エンド・オブ・オオアライのようです

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419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 23:58:05.24 ID:Q+UiVv5v0

続き期待してます
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 03:11:37.77 ID:M1ffr53FO
エタってんじゃん
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/15(火) 20:34:03.24 ID:ORJDdGa50
戦局ここまで絶望的にしちゃってどう畳むのか、いつもの「完これ!」楽しみにしています
422 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/21(月) 22:53:44.44 ID:9CD0GS6L0
深海棲艦側が打とうとしている“次の手”。その内容自体は、正直大洗女子学園に奴らが現れた時点で大体察しがついていた。私だけではなく、防衛に参加する大体の自衛官・艦娘がそれが起きることをを予想できていたと思う。

ハワイ・オアフ島、リスボン、アムステルダム、ベルゲン、海南島、ムルマンスク────そして、ベルリン。記録される対深海棲艦戦闘において人類側が特に甚大な被害を被った戦いと、今の状況はあまりにも類似点が多すぎるから。

《CPより大洗鎮守府、【潜水艦棲姫】の状況を報告されたし!》

《鎮守府司令室よりCP、棲姫は再度潜行も電探が艦影をとらえた。湾内に未だ留まっている、かなり浅い位置に───クソッ!!》

海上防衛網の内側に強力な艦隊を出現させ、艦砲射撃によって沿岸迎撃戦力を打撃し、膨大な艦載機によって空路を遮断して航空優勢の確保……奴らのやっかいな武器の一つである“隠密性”を最大限に生かした一連の奇襲攻勢。その、仕上げにあたる一手。

《棲姫周辺、湾内広域にさらに反応多数出現!
  、、、、、、、
……増え続けている、既に五個艦隊相当の“艦影”を電探にて確認!》

即ち、大規模な強襲上陸と───内陸への浸透攻勢だ。

《CPより町内各隊に伝たt》














『『『ァアアアアアアァアアッ!!!!』』』
423 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/21(月) 23:03:12.26 ID:9CD0GS6L0
CPの無線通信を遮る形で、潮風に乗ってそれらの“音”は聞こえた。

錆び付いた金属の板に爪を立てて渾身の力で引っ掻いているような、耳障りでおぞましい“咆哮”。全身の肌が思わず粟立ってしまう響きのそれが、何十も重なって業火で熱された大洗町の空気を揺るがす。

間髪を入れず、砲声。大洗女子学園の甲板上から響いているものよりやや軽い………だけど、遥かに近くで立て続けに響いたそれらの後に、何十発もの砲弾が私たちの頭上を駆け抜けていく。

《クソッ……!》

“次の手”が読めていたとしても、対処が間に合わなければ意味がない。防げなかった最悪の事態に、大洗鎮守府のオペレーターが低く呻いた。

《大洗鎮守府司令室よりCP並びに各隊に通達、港湾部十数箇所にて深海棲艦の上陸を確認!戦力規模は現在確認中、なお現時点で駆逐イ級、ハ級のフラグシップ種を各4隻確認!》

《軽巡神通、水偵より敵艦隊を視認!鎮守府情報に補足、大洗サンビーチ方面に上陸した敵艦隊に重巡リ級と思われる艦影アリ!》

《こちら涸沼川防衛線、敵艦砲射撃がここまで届いた!損害発生、状況としてはLAV大破1、中破3、喪失2、迫撃砲喪失4!!》

《敵艦隊の一部戦力は湾内よりひたちなか市沖方面へ北上を開始、至急迎撃の要ありと認む!》

《CPより大洗鎮守府、海上迎撃は可能か!?》

《こちら司令室、当鎮守府には現在敵航空隊・艦隊共に多数が殺到している!迎撃戦力は抽出できない、オクレ!》

《大洗町公園方面にも敵艦隊上陸!尚、当該方面の警備府は既に沈黙、艦娘並びに随伴部隊も離脱済み也!》

「そんな……なんで……」

深海棲艦の動向に関する情報が飛び交う中、私の足下でも絶望に濡れた声が上がる。
ちらりと車内を覗き見れば、操縦士の子が頭を抱えて縮こまり、小刻みに震えていた。

「学園艦だけじゃないなんて……どうやって湾内にこんな数……私達だけじゃ対処できるわけ───痛っ!?」

「中内二曹、今は余計なことに思考を割かずに作戦行動に集中!」

「はっ、はぃいい!」

操縦士……中内二曹の背中を蹴っ飛ばして我に返らせる。少々手荒だが、戦車の“足”を担う人間が恐慌で行動不能になれば最新鋭戦車もただの棺桶になり下がる以上手心を加えるわけにもいかない。

「ダスターは引き続き対空射撃を継続!撃墜ではなく空襲の妨害に重きを置いてちょうだい!

2号車、“対艦”戦闘用意!水平射撃態勢、弾薬は撤甲!敵は手強いわ、気合いを入れなさい!」

《ダスター、了解。とはいえ弾薬はあまり保たないぞ!》

《2号車了解!》

M42とヒトマルに無線で指示を飛ばしつつ、随伴歩兵隊にもハンドサインで同時に合図を送る。私の意図をくみ取った周囲の陸士が残存戦力で陣形を組み直していき、また屋内からも新たな部隊が走り出る。

89式小銃、84mm無反動砲、110mm個人携帯対戦車弾、M240B機関銃、60mm迫撃砲………この拠点に現時点で集まっていた、ほぼ全ての火砲・銃火器がそれを操作する人員と共に路上に展開されていく。

それら無数の火線がにらみ据える先は、ほんの数百メートル先でゆらゆらと漁船が……厳密に言うと漁船“だったもの”が多数浮かぶ大洗湾の海面だ。
424 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/21(月) 23:20:44.86 ID:9CD0GS6L0
実際中内二曹の動揺と恐慌は、無理もないことではある。特に奴らの強襲上陸艦隊は、規模もさることながら出現の仕方が“降って湧いた”としか言い様がない唐突なものだった。何もなかった場所、それもしっかりとレーダー・電探が警戒していた場所に突然艦隊が湧いて出るなど、常識的に考えてあり得ない。

だが、どれほどそれが“あり得ない”ことであっても、起きてしまった以上はそれが現実だ。ならばそれを受け入れ、対処するより他はない。

ましてや今私達がいる場所は、最前線のそのまた前面なのだから。

《大洗鎮守府よりシーサイドステーション、電探に新たな感あり!敵艦影、貴隊正面に多数出現!》

「シーサイドステーションより鎮守府、もう間もなく接敵するわ!」

度重なる空爆によって施設が焼き払われ更地同然となり、しかし故に開けた視界。前方に広がる湾の水面が、沸騰する熱湯のようにぐらぐらと激しく盛り上がる。

「退避、退避!!」

「うわぁっ!?」

水中から“何か”に突き上げられ、黒焦げでぷかぷかと浮かんでいた漁船の残骸が空に舞う。数十メートルも跳ね上げられたそれは私達の方に飛翔し、間一髪で散開した歩兵小隊の待機地点に轟音と土煙を伴って突き刺さる。

