勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:30:48.26 ID:ZQcnUKE60
防具屋「Sサイズじゃ入らない。Mサイズ買いな」

遊び人「えっ!!サイズの概念なんて意識したことなかったんですけど!!」

防具屋「返品はきかないよ。売却はできるけど」

遊び人「まだ着てもいないじゃないですか!!手持ちももうないんですよ!!」

防具屋:いらっしゃい。なにをかいますか?

遊び人「急にテンプレモードで喋りだした!会話を放棄した!」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:31:52.82 ID:ZQcnUKE60
遊び人「なんとか着れないかな」

遊び人「うう…」ギチチチ…

遊び人「うう!!!きつい!!!しぬ!!はく!!」

遊び人「だめだ……」

遊び人「せっかく勇者がお金まで貯めてくれたのに……。サイズが小さすぎて入らないなんて言えないよ」

遊び人「決して私が大きいんじゃなくて、この村のサイズの規格が異なってたせいで小さくて着れないなんて言えないよ」

防具屋:サイズの規格は どのムラもおなじだよ

遊び人「テンプレモードで独り言につっこまないでよ!!」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:34:28.26 ID:ZQcnUKE60
勇者「あれ、買ったんじゃなかったのか?」

遊び人「まだしばらく泥臭い冒険が続くだろうと思ってさ。森の中への侵入が終わったら着ようかなって。汚したくないの」

勇者「森の侵入にそなえての防具購入のつもりだったんだが。まあ好きにしていいが」

遊び人「それじゃあ、出陣しましょう!」

勇者「ああ」




勇者「ひぃ、ひぃ、ふぅ……生まれる」

遊び人「や、やっと着いた。歩くだけで精一杯」

勇者「この森か」

遊び人「『私有地につき立ち入り禁止。野獣殺し・盗人殺しの罠多数有り』って書いてある」

遊び人「この先には農園や牧場なんかがあって、そこの食料を奪う魔物がいるんだろうね。富豪は罠の場所を把握しているのよきっと」

勇者「人間様の森に私有地も何もあるか!いくぞ!」カチ

ビュン!!

ザクリ!

勇者「    」

勇者はちからつきた。

勇者の身体をどこからともなく現れた棺桶が包み込んだ。

遊び人「…………」

遊び人「勇気と無謀を履き違えるべからずよ!!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:38:15.91 ID:ZQcnUKE60
遊び人「うう、どうしよう。せっかくここまで登ってきたのに」

遊び人「勇者様を蘇らせるために、街に戻るのしんどいなぁ。移動の翼もこの街には売ってないし、手持ちもないし」

遊び人「それとも、この棺桶を引きずって街に戻るか」

遊び人「…………」

遊び人「勇者を蘇らせたところでまたすぐやられそうだし、ちょっと私だけで様子を見てみますか。よし、棺桶を引きずって……」

遊び人「うげ!?重っ!!なにこのかつてない重さ!!」

遊び人「うぐぅう……明日にでも痩せられそう……」ズリズリ…

遊び人「勇者はすぐに特攻するからなぁ。精霊の加護があるからって平気で死にすぎなのよ」

遊び人「蘇生代が安いのは助かるけど。もっといのちだいじにしてほしいなぁ」

遊び人「って、私も人のこと言えないか。この前だって三日間も棺桶にいたんだから」

遊び人「勇者は私の身を守るために防具まで買ってくれたんだ。私もここで頑張らなくちゃ」

遊び人「おっ、なんか人が通った形跡がある。この茂みの中を通っていくのか。ちょっとでも踏み外すと罠にひっかかりそうで怖いなぁ」

遊び人「見ててね、勇者。そして、見守っててね」

遊び人「私、進むから!!」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:38:56.25 ID:ZQcnUKE60
ヒュン!

カン!

ヒュン!

カン!

遊び人 E かんおけのたて

罠A、罠B、罠C、罠D、罠Eは勇者の棺桶に刺さった!

遊び人「最悪に不謹慎ですが、この盾便利です」

遊び人「罠がありそうな場所に押し出せば身代わりになってくれる。矢が刺さりまくっちゃうけど」

遊び人「勇者様、死後もお守り頂きありがとうございます」

遊び人「決して、私の死んでる間に美味しいものを食べてたことを思い出したわけではないですからね」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/01(火) 23:47:16.25 ID:ZQcnUKE60
書き溜めたものを修正しながら投稿しています。

長編のため、分割しながら投稿していきます。

今日はここまでです。おやすみなさい。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/02(水) 00:29:45.22 ID:cC01rs+g0
期待
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/02(水) 04:27:48.60 ID:fZCUdeMf0
おもしろい
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/02(水) 09:41:13.60 ID:ZUEnR4zBo
いいコンビだな、いろんな意味でww
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/02(水) 18:45:14.64 ID:FHVCUeSY0
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/02(水) 19:09:33.31 ID:uExLGp7t0
ゲス女のss面白かったぜ
こっちも期待ですわこりゃ
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:04:15.54 ID:e+U/41Qu0
遊び人「ん、あそこ。通路が整備されてる。それに、見張りもいる。この先に農園があるのかな」

遊び人「見張りの数は、1人。他にもまだいるのかな。そして、やっぱり巨漢だなぁ」

遊び人「勇者、ちょっと離れるね」

遊び人は棺桶を茂みの中に置いた。

遊び人「見張りのいる場所の奥まで行ってみたいけど、どうしたらいいかなぁ……」

ガヤガヤ……

遊び人「なにかしら、近くが騒がしい」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:05:48.58 ID:e+U/41Qu0
盗賊A「ここだな。噂の場所は」

盗賊B「食料を荷車に詰めて持ってくぞ。詰めるだけ詰めたら移動の翼で他の場所に逃げるんだ」

盗賊C「以前の街で盗んだ防具が役に立ちましたね。全身を覆う鎧なんてそうそう買えないので」

盗賊D「そろそろ女の一人でも盗んでいきたいところですがね」

盗賊E「ハハ!この村の女はごめんだがな!」

遊び人「(盗賊!!5,6,7……8人くらいいる。今時めずらしいくらい多いな)」

盗賊A「というわけでだ」

盗賊A「そこを通せ。でなければ力づくで通るぞ」

見張人の前に、盗賊A、B、C、D、E、F、G、Hが現れた!!

見張り「通せば命は助けてくれるのか?」

遊び人「(見張りさん一人じゃ勝てないよ!!盗賊はみんな痩せてるしはやそうだよ!!)」

盗賊A「盗賊が皆、人を殺すものだと思ってたら大違いさ。俺たちみたいに捕まりやすい職業こそ、大罪は犯さないものなんだよ」

見張り「そうであればこそ通さん。お前たちは大罪を犯せないのだろう?」

盗賊B「ああ。身ぐるみ剥がして、骨を折って、見つかりやすい場所に置いておくだけさ!!」

盗賊たちがかまえた!

遊び人「(やばいよ!!見張りさん逃げて!!)」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:06:53.70 ID:e+U/41Qu0
盗賊A「お前ら、殺さない程度にやれよ」

盗賊たちは剣を構えた。

見張人「大丈夫だ。俺も生きるつもりだからな」

見張人は食料を取り出した。

見張人「食事中の運動にちょうどいい」ムシャムシャ

盗賊「くそが!!食事中に戦うなんてマナーのなってねぇ野郎だ!!かかれ!」

盗賊たちは襲いかかった!

見張人「知るか。ここは暴食の村と化した」

見張人「今では、食べ物に、最も礼儀のない村だ」

見張人は剣を抜いた。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:07:44.97 ID:e+U/41Qu0
盗賊「ぐああああ!!」



遊び人「な、なにあの動き!」

遊び人「巨漢なのに、蛇のように盗賊たちの間をすり抜けて動いてる」

遊び人「間合いを取るのが上手いんだわ。1対多数でしかできない戦い方をしてる」



見張人「お前らの骨を全員折って、裸で道端に置いておけばいいんだったか?」

盗賊「な、なんだよこいつ!!!」

見張人「安心しろ。命だけは助けてやる」

盗賊A「お、お前ら!逃げるぞ!!」

盗賊たちはにげだした!

しかしまわりこまれてしまった!

見張り「逃げていいとは言ってないだろ」

盗賊Aは頭を掴まれ、茂みに顔を突き出された。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:08:40.07 ID:e+U/41Qu0
盗賊A「グヘッ!!」

見張人「食え」

盗賊A「や、やめてくれ……」

見張人「少し冒険していればわかるだろう。毒草だ」

盗賊A「こ、こいつぁちょっときついんじゃねぇか……」

見張り「食え。食っても死なないものだ」

盗賊A「…………」

盗賊Aは毒草を咀嚼しはじめた。

盗賊A「……うへぇ!!おぇええ!!!」

見張人「食え。もっとだ。残さず食べろよ。食べ物を盗もうとしてたんだろ」

見張人「食べても死にはしない。それどころか気付け薬にもなる代物だ」

見張人「ただ、おそろしく不味いだけさ」

見張人「わがまま言わず、食え。お前もだ」

見張人は倒れている盗賊Bの口に毒草を突っ込んだ。

盗賊B「おぇええ!!!ぐほぉっ!!!」

見張り「ほら。もっと食え」

見張り「ほら、お前も。お前もだ。食え、食うんだよ」

見張り「死にたくても、食え。それこそ、生きるためにもな」

見張り「俺も、かつて、そうしていたんだ……」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:09:20.47 ID:e+U/41Qu0
遊び人「(……なにあの見張人。ただの見張人じゃない)」

遊び人「(強さも異常だけど。あの感じ。あの禍々しさ)」

遊び人「(まるで、世界の残酷さを見てきたような……)」

見張り「さて、食後のデザートでも取るかな」ムシャムシャ



遊び人「(肉の挟まったパンでしょ!というかそれさっきも食べてたし!)」

遊び人「(よし、持ち場から少し離れたし、油断してる今の隙きに森の奥まで……)」

見張り「うまい、戦闘後の食事は最高だ……んっ?」

見張り「なんだあれは。戦闘中は気づかなかったが、近づいてみるか」

ザッザッ……

遊び人「(やばい!!勇者の棺桶!!)」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:11:31.78 ID:e+U/41Qu0
見張り「…………」

見張り「なんだこの棺桶は。おびただしい数の矢が刺さってるが……」

見張り「おい、お前ら!!これはお前らのものか!!」

盗賊C「ごほっ!!ごほごほっ!!おぇえ!!!」

見張り「答えろ!!」

盗賊C「し、しらねえよ……うぉえええ!!」ゴボゴボ…

盗賊Cは毒草の不味さに気絶した。

見張り「ああ。そうだろうな。棺桶を引きずって冒険する者なんか、この世界で数百人しかいないだろう。そしてお前らのような5人以上で群れるような蛮族とは無縁のものだ」

見張り「勇者よ!!隠れているんだろう!出てこい!さもなくば貴様の仲間の棺桶を八つ裂きにするぞ!!」

遊び人「(やばい!!ていうか、それが勇者の棺桶だからね!)」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:12:26.86 ID:e+U/41Qu0
?「騒がしいなあ。どうしたの剣士」

