらに向かっている。

『予見能力』で見た未来の通りなら、この戦車は大砲は撃たず、俺達を轢き殺そうとしているはずだ。

そこを俺達は逆手に取る。


俺の隣にいるサブは、そこら辺に落ちてあったコンクリの塊を手に持ち、摂氏1000℃の溶岩の塊に変える。

サブはその塊を戦車に向かって遠投した。 塊は戦車に見事クリーンヒットし、一部の装甲が少し融けた。

運転手は怒ったのか、目的の俺達を見つけたのか、スピードを上げた。

俺達はすぐに回れ右をして、逃げる。

無論戦車は俺達を粗挽きミンチにしようと追ってくる。


予見通りだ。


戦車は俺達の50m先にまで迫ってきた。 200q/hオーバーのスピードだ、そんな陳腐な間合など、5秒も持たずになくなってしまう。


距離、40m

30m

20m

10m

5m


5mにまで差しかかってきた、その瞬間。


戦車は一瞬にして消えた。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/02(日) 01:03:12.59 ID:D519l3SL0

いや、消えたのではない。


―――――――落ちのだ。落とし穴に。


戦車の弱点。 それはあまりにも重すぎる重量。


実はあらかじめ地面に、シンの能力で穴を掘っておいたのだ。

そして その底はマンションの能力で土を水で溶解させた。

60tもの重量を誇る戦車を底なし沼の容量で沈ませる。

結果、戦車は落とし穴に這い上がろうともするも、重量が仇となり、這い上がる間もなく戦車は沼の中へと吸い込まれていくという寸法だ。

中に入っていた運転手たちは脅えた悲鳴を上げながら戦車から出てきた。 そして『助けてくれ』と命乞いをしてきた。

俺はボンに助けさせ、殺さない程度に痛めつける。 ついでに情報も聞き出そう。

捕虜から情報を吐き出させ、俺たちは警備員内で情報のやり取りするトランシーバーを奪って逃げた。


まずは一つ。 恐らくこういった戦車はあと九つあるそうだ。

でも全部倒すのは少々ハード過ぎる。 またこのバケモノ戦車の他にも軍用ヘリも千人単位で包囲する警備員の歩兵もある。

みんな俺達を狙っている。 ボヤボヤしてられない。

なんとしてでもあのアジト、非戦闘員たちが脱出するまで死守、これが絶対条件。 そしてそのあと、俺達が何とかしてトンネルから脱出する。

このムリゲーだろと突っ込みたくなるような状況を、死ぬ気で切り抜けなければ、ならなかった。


とりあえず、この場から移動する。

次はここから2q先の高台に行く。 5分後に、そこに軍用ヘリが通りかかるのだ。 俺達はそこを狙う。


379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/02(日) 01:45:57.87 ID:D519l3SL0
―――――――――――――――――――――――――――

「……しっかし遅ぇなぁ…あいつら」


無能力者狩りのアジトの駐車場に、一人の男が立っていた。

男は先程、雑貨稼業と呼ばれる男に商品”を渡していた男だ。

付け加えるなら、雑貨稼業が商品”を選ぶ際にボンと一緒に接客をしていた、ボンのアシスタントをしていた男である。

彼は商品をカバンに詰め、雑貨稼業に手渡し、彼のスポーツカーにまで見送った。

雑貨稼業は今、そのスポーツカーに乗って帰っていった。 これで彼の本来の仕事は終わり、あとは次の仕事を待つだけ。

が、一つ、ある事が気になっていた。


雑貨稼業が帰る直前、25m程向こうの壁の隅から、二人の男女がこちらを見ていたのだ。


何か争っていたのか、男の方がいきなり叫びだした。

それをアシスタントが見つけ、見回りの奴らに追わせたのだ。

きっと風紀委員だろう。 この頃騒ぎ過ぎて、警備員と風紀委員が俺達を血眼になって捜しているらしい。

それを言って抗議した、彼の先輩であるシンが吹っ飛ばされた。 今は医務室で気絶している。

しかし遅い。 いつまで兎を追っていれば気が済むんだ?


「まったく、どこで何してんだよ まった」


悪態をついて見せてもあいつ等は帰ってこない。

まさか捕まったりしてないよな?

今は見張りは交代してある。 それに、もうじきに二人目のお客が来る頃だ。


(リーダーに連絡をするべきか? でも、そうなれば折角の大物の客を逃すことになる)


あの客は金を多く落としていく。 もしその客を引き返させたら、今日入るはずだった金が無くなるのだ。

そうなれば、あと一日二日で終わるはずだった誘拐も、もう三日ほど続けさせらせることになる。

そうなれば、警備員や風紀委員に逮捕される可能性が非常に高くなるのだ。

しかし、だからと言って、このまま風紀委員(?)を泳がせるわけにはいかない。彼らが本部に連絡する可能性だってある。


悩んだ、アシスタントの決断は…。


「しょうがねぇ、背に腹は代えせねぇか」


前者を取った。

あいつらを追っていったのは結構の手練れだし、風紀委員でも弱い奴はいる。 心配ないだろうし、もし危なかったらこっちに連絡してくるだろう。


そんな事を考えている時、上空から強い風と、バラバラバラと爆音を鳴らしながら、近づいてくる物体があった。

それは、一機のヘリ。

ヘリはゆっくりと降下し、駐車場へと着地した。
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/02(日) 03:35:58.85 ID:D519l3SL0
着地したヘリの側面のドアが勢いよく開けられる。

そこから、一本の足が生えた。 いや、違う。 一人の男の足が地面に足を付けたのだ。


男の年は中年以上高年以下と言った所か、身に纏う品の良いスーツに長いマフラーを肩にかけていた。 その身から高級感を漂わせていた。


男と一緒に、傘持ちらしき男が一人が男の付き添い、傘を男にさしている。この男も高級スーツを着ているからして、男の部下か、同類だろう。

彼が、二回目の客だ。

そしてアシスタントの仕事とは、彼の案内役。 ボンが待っている部屋まで男を連れていく事だ。


「やぁ、ひさしぶり」


男がアシスタントに手を振った。

アシスタントは男に頭を下げ、挨拶を返す。


「お久しぶりです」

「ああ、ここで良いよ。 そうだね、用事が済むまで待機してくれ」

「はっ」

「………」


男はアシスタントを軽く無視し、傘持ちに指示を出した。


(……人が頭下げてんのに無視かよ)

「どうだい? 今日はどんなのが入った?」

「はい、今日はなかなかの豊作で、きっとお気にいる物があるかと思います」

「ああ、そう」


アシスタントの言葉に素っ気ない言葉で返す男。

アシスタントはそんな男の態度にイライラとしていたが、怒ってはいけない。 これは仕事だ、大人になれ念じながら耐える。


「どうぞ、こちらへ」

「はいはい」


男はアシスタントの案内に連れられ、アジトへと入っていった。

その場には、駐車場にヘリコプターというシュールな風景を残して。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/02(日) 03:41:10.41 ID:D519l3SL0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでにします。

実は少し後悔しています。 ちっとばっかし話を広げすぎですね。 前スレよりもあっち行ったりこっち行ったりで、わけわからんという方も多いかと思います。

そこのところは申し訳ありません。

こんなつまらない物語ですが、どうぞれからもよろしくお願いします。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/02(日) 03:53:30.23 ID:uCMYgLPS0
話を広げすぎかどうかはともかく書き方としてはとても面白いと思う
頑張ってください

このところ不眠症で夜中暇なんだよ
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/02(日) 03:54:31.48 ID:uCMYgLPS0
話を広げすぎかどうかはともかく書き方としてはとても面白いと思う
頑張ってください

このところ不眠症で夜中暇なんだよ
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/02(日) 03:56:25.23 ID:uCMYgLPS0
話を広げすぎかどうかはともかく書き方としてはとても面白いと思う
頑張ってください

このところ不眠症で夜中暇なんだよ
385 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/02(日) 10:18:55.82 ID:mq3mC1YDO
ここからの虐殺劇に期待
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/04(火) 01:48:11.55 ID:HJOKHeWz0
禁書映画化 YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

新約3巻 12月発売!! YEAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


超楽しみです!! >>1は昨日、ニュースを見て深夜の部屋ではね跳びました。

し・か・も、黒子のバスケ と めだかボックス がアニメかするじゃあありませんか!!

それに今期からCキューブに君僕。にFateにWORKING'…、前期から俺得なアニメが止まりません。

嬉しすぎて涙が出ます。

今日はCキューブ見ました。

ついでに言うなら、今日は自分の誕生日。 何かいいことありそうですwww







と、いう訳で今夜は休みです。




………………( ゚Д゚)ハァ??
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/04(火) 08:03:12.09 ID:J41jbseA0
禁書映画化!?マジで!!
絶対観るぜ!三巻買うし!

めだかもアニメ化するしアニメラッシュですね!
偽物語もアニメ化するんだぜ
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/04(火) 08:06:37.75 ID:J41jbseA0
誕生日おめでとうございます!
HAPPYbirthday
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/04(火) 23:02:59.42 ID:8rQG2hP40
ほらよ、誕生日プレゼントだ
つAテン
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/10/05(水) 18:02:21.65 ID:V6Gg1zhZ0
傷物語も今年映画するしな。楽しみだー!
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/05(水) 23:53:25.04 ID:0YCGi8GM0
こんばんは、今日も書いて行きます。


あ、誕生日?

ええ、なんにもありませんでしたよ?

決ってるじゃなですか、彼女いない歴=歳の数 のワタクシに、

しかも大学のアパートで独り暮らし、しかもしかも、大学入学して半年も経つのに友人と呼べる人間がいないワタクシが、誕生日を刺激的に過ごした筈がないじゃないですか。


ああ、厳密に言えば、姉と母、それと高校のクラスメイトにメールで『おめでとう』と言われました。

ちょこと、有難かったです。


>>388
有難う御座います。 実は誕生日を祝ってくれたのは、あなたが初めてでした。嬉しかったです。

>>389
Aテン……有難う御座います。

>>387>>390
映画化、楽しみですね。 今決定したのは、上の以外で『BLOOD-CHABAN』と『青の祓魔師』ですね、2つとも「なんだこれ?」っていう終わり方だったので、映画版は是非見ておきたいです。


さて、今夜は遅いですが、1つ2つか、頑張って書いて行こうと思います。



P.S Aテンって……なんでしょうか?
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 00:43:06.27 ID:1NrffxfL0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ここは、あの無能力者狩りがいると推測されるアジトから2km離れた、廃病院。

そのとある一室…元診察室だろう部屋に、結標淡希と御坂美琴、それと大きな黒い革製のバックがいきなり現れた。

美琴はウロウロとあたりを見る。 そしてここまで自分を連れてきた結標に訊いた。


「ここは?」

「今はもう使われていない廃病院よ。 さっき飛んでいるときに見かけたの。 とりあえずその子の治療をしましょう。どこか怪我しているようだし」


結標はバックを診察用のベッドの上に置き、端と端を繋ぐファスナーを開ける。


「まったく、連中は本当の本当にクズね」


悪態をつき、吐き捨てる結標はどこかに包帯か消毒液かアルコールが無いか、棚を探る。しかし、どれも汚れているか、腐っているかで、使い物にはならない物ばかりだった。

美琴はバックの中を見る。

そこには、一人の少女が入っていた。

歳は15くらい。 美琴からすれば年上で、結標と同じくらいだろう。

顔のあちこちに青い痣が出来ていて、口を切ってしまったのだろう、口の端から血の痕がついている。

また、目蓋の上も切っていて、血がダラダラと出ていた。


「それは同感だわ」


美琴は唇を噛み、バックの上と下の両先端を見る。

少女は手錠で手首を繋がれ、その手錠はバックの内側と繋がっていた。

ようは常にバンザイした状態だ。 真っ暗なバックの中で、どこからか飛んでくるかわからない拳を、防御できないまま受け止めるのだ。

この様な体勢だと言う事を知っていて、あの男は何発も、何発もこの少女を殴っていたのか!!

美琴は身体を怒りで熱くする。


「……ッッッホントに許せないわ。 超電磁砲10発喰らわしても許さない」

「それは同感ね、あんなクズの様な男共がいるから嫌いなのよ、男って生き物は。 まったく全員、上条くんみたいのだったら良いのに」

「もしそうだったら、この国の少子化の速度は倍になるわよ」

「それは女の腕の見せ所よっと……あった」


結標は奇麗な真っ白な包帯と、


「ウォッカでいい? 大昔のポーランドでは実際に消毒液として使ってたらしいし」


美琴は何で病院にウォッカがあるのかわからなかったが、『まぁいいか』と言った表情で流す。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 01:27:59.24 ID:1NrffxfL0
結標は奇麗で真っ白な包帯と、脱脂綿。 それと…、


「ウォッカでいい? 大昔のポーランドでは実際に消毒液として使ってたらしいし」


高級そうな未開封のウォッカのボトルを持ってきた。

美琴は何で病院にウォッカがあるのかわからなかったが、『まぁいいか』と言った表情で流す。


「とりあえず、口の中と目蓋の血を止めましょう。 御坂さん、この脱脂綿で目蓋の傷の血を止めてちょうだい」

「指図しないで、そんなことぐらいわかってるわよ」


美琴は少女の目蓋を結標から受けとった脱脂綿で抑える。 しばらくし、血が止まった事を確認して、傷口をウォッカを浸した脱脂綿で消毒した。

結標も作業を始める、消毒液で浸した脱脂綿で口元と口の中の傷を消毒していく。


「ま、ざっとこんな感じね」


美琴は新しく消毒液を浸した脱脂綿を目蓋に当て、包帯を片目を覆い隠す形に巻いた。


「そっちはどう?」

「詳しくはわからないけど、たいした怪我はないようね。 肋骨も折れてないし、打撲の様な所もない。 遠目から見ていただけだけど、殴っていた所は顔とかだけだったから、子宮は問題ないでしょう」

「とりあえずこの人はオッケーってことね」


美琴は一つ息を吐いた。 これで一つは解決した。

しかし、問題はまだ山積みだ。

例えば……。


「で、今度はあの“馬鹿”の事なんだけど」

「上条くんね。 きっと大丈夫だと思うんだけど……心配よね」

「まぁ、日頃から大人数の不良共に追いかけられまくっている日常を送っているから、ある程度は大丈夫だし、あいつの能力は『対超能力専用』みたいなモノだしね」

「………心配じゃないの?」


結標は上条の事を想い、心配そうな表情をする。


「大丈夫よ」

「根拠は?」

「この御坂美琴様の電撃・砂鉄・超電磁砲……。すべての攻撃をのらりくらりと躱し続ける男よ? 強能力者かそこらの連中に負ける訳ないじゃない」

「………そう…」


結標はそう返事をしたものの、心の中の不安は拭いきれていないようだ。


(……なるほど、こりゃ重症だわ…)


美琴は「はぁ〜」と溜息をついた。 いったい何人フラグを立てりゃあ気が済むんだ、あの馬鹿。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 02:13:20.91 ID:1NrffxfL0
美琴は立ち上がる。


「とりあえず、ずっと私もアンタに肩担がれたまま移動するのは癪だから、松葉杖、探してくれる?」

「なによ、偉そうに」

「だってしょうがないじゃない、この足じゃあ歩くの遅いし。 ああ、私のタクシーになりたいって言うのなら別にいいけど?」

「あんたねぇ……」


結標は顔を真っ赤にして立ち上がった。 手には『鎩』が強く握られている。

と、そこへ美琴は言葉を被せる。


「ま、あんたが松葉杖をどこからか持ってくるかは勝手だけど。 あんまり遅くならないでよね?」

「…………ふん、いいわ。 これくらいは許してあげる。 探しに行って来ればいいのでしょ? 松葉杖」


結標は『鎩』にかける力を抜いた。


「そう、さっさと戻ってきなさいよ。 ちゃんと松葉杖を持って来てね」

「はいはい、行けばいいのでしょ、行けば」


後ろに振り返り、結標は松葉杖を探そうと、あたりをウロウロする。

……と。


「で、その前に……」


診察室の入り口のドアの方を向いた。


「出て来てきなさい。 いるんでしょ? 趣味悪いわね、ガールズトークを盗み聞きするのは」


そう言って結標は、持っていた『鎩』の刃を座標移動させ、そのドアに刺す。


「おっとっ……!?」


ドタンっ! と誰かが尻餅を突く音。

結標は速足でそのドアへ向かい、ドアに刺さっていた『鎩』を抜いて、ドアを開ける。

ドアの外に尻餅突いている者に、結標は『鎩』の刃を向け、脅した。


「言いなさい、あなたは何者? 何のためにここにいるの? そして何をしにきたの?」
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 02:31:36.22 ID:1NrffxfL0

「おおっ、そんなモンこっちに向けんなよっ」


男の声だ。

美琴はバチッと紫電を鳴らす。

もしかしてあの無能力者狩りの仲間か!?


「お前らなんだ!? いきなりそんな物騒なモンで脅しやがって!」


どうやら敵ではないらしい。 きっとここに住んでいる者なのだろう。


「その人は敵じゃないみたいね。 放してやったら?」


と美琴。

結標も同意見だろう、刀を降ろした。


「入りなさい」

「へーへー、こりゃどうも」


男は診察室に入ってきた。

美琴は男を見る。


その男は不思議な男だった。

特に恰好。

頭は真っ白な髪をしていて、目は赤。 まるでこの学園都市最強の超能力者を思い出すが、彼とは違う。

なぜなら彼はガッチリとした大きな体をしていたか体。 彼の人はモヤシの様にヒョロリとしていて、この男とは真逆の存在だ。


「で、どこから聞いていたの? それとあなたは何者?」

「聞かなくても言うよ。 俺は元から子の学区に住んでいたモンだ。 んで、高校中退した後、寮を追い出されて、このオンボロ廃病院に住んでんだわ」

「で?」

「聞いたのは全部だよ、お前らがこの部屋に入っているトコ所からね」


男は得意げにそう言った。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 02:32:24.88 ID:1NrffxfL0
―――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです、眠いの…むり。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 16:36:41.87 ID:1NrffxfL0
昨日は途中でダウンしてスイマセン。

今日はちゃんときちんと書きます。 とりあえず、1800まで書きます。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 17:34:48.83 ID:1NrffxfL0
――――――――――――――――――――――――――――

「しかし酷いな、人のウォッカを勝手に使うなんて。 それ高かったんだぞ?」

「緊急なのよ、それくらい許しなさい」


結標は『鎩』を鞘に収める。

それを見た白髪の男は『鎩』に興味を持ったのか、結標にこう言った。


「いい刀だな、ちょっと見せてくれないか?」

「ダメよ」

「ケチだな」

「ケチで結構」


結標は白髪の男を斬って捨て、美琴に嫌味を言うようにこう言った。


「………じゃあ御坂さん、あなたの要望通り、松葉杖持ってくるから大人しく待ってなさい。 いつになるかわからないけどね」

「わかったわ、じゃあ雷に打たれないようにね」

「あなたじゃないんだからそこは大丈夫よ」


そう言って、結標は消えた。



「………お前、素直じゃないんだな」


白髪の男が言った。


「うるさいわね、いいでしょ別に」

「素直に言えばいいのに、『上条当麻を助けに行って来い』って」

「それが癪に障るのよ」


美琴は痛む足を庇うように歩き、松葉杖を探す。

しかし、ここら辺に置いていないようだ。 いったいどこにあるのだろう?

と美琴は首を傾げる。

そこへ白髪の男が助け舟を出した。


「ここは皮膚科の診察室だ。お探しの松葉杖が置いてあるのは形成外科跡は向こうの部屋だったはず。 そこなら松葉杖の一本や二本、置いてあるだろう」

「あ、ありがとう」


数分後、美琴は松葉杖をついて、あとテーピングを持って向かいの診察室から帰ってきた。


「お帰り」

「…………っ。………ただいま」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 18:04:06.70 ID:1NrffxfL0
美琴は喉に何かが引っ掛かる感覚を感じながら、先程に応急処置をした少女が眠るベッドの上に座った。

そう言えば、手錠外してなかったっけ。 と美琴は少女の手首を見る。


(……あ。)


しかし、手錠は外されていた。

きっと結標がここから座標移動する前に手錠を外して行ったのだろう。


「……ホントに全く……」


美琴は微笑む。


「そう言えばさぁ、結標淡希って言うんだっけ? あの子、凄いよね、いきなり現れて消えるなんて。 あれが彼女の能力?」


白髪の男は訊いた。

鬱陶しいが、無視をすればしつこく聞いてくるだろうと美琴は判断した。


「そうよ、『座標移動』って言うらしいの」

「へ〜それはどんな能力なんだ? 詳しく聞かせてくれないか。 御坂美琴さん」

「ざっと簡単に言うなら、座標上の二つの点を………」


突然、美琴は固まった。

途中で何かを思考しようと会話を中断したのだろうか? それとも何かを思い出したのか?

目線の先に何か得体のしれない物があるのだろうか? 原因不明の病魔が突然襲ってきたのだろうか?

誰かが彼女を金縛りの術に掛けているのだろうか? 何かのショックで脳が停止したのだろうか?

彼女だけ時間が停まったのだろうか? 会話を中断しようと悪戯しているのだろうか?


いや、違う。 全く違う。



わかったのだ、この喉に引っ掛かる何かが。


それは“違和感”。


美琴はその違和感の正体が判明したため、会話を打ち切ったのだ。



そして、美琴は口を開く。



「ねぇ…、あんた。 一つ、一つだけ質問いい?」

「ん? なんだ? この俺にわかる事ならなんでも言ってくれ」

「じゃあ、訊くけど……」


美琴は目を丸くして、こう口にした。




「なんで、私達の名前を知っているの?」




この時、近くに落ちた雷が轟音を轟かせた。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 21:58:13.36 ID:1NrffxfL0
「そうよ、だって私も結標も、お互いの名前をアンタに言ってない!」


美琴が訊いたとき、白髪の男はキョトンとした表情だったが、今はその表情をやめ、ニヤニヤとした表情をしている。


「アンタ、なんで私達の名前も、それにあの馬鹿の名前も知ってんのよ!!」

「そうだな、それは俺が何でも知っているからだ。 御坂美琴」


男は続ける。


「御坂美琴、そうだね、簡単に、そして難しくいうと、俺という存在は俺じゃないんだ」

「っ!? どういう事!?」


美琴は紫電を鳴らし、白髪の男のすぐ傍に電撃の槍を撃った。

人間がモロに当たれば一発で気絶するレベルの高圧電流だが、男はジャンプして避け、全くのノーダメージ。


「くっ」

「おいおい、人様になんてモンぶつけてんだテメー。 っと、それより……」


男は美琴の後ろを指さした。

ベッドの上。 一人の気絶している少女である。


「ホラ、こんな俺に構っている間があったら、一つでも彼女から何か聞いておく必要があるんじゃないのか?」

「えっ?」


美琴は後ろのベッドを見る。


「…………ぅぅ……」


少女は呻き声をあげた。どうやら意識が戻ったようだ。

すぐさま美琴は駆け寄り、少女に言葉を掛ける


「あっ、大丈夫!?」

「………あれ………ここ、どこ?」

「良かった、どこか怪我していない!?」

「え? あ、はい………ここ、どこですか?」

「ここはあの廃墟の外よ!」

「私、助かったの?」

「うん!」

「そう…助かったの……よかった………。………え? ちょっと待って? わ、私だけ!?」


少女はいきなり美琴に迫ってきた。


「えっ!? うん」

「お願い!!」

「えっ?」

「みんなを助けて!!」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 22:21:15.56 ID:1NrffxfL0
「ごめん、ちょっと待って。 話は大体知ってる」


美琴は自分の服をものすごい力で掴んでくる少女の手を解き、落ち着かせる。


「あそこは誘拐してきた人を、人身売買するところよね? 合ってる?」

「それだけじゃないの! それだけじゃないの!!」

「……?」


少女は気迫を持って訴える。


「人身売買で売れ残った人たちは……人たちは……」

「ど、どうしたの?」

「ぅ…ぅう……」


少女は泣き出してしまった。


「あ、ああ、ほら、落ち着いて? ね、ねぇ。あなたがいたところに、佐天涙子って人と、吹寄制理って人いなかった?」

「……!! ふ、二人を知っているんですか!?」

「ええ、一応、友人だけど……」

「だったら早く行ってください!!」

「えっ!?」

「早く!! 行かないと私の様になってしまう!!」

「…………?」


美琴は戸惑った。 それと困惑した。 いったい、あの廃墟で何が起こっているのか。


「とりあえず、名前聞いていい?」

「うん」

「それと、あそこで何が起こっているのか、辛いと思うけど、詳しく教えて? お願い」

「うん」

「じゃあ、先にあなたの名前から」

「わ、私の名前は……」


少女は鼻から出た鼻水を啜り、涙を拭いて、自分の名前を言った。





「私の名前は、木縞春花です」





日が暮れ、外は段々と暗くなってきた事を、美琴はその時忘れていた。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 23:24:11.22 ID:1NrffxfL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――


拳銃は木縞春花の腹部を捉えていた。


「木縞さぁん!!」


吹寄は咄嗟に飛ぶ。


ぱぁん! ぱぁん!


銃声が2回鳴った。

『圧縮空銃』が放たれたのだ。


「が、っがぁぁぁああああ!!」


吹寄は自分の腕を抑える。


「チッ、殺りそこねたか」


男は銃をポケットの中へ入れた。

男が撃った空弾(空気の弾)二発の内、一発は木縞の胸に当たり、もう一発は吹寄の腕に当たった。

木縞は何とか生きているが、気絶しているらしく、ピクリとも動かない。


「ほら、立て」

「ぅぁああ…!」


男は吹寄の長い髪を掴み、持ち上げた。


「安心しろ、殺しはしねぇ。 でもよぉ、殺さねぇのはお前らが“商品”だからだ。 決してお前らを『殺したくないから殺さない』からとかじゃねぇ事を理解しな」


男は吹寄に平手打を打つ。

パンッ! という響きが部屋中に響く。

一発だけでなく、男は何発も何発も平手打をした。

男は気が晴れたのか、吹寄を遊び飽きた玩具の様に投げ捨てたのは、これより数分後である。


「うっ!」

「そこんとこ、理解したら今後用心するんだな。 お前らは家畜で、俺達は牛飼いだ。 牛は牛らしくケツ叩かれながら喘ぎ声でも出してろ」

「くっ…」


襲う言い捨て、男は木縞の足を持ち、引きずりながら去っていった。
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/06(木) 23:56:24.85 ID:1NrffxfL0

「……くそっ!!」


吹寄は激昂し、地面を殴る。


「吹寄さん…」


佐天は心配そうな目で話しかけてきた。


「大丈夫です、きっと助けに来ます。 それまでの辛抱です!」

「…佐天さん…」


吹寄は顔を上げた。 とその時、誰かが反論した。


「果たして、そうでしょうか」

「!?」

「っ!!」


満潮燦だった。


「実は、人づてで聞いた事があります。 ここ一か月、学園都市での行方不明者の数が大幅に増えて、とうとう30人を超えたとか」


満潮は続ける。


「それもその殆ど…というよりもほぼ全員が学園都市の生徒で、しかも女の人ばかり……。 これは勘なんですけど、30人の行方不明者はきっとあの人達がやったんやと思います。 吹寄さん、佐天さん、私達、本当に助かるんでしょうか」

「………」

「………」


沈黙が訪れる。

あまりにも重すぎる状況に、一同の口も重くなる。

しかし、その沈黙を打ち破ったのは、佐天だった。


「だ、大丈夫です!! 実は私の親友は風紀委員で、私が誘拐されるところを目撃しているんですよ! だから、初春は今頃、私を必死になって探してくれています!!」


“初春”と言うのが親友の名前だろう、吹寄は吹きだした。


「ははっ…」

「な、なんですか吹寄さん、人が折角落ち込んでいるみんなを励ましているって言うのに」

「いや、ごめん、つい……。 だって、佐天さんさっきから足がガクガク震えているじゃない」

「あ……」


佐天も実は恐いのだ。 これからどうなるのか、わからないから。

でも、彼女はそれを必死に抑え込んでいる。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/07(金) 01:17:11.31 ID:3U0Vhl1H0

「いいな、そう言う風に助けてくれるだろうって言える人がいて」


吹寄は天井を仰いでそう言った。

それを佐天がどうしてと聞く。


「だって、佐天さんみたいに風紀委員に知り合いはいないし、誘拐時は連れが席を外していたから目撃者はいない。 きっとあいつは勝手に帰ったんだと思っているのよ」

「そんな寂しい事言わないでください」

「いや、そう言う奴なんだ。 そう言う奴なんだよ、あの男は」


吹寄が寂しそうにした遠い目を、佐天はある事が原因だと予測した。


「吹寄さん……彼氏さんですか?」

「はぁ!? ち、違うわよ!! なんであんな男を、わ、私のこ、恋人にしたくてわにゃらないんだ///!!」

「あら、紅いですよ? 吹寄さん」

「こ、こら、からかうな///」

「またまたぁ〜照れちゃってぇwww」

「こらっ」


吹寄は佐天の頭をコツンと叩いた。

するといきなり、周りがはははは……と笑った。


「へ?」

「ははははっ……もう、佐天さん達面白すぎるわ。 はははははっ」


近くで座っていた笹斑は笑う。


「はははっ……はぁ……こんなに笑ったのは久しぶりよ。 ありがとうね」

「もう、こっちは真面目にやってるってのに……」


そんな中、吹寄は話題を変えた。


「笹斑さん、いま、誰が残ってる?」

「私とあなたと佐天さん、満潮さん、天導さんに音無さん、社さんとフレメアちゃん、あとは咎咲さん9人」

「ずいぶん減ったわね」

「きっとどこかの実験所のロクでもない実験に使われるんでしょうね」

「そんな…」

「まぁ、あなた達が言うように、助けが来るなら16人みんなが助かるでしょうけどね」


笹斑はそんなこと言ったが、『話題を変えましょう』と言った。


「楽しい話でもしましょう? こんな重たい空気じゃあ、死んでも死にきれないわ?」

「そんな縁起でもない事言わないでください」

「冗談よ、佐天さん。 時に佐天さん、あなた柵川中学だったわよね?」

「ええ、それがどうしたんですか?」
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/07(金) 02:36:14.17 ID:3U0Vhl1H0
「笹川中学の三階の社会準備室の亀、まだ生きてる?」

「え? 知っているんですか!?」

「ええ、なんて言ったって、私も笹川中学だったもの」

「奇遇ですね。 ああ、あの亀は今でもご健在ですよ! 社会の美濃谷先生がちゃんと面倒見てます」

「そう、美濃谷先生まだ先生やってたんだ……、懐かしいな……」

「そうそう、この前、その亀が逃げ出して、美濃谷先生を始めとした先生全員が学校中を捜索したんです!」

「そんなみたいなの、私がいた時もあったわ。 水槽からどうやってか脱出して、三時間も逃げ回って」

「仕舞いには全校生徒を駆りだして、とうとう見つからなかったんだけど」

「翌日、元の水槽の中に戻っていた!」


ハハハハハハハハハハハハッ!!


二人はまた笑いだす。


「まさか同じことがまた起こるなんてね」

「いや、あれは面白かったです。 あの気難しい美濃谷先生の申し訳ない顔が特に!」

「二回もしてしまうなんて、最高に面白いわ」


あはははははははははははははっ!!


ああ、なんて楽しいのだろうか。

いつなら、初春と白井さんと御坂さんと、楽しい話をしているのに。

そこは平和で、安全で、心から信頼できる人達と過ごす時間、日々。 その一分一秒が楽しかった。


でも、このいつ我が身に危険が降りかかるかわからないこの牢獄の中は、何故か楽しかった。

初春はいない。白井さんもいない。御坂さんいない。

決して平和でなく、安全など毛ほどもない。

しかし心から信頼できる人間はいる。

吹寄さん、笹斑さん、満潮さん、天導さんに音無さん、社さんとフレメアちゃん、あとは咎咲さん。

こんなに信頼できる人間がいるから、私は楽しい。



佐天は、そう感じた。

吹寄もそうだった。 笹斑もそうだった。

満潮もそうだ。天導も音無も然り。 社さんもだ。 ずっと眠っているフレメアもきっと、ずっと隅で正座をしている咎咲もそうだろう。

ああ、この地獄の底の様なガラスの牢獄で、こんなに信頼できる“仲間”が出来るとは。

時間よ、止まれ。 このまま時が止まり、地獄がやって来ないように、この幸福の時が永遠に続けばいいのに。佐天は心の中でひっそりと祈る。



だが、時間は残酷にも進む。

幸福の時間が、叩き割ったガラス細工の様に崩れていった。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/07(金) 02:51:37.59 ID:3U0Vhl1H0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

二日連続で夜更かしは次の日が怖いです。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 03:22:15.43 ID:rrK9rLYIO
ROM専だがたまには乙をしよう
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/08(土) 22:25:35.92 ID:d00pYjsc0
こんばんは、今日も書いて行きます。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/08(土) 23:22:42.03 ID:d00pYjsc0
――――――――――――――――――――――――――――

今頃、御坂美琴と結標淡希が第十九学区に向かっているであろう頃、風紀委員第七学区177支部では固法美偉が昔起った、とある事件の報告書のページを捲っていた。


「汪誠者は結局、事件が起こる事を知っていながら、作戦に巻き込まれたの」


と、固法は語る。

しかし、固法の話の傍聴者であった初春飾利はある疑問を感じた。


「それっておかしくないですか? その……『彼』に密告した風紀委員の人が作戦の事を聴いたのは、その日の事じゃないですか。それでその当日に作戦開始って…」


初春が言いたいことは要するに。


「準備が早過ぎませんか? まるですでに討伐の準備は整っていたなんて……。まるでいつでも作戦決行できたみたい……」

「そう、これは私の考えなんだけどね? 実は汪たちを随分前から気に喰わなかった人がいた、今にでも潰しておきたいってね」


当時の組織は有名だった。 それは一般生徒からはヒーローだったが、警備員や風紀委員、それにスキルアウトからすれば、ただのいい迷惑だった。


「でもそうしたいけど相手は大能力者が5人。 普通に相手しても敵いはしない、それどころか問題になる。 だって相手の正体は優秀なだけな普通な一般生徒なんだから」


それに当時の情勢からすれば、犯罪者を摘発するように彼らをしょっぴいてしまえば、当時のヒーローが捕まったと生徒たちが反乱を起こす危険があった。


「だから、キッカケが欲しかった。 彼らを襲う口実、摘発する大義名分、そして反乱が起きない言い訳」


初春は頷く。

恐らく彼は待っていた。 あの忌々しい奴らを撲滅し、滅殺し、討伐する事が出来る、そんなジョーカーを。


そして、そのジョーカーは彼の手に渡った。


「『果報は寝て待て』 その言葉通り、待ちに待ったキッカケは出来た。 それは警備員に直接喧嘩を売る事件」



それこそが、警備員の武器製造工場襲撃事件である。



「キッカケはそれだけ。 口実はできた。大義名分もある。あとで責められても『スキルアウトを摘発する所に運悪く居合わせたヒーロー』として言い訳も出来る。 あとは作戦を立て、軍備を整えて気を待つだけ」

「……汚いですね」

「ええ、汚いわ。 でも、そうするしかなかった」


なにせ英雄を斬る王は必ず民衆から非難される運命にある様に、警備員も風紀委員も迂闊に汪が率いる組織を攻撃できない。

彼らを狩れば、今度はこっちが一般生徒に攻撃され、非難され、仕舞にはこの街の規律が崩れてしまう可能性があった。

しかし、その心配も躊躇も無い。

口実はできた。大義名分もある、言い訳のネタは完成した。

だから思う存分に彼らを狩れる。

目の前にあるのは、狩人に見つかったか弱き兎の子だ。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 00:16:57.65 ID:YU7yaEoa0
「最初から軍備を整えてあった。あとは作戦を実行するのみ。しかし、ある疑問が残る」


それは、彼らのアジトだ。

汪は自分のアジトを決して誰にも見せなかった。無論、部下たちもだ。

スキルアウトに聞いても誰も知らないといい、上空の衛星カメラから見てもわからない。

ストレンジにある事はわかっている。だが、そこのどこにあるのかは全くの謎だった。

その為、スキルアウト一掃するという作戦という名目で汪たちを駆逐する作戦に打って出たが、結局彼らのアジトはわからなかった。

その分彼らは慎重すぎる程に行動し、そして本拠地を他の組織には絶対にわからない場にするという巧妙な頭脳を持った人間だったのが、わかる。

果たして、彼らのアジトはどこにあったのか?


「そればっかりはわからないわ。 ただ、この作戦の情報は一切シャットダウンされたのが目立った。作戦の決行日の直前になるまで風紀委員にまで報告されなかった程にね」


理由。 それは、情報が漏れるのを防ぐため。

本音を言えば、風紀委員にも知って欲しくはなかったが、あの場所に偶然居合わせたら大変なことになるだろう。


「だから当日まで言わなかった。 この記録者もそう書いているわ。 ………どうも、この人は私と気が合うようね。考えていることが一緒」

「なるほど、だから彼らは警備員の策略通り、作戦に巻き込まれたのですね?」

「まぁ、そんなところね。 この作戦はほんの一部の警備員にしか実行されていなかったらしくて、他の警備員も全く知らなかったそうよ」


固法はページを捲る。


「流石に記録者はこの作戦内で起こった事はわからなかったようね。 結果だけしか書いていない」


そこに書いてあったのは……。


拘束者………304人

逮捕者………153人

拘束者、逮捕者の内、ケガ人は423人。 内、軽傷38人。重傷380人。意識不明5人。

死者 …………40人


「……この通り、学園都市史上最大の惨劇と呼ばれてもおかしくない内容だった。 汪の組織の人間の内、5人も死者を出し、10人が拘束された。 もちろんその他はいい迷惑よ。その殆どはスキルアウト。中にはスキルアウトどころか全く関係ない人間もいたそうよ」


固法は、さて、と話を転がした。


「重要な汪誠者はどうなったと思う?」

「………え!? その逮捕されたんじゃないんですか!?」


初春は目を輝かせた。


「そう、実は警備員が確認した人間の中には、汪誠者はいなかったの。 拘束者・逮捕者の中にも、死者の中にも。 しかも、汪誠者は部下5人と共にあの警備員の包囲網を突破し、姿を消したの」

「す、すごい……」


初春はテーブルに置いてあったココアを啜る。


「初めて聞きました、そんな事があったなんて」

「実は私も先月知ってね? 偶然にこの報告書を見つけたわ。 まぁそうよね、警備員だってこんな大惨事、封印したいわよね」


と、固法はページを捲る。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 00:58:44.29 ID:YU7yaEoa0

すると、悪戯をする子供の様な顔をした。


「………ねぇ…じゃあなんでこの記録者は、警備員と連携が強く、汪の組織を良くは見ていなかった風紀委員という組織にこの報告書を書いたと思う?」

「……?」


初春は首を傾げる。


「ヒント、この事件が終わったらあなたが必死になって書くものよ」

「あ! 始末書!!」

「そう、始末書よ」


ああ、なるほど…とウンウンと頷くが、再び頭の上に『?』を浮かばせる初春。

そんな彼女に固法は回答を出す。


「バレたのよ。『彼』に『清掃作戦』の存在を伝え、汪誠者を逃がさせようとしたのを」


何故バレたかは知らないが、それは風紀委員、警備員に対する裏切り行為に値する。


「彼女は当然罰を受けた。 その一つはこの始末書。 恐らく彼女は風紀委員はクビになったのね。 だって彼女の名前はこの支部の過去に所属していた名簿には無かったから」


罰は重いだろう。 なにせ何億をも金を出し、40人にも及ぶ犠牲者を出した惨事だったが、目的の汪誠者の拘束は果たせなかったから。

その原因を作り出した彼女は、重い罰を受け、この第177支部を去ったのだろう。


「そのあと、彼女はどうなったんでしょう?」

「それはわからないわ。 ただわかるのは、彼女は彼女らしい“正義”を貫いたのよ。奇麗に言うとだけど」


真実を言うと、彼女は愚の道を進んだ。 己の保身を考えず、友を助ける為に組織に反した。

奇麗であるが、それは愚の道。 結果、10人の友の仲間と30人の尊い命を無駄にさせてしまった。


「でも、私は好きよ? そういうの。 自分の“正義”は貫きたいし、他人の“正義”は決して、絶対に“正義”とは限らないからね」


そう、固法は論じる。

と、そうそうと立ち上がり、本棚から別の報告書の束を出した。


「実は、別の場所にいた『彼』も清掃作戦とは全く関係なかったようなの」

「と、いいますと?」

「実は、旧アジトの方に留まっていた『彼』ら組織の……いわゆる二軍メンバーたちは突然、警備員の手によって壊滅するの」
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 01:52:54.68 ID:YU7yaEoa0
固法は新しく取った報告書の捲った。


「その事件は別件として報告されているの。 はいコレ」


固法は初春に報告書の一ページを見せる。

そこには『テロリスト逮捕拘束作戦』と書かれていた。


「テロリスト!?」

「そう、この事件は学園都市に侵入したテロリストを逮捕するという事で処理されたの」


証拠に…と固法は報告書に書かれたその『テロリストの潜伏場所』の住所を指さして見せた。

その次に、先程読んでた『清掃作戦』の報告書を見せた。


「ここの住所と…、ほら、旧アジトの住所が全くの同じ」

「あ、ホントだ」

「警備員はこの事実を揉み消した。 これで汪誠者の組織を根絶やしにしようとしたの」

「徹底していますね」

「そうしなければ警備員と風紀委員の威信を守れなかったの。 『絶対に汪誠者を捕まえる』それが彼ら警備員の目的のようね」


果たしてそこまでしなければならなかったのだろうか? 初春は眉をひそめる。


「結果としては旧アジトは壊滅。50人いたメンバーの殆どは捕まり、残りはバラバラになって逃げた」

「その…『彼』はどうなったんですか?」

「汪と同じように、『彼』も命からがら逃げた様ね。 彼も行方不明になってる」


固法はページをまた捲った。 が、次のページは別の事件のことについてになっていた。


「この事件は小さく書かれているけど、実際は地獄絵図だったと思うわ。 死人が3人出てる」

「……うわ…」


初春は嫌な顔をした。

それを見て固法は苦笑いする。

……と、固法はある事に気付いた。


「………ん? この報告書……ハッ!」

「どうしたんですか?」


初春の言葉を固法は無視し、テーブルからカッターナイフを持ち出す。

そして次の瞬間、報告書の上部分をカッターナイフの刃で突き立てた。


「ちょ! 固法さん何やってるんですか!?」

「もしかして、このページ……」


カッターナイフはスススッと報告書の紙を切り取っていく。

すると、初春はある事に気づいた。


「……二枚重ねになってる…」
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 02:05:32.79 ID:YU7yaEoa0
「そう、このページ、次のページと糊付けされてるの! なんで気づかなかったのかしら」


封筒を切る様に、紙を切る固法。


「しかも、この中に何か入っている!」

「ええ!?」


そして、固法は紙を切りきり、中に入っていた何かを出した。

それは……。


「便箋?」


初春は呟く。

そう、便箋。

一枚の便箋が、入っていた。 可愛らしい印刷をされた一枚の用紙は二つに畳まれ、この報告書の束の中に封印されていたのだ。

固法は二つ折りにされた便箋を開いた。 どうやらそれには文章が書かれているらしく、固法はその文を目で追っている。


「………………」

「どう、ですか?」


初春は訊くと、固法は便箋を畳み、溜息をついた。


「そうね、読んでても楽しくはならない内容だったわ」


そして便箋を自分のテーブルに置き、こう言った


「読みたかったら読んでいいわよ。 ただ、読んでも気を悪くするだけだから」

「固法さん」

「じゃあ、私はこの支部の代表として、今回の事件の他学区との合同作戦の会議があるから、留守番よろしくね」

「あ、はい」


固法は速足になって出て行った。


「……一体、何が書かれているんだろう………」


自然と、手は便箋に伸びていた。

早速、便箋を広げ、綴られた文字を読む。


「………これは……」



それは、恋文だった。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 02:06:30.26 ID:YU7yaEoa0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。 ああ、眠い。
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 15:32:55.21 ID:YU7yaEoa0
こんにちは、今日はガンダムAGEが始まりますね。さて、某偽サッカーアニメの様なキャラデザで、どこまで見れるか楽しみです。

今日も書いて行きますので、みなさまお楽しみに。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 16:09:17.00 ID:YU7yaEoa0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

結標淡希は雨の中、上条当麻を探していた。

雨は強く、視界が見えない。 一番心配なのは、先程雷が鳴った事。 結構近くだった、上条に落ちていないか。それが心配だった。

実際、座標移動で高い上空から上条を探ている結標も危ない。

だが、一番は上条だった。

なんとしても上条は助けなければ。


「………それにしても、雨が酷いわね…」


下手すればどこかで都市型洪水になってしまっている所があるのではないだろうか。

まぁここは天下の学園都市、例え記録的豪雨になろうとも地下水路が発達しているため、洪水はなりにくいから大丈夫か。

そう思っていた結標は飛び乗ったビルの屋上から下で流れる小川を見る。



その小川は、今にでも雨水が溢れ出しそうだった。



「っ!?」


そうだった、ここは第十九学区。

学園都市一のビンボーな学区だ。地下水路の整備などやっているはずがない。

………もしかしたら川の水が溢れ出て、上条が桃太郎の桃の様に流れて行くかもしれない。


「……上条くぅぅぅん! どこぉぉおおおおお!?」


結標は大声を出す。 が、返事はない。


「くそっ、一体どこにいるのよ!?」


再度座標移動して別の位置から上条を探す。

が、どこにも彼の姿はない。


実は、あの拷問した男から聴き出した話によると、風紀委員と思われる二人組を見つけ、数人に追わせたという。

美琴は大丈夫と言っていたが、どうだろうか。 自分もそうだと思いたいが、いつからかなった心配性の自分がそう言っている。


「あそこは確か、あの廃墟への一本道よね」


結標はその道の上に座標移動した。

と、そこで、あるモノを見つけた。


「……っ!? あれって……!!」
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 16:19:25.15 ID:YU7yaEoa0
――――――――――――――――――――――――
≡((  ´Д`)/≡= 先生!地震です!
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 16:53:37.01 ID:YU7yaEoa0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


それは、死体だった。


九つもの人間だった死体が、道に迷わないように落として行った飴玉の様に、道に沿う様に、適当に並べられた人形の様に、そこにあった。



「な、なによ、これ」


結標は絶句する。

見るからに、上条たちを追っていた無能力者狩りだろう。

すぐ近くにあった、心臓を銃で撃ち抜かれた男を見る。 苦悶と絶望と恐怖で固められたその表情だった。

足でその死体を突く。


「死後硬直はしていない……」


という事はまだ殺されてまだ時間は経ってない。

しかし、一体誰が?

上条? いや、彼は決して人を殺すような人間じゃない。

だったり一人しかいない。 固法美偉に成りすましていた人間だ。

結標は心臓を撃ち抜かれた死体の近くに転がっていた、全身を炭と化した死体と顔だけが焼かれた死体へと足を運ばせる。


「……殺り方が違う…?」


先の男は銃で心臓を撃たれていた。 普通に考えて、殺人犯は銃を持っていたと言う事が予想される。

しかし、これ焼死体だ。 焼かれて死んだのだ。

普通、銃を持っているなら射殺すれば早い事だ。 なのになぜ?


「もしかして、最初から銃を持っていなかった?」


結標は次の死体を見る。 二つ縦に転がっていた。 一つは両の目を何かに刺され、一つは眉間に氷柱が刺さっていた。

『銃を持っていなかった』という仮説が正しいなら、恐らく最初の目をやられた死体は何かの能力で氷柱を作り、目を刳り貫いた。そしてその後、その氷柱をもう一人の男の眉間に刺した。


「そうか、ヤツは相手の能力を逆手にとって殺したんだ」


最初に見た死体はそれの銃を奪ったのだろう。

と、そこで結標はあるものを見つけた。


「……ブラジャー?……それとパンツ?」


白いそれは雨に濡れて、ぐしょぐしょになっていた。

結標はブラとパンツを手に持ち、次の死体を見る。
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/09(日) 23:02:45.74 ID:YU7yaEoa0
それは、何か錐のような物で心臓を貫かれていた。

え? と言っている様な驚いた表情で死んでいる、それの近くに落ちてあった下着の上に着るTシャツを持つ。

と、ある事に気づいた。


その死体の右手には、氷が張り付いていたのだ。


(そうか、さっきの死体二つの氷柱はコイツの能力だったのか)


次の死体は首の後ろ、頸椎から枝を生やしていた。

結標はすぐ近くにあった一本の木を見る。 どうやらその木の枝を折り、武器にしたのだろう。

死体は助けを求めながら死んでいた。

近くに落ちていたのは靴と靴下。


「そして、あそこに転がっているのが最後ね」


それは首が有り得ない方向に向けさせられた死体だった。

傍には高校の制服が例の如くだった。


全部で九つ。

首を折られたり、自分の能力や武器を逆に利用されたりと様々だ。 きっと、武器が無い状態で逃げて行く追手を順番に追いかけて殺して行ったのだろう。

そして死体の傍には一枚ずつ衣服が置いてある。


「なるほどね、一人殺す度に一枚ずつ脱いでいくと…。まったく、私以上に気が狂ってるわ」


結標は自嘲する。



あの固法とかいう女は偽物らしい。

だったら、この死体たちを作り出したのはそいつだ。

もしかしたら、上条も襲われているのではないかと嫌な予感が積もる。

背中に寒い汗が流れる。


「こうしちゃあいられない……。 ああ本当にどこにいるのかしら……」


結標の顔に焦りが出る。

最悪として、上条はもうこの世の物じゃないかもしれない。

ぞぉっと顔が青褪める。 背中が飛び上がる。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/10(月) 00:02:10.02 ID:PyrjorRE0


その時。


コロコロ……。


「!? だれ!?」


どこからか石ころが一つ投げられた。

石は足元に転がり、結標の爪先に当たった。


結標は石が飛んできた方向を睨む。

すると、5m程離れた分かれ道へ、一つの影が逃げるのを見た。


「あっ! ま、待ちなさい!!」


結標は咄嗟にその分かれ道へ座標移動で追いかける!

が。


「くっ、いない……!」


既に影は無かった。

結標は悔しそうな顔で何もない空間を眺める。

でも結標はこうも考えた。


「…十中八九、何かありそうね。 この道」


そう呟いた結標はこの道の先を見る為、座標移動で消えた。
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/10(月) 00:38:40.69 ID:PyrjorRE0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あークソダリィ」

「そうボヤくな、一応仕事なんだ」

「まったく、商品をボコるなよ。 仮にもあれは今日の一番商品なんだぞ」


無能力者狩り…と呼ばれる若者三人は、ある作業で手を動かす。

あの商品を保管してある部屋…彼らは“ショーウィンドゥ”と呼んでいる部屋にさっきまでいた。

今はそこから注文を出された商品を部屋から取りだし、“包装作業”をしている。

三人は手慣れた手つきで作業を続けながら、無駄口を叩いていた。


「いや、この頃またタバコの値段上がっちまってよ。 ニコチンが足りなくてイライラしてんだ」

「いい加減ヤメロよ、タバコ。 体に毒だ」

「バッキャロー、ニコチンとタールがない世界は地獄と同じだってどこぞの神父様も言ってたぞ」

「それはどこの牧師様だ?」

「夢の世界だアホンダラ。 それと神父と牧師は違う。神父はカトリック、牧師はプロテスタントだ」

「結構詳しいんだな」

「我が家は生粋のキリシタンでね。 親父は神父だ」

「あれ? 神父って子作りしちゃあダメじゃなかったっけ?」

「俺が生まれたのは親父が神父になる前だ。 ノープロブレムだよ」

「しっかし、良いのかねぇ」

「何が?」



「聖職者の子供が人間の女を裸で箱詰めする事だよ」



「あぁ? いいんだよ。 この世にカミサマなんてモンはいねーんだから」


そう言って、『圧縮空銃』をポケットに入れた男は嘲笑した。


「どんだけ拝んだってムダだよ。だって拝む相手が最初からイネーもん」


男三人の内、一人は気絶させた女の服を脱がせ、ベルトコンベアに乗せる。 流れて来た女を次の一人はクッションが入ったダンボールに入れる。 そのダンボールの蓋を閉じ、ガムテープで閉めるのは最後の男がやっていた。

このベルトコンベアを辿ると外へ行く。そこには引越し業者のロゴが書かれたトラックが停めてあり、ダンボールをそのトラックに乗せて搬送するのである。

422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/10(月) 01:43:58.92 ID:PyrjorRE0
まさに人間工場。


「しかしまぁ。勿体ないよなぁ」

「何が」

「だって、こんな上玉ぞろいなヤツを実験動物代わりにしてグチャグチャに解剖するんだぜ?」

「まぁ…そうだな」

「あまりそういう事を言わないでくれ、気持ち悪くなる」

「あ、お前そういう事、嫌いだったっけ。 まぁ勿体ないわな、俺だって抱きたいさ」

「俺なら自分の部屋に連れ込んで踏んで縛って叩いて焦らして吊るして斬って殴って嬲って刺して晒して垂らして調教するね」

「この変態」

「キモチワルイ」

「黙れアホ共、トゲトゲバットで殴られたいのか」


『圧縮空銃』の男は一糸纏わぬ女体を箱に詰める。 ニコチン中毒の彼は死んだ魚の目をしていた。


「………なぁ」

「なんだ」

「ヤっていいかな?」

「いや、ダメだろ」

「だって、この作業シンドイもん!! ブサイクは論外として! こんな別嬪の奴らが裸でベルトコンベアに流れて来るんだぞ!? 理性保てるのがフツーじゃねぇ!!」


『圧縮空銃』の男は流れてきた女の胸を揉む。 因みに女たちは薬で眠らせてあるから起きはしない。


「ああーこの乳首吸いてぇー、穴という穴にチンコ入てぇー。 縛って吊るした状態で犯してぇー」

「下品なこと言わないでくれ。 俺はノーマルなんだ」

「そうだな、乳首とクリに電極当てて電流流すんだよ。それと同時に前と後の穴にバイブを突っ込んでフェラさせるのがイイネ。 うん、最っ高」

「無視すんな。つーか乳首をクリクリしない」

「いいじゃん減るもんじゃなし。 本来ならここでコイツ犯したい気分だよ。 ……えーっと何て名前だっけ、こいつ」

「05番、九重絵彌だ。 ホラ、リストで見ただろ」

「ああ、そう言う名前だっけか。 コイツ、俺が捕まえた時暴れ出してよ。 ああ、思い出したらムカついてきた。 いいや、犯しちゃお」

「班長に見つかっても知らねーぞ」

「いいの、昨日の分だと思えばオーケー。 発送は今日の夜中だから今ならオーケーオーケー。 昨日からコイツ気になってたんだ〜♪」


『圧縮空銃』の男は九重という名らしい女を抱きかかえ、部屋を出、別の部屋へ行く。


「悪ぃな、仕事サボっちゃって」

「いいさ、もう終わるし。 終わったらあとで混ぜろよ」

「あいよ〜♪」


ルンルン〜♪とスキップしながら『圧縮空銃』は部屋から出て行った。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/10(月) 01:55:34.77 ID:PyrjorRE0
とそこへ一人の男が声を掛けてきた。


「ニコ中の奴は怖いねぇ」

「あ、どもっス」


それはボンのアシスタント務めた男だった。


「あいつも運が悪いなぁ〜。これから面白いショーが始まるってのに」

「と言うと?」

「それは後のお楽しみだ。 おい、“包装”終わったら、すぐに上の客間へ来い」

「え? 今ってまだ大物の客が来てるはずじゃあ…」

「その客が俺達にショーが見たいって言うんだってよ」

「俺達は水族館のイルカかアシカですか…」

「いや、違うよ? アシカは『あいつら』」


とアシスタントは親指である場所を指した。



商品が置かれてある、ショーウィンドォである。



「ああ、そゆことですか。 合点承知の助です」

「古ーよww じゃあ見張り以外の全メンバー集めて来るから、行っとけよ」


そう言って、アシスタントは走って去っていった。
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/10(月) 01:56:32.13 ID:PyrjorRE0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。 なんだか手ごたえがない内容でしたが、ご容赦ください。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県) [sage]:2011/10/10(月) 08:52:06.16 ID:z/vdvdUUo
>>1乙です!
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/11(火) 08:29:59.91 ID:38gwrfRX0
ここは迷彩さんの出番やな
傷ついた女の子の心の支えになってあげてください
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/14(金) 00:29:54.19 ID:rGFw576J0
こんばんは、今日は短くコンパクトで行きます。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/14(金) 00:50:23.80 ID:rGFw576J0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

地獄とはこの事なのだろう。


地獄の業火。

百鬼騒乱。

鉛玉の暴風雨。

火薬の異臭。

黒い雲の様な煙。

巨人の進行。

赤壁の様に分厚い軍団。

隕石の如く飛んでくる砲弾。

空からの追跡者。

ゴミ同然に捨てられた死体。

壁には赤い液体をぶちまけた痕。

地面には内臓だっただろう肉の破片。

遠くからは断末魔と怒号の響き。

近くには鉄の猛獣が足音を鳴らし、真上には巨大蜻蛉が狙いを定める。



そして、血で真っ赤に染まった俺達。




俺達は走った。戦った。殺した。潰した。焼いた。放置した。


俺は、初めて人を殺した。

手が震える。 足は笑う。 汗が滲む。 血が流れる。 悲鳴と断末魔を聞き流す癖に、怒号を飛ばす。

手は汚れた。 足は動かない。 汗は出ないほどに体力を消耗した。 出したい悲鳴を堪え、その代りに怒号を飛ばした。


それでも俺達は倒れる訳にはいかない。

あいつ等が脱出し終わるまで何とか耐えなければ。

奇跡的にもこっちには死人は出ていない。


先程、戦車を潰した。 強力接着剤を砂に混ぜ、戦車の車輪に仕込んだのだ。 すると戦車のキャタピラは動かなくなり、事故を起こした。

その隙に中に入っていたヤツら(恐らく警備員だろう)を殺した。

殺らなければこっちが殺られていた。 あっちは銃を持っていた。


次に軍用ヘリを落とした。

戦車に乗り、味方と思わせた所を後ろから撃った。

汚いが、しょうがないだろう。


そろそろ非戦闘員組は脱出したころだろう。

俺はあちらと連絡を取ろうと、トランシーバーを取り出した。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/14(金) 01:02:09.14 ID:rGFw576J0
大丈夫か!? 無事に脱出できたか!?


俺はトランシーバーを片手に叫ぶ。

早く脱出してくれ、せめてお前らだけでも生き延びてくれ。

俺はそう願った。 そして、絶対に誰にも知られていないトンネルから無事に脱出するだろうと確信していた。

トランシーバーに耳を当て、相手の声を聞く。

遅くても、あと2,300mで出口だろう地点にいる筈だ。

しかし、脱出の合図は聞こえなかった。




代わりにトランシーバーから聞こえたのは―――――――――銃声だった。




仲間の悲鳴と断末魔が電波を伝って送られてくる。

そして、最後にトランシーバーを渡した仲間の声が聞こえた。


すいません……。 先回り………されてました……………。


と。





バカな、そんな………そんな筈じゃない!!!!!





壁を殴った。

皮が剥け、血が垂れる。


畜生! 畜生め!! 畜生めがぁぁああ!!


判断ミスだ。 いや、もうあれしか方法は無かった。


メンバーしか知らない脱出用のトンネルは警備員によって先回りされ、襲撃された。という事は奴らはトンネルの存在と出口を知っていたのだ。

なぜ気付かなかったのだろう。 なぜ誰もわからなかったのだろう。





――――――――――――俺らの中に、裏切者がいると言う事に………。




430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/14(金) 01:21:14.49 ID:rGFw576J0

俺らの仲間に……総勢100人を超える組織の中に裏切者がいるのだ……。


それは現在俺と一緒にいる奴の誰かも知れない。 もしくは脱出したヤツらの中にいるかもしれない。 二軍メンバーの誰かかも知れない。



くそっ……ここまで巨大になった事が仇になった。



恐らくここにいるメンバーも、同じことを考えているだろう。

疑心暗鬼になっているかもしれない。 俺を疑っているかもしれない。


でも、ここにいるのは組織を建ててから一緒にいる奴らだ。 そう言う奴はいない!!


俺は決意した。腹を括った。覚悟を決めた!


この包囲網を突破する。



これしか道はない。

後は崖、前は荊の地雷原。

生き残る道はただ一つ。荊の道を突き進むのみ。



俺はみんなの顔を見る。


ジョン、ヤン、シン、サブ、マンション、ヤマ、ボン………。

みんな、俺に命を貸してくれ。






午後5時半。

夕暮れ時の紅い太陽を背中に俺達は、警備員の分厚い包囲網へ突っ込んでいった。

俗の世に言う、『特攻』と言われるものだ。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/14(金) 01:26:28.08 ID:rGFw576J0
―――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでにします。

最後に…元ネタの話……。

>>422でのセリフ
『踏んで縛って叩いて焦らして吊るして斬って殴って嬲って刺して晒して垂らして……』
このセリフ、どっかに聞いた事、ありませんか?
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/14(金) 01:38:25.35 ID:od8xwQ0t0
人間失格さんちーっす
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 12:14:14.94 ID:2ptHZHS70
殺してバラして並べて揃えて
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 11:11:51.28 ID:MHhZ1VTu0
みなさんこんにちは。今日は行きますよ。 10時間耐久で(少し休憩が入るけど)。


さて先日、完全復刻版で出たMASTERキートンを買いました。

これ、誰も知らないんだよな、オッサン以外…。 いや、オッサンでも知らないか。

これを読んで、『平賀=キートン=太一、学園都市に来る』と『平賀=キートン=太一、ロアナプラで襲われる』と『平賀=キートン=太一、灰色狼を追う』ってのを考え付きまして、いずれかをいつか書きたいと思います。

まぁキートンは1989年前後が舞台の作品だから、学園都市は難しいでしょうが、BLACKLAGOONはほぼ同年代だし、GOSICKも十分に行けるはず。

さて、誰も元ネタが知らない話は置いといて、さっさと書いて行きましょう。

結局、俺ってマニアックなんだよな……。


あ、あと、『文学少女、学園都市に入学する』ってのを夢で見ました。
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 11:34:46.89 ID:MHhZ1VTu0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「………ん……かみ………くん………か……じょう……」


誰かが呼んでいる。

繰り返し…繰り返し…繰り返し……。 体を揺らして、頬を叩いて……。


「上条くん!!」

「んあ!?」


上条当麻は目を覚ました。

それを見て、結標淡希は胸を撫で下ろす。


「やっと起きた。 よかった」

「あ、あれ? 結標? どうした」

「上条くんが無能力者狩りに追われたって聞いたから……心配になって」

「……あ、そうだ! 固法さん!! 結標! 頼む、今すぐ固法さんの所へ行って助けてやってくれ! きっとあいつら固法さんを追って行ったんだ!」


上条は結標の肩を掴んでそう懇願した。

結標は肩を掴まれた手を握り、立ち上がった。


「落ち着いて、上条君。 とりあえず今まで起こった事を話すから……。 行きましょう。 走りながらでも伝えられるわ」















「…………固法さんが偽物だって!?」

「ええそうよ。 本物は今、風紀委員の支部にいるそうよ」

「じゃああれは誰だよ?」

「それは本人に聞かなきゃわからないわ」


そう話している内に、先程、上条と偽物の固法が隠れていた場所までやって来た。


「とりあえず、あなた達のお友達が危ないのよ」

「どういう事だ」


上条は声を低くして尋ねる。


「さっき、ここに来たときにあの廃墟から出てきた車を襲ったのよ。 そしたらそこから何が出てきたと思う? 縛られた女の子が入ったバックが出てきたの。 その子が私達にこう言ってきた。『あのあそこは危ないから、他の子たちを助けて』って」
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 12:12:43.04 ID:MHhZ1VTu0
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もう使われなくなって久しくなった廃病院の中の元診察室

部屋の中は薄暗く、ヒビが入った窓から雨が入ってきた。 風も出てきたのだろう。今にも完全に割れそうなくらいにギシギシしている。

そんな中、御坂美琴は先程救出した少女、木縞春花に、あの廃墟で何が起こったのか尋ねた。


「無理に思い出さなくていいから、あそこで何があったのか、言ってくれませんか?」


先程、木縞が高校生だと言う事を知った中学生である美琴は、改まって慣れない敬語で話す。


「あ、あそこは……、すごく酷い所なの……」

「知ってる、人身売買してるって……」

「それだけじゃないの!!」


木縞は叫んだ。

美琴の腕を掴み、懇願する。訴える。


「お願い! みんなを助けて! あなた、御坂美琴でしょ!?」

「えっ!? どうして私の名前を!?」

「あなたの顔見た事があるのッ、学園都市に七人しかいない超能力者、順位は第三位! 私の友達に常盤台の子がいるから……よく話を聞いてるの!」


木縞は汗でビッショリになった手で美琴の肩を揺らす。 美琴は「わかったわかったから」と宥め、パニックになった木縞を落ち付かせた。


「お願いっ、あそこはとにかく地獄なの! だから……助けてあげて」

「わかった。 絶対に助けに行くから、とにかくあそこであった事を話してくれますか?」

「………わかった」


美琴は一つ息をついた。木縞がやっと話してくれる。


「私が、あそこに連れ去られたのは二日前……。大覇星祭の準備で学校へ行った日の帰り道。いきなり連れ去られたの」


いつの間かガラス張りの部屋に入れられ、数人が誰かに売られた。

良かった、誰かに売られなくて済む。 木縞はその時、安堵した。



しかしその日の夜。 地獄が待っていた。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 13:27:09.50 ID:MHhZ1VTu0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ばんっ! とドアが乱暴に開けられた。


佐天涙子はいきなりの出来事に肩をビクッと振るわせた。


誰かが入ってきた。 さっき、木縞さん達を連れ去った人達だった。 でも、木縞春花と吹寄制理に暴行した人はいない。

怖い顔をした二人組が決して人間を見る目付きではない眼差しで佐天を見下す。


「……9人か……まぁちょうどいいか。 よし、全員に手錠付けるぞ」


と、体がガッチリした男が言った。


「ああ、わかった」


男の一人が右手に手錠を持って佐天へ歩み寄る。


「……ぃゃ……来ないで!」


佐天は悲鳴を上げ、手錠を掛けようとした男の手を叩く。

地味に痛かったようで、男は佐天の胸倉を掴みあげた。


「……っ! て、てめぇ!」

「やーめとけ、商品に傷負わせんなよ」

「……っ。 わーったよ、まったく」


そう悪態をつき、佐天の手首に慣れた手つきで素早く手錠を掛ける。

あっという間の出来事だったので、佐天はいつも間につけられたかというリアクションをした。

そんな佐天を無視し、男達は次々に手錠を掛け続けた。


「誰も抵抗すんじゃねーぞ。したらわかってるだろうな」


と男は電気を操る能力者なのか、手から紫電を鳴らした。


「何をするつもり?」


吹寄制理は、男の脅しに屈せずに訊く。

その態度に興味を示したのか、男は笑う。


「違うな、『何をする』じゃなくて、『何処へ行く』ってのが正解になる。 まぁ、それは来てからのお楽しみだがな」

「どういう事」

「だからそのわかる。 いいからついて来い」

「おい、終わったぞ」


と、別の男が全員に手錠を付けさせたのか、そう伝えた。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 15:17:13.47 ID:MHhZ1VTu0


長い廊下を、吹寄制理は歩いていた。

前にはあの部屋にいたメンバー全員が奇麗に並んで歩いていた。 吹寄のすぐ前は部屋の隅っこで正座をしていた咎咲である。 よくもまぁ、あれだけ正座をしていて足が痺れないものだ。

吹寄は横を見ると、動いていないベルトコンベアがある。いったい何に使うのだろう。さっきからベルトコンベアに沿うように歩いてきた。

しかし先程の『圧縮空銃』の男によって与えられたダメージがまだ残っている。頭がフラフラして歩きづらいったらありゃしない。


「ほら、さっさと歩け!」

「うっ」


後にいた男に背中を押され、危うく転倒しそうになる。


「大丈夫か?」


咎咲が声を掛けるが、どうも心配そうな感じではない。


「大丈夫です」

「ならいい。 転んで私も巻き込まれたら大変だからな」

「………」


嫌な女だなと言う風な顔をする吹寄。

するといきなり、咎咲が賭けをしようと言ってきた。


「なにを?」

「なに、簡単だよ。 お題は自分は『助かる』か『助からないか』……。なに、ただの退屈しのぎだよ。軽い気持ちでいい」


吹寄はこの何があるかわからない自分の状況を余所に楽しんでいるとしか言い表せない咎咲の言葉に少しムッとした。


「そんなの、決まっているじゃない。 助かるのよ、私達は」

「そうか、残念だ。 私も『助かる』の方に掛けてたんだがな……。 じゃあ第三者に聴くとしよう。 おい貴様…確か笹斑とか言ったな」


咎咲は前にいた笹斑に訊いた。


「そうね、じゃあ私は『助からない』に賭けるわ。その方が勝負になるし、だいいち助からないわ。 私は」

「…っちょ、何言ってるんでか! ここから出たいとは思わないんですか!」


と吹寄。 一方、咎咲は吹寄の言葉を軽く流し、一番後ろにいた男にも訊いた。


「じゃあお前、お前もどうだ?」

「あぁ? フツーに考えてみよ、助かるわけがねぇ」

「ほう、何故?」

「ほら、俺達の組織のメンバーは何人いると思う?」

「ん〜そうだな、ざっと5、60人と言った所かな」

「ところがどっこい、残念だったな。 正解は150人だ」

「ほう、これは凄いものだ。 150もの部下を束ねる者はどんな者なのだ?」

「そりゃあ、強い人さ。 この組織で一番強く、能力値が高い。 そして何よりあの統率力! 怒ると怖いが、面倒見のいい人だよ」

「なるほど、一遍見てみたいものだな。 ところで、どんな所が強いのだ?」
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 16:55:03.03 ID:MHhZ1VTu0
「そうだな、あの人の能力はとにかく桁違いだ。一瞬で人間をミンチにしちまう。 それに最近、変な日本刀を拾ったそうだ」


自分のリーダーの事を褒められたもので、男は調子に乗ってベラベラと口を動かす。よほどそのリーダーは下っ端に愛される人間らしい。


「日本刀?」

「ああ、日本刀」

「どんなものなのだ?」

「そうだな、第一印象は “黒”」

「黒?」

「ああ、柄も鞘も鍔も真っ黒な刀だよ。 リーダー曰く、あの刀は特別らしく、何でも斬れるとか」

「ほうほう、なるほどなるほど……。その刀、一遍見てみたい物だな」


と、咎咲は手錠を掛けた手で腕を組む仕草をする。


「ひょっとして、今から行くところはそのリーダーとやらがいるのか?」

「それは言った時のお楽しみだな」


はははっと咎咲は笑う。 すると二人に挟まれている吹寄は怒鳴った。


「ちょっと咎咲さんっ! 何を楽しそうに話してんのよ!」

「そういうな吹寄よ、ここで力を入れておったら肝心な時には疲れてしまう」

「……っ! ………なんでそんなに呑気になってんのよ?」

「そうだな、今は言えぬが、私には私なりの“考え”と言うものがあるのだよ。 まぁほれ、時間も潰せたしな」

「え……っ?」


吹寄は前を見る。 と、一つの両開きのドアが自分たちを待っていた。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 16:55:34.76 ID:MHhZ1VTu0
―――――――――――――――――――――――――――
ちっとばかし休憩します。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 18:41:05.58 ID:MHhZ1VTu0
再開します。

そう言えば、Fate/ZeroのOP歌ってる人って、Angel Beat!のユイの歌を歌ってる人んだんですってね、どーりでどっかで聞いた事のある声だと思ってました。
――――――――――――――――――――――――――――――――
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 20:07:20.23 ID:MHhZ1VTu0
――――――――――――――――――――――――――――――――――

ボンは下の部屋にある商品を眺めていた。どうやら傷の舐め合いをしているらしい。


「全く、救いようがない雌犬どもだ」


一言吐き捨て、ボンは腕に巻いた時計を見る。 午後6時、そろそろあの二人目の客が来る頃だ。

さっき外からヘリが一台飛んできた音がした。おそらく来たのだろう。

ヘリと言えば、あの忌々しい惨事を思い出す。 ボンは当時中学二年生だった。あの空を飛びかう殺人蜻蛉は今でも脳裏にしがみ付いている。


「まったく、あの糞エロ親父もちったぁ気ぃ使わせろっての」


ボンは悪態をつく。

すると、噂をすれば影が差すとよく言った物で。 ドアが開いて、一人の男をアシスタントが連れて入って来た。


「どうも、お久しぶりです。 旦那」


ボンは頭を下げる。


「ああ、久々にお世話になるよ。 そうだそうだ、一つお土産がある」


最高級のスーツを身に纏い、首に布を掛けているというファッションの男は、内ポケットからある物をだした。


「これだよ」

「? なんでしょうか、この箱」


それは二つの桐箱だった。 一つは白い木の高級そうな箱だった。 もう一つも高級そうな箱だっが、真っ黒に塗装されている。


「最近見つかった“骨董品の様な物”でね。 白いのは第十二学区の高崎大学が“人工的に神の領域・結界が造れるか”という実験所の森の中から発見された物だ。 黒いのは第十学区のストレンジの地下から発見された物そうだ」


“ストレンジ”

その言葉でボンは表情を固くした。

そんな彼の変化に気付かずか、気にせずか、男はベラベラと話を進める。


「白いのも黒いのも、結構古いものらしい」

「それを私達に?」

「ああ、これはなかなか面白いものらしいぞ? なんと“呪い”がかけられているとか」

「呪い?」

「なんだか、良くわからんがそうらしい」


何だ、結局わからない事だらけじゃないか。 ボンは心の中で文句を言った。


「まぁ君たちに渡しておくよ。何か使えそうだしね。 さて、今日はどんなのかな?」


男は桐箱をボンに無理やり押し付け、速足で窓へ行った。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/15(土) 23:11:40.04 ID:MHhZ1VTu0
ボンはアシスタントに窓を覆うカーテンを上げるよう命じた。するとアシスタントは慌てて小走りでカーテンの紐を開ける。

カーテンがサーッと開けられた窓から、男は下を見下ろした。


「ほう、なかなかかわいい子ばっかりじゃないか」

「ええ、今日は豊作です。 お好きなのをどうぞ」

「う〜ん……そうだな〜」


男は悩んだ、どれも粒が良い。 あの大人しそうな淡い髪の子も良いし、強気そうだけど乳の大きい子も良し、花の髪飾りをした無邪気そうな子も好みだ。


「よし、全員だ」

「え、全員ですか」

「ああ、実は“特別なヤマ”が入ってね。臨時収入って奴さ。 金ならホラ、ここに小切手がある」


男は胸ポケットから小切手を取り出した。下の商品を全部買ってもお釣りが倍になって返ってくる額のだ。

流石は金持ち。大学のご教授様は一味違う。 とボンは心底驚いた。

と、男はある提案を持ちかけてきた。


「そうだ、これなんてどうだい? 私が買った物をここに連れてきて、君たちと私とで一緒にパーティー」

「………それは…」


ボンは戸惑った。が、男はズイズイと攻めてくる。


「さっきの小切手の釣りはいらないからさ」

「………」

「なぁいいだろう? どうせ、君たちも毎晩毎晩売れ残ったので……ねぇ?」

「………わかりました、リーダーと相談してきます」

「よろしくね」


ボンはアシスタントを連れて部屋を出た。




そして、リーダーからの指示は……。


即急に商品を連れて客間へ来るように。 見張り以外のメンバーも客間に集合……。


だった。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 00:44:31.57 ID:SqXwDwQC0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

外は大雨だろう。 雷が鳴り響き、雨風が窓を叩く。

そんな事はどうでもいいと、御坂美琴は木縞春花の話に耳を集中させる。

木縞は“あの日”の事を淡々と、ただ淡々と口にした。


「私はあの日の夜、緊張しっぱなしだったから寝ていたの。 そうね、大体夜の10時ごろね。 部屋にいきなり大勢の男の人たちが入ってきて……」


当時、部屋には自分と同じように部屋に入れられた人がいた。みんな何も話さずに、疑心暗鬼で周りを見ていた。

何もない部屋。あるのは同じ境遇の女の子たち。しかしみんな誰も信じない世界。

その世界に大勢の男達が入り込んできた。

そして、地獄は始まった。


「私……、その人の三人に連れられて……。そして……」


まず、服を脱がされた。残されたのは下着と何故か二―ソックスだけ。

次に胸をしつこく揉まれ、恥部を撫でられた。

恐かった。恥ずかしかった。憎かった。でも気持ち良くなってきて、悔しかった。


「あの人達ね、私の口の中に……、ぅぅぇええ……」


トラウマになったのだろう。 木縞は近くにあった洗面器に嘔吐した。吐いた物はすべて胃液だ。きっとこの二日間は何も口にしてはないだろう。 男根と精液以外には。


「不思議な味だった……苦くて、不味くて……。とても耐えきれるものじゃなかったわ」


辛かった。息が出来なくて、臭くて、口の中と体中を白濁した液体に汚されて……。


「そして、私の“初めて”……奪っていったの」



屈辱の一言だった。

それから何回も何回も弄られた。

穴という穴に男根を挿入され、イカされ、吸われ、突かれ、叩かれ、殴られ、中出しされて……。


「もうどうでもいいや、なんて思った。 これが夢なんだ、悪い夢。そうだ、目を開けたらいつもの様に自分の寮の部屋で寝ていて、今日は何を使用かなって、楽しい一日にしようかなって計画を建てる。………でも、……でも、これって……夢……じゃないのよね、これ……ぅっうう……」


真っ白になった体と頭の中で、木縞は何もできなかった。ただ、これが夢なのだと信じようと、夢だと言う妄想をしたのだ。


それを朝まで繰り返されたのだと言う。


「………………これがきっとあそこにいるみんながこれから起こるだろうことよ」

「そんな………」


美琴は絶句する。中学二年生でも、一通りの性教育を受けてきたつもりだ。美琴はそれをいい加減に聞いていた。

『私には関係ない話』だと考えていたのだ。『ある訳がない、そんな夢物語』『10,000人に一人の確率よ、そんなの』き流していた。が、美琴は改めて思う。 こんなに残酷な話があるものか。

美琴は怒りの表情を浮かべる。一方、木縞は涙を浮かべ、美琴にこう、伝えた。



「それにね? 思い出したの……あの日……ぅぅ……実は………排卵日……だったの………」
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 01:03:22.82 ID:SqXwDwQC0

「――――――――――…………………っ!? それって!!」

「そうよ、私のお腹の中に……あの時の三人の内の誰かの……う、うう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」


木縞は頭を抱え、雄叫びを放つ。


「木縞さん!?」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!! 嘘だ!!!!」


木縞は美琴に掴みにかかった。


「嘘よ!!そうだわ!これは悪夢よ!!悪夢なのよ!! そうなのよ! だって、“私がこんなにも不幸な目に会う訳がない!!” 私が何をしたって言うの!? ただの無能力者だってだけで!!なんで責められなきゃならないのよ!!! 夏奈お姉ちゃんと私は違う!!違うのよ!!どうしてみんな比べるの!? どうして私を痛めつけるの!!?」

「ちょっと木縞さんッ!落ち着いて!!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」


木縞は完全にパニックを起こし、何が何だかわからない状態に陥った。

美琴の首を絞め、殺そうとする。


「そうよ、夢よ!夢!ゆめゆめゆめゆめゆめゆめゆめ!!」

「ぐ、ぐるじい"……木縞さん……!!」

「あはははははっ! 早く目覚めて!お願い!こんな悪夢は見たくないのよぉぉおおお!!」


さっきまであんなに大人しかった木縞が弾けたように、壊れたように暴れ出した。


「ごぁがぁぃ……」

「夢よ! 夢! アハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハアハハハアハハハハ!」


ヤバイ、このままじゃあ本当に死んじゃう!!

美琴は手足をバタバタとバタつかせる。が、木縞の力が強いのか、一向に木縞の手が外れない!!

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!








死ぬ!!







その時、美琴の本能が自動的に電撃を放った。


「ぁあ、がぁああああああ!!」


木縞は電撃をモロに浴び、痙攣しながら美琴の横に倒れた。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 01:46:08.64 ID:SqXwDwQC0
「はぁはぁはぁ……ゲホゲホッ!」


美琴は久し振りに吸う空気に咽た。 しかし危なかった……。


「はぁはぁ……助かった……。 もう少しで死ぬかと……。……………っ?!」


突然、否、刹那、美琴の脳裏にある光景がフラッシュバックの様に、新鮮に、鮮明に、色濃く、詳細に浮かび上がった。


「ま、まさか! これってまた……」


木山春生、鑢七花、二人の記憶を読み取った時と同じ現象だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




『ねぇねぇ、あの子……』

『知ってる、“あの”名風紀委員、木縞夏奈さんの妹さんなんだって? ……やっぱり、大能力者?』

『いや? ただの無能力者だって』

『な〜んだ、つまんない。 ただの落ちこぼれか』

『お姉さんは大能力者で長点上機学園の生徒会長をやってて、しかも風紀委員で数々の名事件を解決させたってのに』

『そうよね、姉は姉、妹は妹ってね。 まぁ兄弟姉妹、どっちかが良ければもう一方はダメだってよくある話だけどね』



姉は英雄だった。 長点上機学園で一年生で生徒会長にまでなり、小学生の時からやっていた風紀委員では解決不可能とまで言われた事件を解決し、検挙・逮捕数が学園都市一を誇っていた。


それなのに、私は……。


『ほら、君のお姉さん。あれだけ頑張ったじゃないか、だったら君もできるだろう?』

『……失礼します』

『ああ、頑張れよ』

『先生、あの子って……』

『ああ、“あの”木縞夏奈の妹だよ。まったく、姉貴の方は頭に超が付くくらいに優秀だったのに。 妹ときたらとんだ欠陥品だよ』

『へぇ、でも木縞夏奈ってもう亡くなったんでしたっけ?』

『ああ、数年前にな。 自殺だってよ。まったく、あんだけ栄光だらけの人生だってのに……。天才様は考えている事がわからんね』



姉は、優秀な生徒であり、英雄だった。

それが故に、私は比べられた。

決して私の名前の上には姉の名前がついて来て回り。 私が歩けば看板を背負ってないのに姉の名前が飛び交う。

そして私は、いつも姉と比べられていた。

優秀すぎた姉。出来過ぎた姉。名前が知れ渡った姉。英雄だった姉。みんなが知っている姉。誰もが大好きな姉。笑顔が素敵だったと言う姉。教師はみな絶賛する姉。不良までも可愛かったと評した姉。小学校の兎を人一倍可愛がっていた姉。中学では読書コンクールで大賞を貰ったと言う姉。高校では風紀委員と部活を両立させていた姉。部活の弓道で能力を使わずに学園都市優勝をした姉。いつもテストは100点満点だったと言う姉。家にはトロフィーが山脈の様につらなせた姉。周りにはいつも大勢の人に囲まれていた姉。友達が多かった姉。男子には頗るモテたと言う姉。毎日学校の下駄箱の中にはラブレターが入っていない日は無かったと言う姉。女子にも人気があったそうだった姉。いつも笑っていたらしい姉。カレーが大好きだった姉。作る料理がみんな絶品だった姉。バレンタインデーで一緒にチョコを食べるのを手伝ってと頼んできた姉。どんなに悔しい事があっても涙を見せなかった姉。父さんと母さんが事故で死んでも泣きじゃくる私をそっと抱いてくれた姉。高校の長点上機学園に入学するようになってからは連絡が少なくなった姉。風紀委員で学園都市風紀委員長に選ばれた姉。誇り高かった姉。獅子の様な姿だったらしい姉。なのに大の猫好きだった姉。お気に入りのパジャマは昔から猫のぬいぐるみの様なのだった姉。いつもお気にいりのクマさんが無いと眠れなかった姉。コーヒーが苦手でいつもカフェオレの様に牛乳と砂糖をどっさりと入れていた姉。銀行強盗をたった3分で捕まえてしまったと言う新聞に載っていた姉。文化祭ではステージの上で熱唱した後ド派手にすっ転んだ姉。みんなから慕われていた姉。先生からも信頼されていた姉。他校の生徒でも有名だった姉。敵であるはずの不良グループからも人気があった姉。学園都市から必要とされていた姉。


私からすれば、ただの錘としかならなかった姉。




そして、自分の部屋で首をつっていた姉。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 02:01:46.03 ID:SqXwDwQC0




『ほら、さっさと咥えろ』

『ぃぁ…やめて!』

『チッ!ルセェヨ!この野郎!!』

バキッ!

『がっ!』

『ホレ』

『んんっ!!』

『ああ、キモチー。フェラ最高』

『んんん///……んんんん///!!』

『ホラ、手がお留守だぞ!』

『んんっ///』

『ああ、パイズリを考えた人って天才だなww』

『んぁ///』

『へへっ、あんだけ嫌がってたのに、甘い声出しやがってるぜ』

『あっ、やべぇ/// 俺もう出そう』

『よし、三人一遍でやるぞ』

『んんん///!? んんんん!!///』

ビュルルルルルル!!

『んんっ/// ゲホッゲホゲホッ!!』

『何吐いてんだよ、呑みこめよ使えねェ奴だな』

『ほら、吐いた奴舐めろクズ』

『ははははっ』




『オウオウ、いっちょ前に濡れてんじゃねーか』

『いやぁ…見ないでぇ///』

『ちょいと味見……』

ジュルルルルル!

『ひゃあああああ///』

『ひゃっははははははは!『ひゃああああ!』だってよ。あっははははは!』

『それじゃあ処女貫通式第一号いったーだきまーす』

『ぃぁっ…やめて。やめっ/// いやぁぁぁぁぁぁぁああああ』

ズブズブズブ……!

『わー、流石は処女。締め付けきっちー。 ほら、全部入ったぞ。見えるか?』

『ぅ…、ぅうう………』

『泣くなよ汚い』

バキッ!

『ぐっ!』
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 02:14:26.17 ID:SqXwDwQC0
『ああ、やべぇ。もうでそう!』

パンパンパン!

『あっ///あっ///あっ///あっ///あっ///』

『早漏じゃねーかww』

『うっせぇ、やべぇわコイツ。超名器だ。 ほら、中に出すぞ』

『あっ/// えっ!? や、やめて!!』

びゅるるるる!!

『あああっ!!///』



『はぁお前の言う通りだわ。こいつ名器だ。こんな奴あった事ねぇ』

パンパンパンパン!

『はぁはぁはぁ/// だろ? 明日もコイツ犯そうぜ。 全く、チンコをケツにブチ込むなんて誰が考えたんだよ! 偉人だよホントに!!』

パンパンパン!!

『はぁはぁ、でも/// いきなり三穴は無いんじゃないか?』

『んんんん///』

『いいじゃねーか。 とうの本人は喜んでいるようだしよ』

『そ、そんなことっ あっ///あっ///あっああ〜〜〜///あ〜〜〜〜〜っ///』

『そろそろ出すぞ! 記念すべき20発目』

『あああああ!!///』





『おい、もう朝だぜ……。どこまでやるんだ?』

『もっと…/// もっと…///』

『ホレ、これが最後だ』

『はぁ/// ぎもじぃいい///!!』

『媚薬入れたらこんなになっちまったな』

『ははっド淫乱の出来上がりだ。 はははは』



コレハ、夢ダ。

タダノ夢ダ。

私ガ、コンナ目ニ逢ウ筈ガナイ。コンナニ不幸ナ筈ガナイ。アル筈ガナイ。

コレハタダノ淫夢ダ。 明日目ガ覚メレバ、普通ノ一日ガ始マッテ……ソレカラ………。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 04:01:38.07 ID:SqXwDwQC0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぅぅ…ぅぇぇええええええええええええええ!!」


美琴は口を抑え、洗面器に走って向かった。

そして思いっきり吐いた。


「ヒューッ、ヒューッ、ヒューッ、ヒューッ。はっ、全くなんなのよ本当に!!」


悪夢だ。 これは悪夢だ。


全身の皮膚に鳥肌が立ち、胃の中の物質を胃が追い出した。

吐き気がまだ収まらない。彼女のさっき考えていた事が美琴の脳にダイレクトに植え込まれた。

一人の少女が顔も名前も知らぬ男達に無理やり犯されるのを疑似体験したのだ。

口の中にまだ白くて臭い液体を飲み干した感覚が残り、無理やりに処女膜を破られた痛みが子宮で疼く。

また、吐き気が襲ってきた。


この記憶を読む方法は、自分がまるでその記憶では第三者としているか、映画を見ている様な感覚だった。

だが、今回は相手が全面にこの記憶を出していたので、その本人の体験をそのままなぞった形となったのだろうか。


美琴は胃袋の中身を全部、洗面器の中にぶちまけた。 今日食べた青椒肉絲が原型を留めていない計上で出てきた。喉が胃液で焼かれて痛い。


「………ごめんなさい、取り乱しちゃって」


美琴の電撃を浴びて気絶していた木縞が目を覚ました。


「いいの。これはパニクってしょうがないわ」

「流した電流がそのまま回線になって他人の記憶を読み取る、……便利な能力ね」

「たまたまできたいらない能力ですけどね」


美琴はポケットから丁度よく雨でずぶ濡れになったハンカチを取り出し、口のまわりを拭いた。 落ち着いた木縞は深呼吸を一回してベットから起き、美琴に改めて頼んだ。


「お願い、まだあの廃墟にいる人たちを助けて」

「わかりました。 あなたの為にも、私の為にも、絶対に」


美琴はベッドに置いてあった松葉杖を取り、突いて部屋の出口へ向かった。


「もしみんなが無事に脱出出来たら、一度会いましょうよ。 いい中華のお店知っているんです」

「そう、だったらお願いね?」

「………自殺なんてしないでくださいね?」

「わかってるわ、ちゃんと生きてここにいるから」

「じゃあ…」


そう言って手を振りながら、美琴は敵地へと赴いた。
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 04:08:50.31 ID:SqXwDwQC0
――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 20:01:09.55 ID:SqXwDwQC0
こんばんは、今日も書いて行きます。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 20:54:06.21 ID:SqXwDwQC0
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吹寄制理ら9人は無理やり、豪華な創りの部屋の床に座らせられた。


「ぐっ」


ドンッと押されるように座らされ、尻を強く打ちった。

吹寄は押した男を睨む。


「睨んでんじゃねーよ」


男はニヤニヤしながら吹寄を見下す。

と別の方向から低い中年くらいの男の声が聞こえた。


「ほうほう、なかなかイイ子たちじゃないか。 いいねぇいいねぇ、ヤリがいがある」


高級物のスーツにマフラーの様な物、ストールというらしい布を首にかけている男だった。

ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべ、一人一人を舐めまわす様に観察する。

吹寄の斜め前に座っていた佐天はゾクッと背を振るわせた。

男は自分から一番近くにいた満潮燦へ歩み寄った。


「ほうほう、君、いい匂いがするねぇ……」

「いやぁ…来ないでぇ……」


男は満潮の顎を右手で持ち、自分の顔の高さまで持ち上げる。 そして彼女の首をアイスクリームの様に舐めまわした。


「ひゃぁっ…」

「んん〜美味しいねぇ……、実に美味しい。 微かに香ばしく香る汗の風味と恐怖に踊る表情のスパイス……。 君、処女だろう?」

「………ひっ…」

「いいねぇいいねぇ感動的だねぇ。 君の様な恐怖に怯え、絶望の穴の中に陥る寸前の様な表情……。おじさんだ〜い好きだよ」


パッと手を放して落とした。 当然、満潮は尻から床に落ちることになる。


「あたっ」

「まぁ君は後だよ。 そうだねぇ…今日の一番最初……前菜ちゃんはどれにしようかな……」


男はフムフムと手を口に当て、考える仕草をする。まるでアイスクリーム屋でどのアイスにしようか迷っている様な景色だ。

男は結局決らず、まぁどれでもいいかと思ったのか、奥にいたこの部屋にいる中で最も大きな体躯の男に一つ訊いた。


「リーダーさん、今日の一番商品は誰だい?」

「ああ、はい。 一番右の胸が大きいヤツです。 原価では55万します」

「ほうほう、この子かい? いやぁ可愛いねぇ」


と涎を垂らしていそうな声で男は、吹寄の前に立った。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 21:16:35.23 ID:SqXwDwQC0
「……えっ、私?」


私は55万で値打ちされたのか。 やけにリアルな数字が吹寄の思考を停止させる。

たったの55万!? いや、55万は高いのか?でも人の命はお金には変えられない!


「可愛いねぇ。気が強そうな感じが特に。堕ちた時の表情が目に浮かぶよ。うはははは」


男は吹寄の手錠が填められて動けない両手を持ち、上にあげ、空いた腋に顔を突っ込んだ。


「ひゃぅあ……」

「スーハー、スーハー…… ああ、この匂いは最高だ…。微かに鼻腔を刺激する腋臭が実に堪らない……。 ジュルルルル……」


今度は舌を出して舐め始めた。


「いぁぁああああ!」

「ああ、美味だ。実に美味だよ。 流石は55万だ。 本当なら100万でも出して玩具にしたいくらいだよ」


男は吹寄の胸を鷲掴みにして、今度はスカートを捲って股の中に顔を埋めた。


「はぁーすぅーはぁーすぅーはぁー。 ジュルルルルルル」

「離して! 離せ!」

「ああ、君は真面目な性格なんだろうね。クラスの委員長じゃないかい? 全くオナニーしていないじゃないか。匂いが初々しいし、奇麗な形だよ?」


「吹寄さぁん!!」


近くで佐天が叫ぶ。

屈辱だ。 最悪だ。 なんで こんな目逢わなくちゃならない!!


――――――――――――『うるさいわね!! 何時からお前はベビーシッターになったのよ!! それに自暴自棄になるのは当然よ!! あんな臭いモン舐めさせられて、汚いモンぶち込まれて!! どうやったらそんなに冷静になれるのよ!?』


そうか、わかった。 なんであの時、九重絵彌さんは怒鳴ったのか。

昨日、これと同じことをさせられたのか。


男はようやく顔を吹寄から離した。

吹寄は荒い息をしてコテンッと倒れた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」

「ねぇリーダーさん、この子に決めたよ。 この子は私専用だから、手を出さないでね? 他はどんなふうにしてもいいから」


そうか、九重さんは犯されたのか。プライドが高そうな人だったから、さぞかし苦痛だっただろう。

きっと昨日からいるメンバーはみんなそうだろうな。 木縞さんも納雅さんも、笹斑さんも、みんな……。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 21:43:16.25 ID:SqXwDwQC0
「おいお前ら、今日は旦那の奢りだ。好き勝手にやっちおうぜ!」


誰かが言った。その言葉に他のメンバーたちも一斉に応えた。


「旦那にお礼言えよ〜」

「旦那あざーっす」

「俺こっちの子にするわ」

「へへっ、俺はこっちの大人しそうな子で」

「俺ロリだからこっちのロリいただくわ」

「へっ変態ヤローが」


100人の男達が一斉に群がって来た。


「止めて!この子には触らないで!!」


笹斑瑛理は大事そうにフレメア=セイヴェルンを抱きかかえ、守ろうとする。 が、男達は笹斑を殴り飛ばし、フレメアと笹斑を引き離した。


「いやっ、イヤァァァァアアア!!」


誰かが絶叫した。


「ほらさっさと立てこの豚!!」

「いやぁ!! 行きたくない!! 絢実ちゃん! 絢実ちゃん!!」

「お前はこっちだ!!」

「好子、好子!! 離しなさいよ! ぃやぁあ!」


明るい性格だった天導さんが親友の音無さんを呼びながら足を持たれて引きずられてゆく。

それを音無さんが天導さんの手を掴もうと腕を伸ばすが、彼女も数人の男に抑えられて手が届かなかった。


「へへっ、俺コイツもーらい!」

「こっち来ないで! 近寄らないで!! イタイっ放して!!」


大人げな雰囲気の叶さんは髪を引っ張られ回されている。


「痛い!! 痛い!! ヤァアアアアアアアアア!!」

「ホラ!メス犬さっさと歩けや!!」


さっき首を舐めまわされた満潮さんは服を脱がされ下着だけの姿にされ、鞭で打たれながら四つん這いになっていた。



まさに地獄絵図。 これはただの地獄。 これは女の地獄だった。

どんなに抗っても、嫌がっても、男の理不尽な腕力で押しつぶされ、否定されていく。


ああ、段々、頭に血が昇ってきた。


「ほら、君。 さっそくおじさんと気持ちい事をしようじゃないか…」


相変わらず、何を気持ち悪い事言っているんだ。 このクソ変態親父は。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 22:08:07.43 ID:SqXwDwQC0
「私に近付くな。 痛い目を見るぞ」


遠くで咎咲の声が聞こえた。 こんな時まで一つも声色を変えず、落ち着いた態度だった。


まったく、なんでこんな時にまであんな風に正座して茶を啜るような態度を取れるのだ! あの女は!!