「死傷者報告!」

「欠員なしもM240Bを一挺喪失!」

「人員に損害なしなら戦闘継続!隊形速やかに組め!………来るわよ!!」

『『『────ウォオオオオオオオッ!!!!』』』

《敵艦影、視認!!》

《弾薬装填、ヨシ!!》

「距離300、撃て!!」

あの耳障りな咆哮を響かせて、巨大な水柱と共に海中から現れたいくつもの影。同時に、私は声高に号令する。

『ゴォアアアアアッ!!?』

二門のヒトマル主砲が火を噴く。APFSDSが敵艦隊の先頭に屹立した“艦影”に直撃し、砲火を食らった個体が苦しげに呻いた。二発は何れも肩口に当たったようで、千切れ飛んだ右腕が丸ごと一本10メートルほど向こう側の海面に落下した。
425 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/21(月) 23:48:18.92 ID:9CD0GS6L0
《命中、効果あり!!》

「第二射、撃て!!」

『ガアッ…………』

息継ぐ間もなく、二度目の砲声。最大1000mmのRHA(均質圧延鋼装甲)をぶち抜ける貫通力を誇る砲弾が、今度は頭部と胸部右側に命中しブヨブヨと弛緩した青白い皮膚をぐちゃぐちゃに引き裂く。

頭部に風穴を開け、上半身の右半分を抉り取られた5m強の化け物は、小さく呻き声を上げてそのまま仰向けに倒れた。

《敵艦撃破を確認!なお艦種は確認できず!》

「確認の要なし!目標変更、第三射!」

「照準よし、Fire!!」

『グァガッ!!?』

ヒトマルの砲塔がぐるりと回転し、44口径120mm滑空砲が三度吠える。埠頭に乗り上がろうとしていた敵艦──形状から大雑把に推測する限り駆逐種の何れか──があごのあたりに直撃弾を食らい、衝撃で亀のようにひっくり返って海に転落した。

『ォオオォ……グァアッ!?』

「弾着、弾着!」

「とにかく火線を途切れさせるな!迫撃砲と無反動砲はなるべく一個体に攻撃を集中しろ!」

別の角度から私達に狙いをつけようとした艦影には、軽機関銃や84mm無反動砲、60mm迫撃砲の弾丸が押し寄せる。流石に威力・貫通力に大きく劣る分大破轟沈とはいかないが、集中攻撃に怯んでその動きは完全に縫い止められる。

「2号車、併せて!!」

《了解!Fire!!》

『ギィッ………』

すかさず、たたき込まれるとどめの徹甲弾。三つ首のそいつは立て続けに五発の連射を浴び、右側と中央の首を穴だらけにされて前のめりに崩れ落ちる。

「グッジョブベリーナイスよ!!」

会敵から数分と経たず二隻の轟沈、しかも反撃は皆無。滑り出しとしては上々だ。なおも敵艦隊の動向に神経を向けながら、私は2号車と足下の砲手に賞賛の声を送る。

油断はできない。だが、間違いなく深海棲艦の出鼻を挫くことには成功した。
426 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/22(火) 00:27:44.20 ID:hsFkCUXP0
「怪獣映画ならブーイングの嵐ですね、敵のお目見えと同時にろくな顔出しもさせず最大火力で迎撃とは」

「本物の戦場でお約束なんかクソ食らえよ!」

砲手の大隈二曹の言葉に、私は彼女には見えないと知りつつ肩をすくめた。

ファーストルック、ファーストショット、ファーストキル。【GODZILLA -怪獣黙示録-】での怪獣対処法じゃないが、深海棲艦との戦闘も概ね一番意識しなければならない点は一致している。

先に見つけ、先に撃ち、先に殺す。それこそモンスターパニック映画のように、わざわざ奴らが全身を露わにして戦闘態勢を整えきるまで待ってやる必要性はない。

馬鹿正直に正面から上陸してくるなら、その水際で徹底的に叩くのが最も理にかなったやり方だ。

《正面敵艦隊、後続上陸の気配なし!一時後退した模様!》

「戦闘態勢は維持、警戒は厳としいかなる動きにも対処できるよう最大限の用意を!また、空襲並びに学園艦からの艦砲射撃にも注意して!」

いきなり二隻もの損害を出したことで流石に深海棲艦側も面食らったらしい。奴らの物量からすれば大した損害ではないはずだけど、残りの敵艦はそれ以上上陸を試みることなく再び海中に姿を消した。

とはいえ、あくまで一度態勢を整えるため下がった程度で攻勢自体が止んだとは到底思えない。私達も空襲や主力艦隊の砲撃によってかなりの消耗を強いられている以上、そう何度も攻勢を跳ね返せるほどの余力はない。

《CPより各隊に通達、神山町方面防衛線は海岸線を深海棲艦が突破、内陸に浸透しつつあり》

《此方成田町防衛線、ホ級flagshipを旗艦とする敵艦隊の攻勢を受けている!艦娘部隊の増援を求む!》

《大洗海岸通り防衛線、駆逐艦【菊月】より前線指揮所……学園艦からの艦砲射撃により被害甚大、僚艦の神風、潮も大破した……!これ以上の継戦は困難だ、後退の許可を!》

………そして大洗町全体の戦況は、さらに輪を掛けて絶望的なものへ推移しつつある。仮に私達がなんとかこのまま持ち堪えたとしても、他の拠点が押し込まれ続ければ意味は殆どない。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 01:47:23.66 ID:l9GRkvOA0
待ってました!
…それにしてもこの大乱戦を見てると、圧倒的な戦略眼で死地を凌ぎきるドクや、不屈の精神で敢闘し続けるミルナ中尉が化け物過ぎるw
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 11:34:27.34 ID:Wk2Bz9gOO
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 11:44:28.00 ID:4CEfyEit0
おつ
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/22(火) 21:18:26.47 ID:fZjZ8KqZ0
おっ久々
431 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/22(火) 23:38:26.15 ID:hsFkCUXP0
特に厳しいのは大洗海岸通りの苦境だ。

この方面で深海棲艦による橋頭堡の確保を許せば、港湾部に展開する自衛隊の主戦力と大洗鎮守府が分断される形になってしまう。既に海上からの猛攻によって青息吐息の状況下、陸路からの攻め手が加わればおそらく鎮守府の失陥は免れない。

那珂川以北───ひたちなか市方面からの援護を期待しようにも、向こうは私達以上に防衛戦力配備が遅れている上避難未完両区域も多い。おそらく、先ほど湾内を北上していった敵海上艦隊を艦娘部隊で食い止めるのが精一杯の筈だ。

「ったく、どうしたもんかしらね……っ!」

「正面、敵艦隊再浮上を確認!!」

打開の手を探すべく思考を巡らそうとすれば、再び盛り上がる海面とその下から現れた異形の軍艦に強制的に中断される。

『『ォオオオオォオッ!!!』』

「全速後退!!」

「散開………ぐぁあっ!!?」

ファーストルック、ファーストショット、ファーストキル。今度は向こうが、戦闘の“原則”を忠実に実行した。

浮上と同時に先鋒二隻がはき出した砲弾は、全速力で後退した私達の目の前で地面にめり込み炸裂する。逃げ遅れた陸士が一人、爆風に吹き飛ばされ私達の真上をすさまじい速度で通過する。