?「たまには森の様子も見ようかと思って一人で散歩してたけど」

?「あれ、盗賊倒れてんじゃん。やばっ。勇者呼んできたほうがいい?」

遊び人「(えっ、勇者!?)」

戦士(見張り)「魔法使い。外では軽々しく勇者の名前を呼ぶなと言ってるだろ」

魔法使い「いいじゃんここくらい」

見張り(戦士)「まずいことが起きている。ここに別の勇者の一行がいる」

魔法使い「えっ!?本当!?」

見張り(戦士)「王国の手先かもしれない。生け捕りにするぞ!」

魔法使い「勇者なら私達の味方じゃないの?」

戦士「過去に勇者殺しの事件があっただろう。勇者を捕らえる力を持つのは勇者と魔王くらいのものだ。警戒するに越したことはない」

魔法使い「なるほどね。それに、この街の秘密を知りうるものの可能性もあるかもしれないしね」

戦士「その通り」

魔法使い「知られたら困るわね」

魔法使い「暴食の勇者は、私達が守るんだから」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:15:21.38 ID:e+U/41Qu0
TIPS

“魔王は討ち取られた。勇者の手によって”

「勇者」とは、魔王を討ち滅ぼすための呪文・戦闘センスを持って生まれしものである。

勇者として生まれたものは、幼き頃から勇者のみにしか使えない雷撃の呪文等を使用し、周囲に認められ始める。

そして、成長した勇者に天から青白い光が降り注ぐ日が訪れる。

これが精霊の降臨である。

精霊が勇者の肉体の中に入り込み、精霊の加護を与える。

勇者と冒険の契を結んだ仲間3人までは、戦闘によって肉体が滅ぼうとも神官の元で復活することができる。



この10年の間、精霊の加護を受けた勇者は数百人いたとされる。

そして、現在残っている勇者は半数未満だと言われている。

1つの原因としては、魔王が精霊を断ち切る術を身に着けたからであろう。

精霊を失って死亡した勇者は復活することができなくなってしまった。

もう1つの原因としては、魔王が討伐された後、処刑の王国が生き残った勇者達を呼び寄せたことと関係があるかもしれない。

初めは、戦い続けた勇者に栄誉を授けたいという理由で、世界中から勇者を集めた。

処刑の王国に不信感を持つ勇者は多く、呼びかけに応じないものも多数いた。

処刑の王国に入城した勇者は、二度と出てくることはなかった。

やがて、処刑の王国は、呼びかけに応じぬ勇者を罪人扱いし、賞金をかけて探し出した。

元勇者達は、処刑の王国に脅かされながら生きることを余儀なくされた。

処刑の王国の目的は、明かされていない。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:16:22.18 ID:e+U/41Qu0
魔法使い「捕らえて吐かせればいいんでしょ!ひとまず私に任せなさいな!」

ブツブツ……

遊び人「(やばい、巨漢の女性が詠唱し始めた!あの唱え方は……)」

キィイイン!

遊び人「うぅ、耳がキーンと……」

魔法使い「感知したわ。あの草陰の中よ。逃げる前に捕まえましょ」

遊び人「(もう逃げてるよ)」タッタッタ!!

魔法使い「なに、女じゃん。しかもちょっとしかふとってない」

遊び人「(ちょっとしかって何よ!ちょっとはふとってるってこと!?)」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:19:13.08 ID:e+U/41Qu0
遊び人「門の奥、小屋がある!」

遊び人「入るよ!!」

ガチャガチャ!!

遊び人「って、鍵がかかってるし!!」

遊び人「窓も割ったところで人が入れる大きさじゃない。でも中くらいは見れるかな」

遊び人「倉庫みたいに色んなものが置かれてる」

遊び人「そして……鎧のレプリカがある。お城の中に並べられてるような」

遊び人「分かる人には分かるよ。剣と、兜は安物のレプリカでも、この鎧は本物」

遊び人「これが、『大罪の鎧!!』」

遊び人「木を隠すなら森の中より、土の中に埋めればいいのに」

魔法使い「……これは困ったわ。よくご存知で」

遊び人「追いつかれた!?」

魔法使い「見た目で……はやさを……判断しないでほしいわね……」

遊び人「(凄い汗だくだけど)」

遊び人「あなた達は何者なの?元勇者なの?」

魔法使い「こちらこそ聞きたいわね。その鎧について知っているものが私達パーティメンバー以外にいるとは驚いたわ」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:20:50.05 ID:e+U/41Qu0
遊び人「やはり大罪の装備の所有者はあなた達なのね」

魔法使い「その装備についてどこまで知ってるの?」

遊び人「私のお父さんがその装備をつくったの。だから返しに貰いに来たの」

魔法使い「それは変ね。この装備はある夜、突然空から降ってきたものなんだってうちの持ち主から聞いたよ。それも、魔域にいる時にね」

遊び人「…………」

魔法使い「あなたのお父さんは魔域までものを飛ばすほどにこの鎧に移動の翼でもくくりつけたの?道具屋にある翼を全部買い集めても不可能だと思うけど」

魔法使い「あんた、どちら側の人間なの?」

魔法使い「”魔王を倒せなかった勇者を捕らえる側の人間”なのか、”魔王を倒せなかった勇者として身分を隠して生きる側の人間なのか”」

遊び人「どちらでもないわよ」

遊び人「世界に散らばった大罪の装備を集めて、ウハウハな老後を過ごす。それを目的に旅をしているだけよ」

魔法使い「まだ何か隠してるわね。隠してるもの全部吐き出させてやりましょ。幸い、そういう気にさせる毒草もあるしね」

魔法使い「さっさと気絶させてやるわ!!」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:25:05.81 ID:e+U/41Qu0
戦士「落ち着け、魔法使い」

戦士が遅れて現れた。

棺桶を引きずっていた。

遊び人「(人質に取られた……)」

魔法使い「こんな女さっさとふっ飛ばしちゃいましょうよ」

戦士「相手の実力もわからないし、他の二人のメンバーも見つからない。勇者のパーティなら4人である可能性が高い」

魔法使い「だから感知呪文を使ったけど一人だったって!」

戦士「用心するに越したことはない。お前の感知呪文の射程範囲は小さな町一つ分の距離だろう?」

魔法使い「じゅ、充分だと思うけど!普通の魔法使いなら小さな建物一つ分の距離なんだからね!ほとんど意味がないんだから!」

戦士「わるいわるい。実力は充分知ってるつもりだ。だから命を預けてきた」

魔法使い「……うっさいなー。包容力だけは認めてあげるわよ」

戦士「肥ってるからか?」

魔法使い「一言多いっての!」

遊び人「(なんか痴話喧嘩してるけど……)」

遊び人「(こういう追い詰められた時の作戦はもう決めてある。ポケットに入れてある羊皮紙とと羽ペンを取り出して……ぎゃ、インク瓶が零れた感触が……)」カキカキ…
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:26:48.13 ID:e+U/41Qu0
戦士「この棺桶の中に貴様の仲間が入っているんだろ?」

遊び人「ぐぬぬ……」

戦士「他のパーティーメンバーはどうした?」

遊び人「さてね」

戦士「手を動かすな。道具袋から移動の翼でも使用する気か?」

遊び人「そんなことしないわよ。あんた達にも使用されたらいたちごっこだもの」

暴食「わかっているなら大人しく地面に伏せろ。そうすれば尋問もやさしくしてやる。この棺桶も破壊しないでおいてやろう。肉体の損傷が激しいほど魂との結合が困難になり、蘇生後の副作用も大きくなる」

遊び人「……わかった。言うとおりにするわ!」

ガサゴソ!

魔法使い「動くなって言って……!?」

魔法使い「あはは!!短剣を取り出したわ!!そんなんで戦うつもり?」

遊び人「戦わないつもり」

魔法使い「はぁ?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:27:56.83 ID:e+U/41Qu0
戦士「まずい!!魔法使い、あの武器を取り上げろ!!」

魔法使い「えっ?」

戦士「急げ!!」

戦士「こうなりゃ俺も!!」

戦士はかんおけに肘を全力でたたきつけた!

棺桶の上部にダメージを与えた!

魔法使い「えーと!」

魔法使い「『所有されし装備よ!鈍重なる持ち主に汝のおもいの主張をせよ!』」

魔法使い「『オモリン』!!」

魔法使いの杖から空気の波が伝わり始めた。

遊び人「勇者、書くことは書いたからね!!」

遊び人 E 短剣

遊び人「あとは頼んだ!」

遊び人:こうげき  ▽戦士
  ▽暴食の勇者
          ▽魔法使い
          ▼遊び人

遊び人はじぶんのくびに短剣を刺した!

パーティは全滅してしまった……。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:30:59.18 ID:e+U/41Qu0
魔法使い「間に合わなかった!」

戦士「俺もだ。亡骸を確認しようとしたが、あの女の方が早かった」

魔法使い「してやられたわ。勇者一行のパーティが全滅した場合、今まで寄った中で最も近い街の教会に精霊によって瞬時に運ばれる。そして勇者だけが蘇る」

戦士「急いで教会に飛ぼう。移動の翼を使うんだ」

戦士「……勇者か。うちのリーダー以外を見たのは初めてだよ。勇者の特性を活かした戦いをしてくれるじゃないか」

戦士「精霊の加護が、いかなる時も守ってくれると思うなよ」

巨漢の2人は、移動の翼を大量にくくりつけて飛んだ。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:31:41.65 ID:e+U/41Qu0
神官:おお 精霊よ このものたちに 加護があらんことを!

