エンド・オブ・オオアライのようです

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26 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/01(月) 00:58:33.76 ID:jDuEGwJ2O
(;゚ω゚)「外に出るんだ!早く!!」

「玄関、玄関に向かって!!すぐに河嶋達が放送を流すから外での避難先はソレに従うよ!」

「一つの出口に集まらないで!後ろ半分の席の人達は後ろから、前半分の席の人達は前から出て下さい!!」

僕の叫び声に、角谷さんと西住さんが的確な指示で続く。他の面々も弾かれたように動き出し、西住さんの指示通りに混乱を避けながら教室の外へと走り出て行く。

(;^ω^)「そうだ、アリサさん───」

簀巻きにされている彼女の拘束を解こうと振り向いた瞬間、斬鉄剣が抜き打たれた時のような金属音が鳴る。そこに居たのは生け花剪定用のハサミを振りきった体勢の五十鈴さんと、両断されたロープを見て呆然とした表情のアリサさん。

「こ、これがジャパニーズ・イアイ………」

(;^ω^)「多分違うかな!」

「先生、アリサさんの拘束は解きました!行きましょう!」

(;^ω^)「何で生け花用のハサミ持ち歩いて……ええいツッコミは後だ!!」

五十鈴さんを先に行かせ、アリサさんを助け起こして駆け出す。入り口で待っていた角谷さんが教室内を一瞥し、残っている者がいないことを確認して僕等のしんがりを勤める形で続く。

(;^ω^)「っおお!?」

「っととと!?」

「きゃああ?!」

ぐらり。

直後に足下を襲う、大きな揺れ。まるで大波を打ち付けられた船のようだが、僕等が乗っているのは全長7.6kmの【学園艦】だ。神話に出てくるクラスの大波でもなければここまで揺れるはずがないし、実際この艦内ではこれほどの揺れは経験したことがない。

………いや、これは正確な言い方じゃない。

“ついさっき”までは、一度も経験したことがなかったといった方が正しいか。

『『ギィアアアアアアアアアアアアッ!!!!』』

「ひぁっ!?」

二つに増えた咆哮。耳にした澤さんの肩がびくりと大きく震える。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/01(月) 18:47:45.30 ID:0HehjtpE0
投下乙
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/01(月) 19:58:22.05 ID:irmZtu4I0
は?つまんねーな
29 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/05(金) 23:11:40.35 ID:dCQGlBda0
間髪を入れず、再び響く爆発音。廊下から窓の外を見れば、商業区の方でもう一つ大きな火柱が上がっていた。

西住さんたちが操る戦車のものに酷似した───だけど、より大きく重い「砲声」を直前に挟んだ上で。

「………何今の。ひ、火ィ噴いたよアイツ!!」

「向こうの方燃えてない?」

「じゃああれ……本当に深海棲艦なの……?」

「ねぇ、こっち見たよ!」

「逃げて、早く逃げてぇ!!!」

他の教室からぽつりぽつりと廊下に漏れる、授業中だった他の生徒達のざわめき。それらは瞬く間に校舎全体に波及し、やがて爆発的な悲鳴へと変わっていった。

「おわっ!?」

「Shit!!」

「っ、皆さん落ち着いて下さい!すぐに広報から指示があるので一度それを聞いてから避難を!」

(;^ω^)「闇雲に逃げるなお!かえって避難が遅くなる!」

この4階にも、他の教室から生徒達が溢れ出す。僕や生徒会長である五十鈴さんが呼びかけても、狂乱状態の生徒達は聞く耳を持たず僕たち戦車道履修者一行を飲み込みながら我先にと階段や非常口へ殺到する。

《放送室、生徒会広報より全生徒へ!さっきのJ-ALERTは訓練ではありません、速やかに指定避難場所まで移動して下さい!

避難経路は風紀委員や先生方の誘導に従って!冷静に対応するようにして!》

「早く行って早く!」

「ちょっ、押さないでよ!」

「落ち着いて!まずは外に、今の生徒会からの放送に従って避難を!」

「校舎の中に止まるな!正面玄関からの避難者と非常口からの避難者に別れろ、一つの入り口から出ようとすると混雑するぞ!!」

疾うの昔に止まっていたJ-ALERTに変わって武部さんの声が聞こえても、納まる気配は無い。他の教員や風紀委員も懸命に誘導しようとしているが、狂乱する群衆の濁流に組織的な活動を殆ど出来ないまま僕等同様押し流されていく。
30 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/05(金) 23:25:36.65 ID:dCQGlBda0
「痛っ、痛い!?やだ、押さないでよぉ!!」

「……“人海”とはよく言ったものだ、溺れそうになる……!」

「麻子さん、優花里さん、大丈夫ですか!?」

「ご心配なく、私達はなんとか!」

「こ、コミケ並みの人込みは筋力つけてもつらい……」

「バレー部、アリクイさんチームとウサギさんチームを守れ!!根性だ!!」

「「「了解!!」」」

西住さんたち戦車道履修組は、やはりこの中では一番組織的に「避難」ができている。だが、いかんせん校舎内が丸ごと狂乱状態という現状に翻弄されていて、ともすればバラバラになりかねない隊列をかろうじて維持している。

(;^ω^)「指定避難場所は第2グラウンドだお!皆、そっちに向かえお!!」

「……ダメだねブーン先生、これ、私ら意外で話聞ける余裕持ってる生徒いないや」

「桃ちゃん、放送はいいから早く武部さん連れて下に───もう、なんで通じてくれないの………!」

いつもの飄々とした様子は吹き飛び、険しい声色で呟く角谷さん。その横では、スマートフォンを操作していた小山さんが真っ青な表情で肩を落とす。

二度目の廃校宣告が突きつけられた時ですら、二人がこんな表情を見せたことはなかった。そしてそれは、きっと今の僕にも共通する表情の筈だ。

(;^ω^)(………学園艦に深海棲艦が現れたってのもマズいけど、それ以上に不安なのが「J-ALERT」は“別の個体”の出現に対するものだって事だお)

届かないと知りながらそれでも喉をからして叫びつつ、僕の脳裏に過ぎるのはJ-ALERT直後に流れていたニュース速報。

フィリピン海に現れたという新型の深海棲艦。航空戦力を保持するとはいえ、日本本州到達まであとほぼ一日分の猶予があるにも関わらず出された大々的な緊急避難勧告。それは当然、学園艦に対して極めて深刻な脅威になる。

混乱の渦中にある大洗女子学園は、尚更に。

(;^ω^)(蝶野教官が、それが無理でもせめて交代人員が居てくれれば……っ!)

無い物ねだりが無駄と解っていても、そう思わずにはいられない。

粗野な言動ながら自衛官として確かな規律と腕を持っていた蝶野一等陸尉は、インド派兵こそ部隊再編の流れで先送りとなったが原隊復帰に伴って退艦済。代わりの教官となる二等陸尉は、明後日の赴任予定はずだった。

現役の自衛官による避難誘導があれば、どれほど混乱を避けることが出来ただろうか。

教師として生徒を守らなければいけない立場にありながら、混乱を一向に収拾できず他人に頼るしかない自分の無力さがひどくもどかしい。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 23:45:38.19 ID:lpmGg2Ck0
つまんないし読みにくい出直して
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/05(金) 23:55:36.08 ID:dCQGlBda0
《緊急車両が通ります!道を空けて、道を空けて下さい!!》

幾らかの時間を経て、僕の身体は校舎の正面玄関から西住さんたちや他の多くの生徒・教員と共に外へ転がり出る。同時に、正門から赤ランプを回転させけたたましくサイレンをかき鳴らしつつ数台の車両が飛び込んできた。

《一号車、二号車、もう少し車間詰めろ!しっかり入り口を塞げ!》

《車両はまだ来ます、進路に入らないで!》

学園艦の甲板上では、生徒・居住者の安全という観点から自動車の所持には厳しい制限が設けられている。陸付け時の遠出用に民間車両も詰まれてはいるが、大半は第三層の立体駐車場区画に収納されていて“上”を走ることがない。

ただし、それでも7.6kmという大きさを考慮すると徒歩のみでの移動は様々な事態に対応できなくなるため、例えば商業区を走るバスなど一部に例外が存在する。

今僕たちの目の前で次々と停車していくそれらも、“例外”の一角を担っている。

公共に属し、緊急時の機動力を必要とする組織。

《総員降車、総員降車!!展開、射線形成急げ!!》

「生徒の皆さんは早く指定避難場所に向かって!大丈夫、すぐに県警と自衛隊から救助が来ます!」

警察庁管轄下にあり、学園艦において唯一乗船が許可されている武装集団。

「我々保安隊も現在艦内各所で事態の収拾に動いています、どうか安心してください!!」

学園艦保安隊の、装甲車だ。
33 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/06(土) 00:25:38.82 ID:Gd5bPsEi0
ローカルバスほどもある大きな車体に赤い回転灯を光らせた装甲車が、合計6台正門をくぐって停車する。

学園の外に側面を向けてさながらバリケードのような陣形を組んだそれらから降りてきたのは、紺色の制服に身を包んだ70人前後の集団。全員が防弾仕様のヘルメットを被り、サブマシンガン───H&K MP5を構えている。

「………マジかよ」

彼らが展開を完了すると、様子を見ていた同僚の教員の一人が目を丸くした。

「艦橋保安室の直属部隊動かすって、相当ヤバいじゃねーか……」

各学園艦で編成されている保安隊は、大まかに2種類の保安官で構成されている。

一つは、陸でいうところの交番に相当する“駐在所”に赴任した保安官。これは働き場が学園艦の上というだけで内容も交番勤務とほぼ変わらず、装備もニューナンブM60と警棒という一般的なものだ。

もう一つが、司令部に当たる“艦橋保安室”直下の保安官部隊。此方は主に学園艦上でテロや重大犯罪が発生した場合の備えという立ち位置のため、国際条約で許されるギリギリのラインで────具体的にいえば、銃器対策部隊とほぼ同様の装備が支給される。

無論、このため直属部隊の運用には非常に多くの制限があるのだが、これほどの緊急事態となれば動くのは当然といえば当然だ。寧ろ、指揮系統も混乱しているであろうこの状況下でこれだけ素早く展開に踏み切れた艦橋保安室の判断はかなり迅速な方だと思う。

『ォオオアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

………ただし、今回の場合あまりにも相手が悪い。

『キィアアアアアアアアアアッ!!!!』

声高に吠える2体の“生ける軍艦”の20m近い巨体に、たかが70挺のH&K MP5の火線が通用するとはとても思えない。
34 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/06(土) 01:00:29.26 ID:Gd5bPsEi0
生徒達の多くも、やはり保安隊と深海棲艦の間に横たわる力の差は解っているのだろう。幾らか恐慌は治まったように見えるが、それでも一刻も早くこの場から離れようと大半の生徒は第2グラウンドの方へ駆けていく。

