ほむら「幸せに満ち足りた、世界」2.5(まど☆マギ×禁書)

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124 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 02:58:54.24 ID:gLShNy640
それでは今回の投下、入ります。

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>>123

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「それで、百江なぎさの確保には失敗か」

「ホテル・ニューアスナロ」スイートルームで、
レディリー=タンクルロードが確認する。

「見滝原、ホオズキの魔法少女が本格的に動き出してる。
ミチルにも接触して来たってなると、聖団の仕業だと割れるのも時間の問題だ」
「ミチルに接近して来たのは風見野の佐倉杏子か?」

浅海サキの言葉に、レディリーが聞き返す。

「うん、佐倉杏子ちゃんに、それから見滝原の暁美ほむら。
杏子ちゃんとは前に会った事があるから」

ミチルが応じた。

「元々、佐倉杏子は暁美ほむら初め巴マミのチームと親しい関係にある。
それは調べがついている」

レディリーが言う。

「今、時間の問題と言ったけど、もう既に確定しているでしょうね」
「あたし達がこうやって夜逃げして来てる時点でな」

御崎海香の言葉に、牧カオルが続いた。

「巴マミ、詩音千里のチームと交戦、百江なぎさの確保に失敗して、
そしてミチルに接触して来た事が繋がったから、
即座にデータを持ってこっちに移動して来たけど」
「賢明な判断ね」

海香の言葉に、連絡を受けて受け容れを即断したレディリーが応じる。
125 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:04:15.25 ID:gLShNy640

「根本的な事を確認したい」

浅海サキが言う。

「当たり前だが、私達がやっている事は犯罪だ、
法に触れている、相手にも家族もいる、
魔法少女の仁義で言っても袋叩きにされても文句は言えない」
「そんな事、させる訳ないだろっ」

サキの言葉に若葉みらいが割り込む。

「本当に、それだけの価値はあるのか?」
「それを確答出来るなら、こんな手段はとっていない」

サキの質問に応じたのは、同じ聖団仲間の聖カンナだった。

「根拠と言えるのはレディリーの占星術と私のコネクト、
しかも、その技術でもはっきり結果が出ている訳じゃない、
むしろ、理論的には異常なし、と結論付けるのが当たり前の勘頼み」
「それでも、何かがある、んだよね?」

カンナの言葉に、和紗ミチルが応じる。

「ああ、私はそれを感じる。特に、かずみのジェムからだ。
かずみにコネクトする反応には何か、違和感とも言えない違和感がある。
胸騒ぎ、とでも言うべきか」

要領を得ない説明に、集結した聖団のメンバーも言葉が見つからない。

「私の占星術でも同じ反応よ。理論的には異常なし、むしろ良好。
だけど、私に告げる何かがある。その鍵になるのが昴かずみのソウルジェム。
実力者揃いのマギカ集団が本格的に動き出したとなると、猶予はないわね」
「後、どれぐらい必要なのかしら?」

レディリーの言葉に海香が質問した。
126 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:10:04.16 ID:gLShNy640

「本来ならあの四人、百江なぎさに加えて日向カガリ、暁美ほむら、鹿目まどか。
この四人はぜひとも確保したかった。

だけど、日向カガリは美琴ツバキ、日向マツリとのセットが多くて手出しが難しい上に、
カンナとこちらの調べでは、聖団の乙女の力をもってしても面倒な相手。

暁美ほむらと鹿目まどかは対の存在、引き離す事は危険過ぎると私の占いが告げている。
現実的にも、仲間との行動が多い上に、
暁美ほむらの能力も手出しが難しい類のものらしい」

「じゃあ、無理なのか?」
「いや」

サキの言葉をレディリーが否定する。

「元々、欲を言えば切りがない事でもあるわ。
リストアップした中からピックアップした対象者となる魔法少女。
範囲を広げて調べればまだまだ幾らでも出て来る筈よ。

鹿目まどかは、対象者とはむしろ正反対の資質の反応だけど、
だからこそ、本来は要として確保したかった。

だけど、これだけ集まれば、決行の見込みは立った。
何より向こうの動きに猶予が無い。取り掛かる」

「そういう事だ」

レディリーの言葉に、カンナが続いた。

「とにかく、計画を実行する。話はそれからだ。
それでどんな結果が出るか。
その結果次第では、総員で土下座する事になるが」
「あの様子だと、それで生きて帰れるかね」

カオルがややおどけた口調で言うが、懸念は真面目なものだった。

「元々こちらで持ち込んだ話、お金で片が付く事なら幾らでも
ジュラルミンケースで往復ビンタしてあげる」
「いいだろう」

レディリーの言葉にサキが続く。
127 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:16:12.44 ID:gLShNy640

「かずみに対する懸念がある、カンナがそういうのなら私は信じる」

若葉みらいがすっと視線を向ける中、サキが言った。

「他に方法が無いならその方法で最善を尽くす。それだけだ。
それが世の中の罪に当たると言うなら、私はそれを背負う」
「ボクも背負うよ、サキ」
「そういう事ね」

同調したみらいの後で、海香が言う。

「現実問題として、もう後戻りは出来ない。
巴マミ、美琴ツバキのグループはすぐにでも私達を狙って来るでしょう。
その時に手土産が出来るか土下座するか。
何よりも、かずみへの懸念が一欠片でもあると言うなら、
私達は誰を敵に回しても払拭する」

「当然だ」

海香の言葉に、カオルが力強く頷いた。

「ありがとう、みんな」

かずみが上ずった声で言い、顔を上げたかずみの頭を
ミチルがポンとぽんと撫でた。
128 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:19:49.94 ID:gLShNy640

 ×     ×

「暁美さん、今日もお休みですわね」

学校のお昼休み、
まどかとお弁当を共にしていた志筑仁美が言った。

「うん、お家の都合で何日か留守にするって」
「早乙女先生もそうおっしゃっていましたけど」

まどかが説明するが、仁美はどこか不安げだ。

「暁美さんもお休み………寂しい、ですわ」

ストレートには口に出さない。それだけに精神的に厳しい。
一番明るいムードメーカーの物言わぬ失踪は、
それだけの空白を齎していた。

ーーーーーーーー

放課後、まどかは学校の玄関でマミと合流していた。
事態が見えて来た今、なりふり構ってはいられない。
まどかにとってマミは優しい先輩だが、
珍しく一緒に下校しているとさやかとほむらの不在が身に染みる。

「メール、届いたわよね?」
「はい、ほむらちゃん今からマミさんのお部屋で合流したいって」
「何か、分かったのね」
129 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:23:27.12 ID:gLShNy640

ーーーーーーーー

マミルームには、マミ、織莉子、椿・遥香チームの全員、
失踪が確認された者以外の全員が集結していた。
ほむらが、マミのチームと織莉子、ホオズキの面々に資料を配る。

「御崎海香、牧カオル、和紗ミチル、昴かずみ。
この四人の最近の携帯電話の位置情報よ」

ほむらの説明を聞きながら、一同は地図資料に目を通した。

「百江なぎさちゃんが襲撃されたその日の位置情報、
四人が集まっていたセルのメイン施設ホテルニューアスナロ。
そこで聞き込みをかけたらビンゴだったよ」

日向華々莉が説明を続けた。

「四人とその仲間はホテルのスイートに泊まり込んでる。
当日の部屋の借主はレディリー=タンクルロード。
科学の学園都市の大物経営者。
彼女も随分前から借りてたこの部屋を次の日に引き払ってる」
「………げっ、何これ?」

華々莉の説明と共に、レディリーの資料を見た成見亜里紗が言った。

「科学の学園都市、何でもありね………」
「表向きだけでもこれよ、まだまだなんか出て来るんじゃないの?」

詩音千里の言葉に、華々莉が言った。
130 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:27:27.33 ID:gLShNy640

「こんなもの、どうやって手に入れたのよ」
「ハッキングが出来たら一番簡単だったけど、
それが無理だったから、人間の方をハッキングさせてもらったわ。
日向カガリの能力で警察を動かして、関係する情報を引き出してもらった」

マミの疑問にほむらが応じる。

ーーーーーーーー

(回想)

「何だね、君達は? ………」

京都府警管内のとある警察署署長室で、部屋の主が不意の訪問者に声を掛ける。
フードを被ったままのジャンパー姿の人物とスーツ姿の女性。
それが、面会予定もノックも無しに堂々と立ち入って来たのだから、
署長から見て不審人物以外の何物でもない。

「お静かに」

日向華々莉がジャンパーのフードを少しずらして声を発すると、
署長がデスクの上のスイッチに伸ばした手が止まる。

「これより警察庁長官及び京都府警察本部本部長からの極秘指令を伝えます。
従って、他の者の出入りは禁止していただきたい」

華々莉の言葉に、署長が姿勢を正した。

「改めまして、わたくし内閣総理大臣特別秘密補佐官秘書を務める加賀爪、と申します。
これより、わたくしの上司の話を聞いていただきます。
彼女の話には一片の嘘も間違いも無い、と言う事を最初にご理解下さい」

華々莉の言葉と共に、彼女に手で示されたスーツ姿の女が動き出す。
署長の前に移動した彼女が身に着けたリクルート風のスーツは全体に半サイズ程小さいらしい。
ブラウスのボタンを上から三つ開放しながら、
膝上四捨五入二十センチのタイトスカートを合わせたスーツをきりっと着こなしている。
131 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:31:07.70 ID:gLShNy640

「初めまして。わたくし、
内閣総理大臣特別秘密補佐官を務めます織田みくり、と申します。
京都府警察本部長は警察庁長官及び内閣総理大臣の承認を得て、
貴方に対して私の指示には絶対に従うべし、
全ての責任は本部長、引いては総理大臣が負う、との命令を下しました。
その事をまずご理解下さい」

髪をアップに纏め、赤縁眼鏡を装着した
スーツ姿の美国織莉子が宣告と共に優美に一礼する。

「あなたには、この警察署に設置された廃ビル爆破事件捜査本部、
その中からあなたを班長、
警部一名を主任とした捜査班を一つ編成して引き抜いていただきます。
捜査班は、口が堅く手堅い人間を揃えていただきたい」
「お言葉ですが補佐官」

織莉子の唐突過ぎる指示に、署長は真面目に応じる。

「私にその様な権限はありません」
「しかし、経験と人望はあります。
京都府警に於いてノンキャリアの刑事人脈を実質的に掌握しているのはあなた、
その事を把握した上での指示です」

そう言って、織莉子はデスクに一台の携帯電話を置く。

「この電話に一番最初に登録された番号、アドレスは府警本部長に直結していると考えて下さい。
あなたからの要請があれば、
府警本部長以下が必要な体裁を整え、指示命令を下す体裁になっています。
あなたが選んだ捜査班のメンバーを伝えたならば、
そのメンバーには名古屋のここ、このホテルの部屋に極秘に集合する様に出張命令が下ります。
もちろん、あなたも含めてです」

織莉子が、携帯電話を操作し画面を示しながら告げる。
132 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:34:53.87 ID:gLShNy640

「名古屋、ですか」

「ええ、そこであなた達には、
私の指示に従って独自の捜査、と言うより調査を行っていただきます。
はっきり言って爆破事件の捜査とは全く関係はありません。
公式には、上が独自に仕入れたネタの裏取りが空振りで終わった、と言う結果になりますが、
人事評価の上では十分な配慮が為される様に取り計らいます。
元々この事件の捜査は公安主導で刑事警察は初動の足場固めに限定されるものです。
公安にも、警備局を通じて念のため無駄足を踏んでもらっているだけだと根回しをしておきます」

「………補佐官」
「何でしょうか?」
「そもそも、爆破事件自体が………」
「元々完全に廃墟だった廃ビルが死傷者を出す事も無く
軍用火薬を用いて綺麗に瓦礫の山になりましたね」

赤縁眼鏡を通した織莉子の笑みは、実に魅力的な女性の微笑みだった。

「テロリストやシンジケートと言った枠では収まらない、
世界存亡の危機が迫っています。
今は、と言うより恐らく永久に詳しい説明すらできませんが、
今回の事はそれを回避するための超法規的措置です。

そのために私が絶対的な権限を行使すると言う事に就いては、
日本はもちろんアメリカ、イギリス、EU、中国ロシアに至る迄、
各国の政府代表が承認している。

こういう事は言いたくありませんが、
少なくともあなたと府警本部長は完全にCIA、DIAに掌握されている。
私の一言であなた達の免職はもちろん刑務所、その上すらあり得る、
もちろん真実が何であれ関係なく、です。
それだけの事態である事をご理解下さい」

「………了解しました」

「敢えて言います、極秘捜査班の仕事は、
私の指示に従い必要な情報を収集する、それだけです。
まともな説明も何も期待しないで下さい。
知る事それ自体に大変な危険の伴う事です」
133 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:38:43.88 ID:gLShNy640

「厳しい、ですな」

「はい。そのために、
府警本部長と裁判所は完全にこちらの、貴方の支配下に入ります。

適当な名目で主任警部が令状請求を行えば、
裁判官がそれをフリーパスで通す様に手配します。
同じく、京都府警本部の鑑識も科学捜査研究所も、
あなたがこの携帯を通じて要請を出せば、
適当な名目での依頼でもただちに通る様に手配が行われます。

有体に言いましょう、形さえ整っていれば申請書、報告書は
落書きでもでっち上げでも構わない。
形式上は完全に犯罪ですが、これは超法規的措置です。
最悪でも全責任は総理が負う、あなた達が罪に問われる事は無い事を保障します」

そう言って、織莉子は膨らんだ茶封筒をデスクに置く。

「捜査費用の一部です。名古屋で追加をお渡しします。
金で買える時間と情報には糸目をつけないで下さい。
経費に関しては書類も領収書も不要、完全に自由裁量です。
調査が終わり次第、全員に相応の特別手当が支給されます。
これも、書類には残らない現金です。
もう少し詳しい事は、名古屋で集合した時点でお話しします」

ーーーーーーーー

(回想修了)

「何故に京都?」
「彼女、カガリさんの能力で全てをカバーするのは難しいと言う事よ。
だからある程度はトップダウンの極秘捜査と言う形式をとったけど、
上からの命令でやらされてるだけだと、
地元で対象者が知り合いだと変に勘ぐられるリスクが大きくなる。
それはなるべく避けたかったと言う事」

ほむらの説明を受けて、杏子の当然の疑問に織莉子が付け加えた。
134 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:42:37.34 ID:gLShNy640

「その、捜査のための費用はどこから?」
「少なくとも紛失して良心が痛む類のお金でない事だけは保障するわ」
「警察関係を押さえていく内に、
帳簿上は既に支出されてて幹部の手元で自由裁量な現金が結構あったからね、
その辺もまとめて使わせてもらったけど」

詩音千里の問いにほむらがファサァと黒髪をかき上げ、華々莉が補足するのを
成見亜里紗は笑みを引きつらせながら聞いていた。

「それで、四人組の携帯の位置情報を突破口にホテルを割り出して、
ホテルと御崎海香邸、その周辺の防犯カメラの録画データを集めるだけ集めた」
「それも京都府警に?」

詩音千里の問いに、説明していたほむらが頷いた。

「こっちの警察にも私が根回ししたけどね。
所轄の生活安全課の課長押さえて、特に公共の防犯カメラのデータは誰が持ってるか、
関係する情報を出させて、スムーズに押収出来る様に根回しもしてもらった。
それも、署長と県警本部の本部長と生活安全部長からの重要極秘命令って事にしてね」

華々莉が自分達の動かした経緯を報告する。

「押収した録画データは、京都府警察本部の科学捜査研究所に解析させた」
「それって、あのぼやけた画像をはっきりさせる技術?」
「そう。それに、別々の映像の中のどれが同じ人物であるかも可能な限り特定した」