勇者「はっ!!ここは教会!!」

勇者「ということは、あいつも矢のトラップにかかって死んだのか。おお、遊び人よ、死んでしまうとは情けない……」

勇者「遊び人を蘇らせられるお金もねえぞ」

勇者「あれ。赤色のメモ帳に書き込みがしてある。何かあったのか」

勇者「これは……」

ふごうはゆうしゃいっこう
つよすぎ きけん
いますぐにげて
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:33:41.55 ID:e+U/41Qu0
勇者「…………」

勇者「なっ……なんだと……」

勇者「……///」ポッ

勇者「『ふごうはゆうしゃいっこう』」

勇者「俺があっという間に生涯賃金を稼ぐ男だっていう意味だろ?まいったなー、そりゃあ教会代金も気にせず死んでまうわな」

勇者「『つよすぎ きけん』」

勇者「……はぁー」

勇者「はぁー。はぁー」

勇者「あいつもついに俺のポテンシャルに気づいてしまったか。隠しても気づかれてしまうか」

勇者「『いますぐにげて』か」

勇者「……まぁな。そうだよ。俺も、この稀有な宿命を背負ってしまったことを呪いたくなる毎日だぜ」

勇者「でもお前を見捨てて逃げたりはしねーよ」

勇者「さて。また復活の銭稼ぎに出かけるとするか」

勇者「その前に。宿に棺桶おいて、腹ごしらえだな」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:34:25.89 ID:e+U/41Qu0
〜屋敷〜

魔法使い「教会への転送目的に自殺するなんて!!自分達以外の勇者に会ったことがなかったから、咄嗟に気が回らなかったわよ!!」

魔法使い「他に隠れていると思われたパーティメンバー二人も死んでいたの!?それともたった二人のパーティメンバーだったというの!?」

魔法使い「あーもう!!教会に急いで行ってもいなくなった後だったし!!はやく見つけないと!!」ムシャムシャ

戦士「鎧も無事、この館の地下室にしまいこんだし大丈夫だろ。そうムシャクシャすんなって」ムシャムシャ

魔法使い「してないわよ!やけ食いしてるだけよ!」ムシャムシャ

戦士「ムシャクシャしてんじゃねか。ムシャクシャしてムシャムシャしてんじゃねえか」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:42:48.57 ID:e+U/41Qu0
「転送目的で自殺なんて。命を粗末にする勇者か。食べ物を粗末にする僕らといい勝負だ」ムシャムシャ

戦士「勇者。お前は残さず食べているだろう」

暴食の勇者は食べ物を頬張りながら首を横にふった。

暴食「過剰と不足は同じだよ。時に、過剰のほうが罪が重い」

魔法使い「ねーねー。あいつらはどっち側の勇者なのかな」

戦士「捕まえて確かめるしか無い。やつらの目的は確実に例の鎧か俺達の捕縛にある」

暴食「……暴食の鎧か」

戦士「どうした?」

暴食「その勇者達がそんな風にあの鎧を呼んでたんだろう?でも、まさにそんな名前がふさわしい気がした」

暴食「戦士、無駄に食べ物を貪るこの村の住民を見て、醜いと言ったことがあったね。食べ物を粗末にしていると」

戦士「今でもそうだ。俺も同じだけどな。それがどうした?」ムシャムシャ

暴食「食べ物を食べてるのを見て食べ物を粗末にしているなんて、おかしいなと思ったんだ」

魔法使い「そんなお腹が減るようなこと考えてる暇があったら食べなさいよ」ムシャムシャ

戦士「ああ。食に対する倫理観など、冒険の終わった今となってはどうでもいい。うまいかうまくないか、量は多いのか少ないのかだ。俺はいつ死んでも悔いのないようにうまいものを食い続けてやる」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:44:53.20 ID:e+U/41Qu0
暴食「冒険してる時に倫理観はあったのかい?」

戦士「ああ、あったさ。腹が減って死にかけ、餓死のラインを超えたら精霊の加護で復活した瞬間にも即死してしまうんじゃないと精神的に追い込まれた頃はな。食べ物のために罪なき人々を襲うことを躊躇していた頃はな」

魔法使い「ちょっと、もういいでしょその話は!」

戦士「感謝の気持ち以上に感じていたさ」

戦士「食べることは、罪を伴う行為であるとな!!」

勇者「…………」

戦士「ふぅー、食った食った。もう満足だ。寝る。明日もたらふく食うぞ」

魔法使い「私ももう寝るわ。勇者もつまんないこと考えるのはやめなさい」

暴食「わるかったね。食事中に暗い話を持ち込んで」

魔法使い「前も聞いたと思うんだけどさ。なんで森奥の小屋に鎧を置くのさ。農園までの道に罠がしかけてあるから確かに安全だけど。私達のそばほど安全な場所はないわよ?」

暴食「……襲われるからだよ」

魔法使い「鎧目当ての侵入者に?今日みたいなやつらが他にもいるかしら……」

暴食「あの鎧にだよ」

魔法使い「へっ?」

暴食「僕も寝るよ。寝る子は育つと言うからね。食べた後に寝れるのは幸せだ」

暴食「寝食ともにする、という言葉は、仲間と四六時中一緒にいることを意味するんじゃない。本当の使い方は、寝ることと食べることは2つで1つだということだ」

魔法使い「アカデミーではそんな嘘を習わなかったんですけど?寝ぼけてるなら寝なさい。おやすみ」

暴食「ああ、おやすみ」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:48:37.07 ID:e+U/41Qu0
勇者「今日は村の付近に生えてる毒草を摘むだけの簡単なお仕事です」

勇者「僧侶の復活代金高いからなぁ」

勇者「それにしても、今朝の朝食もうまかったぁ。大罪で呪われた食物とは思えない。身体はすげえ重いけど、力がみなぎる。身体から溢れる栄養感が半端ない」

勇者「もしも魔王を倒した勇者が、巨漢だったら、世界は英雄と讃えてくれるんだろうか」

勇者「巨漢の勇者の冒険譚ってなんだかなぁ。銅像は痩せた形でつくられちゃうのだろうか」

勇者「やっぱり世界は痩せてる者を求めるんだろうな。痩せてる人は、あまり食料を必要としないイメージがあるからな。冒険には食糧不足が付き物だし」

戦士「それは違うぞ。肥っているものこそ食料は必要ないだろう。身体の中に蓄えているんだからな。肥っているレディを求める国もあると聞いた」

勇者「こんにちは。あなたも毒草詰みの日銭稼ぎですか?気が合いますね。僕もこういった楽なクエストが大好きでね。魔王のいなくなった最近じゃ魔物の残党狩りなんてのも流行ってるらしいんですが、私はにわかじゃないんでね、一貫して楽して稼ぎたいわけで」

戦士「俺はそのようなクエストの帰りだ。この村の食料を食べては肥大化したトカゲの魔物を倒してきた。臆病ではあったが、宿屋くらいの大きさになっていた。村から頼まれたので引き受けた」

戦士「毒草を詰みながら独り言をいってる怪しいやつがいたから気になっただけだ」

勇者「…………」

勇者「僕も毒草を集めて、僕の祖国を困らせている城くらいの大きさのドラゴンを毒草中毒で倒そうとしていましてね。ええ。毒草しか効かない魔物でしてね。お互い困ったもんですな」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/02(水) 22:49:27.92 ID:e+U/41Qu0
続きはまた明日。おやすみなさい。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 06:04:18.95 ID:YIch+gLlo
普通にエンカウントしとるww
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 06:12:49.18 ID:Z137DMbiO
登場人物の名前がこんがらがってないか?
見張り(戦士)、戦士(見張り)とかさそしたら次は戦士になってるしさ暴食や戦士が会話してるところで勇者いるし…
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 00:58:13.59 ID:fGn313Xj0
>>64

確かにややこしかったですね。

[主人公側]
勇者
遊び人

[暴食の勇者側]
暴食
魔法使い
戦士=見張り

>>60の勇者「…………」も誤記入です。表記に気を付けます。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:00:22.71 ID:fGn313Xj0
戦士「身体を見る限り、この街の住民ではないようだな。まだまだ痩せている」

勇者「この街に来て少し肥っちゃいましたけどね」

戦士「何を目的にこの街へ?」

勇者「魔王のいなくなった今の世界でこそ、冒険家はかなりの勢いで増えつつありますよ」

勇者「私は探し物をして色んな場所をまわっているんですが。来たこともない場所に来るのは、それだけで目的になりますよ。ほら、こうして美味しいご飯にも出会えた」

戦士「…………」

戦士「不健康な人間が増えた。この街で、異様な食料成長が始まってからだ。他の王国から研究者がやってきては、土だの、水だの勝手に持ってきているが、原因を特定できていないと聞く。魔王がいなくなったから土地の性質が変わったんじゃないかと結論づけたらしいがな」

戦士「ところで」

勇者「あい?」

戦士「棺桶を引きずって宿屋に入る、不審者の目撃情報があった」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:01:37.36 ID:fGn313Xj0
キン!!

戦士「お前、勇者の仲間だな!昨日はこそこそ隠れていたようだが!!」

勇者「なっ!!」

戦士「どうなんだ!!」

勇者「ええ!!?」

戦士「勇者の自殺にあわせてお前も短剣を自分の首に刺したのか!?」

戦士「それとも棺桶の中に入ってたのはお前か?だとしたらあの勇者はどこにいる?教会ですぐに蘇生させなかった理由はなんだ?」

戦士「さては!!ダミーか!!昨日の棺桶はトラップか!!」ムシャムシャ

戦士「中に誰も入っていなかったのか?それとも誰か生きている仲間が入っているのか?」ムシャムシャ

勇者「ふぁ、ふぁ!!?」

勇者「このひと、食べ物を頬張りながら、わけわかんないこといってるアル」

ゆうしゃはこんらんした!

勇者「アカデミーで呪文の授業についていけなくなった頃のことおもいだして、つらいアル」

ゆうしゃはにげだした!!

戦士「くそ!待て!」

ゆうしゃのばらまいた毒草が戦士の口の中にはいった!

戦士は思わず飲み込んでしまった!

戦士「うぼぉおおえええ!!!!」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:02:52.84 ID:fGn313Xj0
勇者「くう、持ってたアイテムも道具屋でほとんど売っちまった」

勇者「神官さん!遊び人を蘇らせてくれ!」

神官「2000G頂きますがよろしいですか」

勇者「相変わらずたけぇなおい!!でもお願いします!!」

神官は祈りを唱えた!

神官「遊び人の御霊を肉体と結合したまえ!!」

神官は祈りを唱えた。

棺桶は消え去り、遊び人は復活した。

遊び人「……ゆ、ゆうしゃ」

遊び人「勇者!!」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:04:26.06 ID:fGn313Xj0
遊び人「勇者!!あのね!!」

勇者「何も言わなくてもわかってる。お前が俺のことをどう慕っていたのか」

遊び人「へっ?」

勇者「それよりも、自分は大きな魔物を倒したという妄想に駆られ、わけわかんないことを口走ってる日銭稼ぎに追われてる。逃げるぞ!」

魔法使い「『呪力を放ちし掌よ。主の唇と仲違いせよ』」

魔法使い「『マフウジ!』」

勇者は呪文をつかえなくなった。

勇者「誰だお前は!」

遊び人「あなたはこの前の!!」

魔法使い「追い詰めたわ。移動の翼も使わずに走って逃げるなんて」

遊び人「勇者ちゃんとメモ書き読んだんだよね!?なんで追い詰められてるの!?」

勇者「////」

遊び人「なんで照れてんの!?」

戦士「お前らを生け捕りにする。じきに俺らのリーダーも来るだろう」

神官「戦闘は外でしてくだされ!」

魔法使い「万が一にも移動の翼を持ってるかもしれないからね。ここで捕まえて連れてくよ!」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:09:05.77 ID:fGn313Xj0
【TIPS】

呪文。

呪文は大気に満ちる精霊の力を借りて発動する。

精霊が信頼を置いたものは、幼子から老人までだれでも呪文を発動することができる。

古来より口承されている言葉としての呪文「マフウジ」「マハンシャ」「ネムリン」などの略称はあるが、魔力の低いもの、精霊の信頼が低い者はより丁寧に呪文の発動を依頼する必要がある。

精霊は人を選ぶ生き物であるからだ。

最たる象徴として、勇者という職業のみに限り、1体の精霊が宿り、精霊の加護を授ける。

信頼は職業だけではなく、その者の実力によっても積み重ねられる。

精霊から絶大な信頼を勝ち取った者は、念じるだけで精霊の力を最大限にまで引き出すことができる。

精霊は善悪で判断しない。

精霊から絶大な信頼を置かれたものは、言葉を発さずとも呪文を唱えることが可能となる。

「無口詠唱」が可能な者はこの世に僅かであるが存在する。

その代表格が、魔王であった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:11:23.10 ID:fGn313Xj0
勇者「……ふん」

勇者「その程度の呪文制御で、何かが変わる勇者様かよ!!」

魔法使い「なんですって!?」

勇者「『地獄にて罪人を引きずりし鬼々よ。その地獄車を以て、汝の敵を破滅たらしめよ』」

勇者「『鬼想ウ日ノ終焉ノ始マリノ終ワリ(ファイヤー・デ・ファンファーレ)!!!』」

勇者の血気が上昇した。

勇者「くらええええ!!!」

戦士は勇者を切りつけた。

勇者「ゴボェォオェ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「呪文なんてろくに使えないのに……」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:13:20.07 ID:fGn313Xj0
遊び人「神官様。勇者を蘇らせて下さい」

神官「はい。3Gね」

魔法使い「えっ!?何よその値段!!!」

神官「はい、蘇ったよ」

勇者はよみがえった!