グシャリという、人体が衝撃で潰れる生々しく湿った音が背後で響く。……その光景を目にせずすんだのは、悪いけど不幸中の幸いだ。眼前で“それ”が起きていたら、今度こそ私は嘔吐を免れなかっただろう。
432 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/23(水) 00:05:49.13 ID:oiVjuCQQ0
『ォアアッ!!』

『ボォオッ!!』

「うわわわわわわっ!!?」

当然、攻撃は一発では終わらない。先陣の二隻────巨大な顎と青色に輝く単眼が特徴的な、【駆逐ハ級】たちが口内の単装砲を私達に向ける。放たれた砲弾を、中内二曹が悲鳴を上げながらもその声の情けなさとは裏腹に見事な操縦で立て続けに躱していく。

「行け行け行け!!」

「視界を奪え!眼にありったけの弾丸をぶち込んでやれ!!」

すかさず、随伴歩兵隊が私達とハ級の間に飛び出す。10挺を越える89式小銃の銃口が一斉にマズルフラッシュを瞬かせ、5.56mm NATO弾をはき出す。

『ギィイイッ!!』

『ゴァアッ!!』

多くの面でリ級やル級といった主力艦に能力が劣る非ヒト型とはいえ、相手の皮膚の硬度は“軍艦並み”だ。10挺どころか千挺集めたってたかが自動小銃では貫けない。

だが弾丸が炸裂し飛び散る火花は、奴らの視界を奪うには十分なようだった。二隻のハ級は威嚇するように歯をカチカチと鳴らしながら、明らかに不快げに咆哮する。

「後方の安全確認………発射!!」

『ギァアアアッ!!?』

その鼻っ柱に叩き込まれるのは、84mm無反動砲のロケット弾。直撃を受けた左手のハ級が、今度は明確に苦悶の声を上げた後激しくのけぞり蹈鞴を踏む。

「今よ、撃て!!」

「照準よし、発射ぁ!!」

『ゥオオオオオッ!!!』

むき出しになった腹部に狙いを定め、1号車と2号車による同時砲撃。だけどその射線を、もう一体のハ級がまるでハンマーのように自らの頭部を地面に打ち付けて遮る。

『ガァアッ……!?』

「畜生……!」

寸分違わぬ照準で放たれたAPFSDSは、本来の標的ではなくハ級の横っ面に直撃した。装甲が砕け青く生臭い体液が飛び散るが、ハ級の様子を見る限り致命傷にはほど遠い。少なくとも、もう一体の腹をぶち抜くよりはよほど小さな損害に抑えられてしまった。狙い通りの結果を得られず、砲手の大隈二曹が低い声で毒づく。

「野郎、友軍艦を庇いやがった……!」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 10:45:26.39 ID:Tij8k25P0
乙!
この状況、防ぎきれる感じがしないんですが
大洗なんかに橋頭保つくられたら東京陥落待ったなしじゃないですか

この大風呂敷どうやって畳むのかワクワクして待ってます
頑張ってください
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 21:35:50.17 ID:8rEzKPGp0
435 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/05/26(土) 21:00:29.81 ID:i92fwNbE0
非ヒト型の深海棲艦、分けても駆逐級の通常種は基本的にヒト型種と比べて遙かに与し易い。……まぁ私は交戦の実体験が皆無なのでなんとも言えないけれど、少なくとも世界中の軍事関係者が口を揃えて断言し、実際に過去の交戦結果にもそれはとして顕著に表れている。

見たところ、私達の前方に上陸を開始している深海棲艦の強襲部隊にリ級やル級の姿は確認できない。最初の襲撃と同じで、先鋒のハ級を含めて全て駆逐か軽巡で構成されている可能性が高い。

そしてシーサイドステーションは甚大な損害を受けたとはいえ、未だ迫撃砲や84mm無反動砲を10門以上保有している。何より、厚さ1メートルの近代特殊装甲をぶち抜けるAPFSDSを30発強も抱えた10式戦車が二台ある。

戦力的な面から見れば、大洗女子学園からの砲撃や空襲を考慮に入れても私達には粘る余地が十二分にあるはずだ。実際、さっきは二隻の敵を早々に沈めて一度跳ね返しているのだから。

────あくまでも、理論上では。

『ォオ、ギィイイイ……』

125mm弾二発の直撃を食らったもう一体のハ級が、唸りながらゆっくりと此方に向き直る。着弾点には直径20cmはあろうかという穴が穿たれ、表皮装甲は捲れ上がり、黒煙を吹く傷口からは青い体液がボタボタと垂れ流され地面に染みを作っている。一瞬5メートル強の巨軀が揺らいだように見えたのは、受けたダメージが大きくてバランスを取れなくなっているのかも知れない。

歯の隙間から漏れてくる咆哮もまた、出現直後のものに比べて遙かに弱々しい。私達への威嚇だと思っていたが、あの様子を見る限りあるいは単なる苦悶の声だとしてもおかしくはない。それほどか細く、くぐもった声だった。

『ガァ……アァアア……ッ!!』

「────……」

なのに、奴の眼に宿る光の強さは────私達人間に対する、強烈な殺意が込められた眼光は、これっぽっちも弱まらない。

『ギガァアアアアッ……』

無機質で、体温が感じられない、ガラス玉のように人工的な光沢を放つ青い単眼。何を考えているのか、そもそも考えるという行為自体しているのかさえ疑わしい目付き。

だけどその奥に揺らぐ意思だけは、明確に読み取れる。ハ級が───深海棲艦が私達に向ける殺意、害意、悪意……様々な負の感情を、まるで直接脳裏に刻み込まれているような感覚と共に私は理解してしまう。

その強烈な負の感情を込めた眼光に……否、“負の感情そのもの”に射貫かれて、私は打ちのめされる。心臓を冷たい掌で包まれたような感覚が走り、機銃を握る手は強張り、身体は震えて動かない。

それはまるで、腹を空かした獅子に睨まれる野兎のような有様だった。
436 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 21:06:31.84 ID:i92fwNbE0
私にとって不幸中の幸いは、自分が戦車の車長で、かつ一人ではないことだった。もしも孤立した上でこの状態に陥っていたなら、きっと順当に二階級特進となっていたに違いない。

「────尉、蝶野一尉!眼ぇさませ、しっかりしろ!!!」

「っ!?」

叫び声と共にガツンと音がして、膝のあたりに鈍い痛みが走る。同時に、時間にして数秒の(しかし生死の境を分けかねなかった)硬直が解け、私の耳と脳と身体は急速に機能を回復した。

「中内のことしかり飛ばす権利ねえッスよそれじゃあ!!あたしゃまだ母校が優勝旗勝ち取るまでは死なねえって決めてんだ、しゃんとしてくれ!!」

『ギィアアッ!!?』

足下から上がる叱咤激励の声に続いて、今度は乗っているヒトマルの主砲が吠える。砲弾が獰猛な風切り音を伴ってハ級の下顎部分に直撃し、強大な運動エネルギーを持ってその皮膚を粉砕する。甲殻の残骸が地面で跳ね、カラカラと乾いた音を立てる。

「ハ級二番の損害を確認も、敵の後続艦隊は尚も上陸中!