千里の問いに、説明を続けていたほむらが応じる。

「それで、四人組と常時つるんでいる残りのメンバーのおおよその顔写真も作成出来た。
その写真を使ってあすなろ市内の中学校の職員室を片っ端から当たって、
メンバーを直接撮影した顔写真と個人情報を引き出したから、
その残りのメンバーに関しても携帯電話の位置情報を押収出来た」

「その辺の事は、本人らに連絡がいかない様に
私達が直接学校と掛け合った上で忘れていただいたけどね。
で、身元が割れた所で、全員分の携帯電話の位置情報もgetって事で」

「やりたい放題だな」
「もう、いっそ世界征服でもしちゃえば?」

ほむらと華々莉の説明に、杏子と亜里紗が呆れ返った様に言った。
135 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/11/21(月) 03:46:38.44 ID:gLShNy640

「それじゃあ、その携帯電話の位置情報から
彼女達の立ち回り先を?」
「大体合ってる」

マミの言葉にほむらが言った。

「だけど、普通の立ち回り先じゃない。
彼女達は百江なぎさの事件以降自宅や学校からは姿を消している。
そしてこれ」

ほむらが示したのは、携帯電話の位置情報だった。

「旧あすなろ工業団地の一角。
ニューアスナロを出た後、グループの位置情報がここに集中してる。
それ以前からもしょっちゅうこの辺りに位置情報が記録されてる」
「立ち寄ってる、ってレベルじゃないわね」

資料を読み返したマミが言う。

「位置情報の集中箇所、他はまだしも、これだけは理由が本当によく分からない。
場所柄魔獣退治なのかも知れないけど、
それにしては訪れている頻度が以前からおかしい」

華々莉が補足した。

「この地域のコンビニ、スーパー、ドラッグストアの防犯カメラの記録からも、
メンバーがごく最近立ち寄った映像が幾つも発見されてる。
美樹さやかも他の魔法少女も、失踪してから時間が経過している。
手段や手がかりを躊躇している余裕はないわ」

ほむらの宣言に、他の面々も強く頷いた。

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今回はここまでです>>124-1000
続きは折を見て。
136 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:28:40.83 ID:z1Lpz1fr0
それでは今回の投下、入ります。

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>>135

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巴マミ
暁美ほむら
鹿目まどか
美国織莉子
佐倉杏子
詩音千里
成見亜里紗
日向茉莉
日向華々莉

以上のチームが、旧あすなろ工業団地の一角を訪れていた。

「この辺りね」

掌にソウルジェムを乗せた暁美ほむらが言う。

「ええ、確かに何か反応してる。魔獣ではないけど、何かがある」

同様に、掌のソウルジェムを見つめてマミが言った。
頷き合い、めいめい魔法少女に変身して、詩音千里がざっと前に出た。
千里は、一見すると無人の廃工場の敷地に魔法拳銃を向け、発砲する。
発砲された魔法弾が、途中でオーロラと化して目の前に広がった。
137 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:35:27.44 ID:z1Lpz1fr0

「建物………」

目の前に現れた物体を見て、マミが呟く様に言う。

「何か、こっちの認識をごまかしてたか」
「それとも、異次元空間に存在していたか………」

華々莉とほむらが、めいめい推測を述べる。
一同は、周囲に注意を払いながら、
目の前に現れた結構な大きさの洋館風の建物に接近する。

「どう?」
「ドアは開いてる」

背後でティロ・フィナーレを抱えて尋ねるマミに
玄関ドアを確認していたほむらが応じた。

ーーーーーーーー

「薄暗いなぁ」

成見亜里紗が呟く。

洋館に足を踏み入れた面々は、
そのまま、洋館の中のだだっ広いホールをうろついていた。
壁には燭台が並び、蝋燭が点灯されている。

「蝋燭って古風だけど、誰かが火をつけたって事よね?」
「誰かを待っているのか、歓迎されたのか」

ほむらの言葉に、マミが真剣な表情で応じた。

「あれ?」
「どうしたのまどか?」

ほむらが問い返す。まどかの視線は、前方の床に向けられていた。
138 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:40:50.98 ID:z1Lpz1fr0

「これって………」
「待って、まどか」

言って、ほむらが盾から検知器を取り出す。

「………特に反応は無いわね。
ブービートラップとしてはポピュラーな手法だけど」
「じゃあ、大丈夫なの?」
「恐らく」

ほむらとまどかが言葉を交わし、まどかが床から持ち上げたのは、
ミニチュアの座椅子に鎮座した小さな熊のぬいぐるみだった。

「可愛い」
「テディベアね」
「あれ? これ」

こんな状況にも関わらず、
椅子ごと持ち上げたぬいぐるみに目線を合わせるまどかの顔が綻ぶ。
ほむらがその笑顔を堪能している間、
マミがぬいぐるみの素性に当たりを付け、杏子が何かに気付いた。

「鬘に、リボン?」

確かに、ぬいぐるみは人間、それも女の子らしきものを模した鬘を被っており、
その鬘には赤いリボンが結ばれていた。

「あら?」

そして、巴マミが視線を別に向ける。

「あっちにもあるみたい」

マミの言葉に、少し離れた場所に移動すると、
確かにそこにも同様のぬいぐるみが置かれていた。
ほむらがふとそのぬいぐるみを持ち上げる。
基本、今現在もまどかが愛でているぬいぐるみと同じものだが、
黒髪ロングの鬘を被っていた。
139 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:46:05.33 ID:z1Lpz1fr0

「おい」

亜里紗が言った。

「なんか、結構あっちこっちにあるぞ」
「ええ、あっちにも」

亜里紗の言葉に、マミは一番近い別のぬいぐるみに移動する。
そして、巻髪の鬘を被ったぬいぐるみを持ち上げる。

「これ、なんかあんのか?」
「確かめてみましょう」

杏子の言葉に千里が応じて、
一同は幾つもおかれているぬいぐるみを確認するためホールに散る。

「えっ?」

ぬいぐるみの一つを持ち上げていた千里が何かに気付く。

「!?離れてっ!!」

マミが叫んだ時には、床がカッと光を放っていた。
それも、全面的にではなく、何かの模様に合わせるかの様に発光している。
それと共に、天井にもぼっ、ぼっと光が点灯し始めた。

「「やばっ!」」
「まどかっ!!」

亜里紗、杏子が叫び、ほむらがまどかを目で追う。
とにかく、一同ぬいぐるみを放り出して壁際へと走る。

「なん、だこりゃ?」
「なんだか分からないけど………」

亜里紗が呻き、杏子が呟きながら槍を手にすっと前に出る。

「スズネちゃん」

茉莉の声を背に、鈴音も光る床に向けて剣を構える。
140 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:49:51.22 ID:z1Lpz1fr0

「どう、マツリ?」
「聞こえる、嫌な、まがまがしいものが」
「そうね、それに、これは………魔力だわ、それも巨大で邪悪な」

華々莉の言葉に茉莉が答え、マミが続いた。

「ティロ・フィナーレッ!!」

まず、床から巨大な噴煙が上がり、
その中心に向けてマミが一撃を加えた。

「よけてっ!!」

マミの叫びと共に一同が左右に分かれ、
一同がいた場所に何かが飛び込んできた。

「ひっ!」
「くっ!!」

ほむらが、すくみ上ったまどかの前に立った。

「なん、だこりゃ?」
「地獄の番犬ケルベロス」

杏子の問いに応じたのは、マミだった。

「こうやってみると、普通にグロテスクね………」

目の前の、巨大な三頭犬を見据えてほむらが言う。

「こ、のおっ!!」
「危ないっ!!」

ぶうんっ、と振るった亜里紗の鎌はケルベロスにひらりと交わされ、
大ジャンプから亜里紗の背後に回った大犬に
千里がドンドンドンッと発砲する。

「デカイ癖に身軽ですばしっこいのかよっ!!」

千里の発砲が交わさるのを見て亜里紗が叫んだ。
141 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:53:28.10 ID:z1Lpz1fr0

「ほむ、らちゃん………」
「!?チッ!!」

まどかの呻きにほむらが反応し、
光る床の中心にほむらがマグナムライフルを連射するが、
床から響く不気味な音はやまない。

「魔法陣、体系的に魔術を使える人間が絡んでる」

その床を見ていた織莉子が言った。
黒い、悪臭の噴煙が上がった。

「おおおおおっ!!!」

茉莉の側で、鈴音が豪剣を振るい急接近していた巨大な蛇をぶった斬る。

「どけ、馬鹿っ!!!」

そこに華々莉が割り込んでバリアを張り、
噴射された毒液をバリアが防御する。

「嘘っ!?」

茉莉が言葉に出し、鈴音の表情にも驚きが浮かぶ。
空中で、幾つもの水晶球が音を立てて激突する。

「ヒュドラよっ」

美国織莉子が叫ぶ。

「ギリシャ神話に出て来る沼蛇の怪物。
あの首は、斬った切り口から一本が二本に分裂するっ」
「ああ、見ての通りだねっ」

織莉子の言葉に華々莉が応じる。

そして、華々莉が蛇と睨み合いになり、
蛇が別の蛇の胴体に噛み付いた。
142 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:56:44.06 ID:z1Lpz1fr0

「よし、っ………」

しかし、次に飛んで来た毒液を華々莉は這う這うの体で交わしていた。

「数が多すぎるっ!」

何体もの巨大な蛇が
根本で結合している様なヒュドラを相手に華々莉が吐き捨てた。

「わわわっ!!」
「詩音さん、成見さんっ!!」

マミが叫ぶが、ケルベロスにロックオンされた千里と亜里紗はいつしか
玄関からその外へと退却を余儀なくされていた。

「お、おいっ!」

叫んだ杏子の視線を追うと、床が改めて光を放っていた。

「まだ、何か出て来るのかよっ!」

杏子が叫ぶ間にも、魔法少女達はヒュドラとケルベロスを相手に
這う這うの体の状態を崩せない。

「あれよっ!」

叫んだのは織莉子だった。

「鹿目さん、あの星、一番輝いている所、あれを射ち抜いてっ!」
「はいっ!」

織莉子の言葉に、まどかがきりきりと弓を引き絞り始めた。

「このっ!」

その側で、フルオートのAKMが発砲される。
迫っていたヒュドラの注意を向ける程度の事は出来たらしい。
143 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/07(水) 03:59:52.58 ID:z1Lpz1fr0

「ひっ!」

注意を引き付けた結果として、ずしゃあっと床を滑るほむらに
何本もの大蛇の首ががぱっと大口を開いて迫って来る。

「おらあっ!!」

その内の一本に多節棍が絡み付き、魔法少女の馬鹿力で引っ張られる。
その根元が鈴音によって一刀両断される。

「下がってっ!!」

マミの声と共に、大量のマスケットが空中からヒュドラを銃撃し、
流石にヒュドラも無事と言う訳にはいかない。

「あ、有難う」

息を荒げたほむらの言葉に、めいめいが頷いた。
その時、光の尾を放ってまどかの矢が天へと吸い込まれた。

「収まった………」

天井の星々と床の輝きが消失し、蝋燭だけがホールを照らす。

「完全な予知はまだ妨害されているけど、それでも、
天の星々と地面の魔法陣、その関連は何となく把握できた」

織莉子が額を押さえながら言った。

「だけど、出て来たものは引っ込まないみたいね」
「増えないだけ上等、かしら?」

ほむらの言葉に、マスケットを構えたマミが汗を伝わせながら応じる。

==============================

今回はここまでです>>136-1000
続きは折を見て。
144 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:40:22.41 ID:qgufq2ev0
それでは今回の投下、入ります。

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>>143

ーーーーーーーー

「参ったなぁ」

自分達が追い出された洋館の玄関近くで、成見亜里紗が嘆息を漏らす。

「まさに、地獄の番犬ね」

亜里紗の親友にして魔法少女仲間の詩音千里も、
洋館の入り口にぬーんとばかりに居座る巨大な三頭犬、
通称地獄の番犬ケルベロスを見て呆れた様に言った。

「実際、強いんだよなぁあれ」

亜里紗が苦い声で言う。

「他に、入口探した方が早いかも」
「かもね」

ーーーーーーーー

本来は魔法少女若葉みらいの願いにより実現した
テディベア博物館「アンジェリカ・ベア」。

現在、その一階ホールでは
見滝原、風見野ホオズキから訪れた魔法少女達がヒュドラと激闘を展開し、
地下ホールには若葉みらいを初めとしたあすなろ市の魔法少女グループ
「プレイアデス聖団」が集結していた。

聖団の側には、一組の紳士淑女を従えた
一見して幼いゴスロリ少女レディリー=タンクルロード。
元々が魔法に加え、魔法を取り入れた科学力が導入されていたこの博物館を、
魔術と先端科学で更にいわゆる魔改造を施したのはレディリーに他ならない。
145 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:45:59.91 ID:qgufq2ev0

「指示通りに配置を完了した」
「そう」

聖カンナとレディリーが言葉を交わす。

「理屈通りの配置、なのよね」

大きな本を手にした御崎海香が尋ねた。

「その通りよ」

レディリーが答える。

「これから私が行う事は、言わばこのホールに計算通りの世界を再現する。
この世界がそのまま再現される、本来であれば。
それ以上の意味は何も無い筈よ」
「魔術的な意味合いから言っても、
只、世界を表現する術式、それ以上の意味は見出せない」

レディリーの発言を海香が補強する。

「未だに何を言ってるのか分からないんだけどっ」

口を尖らせたのは若葉みらいだった。

「サキやみんなを巻き込んでここまで危ない思いをして、
それで意味が無いとか言われても」
「意味が無いならそれに越した事はないわ」

噛み付きそうなみらいに、レディリーは余裕を見せる。

「その場合、只の取り越し苦労と言う事になる。
但し、攫ったマギカ達に対する言い訳が難しくなるけどね」
「取り越し苦労ならそれに越した事はない、かずみに関わる事だからな。
やってしまった事に対しては、土下座でも八つ裂きでも私が引き受ける」

浅海サキの言葉に、みらいがサキとかずみをすっと見比べる。
146 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:51:23.64 ID:qgufq2ev0

「魔法少女の肉体は、大丈夫か?」
「ああ、さっきも点検した。
この地下のレイトウコは無事稼働してる」

牧カオルの問いに、神那ニコが応じた。

「始めるわよ」

一同がホール中央に集まる。
ホール中央でレディリーがデスクに用意されたパソコンの操作を始める。

「魔術師、って光景じゃないね」
「それは、私に対する挑戦と受け取ってもいいのかな?」

牧カオルの言葉に神那ニコが反応した。

ホールの天井にプラネタリウムが輝き、
ホールの床には魔法陣が光を放つ。
円を基調とした大量の図形と地図、星座が、
床の上でそれぞれの色に輝き始める。

「そろそろ、魔術師らしい事を始めましょうか」

レディリーが口元に笑みを浮かべ、パソコンを離れる。

魔法陣が走る床の方々に、テディベアが置かれている。
テディベアにはソウルジェムと、
そのジェムの持ち主の髪の毛が装着されている。

「世界を再現する」

レディリーが言った。

「マギカ達のパーソナルデータ、その魔術的意義。
そこから導き出される理論的な位置、方角を星座と対応させる」

「魔法少女の中でも、
独特の違和感がある魔法少女のソウルジェムを使って、だな」

レディリーの言葉にニコが続く。
147 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 02:57:22.82 ID:qgufq2ev0