戦士「はやい!!」

勇者「ぷは!よくもやってくれたな。本当の特技を見せるときが来たようだ」

勇者「くらえ!!『すてみ』!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士は勇者を切りつけた!

勇者は力尽きた。

遊び人「蘇らせて下さい」

神官「3Gね。はい、蘇ったよ」

勇者「ぷはっ!」

勇者「うおらああああ!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士「またっ!」

戦士は思わずたじろいだ!

勇者は戦士に全力でぶつかった!

戦士「ぐほおお!!!」

戦士に大きなダメージ。

勇者は棺桶に入った。

遊び人「はい、3G」

神官「あいよ」

勇者「ぷは!」

勇者「うおらあああああ!!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかった!!

戦士「ぐおお!!?」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:14:48.77 ID:fGn313Xj0
魔法使い「なにあの命の安っぽさ!!」

戦士「魔法使い……あいつ中々に強いぞ」

遊び人「はい、3G」

勇者はよみがえった!

戦士「まずい、次が来る!」

魔法使い「ちょっとまって!!防御力を今上昇させ……」

遊び人「相手も勇者一行よ!!気にせず突っ込んで!!」

勇者「おらぁああああ!!!」

勇者は戦士にぶつかった!!

戦士「ぐはぁ!!」

勇者「   」ポクリ

勇者は力尽きた。

遊び人「はい、3G!」

勇者「ぷは!」

魔法使い「まずい!回復を優先しないと!」

勇者「うおらあああ!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

戦士「ぐぉお!!!」

勇者は力尽きた。

戦士「はぁ……はぁ……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:16:58.51 ID:fGn313Xj0
遊び人「そこの戦士はなかなかレベルが高いようだからね!蘇生にも数千Gはくだらないでしょうね!!」

遊び人「私みたいに半永久的にお金を払い続けることなんてできないわ!!オホホホオホ!!」

遊び人は神官に3G払った。

勇者はよみがえった!

遊び人「さあ、やっておしまい!!」

勇者「ううぉおおおお!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

勇者は力尽きた。

戦士「ぐぁああああ!!!」

戦士に大きなダメージをあたえた!

遊び人「はい、3G!」

神官「はいはい」

勇者はよみがえった!

戦士「はぁ…!はぁ…!くそっ!!」

勇者「うおらあああああああああああ!!!!」

魔法使い「や、やめて!!!」

魔法使い「私たちは、精霊の加護を壊されているの!!」

遊び人「えっ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:18:10.17 ID:fGn313Xj0
ブオン――

勇者ははじかれた。

勇者は力尽きた。

「俺の仲間を傷つけないでくれ」

遊び人「(ブオン、って聞こえて剣を振りかざす効果音だと思ったけど)」

遊び人「(巨漢の人がお腹で弾いただけだった。それで私のパーティのリーダーは力尽きた)」

遊び人「あなたは……」

「大人しくついてきてくれ。さもなくば、蘇生後も苦しむほどに君の仲間を黒焦げにするよ」

遊び人「まさか」

「そう。元々は魔王討伐を目指して旅立った」

暴食「元、勇者だ」

暴食の勇者があらわれた!
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:18:59.78 ID:fGn313Xj0
暴食「僕らのことをこそこそ嗅ぎ回っていたようだね」

遊び人「(食べ物の臭いを嗅ぎながら寝転んで監視していただけだけど)」

遊び人「あの、私のパーティの勇者も蘇らせていいですか?」

戦士「さっきの男が勇者だったのか!どおりで勇敢な攻撃を!」

魔法使い「無謀というんじゃ……」

遊び人「はい、3G」

神官「おわりました」

勇者はよみがえった。

勇者「うおらあああ!!!」

勇者はすてみで走りだした!

遊び人「止まれ!!止まりなさい!!ドウ!!ドウドウ!!」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:21:32.94 ID:fGn313Xj0
〜富豪の館〜

遊び人「本当だよ!この人には精霊が宿っていない!」

暴食「君は、精霊が見えるのか?」

遊び人「うん。精霊は勇者という職業の者に宿るでしょ。宿っている精霊を私は目視することができるの。その精霊の加護が及ぶパーティメンバーまではわからないけど」

勇者「精霊がいないのに、本当に勇者なのか?」

暴食「それを証明するのは簡単だ」

暴食の勇者は手をかざし、呪文を唱えた。

遊び人「おっ!」

小さな雷が宙に舞った。

暴食「勇者にしか使えない雷の呪文だ。ご存知だろう。今のは威力を弱めたが」

暴食「俺らの命は一度きり。死んだら終わりだ」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「あばばば」ジョボボボボ…

遊び人「おろろろ」ビチャビチャ…

勇者「さ、殺人者になるところだった……」

遊び人「殺人教唆の罪に問われるところだった……」

戦士「あれくらいで死にはせん!」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:22:20.82 ID:fGn313Xj0
遊び人「あのぉ……」

勇者「これ、全部無料ですか?」

勇者達の前のテーブルには豪勢な食事が並べられていた。

遊び人「そこじゃないでしょ!」

暴食「気にせず食べてくれ。せっかくこうして出会った勇者仲間だ。君たちが処刑の王国の追手には見えないしね」

遊び人「でも……」

暴食「食べられることは、幸せだ。魔王を倒すことなんかどうでもいいと思えるくらいにね」ムシャムシャ

勇者「わかります。動物型の魔物を焼いて食ったことありますもん」

遊び人「うへぇ、あったね」

魔法使い「……まだいいわよ」

戦士「おい、魔法使い」

遊び人「?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:24:06.46 ID:fGn313Xj0
暴食「冒険者に食糧問題は付き物だ」

暴食「僕らも一度餓死して全滅したことがある。魔王城の近く、魔域の手前まで行き着いたときだった。近くに人間の住む町なんかなくて、ひたすら消耗に耐えるだけの日が続いた。その時は死の恐怖に怯えたよ」

遊び人「精霊の加護があるのに?」

暴食「肉体の損傷が激しいほど魂と肉体の結合が困難になり、復活後のペナルティーも大きくなるのは知ってるだろう?」

遊び人「ええ」

暴食「魔物に焼き殺されたり、体を粉微塵に吹き飛ばされて死んだことは無数にある。ただ、餓死して死んだことはなかった」

暴食「焼き殺された場合は、焼かれる前の身体で復活させてもらえる。ただ、餓死はどうなのかわからなかった。餓死する直前の身体で蘇らせられたところで、また数秒もしないうちに餓死してしまうんじゃないかと気が気でなかった」

暴食「そして、実際に餓死して全滅してしまったことがある。植物の魔物に身体を拘束されて、自殺すらできない状態で数日間も過ぎたんだ」

遊び人「でもあなた達は生きている」

暴食「蘇ったさ。でも、餓死からの復活による副作用は最悪だった」

暴食「肉体が復活するのは、餓死一歩手前の状態だ。骨と皮みたいな状態だった。そのまま復活してはまた即死してしまう。だから、精霊は俺が死なないように工夫をした」

遊び人「工夫?」

暴食「肉体にふさわしい大きさに魂を削ったんだ」

遊び人「どういうことですか?」

暴食「余裕がなくなるということだ。この贅肉みたいなものがなくなる」ブヨン

暴食「余裕がなくなると、荒むだろ?金があるものが盗人になんかなるものか。腕力があるものが子供を刺殺したりするものか。賢さを認められてきたものが人を騙したりするものか」

暴食「人間の心が少し失われた。以前ではためらっていたことも、平気で行えるようになった」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:27:00.26 ID:fGn313Xj0
暴食「こんな冒険譚を小さい頃に読まされたことはなかったか?」

暴食「魔王を倒そうと旅している勇者の苦悩の物語。飢えに喘いでも食料を住民から分けて貰えない。魔物を倒しても魔物からの報復を恐れられ町を守り続けるよう拘束される。その特殊な力を調べようとする者達から人体実験をさせられる。旅が進むにつれて人間に対して憎悪を募らせていく話だ」

暴食「魔王城にたどり着いた勇者は、魔王を切りつける。人間の感情をほとんど失いながらも、勝利を噛み締めている時に、赤い返り血を浴びているのが目に入る。そして気づいた。魔王もかつては人間で、勇者と呼ばれる存在であったと。そして今や自分が人間への恨みを持つ、魔王となったのだと」

暴食「魔物を見て魔物に近づくんじゃない。人間を嫌って魔物に近づくんだ」

勇者「作り話じゃないのか?勇者だったら精霊の加護で蘇る。その元魔王も勇者だったのなら、近くの教会で復活したら騒ぎになるよ」

暴食「おとぎ話だからな。でもな、これらが全部創作であると思うか?」

勇者「何が言いたい」

暴食「大罪の装備で不健康な食料を提供しようが、俺らの心は痛まないってことだ」

勇者「…………」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:29:33.24 ID:fGn313Xj0
暴食「ところで、さっきから食事に手をつけていないようだが。やはり気にめさんか」

遊び人「大罪の装備の影響がなくとも、敵の陣地に入り込んで安心して食べ物なんか食べられないわよ。何が入ってるかわからないわ」

暴食「まだ信用していないか。でも大皿だ。俺たちも同じ皿から飯を取って食っている。見た目で毒があるかわかるような食事でもあるまい」

暴食「お前らのそういう警戒心を読んで、席も先に自由に座らせた。食器に毒が入れてあると思われるかもしれないと思ってな」

魔法使い「そういうと余計怪しいと思われちゃうわよ」

暴食「怪しいと思われて良いだろ。実際、後ろめたいことばかり俺達は抱えているんだから」

暴食「だがな、うまいぞ?それに、食べてくれたら信頼してくれたとわかる。お互い口も軽くなると思うが」

遊び人「……でも」

暴食「毒が入っていると思ってるのか?だったらともに死ぬまでだ。はっはっは!」

魔法使い「相変わらずでしょ、うちのリーダー」

勇者「話題変わるんだけどさ」

遊び人「どうしたの?」

勇者「さっきのおとぎ話の魂の話聞いてたら怖くなっちゃって。俺の命の使い方大丈夫かな?人間の心失われたりしないかな?」

魔法使い「さっきの戦闘はやばい」

戦士「あれは問題だろ。というか切られる時痛いだろ」

勇者「それがさ、あんまり死の恐怖とか痛みの感覚がないんだよ」

暴食「それは精霊の加護のおかげだ。特にお前の場合、全然信頼がないんだろう。多少の痛手を負うだけですぐに棺桶に移される。すてみのとっしんだけで普通あの世行きになるものか。過保護なんだ」

勇者「過度に保護されてる結果すぐに死にまくってるってこと?」

勇者はこんらんした!

