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Steins;Stratos -Refine- -
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1 :
◆3R1.cwV0LI
:2012/09/23(日) 00:22:26.91 ID:p6D0uGZjo
このSSは既に完結している
紅莉栖「岡部、IS学園に転入して」
改め
Steins;Stratos の改定版です。
足りなかった表現。
都合により切り取った場面などを補完してのSSです。
一度完走しているSSですので、完全sage進行でゆっくり、時間をかけて書いて行こうと予定しています。
更新頻度は不明。
けれど、エタることはないと思います。
時間を気にせず、気長に満足いくまで書こうと予定しています。
完結後にお叱り、ご指摘を頂いたポイントも考慮していますが“別物”ではございません。
改定版なので、話しの大筋は変更されてないのでご了承下さい。
物語が進むに連れて、使いまわしの文が多くなることもあるかと思います。
今秋、STEINS;GATEの映画が放映されるそうなので盛り上がっていけたらなと思っています。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1348327346
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
Twitter
]: ID:???
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】
ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
秋川理事長「安価とコンマでウマ娘を育成してもらうっ!!」 @ 2024/05/31(金) 19:16:20.37 ID:xVK2jSCI0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1717150579/
うーたん @ 2024/05/30(木) 20:03:08.37 ID:PZN/pKuSo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1717066987/
ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part14 @ 2024/05/30(木) 19:59:08.98 ID:vFOLRcVB0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1717066748/
恋「謝ってください」 @ 2024/05/30(木) 01:12:50.44 ID:GgoI/MSPO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1716999170/
君を悲しませてるものはすべて消えるよ! @ 2024/05/28(火) 18:12:40.19 ID:y8Gb4G7fO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716887560/
【安価】上条「とある禁書目録で」ダイアン「仮面ライダーよ!」【禁書】 @ 2024/05/27(月) 22:38:44.58 ID:dUaLKbVW0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1716817123/
■ 萌竜会 ■ @ 2024/05/27(月) 22:02:42.79 ID:UsTJJi4bo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716814962/
あたしの思うままに愛してみようぜ @ 2024/05/27(月) 20:36:45.99 ID:F8f/eZRO0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716809805/
2 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:23:15.19 ID:p6D0uGZjo
始めます。
3 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:23:55.99 ID:p6D0uGZjo
俺は“終わった”と思っていたんだ。
あの時、なにもかも上手くいったんだと。
そう思い込んでいた。
人間の記憶なんてものが、如何にいい加減で曖昧なものだと理解していたはずなのに。
なにも疑わず、不信に思わず、騒動が終息したと思考停止していた俺に対する、
罰だったのかもしれない。
4 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:24:22.95 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/09/23(日) 00:24:27.06 ID:MGK3DJ8c0
まさかのキター!!!
6 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:24:55.45 ID:p6D0uGZjo
──岡部、IS学園に転入して。
いきなりだった。
場所は我が未来ガジェット研究所。
いつものように、団欒の時……もとい。
円卓会議を開催し次の連休をどうしようかと俺が思考フェイズに入っている時だった。
耳を疑う発言をしたのは“牧瀬 紅莉栖”。
俺の……助手だ。
7 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:25:43.08 ID:p6D0uGZjo
岡部「助手? なにを言ってるのだ、藪から棒に」
紅莉栖「良いから。黙って聞いて」
岡部「──む」
次の言葉を紡ごうと口を開く前に御されてしまう。
その声色は真剣そのもので……有体に言えば、あれだ。
気圧されてしまった。
紅莉栖「ちょっと信じ難いんだけど……アンタにIS適性があるみたいなの」
岡部「……はあ」
溜息がこぼれる。
まったく、なにを言い出すのかと思えば。
8 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:26:20.84 ID:p6D0uGZjo
岡部「クリスティーッナ。ジョークを言いたいのは理解したがセンスがなさ過ぎる」
ダル「ぶっは。よりにもよってIS適性とか。ちょっと話しぶっ飛びすぎじゃね?」
我が右腕である“ダル”が合いの手をいれてきた。
言い方に腹が立ったのか、紅莉栖の額に怒りマークのようなものが見えるが……気のせいだろう。
紅莉栖「例外が居るだろうが」
苛立ちが混じった声色にシフトする。
こいつは自分の感情、特に怒気方面のものを隠そうと言う努力をしない。
9 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:27:08.70 ID:p6D0uGZjo
まゆり「えーっとぉ……“おりむら いちか”君、だっけ?」
紅莉栖「そ」
まゆりの答えに頷く紅莉栖。
“織斑 一夏”。現在、唯一男性の身でありながらIS操縦を行える男子高校生だ。
名前だけなら、俺でも知っている。
岡部「有名人だな」
ダル「僕は“男の娘”なんじゃないかと睨んでいる」
紅莉栖「橋田は黙れ」
ダル「……oh」
紅莉栖「とにかく!」
語気を強める紅莉栖。
俺を見つめる表情は真剣そのものだった。
10 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:27:50.62 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「あるのよ……あんたに、適性が……」
ダル「マジですか……」
まゆり「ほぇ?」
紅莉栖の真摯な言葉を受けて、ラボ内の空気がガラリと変わってしまう。
ラボメン三人の視線が全て俺へと集まってくる。
その耐え難い視線に俺は……。
俺は、白衣のポケットから携帯電話を取り出した。
11 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:28:37.65 ID:p6D0uGZjo
岡部「俺だ。助手が何者かに精神攻撃を受けている。あぁ、しかもかなり……重症だ。対応策を求──」
紅莉栖「厨二禁止!」
岡部「あっ」
強引に手の中の携帯を奪われてしまった。
くそっ。みっともなく“あっ”だなんて声が出てしまった自分が恥ずかしい。
紅莉栖「もう面倒だわ。橋田、ちょっと来て」
ダル「お? お? なんぞ?」
紅莉栖「この機械に腕を通して」
元は“電話レンジ”が置かれていたテーブルの上。
そこに鎮座している小型の機械。
それは……健康ランドなどで良く見る形の物だった。
12 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:29:24.93 ID:p6D0uGZjo
岡部「血圧計……?」
紅莉栖「いいから、早く。腕を通して」
ダル「何だか知らんが……ほい。通したお」
俺の言葉を華麗にスルーして話しを進める。
どうやら血圧計ではないようだ。
紅莉栖「これは私が開発した、簡易IS適性装置。細かく調べることは出来ないけれどね」
サラッと言い流す紅莉栖。
なるほど。これでISの適性ランクが──。
13 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:30:19.79 ID:p6D0uGZjo
岡部「──って! 何故に助手がそのようなものを!」
まゆり「良くわからないけど、やっぱり紅莉栖ちゃんは凄いねぇ」
紅莉栖「忘れたのか? 私は天才少女なのだぜ? 私の頭脳を“国際IS委員会”が放っておくはず無いでしょう」
岡部「なん……だと……」
紅莉栖「と言ってもこれは極秘も極秘。所属が日本か米国か決まってない私は、まだ秘匿し続けなきゃいけないことなんだけど……」
「そこはほら、信頼してるから口外すんなよ」などと頬を染めながらとんでも台詞を吐き出した。
そうだ、こいつはこう見えて天才少女だったんだ……。
14 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:30:45.91 ID:p6D0uGZjo
ダル「ほいで、僕は一体どうすれば良いん?」
紅莉栖「ん。後は簡単。スイッチを押せば……」
-Now Loading-
適性:無し :ランク-
15 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:31:24.41 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「と、まぁこんな感じに出る訳」
ダル「遠まわしに“お前才能無いカスだな”って言われた気分だお……」
紅莉栖「橋田。ISは基本的に女性しか適性が無いんだから、そうしょげないの」
まゆり「ねぇねぇ、紅莉栖ちゃん。まゆしぃもやってみたいなぁ?」
紅莉栖「OK. 腕を通してみて」
まゆり「やったぁ、トゥットゥルー♪」
-Now Loading-
適性:有り :ランクD
16 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:31:58.44 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「うん、予想通りね」
まゆり「ランクでーってどうなのでしょう」
紅莉栖「一般的に何も訓練を受けてない女性はDなの。それ以下は無いから安心して。まゆりは標準ってことよ」
まゆり「えへへ、何か嬉しいのです」
ふん。
まゆりめ、玩具如きではしゃぎおって。
17 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:32:39.06 ID:p6D0uGZjo
岡部「で。だからどうしたと言うのだ」
紅莉栖「なに拗ねてるのよ」
岡部「拗ねてなどいない」
ダル「牧瀬氏がIS関係者であることを知らなかったので拗ねてるんですね。わかります」
岡部「ええい! 拗ねてなどいない! それにだ。狂気のマッドサイエンティストがそのような玩具に興味があるわけ──」
紅莉栖「はいはい、で。次は岡部。これに腕を通して」
岡部「なぜ俺がそのようなことを。フンッ、第一にダルが駄目だったのだ。やる必要が無いだろう」
紅莉栖「良いから早く」
岡部「……」
何故そこで目がマジになるのだ……。
くそう、なんで俺がこんな目に。
18 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:33:05.35 ID:p6D0uGZjo
岡部「ふん……」
まゆり「うふふ、オカリンが拗ねるなんて珍しいなぁ」
岡部「拗ねてなど──」
-Now Loading-
適性:有り :ランクB
画面に映し出される文字。
そこには、どこからどうてみも“適性有り”の文字がありありと表示されている。
19 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:33:39.55 ID:p6D0uGZjo
ダル「え」
まゆり「ほ?」
岡部「なっ」
紅莉栖「……」
ダル「ど、どういうことだお?」
まゆり「オカリン、女の子だったんだぁ☆」
岡部「違う! 俺は男だ! 紅莉栖、これは一体……」
紅莉栖「(今、紅莉栖って呼んだ……)」
紅莉栖「コホン。つまり、そう言うことよ。岡部にはIS適性がある。なぜかね……」
IS-インフィニット・ストラトス-
女性にしか、適性者が生まれないはず。
なのに……。
20 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:34:05.74 ID:p6D0uGZjo
岡部「俺に……IS適性?」
ダル「っつか、何で牧瀬氏はオカリンに適性があること知ってるような口ぶりだったん?」
紅莉栖「べっ、別に寝てる岡部に実験体になって貰いたかった訳じゃないからな!」
岡部「ダルよ。つまりどういうことだ」
ダル「今、全部説明した件について」
サッパリわからん。
あまりの出来事に頭がついて行かない。
21 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:34:31.86 ID:p6D0uGZjo
まゆり「オカリン凄いよー!」
紅莉栖「岡部、申し訳無いけど私は科学者としてこのデータを“国際IS委員会”に報告する義務があった」
固まる俺を他所に、紅莉栖が語り始める。
紅莉栖「報告した結果、あなたをIS学園に編入させると言う結論になったの」
そうか。
俺はIS学園に……に?
22 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:35:50.04 ID:p6D0uGZjo
岡部「ちょ、ちょっと待て助手よ。俺は今年の12月で19になる。あそこは確か高校だろ? 無理に決まってる」
紅莉栖「大丈夫だ、問題ない」
ちょっと待て、問題おおありだ。
ゲームの要領で俺の人生を決めてもらっては困るぞ。
岡部「それにだ、俺には通ってる大学もある」
紅莉栖「大丈夫だ、問題ない。すでに“国際IS委員会”は東京電機大学にその事実を通達してある」
用意周到だろ。
と言わんばかりに親指を突き立てる天才少女。
23 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:36:35.06 ID:p6D0uGZjo
岡部「……」
ダル「オカリン……」
まゆり「オカリン、どうなっちゃうの?」
紅莉栖「……正直、申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど。世界で2人目のレアケースだから、放って置くことも出来ないの、ごめんね」
一気に神妙な面持ちを作り、紅莉栖は俺に謝罪の言葉を投げかけてきた。
24 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:37:15.80 ID:p6D0uGZjo
岡部「つまり、俺はどうなるんだ」
紅莉栖「これからちょっと大変になると思う。この事実を全世界に発表、記者会見も開かれる」
ダル「すっげ、急に現実味が無くなったお」
まゆり「オカリンが遠くにいっちゃうの……?」
紅莉栖「現在“国際IS委員会”の議題は、織斑一夏をどの国の所属にするか。なんだけど……」
何時もの説明口調。
紅莉栖らしい、わかりやすい説明だった。
25 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:38:23.12 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「これもまだ定まって無い内に二人目。しかも同じ日本からの男性IS適性者ってことで、さらにゴタゴタすると思う」
ダル「もう付いて行けねっす」
まゆり「……」
紅莉栖「これから岡部を取り巻く環境はどんどん規模が大きくなっていくと思う。それも世界単位で。岡部に拒否権は……無い」
岡部「……拒否権は無い。か」
紅莉栖「ごめん……」
ダル「オカリン……」
まゆり「ねぇ、紅莉栖ちゃん……」
紅莉栖「ごめんね、まゆり。でも、もう私レベルじゃどうにもならない話しにまで発展しているの」
岡部「俺はまた、高校からやりなおすのか……?」
紅莉栖「ニュアンスは違うけど……そんな感じね」
岡部「ハハッ、ちょっとしたタイムリープだな……」
もう一度高校生活を送る。
十九にもなるこの俺が。
26 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:38:53.83 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「……私が興味本位で実験体にしたせいで、ごめん」
岡部「これも……これが運命石の扉の選択か……」
ダル「……」
まゆり「オカリン……」
──フ。
岡部「フゥーハハハハ! 良かろう、クリスティーーーナよ!」
紅莉栖「ふぇ!?」
勢いよく立ち上がる。
驚いたのか紅莉栖は目を丸くして驚いているが、そんなものは知ったことか。
27 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:39:43.58 ID:p6D0uGZjo
岡部「この鳳凰院凶真にIS-インフィニット・ストラトス-の適性があると言うのであれば! 甘んじてその運命受け入れよう!」
ダル「おぉ、なんか何時ものオカリンに戻った」
紅莉栖「岡部……」
岡部「これより、未来ガジェット研究所は IS-インフィニット・ストラトス-の開発に力を入れることとする! ダル! まゆり!」
ダル「お、お?」
まゆり「ふぇ?」
岡部「お前達はこれからも、今までと同様にこのラボのメンバーだ。今までと変わらず付いて来い!」
ダル「お……オーキードーキー!」
まゆり「うっ、うん! まゆしぃはオカリンについて行くよ!!」
岡部「フゥーハハハハ! この不況の世の中だ。IS操縦者になれば職に困ることもあるまい!!」
物は考えようだ。
たっぷりと権利を使い、ラボの資金を荒稼ぎしてやろうではないか。
28 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:40:12.30 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「岡部……」
岡部「クリスティーナよ!!」
紅莉栖「なっ、ティーナは余計だと言っておろうが!!」
岡部「貴様はどうするのだ。と言うか……その、どうなるんだ」
紅莉栖「へ? 私?」
岡部「う、うむ。俺はそのIS学園とやらに転入するのだろう? お前はどうなるんだ……」
アメリカへ行ってしまうのか。
そう喉から出かかる言葉を飲み込み、俺は紅莉栖の返答を待った。
29 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:40:39.98 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「あーえと……実は私も技術者として転入することになっててだな……」
岡部「なにっ!?」
ダル「えっ」
まゆり「えぇー!」
紅莉栖「だから、その……岡部と一緒に学園生活を……」
モジモジと身体を奇妙にくねらせ、頬を染めている。
しかし学生生活と言うことはだな……。
30 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:41:09.21 ID:p6D0uGZjo
岡部「貴様はじゅーーはちであろう!」
紅莉栖「え」
岡部「飛び級で大学まで卒業した18歳がまた高校に逆戻りとは……」
ダル「どうみてもババァです本当にありがとうございました」
おいダル。
俺はそこまでは言ってないからな? おい。
31 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:42:04.85 ID:p6D0uGZjo
まゆり「もうっ、オカリン、ダル君っ!」
岡部「いや、まぁ。周りの若さに負けてしまわぬよう……に、気をつ……ま、牧瀬さん……?」
紅莉栖「……」
ダル「ぼっ、僕はこれからメイクイン行くところだったんだお。それじゃ──」
擬音を付けるのならば“ガシッ”と言ったところか。
立ち上がったダルの手首を紅莉栖はしっかりと、力強く。
具体的に言うのであれば、手形の痣が付くほどの握力で握り締めた。
32 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:42:50.75 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「正座」
岡部「……」
ダル「……」
床は固いなー。
ダルは自身の重みのせいか、2分と立たずに限界が近づいていた。
紅莉栖「このIS教本、分厚くっていい感じだと思わない? ほら、この角とか丁度尖ってて──」
岡部「申し訳ありませんでした」
ダル「正直、調子に乗りました」
まゆり「あぅ……」
33 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:43:20.57 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「二度目は無いわよ」
岡部「(年齢、気にしてるんだな)」
ダル「(そりゃ気にするっしょ……クラスメイトがピチピチの……)」
紅莉栖「まだなにか?」
岡部「いえ!」
ダル「なんでも!」
紅莉栖「フンッ…………はぁ……」
強く鼻を鳴らした後、小さく溜息をついた。
なにか心配事でもあるのだろうか。
34 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:43:46.87 ID:p6D0uGZjo
岡部「あの、牧瀬さん」
紅莉栖「あぁ?」
岡部「ひぃっ」
余りに眼光が鋭かったせいで、出掛かっていた台詞が霧散してしまった。
そのせいで、全く違う言葉が口から出てしまう。
35 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:44:22.57 ID:p6D0uGZjo
岡部「実際問題、いつ頃から動きはじめるのでしょうか」
紅莉栖「ふん、明日よ」
まゆり「ず、随分と急だねぇ……」
紅莉栖「ん……そうね、本当にごめん」
まゆり「紅莉栖ちゃん。オカリンをよろしくなのです」
紅莉栖「任された。責任は取るわ」
ダル「これって遠まわしなプロポー」
紅莉栖「……」
ダル「〜♪」
明日。明日……。
出来ることならば、もう少し時間が欲しかったが。
無理な話しなのだろう。
36 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:44:50.43 ID:p6D0uGZjo
岡部「実家になんと報告すれば良いんだかな……」
紅莉栖「あぁ、それならもう根回しされてるはずよ」
岡部「なっ、何時の間に……」
紅莉栖「言ったでしょ? アンタを取り巻く環境はこれから世界単位で動いていくって」
なるほど。
どうやら、俺はどうやっても世界の決断とやらから逃げられないらしい。
岡部「ふぅ……疲れそうだな」
紅莉栖「私が付いてるわ」
岡部「頼もしい限りだ……」
37 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:45:17.88 ID:p6D0uGZjo
こうして、俺の世界はガラリと変わった。
これが、世界線シュタインズゲートの未来だったのだろうか。
どの世界線からも、紅莉栖の口からISに関する話題など出たことは無かった。
自身の口からIS研究者であることは極秘であり口外出来ないとも言っていた。
つまり、他の世界線でも紅莉栖はISに関係していた……そういうことか。
……俺か? やはり、俺が原因なのだろうか。
他の世界線でも紅莉栖は俺を実験体にしてあの装置を作っていた可能性がある。
しかし結果は通常通り。男の俺に適性があるはずもなく、何事も起きなかった。
シュタインズゲートに到達したことにより、何かが変わり……。
38 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:46:22.39 ID:p6D0uGZjo
そう言えば、未来から来た鈴羽。
第三次世界大戦の詳しい様を聞かなかったな……。
57億人も死んだんだ……当然ISも使われたのだろうな。
こんな事になるのなら、もう少し詳しく聞いておくのだった。
考えても、まとまる筈が無い。
39 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:47:21.31 ID:p6D0uGZjo
岡部「明日から高校生か……勤まるのか? 俺に。明らかにぼっちになってしまうではないか……」
あぁいや、紅莉栖が居たな。
一人じゃなかった。
岡部「む。べつに助手との学園生活が楽しみだとかそういったのは無いからな! 勘違いするな、俺よ!」
……。
岡部「フン……考えすぎて疲れてしまったな。もう、寝よう……明日も明日で転入手続きやらなにやらで疲れそうだ……」
寝返りを打って意識を沈める。
睡眠を充分にとって、明日に備えることにした。
40 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:47:48.86 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
41 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:48:35.84 ID:p6D0uGZjo
─1年1組教室─
ざわざわと落ち着かない教室。
生徒達はその人物の登場を今か今かと待ちわびていた。
山田「えーっと、今日から皆さんのクラスメイトになるお二人を紹介します」
どうせ静めても無駄だろうと、担任の“山田 真耶”は端から諦めていた。
それほど今日の転校生は異端だからだった。
──ガラガラ。
扉が開き、ピタリと話し声が止まる。
長身の男が静かに入室し、口を開いた。
42 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:50:56.05 ID:p6D0uGZjo
岡部「俺の真名は鳳凰──いったぁ!」
紅莉栖「……」
男と一緒に入室してきた少女が、死角から思い切り太ももをツネくった。
激痛が走り思わず叫ぶ。
最初にガツンと食らわせてやろう。
そう言った岡部の野望は脆くも崩れ、自身が紅莉栖の攻撃をガツンと喰らってしまった。
43 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:51:55.76 ID:p6D0uGZjo
岡部「岡部 倫太郎です」
紅莉栖「牧瀬 紅莉栖です」
何事も無かったかのように自己紹介を進める。
教室内もリアクションに困っていた。
山田「えっとぉ、皆さんニュースを見てご存知だとは思いますが。岡部さんは世界で二人目のIS適性を持った男の子だと言うことで……」
──わいわい、がやがや。
真耶の言葉で教室が再び喧騒を取り戻す。
今や、岡部倫太郎は時の有名人と化している。
44 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:52:35.49 ID:p6D0uGZjo
千冬「静かに。教師が喋っているだろうが」
その女性の一言で静寂が教室に戻ってくる。
絶対に怒らせてはいけない人間。
“織斑 千冬”。世界で唯一ISを操縦出来る“織斑 一夏”の実姉であった。
山田「えー、皆さんより年上になりますがどうぞ仲良くしてくださいね?」
そう言う真耶の表情には、ありありと不安が浮かび上がっていた。
これがトラブルの種になり残業が増える。
簡単に見て取れる未来だった。
45 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:53:28.54 ID:p6D0uGZjo
山田「そして、こちらの牧瀬紅莉栖さん。実は大学も飛び級で合格なされてる天才さんです。では、お二人とも自己紹介をお願いして良いですか?」
そう言って、教壇の中央を退く。
紅莉栖が真耶の居た位置を陣取り、口を開いた。
紅莉栖「失礼して私から。コホン、先ほども名乗りましたが牧瀬紅莉栖です。
本来ならばISの技術開発研究等に携わる予定だったのですが、急遽IS学園にて三年間の学生生活を送ることになりました。
皆さんより若干年齢を重ねていますが、同じ学び舎の同士として接してくれると嬉しいです」
ぺこりと一例して壇上から降りる。
くいくいと、岡部の袖を引っ張った。
46 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:54:06.82 ID:p6D0uGZjo
岡部「(お、俺か?)」
紅莉栖「(当たり前でしょ)」
ガチガチに緊張したまま、壇上に立つ。
クラス中の視線が岡部に集まっていた。
岡部「おお、俺は……お、岡部凶真だ」
──きょうま? えっ? どういうことだろ? がやがや。
紅莉栖「(ちょっと何言ってんの!!)」
岡部「し、失礼。岡部倫太郎だです。あの……その……」
47 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:54:59.26 ID:p6D0uGZjo
──シーン。
静まり返る教室内。
静寂が岡部の耳に突き刺さる。
岡部「……」
限界だった。
集まる視線。人の目、目、目。
緊張と焦り。
岡部の取った行動は、常の自身を取り戻す為に無意識に取ったものであった。
ポケットから携帯を取り出す。
48 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:55:46.39 ID:p6D0uGZjo
岡部「お、俺だ。潜入は成功、だがしかし機関から精神攻撃を受けている! なんとかならないのか!? このままでは──」
──ゴンッ!
岡部「ぁ痛っっ!」
振り下ろされる鉄拳。
それは、女性の物とは思えないほどの強度と威力を持っていた。
千冬「何を自己紹介中に携帯電話を弄っているんだ大馬鹿者め。ん? 電源が入ってないじゃないか……」
紅莉栖「(もう……ばか……)」
凍りつく教室。
誰も、彼がなにをしていたのか理解することは出来なかった。
49 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:56:22.72 ID:p6D0uGZjo
岡部「ふ……フゥーハハハハ!!と、特別に教えてやろう。それは俺以外が触ると自動的に電源がオフになる。
特殊任務仕様の携帯なのだ……フゥーハハハハハ!」
勢いでごまかそう。
そう岡部が決心するのに時間はかからなかった。
千冬「そう、独り言か……」
一瞬で見破られる虚勢。
もとより、千冬に誤魔化しなど通じる訳もない。
50 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:56:55.51 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「……」
岡部「……」
──ゴンッ!
岡部「〜〜ッッ!」
千冬「没収しておく。後で職員室に取りにくるように」
岡部「はい」
山田「えっと……自己紹介でした」
──シーン。
音を無くす教室。
生徒達は完全に状況へ着いていけなかった。
51 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:57:25.36 ID:p6D0uGZjo
千冬「以上だ。岡部と牧瀬は後ろの席に座れ」
岡部「はい」
紅莉栖「はいっ」
思わず紅莉栖の語尾が上がった。
好意を寄せる異性の隣席。これは、誰しもが憧れる学生生活の一つなのだから頷ける。
52 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:58:01.52 ID:p6D0uGZjo
千冬「HRは終了だ。山田先生、職員室に」
山田「あっ、はい! では皆さん、お二人と仲良くして下さいね」
──ガラガラ ピシャ。
教師2人が退室し、緊張から開放される。
岡部「はぁ……疲れた」
紅莉栖「疲れた、じゃないわよ! このスカポンタン!」
岡部「仕方が無いだろうが! あの様な場は不慣れなんだ……この年齢になって自己紹介など出来るか!」
紅莉栖「これだからコミュ障は困るのよ」
岡部「だれがコミュ障だ! 助手よ、貴様こそなんだその格好は……」
教師がいなくなり、何時もの調子を取り戻す。
未だに自身が生徒達の前に立っていることすらも忘れて。
53 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:58:48.51 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「な、なによ……制服なんだから仕方ないじゃない。それと、ここでは助手って言うな!」
岡部「スカートなぞ穿きおって」
紅莉栖「お、お前こそ白衣はどうした!」
岡部「……Ms.サウザンウィンターに没収された」
紅莉栖「着てきたのね……」
岡部「科学者として当然だろう。あの女史め……白衣のみならず携帯まで……」
紅莉栖「最悪のスタートです本当にありがとうございました」
岡部「ふんっ。ボッチなど等の昔に慣れている」
紅莉栖「こっ、今回は私が居るだろうが……」
岡部「あっ……そ、そうだな……」
妙な空気が流れる。
ここが高校の教室。それも生徒達の前だと言うことは完全に頭から抜け落ちていた。
むず痒い二人の沈黙。
そんな空気を、読んでか読めずか間に入って来る声が割って入ってきた。
54 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 00:59:54.63 ID:p6D0uGZjo
???「おかりんおかりん〜」
岡部「!?」
紅莉栖「!?」
聞きなれた呼び名。
二人は振り向き、声の主を確かめた。
???「へらへら」
岡部「(誰……だ?)」
見知らぬ女子。
IS学園の制服を纏った、クラスメイトだった。
55 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:00:56.33 ID:p6D0uGZjo
???「おかべりんたろうだから〜おかりん」
岡部「あっ……あぁ確かにそのように呼ぶ者も居る……が」
???「じゃぁけっていだね〜」
紅莉栖「ええと?」
本音「布仏 本音(のほとけ ほんね)。くらすめいと、よろしくね〜?」
岡部「あぁ、よろしく。だがオカリンと言うのは──」
紅莉栖「──よろしくね」
岡部の言葉を遮って紅莉栖が答える。
呼ばれたくないあだ名で呼ばれる辱めを受けろ、と表情で物語っていた。
56 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:02:01.44 ID:p6D0uGZjo
女子達「(なっ! 先を越されたっ!?)」
女子達「(まだまだ一日目、焦る時間じゃないわ)」
出方を伺い、けれど二人の空気を割れなかった女子達が溜息を吐く。
誰しもが岡部に声をかけたがっていた。
本音「えへへ〜、おともだちおともだち」
岡部「(紅莉栖め、被せてきおって……。しかし、なんだか変わった娘だな……)」
女生徒「ねぇねぇ! 岡部君ってIS動かせるんでしょ!?」
女性徒「ってことは、その内に織斑君みたく専用機持ちになるってこと!?」
場は本音の登場で荒れている。
ここぞとばかりに気を伺っていた女子達が岡部を取り囲んだ。
57 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:02:28.15 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「(しまった! 徐々に岡部を若い子達が取り囲んできている……)」
岡部「専用機? ん? 一体何を?」
聞き慣れない用語が飛び交う。
あっちから、こっちから、十代女子特有のきゃぴきゃぴとした声が岡部の耳を響かせている。
そんな時、女子の壁を掻き分け一人の男子生徒が顔を覗かせた。
一夏「──ちょっと、ごめん。良いかな」
“織斑一夏”
世界で唯一、ISを操縦出来る男。
まだ幼さが顔を覗かせる少年だった。
58 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:04:02.87 ID:p6D0uGZjo
女生徒「織斑君!」
一夏「男同士で少し話したいかなーって、ダメかな?」
女生徒「(悪戯に女子にちょっかい出されるより……)」
女生徒「(織斑君に差し出したほうが利口ね……!)」
女生徒「どうぞどうぞ」
一致団結のアイコンタクト。
一夏のお願いは数瞬の間もなく可決され、実行に移された。
59 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:05:10.27 ID:p6D0uGZjo
一夏「悪い」
岡部「貴様は……」
紅莉栖「(織斑 一夏。男で唯一ISを操縦出来る……出来た。もう過去形だけど、その当人よ)」
首を傾げる岡部に紅莉栖が囁いた。
岡部「(なるほど……新参者であるこの俺に焼きを入れに来たと言う訳か。面白い)」
紅莉栖「(ちょ、ちょっと! 何もそう決まった訳じゃ)」
岡部「(ふんっ、高々15やそこいらの小僧にこの鳳凰院凶真が遅れを取る訳あるまい)」
何時に無く強気の岡部。
それは年齢と言うアドバンテージを持った、大変に大人気ないものだった。
60 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:05:51.83 ID:p6D0uGZjo
一夏「えっと、岡部──さんで良いのかな。ちょっと時間貰って良い?」
岡部「望むところだ」
一夏「やった、サンキュ。えっとー屋上で良いかな」
岡部「良かろう。お誂え向きだな」
一夏と共に教室を出ようとしたした時だった。
シャル「一夏……? 転校生の人とどこか行くの?」
岡部にとって聞きなれた声が後ろから投げかけられる。
それは幼馴染の、まゆりの声と同じく心休まる声だった。
61 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:06:17.91 ID:p6D0uGZjo
岡部「なっ!?」
シャル「っわ」
振り返るも、勿論まゆりの姿はそこにない。
岡部の眼前に居るのは、フランス代表候補生。
“シャルロット・デュノア”その人だった。
62 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:07:12.56 ID:p6D0uGZjo
岡部「(一瞬、まゆりの声が聞こえたが……気のせいか……)」
セシリア「どこかへ行くのでしたら、私もお供しますわ」
ラウラ「うむ。私も同行しよう」
箒「……ふん」
ぞろぞろと現れ出す女子達。
イギリス代表候補生“セシリア・オルコット”。
ドイツ代表候補生。“ラウラ・ボーデヴィッヒ”。
そして、代表候補生ではないが専用機を持つ“篠ノ之 箒”。
63 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:07:45.54 ID:p6D0uGZjo
それぞれが専用ISを持つ実力者達である。
一夏「悪いみんな。ちょっと男同士で話したいんだ」
シャル「そっか……うん。解ったよ一夏」
セシリア「そう……ですの」
ラウラ「……同行してはダメなのか?」
一夏「ごめんなラウラ。その代わり、夜は一緒に食べよう」
ラウラ「う、うむ……」
シャル「あ! ずるいよ一夏! 僕も僕も!」
セシリア「勿論、私もご同伴致しますわよ?」
一夏「あ、ははは……そうだな、皆で食おう」
紅莉栖「(なにこれ……なんというハーレム……)」
紅莉栖は呆気に取られていた。
目の前に広がる光景はラボで“橋田 至”が好んで遊んでいるギャルゲーと同じ風景。
一人の男を取り合う美少女達の図が広がっている。
64 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:08:42.82 ID:p6D0uGZjo
箒「用事があるのなら、さっさと行って来たらどうだ。転校生が待っているぞ」
一夏「そうだった、ありがとな箒」
箒「ふん」
一夏「じゃぁ行こうか?」
岡部「あぁ」
取り巻きを残し、屋上へ向かう2人の男子。
取り残される牧瀬紅莉栖。
65 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:09:09.91 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「(行ってしまった……怪我しないでよ、岡部)」
女生徒「ねぇねぇ、牧瀬さんって岡部さんの恋人?」
女生徒「私も気になってたー! ねぇねぇどうなの?」
紅莉栖「こ、恋人!?」
一気に取り囲まれてしまう。
そう、興味の対象は岡部倫太郎だけではない。
紅莉栖も彼女達の、好奇心の標的であった。
66 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:09:37.44 ID:p6D0uGZjo
シャル「わー、実は僕も少し気になってたんだ!」
セシリア「お付き合いしてるんですの?」
ラウラ「恋仲、と言うやつなのか?」
箒「どっ、どうなんだ?」
紅莉栖「べべべ別にアイツとはその……なんでも無いって言うか……」
恋に恋する乙女達。
尚も紅莉栖への尋問は続いた。
67 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:10:11.71 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
68 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:10:41.38 ID:p6D0uGZjo
─職員室─
職員室では1年1組の担任。そして副担任が顔を合わせて話しこんでいた。
話題は勿論、岡部倫太郎。
千冬「一夏に続き、二人目の男性IS適性者……これからますます忙しくなりそうだ」
山田「はい……しかも同じ日本人で1年1組にですから、各国の反応も……はぁ」
千冬「恐らく、近いうちに岡部の専用機が作られる……いや、もしかしたらもう完成しているかもしれない」
山田「1クラスに専用機持ちが6人……どこと戦争にな……失礼しました」
自身の軽口を戒める。
どこで、どうやって会話をキャッチされるかわからない。
千冬「……束。お前はどう考えているんだ……」
ポツりと呟く千冬の言葉。
けれど、聞き取れた者はいなかった。
69 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:11:09.58 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
70 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:11:35.71 ID:p6D0uGZjo
─屋上─
IS学園屋上。
校内に2人しかいない男子が、2人終結していた。
一夏「良かった、誰も居ない」
岡部「(ふん、一体どのような手を使ってくる? 精神攻撃か? それとも──)」
一夏「回りくどいのは苦手だ。先に、謝っておく……」
岡部「(まさかいきなり殴り合い!? まて、俺は体力には……)」
71 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:12:06.16 ID:p6D0uGZjo
一夏「ごめん!!」
岡部「──ッッ!」
──ぺたぺた。
岡部「……ん?」
殴られると思った岡部は、腕を十字に頭を屈めて防御体勢を取っていた。
もちろん、恐怖から目は瞑っている。
しかし、打撃による痛みは襲ってこない。
その代わり体をまさぐられるくすぐったさを感じた。
72 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:12:32.11 ID:p6D0uGZjo
岡部「なにを……しているのだ? 何故、胸部をさすっている」
一夏「……」
一夏の表情は真剣そのもの。
真面目な顔付きで岡部の身体を触っていた。
岡部「えええい! くすぐったいではないか!」
一夏「良かった……よっしゃああああ!!」
岡部「……んん?」
──ガシッ!
急に両手を掴み、堅い握手を強要される。
岡部は内心焦っていた。
73 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:12:59.36 ID:p6D0uGZjo
一夏「良かった良かった!!」
岡部「(なんだこいつ、もしや危ないヤツか!?)」
一夏「も、もしかしたら女なんじゃないかって!」
岡部「女……は? え?」
一夏「以前にもこういう事があったんだ、転入してきた男子が実は女の子だったって言う」
シャルロットが転入した時。
彼女は自身が男だと偽っていた。
今回もまた、男だと言って実は女なのでは。
一夏はそればかりを思い悩んでいた。
74 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:13:43.55 ID:p6D0uGZjo
一夏「だから、少し疑心暗鬼になっちゃってさ……」
岡部「そのために俺をここへ?」
一夏「あぁ! でも良かったよ」
岡部「女な訳があるかああ!! どぅぉこの世界線にヒゲをはやした女子が居る!!」
一夏「あっ、確かに」
納得。
良く見れば、そり残した髭が申し訳なさそうに顎から生えていた。
75 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:14:09.90 ID:p6D0uGZjo
岡部「俺が女になるなんて世界線は存在しない!!」
一夏「世界線?」
岡部「あっ、いや。なんでもない……」
世界線の説明など説いたところで意味が無い。
失言だったと岡部は口を閉じた。
76 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:14:38.46 ID:p6D0uGZjo
一夏「へへっ、でも安心した。俺は織斑 一夏。よろしく」
岡部「鳳凰院凶真。それが俺の真名だ」
一夏「えっ? でも、確か岡部って……」
岡部「それは仮の名だ。鳳凰院、または凶真と呼んでくれ」
一夏「ん? 何か良く解らないけど、解った。ヨロシク、凶真!」
岡部「……」
なんて素直なヤツなんだ。
岡部はこの時、そう思った。
今までどれほどの人間に「凶真」と呼べ。
そう言って来たことだろうか。
ルカ子は言い間違えが酷く、フェイリス位なものだった。
77 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:15:05.90 ID:p6D0uGZjo
岡部「我が真名を呼ぶとは……ふふ、友と呼ぶに相応しい人材だな。ワンサマーよ!」
一夏「わんさまー?」
岡部「貴様の真名だ」
一夏「一夏だからワンサマー? 面白いこと言うなー」
岡部「フゥーハハハハハ!!」
一夏「ハハハハハ!」
思わずテンションが上がる。
ダルとはまた違った友達が岡部に出来た。
78 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:15:32.90 ID:p6D0uGZjo
一夏「あっ、そうだ。凶真は俺より年上なんだよな? 敬語とかあんま使ってなかったけど」
岡部「む? 気にする必要は無い。今日から同じ学び舎の同士だ、敬語など不用。それに助手も年下だが敬語など使ってこないしな……」
そもそもラボでも殆どの人間が敬語など用いていなかった。
仲間に敬語など不要。
ルカ子の敬語、それはそれで良いのだと都合の良い解釈を自身で添えて。
79 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:16:08.00 ID:p6D0uGZjo
一夏「そっか、なら良かった。仲良くなれそうだ! ってか、助手って?」
岡部「助手は助手だ。クリスティーナのことだ」
一夏「クリスティーナ? 牧瀬紅莉栖のことか?」
岡部「うむ。アイツはマッドサイエンティストであるこの俺の助手なのだ」
一夏「へー、凶真ってここへ来る前までは科学者だったんだ! すげぇ!」
更にテンションがあがる。
転校初日で不安にまみれていた心は、当に消えてなくなっていた。
80 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:16:34.07 ID:p6D0uGZjo
岡部「フゥーハハハハハ!!」
一夏「ハハハハハ!」
岡部「(中々良いヤツではないか、この分なら何時かラボメンに加えてやっても良いだろう)」
一夏「(凶真って面白いヤツだな。でも良かった……これで男友達が出来たぜ!)」
──キーンコーンカーンコーン。
高笑いが響く中。
始業のチャイムが来たるべく時間を告げる。
81 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:17:00.06 ID:p6D0uGZjo
一夏「やべっ、チャイムだ! 早く教室に戻らないと」
岡部「講義の時間か」
一夏「授業だよ授業! 次は千冬姉ぇの授業だから遅れるとヤバい!」
岡部「そう言えば、ワンサマーとサウザンウィンターは姉弟だったな」
一夏「怒るとすっげー怖いから注意な! 行こう凶真!」
岡部「(確かに、Mr.ブラウンに通じる何かを感じる)う、うむ!」
スキンヘッドの大家と担任を重ねる。
似ても似つかない両者だが、岡部の背中を寒くさせる共通点をもっていた。
82 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:17:25.92 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
83 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:17:52.35 ID:p6D0uGZjo
─教室─
紅莉栖「……」
机に身体を預け、だらしなく両腕を垂らす。
紅莉栖の顔は疲労でいっぱいだった。
岡部「どうした助手、元気が無いではないか」
紅莉栖「助手って言うな……疲れただけよ」
岡部「?」
紅莉栖「女子高生パワー侮っていたわ……」
84 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:18:19.73 ID:p6D0uGZjo
あれから、始業のチャイムが鳴るまで紅莉栖は女子高生達の玩具にされていた。
やれどちらから告白したのかだの、どこまで関係が進んだの。
どれもこれも答えることは出来ず話しを剃らすばかり。
大学の講義をするよりもよっぽど至難の業であった。
岡部「なるほど、現役の女子高生と比べたらババァだからな」
紅莉栖「それ以上言ったら、あんたの大脳新皮質をポン酢漬けにしてやる……」
岡部「どういう脅し文句だ……」
紅莉栖「うるさい黙れ……」
千冬「お前ら黙れ、授業を始める」
何時の間にか千冬が教壇に立ち、授業を始めていた。
85 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:18:57.29 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「っと……」
千冬「まず、牧瀬!」
紅莉栖「はい」
千冬「“ハイパーセンサー ”について、簡単に説明しろ」
紅莉栖「はい。ISに搭載されている高性能センサー。操縦者の知覚を補佐する役目を行い、目視できない遠距離や視覚野の外(後方)をも知覚できるようになる」
千冬「うむ。教科書通りだな、流石だ。問題無し。確認をしたかっただけだ、悪く思うな。
(“国際IS委員会”から岡部と一緒に転入をしてきた天才か……この娘も調べる必要があるか?)」
IS関係者であれば誰でもわかる簡単な問い。
紅莉栖にとって簡単極まりない問題。
86 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:19:26.10 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「いえ」
岡部「(ハイパーセンサー? 何を言ってるんだ? 女史も合わせて厨二なのか?)」
岡部の頭に並ぶクエスチョンマーク。
2人の会話が理解できない。
千冬「次に岡部!」
岡部「!」
千冬「“PIC”について、簡単に説明しろ」
岡部「(ぴーあいしー? 何を言っているんだ?)」
千冬「何を固まっている、早く説明しろ。こんなものは常識だろう」
岡部「(PIC PIC……あぁ!)」
考え、表情が固まる。
しかし解を導き出せば簡単なことだった。
87 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:19:53.99 ID:p6D0uGZjo
岡部「なぁに、簡単すぎる質問に少しばかり困惑していただけだ」
千冬「ならばさっさと質問に答えろ」
んんっ。と声を整える。
岡部はいつもの、人に説明をする際のくどい口調で説明を開始した。
岡部「“PIC”Peripheral Interface Controller の略だな。
1チップ内にRISC型マイクロプロセッサ, ROM, RAM, クロック発振回路, 外部接続ポートなどマイコンに必要な殆どの機能が組み込まれている。
そして乾電池2本で動作、低消費電力、意外と高速(20MHz)、安い(100円程度〜)のが特徴だ」
フン。
と鼻を鳴らす。
百点満点の回答だと自負していた。
88 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:20:20.97 ID:p6D0uGZjo
一夏「???」
シャル「???」
セシリア「???」
ラウラ「???」
箒「???」
教室一杯に広がるクエスチョンマーク。
なにを言ってるんだこいつは。と言う視線が岡部へと集中した。
紅莉栖「(っの、馬鹿!)」
千冬「何を言っているんだお前?」
千冬まで声に感情がなくなっている。
呆れて、意識が飛びそうになるほどだった。
89 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:20:47.25 ID:p6D0uGZjo
岡部「何って、女史がPICを説明しろと言うから簡潔に説明したまでではないか」
千冬「はぁ……」
─パァンッ!
岡部「あだっ!」
教簿で思い切り頭を叩かれる。
拳骨よりは痛くないが、それでもかなりの攻撃力を秘めていた。
90 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:21:17.46 ID:p6D0uGZjo
千冬「違う。PIC-パッシブ・イナーシャル・キャンセラー-の説明をしろ。と言ったんだ」
岡部「ぱっしぶ? なんだそれは」
─パァンッ!
二度目の攻撃。
威力は尚も上昇していた。
岡部「あだっ!」
千冬「教師には敬語を使え」
岡部「すみません……」
岡部倫太郎。
目上、もとい肉体派の人間には素直な男だった。
91 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:21:46.41 ID:p6D0uGZjo
千冬「昨日、入学前の教本が配布されたはずだが?」
岡部「む? あの電話帳のようなもの……ですか」
紅莉栖から渡された入学セット。
制服やらなにやら詰め込まれた中に、電話帳のように分厚い本が入っていた。
千冬「そうだ」
岡部「それならば自室に置いてあ──あります」
千冬「読んだか?」
岡部「いや──いえ、えっ」
─パァンッ!
三度目。
快音が鳴り響く。
92 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:22:12.65 ID:p6D0uGZjo
岡部「あだっ!」
千冬「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやるから一週間以内に読んで、覚えろ。いいな」
岡部「……わ、解った、りました」
千冬「ほう……物分りが良いじゃないか。“一週間であの分厚さはちょっと……”なんて言い出すかと思ったが」
意外そうな顔で岡部を見つめる。
事実、あの教本を読み理解するには一週間でも足りないほどの情報量が詰め込まれている。
93 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:22:40.10 ID:p6D0uGZjo
岡部「マッドサイエンティストを舐めるな。あの程度二日もあれば……読めます」
千冬「……よろしい。では授業を再開する!」
四度目の教簿が飛んでくることはなかった。
岡部を他所に授業が進む。
岡部「……」
授業内容のほとんど、99%が理解出来ない。
さすがにこれは不味いと内心で岡部は焦った。
仮にも自身は高校を卒業した身。
学力で遅れを取る訳にはいかない。
岡部「(これは、本気で読まねばな……)」
岡部が密かに決心した瞬間だった。
94 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:23:06.48 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………。
95 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:23:38.79 ID:p6D0uGZjo
──キーンコーンカーンコーン。
千冬「以上で今日の授業は終了だ。織斑、岡部と牧瀬を連れて一緒に職員室に来い」
就業のチャイムが鳴る。
と同時に千冬は授業を切り上げた。
チャイムより早くもなく、遅くもない。
完璧なタイムスケジュールだった。
──ガラガラ、ピシャッ。
千冬の退場と共に教室に喧騒が生まれる。
何歳になっても、授業からの開放感は良い物だなと岡部は感じた。
96 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:24:05.58 ID:p6D0uGZjo
一夏「凶真、お疲れ」
岡部「ワンサマーか……お前の姉はいささか凶暴すぎやしないか……」
一夏「はははっ、千冬姉ぇは何時もあんなもんだよ」
すでに友達。
2人の会話は先ほど顔を合わせたとは思えないほど自然だった。
97 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:24:34.14 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「それより、織斑君? で良いのかしら」
一夏「俺のことは“いちか”って呼んでくれて構わないぜ」
紅莉栖「そ。なら私も“くりす”で良いわ」
一夏「あぁ、紅莉栖もよろしく」
会話が自然に流れる。
一夏は誰とでも直ぐに仲良くなれる気性の持ち主だった。
98 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:25:02.89 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「サンクス。それより、何で私まで呼ばれたのかしら」
一夏「えっと、多分部屋割りのことじゃないかな。何か聞いてる?」
岡部「そう言えば今日からこの学園で寝泊りするんだったな……」
一夏「全寮制だからな」
IS学園の生徒は寮に住まう。
年齢が上だろうが、関係無い。
岡部と紅莉栖も転校初日から寮住まいが確定していた。
99 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:25:31.21 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「部屋割りは今日中に決めるとも言ってたわね」
一夏「うん。じゃぁ多分それだ、行こうぜ。案内する」
岡部「よろしく頼む」
三人で教室を後にする。
その影を物悲しそうに見つめる女子達の姿があった。
シャル「あぅ……行っちゃった」
セシリア「話しに入り込む隙がありませんわね……」
ラウラ「フン。夕食までの辛抱だ」
箒「……一夏と話す時間がどんどん無くなっていくな」
100 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:26:00.79 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………。
101 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:26:28.83 ID:p6D0uGZjo
─職員室─
一夏「失礼します。二人を連れて来ました」
千冬「案内ご苦労。二人とも、部屋割りが決まった」
姉弟の挨拶などない。
学園内では教師と生徒。
千冬のそっけない態度も、一夏は納得して接している。
102 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:27:02.20 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「(ももも、もしかして岡部と相部屋になんて事は……)」
千冬「岡部は織斑と同室だ。本来、部屋は相部屋だったんだが男子は一人だけだったからな。丁度良かった」
紅莉栖「(ですよねー)」
妄想は3秒で打ち砕かれる。
当然の処置だった。
103 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:27:31.24 ID:p6D0uGZjo
一夏「へへっ、やった。凶真、よろしくな」
岡部「うむ」
千冬「(きょうま?)」
弟の呼び方が気になったが、HR時の挨拶を思い出す。
なるほどな、と内心で微笑んだ。
紅莉栖「──先生、私は」
千冬「……あぁ。牧瀬は先ほど、ちょっとした要望があってな」
一瞬の間が開く。
どう説明したものか、と思案していた。
104 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:27:59.88 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「要望?」
千冬「是非にとも、部屋を交換したいと……な。本来ならばそんな勝手な要望は突っぱねるところなんだが……。
牧瀬自身も色々と複雑な立場だからな、専用機持ちとの相部屋はメリットかもしれん」
紅莉栖「?」
要望。
部屋を交換したい、と言う事はセシリアのルームメイトが申し出たのだろう。
だとしたら理由は?
IS学園に紅莉栖の友達、知人、関係者は一人もいない。
105 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:28:26.02 ID:p6D0uGZjo
千冬「セシリア・オルコットと相部屋になってもらう。ルームメイトたっての希望だ」
紅莉栖「セシリア・オルコットって……イギリスの代表候補生のですか?」
やはりルームメイトがそう希望したのかと納得する。
しかし、それ以上にセシリアの名前が引っかかった。
代表候補生。
その筋の人間なら誰もが知る有名人。
106 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:28:54.13 ID:p6D0uGZjo
千冬「そうだ、彼女はIS操縦者としても優秀だ。色々聞いてくれ。織斑は岡部の面倒を見ろ。以上だ」
ルームメイトの要望理由を端折る千冬。
説明するのも面倒だった。
一夏「へぇ、紅莉栖はセシリアと同室か」
千冬「(もう名前で呼んでるのか、一夏め)」
女たらしめ。
心の内で毒吐く。やはり私の弟は、たらしなのかと。
107 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:29:20.27 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「一夏の知り合い?」
一夏「あぁ、仲の良い友達だ」
紅莉栖「そ、なら良かった。仲良く出来そうね」
岡部「Ms.サウザンウィンター」
千冬「?」
岡部「あ……ごほんうぉっほん! 先生、お……私の白衣と携帯電話をその……」
返して欲しい。
白衣もだが、携帯電話を携帯出来ないと言うのはどうにも落ち着かないものだった。
108 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:29:48.65 ID:p6D0uGZjo
千冬「あぁ、そうだったな。ほれ。白衣は学校では着るなよ、寮内なら問題ない。業中に携帯は許さん。それと、これは教本だ」
岡部「すま──あ、りがとうございます」
すまんな。
と言いかけて、言葉を言い換える。
もし言い放っていたのなら、教簿ではなく拳骨が頭上に降り注いでいただろう。
千冬「あぁ、以後気をつけろ。行って良し」
一夏「失礼しました」
職員室から解放される。
授業終了と同じく、あの空気から解き放たれる感覚。
自身もまだまだ餓鬼なのだなと再確認させられる。
109 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:30:15.74 ID:p6D0uGZjo
一夏「いやーそれにしても、凶真が相部屋で嬉しいよ」
岡部「今後ともよろしく頼むぞ、ワンサマーよ」
一夏「任せてくれって。そう言えば、なんで白衣なんて持ってきてたんだ?」
岡部「白衣は俺の普段着だ。通常であればこのような制服は着ないところなのだが……。
この歳になってまさか学生服を着るハメになるとはな」
心底、恥ずかしい。
まゆりにだけは見られたくないと思っていると──。
110 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:30:42.17 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「どうみても、オッサンのコスプレです。本当にありがとうございました」
隣を歩く紅莉栖からツッコミが入る。
そう、どこからどう見てもコスプレなのだった。
岡部「貴様こそ、人のことを言えた義理では無いだろうクリスティーーーーーーッナ!」
紅莉栖「あら残念。一応私も年齢的にはギリギリ高校三年生に基準する訳で……不自然ってことは無い訳だが?」
岡部「ぐぬぬ……」
ごもっともな反論。
この学園でおっさん生徒は岡部のみ。
111 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:31:08.60 ID:p6D0uGZjo
一夏「ははは、二人とも仲良いんだな」
岡部 「どこが!」
紅莉栖「どこが!」
声がシンクロする。
目線が合い、すぐにお互いが逸らした。
一夏「息もぴったりじゃないか」
ケラケラと笑う一夏。
この2人と話してると楽しい、そう思い笑いが込み上げてくる。
112 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:31:37.57 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「全く、もう……」
一夏「そうだ! 夕飯は一緒に食べないか? 俺の仲間を紹介するよ」
岡部「む、どうする助手よ」
紅莉栖「どうするって、なんで私に聞くのよ。あと助手って言うな」
一夏「ほらほら、皆で食べたほうが美味いからさ!」
紅莉栖「あっ、ちょ」
岡部「おおう……」
2人の背後に回り、背中を押す。
行き先は学食。
楽しい夕飯の始まりだった。
113 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 01:32:11.61 ID:p6D0uGZjo
おわーり。
ありがとうございました、がんばります。
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/23(日) 02:04:45.08 ID:QWFK3ldoo
乙!
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[saga]:2012/09/23(日) 06:33:01.00 ID:Tc282Ubio
また読めるのか。
支援
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/09/23(日) 09:12:52.96 ID:FVtyMI9V0
初見です
なぜ今までこんな良作を知らなかったんだろう…
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/09/23(日) 09:14:08.90 ID:N1/Fx2N20
>>116
sageろクズ
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/23(日) 13:54:31.41 ID:haR4PmPIO
おー!前の読んでたよ!凄い面白かった。
でも、前のを何回か見返そうとしても、PCからなら過去ログでなんとか読めるんだが、スマホとかだと読めないんだよね…
個人のホームページでもいいから、この作品をまとめてもらえないだろうか?お願いします
119 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:22:53.04 ID:p6D0uGZjo
>>118
pixivで管理を始めました。
不慣れなもので仕様と戦っています。
投稿します。
120 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:23:44.44 ID:p6D0uGZjo
>>112
つづき。
……。
…………。
………………
121 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:25:31.24 ID:p6D0uGZjo
─食堂─
2人の背中を押し、食堂へと到着する。
待ち受ける光景。
立ちはだかるようにそびえる4つの影。
最初に口を開いたのは、眼帯が印象に残る少女だった。
ラウラ「で、その二人は何だと言うんだ」
その声には苛立ちが含まれている。
夕食になり、やっと一夏と時間を過ごせると思っていた彼女にとって岡部と紅莉栖は邪魔者でしかなかった。
122 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:25:57.98 ID:p6D0uGZjo
一夏「一緒に飯食おうって誘ったんだ」
ラウラ「貴様と言うやつは……」
「夜は一緒に食べよう」と自分から言ったくせに。
あれは私との約束じゃなかったのか? と少なからず気分が悪くなる。
シャル「まぁまぁ、ラウラ。一夏に悪気は無いんだし、ね?」
ラウラ「むう……」
隣にいたシャルロットになだめられ、落ち着かせる。
一夏めと、恨めしそうな目線だけを残した。
123 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:27:59.08 ID:p6D0uGZjo
セシリア「一夏さんは女心と言うものが本当に解ってないですわね……」
はぁ。とセシリアも溜息をついた。
何時も通りの唐変木。織斑一夏の平常運転。
一夏「な、なんで皆気難しい顔してるんだ……? 飯は皆で食ったほうが美味いだろ?」
女子達の機嫌が悪い原因。
一夏にとってはそれがサッパリわからなかった。
124 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:28:25.09 ID:p6D0uGZjo
シャル「これじゃぁねぇ……?」
ラウラ「ふんっ」
セシリア「もう……」
箒「どうでも良いが、結構な大所帯だ。席が無くなる。先に探しに行くぞ」
踵を返し、箒が席を探しに食堂内へと歩を進めた。
追いかけるように一夏も続く。
自分から食事を誘っておきながら、席がない。と言うのを避けたかった。
125 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:28:59.40 ID:p6D0uGZjo
一夏「あ、箒ちょっと待ってくれよ! 俺も席探すからさ!」
岡部「……」
紅莉栖「えと、私達お邪魔かしら……」
一夏が離脱し、孤立する2人。
なんとも言えない空気だった。
シャル「いやいや、そんな訳じゃないんだ!」
セシリア「はぁ。そうですわ、一夏さんが唐変木だと言うだけの話しですから」
決して岡部と紅莉栖が悪い訳じゃないとフォローを入れる。
事実、2人に悪意を抱いている者はいない。
乙女達の怒りは一夏の、何時も通りの、優しさについてだった。
そこに惹かれているのは確かだが、自分だけに向けて欲しい。
十代女子の可愛らしい我が侭。
126 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:29:40.13 ID:p6D0uGZjo
一夏「なぁおい、箒? なんか怒ってないか?」
箒「怒る? 私がなぜ怒るんだ」
箒の隣を歩くも、視線を合わせてくれない。
明らかに起こっている時の態度。
幼馴染だからそれがわかる。
けれど、理由がわからなかった。
一夏「いやだって、顔が怒ってるじゃないか」
箒「そんなことはない」
一夏「うーん……」
127 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:30:11.78 ID:p6D0uGZjo
どうしたものかと頭を悩ませる。
席を見つけなければならないが、箒達の怒りの原因も知りたい。
その原因が自分であるとしたらちゃんと謝りたい。
そう思っていると、
鈴音「おーい一夏ぁ! こっちこっち!」
元気で明るい声が投げつけられた。
一夏「鈴! なんだ、席取っておいてくれたのか?」
視線を向けるとそこには2人目の幼馴染。
1年2組に在籍する、中華人民共和国代表候補生“凰 鈴音”だった。
128 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:30:38.27 ID:p6D0uGZjo
鈴音「まっ、まぁね」
一夏「サンキュ! じゃぁ皆呼んでくるから箒とここで待っててくれ!」
鈴音「え、皆……?」
聞き捨てならない台詞が耳を振るわせた。
“みんな”。
箒「そう言うことだ」
鈴音「どういうことよ!」
説明を求める。
都合よく箒を視界に入れていなかった鈴音だが、そうも言ってられなかった。
129 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:31:11.14 ID:p6D0uGZjo
箒「転校生が入って来たことは知っているだろう」
鈴音「えぇ、二人目の男性適性者でしょ? ニュースになってたもの」
箒「一夏は仲良くなりたいらしい」
その一言で納得する。
つまり“いつもの面子”にプラスで二人加わると。
今日だって、なんのかんのと2人きりで食事出来るとは思っていなかった。
それでも一縷の望みに託すのが恋する乙女と楽しみにしていたのに。
130 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:31:41.24 ID:p6D0uGZjo
鈴音「あー……そゆこと。でもまぁ……男なら別に……」
箒「転入してきたのは男女一名ずつだ」
鈴音「え」
失念していた。
新たなる男性適性者は一人。
箒「つまり、そういうことだ」
鈴音「一夏ぁ……」
予想通り。
一夏は男女関係無く、親交を持とうとする。
新しく転入してきた女性とも。
131 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:32:12.48 ID:p6D0uGZjo
──。
────。
──────。
132 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:33:38.65 ID:p6D0uGZjo
一夏「お待たせ、さっ、飯を取りに行こうぜ」
一連のやり取りを終え、トレイを持って列に並ぶ。
食堂には良い匂いが立ちこめ、どれもこれも美味しそうに見えた。
岡部「何か、お勧めはあるのか?」
一夏「ここの食堂は何でも美味しいんだ。取り合えず今日は、和と洋があるから好きな方をって感じかな」
箒「和食は……鰆の焼き魚定食だな」
セシリア「洋食は半熟卵のカルボナーラとありますわね」
一夏「俺は和食っと……凶真はどうする?」
岡部「では俺も和食にするとしよう」
一夏「紅莉栖は?」
一夏の一言で女子の顔色が変わる。
今日、転校してきた年上の女子に対して名前を呼び捨て。
しかも敬語抜きである。
関係を勘繰るのも仕方が無かった。
133 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:34:04.55 ID:p6D0uGZjo
箒「(ッ……すでに呼び捨てだと!?)」
セシリア「(なん……ですって……?)」
シャル「(はぁ……もう、一夏の馬鹿)」
鈴音「(ねぇちょっとどういう事よ……)」
クラスが違い、状況を飲み込めない鈴音が説明を求める。
が、答えを持つ者などいる訳がなかった。
134 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:34:31.58 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「えっと、じゃぁ洋で」
気分的にはヌードルだったが、ないのなら同じ麺類。
カルボナーラをチョイスした。
ラウラ「私はフルーツサラダだけで良い」
紅莉栖「ラウラ・ボーデヴィッヒ……さんでしたっけ? それで足りるの?」
明らかに量が少ない。
紅莉栖自身、そんなに食べる方でもなかったがそれでも小食すぎると思った。
135 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:35:04.82 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「ラウラで良い。夜は摂取量を控えている、一夏のススメでな」
紅莉栖「そうなの?」
一夏「いや、まぁ……ただ単に俺が夜少なめに食べるタイプだって説明したらそうなっちゃって……」
紅莉栖「なる……ほど、ね」
これだけで一夏とラウラの関係がわかる。
微笑ましい気持ちになった。
加え、男と言うのはどうしてこんなにも鈍感な生物なのか、とも。
136 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:35:33.57 ID:p6D0uGZjo
箒「(一瞬目を離した隙に親しげになってる……)」
セシリア「(まさか紅莉栖さんまで……)」
シャル「(うー……楽しそうだなぁ)」
鈴音「(もう、殺そう。うんそうしようよ、ねぇ)」
会話に入れない女子四人がやきもきする。
ラウラ「後ろが詰まっている。配給を受けたら席へ素早く移動すべきだ」
一夏「おっと、悪い悪い。さぁ行こう」
それぞれに料理を受け取り、席に向かう。
いつもの席。円形のテーブルに8人が腰をかけていた。
137 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:35:59.91 ID:p6D0uGZjo
一夏「では、頂き──」
両手を合わせて言葉を発しかけた時、一番遠くに座るシャルロットから声がかかる。
食事を受け取った順番が物を言い、一夏の隣を取ることが出来なかった。
シャル「ねぇ、一夏! ちゃーんと、自己紹介をするべきだと思うんだけどどうかな?」
紅莉栖はともかく、岡部とはちゃんと自己紹介を交わしていない。
せっかくだからちゃんと挨拶を交わし親交を深めたい。
シャルロットらしい提案だった。
138 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:36:31.09 ID:p6D0uGZjo
セシリア「そうですわ! 私と一夏さんの関係をこのお二人に説明するべきではなくって?」
鈴音「そうよ、ちゃんと説明しなさいよね!」
騒ぐ2人と、
箒「……」
ラウラ「ぱくぱく」
興味なく箸を進める2人。
一夏「おっと、そうだった! 2人に皆を紹介するはずだったんだ。良いか? 凶真、紅莉栖」
岡部「うむ」
紅莉栖「えぇ、お願い」
箸を置いて視線を配る。
全員からの了承を得た一夏は順番にクラスメイトの紹介を始めた。
139 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:36:57.58 ID:p6D0uGZjo
一夏「えっと……こいつが篠ノ之 箒(しののの ほうき)。俺の幼馴染で、専用機持ちの一人」
箒「一夏の“幼馴染”。篠ノ之 箒だ……」
特に幼馴染の部分を強調する。
視線は紅莉栖へと向いていた。
一夏「IS開発者の束さんの妹でもあるんだ」
箒「一夏! 余計な事は言わなくて良い!!」
“篠ノ之 束”。
ISを開発した人物であり、世界的に有名な人物だった。
そのため、箒は昔から“篠ノ之 束”の妹として扱われることを嫌っている。
140 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:37:28.73 ID:p6D0uGZjo
岡部「……」
紅莉栖「……」
箒「(無反応……?)」
想像していた反応は帰ってこない。
束の妹と言うことがわかれば、どいつもこいつも色々と聞いてくると言うのに。
一夏「あっ、そうか……あんまり言わない方がいいんだっけ?」
箒「あぁ……あまり言うべきでは、無いな……その、色々騒がれても面倒……だ」
言ってしまえば拍子抜け。
けれど、悪い気は全くしなかった。
岡部「(IS開発者か。俺には関係の無いことだな)」
紅莉栖「(転入前に聞かされていた情報だし、ノープロブレム)」
各々の感想を内に秘める。
この2人に束のネームバリューは通用しなかった。
141 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:37:57.87 ID:p6D0uGZjo
一夏「っとまぁそんな感じ。それでその隣が──」
セシリア「わたくしがイギリスの代表候補生にして入試主席の──セシリア・オルコットですわ!」
一夏「って感じ」
まさに自己紹介。
一夏の手を煩わせる必要も無く、セシリアが口を開いた。
紅莉栖「あなたが、セシリアさんね?」
セシリア「どういう事ですの?」
紅莉栖「今日からアナタのルームメイトになる牧瀬紅莉栖です。よろしく」
突き出される右腕。
握手を求める紅莉栖に呆然とするセシリア。
142 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:38:23.88 ID:p6D0uGZjo
セシリア「へ?」
一夏「そうだった。さっき千冬姉ぇに言われたんだよ。凶真は俺と同室。紅莉栖は部屋変えでセシリアと同室になったって」
セシリア「あぁ、そう言うことでしたの……。コホン、よろしくお願い致しますわ。それと貴女の方が年上なのですから、さん付けはよろしくってよ」
紅莉栖「了解。ありがと、セシリア」
笑顔を見せる。
高圧的な口調を見せるセシリアだが、紅莉栖から見れば可愛いものだった。
大学にはもっと癖の強い輩が在籍していた。
嫉妬や悪意に満ちた自己紹介を思えば、顔が綻ぶのも頷ける。
143 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:38:51.08 ID:p6D0uGZjo
セシリア「(何だか調子が狂いますわね……年上の余裕と言うやつなのかしら)」
シャル「ねぇねぇ、一夏」
一夏「ん? 次はシャルの番だけど……」
シャル「うん、それは良いんだけど“きょーま”って誰のこと? 岡部さんを指してるようだけど……。
確かファーストネームは“倫太郎”だった気がするんだ」
当然の疑問が投げかけられる。
先ほどから一夏は岡部を指し“凶真”と呼んでいた。
紅莉栖であれば「無理矢理に呼ばせてるんだろ」とわかることであるが、屋上に同席して無い人間が理解するのは難しい。
144 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:39:36.59 ID:p6D0uGZjo
一夏「んー、何て説明したら良いかな。凶真、先に凶真の自己紹介頼んでも良いかな?鈴音は違うクラスだったしさ」
岡部「(また自己紹介か……乗り切るしかあるまい……)」
一瞬の間を置き、首を縦に振る。
気分は乗らないが断る訳にもいかない。
岡部は何時もの調子で言葉を紡いだ。
岡部「我が名は“鳳凰院凶真”フェニックスの鳳凰に院、凶悪なる真実と書く。
常に『機関』から追われており、逃亡中の身であったが此度ISの適性が認められ現在に至る……」
セシリア「機関……?」
神妙な面持ちのまま自己を語る岡部。
一番最初に反応を示したのはセシリアであった。
145 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:40:03.08 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「あー、それはね──」
口を挟もうとする紅莉栖の言葉を遮るように言葉を続けた。
岡部「そーぅだ、Ms.シャーロック」
セシリア「え? シャーロック?」
聞き慣れない単語。
それが自身を指差す言葉だとはわかるが、意味はわからない。
146 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:40:30.92 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「多分、イギリスだから……」
「あだ名だと思う」紅莉栖の言葉にまゆをしかめるも、次なる岡部の言葉でそんな気持ちは霧散することになる。
岡部「貴様の母国はイギリスであったな? イギリス情報局秘密情報部MI6とは衝突することもあれば、互いの利益が合致し協力したこともある……」
セシリア「MI6……! そんな、まさか……」
岡部「ふふ、DGヒュームは息災かな? 彼には色々してやられたものだ……フゥーハハハハ!」
漫画ゴルゴ13で得た知識がフル活動される。
実在するかも定かではないが、人物の名前を使用されると途端に現実味が増す。
147 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:41:04.60 ID:p6D0uGZjo
セシリア「(この人は一体……!)」
一夏「(凶真って凄いやつなんだなぁ)」
シャル「(この人、もしかしたら危険な人なんじゃ……)」
ラウラ「(軍人……には見えないが、諜報活動を主としていたと言うことか……?)」
鈴音「(なによこいつ、ちょっと危ない世界の人間だったってこと?)」
箒「(そんな世界の住人には見えないが……)」
紅莉栖「(そう言えば、岡部ったら最近ゴルゴ13を読んでたわね……はぁ)」
一部例外はいるが見事、紅莉栖以外の人間は岡部の言葉を鵜呑みすることになった。
ラボではこうも簡単に岡部の言葉は信用されない。
IS学園と言う特殊な環境が、岡部に味方した瞬間だった。
148 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:41:40.56 ID:p6D0uGZjo
セシリア「つまり、コードネームのようなものですの?」
岡部「真名、真なる名前だ……」
言葉のキャッチボールが成されないまま、会話が続いていく。
岡部倫太郎、エンジン全開の絶好調状態だった。
一夏「だから俺は凶真って呼んでるんだ」
シャル「そっかー、でもたしか教室で“オカリン”って呼ばれてたよね?」
岡部「ぬっ、あれは違っ──」
シャルロットとまゆりの声質はとても似ていた。
その声で“オカリン”と呼ばれてしまっては、戸惑ってしまう。
なんとか訂正をしようとするも、
149 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:42:22.88 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「そうそう! こいつのアダ名は“オカリン”って言うの! 学園生活をしている以上はそちらで呼んであげて!」
紅莉栖に先制されてしまう。
岡部「じょ、助手貴様何を勝手に──」
シャル「オカリン、オカリンかぁ……うん、なんかしっくり来る呼び方だね! 僕はシャルロット・デュノア。フランスの代表候補生なんだ、よろしくね」
訂正出来ぬまま話しは進み、確定するあだ名。
先ほどまでは好調だったと言うのに一気に流れが変わってしまう。
150 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:42:48.77 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「こちらこそ、よろしく」
岡部「オカリンではなぁい! 第一その声でオカリンと呼ぶなっ!」
シャル「え? こっ、声……?」
岡部「あっ、いや……なっ、なんでもない……」
失言。
幼馴染と声が似ている。などと目を覆いたくなる。
まるで、下手糞なナンパ台詞のように思えた。
151 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:43:18.23 ID:p6D0uGZjo
セシリア「私は敬意を込めて、倫太郎さんと呼ばせて頂きますわ。なにやら、イギリスとは深い関係のご様子ですし……」
紅莉栖「(ファーストネームで呼ぶ……だと……私ですら苗字なのに……)」
五人の乙女が紅莉栖を危険視するように、紅莉栖もまた心配の種になっていた。
ファーストネームを呼ぶことが出来ない自分に悔しさを覚える。
鈴音「私は、凰 鈴音。中国の代表候補生。よろしくね、っつってもクラスも違うしあんま興味無いからどうでも良いけど。
機関云々で一夏に迷惑かけたら承知しないからね」
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生だ」
進む自己紹介。
鈴音とラウラは淡白なものだった。
152 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:44:32.82 ID:p6D0uGZjo
一夏「ええと、俺はこれからも凶真って呼んで良いのかな? それともやっぱり危ないのか?」
岡部「全く問題ない」
むしろ、お願いしたいほどだった。
男友達に“凶真”と呼ばれる。これほど嬉しいことはない。
一夏「良かった。呼び方換えるのって何か難しいもんな!