「私の占星術と財力に基づく調査力、聖カンナのコネクト、
それらを総動員して可能な限り調べ上げた。
まず、地理的要素の強い見滝原、風見野、あすなろ、ホオズキ。
その土地の魔法少女の中から、僅かな、ズレとも言えない違和感がある者達を」

「本当に何かおかしな事があるなら、
海香が分からない筈がないんだけどな」

レディリーの言葉に、カオルが改めて問い直す。

「そう。理論的には何のズレも間違いも無い。
只、私達、私と聖カンナの勘がそう告げただけの違和感。
ソウルジェムはマギカの魂の輝きそのものを現している。
私の占星術を持ってすれば、
極端な話ソウルジェムが二つあれば星座と対応させて世界を描き出す事が出来る」

「その世界は、今、私達がこうして生きている世界」
「ええ、その筈よ」

海香の問いに、レディリーは笑みを以て応じた。

「これだけのソウルジェムと対応させた場合、
かなり正確に世界は描き出される。
そして、その世界は、私の占星術が先々に至る迄その幸福を示し続けている、
至って穏やかで平和な、
災いらしき災いが絶えて見えない世界、そうなる筈。
時間みたいね」

僅かずつ動く星々を眺めていたレディリーが言い、
中央の、更に中央へと動き出す。
中央に置かれた祭壇に立ち、その上で両腕を広げて呪文を口にする。
聖カンナが目を細める。
テディベアに装着されたソウルジェムが淡い輝きを見せ始めた。
148 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:00:37.06 ID:qgufq2ev0

「終わったのかしら?」

祭壇から戻って来たレディリーに海香が尋ねる。

「そういう事になるわね。
少なくとも起爆スイッチは押した筈だけど」
「で、ソウルジェムがちょっと光っただけ………」
「おいっ」

言いかけたみらいをサキが制する。

「ん?」

牧カオルが気付いた。
他の者達も気付き始めたらしい。
蛍よりも遥かに小さい光の粒が周囲を漂い始めた。

「何かが召喚された?」

レディリーが呟く。
その間にも、光の粒は徐々に量を増す。
それは、ピンク色の光の粒だった。

「これは? なんだ? まるで………」
「分からない。でも、嫌な気分ではない………」

戸惑いを覗かせるレディリーの側で、
やはり解析に失敗した海香が言った。
その間にも光の粒は量を増し、
いつしか、ホール全体の視界を靄の様に覆い始めていた。
149 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:04:18.98 ID:qgufq2ev0

ーーーーーーーー

「星と魂との対応、そこから色の手がかりを見つけたか」

「アンジェリカ・ベア」の外で、そんな呟きが聞こえた。

「個別の違いが分からなければ理論値で最初から作り直して比較する。
稚拙だが発想は悪くない」

「止まりなさい」

詩音千里が、前方に見える影に魔法銃を向けた。

「あなたも魔法少女? あすなろのグループかしら?」

千里の問いも、銃口も全く無視してすたすたと動き出す。

「待ちなさいっ!」
「気安いぞ」

千里が肩を掴み、引き留めようとした次の瞬間、声が聞こえた。

「!?」

その時には、千里の体はお星さまになる勢いで吹っ飛ばされていた。

「な、な………
な………に、やってんだっ
てめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!!!」

成見亜里紗の怒号が一帯に響き渡った。
150 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:07:49.36 ID:qgufq2ev0

ーーーーーーーー

ヒヒヒヒヒ

「ん?」

カオルが周囲を伺う。

ヒヒヒヒヒヒ

「海香、聞こえたか?」
「ええ」

聖団が、徐々に効かなくなる視界の中、警戒を始めていた。

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

「笑い声?」

レディリーが呟く。

「どちらかと言うと、可愛らしいわね。
邪気は感じられない。魔術的なものも………」
「物の怪に誘われてる、って線は?」
「それは無いわね」

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

海香の問いにレディリーが応じる。

「そんなものであれば、私が気づかない感じない筈がない」
「何が、起きて………」
151 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:11:43.67 ID:qgufq2ev0

ヒヒヒヒヒ

解析不能を示すスマホを懸命に操作していた神那ニコが、
ふと、その手の動きを止めた。

ヒヒヒヒヒ

「ミチル?」

異変に気付いたかずみが双子の姉に声を掛ける。

ヒヒヒヒヒヒ

「うふふっ」

どこからともなく聞こえて来て、
段々とその存在が認知される可愛らしい笑い声。
それに呼応する様に、宇佐木里美も艶めいた笑みを浮かべた。

「お、おいっ」

ふらり、と、あらぬ方向に動き出した仲間達を見て、
牧カオルが声を上げる。
152 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/08(木) 03:15:08.97 ID:qgufq2ev0

「引き寄せられている」
「何に?」
「分からないっ」

レディリーの問いに、
引き寄せられている仲間の事は把握してもその先が見えない聖カンナが
その通りにコネクトの結果を伝える。
その間にも、和紗ミチル、神那ニコ、宇佐木里美、浅海サキは、
心ここにあらずと言った表情でふらふらと動き出し、
中央からピンク色の靄の中へと移動しようとする。

「あれは? ………」

レディリーが目を凝らす。
ピンク色の靄の中に、白い人影の様なものが見え隠れしている。

「い………い、くな………
行くなサキ行くな
行ぐなザギィィィィィィィィィッッッッッッッッッ!!!!!」

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ

==============================

今回はここまでです>>144-1000
続きは折を見て。
153 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:01:38.04 ID:65YIRYbq0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>152

「待ちなさいっ!」

「アンジェリカ・ベア」地下にしつらえられた儀式場で
レディリー=タンクルロードが叫ぶが、
ふらふらと動き出した面々は全く意に介さない。

(魔術? しかし、私の感覚を以てしても禍々しいものは感じられない)

ヒヒヒヒヒ

ティ

ピンク色の光の靄が辺りを覆い、
何処からともなく可愛らしい笑い声が響き続ける。
靄の中に白い人影が見え隠れし、
それに誘われる様に、複数の魔法少女がふらふらと歩みを進める。

「レディリー、どういう事なのっ!?」

普段は沈着な御崎海香から鋭い質問が飛ぶ。

「そちらでは、何か分からないの?」
「分からないわね、はっきり言って解析不能。
魔法で解析出来る次元のものじゃないみたいね」
「魔術もご同様」

本を広げて苦い声で言う海香に、レディリーは言葉を続けた。

「ふ、ざ、け、る、な」

血の滴る様な声で呻くのは、若葉みらい。
154 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:03:53.37 ID:65YIRYbq0

「サキ、サキが、レディリー、お前………」
「取り敢えず、大事な彼女を引き留めておくべきね」
「分かってるっ! サキッ!!!!!」

みらいにしがみつかれた浅海サキは、呆然と天を仰ぐ。

(なんなの? 魔術に誘われている、と言う感覚が感知出来ない?
魔法少女を何処かに誘い込む存在………)

「かずみ?」

和紗ミチル、神那ニコ、宇佐木里美、浅海サキがふらふらと動き出し、
他の面々が何とかそれを留めようとしている中で、
牧カオルがそれとは違った声を上げた。

「どうしたの?」
「いや、今、かずみ?」

海香の質問にも、カオルが要領を得ない返答しかしない。

「!?」
「?」

海香とカオル、レディリーが目を見張る姿に、
昴かずみはきょとんと反応する。

「気のせい、じゃあ、ないみたいね」

ごくりと息を飲む海香に、カオルが頷いた。
ほんの一瞬、かずみの姿が丸で陽炎に呑まれた様に見えた。
そして今、さっ、と、かずみの体に何かが走る。

「かずみっ!」

ついにはカオルがかずみに駆け寄り、その両肩を掴む。

「かずみ、大丈夫かっ!? なんでもないかっ!?」
「う、うん」
「どう?」
「ええ、異常は、ないわ」
155 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:05:59.28 ID:65YIRYbq0

レディリーの問いに、
海香は明らかに納得していない返答をする。

海香の本はその結果を示していても、
ほんの一瞬ずつ、かずみの姿が陽炎に揺らぎ、
或は、昔のポンコツテレビの様に
ささっと白い横線が走っているのを目の当たりにしているのだから
それも当然の反応だ。

ヒヒ

ヒヒヒヒヒ

ウェヒヒヒヒヒ

「おいっ!」

聖カンナの叫び声だった。

「ソウルジェムがっ」
「なんですって?」

レディリーが駆け付けたのは、
儀式に用いられたソウルジェムだった。

「濁りが、広がってる」
「肉体から切り離しているのに?」

レディリーが問い返すが、確かに、
テディベアと共に床の魔法陣に配置されたソウルジェムを確認すると、
じわじわと濁りが拡大し続けている。

「若葉みらい、ソウルジェム、テディベアを集めろっ!!」
「分かったっ! ラ・ベスティアッ!!」
「こっちよっ!!」

レディリーの誘導で、ソウルジェムを装着したテディベアは一か所に集結する。
その間に、レディリーは中央デスクのパソコンを操作する。
集められたテディベアが、ばこんっ、と、半透明なドームに蓋される。
156 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:07:04.98 ID:65YIRYbq0

「どう、だ?」
「駄目だっ!!」

レディリーの問いに、カンナが叫び返す。

「濁りの拡大が止まらない」
「あらゆる有害光線、
宇宙線を遮断する遮断フィールドの効果が無い、と言う事は………
世界そのものか?」

レディリーが、未だ星々の瞬く天を見上げる。

「まさかヴァルキュリア? だとすると北欧神話?
だが、その特徴は見えない………
それは、死の国、だとでも言うのか………」
「どうする?」

ぶつぶつ声に出し始めたレディリーに、カンナが問い直す。

「今からまともに術式を解除していても間に合わない。
精密な術式だけに、中途半端な事をしたらもっと厄介な事になる。
聖カンナ、コネクトを貸しなさい」
「ああ、いいだろう」
「全員、撤収の準備を」
「なんだって?」

レディリーの指示に、カオルが尖った声を上げる。

「彼女達を助けても、どの道ここは維持出来ない、
魔法少女どころじゃない、
昔の米ソと全面戦争の方が遥かにマシ、って相手を敵に回す事になる」
「何を、しようって言うの?」

海香が尋ねる。

「魔術と科学が角突き合わせていた、
そんな時代の負の遺産、かしらね」
157 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:08:51.00 ID:65YIRYbq0

ーーーーーーーー

「遅ェぞ、オリジナル」

科学の学園都市、研究所の一室で、
駆け込んで来た御坂美琴に一方通行が毒づいた。

「どうなってるの? 妹達に何がっ!?」
「あなたの理解している状況は?」

美琴の質問に、芳川桔梗が質問で返す。

「ええ、私の目の前で急に倒れたからあの病院に預けた。
他の妹達もそうね。打ち止めも?」
「だからこうやってンだろうが」
「ウィルスだとか………」
「ええ、そうよ。MNW、ミサカ・ネットワークに
ウィルスを流し込んだ者がいる」

端末のキーボードを操作しながら、
芳川は焦りを隠せない口調で告げる。

「おいおいおィ、今更ウィルスとか、
MNWのセキュリティーはどうなってるんですかァ?」

軽口に聞こえるが、
返答次第では椅子の上に挽肉が鎮座するのは確実だろう。

「普通だったらまずあり得ない、
こんなハッキング、出来る筈がない」
「でも、出来てるのよね?」
「ええ、そうよ。今の所、理解出来ない技術を使ってね。
何処かから不可思議な技術を使って、
MNWに外から干渉してる、セキュリティーが丸で機能していない」
「それで、済むと思ってるんですかァ」
「どいて、私がやる。ハッカーの逆探知と改竄箇所の修復ね」
「お願い」
「後の方、オリジナルだけで出来るんですかァ?」
158 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:10:03.37 ID:65YIRYbq0

ーーーーーーーー

「召喚せよっ!!」

呪文と共にPCを操作していたレディリーが、
叫びと共にリターンキーを叩いた。

「白い」
「稲妻?」

ばばばっ、と、一瞬辺り一帯に走った情景に、
一同が感想を漏らす。

「コネクト、切ったわね?」
「ああ、物凄い勢いで追跡して来てる奴がいた」
「でしょうね」

その間にも、ばばっ、ばばっ、と、
白い稲妻が幾度か周囲を照らす。

「なんだ、これは?」

聖カンナが眉をひそめる。

「稲妻、電気の様でいて電気ではない、
得体の知れない感触だな」
「流石、鋭いわね」

カンナの言葉に、レディリーは返事になっていない賞賛を返す。
次の瞬間、


「!?!?!?」

地下儀式場の下から上に、
ずっどぉーんっ、と、ばかりに、白い何かが一息に突き抜けた。
159 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/30(金) 03:11:29.79 ID:65YIRYbq0

「!? サキッ!!」

無機質な人工の照明の下、
ふらりと倒れ込んだ浅海サキを若葉みらいが抱き起す。

「ミチル!?」
「おい、ニコ」
「里美、大丈夫かっ!?」
「変身が、解けて………」

倒れた面々を介抱する中、海香が異変に気付く、

「引き揚げるわよっ、死にたくなければ一刻も早く!!」

==============================

今回はここまでです>>153-1000
続きは折を見て。
160 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:24:07.66 ID:pKwKL5HU0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>159

ーーーーーーーー

「………」
「危ないっ!!」

「アンジェリカ・ベア」一階ホールで、
暁美ほむらは悲鳴を上げて鹿目まどかに飛びついた。

「ほむらちゃん?」
「何、ぼーっとしてるのっ!?」
「あ、ご、ごめんっ!」

ようやく状況に気付き、まどかが頭を下げる間にも
その側では怪獣以外の何物でもないヒュドラと
巴マミや佐倉杏子等が激闘を展開していた。

「行かなきゃ」
「え?」

ぽつりと呟いたまどかの言葉に、ほむらが聞き返す。

「何? どうしたのまどか?」
「う、ううん。何か、この建物の中に何かがあるって言うか」
「ああ、確かに」

まどかの言葉に続いたのは、日向華々莉だった。

「この建物の、多分地下だ」
「何? マツリには分からないけどっ!!」

華々莉の言葉に茉莉が続くが、実の所、ほむらも華々莉に同感だった。
或は、まどかや華々莉の反応に暗示されただけなのかも知れないが、
それでも、ほむら自身が先程までとは違うざわっとしたものを感じている。
161 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:26:28.09 ID:pKwKL5HU0

「どちらにしても」

ほむらが、魔法武器の弓矢を用意し直す。

「あの化け物をどうにかしない事には」

確かに、その通り。
大量に首を持つ巨大な蛇、ヒュドラが暴れ狂っている状況では
先に進むも何もありはしない。

「みんな、ホールに展開してっ!
多少首を増やしてもいいから、
少しだけあいつを引き付けて混乱させて頂戴っ!」
「分かったわっ!!」
「オーケーッ!」
「分かった」

どうやら何かを決めたらしいマミの言葉に、
次々と返答が飛ぶ。
ほむらの矢が突き刺さり、杏子の槍がぶっ叩く。
許可を得た天乃鈴音が飛翔し、
その豪剣がヒュドラの首を一つをぶった斬る。

「オラクルレイッ!!」

美国織莉子がとっておきの一撃を食らわせた辺りで、
ホールに大量の銃声が響き渡った。
ヒュドラが、床に用意された大量のマスケットを撃ちまくるマミに
絶叫と共に猛スピードで接近する。

「マミさんっ!」
「大丈夫っ!」

まどかが叫ぶが、マミは一足早く飛翔してそれに応じていた。
そして、気付いた時には、
ヒュドラは地面から噴出した大量の黄色いリボンによって
雁字搦めにされていた。
162 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:28:25.58 ID:pKwKL5HU0