勇者「タベル!!」バクバク!!

遊び人「食の楽しみに逃避すな!」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:31:23.76 ID:fGn313Xj0
暴食「ふはは。いいよな、食べ物は。忘却、逃避、そんなことにも使える」

暴食「暴食をして肥えてしまった人間は後ろ指をさされるが。暴食の代わりに自分を癒す方法がなかっただけなんだ。その者から暴食を取り払ったら、痛みを浴び続けるだけだ」

暴食「生きるために食べるという意味では、生きていくために必要最小限の食事を摂ることと、悲しみを誤魔化すために無駄に油の乗った食事を食べることは同じだろう?」

暴食「みんな忘れたがってるんだよ。食べたがってるんじゃない。食べるという生きていくために必要な正義の行為をしていることで、目を背けたい問題を先延ばしにすることを自分に許しているんだ」

暴食「自分には今色んなものがつきまとっているけれど、自分は今食事をしている。食事は絶対に必要な行為だ。そして幸せな行為だ。だから今、食べているこの時間は正しい。この時間だけは、あらゆる立ち向かうべき困難から目を背けても許される、とな」

暴食「そんなことを続けても、魂は全く肥っちゃくれないんだがね」

勇者「うめぇ!うめえなあこれ!」ハフハフ!

遊び人「(勇者も何かから逃避したがってるのかな……)」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:33:36.01 ID:fGn313Xj0
魔法使い「はあ、また食事中に小難しい話してるよ」

暴食「食事の場でしか腹を割って話せないことがあるだろう」

魔法使い「腹を割ってくれるといいんだけどね」

勇者「うめぇ!!これもうめぇ!!」ガツガツ!

魔法使い「その前に腹を下しそうね」

遊び人「あなた達の目的は何?勇者として冒険していたはずなのに、この村に住んで、大罪の装備を利用して食料を作り出して」

魔法使い「聞き方が悪いわね。勇者として冒険していたけれど、魔王も無事他の勇者によって倒され、パーティメンバーと安住の地を見つけ美味しい食料を提供している、と考えてよ。もう充分な理由じゃない?」

遊び人「大罪の装備には代償が伴います」

暴食「寿命が縮むのだろう」

遊び人「それを知ってて!」

暴食「一度だけ、装備を身に着けたことがある。魔域にいた時だ。強大な魔物を一人で倒す時に、使用した」

暴食「一回の戦闘で寿命がごりごりと削られていく感触を味わったよ。この装備は寿命を食い物にしているんだとね」

魔法使い「ねえ、やっぱりあなたあの鎧を恐れているのね。近くに置いておきたくないのね」

暴食「…………」

戦士「僧侶殿のことと関係が……」

遊び人「僧侶?」

魔法使い「私は!!私はあの子の死を彼がいつまでも悼むのはおかしいと思うわ!!あの子が自ら生きることを拒否したんじゃない!!」

戦士「僧侶殿の信仰の問題だ!!生を放棄したかったわけではない!!」

魔法使い「何が違うのよ!!」

魔法使い「私達が、私達が生きるために……食べたのに……あの子は最後まで魔物を食べることを拒否して、餓死したのよ!!」

魔法使い「精霊の加護が破壊されていたというのに!!」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:40:57.69 ID:fGn313Xj0
今日はここまでです。明日は仕事の都合で投稿が難しいかもしれません。おやすみなさい。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 02:50:19.33 ID:2EiWrIY90
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 08:54:57.99 ID:5iDLDHPHO
omoroi
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 09:42:13.57 ID:mCWwWNKPo
あほの子の勇者かわいい(精霊並感)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 18:48:56.14 ID:lnxLmCxpo
どの勇者SSでも僧侶はいい子で不憫だな
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:02:25.12 ID:ob1U7I8l0
【TIPS@】

精霊の加護。

その存在に、魔王は頭を悩ませていたという。

人間最強の生物――勇者――であっても、戦闘能力は魔王に圧倒的に劣っていた。

形態変化を使うまでもなく、魔王は数々の勇者を蹴散らしていった。

しかし、勇者という職業の恐ろしさは、やり直しがきくことにあった。


勇者は学習する。


魔王の行動パターンを知り、対抗策を広大な人間の土地から集めてから何度も挑んでくる。

初期の魔王は単純な対応策しか持たなかった。

勇者を捕縛し、自殺を封じ、復活を阻止する。

しかし勇者はその対策も練った。

特殊な魔力を込められた毒薬を飲んでから戦いを挑み、魔王に監禁された場合に供え自動的に死ぬように備えた。

魔王が更なる対抗策を練っても、精霊の加護を持つ勇者一行(通常4人)は、繰り返しを基本に置いた戦略で戦いを挑んでくるため、為す術がなかった。

さらに、勇者のパーティー同士が繋がり、12人の勇者一行が魔王に立ちはだかったことまである。

その時、魔王は寿命を対価に第二形態にまで変身を遂げたという。
(勇者殺しの勇者、が現れたという噂が広まってからは、徒党を組むということもなくなってはいったが)。

繰り返しという勇者の特権に危機を覚えていた魔王は、本格的な対策を練り始めた。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:13:07.14 ID:ob1U7I8l0
【TIPSA】

魔王と四天王の協議の結果、3つの案に絞られた。

@ 魔王城の牢獄内に神官を置く。
A 人間界にいる神官を殺害する。
B 精霊を破壊する。

@ のアイデアは最適に思えた。

勇者の復活時点は、死んだ瞬間から遡り、一度訪れたことがある居住地の中で最も距離の近い場所に存在する教会内の神官の目の前である。

魔王は、牢獄の中に勇者の復活地点をつくり、自殺を図ったとしても牢獄の中で復活するよう企てた。

しかし、これはできなかった。

神官という職業を侮っていた。

人間の神官そのものは、決して高尚な存在ではない。

盗みを働くこともあるし、貧しき女性を金で揺さぶることもある。

しかし、こと勇者復活に関しては、別の人格が宿るようだった。

神官は魔域の中のエリアを決して勇者復活の時点としてふさわしいと認めることはしなかった。

虫の息の勇者と神官に洗脳の呪文をかけても、無意味だった。

魔域は魔物の領域であり、人間の領域ではない。

人間の領域でしか神官の役目を果たすことはできない。

結局、魔王城から最も近い距離にある町の神官の前で復活してしまうのであった。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:15:04.59 ID:ob1U7I8l0
【TIPSB】

では、その町を攻略するのはどうか?

A 人間界にいる神官を皆殺しにする、に絡めて検討をした。

勇者ほどではないにしろ、神官も選ばれたもののみなれる職業であった。

神官を皆殺しにすれば、精霊は神官を仲介にした勇者の蘇生ができなくなる。

少なくとも魔王城付近の神官だけでも殺すべきだと言われた。

しかし、人間も巧妙だった。

魔王の領域「魔域」があるように、人間にも人間の領域がある。

「町」「村」「里」「城下町」などである。

中でも、魔王城から最も近い距離でありながら、滅ぼされずに生き残り続けている町の守護は強力で、魔王でも攻略することが容易ではなかった。

感知呪文を使っても感知できない。
目の前にあっても気づかない。
気づくには「人間の心を得る」ことが必要だが、それは魔族としての誇りを捨てることであった。
魔王は当然これをよしとしなかった。

人間の領域を破壊することはできても、創造することは極めて困難であった。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:19:21.70 ID:ob1U7I8l0
結局、実際に実行され、劇的な効果を示したのが

B 精霊を破壊する。であった。

精霊の加護に悩まされているのであれば、その精霊を殺してしまうという取り組みだった。

魔王は勇者との戦闘を通じてデータを蓄積した。
繰り返しによって成長していたのは勇者だけではなかった。
勇者が訪れる度に様々な魔法陣を敷き、精霊が救済に来た時の反応を確認した。

精霊の加護の流れは大まかにこのようなっている。

精霊は勇者の魂の中に宿っている
→精霊はパーティメンバーの魂を勇者の魂に常につなぎとめている
→パーティメンバーが死んだ場合、精霊は棺桶を放り投げる(肉体の保護)
→パーティメンバーが全滅した際、精霊は勇者の魂から飛び出し、メンバーを神官の元まで瞬時に運ぶ。
→神官は勇者の肉体を修復し、魂と結合させる
→勇者復活

パーティメンバーが全滅した瞬間、精霊は飛び出す。

その瞬間に精霊を殺害する魔法陣を、魔王は創り出した。



魔王に十数回目の勝負を挑んできた勇者がいた。

魔王は勇者を呪文で焼き尽くした後、目に見えない存在――精霊――がいつものように出現したのを感じた。

勇者の魂から飛び出し、塵となった勇者と、その仲間の遺体を神官の元に届けようとしたのだろう。

瞬時に移動する精霊よりも早く、魔法陣は発動した。

 「バリンィイインン!!」 

ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。

そして、勇者は蘇ることはなかった。

勇者の肉体から飛び出た精霊を破壊することを可能にしたのだった。


さらに、砕けた精霊の魔力をもとに、「魔剣」という1つの武器を創り出した。

これは、精霊を斬りつけることのできる武器である。

魔王は勇者を殺害できるようになった。

魔王軍は全盛を誇った。

魔王軍は世界を支配しつつあった。

しかし。

大罪の装備が世界に散らばった数ヶ月後に魔王は力を失った。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:25:49.57 ID:ob1U7I8l0
口論する戦士と魔法使いを遮り、暴食の勇者が僧侶の過去について語りだした。

暴食「魔王城の内部に侵入したことがあった。そして魔王の側近の一人と戦闘状態に入った」

暴食「側近は不自然に逃げ始めた。追いかけると、大きな広間におびき寄せられた。おそらく、魔法陣が見えないように敷いてあったのだろう」

暴食「本領を発揮した側近の呪文にやられ、僕らは全滅した。そして、通常通り教会で目覚めた。ところが、いつもと違う感触があった」

暴食「死の感触だ。日常だった『生』が突然日常ではないことに気付かされた」

暴食「恐怖で震えたよ。そして、初めて精霊を目撃した」

暴食「真っ白に輝く、ガラスのような生き物だった。眩しくて輪郭を捉えきれなかったけれど、羽根のようなものをパタパタと力なく羽ばたかせていた。俺は危機感を覚えて、急いで仲間を全員復活させた」

