見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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516 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:47:15.93 ID:VZJbN5Sj0

「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」

ニコが指折りして仲間に迫る。

「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」

「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」

海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。

「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」

一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。

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今回はここまでです>>511-1000
続きは折を見て。
517 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:28:22.60 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

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>>516

「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」

見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。

「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」

佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。

「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」

難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。

「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」

リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。
518 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:31:27.67 ID:0SoCioM80

「若葉みらいさん」

愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。

「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」

指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。

ーーーーーーーー

海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。

「な、んだよ?」

ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。

「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」

水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。

「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」

オブジェを調べていた愛衣が呟いた。
519 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:33:15.07 ID:0SoCioM80

「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」

その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。

「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」

振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。

「覚悟して聞いて欲しい」

そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。

「魔法少女は、魔女になる」
「何?」

目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。

「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」

マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。

「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」

海香の言葉に、マミが応じる。

「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」

マミに代わり、杏子が返答した。
520 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:34:48.94 ID:0SoCioM80

「ご、ごめんなさい、その話、本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目よ。
私達は過去、実際に魔女になった魔法少女を見ている」

「その、魔女になった魔法少女、は?」
「退治した。ソウルジェムは魔法少女の本体、命であり魂そのもの。
そのソウルジェムがグリーフシードとなり、
魔女が生まれてしまった後では、もう取返しが付かない。
被害の拡大を防ぐためには、殺すしかない。これが現実よ」

「じゃあ、私達が退治している魔女は」
「使い魔が成長したものでなければ、
私たちすべての魔法少女の末路」

限界を迎えていたのは、海香と問答していたマミの表情だった。

「そん、な。じゃあ、私、美樹、さんに………」

次の瞬間、「レイトウコ」と
プレイアデス聖団が呼ぶこの空間に銃声が響いた。

「なっ!?」

箒を手放し両手を振る愛衣を後目に、裕奈がマミに向けた魔法拳銃が
マミのマスケット銃の銃弾に弾き飛ばされていた。

「!?」

次のマスケットを構えたマミが硬直する。
その射線には、裕奈が両腕を広げて立ちはだかっていた。

「なんだか知らないけど、
この娘達を傷つけるつもりっ!?」
「落ち着けマミっ!!」

裕奈と杏子の叫びを聞き、マミは荒い息を吐きながら銃口を下ろした。
521 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:38:57.60 ID:0SoCioM80

「大丈夫、メイちゃんっ!?」
「ええ、魔法銃に弾かれただけですから。想像以上の威力です」

マミの背後にそっと接近し、マミに「眠りの霧」をキメる直前に
恐慌した表情でマミが振り返り、
マミが発砲した銃口にとっさに魔法の箒を向けていた愛衣が青い顔をして言った。

「マミ、ソウルジェムを出せっ!」
「えっ?」
「いいから早くっ!!」

杏子に気圧される形でマミが従い、
杏子が手持ちのグリーフシードでマミのソウルジェムを浄化する。

「一つ貸しだからな。ここで濁られたら本気でヤバそうだから」
「そ、そう、魔女、魔法少女が魔女になる、って、
改めて聞くけど、本当なの?」
「ええ、本当よ」

改めての質問に、海香が根気よく答える。

「そん、な………キュゥべえ、どうして………」

「奴の正体は宇宙生物、希望が絶望に相転移して魔法少女が魔女になる。
その時に発生するエネルギーを回収して宇宙の延命に役立てている。
取り敢えずキュゥべえ自身はそう説明している。
彼らの発想に善も悪も無い、地球の人間の事なんて
そのための家畜、燃料だとしか思っていない。
嘘だと思うなら、キュゥべえに直接確かめてみるいい」

「あ、の、野郎………」

海香の説明にマミがすとんと座り込み、杏子が呪詛の言葉を吐いた。
522 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:41:03.43 ID:0SoCioM80

「あすなろ市を中心に発生していた少女失踪事件。
これがその真相ですか?」
「相当数はそうでしょうね」

愛衣の質問に海香が答えた。

「理由、教えていただけますか?」
「海香………」

背後から声をかけるかずみに、カオルが小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>517-1000
続きは折を見て。
523 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:13:39.34 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

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>>622

ーーーーーーーー

<御崎海香の絶望>

以下略

「そうやって、絶望にとらわれ魔女の餌食になりそうになった私達を、
かずみは救ってくれた、命も、心も。
だから、私達も魔法少女となって、
かずみと共に「プレイアデス聖団」を結成した」

「最初は只、みんなで集まって、人に害を為す魔女を退治する、
楽しいパーティーだったよ」

御崎海香の説明に牧カオルが付け加え、巴マミが視線を落とす。

「だけど、飛鳥ユウリの魔女化によって私達は魔法少女の真実を知り、
魔法少女と言うシステムとの戦い、そして破戒を決意した」
「じゃあ、ユウリは………」

杏子の言葉に、説明していた海香は目を閉じて頷いた。

「ちょっと待て、かずみの記憶の事は?
こいつは………」
「かずみはかずみよ」

杏子の言葉を遮る様に海香が言った。
524 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:18:11.32 ID:0SoCioM80

「魔法少女の真実を知り、色々異常な状態で魔女との戦いが続いた。
そんな中で、かずみは一時行方不明になり、
医学的なものとも魔術的なものとも判然とせずに記憶を失って戻って来た。

佐倉杏子さん、あなたの言いたい事は分かる。
だけど、彼女の頭に記憶を完全に戻そうとすると、
現実問題として拒否反応が起きてかずみを苦しめる事になってる。

だから、彼女が受け入れている「かずみ」の名前と共に
今は無理のない生活を模索している段階。
その事を理解して欲しい」

海香がカオルと共に頭を下げ、杏子はそっぽを向いた。

「海香、カオル………」
「ええ、だから、今は無理をしなくていいの」
「そうだ、かずみには私達がついてる、
少しずつ思い出していけばいい」

不安を隠せないかずみに、海香とカオルが言った。

「彼女達は皆、魔法少女なんですか?」

改めて、周囲を見回した愛衣の問いに、海香が頷く。
その背景で、カオルが通路の奥にある巨大な円柱にすとんと着地していた。

「そうよ、だから私達は魔法少女狩り、とも呼ばれている」
「何、だよそれ………」

海香の言葉に、口角を上げた杏子の足がじりっと下がる。

「全部濁ってるのは偶然じゃないよね?」

水の中のソウルジェムをすくい、かずみが言った。
525 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:21:02.23 ID:0SoCioM80

「この魔法陣は、ソウルジェムと肉体を分断し、
休止させるためのもの」
「これ以上ジェムが黒くならないように?」
「そう、そして魔女化しないために、
彼女たちが人間であり続けるために」
「それだけじゃない」

かずみと海香のやり取りを、円柱の上に座ったカオルが続ける。

「ジェムを完全に浄化し、彼女たちを人間に戻す方法を見つける。
その日まで自分たちで戦い続ける。そう決めたんだ。
それがあたし達の、『魔法少女システム』に対する『否定』ってヤツさ」
「それじゃあ、あたし達の事も?」

快活なスポーツ少女の印象を離れた、物憂げですらあるカオルの言葉に、
問いかける杏子の手は僅かに強く槍を握る。

「ええ、本当であればこの中に加えたい。
だけど、魔法少女の中でも有力者で知られるあなた方が
魔法少女の真実を知った今、
敢えてそれをやる優先順位は低くなった」

「そりゃどうも」

海香の返答に、杏子が笑みに殺気を込めて答える。

「その方法が見つかる迄、こうやって眠り続けてる、って。
そうしないと魔女になる、から………」

少女達が液体に沈むカプセルを見回しながら、
裕奈は自分の言葉を頭の中で反芻する。

「Sleeping Beauty」
「Yes その時迄、王子様のキスを待って眠り続ける」

愛衣の呟きに、神那ニコが答えた。
526 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:24:43.74 ID:0SoCioM80

「だけど、王子様なんて待ってられない」

カオルが続けて言った。

「だから、私達はあらゆる手段でその方策を探し続けた。
この本でも足りなかった。
だから、魔法使いの知恵も借りようとした。
そちらの、麻帆良学園の図書館島にも侵入してね。
微かな情報から魔法使いの情報を少しずつ集めて、
図書館島なら役に立つ情報があるのではないかって」

海香がカオルの言葉に続いた。

「お役に立てましたか?」

「今の所は何とも言えない。
確かに、図書館島の奥地は私達にとっても危険過ぎる場所。
それでも少しずつ、
そちらの監視を掻い潜りながらの探索を続けていたけど、
何か強力な魔法の発動を察知して、
危険過ぎると言う事で撤退した、それっきりよ」

愛衣の問いに海香が答える。

「じゃあ、鹿目さん達、ゲートが起動した事は知らない、
そう言いたいの?」

「よく分からないけど、私達は図書館島で本を探していただけ。
それ以上の事は知らないわ。
魔法使いと関わる事も、思い当たるのはそれだけね。
そちらの秘密の文献に勝手に接触しようとしたのは
そちらにとっては不都合だったと、それは認める」

マミに対する海香の返答を聞き、
愛衣はすー、はー、と深呼吸した。
527 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:27:21.13 ID:0SoCioM80

「分かりました」
「え?」

愛衣の返答に、カオルが思わず声を上げた。

「前から申し上げていますが、元々魔法使いと魔法少女は不干渉です。
魔法少女同士の事であれば、我々が敢えて介入する事はありません。
図書館島を勝手に使われては困りますから、
その点は上に報告してしかるべく対処する事になると思いますが、
率直に言って、管轄違いの面倒事に巻き込まれるのは御免です。
後はそちらで片を付けて下さい」

「佐倉さ、メイさん?」
「お、おう」

言いかけたマミにちらっと視線を走らせ、杏子が頷いた。

「あんたらのご大層な志は分かったよ。
けど、風見野と見滝原には手を出すな。
少なくともあたしは、魔女なんかにならない様な上手くやる。
見滝原の魔法少女に手を出したら、
百戦錬磨の大ヴェテラン巴マミ先輩に踏み潰されるぞ」

「え?」
「なあ」

「え、ええ、そうね。理屈は分からないでもない。
だから、あすなろ市での事は敢えて口出ししない。
だけど、見滝原に、特に私の後輩達に手を出すと言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ」

杏子から唐突に名前を出され、
戸惑いを見せていたマミも通告しながらペースを取り戻した様だった。
528 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:35:49.22 ID:0SoCioM80

「先程は言葉が過ぎました、ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちも色々まずい事はあったんだし」

円柱から大ジャンプして着地したカオルに愛衣が頭を下げ、
カオルは手を上下させてとりなす。
そのカオルの手が、バスケットボールを受け取った。
そこに書かれた、
「Yuna 2on2」の文字にカオルが顔を綻ばせる。

「時間があったら、赤外線でアドレスでもしたかったんだけどね」
「これ以上の深入りはお互いのためになりませんので」
「そうね、面倒をかけて悪かったわ」

裕奈と愛衣の言葉に、海香が応じた。

「大丈夫、かずみ?」

海香が、俯くかずみに声を掛ける。

「うん………魔法少女狩りはユウリのことがあったからなんだね?」

海香に肩を掴まれながらかずみが言い、
そんな二人に愛衣が一瞬鋭い視線を走らせる。

「………みんな疲れてる」

口を挟んだのは、オブジェの上のカオルだった。

「今日は、お開きに出来ないか?」
「見た所、そちらの御崎さん、神那さんがいれば
上のメンバーを縛っているリボンの拘束は解除出来そうですけど、
どうでしょうか?」
「Yes なんとかなると思うよ」

愛衣の言葉に、ニコが応じた。

「それでは、元の場所に戻って、そこで解散と言う事で」
529 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:41:54.79 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「巴さん」

「アンジェリカ・ベアーズ」を出た後の夜のあすなろ市内の路上で、
愛衣がマミに声をかける。マミの顔色は未だ良くない。

「大丈夫、ではないと思いますが」
「ええ、今でも吐き気がする。
だけど、ずっと知らないよりはマシ。お礼を言わないと。
それに、銃を向けたお詫びも」
「いえ、部外者が立ち入った事を。
それに、勝手に魔法をかけようとしたのはこちらですから」

マミと愛衣が互いに頭を下げる。

「頼むぜ」

口を挟んだのは杏子だった。

「見滝原の方は、
取り敢えずマミ先輩があいつらへの重石、って事になってんだ」
「ええ、有難う。そう仕向けてくれて」

にこっと笑うマミに、杏子はそっぽを向く。

「もういいわ。どっちにしろ、私には選択の余地なんてなかったんだし」
「?」

んーっと腕を伸ばすマミを、愛衣達は見ていた。

「小さな頃に、両親と一緒の車で交通事故に遭って、
子どもでも自分は死ぬんだってそう思った」
「それが、魔法少女契約の理由ですか」
「そう。本当なら家族みんなが助かる事を願うべきだったんだけどね。
それも、今更言っても仕方がない事よ」
「………死にそうになって命が助かる事を願う。
単純すぎてその善悪を考える事すら馬鹿げています」
「うん、他に言い様がない」

辛い微笑みを作るマミに愛衣が告げ、裕奈も素直に従う。
530 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:44:58.06 ID:0SoCioM80

「私達は部外者です。只、さっき相対してはっきり分かりました。
巴さんは常時魔女と戦う世界を、一生懸命生きて生き抜いて来た人だって」
「私なんて二回銃口向けられてるからね。当然分かるよ」
「そうじゃなきゃ、魔法少女なんて何年もやってらんねぇよ」
「じゃあ、そうして下さい」

杏子の言葉に、愛衣が言う。

「全てが上手くいかないなら、限りある生命で最もマシな選択を。
部外者としては他に言うべき事もありません」
「私は好きだけどね、マミさん達の事。
片が付いて気が向いたら又遊びに来てよ」

「そうさせてもらうわ」
「このかお嬢にもよろしくな」

「それでは、
私達はこれから少し報告のための打ち合わせがありますので」
「へーへー、こっからは魔法使いのお仕事ですか」
「すいませんがそういう事になります」

「鹿目さん達の事は結局振り出し」

杏子と愛衣のやり取りにマミが口を挟む。

「はい、この後の状況次第ですが、
私達も用事を済ませてなるべく早くこちらから連絡します」
「分かった。あくまで鹿目さんの安否が優先だから」
「それでは」

マミと愛衣の合意が成立し、魔法使いと魔法少女が左右の道に分かれた。
531 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:49:13.35 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「!?」

魔法少女と別れて少し進んだ所で、裕奈は後ろから愛衣に飛び付く。
愛衣は、脱力で脚が一度に崩れていた。

「す、すいません」
「大丈夫じゃないって、それ、メイちゃんの事だよねっ?」
「は、はい」

荒い息を吐きながら立ち上がろうとした愛衣が、
向きを変えて裕奈に抱き着いた。

「(めっちゃ震えてるんだけど)
あの、大丈夫じゃないって、熱とかある?」
「いえ、それは大丈夫、だと思います。
只、今になって、凄く、怖く、すいません」

切れ切れに言いながら俯く愛衣を、裕奈がぎゅっと抱き締めた。

「いいよ、あの場にいたら怖くて当たり前だよね。
私だって怖かったし、それに、
メイちゃんが矢面に立って、頭いいから余計にね」

愛衣が小さく頷き、ゆっくり呼吸を整えた。
そして、二人は近くに屋根つきのバス停ベンチを見つけ、腰かける。

「あ、すいません」
「ああ、いいよそのままで。お疲れ様」

裕奈に言われ、裕奈の隣に座った愛衣は
裕奈の腕に自分の体重を預け続ける。
532 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:52:30.24 ID:0SoCioM80