「ヒュウッ、流石だね」
「手練れの技ね」

未知の相手との苦戦の中でも、
気が付けば今まで通りのヴェテランの手並みを見せる。
そのマミの危なげなさに杏子とほむらも安堵する。

「………まどか?」

そして、ほむらがふと視線を戻すと、
やはりまどかがぼーっと突っ立っていた。
幾ら、ヒュドラが拘束されたばかりとは言え。

「ほむらちゃんっ!?」
「まどかっ?」

そして、今度は気が付いた様に叫び出す
そんなまどかに、ほむらが駆け寄る。

「何かが、変わった?」

耳を澄ませていた日向茉莉が呟く。

「みんな下がって!!」

織莉子が叫んだ、その次の瞬間だった。

「!?!?!?」

何かが、ぶち抜けた。

「何?」

マミが、目をぱちくりさせて誰ともなく尋ねる。

「白い、何かが、上から下に………」

そう言ったのは、鈴音だった。
よく見ると、今だ、周辺の空中にはぱちっ、ぱちっと何かが弾けている。
163 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:29:06.94 ID:pKwKL5HU0

「電気? 雷?」

その白く弾ける光の破片を見て、ほむらが呟いた。

「女の人………」
「えっ?」
「何となくだけど、女の人みたいだった」
「マツリも、そう思う」

まどかの言葉に、茉莉が続いた。

「何が起こるか、じっと見てたけど、
なんて言うのか、物凄く大きい髪の長い女の人の白い幽霊」
「ああ、あたしにもそう見えた」

茉莉の言葉に、杏子も同意する。

「ヒュドラは?」

ぽつりと言ったマミの言葉に、一同はようやく気付く。
ヒュドラも、ヒュドラを拘束していたリボンも雲散霧消していた。

「魔法陣も、起動状態がシャットダウンに変わったみたい」

床を調べた織莉子が言う。

「つまり、ここで発動していた魔術が、消えた?」
「そういう事になるわね」」

ほむらの言葉を織莉子が肯定した。

「こっちに階段があるっ!」

いつの間にか、ホールの奥にある扉の前に移動していた茉莉が言った。
164 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:30:10.07 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「逃げられたかも知れない」

螺旋階段を地下へと下りながら、茉莉が言った。

「なんとなく、こっち側から人の気配みたいのがあったんだけど、
今はそれが消えてる」
「まさか、ツバキ達もその中にっ?」

茉莉の言葉に、華々莉が鋭く問い返す。
そして、到着した地下一階は、無機質なホールだった。

「これも、魔法陣ね。だけど、魔力の反応はない。
或は、こちらも一度発動させてシャットダウンさせた。
でも、さっきのと比べて物凄く複雑な内容よ。
様々な占いの要素が入り組んでる」

床を調べながら織莉子が言う。

「どう?」
「専門家って訳じゃないけど、素人目にも無理そうね」

マミに問われ、
最早ガラクタ同然のパソコンを操作していたほむらが言った。

「おいっ、ちょっと来いっ!!!」

遠くから、佐倉杏子の怒号が聞こえて来た。
165 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:32:08.79 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「何、これ?」

地下二階に到着したまどかは、絶句していた。

「まさか、誘拐された魔法少女達?」

ほむらもやっと言葉を発するが、それは、SFじみた光景だった。
地下二階のホールには大きな透明カプセルが林立し、
透明な液体が満たされたその中には
意識を失った少女達が立ったまま眠っている様に見える。

「ツバキ、ツバキッ!!」

その間にも、既に華々莉と鈴音は走り出していた。

「置手紙がある」

マミが言った。

「カプセルの中の魔法少女の解放方法。
解凍、水抜き、記号に合わせてソウルジェムを近づける、
手順に従って行えば復活します、って」
「それ、信用出来るのか?」
「どっちにしても、やるしかない」

杏子が言うが、ほむらが結論付ける。
近くには、ビニールパックに入った
メモつきソウルジェムも大量に用意されている。
その時には、織莉子が動き出していた。
166 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:34:15.40 ID:pKwKL5HU0

「キリカ、目を覚ましてキリカ………」

織莉子が、呟きながらカプセルの基盤の機器を操作する。
そのカプセルの中にいるのは、呉キリカに他ならなかった。

「キリカッ!! 目を覚ましてっ!!」
「………織莉子?」
「そうよっ」
「………なんだい、これはっ!?」

立ったまま肩まで水に浸かったキリカが叫び出す。

「ちょっと待ってて、
今全部水を抜くから、転ばない様にしてね」
「………全員、手分けして初めて頂戴っ!」

「実験」成功を見届けたマミの指示で、他の魔法少女達も動き出した。

「さやかちゃんっ!」
「まど、か?」
「ツバキッ!!」
「あら、あら………」
「人見リナさん?」
「ええ………そうだけど」
167 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:35:52.15 ID:pKwKL5HU0

ーーーーーーーー

「チサトっ!!」

「アンジェリカ・ベア」屋外で、詩音千里は自分を呼ぶ叫び声を聞いた。

「大丈夫だったのっ!?」
「ああ、マツリ。ええ、大丈夫」

気が付いたらあすなろタワーまで吹っ飛ばされて、
今ようやく戻って来た所だったが、
まあ、今の所自分は大丈夫、そういう事だった。

「それよりマツリ、こんな所で、中は………
………先輩っ!?」
「心配、かけたわね」

その言葉に、千里の涙腺が緩みそうになる。
だが、それはまだ早い、と言う妙な雰囲気を千里は察していた。

「こちらで把握している、失踪中の魔法少女は全員救出出来た」

奏遥香の背後から現れ、説明する暁美ほむらの歯切れは悪い。

「何か、あった?」
「こっちに来て頂戴っ」

ーーーーーーーー

「アリ、サ?」

千里の親友成見亜里紗が、微動だにせず千里の目の前に横たわっていた。

「な、に?」
「今は、ソウルジェムを離して仮死状態にしてあるわ」
「どうしてっ!?」

マミの説明に、千里が叫んだ。
ほむらが、無言で亜里紗のソウルジェムを肉体に近づける。
亜里紗は、ぱっと目を覚ました。
168 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:37:00.16 ID:pKwKL5HU0

「アリサ………」
「嫌あああああっっっっ!!!!!」

千里が声をかけようとした瞬間に、亜里紗は絶叫していた。

「嫌、嫌、嫌あ、嫌………」
「アリサ?」

亜里紗は、我が身を抱き、ガタガタと震えながら逃げる様に這いずり回る。

「やだ、やだ、やだ、やだ、もうやだ、もうやだ、もうやだあっ!!!
やだようやだようやだようやだよう………」
「私達が見つけた時から、ずっとこうなの」

マミが言った。

「何かに、ひどく怯えてる。
浄化してもソウルジェムの濁りが止まらない。
だから一時的にああしていたの」
「アリサ? ねえどうしたのアリサっ!?」
「やだあっ!!!」

差し伸べられた千里の手を振り払い、亜里紗は絶叫する。

「やだあっ!! もうやだあっ!!」
「普通じゃないわ、何らかの魔術が使われている。
詩音千里、なんとかならない」
「もちろん」

ほむらの言葉に、千里は亜里紗に銃口を向ける。
それを見て、亜里紗は目を見開いた。
特に親しい訳でもないが、
知り合いではあるほむらから見て、異様な光景だった。
はっきり言って、亜里紗のキャラクターが違い過ぎる。
169 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:38:10.72 ID:pKwKL5HU0

「大丈夫よ、亜里紗。今すぐその悪い夢………!?!?!?」

千里が引き金を引く。
だが、次の瞬間、弾き飛ばされたのは千里の方だった。

「うああああーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!」

それを見て、いよいよ亜里紗も
丸で地に潜ろうかと言う異様な態度で恐慌を始めた。

「そん、な………」
「どういう事なの?」

呆然とする千里にほむらが尋ねる。

「分からない。敢えて言うなら、グレードが違い過ぎる」
「何?」

千里の説明に杏子が聞き返した。

「なんと言うのか、アリサにかけられている術が高度過ぎて
私の解除を遥かに上回っていると言うか」
「そんな………」
「アリサ、しっかりしてアリサっ!!」
「やああああっ!!!!!」

説明を聞いた茉莉が震えている間にも、
少々長い眠りから覚めたばかりの遥香が亜里紗の肩を掴もうとしたが、
亜里紗はぶんぶん腕を振り回して抵抗した。

「駄目っ! 一時しのぎで洗脳しようにも何かが邪魔してる、
浄化してもキリがない、キューブの残りも………」
「やだ、やだぁ………」

一難去っての事態に華々莉がギリギリ歯噛みしている側で、
亜里紗は泣きじゃくっている。
170 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:39:27.83 ID:pKwKL5HU0

「やだ、やだぁ、もうやだぁ、
助けて助けて助けて助けて助けて………」
「あああああっ!!!!!」

詩音千里は、日向華々莉を突き飛ばす勢いで、
ガッ、と、亜里紗の両手を取った。

「や、やっ、や………」
「大丈夫、私、チサト、チサトだから、アリサ」

千里の言葉と共に、千里と亜里紗が光り輝いた。

「チサトっ!?」
「だい、じょ、うぶっ」

そんな二人に、バチッ、と稲光が光ったのを見て遥香が叫ぶが、
千里は手を離さない。

「高度な術式を力ずく、力押しで解除するつもり?」

織莉子が言う。

「危険ね、既にカウンターが続々撃ち込まれてる」
「愛、だね」

事態を把握する織莉子に、キリカが続けた。

「あああああっ!!」
「チサトっ、一回離れて、危険よっ!!!」
「アリサは………」

遥香の制止を拒否した千里が、苦しい息と共に告げる。
171 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2016/12/31(土) 03:41:24.05 ID:pKwKL5HU0

「アリサ、は、ひどいいじめを受けていて、
魔法少女になって克服したけど、簡単に、消える傷じゃない」
「ええ、そうよ」

千里の言葉に、遥香が続く。

「まだ知り合う前だったとは言え、
同じ学校の上級生として生徒会長として魔法少女として、
私は恥じ入るばかり」

バババハバッ、と、千里の体を電撃が貫き続ける。

「アリサ、は、私の魂を、救ってくれた。
だから、だから私が、
今度、は、私がああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!!!」

==============================

今回はここまでです>>160-1000

恐らく本年最後の投下、だと思いますので。

それでは良いお年を。

続きは折を見て。
172 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/01/22(日) 21:18:25.67 ID:2HaHrhio0
生存報告です
173 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/02/18(土) 03:38:23.16 ID:eMp5afFD0
生存報告です
174 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:17:46.52 ID:Hw2qFdHg0
まずは訂正です。

>>121

そんな中、美国織莉子と鹿目まどかが玄関からリビングへと姿を現す。

そんな中、美国織莉子と鹿目まどかが姿を現す。

>>122

マミルームからの帰路、ほむらがまどかに話しかけた。

帰り道、ほむらがまどかに話しかけた。

完全にやらかしてました、すいません。

それでは今回の投下、入ります。
175 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:23:26.44 ID:Hw2qFdHg0

==============================

>>171

ーーーーーーーー

イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤ、ダ……………

沈む、沈む沈む闇の底に沈むもういいそれでもいいこの苦しみから

光が、見えた、手を引いてくれるのは

そうだ、光に引き上げてくれた、
沈んで、

たまるか

ーーーーーーーー

「かああああああっっっっっ!!!!!」

成見亜里紗が、一声叫んで身を起こした。

「気が付いたっ!?」
「あ、ハルカ? 無事だった? ………」
「それはこっちの台詞よ、
でも、心配かけてごめんなさいっ」

亜里紗の手を取った奏遥香は、涙目だった。

「ん?」

そして、亜里紗は気が付く。

「チサト? ねえ、ちょっとチサトどうしたの?」

跳ね起きた亜里紗が、近くで身を横たえる詩音千里に駆け寄った。
176 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:29:00.97 ID:Hw2qFdHg0

「アリ、サ? 気が付いた?」
「うん、夢を見た、あの時の夢」
「あの時の?」

「あの時、チサトがアタシの事を、
アタシの心を救って、今のグループに誘ってくれた時の事、
全っ然かなわなくてさ」
「そうだったね」

くしゃっと笑顔になった亜里紗に、千里もふふっと笑みを見せた。

「ん、んんっ!」
「チサト? ねえどうしたのチサトっ!?」
「離れてっ!」

叫ぶ亜里紗を、巴マミが鋭く制する。

「彼女の魔力消耗、ソウルジェムが限界値に近づいてる。
キューブも使い果たした、今は時間を稼ぐしかない」
「そんな………」

マミの説明を聞き、亜里紗が両膝をついた。

「………あ、あ………」

そして、亜里紗もそのまま体を折る。

「そう、あなたのソウルジェムも危険領域である事に違いは無い。
今、大至急魔獣を探してる」

状況を告げたのは暁美ほむらだった。

「ん、ぐっ………これ、マジでヤバイ、かも………」
「!?」

跪いて体を折る亜里紗、その様子を見守っていたほむらが物音に視線を向ける。
そちらでは、千里がゆらっと立ち上がっていた。
177 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:34:16.05 ID:Hw2qFdHg0

「ア、リサ」
「チサト………」

亜里紗も、苦しい息と共にそちらに目を向ける。

「良かっ、た、戻って来て」

すとん、と膝をついた千里が口にした。

「うん。まあ、なんか又、ヤバそうだけどさ」

そう言って、亜里紗が笑みを作った。

「今度は、助けてあげられない、かな」
「お互いに、今まで、色々と」
「こちらこそ」
「勝手に、終わらないでくれるかしら?
じきに、キューブが間に合う、筈だから」

手に手を取り始めた千里と亜里紗に、
ほむらが苛立たし気に言う。
それは希望的観測に過ぎないのだが、諦めるつもりは毛頭なかった。

「何?」

奏遥香が呟く。
「何?」と言われても何がなんだか分からない。
だが、感じる事は出来た。
或は風、或は星々の輝き。

論理的な五感の数値に変動はないのかも知れない。
だが、魔法少女達は感じていた。
何かが、動いている、輝きが増している、近づいている。
それは、魔獣等と言うものではない、何かもっと。

「鹿目さん?」

そして、巴マミは気付いた。
呆然と突っ立っている鹿目まどかに。
178 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:37:29.43 ID:Hw2qFdHg0

「まどか?」

ほむらが声を掛けるが、まどかは反応しない。
そのまま、まどかは天を仰ぎ、ゆっくりと腕を広げ始める。

「鹿目さん?」
「まどかっ!!!」
「暁美さんっ!?」

ほむらに続き、マミが叫び声を上げた。

「ほむら、ちゃん?」

荒い息を聞きながら、まどかがぽつっと言った。

「あ、ごめんなさい」

ほむら自身も、今、気付いていた。
自分がまどかに飛びつき、抱き着いていた事に。

「まどか、今、何が?」
「え?」

そっと腕を離し尋ねるほむらに、まどかはきょとんと答えていた。

「!?」

一同が物音に反応する。
そちらを見ると、佐倉杏子と、レイトウ監禁から
復帰したばかりの美樹さやかがこちらに駆け込んで来る所だった。

「佐倉さん、美樹さんっ!?」
「やっべーかも」

荒い息を吐きながら杏子が言う。
それを裏付ける様に、ここに残った魔法少女達も身構え、
魔獣を探しに出ていた呉キリカもずしゃあっと戻って来た。
179 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/13(月) 03:41:03.17 ID:Hw2qFdHg0