だが、その行動を“全員”が取ったわけではなかった。

「………!お父さん、お母さんが!!」

「優花里さんダメ!!」

「こっちは通れない、戻りなさい!死にたいのか!」

「だって、だって妹が居住区に!」

「お願いです、おばあちゃんの無事を確認させて下さい!」

「通して、通してよぉ!ママ、ママぁ!!」

真っ青になって学園の外に向かって走り出した秋山さんを、背後から西住さんが抱き留める。他のあちこちでも、警官や教員に制止されながらも正門から出ようとする生徒が何人も居た。

深海棲艦の内1体が現れたのは“居住区のど真ん中”───相当数の生徒の家族が住まい、生活を送っている場所だ。秋山さんの両親が経営している理髪店もここにある。

街の惨状を、更にいえば深海棲艦の背後で燃え盛る商業区の有様を目にし、自分たちだけではなく“自分たちの家族”が置かれた危機に気づき、彼女達の理性は跡形も無く吹き飛ばされていた。

「西住殿、離して下さい!家に、私の家族のところに行かせて下さい!!!」

「お願い………落ち着いて優花里さん!」

(;^ω^)「秋山さん、気を確かに持てお!」

「グデーリアン、冷静になれ!頼むから行くな!!」

装填手としての怪力を遺憾なく発揮して今まさに西住さんの手を振り切ろうとしていた秋山さんを、僕と松本さんも加わって何とか押さえる。

「離して、離して……お父さん……お母さん………っ!やだっ、やだぁ!!」

3vs1、しかも内1名成人男性という状況でも、秋山さんは抜け出そうと更に激しくもがき続ける。

『オァアアアアアアアアアッ!!!!!』

潤む彼女の視線の先で、深海棲艦はみたび咆哮し────そして、家々を突き崩しつつゆっくりと此方へ進撃を開始した。
35 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/06(土) 01:01:44.59 ID:Gd5bPsEi0
短いのですが仕事の兼ね合いのため復活更新ここまでで一度切ります。明日(今日)から投稿ペース上げたいと思います、お待たせして申し訳ありませんでした。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 01:25:06.84 ID:cCMQXamq0
きっついなぁ、つまんなくて
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 01:37:26.53 ID:NcVYYHZA0
おつおつ
目と鼻の先でこんな事態が起きれば、そりゃまともじゃいられないはな…
おまけにまだ開幕に過ぎないとか恐ろしい
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/06(土) 05:53:33.79 ID:bJZv84qhO
つまんないならわざわざ見に来なきゃ良いのに気持ち悪い暇人だね^^
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 10:50:03.25 ID:gheLiOvGO
この手の返しするやつって読む前から面白いつまらないの判断できるエスパーなのかなって思うよね。頭悪いんだろうな
読んだ上でつまらないってことでしょ
作者が悔しくて自演しちゃったなら、気持ちは分かるけど我慢しなよ
つまらないのは本当のことだし。勿論、面白いと思う人もいるかもだけどね
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 13:11:33.34 ID:5VHwcqyyO
今回も期待大です。楽しみに更新を待ってます。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 15:13:10.95 ID:3lnPnLZ6o
暴言単発アンチが湧くのは人気の証拠
楽しみに待ってる
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 20:47:17.61 ID:cCMQXamq0
気持ち悪いは確かにひどいよな
43 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/06(土) 23:05:01.77 ID:Gd5bPsEi0
「対象A、移動開始!接近してきます!!」

「前衛各班に通達!射撃開始、繰り返す、射撃開始!

住民の避難誘導と平行して対象Aを牽制しろ!!」

指揮官と思わしき保安官が手元の無線機に向かって叫び、居住区の方から響くは連続した銃声。躙り寄ってくる深海棲艦めがけて周囲から幾十本の火線が延び、銃弾が胴や頭部で次々と炸裂した。

『ォオオオォオオ………』

「………クソッ!!」

だが、その火花は相対する敵の巨躯に比してあまりにも小さく儚い。素人目に見ても、毛ほどのダメージにもなっていないのがよく解る。

「対象A、依然進行中!移動速度に変化無し!」

「前衛班より通達、付近市民の避難は区画の混乱と人員の不足により遅延!“暴徒”の鎮圧も難航中とのこと!」

「艦橋保安室に部隊の増強を要請!それと商業区との連絡回復も────うおっ!?」

『ギィアアアアアアアアアアッ!!!!』

深海棲艦が、その図太い胴で周囲を薙ぎ払った。

家屋や、電柱や───遠目故断定はできないが、“人の形”をした小さな点が勢いよく宙に舞う。

「おい、アレ……」

「退避、退避ィ!!」

(;゚ω゚)「伏せろ!!」

「きゃああっ!?」

長方形の巨大な何かが激しく回転しながら飛来し、突風を残して僕等の頭上を飛び過ぎた。

振り向けば、後方50M程の位置に酷く拉げた装甲車が転がっている。
44 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/06(土) 23:18:18.32 ID:Gd5bPsEi0
数秒の間を経て、爆発的な悲鳴が辺りを包み込んだ。

保安隊の到着によって一時沈静化していたパニックが、改めて目の前に突きつけられた“脅威”によって再び激しく燃え上がる。居住区に向かおうとまでは行かずとも、半ば興味本位、半ば楽観的に玄関や校門付近にたむろしていた多くの生徒達が再び津波のような勢いをもって第2グラウンドの方へ逃げ散っていく。

「あぁ……ああぁっ……!!」

ただし、これも“全員”に共通した動きではない。秋山さんを筆頭に、元々居住区の方面に行こうとしていた生徒達は寧ろますます激しく抑え付けようとする人間に対して抵抗を始める。

「行かせて、行かせて……行かせてよぉ!!私が行かなきゃ………お父さん、お母さぁん!!」

「優花里さんっ……!」

(# ω )「────秋山ァ!!!」

こめかみの辺りでプツリと音が鳴り、気がついたら僕は勢いよく平手を振りかぶっていた。

「ひぐっ………」

人を殴った感触がビニール袋を破裂させたような音と共に僕の掌に伝わり、秋山さんが後ろに蹈鞴を踏む。倒れかけたその身体を、両肩口を掴んで引き起こす。

PTAに見付かれば懲戒免職待ったなしだろうが、構うものか。今更自分の職歴に頓着していられるような状況じゃないのだから。

(# ω )「いい加減にしろよお前!!てめえは何だ!?ウルトラマンか?魔法少女か?それとも艦娘か!?

陸なら10式戦車数台束にして迎撃しなきゃいけない化け物に、素手で立ち向かえるようなスーパーパワーをいつの間に身につけたんだ!?」

「……内藤教諭、行かせてください、お願いです、教諭………

お父さんも、お母さんも、あそこに……あそこに……っ」

「っ、先生!」

「落ち着けブーン先生!」

もう一度、秋山さんの頬を打つ。先程まで彼女を押さえていた西住さんと松本さんの手が、今度は僕の腕や肩に添えられていた。

(#^ω^)「家族が心配なのはよく解る!特に君は人一倍両親想いなのを教師として知ってるからな!行かせられるならそうしてる!

でもお前さっきの保安隊の会話聞こえていたよな!?学園艦上の最重武装部隊が避難誘導に尽力してて、それでもなお進捗は芳しくないって!

ただでさえ混乱状態のところに、戦車から降りたら何の技能も持たない───せいぜいクラブ活動で使えるサバイバル技術程度しかない一般人が飛び込むことが………どれだけその避難誘導に対して“妨げ”になるかって考えてるか!?」

「────えっ」

a暴れなくなったものの虚ろな表情で解放を懇願していた秋山さんの目が、はっと見開かれた。

(#^ω^)「しっかりと思い出させてやるけどな、お前はなんら怪物を倒せる力を持ってないただの2年C組の秋山優花里なんだよ!僕がただの無力で無能な現国教師であることと同じで!!

その無力なお前があそこに飛び込んで、負担が増えた保安隊はどうなるだろうな!?それこそ、巡り巡ってお前の両親さえ危険に晒しかねないって事を理解しろよ!!!」
45 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/06(土) 23:54:19.53 ID:Gd5bPsEi0
学園艦保安隊の人数は、決して潤沢とは言い難い。この未曾有の大混乱の中にあっては、例え一人分であっても守らなければいけない対象が増えることは大きな負担だ。

ましてや居住区は、今まさに混乱の“元凶”が暴れくるっている場所なのだ。たった一人分でも負担が増せば、防衛線全体に影響する綻びになり得る。

そもそも本来なら、今この瞬間彼女の説得に割いている時間さえ生死を分けかねない程の異常事態なのだから。

(#^ω^)「………本気で両親の事が心配なら、それこそ学園艦の外に一刻も早く避難してやれお。せっかく保安隊に救助された君の両親が、避難生徒名簿の中に“秋山優花里”の名前がなかったらどれほど悲しむか解るかお?

両親だけじゃない。この状況でも先に逃げず、君が落ち着くのを待ってくれてる西住さんたちだって悲しむお」

「……アリサさんはどうか知らないが」

「強制徴用され巻き込まれた挙げ句この仕打ち、実にFuckね」

「………」

麻子さんが低い声で茶々を入れ、アリサさんがわざとらしく眉を顰めて肩を竦める。少しだけ周りの空気が弛緩したが、秋山さんは僕が手を離した後も俯いたままだ。

とはいえ、先程の狂気じみた雰囲気は消えたし居住区に向かおうとするような素振りも見せてはいない。ひとまずはこれでよしとする。

(#^ω^)「他の奴等、聞こえたか!?お前らがやろうとしてる事も同じだ!!

自分が死にたいだけじゃなくて、実は積極的に家族を殺したい生徒だけ居住区に行け!!それが嫌なら、速やかに第2グラウンドまで走れ!!」

暴れくるう深海棲艦の騒音に負けぬよう、精一杯声を張り上げる。秋山さん同様居住区を目指そうとしていた生徒達も、徐々に抵抗をやめて同級生や風紀委員、教員達に連れられて正門から離れていく。
46 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 00:12:50.17 ID:dUa8vtWv0
( ^ω^)「小山さん、河嶋さんと武部さんは?!」

「それが、まだ連絡が……あっ、今二人とも玄関から出てきました!」

( ^ω^)「二人をこっちに誘導してくれお!西住さんと松本さん、秋山さんに肩を貸して!」

「じゃあ皆、駆け足で行くよーー!!戦車道でしっかり鍛えたんだ、たかが第2グラウンドまで走るのにばてちゃダメだからね!!」

『ギィアアアアアアアアアアッ!!!!』

角谷さんの号令に従って、僕等も校内生徒のしんがりを担う形で避難を再開した。背後からは相変わらず深海棲艦による暴虐の音が聞こえてくるが、幸いまた此方にモノがとんできたり進撃する速度が速まったりといった事態は起きていない。

「………ダメだ、ボクのスマホ、うんともすんとも言わない」

「猫田にゃーさんもか〜、実は私も、なんだよね。麻子は?」

「……お婆から着信が入っていたから折り返そうとしたが、繋がらない。何も起きずに切れる」

(;^ω^)「……避難中に私語はやめなさいお私語は」

怯えるときは怯えるが、彼女達は修羅場慣れしているせいかイヤに立ち直りが早い。まだ深海棲艦の鳴き声やら何やらが余裕で聞こえてきているというのに、小走りで避難場所へ向かいつつ早くも情報交換が始まっている。