「ごめんなさい、あの、有難うございます。
私は言わば正統派の魔法使いの見習い、それだけです。
実戦慣れ、殺し合いをして来た未知の存在である魔法少女の集団相手に、
明石さんがいてくれたから辛うじて踏ん張れた」

「有難う。メイちゃん凄く格好良かった。
それで、凄く無理してた。
魔法少女相手に魔法協会、魔法使いを背負ってさ」

「明石さんが背中を守ってくれたから、
あの夏、あの世界を救う只中にいた3Aメンバーの明石さんが」

「それは、メイちゃんも同じでしょう。
あの時の事改めて確認したけど、高音さん達、
危険な現場に踏み止まって命懸けで戦い抜いた、メイちゃんも一緒に。
あの夏も、今回も、魔法協会、魔法使いとして
譲れないものがあるってみんなの背中に教えてもらってる」

「後輩に、余り格好悪い所は見せられないですから」
「そうだね。だから、メイちゃん、佐倉先輩が上に行く時には、
私は下から支えられる様に頑張るから」
「とても期待してます」
「あ、はは、参ったな」

苦笑いする裕奈の横で、愛衣は座り直し、んーっと伸びをする。
533 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:54:32.41 ID:0SoCioM80

「大丈夫?」
「はい。私の背中、明石さんが守ってくれるんでしょう?」
「うん」

裕奈の返事と共に、愛衣は立ち上がった。

「それじゃあ、余り時間がありません」
「そうだね」

裕奈が立ち上がった。

「それでは、もう一仕事、済ませましょう」
「OK Boss」

==============================

今回はここまでです>>523-1000
続きは折を見て。
534 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:17:14.48 ID:kTOh43GI0
それでは今回の投下、入ります。

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>>533

ーーーーーーーー

「楽しんでいただけましたか?」

魔法世界、メガロメセンブリアの高級ホテルのホールで、
照明が復帰する中でゲーデル総督が鹿目まどかに声をかけた。

「は、はい」

まどかは、ようやく気が付いたと言う状態でゲーデルの問いかけに応じる。

「それでは、ゲートの、旧世界への帰還の準備を行います。
準備中はこちらで部屋を用意しました。
何日もかかると言う事にはならないと思いますが、
刹那と共に寛いで待っていて下さい。
今なら個室風呂も使えますが、いかがですか?」

「えーと………」
「到着まで割と長かったですし、
折角ですからいただきましょう」
「はい」

ちらっとまどかが視線を送った桜咲刹那が素直に応じ、
まどかもそれに従った。
535 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:20:19.88 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒ………」

うつ伏せに岩盤浴をしながら変な笑いが漏れる辺り、
疲れているのだな、と、まどかは自覚する。
案内された個室風呂はちょっとした銭湯とでも言うべき規模で、
こうして岩盤浴もオプションについていた。
取り敢えず、色々あり過ぎたが大きな怪我も無く無事帰る事が出来そうだ、
と分かって少しほっとする。
そして、隣の刹那に視線を向ける。

(………ほむらちゃんに似てる?)

まどかの知る刹那は、優しい先輩だった。
一見凛々しい女侍だが、まどかにはしばしば優しく微笑みかけて、
何故か矢鱈と危ない事に巻き込まれるまどかを安心させてくれた。
そんな刹那が、静かにその身を休めている。
端正で、クールな横顔が、時間で言えば
ごく最近まどかのクラスに転入して来た転校生を連想させる。

「そろそろですね」
「はい」

砂時計を見て、二人は身を起こした。
536 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:24:59.81 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒッ!」

さっと掛け湯の後の水風呂に、
まどかは声を上げながら身を震わせる心地よい落差を堪能する。
刹那も、悪い汗を搾り取った後のその身を心地よく冷やして、
水風呂を上がる所だった。

(色、白い。京都の人だからかな?)

その刹那の後を追いながら、まどかは心の中で呟く。

最近温泉を共にした近衛木乃香もそうだったが、
こうして見ると刹那も如何にも肌理の細かそうな、
絹の様に色白な肌をしていた。

グラマーと言うタイプではない、
年齢的にはむしろ小柄で、普段着では華奢にも見える刹那であるが、
それを言うならまどかも同様である上に刹那の方が一つ年上である。

そんなまどかから見た刹那は、
全体に引き締まって均整の取れた如何にも凛々しい女剣士。
それでいて、客観的にも最近ぐっと女っぽくもなった、
そんな優しく魅力的な先輩だった。

「凄かったんですね」

ちょっとした銭湯程もある個室風呂の主浴槽で、
熱めの湯に浸かりながらまどかが言った。
537 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:27:27.81 ID:kTOh43GI0

「さっきの映画で刹那さん達、
あんな風に、ネギ先生達と一緒に
この夏休みにこの魔法世界を本当に救ってたって」
「実際、否定する程間違っていない内容だったとは言え、
ああして劇的に作られると少々照れますね」
「ウェヒヒヒ」

まどかの隣で刹那が言い、双方苦笑いを交わす。

「この魔法世界に来てから、なんか随分色々VIP待遇だと思ったら」

「まあ、大半はこれが理由ですね。
鹿目さんを巻き込んでしまった状況では本当にありがたい事です。
色々助かりました」
「本当に、こっちの世界に来て刹那さんが一緒じゃなかったらって、
今考えるとぞっとします」

「まあ、ある程度知識があれば本来はそれ程怖い場所でもないんですが、
本来、魔法に関わる人間しか来る事の出来ない場所ですので」

「そう、ですね。色々あったけど、
いい人達にも会えたって、そう思います」
「ええ、そういう事です。
それは我々が普段暮らしている世界と変わりません」
538 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:30:35.28 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「サキ、サキっ」
「ん、んー………」

目を開いた浅海サキは、早速に若葉みらいに抱き着かれていた。
頭の回転を取り戻し、周囲を確認する。
身近にいるのは若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコ、
馴染みのある面々だが、どうも足りない。
場所は、これ又馴染みのある「アンジェリカ・ベアーズ」の一角。
そう、あの魔法使いにやられた辺り

「魔法使いっ!!」
「ちちちちょっと待って、サキ、体の調子はっ?」
「大丈夫だっ!」

ぐわっと立ち上がろうとしたサキにみらいが叫び、
サキが怒鳴り返した。

「かずみはっ!?」
「海香とカオルが連れて帰った、色々あって疲れてたからね」
「じゃあ魔法使いはどうしたっ!?」
「帰ったみたいだよ、どうやら話が付いたからね」
「は?」

ニコの返答を、サキはぽかんと聞いていた。
539 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:32:45.61 ID:kTOh43GI0

「彼女達には「レイトウコ」を見せた、

基本的な事はバレてたからね。
それで、魔法少女が魔女になる事、魔女化を防ぐために、
完全な解決が出来る迄魔法少女狩りを行っている事を説明したら、
魔法使いは納得して帰って行ったよ。

これ以上危ない事には関わりたくない、
魔法少女だけの事なら魔法使いの管轄外だから勝手にしろってね。
図書館島の事だけ、これから厳しくなりそうだけど。
魔法少女の巴マミと佐倉杏子も、
縄張りの見滝原、風見野にさえ手を出さなければこれ以上口出しはしないって」

「なんだよ、人騒がせな………」

ほっと脱力しそうになったみらいが、ぎりっ、と不穏な音を聞いた。

「冗談、じゃない」
「えっ?」

サキの言葉に、みらいが聞き返した。

「あの、火文字の意味が分からないとでも言うのかっ!?
海香、カオルは何処にいるっ!?
かずみ、かずみを守らないとッ!!」

ニコは、狼狽そのものに言葉を吐き出し続けるサキと
ひんやり暗い眼光のみらいの姿を腕組みして見極めていた。
540 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:34:42.36 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のスーパー銭湯、
閉店時間が比較的遅いその施設のシャワーコーナーで、
佐倉愛衣と明石裕奈はシャワーを浴びていた。
二人がさっぱりとして振り返った所で、
タオル一本下げた御崎海香、牧カオルと遭遇する。

「来てくれたんだね」
「赤外線用のインクで書き込まれたアドレスと時刻。
それに付き合わざるを得ない理由もあったから」

裕奈の言葉に、頷くカオルの隣で海香が言った。
そこで、シャワーを離れた四人は、
まずは互いの持ち物を確認する。
タオルの他は、パクティオーカードまたはソウルジェムだけ。
取り敢えず、相手の戦闘開始には対応出来る事を双方確認する。

「それじゃあ、次の即売会向けの企画、聞かせてもらおっか」

浴室内の混雑は既にピークを大幅に過ぎていたが、
裕奈がチラと周囲に視線を走らせて言い、一同が小さく頷いた。

ーーーーーーーー

「取り敢えず、先程の博物館で私達とは決着した、
とは思っていないですよね?」

丁度無人だったサウナに愛衣、海香等四人が移動し、愛衣が口火を切った。

「佐倉さん、私の見る限り、
魔法少女の真実に対してあなたはかなり冷静だった。
知っていたの?」
「直接は知りません」

海香の問いに、愛衣が答える。
541 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:37:54.07 ID:kTOh43GI0

「見当は付きました」
「魔法少女が魔女になるって?」
「ですから、直接は知らなくても、
十分考えられる事態であると」

カオルの問いに、愛衣は答える。

「やっぱり、落ち着いてるな」
「それが、魔法の歴史ですから」

カオルの言葉に、愛衣は落ち着いた口調で続ける。

「魔法使いにはどう見えるのか、
忌憚のない所を聞かせてもらえるかしら?」

海香が尋ねた。

「私個人の意見で、魔法協会を代表するものではありませんが」
「聞かせて」

重ねて問うカオルに、愛衣は頷いた。
542 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:47:11.55 ID:kTOh43GI0

「メフィストフェレス」

愛衣の第一声に、海香は薄い笑みを浮かべる。

「キュゥべえが何者であれ、魔法少女の様な契約は悪魔の契約。
立場、経験上、私達はその事に現実感、リアリティを持っています」

「後からよく考えたらそうかも知れないけど、
事前に知らないで今迄の常識と言うか科学を
目の前で否定されたら引っかかるかもね」

「それで、見た目と声が反則ってのがね」

愛衣の言葉に裕奈が腕組みして言い、カオルが付け加えた。

「その様な都合のいい、絶対的な程の奇跡を売り歩く者がいたら、
間違いなく途方もない代償を支払う事になる。
まず、途方もない欲望を満たす術がある事はある、
但し、その契約は基本、身を滅ぼす。
稀代の術師であっても、捻じ曲げられ何倍もの力で戻って来る
条理の反動をまず避けられない、と言う事を前提にそう考えます。
情において忍びない事は多いと思います。
それでも、契約をして報酬を得ながらその代償を踏み倒そうとする事自体、
限界の中で少しずつでも進もうとする立場からは
随分と虫のいい話にも見えます」

「理屈、通りね」

「その様な契約が通常になった魔法少女の世界と
私達の世界がいつしか不干渉になったのも、
そのリスクと、それでも引き付けられる人の心に
直面し続けて来た結果なのかも知れない。
私は人の手で、少しでもよりよい事をしようと、
そのために、私は勉強を、修行を重ねて来ました」

「日本だけではないわね。
アメリカにもそうした所が?」
「あちらの魔法学校にも留学した事があります」
「あるんだ」

愛衣の返答に、カオルが愛衣を見直す。
543 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:50:21.88 ID:kTOh43GI0

「そ、この娘、メイちゃん、私よりも年下だけど魔法使いの先輩で、
魔法協会のエリート候補生だから
あんまり甘くみない方がいいよ」
「本当に頭の悪い相手よりは話が通じるのは助かる、
例え敵になったとしても」

裕奈の言葉に、海香は静かな微笑みと共に答えた。

「私達が学んで来たのは、先人達の失敗の歴史です。
欲望に溺れ力を欲し、一時の契約でその身を滅ぼした者、
耐えられない悲しみ、喪失感を諦める事が出来ず、諦めきれずに、
喪ったものを条理を超えて取り戻そうと足掻き続けた人達。
そこから、僅かな勇気を僅かにでも形にする事を学んで来た」

愛衣は、横に座る海香、斜め上に座るカオルを見据えた。
そして、愛衣は口を開く。






Rewrite emeth to meth






==============================

今回はここまでです>>534-1000
続きは折を見て。
544 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:21:25.94 ID:Ruj68JQ50
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>543

ーーーーーーーー

「タツヤくんお久しぶりー」
「こんにちはー」

その日の日暮れ後、鹿目家の玄関で、
腰をかがめた早乙女和子が鹿目タツヤに笑顔を向けていた。

「大きくなったねー」
「いつぶりだっけ? あっと言う間だなー」

タツヤの母親、鹿目詢子が腰に手を当ててカラカラ笑う。

ーーーーーーーー

「ごちそうさまー」
「ご馳走様でした」

あすなろ市内のビストロ「レパ・マチュカ」で、
同席した鹿目タツヤと早乙女和子がほぼ同時に挨拶をする。
三人とも評判のいいハッシュドビーフにアイスクリームも付けての食事だったが、
子ども向けにも作ってくれた料理にタツヤもご満悦だった。

ーーーーーーーー

「私まで悪いわねー」

詢子の運転する車内で、
時折チャイルドシートのタツヤとお話しながら和子が言った。

「知久は昔の友達と珍しく呑みで、まどかは学校公認の受験合宿だからな」
「ええ、色々あって予備校との合同企画のサンプル抽選に当たったから」
「仕事でもらったあすなろの地域クーポン、そろそろ有効期限なもんで」
「で、最後に一杯ひっかけて運転は私と」
545 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:23:44.54 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「おいおい、危ないぞ」

あすなろ市内のスーパー銭湯の脱衣所で、
脱衣も途中でたたたっと駆け出したタツヤに詢子が言う。
詢子が慌ててスカートをすっぽ抜いた時には、
タツヤはすてーんと床に伸びていた。

「うー」
「大丈夫?」

タツヤが顔を上げると、しゃがみこんだ千歳ゆまが覗き込んでいた。

「ほらほら、お姉ちゃんに笑われるぞ」
「うー」
「よしよし」

頭上に詢子の言葉を聞き流し、
唸りながら立ち上がったタツヤの頭をゆまが撫で撫でする。

「お友達かい?」
「うん」

そんなゆまに祖母が声をかけ、
ゆまはにぱっと笑って返事した。
546 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:27:31.35 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「Rewite emeth to meth」

スーパー銭湯の浴室で、詢子達が一風呂浴びてサウナに入ると、
丁度、四人の先客が何やら話し込んでいる所だった。

四人組は、詢子がドアを開けると、ちらとそちらを見てめいめい立ち上がる。
取り敢えず、娘のまどかと同年代かと、鹿目詢子は最初にそれを思う。

4人の少女達は詢子達とすれ違う様にサウナを後にするが、
恐らく2on2のチーム。
何処かぴりっとした緊張感を詢子は嗅ぎ取るが、
取り敢えず見た目はカタギの少女達で、
今の詢子には関わりのない事でもあった。

「ん?」

そして、サウナに入った詢子が来た道に目を向けると、
千歳ゆまがベンチによじ登っている所だった。

「おい………」

次の瞬間、詢子は、火のついた様な泣き声を聞いた。

「おいっ!」

そして、大声と共に頭を抱えて床にしゃがみこんだゆまに
詢子と和子が駆け寄る。

「どうしたっ!?」
「熱い、熱いっ」
「熱いっ? 何処が?」
「お手手」

ゆまは、すすり泣きながら右手をぶらんと差し出す。
547 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:29:23.18 ID:Ruj68JQ50