「ほらぁ、おじさんとチューしようか。 お嬢さん」


男が吹寄を抱き締めた。吹寄の手錠を掛けられた腕を自分の首に回し、腰と腰、胸と胸がくっ付くような体勢を取った。顔と顔が数cmしか離れていない。


ああ、息が臭い。あと加齢臭がハンパじゃない。 いったい日頃から何喰ってるんだ!? どうせ肉ばっかり食っているのだろう。野菜も米も喰わずにいるからここまで体臭が酷くなるんだ!

まさかこんな臭いオッサンにファーストキスを奪われるのか!?冗談じゃない!! 断固拒否だ!! こんな奴だったらあの三馬鹿デルタフォースのウチの誰かにされた方がマシだ!!

だったらどうする!? 今まで何をしてきた!? あの生きる伝説を作るゴリラの災誤先生から何を学んだ!?


「は〜い、ブチュー」


汚い顔をこっちに向けるな汚らわしい!!


とその時、横から誰かの声が聞こえた。



「や…やめて……吹……寄さ、んに……触…らない、で……」


それは佐天涙子の声だった。

数人の男共から上の服を奪われ、ブラジャーの上から胸を揉まれている佐天が、今、自分の危機を顧みず、赤の他人の…今日初めて知り合った人間の心配をしていた。

吹寄は目を疑った。


「おね…がい。 吹寄……を、やるなら……先に……私を……」


男はその声が耳に入ったのか、男は顔を吹寄から離した。


「へっ、無様なガキだね。今にも男十人から犯されようとしているのに、他人の心配か。無粋だねぇ、美しくない。この子が私の物になるのを見物しながら君はさっさと豚の様に這いつくばりながら犯されたまえ。それに、私は中学生には興味がないんだ。 ホラ君たち、その子を黙らせてくれ」

「へ〜い♪」


この男!! 自分が危険な状態にいるにも関わらず、人の事を第一に考える人間を無様だと!? 無粋だと!?

許せない!! 断固として!! 許せない!!




その時、自分の頭の中に血管の一つが千切れた音がした。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 22:26:09.80 ID:SqXwDwQC0

「は〜い♪ お嬢さん。おじさんと改めてキスをしようか」


男は吹寄の唇を奪おうと口を尖らせて顔を近づける。


吹寄は嫌がる仕草を全くせず、腕を男の首に巻いた。


(ほう、処女の癖になかなかノリがいいではないか……)


男は“勝った”と確信を得た。

二人が口づけを交わすまで5cm、4cm、3cm、2cm、1cm……。

そして……。















ドゴォン!!!

















と大きな音がした。

あまりにもいきなりで、そして大きな音だったので、あたりが静かになる。

強姦しようと社の服を切り裂こうと鋏を持っていた男も。

鞭で上半身裸で叩かれ続け、ミミズ腫れが所々でできている満潮も。

顔の大きさよりも三倍の大きさのピザを食べていたリーダーも。

もう裸当然の恰好にされていた笹斑も。

天導を逆さにして恥部を弄繰り回していたアシスタントも。

そしてずっと吹寄を助けようとしていて、ズボンを脱がされようとしていた佐天も。

みんな、一斉に黙った。


が、一人だけ、吹寄の唇を奪おうとしていた男だけが、声を上げた。


「…………ぁ……がぁ……ぁあ」
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 22:52:16.60 ID:SqXwDwQC0
声にならない声。

そしてもう一度、




ドゴォン!!




音がした。

みな、目を瞠った。


「あ、あれは……あの体勢は…」


一人、呟いた。

それは格闘技が好きで、柔道、中国拳法、空手、ブラジル拳法……と色々と詳しい、無能力者狩りの下っ端の男が呟いた。

彼が注目したのは吹寄が取っている体勢…。


相手の首に両腕を巻き、手を後頭部に添えることで相手の動きを封じる、立ち技最強を誇るムエタイの代表的な技。



「首相撲だ!!」


「……ぅ゛…ゥ゛ばぁ…ぁあぁ」


男は崩れ落ちそうになる。

が、吹寄はそれを許さず、後頭部に添えていた両手で男の顔を下げさせ、膝で男の顔面を思いっきり蹴り上げた。


ベキィッ!!


男の顔は跳ね上がり、棒立ち状態になった。

そこに吹寄は追討ちを晴らすかのように、今までの鬱憤を晴らすかのように回転飛び蹴り…いわゆる旋風脚で男を吹っ飛ばした。





先程の音…何かの衝突音の様な音の正体……。それは吹寄の膝が男の鳩尾に入っていた音だった。

それが二回。 次に顔に一回膝蹴り。 最後に止めの旋風脚。


「鬼だ…」


格闘技好きな男は恐れと尊敬の念を称してそう例えた。
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 23:37:59.94 ID:SqXwDwQC0

「………ぉ…ぉぇぇぇぇええええええ!!」


男は盛大に嘔吐物を高級そうな絨毯の上に撒き散らした。

吹寄はそんなものには興味がないと言っているように、口を一心不乱に腕で拭く。


「……ああ、危なかった。 危うくファーストキスを奪われるところだった」


と吹寄は近くにあったテーブルにウィスキーを発見する。

それを手に取ってチャップを開け、一口仰いでウガイをした。

一応、最高級のウィスキーなのだが、そんな事知ったこっちゃない未成年吹寄は床に吐き捨てた。


「消毒よ」


吹寄は腹部を抑えて悶絶する男のストールを二つ捻じって両手で持ち上げる。

自動的に首が閉まる男は首に手を掛け、ストールを解こうとするが、それは意味無く、男の顔がだんだんとヤカンの様に赤くなっていった。


「がぁああ!!」

「よくも好き放題やってくれたわね。 当然、お礼というものをしなければならないわね」

「がぁあ、すまんかった………許して……」

「許すもんですか、これ位でも足りないわよ」


吹寄はストールから男の頭を両手で掴み、壁に叩き付けた。 壁にヒビが入り、男はズルズルと崩れ落ちた。


「……そこで寝てなさい」


吹寄は振り返る。

後には呆然と立ち尽くす男達と、それに犯されそうになる自分の仲間たち。


「あなた達、その子から離れなさい!」


吹寄はまず佐天の所へ走っていった。 周りの男は5人。

男の一人がポケットからナイフを取り出した。


「チッ! なめんじゃねぇ!!」


男はナイフを突き刺す! が、それよりも速く吹寄の飛び蹴りが男の顔面をクリーンヒットした。まずひとり。

二人目は意表を突かれた男だった。これは金的を二発喰らわせて終わった。 ふたり。

三人目は上段蹴りで顎を捉えて脳を揺らし、体勢が崩れたところで踵落とし。 さんにん。

四人目はリヴォルバータイプの銃を構えていた。 吹寄は彼がハンマーを上げる前に回転するマガジンを抑える。マガジンが回転できないリヴォルバーは発砲できない。 吹寄はそのまま体をスライドさせて、肘で相手の鳩尾を突く。 よにん。

最後の五人目は炎を使う能力者なのか、右手から炎の玉を出し、吹寄に向ける。 が、彼女は先程倒した四人目の男を投げつけ、相手の視界を遮った。 男は飛んできた仲間を左手で払う。が、吹寄はいない! 否、後ろに回っていた。 吹寄は男の首を取り、手錠の鎖で頸動脈を締め、血の流れを止める。 丁度七秒後に男は白目を剥いて崩れ落ちた。 ごにん。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/16(日) 23:58:08.97 ID:SqXwDwQC0
全ては一瞬。

全てはいきなりの出来事。

即ち奇襲。


吹寄は呆然としている佐天の手を取った。


「大丈夫? 佐天さん」

「えっ、あ、はい」


佐天は呆気にとられて素っ頓狂な返事をしながら立ち上がる。

佐天が立ち上がると、吹寄は佐天の手を引っ張り、5m向こうのドアへ走った。


「逃げるわよ!!」

「あ、はい!?」


二人は颯爽と駆け、あっという間に部屋を脱出してしまった。


「………あ…?」

「なんだったの? さっきの」


呆然と立ち尽くすしか出来ない無能力者狩りの一同。

そこに、リーダーの喝が飛んだ。


「大馬鹿野郎!!素直に逃がしてどうする!? さっさと追え!! 全員でだ!!!」

「あ、はい!!」

「はいっ!!」


男達はバカみたいに散らばった。


「1班から5班はAフロア! 6班から7班はBフロア! 残りはCフロアだ!! 草を分けてまででも探せ!!」


ボンが直接指揮をとる形で怒鳴る。


と気が付いたのか、先程、吹寄に伸された客の男が頭に手を当てて起き上がった。

ボンは近寄り、様子をうかがう。


「大丈夫ですか? 旦那」

「いちちちち……、あの嬢ちゃん可愛い顔してエグイ事やるな」


大丈夫の様だ。 ……いや、なんで大丈夫なんだろうか。


「まったく、格闘技経験者なら先に言っててくれれば良かったのに……。 あれ、素での戦闘力なら間違いなく学園都市一だね」

「いえ、書庫によるとそう言うデータは無い筈なんですけど……」

「えぇ?! じゃあ何で!?」
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 00:37:22.94 ID:bW4V2MU20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「趣味よ!!」


吹寄制理はそう答えた。


「学校で空手先生がいるの。その先生から空手と古武術を今年の夏休みに習ってたの! それだけじゃ物足りないから、ムエタイとか軍式格闘とか中国拳法とかカポエイラとかを、DVDとか本とかで勉強してて……」


まぁ“全ては健康の為”でやって来たのが、奥が深くてハマリにハマった。まさかここまで役に立つとは。 災誤先生、感謝です。


「とりあえず、どこへ逃げるんですか!?」


佐天は叫ぶ。上が下着姿なので、胸を隠しながら走る。


「とりあえず走る!! どこか隠れる所があればそこで隠れる!!良いわね!?」

「了解!!」


二人は迷路の様な廊下を全力疾走で走る。と、正面から声が聞こえた。


『おいっ! こっちから声が聞こえたぞ!?』


二人はビックリして、小さな声で作戦会議をする。


「やばっ、吹寄さん、見つかっちゃいますっ」

「あ、こっちに階段があるわ。 ここを登りましょう」

「はいっ」


二人は丁度、横にあった階段を登る。 どこからか雨漏りがしているようで、階段は濡れてて滑りやすくなっている。


「爪先から衝撃を吸収するように登れば滑らないから」

「そんなこと言われたって! ……って、わっ!?」

「ほら言わんこっちゃない!」


雨で滑った佐天を吹寄は足を手すりに掛け、佐天の手を掴む。


「あっ、ありがとうございますっ」

「お礼は良いから走る!」


佐天は体勢を直し、再度走り続けた。

こうして最後まで階段を登り切った二人は、すぐ横の研究室らしい部屋に入った。

すると、吹寄は何かを探し始めた。


「何を探しているんですか?」

「ここは何か研究室らしいから、絶対にある筈なんだけど。……っ! あった!!」


吹寄は取り出したのは、石鹸水の原液。 手の消毒用として扱われ、主に雑菌や埃を洗い落とす為に使われる。 これを水で10倍にして使うのだが、吹寄はこれを半分の5倍にして薄めた。

これを持って、吹寄は部屋を出て行った。

「ちょっと言ってくる!!」

「あっ、ちょっと待ってください!」


佐天もそれに続く。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 01:02:05.89 ID:bW4V2MU20
吹寄はシャカシャカと石鹸水が入ったボトルを振る。


「石鹸水は水と比べ摩擦力が著しく低くなる……」


吹寄は階段の前に立ち、そのボトルの蓋を開けて階段に溶液をばら撒いた。


「だからこうすることによってより、滑りやすくなって足止めになる!」

「おお…」

「さぁ、行きましょ」


吹寄は走った。それに続いて佐天も走る。

数m走った頃だろう、階段から何人かが転げ落ちる音と悲鳴と怒りの声が聞こえた。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!』

『イッテェええ!!』

『あんのクソアマァァァアア!!』

『ぜってぇブッコロス!!』


「あの〜、すっごく怒ってるんですけど…」

「今まで泣いてきた女の子達の痛みに比べたら蚊に刺されたようなモンよ。 それにしてもここが何かの研究所で良かったわ」

「どうしてです?」

「武器になりそうなものが可能性が高い」


吹寄は『東雲研究員 消火剤製造研究室』と書かれた看板がある部屋に入った。

中は普通の研究室だったが、吹寄は棚の中を漁って、一つの『四塩化炭素液』と書かれた大きな薬品瓶と『アルミ粉末』と書かれた箱、それとエチルアルコールと布切れ数枚、それとチャッカマンを取り出した。


「例えば、佐天さん、そこの瓶を取って? 出来る限り全部」

「あ、はい」

「この瓶の中に四塩化炭素液とアルミ粉末を入れて、アルコールを浸した布で蓋をして」


それを二人で八つ作った。

すると丁度、10人の男達がやって来た。

その中の一人、ガラの悪い男が指先で空気の玉を作って構えていた。


「へへっ! みぃつけた!! 観念しやがれ!!」


吹寄は早速作った瓶を持ち、チャッカマンで布に火を付けて男達の放り投げる。



すると、バァン! 爆発し、白い煙がモクモクと男達を包んだ。


「うわっ! なんだ!?」

「ゲホッゲホッ!! ゲホッ!!」

「目がぁあ!!」


男達は煙の臭いで息が出来なくなり、粉末が目に入ることによって激痛が彼らを襲う。

その隙に二人は別のドアから逃走した。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 01:18:18.69 ID:bW4V2MU20
訳の分からない現象について、佐天は質問する。


「いったい何が起こったんですか?」

「四塩化炭素液は消火器の原料で、アルミ粉末は粉塵爆発で有名な危険物質……。アルコール液をたっぷり染みこませた布に火を付けて、アルミ粉末に着火させると、アルミ粉末が爆発するの。するとそれと同時に四塩化炭素液も爆発して、煙幕の代わりになるのよ」

「へぇ〜」

「因みに四塩化炭素液は有害物質で、直接人にぶつけると眩暈、感覚麻痺、肺水腫になるの。あと胃痛に嘔吐に呼吸困難になるから絶対にやらないでね」

「やりませんよ……ってかよくもそんなもの普通に投げられますね」

「そんなの、今まで泣いてきた女の子の痛み辛み恨みに比べれば、くしゃみ以下よ」


全部それで終わらせる気か。 佐天は心の中でツッコむ。


「とりあえず、どこかに隠れましょう。 絶対に見つからず、安全な場所に」

「はい、私もそう思います」


と遠くから声が聞こえた。


『何やってんだ、女二人に』

『すまねぇ…あの胸のデカいのセコイ手ばっか使ってやがる』

『無能力者だからって油断しすぎだ。 なんの為にこの組織に入った!? 能力でパパッと終わらせろ!』

『は、はいっ!!』


吹寄は立ち止まり、考える。


「まずいわね、あいつら能力を使い始めるわよ」

「それってヤバくないですか?」

「そうね、ヤバいわ。 でも能力を使わせる前に倒すっていう手も無くはないのよ?」

「?」
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 01:50:51.09 ID:bW4V2MU20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アシスタントは、正直頭に来ていた。


「まったく、どうしてドイツもコイツも使えないんだ!」


自分は強能力者だ。 だからこの5班の班長を任されている。

アシスタントの能力は『亜音速拳(ソニックハンド)』。殴る、叩く、手刀、掌底、エルボーなど、腕・手・拳・肘での攻撃時では腕だけ亜音速のスピードになる。まぁホンの一瞬、インパクトの時だけだけど。

大能力者になれば構えからインパクトまでが本物の音速になる。そうなれば間違いなく格闘戦最強の能力になるだろう。


さて、あの忌々しい兎二匹を早く狩らなければ。

下の十人の部下たちは異能力者や低能力者ばかりだ。 先程は石鹸水で全員すっ転んで、他の班の奴らを巻き込んだり。 追い詰めたと思ったら煙幕張られて逃がすわで、散々な大失策を繰り返してきた。

そうなれば、責任問題として折角築き上げてきた地位というものが崩れ去ってしまう。

せっかく初期メンバーで“近衛隊”であるボンさんのアシスタントとしてある程度の地位まで来たのに……。


「くっそ、俺が先頭に行く! お前らは俺に続け!!」

「はいっ」


野太い声々が返事をする。

アシスアタントは血眼になった目であの乳でか女を探す。 手錠を填めている身だ。走りにくいからさほど遠くまで行ってないだろう。 それに地の利はこちら側にある!

絶対に見つけ出して、俺達を舐めてかかった罰を思う存分わからしてやる!! とアシスタントは意気込む。とその時。



アシスタントはド派手にすっ転んだ。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


アイススケートの様に滑って行くアシスタント。 後には彼と同様に部下たちも滑ってくる。

いったいなんなんだと床を触る。とヌルヌルした液体が地面にばら撒かれていた。


「これって……油!?」


アシスタントは油がどこまであるのかを見る。と末端の15m向こうには彼が探していた乳でか女こと吹寄がいた。

冷たい目線で自分たちを見下す彼女の手には……。



火が付けられたマッチがあった。



「…………おい……。ちょっと待てこら!!」


アシスタントは嫌な予想をし、油まみれの床からそう叫ぶ。 が、吹寄は点火したマッチを油の中へを落とした。

火は油へと着地し、着火した。油に火が付き、吹寄の傍は火の海となった。 無論、火は燃えてアシスタントと部下、以下11名へと火は襲い掛かり、油塗れの彼らの体を焼いた。


「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」 「熱い!! 熱いぁぁああ!!」「水っ!!みずっうう!!」
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 02:23:24.05 ID:bW4V2MU20
吹寄は炎を纏って転げまくる男達を一目見て、横へと続く階段を下った。

そこには佐天が待っていた。


「いいんですか? こんなことしちゃって」

「いいのよ。 こんなの今まで泣いてきた女の子のと比べてたら……」

「『焚火と同じ』ですか?」


吹寄はキョトン、とした顔をする。ニコニコと佐天は笑う。


「あってます?」

「………ははっ、ええ、あってるわよ」

「じゃあ次行きましょう。急がないとですね?」

「あくまで足止めだからね。あの火達磨軍団だってすぐに誰かが消すだろうし。…とりあえずさっさと行きましょう」


二人は階段を下る。あと煙幕瓶は七つ。 これで何とか逃げ切れるか……。

吹寄がそう考えたその時。


後ろから火達磨の男が襲ってきた。彼は諦めず、インパクトの時に亜音速で繰り出すパンチを一矢報いる執念で吹寄へと出してきた。


「テェエメェエエエエラァアアアアアアアアアアアア!!」


が、一矢は彼女に届かず、ハラリと避けられ、階段を転げ落ちた。


「あちっ」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、少し服に掠っただけ。 それよりも逃げましょう。 最終的に外に行きたいけど、待ち伏せが怖いからどこかに隠れるといいんだけど…」


そう話しながら、階段を降りる。

火達磨とかしたアシスタントの男は気を失いながらも、彼女らを捉えようと手を伸ばす。しかし彼の手は数cm、届かなかった。

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 02:29:53.83 ID:bW4V2MU20
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい、大丈夫か!?」


リーダーを守る為に構成された近衛隊の一人、幹部のヤンは火傷を負ったアシスタントを抱えて叫んだ。


「ああ……、ヤン、さん……」

「どうした、何があった!?」

「あいつ等に……火ィ着けられた……」

「大丈夫だ、すぐに医療系の能力使える奴連れてくるからな!?」

「それより……、あのクソアマを、どうか……」

「喋るな! わかった、俺が何とかするから。お前は休んでろ!」

「……マジ……悔しいです……」


アシスタントはそう言い残し、気を失った。

数秒して、後ろから医療系能力を使う部下がやって来た。


「ヤンさん……」

「アシスタントをよろしく頼むぞ」

「はい」

「まったく、何やってんだ。 リーダーが遅いと言って俺を来てみたら……このザマかよ……。……おい」

「はい」

「コイツとコイツの部下をよろしく頼む。 あと、他の班の奴らにも伝えてくれ。マジでやらなくちゃあメンツが潰れちまうってな。 そうなりゃあ。 リーダーに本当の意味で殺される」

「はっ、はい!!」


このヤンと呼ばれる男、組織ではNO,3を争う戦闘力を誇る男である。 部下にもリーダーにも信用が厚く、組織の参謀役を担ってる男で、常に静かで獲物を梟の様に狩る男だ。

ヤンは野球選手が書けるようなサングラスを取り、レンズを拭いた。


「………待っていろ。この俺がお前らをもう一度狩ってやる」


そう呟き、ヤンはサングラスを掛け――――――姿を消した。



梟の爪は確実に獲物に近付いている。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/17(月) 02:40:52.08 ID:bW4V2MU20
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。


同でしょうか、吹寄無双。>>38の設定を使わせてもらいました。


さて、自分の吹寄のイメージは無能力者なんだけれどもどうにか有能力者に足掻こうとする感じなんで、こんな風にしました。

まぁ原作じゃあ絶対に違うんですけどね。絶対に姫神と同レベルの無能なんでしょうけど。

でも吹寄は結構好きだし(ああ、胸じゃなくて性格が、これ重要)、上条とフラグ立つけどそれ以降は続きないし……。しかも華が無い。

だからAGEシステム並に進化させちゃいました。 こんなの嫌いな人は謝ります。


四塩化炭素液+アルミ粉末が云々は先日購入したマンガ、『MASTERキートン』が元ネタです。 あれ、改めて調べてみると四塩化炭素って本当に危険物で人体に害を及ぼす物質らしいです。

良い子は絶対に試しちゃダメですよ? あれは吹寄ちゃんは逃走する為の手段の為にしょうがなく使ったんだから。(鬱憤晴らしとは言わない様に)


さて、今度も書きます。

レスしてくれる方も、ROMしてくれる方も、ぞうどお楽しみに……。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/17(月) 08:29:47.60 ID:2NimPJoAO
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 09:34:15.06 ID:FsQvb5Ql0
吹寄△
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/17(月) 13:11:38.16 ID:nA/nAfe20
真吹寄☆無双だな
そこに痺れる憧れるゥ!
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 19:50:50.65 ID:7kWXsN4a0
こんばんは、今日も書いて行きます。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 20:35:37.81 ID:7kWXsN4a0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここは、無能力者狩り達が拠点としている廃墟の中の、とある一室である。


「はぁ…///はぁ…///はぁ…///」


一人の男が、一人の全裸の女を犯していた。荒い息をし、口から涎を垂れ、汗まみれになりながら腰を振る。


「……オラ、もう一発だっ!」


男は腰に力を入れた。


「ぁぁあ///!!」


女は甘い喘ぎ声を出した。 フルフルッと男の体が震える。 女の中に自分の種を植え、フーッと息を強く吐きながら自分の男根を抜いた。


「……ぁんっ///!!」

「まったく、さっきまで泣く話わめくわでピーピーとうるさかったのによぉ……。ハハッあまりにもイキすぎてバカになってらぁ」

「…はぁ///…はぁ///…はぁ//」


男は…『圧縮空銃』という能力を持つ男は再度、女の…九重絵彌の恥部の中に自分の男根を挿入した。


「ぐぅっ!! ///」

「へへっ、お前とまたヤレるって思ったら俺のチンポがまた元気になりやがったぜ!!」

「ぁあ/// アヘッ/// アヘッ///」

「はんっ、こんな美人がケツに巨大バイブをブッ刺されて、原液の10倍の媚薬をお注射されて、俺みてぇな巨根ヤローに汚されながら、アヘ顔になる気分はどうだい!?」

「ぎ、ぎも゛じい゛でず…/// 」

「そうかいそうかい! だったら犯しに犯しつくしてやる!!」

「あ゛あ゛! イっちゃうっ!///イっちゃうっ!/// 頭が真っ白になっつあう!! ぁぁああああああああああ!!」

「ああ、俺もイっちまいそうだ! ああ、あの変態ヤローんとこに行ったアマも名器だったが、こいつもイイもんだ! 精液製造工場がフル稼働だぜ!!」


ビュルルルルルル!!


「はぁ/// はぁ/// はぁ///! 思わずイったよ。 最高だぜ?お前」

「…………」

「………と、あまりにもイキ過ぎて昇天しちまったか。まぁいい、穴は穴だ。気絶してようが犯せる」


パンッパンッと手を叩くような音を出しながら男は再度、腰を振る。

九重は虚ろな目で動かない人形の様に、ガクッガクッガクッと頭を揺らしながら犯されていった。


「気絶している女を抱くッてぇのもいいもんだぁオイ!」


男は大きな声で独り言を叫ぶ。


と、その直後、別の独り言が耳に届いた。


「だったら、おまえも逝かせてやろうか?」


と……。 それも近距離から。

誰だ!? と男はビックリして振り向き、叫ぼうとした、次の瞬間……。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 21:55:51.41 ID:7kWXsN4a0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


咆哮


そう、俺は喉が裂けんばかりに雄叫びを上げる。


地の王である虎の様に、天を統べる龍の様に、人とは思えない様な声で吠えた。


獣のように吼えた。

死神から逃げる罪人のように絶叫した。

生を掴み取ろうとする死刑人のように泣き喚いた。

敵を駆逐する戦士のように怒号を飛ばし、

怪物を倒すために存在する勇者のように疾呼した。

巨人から逃げ惑う町人のように叫喚すれば、

狐を狩る狩人のように歓声を上げた。


他のみんなもそうだった。

一人一人が仲間の命を守り、仲間が敵を倒すのであれば一人一人がそれをサポートする。



俺達は雄叫びを上げた。


獣のように吼えた。 ――――――――――――――――― 殺意を持って警備員の喉笛を掻っ切る為。

死神から逃げる罪人のように絶叫した。――――――――― 背中に感じる“死”の恐怖と戦う為。

生を掴み取ろうとする死刑人のように泣き喚いた――――― 絶望から何とか逃げ出そうとする為。

敵を駆逐する戦士のように怒号を飛ばした。――――――― マシンガンを持った警備員の首を飛ばす為。

怪物を倒すために存在する勇者のように疾呼した。―――― 化け物戦車を仲間で一緒に潰す為。

巨人から逃げ惑う町人のように叫喚した。―――――――― 戦車の砲弾と軍用ヘリのミサイルから逃げる為。

友の死体を抱く負け犬のように遠吠えした。――――――― 砲弾で身代わりになって死んだ仲間の敵を討つ為

狐を狩る狩人のように歓声を上げた。―――――――――― 軍用ヘリの一つを警備員の軍団に落とした為。


俺達は走った。 戦った。 殺した。 守った。 助かった。 殺した。 殺された。 死んだ。 生きた。 叫んだ!


死力を尽くしに尽くして一層目…二層目…三層目と、ストレンジを取り囲んでいた警備員の包囲網を力尽くで突破し、ボロボロになりながらも第十学区を脱出した。

どうやってあの理不尽な程の包囲網を突破したのはまさに力技だった。


俺が未来を予知し、敵の配置、行動パターン、作戦内容、一人一人の装備……などを把握し仲間に伝え、マンションとヤンで俺達が叩いやすいように能力で敵を引っ掻き回す。それを他のメンバーで殲滅し、突破する。

出来るかどうかわからなかったが、思った以上に上手く行った。

しかし、仲間が1人、死んだ。 大切な仲間だった。 俺を戦車の砲弾から庇って死んだのだ。

それでも俺達は挫けず、仲間をミンチにした化け物戦車をぶっ潰し、中に入っていた警備員は女でも殺した。

軍用ヘリの後ろについているテールプロペラを破壊し、制御不能にした後、俺達をライフルで狙っていた警備員の狙撃隊へ叩き付けた。

怯えていた奴も首も刎ねた。 涙で許しを請う奴の顔を潰した。 逃げる奴を追い、胴を真っ二つに切り裂いた。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 22:04:43.06 ID:7kWXsN4a0
お前らがやって来たのは、人がやる事じゃない!! 悪魔の所業だ!!

俺達を狙っているんだったら、なぜ直接来ない!? なぜ関係のない人まで巻き込んだ!? 殺した!? 破壊した!?

あのストレンジは俺が、俺達が……あいつが大好きだった場所だった!!

それだけじゃねぇ……ここに住んでいた奴らだって…アンチスキルだって、ここが好きだったはずだ!! 心地よかった筈だ!!

なのに何で皆殺しにする必要がある!? 痛めつける必要がある!?

理不尽過ぎる!! あまりにも理不尽過ぎる!!

俺達は悪い事をしたか!? 俺達は自分が信じる“正義”を貫きたかっただけなんよ!! なんでわかってくれない!?

なんで“正義”を語っている癖に、語らなけりゃならない癖に………なんでここまで“悪行”が出来るんだよ”!?

なんで“悪行”を繰り返している奴らが“正義”をのうのうと語っているんだよ!? なんで誰も気付かない!? なんで誰も咎めない!? なんで誰も裁かない!?

この世には神はいないのか!? いないのか!!

じゃあ、誰か神の代わりになる奴はいないのか!? いないのか!!

だったら、俺達が裁いてやる!!

俺が神になってやる!!



そして、俺は気付いた。



俺がやっていることは、果たして本当に“正義”と呼べるものだろうか………?




しかし、俺はそんな概念を消し去った。 とにかく今は逃げなければ………。


今回の戦闘で俺は能力を使い果たし、酷い頭痛と疲労でボロボロになっていた。

近くにいたヤンが俺を背負う。


ヤン……、やっぱりお前は凄いよ。 どんな時でも冷静沈着で、思ったことをすぐには口に出さない。 そして何よりあの戦闘能力だ。 総合的な能力ならマンションに劣るが、戦闘能力だけなら組織の中ではトップ3だろう。


奴が一旦、自分の能力を発動させたら止められる奴はいない。 シンかマンション、あとはサブくらいだろう。

なにも能力を持たない警備員やスキルアウトなどの無能力者は絶対に太刀打ちできない。そんな能力だろう。


だってヤンは俺達の中でもっとも警備員を倒し、殺していた奴なのだから……。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 22:53:16.99 ID:7kWXsN4a0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!』


絶叫が部屋の外で木霊する。


幾つは絶叫を聞いただろう。 佐天涙子は隠れていた部屋の中でそう思った。

ここは廃墟の最上階にある、偶然見つけた隠し部屋。 何かの実験場所なのか、医療用のベッドがある。でも隠し部屋のなかという事だから、絶対に平和的な物では無い筈だ。 証拠にベッドには拘束具があり、シーツの所々には紅い汚れがあった。

しかし、ここは安全だろう。なにせこの部屋は埃とカビで汚れきっている。少々どころでない臭さで充満し、しかも薄暗くて何か出てきそうだったが、あの男の人達に犯されるのよりはマシだ。


あと、外には吹寄制理が仕掛けた罠が充満している。

今まで吹寄は数々の罠を仕掛けていた。

例えば、石鹸水や油が撒かれて、滑りやすくなっている床だったり、滑っていった所は火の海だったり、バーナーで熱してある極細の針金が張られていたり……。

とにかく吹寄という女子高校生は頭の回転が良いらしく、至る所に罠を仕込ませ、決して佐天の隠れ場所に近寄らないようにしていた。しかも、罠を辿って隠れ場所がバレないよう広く、ランダムに罠を仕込んである。

まったく、なんて人だ。 普通に置いてある物でここまで大の男…しかも有能力者たちを引っ掻き回しているものだ。


「しかし、吹寄さん大丈夫かな…」


なんだか不安になってきた。 まさか罠を仕掛けている時に捕まっているんじゃないだろうか?

この隠し部屋へ隠れた時、部屋ある人一人入れるくらいの大きさの窓を開けてくれと言われていて、今はその窓を開けたままにいる。

今まで気付かなかったが、外は今、大雨が降っている。


「明後日の大覇星祭、大丈夫かな……」


なんて、呑気な心配事をして気を紛らわせるが、やっぱり怖いし吹寄が心配だ。 もしもの場面に…と吹寄に渡された四塩化…何とかでできた煙幕瓶2本を抱きしめる。

と、ソワソワしていると窓から、カコンッという音がした。


「えっ?」


佐天は窓を見る。

と、窓に長細い鉄パイプが開いた窓に引っ掛かっていた。

鉄パイプの中心には、カーテンに使われていそうな頑丈で破れにくい材質の布が巻かれていた。ギシッ…ギシッ…ギシッ…と音を立ててパイプは軋む。

――――――――――誰かが布でよじ登ってきているのだ。

何……? もしかして、追手!?

佐天は身を縮込ませる。

ヤバイっ!早く逃げなきゃ! あ、でも外に逃げたら追手がいっぱいいるし、罠が沢山ある! 自分の為に仕掛けられた罠に引っ掛かりたくない!!

あーだこーだ考えている間に、誰だかわからない手が窓に手が掛けられた!!


万事休すか!?
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 23:12:40.76 ID:7kWXsN4a0



「佐天さん、大丈夫?」



登って来たのは、吹寄制理だった。


「…………………………………っっっっはぁぁぁあああ」

「ぇえっ、どうしたのよ、そんな重い溜息ついて」


吹寄は大きな胸を窓の冊子に引っ掛けさせながらも、部屋へ侵入した。


「いや、てっきり追手かと思ってまして……」

「ああ、ごめんね? あ、そうそう、罠の方は一番下を重点的に設置しておいたから、あちらは『一階のどこかにいる』と思って、ここには来ないと思うわよ?」

「え?そうなんですか?」

「まぁ、ここの罠の方がエグかったりするけどね?」


と吹寄は一つ付け加えていうと、明るい口調でこう言った。



「じゃあ早速、この廃墟から脱出しましょうか」


476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/19(水) 23:44:20.60 ID:7kWXsN4a0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「待てぇぇぇぇぇええ!!」


男の数人が走る。


彼らが追うのは人一人の少女。 名を吹寄制理と呼ぶ。


男の一人が仲間の男…一応この班のリーダーに提案した。


「クソッ! おいスバル! お前の能力使えばいいんじゃね!? 確か相手の筋肉の乳酸を急激に増やして足を縺れさせるヤツだったよな!?」


『なんと地味な能力だ』とは言わないでほしい。 彼の本当の能力は……。


「馬鹿野郎!! オレの能力は手足にまるで錘が乗っている様な感覚に陥らせる能力、『幻覚錘縛(ファントムストーン)』だ!! 変な誤解を招くような事を言わないでくれ! 組織中に広まるだろ!?」


スバル、そう呼ばれた男はもう一つ続けた。


「それにっ! オレの能力は直接相手に触らないと発動しないんだよぉぉお!!」

「役立たずっ!」

「うるせぇ!!」

「足手纏いっ!」

「黙れ!!」


と二人で喧嘩していると別の男が叫んだ。


「おい、女があの曲がり角を曲がったぞ!!」


スバルは前を見る。 前方にある曲がり角で吹寄の長い髪が微かに見えた。


「ユーニン、行けるか!?」

「よっしゃっ! オイラの俊足を試す時が来たぜ!! 括目して見よ! 自信に掛かる重力を1/6にまで減らせる能力!『月面歩行(ムーンウォーク)』!!」

「黙って行け バキャ野郎!! さっさと行って来い!」


スバルはユーニンの背中を強く押す。すると、ユーニンの体はキャスターを付けた椅子のように滑らかに押し出された。

押された強い力と力強い踏み込みで猛スピードで掛けるユーニンは壁に柔らかく着地し、曲り角を曲がる。


「オラァ! そこまでだクソアマ!! オイラが綺麗に愉快に畳んじまうぜ!?」


とユーニンは(意味の分からない言葉で)見切る。 と………。


「はへ?」


目の前で、吹寄は笑って手を振っていた。



――――――――――消火栓を抱えて、こちらに向けながら。
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 00:33:09.16 ID:otQpPimg0
いきなり、曲がり角から大量の水がド太い水鉄砲となって飛んできた。

ユーニンはそれをモロに喰らい。 あとから追いかけてきたスバルら仲間たちもシッペを喰らうように巻き込まれた。


「ゴブァァァァァァァッァァァアアアアア!!」


最大出量で発射された巨大水鉄砲は数人の男共を張り手のように吹っ飛ばし、壁に激突させた。


「クソアマとは酷い言われようね。そんなことを言う男は嫌いよ。 そこで寝てなさい」


吹寄は一言吐き捨てる。

とそこれ一人、生き残りが立ち上がった。


「く、くそぉお!」

「生き残ってたの」

「一応、根性はあるんでね……」


男はさっき、スバルと喧嘩漫才をしていた男だ。


「ここでお前を潰せば!! 俺がこの班の班長だぁぁぁ!!」


男はポケットから何かの赤い液体が入った全長3cm弱の小瓶を取り出して蓋を開け、紅い液体を飲み干した。


「俺の能力は、ある動物の血液を摂取することで飲んだ血液の動物に化けることが出来る! 『獣人変換(アニマルチェンジ)』だ! シェパード犬の能力の恐ろしさを喰らえ!!」


男の全身に黒と茶色の短い毛が覆い、鼻が黒く、前に突起し、鋭い牙と爪を持って、警察犬として活躍するシェパード犬らしい俊足で吹寄に迫る!

が、吹寄は余裕の笑みで左手を上げる。 その手に持っていたのは……、一本の千切れた電気伝導体。

そしてそれは……。



吹寄のすぐ後ろにあった、コンセントと繋がっていた。



そして、男の体は、電気が非常に通りやすい水でビショビショに濡れいている。


「…………はっ! おい!やめろ!!」


男は顔を青くし、叫ぶ。 が、吹寄は伝導体を水溜りに放り投げた。




結果、伝導体から流れた約100Vの電圧で流れてきた電流が、男の体へと突き抜けた。


「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」


学園都市最強の超能力者、常盤台のエース、最強の電撃姫で有名な御坂美琴は十数億Vもの電圧で電撃を放つ事があまりにも有名な為たかが100Vで…なんて思うだろうが、一般人の体は50Vで死ぬ。

それをわかっていたが、反応が遅く、感電してしまった男は黒焦げになりながら倒れた。


まるでそこにあるのがわかっていたかのように消火栓を即座に取り出して放水し、まるで最初から準備してあったかのように千切った伝導体をコンセントへ刺してあった。


「ま……さか……最初から……ここへ………誘き寄せる為に………」

「なかなか察しがいいじゃない」


吹寄は振り返り、先程倒した男などもう興味が無いように去っていく。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 01:22:57.11 ID:otQpPimg0
(運が良かったわね。この電気は30V以下よ)


吹寄は人殺しなんてしない。 あの電気伝導体は細くてとてつもなく長い物を、材質も最も伝導率が低い物を使用した。そうすると抵抗を増えるのだ。 抵抗が大きくては、どんなに高圧な電流でも肝心の電流は小さくなる。



「さてと、この一階のフロアも全部仕掛け終わったし、佐天さんの所へ行きますか」


吹寄は近くの部屋へ入ると、そこは何かの病室だった。


(………よし、これなら佐天さんがいる最上階へ行ける……)


そう安堵の息を一つした。

まず、吹寄はカーテンを剥し、鋏で縦に裂いて数本の長いロープを作り、それを一本にするように結んで繋ぶ。

次に近くにあったオンボロベッドを大きな音を出さないよう静かにひっくり返し、柱となっていた太いと細い鉄パイプを2本引っこ抜き、細い方の中心部分にロープを結んだ。

吹寄はポケットからある物取り出した。朝、上条と土御門とで行ったラウンド1の会員カードだ。セラミック加工されているそれを近くにあった鋏で弓道などの矢の羽のような形に切り取り、尻尾にくっ付けた。

これで矢はできた。

今度はベッドのマットに使用されるバネを10本ばかりを、別の部屋で見つけたニッパで根元から切り取った後、先程引っこ抜いた太いパイプの中へ入れ、先程作った矢をこの中にセットする。

あとは太い鉄パイプにあった穴にバネが伸びないよう細い、爪楊枝の様な棒を入れれば完成だ。


「できた!」


吹寄は窓を開け、そこから外へ出る。 そこは大雨だった。


「大丈夫、きっと行ける筈……」


この前、青髪ピアスから没収した漫画の通りなら、最上階の4階の隠し部屋にいる佐天がいる部屋にまで行ける筈!!

敵に見つからないように、壁から距離を取り、佐天がいる部屋の窓に照準を合わせる。


「よしよし、言った通り窓を開けてくれたわね……。 じゃあ、発射!」


吹寄は太い鉄パイプに刺してあった細い棒を抜いた。

すると縮められていたバネが伸び、その力によって4階の佐天がいる窓へと細い棒がロープを連ならせて飛んでゆく。

棒は窓の中に入り、窓に引っ掛かった。

吹寄はニヤリと笑い、誰にも気づかれていないか確認すると、ロープに足を掛けて登る。

『何処に行ったっ!?』『あのクソアマ!!』と吹寄と佐天を探す男達の声がしたが、彼らは壁を登る吹寄には気づいてないようだった。

ようやく登りきると、脅えていた佐天が勇者の帰還だと言う風な表情で出迎えてくれた。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 01:50:34.65 ID:otQpPimg0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はぁ…はぁ…はぁ…」

「佐天さん、大丈夫? もうすぐこの廃墟の敷地外だから……」


二人は…吹寄制理と佐天涙子は大きく降る雨の中、逃走していた。


「大丈夫です…はい」


佐天は笑いながら答える。

吹寄は後ろを振り返る。

後方200mにあるさっきまで自分たちが監禁されていた廃墟がある。そこの最上階のとある部屋には一本のロープが垂れ下がっていた。

ここは廃墟の裏にある草むら。殆どの草が自分の肩くらいの高さなので、中腰になって走れば気付かれまい。

といきなり、佐天は雨の泥濘で滑って転んだ。


「…きゃっ!」

「佐天さんっ!」

「あだだだ…へへっ大丈夫です」


泥まみれになりながらも、舌を出して可愛げに笑って見せる佐天。 そんな表情に安堵したのか、吹寄も笑ってしまう。


「とにかく急ぎましょ、追手に見つかっちゃったら元も子も無いわ」

「はい、急ぎましょう」


二人は走り続ける。

と、走りながら、佐天はある疑問を訊いた。


「あの…他のみんなはどうなるんですか? 笹斑さんとか、咎咲さんとか、社さんとか…」

「もちろん助けるわよ、もちろん風紀委員と警備員を呼んでね。 とりあえず、自分が助かる道を進むことが第一」

「はい」


お気に入りだった服と靴を雨と泥でドロドロで汚しながら草を掻き分けて進む吹寄は、一つ、ある提案を出した。


「ねぇ、佐天さん…」

「はい、なんでしょうか」

「この件が終わったら、改めてみんなで会いましょ? 笹斑さんも社さんも音無さんも天導さんも咎咲さんも九重さんも満潮さんもフレメアちゃんも納雅さんも木縞さんも……みんなで一緒にお食事でもして、ワイワイと楽しい事をたくさんしましょうよ」

「買い物したり…美味しいケーキを食べたり…学校の事とか、好きな人の話とか……」

「そう、そんな事をしたいの。 そう思う? 佐天さん」

「いいですね! ぜひ賛成です! やる時は最初に言ってください。 副実行委員長は私ですから!」

「じゃあ私は実行委員長かしら?」

「他に誰がやるんですか?」


二人は笑う。 楽しそうに『ははは』と白い歯を見せて。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 02:16:51.53 ID:otQpPimg0
「じゃあスケジュールにこれも加えてちょうだい? 第七学区の木の葉通りに新しく出来た中華屋さん。あそこ今日行ったけど、安くて美味しいのよ?」

「あっ、行ってたんですか? 私も今日行こうと思ってたんですよ。 でもですよ? 満員でしかも待っている人達がいっぱいいて、結局は入れなかったんですよ」

「もしかしてその時、私はその店内にいたのかもしれないな」

「………もしかして私達、運命の出会いだったんじゃないですか?」

「女同士とはいただけないな」

「なんですか〜もう! ……で、おひとりで?」

「いや、6人でだ。 まぁ最初は男友達と一緒に食べに行くつもりだったんだけど、満席で相席しかダメだったんだ。 で、相席になった人が偶然友達の知り合いだったの。 で、また相席の人が来たから誰かなって思ったら、ウチの高校の先生二人とクラスメイトだったのよ」

「へ〜。これは奇遇の連続ですね…。 時にその男友達の人って、吹寄さんが好きな人?」

「ぶっ!! あ、は、はぁあ?! な、なんでそうなるわけ!? あ、あ、ありえないわよ!///」

「…………嘘、下手なんですね。気がありまくりじゃないですか」

「……す、好きとはどうとかは置いといて、私はただのあいつの監視役なんだ、気になるのは…しかなないでしょう……」

(はは〜ん、友達以上恋未満って訳ですかぁ〜)

「じゃあ私は吹寄さんの恋を応援します!!」

「………だから、そういう事じゃないってば……」


と吹寄は話を反らす為にある事を話し出した。


「そうそう、さっきの店の話なんだけど、最初に一緒になった゛男!・友!・達!”の知り合いの女の子と友達になったぞ」

「へぇ〜良かったじゃないですか」

「ああ、その子は中学2年生…。なんとあの常盤台中学のお嬢様だったんだよ」

「マジですかっ? 実は私にも常盤台の友達いるんですよ

「へぇ〜そうなの。 また運命ってヤツね」

「で、どんな子ですかっ?」

「髪は奇麗でサラサラの茶髪を短くした感じの子で……実は学園都市に七人しかいない超能力者の一人なの」

「へっ?」

「知っている? 御坂…」

「美琴さんですか」


一拍、二人の会話が中断された。 が、泥沼の中を進む足は止まっていない。


「もしかして……」

「また…ですか?」

「………どれだけ共通点があるのよ、私達」


吹寄は呆れる。

佐天も肩をすくめた。


「まるで誰かが私達をここまで導いてくれたんですかね」

「それはそうかもしれないわね。あなたとはいい友達になれそうだし」

「ありがとうございます」

「まぁ、こんな形じゃなかったら100点満点なんだけど………さて、もう敷地外に出るわよ」


吹寄は指を指した。 それは一つの塀だった。 高さはざっと2m半、右から左へと敷地の周りをグルリと囲んでいた。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 02:35:55.52 ID:otQpPimg0
「私が土台になるから、佐天さんは上に登って私を登らせて?」

「は、はいっ……。……こうですか?」


壁に向いて手をついた吹寄を佐天はよじ登り、無事に塀の上に到達すると吹寄に手を伸ばした。


「はい、吹寄さん」

「どうも」


吹寄は佐天の手を取る。


「やっとここにお別れね。 あとは通報を受けた風紀委員と警備員が何とかしてくれるはずよ」

「だと信じます……よっ」


佐天は吹寄の腕を引っ張ろうとした。




………その時、吹寄の視界の隅で何かが光った。



「……………?――――――――――――ッ!!??! 佐天さんっ! 早くその手を放して逃げなさい!!」

「へっ!?」


吹寄の怒号と鬼の権幕で吹寄は思わず手を放した。 吹寄は重力によって落下する。






刹那、巨大な砲弾がさっきまで吹寄がいたところに着弾した。






ダガァァァァアン!!





雷鳴と勘違いするほどの轟音が響く。




482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 02:57:38.11 ID:otQpPimg0
あの塀に砲弾が直撃したため、その衝撃の為、吹寄は勢いで後方へ転がった。


「吹寄さんっ!?!?」


佐天は起き上がって叫ぶ。


「大丈夫! 早く逃げて!!」


吹寄は応える。

が、佐天は反論した。


「でも……!」

「良いから行きなさい!! じゃないと……」


吹寄は砲弾が着弾し大きくヒビが割れてクレーターが出来た塀を睨む。 砂煙と共に何か怪しい気配と、殺意で身が削られそうだ。

そう、吹寄は佐天に言いたいのは…。


「じゃないと、死ぬわよ」


これはヤバイ、ヤバすぎると、女の勘がそう言っている。


「早く逃げて風紀委員か警備員に通報して!! 私はここで足止めする!!」

「わ、わかりました!!」


タッタッタッタッ……と雨の音に混じって、佐天が走って去っていく足音が聞こえた。

吹寄は一つ息を吐いた。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 02:58:17.87 ID:otQpPimg0

「まったく、上手くバレずに行けると思ったのに……」


吹寄は砂煙に向かってそう話しかける。

すると、モクモク漂う砂煙の中から男の声がそれに応えてきた。


「俺達を舐めないでほしいものだよ。 ウチの組織は150人だ、簡単に引っ掛け回したり、逃げられると思ったら、それは小学生の未来予想図よりも夢のまた夢だ」


声の主は右足を出し、一歩前へ進んだ。砂煙の中から声の主は正体を現す。


「要はお前らは俺達からは絶対に逃げられない。 そしてよくも俺達をコケにしてくれたな。 報酬は高くつくぞ」


男の歳は大学生のくらいだろう。目にはプロ野球が良く好んで掛けるタイプのサングラスを掛けているのが特徴的な男。


「そうだな、礼儀とここまで俺達を引っ掻き回した事に尊敬を込めて、一応名乗って置こう。 この組織での参謀役を前リーダーより無理やりやらされてもらっている、ヤンだ。 因みに本名は言えん」


ヤンと名乗った男が身に纏う空気が痛い。 ピリピリというか、ビリビリと言う感じに近いというのが言葉にできる限界だ。

吹寄の顔は雨に濡れていてわからないが、実は相当な量の汗を掻いている。 すべて冷や汗だ。


(………ヤバいわね、この男……さっきまで相手していた雑魚とは違う…。 無能力者じゃあ太刀打ちできない位置にいる男だと思った方がいい!! 早くッ 早く逃げて佐天さんッ! 誰でもいい、早く助けてくれる人を連れてきて!!)


吹寄は心から願った。このままでは自身の命が危ない。

そんな彼女の事など知った事でない様に、ヤンは吹寄を睨む、吐き捨てる。


「吹寄制理と言ったな…? お前………」


狩人、ヤンはポケットから煙草を取り出し、火を付けた。 獲物である吹寄の膝がガクガクと震えるのを見つめながら……。







「もう一度狩られる覚悟はできているか?」






狩人の爪は、獲物を捕らえてた。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/20(木) 03:14:11.72 ID:otQpPimg0
――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

自分でも面白い能力を考えたと思います。

『幻覚錘縛』と『獣人変更』と『月面歩行』…でしたっけ?

彼らの能力はみんな強能力者です。


前二つは即興です。『月面歩行』だけが別のSSで書こうかなと思っていた能力です。


設定では、『獣人変更』の低能力者だと、獣に変身できるのは耳だけです。ヤローのネコミミですよ? 良かったですね?

『幻覚錘縛』は実際の話、手足の筋肉の乳酸(筋肉の収縮を阻害する物質)を増やすのと結果的には変わりないです。

あと『月面歩行』の低能力者だと、体重計に乗った時の体重をチョンボするだけですよ。

そこっ! 地味って言わない!!


でも実際に欲しいのは『月面歩行』

月ってのは地球よりも重力が1/6低いらしいです。 だから能力名が『月面歩行』……。

ユーニンって名前も月面に行って、月面歩行した『ユージン=サーナン』さんの名前から取りました。スイマセン…あんなキャラでwww

さて、みなさんもご一緒に!!


「よっしゃっ! オイラの俊足を試す時が来たぜ!! 括目して見よ!自信に掛かる重力を1/6にまで減らせる能力!『月面歩行(ムーンウォーク)』!!」



………くっだらねww





次回予告、 真吹寄☆無双 制理ちゃん大ピンチ。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/20(木) 03:39:20.36 ID:Q7ND7OwW0
初期と比べてかなりブラックになっていくんですけど
てゆうか木縞さんが幸せになるビジョンが見えない
もう記憶全消去して学園都市外で暮らしたほうが楽な気がする
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/20(木) 03:53:30.08 ID:Q7ND7OwW0
性犯罪の被害者ってセカンドレイプされたり被害者なのに白い目で見られたりするもんなー
姉の事で風当たりが強い彼女の事事件が公になったら
虐めに遭うかも

……もう止めたげて
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/20(木) 04:00:19.25 ID:Q7ND7OwW0
あの圧縮圧縮ゥ☆がやっと死んでくれたか
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/20(木) 04:01:25.49 ID:Q7ND7OwW0
空気を圧縮ゥ☆
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 20:24:02.17 ID:Bo9uT/Wm0
月面歩行を使えば月に代わっておしおきするあの人みたいになれるわけか、すばらしいな
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/22(土) 00:14:04.17 ID:0v7o19WS0
>>489
鏡見ろよ
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/22(土) 23:41:53.63 ID:k0At6MsG0

『月に代わってお仕置きよ』

懐かしいですね、姉が良く好んで見てました。……まぁ幼稚園児だった頃の記憶でしたので、99%覚えてないんですが。
当時見ていたアニメは、『ジャンヌダルク』『秘密のアッコちゃん』『デジモン』『ロボコン』に『ビーダマン』……、あと、題名忘れましたが、死んだら自分がカードになるって話のヤツも見てましたね。当時は幼稚園児〜小学2年くらいですか、ああ懐かしい。

あとあと、当時の土曜の5時6時には『ゾイド』と『ウルトラマン』が入ってましたね。一番初めに見たのは確か、ティガだったはず。V6の大野君も老けましたね〜。『ゾイド』も名シーン集をニコ動で見てみると、見返したくなります。


あの時から比べ、田舎のTVに入っているアニメは少なくなってきました。殆どはBSでしか見られません。

アニメブームと言いますが、一般大衆向けのアニメは極端に減ってきたように思えます。

深夜アニメを見ると、『なんでこんな名作がゴールデンじゃないんだ!?』って嘆くときがあります。『CLANAD』『とらドラ!』『ef』『はじめの一歩』……etc.。まぁ『はじめの一歩』の再放送は大阪で朝やってましたが……。

是非とも深夜の神作名作達をゴールデンで放送できないだろうか、ただの一般大学生が無駄に考えています。…………俺の専門は環境科学なのに…。



さて、こんばんは。今夜も書いて行きます。

今日明日と書いて行きますが、大学のレポートがありますので、なかなか書けないと思いますが、ご了承ください。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 00:25:40.94 ID:ztLiu4nH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


僕たちは、逃げた。



散り散りになり、誰がどこにいるか、自分がどこにいるのか。




僕たちは逃げ出した。 いや違う。僕がいち早く逃げろと叫び、いち早く走り出したからだ。

なぜか?


奴らが、アジトに突入してきたからだ。


20人くらいの武装した警備員が…普通じゃない量の装備を、最新式だろう、変わった形の重火器を持って、突入してきたのだ




最初は外から警備員が自分たちがいる部屋の窓にロケットランチャーを3つぶっ放した。同時に突入隊は表口と裏口に分れてドアを無理やりに蹴り開ける音がし、ダダダダッと複数の人間が駆け足で走り回る足音だアジト中に木霊する。

無駄のない突入作戦。

一部屋一部屋俺達を探し回っているのか、ドアを乱暴に開ける音、僕たちの仲間を見つけたのか、怒号と銃声、それと仲間たちの悲鳴と断末魔。

奴らは一つ部屋を制圧し、次の部屋を制圧する。そう、虱潰しに僕たちを見つけ、潰しにかかってきているのだ。


出口は当然、警備員によって固められているだろう。 窓から出てもここは4階だ、怪我をするか下手すれば死ぬ。


だったらどうする!? どうする!? どうやってここから脱出する!? 逃げる!? それともいっそのこと正面から打って出るか!?

ここにいるのは確かに能力者だ。だが、僕を含め彼らの能力は精々、異能力者か低能力者。 あの武装した警備員に太刀打ちするほどの戦力は皆無だ。

だったらどうする!? このまま捕まるか?! マシンガンで撃たれて蜂の巣になるのか!? だったら大人しく投降するか……?

考えろ!! この最悪の状況を打破することの出来る上策を考えろ!導き出せ!!叩き出せ!!!僕はこの部隊のリーダーだ!!


とその時、ドアが少し開き、外から缶ジュースが一つ、転がってきた。



いや違う。


グレネードランチャーだ。





閃光と爆音が僕たちを包み込み、頭を揺らした。






それから、僕の記憶は飛んだ。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 01:05:05.03 ID:ztLiu4nH0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――


爆音が頭を揺らした。



吹寄制理はグラッ!と体勢を崩された。



何が何だかわからない状況。 目の前にいた、ヤンと名乗る男は先程と何変わらぬ表情突っ立っていると言うのに、自分だけ地震が起こったかのように体が揺れた。


何だ? 何が起こっている!?


吹寄は困惑し、辺りを見る。

これは地震か? だったらこれは逃げるチャンスだ。

吹寄は逃げるタイミングを計る為、ヤンを見る。

そして………。





刹那。






そう、ほんの一瞬。


瞬間、一間、一拍……。 いや、違う。このこれを表すにはこの言葉が相応しい。






『一閃』






――――――――――――――――――――― 一瞬で、ヤンは吹寄の目の前に躍り出た。






「―――――――――…………………………、 え?」




吹寄はそれに気づくのが遅れた。いや、誰もが気付かないだろう。




そしてまた、―――“一閃”――― 吹寄はヤンに顔を掴まされ、壁に叩き付けられた!
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 01:31:59.76 ID:ztLiu4nH0


「…………かはっ!?」


何が起こった!?

吹寄の感想はそれだけだった。

壁にはヒビが走り、砂煙が草を覆う。

幸い背中から激突したので頭は打たなかった。もし後頭部からだったら気絶するどころか障害を負うレベルの衝撃だ。


「何が起こったかわからないような表情だな」


ヤンは淡々と話しかける。

吹寄はとりあえず状況を分析した。ヤンは右手で自分のコメカミを掴んでいる。その指の間から、後ろの光景を目にした。

どうやら自分が叩き付けられたのはさっきまでいた場所から25mほど離れた場所にある塀だ。

ここから25m向こうの塀にヤンが最初に突っ込んできた時のヒビがある。

…………25m?


(…………25m!? バカな!? そんな距離を一瞬で移動しただと!?)


絶句した吹寄の表情を見たのか、ヤンは嘲笑した笑みでこう言った。


「そうか、なんで一瞬で…いや一閃と言った方がいいな…一閃でここまで気になるようだな」

「………く…」

「そうだな、ヒントをやる。精々考えることだ」


ヤンがそう言うと、バチンッ!と何かが弾けた音がした。

といきなり何かの衝動が吹寄の体を貫く。



「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」



吹寄は叫ぶ、悲鳴を上げる。 同時に自分の体からバチバチバチバチッ!!と音が連続して鳴った。

痛い、痛い痛い痛いっ! 体が痺れ、激痛がヤンの手から駆け抜ける。 自分の体じゃないかのように、腕と足がバタバタとビクビクと痙攣し、踊り狂う。

数秒後、音は止み、ヤンは手を放した。吹寄の体はガクンッと膝をつき、俯けで倒れた。


「わかったか?」


ヤンはそう笑いながら言った。


この痺れた様な感覚、駆け抜ける激痛、踊り狂うような手足の痙攣……この現象が起こるのは、一つしか思いつかない。


それは、感電。


電気を生身の体に当てると先程の様な現象が発生する。 あの廃墟の中で吹寄は追手に仕掛けた罠もこれを使って追手を撃退した。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 04:01:07.65 ID:ztLiu4nH0
ようは、この男の能力は……。



「あなた、発電能力者ね? しかもそれなりの高圧電流を出せるレベルの。 で、発電した能力を外に発せず、自信に放ち、己の筋肉を活性させて強化させる能力」


吹寄は淡々と回答をだす。と、ヤンは感心したかの様な表情をした。


「おう、これだけで俺の能力を見切ったか、流石の洞察力だ。………そう、俺は確かに発電能力者だ。俺の能力名は『雷電閃光(サンダーボルト)』自分の能力で作った電流を体中の筋肉……特に速筋に流し、一気に強化させる能力だ」


速筋とは瞬発系の運動をする時…例えばダンベルトレーニングや短距離走など、一瞬だけ筋肉の最大出力を出す時に使う筋肉の事だ。

逆に登山やマラソンなどの遠距離、持久力系に使われる筋肉を遅筋と言う。


「速筋だけじゃない。 例えば遅筋。無意識に半永久的に動き続ける心臓や胃腸などの内臓。血液の流れが速くなったら破れる仕組みになっている血管…。全ての筋肉は俺の能力によって強化され、化け物並みのスピードを得る」


簡単に言うと、要は……。


「細胞の活性化か……」


吹寄はヨタヨタとしながらも、立ち上がった。


「要は細胞を活性させ、集合体である筋肉の伸縮運動のの速度と硬度を極端に上げたか……。 あなた、馬鹿じゃないの?」


そして、喉に何かが詰まったのかせき込む。 それは血の塊だった。


「細胞の活性…それは簡単にいうと、細胞分裂の速度を急速に上げる事。一つの細胞の細胞分裂の回数は決っている……」


それ即ち。


「自分の寿命縮めているのよ? いずれは多くの細胞が死にまくり、癌になってあなたの体を蝕む。なんでこんなことに命を掛けるの!?」


吹寄の問いにヤンは当然のように、釈然と答えた。


「フン、早死にする運命など、そんな事は百も承知。それに対策もちゃんと立ててある。それに、」


続けて、


「それに、俺がこんな下らない茶番に付き合っているのは、俺には“ある人”にこの命が軽く捨ててもいいくらいの恩があるからだ」

「茶番とわかっていながらなぜ止めない!? なぜ加担する!? あれのせいで泣く女の子の存在があると言うのに!!」


吹寄は吠える。ヤンはそれについて、何もないかのように淡々と答えた。


「そんな事知った事ではない。仲間が商品を泣かそうが、犯そうが、殺そうが、俺は関係ない。第一、俺は惚れた女しか抱かない主義だからな」

「罪を犯すのを黙っていた人間もそれと同罪よ!!」

「もとより俺は大罪人だ。 俺は人をも無残に殺したこともある。 殺人の回数なんて、両手の指じゃあ足りない位にな」

「それをなぜ償わない!!」

「それは自己防衛だよ。殺らなければ、こっちが殺られる。 首が飛ぶ前に首を飛ばし、腹を刺される前に腹を刺さなければならない状況もあるのだよ」

「正義ってモノがないの!?」

「昔はあったな、そういうの。 だが、今はそう言うのは考えないようにしている。 この世に正義は無い。悪も無い。 あるのはバカな人間とそれに振り回されるその他少数なんだよ」
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 04:36:03.27 ID:ztLiu4nH0
「狂ってる……!」

「そればかりは自覚はある。 俺は…いや、俺達は、みんな嫌になるほどに自分の中の狂気に支配されているかもしれないな」

「………なぜそれから解放されようと努力しない……!」

「それは俺達はお前の様な“希望”と呼ばれるしょっぱい『幻想』をとうの昔に捨てたからだ。それと、俺はそう言う狂気とか、理不尽とか、罪とか償いとか夢や希望や幻想などは考えないんだよ」


ヤンはもう一度言った。


「考えなんだ………。俺達は考えるのを辞めたんだ」


三拍開けてヤンはこう、吹寄に訊いた。


「もう質問タイムはもういいか? そろそろお前を捕まえなきゃ、あのリーダーにどやされる」

「………くっ」


吹寄は身構える。 スタンスを広くし、やや左の半身の構えで、両手は固く握り、右拳は体の少し前に、左拳は軽く突き出すようにして、重心を低くして構える。


「そう身構えるな、無駄な努力だ。いや、一応構えておけ。少しでもダメージを軽減させるためにな。子宮が破裂して子が産めない体にされては困る」


ヤンは子供にゲームを教える様に言った。


「まぁお前の今の絶対勝利条件は、さっき逃がしたあの小娘が逃げ切り、風紀委員ないしは警備員に知らせる、もしくは第三者に助けを求めるまでの時間稼ぎをする事だ。……あってるな?」


吹寄は口を固く閉ざした。 ヤンは肯定と読んだ。


「そうか…。だったら残念だったな、その計画は無様に無残に無力にも朽ち果てることになる」


とその時、パァンッ!と銃声が耳を刺した。

吹寄は振り返り、何事かと耳を傾ける。 耳に届いたのは……。

『いたぞ!こっちだ!!』『回り道するぞ! 挟み撃ちだ!』『待ちやがれぇ!!』


「なっ!?」

「聞いたか? 今、お前の連れは俺の部下たちに追わせている。みな強能力者ぞろいの精鋭だ。 たかが無能力者のあいつが1qも逃げ切れるわけがない。まぁ頑張っても500mは持ってるだろうな。800mならノーベル努力賞を剰余したいくらいだ」


再度銃声が鳴る。 吹寄は軽い絶望感に駆られながら、希望にしがみ付く。

佐天さんは何とかなる! 信じるしかない。 とにかく今はこの男を何とかして足止めしなければ。

しかし、ヤンは身構える吹寄を哀れみの表情と言葉で評した。


「だから無駄だろうと言ったはずだ。 勝負は…勝負と言っていいものじゃないが、ケリは一瞬、いや一閃で終わる」

「やって見なくちゃあわからないでしょ!」

「いや、そんなのは火を見るどころか太陽を見るよりも明らかだ。子猫と戦車がガチンコで戦うようなものだ。一瞬どころの問題じゃない」

「…………私を舐めないで」

「忠告はしたぞ?」


ヤンの目が光る。

そして……、――― 一閃 ―――
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 05:12:46.42 ID:ztLiu4nH0
吹寄の顔が跳ね上がった。


「―――――――――…………っっ!!?」


目の前には、いつも間にか間を詰めたヤンが立てた肘を突き上げていた。

グワングワンと鐘の様に頭を回す吹寄は何とか意識の鱗片を掴み取り、防御の体勢を取る。


「……くっ」

「遅い」


がヤンは光速とも言える速さで地にクレーターを作りながら接近してきた。

そして吹寄のガードの隙間を掻い潜るかのように拳を滑り込ませる。

パァンッ!

再度吹寄の顔が跳ね上がる。

あの生きる伝説のゴリラ、災誤先生曰く、パンチの強さは『パワー×握力×体重』。握力は相当鍛えてあるのか石の様に固く、体重は重い筋肉を付けた180cm近くの長身は恐らく70〜80sだろうと予測でき、パワーは例の能力で段違いに上がり、超人的な身体能力を有しているだろう。

結果、彼のパンチは例えジャプだとしても、吹寄からすればライフル銃を至近距離で撃たれたかのような苦痛を与えるのだ。


「がはっ」


今度はボディ。体を丸めて顔をガードで固めた吹寄にヤンはボディを数発連続で入れてきた。 弾が大口径の射撃用ライフルなのに、銃はマシンガンの様に連打が続く。

次第にガードは下がっていき、吹寄の顔が腕から見えてきた。


そしてヤンはオマケだと言いたいように、鳩尾に拳を植え付けた。


「……かはっ……!?……………ぅえっぇえっぷ!!」


反動で吐き気が口に込み上がってくる。吹寄はもがみ苦しもうとした。 が、ヤンは吹寄をサッカーボールのように蹴り、壁に叩き付けた。

ゴガッ!!

壁は窪み、大の字の奇麗な人型となって吹寄を地へ落ちないように支える。

ヤンは仕上げに吹寄の胸を…心臓を狙って掌底を食らわした。

衝撃により、心臓が一瞬だが止まり、直後に暴れ出した。


「ぐふぅっ!」


腹の中からポンプで送り込まれたかの様に、口と鼻から血が溢れ出す。


「あ゛、あ゛あ゛…………」


ドドッドドッドドッドッドッドドドドッドドッドッドッドドッ

心臓が壊れそうなほどに不規則に暴れまわり、吹寄は苦痛と恐怖で手足が動けぬ状態でもがみ苦しみ……、

そして、吹寄は目と口を開けたまま力尽きた。


その姿は磔刑に処されたイエス=キリストのように思える姿だったが、苦痛と恐怖で顔中を涙と血で汚された、残酷な程に残忍な姿だった。


これは僅も10秒も経たない世界の話だった。
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 05:40:17.11 ID:ztLiu4nH0



「さて、俺の仕事は終わったな」


ヤンはそう呟いた。


「まったく、手間かけさせやがって。大人しく犯されればこんなに辛い目に会わなかっただろうに」


ヤンはポケットから取り出したハンカチで吹寄の血で汚れた顔を拭く。


「これも仕事なんだよ。すまない事をしてしまったな、こんなに傷つけて」


ヤンは吹寄の頬を撫で、開けられたままの目を閉じさせた。

そして左胸に耳を当てて、心音を聞く。

『ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド……』


「よし、不整脈は収まった」


心臓を強く叩くと半永久的に動くはずの心臓は止まる。

ボクシングである技だが、ヤンはそれをアレンジして、心臓を止めた後、衝撃と電流により、人工的に不整脈をさせる技術を身に着けた。

まぁ、これは『あの日』で習得した技なのだ。あまり好きじゃない。


「これで俺達の仲間を痛めつけてくれたのをチャラにしてやるよ」


ヤンは吹寄を抱きかかえようと、窪みに手を突っ込んだ。


(そう言えば、あいつ等どうなったんだろうか、ちゃんと目標は回収できたのだろうか)


心配性な彼は吹寄を抱きかかえようとして手を腰に回した。


―――――――――――――――その時!!


――― 一閃 ―――

別の方向から一閃の光線が飛んできた。今度は疑似的な意味でない、本物の光線が一閃で地を這い、向かってくる。

光線はヤンがいる場所を破壊し、通り去っていき、すぐに消えた。そのあと、暴風と言っていいほどの風があたり一帯で吹き荒れる。


「一体誰だ? 何をする」


ヤンは先程までいたところから少しした場所にまで離れていた。 そして問う、誰だと。 その問いに、誰かが応えた。


「何をするってのはこっちのセリフよ」


女の声だ。しかも若い…というか幼さが微かにある。 中学生くらいだろう。


「人様の友人に手ぇ上げて…ただで済むと思っているんでしょうね」

「その前にお前は誰だと聞いている」

「あんたら犯罪集団に名乗るほど私の名前は安いもんじゃないわ」


光線によって破壊された塀から、御坂美琴は松葉杖を突きながら瓦礫を踏みながらそう吐き捨てた。



「覚悟してらっしゃい、あんたらは私がぶっ潰してあげる」
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 05:45:01.94 ID:ztLiu4nH0
―――――――――――――――――――――――――――――

今日はここまでです。有難う御座いました。


さて、ヤンさんの能力が判明しました。『雷電閃光(サンダーボルト)』です。ネーミングに悩みました。

モデルはみんなおなじみ悪刀ちゃんです。それとモンスターハンター3rdで出て来るジンオウガも混じってます。

カッコイイですよね、ジンオウガ。

倒す時はなぜか楽しくなっちゃいます。

一番狩るのが 楽しい奴です。(因みに2位があの泥棒猫野郎)
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 10:39:23.57 ID:hvvZNUfr0
3GのPVで出たジンオウガ亜種厨二全開でかっこよかった
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/23(日) 13:02:31.69 ID:+k4mGOXk0
とらどらは深夜の必用がないよな、
ラノベって基本深夜やし
どこぞの魔法少女に関しては内容軽くして日曜の朝くらいにやったらもっと人気出るんちゃうん
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 16:26:59.58 ID:6WGBxZSe0
オラもう、どれとどれがクロスしてるか分からなくなっちまったぞ。結局、BLACKLAGOONとはクロスしたんだのか?

後、悪刀「鐚」は土御門が使えば痛みは感じるけど魔術連続使用ができるんじゃね?戯言だけどね
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/23(日) 18:23:13.77 ID:ztLiu4nH0
>>502
このスレは純刀語×禁書のスレです。
BLACKLAGOONはきっと出てこないと思います。前スレの嘘次回予告は100%ネタなんで。ほら、薄刀 針みたいな…あんな感じ。
まぁあの双子がマジで学園都市に侵入してきたら面白んですが…。
あと、ジンオウガはあくまでモデルです。

勘違いされたのならば、謝ります。

あと、土御門元春×『悪刀 鐚』については………まだお楽しみです。



今日はレポートを書くので、続きは書けないかもしれないです。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/23(日) 19:13:29.88 ID:kLsu7CZG0
レムナントの引き渡し先が三合会って出てきてた気が。
まあ小ネタ扱いで本格クロスするわけではないだろうけど。

レポ頑張れ。続きは気長に待つ。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 00:20:47.02 ID:6NCU124B0
あの双子を初めて見たのがネタ動画で
プリキュアのBGMで人射ちまくる様は笑うの通り越してドン引きしたな(引)

それはそうと薄刀は別のssで縦だけでなく横にも伸びる超柔軟刀って設定だったな
それくらいしか利点なさそう
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富士山) [sage]:2011/10/24(月) 07:57:26.54 ID:/q7m8FEk0
垣根「いけ。未元物質コーティングした微刀「釵」」

この人くらいしか微刀「釵」を操れなさそう。未元物質でコーティングした釵なら月の光を太陽の光に変換して夜でも動けそうだ。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/24(月) 19:00:19.89 ID:XQKia70y0
こんばんは、今日も書いて行く予定です。

>>504
そう言えば三合会の話がありましたね、失念してました。申し訳ありません。
設定当初、パワレルワールドであわきんはあの港町に行って、徐々にトラウマを克服していく物語を考えていました。
まぁ銃については全くのド素人ですから、ブラクラは正直いって難しいですめ。スイマセン……。

レポートですが、書き直しだそうです。がんばります(涙)。


>>505
錆白兵の技で、刃渡りが自由自在に変化する技、『速遅剣』があったはずです。まぁ、物語の中で白兵の技を最大限に生かして行こうと思います。
まぁ誰と戦うかは未定ですが、きっと禁書キャラの誰かでしょうね、未定ですが。

あと、薄刀の特徴『脆弱』さは、=『薄さ』だったですよね? これも最大限に出していきたいです。


>>506
あえて言いましょう……その手があった!!



今から晩飯を食いに行ってきます。

それから12時まで書いて行きます……では。




ああ、あと、美琴が登場したことについては誰もツッコまないんですね……。


今日は『雷電 対 電撃』です。お楽しみに。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 22:02:33.07 ID:MTmRK7X90
>506お前天才やな!
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/24(月) 22:10:58.21 ID:XQKia70y0
さーて書いてきます。 ではどうぞ。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 00:19:05.86 ID:66xrGhi40
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


バチバチッ!



少女の額から紫電が鳴る。



ヤンは冷や汗を背中びっしょりになって顔をしかめた。

一方少女はまるで虫けらを見るような表情で彼を見る。


「誰だお前、なんでここがわかった」


ヤンは訊いた。 すると少女の口はつまらないコトを訊くなと言う風な口調で答えた。


「アンタらの様なクズには教えないわ。声も聴きたくない」



今度は彼女の周囲で紫電が鳴った。


この大雨だ。 雨水に電気が通ったのだろう。 彼女の周囲3mで小さな光がチカッ!チカッ!と光り、バチッ!バチッ!と音を鳴らす。


パッと見、あの少女も発電能力者だろう、それもかなりの発電量だ。


ヤンの野生の勘が警鐘を鳴らす。


―――――――――ヤツは危ないと……。


ヤンは少女を睨む。と、少女はポケットからコインを取り出したのか、上に弾いた。

なんだ? ヤンは疑問を表情に出す。



――――――――――――――― 刹那、彼女の指先から一閃の光線が放たれた。



「―――――――――――――ッッ!!!?」


ヤンは瞬時に体に電気を溜め、それで強化された脚力で横へ5m跳ぶ。

避けた! ヤンはそう確信し、反撃に移ろうとした。しかし問屋はそうは降ろさない。


その光線の後からやって来た風圧でヤンは吹っ飛ばされ、さらに3m転がる。


「……くっ!?」


いきなりの出来事に焦って、思わず叫んでしまう。 まったく、奇襲という戦術はこの頃の女たちの流行りなのか?

ヤンは受け身をとり、体勢を立て直す。

服は泥だらけになったが、元から濡れ鼠だ。どの道一緒。変わりない。


一方少女は走って先程までヤンがいた場所へ行く。そこはヤンが倒した吹寄制理がいる場所だ。彼女は今、気絶させてある。

少女が吹寄を発見すると、無言で壁に寄りかかっていたままの彼女を抱きかかえた。


「――――――――………………………!!」


気絶した吹寄を見て、少女は怒りで体を振るわせる。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 00:19:58.46 ID:66xrGhi40

と、彼女の後ろで声が聞こえた。


「ヒッ! ………吹寄さん!」


それは中学生くらいの少女の声だった。

聞き覚えがある。佐天涙子だ。

ヤンは眉を潜める。おかしい、アイツは部下が追っているはずだ。

少女は佐天に指示し、吹寄を連れて逃げる様に指示する。

ヤンはそうはさせまいと、追いかけようとするが、少女の電撃が足元に刺さった。

そして少女はヤンへこう尋ねる。


「アンタ、あの人に何をしたの?」

「答える義務はないな、お前が何者か聞かない限り。 それよりこっちが訊きたい。 そこの小娘を追っていた俺の部下はどうした?」

「ああ、あの雑魚共ね。 邪魔だったからね、どこかで伸びているわ」

「そうかい」


ヤンの部下は10人。この少女は10人もの強能力者を無傷で叩きのめしたのか。

ヤンは目を瞠る。

彼女が放っている電撃の発電量……。さっきの彼女の指先から出てきたあの光線……。しかもよく見るとあの制服……。


「ははっ、そうか、お前、あの御坂美琴か」

「………」


少女は応えない。が、ヤンは笑って続ける。


「学園都市最強の七人の超能力者。常盤台のエース。地上最強の電撃姫。そして―――『超電磁砲』」


風が強く吹いた。 雨が横から叩き付けるように降り、視界を霞められる。しかしヤンの眼は御坂美琴を真っ直ぐと見る。


「なるほど、これならあいつ等が潰されてもしょうがない……。 さっきのが超電磁砲と言うものか? 凄い物だな」


ヤンは震える。

いや、脅えているのではない。恐れてもいない。そう、彼はただ、歓喜した。


ヤンは武者震いで体を震わせ、歓喜の笑みを浮かべる!!


「あははははははははははははははははは!!」


常に冷静を保っていると言われる彼には珍しく、大いに笑った。喜んだ。

美琴は怪訝な顔をする。いきなりなぜ笑ったのか、この男は。

気持ち悪い物を見たような顔の敵を見て、ヤンはその歓びを、幸福の理由を口にする。


「俺はこの時を待っていた」

「………?」


美琴はますます怪訝な顔をする。一体なにを言っているのだ?
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 00:28:02.55 ID:66xrGhi40

「ああ、お前がそう言う顔をするのはしょうがない事だ。それ位はわかっている。所詮お前ら超能力者は俺達…いや、自分より弱いヤツら全員を虫けら同然としか見ていないだろう」

「そんな訳ないでしょうが、あんた達じゃああるまいし」

「果たしてそうだろうか? ……よく話は聞いている。お前、『幻想御手事件』で『幻想猛獣』を倒したらしいな」

「…!?」

「『絶対能力進化実験』じゃあ数々の筋ジストロフィー関連の研究と偽って、非人道的な実験を進めてきた研究所を潰して回り、麦野沈利率いる暗部組織『アイテム』をで疲弊した体ながらもたった一人で互角に渡り合い、生きて帰ってきたし、」

「………っ」

「しかも最近では、結標淡希が起こした『残骸争奪戦』でも参戦したそうだな」

「なぜ、私のことを?」


美琴はポケットからコインを出し、指に掛ける。

ヤンはそれに動じることも無く答えた。


「それは俺達は常日頃から普通じゃない客人の相手をしているからだ。この街の闇で起こった事件なら、あるていど把握できる」


ヤンはそれに続けて語る。


「そいう情報から、良くお前の話も聞くぞ。 お前、闇の人間じゃないのに、闇にえらく関与しているようだな。しかもいずれも自分の為でなく、他人の為だ。 時には友人の為。時には元敵だった者の為。時には後輩の為。そして時には自分のクローンの為……」


ヤンは濡れた髪を手櫛で書き上げ、オールバックにする。


「お前はその時、思ったはずだ。『私は学園都市に七人しかいない天才である超能力者だ。だから自分より力の弱い者の為に何かしなければ。自分より格下の子が泣いている……泣かしたヤツをボコボコにしよう。私のせいで誰かが死にそうだ。代わりに私が死のう、身代わりになろう……』と、こういう風にな」

「思ってないわよ、そんな事……」

「果たしてそうだろうか? だったらなぜ、『幻想御手事件』で自分と関係ない、ましてや顔を合わしたことも無い人間の為に傷だらけになって戦う? 『ポイスターガイスト事件』ではなぜ、かつて敵であった木山春生の為に戦った? 『絶対能力進化実験』では死ぬ運命にあった悲運なクローンの為に闇に堕ちる事を覚悟して暴れまくった? 『残骸争奪戦』でもなぜまたもやクローンの為に命を張る?」

「そんなの決ってるじゃない!!」


美琴は叫んだ。


「人の命が危ないって時に、指を咥えて見て見ぬふりをしろって言うの!? 冗談じゃないわ!! 今にでも泣きそうな人を助けて何が悪いの!?」

「命の保証は無くてもか? その助けた者の運命を肩代わりしてもか?」

「当たり前よ!! それが超能力者としての義務よ!! 強い人が弱い人を助けて当たり前よ!!」

「……それだ」

「…え?」
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 00:28:39.81 ID:66xrGhi40


美琴は戸惑う。ヤンは指を指して問う。


「それだよ。俺が言ってるのは…。
お前は言った。『私は学園都市に七人しかいない天才である超能力者だ。だから自分より力の弱い者の為に何かしなければ。自分より格下の子が泣いている……泣かしたヤツをボコボコにしよう。私のせいで誰かが死にそうだ。代わりに私が死のう、身代わりになろう……』
とは思っていないと!!」

「ぐっ…」

「俺は世界で嫌いな人間は二つある。
一つはいつもいつも、人のことを第一に考え、自分の事を全く考えずにいる奴。
二つはただただ人を見下しておいて、その癖に正義を語っている奴……。
そう言う奴を見ると吐き気がする!!」


ヤンは足をドンッ!と踏み鳴らした。

すると、彼の体中から電流が迸り、周囲を雷雲の中のように白い電撃で明るく照らす。


「俺は今からお前を倒す……」


ヤンは宣告した。美琴は身構える。


「俺にはお前を倒す理由が三つある。二つは先程言った二点だ……。そして実はもう一つ理由がある」


ヤンを包む電撃の灯りがさらに明るくなり、まるで光の玉の中にいるように見える。


「俺は長年……俺は学園都市一の発電能力者を目標に戦って来た………。ところが、数年前、なんと小学生のガキがその称号を掻っ攫っていきやがった。それがお前、御坂美琴だ。 即ち、お前を倒せば俺は学園都市一の能力者だ」


さっきまで口で押されていた美琴は、このヤンの発言を聞いて、それを鼻で笑った。


「は、はんっ、私なんてそんなモン、微塵も興味ないわよ。そんなもん手に入れて、何が欲しいの?」

「力だ。ただ、力だけが欲しい……それだけだ」

「その喉から手が伸びる程に欲しい力が何の為に何のよ」

「今まで先生に守られながらヨチヨチと温室で育てられたお子様には千年たってもわからんさ」


ヤンは美琴を挑発する。


「ほら、さっさと来いお子様。お前の10億Vの電圧とやらをこの目で見せてみろ。出来ないならば今すぐ回れ右して母親の乳でも啜りながら泣いて、今日の出来事を話してヨシヨシしてもらえばいい」


ブチィッ!

美琴のコメカミから血管が切れる音がした。

美琴は体を支えていた松葉杖を放り捨て、ヤンと同等かそれ以上の電圧を周囲に流す。


「OK、わかったわ。だったら、私の本気を思う存分見せてやる!!」


掛かった……。ヤンは心の中でニヤリと笑う。


「だったらさっさとかかってこい。お前など、一分も掛からん」

「言ってなさい。後で泣いても許さないから」



二人は見合う。

二つの電気の球は、高圧電流を周囲に撒き散らし……ジリジリと間合いを詰めるタイミングを計る両者。

そして、両者ほぼ同時のタイミングで地面を蹴った。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 01:27:58.49 ID:66xrGhi40



ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!



核爆発でも起きたのか?

そう言う感想が容易にできる様な衝撃波だった。

雨で出来た水溜りの水は酸素と水素に分解され、空気中の酸素が電化してオゾンになり、大量の熱エネルギーと風圧が周囲を叩いた。


「ぅぁあああ!!」


周囲でそれを隠れて見ていた佐天涙子は圧倒された。

これが高位能力者同士の戦い。圧倒的すぎる。これではまるでSF映画の世界だ。

本来なら、直ちに逃げるように言われていたが、美琴が心配でここまで来た。

が、これではこっちが巻き添えを喰らう。ただちにここから逃げなければ!

が、腰が抜けて動けない!!

佐天は今、戦っている二人の動きを見る。が、片一方は光速並のスピードで相手を翻弄させながら攻撃し、もう片一方は上段下段前方後方左手右手に電撃や砂鉄で出来た盾に矛を無尽蔵に配置させていて防御する。

たまに攻守逆転して、佐天の味方である美琴は電撃をぶつけ、砂鉄で出来た鞭と矛で敵の男を追うが、男はそれを身軽なフットワークで避ける。




「……くっ、チョコマカと!!」

「じゃあこれだったらどうだ?」


ヤンは一瞬で360°に展開していた美琴の防御圏をどこからか擦り抜け、一瞬で美琴との間合いを詰めた。そして掌底を美琴の顔面に食らわす。

スパァンッ!

刻みの良い音が美琴の脳天を揺らした。


「……クッソ!」


鼻から血を流しながら電撃を浴びせる。しかし、それよりもヤンの蹴りが速かった。腹部を回し蹴りされ、30m吹っ飛んだ。

美琴は30m先の塀に突っ込む……いや、突っ込まなかった。事前に塀の中の鉄筋に電気を送り、フレミングの左手の法則により、衝撃を吸収させながら着地した。


(なるほど、すこしの隙間でも間を潜り抜けてくるか………)

「だったら!」


美琴は周囲に万遍なく高圧電流を垂れ流し、電撃の弾幕を作る。これならば近付けまい。


「さぁどこからでもかかってらっしゃい!」


美琴はヤンを見る。 が、


「なっ! いない!?」


先程までヤンがいた場所には誰もいなかった。 どこだ、あの男がどこへ消えた!?
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 01:50:44.27 ID:66xrGhi40
「こっちだ」


上だった。

ヤンは美琴に踵落としさせようと上空から落ちてきた。


「っ!!」


美琴はとっさに砂鉄の盾を上に配置。 しかし盾に衝撃は無い。

そのとき、美琴はハッ!と気付いた。

ヤンがすぐ前にいた。


美琴は条件反射で3億Vの電圧を当てる。

ヤンはそれをとっさに避ける。


「おっとと………。 最強の発電能力者も大した事はないな」

「アンタだって、随分花高々く言ってたくせに大したことは無いわね」


美琴は鼻から出ていた血を拭い、今度はこちらから挑発した。


「それに、弱点を一つ見つけたわ」

「ほう、なんだ?」

「アンタ、自分が流れる電流に限界があるんでしょ?」

「………根拠は?」

「図星はやめて。 だって、同じ発電能力者なら私の作った電撃なんて効かない筈よ。でも、アンタはそれを避けた…。なぜなら感電してしまうから」


美琴は続ける。


「精々、アンタの限界発電量は1億〜3億V……。それ以上の電圧のある電撃を喰らうと、100Vのコンセントに携帯電話の充電器を差したら充電器諸共携帯電話が壊れてしまうように、アンタの体も一定以上の電撃を溜めたり流れるとショートするのよ」

「………………っ!」


ヤンは黙秘した。おそらく肯定だろう。


「図星の様ね、だったら話は早いは、たった5億Vの電圧でアンタは倒せられるって話なのよ」

「仮にそうだとしよう。しかしそれではお前の体力を消費するだけだぞ?」

「まぁその頃にはアンタの体は黒焦げになってると思うけどね」

「やれるならやってみろ」


美琴は右手をチョイチョイと、まるでかかってこいと言う風なジェスチャーで挑発した。


「…………いい度胸だ」


ヤンはそう呟き、地面を蹴って美琴へと突進していった。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 01:51:16.40 ID:66xrGhi40
―――――――――――――――――――――――――――――
今日は途中ですが、ここまでです。ありがとうございました。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(島根県) :2011/10/25(火) 01:54:38.68 ID:9S61eR3bo
>>1乙です

美琴がかませ犬すぎてつらい・・・
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/25(火) 02:00:40.57 ID:g5qC22NSo


佐天さんのちょっとエロスな絶体絶命シーンがカットされた……だと……
人鳥や蝙蝠は今なにやってんのかなー
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 04:24:43.57 ID:YXS16mEDO
語らせすぎでキモいなww
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/25(火) 19:23:46.52 ID:2sqqvG6j0
みこっちゃんが鑢くんの影響を受けた!?
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/26(水) 22:39:04.28 ID:ya9HavmJ0
こんばんは、今日は遅いですが、書いて行きます。
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/26(水) 23:50:37.62 ID:ya9HavmJ0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

再度、爆発が起きる。

美琴は6億Vの超高圧電流を周囲にばら撒き、ヤンが近付かないよう警戒する。

一度でも手を抜けばあの雷電の拳が美琴を貫く。即ち死を意味する。恐らく先程の掌底は手を抜いていたのだろう、ではなかったら今頃自分は死んでい筈だ。

限界発電量……又は限界畜量と言うべきか、ヤンのそれは大きく見ても3億Vだと美琴は読んだ。それ以上の電圧で攻撃すれば、彼の体は畜電量を超えてパンクし、体が崩壊する。

まぁ彼に直接物理的攻撃を与えればそれはそれでいいのだが、半端な攻撃だったら意味ないだろうから大きなダメージを与える攻撃を与える必要がある。

よって、御坂美琴の勝利条件は二つ。

@ヤンの体に4億Vの超高圧電流を与える。
A大ダメージを与える物理的攻撃を与える。

この二つだ。

だが、これらを実行させるにはある問題がある。


それは彼のスピード。


電気により筋肉を強化した彼は超人的なスピードを持っている。

@の場合はいくら電撃の槍を出したとしても、MAX10億Vの電流をばら撒いても、その攻撃の範囲外へと逃げられてしまう。

Aの場合でも、自慢の超電磁砲を出しても、あれは為が大きい為から絶対に避けられるし、50m先に逃げられたら意味がない。それどころかタウンターを喰らってしまう可能性がある。他の攻撃もそうだ。鉄の柱を飛ばしても蠅の様に避けるだろう。

ええい、まどろっこしい…と、美琴は改めて思う。

先程の勝利条件をクリアしたいが、あの光速のスピードが厄介で実行できない。


だったらそれを実行できる状況にまで追い詰めるまで!!


しかし相手も馬鹿ではない。自分よりも修羅場を幾度と乗り越えて来た猛者だろう。自分からオチオチその危険がある状況へ飛び込んでくれる訳ないし、それどころが狙っているのがバレたら元も子もない。

条件と一致できる状況へ誘い込み、尚且つ相手に覚られずに実行すること。



(要は将棋やチェスと同じ要領! 詰めれば勝ち!!)




美琴はヤンに電撃を撃つ。

それをヤンは右に避け、突撃する。美琴は電磁力の力で逃げ、地中から採取した大量の砂鉄でできた大蛇の様な鞭で虚空に突っ込んだヤンを叩く。

が、ヤンは無規則に蠢く鞭を回避するどころか逆に掴んだ。


「!!?」


おかしい、あれは電動鋸の様に小さく振動し、切れ味などそこら辺の包丁とは比べものにはならない程に何もかもを真っ二つにする。

なのにあれを掴むか!? どこまでふざけた人体構造している!?

目を見張る美琴を余所に、ヤンは鞭を引っ張り、美琴を引き寄せる。

咄嗟に美琴は鞭を手放し、さらに後退した。

すると鞭を奪ったヤンが逆に操った。慣れないのかぎこちなく、地面を切り裂きながら美琴の体へと向かった。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 00:23:49.77 ID:SwcLhQzW0


「うわっ!!」


美琴は再度地中から砂鉄を採取、それで今度は短剣を二本作り、右手で順手、左手で逆手でそれぞれ持ち、向かってきた鞭を左の短剣で受け止め、右の短剣で斬りかかった。

この短剣は先程の鞭と比べ、振動数は倍の数で振動している。よって鞭よりも切れ味が良い。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

チェンソーとチェンソーがぶつかり合った様な音が鼓膜をブチ開ける程の大音量で響き、火傷しそうな程の熱量の火花の飛沫が飛び散った。

ぶつかった衝撃で美琴の体が仰け反るが、短剣も負けていない。鞭の進行を止めた。

二つの凶器の動きが止まり、ぶつかり合いは互角の様子だった。が、その均衡はすぐに崩れた。


美琴の短剣は鞭を断ち斬ったのだ。


斬り離された鞭の破片は砂鉄に戻って地面へ落ちた。


(よしっ!)


美琴はひやりとした背中を宥める。

が、それでも鞭はしつこく美琴に迫る。しかし美琴はそれさらに鞭を捌いていく。一つ二つと断ち斬り、鞭がある程度に短くなると、さっさと後退した。


「……チッ」


ヤンは舌打ちをする。

美琴は手に持っていた短剣を砂鉄に戻し、手放す。そして電撃を周囲にばら撒き、ヤンの進行を止める。

しかしヤンは突っ込んできた。手には落ちてきた直径5cm程の小石が握られている。

それを野球選手が外野からホームへレーザービームをする様に投げた。

小石はレーザービームの名の通り、400km/hで美琴へと飛んでくる。

美琴は小石を破壊する為、電撃を当てる。 運良く小石は木端微塵となったが、小さな破片が美琴の体を叩いた。

全身を針で叩かれた様な痛みで顔を歪ませる。

と、瞬間、ヤンがその隙を突いて美琴の間合を詰めた。


「ヤバッッッ!!!!」


美琴は叫ぶ。

瞬時に、否、反射的に砂鉄を抽出し、ナイフ形に形成する。と、同時にヤンの右膝蹴りが飛んできた。

美琴は顔とそれの間にナイフを突き立てる。


「………ぐっ!」


顔をしかめ、隙を作ったヤンを見て、美琴はナイフ状に形成された砂鉄を元の姿に戻した後、離脱し、6億Vの電撃の槍をヤンに投げつけた。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 01:04:19.93 ID:SwcLhQzW0

砂煙が一帯を包む。


「………ハァハァハァ…!」


美琴はやっと息ができると言っているような荒い呼吸をする。

どうだ、これならいけるか。


「………つっ!?」


美琴の痛めていた右足から痛みから激痛が走る。

やはり無理はまだ禁物だったか。

いたむ足を抑えさせながら、美琴は砂煙を睨む。



「なるほど、流石は超能力者に選ばれるほどはあるな」



砂煙の中からヤンは出てきた。

ヤンは詰まった息をフ〜ッと吐いき、掛けていたサングラスを外し、着いた水滴と泥汚れをポケットから出したハンカチで拭きとった。


「安心した。所詮は数字だけの超能力者だと思っていたが、以外にも歯ごたえがあった。なかなか面白いな、お前。さっきのは正直ヒヤリとした」

「さっきので詰みかと思ってたんだけどね。流石に場数じゃあそっちの方が上のようね」


美琴は笑って見せる。ヤンも笑う。


「ああ、こっちは伊達に組織の参謀兼特攻隊長している訳じゃない。喧嘩から殺し合いまで、幾度と修羅場とであったからな。お前とは歩んできたモノが違う」

「そうね、“歩んできたモノが違う”ってのだけは同感してあげるわ」

「おい、ここまで来て敗北宣言か? それだったら萎えるぞ」


ヤンは肩をすくめ、サングラスを掛けた。しかし美琴は不敵に笑った。


「それは無いわ。だって勝つのは私だから」

「ほう、根拠を一応訊こうか?」

「そうね、ネタバレはいけないから、次回予告だけは言っておいてあげる」


美琴は指を大きく広げてヤンに見せた。




「五手よ。 私が繰り出す五手目の“攻撃”でアンタは敗北する」



525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 01:23:29.54 ID:SwcLhQzW0
「……………」


ヤンは直感した。これはハッタリだと。


「フザケタ事を言うな。たった五手で俺が敗ける訳が無い」

「そうね。でも、私の五回の攻撃であなたは敗北する。否が応でも」

「ほざけ。じゃあ、そこまで言うんだったらだったらさっさと実行してみろ」

「言われなくても」


ヤンは足に力を入れ、美琴へ攻撃を仕掛けた。


ゴガァァァァアアアン!!