一尉、このままじゃヤバいっす!指示をください!!」

「……まずは確実に敵を一隻減らすべきよ、ハ級二番への攻撃を続行!」

「Si, Signore!!」

『ァアアァアアアッ!!?』

あえてイタリア語で返された返事と共に放たれた今度の砲撃は、ハ級の眼球のど真ん中を撃ち抜いた。甲高い破砕音を残して表皮と眼球の残骸と思われる透明感のある破片が飛び散り、傷口から青い体液を迸らせながらハ級が凄まじい音量の悲鳴と共に悶絶する。

大隈瞳(おおくま・ひとみ)二等陸曹。アンツィオの卒業生である彼女は、かの学園艦のノリと勢いを重視した底抜けに明るい校風を色濃く受け継いでいる。砲手としての腕前は見ての通り確かだけど、今回はそれ以上に彼女の明るさに救われた。

「2号車、続けてハ級二番に照準合わせ!随伴歩兵隊、後続の敵艦隊に火力を均等展開、撃破ではなく足止め・上陸妨害に重きを置いて!」

《り、了解!………撃て!!》

『ア゛ッ………』

2号車の125mm弾が飛翔、未だ黒煙を吹き青色の血を流し続ける傷口に突き刺さり、肉をえぐり、体内奥深くで炸裂する。

小さな呻き声を一つ残して、ハ級の体躯が横倒しになった。

そのまま数秒に渡ってハ級は痙攣を繰り返した後、穴だらけの身体からぐたりと力が抜け永久に活動を停止する。
437 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 21:12:32.42 ID:i92fwNbE0
交戦早々に反撃の間を与えない猛攻を展開しての、一方的なハ級撃破。流れとしては一度目の交戦と遜色ない、理想的な滑り出し。

ただし今回の場合、敵艦隊の数が最初と比べて大幅に増えているという難点が存在した。

『『『ァアアアアアアァッ!!!!』』』

《イ級三体、左翼に新たに上陸!迫撃砲、もっとペースを上げろ!》

《もう限界まで上げてる!これ以上は砲身が破損しかねん!……畜生、やっぱり60mmじゃいくらなんでも役者不足だ!》

《84mm、軽巡ホ級に着弾も効果稀薄!敵艦隊上陸速度、ある程度遅滞も止まりません!》

《屋上狙撃班より前衛部隊、新たな後続艦隊の浮上を確認した!編成にヒト型や上級種は確認できずも数は現在確認できた時点で二個艦隊12隻!》

広く扇のような陣形を組んで、私達の拠点を半包囲するようににじり寄ってくる深海棲艦たち。此方も保持する全ての火力を注ぎ込んで反撃するが、ある程度の打撃は与えられても流石に歩兵の携行火器のみで短時間に轟沈させることは難しい。撃沈には至らず、敵陣の厚みが徐々に増していくことを止められずにいる。

『ガァアアアアアアッ!!!!』

《ホ級砲撃───ぐぁあっ!!?》

「くぅっ……!?」

敵陣の右翼側に現れたホ級が、上部の連装砲を起動させる。砲火が煌めき、飛来した弾丸は私達の右前20mほどの位置で炸裂する。

積み上げた土嚢の上に機関銃を据えていた歩兵の一団が視界から消え、彼らが居た位置ではひらひらとピンク色の“何か”が桜吹雪のように舞っていた。
438 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 21:56:23.60 ID:i92fwNbE0
《第二軽機関銃班通信途絶!》

「1号車より各位、展開地点への砲弾直撃を視認!生存者は確認できず!

怯むな、攻撃の手を止めず撃ちまくれ!!」

《《《了解!!》》》

「弾薬装填完了!発射ァ!!」

『オゴォッ!!?』

私が無線機に向かって叫ぶ下で、大隈二曹が主砲の引き金を引く。2号車も同時に轟音を奏で、二発の砲弾が立て続けに最初のハ級に吸い込まれる。

《2号車より1号車、ハ級一番は損害大も敵艦隊の上陸規模は拡大の一途!攻撃の分散をした方がいいのでは!?》

「1号車より2号車、意見具申を棄却!敵艦隊の進軍遅滞は随伴歩兵隊並びに狙撃班に一任、我々は各個撃破に集中する!!」

《……了解!!》

2号車車長の懸念にも、実際一理ある。60mm迫撃砲は口径が小さすぎて深海棲艦に対して力不足に過ぎ、84mm砲も相手が一体、二体ならともかく優に30を越える物量の前には数があまりにも足りていない。単体で敵の火力に対抗し得る──それも到底“互角”とは言いがたい──のは、この拠点においては10式戦車だけだ。

ただ、それすら今は数が不足している。

「一尉、ヒトマルも二両しかないんだし私らは包囲されつつあります!随伴歩兵の援護に回して目標を分けた方がいいと思うっスけど!」

「逆よ、数が少ないからこそ攻撃目標を集中して!私達は敵が態勢を整えきる前に少しでも打撃を与え続ける!」

「了解ッス!」

弾種が貫通力を重視したAPFSDSという点も相まって、今のヒトマルに多数の敵を相手取り制圧できるだけの火力はない。ましてや相手は、図体が大きく戦車の何倍も耐久力と攻撃力がある深海棲艦だ。

たった二両が目標を分散させて敵に攻撃を仕掛けたところで、足止め効果の上昇は微かなもの。寧ろ、敵艦に対する決定力が減退し戦力を削ることができなくなる可能性が高い。
439 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 22:59:21.04 ID:i92fwNbE0
尤も、今の戦法を維持してもどのみち状況は好転のさせようがない。敵の数は30を越え、深海棲艦一隻の沈黙に此方の砲弾は急所への集中攻撃でも10発前後を要する。それに対して戦車はたったの二両、残弾も各20発強しかない。

『ァアアア……グァ………』

《ハ級一番、沈もk発砲炎を視認!!》

「全速回避!!」

「ひぇえええ!?」

私の叫び声と同時に、或いはコンマ数秒早く中内二曹がヒトマルを操作する。三つ首の深海棲艦……軽巡ト級が放った弾丸が左旋回した車両を掠めて数メートル後ろの地面に突き刺さり、爆発。車体後部が微かに浮き、着地時にズンッという身体の芯を突くような震動が襲ってきた。

《こなくそっ!!》

『ゴガッ!?………ガァッ!!!』

此方の陣地の一角で、84mm無反動砲が火を噴く。対戦車弾頭がト級の左側の首に着弾し火花を散らすが、ト級は被弾箇所から僅かに煙を上げつつも態勢すら崩さず反撃に移る。

《反撃来るぞ!》

《退h》

中央首の口から突き出した単装砲、その先端に走る閃光。炸裂した砲弾の火が弾薬にでも誘爆したか、その小隊が陣地としていた砲撃痕から巨大な火柱が立ち上る。

《此方屋上狙撃班、敵艦隊への妨害射撃は効果がきわめて稀薄、敵の展開規b》

『ォアアアアアッ!!!』

イ級が一隻声高に吠えながら顔を上げ、砲弾をはき出す。5inch単装砲の弾丸がシーサイドステーションの二階部分に直撃、爆発と共に着弾点は崩落し、狙撃班からの通信も砂嵐を残して途絶える。

《………【ダスター】よりヒトマル1号車、既に我が方の損害甚大にして敵との物量差は圧倒的、かつ大洗町全体の戦線も瓦解携行にあり!