「んー、火傷はしてないな、
熱いの触ってびっくりしたか?」
「うん」
「よしよし、熱い所あるから気を付けろよー」
「よしよし」

タツヤがゆまを撫で撫でするのを見て、
詢子がくくっと笑いを噛み殺す。
それを見て、ゆまもにこっと笑みを見せた。

「おばあちゃんは………」
「ゆまちゃん」

ドアが開き、ゆまの祖母が入って来る。

「ああ、いたいた、ゆまちゃん」
「ああ、すいません。タツヤにくっついて来たみたいで」

ゆまの祖母と詢子がぺこりと頭を下げる。

「さ、一緒にお風呂入ろうね」

祖母が言うが、ゆまは首を横に振る。

「サウナ入りたいのかい?」
「うん」

「困ったねぇ、一緒に入りたいけどお婆ちゃん血圧がねぇ」

「ちょっとだけここで預かりましょうか?
この娘、意外と頑固でしょう。すぐに連れて行きますので」
「そうですか、すいません。
ゆまちゃん、こっちのお母さんの言う事聞くんだよ」
「うん」

「よーし、じゃあ、タオルの上にゆっくり座るの。
木の所は熱くないからなー。
ちょっとでも気持ち悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「うん」
548 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:31:52.46 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「っつぅー………」

サウナと掛け湯で芯迄火照った佐倉愛衣の全身に、
水風呂の冷たさが突き抜ける。

「………………!?!?!?」
「にゃははー、脳味噌筋肉の割には結構脂肪分詰まってるねー」

ぶるりと身を縮めてその落差の心地よさに浸る愛衣に、
背後からそーっと接近していた牧カオルに背後から抱き着き、
両掌を前に回した明石裕奈がカオルの耳元で笑っていた。

「誰がだよっ!? 大体、それを言うなら、
あたしの背中に当たってるその凶暴な弾力はなんだっ!?」
「バスケットボールかにゃー?」
「それで、どんだけ揺らしてダンクしてんだっての」
「そーなの、最近運動のジャマでー」

「呪殺するぞ即席ホルスタインっ!
うらうらハンドリングハンドリングハンドリングーッ!」
「ハンドリングのハンドだっ、反則だにゃー」

「こほん。お子様の躾と言うか、
お子様以下の事は少し控えては?」
「すいませんすいませんすいません」

一足先に水風呂を上がった御崎海香が腕組みして二人を見下ろし、
その側で愛衣がぺこぺこ頭を下げるのを、
詢子が苦笑いして手を上下させる。
549 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:34:14.22 ID:Ruj68JQ50

「よいしょっと、君達きょうだいかなー?」

水風呂を上がった裕奈が、横並びに立つタツヤとゆまに声を掛け、
ゆまが首を横に振る。

「へえー、じゃあカップルかにゃー。
いい、ああ言う大人になったら駄目だからねー」
「一人でなーに言ってんだゴラアッ!!」

裕奈の背後から怒号が響き、
体を前に倒し、二人に視線を合わせていた裕奈を
指をくわえたタツヤがじーっと見ていた。

「いーい、こうやってやるだけやって
バックれる様な大人にだけはなっちゃ駄目だからなー。
で、君、サッカーやるの?」
「さっかーさっかー」
「おー、ボールは友達」
「ともだちー」
「よしよし」

しゃがみこんでタツヤの頭を撫でるカオルを、
ゆまがじーっと見ていた。

「ふふーん、年下の男の子を上手く手懐けるにゃー」
「人聞きが悪いっ、大体、アンタがふざけた事言うからだろうが」

「人のせいにするのー? やだねーこういうお姉ちゃん。
今度一緒にバスケしようか」
「何言ってんだあんたはっ!?!?!?
よーし、いい加減決着を………」
「望む所だにゃ………」

「………反省」
「して下さい………」
「「すいませんでした」」

燃え上がる炎とゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音と
黒目の消えた両目をイメージ映像に、
腕組みしてV字の横並びに立つ海香と愛衣を前に、
裕奈とカオルは深々と頭を下げる。
550 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:36:08.87 ID:Ruj68JQ50

「まあ、友達困らせるのも程々にしとけよ、
やんちゃとセクハラも、って言うか今はセクハラとか普通に駄目だから」
「ほんとーにすいませんでした」

腕組みする海香に睨まれ、タツヤとゆまにじーっと見られながら
裕奈とカオルは体を折って深々と頭を下げ続け、
手をパタパタ上下させて苦笑いする詢子に愛衣ももう一度頭を下げる。

「ほら、行くぞタツヤ」
「ゆまちゃんも、お婆ちゃんの所に行こうか」
「「はーい」」
(お姉さん、じゃないよね………)

和子と談笑しつつ子どもを連れて行く詢子を見送りながら、
愛衣は心の中で呟く。
どうも母親の友人らしい女性も年相応に落ち着いた美人の部類に入るが、
あの母親は、もしかしたら元はいわゆるヤンママ、なのかも知れない。
子連れにしては若々しくスタイルのいい、溌溂とした美人だと、
愛衣は理屈に直せばそんな事を考えて、若輩ながら感心する。

ーーーーーーーー

「言っておきますが」

浴場を歩きながら一度とんとん肩を叩き、
はあっと息を吐いた愛衣が口を開く。

「さっきも言った筈ですが、もしここで私に何かがあれば、
確定的に困った事になるのはあなた達の方ですので」
「う、うん、まあ、
ちょっとした気の迷いって言うか、すいませんでした」

愛衣の言葉に、カオルは後頭部を掻いて笑って謝る。
551 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:39:00.21 ID:Ruj68JQ50

「ま、メイちゃんの背中は私が任されてるんで」
「だな」
「いい人ですね」

何故か裕奈と意気投合するカオルを見て、
愛衣が海香に声を掛ける。

「元気で友達思いで、そして本当は凄く賢い」
「そちらのパートナーも」

海香が言い、愛衣が頷く。

「カオルも、裕奈さんも。
小難しく考えてる横で、何が本当に大事なのかが
直感で分かるんでしょうね。
そして、それを貫く意思を持っている。
根性って言ってもいい」
「はい」
「じゃあ」

少し先を歩いていた裕奈が振り返って口を開いた。

「今度作るゲームの事、少し詰めようか」

==============================

今回はここまでです>>544-1000
続きは折を見て。
552 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:10:11.77 ID:4xYS9yiD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>551

ーーーーーーーー

「………」

あすなろ市内のスーパー銭湯フードコートの小上がりで、
ソフトクリーム片手に祖母の下に向かっていた千歳ゆまが
ふと視線を感じて振り返る。

「駄目だぞタツヤー、
さっき食べただろ、お腹ゴロゴロになるからなー」
「はいタツヤ君、たこ焼きフーフーするよ」

母親と、母親の友人の和子お     姉さんに呼び戻され、
鹿目タツヤがトテトテ別のテーブルに向かう。

「おいしー」
「じゃああたしも一つ。
ほらタツヤ、こっち一つ食うか? 塩とタレどっち?」
「運転しないからってあんまり飲み過ぎないでよ詢子」
「いやー、ここ飯もツマミも結構イケるって評判だからなー」

選り分けた焼鳥を見様見真似に爪楊枝で一つ頬ばっていたタツヤが、
もう一つ、タレ焼鳥をぷすりと刺して歩き出す。
553 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:11:42.28 ID:4xYS9yiD0

「食べるー?」

すっと目の前に差し出されて、ゆまは目をぱちくりさせる。

「………」

くっくっ苦笑いする詢子の横で、和子は、
そう言えば、三人和気藹々なこちらをやけに見ていたなあの娘、
と、ふと思い返す。

「ええと………」

きょろきょろ見回したゆまは、祖母と詢子が笑って頭を下げるのを見て、
ぱくりと口に入れた。

「美味しい、有難う」
「ありがとー」
「どういたしましてだろー、
うちののプレゼント貰ってくれてどうもー」

カラカラ笑う詢子に、ゆまもにっこり笑って応じていた。

ーーーーーーーー

「頼む」

女湯の浴場で薬湯に浸かりながら、牧カオルは頭を下げる。

「かずみを助けて。
いや、かずみには手を出さないでくれ。この通りだ」

そんなカオルの頭が向いている先で、
佐倉愛衣は伏し目がちに首を横に振る。

「あなた達は和紗ミチルさんに救われた」

愛衣の声を聞き、カオルは顔を上げる。
554 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:15:22.38 ID:4xYS9yiD0

「あなた達は和紗ミチルさんの導きで魔法少女になった。
和紗ミチルさんは明るく、優しく逞しいリーダーだった」
「あ、ああ、そうだ。ミチルはそんな、
掛け替えのないリーダー、仲間だった」

愛衣に迫る様に言うカオルの背後で、
御崎海香が僅かに眉を顰める。
もう、九割方無駄だと分かっていても、それでも、
相手の術中に飛び込んでいるカオルに対して。

「魔法少女は魔女になり、そして、
魔法少女に討たれてグリーフシードと言う形で糧となる」
「あ、ああ………」
「それでは、かずみ、とは誰なんですか?」
「かずみは、かずみだ」

厳しいぐらいに硬い愛衣の問いに、カオルは答えた。

「かずみはかずみ、
あたし達の大切な友達、大切な仲間だ。だから………」

「只、習っただけじゃない、アメリカ英語を使い慣れた日本人。
私が見たかずみさんです。

和紗ミチルさんは、アメリカに長期留学していますね。
義理の祖母の死をきっかけに帰国している。
集められるだけのサンプルで比較しても、
最新の電子的鑑定の結果では、かずみさんと和紗ミチルさんは同一人物。
少なくともその事を否定出来ない程度には外見が酷似している。

そして、昨年以前の和紗ミチルさんの周辺に、
双子の姉妹がいたと言う形跡は欠片も無い。
かずみは和紗ミチルのかずみ。記憶を喪った同一人物。
そう考えるのが一番自然です」

「そ………」
「科学しか知らない、知識でしか魔法を知らない人なら、
そういう結論を出したでしょうね」

言いかけたカオルに、愛衣は被せる様に言った。
555 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:18:47.81 ID:4xYS9yiD0

「私は、かずみさんに触れています。
そして、あのレイトウコで、
説明が終わったその瞬間に立ち会っていました、
かずみさんと一緒に、魔法使いとして」

改めて、ぐっと前を見るカオルを愛衣は見返す。

「かずみさんは言っていました。
御崎海香さん、神那ニコさんは魔法分析の天才だと。
あの博物館、レイトウコを見て私は確信した。
魔法少女の魔法、未知の部分もあるけど、私達にも通じる部分もある。
高等魔法の莫大な知識を外付けして使う事が出来るあなた、御崎海香さん。
そして、科学とも融合して変化させ作り出す事が出来る神那ニコさん。
この二人の高等魔法技術を組み合わせて、私達が連想するのは」

「錬金術」

静かに言った裕奈を、主として喋っていた愛衣が振り返る。

「まあ、私は歴史と、
魔法の基になっている理論を勉強し始めたばかりだけど」

「そういう事です。伝説にカテゴライズされているものは別にして、
私達は歴史を見て来ました。
今の所は時の魔法と共に、魔法であっても一線の向こうにあるもの。
現在ではそうカテゴライズされている領域に挑んで来て、
現在に至る迄その結論を変える事が出来なかった、
極めて高度な魔法使い達が積み重ねて来たその歴史を」

その愛衣の目力は、元来気の強いカオルもたじろぎそうになるものだった。

==============================

今回はここまでです>>552-1000
続きは折を見て。
556 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:40:19.02 ID:ioJ43ves0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>555

ーーーーーーーー

「取り敢えず、刹那さんがごく最近、
このメガロメセンブリアにいた事は間違いないね」

魔法世界メガロメセンブリアのオープンカフェで、
美樹さやかが手帳片手に口にした。

「魔法のネカフェがあるとかって、
魔法世界がどんだけ普通の世界なんだって。
あの二人、このかさんと刹那さんが有名人だったから、
意外と早く絞り込めたけど」
「二人がまどかと行動を共にしていた情報も色々出て来てる。
情報の日時から言って、少なくとも桜咲刹那はこの街にいる筈………」

そう言って、ほむらはコーヒーカップに視線を落とす。
ほむらは明らかに焦っている。
さやかはその事を察していた。

「って言うか、ここまで色々調達するのに、
本格的に色々ヤバイ橋渡って来てたんだね転校生。
どう見ても普通の空港レベルな出入り口を時間停止でブッチするとか、
誰だよあんたなお下げ眼鏡の可愛い女の子について来たチンピラが
路地裏で謎のナイトにぼっこぼこにされて
情報と有り金巻き上げられる事件が続発して今に至るとか」

「可愛い女の子だと誰だとあんたは、になるのかしら?」
「少なくとも性格は。見た目は可愛いってより美人だし」

コーヒーカップを持ち上げてフリーズしているほむらを、
さやかはニシシと見ていた。
そんな二人いるテーブルに、とん、と手が置かれる。
557 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:43:09.58 ID:ioJ43ves0

「?」

ほむらとさやかが見た相手は若い女性。
後ろから見ると民族衣装風の被り物が長く垂れているが、
二人の目は、ずれたサングラスの向こうに見えるキツネ目と、
大胆に切れ込んだワンピースから
半ばはみ出したたわわな膨らみに吸い寄せられていた。

「尋ね人かなお嬢さん達?」

ーーーーーーーー

裕奈がついっと目で促し、魔法使い二人、魔法少女二人は
スーパー銭湯女湯の薬湯を上がって浴場の中を移動した。
一般的には大体美少女、と言ってもいい四人の少女が泡風呂に沈む。
四人は四角く深いタイプの、発泡音波刺激タイプの泡風呂に身を沈め、
所属ごとの2on2で向かい合う位置を取る。

「魔法協会は………」

海香が、伏せていた目を上げて口を開く。

「魔法協会は、一体どうするつもり?」

「私が知る限りの事が協会の耳に入れば、
私の推測では十中八九、関東どころか日本の魔法使いの総力を挙げてでも
あなた達は完全に無力化される」

「それじゃあ、かずみは………」

カオルは、湯に浸かりながらも青い顔で問う。

「率直に言って未知の領域、確実な予測は出来ません。
しかし、一つだけはっきりしているのは、
公共の福祉、そのための自然秩序を踏まえた対処をする事になると」
「待ってくれっ!」

湯を割って、カオルがざっと前に動く。
558 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:46:18.38 ID:ioJ43ves0

「待ってくれ、メイ、あんたも見ただろう、かずみに会ったんだろう?
かずみは、かずみは生きてるんだ、かずみはかずみなんだ。
大丈夫、大丈夫だ、かずみは大丈夫だ、
今回は上手く行ってるんだっ!」

「今回は?」

愛衣がぽつりと漏らした言葉に、
縋り付かんとしていたカオルが動きを止めた。

「今回は、ですか?」

いい加減のぼせを考えるぐらいに湯の中にあって、
明石裕奈は冷たい戦慄を覚えていた。

「どういう心算ですか?
一体、何様の心算なんですか?」

佐倉愛衣はサラマンダーを使役する火炎の魔法使いである。
だが今、前に出ようとする裕奈を腕で制して
体の芯から静かな声を発する愛衣がこの湯壺に齎しているのは、
絶対零度の戦慄だった。

ーーーーーーーー

「ちょっ!?」

メガロメセンブリアのオープンカフェで、
話を聞いて立ち上がるや走り出したほむらを、
支払いを済ませたさやかが追い駆ける。

「転校生、急ぎ過ぎっ………」
「………何故、気づかなかった………」

走りながら、ほむらは苦い声を発していた。
559 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:49:10.72 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

ざばっ、と、愛衣が立ち上がる。
そして、つかつかと移動し、掛け湯を浴びて水風呂にずぶんと身を沈める。
愛衣が戻って来るのに合わせる様に、他の三人も泡風呂を上がると、
丁度空いていたメイン浴槽で四人が合流した。