それにしても凶真は凄い世界を生きてたんだなぁ……俺とそう歳も変わらないのに、すげぇや」
紅莉栖「(嘘……マジで? 信じちゃってるの?)」
素直。
それが一夏の良いところであり、困ったところでもあった。
153 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:45:14.98 ID:p6D0uGZjo
セシリア「えぇ、一体どのような活動をなさってたんですの?」
岡部「そうだな、最近ではフランスのS……いや、何でもない。忘れてくれ……」
──SERN。
言いかけて口を閉ざす。
言って良いこと悪いこと。
おふざけて越えてはいけない境界線を越える訳にはいかない。
少し調子に乗りすぎたと自身を戒める。
154 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:46:22.86 ID:p6D0uGZjo
シャル「(S……? なんだろう……)」
フランス。
自国の名前が出たのだから、代表候補生として無関心ではいられない。
シャル「ねぇねぇ、オカリン。今フランスって言葉が出てきたけど何かあるのかな?」
岡部「まゆりには関係の無いことだ」
咄嗟に出る幼馴染の名前。
それほどシャルロットとまゆりの声は似ていた。
155 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:46:48.74 ID:p6D0uGZjo
シャル「まゆ……?」
岡部「あっ……。違っ……スマン。今のは忘れてくれ」
シャル「?」
紅莉栖「(なに? もうホームシックでまゆりの名前が出てきちゃう訳?)」
紅莉栖も勘違いをする。
岡部はやはり、まゆりのことが──と。
ただ単に、本気で声を間違えただけ。
恋とはそれほどに人を盲目にさせるものだった。
156 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:47:30.48 ID:p6D0uGZjo
鈴音「ふぅん、何だか危なそうな橋渡ってたんだ」
一瞬だけ岡部の顔がかげるのを鈴音は見逃さなかった。
事案は違うが、岡部の言っていた言葉に真実味が増す。
岡部「そうだな……(ここで“SERN”の名は出さないほうが無難だな、何がきっかけで繋がるか解らない)」
紅莉栖「(なにココの子達。ちょっと純粋すぎやしない? 全部信じてるの? 本当に?)」
IS学園。
ここは、岡部の“設定”を発揮し、信じさせるには格好の場所だった。
全てが真実味を増す。
157 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:48:40.45 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「ふんっ。軍人であれば、危険地区への潜入など日常だ」
岡部「ほう、その口ぶり。貴様は軍関係者か眼帯娘よ」
ラウラ「私は貴様のような諜報員ではない。本物の軍人だ。それと……その呼び方は不愉快だ、辞めろ」
本物の軍関係者。
“阿万音 鈴羽”もそのような人物ではあったが、目の前に居る人物はガチガチの軍人。
現役だった。
岡部「くくくっ……(本物の軍人って……ココは一体どんな学校なんだよ!)」
再び脳を回転させる。
どのように、会話を進めるのかを。
158 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:49:33.92 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「何がおかしい」
岡部「ゲーレン機関、それも第1課であるヒューミントとは良くやりあったものだ……と思い出しだけだよ」
ラウラ「貴様……ドイツとも……」
ドイツ。
それは、厨二病疾患者として避けては通れぬ道。
知識だけは豊富だった。
ここでも岡部に風が吹く。
159 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:50:25.93 ID:p6D0uGZjo
岡部「まぁ待て慌てるな眼帯娘よ。今は同じ学び舎で筆を握る同志だ。
昔の出来事を蒸し返すほど俺もまだ老いてはいない……ここは一つ、学友として手を組むのが双方の為だと思うが?」
ラウラ「(コイツの言ってる情報は本物か?)……ふんっ」
嘘か真実なのか、判断できない。
けれど敵意は全く感じなかった。
鼻を鳴らし、岡部の言う“停戦協定”を肯定する。
160 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:51:08.30 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「(え、また信じちゃった? 岡部のデタラメ妄想トーク信じちゃった?)」
一夏「まぁまぁ、凶真も言った通り今は同じ学校の友達なんだ。仲良くやろうぜ」
箒「あぁ、よろしく頼む。(この男は本当にそれほどの修羅場をくぐりぬけて来たのか……?)」
セシリア「そうですわね、これでまた1年1組の質が上昇しますわ。(いくら前職のキャリアが凄くてもISでは負けませんわ……!)」
鈴音「はいはい、よろしくねー。(一夏……へんな事にこれ以上巻き込まれないでよ……)」
シャル「そうだね、友達が増えて僕も嬉しいよ。(何を言いかけたんだろう……調べた方が、良いかもしれない)」
ラウラ「……ふん。(クラリッサに連絡を取る必要があるな……)」
それぞれの思いが錯綜する。
しかし、それは岡部にとって悪いことではなかった。
どうあれ友人が出来た。
紅莉栖がいるとは言え、ぼっちを覚悟していた岡部にとっては嬉しい誤算である。
161 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 16:52:06.02 ID:p6D0uGZjo
失礼。
PCから離れねばならないので、投稿は後ほど行います。
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/09/23(日) 16:58:04.92 ID:tAyCFO3O0
なにかと思えばあれか、さいごすごい知り切れトンボで終わった奴
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/09/23(日) 20:01:02.59 ID:FVtyMI9V0
皆さん純粋なんだな〜
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/09/23(日) 20:08:02.33 ID:QapaVVOb0
>>163
上げんなsage進行って書いてあるの読めないの?
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/09/23(日) 20:25:47.75 ID:mypraUQVo
また投稿してくれて嬉しいよ
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2012/09/23(日) 21:44:17.88 ID:1eWUMIF3o
期待
167 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:45:51.59 ID:p6D0uGZjo
失礼しました。
続けます。
168 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:46:28.25 ID:p6D0uGZjo
>>160
つづき。
紅莉栖「こちらこそ、よろしく。楽しい学園生活にしましょう。(不安すぐる……いつ岡部の化けの皮が剥がれるか……)」
募る紅莉栖の心配。
嘘だとばれた時、この子たちはどのような顔を見せるのか。
ラボメンのように、生暖かい目で彼を見ることが出来るのか。
不安は尽きない。
一夏「で、最後に紅莉栖。鈴も居るし、もう一度自己紹介頼んで良いかな?」
一夏に言われ、コホンと声を整える。
しっかりと年上らしい自己紹介をせねばと心がけた。
169 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:47:01.53 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「牧瀬紅莉栖です。本来ならアナタ達より年上だけど訳あって同学年としてここで生活を送ることになりました。
紅莉栖って呼んでね、敬語もいらないから仲良くしましょう?」
長すぎず短すぎず。
年上であること、けれど敬語はいらないと要点を伝える。
一夏「そうそう、凶真は解るんだけどなんで紅莉栖も転入してきたんだ?」
シャル「うん。僕もちょっと気になってたんだ」
思案する。
どうやって話しをはぐらかせば良いのかと。
170 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:47:40.32 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「えっと……私って元々アメリカの大学を飛び級で卒業しててね?
“国際IS委員会”からISの技術開発研究に力を貸してくれってオファーが来て……。
日本、アメリカとどちらの国で従事するにしてもIS学園を卒業したって言う事実が欲しいんですって」
勿論、嘘。
建前だった。
セシリア「そんな話し初めて聞きましたわ」
鈴音「うん。IS学園から技術者にって人は沢山居るけど、元々そんな知識や技術があるならわざわざ転入する必要って……」
予想済みの反論が返って来る。
当然だった。
この学校に通う以上、馬鹿ではない。
171 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:48:06.51 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「“アラスカ条約 ”の国際規約のお陰で、各国は学園の関係者に対して一切の干渉を受けない。
つまり私の帰属する国や部署が決まるのに時間がかかるから、取り合えずココに居てねってのが本音だと思う」
もっともらしい言葉を並べる。
嘘の中に一握りの真実を入れることが、言葉を信用させるのに大事なスパイスとなる。
一夏「紅莉栖もかなり凄い人ってことか……?」
紅莉栖「貴方ほどではないけれどね?
“国際IS委員会”目下の議題は一夏をどの国の所属にするか……それの決着が付く前に岡部倫太郎の登場。
正直、牧瀬紅莉栖程度に構ってる暇はないってのが私の予想される解」
172 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:48:33.56 ID:p6D0uGZjo
シャル「なるほど……」
セシリア「それでも、貴女をこの学園に入れるという事はやはりそれだけの人物……と言うことなのでしょう?」
紅莉栖「ふふ、これでも一応……天才少女なのだぜ?」
親指を立ててドヤ顔で決める。
けれど──。
岡部「だが、俺の助手だ」
水を差すように、絶妙なタイミングで岡部の合いの手が入る。
173 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:48:59.52 ID:p6D0uGZjo
一夏「?」
箒「?」
セシリア「?」
鈴音「?」
シャル「?」
ラウラ「?」
全員がまた頭上にクエスチョンマークを並べる。
「助手?」と言葉を反芻するも、意味がわからない。
174 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:49:26.86 ID:p6D0uGZjo
岡部「世界を股に掛けるマッドサイエンティスト。アインシュタインにも匹敵するIQ170の灰色の脳細胞を持つ鳳凰院凶真の助──」
紅莉栖「はい、よろしく! いただきます!」
これ以上、この話しを続けては駄目だ。
さらに誤解と混乱は広がるばかり。
料理が冷めてしまう前に、食事を始めましょう。
とばかりに紅莉栖が号令をかけた。
175 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:53:54.48 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
176 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:56:41.68 ID:p6D0uGZjo
食事が終了し、並んで廊下を歩く岡部と紅莉栖。
2人は言い合いをしていた。
岡部「助手! さっきのは一体なんだ!」
紅莉栖「なんだとはなんだ! アンタが暴走するから切り上げただけだろうが!」
岡部「暴走などしていない、この俺のへぁんぱない経歴の数々と助手の助手たる由縁を紹介しようと──」
紅莉栖「へぇあんぱない妄想垂れ流していただけだろうが! それとココで助手って言うなと言ってるだろ!」
岡部「なんだと!」
紅莉栖「なによ!」
177 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:57:12.62 ID:p6D0uGZjo
廊下だと言うことも忘れて声のトーンが張り上がる。
忘れてはいけない。
IS学園1年寮の寮長が千冬であると言うことを。
─パァンッ! ペチン。
快音と、少々手心が加わった音が廊下に鳴り響いた。
178 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 21:57:43.17 ID:p6D0uGZjo
岡部 「あだっ!」
紅莉栖「いてっ!」
千冬「廊下で騒ぐな、馬鹿者共が」
岡部「ぬ、Ms.サウザンウィンター」
紅莉栖「織、斑先生……失礼しました」
─パァンッ!
再び鳴り響く。
本日、幾度目かもわからない教簿での攻撃だった。
179 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:01:35.70 ID:p6D0uGZjo
岡部「あだっ!」
千冬「なんだその呼び名は。織斑先生と呼べ」
岡部「おおお」
頭を抑えてうずくまる。
教簿堅く、思ったよりも威力がある。
岡部「おおお、脳細胞が……1日で一体何億個死んだと言うのだ……おおお……」
千冬「返事」
抑揚の無い声。
その言葉には、返事をしないならもう一撃と言う意味合いが含まれていた。
180 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:02:04.93 ID:p6D0uGZjo
岡部「はい」
千冬「さっさと部屋に行け」
岡部「はい」
意味を読み取り相手が望んだ対応を見せる。
これ以上、頭を叩かれるのはごめんだった。
紅莉栖「(くすっ)」
千冬「牧瀬、お前もだ」
紅莉栖「はっ、はい」
千冬「まったく……」
騒がしい連中が増えたものだ。
そう思う千冬の顔は、決して苛立たしいものではなかった。
181 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:02:33.53 ID:p6D0uGZjo
岡部「恐ろしい……」
脅威が過ぎ、再び肩を並べて廊下を歩く。
分かれ道が差し迫っていた。
紅莉栖「アンタって店長とか、織斑先生とかあの手のタイプにはとんと弱いわよね」
岡部「彼らは脳筋だ。マッドサイエンティストである俺とは属性が異なりすぎている……」
紅莉栖「もやし乙」
岡部「ふん……俺は部屋へ戻る」
紅莉栖「私も」
岡部「ではな」
挨拶を交わして背を向ける。
紅莉栖の心臓は早鐘を打っていた。
182 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:02:58.85 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「──岡部っ!」
意を決して岡部の背中へと声をかけた。
少し声がうわずんでいる。
岡部「ん?」
振り返り、紅莉栖の顔を見た。
少しだけ頬が紅潮している。
183 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:03:28.20 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「こっ、この学校って制服のカスタムが自由なのよ……」
岡部「ん? そうなのか?」
思えば女子生徒の制服はみな、少しばかり違っていた。
ズボンを穿いている生徒までいたほどだ。
紅莉栖「アンタがして欲しいって言うなら……その……」
岡部「?」
紅莉栖の言わんとしていることがわからなかった。
首をかしげ、さらなる言葉を待つ。
184 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:04:02.94 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「白衣っぽくカスタムしてやらんこともないぞ……? 裁縫は得意なほうだし……」
岡部「な……に……? 本当か!」
岡部の目が見開く。
“白衣っぽく”と言うフレーズが気になったがどうでも良い。
とかく、このノーマルの制服はコスプレ臭が激しかった。
それが緩和されるのであれば、願ったり叶ったり。
185 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:04:29.17 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「う、うん……元の制服が白だし、出来る……と思う」
岡部「それは助かる。是非に頼むぞ! さすが助手だ!」
紅莉栖「(思ったより喜んだな……えへへ)」
岡部「では、後で白衣と制服を渡すから頼むぞ」
紅莉栖「ん。2.3日はかかるからな。私の制服をカスタムした後だ」
岡部「わかった、よろしく頼む」
そう言ってお互いに自室へと戻る。
2人の足取りは軽やかなものとなっていた。
186 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:04:59.59 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
187 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:05:25.63 ID:p6D0uGZjo
─自室─
岡部と一夏の共同ルーム。
すでにシャワーを浴び終えた一夏が自身のベッドでくつろいでいた。
一夏「おかえり、凶真。あの後、紅莉栖と何か話してたのか?」
岡部「色々と、な」
色々。
ほとんど口喧嘩のようなものだった。
それが日常であり、2人のコミュニケーションでもあった。
188 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:05:53.52 ID:p6D0uGZjo
一夏「そっか。それで風呂なんだけど、この部屋にはシャワーしかないんだ」
岡部「大丈夫だ、問題ない。我ラボにもシャワーしか付いていないからな、慣れている」
一夏「らぼ?」
聞き慣れない単語に耳に頭を傾げる。
一夏にとって、岡部の放つ言葉はどれも新鮮なものだった。
189 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:06:21.02 ID:p6D0uGZjo
岡部「む、説明していなかったな。この鳳凰院凶魔が創設した秘密組織“未来ガジェット研究所”通称ラボだ」
実情はただの仲良しサークル。
けれど、岡部は研究所と言って聞かない。
一夏「……すっげぇ! 秘密組織!? 凶真って本当に何者なんだ……?」
岡部「ふっ。話す時が来れば、いずれその時に話そう……。そう言うわけだ、シャワーには慣れている」
一夏「おう! 楽しみにしてるぜ!」
一夏の反応が心地良い。
今までになかった応対で、岡部自身も会話を楽しんでいた。
190 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:06:56.04 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
191 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:07:25.72 ID:p6D0uGZjo
─セシリア・紅莉栖部屋─
紅莉栖「これは……」
紅莉栖の眼前に広がる光景。
ここは、どこぞのお城なのだろうかと錯覚するほどだった。
セシリア「どうしましたの? 今日からここは貴女のお部屋でもありますのよ? 荷物も来ているようですし、お好きになさって?」
紅莉栖「(これは酷い……あぁ、なんとなく読めたわ。ルームメイトが部屋交換を希望した理由ってやつが)」
部屋のほとんどが、セシリアの私物。
調度品で溢れている。
とてもじゃないが、共同の部屋……とは思えない。
192 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:08:08.89 ID:p6D0uGZjo
セシリア「わたくしはこれからお風呂に行きますが……紅莉栖さんはいかがいたします?」
紅莉栖「えっと、私は荷物の片付けが済んだらにする。ありがと」
セシリア「では一人で参りますわね。この部屋にもシャワーはありますが、入浴は出来ないので大浴場をお勧めしますわ。では」
そう言って部屋を後にするセシリア。
一人残された紅莉栖は改めて部屋を見回した。
193 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:08:35.90 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「しかし、凄い部屋だな。それともコレが年頃の娘の部屋なのかしら……トランク一つの私が異常なのか?」
天蓋付きの豪勢なベッド。
三面鏡がついた化粧台も、一般人が持っている物とは質も大きさも違っていた。
紅莉栖「考えても仕方なし。さっさと片付けてお風呂に行きますか」
トランクの中身を取り出して整理する。
物の少なさから、5分もせずに終了した。
セシリアの後を追い大浴場へと向かう紅莉栖。
彼女にとって、これこそが今日一番の不幸と言えた。
194 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:09:36.01 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
195 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:10:12.92 ID:p6D0uGZjo
─大浴場─
湿度をたっぷりと含んだ空気が蔓延している。
大浴場。女子生徒達が一日の汗と疲れを流していた。
セシリア「〜♪ やはり、一日の疲れはお風呂で流すに限りますわね」
シャル「んー、やっぱり湯船は気持ち良いね」
鈴音「(ッチ。まさかこの二人と入浴時間が被るなんて……)」
内心で舌打ちを打つ鈴音。
その理由はボディラインを見れば明らかだった。
196 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:10:46.13 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「〜♪」
そこへ、身体を洗い湯船に浸かりに来た紅莉栖がとてとてと歩いてきた。
シャルロットと視線が重なる。
シャル「あっ、紅莉栖だ」
紅莉栖「ん、ハァイ。えっと、セシリアにデュノアさんに、凰さん……よね?」
シャル「あはは、シャルロットで良いですよ」
鈴音「私も鈴って呼んで。何かむずむずするし」
紅莉栖「ありがと、私も紅莉栖で構わない。敬語も使わなくって良いから」
シャル「そう言えば、自己紹介の時にそう言ってたね。うん、宜しくね紅莉栖!」
紅莉栖「こちらこそ宜しくね」
よいしょっと、と紅莉栖も湯船に浸かる。
ホテルでもシャワーばかりであったので、久々の湯船はとても気分が良いものだった。
197 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:11:12.97 ID:p6D0uGZjo
鈴音「……」
ジッと、視線が紅莉栖に集中する。
視線の主は鈴音だった。
紅莉栖「(何か、視線を感じる……)」
鈴音「(仲間っ……!)」
紅莉栖「(胸を見られてる……?)」
鈴音の視線は紅莉栖の胸部へとそそがれていた。
自身の平坦さとシンパシーを感じたのだろう。
198 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:12:16.57 ID:p6D0uGZjo
シャル「でさー、一夏ったら──」
セシリア「まぁそうなんですの──}
鈴音「(紅莉栖、ゆっくりと二人の胸を見て)」
紅莉栖「(胸……? っな……)」
ひそひそと紅莉栖に聞き取れるような小声で会話する。
そこには肉の塊が湯船に浸かっていた。
確かに服の上からでも大きいなとは思っていた。
けれど、直に見たボリュームの破壊力は想像を絶している。
199 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:12:48.62 ID:p6D0uGZjo
鈴音「(篠ノ之 箒は、もっとでかい……)」
紅莉栖「(なん……だと……。15,6歳だろ? どうなっているんだ……)」
高校一年生のバストサイズじゃない。
誰も彼もが紅莉栖より大きい胸を実らせている。
鈴音「(大浴場はタイミングをミスると惨めな思いをするだけよ……)」
紅莉栖「(ありがと……気をつけるわ。にしても……全員年下なのに……)」
鈴音「(アジアと西洋の差……と言いたいけれど、箒に千冬さん、山田先生も大きいのよね……)」
紅莉栖「(なぜ、そんな情報を私に……?)」
鈴音「(っべ、別に……大した理由は無いわよ……)」
仲間だから。
人にあって、自分にない。
努力研鑽を積もうがどうにもならない、肉体の壁。
それを共感出来る仲間に情報を与えることは、なんら惜しいことではなかった。
200 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:13:20.59 ID:p6D0uGZjo
シャル「僕達もう上がるけど、二人ともまだ入ってるー?」
セシリア「お先に失礼致しますわ」
重力によって弾む胸部。
私がニュートンだったから、ここから法則を見出しているところだと心の中で毒付く。
紅莉栖「(立ち上がるとさらに……なんて不公平な世の中なの……)」
鈴音「うっ、うん。まだもう少し入ってるからお先にどうぞ」
シャル「のぼせないようにね? それじゃぁ──」
しばしの沈黙。
敗北者たる彼女達は、ただただ自身の身体的特徴を恨むほか無い。
201 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:13:56.22 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「はぁ……まさかこんなところで劣等感を感じる日が来るとは」
鈴音「胸なんて、女の価値には関係無いわ……」
紅莉栖「はぁ……」
鈴音 「はぁ……」
揃って溜息を吐く。
紅莉栖「(岡部って、大きいほうが好きなのかな……)」
鈴音「(一夏って、大きい方が好きなのかな……)」
想う人は違えど、想いは一緒だった。
202 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:14:25.34 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………
203 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:14:53.42 ID:p6D0uGZjo
─シャル・ラウラ部屋─
ラウラ「では、難しいと言うことか……」
携帯を片手にラウラが話しかける相手。
クラリッサ・ハルフォーフ。
ラウラが隊長を務めるIS配備特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”の副隊長であった。
クラリッサ「はい。軍のデータベースに“鳳凰院凶真”なる人物は見当たりません。
可能性を上げるのであれば、重要機密人物として情報が隔離されてるやもしれません。
各国の諜報部データにクラッキングを仕掛ければあるいは……」
ラウラ「いや、これ以上の深追いは危険だ」
クラリッサ「お役に立てず……」
隊長の役に立てないことを心の底から詫びるような声だった。
204 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:15:22.33 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「いい。それ程の人物だという事が解っただけで収穫だ。害意は無いようだ、これからも私が目を光らせれば十分だろう」
クラリッサ「お気をつけて……」
ラウラ「ああ」
通話を終了する。
結局、岡部倫太郎に対する明確な情報は得られなかった。
シャル「らーうら、何してたの?」
無防備だったところを、後ろからシャルロットに抱きつかれる。
風呂上り特有の甘ったるい香りがラウラの鼻腔をくすぐった。
205 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:15:51.36 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「わっ! シャ、シャルロットか……脅かすな。危うくナイフで攻撃を仕掛けるところだった」
シャル「えへへ、ごめんね。それで今のって、オカリン……岡部倫太郎のこと?」
岡部のことはシャルロットも気にかけていた。
何者なのか。
本当にISを起動出来る第2の一夏なのか。
ラウラ「……あぁ。 正体が解らない。情報は多い方が良いだろう。最悪、一夏を抹殺しに来た暗殺者。
もしくは、白式のデータを盗みに来たエージェントの可能性もある」
シャル「(盗みに……か)それで、何か解ったの?」
過去の自分に重ねる。
それほど、男性のIS適性者。そのデータは貴重なものだった。
206 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:16:14.31 ID:p6D0uGZjo
ラウラ「いや、何も掴めなかった」
シャル「そっか……フランスについても何か言おうとしてたけど……。気になるなぁ」
ラウラ「気になるのは確かだが、打つ手が無い。尋問するのは容易だろうが事を荒立てる段階でもない」
シャル「尋問って……」
ラウラ「それよりシャルロット。私はココアが飲みたい」
シャル「くすっ……。暖かいココアを飲んで、今日はもう寝ようか」
ラウラの一言で場が弛緩する。
難しい話しは切り上げて、美味しいココアを飲むこととなった。
207 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:16:50.80 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………。
208 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:17:18.71 ID:p6D0uGZjo
──牧瀬紅莉栖。言いたいことは解るね?
紅莉栖「はい……」
よろしい。
それでは岡部倫太郎と供にIS学園に転入し情報収集を。
十中八九、織斑一夏と同様に専用機が渡されるはずだ。そのデータを全て記録。
可能ならば織斑一夏の“白式”のデータも欲しいところだ。
紅莉栖「努力します」
女性しか扱えなかったISが、男性にも使用出来るようなれば世界が変わる。
ISの知識が豊富であり、尚且つ岡部倫太郎と近しくその適性を発見した君にだから出来る仕事だ。
将来“国際IS委員会”に末席を連ねる予定の君だ、期待しているよ。
209 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:17:44.00 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「……はい」
そうそう、君の父親……。
ロシアに亡命失敗したようだが、こちらで上手く手引きしておくよ。
紅莉栖「あ、りがとうございます……」
では、三年間と少々長い仕事になるが終わる頃には君も委員会の一員だ。
期待してるよ。
紅莉栖「……」
誰にも明かせない紅莉栖の任務。
それは、岡部倫太郎。織斑一夏両名の情報収集だった。
210 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:18:10.53 ID:p6D0uGZjo
……。
…………。
………………。
211 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:18:36.33 ID:p6D0uGZjo
チクチクと針を布に通す。
繰り返し、繰り返し同じ作業を続ける。
時刻は深夜。
同席のセシリアを起こさんと、小さな明かりだけで作業を行っていた。
セシリア「ん……紅莉栖さんはまだ眠ってらっしゃらないの?」
紅莉栖「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
セシリア「いえ……なにをなさってるの?」
紅莉栖「眠れなくって、制服のカスタムをちょっとね」
手に持つのは岡部の制服。
集中して縫っているお陰でかなりのハイペースで仕上がっていた。
212 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:19:02.41 ID:p6D0uGZjo
セシリア「器用な物ですわね……でも、それって男子用……」
セシリアの眼つきが変わる。
この学園に男子はそういない。
紅莉栖「ちょっと、頼まれちゃって……」
セシリア「まっ、ままままさかその男子って……いっいい一夏さんではありませんこと!?」
まさか一夏が。
そんな馬鹿なと身体が跳ね上がる。
今日出会ったばかりの女子に制服を渡すだなんて、信じられなかった。
213 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:19:55.62 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「えっ……お、岡部だけど……」
その一言で一気にクールダウンされる。
セシリア「ふぅ、そうでしたの。なら良いんですの、私は寝なおしますわね……ふぁ……」
紅莉栖「ん。起こしちゃってごめんなさいね、おやすみなさい」
安心したところで再び布団へと潜り込む。
セシリアの意識はすぐに夢の中。
一夏にマッサージを受ける幸せなものへと潜って行った。
214 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:20:23.54 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「このペースなら、明日には2着出来るな……」
順調に作業が進む。
セシリアの寝息と、針が布を通る音だけが部屋にはあった。
紅莉栖「(岡部、喜ぶかな……)」
手渡す瞬間を想像すると、思わず顔がニヤけてしまう。
プレゼントとは渡す側も同じく幸せな気分になる、魔法のような儀式だった。
紅莉栖「(昨日の今日で完成したら、そりゃ喜ぶわよね! ふふ……)」
良し。
と気合を入れてカスタムに没頭する。
215 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:21:13.85 ID:p6D0uGZjo
紅莉栖「(データ収集か……嫌だな……)」
データ収集が嫌な訳じゃない。
むしろ、その好意自体には科学者として喜びすら感じる。
岡部に、皆に嘘を吐くのが心苦しかった。
きっと岡部は事情を話せば「フッ」と苦笑いを浮かべて許容してくれるだろう。
けれど、紅莉栖はそれが嫌だった。
岡部に迷惑を、心労をかけさせたくない。
岡部をこの状況に追いやったのは自分自身なのだから、これ以上に迷惑なんて。
1人、布に糸を通す作業は明け方まで続いた。
216 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/23(日) 22:21:44.23 ID:p6D0uGZjo
おわーり。
ありがとうございました。
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/23(日) 22:54:35.74 ID:iNuPDLp0o
乙
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)
[sage]:2012/09/23(日) 23:17:06.22 ID:pk/4AoUHo
乙乙
前の時も色々あったし今回もあるかもしれんけど
それも基本のクオリティが高い故の期待の裏返しだと割り切って気楽に頑張ってくれ
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/24(月) 01:52:12.03 ID:WhDQHnyDO
乙ヌンティウス
前もリアルタイムで読んでたよ
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/09/24(月) 11:05:50.00 ID:+AES2v+wo
>>200
>>200
> 私がニュートンだったから、ここから法則を見出しているところだと心の中で毒付く。
ニュートンだったら、だよな?
揚げ足を取るつもりじゃなくて、せっかくの改訂版だから直しをな…
221 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:51:26.80 ID:bi8IcoLso
投稿します。
>>220
ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。
222 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:52:29.31 ID:bi8IcoLso
>>215
つづき。
某国。某所。
ここがどこなのか、それを知るのは居を構える住人のみだった。
─我輩は猫である(名前はまだ無い)─
無機質な機械群
およそ常人ではどう言った用途をもたらすのか理解することも出来ない、未知なる装置。
現世に現れた魔女の館。
そう言い換えるに相応しい様相を呈している。
223 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:52:55.41 ID:bi8IcoLso
束「うーんうーん、わかんないなーなんだろーなー! 岡部倫太郎って子は何者なのかなー。わっかんないなぁ」
まるで、おとぎばなしの世界から飛び出して来たかのような装束を見に纏う女性。
ISの産みの親。“篠ノ之 束”だった。
ゴロゴロと転がりながら頭を悩ませている。
束「ふにゃぁ、データ取りたいなー。でもでもぉ脳開いちゃったら元に戻すの無理だしぃ……。
やぁっぱ、IS渡して直接データ見るのが一番手っ取り早いかな。ようし……くーちゃんや! くーちゃんや!」
声を張り上げ人を呼ぶ。
現れたのは12歳前後の少女であった。
224 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:53:26.23 ID:bi8IcoLso
くー「はい」
くーと呼ばれた少女が答える。
束「お使いを頼まれて欲しいのだよ」
くー「何なりと」
束「もー相変わらず堅いんだから。何時になったら束さんのことママって呼んでくれるのかな?」
少女にとって“篠ノ之 束”とは全てだった。
この世の、どんなものよりも重い。
そんな人に対して気軽に“ママ”と呼べるはずもない。
けれど、束にそれを言っても理解して貰うのは難しい。
少女はいつものように、話しを本題に戻すことで難を逃れる。
225 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:53:52.61 ID:bi8IcoLso
くー「……それで、使いと言うのは」
束「うん、コレなんだけどねー」
あっさりと話しの筋を戻してくれる。
気紛れな束らしい習性だった。
くー「これは……ISのコア……?」
渡される、黒く鈍く光るISコア。
束「そー! ある意味超絶レアもんだよん!」
くー「はい。これをどちらに?」
興味は示さない。
少女の任務は荷物の配送。
その荷物に対して興味を持つ必要などなかった。
226 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:54:18.93 ID:bi8IcoLso
束「IS学園職員のちーちゃんに。この手紙と一緒によろしくーん!」
くー「了解しました」
静かに答え、闇に溶ける。
コアと少女の姿は直ぐに束の視界から消えた。
束「んー……ん、ん〜♪ どーんな機体になるかな〜……中々面白そうなことになりそうだね……」
ペロリと舌で乾いた唇を舐める。
それは新しい玩具を手に入れた子どものような表情だった。
227 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:54:46.20 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
228 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:55:12.65 ID:bi8IcoLso
IS学園、転校2日目の朝を迎える。
眠っていた岡部を起こしたのは、目覚まし時計でもなく、幼馴染でもなく、天才少女でもなかった。
一夏「凶真、朝だぞ。起きて食堂行こうぜ」
岡部「う……うぅむ」
男の声で意識がまどろみの中から引き上げられる。
耳に慣れている声ではない。
一夏「凶真は朝苦手な方?」
顔を覗く一夏と目があう。
ここがIS学園。それも学生寮だと言う事を岡部は思い出した。
229 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:55:39.05 ID:bi8IcoLso
岡部「得意……ではないな、マッドサイエンティストとは基本的に夜行性なのだ……」
昨日は一夏が寝静まった後も、千冬から渡された教本を読んでいたので睡眠時間が足りていない。
まぶたが未だに重く圧し掛かる。
一夏「そっか。でも早起きには慣れておいた方が良いぜ。万が一、遅刻なんてしたら千冬姉ぇになにされるか解らないからな……」
ズキン、と頭部に痛みを思い出す。
初日に叩き込まれた恐怖が岡部の脳を覚醒させてくれた。
岡部「……想像だに恐ろしいな」
一夏「だろ? ちなみに、朝もちまちま食べてると喝入れられるから注意な」
目下、IS学園での一番の強敵は担任でありルームメイトの実姉。
“織斑 千冬”だと言う事を認識した。
230 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:56:07.37 ID:bi8IcoLso
岡部「留意しておこう」
一夏「千冬姉ぇは1年の寮長でもあるから、そこも注意」
岡部「朝から頭痛を催す会話だな……」
一夏「仕方ないさ。でも結構、優しいところあるんだぜ」
目を丸くする。
自身には姉も妹もないために、そう言った属性はないが。
なるほど、
岡部「(ワンサマーはシスコンか……)」
と内心で納得した。
ならば担任の悪口は避けるか、とも。
231 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:56:33.35 ID:bi8IcoLso
一夏「さ、顔洗って着替えたら食堂に行こう」
そう一夏が提案した時だった。
──コンコン。
扉がノックされる。
一夏「ん? こんな時間に誰だろ……」
はいはい、と口にしながら一夏はドアを開けた。
突然の来訪者。
それは牧瀬 紅莉栖だった。
232 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:57:04.85 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「モーニン。起きてたかしら?」
一夏「紅莉栖! おはよう、どうしたんだ?」
思いもよらない人物。
一夏は思い半ば“いつもの誰か”だと思っていたので少しだけ驚いた表情を見せた。
紅莉栖「岡部にちょっと渡す物があってね」
抱きしめるように何かを抱いている。
衣類のようだった。
一夏「ん。凶真も今起きたところなんだ、上がってくれよ」
紅莉栖「サンキュ」
そのまま紅莉栖を招き入れる。
スムーズな応対、入室。
寮とは言え、自室に女子を入れると言うのになんと自然な運びなのだろうと紅莉栖は思った。
233 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:57:31.14 ID:bi8IcoLso
一夏「紅莉栖の制服、昨日と違くないか?」
紅莉栖「えっ、あ……うん、昨夜私なりにカスタムしてみたの。おかしくないかな?」
一目見て変化に気付く。
この男がモテるわけを、転校2日目にして味わった。
一夏「すげぇ似合ってるよ。へぇー、自分で裁縫したの?」
紅莉栖「えぇ、裁縫は得意なの」
一夏「俺も家事全般やるから、裁縫もちょっとはやるけど……こいつは中々凄いな! 紅莉栖って家庭的だな!」
紅莉栖「えっ、いや……うん、ありがと……」
流石ハーレムキング。天然の女たらし。
学校中の女子達が一夏に恋をするのも頷けた。
234 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:57:58.14 ID:bi8IcoLso
一夏「凶真ー! 紅莉栖が制服を持ってきてくれたぞ」
岡部「助手ではないか……」
に、比べて。
岡部は寝惚け眼で、髪の毛もぼさぼさ。
髭も少しばかり顔を出していた。
紅莉栖「もう、まだ寝ぼけてるの? ほら、顔洗ってシャッキリしなさい」
岡部「お、押すな……」
身嗜みがしっかりしている一夏。
真逆の岡部。
なんとなく恥ずかしくなった紅莉栖は岡部の背中を押して、洗面所へと追いやった。
235 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:58:34.52 ID:bi8IcoLso
一夏「ハハハッ」
そんな光景を目にして笑いをこぼす一夏。
朝から楽しいと素直に目を細めている。
岡部「ふう……」
洗顔。歯磨き、そして髭剃り。
一通りを終え、手探りでタオルを探していると、
紅莉栖「はい、タオル」
絶妙なタイミングでタオルが差し出された。
岡部「む、ありが……そう言えばなぜ助手が居る?」
ごしごしと顔を拭いて覚醒する。
目の前に紅莉栖が居る理由がわからなかった。
236 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:59:01.26 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「はぁ、マジで寝ぼけてたんですね? 解ります」
一夏「紅莉栖が凶真の制服を持ってきてくれたんだよ」
紅莉栖と同様に、後ろで控えていた一夏が理由を添える。
岡部「……昨夜話していたやつか! しかし、昨日は時間がかかると言っていたではないか」
紅莉栖「ん……ちょっと、針が進んでね」
岡部「そうか、うむ。ご苦労!」
紅莉栖「(ッチ、私の制服の変化に気付けよ鈍感!)」
まさに無頓着。
気付いて欲しい乙女心を岡部は1ミリも理解していなかった。
237 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:59:29.14 ID:bi8IcoLso
岡部「ではさっそく袖を通すとしよう! ん……そこに居ては、着替えにくいではないか、クリスティーナよ。
それとも何か? この俺の着替えシーンを見たくて見たくてたまらないと、そう言いたい──」
紅莉栖「あーはいはい、出て行きます出て行きます! 外で待ってるわよ。一夏、外で待ってましょ」
期待した反応は返って来ない。
紅莉栖の中では、
「似合ってるじゃないか、紅莉栖」
「そ、そうか? 私的には前のと色合いが違うだけだと思うんだけど……」
「いや。白も似合っているぞ」
「……馬鹿」
全て妄想。
それどころか気分を害する言葉が投げ返ってきた。
238 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 11:59:57.47 ID:bi8IcoLso
一夏「そうだな、凶真の着替えが終わったらそのまま食堂へ行こう」
岡部を置いて退室する。
残された岡部は手渡された制服を見て戦慄した。
岡部「全く、相変わらずのHENTAI天才少女だな……んんっ! んんんっ! これは……!」
そのクオリティの高さに。
239 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:00:54.92 ID:bi8IcoLso
──。
────。
──────。
240 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:02:17.57 ID:bi8IcoLso
岡部を待つ時間。
他愛もない話で盛り上がる。
紅莉栖「でね、セシリアったら──」
一夏「ハハッ、らしいな──」
すると、部屋の方から聞き覚えのある高笑いが聞こえてきた。
段々とその声は大きくなり、やがて──。
岡部「フゥーハハハハハ!」
岡部が笑ったまま自室から飛び出してきた。
妙にテンションが高い。
241 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:02:52.30 ID:bi8IcoLso
一夏「んぁ、凶真着替え終わっ──」
岡部「狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真! 完全復活!」
いつもの決めポーズ。
年齢と、その容姿と背丈を考えるならば相等に痛々しい。
一夏「うお! すげぇな、全然違うじゃないか!」
紅莉栖「思ったより白衣っぽくなったわね」
一夏の制服と見比べれば違いは瞭然だった。
傍目から見れば、しっかりと白衣を着ているように見える。
242 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:03:18.68 ID:bi8IcoLso
岡部「良くやった助手よ! ズボンまで白と言うのはさすがに仕方が無いが……。馴染む、実に良く馴染むぞ!」
一夏「へぇー、本当に上手いもんだな。赤いラインを消して、白と黒しか色が無いんだな」
紅莉栖「えぇ。さすがに白一色にするのもと、思って。黒はアクセント程度に残してみたの」
赤は岡部に似合わない。
そう思った紅莉栖は赤いラインを消し、白と黒の基調にした。
そのお陰か、シックに仕上がりコスプレ臭は幾分か消えている。
一夏「紅莉栖自身の制服と言い、二人ともすげぇ似合ってるよ!」
岡部「ん? ……おぉ、良く見れば助手の制服も昨日と違っているな」
紅莉栖「(いの一番に気付けっての……)」
素直に喜ぶ岡部の姿を見て、忘れかけていた苛立ちを思い出す。
普通、気付くだろうと。
他の誰もが気付かなくても、お前は気付くべきだろうと。
243 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:03:44.41 ID:bi8IcoLso
岡部「助手の服など気付きもしなかったが……ふむ。良く見たら、白のホットパンツに白のストッキングとは中々マニアックなチョイスを──」
上から下を嘗め回すように視線を動かす。
IS学園の制服をベースに、紅莉栖の“らしい”特徴を取り入れている。
白のストッキングと言うの穿きなれていないため、少しだけ恥ずかしかった。
それを岡部はなんのデリカシーもなく突っ込んでいく。
紅莉栖「ジロジロ見るなHENTAI!」
一夏「ハハハッ! さぁさぁ、食堂に行こうぜ」
朝から笑いが止まらない。
凶真と紅莉栖が転入してから、楽しいことばかりだと一夏は思っていた。
244 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:04:10.80 ID:bi8IcoLso
岡部「(まったく助手め……朝からドキドキさせおって……)」
ふう、と内心で一息吐く。
紅莉栖の変化に気付かない訳がなかった。
照れ隠しをするのも難しく、気付かないフリをするしかない。
不器用な男の、不器用な選択。
紅莉栖「(岡部はもう少し、一夏みたく出来ないのかしら……もう……)」
それと同じく紅莉栖も内心で溜息を吐いた。
女性として、乙女として。
もう少しだけで良いから、岡部に気にして貰いたい。
けれど自分から素直にはなれない。
もどかしさだけが胸を募らせた。
245 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:04:41.02 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
246 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:05:07.22 ID:bi8IcoLso
─食堂─
シャル「一夏っ、おは──紅莉栖も一緒なの?」
箒「──ほう、紅莉栖と仲良く食堂へ……か。大層な身分だな」
鈴音「いーちーかー……?」
セシリア「朝、隣に居ないと思ったらそう言うことでしたの……」
ラウラ「貴様、私の嫁としての自覚が足りないんじゃないか?」
食堂へ入室するなり待ち受ける影五つ。
いつもの、専用機持ち達であった。
247 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:05:33.77 ID:bi8IcoLso
一夏「っちょ、お前ら何怒ってるんだ? 凶真と紅莉栖と三人で来ただけじゃないか」
シャル「(あっ、オカリン……気付かなかった)」
箒「(む、一夏に視線が行き過ぎて気付かなんだ……)」
鈴「(居たんだ)」
セシリア「(一夏さんと紅莉栖さんしか目に付きませんでしたわ……)」
ラウラ「なんだ、岡部倫太郎も一緒だったのか。制服が違うので気付かなかったぞ」
彼女達の目には一夏しか映らない。
その一夏の横に女性。それも自分達よりも年上の紅莉栖となれば警戒心は一際だった。
一夏はシスコンの気がある。
それはイコールで年上好きと直結するのではないか? 彼女達の中ではそう考える者も少なくはなかった。
248 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:06:00.23 ID:bi8IcoLso
岡部「っふ。良く気が付いたな、眼帯娘よ。我が助手、クリスティーナによってカスタムされた白衣仕様の制服だ……」
ラウラの台詞で岡部へと視線が集まる。
確かに、制服が昨日とは違っていた。
シャル「わぁ、二人ともなんだかとっても似合ってるよ!」
セシリア「言われてみれば……なんだか、しっくりきますわね?」
箒「正直、昨日までの姿には少しばかり違和感を感じていたが……」
鈴音「それにしたって、ちょっとカスタムしすぎじゃない?」
ラウラ「この学校は制服のカスタムが自由だ。私のようにスカートではなく、ズボンを穿くことも許されている」
紅莉栖「(助手とか、ティーナについて誰も突っ込んでくれない……)」
思い思いに感想を寄せる。
どうやら岡部のコスプレ臭はほとんどの人間が感じていたようだった。
そして、助手=紅莉栖が浸透していることに紅莉栖は朝から絶望を覚えた。
249 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:06:27.56 ID:bi8IcoLso
一夏「全部、紅莉栖が裁縫したんだってさ。すげーよな。紅莉栖はきっと良いお嫁さんになるぜ」
紅莉栖「えっ、そっ……そんな……」
一気に顔面が熱を帯び赤面する。
岡部との結婚生活を想像してしまった。
箒「私も裁縫は苦手な方ではないぞ……?」
セシリア「わっ! わたく……しはその……」
鈴音「りょっ、料理が出来れば十分でしょ!」
シャル「ぼっ、僕も裁縫してみよっかなー……?」
一夏の何気ない一言に全員が張り合う。
いつもと変わらぬ光景だった。
250 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:06:55.88 ID:bi8IcoLso
ラウラ「入り口でもたもたしていると目立つ。教官に見つかったら事だぞ」
ラウラの一言で井戸端会議が終了する。
千冬はやはり、誰にとっても恐怖の対象だった。
一夏「おっと、そうだな。飯にしようぜ」
鈴音「さっさと食べて教室行かないと、授業始まっちゃうわね」
箒「それもこれも、一夏が余計な誤解を招くからだぞ」
セシリア「そうですわよ、まったく……」
シャル「まぁまぁ、早く食べちゃおう?」
ラウラ「朝食の時間は貴重だと言うのに……」
251 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:07:22.13 ID:bi8IcoLso
なぜか一夏へと集中する非難。
そんな光景に岡部は首をかしげた。
岡部「この連中はなぜ、こうも毎回騒がしいのだ……?」
紅莉栖「端から見たらラボも実際こんなもんよ。私達に無かったのは若さだけね。あと一つ言っておくけど、アンタも十分騒がしいから」
岡部「……」
冷静な紅莉栖の突っ込み。
岡部はなにも言い返すことが出来なかった。
252 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:07:50.17 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
253 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:08:27.44 ID:bi8IcoLso
─てがみ─
よっす、ちーちゃん! 元気?
ちょっと聞きたいんだけどさー、岡部倫太郎ってどうなの?
なんか解ったりしてる?
解らないよねー、束さんが解らない事が解るはずないもんねー。
そいでさ、色々調べたいんだけど頭を開けるのってやっぱり不味いよね? ね?
だから仕方なく、仕方なくだよー? その子にIS渡そうと思ってさ。
根回しはしといたから、だいじょーぶいぶいっ!
箒ちゃんにあげた時ほど問題にはならないっぽいよ! これも彼が男の子だからかな?
ってことでよろしくぅ!
コアを送っておくからそれを渡しておいてねん。
いちおー、第4世代って事なんだけどもう限りなく第5世代に近いと言うかー。
わき道それ過ぎてちょっともう違う感じなんだけど気にしない気にしなーい!
後で機体が出来上がったら別途で送るから、先にコアを渡しておいてね!
取りあえず触らせれば解るから!!
ってコレさっき書いたっけ? まぁいーかー! うん! ばいばい。
254 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:08:53.60 ID:bi8IcoLso
千冬「……はぁ」
手紙を読み終えた千冬がこれ以上ない溜息を漏らす。
頭痛の種が意思を持って向こうから飛んできた。
山田「えっ、つまりこの箱の中にはISのコアのみが入ってるということですか?」
届けられた手紙と箱。
片方は今しがた読んだ物で、もう一つはコアが入っている箱であった。
千冬「だろうな……」
山田「コアだけを彼に……岡部君に渡してどうするつもりなんでしょう。それに、実質の第5世代って……」
現在の“最先端”は第三世代。
それを一つ飛ばし、一夏と箒が駆る“白式”と“紅椿”が第四世代。
第三世代を最新とし、世界中がしのぎを削っている中で第四世代と言う種があるだけで問題がある。
だと言うのに束の手紙には“第五世代”などと言う文面が記されていた。
255 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:09:19.26 ID:bi8IcoLso
千冬「束が何を考えているのかなんて、想像するだに無駄なことだ。しかし……思った以上に行動が早かったな」
山田「篠ノ之束が作った第5世代相当の専用機……また、周りが荒れそうですね。来週に行われる“クラス内対抗戦”はどうしますか?」
千冬「間に合うようなら岡部もその機体で参加させる。束のことだ、間に合わせてくるだろう。
データを取るにはうってつけのイベントだからな……」
不安の種は尽きない。
それどころか肥大化する一方だった。
256 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:09:45.67 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
257 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:10:21.67 ID:bi8IcoLso
──キーンコーンカーンコーン。
始業のベルが鳴る。
教室には既に千冬が待機し、生徒達も口を閉じていた。
千冬「HRを始める……と言っても特に報告は無い。来週に行われる“クラス内対抗戦”は解っているな?
何時も以上に各人、気を引き締めて授業を受けるように。午前中はIS実戦だ。すぐに着替えて、第二グラウンドへ集合。それから岡部」
完結に用件を伝えて、岡部を呼ぶ。
岡部。と呼ぶ声には「やれやれ」と言ったニュアンスが含まれていた。
258 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:10:54.10 ID:bi8IcoLso
岡部「ん……?」
千冬「コレを」
束から送られてきた箱を手渡す。
指輪を入れる程度の、小さな小箱だった。
岡部「この箱は……?」
千冬「ISのコアだ。お前の専用機が近いうちに届く。意図は解らんが届くまでお前がそれを持っていろとのことだ」
──ざわっ。
一気に教室がざわつく。
生徒達が騒ぐのも当然だった。
259 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:11:34.70 ID:bi8IcoLso
千冬「静かに! さぁ、さっさと着替えてグラウンドへ集合しろ。以上!」
一喝で教室を黙らせる。
静かになったのを確認して、千冬は教室を後にした。
HR中にコアを渡したのに深い理由はなかった。
いずれは知れ渡り、学内で騒動になる。
これは絶対に避けられない。
であれば、さっさとその面倒事を終わらせてしまうに越したことは無い。
そう言った考えのもと、千冬は岡部にコアを手渡した。
260 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:12:05.68 ID:bi8IcoLso
一夏「凶真! 取り合えずそれは後にして急ぐぞ!」
岡部「お? お? どういうことだ?」
一夏「女子が着替えを始めるから急いで更衣室に行かないと!
アリーナに更衣室がある、実習の度に移動しなきゃいけないから急がないと遅刻する!」
岡部「う、うむ」
一夏も当然、コアのことは気になる。
けれど今はそれどころじゃなかった。
遅刻をすれば大変な目に合う。
それは岡部にも容易に想像が付いた。
261 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:12:41.44 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「行っちゃった……(ISのコアのみ? どういうこと?)」
シャル「っさ、紅莉栖も着替えないと」
セシリア「もたもたしていると、遅刻しますわよ?」
箒「早着替えには慣れておいた方が良い」
さすが専用機持ちと言った冷静な態度だった。
教室中が岡部の話題だと言うのに、彼女達は淡々と着替えを始めている。
紅莉栖「(目の毒です……本当にありがとうございました……ん?)」
そして再び目に入る、浴場で見た光景。
肉の園。饗宴。
箒の胸部は、聞きしに勝る凶器であることを紅莉栖は理解した。
262 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:13:42.25 ID:bi8IcoLso
ラウラ「どうした? 私の身体に何か付いているのか……?」
紅莉栖「いっ、いえ! なんでもないの!」
チラリと視線をラウラに向ける。
少しだけ、安心した。
紅莉栖「それにしても、私は技師な訳だが……操縦しなくちゃいけないのかしら」
スーツはISを装着するために必要なものであり、技師である自身が着る必要はあるのだろうか。
ボディーラインが簡単に見て取れるスーツは紅莉栖にとって拷問でしかない。
シャル「うーん、一応授業だからね。必修としてやらなくちゃいけないんじゃないかな」
紅莉栖「そっか。それもそうよね……にしても、この格好は恥しいわね……」
箒「直に慣れる。行こう」
冷静に斬って捨てられる。
これが年下だと思うと、なんだか悲しい気持ちで一杯になった。
263 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:14:13.60 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
264 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:14:39.24 ID:bi8IcoLso
─アリーナ更衣室─
岡部「これを……着るのか?」
手に持つ、不思議な着触りの布。
どうみても小さい。
一夏「ん? どうかしたのか?」
岡部「少し、ぴっちりしすぎじゃないか?」
良くDQNが好んで着るような、ぴっちりした服を連想してしまう。
勿論、それよりはスポーティーに出来ているがそれでも気後れしてしまう。
265 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:15:12.77 ID:bi8IcoLso
一夏「これさ、着る時に裸って言うのが着辛いんだよ。引っかかったり」
岡部「だろうな……」
男にしかわからない会話。
一夏同様、やはり着辛かった。
一夏「っま! その内慣れるさ」
岡部「慣れたくないものだが……。これは制服以上にキツいものがあるな……」
266 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:15:42.08 ID:bi8IcoLso
……。
…………。
………………
267 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:16:09.36 ID:bi8IcoLso
─第二グラウンド─
時間通りに生徒が集合する。
誰1人欠けることなく、綺麗に整列。
まるで恐怖政治のようだと岡部は思った。
千冬「本日は実演戦闘を行う。岡部と牧瀬は初回になるからな、織斑! デュノア! 軽く実演を行え」
一夏「了解」
シャル「はい」
箒「(っく、なぜ私じゃないんだ…)」
シャル「(選ばれなかった……ショックですわ……)」
ラウラ「(教官、私ではダメなのでしょうか……)」
選ばれなかったことにショックを受ける少女達。
少しでも一夏と一緒に授業を受けたい、そんな可愛い我が侭だった。
268 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:16:36.06 ID:bi8IcoLso
岡部「(えぇい、この服装は……目のやり場に困るではないか)」
紅莉栖「(もう……何なのよこの服装! ボディーラインが見えすぎじゃないの!?)」
その中、2人だけは自身の身を包むスーツに落ち着かずそわそわと心を騒がせている。
お互いがお互いの姿を凝視できなかった。
千冬「ざわつくな! 良いか二人とも、慣らす程度で良いからな。各人、両名の動きをちゃんと見るように」
千冬の号令で2人がスタンバイに入る。
──シュユゥゥゥゥン
独特の音を響かせ、一夏の右腕に装備された白いガントレットが光を放ち身体を包み込む。
次の瞬間、織斑一夏専用機 IS“白式”が現れた。
同様にシャルロットも専用機 IS“ラファール・リヴァイヴ・カスタムII ”を身に纏っていた。
展開速度は一夏よりもシャルロットの方が速い事が見てわかる。
269 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:17:06.12 ID:bi8IcoLso
岡部「これが、ISか」
初めて生で見るIS-インフィニット・ストラトス-。
その威圧感は相等なものだった。
紅莉栖「一夏のが“白式”第4世代のIS。ちなみに第4世代のISは“白式”と箒の“紅椿”の2機のみ」
さらりと紅莉栖が説明をつける。
何時の間にか岡部の隣を陣取っていた。
岡部「む……随分と詳しいじゃないか」
紅莉栖「これも常識だから、あんたも覚えておきなさい。シャルロット機の説明もいる?」
会話を交わすも、2人の視線は常に前を向いていた。
恥ずかしくて未だにお互いの姿を見れていない。
270 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:17:32.16 ID:bi8IcoLso
岡部「頼む」
紅莉栖「“ラファール・リヴァイヴ・カスタムII ”。ラファール・リヴァイヴをカスタムした第2世代型IS。
特徴は豊富な装備量で、どの様な場面でも即時対応が出来る。
彼女の得意技、高速切替(ラピッド・スイッチ)をもっとも発揮出来る機体ね」
短く、的確な説明。
知識が乏しい岡部の脳にも簡単に理解できた。
岡部「一夏の“白式”の説明も頼む」
紅莉栖「OK. “白式”世界でたった二機しかない第4世代型IS。
装備は“雪片弐型”(ゆきひらにがた)近接戦闘用の武装で白式の主力武装。
“ワンオフ・アビリティー”(単一仕様能力)は“零落白夜”(れいらくびゃくや)
対象のエネルギー全てを消滅させる。いわゆるチート武器ってやつね。
ちなみに、第1回IS世界大会総合優勝および格闘部門優勝者である織斑先生の搭乗していたIS“暮桜”も同じ“ワンオフ・アビリティー”だった。
未だ謎だらけの機体よ」
岡部「ふむ、詳しいなクリスティーナよ」
素直に感心する。
勉強熱心なのは知っているが、やはり紅莉栖の知識は半端じゃなかった。
271 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:18:01.57 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「表面的なスペックは公表されてるから、当然っちゃ当然。……始まるわよ」
千冬「(ふん、レクチャーしてやろうかと思ったが……その必要はなさそうだな」
そんな2人の姿を見て千冬が安堵した。
岡部の知識不足は牧瀬が補っているな、と。
シャル「行くよ、一夏!」
一夏「おう! 来い……!」
──シャゥゥン!
シャルロットの右腕に光が集まる。
右手に連装ショットガン“レイン・オブ・サタデイ”を呼び出し、一夏へとその銃口を向けた。
272 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:18:28.21 ID:bi8IcoLso
一夏「っく……!」
シャル「だめだめ! 近づけさせないよ……!」
弾丸の雨を潜りシャルロットに近接しようとする一夏だが、動きを読まれ一向に近づけない。
被弾を減らしつつ攻撃を凌ぐしかなかった。
シャル「まだまだぁ……行くよ!!」
──シャゥゥン!
右腕に持つ連想ショットガンを重機関銃“デザート・フォックス”に切り替え、その鉄量を持ってして一夏を攻め続ける。
火力が上がり、ダメージ量も加算された。
──ダダダッ!! ガンガンガンッッ!!
一夏「くっそ……!」
避けきれずに被弾する。
“雪羅”による“零落白夜”のバリアシールドを展開しようとしたが、シールドエネルギーのことを考え一夏は躊躇った。
おそらく、シャルロットの目論見は遠距離攻撃を繰り返し、シールドを展開させエネルギー切れを狙っている。
273 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:19:15.51 ID:bi8IcoLso
一夏「その手には……乗らないぜっ!!」
次の瞬間、一夏は“ダブル・イグニッション・ブースト”(二段階瞬時加速)を仕掛けた。
一気に詰められるシャルロットとの間合い。
一夏「決める……!!」
加速する世界の中で、一夏は“零落白夜”発動を発動させた。
一夏「うおおおおおおおおおお!!!!」
銃弾の雨を潜り抜け、その一太刀をシャルロットへと振り抜いた。
一撃。この一刀が決まれば試合は決着する。
274 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:19:55.13 ID:bi8IcoLso
シャル「掛かったね、一夏! “イグニッション・ブースト”からの、“零落白夜”……想定していれば、避けられるよっっ!!」
空を切り裂く“零落白夜”。
想定した手ごたえは一切感じることが無かった。
一夏「な……にっ」
全力で空振りをした一夏の隙をシャルロットは逃がさない。
とっさに“雪羅”によるクロー攻撃での返しを試みたが──。
──カツン。
シャル「チェックメイト……」
背中を取られた一夏……白式の背中に“灰色の鱗殻”(グレー・スケール)がカツンと当った。
零距離、それも背後からパイルバンカーを食らってはひとたまりも無い。
一夏の選択は一つだった。
275 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:20:26.40 ID:bi8IcoLso
一夏「……参った」
シャル「んふふっ、僕の勝ちだね♪ 二段階瞬時加速が思ったより速くて焦っちゃったけど、なんとか対応できたよ」
千冬「それまでッッ!!」
結果を見届け、千冬が試合終了の合図を出す。
シャルロットは上機嫌に。一夏は肩を落としながら地上へと降下した。
岡部「何が何だかわからない訳だが……」
岡部の感想は「とにかく、バンバン。ドカン」だった。
ISでの戦闘を始めて目の当たりにて、訳がわからないと言うことだけがわかった。
276 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:25:42.02 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「最初はそんなもんでしょ。あんた、教科書どこまで読んだの?」
岡部「半分だ。二日で読むと言ったからな」
紅莉栖「ふむん。ちゃんと読んでるじゃない、感心したわ」
勉強嫌いとは思っていないが、まさか本当に読んでいるとは。
おそらく、昨日の授業に一切付いて行けなかったことを恥ずかしがっているのだろうと紅莉栖は思い至った。
が、それは口にしない。
それほど野暮な女でもなかった。
277 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:26:08.27 ID:bi8IcoLso
セシリア「まったく、一夏さんったら最近たるんでるんじゃなくって?」
箒「まったくだ。鍛錬が足りていない証拠だな」
ラウラ「いや、そうとばかりも言えん。シャルロットの技術が上がっている。私もうかうかしてられんな……」
一夏「ふぅー、凶真にカッコ悪いとこ見せちゃったな」
シャル「一夏は最近考えて戦いすぎなんじゃないかな、そのせいで裏をかかれやすくなってると思うんだ」
一夏「スラスター増設とか、“雪羅”のエネルギーの食い方が半端じゃないからさ。どうしても短期戦で決めなきゃって思っちゃうんだよな」
シャル「うん。じゃぁまず──」
千冬「反省会は後にして、一旦集まれ」
岡部の耳に入ってきた会話。
それは天上人のそれかと思うほど、意味が理解できなかった。
教本で得られる知識は基礎の基礎。
しかもその半分しか読めていないのだから、理解するほうが無茶と言える。
けれど、理解しなければ居心地が悪い。
勉強量を増やすしかあるまい。と、心の中で決めた岡部だった。
278 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:26:34.65 ID:bi8IcoLso
一夏「あっ、はい!」
シャル「はいっ」
千冬「二人ともご苦労だった。デュノアは全体的に技術が上がってきているな。
織斑は考えて戦いすぎだ。お前はそう言う性格の人間じゃないだろう、もっと自分を見つめな直すんだな」
一夏「はい……」
姉には全てを見透かされていた。
ここ最近は頭でごちゃごちゃと考えて戦闘を行っている。
そのせいで戦闘成績は右肩下がりだった。
279 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:27:01.07 ID:bi8IcoLso
千冬「それでは、これより二人一組で軽い実戦を行う。専用機持ちはこれを補助、カバーしてもらう。解ったな!」
専用機持ち「「「「「了解っ!」」」」」
声が揃う。
一般生徒の補助を行うことも、専用機持ちの義務と言えた。
千冬「岡部、それと牧瀬はこっちだ……」
皆が戦闘訓練に入る中、千冬は岡部と紅莉栖を呼び寄せた。
岡部「む?」
牧瀬「へ?」
千冬「牧瀬は技術屋だ。無理にIS操縦をする必要もあるまい。
お前は生徒達の乗る“打鉄”に不備故障などが無いか見学していろ。目で見て不具合を察知出来るようになれ」
牧瀬「はっ、はい」
280 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:27:32.94 ID:bi8IcoLso
紅莉栖に仕事を与える。
やはり、学園から見ても紅莉栖の扱いには困っていた。
通常であれば1年生はすべからくISの実地を行うものである。
経験を積んでから技術職へ就くか、操縦者へなるか道を決めるはずだった。
しかし、紅莉栖はすでにIS学園3年生の技術科以上の力量を持っている人間である。
“国際IS委員会”からも強く“よろしく”と頼まれている手前、千冬も扱いに悩んでいる節があった。
千冬「さて。岡部、先ほど渡したコアの入った箱を持っているな?」
岡部「あっ……あぁ……はい」
千冬「よろしい。開けろ」
言われるまま開く小箱。その中には球体のISコアが入っていた。
その色は黒く暗く、全てを吸い込むような深い色をしていた。
281 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:28:08.66 ID:bi8IcoLso
岡部「これが……ISのコアか」
ダルが見たら喜びそうだ。
そう出かかった言葉を寸前のところで飲み込む。
紅莉栖「……」
ISの監視を頼まれた手前、堂々と口を挟めない。
けれど、興味津々に横目でチラチラと2人の様子を伺っていた。
岡部「ふむ、良い色だ……ダークマターと名付けようではないか」
紅莉栖「ナチュラルに、厨二乙……。顔、ニヤついてんぞ……」
我慢できずに突っ込みを入れる。
岡部のニヤけた顔は、厨二そのものの暗黒微笑だった。
282 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:28:34.66 ID:bi8IcoLso
千冬「名前などどうでも良い。持ってみろ……」
冷たい、無関心な突っ込みが入る。
岡部は反論することも出来ず、言われるがままにコアを手に持った。
──フィィィィィィィィン……。
瞬間、コアが一瞬光を放ち──消えた。
岡部「なにっ!? 消えたぞ!」
千冬「……右手の指を見てみろ」
紅莉栖「えっ、指輪……? 岡部がそんなお洒落アイテム持ってるはず……」
岡部「なんだ、これは……」
岡部の右手中指には黒い無機質な指輪が輝いていた。
千冬「おそらく……待機状態だろうな」
紅莉栖「待機……ちょっ、ちょっと待って下さい! コアの待機状態なんて、そんなの聞いたことも無い……」
待機状態とは、展開する機体があって初めて行う状態のことである。
コアの待機状態など世界中、どの文献を漁っても出て来はしない。
283 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:29:08.36 ID:bi8IcoLso
千冬「これを岡部にと用意したのは束だ。何かしら意味があるのだろう……」
紅莉栖「(篠ノ之 束の……)」
岡部「女史よ。それで俺は一体どうすれば……」
─パァンッ!
教簿アタック。
岡部の脳天に星が散った。
岡部「あだっ!」
千冬「織斑先生だ。同じ事を何度も言わせるな馬鹿者。以上だ。後は牧瀬と見学していろ」
岡部「俺は皆のようにISを操縦しなくて良い……のですか?」
これ以上、叩かれたくは無い。
痛みに涙を流しながら岡部が聞いた。
284 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:29:45.90 ID:bi8IcoLso
千冬「近い内に専用機が届く。それまでに変な癖をつける必要も無いだろう。わかったら黙って見学しておけ」
そう告げて、千冬は二人の元を離れた。
操縦に苦労する生徒の下へと歩み寄り、教師としての業務を開始する。
岡部「ふむ……それにしても、趣味の悪い指輪だ」
紅莉栖「さっきまで、「ダークマターと名付けよう……」とか何とか言っちゃってニヤついてた癖に」
岡部「あれはあの黒い球体だから良かったのだ!」
紅莉栖「はいはい厨二厨二」
岡部「ぐぬ……ぬっ!」
いつものように言い合いをしていると、突然岡部の顔が赤面して言葉が止まった。
視線が明らかに泳いでいる。
285 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:30:12.44 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「……ん? 何よ急に黙っちゃっ……て……」
岡部の視線を辿ると、どう見ても自身の身体を見つめている。
一気に顔面が熱くなるのを紅莉栖は感じた。
岡部「っべ、別に見ようと思って見たわけではないぞ!
貴様がそんなピッチリとした服を着ているから目線が行ってしまっただけで……」
紅莉栖「アンタがHENTAIだってことすっかり忘れてた! それに、そっちだって同じの着てるじゃないか!」
岡部「お前の貧相な身体など見るに値しな……」
言い放つ前に紅莉栖が放つ殺気を感じ取る。
目が据わっていた。
286 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:30:39.50 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「それ以上言ったら、ポン酢漬けにするわよ……」
岡部「……はい」
やはり、年齢と身体は禁句だな。と噛み締めた。
岡部「はぁ……しかし、とんでもない学校へ来てしまったものだな……。
見ろ。俺達よりも若い衆がISを乗り回して戦っている」
会話が一区切りし、2人で腰を下ろし見学をしていた。
クラスメイト達がおっかなびっくりにISを操縦し、模擬戦を行っている。
287 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:31:37.56 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「そうね。……──ねぇ、岡部」
岡部「ん?」
紅莉栖「やっぱり、その……怒ってる?」
紅莉栖は俯き、岡部の顔を見てはいない。
声からは元気も感じ取れなかった。
岡部「なんだ、急に」
紅莉栖「いや……だって、私が原因でここに居る訳だし、さ」
ずっと気になっていた。
恨まれたって不思議じゃない。
288 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:32:04.04 ID:bi8IcoLso
岡部「そうだな……」
紅莉栖「……」
肯定と取れる言葉に、目頭が熱くなるのを自覚する。
涙が出そうになった。
岡部「だが案ずるなクリスティーナよ。ここ最近は退屈していたところだ、この程度どうと言うことはない」
しかし続く言葉を聴いて心が安定した。
岡部の、人を心配する時の優しい声。
紅莉栖「岡部……」
岡部「ただ。ラボに行かない生活……と、言うのは少し味気なさを感じるな」
正直な、偽らない本音。
289 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:32:33.47 ID:bi8IcoLso
紅莉栖「そうね……」
岡部「次の連休当りにラボへ行かないか?」
紅莉栖「えっ……」
岡部「ホームシックになるのが早い、とまゆりに笑われてしまうな……」
紅莉栖「ううん。だって、あそこは岡部。あんたの日常だったんだもの。誰も笑いやしないわ」
もちろん、私も。
と付け加える。
290 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:32:59.76 ID:bi8IcoLso
岡部「……ふん。助手の癖に、言ってくれる」
紅莉栖「助手でもティーナでも無いと、言っとろーが」
語気は強くない。
拗ねた子どものように、唇を突き出した可愛らしい反応だった。
岡部「はははっ……ここでも楽しくやれると良いな」
紅莉栖「そうね。でもきっと大丈夫よ、良い人達ばかりだもの」
岡部「そうだな……」
遠くで皆の声が聞こえる。
視線を向けると、専用機持ち達がじゃれあっていた。
291 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:33:27.85 ID:bi8IcoLso
ラウラ「待て一夏! 今度は私と勝負しろ!」
セシリア「いーえ! 今度こそはわたくしのブルーティアーズとですわ!」
箒「次は私と戦う約束だったろう! おい一夏逃げるなっ!!」
シャル「あ、あはは……大変だね、一夏」
一夏「笑ってないでシャルも何とか言ってくれよ!」
シャル「いやぁ、僕はさっき戦っちゃったから何も言えないよ。ごめんね一夏」
ラウラ「いー」
セシリア「ちー」
箒「かぁぁぁ!!」
一夏「うわああああ!!!」
追い掛け回される一夏。
1年1組の日常。
紅莉栖「ね?」
岡部「あぁ、まったくだ」
これからは、岡部と紅莉栖を取り巻く日常になる。
愉快な仲間達だった。
292 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/24(月) 12:33:54.31 ID:bi8IcoLso
おわーり。
ありがとうございました。
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[saga]:2012/09/24(月) 13:49:12.76 ID:id2zW01po
おつ
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/09/24(月) 13:57:11.28 ID:YL2uA+Iv0
>>293
sage進行の文字読めないの?