「うわっ! これ本気でまずいんじゃないっ?」

千里と亜里紗の状態に気づいたさやかが声を上げる。
不意に、銃声が響いた。
パパパアンッと、巴マミが空戦型魔獣数体を仕留めた所だった。

「何よ、これっ?」

うぞうぞうぞと周囲を囲む魔獣の大群を見てほむらが呻く。
そして、空には空戦型のシュゲン魔獣がびゅんびゅんと交差し始める。

「なんか、魔獣探してたらさ」

二刀を構えたさやかが口を開く。

「いきなりとんでもない数が出て来て大群でこっち向かい出してさ」

槍を構えた杏子が、そう言ってじりっと後退する。

「そう、つまり」

覚悟を決めた奏遥香が双剣を振る。

「キューブの取り放題、って所かしら?」
「いい加減、警察沙汰になる前に片づける必要はありそうね」

両脇に機関銃を挟んだほむらの側でマミがマスケットを林立させる。

「全部の意味で時間がないわ」
「オッケー」

マミの言葉に、さやかと杏子が応じる。
まどかが弓矢を手に小さく頷いた。

「スタートッ!!!」

==============================

今回はここまでです>>174-1000
随分お久しぶりですいません。
続きは折を見て。
180 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:25:24.25 ID:rUqmCrDW0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>179

ーーーーーーーー

「ふぅ………」

遅めの帰宅となった自宅の浴室で、
鹿目まどかは文字通り一息ついていた。
今までの魔獣とは根本的に違う怪物と衝突した救出作戦、
その後始末まで、心と共にくたくたに疲れた身を浸す熱めの湯が心地よい。
そのままとろとろと眠ってしまいそうだが、
それをやったら大変だとタオルを巻いた頭を一振りする。

ーーーーーーーー

「お休み」
「ああ、お休み」

お風呂を使ったまどかが、
食堂で水割りを舐めている詢子と挨拶を交わす。

「お疲れさん、なんだか知らないけど無事で良かったよ」
「うん」
「ああ、お休み」

短く、優しい言葉を交わしながら、
まどかは自分の部屋に入りベッドに背を投げ出す。

さすがに、何件も捜索願が出されている以上、警察の介入は避けられなかった。
その辺は、魔法少女仲間の中でも頭のいい辺りがなんとか話をまとめて、
ついでにまどか自身が通報者の立場になった。

大半の事はほむらやマミが引き受けてくれたが、
探している内に探していたさやかを見かけたので通報した、
と言う実の所嘘ではない筋書きで、
周辺にいた事が発覚する危険を先回りする筋書きで話を進めた。
181 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:30:39.27 ID:rUqmCrDW0

「さやかちゃん、大丈夫かな………」

それでも、まどかは未だ半分部外者の立場だったが、
当事者であるさやかは想像するだけで大変だ。
そこは、一人や二人だったら非常に厳しい事になるが、
人数が人数だけに、全員が覚えていないと、
これも本当の事を言ってしまえばいい、と言う作戦が図に当たればいいが。
そんな所まで考えが及ぶ前に、まどかの瞼は重くなる。

ーーーーーーーー

「幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」
「めでたしめでたし」

夫の優しい声に続けて、部屋の入口に立った詢子が繰り返した。
部屋に横たわり、頬杖をつく知久の前では、
子ども布団に入ったタツヤがとっぷりと夢の国に旅立ってる。

「寝たか」
「うん」

詢子の問いに知久が答え、詢子がすっと近づいて片膝をつく。
そして、タツヤの鼻をくにくにとして見るが、
みんなみんな幸せな笑顔に揺るぎはない。

「お休み、タツヤ」
182 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:37:09.78 ID:rUqmCrDW0

ーーーーーーーー

鹿目まどかが目覚めたのは、日付が変わって何時間、と言う闇の中だった。
その意識は鼻に近づけられた刺激臭で強制的に覚醒する一方、
体が全く動かず口も動かない。
感覚的には何かがシャットダウンする寸前のパニックに見舞われていた。

電灯がつく。恐怖で見開かれたまどかの目が周囲を見回す。
まどかが見たのは、何か西洋の喪服の様な
もこもこと黒い服装に身を包んだ、背の低い女の子の姿だった。

「今晩は、鹿目まどかさん」
「ん、んー、ん………」

「まず、今、この家は私達が占拠している。
他の人は熟睡しているけど、
あなたやその家族に危害を加える事を避けた上で穏便に話を進める。
それが私の希望よ。理解していただけて?」

そう言って女の子が摘み上げたのは、
本来まどかの持ち物である指輪だった。
そして、女の子の横では、黒ずくめ黒覆面の不審者が、
鋭い光を放つ「短剣」としか言い様がないものを、
切っ先を天井に向けて所持している。

「つまり、ここであなたが大声を出したら、
平凡な一家の大惨事として今日の夕刊を飾る事になる。
理解したわね?」

女の子が一方的に通告し、ベッド周辺にいた侵入者の掌が外れて
まどかは大きく口呼吸をしていた。
183 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:43:09.95 ID:rUqmCrDW0

「あなたは?」
「知っている筈よ」

その笑みに、まどかは血の凍る心地を覚えた。
西洋人形の様に端正な、
何故か血の紅が連想される美しい女の子。

レディリー=タンクルロード。
恐らく、一連の魔法少女失踪事件の黒幕。
そのレディリーの目配せを受け、
布団越しに掴まれていた両腕も解放された。

「巴マミに電話をしなさい、彼女と話したい」
「マミさんに?」

布団の上に自分のスマホを放り出され、まどかが尋ねた。

「こんな野蛮でリスクの大きい手段はとりたくないんだけど、
どんな能力があるか分からないあなた達マギカと直接交渉するよりはマシ。
そう言う事だから、話が付けば余計な血を流すつもりはないわ」

ーーーーーーーー

半開きの目でスマホの画面を確認した巴マミは、
ベッドで就寝スタイルのまま通話を開始した。

「もしもし? 鹿目さん?」
「も、もしもし、マミ先輩、ですか?」

目を見開いたマミは、飛び起きてサブのスマホの操作を開始した。

「どうしたの鹿目さん、こんな夜中に?」
「え、ええと」
「なんだか知らないけど、昼間にしてもらっていいかしら?」

眠そうな声で言いながら、
マミはサブの通話開始を確認し、メインスマホの送話口を塞ぐ。

「緊急事態、少し黙って聞いてて」
「もしもし」

マミの耳に、聞き覚えのない声が聞こえる。
184 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:46:41.03 ID:rUqmCrDW0

「? ………どちら様?」
「初めまして、レディリー=タンクルロードよ」
「どちら様ですか?」

「おとぼけは無しにしましょう。
私達は今、鹿目家を占拠している。
鹿目まどかを拘束し、他の者は熟睡している。
いつでも血祭に上げる事が出来る、と言う事を理解した上で
建設的な話し合いをしましょう」

「確認していいかしら?
あなたは、鹿目さんの家を占拠して、
鹿目まどかさんを拘束して、他の家族が眠っている状況で
私に話に応じろと、そう脅迫しているのね?
レディリー=タンクルロードさん?」

「そういう事になるわね。
間違っても好ましい方法ではないけど、他の選択が難しかった。
あなたが私の提案に合意するなら、誰にも危害を加えるつもりはない。
あなた達にとっても損にはならない話よ」

ーーーーーーーー

「んだよ、こんな時間に?」

一仕事、それも大仕事を終えた深夜に、
しつこく鳴り続けていたスマホに向かって佐倉杏子は悪態をつく。
それも、相手がそこそこ親しい、
その大仕事をした相手とあらば遠慮もいらない。

「まどかの自宅が占拠された」
「は?」

斜め上を行く暁美ほむらの言葉に、
杏子の思考は一瞬停止し睡魔は吹き飛ぶ。

「レディリー=タンクルロードよ、
今は巴マミが交渉してる。
美樹さやか、美国織莉子、呉キリカ、
近い順から叩き起こして」
185 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/14(火) 03:50:34.51 ID:rUqmCrDW0

ーーーーーーーー

「くそっ!」

実感はないが随分長い事留守にしていた自分の部屋で、
美樹さやかはパジャマシャツをベッドに叩き付けていた。

「まどか、タッくん、おじさんおばさん、
指一本触れてみろ………」

ーーーーーーーー

街灯の下、暁美ほむらは走っていた。
昨日の救出作戦、その後の事も含めて、魔力、キューブを消耗し過ぎた。
あの二人以外にも、救出された魔法少女の中にも危険な状態の者もいた。
だから、今は時間停止はもちろん、変身もギリギリまで控えなければならない。
今は心臓が爆発しないだけマシだ。

「………まどか………」

一声口に出して、ほむらはギリッと歯噛みする。
レディリー=タンクルロード。
とにかく今は、その額のど真ん中に穴を空けるイメージしか浮かばない。

「止まれ」

それは、無機質な声だった。
ほむらが前を見る。
行く手を塞ぐのは、一人の女。
セミロングの黒髪、バイザーを装着し、
ライダーを思わせる黒い繫ぎ姿で背は余り高くない。
或は、ほむらとも余り変わらぬ歳かも知れない。

==============================

今回はここまでです>>180-1000
続きは折を見て。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/14(火) 04:54:16.22 ID:23+B13IlO
この糞スレまだ存在してたのかよキモいからさっさと辞めてくれ
187 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:30:19.34 ID:IzspGz4I0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>185

ーーーーーーーー

「初めに言っておくけど、私もあすなろの御崎海香のグループも、
これ以上あなた達に危害を加えようと言う意思はないわ」
「今現在あなた達がしている事はなんなのかしら?」

所詮、頭の中身はプロの交渉人でもない只の中学生。
余りと言えば余りの言い草に、
ストレートな発言が巴マミの口をつく。

ーーーーーーーー

「何か、御用でしょうか?」

ほむらの言葉に対し、
目の前のバイザー少女は腰のホルスターに手をかけていた。

「何か、奇妙な能力を使うと言う事だが、
素振りを見せたら命の保障は出来ない」
「あなた、自分が何に加担しているのか、理解しているの?」
「この街では非合法の領域に踏み込む事になるが、
事が裏の能力に絡むとなるとやむを得ない」

噛み合わないやり取りに、ほむらの苛立ちが募る。
だが、それでもギリギリで短慮を抑えていたのは、
ほむらの歴戦の勘だった。

「気づいている様だが、私は一人ではない」
「そこを、どけてくれるかしら?」
「断る。ここを通す訳にはいかない、そういう指示を受けている。
押し通る力を持っている、と言うのであれば尚の事だ」
188 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:35:45.41 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「ごっ、がっ………」
「峰打ちだよ、いっそ刻んで、も………」

建物の屋上で、ライフルと共に昏倒する黒ずくめの
背後に立っていた呉キリカが、
ゆーっくり飛んで来たライフル弾をひょいと交わして
ひょいひょいと屋根から屋根へと飛び移る。

ーーーーーーーー

「ごきげんよう」
「!?」

振り返ったシャットアウラ=セクウェンツィアが、
その声に向けて拳銃を発砲する。
標的は、すすすっと横にその弾道を避けながら、光に包まれていた。

「うあっ!」
「どうしたっ!?」

周囲が煙に包まれ、シャットアウラは援護要員の悲鳴を聞いた。

「ちいっ!!」

そして、シャットアウラは、
自分に向けて飛んで来る幾つもの球体を察知していた。
189 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:41:05.86 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「多分、向こうの思う壷な展開ねっ」

夜の住宅街の一角で、美国織莉子の手を引いていた
暁美ほむらは吐き捨てる様に言った。

「この夜中に街中で大爆発。
まどかの家にはまだ距離もあるのに、警察も介入するから迂闊に動けない。
そこから時間停止で脱出したから魔力もギリギリよ」
「それで痛み分けって結果も厳しいわね」
「勘違いしないで、膠着状態から助けてくれた事には感謝してる」

苛立ちが頂点に達している事を自覚するからこそ、
ほむらは頭を下げていた。

ーーーーーーーー

「美樹さんや他の魔法少女達を攫った理由を説明していただけるかしら?
当たり前だけど、
それだけでこちらは大変な迷惑をこうむったし恐怖も覚えた。
言わないと分からないかしら?」

「したくても出来ないわね。
だって、こちらでも理解していないんですもの」
「話にならないわ」
「じゃあ、一戦交える?」
「まともに返答出来る状態? すぐに人質を解放して」

「ええ、これ以上誰にも危害を加えるつもりはない。
話が終わったら無傷で解放するわ。
だから少し、順を追って話をしましょう」
「聞かせてくれる?」

言いながら、ここまでの展開でまともな説明等期待出来ない。
期待するのは時間稼ぎ、仲間の暁美ほむらは
人質籠城事件であれば万能に近い相性。
とにかく平穏に時間を稼ぐ事、巴マミは心の中で深呼吸をする。
190 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:46:21.76 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「なっ!?」

鹿目宅周辺。
黒い外套姿の不審者の腕が、美樹さやかの振るった一刀にぶつかり、
ギリギリと食い止めている。

(凄く固い、防具を着けた腕?
それに、魔力を感じる………)

さやかが一旦引いた。
それに合わせて、外套の者がタンターンッと後退する。
さやかがそれに向けてサーベルを放とうとするが、

「とっ!?」

その時には、さやかは、
タタターンッとアクロバティックに接近していた
外套の者の足払いを辛うじて交わしていた。
191 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:49:35.60 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「改めて言うけど、今後、あなた達に手を出すつもりはない、
だって、そんな事をする利益が無いんですもの。
但し、そちらから仕掛けて来ると言うのならやむを得ないけど」

「勝手過ぎる言い分ね。
今までも今現在もこの状態で、どう信用しろと言うの?
魔法少女の勢力として、全力であなた達を潰す、
と言う結論にしかならないと思わないの?」

「まあ、そういう事になるわね。
でも、事実だから仕方がない。
本当は、一連の誘拐事件に関しても納得のいく説明がしたいんだけど、
これを理屈で説明するのは難しい。
只、どうしても必要なデータがあった、と言うだけで、
傷付けるつもりは最初からなかった」

「そう、物理的にはね。
だけど、そのために私達は小さくないリスクを負った。
その事だけでも、あなた達は魔法少女の敵でしかない」

「そう。あなたの言う通り、
一連の誘拐事件で私達は大きなリスクを負った。
あなた達は、実行犯を含めた犯人側の情報を
自分達だけに留めてくれたみたいだけど、
本来であれば、魔法少女各勢力と
御崎海香のグループ、オービット=ポータルが
泥沼の戦いに突入してもおかしくない事態ね」
192 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:53:00.49 ID:IzspGz4I0

「その事は理解しているのね。
ええ、統一的でもない多数の魔法少女にその情報を流したら
収拾がつかない事になる。
だからそちらの情報は一旦抑えた。
抑えたと言っても、十人以上の魔法少女があなた達の仕業だと知っている」

「ええ。その上でやらざるを得ない理由があったし、
そして、これ以上続ける理由もない。
だから、これ以上はそちらから手出しをしなければ
こちらも手を出さない、そういう話」

「堂々巡りね、呆れるわ」

「私には財力も、権力との繋がりもある。
その上で、マギカを含めた裏側の事情にもある程度通じている。
単体の戦闘力ではあなた達マギカが上でも
それをカバー出来る力、人材が揃ってる。
あなた達マギカのお子様達が戦いを望むなら、
こちらはこちらの社会的なものを含めたやり方で対処させてもらう事になる」

「脅迫ね」
「その通り」
「こちらが手を出さなければ危害は加えない、と約束してくれるの?」

「ええ。別に倫理的な事だけじゃない。
これ以上あなた達をどうにかしても、
リスクばかり大きくてリターンが全くないんですもの。
即答は難しいでしょうね。何れもう少し穏便に連絡する事もあると思うわ」