「ってる………分かっ、てる」

熱めの湯に浸かりながら、やや落ち着いたとは言え佐倉愛衣から
突き刺さる様な視線を向けられていた牧カオルが、伏せていた顔を上げた。

「分かってる。あたし達は何を言われようが文句の言えた筋合いじゃない、
そんな事は分かってる。
だけど、かずみは………かずみはかずみなんだ。
見ただろう、メイだって、優秀な魔法使いなら分かった筈だ。
かずみは生きている、だけど、まだあたし達がいないと、
だからきっと、きっとあたし達がかずみを………」

愛衣は、愛衣の両肩を掴もうとするカオルからざっと身を交わす。
最早、サスペンスであれば手近な鈍器が降って来る流れだった。

「メイ………」

つんのめった湯面から顔を上げ、
更に縋り付こうとするカオルの両肩を掴んだのは、裕奈だった。
その側で、愛衣は顔を伏せている。

「メイちゃんは優しい娘で、
佐倉愛衣先輩は真面目な魔法使いなんだ。
これ以上苦しめるって言うなら、
不肖の後輩が今すぐ黙らせる」

そして、裕奈が次に見たのは海香だった。
560 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:52:30.92 ID:ioJ43ves0

「私達の口を塞いで、ちょっとでも稼いだ時間の間に
かずみちゃんと姿を消す」

そう告げて睨み付ける裕奈を、海香は静かに見据える。

「そんな事を考えてるんだったら、
あんたらがどうにか出来るのは一人だけ。
例え、刺し違える事になったとしてもね」

裕奈の手が緩み、カオルがゆっくりと距離を取る。

「だから、教えてくれないかな。
あの日、図書館島で何があったのか」
「えっ?」

裕奈の言葉を、カオルが聞き返した。

「あの日、あのタイミングにあんた達が只、
本を探しに来たなんて信じられる訳がない。
元々、本題はそっちの方だからね。
これは本来私の仕事、メイちゃんは監督役だから。
元々、魔法使いは魔法少女には不干渉。
魔法少女しか関わっていない、って事なら深く詮索するのは面倒くさい。
そう考えてわざわざ報告書には書き込まない。
そんないい加減で半人前以下の魔法使いがいるかも知れない」

「ゆーな………」

近づこうとしたカオルを、裕奈は睨み付ける。

「半人前でも、流石に手ぶらで帰るって訳にはいかない。
手土産ぐらい持たせてくれないかな?」

そう言った裕奈が、からりとガラス戸が開く気配に目を向ける。
561 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:54:37.96 ID:ioJ43ves0

「あら」
「ありゃ」

声を出したのは、巴マミと明石裕奈だった。

「珍しい取り合わせだな」

マミの背後で杏子が言った。
その間に、メイン浴槽の面々は湯を上がってマミ達に接近する。

「そっちこそ、一緒に温泉とか来るんだ?」
「お仕事の帰り」

裕奈の言葉に、杏子がはあっと嘆息して言った。

「あれから魔女に出くわしてさ、
あたしは縄張り荒らしは御免だって言ったんだけど、
リアルタイムで死人出そうだったからこっちのマミ先輩がどうしてもってね。
どうする? 一戦交える?」

「遠慮しとく、今夜は疲れてるし面倒は御免って事にしておくわ」
「そりゃどーも」

海香の回答に、杏子が鼻で笑った。

「で、食いモンも旨いってから付いて来たんだけど、
密会って事でいいのかこれ?」
「そんな所ですね。図書館島がどれぐらい浸食されたのか、
少々短気な人達抜きで穏便にお話を」
「へーへー、それで不意打ち防止に
ソウルジェム一つの真っ裸で密談ね、用心深いこって」

真面目な顔でつらっと言う愛衣に杏子が言う。
562 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:02:50.84 ID:ioJ43ves0

「入りましょう、あちらにはあちらの都合があるんでしょう」
「そうさせてもらうか」

そう言って、マミは手近なジェットバスに入る。
手すりに腕を絡めてジェットを背中に当て、
マミは身を反らせてご満悦にんーっと唸る。

「おー、気持ちよさそう」

マミと杏子と裕奈が三連のジェットバスを堪能している間、
魔法使い一人とあすなろの魔法少女二人は
気泡超音波風呂で体を温める。
そうしながら、愛衣の視線は出入り口とは別のガラス戸をとらえていた。

ーーーーーーーー

「錬金術」

マミと杏子が裕奈と分かれ、メイン浴槽で本格的に体を温めていた頃。
涼しくなり始めた夜風に吹かれ、敷地内露天風呂に浸かりながら、
海香とカオルを見据えた愛衣が口を開いた。

「あなた達は錬金術を含む高度な儀式魔法を使いますね。
空間や封印の高度な儀式魔法を使う事が出来る。
ゲートを動かしたのは、あなた達ですね?」

「報酬は図書館島よ」

口を開いたのは、御崎海香だった。

「彼女は、前もって用意していたメモと
強力な魔除け札を装備して私達の前に現れた。
ええ、私達は一時期このあすなろ市を結界化して、
魔法少女契約を売り歩くキュゥべえを人の意識から排除して、
独自に開発したソウルジェムの浄化システムを使っていた」
563 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:05:30.80 ID:ioJ43ves0

「改めて、デタラメな魔法の規模。
あなた達は間違いなく儀式魔法を、
恐らくは外付けの膨大な魔法知識から欲した事を検索し、
表示されたやり方を成功させる程度には使いこなしている」

「ええ、それで合ってるわ。
もちろん色々研鑽はしたけど多くは私の固有魔法。
そんな箱庭に現れた彼女は、
既に私達ですら存在の認識を失っていた特殊システムを精査して、
その欠陥を教えてくれた。
その事が無かったら、私達は見せかけの浄化に騙されて、
とっくに全員魔女になって破綻していた」

「お陰で、かつての魔法少女を殺して
グリーフシードを得てソウルジェムを浄化する。
元の木阿弥で共食い生活に戻った訳ではあるけど、
こちらで作った画期的システムのつもりの欠陥に気付かずに、
解決したつもりがいつの間にか魔女になっていた、
なんて結果よりはマシだったかな」

「何を………」

海香に続くカオルの言葉に、
口を挟もうとした裕奈を愛衣が制する。

「彼女の提案、要求は、本来であれば私達のポリシーに反していた」
「ああ、ミチルが悔いた事を、更に付け加える。
その事に加担しようって話だったからな」
「だけど、図書館島へのアクセス権が魅力的だったのも確か。
犠牲によらないソウルジェムの浄化システムを確立する事、
そして、黄金よりも遥かに尊いものを生み出し、完成させるために」

ぐっと睨む愛衣に、海香とカオルは小さく頷いた。
564 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:10:02.59 ID:ioJ43ves0

「だけど、それ以上に、惹かれたのよ。
彼女は、そもそも私達が図書館島を欲したその気持ちを理解してくれた。
ゲートの分析、それ以前にあそこに到達する迄は
決して平坦な道のりではなかった。
それでも私達は、求められた通りにあの日、あの時に
求められた条件でゲートを発動させた。
それは、私達がそれをしたい、と思ったから」

「それは、理解してくれたから?」

裕奈の問いに、カオルが小さく頷く。

「私は彼女であり、彼女は私だった。
理不尽なシステムに奪われたなら奪い返し、
命を懸けて守り抜く。
決して退かず、諦める事無くそれをやり通したいと
心の底から願い、実行する。
決して引かない、引けない思いと行動。
苦しい、悔しい涙と熱い思い、戦い取り戻し守り抜く鉄の意志。
その全てに揺ぎ無く誠実であり、
名も良心も、そして元より自らの命も惜しまぬ者」

こちらを見据える海香の顔を見ながら、
ごくりを喉を鳴らした明石裕奈の顔からは
すーっと血の気が引いて行った。
565 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:11:48.42 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

「有難うございます」

桜咲刹那に緑茶の湯飲みを渡され、
ぺこりと頭を下げる鹿目まどかに刹那は優しく微笑んだ。
準備が整う迄と言う事で用意されたホテルのツインルームで、
まどかと刹那はツインのベッドに腰かけながらの一時を過ごしていた。

「あの話には、少々続きがあります」

刹那が口を開き、まどかは、
刹那に合わせる様にサイドテーブルに湯飲みを置いた。

「不老不死、と言うものをご存知ですか?」
「不老不死?」

聞いた事がある、と言うか恐らく知識はある筈だがピンと来ない。
それが鹿目まどかの実感だった。
そんなまどかに、刹那はすらすらと筆を走らせた和紙を渡す。

「老人………年を取らない、死なない、ですか?」

「その通りです。あなたが映画で観たあの戦いの最中、
激しい戦いの中で必要に迫られたネギ先生は、
闇の魔法と契約し、不老不死の身となりました」

「え? あの?」

二人はツインのベッドに座っていたが、
やはり認識が追い付かないまどかが目をぱちぱちさせて刹那を見て、
刹那は静かに微笑みを返した。
566 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:13:15.58 ID:ioJ43ves0

「だから、年を取らない、死なない、です。
実際には許容量を超えたダメージで死ぬ事もあるらしいですが、
大概の事では死にませんし、
多くの場合死の原因となる老いとも無縁の身となりました」

「えー、と、それってとっても、凄い、って言うか」

「ええ、古今東西の英雄、権力者の中には
その全てを懸けてでも欲した者もいます。
莫大な富と権力を得ながら、だからこそ、
それを永劫のものとしようとして、只一つままならぬ最期の時を恐れ、
見果てぬ夢を前に力尽きた者達が」

「でも………」

まどかが下を向いて呟いた。

「それを、不老不死になる、って、私は嫌だ」
「ええ、私もです」

まどかの言葉に応じて、刹那は優しく微笑みかけた。

「じゃあ、ネギ先生は?」

「ええ、それは、世界を救うためにやむを得ない事だった、と、
ネギ先生はそう覚悟を決めています。
ですから、ネギ先生はこれからもずっと、
私達教え子もその他の家族、知人も皆、
年老いて最期の時を迎えるのを子どもの身のままで見守る事となります」

刹那の言葉に、まどかは両手で口を塞ぐ。
そして、刹那に渡されたハンカチを目に当てた。
567 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:14:59.56 ID:ioJ43ves0

「そんなのって………」

「ええ、人の身として、それは本来とても辛い事です。
ネギ先生の様に、大勢の人達から慕われているなら尚の事、
その人達全てと別れても尚、生き続けなければいけない。
その事がずっと続くのですから。
しかし、ネギ先生はそれを受け容れて今、
二つの世界を救う為に奔走しています。
その計画の遠大さと障害の大きさを考えるならば、
魔法世界の英雄、王族の血筋であり、
自身天才的と言ってもいい才能を持つ
ネギ先生程の人物が不老不死でもなければ実現出来ない。
その事も又、辛い現実です」

「そう、ですか………」

淡々と言う刹那の言葉に、まどかはハンカチを握り、下を向く。
その静かな言葉に込められたものが、まどかにも伝わって来る。
恐らくこの人、このクールで優しい先輩も、泣いたのだろうと。

「この魔法世界、正確にはメガロメセンブリアのエリアを除いた大部分は、
火星を依代にした一種のエネルギー体、
その話は映画にも出て来ましたね」

「は、はい、確かそんな話が………」

「つまり、れっきとした生きている人間、或いは動物も草木も生きていて、
建物も何もかもが実在していながら、
それらは全て魔力から生じた言ってみればホログラム、
立体映像に魂が宿ってこの世界での物体としての存在を維持している。
そういう存在です」

「ホログラム、ですか? でも………
でも、みんな、そんな事分からないって言うか、
私も熊のぬいぐるみのおばさんとか、何人か会ったけど、
でも、みんな生きてて、心があって」

「その通りです」

一つ一つ言葉を組み立てるまどかに、刹那はふっと微笑んだ。
568 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:16:52.55 ID:ioJ43ves0

「その通りです。魔法世界に生きている者は誰も、
この世界で心を持ち生きて生活しています」

「ですよね」

「ですけど、その核となる魔力の枯渇により、
魔法世界の人々は、人々も動物も草木も建物も何もかも、
その世界そのものが消滅の危機を迎えた。
その解決策を巡る争いこそが、
夏休みに起きた私達、ネギ先生初め私達が戦った事件の本質です」

「消え、る、解決策………はい、確か、そんな映画だったと」

「ええ。まあ、元々通常の漫画の単行本に換算しても16巻程になる物語に
その背景事情等々を加えたものを総集編として
一本の映画に落とし込んだ力技でしたので、
一度に理解するのは難しいと言うのは理解できます」

「ウェヒヒヒ………」

「色々ありまして、この魔法世界の現実的滅亡を回避し、
魔法世界の土台となっている火星の現実世界のサイドを
緑溢れる惑星へと開発する事で、火星に宿る生命力、
そこから供給される魔力を育てて魔法世界を安定させる。
それが、ネギ先生が示した解決策です」

「火星、ですか? 確か火星って………」

「ええ、今の所、水や大気が辛うじて存在する程度の惑星ですが、
全世界の規模で対応すれば、
我々の世界の様な生きた世界を作り上げる事も理論上は不可能ではない。
ですから、そのとてつもなく遠大なプロジェクトの核となるためにも、
ネギ先生は不老不死となり完成を見届ける迄尽力する、
そういう事になりました」

「そう、ですか………」
「しかし、それだけでは間に合いません」
「間に合わない?」
569 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:18:34.80 ID:ioJ43ves0

「ええ、普通に考えても、火星が緑の惑星になるためには
とてつもない資金と労力、そして、時間がかかります。
あらゆる力を用いて縮めるにしても限度がある。
そして、計算上、どんなに早く計画が遂行されたとしても、
魔法世界の滅亡に追い付く事はあり得ない。
例え私達の全世界の総力を挙げたとしても、
計画が実現する前に魔法世界は滅亡します」

「それ、って、それじゃあこの世界は、ネギ先生が不老不死にっ」
「ええ、ですから、もう一人いるのです」
「もう一人?」
「神楽坂明日菜さん」

まどかの目を見て告げた刹那の言葉に、
まどかはちょっと記憶を辿る。
そう、自分も新・オスティアのパーティーで出会った快活な先輩。
あの時も、写真で見た時も、
それだけでも分かる木乃香の、そして刹那の親友に違いない人。
そして、さっき迄観ていた映画にも、確かにその人は登場していた。
それも、極めて重要なポジションだった筈。

「このかお嬢様と神楽坂明日菜さん、そしてネギ先生、
この三人がルームメイトだった事はお話ししましたね?」
「はい」

「幼稚園以来のエスカレーター組も多い麻帆良学園で、
アスナさんは小学校の途中からあの学園に転入しました。
最初はひどく不愛想で、本人はがさつな乱暴者だと言っていますが、
何時しか溌溂とした、体力自慢の元気な少女に成長したアスナさんは
クラスの中でも慕われる存在となりました。
特に、クラス委員長の雪広さんやこのかお嬢様とは、
出会った時からの親友として深い友情で結ばれています。
そして、昨年ネギ先生がこの学校を訪れた時、
最初に深く関わったアスナさん、このかお嬢様と
行き掛りで同居する事が決まり、お二人は丸で弟の様にネギ先生を愛しみ、
ネギ先生も二人の事をよきお姉さんとして慕っています」
570 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:20:16.03 ID:ioJ43ves0

まどかは、刹那の懐かし気な横顔を見る。
そう、まどかがパーティーで出会った時も、
あの可愛らしい、そして精悍な男の子、ネギ・スプリングフィールド。
そのネギと明日菜の関係は実に気楽な、
僅かな時間会っただけのまどかにも、仲の良い姉弟の様、
と言う刹那の言葉の真実がよく分かるものだった。