速やかな後退、並びに友軍部隊との合流を具申する!!》

「1号車よりダスター、後退は許可できない!当拠点が崩壊すれば敵主力部隊の大規模な進軍路が確保され、大洗町の失陥はおろか避難未完両区域への深海棲艦による大規模浸透の危険が高まる!

なんとしても現拠点を死守せよ!!」

《……くそったれ、了解だ!

とはいえ最早残弾僅か、もう間もなく敵の航空戦力を抑えきれなくなるぞ!》
440 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 23:28:47.22 ID:i92fwNbE0
M42からの通信は、ヤケクソ気味の悪態で締めくくられる。

一応は納得してくれた彼には申し訳ない話だけど、私が口にした内容は全てが真実ではない。

勿論大洗町、というよりは茨城県沿岸の完全失陥や民間人への被害発生を回避するために、私達が踏み止まらなければならないというのは事実だ。【ダスター】の進言を受けてCPに退却許可を打診したとしても、これが理由で棄却される確率は非常に高い。だけど、そういう状況であることを利用して、私が本当にここに踏み止まりたい理由には触れずにいた。

私は日本陸上自衛隊一等陸尉であり、戦車道連盟に所属する審判員の一人であり……
…大洗女子学園の、戦車道実技担当講師でもある。

部下に叱咤されなければ深海棲艦と相対した恐怖から抜け出せなかった臆病な人間が、今この瞬間深海棲艦の蹂躙を許している無力な人間が、こんなことを言うのは烏滸がましいかも知れない。

ただ私は、今なお学園艦の上で奴らの脅威に晒されているあの子たちを見捨てるような真似はしたくなかった。西住さんたちが助かる目を失わせるような、大洗女子学園奪還の可能性を更に下げるような状態にしたくなかった。

認めよう。経戦指示を出した最も大きな理由は、紛れもなく私自身のエゴ、自衛官にあるまじき個人的な感情だ。また、“明確な大義名分がある”のをいいことにそのエゴを隠す卑怯者でもある。

(………そうは、言ってもね……!)

どちらの理由で踏み止まるにしろ、現在の戦況は最悪に近い。部隊の損害はダスターが言うとおり拡大し続け留まるところを知らず、今や彼我の物量差・火力差は覆しようがない。充満しすぎてかえって感じることができなくなるほど、あたりは死臭と血の臭いにあふれかえっている。

加えてダスターの弾薬が切れれば、私達は敵航空戦力に対する対抗力を失う。質と量を兼ね揃えた陸海空の緊密なる共同攻撃だなんて、笑えないにもほどがある。

機銃掃射を正面に鎮座するホ級の頭部に浴びせつつ、私は無線機に向かって呼びかける。
441 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/05/26(土) 23:59:10.65 ID:i92fwNbE0
「……此方大洗シーサイドスクエア。ヒトマル1号車車長・蝶野より近隣各拠点に伝達、稼働可能な装甲戦力を報告せよ。それから艦娘部隊の中で損傷軽微・戦闘可能な艦が居ればそれも共有されたし!」

《重巡洋艦羽黒、沿岸部から離脱後若宮交差点へ転進、自衛隊の皆さんと合流しました。敵砲火を受け続けていますが損傷軽微、戦えます!》

《西福寺前、駆逐艦・陽炎健在!合流は可能よ!》

《此方大洗駅前、爆撃並びに艦砲射撃により損害大なるもキューマル一両、ダスター一両を其方に回せる、オクレ!》

《磯浜さくら坂通り第八隊、ヒトマル一両、キューマル一両、LAV四両を派遣可能!また合流艦娘三名は最上、五月雨、神威何れも損傷軽微!交戦可能!》

重機関銃を操っている真っ最中の私に、メモを取るような余裕は当然ない。必死に耳を澄まして一言一句を聞き取り、脳内で慎重かつ速やかに統合していく。

(機甲戦力37、艦娘戦力9……ね)

単純な数の少なさもそうだが、詳細はより厳しい。重巡洋艦2隻に駆逐艦ながら高い性能を持つ陽炎がいる艦娘部隊はともかく、抽出できた機甲戦力は最終的に2/3以上がLAV。対空火力であるM42に至っては大洗駅の一両だけ。残弾の消耗もかなりしているとみるべきだろう。

無論、まだ音沙汰がない拠点も多数ある。とはいえ、この時点で応答がないということは壊滅したか、壊滅していなくとも此方の問いかけに即座に答えられる余裕すらないかのどちらかだ。或いは無線が故障・破壊された等でたまたま戦力を保有しながら答えられない可能性も一応あるけれど、ひたちなか市方面への進出すら深海棲艦が試みている状況下でそれは楽観視が過ぎる。

だいたい、それらの拠点の安否を確かめるだけのリソースを割く余裕は私達の方にもない。

それでも、“何もしない”という選択肢は無しだ。砕ける未来が同じなら、向こうに拳を振り下ろされるより此方からぶち当たってやる方がよほど生き残る確率が上がる。

それに────“西住流に後退の文字はない”のよ。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/27(日) 23:25:32.82 ID:yEantkf+0
乙!
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/31(木) 19:42:16.74 ID:aFzsXU9RO
444 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/04(月) 23:44:47.28 ID:8RT1ILCz0
「シーサイドステーションよりCP、通信が取れた拠点から残余艦娘戦力並びに機甲戦力の抽出・再編許可を願う!

現在市街地に展開する最大火力の集中運用にて正面敵艦隊の上陸を阻止した後、大洗海岸通り方面に突貫し敵浸透部隊を撃滅する!」

《CPよりシーサイドステーション、許可する。近隣拠点にて機甲部隊・艦娘が健在かつ派遣可能な箇所は速やかに大洗シーサイドステーションまで急行させろ!!》

コマンドポストは意外にも、こちらの要請を二つ返事で承諾してくれた。本来喜ばしいことなのだけど、その事実は私の眉間に却って深いシワを作らせる。

前線指揮の中枢が一尉官の申し出に飛びつかなければならないほど、戦況は逼迫しているらしい。それも戦略の詳細も、「敵艦隊の撃滅」に対する根拠も聞かずに、だ。

《大洗駅よりCP、指示を受諾。これより機甲戦力を前進させる!》

《こちら若見屋交差点防護陣地、敵空襲の激化により現時点では戦力抽出不可!敵艦載機部隊の撃滅を完了次第羽黒を派遣する!》

《西福寺、M42を1両と陽炎、他対戦車火器装備の人員を一部そちらに向かわせる!陽炎、行けるか!?》

《任せて!!駆逐艦【陽炎】、指定区域に移動する!到着までに全滅したりしないでよ!!》

《大洗中央排水所前、七警・軽巡洋艦【長良】!これより護衛部隊並びに軽装甲偵察車3両と共に指定区域に前進、友軍と合流後蝶野亜美一等陸尉の指揮下に入ります!》

《中央排水所前よりシーサイドステーション、聞き及んだ通りだ!この町の守りは貴官に託すぞ!》

《此方成田町、国道51号線沿いにて深海棲艦10隻強の上陸を確認!増援派兵は困難、すまない!》

CPからの指示に応じて、次々と各拠点から要請受諾や現状報告の声が上がる。先の呼びかけからさしたる時間が経っていないにも関わらず、既に幾つかの部隊は早くも戦力の派遣が困難になっていた。