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/24(月) 21:35:24.14 ID:TlcH7PFDO
前のやつ読んでたからこれは嬉しいisのSSは前のと一夏「ISなんて俺は認めない」ってのがスキだったから感激
紅莉栖は普段自分のまわりにも大きい(ルカ子除く)のがたくさんいるやん(笑)
それにオカリンもハーレムだし(笑)
296 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:15:55.98 ID:0ay9SqgKo
投稿します。
297 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:16:36.32 ID:0ay9SqgKo
>>291
つづき。
……。
…………。
………………
298 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:17:10.55 ID:0ay9SqgKo
………………
─我輩は猫である(名前はまだ無い)─
束「でーきたーっ!! さすが束さん、天才だなぁー。昨日の今日で出来ちゃうなんて天才だなーでもちょー疲れたー」
束の眼前に鎮座する石のような鉄の塊。
暗闇に飲まれた室内で、ディスプレイの微かな明かりが岡部倫太郎の専用機を照らした。
専用機と言っても“形はまだ無い”。
束「さてさて、これがどうなるか楽しみだね。早くデータ欲しいなー、どうなるのかなー」
くー「IS学園にお運びしますか?」
束「にゃ! 気が利くね、くーちゃん! それじゃ、お願いしよっかな。場所は……うん、お部屋の前で良いよもう」
考えるのが面倒だった。
運んであげるだけで破格の対応。
本来であれば自分から取りに来ると言うのが筋と言うものだろう。
と束は思っている。
299 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:17:38.49 ID:0ay9SqgKo
くー「……はい」
束「どうせ、いっくんと同室だろうし何とかなるってなるって。
それより束さんは眠いので寝ちゃいまーす! おやすみー!! やー久々疲れたー!!」
くー「……行って参ります」
ディスプレイに突っ伏し寝てしまった束にタオルケットをかけ、深夜のIS学園へと銀髪の人影が潜入する。
この日、幾重にも張り巡らされた警告機が作動することは無かった。
300 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:18:04.41 ID:0ay9SqgKo
……。
…………。
………………
301 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:18:39.01 ID:0ay9SqgKo
─自室─
一夏「シャルに負けたのが悔しくて、良く眠れなかったな……」
早朝。
未だに眠っている岡部倫太郎を他所に、織斑一夏は歯を磨きながら思い悩んでいた。
織斑一夏のIS戦闘成績はこのところ芳しくない。
“白式”が第二形態へ移行し、攻撃力や攻撃の幅も増えたがエネルギーの問題も大幅に増えた。
更識 簪(さらしき かんざし)のお陰で多少のエネルギー問題は解決されたものの、未だに多数の問題を抱えている。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。シャルロット・デュノア。この2人に対し、1on1での戦闘では全く持って歯が立たなくなっていた。
以前より差が開いてしまったとすら一夏は感じていた。
302 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:19:09.03 ID:0ay9SqgKo
一夏「来週のクラス内対抗戦……頑張らないと……」
1人、強く決心する。
男として負けられないと言う気持ち。
岡部と言う同性のIS使いが転校して来たため、より一層気持ちに力が入った。
そんな時。
──シュィィィイイイイン!!
耳に入る音。音源はドア付近。
視線を向けると、閃光のようなものを一瞬だけ捉えることが出来た。
一夏「……なっ!」
凶器は水状の刃。
それがバターのように、鉄製のドアを切り裂いた。
303 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:19:39.65 ID:0ay9SqgKo
???「ふう。お邪魔しまぁす」
一夏「何やってるんですか、楯無さん」
楯無「あら……? 一夏くんったら随分と早起きさんなのね?」
ドアを斬り破って登場したのは、IS学園2年生で生徒会長。
更識 楯無(さらしき たてなし) であった。
ドアを斬り裂いたであろう、蛇腹剣“ラスティー・ネイル”はその手になく、何時も通り“惨状”と書かれた扇子が開かれている。
参上と惨状をかけているのだろう。
一夏にとっては全く笑えなかった。
304 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:20:06.88 ID:0ay9SqgKo
一夏「ドアの修理、申請しておいて下さいよ……」
登場する度にドアを破壊されたのではたまらない。
千冬にお叱りを受けるのは、何時も決まって一夏だった。
楯無「やん。怒っちゃやーよ? おねーさんは一夏くんの寝顔を見に来ただけなの。
それなのに、もう起きてるなんて……きみ、 な ま い き だ ぞ♪」
楯無はツンツン、と扇子で一夏の鼻先を突付いた。
一夏は眉毛をピクピクと震わせている。
一夏「……怒りますよ」
楯無「もー、一夏くんってば何時にもましてイケズなんだから。どうしたの? 悩みがあるならおねーさんが聞いてあげようか?」
一瞬、戦闘のことについて相談しようとも思った。
けれど自分の力でどうにかしたい一夏は、歯切れ悪く口を閉ざすことしか出来なかった。
305 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:22:07.62 ID:0ay9SqgKo
一夏「別に……無いですよ」
楯無「(可愛いんだから……)」
全てを見透かすように笑む楯無。
口元を見られないように扇子で表情を隠していた。
楯無「ふふっ、それより一夏くん。ドアの目の前にあーんな大きな荷物置いておくの、おねーさんは関心しないかな?」
一夏「荷物……? 何のことですか?」
楯無「あら? 自覚無し?」
一夏「???」
楯無「うーん、じゃぁ直接見てみた方が早いわね。こっちこっち」
そう言って一夏の手を引っ張り廊下へと連れ出す。
短い距離だと言うのにスキップをするせいで、スカートがひらひらと舞い上がる。
一夏は視線のやり場にこまりつつも、従い廊下まで足を運んだ。
306 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:22:35.54 ID:0ay9SqgKo
一夏「これ……は……」
一夏と岡部の部屋の前。
廊下には黒い石のような塊が鎮座していた。
触るとひんやりとしていて、鉱石のようで鉄のような不思議な雰囲気を醸し出している。
楯無「何かしら、これ?」
感情を読み取らせない声質。
探るように一夏へ問いただすも、
一夏「さぁ……俺は知りませんけど」
知る由も無かった。
307 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:23:05.26 ID:0ay9SqgKo
楯無「うーん、じゃぁやっぱり……“彼”関係かしらね?」
一夏「彼?」
楯無「岡部──倫太郎」
岡部倫太郎。
そう呟いた楯無の瞳は何時ものような柔和な輝きは無く、鋭く冷たい更識家頭首のソレであった。
一夏「凶真の物ってことですか……?」
楯無「さぁ? 直接聞いてみないと……」
そう言って後ろを振り向く。
すると今まさに、件の岡部倫太郎が顔を引きつらせていた。
308 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:23:48.00 ID:0ay9SqgKo
岡部「なっ、なんだコレは……何故ドアが無くなってるんだ……」
楯無「あはっ。都合よく起きたみたい♪」
切り裂かれたドアを見て呆然としている岡部を見て笑いをこぼす。
今では一夏もあまり驚かなくなったが、以前はあのような表情を作っていたなと思い出していた。
一夏「これだけ騒げば誰だって起きますよ……」
呆れる一夏。
楯無の表情を見て、驚き慌てる凶真に対するソレだとわかっていた。
岡部「ワンサマー! これは一体……な、んだコレは」
驚きの連続。
朝起きて、ドアが切り裂かれていたら誰でも驚くだろう。
そしてドアの前に妙な物体があれば誰でも言葉を失う。
岡部のリアクションは当然のものだった。
309 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:24:16.25 ID:0ay9SqgKo
一夏「おはよう、凶真。起こしちゃったみたいでごめんな」
楯無「はぁい♪」
ドアと物体の交互に視線を送っていると一夏から声がかかった。
その隣には見知らぬ女性。
岡部「む? 誰だ貴様は」
一夏「えっと、この人は……」
説明を求める岡部に答えようとした一夏だが、
楯無「更識 楯無。IS学園2年生で生徒会長をやってるわ。よろしくね? 岡部──倫太郎ちゃん?」
楯無は自らの紹介を進んで行った。
310 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:24:46.14 ID:0ay9SqgKo
岡部「なっ……倫太郎ちゃん?」
話しに付いていけない。
一方的にことが進んで行く。
言葉を話す隙間が無かった。
楯無「うーん、ちょっと長いかしら? 倫ちゃん? うん、倫ちゃんなんて良いんじゃない?」
一夏「それって鈴と発音が被りませんか?」
楯無「あら……それはちょっと困っちゃうわね。うーん……」
岡部「うーんではない! おい、ワンサマーなんだこの異様に馴れ馴れしい女は」
ようやく一言物申すことができた。
寝起きだからだとか、そんな理由ではなく話しについていけない。
311 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:25:12.62 ID:0ay9SqgKo
楯無「もう、今さっき説明したばかりじゃない」
岡部「そう言う意味では、あぁもう。話しが通じん。フェイリスより質が悪いな……」
一夏「ふぇいりす?」
岡部「あぁ、すまん。こちらの話しだ」
ラボメンである“フェイリス”のことを思い出した。
彼女もまた、人の話しを聞かない。
けれど、楯無とは全く違う性質のものだった。
話しに割って入っていけない。完全に置いて行かれる。
312 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:25:46.49 ID:0ay9SqgKo
楯無「で、倫ちゃんはコレが何か解る?」
楯無は再び会話の主導権を握った。
もはや岡部に舵を奪うことは不可能と言える。
一夏「結局、それに落ち着くんですか?」
楯無「だって、可愛いもの。字面で違いは解るわよ、きっと♪」
そして決まる新たなあだ名。
倫ちゃん。
納得行くはずが無い。が、拒否したところで結果は同じだろうと諦めるしかない。
岡部「(この手の人種は苦手だ……)」
一夏「まぁ良いか。凶真、これ何だかわかるか?」
まぁ良いか。ではない。そう言い掛けてやめる。
これ以上、朝から疲れたいとも思えなかった。
313 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:26:12.93 ID:0ay9SqgKo
岡部「いや、さっぱりだが……」
本当に検討がつかない。
見に覚えも無ければ、今までの人生でこれと似たようなものなど見たこともなかった。
楯無「うーん、おねーさんのレーダーにはコレが倫ちゃん関係だってずびずばキてるんだけど……。
ねぇ倫ちゃん。本当に心当たりない?」
岡部「だから、無いと言っているだろう。それに、貴様さっきから馴れ馴れしいぞ。
第一お姉さんお姉さんと言っているが俺の方が年上だろう、どう考えても」
高校に通ってる以上、何年生であろうと年下であった。
留年を繰り返しているのなら別だが、成績優秀者しか入れないIS学園ではそれも考え辛い。
314 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:26:39.39 ID:0ay9SqgKo
楯無「いやん。年齢なんて関係無いわ。おねーさんはおねーさんだもの。ね? 仲良くして欲しいな?」
岡部「(っく……顔が近い……)」
赤面する。
年下だと言うのに、楯無と言う生徒は妙な色っぽさを見に纏っていた。
楯無「うふっ……照れちゃって、倫ちゃんも一夏くんと同じ位可愛いかもしれないわね」
くすりと微笑む。
本心なのか、嘘なのか。全く表情から読み取れない。
一夏「(凶真……楯無さんに目を付けられたら、すまん。守れそうに無い)」
額に手を当て溜息を吐く。
一夏もまた、楯無の被害者である。
紅莉栖「──岡部?」
一向に話しが進展せず、岡部が楯無にからかわれていると声が掛かった。
315 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:27:06.57 ID:0ay9SqgKo
岡部「紅莉……スティーナか。どうしたこんな時間に」
紅莉栖。と言いかけて改める。
呼び捨ては未だに恥ずかしさが残っていた。
紅莉栖「いや、朝食を一緒に食べにって……なに、これ?」
余りにも異質。
存在感の塊だった。
岡部「わからん……」
キッパリと言い切る。
わからないものは、わからない。
楯無「あら、貴女が噂のクリちゃん?」
岡部の背に隠れた形になっていた楯無がひょっこりと顔を出す。
そしてまた、聞き慣れないアダ名をその口から吐き出した。
316 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:27:34.87 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「くっ、くり!?」
楯無「更織 楯無。ここの生徒会長やってるの、よろしくね」
呼び名に驚く紅莉栖を他所に、にこやかな笑顔を作り右手を差し出す。
釣られ、紅莉栖もその握手に答えた。
紅莉栖「生徒会長……?(って、確かロシアの正式な代表じゃ……)」
楯無「まぁまぁ、そう肩肘張らずに仲良くしましょうね♪」
紅莉栖「はぁ……」
楯無「で、クリちゃんもこの塊の正体を知らないっと……」
ふうむ、と可愛らしい声を漏らして腕を組む。
全く持って正体不明の鉄球。
切り裂いて見ようかとも思ったが、これが何かわからない以上は迂闊に手を出すことも出来ない。
317 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:28:01.18 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「(ちょっと、岡部! どういうことだ、説明を希望する!)」
岡部「(知らん。俺も今さっき起きたところで状況が掴めんのだ)」
岡部の袖をぐいと引っ張り、静かなる怒声を発する。
この物体と、楯無についてだった。
そんな時だった。
コツコツとヒールの響く音と共に千冬が姿を現す。
千冬「どこの馬鹿者だ! 朝っぱらから騒いでいるのは」
一夏「ちっ、千冬姉ぇ……」
千冬「一夏……やはりお前か……」
何時も騒ぎの中心は実弟である一夏だった。
千冬の、姉の悩みの種。
318 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:28:35.01 ID:0ay9SqgKo
一夏「いやっ、その……違うくて……でもまぁ結果……はい、そうです」
否定したい。
否定したいけれど、否定できない。
自身が原因じゃないにしろ、騒動の渦中にいるのは紛れも無い事実だった。
千冬「んんっ。織斑、状況を説明しろ。ドアが無くなっている理由もな」
そんな弟の心境を察してか語気を緩める。
騒ぎの中心にいるとは言え、自らが騒ぎを起こしている訳ではないことも知っていた。
一夏「えっと……ドアは盾無さんで、この塊は……」
楯無「〜♪」
そっぽを向いて口笛を吹く。
「私、しーらない」そんな表情だった。
319 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:29:04.46 ID:0ay9SqgKo
一夏「この塊は朝起きたらここにありました」
千冬「起きたらあった?」
一夏「はい」
誰にも気付かれず、こんな巨大な物を廊下に放置出来る人間。
そんな離れ業をこなせる人間などそう多くない。
答えは簡単だった。
千冬「はぁ……」
大きく溜息を吐いて、額に手を当てる。
ッチ。と小さく舌打ちを鳴らしてから、
千冬「岡部、ちょっと来い」
岡部を呼んだ。
この物体を放置する訳にも行かない、もう少しすれば殆どの生徒は目を覚ます時間になる。
そうすれば騒動は更に大きくなると予想したからだった。
320 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:29:33.44 ID:0ay9SqgKo
岡部「む?」
千冬「良いから来い。こいつに一度でも触れたか?」
岡部「いや、一切触れてないが……」
千冬「触ってみろ。指輪をしているのは右手か? なら右手でな」
紅莉栖「(っ! まさか……)」
楯無「(……そういうこと)」
一夏「?」
千冬の言葉で得心がいく2人。
尚もクエスチョンマークの噴出が収まらない一夏。
321 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:29:59.72 ID:0ay9SqgKo
岡部「こんな得体の知れない物に触れと言うのか……」
怪訝な表情を浮かべる岡部。
千冬「良いから触れ。命令だ」
けれど逆らえる雰囲気ではなかった。
いや、雰囲気云々ではなく千冬には逆らってはいけないと本能がそう告げている。
岡部「っく……」
恐る恐る、岡部はその塊に右手を差し出した。
中指の先端が触れる。
そこからゆっくりと、掌を押し付けるように触れた。
ひんやりとしていて不思議な質感を持っていた。
《“コア”確認 起動》
突如現れる立体ディスプレイ。
起動。と言う文字が塊を取り囲む全員の目に映った。
322 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:30:35.62 ID:0ay9SqgKo
岡部「なっ!?」
次の瞬間、岡部の身体は塊に“飲み込まれた”。
一夏「えっ! 凶真!?」
紅莉栖「岡部っ!!」
千冬「……」
楯無「……」
慌てて駆け寄る一夏と紅莉栖だったが、既に手遅れ。
完全に岡部を飲み込んだ塊は動きを停止していた。
一夏「なっ、ちょっと! おい!」
ガンガンと塊を叩くも、腕が痺れるだけ。
何の反応も返ってこない。
323 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:31:06.48 ID:0ay9SqgKo
一夏「くそっ、なんだってんだ……!」
──“白式”!
そう叫び、ISを展開させようとした一夏の腕を千冬が取り押さえた。
千冬「少し、待て」
一夏「えっ……」
そう言われた直後だった。
岡部の身体を完全に飲み込んだ塊が形を変形し始める。
ぐにょりぐにょりと形を変えていく。
その様はまるで、映画に出てくる知性を持った液体金属の変形のようだった。
324 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:31:40.38 ID:0ay9SqgKo
千冬「これは……」
楯無「この形は……」
《形状記憶 固定完了 フォーマット・フィッティング開始》
岡部「(なんだ、何が……起こった? 暗くて何も見えない……)」
なにも見えなかった。
塊に取り込まれてからと言うもの、体は動かず声もあがらない。
視界も塞がれ何も見えない状況だった。
325 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:32:09.05 ID:0ay9SqgKo
一夏「IS……なのか?」
紅莉栖「岡部……」
《フォーマット・フィッティング 終了》
球体から“機体”への変化。
そして、黒一色だった機体の色は淡いクリーム色がベースのものへと変化していた。
千冬「今のが……」
楯無「ファースト・シフト……?」
一夏「初期設定が終わったってことか……?」
紅莉栖「でも、この形って……」
岡部「むっ……視界が一気に開け……ぬぁっ!? なんだコレは!?」
操縦者の知覚を補佐する役目を担うハイパーセンサーに岡部は戸惑いの声を上げる。
先ほどと打って変わって、岡部の視界は全方位が知覚出来る世界へと変貌を遂げていた。
そのフォルムは独特で、一切の肌の露出が無く端から見れば搭乗者が岡部倫太郎だと解る要素は何一つ無かった。
岡部「これが……俺のIS-インフィニット・ストラトス-……なのか?」
326 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:32:48.32 ID:0ay9SqgKo
……。
…………。
………………
327 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:33:15.72 ID:0ay9SqgKo
─職員室─
千冬「はぁ……」
柄にも無く、織斑千冬は深い溜息を付いた。
原因は今朝方に起きた岡部倫太郎の専用ISに他ならなかった。
千冬「束め……もう少し、時と場所を考えられなかったのか」
言葉を吐いた直後に、そんなことを期待出来る友人ではない。
と、思い出し自分に悪態を付くしかなかった。
その後は少々……と付けるには控えめなほど騒ぎになった。
寮の廊下でISを完全展開したのであれば、他の部屋の生徒が気付かないはずもなく、その場で岡部専用機のお披露目会場と相成ってしまった。
ご丁寧なことにも、完全展開後に束のホログラフィックによる機体説明まで始まってしまったので尚の事だった。
早朝だからとたかを括っていた自分を殴りたい気分になる。
328 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:34:00.70 ID:0ay9SqgKo
束「はろはろーん! この説明が流れてるってことは、ファースト・シフトが終わったってことだね。うんうん、良いことだ!
どんな形になったのかな? ホログラフの束さんじゃ見れないから、リアルタイムで観測出来ないのはちょっと残念かなー。
まっ、良いや。簡単に説明しちゃうよ? 準備は良い? 良くなくても始まっちゃうからね!
この映像は一度きりだから聞き逃しても束さん知らないからねー」
陽気な声とは裏腹に、束のホログラフが廊下で演説したものは衝撃的なものだった。
一学校の、それも廊下でするような内容では無い……と言う意味で。
──今、君が纏っているのは第5世代相当の新型IS。
この、たった一言が世界へどれだけの影響を与えるかを束は理解しているのか。
織斑千冬がどれだけ思いを馳せ様とも、ホログラフの演説が止まる事は無論、ありはしなかった。
演説の最中に人が人を呼び、何時の間にか廊下は大混雑。
見渡せば自らが受け持つクラスの生徒……専用機持ちも集合していた。
329 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:34:29.28 ID:0ay9SqgKo
束「第5世代相当……って言うのは、厳密には違うってことね。第4世代のコンセプトが全領域・全局面展開運用能力。
これが完成・完結してない訳だから、次にシフトする先がまだ無い訳。つまり、この機体が目指した場所は全く違う結末なのだよ」
──コアと搭乗者による、完全自立進化型。
束「バススロット無し! 初期装備無し! もーなんも無し!
フィッティングが終わって、ファースト・シフト移行しないとどんな装備なのか。
ましてや、フォルム自体もコアと搭乗者任せだから想像付かないわけ。
後の装備は箒ちゃんの乗ってる“紅椿”と同じように“無段階移行”(シームレス・シフト)にお任せ!
っちゅーか、“無段階移行”に完全依存だね、うん。後は頑張れ!」
──ブツン。
速射砲の様に用件だけを言い終わると、ホログラフは消えてしまった。
ざわつく廊下。
“完全自立進化型”そんな世界的発表をこんなところでしてしまったのだ。
騒ぎが簡単に収まるはずが無かった。
330 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:34:58.34 ID:0ay9SqgKo
取りあえず、生徒を部屋に戻さねばと千冬が口を開こうとした時。
──ブツン。
束「いやー忘れてた! まだ見てる? 見てなくても喋るけどねー。
その子の名前は──“石鍵”(いしかぎ)。
君がその子を、石くれで出来た鍵のままにするのか。それとも世界を開く鍵にするのか。楽しみにしてるよん。
完全自立進化だからね、第1世代に劣るスペックにもなれば、それこそ本当にそのまま第5世代になるのかもしれない。
全ては君次第だー! なんちゃって」
──ブツン。
こうして岡部倫太郎専用IS “石鍵” はIS学園1年寮の廊下で誕生した。
331 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:35:36.28 ID:0ay9SqgKo
千冬「噂は既に校内全ての生徒に行き渡っているだろう……場所は地味だが、最高に派手で迷惑なお披露目だ」
山田「私はその時間、まだ眠っていたので直接見れなかったのは残念ですが……」
千冬「山田先生はもう少し早めに起きる習慣を付けた方が良い」
山田「あう……すみません。でも、即時万能対応機すら机上の空論だったのに“完全自立進化型”ISなんて……」
千冬「また、荒れるだろうな」
火を見るより明らかだった。
世界中、どの国も喉から手が出るほどデータを欲しがるだろう。
岡部倫太郎を欲しがるだろう。
学園に居る以上は生徒。それを守るのも教師の仕事であった。
残業がまた増えるなと、心の内で悪態付く。
山田「えぇ……岡部君も、一夏君 箒さん同様にどこにも所属していない専用機持ちになってしまいましたし。
これから先、日本人生徒3人の所属について各国が大荒れするでしょうね」
千冬「生徒を守るのも教師……担任の務めだ。副担任にも頑張って貰うだけさ」
山田「あう……が、頑張ります」
ニヤりと邪悪な笑みを浮かべる。
苦労を背負うのは教師だけで良い。
そう思う千冬だった。
332 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:36:05.58 ID:0ay9SqgKo
……。
…………。
………………
333 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:36:32.94 ID:0ay9SqgKo
─教室─
教室は既に岡部専用機の話題で持ちきりだった。
現場に居合わせた生徒が、当事者足り得なかった不幸な生徒へと臨場感ありありで説明を施す。
どこの学年、クラスも似たようなものだった。
岡部「なんだか……視線が痛いのだが」
紅莉栖「当たり前でしょ……世界初の試み、その中心人物になっちゃったんだから」
教室中から集まる視線。話し声。
その喧騒は廊下まで続き、他クラスからも岡部を一目見ようと生徒が集まってきていた。
334 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:37:12.99 ID:0ay9SqgKo
シャル「それにしても、完全自立進化型って一体どういうことなんだろ。僕、途中からだったから色々聞き逃しちゃった」
セシリア「私もですわ」
ラウラ「倫太郎。説明しろ」
箒「姉が迷惑をかけたようで……申し訳ないな」
話しを聞きたいけれど、恐れ多くて近寄れない。
面識がないのにどうやって話しかけようかと思い悩む女子生徒達を尻目に、何時もの面子が岡部の元へと足を運ぶ。
岡部「いや、俺もまだいまいち把握出来ないのだ。それに、シノノノノよ。お前が気にすることではない」
箒「そう言って貰えると助かる……」
呼ばれた名前に違和感を覚える。
けれど、違和感の正体はわからなかった。
自身の姉が迷惑をかけた。
自責の念が勝り、違和感の正体を探るまで気が回らない。
335 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:37:40.89 ID:0ay9SqgKo
一夏「今日は実習無いからな、放課後にアリーナで動かしてみるってのはどうだ?」
一夏が明るい声で稼動テストの提案を持ちかける。
興味があるのは一夏も同じだった。
シャル「賛成!」
ラウラ「クラス内対抗戦も近い、トレーニングの時間は多ければ多いほど良い」
セシリア「わたくしもお手伝い致しますわ。新型ISと言うもののスペック、この目で確かめて差し上げます」
箒「私で良ければ幾らでも実験相手になろう」
楯無「決まりね♪」
一夏の提案に皆が頷く。
そこへ1人、埒外の人間がいた。
336 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:38:07.28 ID:0ay9SqgKo
一夏「うわっ! 楯無さんっ、何時の間に……」
楯無「あら? 最初から居たわよ?」
バッ。と何時ものように扇子を開き妖艶な笑みを浮かべる。
扇子には“隠密”と達筆な文字で書かれていた。
一夏「クラス内で気配消さないで下さい……」
まったく持って気配を感じ取れなかった。
生身の楯無と渡り合うにはISを展開しても不十分なのでは。そんな気さえ起こさせる。
一夏「うわっ」
楯無はそのまま後ろから抱きつくように一夏へ纏わり付いた。
発達した乳房が一夏の背中を圧迫し、年頃の男子高生は頬を赤らめるしかない。
337 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:38:36.37 ID:0ay9SqgKo
箒「ぐぬ……っ」
セシリア「むっ……」
シャル「あぅぅ……」
ラウラ「ッチ……」
四者四様の反応を見せる乙女を尻目に楯無は話しを続ける。
ラウラに至ってはナイフを取り出しそうになるも、ぐっとその気持ちを抑えた。
IS学園最強の称号は伊達ではない。ラウラの技量ですら楯無に傷を付けることは敵わない。
力量の差を自身でもって理解していた。
楯無「それじゃ倫ちゃん、放課後ね?」
決定事項。
これは決まっていることなのだと言わんばかりの態度。
それを感じ取った岡部は隣の席に座る紅莉栖へと疑問を投げかけた。
338 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:39:09.61 ID:0ay9SqgKo
岡部「なぁ助手よ。この学校へ来てからと言うもの、自由意志が剥奪されているように思えるのだが」
紅莉栖「助手言うな。ラボでは傍若無人だったあんたが振り回されてる光景はまぁまぁ面白いわよ。
是非ともまゆりや、橋田に見せたいわね」
期待した返答は返ってこない。
それどころか、さらなる追い討ちを加えてくるほどだった。
岡部「ラボの創始者たる俺の無様な姿を見たいラボメンなど、居ようはずもないだろう」
紅莉栖「ここに居る訳だがなにか」
一方的に攻撃を受ける岡部。
慣れているとは言え、そろそろ本気で傷つきそうであった。
楯無「もー、二人の世界に入っちゃダメよぅ。私も一夏くんと二人の世界に浸っちゃうぞ?」
むぎゅう。
一夏に抱きつく力を強める。自己主張の激しい胸部が形を変えた。
339 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:39:38.18 ID:0ay9SqgKo
一夏「ちょ、ちょっと楯無さん当ってる、当ってます……」
楯無「(当ててるの♪)」
耳元でそっと囁く。
一瞬にして一夏の顔は耳まで真っ赤に染まりあがった。
一夏「……」
箒「いい、いい加減にしろこの破廉恥が!!」
セシリア「い、一夏さんが望むのなら私だって……!!」
シャル「一夏のえっち……」
ラウラ「嫁、と言う言葉の意味がわかって無いらしいな……」
340 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:40:07.31 ID:0ay9SqgKo
竹刀を手にする者。
張り合おうとする者。
傍目に見て落ち込む者。
殺意を向ける者。
そんな時だった。
最悪の来訪者が訪れたのは。
鈴音「一夏ぁ、聞いたわよ。朝大変だった……んだ……て、……」
ガラガラと音を立てて扉を開く。
鈴音の視界に入ったのは、楯無に胸を押し付けられ赤面しつつも喜ばしい表情を作る幼馴染の姿であった。
高速のIS展開。
一夏が誤解だと叫ぶ間もなく鈴音はIS“甲龍”を見に纏っていた。
341 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:40:35.30 ID:0ay9SqgKo
鈴音「よし、殺そう」
殺意を意のままににせず、行動へ。
その声に抑揚はなかった。
鈴音「“双天牙月”(そうてんがげつ)」
大型の青龍刀を2本呼び出し連結する。
そうすることで、鈴音お得意の投擲武器へと変貌を遂げた。
一夏「なっ! 鈴、っちょ、お前っ!!」
箒「いー……」
セシリア「ちー……」
シャル「かぁ……」
ラウラ「報いだ……」
鈴音「死ねぇぇぇえ!!!」
一夏「簡便してくれえぇぇぇ!!」
投げ放たれる“双天牙月”。
一夏の味方は教室内に誰一人として存在しなかった。
騒動の発端であるはずの楯無ですら、今や密着を解除し傍観を決め込んでいる。
342 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:41:02.61 ID:0ay9SqgKo
楯無「うふふっ。愉快なクラスね?」
岡部「恐ろしい女だ……」
先ほどまで一夏に密着していたと言うのに、何時の間にか距離を取っていた。
一夏に対しては気の毒と言う他ない。
楯無「それじゃぁ、放課後にまた会いましょうね。ばいばい、倫ちゃん」
紅莉栖「(なんて馴れ馴れしい女なの……って言うか、倫ちゃんって! 倫ちゃんて!!)」
笑顔で立ち去る楯無。
去り際に放った台詞で紅莉栖の心が荒れたのは説明するまでもなかった。
343 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:41:31.15 ID:0ay9SqgKo
……。
…………。
………………
344 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:42:15.21 ID:0ay9SqgKo
授業をこなし、一行は第2アリーナへと足を運んでいた。
─第2アリーナ・ピット内─
岡部「何か、かなりの人数がアリーナ席に居る気がするんだが……」
紅莉栖「そりゃそうよ、新型ISの初お披露目なんだからね」
すでに展開されている“石鍵”に機器をつけ、データと睨めっこをする紅莉栖が呟いた。
カタカタとキーボードを叩く音が控え室に響く。
岡部「それにしても……いきなりこんな対戦形式にする必要があったのか?」
紅莉栖「まぁ、よちよち歩きしながらレクチャー受けるよりは経験値になるんじゃない?
“無段階移行”システムだから、実戦稼動が一番経験値に繋がるんだろうし……。
このシステム自体、組み込まれてる機体が“紅椿”と“石鍵”だけだから解らないことだらけなんだけどね」
岡部「いきなりワンサマーと戦うことになるとはな……」
345 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:42:46.26 ID:0ay9SqgKo
──。
────。
──────。
346 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:43:15.03 ID:0ay9SqgKo
一夏「で、どうする?」
第2アリーナ入り口。
全員で顔を付き合わせた状態で最初に口を開いたのは一夏だった。
岡部「どうするとは?」
意図が読み取れず聞き返す岡部。
それに答えたのは、他の専用機持ち達だった。
シャル「うんと、どう言った練習にする?」
箒「岡部はもう教本を全部読んでいるのか?」
岡部「教本は全て読んだ。しかし、基礎的なことしか書いて無かったからな、練習法などはさっぱりだ」
千冬から受け取った教本は宣言どおり、2日間で読破していた。
ISの基本的な動作、専門用語はすでに記憶してある。
しかし、手始めになにから始めたら良いのか。
そう言ったhow-to要素は記されていない。
347 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:43:43.42 ID:0ay9SqgKo
ラウラ「ならば、実戦が一番手っ取り早いだろう」
鈴音「そうね。その方が“石鍵”がどんなISなのかも解るし」
セシリア「決まりですわね」
岡部「む?」
箒「問題は誰と戦うかだな」
岡部「戦う?」
岡部を置き去りに話しが進む。
何時も通りの流れだった。
348 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:44:10.73 ID:0ay9SqgKo
一夏「なぁに、大丈夫だって。俺も初めての時はいきなりセシリアと戦った訳だしな」
セシリア「もうあの頃のようにはいかなくってよ! 相手が初心者であれ全力でいかせて頂きますわ」
シャル「全力で行っちゃダメだよ、セシリア……」
息巻くセシリアをシャルロットがなだめる。
これは戦闘ではなく、起動テストの意味合いが強いのだと。
ラウラ「一先ず、志願したい者は挙手しろ」
ラウラの宣告で、専用機持ち6人の手があがった。
その手の中に楯無のものは含まれていない。
一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ。
何時も通りの面子。
349 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:44:55.04 ID:0ay9SqgKo
楯無「うふっ。倫ちゃんモテモテねー」
紅莉栖「楯無さんは良いんですか?」
くすくすと笑う楯無に声をかける。
紅莉栖は楯無が訓練を手伝うものだとばかり思っていた。
現役の高校生でありながら、現役の“国家代表選手”。
その実力も情報も乏しく、出来うることならば知識として見ておきたいと言うのが本音だった。
楯無「呼び捨てで良いわよ、クリちゃん。貴女の方が年上なんだしね」
紅莉栖「(どうも、接しにくいんだよな……この人)」
楯無「私はパス。今回はきっちり見ててあげる」
最初から楯無は岡部のスパーリングパートナーになる気などなかった。
実際に戦うよりも、まずはじっくりとその容貌を観察する。
そう決めていた。
350 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:45:21.00 ID:0ay9SqgKo
ラウラ「……6人か。ならば──」
鈴音「まずは私達で戦って……」
ラウラ「ジャンケンで決める他無いな」
鈴音「決める──え、ジャンケン?」
ラウラならば自分と同じ意見だと思った鈴音は身体を滑らせた。
これではまるで、自分がバトルマニアみたいじゃない。と顔を赤らめる。
シャル「そうだね。アリーナ使える時間もそこまで無いし……」
セシリア「異存はありませんわ」
箒「うむ。ジャンケンなら公平だな」
完全に鈴音の意見はスルーされていた。
そもそも6人での総当り戦などをしていたら日がくれてしまう。
鈴音の意見を採用しようと賛同する者は1人もいなかった。
351 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:45:50.16 ID:0ay9SqgKo
鈴音「……」
一夏「よし! ジャンケンで勝ったやつが凶真と戦う。これでいこう」
鈴音「そうね……」
明らかに声から覇気が消えていた。
少しばかり、自分の喧嘩っ早さを見直すべきかしら。と心の中で反省会を開いている。
──そして。
「じゃーんけーん」
「ぽん!!」
352 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:46:16.31 ID:0ay9SqgKo
──。
────。
──────。
353 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:46:42.89 ID:0ay9SqgKo
“石鍵”にケーブルを繋ぎ、データを採取する紅莉栖。
けれど、思った通りの結果だった。
紅莉栖「思った通り、データが何も無いわ。元来のISと違って産まれたてだから……ってことなんでしょうね」
本来であれば、膨大な情報が画面に映し出されている。
けれど“石鍵”から採取されたデータはほんの少し。
数行程度のものだった。
岡部「つまり、良く解らないということか?」
紅莉栖「有体に言えば……そうね」
岡部「使えない助手め……」
紅莉栖「なっ! サポート役を買ってやっただけありがたいと思え馬鹿! 他の子はみんな一夏側の控え室に行っちゃったんだからな!」
ジャンケンにより勝利したのは一夏だった。
対戦相手が決まり、いざピット事にわかれようとした時。
専用機持ち全員が一夏の後ろを付いて行くと言う珍妙な光景が作られた。
1人取り残された岡部の元へ残ったのは紅莉栖1人。
そのことを思い出し、岡部は素直に謝罪の言葉を述べた。
354 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:47:17.37 ID:0ay9SqgKo
岡部「む……それを言われると、そうだな……すまん」
紅莉栖「感謝しろよ、まったく。えっと……初期の武器が3つある。今、データ出すから」
カタカタと慣れた手付きでキーボードのキィを叩く。
すると液晶ディスプレイに“石鍵”の装備一覧が表示された。
《ビット粒子砲》
《モアッド・スネーク》
《サイリウム・セイバー》
岡部「コレは……」
紅莉栖「そう。私も驚いた……」
どれもコレも見た名前。
覚えがある単語だった。
355 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:47:49.44 ID:0ay9SqgKo
岡部「“未来ガジェット”ではないか」
未来ガジェット。
岡部が創設した“未来ガジェット研究所”……通称、ラボで開発されたガラクタ製品たち。
その名前が武器としてディスプレイに表示されている。
紅莉栖「名称はね。実物は出してみないと解らないけど……ファースト・シフト段階で生成された武器はこの3つよ。
文字通り“コアと搭乗者による、完全自立進化”、ね」
岡部倫太郎でなければこの名称の武器は誕生していなかった。
コアが岡部とリンクしたことで作られた物。
それが武器としての“未来ガジェット”であった。
岡部「ふ……フゥーハハハハハ! 良いぞ、良い! 良いではないか! なぁ助手よ!!」
一気にテンションが膨れ上がる。
まるで新品の玩具を手にする少年のような光をその目に宿していた。
356 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:48:15.92 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「どう見ても浮かれてます。本当にありがとうございました」
岡部「これにより、我らが未来ガジェット研究所の名が世界に知れ渡ると言うことではないっか!」
紅莉栖「本当にそうだから困る……」
世界でたった2人の男性IS適性者。
その男の専用武器なのだから、世界中にその名は知れ渡るだろう。
紅莉栖は「悪夢だわ……」と頭を抱えた。
──ルルル。
岡部「なっ、なんだ!?」
直接に脳内へ叩き込まれるかのような音。
電話の通知音のような音だった。
357 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:48:46.17 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「ん。一夏からの通信よ。開いてみて」
岡部「つ、通信。こうか……?」
フルフェイス装甲内では、しっかりと一夏からの通信とアナウンスされていた。
それを目線で追って通信を開く。
実に簡単で、便利で。
今まで岡部が体感したことのないような、まるでアニメに出てくる未来道具を連想させた。
一夏『凶真、準備は良いか? こっちは何時でも良いぜ。って言うか早くしないとヤバイかも。
客席……の方が、早くやれって騒いでる。大事になっちまったな』
通信を開くと声だけでなく一夏の顔までディスプレイに表示されていた。
ケーブルで繋がっている紅莉栖のPCにも同じ絵が映し出されている。
岡部『む、そうか……まだもう少し試してみたかったが……実戦で慣らすとするか』
一夏『そうしてくれると助かるよ』
岡部『では、戦場でまた会おう』
そう短く言葉を交わして通信を切る。
あまりゆったりとしている時間はない。
358 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:49:50.63 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「ぶっつけ本番ね」
岡部「あぁ……だが心配は要らない。どちらの未来ガジェットも俺が作り出したんだからな」
“どちらの”。
未来ガジェット研究所に置かれているものも、このISが精製したものも。
岡部が作り出したものであることには変わりない。
きっと上手く使える。
確信のようなものがった。
紅莉栖「期待してるわよ」
岡部「任せておけ」
ケーブルを引っこ抜き歩き出す。
ピッチ内に用意されている射出用のカタパルトに脚部を装着した。
359 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:50:20.68 ID:0ay9SqgKo
紅莉栖「良い? 3.2.1──」
カウントダウンが始まる。
岡部の心臓は微かな期待と不安で何時になく、強く脈打っている。
岡部「-インフィニット・ストラトス-“石鍵”──鳳凰院凶真……出る!!」
火花を散らし、ピット内から凄まじい速度で飛び立つ岡部。
気分はロボット者のヒーローだった。
紅莉栖「おいおい、どんだけだ。にしても、この岡部──」
アリーナに解き放たれた岡部。
その声はとても生き生きとしたものだった。
岡部「“石鍵”、目標を……駆逐する!!」
紅莉栖「──ノリノリである」
岡部倫太郎。
搭乗IS“石鍵”。
その初戦闘が始まった。
360 :
[sage saga]:2012/09/25(火) 12:50:49.16 ID:0ay9SqgKo
おわーり。
ありがとうございました。
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/25(火) 16:05:46.48 ID:xfP0S2VDO
そんな殺生な!いいところで終わらせて反応を楽しむなんて…乙!
うー…続きが気になって仕方ない…
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/09/25(火) 20:25:05.50 ID:nJVDQUi80
オカリンのセリフのせいでエクシアを想像してしまった
一体どんな形のISなんだろ
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/09/25(火) 20:50:49.79 ID:KQbLNfCDo
リメイク前のスレでは絵師(笑)じゃなくて絵師様って呼べるような上手い人が描いてくれてたよ
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/09/25(火) 21:22:57.62 ID:0hsao3Tso
過去ログ読んできたけど最後が駆け足すぎたね
その辺を上手くやってくれることに期待
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/09/25(火) 21:25:19.17 ID:0hsao3Tso
>>118
遅レスだけどスマホからでも読めたよ
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2012/09/26(水) 00:50:34.06 ID:LEUEyqlKo
乙。
前から気になってたが見つけたときはかなり進んでて読むのは後にしとくか…状態でずっとそのままだったから期待しながら見るよ
367 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:07:56.58 ID:3c30XdkUo
投稿します。
368 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:08:25.02 ID:3c30XdkUo
>>359
つづき。
短めの滑走路からアリーナ上空へと飛び出す。
“石鍵”を通して見る世界は驚くほどクリアだった。
アニメや漫画で得た知識ではカタパルトを仕様した射出の場合、重力の負荷が絶対と言って良いほど描写されている。
岡部もそれを期待、覚悟していたが感じられない。
岡部「これが……ISか……」
驚くほど快適な出撃だった。
一夏『よう凶真。調子はどうだ?』
通信が入る。
対戦相手である一夏だった。
369 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:08:55.00 ID:3c30XdkUo
岡部『上々だ。違和感も無い』
強いて言えば、見えすぎる視覚。
空を飛ぶ感覚が不思議だなと思う程度だった。
一夏『ははっ。俺の時もそうだった。機体制御も問題無さそうだな』
不自由なく空を飛ぶ岡部を見て一夏も安心する。
あまりにもお粗末な操縦であれば試合どころではないからだった。
──ルルル。
一夏との通信中、またも通信が入る。
PCで言う新規チャットウィンドウのように、小窓が表示された。
相手は牧瀬紅莉栖と表示されている。
370 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:09:24.27 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『ハロゥ、岡部。聞こえる?』
通信を承認すると、直ぐに紅莉栖の声が耳に入った。
岡部『助手か』
紅莉栖『感度良。これで私がサポートするわね』
岡部『うむ。まさに助手だな』
紅莉栖『言ってろ』
軽口を叩き合う。
緊張は感じられなかった。
371 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:09:51.85 ID:3c30XdkUo
楯無「さて、まずはお手並み拝見ね」
一夏サイドのピッチ内では楯無を含む専用機持ちが戦闘の行方を見守っていた。
扇子には“観戦”と書かれている。
箒「と言うか……なんで皆こちらの控え室に居るんだ!」
シャル「え、だって……ねぇ」
鈴音「うん……ねぇ?」
ラウラ「一夏は私の嫁だ。当たり前だろう」
セシリア「そういう箒さんこそ、どうしてこちらに居るんですの?」
箒「わっ、私は一夏の幼馴染として……だな」
楯無「ほらほら、集中しないと始まっちゃうわよ」
姦しいを通り越し、うっとうしさを覚えるほどのやりとり。
これも恋する乙女が故の性だった。
372 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:10:18.57 ID:3c30XdkUo
一夏『……』
通信から入る大騒ぎを意識の外へ追いやる。
息を大きく吸って、吐く。深呼吸をした。
そして瞳を瞑り瞑想する。
目を開いた時、その目はクラスメイトの一夏ではなく、IS“白式”操縦者“織斑一夏”のソレに変わっていた。
一夏『じゃぁ凶真──行くぜ!』
岡部『むっ!』
《-警告-敵IS 攻撃態勢に移行》
フルフェイス内で警告が表示された。
すでに一夏は岡部の敵として行動を開始している。
373 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:10:44.74 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『来るわよ!!』
岡部『ちょ、待て! まず何をすれば──』
慌てている間にも一夏は突進を止めなかった。
ぐんぐんと詰められる距離。
その手には武器が握られている。
一夏『うおぉぉぉぉぉぉ!』
吼える一夏。
岡部『うわぁぁぁぁぁぁ!』
叫ぶ岡部。
ヒュン。と空気を裂く音が頭の横で聞き取れた。
振り下ろした刀剣の音だった。
岡部『お、お、お──」
一夏の駆るIS “白式”の一閃を体勢を崩す形で避けることが出来た。
意図せず出来た回避行動であるが、初撃を回避したことは大きい。
374 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:11:21.19 ID:3c30XdkUo
一夏『避けられたかっ!』
一度目の接触。
それを見ていた楯無達が思い思いに感想を述べる。
楯無「避けた。と、言うより……堕ちた。ね」
セシリア「不味いですわね……」
鈴音「何が不味いのよ。岡部の操縦?」
セシリア「いえ……一夏さんが、競馬で言うところの“入れ込みすぎ”な気がしまして……」
シャル「いれこみすぎ?」
箒「競馬? どういう事だ?」
鈴音「セシリアって競馬なんかするんだ?」
セシリア「あら、英国紳士淑女の嗜みですわよ? 常識ですわ。
ではなくて! ようするに、気合が入りすぎて空回りしてるような感じ。と言うことですの」
ラウラ「ふむ……気合が乗るのは良いことだが」
楯無「一夏くんも男の子ってことね♪」
シャル「?」
箒「同性同士。負けたくない、と言うことだろう。頑張れよ、一夏」
375 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:11:48.17 ID:3c30XdkUo
楯無と箒の予想は当っていた。
これは勝負ではない。そのことは一夏も理解している。
けれど男同士、負けたくはなかった。
矛盾していると自身でもわかってはいる。
岡部は今日、ISを手に入れた初心者。
本来であれば手取り足取り教えるのが定石なのかもしれない。
けれど、今は模擬戦として。その敵として対峙している。
負ける訳にはいかなかった。
岡部『おっ、おわーっっ!』
体勢を崩した“石鍵”はそのまま地面へと向かって自由落下を始めていた。
ハイパーセンサー越しに流れていく景色がぐるぐると回転する。
紅莉栖『ちょ! 落ち着け馬鹿! ノーカン……! ノーカン……! 当ってない、当ってないから!!』
岡部『くっ……!』
紅莉栖の無茶苦茶な応援。
岡部はそんな声を聞きつつも、地面に向けていた頭部を再び天へと修正を図った。
376 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:12:16.80 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『そう! 体勢を立て直して! このまま地面に激突したら無駄にシールドエネルギーを削るだけよ!』
ジタバタと手足をバタつかせ、みっともなく地面との衝突を拒否する。
華麗なる操縦とは程遠い地点に今の岡部はいた。
岡部『はぁ、はぁ……思った、以上に……怖いな』
ぼそり。と紅莉栖に聞こえないように呟く岡部。
今までに幾つかの修羅場を潜って来た岡部ではあったが、初めてのIS戦闘である。
“シールドバリアー”で守られているとは言え、恐怖が付きまとっていた。
岡部『はぁ、はぁ。助手っ、どうすれば良い。さっそくだが、次攻撃されたら避けられんぞ』
なんとか体勢を立て直し再び上昇する。
対面には一夏が武器を構えていた。
377 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:12:43.47 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『情けない事を偉そうに言わないでよね。一夏は近接タイプよ、距離を取りながら攻撃してまずは落ち着いて!』
武器。
空を飛べた感動により完全に失念していた。
戦闘には武器がいる。
その武器をISは有していた。
岡部『武器武器武器武器武器武器……』
急ぎ、システムを呼び出す。
-WEAPON-の項目を見つけるのはそれほど難しい作業ではなかった。
一夏『今度は外さない……っっ!!』
一夏がそう宣言したときだった。
《ビット粒子砲》
項目に映し出される“ビット粒子砲”の文字。
岡部は迷わず目当ての武器を召喚した。
378 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:13:13.27 ID:3c30XdkUo
岡部『これだ!! 来ぉぉいいいいい!!!』
フィィン。と言う独特の音を鳴らし、変化を始める。
光の粒子が集まり出し、なんの変哲も無かった“石鍵”の左腕に“ビット粒子砲”が装備された。
それを見て、一夏の突進が止まる。
形状からして明らかに遠距離攻撃を行えるものだった。
一夏『射撃武器……!!』
空中で急ブレーキをかける。
直線的な突進は射撃武器の格好の的。
岡部にそれを狙い打つ技量など関係なく、一夏は今まで得た経験を元に突進を中止した。
379 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:13:44.76 ID:3c30XdkUo
岡部『はぁはぁ……直前に確認していたガジェットの存在を忘れていた……。
が! ここまでだ、ワンサマーよ!! フゥーハハハハハ!!』
ガジェット・ビット粒子砲。
慣れ親しんだ名前の玩具が、兵器として自身の左腕に換装される。
背筋が震える思いだった。
一夏『(見たことが無い武器だ……ここは様子を……)』
ジリジリと距離を取る。
ただの実弾装備なら再び突進からの斬撃を実施する。
しかし、特殊機能がある場合は話しが別だった。
何か特殊な効果を持つものであれば一撃が命取りになる。
負けたくないからこそ、一夏は真剣になっていた。
380 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:14:17.65 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『嘘、ラボで見た“ビット粒子砲”と形が全然違う』
岡部『装着型の武器とは……少々イメージ、と言うか実物と違うな……』
岡部と紅莉栖の知るビット粒子砲とは姿が全く持って異なっていた。
玩具の拳銃。手に握り引き金を引くタイプのものではない。
左腕に装着。融合されているかのような形状を取っている。
岡部『だが──』
可視光式のレーザーポインターが“白式”を照準する。
岡部『問題無い。この方がカッコイイからな……!』
紅莉栖『格好の問題かっ!』
紅莉栖の突っ込みを他所に、“石鍵”による、初めての攻撃が行われた。
381 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:14:44.11 ID:3c30XdkUo
岡部『──有象無象の区別無く、我が弾頭は貴様を射抜く!』
何時の日か使おうと思っていた決め台詞を吐く。
物語の主役になったような感覚を覚えた。
紅莉栖『カッコ付けてる場合か!! 一夏は棒立ちよ、早く撃て!!』
通信で現実に引き戻される。
紅莉栖の言う通り、一夏は様子を見ようとこちらの動きを見計らっている。
攻撃チャンスだった。
岡部『えぇい、良いところでって──もういい! 当れ!!』
カチン。トリガーが引かれる音。
直後に甲高い発射音を響かせ“ビット粒子砲”が唸りを上げた。
382 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:15:28.16 ID:3c30XdkUo
一夏『──速いっっ!!』
モニタールームに映る情景。
その瞬間を見て呟く。
ラウラ「これは……」
楯無「避けれないわね」
着弾は免れなかった。
一夏『……くっ!』
尋常ならざる射出速度での連射。放たれた攻撃の全てが“白式”へと突き刺さる。
不可思議な弾着音が“白式”のボディからアリーナに響いた。
383 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:15:56.07 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『敵IS 被弾!!』
岡部『当った……のか』
紅莉栖『ぁ……あー、結論から言えば、全弾HIT。でも……』
これ以上ない喜ばしい結果。
けれど、紅莉栖の声は明るいものではなかった。
一夏『くそっ、なんて発射速度と連射速度だ……全部当っちまった。ダメージは……え』
一夏の声が止まる。状況が把握できない。
それはモニタールームで試合を観戦している者達からしても同じことだった。
384 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:16:22.86 ID:3c30XdkUo
岡部『む、無傷……だと!?』
紅莉栖『いいえ。ちゃんとダメージは通ってる。その……極端に与えるダメージが低かっただけで……』
驚く岡部に紅莉栖が答える。
攻撃は当った。ダメージも通っている。
岡部『どういうこっ、ことだ!! 全弾当ったと言うのに、全く“シールドエネルギー”が削れてないではないか!!』
思わず語気が強くなった。
意味がわからない。
緊張なのか、疲れなのか。
岡部は妙に喉の乾きを感じていた。
紅莉栖『1弾につき、ダメージが1しか与えられなかった。と言えば伝わるかしら……』
岡部『いっ、いちっ……?』
呼吸が弾む。
紅莉栖との会話をしてるさなかも、呼吸の乱れは収まらない。
385 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:16:51.50 ID:3c30XdkUo
鈴音「ちょっと、どういう事? 当ったわよね?」
同じく、モニタールームでも議論が交わされていた。
岡部の攻撃を喰らい“白式”になにが起きたのか。
シャル「うん。当ったように見えたって言うか……」
ラウラ「完全に被弾していた」
セシリア「どういうことですの?」
箒「ダメージが通ってるようには見えないが……」
楯無「いいえ。確かにダメージは受けてる。極端に攻撃力が低いみたいだけど……」
1人納得している者がいた。
386 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:17:18.25 ID:3c30XdkUo
ラウラ「どう言うことだ」
ラウラの言葉に頷き、説明を始める。
とてもわかりやすいものだった。
楯無「通常、ISでの攻撃は攻撃力が小であれなんであれ、当りさえすればそれなりの“シールドエネルギー”を削るわよね?
倫ちゃんの……“石鍵”が放った射撃武器でのダメージはシールドエネルギーの最小設定値。
つまり、数字で言うと“1”しか与えてないみたい」
シャル「えっ、でもそんな武器……」
ラウラ「無意味も良い所だ。ありえん」
楯無「えぇ。“通常のIS兵器”ではありえない。意味が無い……でも彼の武器は全てあのIS自身が作り出した武器だから……」
鈴音「なにそれ。じゃぁ、つまり……無茶苦茶弱い武器ってこと? 見掛け倒しじゃん」
全員が顔を見合わせる。
その表情はとても岡部本人に見せられるものではなかった。
387 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:17:51.10 ID:3c30XdkUo
岡部『どぉぉぉいう事だ!! 助手!! 説明しろ!!』
紅莉栖『だから言ってるだろ!! その武器の攻撃力が極端に低いんだっつーの!!』
岡部『なん……だと……』
二度説明されてやっと耳に入る。
攻撃は当った。ダメージも通った。けれど、お前の武器は超攻撃力が低いんだよ。
つまり、そう言うことだと理解した。
紅莉栖『一応、武器データ取れたから送る……』
一方、1人混乱する一夏。
あまりにもダメージ量が低いせいで、逆に困惑していた。
一夏『(一体何だったんだ? 何か特殊な力でもあるのか? くそっ、解らない……動いて平気なのか?)』
紅莉栖『これよ』
《ビット粒子砲》
実弾・エネルギー弾を交互に発射。
連射性・速射性が優秀。
岡部『どんなに弾数多く早くても弱くちゃ意味ないだろうっっが!』
紅莉栖『知るかっ! 作ったのはお前とコアだろうっっが!』
388 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:18:20.55 ID:3c30XdkUo
自身の生み出した兵器の使えなさに絶望する。
一体、何千何万発と攻撃を当てれば勝てると言うのだと。
岡部『(はぁはぁ……くそっ、どうする……これではダメだ。戦いにならん……)』
呼吸が更に荒くなる。
焦りのせいか、息苦しいことにも気付かないでいた。
一夏『(ちくしょう……でも、何時までも悩んでる訳にはいかない! 前に出る! 俺にはそれしかない!!)』
“雪片弐型”を握る腕に力を込める。
近頃見失いがちだった自分らしさを取り戻すため、一夏は自分が何をされたかも忘れて集中した。
一夏『ハァァァ……』
集中する。
見る者が息を飲むほどの気迫だった。
389 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:18:46.46 ID:3c30XdkUo
箒「一夏……」
セシリア「一夏さん、きっと大丈夫ですわ」
鈴音「あんな弱っちいのに負けたら承知しないんだからね……」
シャル「一夏、頑張って……」
ラウラ「大丈夫だ。お前なら問題ない。そのまま、行けっ!」
相手が岡部。
初心者の赤ん坊同然だと言う事を一夏を含め、皆が皆忘れていた。
楯無「(うーん、ちょっと倫ちゃんが可哀想かなぁ……と言うか、倫ちゃん肩で息してない?)」
そんな光景を見て苦笑いを浮かべる楯無。
そして当然、岡部に見受けられる体の異常にも気が付いていた。
390 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:19:12.39 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『岡部! “サイリウム・セーバー”よ! こうなったら、近接戦で勝負するしかない!!』
素早く作戦の変更を言い渡す。
遠距離での射撃戦はダメージが通らない以上、意味が無い。
岡部『えぇい、熱血接近戦はマッドサイエンティストに似合わんと言うのにっ!』
紅莉栖『(近接戦が怖いだけだろ、とは言わないでやるか)』
再び武器の項目を選び、承認する。
岡部『“サイリウム・セーバー”!!!』
叫ぶことに意味はない。
気分の問題だった。
名乗りと同時に“サイリウム・セーバー”が姿を現す。
なんの変哲も無かった“石鍵”の右腕に“サイリウム・セーバー”が装着された。
その姿は“ピット粒子砲”と同じく、未来ガジェットの面影は無く完全なる物理刀剣だった。
そして握るタイプではなく、同様に腕へ直接装着されている。
391 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:20:05.80 ID:3c30XdkUo
一夏『凶真も剣か……都合良いぜ』
同ジャンルの武器とあり一夏の心が燃え上がった。
シャル「……呼び出しが早い」
ラウラ「気付いたか」
セシリア「倫太郎さんは始めての実戦……いいえ、それどころか武器を呼び出すのも初めてですわよね?」
鈴音「それで、瞬時に初見武器を出したっての?」
箒「本人はそのことに気付いて無いみたいだが……」
楯無「(これは十分脅威と言えるレベルね……攻撃力はともかくとして)」
専用機持ち達の目つきが変わる。
呼び出しの速さが、初回起動とは思えないほどスムーズだった。
392 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:20:42.71 ID:3c30XdkUo
岡部『抜刀……』
岡部がそう呟くと、肩側に折れていた刀身が前方へと躍り出る。
“サイリウム・セーバー”を一振りすると“ブォン”と言う定番の音を鳴らし空を切った。
刀身が次第に赤く発光し始める。
岡部『紅莉栖。データは取れたか? この剣の特性が解ったら教えてくれ』
岡部の声は先ほどと違って自信に満ち溢れていた。
振ると良い音がなり、赤く発光する刀剣。
まさに近未来装備。
そのスペックに期待が高鳴る。
紅莉栖『物理刀剣よ』
短い回答。
けれど、岡部が知りたかったのはそう言うことではない。
393 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:21:09.05 ID:3c30XdkUo
岡部『それは解っている。俺が聞いているのは特性、能力だ』
紅莉栖『無いわ』
岡部『そうか、無いか──ちょっっっと待てい!! 無いとは何だ無いとは!!』
サポーターから返ってきた返事は予想を裏切るものだった。
紅莉栖『なっ、無いんだから仕方ないだろうがっ!!』
岡部『ふざけている場合か! 良い音もするし、赤く光っているではないか!!』
紅莉栖『だから! 良い音がして、光る、物理刀剣なのよ!』
岡部『なん……だと……』
言葉が詰まる。
目の前が真っ白になる思いだった。
どうしてこんな。まさか。嘘だろ。
ぐるぐると脳内を巡る声なき声。
少し時間をとって落ち着きたい。
そう思う岡部。けれど無常にも時は動き出していた。
394 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:21:47.80 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『ちょ! 岡部、前ーっ! お喋りしている暇ない!』
岡部『──ぬ? おおおぅぅ!!』
キィィン。刃と刃の擦れ合う音が響いた。
振り下ろされた“白式”の一撃。
間一髪で、“雪片弐型”の斬撃を“サイリウム・セーバー”刀身で防ぐ。
ギリギリと鍔迫り合いが続く中、一夏は微かに微笑んだ。
一夏『へへっ、やっぱ男同士って良いな……! 負けられねぇ、負けられねぇよ!!』
何時に無く一夏の目は輝いていた。
女の園であるIS学園では決して味わえなかった感情。
男同士の戦いでしか感じれない緊張感を心の底から楽しんでいる。
岡部『くっ、余計なお喋りをしていると舌を噛むぞ、ワンサマーよ……』
強がりだった。
鍔迫り合いが続けば続くほど、岡部はどうしたら良いかわからなくなる。
剣術の心得が無いのでそれも当然だった。
395 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:22:15.64 ID:3c30XdkUo
一夏『ていっ!』
岡部『ぬっ!?』
“雪片弐型”により“サイリウム・セーバー”の刃が弾かれる。
単純な力量の差。
積み重ねてきたモノの差が現れた。
剣術のケの字も知らない岡部が、一夏の剣戟に対処する術など最初から微塵も無い。
一夏『ココだ! 悪いな、凶真──本気で行かせて貰うぜ!!』
──“零落白夜”発動。
IS“白式”に搭載された“単一仕様能力”。
“雪片弐型”の展開装甲が開き、エネルギー状の刃が現れた。
396 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:22:42.67 ID:3c30XdkUo
岡部『この体勢では、避けられ──』
刃を弾かれ体勢を崩された今。
一夏の振るう刃を避ける手立てを岡部は持っていない。
紅莉栖『岡部ぇぇぇ!!!!』
放出されるエネルギーの高が上がっていく。
残された全てのエネルギーをその一撃に込めていた。
一夏『うおおおおおおおおおおお!!!!』
397 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:23:11.54 ID:3c30XdkUo
椅子に座っていた楯無が立ち上がる。
その表情に余裕はない。
楯無「不味い! 勢いが付き過ぎてる!」
楯無が珍しく大声をあげた。
シャル「えっ?」
鈴音「どういうこと?」
ラウラ「“零落白夜”で“シールドバリアー”を切り裂いた。そして表示されている“石鍵”の“シールドエネルギー”は“0”だ」
セシリア「……っ!」
箒「ダメージが全て、操縦者本人に……!」
──ガキッィィィィィイイ!!
“零落白夜”により“石鍵の“シールドバリアー”が切り裂かれ“石鍵”が纏っていた“シールドバリアー”が消える。
“石鍵”から発せられる“シールドエネルギー”表示が途絶えた。
しかし、一夏の攻撃は止まることが無かった。
渾身の力を込めた本気の一閃。攻撃の勢いが止まらずその刃は“石鍵”の本装甲にまで達してしまった。
398 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:23:40.12 ID:3c30XdkUo
一夏『勢いが止まらないっっ……! 振り抜いちまう……!』
ガリガリと刀身が“石鍵”を削っていく。
“エネルギー体”を斬るのとは全く感触が異なっている。
岡部『ぬぅぅおおおおおお!!』
叫ぶ岡部。
けれど、出来ることはなにもなかった。
一夏『──────ッッ!!』
一夏は“零落白夜”を完全に振り抜いた。
無人機であるゴーレムと、暴走を止める為に完全に動きを止める他無かった“銀の福音”(シルバリオ・ゴスペル)以外に決まることが無かった攻撃。
これも一重に、今まで戦ってきたIS操縦者の巧みなる腕によって、シールドエネルギーが尽きた後の回避行動に寄るところが大きかった。
一夏も成長したとは言え、IS操縦者としては未熟な部類である。
そしてその相手である、岡部はさらに未熟なビギナー。
その後の回避行動、防御など取れるはずもなかった。
斬撃を受けた“石鍵”は力なく地上へと落下していった。
399 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:24:07.68 ID:3c30XdkUo
紅莉栖『岡部! 岡部!!』
“石鍵”は土煙を巻き上げ、地上へと突き刺さった。
一夏『凶真ァッ!!』
手に残る感触。
刃を伝わってきたそれは、決して気持ちの良いものではなかった。
焦る。
一体、どれほどの損傷を与えてしまったのかと。
岡部『……さっ、さすがに、驚いたぞ』
アリーナのグラウンドにクレーターを作り、その中心に突き刺さる“石鍵”。
その声は一夏の心配を他所に操縦者の無事を知らせている。
400 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:24:43.03 ID:3c30XdkUo
一夏『えっ……、ぶっ、無事なのか?』
過去を振り返る。
自身が“シールドバリアー”を壊されダメージを負ったときのことを。
激痛と言うに恥じない痛みだった。
そして今回、岡部に与えた攻撃は文字通り全身全霊を叩き込んだもの。
一夏が過去に受けたどんなダメージよりも大きいはずだった。
岡部『少々驚いたが……大丈夫だ、問題無い』
しかし、岡部は問題無いと言っている。
言い様の無い違和感を一夏は覚えた。
401 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:25:36.83 ID:3c30XdkUo
箒「岡部!」
セシリア「大丈夫ですの!?」
鈴音「ちょっと大丈夫!?」
シャル「無事っ!?」
ラウラ「……生きてはいるようだな」
楯無「(これは……)」
紅莉栖「岡部ぇー!!」
一夏の攻撃が決まると同時に、両ピッチから女子達がアリーナへと走り出していた。
横たわる岡部の元へと全員が集まる。
402 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:26:03.56 ID:3c30XdkUo
岡部「ん? 何故、アリーナに入ってくる! まだ戦いは終わって……え、終わったのか?」
状況が理解できず、一人間の抜けた声を上げる。
一夏「えっと……終わったはずなんだけど……なんで大丈夫なんだ?」
岡部「ん? ん? どういうことだ?」
楯無「……倫ちゃん。ちょっと触らせてね?」
2人の会話を遮り、楯無が割って入る。
その表情に何時もの柔和さを感じることは出来ない。
岡部「む? む?」
楯無「…………」
一夏「楯無さん……?」
“石鍵”のボディーを隅々まで調べ黙り込む楯無。
その姿を見て誰もが不安を覚えた。
403 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:26:36.11 ID:3c30XdkUo
岡部「何が起きてるのか説明して欲しいのだが……」
説明を求める為に岡部が声をあげた。
間が込む表情を作るまま、楯無が答える。
楯無「ちょーっと待ってね……おねーさんも頭を整理する時間が欲しいの。そうね……一旦お開きにして、生徒会室に行きましょう」
楯無の一声で、状況も解らぬまま対戦終了する。
こうして対戦者2人と周囲の疑問は晴れず、“白式”vs“石鍵”の初対戦は“白式”の勝利と言う形で幕を閉じた。
岡部「疲れた……」
岡部の一言が、周囲の耳に深く響いた。
404 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:27:05.84 ID:3c30XdkUo
……。
…………。
………………
405 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:27:33.85 ID:3c30XdkUo
更織楯無は考える。
第二アリーナから、IS学園生徒会室までの道のり。
この短い時間で答えを“用意”しなければならなかった。
どのように、この子達一年生を納得させようかと。
憶測に憶測を重ねて、出した結論。
必要なのは憶測により導いた結論ではなく、完全なる事実。
仮に限りなく正解に近い結論を導き出したとしても、事実と異なる情報は害でしかならない。
“ロシア代表操縦者”として曖昧な発言は出来ない。
406 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:27:59.99 ID:3c30XdkUo
2人目の男性IS適性者として、岡部倫太郎の名前は各国に轟いている。
ロシア政府は更織楯無に情報収集の任務を課していた。
それと同時に“篠ノ之 束”の情報も、である。
男性IS適性は織斑一夏オンリーワンでは無くなった。
2人目が出てきたことにより、各国は研究に躍起になっていた。
ロシア程の大国であれば当たり前の事でもある。
それと同様に、篠ノ之束の捜索は依然どの国も全力で行っている。
IS学園に造詣が深い両名の情報収集に、学園生徒会長である楯無は適任者であった。
407 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:28:26.09 ID:3c30XdkUo
楯無「(さて……どうしたものかしらね)」
周囲が思うほど、楯無は自分に素直に生きている人間ではなかった。
この若さにして更識家当主、及びロシア代表操縦者である彼女は個の思考よりも、全を考える。
その思考が、一生徒である可愛い後輩達に自身が考え至った“石鍵”の特性を教える事を拒んだ。
“生徒会長”として。そして“更織楯無”個人としてこの子達を諜報戦の世界へ足を踏み込ませたくないとも考えていた。
408 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:30:47.96 ID:3c30XdkUo
楯無「(私もまだまだ甘ちゃんってことね……)」
岡部倫太郎はこの先、この学園の爆弾になりうる。
この男には背景が無い。
織斑一夏のように、ISに関わった人生など送っては来なかった。
全てのISの鍵となる“篠ノ之 束”にも一切関わりの無い人生を送ってきた。
そんな人物がISを起動させたのだ。
これから各国が男性によるISの起動に力を入れるのは容易に想像できる。
409 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:31:14.45 ID:3c30XdkUo
女尊男卑の世の中になったとは言え、まだまだ上層部は男性が掌握している部分が多い。
そして男尊の復権を望む者も多い。
男尊女卑。女尊男卑。
そんなことに楯無自身は興味を持っていないが、与えられた任務はこなさなければならない。
汚らしい諜報戦が始まる。と楯無は予想していた。
対暗部用暗部“更識家”の当主として、この学園をその舞台にはさせない。
それが更織楯無の出した答えだった。
410 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:31:47.56 ID:3c30XdkUo
……。
…………。
………………
411 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:32:14.33 ID:3c30XdkUo
─アリーナ更衣室─
アリーナ更衣室では未だISスーツを見に纏った岡部と、タオルを持ち横でどう声をかけるか迷ってる紅莉栖の姿があった。
ベンチに腰を下ろし、頭を垂れたまま一言も言葉を発していない。
岡部「……」
紅莉栖「岡部……」
岡部「……」
紅莉栖「あーっと、ほら! 元気出しなさいよ!」
岡部「出る訳ないだろ……。なんだ、あの武器」
岡部はの気分は消沈していた。
出撃前に見せていたテンションは最早どこにも無く、今はただ落ち込んでいた。
主に、自身が開発した未来ガジェットの名前を模した武器についてを。
よもや武器と呼ぶにもおこがましいそれについてを。
412 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:33:38.23 ID:3c30XdkUo
岡部「なにが粒子砲なんだ……豆鉄砲の間違いだろう……」
言い得て妙だった。
どれほど当てようがダメージにならない。そんなもの、武器と呼べるはずもなかった。
紅莉栖「岡部……」
岡部「助手よ、笑うが良い……」
紅莉栖「そんな、笑うなんて……」
何時に無く落ち込む岡部を前に笑いなどこぼせる訳がない。
岡部が落ち込むと同様に、紅莉栖もまた落ち込んでいた。
岡部「恥をかいただけだったな……」
紅莉栖「ねぇ、それよりも怪我は本当に大丈夫なの?」
こんな自分を心配……。
それも攻撃を受けた事による身体への心配を見せた紅莉栖の心遣いが岡部は嬉しかった。
413 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:34:05.61 ID:3c30XdkUo
岡部「だっ、だから何度も言ってるではないか。疲れたはしたが、怪我などは一切無い。
そもそも装甲に守られているのだ。痛い訳が──」
自身の吐き出した言葉になにかが引っかかった。
頭にもやがかかる。
紅莉栖「うん。岡部も参考書は全部読んだのよね? 何か、変じゃない?」
岡部「……あぁ」
岡部は確かに“零落白夜”の直撃を食らった。
それなのに、身体にダメージが一切無い。
岡部「紅莉栖。“零落白夜”の特性を教えてくれ」
紅莉栖「えっ、えええっ、えっと……ちょっと待ってね!」
名前で呼ばれたことに戸惑い口ごもる。
意識はしていないのだろうが、岡部はこうして稀に紅莉栖と名前を呼び彼女を動揺させていた。
414 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:34:31.93 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「えーっと、えーっと……」
カタカタと高速でノートパソコンを操り、データベースを開く。
公開されている公式の数値を引っ張り出した。
紅莉栖「……出た!」
“零落白夜”(れいらくびゃくや)
白式の単一仕様能力。
対象のエネルギー全てを消滅させる。
使用の際は雪片弐型が変形し、エネルギーの刃を形成する。
相手のエネルギー兵器による攻撃を無効化したり“シールドバリアー”を斬り裂いて相手の“シールドエネルギー”に直接ダメージを与えられる白式最大の攻撃能力。
自身のシールドエネルギーを消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもある。
織斑千冬の乗機であった“暮桜”と同じ能力。
415 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:34:58.66 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「織斑千冬はこの能力を駆使して、第1回モンド・グロッソを勝ち抜いた……」
説明を最後まで音読する。
やはり、なにかがおかしかった。
岡部「……おかしくないか?」
紅莉栖「うん……」
岡部「俺が受けた攻撃は確かに“零落白夜”なんだな?」
紅莉栖「えぇ間違いない」
岡部「対象のエネルギー全てを消滅させる……? おかしいではないか。
“石鍵”の“シールドエネルギー”はほぼ満タンだ。何せ、まともに動いてないからな」
紅莉栖「そこがおかしいの。確かにあの時“石鍵”の“シールドエネルギー”は表示されていなかった」
岡部「そこがおかしいではないか。表示されていない? エネルギーが0になると、表示されなくなるのか?