「本来は秘密である筈が、アスナさんにはネギ先生があの学校に来て即日に
ネギ先生が魔法使いだと言う事が発覚したと、
今思えば背筋が寒くなる笑い話です。

それからは、様々な魔法のトラブルに於いても、
アスナさんはネギ先生の最良のパートナーとなり、
アスナさんがネギ先生の背中を守り、
時に真面目過ぎるネギ先生を一喝しながらも
ネギ先生とアスナさんは深い信頼関係を結んで
様々なトラブルの解決にも尽力して来た。

アスナさんは、身寄りのない孤児でした。
知り合いの関係で麻帆良学園の学園長の保護下に入り、学園に入学した。
学園長からは構わないと言われながらも、
アスナさんは早くから新聞配達で少しでも学費を稼ぎ、
そうしながら出会った様々な人達と、幸せな学園生活を送っていました」

そう聞くだけでも、贅沢ではないが
苦労知らずでのんびり育って来たまどかは
あの快活な明日菜に畏敬を覚えてしまう。

「そんなアスナさんの過去は、先程の映画でも語られました」
「は、はい」

刹那の言葉に、まどかが記憶を辿る。
571 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:21:35.88 ID:ioJ43ves0

「アス、ナ………あれ? アスナ、って、お姫様………」

「はい。アスナさんは、黄昏の姫君、そう呼ばれていた魔法世界の姫君でした。
魔法世界の中でも極めて希少な能力を持つ血筋である故に、
その人格は実質封じられ、戦争に於ける兵器として利用されて来た。
ええ、利用されて来たんです。

子どもの姿のままの百年余りを経て、そんなアスナさんを救出したのが
ネギ先生の父、ナギ・スプリングフィールド、
加えて、このかお嬢様の父上、当時の青山詠春氏を含む一団「紅の翼」でした。

「紅の翼」に救出されたアスナさんは、魔法に関わる記憶を封印され、
一人の普通の女の子として麻帆良学園に入学しました。

しかし、再びの魔法世界でのトラブル、
それが一時的な戦争と言ってもいい規模に及び、
その中に巻き込まれて敵方の術式の核として利用される事となったアスナさんは
かつての記憶を取り戻し、そして、ネギ先生と共に
その素質を復活させて、魔法の世界を、救いました。
それが、あの映画で描かれていた事です」

「あ、あの、ウェヒヒヒ、ちょっとなんと言うか」
「ええ、付いて行けませんよね。
本人もそう言っていましたし私等も、はい」

「は、はい。なんと言うのか凄い人なんだなと」
「はい、凄い人であり、そして、本来であれば魔法の世界の中でも
とてもとても偉い、到底私等が近づく事等………
ああ、いけませんね。又怒られて、しまいます」

「刹那さん?」

はたと下を向いた刹那にまどかが声を掛け、
刹那は、その呼びかけに優しい微笑みで応じた。
572 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:23:03.83 ID:ioJ43ves0

「いえ、少々長いお話でしたので。
アスナさんは、ネギ先生と共に、この夏休みに発生した
魔法世界の滅亡危機を回避する事には成功しました。
しかし、魔法世界を支える魔力の枯渇により、
遠からぬ未来に魔法世界が滅亡する事に変わりはない。
それを回避するために、不老不死の身となったネギ先生は
魔法世界の依代である火星の開発に着手していますが、
時間が足りません、百年程」

「百年、ですか」

聞き返すまどかに、刹那が頷いた。

「正確には百年そのものではありませんが、
他に手を打たないとその間に滅亡は訪れる。
その足りない百年の時間、
魔法世界を維持するための礎となるのがアスナさんです」

「礎?」

「はい。魔法世界の姫君で特別な素質の血筋であるアスナさんが礎となり、
魔法世界の崩壊を遅らせる大規模な儀式魔法の中核となって
百年間の眠りに就く。
その事により百年の時間が稼げる。そういう計算なのだそうです。
実際に、あの映画でも描かれていた通り、
アスナさんはその血筋と修行によって、魔法世界の存在そのものを左右する
非常に特殊で強力な魔法を用いた事もあります」

「あの、百年の眠りって、それって………」

「おおよそ文字通りの意味です。
アスナさんは百年間俗世から切り離され、封印されます。
封印されて眠りに就き、その間に、
それまで培って来た人格、記憶も全て失って目覚める。
そう予測されています」

落ち着いた口調の刹那の説明を、
まどかはきょとんと聞いていた。
573 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:24:29.64 ID:ioJ43ves0

「詰まりは浦島太郎ですね。
ですけど、浦島太郎の場合は竜宮城に行く前の記憶があります。
しかし、目覚めるアスナさんはその記憶すら失っています。
果たしてどちらが幸せなのか」

「幸せ、って、そんな、そんなのってないよっ!」

最後に自嘲めいた笑みを聞き、まどかは叫んでいた。

「だって、だってあんな、アスナさんあんなに、
みんなと一緒に、あんな、笑って………」

多分、さやかであれば
もっとストレートに感情を発露して表現していたのだろう。
それが出来ない自分がもどかしくも、
まどかは、それでも、例え無駄でも、必死に伝えようとしていた。

「そうです」

まどかを見据える刹那の眼差しは、真摯だった。

「アスナさんは、幸せでした。
魔法世界の姫君として、只兵器として使われるばかりの百年を経て、
その記憶を封印して、麻帆良学園で一人の女の子としての人生を送っていた。
お嬢様や委員長さん、心の通じる親友や尊敬出来る高畑先生達と、
元気に、年相応の恋に悩み、そんな日々を送っていました。
そんなアスナさんがネギ先生と知り合い、魔法を知り、
ネギ先生の日本で最も身近なお姉さん、公私に渡るパートナーとして、
時に命懸けの戦いとなってもネギ先生や他の皆と共に先頭に立ち、
目の前で大事な人のために戦いを選んだ。
その中には、私も含まれていました。
アスナさんはお嬢様の、そして、私の、掛け替えのない友です」

「刹那さん」

既にして、先程辛うじてまどかの中で
ファイティングに沸騰していた気持ちは半ば以上萎えていた。
それは、刹那の言葉だから。
刹那がそう言うのであれば、本当の事であり、仕方がない事なのだろう。
刹那の言葉には、そう思わせるだけの誠実さがある。
574 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:26:32.08 ID:ioJ43ves0

「そんな、アスナさんだから、自らのルーツ、故郷、
そして、そこで出会った人々、自分を助けてくれた、
そのために命を懸けた人々、そうである人、
そうでない人達が生きる世界のために、自らの犠牲を選んだのです。
今迄出会い、共に歩んで来た人達との未来を失い、培って来た思い出を失い、
目覚めた時にはネギ先生以外の知り合いの誰もがその天寿を全うした後。
そうなったとしても、アスナさんはその道を、選ばれました」

「そんな………」

ふうっと息を吐き、説明を終えた刹那に、まどかが呟く。

「んな………そんなの、ってないよ………
あんまり、だよ………」
「ええ」

まどかの呟きに、刹那が反応した。
その刹那の呟きに、まどかは真実を見る。
決して、高潔な犠牲を是とする侍、
ではない一人の親友の、女の子の姿。

「どうにか………なんとか、出来ないんですか?」

まどかに問われた刹那は、小さく首を横に振る。

「アスナさんの性格上、魔法世界の滅亡を、
世界丸ごとに等しい人々の消滅を看過する、
と言う事はまずあり得ません。
問題は、魔法世界を支えるための莫大な魔力です。
一つの惑星の生命力に匹敵するだけの生命力が作り出す魔力。
火星に、魔法世界を維持できるだけの生命が定着する迄の百年の時間、
それを埋め合わせるだけの莫大の魔力、これが無ければどうにもなりません」

「惑星に匹敵する巨大な魔力、百年間、維持出来るだけの魔力」

真顔で、真摯に説明する刹那の言葉をまどかは繰り返す。

「ええ。しかし、そんな事は不可能です。
そんな魔力も生命力も存在しない、
そんなものを他で用意する事は不可能ですね」

そして、桜咲刹那は静かに微笑む。
575 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:29:12.31 ID:ioJ43ves0
















神様でも









ない限り
















576 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:30:32.64 ID:ioJ43ves0

==============================

今回はここまでです>>556-1000
続きは折を見て。
577 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:35:02.10 ID:eutMDHso0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>576

ーーーーーーーー

「あら」

スーパー銭湯のジェットバスで、
隣のコーナーに脚から入る明石裕奈を見て巴マミが声を上げる。

「又会ったね」
「ええ、話は付いたのかしら?」

泡の中にじゃぷんと体を沈める裕奈に、
マミはちょっと皮肉っぽく尋ねた。

「まあね。お陰さんで肩凝っちゃってさ」

そう言って苦笑いする裕奈にマミは目を細める。
マミから見て、自分の後輩にも似たタイプがいるが、
さっぱりと元気な女の子、に見えてその内心は多感で聡い。

「そうね、お仲間とか、ましてやそちらは組織。
もちろん本業の仕事もあって、
味方は有難いけど色々肩が凝る事も多いわよね」

裕奈に合わせる様にマミも手すりを握って、
噴射に当てた背を伸ばしながら一声唸り声を上げる。
そんなマミの横で、裕奈は舟を漕ぐ様に目を閉じて
かくんと下を向いていた。
そして、くくっ、と笑い声を漏らす。
578 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:41:44.28 ID:eutMDHso0

「くくっ、くっ、あはは………」

そして、いきなり水面から胸を浮かべる勢いでそっくり返り、
天を仰いで大笑いを始めた裕奈にマミはぎょっとした。

「ああ、ごめんごめん、ちょっとくすぐったくて、
お騒がせしましたー」
「そ、そう」

目が点になったマミの横で、
まだくすくす笑っている裕奈がばしゃばしゃと顔を洗った。

「ふふふ………ホンモノは違うねぇ」

ーーーーーーーー

「………大丈夫?」

敷地内露天風呂に丁度三つあった石窯風呂の一つで、
熱めの湯に浸かりながら牧カオルが尋ねる。

「今の所健康面に問題なし、
事によっては引きずり出すから準備して」
「ラジャー」

カオルの右隣りの石窯風呂に浸かった御崎海香と
牧カオルが大真面目に会話を交わす。
海香の右隣の石窯風呂では、佐倉愛衣はぽけーっと天を仰いでいた。
愛衣は、ぱんっ、と、両手で顔を叩き、下を向く。
そして、ばしゃっ、と顔を洗った。

「魔法少女の横紙破りプレイアデス聖団、そして………
今回も、先んじたのはあなた達、ですか」
579 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:42:52.69 ID:eutMDHso0

ーーーーーーーー

「あなたも、なかなか懲りませんね」

鹿目まどかが気づいた時には、
自分がいるホテルのツインルームの壁に小さな穴が一つ増え、
暁美ほむらの右手を右手で掴み反らした桜咲刹那の左の肘が
ほむらの腹に埋め込まれていた。

ほむらが痛覚を切る前に、刹那の指の一撃を受けたほむらの右手が
米軍制式M9拳銃を手放し、
ほむらの体はそのまま背中からベッドに叩き付けられた。

「ほむらちゃんっ!?」
「あなたの負けです、暁美ほむらさん」

魔法少女衣装の楯に伸びたほむらの右手に
刹那の長匕首の棟がぱあんと叩き付けられ、
匕首の切っ先がほむらの喉元、絶妙の距離に向けられた。

「無駄な抵抗はやめて下さい。
ここで限界を超えられると後が面倒ですから」

チラ、と、ほむらの左手を見た刹那の視線に気づき、
ほむらは全身を震わせて吊り上がった目を刹那に向けた。

「桜咲刹那、お前、知ってて、それで………」
「ほむらちゃん、っ………」
「桜咲刹那っ!!」

びっ、と、駆け寄ろうとするまどかに匕首が向けられ、
ほむらは今度こそ体勢を立て直した。

「………匕首・十六串呂」

刹那は、たっ、と飛び退いた。
と、思った時には、
ほむらのすぐ横を通り過ぎた何振りもの匕首が
ドドドドドッと壁に突き刺さっていた。
580 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:44:55.36 ID:eutMDHso0

「話は最後まで聞け。
鹿目まどかではない暁美ほむら一人、
邪魔をするなら斬り捨てる」

「白き翼の剣」がほむらに向けられ、
刹那の声は低く嘲笑的ですらあった。

「聞け」

思わず両手をベッドの上に乗せたほむらに、
瞬時に剣の柄元の刃をほむらの首に向け、
ほむらの胸倉を掴んだ刹那は覆い被せる様に言う。

「暁美ほむら、お前の負けだ。
そして、お前は決して私には勝てない。
それでも未だ目的を果たすつもりがあるなら余計な事はするな、
悪い様にはしない」

「桜咲刹那、あなたは、何を何処まで知っている?」

俗に言うメガほむ、あの頃の、吐き気がする程の恐怖が戻って来そう。
魔女、魔法少女相手に相当な修羅場を潜って来た筈、
ほむらがそう思い直しても、刹那の声音はそれだけ「本物」だった。

「魔法少女は魔女になる、これは、今から説明する話でした」
「え?」

ほむらを突き放し、立ち上がった刹那の一言に
まどかはきょとんとし、ほむらも刹那をぐっと睨み付ける。

「やはり、知っていた」

「神鳴流をなんだと思っている?
王城の地を守って来た退魔の剣。
窮兵衛と契約する魔法少女の実態等、
その歴史の中には幾らでも出て来る」

「あ、あの、刹那さん?」
「なんでしょうか?」

刹那の口調は丁寧に戻ったが、やはり、何処か事務的になった。
まどかはそう思った。
581 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:46:51.53 ID:eutMDHso0

「今、魔法少女が魔女になる、って」

「はい、魔法少女のソウルジェムが完全に濁り切ると、
ソウルジェムはグリーフシードを産み、
魔法少女は魔女になります。
こうなると元に戻す術はありませんから、
かつて希望を願った魔法少女は絶望を振りまき人を食らう祟りとして、
他の魔法少女に退治されて死ぬしかなくなる存在になります」

「ほむら、ちゃん?」

「桜咲刹那の言う事は本当よ。
嘘だと思うならキュゥべえに確かめてみればいい」

「そういう訳で、神鳴流では窮兵衛は人には過ぎた奇跡を売り歩き
人を魔性に変える禁忌の存在として、その関わりを禁じられてきました。
それは、現在では魔法の世界に於けるおおよそのコンセンサス、約束事です。
流儀によっては悪魔の契約と扱われている様ですね。
取り敢えず、まともな呪術、魔法の流儀では
窮兵衛、マギカ、魔法少女には関わらない。
長年の歴史、研究の中でそういう約束事が定着していたのですが、
先程も話した通り、今回は非常事態或いは異常事態です」

「それで、この魔法世界を救うために、桜咲刹那っ!」

「協会の内諾は得ています。
お金で済む事でしたら、非常識な程度の金額は用意します。
その上で、魔女になられては当然困りますから、
まどかさんの魔法少女としての活動は協会として全面支援します」

事務的な刹那の口調を聞き、まどかは、とさっ、と座り込む。

「騙されては駄目よまどかっ」
「騙して等いませんよ。
基本、デメリットは偽りはしなくても喋らない窮兵衛と違って、
私としては必要な情報は提供しました」
「ええ、そうね」

殺意の籠った目で刹那を見てから、ほむらはまどかに視線を向けた。
582 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:48:54.73 ID:eutMDHso0

「聞いての通りよ、まどか。
魔法世界の事は気の毒だと思うけど、元々まどかには関係の無い事、
それは魔法使いでどうにかすればいい。
それより、まどかが魔法少女になると言う事は、
何れ魔女になるリスクがあると言う事。
まどかの才能は大きい、大きすぎる。
だから、魔女になった時はとんでもない被害が出る事になる。
そうでなくても魔法少女がどれだけ危険な事かはまどかだって見て来た筈っ」