暴食「直後だった。ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。後に、魔族が敷いた魔法陣によって精霊が殺されたとわかった」

暴食「敵の魔法陣も完全には発動しなかった。おそらく、魔法使いが放った自己犠牲呪文によって、魔法陣が損傷していたのだろう。精霊は即死せず、僕らを神官の元に運んでから力尽きた」

暴食「何もかもが狂った気がしたよ。勇者としての特権を失い、勇者ではなくなった気がした」

暴食「呪文の威力も著しく落ちたし、意思の疎通も以前のようにうまくいかなくなった。精霊の恩恵は思ったよりも多かったことに失ってから気付かされた」

暴食「精神的にも、死んだら蘇れはしないだろうという確信が自分たちを臆病にさせた」

暴食「それでも僕らは魔域に再び進んだ。怯んでいる暇はなかった」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:33:22.95 ID:ob1U7I8l0
暴食「魔族が人間の町になかなか侵入できないように、僕ら人間が魔域、とりわけ魔王城に侵入することも困難なんだ」

暴食「どうしても進むのが無駄に思える道があるだろ?道と認識するのもバカバカしいと感じるような」

暴食「魔王城の入り口には同じ守護がが、とりわけ強力な力でかけられている。魔族の魂を持つものにしか関心が向けられないような工夫がね。魔王城が目と鼻の先にあっても、古びた井戸並の興味しかそそられない」

暴食「しかし僕は奇跡的に認知することができた。どうしてだと思う?」

勇者「……人間としての魂が、削られていたから」

暴食「そう。肉体の激しい損傷や餓死によるペナルティで魂が削られ、少しだけ魔族に近い人間になっていた。よく刑務所にいる罪人が魔域に迷い込んだことがあるとうそぶくことがあるみたいだけど、それはほら話ではないと思うよ」

暴食「側近は精霊の加護の破壊に失敗したとわかっていただろう。そして、大広間までおびき寄せて僕達と戦ったということは、魔法陣はそんなに容易につくれるものではないはずだ。だから僕達が再び侵入するまでに、魔法陣の修正を行う必要がある」

暴食「死の恐怖に怯えながらも、相手の準備が終わる前に魔王城への侵入を再度試みた」

暴食「魔王と戦闘する気など失せていた。だが、魔王が所持しているという精霊殺しの剣だけでも手に入れようとしたんだ。魔王だって、肌身離さず持ち歩いているわけじゃないからね」

暴食「けれど、手に入れることはできなかった。魔族の会話から知ったのは、既に精霊殺しの魔剣は何者かが魔王から奪っていたということだけであった」

暴食「魔王城から出ることを決めた時、側近と再び遭遇してしまい、退却。命からがら逃げ延びた」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:35:20.65 ID:ob1U7I8l0
暴食「困ったのが帰り道だった。これは浅はかだったんだが、魔王城の外側だけじゃなく、内側からも認知に対する防衛を施したようだった」

暴食「出口がわからなくなった。そして魔王城の中を歩き回っていると、入ってきたときとは異なる場所に出る扉を見つけた」

暴食「紫色の空に覆われた、砂漠のような場所だった。振り返ると魔王城は消滅していた」

暴食「人間の街に行こうと、移動の翼に念じても、効力がなかった。なんというか、空を飛ぶ想像を頭の中で虚しくしているだけという感触だけしかなかった」

暴食「食料も尽きかけていた。そこで僕たちは殺した魔物を食した」

暴食「ひどいものだった。魔域に巣食う魔物の味は生まれてから口に入れたもののなかで最悪だった。人間界にいる魔物とは比較にならない。吐き気を抑えて飲み込んだ。味こそ最悪だったが、空腹は満たされた」

暴食「人の形をした魔物もいたよ。他の魔物と違って、緑色の血液を有していた。僕と、戦士と、魔法使いは食した」

暴食「しかし、僧侶だけは食べようとはしなかったんだ」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:39:18.08 ID:ob1U7I8l0
暴食「ある日、魔法使いが倒れた。魔法使いを背負って歩いていた、戦士も倒れた。僧侶は不思議と、体力が残っているみたいだった」

暴食「僕は仮死草を二人に飲ませた。このまま2人を引きずって歩き続けるか、僕と僧侶だけ人間界に戻り、王国の力を借りて再度侵入するかどうか迷った」

暴食「だが、二人を置いて、僕と僧侶で王国に戻ってから、またそのエリアを探し出すのは不可能に思えた。それに、王国はどこも勇者に請求することが多すぎる。あの頃はとくにそうだった」

暴食「結局、僧侶が魔法使いを、僕が戦士をひきずっていくことにした」

暴食「装備も全て砂漠に捨てた。背負うのに重りは少しでも減らしたかった。魔物が現れたら一発でおしまいだ」

暴食「僕らが持ったのは、魔物の死骸と、毒草だけだ」

暴食「特殊な毒草で、口に含むと一時的に疲れを忘れさせてくれた。時間が経った後の疲労感は酷いものだったけどね」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:05:54.69 ID:ob1U7I8l0
魔法使いは泣いていた。

戦士は泣いている魔法使いをなだめた。

暴食「僕は最後の力を振り絞って、魔法使いと戦士をおぶってあるき続けた」

暴食「幸運なことに、青みががった人間界の空が見えてきた。その付近にまでいけば、移動の翼を使用できるはずだった」

暴食「しかし、最悪なことに、巨大な砂の魔物が現れた」

暴食「終わりだと思った。装備も全て置いてまるはだか。仮死状態の仲間が二人と、少し空腹の満たされた勇者が一人。勝ち目はなかった」

暴食「絶望していたその時、空から青白い光がそばに落ちてきた」

暴食「精霊を失った俺が、今度は何に選ばれたのかと思ったよ。最後の晩餐でも降ってきたのかとな」

暴食「ところがそれは、鎧だった」

暴食「俺は導かれるがままに鎧を身に着けた。そして、かつてないほどの食欲が沸いた。目の前の砂の魔物が、砂漠に埋まる魔物の骨が、地面に広がる砂までがごちそうに見えた」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:06:59.65 ID:ob1U7I8l0
暴食「気づいた時には、俺は巨大な砂の魔物を食していた。見上げるほど巨大だった化け物は、俺の胃袋の中に収まった」

暴食「魔物を食した俺は腹が満たされ、力がみなぎるのを感じた。同時に、命がすり減った気がした」

暴食「力の対価だったのだろう。鎧がまるで、俺の寿命を食ったとでもいわんばかりに喜んでいたように感じた」

暴食「魔物を食べ尽くした俺は、一瞬、二人の仲間を見た」

戦士「…………」

魔法使い「…………」

暴食「恐ろしい考えに囚われたが、微かに取り戻した理性に従い鎧を脱ぎ捨てた」

暴食「魔物を倒した後、移動の翼を使用できる境界に入ることができた。そして高度な文明を持つ都に飛び、二人を無事復活させることができた」

暴食「そして、俺達は冒険を辞めた。使命感を失った」

冒険「かつて餓死しかけた時に寄り、ろくに助けてくれなかったこの村に居住をかまえた。大罪の装備の影響力を利用し、俺らは食物を育て、金持ちになり、空腹とは無縁の生活をおくることができるようになった」

冒険「これが俺たちの物語だ。魔王ではなく胃袋に負かされた惨めな旅だった」

遊び人「…………」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:12:35.73 ID:ob1U7I8l0
暴食「さあ、次はお前らの番だ」

暴食「大罪の装備とはなんだ?お前らの冒険の目的はなんだ?」

遊び人「それは……」

勇者「大罪の装備とは、人間の7つの欲望に基づく装備だ。大罪の賢者の一族が儀式によって創り出した、」

遊び人「勇者、話すつもり!?」

魔法使い「私達だって話したんだからいいじゃん!ねえねえ、7つの欲望って何?大罪の賢者って何よ?」

勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬の7つの欲望だ。それぞれの欲望に基づく装備品が世界各国に散らばり、その欲望にふさわしいとされる者に届くと言われている」

勇者「暴食の鎧は、あんたを持ち主に選んだんだ。もともと大食らいのやつに届くと思ったが、そうではないらしい。大罪の装備には何かしらの基準があるようだ」

勇者「大罪の賢者とは、非常に強力な呪力を持つ代償に、短命な寿命しか持たぬ一族だ。里の者は生まれながらにして賢者の職業であり、強力な呪力と引き換えに常に寿命を身体から漏らしている状態にある」

勇者「その一族が行おうとした儀式は、寿命の転移だった。ある者が持つ寿命を、他の者に移すものだ。ところがその儀式は何者かの手によって巧妙にねじまげられ、大罪の装備製作の儀式にとってかわられていた」

遊び人「勇者、駄目よ。話しすぎよ」

魔法使い「それでそれで?」

勇者「寿命の転移呪文の魔法陣は完全に書き換えられていたわけではなかった。より高度で、禁忌の領域に踏み込むものに書き換えられていた」

勇者「7つの大罪の装備は1つでも強力な力を持つ。けれど、それら全てを身に着けることで……」

遊び人「もうダメだってば!!」ガバ!