俺が参考書で読んだ記憶では“0”と表示される。と書いてあった気がするのだが……」
紅莉栖「……あっ!」
驚きの声を上げる。
当時は焦っていてそこまで細やかなところまで意識が向かなかった。
416 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:35:25.51 ID:3c30XdkUo
岡部「ふむ。余計解らなくなったな……」
紅莉栖「岡部、ちょっと調べさせて貰うわね? ちょっとISを展開して」
岡部「あぁ」
瞬時にISを展開し鋼鉄の鎧を見に纏う。
紅莉栖は慣れた手付きでデバイスを取り出しPCとISを繋げた。
この時、紅莉栖は“IS国際委員会”に命令されての情報収集ではなく、純粋に科学者としての探究心から動いていた。
紅莉栖「……やっぱり。でも、何で……」
岡部「おい、何かわかったのなら教えてくれ。何がやっぱりなのだ助手よ」
紅莉栖「でも……理由が……」
岡部の声が届かないのか1人でブツブツと呟き始める。
一瞬にして自分の世界へと入り込んでいた。
417 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:35:52.77 ID:3c30XdkUo
岡部「クゥゥリィイス!」
少し大きめな声を出し意識を引き戻させる。
放っておけば納得するまで1人語りは終わらなかっただろう。
紅莉栖「あっ、ごめん。ちょっと考えちゃった。えっと、説明するね?」
岡部「頼む」
ンンッ。と声を整えた紅莉栖は何時ものように説明を始める。
なにか問題に当ったときは毎度こうだな、と岡部は内心で笑みを浮かべていた。
紅莉栖「OK. まず結論を言うわね。岡部は“白式”の最大攻撃と言える“零落白夜”の直撃を食らった。
しかし“シールドエネルギー”を消滅させられることは無かった」
岡部「……続けてくれ」
頭の中で整理しながら紅莉栖の説明に耳を傾ける。
散漫した思考では付いて行けそうにもない。
418 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:36:43.19 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「“零落白夜”が不具合を起こした訳でも、“石鍵”の特殊能力によりコレが無効化された訳でもない。
“石鍵”は直撃の瞬間、コア自らの意志で“シールドエネルギー”の供給を遮断した」
岡部「遮断……した?」
紅莉栖「そう。その影響で、表示されるはずの“シールドエネルギー”残量は表示されず、私を含め殆どの人間が直撃を食らい、
“石鍵”の“シールドエネルギー”が消滅したのだと勘違いした」
岡部「ちょっと待て。“シールドエネルギー”の供給が遮断されてしまえば“シールドバリアー”が無くなってしまう」
紅莉栖「その通り。つまり“石鍵”は独自の判断でそれを決行した」
──“白式”の攻撃は“シールドバリアー”を展開する必要の無い攻撃力だと。
紅莉栖「付け加えておくけれど、決して“零落白夜”の攻撃力は低くない。
いいえ、現行では一発の破壊力としては最強の一角と言って良いほどよ。
“銀の福音”(シルバリオ・ゴスペル)を落したのは伊達じゃない」
岡部「待て待て待て……理解が追いつかん」
頭を抱える。
どうにも腑に落ちない。
419 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:37:13.51 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「アンタにもわかるように説明するとだな……。“石鍵”の装甲はべらぼうに強い。呆れるほど硬い。
バリアー張らなくて傷一つつかない位強固。だから“石鍵”はノーガード作戦を決行して“零落白夜”の直撃を食らった。
むしろ無駄にガードして“シールドエネルギー”消滅させれる方がマジ無理。
だったら、エネルギーカットしちゃう! ってことよ」
岡部「防御力が凄いってことか?」
紅莉栖「そう言うこと。でもほんっっと無駄なのよね、この機能」
岡部「……えっ?」
紅莉栖「IS戦での勝敗は、言い換えれば“シールドエネルギー”の削り合いよ?
“石鍵”のように、エネルギーカットをしてしまえば今回のように“シールドエネルギー”が表示されなくなる」
岡部「表示されない=0。と判断されて、負ける……という事か?」
紅莉栖「オフコース。装甲の硬さも正直、あまり意味が無いわね……“シールドエネルギー”がある限り、
“シールドバリア”が破られても“絶対防御”で操縦者の命は守られる。
“零落白夜”のように“シールドエネルギー”を消滅させられた場合はこの限りじゃないけど……」
明かされる事の真相。
それは、とても喜ばしいとは言えない内容だった。
420 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:37:42.79 ID:3c30XdkUo
岡部「なんと言うことだ……」
紅莉栖「このこと、皆には言わない方が良いかも」
岡部「……なぜだ?」
紅莉栖「ISとしてかなりの欠陥機能ですもの。装甲が硬いからって、エネルギー供給をカットしちゃうなんて……。
幸い、皆は“石鍵”の“エネルギーシールド”残量を確認していない。生徒会長に背中を押されて直ぐに出て行っちゃったからね」
岡部「確かに……言う必要はないな。心配させるだけかもしれない。
しかし、防御力だけの機体とは……俺は俺が思うほど自己保身の強い人間だったという事だな」
くくっ、と自身へ嘲笑する。
このISは岡部から作られた物と言える。
防御の硬さはイコールで安全を望む人間と思えても仕方が無かった。
421 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:38:35.46 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「(……そこが腑に落ちない。
私の記憶の残滓にある岡部倫太郎は、むしろ自己犠牲の強い気のある男だった。
未だに私と岡部が過ごした3週間の記憶、その全てを思い出した訳ではないけれど……。
だとしたら、この装甲の硬さは“コア”の意志……ってこと?)」
全く持って納得いかない。
岡部よりも紅莉栖の方がその気持ちが強いと言える。
岡部「よくよく考えればまさに欠陥機だな。攻撃を受ける度にエネルギーをカットしていては試合にならない。
一撃食らっただけでエネルギー0と判断されて試合が終る」
紅莉栖「ん。それは私がなんとかしよう」
岡部「なんとか……って出来るのか?」
紅莉栖「おいおい。忘れたのか? 岡部が言ったんでしょ、私はタイムマシーンを開発出来るほどの天才なのだぜ?
エネルギーカット機能をさらにカットする、そんなパッチを作るくらい訳無い。2.3日は掛かるけどね」
岡部「紅莉栖……すまん。迷惑をかける……」
素直に頭を下げる。
紅莉栖の思いやりが心の底から嬉しかった。
422 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:39:11.68 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「やっ、野暮ったいこと言うな! そ……その、ラボメンだろ。
ラボメンは仲間だから協力するのは仕方ないと言うか……当たり前と言うか……。
とっ! とにかく、その機能を岡部の意志で切り替え出来るようにしてやるから、まずはそのあんまりにも無い体力をどうにかしろ!」
照れ隠しも相まって、紅莉栖は戦闘で気になった箇所を指摘した。
岡部の体力のなさ。
これは傍目から見ても相等なものだった。
岡部「まさか、ISでの戦闘があそこまで疲れるものとは──」
紅莉栖「疲れない! 疲れません! 普通疲れないから!」
ISから供給されるパワーアシストを考えれば疲労など簡単には溜まらない。
されるとすれば精神的な疲労だろう。
けれど岡部の疲労は明らかに体力不足から来るものだった。
423 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:39:58.14 ID:3c30XdkUo
岡部「なっ、何を言う! 3分も動けば息が弾み呼吸が乱れていたぞ!」
紅莉栖「体力無さ杉だろ常考……アンタって私より体力無いもんな。忘れてたわ」
岡部「ぐぬぬ……」
言い返せない。
体力不足は自他共に認める岡部の欠点だった。
紅莉栖「取りあえず、原因も解決方法もわかった訳だが私達は生徒会室に御呼ばれしている。
さっさと展開解除して、着替えて行きましょ」
岡部「う、うむ……」
言い淀む岡部。
424 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:40:24.73 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「? どうしたのよ、さっさと解除しなさいよ」
岡部「助手よ……その、後ろを向いていてはくれまいか。正直、このピチピチとしたスーツはまだ慣れんのだ……」
紅莉栖「ばっ……見るかこのHENTAI! それに、さっきまでその姿で一緒にいただろうが!」
岡部「さっ、さっきはさっきだ!」
落ち込んでいた為もあり、先ほどは紅莉栖がいてもなんら恥じらいは無かった。
でも今は違う。恥ずかしさが勝っている。
岡部「女子にこの辛さが解るか! 見る、見られないの問題ではない!!」
紅莉栖「辛さなら解るわボケ! 胸の大きさかんが……」
岡部「……」
黙りこむ岡部。
視線が胸部へ映るのをギリギリで我慢した。
425 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:40:52.61 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「OK. 外で待ってるわね」
岡部「す、すまない」
紅莉栖「気にしないで。そしてお前も気にするな、解ったな?」
岡部「はい」
紅莉栖「──あぁ、それと」
岡部「む?」
更衣室を出る直前。
紅莉栖が振り向き口を開いた。
426 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:41:40.58 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「一つ聞きたかったんだけど」
岡部「なんだ」
紅莉栖「“シールドエネルギー”が無くなった訳でもないのに“石鍵”はなぜ落下したのか……」
“零落白夜”によりエネルギーを消失され、浮遊することも出来なくなった。
のなら理解できる。
けれど“シールドエネルギー”は全くと言って良いほど削られていない。
地上へ突き刺さるほど落下する理由は見当たらなかった。
岡部「あっ、あれは……だな……」
紅莉栖「あれは?」
岡部「──おっ、驚いて……制御が……だな……」
紅莉栖「外で待ってるわね」
岡部「……あぁ」
静かに更衣室を後にする。
1人残された岡部は溜息混じりに俯くことしか出来なかった。
427 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:42:31.85 ID:3c30XdkUo
紅莉栖「……やっぱそうだったか」
予想が当り安心する。
岡部がヘタれているのは今に始まったことではない。
あの現象が他の理由に起因しているほうが問題だった。
紅莉栖「ようし」
紅莉栖の解析により“石鍵”の特性が判明した。
それはISとして致命的な特性であり、使い道の無いもの。
紅莉栖は考える。
なぜ、“石鍵”はそのような特性を組み込んだのか。
428 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:42:58.96 ID:3c30XdkUo
“シールドエネルギー”をカットしてまで、エネルギーを温存しなければならない状況を想定しているのだろうか。
あの装甲の硬さは……。
“白式”の全力攻撃を受けて傷一つ付かないなんて異常の極みと言える。
一体何と戦うことを想定しているのだろうか。
戦争? どこの国と? 核攻撃にでも耐えるつもり? その為の全身装甲?
疑問は増えるばかり。
そして岡部に伝えなかったもう一つの特性。
“石鍵”の“総シールドエネルギー量”は従来のIS機の数倍近い数値を示していた。
しかし、今回の戦闘ではそのエネルギーにロックが掛かっておりその大半が開放されずにいた。
全エネルギーが解放された場合の数値は、今の機材で計測出来るものでもなかった。
429 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:43:40.56 ID:3c30XdkUo
解析をしたい、研究をしたい。
何のために“石鍵”はあの形になったのか。
全て、岡部の深層心理のようなものが反映されているのだろうか。
数々の問題が山積した今回の出来事。
紅莉栖は微かに微笑んだ。
紅莉栖「面白いじゃない……私が解を導き出してあげるわ」
科学者としての、牧瀬紅莉栖。
研究者としての、牧瀬紅莉栖。
彼女の心に火が付いた瞬間だった。
430 :
[sage saga]:2012/09/26(水) 21:44:54.18 ID:3c30XdkUo
おわーり。
ありがとうございました。
431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/26(水) 21:47:15.00 ID:hCQ+rvoDo
ふむ、乙である
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/09/26(水) 22:18:04.66 ID:JT5NKhjVo
乙
だが見直しはした方がいいな
以前の文章そのままだったぞ
>俺は俺が思うほど自己保身の強い人間だったという事だな
俺は俺が思う以上に自己保身の強い人間だったという事だな
文脈から判断するならこうなる
433 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2012/09/27(木) 01:07:38.12 ID:2ixKg1Koo
乙でしたー
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/27(木) 02:07:24.06 ID:jDH5CXqDO
乙〜ノーガードさん画像検索したが意外とカワイイんだな
435 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/27(木) 05:49:40.92 ID:fsU98PqPo
よええ
436 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/09/27(木) 19:12:11.88 ID:vXY8d6XA0
リップバーンのセリフが出たのは感動したww
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/09/28(金) 01:24:31.48 ID:0wCUbxA60
ルート次第じゃまじで中尉のあれっぽくなるよな
438 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:43:39.07 ID:jxntjj98o
投稿します。
439 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:54:12.83 ID:jxntjj98o
……。
…………。
………………
440 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:54:38.81 ID:jxntjj98o
─生徒会室─
扉を開けてまず目に入る大きな机。
豪勢な机が窓を背に鎮座しているのが印象に残る。
一夏はこれを“権力者の象徴”だなと思っていた。
「全員が揃うまで、お茶でも飲んでましょう♪」と楯無が提案したため、全員がカップを持ちお茶を楽しんでいる。
その時、コンコンと控えめなノックの後に扉が開いた。
岡部倫太郎と、その後ろから牧瀬紅莉栖が生徒会室へと入室する。
楯無「いらっしゃーい」
紅莉栖「どうも……」
岡部「で、一体どうしたと言うんだ」
二の句も挙げず本題にはいる。
お茶を楽しむ気など岡部にはなかった。
441 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:55:17.32 ID:jxntjj98o
楯無「あら、皆が倫ちゃんの“石鍵”について知りたそうな顔してたから、おねーさんが一肌脱ごうとしてるのに」
ぴらりと制服の裾をあげる仕草を見せる。
健康的な腹部がチラリと顔を見せた。
それを見て、一夏がそっぽを向く。
岡部「……制服を脱いでどうする」
楯無「あん。倫ちゃってば反応つまんなーい。一夏くんみたいに照れた方が可愛いわよ?」
内心、岡部もドキドキしていたが年長者としての少しばかりの面子。
そして何より後ろに紅莉栖が居る状況では落ち着いた対応をせざるを得なかった。
箒「んんっ! 楯無先輩。お話を伺いたいのですが」
セシリア「そっ、そうですわ! 私達はそのためにここまで来たのですから」
ラウラ「何時まで裾を持ち上げているつもりだ。一夏が困っている」
楯無の行動に対して一年生女子から突っ込みが入る。
それを見て赤面している一夏を見て面白い訳が無かった。
442 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:55:44.81 ID:jxntjj98o
楯無「あら? 一夏くんは嬉しいわよね?」
一夏「えっ!? いっ、いや……」
話を振られて視線が泳ぐ。
嬉しいとか嬉しくないとか、この場で言えるはずがない。
ラウラ「ふん。困っているではないか」
楯無「あっ、そーかぁ。もう一夏くんはおねーさんの裸とか見慣れちゃったんだもんね」
一夏「ぶっ!」
思わず噴出す。
確かに、楯無はことあるごとに一夏の部屋に侵入しては下着姿を披露していた。
見慣れていない。と言えば嘘になる。
443 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:56:24.01 ID:jxntjj98o
箒「貴様……」
セシリア「いいえ、まさかそんな……」
鈴音「……は?」
シャル「うん……どう言うことだろうね?」
ラウラ「どっ、どういう……」
声質が変わる。
殺気を孕んでいる者が数人いた。
一夏「ちっ、違う! 誤解だ!! あれはお尻をマッサージしてくれって言われたか、ら……で……」
箒「……」
セシリア「……」
鈴音「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
444 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:56:50.67 ID:jxntjj98o
一夏の一言によって、生徒会室内の温度が一気に冷たいものに変わった。
恋する五人の乙女が発する気によって、生徒会室の空気が完全に凍り付いている。
一夏が口を開けば開くほど、弁明すればするほど泥沼にはまる。
なるほど。こうして、自ら墓穴を毎度掘っているのねと紅莉栖は納得した。
紅莉栖「ちょっと、失礼。今はその話題ではなくて“石鍵”についてが先決じゃない?」
見かねた紅莉栖が助け舟を出す。
一夏以外、誰にも気付かれないようにウインクをして“貸し一つよ”と伝えた。
箒「む、そうだな……」
ヒートアップ寸前だった空気が霧散する。
本来の目的を全員が思い出した。
一夏「(助かった……紅莉栖、ありがとな。本当に良いやつだ……。年上だし、しっかりしてるよなぁ)」
無駄に上昇する紅莉栖への高感度。
こう言った気配りが、普段から攻められる立場である一夏の心を癒していた。
445 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:57:17.90 ID:jxntjj98o
楯無「そーだった、そーだった。倫ちゃんもクリちゃんも座って座って」
2人を椅子に促し、楯無は伊達眼鏡を装着し自分で“出来るおねーさん”を演出する。
それに対して突っ込みを入れる者はいない。
楯無「こほん。まず、あの武器の弱さについておねーさんなりに出した結論を教えちゃうわね?」
岡部「攻撃力の低さに何か理由があったのか……?」
紅莉栖との解析で得た情報では、武器の強弱に付いて判明したことはなかった。
ゴクリ、と生唾を飲む音が岡部の喉から響く。
一夏「やっぱり、あの攻撃ってただ攻撃力が低かっただけってことになるのか。
あまりにも威力が低かったから、何か特殊な能力があるのかと思っちまった」
楯無と岡部の言葉を聴き一夏が感想を漏らす。
余りにも低いダメージの裏には何か仕掛けがある。
そう考えて不思議に思う者はいない。
446 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:57:47.89 ID:jxntjj98o
楯無「一言で表すと……“石鍵”はズバリ、“赤ちゃん”なのよ」
人差し指を岡部に突き出しポーズを取る。
ふざけている口調ではあるが、妙に説得力を感じさせる声質だった。
シャル「赤ちゃん……?」
箒「赤子、と言う意味ですか?」
楯無「いえーす、正解。ベイビーってこと」
鈴音「ちょっと意味が解らないわね」
セシリア「ISが赤ちゃんって、どういう事ですの?」
ラウラ「詳しい説明を要求する」
一斉に質問が投げかけられる。
皆が皆、答えに餓えていた。
447 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:58:13.82 ID:jxntjj98o
楯無「束博士は言いました。“石鍵”は“完全自立進化型”だと。
箒ちゃんの“紅椿”同様に“無段階移行”(シームレス・シフト)が搭載されてると言ってたけれど、この機能もまだまだ謎が多い。
ISの稼動時間だったり、戦闘による経験値だったり様々な要因から発動する。そうでしょ?」
箒「え、えぇ」
言葉を投げかけられた箒が頷く。
楯無の言うとおり、操縦者である箒ですら“無段階移行”の全貌を把握している訳ではない。
楯無「だから、おねーさんは思いました。この子はゲームのキャラクターの様に、経験値を手に入れて強くなるってことをね!」
バンッ。と机を掌で叩き、表情を作った。
その顔は自信満々のいわゆる、ドヤ顔と呼ばれている表情を作っている。
「結論は出たわね」とその顔が物語っている。
448 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:58:53.60 ID:jxntjj98o
セシリア「つ、つまり……あの不可思議な武器は今だ成長段階で、これから強くなるってことなのでしょうか……」
ラウラ「成長する武器など聞いた事が無い」
シャル「でもそれを言うなら、IS本体が成長するってのも聞いた事が無いよ。
“非限定情報共有”(シェアリング)で、コアが自己進化するのは知ってるけど……」
鈴音「つまりは、それが“完全自立進化型”ってことなのかしら?」
一夏「進化していくISとその武器、って訳か」
思い思いに議論をぶつけ合う。
ただ1人、紅莉栖は思い表情を浮かべ思案していた。
紅莉栖「……」
今まで蓄積してきた知識と照合する。
この場合、該当するケースはやはり“石鍵”と同じく“無段階移行”を搭載している“白式”と“紅椿”。
この2機の今までを考えれば、楯無の推論はあながち間違っては無いのでは。
そんな思いが胸の内で渦巻く。
449 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:59:20.23 ID:jxntjj98o
岡部「なるほど。それならば、あのへぁんぱない弱さも頷けると言うものだな」
例えるならレベル1。初期レベル。
その弱さは言うに計らず。
楯無「でしょでしょ? おねーさんあったまいー!」
鈴音「うん? でもそうすると……」
ラウラ「問題が一つ解決されていないな」
箒「うむ」
そして炙り出されるもう一つの謎。
その議題をスルーするほど、ここに集まった面子は呆けていなかった。
450 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 18:59:47.31 ID:jxntjj98o
セシリア「倫太郎さんは“零落白夜”の直撃を受けましたわよね?」
一夏「あっ、そう言えばそうだった」
シャル「武器の弱さは何となく納得したけど、それとこれとは別だね」
楯無は内心、このまま押し切れるかと期待していたがそこまで甘くは無かった。
岡部・紅莉栖が至った結論と楯無が憶測により導き出した答えは同一。
そして、三者ともその結論を皆に伝える気が無い。
どのような意図があり備わった機能なのかわからない以上、伝える必要は無いと考えていた。
岡部と紅莉栖は黙り込み、楯無が説明するより他が無い状況。
無論、楯無が皆を生徒会室に呼び、この状況を作った張本人であるので明言を避ける事も出来なかった。
451 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:00:14.95 ID:jxntjj98o
楯無「あーっと、それはね……?」
言葉を絞る。
珍しく楯無が放つ言葉を選びあぐねていた。
一夏「それは……?」
楯無「ごめーん! おねーさんにも解らないの☆」
てへっ、と可愛く舌を出しウインクをする。
歳相応の可愛らしさを覗かせていた。
箒「は?」
セシリア「どういうことですかしら?」
鈴音「ちょっとちょっと」
シャル「えっと……」
ラウラ「何か解ったから、ココへ呼んだんじゃないのか?」
どんなに可愛く取り繕おうと、同姓の。
しかも年下である子らに効果は得られない。
予想通りのブーイングが返ってきた。
452 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:00:40.94 ID:jxntjj98o
楯無「あら、だから説明したじゃない。“石鍵”は赤ちゃんだって」
すっ呆けた顔で話題を逸らす。
一夏「でも楯無さん、凶真が墜落したあとぺたぺたと機体を触ってましたよね?」
けれど、楯無の思いを他所に空気を読まず一夏が突っ込んだ。
一瞬だけジト目を作り、一夏を睨む楯無の姿を見た者は幸いにもいない。
箒「確かにな」
鈴音「あー、確かに触ってたわね」
セシリア「わたくしも、この目でしっかりとその現場を見ていましたわ」
シャル「うんうん。それで何かわかったような顔してたもんね?」
ラウラ「その説明はどうする」
一夏の言葉に続けと援護射撃が続く。
453 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:01:07.33 ID:jxntjj98o
楯無「うん。触ったけど、何もわからないことが、わかったの♪」
再び、てへっと楯無は舌を出した。
同性から見ても彼女の容貌は羨むくらいに整っている。
無駄に可愛く見えるその仕草に、誰とも無し舌打ちが微かに聞こえた。
楯無「あーん、怒っちゃヤー。おねーさんだって全部がわかる訳ないじゃないっ。ぷんぷん」
一夏「いや……怒ってはいないですけど……」
ガッカリした。が正しかった。
誰しもが求めた正当が得られない。
それは肩を落すに充分な理由と言えた。
454 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:02:01.31 ID:jxntjj98o
シャル「と、すると何でオカリンは無事だったんだろうね?」
鈴音「そこが納得いかないのよね」
紅莉栖「さっき、少しだけデータを見たけれど納得のいくような情報は得られなかったわ」
さり気なく嘘を混ぜた。
IS戦闘に置いて、自機の細かいデータを露出するのは大きな痛手となる。
岡部の専属アシスト。と言う訳ではないが、実情でそれを担っているのは紅莉栖で間違いない。
公に公開するスペック以上の物をここで公表する必要は無いと考えた。
一夏「そっか。結局謎は解けず仕舞いかぁ……“白式”の方で何か問題があったのかもなぁ。
結局それが良い方向に働いた訳なんだけどさ。明日にでも整備室に行って見てくるかな」
箒「そうだな。良く調べた方が良い」
セシリア「それが良いですわね。万が一、と言うこともあります。
“石鍵”によるなんらかの能力と見るより“白式”側に何かある可能性の方が現実的ですし」
シャル「うん。なんだったら僕も手伝うからさ」
“石鍵”に問題がないのであれば、攻撃を加えた側である“白式”に問題がある。
そう思考がシフトするのは当然と言えた。
455 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:02:27.74 ID:jxntjj98o
鈴音「産まれたての赤ちゃん、ってんだから何かしらの力があるようには思えないしね」
ラウラ「機動力、攻撃力、どれを取っても第一世代に劣るスペックに思えるほどにな」
岡部「……」
“石鍵”の低スペックぶりが裏付けるように連呼される。
岡部の肩身は大変狭いものになっていた。
楯無「はぁーい。問題解決ね♪」
岡部「うむ」
紅莉栖「そうね」
話題を切り上げたい3人が一様に首を振る。
しかし、
楯無「で! おねーさん一つ気付いちゃったの」
楯無のターンは終了していなかった。
むしろ岡部にとって、本当の災難はここから始まったと言える。
456 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:02:54.47 ID:jxntjj98o
一夏「まだ何かあるんですか?」
箒「もう何もあるように思えないが……」
謎は出尽くした。
攻撃力の有無。“零落白夜”直撃時のダメージの有無。
けれど、楯無はそれ以外にもあるような口ぶりを見せている。
楯無「ちっちっちー。皆は二人の戦いを見て、何か一つ不思議に思わなかったかしら」
シャル「不思議?」
シャルロットが言葉を反芻する。
楯無の問い掛けに答えられる者はいなかった。
楯無「倫ちゃん倫ちゃん」
皆が思考する中、楯無はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら岡部の名を呼んだ。
457 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:03:37.35 ID:jxntjj98o
岡部「む?」
楯無「あなた、戦闘が始まって5分もしない内に肩で息してなかった?」
岡部「…………」
楯無の問いに、岡部は即座に応答することが出来なかった。
ワンテンポ遅れて、
岡部「なっなにを言い出すのかと思えば──」
焦った口調で弁明しようとする。
が、
紅莉栖「その通り。岡部は開始3分程で呼吸が乱れるほど疲労していた」
裏切り者はすぐ横に。
紅莉栖は深刻な岡部の体力不足を大声で指摘した。
458 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:04:17.76 ID:jxntjj98o
岡部「じょっしゅぅぅ! 貴様まで一体何を言いだすのだ!!」
紅莉栖の謀叛とも呼べる言動に焦る岡部。
そして、追い討ちを仕掛けるようにクラスメイトが次々と問題を口にし始めた。
セシリア「そう言えば、後半妙に動きがノロノロとしてましたわね」
シャル「ISの操作に戸惑ってるのかと思ってたけど……」
鈴音「えっ、でもあの程度で疲れる訳無いじゃない」
箒「そうだ。第一動いているのは我々ではなくISなのだからな」
ラウラ「IS戦闘3分でバテるなど論外も良いところだ、ありえん」
厳しい口調で指摘される。
体力的な疲労など“ありえない”と。
459 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:04:56.27 ID:jxntjj98o
岡部「う、うむ。ありえん」
自分よりも年下の女子達。
そんな彼女達から言い放たれる言葉に心を痛めつつも、岡部は賛同した。
紅莉栖「私の体力は恐らく、一般的な10代後半の女性よりやや低い位。
そして岡部の体力は私以下である。これによって導き出される解は……」
岡部「……」
無常にも紅莉栖の発言は続いていた。
もはや、岡部に口を挟む権利は有していない。
楯無「倫ちゃん。あなた、体力無いでしょう? それも、びっくりする位に」
岡部「……」
答えられない。動けない。
頷いてしまえば、なにを言われるかわかったものではない。
460 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:05:22.23 ID:jxntjj98o
箒「まっ、まさか……」
セシリア「考えられませんわ……」
鈴音「ありえない……」
シャル「えっと、冗談だよね? あはは……」
ラウラ「貴様、それでも軍人か?」
一部除く、想像通りの反応が返って来る。
一般男性が少なからず持つ、小さなプライドを傷つけるものばかりだった。
岡部「軍人ではない!! ええい、そもそも貴様らのような脳筋と一緒にするではない!!
俺の本分はメァーッドサイエンティースッ! 科学者なのだからな!」
逆切れで乗り切ろうとした岡部。
しかし、そんな言葉を受け取る者は誰一人としていなかった。
461 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:05:48.54 ID:jxntjj98o
一夏「でも、凶真……その体力の無さはヤバイかも……」
楯無「ヤバイわね」
箒「危険だ」
セシリア「少々お気の毒な感じがしてきましたわ……」
鈴音「ヤバイってレベル通り越してるわよ」
シャル「ちょっと、それは……うん」
ラウラ「問題外だ」
紅莉栖「満場一致で岡部はヤバイ」
ヤバイ。不味いの一斉掃射。
かつて、体力不足でここまで叩かれたのは初めてであった。
462 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:06:51.36 ID:jxntjj98o
岡部「ぐぬぬ……」
楯無「と、言うこーとーでー。決まりね?」
箒「うむ」
セシリア「致し方ありませんわね」
シャル「頑張ろうね」
鈴音「しゃーない、付き合ってやるか」
ラウラ「一週間でセーフティを外せるルーキーにしてやろう」
楯無の言葉に頷く一同。
まるで何かを共有しているかのように、お互いが納得しあっている。
463 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:07:34.80 ID:jxntjj98o
岡部「うん? 何を言っているんだ? こいつらは」
紅莉栖「さぁ……? 私にも」
首を傾げる2人。
一緒に攻め立てていた紅莉栖も状況を把握出来ていなかった。
一夏「えーっと、多分……」
気の毒そうな声色で一夏が答える。
それを遮るように、生徒会長が口を開いた。
楯無「クラス内対抗戦までみっっっちりしごいてあげる。正直、今の倫ちゃんにはISを起動する資格が無いもの♪」
岡部「は……? いやいや、待て待て俺はそんな事頼んでは──」
固まる岡部。
勝手に自体が進展して行く様はまるで津波のようだった。
464 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:08:33.96 ID:jxntjj98o
箒「私の指導は厳しいが、なに。直に慣れる」
セシリア「英国式のトレーニングを直接指導して差し上げますわ!」
鈴音「面倒だけど、同じ専用機持ちの仲間ってことで協力してやるわよ」
岡部「えっ、だから頼んで──」
全てを飲み込む大波。
抗えず、逆らえない。
シャル「僕も心を鬼にして頑張るよ!」
ラウラ「倫太郎。貴様専用に育成プログラムを組んでやる。逃げれば銃殺刑だ」
楯無「あはっ。皆頼もしいわね」
一夏「凶真……俺もサポートするからさ、死ぬなよ……」
哀れむ瞳で一夏が視線を向けていた。
岡部はトレーニングを教授するとは一言も発していない。
465 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:09:27.27 ID:jxntjj98o
岡部「待て、なんだこの流れは」
紅莉栖「良かったじゃない。これで、もやしっ子体型からおさらば出来ると思えば」
楯無「明日からさっそくスタートしましょうね? 倫ちゃん♪」
岡部「俺に自由意志は無いのか……」
声から感情が無くなる。
視線があちらこちらと動き忙しない。
466 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:10:41.44 ID:jxntjj98o
一夏「凶真。俺達に自由意志は、無いんだよ……」
ぽん、と優しく肩に手を置かれる。
一夏の一言で岡部は全てを汲み取り、諦めた。
いくら自分が足掻いたところで、この学園では逃れる術も守られるべき法も無いのだと。
クラス内対抗戦まで残り約一週間。
岡部倫太郎はこれまで生きてきた中で、肉体的に一番辛い時期を迎えることとなる。
楯無「あっ、それと倫ちゃん生徒会に入って貰うからね♪」
決定事項だから。
と、楯無が最後に重く付け加えた。
467 :
[sage saga]:2012/09/28(金) 19:11:17.72 ID:jxntjj98o
おわーり。
ありがとうございました。
・岡部倫太郎 専用IS“石鍵”
http://kie.nu/.ra0
468 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/28(金) 22:02:06.53 ID:AjTpCX0ho
>>467
グレイフォックスみたいだな
469 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/09/28(金) 22:13:47.87 ID:nG0Amak+o
乙
アヌビス色の強いジェフティみたいな感じやね
なんにせよかっこ良い
470 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/29(土) 04:11:24.27 ID:17z7NwjIO
自作?かっちょいいなー
471 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/09/29(土) 21:19:11.01 ID:5th0Kx5p0
俺は漫画版ギアスのナイトメア想像した
472 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/30(日) 02:28:47.08 ID:cuT3KReko
改造制服の絵って見れる?
473 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/30(日) 03:12:39.01 ID:e5O4HCBDO
うしここ数日で過去の全部読んで今TRUE読み終わってきた
身体中が燃えるように熱くなり鳥肌がたった
改めてまたこのSSが来たことを嬉しく思った!
前みたくYまで行くのかな?
474 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:16:54.36 ID:HlOwBM/To
>>1です。
絵は自作ではなく、頂き物です。
改造制服等の絵はグーグルで「Steins;Stratos pixiv」で検索をかけて頂ければイラストが出てきます。
初見の方ですとネタバレがかなり含まれています。
W等の数字は不明です。
文章量は跳ね上がっていますが、スレ消費量はレス数にもよりますので。
投稿します。
475 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:17:46.78 ID:HlOwBM/To
岡部倫太郎は憂鬱だった。
明日から始まるであろう光景を思い浮かべ、良い気分になる訳が無い。
ギシッ、とベッドが軋む。
ISでの初戦闘による興奮ではなく、明日からの日々が岡部の睡眠を妨げていた。
それ程に、運動を好ましく思ってないのだった。
岡部「きっと、ただの運動ではない。
あぁ……わかっている、わかっているさ。
問題? あるに決まっているだろう……今回ばかりは、ダメかもしれん……」
携帯を取り出す力も出ず、独り言を呟く。
岡部はポケットにしまっておいた、ピンバッヂを強く握り締めた。
476 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:18:12.91 ID:HlOwBM/To
岡部「ラ・ヨーダ・スタセッラ……」
思い出す。
ラボメンNo.007。秋葉留未穂にピンバッヂを渡した時の事を。
岡部『助けが欲しい時はそれを握り締め、ラ・ヨーダ・スタセッラ。と唱えると良い』
ラボメンに会いたい。
実際、紅莉栖とは今まで以上に会っていたがそうではなかった。
岡部にとっては、未来ガジェット研究所でこそラボメンと最もコミュニケーションが取れる空間なのである。
IS学園はホームと呼べる場所ではない。
岡部「誰も、助けにこないではないか……」
それはそうだ。
助けに行くのは自分なのだから、と心の中で自虐をした。
477 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:18:39.34 ID:HlOwBM/To
一夏「凶……真……?」
ぶつぶつと呟き続けるルームメイトを心配して織斑一夏が声をかけた。
一夏「その、大丈夫か?」
岡部「おそらく、大丈夫で居られるのは今日までであろう……。
明日になれば我が肉体は淵底に沈み、意識は深遠へと溶け込み二度と日の光射す日常には戻ってこれまい……」
完全に鬱状態だった。
声色は低く、表情も土気色に染まっている。
話しかけられたと言うのに身体はおろか、視線すら向けていない。
完全に虚空を見つめていた。
478 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:19:07.89 ID:HlOwBM/To
一夏「重症だな、こりゃ。えっと……そんなに運動嫌いなのか?」
岡部「好みではないな……何度も言うようだが、俺は科学者だ。得て不得手と言うものがある。運動は専門外なのだ」
一夏「そっか、そうだよな。でもISを操縦するならこれから体力をつけないと不味いしなぁ……」
岡部「少しずつ運動するのならそれも良いかもしれない。
郷に入っては郷に従う他ないからな。だが……やつ等は、違うだろう? きっと違うだろう?」
どう考えても、専用機を持つ者達。
あの女子連中は脳筋だと岡部の本能が警笛を鳴らしている。
一夏「……やつら?」
岡部「あの野獣のような娘達の事に決まっているだろう」
一夏「野獣って……まぁ確かに、そう言えない時も無いけど……」
過去を振り返る。
一夏自身。痛い思いをしたのは一度や二度で済まなかった。
479 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:19:36.02 ID:HlOwBM/To
岡部「普通の運動のはずがない、絶対に無い。断言出来る、違う絶対違う」
布団を頭から被り、ガタガタと震え出す。
明日から自身が体験するであろう、地獄のような日々を想像するだけで胃から熱いものが込み上げてくる。
岡部「特に、あのシノノノノノと眼帯娘。目に見えてやる気を出していた。恐ろしい、俺は恐ろしい……」
一夏「箒とラウラか……確かに、あの二人が一番厳しいかもな。
箒は剣道の腕が一流だ。きっと訓練は剣術とかになると思う。
ラウラは一流の軍人だ……考えるだけで、俺もちょっと怖い」
岡部「それ見ろおおおお!! ワンサマーですら恐怖を抱くレベルを俺が処理出来る訳無いだろうっが!」
一夏の言葉でさらに恐怖が煽られる。
ISを展開し、この学園から逃亡したいと言う気持ちが沸々と湧き上がってきている。
480 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:20:02.91 ID:HlOwBM/To
一夏「俺に言われても……ごめんな、俺にはどうすることも出来ない。
でもその代わり、全部一緒に付き合うからさ! なっ!」
岡部「……逃げよう」
一夏「えっ?」
岡部「逃げる! 俺は逃げるぞワンサマー!!」
一夏「ええぇっ!?」
布団から勢い良く立ち上がる。
目が血走っていた。
岡部「短い間だが世話になった、皆には宜しくと伝えておいてくれ」
指輪となり待機状態になっていた“石鍵”を展開しようとした時だった。
481 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:20:29.48 ID:HlOwBM/To
一夏「ちょっ、たんまっ!!」
岡部「ぬおっ」
一夏が隣のベッドから思い切り岡部へとダイブを決める。
その衝撃で“石鍵”の展開は中断され、ベッド上で男二人が縺れ合う状況となった。
岡部「なっ、なにをっ」
一夏「それは駄目だ! それだけは駄目なんだって!」
一夏の声は本気そのもの。
冗談やおふざけは一切混じっていない。
岡部「な、なにがだ……?」
あまりの真剣さに息を飲む。
どう言うことか理解出来なかった。
482 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:20:57.08 ID:HlOwBM/To
一夏「ちっ、千冬姉ぇに殺される……」
岡部「…………」
低く、重い声。
興奮して上がっていた体温が直ぐに氷点下まで冷め切った。
一夏「寮内での無断IS展開。それに逃亡となったら……」
岡部「……」
一夏「こっ、殺されてもおかしくない……」
岡部から目を逸らす。
自身の姉を語る弟の目ではなかった。
岡部「……はぁ、もうダメだ。やはり逃げられない」
身体が弛緩する。
もう、何処へ逃げる気もなくなっている。
483 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:21:23.94 ID:HlOwBM/To
岡部「……やるしかないようだな」
諦めきった声。
それを聞いた一夏はなにを勘違いしたのか、
一夏「一緒に乗り越えようぜ! 俺も何だか燃えてきた!」
岡部の手を取り、テンションを一気に昂ぶらせていた。
岡部「“も”ってなんだ“も”って……」
一夏は闘志を奮い立たせ。
岡部は意気消沈したまま、夜は更けていった。
「俺はなんのためにこの学園へ来たのだろう」とまで岡部は考え初め、意識がまどろむまでその答えは出てこなかった。
484 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:21:56.71 ID:HlOwBM/To
……。
…………。
………………
485 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:22:32.15 ID:HlOwBM/To
─翌日─
コンコン。と織斑一夏と岡部倫太郎が住む部屋のドアがノックされた。
時刻は朝5時。
当然、早朝と言うこともあり男5人の眠りは深く起きる事は無い。
コンコン。
再度なるノック音。
一夏「すぅ……すぅ……」
岡部「くかー………」
起きぬ2人。
控えめになっていたドアが、ゴン! と轟音に変化するまでさほど時間は要さなかった。
486 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:23:20.53 ID:HlOwBM/To
一夏「うわぁ!! なんだなんだ!?」
ゴン、ゴンと叩かれるドア。
織斑一夏の部屋を守護するドアの役目は何時だってこうだった。
一夏「ノック!? はい! はい開けますはい!」
急ぎドアを開ける。
ドアスコープを覗き来訪者の姿を確認する暇などない。
これ以上、ドア破壊による新規ドア取り付け申請を行うのはごめんだった。
箒「おはよう」
一夏「ほう──き?」
ドアを鳴らしていたのはクラスメイトであり、幼馴染でもある“篠ノ之 箒”だった。
487 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:23:56.75 ID:HlOwBM/To
箒「うむ。い、良い朝だな、うむ」
ちらちらと視線を泳がせる。
頬がほんの少しだけ上気していた。
一夏「朝だなって、朝5時だぜ? どうしたんだよ」
箒「岡部と、そ……そのついでに一夏、お前を起こしにき、た……」
言葉が詰まる。
岡部を起こしに来たのは本当。けれど、一夏の顔を見たいと言う比率の方が高かった。
一夏「起こしに……? なんで?」
んんっ。と声を整える。
本来の目的を見失う訳にはいかない。
箒「一日の始まりは鍛錬から始まる。全ては朝から決まるのだ。
今日から初日は私に任された、さぁ岡部を起こしてくれ」
一夏「あー……」
かの有名な映画俳優も“充実した一日を過ごしたければ、朝5時30分よりも早く起きる事だ”。
なんて言ってたもんなと、一夏は納得した。
488 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:24:58.82 ID:HlOwBM/To
一夏「そう言うことか……なら、仕方ないな。それとな、箒」
箒「む? なんだ」
一夏「俺も一緒に鍛錬頼むよ。一緒にやろうって凶真と約束したんだ」
箒の顔に笑顔が宿る。
本来であれば「お前もやるんだ、一夏」と言う予定だったのだから好都合この上ない。
箒「そうか! そうか……うむ、約束なら仕方ないな。鍛錬に前向きなのは良いことだぞ。うむ。うむ」
上機嫌になる箒。
それとは反対に、目覚めから最悪の表情を浮かばせる男がいた。
岡部「……5時。そうか、始まるのか……フハハ……ハ、ハ」
朝5時に叩き起こされたと言うのに、岡部に怒りの気持ちは無い。
すべてを諦めた上で「そうか地獄の朝は早いのか」と納得するばかりだった。
489 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:26:04.87 ID:HlOwBM/To
……。
…………。
………………
490 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:26:31.86 ID:HlOwBM/To
─剣道場─
気温は低く、四季は冬をゆっくりと目指していた。
岡部と一夏は体操服へ、箒は胴着へと着替えを済ませている。
箒「さっそく稽古……と行きたいところだが、まずはストレッチを行う。
岡部がどれだけ柔軟か調べなければならない」
岡部「柔軟体操か……」
岡部のテンションは寝起きのままだった。
ただ、ひたすらに低い。
一夏「凶真って、身体柔らかいのか?」
岡部「思考は柔らかいんだがな……」
一夏「おっ! 上手いこと言うなぁ、ハッハッハ!」
一夏の琴線に触れたのか笑い始める。
しかし、上手いことを言って笑う余裕は岡部にはなかった。
491 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:26:59.12 ID:HlOwBM/To
箒「ふざけていないで、シャンとやれ。
柔軟な身体はそれだけで怪我のしにくい体なんだ。もし硬ければ、今日一日は柔軟に費えてしまうかもしれない。
一週間で身体を壊さないようにしなくてはならないからな」
箒の言葉は真剣そのもの。
この行為自体、岡部の為にこそ行われている。
嫌だ嫌だと心の底から思っていても、その想いを踏み躙るこを岡部は出来なかった。
岡部「……わかった。やってみよう」
そう言うと、岡部はぐっぐと腰を曲げ、地面に手を伸ばした。
腰は途中でとまり、腕はだらしなく空中に垂れ下がる。
箒「どうした? 私に気にせず初めて良いぞ?」
岡部の奇妙なポーズを見て箒が口を挟む。
492 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:27:25.23 ID:HlOwBM/To
一夏「ほっほっ……と」
一夏は慣れた手つきで上半身、下半身と柔軟体操を進めている。
その横で岡部は未だに同じポーズを取っていた。
岡部「いや……」
一夏「ん? どうした、凶真。俺はちゃっちゃと終わらせちゃうぜ?」
岡部「これが、限界……なのだが」
箒「え」
一夏「え」
岡部の台詞に2人が固まる。
岡部「これ以上、前に行かない」
詰まったような声。
苦しさすら感じさせる声だった。
493 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:27:52.42 ID:HlOwBM/To
箒「ふざけて、いるんだよな……? はっはっは、さすがの私も怒ってしまうぞ?」
一夏「そうだよ凶真、ここはふざける場面じゃ……本当に?」
一夏の顔が真剣になる。
本当に、本気で岡部の身体が硬いのだと思考が至るまで時間はかからなかった。
岡部「あぁ」
こくん、と岡部は頷いた。
その額にはうっすらと冷や汗すら浮かべている。
箒「想像以上に、重症だったな……」
一夏「みたいだ……」
岡部「……すまん」
数分後。
岡部の悲鳴は早朝の剣道場に響き、その声は道場を付きぬけ学園中を駆け巡ったと言う。
494 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:28:29.93 ID:HlOwBM/To
岡部「……」
ピクピクと全身を震わせ、横たわる岡部。
全身から冷や汗を垂れ流していた。
箒「相撲取りのように、無理やり股割りをさせる訳にもいかないからな……」
一夏「無理やりやると一週間じゃ治らないからな」
箒「こうやって地味に伸ばしていくしかあるまい」
岡部「地味に……だと……」
産まれたての小鹿のように、身体を震わせている岡部が箒を睨んだ。
岡部「ゴム人間じゃあるまいし、人の関節はそんなに都合よく曲がらんのだ……」
箒「これも岡部のことを思ってだ。最初が私でよかったと思う日がきっと来る。さぁ、柔軟を続けて」
休憩をさせるつもりはない。
時間目一杯に執り行う予定だった。
495 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:29:02.79 ID:HlOwBM/To
岡部「ぐぬぬ……」
一夏「補助はもう要らないのか?」
箒「あぁ、取りあえず残りの時間はゆっくりと伸ばして貰おう。で……だ。一夏」
態度を一変し、モジモジと手先を弄り始める。
その顔は女の子そのものだった。
一夏「ん?」
箒「その間、ひ、暇だな」
一夏「そうだなー、俺は柔軟も一通り終わっちまったし」
箒「な、ならば私と一緒にジョギングへ行こう。基礎体力の向上は重要だ、うん。それに暇だしだな……」
暇だな。と言う部分を強調する。
あくまでも、暇だからと言うことを一夏に伝えたかった。
本来であればそれが口実であることを察し、けれどもそれを言わずに頷く。
それ位のことをして欲しかったが一夏に望める訳も無い。
496 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:29:45.96 ID:HlOwBM/To
一夏「ジョギングか、それも良いな。よし、行くか」
箒「そうか! 行くか、私とジョギングに行くか……そうかそうか」
今はそれで良いと、箒は照れながらも笑顔を浮かべた。
岡部「何処へなりとも行って来るが良い……」
端から見ていた岡部は溜息を吐きながらそれを見送った。
どこからどう見ても付き合いたてのカップルに見える。
箒「では、行ってくる! ちゃんと柔軟を続けるのだぞ」
一夏「じゃぁちょっと流してくるよ。またな」
二人は剣道場を後にして走って行ってしまった。
剣道場に一人取り残される岡部。
いっそこのまま帰ってしまおうかとさえ思ったが、その要望は却下して柔軟に勤しんだ。
岡部「これも、俺を考えてのことなのだろう。我慢せねばなるまいな……」
ゆっくり、ゆっくりと全身くまなく伸ばしていく。
岡部は二人が帰ってくるまで、2時間近く柔軟をするはめになった。
497 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:30:20.61 ID:HlOwBM/To
……。
…………。
………………
498 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:30:54.05 ID:HlOwBM/To
─食堂─
紅莉栖「あんた、何むくれてるのよ」
紅莉栖が朝食のチーズトーストを齧りながら機嫌の悪そうな岡部に訪ねた。
ちなみに岡部はたぬき蕎麦を注文して食べている。
岡部「むくれてなど居ない。どこぞのバカップルが俺を放って2時間近くジョギングをしてきたみたいでな。
一人でずっと柔軟をしていたため少々疲れているだけだ」
ずるずると蕎麦をすする音が悲しげに響く。
鈴音「……バカップル? ちょっとどう言うことよ」
気になるワードをキャッチしたのは、鈴音だけではなかった。
今朝の岡部教育担当者は箒である。
岡部の発言から導き出される答えは──。
499 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:31:23.19 ID:HlOwBM/To
シャル「うん。何か今気になる台詞がオカリンから出たね?」
セシリア「私も、何かが引っかかりましたわ」
ラウラ「この学園で男は2人しかいない。倫太郎と、一夏だ。つまり……」
鈴音「どういうことよ……」
最初から答えが出ている問題に対して遠回りすることで、標的である一夏を攻めている。
そしらぬ顔できつねうどんをすすっていた一夏がむせた。
一夏「ごふっ! ごふぉっ……」
箒「だっ、大丈夫か? 七味を入れすぎたんじゃないか?」
ハンカチを取り出し甲斐甲斐しく世話を焼く箒。
傍目から見ても距離が縮まっているように見える。
500 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:31:49.85 ID:HlOwBM/To
シャル「んー、白々しいなぁ」
セシリア「全くですわ」
ラウラ「正直に白状しろ」
鈴音「言いなさいよ、2時間も何してたのよ」
紅莉栖「(またこのパターンですね解ります。一夏って学習能力無いのかしら……)」
我関せずとそっぽを向く。
コーンスープの出来が驚くほど高いことに驚いていた。
一夏「ちょ、何で皆怒ってるんだよ」
鈴音「良いから言いなさいよ、早く言いなさいよ」
セシリア「軽蔑しますわ……」
シャル「オカリンを放置して、2時間もなにしてたのかな?」
ラウラ「さぁ言え!」
語気強く言い寄る。
どうしても一夏の口から白状させたい乙女達。
501 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:32:19.65 ID:HlOwBM/To
一夏「箒も黙ってないで何か言ってくれよ!」
箒「んんっ。岡部が柔軟している間に、ジョギングに行っただけだ……」
パクパクと焼鮭定食を食べながら箒が答えた。
塩梅が良く、ご飯が進む定番の一品である。
鈴音「へー朝から2時間もねー……」
一夏「箒がトラックを周回する毎に“もう1周だ”なんて言い続けてたからな……ほんと、地獄だったよ」
良く見れば一夏の顔には疲弊が見て取れた。
本当に体力の限界まで走らされていたことがわかる。
シャル「へー、箒も朝から頑張ったんだねぇ」
セシリア「精が出てますこと……」
ラウラ「それで、のこのこと付いて行き2時間も一緒に走り続けていたのか」
けれど、そんなことは関係ないとばかりに鋭い視線を突き刺す。
“2人きり”で2時間もジョギング。これはデートにも匹敵する羨ましい情景だった。
502 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:32:53.80 ID:HlOwBM/To
一夏「お、おう。凶真には悪い事したって思ってるよ……」
箒「そう……だな。確かに、自分達の鍛錬を優先するあまり放置してしまった。岡部、すまない」
2人揃って頭を下げる。
箒自身、浮かれてしまって申し訳無いと心の底から思っていた。
岡部「2時間走り続けさせられるよりはマシだろう。俺は気にしていない」
正直な感想。
2時間も走らされては初日で潰されてしまう。
それが回避出来たと思えば御の字と言えた。
紅莉栖「2時間一緒に走れば良かったのに」
岡部「普通の人間は2時間も走れるように出来ていない」
紅莉栖の野次にピシャリと突っ込みを入れる。
しかし、この突っ込みが良くなかったと思い至るのは数秒後であった。
503 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:33:24.69 ID:HlOwBM/To
箒「む。岡部は2時間走り続けることが出来ないのか?」
岡部「何を寝ぼけた事を……普通の人間が2時間も走りつ……」
気付いた時にはすでに遅かった。
箒「そうか。ならば午後の鍛錬はマラソンにしよう。良い機会だ。
一夏、我々もこれを機にさらに鍛えなおすぞ。長距離マラソンだ」
一夏「えっ……あっ、いや。箒さん? 剣術とか教えた方が良いんじゃないのかな?」
これにはさすがの一夏も動揺を隠せない。
普段から鍛えているとは言え、早朝からあれだけの時間走った後で午後も。
と考えるのは辛い。
そんな思考を読み取ったのか、周囲の女子連中の瞳がイヤらしく輝いた。
504 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:33:51.60 ID:HlOwBM/To
鈴音「へー良かったわね、一夏。あんたマラソン好きだったわよね?」
セシリア「確か、フルマラソンに挑戦するのが夢だとも仰ってたような?」
シャル「そうそう、2時間も箒と走り続けちゃう位にね?」
ラウラ「夢が叶って良かったな、一夏」
流れるように決まっていくスケジュール。
この学園に来てからと言うもの、岡部に“選択”と“自由”の二文字はなかった。
紅莉栖「(凄まじい流れね……岡部、ドンマイ)」
一夏「ちょ、俺はそんなことは一言も──」
箒「そうか! 一夏はランニングが好きか! そうか、そうか。
うむ、私も……嫌いじゃないぞ? ランニングは良いな、うん」
一人で盛り上がる箒と嫉妬の炎に焼かれた4人娘に天罰を与えられた一夏。
そのとばっちりを食らうはめになった岡部は溜息を吐き、食事を終了した。
紅莉栖はトーストとスープを飲み終わり食後のカフェラテを優雅に楽しんでいた。
紅莉栖「(巻き込まれちゃ、たまったもんじゃないからね)」
箒「ふふっ。放課後も鍛えてやるからな!」
輝く箒の瞳。
標的とされた一夏……の隣に居る岡部は不憫としか投げかける言葉が存在しなかった。
505 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:34:17.53 ID:HlOwBM/To
……。
…………。
………………
506 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:34:52.23 ID:HlOwBM/To
──ハァ。ハァッ。
喉が焼けるように熱い、痛い。
汗が滴り、目に入る。視界すら歪んでいく。
──ハッハッ。ウッ……。
内臓が全て口から出てしまいそうだ。
気持ち悪い。
一体、俺はなにを……。
足がやたらに重い。両腕を支える力が出ない。
自分の身体が自分の思い通りに動かない。
──かべっ? かべー?
耳の奥が痛い。もう、なにも聞こえない。
ああ、これだけ走ったのはいつぶりだろう。
──まっ! まっ!
あれ……? 歪んでいた景色が反転する。
507 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:35:18.74 ID:HlOwBM/To
──。
────。
──────。
508 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:35:45.06 ID:HlOwBM/To
気付いた時、岡部は自室の天井を見上げる形でベッドに寝転んでいた。
身体中の筋肉と言う筋肉が悲鳴をあげている。
動くたびに激痛が走り、関節が軋んだ。
岡部「ぐぉぉぉっ……! なん、だ、この痛み……は」
紅莉栖「あ、岡部起きた」
一夏「お、気分はどうだ?」
首だけを動かし現状を確認する。場所は寮の自室。
部屋は一夏と紅莉栖がいる。
岡部「……最高に最悪だ」
紅莉栖「それは何より」
ベッドの横では紅莉栖が分厚い参考書を読んでいた。
509 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:36:11.55 ID:HlOwBM/To
岡部「何故、助手がここに」
紅莉栖「マラソンの最中にぶっ倒れるから付き添ってやったんだろうが」
一夏「俺も付き添ってやりたかったんだけど、完走するまで許してくれなくってさ。紅莉栖に頼んだんだよ」
そう言った一夏の顔は疲れきっていた。
一体何時間走らされたのか、想像するだけで吐き気を催す。
岡部「そうか……」
紅莉栖「感謝しろよ、まったく」
岡部「いぎっ……全身が痛い」
全身が激痛と言う鎧に包まれているようで、満足に寝返りも打てない。
これだけの筋肉痛を発祥したのは記憶を遡るのも難しかった。
楯無「そんな時はマッサージよ♪」
岡部「……何故貴様が居る。どこから出てきた」
先ほどまでは確かにいなかった。
部屋を見回した時、岡部の視界には一夏と紅莉栖しかいなかったはずである。
510 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:36:37.72 ID:HlOwBM/To
楯無「あん。あんまり邪険にすると拗ねちゃうわよ?」
一夏「お願いですから、存在消して近寄らないで下さい。心臓に悪いです」
答えを用意してくれたのは一夏だった。
楯無はこうして気配を消して人の輪に入る癖がある。
楯無「心臓に悪いおねーさん。何かえっちな響きだと思わない?」
一夏「思いません」
きっぱりと否定しておく。
ここで肯定やうやむやな態度を取ると後々に必ずよくないことがある。
はぁ、と溜息を付いて一夏が続けた。
一夏「あの、凶真も疲れてるみたいなんでこれから遊ぶのはちょっと……」
楯無「遊ぶって失礼ね、一夏くんは。おねーさんは岡部君の身体をリフレッシュさせに来たのに」
紅莉栖「カカカッ、身体をりふれっす!?」
この言葉に一番の動揺を見せたのは紅莉栖であった。
天才少女は脳の回転の速さ故、稀にあらぬ方向へ物事を考えてしまう癖がある。
511 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:37:04.27 ID:HlOwBM/To
楯無「うふ。クリちゃんのえっち」
紅莉栖「〜〜っ!! ちがっ、ちが!」
顔を真っ赤にして首を横に振るう。
楯無の言葉に反応してしまった自身の脳が恨めしかった。
楯無「一夏くん、倫ちゃんにマッサージしてあげて頂戴」
一夏「マッサージですか? 良いですけど……」
楯無「筋肉のこりを徹底的にほぐしてね? それとこの薬を」
楯無が一夏に薬を手渡す。
どうやら軟膏のようで、肌に直接塗って浸透させる類の物らしい。
512 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:37:58.90 ID:HlOwBM/To
一夏「これは……?」
楯無「特別に調合した、筋肉痛を取るお薬よ。
それをマッサージしながら倫ちゃんの肉体に余すことなく塗りたくれば、明日にはスッと痛みなんて消えちゃうんだから♪」
一夏「へぇ、楯無さんが言うならかなり効果ありそうだな。よっし凶真。塗るぜ?」
薬を受け取り一夏が笑う。
こう言った時の楯無は、本当の意味で頼りになるお姉さんだと一夏は認識している。
岡部「本当に大丈夫なのか? 怪しい薬では……」
楯無「ほらほら、おねーさんの言うことは信じる。会長の命令は聞く。これ常識だからね?」
紅莉栖「随分狭い常識であられる……」
冷静を取り戻した紅莉栖が突っ込む。
しかし楯無は笑顔のままマッサージの施術命令を下した。
513 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:38:28.60 ID:HlOwBM/To
楯無「さぁぁ、一夏くん! 倫ちゃんの衣服をひっぺがしてちょーだいっ!」
一夏「うっす。凶真、脱がせるからな」
岡部「う、うむ……」
筋肉痛で動きの取れない岡部の衣服を剥いで行く一夏。
その情景を目にした紅莉栖は、自身の脈拍が上昇したことに気付いていた。
紅莉栖「(え、なんだろう……この気持ち)」
楯無「(クリちゃんは、きっと言葉では言い表せない“ときめき”みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って私はお薬を持ってきました)」
紅莉栖にしか聞こえない音量で耳打ちをする。
両手で顔を隠した紅莉栖であったが、指の隙間からしっかりとその光景を見つめていた。
514 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:38:54.92 ID:HlOwBM/To
楯無「(うーん。これなら生徒会で催し物として出せるレベルね)」
男子成分が欠落しているIS学園。
たった2人の男子が半裸で絡み合っているのだから、女子の反応は想像するまでもない。
一夏「どうだ、凶真。気持ち良いか?」
うつ伏せのまま、薬を浸透させるために強く揉み込む。
女子の身体と違って岡部の身体はゴツゴツとしたもので、自然と腕に力が入る。
岡部「あ、あぁ……なんだかスーッとしてきた。これは、良い薬なのかもしれん。
感謝せねばな……。それにしても、ワンサマーはマッサージが上手いな……」
一夏「楯無さんはあれでかなり良い人だからさ、きっとコレも良い薬だよ。
マッサージは……うん、色々あって慣れててさ」
ぐっぐっ、と岡部の身体のはりを確かめながら入念にほぐしていく。
岡部の表情は蕩けていて、何時の間にか眠ってしまった。
515 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:39:21.65 ID:HlOwBM/To
岡部「……ぐぅ」
一夏「寝ちまった。よっぽど疲れてたんだな……」
楯無「よーーーっぽど、気持ちよかったのね♪」
岡部はそのまま深い眠りに落ち、起きる気配を見せなかった。
紅莉栖「……」
楯無「クリちゃん」
紅莉栖「はい」
楯無「鼻血でてる」
紅莉栖「……はい」
その後、一夏による岡部へのオイルマッサージ動画は学園内で高額、または重大な取引への切り札として用いられることになる。
提供者は更織楯無だが、高度な画像処置(高画質化)を紅莉栖が施した事を知る者は居なかった。
516 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/09/30(日) 13:40:39.57 ID:HlOwBM/To
おわーり。
ありがとうございました。
誤字脱字等のご指摘ありがとうございます。
SS速報で修正を施すことは出来ませんが、pixivの方で指摘された部分を修正しています。
517 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/30(日) 17:22:22.37 ID:5gpgsUMHo
ダメだこの助手、早くなんとかしないと
518 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/09/30(日) 18:28:51.89 ID:cuT3KReko
おつです
制服絵の回答ありがとうございますm(__)m
初見ではないのでさっそく見てきます
519 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:25:32.30 ID:G4MJ47cHo
投稿します。
520 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:26:46.32 ID:G4MJ47cHo
>>515
つづき。
不快だ。
頬を伝う汗も、服に染み込み肌に密着する服も。
なにもかもが不快だ。
「くそっ。2人とも涼しい顔で走りおって……」
走り始めて30分ほどが経過していた。
最初は並走してくれていた2人も、余りにペースが違うので先に行って貰っている。
既に周回遅れにもされていた。
「ハァ、ハァ……」
くそっ。喉が渇く。
昭和の運動部じゃないんだ、水分をこまめに摂取しないとどうなっても知らんぞ。
521 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:27:27.04 ID:G4MJ47cHo
「あー……」
腹が……痛い。
走れば走るほど痛い。
限界が近づいてるのが自分でもわかる。
2人は未だに涼しい顔をして……いや、ワンサマーも辛そうだ。
「ぜひっ、ぜひっ……」
前が見れない。
視界に入るのは、地面と自身の両足だけ。
つらい、くるしい、だめだ。
足が動かな──。
522 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:27:54.70 ID:G4MJ47cHo
岡部「──ッッ!!」
深夜3時。
ベッドから跳ね起きるように、岡部倫太郎は目を覚ました。
ゴクッ、と喉が鳴る。
岡部「……あぁ、そうか。マラソンをして……ワンサマーにマッサージをして貰っている最中に寝てしまったのか」
視線を隣のベッドへ見遣ると、ルームメイトである織斑一夏がスースーと寝息を立てている。
岡部は再び身体をベッドに寝かせた。
岡部「……身体が痛くない。マッサージと薬の効果だろうか」
即効性を見に染みて実感する。
マッサージをしてくれた一夏と、薬をくれた楯無に感謝の気持ちが募った。
523 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:28:43.84 ID:G4MJ47cHo
岡部「……明日、いや……後数時間後か。今日は一体何をさせられるのか……」
不安と恐怖の中、岡部は再び眠りについた。
この日、朝の5時になっても部屋のノックが鳴る事は無かった。
一夏「凶真、凶真」
岡部「うぅむ……ッッ! 何だ! どうした! 走るのか!?」
深い眠りから一気に覚醒する。
一夏に起こされてた岡部は、過剰に反応して飛び起きた。
524 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:29:10.21 ID:G4MJ47cHo
一夏「ははは、違うよ。朝飯食いに行こうぜ」
岡部「……鍛錬ではないのか?」
一夏「うーん、今日は誰も起こしに来なかったな。それより、身体の調子はどうだ?」
岡部「う、うむ。お陰で筋肉痛は殆ど無い。マッサージのお陰だろうな、感謝する」
体を伸ばして痛みを確かめるが、どこにも痛みは見当たらない。
ついでに屈伸運動をしてみると明らかに身体が柔らかくなっているのが実感できた。
岡部「(まだまだ一般人以下……だがな)」
たった一日。けれどその一日は確実に岡部の身に付いていた。
一夏「そっか、なら良かった。着替えて食堂に行こう」
頷き寝巻きから制服へと着替えを済ませる。
IS学園の制服に袖を通すのも次第に慣れてきていた。
525 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:29:43.84 ID:G4MJ47cHo
……。
…………。
………………
526 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:30:12.93 ID:G4MJ47cHo
─食堂─
食堂へ到着すると自然に何時もの面子が集まった。
「専用機持ちばかりずるい」と言う他の女子達の痛々しい視線は全て無視する。
この視線に構っていたらキリが無い。
学園に男子は2人しか居ない。であれば、誰も彼もが2人に興味を持つのが自然。
けれど、誰も彼もが2人に接触出来る訳ではない。
専用機持ちである彼らへ容易に話しかけられる度胸も、権利も、一般の女子生徒は持ち合わせていなかった。
一夏「そう言えば今日は誰が凶真の訓練をするんだ?」
一夏の朝食は、たぬき蕎麦だった。
昨日、岡部が食べているのを見てそれを食べたくなり、お稲荷さんとのセットで注文している。
箒が作ったお稲荷さん程ではないが、食堂のお稲荷さんも一夏のお気に入りである。
甘いタレがお揚げに染みていて食が進む一品だった。
527 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:30:40.01 ID:G4MJ47cHo
鈴音「私よ」
鈴音が中華風のお粥を食べながらそう答えた。
鈴音「本当は朝からやりたかったんだけど、生徒会長から今朝は簡便してあげてって言われてね」
と、言いつつも鈴音は朝から特訓をするつもりは最初からなかった。
岡部がランニング中に倒れた事は耳にしている。
であれば、さらに肉体を虐めるよりも休養を重視した方が効率が良い。
そう判断していた。
一夏「だから来なかったのか、楯無さんも良いところあるよなー」
岡部「正直、助かったな……」
食欲が沸かないのか、岡部は野菜サンドを少しだけ齧って手を止めていた。
528 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:31:08.79 ID:G4MJ47cHo
箒「朝はしっかり食べないと、もたないぞ」
そう言った箒は朝定食、大盛りご飯にアジの開き。お味噌汁にお新香と海苔のついたオーソドックスなものだった。
見るからに日本の朝食である。
そのボリュームは見るだけで岡部の食欲を喪失させていた。
ラウラ「食事は全ての基本だ。お前はただでさえ線が細い、もっと食え」
シャル「まぁまぁ、慣れない運動で疲れちゃってるんだよ。はい、オカリン。暖かいミルクだよ、せめて飲み物だけでもね?」
シャルロットはミートスパゲティを巻くフォークの動きを止め、ぬるめのホットミルクを岡部に差し出した。
岡部「あ、あぁ……済まない」
ラウラ「シャルロットは誰にでも甘すぎる」
ザグッ! とフォークをシュニッツェルに突き刺しラウラが言った。
岡部は「朝から揚げ物とは、胃が痛む光景だな」と目を伏せる。
529 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:31:47.26 ID:G4MJ47cHo
セシリア「聞きましたわよ。昨日、ランニング中に倒れたんですって?」
紅莉栖「もやしっ子ですから……」
セシリアはクリームシチューを。
紅理栖は朝からラーメンを食べていた。
一夏「凶真。無理にでも食っておいた方が良いぜ。今日は千冬姉のIS実技授業があるからさ」
岡部「……そう、だな」
野菜サンドを無理やり口に詰め込み、ミルクで流し込む。
美味くも何ともなく、栄養補給をするためだけの、何とも救われない味気ない食事だった。
ラウラ「倫太郎」
ドン。と、大きめの缶をテーブルの上に置いた。
表記には“プロテイン”と書いてある。
530 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:32:14.86 ID:G4MJ47cHo
ラウラ「これからは、コレを毎日飲め」
一夏「これって、プロテインか?」
ラウラ「あぁそうだ。一夏は得に必要無いがな、このもやし男には必要だろう」
岡部「なぜそこまでしてくれるんだ……?」
プロテインとは言え無料ではない。
出会ったばかりの人間にそこまで義理立てをする理由。
それが思い浮かばなかった。
ラウラ「決まっている。少しでも強化された体で私の番に回ってこなくてはな」
──死んでしまうだろう。
ドイツの冷氷、ラウラ・ボーデヴィッヒの目は本気だった。
531 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:32:41.33 ID:G4MJ47cHo
ラウラ「私も教官のように、新兵を育てられる人間になりたいと常々思っていたところだ。
一夏は最初から身体が出来ていたからな。倫太郎、貴様は手を焼かせてくれそうで何よりだ」
基本的にラウラは冗談を吐かない。
全て本音だった。
一夏「は、ははは……良かったな、凶真」
紅莉栖「身体を鍛える鍛錬に耐える、死なない体を作る為に、鍛えるのか。鶏が先か卵が先かってヤツね」
ふうむ、と考え込む紅莉栖。
岡部からしたら全くもって面白くない議題である。
岡部「一瞬でも感謝しそうになった、自分のなんと愚かしい事か……」
そう言いながらも残ったミルクにプロテインパウダーを混ぜいれソレを飲み干した。
無理やりヨーグルト味を付けられたそれは美味いはずがない。
532 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:33:08.06 ID:G4MJ47cHo
岡部「鬼軍曹殿に目を着けられては堪らんからな……」
ラウラ「ふん。素直な新兵(ルーキー)は嫌いではない」
ニヤリと笑うラウラ。
岡部もそれに答え、弱々しくも笑顔を見せた。
一夏「凶真とラウラもすっかり仲良くなったみたいだな」
紅莉栖「(やっぱり一夏ってどっか抜けてるんじゃないかしら……)」
そんな感想を持ったが、口にしないのが華だろう黙って食事を進める。
今日も賑やかな朝食だった。
533 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:33:33.73 ID:G4MJ47cHo
……。
…………。
………………
534 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:33:59.99 ID:G4MJ47cHo
─第3アリーナ─
千冬「本日は機体制御の訓練をする。今年中には回避運動と射撃運動を同時に出来るようになれ。
ボーディヴィッヒ、見本を見せろ。空中で逆さになり一旦完全停止。その後、その体勢のまま急上昇及び急降下」
ラウラ「了解」
千冬の命令に短く応答する。
次の瞬間には、右腿の黒いレッグバンドが光りIS“シュヴァルツェア・レーゲン”を展開していた。
紅莉栖「あれが、ドイツの第3世代型か」
千冬「こと機体制御に置いてはお粗末な者が多い。
コレが上手くならずにIS操縦が上達するとは思うな。ボーデヴィッヒ、やれ」
こくん、と頷きラウラの駆る“シュヴァルツェア・レーゲン”が飛翔した。
地上3m付近で一時停止、そのまま180℃機体を回転させ逆さま状態に。
535 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:34:26.04 ID:G4MJ47cHo
千冬「そのままその状態を維持。ISでの戦闘は360℃全方位で行われる。地上のみが自分の下にあると思うな」
千冬のレクチャーが続く。
千冬「空中での静止すらままならぬ者も居る。逆さ状態での静止は勿論それ以上に高度な機体制御を強いられるから良く見て参考にしろ」
全生徒の視線がラウラに集まる。
その視線を感じ取ってか、少しだけラウラの両頬が赤く染まった。
千冬「5秒後にその体勢のまま急上昇。──5・4・3・2・1……飛べ」
千冬のカウントダウンと同時に一気に上空へと飛翔する。
機体は少々のぶれを生じさせながらも、その体勢のまま急上昇した。
生徒達が「おー」と声を漏らす。
1年生にしてこの機体制御はやはり図抜けていた。
536 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:34:55.37 ID:G4MJ47cHo
千冬「よし、そのまま今度は急降下。地上30センチまで」
ラウラ『了解』
一気に加速し急降下する。
猛スピードで黒い点のようだった“シュヴァルツェア・レーゲン”が地面へと迫り寄った。
地上すれすれの30センチ付近で停止する。
風圧で砂埃が大量に舞った。
千冬「よし、流石だボーデヴィッヒ。問題ない」
ラウラ「ありがとうございます」
千冬「これより実地に入る。まずは逆さ状態での姿勢維持を5分出来るようにしろ」
千冬の掛け声と共に生徒が各々に実地を開始した。
多数の生徒が専用機持ちである者へアドバイスを求めに走る。
特に人気だったのは……。
537 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:35:21.50 ID:G4MJ47cHo
女生徒「織斑君! お願いします!」
女生徒「第一印象から決めてました!」
女生徒「優しく、時には厳しく教えて下さい!」
当然のように一夏の元へと女子が集まった。
専用機を持たない女子からすれば、この時こそが織斑一夏と接触できる唯一のチャンスと言える。
一夏「参ったな……凶真を見てやりたかったんだけど……」
セシリア「その心配なら必要なさそうですわ」
シャル「……ちょっと、びっくりしちゃった」
心配をする一夏の横へセシリアとシャルロットが近づく。
あっちを見て、と視線を移させた。
538 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:35:54.51 ID:G4MJ47cHo
女生徒「篠ノ之さん、これってどういう感覚でやれば良いんだろ?」
箒「あぁ、それは──」
女生徒「ラウラちゃん、さっき凄かったねー」
ラウラ「あっ、あの程度軍人であればどうと言うことは──」
セシリアとシャルロットの視線の先。
箒とラウラが多数の女生徒にアドバイスをしてるさらに奥。
アリーナの端の方で紅莉栖の見守る中、機体制御を行っている“石鍵”の姿があった。
一夏「えっ、マジかよ……」
シャル「完璧だよ。逆さ状態で完全に静止してる」
セシリア「一体どう言うことですの?」
専用機持ちの目からしても、岡部の機体制御は問題無い。
それどころか完璧と言えるほど綺麗に空中停止していた。
539 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:36:22.25 ID:G4MJ47cHo
紅莉栖『ちょっと、なんでそんな簡単に出来るのよ? 結構難しいはずなんだけど』
岡部『その事なんだがクリスティーナよ。俺が読んだ参考書と操作が全く違うのだ』
紅莉栖『どう言うこと? あっ、ちょっと待って、オープンチャネルは良く無いかも。し、OK. 何が違うって?』
プライベートチャネルに切り替え、紅莉栖がコンソールから話しかけた。
岡部『機体制御……マニュアル制御だとかオート制御だとかそう言ったものが無い。動きたいように、動く』
ずっと疑問に思っていたことを口にする。
初期起動の際は戦闘だったため、動けば良いと思いそのまま動かしていた。
けれど、今になってその疑問は大きく膨らみ首を傾げる事態を作っている。
540 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:36:48.79 ID:G4MJ47cHo
紅莉栖『はぁ……?』
岡部『はぁ……? ではない! まるで自分の身体のように動かす事が出来る』
紅莉栖『ちょっとちょっと、ちょっと待ってね。えーっと……』
紅理栖は頭を抱えた。
つまり“石鍵”は岡部と完全に同期していて、操縦と言うよりも一体化してる。
考えられる要因はそれしかない。
紅莉栖『つまり、岡部には難しい制御動作操縦と言う概念が無いってこと?』
岡部『そうなるな……イメージ通りに機体が動く。
ただこの間、ワンサマーと戦った時もそうなのだが俺自身の反応がハイパーセンサーで感知する世界に付いていけない』
紅莉栖『それは仕方が無い。岡部自身のスペックなんてそんなもんよ』
岡部『くっ、はっきり言ってくれる……』
紅莉栖『事実だからな。うんと、一応、そのまま急上昇急下降やってみてよ』
岡部『了解した、やってみよう』
そう答えた直後“石鍵”は一切のブレを見せず急上昇を行った。
ラウラですら急上昇の際は多少のブレを見せたと言うのに、それが見受けられない。
541 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:37:15.43 ID:G4MJ47cHo
紅莉栖『マジか……」
そして急降下。
“石鍵”は地面スレスレの3センチで完全停止した。
風圧や衝撃も一切発生せず、完璧な機体制御を紅莉栖の眼前で容易に行った。
紅莉栖『(凄い……)』
思わず声が漏れそうになる。
岡部が行った技術は代表候補生を凌ぐ、国家代表クラスに匹敵するものだった。
岡部『そ……ろそろ、姿勢を戻しても良いだろうか。視界が上下逆で気持ち……悪い……』
紅莉栖『なんという……』
なんというスペックの無駄遣い。と、紅莉栖は続ける。
岡部の三半規管は視界の切り替えに弱く、直ぐに気分が悪化した。
542 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:37:41.78 ID:G4MJ47cHo
岡部『お……うぷ……』
紅莉栖『操縦者の視界は常にクリアになってるはずなんだけど……。
クリアになってても、岡部自身の三半規管の弱さとはなんら関係無いから……なんと言う宝の持ち腐れ』
そんな光景を遠目で千冬が眺めていた。
千冬「(異常なまでの機体制御だな……ISの性能なのか、岡部自身によるものなのか……)」
完全に“石鍵”の性能によるものだが、端から見れば岡部の操縦術が長けているように見える。
こうして勘違いする人間は連鎖的に増えていった。
女生徒「ねぇ見てた!? 今の岡部君見てた!?」
女生徒「何あれ凄いよ!! ビタッ! って、空中でビタッ! って!」
女生徒「私、織斑派から岡部派に行くわ」
このパフォーマンスで一気に女子の心を鷲掴みにする。
アリーナの端で細々とやっていたとは言え、そのインパクトは絶大だった。
543 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:38:17.02 ID:G4MJ47cHo
一夏「凄いな……」
シャル「うん。僕やラウラより、機体制御の腕は上だろうね」
言い切るシャルロット。
自身ですら、あそこまで綺麗な空中での急停止は行えないと断言できる。
セシリア「やはり、侮れませんわね……」
箒「一夏、どういう事だ」
ラウラ「何があった?」
騒ぎを聞きつけ、箒とラウラが三人の元へ駆け寄ってきた。
一夏「凶真の機体制御が半端じゃないんだ」
544 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:38:44.12 ID:G4MJ47cHo
シャル「ラウラ、僕達よりも上手いよ」
ラウラ「なに……?」
箒「機体制御なぞ、簡単に出来るものじゃ……」
セシリア「それが、出来ているんですの」
おろおろと嘔吐感を催す岡部に対し、その評価は望まぬ方向へぐんぐんと伸びていく。
この日、織斑一夏ファン倶楽部から岡部倫太郎ファン倶楽部へと鞍替えする者が多数出た。
非公式ながらもこの2つのファン倶楽部には、かなりの女生徒が参加している。
ある女性徒達曰く、
女生徒「一夏君の周りには専用機持ちが居て競争率ヤバイ。けど、岡部君は牧瀬さんだけでしょう? 行ける! 若さで勝負!」
女生徒「紅莉栖さんは美人だけど、若さなら負けないわ! あと胸の大きさも!」
女生徒「身長何気に高いし……カッコイイと思う!」
こうして一夏同様に、岡部もこの学園のアイドルとして着実に名前が馳せて行くことになる。
その日の昼食は少しばかり大変だった。
岡部は元より少しばかりの食欲不振になっていたが、授業中の機体制御で完全に酔っていた。
食事など喉が通る訳がない。
お茶だけで済まそうとしていると……。
545 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:39:10.88 ID:G4MJ47cHo
女生徒「ちょっと! 一夏君だけじゃなくて、岡部君まで独占するの!?」
見慣れない顔の女生徒の声が食堂前で響いた。
一夏「えっと、ごめん。誰かな……」
女生徒「3組! どうせ名前なんて知らないよね……そうだよね……」
女生徒「ちょっと何弱気になってるのよ!」
女生徒「頑張らないと、ここで頑張らないと……」
名前も知らない女子が大声をあげている。
一夏はまず状況を把握しようとして名前を聞いたが、それが効果的だった。
名前すら知られていない事実に1人、撃沈する。
546 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:39:37.48 ID:G4MJ47cHo
ラウラ「何を詰まっているんだ。さっさと配給を受け取りに行くぞ」
後ろからひょっこりとラウラが顔を出す。
一夏の手を握って食堂へ連れて行こうとしたが、
女生徒「専用機持ちはしゃーらっぷ!」
女生徒「今日こそは、今日こそは一緒にお食事ぃぃぃ」
女生徒「1組ばっかり……ずるいです……」
さらなる増援が道を阻む。
食堂入り口はちょっとした団体様の集会となっていた。
シャル「あはは、そういう事か……」
セシリア「同じクラスの者同士で食事するのは当たり前のことですわ」
箒「あまり騒ぎすぎると織斑先生が来てしまうぞ」
女生徒「うぐ……!」
箒の一言で女生徒がたじろぐ。
この学園の生徒で織斑千冬を恐れない人間は居なかった。
547 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:40:03.93 ID:G4MJ47cHo
ラウラ「教官が来る前に騒ぎを辞めろ。一夏は我々と食事をするのだ」
止めの一言だった。
女生徒「くぅ……なら、岡部君! 岡部君、一緒にご飯食べよ!?」
女生徒「良くやった! 良く言った!!」
女生徒「食べ……よ……?」
紅莉栖「(来た……遂に、来た。岡部に若い女の手がついに……)」
紅莉栖の顔が一気に青ざめる。
ここは押しも押されぬ正真正銘の高校なのだ。
男であれば誰もが興味を持つ最強のカード“女子高生”と言うレッテルを誰しもが装備している。
紅莉栖の不安は転入前から抱いていたものだった。
548 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:40:33.42 ID:G4MJ47cHo
岡部「悪いが、食欲が無い。俺がここに来たのはただの付き合いだ。他を当ってくれ」
紅莉栖「(ほっ……)」
胸を撫で下ろす。
ちらりと岡部の横顔を確認したが、女子高生に鼻を伸ばす素振りは一切見て取れなかった。
女生徒「うきぃー!」
女生徒「やはりダメなのかー!!」
女生徒「ぐす……ん……」
完全敗北した女生徒達は食堂の奥へと去って行った。
こうして、貴重な男子2人は専用機持ちの輪へと固定されていく。
549 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:41:13.16 ID:G4MJ47cHo
一夏「なんだったんだ……?」
岡部「さぁな……俺は席を取っておく。お前達は食事を貰いに行くと良い」
紅莉栖「(Yes! 一夏もだけど、岡部の空気の読めなさも相当なのよ!!)」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる紅莉栖。
不安ではあったが、想定通りの行動を岡部は取った。
ラウラ「おい。本当に食べないのか?」
シャル「今朝もあまり食べなかったよ……?」
岡部「飲み物だけで十分だ。今無理やり食べても戻してしまう可能性があるしな」
ISでの空中制御。
それは岡部の三半規管に著しいダメージを与えていた。
550 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:41:39.63 ID:G4MJ47cHo
一夏「そっか、じゃぁ仕方ないな」
セシリア「席の確保、お願いいたしますわね?」
岡部「あぁ」
そう言うと岡部は自販機で“ドクトルペッパー”を2本買って席を確保した。
この学園では食堂の端にある自販機でしか“ドクトルペッパー”が手に入らない。
その為、飲みたくなったら食堂へ来て買うしかない。
学園中を探してみたがここにある一機しか販売していないので、不便であった。
551 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:42:05.95 ID:G4MJ47cHo
一夏「お待たせ、あー腹減った」
そう言った一夏のトレイにはチキン南蛮。箒も一夏と同じもの。
セシリアはビーフシチューとバケット。シャルロットはカルボナーラとデザートのプリン。
ラウラはソーセージとフライドポテトの盛り合わせ、それにサラダ。
途中で合流したのか、鈴音は回鍋肉定食をトレイに乗せている。
どれもコレも美味しそうではあるが、今の岡部にはどれも重たく見えて食べる気は起きなかった。
未だに酔いが残っている。
552 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:42:47.34 ID:G4MJ47cHo
一夏「紅莉栖は……牛丼か!」
紅莉栖「えぇ、前は良く食べてたんだけどココへ来てから食べてないなーって」
シャル「ぎうどん?」
セシリア「なんですの?」
ラウラ「牛が乗っているのか? そうは見えないが」
鈴音「うそ、あんたら知らないの?」
一夏「外国に牛丼って無かったっけかな?