「みぽりんのスマホはどう?」

「ごめん、私のも無理みたい。……あれ、でもメールは送れる」

「あ、本当だ。今隊長のメールが私の所に来ました」

「えっ!それ本当梓ちゃん!じゃあ私も家族に───送れなーーーい!!やだもーーーーー!!!!」

武部さんが、走りながら肩を落として落胆するというなかなか器用なアクションを見せた。ややオーバーな動きながら家族に連絡が出来なかったというのはわりかし本当にダメージを受ける内容だったらしく、眼にはうっすらと涙が浮かぶ。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/07(日) 00:13:43.38 ID:5MI42vUe0
何か読んでて恥ずかしくなった
48 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 00:46:57.93 ID:dUa8vtWv0
「………余所者な上についさっきレイゼンにノって巫山戯たばっかりの私がいうのも何だけど、まだあの化け物からろくに距離を取ってすらいないのに大したリラックスぶりね」

( ^ω^)「HAHAHA」

漫画学科で使う教科書に載せてもいいレベルの典型的な「ジト眼」を見せるアリサさん。僕としても些か反論に困るため、乾いた笑いで誤魔化しておく。

( ^ω^)「ま、足でも止めるならともかく避難とに支障が出ないなら多少はね。

……それに、これは多分彼女達なりの思いやりでもあるんだお」

「………あぁ」

アリサさんはちらりと秋山さんの方に視線を向け、合点がいったとでも言いたげに頷く。

秋山さんの表情は相変わらず暗く、5歩10歩という短いスパンで頻繁に後ろを振り向いている。西住さんと松本さんが横で併走しつつ様子を窺っているが、仲のいいこの二人に対してもろくに反応を返していない。

秋山さんは本来、角谷さんから直々に副会長への立候補を依頼される程度には聡い生徒だ。自分が居住区に無理やり行くことの“愚”は、十分に理解していると思う。

ただし、それでも“家族があの災禍の只中にいる”という事実は変わらない。不安に思うな、心配するなと言う方が無理な話だろう。

「他にも居住区に家族がいる奴等もいるでしょうに、それでもオッドボールの事心配してやれるのね」

( ^ω^)「大洗女子学園の戦車道チームは、そういう子たちの集まりだお」

有事の中にあっても、他人を思いやる気持ちを忘れない────口で言うのは感嘆でも、それを自然に出来る人間は極稀だ。そして彼女達は、西住さんを筆頭に全員がそれを出来てしまう。

戦車道は座学部分にしか携わっていないただの現国教師が言うのも烏滸がましいが……本当に、彼女達は素晴らしい「チーム」だ。
49 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 01:25:52.37 ID:dUa8vtWv0
(;^ω^)「しかし、真面目な話こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないお。アリサさんはここの生徒じゃないわけだし」

「ええ全くね───と言いたいところだけど、私は私でオッドボールの真似事してなきゃ今更こんなことにはなってないしね。学区から追い出されたとしても幾らかは遊んでから退艦する予定でもあったし、どのみち巻き込まれてたわ」

そう言ってやれやれと肩を竦めるアリサさんのアクションは、非常に様になっていた。流石はサンダース大附属の生徒と言ったところか。

「で、そこの一年生がなんでこっちを睨んでるのかって貴方心当たりは?」

(;^ω^)「えーと、宇津木さん?何かあったかお?」

「…………いーえー?特には?」

意味ありげな視線に気づき問いかけるが、宇津木さんはぷいとそっぽを向く。

「ただ、生徒に私語を注意しておいて自分はアリサさんと喋りすぎなんじゃないかなーって、思っただけよ〜?」

(B´ω`)「…………言われてみればその通りだおね。気をつけるお」

おさない、かけない、しゃべらない。小学校の避難訓練でさえやるような初歩の初歩を教師が自ら破っていては世話がないし、ましてや秋山さんを怒る資格などない。自分の愚かさに、自己嫌悪が胸の内を満たし顔に縦線が降りる。

「ヘイ一年?boonの奴割と本気でヘコんでるわよ」

「えっ、へっ!?せ、先生〜?軽い冗談だからそこまで気にしなくてもいいんじゃない〜?」

「………あー、ブーン先生?第2グラウンドってそこまで遠くないし着くまでに気を確かに持って貰った方がいいんだけど」

「内藤教諭、私は気にしてませんし寧ろ感謝しておりますので元気をお出しください!!」

(B ω )「おぉーん………」

「ダメだこりゃ。皆ー、ブーン先生一時的に沈んじゃったけど第2グラウンドまであと少しだから頑張って────」
50 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 01:44:11.42 ID:dUa8vtWv0
更新ペース上げる(+1P)
明日というか今日というかもまた同じ時間帯で投稿します。ご静聴ありがとうございました。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/07(日) 02:20:05.08 ID:+u1jOlRA0
おつおつ、先生よく頑張った…
ベルリンの時に比べれば今後対応できる戦力は桁違いでも、現場での対応力がなきゃ無理ゲーだしなあ
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/07(日) 15:53:22.36 ID:iStEIucI0
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/07(日) 16:00:36.50 ID:b2hh+Oh9O
これはひどい
54 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/07(日) 23:17:08.00 ID:dUa8vtWv0
三度目の揺れ。角谷さんの言葉が、途切れる。

三度目の轟音。僕の意識が、現実に引き戻される。

僕も、角谷さんたちも、周りの生徒や教員も、誰もが足を止めて後ろを振り返る。それが“避難”として正しい行動ではないと知りつつも、足を止めずには居られない。

正門に展開する保安隊の眼前で道路が隆起する。砕けたコンクリートの下から、二本の腕を使って“それ”はゆっくりと這い出てきた。

『─────』

二本の腕に二本の足、股と腰、胸部の三つのパーツで構成された胴。オタマジャクシの出来損ないのような形状をした先の2体に比べると、それは───15m近い巨体と蝋のように白く血の気のない体色を除けば、幾らか僕たち「人間」に近い形をしているように見える。

故に、肩から上の異様さが尚のこと際立った。

「ひっ……………」

先の2体とはまた別種の“異形”を目の当たりにして、大野さんが微かに悲鳴を上げる。

胴に対して明らかに大きすぎる、楕円球形の頭部。「それ」の艤装と思われる砲塔や銃座が、実用的とは到底言えない無秩序さでそこかしこから伸びる。左目に当たる位置は無造作に刃物を入れられたような歪な“切れ目”となっているのに対し、右眼に当たる位置からは単装砲が生えている。

人を2、3人纏めて飲み込めそうな顎には唇がついておらず、剥き出しにされた白い歯が無機質な輝きを放っていた。

“人間を作ってごらん”と言われた年端もいかぬ子供が、無造作に粘土を捏ねくり回した挙げ句に出来たようなおぞましい姿。

パブロ=ピカソが描いた【ゲルニカ】の中にコイツの模写が混じっていたってきっと気づけやしない────そんな化け物が今、学園艦の甲板上に佇んでいる。
55 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 23:29:15.20 ID:dUa8vtWv0

「…………何なの、あれ」

「……………決まっているだろ沙織、アレも深海棲艦だ」

「言われなくても解って───ぴぃっ!?」

『──────ゲア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…………』

武部さんのヒステリックな叫びを遮る形で、“3体目”が唸る。

『グガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』

先の2体が上げる咆哮よりも遙かに低い響きの、例えるなら蒸気船の汽笛を幾つも重ねたような鳴き声。それを耳にして、全身の肌がブワリと泡立つ。

2匹のバカでかく不細工なオタマジャクシに関しては、僕は“深海棲艦”であることしか解らない。後は、見た限りの形状から駆逐艦種と推測できる程度だ。

だが3体目の個体については、僕は“別の呼び名”を知っている。

( ゚ω゚)「…………いしろ」

「……内藤教諭?今何と────」

(;゚ω゚)「皆、散開しろ!教員も生徒もとにかくばらけて、できることなら木の下や建物の影に逃げ込め!!」

2011年10月27日。同月に重巡リ級との交戦で確認された“ヒト型種出現”の衝撃から2週間と経たぬ内に発生した、タイ海軍と深海棲艦の海戦。

タイ王国が保有する唯一の空母【チャクリ・ナルエベト】が海の藻屑と化すことになるこの戦いで、人類は初めて“艦載機を運用”する個体と─────








「“空襲”が始まるお!!!」

─────“軽空母ヌ級”と、遭遇した。
56 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/07(日) 23:59:51.56 ID:dUa8vtWv0
唸り声はいつの間にか止まっている。にもかかわらず、ヌ級の顎は閉じられない。身体を折り曲げ、四つん這いになりながら奴は寧ろ口をますます大きく、普通の人間なら間違いなく顎関節が外れるほど目一杯に開けた。

「一体、」

何をするつもりなのか。言葉を発した女生徒の一人がその台詞を最期まで言い切る前に、その答えを示す形でヌ級の口から黒く小さな点が群れを成して飛び出した。

(;゚ω゚)「っ、もう一度言うけど皆急いでここから離れろ!とにかく頭上を遮れる場所に移動を急げ!!」

「皆さん、内藤教諭の指示に従って下さい!!お友達同士で固まってる方達はばらけて、開けた場所を避けるように!」

「幸い300M先に自然観察用の樹木園がある、そこまで遮蔽物になるべく身を隠しながら走れ!!」

「こっちの屋根の下に行こう!高さも広さもある!」

「ゴミ箱の影………き、汚いけど我慢!」

僕の剣幕に何かを感じ取ってくれたのか、秋山さんが続けて指示を飛ばしたのを皮切りに一斉に周囲の皆が動き出す。同僚達も避難誘導に加わってくれ、西住さんたち以外の生徒も多少の「慣れ」が出てきたのか素早く行動に移し始める。

だが、如何せんあまりにも時間が足りなさすぎた。

「────っ、───!!」

「────!!?」

「───っ、…………」

風に乗って聞こえてきた、入り乱れる銃声と叫び声。保安隊の人達が上げているものと思われるそれらは、十秒と経たぬ内により別の騒音に掻き消され、徐々に小さくなっていきやがて完全に聞こえなくなった。

そして、その代わりに僕等を背後から追いかけてくる「音」がある。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 00:21:52.47 ID:oslAuK/oO
絶望的なのはつまらなさ
58 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/08(月) 00:29:41.21 ID:ZkbNveRG0
飛び回るハチドリの羽音のような、或いは獰猛な肉食獣の威嚇音のような、連続的な音色。風切り音を伴ったそれは、僕たちに近づくにつれて高く大きくなっていく。

「何、何?何この音ぉ!?」

「う、上から、何か近づいて来て………」

降ってくる音────最早現代の空からは駆逐されたはずの、レシプロエンジンの駆動音。何十機分もが重なって上空で鳴り響く中、突出してきたらしき一際大きな音の主が僕の頭上に差し掛かった。