「もしもし?」
193 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 03:56:29.29 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「美樹さやか」
「転校生っ?」

路上で声を掛けられたさやかが、肩で息をしながら振り返る。

「もしかして、戦ってた?」
「たった今までね。
ここまで来て妙な奴に襲われてさ」
「その敵は?」

尋ねたのは、美国織莉子だった。

「逃げた。だからまどかん家に向かうトコ」
「時間稼ぎね」

織莉子が言い、さやかも小さく頷いた。
その時、そこにいた者は一斉に携帯を見た。
そして、代表する形でほむらが携帯を使う。

「ええ、電話では無事を確認したわ。
自分達が逃走してから指定の時間になったら私に連絡する様に。
レディリーは鹿目さんにそう指示したみたいね」
「窓の鍵とカーテンを開ける様にまどかに言っていただけますか?
念のため、この目で確認します」
「分かった」
194 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/16(木) 04:00:21.89 ID:IzspGz4I0

ーーーーーーーー

「まどか」
「!?」

まどかは、ベッドの上で腰を抜かしそうになった。
理屈では分かっていても、
深夜の寝室を、相手は知り合いとは言え突如として占拠されては
それは本能的な反応だった。

「暁美さんと一緒に、
時間を停止して家の中を捜索したけど完全に撤退したみたいね」

まず、織莉子が状況を確認する。

「まどか、大丈夫? ケガとかない?」
「さ、やかちゃん………」

ずいっと顔を近づけて尋ねるさやかを前に、
まどかの目がみるみる潤み始める。
さやかの胸の中ですすり泣くまどかを、
ほむらは静かに見下ろしていた。

==============================

今回はここまでです>>187-1000
続きは折を見て。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/16(木) 17:12:14.89 ID:qFJdwX3rO
ごむでら並にキモいからここでやんの辞めろよ
やんならハーメルンにでもいってやれよガイジ
196 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:14:25.24 ID:iAJJyARm0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>194

ーーーーーーーー

「こちらの意思は伝わったわね。今すぐの返事は期待していない。
一度電話を切るけど、その後で鹿目まどかがそちらに電話を掛ける。
それ迄の間に余計な事が起きたら、
銃器、爆薬その他で武装したこちら側の人間が
中流よりやや上の平凡な住宅内で死に物狂いで抵抗する事になるでしょうね」

仲間の魔法少女達が救出に来る少し前、
鹿目まどかの寝室を家ごと占拠していたレディリー=タンクルロードは、
そう言って一度電話を切っていた。

「あ、あのっ」
「何かしら?」
「どうして? どうしてこんな事を?」

「聞いての通り、それを簡単に説明出来るぐらいなら
最初からこんなリスキーな事はしていない。
私の事は、どの程度知っているのかしら? 鹿目まどか?」

「科学の学園都市の天才少女で、凄く大きな経営者だって」
「まあ、そんな所ね。だから、あなた達マギカを相手にしても、
単純な武力では済まない力を持っている。
その事は覚えておきなさい。大事なものを守りたいのならね」

「本当に、パ………父や母、弟には?」
「ええ、手を出すつもりはないわ。
倫理上、感情的な問題も当然あるけど、それ以上にメリットが全くないもの。
だから、私達に、あなたの大切な家族、
あなた自身を盾にする様な事をさせないで鹿目まどか」

そう言って、レディリーはすたすたと
その小柄な姿をまどかのいるベッドに近づける。
197 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:19:50.79 ID:iAJJyARm0

「鹿目まどか」

そして、まどかをじっと見つめたレディリーが声を掛ける。

「あなたは、自分の人生が貴いと思う?
家族や友達を、大切にしてる?」

その問いは、今までの余裕ぶったものを離れた、
大真面目なものに聞こえた、だから、

「………もちろん、大切だと思ってるよ?
家族も友達も、みんな大好きだもん!」

まどかは、目の前の女の子に言い切った。

「そう。ええ、このシチュエーションである以上、
脅迫であると言うのも本当。
だけど、本心から大切にして欲しいとも思う。
温かな光に包まれ、人から愛され幸せに満ち足りたあなたの定め。
その奥底には秘めた力がある」

「秘めた、力?」

「ええ、とても強い、そして正しい力。
力は振るう者によって正にも負にも働く。
だから、忘れないで。あなたが一番大切にすべきものは何なのかを。
このシチュエーションで言えた義理ではない、
只の脅迫ととらえるなら仕方がないけど、
あなたの星を見たシビルとしての忠告。警告、かしらね」

そして、レディリーはまどかのいるベッドにスマホを置く。
198 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:25:17.49 ID:iAJJyARm0

「あの時計で長針が6に来たら巴マミに電話をしなさい。
それまでは黙ってこの部屋にいる事。
多大なる迷惑をかけて、悪かったとは思ってる」

レディリーを見せたのは、自分のスマホに表示した見取り図だった。

「特殊な技術でこの窓を開かせてもらった。
目立たない場所だから、
本職の泥棒に入られる前に鍵をかけておく事ね」

レディリーはスマホをしまい、
まどかの指輪を見せ付けながら離れた場所に置く。
レディリーと、何人かの黒ずくめがまどかに背を向けた。

現実問題として、レディリーはとにかく、
他の面々は変身前のまどかでは一対一でも勝てるとは思えない。
まどかとしては、ここで、賭けに出る度胸がある訳でもないし、
漠然とだが、レディリーの言葉を信じてもいい様な気もする。

取り敢えず、マミに伝わっていると言う事は、
仲間が助けに来てくれると信じたい。

レディリーがここで破局的な被害を出したら、
魔法少女をまともに敵に回して嬲り殺し上等の報復を受ける。
レディリーがこちらの事情をそれなりに知っているからこそ、
そんな馬鹿な事はリスクが高すぎる、と言う
彼女の言を信じられる気がした。
199 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:31:16.02 ID:iAJJyARm0

 ×     ×

翌日放課後、当然の如くマミルームでの緊急会合が開かれていた。

「お待たせ」
「警察、どうだった?」

遅れて入った美樹さやかに、巴マミが問うた。

「いやー、結構厳しかったよ。
失踪直前から自分があの場所にいる迄の間の事をすっぽり覚えてないってさ、
普通に無理あるもんそんなの。
他の魔法少女のみんながみんなそう言ってくれなかったら
未だに居残りだったと思うよ」

「失踪して救助されたのが魔法少女で助かったわよ。
即座にテレパスで口裏合わせ出来たから」
「覚えてない、ってのも本当の事だったけどね」

マミの言葉にさやかが言った。

「そっちの副長さんは?」
「今は無理だって。警察の事情聴取もあるし、
お家の方にも弁護士が来てるからちょっと抜けられないって」

佐倉杏子の問いに、成見亜里紗が答えた。

「問題は………」

詩音千里が本題に入る。

「救出作戦の直後、
レディリー=タンクルロードが直接鹿目まどかさんの自宅を占拠。
巴マミさんを通じてこの件にこれ以上関わるな、と脅迫して来たと言う事。
巴さんはどう見ますか?」
「かなりの部分、嘘はないと思う」

千里の問いに、マミが答えた。
200 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:35:42.12 ID:iAJJyARm0

「レディリー=タンクルロードは
こちら側の事をかなり知った上でああ言う手段を取った。
問題はリスク計算よ。公表されている情報が本当なら、
レディリーは天才少女で巨大企業の経営者、少なくとも馬鹿ではない」
「無暗に魔法少女に喧嘩を売る様な事はしない、と言う事ね」

そう言ったのは、美国織莉子だった。

「いや、喧嘩売りまくりでしょう」

亜里紗が、こちらも当たり前の発言をする。

「だから、それには理由があった」
「どんな?」
「分からない。それはあちら側にだけしか分からない事かも知れない。
だけど、これ以上私達をまともに敵に回す、
その事のリスクは理解している筈よ」

亜里紗と問答しながら、マミが言った。

「私と日向カガリが組めば、大概の相手なら
その懐に潜り込んで洗いざらい吐かせる事が出来るけど」
「もちろん。連中、ツバキに手を出したんだ。
そのぐらいの事は当然だ」

暁美ほむらの言葉に日向華々莉が続く。

「敵方にも魔法少女がいるわよ」

そんな二人に、織莉子が言った。

「プレイアデス聖団ね」
「プレイアデス?」

ほむらの言葉に、呉キリカが聞き返した。
201 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:39:32.49 ID:iAJJyARm0

「御崎海香、牧カオル、ミチルかずみ姉妹その他のグループの名前よ。
あいりとユウリに確かめた。
誘拐犯だって事は知らなかったけど、同じ地元の事だから
グループの名前がプレイアデスだと言う事は知っていた。
プレイアデスは7人姉妹、二人多い計算になるけど、
双子を一人、と数えたら計算が合うそうよ」

「プレイアデス、ギリシャ神話ね」

ほむらの説明に、織莉子が続いた。

「ミチルにはメール入れたけど、今んトコ返事はねぇな」

佐倉杏子が付け加える。

「まず、そこからぶっ叩く?」
「難しいわね。レディリーによると、
プレイアデスのメンバーは普通の生活に戻ってるけど、
その周辺にあちら側の人間が配置されてる。
トラブルになったら、警察が介入するための時間稼ぎに徹するそうよ。
あのお屋敷のセキュリティーが厳しいのも調べ済みだし」

華々莉の問いにマミが答える。

「それも、遠距離もありだから私達でもきっついかな」
「屋外ではレディリーの配下、屋敷はそれに加えて警備会社もついてる。
後は………普段通りだとすると、直接監視するのが難しいのは学校だけど、
まさか授業中の学校にこちらから殴り込む訳にもいかないでしょうし………」

実際に対処した呉キリカの後に、織莉子が可能性を潰していった。
202 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:43:30.04 ID:iAJJyARm0

「あなた達の考えも分かるけど、
向こうはこちらの手の内を、魔法少女と言うものの事も知ってる。
私があちらの立場なら、遠くからマスターの異常を察知出来る伏兵を仕込む。
いつだって、自分が優位な立場にいると思い込むのは禁物よ」
「じゃあ、引き下がるって言うの? ここまでされて?」

諭すマミに噛み付く華々莉。
ほむらも、決して心から納得した顔つきではない。

「レディリーは言っていた、単純戦闘力ではこちら側が上でも、
戦争になったらあちら側は社会的な力を使う事も出来ると。
そして、その単純戦闘力でも、
こちら側が即座に仕留める事が出来る程の優位ではない」
「そうだね」

マミの言葉にさやかが続いた。

「あたしも妙な奴と戦ったけど、
魔法少女の剣と戦って時間稼ぎが出来る程度には強かった」
「暁美さんはどうだったかしら?」
「私は、変身前に不意を突かれた。
あの救出でギリギリまで魔力を使えなかったし」
「でも、素人ではない」

ほむらの言葉に、織莉子が続く。

「こちらの出方を読んで奇襲が出来る時点で、
スポーツ競技ではない局地戦ではこちらの負け。
あのレベルの相手と「戦争」をするとなると、
魔法少女でもちょっと厄介ね。
時間を稼いでいる間に社会的な力を使う、
と言うのが本当なら尚の事リスクは高い」

織莉子の言葉に、マミが小さく頷いた。
203 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/20(月) 02:46:54.50 ID:iAJJyARm0

「冗談じゃないっ!」

激したのは、やはり華々莉だった。

「あいつら、ツバキに手を出したんだ。
そして、まともな説明一つ聞いていない、
今後同じ事をしないって保障はどこにもない。
魔法少女って存在そのものに喧嘩売ってるんでしょ?
表の法律が通じない事なら、全部吐かせて八つ裂きにして
他の誰かが二度とこんな事する気にならない様に
見せしめにしてやるのが当たり前なんじゃないのっ!」

「まあー、それがあたしらの筋ってモンだよな」
「………やるならいつでも」

華々莉の言葉に杏子と天乃鈴音が肯定を示した。

==============================

今回はここまでです>>196-1000
続きは折を見て。
204 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:10:52.40 ID:4JAsB1wn0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>203

「まどか?」

マミルームでの会合中、気が付いたのは美樹さやかだった。

「大丈夫?」
「大丈夫鹿目さん?」
「う、うん、大丈夫」

いつの間にか、青い顔でうつむいていた鹿目まどかに
美樹さやかと巴マミが声を掛け、まどかが返答する。

「やっぱり、決着つけないといけないかしら」

言ったのは暁美ほむらだった。

「あいつらは、まどかと、まどかの家族を人質にした。
そういう手段を選択肢として持っている。
そうであれば、やっぱり元凶を断ち切る必要がある。
レディリーを信用する理由は無い」
「そう、なんだけど………」

ほむらの言葉に、まどかが歯切れ悪く言う。

「いいよ、まどか、言いたい事言っちゃって。
今、ここでまどか怖がらせるって言うんなら、
それはあたしが許さない」

さやかの言葉に、まどかが小さく頷く。

「わたしは………
これ以上、事を荒立てたくないって言うか………」
「カガリ」

美琴椿にふんわり声を掛けられ、
一瞬まどかに噛み付きそうになった日向華々莉がそっぽを向く。
205 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:16:21.56 ID:4JAsB1wn0

「心配なんだよね。パパやママやタッくんの事」

さやかの言葉に、まどかは小さく頷き、俯いた。

「そう………理屈で言えば、この状況では、
そうであればこそ徹底的に叩いて二度とこんな事がない様に
向こうから納得の行く結果を出させるべきなんだけど、
でも、まどかの言いたい事も分かる」

「ありがとう、ほむらちゃん」
「そうね」

そして、マミが引き取る。

「私は、今は様子見で構わないと思う。
レディリーの側も私達との衝突と言う事ではギリギリの状態で、
どちらかがこれ以上突っ込んだらどっちが勝っても命に係わる大損害。
その現実を理解していると思う」
「だから、これ以上は手出しして来ないと?」

殺気と共に尋ねる華々莉にマミが小さく頷いた。

「単純な武力ではこちら側に分があるかも知れない。
だけど、「戦争」と言う意味の
知略と社会的な総合力を加えると多分、向こうの方が上。

私達が勝つとしたら、レディリー一点を狙って、
殺すつもりで一直線の頂上作戦を仕掛ける。

それぐらいの事をしなければ泥沼の消耗戦になればどんどんまずい事になる。
それでもやる、と言うのなら………」

美国織莉子の分析を前に、意気上がると言う事は無い。

「レディリー=タンクルロード、どんぐらい怖いんだかね」

そう言って、佐倉杏子はパキッ、とチョコ菓子を口でへし折った。
206 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:22:02.86 ID:4JAsB1wn0

「科学の学園都市の経営者」

マミが答えた。

「飛び級の天才研究者として宇宙工学の分野でも高い評価を受けていながら、
その実践のために投資ファンドを率いて
巨万の富を得てオービット=ポータル社を買収。

科学の学園都市の中でも宇宙開発を中心に
最先端の研究開発を進め、それを利益に繋げて
経営者としても一大勢力を築き上げているマルチな天才少女。

彼女は只のお飾り、下手すると宣伝用のホログラムなんて
都市伝説が出来るのも納得の経歴だけど」

各種情報を集めたほむらがお手上げした。

「少なくとも、物騒な手段を直接実行した、って事は確かだね」

成見亜里紗が口を挟んだ。

「シビル、って言ってた。私の星を見た、って」
「ギリシャ占星術ね、占星術師を名乗っていると言う事」

まどかの言葉に、美国織莉子が反応する。
織莉子自身の能力の関係上、
関心を覚えて占い一般の基礎知識を頭に入れている。

「魔術サイド」

ぼそっと言った美琴椿の言葉に、マミが頷く

「それって? ………」
「私達とは別系統の、
昔からの物語や言い伝えの魔術、魔法とでも言えばいいかしら。
別系統と言っても、魔法の論理構造が全く別、でもないみたいだけど」