「そうですね」

ほむらの言葉に、刹那は、ふっとまどかに微笑みを向けた。

「まどかさんには関係の無い事ですね」
「そんな事、ない」

まどかは首を横に振り、ほむらは目を見開いた。

「ほんの短い間だったけど、魔法世界の人達は色々良くしてくれた。
それに、この世界の人達は、私達みたいに普通に生活して、生きてる。
もしも魔法世界が消滅したら、どれぐらいの人達が?」

「まどかっ!」

「ざっと十二億人。おおよそその人数が消滅します。

魔法世界の中でも数千万人は我々同様の肉体を持っていますから、
その人達は魔法世界と言う世界の消滅によって
通常の生物が住めない丸裸の火星に放り出される事になる。

既に魔法世界の崩壊自体は予見されている事ですから、
今のスケジュールでそれが発生した場合、
数千万人の難民が地球に押し寄せる事になる。
しかも、現状では公開されていない魔法の使用がデフォの難民集団です。

今の世界情勢を鑑みるに、その様な事が起きれば
世界大戦レベルの軍事衝突すら十分起こり得ます」

「桜咲刹那っ!」
583 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:49:55.11 ID:eutMDHso0

「私は、私が契約すれば、その人達は救えるの?
その人達のために、神楽坂明日菜さんは
ひとりぼっちにならなくても済むの? 刹那さんっ!?」

噛み付かんばかりのほむらに白き翼の剣を向けた刹那に、
まどかは強い口調で尋ねていた。

「どうですか窮兵衛?」
「十分だね」
「あ、う………」

その声を聞き、ベッドの上で動こうとしたほむらは、
剣の切っ先と、それと同じぐらいに鋭い刹那の視線に動きを止める。

「君の素質は桁違いだ、出来ない事なんてない、
万能の神にだってなれるかも知れない。
君の願いなら、魔法世界を百年維持し続ける事も十分に可能だね」
「ね、がい………」

ほむらの両手が、布団カバーをぎゅっと掴んだ。

「お願い、まどか。
お願いだから、魔法少女、魔法少女には、ならないで………」
「ほむらちゃん………」
「それが、あなたの願いですか」

刹那に静かに問われ、ほむらは顔を上げた。

「あなたは時間の魔法を使う。
そして、あなたの行動パターンには一つの目的が明確に存在している。
そこから考えるならば、あなたが今迄何をどうして来たか、
その結末がどうだったか、それを推測する事は難しくない」
「桜咲、刹那………」

歯噛みしながら刹那を殺せる程の視線を向けるほむらに、
刹那は微笑みを見せた。
584 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:53:37.99 ID:eutMDHso0

「もう、十分です」
「な、っ………」

「魔法少女の行き詰ったシステムの中、
あなたが我武者羅に突っ張って目的の為に戦い、
傷ついて来た事も容易に推測できます。
少女の一度の人生には過ぎる苦しみを味わって来た事も。
しかし、あなたには無理だ」

「………」ギリッ

「やり直しますか? 
しかし、そこに私がいたら、あなたに勝ち目はない。
スタート時点の経験が違い過ぎる。
守る者としては視野が狭すぎる。
だから、同じ標的を見ていた目にすら気づかない。

そうでなくとも、あなたの素質、あなたの今の人としての素質から言って、
何度やり直しても、むしろやり直しを繰り返す程に
脳に不確定要素が溜まり拭いきれなくなる。

私も仕事では機械を使わざるを得ませんが、
あなたの脳は過剰な経験が歯車に絡み付いて
既に最適化もクリーンアップも出来なくなっている。
魔法少女と言う困難の中で一人を守り抜く、
この目的を果たすためには、
どんなに繕ってごまかしてもあなたは………

………優し過ぎる。

もういいです、暁美ほむらさん」

「あなたに、何が………」
「後の事は、我々に任せて下さい」
「そんな、事が………」
「妨げるならその首もらい受ける迄。
私が大切なのは麻帆良で出会った仲間」

刹那は、静かな口調と共に、
改めて「白き翼の剣」の切っ先をほむらに向ける。
585 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:56:10.53 ID:eutMDHso0

「私が大切なのは、
麻帆良で出会った掛け替えのない仲間、掛け替えのない友」
「や、めて………」

震えるまどかの声を聞き、刹那は静かに切っ先を下げる。
だが、ほむらは動かない。
刹那はほむらの手の内を完全に知っている、
少なくともほむらはそう確信している。
そして、ここでほむらが僅かでも反撃の素振りを見せたなら、
その瞬間にほむらの左掌は打ち抜かれる、
それを避ける事は不可能である事も。

「勘違いしないで下さい。
何も人質を取って強要するつもりはありません。
そもそも、この窮兵衛は腐っても窮兵衛ですから、
そんな事をしたら契約の前提となる自由意志を疑われる危険があります。
只、邪魔はするな、と言っているだけです。
いいですね、暁美ほむらさん」

「まどか………分かるわよね………」

折れそうな心を叱咤し、懸命に、
刹那を睨み付けながらほむらが続けた。

「この女………桜咲刹那は、最初から、
最初からまどかを利用するつもりで私達に近づいた。
桜咲刹那と近衛木乃香は、まどかの性格を知っていて、
私達を足止めしゲートを暴走させて
この魔法世界へのまどかを連れ込んだ。
まどかの優しさに付け込んで、この世界を見せるだけで事は足りる、
そう読んでまどかの優しさを利用してっ!!!」

「三十点、否、五点も差し上げられません」

吐き捨てる様に叫んだほむらに、刹那が告げた。
586 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:57:52.41 ID:eutMDHso0

「このかお嬢様は、この件には一切関わってはいません。
皆さんを一度お誘いしたいと言うから、
こちらがそれに合わせて計画を組んだ迄です。
あの二人、美国織莉子と呉キリカが割り込まなければ
このかお嬢様をこちらに巻き込む事は無かった。
この点は、このかお嬢様を巻き込んでしまった事は
こちらにとっては完全に不都合でしかありません。
全ては協会の内諾の下で私一人が行った事です」

「あの二人とあなた達との関わりは?」

「分かっている事は、私達の邪魔をしていたと言う事だけですね。
どうやら予知能力者らしいのである程度の推測は出来ますが、
その様子だと、あなたも知っている相手の様ですね」

「多分、想像通りよ。
まどか、桜咲刹那にとっては95%以上大事な事でも、
私にとってはこの際どうでもいい事だわ。
大事なのは、まどかが利用されて、
それで大変なリスクを負わされる、
人間ですらないものにされようとしている。
それも、優しさに付け込み自由意志を名目にして
目の前に十二億人の人質を置いた卑怯な、悪辣なやり方でっ!
そんな話、乗る必要はない、断じて無いっ!!!
………どうしたのよ?」

「はい?」

「どうしたのよ? 私の言葉は、
邪魔にすら値しない、と言う事?」
587 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 04:03:32.31 ID:eutMDHso0

「まあ、先程も申し上げました通り、ここであなたに下手に手を出せば
自由意志に反する脅迫になりかねませんし。
それに、あなたが言う通りです。
ええ、既にあなたは私に負けた、
ここにいる時点で完敗が確定しているんです。
最早、今のあなたの言葉に結果を変える力は無い。
あなたはその事を一番、恐らく私よりも遥かによく知っている」

「あああ………」

絶叫と共に両手でベッドを叩いたほむらの側で、
刹那がふうっと息を吐いて、とんとんと自分の肩を叩く。

「私にとって大事なのは、
最小限のリスクでこの魔法世界が維持される事。
魔法世界が維持されない事にはアスナさんを救えない訳ですから、
私の願いはそれだけです。

そして、協会とも利害が一致している以上、
契約が成立すれば最悪の結果を免れるために全力でサポートします。
元々がどん詰まりに近い運命を背負った魔法少女。
急ごしらえに魔法を使う未熟な集団。優し過ぎる対象者。

私にとっては、私が大切な人達を救うための大事な大事な掌中の玉。
未熟者達のカオスに傷つけられず、
たった一枚のカードを変な事で切ったりされない様に監視して。
只でさえ不慣れな調略をそんな過ぎた力を持った未熟者達を相手に、
他人をその心まで監視し、誘導して目的を果たす。
そんな仕事は肩が凝るものです」

==============================

今回はここまでです>>577-1000
続きは折を見て。
588 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:09:46.25 ID:G5cVWyKb0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>587

ーーーーーーーー

ぼーやは強くなるだろう

お嬢様もお前も

まとめて奴に守ってもらうがいいさ

選べ

ーーーーーーーー

「暁美ほむら」

ベッドの上のほむらに向けて、刹那が斜めに視線を向ける。

「魔法世界を救える程の魔法少女、
魔女になればどういう事になるか、その程度の事は分かっています。
魔法協会としても、当然そんな事は望んでいない」
「魔女になる事を望んでいない?」

ほむらが、顔を上げて刹那を見る。

「まどかに魔法少女の契約をさせて、魔法世界を救って、
まどかを魔女にしない方法。
それなら、一番手っ取り早く簡単な方法が一つある」

ぞろりと黒髪を垂らして口にしたほむらに、
刹那は微笑みを向けた。
そして、その脚を膝からほむらのいるベッドに乗せる。

「!?」

刹那の手から放たれた長匕首が、
ほむらの魔法衣装のスカートをベッドに縫い付けていた。
589 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:11:47.63 ID:G5cVWyKb0

「そうですね」

あの頃、豊かな黒髪を二つに結んでいたあの頃の心が半ばぶり返した様な、
蛇に睨まれた蛙の様なほむらに対して、
刹那は真横近くまで近づいていた。

「こちらとしては、契約により魔法世界を救っていただけたなら用済み、
と言う事になりますね。
それどころかリスク要因が増えるだけ、
その規模は、安全装置の無い水素爆弾を大量製造したに等しい。
で、あるならば………」

「ほむらちゃんっ!!」

刹那がぼそぼそぼそ、と、口をきいた直後にまどかが悲鳴を上げる。

「諦めませんか?」
「あき、らめない。諦める、筈がない」

情けない、と、思った。
だが、屈辱なんてものは今までの長くも無い人生、
この胸の痛みと共に吐いて捨てる程味わった。
だから、頬にボロボロと落涙し、
軍用ナイフを持った手を刹那にねじ上げられ、
それでもほむらの返答は変わらない。
その返答を聞いた刹那は、微笑んでいた。

「安心して下さい」

ほむらを突き放し、
取り上げたナイフを左手に持った刹那が言った。

「取り敢えず気を確かにもって下さい。
ここでまどかさんに余計な心理的負担をかけないで頂きたい」

そう言って、刹那はグリーフシードを放り出す。
590 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:14:54.95 ID:G5cVWyKb0

「魔法世界の中でもここ、メガロメセンブリアは
「人間の国」ですから」

そう言ってふっと微笑んだ刹那の言葉を聞いて、
まどかは、それならあんな国とかこんな国とか
色んな国でもあるのだろうか、等とふっと考えていた。

「魔法協会は、それなりに人道的な組織です。
まして、魔法世界を救い魔法世界の姫である神楽坂明日菜を救い、
今後の魔法世界救済計画ひいては魔法の世界のキーとなる
ネギ・パーティー、魔法協会に途方もない益を齎す救いの女神。
それに驕る相手ならとにかく、
鹿目まどかさんの性格はあなたが一番よく知っている。
だから、あなたは安心していい」

「まどかに危害を加えない、そう誓えるの?」

「絶対、とは言いません。
私も体験しましたが、魔法少女と魔女の事は、
やはり我々魔法協会にとっても決して楽観出来る存在ではない。
ですから、最悪の事態に於いては、
最終的には公共の福祉に基づく対処をする事になります。但し………」

そう言って、刹那はベッドから長匕首を抜く。

「その時は、私の命もない。
それが私の、この仕事に関わった上での
退魔師としての矜持です」

そう言いながら、右手に握った長匕首の棟を、
左手に握った軍用ナイフで軽く叩いた。

「だから、鹿目まどかさんの事は、我々に任せて欲しい。
少なくとも、あなたに委ねるよりはいい結果を出す。
それは客観的な事実だ、守護者殿」

改めて頭を下げる刹那に、ほむらは下を向いて応じていた。
ナイフを放り出してふうっと息を吐いた刹那は、
ベッドの縁に座り直して隣のベッドに座るまどかを見る。
591 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:19:12.71 ID:G5cVWyKb0

「そういう事です。ひとまずここで私の仕事は終わりました。
もちろん、あなたが魔法少女として魔法世界の救済を願ってくれたならば
陰ながら身命を賭してそのアフターフォローの先頭に立つ事になりますが、
まずは、この段階での私の仕事は終了です。
暁美ほむらさんの言った通り、あなたは魔法少女になる前に、
この魔法世界と神楽坂明日菜さんの真実を知った。
後は、あなたの良心次第です」

刹那の言葉を聞き、まどかの両手がぎゅっ、と膝の上で握られた。

「聞いても、いいですか?」
「どうぞ」

刹那は、下を向いたまま尋ねるまどかに真顔で応じた。

「神楽坂明日菜さんは、刹那さんのお友達なんですか?」
「そうです」
「大切な、お友達なんですか?」
「ええ、そうです」

震える声で尋ねるまどかに、刹那は真摯に応じていた。

「アスナさんは私の剣の弟子。
しかし、人間的に、人生と言う意味に於いては、
あの人こそ師匠なのかも知れない」

「近衛木乃香さんと刹那さんとアスナさんは友達、
そうなんですか?」

「その通りです。このかお嬢様とアスナさんは、
初等部で出会って以来の掛け替えのない無二の親友同士。
このかお嬢様は、私にとって、アスナさんとは又違った意味で、
命に代えても守らなければならない大切な人であり、
私にとっての大切な友です」

「ネギ、先生は?」
「大切な人です」

ふっ、と、刹那の顔が綻んだ。
592 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:23:52.82 ID:G5cVWyKb0

「そうですね、先生であり、
英雄と言うべき偉大な魔法使いとして我々の先頭に立って来たリーダーであり、
そして、可愛い弟の様な存在。
アスナさんとこのかお嬢様も、
丸で本当の姉弟の様にネギ先生の事を可愛がっていた、
ネギ先生もそんなお二人を慕っていた、それは微笑ましい光景でした。
私も、些かながらその様な信頼を得られた、そう自惚れている所です。
ネギ先生にとっても、あの学校で最初に出会い、
パートナーとして行動を共にして来たアスナさんは
掛け替えのない大切な人です」

「詰まり、一周回って本当ん所は、
刹那さんが大切な友達を助けるためにまどかを利用した、
そういう話な訳ね?」
「まあ、そういう事にもなりますね」

いつの間にやら玄関から立ち入って立ち聞きしていた美樹さやかに、
刹那はあっさりと返答した。

「お陰様で、協会とも利害が一致しましたので、
公共的な目的がこちらの望みと合致した結果です」
「そうやって言っても、まどかの性格から言って断らないだろう。
それを見越してやってるんだよね?」
「命懸けの仕事に関わる関係者の性格を把握するのも仕事の内ですので」
「んー、刹那さん流石に鋭いからねぇ」

腕組みして、頷いて発言したさやかが片目を開けた。

「まどかの性格から言って、そのまま事情を説明してお願いしても
魔法世界の為、神楽坂明日菜さんのため、
むしろ進んで契約してくれたと思うんだけど、
刹那さんから見たら違うのかな?」

「いえ、私もそう思いますよ。
只、契約は一度切りのチャンス。
少々、些か、多少厄介な守護者もついていましたので
確実に結果が出る様に回りくどい手を打ちましたが」

刹那の返答を聞き、さやかは親指で顎を押す。
593 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:26:04.16 ID:G5cVWyKb0