(;^ω^)「────やっべぇっ!!!」

「きゃんっ!?」

「Ou!?」

背筋に走った、氷柱を直接突っ込まれたかのような強い悪寒。咄嗟の判断で、僕のすぐ前を走っていた宇津木さんの腕を掴み横に居たアリサさんを肩で突き飛ばす。

二人ごと宙を浮いた身体は、通路を飛び越えて道脇の自転車置き場の中に転がり込む。直後、僕等が居た位置をアスファルトを削り取り機銃掃射が駆け抜けた。

悲鳴があちらこちらで上がるけれど、他の誰かが犠牲になった様子もない。樹木園への避難を開始する前に予め全員を散開させたのは幸い功を奏してくれたようだ。

「いたたたた………や、やだもぅ〜、先生ったらだいたーん」

「Damn………Hey boon!!タカシに振り向いて貰う前に傷物になったらどうしてくれるのよ!!」

(;^ω^)「まだいつものノリを出せるのは賞賛に値するけど自重してくんねえかな!?」

まぁ元気そうなのは何よりと言えば何よりだが、この状況下で脱力させにかかるのはやめてほしい。
59 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/08(月) 01:03:51.06 ID:ZkbNveRG0
「っ、ブーン先生!宇津木さん、アリサさん、怪我は!?」

(;゚ω゚)「園さん、戻っちゃダメだお!!」

「そど子、上だ!!!」

「────へ?」

僕たちの安否を気遣い、逃避行を中断して踵を返す園さん。そこに、直上から急降下する“機影”が一つ。

「園さん、危ない!!」

「ひゃっ!?」

火線が放たれるのと園さんに西住さんが飛びついたのはほぼ同時だった。間一髪、弾丸は西住さんの靴底を掠めて地面に突き刺さり、敵機はそのままボールが跳ね返るような軌道を描いて空へと戻っていく。

「「きゃああああああっ!!!?」」

何十メートルか向こうでは、更に別の機影が生徒二人を追い回す。彼女達が鉄製ゴミ箱の影に飛び込むと、そのまま放たれた掃射が表面で火花を散らし無数の穴を開けた。

その様子に、ぞわりと全身の毛が逆立つ。あんなもの、一発食らっただけでも手足の一本や二本は確実に引き千切られる。

(;^ω^)「西住さん、園さん、怪我は無いかお!?」

「こっちは大丈夫です!」

「私も!西住さんのお陰で傷一つ無いわ!」

(;^ω^)「ゴミ箱の所の二人は!?」

「こっちも大丈夫です!」

「すぐに動けます!」

(;^ω^)「あいつらがまた来る前に避難再開!

とにかくエンジン音の接近に注意するお!!」
60 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/08(月) 01:21:29.02 ID:ZkbNveRG0
加速どころか寧ろ更新ページ数が減ってしまった……申し訳ございません。

明日は18:00以降フリーなので大盛り更新頑張らせていただきます
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 01:44:57.04 ID:LnUCpndSO
そど子・デア=フォーゲルヴァイデ
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 01:46:07.31 ID:MCfQLJAA0
おつおつ
まったりペースでも構わないのにw
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 09:18:11.21 ID:oslAuK/oO
更新ペースよりも内容と文章を読み返したら?きついわ
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 10:44:12.95 ID:MCfQLJAA0
年末年で熱心に始張り付くその姿勢は認めるけど、いい加減もう少しマシな事にその労力使えばいいのに…
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 11:32:05.00 ID:y/gB/ajD0
お、ブーメランかな?
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 21:16:08.52 ID:i+bVVDkMo
あまりボッチをいじめないでやってくれ
67 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/08(月) 22:00:14.89 ID:4Tt2hLBIO
単純に書きためが間に合わなかったので更新明日お昼にずらさせていただきます。申し訳ございません。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 01:23:25.42 ID:2JzqNIWxo
>>67
気にすんな。頑張れ
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/09(火) 08:57:14.12 ID:+Jgp1YMPO
単発あらし君はいつも夜の12時くらいに書き込んでるけど底辺社畜かな
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 09:12:02.21 ID:8zXxVDGJ0
↑ここまで自演
↓ここからも自演
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 12:00:47.14 ID:ymQYnkowO
自演はみんなやってるから良いだろ
72 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/09(火) 20:08:35.36 ID:mMdsrWauO
新年の忙しさ嘗めてた……お昼どころか今日の更新自体が難しいです、お待たせしてすみません。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 20:30:36.75 ID:87CCs8AA0
ドンマイですw
気長に待ちますよ〜
74 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/11(木) 23:04:11.47 ID:XQqGvl4N0
三人同時に路上に飛び出し、走る。視界の端に、他の四人も駆け出す様子がちらりと映った。

たちまち、十数機が奏でる独特の風切り音が頭上から僕等に迫る。

「やっ……」

(;^ω^)「止まるな!」

何条かの火線が上から降り注ぎ、僕等の周りで機銃弾がコンクリートを砕き白い煙を上げる。身を竦めかけた宇津木さんの腕を取って強引に併走させていると、すぐさま新手の編隊が追ってきた。

「Fuck、速いわね!」

(;^ω^)「そりゃ二次大戦時のとはいえ戦闘機の性能持ってるからな!!」

樹木園まではあと250m程だろうか。軽いランニングでも一分かからないような距離だが、何せ追いかけっこ相手の最高時速が600km/hだ。

今の僕たちにとって、この逃走距離は42.195kmのフルマラソンより険しく長い。

「敵機来ます、皆伏せて!!」

(;^ω^)「おぉおっ!?」

西住さんの叫び声に、全員が身体を投げ出すようにして地面に突っ伏す。

銃火が頭上を過ぎ去り、ほんの数メートル先のアスファルトが無数の弾痕に覆われた。
75 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/11(木) 23:21:44.84 ID:XQqGvl4N0
「内藤教諭、西住殿、皆さん此方へ!!」

「他の子たちはもうだいたい指定避難場所に向かってるよ、安心して!」

「後は西住隊長と先生達だけです、早く!!」

僕達七人が意図せずして囮のような役割を果たし深海棲艦機の攻撃が集中したことによって、他の生徒・教員の大半は既に空襲から退避した。樹木園の入り口には秋山さんと角谷さん、澤さんが待機しこっちに向かって必死に呼びかけている。

「其方の二人はまだ走れますか!?」

「は、はい!大丈夫です!」

「私も佳奈も走れる!西住さん、心配しないで!」

(;^ω^)「あと少しだお、次の空襲が来る前に辿り着ける!!」

「は、はぃ……」

「おぇっ……」

少々息が荒いアリサさんと宇津木さんを引き起こしながら励ましの言葉を掛けるが、あと150m程の距離を奴らが来るまでに0に出来るだろうかと僅かに不安が過ぎる。現に、もう次の“波”が突っ込んでくる音が────

( ^ω^)(…………あれ?)

ふと、違和感。奴等が奏でるエンジン音は確かに相変わらず頭上で鳴り響いていたが、それが徐々に遠ざかっているように感じられた。

だが、それが何故なのかを考察する必要性はすぐになくなる。








(;゚ω゚)「おっ─────」

オレンジ色の炎を吹き出し、此方へ向かって猛烈な速度で落下してくる“何か”を目にした瞬間に。
76 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/11(木) 23:58:05.43 ID:XQqGvl4N0
「─────西住ちゃん、先生、早く逃げて!!!」

「What, what, what!!!?」

「な、な、何よアレぇ!!?」

「とにかく今は前だけ見て!!走れ、走れェ!!」

「────痛っ!?」

未だかつて聞いたことがないほどの焦りを含んだ角谷さんの叫び声と、西住さんの鬼気迫る檄。全員が弾かれたようにその場から走り出すが………一秒と経たぬ内に、一人が小さく悲鳴を上げる。

「うっ……」

「優季ちゃん!!?」

(;^ω^)「っええい!!」

深海棲艦機の空襲によってひび割れたアスファルトに足を取られ、宇津木さんが転倒する。痛めたのか膝のあたりを押さえ蹲る彼女のもとへとって返すが、“落下物”はもう既にあと数秒と経たずに地面に到達するだろう。……しかもよりによって、落下地点は宇津木さんの直上ときている。

(;^ω^)「────宇津木さん、痛くなるけどすまんお!!!」

「えっ………ひゃああっ!!?」

考考えるより前に、身体が自然に動いた。宇津木さんを抱え上げると、反動をつけて後ろへと放り投げる。同時に、僕自身はその勢いを駆って物体の落下地点の向こう側へと身を躍らせる。

「…………ッ!!」

「きゃっ!?」

投擲先には、僕と同時に踵を返していた西住さんが居る。彼女は持ち前の身体能力で宇津木さんをお姫様抱っこの要領でキャッチしつつ、後ろに自分から倒れ込むことで衝撃を逃がしていた。

(;゚ω゚)「うぉうっ!?」

流石西住さんと感心する間もなく、目の前に火達磨になって拉げた“落下物”が眼前に突き刺さる。腹を下から突き上げるような、“ズンッ”という震動が視界を揺らす。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 00:15:34.33 ID:AqBPqhNZ0
どんな顔してこんなもの書いてんだ
78 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 00:34:18.90 ID:zkSUgY8K0
────落下物の側面、拉げ穴だらけになった扉に【日ノ出テレビ】の文字を見つけ、それが深海棲艦機に撃墜された報道ヘリだと気づいたときには、僕にはもう時間は残されていなかった。

(; ω )「うあっ………」

バチバチととんでいた火花が燃料にでも引火したのか、機体が一際大きなオレンジ色の炎を吹き出した後に爆散する。幸い3m程の距離があったため巻き込まれて木っ端微塵になることは避けられたが、爆風に吹き飛ばされた僕の身体は5メートルほど後ろで花壇に叩きつけられた。

(メ; ω )「ゲホッ………」

肺から酸素が逃げていき、体中を苛む激痛と併せて意識を朦朧とさせる。著しく機能低下した耳が、何かがひび割れていくような音が近づいてくるのを捉える。

「ブーン先生!!!」

音の正体が、ヘリが爆発炎上した場所から伸びるひび割れが僕のもとまで到達したのと、宇津木さんの叫び声が響いたのはほぼ同時。

アスファルトが砕け、甲板が崩落し、身体の下から地面が消失する。ぽっかりと口を開けた暗い裂け目に、為す術無く落ちていく。








(メメ ω )(………シュー)

死の間際の走馬燈の代わりに、脳裏に浮かんだのはシュールな幼馴染みと最後に飲んだときの光景。

それを噛みしめる間すらなく、僕は意識を手放した。
79 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 00:59:23.38 ID:zkSUgY8K0



《ご覧いただけますでしょうか!?これは【テレビ日ノ出】の独占スクープ映像です!大洗女子学園の至る所が炎上し、甲板上に………おい、なんか上がってくるぞ!回避しろ、回h》

《…………………え、えー、ただ今、映像に乱れがありましたことをお詫び申し上げます。テレビ日ノ出では、引き続き番組の予定を変更して深海棲艦関連ニュースを放送致します》

《現在大洗港近辺には陸上自衛隊が展開、交通を制限。また百里基地にも自衛隊車両が複数入ったとの情報が───》

《大洗女子学園上空を飛んでいたテレビ局の報道ヘリが、何らかの攻撃を受けて墜落し甲板上で爆発が起きたとのことです。繰り返します、現在真偽は確認中ですが、大洗女子学園上空で───》