全く、かのモントゴメリーでさえ、きっとこの状況に関しては「最悪だ」ってしかめっ面で呟きそうね。しかもその「最悪」は、現在も絶賛更新中ときたわ。
445 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/04(月) 23:47:41.00 ID:8RT1ILCz0
それでも、光明もある。駆逐艦ながら高い性能を誇る陽炎が貴重な対空火力であるM42も伴っての派遣される点はプラスの意味での計算外だ。逆に主戦力と見込んでいた重巡羽黒はまだ動けないらしいけれど、そもそも彼女がいる若見屋交差点はここから1キロと離れていない。

敵航空隊の排除さえなれば、徒歩でも10分とかからず合流が見込める。苦戦するようなら、先に陽炎たちを若見屋交差点の援護に向かわせて敵航空隊を跳ね返すという手もある。

例え極楽の菩薩が気まぐれで垂らした蜘蛛の糸よりか細いものであったとしても、反撃への道筋が残っている限り私達に“諦める”という選択肢は無しだ。

「一号車より各位、CPは要請を受諾し現在増援戦力を編成中!尚、友軍戦力には西福寺の【陽炎】と若見屋交差点の【羽黒】が健在とのこと!!

踏ん張るわよ、最大火力にて敵艦隊迎撃を継続して!!」

飛ばした激励に対する返答は、殆どない。
通信を境に明らかに勢いを取り戻した火線が、その代わりとなる。

『『オ゛ォ゛ッ!?』』

『『グォオオオオ……!!』』

無論、ヒトマル2両と、他にはせいぜい110mm個人携帯戦車弾───所謂【パンツァーファウスト3】ぐらいしか一撃で相応のダメージを与えられる火力が存在しないという現状は変わらない。それでも、怯ませることができれば後続部隊の到着までこの拠点が持ち堪えるだけの時間は捻出できる………と、信じたいところね。

「しかし、“浸透艦隊の撃滅”とは大きく出たっすね!」

呆れたような、それでいてどこか小気味よさげな声色は足元から。雑談に興じながらも、大隈二曹の狙いは些かも鈍りはしない。

『ギァアアッ!!?』

砲声が鳴り、機銃射撃とは別種の震動に視界が揺れた。新たに上陸してこようとした軽巡ホ級が、首の辺りから間欠泉のように吹き出す青い血を止めようと藻掻きながら仰向けで再度海に転落する。

「CPは二つ返事でOK出しましたけど、勝算はあるんスか一尉!?通信聞く限りだと、上陸した敵戦力規模はもう100隻は確実に越えたッスよ!?」

「100どころか多分200越えてたわね、ひたちなか市の方に向かった奴らも含めるならもっとじゃないかしら」

既に物量の面では、とっくの昔に私たちの対応可能な許容範囲を越えている。しかも大洗鎮守府の動きは封じられており、敵には航空支援と主力艦隊による艦砲射撃の加護つきだ。浸透部隊がほぼ非ヒト型で構成されている点を差し引いたとしても、正面からの激突で私達に勝ち目はないだろう。

ただし、そもそも私達は馬鹿正直に“敵の全戦力を粉砕する”必要自体がない。

「限りなく薄いのは認める、でも0じゃない。悪いけど付き合って貰うわよ、“分の悪い賭け”にね」

「ったく、ハルウララに十万賭けろって言われた方がまだマシな気分ッスよ!」

「ひどい言いぐさ……ねっ!!」

『!!?』

気配を感じて、引き金を押し込み続けながら機関銃の照準を上空に向ける。ちょうど突入してきた【カブトガニ】が、真っ正面から弾丸に貫かれて黒煙と火炎を噴き出した。

『─────………』

『ア゛ア゛ァ゛ッ!!?』

きりもみ状態に陥った敵機はみるみるうちに私達から軌道が逸れていき、空に煤けた弧が一筋描かれる。正面艦隊のまっただ中に墜落したその機体はそのまま隊列の中程にいる軽巡ト級に直撃し、爆散。

『ギギッ…………!』

折しも此方に砲撃を加えるため中央の頭部が大きく口を開けていた矢先の一撃に、ト級が蹈鞴を踏みながら低く呻く。誘爆による一発轟沈……とまではいかなかったが、【カブトガニ】が激突した右側頭部から炎を伴った煙が激しく吹き出している辺りダメージは小さくないらしい。

「パンツァーファウスト!!」

「了解!!」

『ゴガッ……ギィゥ!!?』

即席陣地の一角で、110mm無反動砲数門が一斉に砲弾を放つ。先鋒として殺到したDM32【バンカーファウスト】弾が傷口付近に次々と着弾して装甲を粉砕し、広がった傷口に後続のタンデムHEAT弾が飛び込んだ。

『ガッ……────』

低く大きな音が鳴り響く。港湾部全域がまるで大地震のように鳴動し、一際巨大な火柱が目の前で上がる。今度こそ内蔵弾薬に誘爆したト級が大爆発を起こし、砕け散った奴の残骸がそこら中に飛び散る。

『『『ギァアアアアアアッ!!!?』』』

吹き出した轟炎に巻き込まれ周囲数体の駆逐艦や軽巡が暴れ狂いながら苦悶の声を上げる有様は、さながら絵巻や絵画で描かれた“地獄”をそのまま現実化したかのようだ。おぞましさ、気色悪さも感じるが、それ以上にやはり、胸の内からじわりと滲み出るような恐怖を感じずにいられない。
446 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/04(月) 23:50:03.92 ID:8RT1ILCz0
《敵航空隊、更に一部が対空砲火を抜ける!直上より急降下!!》

M42からの警告の叫び声。比喩表現ではない、本物の地獄へ誘おうとラッパの音が空から迫る。

腹の底で尚も渦巻く恐怖を飲み下し、機銃の火線をラッパの音が聞こえてくる方に向ける。火線を突き入れられて編隊飛行を乱した10機ほどの黒い機影が、忌々しげに踵を返す様子が視界に映った。

『イギアッ!!?』

「て、敵艦に打撃を確認!」

鈍く掠れた悲鳴と中内二曹の報告の声に視線を戻せば、新たに隊列に加わっていた個体──姿形から推測するに恐らく軽巡へ級──がヒトマルの砲口が睨み据える先で仰け反っていた。私達を標的にしたところで大隈二曹に撃ち抜かれたのか、艤装と一体化している奴の右手が拉げてあらぬ方向に折れ曲がり、バチバチと火花を散らす。

「オッケー、グッジョブベリーナイスよ!」

「お褒めの言葉より給与に特別ボーナスでもつく方がよっぽど嬉しいっスね!一尉、上に掛け合ってくださいよ!」

「善処はしてあげるわ、約束はできないけどね!」

善処どころか、来年度の予算が0になったっておかしくない。………いや、そもそも“来年度があるかどうか”が問題なのだけれどね。

「1号車より【ダスター】、弾薬残量は!?」

《随伴歩兵部隊や周辺拠点からの支援でなんとか節約できている、それに破壊された車両から無理矢理幾らかの弾薬も引っ張り出せた!