「んー、分かっちゃうんだよね」
「何がですか?」
「まず、確認しておきたいんだけど、
魔法少女のソウルジェムが濁り切ったら魔女になる、
その事に間違いはないんだよねキュゥべえ」
「無いよ」
「どうして?」

あっさりと返答するキュゥべえにまどかが震える声で問いかける。

「どうして? どうして、私達を騙して、そんな事をするの?」

「騙してなんかいないよ。
人類がどう頑張っても叶える事が出来ない奇跡だって、
魂を差し出すだけの願いを叶えた、ちゃんとそう言った筈だ。
このまま行けば、この宇宙そのものを
維持するためのエネルギーが枯渇してしまう。
だから、僕らはそのエネルギーを補充するために魔法少女の契約を行っている」

「なんか、凄く話が飛んでないかな?」

さやかが、乾いた笑いと共にキュゥべえに剣の切っ先を向けながら言った。

「魔法少女が魔女になる、希望が絶望に相転移する、
その際のエネルギーを集める事で
宇宙を維持するためのエネルギーが補充できるんだ。
そのために、一番効率がいいのが思春期の少女だと言う訳さ」

「ひどいよ………」
「今すぐぶっ殺してやりたいんだけど、
今、僕らは、って言ったよね?」
「ええ」

さやかの言葉にほむらが応じる。

「こいつらは殺しても殺しても沸いて来る、
そしてその全てが全ての個体の
過去からの知識を引き継いでいるから時間の無駄よ。
それでも我慢出来なければ止めるつもりは全くないけど」
594 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:27:45.94 ID:G5cVWyKb0

「あっそ………やってくれたね、キュゥべえ。
確かに、恭介の事、マミさんの事も、
あんたの言う通りあり得ない奇跡ではあるんだけどさ」

「理解してくれて助かるよ」

そう言ったキュゥべえをギロリと睨み付けたさやかが、
刹那にふっと笑顔を見せた。

「いやね、刹那さんにボッコボコにされた未熟者が
魔法少女になった結果、って奴。
お陰さんで、魔法少女が魔女になる、って言われても
なんとかかんとか立ってられるけど」

「そうですか、ここで一仕事済ませずに済むのであれば何よりです。
私としてもそれだけ痛い思いをした相手に止めを刺すのは
気分がいいものでもありませんし、
これから契約していただくキーパーソンの幼馴染の大親友とあれば尚の事です」

「まあ、理由はどうあれ大事にしてくれてるって事で有難う。
それでさ、ゾンビにされた挙句魔女になるって言われて、
それが、まあこの口先詐欺師に騙された結果だって言っても、
それは自分が決めた事だって、そう言われると厳しいんだよね精神的に」

「………」

「命懸けの魔女退治してて、いつだって、何時でも24時間、
正義のヒーローさやかちゃんで、いられる訳じゃないんだから。
恭介の事だって、頭の中色々ぐちゃぐちゃになりそうだしさ。
それもみんな、あたしが自分で決めた事だって、
いや、まあ、その通りではあるんだからそれは受け容れるしかないんだけど。
まどかだってそうだよ。魔法少女にはそれだけのリスクがあって、
魔法少女としてこれから色々と考えなきゃいけない事もあるかも知れない。
だからさ」

さやかが、真顔で刹那を見直した。
595 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:29:34.18 ID:G5cVWyKb0

「だから、元々がこんなふざけた契約だもん、
たまには怨む相手でもいないとやってられない、
って事はあるよね」

ポーカーフェイスでさやかを見直す刹那に、
さやかはにこっと笑顔を向けた。

「どっちにしろ、こんな未熟者がこんな重い剣を持った、
そんなあたしに色々教えてくれた。
あたしの友達にも先輩にも良くしてくれた。
その事は心から感謝してるよ、有難う」

「行き掛り上、ですね。
キーパーソンが鹿目まどかさんで、
戦いに関わる集団でこの年頃の集団のメンタルは
色々と手がかかる、それが実利に直結するは経験上知っていましたから。
今回の任務のために障害となる事を整理しました」

「それで、この剣の重さ、知ってるんだよね。
あたしなんかよりもずっと」

さやかは、剣を鞘に納めながら刹那を見る。

「そんな刹那さんが、あたし達と一緒に戦って、
命懸けで色んな事を教えてくれた、危ない時に守ってくれた。
それって、あたしから見たら本物だから」

「………あなたでしたか」

静かに息を吐いた刹那が、つとさやかから視線を外し、言った。

「やっ」
「これは、あなたの仕業でしたか」

片手を上げて現れた、民族衣装風の被り物の女性。
まどか達とは学年一つ分しか違わない筈なのだが、
一見した印象は若い女性そのものだった。
596 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/23(金) 20:31:52.23 ID:G5cVWyKb0

「最初に、このかお嬢様をこちらに合流させた。
美国織莉子に対抗するために、小太郎や楓も動かした。
そうやって、こちらの動向を把握しながら、
私の動きが3Aから切れない様に協力と言う形で巧みに手を打っていた」

「麻帆良パパラッチを出し抜こうとか、百年早いよ桜咲」

朝倉和美は、ずらしたサングラスの向こうで狐目を笑わせた。

「確かに、魔法関係でも公表出来ない情報ばかりが集まっていたと言う
あなたの取材力、情報力は侮れない。
しかし、違う」
「何が?」

刹那の言葉に、和美は唇の端を笑みで歪める。

「美国織莉子がこのかお嬢様をさらった時、
小太郎、楓の動きは素晴らしく速く、的確だった。
何よりも地理的条件の絞り込みが余りにも迅速だった。
それは、魔法ですか?」

「予知能力?」

ほむらの呟きに、刹那は微笑んで首を横に振る。

「確かに、占いは我々のカテゴリーにも存在します。
だからと言って、そう簡単に
ピンポイントに把握する事が出来るなら苦労はしません。
ええ、非常に難しい事ですね。
あの短時間にあれだけの精度の作戦行動、
その地理的条件を魔法だけで決定すると言うのは。
そうですよね?」

==============================

今回はここまでです>>588-1000
続きは折を見て。
597 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:52:09.73 ID:6o4RPtiD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>597

まどかは、もう一人増える気配に視線を向ける。

「長谷川千雨さん」

微笑みかける桜咲刹那に対して、
玄関側から現れた長谷川千雨は至って真面目な顔だった。

「状況から言って、相当早くから目を付けられていた様ですが、
何処で知ったんですか?」
「総督だよ」

勝手に椅子に座り込んだ千雨は、刹那の目を見据えて言った。

「メガロを中心に一定の普及が進んでいたとは言え、
「Blue Mars計画」の始動以来、
魔法世界でも科学的な演算、通信の必要性が飛躍的に高まった。
お陰さんで、今回私もこっちから使える通信ルート見つけて
旧世界側のバックアップもやってはみたが、
はっきり言って必要量に追い付くのは容易ではない状況だ、色々粗も出る。
私なんかは趣味でホワイトハッカーやって
セキュリティの穴やらなんやらを探してたんだけど、
その内、総督のルートの秘匿通信が妙に増えてる事に気付いた」

「あの人でしたか」

千雨の言葉に、刹那はにこにこと応じていた。

「元々「Blue Mars計画」自体が表面化していない訳だが、
裏のルートにしてもおかしい通信。
流出してるのか裏の裏なのか、相手はあの変態メガネだ。
又なんか悪巧みをしてるのか、
正直判断が付きかねたが、手遅れにする訳にもいかないからな。
それで探って行って出て来たのが正真正銘の悪巧みだったって事さ」
598 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:55:19.75 ID:6o4RPtiD0
失礼、前レスのアンカ>>596で、
それでは続き

==============================

「やはり、魔法世界側の情報セキュリティーでしたか」

「ああ、あっちもこっちも世界規模の悪巧み。
こうなって来ると、科学的な通信、演算を大規模に使う事は避けられない。
私の見る限り、必要な所は旧世界側の超大国が
本気になっても破れない程度には強化されてるから
その辺は心配しなくてもいい。
只、私が知った内容が内容だ、当事者含めてナシ付ける必要は出て来たけどな」

「そのために、長谷川さんが裏で色々画策したと言う事ですか、
私を出し抜くために」

「その辺の事は、どこまでが私で何処迄が朝倉か
今となっちゃ自分でも分からん所もあるけどな」

穏やかな刹那と少々気だるげな千雨。
親しそうでいて、だからこそ、真剣。
そんなやり取りに、見滝原組は息を飲む。

「魔法使いは魔法少女に不干渉、私も最近知った事だが、
私なんかよりずっと昔から退魔師やってる桜咲が、
何がどうなってこんな事になった?」
「仕事で少々遠方に出向きましてね」

落ち着いた口調で尋ねる千雨に、
刹那も世間話を語る様に応じる。

「仕事自体は普通の物の怪退治でしたが、
そこでこの使い魔と行き会いまして」

「キュゥべえか?」

「ええ、なんでも素質があるから魔法少女になって欲しいと。
千雨さんの言う通り、神鳴流としても
窮兵衛とは関わり合いにならない事になっていますので
丁重にお断りしたのですが、
何故か麻帆良に戻る迄にちょこちょこ付き纏って来まして、
109匹目で暇潰しに話を聞いてみました」
599 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:56:41.90 ID:6o4RPtiD0

「だからっ!」

怒号を発したほむらに刹那はにこっと微笑みかけ、
バン、とベッドを叩いたほむらは下を向いた。

「ええ、聞いてみましたよ。
何でも願いが叶う、と言うのなら、
アスナさんの運命を変える事が出来るか、
彼女の犠牲無しに魔法世界を救う事が出来るか、とね。
答えはノーでした。私の素質では無理だと」
「桜咲の素質では、か」

千雨の言葉に、刹那は笑って頷いた。

「但し、心当たりがあると。
流石の魔法少女でも余程の事が無い限り無理だけど、
たまたま偶然運良く最近神にも匹敵する莫大な素質を持つ
魔法少女候補の存在を察知したと。
只、彼女に接近すると、
窮兵衛の個体が謎の急死を引き起こすので
何者かに妨害されているらしいと」

刹那の言葉を聞きながら、ほむらは下を向いて歯噛みしていた。

「取り敢えず、裏の伝手を使って、
その対象者、鹿目まどかさんの人としての基礎情報を調査しました。
それと共に、ある程度の現実味がありそうだと考えた時点から
水面下で魔法協会内外でも協力者を得るための根回しも行いました。
それでも少々駒が不足しましたからね、
そちら側にいい人材がいないか、と言う事で、
窮兵衛からあすなろのプレイアデス聖団の情報も聞き出して」

「儀式魔法の発動と学園警備の目を引き付けるデコイ、一石二鳥か」
600 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/25(日) 02:58:18.08 ID:6o4RPtiD0

「お陰で、情報が漏れたとは言っても、
こうして最初に3Aの内内で話をする程度の時間は稼げました」

にっこり微笑む刹那を、千雨はぎゅっと睨み付けていた。

「もちろんリスクはあります。しかし、最善を尽くします。
既に魔法協会呪術協会の組織的協力を得る目途はついた。
鹿目まどかさんにも死ねと言っている訳じゃない。
リスク、負担はあります。
しかし、これが最善の手段だと確信しています」

「本気で言ってるのか?」
「本気です」

刹那を見据えて言う千雨に、刹那も笑みを抑えて真顔で応じた。

==============================

今回はここまでです>>597-1000
続きは折を見て。
601 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:24:28.85 ID:DZytFv5H0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>600

千雨は、まどかに視線を向け、天を仰いだ。

「契約前に、知っておくべき事だろうな」
「何、ですか?」

まどかが尋ね、千雨は刹那を見るが刹那はポーカーフェイスを崩さない。

「鹿目まどかの魔法少女契約に伴い、
魔法協会内で裏のプロジェクトチームが動き出す。
今は魔法使いと魔法少女は不干渉、と言う事になってるが、
現実問題としてそうは言っていられない、ってな」

「ええ、そうよ」

千雨の言葉に、ほむらが口を挟んだ。

「もし、まどかが魔法少女となりの魔女になった時は、
それはこの世界そのものが滅亡する時。
魔法使いだろうが魔法少女だろうがどうにか出来る次元の話じゃなくなる」
「そういう事だ、これ以上の大義名分は無い。
ここを突破口に、魔法少女との関係自体を変えちまおうってな」
「魔法少女との、関係?」

さやかが言い、千雨と刹那を見るが、
苦り切った千雨に対して刹那は表情を変えない。

「魔法協会は、キュゥべえ、
インキュベーターと秘密協定を結ぶ、そういう事だ」
「インキュベーター?」
「キュゥべえの本名よ」

問い返すさやかに、ほむらが苦々しく言った。
602 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:26:31.83 ID:DZytFv5H0

「インキュベーター、孵卵器。
つまり、魔女の卵を孵すのがあの宇宙生物の本当の役割だって事。
最初っからあいつらはそれが目的で魔法少女の契約を勧誘してる」

「その、インキュベーターとの秘密協定、って?」

「要は、魔法少女を魔法協会の管理下に置こうって話さ。
まあ、いっぺんに全部は無理だがな。
魔法協会とインキュベーターが情報交換をして、
新規の魔法少女を中心に支援と言う形で把握、管理する。
GPS付きの魔法少女は何れGPS付きの魔女となり、
その魂は優先的に女神様に捧げられる」

千雨にじっと見据えられ、まどかはきょとんとしていた。

「今の話は本当かしら?」
「否定する程間違ってはいませんね。
只、現段階で魔法少女界隈に流出したら事ですので
口外は無用に願います」
「桜咲っ!!」

ほむらの問いにしれっと答えた刹那が、
立ち上がった千雨に優しく微笑みかけた。

「支援する魔法少女に
魔女化のリスクを教えるのか教えないのか、曖昧だな。
情報を把握するだけ把握して、支援の有無はこちらの都合次第」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った」

真顔で言う刹那を前に、千雨は座り直す。

「それを、出発だけ支援しよう、と言う方針が現時点では支配的ですね。
そして、最悪の時は他に被害が出ない様に迅速に」

「そこで得られた果実は女神様の生贄にか」
「長谷川千雨」

しん、と冷えたほむらの言葉に、
千雨はまどかに向けて軽く左手を上げる。
603 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:28:55.07 ID:DZytFv5H0

「だが、このまま行けば現実的にそういう事になる」

「そもそも、今迄は不干渉でした。
魔法少女達はこちらとは関わりなく魔法少女となり、
魔女となって散って行った。
世の中には、パン一切れで契約しかねない少女もまだまだ存在する。
もちろん、我々もそこまで阿漕な事をするつもりはありません。
しかし、現実的にこの暁美ほむらさんの様に、
一歩間違えれば世界征服すら視野に入る能力が
未熟な少女達に無造作に与えられ、
それが魔女となって更なる被害に繋がっている。
こちらとしては、全てを救えないのなら、
支援と不干渉を少々都合よく使い分けさせてもらう。
そういう事です」

「そうやって、孤立していた魔法少女を
魔法協会の裏側の管理下に置く。
魔法少女の情報を管理して、
少なくとも管理下の魔法少女に対しては迅速に対処出来る様に。
そして、最初の段階で、余り訳の分からない契約をされない様にも誘導する」

「私達から見たら、窮兵衛との契約によって得られる能力と言うものは
素質によってはデタラメにも程がありますから。
そんなものを組織にも関わらない未熟な少女達、
しかもその多くが孤立している、そんな少女達に無造作に与え続ける。
今迄この世界が無事で済んでいた事自体が奇跡とも思える話ですし、
実際神鳴流の歴史の中にもその瀬戸際と思われるものが存在しますからね。
その辺りの事はなんだかんだ言って窮兵衛が
地球と言うグリーフシードの養殖場を潰さない様にコントロールしていた、
とも考えられますが」