《フィリピン沖から日本本州へ向けて北上中の“新型”に関する情報はまだ公開されていませんが、既に関東・中部・近畿沿岸部には緊急避難警報・空襲警報が発令され、付近警察・消防による避難誘導が───》

《大洗港に停泊中だった船舶はプラウダ学園を初め民間・公共問わず全隻が緊急出港。また、海上自衛隊の防空指揮艦【かが】並びに艦載機部隊も一時洋上退避し───》

《茂名官房長官は先程緊急記者会見を開き、大洗女子学園の混乱の収拾と新型深海棲艦の撃滅を両方約束すると宣言。国民に落ち着いた行動を取るよう呼びかけ───》

《たった今入ったニュースです。政府は先程、太平洋海上において新たに極めて大規模な深海棲艦艦隊の浮上を確認したと発表。この艦隊は戦力を二手に分け、ハワイ方面と………南鳥島方面へ向かっているとのことです》

《政府は自衛隊・艦娘による領海の死守を約束する一方、東北沿岸の一部にも空襲注意報を発令しました。

該当区域の皆様はテレビ・ラジオを注視し、避難指示があった場合すぐに動けるようにして下さい。

また、今後鳴らされるJ-ALERTは全て訓練ではありません。J-ALERTが鳴った場合、必ず内容を確認し、適切で冷静な行動を心がけて下さい》
80 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 01:02:58.61 ID:zkSUgY8K0
ここまで二日ぐらいで来たかったのに2週間って………明日から改めて加速できるようガンバリマス。
本日はひとまずここまでです
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 10:44:34.08 ID:XjXQebbA0
おつおつ
主役補正(丸腰の一般男性・女子高生)じゃ為す術無いとは言え、先生も頑張ってたが…
82 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:01:53.39 ID:zkSUgY8K0







【学園艦棲姫】の出現と、フィリピン海防衛線における交戦開始───この報告が入った時点で、南は既に横須賀司令府の地下総司令室に近習数人と一部閣僚を伴って移動を完了していた。

別にこれは、自ら艦娘の主力や海上自衛隊を指揮しようという勇ましい意図の表れではない。【学園艦棲姫】が強力かつ膨大な航空戦力を持っている可能性が指摘された段階で、空襲のターゲットとなり得る永田町から退避し現状最も強固な防御力を持ち避難手段も豊富な横須賀司令府が移動先に相応しいという判断からのものだ。

見ようによっては“臆病風に吹かれた”と取れなくもないし、実際南自身自分を勇敢な人間だと思ったことは一度も無い。何より、この事が外に知れれば「国民が危機に晒されているときに安全圏に一人で逃げた首相」と見る人間は少なからず居るだろう。

そして、南は「そうなるならそれでしょうがない」と割り切っている。

彡(゚)(゚)(ワイが空襲やら何やらで死んで、有事のど真ん中でクソ無能が指揮取るハメになるより億倍マシや)
83 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:07:00.76 ID:zkSUgY8K0
南は自身の能力を過不足無くある程度正確に推し量った上で、今の情勢で日本をとりまとめられる人間は自分しかないと結論づける。

彡(゚)(゚)(強いて言うなら茂名の爺さんやが、あの人は貫禄が不足しとるから野党がうざったくなる。他の有象無象は概ね空中分解待ったなし)

南が深海棲艦の出現前より自衛隊関連法案の整備に取りかかっていたとき、彼の改革に反対する(自称)平和主義者からよくぶつけられた質問がある。

曰く、戦争になったとき、首相は前線に立って戦うのか。

彡(゚)(゚)(これ言い出したの、どこのバカやろなぁ)

どうも彼らは南に効果的な文句だと勘違いしている節があり、遊説中やら講演時やら記者会見やら、あらゆる場所でこの失笑モノの質問をぶつけてきた。政治討論系のテレビ番組で知識派で売っているはずのコメンテーターが口に出してきたときには、堪えきれず腹を抱えてたっぷり一分間は爆笑してしまったのを覚えている。

彼らの脳内では、何故か常に戦争は日本が起こす側であり外国から宣戦布告を受ける事は絶対に有り得ないと決め付けている節がある。すぐ近くにある半島の北側に、核ミサイルを研究し常に「日本列島を破壊し尽くしてやる」と脅しをかけてくる軍事独裁国家が現存するにもかかわらず、だ。
84 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 15:32:43.40 ID:zkSUgY8K0
彡(゚)(゚)(戦国時代とか中世ヨーロッパから脳の進化が止まったのかな?)

或いは映画【インディペンデンス・デイ】のトーマス=J=ホイットモア大統領でも意識したか。いずれにせよ、“日本側が宣戦布告する”と決め付け、“日本への宣戦布告は有り得ない”と思い込んでいる人間の的外れな指摘であることは変わらない。

日本が“有事”をふっかけられた際の備えには手を抜かない、一方で“有事”を着地させられる力がある人間は、出しゃばらずに安全な場所で自分の義務を着実に果たす────それが日本と、その国に住まう人々の生活を護るために最も適した形として現状南が辿り着いた考え方だ。

まぁ、打算が皆無かといえばそうではない。横須賀は避難警報が出されている区画の一つであり、これを母港とする学園艦【聖グロリアーナ】の乗員・居住者・生徒も保安隊の誘導で退艦を開始した。

仮に横須賀司令府に行ったことがリークされても、本州での陸戦が始まった場合の最前線となる場所に首相が自ら赴いているとなればマスコミや反政権側としては叩きにくい………そんな算盤も、胸の内では弾かれた。また実務的な面でも、本来秘匿されている“海軍”の投入や他国との連携、迎撃作戦が領海外に拡大した場合など政治的な判断を現場に即座に下ろすことが出来るという大きなメリットが存在する。

メリットとデメリット、理想と現実を正確に推し量り、有事でも果断に行動できる───南が“異生物による世界規模での侵略”という前代未聞の“有事”にあって日本をこれまで守り抜いてこられたのも、飄々とした言動の裏に隠されたこの柔軟な対応力があればこそだろう。
85 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 16:56:50.56 ID:86iPh8W7O
………だが今起きている事態は、南の、否、日本全体の対処能力をさえ既に超えつつある。

「大洗女子学園、甲板上に報道局の回転翼機が墜落!火災も発生!」

「何故飛行制限がかかって……っ!過ぎたことは仕方ない、報道各局に大洗港付近全域での飛行禁止令を通達しろ!許されるギリギリのラインまで締め上げて構わない!」

「ヌ級flagshipの動向には特に注意しろ、空母艦娘並びに各鎮守府・警備府の基地航空隊は厳戒態勢を維持!」

「ミャンマー、マレーシア、タイなどASEAN各国の空軍は学園艦棲姫への攻撃準備を完了、しかしながら自衛隊と艦娘の支援がなければ攻撃を掛けることは不可能と通知あり!」

「中部や沖縄から一部でいいから機体は上げられないのか、もたもたしていると棲姫の航空戦力の発艦を許すぞ!」

「各学園艦の状況確認が済まないと無理です、戦力を動かしてから大洗と同じことが起きれば被害は際限なく拡大します!」

「各警備府から艦娘を動員、それと陸自と警視庁にも要請を入れろ!最長一時間、できるならその半分で全艦の安全確認を終わらせるよう伝えるのも忘れずにな!」

「アメリカ国防省より情報共有あり、南鳥島に向かう深海棲艦は凡そ300隻超。艦種詳細不明も、少なくとも装甲空母姫4、戦艦棲姫2は確認されているとのことです」

「南鳥島鎮守府提督より迎撃部隊抜錨の報あり。時刻ヒトヨンニーイチ、全八個艦隊48隻による迎撃です」

「第5防空機動艦隊に艦載機全機発艦を指示。南鳥島の艦娘部隊を支援させろ」

彡;(-)(-)「………」

照明やディスプレイが放つ、人工の光のみに照らされた司令室の中。最上段の席に腰掛けながら、南は周囲の喧噪を耳にしつつ瞑目する。

即断即決を信条とし、国内外問わずその果敢迅速な行動力によって国内外問わず多くの政治屋を翻弄してきた男が、眉間に皺を寄せ心底から苦悶していた。
86 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/12(金) 18:03:48.68 ID:86iPh8W7O
「首相……」

呼びかけらた声に反応し、眼を開き顔を上げる。すぐ横に、いつの間にか一人の男が直立不動で佇んでいた。

彡(゚)(゚)「………お前さんの接近に気づけんとはボケすぎやな、ワイも」

(☆...●)「…………どういう意味ですか、それは」

男はそう言って不満げな様子を見せるが、正直なところ南の指摘は的を射ている。

身長209cm、体重135kg。180cmで十分高身長と言われる日本の成人男性において、この体躯は時代が時代なら人外扱いの一つも受けていたであろう。体格は“あの提督”程ではないにしろ筋骨隆々と言って差し支えなく、身長に至っては向こうよりも10センチ以上高い。顔は右眼がざっくりと縦横に走る大きな傷で潰れ、左眼のギョロリと剥かれた眼孔の迫力を助長している。引き結ばれた口元にも無数の傷が走り、顔だけ切り取ってホーン●ッドマンション辺りで飾っておけばいい案配に迫力を増してくれることだろう。

そんな、巨漢の────海上自衛隊三将にして艦娘部隊【元帥】、王嶋清人(おうじま・きよひと)の接近に気づかない鈍感な人間が、この世にどれだけいるかは疑問符が付く。

彡(゚)(゚)「そのまんまの意味や。ジェイソンが白昼堂々街中練り歩いてて気にならん人間なんて滅多におらんやろ」

(;☆...●)「………少しは気を遣っていただいてもバチは当たらないと思いますが」

思ったままの事を言ってやると、王嶋は今度は酷く傷ついた表情で頭を掻く。

全くこの男は、図体はデカいくせに昔から繊細だ。

彡(゚)(゚)「ほんま、ナリはデカいのに神経ほっそいよなぁ」

(☆...●)「首相、貴方の言葉はとりわけ強烈な武器になることをもう少し自覚すべきです」
87 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 18:39:08.25 ID:fHC45+5tO
いよいよ声を荒げる王嶋だったが、南の顔つきを見て諦めたように一度ため息をついた。

(☆...●)「………まぁ、首相も連日連夜の外交や党内調整、【艦娘自己自衛権】関連の詰めで出突っ張りだったところにこの事態です。気を抜きたいのは解りますが、せめて“いじり”はもう少しマイルドにしていただけるとありがたい」

彡(゚)(゚)「善処するわ」

口ではそう軽く返しながら、南は視線で自身の意図を汲んでくれた王嶋に感謝の意を示す。

気心の知れた人間との口さがないやりとりは、疲弊した脳を休ませてくれる貴重な存在だ。思考の柔軟性を維持するにあたって、今のような会話も南にとっては仕事の一環に他ならない。