亜里紗の疑問にマミが応じた。
207 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:28:02.66 ID:4JAsB1wn0

「私達にしても、一般には知られていない存在。
だったら、そういうカテゴリーが私達以外にあるのも理論的には頷ける、
そして、存在している。そういう事ね」

織莉子が補足する。

「普通は、私達とは何となく住み分けて別世界の存在。
私達魔法少女としても、ある程度経験を積んだら
なんとなく実在している事が耳に入る程度の存在の筈なんだけど、
どういう訳か、今回は向こうから出て来た」

「魔術サイドが私達に喧嘩売りに来たって事?」
「筋目から言えばそういう事になる」

マミの説明に華々莉が食い付き、マミも肯定する。

「レディリーはマギカと言う言葉を多用していた。
確かに、マギカは私達の正式名称でもあるんだけど、
同時に、だからこそ、自分達との混乱を避けるために
魔術サイドの人間が私達を指す際によく使うとも聞いてる」

直接レディリーと交渉したマミの言葉に、他の面々も耳を傾ける。

「科学に、魔術まで出て来たって」

「あの、あすなろで戦った魔獣はケルベロスにヒュドラ、
その召喚術式も地下室にあった魔法陣も、
ギリシャ占星術のホロスコープやゴエティア系の術式。

レディリーが魔術サイドに関わっているのは確定でいい。
科学も最先端まで行くと、むしろ魔術に交わるものなのかも知れないわね。

古に錬金術から科学の基礎への至った
その道の優秀なシビルだからこそ、応用も効く」

吐き捨てた杏子に織莉子が言った。
208 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:34:25.73 ID:4JAsB1wn0

「じゃあ、あれも魔術サイド………」

詩音千里が、考え込む形で呟いた。

「ヒュドラ、ケルベロスとの戦いで建物の外に追い出された後、
私達は不審な者に声を掛けてあんな状態になりました」
「どんな相手だったの?」

千里の言葉に、マミが尋ねた。

「それが、全然覚えてないんだわ」

亜里紗が答える。

「私もです。私は気が付いたら瞬時に
あすなろタワーまで吹っ飛ばされていましたから。
最初は敵方の魔法少女かと思って声を掛けたんですけど、
今考えると、あれは魔術サイドなのかも………」

千里が続けた。

「じゃあ、これから、
その魔術サイドと私達がぶつかるって事になるの?」
「もう、完全に衝突して宣戦布告終わってるよ」

さやかの言葉に、華々莉が憮然とした表情で言う。

「ええ、確かにその通り。
それでひとまず休戦、と言う段階になるかどうかね。

只、レディリーの動きが魔術サイドの総意とも思えない。

魔術サイド自体はワルプルギスの時も出没していたし
こちらで全体像まで分かっている訳じゃないけど、
今回の件は魔術サイドの中でも
レディリーの動きが余りにも突出してる」

「うん、確かにあの時そういう人達はいたと思う」

マミの言葉にさやかが続いた。
209 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:38:39.79 ID:4JAsB1wn0

「そうですね………」

そこで口を開いたのは、美琴椿だった。

「巴さんの言う通り、少しの間様子見をしましょう。
その間に向こうから連絡があればその時。
その間、各勢力間の定時連絡と異変に関する連絡の徹底。
今はこの線で収拾するのがいいと考えますが」
「私は、それでいいと思います」

椿の提案にマミが応じた。

「異議があると言うならここで申し出て下さい。
具体的な反論が無くても構いません。
裏で方針を無視されるのが一番困りますから、
反対すると言うならその意思を示して下さい」

「私は、それでいいよ。
今すぐにでもプレイアデスとレディリーをシメて白状させた方がいい。
私はそう思うけど一人じゃ無理そうだし、
ツバキが………方針がそうなら私も従う」

「ありがとう」

織莉子の言葉に華々莉が言い、椿に声を掛けられて華々莉は下を向く。
210 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:42:31.02 ID:4JAsB1wn0

「私も、今回はそれでいい、現実的な提案だと思う。
あなた自身の考えは? 美国織莉子」

「私自身の考えを言うなら、総力戦でレディリーを抑えて
強制的に事のあらましを喋ってもらう。

多くの魔法少女が誘拐された事に対して何一つ真実が見えない以上、
本来であればそれをするべきである、と考えていました。

但し、それをやるにはここにいる実質的な同盟軍の総意が必要。
現実問題としてその合意を得る事が困難である上に、
私達の総力を挙げてもリスクの大きな戦いになる。

やるべきかも知れないけど、それは今じゃない。
今は警戒しつつ経緯を見守る、それが私の結論です」

ほむらの問いに、織莉子が答える。

「私は、織莉子が頷くなら喜んでその戦場に立たせてもらうよ」

「有難うキリカ。この事件ではあなたが攫われた。
それが取り返しのつかない事になっていたら、
私は一人でも彼女達を終わらせていた。
だけど、そうじゃなかったならば、決して無駄には出来ない」

織莉子と目が合ったまどかは、
さやかに一度視線を向けて、そして小さく頷いた。

「じゃあ、方針は決まった、と言う事でいいわね?」
「異議なし」

マミの問いに対して、大きな声ではないが、
少なくとも明示と黙示でその意思は統一されていた。
211 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:45:56.07 ID:4JAsB1wn0

ーーーーーーーー

「なんか、色々大変だったね」

帰り道、さやかが口を開く。

「取り敢えず、落ち着く所に落ち着いたけど、
正直、今だけはちょっと全面戦争やりたくなかったし。
助けてもらってなんとか間に合ったから」
「間に合った?」

さやかの言葉を、ほむらが少し訝しむ。

「コンサートだよね」

まどかが言い、さやかが眩しい笑みと共に頷いた。

「上条恭介、そうだったわね」
「そ、今週末。いやいや、ここまで色々あって、
誘拐されて寝てる間に終わってました、とか言ったら、
多分あたしプレイアデスとレディリーの首取りに行ってるから。
………こんな時に、勝手言ってるよね」
「そうね」

さやかの言葉に、ほむらが応じる。

「魔法少女の命懸けの恋だもの。
それは全てに優先して勝手を通すものじゃないの?」
「真顔で言ってくれるよ」
「ウェヒヒヒ」
「まどかーっ」

苦笑いするまどかに、さやかが抱き着いた。

「うん、まどかが無事で良かった。
恭介の事も大事だけどさ、まどかと家族が人質になったって聞いた時は、
さすがにあたしもキレたからね。
当然、あいつらの事を許した訳じゃない」
「当然ね」

真面目な顔になったさやかに、ほむらも応じる。
212 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:49:26.34 ID:4JAsB1wn0

「ありがとう、さやかちゃん、ほむらちゃん」
「いつかは、近い内に決着をつける。だけど、それは現実的にやる。
大切な人の命が懸かっているなら尚更、それだけの事よ。
もし、この上何かあれば容赦はしない」
「当然」

ほむらの言葉に、さやかも続いた。

「平和に、終わればいいんだけど」
「優しいなーまどかは。うん、もちろんそれはそうだよ」
「私もそう願ってる」

ーーーーーーーー

「美樹さやか」
「ん?」

まどかを自宅まで送ってから、
ほむらはさやかに声を掛けていた。

「付き合い長いのね」
「まあね、まどかがこっちに転校して来て以来だから」
「そう」

「あー、妬いちゃったかなー転校生?」
「目と目で通じ合う、志筑仁美の言葉を思い出しただけよ」
「そうだよー、あたしは不思議ちゃんだよー」

ふふっと笑ったほむらを、さやかはストレートに魅力的だと思った。
なんとなく、分かる。ほむらはまどかを大事にしている。
だからこその空回り、まどかのため、
と思っても慮れなかった部分が不甲斐なかった、と言うほむらの気持ちも。
互いに自分に無いものを持っている。そして、まどかを大事に思っている。
だから、少なくとも今のこの局面で余り自信を失くして欲しくはない。

「とにかく、昨日からあれやこれやで正直眠いわ。
魔獣狩りのペース取り戻すまで、一休みするよ」
「同感ね。じゃあ、くれぐれも用心して」
「お互いにね」
「無事、愛しい人のコンサートを鑑賞できる様に」

にっこり笑ったさやかを、ほむらはストレートに魅力的だと思った。
213 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/22(水) 03:52:33.04 ID:4JAsB1wn0

 ×     ×

その夜、ホオズキ市内の新聞販売店二階の部屋で、
天乃鈴音はスマホを操作していた。
床に腹ばいになり、イヤホンを差してネット動画を視聴する。

「………続きまして………ヴァイオリン、上条恭介………」

配信されているのはコンサート中継。
まだプロと言うには駆け出しだから宣伝優先の無料配信。
辛うじて時を共に出来る、と言う程度の動画配信。
直接見に行きたいのはやまやまでも、
販売店住まいの勤労少女には敷居が高い。

案内が終わり、旋律が、そして歌声が鈴音の心に染み渡る。
コンサートの主役は、新進の女性シンガーだった。
彼女はまだ十代、つい最近まで全くの個人活動と言って良かったが、
ネットでの好評の後押しもあって、路上からメジャーに一歩踏み出した。

今日のコンサートは、軽音楽からクラシック、和風まで、
そんな彼女と若干の段階を経て集められた各分野のジュニア世代が
コラボレーションすると言うやや色物的にも見えるコンサートだったが、
その企画に誘われた皆々には、色物臭を吹き飛ばすだけの真摯さと力があった。

普段は、自分でキーボードの弾き語りで歌っている曲だが、
今日はオルガン、そしてヴァイオリンの演奏と共に
しっとりと、そして伸び伸びと歌っている。

クラシック出身の演奏二人の正装に対して、
下品にならない程度のカジュアルさも
歌と共に彼女らしさ、と言えるものだった。

==============================

今回はここまでです>>204-1000
続きは折を見て。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/22(水) 09:15:34.96 ID:7vEPLo8PO
まだやってんのかよこれ
まどマギキャラを踏み台にする糞クロスSS消えろ
215 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 02:51:29.84 ID:X6/HCBTI0
まずは訂正です。

×レディリー=タンクルロード
○レディリー=タングルロード

このスレに入ってから、
いつの間にか間違えていましたすいません。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>213

ーーーーーーーー

「恭介っ!」

コンサート会場となったホールのエントランスで、
上条恭介は馴染み深い声を聞いた。

「さやか」
「うん」

満面の笑みで自分を迎える幼馴染の女の子。
そんな愛しい相手に、恭介も優しい笑みを以て応じる。

「上条君」
「志筑さん、みんな、来てくれてありがとう」

そのさやかの側から恭介に熱い眼差しを注ぐ
深い知り合いのお嬢様と言葉を交わし、
恭介は改めて奏者としての礼を示す。
216 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 02:56:33.10 ID:X6/HCBTI0

「こちらこそ、素晴らしい演奏を有難う」
「ウェヒヒヒ」

丁重に一礼したのは、割と最近恭介のクラスメイトになった
長い黒髪が印象的な転校生暁美ほむら。
そして、その側で屈託なく微笑むのは、
こちらはほむらと仲が良く、小学生時分から
さやかを通じて恭介の友人でもある鹿目まどか。

「やっぱり、恭介だよね。
なんて言うか、感動しちゃった」

元々、花より団子を地で行くタイプのさやかは、
クラシックに詳しいとは言えない。
それでも、恭介のヴァイオリンが好き、と、
今ではてらいなく言ってくれるし、恭介もそれを心から嬉しく思う。

「素晴らしい演奏でした。クラシックではないもので、
少し心配しておりましたが杞憂でしたわね」
「そうだね。歌も素晴らしかったし、
その土俵で精一杯、満足出来る演奏だったと思う」
「堪能させてもらったわ」

クラシックに嗜みのある仁美と恭介が言葉を交わし、
そこにほむらも一言加わる。
恋人の友達の友達と言うのか、
クラスメイトなのは別にしても全くの他人ではない、
と言うのが恭介から見たほむらなのだが、
こうして見ると落ち着いた、少し大人びた美少女と言う事になる。
男として食指が動く訳ではないが、それは素直な感覚だった。

「それじゃあ、僕はこれで」
「うん、お疲れ様」

さやかがにへらっと笑い、恭介とこん、と拳を合わせる。
仁美とも同じ仕草をして立ち去る恭介。
エントランスで幸せ馬鹿全開な二人の乙女を、
ほむらとまどかは生暖かく見守っていた。
217 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 03:07:52.83 ID:X6/HCBTI0

ーーーーーーーー

「やあ、上条君」
「どうも」

ホール通路で恭介が落ち合ったのは、
今回のコンサートのプロデューサーだった。
二人は、そのまま近くの練習室の一つに移動する。

「恭介君」
「アリサさん」

少し遅れて部屋に現れたのは、
今回のコンサートのメインシンガー、鳴護アリサだった。

「今日はありがとう、素晴らしい演奏だった」
「こちらこそ、あの歌と演奏出来て光栄です」

アリサは屈託のない笑みで恭介を賞賛し、
そのまま、舞台を共にした者同士両手で握手する。

恭介から見たアリサは、例え駆け出しでも、自分とさほど歳が変わらなくても、
自分の音楽で自分の道を切り開き始めた力強い音楽家であり、年上の女性。
恭介の感覚では、そんなアリサは一歩も二歩も前を行く眩しい存在であり、
そして自分がまだまだ子どもだと自覚させられる。

そんな恭介が縁あってコンサートに選抜されて出会った後、
アリサはその天真爛漫さと音楽への真摯さを以て、
こうやって恭介の側に屈託なく飛び込み、
恭介もそのペースに気持ちよく乗せられていた。

「それで、私と、恭介君も呼ばれたのは?」

アリサがプロデューサーに確認する。
後で施設育ちの癖だとも聞いた、
敬服するプロシンガーであり魅力的な年上の少女から
出会って早々の頃からこうやって呼ばれた事に、
恭介も初めの頃は些かこそばゆく感じたものの、それもすぐに慣れた。
アリサはそういう少女だった。
218 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 03:13:58.99 ID:X6/HCBTI0

ーーーーーーーー

「用があるのは私」

練習室のドアが開き、新たな入場者がそう発言する。
その様子を見て、恭介は首を傾げていた。

入って来たのは一組の紳士淑女。
そして、その真ん中に一人の女の子。

彼女の服装は暗い紅を基調としたゴシックロリータとでも言うのか、
しかし、それはコスプレと言った下品さがなく、
クラシックコンサートでも大きな違和感のないものだった。

「レディリー!」

その姿を見て、アリサが声を上げる。
その間にも、三人組はツカツカと恭介に近づき、
女の子が真正面から恭介を見上げる。
整った顔立ちと服装も相まって、何かお人形さんに見上げられている様な、
恭介はそんなホラー染みた感覚を覚えていた。

「ブラボー」

それが、恭介に向けられた第一声だった。
可愛らしさを秘めた、澄んだ声だった。

「素晴らしい演奏だったわ、ジャンルの違いもそうだけど、
強いて争う事なく、混然一体となって「奇蹟の歌」を引き立てた」
「有難う」

すっ、と、手を差し出され、
子ども向けの笑みを作りながら恭介はレディリーの手を取る。
だが、内心では息を飲んでいた。
アリサの歌は、今の自分には捉まえ切れない。
じゃあどうするか? 自分の出した今の答えを的確に読まれた気がした。
レディリーの目配せを受け、紳士が恭介に名刺を差し出す。
219 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 03:19:10.12 ID:X6/HCBTI0