ええと、薄く切った牛肉を玉ねぎと一緒に甘辛く味付けしたタレで煮込んだり、焼いたりしてそれをご飯の上にどん」
箒「好みで、生卵を入れることもあるな」
シャル「へぇ、美味しそうだね」
セシリア「少し野蛮な感じがいたしますが……」
ラウラ「なるほど、それがDON物と言うやつだな」
紅莉栖のトレイに視線が集まる。
甘めの香りが食欲をそそる、学園特性の牛丼だった。
553 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:43:22.42 ID:G4MJ47cHo
岡部「助手。ドクペを買っておいた、飲むだろ」
紅莉栖「ありがと、これも最近飲んでなかったわね」
プシッ。と言う心地良いプルタブの音が響き、二人は缶を傾ける。
良く冷えたドクトルペッパーがシュワシュワと喉を通るのは快感だった。
岡部「やはり、知的飲料は一味違うと言うものだな? 助手よ」
満足気な表情を浮かべる。
岡部にとってドクトルペッパーはソウルフードと言って良い物だった。
554 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:43:52.58 ID:G4MJ47cHo
紅莉栖「久々だけど美味しいわね」
一夏「えっ、2人が飲んでるそれって……」
箒「……ドクトルペッパーか?」
セシリア「それを好んで飲む方が居るだなんて……」
鈴音「マジで?」
シャル「あ、アハハ……」
ラウラ「なんだその飲料水は?」
岡部と紅莉栖を除く全員が怪訝な表情を浮かべる。
ドクトルペッパーは人を選ぶ不思議な風味がする飲料のため、好んで飲む人間を変人扱いする人が多かった。
555 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:44:19.21 ID:G4MJ47cHo
一夏「あー、ラウラ。止して置いた方が良い。多分……全部飲めない……」
興味津々と言った顔を見せるラウラに対して一夏が抑制した。
紅莉栖「ここでもドクペは異端か。ラウラ、一口飲んでみる?」
岡部「うむ。味のわかる者であれば、この至高の飲料水の魅力が解るだろう」
一夏に止められて一瞬迷ったラウラだったが、興味には勝てずちびりと一口だけ口をつけた。
ラウラ「うぐっ……! な、んだこの風味と味は……」
途端に顔を歪める。
「美味しい」の表情とは正反対のものだった。
556 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:44:46.55 ID:G4MJ47cHo
鈴音「言わんこっちゃない……」
紅莉栖「……どう?」
ラウラ「不味い……なんだか、気分が落ちてしまうそんな感じの味だ」
ラウラの声が明らかにトーンダウンしている。
ドクトルペッパーの味も風味も味覚にあわないようだった。
岡部「貴様も所詮、その程度だったと言う事か……」
シャル「えっと、オカリンも紅莉栖も……ドクペが美味しいって思うの?」
岡部「当然だ」
紅莉栖「え、えぇ。……まぁ」
即答する岡部と、ばつの悪い表情を作る紅莉栖。
557 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:45:12.62 ID:G4MJ47cHo
セシリア「お2人とも、少し……その、味覚がどうかしてるんじゃなくて?」
ラウラ「無駄に甘ったるくて、変な匂いだ……なんだ、この味は」
岡部「ふん。なんとでも言うが良い。知的飲料の味は知的な者にしか解らんのだ」
そう言って岡部はドクトルペッパーを飲み干す。
それを見ていた皆は“わぁ……”と少し引いた目で岡部を見つめるしか出来なかった。
紅莉栖「(うぅ、何かいたたまれない……)」
一夏「でも、紅莉栖も好きなんだよな……俺も小さい頃に飲んでダメだったから、今度チャレンジしてみようかな」
ぽつり、と一夏が言葉をこぼす。
一夏にとっては大した意味を持つ言葉ではなかったが、周りに居る女子からすれば問題発言だった。
558 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:45:38.61 ID:G4MJ47cHo
箒「な」
セシリア「え」
鈴音「ん?」
シャル「……」
ラウラ「どう言う意味だ?」
一夏「ん? いやー、2人とも美味いって言って飲んでるからさ。もしかしたら俺も美味いって感じるかもしれないし」
一夏は気付いていなかった。
自身が強調した人物が“紅莉栖”であったことを。
もちろんこの男が意識してその台詞を吐いていないことを、理解していない5人娘ではない。
むしろ、無意識の内にそう言った言葉回しをした一夏に腹が立ったのだ。
559 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:46:05.79 ID:G4MJ47cHo
箒「ご馳走様。私は先に行く」
一夏「えっ、おい箒どうし」
セシリア「私もお先に失礼させて頂きますわ」
鈴音「はいご馳走様ー」
シャル「先、行くね?」
一夏「え? ちょっ、どうしたんだよ急に」
ラウラ「シャルロット、私も一緒に出る」
一夏「ラウラまで」
ラウラ「お前は紅理栖と一緒にドクトルなんちゃらでも飲んでいるが良い」
一夏「え?」
ラウラ「ふんっ」
こうして5人娘は、一夏と紅莉栖、岡部を残し食堂を後にした。
食堂を去る足音には怒気が孕んでいる。
岡部「(全く、ハーレムと言うのも考え物だな。今度ダルにハーレムの実態を教えてやろう)」
紅莉栖「(大変ね、一夏も、あの子達も)」
一夏「一体なんだってんだ……?」
なぜ皆が怒っているのか首を傾げる一夏。
その理由を察することが出来る男ではない。
この後、一夏もドクトルペッパーを買って飲んでみたがやはり美味しくは感じられず、岡部に処理してもらう形になった。
560 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/01(月) 16:49:25.32 ID:G4MJ47cHo
おわーり。
ありがとうございました。
561 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/01(月) 19:51:57.51 ID:y2O2quDJo
乙!ドクペは欠かせないな
意外と千冬姉ぇはドクペ好きそう
562 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/01(月) 20:03:55.15 ID:oFmu1/5Yo
ドクペの自販機があるからにはこの学園にもドクペ愛好家がいるはず
563 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/01(月) 20:19:06.62 ID:S+OEel3IO
のほほんさんとか味とかよく分からずに飲んでそう
564 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/02(火) 07:08:03.40 ID:MVRj7rKDO
楯無さん辺りなんか飲んでそうだな
簪は隠れて飲んでたりしそう
今回も前見たく安価で選択肢選んだりするの?
565 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:13:53.38 ID:DUvH/l5Bo
投稿します。
566 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:15:19.19 ID:DUvH/l5Bo
>>559
つづき。
─岡部改造訓練 2日目─
二日目の担当者は中国代表候補生、凰 鈴音だった。
全ての授業が終えた後、一夏と岡部の部屋に3人が集合する。
岡部「で、一体何をすると言うのだ大陸娘よ」
岡部の声に覇気が感じられない。
これから行われる訓練を想像して良い気分のはずがなかった。
鈴音「誰が体力娘よ!」
岡部「盛大な聞き間違いだ。大陸娘」
鈴音「あーもう、体力でも大陸でも無いっつーの!」
一夏「まぁ落ち着けよ鈴。そう言えば紅莉栖は来ないのか?」
何気なく紅莉栖の名前を出す。
他意はなかった。
一夏の中で岡部にイコールで紅莉栖。
その方程式が出来上がっている。
567 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:15:51.34 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「(また紅莉栖!?)」
しかし、そんなことを知る由も無い鈴音の気分は重たいものだった。
最近は一夏ときたら紅莉栖のことを気にしてばかりいるように見える。
特に鈴音はクラスが違うため、他の面々よりも一夏と接する時間が少ない。
心配もひとしおだった。
岡部「うむ。助手は私用でな」
一夏「そっか。昨日のマラソンも付き添ってたから来るのかと思ってたよ」
何気ない一夏の一言が鈴音の胸に突き刺さる。
鈴音「なによ……紅莉栖紅莉栖って……一夏の馬鹿」
一夏「ん? 何か言ったか?」
ポツリと本音をこぼす。
けれど一夏の耳はそれをとらえることはなかった。
568 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:16:19.25 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「別に! 何でも無いわよ!」
岡部「──で、そのボールは一体何だ?」
小さく溜息を吐き岡部が口を挟む。
これ以上このやり取りをしても、鈴音が疲れるだけだろうと察知していた。
それほどまでに織斑一夏と言う人物は鈍い。
鈴音「あっ、えと……」
ヒートアップしそうになったところでブレーキをかけられた鈴音。
一瞬言葉を見失う。
岡部「お前が持ってきたそのボールだ」
岡部は鈴音のもって来た三つのボールを指差した。
数年前に流行った“バランスボール”と言う代物である。
569 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:16:47.67 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「えっと……今日はバランスを鍛えてやろうと思ってね。アンタってば基礎が全く無いっぽいからまずそこから」
沸騰しそうになった思考を瞬時に切り替える。
鈴音と言う少女は沸点こそ低いが、切り替えも早かった。
一夏「バランス感覚かぁ」
岡部「ふむ……走ったり殴られたり蹴られたりするよりはかなり常識的だな」
痛い。苦しいを考えていた岡部からすればこれは僥倖と言えた。
鈴音「体幹を鍛えるの。あらゆる肉体動作の基礎に繋がるからかなり大事よ」
そう言うと鈴はバランスボールに深く腰を落す。
ゆらゆらと揺れていたのは乗り始めの数秒、すぐにボールの動きは安定した。
鈴音「まずは、座って5分。そして……よっと!」
一夏「おぉ……!!」
鈴音は涼しい顔をして、バランスボールの上に立ち上がった。
ぶにぶにと軽く浮き沈みをするボールの上で、器用にバランスを取っている。
570 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:17:13.85 ID:DUvH/l5Bo
岡部「まさに、中国雑技だな」
一夏「すげぇ! 鈴ってそんなことも出来るんだな!」
鈴音「と、とーぜんでしょ! 中国代表候補生だったらコレくらい出来て当たり前よっ!」
そう言い放つと、トランポリンの要領で一旦深く沈みその反動で軽くジャンプ。
そのまま床に着地した。
伊達に代表候補生を名乗ってはいない。
ISに関する知識は当然のこと、肉体訓練も入念に行っている。
鈴音「っと、まぁこんなもん。一日でここまでやるのは難しいだろうけどね、これなら部屋で出来るし良いんじゃない?」
岡部とはクラスも違うので、接した時間は短い。
けれど、その短い接触の中でも岡部の性格は掴めていた。
基本的にこの男は“運動”と言う項目が嫌いなのだと。
であれば、室内での訓練が効果的に取り込めるだろうと判断し、この運動を提案していた。
571 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:17:41.21 ID:DUvH/l5Bo
岡部「うむ。激しい運動より、こう言ったものの方が俺の性に合ってそうだな」
予想通りの反応を取る岡部。
鈴音は小さく頬笑み、その八重歯をちらつかせた。
一夏「へへっ、ちょっと面白そうだし頑張ろうぜ凶真」
鈴音「よっし! じゃぁ私がタイム計るから、2人ともボールの上に乗って」
一夏「おう!」
岡部「よ……む、中々難しいな……」
ボールの上に乗り込む岡部。
バランスを取る前の段階から既に激しく揺れている。
鈴音「いい? じゃぁ手を離して。そのまま5分──」
岡部「ぬぁっ!?」
手を離した瞬間、岡部は身体は重力に引っ張られるように後方へと倒れた。
後頭部を打ち付ける鈍い音が部屋に響く。
572 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:18:09.95 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「……アンタ、遊んでるの?」
岡部「……あがが」
一夏「でっでもこれ案外難しいぞ……!」
岡部が後頭部を抑える横で、一夏が両手を広げて賢明にバランスを取り続ける。
その姿はヤジロベエのようだった。
鈴音「一夏も思ったより、バランス感覚無いわね……」
一夏「あんまり話しかけないで、くれ……くっ!」
ゆらゆらと揺れるボール。
それを見て鈴音の八重歯がキラリと鈍く光った。
鈴音「第二段階。このテニスボールを投げるから、腰による微妙な体位の調整で避けなさい」
明らかなる無茶ぶり。
今の一夏に要求する動きを行う技量はない。
573 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:18:37.03 ID:DUvH/l5Bo
一夏「はァ!? ちょっ、ちょっと待て! 無理だ!」
鈴音「無理じゃないわよ。こうーくいって腰を動かす感じで最小限の動きをとれば良いだけだから」
腰を捻りお手本を見せる。
それを見て習得できるのであれば苦労はいらない。
一夏「いっ、いやだから──」
聞く耳持たず。
行くわよー。と問答無用でテニスボールを投げる鈴音。
ソレは確かに、完璧なバランスを取り最小の動きをすれば避けれる程度のものだったが、今の一夏にソレをどうこうする術はなかった。
一夏「わっ! わっ!」
ぽこん。
ボールが一夏の身体にヒットする。
一夏「──なァ!?」
どすん。と身体が床と接触する。
あえなく、岡部と同様に一夏も5分と持たずバランスボールから落ちてしまった。
574 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:19:05.27 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「アンタ等、本当にダメダメね……」
やれやれと言ったポーズを取る。
鈴音からしたら一夏はもう少しは出来ると思っていた。
岡部「日本人は幼少時から、雑技団に入るような訓練はしていないのだ」
鈴音「あたしだってしてないわよ!」
一夏「くっそー……思ったより難しいなコレ。ってか、鈴! 最後のはちょっと無茶だろう」
鈴音「そんなこと無いわよ、最終的にあれ位できないと不安定なボールの上に立つこと何て出来やしないし。
さ、無駄話はお仕舞い。続けるわよ」
鈴音が仕切り直し、バランスボールでの特訓が始まった。
岡部は何度もバランスを崩し、ボールの上から転落。
一夏も岡部ほどではないが、ボールの上で5分間その体勢を維持することは中々出来なかった。
575 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:19:31.36 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「うーん……結構軽いトレーニングのつもりで来たんだけどなぁ」
ボールに腰を落し、まるで椅子のように座る鈴音は悪戦苦闘を繰り広げる2人を見つめていた。
鈴音「(岡部は論外ね。本当に機体制御が上手いのかしら? 少なからずバランス感覚も必要なんだけど……)」
現場を見ていない鈴音は内心で首を傾げる。
ずでん、ずでん。と、ボールから振り落とされる岡部の様子を見て鈴音は半信半疑になっていた。
その横で、一夏もずでんと床に寝転んでいる。
鈴音「(あーもう、一夏の馬鹿。そこで力むからいけないんだってば!)」
岡部「結構……疲れるものだな」
一夏「だな……鈴はなんで涼しい顔して座ってられるんだ?」
鈴音「バランスが良いからに決まってるでしょ。ってか、他の代表候補生の皆もコレくらいきっと出来るわよ」
一夏「出来ないのは俺と凶真だけか……」
岡部「ワンサマーは俺よりマシだ。そう落ち込むこともあるまい」
出来ないことを気にし、声のトーンを落す一夏。
すかさず岡部がフォローを入れた。
576 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:19:59.96 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「岡部は少しくらい落ち込みなさいよ!」
乗っては落ちる。
そんなやり取りをしながら、2時間後には一夏……それに少し遅れて岡部もボールの上で5分間体位を維持出来るようになっていた。
鈴音「時間掛かり過ぎ」
岡部「達成できただけマシだと思え……」
岡部の身体は何度も何度も床に体を叩き付けられたせいで、打ち身だらけになっていた。
その結果、余計な力が取れ5分間のバランス維持を達成出来たのだから皮肉である。
一夏「いやー、なんとか出来るもんだな」
飲み込みが早いのか、一夏は乗り初めと比べると別人のようにバランスを取れるようになっていた。
余計な力みが抜け綺麗にボールの上でバランスを取っている。
鈴音「何で教えてもらってる岡部が一番偉そうなのか謎だけど……次のトレーニング行くわよ」
一夏「まだやるのか? そろそろ食堂行かないと間に合わないけど」
チラリと時計に目を配る。
時刻は19時を過ぎていた。
577 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:20:27.02 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「ん。そうね……じゃぁ、見本だけ見せるわ。そしたら晩御飯を食べに行きましょう」
そう言って鈴音はバランスボールを持ち2人の前に立つ。
このトレーニングの仕上げにと用意していた運動だった。
鈴音「膝立てバランス。座るだけよりかなり難易度は高いから目標は30……や、1分」
2人の前で実技を見せながら説明を始める。
ボールの上に膝をつき、そのまま両足を浮かして手でバランスを取りながらキープする。
説明はとても簡単で、見ている分にも簡単だったが今しがたバランスボールの難しさを体験した2人である。
鈴音が事も何気にこなしている動作がどれだけ難しいものか容易に想像が付いた。
鈴音「こんなもんね。食事の後もやるわよ」
鈴音にとっては当たり前の台詞だが、岡部にとっては意識が遠のくに値する発言だった。
岡部「昨日は筋肉痛。今日は打ち身か……」
鈴音の思いやりにより、怪我や疲労の少ないこのトレーニングが選択された。
けれど、結果は見てのとおり打ち身だらけである。
一夏「凶真、頑張ろうな」
一夏の励ましに何と無しの悲しさを覚えた。
578 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:20:53.67 ID:DUvH/l5Bo
……。
…………。
………………
579 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:21:20.06 ID:DUvH/l5Bo
─食堂─
利用時間もあまり無いせいか食堂に残っている人間は少なかった。
一夏と鈴音が食事を乗せたトレイを、岡部がジュースの缶を持って席に着こうとすると珍しい人物と出会う。
山田「あら、織斑君に岡部君。それに2組の凰さん」
一夏「あ、先生」
山田「こんばんわ。随分と遅めの夕食ですね?」
一夏「ちょっとトレーニングをしていて……」
1年1組の副担任である山田真耶。
その後ろで、トレイを持つ実姉に向けての言葉だった。
千冬「何を怯えている。まだ食堂の利用時間は終わっていない、文句など無い」
その言葉は生徒に向けて放つ教師の声色。
実弟に話しかける姉の優しさなど微塵も感じられない。
580 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:21:46.10 ID:DUvH/l5Bo
一夏「千冬ね……織斑先生達も今から食事ですか?」
言いかけて修正する。
人が少ないとは言え、学校内で“姉”と呼べば容赦ない鉄拳が飛来することを寸でのところで思い出した。
千冬「あぁ。教師と言うのも何かと忙しい、食事が取れるのは大抵この時間だ。
それにしても岡部……随分とボロボロだが、組み手でもしていたのか?」
衣服は調っておらず、顔面、それに露出している肌の所々に痣が見えた。
岡部「ティーチャー……その事には触れないでくれ」
思い出したくも無い。岡部の言葉にはそう言ったニュアンスが含まれている。
鈴音「ちょっとバランスボールで体幹を鍛えてまして……」
山田「? バランスボールでそこまでボロボロになったんですか?」
横から鈴音が説明を口にする。
真耶の目から見ても、岡部の姿はボロボロだった。
581 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:22:16.55 ID:DUvH/l5Bo
一夏「あーっと、バランスボール苦手だった見たいで……」
千冬「全てバランスボールで負った怪我か?」
岡部「答える義務は無い……」
千冬「……くっ」
息の噴出す声が漏れた。
千冬「くっ、ぷっ……ははは! バランスボールで怪我をする者が居ようとはな……くっ、ははっ」
千冬のツボを刺激したのか、ひとしきり笑い目尻の涙を拭う。
それとは逆に、回りは軽く引いていた。そんなに笑うことか、と。
そして鬼教師である千冬の爆笑である。
その顔を見た真耶と鈴音はさらに驚いた表情を見せている。
582 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:22:55.78 ID:DUvH/l5Bo
千冬「まったく、あまり笑わせるな」
一夏「は、はは……」
山田「あはは……あっ、そうだ。良かったら皆さんでご飯ご一緒しませんか? ね、織斑先生?」
千冬「む。教師が生徒と一緒に食事と言うのも……と言っても他に利用者は0か。たまには……良いだろう」
食堂を見渡す。
利用時間ギリギリと言うこともあり、他に利用している生徒の姿は見受けられない。
山田「ね? 織斑君♪」
一夏「はぁ、俺は全く構いませんけど。なぁ?」
鈴音「えっ、あたし? 構わないけど……」
岡部「問題ない。元より俺は食欲が無いから水分だけだがな」
そう言った岡部の手には“ドクトルペッパー”が握られていた。
583 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:23:22.07 ID:DUvH/l5Bo
鈴音「げっ……あんたまたそれ?」
岡部「至高の知的飲料だ。これを飲めば食事など最低限で事足りる」
ドクトルペッパーは決して低カロリーな飲料ではない。
充分な糖分を含んでいる。
一夏「まっ、何はともあれ時間も無いしさっさと食べちゃおうぜ。いただきます!」
鈴音「いただきます」
千冬「いただきます」
山田「いただきまーす」
岡部「……」
いただきます。の号令代わりにプルタブが声をあげる。
プシュッ、と言う音が響いた。
一夏は夜と言うこともあり、軽く鮭の切り身が乗ったお茶漬けを。
鈴と山田は野菜炒め定食。
千冬は焼肉定食と言った具合のメニューを各々に食べ始める。
584 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:23:48.81 ID:DUvH/l5Bo
千冬「岡部は食事を取らないのか」
豪快に盛られた肉の山を処理しつつ千冬が訪ねた。
岡部は一人、固形物を取らずにドクトルペッパーをかたむけている。
岡部「食欲が無いものでね……特に今は体が痛む……」
今もなお、訓練で負った名誉の負傷が体に痛みを送っている。
とても食事を取る気分にはなれなかった。
山田「岡部君が最近、専用機持ちの子らにしごかれてるってクラスで評判ですよー」
鈴音「最近と言っても今日で2日目なんですけどね」
千冬「なんだ、たった2日で胃をやられたのか。根性の無いヤツめ」
一夏「凶真は元々科学者だったんだから仕方ないって……ですよ」
千冬「科学……あぁ、元々は東京電機大学に在籍していたんだったな」
喋っている間にもみるみる肉の山が消えていく。
にも関わらず、口に含みながら会話をしている訳ではなくマナーとしても無作法なところが無かった。
585 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:24:18.91 ID:DUvH/l5Bo
岡部「あぁ……今年の頭に卒業したはずの高校に一年生からやり直しと言う訳だ……」
IS学園に転入してまだ数日だと言うのに岡部は疲弊していた。
目まぐるしく変わった環境、触れたことすらなかったISの知識、その授業に実技と気の休まるところが無かった。
それに加えて昨日からのトレーニングである。
千冬の目から見ても、岡部は疲れていた。
千冬「それもこれも、お前がISの適性を持っていたからだな。“望んでここにいるわけではない”そう思っているのだろう。
だが違う。望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きていかねばならない」
一夏「……」
千冬の言葉に一夏は懐かしいものを感じた。
これはIS学園入学当初に、教師である千冬から一夏が受けた初めての説教と言えるべき台詞である。
586 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:24:53.70 ID:DUvH/l5Bo
千冬「目まぐるしく世界が一転したのなら、それに慣れるしかない。
慣れろ。それが集団で生きるためのコツだ」
それだけ言うと千冬は再び食事に戻った。
岡部「言われずとも……わかっている……」
集団に混ざり生きることの難しさを知っている岡部はそう答えるしかなかった。
岡部「自慢じゃないが、俺は友達が少なかったからな。
集団生活とやらのコツを掴むのに時間がいる。今はそれの準備期間と言ったところだ」
千冬「ふん。抜かせ」
2人の会話に3人がきょとんとする。
587 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:25:20.02 ID:DUvH/l5Bo
山田「一体何の話でしょう?」
一夏「さぁ……途中までは何となくわかってたんですけど」
鈴音「さっぱりだわ」
岡部にはわかっていた。
疲弊している自分に対する、教師・織斑千冬なりの激励であることを。
山田「ふう、ご馳走様でした」
千冬「ご馳走様でした」
先に食事を終わらせたのは教師2人だった。
食事を終わらせ、2人はゆるりとする間も無く食堂を後にする。
山田「まだお仕事が残っているので、また明日。おやすみなさい♪」
千冬「もう利用時間も終わる。あまり長居するなよ」
残った3人も長居する事は無く、食べ終わると直ぐ様2人の部屋に直行した。
588 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:25:46.58 ID:DUvH/l5Bo
……。
…………。
………………
589 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:26:12.91 ID:DUvH/l5Bo
─自室─
食事を済ませ、再び自室へ戻りトレーニングを再開する。
岡部が大きくバランスを崩したのは、再開直後のことだった。
今までに無い快音が部屋に響く。
膝立てバランスは想像以上に難しく、岡部は顔面を床に思い切りめり込ませていた。
岡部「……」
一夏「きょ……凶真?」
鈴音「あちゃぁ……かなり良い音したわね?」
590 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:26:43.18 ID:DUvH/l5Bo
──。
────。
──────。
591 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:27:09.25 ID:DUvH/l5Bo
岡部「……──床が! 床が迫ってくるァ!!」
身を起こすと、そこはベッドだった。
足元の方に紅莉栖がベッドに腰を落し分厚い専門書を読んでいる。
昨夜も同じような光景を目に入れた気がすると岡部は思い返した。
違いと言えば、紅莉栖の持っていた参考書が専門書に読んでいる本が変わったことだろうか。
岡部が意識を取り戻したことに気付き、パタンと専門書を閉じ岡部に視線を送る。
紅莉栖「鳳凰院凶真さんはまた気絶されてたのでありますか」
一夏「おっ、凶真起きたか。鈴なら帰ったぜ」
一夏がバランスボールに座りながら答えた。
592 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:27:35.75 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「全く、バランスボールで気絶とか恥しすぎるだろjk」
岡部「……そうか、顔面からいって」
一夏「凄い音がしたから、驚いたよ。それと、鈴がバランスボール置いていってくれたから暇な時にやる癖付けろってさ」
岡部「わかった。大陸娘に感謝せねばな……」
少しばかり、不甲斐なさを感じ目を伏せる。
それを見た紅莉栖が話題を変えるようにひっそりと耳打ちをした。
紅莉栖「パッチ完成。明日朝6時、第1アリーナ整備室に」
岡部「……!」
紅莉栖「さーって、私も帰って寝ますかね。セシリアにまたどやされちゃう」
呟きすぐさま踵を返す。
用件はそれだけだった。
593 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:28:03.22 ID:DUvH/l5Bo
一夏「ははっ、それもそうだ。おやすみ紅莉栖」
紅莉栖「おやすみ一夏」
一夏は紅莉栖を見送り、ドアを閉める。
岡部はベッドの上から視線を送るだけだった。
一夏「いやー、紅莉栖って本当に良いやつだよな。岡部が目覚めるまで待ってたんだぜ?」
岡部「あ、あぁ……何せ俺の助手だからな」
一夏「はははっ。またそれか、面白いヤツらだな本当に」
岡部「俺には他にも人質が居るのだぞ、ワンサマー」
一夏「人質……!? って、え? どういう意味だ?」
言葉の意味がわからずクエスチョンマークを広げる。
“人質”と言う言葉に良いイメージを持つはずがなかった。
594 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:28:30.08 ID:DUvH/l5Bo
岡部「言葉の通りの意味だ、マッドサイエンティストなるもの助手や人質の1人や2人居て当然なのだ」
一夏「な、何かわからないけどすげぇな……やっぱり」
まゆりや他のラボメンとはまた違った一夏の素直な反応。
岡部はこのやり取りが気に入りつつあった。
千冬『慣れろ。集団生活で生きるためのコツだ』
岡部「(ティーチャー。貴様の弟のお陰で、なんとかやっていけそうだよ……)」
ずきんずきんと体中に響く痛みが無ければ、ワンサマーに言葉として告げてやっても良かったのだがな。
と心の中で悪態を付きながら、織斑姉弟に密かな感謝を告げた。
595 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:29:31.55 ID:DUvH/l5Bo
──。
────。
──────。
596 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:29:57.87 ID:DUvH/l5Bo
すうすうと気持ち良さそうな寝息を立てている一夏を尻目に、珍しく岡部が早起きをしていた。
岡部「……よし」
音を殺して部屋を出る。
目的は第1アリーナ整備室だった。
岡部「さすがにこの時間は人がいないな……」
廊下に人の気配はなかった。
男子が極端に少ないこの学園では、廊下を歩くだけで注目を集めてしまう。
この時間帯での行動は面倒が無くて良かった。
597 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:30:26.58 ID:DUvH/l5Bo
─第1アリーナ整備室─
IS整備室。各アリーナに隣接される形でその部屋は存在する。
本来2年生から始まる“整備科”のための施設であるが、生徒であれば誰でも使えるとあって利用する者も多い。
早朝6時。人気は無く第1アリーナ整備室には2人の人間しか居なかった。
紅莉栖「今日は土曜日で学校も無いし、その内に人も集まるわ。パッパとやっちゃいましょ。そこに立ってて」
岡部「うむ」
待ち合わせ時間丁度に現れた紅莉栖。
目的は昨夜に耳打ちした内容だった。
紅莉栖「……良しっと」
空中投影ディスプレイを見つめながらメカニカル・キーボードを高速で叩く。
必要なツールを全て起動した。
598 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:30:52.61 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「同時にフィジカル・データとか諸々もやっちゃうからね」
岡部「全て任せる」
紅莉栖「ん。任された」
ピッピ、と左手でキーボードを弾くと岡部の足元からリング状のスキャナーが垂直に浮き上がり、
ゆっくりと岡部の全身に緑色のレーザーを当てていく。
紅莉栖「本来なら検査室の機材でやる内容なんだけど、少し弄ったらこっちの機材でも出来ちゃった」
左手でスキャンの打ち込みをこなしつつ、右手は違うデータを入力している。
同時に違う打ち込み作業を行いながらお喋りに興じる余裕を見せる紅莉栖に、岡部は改めてゾっとした何かを感じた。
599 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:31:19.51 ID:DUvH/l5Bo
岡部「と言うか、勝手に備品である機材を弄って良いのか?」
紅莉栖「無問題、無問題。後でちゃんと直しとくから。
ってか出来るなら一緒にやっちゃった方が時間のロスも少なくて良いと思うんだけどね」
岡部「学校側にも何かしらの理由があるのだろう」
紅莉栖「はいはいっと、無駄話してる間にフィジカル・スキャンは終り。
次はパッチのインストール始めるわよ。“石鍵”を展開して」
岡部「わかった」
紅莉栖「(展開速度が速い……)」
岡部の展開速度は凄まじく速かった。
3日前に初めてISを展開した人間とは思えない程に。
600 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:31:51.33 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「じゃ、始めるわよ」
カチャカチャ、ターンッ。響かせるようにエンターキーを叩く。
パッチのインストールが始まった。
“石鍵”による、エネルギー供給カットプログラムを操縦者である岡部の判断でカットするためのパッチ。
万が一、エネルギーカットが必要な場面が来る可能性を考えて簡単にオン・オフが出来るようにもされていた。
紅莉栖「5分位でインストールが終わるからじっとしてなさいよ」
岡部「う、うむ」
岡部を待機させたまま、空中投影ディスプレイに目を移す。
先ほど採取したパーソナル・データ。
身体能力の低さは相変わらずだが、問題なのは“IS適性値”。
紅莉栖がラボで実験した時に出たデータでは適性値“B”。
そして入学時に出た適性値は“C”の値。
ラボで使った機材は簡易式という事もあり、数値に誤差が出るのも頷けた。
しかし、現在ディスプレイに映る最新のパーソナル・データ。
そこに表示されているのは“IS適性値 S ”の文字だった。
601 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:32:45.27 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「(どういう事よ……適性値Sって、世界に数人しか居ないわよ。
って言うか、短期間で適性値がコロコロ変わることなんてありえないし……)」
この情報をどうするべきか。
本来ならば“石鍵”にデータを送るべきであるが、その場合データは簡単に閲覧出来るようになってしまう。
紅莉栖「(……“適性値 S ”なんてバグに決まってるわね。フィジカル・データだけ更新しておきましょう)」
最新の“IS適性値”は更新せず、フィジカル・データだけを“石鍵”に転送した。
機器のバグ。そんなことは確率的に怪しいことはわかっている。
けれど紅莉栖はその思いを閉じ込め、データの削除を行った。
岡部「む、インストールが終わったようだぞ」
紅莉栖「OK. そのままアリーナに行くわよ。ちゃんと作動するかの実験をする」
岡部「ふっ。実験大好きっ娘め」
紅莉栖の実験好きはジャンル問わずなんだなと、フルフェイス装甲の中で岡部が微笑んだ。
602 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:33:11.91 ID:DUvH/l5Bo
……。
…………。
………………
603 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:33:38.19 ID:DUvH/l5Bo
─第1アリーナ─
朝7時前と言うこともあり、整備室同様アリーナにも2人以外の人間は居なかった。
アリーナ中央に“石鍵”。
そして控え室に紅莉栖が居た。
紅莉栖『準備は良い?』
岡部『大丈夫だ』
プライベートチャネルで短めに用件を済ますと、カウントダウンに入った。
604 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:34:04.16 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖『実弾発射5秒前、4・3・2・1……ファイア!』
カウントダウンと共に事前に固定してあった、アサルトカノン-ガルム-が銃身を熱くした。
遠隔操作によりトリガーが引かれた弾丸は“石鍵”に向け容赦なく降り注ぐ。
銃弾の直撃音が鳴り響く。
決して心地の良い音ではなかった。
通常であれば、シールドバリア及び絶対防御により遮断された攻撃でもその衝撃まで完全に分散させることは出来ず、
操縦者である人間に少なからずダメージが渡る。
しかし“石鍵”の装甲は分厚く、一切の衝撃を搭乗者である岡部に与えることは無かった。
紅莉栖『ぷぅ……実験成功ね』
“石鍵”のシールドエネルギー残量がディスプレイに映し出される。
エネルギー残量の数値が極端に減っていた。
605 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:34:31.85 ID:DUvH/l5Bo
岡部『うむ。どうやら、直撃を食らってもエネルギー供給はそのままのようだな。さすがは助手だ』
紅莉栖『私が作ったパッチなのだから、当然と言えば当然な訳だが』
憎まれ口を叩く紅莉栖ではあったが、その表情は安堵したような嬉しそうな表情を作っていた。
無論、その表情を岡部に見せるつもりは毛頭無く、声がうわずらないようにも隠している。
紅莉栖『折角だから、武器の調整もしましょう。未だに展開していないのもあるでしょう?』
岡部『あぁ。“モアッド・スネーク”の展開をまだした事が無かったな。何となくの想像は付くが……』
紅莉栖『同意。ってか多分、同じような想像してるはずよね』
岡部『うむ……』
未来ガジェット4号機“モアッド・スネーク”を2人は思い浮かべる。
大量の水を多数の電熱コイルで沸騰させ、多量の蒸気を噴出させる超瞬間加湿器であるそれは形状こそ“クレイモア地雷”の形をしている。
おそらく“石鍵”に搭載されている武装も“クレイモア地雷”の形をした加湿装置的な何かであろう。
2人はそう思っていた。
606 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:34:57.65 ID:DUvH/l5Bo
岡部『……では“モアッド・スネーク”展開する』
光の粒子が形となり、武装が展開されていく。
岡部『これは……』
紅莉栖『想像してたのと、ちょっと違……いやねーよ』
歓喜の声でも落胆を現す声でもない。
なんとも言いがたい紅莉栖の突っ込みが“モアッド・スネーク”の形容を表していた。
607 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:35:24.43 ID:DUvH/l5Bo
……。
…………。
………………。
608 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:35:51.27 ID:DUvH/l5Bo
─食堂─
実験を終える頃には丁度朝食時になっていた。
2人が並んでアリーナから食堂へ向かうと、入り口で一夏とシャルロットの2人組みに出くわす。
シャル「あっ、オカリンに紅莉栖。おはよー」
紅莉栖「モーニン。2人で朝食?」
一夏「あぁ。シャルに誘われてさ。朝起きたら凶真が居なかったから驚いたよ」
岡部「助手と少しばかり、早朝会議があってな」
一夏「そっか。これから2人で朝飯にするんだけど2人もだろ? 一緒に食おうぜ」
予想通りの展開と、シャルロットが小さく溜息を吐く。
こうなると予想しつつも、頑張るしかないんだよなぁと心の中で自身に喝を入れた。
609 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 09:36:17.60 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「えっ、えーっと……」
チラリと目線をシャルットに配る。
シャルロットは紅莉栖にわかるよう、ジェスチャーで良いよと答えた。
シャル「一夏のばか……」
そう小さく呟いた声を聞いた者は居なかった。
一夏「そう言えば、凶真と紅莉栖が学校へ来て初めての土曜日だな。どうするんだ?」
トレイに食事を乗せて着席する。
一夏の朝食は牛丼。
昨日、紅莉栖が食べているのを見て久々に食べたいと思いチョイスしていた。
ちなみにシャルロットも同じで牛丼を箸でちまちまと、それでいて上品に口に運んでいる。
610 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:37:32.74 ID:DUvH/l5Bo
岡部「む……考えていなかったな」
岡部の朝食は何時も通りのドクトルペッパー。
それに加えて、コッペパンと貧相な物だった。
未だに昨日のバランスボールで作った痣が痛く、食事を取る気分になれなかった。
紅莉栖「ラボにでも行く? まゆりにも会って無いし」
ラーメンをマイフォークでつるつると食べながら紅莉栖が提案する。
一夏はそれを見て、なんでフォークなのだろうと首を傾げていた。
そして朝からラーメンかと思い、苦笑もしている。
611 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:37:59.55 ID:DUvH/l5Bo
岡部「そうだな。ラボの管理をするのも創設者であり、No.001であるこの俺の役目だ。
ラボの方に足を伸ばすか」
シャル「らぼ……?」
一夏「って何だ?」
聞き慣れない単語に2人が頭を傾げる。
紅莉栖「あーっと、そうね。コイツが作ったサークルみたいなものよ」
岡部「サークルではない! 未来ガジェット研究所っだ!」
シャル「何か、研究してるの?」
一夏「ん! 前に何か聞いたことある気がするな」
楯無「んー、でも残念。倫ちゃんは今日もとっても忙しいのでした」
何時の間にか、一つ空いていた席に更織 楯無が着席していた。
違和感なく自然に会話に参加している。
612 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:38:28.71 ID:DUvH/l5Bo
一夏「楯無さん……何時の間に」
楯無「今の間に♪」
そう言う楯無の手には、サンドウィッチとミルクが持たれている。
岡部「おい、ノーガード。今の台詞はどう言う意味だ」
シャル「のーがーど?」
一夏「ノーガード?」
楯無「……?」
コホン。紅莉栖が咳払いをする。
説明が必要だと感じて口を開く。
613 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:39:02.03 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「多分、たてなし。だからノーガードなのかと……」
シャル「あー……あぁ……」
一夏「……なるほど! ははっ、上手いな凶真」
1人笑う一夏。
やはり、どこか他人と笑いのツボが違っていた。
楯無「うーん。そんなあだ名を付けられたのは初めてだなぁ。でも楯無って呼んで? もしくはたっちゃん」
岡部「名前などどうでも良い。それより、さっきの台詞──」
楯無「やん。名前で呼んでくれなきゃ、おねーさんは答えません」
岡部の言葉を遮る。
要求を飲まない限り、答えないと態度で表明していた。
614 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:39:27.87 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「(無理無理。コイツが名前をちゃんと呼ぶなんてレアケースはそうそう起こりません。本当に──)」
岡部「楯無、どう意味だ」
楯無「あん。学内で呼び捨てって新鮮でちょっとドキッとしちゃった♪」
紅莉栖「(──ありがとうございました……)」
岡部「良いから、答えろ」
少しばかりの苛立ちを含んで岡部が問いただす。
その横で紅莉栖がテンションを落しながら、ラーメンを食べる作業が再開されていた。
もう紅莉栖の耳に、会話は届いていない。
615 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:39:56.29 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「(いきなり呼び捨てっていきなり呼び捨てって……)」
楯無「だから、倫ちゃんは今日おねーさんと特訓。遊んでる暇なんて無いわよ?」
一夏「今日って、楯無さんの番だったんですか? と言うか、学校休みの日まで?」
楯無「もっちろん。と言うか、土日はおねーさんが貰いました」
サンドウィッチをパクパクと食べながら満面の笑みを浮かべる。
それは岡部からしたら死刑宣告に近しいものだった。
シャル「ん。つまり、今日明日は楯無会長がオカリンを指導するんですか?」
楯無「そう言うことね。シャルロットちゃんにも手伝ってもらうかもしれないから、その時はよろしくね」
シャル「あ、はい。僕でよかったら……」
岡部「お、おい何を勝手に……く、クリスティーナ? 俺達は今日ラボへ……なぁ?」
一縷の希望を託し、隣の紅莉栖に話しを振る。
しかし、期待していた返答は来なかった。
616 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:40:23.04 ID:DUvH/l5Bo
紅莉栖「知らない。私は今日ラボへ行くけど、あんたは勝手に頑張りなさいよ」
そう冷たく言い放って食事に戻ってしまった。
岡部「クリスティーナ……さん? 何か、怒ってらっしゃいます?」
紅莉栖「ティーナでは無いと言っておろうが。わからないなら良い。黙って食べなさいよ」
岡部「ぁ……ぉ……」
明らかに何時もの突っ込みよりも冷たい態度。
岡部は何が原因でそうなったのかもわからず、うろたえることしか出来ない。
617 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:40:50.96 ID:DUvH/l5Bo
シャル「(紅莉栖も大変だなー)」
状況を理解したシャルロットが目を細めた。
どこも同じようなものなんだね、と妙に納得している。
一夏「(ん? 紅莉栖は何かに怒っているのか?)」
楯無「んふふ、許可も降りたことだし……朝食が済んだらさっそく特訓を始めるわよ。
この土日で使い物にならない倫ちゃんのナマクラをおねーさんが鍛えなおしてあげる」
その言葉で胃がズキンと痛む。
裁判官は死刑執行を言い渡した。
紅莉栖「…………」
けれど、弁護は発生せず弁護人はラーメンを啜っている。
久々にラボへ帰れると思い、内心高まっていたテンションは一気に下がり、岡部の食欲はさらに減退した。
618 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/02(火) 10:41:57.29 ID:DUvH/l5Bo
おわーり。
ありがとうございました。
安価は今のところ考えておりません。
二択だったので、前回通りか、逆にするか。
そのどちからになると思います。
619 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/02(火) 10:59:31.10 ID:8bfyIVWIO
逆の方が見たいな
620 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/02(火) 13:02:02.04 ID:MVRj7rKDO
逆だとどうなるのか確かに気になる
>1乙
621 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/10/02(火) 20:11:01.35 ID:KXZ+jM+z0
前回見てないからどんなのかわかんない…
622 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/02(火) 22:20:55.74 ID:Xr9P9rvBo
バッドエンドとハッピーエンドの順番の事でしょ
623 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)
[sage]:2012/10/02(火) 22:26:37.97 ID:+MMoz2b6o
たしか新ガジェット登場のとこにも二択あったよな
攻撃を避ける時にどうするか、みたいなのでちょっとだけ味付けが変わるとかなんとか
624 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/02(火) 22:26:48.62 ID:sDXLVSy00
ああ、あの尻切れで終わったやつか
625 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/03(水) 22:07:54.18 ID:abcA0fN8o
尻切れ?最後駆け足だったかもしれないけどちゃんと完結したやん
626 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/04(木) 00:19:19.34 ID:G/dd+DiQ0
使い物にならない倫ちゃんのナマクラ(意味深)
627 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/04(木) 03:15:16.95 ID:pePFGEREo
絶 倫
628 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:42:38.15 ID:YanLtjWJo
投稿します。
629 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:43:36.22 ID:YanLtjWJo
>>617
つづき。
……。
…………。
………………
─秋葉原・未来ガジェット研究所─
時刻は昼前11時過ぎ。
トントンと、階段を登る音が静かに響く。
紅莉栖「ハロー」
鍵は開いていた。
何時ものようにドアノブを捻り、牧瀬紅莉栖が未来ガジェット研究所の扉を開く。
ダル「ちょっ、牧瀬氏じゃん!」
椅子に座りPCを弄っていた“橋田 至”が振り返る。
そのディスプレイには、ダルが好んで遊ぶR指定のPCゲームではなく、IS関係のものが表示されていた。
630 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:44:03.64 ID:YanLtjWJo
まゆり「紅莉栖ちゃんだぁ! トゥットゥルー♪ お久しぶりなのです」
ソファーに腰掛け、イベント用のコスプレ衣装を縫っていた“椎名 まゆり”も紅莉栖に視線を向けた。
満面の笑みを浮かべている。
紅莉栖「ハァイ。時間できたから来ちゃった。お邪魔して良い?」
まゆり「当り前だよー! ほら、こっちこっちー」
ぽんぽんとソファーの隣を叩いてまゆりが、おいでおいでをする。
紅莉栖「ありがと、まゆり」
ダル「っつか、一週間ぶり? たった一週間でも久々な気がするから不思議だお」
それほど紅莉栖はこのラボに馴染んでいた。
たった一週間、ラボを離れていただけで久々だと感じてしまう。
631 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:44:30.16 ID:YanLtjWJo
まゆり「そうだねぇ、えっへっへぇ」
ダル「ほんで、オカリンは?」
紅莉栖「あー……岡部は忙しいみたいで来れないの」
バツの悪い表情を浮かべる。
楯無のことをなんの躊躇いも無く名前で呼んだ岡部。
少しばかり気分が悪くなり、擁護をせずに学園を飛び出してきてしまった。
まゆり「そっかぁ……久々にオカリンの顔見たかったんだけどなぁ」
ダル「んまー、仕方ないっちゃ仕方ないっしょ。IS関係が大変だろうしさ。
この一週間でオカリン関係のニュースやりすぎワロタ状態だったし」
近頃、お茶の間を賑わせるニュースと言えば“岡部 倫太郎”ばかりだった。
なんと言っても至上2人目、それも日本人での男性IS適性者となればメディアの反応も当然と言える。
632 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:44:59.94 ID:YanLtjWJo
紅莉栖「そうね……色々と苦労しているわ。主にフィジカル面でだけど」
まゆり「ふぃ、ふぃじかー?」
紅莉栖「フィジカル。簡単に言うともやしっ子体型のアイツは今、強制的に肉体改造を受けてるわけ」
ダル「つまり、筋トレ三昧? うわー……デブには想像しただけで食欲が無くなる話題」
ダルの脳裏に浮かぶトレーニングを行う岡部。
想像しただけで疲れそうになってしまった。
まゆり「えっと、オカリンがまっちょりんになるってことかな?」
紅莉栖「想像したくないけど、そうね」
まゆり「そっかー。やっぱり大変なんだねぇ……でも、まゆしぃはちょっと寂しいかな。
それに、オカリンの体が心配なのです……」
紅莉栖「まゆり……」
ダル「まゆ氏……」
まゆりの一言でラボの空気が少しだけ寂しいものに変わった。
やはり、未来ガジェット研究所は岡部がいてこそだと誰もが理解している。
633 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:45:32.36 ID:YanLtjWJo
まゆり「っん! 紅莉栖ちゃんは今日お休みなんだよね?」
少しだけ俯いていたまゆりは、一瞬にして顔を輝かせる。
その表情には先ほどまでの寂しさは纏っていなかった。
紅莉栖「え、えぇ」
まゆり「ならなら、今日は一緒に遊ぼうよー。ね! ダル君もそれが良いと思うよね!」
ダル「おぉぉ……まぁ、ボクは牧瀬氏にISについて色々聞きたいこともあったし、賛成だお」
まゆり「ね! 紅莉栖ちゃんっ」
紅莉栖「……そうね、と言うか今日は一日中ラボに居るつもりだった、し……」
はにかみながら紅莉栖が答える。
同年代の友達が殆どと言って良いほど居なかった紅莉栖にとって、まゆりの素直な誘いは嬉しいものがあった。
634 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:46:03.92 ID:YanLtjWJo
ダル「そうと決まればまずはご飯にしようず。ピザを注文しようと思う訳だが」
カサカサとピザ屋のチラシを広げはじめる。
どうせ注文する種類は決まっているのにと、紅莉栖は内心笑っていた。
まゆり「まゆしぃは、ジューシーからあげなんばーわーん!」
紅莉栖「ピザか、良いわね。最近ジャンクジャンクしたのを食べてなかったから、そう言うのちょっと食べたかったりして。
学食って美味しいんだけど、全部クオリティが高くてなんか違うのよ」
まゆり「せっかくだから、ルカ君も呼ぼうよー!」
ダル「ならばフェイリスたんにも是非お声をかけて頂きたいお!」
紅莉栖「(楽しいな、この空気……岡部の馬鹿も無視して来ればよかったのに……)」
表面ではそう思いつつも、紅莉栖は無理やり岡部をここへ連れて来ることは出来なかった。
その後、更織楯無に説明された事情。
今頃、岡部もさらに詳しく楯無から説明を受けているだろう。
名称だけは紅莉栖も耳にしたことがあった。
──“亡国機業-ファントム・タスク-”について。
635 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:46:46.78 ID:YanLtjWJo
……。
…………。
………………
636 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:47:21.19 ID:YanLtjWJo
─IS学園・自室─
秋葉原へ足を向けた紅莉栖を見送り、一行は一夏と岡部の部屋へ集まっていた。
議題はもちろん“亡国機業”について。
岡部「亡国企業-ファントム・タスク-……」
聞きなれない単語を耳にした岡部が繰り返す。
楯無「そう。覚えておいてね」
一夏「……」
“亡国企業-ファントム・タスク-”
古くは50年以上前から活動している、第2次大戦中に生まれた組織。
国家によらず、思想を持たず、信仰は無く、民族にも還らない。ゆえに目的は不明。
存在理由も不確かで、その規模もわからない。
わかっているのは、組織は大きく分けて運営方針を決める幹部会と、スペシャリスト揃いの実働部隊の2つが存在すること。
そして近年、その主な標的はISであること。
楯無の説明はそういったものだった。
637 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:48:13.05 ID:YanLtjWJo
楯無「この情報も何処までが本当なのか、眉唾なんだけどね」
岡部「それが……俺と何の関係がある」
当然の疑問を口にした。
一瞬だけ“ラウンダー”の影がちらついたが、意識を振り切る。
確かに得たいの知れない集団ではあった。
けれど、楯無の説明から受けるニュアンスとは違うと岡部は判断している。
楯無「直接の関係は勿論無いわ。でもね、ここに居る一夏くんの“白式”同様に貴方の“石鍵”も貴重なISなの。
口惜しいことに、今まで何回か学園内外で襲撃を受けてる訳」
岡部「襲撃……?」
一夏「あぁ。俺の“白式”を奪いにな」
楯無「亡国企業の目的は不明。ただ、ISを集めてる事は確かだし手段を厭わないのも確かなの」
一夏「俺も何度も襲われた」
岡部「……」
襲撃。
そう何度も聞きたい単語ではない。
過去に受けてきた類似の思い出が嫌でも記憶にチラつく。
638 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:48:39.61 ID:YanLtjWJo
楯無「自分で撃退しなさい。だなんて言わないわ、ただ死なない程度には動けるようになって貰わないとってことよ。
倫ちゃんに死なれちゃったら、おねーさんも生徒会長としてちょっと困っちゃうし」
一夏「凶真も何時、俺のように襲われるかわからないから。って事ですか?」
楯無「そーゆーこと」
一夏が入れた紅茶を飲みながら答える。
誕生日にセシリアがくれた一級茶葉を使用しているので、優雅な香りが部屋に立ち込めていた。
岡部「……事情はわかった。だがしかし、俺は今日ラボへ行かねばならん」
楯無「紅莉栖ちゃんが行っちゃったから?」
岡部「だっ断じて違う! お、俺はラボの長としてだな、定期的に様子を見に行かねばだな……」
楯無「んー、どうしても行きたい?」
岡部「これは義務だ。義務を放棄する訳にはいかない」
楯無しは、うーん。と考えるポーズをとる。
岡部を行かせる気は毛頭無いが、どのようにして諦めさせるか考えていた。
639 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:49:07.23 ID:YanLtjWJo
楯無「じゃぁ、勝負しましょう。私が負ければ今日も明日もお休み。どう?」
岡部「……良かろう」
しばしの間を持ち、了承の言葉を放った。
ここで言い合いをしても楯無は折れないことはわかっている。
一夏「……あっ」
一夏は気付いた。
一昔前にこれとまるで同じやりとりを楯無としたことを。
にこりと笑った楯無は勿論、“罠に掛かった”という表情をしていた。
やっちまったな、凶真。
一夏は自分と同じ運命を辿るであろうルームメイトに対して、そう思うことしかできなかった。
640 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:49:37.72 ID:YanLtjWJo
……。
…………。
………………
641 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:50:03.78 ID:YanLtjWJo
時間が惜しいとすぐさま場所を移動した。
移動先は畳み道場。
休日の行方を担う決戦場である。
─畳道場─
岡部「……これは?」
楯無「うん。袴ね」
岡部と楯無は休日稽古をしていた柔道部員を退け、中央で向かい合っていた。
両者とも白胴着に紺袴という日本古来からの武芸者スタイル。
隅に追いやられていた柔道部員は、会長である楯無と岡部の袴姿に黄色い声を上げている。
同じように袴姿の一夏には既に何人かが取り囲み、写真撮影へと発展していた。
642 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:50:30.35 ID:YanLtjWJo
岡部「俺が聞いているのは格好の問題ではない」
楯無「あら、思ったより似合ってるわよ?」
岡部「ちっがぁう! 俺が言ってるのはそう言うことではない!
さっさと済まして、ラボに行きたいというのに何故こんな面倒な着替えや場所をあつらえているんだ!」
楯無「の割りには、ひょいひょい付いて来て着がえてるじゃない♪」
岡部「そもそもだ……なぜ戦う事になっている……」
ぎりりっ、と歯軋りが聞こえてきそうな形相で楯無を睨む。
勝負は了承したが、勝負内容が戦闘とは一言も聞いていない。
643 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:50:57.93 ID:YanLtjWJo
楯無「あん。睨んじゃヤ」
一夏「凶真……話が通じる相手じゃないから……」
写真撮影が終り、隅の方で正座をして観戦をしている一夏が声をかける。
そんな一夏に、あんまりな言い方ね。と楯無が小さく反応した。
取り巻きの女子も、行儀良く一夏を中心に横一列に正座をして観戦している。
ジャンケンで勝った順に一夏の隣に座れるシステムらしい。
楯無「さ、倫ちゃん。喚いてる時間があるなら早くかかって来なさいな。
ルールはさっき説明した通り。倫ちゃんは参ったすれば、負け。私を床に倒せば倫ちゃんの勝ち」
あまりにも岡部に有利な条件。
いくら体力の無い岡部とは言え、負ける気がしなかった。
何度倒されても自分が参ったを言わなければ負けることはない。
ラウンダー相手に立ち回った経験を活かせば、女1人床に伏せることは容易い。
そう考えていた。
644 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:51:24.69 ID:YanLtjWJo
岡部「自分勝手な女だ。後悔しろ、マッドサイエンティストを怒らせたことをな!」
楯無「まー、怖い。おねーさん身の危険感じちゃう。一夏くん、いざとなったら助けてね?」
一夏「はいはい。助けますよ(凶真をですがね)」
岡部「さっさと終わらせるぞ。悪いが俺は格闘技の型など知らんからな、我流でイかせて貰おう!」
大股を広げ、両手を大きく広げる岡部。
その独特の構えは──。
一夏「なんて……隙だらけなんだ」
どこからどう見ても隙しか見当たらない。
愛読している漫画のキャラクター。その型のモノマネをしているだけだった。
645 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:51:51.70 ID:YanLtjWJo
岡部「さっさと終わらせてやる……」
岡部の作戦は単純だった。
体格差にものを言わせて、転ばせる。
岡部「(楯無がどれだけ強いかはわからん。が、チャンスはいくらでもある……。
今が11時。遅くとも12時には終わらせて、14時にはラボに付いていたい)」
楯無「じゃぁ──行くわよ?」
余裕のある澄んだ声が道場に響いた。
646 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:52:22.29 ID:YanLtjWJo
……。
…………。
………………
647 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:53:06.33 ID:YanLtjWJo
─未来ガジェット研究所─
るか「でも──岡部さん凄いです、男性なのにISを起動してしまうなんて」
ピザを両手で持ちながら“漆原 るか”が話題を変えた。
その容姿は美少女にしか見えないが、男である。
服装も華奢なボディラインが見て取れるようなものであり、蠱惑的なものだった。
フェイリス「さすが凶真だニャ……内なるマナを開放し、ISを呼び覚ましただニャんて……。
深淵の者との戦いが近いと言うことなのかニャ……!」
フェイリス・ニャンニャン。“秋葉 留未穂”が何時も通りの口調で答えた。
ラボは2人を加え、5人のラボメンで昼食を取っている。
648 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:53:40.02 ID:YanLtjWJo
ダル「……キタ」
ボソリと、ダルが呟く。
その拳はぎゅぅっ、と強く握られている。
紅莉栖「橋田……どした?」
ダル「ボクの時代がキィタァァア!! まさに、ハーレム!!」
座っていた巨漢の男が立ち上がり、叫ぶ。
ジューシーからあげNo.1を摘まんでいたまゆりが、柔らかい口調でそれに返した。
まゆり「でも、るか君も男の子だからちょっと違うよ?」
紅莉栖「男女比2:3でハーレムと言うにはちょっとね。つか、なんて話題だ」
呆れた声で紅莉栖が口を挟む。
649 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:54:09.07 ID:YanLtjWJo
フェイリス「チッチッチ。ダルニャンを甘くて見てはいけないのニャ!