彡(゚)(゚)「さて、聞かせて貰おか。大洗女子学園艦内の状況はどうなっとる?」

(☆...●)「はっ。先ず商業区ですが────」

彡(゚)(゚)「待った。時間も短縮できるし、どうせここは勝手知ったる横鎮や。

“いつも通り”にいこうや、キヨやん」

(☆...●)「………OKだ、ヨシ」

南の提案に頷くと同時に、王嶋の口調と態度から堅さが消える。彼は横の椅子を引いて腰掛けると、手元の紙束をバサリと此方の前に放り出した。

(☆...●)「単刀直入に結論を言うが、状況は40分前と同じ。新しいことは何一つ解っていない。

真新しい報せと言えばお前も今聞いてただろうが、せいぜいスクープを焦ったテレビ局のバカがヘリで学園艦上空に差し掛かった瞬間【Helm】に撃墜されたってことだけだ」

彡(゚)(゚)「……因みに、その馬鹿テレビ局はどこや」

(☆...●)「各局報道番組の内容を見るに日ノ出テレビで間違いない」

彡(゚)(゚)「ほーん」

近々国会に提出する予定の新放送法案で真っ先に潰すべきテレビ局が決まったな………南は胸中で決意を固める。
88 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 18:56:05.92 ID:fHC45+5tO
王嶋は長い付き合いの中で南が何を考えているか察したが、特に何も言わず話を続ける。

話の脱線は望ましくなかったし、正直王嶋自身南の考えには諸手を挙げて賛成だったため口を挟む必要が無い。

(☆...●)「学園艦内は艦橋保安室から各駐在所まで悉く沈黙、あらゆる方面から様々な手段で通信を試みたがきこえてくるのは波の音だけ………ロマンチックだね、貝殻を耳に当てていた無邪気な子供時代を思い出すよ」

彡(゚)(゚)「お前に子供時代なんかあったんか………無論、“暴徒”に関する続報も無しって事やな?」

(☆...●)「あったに決まってるだろ俺はいったい何なんだよ……無しだ。学園艦後部の商業区4箇所で大火災が発生している点、最初の【駆逐ナ級】が出現する前から火災に関して陸の住民より通報が入っている点から考えてここら辺が中心地だとは思うが推測の域を出んな。

なお、商業区の火災は現在も延焼中………俺たちの方で確認できたのは以上だ」

王嶋の言葉を受け、南の眉間に再び皺が刻まれる。なるほど、“進捗無し”は比喩皆無の正直な報告か。

彡;(-)(-)「で、ナ級が出たということはかなり高い確率で【寄生体】が暴動に関わっている、と……頭痛いわ」

(☆...●)「………あのビデオ映像の光景が日本で、しかも学園艦の上で起きることになるとはね。夢のようだよ全く。勿論悪夢という意味でな」

元帥の王嶋を初め横須賀鎮守府の首脳部には“海軍”に関する情報は相当深いところまで共有されており、勿論【ムルマンスクの戦い】に関する真相も彼は知っている。

戦闘の記録映像を見せられた時のことを思い出し、王嶋の表情が露骨に歪んだ。
89 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 20:02:16.86 ID:fHC45+5tO
(☆...●)「クソッ、アレのせいで俺はしばらく肉も魚もダメになったんだ……。

とにかく情報が足りないが、それでも学園艦奪還作戦を強行するなら突入箇所はほぼ確実に艦橋になる。装備や部隊練度を鑑みて直属保安隊なら艦橋の陥落を防げている可能性が高い」

彡(゚)(゚)「艦橋保安室がぱっと見は“ただの生徒や住人”である存在に発砲を許可する勇気があれば、やがな」

(☆...●)「ああ、最大の問題はまさしくそこになる」

南の指摘に、王嶋が頷く。その口調の平坦さから、彼も自身の“希望的観測”が通るとは微塵も思っていないようだ。

(☆...●)「俺もこの鎮守府の全員も、市ヶ谷だってはっきり言って期待していない。“陥落を免れた可能性”についても、他の駐在所や区画が0%なのに対して艦橋なら5%ぐらいはありそうってだけの話だ。それでも“皆無”じゃないだけマシだし、奪還の優先度としても設備や貯蓄武装、指揮系統回復などの観点から艦橋が最も高くなる……そもそも、“突入できるなら”というのが前提条件だが」

彡(゚)(゚)「やっぱ、アカンか」

(☆...●)「どうやって沸いたのかはともかく、軽空母ヌ級flagshipの出現が痛すぎる。ただでさえナ級の対空火力が未知数の中で、艦載機っつー解りやすい脅威が加わったらおいそれとヘリ単体での空挺には踏み切れねえ。まずは制空権の確保、だがその制空権を確保できる戦闘機すら出せない有様だ」

彡(゚)(゚)「………確か、軽空母とはいえヌ級flagshipの艦載機数は90近くやっけ」

(☆...●)「あぁ、flagshipの名を冠するだけあって機動力も高い。数で圧せばそれでも十二分に航空優勢は取れるだろうが…………学園艦は大洗だけじゃない。

残り197隻で“同じことが起こる”可能性がある限り、どこの航空戦力も動かせんし消耗も許可できない」

彡(-)(-)「………」

王嶋の重苦しい宣告に、南は再び瞑目する。彼の右手は、懐から煙草を取り出そうとする衝動と激しく戦い痙攣していた。
90 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 21:58:35.96 ID:wr0KNd1a0
世界屈指の艦娘先進国であると同時に、世界有数の学園艦大国でもある日本。深海棲艦が大洗女子学園に侵入した経路が掴めない以上、原因究明までは日本の学園艦は全て潜在的な深海棲艦の拠点として見なければならない。

ここまででも十二分に厄介だが、フィリピン海に浮上した【学園艦棲姫】の存在それ自体が自衛隊の軍事行動に決定的な楔を打ち込んだ。

即ち、大洗女子学園を初めとする学園艦に“深海棲艦化”の心配は無いのかという懸念。

(☆...●)「下半身がバイクになった雷巡が時速百キロで欧州を駆け回り、生身の人間が深海棲艦に変態し、今また学園艦の中から駆逐艦と軽空母が生えて来やがった。そして極めつけが、“学園艦型の棲姫”だ。

最早何が起きてもおかしくない………まぁこの件について取れる効果的な対策なんざ、はっきり言って存在するなら俺が教えて欲しいぐらいだがな」

学園艦としては小さい方とされる大洗女子学園で7.6km、生徒3000人と最小クラスに位置するベルウォール学園でも4.8km。そんなものが200近くも一気に深海棲艦化した場合、王嶋の言うとおり例え自衛隊と艦娘部隊が文字通りの総力を注ぎ込んだとしても勝ち目はないだろう。

現にたった1隻を相手に、アメリカも含めて3カ国分の空海軍部隊と“海軍”所属の精鋭艦娘を20隻以上ぶつけてあの様だ。

それでも………自衛隊も艦娘も、日本に住まう国民を護るためにある。軽んずることも、特定の場所を取捨選択することも究極的な状況になるまでは許されない。

逆に言うとそれは、大洗女子学園に取り残されているであろう人々にも言える。彼女達の安全を優先するあまり、他の地域での“危機”に目をつむり戦力を摩耗することはできない。

(☆...●)「………横須賀司令府元帥として、提言できる策は二つだ。

先ず一つは、乗員の」

彡(゚)(゚)「却下や」

(;☆...●)「早いな」

彡(゚)(゚)「………無論ワイかて、“それ”を最終的には選択せなアカン可能性もあることは理解しとる。

せやけど、それは“まだ”や。手が残っている限り、ワイらはその選択だけはしたらアカン」
91 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 22:35:52.01 ID:G84HfYJhO
(;☆...●)「……まぁ、お前ならそう言うと思った。口に出しておいてなんだが、俺自身お前が犠牲ありきの“第一案”にあっさり乗ってきたらぶん殴っていたかも知れん。

しかし、だ」

王嶋は腕を組み、低く唸る。

(;☆...●)「第二案もまた、別ベクトルでリスキーだぞ。日本の国際的な信用、お前自身が積み上げてきた実績、そして何より、せっかく流れが変わり始めた艦娘の在り方。その全てを賭けのテーブルに乗せる事になる」

彡(゚)(゚)「まだ助けられるかも知れん国民吹っ飛ばすより万倍マシやボケ。

………それに、ワイも何の準備も無しに賭けのテーブルに着くわけやない」

南はそう言って、胸ポケットから取り出した自身のスマートフォンを掲げてみせる。

その口元には、不適な笑みが浮かんでいた。

彡(^)(^)「特に最後の奴はワイ自身も苦労したし何よりそこないがしろにしたらせっかく出来た筋肉モリモリマッチョマンのライン友がブチ切れてまうんでな。

ノーリスクハイリターンでギャンブルを………それが、南慈英のモットーや」






(☆...●)「笑顔キモッ」

彡(゚)(゚)「死ね」

(☆...●)「てめえが死ね」
92 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/12(金) 22:41:06.61 ID:G84HfYJhO
本日の更新ここまで。書きためてまた明日投稿します。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 23:10:38.92 ID:fokMncrCo
乙です
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 23:27:06.40 ID:p96O65EJ0
乙っす
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/13(土) 00:10:10.90 ID:mrV0aZ2PO
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 00:20:17.10 ID:hzpzTMtG0
>>95
自演もここまでひどいと笑えないからやめたら?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/13(土) 00:26:08.25 ID:KuyNGQyPO
逆に荒し認定されちゃうから触れない方がいいよ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 00:49:05.91 ID:4xlW5HyA0
おつです
ここの首脳陣優秀過ぎるw
それと初手本土決戦はやっぱ無理ゲーだよなあ…
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 18:34:43.68 ID:VXDQCWjrO
叩かれるあまり悔しくて自演しちゃったかー
100 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/01/13(土) 23:01:17.91 ID:Q+RJLMSmO





私が小学生の頃、「戦争」が始まった。深海棲艦と名付けられた世にもおぞましい怪物達によって世界中の国々が侵略され、多くの犠牲者が出た………らしい。

何故不確定的な語尾になるのかと言えば、私は実際にその光景を眼にしたわけではないからだ。テレビでは連日深刻な表情をしたアナウンサーが苦境に立たされる人類の有様を報じていたけれど、6年目も後半に差し掛かったとはいえまだ小学生だった私から見れば「テレビ画面の向こう側」は全く関係の無い隔絶された世界。幾ら数字や現状を並べ立てられたところで、実感も興味も持てやしなかった。

ゴジラやガメラ、或いは貞子やペニーワイズと同列の“テレビの中の出来事”───当時の私にとって、【深海棲艦】とはせいぜいその程度の認識。

他に覚えている印象を無理やり付け加えるなら、“お小遣い減額の元凶”だろうか。

深海棲艦の襲撃によりシーレーンが壊滅し、輸入大国である日本の物価は当時軒並み跳ね上がった。多くの一般家庭同様貧しくもないが決して裕福でもなかった私の両親は節制に迫られ、真っ先に削減対象となったのが私の小遣いというわけだ。

毎月の第一日曜日に手渡される一枚の1000円札が一枚の五百円硬貨に変わったときの絶望と悲哀は、今でも夢に見るほど克明に覚えている。
101 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:05:34.14 ID:Q+RJLMSmO
ともあれ、あれから六年が経ち高校の卒業を間近に控えた今まで、幸運なことにその認識を変える必要はないまま過ごせた。