「レディリー=タングルロード?
オービット=ポータル代表………」
「えーと、恭介君」

アリサが、少々言い難そうに口を挟む。

「真面目に聞いてね」
「はい」

恭介はきょとんとする。確かにアリサは朗らかな少女だが、
今は恭介から見て年上、格上の音楽仲間に他ならない。
真面目な場面では真面目な話なのは当然だ。

「この子、こちらはレディリー=タングルロード。
科学の学園都市の住人で、いわゆる天才少女。
飛び級で大学院まで出て宇宙工学と経営学をマスター、
オービット=ポータルを初めとした
宇宙開発に関わる巨大な企業グループを経営している大企業家。
科学の学園都市の私の支援者の一人でもあるの」

恭介は、きょとんとして聞いていた。
取り敢えず、アリサが科学の学園都市の出身である事は知っているし、
科学の学園都市と言う最先端科学開発都市の事もなんとなくは知っている。
それにしても、目の前の光景と恭介の常識は、
リンクするには些か乖離の度が過ぎていた。

「だから、冗談じゃないからね」

可愛らしい声だが、アリサが真面目に話していると言う事は理解出来る。

「えーと、今の話って」
「全部、本当の事だよ上条君」

プロデューサーの言葉に、ようやく恭介の現実感が追い付いて来た。

「もういいわ」

レディリーの言葉と共にプロデューサーが一礼して辞去した事で、
恭介の感覚は現実に急接近する。
220 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 03:23:18.46 ID:X6/HCBTI0

「上条恭介君」
「はい」
「楽にしていいわ、この私に物理的に
どういう姿勢で対していいのか分からないでしょうし」

正に、図星だった。

「あなた達をここに呼んだのは私。
あなたをスカウトするためにね」
「僕を、ですか?」

返事の代わりに、淑女が恭介にパンフレットを差し出した。

「エンデュミオン?」
「オービット=ポータルが建造した宇宙エレベーターよ。
その落成式典で演奏をしてもらいたい、鳴護アリサと一緒にね」
「………」

言葉を失っているのは、恭介もアリサも同じだった。

「知っての通り、今回の形式のアリサのコンサートは
全国で何度か行って来たけど、
コンサート企画自体が大幅にこちらの資本とプロデュースによるもの。
式典のためのスカウトの意味合いもあったって訳。
そして、上条君はその眼鏡にかなった。
私だけじゃない、プロの意見も十分に反映されている」

「光栄です」

真面目に、と、念を押され続けていた恭介は、
無理矢理にでも現状をロジックで理解して最適解を口にする。
221 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/25(土) 03:28:19.96 ID:X6/HCBTI0

「コンサートの核は鳴護アリサ、それはとっくに決まって準備も進めて来た。
だけど、その中であなたの様な演奏者が欲しい、だからスカウトしている。
ご理解いただけたかしら?」
「はい。光栄だと思います」

「まあいいわ、今すぐ信用しろって言ってもそれは無理よね。
明日からでも、あなたが信用出来る形で人を立てて交渉させてもらう。
只、今はあの演奏を聴いた私の思いを受け取って欲しい」
「はい、重ね重ねですが、光栄です、有難うございます」

取り敢えず、レディリーにもリアリティの埋め合わせをするつもりがある、
と言う事も理解して、恭介は丁重に一礼した。

「良かった」

アリサが言葉を挟む。

「私も今聞いて、本当に驚いた。
でも、又恭介君と、あの舞台で弾けるんだったら嬉しい」
「僕もです。僕も、アリサさんの歌で演奏するの、楽しかったですから」
「有難うっ!」

アリサが屈託のない笑みと共に両手を差し出し、手に手を取り合う。

「私が言う迄も無いと思うけど、これだから、
楽しい、だけじゃ済まないのは覚悟しておいてね」
「「はいっ」」

パンフレットを掲げたレディリーに、二人の音楽家の卵が力強く返答した。

==============================

今回はここまでです>>215-1000
続きは折を見て。
222 :全知全能の神未来を知る金髪王子様の須賀京太郎様 [二次元美少女達は金髪王子様の須賀京太郎様の嫁]:2017/03/25(土) 06:18:22.02 ID:0sbE9dhi0
長編乙安価スレだったらチョンのQB来世基地外(`艸´;)チョンバナナマンズラ
223 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:15:54.58 ID:34/MwJ0P0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>221

ーーーーーーーー

「失礼します」

又、練習室のドアが開き、恭介は聞き覚えがある声だ、と首を傾げる。

「………ハルカさん?」
「アウラちゃんっ?」

入場者を見て、恭介とアリサは口口に声を上げた。
そこに現れたのは、
奏遥香とシャットアウラ=セクウェンツィアの二人だった。

「今晩は、上条君。聞かせてもらったわよ。
上条君に、鳴護アリサさん。素晴らしい音楽を有難う」
「有難うございます」

遥香と恭介、アリサが握手を交わす。
大人びた長身の美少女に、
ライトブルーのドレスがよく似合っていた。
224 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:22:17.50 ID:34/MwJ0P0

「シャットアウラ=セクウェンツィア、私の姉さん」
「シャットアウラ=セクウェンツィアです」

アリサの紹介に、シャットアウラがぼそっと言って一礼する。

「お姉さんも音楽を?」
「うん。洋楽なら今でも私より上」
「元々、シャットアウラは私の身近で働いている。
奏ハルカの事はこちらの情報ルートで知って、
彼女が演奏すると言う所に人を派遣して、
見極めとスカウトをやらせた次第よ」

その間に、遥香とシャットアウラは僅かに目と目で通じる。
遥香が、練習室のピアノ椅子に着席し、とんとんと鍵盤を鳴らす。
シャットアウラが、その側に直立する。

「Attention please」

ドレミファソラシドの後の遥香の一声に、アリサは少しぎょっとしたが、
恭介の表情を見て「舞台」の二人に視線を向ける。
ここで遥香が弾くのは、やはりジャズ・スタンダード。
恭介は頬を紅潮させ、ほうっと息を吐く。

今の状態で、音楽に関してアリサは身贔屓で物は言わないだろう、
とは恭介も思っていたが、
今流暢な原語で歌っているシャットアウラの水準は間違いなく高い。

そして、遥香のピアノ演奏と溶け合いながら高め合う。
恭介としては本来畑違いなのだが、
今、自分がいいものを聞かせてもらっている、その事は十分理解出来る。

今は、かつてSFアニメEDにも使われた
太陽系なラブソングに暫し聞き惚れる。
225 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:27:47.01 ID:34/MwJ0P0

ーーーーーーーー

パチパチと響く拍手の中、奏遥香とシャットアウラが一礼した。

「素晴らしかったです」
「有難う」

近付いた恭介は、まず、顔見知りの遥香と言葉を交わす。

「シャットアウラさんの歌も、素晴らしかったです」
「ああ、有難う」

シャットアウラの雰囲気はやや儀礼的ではあったが、
それでも、握手は拒まれなかった。

「アウラちゃん、良かったよ」
「ああ。まあ、なかなかアリサみたいな訳にはいかないが」
「ううん」
「アリサさんのお姉さん?」

恭介が聞くともなしに口を挟む。

「うん、二卵性双生児なの。
色々事情があって小さい頃は全然別々に育って、
一緒になったのは割と最近だから」

恭介もアリサが施設で育ったと言う事は聞いた事がある。
根本的にフルネームが丸ごと違う点も含め、
余り立ち入るべきではない、と言う事は理解出来た。

「本当はベースも上手なんだけど………」
「流石に、金を取るだけの準備は出来ないよアリサ」

シャットアウラは不愛想、ぶっきらぼうな所はあるが、悪い人ではない。
天真爛漫なアリサとは好対照であり、
それで姉妹仲は良好らしいと恭介にも察せられる。
そう見ると、ますます親しい友人の友人でもある
身近なクラスメイトを思い出したりもする。
226 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:33:07.28 ID:34/MwJ0P0

「上条君」
「ああ、ハルカさん。さっきの演奏、良かったです」

「うん、有難う。上条君と鳴護アリサのコンサートも素晴らしかったわ。
出来る事なら、私も一度、彼女とも合わせてみたいものね」
「僕も、聞いてみたいです」
「有難う。別々のパートになりそうだけど、
エンデュミオンでのコンサートも期待してる」

「ハルカさんも、あの歌とハルカさんのピアノ、楽しみです」
「有難う。頑張りましょう、お互いに」
「はい」

遥香が手を伸ばし、恭介がその手を握る。
そして、遥香が左手を出して、手に手を取っていた
恭介の胸を直撃して余りある眩い笑顔と共に。













これは












227 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:38:48.39 ID:34/MwJ0P0





少し強気な







普通の少女










奏遥香の









物語








228 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:42:09.84 ID:34/MwJ0P0

 ×     ×

オービット=ポータル社のトップルームで、
レディリー=タングルロードは
PCのデスクとホロスコープを行き来していた。
部屋は展望仕様であり、その設備は天文台にも等しい。

「エンデュミオンにはセレネの竪琴を授けましょう」

ホロスコープの上にはいくつものカード、写真入りカード。

「何もない、相変わらず曇り一つない」

ホロスコープを見ていたレディリーが結論を言った。

「それでも、法則の変わる場所で、
少しでもそれに近い者達が奏でる竪琴が奇蹟の歌と出会うとしたら?」

言いながら、レディリーはカードを移動する。

「あれは、何だったのか?
本来の配置を行う事はヴァルハラの門を開く、とでも言うのか?」

同じ位置に並べ替えたカードを、少しの間注意深く観察する。

「だが、やはり、何もない。何の問題も無い。
光り輝く幸せに満ち足りた世界が続くばかり。
科学にせよ魔術にせよ、現実的に大きなリスクは丸で見えない。
そして、マギカも、私達自身が及ぼしたリスク以外は。
そして、それすら容易に修復されている模様」

レディリーが、ぐしゃぐしゃとカードをかき回す。
229 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:45:45.11 ID:34/MwJ0P0

「では、何を感じた? 只の自意識過剰?
じゃあ、あのヴァルハラは何だと言うのだ?
私ほどの魔術、そして、あの高度な性能のマギカにすら、
形あるものは片鱗すら掴ませない。
それ程に高度な隠蔽が存在する、とでも言うのか?
それが出来るとするなら、
魔術、マギカすら……いや………」

レディリーは、ホロスコープから顔を上げた。

「だとすると、そんなものが私達に察知出来るものか、
例え違和感の欠片であってもだ。
もし、だとするならば、
そうなる程に不安定な何かが起きているとでも言うのか………」

少しの間考え込むレディリーだったが、
程なく、にいっと口角を上げていた。

「まあいい、あなた達の大好物を携えて、
これより天上に使わそう。
わざわざこれを、これ程に優れた星の流れを壊そうと言う程、
Mな趣味は持ち合わせていない。
では何なのか、不安の源を見せてもらおう」

ホロスコープの中央に、一対の写真が並べられた。

「それはマギカの素質でもあるのかしらね?
その輝きは、丸でアポロンの加護。
そして、一対の、丸でアルテミスの様に」
230 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:49:09.69 ID:34/MwJ0P0

ーーーーーーーー

いで………

ないで………

かないで………

「まどかっ!!!!!」

暁美ほむらは、叫びと共に跳ね起きた。

「何?」

真っ暗な部屋、一人暮らしのいつものベッド。
寝起きでぐちゃぐちゃの頭の中で現実のピースをはめ直す。
そして、自分の両方の頬がつーっと濡れている事に気づく。

「嫌な夢でも、見たのかしら?」

ほむらは一人ごちるが、それでも、覚えてもいない悪夢の後遺症なのか、
僅かに呼吸が弾んでほろほろと涙が溢れ、寝汗も気持ち悪い。

ぐいっとパジャマの腕で顔を拭うと、
一人暮らしの気楽さでそのままシャワールームに直行して
全身まとめて諸々洗い流す。
231 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:52:45.97 ID:34/MwJ0P0

一息ついて、温かなベッドに入る。
ほむらは改めて考える。嫌な夢でも見たのだろうか。
あんな誘拐事件があり、そして、ごたごたと危うい事があれば、
悪夢の一つを見ても仕方がない。

レディリーは、まどかを家族ごと人質にした、
その事に就いて、未だ何の保証もされていない。
只、何も起きない状態が続いているだけ。

美樹さやかの大事なコンサートも終わった、
そろそろ抜本的な事を考える時期だろう。

「何だったんだろう?」

ほむらは、ふと思い出す。
旧あすなろ工業団地での救出作戦の一幕。
何者かの襲撃の結果、詩音千里と成見亜里紗が危険な状態となり、
そんな中で、まどかが、

「………」

ほむらはガバッと布団を被り、
脚の動きに合わせてバタバタと掛け布団が跳ね上がる。

「まどか」

すっ、と、布団から目だけを出したほむらが口に出す。
232 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:56:05.59 ID:34/MwJ0P0

「まどか、美樹さやか、マミ先輩、佐倉杏子………」

みんな、大事な友達であり仲間。
時には共に死地を潜り、背中を任せ、
楽しい日常を共にする大切なみんな。
それを壊そうと言うのなら、
決して譲らない。それは今のほむらにとって余りにも当たり前の事。

「まどか、の、家族………」

お邪魔した事があるが、温かな家族だった。
それを、仲間の友達の家族を魔法少女の抗争に巻き込むと言うのであれば、
仲間として友達として、全力で守り抜く。
それは当然の事、と、ほむらは心の内で確認する。

そして、ほむら自身の事も
そろそろ両親の準備も整う、また、家族一緒の生活になる。
まだまだ人恋しい年頃にそれは嬉しい事ではあるが、
では、魔法少女の方はどうするか?

まあ、過去には何とかして来た訳だからどうにかなるが、
気楽な一人住まいにも慣れた手前、考えなければいけない。

そうだ、全ては上手くいく。
レディリーの事も、不安ではあるが実際はそうでもないかも知れない。

実際に、魔法少女、自分の知っているグループだけでも、
この勢力をこれ以上怒らせる程レディリーは馬鹿ではない。
単純な理屈だが説得力はある。

もう少し、気楽に考えてみよう。
暁美ほむらは、輝く明日に向けて呼吸を整える。
静かな寝息を立て始め、もう、悪夢は見なかった。

ほむら「幸せに満ち足りた、世界」

第二部―了―

第三部に続く
233 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [saga]:2017/03/26(日) 01:59:45.13 ID:34/MwJ0P0
==============================

後書き

ここまでお読みいただいた読者様に御礼申し上げます。

この進行具合は言い訳の種も尽きた状態で、
只、申し訳ありません。

せめて昨年末に第二部だけでも、
と思いつつ個人的に力尽きました。

最初から三部構成の予定で現状変えるつもりもないのですが、
この手の予定を言って当たった試しがない、と言うのも
私の場合実際ですのでその辺りは。

今回はここまでです>>223-1000
続きは折を見て。
234 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/04/24(月) 12:59:06.20 ID:mFj0ahpg0
生存報告です
235 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage]:2017/05/20(土) 01:49:36.94 ID:4xW2/Nn80
生存報告です
236 :幸福咲乱 ◆5sHeUtvTRc [sage saga]:2017/06/05(月) 22:44:13.53 ID:DRD62RRt0
第三部開始に就き
次スレに移行します。

ほむら「幸せに満ち足りた、世界」3(まど☆マギ×禁書)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496667140/

それではHTML依頼行って来ます
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/12(水) 17:12:46.39 ID:U+4dJS0M0
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