美琴の顔面に向かってヤンは飛び膝蹴りを繰り出した。足が着弾した瞬間、爆弾が爆発した様な衝撃音と地響きが地面を揺らす。


「ッ!?」


がヤンは目を見開いた。

なぜなら、美琴がいないからだ。

もしや木端微塵に吹き飛んだか? いや違う、そう言う手応えじゃなかった。じゃあ何だ?もしかして……。



「やっぱり、そうできたか」



後ろから声がした。中学生くらいの子の。……御坂美琴である。


「………!?」

「驚いているようね。どうしたの?」


どうしたのではない。なぜお前が後ろに立っている?

ヤンは訳の分からない状況を整理しようと脳細胞を回転させる。

が、答えが導き出せない。

ヤンは答えを出す為に再度、美琴に攻撃を仕掛けた。


「何をした?」

「簡単な事よ」


余裕綽々に美琴は返す。彼女の頭部の右側部に、ヤンの回転蹴りが迫る。―――――――――が…。





ガキィィィィイイイイイン!!




ガードされた。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 01:31:45.94 ID:SwcLhQzW0
「………ハァ!?」


ヤンは驚愕の感情を表情と言葉にして表現した。


何が俺の足を妨げた!?

ヤンは自分の足の邪魔をする張本人を見る。それは……。



砂鉄の盾だった。




「くそ!」


(俺の『雷電閃光』がただの小娘に見切られてたまるか!!)


ヤンは続けて左の膝蹴りを美琴に出す。が、これもガードされた。


「どうなってんだ!?」


ヤンは叫ぶ。驚愕と危機と恐怖と混乱で。


ヤンは次に右の……。


「右足の胴回し蹴りが来る」


ガキィイイイイイン!



「…………」


また、ガードされた。

というより、予告された。自分が繰り出す技を。


コレは……一体?


ヤンは一つ、質問した。




「お前、何をした?」




その質問に、美琴は悪戯好きの少年の様に笑って答えた。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 01:32:23.91 ID:SwcLhQzW0
―――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/28(金) 23:27:29.70 ID:TNfgCU6AO

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 19:02:26.36 ID:VphLArjA0
こんばんは、長らくお待たせしました。今日、書いて行きます。

最近、なかなか筆が進みませんでした。情けない事に……。まぁ今日もそうなんですが、きっと行けます。


コンビニでブリーチの総集編を立ち読みしました。

以外でしたね、今のと比べてボケとツッコみの応酬が多いです。

やっぱり死神代行編とルキア奪還編は最高です。


さて、早速頑張っていこうと思います。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 19:40:41.01 ID:VphLArjA0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


美琴は、悪戯好きの少年の様な笑みをしたまま……、何も答えなかった。


それどころか体中から今までには無かったくらいの超高電圧で流がす電流を叩きだし、無差別に周囲に流し始めた。


「……くっ!?」


ヤンは一度身を引く。すると、美琴の周囲から…電流を流した所から今までとは比べものにはならない程の質量の砂鉄が地面から出現した。


(なるほど、俺のスピードに対抗して量で攻めてくるつもりか)


「ガキが考えていそうなことだ…」


ヤンは呟く。そして自らも電気を発生させ、体に貯める。そうすることでさらに自身のスピードが増す。


(だったらそのスピードを上げるまでだ。)


数秒して、二人の発する電気の光は止んだ。

代わりに、美琴の周囲には全長30m程の大きさの、全く形成をしていない砂鉄が蜂の大群の様に宙に浮いていた。

一方、ヤンの体中から白い糸の様な紫電がパチパチと鳴り、彼の髪は逆立ち、異様な雰囲気を醸し出していた。


ヤンは上を見上げる。

さっきまで身を痛いほどに叩いていた雨が止んでいた。

でもまぁ、すぐに降り出すだろう。


ヤンは癖なのか、“乾いた地面の感触を確かめる様に土を足で慣らしながら”美琴を煽るように訊いた。


「お前の予告通りなら、あと二手だな」


美琴はそれに淡々と答えた・


「そうね、あと数秒後にはアンタはそこにぶっ倒れているはずよ」

「ほざけ」


ヤンは鼻で笑った。

美琴は蜂の大群の様な砂鉄を津波のようにヤンに襲わせた。


「これで終わりよ」


美琴は宣言する。

砂鉄は360°隙無くヤンを卵の殻の様に包み込み、圧縮する。 これなら、絶対に逃げられることはできないと、確信をするかの如く美琴は頷いた。

―――――――――――――が。



ガリガリガリガリガリッ!!!



金属がぶった切られる音が耳を貫く。 何の音か、美琴は砂鉄で出来た卵の殻を見る。そして驚いた。


なんと、ヤンは素手であの砂鉄の殻を中から破り、脱出してきたのだ。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 20:13:54.78 ID:VphLArjA0

「――――――――――――…………っっ!!?」


ヤンは驚く美琴の顔を見て自分の両腕を見せた。


その腕には、大量の砂鉄がまるで電動ノコギリの様に超高速回転しながら、腕に纏わり着いていた。



「電気を使った砂鉄操作が、自分だけの専売特許だと思うなよ」


なるほど、それでさっきの砂鉄の鞭を掴んだのかと、美琴はそのシーンを振りかる。


「あと一手………。いや、もう万策尽きたと見える」


棒立ちで突っ立っている美琴を見てそう言ったヤンは、手に纏っていた砂鉄を解除し、鼻からずれたサングラスの位置を中指で直した。


「そろそろ、こっちから行こうか。そろそろリーダーの我慢が限界を迎えるころだ」

「………」


ヤンは地面の感覚を確かめる様に、前へ土を蹴る。 “乾いて妙に固くなった地面”は動きにくく、捻挫になりやすいから、動くには注意が必要だ。


「さて、ここで終わりだ……。…っっ!!?…………ごほっごほっ! …………??」


ヤンは急に咳き込んだ。

おかしい、何か息苦しい……。


「どうやら、私の予告は当たりそうね」


と、美琴は急にそう言った。


「はんっ、たかが咳で人が死ぬわけがあるまい」

「果たしてそうだと思う?」


美琴は得意げにそう訊いた。 ヤンはそんな他愛のない事をなぜ訊くかと思ったが、それに答えた。


「まぁ、厳密に言えば、俺達が垂れ流してきた電撃で空気中の酸素が分解して人体に悪影響を与えるオゾンになるという話は聞いた事がある。しかしもしもそうだったら俺達は二人とも死んでるはずだ」


ゴロゴロゴロ……と雷が上空で鳴った。

美琴はヤンの応答に応える。


「そんな事くらい知ってるわよ。私が言いたいのは、“それ以前の事”」

「………?」


ヤンは何を言っているのか、わからない顔をした。


「ヒントを上げるとするなら、ホラ、アンタさっきから足で地面、弄り回してたじゃない」
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 20:44:18.01 ID:VphLArjA0
ヤンは地面を見下ろす。


なんだ?何がある?この地面に。




この、“乾いて固くなった、水気が殆どないこの土に”………。



「……………?」

「まだ気づかないの? “さっきまで、あれだけ雨が降ってたのに………”」

「…………?? ――――――――――――――――― あっ!!」


ヤンは周囲を見渡した。

そうだ、なぜ気付かなかったんだ。さっきまで大雨が降っていて、最初の時は服が泥でドロドロになるほどに地面が濡れていたのに………、



なんで、一つも水溜りが無いんだ!?





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

中学校の頃、こういう化学実験をしたことはないだろうか? +極と−極が繋がっている水の入った試験管に電気を流すと、水素と酸素に分れるという、誰もがやった事のある実験……。

この実験の味噌は、酸素が入っている試験管に火が付いた線香を入れると火が激しく燃え、水素が入っている試験管に火が付いたマッチを入れると爆発するというものだ。

また、この実験に使う水は何かの薬品を混ぜなければならない。なぜなら純粋の水は電気伝導率が著しく低いからだ。まぁ混ぜる薬品は酸性でも塩基でも、どちらでもいいが。

さて、この実験をする目的は水、いわゆるH2Oは電気分解されて発生した水素Hと酸素Oとで出来ている事を証明する事だ。

それを証明する方法はHとOはそれぞれ特徴的な燃焼をさせる事。


まぁ言いたいことは、Oは炎を大きくさせ、燃焼を助ける。Hは燃焼速度が速い為、一気に爆発し、酸化して水に戻る。




ここで問題。

四方50m程の空間にある水溜りの水分…H2Oをすべて、酸素Oと水素Hに分解し、それに火を付けたらどうなるだろうか?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 21:20:54.50 ID:VphLArjA0

「―――――――水素爆発か!!」


ヤンは顔を青くして叫ぶ。


確かに理論上は可能だ。

本来、電気分解では電気を通りやすくするために真水に水酸化ナトリウムを混ぜるが、実際には塩基でも酸性でも可能だ。

真水の㏗は7。基本的に雨水の㏗は5,6……。

しかし、近年騒がれている酸性雨によって、日本の雨水の㏗は4,6〜4,8にまで下がっている。

これは炭酸水よりも酸が強いのだ。

結果として先程まであった地面の水溜りの水は今、空気中で漂っていることになる。



(――――――――――…………いや、待て待て待て待て、ありえん。確かに、確かに計算上では可能だ。しかし、ここは屋外だぞ?すぐに風で肝心の水素と酸素はながれていってしまう。そもそも水素は世界で最も軽い物質だ、今ごろ風船の様に天高く昇っているに違いない)


即ち美琴が言っていることは……。


「…………ハッタリは止せ。ガキらしい嘘を吐くな」

「アンタは今、こう思っているんでしょうね。『風で水素と酸素が飛ばされている。水素は空気より軽いから、ここにはもういない……。ふん、そう思うんだったらポケットの中にあるライターに火でもつけて見なさいよ」

「ははっ、いいだろう、つけてやるさ」


ヤンはポケットの中から煙草とライターを取り出し、一本の煙草を口に咥え、ライターに火を付けようとした。


「……………んっ?」


その時、ヤンはある事に気が付いた。…否、思い出したが正しいか。




あれ? そう言えばさっきまで、風は吹いていたか?




いや、そもそも何故、こうも息苦しい?




聞いた事がある。

空気中の酸素濃度が少ない場合も多い場合も、どっちも人体には危険で、息苦しくなるらしい…。



「…………!」


ヤンという男の頭の中は常に、ある出来事の最高の場合と普通の場合、そして最悪の場合を考える。

もし、この顔の前にあるライターを着火すれば、きっと何も起こらずに火が付くだけだろう。


しかし、美琴が言っている事が本当ならば、間違いなく水素爆発し、“顔の半分は間違いなく吹っ飛ぶ”。


果たして、この男はどう判断する?


ライターを付け、顔が吹き飛ぶ可能性を背負うか。

ライターを付けず、たかが中学生の挑発に屈するか。


最高の未来と最悪の未来……。彼はどっちを選ぶ!?
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 22:29:31.46 ID:VphLArjA0


「………いいだろう、お前のいう事は信じてやる」


最悪の未来を回避する為、後者を取った。

屈辱的だが、ここでいらないリスクを背負うつもりはないし、相手はたかが中学生でも超能力者の『超電磁砲』だ。慎重に慎重に行くしかない。

しかし、これだけで爆発したことにはならない筈だ。


「だが止めておけ。そもそも、もし爆発したら俺は勿論、お前だって巻き添えを喰らうだろう? 水素爆発の延焼速度と爆発力は馬鹿には出来ない。それに火種はどうする?」


そうヤンは訊くと、急に彼の目の前に砂鉄の触手が現れ、ヤンが手にしていたライターを掻っ攫っていった。

そのまま触手はライターの火打石をカチ…カチ…火が付かないようゆっくりと回した。

なるほど、なんと器用なマネをする。


「……心中でもするつもりか」

「しないわよ」


美琴はそうツッコみながら、ライターを持つ砂鉄に力を入れさせる。

やばい、本気で爆発させる気か、この女。

ヤンは冷や汗を掻く。

もし爆発が起きれば、間違いなく自分は死ぬだろう。

自分たちのアジトだってタダじゃあ済まないかもしれない。


どうする、このままじゃあ俺は爆死する。

なぜなら、能力でいくら体を強化しても爆発に耐えきれるほどにまえ強く出来ないからだ。

あの『超電磁砲』は何のつもりで自らも危機的状況に晒しておいてこういう真似をする?

彼女の頭の計算はわからないが、きっとライターに火を付ける気だ。そう目が語っている。


「…………おい、止めろ」


ヤンは美琴にそう言ってみる。が、美琴のは何も言わない。


「止めろ」

「…………」

「止めろ!」

「……………」

「止めれって言ってんだ!!」

「…………………」


ギリッと砂鉄の触手が音を立てた。



そして、ライターの火が灯された。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 23:24:01.98 ID:VphLArjA0




ドッカァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!







ライターから灯された火は、空気中の酸素・水素に着火し、水素が爆発的スピードで周囲を炎に変えた。


炎はその空間を包み、爆音を轟かせ、衝撃波は周囲を叩いた。


ヤンのアジトの窓ガラスはすべて割れ、所々を黒く焼き、灼熱の風を撒き散らした。


数秒が経ち、爆発は収まった。

まぁ一瞬の出来事だったから、爆発なんて0,1秒の世界なのだが。

現状と言えば、爆発によって、あれだけ草が生えていた地面には焼野原になり、周囲を囲んでいた塀は所々崩れていた。

アジトの窓ガラスはすべて破壊され、所々に黒い焦げがあり、一部罅割れがあった。

爆発が起こった直後、再度雨が強く降り出した。 雨はすべてを水で濡らす。

さっきまで美琴とヤンが戦っていたここは、あっという間に焼野原になって、草一本もなくなった。……いや、一つあった。一つだけ。


それは黒い卵の殻だった。大きさは人間がすっぽり入るくらいのだった。

色は黒い。材質は鉄に近く、何かの集合体の様な印象がある。


「……ふぅ…、ま、こんなもんか」


中から声が聞こえた。

途端に、黒い鉄の卵の殻は砂の様に崩れ、中から雛鳥でなく、一人の少女が現れた。


御坂美琴である。


「我ながら上出来」


美琴は辺りを見渡してそう感想を述べた。

美琴は爆発の直前、地面に散らばっていた大量の砂鉄を一気に寄せ集め、盾として、鎧として自分を守らせた。そのために散々砂鉄を地中から抽出していたのである。

まさか思いつきでやった策がここまで上手く行くとは…。まぁ実際に空気中の酸素と水素の一部は風に流れて行ってたし、水素も上空へ上がって行ってしまったようで、威力は見積もりよりも低くなったが。

一応補強として、落ちてきた雨を分解していたし、空気中の水蒸気も分解してたのが助かった。

さっき雨が止んだのは、美琴がこっそり小さな雨粒を片っ端から分解しまくってたためだ。

美琴は、一つ息を吐いた。


「…………やっぱりか…」


美琴は呟く。


――――――――――ヤンとか言う男の姿が無い。


予想なら、そこら辺に倒れていてもおかしくない筈だ。

恐らく、ヤンは咄嗟に…というより本能的に地面を蹴り、真上へ飛んだのだろう。


「まぁ、想定内だけどね」
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/31(月) 00:16:53.09 ID:v+KuFeXK0
あの男は絶対に諦めてはいない。

ゴロロロロ…雷鳴が天で轟いた。


恐らく、爆発が起こる前に逃げるという考えもあっただろうが、あの男は真上に跳んだ。

証拠にさっきまで男がいた場所には爆発で大きく崩れているものの、大きなクレーターがある。

左右前後に跳べば、クレーターはまるで払った様な後になるはずだ。しかしこのクレーターはそのあとは無く、まん丸い円形だ。



美琴は突然、声を張って喋り始めた。


「体を電気で強化しているって事は『聴覚』も強化されていると仮定して話すけど! 上に跳んだのは失策だったわね!」


ヤンの声は聞こえない。それでも美琴は喋る。


「ねぇ、知ってる!? 雷が人間に落ちる確率って、1/10,000,000なんですって! これってジャンボ宝くじで一等が当たる確率よりも高いんだってね!!」


それがどうした。ヤンがいればそう言うだろう。


「でもね!? 落雷に遭いやすい場合ってのがあって、 有名なのは『地面より高位置にいる場合』『自転車や傘やネックレスなど電気伝導率が高い金属を身に付けている場合』『あと雨で濡れている場合』とか色々あるんだけど!」


例を挙げるなら避雷針などがある。避雷針は建物の屋上…地面より高位置に存在し、材質は電気を通りやすい金属だ。


「これらの条件をすべて一致させていけば、落雷にあう確率が段々と高くなるのは予想出来るわよね!?」


ゴロロロロ……とまた雷が鳴る。まるで雲の上に虎が獲物を狙って潜んでいる時の唸り声に聞こえる。


「話は代わるけど、今アンタは空中にいる! ってことは全く足場が無い状態だから、アンタは今まったく身動きが取れずにいる状態。しかも空を跳んでいるか、落ちているかのどっちかだと思うけど、どっちみち私達よりは遥か上空にいることになるわよね!」


美琴はさらに続ける。


「ああそうそう、さっきアンタの服の中に、地中から抽出した砂鉄を忍ばせてもらったわ! それにアンタはいま雨でびしょ濡れだと思うけど違う!?


美琴が言いたいこと、それ即ち……。


「って事は、さっき言った条件をすべて一致しちゃてて、今にでも雷が落ちそうな状況なんだけど!!」


もし美琴の声が聞こえていたら、ヤンの顔は引き攣っているのだろう。まぁ聞こえていたらの話だが…。


「ああそれと、雷が起るのは条件があって、“地上の熱が温められてできた上昇気流”が雷の発生原因の一つって話があるの! それと最後に一つ!雷って実は凄いエネルギーがあるって聞いた事がある!?」


もう、ヤンはあたふたして、手足を虚空を掴もうとバタバタとしているだろう。虚空という文字の如く、空の中で虚しく。




「落雷時の電圧は200万〜10億V、電流は1千〜20万、時に50万Aにまでなって、しかもプラズマが発生する程の熱量を持っているの! それって実は“そこまでやるのは私でも無理な事”なんだけど! そこんとこ、わかってる!?」




刹那、一発の雷が美琴の上空で鳴り響いた。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/31(月) 00:21:24.00 ID:v+KuFeXK0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
スイマセンッ、最後の“そこまでは私でも無理な事”は抜きでお願いします。

良く考えてみればバンバンやってましたww
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538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/31(月) 01:19:35.79 ID:v+KuFeXK0

5秒か経って、ヒューーーと風切り音が上空から聞こえた。

美琴は砂鉄を操り、上空から落ちてきた黒焦げになったヤンをクッション代わりにして受け止めた。

ぐったりとしたヤンは黒い砂鉄の集合体に包まれて、地上に降りる。

が、息は何とかあった。


「…………グゥ…」


彼の限界蓄電量を軽く超えた電流を受け止めたのだ。体中が真っ黒になって、所々火傷している。


「安心しなさい、命だけは取らないから。 」

「……………ぅぅ…、か、雷を落とすのが……目的だったか………。まったく……なんてガキだ」

「ガキは余計よ」

「なんで……殺さない」

「そんなの当たり前じゃない、私は人間よ」

「……………へへっ、超能力者の癖に……なんと……奇麗な事だろう……か」

「しゃべらないで、そこで大人しく寝てて」

「…………一つ…いいか……。 なぜ、あの時………俺の動きを……見切れた。 なんの……トリックを……使った?」


彼の言うあの時とは、美琴がヤンの攻撃を砂鉄で受け止めた時である。


「ああ、あれ簡単よ」


美琴は何もないように、手品のタネをばらす。


「私の能力とアンタの能力は同じ発電能力だけど、根本的な所が違う……。それは発電方法なの。 私の場合は体内外の電子の流れを操って電気を発生するんだけど、アンタの場合は細胞の一つ一つに流れる生体内電気を増幅させて発生させる」


美琴は指から小さな電気を流してみる。

人間の体内には約60兆と言われている。それら一つ一つの細胞内で生産されるエネルギーはミトコンドリアと呼ばれる器官である。その機能はすべて電気の力で行われている。 また、神経伝達もそれである。一つの細胞がの発電量が小さくても、60兆の細胞が合わされば、莫大な量の電気が発電できる仕組みである。

ヤンの能力『雷電閃光(サンダーボルト)』は本来、細胞で出来た電気の量を増幅させるもので、それを体内の筋肉・内臓・血管にへと流すことで神速的なスピードと超人的な肉体を作り出していたのだ。


「で、発電時、放電時に発生する電磁波の仕組みは私と同じなんだけど、その電磁波は体のあちこちから…例えば腕とか足とかから出て来るの。ってことは、そこで発電した電気を放電するから、そこから攻撃が始まるってこと」


美琴の説明がわかりにくいだろうから例を挙げておく…。

例えば前方へ高速移動しようと思う。その時は電気を発電し、脚に放電する。その時、脚から電磁波が発生するのだ。

もう一つ上げておくと、例えば右ストレートを出そうと思う。その時は腰周りと体幹と腕の筋肉の筋肉に発電した電気を放電する。そうすれば電磁波が放電した場所から発生する。


「これのパターンを覚えたらそれからは、相手の発電量と放電量の値を電磁波が発生された場所から逆算して、それから導き出される相手の攻撃方法、移動速度、方向、行動パターンを予測したまでよ」


まぁ本気を出せば、相手の脳から発せられる脳波を探知する事で、相手の人格、性格、習慣から、行動パターンをデータとして導き出せるという事も理論上は出来なくもないが、面倒なのでやめた。


「それで、予測したデータをもとに頭ん中で作成したプログラミングの通りに砂鉄を防御に回せばバッチオーライ。 あとはアンタが『私の防御圏に侵入させない』と言うフェイクを出しつつ、水溜りの水を片っ端から水素と酸素に分離して回っていたの」


他にもコッソリと空気中の水蒸気や雨水も分離していた。

それを美琴は言うと、ヤンは力無く笑った。


「ははっ……なんて、ガキだ………」

「超能力者の演算能力を舐めないで」

「負けた……」
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/31(月) 01:59:04.14 ID:v+KuFeXK0

ヤンは笑ってそう言った。


「なぁ、……俺のポケットの中から………煙草…とってくれないか?」

「……、まぁそれ位いいけど……」

「悪いな…」


美琴はヤンのズボンの左ポケットから煙草の箱とライターを取り出し、濡れた地面で横たわるヤンに手渡した。

ヤンは箱に入っていた煙草を震える手で取り出そうとするが、殆どは落雷でダメになっていた。

でも最後の一本だけは無事であった。ライターも何とか付く。

ヤンは奇跡的に生き残った煙草に火を付け、その味をしみじみと味わいながら煙を吐いた。


「…………俺は…つくづく、運がいい………。 こんなに美味い煙草が……吸えるんだからな」


ヒビが割れ、一部が欠けたサングラスから伺える眼差し。それは苦悩という道のりと歩いてきた者が立ち止まり、振り返って歩いてきた道を眺めているような目だった。


「ここまで負けた、気分になったのは………久々だ。気分がいい」

「まるで今から死ぬような人間の台詞ね。アンタはこれから風紀委員に引き渡してキッチリ罪を償っても割らなくっちゃ…」

「ハッ、端から死ぬ気は、ない。 ……まぁ…人間、いつかは死ぬ。……誰もがだ。……行き倒れて道端で死のうが……、高級ベットの上で死のうが……どうしようもない…呑んだくれだろうが、…総理大臣だろうが、…死刑囚だろうが、聖人君子だろうが……な」


ヤンはフーッと白い煙を吐いた。


「みんな、死ぬ。一人で死ぬ。 みんな醜く死んで……体中が腐って……異臭を放ち……便と腹の中の物を全部ケツから吐き出して死ぬんだ。それでふと周りを見渡すと、誰も見向きもしないで知らないふりをする。……いや、本当に知らないんだろうな」


まぁ泣いて悲しんでくれる奴もいるけどなとヤンは付け加える。


「例え俺が死んでも……泣く奴がいても世界は回る。……泣いた奴も俺の事を忘れる。……御坂……お前も一緒だ、……世界に例外は無い」

「まるで世の中の全てを見てきたような言い方ね」

「世界なんて別に地球上の事だけじゃない。 ……まぁこれはいずれわかる。…………俺が言いたいのは……、この世界には汚い奴がごまんといる、この街を守る警備員のバカ共にもいる、学園都市を統べる統括理事会のクズ共にもいる。…………お前の様な奴はそれに反発るかもな。………………でもなぁ、それも、正義だってことを知れ、俺が言いたいのはこれだけだ」

「なによ、急に語っちゃって。気持ち悪いんだけど」

「ウル…サイ………。まぁ、お前に行っても……わかっているし、それでも聞かないだろうな………」


ヤンは震える手で胸ポケットに入っていたある物を取り出した。

指輪だ。


「持って行け…。これは……俺からの……プレゼントだ」

「…………これは?」

「俺の一番尊敬する……いや、していた人物の……形見、だ……。お前と、その人は……似ている…部分がある………だから、持って行け」

「そう…、じゃあ貰っていくわね」

「ああ、それと……気を…つけろよ……、俺よか、強い奴が……あのアジトの中に……二人……いるからな。 まぁ…お前なら……楽勝か……。俺は……今の、組織は……大っ嫌いだからな………お前には……頑張って欲しいものだ…よ」

「そう、ご忠告ありがとう」

「どう、いたしました………だな。 俺は眠いから………寝る」


ヤンはそう呟いて目を瞑り、規則正しい寝息を立てて眠った。それを見ていた美琴は指輪をポケットの中に入れ、佐天の所へ去っていった。


「風邪ひかないようにね………じゃあ」
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/31(月) 02:28:47.35 ID:v+KuFeXK0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

色々とメチャクチャになっちゃってきました。

そこん所は目を瞑っててくださると嬉しいです。……はい。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2011/10/31(月) 06:49:34.30 ID:ZVnC7w1AO
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/31(月) 18:51:01.97 ID:boXuT+tN0
何ここの御坂頭いいんだけど
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/01(火) 23:42:12.88 ID:jbNKbi6U0
みさかん原作より活躍してるような気がする

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/01(火) 23:46:43.54 ID:jbNKbi6U0
斬刀まで近づいてきたな
空想科学読本で読んだんだけど零閃撃ったらなんたらかんだらかくかくしかじかで宇宙大爆発が起きるらしいよ☆

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/02(水) 01:03:23.69 ID:aflgkuYp0
詳細を頼みます。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/02(水) 23:11:56.12 ID:aflgkuYp0
こんばんは。
さて、今夜も書いて行きます。
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/02(水) 23:40:42.96 ID:aflgkuYp0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上条当麻は一緒に行動している結標淡希と共に道を走っていると急に、大爆発と大暴風に襲われた。


「わぁぁぁああああああああああ!!」

「きゃぁぁあああああああああああ!!」


二人共、突然のことで思わず地に伏せ、頭を手で隠す。鼓膜をぶち壊されそうな程の大爆音と踏ん張ってないと紙の様にふっ飛ばさせそうなくらいの突風で身動きが取れなくなった。

風がやみ、聴覚を奪っていた耳鳴りが収まって、上条は立ち上がる。


「……さっきのはなんだったんだ?」

「さぁ…」


結標は応え、提案した。


「爆発はあの廃墟の様ね……。 とりあえず、急ぎましょう」

「ああ、その方がよさそうだ」


上条は何が起こったのかわからないが、結標の言う通り、現場い向かう事にした。 どうやら、今向かっていた道とは別の方向にある場所の様だ。

もしかして風紀委員か警備員があの廃墟に突入したのか? それとも他の誰かか?

吹寄は無事なのか? 御坂の友達の子は大丈夫なのか?


「無事ていてくれよ……」


上条はそう呟いた。…………とその時!



ピシャッァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!


ゴロロロロロロロロロロロロロロ………



今度は雷が鳴った。

それも大規模な、しかもものすごく近くに落ちた。


「………もしかして…」


上条は呟く。

あの雷、どうも自然な物ではない……………気がする。

確信はないが、どうも変だと…上条は直感でそう感じた。(予知能力者じゃないが)

そして、そう言う風な雷を発生させる人間がいるとするならば、上条が知っている人間は一人しかいない。


「………結標! あそこだ!!」

「え!? 上条くんっ!?」


上条は結標の手を引いて走り出した。


(どうも怪しい……いや、ヤバい。 何かがヤバい、頭ん中でなんかが警鐘をガンガン鳴らしている感じだ)


上条は路地を真っ直ぐに走り、次の交差点を右に、その次の横道を斜め右に、細い裏路地を通って………そしてあの大爆発と落雷が起った場所に辿り着いた。


そして、上条が見たのは………。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/03(木) 00:44:18.92 ID:wxXYRCmA0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


夕暮れで街が真っ赤に染まる頃、俺達はようやく、『アイツ』が待っているアジトに到着した。



いや、“待っているはずだった”だった。



――――――――――――――――――――――アジトは、完全武装した警備員によって占領されていた。




唖然

その言葉は便利な物で、俺を含めて全員、声を失った。


遠くで、『テロ組織のリーダー、汪誠者がここにいるから、直ちに捜索せよ。抵抗するならば射殺も許可する』と警備員の部隊長らしき男がそう言っているのが聞こえた。

そして、『奴はアジトを囲んだ警備員を皆殺しにして、しかも罪のない人間も手に掛けたらしい。しかも殺人鬼はこのアジトに向かってくるとか』『恐ろしいなぁ…、そんな危険人物を俺達が相手しなくちゃあならないのか…』『大丈夫だとさ、そいつさっきの戦闘でもう虫の息らしいぞ』

と下っ端警備員達が隅で話しているのも聞こえた。……いや、聞こえてしまったていうのが正しいか。


テロリスト? 皆殺し? 殺人鬼? 危険人物? 射殺?


何を言っているんだ、こいつらは。何で俺の名前にそんな肩書がついているんだ? 確かに俺達は、俺は人を殺した。たくさん殺した。でも、それはしょうがなかったんだ。殺さなくっちゃ絶対こっちが殺されていた。

なのに何でこいつらは俺が悪い事にしているんだ? お前らがかってに仕掛けて来たんだろ!? なんで俺が犯罪者風にクロスチェンンジされてんだよ!?


俺の頭に一気に血が昇り、無意識にあいつ等をぶん殴ろうと警備員の群れに襲おうとした。が、ヤンが俺を羽交い絞めにして俺を止めた。

『今のあなたじゃあ、あの完全武装した警備員には勝てない』と。『いっても無残に蜂の巣にされるのが関の山』と。

俺は手足をバタバタと動かして抵抗するのを止め、その言葉に従った。



わかった…ここは一度バラバラになって逃げよう。大人数でいたら見つかりやすい。

それと、逃げるのは二人一組。 ただし俺は一人で行動する。



そう、俺は言ったら、みんなが反対した。当たり前だよな、俺、リーダーだから。

でも、リーダーだからこそ、生き残ったみんなを無事に逃げさせる。それがリーダーとしても義務と責任だ。

あいつ等の目的は俺の拘束、殺害だ。 俺が囮になれば、お前らは無事に逃げられる筈だ。


そう言って、俺はみんなを説得させて、集合は1日後の『アイツ』と出会った、あの公園だぞと伝えて、みんなを解散させた。


バラバラに散らばりながら、仲間たちは別の道を歩く。ヤンは犬猿の仲のシンの肩を担いで人混みに消え…マンションはサブと裏路地へ入り…ボンはヤマを連れてマンホールの中へと入っていき…、そして最後は俺一人になった。

ああ、『アイツ』、大丈夫かな…、死んでなきゃいいんだけど。俺は血の色をした太陽を睨んだ。

ともかく、俺はここで死ぬわけにはいかない。俺には突き通す正義があるんだ。


俺は、右手で左の肩を押さえて、足を引きずり、血を流し過ぎて朦朧としてきた意識のなか、俺は街の中へ姿を消した。




これは関係のない話なのだが、あの警備員の地獄の包囲網を破った立役者は三人いる。

一人目はヤン。あいつの能力、『雷電閃光』は凄まじく、俺達の先頭に立って戦ってくれた。ヤンはまだ強能力者だ、鍛練すればまだまだ伸びる。

二人目はサブ。あいつの能力は文字通り地獄だった。あいつももう大能力者になっちまったか、入ってきた時はまだ“暖かい飲み物の保温”しかできなかったのにな…。

三人目はなんとヤマだった。 これはリーダーの俺でも意外だった。 だってヤマは戦闘中で能力を開花させた。あいつと目が合えば、絶対に相手はヤマには勝てない。

549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/03(木) 06:16:23.01 ID:rY6p7blao
落ちた?
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/03(木) 22:37:58.81 ID:wxXYRCmA0
すいません、昨夜はネットの接続が悪くて、更新できなくなってました。

今日は続きから言ってきます。
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/03(木) 22:38:55.76 ID:wxXYRCmA0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「佐天さん! 大丈夫!?」


無能力者狩りのメンバーの一人、ヤンを倒した御坂美琴は、アジトの敷地の外で、戦闘の余波をモロに受けて伸びていた佐天涙子に駆け寄った。

彼女はジャーマンスープレックスを掛けられたレスラーの様な体勢で転がっていた。美琴はゆさゆさと体を揺らすと、すぐに目を覚ました。


「…うっ…つ、つつ…。御坂さん…戦闘が派手すぎです……」

「ゴメン……。それより、吹寄さんは?」

「ああ、吹寄さんなら、無事ですよ。ちゃんと守り切りました」

「ありがとう、佐天さん」


佐天はすぐ横で横になっていた吹寄制理を抱きかかえた。


「もう、爆発するんだったら爆発するぞー!って言ってくれればよかったのにぃ!」

「あはは…ゴメンゴメン……」


手を合わせて美琴は苦笑いをする。が、急に神妙な顔になって、佐天と吹寄の体を抱き寄せた。


「本当にごめんなさい…」


美琴は謝る。と、佐天はなんでですか訊いた。


「御坂さんは私達を救ってくれた救世主ですよ? 胸を張ってくれればいいんです」

「そんなのダメよ。私はあなた達が怖い目に、辛い目に会っているのに気付かなかった。 本当にごめんなさい……。 もっと早く助けに来てれば、良かったのに…」

「いいんです、謝らなくて。 だって、私は…きっと吹寄さんだって恨んでないんだもの」

「…………実は、あなた達を助ける前、木縞さんって人を助けたの……そして、あそこで何が起こっているのか、痛いほど理解できた」

「そうだったんですか……。ありがとうございます、木縞さんを助けてくれて……」

「お礼を言わないで……。だってあなた達も同じこと…されたんでしょ? は、初めて…奪われて…」


美琴は強く二人の体を抱きしめる。 吹寄は気を失っていてわからないが、佐天は表情を緩めて美琴の背中を優しく叩いた。


「大丈夫です、私も吹寄さんも変な事……は少しされたけど……、保健体育の教科書に書かれてある事はされていません!」

「…………え…? ……本当?」

「本当です」


その佐天の言葉を聞いて、美琴はペタンと膝をついた。


「よかったぁ〜〜〜」


美琴は心から安堵した。 良かった、二人が心に傷を負わなくて、本当に良かった。

もう一つ美琴は溜息を吐く。

そしてスクッと立ち上がった。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/03(木) 23:42:40.46 ID:wxXYRCmA0
「とりあえず、逃げましょう。 いつここにあいつ等が来るかわからないし」


美琴は佐天にそう提案したが、佐天はそれを拒否した。


「で、でもあそこにまだ人が……。行けません、私、あの人達をほっとけない!」

「それは私が何とかする。だから今は佐天さんの安全を確保しないと!」

「でも……」

「デモもストのないの! 急がないと、その人達が酷い目に会うんじゃないの!?」

「………っ…」


佐天は言葉にできない何かを口に出そうと、声を出そうとする。 でもそれは決して言葉というモノにはならなかった。

美琴は酷い事を言ったなと心の中で後悔するも、今はそれを忘れる。

とにかく、今は佐天を安全な所…木縞春花がいる場所へ連れて行こう。


でも、思い出せば自分は今、右足を怪我している。何より気絶している吹寄を担いで移動するのは些か機動力に欠ける。すぐに無能力者狩りに捕まるだろう。

とそこで、美琴はある事を閃いた。


(そうだ、こういう時にこそ、空間移動能力者に頼めばいいじゃない)


美琴はポケットから携帯電話を取り出し、電話帳を開いた。

液晶には、ついさっき電話番号を教えてもらったばかりだった、結標淡希の名前があった。


「じゃあ佐天さん、今からある人を呼ぶから、その人についてって?」

「えぇ? 御坂さんは?」

「私はあの廃墟に殴りこむ」

「だ、大丈夫なんですかっ!? あの中には強能力者どころか大能力者がわんさかいるのに!!」

「大丈夫よ、私を誰だと思ってるの?」


美琴は得意げに笑う。携帯電話のボタンを叩き、通話ボタンを押した。

そして佐天と向かい合うようにして立ち、肩を掴む。


「それに、今呼ぼうとしている人は、変態だけど、いい人だから大丈夫、ちゃんと守ってくれるわ」


美琴は携帯電話を耳に当てて、プププッという音を聞いた。

佐天は何か言いたそうだったが、口にはしなかった。


いや、出来なかった……。というのが正しいか。


「それはそれでいいんですけ…………ど………」



バタンッ、といきなり、佐天は白目を剥いて倒れた。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/03(木) 23:57:24.79 ID:wxXYRCmA0



「」


美琴は呆然とそれを見た。……いや、何があったかわからなかった。

担いでいた吹寄の上に圧し掛かるように倒れれた佐天を美琴は呆然唖然と、彼女の名を呼ぶ。


「え? ………佐、天………さん…………?」


反応は無い。美琴はもう一度、倒れた佐天の名を呼んだ。


「さ、佐天さん!? 佐天さん! どうしたの!?」


しかし、佐天はピクリとも動かなかった。

いや、まるで死んでいるようだった。


美琴はすぐに佐天を抱きかかえ、口元に手を当てた。


(大丈夫、呼吸はしている…。 で、でも……)


「………どうなっているの?!」


美琴は周囲を見渡した。

どこからか攻撃を受けたのか? 遠くから狙撃? でも目立った外傷はないし、なにより何も音は無かったし、何かのアクションも無かった。銃声どころか猫の鳴き声もしない。

ただ、鬱陶しいくらいの雨が地面を叩く音だけが唯一の音だった。

そこに、新しい音が追加される。



ジリッ…。



小さい、微かな音。がしかし、その音はしっかりと美琴の両の耳に届いた。

後方、丁度先程、倒れる前の佐天の目線の先。


「だれっ!?」


美琴は振り返る。


と、そこには……。



男が一人、ポツンと立っていた。



体形は中肉中背。眼鏡を掛けた、至ってどこにでもいそうな普通の男だった。例えるならば、日本人の平均男子はこんな風ですよ〜と十分に言える感じだ。そう言う男だった。


美琴はその男を睨む。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/04(金) 00:57:02.73 ID:f2+PFV/G0
「あんた、誰?」

「……………」


何も言わない。無言のまま、男は美琴を見ず、地面を見下ろしていた。


「……………」

「この子…佐天さんは、あんたがやったの?」

「……………」


美琴は額に紫電を鳴らして威嚇する。 が、それでも男は黙秘を貫いた。


「何かしゃべりなさいよ!!」

「……………」


とうとう頭に来たのか、美琴は男の足元に電撃を当てて脅す。

しかしそれでも男はうんともすんとも言わなかった。


しかし、その代り、男は掛けていた眼鏡を右の手で外し、美琴の“目”を見た。



「………………?」


何をするつもりか?

美琴は相手の攻撃に備え、ポケットから一枚、コインを取り出し、男の“目”を見た。


そして、美琴と男の、目と目とがあった瞬間……。


「―――――――――――――――……っ!?!?」



――――――――――― 世界が歪んだ。


いや、違う。正確には『美琴の世界』が歪んだのだ。 “美琴が見ている”世界が……。


敵の男の、中肉中背の体躯が、3mを軽く越えそうな大男に見えたり、逆にプラモデルの様に小さくなったように見えたり、距離がすぐに手前にいる様に感じたり、遥か彼方にまで離れているように感じたり、男の顔がスライムの様に歪んでいたりした。

美琴は自身の手を見る。 いつも見ている自分の手がグシャグシャのグニャグニャになっていた。

距離感が掴めない。遠近感もクソも無く、何もかもが歪んで見える。


正確に言おう。これは……。


「私の…視覚を歪めている……?」


美琴は呟く。


「……………」


男は相変わらず無言だった。 しかし、彼の手は動いた。

手を自身の腰に回し、腰に巻いていたホルスターから、銀色の自動式拳銃を抜き取り、スライドを引いた。

ガチャコン、とマガジンから銃弾が装填される音が、目を失った美琴の耳に届く。


「…………くっ」
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/04(金) 01:47:15.49 ID:f2+PFV/G0


ヤバい、このままじゃあ銃で撃たれて死ぬ。 そう美琴は歯噛みするが、遠近感が掴めないままじゃあ、地に足を付けて立つこともままならない。

強烈な眩暈と吐き気が襲う。まるで酷い車酔いを10倍に圧縮したような気分だ。


男は、そんな美琴へと歩み寄る。銃を手に、目をグルグルと回す美琴の正面に立って、


そして、男は無言のまま銃を美琴の心臓へと向けた。



「………………!」


美琴は死を覚悟した。でも諦めたくなかった。

何もわからないまま、死ぬのか。 こんなところで。


美琴は男へ電撃を繰り出す。

しかしそれは大きく外れ、全く別の方向へと飛んで行った。


男はそんなものなど興味ないと言っているように、電撃など見向きもしなかった。


男は指を掛けてた引き金に力を入れる。




パァン!!




銃口から火が噴いた。



それから出てきた銃弾は美琴の胸に到達し、皮膚を焼き、肉を破って、肋骨を砕き、心臓を貫いて、――――――――美琴を殺した。




















―――――――――――いや、殺さなかった。




「…………っ!?」


男の眉は寄せられる。 ここで初めて男は表情を変えた。


発砲した銃から飛び出した弾丸は美琴ではなく、何もない地面を砕いたのだ。



ようは、美琴は消えた。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/04(金) 02:45:58.26 ID:f2+PFV/G0
男は辺りを見渡す。 一体どこへ消えたのだと。

すると、後ろから怪しい気配と身を刺す殺気を感じ取り、後ろに振り返った。


すると、空中からサラシを巻いた女子高校生が日本刀を抜刀して斬りかかってきた。


男はそれを後ろへ下がって回避する。

女子高校生の刀は虚空を斬ったが、虚空を斬っても何も始まらない。

しかし突然、女子高校生は虚空へ消えた。


「!?」


男はまた殺気を感じ取り、後ろを振り返る。 やはり女子校高校生は刀を持って斬りかかていた。

男は銃を向け、発砲する。

が、また女子高校生は消えた。

今度はどこだ!?


「こっちよ」


女子高校生は後ろから刀を突きだす、男の喉へと。

振り返った男は咄嗟に銃でそれの軌道をずらし、回避。しかし首側面の皮を少し斬った。

それの返しに銃を顔に突きつけて発砲するが、女子高校生はそれを仰け反る形で避けた。

男は銃を構える。女子高校生は男の“目”を見て、次はどこに発砲するのか判断する。

それを狙って、男も女子高校生の“目”を見る。


「――――――――――…………………………ぅっ!!?」


女子高校生は男と目を合わせた瞬間、先程の美琴の様に目を回した。

そして男は銃を女子高校生の眉間に突きつけ、引き金を引く。 その時!


「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



突如横から一人、高校生らしき少年が右手を振りかぶりながら突っ込んできた。


「!?」


男は少年の雄叫びに一瞬怯み、銃を少年に構える。

が、一瞬怯んだのがタイムロスだった。

左手の銃に重なるように、少年の右手が男の顔面をとらえたのだ。

クロスカウンターと呼ばれるカウンターパンチが男の顔面は血に染まり、膝を突く。

しかし男は諦めなかった。

少年に“目”を合わせようとするが、少年はそんな暇を与えず、続けさまに出したアッパーカットが男の顎を砕いた。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/04(金) 02:47:17.98 ID:h3BY0LpM0
――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海) [sage]:2011/11/04(金) 06:52:34.74 ID:PgdeQxZAO
559 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/11/05(土) 11:59:37.76 ID:PAZS+QeI0
上条さんか?!
560 :名無しNIPPER [sage]:2011/11/05(土) 12:42:00.04 ID:HXDADShDO
そういや蝙蝠さんはどうなったんよ?
正直もっと虐殺モードに入ってもいいような気がする
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/05(土) 13:18:17.22 ID:vPkqKCXr0
ちょっと前に空気を☆圧縮ゥを[ピーーー]所までいったな

つーかまず武器を奪えよあわきん
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/05(土) 21:29:42.15 ID:bmTA25Fx0
こんばんは、今日も書いて行きます。

さて、頑張っていきます。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/05(土) 22:33:28.74 ID:bmTA25Fx0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


ビリビリビリ……


大量の窓ガラスが割れ、建物が衝撃に耐え、悲鳴を上げる声がリーダーの耳に届いた。


「……………遅い」


リーダーは呟く。そして部屋の隅にいた一人の部下にある事を命じた。


「ヤマ。お前、ちょっくら行って来い」


名指しでそう命じられたヤマは、一言も口を開かず、代わりにコクンと頷いた。

ヤマは振り返り、近くにいたボンの袖をクイクイッと引っ張る。


「あ? ああそうか、そとにはトラップしかけられてたんだったな。わかった、ちょいと待ってろ」


ボンは尻ポケットの中から大きなテーブル半分くらいの大きさの紙を取り出し、広げた。

それはこのアジトの地図だった。大きな敷地が細かい所まで記された地図とこのアジトの1階から4階までの部屋が書かれた地図がそれぞれ描かれていた。

ボンはもう一方の尻ポケットから赤いマジックと青いマジックを取り出し、ヤマに訊く。


「どこへ“飛びたい”?」


その問いにヤンは先程、部下から連絡があった、ヤンが乱入してきた敵と戦闘している場所の隅を指した。


「よしわかった」


ボンはヤンが指した所に赤い丸を書き、別の場所…いま彼らがいる場所の、ヤマがいる位置に青い丸を書いた。


「じゃあ気を付けてな」


ボンは親指を立ててヤマに笑う。ヤマも無言だったが、親指を立てて応える。


そしてその瞬間、ヤマは消えた。



「消えた!?」


誰かが声を上げた。

それは女の声……笹斑瑛理だった。

男達に商品として売られた笹斑ら数名は今、部屋の一か所に集まって座らされていた。笹斑は一度剥された服を着ているが、何人かは下着姿の娘もいた。

笹斑を見て、ボンは暇潰しにいいかと思って口を滑らせた。


「ああ、一応俺は空間移動系能力者なんだよ」

「…………」

「まぁ厳密に言うと自分は空間移動出来ないんだけどな。代わりに地図上の〇と〇の上に乗ってある物体を移動することができる。つっても簡単に言うと強能力者の出来損ないだよ。能力名は『物体移動(アポート)』って言うんだ」

「おい、商品になにペラペラ自分の能力語ってんだ」


と、ドアから声が聞こえた。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/05(土) 23:26:00.98 ID:bmTA25Fx0

「おう、遅かったな」


それは商品の出し入れと包装を担当していた男だった。

確か、男の能力は『圧縮空銃(エアピストル)』だったか。


「何してたんだ?」

「いや、ちっとばっかし厠に行って踏ん張ってました」

「……便秘か?」

「いいえ、昨日喰ったカレーが不味かったようです」

「そうか、それはと災難だったな」

「時にみんなは?」

「あれ、聞いてなかったか? 商品が逃げたんだ、二人。 よりにもウチのお得意さんに膝蹴り三発入れた後に旋風脚叩き込んで、しかもストールで首を絞めた後に壁に頭叩き付けて止め刺したんだよ」

「うっわぁ…、想像しただけでも痛いですね」


男は頭を押さえて嫌そうな顔をした。


「で、あのオッサンがお得意さんですか」


そう言って、男は部屋の奥でリーダーと向かい合って、ウィスキーをロックで飲んでいる中年の男を指さした。


「おい、あんま変なこと言うなよ。いま、お二方機嫌が超悪いからな」

「へいへい」


男は両手を頭の後ろで組んでつまらなそうに欠伸をした。


「どうした、お前らしくない。こういう時は一目散に胡麻を擂るのに」

「えっ!? あ、あぁ、スイマセン、昨日は徹夜だったもんで…」

「ああ、そうだったな。 昨日は俺と一緒に酒盛りしてたんだっけな…。その後も飲んでたんだ?」

「ええ、もうちょっとだけ飲んでおこうって思いまして…」


男はヘラヘラしながらそう答えた。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/05(土) 23:27:58.89 ID:bmTA25Fx0


一方、奥のテーブルでリーダーとウィスキーが注がれたグラスを傾けていた中年の男は、頭に浮かびあがったどうでもいい疑問を口を出した。


「リーダーさん、君、今年で幾つになった?」

「今年で22になりました」

「早いものだね。私がここに来たのは君たちがまだ高校生の頃だったね」

「ええ、あの頃はまだ駆け出しだったものでしたから。…………あの時は色々と教えていただき、ありがとうございました」

「いいさ、おかげで良い買い物がいっぱい出来たし、イチ教師としてとてもいい生徒を持った気持ちだったさ」

「……………」

「どうしたんだい?」

「ああ、いいえ、何でもありません。 ただ、私には、私にとっては、尊敬する大人はいませんでしたから」

「ああ、そうだったね。ごめんね、辛い事を思い出させてしまって……」

「いいえ、それがあったからこそ、今の私がいるんです。こうして大能力者になったのも、こうした人生があったからなんでしょう」

「いや、それは君が自分の人生を終わらせる時に決める物だよ。けして今見極める物じゃあない。君が死ぬとき、自身の歩んできた道程を振り返ってから、見極めるんだよ」

「…………旦那には敵わない」

「いやいや、これは無駄に歳を喰ってきた人間の汚くて臭い口から出てきた戯言だよ。 まぁ忘れるのも心の片隅に留めておくのも、君の座右の銘にするのも勝手だけどね」


男はそう言ってウィスキーを傾け、一気に中の酒を仰いだその時、部屋の隅に人影が突然と現れた。


影は二つ。

一つはヤマ。

そしてもう一つは――――――――――
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/06(日) 00:24:03.37 ID:DQ8T0AMh0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「結標! 大丈夫か!?」


上条当麻は片膝をついている結標淡希に駆け寄った。


「ぅぅ…目が回る感じで気持ち悪い………船酔いを10倍にして圧縮した感じ……」


結標は青い顔で頭を押さえて上条の肩を掴もうとする。が、遠近感が全くなく、視界が歪んで見える結標は手を空振りしてしまった。

空を切った手はそのまま地面にへとつかれ、結標は四つん這いになった。

上条はどうしようか考え、


「目か………そうだ、ちょっと待ってろよ」


何か思いついたのか、自分の右手を結標の目に当てた。



するとパキンッ!と何かが割れる音がした。



「どうだ? 見えるか?」


上条は結標から右手をどかして訊く。 結標は目を閉じていた目蓋を上げ、何回か瞬きをして前を見た。

彼女の目は真っ直ぐに前を向いていた。


「………あれ? ちゃんと見える」

「やっぱり超能力か……」


上条は納得したように呟き、その超能力を使った男が持っていた、今は地面に転がっていた拳銃を手に取る。

銀色の塗装のその銃は結構使い込まれているようで、所々に細かい傷があった。


「きっと、コイツの能力は目線を合わせることで目に何かを細工する能力だな……。なんて厄介な……」


『コイツ』とは、さきほど上条がアッパーでKOした男だった。塀に体を預けて座っているように気絶しているようだ。

男は中肉中背の体躯。尻の下には男の物だろう眼鏡が可哀想な形となって潰れていた。


上条は周囲を見渡して、ある人物を探した。

彼女は結標と同じく、敵の能力によって目を回された筈だ。今すぐにでも能力を解除させなくては。


「御坂はどこ行った? どこに座標移動したんだ?」

「ああ、今持ってくるわ。……はい」


結標は先程に座標移動で飛ばした御坂美琴を目の前に顕現させた。すると、上条は目を潜めた。なぜなら…。


「なぁ、なんでこうも枯葉だらけなんだ?」

「あら、それは気にしないで? だって拳銃で射殺される直前だったから、さすがに慌てたからね。テキトーな所に飛ばしちゃった」


飛ばしちゃったじゃないだろう、とツッコむ上条だったが、先に目を回しながらも美琴が苦しみながらもこう口を開いた。


「……………あとで……ブッコロス……」


上条はなぜこの二人は仲良くならないかと溜息をつきつつ、美琴の目に右手を当てた。
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/06(日) 01:13:22.97 ID:DQ8T0AMh0
当てた、その瞬間。

上条が倒した筈の男が突如起き上がり、上条へと突進した。


「――――…!? 危ない!!」


最初に気が付いたのは上条の右手によって敵の能力が解除された美琴だった。

しかし時すでに遅し。

虚を突かれた上条は襟を掴まれて引っ張られ、体勢を崩される。


「うぉ!?」


上条は右手を掴まれ背中に極められ、盾にされた。男は上条が持ってきた自分の愛銃を奪い、頭に当てる。

男は声には出さなかったが、恐らくこういっているのだろう。


そこから動くなよと。


美琴と結標はピタッと座ったまま体の動きを止める。

男は上条を盾にしたまま、後退。少しずつ後ろに下がっていき、佐天と吹寄が倒れている場所にまで移動する。

恐らく、男は上条を盾にしたまま、佐天と吹寄を廃墟へとまた連れ去っていくのだろう。



しかし、それを簡単に見過ごすほど、甘ったるい女ではない、この二人は。



まず、結標が持っている抜身の『鎩』を上条の頭に当てられた拳銃へ座標移動させた。

ガキィィン! と銃は『鎩』が突き刺さる形で破壊された。


「!?」


男は突如の事態に驚くが、咄嗟に銃を捨てた。 代わりに銃に刺さっていた刀を抜き取り、上条の背中を蹴り、斬りかかる。

刀は振り下ろされ、上条の背中へ。男は刀を振り切る。

が、男は振り切ったその腕には刀は無かった。手は刀を持っている風に見えるが、その中には虚空しかない。

また、結標によって座標移動させられたのだ。

男は結標を視界の隅で見る。 彼女の手には刀は無かった。

そうなると……。

男は急いで横に跳ぶ。

跳んだ直後、男がいた場所に刀が一本降ってきた。

もし跳んでいなかったら脳天から串刺しになっていただろう。

ゾクッ…と背筋を凍らせる何かを感じながら、男は刀を掴み取った。
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/06(日) 02:13:14.06 ID:DQ8T0AMh0
確認すると、今の各人物の位置はこうだ。


美琴と結標は一緒に並んで男を睨み、上条は顔から地面にこけて倒れている。対して男は三人を睨んで刀…『鎩』を掴んた。そして彼らの後ろには気絶している佐天と吹寄が重なり合うように倒れている。




佐 男ノ 上
吹 結



だいたいこんな感じだろう。




男は刀を掴み、構えた。

いや、構えようとした。

構えようとするも、また座標移動により消え、今度は刀は結標の手の中へと戻っていった。


「そう簡単に私の『鎩』を渡すものですか」


結標は不敵に笑う。

さっきまで、男に背中を蹴られて倒れていた上条は起き上がり、男に拳を握って構える。

最後に美琴はポケットの中から取り出したコインを指に挟み、紫電を鳴らしながら前に突きだした。


「観念しなさい。 三対一よ? さぁここから消えなさい」


美琴が言った。

その言葉を受け取って、男は尻ポケットの中からある物を取りだした。


569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/06(日) 02:21:58.77 ID:DQ8T0AMh0
――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。有難う御座いました。
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/06(日) 02:27:15.95 ID:DQ8T0AMh0
すいません、>>568失敗しました………。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海) [sage]:2011/11/06(日) 21:49:36.91 ID:ucPMjHcAO
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 16:46:51.97 ID:ppTvX2Ec0

メモ帳とボールペンだった。


「………?」


美琴はそれを怪訝な目で見る。

男はそのメモ帳にスラスラと文字を紡いでいき、そして書いた文字を三人に見せた。


『失敬、とある理由で声がでない物で、筆談をさせてもらいます。 私の名前はヤマと申します。まぁごもっとも、あだ名ですが……。本名は訳あって言えません』


男は文字を書いた用紙を一枚破り捨て、その下の用紙にまた別の用紙に文字を書いた。


『今、私の目の前にいるのは“御坂美琴””結標淡希"と……まぁあそこに転がっている“吹寄制理”か“佐天涙子”の友人か恋人の方でしょう。名前をお伺いしてもよろしいですか?』


「上条当麻だ」


上条は応えた。


『なるほど、なぜ私の能力が解除されたか疑問でしたが……、なんとあの『幻想殺し』でしたか』


男は上条の事を知っているようだ。

そういえば、先日出会った、絹旗最愛という少女も自分のことを知っていた。

彼女は『こんな環境にいるから』と言っていたが……、一部の人間からすれば自分は有名人なのか?

しかし上条は心の中の疑問を、今は関係ないかと打ち消した。


『さて、私は今から、学園都市最強の超能力者七人の一角であり最強の電撃使いと最強クラスの空間移動系能力者とあの『幻想殺し』を一気に相手しなければなりません……』


『ここでみなさんに一つ提案なんですが、ここはひとつ手を引いてくれませんか? あれら商品は先程、多額で売れまして…』


その文字を見た瞬間。……いや、ヤンという男の、まるでサラリーマンの様な丁寧な台詞で“注文した商品が在庫切れですのでお引き取りください”と言っている様な口調は、上条の頭を一気に沸騰させた。当然、美琴も結標もだった。

上条の右手はギリギリと握りしめられる。

当然、拒否した。というより、許せない。


「馬鹿言ってんじゃねェぞ!そいつらは俺の大事な友達なんだよ! ふざけるんじゃねぇよ!!」

「そうよ、あんな地獄の様な所に、はいどうぞって手ぇ引かなくっちゃならないのよ!!」

「ま、当然どっちみち私がぶっ潰すけどね」


上条は右手を固く握った右手を振り、美琴は紫電を三発鳴らし、結標は『鎩』の剣先をヤマに向けた。

ヤマは眉一つ変えず、ヤンは紙をまた一枚破り捨て、新しい文字を書き、そして書いた紙を前に突き付ける。



『そうですか……交渉決裂です。 とても残念ですが……。』




――――――――――――――――『あなた達を殺さなくてはなりません』




それは開戦の合図だった。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 17:55:47.67 ID:ppTvX2Ec0
ヤマはそう書いたメモ帳を上条の顔面に投げつけた。

上条の顔に当たったそれは一瞬、視界を奪い、その隙にヤンは上条へ駆け、彼の腹を蹴る。


「グフッ!」


胴が九の字に曲がった上条の髪を掴み、自身の体に寄せ、右手を掴む。 今度は掴んだ逆の手でヤマは持っていたボールペンのキャップを指で回転させた。

すると、インクが出て来るボールの所が引っ込み、代わりに太い針がシュカンッと出て来た。 ペンと同じくらいの長さだ。


ヤマはそれを、上条の右手に思いっきり突き刺した。


「ぎゃぁぁあ!!」


上条は苦痛の悲鳴を上げる。

ヤマは針を上条の右手に貫通させたまま、鳩尾に膝蹴りを突き立てた。

気持ちいいくらいに奇麗に膝蹴りを貰った上条は意識を断たれ、ヤマに右腕を持たれて崩れ落ちた。


開戦から、わずか2秒足らずの出来事だった。


余りの速さに…あの『雷電閃光』のヤンとは別の速さだったが、美琴も結標も、倒された上条さえも理解できなかった。


そしてヤマは呆然とする女子二人に…あの『超電磁砲』と『座標移動』に対して悠々と、ポケットの中からまたメモ帳とボールペンと取り出した。


『まず、私の能力を解除する、この少年から倒させてもらいました。 これであなた達は私の能力を一回でも発動されれば戦闘不能となります』


『ああ、彼を殺さずに生かしておいたのは、色々と理由があってのことですが……所詮は無能力者。“ただ右手に正体不明の力”があるだけで、しゃしゃり出てしまって……。まったく、可哀そうな頭の持ち主ですね、どうも』


『しかし、あの学園都市最強の第一位『一方通行』を破ったとかいうのも大したことは無いですね。 きっと彼は無能力者だからと言って驕っていたんでしょう。 まぁ彼自身のスペックはそこら辺の兎にも劣りますけどね』


上条の頭を靴で踏みながら、すらすらと文字を文字を書いて行くヤマ。


『さて? あなた達はかかってこないんですか? 私は何時でも何処でもよろしいですよ? まぁこの彼はあなた達の“切り札”だったようですが………何ともか弱い切り札ですかね』


『ああ、そうそう………』


ヤマがメモ帳に文字を書き切る。それと同時に美琴が指に挟んでいたコインに力を入れた。


「ぁぁぁあああああああああああああああ!!」


超電磁砲を撃つ気だ。

その瞬間。 美琴の指から一閃の光の閃光がヤンの顔面へ向かって飛ぶ。


そして爆音と豪風が辺りを撫で、雨風を吹き飛ばし………いや、何も起こらなかった。


「なっ!?」


美琴は驚愕する。

なぜなら………、ヤマは上条の右手…幻想殺しが宿る右手を翳し、盾にしたのだ。彼の右手から一枚の焦げて原型を留めていないコインがポロリと落ちる。

驚愕する美琴の横で、一部始終を見ていた結標は口が閉じられない状態だった。

超電磁砲を撃ってくるとと見た瞬間、ヤマは足で上条の右手を蹴り上げ、目線のところまで引っ張ったのだ。(下手すれば上条の右腕は脱臼するかも知れなかったが、その様子は無かった)
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 21:20:58.76 ID:ppTvX2Ec0
ヤマはぐったりとした上条の体を美琴の体に向かって蹴り出した。美琴は上条の体を受け止めたが、体勢を崩された。

その隙にヤマは地面を蹴る。次の標的は美琴だった。

ほんの3、4m程しかない距離だったため、ヤマと美琴の間合は一瞬にして縮められた。 そしてヤマの固く握られた拳は美琴の頬を捕らえた。


「ぐっ!」


奇麗に入った左ストレートで、体が軽い美琴は4m飛び、れた地面で一回転して水溜りの中で止まり、美琴と言う支えを失った上条は美琴と同様、水溜りの中へ顔を突っ込んだ。


「………なんて奴なの」


結標は呟く。

いや、呆けている場合じゃない。自分も戦わなくては。


「敵はそいつだけじゃないわよ!!」


結標は『鎩』を構え、ヤマの体を貫こうと、ヤマの頭上に座標移動させる。…が、その前にヤマが後へ飛んでしまい、結局『鎩』は落下して地面に刺さった。

ヤマはそのまま前にあった『鎩』を抜き取り、結標へ駆けて来た。


(くっ……なんでこうも私が攻撃する所を見抜かれるの!?)


結標は困惑する。しかし敵は向かってくる。

ヤマは『鎩』を頭の上に掲げて斬りかかる。が、結標は『鎩』を座標移動で取り戻した。

『鎩』を取り戻した結標はそれを逆手に持ち、やり投げの様に投げた。


(一か八かだけど……。頼む、当たって!)


が、『鎩』は軽々と避けられてしまった。しかし、これからが結標の腕の見せ所だ。

遥か彼方へ飛んで行った『鎩』を座標移動で向きを変えた。

向きが正反対になったため、『鎩』が帰ってくるようにヤマの背中へ向かっていった。

が、ヤンはそれをまたしても何もなかったかのように避けた。


「くそぉ!」


結標は飛んできた『鎩』の柄を掴み取り、前に出てヤマと正面切って応戦しようとする。

相手は素手、こっちは日本刀一本。勝算はあると踏んだのだろう。


「さぁかかってきなさ………、………っ!?」


が、しかし、結標の体を後ろから押し退ける何かがいた。


「どきなさい!!」


美琴だった。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 21:22:01.16 ID:ppTvX2Ec0

「うぉぉぉおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!」


美琴は雄叫びを上げながら結標の体を押し退け、張り倒した。

上条を倒されたからか、自分が倒されたからか、それとも上条を自分の攻撃の盾にされたからか、美琴は頭に血を昇らせていた。


「止めなさい!! それは敵の思う壺よ!!」


結標は叫んだ。

しかし美琴の耳にはその言葉は入っていなかった。支離滅裂の状態になった美琴は額に電気を溜めた。


と、その時、結標は気付いた。



自分が今、手に持っている『鎩』の刀身に、一つのワイヤーが輪っかになって巻かれていたことを。

その輪っかが、美琴の首に掛けられたワイヤーの輪っかにまで続いていたことを……。


そして今、美琴はヤマに向けて電気を撃っていること。



即ち……。

結標の脳裏に最悪のシナリオが浮かび、とっさに叫ぶ。


「ちょ、待ち――――――」


が、遅かった。

美琴はヤマに向かって電撃を当てようと、体中から電撃を放電してしまった。


それは電気は美琴の体から発せられた物だから当然、美琴の体中の皮膚に電気は伝わりっている筈だ。例外なく、美琴の首元にもだ。

当たり前だが、金属は電気を流しやすい。 例外なく、首に繋がれているワイヤーもだ。

そしてそのワイヤーから伝わった電気は、結標が持っている『鎩』に流れ、そして刀身を伝ってきた電気は柄に伝わり―――――――――――


そして、柄を持っていた結標の手から全身を駆け巡った。


「ぎゃん!!」


「!?」


美琴は横にいた…短い悲鳴を上げた結標に振り向いた。


結標は、焦げた体から白い煙を上げて倒れていた。


「―――――――――――――…………?」


一体何が起こったのか、どうして結標が倒れているのかがわからないような顔をした美琴。その直後に、自分の首にワイヤーが巻かれていたのを発見し、それが結標が持っていた『鎩』の刀身にまで繋がっている事を理解した。

そして、自分のせいで結標は倒れた事を理解した。
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 21:22:59.15 ID:ppTvX2Ec0

…………あんた、いつの間に……?

と美琴は顔でヤマに訊く。

が、ヤマはそれに答える程、紳士じゃない。

落ちていた『鎩』に掛けられていたワイヤーを左手で取り、ヤマはアジトとは逆方向の建物の3m程の高さのフェンスを駆けあがり、飛び越えた。

それと同時に、ワイヤーが首に掛かっている美琴は首から引っ張られ、フェンスに引きずられるように叩き付けられた。


「あがぁっ!」


ワイヤーはピンッと張り、美琴の首を締めた。

ヤマはポケットから一本、J状の形をした杭を取り出した。そして持っていたワイヤーの端にある輪っかに杭を潜らせ、斜め45度に傾かせて地面に刺した。

ワイヤーは杭に引っ掛かる形となって張られた状態で留まった。 連想するならそう、キャンプの時のテント設営に近い。


ヤマは戻ってフェンスを登り、首を絞められてのた打ち回る美琴を見た。

苦しそうに顔を歪め、口から涎を垂らしながらヤマを睨む。


ヤマはまたポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。 まったく、幾つ持っているのだこの男は。

すらすらと文字を紡ぎ、美琴に見せる。


『可哀想に、苦しいでしょう? どうやら窒息を免れる為、ワイヤーと首の間に指を入れましたね。いやはや、運がいい。流石は超能力者』


『とわ言っても、たかが女子中学生の握力、ワイヤーを千切る事も出来なければ、いずれ指ごと首を絞められて窒息死するでしょう』


『さて、それらを踏まえて計算すると…ざっと15分。 15分後にあなたは死にます。 そこで幾つかお話でもしたいところですが、生憎時間がありません』


『そこで、短くそれをまとめましょう……』


『そうですね、まず種明かしをしましょうか』


『まず一つ、私が結標淡希の攻撃を躱したのは、予めあの日本刀…『ツルギ』…でしたっけ? それの刀身にワイヤーを巻いていたからでうす』


『そのワイヤーのもう一方を私が持っていれば、『ツルギ』がどこに飛んでくるのかわかります。 まぁ自身の体に直接撃ち込まれる可能性はありましたが、それは賭けでしたね』


『そしてもう一つ。あなたは気付いていないようですが、私は先の戦闘でいくつかあなたの電撃を浴びなければならない場面がありました』


『そこで私の服を見てください。 この素材はなかなか面白い素材でしてね? これは先日、とある企業は開発した、対能力者用の駆動鎧の新型に使われる粗材と同じで、防火、防水、防弾、防衝撃……そして防電と、伸縮性がある癖に丈夫に出来ているんですよ。そして、私の衣服全てがその粗材100%で出来ています』


『実はこの“仕事”の他に副業をこっそりとやってまして、大学や企業や研究所から依頼されて、そこで開発された発明品の実験台をさせてもらっているんです。 その一つにこれです』


「………ぐぅ…ぅうう………」


『と…、すいませんね。苦しいときにペラペラと書いちゃって。さて、私はここで退散しておきますか。リーダーも今頃ストーブの上のヤカンみたいにカンカンでしょうから』


ヤマはメモ帳とボールペンをポケットに仕舞おうとしたが、ある事を思い出して、ボールペンをカチカチと鳴らした。


『ああそうそう、一つ言い忘れていました。 あなたに途中で区切らされてしまったままでしたから………』




『ああ、そうそう………。 こういう風な場面は、ビビった方が敗けですよ?』



そう書き記し、ヤマはその紙を破ってグシャグシャに丸めて、踵を返して紙を美琴の頭へとバックとした。
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 22:23:34.27 ID:ppTvX2Ec0
ぐったりとして、あれだけバタつかせていた両足を投げ出すように美琴は足を伸ばしていた。ブラブラと揺れるそれは、彼女の意識がもうない事を意味していた。


ヤマはそれを見て、自分の運の良さを改めて痛感した。

まさかあの超能力者を伸してしまうとは……。まぁ相手はヤンとの戦いで少しは疲労していただろうし、何より最初に倒した少年、上条当麻の右手を針で刺した時から彼女は理性を失っていた。

そうなれば後はジェンガの様に

御坂美琴と上条当麻の間には何かの関係があったのだろうか。

恋人同士だったのか? それとも厚い友情で結ばれていたのか? まぁともかく、もう死ぬ人間の事はどうでもいいか。今は商品の回収だ。


ヤマは重なるように倒れている吹寄と佐天へ歩み寄ろうと足を向けた。

と、ふと、足が何かに掴まれた。

上条だった。

上条は苦しそうな息をしながら、血まみれの右手でヤマの左足首を掴む。


「………ま…て」


上条はフルフルと体を震わせていた。

しかし、ヤマは哀れみの感情を出さなかった。

それどころか、そんな上条の腹部を、ヤマは無言でサッカーボールの様に蹴った。


「げふっ!」


上条は腹部を抑え、悶絶。

ヤマは興味が無いと、踵を返して去った。


ヤマは倒れている吹寄と佐天に近付くと腰を下ろした。

まず、佐天の体を持ち上げて肩で担ぎ、次に吹寄の服を掴んで脇で支えて持つ。そして御坂美琴との戦いであそこで転がっているヤンも回収しなければ。彼も相当重傷を負っている筈だ。

それでボンの能力でアジトに帰還した後、ただちに後からやってくるだろう風紀委員と警備員との対策を考えなければ。あの御坂美琴の後輩は風紀委員だった筈だ。御坂は予め通報してその後輩の風紀委員に応援を頼んでいる可能性もある。


ヤマは商品二つを抱えながら、そうこれからの行動計画を建てた。

さて、これから忙しくなりそうだ。ヤマはそう心の中のメモ帳に書き記し、足を進める。


その瞬間、何かの気配が背中を触った。


ヤマはバッと後ろを振り返る。


すると少し離れたところで、御坂美琴の尻が地面に着地していた。


「…………?」


ヤマは首を傾げる。 おかしい、なんでワイヤーで首を絞めてフェンスに磔にしていたはずなのに……。


ヤマは担いでいた商品二つを地面に降ろし、美琴に近付く。
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/07(月) 22:54:01.85 ID:ppTvX2Ec0
息はあった。

生きている。どうにかゼイゼイと息をしながらも、気絶をしているが、生きている。

ヤマは美琴の首からフェンスの向こうにあるワイヤーを引っ張った。

ワイヤーがフェンスの穴からワイヤーがスルスルと流れる様に出て来る。


そして、ワイヤーの端の輪っかが、フェンスから出てきた。


明らかにあの杭が外れたことを意味していた。

杭の深さが足りなかったか? それとも突き刺した土の地面が雨で柔らかくなっていたのか。


それともこの女が自慢の電撃で何かしたか?

いや、それは有り得ない。

窒息の苦しみにより、高度な演算は不可能。 もし万が一電撃を出せたとしても、このワイヤーとそれをとめていた杭は電気を最も伝わりやすい銀で出来ている。それがアースの役割をしている為、電撃は自然と土へ流れる仕組みになっている。


まぁいいか。深く考えてもしょうがない。超能力者とて今はもう虫の息だ。

しょうがない、今度こそキッチリ殺しておこうか。

このまま放置するのも考えていたが、この女が起きてアジトに襲ってくるかもしれない。

ヤマは溜息交じりで美琴の首にワイヤーを巻き、その両の先端を強く握り、思いっきり引っ張ろうとした。


その瞬間……。



ヤマの右足は一発の銃弾により、貫かれた。


撃たれた衝撃でワイヤーを手放してしまい、自身の体は地に転がる。


「………………っっ!!?」


そして遅れて銃声が聞こえる。 ダァァァン……ダァァァン……ダァァァン………との音が山彦を連れて耳へと届いた。


誰だ? いったい誰だ、発砲したのは!?

ヤマは袖から一本のナイフを取り出して構える。 そして周囲を見渡す。


しかし、誰もいない。

アジトの横の一本道、誰もいない。

周囲には誰もいなかった。


しかし、もう一発、今度は別の方向から銃弾がヤマの脇腹を掠めた。


苦悶の表情でのた打ち転がるヤマ。

そうか……これは…。

ヤマは誰もいない空間から飛んでくる銃弾には記憶がある。というかこれしかない。

もしかして……狙撃か!?

早い、もう風紀委員と警備員が来たのか?

いや、違う。彼らならこうしたコソコソする真似はしない。 奴らはまず、周囲を包囲して幾度か呼びかけをして人質の解放の交渉し、決裂したor解放したら突入する。

これは奴らの仕業じゃない。じゃあ誰だ!?



ヤンはその直後、目を見開き、口をあんぐりと開け、そして文字通りの有り得ない光景を目にするのだ。
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 01:44:10.62 ID:Uo4ohDOs0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そう言えば、俺達は物凄い道のりを歩んできた。

最初は無能力者の不良に絡まれていた『アイツ』を助けて、風紀委員の置いてきたヤツに助けられて、それで『アイツ』と組んで色々と遊んだもんだ。そして俺達は試行錯誤で強くなる術を探していたんだ。

それで一緒に強くなって、俺が低能力者から異能力者になった頃、シンナー吸っていたシンと本当に真面目なヤンが同時に入ってきて、顔を合わせた時に大喧嘩おっぱじめてたなぁ……。あぁ、あんときは止めるのがしんどかった。

それから寒いラップで路上ライブしていたラッパーが不良に絡まれていた時、俺達はそのラッパーを助けた。
そいつがサブとの出会いだった。まったく、ギャグもラップも0点台を叩き出してるってのに、異様に鋭い所を突いてくる奴だった。 まぁそれが神様がアイツに上げた才能と言う奴だな。

その後だ、マンションが入ってきたのは。マンションは大きな体とあの気弱な性格のせいで昔っから虐められっ子で、あいつを虐められていたとき、俺とサブとシンとヤンと『アイツ』で虐めっ子共を徹底的に叩きのめしてやったんだっけ。
それからマンションが俺達に憧れて俺達のつるむようになった。

あと、女の子を片っ端から口説いて回っていたのがボンだった。話は上手く、顔もまぁまぁいい。おまけにあいつは結構金を持っていた。だが女癖が悪く、なんと16股も掛けてた。
俺はその内の一人の女の子に泣きつかれて、ボンを粛清した。それから、俺はアイツを仲間にした。理由は簡単だ。 二度と女の子を泣かせないように見張る為だ。

ヤマと出会ったのは、そのひと月後だ。弟の中学…まぁ俺の母校に遊びに言った時だ。何人かの男子にボコボコにされている男の子を見つけた。それがヤマだった。なんと、あいつは親からの虐待に、学校での虐めに、教師からの迫害など、様々な理不尽な暴力を受けていた。
そのせいで自分で声が出なくなり、体中には火傷や痣、しかも切傷に刺傷、それにネジで抉られた痕があった。
俺は即、虐めていた奴らを潰した。迫害していた教師も是認夜中にボコった。あと、コイツの両親は警備員らしいが関係ない。ヤマの気が収まるまで殴り続けた。
それからヤマの家は俺達のアジトになった。同時に、俺達の仲間になった。

こんなこともあった。俺の弟の善緒(よしお)が俺に付き纏うようになった。あいつは当時はまだ中学生に上がったばっかりで、俺に甘えていた。可愛い弟で、親がいない俺はあいつの親代わりをしていた。
しかし最近、俺が仲間とつるむようになってからはあいつの面倒を見ることが出来なくなってきた。まぁ兄離れに丁度いい時期だろうと思っていたが、甘かった。
なんと俺を朝から晩までストーカーして、俺が仲間と集合している所を見計らって『仲間にしてください』って言ってきた。
それからが大変だった。
泣いて喚いてので、5時間くらい粘られて、とうとう俺は折れてしまった。
それと『アイツ』から授かったあだ名は、俺にちなんでジョンになった。

丁度その時、9人となって、俺達は正式に組織を組んだ。まぁ組織名は考えなかったが。

俺達はこっそり日本酒を買って、お互いに兄弟盃を交わした。

これから先は俺達がどんなことがあっても仲間を裏切らない。仲間を見捨てない。仲間を傷つかない。 俺達は兄弟だ。俺達は家族だ。俺達は親友だ。


これが俺達9人の誓いだった。


それから何か能力を強くするコツというモノを掴んだ気がして、俺達は段々と強くなっていった。

それから仲間も少しずつ増えて来て、数は100人を超えた。


それに伴い、俺達も成長した。

俺は大能力者になった。未来も1時間後が見える『予見能力(ロックアハンド)』が開花した。

弟も俺と同じ能力らしい。今は強能力者で、15分後の未来が見えるらしい。

ヤンも大能力者になった。能力は生体電気の量を増幅させて自身の体に放電して筋肉を超人的に活性させる『雷電閃光(サンダーボルト)』

サブの能力は地獄の業火だ。『岩漿精製(マグマメーカー)』は土や金属を超高温に熱し、マグマにする。入ってきた時は物を保温するしか能が無かったのに、大したヤツだよ全く。

シンも大能力者になった。能力名は『巌岩装甲(ロックイーター)』。ライバルのヤンと勝るとも劣らない、強力な能力だ。

マンションは強能力者だ。『王水濃霧(ペーハーミスト)』と言う能力は空気中の水蒸気の㏗を下げる能力だ。あの優しい性格でよくもまぁえげつない能力を手に入れたもんだ。

ヤマはあの包囲網を突破する中で能力が開花した。『焦点除去(フォーカルレデント)』は目があった相手の焦点を無くして相手の視界をメチャクチャにすると言う恐ろしい能力だ。強度は強能力。

そう言えばボンも強能力者になったんだっけか。能力名は『物体移動(アポート)』地図上の丸と丸の上にある物体を移動させると言う、組織初期メンバーの中で最も便利で凡庸性がある能力だ。本人はもっと派手な能力が欲しいと嘆いていたのだが。

みな、低・異能力者の頃から喧嘩ばかりしていた奴らだ。能力無しでも十分強い。それに強力な能力を持ったんだ。それは鬼に金棒で、まさに怖いものなしだった。

しかし、一人を除いて……。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 01:44:43.25 ID:Uo4ohDOs0

『アイツ』…どうしたのだろうか。上手く逃げたのだろうか……。それとも捕まったのだろうか………。下手すれば死んでいる可能性も捨てきれない。

ああ、あいつの能力が開花するまで、死ぬにも死にきれないな……。


そう呆然と考えているうちに、俺は集合場所の公園に到着した。


ああ、よかった。

どうどうと道を歩いていたけど、敵は俺達を見つけていないようだ。意外とマヌケな所もあるんだな、警備員は。


集合時間にはたっぷり…と言うより一日以上間がある為、俺は自販機で煙草とコーヒーを買って、公園のベンチで一服した。


ああ、疲れた。


今日は能力を使い過ぎたようだ。

頭が痛い。もう、何も考えられないようだ。

俺はコーヒーの缶を開け、一気飲みする。三秒でなくなった容器を傍らに置き、俺は買ったばかりの煙草を口に咥え、ポケットの中からライターを取り出し………、あれ、ライターが無い。どうやらあの戦場に置いて来てしまったらしい。

しょうがないと、煙草を箱の中へ戻す。

ああ、何か口に入れたい。俺は体中のポケットというポケットを探り、何か無いかと探した。

すると、右の上着のポケットの中に、小さな飴玉が入っていた。

これは先日、まだ組織がストレンジに来たばかりの頃に助けた小学生…確か綿流とか言ったか? 綿流とたまたま出会った時に、彼から貰った物だ。

俺はその飴玉の包装紙を破り、口に入れる。

ほのかに香るイチゴの香りと、甘ったるい砂糖の味が口いっぱいに広がった。その甘さが疲れた頭には丁度よく、疲れを癒してくれた。

ああ、やっぱり疲れた時には甘いものだわ。

俺は空を眺める。 先程までは気持ち悪いくらいに真っ赤だった空だったが、今では紫と赤のグラデーションが鮮やかに空を彩っていた。

そして俺は呟く。

ああ、こんな時間が続けばいいのに。

なんて、全く、追われている身なのに何考えてんだか。







そしてその瞬間。 俺は銃で腹を撃たれた。




581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 02:09:51.36 ID:Uo4ohDOs0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

無能力者狩りのアジトのとある部屋には、数十人の男達がいた。

まず組織を統べるリーダー。それと彼とウィスキーで酒盛りをしている客の中年。ドアの近くでそれを見ているのはボンとその部下。他にも組織の初期メンバーの面々…ヤンとシンとヤマを除いて全員が顔を揃え、他は全員、組織の主戦力クラスの強能力者の猛者ばかりだった。


そして新たに影が突然と現れた。

ボンの能力、『物体移動』で現れたのだ。

影は二つ。一つはヤマ。 そしてもう一つは―――――――――― ヤンだった。

ヤンは黒焦げ、一方ヤマは血だらけとなって地面に倒れた。

周りにいた男達の空気が変わった。


「……………!?!? おいっ! どうした!?」


ボンが倒れたヤマの体を抱える。苦痛の表情でボンの質問に答えようとした。が、書くものが無い。その為、左手で床の絨毯に文字を書いた。


『超電磁砲が……いました』


「はぁ!? 超電磁砲っつたら、常盤台の!?」


ボンは叫び、ヤマが頷く。それを見ていた男達は狼狽えた。


おい…あの超電磁砲って……。 ああ、最強の電撃姫だよ…。 じゃあ今日の商品に奴の関係者が? 誰だよ連れてきた奴は!?


狼狽える仲間を流し、ヤマは文字を書く。


『でも、御坂美琴は戦闘不能』


その文字に、みな、溜息をついた。 よかったと。―――――――――だが、


『しかし』


この言葉で、再び空気は凍りつく。いや、それ以上に冷たい温度で。



『敵襲。 敵は、最新の軍隊並の装備を持って、このアジトに侵入』



「!?!?!」「なぁっ!?」「なん……だと………!?」「じょ……冗談じゃねェぞ!?」「警備員がきやがった!!」


「おい、ヤマ。そいつらって警備員か?」


ボンが聴く。

その問いに、ヤマは震える手で答えた。



『否、奴らは………警備員じゃない…です』

「!?」

『奴らは……』


ヤマがその続きを書こうとした、その時、部屋の壁が爆発した。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 02:32:28.31 ID:Uo4ohDOs0
爆発が起こった衝撃で、長らく眠っていた少女が笹斑瑛理の腕の中で目を覚ました。


「ぅううん………、ここはどこ?」


フレメア=セイヴェルンである。


「あ、フレメアちゃん」

「あれ? 瑛理お姉ちゃん、おはよう」

「フレメアちゃん、今危ないから、伏せてなさい」


笹斑はフレメアの頭を腕で包んで庇おうとする。が、フレメアは安心したような顔と声で、こう笹斑に告げる。


「うんでもね? フレメア、大丈夫。…………だって…」





そして、ヤマは血で濡れた指で、絨毯に文字を綴った。

その文字は、この爆発を起こした張本人の……いや、張本人『達』の名前だった。


ヤマはその名を紡ぐ。それは死神の鎌の名か、悪魔の笑い声か。


『奴らは……第七学区の………』



フレメアは笹斑に言葉を述べる。それは神からの加護か、天使の贈り物か。


「だって、守ってくれるもの………あの人が…」









爆発で起きた煙の中から、一人の男が現れた。 男は大きな体をした大男。

そして男は大きな声で少女の名を呼んだ。


「迎えに来たぞ、舶来……」



そう、彼の名は。



『第七学区の武装無能力者集団です』



「駒場のお兄ちゃんが守ってくれるもの」




駒場利徳


第七学区の武装無料力者集団のリーダーである。


そして彼は、『賊刀 鎧』をその身に纏い、 顕現した。
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 02:41:19.43 ID:Uo4ohDOs0


その時、無能力者狩り一同の表情は皆、同じ顔をしていた。

漢字二つで表すと……。


呆然。



みな、呆然とド派手な演出で登場した、洋風の変な形をした鎧武者を見て、呆然とした。

ただ顔色一つ変えなかったのは、こうなる事がわかっていたヤマと、ウィスキーを呑んでいたリーダーのみ。



商品として売られる筈だった女の子たちもそうだった。

殆どが呆然唖然と口を開いていた。

しかしこちらも二人、表情は違っていた。


まずはフレメア=セイヴェルンは安心したようにまた眠りにつき、寝言の様にこう呟いた。


「ねぇ? 安心でしょ」


と。

そしてもう一人、咎咲櫛芽は違ってた。 全く違っていた。


彼女は――――――――――――――――――――――怪しく笑っていた。


584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/08(火) 02:48:59.28 ID:Uo4ohDOs0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。

↓刀語風次回予告


なにぃ!? まさかの駒場の親分登場!?

と言うか、主役よりのド派手な登場しおってからに!!

いや、それより…まさかの賊刀VS斬刀が始まるのか!?

駒場がいるとなれば、あの御馴染みのキャラたちも……?

有能 VS 無能の戦いの行方とは!?

そして咎咲という美少女の正体とは!?


次回、お楽しみに!! ちぇりょお!



明日学校なのに何やってんだか……。おやすみなさい。



あれ…? 蝙蝠さんどこ行ったの……?



深夜のテンションはヤヴァいです。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/08(火) 03:05:48.22 ID:HDrdDwBBo

つーかホントにどこいったんだよ蝙蝠さんww
美琴が負けたからようやく真庭忍軍のターンかとwwktkしてたのに
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/08(火) 20:01:33.83 ID:5btbMdFM0
最っ高の展開だぜぇぇぇぇぇぇぇ!!
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/08(火) 20:16:30.97 ID:5btbMdFM0
スーパーフルボッコタイムだ!

しかし刀語成分が 禁8/刀2 やな
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/08(火) 20:24:29.89 ID:5btbMdFM0
蝙蝠さんは忘れた頃に出てくるさ
みんな忘れて無いけどね☆

そして俺は何処にいるかわかったZE☆
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 16:41:14.13 ID:FFuKdpFZ0
こんにちは、今日も書いて行きます。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 17:28:28.44 ID:FFuKdpFZ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺は、腹を銃で撃たれた。


……いや、そのことを理解したのは、パンッと柏手の様な軽い銃声と薬莢が地面を転がる音。それと15mほど先に俺に向かって白い煙を銃口から吹かせているハンドガンを俺に向けている人間を見て、そして自分の真っ赤に染まった腹の色とそこから走る激痛が原因だった。

その3秒後、血反吐を吐いた俺はベンチから転げ落ちた。


俺を撃った奴は男だった。

朦朧とする意識の中、微かに太とい声がはしゃいでいるのを耳にする。

そいつが言っていることは聞き取れなかったが、仲間を呼んで捕らえた獲物を自慢するように言葉を話す。

数人、いや、十数人か……。

男が殆どだが、二人三人ほど女の声がある。

俺は糞みたいに熱くなっていく腹と、それと裏腹に段々と冷たくなっていく体に、俺は“死”という単語が頭に浮かんだ。

ああ、俺は死ぬのか。

一体誰だ。俺を殺したのは。


遠くに感じていた幾つかの声が、俺に近付く。

恐らく俺を撃った男だろう、射的で獲った玩具を手に取った子供の様な声で俺の髪を鷲掴みにして持ち上げる。

ああ、腹が痛くて髪が引っ張られる痛みなんてモンは感じねぇ。


俺は血を大量に腹から垂らしながら男の顔を見る。 俺の殺したのは誰だ? 警備員か? それとも風紀委員? もしかしてアジトを蹂躙されて激怒したスキルアウトか?

まぁ、スキルアウトならしょうがないか。あいつらのアジトをぶっ壊した原因を作っちまったのは、紛れも無くあいつ等だ。

あいつ等なら、俺は殺されてもしょうがない。


しかし、俺の予想は全くの見当違いだった。



――――――――――――――――俺を殺したのは、ただの中学生だった。


いや、その確信はない。

ただ言えるのは、俺の髪を掴む男はチャラチャラしたという表現がそのまま当てはまりそうな顔と、耳に無数に付けたピアスと変な色に染めた髪をしていた、スキルアウトとも言えない、――――ただの不良だった。

そして男は、“まったく緊張感がまるで無く、切羽詰まった表情もしていなかった”。

他の奴の仲間もそれに近い奴らだった。

俺の視界に入る、右から三番目の男女なんて、髪を変に紫に染めた男はクチャクチャとうるさくガムを噛み、女の方は分厚い化粧をし、身長の高い男…彼氏だろう男の腕をコアラみたいに腕を絡ませている。

その隣の女なんて、ヘラヘラ笑いながら俺をまるでゴミを見下す様に笑っている。 そして一言、チョーきもーい。なにこれ―。きたなーい。

そして俺を撃った男は、ニヤニヤとそれに応えた。

男が何を言ったのか、俺は記憶になかった。

そして、俺の目の前が真っ暗になった。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 17:32:22.43 ID:FFuKdpFZ0


なぁ、神様。 俺は死ぬのか……?

こんな惨めに死んじまうのか? こんな人間のクズの代表の様な奴らに俺の人生を終わらせてしまうのか?