勿論深海棲艦がどれほど恐ろしい犠牲を出したのかはニュースや資料で知っているし、【学園艦】という洋上の教育施設で過ごす以上不安が皆無だったと言えば嘘になる。ニュースで度々流れる犠牲者数や深刻な影響の意味を読み取れるようになってからは、深海棲艦の恐ろしさというものも十分に理解できる。

だが一方で、日本は出現当初の攻勢を凌ぎきり【艦娘】の実装によってその脅威を近海からは完全に駆逐した。自衛隊は戦訓を積み、太平洋側の離島には強力な防護施設が幾つも建設され、何より二万人を越える艦娘が居る───そうした実情から、深海棲艦の恐ろしさ自体は理解しても私は相変わらずそれをどこか他人事のように捉えていた。

勿論、原隊復帰になった蝶野教官やヨーロッパで義勇軍に参加していた西住ちゃんの友達、或いは陸の大洗町の方で時折見かけるようになった反戦・反艦娘デモなど全く影響が皆無というわけではない。それでも、他の国のように街に爆弾が降ってくるわけでも海岸に駆逐艦の群れが上陸してくるわけでもない。

自分から海外に、それも艦娘の守りが手薄な場所にでも行かない限り、戦争も深海棲艦の侵略も相変わらずテレビの中の出来事。私がよく知るこの学校での日々は、この先もずっと続いていく。

そう、思っていた。









ずっとそうなるように、願っていた。
102 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:10:36.68 ID:Q+RJLMSmO


だと言うのに、だ。

私がよく知る街並みが、燃えている。

私がよく知る青空を、爆弾を抱えた戦闘機が飛び回っている。

そして私がよく知る人は、たった今目の前で居なくなった。

嗚呼畜生、神様ってのが居たらきっと性根の腐りきったクソ野郎に違いない。いたいけな少女があれだけ必死に祈ったってのに、全く真逆の結果を鼻先に突きつけやがって。

「西住ちゃん!宇津木ちゃん!!」

いつか地獄に落ちた暁には、必ず神様のケツを渾身の力で蹴り飛ばしてやる───そう決意しつつ、私は樹木園から飛び出して我らが隊長の元へと駆け寄る。

秋山ちゃんも澤ちゃんも、樹に縋り付くようにして立つのがやっと。足が生まれたての子鹿のようにがくがく震えて動ける有様じゃない以上、私が行くしかない。

「二人とも大丈夫!?怪我は無い!?」

「私は大丈夫です、宇津木さんも見た限りでは……っ、宇津木さん、ダメッ!!」

「だって……せんせ、今落ちて……私のこと庇って……やだ、やだ……」

抱き留める西住ちゃんの腕の中で、宇津木ちゃんの視線はぽっかりと口を開け黒煙を吹き出す穴に固定されている。直下に浄水パイプでもあったのか、流れる水の音が轟々と聞こえてくる。

身を捩って西住ちゃんの拘束から逃れようとしつつ、宇津木ちゃんの両手は何かを掴もうとするように難度も空を掻いていた。

「っ、宇津木ちゃん落ち着いて!大丈夫、大丈夫だから!」

私自身眼にしているのが辛く、半ば私情混じりで強引にその動きを手首を掴んで終わらせる。何が大丈夫なのかなんて、言っている私にも解りゃしない。

ただ、今が大きなチャンスであることだけは間違いなかった。

吹き出す黒煙が煙幕の役割でもしてくれているのか、深海棲艦機は上空を飛び回りながらもまだ次の攻撃に移る様子は無い。今のうちに樹木園まで辿り着けば、後は指定避難場所まで突っ走るだけだ。
103 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:15:39.56 ID:Q+RJLMSmO
脳裏を過ぎる「肝心の救助はくるのか」と言う疑問に背筋が冷えるが、頭を振って追い出す。

実際来なかったとしても、自分達だけでこの状況を打破できる代案を出せる程私は英知に優れちゃいない。出来るのは、ただ助けが来ることを祈るだけ。

……尤も、祈る先は神なんかじゃない。私が神に祈ることは金輪際ないだろう。

「宇津木ちゃん、いこっか!」

「でも……せんせ……ブーン先生が……」

「だから大丈夫だよ!!!

西住ちゃん、悪いけど宇津木ちゃん背負って!私が乗せるの手伝う!」

「はい!

そう言えば、他の人達は───」

「生徒会長の五十鈴ちゃんが先導して避難場所に向かった!私達も急ごう!!」

宇津木ちゃんの視線は相変わらず穴の方を見てはいたけれど、幸いもう暴れる気力すら無いのか大人しい。だらりと弛緩した彼女の身体を、西住ちゃんがしっかりと背負えるよう押し上げる。

本当なら上級生の私が背負う役をやるのが様になるのだろうけど、生憎映画館で中学生料金を取られそうになるこのちんちくりんな体格では荷が重い。ここはかっこつけるよりも効率重視、餅は餅屋だ。

「っし、固定も完了!西住ちゃん、走って!」

「了解です────あれ?」

「ん?」

駆け出しながら、西住ちゃんは正面の樹木園ではなく横を見ていた。

つられて、私も其方に視線を向ける。
104 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:32:26.77 ID:Q+RJLMSmO

<ヽ;`∀´>

「………二田巡査?」

先ず、見覚えのある顔が此方に向かって駆けてくるのが見えた。野球のホームベースを思わせる角張った顔と、ピンセットでつり上げたみたいな両眉が特徴の大洗女子学園に在籍する保安官の一人………二田瓜生(にった・うりゅう)巡査だ。

彼に先導される形で、その直ぐ後ろにも同じく保安官の制服を着た幾つかの人影。そして更にその後ろからは何十………何百人という人の波が続く。多くが船舶科や水産科の制服を着ていたけれど、コック服や白衣、清掃業者の制服に身を包んだ人もおり統一感はあまりない。

普通に考えれば、二田さんたち保安隊が避難民を保護して引き連れてきたと考えるのが自然だ。学園内に続く正門こそ新手の───ブーン先生が【ヌ級】と呼んだ空母型深海棲艦に塞がれているけれど、大洗女子学園の全幅は1.1kmにも及ぶ。他にも学区や学園内に入れる入り口はあるので、其方から逃げてきたと思えばおかしな事ではない。服装・年齢層の多様さについても、居住区の人達も一緒に逃げてきたのだと考えれば辻褄が合う。

だけど私は、何故かその集団に奇妙な違和感を覚えた。
105 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/13(土) 23:57:16.15 ID:Q+RJLMSmO
「前会長、西住殿、ご無事で!」

「お陰様で!」

樹木園に飛び込むと、秋山ちゃんが出迎えてくれた。まだ顔面蒼白ながら、何とか最低限立ち直ってはくれたらしい(澤ちゃんの方は子鹿状態を継続していたけれど)。

「……前会長、二田巡査達は一体どうしたのですか?」

「私達と同じ方角に向かってますよね。深海棲艦から逃げるのなら当然なんだけど……」

流石と言うべきか、西住ちゃんと秋山ちゃんも二田さんたちの様子がおかしいことに気づいたようだ。本来なら私達も一目散に指定避難場所まで走るべきだけど、集団の異様さが一択である筈の選択肢を素直に選べなくしていた。

(………あれ?)

ふと、違和感の正体を理解する。

避難民と思われる集団が、二つの層に分かれていた。二田さんや他の保安官の人達に背中を押され、手を引かれ、転びそうになるところを支えられながら逃げてくる4、50人前後の集団と、その後ろを追う形で走る何百という群衆。前者の層が例えばお年寄りや子供の集団なのかとも思ったけれど、ざっと顔ぶれを見る限りそんな様子はない。

なにより────後方の“群衆”を構成する人々は、何故か手にバットや鉄の棒等を持っている比率が高いような気がした。

「………角谷さん?」

「なんか」

ヤバい気がする。そう口にする直前、保安官の一人が反転する。





「────え?」

乾いた銃声が、私達のところまで届いた。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 00:01:20.12 ID:WO5MW5TL0
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
107 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 00:20:53.95 ID:SlbyUNX4O
眼前で起きた信じがたい光景を脳が受け止める前に、その保安官は更に二度引き金を引いた。ニューナンブM60が弾丸を吐き出し、群衆の先頭を駆けていた中年の女の人の割烹着が真っ赤に染まる。

だけど、目の前で一人射殺されたというのに“群衆”は止まらない。前のめりに倒れ込んだ女の人の身体を踏み越えて、船舶科中等部のセーラー服に身を包んだ人影がその前に躍り出る。

「──────っ!!!』

彼女は、何事かを叫びながら思い切り振りかぶった鉄パイプを何の躊躇もなく保安官めがけて振り下ろした。

グシャリ。

反応が遅れた保安官の頭が、真っ赤な液を撒き散らしながら潰れた。膝から力が抜けて倒れ込んだ彼の周囲に、後続してきた人々が群れ集う。

グシャリ、グシャリ、グシャリ。

鉄パイプが、ゴルフクラブが、トンカチが、シャベルが、ポリバケツが。形も種類も雑多な獲物が、だけど同じ“殺意”を込めて振り下ろされていく。

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

「ひぁっ………あぁ………」

遠目でもはっきりと解るほど大量の血が、人々の足の隙間から流れ出てアスファルトに赤い放射状の模様を描く。

間の抜けた悲鳴を上げて、澤ちゃんが今度こそ膝から崩れ落ちる。
108 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 00:23:28.14 ID:SlbyUNX4O
時間的に寝ないとなので一旦切ります。明日も同時間帯に更新予定です
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 00:27:45.46 ID:ZzecuYKuO
そろそろ底辺社畜単発あらし君が沸く時間やな
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 08:06:59.03 ID:vZcPE8aA0
おつおつ
いよいよ狂乱化が止まらんが、介入はどうなるやら…
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/14(日) 20:00:33.35 ID:N9uAqfBP0
112 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/14(日) 23:49:06.88 ID:/5QyWZpb0
本日更新厳しいので明日の昼と夜で2更新とします
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/15(月) 07:04:49.31 ID:qhkM5P7G0
しなくていいです
114 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 14:40:11.46 ID:lwd7GqTtO
まんま、ゾンビ映画の一場面を切り取ったかのような光景だった。

燃え盛る街、逃げ惑う民間人、それを守る警官隊、おまけにここは【学園艦】という隔絶された空間。立ち向かおうとした警官の一人が数の暴力に呑み込まれるところまで、誰かが脚本でも書いたみたいにお誂え向きだ。二田さんたちを追う“暴徒”は走ってきてきているけど、【ワールドウォーZ】や【新感染】で走るゾンビもわりかし知名度を得つつある昨今ならそんなに大きな問題じゃない。