勇者「ぐむむ……」

遊び人「まさか、あんたたち!!」

暴食「毒を飲むなら一緒に飲むと言っただろう。食事の中に判断力を鈍らせる、真実草と呼ばれる毒草を入れさせてもらった」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:16:37.60 ID:ob1U7I8l0
遊び人「卑怯よ!!」

暴食「僕らも食したのだから同じだろう。それに、何もかも話すほど強烈なものではない。本来ならば泡を吹きながらでも舌の呂律だけをまわしつづけて、自分の出生から話すような強力なものだ。実際、俺も一箇所だけ嘘をつかせてもらった」


暴食「大罪の装備は7つ集めると何かが起きるのだな。そして、魔王を倒したものがいるとされる処刑の王国の者は大罪の装備を集めている」

暴食「処刑の王国の動きは確かに妙だ。魔王討伐後に、なぜか全国各地にいる勇者を呼び集めた。そして、王国に向かった勇者は二度と姿を現していない」

暴食「さあ、7つの装備を身につけると何が起こるのだ。答えろ」

暴食は勇者に迫った。

遊び人「駄目よ!!」

戦士は立ち上がり、遊び人を勇者から引き剥がした。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:45:17.93 ID:ob1U7I8l0
暴食「話せ。もう隠す必要はない」

暴食「全てを話せ」

勇者「大罪の装備は……」

遊び人「勇者、だめ!!」

勇者「大罪の装備は……どんなことがあっても……」

勇者「お前らから、奪い取るつもりだ」

勇者は思っていたことをそのまま口に出してしまった。



魔法使い「……そんなことばかり考えながら今日はここにいたってことね」

遊び人「勇者……」

暴食「あの鎧は渡さない。俺たちはこの村で、それなりの権力を手にしながら、今後も一生生きていくつもりだ」

遊び人「この村への食べ物の恨みを晴らしながら?」

暴食「食べ物の恨みは恐ろしいというだろう」

遊び人「…………」

暴食「だが、そうだな」

暴食「お前が俺より暴食にふさわしいことを証明できたら、大罪の装備を渡してもいい」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 08:20:36.92 ID:CnIAUNhGo
なんかぬけてない?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:47:13.35 ID:ypTt4u9i0
>>102
抜けてました。おみそれしました。

>>96>>97の間

暴食「やがて、最後の食料も尽きた。魔物を食べないと言っていた僧侶用の食料も尽きた」

暴食「僧侶の体力も尽きた。魔法使いをおぶってあるくどころか、自分一人でもまともに歩けなくなっていた」

暴食「僧侶は、俺が戦士と魔法使いを背負って、歩き続けるように言った」

暴食「最後に彼女は、隠し持っていた食料を俺に差し出した。俺はそれを食し、いくらかの体力を取り戻し、2人を背負って歩き続けた」

暴食「僧侶は姿を消していた。最期の体力を振り絞って、俺から姿を隠したんだ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:52:21.30 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「何言ってんのよ!」

遊び人「勝敗はどう決めるの?」

暴食「断食で対決するんだ。より長い間食べ物の摂取を拒んだほうが勝ちだ。真実薬を飲めば、どれだけ断食できたか嘘は言えない」

暴食「君たちが勝利したら暴食の鎧をくれてやろう」

遊び人「私達が負けたら?」

暴食「真実薬を吐くまで飲んで貰う」

暴食「大罪の装備に、少し興味がわいたからね」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:59:46.55 ID:ypTt4u9i0
〜二組のパーティが別れた後〜

魔法使い「どういうつもりなのよ!!ただでさえ中毒性の高い食べ物をずっと食べてきたのよ?あいつらのほうがずっと有利よ!」

戦士「悪い冗談だと思ったぞ」

暴食「今日はたくさん真実薬を飲み込んだ。冗談で言っているわけではない」

暴食「俺は死なない。敵と毒を飲む覚悟で挑んだ。なんなら、餓死するまで耐えてやるさ」

魔法使い「本当に、何を考えてるのよ……」

暴食「僕が負けると思う?」

魔法使い「…………」

魔法使い「信じてるから、私たちは今日までついてきたのよ」

暴食「勝利を信じてもらえて何よりだ」

魔法使い「勝つかはわからないわよ」

暴食「えっ」

魔法使い「あなたが負けるならしょうがない。私にとっての信頼はそういうものなの」

暴食「そうか。そっちのほうが嬉しいよ。でも大丈夫だ。食に関して、僕は誰にも価値を譲るつもりはない。それが、食をしないということであっても」

戦士「話は戻るが、一つ聞きたいことがある」

戦士「あの勇者たちに嘘をついたといっていたが、どこだったんだ?全部真実を話していたように聞こえたが」

暴食「…………」

暴食「君たちにも内緒だ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 10:04:13.32 ID:ypTt4u9i0
遊び人「どういうつもりなのかしら!断食で勝負だなんて。あんなこと言って、私たちを弱らせて自分たちだけはご飯を食べるつもりじゃないかしら」

勇者「やつらのほうが圧倒的に戦闘能力が高い。まともに剣技で対決したほうが明らかにこちらに分が悪いのに、あえてあんな勝負をもちかけてきたんだ。何か意味があるんだ」

遊び人「そうはいっても、勇者もどうして乗ったのよ!!負けたらあいつらに大罪の装備の在り処を全て吐いてしまうのよ!」

勇者「食べてはいけないものを食べたら吐いてしまうのは真実草を食べているときに限らない」

遊び人「本当に、何考えてるのよ」

遊び人「本当に……」

遊び人「…………」

遊び人「真実草、まだ利いてるのよね?」

勇者「そうだと思う。自分に実感はないけど」

遊び人「あのさ。私が死んでた三日間、どんな贅沢したの」

勇者「霜降り肉を食べてた。バニーガールのダンスを見ながらね。いやぁ、復活させるのが遅くなってわるかった」

遊び人「…………」

遊び人「そう。よかったわね。おやすみなさい」
107 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/08/06(日) 10:28:50.01 ID:nxoMlVsA0
勇者突如現れた全知の須鎖之御之命之命現実神イケメン金髪王子須賀京太郎に処女膜捧げる女勇者破瓜する
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 10:54:22.71 ID:Arp0/lmKO
おt
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:10:38.48 ID:ypTt4u9i0
〜断食1日目〜

暴食「あそこの区域にいる家畜は隣の村に出荷してくれ。移動のための魔物使いを一人手配しておいた。それから……」

…………

戦士「勇者、仕事をして無駄な体力を使うと賭けに不利になるぞ」

暴食「食を欲する気持ちという点では巨漢はふりだけど、生き延びるという点では圧倒的に有利だよ」

暴食「より食事の必要ないものに食欲があり、より食事が必要あるものに食欲がないのはなんとも皮肉なことだと思わないか」

戦士「そういうことにも頭を使うと余計エネルギーがなくなるぞ」

暴食「食べるということについて考えるのが好きだ。そのために食べているといっても過言ではない」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:11:39.56 ID:ypTt4u9i0
勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

遊び人「全力でエネルギーを節約する気だよこの人。朝から晩まで宿屋で寝る世にも珍しい冒険者だよ」

遊び人「食べて寝ると牛になるっていうけど、牛のように寝て食べないつもりだよ」

遊び人「ううー、宿代稼ぐために働かなくちゃ!!遊び人なのに〜!!」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:13:03.12 ID:ypTt4u9i0
〜断食2日目〜

暴食「ふぅー、今日も一仕事した」

戦士「勇者、仕事は休めといっただろ」

暴食「気が紛らわせるからかえっていいんだ」

戦士「手が震えてるな。ただの食欲だけでなく、大罪の装備の影響を受けた食料を食べられなくなって、禁断症状がでているんだろう」

暴食「一度悪事に染まった男が正義に寝返ると死ぬのと似ているな」

戦士「またわけのわからんことを。無理してると身体を壊すぞ」

暴食「なぁに。魔王の手下と戦うわけでもない。こんな勝負朝飯前だ」

戦士「朝飯すら食べることのできない勝負なわけだが」

暴食「無理をするなというならこっちのセリフだ。戦士も俺にあわせて断食してるだろ」

戦士「……お見通しであったか」

暴食「その気持だけで胸がいっぱいだ」

戦士「でも腹は空っぽか」

暴食「はは、よしてくれ」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:15:16.75 ID:ypTt4u9i0
遊び人「やばいこのアイスクリーム!!口の中でパチッシュワって!!はじけるうまさ!!」

遊び人「野菜も、その野菜を食べた牛もめっちゃうまい!!」

勇者「…………」グゥ~…

遊び人「あっ、起きてたんですか勇者様。お見苦しい所お見せしました」モグモグ

遊び人「ううー、ほっぺが落ちるうぅううう!!」

勇者「…………」グゥ…

勇者「あのさ……」

遊び人「はい」

勇者「なんか頭の中がお祭り騒ぎみたいな感覚であんまり記憶ないんだけど。あの日の夜の俺って、変なこと言ってなかった?なんか、贅沢してたとかなんとか……」

遊び人「自分の腹に手をあてて聞いてみればどうですか?」

勇者「…………」プヨン

勇者「ちょっと肥ったかも」

遊び人「これから痩せるといいですね」

勇者「どうしてさっきから敬語なの?ちょっと怖いんですけど」

遊び人「心配ご無用。大丈夫、あなたは賭けに勝ちますよ」

勇者「うん……応援してくれるんだ……うれしいなぁ……」

遊び人「私が食べさせませんもの」

勇者「…………」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:16:01.89 ID:ypTt4u9i0
〜3日目〜

遊び人「暴食の勇者も外であまりみかけなくなったな。つらいんだろうか」

遊び人「勇者のこともさすがに心配だな」

コンコン

遊び人「入るよ?」

勇者「…………」

遊び人「寝てる?」

勇者「起きてる」

遊び人「体調、大丈夫?」

勇者「わからない。でも、なんていうかな」

勇者「懐かしいんだ、この感覚。遊び人と出会う前、一人で冒険してた時に俺も飢えてた時期があったんだけど」

勇者「何も食べないと、俺の場合は足が痺れるんだった。身体の中で生まれ変わるべきものが生まれ変わっていないというかさ。蓄積した痛みが流れてくれないというか」

勇者「お腹が空いたら、お腹が苦しいんじゃないんだな。空腹なのに食べ物がないと思う、心が苦しいんだな」

遊び人「勇者……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:17:48.55 ID:ypTt4u9i0

〜6日目 夜〜

遊び人「もうだめ!もうだめよ!いつまで二人とも続ける気よ!!」

遊び人「勇者の胃袋にご飯を詰め込まないと!」

遊び人「こんな賭け事おかしいわよ!!魂が削れるとか削れないとか以前に、こんなの生きた拷問よ!!」

遊び人「暴食の鎧は頑張って盗めばいい!!」

遊び人「勇者、入るからね!!」

ガチャ!