るかニャンもきっちりカウント、むしろ“男の娘”属性として脳内で猛威を振るってるはずだニャッ」
るか「えっえっ……あの、僕……」
途端に挙動不審になり、ダルに怯えた視線を向ける。
なぜか胸部と下半身を手で覆って隠していた。
ダル「今まさにボクの時代だお!」
興奮し、ソファーから立ち上がる。
と同時に、重く、鈍い音がダルの頭部から響いた。
650 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:54:40.74 ID:YanLtjWJo
ダル「お、おお……」
紅莉栖「けっこー重くて硬いのよね、この本。橋田、もう一発いく?」
ダル「ニ、ニライカナイが一瞬見えた訳だが……」
紅莉栖「正座する?」
恨みがましく痛みを主張するが、紅莉栖の一睨みで態度を改める。
ダル「正直興奮してた。反省も後悔もしてないが、今は落ち着いてるお……」
紅莉栖「まったく。相も変わらずHENTAIなんだからな」
フェイリス「ダルニャンにHENTAIは褒め言葉になっちゃうニャ」
ダル「まさしく、ご褒美」
フェイリスの合いの手にキリッとした反応を見せる。
が、横目で紅莉栖が睨むと直ぐに萎縮してしまった。
651 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:55:19.62 ID:YanLtjWJo
ダル「あ、牧瀬氏牧瀬氏……」
紅莉栖「なぁに? 変態さん」
ダル「言葉に棘があるぜェ……じゃなくって、凄いことが発覚したんだお」
態度を改めて話題を振った。
これ以上ふざけて、分厚い参考書を頭部にめり込ませたいとはダルも思っていない。
紅莉栖「凄いこと?」
まゆり「あっ! そうそう、ちょっと驚いちゃったよねぇ」
るか「はい。僕も驚きました……」
紅莉栖以外のラボ面が訳知り顔で話し始める。
652 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:55:47.41 ID:YanLtjWJo
紅莉栖「ちょっとちょっと、話し進めないでよ。何が凄いの?」
ダル「フェイリスたんの“IS適性値”」
紅莉栖「? それがどうしたの?」
首を傾げる。
岡部や一夏と違って、女性であれば“IS適性”があってもなんら不思議はない。
まゆり「それがね、えへへぇ」
なぜか、まゆりが自慢顔を作る。
まるで自身のことを語るような笑みだった。
653 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:56:22.09 ID:YanLtjWJo
るか「“適性値:A”なんです」
紅莉栖「へぇ、そうなの……A!?」
IS適性値。
それはC〜Sまでランク付けがされていて、大部分の女性がCに位置づけられている。
適性値は訓練により、向上していくものだが、生まれ持った素質によるものが大きい。
適性値Sランクは世界で数人しか確認されておらず、世界最強の一角として認知されている。
適性値Aランクは各国の代表選手、及び代表候補生クラスになる素質、または技能を持っているとされていた。
紅莉栖「ちょ、AランクだったらIS学園に余裕で入学出来るわよ?
と言うか……日本政府がAランクの娘を学園に入れさせないとかありえない」
フェイリス「ニャハハ……実は政府から何度も入れーってオファーが来てたのニャ」
ダル「フェイリスたんマジぱねぇっす」
興奮気味にダルが声を荒げる。
適性値Aと言うのはそれほど凄いことだった。
654 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:56:59.68 ID:YanLtjWJo
フェイリス「ISは確かに凄いニャ。だけども、フェイリスは皆のメイドでありたかったのニャ。
ISに乗って世界に羽ばたくよりも、もっともーっと大事なことがフェイリスにはあったから……華麗に断った訳だニャ!」
ダル「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
まゆり「えへへぇ、さすがフェリスちゃん。カッコイイなぁ」
るか「普通なら断りきれないですし、待遇面から言っても確実にIS学園に入学した方が良いですもんね」
ダル「一生付いて行くと決めたお!」
フェイリスはISに関連する全てのオファーを断った。
IS操縦者になる道よりも、この秋葉原でメイドとして、秋葉留未穂として都市開発に携わっていく。
そう決めていたのだから日本政府が幾ら説得しようとも、猫の耳に念仏であった。
655 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:57:31.17 ID:YanLtjWJo
フェイリス「でも、こんなことになるなら入ってても良かったかニャ?」
紅莉栖「こんなこと?」
フェイリス「決まってるニャ! 凶真がIS操縦者として学園に入ったのなら、きっと今より面白い学園生活が送れたはずだニャ!」
まゆり「オカリンと学生生活かぁ〜」
るか「確かに。楽しそうですね……」
ダル「牧瀬氏は実際送っている訳ですが……」
紅莉栖「ぐ……」
3人の視線が紅莉栖に集まる。
656 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:58:00.24 ID:YanLtjWJo
フェイリス「さー、くーニャン! 洗いざらい話してもらうニャ〜!」
紅莉栖「は、話すって何を……」
まゆり「んーとぉ、どんな学園生活を送ってるのかなぁ? まゆしぃもちょっと気になるのです」
紅莉栖「ま、まゆりまで……」
るか「やっぱり気になりますよね……そ、その女の子も沢山居ますし」
紅莉栖「漆原さんまで!?」
ダル「特に、世界各国の美少女について詳しく説明キボンヌ!」
紅莉栖「なにこの展開……」
フェイリス「くーニャン以外で、凶真が一番仲の良い子は誰だニャ?」
しばし考える。
岡部が今現在、一番親しくしている存在。
紅莉栖当人を除いた場合、該当する人物は1人しかいなかった。
657 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:58:26.72 ID:YanLtjWJo
紅莉栖「えっと……一夏かな」
ダル「イチカ? どこの国の女子?」
国際色豊かなIS学園である。
外国人の名前と勘違いしても無理はなかった。
紅莉栖「男だ」
まゆり「おー、あの有名なおりなんとか君!」
ダル「さすがオカリン……ヘタレっぷりをあちらでも発揮していると見た」
一門一答が続いていく。
周りから出される質問の殆どの答えが“一夏”だったのは言うまでも無い。
この一門一答は4人が飽きるまで行われた。
658 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:59:06.92 ID:YanLtjWJo
……。
…………。
………………
659 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 03:59:33.76 ID:YanLtjWJo
─畳道場─
ラボで紅莉栖が尋問を受ける最中、岡部はジリジリと距離を縮めていた。
楯無は相変わらず余裕な笑みを浮かべている。
楯無「倫ちゃん、一つ聞いて良い?」
岡部「何だ? 命乞いか? ククク……本来ならば許しはしないが、今は時間が無い。特別に──」
楯無「その格好はなぁに?」
岡部の口上などは全て無視して楯無が尋ねた。
両腕を万歳のように広げ、掌も広げ、まるで威嚇でもするかのような構え。
あらゆる格闘技を納めている楯無であっても、見た事が無い型。
どう見ても隙だらけの型ではあったが、岡部の自信に満ちた表情に興味が沸いた。
660 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:00:02.89 ID:YanLtjWJo
岡部「……っふ。知らんのか。この構えは地上最強の生物。その者の“流法”(モード)だ」
楯無「地上最強……? モード?」
岡部「その他にも“光”の流法。“風”の流法。“熱”の流法、と俺は全てを納めている。
どうだ、降参するなら今のう──」
楯無「なんだかわからないけど……面白そうね♪」
岡部「お、おもしろ?」
楯無「じゃぁ──行くわよ?」
仕切りなおし、楯無が動く。
岡部が無意識に行った生理的な“まばたき”を終えた次の瞬間、
対面に立っていた楯無は大きく両手を広げている岡部の懐に入っていた。
661 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:00:28.52 ID:YanLtjWJo
岡部「な──に?」
楯無「あら? 迎撃しないのね?」
両手を広げたままの岡部は動くことが出来なかった。
本能が危険信号を脳に告げる。
“この位置は不味い”
楯無「ボディーが、がら空きよ!」
双掌打が岡部の腹部に叩き込まれた。
ガードなど出来様はずもなく、完全に攻撃が決まる。
楯無の細く、華奢な腕から放れた打撃は関節を固定することにより大幅に攻撃力が上がっていた。
662 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:00:54.59 ID:YanLtjWJo
岡部「くけっ……!」
衝撃が全身に渡る。
肺に攻撃を受けた訳でもないのに、全ての酸素が肺外へ放たれ呼吸が一時的に麻痺する。
バランスは崩れ、足はよぼつき、気付けば視界は天井を見上げていた。
楯無「あらぁ……思った以上に……」
一夏「(何にも言えねぇ……)」
女子生徒「え、もしかして岡部君って弱い?」
女子生徒「ちょっと幻滅って言うか……」
女子生徒「でも相手は更織会長だし……」
遠慮無用の女生徒の会話に一夏の耳が痛くなる。
ここ2日間で岡部の体力のなさは把握していた。
そんな岡部が楯無と戦えるはずが無いのを、一夏はわかっていたからだ。
663 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:01:20.91 ID:YanLtjWJo
楯無「えっと、大丈夫……?」
双掌打のクリーンヒットを受けた岡部はひくひくと手足を痙攣させながらひっくり返っていた。
一向に立ち上がろうとしない岡部を心配して、覗き込むように楯無が近づいた時──。
岡部「ぶぁーかめっ!!」
見かけによらず、長く伸びた足を楯無の両足に絡め、蟹バサミを決める。
ガッチリと楯無の両足を挟む。
後は簡単だった。思い切り体を捻りその勢いで床に叩き伏せる。
岡部「これで終りだ!!」
楯無「うーん、頑張りは認めるけど30点」
冷静な声が響く。
その顔は見えなくとも、うっすらと笑みを浮かべているとわかる口調だった。
岡部の勢いは止まらない。
そのままゴロゴロと畳道場を1人で転げまわった。
664 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:01:47.20 ID:YanLtjWJo
楯無「ホールドが甘い。あんなにユルユルじゃぁ簡単に抜けれちゃうわよ?」
ガッチリと挟んだはずの足だったが、所々にあったわずかな隙間。
僅かでも隙間があるのなら、体位をずらせば空間は広がる。
広がれば後は簡単。
岡部が転がり始める前にジャンプをすれば良い。
子供だましな縄抜けだった。
岡部「くっ……」
ずきん。と腹部が疼く。
痛みを無視して行った決死の攻撃。それが外れたことで忘れかけていたものがぶり返した。
665 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:02:14.15 ID:YanLtjWJo
楯無「それにしても、死んだふり? 結構ベタな手を使うのね」
くすくすと愉快そうに笑う楯無。
それに引き換え、岡部は一撃貰っただけで全身から嫌な汗が吹き出ていた。
岡部「貴様……空手かなにかやっているな……」
岡部から見ても楯無の動きは素人のものではない。
けれど、その発言は突拍子も無く楯無を笑わせるには充分なものだった。
楯無「空手って……ふふっ、ぷぷぷっ……あははっ」
一夏「……」
完全に的外れな発言だった。
古今東西あらゆる格闘技をマスターしている楯無を相手どり、空手の一言。
666 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:02:40.17 ID:YanLtjWJo
一夏は「わかってなかったんだな」と溜息を吐くしかない。
岡部「(この女……もしかして、凄く強いのか……?)」
一夏「(凶真が怪我しないように祈るしかないな……)」
楯無「さてさて、倫ちゃん。降参する?」
ひとしきり笑ったあと。ニパッ、と笑顔を見せる。
岡部は睨みつけることによって降参を拒否する意思表示をした。
岡部「(思ったよりダメージが大きい……。芯に響くような痛みだ……)」
楯無「んー♪ 良い顔するじゃない。そう言う顔する男の子、おねーさんは好きよ?」
だからお前は俺より年下ではないか!
そう突っ込みを入れたくはある岡部だが、その余裕が無かった。
667 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:04:04.42 ID:YanLtjWJo
岡部「(大丈夫だ。降参さえしなければ終わらない……勝機は必ずある。俺は絶対にラボへ行く……)」
楯無「さー、ガシガシ行くわよー」
そこからは一方的だった。
ぽん、ぽん、ぽんと肝臓、みぞおち、心臓に軽く掌打を入れる。
寸分違わぬ精密打撃により、攻撃力は低くとも威力は絶大だった。
楯無「最後のは最近読んだ漫画にあった技なの。ハートブレイクショット♪」
正確に心臓部へ放たれた打撃。
それは岡部の時間を奪う一撃だった。
668 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:04:44.55 ID:YanLtjWJo
岡部「くっ……かはっ……」
全てが急所への打撃。
岡部の膝が崩れ落ちる。
岡部「(息が……)」
呼吸が詰まる。
視界が落ちそうな、世界が暗くなる感覚。
岡部「ぬぐぅ……っっ」
思い切り歯を食いしばり、意識が弛まぬように気を入れた。
一度でも折れれば立ち上がれなくなる。
岡部は本能でそれを覚えていた。
669 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:05:36.36 ID:YanLtjWJo
楯無「あら……」
一夏「倒れ……ない」
完全に倒れると思っていた一夏は駆けつけるために、肩膝立ちの姿勢になっていた。
持ちこたえた岡部に驚嘆する。
楯無「ふむ。痛みには強いのかしらね?」
岡部「ぁぁ……、痛み……には、多少…………慣れてい、てな」
振り絞るように声を出す。
声を出して、意識が飛ばないようにとの抵抗だった。
670 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:06:14.41 ID:YanLtjWJo
楯無「あはっ♪ 良いわね、倫ちゃん。男の子はそうでなくっちゃ」
愉快な声をあげる。
事実、楯無は楽しんでいた。
一夏は捨て身の攻撃でもって、意志を示した。
岡部は耐えることにより、諦めることを拒否している。
そんな男達の姿が懸命でいじらしく、とても良い物に思えたからだった。
岡部「まだ、勝負は終わらない。終わらせない……」
ゆらり、と岡部が動く。
策など無かった。
671 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:06:41.94 ID:YanLtjWJo
岡部「(殴りたくば、殴れ)」
相手が攻撃をした時、必ず体は腕の届く距離に居る。
痛みなど無視をして力ずく……体当たりでもなんでも良い。
一度転ばせてしまえばそれで終り。
はったりが利く相手でも、急拵えの攻撃も届かない。
岡部には最初から自爆特攻しか選択肢が無かった。
楯無「(うーん、結構有効打入れたと思ったんだけどなぁ……これ以上やると怪我させちゃうかも)」
一夏「(凶真のやつ大丈夫か? いざとなったら、本当に止めに入らないとな……)」
2人の心配を他所に岡部は動く。
ゆっくりと、小用を片付けに行くように敵わない相手へ歩を進める。
一夏は腰を上げ、何時でも飛び出せる準備をしていた。
試合を止める訳ではない。
岡部が何時倒れても、その時支えられるようするために。
672 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:07:14.73 ID:YanLtjWJo
楯無「(すぐへばると思ったんだけど……意識を奪った方が良さそうね)」
楯無にしても、岡部を痛めつけることが目的ではなかった。
現状で岡部の身体能力をこの目と身で確かめる。
この試合は単なる余興として考えていただけだった。
楯無「(そんなにラボに行きたかったのかしら。ちょっと妬けちゃうかな、なんてね)」
岡部「どうした、ノーガード……来ないなら、こちらから──」
楯無「やん。ノーガードは嫌って言ったでしょ? それにノーガードなのは倫ちゃんじゃない」
そう言い放ち、楯無が躍動する。
身長差のある岡部に対し、確実に意識を刈り取るため、顎を狙った攻撃。
クリーンヒットさせては岡部の顎が砕けてしまう。
当てる打撃ではなく、掠める打撃。
前屈みになり、体を回す。
673 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:08:11.98 ID:YanLtjWJo
一夏「(カポエラキック!)」
下段から上段へ飛んでくる背面回し蹴り。
目測を誤れば確実に顎を砕くそれを、正確に掠めるよう楯無は放った。
楯無「ハッ!」
ッチ。とマッチをするような音が鳴った。
目論見通りの攻撃が当り、岡部は脳震盪を起こす。
岡部「うごっ……?」
肉体的なダメージではなく、脳を揺さぶる攻撃。
耐える耐えないの問題ではなく、立っていられない。
人間の脳は衝撃に強く出来ていない。
前方へ崩れこむように、倒れる岡部。
一夏は駆け出していた。
674 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:08:46.89 ID:YanLtjWJo
一夏「凶真!」
岡部の体を支えようとした、その瞬間。
けれど岡部の膝は完全に崩れ落ちなかった。
楯無「……」
岡部「っぐ……脳震盪、か……」
一夏「えっ、凶真? 意識、あるのか?」
岡部「言った、はず……だ。慣れてい、ると」
脳へのダメージ。
揺れる世界。
それは、リーディング・シュタイナーを発動したそれと少しだけ感覚が似ていた。
その少しだけ。ほんのちょっとの似た感覚が、岡部の意識を現在に繋ぐ要因になる。
楯無「一夏くん。戻って」
一夏「あ……はい」
降参をしていない以上、一夏が試合を中断して良い理由などどこにも無かった。
楯無「ちょっと痛いかもしれないけれど、3時のおやつには起こしてあげるから」
冷たく。けれど柔和な口調を岡部は最後、耳にした。
675 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:09:17.73 ID:YanLtjWJo
──。
────。
──────。
676 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:09:51.27 ID:YanLtjWJo
待ってくれ……。
置いて──行かないでくれ。
「まゆしぃがオカリンを置いていくわけ無いのです」
まゆり、良かった。
ここは何だか良くわからなくて……まゆり?
「ボク達がオカリンを置いていくわけないっつーの」
ダル、無事か?
一体何が起きて……。
「──岡部。アンタが私達を置いていったんでしょ?」
後頭部に当る柔らかな感触と共に、意識を取り戻していく。
陽光が目に入り、視界が悪い。
677 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:10:38.45 ID:YanLtjWJo
岡部「む……」
シャル「あ、オカリン起きたみたいだよ」
一夏「大丈夫か?」
岡部「まゆ……り?」
光を遮るように、顔を覗いたのは一夏だった。
顔を傾ける。
柔らかく、熱を持った枕。
気付くと岡部はシャルロットに膝枕をされていた。
シャル「ん? まゆり?」
岡部「なぜ、こんなことに……」
当然、膝枕についての問いかけだった。
前後の記憶が思い出せない。
678 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:11:08.26 ID:YanLtjWJo
楯無「気絶した男子を介抱するのは、乙女の役目なのよ?」
ひょいと、楯無が顔を出す。
シャル「もー。だったら楯無会長がしてあげれば良かったんじゃ……」
楯無「あら、だっておねーさんの膝は一夏くん専用だもの♪」
軽く流した楯無だったが、シャルにとっては聞き捨てなら無い台詞だった。
楯無に向けていた視線をくるりと一夏へと向ける。そこに笑顔はない。
シャル「一夏。どういうこと?」
一夏「いっ! いやっ、違うんだ。シャル……? 何で怒ってるんだ?」
シャル「知らない!」
僕だって一夏のことを膝枕したかったよ。と呟く。
勿論、一夏の耳には届かない微かな訴え。
その訴えは岡部の耳には届いていた。
679 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:11:40.92 ID:YanLtjWJo
岡部「何だかわからないが、迷惑をかけたようだな。すまない」
好いた男の前で、このようなことをさせて申し訳ない。
岡部はこの手の感覚にはかなり鈍い男であったが、一夏を取り巻く環境については嫌でも気がついていた。
シャル「あっ、えーっと。どういたしまして……」
シャルが赤面して俯く。
小さく漏らした声を聞かれたことに恥しさを覚えた。
岡部「俺は、失神したのか」
楯無「うん」
岡部「ルール上、降参さえしなければ負けではない。そうだったな?」
楯無「えぇ、そうね」
一夏「凶真……」
一夏は心配だった。
また、岡部が楯無に勝負を挑むのかと。
力量の差は歴然。
楯無が手加減をしているとは言え、続ければいずれ怪我をするだろう。
680 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:12:10.46 ID:YanLtjWJo
楯無「……どうする?」
しばしの間が空く。
目を瞑り、悔しげに岡部が口を開いた。
岡部「……悔しいが、床に倒すことも至難らしい」
シャル「IS学園生徒会長は学園最強たれ。楯無会長に勝つのはちょっと難しいよ……」
一夏「俺も最初の頃にボコボコにされたっけなぁ」
しみじみと思い返す。
あの時、一夏は岡部同様に一撃位は……と思っていた。
681 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:12:37.65 ID:YanLtjWJo
楯無「あら失礼ね。ちゃーんと手心加えてあげたでしょう? それに私のおっぱ──」
一夏「──んなぁ! 凶真!! さすがに、ちょっとコレを続けるのは良くないと思うんだ」
一夏が大声で無理やり話題を元に戻した。
楯無はチェッと小さく、けれど笑顔で後輩の可愛い狼狽振りを楽しんでいた。
岡部「ワンサマーには心配をかけっぱなしだな……わかった」
──俺の、負けだ。
敗北を認めた。
その場に居た面々が胸を撫で下ろす。
682 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:13:16.61 ID:YanLtjWJo
楯無「ん。素直でよろしい。ダメージの方はどう? なるべく残らないように打ったつもりなんだけど……」
岡部「未だに頭が少しぼやけるが……体は驚くほど痛みが無い」
一夏「あぁ、あれ凄かったなー……ええっと、デンプシー?」
楯無「デンプシーロール♪」
楯無はくるくると指で“∞”を描きながら答えた。
左右への高速体重移動。そこから∞の字を描くように頭を振りフックを叩き込む。
楯無はその全てを岡部の顎先を掠めるように当てている。
常人では考えられない技術であった。
683 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:13:42.93 ID:YanLtjWJo
一夏「ははっ、本当になんでもありだなこの人」
シャル「僕が来たときには、オカリン完全に伸びてたからね」
楯無「はい、倫ちゃん」
ぬるめのスポーツドリンクを差し出す。
健康を考えると、キンキンに冷えた飲み物よりもこの位のものが適温であった。
岡部の体調を配慮しての、ささやかな気配り。
岡部「これは?」
楯無「水分補給。それを飲んだら練習再開! 今日はみっちりやるわよ。特に一夏くん!」
一夏「えっ、俺ですか?」
矛先を向けられ目を丸くする。
なぜ自分の名前を呼ばれたのか理解できなかった。
684 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:14:23.16 ID:YanLtjWJo
楯無「そ。今日は久々におねーさんが手取り足取り指導してあげる☆」
その為に、一夏も袴へと着替えさせられていた。
一夏「えぇっ、ええっと……そうすると凶真は……?」
楯無「それは勿論、シャルロットちゃんが居るじゃない」
シャル「ふぇ?」
楯無「CQCの心得あるでしょ?」
シャル「まぁ……少しは」
CQC(Close Quarters Combat)-近接格闘-
代表候補生であるシャルロットも大抵の格闘技は納めていた。
685 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:14:56.13 ID:YanLtjWJo
楯無「こほん。男の子2人とも良い? 良く聞いて」
へらへらとしたムードが一転。
ぴりりとしたものに変わった。
楯無「きっと“亡国機業”は今まで以上に、活動を活発にしてくるでしょう。
一夏くんは元より、倫ちゃん。貴方も確実にターゲットに入ってくる」
身の危険を警告する話題に2人の息が詰まった。
楯無の声色にふざけたものが含まれていない。
楯無「勿論、生徒会長として。この学園の長として相手の好き勝手はさせやしない。
けれどね? 私の体も1つしかないの」
残念だけどね、と軽く付け足す。
その顔は少女のようにあどけなく、淑女のように上品なものだった。
686 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:15:23.74 ID:YanLtjWJo
楯無「一夏くんは経験済みだよね? “ISが呼び出せない”状況を。」
一夏「……っ」
思い出す、学園祭の出来事を。
あるはずの無い兵器“剥離剤”(リムーバー)を使われ、一時的にとは言え“白式”を奪われた苦い記憶。
あの時、一夏はなす術なく暴行を受ける事しか出来なかった。
楯無「勘違いしないでね? 生身でISに挑んで欲しい訳じゃないの。
ううん。そんなことは絶対にしてはだめ。私の言う体を鍛えるって言うのは、生存率を高めて欲しいということ」
それを頭に入れておいてね。
この言葉で楯無は話題を切った。
楯無「さ、て!」
両手を叩き、場の空気を入れ替える。
687 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:16:09.80 ID:YanLtjWJo
楯無「倫ちゃんの方はシャルロットちゃんに任せるわね?
一夏くんはそうね……晩御飯の時間までにおねーさんから一本取れなかったらくすぐり10分の刑!」
一夏「無茶な……」
楯無「さー、始めるわよー♪」
わきわきと指を動かしながら、一夏に詰め寄る楯無。
一夏「ちょっと! どう考えてもいきなりくすぐる気満々じゃないですか!!」
楯無「おねーさん知らなーい。えーい!」
声を弾ませて一夏へと飛び込む。
愉しそうな楯無の声と、悲惨な一夏の叫び声が午後の学園に響いた。
688 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:16:42.38 ID:YanLtjWJo
シャル「えっと……ど、どうしよう?」
岡部「と聞かれてもな……俺には何をすれば良いのかすらさっぱりだ」
シャル「だよね……えーっと“生存率”を高めるために。かぁ……」
ぶつぶつと楯無の言葉を反芻し意味を確かめるシャルロット。
そんなシャルロットを見ていた岡部が不意に言葉を漏らした。
岡部「なんだ。その……悪かったな」
シャル「で、だから──……えっ? ごめん、聞いてなかった」
岡部「あーいや。ヂュノアからしたら、ワンサマーと組み手をしたかったろう。と思ってだな……」
シャル「ええぇっ!? えっ、えっー!?」
一瞬にして透き通るように白い肌が赤く染まる。
確かにそんな事を思ってもいたが、まさかそれを指摘されるとは露とも思っていなかった。
689 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:17:12.35 ID:YanLtjWJo
シャル「(えっ!? えっ!? なんで、どうして? 何で知ってるの!?)」
脳内で小さいシャルロット達が円卓を囲み会議を始める。
あーでもない、こーでもないと言い合いをするも結果はまるで出てこない。
シャル「なっ、なんでそー思うの、かな……?」
岡部「何でも何も、ワンサマーを好いているの──ぉぉ!?」
全てを言い終える前に、岡部の重心はシャルロットの前足により崩され後方に倒れた。
すかさず、後頭部を打ち付けぬよう白く滑らかな掌が畳との間に割って入る。
もう片方の手は岡部の口を完全に塞いでいた。
迅速に相手の言動を封じ込めると同時に、ダメージを与えないケアまで行っている。
690 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:17:55.06 ID:YanLtjWJo
シャル「なななな、何を言ってるノカナー? あはは」
引きつった笑い声が岡部に届く。
恋する乙女の秘密は、口にしてはいけない。
例え、それがどんなに周知の事実であろうとも。
岡部「……」
こくこくと、岡部が頷きアイコンタクトを送る。
わかった。俺の勘違いだったようだ、と。
シャル「んんっ! もうっ、オカリンったら急に変なこと言い出さないでよね」
岡部「悪かった……」
内心、今の動きの早さに動揺を隠し切れなかった。
なんだこの学園の女生徒は。皆が皆、あのような動きを涼しい顔でこなすのかと。
691 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:18:29.49 ID:YanLtjWJo
シャル「でも。今ので何となくの課題が見えたね?」
岡部「?」
シャル「防御、回避に重点を置こう」
岡部「それと今のやりとりの何が関係するんだ?」
シャル「あの程度の足払いを避けれないようじゃダメってこと」
岡部「……なるほどな」
あの全てを刈り取るような足払いを、あの程度扱い。
自らがその攻撃を華麗に回避する様を岡部は想像出来なかった。
692 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:19:00.77 ID:YanLtjWJo
シャル「じゃぁ僕が軽く攻撃していくから、オカリンはそれを避けてね。
思い切りは打たないけど、当ると痛いと思うからちゃんと避けないとダメだよ?」
全てにおいて気遣いを感じさせるシャルロットの言葉。
何と無しに、優しさの方向がまゆりと似てる気がして岡部は嬉しくなった。
無論、まゆりがここまで気の利く娘だと言うわけではなく雰囲気的なものだった。
岡部「よろしく頼む」
シャル「うん。じゃぁ行くよー」
風を切る音が聞こえた。
岡部「え?」
回避行動を取ると言う思考フェイズを無視して攻撃が届く。
693 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:19:46.97 ID:YanLtjWJo
シャル「え?」
軽く放った、左のジャブが岡部の鼻っ面を叩いた。
ツーっ、と鼻血が滴る。
シャル「わっわっ!」
岡部「鼻血……か」
シャル「ご、ごめんね!? 当るとは思わなくって……」
それもそのはずで、シャルロットは岡部と楯無のやり取りを観戦していない。
彼女の中で、岡部は最低でも一夏程度のフィジカルを持っていると勘違いしていた。
恋する乙女の補正により、両者が戦えば一夏が勝利することは揺るがないが。
694 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:20:33.87 ID:YanLtjWJo
岡部「いや、痛みはさほど無い……」
シャル「ティッシュ、ティッシュ。あった! はい、これ使って!」
ティッシュを差し出された岡部はそれで鼻血を拭った。
ぼーっとどうでも良い事が脳裏に浮かぶ。
大人しそうなシャルロットですらこのレベルの攻撃をさらりと繰り出す。
秋葉原で絡んできたチンピラがいやに可愛く思えてくる。
シャル「大丈夫……?」
心配そうに顔を覗いてくる。
その顔は均整がしっかりととれていて、肌も白く金髪がイヤらしく無い。
ダルがラボでよくプレイしていたゲームなどに出てくる、西洋の美少女そのままだった。
695 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:21:07.67 ID:YanLtjWJo
岡部「だ、大丈夫だ。問題ない」
シャル「ほんと?」
19回目の誕生日を既に迎えている岡部にとって、高校1年生など年下も良い所で異性として意識すること自体、
何か後ろめたいものを感じ顔を逸らしてしまう。
岡部「中断して済まなかった、さぁ続きをやろう」
シャル「本当にもう大丈夫? オカリンが良いって言うなら良いけど……」
岡部「うむ。あちらで、ワンサマーも頑張っている」
道場中央に視線を向ける。
一夏「ぎゃあああああああああああああああああ」
一夏が断末魔を挙げながら楯無に関節を決められていた。
密着した体から感じる温もり、関節が逆に向けられる痛み。
天国と地獄を現在進行形で味わっている。
696 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:21:33.68 ID:YanLtjWJo
シャル「そう……だね、あはは……」
岡部「俺の反射神経、運動力の低さは異常だ。根を上げずに付いて来れるか?」
シャル「ぷぷっ、何それ。面白いねオカリンって」
顔面へ迫る左右の突き。
忘れた頃にやってくる足払い。
シャルロットの教官としての腕前は楯無の期待した以上のもので、岡部の実力を与して抑えられている。
段々と避けられるようになる攻撃。
避けれないと判断すれば、腕や足で防ぐ。
夕暮れになるころには、それなりの動きが見に付いていた。
1日でどうこうなるものではなく、あくまでそれなりにではあるが大した成果と言える訓練だった。
697 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:22:00.76 ID:YanLtjWJo
岡部「はぁ、ふぅ。ふぅ、はぁ」
途切れ途切れになる呼吸。
17時を回る頃には岡部の体力は底を付きかけていた。
シャル「うーん、結構頑張ったかな?」
防御行動だけの岡部とは違い、力加減や動き方を指導していたシャルロットは倍以上の運動量だがケロりとしている。
特に息の乱れも無く、汗も少量しかかいていなかった。
楯無「はーい、お疲れさまー」
一夏「痛ててて……」
陽気な楯無と、ぼろぼろの一夏が2人のもとへと戻ってきた。
698 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:22:26.72 ID:YanLtjWJo
シャル「お疲れさまです。会長ご機嫌ですね? 何か良いことでも?」
楯無「一夏くんがおねーさんにマッサージしてくれるんですって♪」
シャル「へ、ぇ」
ピシリ。と音が聞こえてきそうなほど、シャルロットの表情が固まった。
一夏「……えっと、シャルロットさん?」
シャル「なに、織斑くん?」
一夏「(怒ってる。なんでかサッパリ解らないけど、シャルのやつ怒ってるよな?)」
シャルロットは怒る時、箒や鈴音のように直情的な行動を取ったりはしない。
静かに怒る。
一夏にとってはそれがなによりも恐ろしかった。
699 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:22:52.83 ID:YanLtjWJo
楯無「おねーさんから一本も取れなかった罰に、くすぎりの刑を予定してたんだけどね?
マッサージで簡便してくれって言うの」
シャル「へぇ。そうなんですか」
感情を感じさせない喋り口調。
シャルロットが怒った時に見せる特徴の一つだった。
一夏「(うぐっ、シャルの目が笑ってない……まずい)」
一夏「あの──さ、シャル」
シャル「……」
一夏「シャルも今日は疲れたろ? 良かったらマッサージしてやろうか……なんて、イヤいらないよな、そんなもん」
シャル「──え?」
一夏「ごめんな、変なこと言っ──」
シャル「いっ、今なんていったの!?」
聞き返すシャルロット。
その声はとても大きく、岡部が肩をすくましている。
楯無は、くすくすと笑っていた。
700 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:23:29.63 ID:YanLtjWJo
一夏「えっと、ごめんな?」
シャル「じゃなくって! その、マッサー……ジ、してくれるの……?」
頬が朱に染まり、上目遣いで一夏を見つめる。
一夏「ん? あぁ、まぁシャルが疲れてたらなんだけど」
シャル「う、うん! 僕今日すっごく疲れちゃって、や、やー助かっちゃうなー?」
わざとらしい声をあげる。
どうみても棒読みなそれに一夏は気付かない。
一夏「そうか、なら後で俺達の部屋に来てくれよ。マッサージするからさ」
シャル「うん! や、約束だよ?」
そう言って、シャルロットは小指を一夏に差し出す。
げんまんの約束をする際のおねだりだった。
701 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:23:57.10 ID:YanLtjWJo
一夏「ん? 指切りするほどのことじゃ──」
シャル「や、約束だからね!」
一夏「お、おう」
シャル「指切りげんまん、ウソついたらクラスター爆弾のーますっ♪」
毎度おなじみの決まり文句をつける。
先ほどまで膨れっ面だった、シャルの顔はもうご機嫌そのものだった。
シャル「指切った♪」
一夏「おう」
シャル「えへへ」
その様子を見ていた、岡部がポツリと呟く。
702 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:24:35.56 ID:YanLtjWJo
岡部「これが10代女子というものか……」
楯無「あら、倫ちゃん。私もシャルロットちゃんと1歳しか違わないんだけど?」
岡部「そうか……」
そうは見えないな。
言いかけて飲み込む。
ろくな事にはならないと容易に想像がついたからだった。
楯無「倫ちゃん。食事の前に10キロマラソンね?」
岡部「……なっ!?」
決して口に出した訳ではない。
まるで思考を読み取られたのではないかと錯覚する。
楯無「これは意地悪じゃないの。本当に。
自分の体力の無さ覚えてる? これからは毎日朝晩10キロマラソン。生徒会長命令だからね♪」
岡部「……」
ぐうの音も出ない。
岡部にとっての本当の地獄はここからだった。
703 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/04(木) 04:25:11.29 ID:YanLtjWJo
おわーり。
ありがとうございました。
704 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/04(木) 04:28:32.77 ID:pePFGEREo
乙
705 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/04(木) 17:35:25.06 ID:SHTc43XTo
乙!
前作もリアルで追いかけてたけど相変わらず面白いわ
706 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:30:43.51 ID:GYoJEvqSo
投稿します。
707 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:31:15.78 ID:GYoJEvqSo
>>702
つづき。
……。
…………。
………………
708 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:32:07.34 ID:GYoJEvqSo
牧瀬紅莉栖はラボで楽しい時間を過ごし上機嫌だった。
IS学園に付く頃には夕飯時を過ぎていたが、牛丼さんぽにて早めの夕食を済ませていたのでさほど問題でも無い。
門を潜り、学園内へ。
紅莉栖「(今日は楽しかったな。後で岡部に嫌がらせ半分で話しをしてやろう)」
なんてことを考えながら歩いていると、体育アリーナでランニングをしている人影が目に入った。
遠目で見た限りでも酷くよたついており、いつ倒れても不思議ではない。
紅莉栖「休日だって言うのに熱心な子も居るのね。岡部も見習って──」
ふらふらと走り続けている影の身長は高く、紅莉栖の良く知る人間に似ていた。
紅莉栖「……お、かべ?」
岡部「ぜひっ、ぜひっ……はっはっー……」
首と両手はだらしなく垂れ下がり、もはや前を見て走っていない。
肌寒い季節になってきたと言うのに、大量の汗をかいていることから相等な時間を走っているのだろう。
709 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:32:38.35 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「ちょっと、大丈夫なのアイツ……」
岡部「あっ、あっ……ひっは、ひっはっ──」
紅莉栖「あっ」
足がほつれて、前のめりに倒れこむ。
良く目を凝らすと、岡部の服装は土埃で大分汚れていた。
何度も倒れたのだろうと容易に想像がつく。
岡部「あー……はぁ、もう、無……理だ」
紅莉栖「ギブアップですか? 鳳凰院凶真さん?」
後方から声がかかる。
この学園で岡部にとって最も馴染みの深い声だった。
710 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:33:13.30 ID:GYoJEvqSo
岡部「助手か……」
紅莉栖「うむ。ただいま帰った」
岡部「ラボの様子はどうだった」
紅莉栖「第一声がそれか。いいから、立ちなさいよ。ん」
そう言って、手を差し出す。
岡部は一瞬躊躇ったが大人しく手を借り、立ち上がった。
シェイクハンドすら拒んでいた時とは比べ物にならないなと、自嘲気味に口元が歪んだ。
岡部「すまんな」
紅莉栖「どんだけ走ってるの?」
岡部「トラック1週が1キロだそうだ。今8週目……あと2週だ」
紅莉栖「10キロマラソンか。平均的な成人男性だと1時間位かかると言われてるわね」
岡部「いちっ!?」
紅莉栖「ん? ……アンタ、今何時間走ってる?」
ちらりと岡部が時計を流し見た。
走り始めてから2時間が経過しようとしている。
711 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:33:49.37 ID:GYoJEvqSo
岡部「……ランニングの前にもそれは酷い拷問を受けていてだな」
紅莉栖「はいはい、言い訳乙! 見ててやるから、残りの2週してきちゃいなさいよ」
岡部「み、見られていると本来の力がだな!」
紅莉栖「いーから、さっさと行く!」
岡部「くっ……覚えていろよ助手……」
岡部は再び重い足を前に出し、走り始める。
紅莉栖と会うまでより足の重さが軽くなっていたが、その理由はわからなかった。
紅莉栖「よいしょっと……」
階段に腰をかけて、走り続ける岡部を見つめる。
ひたすらに走り続ける岡部を見るのは悪い気がしなかった。
712 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:34:23.40 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「そうだ、飲み物を買っておいてやるか」
残り二週。
今の岡部の体力を考えるならそう簡単に走破はしないだろう。
紅莉栖はさっさと食堂へ向かい、ドクトルペッパーを2本購入した。
岡部「ぜひっ、ぜひっ……おわっ、終わった……」
紅莉栖「はいお疲れ様」
岡部「かっ、軽く言う、なっ……並みのお疲れじゃないぞ……まったく……」
ぜひぜひと呼吸を乱しながら反論をするが紅莉栖は聞き入れない。
紅莉栖「ドクペ買っておいたわよ」
岡部「はぁはぁ、気が利くではない──」
ドクトルペッパーを受け取ろうと手を差し出したが、岡部にとってとんでもない情景が目に映った。
シャカシャカシャカと缶を振り始める紅莉栖。
炭酸飲料であるドクトルペッパーをシェイクし始めたのだ。
713 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:34:57.02 ID:GYoJEvqSo
岡部「なっ、なっ、何──を」
紅莉栖「ん? なにって、炭酸を抜いてるのよ」
プルタブを空けると、炭酸が気化しその勢いで中身が少しばかり零れた。
紅莉栖「ちょっと濡れちゃった。ま、良いか。はい、岡部」
岡部「い、嫌がらせか……?」
紅莉栖「? 何を言ってる。運動直後に炭酸バッチリのドクペなんて体に良いわけ無いでしょ。
スポーツドリンクを素直に飲めば良い話しだが、こっちの方が良いでしょ? ほら、飲みなさいよ」
岡部「ぐぬぬ……炭酸抜きコーラではなくドクペとは……」
紅莉栖「後はこの後に、おじやとバナナを食べれば完璧ね。付け合せは梅干で良い?」
岡部「それは結構だ」
軽口を叩きあっていたが、紅莉栖の心遣いは岡部の心に温かいものを落す。
日が翳っていたお陰で、頬の肉が僅かに緩んだことがばれずに済んだと内心ホッとした岡部であった。
ぐい、と気の抜けたドクトルペッパーを飲み干す。
紅莉栖は自分の分をチビチビとあおっていた。
714 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:35:28.78 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「どうすんの? シャワー浴びて食堂?」
岡部「む……相変わらず食欲が無いんだが」
紅莉栖「これはますます、おじや。それにバナナを……」
岡部「何時まで同じネタを繰り返すのだ天丼娘よ」
紅莉栖「む。まゆりがお土産にバナナをくれたのよ」
スーパーの袋に包まれたバナナを岡部に見せる。
バナナが2房入っていた。
715 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:35:54.92 ID:GYoJEvqSo
岡部「そうか……まゆりが。ならば夕食はバナナにするとしよう」
紅莉栖「牛乳とバナナ、後はラウラに貰ったプロテインをシェイクすれば栄養的には完璧ね」
岡部「そうだな、プロテインだな……」
ラウラから飲んでおけと、半ば強制的に手渡されたプロテイン。
毎日それを牛乳や豆乳に溶かして飲んでいた。
味もそこまで悪くないし、腹持ちも良い。
今の岡部にとっては理想的な栄養素を全て取れる大変優れたものである。
食欲が出ないため、尚のことだった。
岡部「俺は今から恐ろしい。眼帯娘は俺に一体何をする気なのだ……」
紅莉栖「考えすぎよ。岡部の身体を思ってのことでしょ」
岡部「そう、だな。飲まないとな……」
716 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:36:21.35 ID:GYoJEvqSo
……。
…………。
………………
717 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:36:49.64 ID:GYoJEvqSo
─自室─
楯無「んー気持ち良かった♪」
一夏「それはどうも」
一夏のベッドの上で寝転んでいた楯無が大きく背筋を伸ばした。
一夏「さ、次はシャルだな。ここに寝てくれ」
シャル「う……うん」
シャルロットは下に深く俯いている。
楯無がマッサージを受けている姿を見て、次は自分の番だと想像している内にみるみると頬が紅く染まってしまっていた。
シャル「(よ、よよよよし! 次は僕の番だ……)」
ギクシャクと、同じ側の手足が同時に出てしまう。
誰の目から見ても緊張のしすぎだった。
718 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:37:17.20 ID:GYoJEvqSo
楯無「(ナンバ歩き……)」
一夏「よっと、じゃぁ足から行くからな?」
シャル「おおお、お願いしまう!」
一夏「力抜けよー」
ぐっぐっ、と足の裏からの指圧が始まった。
慣れた手つきで体をほぐしていく。
シャル「(はうー気持ち良い……一夏の手って暖かくて大きくて……」
一夏「(さすがシャルだ。全体的に引き締まって……いかんいかん! 集中。集中)」
楯無「うふふ。後はお若い2人に任せておねーさんは帰るわね。
それと一夏くん。良かったらまた倫ちゃんのマッサージもお願い。
きっと足がパンパンになってるはずだから……」
今頃、岡部はヒィヒィ言いながらマラソンを行っている。
帰って来る頃には昼間の運動も合わせて疲労困憊は必然だった。
719 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:37:45.76 ID:GYoJEvqSo
一夏「あ、はい。薬もまだ残ってるから大丈夫です」
楯無「ん。今日はお疲れ様。一夏くんも早く寝るのよ? おやすみ」
そう言って楯無は部屋を出て行く。
シャルロットと一夏が2人きりになった。
一夏「凶真頑張ってたもんな、帰ったらきっちり筋肉ほぐしてやらないと」
シャル「(わわわっ! 一夏と2人っきりになっちゃった!!)」
一夏「そう言えば、シャル」
シャル「は、はひ!?」
緊張と嬉しさの中でつい声が上ずってしまった。
一夏に自分の動揺がバレたかと思い、さらに頬が紅く染まる。
720 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:38:23.78 ID:GYoJEvqSo
一夏「凶真はどうだった?」
半分期待していたシャルロットだったが、一夏の口調は何時も通りの唐変木っぷりだった。
シャル「あー、うん。えっと……」
全く関係無い想像をしていたので回答に詰まる。
“高速切替”(ラピッド・スイッチ)よろしく、瞬時に脳内を切り替えた。
シャル「一夏ほどではないけど、筋は良いと思うよ。運動音痴って訳じゃなくて、今まで運動をしてこなかったんだろうね」
一夏「そっか、シャルが言うなら間違いないな」
シャル「えへへ……あっ、一夏……そこ、気持ち良い……」
一夏「ん? ここか?」
肩甲骨を指圧する指に力が入る。
どうやらその部分がこっていたらしく、シャルは何ともだらしのない声をあげる。
721 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:38:56.23 ID:GYoJEvqSo
シャル「はぅー……きもひーぃ……」
──ガチャリ。
唐突に開かれる扉。
岡部が入室したと同時に、聞こえてくるシャルロットの嬌声らしきもの。
誤解するには充分な要素が揃っていた。
岡部「……」
シャル「……」
岡部とシャルロットの目線が交差する。
シャル「あの、あのっ、えっと……」
岡部「部屋を間違えたようだ」
紅莉栖「ちょっと、どうしたのよ?」
岡部の後ろから紅莉栖の声も聞こえてくる。
シャルロットの顔は最早ゆでタコのように真っ赤だった。
722 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:39:24.18 ID:GYoJEvqSo
一夏「お、凶真おかえり! おつかれ!」
シャル「はうー……」
もう逃げられない。
そう確信したシャルロットはその火照った顔を枕へと押し付けた。
岡部「あ、あぁ……ランニングが今終わってな……」
紅莉栖「お邪魔しまー……」
一夏は気にせず、背中を指圧している。
ゆでタコになったシャルロットは枕に顔をうずめて、うーうーと呻いていた。
紅莉栖「……つまり、どういうことだってばよ」
岡部「俺に聞くな……」
一夏「ん? あぁ、シャルにマッサージしてやってるんだよ」
岡部「そうか、マッサージだったか……」
紅莉栖「中々衝撃的な絵ね……」
一夏はなんとも思ってないのだろうが、端から見たらいかがわしく見える光景。
2人はシャルロットの心境を推して測った。
723 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:39:53.73 ID:GYoJEvqSo
一夏「あとちょっとで終わるからさ。そしたら次は凶真もマッサージしてやるから」
紅莉栖「(何て良い子なの……女子の身体を揉んでいると言うのに、すでに岡部の身体を考えているなんて)」
岡部「……お言葉に甘えるとしよう。情けない事に足が棒のようだ」
年下のルームメイトに何度もマッサージをさせると言うのは、岡部なりの何かが抵抗していたがそれ以上に身体は疲弊している。
岡部は素直に一夏の提案を受け入れた。
一夏「それじゃ、先にシャワー浴びてこいよ」
岡部「うむ。そうするとしよう。」
紅莉栖「(なんて会話なのかしら……)」
1人顔がニヤける紅莉栖。
その表情を見た者は幸いにもいなかった。
岡部はよたよたと足を引きずりながらシャワールームへと入っていく。
それを見届けた紅莉栖は、袋からバナナを取り出した。
724 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:40:22.60 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「っと、私は夕飯の用意をしておきますか」
一夏「夕飯?」
紅莉栖「食欲無いって言うから、プロテインバナナシェイクを作ってやろうと思ってね」
一夏「へぇ、そいつは美味そうだな」
紅莉栖「一夏も飲む?」
一夏「作ってくれるのか? ありがたい」
紅莉栖「任された。っと、食材がちょっと足りないわね……時間ギリギリか。
ちょっと購買へ行って買って、そのまま調理室で作ってくるわね」
一夏「おう、いってらっしゃい」
紅莉栖「いってきます」
バナナとプロテインを持ち、紅莉栖が部屋を飛び出していく。
その一夏の下で顔を真っ赤にしていたシャルロットが起き上がった。
725 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:40:49.27 ID:GYoJEvqSo
一夏「お、どうした? もう良いのか?」
シャル「う、うん……ありがと」
情けない声を一夏以外の人間に聞かれてシャルロットは心底恥しさを感じていた。
顔は未だにゆでタコ状態である。
シャル「(あぅ……オカリンと、それに紅莉栖にも聞かれたよね? 恥しいなぁ……)」
一夏「疲れは取れたか?」
シャル「うん、おかげさまで。あっ、あの……今日は帰るね。一夏、マッサージありがとう」
一夏「ん。どういたしまして、またな」
シャルは俯き、顔を隠しながら部屋を出て行った。
廊下ですれ違った女生徒が、顔を真っ赤に染め、早歩きで一夏の部屋から出て行く様を勘違いしたのは言うまでもない。
726 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:41:15.70 ID:GYoJEvqSo
一夏「プロテインバナナシェイクか……美味そうだな」
暫く待っていると、紅莉栖が帰ってくる前に岡部がシャワールームからガシガシと頭を拭きながらベッドに腰を下ろした。
岡部「ふう……む、ヂュノアと助手はもう帰ったのか?」
一夏「シャルはもう帰ったよ。紅莉栖はバナナプロテインシェイクを作りに行ったぜ」
岡部「そうか、作りに……つく!?」
語尾が跳ね上がる。
風呂上りだと言うのに、嫌な汗が浮かび上がる。
一夏「ん? どうかしたか?」
岡部「わ、ワンサマー。助手は何と言って出て行った?」
一夏「え? ええっと……食材が足りないから、購買で買って調理室で作ってくるって」
岡部「……」
岡部は頭を抱える。
顔面はみるみると蒼白になり、心なしか震えが見えた。
727 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:41:42.71 ID:GYoJEvqSo
一夏「凶真……?」
岡部「いや、なんでもない。恐らく牛乳を買いに行ったんだろうな、うむ」
一夏「牛乳でバナナシェイク作ったら美味いもんなぁ」
岡部「あぁ、牛乳とバナナで作って不味いドリンクなど出来る訳が無いからな」
岡部は笑顔を取り繕った。
おそらく、この学園に来て初めて作ったであろう笑顔は引きつっていた。
一夏「楽しみだなぁ」
一夏のこの一言が、どんな言葉よりも岡部の胸に深く突き刺さった。
岡部「そうとも、助手は牛乳を買いに行ったのだ……」
近頃はプロテインを飲む習慣が出来ているため、冷蔵庫には牛乳が常備されている。
そのことを思い出したくも無い岡部であった。
728 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:42:08.94 ID:GYoJEvqSo
……。
…………。
………………
729 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:42:38.62 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「〜〜♪」
鼻歌交じりに廊下を闊歩する紅莉栖。
傍目から見ても気分は上々のようだ。
紅莉栖「(調理と言うには、物足りないけれど……久しぶりね。岡部のやつ喜ぶと良いな……)」
ふふふっ。と笑みを浮かべながら購買へと足を向ける。
廊下の角を曲がると見知った顔と目が合った。
セシリア「あら、紅莉栖さん?」
紅莉栖「セシリア」
クラスメイトであり、ルームメイトであるセシリアと出くわした。
岡部を除けばルームメイトであるため、実は一番話をしている人物でもある。
730 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:43:04.62 ID:GYoJEvqSo
セシリア「こんな時間にいかがいたしましたの?」
紅莉栖「ちょっとね。岡部と……ついでに一夏にバナナシェイクをご馳走してあげようかと思って」
セシリア「まぁ……一夏さんにも?」
“一夏”。
このワードが出たら黙ってはいられない。
次にセシリアがなんと言いだすか、想像するのは容易いことだった。
紅莉栖「岡部が食欲無いからなんだけど、そう話したら飲みたいって言ってきてね」
セシリア「それでしたら! 私もお手伝いいたしますわ!」
紅莉栖「そう言えば、セシリア“も”料理が得意って言ってたわね」
同室である2人は稀に料理の話しで盛り上がることがあった。
お互いに腕自慢であったため、良い機会だと言わんばかりに話しが進む。
731 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:43:33.12 ID:GYoJEvqSo
セシリア「えぇ! これでも少しは腕に自信がありましてよ?」
紅莉栖「……そうね、じゃぁ一緒に購買へ行って買い物をしてから調理室に行きましょう」
セシリア「久々に腕がなりますわ。一夏さんの喜ぶ顔が目に浮かびますわね♪」
こうして2人は仲良く料理の話しをしながら購買部へと向かった。
紅莉栖の得意料理は“アップルパイ”であり、セシリアの得意料理は“卵サンド”など他愛も無い料理話しに華を咲かせる。
紅莉栖「──でも、卵サンドが得意ってなんだか珍しいわね」
セシリア「いいえ、紅莉栖さん。素材の味を殺さずに引き立てなければいけない卵料理は得てして難しいものなのですわ」
紅莉栖「なるほど……勉強になるわね」
2人の購買への足取りは実に軽いものであった。
732 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:43:58.95 ID:GYoJEvqSo
─購買部─
セシリア「それで……一体何を揃えるおつもりですの?」
紅莉栖「んー、基本はプロテインとバナナと牛乳。後は、肉体疲労を回復させるためにその条件を満たす食材を隠し味に」
セシリア「なる……ほど、では私も見繕ってみますわね」
紅莉栖「うん。別々の効能があっても面白いし、そうしましょう……っと、あった。梅干」
セシリア「疲労回復……といえば、やはりトマトですわ」
それぞれの思惑を孕みながら買い物は10分程で終了した。
野菜、果物、肉類等々……およそドリンクとは無縁と思える食材が袋に詰められていく。
733 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:44:24.85 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「さっ、後は調理するだけね。今頃、岡部が一夏にマッサージを受けてる頃合だし作って完成して丁度良い時間ね」
セシリア「参りましょう」
2人の後姿は勇壮に見えるほどに気合が入っていた。
……。
…………。
………………
734 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:44:57.45 ID:GYoJEvqSo
─調理室─
調理室に足を踏み入れた2人はさっそく調理に取り掛かった。
お互いに必要とされる調理器具を用意していく。
紅莉栖「フライパンはどこにあるのかしら」
セシリア「紅莉栖さんはスチームコンベクションをお使いになられますかしら?」
紅莉栖「大丈夫よ。今回はそれほど手間のかかるものじゃないから、フライパンとミキサーがあれば」
セシリア「でしたら、私1人で使わせて頂きますわ」
紅莉栖「OK」
紅莉栖は熱したフライパンにオリーブオイルを垂らすと、種を取った梅干を炒め始める。
負けじとセシリアも何故かスチームコンベクションにトマトを放り込んだ。
735 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:45:34.19 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「豚肉には高い疲労回復効果がある。そして梅干の酸味は食欲を引き出す……と」
セシリア「やはり、赤い色をしていた方が良いんですわよね……」
お互いに自分の世界へ入り込み、ぶつぶつと声を出しながら調理していく。
熱された梅干の香り。
セシリアの使う赤い調味料達が放つ酸味や辛味の混じった香り。
その他の匂いが調理室に充満していく。
紅莉栖「後は、これを混ぜて……あっ、ゴマも入れなくっちゃ」
セシリア「裏ごししたこれらを混ぜて……」
ほぼ同時に2人が最後の仕上げ。
ミキサーでのシェイク作業に入った。
736 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:46:01.47 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「セシリアのは……随分と赤いわね?」
セシリア「紅莉栖さんのは、少し茶味がかってますわね?」
紅莉栖「結果的に茶色が強くなってしまったけど、効果はばっちりのはずよ。
健康面を考えて大豆等の植物性たんぱく質も入れたしね」
セシリア「うふふっ。御ふた方の喜ぶ顔が今から楽しみですわね♪」
翌日、この調理室から異臭騒ぎが広がりしばらくのあいだ使用禁止となる。
調理場から検出された食材からも、この異臭の原因となる物質は発見されず、理由はわからず仕舞いとなった。
737 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:46:37.90 ID:GYoJEvqSo
……。
…………。
………………
738 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:47:04.08 ID:GYoJEvqSo
─自室─
一夏「よっと……こんなもんか」
ふう、と一息ついて腕の動きを止める。
足裏から始まったマッサージは、すでに首筋まで終わっていた。
岡部「助かった。だいぶ身体が楽になった……」
一夏「楯無さんがくれた薬の効果だろうな。すげー効きそうだもん」
軟膏でべたべたになった手を洗いながら一夏が答える。
薬の効果は勿論だが、それを手で浸透させる作業。
マッサージが一番効果を上げていることを岡部はわかっていた。
739 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:47:33.60 ID:GYoJEvqSo
岡部「(この男に礼を言っても、暖簾に腕押しのようだな……)」
ありがとう“一夏”。
と心の中で岡部は礼を言った。
一夏「それにしても、遅いな」
岡部「……」
この一言で、マッサージの心地良さに浸っていた岡部の表情が固まる。
一夏「プロテインバナナシェイク……だよな? ミキサーに入れるだけなのに、もう30分近くたつぜ?」
岡部「お、女には色々とあるのだろう……うむ」
一夏「?」
岡部の戸惑いを理解出来ない一夏は首を傾げることしか出来なかった。
──コンコン。
控えめなノック音に2人が振り返る。
一夏は笑顔で、岡部はドアから顔を背けていた。
740 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:48:05.12 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「ハァイ。少し、時間がかかっちゃった」
出迎える一夏。
紅莉栖の後ろに見知った顔が見受けられた。
一夏「おかえり、紅莉栖。って、セシリアも一緒じゃないか。どうしたんだ?」
セシリア「偶然にも紅莉栖さんと居合わせまして、お手伝い致しましたの」
一夏「……セシリアも作ったのか?」
ゴクリ。喉が鳴る。
一瞬にして笑顔が引きつったものに変貌した。
セシリア「えぇ! このセシリア・オルコットが一夏さんの為に特製のプロテインジュースをこさえて差し上げましたのよ!」
一夏「……」
紅莉栖「セシリアって料理上手なのよね、参考になるお話を沢山聞いちゃった」
セシリア「うふふ。紅莉栖さんこそ、博識でいらっしゃってタメになりましたわ」
岡部「……」
紅莉栖とセシリアはニコニコと顔を向けながら笑みを浮かべた。
言葉を失う男子2人。
741 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:48:43.81 ID:GYoJEvqSo
一夏「えっと……俺の分は紅莉栖が?」
紅莉栖「もう。女子の話しはちゃんと聞いてなきゃダメよ一夏。貴方の分はセシリアが作ってくれたわ」
岡部「では、俺の分は……」
セシリア「もちろん、紅莉栖さんですわ」
そう言うと二人はドン。とテーブルに2つの透明なタンブラーを置いた。
片方は茶色の濁った液体。
もう片一方は真紅に染まった血の色のような液体だった。
セシリア「さ、一夏さん。赤い方が私のですわ」
紅莉栖「岡部、茶色の方が私の。そ、その……栄養とかちゃんと考えたから……身体に良いと、思う……」
ゴクリ。
生唾を飲み込む音が、2人の喉元から響いた。
742 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:49:09.72 ID:GYoJEvqSo
岡部「……ッッ!!」
一夏「……ッッ!!」
空を切り裂く音が響く。
もの凄い勢いで、部屋の主達が行動を同時に開始した。
紅莉栖「あ!」
セシリア「え!」
交差する2人の右腕。
岡部の手元には赤い液体の入ったタンブラーが。
一夏の手元には茶色い液体のタンブラーがそれぞれ握られている。
743 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:49:36.45 ID:GYoJEvqSo
岡部「フゥーハハハ! Ms.シャァーロックよ。真紅の液体はこの鳳凰院凶真にこそ相応しい!!」
一夏「いやぁー! さっきトマトジュース的なの飲んじゃったからさ、ちょっとこっち飲んでみたいかなーって!!」
保身。
お互いがお互いに、自分の事しか考えずに取った醜い行動。
岡部「(すまん、ワンサマー。貴様には礼を言っても言い切れない程の恩と、友情を感じている。
感じてはいるが……これは──)」
一夏「(わりぃ、凶真。疲れてるってことは知ってる。大事な仲間だとも思っているぜ。
だけど、だけど……これは──)」
「「((これは、絶対に譲れない!! それだけは飲めない!!)」」
シンクロする思い。
短期間ではあったが、2人には確かな友情が芽生えていた。
744 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:50:16.81 ID:GYoJEvqSo
紅莉栖「ちょっと、おか──」
セシリア「お待ち下さい、いち──」
2人の調理者が何かを訴えかける前に漢達はタンブラーを傾けた。
まるで、壮年の男が一気にビールを喉に流し込むような。
そんな爽快な飲みっぷりを披露する漢2人。
岡部「ぶはぁっっ!!!!」
一夏「おえっぇえ!!!!」
赤い噴水と、汚濁した滝が流れた。
紅莉栖「ふぁっ!?」
セシリア「きゃっ!?」
その光景に驚き、慌てふためく2人の女子。
一体何が起きたかわからず、ただただその情景を見ることしかできなかった。
745 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:51:07.55 ID:GYoJEvqSo
岡部「な゛ん゛っだごれ゛ば! 辛い゛……痛い゛、ずっぱい……舌ががが、喉が、食道がっが、胃がっ……」
喉を押さえのたうち回る岡部。
目は充血し、顔もみるみると真っ赤に染まっていく。
身体は痙攣を起こし始めた。
一夏「おぇぇぇえぇ……おろろ……ぶぶぶぷっ……おぅ、む、無理だ……ごぁっ……」
びしゃびしゃと、飲み干したはずの液体が逆流いていく。
胃が飲み込んだ異物を“毒”だと判断し、強制的に吐き出させる生理現象。
部屋が汚れるとはわかっていても、止めることは出来ない。
紅莉栖「えっえっ?」
セシリア「いったい、なにが……」
のたうち回る男と、嘔吐をし続ける男。
異様な光景が女子の目に映る。
746 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:51:38.84 ID:GYoJEvqSo
岡部「く、ぐり゛ず……い、いっだい何を……何を作った……」
一夏「せしり……うぷっ、な、何を凶真の方に、にに、いれ……うぷ」
紅莉栖「え、えっと……プロテインとバナナと牛乳だけじゃ味気ないと思って……」
梅干、豚ばら肉、納豆。
何故か梅干と豚肉を炒め、納豆は刻んでヒキ割りにしてからミキサーにかけたのだと言う。
岡部「なぜ……ぞんんがごどお」
紅莉栖「梅干は最近、岡部が食欲無いって言うから……。それに豚肉には、疲労回復効果があるのよ!
納豆にもちゃんと理由があってだな……大豆イソフラボンは──」
岡部「も、もーいひ……わんはまー、ふまん……」
これ以上聞きたくなかった。
聞いただけで吐き気を催してくる。
747 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:52:10.45 ID:GYoJEvqSo
一夏「せしり……はわっ。なにをしたんだ……」
絶えず襲ってくる嘔吐感と戦いながら一夏は問い掛ける。
自身の口から匂ってくるそれは腐臭以外の何物でもない。
セシリア「え。わ、わたくしも同じですわ」
初期材料に加えたのは、何故かスチコンで焼いたトマトと赤ワイン。それに調味料。
セシリア「すこしばかり赤みが足りなかったのでタバスコや、ハバネロビネガーなどを足しましたが……」
一夏「はばね゛……うぷっ、凶真、ごべ……おろろ」
困惑する女子。
痙攣する男子。
紅莉栖「ど、どうしたの?」
セシリア「一体何が起こりましたの?」
理由がわからないとばかりに問い詰める。
が、もはや問いに対する回答を行うだけの力は2人には無かった。
748 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:52:38.98 ID:GYoJEvqSo
岡部「すはないは……」
一夏「きょうっ! ……うっ、は帰ってくれないか……」
言葉を投げかけられない。
岡部は咽頭が焼け爛れ、一夏は嘔吐感でまともに話すことも出来なかった。
セシリア「ですけど、2人とも体調が悪いようですし帰るだなんて……」
紅莉栖「ほっ、放って置けるわけ無いじゃない」
岡部「たほむ、帰ってくれ……」
一夏「おねがっ……がいだ……」
何度か同じようなやり取りを繰り返したが、2人の必死さが伝わり紅莉栖とセシリアは部屋を退散した。
せめて、部屋の掃除だけでもと言い出したがそれすらも拒まれた。
女子が帰り、嘔吐物により酸味やら臭みやらが充満した部屋に男2人が残った。
749 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:53:05.55 ID:GYoJEvqSo
岡部「わんはまー……」
一夏「凶……っ魔……」
すまなかった。
ごめんな。
2人が謝罪の言葉を出したのは同時だった。
ヨーグルト風味のプロテインとバナナと牛乳。
どうしたら、これらを合わせた飲料があぁなってしまうのだろう。
岡部と一夏はぐるぐると混濁した意識の中でそれを考え、何時の間にか意識を失っていた。
20時前だと言うのにこうして休日であるはずの、土曜の夜は更けて行った。
750 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 03:53:32.34 ID:GYoJEvqSo
おわーり。
ありがとうございました。
751 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/05(金) 09:13:43.11 ID:oJLs4fnTo
おつおつ!
やっとスレの存在に気付いたよ
前のも読んでたから楽しみにしてる
752 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
:2012/10/05(金) 20:35:05.23 ID:6ZMySjGAo
やっと追いついた
期待
753 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
:2012/10/05(金) 20:35:56.08 ID:6ZMySjGAo
やっと追いついた
期待
754 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/05(金) 21:48:24.67 ID:LbCGUZLao
さげような
755 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:10:13.97 ID:GYoJEvqSo
投稿します。
756 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:10:40.56 ID:GYoJEvqSo
>>749
つづき。
──。
────。
──────。
757 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:12:21.88 ID:GYoJEvqSo
朝日が顔を射し、その眩しさによってまどろみつつも意識が覚めていく。
冬も間近とあって肌寒く、布団を頭まで被りなおした。
寝返りを打つと、何か暖かく柔らかいものが手に収まる。
ふにゅふにゅと感触を確かめると、とても気持ちの良い弾力が手から伝わってきた。
「んんっ……」
聞きなれた声が布団から漏れる。
この声は……。
一夏「……っっ!!!」
一夏の脳は一気に覚醒した。
ベッドから飛び起きて、布団からはい出る。
758 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:12:48.66 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「どうした……?」
一夏「ラウラ……お前、また」
ラウラ「夫婦が同じ布団で寝るのは当然のことだろう?
それに一夏も……今日は、その……触ってきたではないか……」
ラウラが頬を染めて俯く。
恥じらいを含む顔は、どこか嬉しさも帯びていた。
一夏「(触った? どこを? やべぇ、半分寝てて良くわからない……)」
以前からラウラは一夏のベッドに潜り込む習性がある。
昔は全裸だったが、今は一夏の懇願のもとパジャマ姿……動物をあしらった可愛いものを着込んでいるのが唯一の救いだった。
759 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:13:22.42 ID:GYoJEvqSo
一夏「凶真が来てから潜入してくることも無かったし、驚かせるなよ……」
ラウラ「倫太郎が邪魔だと言うのなら、今すぐ始末するが」
その声は本気で冗談を言っているようには思えない。
一夏「そういう意味じゃない!」
岡部「……」
この騒ぎの中、寝ていられるほど岡部は豪胆な男ではない。
暫く前から2人のやりとりを、やれやれと眺めていた。
この当り、一夏を取り巻く女性関係に付いては岡部も学習してきている。
760 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:15:20.48 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「しかし驚いたぞ。部屋に入ってきたら汚物だらけだったからな」
一夏「あっ……」
岡部「(そう言えば、そのまま眠ってしまったな……)」
思えば、一夏はもちろん岡部も床で意識を失っている。
にも関わらず、意識が戻ったとき2人はベッドの上に身をおいていた。
状況から察するにラウラが移してくれたことがわかった。
ラウラ「全く、だらしのない嫁だ。私が全て片付けておいたが、文句はあるまいな」
一夏「えっ、マジで? ラウラが掃除してくれたのか?」
ラウラ「掃除など容易いことだ。嫁の寝室が汚れていては、夫として恥だからな」
岡部「ほう……」
キョロキョロと室内を見回すが、岡部や一夏が噴出した液体はどこにも見当たらない。
2人が眠って(意識を失って)いる間に綺麗にしたようだ。
761 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:15:50.38 ID:GYoJEvqSo
一夏「えっと、サンキューな……」
ラウラ「べ、別に私がしたいからそうしたまでだ」
ほんのりと頬を染めたラウラはそのままベッドを抜け出し、とてとてと可愛い足取りで冷蔵庫へと向かった。
何かを取り出し、一夏と岡部に手渡す。
透明なタンブラーに入った乳白色の液体だった。
一夏「これは……?」
岡部「一体……?」
ラウラ「冷蔵庫に、牛乳とバナナがあったから勝手に使わせてもらった。プロテインを混ぜてシェイクしたものだ。
朝食とは別に栄養補給をしておけ」
プロテインジュース。
昨日の悪夢が2人の脳へとフラッシュバックする。
痛み。辛さ、酸味。
異臭放つ毒物。
身体が、脳が拒否をする飲料と呼べぬ汚濁した水分。
岡部は痛みを。
一夏は嗅覚がその異臭を言語と共に思い出させる。
762 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:16:19.47 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「どうした? 早く飲め。起き抜けは水分が不足しがちだ」
毒も入れてはいないぞ、と付けたすラウラを横目に岡部と一夏がアイコンタクトを送りあう。
どうする? どうしよう?