なぁ、神様ぁ……。



まぁ………、俺は死んでもいい。 俺は人殺しだ。たくさん殺した。たくさんの人の迷惑を掛けてきた。人を悲しませた。


でも、でも……でも………。それでも、こんな地獄行き決定な俺でも、アンタが一つだけ慈悲をくれるなら。俺はアンタに叶えて欲しい願いが或るんだ。



俺は会いたい奴がいるんだよ。



『アイツ』に会いたい…………。

『アイツ』がいたからこそ、俺はここまで充実した毎日を送ってきた。楽しんできた。―――――――だから、俺はこの人生をここで終わらせていいと思うよ。

だから、一目……一目だけでもいい。俺は『アイツ』に会いたい。

それで言いたいんだ……。

組織を頼んだぞ………って。



それと俺はもう一人、会いたい奴がいる。

俺が風紀委員にいた頃、可愛がってくれた先輩でよぉ。

昔、風紀委員してた頃、年上の癖にチビで、その癖に色々とバカやった俺を叱ってくれて……。恐くないんだけど、それが可愛くて、可愛くて……。

でもなぁ、俺はあん時の風紀委員にケンカ売っちまってよぉ。 風紀委員、辞めちまったんだわ。

それでアイツは、私も辞めますって言ってきたんだ。勿論俺は止めた。だってケンカ売ったのは俺だ。俺が辞めるだけでいい。

それに、アイツは将来有望だったからな。アイツまでも巻き込む訳にはいかなかった。

なにせ、『名風紀委員』とか周りに言われているんだからな。

アイツの将来を潰す訳にはいかない

アイツと最後にであったのは……、そうだ、あの最初のアジトを出る時だったな。気を付けてねと言ってくれたんだけど、俺は笑って手を振るしかなかった。何も言葉を掛けられずに………。



ああ、だから俺は、もう一度……。もう一度だけでいい。

もう一度、会いたい……。

そして伝えたいんだ。



好きだ…って。




なぁ、――――――――――― 夏奈
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 18:26:57.44 ID:FFuKdpFZ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ガ……ガ――――………ガガッ』


近くの机に置いてあったトランシーバーが音を鳴らせる。

無能力者狩りの幹部の一人である男、ジョンはトランシーバーから発せられるノイズを聞いた。

突然の来客の登場で呆然としていたジョンはハッとトランシーバーを手に取る。

一拍開けて、声が発せられた。


『が――……こ、こちら高台見張り! て、敵襲です!!』

「そ、そんなことはわかっている! 敵の数は!? 装備は!?」

『そ、それが……て、て、敵は30。みな、駆動鎧です!! またアジト周辺を装甲車やハンディー(高機動多用途装輪車両)パンツァーヴェルファー(多連装ロケットランチャー搭載の四輪駆動)10台で包囲しているもよう!』

「……ッ!?ッッッ!?!?」

『し、しかも西、東、北の三方から、戦車が3機、接近! ………ッッ!?!? あ、あれは……学園都市最新式の巨大戦車ッッ!?!?』

「な、そ、それは本当か?! ふざけるなよ!?!?」

『ふ、ふざけてはいません!? あ……や、奴ら、先じ………あ、が、……ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』


トランシーバーの向こうの見張りは何かを想いだし、それを告げようとしたが、代わりに謎の絶叫を奏でた。

そしてブツッと通信が切れた音を出して静かになる。

いったい、見張りは何を言いたかったのか? ジョンはトランシーバーを見つめる。


そしてその後、三拍あけて、アジトの何処かが爆発した。


「…………っ!?」


ジョンは顔を上げる。 この音に聴き覚えがあった。


連想するのは一つ。 忘れる物か………。8年前、自分たちを襲った悪夢に登場した戦車だ。


そう、戦車がアジトを砲撃しているのだ。



「クッソッ!! り、リーダー!!」


ジョンは悪態をつき、隅の机で何も無いようにウィスキーを傾けていたリーダーの意見を求める。

その声にリーダーは落ち着いた声で応えた。


「まぁ慌てるな、ジョン。お前らしくない………。いや、しょうがないか、お前らからすれば、トラウマだからな」

「………何を呑気な……、このままじゃあ8年前の二の舞ですよ?」

「案ずるな、あんときと比べて敵の兵力はクズ当然だ。それに、逆にこっちはあん時の15倍だ」


リーダーはグラスに残ったウィスキーをクイッと仰ぎ、壁に掛け立てていた真っ黒い刀…『斬刀 鈍』を左手で持って、ヨッコラセと立ち上がった。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 18:56:21.37 ID:FFuKdpFZ0
そして向かいのに座っていた客の中年男に一言謝罪した。


「申し訳ございません、旦那。 今日はお引き取りください」

「商品の方は?」

「後日。 貴方のご自宅に届きますよう手配します」

「ならいいよ」


男もヨイセと立ち上がり、リーダーは足を部屋の外へ出る扉へと足を向ける。男はそれに並ぶように続いた。


「客人のお帰りだ。ボン、安全な場所に避難させて、様子を見て転送させてあげろ。ついでにヤマを医務室にまで連れて行け。そこに何人か医療系の奴がいる筈だ」

「わかりました。 ささ、旦那。 こちらです」

「ああ…」


ボンは足元に倒れて、いつの間にか気絶しているヤマをおんぶした。 そして扉を小さく開け、中年男をエスコートする。

と、その前にリーダーがボンにある事を訊いた。


「おい、お前の隣にいた奴……どこ行った?」


ボンは一拍おいて、振り向いて、


「ああ、さっき腹痛くなったから便所行きました」


と述べた。


「そうか…。まぁいい、途中で出会ったら伝えておけ。久しぶりの戦闘だってな」

「ラジャー」


そう言って、ボンは男と共にヤマを連れて部屋の外へと脱出した。



ボンたちを見送ったリーダーは、一つ息を吐き、ポケットの中に入っていた煙草の箱を取り出し、その中の一本を口に咥えた。


「…………さて、今度はそちらの客人からだな」


咥えた煙草の先端に右手近付かせ、左手をを翳す。右手の親指と中指はお互い先端を合わせて力を入れ、擦る。

パチンッと小切れの良い音が指からした。

リーダーは両手を離すと、彼の口元の煙草には火が灯されていた。リーダーはすぅぅぅっと煙を肺に溜め、鼻から機関車の様に出す。


「申し訳ないが、お前らには帰ってもらおう。ここはVIP御用達なんでな。 お前らの様な学園都市のモルモットどもはさっさと焼却炉に投げ飛ばされてしまえ」


リーダーはつまらない物を見る目で突然の客人を持て成した。

しかし、当の本人はそれを聴いていなかった。


『ガ―――……。駒場のリーダー、こちら浜面。どこにいる? 目標は見つけたか?』

「ああ、問題ない。ノープロブレムだ………。 ここは二階の客間の様だ。座標位置はGPSでわかるな………?」

『こっちもモーマンタイだ。 とりあえず、駆動鎧で三方からヤッコさん潰すけど…OK?』

「OKだ。しかし運が良かった。この部屋に主戦力がわんさかいる………。舶来にいい所が見せられてラッキーだ………」

『言ってろロリコン。 じゃあ俺はこのまま戦車で砲撃続けっから。そこんとこよろしく。……ガ―――――…』


西洋風の鎧を身に纏っている癖に、籠った声でトランシーバーを口に当てていると言う、いささかシュールな駒場だったが、仲間の浜面との通信が終わり、トランシーバーを切ってどこかに仕舞った。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 19:32:20.86 ID:FFuKdpFZ0
リーダーは煙草を怒りで噛み潰す。

もちろん原因は目の前で、顔に似合わず陰鬱な口調で、コピー用紙をそのまま吐き出しているようかの様な口調の男だ。

駒場は鎧で籠った声で前を向く。


「で、なんだったか、『学園都市のモルモット』………。なかなか面白い表現をするようだな………」


そして周囲にいる無能力者狩りの主力メンバーの顔を一通りグルリと眺めて、最後にこう加えて言った。



「しかし、それでもお前らの様なゴミクズ共よりはマシだな………」

「―――――――〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」


ブチンッ! と幾つかの人間の頭の中の何かが千切れる音が聞こえた。


明らかに、駒場と言う男はリーダー…いや、この部屋にいる組織の人間全員を挑発したのだ。


リーダーのみならず、他のメンバーたちも怒気溢れる顔をした。

しかしリーダーは一旦大きく息を吸って吐いて、冷静な口調でメンバーたちに釘を刺した。


「そう怒んじゃねぇよ。挑発だよバカヤロウ。子供じゃああるまいし…。お前ら、鼻垂れたガキに喧嘩を売られたからって集団リンチにするか? それと同じだよ」


そして駒場にも告げた。


「聞いているぜ。お前の名前は駒場利徳。 先日、どこぞの研究所から“噂の刀”を強奪し、その研究所の追手を奪った刀と予め自分が持っていた刀で殲滅したってな。 まぁ…それどころか兵器も奪ったって話は聞いてないけどな」


無論、“噂の刀”とは、当の本人は知らないが、あの四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本の事である。


駒場はその内の一本、『賊刀 鎧』の中で溜息をついた。


「そうか、俺達はお前らの様なクズにまで知れ渡ったっていたのか………。まぁしょうがない、それほどのことをしたんだからな………」


リーダーも『斬刀 鈍』の鞘を握りしめて言い返した。


「ま、あそこの研究所の所長さんもここの常連さんでね。よくお世話になっている」

「なるほど、やはりお前たちがあの非人道的研究の被害者を………」

「それが俺達のビジネスだ」

「ならばお前は、生かしてはおけんな………」

「やれるものならやってみろ、無能力者」

「あまり舐めてもらっては困るな、大能力者よ………」


駒場は両の拳をガツンッ!! と合わせてた。

リーダーも真っ黒な柄を握り、『斬刀 鈍』を抜いた。


そして両者は臨戦態勢を取る。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 20:40:54.51 ID:FFuKdpFZ0

リーダーは駒場が着る『鎧』を爪先から頭の先まで観察する。


(これがあの“噂の刀”の一本か……。『刀』というから、てっきり日本刀か聖剣みたいのかと思ったってたから、これはただの鎧だからこれは“噂の刀”じゃないのかと思ってたが……)


が、それを彼は撤回した。


(なるほど、関節部可動部はもちろん、金属同士の継ぎ目も別の部位が重なるように覆われている。防御力は高そうだ。 それに部品の繋ぎ目が鋭利な刃物になっている……。これじゃあ体当たりだけでも普通の人間じゃあ大怪我だ……。


――――――――紛れもなく、これは日本刀だ。)


リーダーは『賊刀 鎧』という一本の刀を刀と認識し、その上で自分の部下に指示を出した。


「敵の迎え撃って出ろ! 大丈夫だ、相手は無能力者の雑魚共だ!! それにたったの敵は30。戦車もたった3機だ。それに比べてこっちは150人、数で押せば勝てる!! ジョン!お前は能力で予知して全軍の指揮を取れ!」

「ハイッ!」


ジョンはハッキリと返事をし、直接その場にいるメンバーたちの指揮を取った。

彼は予知能力者だ。故人である兄のジャンには最高未来予知時間はジャンの一時間には衰えるものの、その正確性とより多くの場面を同時に見る能力は兄に勝る。

と、ジョンはある事に気付いた


「……リーダーは、一人で戦うのですか!?」


ジョンの問いに、リーダーは笑って答えた。


「安心しろ、すぐに終わらせる。……………さっさと行け!!」


リーダーは叫ぶ。すると、それにケツを蹴られたようにメンバーたちが一斉に部屋を出た。

まったく、言わなければわからないのか……リーダーはそう呟いてたあと、鞘から抜いた刀を駒場に向け、鞘を放り投げた。

コロコロ……と鞘は絨毯の上に転がり、商品として売った女どもの前で止まる。


一方、駒場も相手の刀を観察していた。


「なるほど、その刀はあの“噂の刀”の一本か………。まさに何でも一刀両断できるという刀のようだな………」

「うらやましいか? 無能力者」

「いや、是非とも手に入れたいが………。相手にするのが悪かったな、相性が悪い………」


駒場は拳をリーダーに向けた。


「これは、最強の防御力だ」


それをリーダーは鼻で笑った。


「ほざけ、だったら俺は最強の攻撃力だ」
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 21:09:55.41 ID:FFuKdpFZ0
リーダーの自信あり気な声を聴き、駒場拳を降ろしてある事を訊いた。


「そうか……。時に、その刀の名はなんだ?」


「あ? この刀に名前なんてあるのか? つーか、お前、その鎧に名前付けるのか。意外と気持ちの悪い男だな」


どうやら、この男は刀の名を知らぬらしい。

駒場はリーダーが持つ、漆黒の刀を見る。


「じゃあよ、お前の刀はなんて名前なんだ?」

「……いや、お前に名乗らせる名じゃないさ………」


そして駒場は告げた。


「名乗る前に、お前は死んでいるのだからな。 安心しろ、一瞬で終わらせる。そして舶来を返してもらおう」


駒場は十数歩くらい離れたところにいる手錠を付けられた女たちのなかの、一人の幼女を見る。


「あれは、俺達の連れだからな」

「夢を見てくれるなキモチワルイ。 一瞬で終わるのはお前の方だ、無能力者。そうだ、一つハンデとして最初にネタばらしをしよう」


リーダーは続けて、


「俺の能力は『肉体強化(パワーアッパー)』。地味な能力だが、大能力者になると文字通り超人になる。 筋肉・骨密度・血管強度・内臓強度・皮膚硬度………。さまざまな攻撃にも耐え、どんな攻撃でも可能にする肉体になるんだ」


リーダーは自慢するように……いや自慢で自分の能力を駒場に言って聞かす。


「俺は移動も攻撃も防御も、肉弾戦じゃあ最強クラス。 1tトラックとだって相撲が取れる程だ。簡単に言えばそうだな。 生身で癖に駆動鎧と同じ機能を発揮するんだ………ぜ? グフッゥウ!!」


リーダーの言葉が途切れた。なぜなら………



駒場利徳が突進し、一瞬でリーダーの懐へ飛び込んできたからだ。




駒場はリーダーの体当たりをモロに直撃し、向こう側の壁に激突する。


ガタァァァァァァァァァァン!!


コンクリートで固められた壁が破壊され、大きなヒビが蜘蛛の巣の様に入った。……いや、中心には大きな人型が刻まれれ、隣の部屋に続いていた。そしてその次の部屋の壁も同様だった。それが3部屋つづいた。

ようはリーダーは5部屋分の距離を飛び、その分壁を破壊していったのである。

三秒後、全ての壁のヒビが穴となって、一斉に壁は崩壊する。


グシャァァァアアアアアアア!!


そうして駒場はこう呟いた。


「話が長い。 飽きてしまうぞ………」


そして、リーダーが思わず手放してしまい、落下して地面に刺さった漆黒の刀を駒場は手にした。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 21:11:05.52 ID:FFuKdpFZ0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
一旦、夕飯で休憩です。
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598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/09(水) 23:55:08.08 ID:FFuKdpFZ0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ああ、どこまで走ったのだろう………。

1qか? 10kmか? 100qか? それとも地球の裏側までか?

いや、もしかしたら10mと走っていないかもしれない。

でも、有り得ないけど、もしかして地球を一周してきたんじゃないか?


それほど走った。 走りつくした。頭がフラフラする。足に鉛がくっ付いているように重たい。走っているはずなのに、汗が一滴も流れない。乾いた肌に赤く照らす夕日の光が突き刺さり、焦がす。


どれほど走ったのだろうか? どの程度走ったのだろうか?

あと、どれくらい走ればいいのだろうか? もう少しだろうか? まだまだなのか?



あと、どれほど逃げればいいんだ?






僕は、いつの間にか、一人になっていた。

あのアジトでの事は………覚えていない。

ただ覚えているのは、僕はただ、恐怖に怯えていてだけ。死に恐れていただけ。絶望に苦しんでいただけ。

それしか覚えていない。

きっと、いつの間にか足を馬鹿の様に尻尾を巻いて、脱兎の如く逃げたのだろう。

混乱したアジトの中に響いた、銃声と爆発音と断末魔。鼻を刺す硝煙と爆薬の臭いと血の臭い。

僕を含め、みんながパニックになった。

ゴチャゴチャになったアジトの中で、頭がおかしくなった僕はきっと誰よりも早く、一目散に逃げ出したんだろう。

それから……どうなったんだろう。

絶対に、誰かは死んだ。 いや、僕が殺したんだ。 あのアジトの責任者である僕は、何もしなかったんだから………。

ああ、ジャンに見せる顔が無いよ…。



僕は気が付いたら、あの公園にいた。

僕とジャンが初めて出会ったあの公園………。地獄と絶望が涙と血反吐となって、土にたっぷりと染み込んだ、あの公園。

でも、この公園があったからこそ、僕とジャンは出会ったんだ。

そう、あの紅葉の樹に裸で縛り付けられたあの日、一緒にジャンも裸で縛られていた。

そこでジャンと知り合いらしい風紀委員さんに助けてもらって………そこから僕たちの運命が変わったんだ。

ああ、僕はなんて幸せな時を過ごしたのだろう……。

確かに、学校じゃあ楽しいことは何一つなかった。 ジャン達がアジトを移動した時から、学校中から迫害を受けた。

でも、僕は楽しかった。

あの時から始まったジャン達との生活は、僕にとっては何よりの宝物だ。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 00:38:21.18 ID:3sSIbNej0

ああ、喉が渇いた。

僕はポケットの中に入っていたサイフから小銭を取り出す。 ああ、お金が無いな…後で銀行へ行ってお金を下さなくっちゃ。

そう考えながら、自動販売機の前へ行き、小銭を入れ、商品の下で光るボタンを押す。

一番上の段にずらりと並んでいるのは微糖から無糖までのコーヒー類、僕はコーヒーはまだ苦くて飲めないので、下の段の左から三番目にある、甘い炭酸のアンバサにした。



が、僕の右手よりも速く、誰かが一番上の段の右から三番目にある無糖コーヒーのボタンを押した。



「よぉ、おっひさ〜♪ 元気にしてたかな〜♪」


それは悪魔の声だった。

悪魔は、自動販売機の取り出し口から無糖コーヒーを取り出し、コーヒーを持ったその手を僕の肩に乗せた。


「おかげでこちとら少年院にブチ込まれてよぉ〜。散々だったんだぜぇ? なぁあ、幼馴染ぃ」

「な、なんで……?」


僕は震える声で振り返る。

そう、その悪魔は……………僕を虐めていた、『奴ら』の一人だった。


「いや、だから少年院から出所してきたのっ、ボクチンは! いや〜よくも風紀委員のクソメス犬にチクってくれましたねぇ♪ おかげ様で髪は黒に戻されて坊主にされるわ、クソマズイ飯を喰わされるわで、大変だったんだぞ?」

「あ……ああ……」

「ま、お前も大変だったんだってなぁ…。俺達がいない間に、学校中の奴らからイジメられていたんだってぇ〜? 大変だったなぁクラスメイトから先輩後輩教師の方々にタァ〜〜ップリと可愛がられてよぉお♪」

「あああああ………!」


僕は両手で頭を押さえた。

『奴ら』にされた、あの忌々しい過去の日々の映像が頭の中でフラッシュバックしている。……………のではない。

学校中の人間から迫害を受けて言いた真っ黒な思い出が目の裏の映画館で上映されている。……………のでもない。

僕は、気付いてしまった。 いや、考えてしまったと言うのが正しい。 一つの仮定を………。

そして僕の肩を組む彼が、僕の顔を覗き込み、そっと呟く。




「ああ、そうそう、お前をイジメるように学校中の奴らに仕掛けたのは、 俺達だ♪」




「ぁぁぁぁぁあぁあああああああああああ!!」


僕はしゃがみ込んだ。


「そうか! お前らだったんだ!! 僕が学校で苦しんでいた原因は!!」


僕は問う。 彼はそれを会話とは別のわかりやすい表現で肯定した。


彼は、僕の腹を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。


「がはっ!」

「うるせぇんだよ、ゴミムシ」


そう吐き捨て彼は、僕の髪を掴み取って公園へと引っ張った。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 01:33:50.60 ID:jTv/ryz30
「があああああああああああ!!」


僕は泣き叫んで彼の手を掴む。痛い、痛い、痛い!!


「おぉ〜〜い、ばぁ〜さんや〜、連れて来たぞぇ〜」

「おぉ、じぃさんや、これまた大きな猪が獲れましたのぉ………いや、これは豚ですかな? なぁ〜〜んつって!!」


アハハハハハハハハッ


笑いあう二人。

そして後ろから次々と声が聞こえた。ざっと20人前後だろうか。殆どが男。その中に2、3人女が混じっている。

そして、僕の知っている顔が殆どだった。


「ちょっとぉ〜何コイツ。きったないわねぇ。面白いものが見れるっているからついてきたのに……」


右から5番目の女が言った。先程のコントでばぁさん役をしていた奴の彼女だった筈だ。それに彼女の彼氏が答えた。


「いやぁ、コイツは一見は汚い糞豚だが、実は実は異能力者サマでよぉ、ドンダケ殴っても蹴っても何ともないし、舌を根性焼きしようがケツに焼き鏝ブッ刺してもうんともすんとも言わねぇ。ただのサウンドバックだよ」

「おい、まだそれ言ってんのか、二年前から変わらねぇな。だから、サンドバック。サウンドバックはただの音の鳴るカバンだ!」


アハハハハハハハハ


そう僕を無視して笑いあっていた癖に突然、地面に押さえていた僕の方を向いてこう言った。


「なぁ…懐かしいだろぉ? よく俺たちが漫才しながらお前をボコボコにしてたよなぁ……そうだようなぁ、懐かしいよなぁ」

「懐かしいよな。だって、お前殴られるのがダァイ好きだもんなぁ……」

「…………」

「何とか言いやがれ!!」


何も言わなかった僕に腹を立てたのか、一人が僕の顔を地面に叩き付けた。

そして集まったギャラリーにこう宣言する。


「つー訳で、チキチキ一時間こいつをボコボコにして紅葉の樹に素っ裸にして放置する俺達の出所を祝うぞこの野郎パーリィを開催したいと思いまぁす!!」

「拍手ぅぅぅぅぅううう!!」


ワァァァァァァ!! パチパチパチパチィ!!


「ん……足りないなぁ……。もう一丁ぅ! はぁぁくぅうしゅぅうう!!!」


ウォォォォォォオオオオオ!! パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


「オーケーオーケー、そのパワーは本番までに取って置きなぁ」


司会をするのだろう、僕のかつて僕を虐めていた、小さい頃は幼馴染として一緒に遊んでいた二人がどこからか持ってきたマイクで元気のいい声で喋る。


「まずはぁー第一試合を始めます……」

「誰がやる? 誰も行かないんだったら俺が行くよ?」


司会の片方はそう言って手を上げた。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 02:15:43.26 ID:jTv/ryz30
「それじゃあ………、Lady fight! カーン!!」


僕は羽交い絞めにされ、向かいにファイティングポーズで向かってくる男は、僕に早速右ストレートを叩きこんできた。





それから、1時間……。

まったく抵抗できずに僕は交代交代で一人一人、殴られ続けられた。

殴られ過ぎて、僕の頬骨が砕ける音がしたが、彼らはお構いなしに僕の顔や体を殴る、蹴る。

あ、肋骨が折れた。七番と八番。それと五番。特に酷く折れた五番の骨が肺に刺されば、僕は間違いなく命の危険がある。でも、『奴ら』は暴力を止めない。

右ストレートが鼻に当たり、鼻骨が折れた。 誰かが持ってきたバットで右の大腿骨が真っ二つになるのがわかる。

16人目に僕を殴りに来た奴に左目を根性焼きされたが、目蓋を閉じていたので何とか目を守った。 だけど、折れた肋骨が肺に刺さったのか、息が苦しさがハンパじゃないほどになった。

ああ、口の中が血だらけだ。鼻が潰れて匂いがわからない。舌を歯で噛んでしまって舌がヒリヒリする。というか出血している。


こうして、全員僕を殴り終えた。

『奴ら』の一人が羽交い絞めにしていた僕の両腕を解放した。

支える物が無くなった僕の体は壊れた人形の様に崩れ、倒れる。

もう、顔の原型がわからなくなった僕の顔面は、血と涙で濡れていた。

体中の骨が砕けられ、体中の肉が断たれ、体中の皮膚が裂けられ、まるで体中がバラバラにされた気分だった。


そして『奴ら』の誰かが僕の服を剥いだ。

素っ裸になった僕の体を引きずり、あの紅葉の樹にまで引きずる。


「いやぁ〜、久しぶりにお前を殴ってよかったぜ。おかげで楽しい一時間が過ごせたよ」


誰かが言った。 もう、この耳はイカレて誰の声か認識できない。


「ま、“人を殺したのはお前で二人目”だけど、まぁお前の方が快感だったよ。なんつったって、『ソイツ』はもう半殺しの状態だったからな。この銃で一発だったよ」

「ああ、あれはあれで傑作だったよな。 なにか誰かの名前をズゥゥゥゥゥゥゥウウウウウっとボソボソボソボソボソと呟いてたなぁ」

「ああ言えてるぅ〜。ちょ〜言えてるぅ〜。だってぇ〜ちょ〜ダサかったぁ〜」

「ダッセェよなぁアリャ。気持ち悪いったらありゃしない♪ あんなクズ、この世からいなくなってしまえばいいのに。 ね〜」

「ね〜」

「ま、一日に二人も人間を殺すってぇのは、案外面白れぇなwwww」

「オイオイ、あれは俺達と同じ人間の仲間に入れていいのかぁ?」

「ああ〜〜ダメだな♪ あれはただの毛が禿げた猿だ」

「お〜い、そりゃあ猿に失礼だろぉ〜♪ せめてミジンコにしてやれよ」

「それはミジンコに失礼だろwwwww」


そうした会話が続く中、誰かが、紅葉の樹の幹が見えるように、僕の顔を手で持って上げる。

その紅葉の樹には鎖で縛られた赤く染まった死体が鎖で吊るされていた。

そして僕の顔を持っていた『奴ら』が言った。




「―――――――――――――― ホレ、あれがお前が尊敬する、お前らのリーダー様だ♪」



602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 02:47:45.83 ID:jTv/ryz30
「……………………………………………………………………………………………………………え゛?」


僕は血の塊が絡まった喉で呟いた。


「いや、だから………………」


もう一度、『奴ら』は説明をするが僕にはそれが一切聞こえなかった。



だって、あの紅葉の樹で両手を鎖で縛られ、血で真っ赤になって、膝をつく高さで裸で枝から吊るされているのは………紛れも無い、ジャンだった。



しかし、かつてのジャンの面影は無かった。




腹をバットで何十回何百回と殴られたのか、所々が大きく凹んでいる。

腸が圧迫されてゴチャゴチャになったのだろう。証拠に尻から腸らしき長い物が尻の穴から尻尾の様に垂れ下がっている。

地面には彼の糞尿と血で水溜りが出来ていて、悪臭を漂わせていた。

あの屈託のない笑顔が特徴的だった顔も、面影など微塵も無い。殴られて色を塗ったように、血で真っ赤に染まっている。

そして、彼の右眼は飛び出ていた。



「ぅ……うぅ……………」


僕は唸った。90°変な方向に折れ曲がった足を使わず、羽交い絞めにされていたせいで無事だった腕で匍匐前進する。

そして、僕はジャンへ這い寄った。


「ジャン……? ジャン!? ジャァァァァァァァアアアアアアアアアアン!!!」
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 02:57:01.06 ID:jTv/ryz30

紅葉の樹の幹に捕まって這って、鎖を掴んだ。ジャンの両手を束縛していた鎖を解く為だ。

折れた右大腿骨と左の脛骨が痛む。が、今はそれはどうでもいい。

僕はどうにか鎖を解くことができた。

支えが無くなって崩れ落ちるジャンの体。それと同時に僕も倒れた。

折れた肋骨と腰骨から激痛が走ったが、それよりジャンの容体を見た。


が、やはり死んでいた。



「あ、ああ…………あああああ……………ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



ああ、なんてことだ、なんてことだ! なんてことだ!!!

僕は目から涙を流し、雄叫びを上げる。

そして僕はジャンの亡骸を抱きしめた。




しかしその時、後で誰かが呟いた。




「何あれ、きもーい」


「はっ、男同士なのに何抱き締めてんの? しかも死体に……」


「もしかして、お前って男色好みの屍体性愛? 理解できねーわ」


「と、いう事で消えてくれ」


最後の言葉で、20人の男女が一斉にコールを始めた。


「きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ、きーえーろ




なぜだ、なんでジャンがこんな所で死ななければならない? いや、そもそも何で『奴ら』がジャンを殺さなくっちゃあならない? 理由なんて無い筈だ。だってジャンと『奴ら』が顔を合わせたのはジャンが僕と出会った時のあの晩だけ。じゃあ何でジャンが殺されなければならない?

なんでだ?なんでだ?どうしてだ?どうしてだ?どうなっている?どうなっている? もう、訳が分からない。



僕が困惑の表情を浮かべていたのを見て、『奴ら』の一人が言った。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 03:41:46.68 ID:jTv/ryz30
「どうやら、なんで完璧な部外者の俺達がそこのゴミクズムシをやったかわからないようだな。 そうだな、種明かしをしようか♪」


口を開き始めたのは、僕の幼馴染だった男だ。


「始めに動機から言おうか……そうだな、理由はただ一つ。 あの晩、お前が風紀委員にチクったからだ」

「………っ?」

「おかげでこっちは日頃の暴力行為とカツアゲと万引きが加算に加算されて、普通なら何日か拘留されるのに、二年も少年院にブチ込まれる始末になった!! しかも?少年院で後輩に聴いた所によると、そん時の糞生意気なその死体とつるんで組織作っただぁ!? 笑わせてんじゃねーぞ。こっちが糞マズイ飯をホソボソと喰っているって言うのに、普通に青春を謳歌しやがって!!」


男に続けて別の男が続けた。喋っていた男の一緒に少年院に拘留された男である。


「だから、俺は毎日せっせと学校に通うお前を学校中の人間で迫害しようと考えた訳。、先輩も後輩もみーんな普通の学校生活がつまらんかったようだったから、異能力者で調子乗っているお前を一斉に攻撃しようと持ちかけた」

「センコーはあんとき俺達の奴隷みたいなモンだった。ほら、校長の谷崎なんて援交に盗撮に強姦もしてたんだぜ? それの証拠映像を見せたらあっという間に奴隷になった。他にも体育の茉田と数学の樟基は浮気していたり、生活指導の鮴等も生活指導とか言って生徒の強姦して、その写真をネットで売ってたりとかしたりとかな」


「一か月くらいすればお前は精神崩壊くらいはして自殺するとか思ってたけど……ところがどっこい、それでもお前は折れない」

「理由は簡単だ。あのフザケタ組織があったからだ」

「あの組織はお前にとっては支えだった。だから俺達はその組織を根本的に崩したいと思った」

「丁度、そう思っていた時、風紀委員と警備員の各上層部もお前らの事をよろしくは考えていないと思ってよ。そこを突いてみた」


「なぁ知ってっか? お前らが今回の事件で潰されることになった、決定的な事件……警備員武器製造工場強襲事件……。あれは工場長がスキルアウトに武器を横流ししていたという事件だったけど、一体、どこの誰に横流ししていたのでしょうか?」


「……………?」


「ヒントは俺が持っている銃」


「ッッッッ!!!」


「わかったようだな。 そうだよ、工場長も俺たちの奴隷……。まぁアイツは確か、密かにSMクラブ行ってたとか言うのだったが……そんなことは別にいいか」

「俺はその武器の一部をテキトーにスキルアウトに流出元を訊かれたら俺達の名前を出さずに工場の名前を代わり言うに無償で渡し、お前らを襲わせた。自動的にお前らはその工場から武器をどこから流されたか調査する。すると自動的に俺達をスルーして工場を襲う」

「見事に工場を襲ったお前らは、警備員からすれば格好の獲物♪」

「だってお前らを襲う大義名分が出来ちゃったんだから♪」

「あとは警備員が自動的にやってくれる。 でも、肝心のお前はあのアジトにいなかった。 だってお前は旧アジトにいたんだからな」

「そこで俺はある秘策に出たんだよ……」


『秘策』そう言った男がポケットの中から一枚の写真を取り出して、僕に投げた。

写真は僕の膝の上に奇麗に着地し、その絵に映っていつものが目に入った。

そして、その写真は…………、


今日アジトにやって来て、僕たちに計画を教えてくれた風紀委員さんが裸で、精液まみれになりながらベットの上で泣きながら、目の前の男達に犯されている場面の写真だった。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:03:17.11 ID:jTv/ryz30
「風紀委員第177支部から出てきた所をつけさせてもらった。勿論今日の写真だよ。いや〜御馳走様でした。すっぅっごく美味しかったです♪」


男が合掌して僕に拝んだ。


「え〜私の方がいいでしょ〜?」


その隣で女がねだる。

それを軽く流し、男が続ける。


「彼女は帰してあげてるよ。もちろん明日も来るように命令してあるけどね♪」

「まずあの作戦を知ったら直に君たちに知らせるだろうと踏んでいてね。 予想通り過ぎて笑っちゃったけど」

「それで彼女があの以外にもフツーのビルに入った事から俺はお前があのビルにいる事を確信したんだ」

「ま、確信を取る為にちょいと様子見してたんだけどな」

「そうして俺は警備員に通報したんだ。『あのビルの中に学園都市を狙うテロリスト集団がいます〜〜っ』って」

「そしたら警備員は飛んでくるように駆けつけ、お前らを襲撃する」

「そして今に至る」

「まぁ、お前が大事そうに抱えている死体は、どうやってあの戦場から脱出してきたのかは知らないけど、旧アジトにいるのを発見したから先回りして待ち伏せしてた訳だ」

「まぁ殺しやすかったよ。銃で一発ドカーンッ!」

「で、息絶えた後に鎖でお前らが出会った思い出深ぁぁぁぁぁいっ紅葉の樹に吊るしてバッティング練習してやったんだよ。ありがたく思え。虫けらから野球ボールに昇格させてやったぞ」

「ま、壊れるのが案外早かったけどな」


あはははははははははははは


笑いあって、二人は腹を抱える。 後ろにいた18人の男女もそれに続いて笑った。


あははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!



「………な…………ん…………で」


僕は呟いた。 その声が聞こえなかったのか、『奴ら』の一人が訊いた。


「あ?なんだ? もう一遍言ってみろ」

「なんでなんだ?」

「なんでって、何がだよ」


「なんで、ここまで酷い事をするんだ!?」



単純な疑問だった。そして素朴な。ただ、僕は許せなかった。だけど、それ以上になぜ、彼らは僕たちをここまで迫害するのかがわからなかった。

そしてその答えが、見事なくらいに全員一斉でカーモニーを奏でながら帰ってきた。






「「「「「「「「「「「「「「「「「「「 暇だったから 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」




606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:11:38.17 ID:jTv/ryz30
「――――――――――――――――――― は?」


僕は素っ気にとられた。あ、いや、た、例えば殺意とかは無かったのか?


「いや、ないよ。まったくない。 つーか何でお前らの様な奴に殺意が湧かなくちゃならないの?」

「だよな、まぁいい退屈しのぎだったよ」

「ああ、これで終わりかぁ〜」


何人かが何もなかったかのように背伸びをしながら踵を返した。

そして銃を持った『奴』が一人僕に向けて銃口を合わせる。

奥でまるで何かのアトラクションが終わったカップルが次の遊びを決めていた。


「じゃあ、このゴミを片付けたらカラオケでも行こうか」

「イェーイ! 今日は新曲を歌うぜぇ!!」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


銃を持っていた男が叫び、銃のハンマーを上げた。

そして………、


「じゃ、あばよゴミクズ」


そして、引き金を引いた。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:20:12.50 ID:jTv/ryz30
僕はその時、長年背負ってきて、潰れない様にと耐えてきた真っ黒な重圧に、僕は負けた。







その日から、僕の……俺の心の感情は一つしかなくなった。




それは、憤怒。又は殺意






アイツラヲコロス。


ゼンイン、ブッコロス。


女ダロウガ、男ダロウガ、子供ダロウガ、年寄リダロウガ

美人ダロウガ、奇麗ナ目ノ持チ主ダロウガ、優シイ奴ダロウガ、クズダロウガ

泣イテヨウガ、怒ッテヨウガ、恐レテヨウガ……。




コノオレガブッコロシテヤル。







殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス







――――――――――――――――――――― 殺ス!!!!!! ―――――――――――――――――――――





「ガ、ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:39:25.79 ID:jTv/ryz30


咆哮。



獣の雄叫びの様な声が自分の喉から放たれることを僕はその時わからなかった。



ああ、体が熱い!!!!!


苦しい!!!! 辛い!!!! 悲しい!!!!

しかし、なぜこうもこのような感情に心を蝕まれなければならないのか?!?!


そうだ!!これは殺意だ!!憤怒だ!!

殺せ!! 奴らを殺せ!!!!

あいつ等は敵だ!!! 殺す!! 『奴ら』は俺が殺す!!


友の仇!! 平穏の仇!! 大勢の命の仇!! 大勢の人の人生を狂わせた!! その!!仇!!!!!



僕は憎む!! 恨む!! 呪う!!


なぜこうも俺は苦しまれなくてはならないのだ!?

神よ、本当にお前がいると言うならば、伝説の通り、胸に刺した剣を留めてくれるのならば!!

なぜ、僕という無害で、清い人間を助けない!?

なぜあのような惨めで汚き、泥水よりも穢れた人間だけが!! 幸福を手にする!?

神よ、もしもこれがお前の仕業だったの言うならば、僕はお前を呪う!! 恨む!!憎しむ!!

毎日お前に呪詛を掛けない日は無いだろう!!! 恨みを忘れる時は無いだろう!! 憎しむの炎は消えないだろう!!
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:39:58.80 ID:jTv/ryz30
そして、私にこのような感情を植え付けた奴ら!!

俺はお前らを許さない!!

殺してやる!!

肉の一辺、骨の一欠片も残さぬと思え!!

殺してやる!!

血の一滴残さず飲み干し!! 全ての内臓を、ハラワタを尻の穴から全て引きずり出してやる!!

首から上はないモノと思え!!

頭が砕け、無くなるまで殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴ってやる!!!!!!!!!!!!


腹の中の胃腸を口とケツから出て来るまで蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って蹴ってやる!!!!!!!!!!!!!


体を潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰してやる!!!!!!!!!!!!!!!




殺してやるッッッッ!!!!!
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 04:55:11.77 ID:jTv/ryz30
あああ、体が熱いッ!!まるで煮え滾るようだ!!


心臓が爆発したかのように走り出し!!

体中の筋肉と言う筋肉は狂ったように太くなってゆく!!

体中の骨が、ギシギシと軋み、細胞単位で巨大化してゆく!!!



「ギャガsダjfジャヂソlckjミオvmDふぁそfnmヴぁぇf;sdjvnCくぁD;SKヴィcxkdmlcfsdvhcンl;dsvjhvldzcshbvkljds座品fvlxvfhn日klm;dfvskjlfdvmxzsjfnmヴぁlsdvjhふぃえwcvはsfvwjhsRV案wr知恵VJHwrfsdn:ヴィ亜sh@づヴィ:nzsvhfなfdsjzvhgなFO否dskpvbAWDSN*Kぱうぇh@うふぉあえしげrjhぐヴぉい:かdsjhUgfveika:snbfuvj;a:fendsbfvnsfdjhgvieaoj!!!!!!!!!!!!!!!!」


声にならない!!キーボードをグシャグシャにして書き込んだかのような文字の列が!! 僕のあ、あああ、あたん、頭の中から喉を通り!!!
声となってててててててててててて!!! 駆け巡る!!!!!



骨がグングンと伸び!!! 筋肉一本一本の筋が太く!!長く!!再構築されていく!! 皮膚も然り!!柔らかく!!そして何よりも固く!!

体が!! 巨大化していく!! 狂ったように!!! 地獄の灼熱煉獄の様に体の温度を爆発的に上げた!!!!



「ギャァァァァアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――殺してやる!!!―――アアアアアアアアアアア!!」




体が段々と大きく、大きくなっていた。

骨が段々と大きく、太くなっていった。

肉が段々と大きく、太くなっていった。


強く、固く、大きく、太く。


岩の様な拳。鉄の様な腹筋。鋼の様な背筋。

バケモノじみた、丸太並の腕。 巨木当然の太腿。



僕は………肉体が進化した。







そして、飛んできた銃弾をその手で掴んだ。







そして叫ぶ。







「お前らを殺すッッッッッッッッ!!!!!!!!」



611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 05:14:39.22 ID:jTv/ryz30

まず、目の前にいた銃を―――殺してやる!!!―――持っていたクズの頭を掴んで豆腐の様に握り―――殺してやる!!!―――つぶした。

ばしゅぅぅぅうと血の噴水が―――殺してやる!!!―――夕焼けで虹となって地面に降り注いだ―――殺してやる!!!―――。


「え? きゃあああああああああ!!」


―――殺してやる!!!―――

誰だか知らない。だが、女の内、誰かが悲鳴を上げた。

僕は―――殺してやる!!!―――その隣の、顔を真っ青している男への間合を―――殺してやる!!!―――一瞬で詰め、飛び膝蹴りを―――殺してやる!!!―――入れた。

すると―――殺してやる!!!―――男の顔は穴をあけた缶ジュースみたいに―――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!―――血が溢れ、―――殺してやる!!!―――パタリと倒れた。

僕は―――殺してやる!!!―――その死体の足を掴み、―――殺してやる!!!―――放り投げる。

それが隣にいた―――殺してやる!!!―――別の男の脇腹に刺さり、―――殺してやる!!!―――その男は10m吹っ飛んで、壁に体をめり込ませて死んだ。


「「「「「ぅ、ぅあわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」


それを見た『ヤツら』―――殺してやる!!!―――はようやく自分たちの罪を―――殺してやる!!!―――自覚したのか、―――殺してやる!!!―――それともただ単純に恐怖に駆られている―――殺してやる!!!―――だけか、バラバラに逃げだした。


公園の外へ出ようとする奴は―――殺してやる!!!―――片っ端から足を掴んで、―――殺してやる!!!―――高々と公園に放り投げ、落下させた後に―――殺してやる!!!―――股を裂いて殺した。


―――殺してやる!!!―――銃を持って抗戦する奴もいた。―――殺してやる!!!―――が、俺に銃は効かなかった。だって、銃の弾を掴めば取れるし―――殺してやる!!!―――、何より当たっても大して痛くない―――殺してやる!!!―――。

そして銃ごと手を握りつぶしたあと、―――殺してやる!!!―――地面に何十回も叩き付けて地面に―――殺してやる!!!―――赤い墨汁を垂らした。


逃げ出そうにも腰が抜けて動けない奴がいた―――殺してやる!!!―――。無論殺した。川で洗濯するように、足で踏んで踏んで踏んで、―――殺してやる!!!―――肉片が残らなくなるまで―――殺してやる!!!―――踏んだ。


―――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!――――――殺してやる!!!―――





こうして、僕は一人ずつ、殺して行き、20の死体の山をこの公園に積んでいった。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 05:15:29.16 ID:jTv/ryz30
―――――――――――――――――――――――――――――――――
気が付けばそこは血の海だった。

『奴ら』の体から溢れ出た真っ赤な液体が公園の土を染め、『奴ら』を縛り付けた紅葉の木の幹も真っ赤に染まった。

まだ春なのに可笑しいな〜と笑ってしまった。

『奴ら』はもういない。

なぜなら僕が『奴ら』にされた事をそのまま『奴ら』にしてあげたからだ。

ああ、なんて達成感だろう。

僕をあんな目にした、恥を掻かせた『奴ら』はもういない。

いや、正確に言うならば“『奴ら』だった物”は僕の目の前の紅葉の木の幹にいる。

……“いる”?

いや、“置いてある”?

それとも“座っている”?

じゃあ“潰れている”?

まぁいいさ。僕はただ、彼らにお返しをしただけだ。今日まで散々傷め付けられた分をいっぺんで返済してあげたんだから……。

これで満足だ。……と言いたいことだが、一つ可笑しなことがある。

なぜ彼らはあんなに怖がり、恐れ、怯え、怒り、震えていたのだろう…?

可笑しい、僕は今日までの三年間のお返しを精一杯してあげただけなのに………。

そうそう、もう一つ可笑しな事があった。

僕は『奴ら』と付き合わされていた女の人達も『奴ら』を殺った後に『奴ら』同様にしてあげた。

別に今日はじめて対面したから、そんな理由も義理もないと思うだろう?

でもね、彼女は恐らくあの邪悪で卑劣で、悪魔の様な『奴ら』――――いや悪魔だ、『奴ら』は――――に散々に嫌々と交尾を強制させられたんだろうと考えた。

だから僕は優しいから、彼女達を『奴ら』の穢れた精液を浄化しようと、徹底的に犯した。

その後だ、彼女らは自ら『いっそ殺して』と嘆願してきた。

……可笑しいだろう………?

なんで君たちの為に浄化してあげているのに、なんで拒む?

『奴ら』より僕の方が有能な血が流れているのに?

下賤で卑劣で悪魔の様な奴らよりも僕の方が神聖で気高く、そして尊いと言うのに?

まぁ僕は『奴ら』と違って優しいから、『奴ら』と同じように殺ってあげた。

そして周りは一層紅くなった。

地面も、木の幹も、僕自身も。

まるでカンヌ映画祭の赤絨毯の上を赤タイツを着て歩くような、そんな滑稽な絵になった。

はははっと僕は笑ってしまう。

なぜ人はこうも下の者を貶すのだろう?

なぜ人はこうも上の者を蔑むのだろう?

なぜ人はこうも同類の者を嫌がるのだろう?

わからなくなる。

でもアリストテレスの様な崇高な哲学者になった気分がキモチイ。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 05:33:14.91 ID:jTv/ryz30


「おい!!なにしてんだ!?」


公園の外から、声が聞こえた。 聴き覚えがある声だった。

ボロボロの恰好だったが、一目でわかった。


「…………あ、ボン。僕、やったよ。ジャンの仇、取ったよ。僕が今までされてき事、みんながされてきたこと、全て、仇を取ったよ」


僕もボロボロになって、告げた。何故か誇らしかった。達成感が充実していた。


「おまえは!!」


ボンは僕と言う事に気が付いたのか、クラリと倒れた、巨体になってしまった僕の体を支えた。


「あはははは、もう僕、戻れないんだ……。急に体が熱くなって、そしたら体が大きくなって………」

「喋るな。それよか、怪我はないか?」

「ううん、ないよ。まぁ、『奴ら』にリンチされていたんだけど、能力が発動したら一気に怪我が治っちゃったよ」

「そうか………」


そして奥から、


「なんじゃこりゃ!?」


とべたな驚き方をする男が一人、シンだ。 その後にヤン、ジョン、ヤマ、マンション…と続いた。

どうやら、組織の生き残りは僕たちだけらしい。


彼にもこの公園で起きた出来事を述べた。


皆、リーダーのジャンの理不尽な人生の終わり方に涙を呑んだ。



とにかく、この惨状を隠さなければと、ボンは言った。ポケットからここ一帯の地図と取り出し、地下へとしたいと赤い血を移動させた。


こうして僕たちはジャンの亡骸を抱え、この公園を去ったのだった。



これが、8年前の清掃作戦の出来事である。



その後、僕は精神を患い入院。他のメンバーも怪我が酷く入院した。勿論、闇医者であるが、信頼に足る人物だった。そして世間の隔離され、三か月後に退院。


余談であるが、あの風紀委員さんはあれ以降全く見ていない。 謝ろうと思っても、まだ、見つからない。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 05:57:27.86 ID:jTv/ryz30
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


駒場利徳は、無能力者狩りのリーダーを体当たりで吹っ飛ばし、彼が手放した漆黒の刀を手にした。

そしてその刀の剣先を捉えられていた女の子たちの手首に掛けられていた手錠の鎖にあてると、刺身の様にストンッと鉄が斬れた。

それを全員分にしてやって、駒場は述べた。


「………すぎに逃げろ。 ここももうすぐ戦場になる………」


その中で社が頷いた。

駒場は『賊刀 鎧』の兜を脱ぎ、顔を見せ、笹斑瑛理の腕の中で寝息を立てているフレメア=セルヴェルンの髪を撫でた。


「………礼を言う、俺の友人を守ってくれていたようだな………」


それに対し、笹斑は当然と言う風な口調で返した。


「小さい子は小さき子で、奇麗に育ってほしいの」

「………まったく、その通りだ…………」


そして駒場は再度、兜を被って離れる。


「とにかく、ここから逃げろ………。なに、俺の仲間たちは女子供には手を出さんさ………」

「あ、ありがとう……」


そうして、社が走り出そうとした、その時。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 05:59:31.77 ID:jTv/ryz30

ふっ飛ばされていた筈の無能力者狩りのリーダーは部屋の遥か向こうから、まるで砲弾の様なスピードで駒場の脇腹へと直撃した。



「ぐっぬぅうう!」

「吹き飛べ」

「がぁっ!!」


今度は駒場が吹っ飛んだ。

リーダーの方が助走を長くつけて来たので、駒場はその分、長い距離吹っ飛んだ。


それはおよそ40m。


このアジトの幅は40mも無い。即ちアジトの敷地外へ出て行ったことを意味する。


「さっさと退場しやがれ。クソヤロウ」


リーダーはそう呟き、商品の一人、社の頭を掴んだ。


「おい、お前……逃げようとしていたよな?」

「がぁぁぁぁあああああああああああ!!」

「お前の頭蓋骨……粉砕するぞ?」

「ぎゃああああああああ!! イタイイタイイタイイタイ!!!」


ミシミシミシッ!と頭蓋骨が軋む音が聞こえる。 近くで天導は恐怖で腰を抜かし、涙を流しながら失禁した。


「ああ…あああ………〜〜〜〜」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ヤメテェェェェエエエエエエエ!! 誰かぁぁぁぁぁぁ!!」


社は叫ぶ。その時、先程ふっ飛ばされた筈の駒場が超高速で帰ってき、今度はリーダーへ突進してリーダーの社の頭を掴む手を握りしめる。

駒場の強靭の握力により、リーダーは手を放す。そして社が怪我をしないようにもう片方の手で受け止めた。


「少しは女子に優しくしたらどうだ…………」

「てめ………」

「そう怒るな。怒るのだったら、すぐにでも決着をつけるぞ」


駒場はそう宣告して、右の手をチョイチョイと引いて、挑発した。
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/10(木) 06:00:50.25 ID:jTv/ryz30
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

今日は病気回でした。気持ち悪かったらスイマセン。読み難かったらスイマセン。仕様です。


ああ、空が白んできた………。

今日も学校だってのに………。
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/10(木) 06:13:22.67 ID:cMJw8zPeo
徹夜乙
×すぎに逃げろ
○すぐに逃げろ
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海) [sage]:2011/11/10(木) 07:29:53.84 ID:SGmwjOYAO
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 20:58:29.81 ID:WSiphCFL0
さて、書いて行きます。

ああ、なかなか終わらないな、この話wwww

今日こそクライマックスまで書こうと思っていても、結局終わらずに朝になってしまう自分が憎いですが、気長に楽しく読んでくれると嬉しいです。

読んでくれるなら、応援してくれるなら、喜んでくれるなら……、ボクはそれだけで、明日の明後日は水も飲まずに生きてけます。

食費でマンガ買った自分が悪いのですがwwww
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 21:33:40.50 ID:WSiphCFL0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ガキンッ!


何かが何かとぶつかる音がした。


それは余りにも凶刃な物が強靭な物とがぶつかる音………。


そして火花を散らした。


無能力者狩りのリーダーと武装無能力者集団のトップである駒場利徳は、『斬刀 鈍』と『賊刀 鎧』の刀をぶつけ合って戦っている。


最強の攻撃力 VS 最強の防御力


矛盾した彼らは一体、どちらが強いのだろう?

彼らの攻防はまさにそれだった。


「まったく、久し振りに痛い目見たら嫌なモン思い出しちまったぜ」


リーダーはボヤキながら手に持つ一本の日本刀…『斬刀 鈍』を振るう。


「そうか、それは悪かったな………」


その縦から来る、万物を一刀両断しそうな刃を駒場は左腕で受け止めた。


「………ふんぬっ!」


しかし、火花を散らしながら『賊刀 鎧』の腕を切り落とそうとする『鈍』。

駒場はそれをいなして避ける。

『鈍』はそのままの勢いで絨毯が敷いてある床に叩き付けられた。いや、―――――― 斬った。

まるで床が豆腐の様に、ストンと。“絨毯の下は固い鉄筋コンクリートなのにだ。”

この『鎧』が無ければ片腕どころか肩から真っ二つにされていただろうなと、駒場を背中に冷たい物を感じる。

しかし、攻撃されたままでは勝機は無い。

駒場はカウンターでガラ空きのリーダーの顔面に左ストレートを叩きこむ。

バコンッッッ!! と車とぶつかった様な、衝突事故さながらの聞いただけでも痛々しい音が大きく響いた。

そしてリーダーの顔が跳ね上がる。

駒場はやったか…? と相手の様子を窺った。

しかし、


「……残念だったな、いいパンチだったが」


「―――――――――ッッ!?」


「つくづく――――――――甘い」


リーダーは駒場の腹を喧嘩蹴りした。

当然最強の防御力を身に纏う駒場自身にはダメージはないが、5m程飛ばされ、壁に叩き付けられた。 リーダーは軽く蹴っているつもりだが、それほどの威力だった。
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 22:14:41.19 ID:WSiphCFL0
「へへっ! テメーの力はその程度のモンかよ、駒場ぁ!」


リーダーは『鈍』を肩でトントンと叩きながら笑った。

笑いながら、リーダーは部屋の隅で震えている商品として売った女どもを見て、


「どうだ? これがテメーら無能力者の限界だ。いくら強い武器を揃えたところで、俺たち高位能力者を倒す事なんて夢のまた夢なんだよ。ヴァーカ」


と吐き捨て、歩み寄った。


「ま、駒場よ、お前はここで死ぬんだ。無様に、それに何も出来ずにな。まったく、俺達に喧嘩さえ売らなけりゃあ明日の飯も食えただろうに」


そして、その一人の髪を掴んで持ち上げた。天導だった。失禁して濡れたスカートから滴がポタポタと垂れ、彼女は激痛から逃れる為に絶叫した。


「いゃぁぁぁあああああああああああああ!!」

「ホォラ、立てよ駒場! まだ生きてんだろ? さっさとしないとコイツの片腕持ってくぞ!!」


ゲラゲラゲラと笑い、天導の肩に『鈍』を当てるリーダー。

一方、飛ばされて仰向けになっていた駒場はピクリと指を動かし、


「止めておけ、さもないと俺を本気で怒らせることになるぞ………」


ムクリと起き上がった。

リーダーはその台詞を笑う。


「アッハハハハハハ!! テメー面白い事を言うじゃねぇか!! 本気で怒らせる? それで何が変わるんだよ?」

「…………」


寡黙した駒場に、リーダーは天導の肩を『鈍』で軽く押さえて撫でる。

するとケーキ入刀の様に刃は肉を掻き分けて血管を切断した。 深さは1cmくらいか。しかし、血はタラタラと流れた。すると髪を掴まれ、肩を今にでも斬られそうになっている天導は、


「嫌だぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」


と泣き叫んだ。

それをリーダーは「うるさい」の一言で首筋を『鈍』の柄で殴り、気絶させる。

その様子を見ていた駒場は、淡々と、陰鬱な口調でリーダーに言葉を掛けた。


「そうか、貴様はそれほどにまで死に急ぎたいのか………」


リーダーは笑う。


「アハハハハハハハハ! お前、それは俺の台詞だぜ!?」

「忠告はしたぞ? ――――――――――…………ハァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!」
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 23:12:58.01 ID:WSiphCFL0
駒場はいきなり、身をかがめ、全身の体の力を入れた。

そして、彼の体からギギギギギギギギッ……と筋肉が軋む音がする。


「ハッ、なんだ? いきなり叫び出して……。気を溜めるのはドラゴンボールの世界だけでいいんだよ」


リーダーは笑った。そしてこうも付け足した。


「いいか? 俺は能力で筋肉・骨格・骨密度・血管………etc. 肉体を駆動鎧並に強化してある。能力名は『肉体強化』だが、『鋼鐵肉体(パワードボディ)』に改名したいくらいにだ……。要するに……―――――――――テメーは何をしても俺には勝てないんだよ!!!」


吼えたリーダーは気絶した天導の髪を手放し、右で持った『鈍』で駒場に斬りかかった。

一応言うが、彼は能力により肉体を強化しいる。無論、脚力も例外ではない。


即ち、彼は一瞬で駒場との間合いを“零”にしたのだ。


彼が走った後には暴風と呼んでいいくらいの風が部屋中を荒らす。風切り音が耳を叩く。

そして、一種の瞬間移動かと思う位のダッシュに観客となってしまった女たちは反応できなかった。

そして、駒場も――――


「ウオォォォォォォオオオオオオオオオ!!」


雄叫びを上げ、駒場の脳天めがけて『鈍』を振り下ろす。


「無能力者は無能力者らしく!! 俺に一刀両断してろ!!!! そして終わりだぁ!! 駒場ぁぁぁぁあ!!」



―――――――――斬神速刀!!



リーダーはその時……勝った! と思った。

駒場は全く動いていない。

流石の駒場もたった今、反応できても動けまい。そして名の知らぬ刀も、流石に神速と化したこの刀のスウィングスピードの前では一刀両断だも免れまい。


そして、駒場の被っている兜に『鈍』の刃が触れた―――――――――――――――




ズバンッ!!




という音はしなかった、微塵も。ただ、この音だけが相応しい。なぜなら、



彼の目の前には、大きな、斬った彼よりも大きな、真っ直ぐな斬傷があったからだ。

それが下の階にまで届いている。


そして、駒場の体は―――――――
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 00:20:54.68 ID:d0aAgZr00

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」


リーダーは荒い息をして『鈍』を握りしめる。


あの時、『組織のアジトの前にこの刀が落ちていたのを拾った時』、リーダーは手に入れた刀に大変喜んだ。部下もそうだった。みな、噂に聞いていた刀が自分たちの手に渡った頃を歓喜したのだ。

名も知らぬが、この刀を握っていることは幸運だったと、心から思った。

そしてこの刀を試した、この技で。


これは自分の最高の技だった。

斬神速刀(名前はさっき思いつきで決めた)は相手に向かってトップスピードで地を駆け、そのままの勢いで『斬刀 鈍』を相手に斬る付けると言う技である。

その時は斬り口は悪かったものの、部屋の壁がスッパリと一刀両断してしまった。言わなくてもわかると思うが、壁は鉄筋コンクリートである。


しかし――――――――



「なのに、なんでお前が斬られていない!? 駒場!!」



―――――――――駒場利徳の体は、消えていた。



「どこへ消えた!?」


リーダーは床に刺さった『鈍』を抜いて構え、周囲を見渡す。しかし駒場はいない。右左360°どこを見てもあの無能力者の顔は無かった。

あるのは呆然とこっちを見いる女どもの顔だけ。


とその時、忽然と消えた消えた駒場の声がした。



「………上だ。」



「ッッ!!」


リーダーは天井を見上げた。


その時、リーダーの目に映ったのは、天井から落下してくる駒場が、自分の顔に向けて踵を落として……。


その瞬間、リーダーの顔面に駒場の踵落としがめり込んだ。

それと、踵についていた鋭利な刃がリーダーの右の目玉を貫いた。


「ぎゃ、がぁぁぁあああああああああああ!!」


リーダーは赤い血を眼孔から垂らしながら、悲鳴を上げた5m後退する。


「テ、メェエエエエエ!!」

「だから言っただろう、忠告はしたぞ。と」


こう呟き、駒場は右目を抑えてふら付くリーダーとの間合いを一瞬で詰めた。

そしてこうも呟く。


「お前は何もしても、俺には勝てない………」
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 01:21:36.44 ID:d0aAgZr00
駒場は左腕を曲げて肘をリーダーの水月に叩き込んだ。


「ゲフッ!」


リーダーの肺の中の空気は、全て叩き出された。一瞬、身動きが取れなくなり、呼吸困難に陥る。

駒場は曲げた左手を伸ばして払う形でリーダーの顎の先を裏拳で打った。


「グッ…!」


顎の先を叩かれ、面白いように首がグルンと回る。それによって脳が揺らされ、軽い脳震盪を起こした。

駒場は返す左拳をリーダーの脇腹に刺す。メキメキバキバキッッ!と肋骨が折れる音がした。


「がぁぁぁっ!」


肋骨が折られ、失神しそうなくらいの激痛が襲う。が、皮肉にも激痛によりそれが出来ない。

駒場は右足でリーダーの左膝を蹴る。


「ウガッ!」


膝は二足歩行をする人間にとって重要な部位だ。膝の皿を割られると人間は立っていられない。リーダーの膝が折れた。

駒場は膝が落ちてヘソの位置になったリーダーの頭の横にある両耳の、後ろにある膨らみに拳を突き立てる。


「ガァアッ!」


耳の後ろの膨らみは乳様突起と言う。これを叩くと今のリーダーの様に運動麻痺を引き起こすのだ。

駒場はリーダーの乳様突起に当てていた拳を解き、そのまま掴んだ。そして口に膝蹴りを入れる。


「グゴッ!」


バキバキッ!と前歯が砕けた。リーダーの口の中は血の海と化す。

駒場はリーダーの右の首に回し蹴りを食らわせる。


「ガッ!」


頭から床に叩き付けられ、あまりにも大きな衝撃の故、元の位置にまでスーパーボールの様に頭が跳ね返ってきた。

駒場はリーダーの股間を右足で蹴り上げる。


「あ゛ッ!」


股間の激痛は頭の天辺まで駆け巡り、蹴り上げた力によってリーダーは強制的に直立させられた。

駒場はリーダーのがら空きの胴体を上へ蹴り上げる。


「ガハッ!」


リーダーは強烈な蹴りによって、高々と宙を飛んだ。

そして最後に、駒場はクラウチングスタートよろしく低い体勢を構え、それこそ短距離選手の様にリーダーへと走った。
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 01:33:46.08 ID:d0aAgZr00


しかし、その走りはそれとは別の次元の物で、もはや人間の眼では捉え切れないスピードで駆けて行った。

駒場は『鎧』の肩についている長い突起を前にして、それこそ一本の槍(ランス)の様に突き進んだ。

そう、自身が蹴り上げ、落下してくるリーダーへと。

そして、肩の突起はリーダーを捉えた。


「ガハッ……ぁあ!!」


そして、そのまま駒場は突き進んだ。 壁など無視し、そのまま衝突した。


「ガァァアッ!!」


衝突した壁は他のとは違って厚かったようで、駒場でも貫けなかった。

が、壁の半分が破壊され、リーダーはめり込む形で壁に埋まっていた。


「………もう一度言う。 忠告はしたぞ」


駒場は踵を返して、全身血だらけになっているリーダーにそう呟いた。
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 02:13:47.18 ID:d0aAgZr00


―――『限定奥義 海賊刀続』


「そうだな、そう名付けておこう………」


駒場はそう独り言を放ちながら、捉えられていた少女たちに近寄った。


「安心しろ、今度こそ逃げれる。 今、俺の仲間たちを呼ぶからな………」



そう言って、駒場はどこからか取り出したトランシーバーの通信ボタンを押した。

すると、ガーッとノイズ音がした後に間抜けた声が聞こえた。


『はいもしもし? 駒場のリーダー?』

「こちら駒場。浜面か………? 無事か………?」

『こっちは相変わらず何ともないぞ。つーかさっきから大砲バンバン撃っているけど、なーんにも進展なしなんですけどどーゆーことだ!?』

「……? そんな筈はない。敵が何人かそちらに向かったはずだ……。今頃、全面戦争になっていてもおかしくないのだが……。突入隊が上手く足止めしているのか………?」

『…………………じゃあこっちから確認取る。何かわかったらすぐに伝える』

「わかった。………それと、半蔵を寄越してくれ。被害者たちを救助する………」

『わかったよ。刀持たせるか?』

「出来れば。 中で苦戦しているなら加勢した方がいいからな………」

『了解。じゃあ半蔵に伝えておくわ。 ザ―――――――』


「という訳だ。 お前たちは俺たちが保護する………。大丈夫だ、俺達はお前たちと同じ、無能力者だ」


そう言って、トランシーバーをどこかへしまうと……。


「あ、後ろ!!」


と、少女の中の誰かが叫んだ。 髪が短めのクールそうな少女、音無だ。彼女の腕の中で天導は気絶している。

彼女の叫びで、反射的に駒場は後方へ振り返る。



「なるほど……その鎧の所々についている刃で、急所を突く技か………。打撃と斬撃、この二つを叩き込むコンボ技……厄介な物だ」



リーダーは、まだ生きていた。


「……驚いた。心底驚いた。まさか、水月・顎・肝臓・膝・乳様突起・歯・頸動脈・股間の八つの急所を壊し、最後にこの肩の突起で確実に仕留めたと思っていたが……。まさか立ってくるとは思わなかったぞ………」



そう、駒場利徳の『限定奥義 海賊刀続』は直接殴る蹴るなどの打撃技を急所に叩き込むだけでなく、同時に部品の繋ぎ目にある鋭利な刃で斬ると言う、トンデモ技なのだ。

しかしこの技、一見とても強そうに見えるが、実は隙がデカい。なにせ、防御をすると言う概念が無いのだ。

技の間に反撃されたら駒場は100%攻撃を受けてしまう。
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 04:13:23.00 ID:d0aAgZr00
そこで、『賊刀 鎧』の出番だ。


『鎧』の特性は『絶対防御』どんな攻撃でもビクともしない。例え10tトラックと相撲をしても、無傷だろう。

だから駒場は敵の攻撃を心配せずに、安心して攻撃に専念できる。

そして攻撃を受けない為の種は、もう一つある。


それは攻撃速度だ。


目では捉えきれないほどのスピードで攻撃を繰り出す……。これでは防ぎ様がないし、それどころが反撃の余地すら与えてくれない。

しかし、なんで彼はそこまで高速度で攻撃が出来るのだろうか……?

そして、いまさら何を…と言われるだろうが、さっきからの駒場の動きは異常であった。

いや、彼も能力者と言えば、能力者なのだが、全く超能力が使えない、ただの出来そこないの無能力者だ。

しかし、そんな彼は先程、大能力者と同レベルの動きを見せた………。それを可能にさせているのは………。

628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 04:14:08.23 ID:d0aAgZr00

「発条包帯(ハードテーピング) ………か」


リーダーは駒場に問う。 駒場はそれを笑い返して答える。


「探して手に入れるのには苦労した………」

「テメー……正気か? テメーの体に巻けば、駆動鎧と同等の運動ができると言うあれだぞ!? テメーの足!手!腕!体! 無事で済む訳がねぇ!!」

「そんなもの、お前ら外道邪道を倒す為ならそんなもの、痛くも痒くもない………。」


それに…と駒場は付け足した。


「その程度の覚悟は、決まっている……。無能力の身で、貴様のような化け物ともと戦うと誓った時からな………」


駒場は右手を前にだし、チョイチョイと引く。


「どうした、かかって来ないか。今までの様に無能力者だのクズだの雑魚だの罵りながら、俺に一太刀入れて見ろ。 まぁ、押せば倒れるお前など、大したことはない………」

「ふん、そこまで殺されたいのなら、いいだろう。 叩き斬って……ッッ!!……ガフッ!」


リーダーは咳き込み、吐血した。


「あまり興奮するな。 耐えたとしても、お前の身体の急所を“壊した”のだ……。まぁ、打撃しかダメージを喰らってはいないと見えるが………」


駒場は『鎧』の手についている刃を見る。その刃には赤い血が付着していたが、それは端にしかついていなかった。

リーダーの体が血だらけで真っ赤なのは、体を『鎧』の刃で刺され、ないしは斬られて裂かれた為なのだ。

リーダーはそんな傷など、無いのと同じだと言っているように、鼻で笑った。


「俺の能力舐めんじゃねーぞ。そんなチンケな刃、俺の体にゃあ通用しない……」

「その割には、フラフラだな………」

「放っておけ!!」


リーダーは激昂する。


「クソッ、俺が無能力者如きに!!」


と、急にその時、リーダーが持っていたトランシーバーが彼のポケットの中でうるさく鳴り響いた。


『り、リーダーァァ!! た、た助けてくださぁぁぁああ!!! 』『リーダー、こちらはもう駄目です!! て、敵がぁあ!!!』『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


「どうした、部下が呼んでいるぞ。応えてやらんのか………?」


駒場は余裕綽々と言った表情で言った。が、リーダーにはそんな言葉は耳に入らなかった。その代り、プルプルと怒りで身を震わせていた。

そして、今度は駒場のトランシーバーが鳴り響いたのは、その直後の事である。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/13(日) 04:54:56.56 ID:d0aAgZr00
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。

さて、早速と必殺技がやってきました。


まずはリーダー。『斬神速刀<ザンシンソクトウ>』

元は斬新と速答です。斬新な答えを速答する。…………意味わかりませんよね、スイマセンwww

これは高速度高威力の大技なんですが、単発でしかも疲れやすいというデメリットがあります。

しかしこの技は広範囲に攻撃が可能です。下の階の天井を突き抜けちゃいました。下の階の人、当たってたら可哀そうですね♪

でも、某浪人さんの飛行機斬りよりも威力と範囲は少々高めですが、残念なことに単発しか使えない。

しかも、速いけどモーションが大きいからついて行ける人には隙だらけ(七花とかアックアとか)。外れると隙しかない。意外と疲れる。……などと弱点があり、つーか弱点しかないので、某浪人とガチンコで喧嘩するなら、某浪人さんに軍配が上がる設定です。

まぁ斬り口は悪いし、剣の使い方なんて全く知らないんでしょうね。剣道なんて全くしてきてなかったんでしょうな、この人はwwww


次は駒場の親分の『海賊刀続<カイゾクトウゾク>』

元はそのまま海賊と盗賊です。ただのダジャレではありません。

山賊でもよかったんですが、某海賊団船長さんの必殺技には鴎の字があったので、海にしよう…ってことで海賊にしました。

駒場利徳「海賊王に俺はなる………!!!」

技もそのまま字を呼んで如く……。

賊刀によって叩き出された拳と蹴り………とそれについている刃を続々と浴びせる技です。

そこ、最後の奴って賊刀鴎と同じじゃないかって言わない!


ではまた明日www
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/13(日) 13:27:31.08 ID:spsEzen80


刀賊鴎って賊刀と盗賊鴎で掛ってるんだよな
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/13(日) 22:04:09.02 ID:hw0nyfuW0
な…なんて奴だ駒場…!!
度胸、技術、高位能力者を圧倒、主人公してやがる!!
レベル5全快の御坂美琴でもこうはいくまい!!
これからは駒場のリーダーを魔王様と呼んでみんなで尊敬しよう!!!
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/14(月) 00:22:54.97 ID:Svrd8wDi0
盗賊鴎よりよっぽど限定奥義やな
てゆうか上条組より主人公してる!?
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/14(月) 08:16:43.70 ID:Svrd8wDi0
>629それ以前に刀に選ばれてない伏があったよなこのリーダーさんは
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/14(月) 17:52:23.39 ID:ABVgyz+f0
>>633
一応、どんな剣でも使用可能の技、という設定です。

普通の刀でも、聖剣でも。その気になれば包丁でもできます。

まぁ、変わったのは、斬刀のおかげで切れ味が高くなったくらいですかね。そのせいと、あと刃渡りの関係で攻撃範囲が広くなったりします。

以上により、どんな刃物でも使用可能=“『斬刀 鈍』限定奥義”ではありません。

説明不足でしたね、スイマセンでした。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/14(月) 19:14:03.70 ID:0Lys3S3G0
>>631
自演乙
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/14(月) 21:39:45.48 ID:ABVgyz+f0
こんばんは、今日も書いて行きます。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/14(月) 22:14:14.98 ID:ABVgyz+f0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ドォ………ン…………ドォォ…………ン…………


ズズゥン………ズズゥン………ズズゥン……………


パンパンパン…………タタタタタタタ……………


ゴォォォオ…………………



轟音がする。 いや、どれほど大きくは感じない。ただ、少し離れた場所からそれがするだけ……。

地面を揺るがす地響きによって、上からパラパラと砂や埃が降ってくる。

銃声と、それと何か正体不明の力によって生み出された衝撃音が、微かに耳の中の鼓膜に届いた。



あれ? ここはどこだろう?



御坂美琴は目蓋を揺らした。


「ぅ………」


そしてゆっくりと、目を開ける。


「……………ここは………どこ?」


美琴は状態を起こした。

すると、


「お、目が覚めたか?」


横から声が聞こえた。


「ッ!?」

「おっと、そう身構えんなよ。あったばっかりだろ?」

「………あんたは……ッ!」


美琴はその顔に見覚えがあった。

声を掛けたのは、白髪の男だった。

特徴はそれだけでない。目は赤。ガッチリとした大きな体に、飄々とした態度。

美琴は結標淡希と一緒に、あのスポーツカーに乗っていたキチガイから救出した木縞春花を助けた時に知り合った男だった。

しかし、なんでこの男が私の前に?

美琴は男を睨む。


「まったく、そんなにも俺の事が嫌いなのか? ……ま、しょうがいな、このナリだったら」

「どういう事?」

「それは企業秘密だよ。 それより、お前ら手酷くやられたなぁ」


白髪の男の言葉に美琴はさらに眉を上げてムッとした。
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/14(月) 23:06:10.36 ID:ABVgyz+f0

「おいおい、そう言うムキになった顔すんなよ。 首を絞められているのを助けたのは俺だぞ? それに、あそこからエッチラホッチらとお前ら5人を運んできたのも俺だ」

「…………」


美琴は目を丸くする。


「ま、今回は協力者がいたから楽に運べたんだけれど」

「(………協力者?)それより、ここはどこ?」

「見覚えないか?」


美琴は周囲を首を回して見渡す。


「ここは………!」


そこは、木縞を連れてきた廃病院の診察室だった。


「そう、ここまで俺達はお前らを連れて来たんだ」

「………そう………あ、あいつ等は!?」


美琴は声を上げて男に訊く。男はまぁまぁと美琴を宥めさせてこう言った。


「安心しろ、お前の相棒の女は隣の布団で寝てる。んで、攫われたとか言う二人は向かいの布団。 あのツンツン頭の方は隣の部屋にいるよ」

「はぁ〜〜〜っ」


美琴は大きく安堵のため息を吐いた。しかし、ベッドを布団と呼ぶとは……。この男、些か爺臭い所があるのが意外だった。

因みに、美琴は窓側のベッドである。 ベッドの境には古くなって汚れたカーテンが敷かれており、お互いが見えない様になっていた。

とりあえず、この男の事は本当の様だ。隣から、スースーと結標の思われる規則的な寝息が聞こえる

と、そこで白髪の男はニヤニヤとしながら美琴の額を人差し指で突いた。


「まったく、俺が助けなければどーなってたか………。それに、お前たちをここまで運んだことも感謝してほしい物だな。ついでに人のウォッカを勝手に使ってゴメンナサイと言え」

「痛っ……! な、なんでそんな事!?」

「ほら、窓を見てみろよ。」

「……………?」


男は窓を指さした。美琴は窓の外を見る。

窓から見える、先程まで自分たちが戦っていたあの場所からだろう所から、黒煙がモクモクと立ち上っていた。


「!?」


よくよく見ると、普通のサイズの3倍ほどある、巨大戦車が廃墟に目がけて大砲をバンバン撃ちこんでいた。

なるほど、さっきからする轟音と地響きはこれのせいか。美琴は先程から気になっていたそれと巨大戦車を関連付けた。


「俺があそこからお前たちを助けなければ、今頃ペシャンコだ」

「………警備員? いや、警備員はあんな装備を持っていない筈…」

「武装無能力集団とか言う奴ららしい」

「え!?」

「ああいう風に襲う理由はいくつかある。一つは誘拐された女の子たちの中に身内がいた。 そうだな、純粋な恨みかも知れないな」
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/14(月) 23:06:31.93 ID:ABVgyz+f0


あんな巨大な戦車のキャタピラが、もし自分の体の上に乗ったら………。

ぞくっとしたものが背中を舐める。

男はそんな美琴の背中を人差し指でススッ……と撫でた。


「ひゃいっ!?」


ビクッと背中を振るわせて小さな悲鳴を上げる美琴。そんな彼女に男はこういった。


「ほら、何か言う事は?」

「…………ありがとうございました……」

「気持ちが籠っていないけど、よろしいとするか。 さて、お前らはこれからどうする? 直ちに帰宅する事をお勧めするけど」


男は訊いてきた。無論、美琴は自分の指名はまだ達成していない。 そう、佐天との『廃墟に捕らわれている人達を助ける』という約束だ。

それを伝えると、男は即座にこういった。


「いや、その必要はない」

「なんで?」

「その役割は彼らがしてくれるからだよ」


男が言うのは、武装無能者集団の事だ。


「それに、些かいくら強いお前でも倒せない相手がいるからだ」

「…………そんなの……」

「いないとは言わせない。 証拠にお前は、あの無能力者狩りだっけ? そこのたかが一幹部に惨敗したからだ。………ま、あの時はお前は連戦で疲れていたかもしれないし、あのツンツン頭が倒されて頭に血が昇っていたから自分の戦闘が出来なかったからかもしれないけど」


男は続ける。


「お前は今、怪我をしているよな? 今まで痩せ我慢していたようだけど、無理はいけない。それじゃあ満足に歩けない。だからと言って、仲間を連れて行くのは止した方がいい。 お前は集団戦闘に向いていない」

「な……っ」

「だってそうじゃねーか。 さっきの戦闘でお前は仲間が一人倒れて正気を失い、しかも敵の罠に嵌められて仲間を一人戦闘不能にしたんだ。そんな人間が、戦場に赴いて、無事に生きて帰ってくるほど、戦という物は甘くない」

「……………」


男は白髪の後頭部に組んだ両手を沿えて、座っていた木製の椅子の背もたれに体重を掛けた。

彼のいう事は的のど真ん中を得ている。

そのことを重々理解している美琴は、唇を噛んで黙ってしまった。
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/15(火) 00:04:23.33 ID:XDi9QAGy0
「ここで、ひとまず休んで行ってもいいぞ。時間がタップリある事だしな」


男はそう言って立ち上がり、カーテンを掴んで加えてこう言った。


「とにかく、あそこへは行かない事だ。 もしも行ったら、命は無いと思え。それに………」


そして男は、カーテンを潜りながら美琴に向かって、こう釘を刺して、出て行った。


「あそこにはバケモノがいる。 お前じゃあ倒せないほどのヤツだ。 自分の力に驕っているお前じゃあ、勝てる訳が無い」






美琴は、唇を噛んだ。 口の中に血の味がする。


ああ、悔しい。 悔しすぎる。


美琴は見知らぬ天井を見上げる。雨漏りの痕か、黒い染みが所々にある。


そのままベッドの上に寝っ転がって、決して柔らかくない枕に頭を預け、右腕を両目に当てた。


「ぅ……ぅ……ヒック……ぅ………エッグ……」


ああ、わかっている。わかっている。重々にわかっている。

確かに自分は学園都市最強の超能力者で、最強の電撃使いだ。だからと言って、自分はあのヤマとかいう敵を正直舐めていた。

3対1だったし、何より上条がいた。 だから自分は絶対に勝てると思っていた。 疑ってはいなかった。

所詮は大能力者。それも戦闘向けじゃない、精神系。 敗ける筈がない。こんなの、一瞬で終わらせる。

そう、自分は手を抜いていたのだ。そして、敵は常に全力で戦っていた。

それが、自分の敗因。

あの白髪の男はそれが言いたかったんだろう。

そして、そこは認めよう。


だが、ここまで的確に鋭く言われ、自分に戦闘の才能が無いという事の事実を突き付けられると、自然と眼から涙が出て来てしまう。


それもしょうがない。だって彼女はまだ、中学2年生の、まだ14歳の女の子なのだから。


「ぅぅぅ………ぅぅぅぅ……ぐっ………」


美琴は歯を食いしばり、声を出さないよう、誰にも覚られないよう、自然と出て来る声を必死に堪えた。

涙は頬を流れ、枕を濡らす。それを右腕で堰き止めるも、溢れる涙は止まらず、洪水の様に流れて行った。
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/15(火) 01:04:42.03 ID:XDi9QAGy0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 23:57:57.38 ID:WC6KjIeDO
なんかクロスっていうよりオリジナルね。良くも悪くも
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 13:19:11.43 ID:/f2q4E2D0
こんにちは、今日も書いて行きます。

>>642
まぁ今回はオリジナルが多めですね……。
登場人物がオリキャラが多いし……。
でも、クロスでもある筈。

さて、今日は夜まで書きます。どこまで行けるのやら……。
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/16(水) 17:50:18.67 ID:IT+rbnQj0
>>642
「どちらでも良いわ。どちらでも悪いわ。」
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:04:06.04 ID:/f2q4E2D0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





何かが、額に触れた気がした。


冷たい。感触は濡れた布だ。



その冷たさで、上条当麻は目を覚ました。



「…………んわ?」


自分でもマヌケな声だと思う。だが、出てしまったものはしょうがない。


だって、目の前に可愛い女の子が目の前にいるのだから。


「あ、置きました?」


大人しそうな声だった。

上条はビックリして一気に目が覚め、バサッと起き上がった。


「………ここは?」

「近くの廃病院です。 道端で倒れているのを見つけて、ここまで運んできたらしいです」

「………らしい?」

「ええ、私はここで休んでいたんですけど、あなた達がここに運ばれてきて、あなたを看病をするようにと頼まれたんです」

「へぇ…誰に?」

「運んできた人です」

「そっか……」


上条は名も知らぬ誰かに感謝したが、それをとりあえずは隅に置く。

パッと見、自分と歳は同じくらいだろうこの女の子は、自分を看病してくれたのである。

とりあえず自己紹介とお礼を言わなければ。


「あ、看病してくれてありがとうな。俺、上条当麻」

「私は木縞春花と言います。高校一年生です」

「あ、俺も高1。いいよ、敬語使わなくても。可笑しいだろ同い年なのに……こっちが滅入っちまう」

「あ、そうですか……」

「いや、敬語……」

「え? あ、ああごめんなさい……。えっと…ごめんなさい」

「あはは……」


上条は苦笑いする。どうやら木縞春花という少女は敬語が癖らしい。

あと、すぐに謝るのも。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:13:15.91 ID:/f2q4E2D0

「いいよ、楽な方で」

「……ごめんなさい」


木縞ははにかむ。 そんな木縞の服が所々汚れているのに上条は気付いた。

それは血痕の様な物が着いていたり、砂だったりと色々とあるが、ただ一つ、上条の目に留まったのは、白い物がこびりついていた汚れ。そして男である上条はその白い汚れは何のか、知っていた。

上条が目を見開いて、木縞の顔の顔を見る。すると、青痣がくっきりとあったのにも気が付いた。


「お前……その痣……」

「ああ、これですか? 恥ずかしいです」


記憶消失の上条は自分がそう言った痣を顔につけたことは覚えていない。しかし、その痣が何で出来たのは知識として知っている。

その痣は、顔を殴られたものだという事を。

上条は息を一つ呑んで木縞に訊く。


「……もしかして…お前、あの廃墟にいたのか?」

「…………それは…」


木縞は口を固く閉じ、目を反らした。

上条はそれを肯定と取った。


「そうか………」

「御坂さんと結標さんに助けてもらったんです。 私、売られて連れ去られるところでした」

「…………ッッ!?」

「あそこ、知ってます? 人身売買しているんですよ? 無能力者を」


上条は絶句した。上条は、あの廃墟が誘拐犯のアジトと言う事は知っていたが、実はそんな事実があったとは知らなかったからだ。


「教えてくれ、一体あそこで何があった?」

「それは…………」


木縞は口をまた閉じた。


「言いたくないのか……」


上条の問いに、木縞はコクンと頷いて応えた。


「だったらいいさ、無理に言わなくてもいい」

「いえ……言います。 どうせ、喋っても喋らなくても、私の“不幸”は変わらないんですから」


目に影を落とし、フリフリと頭を振ってそう、木縞は応えた。


「あそこは、学園都市から誘拐された女の人をどこかの研究所か、それともお金持ちの人に売り渡す、人身売買をする場所です」


木縞は淡々と、自分があの組織に関わった経緯を口にした。

友人があの組織を遊び半分で探っていたこと。友人が行方不明になったこと。友人を追って組織を探っていたら、今度は自分が誘拐されたこと。

しかし、彼女はあの地獄の夜のことは言わなかった。
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:15:23.95 ID:/f2q4E2D0
でも、上条はなんとなく、そのことを予想した。


「……………………。」

「これが私が知る、あの建物の中で起こった事です」

「…………………」


上条は項垂れる。

怒りや悲しみでではない。 しかし、それは現実的な話には聞こえなかったのだ。

TVで集団強姦の話は聞いた事はある。土御門や青髪ピアスから借りた漫画にそう言うシーンがあった。

だが、実際にそういうことがありえるのか?



上条は改めて木縞の顔を見る。

その顔は、上条からすると、彼女の目は全人類の男を全て恨んでいる様な目だった。


「ごめんな。 本当にごめん」

「なんであなたが謝るのですか? あなたは何もやってないじゃないですか」


木縞は笑っているが、内心は酷く傷ついているだろう。こんな現実、すぐさま否定したいだろう。早く死にたいとも思っているだろう。


(くそ……なんでなんだよ……。 どうして……)


上条は歯を食いしばる。

と、掛布団の中に入っていた右手に何か違和感を感じた上条は、布団からその手を出した。

すると、その右手にはグルグルと包帯が巻かれていた。

そうだ、あのヤマとか言う男に、右手を針で刺されたんだった。

そして上条は木縞の横にあった包帯の束と鋏、それと自分のだろう血が付いている脱脂綿と消毒液があるのを目にする。

この手の応急処置をしてくれたのは、木縞だろう。


上条は痛むてを握る。 どうやら骨には異常がないらしい。

木縞は上条のその動作を見て、慌てて制した。


「ああ、あまり動かさないでください。いくら骨に異常がないとしても、貫通してたんですから!」


木縞は上条の右手を握る。

きっと、彼女は男を憎んでいるんだろう。なのに、どうしてこうも自分を良くしてくれる?

そんな上条の表情を見てか、木縞は声を低くしてこう言った。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:15:54.82 ID:/f2q4E2D0
「私が怖いですか?」

「………ッ」

「まるで、私が自分を恨んでいるのではないかと思っているんでしょう?」


木縞は握っていた上条の手を、自分の柔らかい胸に押し当てた。

ふんわりとした感覚が、暖かい体温が、上条の顔を紅く染めさせた。


「ッ!?」

「あなたが想像している通りです。私、昨日処女を奪われました」

「…………。」

「ハッキリ言いましょう。 私は男が嫌いです。いや、嫌いになりました。どうです? 穢れ切った私のおっぱい。柔らかいでしょう? 昨日、散々揉まれましたから」


木縞は握っている上条の手をギュゥゥウウッと握る。上条は怪我をしているその手からくる激痛に顔を歪ませた。


「私は男が嫌いです。特に、昨日私を汚した人達を指先から順番に包丁で切り刻んでしまいたいほどに、それと同時に二度と顔も見たくないほどに、嫌いです。」

「……ぐぅっ……」


上条の右手に巻かれた包帯から、血が滲む。どうやら傷が開いたらしい。


「上条さん、痛いでしょう? 痛いでしょう。でのね、私が昨夜受けた屈辱と痛みはこれほどではなかったんです。痛くて、悔しくて、悲しくて、恨めしくて、辛くて……。その癖に気持ち良くて、快感で、もっと欲しくて、悦んで、愉しくて、嬉しくて………。そんなキチガイな自分が恐い。そんな私にした彼らが憎い。 あはははは」

「………木縞…………は、……放せッ」


上条は木縞から自分の右手を振り切った。 赤い血で包帯が真っ赤になる。 が、出血が殆どない。大事な血管は無事なのだろう。


「………上条さん、ごめんなさい。 実は私、さっきから精神が安定しない状態なんです」

「木縞………」

「だから、上条さんが寝ている間………私、ずっとどうしようか考えていたんです」


木縞は手元にある鋏を手にした。目が見開き、瞳孔が全開の瞳で上条を見る。体が震えていて、鋏が面白いように揺れていた。


「この鋏で…その眼を抉り取ろうか。それとも舌を切り取ろうか。胸から心臓を刺そうか。腹を切って腸を引きずり出そうか。去勢してやろうか………。 そしてその感情を必死に堪えていたんです」


木縞は鋏を持ったまま、カタカタと震える体を、肩を掴んで抑えようとする。


「だって、御坂さんと結標さんの友達だから。友達を失うのは嫌だから。それに、上条さんはあの人達とは全く違うから!!」


でも、と木縞は震える声で言った。


「でも、あの人達が憎い! 男の人が嫌い! 殺したいほどに!! そしてそんな風に考えてしまう自分が怖い!! まるで! 自分の中にもう一人の自分がいて、実はそいつが怪物で、私を私の中で食い潰そうとしているの!! だから怖いの!! 恐ろしいの!! 私がいつか、誰かを殺してしまわないか!! 私と同じ目に会わせるんじゃないか!! そう思ってしまうから!!」


フーッ!フーッ!フーッ! と息を荒げて叫ぶ木縞。


そして、そんな彼女を目にした上条は………。
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:52:21.08 ID:/f2q4E2D0
「木縞………」


上条は掛かっていた布団を取り、木縞と向かい合った。

そして、両手を広げる。


「その鋏で、俺を刺せ」


「ッッ!?」


「男が憎いんだろ? だったら俺を刺せ。それでお前の気が晴れるんだったら刺せばいい」


「そ、それは………」


「どうした、刺せないのか? だったらいっそ、お前の中のその怪物に身を預ければいい。そうすれば楽に刺せる」


「……………」


木縞は自分が持つ鋏を見つめる。

刃が尖っていて、思いっきり、そして体重を掛けてその心臓目がけて胸に刺せば、十中八九上条は死ぬ。


「ほら、刺して来いよ。 さぁ、来い」


木縞は、覚悟を決めた顔をした。いや、何かが吹っ飛んだ様な表情だったと言うのが正しいか。

無表情の上条。瞳孔が開き、身の中にいる怪物にすべてを預けた木縞。

そして、木縞は叫んで、鋏を両手でしっかりと握って、上条の腹へと突進する。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



そして、木縞の体は、上条の懐へ入って行ってた。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:53:00.60 ID:/f2q4E2D0








「………………ぅ…………ぅぅ…………」


木縞は、唸る。 哀しそうな声で、目から涙を流しながら。


「私………私は…………」


先程とは別種の震える声で、


「ごめんなさい………ごめんなさい………ごめんなさい…………」


木縞は謝罪の言葉を述べる。

それは、上条当麻への言葉だった。

彼女の涙は、血で汚れた手にポタポタと落ち、血と混ざって落ちた。


上条は笑って、


「何を謝ってんだよ。」


と、木縞の髪を撫でた。


「ごめんなさい………」


そして、彼女は言う。



「――――――私は、あなたを殺せない………!」



651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 18:53:33.68 ID:/f2q4E2D0
彼女が持っている鋏は、上条の胸の寸前に停まっていた。


手の血は、鋏を握る掌からだ。


上条は明るく笑って、こう言った。



「お前の中には怪物はいないよ。 お前はお前だ。木縞春花だ。 ………そうだろう?」


「うう………」


「もしお前が怪物だったら、今頃俺は死んでる。でも俺は生きている。 だから、お前は怪物じゃない。人間だ」


「ぅぅ……!」


木縞は声を堪えて泣く。そんな彼女を上条は優しく頭を叩いて、ベッドの上に乗せた。そして上条は代わるように立ち上がる。


「俺は今から、あの廃墟に殴り込みに行ってくる」

「え?」

「安心しろ、お前の分まで全員叩きのめしてやる」


上条は身体の調子を確かめるように、肩を回したり、足を上げたりする。よし、体に異常はない。あるのは右手の怪我だけだが、これは怪我の内には入らない。ズキズキと痛む右手を我慢して、強がってみる。

上条は速足で、病室を出ようするが、木縞はそれを止めた。


「止めてください! 無能力者のあなたが行っても返り討ちに会うだけです。いや、死ぬかもしれない!!」


しかし上条はそれを笑って断った。


「大丈夫。 ……じゃあな」

「あ……」


木縞が声を掛けようとしたが、上条は飛び出す様に去っていった。


「……………だって、あそこは今………」


木縞は上条に言いかけた言葉を、虚空に語る。


「戦場になっているんだもの……」
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 20:18:23.49 ID:/f2q4E2D0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



隣の布団から聞こえていた、すすり泣く声が止んだ。

代わりに、スースーと規則良い寝息が聞こえてきた。


やれやれ、泣き疲れたか。


肩をすくめる。

やはり強がっても子供は子供か。まったく、自分が小さかったころを思い出す。自分も父によく強がってみたものだ。

しかし、今日のあの年頃の少女はみんな彼女の様なのなのだろうか?

電気を出したり、宙を舞ったり、物体を瞬間に移動させたり……。

まぁ、今はどうでもいいか。


目の前には、一人の少女がいた。

敵に嵌められ、隣の布団で眠っている少女の電撃によって倒れたため、今は眠っている。

医者ではないが、自分から見るに命に別状はないだろう。

恐らく、あの電撃を受ける直前に彼女が持っていた刀…『千刀 鎩』から手を放したのだろう。

その為、何分の一か電撃は弱められ、当たったら即死だろう電撃を免れた。まぁ結局は感電したのだが、今は寝息を立てて眠っている。


そして、『鎩』は彼女の左手で握られたままだった。


彼女たちが倒れていた場所から背負ってきたが、その間、ずっとこの刀を持ったままだった。

随分、気に入っているのだろうな、お互い。この刀を、この少女を。


「しかし、この刀は貰っていくよ。これは君には早すぎる」


そう呟いて、刀の鞘を掴んで、取り上げる。


が、


それは出来なかった。

なぜなら、その刀の柄を、少女は離さなかったからだ。

少女は、結標淡希は微かに目を開けて、睨む。


「………コ、コレハ……ワタシ………ノ………ダ。……ダレニモ……ワタサナイ………」


そう言って、結標はまた眠った。『鎩』を握りしめたまま、誰にも渡せないと。


「………まいったねぇ、これは」


そう呟いて、溜息をつく。

そして呆れたようにまた、肩をすくめた。


「『鎩』をこっそり取り上げる作戦……失敗。 わかった、その刀は君にあげるよ」


そう宣言して立ち上がり、カーテンを潜る。


「しかし覚悟することだね。その刀を狙ってくる奴が存在するかもしれないって事を」
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 21:37:26.64 ID:/f2q4E2D0

部屋を出て、周囲を見渡す。


隣の部屋から、一人の少年と一人の少女が話しているのを耳にする。

少女はあの廃墟で、心の無い男共に酷い目に会わされたのだろう。

かつての職業柄、あの様な少女たちをたくさん見てきた。

精神が崩壊し、心を傷つけられ、体を穢され、そして捨てられてしまった少女たちをだ。

あの部屋にいる少女も、そう言った類の子だろう。声が、自分に縋ってきた子たちと同じだ。

自分は少し変わった方法でその子たちの精神を立ち直させた。


でも、少女といる少年は、自分の命を賭けて立ち直させている。


まぁ、漏れてくる声だけでそう思っただけなのだが。

………さて、あの男はどこへ行った?

先程、あの御坂美琴とか言う少女にボロクソに言葉を掛けた後、部屋を出て行ったが………どこへ行ったのだろう?

とにかく廊下を歩く。少年と少女がいる部屋とは別の方向だ。

30歩くらい歩いた所だろう。

休憩所か、それとも待合室なのかは知らないが、椅子と机がいくつも並んだ、曇った雲とどこからか上る黒煙が良く見える大きな窓がある空間だった。

そこで、男が一人、一番窓側の椅子に座り、机の上のツマミを摘まみながら酒を飲んでいる。


「なんだ、ここにいたのか」


彼に歩み寄り、向かいの椅子に座った。


「まったく、よくもまぁ幼気な少女をあれだけ説教しておいて呑気に酒が飲めるものだな」


そう嫌味を混じらせながら言った。

男はニヤリと笑う。


「私は女の涙には弱くてね。見ると泣かした奴に怒りを覚えてしまう」


そう言うと男は、はははっと声を出して笑った。


「何を言うか。 それでも元山賊衆の頭目か?」


男は、目の前にいる者の……女の名を呼んだ。



「なぁ、敦賀迷彩よ」


654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 21:38:06.39 ID:/f2q4E2D0

女は、敦賀迷彩はフンッと鼻を鳴らして、どこからか出した徳利を机の上に乗せた。中には日本酒が入っている。


「その肩書きはとうの昔に捨てた。今は…いや、もうこれも無いか。 元三途神社神主の敦賀迷彩だ。………今は、何者でもないがな」


彼女の特徴は現代に生きる人間ならなかなか印象深いものだろう。身長は高い。170pは超えるだろう。歳はわからないが、20代以上だろう。しかし、奇麗なシワ一つない美貌。目尻を赤く塗り、長い髪を後ろで縛っている。

そして最も印象深いのは恰好だった。身に纏うのは巫女装束、足には足袋に草鞋という恰好は何かと些か古臭い。

そして、目の前の男もそれに近かった。

神社の神主の様な格好をしている男は、その恰好とは似合わず、チビチビとウォッカを呑みながら、机の上に置かれたピーナッツの缶に手を伸ばしていた。

そして男は言う。


「何を言うか、儂なんて職業と堂々と言っていい物であるかちと迷うものだぞ? その分お前は優れておる」


まぁ、と男は続けて、自分が持っているウォッカを迷彩に差し出す。


「とにかくこれを呑んでみろ。 このウォッカとかいう酒もなかなかと上手い。異国の酒だそうだが、なかなか楽しめそうだ」

「…………その顔と恰好をしているお前と楽しく酒が呑めるか」


男の顔は――――――老人だった。

服装は神主が来ている着物。足には足袋と草鞋だ。迷彩同様、古臭い。

彼はニヤニヤと悪そうな顔で笑う。


「酒を一緒に呑む人間はみんな友達じゃなかったか?」

「………ぐ…」


迷彩は苦虫を噛み潰したような表情をする。


「まったく、いつみても慣れないものだな」

「なにがだ?」

655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 21:38:41.07 ID:/f2q4E2D0

男はニンマリとして訊く。


「決まっているだろう。 その姿……私にとっては、罰に他ならないさ」

「そうだな、けどこれがお前の“苦手意識”なんだからしょうがない。 ささ、呑もう呑もう。ここからなら戦が一番見やすい」

「………ま、それもそうか。一口くれ、そのウォッカとやらを」

「はいはい」


老人はウォッカを手渡す。迷彩はそれに口をつけ、一口呑んだ。


「ん、これは面白い味だ。 うん、これは美味い」

「そうだろ?」

「そうだな、これは手に入れたい」


迷彩はふと、窓を見る。 モクモクと上がる黒煙と、ドォ…ン ドォ…ンと音を鳴らす鉄の猪の様な物体が300mほど先にあった。


「しかしまぁ………」


迷彩は遠い目をした。


「わかっていたさ、自分の苦手な物くらい」

「それはその分、歳を喰ってきたからな」

「うるさい。 ………その口調も懐かしいよ」


迷彩はウォッカを男に返し、フッと笑う。

男はそのウォッカをグビッと呑んだ。


「俺はお前の心の中を投影する。………この外見的特徴はお前の前代の敦賀迷彩。内面的特徴は山賊だった頃のお前の部下たち。立ち振舞いはそれらを足して二つに割ったもの……。すべてはお前が殺してきた人間たちだ」

「まったく、懐かしいやら…恐ろしいやら……」

「人の苦手意識は克服できても消えるものではないさ」

「そんなことはわかっているさ。 そうだろう?」


迷彩は徳利の中に入っている酒を一口呑んで、彼の名を呟いた。



「――――――彼我木輪廻」
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 22:42:07.30 ID:/f2q4E2D0

彼我木輪廻は袖に手を入れ、中から煙管を取り出す。

それを口に咥えて、また袖に手を入れてマッチと丸めた煙草を取り出し、煙管に煙草を詰め、マッチを擦って火を付けた。


「その煙管も、私が山賊にいた頃の部下が持っていた物とそっくりだ」

「それもそうだ。 だって彼はお前と一番近くにいた人間だったからな」


フーッと白い煙を吐いて、彼我木は窓の外を見る。


「ん?」


と、下の方で何かを見つけた。

ツンツン頭の少年だった。

先程連れてきた少年があの廃墟へ向かって走っていったのだ。


「あの坊や……行かなかったら死ななかったものの…」


迷彩は立ち上がる。


「連れ戻してくる。 折角助けた命を何だと思っているんだ、あの子は」

「まぁまぁ、いいじゃないか」


彼我木は止める。迷彩はキッと睨む。が、彼は飄々と応える。


「あれはあれで、自分で決めて行ったんだろう。 だったら止める理由はないし、死んだら死んだでお前のせいではない」


迷彩は、あの部屋のやり取りを思い出す。 あの少年は、一体何をするのだろう?