……ただ、映画のゾンビが多くの場合疫病やらウィルスやら呪いやらで理性を失った死者であるのに対し、

「待てオラァ!!』

『殺せ、殺セ!!」

「逃げないでよ、痛くしないカラさぁあああ!!』

保安官を一人殺し、なおも二田さんたちを追って樹木園に向かってくる“暴徒”は……言葉を発し、武器を構え、明確な意志を持っている。

抱く感情が一様に“殺意”であるという点を除けば、私には彼らが普通の人間にしか見えなかった。
115 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 15:42:05.19 ID:lwd7GqTtO
いつの間にか、叫び声が意味を持つ「言葉」として耳に届くような近さまで距離が詰まっている。逃げなければいけないのに、私の足は地面に根でも生えたみたい動かせない。

「会ち、角谷先輩、逃げましょう!ここに居ると危険です!!」

「あっ………」

西住ちゃんが私の腕を引くが、まるで筋肉が全部綿になっちゃったみたいに下半身に力が入らない。引かれるままに私の身体は腰から崩れ落ち、お尻が冷たい地面を踏みしめる。

「逃がすかクソがぁっ!!』

「早く回りこめ!!あいつら女子供も連れてるから逃げ足遅いぞ!!』

「このままだと追いつかれます!!」

「クソッ、機動保安隊は総員反転しろ!!」

互いに指示を出し合いながら、二田さんたちを囲い込もうと広がっていく“暴徒”たち。それに対して、今度は五、六人の保安官がいっせいに振り向いてその進路に立ち塞がる。

他の区画の担当だったのか正門での空襲から生き延びた部隊がいたのか、全員がH&K MP5を構えていた。

「撃ち方ぁ、始め!!」

放たれた弾雨が“暴徒”に殺到する。頭を、胸を、腹を鉄の弾丸が撃ち抜く湿った音が私達の下まで届く。

噎せ返るような血の臭いが、辺りに充満した。
116 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/15(月) 17:21:22.88 ID:lwd7GqTtO
「イギッ……』

『あぁあああああっ!!!?いでぇっ、いでぇええええっ!!!?」

「ぎぃっ、がっ………』

サブマシンガンが奏でる、リズミカルで軽快な音。そしてそれを塗りつぶすようにして、銃弾を受けた“暴徒”達が上げる断末魔の大合唱。

トラウマものの協奏曲に彩りを添えるのは、飛び散った臓物や脳漿、そして全身に鉄の弾丸を埋め込まれて転がる何十という屍体の山。

「ウブッ、おぼっ、うぉええええええええ………」

秋山ちゃんが近くの木に腕をつき、身体を折り曲げて吐瀉物を撒き散らす。私も、生まれて初めて嗅いだ“屍臭”という奴に喉元まで強い酸味を伴った何かがこみ上げてくる。

宇津木ちゃんと澤ちゃんが既に意識を手放していたのは、不幸中の幸いだった。

「先輩、優花里さん、大丈夫ですか!?二人とも気をしっかり持って、今のうちに避難場所まで向かわないと!」

西住ちゃんも顔面蒼白だったけれど、彼女はそれでも気丈に私と秋山ちゃんの安否を気遣ってくれた。私も何とか立ち上がろうとしてみるが、力が全く入らない。

「ごめん、西住ちゃん……私も、腰が……抜けて……」

「っ、優花里さん!澤さんをお願い!会……角谷先輩と宇津木さんはこのまま私が!」

「うえぇ……ふぐっ……り、了解です!」

「先輩、失礼します!!」

制服の肩口を掴み、西住ちゃんは私の身体を樹木園の奥へと運んでいく。

「────っ!───っ!!」

「────、────!!!」

<ヽ;`∀´>「……っ!」

引き摺られながら再び後方を見やれば、しんがりの機動保安隊は牽制射撃によって完全に暴徒の突出を抑え込んでいた。指揮官に何事か言われて頷いた二田さんが歩を早め、“暴徒”との距離を引き離し始める。

(………逃げられそう、かな)

私と宇津木ちゃん、小柄とはいえ女子校生二人を運んでいるため西住ちゃんと言えど歩みは遅い。けれど、しんがりの保安隊が“暴徒”を完全に足止めしてくれているお陰で、距離は開く一方だ。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/16(火) 23:00:10.21 ID:BO37H/1UO
面白くないね
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 00:37:48.75 ID:5McSEgOe0
ダイジョブ?
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/17(水) 02:55:59.12 ID:6yauoJU/O
日本語が怪しいところそこそこあるけど、中学生?
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/17(水) 06:47:36.10 ID:Ao4EQnwk0
留学生かもしれないからあんまりなこと言うもんじゃないよ
121 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:03:25.41 ID:R09KI/sf0
ただでさえ銃の所持が厳しく規制される日本、そこに学園艦という条件も重なれば手に入る武器はたかが知れている。サブマシンガンとはいえ弾幕展開が可能な銃火器を装備した人員がある程度集えば、バールやらバット如きでは数を頼みにしても容易には突破できない。

『う……ぁ………」

「ひぃいいいいっ!?』

それに、“暴徒”の勢いそれ自体も明らかに鈍っている。仲間が目の前でバタバタ薙ぎ倒されりゃ当然の反応だし、武装の使用にかなりの制約が掛けられている日本の警察組織がシカゴ警察も真っ青な弾丸の大盤振る舞いで反撃してきたのは向こうとしてもアテが外れたに違いない。実際、私も保安隊の積極果敢な反撃には少し驚いている。

(……………)

そう、“少し”驚いただけだ。

挨拶すら交わしたこともない顔触れが殆どとはいえ、それでもこの学園艦に───西住ちゃん達と一緒に必死に守った大洗女子学園に住んでいた人達が、目の前でドンドン死んでいる。その異様な光景に相対しているのに、恐怖を多少抱いただけで悲しみも怒りも沸きやしない。

相変わらず腰が抜けた状態でトロイア戦争のヘクトールみたいに地面を引き摺られていきながら、頭の中の妙に冷めた部分が現状を呆れ返るほど冷静に受け止め、分析していた。

(こんな冷たい性根だったんだねぇ、角谷杏って人間は)

自嘲の笑みが、無意識に口元を歪ませる。山ほど人が死んでいく様子を目の前にして笑うとは、他人から見たらきっとサイコパスにしか見えないに違いない。
122 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:22:18.46 ID:R09KI/sf0
(別に、自分が立派な人間だと思ったこともないけどね)

西住ちゃんを無理やり戦車道に引きずり込んだり、彼女を強引な勧誘から救うため生徒会室まで一緒に乗り込んできた武部ちゃんと五十鈴ちゃんを脅したり、どんな批難をされてもおかしくないことには何度も手を染めてきた。二度目の廃校の危機に際しては、正直法的にグレーゾーンで止まっているのかすら怪しい搦め手も幾つか使った。

どれも褒められた行為じゃないけれど、この学園艦を、そしてその上の人達を守るために必要なことだと信じてやったことだ。その想いは今でも変わってないし、後悔もしていない。

だというのに、そうまでして守ろうとしたものがこれだけ無惨に蹂躙されても、そうまでして守ろうとした人達が目の前で殺し合いをやっていても、私の眼からは涙一滴零れやしない。怒りのあまり歯が砕けるぐらい食いしばられてもいい口は、締まりのない苦笑いを浮かべたままだ。

(…………私自身だって助かったとまだ決まったわけでもないのに、暢気なもんだ)

だいたい私達や先に避難した学園内の人間が全員助かったとしても、それは艦内に居た人間の1/3にもなりはしない。残りの二万を越える人達は取り残されることになる。そしてその人達を見捨てて、私はこの艦から逃げようとしている。

「角谷先輩?」

「ははっ、うん、なんでもないよ西住ちゃん」

それこそ“今やるべき事ではない”と頭では解っていても、一度ハマった「ドツボ」からはなかなか抜け出せない。

気遣ってくれる西住ちゃんに生返事しながら、私は底なし沼に足を踏み入れたかのように物思いに沈んでいく。
123 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/17(水) 23:26:32.10 ID:R09KI/sf0












─────そして。

<ヽ;`∀´>「ニダ!?」

「ヒッ………」

樹木園の向こう側で……指定避難場所がある方向で沸き上がった爆発的な悲鳴によって、私は思考の坩堝から強制的に現実へと引き戻された。
124 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 00:15:20.18 ID:pWIW7eUO0
何百という人間が全力で走る、地鳴りのような足音。統一感が皆無に等しいそれは、足音の主達が酷く錯乱している様子を私達に伝えながら猛烈な勢いで近づいてくる。

それに伴って叫び声の内容も当然聞き取れるようになっていくんだけど────その内容は、到底私には理解しかねるものだった。

「いや、いやぁあああああ!!!やだ、噛まないで、噛まないでよぉおお!!」

「いだぃ、いだぃいいいいいいっ!!?」

「足が、俺の足が食われ………いぎいっ!!?」

「逃げて逃げて逃げて!!無理、あんなの無理!!」

「食べないで、食べないで下さい!!助けて、誰か助けてぇ!!!」

耳を覆いたくなるような、甲高い悲鳴の数々。それこそ、まるでゾンビ映画やゾンビアニメ──昨今流行の萌え路線じゃなくて正統派の方──から切り取って大音声で流しているような有様に、じわりと全身から汗が噴き出す。

確かに樹木園の入り口の方でも現代日本とは到底思えない殺し合いの真っ最中だが、機動保安隊と交戦している“暴徒”の群れにカニバリズムのケがあったようには見えない。とはいえ、既に深海棲艦が学園艦で暴れ回っているという“現実”の前では人食い部族の襲撃やゾンビの出現は十分あり得てもおかしくない出来事の範疇だ。

生い茂る木々の向こう側でどんな惨状が起きているのか、ぞっとしない想像に背筋が震える。

そして、それに追い打ちを掛けるようにして。

『─────キャハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

今度は、“笑い声”が辺りに響き渡る。
125 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/01/18(木) 00:42:52.03 ID:pWIW7eUO0
数百人が上げる悲鳴や断末魔の中にあって、それはまるで直接頭の中で響かせたみたいにはっきりとここまで届いた。

生後数カ月の赤ん坊が上げたような………それでいて、酷く嗄れて耳障りな笑い。声自体のおぞましさとそれがこの場で響くという不自然さが、私の身体を芯から冷やす。

「に、西住殿……今のは……」

「……五十鈴さんたちが心配だけど、今は一旦様子を見ます。秋山さんも動かないように。角谷先輩、動けますか?」

「あ、はは………少し力は入るようになったかな」

すっかり怯えきって縮こまった秋山ちゃんに的確な指示を出しながら、西住ちゃんが腰を屈めて私の顔色を覗き込んでくる。

……心底から私や秋山ちゃん、それに宇津木ちゃんや澤ちゃんを心配してくれている表情だ。この期に及んで自然とそういう態度が取れるこの子は天使か何かだろうか。

「とはいえ、まだ立てそうもないけど。西住ちゃん、最悪私は置いて逃げていいからね?」

「そんなことは絶対にしません。力がある程度入るなら、移動速度を上げるため私が肩を貸すので」

「────後ろです西住殿ォ!!!」

「西住ちゃん、危ない!!」

「──────!!!』

彼女の後ろで鉄パイプを振りかぶる人影。

私と秋山ちゃんが、同時に悲鳴に似た叫び声を上げる。




鈍い打撃音が、私の耳朶を打った。
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