当初の見込みよりは幾らか引き延ばせそうだがそもそも敵航空隊の数が増える一方だ、どのみち長く保つわけじゃない!なるべく早くに状況を打破してくれ!》

「1号車よりダスター、了解!

2号車、機銃掃射を対空専任に!また展開部隊の内対戦車兵器を持たない班は1班だけダスターの支援に回って!」

《2号車、了解!対空戦闘に移行します!》

《こちら富永班、指示を受諾!M42護衛部隊に合流する!》

『オ゛ア゛ア゛ッ!?』

味方への指示を出す私の頭上を、砲弾が弧を描いて飛び越していく。背中で立て続けに三つの爆炎が弾け、駆逐イ級がくぐもった悲鳴と共に微かに身体を跳ねさせる。

《大洗町駅よりシーサイドステーション、これより平行して迫撃砲による火力支援を行う!弾着は確認した、効果のほどを報告されたし!》

「此方シーサイドステーション、支援砲撃を感謝するわ!効果としては着弾した駆逐イ級に損害を確認、引き続き支援を求む!オクレ!」

《大洗駅よりシーサイドステーション、了解!砲撃を継続する!》
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/05(火) 17:42:11.00 ID:NWxqa+1T0
おつ
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 01:27:33.73 ID:MyDVjJuA0
おつおつ
立ち塞がって物量を凌ぐにしても、補給なんかも考えたら増援次第かなあ…
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/07(木) 20:26:56.17 ID:Swnq3E1x0
おっつおっつ
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/08(金) 07:54:17.10 ID:voZu7whOO
451 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/12(火) 22:31:24.65 ID:PNClVgFK0
善戦は、している。

ただでさえ雀の涙な艦娘戦力が十全に機能せず、物量差は広がる一方。制空権は掌握され、学園艦は攻撃不可能の砲台と化し、砲弾と爆弾が豪雨の如く降り注ぎ続けているそんな状況下で、抵抗するどころか幾多の敵艦を沈め、あまつさえ反攻の態勢を整えようとすらしている。

予想通りの、いや、私の予想以上の“善戦”と呼んでいい。そりゃあ軽巡棲姫を陸戦で撃沈したドイツ軍には遠く及ばないけれど、大隈二曹共々私達全員が特別ボーナスを貰うに値する程度の働きはできていると思う。

だけど、それだけだ。

《此方2号車、主砲弾残余八発!機銃も流石に残弾が心許なくなってきたわ!!》

「一尉、1号車も125mmの残りはきっかり10発っス!このままだとどう考えても足りねえッスよ!」

《狙撃班より1号車、埠頭方面で新たに一個艦隊の上陸を視認!戦力はヘ級2、ホ級1、イ級2、ハ級1!なお、ヘ級の内1隻はeliteと思われる!》

《此方大洗駅、学園艦艦上より新手の航空隊発艦を確認した!市街各部隊は警戒せよ!!》

「シーサイドステーションより陽炎並びに羽黒、合流はまだできそうにない!?」

《こ、此方羽黒!ごめんなさい、空襲が激しくて無理です!》

《陽炎より蝶野一等陸尉、急行中も敵艦載機隊に補足され続けていて交戦しながらの進軍となっている!行軍は大きく遅滞、もう少しだけ待って!》

反撃の糸口は、未だ繋がっている。

尤も、私達が手にしているそれは、相変わらずか細く脆いままだけど。
452 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/12(火) 22:43:35.29 ID:PNClVgFK0
「シーサイドステーションよりCP、現有戦力の集結がやや遅れている!後方待機中の艦娘、或いはC.R.Rの派遣は可能か!?」

《CPよりシーサイドステーション、不可能だ!後方戦力はまだ割くことはできない!》

「ま、そうでしょうね………!」

要請の棄却は若干喰い気味ですらあったけれど、予想通りだったため落胆はない。

深海棲艦の艦載機は、既に相当数が涸沼や那珂川を越えて避難未完了区域の上空を脅かしつつある。下手に艦娘戦力や機甲部隊を割けば、押し寄せる航空隊の物量に対処しきれず民間人に大きな被害を出す恐れがある。

同様の理由から武器弾薬の補充も通らないだろう。今頃トラックもヘリも、詰めるだけの住民を詰めてのピストン輸送にかり出されている真っ最中の筈だ。

「一尉、CPの返答は!?」

「ベリーバッドね、却下されたわ!」

「そりゃそっスよね!!」

『ゴァッ────!?』

通信が終わるやいなや声をかけてきた大隈二曹も、結果は覚悟していたのかその返事は軽い。八つ当たりとばかりに放たれた砲撃は、ちょうど連装砲を起動しようと開かれたハ級の口の中に飛び込んだ。

『ガッ………』

一瞬の制止の後、グワラと巨大な音がしてハ級の胴体が七割ほど消し飛ぶ。成長途上のオタマジャクシを思わせる、巨体に対してあまりにも貧相な足がぱたりと力なく両脇に倒れる。

また1隻、敵艦が沈んだ。だけど、これで1号車の主砲残弾も9。眼前にひしめく───そして、一向に増強をやめない敵戦力と比較して、この9という数は0と大して意味合いが変わらない。

『ゴォアッ!!!』

「い、一尉!もう無理です、後退しましょう!!」

別方面から、お返しとばかりに深海棲艦の砲弾が飛来する。回避したヒトマルの10mばかり横でそれが炸裂すると同時に、ついに決壊した中内二曹が悲鳴に近い声で車内から私に向かって叫んだ。

「敵の物量は圧倒的、砲弾も人員も足りてません!このままだと被害は増える一方です!!