一見ただの少年だ。だが、何かしてくれそうな、そんな安心感がある。


「………それもそうか、男が一度決めた事だからね」


迷彩がそう呟くと、後方の、廊下の方から足音が聞こえてきた。

小さいが、足を引きずる様なそんな音だった。


恐らく、御坂美琴だろう。


「あれはいいのか? お前の忠告を無視して戦場に出るぞ。 下手すれば死ぬと言ったのも、戦闘の才能が無いと言ったのもお前だったね」


迷彩がそう彼我木に訊くが、彼我木は何も無いようにウォッカを呑む。


「あれも自分で決めた事だろうよ。なに、小僧が死ぬことがあっても小娘が死ぬことはない」

「なぜだ? 戦闘の才能が無いんだろう?」

「何を言うか。―――――――才能が無いと言ったのは、『集団での戦闘だ』」

「?」


彼我木は続ける。

657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 22:43:10.04 ID:/f2q4E2D0

「あの小娘は何と言えばいいのだろうか……。 そう、化け物と言っても過言ではない位の才能を持っている。百万の人を集めて探してもいない程の多才な小娘だ」

「じゃあ、お前が言った事は嘘なのか?」

「いや、紛れも無く才能が無いさ、『集団戦闘』の。 なにせ奴の力は敵味方構わず撃ち滅ぼしてしまうほどの攻撃力だ。それじゃあとても見方を引き連れて戦場に行かせる訳にはいかない」


そうだな、と彼我木は付け足す。


「敵のど真ん中に、小娘一人を放り投げるのが、奴にとっても味方にとっても、最良と呼べる戦わせ方だな」


まぁ、確かに彼女は学園都市最強の超能力者だ。実際に化け物だし、一万の敵を一人で相手しても十分に太刀打ち出来る。


「じゃあ、なんであのような事を言った」

「そうでもしないと、十分に休めずにあの小娘がさっさと戦場に行ってしまうだろう? 例えどんなに強い虎でも手負いならばひ弱な人間に簡単に討たれてしまうように、あれもすぐに囲まれて死ぬ」


「そうか、だったらしょうがないか。でも、なんで行かせた?」

「前の戦いでは頭に血が昇ってロクに自分の力の千分の一も出せなかった。 でも今は冷静だろう。これなら心配ない」


彼我木はウォッカを全て呑みきり、立ち上がった。


「すまんな、少し席を開ける。 彼女たちを頼んだぞ? 三途神社の神主よ………」

「一ついいか?」

「なんだ?」

「なぜ………ここまで彼らの手助けをする?」


迷彩の問いに、彼我木はうーんと唸ってからこう切り出した。


「歳を取って、道を極めた人間の、一番の娯楽とは何か知っているか?」

「いや?」


迷彩は淡々と返す。 彼我木はフフンと気分良さげにこう答えた。


「それは教育だ。 才能が無い者。または一芸に秀でるもの。または数多の才能に溢れる者……それらを自分と同等、ないしはそれ以上に育て上げようとすることだ」

「なぜそのような事を?」

「暇だからだよ。 仙人の儂でも、たまには人間を育ててみたいと思うものだ。 まぁ、君は君で誰かにその武術を教える機会もあると予想するけどな………」


迷彩は一つ瞬きをする。すると、彼我木は消えていた。

まったく、結局は謎を残して去っていっただけではないか。迷彩は溜息をつく。


「不思議なものだな、仙人というものも………」


迷彩は後ろを見る。そして勝手に喋り始めた。


「何をしている? こっちに座りなさい。 安心したまえよ、私は味方だ」


迷彩は随分前から、曲がり角で聞き盗みをしていた影を捉えていた。 そしてやっとそれに、いや、それらに話しかけた。

曲がり角から、そそそ…と影が三つ、姿を現した。

佐天涙子と吹寄制理、それと木縞春花だった。

彼女らに、迷彩は問う。


「さて、あそこであった事を詳しく聞かせてもらおうとしようか。一から十まで………」
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/16(水) 22:51:07.12 ID:/f2q4E2D0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。

さて、敦賀迷彩と彼我木輪廻が登場してきました。 巫女萌えの方々、ロリコンの方々、お待たせいたしました。

ま、彼我木はおじいさんですけど。


彼我木輪廻の姿は↑にあった通り、迷彩の過去に殺した部下と前代の敦賀迷彩です。

まぁ勝手な想像ですが……。

あの美琴とあわきんの前に出てきた謎の白髪の男も彼です。はい。


さて問題です。

白髪男verの時の彼我木は、誰をモチーフにしたでしょうか?

ヒント…美琴とあわきんは彼我木を同時に見ました。と言う事は彼女二人の苦手意識が混じっています。



PS

迷彩の口調が良く崩れがちです。違和感がある方は、謝ります。
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/17(木) 17:21:19.25 ID:AlmD2ttl0
よしよし刀語と禁書の割合が2:8くらいにはなってきたかな
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/19(土) 22:02:40.16 ID:W8zIvCo10
オリジナル話が下手な漫画より面白いんですけど。
バトル、展開、文書、どれを取っても高レベル。
本当に素人?
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/19(土) 22:43:48.89 ID:W8zIvCo10
迷彩参戦か?
この先の展開を予想するのが楽しみになっています。

662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/20(日) 11:47:03.28 ID:nKUuZxmh0
佐天ら三人は彼我木輪廻がどんな姿に見えてたんだろ

一方さんが見たら上条、ミサカシスターズ辺りになるんだろうな
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/20(日) 11:51:54.43 ID:nKUuZxmh0
御坂視点の彼我木は上条と一方通行か
御坂→上条/淡希→一方 的な
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/20(日) 11:55:10.00 ID:nKUuZxmh0
>662に木原くんが入ったら上条+ミサカに顔面刺青のシュールな絵面になるなwww
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/22(火) 22:34:03.67 ID:sVsTHQ6T0
「君は君でその武術を教える機会もあると予想するけどな」
吹寄が覚えたらマジで真吹寄☆無双になるなw
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/23(水) 22:13:35.00 ID:aPgbuWou0
こんばんは、一週間ぶりです。

政治学のレポートが忙しくてなかなか更新できませんでした。


皆さん、コメント有難う御座います。

>>660さん、>>662さん、ありがとうございます。

私の様な妄想好きの無能なゴミクズが代名詞であるド素人の私を褒めてくれてありがとうございます。

このSSにコメントが更新されていると、いつもビクビクしてて、『めっちゃ叩かれているんじゃないか?』って疑心暗鬼になっています。

でも、このようなコメントがされていると、心底安心します。ありがとうございます。

さて、一つお願いがあるのですが、コメントを細かく分けずに、一つにまとめてもらってはいけないでしょうか。尺が無くなる事を防止する為です。

前スレでは尺が足りず、色々と泣かされました。…まぁ自分のせいなんですが。

さて、冬が近くなってきました。今年の大晦日のガキ使は空港らしいですね、楽しみです。


このスレは11月中には終わらせたいと思います。

では、書いて行きます。
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/23(水) 23:01:46.05 ID:aPgbuWou0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なぁ……」


ある場所にいた少年はボソリと誰かに呟いた。そして隣にいる少年がそれに答える。


「なんだ」

「いや……何でもない」

「おい、なんだよ、キモチワルイな」


少年は無表情で言う。そして別の少年が口を開いた。彼は二人の後方にいた。彼も無表情だった。


「なんだよ、気になるじゃねぇか」

「いや……ただ呼んだだけ」

「キモチワルッ」

「キモイな。どこのバカップルの女だ」

「バッ! 馬鹿やろう! ………いや、だって………」


少年はぐだ〜とした姿勢で、天井を仰ぎながら少年二人にこう呟いた。


「メッチャクチャ暇だもん………」


「いや、しょうがないだろ。命令なんだから。浜面」


浜面仕上はえ〜とした表情で、後方にいる少年に文句を言う。


「だってよ、俺達さっきからズゥゥゥゥゥゥッとあのボロ屋敷に砲弾ブチ込んでばっかしじゃねぇーか」


そう、彼らは戦車の中にいた。浜面は運転席。隣の少年は助手席。そしてもう一人の少年は大砲を廃墟に撃ち込んでいる為、後方の砲台にいる。

彼らが乗っているのは、学園都市製の最新式巨大戦車だ。全長は普通の戦車の3倍。装備している兵器は巨大主砲が3門。それから飛び出す砲弾は全部で100発ある。

この戦車の特徴は機動性と破壊力だ。巨大なくせに最高時速が500s/hを軽く越え、走りながらでも50q向こうの標的を一寸狂わずに砲撃できると言う、まさに化け物と呼んでも大いに結構な戦車である。

今、この戦車はあの廃墟を破壊しない程度の威力で、全砲弾を一定区間で砲弾をオートで撃っている。もちろん装填も全て戦車は自動的にやってくれるので、彼ら3人は今、何もする事が無く、暇をつぶしている。


「あ〜、こんなんだったら、俺も突入班入れば良かった」


今、あの廃墟には30人の仲間たちが駆動鎧を着て突入している。先程、仲間の一人である半蔵は『絶刀 鉋』を手に持って参戦しに行った。

浜面が背伸びしながら、息を吐く様に言った言葉に、隣にいた少年が注意した。


「バ〜カ。そしたらこの戦車は誰が運転するんだ? 俺たち組織のなかでお前がこの戦車を一番上手く扱えるんだぞ? それくらい我慢しやがれ」

「へ〜へ〜」

668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/23(水) 23:02:42.21 ID:aPgbuWou0

ああ、俺も早く“噂の刀”とやらを欲しいものだ。 情報によると、今自分たちが攻めている組織のリーダーが持っている物がそれだとか。

1日前、風の噂でそう聞いた。 そして、リーダーである駒場利徳の身内であるフレメア=セルヴェルンがその組織に攫われたと言う事も…。


「ま、フレメアとは俺達とは直接関係ないけど、無能力者として放っておく訳にわいかないよな?」


浜面はボソリと呟く。その声は小さかったため、隣の少年からは『何だ?』と気持ち悪がられたが、浜面は『何も』と言ってごまかした。

そして、それから数秒たった時、浜面は戦車のフロントガラスの向こう側の異変に気が付いた。


「………ッッ!?」

「どうした?」


隣の少年が尋ねる。後方にいた少年は、浜面と同じものを見たのか、眉をひそめた。

浜面は傍らにあったトランシーバーを取り出し、駒場に今の状況を伝えようと周波数のダイヤルを回した。そして通話ボタンを押す。




「駒場のリーダーか!? 浜面だ!! 異常事態だ!!―――――――――」



669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/23(水) 23:38:56.73 ID:aPgbuWou0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ドォォォォォン…………ドォォォォォォォン…………ドォォォォォォン………


長い、長い廊下を、ただただ進む三人の影があった。


一人は高級スーツに身を纏った、中年の男。

彼の前には全身血だらけになって気絶しているヤマを背負った、ボンという男。


中年は焦ったようにボンに訊いた。


「なぁ…、いつになった外へ出れる? 砲弾の音が段々と多くなってくるではないか?」

「残念ながら、外へは出られません。なにせ、外には敵がぐるりと囲んでいる物ですから」

(まったく、リーダーやジョンさんと喋っている時はフレンドリーだったのに、その他になったらまるで物を扱う様な態度で接しやがって。)


内心は怒りと苛立ちで燃えていたが、ボンは落ち着いた口調でそう言った。


「しばらくは建物の一室で避難させてもらいます。安心してください。そこは核シェルターになっておりますので、砲弾ごときではビクともしません」

「なら安心した。 私がここで死んでしまってはこの世の為ではないからな。私にはやるべきことはいっぱいある。精々私の盾になってくれよ?」


男はニヤニヤと笑いながらそう言った。

お前の為に盾になんてさらさらないし、お前のやるべきことはセックスだけだろう、とボンは心の中でツッコむ。

と、ある事を思い出して、ボンは男にそのことの許しを請いた。


「私の背中にいる仲間は重傷なので、先に医務室に寄って行ってよろしいでしょうか? 核シェルターへ行く道の途中にあるので、遠回りの心配はありません」

「そうか、ならいい。 さっさと済ませろよ」

「かしこまりました」


ボンたちは、まずは医務室へ向かう道を目指す。

右へ曲り…左へ曲がり…30mの長い廊下を歩き切って、階段を登った所に医務室があった。


「じゃあここで待っててください。すぐに終わります」

「ああ、すぐに来いよ? 敵が来ないうちにな」


ボンは愛想笑いをし、医務室のドアをピシャリと閉めた。


「ああ…まったく、どうしてこうなってしまったんだ」


全てはあいつ等のせいだな。さっさと敵を駆逐できないものなのか? 聴くことによると、敵はなんと無能力者の不良集団ではないか。

何をやっておるんだ、あのガキどもは。

まったく、これで計画は大きく崩れてしまったではないか。この後、自分はどうなる事やら……。


男はもんもんと考えていると、医務室からボンが出てきた。


「すいません、お待たせしました」

「遅いぞ、さっさと行くぞ。敵が来る」
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/24(木) 02:03:24.70 ID:Wj3DLeCu0
男は、そう言うと、自分からそそくさと歩き始めた。

ボンは彼の前方に出て、エスコートするように歩く。

そんな彼を見て、男は喋り始めた。


「いいか? 君は私を死んでも守るのだぞ?」


男は続ける。


「私はこんな所で死んで良い人間じゃないんだ。 私は鷹山田大学の教授だ。あの大学も昔は普通の何処にでもある大学だった、しかし今の様に学園都市一の大学に育て上げたのは何を隠そうこの私だ」


急に演説を始めた。


「私は入試から卒研までの全ての過程を究極と呼べるまでのレベルにまで上げ、その実績を学園都市中に知らしめたのだ。その実績が認められ、学園都市統括理事会の一角になり、いずれはこの街を統べる人間にまで登り詰めるのだ。こんな所で死んでたまるか。私にはこれからやる事が山積している。いいか?この街はな………」


ボンは彼の話を右の耳から左の耳へと聞き流す。興味のない話など、ましてや聞いてもこれから生きていくのに一寸も助けにならない知識など、熱心に聴いている方が頭が沸いている。

しかし、なんでリーダーやジョンさんにはフレンドリーに話しているのに、俺達下っ端にはこうも偉そうな態度なんだ?

つーかお前がしていることは女を犯すことだけだろうが。

ボンはそう思ったが、決して口には出さいない。それが彼の最大の長所だ。



「いいか?君たちは150人もいるんだ。この私を守るんだぞ? もしも私に何かあったら君たちの今の地位は無いと思え。 150人もいるんだぞ? 150人………も……………ん?」


と、男は立ち止まった。

『どうしました?』とボンは立ち止まって訊く。


「待て待て待て待て……ちょっと待て。 おかしい、おかしいぞ、これはおかしい」


頭から水でも被ったように顔中から汗を流し、目をこれでもかという位に見開く男。


「なにがなにがおかしいんです!?」


ボンは何気なく訊く。それに男は叫んで応えた。


「だってそうだろう!?」


男は両手を振った。



「なんで、誰とも擦れ違わない!?」
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/24(木) 02:05:15.12 ID:Wj3DLeCu0
そう、彼ら二人、ずっと長い廊下を歩いていたのに、あの部屋からスタートしてからずっと、誰とも出会わなかった。

そして、男はさらに問うた。


「なぜこうも静かなんだ!? 砲弾がこのアジトを破壊する音だけで、他の音が聞こえてこない!!なぜ誰も騒がない? 普通、敵襲が来たら集団の中で、何かのアクションがある筈だ」


海賊映画を見ればわかるだろうが、戦闘開始した時の騒ぎ様を思い出せばいい。


男はボンにツカツカと歩み寄った。そして問う。


「なぜだ? なぜ誰もいない!? 150人も人がいるのに!!」


男はハァハァハァ……と息を荒げて臭い息を吐く。



そして、ボンは――――――――――――――ニヤリと笑った。


「ッッッ!?」


男のゾクッと背筋に冷たい物が舞い降りる。


「嫌ですね、そんなにビクビクしないでください。 どうせみんなは外の敵と交戦中なんですよ」


それは普通の言葉だった。が、男の中の、もうずいぶん前に消え去っていた筈の動物的本能が、危険信号を灯し、警鐘をうるさく鳴らした。


男は、フラ…フラ…とボンから離れた。そして後ろの壁に背中があたった。

男の目には、このボンと言う男の顔が、とてつもなく恐ろしく見えたのだ。


そして、彼の手を見る。その手は………。



血で、真っ赤に染まっていた。


「あ、あひぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」


男は駆けだし、逃げ出した。

本能的に、いや、偶然か、核シェルターがある道を男は選んだ。さっきまで偉そうに鼻を鳴らしていた彼とは同一人物か迷うほどに無様に悲鳴を上げながら、男は廊下を突き進む。

が、無駄についてしまった歳と脂肪のせいで動きが鈍い。後ろからボンが異様に気持ち悪く早歩きで追ってくる。

そしてその顔は、気味悪く笑っていた。


「ひ、ヒィィィィィイイイイ!!」


男は足がもつれるが、転びそうになるのを何とか回避し、数歩犬か豚の様に這いつくばりながらでも逃げた。


「ほら、何逃げているんですか?」

「お前が追ってくるかだろぉ!!」

「何言ってるんですか、だってその先の核シェルターに私は用があるんですよ。あなたをそこへ送り出すという用が」
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/24(木) 02:06:07.56 ID:Wj3DLeCu0
男はドタドタと不器用と言うか不格好と言うか迷うような走り方で、ゼィゼィと息を切らしながら整えていた髪型がグシャグシャに崩れていても気にせずに走った。


「っく、来るなぁ!!」


男は首に巻いていたストールをボンに投げつける。

しかしボンには遠く届かずに床に落ちた。きっとそのストールも高級品なのだろうが、ボンはお構いなしにそれを土足で踏みつけて男の後をつけた。

もちろん、顔は笑顔に固定させたまま…………。


「あぁぁあああ!!」


男は半泣き状態でさらに足の回転を上げる。

どんどんボンとの距離が離れて行き、廊下を縦横無尽に走り回った。そしてボンの姿は仕舞には見えなくなっていた。

それでも男は走り続けた。


どれくらいが経っただろうか。男は無酸素状態になった肺に酸素を入れる為、一旦立ち止まり、膝に手を当てた。酸素が足りず、頭がズキズキと痛む。

後を見た。そこには誰もいなかった。どうやら撒いたらしい。男はふぅーと息を吐いて、安堵の声を発した。

15秒くらいが経ち、ボンがここへ来る前に核シェルターに入らなければと、男は足を進める。

そして、すぐ手前の曲がり角を曲がった時だった。



男の思考がフリーズした。


男の頭の中は真っ白になった。


いや、真っ赤になった。


なぜなら………。



目の前の廊下の景色が、真っ赤だったからだ―――――血で。



673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/24(木) 02:06:29.40 ID:Wj3DLeCu0

男の目の前に広がるのは、真っ赤な血で染められた長い廊下。

いや、男は見ているのはそこではない。男が見ているのは、その下。



無数に転がっている、100を超える死体の山。


横に転がっているから、死体の海とも呼ぶべきだろうが、それは今はどうでもいいか。


正に死屍累々。惨殺を繰り返された現場だった。



ある者は首が無かった。ある者は四肢が無かった。ある者は五体が無かった。

ある者はナイフでメッタ刺しにされていた。ある者は銃で蜂の巣にされていた。ある者は面白い方向へ胴が曲がっていた。

ある者は眼が抉り出されていた。ある者は舌を抜かれていた。ある者は腹を裂かれ、腸を取り出されていた。


上下前後左右の全ての方向の天井壁床はまるで赤色のペンキを塗りたくった様な空間が、男の目の前に広がっていた。

そして何故か今頃になって、血生臭い匂いが鼻を猛烈に突いた。


男は、3歩、後ずさる。

どんっ、と背中に生暖かい物が当たった。


そして後ろから、


「ダメですね、ここは、行き止まりのようです」


ボンだった。


そして、男は振り返る――――――













「ギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」










674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/24(木) 02:07:58.82 ID:Wj3DLeCu0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

一週間ぶりだと、やっぱり少し下手になってしまうものです。少し苦労しました。
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/24(木) 12:58:20.50 ID:fuHGUgd90
>666 こんな作品を描けるあなたがゴミな訳ないだろう
もっと自分に自信を持っていいと思うよ?
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 20:18:49.19 ID:MDFMl/zF0
こんばんは、今日も書いて行きます。
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 21:48:56.52 ID:gEaytCyL0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

少し、いや、このスレから見れば、随分な時間を戻すことになる。

それは、ある男がとある部屋から出て来る時からであった。


「さ〜て、侵入成功だぜ」


黒い忍者装束と、黒い手袋、そして胴にぐるぐるに巻かれた鎖………。

真庭蝙蝠は血が着いた掌を舐める。

さっき殺した男の血だ。

そいつは頭がおかしくなったかのように女を犯していた。薬でも盛られたのか、女の方も頭がイカれていた。

自分が生きていた時、散々とそう言う女を見てきた。そして路上でごみの様に捨てられ、犬の様に汚く死んでいくのも見てきた。

まぁ自分も女を犯したことはある。が、それよりも殺す方が千倍面白いから、犯さずに殺すのが今の自分の『趣味』だった。

今、彼が出てきた部屋で、人を殺した。男だった。まずは首を折り、そいつが持っていた小刀…この時代ではナイフとか言うのだったか、それで首を切った。いつもなら首を折るだけだが、殺した後、ビクンビクンと痙攣を起こすものだから、留めを刺したのだ。

殺したのはその男だけだ。女の方は殺していない。興味が無かったと言うのが理由だが、人鳥に女は殺すなと釘を押されていたのも理由になる。

女は血潮を被って寝ている。………死んでいても知らないが。


「さて、着替えましょうか」


蝙蝠はそう呟くと、手に持っていた衣服を床に置いた。

その衣服は先程殺した男の物だ。そこら辺に脱ぎ捨ててあったので、拝借してきたのだ。すべてはこの組織とやらに潜入する為。

幸いにも、ここには誰もいない。

その隙に蝙蝠は殺した男の姿に変身する。骨と肉が異様な効果音を放ちながら変形していくのは、いささか気味が悪いが、蝙蝠は気にしない。

完璧に変身した後、声色を変え、そして自分は着ている忍者装束衣服を脱ぎ、床に落ちてある衣服を着る。

因みに自分の装束は変わっているのは自覚していたが、この時代の服はいっそう変だ。と言うのが蝙蝠の今はこの世にいない人間の『ふぁっしょんせんす』とやらの感想である。

この衣服の所々に穴が開いている。まるで修行僧だ。糞掃依(ふんぞうえ)なんて穿いて……。(クラッシュジーンズと言うのを蝙蝠は知らない。)

衣服を着終わり、忍者装束を口の中へと仕舞った蝙蝠は辺りを見渡す。よし、誰もいないな。


「ま、適当に散策していきますか」


そんな気の抜けた一言を漏らし、口笛を吹きながら蝙蝠は歩いてゆく。

血に飢えた獣の様な……いや違うか。 まるで“人殺し”という麻薬に侵された中毒者の様に、蝙蝠は目を光らせる。

擦れ違った人間と言う人間をすべて、一人残らずこの手で殺す為に。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 22:45:14.03 ID:gEaytCyL0

蝙蝠は、一人一人を順々にこっそりと一人楽しく殺して行こうと考えていた。

さて、どういう風に殺して行こうか。やはり首を落として行こうか、それとも生きたまま腹を裂いて腸を抉りだそうか、それとも肉と言う肉を骨から剥ぎ取ろうか。


そうにやにやと考えていると、長い廊下にさしあたった。


そこには、長い廊下に100人近くのもの男達が集まって、相談していた。

蝙蝠はそこで、一人一人を殺していくという計画は中止に追いやられることになる。

何があったのかと、その中の一人(彼が持っている班の班長らしい)に話を聞くと……。

誘拐して売るはずだった女二人が逃げ出したそうだ。それで『リーダー』と呼ばれる男に一斉にその女を追えと命令された。

しかし女二人は捕まえられず、それどころか返り討ちに会ったらしい。

何人かは骨が折れたそうだし、挙句の果てには丸焼きにされたとか。

まったく、女二人に何をてこずっているのやら。蝙蝠は心の中で大爆笑した。それでも顔には出さないのが、隠密・偵察に長けた真庭忍軍の流石と言うべきことか。

彼らは、言い争っていた。


「どうする? このまま逃しちまうと粛清されるぞ!?」「おい、どうするんだよ! 俺まだ死にたくねぇよ!!」「いや、安心しろ。ヤンさんが女を探しているらしい」


どうやら、『ヤン』とか言う男はこいつらの上司に当たる人物の様だ。

数秒後、変化があった。青褪めていた100人の烏合の衆の顔色は、明るい色にへと変化していった。


「おい、ヤンさんが売りモン見つけたってよ!」「どうやら助けに来た風紀委員一人と裏門で交戦しているらしい」「よし、俺らも参戦するぞ!」「そうだ!」「そうだ!」「じゃあオメーら! 行くぞッ!!」


「オォォォーーー!!」と合の手を言い合いながら、100の軍勢はまるで溜めに溜めた怒りの鬱憤を晴らす為か、進軍していった。

どうやら、こいつらは移動するらしい。さて、どうする物やらと、一番後ろにいて、出遅れてしまった蝙蝠はんーと考えた。

さて、こいつらを後ろから殺していくか、それともバラバラになるまで待つか………。

このままこいつらを後ろから殺していくと、予定通りに一人一人殺せない。しかし、このまま行くと結果的に取り逃がしてしまう事になる。

そこで、蝙蝠の判断は、


「まぁいいや、難しい事は抜きにしようかね。」


前者を取った。

蝙蝠は、静かにそう独り言を言って、意気揚々と進軍する男達の背後から一人を獲物として狙う。

口の中から、先程殺した男のナイフを取り出す。大丈夫だ、奴らは気付いていない。

そして、蝙蝠は忍び特有の神足で一気に獲物の背後に忍びより―――――――――喉元を掻っ切った。


ぶしゅぅぅぅぅうう!! と噴水の様に赤い血が飛び散った。


それには、流石に前にいた人間たちは気付いた。 5歩ほど前進した後だが。

そして、蝙蝠は気味悪く笑う。


「きゃは」


679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 23:49:25.31 ID:gEaytCyL0
仲間の殺人の瞬間を目撃した男達は……2、3名程だったが、叫び声を上げる前に、ナイフを持った蝙蝠によって一人目は心臓、二人目は首、三人目は肝臓を刺され、倒れた。

異変に気付いたのか、ふと振り返った男が一人いたが、蝙蝠はそれに構わずにその男の腹を深々と刺す。


「がはッ!」


その男の腹筋は異様に固く、ナイフはなかなか抜けなかった。

その隙に、誰かが悲鳴を上げた。あーあーこっそりとやろうと思ってたのになぁ。


「お前、裏切りかッ!?」


誰かが言った。まぁ裏切りも何も、俺はお前らが知っている、俺が変身している人間じゃない。………なんていうのは面倒だった。

680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 23:49:49.94 ID:gEaytCyL0
一人が、腕の長さ程の棒を持って襲い掛かった。

蝙蝠はそれを避ける。が、その棒を避けた所が石の壁なのに大きくめり込んだ。


(そうだった、この街のガキ共は皆、異様な力を使うんだった。たしか超能力っつったっけか?)

「ま、俺には関係ないけどな」


蝙蝠はその棒を持つ男の背後に回り、足を取って男を転ばせ、梃の原理で膝の関節を破壊した。

声にならない声が、男の喉から発せられた。それに、蝙蝠にとって甘美な音楽だった。


「きゃはきゃは!」


そして、蝙蝠はまた気味悪く笑った。

とその時、カシャンと何かが落下したような音が耳に届いた。蝙蝠はそれに目をやる。

その正体は一刀のドスだった。

ドスの刃渡りは脇差と同じ程度で、蝙蝠は丁度いいとそれを拾い、白い鞘を抜いた。一目で安物だとわかったが、そのドスで足元で膝を抱えている男を刺して殺害した。


「ま、得物の有り無しじゃあ天地の差だな」


蝙蝠はドスをまるで木の棒の様にくるくると回して前を見る。

すると、100近い軍勢すべてが自分を睨んでいた。


「おお、怖っ。おっそろしいねぇ、そんなに一斉に睨んじゃあ怖いよあんたら」


蝙蝠はそう言っている癖にまったく怖がらずに笑う。

と、誰かが蝙蝠に問うた。


「お前、誰だ! 俺たちの仲間じゃねーな? 何のつもりだ!」

「おいおい! 何のつもりだって言いたいのは俺だっつーの!! なに言ってらっしゃるんだ!? お前ら!」

「?」


数名の男が首を傾げた。蝙蝠は、あーあーと悪態をつきながら、左手首に嵌めていた腕時計を見る。

因みに彼がこの世界で最初に覚えたのはお金の数え方と時計の読み方だ。今なら英語だって読める。

そんな蝙蝠は楽しそうにある遊びを提案した。


「よーし、今から鬼ごっこをやりまぁーす!」

「「「ッッ!?」」」

「簡単だ。俺を捕まえて見ろ。鬼はお前らだ。制限時間は30秒。なに、100人…いや5人倒したから95人か…ああ、いいや100としこう。100人もいるんだ、余裕だよな? …もし、それまで俺を捕まえられなかったら………………死刑だ」


『死刑』と言う単語を、静かに低く宣言して言った蝙蝠は、一気に駆けだした。


蝙蝠は100人の軍勢の間と言う間をするりするりと潜り抜け、あっという間に分厚い人の壁を突き抜けた。

そして5歩ほど流して、立ち止まり、ドスをヒュンと払う。

すると、床にドスについていた血がピッと音を立てて付着した。

そして蝙蝠は後ろを向いて不気味に笑って、軍勢に向けてこう言った。


「Game Over♪」


同時に、一斉に男達はバタバタと倒れた。クジラの様な血潮を上げて。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 00:38:33.52 ID:/btXNDuZ0
「が、ぁぁぁぁぁ!」「い、いてぇぇえ!」「ぁぁっぁ!」「ぃ゛ぁ゛ぃ゛!」「………たす……けてくれ」「…………ぁぁぁあ!」


所々から、苦痛による悲鳴と助けを求める泣き声が聞こえる。


「ま、何人かは死んじまったか」


蝙蝠は、残念そうな表情をした。


「ひぃふぅみぃよぅ………ざっと10人か……。ああぁ惜っしい事しちまったなぁ…。ま、我慢するしかないか」


そう言って、蝙蝠は手前に転がっていた男の一人に歩み寄った。


「さぁて、残念だったなぁお前さん。結局俺を捕まえられなかったなぁ」

「………がぁぁあ!」


男は蝙蝠の言葉を聞きながらも、もがき苦しむ。


彼の両の腕は――――――存在していなかった。


肘から少し先から上が切断され、その切り口から大量の血が溢れている。

彼と同様に、以下約100人の男達は、手足を斬られていたり、腹部を深く刺されていた。彼の様に腕や足が無くなっているのは、その中の数人だけだった。

男の髪を鷲掴みにし、蝙蝠は持ち上げる。そして覗き込むようにして男に笑って訊く。


「なぁ、苦しいか?苦しいだろ?苦しいだろぉ?」


男の返事を待たずに、蝙蝠は男の首を片手で絞めた。男は自分の首を絞める蝙蝠の手を解こうと蝙蝠の手を掴もうとするが、その手が存在しない為、腕は虚空を振られる。


「ほぅら、苦しくなって来ただろ? 首を絞められているのに、解こうとしても、手が無いから掴むことも出来ねぇ……。どうだ? 抵抗も出来ずに苦しみながら死ぬ感覚は………きゃはきゃはきゃは!」


そう言いながら、蝙蝠は男の服の中を探る。ちょうど、ナイフが二本あった。

まったく、さっきからナイフを持っている奴が多いな。蝙蝠はそう呟きながら、そのナイフを男の目に刺した。


「―――――――――――――!!!!!」


声にならない声が、首を絞めら得て出せない声が蝙蝠の耳の中の鼓膜を躍らせた。

そして、男の窒息か大量出血か、それともショック死かで絶命した。
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 00:46:51.89 ID:/btXNDuZ0
「あらら、もう終わったか……。……………さぁてお次!!」


蝙蝠は後ろにいた、足を斬られて動けない男に振り返った。

狙いを定められた男は情けない悲鳴を上げる。


「ヒィィイ!!」

「さぁ〜て、ど〜すっかなぁ〜きゃはきゃはきゃはきゃは!」


先程死んだ男の目からナイフを抜いて、悲鳴を上げる男へ歩み寄った。

そして斬られた足を思いっきり踏みつける。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」

「はい、いい絶叫ありがとうさん!」


蝙蝠は感謝の言葉を言いながら、男の体に圧し掛かり、腹を両手で持ったナイフでメッタ刺しにした。

グッシャグッシャグッシャと肉片と滲み出る血が掻き混ぜる音と段々と小さくなってゆく悲鳴がが廊下のBGMとなって、他の男達を恐怖のどん底に陥れた。

そして蝙蝠は気持ち悪く笑いながら、こう叫んだ。



「ぁぁぁぁぁあああああああああああ!! 殺し楽しぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」



まるで4年ぶりの雨を喜ぶ様に、愉しく、そして歓喜に沸く蝙蝠は、それ以降、人間で遊んで行った。

それは惨いやり方だった。

生きたまま腹を掻っ捌き、腸を取り出して泣き叫ぶ男の口に詰め込んだり……。

これも生きたまま、四肢の肉を刃物で骨から削ぎ落としたり……。両手両足を刃物で刺して動けなくし、刺された本人が持っていた銃で蜂の巣にしたり……。

こうして、100人の軍勢は絶滅し、血の廊下が完成したのである。


―――――たった一人の悪魔によって。


683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 01:33:39.03 ID:/btXNDuZ0

さて、実は蝙蝠はただの人格破綻者じゃない。

確かに彼は人格が壊れていると言ってもいいほどの殺人狂だ。しかし、彼にもただ無暗に人をここまで殺している訳ではない。

そもそも、真庭人鳥の提案に乗ったのには訳があった。

蝙蝠は確かに人殺しが大好きだ。しかし、今回はそれが本当の理由じゃない。

彼にはある悩みがあったのだ。それは忍として、戦闘を生業とする人間として最悪の事だった。


彼には武器が全く無かった。


彼が死んだ時、それはこの世界とは別の世界の不承島にて、鑢七花との対戦の時だ。

当時、彼には無数の武器があった。

殆どが苦無や手裏剣などの暗器。そして一つ、特別の武器があった。

―――――『絶刀 鉋』 伝説の刀鍛冶、四季咲記紀が造りし完成形変体刀十二本が一本。

その日本刀はどんなに負荷を掛けても折れず曲がらず、どんなに斬っても刃毀れもしないという、日本刀の常識の根本から覆す刀だった。

読者も知っている通り―――――――『絶刀 鉋』を持っていたからこそ、蝙蝠は負けた。

さて、蝙蝠が『鉋』を使う前、『鉋』以外の武器を全て使ってしまった。

それが『鉋』を使ってしまった原因の一つなので、彼は虚刀流の最終奥義とやらで文字通り八つ裂きにされて死んだのだが………。


さてさて、前のスレを見てくれていた読者の皆は覚えているだろうか。


この世界で召喚された別世界の住人は―――――――『死んだその時の姿で現れると言う事を』。


即ち、目覚めた時の蝙蝠の手持ちの武器は皆無だったのだ。『絶刀 鉋』を含めて。

忍としてこれは流石に不味い状況にあった。

普通の忍者として、苦無の一本でも常に所持しておくのが忍としての一般的な常識だ。……でもまぁ、あえて何も持たない場合もあるのだが。

この世界では何故か殺しは絶対のご法度らしく、その為か武器は手に入りにくい。

天下一、戦がしにくい土地だと蝙蝠はその時そう思った。

このままじゃあ餓死してしまう。とりあえず飯代を稼ぐ為、あまり好きではないが自分の忍法を大道芸として披露し、何とかギリギリ食べてきていた。

そんな時に転がり込んできたのが、真庭人鳥の依頼だった。

実は蝙蝠は犯罪集団らしい彼らを抹殺してほしいというその願いを、当初は断ろうとした。

しかしよく考えてみたら、その集団は人殺しの武器を持っているのではないか? 蝙蝠はそう考え、依頼を承諾した。




前置きが長くなった。 真庭蝙蝠が真庭人鳥の提案・依頼を承諾した理由……それは、人殺しがしたいからでもなく、同僚である同朋である人鳥の願いだったからではない。


――――――――――――武器の収集なのだ。


(この世界の武器は面白いのが沢山ありやがる。殺しには持って来いの刃物や火縄銃が小さくなった様な物まである………これは俺にとっちゃあ楽園だ!)


そう、蝙蝠は鼻歌混じりで死体からナイフや拳銃などの武器を漁る。出来れば指輪などの金目の物も剥ぎ、財布をまるごと盗んだ。

そしてヒョイヒョイと口の中へ入れて呑みこんでいった。

『真庭忍法骨肉細工』―――この技は自分の体を他人の体にへと変身できる忍法で、応用としてこういった収納もできる。

そうしてすべての死体から武器と言う武器を集め、歩く武器倉庫となった蝙蝠は興味本位である事を思いついた。


「そうだな、リーダーとやらの面をちょっくら見に行ってみようかな」


一言呟いた蝙蝠は、服に付いた返り血を何故かポケットの中に入っていたハンカチで拭く。幸いにも革製だった服から血は奇麗にとれた。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 02:15:18.60 ID:/btXNDuZ0
蝙蝠は、片っ端からドアを開いて回った。

もちろんはずれが多い。

なかには人がいた所もあったが、問題ない。


中にいた人間は全て殺した。


まるでイカれた殺人鬼だとは言わないでほしい。

彼は無暗に人を殺しているのではない。理由があって殺しているのだ。理由は主に二つ。

一つは目撃されたのをもみ消す為。

もう一つは敵の数を減らしてく為。

敵は少なければ少ないほどいい。もしも戦争になり、数で囲まれたら流石に危ない。

まぁ自分には関係ないが、念には念をだ。

でも、それでも人殺しは楽しいのは仕方ない。……そう言ってしまえば殺人鬼とてんで変わらんか。


5つ目のドアを開けた。

それは当たりだった。 数十人の男たちが部屋の中にいた。その中に一人、異様に異質な雰囲気を持った人物がいた。

体が大きい、そして何より迫力が違う、段違いだ。


蝙蝠は静かに部屋に入ると、一人の男に声を掛けられた。

会話からするにどうやら親しい仲らしいが、何とか切り抜けた………と思ったが、甘かった。

何か血生臭いな言われた。

何とか誤魔化したが……不安だから、こいつも殺しておこう。

蝙蝠はその男を部屋の外に誘い、首を折って殺害した。

そして別室に死体を隠し、服を剥ぎ取ってその男になりすました。

その男に今の現状を詳しく教えてもらった為か、色々と情報が得られた。

どうやら蝙蝠はいつの間にか、誰にも気づかれずにこの組織を壊滅に追いやっているらしい。

計算してみると、組織で生き残っているのはこの部屋にいる奴らとアジトの見張りだけと言う事になる……。何とも滑稽な話だ

蝙蝠が部屋に誰にも気づかれずにコッソリと戻り、2、3分事態は急変した。


敵襲である。

何でか『すきるあうと』という集団が襲ってきたそうだ。それで仲間が襲われ、大怪我をしていた。

蝙蝠はそいつと、今日来ていたらしい客だという中年の太った豚の様な臭い男を連れていく事になってしまった。

正直嫌だったので、断ろうとした。しかし、蝙蝠はふと、ある事に目をつけた。

指輪だった。 宝石が十の指の全てにビッシリと嵌められている。よし、この豚を殺して宝石を奪って飯代にしようか。

そうして、俺は怪我人を背負って男を安全な場所にまで連れてゆくことにした。

本当は『安全な場所』と言うのは知らない為、口封じにはちょうどいいかと考えていた。

まずは背負っている怪我人の力は耳にした所によると厄介だから先に始末しておこうか……。

そう言う算段をしながら、蝙蝠はドアを開けた。
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 03:04:23.21 ID:/btXNDuZ0
結局、先に殺したのは怪我人の方だった。

蝙蝠は中年男を外に待たせ、診察室(という看板があった)へ入った。

部屋の中には二つの芸術的な死体が転がっている。もちろん作者は蝙蝠だ。

怪我人を洋風布団に乗せ、口から一本のナイフを取り出した。

苦しむ姿を見れないのは残念だが、致し方あるまい。さっさと殺してしまおう。

蝙蝠はナイフ高々く上げたその時………。

怪我人は眼を覚ました。 慌ててナイフを隠したのが幸いし、ギリギリバレなかった。

彼は訳あって言葉が喋れないらしい。が、蝙蝠は筆記用具を渡すほど、お人よしじゃない。

すると、怪我人は口パクで、こう言った。


『お前は誰だ?』


蝙蝠は絶句した。

まさか『真庭忍法骨肉細工』を見破るなんて……。

蝙蝠は慌てて怪我人の目を指で潰して口を塞ぎ、ナイフで心臓を突き刺した。

怪我人は、手足をバタつかせ、抵抗をしたが3秒後には息絶え、怪我人から死人になった。

フーッ、と冷や汗を掻く。

正直危なかった。久し振りに吃驚仰天というものを体験させてもらった。

とりあえず、邪魔な人間は排除した。蝙蝠は診察室をでる。

そこで蝙蝠は失態をしてしまった。


右手にべっとりとついた血を拭かずに、蝙蝠は診察室から出て来てしまったのだ。


我ながら馬鹿な失態だった。

そのせいで今度は中年男は吃驚仰天し、慌てふためいて逃げて行った。でもなぜか男は、あの血で染まった廊下の方へ走ってゆく。

蝙蝠はそれが面白くて面白くて、ついつい笑ってしまった。

それが男にとって去らなく恐怖だったのだろう、ますます怯えていた。

しょうがない、接待好きな性分故、ついつい死刑場まで道案内してしまう自分を呪いながら、蝙蝠は男を追ってゆく………。


当然最後には、あの廊下に辿り着いた。


蝙蝠は早速、男の首をナイフで切り裂いて殺した。

まぁあっけない物だったが、急所を外していたのでただの大量出血で死なせたため、徐々に首から血が抜かれる気分を味わってもらった。

これも接待好き故か……。

男が動かなくなったのを確認した後、男の指の指輪を全て取り外し、財布も取り上げた。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 03:04:55.84 ID:/btXNDuZ0


「あーあ、終わっちまったか」


蝙蝠は背伸びしながら呟く。

そして後ろに向かって、


「なぁこんなもんで良いか? 人鳥よ」


と真庭人鳥の名を呼んだ。

すると、さっきまでいなかったのに、人鳥は姿を現した。


「え、ええ、だ、だ、大丈夫、です」

「で、目的の助けたい人はいたかよ」

「そ、それが………」


人鳥はモジモジとした表情で、ある事を報告した。


「なにぃ!? とっくに逃げただと!?」

「は、はいっ! な、何とか逃げることが出来たそうです。い、一旦、て、敵に見つかったものの、う、う、上手く逃げ切れたそうです………」


人鳥の報告に蝙蝠は飽きれた。なるほど、逃げたっていう女の内の一人は人鳥が助けたいと言った奴か。


「なんだぁ? じゃ俺達は骨折り損の草臥れ儲けって事か!? 確かに俺は骨が折れても平気だけれどもよ? ただ働きじゃあ腑に落ちねぇじゃねよ!!」

「も、もうわけありませんッッ!!」


深々と頭を下げる人鳥。

蝙蝠はそんなつもりで言った訳ではないので、咳払いを一回して頭を冷やす。そしてある事を考えた。


「まぁ頭を上げろよ。いい事を思いついた」


蝙蝠のその言葉に、人鳥は首を傾げて顔を上げた。


「…………一つ、儲け話があるんだが……どうだ? 乗らねぇか?」

「儲け話?」

「実は、奴さんのリーダーさんが持っている得物………わかったか?」

「確かあの黒い刀は……『斬刀 鈍』ですよね?」

「そうだ…。それに今、このアジトに別の集団が攻めてきている……その棟梁は、どでけぇ西洋甲冑を着こんでいたんだぜ?」


その言葉から、人鳥はハッと蝙蝠が考えている事を予測した。


「蝙蝠さん、まさか!?」

「そうだ、奪うんだよ。『斬刀 鈍』と『賊刀 鎧』をよ」


蝙蝠はそう、宣言した。

人鳥はアワアワと口を開いている。

そしてその瞬間――――――


真庭蝙蝠の腹を、3発の銃弾が貫いた。

687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 03:23:24.03 ID:/btXNDuZ0
――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまです。

なんと、ボンさんの正体は真庭蝙蝠でした!

いやはや、いつから蝙蝠さんとボンさんは入れ替わっていたのでしょうか………。

そこんところは読者の皆様の想像に任せます。


さて、ボンさんの『物体移動(アポート)』を詳しく細かく解説していきます。別に物語上の不都合とかあったからじゃないですよ。


さて、『物体移動』は地図上の〇と〇が書かれた空間を移動できるという便利な能力の事です。

この能力には行きと帰りがあります。

行の場合……

〇で書かれ場所をAとBとします。

まず地図上のAの〇に物体を入れ、ないしは物体が地図上にあるところにAの〇を書きます。

するとAの〇の中にあった物がBの〇に移動する。


帰の場合……

Bの〇に入るとAの〇に帰る。

この場合はその円状に入れば、能力者の意志とは関係なく移動します。


なので、能力を解除するには、〇を塗りつぶして●にするか、地図を燃やすかの二つです。

因みにボンのポケットの中には学園都市中の地図が入っていて、彼の家の部屋には世界中の地図が大量にあるとかないとか……。



モデルは昔懐かしのポケットモンスター赤青緑に出てきたワープする建物。ほら、床を踏んだらワープするあれ。

なんだが空間移動系というか空間湾曲と言うのが正しい能力です。

どこでもドアみたいな感じ? いや、ちと違うような……。


超能力と言うか魔術に近いです。

つーかマジで魔術じゃね?と思う時があります。

ほら、天草さん家でやってたじゃん、聖地巡礼。

あれの超能力版です。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/26(土) 11:55:53.55 ID:xJM87Z220
乙乙
蝙蝠って実はかなり七花からの評価高いんだよな
錆白兵よりちょっと下くらいだったか ソース無いし思い違いかもしらんけど
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/26(土) 16:07:54.67 ID:cy5Uv9g30
上から三番目くらいに闘いにくかったとか。
後半に出てきたらもっと苦戦してたらしい。

しかしリタイアか…
まあそのうちまた出てくると俺は信じてるぜ☆
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 22:34:45.42 ID:/btXNDuZ0
こんばんは、今日も書いて行きます。

AM2時半からFateがあるので、そこまで書きます。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 23:12:37.32 ID:/btXNDuZ0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

蝙蝠は片膝をついた。


「………がはっぁ!?」


そして吐血。

激痛で顔を歪ませ、額から汗を滲ませていた。

後を振り返る。………いや、それよりも回避だ。

蝙蝠は吃驚している人鳥を抱えて、曲がり角へ飛び込んだ。

それと同時に、何百発もの銃弾の雨が横殴りで飛んできた。


「………ぐぅっ」


着地し、上手に受け身を取った蝙蝠だったが、衝撃は完全に流す事は出来ず、さらに激痛が増した。

蝙蝠はいつの間にか変身は解け、元の真庭蝙蝠の姿に戻っていた。


「ちちちち………まったく、痛ってぇことしやがる」

「こ、こ、蝙蝠さん!!」

「ああ大丈夫だ、何とかなる。それよか逃げるぞ」


蝙蝠は立ち上がり、人鳥と共に新たに現れた敵から撤退する。

しかし、3発もの銃弾をその身に受けたのだ、激痛でいつもの様に速く走れない。

でも、敵から逃げるのには十分だった。

蝙蝠と人鳥はとある一室に入った。


「こ、蝙蝠さん!」

「静かにしろ、敵に見つかる」


慌てて口を押える人鳥。

そんな人鳥に蝙蝠は脂汗を掻きながら、笑みを浮かべる。


「安心しろ、死にはしねぇよ」

「でも……」

「知ってんだろ? 俺さまの忍法、骨肉細工の応用能力そのに……イテテテテッ………流石にこれはヤバイかもな…」


心配そうな顔で涙を浮かべる人鳥を宥め、蝙蝠は腹に力を入れる。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!」


すると、腹に風穴を開けていた銃創が塞がっていき、傷痕を残しながらも消えた。


「ッッ!?」

「………ッ……骨肉細工は文字通り、骨と肉を改造する忍法だ………。んでもって、それの応用に、腹ん中に色んなもんを入れたり出来るし、すぐに死なないくらいの傷ならすぐに治る………。ヘヘッ、教えてやっただろ?忘れちまってたのか?」


蝙蝠はへへへっと笑いながら、人鳥の頭を軽く叩く。
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/26(土) 23:21:04.98 ID:/btXNDuZ0

「でもまぁ……ぐっ……この傷はちっとばっかししんどいな………。これじゃあ応急処置ぐらいしかできねぇ。仕方ねぇ、撤退するぞ」


そう言って、蝙蝠はどっこらせと立ち上がった。


「こ、蝙蝠さんッ!?」

「ばーか、この蝙蝠さまがこんな所でくたばってられっかよ。とにかく、あそこの窓から逃げる」


蝙蝠は刺したのは、向かいの窓。蝙蝠はそれに向かって歩み始める。人鳥もそれに付き添っていった。

因みにここは4階である。大雨が降る窓の真下には、泥でグシャグシャになった地面があった。

恐らく、怪我人の蝙蝠はこの4階から下へ飛び降りるのは難しいかもしれない。

そして窓を開け、外に出ようとしたその時………。


部屋に、さっき蝙蝠を撃った敵が侵入してきた。


「―――――ヒィッ!」


人鳥は短い悲鳴を上げる。

数秒後には、二人とも、蜂の巣にされるだろう。

が、突如に人鳥は蝙蝠に首根っこを掴まれ、窓の外へ投げ出された。


蝙蝠は、自分の命と引き換えに、人鳥を逃がしたのである。


「ッッ!??――――蝙蝠さん!?」



「またな、ダチ公。」



「蝙蝠さぁぁぁあああん!!」


そうして、人鳥は一人、戦場を脱した。


そして戦場には、蝙蝠が残った。


蝙蝠は気味悪く笑って、腹に空気を溜めて、自分が持つ、代表的な技の一つの名を呼んだ。



「喰らいやがれ……―――手裏剣砲!!」


蝙蝠の口腔から放たれた無数のナイフの雨は、音速の速さで敵の集団へと突き刺さった。

それで敵の殆どは殺した。何人かはバラバラに吹き飛んだ。

しかし、それでも敵は現れた。


「へへっ……ここまでか………」


蝙蝠は自虐の意味を込めて笑う。 まさかまた死ぬことになるとは……。

ああ、短い人生だったけど、面白い人生だったなぁ………。

敵はマシンガンを蝙蝠へ構え、一斉に引き金を引く。


蝙蝠は、笑ってそれを眺めていた。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 01:01:53.11 ID:TDeRZNrT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その頃、無能力者狩りの幹部の一人であるジョンはある異変に気付いた。


異変に気付く前、彼は戦闘中だった。

大雨の中、敵も味方が入り乱れた、戦闘は彼是15分はしているだろうか。

強力な破壊力と攻撃力を誇る強能力者と大能力者で出来た無能力者狩り主力部隊と彼らに戦闘を仕掛けてきた、学園都市最新式の駆動鎧を身に纏った武装無能力集団との戦闘は正直言って、不味い状態になっていた。


仲間が何人かやられたのである。


「くそっ……増援はまだか!?」


ジョンは吠えながら仲間に指示を送る。

彼の能力は『予見能力』で、未来を15分しか見ることは出来ない。しかしその代りに過去を45分見ることが出来る。

『予見能力』とは些か別の能力だが、別に名称なんて変える必要もないからそのまま読んでいる。

その能力で予め相手の行動を先読みして作戦を出している。

しかし、増援が来ないのが不可解なままだった。

過去が見れるとしてもそれには条件がいる。今はそれが合っていない為、増援が何をしているのかわからなかった。


敵は30。味方も30だが、何人かやられた。今のところ、徐々に押されている状況である。


(くそっ…増援が来たら一気に掃除できるのに……!!)

「持ちこたえろ!! 相手は無能力者だぞッ!?」


ジョンは吠える。が、近くにいた味方から、こんな声が聞こえた。


「ジョンさん、流石に無理があります! いくら俺達は能力があっても、敵の駆動鎧の前では無意味です!」

「ぐぬぬぬぬ……」


ジョンは歯を食いしばる。

敵は身に纏っている駆動鎧のおかげでマッハレベルの機動性を生み出している。

一方、味方の能力の殆どはその機動性について行けていない。

そんな、兄が命を張って守ってくれた組織が、よもや武装無能力集団に蹂躙される日が来ようとは……。

このままではリーダーから粛清されてしまう。

そんな時、ジョンから遠くない所から断末魔が聞こえてきた。仲間の声だった。


「くそっ……一人やられた!」


ジョンは動揺を隠せない。その時、横からマンションが現れた。


「ジョンくん! このままじゃあ嬲り殺しになる! 一旦引こう!」

「なっ? ふ、ふざけるな!! そんなことをしたらリーダーの粛清が待っているぞ!?」


ジョンは吠える。と、マンションが珍しく吠え返してきた。


「馬鹿言ってんじゃないよ!! リーダーの事なんて関係ないじゃないか!! 見ろよ! このままじゃあ僕たちは全滅だ!」

「でも……」

「デモもストもない!! これは君が考えて実行するべきだ! リーダーなんて関係ない! そもそも僕は、あいつがリーダーだと言う事を認めない!!」

「……………」
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 01:03:34.24 ID:TDeRZNrT0


ジョンは呆然とマンションの顔を見る。そして、目から鱗が落ちたような表情で頷いた。

それを見ると、可愛い弟分にマンションはいつものように優しく、こう言った。


「僕は殿をする。 その隙に皆を連れてアジトへ逃げて。」

「ッッ!? でも!!」

「大丈夫。絶対に誰もアジトの中へには入れさせない」


そして、マンションは戦場の最前線へと向かっていった。


「マンションさん……恩にきります…」


ジョンは腹を括ったように、強い号令で指示を出す。


「全軍撤退! 直ちにアジトへ後退する!!」


周りの仲間たちはその号令を訊いた直後、後方から逃げるように去っていった。

そして最後にジョンは近くにいたサブに頼みごとを頼んだ。


「サブ! 一発頼めるかッ!? 防衛線を敷きたい!!」

「OK! そんな事、朝飯前♪ 昼飯前♪ イェェェエエエ!!!」


サブは掌から摂氏3000℃の火の玉を作りだし、地面に叩き付けた。

すると、地面から巨大な炎の壁が立ち上って、防衛線を作り出した。

丁度、彼らとマンションの間を区切るように。


「マンション! 必ず帰って来いよ!!」


ジョンはマンションに向かって吠える。

それに応えるように、マンションは敵を睨んで吠える。


「ここから先は一歩も前には行かせない!!」


それと同時に、一帯の草が一気に枯れた。


「―――――ッッッ!?」


駆動鎧が数歩後ずさる。と、一人が悲鳴を上げた。


「ギャァァアアアアアアアアアアアア!!」


駆動鎧の一部がどんどん腐ってきたのだ。


「僕の能力は『王水濃霧』! 空気中の水分の㏗(水素イオン濃度)を変えることが出来る。 今、この一帯の㏗は王水の300倍だ!」


王水とは非常に酸が強い液体で、中学の理科で習ったイオン化傾向では最もイオン化しにくい、白金を簡単に溶かすことが出来る。


「いくら頑丈にできている駆動鎧でも、装甲は所詮、金属。例外なく溶けることになる。人間の体も例外じゃない。もし生身の人間がこの空間に入ってい来たら一瞬で溶けることになる!!」

695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 01:05:09.81 ID:TDeRZNrT0
駆動鎧を着た敵は、後ずさる。そして最後にマンションは吠えた。


「さぁ! そこまでしてここを通りたいのなら! 命がいらないなら! まずはこの僕を倒してからにしてもらう!!」


それが、本当に最後の言葉だった。






マンションの体は、どこからか飛んできた弾丸でバラバラになった。





「………………は?」


それを、退却する仲間の最後でマンションを見ていたジョンは何が起こったかわからなかった。

そして、耳の隅で、何か聞いた事がある音が近づいてくるのを、ジョンは気が付いた。


バラバラバラバラバラバラバラバラ…………。


ジョンは上空を見る。

そこには、一機の軍用ヘリ。通称、六枚羽と呼ばれる巨大なヘリコプターだった。

その名の通り、六枚の羽根が機体につけられていて、その一つの先端にはバルカン砲が一門。装備されていた。

それがマンションをバラバラの肉片にしたのだ。

何食わぬ顔でヘリの側面のドアが開いて、そこからロープが降りてきてきた。そのロープはアジトの屋上へと垂れる。

そしてヘリからロープを伝って20人くらいの、軍人だろうか、そんな様な人間たちが降下し、屋上へと着地した。

そして、無能力者狩りのメンバーたちはボケーとその様子を見ていた。

ジョンはそんな中、ハッ! と状況を読んだ。そして未来を予測する。


「まずい! みんな早くアジトへ入れ!!」


そう吠えると同時に、六枚羽はバルカン砲を彼らに発砲してきた。

ジョンは窓からガラスを突き破るようにして入る。

何人かの断末魔が聞こえた。


「クッソ! 奴ら、あんなモンまで持って来てやがったか!!」


ジョンは悪態をつく。


「クッソォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」


マンションさん……! 目に涙が浮かぶ。しかし、彼の死を犠牲に刺せない為にも、仲間の命を救わなければ……。

銃撃が止んで、窓を覗く。すると、不可思議な光景を目にした。敵は、超強力な、六枚羽という味方が現れたと言うのに、彼らは逃げるように撤退していったのだ。

ジョンはこの異変で頭の上に?マークを乱立させるが、それよりも自分たちの安全を考え、安全な場所まで撤退しなければ。

ジョンは立ち上がり、そうして仲間を率いてリーダーがいる場所にまで撤退しよう。

このままじゃあ危ない状況にある。



彼は予言したのだ。

この後、リーダーの命が危ないと。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 01:57:37.32 ID:TDeRZNrT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


駒場利徳のトランシーバーは鳴り始めた。


『駒場のリーダーか!? 浜面だ!! 異常事態だ!!』

「? どうした………?」


駒場は何処からか出したトランシーバーを口元に当てた。


『新しい敵が現れた!』

「なに……!?」

『今、そっちに向かっている!!』


と浜面がそう言ってきた丁度その時、駒場の背後に現れる影があった。



駒場がこの部屋に入ってきた大穴から、10人の影がマシンガンを持ってこちらへ構えていたのだ。



「――――――――ッッッ!!」



そして、影達は部屋中へ一斉発砲したのである。



ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!


銃声は、数十秒にわたって発砲させ続けた。


数十秒後、銃声は鳴り止み、影の足元には無数の薬莢が散らばっていた。

そして部屋中に硝煙の嫌な臭いが充満していた。

留めに、影の一人は腰から手榴弾を取り出し、ピンを抜いて投げつけた。


ドカァァアン!!


大爆発が起こり、部屋中に殺傷能力が高い鉄の破片が落ちたヤシの実の様に四方八方に飛び散る。

モクモクと部屋の中で漂う煙の向こうを見る為、影達は銃を構えて部屋の中に侵入する。

影は、やったか?と目をひそめた。

そして、煙は空気に溶け、消えていくと、部屋の惨状が伺えた。


部屋の壁と言う壁には無数の穴が開き、照明は割れて灯りは消えていた。そして手榴弾による爆発で真っ黒に焦げている場所があった。


697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 02:03:16.55 ID:TDeRZNrT0
しかし、死体は一つも転がっていなかった。


駒場は、囚われていた女の子たちの盾となって守り、自身は『賊刀 鎧』によって守られていた。

無能力者狩りのリーダーはなんとまったく銃によるダメージも、手榴弾によって爆破されてもいなかった。まったくの無傷でその場に立っていた。


そのリーダーは突然、口を開いた。


「駒場よ」

「なんだ………」

「あれが、お前の部下とやらか?」

「馬鹿を言え、俺の仲間たちはあんなに不細工な集団じゃない………」


駒場はそう言って立ち上がり、盾となって守った女の子たちに無事か訊いた。


「ああ、私たちは大丈夫だ。安心しろ」


答えはYES.と背の低いがシャンと姿勢よく座っていて、パーカーの帽子で頭を隠している女の子がそう言った。

駒場は改めて一通り見ると、彼女の言う通り皆、傷一つつかず無事だった。

殆どは気を失っているが。彼女と別の、フレメアを抱いている女の子も意識を保っていた。

駒場は一安心すると、新たに現れたという敵を見る。


「ほう、どうやらこいつらは、どこかの闇の軍事部隊の様だな………」

「ああ、それも見覚えがある様な装備ばっかりときた」

「とりあえず………」

「ああ、邪魔だな」


そう、二人は呟いて、影を睨む。


「ひ、ヒィ……」


影の一人が怯えたような声を発すると……。


駒場とリーダーが同時に、彼の目の前に現れた。


リーダーは『斬刀 鈍』で左から一閃。右側半分の5人の胴を真っ二つにした。

駒場は左側半分の5人を、真ん中の一人は頭突きをし、残りの4人を両手で二人ずつ、ラリアットでふっ飛ばした。


「………こいつらを知っているのか?」

「ああ、何度か話には聞いた事はある………こいつらは………」


リーダーは自ら真っ二つにした死体を改めて見る。

黒を主体とする戦闘服。黒いヘルメット。黒いマスク。黒い軍靴。黒いマシンガン。


そう、彼らは……………。



――――――――ダァン!!



と、リーダーが侵入者の名前を呼ぶその瞬間。 別のドアが勢いよく蹴り開けられた。
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 04:36:21.52 ID:TDeRZNrT0



「ぃようっ!まいどっ!! お前らぁ!! ご機嫌麗しゅう!!」



一人の、中年の男が堂々と部屋に入ってきた。

ただ、中年と言うには少々若い印象がある。

ズカズカと何食わぬ顔で男は足を進める。

そんな彼の後ろから、10人の黒い兵隊がマシンガンを構えて横に広がる。それが異様に異質に見えたが、このボロボロになった部屋の内装では何故かマッチしていた。

しかし、彼らのリーダーなのだろう中年男は異質で、真っ黒な印象のある部下とは違っていた。


彼は、シミ一つない、真っ白な白衣を着ていた。


あと、異質と言って良いのは、彼の左頬には刺青が彫られていた事だろう。

そしてもう一つ、彼は日本刀を一本、所持していた。

真っ黒な刀。闇よりも禍々しい色をした鞘に収められていたそれは、鞘から見ると大きく反り返っている、5尺足らずの長刀であることがわかる。


そう、彼の名は………。


「木原数多か」


リーダーはそう呟いた。


「学園都市統括理事長直属の猟犬部隊の責任者様々が、どうしてこんな所に?」

「いや? 実は野暮用でよ。あるモンを買いに来たんだわ」


木原数多と言う男は、頭をカリカリと刀の柄で掻く。

リーダーは木原の商談に疑問の意をぶつけた。


「確かにウチは商品を売る人間だ。だが、買い物ならそんなに物騒なモンは持ち込まねぇだろうが」


リーダーは『鈍』を木原に向ける。

そして木原は……。


「あはははは、あははははははははははは!!……それだよ、それそれぇ!!」

「ッ?」

「その刀だよ『斬刀 鈍』ぁ!!」


木原は自分が持っていた刀でリーダーを指す。


「そのお前が持っている刀ぁ! 『斬刀 鈍』を買いに来たんだよ!!」

「ざんとう? なまくら?」

「おいおいおい、自分が持っている刀の名前くらい知らねぇのかよ……ああ、そうか、選ばれていないのか……そうかそうか。だったら理解した」

「………?」「ッ??」

699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 04:38:17.00 ID:TDeRZNrT0
リーダーも駒場も、この木原という男の言っている事がわからなかった。


「………まぁいいか、ちょうど『賊刀 鎧』もある事だし……………」


木原はそう呟いて、刀を持たない右手を挙げた。

そして、その手を軽く振る。


「なぁ、漁夫の利って知ってっか?」


その合図と共に、後ろでマシンガンを構えていた猟犬部隊たちは引き金を一斉に引いた。



(……………クソッ、間に合わんか……)


このままでは、フレメアを含め守るべき女の子たちは銃殺されてしまう。

そうさせない為に駒場は駆けだす。しかし間に合わない。どうする?



―――――――――――――――――が、銃弾は発射されなかった。



「…………あ?」


素っ頓狂な声を出したのは木原だった。

そして、彼の後ろの猟犬部隊たちはバタバタと面白うように倒れて行った。

全員、奇麗に急所を鋭利な刃物で突かれていた。


「なぁ…オッサン………。とりあえず、両手を挙げてもらおうか?」


背中から、声が聞こえた。

木原は首元に冷たい物を感じ、下を見る。


喉元に、一本の直刀が当てられていた。


半蔵は、木原の背後に回って首に『絶刀 鉋』を当てていた。

木原の喉からツーッと血が少し流れる。


「半蔵………」

「おっすリーダー。遅くなってすまねぇな、助っ人登場だ」

700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 04:42:01.46 ID:TDeRZNrT0


半蔵は明るい声で駒場とあいさつを交わすと、低い声で木原を脅した。


「ほらオッサン。両手を上げろ」

「へいへい」


木原は半蔵の要求通り、両の手を挙げた。


「でもいいのかよ」

「なんだ?」

「このままだと………テメェ、ケガすっぞ?」


木原が挙げた、刀を持った左手には………刀身は無く、鞘だけが掌に会った。


「………? ――――――――――ッッ!!」


半蔵は咄嗟に横に跳んで転がる。

すると木原が持っていた刀が降ってきた。ギリギリの所で回避した半蔵はすぐに反撃体勢を整え、『鉋』を構える。

他の2人もそうだった。


そして半蔵は木原にへと駆け、斬りかかった。

木原は後方に刺さっていた刀を逆手の右手で抜き、半蔵の『鉋』を受け止める。


「と、動くな」

「ッッ!?」

「左手を見ろ」


半蔵は木原の左手を見る。

彼の左手には一丁の銃が握られていて、その銃についていたレーザーの光は、フレメアの額に当てられていた。


「動くと……わかってんな?」


「ぐっ………」


「ほら、大事な女の子の奇麗なお顔が真っ赤なザクロになっちまうぞ? ……ほぉら、刀を捨てろッ!!」


木原の言う通り、半蔵は『鉋』を床へ捨てた。

駒場も、『鎧』を脱ぎ始めた。自分が走る速度と木原が引き金を引く速度を天秤にかけた結果だろう。

しかし、リーダーは『鈍』を捨てなかった。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 04:42:38.75 ID:TDeRZNrT0


「ほら、お前も捨てねぇか? いいのか? 大事な商品なんだろ?」

「別に。こいつが死んでも俺は何も困らねぇからな」

「貴様ぁ!」


駒場は激昂する。


「むしろありがたいな。これでコイツを一刀両断できる。」

「ああそうか、だったら先にやれよ」

「その後はお前だ」

「やれるもんならやってみやがれ」


リーダーは『鈍』を駒場へ向けた。


「じゃあな、駒場。無能力者なりも頑張った方だったぞ?」

「くっ………」

「リーダー!!」

「お前も動くなぁ!」


木原は半蔵の首に『鍍』を当てる。


「はっはァ!!感動的だねぇ!! 友情って奴ですかぁ!?」

「くっそぉぉぉおおお!!」


半蔵は吠える。木原は馬鹿笑いする。

リーダーは『鎧』が無く、文字通り無防備状態の駒場を頭から叩き斬る為、『鈍』を上に構えた。


「あばよ、糞野郎。そしてくたばりやがれ。」


駒場は腹を括って目を瞑る。

リーダーは『鈍』を振り下ろした。


そしてそれは同時だった。













「おい貴様ら、いつまでそんな茶番をしておるのだ?」










702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 05:20:57.86 ID:TDeRZNrT0



「………………………」

「………………………」

「………………………」

「………………………」



それは、凛とした、可愛げのある女の声だった。

だが、その、このシリアスな空気をあまりにも読まな過ぎる発言に、駒場、半蔵、リーダー、木原は固まった。表情も、動きも……。

駒場の目検の1cm先で『鈍』を寸止めしたリーダーは、一言、


「………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


と疑問詞を声がした場所へと首を動かしながらぶつけた。

木原は呆然とマヌケな顔で、駒場も半蔵も、右に同じだった。


そして声の主は、もう一度言った。



「だから、あまりにも茶番過ぎて退屈なんだが………、この茶番はいつになったら終わるのだ?」



声の主は、咎咲櫛芽だった。


「おいおいおいおい!! テメェ日本人ならちったぁ空気読めよぁあ!?」


木原は銃の照準をフレメアから咎咲へと移した。


「テメェ……そうか、テメェは最初に死にたいのか………」

「はははははははっ、これはこれは面白い事を訊く。木原とやら、貴様は聴いた話通り、器量も度量も小さい男の様だな」

「あ゛ぁ!? テメェもう一遍言ってみろゴラァ!!」


気の短い木原は怒鳴り、咎咲へ発砲した。


パァンッ!!


と銃弾は咎咲が被っているフードを掠って、向こうの壁を破壊した。

そしてそのせいで、ハラリと、咎咲が被っていたフードは咎咲の頭からずれ、彼女の素顔が晒された。


「木原よ、貴様は『漁夫の利』とか言ってたな?」


その髪は肩には届かない位に短かく、雪の様に白かった。


「漁夫の利というのは、敵同士二人が争う所を第三者が現れて、美味い所を掻っ攫っていく…という意味だが………」


その容姿は淡麗。秀麗なその顔はまさに美貌と言っても過言ではない。


「そこで私はあえて言おう」


咎咲櫛芽は立ち上がった。そして叫んだ。

いや、違う。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 05:21:58.56 ID:TDeRZNrT0




奇策士とがめは、我が従者の名を、我が刀の名を呼んだ。





「七花ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




その瞬間、天井の一部分が巨大なハンマーに砕かれたかの様に砕かれ、崩れ始めた。


崩れたその天井の砂煙はモクモクと立ち上る。


そして、一人の大男が姿を現した。



その男、200cmを軽く越える程の大男で…。

その男、女の様に髪が長く、後ろに束ねていて…。

その男、体中に傷痕が多くあり…。

その男、この世の中にも関わらず、着物を着ている…。


鑢七花は、奇策士とがめの刀、『虚刀 鑢』はここに現れた。


そしてとがめは問う。






「なぁ、漁夫の利というのは知っておるか?」






704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 05:23:45.46 ID:TDeRZNrT0
――――――――――――――――――――――――――――――――――
今夜はここまでです。ありがとうございました。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 07:39:47.16 ID:0sUbFNAko

王水濃霧の能力にはいつになく突っ込みたいが
使い捨てMOBなんだから流しといた方がいいな
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/27(日) 08:44:22.59 ID:3lqQUWrDO
乙。
ようやく真打登場か
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/27(日) 10:09:02.34 ID:OtqHQW+M0
も大詰めか

前スレから読んでたけど長かったな〜シミジミ


708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/27(日) 12:08:20.08 ID:mfIbGNlN0
おお
超展開だな
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/27(日) 13:26:13.50 ID:OtqHQW+M0
展開がメチャクチャ上手いな!
710 :とある中学の馬鹿生徒 :2011/11/27(日) 16:17:43.54 ID:fRW3ylxg0
しちりーーーーーーーん
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/27(日) 19:46:01.50 ID:OtqHQW+M0
木原が小物化していく件
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/27(日) 22:33:15.80 ID:TDeRZNrT0
こんばんは、今日も書いて行きますが、短く行きます。
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 00:44:13.34 ID:tXk/0v+L0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


鑢七花は、戦場へと参上した。


その傍らに、奇策士とがめが胸を張って立っている。


「七花よ、今まで何をしておった? そなたには珍しく遅かったではないか」

「いやぁ、実は道に迷っててよ、ずーっと彷徨ってたんだ」


七花は後頭部を撫でながらとがめにそう言った。


「なにぃ!? そなたっ! 私の事をずっと見ておれと言ったはずだぞ!? 途中で馬の様な顔をした男どもに汚されていたらどうするつもりだったのだ!? 私はそなたがいるから堂々と安心して座っておったのだぞ!?」

「ご、ごめん………。だって気が付いたら移動してたんだもん」


申し訳ないように七花は謝る。

実は、七花はずっとあのガラス張りの部屋を隠れた場所から見張っていたのだ。

もしも万が一とがめが危ない目にあっていたら助けられるように。

あの包装用に使われるらしい、『だんぼーる』とか言う箱にずーっと隠れていたから、あまりにも退屈で退屈で、ついつい居眠りしてしまいました。なんて口が裂けてもとても言えない。

そう七花は、この世界に来て初めての隠し事をし、背中から冷や汗を掻いている。

そんな彼に、とがめは小さく、ある事を訊いた。


「時に、『奴』は連れて来ただろうな?」

「ああ、別の所で動いている」

「だったらいい。折角の戦闘だ、また仲間外れにされてイジイジされては困る」


とその時、七花の登場に呆気にとられていた木原が吠えた。


「オイオイオイオイオイオイ!! なんだってんだテメーは!!! 人がいいとこだったのに邪魔しやがって!!」


彼の問いに七花でなく、とがめが、


「あ、いたのか。忘れてた」

「って、テメェエエ!!」


木原は左手で持っていた拳銃をとがめに向け、発砲した。

銃弾は、一直線にとがめの眉間へと迫ってきた。


が、その直前に七花はそれを手刀で真っ二つにした。 別れた銃弾は床と天井へとそれぞれ着弾した。

当然、とがめにはカスリ傷など微塵も無い。


「ぐぬっ……。クッソォォォオオ!!」


木原はその他とも次々と発砲していった。

しかし、その銃口から発射された鉛玉は全て、七花の手によって防がれた。彼の両の手で、弾かれ、斬られ、落とされ、仕舞いにはその手に受け止められた。

カチッ!カチッ!と拳銃から弾切れの合図が部屋に虚しく響く。

714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 00:50:45.13 ID:tXk/0v+L0
木原は七花を鬼の形相で睨みつける。


「虚刀流がぁ…!」

「ああ、そうだ。俺は虚刀流七代目当主 鑢七花ってんだ、初めまして。…………って、なんで俺の名前知ってんだ?」


七花は首を傾げる。


「ほれ七花、奴が右手で持っている刀……『毒刀 鍍』だ」

「ああ、なるほど。通りで」


七花は納得したような表情をした。


「でもついてたな」

「ああ。まさか、『斬刀』『賊刀』『絶刀』の他にも、『毒刀』までも釣れるとはな。それは予想していなかったよ」


余裕綽々とした二人。まるで鑢七花がいるだけで、もうこの戦場を制したとも言っている様な顔だった。

それが、木原にとってどうしようもなく腹立たしかった。


「この野郎……」


木原はずっと首に『鍍』を当てていた半蔵を蹴り飛ばし、『鍍』を七花に向けて構える。


「ゲホゲホッ!(………っと、ラッキー!)」


半蔵は木原がいきなり現れた乱入者に気を取られている隙に『絶刀 鉋』を掴む。 駒場もそうだった、いつの間にか『賊刀 鎧』を着終わっていた。

と、別の方向から声が聞こえた。


「おい、俺を無視してんじゃねぇよ!」


リーダーは『斬刀 鈍』を構え、七花に斬りかかる。


七花の右方から斬りかかる様な形で襲ってきたのだ。それも一拍の間で距離を詰める、胸囲的な超スピードで……。

しかし、


「止めておけ」


とがめは眉一つ動かさずに、こう言った。


「遅いぞ」


リーダーの拳銃の弾よりも固い腹に、七花の右足が突き刺さった。


「―――虚刀流 牡丹」



「………がっはっぁ……!」


リーダーは七花の後方回し蹴りで文字通り吹っ飛んだ。コンクリートの壁を突き抜けていき、距離はわからないが、飛距離は長かっただろう。遠くから壁が破壊される音がした。


「と言っても、それをいう事自体がもう遅いが」

715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 00:51:20.28 ID:tXk/0v+L0

ヒュンヒュンヒュンヒュン………と共に、『斬刀 鈍』は空中で回転しながら降下して、とがめのすぐ目の前に突き刺さる。

とがめはそれを抜いた。


「これで、まずは一本」


七花は、木原にほくそ笑む。


「ほら、かかって来ないのか?」

「コロス!!」


木原は『鍍』を持って駆ける!


「七花、殺すなよ?」

「了解。」


七花は『虚刀流三の構え 躑躅』を構える。


………が、木原は突然、不自然に立ち止まった。


「ッ?」


まるで、体が内側から固まっているようにも思える。


「…………テ、メェ……何のつもりだ四季崎ィ………!」


木原は一人、虚空に怒鳴りつける。


(ここは一旦引け、兄弟。 この化け物には、今じゃあ勝てねぇ。策を練って引き返すぞ)

「……………………クソォ……!」


木原は、何かを苦しい表情で決断し、懐からアルミ缶を取り出した。

いや、違う。 それは発煙缶だ。

木原は缶の上にあるレバーを引抜き、七花の足元へ投げつけた。

すると、缶の中から大量の白い煙が溢れ出し、室内を白く包む。

相手を軽く見ていた七花にとって、それはいきなりの出来事だった。激しく咳き込みながら叫ぶ。


「ゲホゲホゲホッ! おい、待て!!」

「あばよ、虚刀流。いつかまた会える日までな!!」

「おまっ……四季崎か!?」

「へっ、あまりにも強敵と出会わなくて退屈しているだろうお前に、いいこと教えてやる」


木原は……いや、木原の体を借りて喋る四季崎はこう一言だけ言って、


「地獄はここからだってなぁ……。精々、この世界で最強を気取っていろ。 そのうち、お前さんでもボロボロになる強敵が現れっからよ。じゃあな」


颯爽と逃げて行った。

しばらくし、部屋の中を充満していた煙が消えると、木原の姿は煙と同様に消えていた。

716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 01:37:04.26 ID:tXk/0v+L0
煙と同じように去っていった木原を取り逃がしたことを、七花は残念そうにして呟く。


「すまねぇ、とがめ。 取り逃がしちまった」

「よい、『斬刀』だけでも大成功だ」


そう言って、とがめは横にいる駒場の方へ向いた。

駒場は『賊刀 鎧』を着ている。

無論、彼もとがめの標的の一つだ。

駒場は細心の警戒心を持って構える。


「………俺達の……この刀も奪うのか?」

「だったら力尽くでも離さないぜ?」


半蔵も『絶刀 鉋』を構える。『鉋』で自分の身を隠すような、まるで『鉋』を盾にする様な構えだ。

すると、とがめは溜息をついてこう言った。


「安心しろ、お前たちには借りがある。その刀を奪いはしない」


半蔵はその言葉で目を見開いた。駒場も同様だろう。

そして、七花もそうだった。


「え? なんでだとがめ。いまなら二本とも手に入るのに……」


とがめはそんな大ボケを繰り出した七花の腹を『ちぇりょう!』と殴った。が、七花には全くのノーダメージ。逆にとがめが右手を痛そうに振っている。


「イテテテテ……。…………こ、こやつらには大きな借りがあるからな。それに、こやつらの戦いには“大義”と“正義”がある。………違うか? 駒場利徳」


と、彼女には名乗っていない筈の名を呼ばれた駒場は少々驚き、その質問に答えた。


「………ああそうだ。俺達、武装無能力集団は別に好き勝手暴れている訳ではない。ちゃんと敵も選んでいる」

「そう、お前たちが戦う大義名分は『力を持たない無能力者を無差別に暴力を与える、そんな心の無い有能者たちに鉄槌を下す』というものだったな?」


とがめはそう、付け足した。しかし、駒場はそれを少しだけ修正した。


「………少し違うな。あくまでも俺達は、そう言った馬鹿共を潰すだけだ。別に俺達が神の代わりとして鉄槌を下す様な真似はしない」


駒場は頭に被っていた兜を外し、続けた。


「………ただ、無能力者と有能力者という、そんな些細な差で、何もかもを差別する糞共を無能力者代表でぶん殴りに行く……。それだけだ」


そして駒場は、笹斑の腕の中で眠るフレメア=セルヴェルンを抱きかかえた。


「今日のようにな……。覚悟は決めている。この身が壊れようとも、そう言った馬鹿共が存在する限り、俺は戦う」


フレメアの髪を撫でる駒場は、ほんの少し微笑む。


「ならいい。それが“大義”であり“正義”だ。」


717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 01:37:48.77 ID:tXk/0v+L0
そして、とがめは駒場に、ある提案を持ちかける。


「そこでだ、私達はそなた達と『同盟』に近い物を締結したい」

「?」


駒場の顔が怪訝になった。


「要件は何だ。自分たちに従えと言うのなら、断固拒否するぞ?」

「なに、そんな悪趣味な物ではない。 私が提示するのは一つだけ………」


とがめは、駒場が着ている、『賊刀 鎧』を指で指した。


「もし、その“大義”と“正義”が達成された暁には、その『賊刀 鎧』と『絶刀 鉋』をこちらに譲ってほしい」


とがめの要求に、駒場は眉を潜めた。そこに、とがめは条件としての案を持ち出す。


「その代り、私達が入手した、『四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本』の情報を余すことなく話そう」

「ッッ??」


駒場は首を傾げた。


「………その、『かんせいけいへんたいとう』とやらは、もしかしてこの『賊刀 鎧』の事を言うのか?」

「その通りだ。ついでに言えば、半蔵とやらが持っている『絶刀 鉋』もその内の一本だ。それが全部で十二本ある。そのうち、一本を入手した」


とがめは続けた。


「それがどういった刀か、そしてそれがどこにあるのか…そう言った情報をそちらに提供するという事だ。………どうだ? 悪い条件ではないだろう?」

「………相互のメリットは?」

「まず、そちらとすれば、今は二本だけの変体刀だが、数を集めることをすれば、もっと強力な力を得る。こちらとすれば、そなた達が目的を達成することが出来れば、変態刀がこっちに渡る。私達には変体刀を十二本を集めなければならない理由があってな」

「………その理由は?」

「言えん。が、同盟を結べば後日、ちゃんとした場所で話そう。洗いざらいとな」

「……………………」


駒場は黙り込んで考えた。


「半蔵はどうする?」

「俺はどっちでも。 リーダーのお好きなようにすればいいさ。 まぁ厳密に言うと、損する話じゃないな」

「だったら決まりだな」


駒場はとがめに歩み寄る。


「………その提案を呑む。しかし、裏切った場合は然るべき態度で取らせてもらう」

「同盟締結だな。これからはよろしく頼むぞ、盟友」

「それはこちらの台詞だ」


とがめは手を指し伸ばし、駒場はその手を取って握手をした。

こうして、同盟は締結された。

二人は微笑む。

がしかし、お互いに目は笑っていなかった。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 02:23:33.56 ID:tXk/0v+L0

「私達は大体、第七学区の大きな病院におる。そこに明日の昼に来ればよい」

「………わかった。明日だな………」


そう言って握手を解いた駒場は、ふと思い出したようにとがめに訊いた。


「………忘れていたのだが、先程お前の従者が蹴り飛ばした男………あれは放っておいてよかったのか?」

「ああ、問題ない。すでに手は打ってある。な?七花」

「あ? ああ、大丈夫だ。もし逃げてもあいつがいるんだ、問題ないだろう」


駒場は怪訝な顔をした。

とがめは床に落ちていた黒い鞘を拾い、『鈍』を収めた。


「さて、ここからさっさと撤退しようか。直に警備員がここに来る。七花、先導してくれ」

「了解」


七花ととがめはそう言って歩き出す。七花はとがめの前に立ち、ドアノブを回して開けた。

しかし七花は立ち止まった。そして謝る。


「すまん、とがめ」

「どうした七花。これで何回目だ、お前が謝るのは」

「いや………」


七花は振り向いて、部屋の外の現状を伝える。



「敵がいた」



部屋の外の廊下には、ボロボロになってこっちを睨んでいる無能力者狩りの面々がいた。


「………………お前か……」


その中で、ジョンは呟いた。


「なんだ七花。知り合いか? やけにボロ雑巾如くボロボロなんだが」

「ああ、道に迷っていた時、偶然鉢合わせてよ。突然攻撃してくるもんだから蹴散らした」

「なんだ、そう言う間柄か」

「めちゃくちゃ弱かったから、もう動けないんだと思ってたけど……なんだ、来たのか」


719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 02:24:29.24 ID:tXk/0v+L0
その言葉の後に、何かがブチ切れる音がしたのは、空耳ではない。

無能力者狩りの面々は一斉吠え、七花に襲い掛かる。


「どうする?」

「よい、薙ぎ払え。ただしくれぐれも殺すなよ? ………………ああ、七花……」


と、とがめは思い立ったように、こう言った。


「四肢の一本くらい、落としておけ。 こやつらへの罰だ」

「了解。―――虚刀流二の構え『水仙』」


七花は早速、左手の手刀で一人目の腕を斬り落とした。


「ぎゃああああああああああああああ!! 腕がぁああああああああ!!」


二人目は足。三人目は手首。四人目は肩から斬りおとした。

こうして機械人形の様に七花は次々と無能力者狩りたちを斬っていく。

そして20人くらい斬ると、勝ち目がないと見たのか、残りはバラバラに散らばって逃げて行った。


「追うか?」

「いや良い。直ちに撤退する。さらばだ駒場、半蔵。そなた達の戦い、退屈であったが面白かったぞ?」


こうして二人は廊下にへと去っていった。


「…………俺達も帰るか」


半蔵はそう言った。


「………そうだな」


駒場はどこからか取り出したトランシーバで仲間に指示を出す。


「………浜面、聞こえるか? 直ちに撤退だ。警備員が来る前にズラかるぞ」
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 02:26:00.56 ID:tXk/0v+L0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

上手く書けなかったので、ちょっと不安です。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/28(月) 03:08:19.91 ID:F1Oe1Tb00
上琴の戦う相手残ってなくね?
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/28(月) 13:17:29.36 ID:F1Oe1Tb00
学園都市製の弾丸凌ぐとか七花インフレしすぎやろ
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 17:36:34.44 ID:tXk/0v+L0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
こんばんは、今日も書いて行きます。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 19:20:25.12 ID:tXk/0v+L0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「…………がふっ」


リーダーは、朦朧とする意識の底から、なんとか這いあがった。


「………ぐぅ……クソッタレ……がはぁ!」


リーダーは何とか立ち上がったが、大量の血を口から吐き出した。


「………なんだ…あいつは…………?」


あの長髪長身の男が何気なく放った蹴りは、この『肉体強化』を突き破ってきた。

激痛が、まるで刀に突かれたような激痛が腹から全身に駆け巡る。


「ぐぅっガッハ……!」


また、吐血した。


(俺はこんな所まで吹っ飛ばされたのか………)


きっと、あの長髪長身の男は自分に止めを刺す為にここへ来るだろう。

マズイ、このままでは敵が来る。逃げる為、早く治療しなければ。


自分の能力、『肉体強化』とは様々な筋肉・骨格・骨密度・血管などが強化、硬化する事である。

これを応用すれば、色々なこともできる。

――――――例えば、自己再生。

細胞の一つ一つを細胞分裂で増やし、損害部分を修正する。こうすることによって、ある程度の傷は治る事が出来るのだ。

しかし………。


(カロリーが足りない……)


この能力は実は、非常に消費カロリーを消費する。

大量のカロリーを消費する事で細胞が活性化され、筋肉や骨格、骨密度や血管が強化、ないしは硬化することが出来るのだ。

だから常に巨大ハンバーガーや巨大ピザやコーラなど、カロリーが高く、脂質や糖分が多い食品を大量に食していた。

そうすることで、何万kcalものエネルギー源を摂取できる。

だが、先程までの戦いで、摂取したカロリーの殆どが消費されてしまった。

残りはもう、全くと言っていいほどに無い。


(どこかに……何か無いか………)


リーダーは周辺を見渡すが、暗くてよく見えない。が、この部屋は見覚えがある………。

と、不意に手を伸ばしたところに硬い何かが触れた。

この、白いフォルムは………。


「しめた、冷蔵庫だ」

725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 19:21:35.38 ID:tXk/0v+L0
そうか、ここは食堂だったか。

リーダーは縋るように冷蔵庫の中を開けた。早く、何か食べなければ………。

が、中に入っていたのはハンバーガーでもピザでもなく、ミネラルウォーターが入ったペットボトルのみであった。


「………畜生…………がぁぁぁあ…!」


リーダーは腹を抱える。 ヤバい本当に身動き一つ取れない……。


早く逃げなければ……しかし、このダメージではロクに立てない。ではどうする?このままでは敵が来て、死ぬのか?

嫌だ、死にたくない! あの時の、あの残虐に殺されたジャンの様に死んでしまうのか!? 嫌だ!! 死にたくない!!!

逃げろ! このままじゃあ死ぬ!! 逃げろ!! 死にたくない!! 逃げろ!!逃げろ!! 死にたくない!! 死にたくない!!


死にたくないのならば、逃げろ!!!!!




――――――――でも、本当にそうれでいいのか…………?


しかし、そこでリーダーは立ち止まってふと、考えた。


もし、もしもだ。

自分が尻尾を巻いて逃げたとして、本当に逃げられると思っているのか?

敵はアジトをぐるりと囲んでいる。まぁ、念のために脱出用トンネルが複数ある。が、あの清掃作戦の様に先回りされたらどうする?

それに、おめおめと逃げたら、逃げ遅れた自分の部下たちが殺されることになる。



まるで、あの日と同じじゃないか。



「………ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ………」


リーダーは両膝をつき、頭を抱えた。

そうだ、まるであの日と同じだ。まるで再現でもしているかのように、この状況は同じだ。

敵が、アジトを囲んで、襲撃してきて、自分たちを殺してきた。

俺は、走って、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて………。

自分の背後から、聞こえる、助けてと、逃げるなと、裏切者と、自分に助けを求める声と、自分を罵る声とが、頭の中で木霊する。

そして、あの公園でジャンは死んだ。


また、あの悲劇を繰り返すのか?

また、あの惨めな思いをまたするのか?

また、背中を向いて敗走するのか?


また、仲間を殺すのか?


726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 19:22:29.41 ID:tXk/0v+L0
しかし、このまま時が経てば、敵が自分を殺しに来る。

それで、自分の20余年の人生が無様に終わる。

いいじゃないか、他人の人生に何故に自分の人生を犠牲にせねばならない?

この世の中、逃げた者勝ちだ。

生き残った者勝ちだ。

死んだらそこでゲームオーバー。

死んだら負けだ。無様に地面に這いつくばって、臭い臭いを垂らし流しながら、誰も知らずに死んでいくのだ。

死にたくはないだろう?だったら逃げろ。



いや仲間は見捨てられない。あの日を繰り返してはならない。

だったらどうする?このまま行っても死ぬだろう。 それに、自分の部下たちは顔じゃあ従っているように見えるが、内心は相当嫌っていただろうに。

だから誰も感謝しないし、むしろ喜ぶ。「やった、あの糞忌々しい豚の様な男が死んだ!」ってな。それを世の中じゃあ馬鹿って言うんだよ。

でも、ジャンが遺してくれた仲間だ!

それは初期の7人だけだろうが!!

それでも仲間だったんだ!!

仲間でも他人だ!!

他人じゃない!! 確かに自分たちは通じ合ってたんだ!!

それはジャンがいた昔の話だろう!!

それでも!! 逃げたくない!!

だったら死ぬのか!? 車に引かれた蛙の様に!! ぺちゃんこになって、ハラワタぶちまけながら!!

じゃあ仲間が死んでもいいのか!? この手で救えた筈の、仲間が!!

自分が死ぬのよりはマシだ!!


死ぬのか!? 逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!?死ぬのか!? 逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!? 死ぬのか!?逃げるのか!?