「今度はそっちでグリーフシード牧場を続けるって事か?
いや、その前の、養殖場の餌作りか。
こっち側、魔法世界じゃあ、
死刑囚による使い魔の養殖まで検討されてるって言うからな」

「長谷川千雨、今すぐその口を閉じなさい」
「今、知らなきゃ後悔じゃすまない」

青い顔で、下を向いて震え出したまどかの側で、
ほむらと千雨が睨み合いで応酬する。
604 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/27(火) 18:32:11.75 ID:DZytFv5H0

「だ、大丈夫、です」
「大丈夫、まどか?」

返答したまどかにさやかが声を掛ける。

「うん、あの、魔法少女は、色々と命懸けだった、それは見て来た。
何て言うか、真面目に考えたらその、
そういう事も、あり得るのかなって」

「魔法少女は、非常に不完全で不安定なシステムです。
そこに突っ込む私達の手が綺麗なままとは言わない。
只、あなたがこの世界の為に、
私の大切な友のために魂を捧げてくれると言うのなら、
私達はその誠意に応え、魔法少女を含む公共の福祉のために
最善を尽くす、それだけです。
そうであっても、それは決してあなたの罪ではない」

「そこが本音か」

呟いた千雨に、刹那が涼しい視線を向ける。

「なあ、桜咲、忘れてる事はないか?」
「なんでしょうか?」

「その、魔法使いすら凌駕するとんでもない力をコントロールする、
そんな計画を立ててる魔法使いも、
私らと、魔法少女達と同じ心を持ってる人間だ。
だからこそ、魔法使いは今迄魔法少女には関わらないで来た、って事を」

「もちろん分かっています。
しかし、最善の為には他に方法が無いんです」

そう言って、一秒、二秒、刹那は千雨を静かに見据える。

「私はうまくやる」

==============================

今回はここまでです>>601-1000
続きは折を見て。
605 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:42:19.80 ID:J+7Eoz/B0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>604

「で?」

宣言した刹那に、千雨は問い返す。

「それで、どうする?」
「どうする、とは?」

「あんたはどうするんだ? って聞いてるんだよ桜咲。
汚れた手も鹿目まどかの、利用される魔法少女の怨みも
全部てめぇで飲み込んで、それであんたはどうする?
神楽坂、近衛、ネギ先生、
大切な人達の幸せを優しく微笑んで遠巻きに見守るってか?」

「いけませんか?」
「いい悪い以前に無理だ」
「それか何故?」
「馬鹿かお前は?」

真顔で聞き返す刹那を前に、両眉を吊り上げた千雨が押し殺す様に言った。

「バカレッドは馬鹿は馬鹿でもあんたも知ってるレベルの大馬鹿だ。
そんな奴が今更見過ごすとでも思ってるのか?
お前があいつにとってそんなに軽い存在だと思える程お前は馬鹿なのか?」

そう言って、千雨は人差し指を立てながら立ち上がった。

「ここで問題だ、うちのクラスの中で、
一番長い間、一番深く、
あんたの事を見て来てあんたの事を大切に思って来た、
失いたくないと心から思ってる、それは一体誰だ?」

双方、不敵な笑みを交わす。
606 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:44:21.82 ID:J+7Eoz/B0

「だったら身を引いて姿を消すか。
大切な人達が幸せであればいい、それで自分も満足か。
私が知ってる桜咲刹那は誇り高き剣士であり、
心から友達を大事にする、とても誠実な、一人の女一人の人間だ。
だから、無理だ」

「あたしも、そう思う」

口を挟んだのはさやかだった。

「なんか、分かっちゃうんだけど、
刹那さんって剣は凄いけど、
その辺なんと言うか、実はかなりポンコツだと思う」

「正解だ」
「だから、隠し通す事なんて出来ないと思うし、
それに………」
「それに、なんです?」

強き剣士に真顔で問われ、さやかは言葉に詰まるが、
それでも、敬愛する師匠の、
大切な仲間の目を正面から見据える。

「それに………刹那さん」

さやかは一度下を向き、呼吸を整える。

「刹那さん。
刹那さんは、
本当の気持ちに向き合えますか?」

主観的時間、客観的時間も不明瞭な沈黙に圧倒され、
さやかはガバッと頭を下げた。
607 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:46:27.21 ID:J+7Eoz/B0

「ごめんなさいっ!
あ、あの、これ本当はあたしが言われた事で、
でも、刹那さんって、それだけの覚悟してる刹那さんが
友達を凄く大事にしてるのって凄く分かるし、
だったら、だったら、刹那さん本当に凄い人だと、
あたしなんかよりずっと強い人だとそう思うけど、
だけど、だから、刹那さん本当は優しくて情がある人だから、
だから、そんな一人で、そんな大切な友達を、大切な人を、
だからっ!!!」

さやかの叫びと共に、下を向いていた千雨が上を向いて笑い出した。

「当たり、正解だよく言った」
「だから、後悔なんて、して欲しくない。
それって、間違えたら、凄く辛いから………」
「弟子まで泣かせてんのかよ桜咲」
「弟子にした覚えはないんですけどね。
有難うございます、美樹さん」

ふうっと息を吐いて、刹那が応じる。

「確かに、そうしなければならない、
守るためには皆から離れなければならないかも知れない、
それはとても辛い事です。しかし、私は………」
「だから自己満してんじゃねぇ桜咲っ!!!」

怒号が言葉を遮った時、刹那は千雨に胸倉を掴まれていた。

「生憎だが、私はそれを認める訳にはいかないんだ。
ちょっとばかり関りが深過ぎてな。
自分達の為にあんたが傷つく、その事で自分が傷付く、
あのガキらにそんなモン背負わせる訳にはいかない。
そこん所、分かんねぇのかこの大馬鹿野郎は………
何がおかしい?」

「いえ、すいません。
恐らく、それは正解です」

静かに微笑み、認める刹那を前に、
千雨はゆっくり手を放す。
刹那は、静かに立ち上がった。
608 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:50:03.79 ID:J+7Eoz/B0

「ええ、あなたがネギ先生を本気で心配して発している言葉です。
そうであれば、それは間違いなく正しい事、
ネギ先生の真意に叶う事の筈です、あなたは正しい」
「って褒められた先から、
それでもやる、って意気込みはビンビン伝わって来る訳だけどな」

微笑む刹那に、千雨はギリッと歯噛みする。

「ですから、その時はネギ先生達をお願いします。
このままでは、アスナさんは私達と一緒の卒業式すら迎えられません。
アスナさんには、ネギ先生と、このかお嬢様と、その他の皆さんと、
魔法世界の闇の中から光へと生まれ変わった人生を、
そこで出会った人達と限りある人生を全うしてもらいたい。
皆さんにも、アスナさんと言う大切な人との思い出を、
これからも十年二十年、人としてその時が来る迄作り続けてもらいたい」

「だから、そこにはあんたがいないと駄目なんだっ!」

千雨は腕を振り、怒号した。

「あんたがいないと、だから………
なあ、桜咲よ、私には無理なんだよ。
あんたら四人の絆に入って行く、なんて事出来る立場じゃない。
だから、出来ればそっち側で解決して欲しかったがそれも無理だった」

「色々、仕組んでくれたみたいですね」

「小細工だよ。私にはそんな事しか出来ない。
そうだ、私にはそんな事しか出来ない。
だから、今更あんたに抜けてもらったら困るんだよ。
神楽坂だって、もちろん隠れて泣いてるかも知れない。
それでも、短くても残りの日々を目一杯お前らと過ごしてる。
桜咲、あんたを含めた仲間の事が大事だから、だから、そうしてるんだ。
それを桜咲、お前は又、
大切な人達を置き去りにして自己満足でひとりぼっちになる気か?
あんたが自分一人で抱え込んで、それで助けてやったって」

懸命に言葉を探す千雨に、刹那は深く頭を下げていた。
609 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:52:12.91 ID:J+7Eoz/B0

「長谷川さん、その時はネギ先生達の事をお願いします」
「だからっ! ………」

ぐわっと迫ろうとした千雨は、清々しい微笑みに息を飲んだ。

「駄目、なんですよ。
あなたは正しい、だってあなたが、長谷川千雨さんが、
ネギ先生達を、そして私の事を心から心配し、思ってくれている。
そうやって、ネギ先生から心からの信頼を寄せられた
あなたの言葉です。それは、正しい事です」

「ちょっと、私の事、買い被りが過ぎるんじゃないか?」

「いえ、これでもあなたよりは少々付き合いが長いもので。
それでも、駄目なんです。
私を、私に光を、幸せな世界に導いてくれたのはアスナさんです。
そのアスナさんが、ようやく手に入れた人としての幸せを根こそぎ奪われる。
それを看過するなんて、どうしても出来ない。
アスナさんに救われた私は、こんなやり方しか見つけられなかった。
ならば、それを貫くしかありません。
ですから長谷川さん、もし私の行いにより皆さんが傷付く様な事があれば、
その時はネギ先生達を、どうかよろしくお願いします。
それが出来るのは、あなたです」

「買い被るにも、程があるって………」
「鹿目まどかさん」
「はいっ!」

言葉も見つからず成り行きを見守っていたまどかは、
千雨に向けて深々と下げた頭を下げた刹那に名を呼ばれ、
まどかはぴょこんと飛び上がりそうになった。
610 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:55:49.25 ID:J+7Eoz/B0

「お願いします」

刹那は、深く頭を下げた。

「小細工をした事は謝ります。
どうか、どうか私の友の為に、
私の掛け替えの無い友の、せめて人並みの幸せのために、
あなたの魂を捧げていただきたい、お願いします。
あなたを魔女なんかにはしない、
私が身命を賭してあなたを守る、誓うと言うなら
神にも悪魔にも誓う、だから」

「そこまでだ」

一言一言、派手さはなくとも胸の中に沈む様な
重い嘆願を只、黙って聞いていたまどかの横から
千雨が口を挟んだ。

「鹿目まどかさん、契約は待て。
もう私らの立ち入る事じゃない、当事者に決めてもらう」
「当事者?」

千雨の言葉に、まどかが聞き返す。

「ああ、当の本人がこっちに来てるからな。
元々、そのつもりだった。
桜咲は一人で思い詰めて動いてたからな、
こいつらの絆は本当は私なんかが入り込めるもんじゃない。
だから、最初に近衛を合流させて、
そこからもなるべく3A単位に巻き込んで
それとなく穏便に収拾しようと画策はしたんだが、結果はこの様だ。
契約の前に、鹿目まどかってとんでもない女神様候補が
行き掛り上神楽坂明日菜の真実を知っちまったって事を
当の本人に伝えて判断を仰ぐ。
案外、泣いて縋られるかも知れないけどな。
だから、今日明日ぶっ壊れる世界じゃないし
神楽坂が礎になるのもまだ先だからそれまでちょっと待ってくれ」

千雨の言葉を聞き、刹那はどさっとベッドに座り込んだ。
そして、長谷川千雨は、つーっと顔を動かす。
その視線の先では、壁に小さな穴が空いていた。
611 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 22:58:29.26 ID:J+7Eoz/B0

「動くな」
「暁美、ほむらだったか?」

つーっと汗を浮かべてそちらを見る千雨の前で、
米軍制式M9拳銃を手にしたほむらはゆっくりベッドを降りていた。

「長谷川千雨、朝倉和美、桜咲刹那の邪魔は許さない」
「ちょっ、転校生っ?」
「ほむらちゃんっ!?」
「暁美さん? どういう事ですか?」

刹那が訝し気に尋ねる。

「………少し、疲れたのかしらね?」

ほむらは吐き捨てる様に言い、バッと黒髪を払う。

「桜咲刹那に尋ねる、
魔法協会は、まどかのために本当に協力するの?」
「はい、その内諾は得ています」

「桜咲刹那、あなたの身命を賭してまどかを守ると、
その事は本当に誓えるの?」
「誓います、その命に代えて!」

「ワルプルギスの夜が来る」

「魔法少女が対処する超巨大魔女ですね。
末法の京を破壊し尽くし神鳴流門下と妖刀ひなを用いた宗家の命、
その九割方を失ってようやく鎮圧したと言う記録も残っています」
「見滝原の、まどかの大切な人達が住む街を破壊しようとしている。
それがもうすぐ来る。その意味、分かるわね?」

「ええ、腕が鳴りますね」
「………やはり、少し、疲れてるのね。
こんな事を考えてしまうなんて」
「そ、そう、ほむらー、あなたつ………」

なんとかなだめようとした朝倉和美が、
チャキッと銃口を向けられ手を上げ直す。
612 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:00:04.62 ID:J+7Eoz/B0

「今更そんな甘い話に釣られるなんて、
今更、こないだ知り合ったばかりのエゴまみれの他人を、
信じようなんて」

「私のエゴを、信じて下さい。
あなたと利害が一致している、この一致が離れる理屈は最早存在しない。
信用出来ないのは私の力量ですか?」

「ふざけないで、人の事を散々散々散々いい様に
ぐっちゃぐちゃのぐちゃに弄び倒して凌辱しておもちゃにしておいて」

「あなたが相手では、先手必勝からのハメ技で心身共に音を上げる様に
徹底的に屈服させておかない事にはこちらが危なかったので、
実の所結構薄氷の上を渡る疲れる仕事でした」

「当然ね」

千雨と和美に銃口を向けながら、
ほむらの左手がファサァと黒髪をすくう。

「鹿目………まどか」
「うん」

ほむらの横目に、まどかはぐっと前を見て腹の底から答えていた。

「あなたは………
自分の人生が、貴いと思う?
家族や友達を、大切にしてる?」

「わ、私は………大切、だよ。
家族も、友達のみんなも、大切で、
とっても大切な人たちだよ」

過去に聞いた事がある、二度目の問いは、切羽詰まって聞こえた。
だが、まどかの答えは変わらなかった。
613 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:02:11.67 ID:J+7Eoz/B0

「やっぱり、少し、いや、結構疲れてるみたい。
まどかは優し過ぎるし
インキュベーターは余りに悪辣な上に物理的な対処が出来ないし。
ここまで来て、肝心な所で一歩妥協しよう、
それも、それもこの間出会った他人を信じて、
そんな事を考えるなんて。
それでも無理なものは無理、そう考えざるを得ないのかしら」

段々早口になりながら、
無造作に泣き笑いするほむらの左手が黒髪を払う。

「長谷川千雨、朝倉和美。
私の能力は暗殺に特化している。
もし、桜咲刹那のプランを妨害すると言うのであれば、
気が付いたら大変な報復を受けていた、と言う事を覚悟してもらう」

早口で告げるほむらを、千雨はぐっと睨み付ける。
何か、最後の最後で前提を誤った様な、
そんな息の詰まる様な焦りが千雨と和美の心を焦がす。

「そう。まどか、あなたの優しさは………
否定なんて出来ない。だって、まどかだから。
だから、私から伝えたい事がある」
「うん」

拳銃を構え、見るからにキリキリとしたほむらの言葉を、
まどかは真剣に聞いていた。
614 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:05:46.53 ID:J+7Eoz/B0

「この魔法世界、そして、ほんの少し出会っただけの神楽坂明日菜、
彼女に関わる人達の為にその魂を捧げ魔女と戦う価値があると思うなら、
命懸けの戦いのために、
この桜咲刹那の言葉、誠が信じるに値すると思うなら」

僅かに言葉を切ったほむらを、まどかは真剣に凝視する。












鹿目まどか。












あなたがそう信じる事が出来るのなら、










615 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/30(金) 23:09:49.72 ID:J+7Eoz/B0



心から









そう思うのなら











魔法少女に








なりなさい








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