遊び人「…………」

遊び人「いなくなってる」

遊び人「夜食でも、こっそり食べに行ったのかな。私も小さい頃によくやったなぁ」

遊び人「…………」

遊び人「いいのよ、それで」

遊び人「生きるために食べるか、食べるために生きるか、か」

遊び人「食べるために生きてると思う瞬間が、生きてる中にはきっとあるよね」

遊び人「私もお腹空いたな。甘いものでも食べに行こっと」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:19:39.99 ID:ypTt4u9i0
痩せた勇者と、痩せた暴食は森のなかで遭遇した。

暴食「こんな夜中にわざわざここまでくるとは。こっそりきのみでも食べに来たのかな。それとも、鎧を盗みに来たのか。残念ながら、もうここにはないぞ」

勇者「…………」

勇者は首を横に振った。

暴食「そういうことを疑って、俺が待ち伏せてるんじゃないかと思って会いにきた、というように解釈してやろう」

勇者は首を動かさなかった。

暴食「いずれにせよ真実草が真実を吐くさ」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:21:27.80 ID:ypTt4u9i0
暴食「思い出話をしてもいいか」

暴食「俺は子供の頃、腹が減るということがどういうことかわからなかったんだ」

暴食「食欲、という感覚がまったくわからなかった。恵まれた地域で生まれて当たり前のように3食食べてきたというのもあるが、俺の体質の問題でもあったのだろう。勇者に生まれついたこととは全く関係なしに、俺固有の体質だ」

暴食「周囲の子供がお腹が空いたと言っていることの意味がわからなかった。どういうことか聞いてみても、お腹が痛いという精一杯の答えしか返ってこなかった。それから俺はお腹が痛くなると、お腹が減ったと親に言うようになって、飯を出されるという笑い話のようなことがあった」

暴食「お腹が空くという感覚を徐々に理解しはじめ、勇者として旅立ってからも、時々わからなくなった。戦士や魔法使いが文句を言う中、俺は空腹を多少感じながらも飯を食べたいという気持ちにはあまりならないことがあった。僧侶も、一度も不平を言ったことはなかったがな」

暴食「食べてる間にはわからない食べるということの意味を、食べない今になって思い出したよ」

暴食「いつもあって当たり前だったものがなくなってから理解できるのが人だ」

暴食「食事はまだいい。いただきます、ごちそうさま、という呪文があるから人は食事のありがたみを日頃から忘れないでいられる」

暴食「いつもいて当たり前の存在にはなんと言えばよかったのだ。おはようも、おやすみも、とても足りる言葉じゃない」

暴食「俺は、愛しているなんていう言葉を、最期の時まで使う勇気が出なかった。勇者と呼べる男では、なかったんだ……」ポロポロ…

暴食「僧侶……あと1日だけ……違っていたら……。お前はどうなっていた……二人とも生きていたのか、それとも死んでいたのか……。その死は、今の俺の命より劣る価値のものなのか……」

暴食「俺は、何のためにこれからも食べ続けなければならないのだ……」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:22:04.73 ID:ypTt4u9i0
暴食は涙を流した。

勇者は乾いた手を肩に置いた。

痩せた顔をあげた暴食の勇者に言った。

“はら へったな”

そして、ひどく咳き込んだ。

暴食の勇者は、勇者の酷いかすれ声にほとんど聞き取ることができなかった。

暴食「お、お前!!」

暴食「水すら、飲んでいなかったというのか!!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:22:48.72 ID:ypTt4u9i0
〜暴食の勇者の館〜

戦士「ひとまず水を飲ませて寝かせておいた」

遊び人「勇者!!」

勇者「……よっす」

遊び人「ほら、支えてあげるから起き上がって」

遊び人「スープにパンをひたした食べ物だよ。よその国の素材を取ってきたの」

勇者「…………」

遊び人「食べて」

勇者「…………」

遊び人「食べなさい」

勇者「…………うん」

勇者「……いただきます」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:23:17.94 ID:ypTt4u9i0
勇者「…………」ゴックン

勇者「……ああ」ポロポロ……

勇者「……あぁ……あぁ……」

勇者「なんだよ、なんだよこれ……」

勇者「うめぇ……」ポロポロ…

遊び人「よかったね」

勇者「ううう……ひぐっ……うめぇよお……」

勇者「うわぁあああんん……」ポロポロポロ……
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:24:11.87 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「ほら、勝負はあなたの勝ちよ。よく耐えたわね。食べなさい」

暴食「…………」ゴクリ…

暴食「うぅ……あぁ……」

暴食「うぐ……」ポロポロポロ……

魔法使い「あれだけ暴食の装備の影響を受けた食物を食べてた男が、よその村の普通の食事を摂りたがるなんてね」

暴食「あぁ…あぁ……」モグモグ

魔法使い「そして、魔物に八つ裂きにされても泣かなかった男が、ご飯を食べて泣くなんて」

魔法使い「僧侶。あなたの勇者は、今も勇者のままでいるわよ」ボソ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:25:15.66 ID:ypTt4u9i0
勇者「……よし。もう行こう」カチャリ

遊び人「どうしたの?まだ全部食べてないじゃない。ゆっくりでいいよ」

勇者「勝負に負けたんだ。大罪の秘密を全て話すわけにはいかない。館の外に出て移動の翼を使用するんだ」

サッ…

暴食「空から降り注ぐ雷撃の呪文を使用する勇者を相手に、そんな愚かな逃亡を図ろうとする勇者がいるとはな」

遊び人「暴食の勇者!」

暴食「同じ釜の飯を、拒んだ者同士」

暴食「腹を割って、話をする時が来た」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:25:51.84 ID:ypTt4u9i0
〜数日後〜

魔法使い「ああーおながずいだよぉ……」ブルブル…

戦士「まったくだ」

暴食「清き泉の里がこの森の奥にあるという。もう少し探索してみよう」

魔法使い「もう近くの町に戻ってご飯食べようよ〜。暴食を楽しもうよ〜」

暴食「それでもいいが。せっかく昔みたいに痩せてスリムになったのに、もったいないなぁ」ボソ…

魔法使い「…………」

魔法使い「も、もう少し探索をがんばりましょうか」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:27:23.11 ID:ypTt4u9i0
戦士「なあ勇者」

暴食「何だ」

戦士「どうしてあいつらに大罪の装備を渡してしまったのだ」

暴食「これで聞かれるのは10度目くらいじゃないか。言っただろう」

暴食「あんな危険なものを持ち歩きながら旅には出たくない。装備の魅力に取りつかれ、いつ身に付けてしまうかもわからない」

戦士「それは奴らも同じでは」

暴食「あいつらは大罪の装備を封印する壺を持っている。壺の中にある物は魔力を外に漏らさない。俺も目の前で確認した。明らかに壺より大きい装備が中に吸い込まれ、存在を一切消したかのように収まった」

戦士「だったらあの村のどこかに隠しておけばよかっただろう」

暴食「俺はもう、あの装備の影響で、人の寿命を食らう食物が出ることを望まなくなったんだ」

戦士「…………」

暴食「削れた魂の欠片を、今回の1件で少し取り戻すことができたらしい」

暴食「それに、あいつらも言っていただろう。あの村から今すぐ逃げ出せと。大罪の装備を目当てに必ず処刑の王国の者が訪れると」

暴食「縁を切ったほうがいいものなのだ。俺達は空腹に喘ぎながら、こうして旅をするのがお似合いなんだ」

暴食「そうさ。俺はもう一度、こうやって、お前らと冒険がしたかったんだ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:28:11.70 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「……くくっ」

魔法使い「……ぷはっ!」

戦士「……くく。はは!」

魔法使い「あははは!!!」

暴食「な、なにがおかしい!」

魔法使い「こんな巨体の勇者一行なんている!?」

戦士「以前、例の勇者が面白い独り言を言っていた。世界を救った勇者が巨漢でも、世界は讃えてくれるのかと。石像は痩せた形でつくられるんじゃないかと」

暴食「あいつもよくわからないことを考える」

魔法使い「でも気になるんでしょう?私達さ、あいつらの冒険についていかなくてよかったのかな。それなりに戦力にはなれたと思うけど」

暴食「あの者たちは二人でパーティを組んでいる。4人まで精霊の加護を受けられるというのに」

暴食「俺達のように、何かしら事情があるのだろう」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:28:41.21 ID:ypTt4u9i0
暴食「そんなことを話している間にだ」

魔法使い「わぁ!!泉がある!!喉乾いた!!」

戦士「俺もだ」

ゴクゴクゴク……

戦士「あー、生き返る」

暴食「戦士。俺がどうしてあいつらに大罪の装備をわたしたか、別の方法で説明できそうだ」

戦士「どういうことだ?」

暴食「水を飲んでくれ。飲める限界まで」

戦士「まあいいが」ゴクゴク…
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:31:16.34 ID:ypTt4u9i0
戦士「……ふぅ。もう飲めん」

暴食「よし、ではもう一口飲んでみろ」

戦士「馬鹿にしてるのか!」

暴食「いいから、飲んでみろ」

戦士「まあ飲めんこともないが……よし」

ゴクゴク…

戦士「うう……」

暴食「もう一口だ」

戦士「……吐く時は勇者の頭から吐いてやるからな」ゴクゴク…

戦士「ぷはぁ、もう無理だ……」

暴食「もう一口」

戦士「今度こそ本当に無理だ!」

暴食「そうか。悲しみを受け入れている状態もそれと似ている」

戦士「はあ?」

暴食「最期の一口の前に、たまたまあの勇者が訪れただけだ」

暴食「俺はあの勇者と遊び人に救われたんじゃない。あの二人が訪れた時、たまたま俺は時の流れによって救われつつあった。そして最期のひとくちを飲み終わり、大罪の装備を手放した」

暴食「時は最良の薬。良薬は口に苦し。と、言うだろう」

暴食「冒険に挫折した時から流れていた時間は苦く苦しいものであったが、俺の乾きもいつのまにか救われていたということだ。まさに最期の5日間、俺は最良の薬を食べ続けていたわけだ」

戦士「勇者、お前は僧侶のことを、やはり……」

魔法使い「ねえねえ!あっちに木の実が生えてるよ!!食べてみようよ!!」

暴食「痩せるんじゃなかったのか」

魔法使い「一口だけ!」

暴食「本当に一口でやめられたら、俺は奇跡を信じるぞ」

キィィイイイン――――

暴食「うぐっ……!」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:35:06.41 ID:ypTt4u9i0
戦士「大丈夫か勇者!」

魔法使い「どうしたの!?」

暴食「今、耳鳴りが聞こえたような……」

戦士「耳鳴り?」

魔法使い「感知呪文?でも私たちには何も…」

ヒューーーーーー……

魔法使い「……なに、この森がざわつく感じは」

戦士「構えろ。何かが来るぞ!」


「こんな森の奥にいるなんて。おかげで見つけるのにだいぶ手間がかかったよ」

「感知呪文の対象を勇者に絞った。だからお前らのような、選ばれなかった存在には当然ひっかからない」

戦士「誰だ貴様は!」

「醜かったなぁ。あの村の連中は、どいつも、こいつも、醜い身体をしていた。全員殺してやろうかと思うほどにね」

「君達もだ。君も、君も、君も。全員、肥えた豚みたいな身体で生きている。そんな身体で勇者を名乗るのは、他の勇者に対する侮辱だ」

魔法使い「な、なによこいつ……!!」

戦士「貴様は誰だと聞いている」

「今は、こう名乗っておこう」

「勇者を、殺す者だと」

戦士「勇者、下がっていろ!!」

戦士「処刑の王国の手先め!!!」

戦士が切りかかった。

「手先じゃないんだけどなぁ」

謎の男は手の平をかざした。

戦士「うぉおお!!!」

魔法使い「戦士、気をつけて!!」

男はため息をついた。

男の手の平から、風の刃が飛び出した。

戦士「ぐぁあああああ!!?」

「剣を抜くのもめんどうだ」

魔法使い「今のは!!呪文の詠唱に唇を動かしていないわ!!」

魔法使い「無口詠唱(むこうえいしょう)!超上級魔術よ!」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:36:01.24 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「戦士、私の後ろに下がって!!」

魔法使い「『火の中で踊りし精霊よ。冷たき魂の持ち主を焼き付く……』」

魔法使いが詠唱を始めると、男が杖を振った。

魔法使い「んー!んー!」

「口も開かなければ少しは痩せるだろ」

暴食「目的はなんだ」

「心当たりがあるだろう」

暴食「腹を探るのはやめてくれないか」

「そんな醜い腹、探りたくもないね」

「裂いてやる」
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