727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 19:30:52.75 ID:tXk/0v+L0




「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ。」




リーダーは腑抜けた声を出す。

ススス…と、視界の隅でネズミが一匹、蠢いているのがわかった。

チーチーと、可愛くも無い鳴き声を出しながら、床に転がっているパン屑を突いている。


リーダーは、衝動的にそのネズミを捕まえた。


吐いた血によって汚れた右手のなかで、ネズミはチーッ!チーッ!と悲鳴を上げる。


そのネズミをリーダーは―――――――――――口の中へと放り込んだ。


口の中でネズミが暴れまわる。悲鳴が聞こえる

そして、そのネズミを噛み砕いた。

グシャッ!グシャッ! とネズミの肉と骨が砕ける音がする。。生臭い。吐き気がする。血が不味い。いつも食っているピザのケチャップとは起きな違いだ。

口の中でも悲鳴を上げていたネズミの鳴き声は、小さくなっていき、とうとうなにも鳴かなくなった。

ゴックンと、リーダーは口の中に入っていた物を飲み込む。


「…………………ああ、惨めだな。」


そして、壊れたように笑い出した。



「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


すると、傷口は見る見るうちに塞がっていく。

笑いが収まると、リーダーは立ち上がった。


「惨めだ…ああ、惨めだ。 だれだ、だれだこんな風に惨めにしやがったのは…………」


生臭い血で汚れた口でそう、呟く。


「そうだ、殺せばいい。殺して、生き残ればいい。アハハ、いい考えだ」


リーダーは狂ったような眼で足を進めた。



実は、リーダーはさっき食べたネズミで体力を回復させたわけではない。

たった一匹の小さなネズミを喰っただけで体力は回復することは、出来ない。

例えで来たとしても、戦う為の体力など、毛ほども無い。


しかし、エネルギーはある。

例えば、24時間、常に動いている内臓に使われるエネルギーとか。

彼は、リーダーは、無意識ながらも、自分の内臓の筋肉の動きを停止させ、その分のエネルギーを戦闘に回したのだ。

無論、彼の体は、ただじゃあ済まない。が、仲間を助け、尚且つ生き残れると言う小さな可能性がある、たった一つのやり方だった。


そして、狂戦士は戦場へ赴いた。
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 20:30:02.34 ID:tXk/0v+L0

と、その時、リーダーの後ろでカツンッ…と靴の音が聞こえた。

リーダーは狂ったように首をそこへ向けさせる。暗くてよく見えないが、人の形はしていた。


「……………だれだ? お前」


そう言う自分の声も、自分のとはわからないほどに、狂っている事を自覚した。しかし、この殺人衝動は誰にも止められない。もちろん自分もだ。

あの日、血の絨毯を敷いたあの日以来のこの衝動は、誰にも止められない。

そして、もう一度、リーダーは後ろにいた影に問うた。


「だれだ?お前」


リーダーの問いに、影は答えた。



「初めまして、私、絹旗最愛って言います」



女の声だった。それも若い…と言うか幼い声だった。

リーダーの目は徐々に闇に慣れて、だんだんと影の姿を晒していく。

影は小さかった。中学一年生くらいだろう。ふわふわなワンピースを着ていて、リーダーの後方6m先に突っ立っていた。

名前は、絹旗最愛。その名にリーダーは訊き覚えがあった。


「絹旗最愛………アイテムのメンバー様がなぜここに?」


なるほど、やはり学園都市の闇の情報については結構知っていたか。絹旗はそう心の中で呟いて、リーダーの質問の答えを言った。


「実はあなた達組織を抹殺するよう依頼がされています」

「……? どうして俺達が? 学園都市に刃向った覚えはない」

「いえ、あなたがそう思ってなくても、上からは超邪魔なんでしょうね」

「なぜ?」

「働き過ぎなんですよ。あなた達は」


絹旗は淡々と続けた。


「これは私の超予測ですが………。この一か月の中で行方不明者は今日を含めて40人以上……。これは超異常な数です。しかし、学園都市の評判を超落とさない為に、それを公表する訳にはいきません」

「それがどうした」

「だって超考えてみてくださいよ。自分の子供を預けている学園都市で行方不明者が超続出しているのを聞いて、子供の安全を超不安視しない親はいません。 それに、それに超便乗して外の企業や報道が学園都市を超叩きまくる危険性があります」


絹旗はハハッと鼻で笑った。


「超哀れですね。 研究所やどこぞのお偉いさんの為に、せっせと無能力者の女の子たちを超誘拐して売ってたのに、そのお偉いさんに超切り捨てられるなんて…………。まぁ強姦魔共に言う台詞じゃあありませんが」

「と言うとあれか? お前は俺の命を取りに来たのか?」


リーダーは狂ったような笑顔を見せるが、絹旗はそんな生理的にキモチワルイ顔に眉一つ変えず、こう言い捨てた。


「ええ、私はあなたの様な超クソヤロウの首を取りに来ました」

「だったら決定だな。まずは貴様から殺して、貴様の血肉を喰ってやる」
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 22:00:54.74 ID:tXk/0v+L0
リーダーは、気味が悪い笑みを浮かべ、ニヤニヤとして叫んだ。


「ああ、そうだ、やはりお前をすぐには殺さないでおこう。殺す前に、裸にして両手足を潰し、徹底的に犯してから殺して喰ってる!!」


ああ……とリーダーは口の端から涎と血が混じった液体を垂らしながら、迸った目で絶叫する。


「そう言えば! 俺はロリを犯すのは初めてだなぁ!! ああ、楽しみだ! 小さな未成熟のマンコにドデカいチンコをブチ込んだ時のお前の泣き顔が目に浮かぶ!! そして子宮をブチ抜いてお前の顔を馬鹿みたいなアヘ顔にするのが楽しみだ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ」


リーダーは…いや、発狂した廃人は血に飢えた獣よりの下品に笑った。

そして無表情に自分を見上げる絹旗に、最後に質問した。


「なぁ、お前の肉の味は何なんだ?」


唐突に、ダッ! と地面を蹴った音がした。何の音かわからないが、廃人は消え、立っていた場所にはクレーターが出来ていた事はわかった。

廃人は、一瞬で棒立ちの絹旗の目の前に躍り出た。

廃人は拳を握り締める。一動作で、軽く人間をバラバラにすることが出来る程のパワーを持つ拳は、絹旗の顔面へ一直線に発射され、


「ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


狂い切った叫び声を出し、廃人は拳を振り切った。それにより、突風の様な風が部屋の中で吹き回った。

廃人は、よし殺った。と、思………わなかった


この拳に、そう言った手応えは無かったからだ。




「―――――――――残念ながら、それは超無理ですね」




絹旗の声が、した。


廃人の後ろに、いつの間にか。


廃人は眼を見開き、今の現状が理解できないという表情を見せた。


一瞬で、絹旗は廃人の後ろに移動したのだ。


それをようやく理解した廃人に絹旗は最後の言葉を掛ける。



「だって、その頃にはあなたは超八つ裂きになってるんですから」




刹那。リーダーの胸からブシュゥゥゥゥゥゥゥウウ!!と大量の血飛沫が四散した。


そして、リーダーはガクンッと膝をつき、バタンッと糸が切れた人形の様に倒れた。



誰もいないこの部屋で、絹旗最愛は呟く。




「七花さんと比べれば、超スローに見えます」

730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 23:42:21.06 ID:tXk/0v+L0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


鑢七花は、奇策士とがめを連れて廊下を歩いていた。

いや、違うか。


「そなた!また道に迷ったのか!?」

「わ、悪ぃ……ここ、どこの同じような風景だから………」


二人は、道に迷っていた。

七花にとっては無理もないのかどうかはわからないが、どこも同じ内装で、しかも窓など殆ど無かった。

まぁあくまでここは元研究所。研究するのに豪華な内装はいらないだろうし、そもそも表向きには出したくない研究ばかりしていたらしいので、隠し部屋もあるのかもしれないなと、とがめは予め読んだ資料を思い出してそう思った。


「ええい、七花! 私が前を歩く!!」

「いや、危ないぞ! 敵が来たら…」

「いや、敵はおらんと見ていい。さっきので全員逃げただろうな………っと!?」


と、とがめが言い終わる前に地震が起きた。相当な揺れだが、建物が崩れる事はないだろう。

だが、脆弱な体の造りをしているとがめは、揺れに倒れかける。

そこを七花は受け止めた。


「大丈夫か? とがめ」

「ああ、大丈夫だ。………しかし、でもこの地震……少々揺れがおかしくなかったか?」

「………言われてみれば、そうだな」

「まぁ、気にすることはないか」


そう言って、とがめは七花の腕の中から立ち上がり、歩き出す。


「なぁ、とがめ」


七花はとがめの名を呼んだ。


「なんだ?」

「質問いいか?」

「言ってみろ」

「何で、あそこで駒場と半蔵って奴らを斬らせなかったんだ?」

「なんだ、斬りたかったのか?」

「いいや、そうじゃなくて」


七花は右手を横に振って否定する。


「斬りたくはないけどよ。とがめらしくないって思ってな。 計画なら、すぐにあそこで全滅させて、刀を4本奪うってのだった。でも、とがめはそうはしなかった。なんでだ?」


そう、当初、『斬刀 鈍』『賊刀 鎧』『絶刀 鉋』が集まり、お互いの所有者が争って消耗した所を乱入し、殲滅させるという、とがめの奇策だった。

それをわざわざ曲げて、とがめは『鈍』を蒐集するだけに留まり、駒場と同盟を結んだ。

これは、とがめらしくない。


その問いに、とがめは素直に説明した。

731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 23:43:16.51 ID:tXk/0v+L0
「七花よ、覚えておけ。 戦いにも流儀というものがあるのだ」

「?」

「もし、駒場があの場に来なかったら、私はきっと…いや絶対に傷物にされていただろう。奴は私にとって恩人なのだ」


とがめは続ける。


「まぁ、私もああいった体験は無いとは言いけれない。でも、女という者は、そう言ったものが嫌なのだよ。それは私も例外ではない」

「………」

「まさか、そなたは私が寝取られても良いと言うのか?」

「いや………、」

「なっ、まさか!? まさかの、この世界で言う『ねとられふぇち』と言う奴か!? 失望したぞ七花!!まさかそなたがそう言う人間だったとは!!」

「いや、待てよとがめ!!」


七花はとがめの肩を掴んだ。そして、真剣な目でこう言った。


「とがめ、お前が言っていることが全くわからん」

「……ぁ?」


とがめは一瞬で、のーんとした顔になった。


「……俺はお前が言っている事がさっぱりわからん。『傷物になる』ってなんだ?『寝取られる』ってなんだ? 訳も分からん内に失望されては困る」

「…………………………」


もしや…ととがめの頭の中で、ある可能性が浮かばれた。


「…………なぁ、七花」

「なんだ」

「子供って、なんで生まれるか知っているか?」

「そりゃあ知ってるだろ。母ちゃんの腹ん中から出てくるに決まってる」

「じゃあ、なぜ母親の腹から生まれる?」

「………? 自然と出て来るもんじゃねぇのか?」

「…………………………」


愕然。鑢七花は性教育という物をされていなかった。

とがめは遠い目をする。

そうだった。この男は薩摩の温泉で混浴で一緒になっても、勃起どころか発情もしなかった男だった。


「…………まぁ、無理もないか。無人島育ちだからな…」

「? どうしたとがめ」

「いや、何でもない。質問については後々話す………」

「??」

「とにかく、そういう事だ」


でもまさか、おしべめしべ云々を知らない青年がこの世にいるとは……。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 23:46:34.99 ID:tXk/0v+L0

とがめは足を進めた。


「それとだな、奴らを斬らせなかった理由はもう一つある」

「なんだ?」

「そうだな……………………………………………自分でもよくわからん」

「なんだそりゃ」


七花は前のめりになる。


「そうだな、厳密に言えば、彼らを応援したくなったのかもしれないな」

「……。」

「…………ああ、この学園都市という街は、無能力者と呼ばれる者達には随分と厳しいのだと思ってな。ああいう風に苦しむ者の為に戦う人間は、私は嫌いじゃない」


でもな、ととがめは考えを別の方向へ変えた。


「元軍所の人間とするならば、ああいった人間はあまり良くは見ない」

「どうしてだ?」

「―――――――――――すぐに死ぬからだ」


七花は、彼女が言っている事を一秒、理解できなかった。


「それはそうだろう? あれだけの兵器の数。強力な装備。駒に使う人の数。何より、駒場と言う男の統率力が非常に良い。そして完成形変体刀が二本も所持してある」

「なんだ、いいことばかりじゃないか」

「ああ、確かのそうだ。奴らは強い。強い上に士気も闘志も団結力も高いだろう。恐らく彼らほど組織としての戦闘能力が高い組織は滅多にないだろう。 最も、弱点が無い。―――――――だが、それが一番の弱点だ」

「?? どういう事だ?」


七花は疑問をぶつける。


「どうして弱点がないのに、それが弱点なんだ?」

「さっき言ったであろう、『この街は無能力者に厳しい』と」

「は?」

「この世にはこんな諺がある。『出る杭は打たれる』とな。まさにあいつ等の事だ。この街でもっとも身分が低い無能力者が大きすぎる力を手に入れた。しかもその力の使い方を十二分に扱える集団だ。もし、周りがそれを見たらどう考える?」

「そりゃあ……危険だと思う」

「30点」

「低いな」

「正解の一つはそれだ。 殆どは彼らの暴力に危惧するだろう。でもある者は…例えば、元々彼らより強かったが今は衰える者。きっと憎たらしく思うだろう。 今も強い力を持っている者も『たかが無能力者の癖に』と良くは思えまい」

733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 23:47:46.42 ID:tXk/0v+L0
「それがどうしたんだ? そいつらを一つずつ倒せばいいだろう?」

「一つずつ、ならな。 だが、もしも相手が大人数なら? また、もしも相手が手を結んで一斉に攻めて来たら?」

「……………あー、」

「そうだ、幾ら虎の様に強くても、千万の敵には絶対に敵わない。 七花よ、お前は一万の敵と対峙したら、生き残る事が出来るか?」

「無理だ」

「十中八九、奴らは近いうちに全滅、ないしは壊滅する。知っているか? いま崩壊したこの組織の前身も元々は低能力者が力を付ける為に作った組織らしい。そして前身の組織は巨大な力を手にし過ぎて、敵に包囲されて潰えた」

「あいつらと瓜二つだな」

「ああ、全くだ。 ………それが、元軍所である私が奴らが好きでない理由だ」


なるほど……と、七花は頷いた。と、ハッ!とある考えが頭を過った。


「とがめ、まさか……駒場たちが死ぬのを待っているのか?」


七花の問いに、とがめはニマリと笑った。


「まさか、“私は奴らの大義と正義が達成するのを祈っているよ”。ただ、もし死んでしまったら、『賊刀 鎧』と『絶刀 鉋』を回収する……これが私の奇策だ」

「汚いな」

「仕方あるまいよ。恩人を手にかける程、私は落ちぶれてはいない。それに同盟を結んでしまった。同盟はこちらから破る事は出来ない」

「ま、とがめらしいか」

「でも、奴らの“大義”と“正義”が達成されるのは、本当の意味で心の底から祈っておる。それは神に誓ってもいい」

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/28(月) 23:48:24.71 ID:tXk/0v+L0
と、二人はとある部屋に辿り着いた。

七花はその部屋の中にいた少女を呼んだ。


「おーい、絹旗ー!」

「あ、七花さん!」


まるで尻尾を振った犬の様に絹旗最愛は七花の元へ走り寄ってきた。


「敵は?」


とがめは訊く。絹旗は真面目な顔でそれに答える。


「はい、超指示通りやりました」

「ならいい」


とがめは部屋の中に転がっている一つの死体を見た。


(まだ血は凝固されていないと言う事は、まだそんなに時間は経っていない。それにこの出血の量からすると斬殺か)


七花も死体を見ていた。


「絹旗」

「はい、なんでしょう、七花さん」

「お前、成長したな」

「ありがとうございます」


絹旗は嬉しそうに喜ぶ。

とがめは、一通り見て、


「二人共、さっさとこの廃墟から出るぞ、警備員くる」


そう、踵を返してそう言った。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 01:46:42.26 ID:AmmEdfuN0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はぁ…はぁ……はぁ………」


どうして、こうなったのか………理解をするのには、脳が追いついていなかった。


サブは、アフロヘヤーを大雨で濡らしながら生き残った仲間たちと走っていた。生きているのは、自分を含め3人しか知らない。

あの全身傷だらけの着物を着たバケモノから逃げる為、皆バラバラになって逃げてきたので、あそこから逃げてきた奴らが無事なのかは知らない。

そして、取り残してきてしまったリーダーも………。

いつもはお調子者として組織のムードメーカーだったサブも、今回ばかりは顔をにがませた。


「サブさんッ! もうここまででいいのでは!?」


後で部下の一人が叫ぶ。

サブはその声を聴き、立ち止まった。


「そうだな♪ ここでいったん休憩だな♪ 一本飲むかいソーダ♪ これがまた美味しいんだな♪ ……………って、ラップ刻んでる状況じゃねぇな」


サブは壁を拳で殴る。

生きていろよ………皆………。


と、叫んだ部下は気を切らしながらもこう言った。


「いえ、むしろいつものつまらないラップ刻んでくださいよ。いつもはイライラするけど、あなたがラップ刻まないと、調子が狂う」

「……………。」


不意に、涙が出てきた。


「HEY! お言葉に甘えてやっちゃうYO♪ 雨に打たれて体COOL♪ でも甘ぇちゃダメYO♪ Yearチェケラッチョー!」


決った……。『甘え』と『雨』を掛けたラップ。率直に考えたものでは最高傑作だ。


「………ププッ、やっぱりサブさんはこうでなくっちゃ。いつもみたいにつまらないですねww」

「はは。でも、そうでなかったらむしろ嫌だね」


喜べばいいのか、悲しめばいいのか、正直わからなかったが、とりあえずは良しとしよう。


今、自分たち3人はアジトの外へまで逃げてきた。

正直あの清掃作戦の事を思い出して、敵の包囲網を力ずくで突破しようと考えていたが、敵は撤退してた。

そこで自分たちはその隙にアジトから敷地外まで逃げて来たのだ。

リーダーや他の皆は心配だが、何より自分の命が大切だと、本能が赴くままに行動した。


サブはポケットから禁煙をしていた筈の煙草の箱を取り出した。そしてそれから一本、煙草を咥えて能力で指から熱を作って当てる。

が、煙草が雨で湿気っていて火が付かなかった。

サブは煙草を投げ捨てる。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 01:48:12.24 ID:AmmEdfuN0
とりあえず、近くにあった自動販売機でラップの通り、ソーダを買うことにした。

商品名は『ヤシの実サイダー』

ソーダじゃないが、別に変らないだろう。それを三つ買って、部下二人に渡す。


「アザッス」「どうも」


部下二人は缶を開けて、サイダーを呑む。すると、一人が呟いた。


「なぁ、俺達、どうなるんだろう……」

「………、」


サブは、何も言えなかった。


「俺達、死ぬのかな」

「おい、何言ってんだ?」


もう一人の部下が言った。


「でも、だって、アジトは崩壊したし、組織もバラバラ……それに軍隊並の兵器を持った武装無能力者集団がいて、しかもあんなバケモノがいるんだぞ!? 生きた心地がしねぇよぉ!!」


彼の顔から、涙が滝の様に流れていた。


「サブさん! あんたはあの清掃作戦の生き残りでしょ!? だったらどうするかわかるんでしょう!? だったら教えてください!!」

「……………ッ、」


サブは一瞬、言葉が詰まった。そして、いつも通りのラップで誤魔化した。


「あの時は♪ 我武者羅にツッコんでいったゼェーツッ♪ 特攻していったら突き抜けたゼェーツッ♪ もしかしたら♪ 俺達MO 我武者羅根性見せたら何とかなるかもYO♪ ゼェーーツッ!!」


「……………誤魔化さないでください」


見抜かれた。


「…………………そうですよね。いくら伝説の初期メンバーだったサブさんでも、今回ばかりは無理ですよね」

「……………」


重たい空気が、3人を包んだ………。


でも、サブはそれでも諦めなかった。


「おい、お前ら。何メソメソしている」


サブはいつものふざけたラップ口調をやめ、低い声で部下たちに語りかけた。

737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 01:48:46.24 ID:AmmEdfuN0

「俺は確かにあの清掃作戦の生き残りだ。あの時は敵をバッタバッタと倒して、見事に三つの包囲網を打ち破った。――――――でもな」


サブは持っていた空き缶を強く握る。


「最初は無理だったと思った。誰もが挫けた。絶望した。泣いた。叫んだ。あの冷静沈着のヤンだって叫んだ。あの怖いもの知らずのシンだって震えた。絶対に泣かない奴だったジョンもあの時ばかりは泣いた。数多な苦難を体験したヤマでも絶望した。いつも冗談ばかり言っているボンだって笑ってはいられなかった。そして、誰よりも信頼できた男だったジャンだって、あの時は何をどうすればわからなかった!………でも、それでも俺達はやるしかなかった」

「………サブ…さん」

「俺達は仲間だ。だから、絶対に裏切らないし、嘘はつかない。―――――実は……」


サブは両手を頭に当て、アフロを握った。

そして―――


「実はこれ、ズラなんだ」



アフロはなんとズラだった。


「「え、えええええええええ!!」」


部下たちはハモリながら驚く。

サブは、丸坊主の頭の上に、ズラを乗せた。


「これで俺はお前たちに秘密をバラした。だから俺は裏切らない………!」

「…………サブさん……」

「だから、俺達は仲間だ!!」

「サブさん」

「絶対に生きて帰るぞ!! 仲間の元へ!!」

「サブさん!!」

「行くぞ! そして生きてあの仲間と再会し、生き延びた喜びを共に噛み締めようじゃないか!!」

「サブさぁぁぁああん!!」


部下二人はサブの胸に飛び込んだ。そして大泣きして抱き着く。

その二人の頭をよしよしと撫で、サブは闘志で燃やした眼で振り返る。


「ではまず、逃げ出した仲間たちを探すぞ! そしてあの無能力者どもに復讐する!!」

「「ォォオオオオオオオオ!!」」


そうして、3人は闘志を炎よりも燃やし、足を前に進めた。


その時――――――



一閃の光の線が、サブのアフロを貫いた。


738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 01:49:38.68 ID:AmmEdfuN0
直撃はしなかったものの、通過した光線の後からやってきた爆風で、3人はふっ飛ばされた。


「「「グァァァアアアアアアアアアアア!!」」」


しかし、サブは上手く受け身を取って立ち上がる。


「だ、誰だ!?」


サブは前方を睨む。と、そこには………。



739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 01:50:14.22 ID:AmmEdfuN0
常盤台中学の制服を着た、全身から紫電を鳴らす、一人の鬼神がいた。



鬼神は3人の人間に鉄槌を下す様に、電撃の槍をぶちまけた。


部下の一人は、とっさに能力でサブの前に地面のコンクリートを操って壁造ってサブを守る。

が、その壁は難無く壊され、サブは吹っ飛んだ。


「がぁぁあ!!」

「サブさん!」

「大丈夫だ。ありがとう」


サブと二人の部下は、一つに固まる。


「おい、お前らの能力は何だっけ?」

「私は念動力で地面を操る『地面操作(ラウンドコントロール)』強能力者です!」

「俺は対象の重力の方向を変化させる『重力変換(グラヴティチェンジ)』強能力者です!」

「よし、じゃあ前に土の壁を作って、俺が合図したら重力をアイツの方向へ変えろ!!」

「「はいっ!」」


部下の一人が地面に両手を当てると、サブの前に一枚の土の壁が出来た。

それをサブは摂氏3000℃で熱し、拳で数発殴って砕く。すると、火の玉となった壁の破片は、もう一人の部下の能力によって美琴に降り注いだ。


が、鬼神の電撃によってそれらはことごとく破壊された。


「………な、なにっ!?」


サブは一瞬、恐怖した。まさか…こいつは………。


すると、鬼神は殺気を含めた声で、サブたちをさらに恐怖させた。


「ねぇ……あんた達、もしかしてあの廃墟にいた奴らの仲間……?」


サブは記憶の糸をたぐる。この女を、自分は知っている。


「だったら、覚悟しなさい…。私、今、物ッ凄く機嫌が悪いから………」


そうだ、この女は……常盤台のエース。最強の電撃姫。最強の超能力者七人の一角。



「もしかしたら、あんた達を殺すかもしれないから………上手く回避しなさい」



御坂美琴だ。



電撃を操る鬼神、御坂美琴の周囲には、まさに鬼神の名に恥じない程の雷の嵐が鳴り響いていた。後ろには30m程の巨大な砂鉄の斧が踊り、地面のコンクリートがベリベリと剥がれていた。


鬼神…いや、そう言うより、雷神との名が相応しいか。

サブは、そう感想を述べた。
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 02:15:32.28 ID:AmmEdfuN0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


男が5人。走っていた。

まるで脱兎の如く。

彼らは何か強力な超能力と呼ばれる摩訶不思議な力を有していた。

しかし、彼らは逃げている。

何も力を持たない無能力者に敗け、得体のしれないバケモノに蹂躙され、おめおめとここまで逃げていた。

強く身を叩く雨の中、男達は立ち止まる。

なぜなら……。


「こ、ここは……と、通させません」


子供が一人、立ちはだかっていたからだ。


真庭人鳥は、涙で汚れた顔で、道をふさぐ。


「………なんだ? てめぇ……」


男の一人が睨んだ。


「どけっクソガキ!! てめぇとなんか遊んでる場合じゃねェんだよ!!」


男は掌を人鳥に翳すと、そこから空弾を飛ばした。

ダァンッ! と人鳥のすぐ真下の地面を抉り取った。


「次は外さねぇぜ?」

「ど、どかない!! よくも蝙蝠さんを!!」

「??」


厳密に言えば、蝙蝠と人鳥を襲ったのは猟犬部隊なのだが、人鳥は彼らの仲間だと思っていた。


「しょうがねぇ………じゃあカッコつけたまま、死んでしまえ」


そうして、男の掌から空弾が発射された。

それは人鳥にへと真っ直ぐに突っ走り………一人でに避けて行った。


「あぁっ??」

「バァカ、何外してんだよ。俺がやる!」


そう言って、隣にいた男が懐からナイフを取り出し、人鳥に襲ってきた。
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 02:16:04.14 ID:AmmEdfuN0


(……ま、不味い! 『忍法運命崩し』は遠距離攻撃にしか効果が無い! 接近戦で来られたら……!)

十割の確率で死ぬだろう。


「……ッッ………こ、蝙蝠さぁぁぁぁああああああん!!」


人鳥はもう、この世にいないだろう仲間の名を呼んだ。すると……。


「呼んだか?」


蝙蝠の声が、襲ってきた男の後ろからした。


「………へ?」


蝙蝠は、手にした刃渡りが50cmの長いナイフで、男の腹を背中から貫いた。


「………冥土の蝙蝠、只今推参! ………なんつってな。きゃはきゃは!」


そう格好つけて、蝙蝠は男の背中からナイフを抜きだし、振り向いた。

そして空気を腹に溜めて、一気に吐き出す!


「短剣砲!!」


口の中から飛び出した、無数のナイフたちは、4人の男達を貫き、殺した。


「………大丈夫だったか? 人鳥」


蝙蝠は人鳥の頭をガシガシと撫でで笑う。


「蝙蝠さぁぁぁあん!!うわぁぁぁぁぁぁ!」


人鳥はボロボロと泣きだした。


「おいおい、忍がそんなに泣くなよ」

「だってぇ……だってぇ……こ、蝙蝠さんが……し……死んだかと………わぁぁぁぁん!!」

「ヴァーカかお前。この俺さまがそう易々と死ぬかっつーの! きゃはきゃはきゃは!!」


蝙蝠は笑う。


(でもまぁ、正直死ぬかと思ったんだけどよ。 でっけぇ借りが出来たな………名前はなんつったっけ? そうそう、絹旗最愛とか言ったか。あいつがあそこで敵を倒さなけりゃあ、今頃俺さまは仏様になってたぜ)


「ま、別にいいけどよ」


そう、蝙蝠は強い雨が降る天を仰いだ。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:34:04.83 ID:AmmEdfuN0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ジョンはたった一人で、裏路地を走っていた。


しかし、コンクリートのみぞに足を挟んでしまい、ド派手に転んでしまった。


「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!コンチクショウ!!」


拳で、地面を叩くジョン。

どうして、あんな風になってしまったのか………。

武装無能力者集団にメチャクチャにされ、得体のしれない怪物に仲間を斬られた。

兄から、汪誠者が遺した組織が、また潰された。


「がぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ジョンは地球に頭突きする。

が、そんなことしても地球は動かないし、何も起こらない。


そんな事、わかっている。わかっているさ!!


でも、ジャン兄さんの宝物を、潰された。壊された。蹂躙され、犯された。


「チクショォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


獣のように吠えるジョン。

ああ、兄が大好きだった、あの仲間たち。彼らはどうしたのだろう。

マンションは六枚羽によって挽肉にされた。

ボンは殺されていた。死体が、とある部屋にあった。

シンもヤンもヤマも、まだあのアジトに残したままだ。

サブは逃げる途中に離れ離れになってしまった。

かつて、あの地獄の業火に晒された様な戦場を文字通り駆け抜けた同士たちは、今……。

そして、リーダーはどうしたのだろうか……。


ジャンが死んだあと、必死になって大きくしてきたこの組織は、多くの仲間たちがいた。

しかし、その殆どは無残な殺し方で一か所に集められていた。

まるで血の空間だった。

いつも肩を叩きながら笑いあっていた仲間たちの死体を、俺は踏みつけて逃げてきた………。




「ウォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」




負け犬のように遠吠えするジョンは、天を仰いだ。


「憎い!! こんなことをした奴が憎い!! 殺してやる!! 殺してやる!! こんなクソッタレな世界なんて、この俺がぶっ壊してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!!」


ジョンは二つの目から涙を流し、吠える。

すると……。
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:35:30.17 ID:AmmEdfuN0




「おい、お前」




声が、聞こえた。


正面からだ。男の声。若い。高校生くらいだろうか。



「おい、お前。 あの廃墟にいたヤツだな!?」


ジョンは高校生の顔を見る。


「それが……どうした」


すると、高校生は吠える。


「歯ぁ食いしばれ!!!」


そして、ジョンの顔面を拳で殴った。


「……ぐっ!?」


ジョンは泥だらけの地面に叩き付けられた。


「………なんだぁ…てめぇ」

「それはこっちのセリフだ!!」


高校生は吠える。


「人の友達掻っ攫いやがって!! しかも廃墟に籠って強姦だ!? ふざけんじゃねぇぞ!!」


高校生はジョンの上に圧し掛かり、胸倉を掴んで右手で殴りまくる。

ガキッ!バキッ!ゴキッ!と、骨と骨がぶつかり合う音が雨の中に木霊した。

そして、高校生の拳の皮が剥がれ、血が滲み出て、ジョンの顔が蛸のように腫れ上がると、高校生はジョンの顔を最後に殴って吠えた。


「なんでそんな事するんだよ!!? なんでそんな人の一生を狂わせる事をするんだよ!!? なんでそんな事だ出来るんだよ!!?


高校生はジョンの胸倉を掴んで立ち上がり、壁に叩き付けた。


「立てよ!! そんな事、ぜってぇ出来ないようしてやる!! そして泣かしてきた人達に謝れ!!!」


高校生はさらに拳を振りかざし、ジョンに襲い掛かる。

が、その手をジョンは受け止め、握った。

744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:36:16.28 ID:AmmEdfuN0

「…………るせぇよ……」


そして、高校生の手を引き、彼の額に頭突きをした。

彼も吠える。


「うるせぇよ!! カス!! 俺だってなぁ!! 好きでこんなことしてんじゃねェんだよ!!! しょうがねぇんだよ!! こんなことしなきゃ、俺達は生き残っていけなかったんだ!!!」


ジョンは高校生の腹を喧嘩蹴りした。

高校生の肺の中に入っていた酸素は全て吐き出され、息が止まる。その隙に、ジョンは彼の横っ面に左の逆回転蹴りを浴びせる。

高校生は文字通り吹っ飛んだ。



「それはリーダーの命令だった……!! でもな! これはあのクソエロジジィの差し金だったんだよ!!!」


始まりはあの清掃作戦の半年後だった。

ジョンたちは追われる身だった。顔写真が学園都市中に貼られ、警備員と風紀委員は彼らをテロリストとして扱っていた。

そこに現れたのは、あの第一学区のとある大学の教授をしているらしい中年だった。

彼は、ジョンたちに学園都市の闇に住むことを提案し、人身売買というジャンルの商売を推薦した。

当然、俺達は断った。もしジャンが居たら、絶対に断っていただろうと考えたからだ。

しかし、あいつは承諾した。今、組織のリーダーとして君臨する、あの男だ。

あいつはあいつなりに考えたのだろう。もし捕まればどの道、闇の中に強制的に入らされると踏んだからだとジョンは推測した。

しかも、あいつは男にある条件を出したらしい。『商品となるのは、無能力者のみ』だと。



やりたくもない誘拐をし、それをどこかの研究所の人体実験のモルモットとして売ったり、どこかの売春組織に売ったりと、決してに人道的とは言えない事をした。

でも、そうしなければ俺達は死ぬ。

そう思えば、何とかできた。

それから仲間たちは段々増え、ジャンと組織を造った目的である、『能力開発』を進めて行った。

するとますます仲間が増えて行った。ついには100人を達成し、清掃作戦前の栄光を取り戻したかに見えた。


しかし、そこからだ。 そこからジョンたちはおかしくなった。


誘拐し、売りに出すと、当然、売れ残りが出てくる。

その売れ残りは翌日にも売られる。

即ち、商品は夜をアジトの中で過ごすことになる。

すると、誰かが売り物をレイプした。

もちろんダメだ。

商品を傷物にすることは禁止だと、初めに言ったからだ。

しかし、レイプは夜な夜なこっそりと続けられ、仕舞いには当然のようにレイプする様になっていた。

そうして、この狂気とも呼べる集団行動にブレーキが掛けられず、仕方なく放っておいてしまった。

そして、商品をレイプしろと命じたの、あのリーダーだったと言う事を知ったのは、随分と後の話だある。


こうして、今の組織が創られてしまった。


745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:36:58.72 ID:AmmEdfuN0
「しょうがなかったんだよ!! 歯止めがきかなかったんだ!! あの狂気は誰にも止められない!! あの清掃作戦の日から!!!!」


ジョンは怒りと悲しみで涙を流す。


「でも、俺はあの組織が大好きでよぉ……! みんな根は良い奴ばっかなんだぜ…? 確かに胸を張って誇れる奴なんかいねぇよ。でもな? ジャンが、兄さんが遺した仲間たちを………俺は裏切ることが出来なかったんだ!!!!」


ジョンは高校生の殴る。殴る。蹴る。また殴る。


「そして今日!! 武装無能力者集団がやってきて、俺達の組織をメチャクチャにした……。猟犬部隊が仲間を殺した……。得体のしれない奴が仲間を蹂躙した!!!」


ジョンは叫びながら、高校生を殴った。


「俺は憎い!! 俺達の組織を破壊していった奴らが憎い!! 俺達の仲間を殺した奴らが憎い!! 俺達の宝物を犯した奴らが憎い!!! だから皆殺してやる!! この世界も!! このクソッタレな世界を!!」


そうして、ジョンは懐からバタフライナイフを取り出し、その刃を上条に刺そうとした。

………が、


「テメェ………ふざけんじゃねぇぞ!?」


その手を、刃を指で挟む形で受け止めた。


「そんなの、ただの逆恨みじゃねぇぇか!! 当たり前だ!! それほどの事をされることをしてきたんだから!!」

「うるせぇえ!!」

「黙れ!! 何でもっと早くダメだって言わなかった!? なんでもっと早くやめようと言わなかった!? どうしてだ!?言ってみろ!!言えなかったなんて言わせないからな!!」


高校生は吠え、ジョンの腹を蹴り上げた。


「ゲフッ!」


ジョンの体は浮かび上がり、高校生はジョンの体をどかして立ち上がる。


「そんなの自分の自業自得だ!! 自分がしてきたことのツケが、ここに回って来たんだよ!!」

「て、テメェに何がわかる!!」

「わかんねぇよ!! でもなぁ、そんな悲しいやり方でいいのか!? そんな残酷なやり方で生きていていいのか!? そんなの胸を張って言えるのか!?」

「そんなことわかっている!! 確かに俺達は犯罪者だ! 人も随分と殺してきた!! 人に憎まれてもしょうがない、地獄行き決定の大馬鹿野郎だよ!! でもな、この組織を守るのには、これしかなかったんだ!!!」

「………ふざけんじゃねぇ!!」


高校生はジョンの腹を蹴る。ジョンはそれをモロに喰らい、転がった。
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:38:04.41 ID:AmmEdfuN0

「なんでお前の口からいつもいつも、組織組織組織……! そればっかじゃねぇか!! 組織の為!?組織が生き残る為!?兄貴が遺した物だから!?仲間を守る為!? ふざけてんじゃねぇぞ!?」

「ふざけてなんていねぇぞ!!」


「じゃあ何でテメェの本心がねぇんだよ!!」


「……ッッ!?」

「お前が望むのは、自分の事よりも他人の事ばっか……なんで自分がしたい事をいわねぇ!? 嫌だったら、なんで嫌だって言わねぇ!? おかしいだろ!! まるで失敗したら『人の為にしてたから、自分は関係ない』と言っているようなモンじゃねぇか!!」

「ちがう!!」

「そうだろう!! だったら、お前の本心は全て『組織の為』にあるのか!?」

「……ぅ…」

「違うだろ!? お前はお前だ! 一人の人間として、お前って言う人間が、なんでテメェの事を決められねぇ!!自分の人生だろうが!!」

「ぅぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ジョンは雄叫びを上げ、高校生に襲い掛かり、タックルをかました。高校生は転がり、後ろにあった壁に頭をぶつけた。


「がっ…」


ジョンは高校生を本気で潰す為、自分の能力を発動させる。ジョンの能力は『予見能力』未来と過去を見ることが出来る。これで高校生の動きを完全に読み、完璧に潰す。――――――――――――が、


「………………なんで……」


ジョンが愕然とした。なぜなら………。


「なんで! お前の未来が見えないッ!?」


ジョンが後ずさる。 大能力者として生きてきたジョンは、ウンともスンとも言わない自分の能力にパニックを起こした。

今度は、俺の能力を奪うのか、と。


「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ジョンは高校生に殴りつける。

が、高校生はギリギリの所で回避し、体勢を整えた。

そしてジョンにこう言った。


「………そうか、お前は過去に囚われているんだ。 過去に囚われたまま、自分の事も自分で決められない…………だったら!!」


ジョンは、走り出した。

同時に、高校生も走り出した。

二人同時に、右の拳を繰り出す!!

そして―――――――――





「―――――――――――――――まずは、その幻想をブチ殺す!!」






高校生は、上条当麻は、ジョンの右ストレートを頬にかすめながら、自分の渾身の右ストレートをジョンに叩き付けた。
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 03:39:06.70 ID:AmmEdfuN0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。

明日学校なのに………気付いたら3:30www
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 23:20:43.50 ID:AmmEdfuN0
こんばんは、今日も書きます。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/29(火) 23:55:16.58 ID:AmmEdfuN0
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ザーーーーーーと、強い雨が、自分の顔を容赦なく叩くのが、良くわかった。ジョンはボーッと、鉛色の空を何も感じずにただ、ただ、見上げていた。

頭上には、さっきまで殴り合い、自分たちの思いをぶつけ合った、高校生がいた。上条当麻は、殴られ過ぎてパンパンになった顔で自分を見下ろす。上条は、今にも崩れ落ちそうだったが、それを何とか持ちこたえていた。

…………どうして、ここまで他人の事に必死になれるのだろうか、ジョンはわからなかった。

でも、この男は、自分に『他人の為だけに生きるな。自分の人生は自分て決めろ。』と、そう怒鳴りつけた。

ははは………、おかしいものだ。一番他人の為にボロボロになってまで戦った男が、何を言っているんだ………。

ジョンは、それがどうしようもなく気になって、上条に訊いた。


「なぁ……なんで、お前はそんなになるまで、ボロボロになってまで、他人の為だけに戦う?」


ジョンの問いに、上条はふぅ…と息をついた。


「決まってるだろう」


同然のように、


「俺がしたからやるんだ」


そう言った上条は踵を返し、この場から去ろうと足を前に進めた。


「……………」


ジョンは、目を見開いて驚く…。


「………ハッ……」


そして小さく笑った。

ジョンは、敗けたような顔で、こう最後に質問する。



「俺も……お前の様になれるかな……」



上条は背を向けながら、また当然のように答える。


「そんなの、お前次第だよ……」


と…。


「そうか………」


ジョンは、今度は笑って鉛色の空を見上げる。


「俺も、なれるといいな………」


そうしてジョンは、朦朧とする意識の中に、溶けて行く。と、上条は前を向いたまま、気を失う前のジョンに釘を刺すようにこう言った。


「ちゃんと、お前たちに泣かされた女の子たちに謝って来いよ」

「ああ、了解した……………」


こうして、二人の戦いは終わった。

上条は路地裏を出る。と、遠くから大きな爆発音が轟いた。
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 01:07:13.71 ID:Zll7E9CZ0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ッ!!


御坂美琴という雷神の周りには、無数の電気の筋が迸っていた。

美琴は4m程先にいる敵を見下ろす。


二人、倒した。


一人はアフロ頭だった男だった。

どうやらアフロはズラだったようで、今は丸坊主で焦げている。

もう一人は彼の部下らしき人物だろう男だった。

二人共ぐったりと倒れているが、生死は………わからない。



自分は今、本気で敵を殲滅している。

もちろん殺すつもりはない。

だが、あのヤマとか言う男の戦いで、戦いは本気でする物だと高い授業料を払って学んだ。


だから、美琴は躊躇わずに全力で、電撃を放った。相手がボロボロになるまで。


「や、止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!」


男の一人が、泣き叫んだ。


「もういいじゃねぇか!! なんでここまでするんだよォ!? これじゃあホントに二人とも死んじまう」

「うるさい」


沢山の人間の人生を大きく狂わせてきた、お前に言われたくない。


美琴はポケットから一枚、コインを取りだした。それを指で挟み、男に向ける。

これが何の行為か男は知っていた。だってさっき一発撃ったのだから、あのアフロ頭に。


「嫌だぁぁぁああああ!! 死にたくねぇえええええ!!」


男は泣きながら、ぐったりと横たわる仲間とサブの体を抱くようにして守りながら、絶叫する。

そんな男を、美琴は冷たく見下ろす。


「その言葉、木縞さんにも聞かせたかったわ……」


そして、コインを上に弾いた。あとは、落下してきたコインを人差し指でだけで、あの3人の殲滅は完了する。

しかし、




「おい、御坂」



後ろから、誰かが肩を掴んだ。

ああ、この声は良く知っている。よく、一緒にいる男の声だった。
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 01:07:42.76 ID:Zll7E9CZ0

上条当麻は、御坂美琴の肩を掴み、


「止めろ、もういい」


そう言った。しかし、美琴は反論する。


「でも、あいつはまだ立っている。戦える。だから今のうちに潰す。」


美琴はそう言った瞬間、上条は美琴の体を自分の方に向けさせ、左頬を平手打ちした。

パァンッ!!と小奇麗な音が美琴の耳に刺さった。


「ッ!?」


美琴は、何が起こったのか、わからなかった。ただ、ジンジンとする痛みだけがしっかりとする。

上条は静かに、美琴の両肩を掴んで強く、言った。


「バカヤロウ。 もう敵は気を失っている」

「―――――――ッ!!」


美琴はゆっくりと、顔を敵に向ける。

敵は、白目を剥いて倒れていた。


「………!!」


美琴はもう少しのところで自分は人殺しになってしまうところった。そしてショックだった。自分が、殺人と言う人が最もやってはいけない大罪を犯すことを、自覚していなかったのだ。


「………私は……ッ!!」


美琴は掠れた声で、泣きそうな顔で自分がやって来たことを悔いた。

そして上条の顔を見る。

上条の顔は、殴られ過ぎて蛸のようにパンパンに腫れていた。


「………これ以上、憎しみの連鎖を生み出すな……」


美琴の顔から、突然と涙が出てきた。


「………ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」


そして、上条の胸に顔を埋めて、静かに泣いていた。

上条は美琴が泣き止むまでただ、彼女の傍にいた。










その背中を、一人の影が見ていた。


「うん、やっぱり彼女には戦争は似合わないね」


彼我木輪廻はそう呟いて、煙のように消えた。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 02:30:20.36 ID:Zll7E9CZ0
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「さて、これで事件は一件解決だな」


そう、とある廃病院の屋上で、女の声だした。


「君たちはこれからどうするかね?」


敦賀迷彩は雨の中、巫女装束に紺色の傘という不思議な組み合わせの恰好で立って、後ろにいた少女3人に訊いた。

彼女らも傘をさしている。

彼女らが持っている傘は、全て廃病院の忘れ物としておいてあったものを拝借してきた。

そんな少女たち3人、佐天涙子、吹寄制理、木縞春花は真剣な目で迷彩を見る。


「いや、質問を具体的にしようか……」


迷彩はうーんと考えて、改めて訊く。


「これから警備員と風紀委員がここに来る。無論、あの廃墟にいる組織の人間を捕らえにだ。彼らは君たちを快く迎えるだろうさ。だから保護されに行っても問題ないだろう」


それか、と迷彩は続ける。


「ここに残って、戦士の帰還を見届けるか?」


迷彩は笑って遠くを指を刺した。

その先には、美琴が上条に肩を担がれて、ここまで歩いているのが見えた。


「それか勝手に帰っても別に私は構わんよ。君たちの好きにすればいいさ」


迷彩はそう言って、踵を返した。


「私はこれでお暇させてもらう。私が出来る事は何もないからね」


そう、軽い口調で迷彩は言う。

と、その時、遠くでバラバラバラ……と、何かが飛んできた音がした。


一機の、軍用ヘリだった。

753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 02:30:51.78 ID:Zll7E9CZ0
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そのヘリの中で、木原は怒号を飛ばしていた。


「チクショウ!!」

(そう怒るなよ、兄弟。 機会はまだある)

「でもよぉ四季崎。オラァ今、メチャクチャムカついてんだ……そこんとこ、わかってる?」

(…………)


木原は一人、ブツブツと独り言を喋っているように見えるが、実は自分に憑依した四季崎記紀と会話している。


「ああクッソ、むしゃくしゃしてきた。どっか適当に無いかな……」


と、木原はふと、一つの廃病院を見る。屋上には何人か人がいた。顔や恰好は、奴ら傘がを差しているのでよくわからない。

近くにあるのは、それなりの破壊力を出すロケットランチャーが一つ。


「…………」


木原はそれを掴み、ヘリのドアを開けた。ぼわぁっ!と風がヘリ内で暴れる。木原はドアから、ロケットランチャーを構え、迷わず引き金を引いた。

これは、ほんの腹いせだったつもりだった。

754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 02:32:26.66 ID:Zll7E9CZ0
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軍用ヘリから、棒付きの手榴弾の様な物体が、棒の先から火を噴きながらこちらに向かってくるのがわかった。


「ッ!?!?」

「何あれ!?」

「ッッ!!?」


吹寄と佐天と木縞は目を瞠り、逃げようとする。が、恐らく逃げ切れないだろう。 一方、迷彩は振り向いて、何も起こっていない様な表情で笑った。


「なるほど、尻の火が推進力になって飛んでくる仕組みか………。しょうがないね。ほら、みんな離れなさい」

「迷彩さん!?」


吹寄はビックリしたように叫ぶ。迷彩は前に出て、ロケットランチャーの軌道上に躍り出たからだ。このままじゃあ迷彩の体は木端微塵になる。


「安心しなさい。 よく見ておくんだよ」


迷彩は笑って、両手を前に出した。左腕は少し曲げ、右腕は掌を上に向け、位置はやや下げて構える。


「守法・矢帰し」


迷彩は柔らかい手付きで飛んできたロケットランチャーの側面を右手で乗せるように触れ、左手は上から軽く触れる。そして、両の手でロケットランチャーを回転させた。

すると、ロケットランチャーの進行方向が逆になり、そのまま元の場所まで帰っていった。軍用ヘリまで……。

ヘリの尻尾の部分にロケットランチャーは当たった。直撃はまぐ免れたが、ヘリはバランスを崩し、フラフラとして煙を出しながら退散していった。

そのヘリから、『コンチクショーーー!!』と男の声が聞こえたが、気のせいだろう。

755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 02:32:54.06 ID:Zll7E9CZ0

「さて、帰ろうかね、私も」


迷彩は言って踵を返し、去っていく。が、彼女の背中を止める者がいた。


3人の一人、吹寄だった。


「迷彩さん!!」

「なんだ? さっきの答えか? ここに残るなり、帰るなり好きにすればいいと私は言ったが……?」


迷彩は先程の問いを繰り返す。がしかし、吹寄は違う答えを出した。


「迷彩さん。お願いがあります!! 私を強くさせてください!!」

「」

「私は……今回、自分の弱さを実感しました………。だから! 私は強くなりたいんです!! 私を弟子にしてください!!」

「…………私は君たちに教えられる事は何もない…」


迷彩は首を振った。が、吹寄は食い下がる。


「彼我木とか言う人と話していたのを聴きました。相当な武芸者だと言ってましたね?」

「…………そこまで聞いていたか」


迷彩は苦笑した。


「そうか……まぁ、いいだろう。考えておく。 他の君たちはどうだ?」


迷彩は佐天と木縞にも訊いた。すると、佐天は決心したように手を上げた。


「わ、私も!! 私も強くなりたいです!! 今日は、吹寄さんに助けて貰ってばっかりでしたから、今度は私が吹寄さんを助けたい!!」


その答えに、迷彩は頷いた。


「じゃあ、木縞のお嬢ちゃんは?」

「あ………私は…………遠慮しておきます」


木縞は眼を横に移す。


「私は、いいですから」

「………………そうか、ならいいさ。別に強制はしないからさ。 じゃあ吹寄のお嬢ちゃんとと佐天のお嬢ちゃんは、明日、またここにきておくれ。いいかい?」

「「ハイッ!!」」

「じゃあ、下に降りようか。 ここは冷える」


そうして、迷彩とその弟子二人と木縞は足を進ませ、廃病院の中にへと入っていった。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 02:36:08.24 ID:Zll7E9CZ0
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今日はここまでです。ありがとうございました。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/30(水) 03:52:34.79 ID:fO4y2EXD0
なんだろう… ドロンボー一味が頭をよぎったぞ
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga sage]:2011/11/30(水) 08:20:36.29 ID:XCLySb3e0

蝙蝠さ〜ん!!!!!!!!!いぎででよがっだよ〜〜〜〜!!!
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/30(水) 14:03:11.46 ID:fO4y2EXD0
上条さん括弧よすぎる!
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 16:10:28.83 ID:Zll7E9CZ0
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さて、今日も書いて行きます。


おしおきだべぇ〜〜!
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 19:03:07.21 ID:Zll7E9CZ0
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今、サイレンをうるさく鳴らした車の群とすれ違った。きっと、警備員があの廃墟へ向かったのだろう。

とがめは、手に持った『斬刀 鈍』を細長い、剣道でよく見る袋に入れた。

鑢七花と奇策士とがめ、それと絹旗最愛はアイテム専用のワゴン車の中にいた。今、高速道路の出口を出て、第七学区に入り、絹旗の自宅の近くのスーパーの駐車場に入る。

そして絹旗はそのドアを開けた。


「じゃあ七花さん、とがめさん、私は今日の晩御飯の買い物をして来ますんで、先に帰っててください」

「おうそうか、わかった」


七花はそう言って絹旗に手を振る。


「夕飯、楽しみにしてっからな」

「はいっ♪」


嬉しそうな笑みで絹旗はドアを締め、スキップしながらスーパーへ入っていった。

そして車は発車する。


「楽しみだなぁ、あいつの飯、めっちゃ美味いからなぁ」


七花はそう言って、ホントに楽しみそうに手をスリスリする。

しかし彼は知らない。いつも絹旗が出している料理は、全てレトルロだと言う事を。

……………彼女も彼女で練習中なのだ……、必死に。

絹旗と同じアイテムのメンバーのフレンダ=セルヴェルンの言葉を思い出す。


『結局、絹旗はいっつもいっつも外食ばっかりしているから、料理は出来ないと思う訳よ』


と、とがめはそう心の中で、あの小娘は可哀相だなと呟いた。

だって、鑢七花と言う人間は、口に入れるものなら何でも美味いと言う人間だからだ。

七花は食料が殆ど無く、全ての自給自足の生活をしていた不承島で育った。

もちろん畑と水田はあったが、収穫して食べられる量は当時成長期だった七花の腹には些か足りなかったそうだ。そこで七花はこっそり野山で獲った雑草や兎を取って食べていた。その時、蛇や蛙まで食べていたという。

その話を、刀集めの旅の途中で野宿をしていた時、自分の目の前でムシャムシャと蛇を食べながら話してていたのを、とがめは思い出す。


(ああ、そう言えば私が遊びで作った、最早兵器と呼んでもいいくらいの手料理を美味しそうに食ってたな、こやつは)


とがめはハッ、と笑う。


「? どうしたとがめ」

「いや、なんでも」


とがめは知っている。

絹旗最愛という少女は、この目の前の男の為に必死になって料理をしていると言う事を。

そう言えば、同じくアイテムのメンバーである滝壺理后の言葉を思い出した。


『きぬはたは、とっても面倒見がいい性格だから、大丈夫だと思う。でも寂しがり屋だから、あまり酷い事を言わないで上げて?』


まぁ、そんな事を言うつもりはないがな。

まったく、昼間は好きな男と組手をし、夜中は好きな男の為に料理の練習か……。飽きれた乙女心だよ。

まぁ、そんなもの、自分の思春期には無かったけどな。と、とがめは自分を笑う。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 19:05:13.21 ID:Zll7E9CZ0
数分後、とがめはとある所で車を停めさせた。

薄暗い路地裏のすぐ横だった。

その前の歩道には、雨が降っている為か通行人は誰もいない。


「運転手、私達はここで降りる。 気を付けて帰れよ」


とがめは、車からそんな雨の中を傘も差さずに飛び出した。


「出るぞ、七花」

「おいとがめ、どうしたんだよ」

「いいから来い」


とがめは速足で路地裏の中へ入り、奥へ奥へと突き進んでいった。

七花はとがめを追いかける。


「おい、どうしたんだよ! とがめ」

「いいからついて来い」


とがめはスタスタと歩いて行き、『ここら辺でいいか』と呟いた。

とがめは、張った声を発す。


「もういいだろう、出てこい!」


とがめがそう言った。七花は首を傾げる。と、急に顔の前にある人物が現れた。



「やぁやぁ久し振りだねぇ、とがめちゃん、鑢くん」



「ぉわっ!?」


七花は思わずびっくりして後ずさる。

とがめは落ち着いた表情と口調で、その人物の名を呼んだ。



「久しいな、彼我木輪廻」



「いやぁ〜まったくだよ。元気にしていたかい?」

「ああ、一応な」

「ま、死人に言う台詞じゃあないけどね。聴いたよ? 君、やっぱり夢半ばで死んじゃったそうだね?」

「…………、」

「うきゃきゃきゃ!」


彼我木輪廻は少女の姿で現れた。

長い髪を端で束ね、明るい笑顔が特徴的な彼女は、とがめを逆撫でするような言葉で笑う。


763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 19:06:45.85 ID:Zll7E9CZ0
「………まったく、その態度は相変わらずだな」

「ふーん、そうか。 僕がまたこの姿になったのは、君たちはまだ苦手意識があると言う事だね?」


彼我木は、『まぁそれもいいだろうね』とピョンピョン跳ねながら、


「苦手意識をあえて残す事が悪い事じゃないからね。むしろ苦手意識があるからこそ、人間は強くなれるんだよ。それに、君たちに苦手意識がなかったら、僕はこうして君たちと会話できないからね」

「いや、私は別にどうでもいい」

「あら、酷いね君」


とがめはハァと溜息を吐いて、キッと彼我木を睨んだ。


「彼我木よ、なぜお前がここにいる?」

「そりゃあ君たちの後を付けていたのさ」

「いや、そうでなくてな、なぜこの世界にお前がいる?」

「? そりゃあ、僕は元『誠刀 銓』の所有者だからだよ。 恐らく四季崎記紀は、君たちの敵として送り出したんだろうね。いや、敵を強くする為…かな?」

「………なぜ四季崎がこの世界にしたことを知っておる? それに、貴様が言っていることはどういう事だ?」

「知っているよ、僕は仙人だからね。何でも知っているさ、七花くんが今までしたことを全て知っている。…………まぁ、四季崎の事は憶測だけど」

「…………敵を強くするとは、どういうことだ」

「簡単だよ。彼は僕の仙人としての能力を買ってか、出会った人間から誰か選ばせて、ある程度まで強くさせるのが四季崎の狙いだろうね。………僕は正直面倒くさいけど」

「なぜだ、貴様はそんな事をする人間じゃない筈だ」

「そうだよ。でもね?暇過ぎる時間は人間を堕落させるんだよ。僕は確かに仙人だけど、それ以前に人間だ。 だから、暇だからやってみようかなと思っている」


とがめは苦い顔をした。


(不味い。もしも彼我木が敵の教育として回ったら、こちらの戦況は悪くなる。 なんせ、こいつは私達の事を良く知っているからな)

彼我木はそのとがめの表情を取ってか、「まぁ安心しなよ」と言った。


「なに、僕はただ単純に四季崎に従うつもりはないさ。 ただ、この街には争いが多すぎると思ったからやるんだ」

「………どういう事だ?」

「この街には、表に見える争いや 裏で蠢く殺し合いが多いんだよ。そんな見難い争いを僕は幾つか止めたいと思ってね。 やる事は簡単だ。戦いの方向性を変えるだけだよ。君たちの直接の被害にはならない」

「…………」


彼我木はそう言うが、それでもとがめは理解できなかった。それでも彼我木と言う人間が動く理由がわからない。そして彼我木はまたとがめの表情を取って言った。


「理由はそれこそ簡単だよ。 暇だからさ」


そして、とがめが瞬きをすると、彼我木輪廻は消えていた。しかし、声だけははっきりと聞こえる。


『それと、僕はこの街を気に入ったようだ……。これが一番の理由になるかもね…………』


との声が。そして最後に、彼我木はとがめと七花に忠告をした。


『それと、君たちはこれから気を付けたほうがいいよ? 後に大きな敵が待っているだろうからね。それも、鑢くんと同等、もしくはそれ以上の敵がいると考えてもいい』


ああそうそう、と彼我木は付け加える。


『――――――――数分後、君たちは色々と面倒な事になってるかもよ?』


それを最後に、彼我木の声は聞こえなくなった。
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:36:47.22 ID:Zll7E9CZ0
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そんな会話があって、数分後。とがめと七花は某マンションの絹旗の自宅前にいた。


「なぁ、彼我木の事って結局どういう事だったんだ?」

「私に訊くな! 私はあそこまで陰湿でふざけた人間の思考などわかるはずもない」


とがめはあれから、ずっと考えていた。


(………どういう事だ。なぜあの彼我木があそこまで自分から行動しようとする? それに、七花よりも強い敵が現れるだと!?)


とがめはハッキリ言って『鑢七花よりも強い人間が、『虚刀 鑢』よりも鋭い刀がある事を信じていなかった。

しかし、元軍所の人間として、『自分よりも強い敵がいたことを予想していませんでしたから、敗けちゃいました。テヘッ☆』なんて言えるわけがないし、実際に自分が最強だと疑いもせずに信じていた『歴史上の“最強の猛者”達』の中に、そう言った人物は数多くいる。

あと、四季崎記紀も同じ事を言っていた。


地獄はここからだと。鑢七花がボロボロになる強敵が現れると―――――


しかし、ふと考えた。本当に、七花よりも強い人物はいないのか?

一人、心当たりがあった。


(……………今思えば、鑢七実もこの世界にいるんだったな)


まだ確認していないが、もしも七実が敵になったらと考えるだけでも寒気がする。

あの化け物だけは、どんな手を使っても味方にしたい。

この『虚刀 鑢』でも苦戦、もしくは敗北するだろう可能性を最も持っているあの女を………。


とがめが考え込んでいると、


「とがめ、早く戸をあけてくれよ。雨で濡れて寒い」


七花はそう言って来た。

とがめはハッと我に戻り、ポケットから予め渡されていた絹旗家の鍵を取り出す。


言い忘れていたが、とがめの恰好はTシャツにパーカーと半ズボンという、いかにも現代っ子な服装で会う。

決していつもの様な豪華絢爛の十二単もどきを着ていない事を、理解していただきたい。


ガチャリと鍵が開けられた音がした。とがめは戸をあけ、中に入る。七花もそれに続いた。


「さて、今日は流石に疲れた。なにせずっと座りっぱなしだったからな」

「そういやぁそうだったな。実は俺も狭い所に隠れっぱなしだったから、体中が凝っているんだ」

「じゃあ早速風呂でも入るか。どうだ? 一緒に入らんか? 口煩い小娘もおらんし」

「遠慮しとくよ。 流石にあの風呂で二人は狭い」

「それもそうか」


二人は、他愛もない会話をしながら部屋に入る。


また言い忘れていたが、鑢七花は今までずっと裸足ではない。 ちゃんと草鞋を穿いていた。あの廃墟にいた時は草鞋を脱ぎ、裾の中に入れて戦闘していていた。その為、ずっと裸足で外を闊歩し、現在、部屋を泥の足跡だらけにしているわけではない。


二人はリビングのドアを開けて入った。



すると――――――
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:38:05.24 ID:Zll7E9CZ0

「…………………お帰りなさい………」



一人の少女が、鬼の様な顔で座っていて、二人を出迎えた。


彼女の膝の上には天使の寝顔で眠っている幼女がいた。フレメア=セイヴェルンである。彼女は今回の戦いに巻き込まれた人間の一人であった。

いや、『巻き込まれた』という表現はあながち間違っていない。しかし、少々違うが、今は言及しないでおこう。





フレメア=セイヴェルンの実の姉、フレンダ=セイヴェルンは激怒していた。





フレンダは『ここに正座しなさい』と、17の高校生が25歳の男とそれ以上の歳の女に命令する。

二人は余りの気迫に圧され、彼女の前に正座した。

フレンダは鬼の権幕で口を開いた。



「とりあえず言っておくけど、任務お疲れ様。大丈夫だと思ってたけど、結局は無傷で戻ってきたことを私は安心する訳だけど………」


でも、とフレンダは言った。



「何より最も安心したのは、我が実の妹がなにもされずに、無・事・に! 帰ってきたことが一番安心したって訳よ」


「で……フレンダさん、なんの御用で?」


七花はおずおずと訊いた。するとフレンダはいきなり怒鳴って、


「だまらっしゃい!!」

「ッ!?」「ぅおっふッ!?」


とがめと七花はフレンダの叫びで、耳鳴りになってしまった。

二人は両耳を押さえる。

フレンダは冷たい視線で引き攣った笑顔をし、とがめにある質問をした。


「はい、とがめさん。作戦の内容を、作戦に参加できなかった、この私に、わかりやすぅぅっっく! 教えてくださいます?」

「フレンダ……口調が変わっているぞ?」

「馬鹿七花は黙れ!!」

「ばっ……」

「ほら、とがめさん、言ってくださいな? この作戦で考えて実行した、あなたの“奇策”とやらを。ど・う・せ・私の様な、大した能力は無くて、爆弾にしか能が無く、しかも最後の最後で失敗する、無能で雑魚で噛ませ犬で、結局はテケテケになる私って訳よ」

「自覚あるんだ」

「黙ってって言ってんの!! この脳無し!!」

「のっ…」

「ほら、言ってくださいよ、とがめさん。なんで………私の可愛い我が妹が、あんな糞みたいなレイプ魔の巣窟に放り込んだんでぇ!すぅ!かぁっ!?」


フレンダは床を叩く。しかしその逆の手はフレメアの頭を優しい手付きで撫でていた。
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:38:54.40 ID:Zll7E9CZ0


ああ……面倒な事とはそういう事か、彼我木輪廻よ。

とがめは心の中で溜息をつき、ゴホンッと咳払いを一つした。


「この作戦はあの無能力者狩りと言う種類の組織と駒場率いる武装無能力者集団の抗争に七花が乱入し、各組織が持っている『斬刀 鈍』『賊刀 鎧』『絶刀 鉋』の完成形変体刀を奪う作戦であったのは、フレンダの耳にも入っておるであろう」


とがめはフレンダの質問の答えを話し始めた。


「私が斬刀の在り処と所有者を知ったのは昨日の朝だ。その時はどうやって賊刀と絶刀を奪うか考えていた。七花に殴り込みさせてもいいのだが、敵の装備が装備だかなら」


装備とは、完成形変体刀の他に戦車や駆動鎧などの学園都市のハイテク兵器の事である。

かつて七花はこの世界にきた時は、警備員と風紀委員の数々の襲撃を返し討ちにしていたが、駆動鎧30体と巨大戦車3台とその他諸々があれば、流石に多勢に無勢で危険である。


「それならと私は、両者をぶつけさせる事にした。

しかもその時、丁度よく無能力者狩りの討伐はアイテムの正式な依頼として来てたからな。アイテムのメンバーとして絹旗を連れて行けたし、移動に使う車もアイテムとして使用することが出来たから、絶好の機会だと踏んだのだ。


問題は、どうやって『賊刀』と『絶刀』を持つ武装無能力者集団を『斬刀』を持つ無能力者狩りとぶつけさせるか、この作戦の味噌はそれだった。


そこで、私は奇策を打った。


『実は武装無能力者集団の棟梁をしておる駒場利徳には一人、親しい無能力者の少女がいる』…と周囲を調べてさせいた間者(かんじゃ=スパイ)からの情報で、その少女を餌にすることにした」


フレンダは不満そうにとがめに言う。


「で、それがフレメアと………」

「勘違いするな。私はそれがお前の妹などとはわからなかったのだ。なにせ、フレメアは駒場やその仲間たちから『舶来』と呼ばれていたものでな、てっきりそれが本名かと思ったのだ。本名を知ったのが私が敵地に潜入した後だ」

「『舶来』………ねぇ」


舶来とは、外国から船に乗って運ぶこと。または運ばれた品の事を差す。

駒場からすれば、この少女は人形のように思えただろう。

この透き通った白い肌。奇麗な宝石の様な青い瞳。それに黄金の様な金髪を持つフレメアの要旨はまさに人形のそれだ。


そして、舶来という表現はこのような事に使われる。


「気に入ったもの…………か」

「その少女、随分とお前と駒場の事を信頼しておったぞ。特に駒場など、絶対に助けに来るから大丈夫だと豪語しておった」


なるほど、それだけフレメアは愛された人物なのだろう。フレンダは笑う。


「実際、攫われたのは駒場たちの目の前だったせいか駒場たちはすぐに仕度を始めて出撃していったそうだ。フレメアの言う事は本当だった」


しかし、駒場たちはいざフレメアを探しに行っても、結局はその内の日には見つけることはできなかった。

フレメアは、あの地獄の様なガラスの牢の中で一晩過ごしたのである。


「それでも結局フレメアが犯される危険性があったって訳には変わりない」


しかし、キッととがめを睨む。


「そう怒るな。私も彼女と同じ所にいたから、おあいこだ。(まぁ私は今日だけだけど)………それに、手は打ってあった」

「…………と言うと?」
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:40:22.21 ID:Zll7E9CZ0


フレンダはとがめを睨む。


すると………フレンダの後ろから声が聞こえた。


「あら? もう帰ってきてたのですか?」


後で、女の声がした。フレンダは振り返る。

声から察するに、フレンダと同じ年頃の少女。


「おお、来ておったのか」

「ええ、フレメアちゃんのお守り役として丸二日間頑張ったんですよ?」

「ああ、お前には感謝しておるよ。しても足りんくらいにな――――――笹斑瑛理」


笹斑瑛理はタオルで濡れた髪を拭きながら歩み寄ってきた。

来ている服は、第七学区のとある高校の制服だった。


「勝手にお風呂使わせてもらったわ。まったく、ずっと精液まみれの偽物の制服を着っぱなしで、しかもシャワーも浴びせて貰えない生活は流石に辛かったわ」

笹斑は久々に体を洗った為か、元気溌剌な表情でフレンダの隣に座り、フレメアの髪を優しく、そして愛らしく撫でた。


「ああ、やっぱり可愛いわね、フレメアちゃんは」

「あ…あ……あが………」


フレンダの表情は固まった。開いた口が塞がらない。


「あ……あ、アンタは!!」


フレンダ=セイヴェルンは、この少女を知っていた。何遍も顔を合わせたこともある。そして最も顔を合わせたくない、大っ嫌いな人間の一人だった。


「笹斑ぁ………なんでここにー………」

「あら、フレンダちゃんお久しぶり。元気にしてた?」

「とがめさん!? まさか!?」

「ああ、あの廃墟にいる時はずっと、フレメアの子守りは笹斑に任せていた。 まさか、こちらが巻き込ませた人間にトラウマになる事をさせられると思うか?」

「いや、コイツは流石にダメな訳でしょ!?」


フレンダは笹斑の顔を右手で押し退ける。


「だって………この女!!」

「フレンダちゃん、久々に私とえっちぃことしない? 私、流石に二日間もレイプされまくったから男に飽きちゃったの♪ だからお願い、気持ちいい事…しよ?」


笹斑はハァハァと息を乱しながらフレンダに顔を近づける。

そう、笹斑瑛理と言う女は…………。


「コイツはッ! 男も女もどっちも喰いたがる両刀(バイ)で! しかもロリ・ショタから臭い中年からヨボヨボの老人まで何でも喰い尽くす雑食で!! しかも、レイプも逆レイプもSMもスカトロも全て大好きという紛れも無い奴でぇ………!! おぅわっ!………こんのっ!! …………結局は淫乱って訳!!」



笹斑と言う女は多重性癖愛好者という最強の変態だった。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:41:09.29 ID:Zll7E9CZ0

そして、学園都市の闇の暗部、アイテムの下っ端組織に属する人物の一人である。

笹斑も、闇の住人の一人であった。


フレンダはセクハラをしてくる笹斑と両手を組み、押し合いになっている。


「こんな奴に任せたんですか!? この変態に!!」

「そうよ、私はロリ系の女の子のみならず、実父実母実兄実弟実姉実妹実息実娘実祖父実祖母義父義母義兄義弟義姉義妹義息義娘義祖父義祖母双子未亡人先輩後輩同級生女教師男教師幼なじみお嬢様お坊ちゃん金髪黒髪茶髪銀髪ウルフヘア長髪男子五厘刈りスキンアフロドレッドショートドレッドロングドレッド辮髪丁髷ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛学ラン長ラン短ラン応援団服特攻服はっぴ和服洋服中華服スカート女装ランニングシャツジャージセーラーブレザー体操服ブルマ柔道着弓道着コーチ執事料理長見習いバイト下っ端歌手ダンサーマジシャンオタク保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格王様王子様女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人女装の怪人メガネ目隠し眼帯包帯競泳水着ロングロングスパッツスパッツブーメランスクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊宇宙人獣耳娘男の娘まであらゆる同性異性とあらゆるプレイをこよなく愛するのよ!!」

「自慢すんなぁ!!」

「どっかで聞いた事ある話だな。つーか一つ人間じゃないの入ってたよな」

「気のせいだ、それはきっと」


フレンダは笹斑をやっとの思いで押しやって、吠えた。


「け、結局! こ、こんな女に妹を預けたって訳!?」

「当たり前だ。普通の女を雇ったら精神が崩壊してしまう可能性がある。 それくらい変態の方がちょうどいい。それに、こいつの超能力はフレメアの安全を考えればうってつけだったしな。えっと………なんて言ったっけ?」


とがめはそう訊くと、笹斑は胸を張って答えた。


「私の能力は『安眠音波(スリープサウンド)』近くにいる人間一人に自分の声を聴かせることで、脳内にノンレム睡眠の状態の脳波を出させる強能力者の能力です」


あの廃墟に潜入して時は書庫では無能力者となっていた。統括理事会に特別に秘密裏にそうハッキングさせたのだ。無能力者狩りには列記とした有能力者だとバレないように。


「これで常にフレメアを眠らさせることが出来る。あそこで起った出来事は見ただけでトラウマ物だからな」

「まぁ寝ているフレメアちゃんは食べちゃいたいくらいに可愛かったんですけどね」


フレンダは氷の様な声で笹斑を軽蔑の意味を心から籠めて蔑んだ。


「この変態両刀女……」

「ああっ///!! もっと私を変態って呼んで!!蔑んで!! 辱めて!!」

「黙れ!!」

「ああ、あの時はまさに地獄だったわ………。だって、あんなに可愛い子ちゃんたちいっぱいが同じ牢の中に一緒に入ってたのに、まったく何もできなかったのだから!! 演技とはいえ、苦痛の一言だったわ……………クッ………」

「クッ……じゃないって訳よ! なにカッコよく言おうとしてんだ! 言っていることが今SSで最も最低な訳よ!!」

「ああ、吹寄さん可愛かったのに、オッパイモミモミできなかったのが残念だったわ。それに佐天さんと一緒に色々なことしてみたかったわぁ♪ ああ、また会えないかしら」

「無視かよ!!」


ガッデム!とフレンダは髪を掻く。

769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 23:42:44.91 ID:Zll7E9CZ0
とがめは、世界で一番下品な漫才をしている二人の会話を途中で止めた。


「(吹寄や佐天がこれを見たら失神するな……)お前、他の人間に手を出していないだろうな」

「当たり前です。“私が来て一日目以外”は大人しくしてたました。 その代わり、可愛いフレメアちゃんの寝顔を24時間ずっと眺めさせてもらったし、『私はどうなってもいいからフレメアちゃんには何も手を出さないで』って感じのシュチュエーションのレイプは久々だったから十分楽しめたし」

「フレメア自身に何もなかったならそれでいい。しかし、作戦結構の一日前にすでに潜入していたとは思わなかった」

「作戦を伝えられた直後に実行して、一日早くスタンバってました。おかげで一日多く楽しめたし、何より吹寄さん達からはお姉さんみたいに信頼されていたし、フレメアちゃんとは特別な信頼関係も築けたし、色々とメリットがあると考えまして」


この美少女、もとい痴少女は何でも性行為だけで動く女ではない。………………とは限らない。


「さて、報酬の話だが……確かなんでも願いをかなえて欲しいだったな」

「はいっ! フレンダちゃんとエッチしたいです!!」


何ともまぁストレートな事で………。

とがめの感想はその一言だった。


「はぁ!? なに結局はそれの為に働いたって訳!?」

「任務を当初はそこのノッポさんの童貞を頂こうかなと思ったんだけど、さっき言った通り男の人のは飽きちゃってね。だから女の子通し、レズエッチしよ♪」


笹斑はフレメアの体をどかし、フレンダの腕を引っ張った。フレンダはそれを傍にあった棚の端を掴むことで抵抗する。


「い、イヤッ。ちょ、とがめさん、この痴変態を止めて! わ、私、結局、この女に完成形変態刀にされちゃう!!」

「うまいこと言っても山田君は来ないわよ。 とがめさん、イイですよね♪」

「ああいいぞ、連れて行くがよい」

「ああ、テメェこの野郎!!」

「恐れ多くも目上の人間を正座させ、数多の暴言失言を垂らしまくった罰だと思え。笹斑、その無礼者を好きにするがよい」

「アイアイサー☆」

「アイアイサー☆……じゃねぇぇえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーって訳よ!! あ、アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


フレンダはこうして、笹斑の手によって百合色の部屋へと引っ張られていった。(※絹旗の部屋を勝手に使用)

数秒たち、いきなり………。


「ああ///!! ちょっと待って、笹……ああ///!! ちょっとっまっ…///いやぁ!! そ、外に、人がいるって訳……い、いやぁぁぁぁああああああ/////////!!!」


ゴタゴタゴタッ!!と騒がしい物音がしばらくした後、静かになっていった。


「…………なぁ、とがめ」

「なんだ?」

「あの部屋の中で、何が起こっているんだ?」

「ああ、お前は知らなくていい世界が広がっている」

「……………はぁ」


とがめは、立ち上がって床に転がっていたフレメアを抱きかかえ、近くにあった小さめのソファーの上に置いた。そして七花の前に座った。

「なぁ、七花………」

「なんだ、改まって」


とがめは、顔を紅くして七花の両手を握った。


「私達も………しようか……」
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 00:50:28.18 ID:SxTYxCgC0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま〜」


絹旗最愛は大きなビニール袋を三つ、片手に持ち、もう片方の手は傘を持って帰宅した。


今日は自分が鑢七花のしたで修行し始めて、始めての戦いだった。俗に言う初陣を見事に飾ったのだ。今日は奮発してきたので、荷物が重くなった。まぁ『窒素装甲』の前ではこんな荷物、TVのリモコンと変わらない。

今日はフレンダ=セイヴェルンと滝壺理后も家に来るらしいから、今日はいっぱい買ってきた。

アイテムのリーダーである麦野沈利は、未だにとある病院で眠っているままなのが、寂しい限りだが。

麦野の主治医であるカエル顔の医者、冥土返し(ヘヴンキャンセラー)はフレンダと滝壺に、麦野はこちらに任せて行っていいよ?と言ってくれたらしい。

そう言う連絡が先程、滝壺から来た。滝壺は今夜の6時半に来るそうだ。フレンダはどうか知らないが。

濡れた傘を開き、玄関に置いて干して、ルンルンとリビングへ続く短い廊下を歩く。

そして、リビングのドアを勢いよく開けた。


「七花さ〜ん、ただいま帰りました〜…あー…アー…ぁー…………どうしたんですか、フレンダ…」


リビングでは、フレンダが床で体育座りで真っ白になっていた。


「…………ソウヨ………コレハ夢ヨ………コレハ……………夢ニ決マッテイル………………決マッテイル訳ヨ………」


「なに一人でブツブツ言ってんですか。超気持ち悪いんですけど…………」

「あら、最愛ちゃんお帰り」

「あ、笹斑さん。来てたんですか」


そうか、笹斑がいるってことは………。

絹旗は手に持っていた買い物袋をキッチンの台所に置いた。


「笹斑さん、またフレンダで超遊んだでしょ。前回、立ち直させるのに超苦労したんですから」

「あはは、だって今回のお仕事の報酬なんですもの」


と、お肌つるつるの笹斑は笑った。


「…………最愛ちゃんも、やる?」

「超遠慮します」


絹旗はこの会話だけを一瞬で忘却の彼方まで投げ飛ばすように忘れて、違う話題を始めた。


「そうそう、笹斑さん、七花さん達はどこにいます? 先に帰っている筈なんですけど………」

「ああ、帰ってきてるわよ。二人で部屋に籠っているけど…………」

「? 何をされているのですか?」


絹旗は首を傾げる。と、笹斑の顔はニンマリと笑った。


「………………ムフフ…」

「――――――………ッ、」


笹斑瑛理、別名『最強の変態』『多重性癖の塊』のあの顔……嫌な予感しかしない。

絹旗は冷や汗を掻きながら、鑢七花の部屋へ速足で向かった。

この、薄い木の板の向こうで、一体何をしているのだろうか、あの二人は。絹旗はそのドアを開こうとした、その時。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 01:21:23.07 ID:SxTYxCgC0

『……あぁん……///……七花ぁ〜//////……もっとぉ〜…///』

『とがめ、こんなもんで良いのか?』

『ああっ/// そこぉ…そこが良いのぉ///………ああぁんっ』

『とがめ、お前さっきから変な声だしてんな』

『そ、それはは……っ、あんっ///………七ぃ…///…花のがぁ…///…気持ちいい………からぁ///』


な、なっ、なななななななななななななな………なんじゃこりゃぁぁああ!?


(ちょ、ちょと、ちょっと待て、ぇ、ぇえええええええええええ!?)


『しかしとがめ、本当にこんなんで良いのか?』

『ああ/// あ、もっと右ぃ…///………ひゃっ///……くすぐったいぞぉ、七花ぁ…///』

『すまん……』

『あ…///、そうそう、そんな感じ……あぁ///』

『とがめ……そんなに気持ちいのか?』

『ああ///そうだが?』

『じゃあ今度は、俺のを気持ち良くしてくれねぇか?』

『ああ///、いいぞぉ……ひゃうっ!/// 今度は……私がお前のを///……きゃぅ!………気持ち良くする番……だなぁ……? ああんっ、やっぱりきもちいい!!』


772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 01:23:59.99 ID:SxTYxCgC0
(な、何やってんですかぁ!? 二人ともォォォオオオオ!?)


超何をやってんの?え? 何を超やってんですか? なにこれ、意味わかんない。超意味わかんない!!

…………って、


「人ン家で超何やってンですかァァァァァアアアア!? 二人ともォォォォォオオオオオオ!!!」


絹旗は我慢できずに、ドアを勢いよく開けた。

すると………。


「あ、絹旗、お帰り」

「おお、帰って来たか。遅かったな」


「……………………………………………………………………………………なーにやってんですか? お二方」


「ん? とがめの体をほぐしている所だ」


七花は何もなかったかのように絹旗にそう言った。


七花はとがめに、マッサージをしていたのだ。


「……………………」


絹旗は一気に生気が抜けた様な顔をした。

七花はそんな彼女の事なんてお構いなしにこっちに来るように頼む。


「そんな事よりも絹旗、こっちに来てくれ。とがめは今日ずっと座りっぱなしだったから、凝りまくってんだ。手伝ってくれ」

「おお、絹旗も宜しく頼む。……なにせこの年だからな、一旦凝るとなかなか治らんからな…………ああ、七花ぁ/// きもちいい……///」


七花はとがめの腰と太腿を揉む。と、とがめは厭らしい喘ぎ声で鳴いた。


「…………そうか、これが正体か……」

「ん、何か言ったか?」


とがめが訊いた。


「あ、いいえ? なんにもありませんよ?」

「……そうか、何故か殺気を感じてな…。気のせいか」


絹旗はそう呟いたとがめの肩を掴んで、悩んだ。

@自分の握力と言う握力の限りを尽くして、この女に痛い目を見てもらうかAこの女がへりょへりょのぐにゃにゃになるまでマッサージするか。


「とがめさん」

「なんだ?」

「超覚悟………してくださいね?」

「へっ?」


@かAか、どっちかは読者の想像に任せます。

ただ、一言いうのであれば、それから滝壺が来るまで間。その部屋からとがめが苦しむ声が途切れなかったと言う。どのジャンルの苦しむ声かは、知らないが。
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 01:50:29.88 ID:SxTYxCgC0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はい、コーヒーです」


初春飾利は、風紀委員第177支部の来客用のテーブルにコーヒーを一つ置いた。

自分の為じゃない。自分のはもうテーブルに置いてあるからだ。


木縞春花は、それを受け取った。


「どうも……」

「話は聞きました。大変でしたね……」

「…………」


木縞はそんなふわふわとした初春の言葉にムッとした。

この人が佐天さんが言っていた初春と言う人か………。木縞は初春の顔をじっと見る。

そしてある質問をした。


「あの…なんで私だけ帰らせてくれないんですか? なんで私だけ残らせているんですか?」


実はここには木縞の他にも、佐天涙子と吹寄制理がいたのだ。

彼女ら3人はあの後、風紀委員に保護を頼んだのだ。それで取り調べの為ここに来た。

本来なら警備員なのだが、佐天は風紀委員の中に佐天の知り合いである固法美偉がいたので彼女から取り調べを受けたいと申し出たのだ。

大人の警備員より、自分が信頼する風紀委員の方が100倍いいだろうと佐天は考えたのだ。彼女の割には気が向いた考えだった。

警備員の中には反対する人間がいたが、吹寄の学校の先生である黄泉川愛穂やその他の心温かい警備員たちががそれに賛成し、この支部にいる。

3人は一通り取り調べを受け、吹寄と佐天は先に帰っていった。

しかし、木縞は未だに残されたままだった。


「私、もうこの事は忘れたいんです……。早く避妊して、この二日間の出来事を何とか忘れたいんです。だから、―――帰ります」


木縞は立ち上がった。 それを初春は慌てて止めた。


「ああ、待ってくださいっ……じゃあ、これを読んでください」

「………?」


初春は、手元に持っていたファイルから一枚の便箋を取り出した。

木縞はそれを怪訝な目で見て受け取り、その便箋に綴られた文章を目にした。


「……………………これって……ッ!」


木縞は初春の顔を見る。初春は優しく笑っていた。


「それを、とある人へ渡してあげてください。」
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 03:03:28.23 ID:SxTYxCgC0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

学園都市、某所。


薄暗い裏路地だった。

臭いゴミと汚れがあちこちと転がっているそこで、とある二人組は前後に並べて歩いていた。

日が落ち、夜も間近になったこの時間帯では、ますます暗く、且つ薄気味悪い空間へと悪化する。

そんな道を普通くらいの丈の男と、子供の丈の男が一緒に歩いている。


真庭蝙蝠と真庭人鳥だ。


「こ、蝙蝠さん。い、一体、ど、どこへ行くんですか?」


人鳥がおずおずと訊いた。

この質問は何度もしているが蝙蝠は、


「黙ってつい来ればわかる」


としか言ってこない。

人鳥は、不安がりながら蝙蝠の後をついて行く。

と、とある所で蝙蝠は立ち止まった。いきなりだったので、人鳥は彼の足にぶつかる。


「イテッ」


人鳥は鼻を摩って離れる。と蝙蝠は突然、誰かに話しかけた。


「連れて来たぜ」

「おう、やっと見つかったか」


と、若い男の声が耳に届いた。明るい声だった。そして人鳥は、この声を知っている。懐かしいほど知っている。


「―――――――――か、川獺さぁん!!」


真庭川獺は明るく人鳥に手を振る。


「よ、久しいな人鳥。元気にしてたか?」

「わぁぁあああ!!」


人鳥は川獺に抱き着いた。

ああ、懐かしい。本当に懐かしい。この肌の感触、匂いは間違いなく真庭川獺だ。


「おいおい人鳥よ、しのびがそんなにめそめそと泣いてちゃあだめだぜ?」

「無駄だぜ川獺。俺もそう言ったけど駄目だったぜ。 こいつ、十二棟梁全員と出会う時毎々に泣くんじゃねぇか? きゃはきゃは!」


蝙蝠は気味悪く笑う。川獺も苦笑いする。

でも人鳥はそれでもよかった。かつての仲間に出会って、泣いて何が悪い?
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 03:05:55.71 ID:SxTYxCgC0

「じゃあ、あの場合はどーすんのかな?」


川獺は面白そうに首を蝙蝠に訊いた。訊かれた蝙蝠は、


「わかんねぇよ」


と返した。


「じゃあ、今のうちに再会させておくか?」

「え? まだ誰かいるんですか?」


人鳥は訊いた。

すると、前方の奥から、声が聞こえた。



「それは、私の事だよ」


「ッッ!? ――――その声は!!」


人鳥は川獺から顔を離し、聞き覚えのある声の主の方へ歩み寄った。

と人鳥は嬉しそうに顔から涙を浮かばせる。


「そう、私は―――――」


声の主は、自分の名を呼ぶ。



「真庭狂犬ちゃんよ」



狂犬の名を聴いた人鳥は彼女の胸の中へと飛び込もうと走った――――固まった、涙を浮かばせた表情のままで。なぜなら………。


「お久しぶりだねえ、人鳥ちゃん」

「出会ったはのは虚刀流ちゃんと戦う前の、」

「真庭忍軍十二棟梁召集会の時以来だね」

「それから元気にしてたかい?」

「人鳥ちゃん」

「人鳥ちゃん? どうしたの? 急に固まって……」

「可笑しな子ねぇ」

「可笑しな子……」

「でもそれが、」

「可愛いのよねぇ……」

「ねぇ人鳥ちゃん」


声が、バラバラに聞こえる。………いや、声質もバラバラだ。彼女“ら”の体も。何もかもがバラバラだった。

人鳥が固まるのは、無理はない。なぜなら―――



何百何千と言う人間が、体中に青い刺青を入れた人間たちが、人鳥の目の前にいたのだ。

776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/01(木) 03:06:53.94 ID:SxTYxCgC0
蝙蝠はきゃはきゃはきゃはと爆笑して狂犬をおちょくる。


「ほらやっぱり固まった。きゅはきゃはきゃはきゃは!!」

「ほら蝙蝠、あんまり言うなよ。ほら、一番前の狂犬なんて、人鳥と抱き合おうとして片膝ついて両手を広げて、未だに人鳥の事待ってんだぜ?少しは空気読んでくれよ……………イデッ!!」


川獺のコメカミに拳の大きさくらいの石が激突した。


「なっ、なにしやがるっ! お前の事をフォローしてやろうと思ってたのによ!!」

「う、うるさいわねっ! 恥ずかしいじゃない!!」


石を投げた狂犬は、青い忍び装束に巨乳と、なかなかのムチムチのナイスバディな恰好だった。しかも露出が多い。そんな彼女の美貌はきっとその気になれば数多の男も落とせるだろうが、残念な事に凶悪な顔は全てを台無しにしていた。

それは顔を恥ずかしそうに紅く染めていても、例外ではない。

容姿はそれぞれ違うが、彼女たちは皆そう言うに凶悪な顔だった。


川獺は固まる人鳥に今の狂犬の状況を説明した。


「あのな? 人鳥よ。 あいつは、数多くの女戦士の体を乗っ取って生き延びてきたのは、知っているよな?」

「へ?………え、ええ」

(………こいつ、あまりの出来事で思考が停止してやがる。)

「でな? なぜか狂犬は、その乗っ取ってきたすべての戦士の体で、この世界に来たんだよ」

「要するにあれだよ」


蝙蝠が狂犬たちを指さして要約する。


「あそこにいる真庭狂犬は全てで二千人。それぞれ同じ記憶と思考を共有している。そしてこれから経験する記憶も全て共有することになる」

「つーことは、あいつ等は二千人で狂犬なんだよ」


因みに彼女は死ぬ時に使っていた前の姿の狂犬が、先程川獺に石を投げてきた狂犬だ。


「まぁ無理もねぇよ。俺達だって一瞬固まってたんだからよ」


川獺が人鳥を慰めるようにして言った。


「で? 一番強いのは誰だ?」


蝙蝠は狂犬にそう訊いた。

狂犬達はお互いに顔を見合わせて相談する。と、一人の少女が後ろから出てきた。


「私だよ」

「………………ガキじゃねぇか」

「何を言ってるの。このナリでも凍空一族なんだからね、力なら誰にでも負けないわ」

「………ま、いいか。 狂犬は一人一人が一騎当千だから大差ねぇか」
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 03:07:56.20 ID:SxTYxCgC0
そう言えばそうだな。と川獺は蝙蝠の言った事に賛同する。

そして狂犬たちは踵を返して、前に進んだ。


「これで真庭忍軍獣組は出そろったわ。」

「じゃあこれからどうする? 狂犬、川獺」

「そりゃあ、他の奴らを探すしかねぇよ」

「そうだね、でも、それよりもおっもしれぇ話題があるんだ。きゃはきゃはきゃは」

「なんだい、勿体付けるんじゃないわよ」

「ま、それはまた次回って事で………」


蝙蝠はそう気味悪く笑った。

川獺は親友と同じく明るく笑う。

狂犬は『楽しみだねぇ』と凶悪そうに笑う。

そして人鳥はオロオロと彼らの後ろについて行った。


「まぁとりあえずよ………」


蝙蝠は言った。


「ああ、そうだな」

「そうね」


二人も頷いた。

そして、真庭狂犬は凶悪な笑みを振りかざして、犬のように吠えた。



「真庭忍軍獣組ッ!! 再結成だよ!!」


その言葉を残して、獣組の4人+1人は闇の中へと消えて行った。
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 03:17:53.30 ID:SxTYxCgC0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。


残念な事に、11月中にはできませんでした。………絶望した!なかなか終わらない長編SSに絶望した!!

まぁ12月でも変わらないんですけどね?

絶望した!毎年変わらないクリスマスが来るのに絶望……しつこいですね、すいません。



さて、放送席、放送席。こちらには真庭狂犬さんに起こしして貰っています。

狂犬さん、今日で初登場なんですが、一言お願いします。



狂犬「私の設定が色々と被ってんですけどぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



ほら、千本に一本とか、約一万人の双子の記憶がネットワークとして繋がっているとか……。


あれ?その場合双子って言わなくね?

二人だから双子だろ?三人なら三つ子だろ?

じゃあ万人だから……マン……おっと、早く寝なければ。


次回で終わるかも。


以上。久米田先生の気持ちがちょっとだけわかった>>1でした。
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/01(木) 08:03:32.16 ID:/k9JDSCu0
諜報活動に優秀で一人一人容姿が違うという点ではfate zeroのアサシンともかぶってるなw

Fateと原作みたいに噛ませにならない事を心からお祈りしております( ̄人 ̄)
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 21:46:00.76 ID:SxTYxCgC0
こんばんは、今日も書いて行きます。
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 23:15:46.10 ID:SxTYxCgC0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


上条当麻は、病院の待ち合わせコーナーにいた。

披露でぐったりとした表情だが、心配そうな表情が大きい。

後の窓からの太陽の光はない。今は日が沈み、街中の灯りが太陽の代わりに窓から入ってきていた。

隣には、御坂美琴が眠っている。彼女は頭を上条の肩に預けた形で眠っていた。肩にはさっき上条が掛けた毛布が掛けられている。

上条の顔には沢山の湿布が貼られていた。最後に戦った男との殴り合いのせいだった。

また、ヤマによって貫かれた上条の右手には、分厚い包帯がグルグルと巻かれていた。幸いにも骨と大事な血管は無事で、大した手術もせずに終わった。まぁ、針を縫ったけど。

治療をしたのは、あのカエル顔の医者だった。

彼曰く、無理は出来ないけど、今度の大覇星祭は出れるらしい。

しかし、上条は安堵できなかった。

なぜなら………。


「……………結標……」


上条は悔やみながら呟く。


結標淡希は隣で眠っている美琴の自爆によって感電し、今、目の前の集中治療室でカエル顔の医者に治療を受けている。


さっきまで、美琴はそれについて自分を責めていた。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいと、大粒の涙を流して………。

今は泣き疲れて眠っている。

上条は頬に出来た涙の痕を手で軽く拭ってやるが、なかなか取れないのでやめた。

あんなに凶暴で強い美琴も、こんなに可愛い寝顔が出来るのか……。

それもそうか、美琴は学園都市最強の超能力者の一人でも、まだ14歳の中学生なんだからな。

そして、自分はその中学生よりも…、

…………くっそったれ……。

上条は握れない右手の代わりに左手をソファに叩き付ける。


「………なんて…俺は無力なんだ……」


なぜあの時、自分は速攻で敵に倒されたんだ……。

答えは簡単だ。格闘戦が敵よりも弱かったからだ。

そう言えば、夏休みで土御門元春と一戦した時、上条は惨敗だった事を思い出す。

そうだ、自分はただの喧嘩っぱやい高校生で、決して誰かのヒーローになれるほど強くない。

上条は喧嘩が弱いのだ。命のやり取りをしている人間たちからすると。


「…………ぅ……ん」


と、美琴の口が動いたのを上条は気付いた。


「………アンタは………私が…守るんだから………」

「…………御坂…」
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 23:16:30.88 ID:SxTYxCgC0


上条は、ははっ……と微笑む。


「まったく、何だってんだ………ビリビリ中学生の癖に」

「ビリビリに言うな………………ぐぅ」


上条は天井を仰ぐ。 ああ、ここの天井ってこんな風になってたんだな。


「……………こんな事でクヨクヨできないな………俺も」


上条はそう明るく言ってみても、表情は暗かった。

ええい、今はそれ所じゃない! 今は結標の事が第一だ。

上条は集中治療室の扉を睨む。と、いきなり扉が開いた。


「………なんだい、そんなに睨んでも何もないよ?」

「先生!」


上条は、扉の向こうから出てきたカエル顔の医者に結標について訊こうと立ち上がろうとした。しかし、肩には美琴がいる。

医者は上条を制した。


「ああそのままでいいよ。大丈夫だ」


医者は近くの自販機へ行き、缶コーヒーを二つ買って上条の横に座った。


「ほら、君の分だよ?」


医者は上条にコーヒーを渡す。


「微糖でよかったかい? ウチの患者の一人に無糖しか飲まない子がいてね? 連れの女の子がそれを飲んでしまって大騒ぎした事があるんだよ」

「はぁ…」
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/01(木) 23:17:02.06 ID:SxTYxCgC0


上条は適当に相づちを打った。

今はそんなことは聴きたくない。今は………、


「結標淡希さんの事なんだけどね?」


ズキンッ! 上条の顔は一気に緊張の色に染まった。

どうなった? 彼女は無事なのだろうか。何か大変な障害を負ってしまったのだろうか?


「まぁまぁ、そんな怖い顔しなくてもいいよ? 大丈夫、命に別状はないし、大きな障害は残っていない」


「………………ッ、ハァァァ………!!」


上条は大きな安堵の溜息をついた。


「ああ、良かった。何か変なことになってたらどうなってたかと思ってました」


そう言えば、と上条は記憶を巡らせる。

学園都市第一位の化け物と対戦する前、上条は一方通行と戦って死ににいく美琴を止めるときがあった。

その時、美琴の電撃を何発も喰らってても、生きていたなぁとしみじみ思う。

今思ったら、よくもまぁあそこで一方通行と戦えたものだ。

まぁ、その時も今回も、彼女が無意識に電流を抑えて電撃を撃ってたのだろう。


「まぁそうだろうね? さて、君たちには色々と聴きたい事がある」


医者はそう呟き、上条にある質問をした。


「君、実の所、自分が無力だと悩んでいるんだろ?」

「ッ!!」


上条は眼を見開く。


「図星だね?」

「どうしてわかるんですか?」

「この歳にもなると、人間の表情の裏の心がわかるようなるんだよ。鼻でね?」

「鼻……ですか」

「そ、鼻」


医者は自分の鼻をツンツンと突く。


「人間は老いると何故か、嗅覚が発達するようになるんだよ? 危険な事が起こる時、悲しい事がある直前、人間の寿命が終わる日………そして悩んでいる訳…とかね?」

「先生は『念話能力者(テレパス)』ですか?」

「いいや?これは誰でも歳を取れば手に入る力だよ? 世の中じゃあ『経験』と呼ぶんだ」


医者はコーヒーを飲み干し、缶を持って立ち上がる。


「さて、上条くん。 君には来てもらいたい所があるんだけどね? 一緒に来てもらってもいいかな?」
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 01:00:10.38 ID:QyUD5q+d0
――――――――――・――――――――――・――――――――――・――――――――――・――――――――――


上条が医者に連れられてやって来たのは、病室の一室だった。

そこは個室で、一人の少女が昏睡していた。


「彼女はね、とある事情で昏睡状態が続いているんだ」


医者はそう言って、眠りの底に沈んでいる少女を紹介した。


彼女は容姿からすると、高校生の様だ。大人びたその奇麗な肌と整った顔立ちで静かに眠っている。

きめ細かい肌の腕には、点滴の管が繋がっていた。傍らには、何かわからないが、液体の様なものが入ってある袋が吊るしてあるスタンドが立っていた。


そして、彼女の頭の上の名札には、『麦野沈利』と言う文字が書かれてあった。


「今、彼女がやっているある活動の仲間たちは、その活動をしながら彼女の看病を必死にやっているんだ」


医者はそう言った。でも、それが上条と何の関連がある?


「まぁそう慌てないでね? 時に君、周りにどんな人がいる?」

「え?」


上条は変な顔で、医者の変な質問に反応した。


「君の身の回りの人間には、どんな人間がる? 親は?友人は?恋人は? どんな人達なんだい?」

「え……?」


上条はポカン…として、医者の言った事を思い返した。

俺の…周りの人達……。


「まず、家に居候しているインデックス……隣の部屋の土御門……クラスメイトの青髪ピアス、吹寄、姫神、小萌先生、黄泉川先生、御坂、御坂妹、白井、結標…………」


カエル顔の医者には言えないが、あと、ステイル、神裂、オルソラ、シェリー………ああ、そうそう、この頃勝手に居候してきた否定姫と右衛門左衛門もいるが、周りの人間としていれてもいいのだろうか?


「あと、先生」

「僕かい? ありがとね?……じゃあ訊くけど、もし君がいくら頑張っても出来ない時、もし君がどうしようもないくらいにピンチを迎えた時があるとしよう。それを君が言ってくれた人達は目撃した場合、彼らはどうすると思う?」

「……………それは…」


上条は言葉を詰まらせた。

医者は微笑んで質問を変えた。


「逆にしようか。 もし、君が…例えばインデックスさんが不良に絡まれているとしよう。その時は君はどうする?」


785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 01:08:07.50 ID:QyUD5q+d0
上条はそう言うシュチュエーションを想像して、当たり前のように答えた。


「そりゃあ、インデックスを助けるに決まっているじゃないですか」

「土御門くんが万引きと間違えられていたとするなら?」

「土御門の誤解を解きます」

「姫神さんが一人で寂しくいるときは?」

「話しかけて一緒に遊ぶ」

「結標が今日のように怪我をして入院した時は?」

「お見舞いに行く」

「御坂さんが能力を封じられて、敵に酷い目に合っている時は?」

「御坂の味方になる」


そして、医者は最後の質問をした。


「じゃあ、彼らは君と逆の立場になった場合、君を助けると思うかい?」

「……………、」


上条はまた、言葉を詰まらせた。

医者は「そうか」と言って、立ち上がった。


「答えはYESだね?」


個人差があるけど、断言してもいい。と彼は言った。


「君は数多くの人の人生を救った。そして彼らは君に大きく感謝しているだろうね?