答えはでない。
岡部「(しかし……)」
一夏「(匂いは……)」
タンブラーから漂ってくる香りは、バナナの成熟した甘みだった。
顔を近づけてみても、目に染みないし嘔吐感も襲ってこない。
2人は意を決して一口分を含む。
ごくん。失敗を経験して一気に飲み干す愚は犯さない。少しだけ口に含んで飲み込んだ。
763 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:16:45.26 ID:GYoJEvqSo
岡部「……これは」
一夏「……美味い」
ラウラ「当然だ。そんな物を不味く作れるはずが無いだろう」
ごくごくと、プロテインジュースを飲み込む2人。
バナナと牛乳、そしてプロテインが混ざったその液体は優しく、痛んだ2人の胃袋に心地よさをもたらした。
岡部「ふう……こんなにも美味い物だったとはな」
一夏「あぁ、何か……美味くって涙が出てきそうだよ……」
ラウラ「お、大袈裟だぞお前達……」
岡部「眼帯娘は料理の腕が達ようだな」
一夏「俺も知らなかった。ラウラってかなり料理上手だったんだな!」
ラウラ「なっ……なっ……」
予期せぬリアクションを取られ困惑する。
ただ材料をミキサーにかけただけの物を大絶賛されたのだから当然だった。
764 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:17:11.82 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「そそ、そんなに褒めても今日の訓練に手加減はしないからな!」
パジャマの帽子を深く被り、顔を隠したラウラは威勢よくそう言い放つ。
一夏「あれ、今日ってラウラの番だったのか? 確か、楯無さんだったような……」
ラウラ「変わってもらった。クラス内対抗戦は明後日。まる1日訓練出来る日は今日だけだからな」
岡部「……プロテインジュースの美味さで忘れていた。そうか、今日がその日になるのか」
岡部が最も恐れていた、軍人であるラウラの訓練。
丸一日使って行われると聞いた岡部のテンションはジュースで上がったソレを一気にローギアまで叩き込む。
ラウラ「とっ、兎に角だ! わ、私は着がえてくるから2人とも着替えとストレッチを済ませておけ。以上!」
用件を言うと、すたすたとドアを開けてラウラは出て行った。
765 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:17:38.14 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「(りょ、料理上手だと……?)」
帽子を被り俯きながら廊下を歩くラウラの顔は真っ赤に染まっている。
料理上手である一夏に、料理(とは言えない代物だが)を褒められたのだ。嬉しくない訳が無い。
ラウラ「(もう2時間早く起こすつもりだったのに、一夏のヤツが身体を触ってくるから寝坊させてしまうし……)」
ぶつぶつと文句を言いつつもラウラの口元は嬉しそうに歪んでいる。
両手は両肩を抱くようにくねくねしていた。
ラウラ「(もしや、あれがプロポーズ!? 後でクラリッサに報告しなくては)」
廊下を歩くラウラの足は実に軽やかで、動物パジャマを纏ったその姿は見るものを幸せな気分にさせた。
766 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:18:04.71 ID:GYoJEvqSo
……。
…………。
………………
767 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:18:31.05 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「ストレッチは済ませてあるな!?」
ランニングトラックの前で威勢の良い声が響いた。
何時もより発声にハリがあり、やる気が見るからに伝わってくる。
岡部「あぁ……」
一夏「おう」
ラウラはIS学園指定の制服を軍服のようにキッチリと着こなしていた。
右手には鞭を握っている。
ラウラ「今日一日は私のことを“教官”と呼ぶように!」
パシン! と、鞭を手の中で踊らせた。
768 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:18:56.84 ID:GYoJEvqSo
岡部「……」
一夏「ははっ、気合入ってるなー」
ラウラ「現在、時刻はマル・ロク・サン・マル。
これより、マル・ナナ・サン・マルまでマラソンを執り行う!」
岡部「またマラソンか……」
一夏「基本だからなぁ」
ラウラ「私語は慎め!」
パシン! 鞭が空中を叩く良い音がした。
769 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:19:22.94 ID:GYoJEvqSo
ラウラ「マラソンが終り次第、食堂で朝食を取る。以上、走れ!」
合図と共に、岡部と一夏は駆け出した。
一時間マラソンの開始である。
フフン、と得意げな息が聞こえてきそうな表情でラウラは頷いた。
どこか満足気な笑みを浮かべながら、走る二人の新兵(ルーキー)を見遣る。
ラウラ「(ふふ……教官と言うのも難しいものだな)」
賢明に走る2人を眺め笑顔がこぼれた。
まるで自身が千冬になったような気分を味わっている。
岡部「ふぅふぅ……」
同時にスタートしたはずだが、既に一夏とは大分差が離れていた。
岡部「(ワンサマーは流石に速いな……しかし……)」
思ったよりも身体が軽い。
訓練初日、篠ノ之 箒に走らされた時を思い出すと変化に気付く。
770 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:19:51.65 ID:GYoJEvqSo
岡部「(身体が、呼吸が軽い……たった一週間程度で変わるものなのか……)」
良質なたんぱく質と、無茶なトレーニング。
一夏のマッサージと、楯無の薬。
岡部の身体は強制的に急ピッチで仕上がってきていた。
とは言っても、今まで身体を使ってこなかったのだからそのツケが少し支払われた程度である。
それでも、岡部倫太郎にとっては劇的な変化だった。
岡部「ふぅふぅ……」
一歩一歩、無心で足を前に繰り出す作業に没頭する。
1時間マラソンは、岡部の体感であっという間に過ぎていた。
771 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:20:17.94 ID:GYoJEvqSo
一夏「お疲れ!」
岡部「ふぅふぅ……速いな、ワンサマーは」
一夏「一応、トレーニングはしてたからな」
ラウラ「ご苦労。距離的には物足りないが、準備運動には丁度良いだろう」
2人が走っている間に、どこからかこさえて来た深緑のベレー帽を深く被っているラウラが取り仕切る。
ラウラの満足気な表情に男2人も苦笑いを浮かべた。
ラウラ「食堂へ行く。付いて来い!」
岡部「Sir, yes, sir.」
一夏「サー・イエッサー!」
ラウラの乗りに合わせる2人もどことなく愉しい気分になった。
772 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:20:52.39 ID:GYoJEvqSo
……。
…………。
………………
773 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:21:22.91 ID:GYoJEvqSo
─食堂─
ラウラ「特に制限するつもりはない。だが、倫太郎。貴様は肉類を食べるのであれば鶏肉にしろ」
岡部「上官殿。食欲が無いんだが……」
ラウラ「む……無理やりにでも胃に詰め込め。と言いたいが、それだと後の訓練に差し支えが生じるな。
先ほど振舞ってやったプロテインジュースを作ってやる。少し待っていろ」
岡部「感謝する」
一夏「あっ、ラウラ!」
ラウラ「ん?」
一夏「俺のもお願いして良いかな? あれ、美味かったんだよなぁ」
ラウラ「うっ……まっ、まぁ一夏が求めるのであれば、勿論作ってやる。待っていろ!」
口調とは裏腹に可愛らしくとてとてと購買へ駆けるラウラ。
鬼軍曹と言うよりも、やはり兎と表現する方が似合っていた。
774 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:22:29.98 ID:GYoJEvqSo
一夏「さて、俺はジュースだけじゃ物足りないから定食を買ってくるよ」
岡部「わかった。席で待っていよう」
日曜の食堂は平日時よりも空いていた。
利用客の殆どが、部活動の朝練習を終えた生徒である。
岡部がぼーっと1人で席に座っていると、ふりふりと横に動くポニーテールが目に入った。
篠ノ之 箒である。
箒は岡部には目もくれず、一夏の後ろをひょこひょこと気付いて貰いたそうに歩いていた。
岡部「(全く、この年頃の女は皆そんなものなのか……)」
ようやく一夏に気付いて貰えた箒は、咳払いをしながら一緒に朝食を取らないか。
と誘っているようだった。
もちろん一夏という男は笑顔で了承している。
遠目から見てもやり取りが一目瞭然だ。
775 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:22:58.42 ID:GYoJEvqSo
岡部「(気の良い男だ……)」
トレイを受け取った2人は仲良く足並みをそろえて、岡部の居るテーブルへと着席した。
箒「おはよう」
岡部「あぁ、おはよう」
箒は礼儀にうるさい。
以前、岡部がおはようの挨拶に対して“うむ”と答えたら竹刀で叩かれ説教をされた過去があった。
箒「私も相席させて貰うが、構わないか?」
岡部「構わんよ」
一夏「よっし、では頂きます! 寒ブリなだけあって美味そうだな」
箒「佐渡産の寒ブリらしいな。実に油が乗っている」
寒ブリの照り焼き定食は、香ばしいく実に美味しそうであった。
岡部も本来ならそれを食べたかったが、どうにもまだ胃の調子が芳しくない。
肉体的な疲労感は慣れてきたのか薄れてきたが、おそらく昨夜の刺激物が胃に過分なダメージを与えているのだろう。
未だにずきずきと少しながら痛みを感じている。
776 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:23:37.94 ID:GYoJEvqSo
箒「今日は、誰の指導を受けているんだ?」
一夏「ラウラだよ。かなり張り切っててさ、今日一日大変そうだ」
岡部「……」
食事をして間もなくすると、ラウラが2つのタンブラーを持って食堂へ戻ってきた。
ラウラ「倫太郎。プロテインジュースだ」
ドン、とテーブルへ豪快にタンブラーを置く。
今朝と同様にバナナの香りがするプロテインジュースだった。
ラウラ「それから一夏の分は、こっちだ……」
僅かに目を逸らしながら一夏にタンブラーを直接手渡した。
中身は岡部のソレと少し違い、ほんのりと赤みを帯びている。
777 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:24:55.23 ID:GYoJEvqSo
一夏「ん? ちょっとコレ、色違わないか?」
岡部「赤い……な……」
昨夜を思い出す。
赤はイコールで痛みと言う認識へ変わっていた。
ラウラ「い、苺が売っていてな。朝と同じ味だと飽きてしまうと思って……その、かえてみたんだ」
一夏「苺かぁ! 美味そうだ、ありがとう。ラウラ」
ラウラ「うむ……喜んでくれたなら、それでいい」
箒「んんっ!」
やり取りに置いていかれた箒が咳払いをした。
箒「朝? どういうことだ?」
一夏「えーっと……」
思い出す朝の光景。
以前にもラウラとの同衾が箒に知れた時は酷い目にあった。
同衾と言っても、本当にただ同じ寝具で寝ていただけなのだが。
778 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:25:27.49 ID:GYoJEvqSo
岡部「眼帯娘が朝食前。ランニングをする前にプロテインジュースを振舞ってくれてな」
言葉に詰まる一夏に変わり岡部が答えた。
一緒のベッドで眠っていた、などと答えれば食堂はたちまち戦場へと変わってしまうだろう。
一夏「そう! そーなんだよ、あはは」
箒「ほう……」
ラウラ「一夏に気に入って貰えて何よりだ。これからも朝一番に作ってやろう」
一夏「……へ?」
ラウラ「む……嫌、だったか?」
一夏「いや、そんなことは……」
そんなことは無い。
だが、布団に潜り込まれては毎朝心臓に悪い。
一夏は返答を渋ってしまった。
779 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/05(金) 23:25:53.25 ID:EhVq+kGIO
久々にSS速報覗いて見たらまさかHDリマスター的なのが出てるとは………
大筋は覚えてるけど細かいのはアレだから楽しみに舞ってる
そしてまたあの絵師様が降臨されんことを…………
780 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:26:09.85 ID:GYoJEvqSo
箒「んん! プロテインジュース程度であれば、私に作れないことも無いが……」
一夏「え?」
箒「組み合わせの良い果物も知っている。うむ、作ってやろう」
ラウラ「結構だ。一夏は私のプロテインジュースを気に入っているからな」
箒とラウラの眼光が鋭くなる。
そして、その火花の散るような視線は最終的に何時も一夏へと向けられるのだ。
箒「どうなんだ一夏!」
ラウラ「私のプロテインジュースが良いんだろう!?」
一夏「えっ、えっと、その……」
両手を小さく挙げて、2人を納めようとするが全く効果を示さない。
チラリと岡部に手助けを求めるが、こと一夏を取り囲む女性関係には岡部も巻き込まれたく無いのかそ知らぬ顔でジュースを飲んでいた。
781 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:26:55.67 ID:GYoJEvqSo
一夏「(うぅ、凶真ぁ……)」
岡部「(助け舟もここまでだ。これ以上は俺の船も沈みかねんからな……)」
ラウラ「どうなんだ!」
箒「一夏!」
この後、お決まりのように他の専用機持ちも自然と集合し、誰が一夏に毎朝プロテインジュースを作るかで討論になった。
そしてその騒動を収めた人物。
それは、織斑一夏の実姉である織斑千冬だった。
千冬「静かにしろ馬鹿者! 飯くらい静かに食えないのか、まったく……」
一夏「(助かった……)」
騒々しい何時も通りの朝食が終り、長い長い日曜日が幕を開けた。
782 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/05(金) 23:27:37.98 ID:GYoJEvqSo
おわーり。
ありがとうございました。
783 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/05(金) 23:30:27.33 ID:Z8gZkvNno
乙!
784 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/06(土) 01:08:48.87 ID:YXLC4Dspo
おつおつ
785 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)
[!ninja]:2012/10/07(日) 10:47:04.73 ID:TIm/cPP9o
期待しておる
786 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:40:41.67 ID:DoipWcxRo
投稿します。
787 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:41:17.27 ID:DoipWcxRo
>>782
つづき。
……。
…………。
………………。
788 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:41:45.86 ID:DoipWcxRo
食堂での食事を済まし、一行は体育館へと集まっていた。
ラウラだけではなく何時もの面々が顔を揃えている。
一夏「……で、結局皆付いて来た訳か」
箒「お、岡部がどの程度動けるようになったか見ておかないとな!」
セシリア「私の番はまだだと言うのに、会長は明日も見ると仰っているんですのよ?
まったく……それでは私の見る時間が無いということになりますわ!」
鈴音「そう言えば、1組のクラス対抗戦は明後日だっけ?」
シャル「うん。そろそろISの調整もしっかりしないとね」
岡部「……」
一気に姦しくなる空気に岡部は肩を落していた。
この面子が嫌いな訳でも苦手な訳でもないが、10代半ばの女子力とでも言うのか、
それらについて行くには大変体力が削られることを学んでいた。
騒がず、慌てず、静かに嵐が過ぎ去るのを待つ。
岡部は既に対処法を確立している。
789 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:42:15.40 ID:DoipWcxRo
ラウラ「静かに!」
ベレー帽を被りなおし、鞭を握るラウラが場を納めた。
ラウラ「ふん。一気に増えたか……まぁ良い。貴様等ひよこ供を調教する良い機会だ!
その口から垂れる、うんうんの前と後にサーを付けろ!」
ラウラはラウラで、訓練となると少々トリップしているのか興奮気味である。
常にドヤ顔で、ほんのりと頬を染めていた。
気分は“織斑教官”そのものと言える。
ラウラ「さて、早朝はマラソンをしてもらったがお次はどうするか……。
本来は山へ行きたいところだが、それは出来ん」
ぺたぺたと、体育館を右往左往しながら考える素振りを見せる。
790 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:42:45.33 ID:DoipWcxRo
ラウラ「筋肉トレーニング……」
岡部「Nein,(いいえ)お言葉だが、上官どの。初日であればそれも頷けるが、2日後に本番が迫っている。
マッサージと薬で筋肉の張りは無いと言えるが、今日それを重点的にするのは危険だ」
岡部がラウラに意見する。
本来なら兵隊が上官に指図することなどありえないが、ラウラもそこまでは本格的な思考へはスイッチしていなかった。
ラウラ「では、引き続きランニングを……」
岡部「Nein, 悪くは無いが、この人数でランニングするのも効率が良いとは思えない」
ラウラ「……むう」
一夏「じゃぁ、また軽く組み手とかで良いんじゃないか?
ISでの実戦も近いんだし、対人はやっておいて損は無いと思うぜ」
ラウラ「Ja!(それだ) 採用!」
岡部「うむ」
ラウラも張り切っていたのは良いが、実際は空回り気味でメニューを特に考えていなかった。
軍の飛行機を利用して、山へ行こうとしたが事前申請で千冬に却下されてからと言うもの煮詰まっていたのだ。
791 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:43:11.81 ID:DoipWcxRo
箒「素手での組み手か……これは良い稽古になるな」
セシリア「接近戦は得意ではありませんが……良いでしょう、イギリス代表候補生の力を見せて差し上げます」
鈴音「上等よ、ふふん。負ける気がしないわね」
シャル「あはは、まただね」
一夏「と……なるとラウラ、畳道場へ移動した方が良いよな?」
ラウラ「そうだな。よし、全員移動するぞ。付いて来い!」
サー・イエス・サー!!
実際、気の良い連中である。
全員が全員、ラウラのご所望通りの返答を返した。
792 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:43:38.75 ID:DoipWcxRo
……。
…………。
………………。
793 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:44:09.83 ID:DoipWcxRo
体育館から畳み道場へ移動する。
ラウラを先頭に規則正しく並ぶ姿は行軍と言うよりも、遠足に見えた。
ラウラ「よし、それでは2人組みを作れ!!」
この一言で女子連中の瞳の色が変わった。
元より見えていた結果が広がる。
箒「よ、よし一夏! 幼馴染のよしみだ。私と組め」
鈴音「はぁ!? 幼馴染だったら私もでしょ! 一夏、私と組みなさいよ!!」
セシリア「お待ちになって下さいな。一夏さんは私と組むのですよ。ねぇ一夏さん?」
シャル「えっと……良かったら、僕と組み合いしない……?」
一夏「えっと……」
教官であるラウラを除いて、男2名。女4名。必然であった。
あぶれる岡部。
794 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:44:37.02 ID:DoipWcxRo
岡部「(ふふ……こんなところで「2人組み作ってー」の罠にかかるとは……な……)」
ラウラ「まっ、待て! 一夏は私と組む!!」
一夏「えっ」
この一言でまたしても空気が変わる。
矛先が一点に集中した。
箒「教官の手を煩わせる必要は無い。大丈夫だ、私が責任持って受け持とう」
セシリア「そうですわよ。教官様は上座に座って大人しくしていらっしゃれば良いのですわ」
鈴音「あんたは今日、先生役なんでしょ? 引っ込んでなさいよ」
シャル「それに、7人になっちゃうと1人あぶれちゃうしね……?」
4人の総口撃を浴びるラウラ。
あうぅ……と唸ることしか出来なかった。
795 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:45:03.07 ID:DoipWcxRo
一夏「あのさ、悪いんだけど俺は凶真と組むよ。
やっぱり取っ組み合うなら男同士の方が何かと、その……密着とかするしさ!」
岡部「(必死だな、ワンサマー……)」
岡部は口を挟まない。
ここで声を上げれば、途端に口撃の矢印が自分に剥くだろうとわかっている。
箒「わっ、私は別に構わんのだがな。武士たるもの、接近戦での肌の密着を恐れる訳にはいかないしな」
セシリア「私もですわ! そんな理由で引いてなどいられませんっ」
鈴音「なにカマトトぶってんのよ! そんなもんを気にしてちゃ代表候補生なんてやってられないっつの!」
シャル「僕は、一夏となら……その、大丈夫だよ?」
何を言っても収まる気配の無いガールズ。
最近は一夏が岡部にべったりと言うこともあり、それぞれがそれなりにフラストレーションを抱えていた。
パシッ。と言う鞭のしなる音が鳴った。
796 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:45:29.66 ID:DoipWcxRo
ラウラ「静かに!」
右手に握っていた、鞭を思い切りしならせてもう一度叩く。
音速を超える音が畳道場を響かせる。
ラウラ「一夏は倫太郎とペアを。箒はシャルロットと。セシリアは鈴音とだ。以上、わかれ!!」
不満の声が大多数だったが、教官命令という事で押し通す。
ラウラも全ての組み手を見て回るということで、一同が納得した。
箒「ま、まぁ……仕方なかろう」
シャル「だね、宜しく」
セシリア「まったく、何で私が鈴さんと……」
鈴音「ぶつくさ言わないの、私だって一夏と組みたかったんだから……」
最初は文句も多かった4名だが、組み手が開始されると同時に顔つきが変わった。
それぞれが代表候補生と言う自覚。強さに対しての探究心。
それらは、10代半ばにして大人顔向けのものを持っている本物の人間達だった。
797 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:45:55.96 ID:DoipWcxRo
一夏「ふう、何とか落ち着いたな……」
岡部「姦しいとは、あぁ言った状況をさすのだろうな」
ラウラ「さぁ貴様等も見てばかりいないで、組み手を開始しろ」
4名のハイレベルな組み手を観戦しながらお喋りに興じていた2人を注意するラウラ。
監視役としても充分に気合が入っている。
一夏「オッケー。えっと、凶真……ルールはどうする?」
岡部「む……ルールと言われてもな……」
IS学園に入るまでは武道、と言うよりも体を動かすことすらなかった。
なにからすれば良いのか、なにをすれば良いのかすらわからない。
798 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:46:25.94 ID:DoipWcxRo
一夏「っと、そうだよな。ええっと……この間、シャルとやった時はどんな感じに?」
岡部「あれは、ヂュノアが俺に攻撃を仕掛けてくるからそれを回避と防御をする。そのような内容だった」
一夏「よし、じゃぁ今日もそれでいこう。でだ、凶真。今日はそれプラス、反撃が出来るようだったら俺に反撃してくれ」
岡部「む……隙を見て殴りかかれと?」
一夏「そういうこと。よし、行くぜ!」
ラウラ教官指導のもと、専用機持ちによる組み手が始まった。
時刻は午前9時。
朝食を取ってからまもなくの、午前の部が開始された。
799 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:46:52.27 ID:DoipWcxRo
──。
────。
──────。
800 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:47:18.65 ID:DoipWcxRo
ぴよぴよ。
まさに擬音が字の如く、岡部の脳天には幾つかのヒヨコたちが戯れている。
ラウラと組み手をしていた岡部が天井を見つめる形で、大の字にのびていた。
一夏「今、凄い音がしたけど……」
箒「むう……」
セシリア「これは……」
鈴音「ちょっと……」
シャル「ラウラ……」
ラウラ「ちっ、違う! 私はただ手刀を放っただけだ!」
組み手をしていた一行が一斉に振り向く。
皆から向けられる非難の目に、ラウラが珍しく感情を露に慌て出した。
801 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:47:45.49 ID:DoipWcxRo
ラウラ「大体だ! り、倫太郎は隙が多すぎる。避けられることを前提で放った手刀が直撃するなどありえん」
シャル「えっと、ラウラ。どう言う状況でそうなったの?」
ラウラ「ん? 状況か。あれはヤツが私に向かって生意気にも右の拳を振り抜いて来た瞬間の出来事だ」
鈴音「ただの右ストレートじゃない……」
セシリア「背丈の差を考えますと、チョッピング(振り下ろし)ですわね」
ラウラ「普通に避けられるレベルだったが、教官としての実力を軽く示すべきだと瞬時に判断した。
放たれた右腕に飛び乗り、手刀を振り下ろしただけだ」
軽く言ってのける。
人間が行える動作の範疇を超えていた。
802 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:48:20.01 ID:DoipWcxRo
シャル「ラウラ。そんな芸当の出来る人間は中々いないよ……」
箒「ましてや、岡部が避けられる道理が無かろう」
一夏「はぁ……」
ラウラ「なっ、なんだ貴様等! 上官に対してその目は!」
珍しく。
と言うよりも、何時ものメンバー全員からこのような眼差しを受けた経験が無かったラウラは狼狽する。
ラウラの放った手刀は角度タイミング共に申し分無く、岡部の意識を断ち切った。
当然ラウラにその気は無く、想定していた相手──“一夏”であれば充分に対処出来ると踏んでいた。
一夏は岡部ほど長身ではなかったが、仮想一夏の相手として背丈は申し分の無いモルモットといえる。
次は一夏とラウラが組み手をする番だったので、若干舞い上がってしまったためのミステイクとも言えた。
803 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:48:49.60 ID:DoipWcxRo
──。
────。
──────。
804 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:49:38.33 ID:DoipWcxRo
鈴音「なーんか、納得いかないのよね」
セシリアと寸止め組み手を行いながら、横目で一夏と岡部の組み手を見やる鈴音が呟いた。
セシリア「鈴さん? どうしましたの?」
鈴音「せーっかく、こんなに集まってるんだからさぁ……」
細く伸びた足をセシリアの即頭部へゆっくりと、伸ばす。
セシリアも避ける動作をせず、足にクロスさせるよう鈴音の頭部へ向けて足を伸ばした。
──ピタリ。
被弾スレスレで2人の動作が止まる。
鈴音「あたし達も一夏と組み手するべきじゃない?」
ぐらり。
完璧なバランスで片足立ちしていたセシリアのバランスが少しだけ揺らいだ。
805 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:50:16.70 ID:DoipWcxRo
セシリア「……」
鈴音「ラウラに直訴してみようかしら……」
セシリアにとっても魅力的な提案だった。
一夏が男である岡部と組み手しているのは面白くは無いが、他の女子と組まれるよりはマシ。
そう思っていた。
が、自分も組めるとなれば話しは別である。
例え一時でも他の女子と組もうが、自分と組めば一夏は魅力に気付いてくれる。
どこから沸いてくるのか、そう言った自信。気持ちがセシリアには──。
──一夏を取り囲む女子達は少なからず内包していた。
セシリア「た、確かに。折角の休日だと言いますのにこれではあまりにも……」
鈴音「そういうこと」
足を引っ込めたのは2人同時だった。
直立不動になった中・英の代表候補生が息を合わせて深く頷く。
806 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:50:44.46 ID:DoipWcxRo
鈴音「と、なれば……」
セシリア「えぇ。まずは味方を……」
視線の先にはフランス代表候補生。
シャルロット・デュノアその人物だった。
箒「せいっっ!!」
箒が強く握り締めた右拳をシャルロットの腹部に目掛けて振り抜いた。
間合いを一気に詰め、深く踏み込んだその攻撃は通常であれば確実に命中している。
シャル「うん。箒は思い切りが良いね」
パシン。と綺麗な音が箒の右腕を左側、体の外側から響いた。
箒の踏み込んだ分だけ、シャルロットは下がり呼吸を合わせて攻撃を弾く。
竹刀を持たないとは言え箒は強い。
しかし、ラウラ程では無いにしろCQCを修めているシャルロットは純粋に強かった。
807 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:51:11.02 ID:DoipWcxRo
シャル「(性格が攻撃に表れてる。純粋にまっすぐで、だけど読まれやすい)」
箒「(くっ! なぜ当らん……!!)」
箒の要望で、寸止めではなく顔面と急所以外への攻撃を有効にした本格的な組み手になっている。
攻撃箇所が限定されている時点で、勝敗は決まっていた。
体を半身にして、当る箇所をさらに限定。
自らは攻撃をせず、ただただ相手の攻撃を捌き、避ける。
箒「(シャルロットの体が、近くて遠い……)」
剣の道一本と信じ、今まで鍛錬を重ねてきた。
刀が折れたときを想定しての、素手の古武術もそれなりに鍛錬を積んで来た。
箒「(少々、刀の方に気を入れすぎていたか……)」
実戦組み手で思い知らされる力量の差。
これが、代表候補生。
刀を持てば箒も負ける気はしないが、素手では当てることすら困難である。
808 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:51:37.41 ID:DoipWcxRo
箒「(これが、代表候補生か)」
“紅椿”を手に入れ“単一仕様能力”も自由に発動出来るようになった箒は、少なからず驕っていた。
この組み手は良い意味で箒にとっての、精神的な成長に役立つものになっていた。
シャル「──ふぅ。ちょっと休もうか?」
箒「いや! 時間が勿体無い、まだ頼む」
シャル「んー、でもね? 何か、あっちから視線が……あはは」
シャルロットが指差す方に視線を移すと、ねっとりとした熱い眼差しを自分らに送る2人組みがいた。
セシリアと、鈴音だ。
箒「ん……? どうしたんだ、あの2人は。なにやら此方を見ているようだが」
シャル「うん。何か用事でもあるのかな……」
視線に気付いたシャルロットと箒の元へ、セシリアと鈴音ペアが近づいてきた。
なにやらイヤらしい笑みを浮かべている。
809 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:52:04.37 ID:DoipWcxRo
セシリア「御機嫌よう。調子はどうかしら?」
シャル「はい? えーっと、うん。普通に良いと思うけど……」
鈴音「そーなのー、それは良いことねー」
箒「? 2人ともどうした。不自然だが……」
コホン。喉の調子を整えるようにセシリアが咳払いをした。
セシリア「えー、シャルロットさん? 少しご相談がありまして」
鈴音「そうなのよ。ちょっと話したいことがね?」
シャル「ん? 僕に?」
箒「今は練習中だ。出来れば後に……」
鈴音「箒。アンタにとっても悪い話じゃないのよ」
箒「む?」
810 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:52:30.56 ID:DoipWcxRo
──あれあれ、これこれで。
シャル「えっ……」
箒「むう……」
鈴音「ね? そっちの方が、実際効率良いでしょ?」
セシリア「色々な方と実戦を踏むほうが、経験値も上がると思いますの」
シャル「う、うん……」
箒「し、しかしだな」
鈴音「箒だって、一夏と組み手したいでしょ? あいつがどの程度出来るかやりたいでしょ?」
箒「うっ……」
セシリア・鈴音ペアのチームワークは完璧だった。
各人獲物が同じなのだから、釣られる餌も同じである。
シャルロットと箒を陥落させるのはとても簡単だった。
811 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:52:58.56 ID:DoipWcxRo
シャル「そ、そうだね。その方が、ためになるよね」
箒「うむ……そうだな、うむ」
これで4人。
シャルロットを仲間に出来た。
ラウラはシャルロットに弱い。
これは1年1組の共通認識で、暴れん坊のラウラの手綱をシャルロットが操る構図が完成していた。
鈴音「さー、ラウラ教官に直訴するわよ!」
セシリア「シャルロットさん、お願い致しますわよ?」
シャル「やっぱり、僕なんだね……」
箒「適任だな」
812 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:53:24.34 ID:DoipWcxRo
──。
────。
──────。
813 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:53:51.18 ID:DoipWcxRo
ラウラ「……」
次はやっとラウラと一夏の組む番だった。
最近はスキンシップが少なくなってきたと感じていたラウラは、とても楽しみにしている。
やはり寝技を重点的に教えてやるべきか。
一夏は寝技となると、急に動きが鈍くなるからなと心の中で思いつつ岡部との組み手を流していた。
ラウラ「(それが、こんなことになるなんて……)」
一夏「組み手は、一旦中止かな」
シャル「そうだね。オカリンを休ませないと……」
鈴音「ちょうどお昼時だし良いんじゃない?」
セシリア「賛成ですわ」
箒「うむ。実のある訓練だった」
ラウラ以外は全て一夏と組み手を終えた後で、満場一致で可決する。
たらたらと冷たい汗が、ラウラの顔から、背中かから流れていく。
814 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:54:18.13 ID:DoipWcxRo
ラウラ「まっ、待て! まだ組んでない組が1組ずつあるはずだ!」
一夏「そうだけど、凶真が伸びてちゃ無理だろう」
セシリア「結局どなたか1人あぶれてしまいますわね」
ラウラ「し、しかしだな……」
箒「さっさと岡部を部屋に連れて行った方が良いんじゃないのか?」
シャル「どうせだったら、セシリアの部屋が良いんじゃない?」
鈴音「そうね、岡部は紅莉栖に任せて私達はご飯に行きましょうよ」
ラウラ「あうあう……」
何も言えない。
何を言っても通らない。
ラウラはぎゅっと目を瞑り、これで午前の部は終了とする。とだけ小さく呟いた。
815 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:54:44.49 ID:DoipWcxRo
……。
…………。
………………。
816 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:55:11.10 ID:DoipWcxRo
紅莉栖「うーん……」
液晶投影ディスプレイと睨めっこをしながら、紅莉栖が呻く。
勿論見ているデータは“石鍵”の物だ。
紅莉栖「明らかにスラスター出力が低い……機能していない……」
殆どがセシリアの私物で埋まる部屋で、1人データと睨めっこを続けていた。
紅莉栖「両肩に翼型のスラスターがあるのに、機能しないってどういうことよ」
データ上には《 LOCK 》の文字が浮かび上がる。
外部からの干渉に一切反応することはなく、その鍵を外すことも出来ない。
紅莉栖「スラスターにロック? ってか、供給するエネルギーが無いんじゃどうしようも……あぁもう!」
机に突っ伏して時計の針を目で追った。
時刻はもうすぐ12時になろうとしている。
817 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:55:37.04 ID:DoipWcxRo
紅莉栖「お腹すいたな……食堂行く──」
食堂に足を伸ばそうと立ち上がったとき、ノックの音が響いた。
紅莉栖「っと、お客さん? はいはいっと」
一夏「よっ、紅莉栖」
紅莉栖「一夏……と、ソレは?」
一夏と、箒に抱えられた大きな荷物。
失神した岡部がソコには居た。
ラウラ「訓練中の事故だ。大したことは無い」
紅莉栖「って、え!? 事故……!?」
事故と言う単語に反応する。
シャル「あー、大丈夫だよ。ラウラがちょっと、はしゃいじゃっただけだから」
シャルロットの言葉に、ラウラは少しだけ頬を膨らました。
フン。と可愛く悪態を付くだけついて視線を外す。
818 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:56:06.46 ID:DoipWcxRo
鈴音「そういうこと」
一夏「無理やり起こすのも可哀想だし、保健室に行くほどでも無いしで」
箒「この部屋にと決まったんだが」
セシリア「よろしいかしら?」
紅莉栖「うん、まぁ……異論は無いが……」
大きな事故ではないと聞いて胸を撫で下ろす。
一夏「良かった。えっと、じゃぁ紅莉栖のベッド……は、勿論コッチだよな」
ドーンと佇む、豪華なセシリア用のベッドを見てから確信する。
こんなベッドを学園に持ち込んでいるのはただ一人だけだと思いたい。
紅莉栖「うん。適当に寝転ばせておけば起きるでしょ」
鈴音「これで大丈夫ね? さっ、食堂に行きましょ!」
セシリア「ささ、一夏さん。勿論エスコートして下さるんでしょ?」
鈴音が一夏の左腕。
セシリアが右腕に絡みつくようにしがみ付いた。
819 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:56:32.94 ID:DoipWcxRo
箒「な、何をしている!!」
シャル「そんなぁ、ずるいよ一夏ぁ」
ラウラ「貴様……私とは組み手もしなかったくせに……」
恨みがましい声と視線が一夏に向けられる。
一番鋭く睨んでいたのはラウラだった。
一夏「わっわっ、ちょっと待てって! 凶真も寝てるんだし、あぁもう……ごめんな、紅莉栖」
紅莉栖「気にしないで一夏。私は岡部が起きたら一緒に食堂へ行くから」
何時も通り、一夏が嵐を纏いながら食堂へと向かっていった。
この光景を見ても特に何も思わなくなった当り、私も慣れて来たんだろうかと紅莉栖も笑った。
紅莉栖「ふぅ」
ギシッ、とベッドに腰を下ろし意識を失っている岡部の顔を見つめる。
紅莉栖「鳳凰院凶真さんはまた気絶されてたのでありますか……」
言葉に棘は無く、語尾には優しさが感じられるほどだった。
ふと手が伸び、岡部の髪をかき上げる。
紅莉栖「頑張っちゃってまぁ……ヒゲも伸びてきてるぞー、おかべー……おーい」
小声で呼びかけるも岡部は反応を返しはしない。
段々と紅莉栖の頬が紅潮していく。
紅莉栖「だ、誰も居ない」
キョロキョロと辺りを見回すもここは自室。
同室のセシリアはたった今、一夏達と食堂へ行ったので当分帰っては来ないだろう。
820 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:56:58.74 ID:DoipWcxRo
紅莉栖「お、おきろー……」
すうすう、と気持ち良さそうに寝息を立てる岡部の耳元で囁く。
──ドキドキ。
心臓の音が、大きくなっていく。
顔面は完全に赤くなり、目元が潤む。
──ドキドキ。
個室で、しかも自室での2人きりと言う環境に紅莉栖の心臓は跳ね回っていた。
こんなにも岡部の顔を凝視したのは何時ぶりだったのかと、思いを馳せる。
段々と顔が近づく。
紅莉栖「……」
唇と唇が重なりそうになった。
その時……。
岡部「ん……っ」
ガタタッ。
まどろむ岡部の耳に騒音が届いた。
821 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:57:25.33 ID:DoipWcxRo
岡部「ん……?」
紅莉栖「岡部? オハヨウ。アンタまた気絶したらしいわよ!」
一瞬でベッドから椅子へと飛び退いた紅莉栖。
もちろん、寝起きの岡部には何が起きたかわからない。
岡部「助手……? んん……」
ズキン、と頭が痛む。
徐々に思考がクリアになっていき、自分が今どこに居るのかを把握した。
岡部「この部屋は、助手の部屋か。調度品がなにやら凄まじいことになっているが」
紅莉栖「それらは全部セシリアのだ。私のは殆ど無いわよ」
岡部「そうか……」
紅莉栖「っち、タイミング悪すぎだろうが……これだから童貞は……」
ぶつくさと呟く。
もうちょっとで唇と唇が重なっていた。
822 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:57:53.23 ID:DoipWcxRo
岡部「何を1人でぶつぶつと言っているんだ?」
紅莉栖「なんでもない! あー、そう言えばお腹すいてるんだった。
岡部、食堂行くわよ」
岡部「ん……今、何時だ?」
紅莉栖「昼の12時30。ここに運ばれて10分もしないで目覚めたわよ」
岡部「そうか、また気絶してしまったようだ」
くくっ、と自嘲気味に笑う。
ここへ来て何度目の失神だと。
紅莉栖「代表候補生相手にしてるんだから、当然と言えば当然の結果じゃない?」
岡部「……」
そうして失神する度に、紅莉栖に慰められる。
これもパターンだなと内心で笑っていた。
823 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:58:42.65 ID:DoipWcxRo
紅莉栖「そんなことより、私はお腹がすいてる訳だが?」
岡部「もう昼か……そう言えば俺も、腹が減ったな……」
何時ぶりだろうか。
岡部が食欲をあらわにしたのは。
紅莉栖「へぇ、てっきりまた食欲が無いだとか、胃が痛いだとか言うのかと思ったら」
岡部「全くだ。依然として胃は痛いし、食いたくも無いはずなんだが……腹が減った」
紅莉栖のベッドで大の字に寝転がりながら、岡部は答えた。
紅莉栖「ふむん。宜しい、では今日は私が学食の牛丼をおごってやろう」
岡部「卵に、それとドクペも付けてくれ」
紅莉栖「む……。いきなり現金なやつね」
けれど、紅莉栖の顔は笑っていた。
紅莉栖「きっと一夏達のことだから、まだ食べ終わって無いでしょう。さっ、行きましょう」
すっ、と手を差し出す。
岡部は一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇った後にしっかりとその手を掴んで起き上がった。
824 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/07(日) 13:59:18.02 ID:DoipWcxRo
おわーり。
ありがとうございました。
825 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(茨城県)
[sage]:2012/10/07(日) 14:23:37.97 ID:uGDg1McZo
乙
826 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/07(日) 15:08:28.87 ID:hXbZnbcjo
ヂュノアってわざと?
827 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/07(日) 19:34:16.41 ID:5OfU8ABJo
岡部のはな
乙!
828 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2012/10/07(日) 20:27:13.51 ID:zj6ZqRgEo
前と同じ?
乙
829 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)
[sage]:2012/10/08(月) 22:39:48.13 ID:jCuH8o9go
懐かしやつが復活してる!って思ったら完結したのか
乙乙
830 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:47:31.11 ID:zLD6wvY4o
投稿します。
831 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:48:09.91 ID:zLD6wvY4o
>>825
つづき。
……。
…………。
………………。
セシリア「──と言うことで。午後の部はわたくし、セシリア・オルコットがお時間を頂戴致しますわ!」
バン! と机を叩き、セシリアが高らかに宣言する。
遅れて食堂へやって来た岡部と紅莉栖はキョトンとするばかりだった。
岡部「なにが、と言う訳なのだ。Ms.シャーロック」
牛丼を食べながら岡部が答える。
“牛丼さんぽ”の物とは少し違い、肉その物が良いらしくとても柔らかく上品な味だった。
倍率、数万倍と言われるIS学園の食堂は素材の質が良い。
セシリア「倫太郎さん? 前々から思っていたのですけれど……わたくしの名前は、セシリア・オルコットですのよ?」
鈴音「そーよ、私も思ってた。アンタ人の名前間違えすぎじゃない?」
紅莉栖「(今更です。本当にありがとうございました)」
我関せずとばかりに、紅莉栖も牛丼を食べ進める。
箒「私も、時々だが間違えられてる気がするな」
シャル「僕もなんだよね……オカリン、1人ずつちょっと名前を呼んでみてくれるかな?」
岡部「急にどうしたと言うのだ、そんな面倒なことは──」
鈴音「良いから言いなさいよ」
ピシャリと鈴音が言葉を遮る。
どうも、ガールズ達は名前を間違って呼ばれていることに違和感を覚えていたようだった。
832 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:48:40.69 ID:zLD6wvY4o
岡部「……“しのののの”に“シャーロック”。“大陸娘”に“ヂュノア”それに“眼帯娘”」
1人ずつ目を見て、堂々と名前を間違える岡部。
否、間違えている訳ではない。
本名を呼ぶ気が毛頭なかった。
箒「のが一つ多いような気がするんだが……」
岡部「そんなことは、ない」
箒「そっ、そうか……なら良い」
断言する岡部に押される箒。
釈然とせずも納得するよりなかった。
セシリア「ですから、シャーロックとは一体なんですの!?」
岡部「シャーロックはシャーロックだ。そんな事も知らんのか?」
セシリア「知っているとか知らないとか、そう言う意味ではありませんの!」
軽くあしらう。
すでに岡部の中でセシリアはシャーロックと言う名で確定している。
833 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:49:18.30 ID:zLD6wvY4o
鈴音「大陸娘ってなによ! 良いから名前で呼びなさいってば!!」
岡部「わかれば良いだろう。貴様の祖国は中国だ、何も間違った事は言っていないではないか」
鈴音「確かに中国だけど……って、それとコレとは関係無いでしょうが!」
話題を逸らし、言い合いを終了させる。
なにも間違ったことは言っていない、と主張を曲げる気はない。
シャル「えっと、僕のは発音がちょっと違うかな? “ぢゅ”じゃなくて、日本語で“でゅ”で良いんだよ」
岡部「はっはっは、ついついフランス訛りが出てしまったようだな。気にするな、ヂュノアよ」
シャル「フランス語でもその発音じゃないんだけどなぁ……」
あたかもフランス語が語れるような言い分を通す。
もちろん、岡部が操れる言語は日本語のみである。
一夏「それでもって、ラウラは眼帯娘か……」
ラウラはと言うと、何故か放心状態のようで元気が無かった。
岡部の付けた眼帯娘のあだ名を呼ばれても静かにココアを舐めている。
834 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:49:44.66 ID:zLD6wvY4o
ラウラ「……」
岡部「気にするな。眼帯はチャームポイント……その道の人間からすればお洒落アイテムとも呼べる代物だ」
まさに暖簾に腕押し。
ガールズ達の意見は全て、岡部の良くわからない理論によって突っぱねられるしかなかった。
岡部「──で、午後の云々と言うのは一体?」
そして気になっていた話題に舵を戻す。
岡部にとって教官が誰になるかは文字通り死活問題だった。
セシリア「そうでしたわ。名前の件はいずれ決着をつけるとして……」
紅莉栖「(無理だと思います)」
セシリア「午後の訓練はラウラさんに引継ぎまして、このわたくしが面倒を見させて頂きますわ」
岡部「そうなのか? 眼帯娘よ」
意外な展開と言えた。
一番張り切っていたラウラが、午前中だけの訓練で時間をセシリアに渡すなど思いも寄らない。
835 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:50:10.60 ID:zLD6wvY4o
ラウラ「……あぁ」
食後のホットココアをちろちろ飲みながら頷く。
その顔はどこか覇気が無く、元気が無い。
ラウラ「(私だけ一夏と組み手が出来なかった、私だけ一夏と組み手が──)」
岡部と紅莉栖が合流する前。
食事の席の話しは専ら、一夏との組み手だった。
その話しに自分だけ入れず、ラウラはどんどんと覇気が無くなっていった。
岡部「わかった。午後はシャーロックに任せるとしよう」
鈴音「んで、何するのよ?」
セシリア「そのことなんですけれど……午後は私と、紅莉栖さんのお部屋で行います。
ですので、参加者は4名のみ。倫太郎さんと一夏さん。私と紅莉栖さんで行いますわ」
きっぱりと言い切るセシリア。
もちろん黙って頷く面々ではない。
836 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:51:07.55 ID:zLD6wvY4o
箒「どう言うことだ?」
鈴音「どう言うことよ?」
シャル「つまり、僕達は……?」
ラウラ「(一夏と組み手が──)」
一夏「はは……」
岡部「……」
紅莉栖「……」
また面倒そうなことに、と岡部・紅莉栖は同じような目線で年下の女子達を見つめる。
そして一夏も何時も通り、乾いた笑いをこぼすことしか出来なかった。
セシリア「一夏さん。そして、ついでに倫太郎さん改造コーディネイトを致します!」
岡部「コーディ……」
紅莉栖「ネイト……?」
その場に居たセシリアとラウラ以外の人間が首を傾げた。
特訓ではなく、コーディネイト? と。
837 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:51:47.70 ID:zLD6wvY4o
岡部にコーディネイトを施す。
そう高らかに宣言したセシリアは、言葉通りの事を実行しようとしていた。
セシリア「前々から気になっていたんですの。倫太郎さんのその風貌」
半ば強制的に、セシリアの化粧台に備え付けられた椅子に着席させられている岡部。
美容院などで掛けられる前掛けのような物まで掛けられ、鏡に映る自分の顔は冷や汗をかいていた。
岡部「な、何をする気なのだ……助手よ、どう言うことだコレは!」
鏡越し。斜め後ろに一夏と隣並びで立っていた紅莉栖へとSOSの意味を含めて訪ねた。
しかし、紅莉栖はさぁねと答えるだけで要領を得た回答は貰えない。
紅莉栖もセシリアの意図を測りかねていた。
セシリア「そもそも、ISと言うのは──」
──割愛。
要するに、セシリアからするとIS操縦者たるもの最低限身嗜みはキチっとせねばならない。
そう言うことであった。
838 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:52:17.48 ID:zLD6wvY4o
セシリア「──と、言う訳ですわ。御分かりになりまして?」
岡部「(な、長い……)」
一夏「(セシリアって以外と、こういうところキッチリしてるんだよなぁ)」
紅莉栖「(英国貴族だからなのかしら……)」
延々と続く講釈に誰も口を挟めないでいる。
下手に刺激してしまったらそこからさらに話しが広がると容易に想像できた。
セシリア「倫太郎さん? 聞いていますの? それとももう一度ご説明を──」
岡部「いーっや! わかった。なるほど、そう言う訳か。うむ」
10分以上も長々と講釈を聞かされたとあって、もう一度それを聞くのは御免だった。
岡部にとっても、後ろで待機している紅莉栖や一夏にとっても。
紅莉栖「(って、何で私まで立って話し聞いてるんだろ。
別に鏡越しに岡部の顔なんて見ていたい訳じゃないんだから、ベッドに座って待ってれば──)」
意味の無い立ち見をしている現状に気付き、紅莉栖が化粧台に背を向ける。
839 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:52:46.64 ID:zLD6wvY4o
セシリア「ですから、まずはその無精髭を処理させて頂きますわ。
それから、その中途半端に整えたおつもりの髪もきっちり仕上げてさしあげます」
──くるり反転。180度。
まるで、その場でターンをしたように紅莉栖は改めて化粧台へ。
鏡越しの岡部に視線を戻した。
一夏「く、紅莉栖……? なんで、ターンをしたんだ?」
意味不明な紅莉栖の行動を見て一夏が顔を引きつらせる。
紅莉栖「気分よ。気にしないで」
一夏「お、おう」
岡部「ちょっと待て、髭まで剃るのか?」
セシリア「当然です。そのような無精髭がこのIS学園で許される道理などありはしませんわ」
神妙にしろ、と言わんばかりの圧力を岡部にかけ続けるセシリア。
岡部はこのような時、このような態度を取る女性に対して何を言っても無駄であることをラボで、さらにはIS学園で学んでいた。
840 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:53:14.23 ID:zLD6wvY4o
岡部「(鳳凰院モードでも……無駄だろうな……)」
強気。逆切れ。キャラチェンジ。
どれを行ってもこの状況から回避出来るとは思えない。
セシリア「それでは、暫く目を瞑っていて下さいな。この高性能電動シェーバーで根こそぎ綺麗にしてさしあげます」
一夏「ん? それって男性用のだよな? なんでセシリアがそんな物持っているんだ?」
セシリア「そ! そそ、それは……その、何時の日かい、いち……どなたかにしてさしあげようかと……」
ごにょごにょと、言葉尻が小さくなっていくセシリア。
例の如くその真意は思い人である、一夏本人にだけは届かなかった。
一夏「紅莉栖、どういう意味だ?」
紅莉栖「今、全部説明していた訳だが」
一夏「?」
首を傾げる。
さっぱり理解出来ない一夏であった。
841 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:53:46.73 ID:zLD6wvY4o
セシリア「(一夏さんときたら、無駄毛一本見当たらないんですから使う機会など今まで一度たりとも巡っては来ませんでしたが……。
丁度良い実験体が居たのですから、使わない手はありませんわ!)」
岡部「(とでも考えているのだろうな……)」
紅莉栖「(とでも考えているのでしょうね)」
丸見えの思考。
岡部と紅莉栖からすれば、セシリアの考えはお見通しであった。
一夏「?」
セシリア「それでは、剃りますわよ?」
岡部「高性能シェーバーだ。不安は無いが、それでも慎重に頼む」
セシリア「心得ました」
ガリガリと、電動シェーバーが髭を毛根から断つ独特の音を響かせながら、岡部の肌を露出させていく。
高性能と言うだけあって、肌には傷が付かず尚且つ毛根から剃り落とす業物である。
大した量を蓄えていた訳でも無かったので髭剃りは2.3分程度で全てが終わった。
842 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:54:16.09 ID:zLD6wvY4o
セシリア「ふう……出来ましたわ。結構神経を使うものですのね」
一夏「おお、ちょっとした違いだけど随分スッキリした感じがするな」
岡部「うむ……何となく、心許ない感じがするが……」
紅莉栖「……」
コトン、と電動シェーバーを置いたセシリアの手には既に別の容器が握られている。
先ほどまでは無かった霧吹きや、ドライヤーまで何時の間にかそこには用意されていた。
岡部「……それは?」
セシリア「ワックスですわ」
シュッシュ、と霧吹きを岡部の頭髪にかけ、水分を馴染ませた。
容器から、乳白色の粘質を掬い手に馴染ませる。
本人は全く気にしていなかったが、その姿はどこか妖艶さを含み一夏は自然と頬を赤らめていた。
岡部「出来るのか……?」
セシリア「代表候補生として、モデル業もやっておりますの。
もちろん専属のヘアメイクも付いておりますが、学園生活でのヘアメイクは全て自身でやっておりますのよ?」
殿方程度の髪を弄るなど造作もございませんわ。そう付け加えると、頬を歪めながらセシリアが笑った。
もちろん、この男性用ワックスも何時の日か一夏の髪を弄るために用意したものである。
843 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:54:41.98 ID:zLD6wvY4o
岡部「その、いきなり変わりすぎてもアレなのでな。その……」
セシリア「心得ておりますわ。今のかたちのまま、綺麗にまとめるだけにいたします」
岡部「そうしてくれ……」
セシリア「(この流れのまま、次は一夏さんの番ですわよ? さぁ、お掛けになって?)」
一夏『セシリアの指使いって上手いな。どうせなら毎日やって貰いたい、なんてな』
セシリア『一夏さんが望むのであれば、別に私は毎日して差し上げてもよろしくってよ?』
一夏『本当か!? なら頼むよ。変わりと言っちゃなんだが、俺も毎日セシリアの──』
一夏「──セシリア?」
セシリア「はい!?」
一夏「手が止まってるけど、どうかしたか?」
セシリア「え? ……え?」
白昼夢。
もとい、妄想。
844 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:55:09.32 ID:zLD6wvY4o
岡部「何か問題でもあったか……?」
セシリア「い、いえ。(私としたことが、また妄想など……)」
紅莉栖「……」
それからは妄想を無くし、集中して髪型作りに専念する。
他人の髪型とは言え、お洒落にかけては一家言を持つセシリアにとって中途半端な仕事は許せなかった。
セシリア「さっ、出来ましたわ。前掛けをとって下さいな」
岡部「あぁ」
セシリア「背筋は伸ばす。猫背にはならない。顎は引く。倫太郎さんは折角上背があるのですから、シャンとしてほうが宜しくてよ?」
岡部「こ……こうか?」
セシリア「……え、えぇ。いいと……おも、います……わ」
それまでしたり顔だったセシリアの顔が固まる。
予想以上の姿がそこにはあった。
無造作に蓄えた無精髭が無い。
髪型は前髪だけを適度に上げ、両サイドを垂らすように流す。
明後日の方向に飛び出した髪の毛も全て、流れるように違和感無く“髪型”として見立てられている。
元々、顔の形が悪いほうではない岡部である。
無精髭と、適当に掻き揚げただけの髪型。
上背はあるのに猫背気味の姿勢。
マイナスポイントを重ねすぎて気付きにくいが、このようにシャンとまとめれば俗に言う──。
“イケメン”がソコに立っていた。
845 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:55:36.24 ID:zLD6wvY4o
セシリア「(コレは……想像以上に……)」
いくら背伸びをしても、未だ15歳の少女である。
セシリアからすれば岡部は充分すぎるほど大人であり、姿だけで言えば魅力的な男性に見えた。
勿論、この場に居るもう一人の少女にとっても……。
一夏「おお! カッコ良いな、凶真!!」
紅莉栖「…………」
セシリア「(私としたことが、一夏さんと言う者がありながら一瞬でも見とれてしまいましたわ……。
ですが、これならバッチリ当初の目的通り。
一夏さん派の女子を倫太郎さん派に大量輸出できますわね……!)」
キラーンとセシリアの瞳が光る。
恋する乙女のにとって、幾ら魅力的な男性と言えど自分が恋した男性以外は全て関係無いその他の男。
自らの恋に利用出来るのなら、利用して然るべきなのである。
岡部「た、大して変わりは無いだろう、なぁ助手──」
ツカツカと、靴の底が鳴る。
部屋の中。距離にして数歩。
紅莉栖は一直線に岡部の前に立ち、そして──。
846 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:56:04.17 ID:zLD6wvY4o
紅莉栖「…………ッッ!!」
頭部へその指先を突き入れた。
綺麗に整われた岡部の頭髪を両手で掻き毟り、何時もの無造作なんちゃってオールバックへと元に戻す。
岡部「なっ……!?」
一夏「えぇ!?」
セシリア「……はい?」
紅莉栖「調子のんな! 岡部がカッコ付けたって、馬子にも衣装で良い気味よ! 茶が臍で沸くわね!」
ここにもまた1人、恋する乙女。
しかし、この学園の女子達と違い随分と素直になれない女の子。
その女の子の心を掻き毟るに充分な破壊力を、セシリアは造型してしまった。
普段の牧瀬紅莉栖なら考えられない行動である。
時間に囚われ幾日も紅莉栖と過ごした岡部ですら、初めて目にした奇なる行動。
この空間において、彼女がとった行動を理解出来る人間は岡部を含めて誰も居なかった。
勿論、彼女自身でも。
847 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:56:30.65 ID:zLD6wvY4o
紅莉栖「(しまったぁぁぁあ!! 私ってば、なんて行動を……お、落ち着くのよ。そ、素数を……)」
一瞬の静寂。
それを打ち破ったのは他でもない、岡部だった。
岡部「ふ、ふ……」
一夏「えっと、あー……凶真?」
岡部「フゥーハハハハ! なるほどな、そう言うことか助手よ」
セシリア「???」
一夏「???」
もはや、置いてけぼりの一夏とセシリア。
頭の上にはクエスチョンマークを浮かべるばかりである。
岡部「やはり、このメァッドサイエンティスの鳳凰院凶真にはこの髪型こそが似合う。そうであろう……?」
紅莉栖「あっ、あの……えぁっと……つまり、その通りでだな……」
岡部「気にするな、じょしゅーぅ。統率の取れた髪型など、この俺には似合わない。わかっていた事だフゥーハハハハ!!」
一切話しについていけない、一夏とセシリア。
奇怪な行動を取り、顔を赤らめ明らかに動揺する紅莉栖。
状況を打破する策が見つからず、鳳凰院凶真に逃げた岡部。
三者三様の有様を作り、無駄に時間だけが過ぎて行く。
848 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:56:57.01 ID:zLD6wvY4o
セシリア「でっ、では!」
沈黙を打ち破ったのはセシリアだった。
その声には決心に似たようなものが含まれている。
セシリア「お次は、いい、い……一夏さん! 貴方ですわ!」
一夏「……えっ!?」
ありったけの勇気を振り絞り、一夏を指差す。
まさか矛先が自分に向けられるとは思っても見なかったのか、一夏の顔は見る見る内に青ざめていった。
849 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:57:22.77 ID:zLD6wvY4o
──。
────。
──────。
850 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:57:48.82 ID:zLD6wvY4o
セシリア「〜〜♪ 〜〜♪」
一夏「……」
上機嫌なセシリアの奏でる鼻歌。
ヴァイオリンを嗜んでいるだけあって、鼻歌だと言うのに音程は正確でとても心地の良いものだった。
セシリア「(はぁ、幸せですわぁ)」
半ば強引に化粧台へ座らせたあと始まった一夏のヘアチェンジ。
ヘアメイク担当は勿論、セシリア・オルコット。
セシリア「無造作ヘアーも似合いますが……先ほどの倫太郎さんのように前髪をかき上げるのも様になりますわね♪」
わしゃわしゃと髪をいじくり、数分毎に髪型を換えていく。
着せ替え人形よろしく、なすがままの一夏の顔には疲弊が溜まっていた。
一夏「(コレは一体何時間続くんだ?)」
セシリア「オールバックも似合いますわね……ねぇ、紅莉栖さん?」
紅莉栖「はいはい……」
呼ばれて億劫な声を出しながら答えたのは、名前を呼ばれた当人。
その手にはセシリアに渡されたデジカメが握られていた。
851 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:58:15.24 ID:zLD6wvY4o
セシリア「次はこの髪型でお願いいたしますわね」
紅莉栖「セイ、チーズ」
やる気の無いカメラマンがシャッターを切る。
このように、セシリアが気に入った髪形が出来たらツーショット撮影。
ツーショットと言うのは説明するまでも無く、一夏とセシリアである。
毎度毎度、腕を絡めて実に親密そうに。
一夏「(うぅ、胸が当ってるんだよなぁ……)」
セシリア「(少々あざといかもしれませんが、何時ものメンバーが居ない今こそスキンシップを深めるチャンスですわ!)」
岡部「………………」
岡部はと言うと、午前中の疲れや今までの疲れがドっと出たのか撮影に飽きて、何時の間にか紅莉栖のベッドで横になっていた。
紅莉栖が文句を言おうとする前に、岡部はそのまま寝てしまっている。
紅莉栖「(もう……。私のベッドだぞ……)」
ゴクリ、と喉が鳴ったのは紅莉栖。
852 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:58:41.26 ID:zLD6wvY4o
紅莉栖「(べ、別に……!)」
何か、言い訳を心の中の自分に言おうとしたが直前でそれを辞めた。
内心とはいえ、それを考えてしまったら今夜は眠れなくなる、そう思ったからだった。
紅莉栖「ねぇ、セシリア。何時まで続けるの? 結構、写真もたまってきたわよ」
一夏「そうだぞ、セシリア。俺も疲れてきちまった」
セシリア「そ、そうですわね……思えばかなりの時間をヘアメイクにつぎ込んでしまいましたわ」
チラリと時計を見ると、17時を過ぎていた。
腹の虫が夕飯を所望する時間である。
セシリア「では次の工程に──」
一夏「まだあるのかよ!?」
セシリア「当然ですわ。身嗜み……衣類やアクセサリーあとは香水で匂いなども……」
一夏「そこまでするのか……?」
セシリア「全てこのセシリア・オルコットに任せて頂ければ大丈夫ですわ♪」
紅莉栖「(……ココまでね)」
カチカチとデジカメから画像を自分の携帯に移植。
その画像を添付してメールを送信。
853 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:59:07.90 ID:zLD6wvY4o
セシリア「香水は私のとお揃いで、レリアルのナンバーシックスを──」
──コンコン! ガチャ。
少しばかり強めのノックが響いた後、部屋の主達が扉を開く前に来客が部屋へと押し入った。
その数、4人。
箒「セシリア! どういうことだ!」
鈴音「ちょっと! 説明しなさいよ説明!」
シャル「ずるいよ、抜け駆けだよ!」
ラウラ「私が一夏の写真を手に入れるのにどれほど苦労したか……!」
セシリア「な、なぜ皆さんがこちらに……!?」
4人がセシリアに差し出したのは携帯の画面。
そこには嬉しそうに一夏と腕を組む、セシリアの笑顔があった。
ラウラなどご丁寧に、一夏の顔部分だけを抜き取り編集して既に受付画面にまで使用されている。
セシリア「これは……くっ、紅莉栖さん!!」
紅莉栖「ごめんね、セシリア。実はそこの4人に最初から釘をさされていてね……」
食堂での別れ際、紅莉栖だけ4人の専用機持ちに呼び出され何かあったら直ぐに呼べと念を押されていた。
何かあったらとは勿論、セシリアの一夏に対する抜け駆け行為である。
854 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 03:59:34.16 ID:zLD6wvY4o
セシリア「スパイ……! 卑怯ですわ!」
箒「卑怯なのはどっちだ!」
鈴音「英国淑女が聞いて呆れるわよ!」
シャル「セシリア、ずるいよ! 僕も一夏とその……ツーショット……」
ラウラ「一夏。用件はわかっているな?」
ずい、と最後にラウラの声が重く響いた。
キョロキョロと落ち着き無く視線を泳がせていた一夏がビクン、と反応する。
一夏「えっと……ラウラ?」
ラウラ「本来ならば、この時間は私による特訓が行われる予定だった。
が、やんごとなき事情により時間をセシリアに譲り今に至る訳だが……」
鈴音「あんた達、いま何してたのよ」
一夏「えっと……」
視線をセシリアと紅莉栖へ交互に向けて助けを求める一夏。
しかしセシリアはわなわなと震えるだけで、紅莉栖は知らん顔。
実際、一夏は巻き込まれただけなのだが決まって毎回割りを食うのは一夏である。
そうなる理由を本人がわからないのが一番の問題だが、わからないのだから仕方が無い。
855 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:00:08.48 ID:zLD6wvY4o
箒「一夏」
鈴音「わかってるわよね?」
シャル「僕達とも」
ラウラ「ツーショット写真を撮ってもらおう。カメラマンは勿論……」
「「「「セシリアで」」」」
4人の声が重なった。
セシリアは渋々デジカメを紅莉栖から受け取るしかなく、天にも昇る最高の気分は何時しか最低なものになっていた。
一夏「俺に拒否権は……」
箒「ある訳がなかろう」
鈴音「それとも何? セシリアだけ特別なの?」
シャル「一夏。それは贔屓だよ」
ラウラ「嫁のくせに、夫をないがしろにするつもりか?」
一夏「うぅ……」
唐変木・オブ・唐変木ズである一夏にはこうなる理由が理解出来ない。
理解出来ないが、付き合うしかない。
ここからは、あーでも無いこーでも無いと姦しくポーズの指定。そして撮影。
鈴音がくっ付き過ぎだとか、箒が腕に胸を当てすぎだとかと騒ぎ立てながら撮影会が進行され、
全ての撮影が終わるころには、19時を回っていた。
856 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:00:35.25 ID:zLD6wvY4o
一夏「つ、疲れた……」
岡部「………………」
紅莉栖のベッドでは、未だに岡部が寝息を立てている。
紅莉栖「この騒音の中で良く眠り続けられるわね」
ラウラ「疲労が溜まっていたのだろう。ふん、丁度良い休息になったわけだな」
そう言いながらラウラはツーショット写真が納まった、自らの携帯電話を大事そうに抱えている。
他の4人も同様。
表情には出さないでいるが口角がほんの少し緩んでいるあたり、幸せそうな顔を作っていた。
857 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:01:01.29 ID:zLD6wvY4o
……。
…………。
………………。
858 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:01:31.88 ID:zLD6wvY4o
─とある布団の中─
携帯電話から流れるヒーロー物のアニメ。
小さな空中投影ディスプレイからは快活なヒーローが飛び出し、悪を蹴散らしていた。
簪「最近、いっ……いちかに会って……ないな……」
ぽつりと、布団の中で誰に言うでもなく呟いたのは1年4組に在籍する“楯無 簪”であった。
“全学年合同マッチ”が終わってからというもの、1組と4組。
クラスの壁が厚く立ちはだかり、以前より一夏と会う機会が減っていた。
何度かは偶然を装い、食堂で待ち伏せなどをしてみたが何時も1組(それと2組の鈴音)の専用機持ちが彼を取り囲んでいる。
簪がその状況で一夏に話しかけられる訳も無く、結局はパンを買い教室で齧る毎日。
そして止めは岡部倫太郎の登場である。
これにより、さらに一夏に近寄る機会が激減してしまった。
簪「声……聞きたいなぁ……」
携帯から聞こえてくるヒーローの声はもう簪に届いていない。
その音声がすべて一夏のソレに脳内変換されて耳に流れる。
簪「明日、声……挨拶だけでも……してみよう……かな」
そう決意しただけで、顔が真っ赤な夕日のように染まる。
布団の中で控えめな胸に手を当てると、自分でも驚くほどに強く脈を打っていた。
859 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:02:09.48 ID:zLD6wvY4o
……。
…………。
………………。
860 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:02:36.14 ID:zLD6wvY4o
冬の朝は遅い。
朝4時を越え、なお月が空に浮いている。
岡部「……」
岡部は全身の筋肉と関節を丁寧に伸ばし、柔軟体操を行っていた。
岡部「変わるものだな……」
前屈姿勢をとりながら、ぽつりと呟く。
この1週間で、ガチガチだった岡部の体は一般人程度には柔らかくなっていた。
岡部「さて……」
隣のベッドでは未だにルームメイトである織斑一夏が寝息を立てている。
1人体育着に着替え、柔軟体操を終えた岡部は朝のランニングをしに行こうとしていた。
岡部「(昨日は眠りすぎてしまったな……こんな時間に起きるとは……)」
そろそろと音を消し、ドアへ向かう。
カチャリ。静かに開錠して廊下を出ると視線の下に何かが居た。
861 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:03:20.60 ID:zLD6wvY4o
簪「……」
岡部「……」
一瞬、何が起きたのかと絶句する。
時刻は午前4時20分過ぎ。
視線を落すとそこには、眼鏡をかけた少女が立っていた。
喉まで出かかった驚きの声を何とか飲み込み、岡部はもう一度時間を確認した。
岡部「(午前4時……午後4時の間違いではない、な……)」
簪「…………」
岡部「(何だこの娘は……起きて、いるのか?)」
岡部は目の前の少女に不思議なものを感じた。。
この髪の色も、顔の造型も何処かで見た気がする、と。
簪「あっ、あ……の……」
岡部「ふぁっ……あっ、あぁ」
素っ頓狂な声を上げたが、何とか取り繕う。
押し黙って俯いていた少女がいきなり声を出せば、それも当然だった。
862 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:04:07.77 ID:zLD6wvY4o
岡部「(どこかで見たことがある顔なのだが……クラスに居た……気が……わからん)」
簪「こんばっ……あっ……おは、おはよう……ござい、ま……す」
岡部「う、うむ」
開口一番、挨拶が岡部へと飛来する。
岡部「あー……もしかするとワンサマーに何か用事か?」
簪「わん……さまー?」
岡部の問いに首を傾げる少女。
この学園において一夏のことを“ワンサマー”と常用で呼ぶ人間は岡部倫太郎しか存在しない。
1年1組では“ワンサマー”=“織斑一夏”が定着しつつあるが、4組に在籍している簪が知る由も無かった。
岡部「織斑一夏に、何か用事か?」
言いなおす。
すると少女の顔は一変した。
863 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:04:34.25 ID:zLD6wvY4o
簪「……っ」
ぼっ。
着火音が聞こえて来そうな程の勢いで、顔を赤らめる簪。
実際、一夏に会いに来たのだがそれを他人に指摘されると自分の大胆な行動が途端に恥しくなった。
口をつぐんで黙ってしまう。
岡部「(参ったな……萌郁以上のだんまりキャラとは)」
簪「ぅぅ……(は、恥しい。ど、どうしよう……)」
ふぅ。と大きめの息を吐いて岡部が言葉を切り出す。
岡部「織斑一夏とは知り合い……友達なのだな?」
その言葉を耳にして、簪が数ミリだが首を立てに動かす。
今の簪に出来る精一杯の、肯定を意味する意思表示だった。
864 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:05:00.24 ID:zLD6wvY4o
岡部「ならば、問題無い。俺はこれから出かけてくるが戸締りはしないでおこう」
簪「……」
岡部「まだ早朝という事もあり、ルームメイトは眠っているがな」
簪「……」
岡部「廊下は寒い。勝手にお湯でも沸かして何かしら飲むと良い」
岡部はそう言い終えると、見知らぬ少女に背を向け廊下を歩いて行った。
10代女子の行動力とは恐ろしいものだな。と、思いながら背後に感じる視線を無視する。
岡部「(マッドサイエンティストも丸くなったものだ……)」
簪「ぁ……」
ありがとう。
そう言う間もなく、その男は廊下の向こうへと消えてしまった。
開き放たれているドア。
計らずとも一夏のルームメイトである、岡部倫太郎に入室許可を貰ってしまった。
嬉しさと、困惑で簪の胸の内はいっぱいだった。
どうやって会おう。どうしたら会えるだろう。
一夏に会いたい。
他の子と話す前に、会わないとダメ。
そんな事を思っていたらこんな時間にドアの前まで来てしまった。
865 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:05:27.07 ID:zLD6wvY4o
簪「(あ……、部屋が寒くなっちゃう……)」
一夏はまだ眠っている。
岡部倫太郎はそう言っていた。
時間を考えれば当たり前のことだが、普段の秀才ぶりは何処へやら。
恋する暴走乙女になりつつある簪にそこまでの思考回路は働かない。
簪「(し、締めないと……)」
部屋へ入り扉を閉める。
玄関先は寒気が入り込み、少し寒くなっていたが部屋の中程はじんわりと暖かかった。
簪「入っちゃった……」
思わず、感想が声から漏れる。
一夏「うぅん……」
簪の声に反応してなのか、それとも単なる偶然か。
一夏が寝返りと共に微かに声をあげた。
簪「……っ!」
声を出していた事に気付き、大慌てて自分の口を手で押さえる。
幸いにも、ただの寝返りだったようで一夏の意識は目覚めていない。
簪「(い、一夏……久しぶり……)」
眠っている一夏の顔をみて、簪の顔がほころぶ。
何日……何週間ぶりだろうか。
簪「……」
ちょこんと、ベッド脇の椅子に座り一夏の顔を眺める。
会話も無い眠っている人間の顔を見るだけの行為が、簪にとってはとても幸せなことだった。
時刻は午前4時30分。
冬の空には満月が未だに顔を覗かせていた。
866 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/13(土) 04:05:57.01 ID:zLD6wvY4o
おわーり。
ありがとうございました。
867 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/10/13(土) 11:24:56.09 ID:1OyuMmZ0o
待ってたぜ
868 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2012/10/13(土) 15:16:48.31 ID:HNEiPVXto
おお、リマスター版が来てたのか
wktk
結構前に誤植があったが脳内補完しておいた
869 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/13(土) 22:06:56.93 ID:9f1uS09DO
誤植はしゃあないべ、基本読み返しても気付かないことはあるさ
むしろ誤植は愛嬌と思う
>1乙
870 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/15(月) 15:00:29.91 ID:v8pYw3muo
誤植はどんな媒体にもあるからな
ひとまず乙!
ゲルバナを進呈しよう
871 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/16(火) 00:51:56.87 ID:cej9IhkDO
>>870
お前っ!自分のバナナを犠牲にしたのか!?>1にプレゼントするために!