医者は部屋から出ようと、ゆっくりと足を運ぶ。


「因果応報、自業自得………自分がしてきた事実は全て何かと繋がっていて、それらは自分に帰ってくると言う事だ。彼らが君に感謝している分、君が危ない目に会っていれば絶対に助けに来るはずだよ? それに、君の回りに君を裏切る様な人間はいないだろう?」


もちろん私も君に感謝している一人だよ?と医者は笑う。

でも、上条は医者に感謝される様な事をした覚えはない。その事を話すと……。


「何を言っているんだい? 僕は君にとっても感謝している」

「どうしてですか?」

「よくこの病院に入院して、お金を落としてくれる」

「あ、そういう事……」


上条はハハッ、と反笑いした。

医者は「まぁそんな事はどうでもいいけど」と付け加えて、脱線した話を戻す。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 01:10:00.01 ID:QyUD5q+d0

「君は一人じゃない。だから今は悔やまなくてもいいんだ。苦しまなくていいんだ。君には立派な仲間がいるんだよ? この彼女の仲間たちのようなね?」


医者は首だけ振り向かせ、大人びた少女の眠った顔を眺める。うん、いい寝顔だねと小さく呟いた。


「…………先生…」


上条は医者の背中を見る。 広い、背中を。

上条の中で、何かが吹っ切れた。

医者は、そんな上条の顔を見て、一安心したようだった。


「さて、そろそろ出るよ? 結標さんの病室はこの病室の5つ左にある。 一旦顔を見せたほうがいいよ? 彼女、意識は取り戻したようだから」

「ああ、わかりました」


上条は、部屋を出る前に少女の額に触った。

いや、大した意味はない。ただ、奇麗な肌に触ってみたいと思ったからだ。

すると、右手からピキンッ!と何かがひび割れた音がした。

上条は慌てて右手を引っ込めた。


(この感覚………もしかして………)


上条は自分の右手を見る。…と、カエル顔の医者はドアを開いて上条を呼んだ。


「何してるんだい? 早くしてくれないか?」

「あ、はい、すいません……」


上条は後ろ髪を引かれた心情だったが、医者の後を追って、まったく意識のない少女が眠る、この病室を出た。

バタン……とドアが静かに閉まる音がする。







そしてその3秒後、少女の目蓋が揺らいだ。






787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 02:55:43.60 ID:QyUD5q+d0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あ、当麻くん」


結標淡希は、包帯だらけの顔で上条の顔を見た。


「嬉しい、ずっと傍にいてくれたそうね」


何とも弱々しい声だと、上条は思った。 あんなに美琴と声を張り合って口喧嘩していたのに…。

いつもの二つに束ねている髪は解かれ、奇麗なロングヘアとなった結標。

いつもサラシにブレザーと、露出が大きい格好なのに、今は地味な病院の支給品の服を着た結標。

どれも、あの結標を見ていた上条にとって違和感が大きかった。


「ありがとうね、私、とっても嬉しい」


そう言って、結標は微笑む。

そして、上条は深く頭を下げた。


「ごめんっ!」

「……? なんで謝るの? 当麻くんは何も悪くないのに……」

「いや、俺が弱かったばっかりに、お前に大怪我をさせてしまった。ホントにごめんなさい!!」

「いいの、私は何も恨んでないから。それに、当麻くんは弱くない。だって私に生きる意味を教えてくれた。だから、私は何でもする。当麻くんの為なら何でも」

「…………………、」


――――――――――――『彼らが君に感謝している分、君が危ない目に会っていれば絶対に助けに来るはずだよ?』


あのカエル顔の医者の言葉がフラッシュバックした。

確かに、彼の言うと通りだ。因果応報、自業自得。自分がやって来た事が何かに繋がっていて、自分に帰ってくる。


でも、それじゃあ納得がいかない。


上条は、結標の目を見た。


「結標!! 俺は約束してくれ!!」

「……、当麻…くん?」


結標は驚いたように、首を傾げる。上条は、叫ぶ。


「俺は弱ぇ…。俺は誰かの力がないと、何もできない………! だから結標! 俺を助けてくれ!! 俺も、お前を助けるから!! みんなを、御坂も、吹寄も、みんなみんな助けるくらい強くなるから! だから俺を……助けてくれないか!?」


因果応報、自業自得。自分がやった事は必ず帰ってくる。だったら、それは他人も同じの筈だ。

俺ばかりが助けて貰っていちゃあ、それこそ相手に申し訳ないと言うか、失礼と言うか………。


ともかく、上条当麻と言う人間は誰かのために、誰かが苦しんでいたら、必死になって助けたい。

でも、上条は弱い。幻想殺しと言う能力がある右手があるが、あるのは手首から上。

それ以外は普通の高校生と殆ど変わらない。

だから、上条は弱い。

上条は心の底から、自分は自分は弱いと、そう思っていた。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 03:18:27.36 ID:QyUD5q+d0

上条は、頭を下げた。


「頼む、結標!」


結標は………、


「当麻くん、顔を上げて?」


と言った。上条は言った通りに顔を上げる。すると―――――


結標は上体を起こし、上条の唇にキスをした。


「――――――――――ッッ!!?」


結標は上条から顔を放す。


「…………これが、私の答えよ?」

「む、結標……」


上条の顔は真っ赤に染まる。結標は恥ずかしそうにして、続けて言った。


「私は当麻くんの事が、好き。好き。大好き。―――――――だから、これからもよろしくね♪」


結標はそう、優しく微笑んだ。


「結標……///」


上条は真っ赤になった顔を反らす。

それを見て、今度は結標も目を反らした。


「わ、私だって、は、恥ずかしいのよ? わ、私の、ふぁ、ファースト…キスなんだから………///」


モジモジと結標はベッドの上で縮こまる。

そんな彼女が、上条は純粋に可愛く見えた。


「…………結標、これからもよろしくなお願いします」

「ええ、これからも、どうぞよろしくお願いします」


二人は、深々と頭を下げた。




そのやり取りを、病室の外で美琴がこっそりと見ていた。


「……………………〜〜〜〜〜〜〜!!」


美琴は顔を紅く染めて、一歩二歩と後ずさり、床にペタンと座り込んだ。


「………………ハァ……ハァ……ハァ………」


なにこれ、胸が痛い。苦しい。何よ、コレ。何でか心臓がバクバクと疾走したまま止まらない。どうしよう、ドキドキが止まらない。そして―――

なんで、こんなに悲しいの?
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 03:19:43.06 ID:QyUD5q+d0
今日はここまでです。ありがとうございました。

結局、今日じゃ終わらなかったしww
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/02(金) 19:56:53.56 ID:DYitQKYIO
乙です!

昨日1スレ目見つけてここまで追いつきました
禁書も刀語も超好きなので超応援しています!
ついに麦野きたか?
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/02(金) 22:29:02.12 ID:QyUD5q+d0
こんばんは、今日も書きます。が、昨日のように遅くまで書かない予定です。

この頃何か目が見難くなってきたなぁと思ったら、右目の視力が低くなってきました。

中学高校と両目2、0を誇ってきた私でしたが、とうとう1、0を切り、右目が0、8になってしまいました。

今、蒸しタオルを目に当てて、プルーンを食べながら書いてます。


>>790
前スレからですかwww早いですねww

応援ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/12/02(金) 23:00:46.93 ID:4xPZ5uNY0
目はあっためちゃダメって聞いた
違ったらごめんね☆ミ
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 00:46:15.93 ID:PZ/CELYa0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「今日の晩御飯はなんと―――――――――鍋です」



エプロン姿の絹旗は、そう発表した。


「鍋?」


七花は首を傾げる。

もしかして七花の時代には鍋料理は無かったのかな?と絹旗は思いながら、キッチンから大きな土鍋と豆腐や白菜や豚肉などの大量の材料が入った器を“片手ずつ”持ってきた。

それをリビングの中心にある足の短いテーブルの上に置く。土鍋はテーブルの中心にあるIHコンロに置いて火を掛ける。材料が入った器はその隣に置いた。

まぁ鍋とは何ぞやという質問は言って説明するのは難しいので、実際に作った方が随分楽だ。絹旗はそう思って早速、予め出しておいた昆布ダシが入った土鍋に、材料を奇麗に詰めてゆく。

と、そこに絹旗の横のソファーでぐったりとしていたとがめが口を開いた。

いや、ぐったりと言うよりも、クタクタ? いや、ぐにゃぐにゃ? それともヘロヘロ? ボロボロ?まぁ帰ってきた時よりも疲れた表情でとがめは言った。


「あれだろ? 相撲取りが良く食するあれだろ?」


ああ、あれか。なんだ、普通の飯じゃないか、と七花は思った。

江戸時代、各家庭には囲炉裏という物があり、そこで鉄鍋に入った野菜や肉を焚いて箸を突き合うのが日常的にあった。

それが今日、現代の日本人の食卓で、囲炉裏がコンロに代わりながらも、昔と同じように仲良く一つの鍋を箸で突き合う、秋から冬の風物詩になったのだ。

しかし七花は知らない。当時と現代の鍋は、材料の量から味まで全く違うと言う事を。そして、その後、彼は鍋料理と言う高天原に匹敵する様な食事に感動を覚えるのだ。

そんな事はさておき、絹旗は奇麗に敷き詰めた材料の上に、白菜を均等に乗せて蓋をした。


「まぁチャンコもそうですね。 でも、今日は超初級の味噌鍋です」

「まぁ、結局はダシと味噌が入った鍋に材料入れて煮込めば、簡単に美味しくなる訳なんだけどね?」


と、フレンダはフレメアを膝の上で寝かせて口を挟んだ。


「あれ? フレンダもう超復活したんですか?」

「あ、絹旗、あんまりそれ言わないで………。それ、今やっと忘れかけていたとこだったのに………」


と、フレメアは顔を青くして震えながら言った。その直後、笹斑はフレメアを後ろから抱き着いた。


「じゃあ一生忘れぬ思い出にする為、第2ラウンドいっちゃう?」

「ぎゃああああ! ヤメロ馬鹿痴漢変態変質者ぁああ!!」


フレンダはイヤイヤと体を振って笹斑というセクハラオヤジを振る払おうとする。

と、とがめはそんな二人を注意した。


「おいお前ら、あまり暴れるとフレメアが起きてしまうじゃないか」

「いやいやとがめさん、もうじき鍋が出来るので、出来たら起こしてもらいたいんですけど………」


絹旗は半笑いしながらツッコむと、笹斑はある、重要な事を思い出した。


「あ、私、フレメアちゃんの睡眠能力、解除していない」


とがめは呆れたように呟いた。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 00:52:06.57 ID:PZ/CELYa0
「そりゃ目覚めん訳だ」

「じゃあ能力解くから、フレメアちゃん貸して?」

「……………変な事しそう」


フレンダは嫌な顔をした。


「失礼ね、変な事しないわよ。そんな、チューしたりペロペロしたりクンカクンカする訳じゃないわ?」

「結局そんなこと言ったらますます渡さないって訳を知らないのかアンタは!?」

「…べ、別にアンタの為にやってるんじゃないんだからね?///」

「誰の為にもならないわよ!! つーか何でツンデレ!?」

「おい、そこら辺で仲良し漫才をやめろ」


とがめは二人に睨む。

フレンダは渋々承諾し、笹斑はフレメアを両手で抱き上げて、耳元でボソボソと何か言った。

すると……


「……んー………ごはん……………くー」


フレメアは寝言を言いながら、また眠りについた。


「これでノンレム睡眠からレム睡眠に切り替えたわ。 あとは普通に起こすだけですぐに目を覚ますはずだから」


と、笹斑はフレメアをフレンダの膝の上に置いた。

そこで七花は笹斑にある事を訊いた。


「なぁ、一体そいつに何をしたんだ? ノンなんたらとかなんなんだ?」

「ん? 簡単に言うなら、人間が寝るときに発生する脳波を操作したのよ?」

「?」

「まぁ難しい事はとがめさんに聞いてちょうだい。 私の能力は子守唄の様な物よ? 私は声を媒体にして相手の耳から脳波を操るの。睡眠限定だけどね」


795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 01:00:58.03 ID:PZ/CELYa0
そして、そう言って笹斑は踵を返す。


「じゃあ私はここで退散するわ」

「あれ?ご飯食べに行かないんですか? もう出来るのに。超美味しいですよ?」


絹旗はリビングから出て行く笹斑を呼びとめた。しかし笹斑は悲しそうに笑いながら、その招待を断る。


「ダメよ。私はフレメアちゃんの前では『一緒にいてくれた、自分を守ってくれた同じ境遇の優しいお姉さん』という役割なんだから、それを演じきらなくっちゃね。それに、あなたたちアイテムの下っ端組織の一人なんて知られたくないの」

「フレメアは結局、私達がやっていることを一切知らないわよ?」


フレンダは真剣な目でそう言った。でも笹斑はリビングを出、歩きながら後ろに手を振った。


「それでもダメね。 私の様な穢れ切った娼婦には、その子は眩しすぎる……。それに、一緒にいるとその子も穢れそうで仕方ないのよ………」


バタンッ、とドアが閉められ、リビングは静かな空間になった。



そして、その静穏を打ち破ったのは、一本の電話だった。それを聞いて、絹旗は台所にある固定電話へ走る。


「はい、絹旗です。………あ、はい、そうですけど………。えっ!?」


絹旗は驚きの声を上げた。



「麦野が目を覚ました!?」



「ッ?!」


フレンダは一瞬跳ね上がる。が、フレメアが落ちるので一瞬で留まった。


「……………はい、はい、わかりました……はい、明日ですね? わかりました、ありがとうございました」


絹旗は電話を切って、充電器に置いた。そして飛び跳ねて叫んだ。


「みなさん、今日は超お祝いです!! 麦野が意識を戻しました」

「本当か!?」


七花が嬉しそうに言った。元を辿れば麦野を意識不明にさせた原因をつくったのは彼だ。その責任を思ってたのだろう。

絹旗も嬉しそうにはしゃいでいた。


「今日は遅いから、明日来るようにってあのカエルの先生が」

「そうか、それなら安心したぞ。私も一回、その麦野とか言う人物と話をしてみたかったからな。……………時に絹旗よ」


とがめは鍋に指を刺した。


「吹き零れているぞ」

「え? ああああああああああああああ!?」
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 01:26:09.17 ID:PZ/CELYa0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

騒がしい声が、リビングから聞こえる。どうやら意識不明で臥せっていた麦野沈利が目を覚ましたらしい。

それで絹旗たちは嬉しそうに騒いでいた。


「…………じゃあね?」


笹斑は革靴を履いて、トントンと爪先を叩く。そして一人寂しく呟き、玄関のドアを開けた。

すると、見知った顔がドアの目の前に立っていた。


「おっと、」


笹斑は慌てて仰け反る。滝壺理后は笹斑に道を譲った。


「えいり、来ていたの」

「ええ、一応、フレメアちゃんのお守り役として仕事を全うしにね。あと、報酬を受け取りに」


笹斑は笑う。

彼女たちは気の合う友人同士だった。まぁ暗部の人間同士なのだから、すぐに壊れるかもしれない薄い友情なのだが、彼女たちはそれを大事にしていた。

笹斑は滝壺を襲わないし、セクハラじみた事もしない。

なぜなら、彼女は闇の住人の癖に純粋なのだ。奇麗で、美しくて、穢れなんて一切ない。彼女は眩しいのだ。奇麗なのだ。だから自分が穢して良い人間じゃない。

まるで鏡でも見ている様な逆方向の人物だった。


「理后、結構早かったね?」


笹斑は左手に嵌めた腕時計を見る。未だに18時半を回った所だ。確か、滝壺が来るのは19時半ではなかったか?


「実は、意外と出来るのが早くて、予定よりも来るのが早かったの」

「何を作っていたの?」

「ん? 絹旗勝利祝いのケーキ」

「……………」


滝壺はケーキが入った箱を笹斑に見せる。


(ああ、味噌鍋の後にケーキか……なんて食い合わせ…………大丈夫かな? あの子たち……。あの鍋、結構大きい上に沢山詰めていたからなぁ)

「どうしたの、えいり」

「え? あ、いや、何でもないよ? でも、そのケーキいくらしたの? 結構大きいけど…」

「あ、これ? 実は手作り」

(あー、これは意地でも食べなくちゃいけないね。頑張れーみんなー)


笹斑は半笑いする。よかった、自分は退散しておいて。


「それじゃあ、私は用事あるから帰るね?」

「うん、えいりも気を付けて。傘いる?」

「いいよ、晴れているようだし」

「そう…。じゃあね、えいり」

「うん、また機会があったら会おうね、理后」


二人は手を振って別れた。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 02:11:38.89 ID:PZ/CELYa0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


笹斑は、長いマンションの廊下を歩く。右手には無数のドアが統一感覚で並んでいて、左手には学園都市の夜景の光が瞬いていた。

すぐそこの曲がり角を曲がると、エレベータがあった。そのボタンを押す。

エレベーターはここから遠い階にあるのか、なかなか来ない。

そこで、笹斑はその隙に携帯電話を取り出し、とある人物に電話した。


その人物は、3コールキッチリで出た。


『もしもし? 任務ご苦労様』


女の声だ。電話の向こうの声は若い女の声だった。

そして電話の向こうがそう言ったと同時に、エレベータが到着し、自動ドアが開いた。笹斑はそれに入る。


『どうだったかしら?もちろん あの『鑢七花』と『奇策士とがめ』の事だけど」

「ええ、大した人たちですよ。『奇策士とがめ』の奇策とやらは十分な脅威です。それに、それよりも大きいのは『鑢七花』の虚刀流とやらです」


笹斑はそう言った。先程までの、フレンダとふざけていた時のとはまるで別。違う人物の様な錯覚が起るほど、態度も口調も何もかもが真剣な物へと変わっていた。


「彼の虚刀流の純粋な戦闘力は、学園都市最強の超能力者七人にも匹敵するほどです。敵に回すのは些か危険かと」

『そうね、だったら下手に手を出すのは下策の様ね』


だったら、と電話の向こうの女は提案した。


『下手(ヘタ)な手をとるより、下手(したて)に近付いたらいいかもね………』

「と、いいますと?」

『いや、やっぱり無しね。一旦様子見することにする。あなたはこの後もあの二人の監視をよろしく頼むわ? 笹斑瑛理さん』

「了解いたしました。マスター」


『マスター』。そう笹斑は言った時、エレベータは一回に到着し、笹斑はなかから出た。そしてマンションの敷地からも出る。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 02:12:14.91 ID:PZ/CELYa0


『さて笹斑さん。今君はどうやって帰るのかな?』

「もちろん寮まで歩いて行きますけど………どうかなさいましたか?」


笹斑は歩道に出て歩く。と、真横の黒い車がクラクションを鳴らしてきた。


「……ッ!?」


いきなりでびっくりする笹斑。一方、電話の女は声を出して笑った。


『あっははははは」


そして、車の窓がうぃぃぃぃぃい…と開いて行く。


「折角だから乗ってかないか? 今なら一席空いてているけど」


その声は、笹斑の携帯からも聞こえてきた。

車の窓から、携帯電話を耳に当てた、自分と同い年くらいの少女が不敵に笑っていた。


雲川芹亜は、車のドアを開けて笹斑を出迎えた。


その車は、運転席と助手席が前にあり、後ろは広めの空間だった。3席の一人用ソファーが並び、雲川の座るソファーの横には豪華にもシャンパン用の冷蔵庫が置いてあった。

無論、雲川は未成年なのでシャンパンでなくジュースが入っていた。雲川はそれを一本取って笹斑に手渡す。笹斑はお礼を言ってからそれを受け取った。


「さて、今まで起こった事を言ってもらうよ。 もちろん、アイテムの事もだけど」

「はい、マスター…………と、その前に」

「なに?」

「私の横にいる男は?」


笹斑はその男を指さした。雲川は楽しそうに笑って答える。


「拾い物だよ。“たまたま”第十学区の某元研究所に遊びに行ったら、とある部屋に倒れていてね。拾ってきた」

「そうですか………」

「彼の能力は便利なのもよ。 だって、『体内に発生する電気を増幅させて、発生させた電気で肉体の活性化させる』能力を持ってるんだもの。まぁその分、暴走すると危ないんだけど」


男は気絶しているようで眠っている。

そんなことはどうでもいい。と、雲川はニヤニヤと笑った。


「話を聞かせてもらうよ?」

「はい、マスター。では、幾分か昔の話をしましょう。 昔、ある男がいました―――――――――――――――」

799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 02:13:30.02 ID:PZ/CELYa0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 14:23:43.49 ID:PZ/CELYa0
こんばんは、今日も書きます。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 18:56:12.43 ID:PZ/CELYa0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――――――――――――――以上が、今回の事件の全容です」



第七学区、とある高校の学生寮の屋上で、『不忍』の仮面を被った男がそう言った。

左右田右衛門左衛門は片膝をつき、頭を下げている。雨は上がっているが、彼の洋風な服や髪は濡れていた。しかし、彼にとってはそんなことは辞さない。


「御苦労さま、右衛門左衛門♪」


そして、彼の前には一人、妖艶な美女が座っていた。台の上に傘が刺さっていて、その上に美女は寝転がるように座っていた。


「ふぅん……なるほど。結局、奇策士は『斬刀 鈍』を…いや、『斬刀 鈍』だけを蒐集したって訳ね…」


美女はそう呟いた。右衛門左衛門は彼女にある事を提案した。


「いっそ、私が『賊刀 鎧』と『絶刀 鉋』を蒐集してきましょうか。あの様な陳腐な集団、どうと言う事はありません」

「その提案は否定するわ。時に右衛門左衛門、私達はなんでこの世界にいると思う?」

「………私の様な鈍重な頭の持ち主の私にはわかりませんが、恐らくは虚刀流と何か関係があるのではと見ます」

「…んー、その方向も線もあるけどね……。実は私にもわからないのよ」

「………まさか、あなたと言う人がわからない訳がない。そうでありませんか? 否定姫様」


否定姫は、ふふっ、と怪しく笑った。


「流石は右衛門左衛門、わかってるわね」


否定姫は体勢を組み替える。


「そうね、あれから色々と考えるうちにいくつかの仮説が出てきたの」

「仮説、ですか……?」

「そう、仮定よ。まずは一つ目は偶然説。何かの偶然で空間が歪み、私達はここへやってきた。………これは信憑性があるけど、あまりにも曖昧だから結論はひとまず保留ね」


まぁ確かに偶然だ。偶然にも麦野と言う少女が『ゼロ次元の極点』を遊び半分で使って、違う世界の鑢七花と否定姫をバラバラの場所に召喚させてしまった。 七花は麦野の目の前に、否定姫は上条宅のベランダに。


「二つ目は陰謀説。誰かの陰謀により、私達はこの世界に送り込まれた。………理由は知らないから、これも保留」


そして、最も信憑性があるのは、と否定姫は三つ目を出した。


「それは一つ目二つ目を合わせた、望外説よ。偶然にも私と七花君が世界に送り込まれ、七花君の虚刀流の力を知った誰かが、ないしは知っている誰かが何かの好機だと考え、陰謀を巡らせて事を大きく広げた」


真実は七花を元の世界に戻そうとした時、偶然にも『毒刀 鍍』が召喚された。それを握った麦野は四季崎記紀に憑依された。四季崎は『ゼロ次元の極点』によって彼がかつて造った完成形変体刀十二本と、鑢七花と対戦した元所有者たちや真庭忍軍を召喚したのだ。

三つ目の望外説の場合、陰謀者は四季崎と言う事になる。

しかし、陰謀を働かせているのは彼だけじゃないと、否定姫は踏んだ。
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 18:57:29.37 ID:PZ/CELYa0

「例えば、この街にとって大きな影響力を及ぼす人物。――――――例えば、この街の長……とか」

「………この街の場合、学園都市統括理事長という肩書になります。姫はこの男が元凶だと?」

「その考えを否定するわ。 彼でもいいんだけど、もっと下っ端でも十分可能はず。まぁその統括理事長様が一番妥当ね」


でも、と否定姫はどんよりとした雲の間に見える一番星を見つけて言った。


「私はその元凶には感謝しているわ。 だって、こんなに面白おかしい街はなかなか無いから。そして楽しい事は無いんだもの。これを楽しまない訳はない。 そう思うでしょ? 右衛門左衛門」

「私は、姫様の傍らにいるだけで、十分に幸せです」


右衛門左衛門は無表情で、フラットな口調でそう言った。

その様子を、否定姫はつまらなそうに否定した。


「嘘ね。あなたの場合『私は否定姫様の為に尽くすこそが人生』ってよりも、『また虚刀流と一戦交えることが出来るのが楽しみだ』ってのが本音という物じゃない?」


その言葉に、右衛門左衛門は初めて笑った。


「………やっぱりね。 ふふっ、安心しなさい、その舞台は近いうちに用意してあげる。だから今は情報を集めるだけ集めて頂戴。 特に七花くんと奇策士と、上条当麻の周辺を重々的に……」

「御意」


右衛門左衛門はそう短く行った後、風のように消えて行った。

まったく、相変わらずの働き者だ。あの忍は。 自分の手足のように働いてくれるし、何より強い。懐刀にすれば最強だ。


「さて、次は何をしようかしら」


と、まるで子供が次の遊びを考えるようにして呟いた。


しかしその時、否定姫の後ろから鋭い声がした。


「そこまでだ!」


男の、大人と少年の中間あたりだろうその声は、否定姫の後ろを刺す。


「貴様、何をしている? 両手を上げてこっちに向け」

「だれ? 私に指図する馬鹿は」


否定姫は振り向く。しかし両手は上げない。袖に手を入れて扇子を取り出してバッと広げて口を隠す。


「両手を上げろと言っただろう。さっさとあげろ」


男はそう言って、黒い拳銃を否定姫に向けた。しかし否定姫は眉一つ変えない。

男は…キンキンに染めた金髪に、目にはサングラス、肌ににアロハシャツを直接着ていた。

土御門元春は、否定姫と対峙していた。


「なに? そのおもちゃ」

「舐めるな、脅しにおもちゃを使う馬鹿じゃない。 列記とした本物だ」


土御門は否定姫の足元に一発、静かに発砲する。否定姫が乗っている台に一つの風穴があいた。

拳銃にはサイレンサーが付けられていて、発砲しても音が出ないようにしてある。それは無関係な人間たちが野次馬として来ない為だ。


「次、舐めた事したら貴様の眉間に叩き込む」
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 18:59:25.34 ID:PZ/CELYa0

土御門は改めて拳銃を構える。予告通り、否定姫の眉間に照準を合わせて。

しかしそれでも、否定姫は顔色一つ変えない。それどころか、土御門に質問をし始めた。


「……時にあんた、どうやってここに来たの? 人払いをしたはずなのに」


そう、否定姫はこの屋上に誰も来ないようにこの屋上に人払いをしたのだ。

その答えを、土御門は鼻で笑って答えた。


「馬鹿だろ、お前。 人払いの魔術を発動に使う要所ってのは、一目が付かない場所でするモンだ。それをお前はなんだ?」


土御門は拳銃を構える逆の手で、ポケットから一枚の折り紙を取り出した。


「お前が使用した人払いは『神の聖域』をモデルにしている。いわば神の結界、人払いよりも結界そのものだ」


土御門は折り紙を否定姫に投げる。器用に折られたそれは、神社の神主が持っている御幣のように見えた。


「普通の人払いは『近づいた人間が嫌がって近付けない心理状態』近いようにするが、お前のは『祟りを恐れ、神聖な場所には近付かない心理状態』にする人払いだ。これは上級の魔術師にしか出来ない代物だ」


だが、と土御門は小馬鹿にしたように笑う。


「お前はその魔術の要所を、なんと屋上のドアに堂々と飾っていたんだ。一般の人間が通れなくても、俺たち魔術師が破れない訳がない」


神の神聖なる聖域を創るには、幾つかの方法がある。それは境目を創ること。例えば鳥居、注連縄、狛犬、御稲荷などだ。

否定姫はこの聖域を創る時、屋上のドアに鳥居と注連縄に見立てた絵を直接描いて、屋上に出て柏手を二泊打つ。これで否定姫は聖域の主、いわばこの空間の神となって誰も近付かないようにしたのだ。

ただ、重臣の右衛門左衛門は式神に見立てていたため、彼は自由に聖域を出入りすることが出来た。


「だが、幾ら信仰すべき神がいる聖域だとしても、絶対に入れない事はない人物がいる。それは誰か?………簡単だ、神主、巫女などの神職者だ」


だから、土御門は折り紙で御幣を折り、この聖域に侵入できた。もし、間違った方法で聖域に一歩でも踏み込めば………。


「失敗すれば祟りで大怪我して、おまけに『神隠し』という形で永遠に異次元に飛ばされる仕組みだったんだけど……甘かったようね」

「この魔術は陰陽道の最高峰レベルの術だ。なぜお前がそれを知っている?」

「その要求を否定するわ〜♪」

「ふざけるな!!」


土御門は否定姫の態度に腹を立てたのか、彼女の肩口に拳銃を発砲しようとした。

しかし、


「汝、ソノ矢ヲ飛バサズ、我ヲ、安心サセヨ」


否定姫の言葉により、弾は引き金を引いたのに銃口から出てこなかった。


「…なッ!?」

「あ〜良かった。弾が出なくて」


そして、また否定姫は命ずる。


「汝、空ヲ飛ビ、我ノ、手ノ中ニ入ッテ我ヲ助ケヨ」


拳銃は鳥のように土御門の手の中から飛び出し、否定姫の手の中に入った。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 19:00:12.49 ID:PZ/CELYa0
否定姫はその銃を撫でて、


「助かったわ。ありがとうね」


そしてポイッ!と後へ捨てた。


「なるほど、あの猟犬部隊を一蹴したのはその術式か」

「『はうんどどっく』ってのは知らないけど、そうよ? あの顔に刺青をした男の顔なんて爆笑ものだったわ?」

「俺もこっそり見ていたが、確かにあれは滅多に見れるもんじゃない。おかげで俺の親友の命が救われたし、被害は学生寮の一部が蜂の巣になっただけに留まった………が、お前のやっていることは世界の狂わすには十分すぎる」


そして、土御門は否定姫に駆けた。拳を握り、否定姫に殴りかかる。

否定姫は憎き奇策士と同じく格闘戦は問題外だ。押されても倒れる自信はある。


「汝、スグニ転ガリ、我ヲ、笑ワセヨ!」


そこで否定姫は命じた。

しかし、土御門は転ばなかった。

土御門は、耳を両手で閉じていたのだ。


「……ッ!!」

「無駄だ。 この術は自分の命令が相手の耳に届かなかったら無意味だ。そして、」


土御門は否定姫が乗る台に乗った。


「これで、お前と俺の立場は同等となった…………違うか?」

「あんた……術式の正体がわかったの?」


否定姫は落ち着いた表情で言ったが、さっきまでの笑みは完全に消えた。


「昔からの故事成語に『褒姒の一笑国を傾く』というものがある。故事成語の殆どは本当に起こった事実に基づいて作られていて、それもその一つだ。これのモデルとなったのは紀元前8世紀の周の時代の事、周が大陸を制していた時代だった」


当時の王の名は幽王。その后の名は褒姒(ほうじ)と言って、絶世の美女だったそうだ。しかし、彼女は笑わない性格だった。そういう人間だった。幽王はどうしても褒姒の笑顔が見たかった。でも、どんなことをしても彼女は笑わなかった。

そんなある日、何かの手違いで敵襲の狼煙が上がった。

すると各地にいる臣下達がすぐに大軍を率いて飛ぶように集まってきた。しかし当然敵はいない。兵たちは戦の前に慌てふためいた。

敵などいないのに、そんなに慌てている。いわばドッキリの様な物だった。

そんな滑稽な姿を幽王は褒姒と一緒に高台で見ていた。

すると、なんと褒姒が笑った。初めて笑った。それもとても美しい笑顔で。

それを境に幽王は事あれば偽の敵襲の狼煙を上げさせ、大軍を呼んだ。その度に兵たちは慌てふためいて城内に押し寄せ、褒姒を笑わせた。

当然臣下達にとってはいい迷惑だった。たかがそれだけの為に兵たちを連れてきて、それがドッキリだったと知らされれば、それは怒る。

そして、とうとう臣下達は来なくなった。

すると、その知らせを聞いてか、本当に敵がやって来た。当然狼煙を上げるが、誰も来ない。そしてあっという間に国が滅んだ。


「その術式はそれをモデルにしてある。お前が命令すれば、それを聞いた臣下達は何があっても従わなくてはなない」


土御門は否定姫に歩み寄る。否定姫は土御門から逃げるようにジリジリと後退していく。そして、台の隅に追いやられた。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 19:02:02.24 ID:PZ/CELYa0
「この術式の発生条件は三つ。一つ、命令を相手に伝える為、声が届く範囲に対象がいるか。二つ、その命令が対象が聴いているか。三つ、対象よりも自分は高い場所にいるか。人間や動物以外、例えば無機物や植物は耳が無い為、二つ目の条件は除外される。それと、猟犬部隊を蹴散らせたとき、お前は木の上に座っていたよな?」


ぎくり、否定姫の腹の中で何かが驚く。


「どの国でもそうだが、古代中国の身分社会の象徴の一つは位置の高さだ。 座る席が地面から高ければ高いほど、位は帝に近くなる。そして、俺とお前は同列だ」


土御門は、ポケットから一本のナイフを取り出す。


「これで、お前の武器は全て無くなった。もう素っ裸だ。どうする?」

「…………一応、名前を訊くわ。 あなたは何者?」

「なに、お前が住んでる部屋の隣に住む、ただのオタクな高校生だ。………でもまぁ、今はこう名乗ろうか」


土御門はサングラスに中指を当てて、高さを直して、こう名乗った。


「イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』魔法名『背中刺す刃(Fallere825)』 土御門元春だ。一応、学園都市内で魔術を勝手に多用するのはご法度なんだ。貴様の様な高レベルな魔術師は正直惜しいが、大人しく殺されてくれ」

「ふふっ、その言葉、断固否定するわ〜♪」


否定姫は、余裕の表情で笑った。


「右衛門左衛門!」


否定姫は最強の従者の名を呼んだ。しかし、


「無駄だ、俺が人払いした。あいつはここには来ない………がはっ!」


土御門はいきなり吐血した。


「…………どうやら、あんたは超能力を使う人間なのに、魔術を使うのね? 自殺する気?」

「………はっ、心配すんな、問題ない」


土御門は笑って見せた。そして、ナイフを掲げて襲い掛かる。


「お前がここで死ぬんだからな!!」


ナイフは、否定姫に向かって走る!…………が、否定姫は笑った。


「その予告、私は否定るわ♪」


否定姫は右手を翳す。

その盾のように翳された右手の中には、一枚の木の板があった。


「…………? ―――――――ッッッ!?!?」


土御門はその木版を見て、急ブレーキを掛けた。ナイフは木版の表面ギリギリの所で止まった。土御門はナイフを咄嗟に離す。そして、恨めしいように否定姫を睨み、怒りを込めて叫んだ。


「テ………てめぇぇぇええ!!」


木版は、人の形をしていた。手があり、足があり、頭があって、顔が書かれている。そう、陰陽師なら誰でも知っている物体。

―――――――人形(ヒトガタ)だ。

そして、腹の部分にはある人物の名前が書かれていた。

―――――――『土御門舞夏』――と。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 19:03:30.96 ID:PZ/CELYa0

「それは……呪詛!? 黒呪詛か!?」

「ああ、これを知っているって事はあんた、陰陽師ね? じゃあ、こうしたらどうなるかわかる?」


否定姫は、パチンッ! と指を鳴らした。すると、屋上にあった水溜りが一斉に否定姫の傍に集まり、光り出す。

光が収まると、TVのように映像が映し出された。

そこには、土御門元春の義理の妹、土御門舞夏の姿があった。彼女はメイド服の恰好で、兄の部屋で夕飯を作っていた。

と、ジャガイモの皮を黙々と包丁で剥きながら、こう呟く。


『兄貴、早く帰ってこないかな。今日は大好きなシチューなのに………』


「涙が出るわね、幼気な妹が兄の為に雨の中、遥々部屋に来てせっせと夕飯を作っているなんて………兄妹愛って奴かしら?」

「…………おい……」


土御門は俯いて呟く。


「さて、この人形をこうしたらどうなるんでしょうか?」


否定姫は、人形の左手の先を爪で小さく引っ掻く。すると……。


『………痛ッ! ………イチチチ、指を切ってしまった。我ながら珍しい……』


と、水溜りの中の舞夏は指を咥えている。


「じゃあ、今度はこの人形を二つ折りにしてみようかしら?」

「―――――ッッ!!??」


否定姫は頭と足を持って、力を入れた。ギシギシッ!と木板が軋む音がする。

すると……。


『えっ!?』


舞夏の足が急に閉じられた。そして―――――


『ぎゃああああ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 背中が折れる!! 折れる!! 折れる!! 兄貴!! 兄貴!!兄貴!! 助けてぇ!! 兄貴ぃぃぃぃいいいいい!!」

「やっ、やめろ!! やめてくれ!! これじゃあ舞夏が!!」


土御門は叫んだ。すると、否定姫は頭から手を放した。すると、水溜りの中で舞夏はバタンッ!と倒れて気絶した。

そして、否定姫は冷たく土御門に、


「だったら、それなりの『誠意』というものを示してもらわないとね?」

「………………っ」


土御門は項垂れ、狼狽する。


「じゃあとにかく、台から降りて貰おうかしら。これは私専用なのよ。早く下りないと……」


否定姫はパチンッ!と指をまた鳴らした。すると、今度は焚火が現れた。


「あんたが部屋に帰る頃には、妹の焼死体が転がっているけど。 ねぇ知っている?焼死って、一番苦しい死に方らしいのよ」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 19:03:59.92 ID:PZ/CELYa0
土御門の顎から、一滴の大粒の汗が流れて落ちた。そして、大人しく台から降りる。


「跪け、そして両手を地面に置いて頭を垂れろ」

「――――――……………〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」


土御門は、仕方なく土下座した。屈辱的な体勢を強いられた土御門は怒りで唇か噛み、血が滲む。

一方否定姫はすっきりしたように笑った。


「ははっ、いいわ。顔を上げて頂戴。 すっきりしたわ、私に生意気言う奴が私に土下座する光景は格別ね。さて、これからどうしようかなぁ」


否定姫は楽しそうに笑った。しかし一方、土御門は額を地面につけたままだった。


「って、もう頭を上げていいって言ってんの。 もしかしてその格好が好きなの? なりには似合わず変態な趣味してんのね!」


あははははっ!と高笑いする否定姫。しかし、土御門は土下座好きのドMじゃない。


彼は、魔術を使った。


「我願イ奉ル、コノ地ニ眠ム神達ヨ畏ミ畏ミ申モス!(さぁみなさんおまちかね、ビックリみずげいのおじかんです)」


土御門は呪文を説きながら、ポケットの中に入っていた二つのフィルムケースの蓋を開け、中に入っていた紙吹雪をばら撒いた。


「水ノ神ヨ、我ニ罰スル許可ヲ!(まずひとつめは、このなんのへんてつのないスイソウのみずにごちゅうもく)」


すると、紙吹雪が散らばった範囲に、学生寮の敷地にあった水溜りの水を全て集まった。


「帝敵ヲ討ツ槍ヲ!(さて、ここにいっぽんのツエがあります) 帝敵ヲ斬ル刀剣ヲ!(それとオサラがあります)帝敵カラ身ヲ縛ル縄ヲ!(それとボウシがあります)」


宙に浮いた小さな水たちは集まって、三つの大きな水となった。


「我、水神カラ授カッタ槍ヲ! 刀剣ヲ! 縄ヲ! 我ガ身ヲ用イテ敵ヲ滅スル事ヲ誓ウ!!(なんとこのアイテムたちから、あのスイソウのみずがはっしゃされます)」


その三つの水はそれぞれバラバラに変化した。

一つは槍のように長く、鋭くなって磔の罪人を刺すように地面すれすれに浮いていた。 一つは日本刀のように撓り、首を切るように高く掲げられた。 そしてもう一つは長細い縄のようになって、蛇のように否定姫を縛り上げた。


「…………グッ!」


手足、胴、首を縛られ、右手に持っていた人形を落としてしまった。人形は水の縄によって弾かれ、土御門の右手に収まった。

そして、土御門は最後の呪文を言い放つ。


「我、神ノ名ノモトデ処シュル! 咎人ノ首ヲ刎ネヨ!(ではジュンビがととのいました。みずをかぶるとタイヘンなのでかっぱやかさをおもちください)」


大量の水たちが、一斉に否定姫へ向かって押し寄せ、津波の比じゃない様な威力で圧殺した。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 21:36:22.25 ID:PZ/CELYa0



「……………ゼェ………ゼェ…………ゼェ…………ガハッ!」


土御門は大量の血を吐き、倒れた。


「ど、どうだ…? 大量の水を扱う黒の式の一つだ………。いくらお前でも……グハッ……即死間違いなしだ」


と、土御門は手に持った人形に書いてある自分の義妹の名前を自分の血で塗りつぶした。

これでこの人形で舞夏が傷つくことはない。

早く能力で傷を癒して、舞夏お手製のシチューが食べたい。

土御門は、さっそく能力を発動させた。


と、その時。

拍手が彼の耳を冷たく刺した。



「凄いわねぇ〜、まさかこんな術が使えたなんて。ここまで行くとは思わなかったわ♪」

「ッ!?」


土御門は前を見る。

そこには……。


「なるほど、さすがイギリス清教と学園都市などの多重スパイをするだけはあるわね?」

「…………あ…、あ?」


土御門は、開いた口が閉じられなかった。

否定姫はなにも無かったかのように、目の前に立っていた。口を扇子で隠しながら、笑って。


「なん…で?」

「なんでって、何が?」


ニヤニヤと笑う否定姫。


「ああ、なんで生きているかって? そりゃあそうでしょ、」


否定姫は笑って、あれでも、あの術は自分の命を懸けて繰り出した、最も敵を倒す事に特化した術の一つだった、土御門にとって残酷に言った。


「防いだんだから。もちろん防御術式でね♪」

「バッ、馬鹿言うな! あれだけの術式を…陰陽道の最高位の陰陽博士だった俺の術を防いだだと!?」

「へぇ〜、その若さで陰陽博士なんだ〜。私の時代はヨボヨボのおじいさんだったけど、時代は変わったのねぇ〜♪」


809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 21:37:20.59 ID:PZ/CELYa0
どうでもいい事をほざく否定姫。それでも、土御門は納得がいかなかった。


「どうやって……どうやって、防いだ!?」

「う〜ん、じゃあ特別に見せてあげようか。今ならまだ“いる”みたいだし、運よく月も出てるから月明かりでよく見えるでしょうね」


否定姫は、天を仰ぐ。彼女と土御門の一直線上に、奇麗な月が出ていた。雨上がりで厚い雲があちらこちらにあったが、月だけが綺麗に地上を照らしていた。

そして、否定姫の目の前にある『なにか』も………。

―――――――それは、岩だった。透明でよく見えなかったが、どう見ても岩だった。

一枚の頑丈そうな岩が、否定姫を守っていた。まるで、洞窟に蓋をしている様なそれはまるで…………。


「天岩戸……知らないとは言わせないわよ♪」


「………なに…?」


土御門は絶句した。なぜなら……。


「バカヤロウ! それは日本神話に登場する“あの”……!」

「そう、日本神話に登場する“あの”天岩戸よ」


かつて、この地上に神々がいた頃。姉弟の神がいた。姉を天照大御神(アマテラスオオミカミ)と言い、弟は建速須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)と言った。

姉の天照大御神は、誓約によって高天原に居座った行儀の悪い弟に文句を言う周囲の神々を『彼にも考えがあってやっているころだ』と庇い続ける。

しかし機屋で神に奉げる衣を織っていたとき、建速須佐之男命が機屋の屋根に穴を開けて、そこから皮を剥いだ馬を落とし入れたため、一人の天の服織女が驚いて梭(ひ)で陰部を刺して死んでしまった。

そこでとうとう天照大御神の堪忍袋の緒が切れた。

天照大御神は激怒して引きこもってしまった。そこで引きこもった場所こそが、天岩戸である。

途端に世界は暗黒に包まれ、禍(わざわい)が起った。

後に困り果てた神々によって三種の神器で有名な、八咫鏡(やたのかがみ)と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)が造れ出され、それのおかげで彼女は天岩戸から出たが、それまでは神々がどんな事をしても出てこなかったそうだ。


「それを参考に、この術式の役は『相手からの干渉を一切拒否する』、いわば“絶対防御”の術式なの」

「そんな事はわかっている! でも……それは……!」

「そうよ? 神州日本の最古の歴史書、『古事記』から引用したの」


否定姫は笑ってそう言った。が、土御門はそんなことなどわかっている。が、それはどうでもいい。


「貴様、まさか、そんな馬鹿な!!」


土御門の台詞は酷く怯えた者だった。なぜなら……。


「日本神話の主役級の神をモチーフにした術式だと? しかも天岩戸だと? ふざけるな! そんな超高レベルの術を普通に扱う人間は、この世に存在していない!! いや、存在してはいけないんだ!!」


土御門の言っている事を言うと、キリスト教なら“偉大な神の子、エイス・キリストと同じことをする”に同等だ。なぜなら、否定姫は天照大御神のやっている事を殆ど丸々再現して見せたのだから。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 21:38:41.78 ID:PZ/CELYa0


そこで、土御門の頭の中で、ある仮説が思い浮かんだ。


「…………………貴様、魔道書を持っているのか?」

「何言ってんのよ。 古事記の原本はとうの昔に消失しましたって習わなかった?」


そう、712年(和銅5年)太朝臣安萬侶(おほのあそみやすまろ)によって帝に献上された古事記の原本、上・中・下の三巻はこの世にない。

しかし、その複製は今もこの世にある。

そして、彼女の近くにも………。


「貴様……まさか………」


土御門は、自分の決定的に心が折れた音を聞いた。なぜなら……、


「そうよ、あんたの思っている事は本当よ。 じゃあ、さっそく出て来てもらいましょうか」


そう言って、否定姫は楽しそうに後ろを振り返った。


「は〜い、出て来ていいわよ〜♪――――――――――禁書目録ちゃん♪」


土御門は否定姫の背後に動く影を見て、絶句した。


必要悪の教会が持つ世界最大の魔道図書館、10万3千冊の邪悪な魔道書を持つ少女、禁書目録(インデックス)が、否定姫の傍らに出てきたのだ。


「…………………」

「今回の古事記の内容は、全てこの子から頂いたわ♪」

「…………どうや……」

「どうやって? しょうりゃあ……」


否定姫は柏手を一拍鳴らした。すると――――彼女と禁書目録の前に、大きな鏡が現れた。


「この『浄波璃の鏡(ジョウハリノカガミ)』で“この子の記憶の中にある魔道書を全て閲覧したの”」

「――――――――――――――――――――――――――――――は?」

「最初は簡単よ? この子と仲良くなって、色々と魔術について教わって、それから私が開発した幻術でこの子に催眠を掛けて、浄波璃の鏡の複製の精製方法を教えてもらったの」


よく見れば今、禁書目録の様子が変だ。―――――――――――――――――瞬きを一つもしていない。

どうやら今は、その幻術を掛けられているようだ。


「さて、浄波璃の鏡と言うのを知らないかもしれないから、一応説明しておくわね?」


浄波璃の鏡とは―――冥府の王、閻魔大王があの世に入ってきた死者がやってきた善行と悪行を見る為、生前の行いを見る鏡の事である。


「要は、鏡に映した人間の記憶から過去を見ることが出来るのよねぇ」

「……………『地蔵菩薩発心因縁十王経』………これも魔道書……」

811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 21:39:50.18 ID:PZ/CELYa0
「あとは簡単ね、禁書目録ちゃんの今までの人生の記憶を全部見させてもらったわ。面白い人生を送ってきたようね。何?一年に一回ずつ記憶を消す? 馬鹿見たい、そんな阿呆がしそうな策で何がしたいのかしら。最大主教(アークビショップ) 様は……」


クスクス……と笑いを堪える否定姫。


「ローラ=スチュアート……だったっけ? まぁ面白い人間ね。それに、ステイル=マグヌス、神裂火織……この二人が最高傑作だわ。だってこの子が小さい頃からの大親友だったのに、7月28日時点じゃあ敵になって大親友を七天七刀で斬ったり、足蹴りしたりで………アッハハハハハハ!!もう耐えられない!!」


堪え切れずに爆笑する否定姫。それを、土御門は怒りを込めて睨んでいた。


「……お前が誰を笑うのは、俺は別に関係なねぇ。だが、それが一生懸命運命に立ち向かった人間を笑うのは俺は許せない!!」

「地面に転がり込んでいる人間に言われなくないわ」

「………それに、お前は嘘をついている」


土御門の言葉に、否定姫の眉が動いた。


「お前は言った。『インデックスとステイルと神裂は小さい頃からの親友』だと。お前は言ったじゃないか、『禁書目録は一年に一回記憶が消される』とな。じゃあ、なんでそんなこと知っているんだ? もしそれが嘘なら、お前が今までやって来た術式は真っ赤なウソと言う事になる!」


それに、と土御門は付け足した。


「もし、それが本当だとしよう……。普通、魔道書の原本を見たらどうなるか知っているか?――――――魔道書の毒に頭が壊され、最後には廃人になるんだぞ!? でもお前は見た所ピンピンしてやがる。だからお前は魔道書など使っていない!!」


………そうだ、禁書目録は一年前の記憶が無い。だから禁書目録の記憶から過去を見て、魔道書はともかく、彼女が記憶を無くす前の記憶を見るのは不可能である。

それに、かつて彼女と精神をリンクさせ、魔道書を盗み見ようとした闇咲逢魔は見た瞬間、死ぬよりも苦しい頭痛と全身から溢れる出血により大変苦しめられた。だが、否定姫は魔道書を全て読んだのに出血どころかピンピンしている。

土御門は、彼女は禁書目録から魔道書を読んでいないと見た。

812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 21:40:24.39 ID:PZ/CELYa0
が、


「…………あっはははははははは!!」


否定姫はまた爆笑した。


「なぁにちんぷんかんぷんなこと仰ってんだか………。まったく、あんたには笑かせてもらっているわ。ありがとう♪」

「…………な……」


呆然と口を開く土御門を余所に、否定姫は自分の口癖を言う。


「その解釈、否定するわぁ」


さてと、どこから説明した方がいいかしら………と一通り考えてから、彼女は口を開いた。


「まず、インデックスちゃんの記憶についてだけど、確かに彼女の記憶は消されていたわ。一年前から丸々真っ白にね」


でも、と否定姫はそれを否定した。


「浄波璃の鏡は、肉体……脳にある記憶を映すのではないのよ〜♪」


楽しそうに笑う否定姫。


「実はねぇ…………この鏡は、人の魂の記憶を映すのよ?」

「――――――ッ!?」

「考えて見なさいよ。 死んで体を遺して、49日後に冥府の閻魔に裁きを受けるのよ? その時いちいち地上の灰になった脳内なんて調べられないじゃない」


それに、否定姫は加えた。


「人間の魂の記憶は、たかが魔術でどうにか加工できるものじゃないのよ。 それは不可能だし、人間がやってもいい事じゃない。それは神様の仕事」

「…………くっ」

「それと、二つ目の事の『どうして魔道書を見ても、魔道書の毒で死なないのか』………だったわね?」


と、否定姫は首の後ろに手を回し、服の中からある物を取り出した。



それは、一本の木刀だった。



奇麗な木刀だった。一見で古い物だとわかる。が、新品のようにピカピカだった。長さは三尺未満と短く、鞘も鍔も刃文もない。

しかし、その何の変哲もない木刀こそが彼女に魔道書を扱える要した張本人である。

否定姫は、その木刀の名前よ呼んだ。




「四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本が一本、『王刀 鋸』よ」




土御門には、その名の意味がわからなかった。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 22:59:27.04 ID:PZ/CELYa0


「あら、意味が解らない? おかしいわね。 あんた、今日一日あのツンツン頭の馬鹿と一緒に完成形変体刀十二本の在り処と、真庭忍軍や錆白兵たちを探していたんじゃないの?」

「?? ???」


土御門の頭に、疑問詞が乱立した。


「ああ、そう。 訳も分からない敵を追って、しかも撃退しようとしていたと……」


プッ、と否定姫は笑った。そして罵る。


「阿呆な事をするのはいい加減にして。あんたの様なお子様に、あの真庭忍軍や錆白兵を倒せるとでも思っているのかしら。ははっ、笑えて涙が出て来る」


そうね、笑かせてくれたお礼に、いいことを教えてあげる。と、否定姫は土御門に近付いた。


「四季崎記紀は、私達の世界の有名な刀鍛冶の名前よ。彼は私のご先祖様でね、彼は天才的な刀鍛冶の技術の他に、魔術や錬金術の知識を生かして千本の刀を打った。その内、最後の十二本が完成形変体刀と言って、残りの9988本はそれの習作の上に立つ、最強最悪最恐の十二本の刀なの」


そして、と否定姫は『王刀 鋸』を持って土御門の前に立つ。


「この『王刀 鋸』もその一つ。 さて、十二本の刀には共通する物があるのよ。それは『人を斬りたい、殺したい』という殺人衝動や『刀を一生手放したくない』と言う独占欲などの毒がある事と、――――――――各刀にはある特性があるの」


特性? 土御門は呟く。


「そう、特性。 例えば『絶刀 鉋』は頑丈さが特性。折れず曲がらず、人間が百人乗っても大丈夫な刀。『賊刀 鎧』はその名の通り巨大な西洋甲冑の形をしていて、特性はどんな攻撃も通じない『絶対防御』。この二本は第七学区の武装無能力集団のリーダー駒場利徳と幹部の半蔵って奴が所有している」


十二本の中で最も毒性が強い『毒刀 鍍』は猟犬部隊を率いる木原数多。

一本で千本と言う、数量の多さが特徴な『千刀 鎩』は今、上条家でお世話になっている結標淡希。………結標は最初の一本だけを所有しているから、所有者として言っているが。

あとは、否定姫と同類の奇策士とがめが『千刀 鎩』の内の999本を所有。そして今日、彼女は切れ味に最も力を向けた『斬刀 鈍』を蒐集した。


そして、『王刀 鋸』は………


「『王刀 鋸』の特性は“毒気の無さ”。所有者が持っている毒気を全て抜く刀……。もう、わかるよね?」


否定姫はしゃがんで、そう、土御門に訊いた。

彼は、顔と言う顔から、汗をダラダラと滝のように流していた。


「そう、王刀は所有者の毒を抜く刀。だったら、―――――――――――――魔道書が持つ“毒”も例外じゃないわよね?」


「あ………がぁ……………」


土御門は絶望した。なぜなら、自分の目の前にいる女は、この世の全ての魔術を操り、応用して新たな術を創り、敵が現れたら容赦なくその魔術で殺す。その名は―――――――


「――――――魔神…」
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 23:00:26.98 ID:PZ/CELYa0

「この世界じゃあそう呼ぶようね? ただ、私がやったのはこの『王刀 鋸』の解毒効果『王刀楽土』で毒による人体破壊を防いでいるだけなんだけどね?」



ダメだ。これでは勝ち目がない。なにせ、相手は世界の魔術の全てを使い、神の領域に足を踏み入れた人間。神の末端に君臨する人間。


これでは、世界が崩壊する。


「…………は、あはははははは」


土御門は小さく笑った。


「お前は……わかっていない………」

「なにが?」

「学派も無い。宗派も無い。 使う魔術はキリスト教、仏教、神道……何でも使う魔術師が、魔術世界に認められる訳がない。貴様が発動させた魔術から発生したマナが全世界の魔術組織に察知され、近いうちに1000万の魔術師によって囲まれて無残に散る事になる」


残念だったな。と土御門は笑った。が、


「ああ、それも否定するわ。 無理よ、絶対にバレない」

「………、え?」

「あら、あんた言ったじゃない。『“神の聖域”いわば“神の結界”だ』と、この一帯を」

「――――っ!」

「ここは神の結界に囲まれている。外からは正しい方法じゃなきゃ誰にも入られないし、どんな攻撃も通じない。もちろん、中から外へもそれ然り。石ころだろうがマナだろうがね、この聖域は私の許可なくちゃあ、誰も出れないのよ。―――――よって、私とあんたがやって来たドンパチは誰も知らない。私がやって来た魔術も誰も知らない。だから、誰にもバレないし、攻めてこない」

「…………そん……な……」

「ここはどこだと思っているの?」


否定姫は土御門に顔を近付かせ、ゆっくりとこう言った。





「ここは、神《わたし》の聖域よ?」





815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 23:01:30.53 ID:PZ/CELYa0


土御門は項垂れる。魔神、否定姫は続けて、残酷にこう言った。


「はい、こっち注目。 これな〜んだ♪」

「ッッッ!? それは!!」


それは人形だった。腹には『土御門舞夏』の文字。 もう一体あった。それには『土御門元春』の名が書かれていた。

それらは、先程舞夏を苦しめ、土御門が奪取して無効化させた人形と同種の物だった


「奪われた場合も考えてない奴は馬鹿よ。きっちり代わりを用意するのが鉄則よ?」


そう言って可愛くウィンクする否定姫。


「もしも、今まで見た事実を誰かに喋った場合………。どうなるかわかる…わよね?」


ニヤニヤと、残酷に、楽しそうに笑う否定姫。

しかし、その彼女の顔に、土御門は唾を吐いた。


「クソ喰らえ……」

「…………………………そう」


否定姫は冷たく土御門を見下ろす。そして彼の頭を掴んだ。


「いいわ、仕方ないから私があんたを、私好みにしてあげる。安心しなさい? ただ、私の忠実な下僕にしるだけだから」


そして、二人の周りに光の魔法陣が組まれた。五重の円でグルリと二人を囲み、その中に五角形と四角形が何重にも重なって書かれていた。


「………………あんたが目覚める時、その頃は私の下僕。忠誠心旺盛な私の犬。」


魔術のせいで、土御門の意識が朦朧としてきた。


「私に唾した罰として、軽い洗脳状態にしてあげる。 本心はどんなに嫌だ嫌だと言っても、私の命令なら絶対に従わなくてはならない……そんな苦渋な生活を強いらせてあげる」

「く……そったれぇ………!」

「威勢のいい言葉を有難う♪ ああ、それと、上条当麻の幻想殺しに自分の体を触らせて術の解除をしようとしても無駄よ?


光が、強くなってきた。


「だってあんたに洗脳を掛けて、そのあと操るのはこのあんたの人形なんだからね。 あの馬鹿がこれに触らない限り、あんたの地獄は終わらない。ただし、それを言った場合、あんたの妹の首は飛ぶ」


否定姫は二つのの人形を見せた。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 23:02:38.05 ID:PZ/CELYa0
兄の土御門の人形は、口が白く塗られていた。これは土御門元春が“ある事”を喋った場合にある所に転送する魔術だ。

妹の舞夏の人形には、死神の鎌の様な黒い線が首に描かれていた。もし土御門が“ある事”を言った場合、人形の首が折れ、同時刻、自動的に舞夏の首が飛ぶ仕組みになっている。


「だからと言って筆談や手話もダメね? 手足に同じような術式を仕込んでおいたから。それを、やっても彼女の首はロケットのように刎ねることになる」

「……………あ、あああああああああああああああ!!」


土御門の絶望はさらに深まり、雄叫びを上げる。


「………すまん、舞夏……すまん、本当にすまん………」

「ここにいない人物に詫びても意味無いわよ」


そして、光が二人を包んで、



「じゃあ、目覚めた後はよろしくね? 我が僕♪」


「がぁあああああああああああああああああああ!!!」










何もかもが真っ白の世界の中、―――――――――――――――――――





―――――――――――――――――土御門の意識が、完全に途切れた。














817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 00:28:37.51 ID:ClyaE/X70
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「いい、月だ。」


そう、老人は言った。

彼我木輪廻は、敦賀迷彩と一緒に、廃病院の屋上で月見をしていた。

雨で濡れていたが、廃病院の中にあったタオル数枚を座布団替わりにして座っている。

二人はそれぞれ、別々の大きな徳利を持っていた。二人の間には白い団子が皿の上で積まれていた。

それにしても、今日は良い月だ。


「心が和む」


彼我木はしみじみと言ったが、迷彩は、


「いや、お前がいるから不愉快だ」


と、眉間にシワを寄せて言った。


「何を言ってるんだ? お前は生前から月を見ながら酒を呑むのが好きだったじゃないか」

「なんでお前は私の私生活を知っているだ」

「それは、仙人だからな」

「お前、そればかりだな」


迷彩はそう言って徳利を口へ傾ける。


「まったく、私があの子たちに千刀流を教える事を狙ってたね?」

「正解だ。よくわかったな」

「そんなもの、誰でもわかる。…………でもだ」


迷彩は彼我木を睨む。


「千刀流は、人殺しの技だ。いや、業と言った方がいいか。その人としての禁忌の業を、私はあの穢れなきあの子たちに教えていいのか?」

「それは自分で決める事だ。」


これはワシの考えなんだが……と彼我木は言う。


「もうじきだろう。ある大きな風が、大きな時代の波が、彼女たちを大きく変えることになる。彼女たちだけじゃない、この街の住民、それ以外の人間たちを大きく巻き込んでな………その時、お前の千刀流が必要なのだ」

「……………何が起こる?」

「それはわからん。いくら仙人だとしても未来予知は流石にできんからな」


とにかく、と彼我木は言った。


「千刀流だけじゃない。虚刀流、全刀流、真庭忍軍、そして完成形変体刀十二本………それらがこの世界を大きく変え、新たな風を吹かすと、ワシが考える」

「どういう事だ?」

「それは蓋を開けなくてはどうしようもない話だ。―――――で、そこでまず二本だ」


彼我木は、懐から二つ、桐箱を取り出した。
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 00:30:17.62 ID:ClyaE/X70

「なんだそれは」

「あの誘拐犯たちの本拠地に忍び込んだとき、偶然落ちてたものだ。これが二つあった」


一つは真っ黒に色が付けられた桐箱。もう一つは真っ白で何も色が付けられていない桐箱だった


今、彼我木が持っているのは、後者の白い桐箱。


「で、それがなんなんだ?」

「実はな―――――――――………………まだ開けていないんじゃ」

「なんだそれは」


迷彩は思わず笑う。

が、彼我木はその箱の中身がわかっているようだった。


「見ればわかる。一本は禍々しい気を放っておるし、もう一本はワシからすれば懐かしい気がするのだ」

「…………そうか、じゃあ開けてみてくれ」

「ああ、」


彼我木はまず、白い桐箱から蓋を開けた。


「―――――――――――……………これは!!」


迷彩は驚いた。

なぜなら、桐箱の中に入っていたのは、刀だったからだ。 いや、刀と言っていいのか? でも、それは紛れも無く刀だった。

刀身が無い刀だった。 ただ、柄と鍔しかない。

高級そうなクッションの中の刀の装飾は四枚の葉がある花柄模様。全体的に黒く、装飾の部分のみが金箔が貼られている。


「これは…………?」


迷彩は訊いた。彼我木は頷き、その刀の柄を握り取った。



「――――――『誠刀 銓』だ」


そう、四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本が一本、『誠刀 銓』だった。

彼我木は、それの元所有者だった事がある。それ故、箱を見た時『懐かしい』と言ったのだ。


「……………なるほど、これが『誠刀 銓』か?」

「ああ、そう言えばお前は拝見するのは初めてだったな。この刀の特性は知っておるか?」

「いや?」

「まぁそうだろうな。ワシはこの刀を四季崎から直接受け取ってからずっと隠していたからな」

「製造者が直接? なんで?」

「ああ、それはお前の想像に任せる。さて、こいつの特徴はいわば『敵を斬らず、己を斬る刀』だ。人を斬るという毒が自分に回るため、銓という名通り、己と向き合うことで自らの攻撃を一切放棄し、常に防御に徹することが出来る。常に敵の攻撃から逃げることしかできなくなる」

「そうなれば戦にならない。何故それが、最強の十二本なんだ?」

「別に戦は殺し合いだけじゃない。 むしろ逃げて逃げて、勝負にならないようにすれば、勝利よりも遥かに大きな財産を手に入ることが出来る。―――――例えば、戦自体を封印するとかな」


なるほど…と迷彩は腕を組んだ。
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 00:32:09.23 ID:ClyaE/X70
そして、彼我木は二つ目の、黒の桐箱を持ち出した。


「二つ目だ。これは気を付けたほうが良いぞ?」

「わかっている。 それより早く開けろ」

「焦るな…」


彼我木はその箱を開けた。その中には――――――――――――――――――――――“苦無”が入っていた。

真っ黒で、所々に黄色い装飾がされていた。その黒は禍々しい印象を放ち、黄色はそれを増幅させるような錯覚をさせる。

そして、彼我木はその刀の名を呟いた。


「―――――『悪刀 鐚』か……」

「どれ、どんな刀だ?」


迷彩は触ってみようと手を伸ばすと、


「触るなっ!!」


と、彼我木は迷彩の手を叩いた。


「なっ、!」

「もし、触っていたらお前はこの、悪刀に心を喰われておった」

「…………どういう事だ」

「鑢七花は姉がいるのは知っているだろう? ああ、彼から話は聞いたし、お前の話も聞いた。 化け物なんだろう?」

「そうだ、そして彼女はこの刀を見て、そして触った時、心のどこかが変わった。そして土佐の女人禁制の清涼院護剣寺を乗っ取ったのだ。いいか?これは『毒刀 鍍』の次に毒が強い変体刀だ」

「ああ、わかった」


さて、と、彼我木は『悪刀 鐚』を桐箱にしまい、懐に入れた。もう一つの変体刀、『誠刀 銓』も懐に入れた。

迷彩は訊く。


「で、その刀二本をどうすんだい?」


彼我木は答える。
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 00:32:43.18 ID:ClyaE/X70


「この刀に相応しい人物を見つけ、授ける。 なに、人を見る目はある方だと自負しておる。人選は失敗せんよ」

「そうだといいんだかね………」


二人は月を見た。

奇麗な月だった。


「時に迷彩よ」

「なんだ」

「結局、あの二人に千刀流を教えるのか?」


迷彩はその質問に少し詰まって、答えた。


「まぁ、ね。 護身術ぐらいにまで育てようと思う」

「そうか。 まぁお前の好きにすればよい」


彼我木は、そう言っただけであった。

そして、月を眺めて徳利を口へ傾ける。



「ああ、いい月だ」


「ああ、それは賛同するよ」



今日は奇麗な月だった。

本当に奇麗な月だった。




821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 01:29:59.34 ID:ClyaE/X70
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


誰もいない階段を、否定姫は姫らしく上品に降りていた。

彼女の後ろには、彼女の幻術によって操られているインデックスという少女が、トコトコと付いていた。

彼女は瞬きを一切せず、まるで寝ながら歩いているように見えた。


そして、否定姫の前には、左右田右衛門左衛門が跪いていた。


「御無事で」

「ええ、全くだわ。流石の私も少しヒヤッとしたけど」


フフン♪と鼻歌混じりで階段を降りる。

と、土御門元春の人払いで聖域には入れなかった否定姫の従者、右衛門左衛門が手を差し伸べた。


「お手を…」

「ありがとう」


彼女は素直に手を取り、階段を降りる。

と、右衛門左衛門がある事を訊いた。


「時に恐れながら姫様」

「なぁに? 右衛門左衛門」

「あの金髪の小僧……本当に僕にするのですか?」

「なに? 反対って訳?」

「いいえ、ただ、あの男は危険です。 あのような男は必ず姫様を裏切り、背中を刃で刺すでしょう」

「いいのよ、あいつは死んでも私を裏切らないから」


否定姫は懐から二つの人形を取り出した。それらの腹にはそれぞれ土御門兄妹の名前だ刻まれている。


「これがある限り、あいつは死んでも裏切らない。 だって、そうすればあいつの妹の首が飛ぶんだから♪」


あはははは、と楽しそうに笑う否定姫。


と、その時。


「ま、こんなものどうでもいいのよね」


と、そう言いながら、――――――――――――二つの人形を二つに圧し折った。


「――――――――ッッ!?」
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 01:30:47.89 ID:ClyaE/X70


流石の右衛門左衛門もそれには驚く。

一方否定姫は指をパチンッ!と鳴らし、後ろに焚火を起こさせて、そこに折った二つの人形を投げ捨てた。

パチパチッ……と燃え盛る焚火。そして人形が燃え尽きると同時に焚火は一瞬で消えた。

そして残忍な否定姫は笑った。





「だって、あれは真っ赤な嘘なんだもの♪」





「………………………」


右衛門左衛門の表情が固まった。

その様子を、否定姫は面白そうに見る。


「だってそうじゃない。私には左右田右衛門左衛門という僕がいるんだもの、あんな金髪馬鹿なんていらないわよ。ゴミよゴミ」


あとぉ、と否定姫という悪女は笑う。


「最強の魔術師『魔神』となった私には、もう敵なんていないと同じなのよ」

「では、なぜあのような事を?」

「ああ、あれね。―――――――――ただの遊びよ?」

「――――……………遊び、ですか」

「そう、だって暇でしょ? だから私は暇を持て余した神の遊びとやらを体験してみようかなと思ったのよ」


彼女が嘘を言ったのは一つ。土御門元春が“ある事”を言ったら妹の首が飛ぶと言う、あの人形の魔術装置。ただ一つだけであった。

それ以外は全て本当。

否定姫は魔神になったし、土御門を魔術で洗脳したのは事実だ。


「あの餓鬼、私の顔に唾吐いたのよ? その罰よ」


と否定姫の論。


「それに、楽しみだわぁ。あの餓鬼が自分の口から言ったら妹の首が飛ぶ、正体不明のキーワードにビクビクしながら、苦痛の顔で私にヘイコラしながら私の前で土下座するが目に浮かぶわぁ。 あああ、ぞくぞくする…」


と、頬を紅めらせて楽しそうに微笑む否定姫を、なんと右衛門左衛門は否定した。


「しかし、姫様の本心は別にある」



「――――――――――――――――――――――――――………………へぇ、よくわかったじゃない」



否定姫の目は、光っていた。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 01:31:13.49 ID:ClyaE/X70


「流石長い事組んでる事はあるわね」

「恐れ入ります」

「確かにそれは口実に過ぎないかもね」


否定姫はそう言った。


「あの男の素性、浄波璃の鏡で見たんだけど…………まぁ彼はこの街の長、学園都市統括理事長との直接的な関係があるし、イギリス清教の最大主教・ローラ=スチュアートとの関係もしっかりある」

「なるほど、情報ですか」

「その通り、あいつは喇叭(らっぱ=スパイ)だからねぇ、その立場を使わせてもらうしかないでしょう♪ まぁ、遊んでいるのは本当だけどね」


一行は上条宅の一室がある階に辿り着いた。


「時に姫様、王刀は?」

「ちゃんと持ってるわよ。形見離さずね」


否定姫は背中を指す。彼女は常に『鋸』を背中に忍ばせているのだ。柄の部分はギリギリのところで髪に隠れて見えない様になっている。


「おかげで一日中姿勢がしんどいわ」

「帰ったら揉んでさしあげます」

「うん、お願い。 じゃあここんところでいいかな?」


と、否定姫は振り向き、幻術に掛けたままのインデックスの術を解く。

方法は簡単、彼女の目の前で柏手を打つだけだ。

奇麗で小切れが良い音で、彼女の目に光が戻った。


「――――――――――ハッ! 」

「あら、気が付いた? インデックスちゃん」


否定姫は先程とは全く違う声色で、優しく少女に話しかける。


「あ、ひていひめ! 探してたんだよ!」

「ん? どうしたの?」

「むすじめが目覚めたんだよ!」

「そう、それは良かったんわね」

「でもすぐに出て行っちゃったようなんだよ」

「そう、だったら上条君が戻るまで家で待とうかしら?」

「うんっ!そうする!!」


そうして、インデックスは上条家へと走った。それを微笑ましく否定姫は見て、その三歩後を右衛門左衛門が付いていった。


そして、否定姫は左手に見える、高々く上がった月を見て、こう呟いた。


「今日は月が奇麗ね、右衛門左衛門」

「左様で御座います、姫様」



月は、誰隔てなく、月明かりで照らす。例え、誰でも。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 04:35:05.79 ID:ClyaE/X70
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日はここまでです。ありがとうございました。
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 08:25:35.78 ID:VG3b+T+c0
絶刀鉋は!百人乗っても!だいじょーーぶ!

○○物置です☆
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/04(日) 10:10:36.79 ID:elFv5Kji0
否定姫TUEEEEEEEEEE
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 12:40:16.07 ID:mlSJVHjn0
王刀の使い方が意外だった。
この様子だと、七実以外にラスボスクラスになりそうなのがもう何人か増えそうだ。
学園都市という『状況』にいると手に負えなくなりそうなのが七実以外にもいるし。
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 15:12:52.97 ID:VG3b+T+c0
sageどんどん話に引き込まれていくな

否定姫なら出来ても不思議じゃないオーラがあるし
否定姫、ひってぇ☆
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 16:05:52.43 ID:ClyaE/X70
こんにちは、今日も書いて行きます。
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:20:17.98 ID:ClyaE/X70
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

鑢七花は、絹旗宅のベランダで明るく地上を照らす月を眺めていた。

彼の周りを照らすのはその月明かり、それだけ。 後ろの窓からは電気の灯りは一切ない。

真っ暗な室内をバックに、七花は月をただ眺めていた。


先程まで、宴会をしていた。いや、宴会に近いものと言った方が正しいか。ただ鍋を食べて、遊んでいただけだからな。

絹旗が作った鍋は量が多かった。それに食材の種類も豊富であった為、大きめの鍋を空にするのは苦労した。

明らかに人数分じゃないだろうと、とがめがツッコみ通り、案の定みんなが腹いっぱいで何も入らなくなった。

まぁ、とても美味しかったから良しとしようか。

ただ、滝壺が折角作って持ってきた『けーき』なる洋菓子は明日に持ち越しとなったのが、唯一の残念だ。


その後、少し休憩をしてからとがめは酒を呑み始めた。『びーる』とか言う、泡が出て来る不思議な酒の味を占めたのか、缶を5本も開けた。

彼女曰く、『羽目を外したい時はトコトン外せばよいのだ、そうでなければ駄目なのだ』と真っ赤な顔でそう言った。

七花は酒が飲めない質なので、そんなとがめが酔いつぶれるのを話を聞きながら待っていた。

刀集めをしていた頃、同じようなことが幾度かあったので、それが懐かしく思えた。


絹旗とフレンダとフレメア、それと滝壺は『とらんぷ』とかいう札遊びで遊んでいたが、ついさっき眠ってしまった。

七花はリビングの床で眠りこける5人に毛布を被せ、眠れない体をどうにかしようとベランダで月を見ていた。

冷たくも無く、暖かくも無いこの夜風は、七花の長い髪を撫でる。


「…………しかし、今日はいい月だな」


そう呟く七花。

と、ベランダが開けられる音がした。七花は振り向く。入って来たのは……、


「なんだ、絹旗か」

「なにをやってんですか?」

「いや、眠れんから月を見てた」

「そうですか。 あ、ホントだ超キレイな月ですね?」

「ああ。……時にお前はどうしたんだ?」


七花は絹旗に訊く。と、絹旗は苦笑いして答えた。


「起きちゃいました。 で、超眠気が無いからベランダに行くと七花さんがいた訳で」

「ああ、なるほど」


七花はそう言うと、しばらくの沈黙が生まれた。


「……………」

「……………」


沈黙は、まだ続いている。


(………………な、何やってんだ私は! 折角、七花さんと超二人っきりなのに!! 超どうして何もできないんだぁああああああああああ!!)


絹旗は心の中でぐしゃぐしゃぐしゃあ!! と髪を掻き乱す。もちろん表面には出さない。それは七花の前だからだ。

と、そんな絹旗に、七花は独り言のように呟いた。
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:21:10.96 ID:ClyaE/X70
「…………ああ、本当にいい月だ……」

「へ? あ、ああ、本当に奇麗な月ですね。七花さん」

(よっしゃ、七花さんからキタ!)

「時に七花さんの世界でも、こんな月だったんですか?」

「いや? 今のよりは少し大きめだったよ」


月は年に3cm程、徐々に地球から離れていているらしい。と、絹旗は先週見たTVの宇宙特集を思い出した。

となると、当時の月は今のよりも大きく見えたのだろう。


「でも、月は月だ。奇麗な物は奇麗なもんだな………」

「………………」


七花は懐かしそうな顔をした。 一体、七花は何を思っているのだろう?


絹旗はそう考えていると、七花は突然話題を変えた。


「ところで絹旗よ。 あの敵なんだけどよ、どうやって斬ったんだ?」

「え?」


突然の話題の切り替えと、少年の様な好奇心旺盛な顔に戸惑った。


「ほら、あの無能力者狩りの棟梁の事だよ」

「ああ、あれですか。あれは簡単ですよ」


絹旗は近くに置いてあった、鉄製のハンガーを取り出して、一本の針金に伸ばした。


「知っていると思いますが、私の能力は『窒素装甲(オフェンスアーマー)』です。これは全身を窒素の膜で覆って、衝撃を超吸収したり、力を超大幅に増幅することが出来るんです」


そして、右手を手刀にして針金を…………スパンッ!と斬った。


「この様に斬るには、手刀の刃の部分の窒素を刃のように超形状変化させているんです。 私の窒素の膜の範囲は肌から数センチくらいですから、十分に鋭い刃が出来ます」


まぁ、その分、装甲は薄くなるのだが。と、絹旗は弱点も言う。


「形状変化(これ)と言う能力の応用が出来るようになったのは七花さんと出会って、超稽古をつけて貰ってからです」

「そうだよな、毎日あれをしてりゃあ強くなるわな」


朝起きてからマンションの屋上で軽く組手、朝食を食べてから病院に行って地下の訓練所で本格的に組手をし、昼食を食べてからそのまま夜までノンストップで組手をしてから家に帰って夕飯を食べて寝る。

この毎日だ。いつも死ぬ気で戦っている。

そして、その成果が今日の戦いだった。

絹旗の話によれば、リーダーとの勝負は一瞬で終わったそうだ。勝負と言っていいほどあっけなく終わったそうだが。

それでも、絹旗は嬉しかった。

だから今日ははしゃぎにはしゃいだ、+麦野が意識を取り戻したそうだから、ますます嬉しかった。

今は手刀のみですが、いずれは脚から手足の指までできると絹旗は踏んでいた。だから、


「私は、これからも超強くなれると思います! いや、超強くなります!!」


832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:22:31.80 ID:ClyaE/X70
絹旗はそう、拳を握って言った。


「ああ、その調子だ」


と、七花は小さい絹旗の頭をポンポンと叩く。絹旗は嬉しそうに笑った。


「そう言えば、七花さんってどうやって超強くなったんですか?」


何気ない質問だった。 七花は、それを嫌なことなく答える。


「ああ、俺は六代目の親父から教わったんだ。 六歳の頃だったかな?それから十九年間みっちりしごかれたよ」

「へ〜、もっと超聞かせてください。例えば、どういった教育方針だったんですか?」

「そうだな、簡単に言えば『一本の日本刀になれ』だった」

「………日本刀ですか?」

「ああ、俺は一人の人として育てられなかった。一本の刀として、ただ、鋭い刀であればいいって言われた。実際、親父もそうだったらしい」


七花はそれから、とがめと旅をし始めた頃の話をした。


「俺がとがめと一緒に旅に出た時は、ただ単純に人を殺して行けばいいって思ってたんだよな………。って、そう言えばこの話したんだったな」


七花は恥ずかしそうに後頭部を撫でる。


「とにかく、絹旗、俺はお前がそう言った人間にさせたくないんだ」


と、七花は言う。しかし―――――


(でも、私は人を、数多くの人を殺している………。もう、罪悪感が超麻痺してしまっている程に………)


絹旗はそう、暗い顔を隠しながらそう言った。しかし、七花は隠していたその表情を見破ってしまった。


「ん? どうした、絹旗」

「あ、いえ、超どうってことないです」


と、絹旗は誤魔化した。

が、七花はある日の晩の絹旗の言葉を思い出した。


――――――『私達は学園都市の不穏分子の削除及び抹消を任されています。要は人殺しです』


(あ、そう言えばこいつ、その手の仕事してたんだっけか………………)


七花は申し訳ないように謝った。


「すまん……忘れていた」

「いえ、超大丈夫です。むしろあの日、私が七花さんに超弟子入りを頼んだ時の夜を覚えていてくれた事が超嬉しいです」

「そりゃどうも」


風が靡いた。二人の髪が揺れ、雨上がりの臭いがした。

833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:24:00.94 ID:ClyaE/X70
風が止むと、絹旗は七花に体を向けた。


「七花さんッ!!」

「なんだ?」


七花は、振り向く。そして、絹旗はこう訊いた。


「七花さんは………昔も今も、何のために戦うのですか?」

「決まってんだろ――――――――――――――とがめの為だよ。―――昔も今も。」

「――――――――――ッッ!!」


絹旗は、必死に顔の変化を堪えた。

これは成功したのか、七花は絹旗の変化に気付かない。


「じゃあ、俺は寝るわ」


そして七花は踵を返してベランダの戸に手を掛けた。


「お前はどうする?」

「私はもう少しいます。時に七花さん」

「どうした?」

「七花さんはどこで寝るんですか?」

「そりゃあ、お前が貸してくれた、俺の部屋だけど?」

「そうですか……、――――――じゃあ、超おやすみなさい」

「ああ、お休み」


七花はベランダの戸を開けようとする、と、絹旗は呼び止めた。


「七花さんッ!!――――――――――――――――あ、いえ、………なんにもありません」

「??……………じゃあ、今度こそお休みな」

「ええ、超お休みなさい」


そうして、七花は中に入っていった。

独りぼっちになったベランダと言う空間で、絹旗は寂しく呟いた。


「…………………今日は、一緒に寝てください…………なんて超言えないですよねぇ〜」


どこぞのバカが、自分の部屋のベッドをローションか愛液か何かでビショビショにしたまま放置してやがったので今、自分の部屋は使えない。シーツから布団まで洗濯して干してある。


「まったく、私も超ウブな所があるですねぇ」


趣味の奇々怪々なC級映画鑑賞で、普通にR指定の映画のリアルなベッドシーンも普通に見れると言うのに、何でか恥ずかしくて言えなかった。

好きなら、すきと言えばいいのに………。

でも、そう言ってしまったら、この微妙なバランスで成り立っている関係が一気に崩れ去る事は火を見る事よりも明らかだった。

なぜなら―――――――
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:25:30.15 ID:ClyaE/X70


「七花さんの頭の中、超とがめさんの事ばっかりなんですもの」


ははっ、と自分を笑ってみる。

そして、視界が滲んできた。

ああ、なんで、こんな感情になるんだろう。こんなに悲しい気持ちになるんだろう。どうして、こんなに辛いのだろう。


「ああ、月、超奇麗だなぁ」


絹旗はそう呟いた。



「そうだな、誠に奇麗な月だ」



後ろから、とがめが話しかけてきた。


「ほぇっ!?」

「こら、静かにせんか。今何時だと思っとる。 夜中の11時だぞ? お子様は寝る時間だ。それに、明日も早いのだろうに」


とがめは、そう言いながらベランダに腕を乗せた。

それから数秒沈黙が続き、気まずくなって絹旗は口を開き、とがめに訊いた。


「ど、どうしたんですか?」

「酔い覚ましだ。 まったく、頭がクラクラしよる。あの『びーる』とやら、呑んでもなかなか酔わんと思って調子に乗ったらこのざまだ」

「は、はぁ」


因みにアルコールは、ビールは大瓶一本=日本酒一合と、とがめがあちらの世界でいつも飲んでいた日本酒はビールよりもアルコールが多いのだ。

だからとがめにとって、ビールは酔い難い飲み物なのだろう。


とがめはそこで話題を切り替えた。


「時に絹旗よ」


と。とがめは嫌な笑みを絹旗に向ける。 とがめより少々身長が小さい絹旗は少し見上げる形で彼女を見た。


「あの男の、どこに惚れたんだ?」

「ぶっ!」


絹旗の顔が一瞬で紅くなる。


「にゃ、にゃにを言って――――!!」

「阿呆、そんな事、もう皆知っておる。 知らぬのはあの、鈍感男だけだ」


鈍感男とは言わずとも鑢七花その人である。


「滝壺もフレンダも陰ながらお前の事を応援しておったぞ? 『ほらほら、そこで抱き着くって訳よ!』『がんばって、そんなきぬはたを応援している』………ってな」
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:26:02.38 ID:ClyaE/X70


ああ、本当にそんな事を言っている気がしてならない。


「……………ぅぅ……」


恥ずかしい、とっても恥ずかしい。絹旗は顔を両手で覆う。

どうせ、とがめは『七花は私ものだから、お前は邪魔なのだ!!』と言うのだろうか。


「さて、よくもまぁ私の従者を誘惑しようとしてくれたな」

「え゛? 聴いてたんですか?」

「丸聞こえだ馬鹿もん。 まぁ起きてたのは私しかおらんかったからな、口は閉じてやろう」

「ぐ……」

「まぁ、止めはせんがな」

「え?」


絹旗は意外なとがめの反応に驚愕した。


「止めはせんと言った。何、七花は鈍感だからな! いくらどんな手でも使ってでもお前ごときじゃあ落とせんよ」


なっははははは!! ととがめは高笑いする。 …………と言うか、まだ酔っているのかテンションが高い。


「例えお前が七花の布団の中に全裸で突入しても、あいつは全く反応が無いだろうしな! なぜなら私が薩摩の温泉で、混浴風呂に一緒に入っていても、勃起も発情もしなかったほどだ。それに、旅の夜は私と七花は毎日抱き合って寝てたのに、一切襲ってこなかったからなぁ!あっははははははは!!―――――――――――ああ、今思えば私ってどれだけ魅力が無いんだ……」


と、とがめはやや落ち込み気味に言った。


「ま…、まぁあれだ。この私が“一回も”七花と交わらなかったのだ。たかが13、4歳のお前が、七花を落とすのは不可能を超えておる」


絹旗は、そんなとがめに嫌味を込めて言った。


「………そ、そうですよね。七花さんはとがめさんに超ゾッコンですものね。―――七花さんは、とがめさんと超結ばれたいんです」


と、頬を膨らませて言った言葉を、―――――――――――とがめは否定した。


836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:30:45.69 ID:ClyaE/X70
「いや、無理だ。―――――――――――――私と七花が結ばれるなど、無理だ」

「………え?」


またも意外な言葉に、絹旗は戸惑った。


「でも、七花さん、とがめさんに超惚れてるって………それに昔も今もとがめさんの為に超戦っているって超言ってました」

「ああ、確かに七花は私に惚れに惚れこんでおるだろう。それに、昔から私の為に戦い、今も私の為に戦っている」

「じゃあ、なんで」

「それは簡単だ――――――――」


とがめは真剣な目で、絹旗の目を見る。そして、こう言い放った。


「私は、もう死んでしまった人間だからだ」


その意味を、一瞬絹旗はわからなかった。


「考えてみろ、好きだった女が殺されて、その後の復讐が終わって、完全にその女の未練が無くなった後になんと、その女がひょこっと現れて寄りを戻してなんて言われても、好きになる男はおらんよ。なにせその女は過去の女だからな」


とがめは断言して続ける。


「あの時、私は死んだ。『炎刀 銃』の3発の鉛玉でな。 そのせいで七花の中にあった私への思いが無くなり、尾張城破壊という行動に出た。その時の七花の心の中には私への恋心の火は完全に消えておったのだろう。その代り死に場所を求めた」


しかし七花は生き延び、否定姫と共に日本地図の製作の旅に出てた。そして七花はこの世界に召喚される。


「そしてその後、私は今、私は蘇ってここにいる。が、一度消えた灯を再び付けるのは難しいものだ。しかも死人とだ。微かに残った恋の種火を大きくしていく寄りの戻し方はあるが、七花の場合は完全にふっ切れておるから、寄りを戻すのは不可能に近い」

「じゃあ、私にも超可能性が……!」

「それはない。断固して、ない!」


とがめも悔しいのだろう。強い口調でそう言った。


「ま、私と七花が結ばれぬ理由は、それと他に一つある。むしろそっちの方が大きく、決定的だ」

「え、なんですか? でも、とがめさんは超奇麗だし、正確はともかく超いい人だし、すぐに七花さんも……。」

「何か引っかかる褒め言葉をありがとう。でもな絹旗よ――――――――問題は、それ以前の問題なんだ」

「………?」

「さっきは言い方が悪かったな、あれは誤解が生みやすいから今度はわかりやすく、一言で言っておく」


風が吹いた。とがめは、その風で髪が目に入りそうになるが、構わず言った。






「―――――――――――私は既に………死んでいる身だからだ」






絹旗は、その意味が全くわからなかった。

しかし、とがめはそれを言った後、ベランダから出て行ってしまった。
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/04(日) 20:48:20.72 ID:ClyaE/X70
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


虚刀流七代目当主鑢七花は、部屋の中で布団に包みながら考えていた。




そうだ、確かにとがめは死んだ。




そして死んでいる。




あの『炎刀 銃』で、斬られて死んだ。




死んだ、死んだんだ。




紛れも無く、自分の腕の中で。




しかし、とがめは生き返った。




自由に手足を動かし、自由に物事を考え、自由に飲食ができる。




でも、なんでとがめは生き返ったのだろう?





―――――――――――あれは、違う。





とがめ自身も気付いているだろう。






とがめは………とがめは………とがめは…………






あれは…………あれは………まるで―――――――――――
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:08:46.13 ID:uhjyiKtF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


初春飾利は、第七学区177支部である人物を待ちながら、ココアを啜っていた。


「あーおいしー」


初春は甘いものが大の好物だ。甘ければ何でも好きだ。ケーキだろうが羊羹だろうがココアだろうが。

そして、初春はある事を思っていた。


「木縞さん、ちゃんと帰れたかなぁ………」


先程までここにいた、無能力者狩りの無能力者誘拐事件の被害者の一人である。

彼女の友人の佐天涙子もその一人だが、先程電話で無事に寮に帰宅したことが本人から知らされた。

佐天が無能力者狩りのアジトで知り合った吹寄制理と言う高校生も、先程メールで帰宅したと連絡が来た。

あとは、木縞だが、彼女だけはまったく連絡が来なかった。


「あの手紙……ちゃんと渡せるかな……」


と初春は呟くと、部屋のドアが開かれた音がした。


「あら、残ってたの?」


固法美偉だった。彼女の手には一個のヘルメットがあった。


「あ、お帰りなさい」

「ただいま。――――帰り待ってたの?」

「ええ、今日の事件の詳しい事が知りたくて」

「そう……。とりあえず、帰りましょ? 血生臭いけど、話すところは全部話すわ」


『血生臭い』その台詞に引っ掛かるが、初春はさっそくPCの電源を切り、持っていたマグカップを流しで漱いで、カバンを持って部屋を出た。

固法によって電気が消され、真っ暗な闇が廊下を包む。

初春は持っていた携帯電話のライトを灯し、地面を照らす。


「ヘルメットを持って来ているってことは、結局バイクはあったんですね?」

「ええ。でも、御坂さんが戦闘していた場所から近かったから、バイクの所々が凹んじゃって、今は修理中よ」

「ご愁傷様です」

「まったくだわ。まったく、あの男、見つけたらタダじゃ済まさないんだから」


そう言って、二人はエレベータに乗る。


「で、事件はどうなったんですか?」

「そうね、結局は無能力者狩りと武装無能力者集団との抗争って事で片を付けられたわ」


エレベータが一階に付き、固法は車庫へヘルメットを置きに行った。

2、3分たって彼女が帰ってきて、二人は歩道を歩く。

完全下校時間を5時間も過ぎたので、バスには乗れない。だから学生寮まで歩いていく羽目になった。

まぁ奇麗な月でも見ながら帰るのも乙なものでしょう? と固法は言う。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:10:16.65 ID:uhjyiKtF0


「さて、まずは無能力者狩りが誘拐をしてた目的がわかったわ。道端で御坂さんが倒したメンバ―3人による供述なんだけど」


『供述』と言っても、記憶を読み取る能力者によって暴かれた真実だ。


「彼ら、無能力者狩りは無能力者の女学生を誘拐してアジトで監禁、誘拐した女生徒たちを『商品』として扱って非人道的研究を進める研究所や売春組織から、教育機関の高官、教授などの個人にまで商売していたの」

「人身売買ですかっ!?」

「ええ、しかも売れ残った女生徒に強姦していたとか」

「……………それは訊きました。佐天さんも、強姦されかかったそうです」

「助かっただけで良かったわね。――――――売られていった女生徒たちは全裸で段ボールに入れられていたそうよ。正に本当の商品みたいに」


固法は眼鏡を上げて初春を見る。初春は暗い顔をしていた。仕方ない、まだ中学一年生だ。この手の話は些か辛いだろう。でも、風紀委員として、どんなに残酷な真実でも見なければならない。


「それで儲けたお金で組織の維持費と銃や銃弾などの武器費、それとメンバーの食費とアジトの光熱費などの生活費に使われていたとか。それともう一つ、重大な事を発見したの」

「重大なこと?」


初春は訊く。固法は『そう、とても大変残酷なことだから、忘れてもいいわよ』と言った。『忘れてもいい』と言ったのは、固法の優しさだろう。


「誘拐した女性とは商品として3日で売れなければ、在庫期限が限界に来る。例えば女生徒が万が一外に助けを呼ぶかもしれないし、3日も売れなかったら今後も売れないと十分にわかる」

「4日目が来ると、どうなるんですか?」


初春は生唾を呑みこんで、訊いた。

固法は、残酷な現場を思い出したのか、眉をひそめた。


「あの廃墟の地下で、人体実験が行われていたの。それも、残酷な」

「」

「直接見たけど、あれは見ていい物では無かったわ」

「一体……何が……?」

「聴いて、後悔しないなら言うわ」


固法は思い出して背中を震わせた。


「――――――――――無能力者に、強制的に能力を発動させる実験をしていたの」


「………どうやってですか?」

「例えば、両手足を縛って拷問したり肉体的疲労を蓄積させたり薬を打ったりして、いわゆる感情も精神もハイになったランナーズハイの状態にさせた時、無能力者は能力を発動できるか………って実験」

「そんなの、有り得る訳ないじゃないですか!」

「そう、有り得ない。肉体は基本全力の30%にまでキープされている。それ以上したら細胞が死んで、肉体がボロボロになって死んでしまうから。でも、その理論は紙の上だったら成立しているのよ」


そうね、例を上げましょう。と固法は例を挙げた。


「ボクシングで過度な減量をした場合、水分不足で体はボロボロになって自分の100%の実力が出なくなってしまう。でも、それを通り越すと、返って感覚が鋭くなったりして、逆に強くなる時があるの。実験はまさにそれ、極限状態の場合を狙った実験だったの」


要するに、火事場の馬鹿力と言う奴だ。


「彼らはそれを日常的に使えないかと思ったんでしょうね。でも実験は失敗。しかもそれだけであれだけの犠牲者をだした」

「どういう事ですか?」

「あの地下にいたのは13人。………みんな亡くなっていたわ。実験結果が書かれた資料によると、被験者は過去全てで330人、全死亡。でも、それなりの結果があったようね。およそ半数がAIM拡散力場に何らか変化が現れ、その半数が能力を発動させたそうよ」
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:11:00.53 ID:uhjyiKtF0


しかし、それは一瞬のことで、すぐに死んでしまったそうだ。

結局、無能力者は無能力者のままなのか。初春は嘆いた。

この街は無能力者に対して、あまりにも厳しすぎる。


さて、と固法は話題の路線を変えた。


「私が出ていく時、あの汪誠者の組織の話、覚えてる?」

「ええ、あの勇敢に正義を貫いた人ですよね?」


それがどうしたのだろう、と初春は思った。正義の貫いて警備員に囲まれて砲火に巻き込まれ、行方不明になった彼の話は、初春の耳によく残っている。


「そう、実は無能力者狩りの母体となったのが、その組織だったのよ」

「えっ!?」


ショックだった。なぜ、あのような非人道的な実験をするようになったのだ?

と、初春は思うと、固法はある事を述べた。


「あの清掃作戦の後、汪誠者は恨みを持たれた無能力者たちにリンチにあい、無残な姿になって死んだそうよ」

「……………そうだったんですか」

「で、結局は清掃作戦とテロ組織殲滅作戦で生き残った7人。その後、汪を継いだのはその中で副リーダーとして汪を支えて来ていた『彼』だった。彼は組織を復興させようと色々と試すも、指名手配されてて迂闊には動けなかった」


そこで彼らに手を差し伸べたのが、第一学区のとある大学の教授をしていた男だった。


「そこから彼らは犯罪に手を染め始めた。 汪誠者の正義を捨てて、彼が最も嫌う道を突き進んだの。捕まったメンバーは言ってたわ。――――――――『全ては、ジャンが遺した組織を守る為だった』と」


ジャンって言うのは、汪のあだ名ね? と固法は付け足す。


「で、誘拐と人身売買と強姦と人体実験をグルグル繰り返していく内に、今日になった」


まさに狂気だ。 ジャンが―――汪誠者が遺した狂気と言う名の呪いだった。


「昨日誘拐した女生徒の中に、一人だけ小学生がいて、その子が武装無能力者集団と深い関わりを持つ子だったの」

「それで、取り戻しに無能力者狩りを攻めたと……」

「そう、その組織は第七学区じゃあ有名な組織で、あの駒場利徳が率いる組織なの。名前くらいは聞いた事あるわよね?」

「ええ、よく会議で聞きます。先日、某研究所から『最重要文化財』と駆動鎧や最新式戦車など兵器を奪取したらしいですね」

「いくら有能力者ばかりいる集団だとしても、兵器を持っていた彼らには太刀打ちできなかった。結局150人いた組織に人間は全滅。123人は一か所に集められて惨殺死体で見つかり、初期メンバーの何人かが怪死体で部屋に寝かされ、リーダーの男は胸を刀で斬られたように斬殺されていた」

「……………、」

「生き残りは23人。御坂さんが捕まえた……えっと、初期メンバーの一人だった蜂巣香寒郎(はちすかさぶろう)とその部下2人と、一室で腕や足を斬り落とされて蹲っていた20人だけ。行方不明は二人、八馬光平(やまこうへい)と、汪の弟の汪善緒(おうよしお)。彼らは今も捜索中よ」


これが、事件の全てだった。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:11:59.74 ID:uhjyiKtF0

しかし、固法は疑問に残った事が一つあった。


「それでね? 捕まえたメンバーが揃いも揃ってこう言ったの。『着物を着た、全身傷だらけで、長身長髪の化け物が来た』と」

「……………なんですか?それ」

「私もわからないんだけどね? 警備員の黄泉川先生が慌てて、『それを詳しく聞かせろ!!』と言っていたのはビックリしたわ」


固法はそう言うと、二つの道に分かれた。

固法は右。初春は左の道へ行く。


「じゃあ、私はここで…」

「ええ、また月曜日ね? 大覇星祭、共に頑張りましょ?」

「はい、じゃあお休みなさい」


こうして初春は、一人歩道を歩く。


「ああ、奇麗な月だなぁー」


と、ほのぼのと呟きながら。

でも………。


「どうして、あんなに怖い事をするんだろう。 どうして、みんな仲良く出来ないんだろう……」


初春はそう落ち込む。だって、みんながみんなそう言う怖い事を考えずにいれば、世界は平和なのに―――。


と、そう思っていると、ポケットのかなの携帯電話が震えた。


「おっと、メールだメール………っと」


初春は携帯電話を取り出して開く。すると、数十分前に電番とメルアドを交換した、木縞春花の名前がディスプレイに映し出されていた。

そして、そのメールに書かれていた文章とは………。



『便箋、ありがとうございました。明日、姉のお墓詣り行ってきます。 木縞春花』



「ふふっ、どうやら無事みたいですね」


と初春は携帯を仕舞った。

無事と言えば………。


「人鳥ちゃん、どうなったんでしょう………」


842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:12:43.39 ID:uhjyiKtF0
初春は呟く―――――――――――――――……と。


「う、う、うう、初春さんっ!!」


後で、聞いた事がある声が聞こえた。

初春は慌てて振り返る。


「人鳥くん!!」


真庭人鳥だった。


「なにしているんですかっ!?どうしたんですかっ!? 無事だったんですねっ!?」

「うわっ!? な、きゅ、急に抱き着かないで…くださいっ!! そ、それと、し、質問がっ! 多過ぎですっっ!!」

「キャーー!このモフモフ感が堪りませんっ!!」

「うっわぁぁあああああああああ!!」


数分後―――――


「時に人鳥くん、どうしてここに?」

「そ、それは、急にいなくなって、あ、あなたが心配する、だ、だろうから………」

「人鳥くん偉いねーー」

「なっ、な、撫でないでくださいっ! こ、これでも真庭忍軍十二棟梁の一人なんですから!」

「そっか、夢見がちな年頃ですものね〜」

「って、モ、モフモフしないでぇええ!!」


数分後―――――


「さ……さて………、ぼ、僕が、あなたに言いたい事があって……ここに来ました……」

「人鳥くん、どうしたの? 急に疲れてしまった様な顔してるよ?」


人鳥は初春をキッ!と睨む。(けど可愛い。)


「う、初春さん、き、今日は、あ、ありがとうございました!!」


人鳥はぺこりとお辞儀をした。


「す、すべては僕の、せ、責任です。 ど、どうかお許しを……」


人鳥はどうやら、佐天涙子が攫われた原因が自分にあると思っているのだ。それを初春は違うよと言って、ぎゅっと彼の体を抱きしめた。


「人鳥くんは悪くない。 悪いのは、あの人達だったんだから」

「初春さん……」


843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 00:13:14.94 ID:uhjyiKtF0
人鳥も彼女を抱き返し、離れた。


「じ、じゃあ、ぼ、僕はここで……」

「うん」


初春は頷き、人鳥は踵を返した。そして元気よく走っていく。そこで、初春は人鳥に叫んだ。


「人鳥くんっ!!」


人鳥は立ち止まって振り返った。


「また、遊びましょうねっ!!」


初春は太陽よりも明るい笑顔で大きく手を振った

人鳥は、その顔をじっと見て、叫び返した。


「ええ!! きっとっ!!」



その直後、初春の顔に強い風が吹いた。咄嗟に腕で顔を庇う。すると、人鳥の姿がいつの間にか消えていた。


「…………………。」


不思議な少年だった、真庭人鳥は。

でも、暖かくて優しい彼は、初春は大好きだった。


「また……会えますよね?」


初春は空を見上げる。

奇麗な月が、初春を照らしていた。


「ああ、奇麗な月だなぁ…」


この月は、数時間後には消えて、代わりに東から太陽が昇る。その太陽が西に落ちたらまた、月が顔を出して、今日のように地面を、地面に這いつくばるものたちを優しく照らす。

それが一回、二回、三回と、永遠に繰り返され、その分、人間達の人生が少しずつ、ほんの少しずつ大きくなり、そしてまた一歩また一歩と大きな足音を立てて、生きていくんだ。

一週間、一ヶ月、一年、十年、百年と続き、人は老いて死んでゆく。また、老いる前に死ぬかもしれない。

けど、それでも太陽は登る、落ちる。月は顔を出し、地面と地面に這いつくばるものたちを優しく照らす事を止めない。

だかた、私達は、どんなことがあっても歩み続けなければならないんだ。

どんなに辛い目にあっても、大親友との別れがあっても、仲間の裏切りがあっても、化け物の様な強さの敵にボロボロにされても、運命が自分を嫌っても、神様の怒りの鉄槌が頭を砕いても………。


私達は、歩いて行かなければならないんだ。





初春飾利は立ち上がり、優しく照らす月の下、まずは第一歩を踏み出した。






―――――――――――――――第二章・終―――――――――――――――

844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 01:34:03.98 ID:uhjyiKtF0




――――――――――――――――――――――――後日談――――――――――――――――――――――――





日曜日である。

昨日の大雨から一転し、今日は雲など殆ど無き青天。

ここ、第十学区には学園都市唯一の墓地があった。

この味気ないビルの中に、無数の人の遺灰が収められていて、命日やその他の日にやってくる人々がやってくる。

もともと、学園都市には墓地など必要ない。

なぜなら、基本、学園都市にいる子供は親元を離れて暮らしている。その子が在学中に亡くなった場合、遺体からDNAが採取されないように遺灰にして遺族に渡される。

が、それには例外がいる。例えば、『置き去り(チャイルドエラー)』。例えば天涯孤独な子供。


例えば、死んだことが露見できない人物。


殺人などの重罪人や“学園都市の闇の住人”など、死んだことが露見できないどころか、生きていたこと事態が露見できない人物など、数多くの訳有りの人間たちも、ここで葬られている。


そして、それにも例外があった。


その墓地の建物から少し離れた森の中――――――

そこには、遺灰が入っているカプセルが地面に無数に並べられていただけの場所があった。

カプセルには名前と生年月日、それと死んだ日にちと時間が刻まれていた。



ここは、墓地にも葬られることが禁じられた、いわゆる『学園都市の嫌われ者』達が捨てられる場所だった。



845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 01:34:43.83 ID:uhjyiKtF0
そこに、一人の黒いスーツ姿の男が立っていた。

男の名は汪善緒、今年で22歳になったと思う。彼は煙草を咥え、花束をカプセルの前に置いた。


カプセルに刻まれた名は――――――『汪誠者』 彼の兄だ。



『善緒! 今日は俺、ちと用事あるから夕飯先に食べていてくれや!』 『善緒! お前、ついてきたのか!?』『善緒ぉ、頼むから勘弁してくれぇ、お前は仲間に入るのはまだ早いってぇ…』

『よっしゃ、今日からお前はジョンだ!!』『ジョン! お前、俺の弟ながらいいセンスしてんじゃねぇか!!』『ジョン、そこの醤油取ってくれ』『ジョン!! いいか? 未来を見るには集中力が必要だぞ?』

『ジョン、ここから生きて帰るぞ!!』『ジョン!! お前は下がっていろ!!』『ジョン!! やったなぁ!!』『ジョン!!』『ジョン!!』


「……………へっ、兄さんの墓の前に行くといつもそうだ。 俺の名前を呼ぶ声がずっとしやがる……」


そして、兄が弟に掛けた、最期の言葉は―――――


―――――――――――――『じゃあな、ジョン。 また公園で……。 戻ったら、また昔みたいにバカやろうぜ?』


今でも、自分を見送る顔が脳裏にこびりついて離れない。


「………まったく、思ったらあの台詞、死亡フラグじゃねぇか………」


ジョンは草の上に座り、加えた煙草を携帯灰皿に捨て、真正面からカプセルに―――兄に向って語りかけた。

846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 01:35:26.05 ID:uhjyiKtF0


「俺…守りきれなかったよ。 兄さんの宝物……」


ジャンが作った組織は崩壊した。

自分たちがやって来た罪は全て露見し、仲間の殆どが死んだ。


「あいつ…ほら、兄さんとコンビ組んでいたあいつ……リーダーになったんだけどよ、兄さんの言いつけ、守らなかったよ。あいつも、俺も、みんなも」


淡々と、ジョンはジャンに語る。


「でな? 昨日、あの超電磁砲がやってきてよ、ヤンを倒して殴り込みに来たんだよ。それをヤマが倒したんだけど、突然、武装無能力者集団がやってきてよ、ヤマに重傷負わせて、攻めて来たんだよ」


声が、段々と霞んできた。


「あいつら卑怯なんだぜ? 俺達があの地獄の包囲網を突破した時の様な兵器を持って来てさぁ、俺達を蹂躙するんだ。しかも猟犬部隊がやってきて、マンションを殺した。あのマンションだぜ?ありえねぇだろ? そこで撤退してったら変な着物を来た化け物が俺達の手足や腕を斬り落としてったんだ」


子供が泣いている様な様だった。

まるで、小さな弟が兄に自分の失敗を泣きながら告白するように。


「リーダーは誰かに斬り殺されたそうだ。ヤマは誰かに刺殺され、ボンは首を折られて死んでた。サブは少年院に入ったらしい。あと、ヤンとシンが行方不明だ。なぁ、俺はどうすればいいんだ? 教えてくれよ、兄さん」


ジョンは涙を堪える。昔、泣いたら男じゃねぇよと、よく兄に拳骨を喰らった。

彼らには親がいなかった。父と母はともに天涯孤独だった。小さい頃、祖父は仕事で死んだらしい。祖母はその後を追うように病死したとか。母も似たような境遇だったそうだ。

しかし、兄弟が学園都市に入学する一か月後、両親は交通事故で死んだ。

その時、兄が泣くなと初めて俺に拳骨をぶつけた。


「…………ダメだよ、兄さん。俺、やっぱ泣き虫なのは変わりねぇよ」


弟が縋るように語るが、兄は何も答えはしない。


「…それと、いつも何度もいう用だけど………」



そして、最後に頭をふか深く下げた。



「―――――――――――――あの人を、兄さんの大切な人を助けられなくて、ごめんなさい…………ッ!!」



それでも、ただの灰である兄は何も答えなかった。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 02:01:58.27 ID:uhjyiKtF0


「…………って、何やってんだが俺は。遺灰が喋るかよ……」


と自嘲して頭を上げた。

ジョンは立ち上がり、ポケットから煙草を取り出してマッチを吸って火を付けた。


この煙草は、兄が良く吸っていたものと同じものだ。

箱の中に入ってた一本を、カプセルの上に乗せる。

こうすると、兄弟一緒に煙草を吹かしているように思えたのだ。


と、いきなり横から。


「あのー………」


と声が聞こえた。


「え?」

「あ、すいません。汪誠者さんのお墓ってどこですか?」


兄の墓を、一人の少女が尋ねて来た。

白いワンピースと少し長い黒髪を白くて大き目の帽子で隠すと言う、清楚そうな雰囲気の少女だった。

彼女は花束を右手に、ポーチを左肩に掛けていた。


「ここだけど?」


ジョンは真下のカプセルを指さす。


「えっ!? ここですか?」

「どうかしたのか?」

「あ、いいえ……」


ジョンは少女に墓の前を譲る。

つい声を出してしまった少女は恥ずかしそうに墓の前で座り、手を合わせた。


「……………………あのー」


少女が口を開いた。


「なんだ?」


ジョンは、もしかして煙草を気にしているのか? と思って勿体ないがまだ長い煙草をすぐに携帯灰皿へ捨てようとした。


「この方と、どういったご関係で?」


煙草じゃなかったのか。ジョンは煙草を携帯灰皿から口元へ戻した。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 02:02:36.12 ID:uhjyiKtF0


「兄弟だよ。兄に何かようかい?」

「いいえ、何も」

「だったら何で来たんだ?」


もしかして俺達の元ファンか?とジョンは眉をひそめた。 ジョンはそう言った輩があまり好きじゃない。が、これも予想から外れた。


「ただ、姉がお世話になったようなので」

「姉………?」

「はい、姉です」


少女は立ち上がり、肩から担いでいたポーチから一枚の封筒を取り出した。


「あげます。」

「え?」


少女は、その封筒をジョンに手渡した。ジョンは何かを訊くと、少女は快く答えた。


「この手紙は、姉から汪誠者さんに宛てた手紙です。本当は墓地に置いて行こうかと思ってたんですが、風で飛ばされるよりはご遺族に渡した方が良いかと思いまして」


丁寧な口調の彼女は、そう言った。

だがまぁ……作り笑顔が上手い女の子だな。とジョンは思った。彼女はさっきから作り笑顔しかしていない。

まぁ、そんな事などどうでもいいか。ジョンは少女に訊いた。


「そうかい………なぁ、読んでいいか?」

「ええ、どうぞ」


ジョンは封筒を開けた。中には一枚の便箋が入っていて、片面に奇麗な字で文字が綴られていた。

849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 02:44:28.52 ID:uhjyiKtF0
―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――


汪誠者様、お元気でしょうか?


この手紙を読んでいる頃には、私はこの世にいないと思います。


ただ、あなた達があの、地獄の門番と呼んでも過言ではない位の業火を降り注ぐ警備員たちの軍勢を打ち破り、重傷を負いながらも足を引きずりながらも逃げ延び、生き残り、そしてその後の平和を望んでいるかと思いますと、私は幸せで胸がいっぱいです。


でも、私は死ぬでしょう。

なぜなら、私は死ぬつもりだからです。


今日、私は犯されました。


今朝、あの作戦をあの彼に伝え、アジトから出た直後、数人の無能力者の不良たちに捕まって拉致されて、ラブホテルで夕方まで侵されました。


頭が可笑しくなるまで膣内に精液を注がれ、手に触れたくもない汚らしい男根を口で咥えられて舐めさせられ、尻の穴にバイブを出し入れさせて脱糞させられ、乳首とクリトリスにピアスを付けられました。


まさに屈辱の一途。怒りを上げても、悲しみで叫んでも、私を犯す人たちはそれを笑って殴りました。


でも、後悔はしていません。


なぜならば、あなた達を守っただけでも十分に満足だからです。



そうそう、私を犯した若い男たちのほかに、中年くらいの息の臭いおじさんもいました。第一学区のとある教授さんだとかいうそうです。


その人たちの精子が、私の子宮の卵子と絡んで、すぐに妊娠してしまうでしょう。


300日もすれば、私とあの人達の誰かの間の子供が生まれるでしょう。



でも、私はそんな風に出来た子供を愛することはできません。


だから、私はこのお腹の子諸共首を吊って死のうと思います。


もしかして、あなたは『いくらなんでも死ななくてもいいじゃないか?』って思っているでしょう?


いいえ、私は責任を取るのです。


この作戦で死んでしまった人達、犠牲になったあなたの大事な仲間達………彼らの怒りを、憎しみを、この身に全て預けて死のうと思います。


850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 02:45:02.01 ID:uhjyiKtF0



今、私は人生に90%、未練がありません。


じゃあ、あとの10パーセントは何なんだい? と聞かれたら、あなたでしょう。


出来れば、私は死にたくない。


そして、私の初めてはあなたとしたかった。だって、私はあなたの事が好きだったから、大好きだったから。


生きて、80、90のおばあちゃんになってもあなたに寄り添い、死んでいきたいに決まっています。


でも、私は穢れてしまいました。だから、私はあなたに顔を合わせる資格はありません。


まぁ、そんな事を言えばあなたは飛んできてぶん殴ってしまうけれども。



さて、あなたと私が出会ったのは、私が中学二年の時でした。あなたが私のパートナーとして、風紀委員第七学区177支部に配属されてから、私はあなたに振り回されたばっかりでした。


そのたびに私はあなたを叱って、喧嘩して、仲直りして、遊んで……。


その内に、私はあなたのことが好きになりました。これが恋と言うのもかと思った瞬間、私の心は幸せの色で満開になって、とても嬉しかったです。


でも、私が『名風紀委員』として名が知られるようになってから、あなたは風紀委員に背き、辞めてしまった時は本当に悲しかったです。


しかし、たびたび会ってくれて本当に嬉しかったです。楽しかったです。


私は、あなたに出会えて本当に、あなたに恋をして、本当に良かった。


これで人生が終わってもそれでいいと、本気で思います。



ただ、これからのあなたの人生が気になります。


ちゃんとご飯食べていますか? ちゃんとお風呂入ってますか? ちゃんと勉強してますか? 病気してませんか? 怪我してませんか?


色々と不安です。でも、心配いらないと思います。だって、あなたはどんな時だって乗り越えて来たんだもの。


何だってできる。大丈夫、大丈夫。



妹の事はよろしくお願いします。


あの子は、私がいないとダメな子なのです。だから、あなた達が私の代わりとなって、あの子を助けてやってください。



では、また会える日を…………。



10月3日 汪誠者様へ 木縞夏奈より

―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 03:15:18.18 ID:uhjyiKtF0


ジョンは、絶句した。


「………か、夏奈……姐さん」


そうか、そうだったんだ………。


「……………よく、」


ジョンは口を開いた。


「兄は言ってたんです。 『夏奈が好きだ』って。『なぁ、どうやったら彼彼女になれる?』って………まったく、そういう事はボンに言えばいいのに………」

「…………二人は両想いだったんですね……」


ジョンは、崩れ落ちたように膝をついた。


そして、


「ぅ……ぅうう…………ぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


溢れる涙を、声を、ジョンは止められなかった。



そうだ、彼女は死んだのだった。


自分たちのせいで―――――――


自分たちが守るべき命だった。


でも、自分たちはそれを取り溢した。―――――――――ジャンと同じように。



そのまま、子供の様に泣き叫ぶ。


その様子を、少女は黙って見ていた。








852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 03:16:31.32 ID:uhjyiKtF0
しばらくして、ジョンは落ち着きを取り戻した。


「すまねぇな、変な所見せちまって」

「いいんです。誰にだって、取り乱す事はあります」


と、少女は恥ずかしそうに言った。


「そうだ、夏奈姐さん………ああ、夏奈さんの妹さんだったな。 名前、なんていうんだ?」


と、ジョンは何気なく訊いた。すると、彼女は何気なく答えた。


「はい、私の名は―――――――――――木縞春花です」


「………………………………………、――――――――――――――ッッ!?!?」


ジョンは一瞬、顔を歪ませた。


木縞春花、どこかで聞いた事がある名前だ。


例えば、昨日攫った商品の名前―――――。


昨夜、仲間たちが3人で犯していた女の名前―――――。


今日、雑貨稼業が買って行ったサンドバックの名前――――――。


ジョンの顔から、大量の汗が出てきた。



俺達は、夏奈姐さんから頼むと言われた妹を、この手で穢してしまったのか―――――――――。




絶望は、ジョンの身を蝕む。


最大の幸運は、二人は直接会った事が無く、彼女はジョンの顔をしらないだけだ。


木縞春花は、無理をして作っている笑顔でジョンの心配をする。


「あのーどうしたんですか?」

「あ、いや……」


853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 03:17:03.28 ID:uhjyiKtF0
でも、もう終わった事だ。俺は、ジョンは、汪善緒はもう死んだも同等の人間だ。

だが、罪悪感が背中にズシリと重くのしかかる。

ジョンは木縞をちらりと見ると、木縞は周辺をウロウロとしていた。


「なにしているんだ?」

「あ、いえ、私、姉の墓を探しているんですけど………」


と木縞はそう言った。

ジョンは溜息を一つついて、木縞夏奈の墓を指さした。


「ここだよ」

「えっ? そこですか?」


そこは、汪誠者の隣だった。

木縞は本当に恥ずかしそうに戻ってきて、姉の墓に花束を置いて手を合わせた。


「私…初めてお墓参りに来たんですけど。あの建物の中にあるのかと思ってました。けど、検索欄には全くなくて、しょうがなく管理人のおじいさんに訊いたらここにあるって聞いたんです」


でも、と木縞は呟いた。


「ここ……なんでこうも質素なんですか? まるで嫌っているかのように」


ジョンは、短くなった煙草を携帯灰皿に入れ、もう一本吸い始めた。


「その通りだ。 ここは学園都市の嫌われ者が葬られる場所だよ。俺の兄さんは警備員に嫌われてここに来ちまった」

「じゃあ、姉はどうして………?」


ジョンは、煙草を吸って、吐く。白い息が長く続いた。


「そうだな、それを話すには長い昔話が必要だ」

「ぜひ、聞かせてください」


木縞は真剣な顔で問いただした。

ジョンは笑って、


「そうだな、半分は兄さんの話だが………二人が出会ったのは、とある春の日だった」
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 03:18:03.10 ID:uhjyiKtF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――
中途半端ですが、今日はここまです。眠いのでご勘弁を。
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 17:19:35.27 ID:uhjyiKtF0
こんばんは、今日も書きます。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 20:21:53.55 ID:uhjyiKtF0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ジョンは、兄、汪誠者と彼女の姉、木縞夏奈の物語を、覚えている限り全て語った。



始めての出会いはある春の日だった。

風紀委員第七学区177支部に新しく入ってきた新人たちの講習で、誠者と夏奈はパートナーとして出会った。

新入生だった誠者は責任感があったが猪のように何事にも突っ込んでいく性格だったので、夏奈は彼の手綱を必死で掴んでいる形で世話をしていたそうだ。

例えば、誠者が銀行強盗を発見したら、一目散に突っ走って、銀行強盗を伸してしまった時は夏奈の顔がヤカンのように真っ赤だったと、当時小学生だった弟に楽しそうに語っていた。


夏奈はしっかりしていて面倒見が良く、誰からも信頼されていたそうだった。しかし、彼女の体格が小さく、誠者はよくからかってたいたそうだった。

その度、夏奈は怒って、誠者は笑って、事件が解決する度に喜んで、色々と喧嘩していく内にお互いの気持ちがわかってきて、その分仲直りして、遊んで、叱って、怒られて、謝って、泣いて、それで最後は笑っていた。

そして時が経つにつれて、誠者は夏奈に恋をした。

彼はまさか、相手も自分の事に惚れているとは毛ほども思っていなかったようだ。

誠者が風紀委員を抜けた後も、二人はたびたび会っていて、交流はしていたようだが、虚しく進展は無し。

その事で弟に散々その事で相談していた。

その後、誠者が数人の仲間と共にとある組織を結成し、風紀委員と警備員に真っ向から対立するようになってから、だんだんと会う事は無くなり……、

そして結局、喧嘩別れをしてしまい、最期までお互いの死を知ることなく、この世を去った。


誠者は公園でただの不良に嬲り殺され、夏奈はその不良たちに凌辱されて首を吊って死んだ。


誠者は警備員と風紀委員から、この街の全てから迫害されながら、夏奈は風紀委員の裏切者として罵られながら………。


兄と兄が愛した人を、夏奈と夏奈が恋した人の、そんな悲劇の物語をジョンは語り終わり、短くなった煙草を携帯灰皿に突っ込む。


ジョンは一回、大きく深呼吸をし、ポケットに手を突っ込んだ。



「…………………………まぁ、これが俺が知る全てだよ。わかっただろ? この墓地は街の嫌われ者が葬られずに捨てられる場所だよ」

「……………そんな、酷い……」

「酷いじゃねぇさ。今までの話は、俺達の視点から話した事だ。警備員のお偉い方から見れば、俺達は邪魔な人間だっただろうし、あの清掃作戦の時は確かに俺達は少なくねぇ数の人を殺した。それに、あんたの姉さんのおかげでその尊い犠牲が無駄になっちまった。――――――――俺達の“正義”も“大義”も、ベニヤ板に書いた城だったんだ」


あまりにも薄くて脆い、偽物の城―――――

すぐに巨人が来て、片手で薙ぎ払われてしまった。跡形も無く、木端微塵に。

いくら彼らが“義”を掲げた義勇軍でも、正規軍がそれを認めない限り、正規軍は義勇軍を認めない。それどころか本気になって攻めてくる。もちろん、あの時もそうだった。

そうだ、この世には正義も悪も無い。あるのは理不尽と無情の人の理だけ。

木縞は俯いた。


「このスーツもな、兄さんの葬式の時に着て行った時のもんなんだ。俺たてっきり、あの建物の中で葬式するんだと思ってたんだが―――ところが、警備員たちが作戦で死んだ俺達の仲間の遺灰を入れたカプセルをここにまとめて捨てて行きやがった」


ははっ、と自嘲するジョン。


「まぁ、仲間の仇だからな、それはそうだろうよ。でもな? 奴ら、カプセルを投げ捨てて、そのまま帰っていきやがった。…………呆れて、声も出ないだろう?」


ギギッ、と右手を握りしめてみるが、風化されている怒りと言う感情は、かえって虚しさを醸し出す。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 20:22:42.64 ID:uhjyiKtF0


「―――――でも、管理人のジッチャンはいい人でよ、カプセルに名前と生年月日と死んだ日にちと時間を刻んで、死んだ順に奇麗に並べてくれたんだ。あの人は、自分が死ぬまでここを守り通すって言ってくれたよ」


きっと、夏奈の葬式はその後だったのだろう。

ジョンは、でも、と呟いた。


「あれ以来、このスーツを着るのがトラウマになっちまった。あと、警備員を見ると吐き気がするまでに、俺の心が狂っちまった」


けど、一番狂っちまったのは、ジャンの死体を始めに発見した、あいつだろうな……。

葬式の時は入院中で、退院後、必死になって組織を再興し、気弱だった性格を何とかジャンに似せようと、ジャンの物まねをして組織の頭に立った。

あいつは、あの日から時間が止まったまま、死んでしまった。


「あれ以来、俺はこのスーツを着る事が無かったけど、ある事を境に着られなくなっちまった」

「ある事って………?」


木縞は訊く…。が、ジョンは微笑んで誤魔化し、答えなかった。

そして、夏奈の墓の前に座る。


「………さて、次は夏奈姐さんの墓参りだな。―――――ここ、誰も来ねぇからな。定期的に来なかったら、寂しいだろうな。 夏奈姐さん、寂しがり屋だから」

「ええ、一人暮らしの時に良く私に電話を掛けてきました。 超寂しいって」

「まったく、どうしてそん時に近くにいないんだ、兄さんは」


ジョンは怒る。が、その後に笑った。そして手を合わせて、立ち上がる。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 20:23:23.41 ID:uhjyiKtF0


「さて、俺は帰るとするか。じゃあな、春花さん」


と、ジョンは手を振って歩き出し、どこかのポケットへ入れた車の鍵を探す。と、上着の内ポケットにカサッ……と乾いた音がした。


「………?」


ジョンは、立ち止まって内ポケットから音がする何かを取り出す。


――――――――――それは、一枚の封筒だった。


宛名は『汪誠者様』になっている。そう言えば、あの葬式の後、郵便箱に一枚封筒があった気がする。それを無意識に内ポケットの中に入れていたのだろう。

一体、差出人は誰だ? ジョンは封筒の裏を見る。


「―――――――――――………………これは…ッ!!」

859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 20:23:58.14 ID:uhjyiKtF0

『木縞夏奈』


「なんで、これが……?」



ジョンは何が起こっているのか、わからなかった。

なんで、兄宛の手紙が二通ある? 一枚は妹の春花が持っていて…いや、そのそもなんでわざわざ郵便に出す必要がある? まとめて一回で出せばいい物を……。

ジョンはつい癖で、封筒の中の厚さを指で測る。うん、薄い。紙一枚分を三つ折りにして入れてある。

そしてこれも癖で、封筒を提要に透けさせて中身を覗いた。

すると――――


(ああ、そうか……。………そう言えばそうだったなぁ……)


ジョンは振り返ってもと来た場所を引き換えし、木縞の目の前に立った。


「どうしたんですか?」


と、木縞は笑う。―――もちろん、作り笑顔だった。


「あんた宛だ。」


と、木縞に封筒を手渡す。木縞は首を傾かせたまま、素直に受け取った。


「…………これ、お兄さん宛になってますけど…」

「中身を見てみろ」


と、ジョンの言われるがままに、木縞は封筒を端を切った。

すると、入っていたのは一枚の便箋だった。――――先程、ジョンに渡した便箋と同じ柄のだ。

そして、それに書かれていた文章の一行目には……、


『妹、木縞春花へ』


木縞は、目を疑った。

ジョンは頬を人差し指で掻きながら言う。


「思い出したよ、あの人、意外とドジな所もあったって事。 まぁ、何年も気付かなかった俺もそうなんだけどな」

「読んで、いいですか?」

「当たり前だろう、お前宛の手紙なんだからな」


ジョンは笑う。木縞は恐る恐る、三つ折りにされた便箋を開いた。

その便箋に書かれた手紙を、読む。

その文字の量は、恋した相手へのと比べて随分とすくなかったが、その一文字一文字には優しい気持ちが包まれていた。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/05(月) 21:50:24.51 ID:uhjyiKtF0
―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――

妹、春花へ。


この手紙をあなたに渡そうとしていたら、私とあなたの部屋が家宅捜索されると言う話を聞いたのできゅうきょ、私が所属している風紀委員の支部に隠します。


まぁ、この手紙を読んでいるってことは、手紙を見つけたと言う事でしょう。


まさかこの手紙は、私の後を追って風紀委員になっちゃって、ぐうぜん見つけたの?


それとも、風紀委員の誰かがこれを見つけて、心が広い人がこれをあなたにこれを届けてくれたの?


前者だったら、風紀委員になってたら、お姉ちゃんは嬉しいです。ぜひ、学園都市の平和を守ってください。


後者だったら、その風紀委員さんにお礼を言っておくのよ? これは、お姉ちゃんとのお約束だからね?



さて、この手紙はお姉ちゃんのさいごの手紙になるでしょう。


もう、春花には会えないと思います。 声も聞けないと思います。顔も見れないと思います。


でも、泣かないでね? 悲しまないでね? 苦しまないでね?


お姉ちゃんがいなくても、お姉ちゃんの影があなたを苦しめても、絶対に泣かないで、苦しまないで、ただ、いつものように明るく、春のお花畑を明るく照らす、太陽のように笑ってください。


お父さんが付けた、大事な大事な、名前の由来です。お母さんが大好きだったお花畑で笑うあなたの顔を見てそう、名付けたそうです。


だから、泣かないでください。 春花の笑顔が素敵な顔には、雨なんて似合いません。お姉ちゃんもそんな顔なんて見たくありません。


だから、辛くても、歯がくても、どんなに辛い運命が待ち受けていても、笑って、前を向いて明るく生きて行ってください。


例え、お姉ちゃんと同じ目に運命にあったとしても、絶対にあきらめず、くじけず、生きることに絶望しないで、しっかりと生きて行ってください。


これは、あなたの人生なのだから……大切に、大切に、大事に、大事に、人生を送って行ってください


これも、お姉ちゃんとの約束です。


あと、お姉ちゃんが大好きな人に手紙を出しました。 その人に、お姉ちゃんの代わりにあなたの世話をしてくれるよう、お願いしました。


本当に優しい人です、楽しい人です。 でも、あの人を好きになっちゃ、ダメですよ? あの人はお姉ちゃんのものですから♪


でも、その人の弟さんなら、春花にピッタリだと思います。仲間思いで、優しく、素直、それに嘘をつかない人です。


いつも会う時、大きくなった春花とこの子がデートしているのを妄想していました。………あ、これは秘密ですよ? 恥ずかしいですからね?


さて、とうとう時間が迫ってきました。ここで、筆を置かせてもらいます。


では、先にお父さんとお母さんの所へ、一足先に行ってきます。


では、また逢える日まで…。





861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:09:26.62 ID:EV5I3OGV0
―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――



「………………………、」



木縞は、その内容を読んでいた。

読んでいた。ただ、読んでいた。なのに………、目から涙が止まらなくなっていた。


「ぅっ……ぅううっ………あぁぁ………」


木縞は声にならない声で、泣く、哭く…。

その姿を、ジョンはただ見ていた。

これは、さっきとは全くの逆だった。さっきはジョンが哭き、今で木縞が哭く。

しかし、木縞はただ泣き続けず、ジョンに涙で歪んだ声で話しかけた。



「実は……私、自殺しようと思います………。私、凌辱されて、妊娠してたんです……。」


「――――――――――ッ」


「今朝、中絶しました。でも、私が凌辱された事には変わりないし、それで人の見る目が白くなるでしょう」



ジョンの顔が一瞬、怯えたようになった。しかし―――――――



「でも……、やっぱり止めます」



木縞はそう言って、手紙を封筒の中に入れてポーチの中に仕舞った。


「だって、お姉ちゃんの遺言なんですから」


木縞は―――春花は、太陽のように、心から笑った。


「……え…?」


ジョンは戸惑った。

春花は、明るく語る。


「…………私、馬鹿でした。 確かに私はあの日、本当に辛い目に遭いました。 今すぐにでも舌を噛みきって楽になりたいと思いました。私と同じ体験をした姉も、そう思ったでしょう。………でも、」


春花は、心にへばり付いていた重石が一気に払われたような、そんな笑顔であった。


「姉は、私に生きろと言いました。前を向いて、明るく生きろと言ってくれました。 昔から、姉が言う事は絶対当たってました。だから、私は前を向いて、明るく生きます!」


確かに、彼女は姉の影に、『名風紀委員』と言う、あまりにも英雄過ぎた姉の背中に、影に、何度も無残に押しつぶされた。

だが、木縞春花は明るく笑う。


「どんなに辛くても、歯痒くても、どんなに辛い運命が待っていても、私は負けません。泣きません。苦しくても笑ってやります!」


862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:11:27.27 ID:EV5I3OGV0
まるでその名の通り、春の日の花畑を照らす太陽のように、春花は笑った。明るく。そして強く。

ジョンは、その笑顔に、太陽の笑顔に戸惑い、眩しい太陽に目を反らすように、踵を返した。


――――――――――あの笑顔は、自分にはあまりにも眩しすぎると。 自分の罪が、あまりにも眩しすぎる太陽の光に掻き消されそうで……。


「その笑顔だけ見れただけでも、俺は嬉しいよ。 ………じゃあな」


と、ジョンはそれだけ寂しく言って、逃げるように足を前に進めた。

春花はさっさと歩いてゆくジョンに質問した。


「あなたは、これからどうするんですか!?」

「ああ、そうだな。 日本一周でもしようか。キャンピングカーに乗って、日本中の街という街を訪ねて回る―――。兄さんの夢だったんだよ。 じゃあな、達者でな」


と、ジョンは手を後ろに振って去っていった。


ああ、これで彼女が自殺して、夏奈姐さんが悲しむことを防いだ。これで俺の人生に意味は無くなった。

これからどうしようか。他人名義で作った口座の預金に入ってある金なら馬鹿ほどあるから、本当に旅に出るのは良い。

が、旅に出ただけでどうなる? 何も変わらない。この、自分を縛る罪がある限り…。

あの、路地裏で殴り合った高校生の声が、ふと、聞こえてきた。

そうだ、これはツケだ。自分がやってきた罪を一気に償うツケだ。

でも、俺はそんな事、望んではいなかった。 リーダーの命令だったかだ。しかし、それを止めなかった自分も同罪である。


ああ、このまま死んでしまおうか。 この罪を背負って、焼身自殺でもすれば、自分たちに人生をメチャクチャにされた人達の怒りと憎しみを一身に受けながら………。


そう、ジョンは呆然と、考えていた。でも、それは本気であった。自分は今日、死ぬと。

そうだな、まずはカーマー言って油を買っておこうか。

ジョンはふと、ホームセンターへの道順を復習し、車がある駐車場へと向かった。



が―――――――――――その前に、ジョンの腕が春花の手に掴まれた。


「待ってください。」

「なっ……なんだよっ!!」

「あなたはまだ! 償ってはいない!!」

「―――――――――ッッ!?」


ジョンの背中がギクリと震えた。


「な、何を言っているのか……」


ジョンは彼女の手を振り払い、必死になって誤魔化す。が、



「また誤魔化すんですか?――――――誘拐強姦殺人、人身売買で指名手配中の汪善緒さん」



863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:14:41.11 ID:EV5I3OGV0
春花は、確かにそう言いた。

ジョンの足が、ぴたりと止まる。


「…………、気付いていたのか…」

「はい、名前を知ったその時から」


春花は明るく笑う。しかし、ジョンにとってその笑顔は苦痛にしかならなかった。


「どうしろって言うんだ、ここでいっそ腹を斬って死ねって言うのか?」

「いいえ、違います」

「じゃあ、あのビルの屋上から飛び降り自殺すればいいのか?」

「いや、全く違います」

「じゃあガソリンを頭からかぶって火を付けて踊れってのか?」

「違います。見当違いです」

「だったら何をしろって言うんだ!!」


ジョンは怒鳴った。が、春花は笑って、



「―――――その、日本一周の旅……お供はいりませんか?」


と、言った。


「………………………………………………………………………は?」


ジョンは素っ頓狂な声を発し、


「なんでそんなことになるんだよ!!」


春花は笑ってそれの訳を言う。


「だって、夏奈お姉ちゃんは言いました。『私の大好きな人にお世話になりなさい』って、でもその人がいない今、私にはあなたしかいません」

「馬鹿野郎……、それはお前が小さい時だったからだろうが」

「いいえ? その時はお姉ちゃんがいなくても、ちゃんと料理洗濯などの家事は全部できましたよ?」

「…………………、」

「それに、これはあなたの為でもあるんです」


と、春花は言った。


「あなた、死のうと思ったでしょう?」

「」

「バレバレです」


春花はそう笑う。


「だったら、私を日本一周の旅に連れて行ってください。 私への大きい罪悪感に浸りながら私を連れて行ってください。 自殺するよりも警備員に捕まって辛い目に遭うよりも、ずっと“辛くて苦しい”罪の償い方でしょう?」

「あんたは……俺を、憎んでいるのか?」

「ええ、あなた達なんて、大っ嫌いです!」
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:17:50.21 ID:EV5I3OGV0


そう言っても、彼女は笑う。


「でも、朝も昼も夜も、ずっと傍にいてください。一緒にご飯を食べてください。一緒に寝てください。一緒にドライブしてください。一緒に笑ってください。一緒に泣いてください。一緒に喧嘩してください。一緒に悲しんでください。―――――そして、私と一緒に生きてください……それが、私があなたへ下す罰です」

「………………ふっ……あっはははははははははははは!!」

「な、なんですか、いきなり笑って、これでも真剣なんですから!!」


春花は、怒る。だが、ジョンは笑ったままだった。

数秒経って、ジョンは笑い止んで、いきなり真剣な目になった。


「………本気で言っているのか?」

「はい」

「俺が、お前を犯すかもしれないぞ?」

「結構です」

「お前を裏切るかも知れない」

「大丈夫です」

「毎日暴力を与えるかもしれないぞ?」

「問題ありません」

「いつか野垂れ死ぬかもしれんぞ?」

「ありえません」


ジョンの質問に、全て速答で答える春花。ジョンは疲れたように溜息をつい、最後にに訊いた。


「………なんでそんなことが言える?」

「だって、あなたは私にそんな事をするわけがありませんから」

「………もう一回訊こうか。何でそう言える?」

「だって、あなたは誰も穢していないから。あなたは誰も傷つけていないから、と私は思ったからです。それと、お姉ちゃんが認めた人が、そんなことする訳ないじゃないですか。 お姉ちゃんが言った事は絶対に外れません。絶対です」

「…………そうか…」

「そして………」


春花は、真面目な顔で言った。



「――――――私が赦さなかったら一体、誰があなた達を赦すのですか?」



春花はそう言って、太陽のように笑った。


「お姉ちゃんなら、そうします。それに、私はそうしたいです」


ジョンは笑った。 心から敗けたと思った。そして心から笑う。


「じゃあ、まずは金だな。銀行へ行くけど、ついてくるか?」

「はい、お供します。 これからお願いしますね?」

「ああ、一生償えぬ罪だけど、今度宜しくお願いします」


865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:19:19.48 ID:EV5I3OGV0
二人は歩き出す。二人並んで、罪人と罪人に汚された女という、不可思議な二人は、仲良く墓地を後にした。


「しかし、なんでそんなに夏奈姐さんの事を信じられるんだ?」

「ふふ……内緒です。」


春花はそう笑う。ジョンは……善緒は、なんだよ話せよと言うが、春花は笑って答えなかった。



866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:20:01.85 ID:EV5I3OGV0
春花のポーチの中には、一枚の封筒がある。その中には一枚の便箋が、それには夏奈から春花宛ての手紙があった。

そして、一番最後の数行が空欄で、真っ白だった。


さて、夏奈は死ぬ直前でこの手紙を書いた時、下には何か柔らかい何かを敷いて書いていたのだろう。

春花はそう読んだ時、そう思った。

なぜなら、空欄には何か文字が書かれた跡があったからだ。

それは当時は証明か太陽の光で良く見えなかったのだろう。だが、春花が読んだときにはしっかりと見えた。

それは………。


―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――


P,S


私はずっと、大好きな人のそばにいます………。



―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――・―――――――――



この二人が去った墓地には、無数の遺灰が入ったカプセルが並べられいただけの空間だった。

心無い警備員の手によって、あの建物の中でなく、この空間にただ捨てられていたのを、墓地の管理人の親切で、死者のカプセルに当人の名前、生年月日、亡くなった日と時刻が刻まれ、亡くなった順に並べられた。

確かにただ並べられただけの質素な墓地だった。無縁仏と言っていい。あの建物の中に葬られる方が何倍もいいだろう。


しかし、きっと死んだ彼らはそうは思っていない筈だ。


この墓地は、あの清掃作戦で亡くなった能力者、それと今回で亡くなった無能力者狩りも、ここに葬られている。

彼らも、亡くなった順で並べられていた。


その中心にあの清掃作戦の地獄の包囲網を破った汪誠者と、彼が恋し、彼に清掃作戦を密告した木縞夏奈が葬られている。

そして、彼らの周り、上には清掃作戦で亡くなった者達、下は今回で亡くなった者達が葬られている。


先程も言った通り、彼らの遺灰が入ったカプセルには、名前と生年月日、亡くなった日と時刻が刻まれていた。



『汪誠者』

1992年10月4日生まれ

2009年6月24日 6時42分没



『木縞夏奈』

1991年7月29日生まれ

2009年6月24日 6時42分没




二人は、同時刻に天へ昇ったのだった。


そして今日も、二人はずっとそばにいて、お互いに片時も離れることも無く、この地に眠っている。


これから未来永劫、二人は絶対に離れることはない。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 01:47:55.66 ID:EV5I3OGV0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

駐車場の遠くで、一組の男女が車に乗った。男は黒いスーツで、女の方は白いワンピースという、一目で墓参りだろうとわかる。

その様子を、一人の少女が黒いリムジンの中で見ていた。


「さぁ、彼らは決断した様ね。 で、あなたはどうするの? もちろん断っても承諾してもいいけど」


雲川芹亜は美脚を組んでそう言った。

彼女の横には、雲川をブレインとして雇っている老人、貝積継敏(かいづみつぐとし)が座っていた。

彼はただ、彼女の話を聞いているだけである。そもそも、この話には彼は殆ど話には聞いていない。


「彼、確か汪善緒とか言いたわね? すぐに見つかって、一生牢の中か地獄行のプレミアムチケットを強制的に握られることになるわよ? まぁ私としては別にいいけど」


と、雲川は悪い笑顔をする。

彼女の要求に、ある男が答えた。


「馬鹿な事は休み休み言え。そんな事、一つに決まってるでわないか」

「そう、じゃあ答えを聞きましょうか。八馬光平(やまこうへい)さん?」


八馬光平……とある組織ではヤンと呼ばれていた男は、前に置いてある書類を手で叩いた。


「あいつの……ジョンの罪、この八馬光平が引き受けようじゃないか!」


八馬は、体中に包帯やら絆創膏やらを無数に付けていて、目にはプロ野球選手が付けていそうなサングラスを掛けていた。


「じゃあ、その紙にサインをよろしく」


雲川はサインペンと朱肉を転がす。

ヤンこと八馬はペンを奪うように取り、『誓約書』と書かれた紙の右上に自分の名前を書き、その横に朱肉で色をつけた指をギュッと押した。


「…………これで、文句ないだろう?」

「ええ、良く出来たわ。少々悩んだ顔も見て見たかったけど。―――貝積。」

「わかっておる」


雲川にそう短く言って、貝積は手元のボタンを押す。ピーーーッと音がすると、誰かの声がした。


「誘拐強姦殺人及び人身売買容疑で指名手配中の汪善緒の捜索、および捜査を打ち切れ」

『えっ!? ですが…』

「決定事項だ。 適当に死んだことにしておけ。わかったな」

『はっ』


電話が切れ、貝積は溜息をついた。


「あまりこうした事をしたくないのだがな」

「何かをするにはそれ相当の対価が必要なの。等価交換よ等価交換」


868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 01:49:14.84 ID:EV5I3OGV0
雲川は笑う。


「にしても、面白い事件だったわね…」


雲川はそうニヤニヤと笑う。


「汪善緒は兄の死を引きずり、組織に縛られていた。木縞春花は偉大だった姉の重圧に潰されて、偶然にも姉と同じ運命を辿り、別の道を選んだ。 しかも、汪誠者と木縞夏奈は思い人同士だった。そして、その弟、妹達は、喪失感を埋めるように寄り添う形で旅に出た――――」


そう言って、雲川は近くにあった冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。


「それに、フレメア=セイヴェルンは姉のフレンダ=セイヴェルンに絶対なる信頼を寄せている………。ふふっ、面白いわね、本当に」

「人の不幸を笑うと、自分が不幸になるぞ」


と、貝積が言った。


「いいの人の不幸は蜜の味ってね。………汪誠者も弟と仲間、そして思い人にもう一度会いたいと思って死んだんでしょうね。それに木縞夏奈も妹と汪誠者の事を想って首を吊って、フレンダ=セイヴェルンは木縞春花と同じ運命になりかけた妹を必死になって守っている――――ふふっこれは面白いわね。」


貝積は溜息をつく。

彼は、八馬に向かって手を差し伸べた。


「若造、確か八馬光平とか言ったな。 私が、学園都市統括理事会の一人、貝積継敏だ」

「名前は聞いている。なかなかの人格者としてな。今後もよろしくお願いする」

「お前の働き、期待しておる」


二人はそう言って握手した。

そんな二人を、後で見ていた笹斑瑛理はツッコんだ。


「…………自分の雇い主には敬語使いなさい、新人」

「貴様の様なド淫乱には言われたくない。 しかと見ていたぞ、お前が10人の俺たちの仲間を食い荒らしていた様を」

「…………そ、」


と、笹斑はPCを弄っていた。
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 01:49:48.41 ID:EV5I3OGV0


「時に何をしておる。まさかエロ動画とか見ているのではないだろうな」

「違うわよ! これは、学園都市の今の経済状況を見ているの! あなたと違って筋肉馬鹿じゃないの!!」

「いきなり叫んで反論するのは、いささか怪しいが、ひとまず信じておこうか。………しかし、頭の中はピンク一色のお前には意外だったな、謝る。 これからは経済もわかるど淫乱女と呼ぼう」

「………新人の癖にっ!」

「そう言うお前の取柄は人を眠らせるだけじゃないか。 前世は安眠枕か何かか?」

「なっ、なんですってぇええ!!」


と、フレンダに対してガンガン自分のペースでフレンダにボケ倒していた、究極のド変態こと笹斑が、八馬によってツッコみに変わっていた。

そんな彼らの漫才に、雲川は呆れた。


「初対面なのに、よくそこまで意気投合出来るわね。もしかしてあんたたち結婚するの? 別にと目はしないけど」

「冗談は言わないでくれ。ただ、からかいがいがある奴がいたからだ。シンの奴の変わりがいなければ、俺も寂しいからな」

「あそ、ご結婚おめでとう」

「ちょっと待ってくださいマスター! なんでこんな男と……!」


と、笹斑は叫ぶが八馬がうるさいと口を押えた。

雲川はそんな彼らの漫才を見ながら、車を出させた。

そして、貝積はそんな騒がしくなったパーティを見て、大きなため息を吐いた。


「お前ら…少しは静かにしてくれ……」


―――――――ここは、遠足じゃない。そう言う貝積の心の声は虚しく、笹斑は八馬にからかわれる形で漫才を延々と繰り返していた。



一方、雲川は、二人の漫才など一つも見ずに聞かず、考え事ばかりしていた。


(四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本………真庭忍軍……敦賀迷彩……彼我木輪廻……奇策士とがめ……鑢七花……そして、四季崎記紀。情報によれば、まだまだ奴らの同類がいるとか……ああ、欲しいわね、その巨大な力!)



「そうね、まずは策を練ろうか」


そう、雲川は誰も聞こえぬ声で呟いた。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 02:08:30.83 ID:EV5I3OGV0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日はここまでです。ありがとうございました。

この内容で感動してくれた人がいたら、私は嬉しいです。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/06(火) 07:45:01.18 ID:YfqdFBgn0
綺麗な終わり方だったな

こういう話、俺は好きです。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/06(火) 11:56:56.32 ID:YfqdFBgn0
お疲れさまです!

面白かったよ!
三弾にも期待してます!
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/12/06(火) 21:17:18.21 ID:vH+g4A720
乙乙
刀語キャラがまだ少ないな
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 21:22:30.12 ID:EV5I3OGV0
こんばんは、今日も書いて行きます。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 22:03:03.81 ID:EV5I3OGV0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――エピローグ――――――――――――――――――――


ドカッ!ドカッ!ドカッ!

何かが、穴を掘る音がした。

とある組織の初期メンバーとして働いていた、シンこと神時新司(かみじしんじ)は自分の能力、『岩巌装甲(ロックアーマー)で穴を掘っていた。

今まで、一日隠れていた。

訳も分からない敵が来て、情けなくも怖気ついて逃げて来てしまった。

仲間たちはどうなったか、今は知らない。

『岩巌装甲』は、肌に岩や鉱石を付着させる能力で、全身につっくけさせれば頑丈な鎧なり、強力な剛力を発揮する。 能力の対象は、普通の石ころからダイヤモンドまで何でも可能だ。そして、コンクリートも例外じゃない。

今、籠手のように付着させたコンクリートの腕で、穴を掘っていた。アジトから、どこか安全な所までへ………。

そして、どこかの空洞へ出た。真っ暗な空間で、光など一つもない。携帯電話は充電が切れ、ライトなどの物は一切ない。

どこかの廃業になったデパートの一室だろうと、暗闇に慣れた目で見た光景でそれがわかった。

そこで一日過ごしたのだ。騒ぎが止むまで………。

一日経って、シンはそろそろ出ようかと思い、壁が薄い場所を選んで掘り始めた。

動きがったのは30秒も経たない時だった。すると、小さな光が、小さな穴から入り込んだ。 太陽の光だ。

シンの顔が明るくなった。やっと脱出できる。

泥で汚れた顔を、太陽の下に出す。そこは廃業になったデパートでなく、なぜか“崩壊した建物の瓦礫の上”だった。

一日、自分は瓦礫の中で隠れていたのか。シンはそう考え、とにかく脱出しようと穴を大きくして体を太陽の下に曝け出した。

ああ、一日ぶりの太陽だ。いや、昨日は雨だったから、二日ぶりか?

ん〜っと背伸びをし、あたりを見渡す。今日は暖かい日だ、と9月上旬の暖かい空気一気に吸って、ゆっくり吐いた。

さて、これからどうしようか? 仲間たちはどうなったのだろうか? シンはそう色々と考えて、あしを前に進ませる。





―――――――――――――とその時、後ろから何かが自分が作った穴から這い出るる音がした。





ズリッ…ズリッ…ズリッ……!

シンはビクッ! と背中を飛びあがらせた。しかし、そんな事を知らないように、這い出た何かが穴から無事に脱出し、トッコ、トッコと機械染みた足音で歩きだした。

シンは、何だろうかと振り返る。

這い出た何かは、機械染みた声で、こう言った。




「人間認識。人間認識。」





するとやっぱり機械染みた声で、這い出た何かは――――等身大の日本人形は最後にこう言った。




「人間認識。即刻斬殺―――――」




そして、『微刀 釵』日和号は四本の日本刀を持ってシンに斬りかかった。
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/06(火) 22:56:59.11 ID:JwKMwKdDO
野生の日和号が現れた
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 23:31:48.02 ID:EV5I3OGV0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ここ第十九学区は学園都市一、廃れた学区である。そこら辺中に廃業になった商店があり、…というは開いている店が皆無だ。

しかも、誰もいないし、道路はひび割れてて、建物は所々汚れている。

ゴーストタウン…と言うのが正しいか。誰もいなくなったこの街(とはいっても、住民はいる)には、寂しく風が吹いていた。ただ、太陽だけが暖かい日光を照らす。

そんな第十学区のとある通りは特に酷かった。

足元にはコンクリートの破片が散乱し、地面には何かに斬られたような跡があちこちにあり、建物の壁と言う壁には銃弾が放射された跡がびっしり残っている所もある。


そんな戦場の様な場所に、二人の男女が歩いていた。


その二人は、この場所には全く似合わない恰好で堂々とこの道を歩いてゆく。


男は金髪で180cmほどの長身、茶髪は肩まで長く、服装はまるでヤクザとホストを足して割った様な雰囲気だった。

そして女の方はもっと場違いだった。

まず、彼女の服装は派手なドレスだった。印象はホステスと言いたいところだが、見た目からして中学生のようであった。後ろ髪を団子にして束ね、その他の髪は巻いている。


そんな二人は肩を並べて歩いていた。

決してデートとかではない。彼らは、戦争をしに来たのだ。

男は口を開いた。


「さて、どんなもんだろうな。警備員を蹴散らした日本人形ってヤツは」


楽しそうに言う彼を、少女はつまらなそうに答える。


「何をはしゃいでるのよ。そう言う歳じゃないでしょ?」

「男は永遠の少年なんだぜぇ」


と、男は笑う。


「………クサッ」


少女は短く罵った。


「ムカついた。流石にそれはムカついたぞ」

「言ってなさい」


男と少女は、そう言いあいながら歩き続ける。


「つーかよ、お前まで来るまでなかったじゃねえのか? 相手は人間じゃないんだぞ?」

「見学よ、見学。まぁ、万が一あんたが敗けた場合、あんたを助け様かと思ってね」

「ムカついた。お前、俺を舐めてんだろ」


男はそう、にやけながら言った。少女はそれを否定する。


「いいえ? そんな訳ないでしょ? “第二位さん”?」


今度は少女が笑った。

878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 23:33:12.38 ID:EV5I3OGV0
男はそれにつられるように笑う。


「さぁーて、ここら辺だったな。 あの目標は」

「ええ、情報の座標はここら辺であっていると思うけど……」


少女はどこからか携帯電話を取り出し、メールで送られた地図を見る。

しかし、それに描かれている座標にあるのは一つの大穴しかない。


「おかしいわね、ここで合っている筈だけど……」

「なんだぁ? その情報ガセか? だったら帰ろうぜ。今日はTVで見たい番組あるんだ」


男は萎えたような顔をした。少女は、


「そんなの我慢しなさい。どうせ再放送なんでしょ。仕事しなさいよ、仕事」


と冷たく言い捨てる。 男は、『母ちゃんか、お前は』とツッコみを入れた。

その時、


―――――――――――あ、あ、ああ、ぎゃ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


叫び声が二人の耳に刺さった。


そして、肉を刺す音が何回かした。


その音と声を聴いて、


「なるほど、あっちか」


男は足を向けた。少女はその後ろに着いて行く。

そこは瓦礫が積まれた、小高い山だった。 鉄筋コンクリートと鉄骨の欠片を踏みしめ、二人は山を登る。

そして、山の頂上から、断末魔の正体を見つけた。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 23:33:40.14 ID:EV5I3OGV0


「…………なんだ? あの無惨な石達磨は?」


山の傍に、全身にコンクリートや鉄骨の破片をその身に着けていた男が一人、斬殺死体となって血を流しながら倒れていた。

目や口や、関節の可動部など、岩の鎧が付けられていない場所を奇麗に狙われて、そこに攻撃されたのだろう。

男は、ピクリとも動かなかった。


それを見ていた男と少女は何も言わず、何も感じずに、ただ見ていた。


男でなく、――――――――『微刀 釵』日和号を………。



「さぁて、いっちょやってみるか」

「精々死なないでね。あの死体、指名手配中の神時新司だから。彼、なかなか強かったそうよ?」

「ばぁか、俺から言われりゃあ雑魚には変わりねぇよ」


そう言って、男は背中から天使の様な翼を6枚広げた。


少女はつまらなそうに、比較的汚れていないコンクリートの破片に座った。


「壊さないようにね。あくまで捕獲戦なんだから」

「わかってるよ。じゃあ、行ってくる。」

「ええ、さっさと済ませてね?」


そして、男は――――垣根提督は『微刀 釵』に攻め掛けた。

それを察知してか、日和号は首を動かし、機械染みた声を出す。


「人間認識。人間認識。 即刻斬殺―――」


こうして、戦争は始まった。―――――――――二人だけの戦争を…………。


その様子を、少女は眺める。いや、飽きてしまって空を眺め始めた。



「ああ、今日はいい天気ね……」



そんな高く見える秋空を、『心理定規(メジャーハート)』という能力を使う少女は眺めて、呟いた。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/07(水) 01:22:29.91 ID:eWsnOgn+0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき…………見たいなもの。



さて、皆さんどうお過ごしでしょうか。


ワタクシは、凍えてキーボードが叩きづらい手を何とか動かしながら今日、6月より半年に渡って書く続けていた物語の一片の幕を下ろす事が出来ました。

6月より変わった事……それは視力ですかね。あまりにもPCを凝視しすぎたので、視力が下がっちゃいました。それと、寝不足で朝が起きられなくなっちゃいました。

昨日今日と、遅刻してしまって、大変です。


さてさて、この『斬刀 鈍 〜VS無能力者狩り編』はいかがでしたでしょうか。

人によっては、『なんだよ! 刀語メンバーちっともいねぇじゃねーか!!』とか、『話がすすまねぇぞ!!』とか、『前と後と設定が違うぞ!!』とか、行っている人も少なくないと思います。

あと、誤字脱字、描写の説明不足、キャラの台詞の違和感………etc. 星の数ほどあったと思います。

でも………しょうがないじゃないか………。




だって、この『無能力者狩り編』は200〜300で終わらせる設定だったんだもん!!




それを何!? 全オリキャラだけの組織!? 真☆吹寄無双!?あと、彼我木輪廻は出て来るわ、敦賀迷彩も出て来るわ、しかも吹寄と佐天さんが迷彩に弟子入りするとか……っ!!


予想外にもほどがあるだろ、オイッ!!


始まりは……中華から始まった。

あのシーン…実は初期設定じゃあ出てきませんでした。それなのに、TVで中華料理特集するから便乗してしまし、ダラダラと行ってしまった……。



初期設定の紹介。


まず序盤は一緒、吹寄と佐天さんが攫われて、アジトに連れられる。その時は、誘拐犯ヤン・シン・マンション・ヤマの四人だけでアジトへ行く予定でした。

で、アジトについて、そこにいたのは……リーダーとジョンとサブ………総勢40人だけでした。

なんと、初期設定では無能力者狩りは40人だけでした。――――――150人まで、なぜに増殖した。

しかも、誘拐被害者は吹寄と佐天さんの他に3、4人。――――初めは完ッ璧なモブでした。ただ、フレメアはその中にいます。

吹寄と佐天の二人は見せしめとしてレイプされそうになるけど何とか逃げだして部屋に隠れるが、見つかり40人に囲まれる。

そこで、『斬刀 鈍』を持ったリーダーが刀で二人の頭上を一閃。壁は斬れて、壊れます。


すると、壊れた壁から――――――――宇練銀閣、登場。


銀閣はドスを持ったモブにパイプで応戦、ドス入手。リーダー『鈍』を持って交戦、あっさり敗北。宇練、『鈍』入手。宇練『斬刀狩り』で『無能力者狩り』の半数を殲滅。残り逃げる。そこに武装無能力者集団登場。さらに半数殲滅。四つの班に分かれる。一つは吹寄を連れて逃げるが、上条とあわきんによって全滅。一つは佐天さんを連れて逃げるが美琴によって壊滅。一つは蝙蝠・人鳥によって全員死亡。一つは買い物帰りの絹旗とぶつかり、彼女の卵を割ってしまって、壁に叩き付けられる。で、宇練はその後、駒場と一緒に戦線を離脱。以後、武装無能力者集団の一員となる。

―――――――あれ? 七花出て来てなくね?

って事で、第二設定では戦闘後、遅れてやって来た七花と騒ぎに駆けつけてきた錆白兵と三つ巴の戦いをするが、警備員の横やりに遭って中断。三人はそれぞれ逃げた。


――――――――でも、これじゃあ面白くねェな………。


まぁ、いいか、好きな風にすればいいべ。って事で好き勝手にやっちゃいました。


その為、最初と最後はちょっとだけ設定とか、フラグが違っていたりします。
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/07(水) 01:23:07.00 ID:eWsnOgn+0





さてさて、この物語では作者がハマったもののオマージュがみたいのが入っています。


特に文学少女シリーズは影響が強く、ジャンとリーダーの関係や彼らの組織の事の、病気的な文章の数々は、文学少女シリーズを真似して作っちゃいました。

それに吹寄のあれはMASTERキートンが元ネタがあったり、ツッチーの術式の呪文はワタクシが一番最初にハマった小説『少年陰陽師』を参考に、自分で作らせていただきました。

少年陰陽師……って少女小説やん!! ってツッコむ人がいると嬉しいです。……そうです、「孫言うな」のあれです。俺の中二病人生は、あれから始まったんだなぁ……。



この物語のテーマは、『罪と罰』『兄と弟・姉と妹』がメインです。サブに上条とあわきん、美琴。それと、七花と絹旗の恋愛事情も絡んで来ています。

まぁ上条とあわきん・美琴はは小さいながらも擦れ違っているし、絹旗と七花との距離感は未だに遠くて深いです。

でも、ああ、みこっちゃん……あわきんが上条とキスしちゃうとこ見ちゃったからなぁwww今後どうなってくるかなぁwwww

それに、七花ととがめが言う、二人が結ばれない理由とはなんでしょうねぇwww


話が脱線しました………。

清掃作戦という、無情な迫害の様な戦闘を潜り抜けたけど、ジャンが虚しく無惨に死んでしまいました。リーダーたちはジャンの背中を追って、ないしはジャンの喪失感を埋めるように組織を大きくしていきました。

この世の中が憎い。こんな風にしてしまった世界が恨めしい。そんな感情を抱き、生きてきました。悲しみを背負って、泣き寝入りしていて、その腹いせのように、誘拐していった女の子たちを穢していました。

でも、そのやり方がいくら理由があっても、どんなに可哀想な過去を持っていても、関係のない人を巻き込んでしまった罪、人として誤ってしまった罪を、絶対に償わなければなりません。

人は、絶対に罪を罰で洗い流されなければならないのですから。

リーダーは狂ったまま死んでいきました。例え生き残っていても、狂ったまま、狂死していたでしょう。

ボンも死にました。ヤマも無残に死にました。サブは警備員に捕まり、一生牢の中か、学園都市の闇の住人となって一生を終えるでしょう。

ジョンは穢してしまった少女に罪悪感を一生感じながら、 その少女と一生を共にし、ヤンはジョンの罪を背負う形で雲川の軍門に下りました。

私達も必ず、何かの罪を犯しています。

嘘だったり、食べ物を残して、それに使われた食材たちの命を無駄にしたり………。

これらは回りに回って、絶対に私達に罰として帰ってきます。

私はテストの点数を親に嘘を言って誤魔化したら後になって倍になって怒られたし、昔は食べ残しが多かったので当時のクラスメイトから嫌われたり、虐められて、とうとう誰も自分を見てくれなくなりました。

リアルゲコ太や上やんが言っていたように因果応報、自業自得。いい事をすればいい事が帰ってきて、悪い事をすれば悪い事が帰ってくるものです。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/07(水) 01:23:54.23 ID:eWsnOgn+0


さて、『兄と弟・姉と妹』は偶然に発見したテーマです。ぶっちゃけて言えば。

大体、クライマックスあたりを書いていた時、結末をどうするか考えていたら、『そう言えば、これ兄弟姉妹多くね?』って気付いて、急遽つけたものです。

雲川の姐さんが言った通り、汪兄弟の弟は兄の死を引きずって、兄に縛られて生きてゆきます。木縞姉妹は『名風紀委員』の名を学園都市中に轟かせた姉の重圧に耐えきれなくなっていた妹は、偶然にも姉と同じ運命を迎えます。そしてセイヴェルン姉妹は姉に妹は絶対の信頼を寄せています。

そして汪誠者と木縞夏奈は両想いで、その弟と妹の善緒と春花は罪の清算と喪失感の埋め合わせをしながら旅に出て、セイヴェルン姉妹は無事だったと言うお話。


『兄弟愛・姉妹愛』って言うのでしょうか。ワタクシは経験がありませんが、自分の兄弟が喪ったのはつらいと思います。だって、自分の半身の様なものですから………。



さて、時間も迫ってきました。

最後に次のお話ですが、来年になると思います。次は大覇星祭=次回は運動会です。

ああ、楽しみですね。


では、ここで筆を置かして貰います。

ああ、辛かった半年間。

何でこんなに長かったのだろうと思うと、やっぱり前スレから見たらレスを入れてく人が激減したからでしょうね。

だからこんなにのびのびと書けたのか……。頼むから、反応してくれ……って日もあったので、皆様、是非ともコメントを入れて行ってくださいまし。

では、また来年。




P,S


最強の変態、笹斑瑛理の正体は、実は雲川に助けられた、木縞夏奈と言う設定は、面倒くさいのでやめた。

もちろん、名前と同時に顔も整形して変えたと言う設定で……。


〜〜変態工作員 笹斑V〜〜

『ショッカーによって破壊された『名風紀委員』木縞夏奈は、雲川芹亜と貝積継敏によって改造され、笹斑瑛理として生まれ変わったのだ!!』


………あれ? これ、浜面でもできそうだ……。
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/07(水) 08:31:21.81 ID:i7IL5mDk0
半年間お疲れMAX☆

半年間片時も目を離さなかったぜ
次のスレタイも考えてたら教えてほしいな

というわけで新年は余ったコメント欄で忘年会だ☆
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海・関東) [sage]:2011/12/07(水) 13:12:46.84 ID:2KXpjpVAO
乙!

銀閣さんの出番がwww

毎回思ってたんだがageんなks
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 19:11:04.26 ID:i7IL5mDk0
なにがあって110人も増えたんですか?
しかも全員まとめて刺殺☆瞬殺☆大虐殺☆されたしwww

まさに蝙蝠。
886 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 12:39:17.32 ID:eDtbHEc70
シンどうなったんだろって思っていたら超噛ませモブだったwww
887 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 12:40:40.82 ID:eDtbHEc70
シンどうなったんだろって思っていたら超噛ませモブだったwww
888 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 22:40:38.57 ID:1jn6sD+60
お疲れ様ですー 最初のスレから見てます!
889 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 01:36:56.23 ID:VkzPwO0W0
こんばんは〜。

さてさて、質問に答えて行きましょうかw


>>885さんの質問

何があって110人も増えたんでしょうか?という質問ですが………。

ぶっちゃけ、ノリです。――――――おい、

実は書いている時、40人の設定を思いっきり忘れていました。歳ですかね、物忘れが激しいです。

まぁ初期メンバーは最初っからみんな噛ませだったんで問題なかったです。それより、蝙蝠の見せ場を用意することが出来たのが大きいです。


>>886

シンさんは一応、美琴と善戦したヤンさんと同レベルの強さの能力者です。

ただ、ヤンさんはスピード&パワーの戦闘スタイルで、シンさんはパワー&ディフェンスの戦闘スタイルです。

彼の能力、『岩巌装甲』は岩石や鉱物、金属などを体にくっ付けて鎧にする能力です。

ヤンさんはスピードで相手を翻弄し、攻撃を躱して躱して、相手が隙を見せたら一瞬で間合いを詰めて攻撃します。

一方シンさんは全身を覆う分厚い装甲で敵の攻撃を防ぎ、その隙に攻撃するのが戦闘パターン。

二人共ライバル同士でお互い凌ぎを削りに削って強くなり、共に大能力者になった強者です。


しかし、日和号と戦った時は体力を削りに削られ、疲労がピークだったのが原因なのと、日和号を甘く見ていたので、顔と胴体の腕と脚しか鎧を付けていませんでした。

そこで日和号は頭の目と口、それを脇など、鎧が着られていない個所を突いて倒したと言うのが裏設定です。

断じて彼は弱くありません、めちゃ強いです。まぁ絹旗には敗けるけど。


さて、次回予告↓
890 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 01:38:39.42 ID:VkzPwO0W0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……………諸君、私は戦争が好きだ」


男が、一人、こう、呟いた。


「諸君、私は戦争が好きだ」


また、呟いた。


「諸君、私は戦争が大好きだ」


男は少し、大きな声で呟いた。

金髪金眼で大きく腹が突き出た男だった。

男は、その声の音量をそのままにして、言った。


「殲滅戦が好きだ、電撃戦が好きだ、打撃戦が好きだ、防衛線が好きだ、包囲戦が好きだ、突破戦が好きだ、退却戦が好きだ、掃討戦が好きだ、撤退戦が好きだ」


まるで機械が自動に喋っているように、狂った口調だった。


「草原で、街道で、塹壕で、草原で、凍土で、砂漠で、海上で、空中で、泥中で、湿原で」


そして、大きな声で高らかに、


「この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ」


トチ狂った口が、壊れたように動く。


「戦列をならべた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる」


腕を高々く上げている。その様子を体で再現しているのだ。そして、子供のように顔の前で拳を握って振るう。


「戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が敵戦車を撃破するのが好きだ。悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった」


その光景を昨日のように思い出すように、眼孔が開いた目を細め、男は頬を上げる。


「銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える」


『何度も何度も』その台詞に合わせて首を盾に動かす。振り下ろされた銃剣を目で追っているように、嗤いながら、高揚を抑えながら。


「敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない。泣き叫ぶ捕虜達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ!」


そう、口の端を吊り上げていた。大好きで大好きで、堪らなくて、もはや愛しているという物を興奮しながら熱弁している。


「哀れな抵抗者達(レジスタンス)が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える!!」


イきかけた顔で、男は嗤った。

891 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 01:39:38.78 ID:VkzPwO0W0
しかし、いきなりトーンを下げてしまった。


「露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ」


掛けている眼鏡を人差し指と中指で上げ、その惨劇を目にしたことを思い出した様に首を横に振る。


「英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ」


憎しみと、殺意を込め、嗤う。

すると、自分の願いを言った。願望を、望みを、


「諸君 私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる」


そして問うた。


「諸君 私に付き従う大隊戦友諸君。君達は一体何を望んでいる?」


目の前で、直立不動で並んでいる、幾百の群衆に。


「更なる戦争を望むか? 情け容赦のない糞の様な戦争を望むか? 鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?」


彼ら群衆は、ヘルメットを被り、軍服を着て、腕に掛けた腕章には“卐”のマーク。

右手の中指と人差し指を突き出して高々く突き上げた。

彼らも、瞳孔が開き切った眼で嗤っていた。そして一斉に望みを叫ぶ。


Krieg.と、


「戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!戦争!」


「よろしい、ならば戦争だ」


男は、腕を前に掲げて、力強き声で言った。


「我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ。だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!」


伸ばした左の手を左下へ振り、男は叫ぶ!


「大戦争を!!一心不乱の大戦争を!!」


892 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 01:40:48.63 ID:VkzPwO0W0
と、男はトーンを下げた。しかし、力強いその声の魂の熱は下がらない。


「我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ敗残兵に過ぎない。だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している。ならば我らは諸君と私で総力100万と1人の軍集団となる」


憎しみを込めた声で、目の前の軍衆を煽動する。


「我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう。髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう。連中に恐怖の味を思い出させてやる。連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる」


両腕を広げ、両手を広げ、男は奮い立たす。


「天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる。一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で世界を燃やし尽くしてやる」


狂った顔の嗤み。狂った声の演説。狂った郡衆の眼という眼の矛。


「今、我らが倒さなくてはならない者共がいる………。かつて、我らの仲間であり、同志であり、同朋であった者達だ」


男は右手を掲げ、東へと手の先を示す。


「日本――――。かつて彼らは我々と共に英米露と戦った、同朋であった。しかし、この世においては彼らは憎むべき者達に頭を垂れ、物々を売り捌き、世界の頂点にまで伸しあがった。―――――――彼らの魂は、もはや腐った果実となってしまった」


軍衆が、堰をきったのように叫びだす。敵の名を……。


「日本だ! 日本の火だ!! 学園都市! 学園都市の火だ!!」


「そうだ。全ては学園都市、学園都市だ。人間を弄り、超能力者なる者を生産し、高性能の電子機器や破壊兵器を大量に量産し、各国諸国に輸出している。その筆頭は憎き米英両国だ」


男は、声を荒げて宣言した。


「―――――まずは、学園都市を落とす!!」


ウゥォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


軍衆は雄叫びを上げた。叫んだ。獣のように、魔獣のように。狂った嗤い顔で。


「聴けば、学園都市は人口は230万人と言われる。しかしその内、学園都市の守護を司る者達はその一部分しかいない。しかも、それは教師や学生のみだそうだ。………よって、朝日が昇る前から月が昇り切るまで濃厚なる訓練という訓練を、試練という試練を重ねてきた、100万と1人の軍衆である我らなら、赤子の手を捻るも同然!!」


男は続けた。


「そして、学園都市の教師生徒、女子供を皆殺しにし、武器という武器を! 兵器という兵器を! 何もかもを奪い!! ヨーロッパに凱旋して、火を灯そうではないか!!」


――――――ヨーロッパだ!ヨーロッパの火だ!


軍衆が声を合わせて吠えた。
893 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 01:42:23.46 ID:VkzPwO0W0


「問おう。諸君、君たちは何者だ?」


――――――ドイツ第三帝国ミレニアム大隊!!最後の大隊!!


「そして問おう。諸君、私は何者だ?」


――――――少佐! 少佐殿! 代行! 代行殿! 大体指揮官殿!!


「よろしい。 ならば私は諸君らに命ずる!!」


男は…少佐は狂ったように命令を下す。


「ミレニアム大隊各員に伝達。大隊長命令である!」


『最後の大隊』、大体指揮官より、全空中艦隊へ。と、どこからか声が聞こえた。通信でどこかに命令を伝達しているのだろうか。


少佐は、嗤った顔で目標を、敵を討つための目標を示した。


「目標、日本本土、学園都市」


そして少佐は自分に命を預ける兵団へ、ゆっくりと、




「さぁ、征くぞ諸君」



口が、動いた。






「地獄を造るぞ」







とある空の中、夜の帳が覆う中、暗い海の遥か上空の月の下で、三つの飛行船が東の島国へとひたすら、ひたすら進んでいた。




偽次回予告―終―
894 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 03:36:42.54 ID:VkzPwO0W0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
真次回予告



奇策士とがめはとあるアパートでせんべいを齧っていた。薄型TVでニュースを見ながら、ほうじ茶を飲みながら。

とある西洋の島国の首相が学園都市に来るのだそうだ。世界一の科学力技術力を誇る学園都市に英国人の生徒を入学させて、国力を上げようとしているのだと、専門家と名乗る男が言っていた。

まぁその首相は明日、学園都市で一週間行われる大覇星祭で招待されているそうで、彼は是非とも超能力者の力を見てみたいとコメントを残していた。

この薄い板の中のなかなかの美人の女が丁寧な口調でそう言っていた。


「ほう…西洋にこんな国があったとはなぁ………ガリッ………しかも、一度世界の海を制した国だそうだな」


とがめは以前読んだ歴史書の内容を思い出す。


「………しかし、この煎餅…なかなか美味いな…」


とがめは煎餅の袋を見る。

それを、キッチンで食器を洗っていた絹旗が入手の経緯を言った。


「ああ、それはカエルの先生がくれたんです。『とがめさんが好きそうかな』って」

「ほう、あの男がなぁ……。そう言えば、月曜の深夜、このTVとか言う薄い板に入っていた『あにめ』とか言うので…シー……なんだっけか」

「……………私はその手の話は超さっぱりなのでよくわからないのですが。まぁいいか」


と、その時、鑢七花は玄関からやって来た。


「おい絹旗、郵便届いてたぞ?」

「ああ、はいはい」


絹旗は七花の元へ駆けより、複数の郵便物を受け取った。

チラシと手紙が二つ。絹旗はまずチラシを読んだ。


「あ、今日の卵超安いですね」


そう言って、キッチンの冷蔵庫の磁石に張り付けた。

次の差出人不明の封筒に入ってある手紙の封を開ける。その中に入っていたのは………。


「うわっ、なんですかこれ!?」


絹旗は仰天した声を上げた。七花はその手紙を覗き込む。


「………うわぁ……意味不明な文字がずらずらと並んでいやがる……。ん?下に何か書いてある」


『水平距離35q』


「しかも、『さんずい』感じがやけに超変な所にありますね」


例えば『海』『沼』『湖』と言った漢字が出て来ていた。


「悪戯でしょうか。まぁ気にすることはありませんか、犯人が見つかったらフルボッコにしますけど」
895 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 03:38:39.28 ID:VkzPwO0W0


と言って絹旗は手紙をゴミ箱に捨てた。それをとがめは四つん這いになって近寄り、手にした。

それを全く構わず絹旗は次の封筒を切った。


「ああ、大覇星祭の連絡ですか……」

「なぁ、先日前から思ってたんだけどよ、『だいはせいさい』ってなんだ?」

「超簡単に言うなら運動会ですよ。学園都市中の学校という学校が超競い合うんです」


七花は『運動会』という単語の意味さえ分からないが、とにかく頷いた。あとでとがめに訊けばいいか。


「ま、暗部の人間からすれば、ただのお祭りなんですけどね。まったくの超無縁ですし」

「祭りなのか?」

「そうなりますね。実際は学園都市が外との入出規制を超緩めて外からの人を超多く招きますし、学園都市中が超お祭り騒ぎなんです。国内外の超お偉いさんが沢山来ますし」

「ああ、そう言えばさっきTVでやってたな。英国の首相が来るそうだ」


とがめが口を挟んだ。


「はい。その他にも今年は米露中を始め、超多くのVIPが来るそうです」

「そうか………。時に絹旗よ、その無縁だとか言う大覇星祭の事だが」


とがめはあの迷惑手紙をパンパンと叩いた。


「どうやら、そうでもないらしいぞ?」

「え?」

「暗号だよ、暗号。簡単すぎて猿でもできる」


とがめは立ち上がり、


「この最後の文字、『水平距離35q』という字を見なかったのか?」


棚に置いてあったボールペンを取った。


「だったら解説してやろう。 まず、水平距離の“水”というのは『さんずい』を表す。それと“平”は『平仮名』を表していると見ていい。よって、この文章の漢字は全て平仮名に直す。例外に『さんずい』が付く漢字は全て消える」


とがめは次々と『さんずい』の漢字を黒く塗りつぶしていく。


「なぜ消えるかというと、『距離』という文字の『距』が関係してある。『距』の『キョ』は『拒否』の『拒』と読めるからだ。つくりが同じだからな。あとは残り『離35q』だが、これは『35文字で改行』と読んでいい」


と、とがめは手紙の文字の35文字ずつにスラッシュをつけた。


「『離』とは『離す』という意味だ。改行はその『離す』の意味でいいだろう。では何文字で改行する?答えは『35q』の『35』だ」


そうして、手紙の裏に全部の文字を書きなおした。『さんずい』の漢字は消し、全てを平仮名に直し、35文字で改行させる。


「すると不思議な事に、奇麗に“縦書きで読めるのだよ”…………ほれ絹旗、お前宛だろう?」


896 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/09(金) 03:39:06.96 ID:VkzPwO0W0
と、とがめは手紙を手渡す。呆然と見ていた絹旗はそれを受け取り、平仮名だらけの文章に目を通した。


「ああ、そう言えば今年でしたね」


納得したような顔をした絹旗を、七花は訳が分からない顔で見ていた。


「どういう事だよ、とがめ」

「ああ、そうだな。まずはその手紙に書いてあった内容を教えよう。…………運動会だよ」

「ああ? それって、絹旗には関係ないんだろ?」

「ああそうだ。でもな、これはちっとばかし違う」

「ええ、これは少し違います」


絹旗は、手紙を破ってキッチンへ行った。


「これは、“暗部組織限定の運動会”です」


そして手紙をガスコンロで燃やす。


「超厳密に言えば、“表世界では決してできない運動会”ですね。普通に個人で出て来る人もいますから。……4、5年に一回あるんですよ、そう言うの」


そして、とがめは真剣な眼差しで言った。



「しかも、優勝賞品は―――――――――『微刀 釵』だ」





To be continued…



次回

絹旗最愛「まぁ大覇星祭なんて超無縁ですから、私達」奇策士とがめ「いや、そうでもないようだぞ?」
897 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/10(土) 18:32:28.48 ID:Gvvgco4e0
次回予告 其の弐
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ああ、ここにきて、何日になるんだろう……。



いや、何か月と言った方がいいか? ああそうか、まだ30回も眠っていないから、1ヶ月も経っていないのか。

この狭くて何もない、真っ白な壁紙と隅に置いてあるトイレとベッドと机と椅子しか置いていない殺風景な牢屋の中に入らされていたから、長く感じてしまったのだろう。

ロクに風呂やシャワーどころか、水浴びも出来ないこの牢獄で、私は一体いつまでこの何もない真っ白の部屋の中、真っ白な椅子に座り、真っ白な服を着されて、真っ白で無音の空間にいなければならないのだろう?

いや、もうすぐ出れるだろうと、考えた。

なぜなら、もうじきに私は“あの実験の責任者”として責任を取らされるのだろう。

自分が遭遇する未来予想は次の通り。

@電気椅子か縛り首で死刑。

Aどこぞの研究所でこき使われる。

B殺して、脳だけを取り出して使う。

まぁ、どっちにしろロクでもない人生が待っているだろう。

でも、自分の人生にもう目標とか野望とか、やりたい事やしたい事はもう無い。こんな価値など無い人生、終わってもいいだろう。

この前、交代時の看守が話していたのを盗み聞きした。盗み聞きと言っても、聞こえてしまったものだから盗んだことにはならないのだが。

自分は死ぬらしい。

いや、人間的には死なない。精神を壊して生物人間にして生きたまま脳を取り出し、自分が考えていた研究方法や実験内容、思考や計算能力などをPCのように検索して調べ上げて抽出する。

それほど自分の頭の中身に価値と需要があるのだろう。しかし、これは嬉しい事なのか、喜んでいい事なのか、悲しんでいい事なのか、泣いていい事なのか……。

そして、何もかもを取り出し、空っぽになった体と脳を灰になるまで燃やして、第十学区の墓地に葬るのだそうだ。

人間として死ぬのではない。ヒトという動物として生かされ、道具として生かされ、人として殺されるのだ。そしてモルモットのように灰にされる。

それを、三日後に行われるそうだ。

そしてそれを耳にしたのは、三日前の事だ。

即ち…、



「私の人生は、もう終わりね」


布束砥信(ぬのたばしのぶ)は、真っ白の部屋でそう呟いた。

夜である。

この後、布束は足元に通るパイプから催眠ガスが吹き出て、それを吸ったら一瞬で昏倒し、連れ出される。

それからの事はさっきの通り、殺されるのだ。人として。


「like,もう何も未練はないのだけど」


898 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/10(土) 18:33:43.44 ID:Gvvgco4e0
布束はギョロギョロした目であたりを見渡す。部屋の四隅をぐるりと回るように、両手の人差し指で円を作った程の大きさのパイプが置いてある。それに一定間隔で小さな穴が開けられていて、そこから催眠ガスが噴出し、布束を昏倒させる。

窓は無い。あるのは水洗トイレとマットが固いベッド、椅子と机。それと天井で部屋を照らしている白いLEDの電球が一つ。



「脱出……は、無理そうね。fact,何が未練はないよ。生存志願丸出しじゃない」



と、自嘲してみる。が、その声に誰も答える訳もなく、虚しく部屋の中で残響音だけが耳に届く。まるで、自分が自分に延々と聴いてくるかのように思えた。

布束はカールした黒髪を触ってみる。汗と油で汚く固まった髪にはもう慣れてしまって、もう洗った時の壮快な感覚がわからなくなってきた。


この部屋は何もかもが真っ白である。壁紙も、トイレも、ベッドも、机と椅子も、布束が身に着けている囚人服も。

しかも部屋は防音で、何も聞こえないし、何の音も外には聞こえない。

単調な白妙の空間にずっと、何の音もない部屋にずっと、布束はいた。誰も来ない、誰も助けに来ない、何の無い、何もする事が無いこの部屋の中で。

ここまで白いのは、人間の精神を限界にまで壊して、絶望感で心身をいっぱいにするためにある。誰だって、何もない真っ白の空間で一緒を過ごせと言われたらNOと答えるだろう。

音が無いのは、これも人間の精神を壊す為にある。音があって当たり前の人間の耳と脳は、いきなり長時間の無音状態には耐えられないと、大昔の研究でわかっていた。

しかし布束は外落ち着いていた。この部屋の目的がわかっているからだろうか、それとも自分の冷静な性分からなのだろうか。


「bat still, 嫌になって来たわね。 助けてと叫んでみたくなるわ」


布束は疲れた顔で溜息をついた。

布束の人間である。しかも17歳の女の子だ、無理もない。

いっその事水洗トイレの陶器を割って手首でも切りたい所だが、残念なことにトイレは割れにくいプラスチック製だ。


「もう駄目なのかしらね、私は………。OH,誰か都合よく、まるでヒーローのように現れないかしら」


まぁ、誰も来ないだろうが………。

でも、暇潰しで小さく叫んでみる。


「誰かー助けてー」


自分らしくもなくふざけたつもりだった。

しかし、その瞬間―――――――――


目の前で、爆発が起きた。


「oops! なんなの!?」


さほど大きな爆発でなかったが、衝撃で椅子がひっくり返り、後頭部を強打した。久々の激痛だった、メチャクチャ痛い。

後頭部を摩りながら、布束は起き上がる。白い煙がもくもくと立ち上っているが、火は上がっていない。

と、中で動く影があった。布束は目を凝らしてみる。


影は、人の形をしていた。


すると、だんだんと煙が空気に融けて行って消えてゆく。同時に、影は布束の眼にしっかりと見えるように姿を現す。


899 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/10(土) 18:34:11.74 ID:Gvvgco4e0
影の正体は女だった。

体は小さい。小柄で、髪は長くて後ろに束ねている。

雪よりも白い肌は死人の様だが、顔は整っており、美人だった。

しかし彼女は普通ではなかった。彼女の服だった。



よく寺の坊主や和尚が着ている、黒の僧衣を身に纏っていた。



その僧衣を肌蹴させ、胸元を出している。が、胸の所には大きな醜い傷痕があった。

でも来ているのは袈裟だと言う事から、尼なのか?と、布束は思ったが、なんでこんな所に尼がいるのだと自分で自分をツッコんで、尼に訊いた。


「……………なんなの? あなた」


布束は平常心と冷静さを維持するが、警戒心が警鐘をならしていた。

そして、その美しい尼は、呆然と布束をじっと見る。

口を開いた。


「…………ねぇ」


鈴を鳴らしたような、美しい声だった。


「………あなたは誰?」

「………」


布束はいきなりの質問に呆気に取られた。三つほど呼吸をし、布束はハッ!と思考を再開する。


「布束砥信」

「そう、布束さんって言うの」


尼はそう言って、布束には興味がない様に辺りを、部屋の隅々まで見渡す。


「時に布束さん」

「なに?」


尼は、布束に視線を戻して美しい口を開いて声を、鈴の様な奇麗な声で布束に、


「ここは………どこかしら?」



鑢七実は、首を傾けて質問した。




次回

鑢七実「ここは………どこかしら?」布束砥信「学園都市よ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回のスレは前回と今回のどっちかの題名でやりたいと思います。

まぁするこた同じですが。

簡単に言うと、七実無双ですかね。予定ですが。あくまで予定ですが。
900 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 20:17:43.37 ID:u+D/cZEco
    /\___/ヽ   ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<      .::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ

七実が来た やべえ
901 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:37:36.98 ID:5LWGhJef0
ついに七実さん来ましたか

能力パクれたら洒落にならんくらいヤバそうだ

想像するだけでも恐ろしい…
902 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:44:35.22 ID:5LWGhJef0
布束×七実とは以外な組合せやな
そういう所に才能を感じる。

俺は後者の予告に一票!
903 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 10:08:36.94 ID:C8+aiQCS0
もうすでに研究者皆殺しになった感があるんすけど
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/11(日) 10:22:53.75 ID:zNXgkzfq0
>>901
・・・作中の説明からして見えさえすればコピれるんだろうな
905 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 16:40:02.14 ID:C8+aiQCS0
御坂「私は努力してレベルを上げたのよ!」

七実「羨ましいですよ。この程度で一々がんばれちゃって。」

\(^▽^)/オワタ
906 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:42:03.52 ID:2gde0dhG0
この予告、同時進行するんですか?

とがめ現代に馴染んできたな。
907 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/12(月) 20:42:49.85 ID:le2fiyhr0
>>906
違う予告でも、する事は同じです。
908 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/17(土) 23:29:19.93 ID:W9QOsvVL0
こんばんは、>>1です。

今日、超電磁砲7巻買いました!食蜂さん可愛かったです。あのチートな能力も最ッ高にイイですね!!

食蜂VS七花&とがめor七実は面白くなりそうですww


あと、アイテムメンバーのプールのシーン、フレンダにメッチャ萌えてしまったのは俺だけでしょうかww。

麦のんの三つ編みの良かったなぁ、絹旗や滝壺の水着姿も拝みたいですねぇwwwフヘヘヘヘヘッ


ゴホンッ

さて、次の話は予定通り年明けになります。

でもスキーやまた東京へ遊びに行っちゃうので投稿出来ない日々があると思いますが宜しくお願いします。

そこで、次回の予告は

鑢七実「ここは………どこかしら?」布束砥信「学園都市よ」

です。


それにしても、超電磁砲7巻は萌えよう要素が多かったですねぇww

アイテムの水着だったり、食蜂さんの存在だったり、食蜂さんの御付きのグルグルヘアーのあの娘だったり、婚后さんのアタフタしたのは特に萌えました。

でも、一つだけ疑問があります。

…………………海原って…あんなに可愛く笑うのか……?

まぁ、いいか。

あの歩く18禁も登場させたいなぁ………。そして最強の変態笹斑と勝負させるんだ、嘘だけど。

でもオリアナ姐さんは出してあげたいです。


じゃあここら辺で、ではまた………。


P.S


偽次回予告の元ネタは知っての通り『HELLSING』の演説です。これを機にアニメを見てみようかと思います。

………前回の双子の時は一人ツッコんでくれたけど、今回は誰も…ツッコんでくれなかったなぁ……。
909 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:50:53.16 ID:ymsq/jTp0
元ネタ知らないんですもの!
910 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/18(日) 00:24:12.80 ID:U8NjqmOn0
………マジ? だったらごめんなさいww
911 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 08:21:55.18 ID:ewhZh30Ro
やっと読み終わったまだ続くとは楽しみだ
912 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 19:17:35.48 ID:pNOhHBUIO
久々に来たら二章終わってたー>>1
先が気になる作りで面白かった
オリジナル多かったの気になったが現代版まにわにっぽくて許せた
913 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 07:06:27.44 ID:R7NKbDTj0
寝る前に見つけててっきり人鳥が可愛がられまくるSSかと思ったら
長編ガチSSで徹夜で読んでしまった

面白かったんで今後にも期待すわ
914 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 00:46:06.34 ID:tM48f+Dk0
Happy new year !!!

今年も応援していきます!
さあ七実はどんな動きして弟子入りした佐天吹寄がどう活きてくるかな〜?
915 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage saga]:2012/01/01(日) 10:56:43.71 ID:/tG3R5fY0
あけましておめでとうございます。

今年も年賀状は一、二枚しか来ないだろうお正月がやってきました。

去年のガキ使はやけに金がかかったセットでしたね、面白かったです。毎年同じようなネタでも、何故か笑ってしまうのはなぜでしょうか。

さて、今年は次スレを立てて、新しい禁書×刀語の世界の物語を繰り広げようと思います。

一通り内容が決まったらここで報告したいと思います。

みなさま、お楽しみにしていてください。

では、また。

今年もよろしくお願いいたします。


>>1より
916 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 22:48:29.01 ID:2Rex95KAO
楽しみにしてるぜぃ!
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 22:38:37.26 ID:Ou1kw7ZN0
流石は否定姫、どうやっても悪用しようのない王刀を悪用するとは

所で第5位の精神干渉って王刀で防げるんだろうか
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/01/28(土) 22:00:02.16 ID:3u/Q4htbo
一章読んだ後次スレ見つけようとして見つからなかったから
半年以上放置してて先日見つかったからまた一章から読んできた
2章のオリキャラストーリーは…
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 10:46:43.62 ID:hi41zWpX0
とがめの現代ファッションがいいな
やっぱしもむらで買ったのかwww
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/08(水) 17:04:50.60 ID:FtalZJsq0
やっと追いついた
文章はあれだけど、ストーリー作れるのはすごいと思う。
白刀針は一体誰が使うんだろう
錆白兵以外に使えそうなのがいない
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/02/11(土) 19:20:22.60 ID:/xwiwb6k0
一方通行とか寮監なら使えそうな気がしなくなくもないけど使う理由無いな
この際普通に錆白兵が使ってもいいか
どちらかと言うと薄刀開眼の扱いが気になる
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/02/13(月) 22:02:34.29 ID:CW5t0gJQ0
みなさま、どうお過ごしでしょうか、>>1で御座います。一ヶ月も待たせて申し訳ございません。

さて、幾つか質問に答えて行きましょう。

>>906
とがめさんもしちりんも段々と現代に馴染んできたようです。でも江戸(?)から平成にいきなり飛んでるのだがら、少々戸惑うでしょうね。前スレでガラスやエレベータで驚く所がありましたし。

>>917
王刀も食蜂さんも、同じ脳に影響を及ぼす能力があります。しかも両者同等の強力な力を持つ為、押したり押されたりの攻防が続くと思われます。ぶっちゃけまったく考えてなかったんですが、否定姫も食蜂も悪女なので面白い戦いになりそうです。

>>918
お口に合わなかったら、テキトーに流してもらって結構です。ただこのストーリーはただの繋ぎの話なんでww

>>919
設定としては、とがめが選んだ服は値段が高い上に奇抜で目立つ服だったので、激怒した絹旗がテキトーに買った代物です。とがめは渋々と文句を垂らしながら着ました。

>>920>>921
薄刀はどっちかって言うと観賞用ですよねwどこぞの刀マニアが玄関かリビングでガラスケースで飾っているんですよwきっとwwww


さて、先日妙高杉原へスノボーして来ました。

スノボーは初心者で、初日はド派手に転びました。スノボーってお尻から倒れるんですね、そうしないと危ないですから。

しかし、危険な物は危険です。

スキーに乗っていた先輩のスキーブーツ(固いプラスチック製)の上に思いっきり尻餅突きました。しかも、尾骨にテクニカルヒットアッー!。

ケツが六つに割れるかと思いました。

おかげで痔でもないのにケツを摩りながら毎日を過ごしています。椅子に座るのも立つのも辛いです。


まぁそんなどーでもいい話はどーでもいいか。



次の話を立てました。

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1329130063/





無事にこの物語が完結することを祈りつつ、頑張って書いて行きたいと思います。

どこぞのロボットバトル系ラブコメみたいに途中で亡くならない為にも、頑張らなくては。

質問があればどうぞ。


ああ、久しぶりだから、文章作成が鈍ってなくちゃいいけどなぁ……。
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/02/14(火) 01:37:15.63 ID:ZSIV3RIho
待ってた
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/02/15(水) 22:35:09.50 ID:LPdJbhaM0
早く書かないと死ぬことになるぜ・・・
俺g・・・ってなんかキテルー!
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/03/11(日) 19:02:42.15 ID:SIi/mB0Bo
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