872 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:44:44.09 ID:s0E0Sez+o
投稿します。
873 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:45:11.77 ID:s0E0Sez+o
>>865
つづき。
……。
…………。
………………。
874 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:45:37.45 ID:s0E0Sez+o
タッタッタ、と規則正しい音がトラックから空に響いていた。
周囲に人影は無く、たった1つの影が白い息を弾ませている。
岡部「……」
岡部が走り始めて、1時間程が経過していた。
息が白むほど外気は冷え込んでいるが、額には玉のような汗が浮いていた。
岡部「……ふぅ」
徐々にスピードを落とし立ち止まる。
その場で屈伸運動や、前屈などをして体の筋を伸ばす。
岡部「(1週間前までは、疲れると言うより体の節々が痛くて走れなくなったものだが……)」
今ではソレが無くなっていた。
1週間の間に積まれた運動は確実に、岡部の身に付いている。
楯無の妙薬と、一夏のマッサージ。
各国代表候補生のスパルタ(?)訓練は無駄ではなかった。
岡部「5時30分。あと30分ほど、軽く流してから帰るとするか……」
タッタッタ。
規則正しい音が、空へと響いていた。
875 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:46:16.73 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………
876 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:46:43.24 ID:s0E0Sez+o
一夏を起こしてはいけないと、岡部はロッカールームでシャワーを浴びてきていた。
勿論、出掛けに出会った少女がまだ部屋に居る可能性を考えてというのもある。
岡部「ふむ……」
ミニタオルで頭をガシガシと拭きながら周囲を見る。
少女の姿はなく、湯沸し機等も使われた形跡が無い。
岡部「結局、すぐ帰ったと言う訳か」
ベッドに腰をかけて、頭を拭いていると後ろから電子音が聞こえた。
──ピピピ! ピピピ!
シャルロットからプレゼントされた、多機能腕時計が正常に機能され装着者を寝覚めさせようと音を鳴らしている。
岡部「ワンサマーのアラームか。6時10分とは随分と早起きだな」
一夏「んんっ……ふぁーぁ、朝か」
アラームを止めて目を擦りながら周囲を見渡すと、ルームメイトである岡部の姿が一夏の目に映った。
一夏「おっ、凶真。何だ今日は早いじゃないか。おはよう」
岡部「あぁ。昨夜は随分と早く寝付いてしまったからな」
一夏「はははっ、昨日は大変だったよ……」
ガールズに付きあわされ、ツーショット写真を沢山取らされたことを思い出す。
寝覚めたばかりだと言うのに疲労を感じてしまう。
877 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:47:37.04 ID:s0E0Sez+o
岡部「くくくっ、難儀なことだな」
一夏「全くだよ」
岡部「コーヒーでも飲むか? 淹れるぞ」
一夏「サンキュ。頼むよ」
岡部「砂糖とミルクはどうする?」
一夏「えっと……どっちも頼む」
岡部「了解した。ほれ」
一夏「サンキュ……って、凶真はブラックか? やっぱ大人だなー」
岡部「我が仇敵であるフェイリスが居たのならば、或いは乳白色に染められていたやも知れんがな……」
懐かしい顔を思い出しながら、褐色の液体を喉に流す。
熱く苦いソレは、じんわりと体に染み渡り心地よい気分を岡部に与えた。
878 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:48:19.69 ID:s0E0Sez+o
一夏「フェイリス……? って凶真の友達か?」
聞きなれない単語を耳にし、コーヒーを傾けながら一夏が聞いた。
岡部「うむ。ラボメンである」
一夏「そっか、何時か俺も……ラボ? ってヤツに行ってみたいもんだな」
“フェイリス”と言う日本人には馴染まない名称に一夏は意を止めない。
海外勢が多いIS学園に身を置いてからと言うもの、名前に対する認識も変わっていた。
岡部「歓迎しよう。ワンサマー、貴様であればその資格は充分にある」
一夏「本当か!? へへっ、何か嬉しいなそれ……」
一夏は笑顔をほころばせた。
本当に嬉しそうに笑うので、岡部も何故かくすぐったくなって頬が緩んでしまう。
岡部「あぁ。俺の仲間を、何時か紹介しよう」
月曜日の朝。
クラス内対抗戦を控えた前日は、実に爽やかな気分を2人にもたらした。
879 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:49:02.50 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
880 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:49:33.18 ID:s0E0Sez+o
─第1アリーナ─
千冬「全員、揃ったな!」
第1アリーナに織斑千冬の声が響いた。
良く通る声は、生徒1人1人に緊張感を与える。
千冬「明日はクラス内対抗戦だ。最低でも1人1試合。専用機持ちは専用機持ち同士。
そうでない者も、訓練機を用いて試合を行う」
真耶「1組は専用機持ちが、丁度6名居ます。
組み合わせは織斑先生が行うので指示に従ってください。
訓練機の方々もこちらで組み合わせを提示します」
担任である千冬と、副担任の真耶が明日の説明をする。
本日は全日、明日の対抗戦のための準備……ISの調整時間へと当てられていた。
ラウラ「教か……織斑先生」
言いかけて訂正する。
教官ではなく、先生だと拳で持って何度も注意されていた。
881 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:50:34.29 ID:s0E0Sez+o
千冬「なんだ、ボーデヴィッヒ」
ラウラ「対戦の組み合わせは決定しているのですか?」
千冬「無論だ。だが、発表は明日直前とする」
真耶「理由は、対戦相手がわかっているとそれに応じて装備を変更出来るから……という訳です」
セシリア「なるほど……」
シャル「誰と当るかわからないから、前もっての準備は難しいってことだね」
千冬「本日中に、明日使用するISのパッケージやその他装備を確定して貰う。
当日、変更出来ないから充分に考えろよ」
箒「ふむ……」
一夏「俺や箒、それに凶真はどのみちパッケージ変えられないし意味無いな」
岡部「全くだ」
一夏の“白式”。箒の“紅椿”。岡部の“石鍵”。
この3機は装備の互換性が乏しい。或いは出来ないため、相手によって装備を変更すると言った戦略が立てられない。
882 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:51:01.93 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「軽く言ってるけど、結構大変よ? 今日中に、全ての調整を完了。
敵対するISがわからないから、全てに対応出来るようにしないとだし……」
シャル「うん。時間もあまりないしね」
セシリア「何方と戦うか……それが問題ですわ」
ラウラ「誰と当ろうが、粉砕するのみだ」
箒「あぁ。負ける訳にはいかない」
ガールズは一度視線を合わし、その矛先を一夏へとスライドさせる。
一夏「えっ、なに?」
当人は向けられた視線の意味を把握出来ず首を傾げ──。
一夏「明日は誰と当っても全力で戦おうな!」
箒「(お前と言うヤツは……)」
セシリア「(一夏さんは誰と戦いたいんですの!?)」
シャル「(やっぱりオカリンと戦いたいのかなぁ……)」
ラウラ「(私と戦いたくて仕方が無いようだな、一夏は)」
そんな様子を、呆れたような、微笑ましいものを見るような目線で見つめる岡部と紅莉栖。
そして岡部がポツリと呟く。
883 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:51:30.44 ID:s0E0Sez+o
岡部「しかし……俺はまともに戦えるのだろうか」
紅莉栖「前日に弱気になるなよ……大丈夫。私が付いてるんだから」
控えめな胸をそり、自慢げに顔を上げる紅莉栖。
紅莉栖「整備室に篭るわよ。弄るところなんて殆ど無いけど、調整出来るところは徹底的に調整する」
岡部「っふ……相変わらず頼もしいな。俺の助手は」
紅莉栖「助手じゃないと言っとろー……」
そこまで言いかけて、言葉が詰まる。
しばらく思案して──。
884 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:51:57.09 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「最近、本当にあんたの助手みたいな感じがしてきている訳だが……」
ジト目の上目遣いで岡部を睨む。
その顔は、苦々しいような恥しいような意図の掴みにくいものだった。
岡部「ッフ! ようやく自覚してきたか。貴様はとうの昔に俺の助手よクリスティーナ!」
紅莉栖「ティーナ付けんな! あーもう、面倒臭い! ほらっ、もう行くわよ!」
ズンズンと整備室に1人歩いて行く紅莉栖。
岡部もソレを追うようにして、付いて行った。
岡部「こら! 助手が俺を置いて行ってどうする!」
紅莉栖「助手じゃないと言っとろーが!」
紅莉栖の語感には、楽しげなそれが浮かんでいた。
885 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:52:23.43 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
886 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:52:50.88 ID:s0E0Sez+o
─第1アリーナ整備室─
岡部は自身の専用IS“石鍵”を展開して、各種様々なケーブルに繋がれていた。
岡部「……」
紅莉栖が高速で叩くキーボードの音がカタカタと部屋を鳴らしている。
紅莉栖「ふむん……問題はやはり、エネルギーね」
岡部「なんの、だ?」
紅莉栖「攻撃に割くエネルギーよ。よっと」
紅莉栖の前にあった投影ディスプレイを、ついと指でずらし岡部の前にスライドさせる。
画面は“石鍵”のエネルギー配分だった。
887 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:53:20.35 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「スラスターの出力とかは、こっちで弄れないみたいなのよね。やっぱり」
岡部「……それは、かなり問題があるんじゃないか?」
紅莉栖「大問題よ」
さらりと肯定する。
岡部「……」
紅莉栖「まぁ、無理なものは無理と置いておいて。問題はここ」
トントン、と空中に映し出された映像を裏側から叩いてピックアップする。
そこにはメインウェポンへのエネルギー配分が記されていた。
紅莉栖「あんたの武器。例えば“ビット粒子砲”だけど……現段階でいくらか出力をいじれるみたいなの」
岡部「あの豆鉄砲が進化するということか?」
紅莉栖「そ。だけど、連射速度が速すぎて、出力を上げたら一瞬でエネルギーが尽きるって感じ」
岡部「やはり、意味が無いではないか……」
紅莉栖「なのよね。つまり、初期設定が一番まともってこと」
岡部「……」
言葉が詰まる。
紅莉栖の説明を受けていると、どう足掻いても絶望しか感じられない。
888 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:54:37.02 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「次に“サイリウムセーバー”」
岡部「む。待て、助手よ。“サイリウムセーバー”は物理刀剣だ。エネルギー問題は関係無いはずだが?」
紅莉栖「それがあるみたい。剣へのエネルギー供給が可能なのよ」
岡部「エネルギー供給……?」
紅莉栖「えっと、一夏の“雪片弐型”。あれは普段、物理刀剣だけど、第4世代技術である展開装甲により可変し、エネルギー状の刃が出る。
“サイリウムセーバー”はエネルギーで剣をコーティングするって感じね」
岡部「つまり、攻撃力があがると言うことか?」
紅莉栖「端的に言えば、そうね。
例え物理シールドで防がれても、エネルギーダメージ。エネルギーシールドで防がれても物理ダメージが通る」
岡部「おおお……つ、ついにソレらしくなって来たでは無いか!」
紅莉栖「興奮するな。話しはまだ終わっとらん」
興奮する岡部を抑え、液晶一杯にエネルギー情報を表示させた。
889 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:55:07.42 ID:s0E0Sez+o
岡部「?」
紅莉栖「余ってるエネルギーが無いのよ」
岡部「……つまり、使えないと言うことか?」
紅莉栖「他のメインウェポンへの供給を削れば可能。でも、消費が中々に大きいからエネルギーコーティングしても、持って30秒ってとこね」
岡部「つまり……“サイリウムセーバー”を強化したければ“ビット粒子砲”か、
“モアッド・スネーク”に使用するエネルギーを割けということか?」
紅莉栖「ん。“モアッド・スネーク”は平気。エネルギー使ってないから」
岡部「では“ビット粒子砲”か……」
紅莉栖「そう言うことになるわね。でもそうすると、完全に物理豆鉄砲になるわ。
物理シールドを多用するシャルロットなんかに当ったら、酷いことになりそう」
ノーダメージでのパーフェクトゲームが予想される。
紅莉栖はそう付け加えた。
890 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:55:43.57 ID:s0E0Sez+o
岡部「むう……」
紅莉栖「その代わり、物理シールドが無い一夏と当れば剣術戦になるだろうから、メリットが多いわね」
岡部「むう……」
紅莉栖「どうする?」
岡部「そうだな……では──」
──……。
紅莉栖「ん。わかった、そうしておく」
岡部「頼む」
注文を聞き終えた紅莉栖は、もの凄いスピードで設定を打ち込んでいく。
891 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:56:42.13 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「──ねぇ、岡部」
不意に口を開いたのは紅莉栖だった。
岡部「……なんだ?」
紅莉栖「勝てとは言わないけどさ、頑張んなさいよね」
岡部「……あぁ。任せろ」
紅莉栖「ん」
会話はそれきりで、紅莉栖は設定の打ち込み。
岡部は各種データを見る作業に没頭した。
892 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:57:23.36 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
893 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:58:09.58 ID:s0E0Sez+o
真耶「みんな、頑張ってますね」
千冬「……」
アリーナでは生徒達が訓練機同士で模擬戦を行っていたり、専用機持ちである一夏達があーでもないこーでもないと話し合っていた。
試合前日ともあり熱気が感じて取れる。
ラウラ「一夏。“瞬時加速”に頼る癖が付いている。早急に治した方が良い。
私には通用しないぞ」
一夏「うっ……」
図星を突かれ、顔が引きつる。
“瞬時加速”は一夏にとって戦闘の定石でもあり、切り札でもあった。
シャル「“瞬時加速”は確かに強力だし、便利だけど直ぐにエネルギーが無くなっちゃうしね」
一夏「そう言えば、シャルも“瞬時加速”使えるのに滅多に使わないもんな」
シャル「切り札は出さない、見せない。だよ、一夏」
コホン。
わざとらしい咳払いをして、箒が口を挟んだ。
894 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:58:56.57 ID:s0E0Sez+o
箒「ま、まぁ私の“紅椿”と一緒に居れば問題ないな。エネルギー問題は」
セシリア「ですが。今回は全くその話しは関係ありませんわね。むしろ“敵”になる可能性があるわけですし」
シャル「だね」
ラウラ「全く持って、関係無いな」
してやったりと思っていた箒に対し、一斉掃射が返って来る。
自分の利便性を説いたつもりが逆効果になってしまった。
箒「ぐぐ……」
一夏「はぁ。箒は良いよなぁ……」
箒「えっ」
セシリア「っ!?」
シャル「っ!?」
ラウラ「……っ!」
箒「えっ、っと……つまり、そ──それはどっ、どういういみでだ?」
一夏「え? だって“絢爛舞踏”があれば、二段階瞬時加速も使いたいほうだ──」
ゴギン。鈍い音が脳に直接響く。
箒の拳骨が一夏の頭頂部へと突き刺さった。
895 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 04:59:25.43 ID:s0E0Sez+o
一夏「いっだぁぁあ!?」
箒「そんな……そんなことだろうと思ったわ!!」
セシリア「はぁ、最低ですわね」
シャル「うん。一夏らしいけど、最悪だね」
ラウラ「アイツも災難だったな」
箒「ふん!」
すたすたとポニーテールを揺らしながら、その場を離れていく箒。
頭をさすり、涙目になっている一夏はその後も残った女子達に責められるしかなかった。
千冬「馬鹿者が……」
真耶「あ、あはは……」
そんな光景を目にする教師が2人。
896 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:00:06.59 ID:s0E0Sez+o
千冬「敵になる可能性を持つ者同士で、話し合ってどうする」
真耶「た、確かに」
千冬「教師への相談を禁止している訳ではないのだから、相談すれば良いものを。
優秀な教師が揃っているというのに……」
真耶「あははっ、少しは頼って欲しいってことですね? 千冬おねぇ──」
ケラケラと可愛い笑みを浮かべながら茶化した真耶は、全てを言い終わる前に表情が固まった。
我ながら失言を吐いたと内心で冷や汗をかく。
真耶「えっと。あの、少し生徒の様子を……」
千冬「山田先生。丁度訓練機が2機空いてるようだ。生徒へのデモンストレーションとして少し慣らしましょうか」
真耶「えっ!? えっ!? で、でも、織斑先生がISを操縦するのはちょっと」
千冬「そうでした。それではパワーアシストが切れた状態で、如何にして戦うかを生徒に示しましょう」
イヤに丁寧な口調で喋る千冬。
真耶の身体は警笛を鳴らし続けている。
真耶「えっ! そっ、そんな無茶な……」
千冬「はっはっは、最近体重が気になると言っていたではないですか。さぁ、行きましょう」
真湯「あーーーうーーー」
ジタバタと手足をバタつかせる真耶であったが、千冬はお構いなしに真耶を引きずって行く。
この日、晴れて全身筋肉痛となった真耶は職員会議で一言も発声することが出来なかった。
897 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:00:35.68 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
898 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:01:06.06 ID:s0E0Sez+o
鈴音「──で、どうなのよ。調子は」
午前の授業が終わり、一同は食堂で顔を突き合わせていた。
昼時とあって食堂は混雑しており良い匂いがあちこちから漂っている。
一夏「俺は上々だなー。皆と違って、イコライザ弄れないからやるのはエネルギー配分だけだったし」
箒「私もそうだ」
鈴音は春巻きと中華春雨の定食セットを。
一夏と箒は2人とも、冷奴と納豆、味噌汁と焼き海苔の和食セットを食べている。
鈴音「はぁ、良いなぁ。私も1組が良かった……」
シャル「鈴も居たら、かなり大変だったろうね。1クラスに専用機が7機……」
ラウラ「我が、シュヴァルツェ・ハーゼ部隊でも3機保有だ。その倍以上……戦争をやっても負けはしまい」
シャルロットはスープカルボナーラスパゲティ。
ラウラはマカロニサラダと、トーストを一枚注文し、既に食べ終えていた。
899 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:01:55.83 ID:s0E0Sez+o
セシリア「実際、1クラスにここまで集まっているのは問題でしょうね」
ミートローフを食べていたセシリアがスプーンを置く。
セシリア「いつ、クラスの力を均等にするため移動を命ぜられるか……」
箒「……」
シャル「……」
ラウラ「……」
一夏と放れたくない。
その気持ちが半分。
もう半分は仲間とはぐれたく無い、その気持ちが彼女達の胸の中にはあった。
鈴音「(はいはい、私は最初からクラスが違いますけどネ)」
岡部「ふう……俺は失礼する。少し眠くてな」
たぬき蕎麦を早々に食べ終えた岡部は1人立ち上がり、食堂を出て行ってしまった。
900 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:02:29.52 ID:s0E0Sez+o
鈴音「ん? 何よ、あいつどうかしたの?」
紅莉栖「明日が対抗戦本番だし、アイツもアイツで少しは緊張してるのよ」
1人、購買で買ったカップラーメンをマイフォークで食べていた紅莉栖がそっけなく答えた。
鈴音「ふうん……まっ、皆頑張ってよね」
一夏「あぁ!」
箒「うむ。誰が相手だろうと手は抜かん」
セシリア「当然ですわ」
シャル「楽しみだね」
ラウラ「私が負けるはずが無い」
全員が全員、力のある回答を口にする。
明日はついにクラス内対抗戦。
久々の実演戦闘と言うのもあり、気合の色が何時ものとは違っていた。
901 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:02:59.27 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………
902 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:03:27.23 ID:s0E0Sez+o
岡部「……」
楯無「あら、おかえりー」
ベッドの上で寝転びながら、漫画を読んでいたのは更織楯無だった。
ドアを閉めて改札を見ると確かに“織斑・岡部”と書かれている。
間違いなく自室だった。
岡部「出て行け」
楯無「やん。倫ちゃんってば酷いっ」
はぁ、と溜息を1つ付いて椅子に腰を下ろす。
そう言えばこいつの顔を見るのもなんだか久々だな、と岡部は思った。
903 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:03:53.55 ID:s0E0Sez+o
岡部「(ん? 久々な気がするが、今朝会ったような……あぁ、違うな。疲れているのか、俺は)」
楯無「倫ちゃん、明日本番でしょ? 元気付けてあげようかなって」
岡部「いらん」
楯無「もー、いけずなんだから。緊張してるでしょ?」
岡部「……」
図星だった。
前日になって、緊張が止まらなくなっている。
初戦。初めて一夏と対峙した時とは違う。
今回のクラス内対抗戦は前もって準備が整った試合。
まさしく、今回こそがデビュー戦になる。
部活動などに入った事が無い岡部倫太郎にとって、このような緊張感は生まれて初めて味わう類のものだった。
904 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:04:20.65 ID:s0E0Sez+o
楯無「んふふー♪ 倫ちゃんってば可愛いんだから」
岡部「うっ、うるさい! この俺が緊張? フン、灰色の脳細胞を持つ俺が緊張などありえん」
楯無「手。震えてるよ?」
岡部「っ!?」
指摘されて、瞬時に手を隠す。
が……震えてなどいなかった。
楯無「あはっ♪」
岡部「……」
無言で楯無を起立させ、ドアまで押していく岡部。
大人気ないとはわかっていても、少しだけこの年上ぶった年下の楯無に苛立ちが積もっていた。
楯無「もう、怒らないでってば。じゃぁ、一言。一言だけ」
岡部「なんだ、聞いてやるからさっさと──」
楯無「良い? 道場で貴方が対峙したのは、IS学園最強であるこの私。更織楯無なの。
ISを纏っていようが、いまいが、関係無い。
私と比べれば、他の子達なんてみーんな、ひよこ。怖くないわよ」
ふざけた色を消した、真面目な声だった。
905 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:04:50.03 ID:s0E0Sez+o
岡部「……」
楯無「ふふっ♪」
楯無は、握り拳を作りトンと岡部の胸にタッチする。
楯無「頑張れ、男の子。“AIC”は強敵よ」
それだけ言うと、扇子を広げ楯無はすっと廊下へと踊り出ていた。
扇子には-贔屓-と書かれている。
楯無「ばいばい。おやすみ♪」
岡部「あ、あぁ……」
風のように立ち去る楯無。
重かった両肩は軽くなっていた。
岡部「年下に励まされてばかりだな、俺は……」
ベッドに寝転がり、明日の事を考える。
緊張はもう無かった。
906 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:05:27.33 ID:s0E0Sez+o
岡部「楯無は“AIC”と言っていたな……アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。
つまり、俺の相手は……」
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
搭乗IS“シュヴァルツェア・レーゲン”
恐らく、IS学園1年生最強の女。
岡部「っふ。ならば、打ち砕いてみせよう。その眼帯ごとな! フゥーハハハハハ!!」
織斑一夏が居ない、男部屋。
1人きりになった岡部は久々に大声で、何時もの笑い声をあげた。
907 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:05:53.81 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
908 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:06:39.96 ID:s0E0Sez+o
IS学園、1年寮廊下では2人の女性が顔を付き合わせていた。
学園内で最も強い女と、最も恐い女。
それがどちらに当てはまるかは定かではない。
千冬「感心しないな。生徒会長」
楯無「あら、千冬センセ」
千冬「織斑先生だ」
楯無「あん。良いじゃないですか」
千冬「なぜ、教えた?」
楯無「だって。まともな“戦い”が見たいじゃないですか」
具体的な言葉は一切使われずに会話が進む。
909 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:07:09.02 ID:s0E0Sez+o
千冬「……」
楯無「緊張状態で、しかも相手がラウラちゃん。秒殺されてもおかしくないですし」
千冬「ふん」
楯無「うふふ♪ 明日が楽しみですね……」
会話を終了しすれ違う2人。
やはり、注目の的は岡部倫太郎だった。
910 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:07:37.00 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………
911 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:08:02.50 ID:s0E0Sez+o
紅莉栖「そう言えば、一夏」
一夏「ん?」
全員が食事を終え、各自がお茶やミルクなどの暖かい飲み物を飲みながら歓談していた。
紅莉栖「岡部が今朝、とっても早い時間に眼鏡をかけた女の子が一夏に会いに来たって言ってたけど……。
どうしてあんな時間に?」
一夏「えっ?」
紅莉栖「岡部はそのまま、2時間近く走りに行って部屋には居なかったから何しに来たのかは知らないって」
少しばかり気になっていたことを口にする。
当事者である一夏より、回りにいた女子の方が強い関心を見せるのがやはり不思議だった。
912 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:08:30.98 ID:s0E0Sez+o
箒「眼鏡……?」
セシリア「と、言いますと」
鈴音「あー、1人しか居ないわね」
シャル「とっても早い時間って、どういうことだろうね?」
ラウラ「ふむ。しかも2時間近く滞在か。意味がわからんな」
一夏「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は知らないぞ?」
慌てふためく一夏。
眼鏡を掛けた友人と言えば、2年生の黛 薫子。
それに──。
一夏「簪……か?」
更織 簪。
その2名位しか一夏の友達には居なかった。
913 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:08:57.26 ID:s0E0Sez+o
箒「ほ、ほう……」
セシリア「タッグを組んだ、あの方ですわよね」
鈴音「私達を総スルーして組んだ、あの子ねー」
シャル「日本の代表候補生だから、仲が良いのかな?」
ラウラ「さて、一夏……」
一夏「あっ、あの……だから、俺はそれ今初めて知った訳で……」
「「「「「説明しろ!!!」」」」」
一夏「ひぃっ」
声が揃う。
その迫力と声の大きさに一夏は身体をすくめた。
紅莉栖「……本当になんだったのかしら?」
織斑千冬が注意に訪れるまで、一夏の叫び声が食堂に響き渡っていた。
914 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:09:23.54 ID:s0E0Sez+o
……。
…………。
………………。
915 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:09:52.42 ID:s0E0Sez+o
─とある布団の中─
簪「(一夏の寝顔……可愛、いかった……な♪)」
今朝方に一夏の寝顔を1時間程眺めて満足した簪が、にこにことしながら携帯ディスプレイを覗いている。
そこに映っているのは、気持ち良さそうに眠っている一夏の寝顔。
簪「……♪」
様々な思いを胸に、1年1組クラス内対抗戦前夜が幕を閉じた。
916 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/16(火) 05:26:14.44 ID:s0E0Sez+o
おわーり。
ありがとうございました。
917 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2012/10/16(火) 15:16:46.70 ID:GqruMVSBo
おつおつ
次も楽しみにしてるわ
918 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/16(火) 15:47:36.59 ID:YfZgkOdvo
かれかれ
919 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/16(火) 19:36:27.82 ID:x4tGmjGEo
乙
そろそろ前回の最初の分岐か
920 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/10/18(木) 08:00:33.26 ID:QINp2uvDO
確か避けるか身体を捻るかみたいな選択肢だったよな
そろそろ次スレの準備だな
921 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:32:45.11 ID:Hp2Uke1jo
投稿します。
922 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:33:54.94 ID:Hp2Uke1jo
>>915
つづき。
……。
…………。
………………。
923 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:34:21.03 ID:Hp2Uke1jo
─第一アリーナ整備室─
ディスプレイから発せられる光が、人影を2つ浮かび上がらせている。
片方の影は長く、もう片方は小さめだった。
紅莉栖「調整データは昨日既に提出してあるから、弄れない」
岡部「うむ。後は戦略だな……」
午前5時30分。
殆どの生徒が未だ寝静まっている中、2人は本日行われるクラス内対抗戦の最終チェックを行っていた。
紅莉栖「それにしても……よりによって、ラウラか……」
岡部「あぁ」
楯無から受けた言葉をそのまま紅莉栖へと報告していた。
然るに、作戦会議だとこの時間から整備室へと篭っているが、
紅莉栖「詰んだ。これは詰んだ」
ガッデム。と声を露に頭を抱える。
紅莉栖が想定していた中で最悪の対戦相手だった。
924 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:34:57.87 ID:Hp2Uke1jo
岡部「失礼なヤツめ、この俺を誰だと──」
紅莉栖「はいはい、ワロスワロス。ったく、シュヴァルツェ・ハーゼがどんだけガチな軍隊かわかってんの?」
岡部「……さぁな」
紅莉栖「通称、黒ウサギ隊。ドイツ軍の何でも屋。破壊工作から隠蔽工作まで何でもござれの特殊部隊よ」
岡部「……」
紅莉栖「ラウラはソコの部隊長。はぁ……最悪のカードね」
岡部「し、しかし──」
紅莉栖「──詰んではいるけれど、ただ負ける訳にはいかない。でしょ?」
岡部「う……うむ」
ドカッ、と椅子に座りこみディスプレイと睨めっこを始める紅莉栖。
流れている映像はラウラ・箒ペアと一夏・シャルロットペアが戦っている動画だった。
925 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:35:30.77 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「基本的には中・長距離。近距離では両手のプラズマ手刀を器用に操り、AICで攻撃を防いでいる……」
何度も何度も、動画を再生してはぶつぶつと独り言を吐く紅莉栖。
岡部に対戦相手を告知されてからというもの、ずっとコレである。
岡部「思ったのだが、これ以上武器を追加することは出来ないものか。
そう、例えばMs.シャーロックの“ブルー・ティアーズ”のような兵器があれば──」
紅莉栖「ビット兵器のこと?」
岡部「うむ。それだ」
“ブルー・ティアーズ”が装備する、ビット兵器を見たときに岡部は少なからず憧れを抱いていた。
幼少の頃より親しんでいた、ロボットアニメに出てくる武器の代名詞的な物に酷似していたことが要因である。
岡部「俺にもあのような装備があれば──」
紅莉栖「ピーキーすぎて岡部にゃ無理よ」
岡部「ぴっ……」
紅莉栖「それに、一夏の“白式”よりも我侭なコアパーソナルなんだから。イコライザなんて無理でしょ、馬鹿」
岡部「ぐぬぬ……くっクリスティーナよ、その台詞を言いたかっただけでは無いのか」
紅莉栖「さんを付けろよ、デコ助野郎」
そこまで台詞を言って、ニヤリと笑う紅莉栖。
対照的に岡部は悔しそうな顔を作っている。
926 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:35:58.63 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「っと、冗談はここまでにして……。
実際問題イコライザが付けられない“石鍵”からしたら、後付装備は無い物ねだり。
ある装備で戦わなければならないわ」
岡部「あ、あぁ」
紅莉栖「ビット兵器にしたってそう。あれは物凄く集中力を使うの。
例えるなら@ちゃんねるを見て、レスをしながらゲームをして、漫画を読んでメールを返信する。
その全ての行動をちゃんと全て理解しながら同時進行するようなものなんだから」
私は出来るが。と付け足す紅莉栖。
岡部は苦々しい顔を作るしかできなかった。
岡部「俺が悪かった。無いものねだりはよしておこう」
紅莉栖「うむ。それが良い」
岡部「で、作戦だが──」
ずっと考えていたものを告げる。
勝てるかどうか、通用するかどうかはわからない。
927 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:36:29.13 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「うんうん……それって、かなりリスキーよ?」
岡部「しかし、それ以外に方法が思い浮かばない」
紅莉栖「あの調整が役に立つ訳ね」
岡部「あぁ……外せば、負けるだろう」
紅莉栖「……ん。わかった、本番時には私がオペやるから実況は任せておけ」
岡部「実況してどうする……」
くくくっ、と小さく笑って岡部が続ける。
928 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:37:26.65 ID:Hp2Uke1jo
岡部「では、サポートは頼んだぞ」
本日、午前10時から開催される1年1組クラス内対抗戦。
第1アリーナから第4アリーナまでを貸し切り、最大2日間かけて行われる。
1年1組が終われば次は2組、3組と順々に行われ最終学年の最終クラスまでが終わるのにおよそ2週間から3週間かかる大掛かりなイベント。
直接戦う訳ではないが、他のクラスや学年にも注目されているだけあって休み時間には見学にアリーナへ訪れる生徒も少なくない。
そして、それが終われば本命のIS学園最大イベントが控えている。
年末に向け、IS学園の行事は生徒達の熱と共に加速を増して行く。
1年1組クラス内対抗戦が開始された。
929 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:37:53.13 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
930 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:38:31.07 ID:Hp2Uke1jo
─第1アリーナ─
どくん、どくんと張り裂けそうなほど心臓は高鳴り、鼓動を続ける。
心拍数が上がっていくのが自身で理解できる。
岡部「……」
紅莉栖「さっ、本番ね」
ピット内には岡部と紅莉栖の2人。
観客席には初戦からあぶれた1組の人間がちらほらと居る程度だった。
931 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:38:57.77 ID:Hp2Uke1jo
今朝のホームルームで千冬から発表されたオーダー表は以下の通り。
1年1組-専用機持ち初戦。
第1アリーナ ラウラ・ボーデヴィッヒ vs 岡部倫太郎
第2アリーナ シャルロット・デュノア vs 篠ノ之 箒
第3アリーナ 織斑一夏 vs セシリア・オルコット
そして第4アリーナでは、訓練機同士による対戦となっていた。
対戦表に目が行き、それぞれの思惑が交差する。
932 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:39:29.10 ID:Hp2Uke1jo
◇
セシリア「やっとですわ……やっと、一夏さんと晴れの舞台で一騎打ちが出来ますわ」
セシリア・オルコットは静かに燃えていた。
実弾装備が無い“ブルー・ティアーズ”にとって、
セカンドシフトを終え“零落白夜”のシールドを手に入れた“白式”には勝ち星を挙げることが出来なかった。
セシリア「“BT偏光制御射撃”-フレキシブル-を会得した私の力……ご覧に入れてさしげます」
ばん。と指でかたどった鉄砲を、写真の向こうに居る織斑一夏に放つ。
その顔は幼子のように、嬉しそうだった。
933 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:39:56.43 ID:Hp2Uke1jo
◇
箒「シャルロットか……」
箒の顔は冴えなかった。
目当ての人物……織斑一夏と対戦出来なかったことだけではなく、対戦相手に理由があった。
シャルロット・デュノア。
1年1組の専用機持ちで唯一第2世代型IS使用者。
にも拘らず、実力は折り紙付きで現状1年生の中ではラウラとの双璧を成していた。
箒「私は、負けない。負けたくない……!」
自分に言い聞かせる。
現行機種で最高のスペックを誇る“紅椿”に搭乗する以上、第2世代に負けるわけにはいかないと言う念が強かった。
934 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:40:26.74 ID:Hp2Uke1jo
◇
シャル「ラウラはオカリンとかぁ。どう? 正直」
2人はアリーナの待機室で言葉を交わしていた。
お互いが戦闘相手でない以上、友達同士で牽制し会う必要も無い
ラウラ「さてな。私はシャルロットと当ると想定して準備してきた。
それが倫太郎になろうと、一夏になろうとシャルロット以上に手を煩わされるとは思っていない」
シャル「あはは……光栄だけど、油断は禁物だよ?」
ラウラ「無論だ。シャルロットこそどうなんだ。相手は箒……第4世代だ」
シャル「うーん、マシンスペックだと正直勝てないよね。雲泥の差だよ」
ラウラ「……」
けれども、シャルロットは不適な笑みを浮かべて話しを続ける。
シャル「でも、IS戦はスペックだけじゃないことを証明してくる」
ラウラ「うむ……」
シャル「じゃぁラウラも頑張ってね」
ラウラ「あぁ。互いにな」
拳を作りあい、コツンと合わせるドイツ代表候補生と、フランス代表候補生。
お互いに背を向け、自分の戦場へと歩んで行った。
935 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:40:52.59 ID:Hp2Uke1jo
◇
一夏「……セシリアとか」
控え室で柔軟体操をしながら、戦いをシミュレートする織斑一夏。
考える事は“BT偏光制御射撃”-フレキシブル-をどう捌くか。
一夏「厄介な攻撃を身に付けやがって……」
そう漏らすが、一夏の口角は上がっている。
純粋に強くなったセシリアと公式に戦えることが嬉しかった。
一夏にとって、セシリアと“ブルー・ティアーズ”は初IS戦の相手であり思い入れが深い相手である。
こうして互いに成長した姿で再び相見えることに喜びを感じていた。
一夏「“ブルー・ティアーズ”相手にとって、不足は無いぜ……!!」
織斑一夏の瞳が、明るく燃え上がった。
936 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:41:19.03 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
937 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:41:49.26 ID:Hp2Uke1jo
─第1アリーナ─
ブザーが鳴り響く。
試合開始の合図だった。
岡部「……時間だ」
ぐっ、と指に装着された指輪に力を込める。
光の粒子が体を包み、一瞬の内に全身装甲のISを身に纏った。
紅莉栖『相変わらず、展開だけは速いわね』
PICが作動し、体が浮遊する。
パワーアシストの充足感が体中を巡り、力強さを感じた。
岡部『調子は万全だ。何時でもいける』
紅莉栖『ラウラの方もOKみたい。健闘を祈る。GOOD LUCK.』
会話をプライベートチャネルに切り替え、会話を終了させた。
岡部『-インフィニット・ストラトス-、鳳凰院凶真……出る!』
両足をカタパルトに装着する。
938 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:42:18.00 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖『5秒前。4.3.2.──発射!』
一気に加速を促し、機体はアリーナへと躍り出た。
“シュヴァルツェア・レーゲン”は既に、地表に降り立ち腕組をして待っている。
その姿はまるで、黒い王のようだった。
岡部『“石鍵”……目標を駆逐する!』
紅莉栖「その台詞はもう固定なのね……」
マイクに手をあて、遮るように紅莉栖が呟く。
紅莉栖『なんでも良いから、気張りなさいよ!』
紅莉栖の声は暗いものではない。
準備は整えた、作戦も用意した。
後は、岡部の帰還を待つばかりである。
939 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:42:45.25 ID:Hp2Uke1jo
-第1アリーナ-
“石鍵” vs “シュヴァルツェア・レーゲン”
岡部『黒い雨……名前通りだな』
紅莉栖『砲戦パッケージ“パンツァー・カノニーア”を装備している。本気よ……』
“シュヴァルツェア・レーゲン”の両肩にはレールカノン“ブリッツ”が装備されている。
なんとも仰々しいシルエットが岡部の目に飛び込んできた。
ラウラ『倫太郎。聞こえるか』
オープンチャネルでラウラからの通信が入る。
940 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:43:12.36 ID:Hp2Uke1jo
岡部『あぁ』
ラウラ『本気で行く。問題無いな』
岡部『無論だ』
即答する。
手加減を期待してもいないし、頼んだからといってしてくれる相手でもない。
腹はとっくの昔に据えていた。
ラウア『良い返事だ』
両肩に装備された“ブリッツ”がその砲口を傾ける。
飛来している“石鍵”に照準を合わせた。
ラウラ『ルーキーだからと言って手は抜かん。覚悟しろ』
941 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:43:41.51 ID:Hp2Uke1jo
-警戒-
《敵IS射撃モードに移行。セーフティのロック解除を確認》
センサーが感知し、警戒を画面一杯に表示される。
岡部『貴様こそ、その眼帯を取らなくて良いのか?』
ラウラ『ッフ。ならば──取らせて見るが良いッ!!』
-警告-
《敵IS 射撃体勢に移行》
ブザー音と共に警告が鳴る。
次の瞬間“シュヴァルツェア・レーゲン”はニ門の砲塔を開け放った。
──キゥゥゥン!!
甲高い音が鳴った。
942 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:44:31.61 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖『避けて!!』
二本の閃光は猛スピードで正確に“石鍵”の頭部を狙い、走って来た。
岡部はハイパーセンサーによる警告と、紅莉栖の声を受け回避行動を取る。
岡部『いきなりかっ……!! ぐうぅぅ!!』
歯を食いしばり、急上昇を行う。
間一髪、刹那のタイミングで攻撃を回避することに成功した。
もし、直撃を受けていたら1撃で半分以上のシールドエネルギーを削られていただろう。
紅莉栖『ふう。何とか初撃は回避出来たわね。良い? あんなの直撃したら一瞬でゲームオーバーだからね!』
ラウラ『ほう……あの時より、回避行動はいくらかマシになったようだな』
ラウラは一夏と岡部の初対戦を思い出していた。
この一週間で行ってきた訓練は無駄ではないと安心する。
自身が教官であるのならば、岡部は生徒である。
生徒の成長を喜ばない教官などいない。
943 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:45:54.47 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『もう少し、様子を見させて貰うぞ』
岡部『次から次へと……忙しない娘だ!』
“シュヴァルツェア・レーゲン”から繰り出される4本のワイヤーブレード。
赤黒く発光する4本のワイヤーが“石鍵”を捉えようと、縦横無尽に迫り来る。
紅莉栖『主力武器の1つ、ワイヤーブレードよ! 捕まったらフルボッコ間違いなし、避けろ!!』
岡部『えぇい! わかっている!!』
縦横斜めと角度問わず飛来するソレを、飛行しながら避ける岡部。
しかし機動力が元々低めな“石鍵”では限界が近かった。
ラウラ『そら、そのままでは捕まるぞ? どうする、倫太郎!』
岡部『ぐぬぅ……!』
迫り来るワイヤーブレード。
岡部はソレを、速度で回避するのではなく体を捻ったり急旋回することで避けていた。
944 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:46:53.10 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
945 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:47:35.49 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「良い? ラウラの攻撃で最高にヤバイのがコレ」
見ていた動画を一時停止し、レーザーポインターでぐりぐりと強調する。
静止画に映っているのはワイヤーブレードを繰り出している“シュヴァルツェア・レーゲン”だった。
紅莉栖「拘束されれば、引っ張られて殴る蹴るわの大暴行」
岡部「ガンガンと良いように殴られる訳か……」
考えただけでも痛かった。
ラウラの性格から言って、仕損じることはないだろう。
捕まったらそこで終了の可能性が高い。
紅莉栖「瞬時加速が使えれば、回避しつつ懐に飛び込むことも出来るけど“石鍵”じゃ無理だし」
岡部「機動力は微妙のようだからな」
何度かテスト飛行を試してみたは良いものの、最高速度の低さは専用機の中でも断トツ1位。
下手をすれば訓練機である“打鉄”よりも低かった。
946 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:48:34.27 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「現状でアンタの一番の武器、それは……」
岡部「“サイリウム・セーバー”か?」
紅莉栖「違う! 機体制御よ」
武器ではないことを強調する。
下手に武器を過信すればそれこそ直ぐに試合は終了する。
“石鍵”の武装において、他機のISに誇れるポイントなどない。
岡部「つまり、この俺のへぁんぱない操縦テクニックで避けろということか」
紅莉栖「へぁんぱないのは“石鍵”であってアンタじゃないけど……まぁそう言うこと」
岡部「しかし、避けきれるものなのか? コレを」
動画では、ワイヤーブレードに捕まりボコボコに殴られている鈴音とセシリアが映っている。
岡部は自分に重ね、ラウラに殴りつけられる姿を投影していた。
紅莉栖「何とかしなさい」
岡部「……」
947 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:49:01.69 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
948 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:49:29.87 ID:Hp2Uke1jo
岡部『軽く言ってくれる……っ!』
くねくねと体を捻り、急上昇急降下を繰り返しワイヤーを避け続ける岡部。
アリーナを精一杯利用することで、ワイヤーの稼動域から離れ回避行動を続けていた。
ラウラ『ほう……ココまで回避行動が上達するとは』
岡部『良い上官に教えを請うたからな』
ラウラ『違い無い。では、次の手だ』
軽口を叩き合う最中も攻撃は続いた。
4本のワイヤーを動かしながらも、ラウラはニ門の砲塔。
“ブリッツ”を再び“石鍵”に標準した。
949 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:49:55.67 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『さぁ、踊れ!』
ラウラの瞳が怪しく光る。
4本のワイヤーを縫う様に、2本の閃光が“石鍵”に向けて走った。
岡部『(これは──避けられ────)』
紅莉栖『岡部!! 右手側にあるワイヤー群に突っ込め!!』
岡部『!!』
逡巡する暇は無い。
一瞬でも紅莉栖の言葉に疑いを持てば“ブリッツ”の直撃を受けていただろう。
けれど、岡部は指示に従いワイヤーへと飛び込んだ。
ギンッ、とブレード部分が被弾し少しばかりのシールドエネルギーが削られた。
950 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:50:27.49 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『な──に……』
岡部『はぁ、はぁ……助かった……』
岡部を捕らえようと動いていたかに見えたワイヤー。
しかし“ブリッツ”を起動し、照準に集中を割いていたのでワイヤーのコントロールに捕縛は組み込まれていなかった。
紅莉栖はソレを見破り、あえて被弾することにより空間を作り最小限の被害で無理矢理安全地帯を制作させた。
瞬時に見破る紅莉栖も異常だが、その指示を全面的に信用し躊躇なくブレードに突っ込んだ岡部もまた異常と言えた。
岡部『ナイスだ、助手よ!』
紅莉栖『ふっ、ふん。良く避けたじゃない……』
自分の言葉を何の躊躇いもなく信じてくれた岡部に赤面してしまう。
岡部なら信用してくれるとわかっていても、いざ目の前でその事実を突きつけられてしまうとくすぐったいものがあった。
951 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:51:01.02 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『クククッ、倫太郎。貴様を舐めていた……良かろう、ココからは戦争だ!』
岡部『眼帯娘よ。本気になるのが少々遅かったようだな』
ラウラ『なに……?』
岡部『周囲を良く見てみろ。設置は完了した』
ラウラ『これ──は』
“シュヴァルツェア・レーゲン”を取り囲むように、浮遊する幾つもの黒い塊。
その形状はラウラの見知ったものだった。
ラウラ『──クレイモア地雷』
岡部『ご名答。さすがに詳しいな……地雷と言うよりも空中機雷と言ったところか』
落ち着き払った岡部の言葉。
全ては相手を惑わす演技だった。
952 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:51:29.80 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『優秀だな……』
岡部『少尉殿がワイヤーでの追いかけっこに夢中であらせられたからな……』
ラウラ『っふ、言ってくれる』
気丈に振舞うラウラだったが、内心は穏やかではない。
完全に格下だと思っていた岡部に一杯食わされた。
ハイパーセンサーの表示に注意していれば、見抜けたものを疎かにしてこの体たらく。
自分を恥じてさえいた。
ラウラ『(威力は充分に見込めそうだな……どうする。“AIC”で防御をするにしても……』
1つ爆発すれば、誘爆し全てが弾けるだろう。
“AIC”で防げるのは一面のみ。
嫌な汗が、額から流れた。
953 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:51:56.33 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『(物理シールドを装備しない事が、裏目に出たか……)』
ラウラの構想は砲撃とワイヤーにより、懐に呼び寄せプラズマ手刀で首を取ると言うものだった。
シャルロット相手に付け焼刃の物理シールドは役に立たない。
“AIC”で捌ききる自信も彼女にはあった。
が、今はソレが裏目に出ている。
ラウラ『(どうする、どうする……)』
岡部『武装展開』
《ピット粒子砲》
左腕に“ピット粒子砲”を呼び出す岡部。
可視光式のレーザーポインターが照準を合わせたのは“シュヴァルツェア・レーゲン”ではなく、“モアッド・スネーク”だった。
954 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:52:23.01 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『(正しい判断だ。私でもそうする)』
岡部の狙いを読み取り関心する。
よくぞここまで成長したものだと。
岡部『眼帯……いや、ラウラ・ボーデヴィッヒよ。ギブアップを推奨するが、どうする』
ラウラ『断る。貴様とて、同じ状況下で降りはすまい』
岡部『残念だ(本当に、残念だ)』
紅莉栖『だから言ったのよ。そう言うの通じる相手じゃないって……』
ここでギブアップをしてくれたのであれば大勝利。
けれど、それを飲み込む相手ではない。
ラウラ『さぁ、何を躊躇う。トリガーを引け』
岡部『ぐっ……』
ニヤリと笑い、言葉を続けるラウラ。
955 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:52:53.49 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『引けば解る。お前の負けだ、倫太郎』
ラウラは左腕のプラズマ手刀を起動させた。
動けるはずも無いのに、近接武器を起動する意味が岡部には理解出来ない。
岡部『(なんだ、あの自信は……)』
紅莉栖『動揺すんな! やる事は変わらないんだから、自分を信じて……撃ちなさい!!』
左手に力を入れて、トリガーに指を掛ける。
フェザータッチ。
羽のように軽く引くだけで、バチュン。と実弾が1発発射された。
放れた弾丸は“モアッド・スネーク”に着弾し、爆ぜる。
ラウラ『──ココだ!!』
弾着寸前、ラウラは眼帯を解き放ち金色に輝く左目。
“ヴォーダン・オージェ”-越界の瞳- を発動させていた。
956 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:53:26.41 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『──見えるッ』
切り札とも言うべき“ヴォーダン・オージェ”を発動する。
金色に輝く瞳は動体視力を数倍にまで跳ね上げた。
──カキンッ。
実弾が“モアッド・スネーク”に当る着弾音を、ラウラは聞き漏らさない。
一瞬にして広がる霧状の煙。
曇る視界。
けれども、怯むことなく作戦を実行する。
957 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:54:02.94 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『レールカノン“ブリッツ”パージッ!!』
両肩に装備された、大型のレールカノンが左右へ大きく放たれた。
それと同時に前方へ“AIC”を作動させる。
ラウラ『──熱反応が無い!? ダミーか!? 小癪な……っ!!』
予期していた衝撃が一切襲ってこない。
しかし、作戦を変える必要は皆無。
後はただただ直進し、切り捨てるのみだった。
ラウラ『スラスター出力、全開っっ!!』
着弾から装備の切り離し。
“AIC”の起動と、前方へ向けての超加速。
ここまでの動作を、流れるようにこなし直進する“シュヴァルツェア・レーゲン”。
ゆえに、クレイモア地雷がダミーであろうと無かろうと関係が無かった。
視界は超高濃度の霧で覆われ、ハイパーセンサーの感度を最大に上げても“石鍵”を補足することが出来ない。
──が。
958 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:54:29.51 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『貴様の居た場所は把握しているっ! 私より先にアクションを起こしていなければ……貴様の負けだ!!』
攻撃する側である、岡部より一手早い行動。
ラウラ『うォォォォォォオオオ!!』
瞬時にクレイモアがダミーであり、衝撃が来ないと判断したラウラは“AIC”を切り、突進しながら右腕のプラズマ手刀を展開していた。
戦いの申し子とも言える瞬時の行動。
岡部1人が考え、戦っていたのなら、この一手で全てが決まっていた。
だが、岡部は1人では無い。
岡部『驚いた……ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴様はなるほど、天才のようだ』
天 才 で あ る 我 が 助 手 の 考 え た 通 り の 行 動 を と る と は。
ラウラ『っく! 居ないっっ!?』
959 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:54:57.55 ID:Hp2Uke1jo
霧を切り裂き、左右のブレードを振った空間に“石鍵”の姿は無い。
つまり、一手先を行っていたラウラのさらに一手先の行動を取られていた。
-警告-
《敵IS 急接近》
ラウラ『この霧……ハイパーセンサージャマーか……!!』
ハイパーセンサーで捕らえた情報が、ワンテンポ遅れてやってくる。
背後から、赤い刃が迫っていた。
960 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:55:29.62 ID:Hp2Uke1jo
◇
紅莉栖『“モアッド・スネーク”作動! 突っ込んでくるわよ!!』
着弾と共に響く紅莉栖の指示。
にわかには信じがたいが、紅莉栖の読みだとラウラは両肩の武器を切り離し爆発の攻撃力をカット。
そのまま直進してくるだろうと、直前に岡部へと通達していた。
岡部に出来ることはただ1つ。
信じて、動くことだけだった。
岡部『エネルギー供給開始。“サイリウム・セーバー”最大出力……』
ほぼ全てのエネルギーを“サイリウム・セーバー”への攻撃力へと転換する。
現在、岡部の居る地点は“モアッド・スネーク”を狙撃した地点から右斜め前方。
たった数メートル移動した地点だった。
961 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:55:59.96 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『うォォォォォォオオオ!!』
2秒としない内に、響くラウラの雄たけび。
数秒前まで自分が居た空間がプラズマ手刀によって切り裂かれた。
岡部『背中ががら空きだ! ラウラ・ボーデヴィッヒ!!』
赤い高濃度のエネルギーが、刀身を纏うように発せられている。
刃が装備されている右腕に力がみなぎった。
ラウラ『後ろっ……!?』
ギリッ、と歯軋りが聞こえてきそうなほどに強く噛み締めるラウラ。
その表情に余裕の色は無かった。
962 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:56:50.33 ID:Hp2Uke1jo
岡部『ココだぁぁぁあああああアアアア!!』
紅莉栖『いけええええええええ!!』
重なる2人の声。
右腕に装備された“サイリウム・セーバー”を薙ぎ払うかのように、内側から外側へと剣を走らせる。
その赤い剣閃は“シュヴァルツェア・レーゲン”左腕部に直撃した。
高エネルギーを纏った刃は一撃で“シールドバリアー”を切り裂き、試合を終わらせる。
──はずだった。
963 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:57:16.49 ID:Hp2Uke1jo
岡部『な──に────』
振り切ったはずの腕は振り切れず、中ほどでその衝突力は消え失せ止まってしまう。
“シュヴァルツェア・レーゲン”の右腕に装備された、プラズマ手刀によって止められていた。
ラウラ『危なかった……“ヴォーダン・オージェ”-越界の瞳-を起動していなければ、間に合いようも無かっただろう』
紅莉栖『背後からの攻撃を、あの状態で防ぐだなんて……』
神速のパルス。
“ヴォーダン・オージェ”-越界の瞳-。極限まで引き上げられた動体反射によって捉えられた岡部の刃は止められていた。
ラウラ『狙うのなら、頭だ。倫太郎……』
岡部『くっ……ウォォオオオオ!!!』
止まった刃を振り切ろうと力を入れる。
パワーアシストを最大限に稼動させるも、その刃がそれ以上“シュヴァルツェア・レーゲン”の腕部を切り裂く事は無かった。
ワイヤーブレードが射出される。
4本のワイヤーが“石鍵”の足を捕縛した。
964 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:57:43.25 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『……』
ラウラはそのまま、ワイヤーブレードを振り回し“石鍵”を地表へと叩き付けた。
土埃を挙げて地面に突き刺さる。
岡部『ぐぬうぅぅぅぅ!!』
紅莉栖『岡部ぇぇぇ!!』
揺れる視界。
何時の間にか“モアッド・スネーク”が作り出した高濃度の霧は晴れていた。
地表へ降り立つ、黒き雨。
ドイツの冷氷。ラウラ・ボーデヴィッヒの口が開く。
965 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:58:09.98 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『降れ、倫太郎。貴様の負けだ』
岡部『……』
大地に叩き付けられた際に“シールドバリアー”が作動し、多量のエネルギーが削られてしまった。
“サイリウム・セーバー”に供給されたエネルギーを併せて、“石鍵”には殆どエネルギーが残されてはいない。
しゅるしゅると、足を拘束していたワイヤーブレードの捕縛が解かれる。
ラウラ『頭部を狙わなかったその甘さが敗因だ。さぁ、降れ。エネルギーは残されていまい』
紅莉栖『岡部……もう……』
岡部『“断る。貴様とて、同じ状況下で降りはすまい”……だったな』
一瞬の沈黙の後、ラウラが口を開いた。
966 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:58:38.99 ID:Hp2Uke1jo
ラウラ『相済まなかった。私は貴様を侮っていた。最後まで、全力で叩き伏せよう……!!』
攻撃態勢に移る“シュヴァルツェア・レーゲン”。
レールカノンを失った今、攻撃手段はワイヤーブレードとプラズマ手刀。
ラウラはワイヤーブレードを四方向に射出し“石鍵”に狙いを定めた。
そして自身もスラスターを唸らせ、突進する。
先制するワイヤーブレードに気を取られれば、後追いのプラズマ手刀に切り裂かれる。
かと言って、前者を蔑ろにすれば捕縛され切り裂かれる。
岡部『どうする、どうする──このままでは終わる』
岡部『くそっ────あの攻撃さえ────』
──あの攻撃の軌道さえ、読めれば。
967 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:59:23.41 ID:Hp2Uke1jo
ワイヤーブレードを無視する事は出来ない。
蛇の様に複雑に動くワイヤー郡。
空中なら兎も角、地上でソレを避けきる事は今の岡部には出来なかった。
紅莉栖『岡部、逃げてぇぇぇ!!』
悲痛を伴う紅莉栖の叫び。
けれど、今の岡部には届かなかった。
岡部『軌道さえ、読めれば……』
棒立ちになる“石鍵”。
ハイパーセンサーをフル稼働して、軌道を読む。
968 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 04:59:49.79 ID:Hp2Uke1jo
岡部『無……理だ……』
縦横無尽に迫り来るワイヤーブレード。
安全地帯など、ありはしなかった。
残りエネルギー残量も無く、悪あがきも出来ない。
岡部は静かに目を瞑った。
諦めかけ目を閉じたその時、ジャキッ。と言う聞き慣れない音が岡部の耳に届く。
“石鍵”の両肩部のユニットが音を立ててスライドした。
両肩部から円柱状の何かが一対、射出された。
969 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:00:17.15 ID:Hp2Uke1jo
岡部『な、んだ……』
ラウラ『……っ!?』
突然表れたパネルに、情報が表示されていく。
《戦闘経験値が一定量に達しました。新ガジェットを構築完了しました。伴い、第1ゲートを開錠します》
新ガジェット。
ゲートの開錠。
理解できない単語が並ぶ。
ゲート開錠の表示と共に、“石鍵”のエネルギー残量が回復──。
もとい、“総エネルギー量が大幅に増えた”。
ラウラ『今更何が起きても、遅いっっ!!』
お構いなしに突進を慣行するラウラ。
絶体絶命。考える時間などないと言うのに、岡部には酷くゆっくりと時間が流れるように感じられた。
970 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:00:43.78 ID:Hp2Uke1jo
───────────────────────
《“刻司ル十二ノ盟約”-パラダイム・シフト- 》
───────────────────────
岡部『パラダ……』
紅莉栖『嘘……“無段階移行”……』
紅莉栖が信じられないと呟く。
装備をISが精製する。
つまり、それは“無段階移行”と言う観測自体が稀な現象だった。
《全知観測型ビット兵器。“刻司ル十二ノ盟約”全ての事象を観測し操縦者に──》
971 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:01:10.30 ID:Hp2Uke1jo
岡部『なっ、何でも良い! 時間が無い!! 起動だ!!!』
説明をスキップし強引に起動させる。
円柱状のビットに亀裂が入り、分離しアリーナへと拡散した。
その数、12機。
ラウラ『ビット兵器……、使う暇など与えんっ!!』
“石鍵”から放たれたそれはセシリアが得意とする“ビット兵器”の形状をしている。
どんなに素早く射撃をされたところでラウラの衝突力を止めることは出来ない。
972 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:01:39.66 ID:Hp2Uke1jo
岡部『間に合わな──』
眼前に迫る4本のワイヤーブレード。
その鋭利な牙は容赦なく“石鍵”に襲い掛かってきた。
巻き上がる土埃。
岡部に逃げ場など無い。
ラウラ『…………ッッ』
けれど、ラウラの表情は曇っている。
苦虫をすり潰したような、そんな顔だった。
スラスターでの突進をやめ、停止する。
ハイパーセンサーで状況は掴めていたが、視認して愕然とした。
973 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:02:06.01 ID:Hp2Uke1jo
岡部『……』
ワイヤーブレードは全てが大地に突き刺さっている。
岡部は半歩前に進み、唯一と言って良いほどの安全地帯へと歩を進めていた。
“観測”した結果、その場所だけが唯一のセーフティーゾーンとわかったから、その場所へ移動した。
ただ、どうしても4本目のワイヤーブレードだけは避けられ得ない。
それもわかっていた岡部は、右腕の“サイリウム・セーバー”で、ブレードの軌道を少しだけ変えることにより、全ての攻撃を回避していた。
ラウラ『……』
状況が掴めないラウラはプラズマ手刀での追撃を止め、岡部を睨んだ。
例え熟練のIS操縦者と言えど、あの極限の状況下で全てのワイヤーを避けることなど不可能。
それこそ、千冬クラスの操縦者でなければ出来ない芸当だった。
974 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:02:36.61 ID:Hp2Uke1jo
岡部『う……あ、あ……』
睨まれた岡部。
けれども、その視点はラウラを見てはいなかった。
紅莉栖『──かべっ!? 岡部!? 岡部!!』
先ほどから紅莉栖が何度も呼びかけているが応答がない。
返事をする余裕がなかった。
岡部『くっ……ぁ……』
片膝を付き、頭を抱えてうなだれている。
975 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:03:03.30 ID:Hp2Uke1jo
岡部『あ、あ……』
紅莉栖『ちょっと! どうしたの!? 聞こえてるっ!?』
岡部『──ダ、めだ……情……報量が……多す、ぎて……頭が……』
“石鍵”の展開がとかれ、岡部はそのままアリーナへと倒れんだ。
操縦者保護プログラムが作動し、操縦者である岡部の意識を寸断させていた。
紅莉栖『岡部!? 岡部っ!?』
岡部『…………』
岡部は完全に意識を失い、勝負の続行は不可能となっていた。
ラウラ『……』
第1アリーナには、勝者であるラウラ・ボーデヴィッヒのみがISを纏っていた。
976 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:03:34.85 ID:Hp2Uke1jo
-第1アリーナ-
“石鍵” vs “シュヴァルツェア・レーゲン”
勝者“シュヴァルツェア・レーゲン”
977 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:04:20.47 ID:Hp2Uke1jo
初日の日程が終了し、電光掲示板は煌々と結果を発表していた。
1年1組-専用機持ち初戦
第1アリーナ 岡部倫太郎 vs ラウラ・ボーデヴィッヒ
勝者 ラウラ・ボーデヴィッヒ
第2アリーナ 篠ノ之 箒 vs シャルロット・デュノア
勝者 シャルロット・デユノア
第3アリーナ 織斑一夏 vs セシリア・オルコット
勝者 セシリア・オルコット
映し出されている勝者名。
皮肉にも、勝者の名前に日本人の名前は1つも無かった。
978 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:04:50.05 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
979 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:05:18.08 ID:Hp2Uke1jo
箒『くそっ! 何故だ、何故当らない!!』
“雨月”と“空裂”によるエネルギー状の刺突と斬撃。
それは虚しくアリーナの床に傷を付けるだけだった。
シャル『それじゃぁ、当らないよ!』
大地をホバリングするように疾走する“ラファール・リヴァイヴ・カスタムII”
攻撃を避けては、連装ショットガン“レイン・オブ・サタデイ”を“紅椿”にお見舞いしていた。
シャルロットがトリガーを引くたびにガリガリと“シールドエネルギー”が削られていく。
自分の攻撃は当らず、シャルロットの攻撃だけが当っていた。
次第に箒の心へ焦りが灯り始めている。
箒『ならば……これならどうだ!』
肩部ユニットがスライドし“穿千”が姿を現す。
箒は出力可変型ブラスターライフルの出力を最大にした。
980 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:05:45.05 ID:Hp2Uke1jo
箒『一気に決める……!! はぁぁぁ!!』
シャル『一夏も箒も一緒だね。焦ると直ぐに大技を使っちゃうんだからさ!』
“穿千”から放たれる高出力の弾丸。
シャルロットはソレをホバリングで回避した後、すぐさま“瞬時加速”を発動させていた。
宙に浮いていた“紅椿”と地に居た“ラファール・リヴァイヴ”。
その間合いは一瞬の内に無くなっていた。
箒『イグニッションブースト……!』
シャル『“疾風”の名前は伊達じゃないよっ!』
シャルロットが“瞬時加速”を行った時点で試合は決していた。
既に回避、防御、全ての動作が間に合わない。
シャル『“絢爛舞踏”で回復されると厄介だからね。高攻撃力の武器を使うのを待っていたんだ』
零距離。
“紅椿”の腹部に“灰色の鱗殻”が突き刺さった。
981 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:06:11.88 ID:Hp2Uke1jo
箒『────っっ!!』
69口径のパイルバンカーが火を噴いた。
ガン、ガン、と腹部を貫くように衝撃が続く。
たった2発で“紅椿”の“シールドエネルギー”は底を尽き、敗者が決まる。
箒「……」
敗因は幾らでもあった。
挙げれば限が無いほどに。
シャルロットの戦法に惑わされ、自分の戦いが出来なかった。
“砂漠の逃げ水”とは良く言ったもので、苛立ちが積もりらしくない遠距離戦を選択してしまった。
“絢爛舞踏”があるからと後先を考えずエネルギーを多用してしまい、そこをシャルロットに突かれた。
箒「一夏……お前は、勝てたか?」
ロッカールームで1人呟く。
箒の声は震えていた。
982 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:06:39.24 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
983 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:07:06.24 ID:Hp2Uke1jo
一夏『強い……!!』
上下左右から放たれるビット兵器からの攻撃。
それを回避し、時には“零落白夜”のシールドで凌いでいる。
ここまでは何時もの“ブルー・ティアーズ”だった。
けれど、セシリアも成長している。
何時までも停滞しているイギリス代表候補生ではなかった。
一夏『なっ────ぐぁぁっっ!! ……っ、またか!?』
背後から襲いくるBT射撃。
これで3度目の被弾だった。
984 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:07:32.62 ID:Hp2Uke1jo
セシリア『…………』
セシリアの目は真剣その物だった。
4機のビット兵器操作に加え“BT偏光制御射撃”を織り交ぜているのだから、集中を切らす余裕は無い。
一夏『以前のような隙が無い……』
以前のセシリアであれば、ビット操作時は他の行動が出来なく、そこに隙があった。
しかし、今では“BT偏光制御射撃”により以前のような隙は見当たらない。
無理矢理にでも攻略の糸口を見つけねばならない一夏は、切り札を使用した。
一夏『この攻撃を掻い潜って“瞬時加速”……決めるっ!!』
セシリア『甘いですわ』
セシリアはあえて、ビット兵器から逃げられる道筋を1つだけ用意していた。
一夏は思惑通りその道筋を見つけ、ターゲットである“ブルー・ティアーズ”に向け“瞬時加速”を行おうとしている。
セシリア『────ばん』
“スターライトmkIII”。
“ブルー・ティアーズ”の主力武装である巨大な特殊レーザーライフルが“白式”を貫いた。
985 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:07:59.20 ID:Hp2Uke1jo
一夏『なっ……ビット兵器を動かしている間、セシリアは……』
セシリア『えぇ。ですから“動かすのを止めて”おりましてよ』
一夏が“スターライトmkIII”の射撃斜線上に躍り出た瞬間、セシリアはビット兵器の操作を辞めた。
操縦を失った4機のビットは地上へと力なく落ちていく。
一夏『マ……ジ、かよ』
ビットが地上に激突し、破壊される前に勝負は付いた。
一夏『くそっ……』
全ての“シールドエネルギー”が消失し、地上へ落下する“白式”。
勝利を得たセシリアは直ぐに集中をし直し、ビット兵器を呼び戻した。
セシリア『これが、わたくし。セシリア・オルコットの実力ですわ!』
こうしてセシリアは、勝利と共に失われた自信を取り戻した。
986 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:08:38.39 ID:Hp2Uke1jo
一先ず、おわーり。
次スレを立ててきます。
987 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:26:35.38 ID:Hp2Uke1jo
Steins;Stratos -Refine- U
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1350591118/
次スレです。
988 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:29:10.71 ID:Hp2Uke1jo
……。
…………。
………………。
989 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:29:39.44 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「以上。午前の部でした まる」
岡部「……」
目を覚ますと、そこはベッドの上。
体に痛みは無いが、頭痛だけが未だに岡部の頭に響いていた。
空中投影ディスプレイを操作しながら、戦闘動画を岡部に見せる紅莉栖。
岡部はそれをベッドで寝ながら見ていた。
岡部「なぁ、助手よ……」
紅莉栖「ん?」
視線を紅莉栖の手元へ移す。
どうにも空中投影ディスプレイが気になっていた。
岡部「お前は以前から、その投影ディスプレイを使っていたか……?」
紅莉栖「? 何言ってんの? んー……微妙ね、今ほど多用する機会無かったし」
岡部「そうか……」
紅莉栖「急にどうしたの?」
紅莉栖が首を傾げる。
クラス内対抗戦の話題も他所に、いきなりディスプレイの話を振ってきたのだから当然の疑問だった。
990 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:30:05.78 ID:Hp2Uke1jo
岡部「いや、少し寝ぼけているようだ。まだ頭がぼやけている」
そう言って掌を頭に押し付ける。
ズキンズキンと、頭痛が響く。
紅莉栖「あぁ、うん。結構ハデな倒れかた下からビックリしたわ」
岡部「……」
紅莉栖「──で、新しいガジェットだけど」
本題へと話題をシフトする。
話したいことが山積していた。
岡部「あぁ……」
そんな紅莉栖の心情とは裏腹にそっけない返事をする。
気分がどうにも乗らなかった。
紅莉栖「見て」
投影ディスプレイを指でなぞり、岡部の前へと引き寄せる。
991 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:30:36.58 ID:Hp2Uke1jo
───────────────────────
《“刻司ル十二ノ盟約”-パラダイム・シフト- 》
───────────────────────
992 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:31:03.52 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「なんつー厨ニなネーミングセンスよ……」
一瞬、時が止まる。
そのネーミングに岡部が硬直した。
岡部「……お、俺が考えた訳じゃない」
紅莉栖「束博士の言う限りじゃ、アンタが全て起因になっている訳だが?」
岡部「…………」
ぐうの音もでなかった。
中ニ的だとは理解しつつも、どこかでカッコ良さを感じてしまう辺りそうなのだろうと納得してしまう。
993 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:31:29.91 ID:Hp2Uke1jo
紅莉栖「まぁ。良いわ──で、そのパラダイムなんだけど……」
紅莉栖の説明は端的でわかりやすかった。
全知観測型ビット兵器。12のビットが事象を観測し操縦者にリアルタイムで状況を伝達。
最大稼働時にはどこまで観測されるのか、検討も付かないと言う。
現状の稼働率は30%。
それでも、人間の脳では処理しきれない情報量で脳がパニックを起こす。
今のままでは使い物にならない。
紅莉栖「──って訳」
なるほど、と岡部が頭を傾ける。
情報量が多すぎて自身の脳がパニックを起こしたのだと理解した。
994 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:31:59.92 ID:Hp2Uke1jo
岡部「しかし、またしても微妙な……」
紅莉栖「そうでも無いわ。出力を10……いや、7.8%ほどに落せば使えると思う。それで充分戦いになる」
岡部「そうか……」
紅莉栖「多分、100%で稼動することを前提にエネルギーが別途用意されていたんでしょうね。
“石鍵”の“総エネルギー量”結構凄いことになってるわよ。
これを、他に流用すればもっとマシな戦いが出来るわね」
岡部「ビット兵器はオマケだな、扱いきれない物に割くエネルギーなどない」
紅莉栖「違いない」
軽口を叩き合う2人。
紅莉栖が無理矢理にでも明るく振舞おうとしているのが岡部にはわかった。
995 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:32:27.05 ID:Hp2Uke1jo
岡部「助手よ……」
紅莉栖「ん?」
岡部「済まなかったな。負けてしまった」
紅莉栖「……相手はラウラよ? 実際、良くやったわよ」
岡部「あぁ……」
IS学園1年1組 クラス内対抗戦。
午前の部が終了した。
996 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 05:32:54.70 ID:Hp2Uke1jo
おわーり。
次スレに移行します。
997 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 06:43:07.22 ID:Hp2Uke1jo
埋めます。
998 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 06:43:33.64 ID:Hp2Uke1jo
埋め。
999 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 06:43:59.58 ID:Hp2Uke1jo
埋め。
1000 :
◆3R1.cwV0LI
[sage saga]:2012/10/19(金) 06:44:26.68 ID:Hp2Uke1jo
終了。
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美琴「何、やってんのよ、アンタ」垣根「…………ッ!!」 @ 2012/10/19(金) 00:35:10.43 ID:X8QATbm20
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