艦娘戦力が、大洗鎮守府が健在なうちに撤退しましょう!!反攻作戦なんて、この町の死守なんて最初から無理だったんですよ、被害を抑えて態勢を立て直した方が絶対にいいです!!」

「何言ってんだ!!大洗女子学園はどうなるんだよ!!」

「どうせみんな死んでるに決まってる!生きてるわけないじゃない!!それに私は死にたくないもん!こんなところで死にたくないもん!!」

「中内てめぇ!!」

再び恐慌状態に陥った挙げ句破れかぶれで喚きだした中内二曹に、大隈二曹がつかみかかる。砲手と操縦士が同時に職務放棄という事態に、全身から音を立てて血の気が引く。

「落ち着きなさい二人とも!!今は戦闘中────」

《────敵機、直上!》

2号車車長の叫び声に被さるように、空から聞こえてきた“ラッパ”の音。

「ぅあっ───!?」

押し寄せる轟音に、鼓膜がつかの間機能を失う。

吹き付ける爆風に、呼吸を奪われる。


次の瞬間、私の世界はヒトマル諸共逆さまにひっくり返った。
453 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/12(火) 23:44:31.95 ID:PNClVgFK0

……たまたまそのタイミングで強風でも吹いていたのか、対空砲火の回避のため敵機の軌道の方が逸れていたのか、原因については解らない。ともかく絶好の的であった筈の私達に、敵機の投下した爆弾は奇跡的に直撃しなかった。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」

それでも、当たり所がよければイージス艦でも一発轟沈せしめる爆弾が超至近距離で起爆したのだからただ無事で済むわけもない。火柱に煽られたヒトマルは乗っていた私ごと亀のようにひっくり返り、衝撃でぐしゃりと音を立てて砲塔が折れ曲がる。

「……………っつ」

完全にひっくり返る直前に車内に飛び込んだため頭を潰されることは避けたが、それでも車内をまるでピンボールのように跳ね回った身体は至る所が痛む。特に左足は、打ち所が悪かったのか微かに動かすだけでも軋むような鈍痛が走った。

とはいえ、致命的な怪我が見当たらないのは不幸中の幸いだ。

「………大隈二曹、中内二曹、生きてる!?生きてるなら返事をしなさい!」

ノハ;メ゚听)「大隈瞳二等陸曹、健在です!」

滅茶苦茶になって赤ランプが点滅する車内に声をかければ、足下で大隈二曹が手を上げる。額の傷から血が滲んでいるが、彼女も大きな怪我はなさそうね。

ハソメ − リ「うぅ……」

序でに、彼女の腕の中には羽交い締めにされるような形で中内二曹が抱かれている。彼女も気を失ってはいるが、見た限り十分に無事と言える範疇だ。

車内の惨状を考えれば奇跡と言って差し支えないレベルだけれど、喜びを分かち合っている暇はない。

「中内二曹はどこかに挟まったりしてない!?」

ノハメ゚听)「今まさに運転席の中に挟まってたのを引っ張り出したところっス!あっ、一尉これを!」

「ありがとう!急いで脱出するわよ!」

大隈二曹から89式小銃を受け取り、腹ばいに。焦る気持ちを抑え、横転や倒壊による下敷きを避けるため努めてゆっくりと外に這い出る。

「一尉!」

「蝶野一尉、他の二人も無事で!」

全身を引っ張り出すと同時に小銃を構えて周囲の状況を確認すれば、ちょうど私達の方に駆け寄ってくる一団があった。私と、私に続いて車外に這い出てくる両二曹を見て全員が安堵の表情を浮かべていた。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 10:33:57.55 ID:cHqE+DTs0
乙!
みんながんばれ
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/13(水) 22:03:28.94 ID:nlvUM/5v0
おつでs
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/16(土) 03:43:00.09 ID:Q7sBgUFcO
457 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/16(土) 23:09:41.37 ID:dckhVBid0
「蝶野一尉、お怪我は!?一応担架も用意しましたが……」

「足が少し痛むだけで大きな問題はない、それより中内二曹を──っ!」

頭上10mほどをライナー性の軌道で砲弾が駆け抜けていき、一瞬首を竦める。大洗駅の方面で轟音が鳴り響き、規則正しく飛来していた迫撃砲の支援砲火が束の間途切れた。

「シーサイドステーションより大洗駅、無事!?」

《120mm迫撃砲一門喪失、他に死傷者若干名も継戦は可能だ!そっちこそさっきの爆撃は大丈夫だったのか!?》

「私達自身は無事だけどヒトマル1号車を喪失、拠点火力が大幅に減退した!なお2号車も残弾は極小!!」

無線でやりとりを続けながらも、動きを止めている暇はない。中内さんのことは担架を運んできた二人に託し、私自身は大隈二曹らと共に上空に小銃を向ける。

「図図しい注文で申し訳ないけど、派遣した増援部隊にクロムウェル巡航戦車並みの超特急で来るよう伝えて!

総員陣形再編急げ!対空戦闘、よぉーーい!!」

当然の帰結だ。

ただでさえ、M42の残弾の減少やLAV、96式の損失、随伴歩兵各班の損耗などで薄くなり敵航空隊の突破を許しつつあった現状がある。その中で私達は更に装甲車両を……対空弾幕の一角も担っていた指揮車両を失った。

火力が減退し、指揮系統に束の間混乱を来した最前線の防護拠点。しかもその拠点に周囲から戦力が集まりつつある動きも、空からなら手に取るように解ることだろう。

故に、敵の“指揮艦”が大洗シーサイドステーションを完全に叩き潰そうとするのは当然の帰結だった。

《空が三分に敵機が七分!繰り返す、空が三分に敵が七分!!》

ノハ;メ゚听)「総員気張れ、とんでもねえのが来るっスよ!!!」

腹を空かせた猛獣が、低く唸っているようなエンジン音。それらはすぐにあの耳障りな甲高い風切り音に代わり、空から迫る。

今日一日で散々聞き飽きた、“ジェリコのラッパ”の大合唱。………ただしその数は、今までの比じゃない。何十、何百、千に届くと言われても信じられる。

『『『『………─────────!!!』』』』

狙撃班のヒステリックな無線通信さえ、私達の頭上に限定すれば強ち誇張表現ではない。

それら膨大な物量の敵機が、一斉に私達に向かって押し寄せる。
458 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/16(土) 23:42:28.86 ID:dckhVBid0
雨のようになんて表現では到底追いつかない。

その空襲をあえて比喩的に表現するなら……空そのものが降り注いでくるような、とでも言おうか。

「撃て、撃て、撃て!!」

《最早残弾を気にする段階じゃない!とにかく全弾ぶっ放せ!!》

迫る真っ黒な空に、次々と私達の火線が突き刺さる。密集しているため面白いように命中し、オレンジ色の火の玉がそこかしこで淡い光を発する。

だけど、規格外の物量の前でそれらの閃光はあまりに微かで、儚い。

『『『────………』』』

《敵機投だn───》

「退避、退避、退避ーーー!!」

《機銃掃射来るぞ、散開しろ馬鹿野郎!!》

「三浦、こっちだ!走れ、走れぇ!!」

《シーサイドステーション、区画の一部に直撃弾!徳居班が崩落に巻き込まれた!》

「いでぇ……いでぇよぉお………」

急降下爆撃が命中したLAVが吹き飛ぶ。機銃掃射を四方八方から受けた堡塁が血煙に包まれる。コンクリートが爆弾で捲れ上がり、とんだ破片が隊員の眼球をえぐる。弾薬への誘爆で火柱が上がり、炎に飲まれた機銃手が地面で藻掻きのたうち回る。崩れ落ちるシーサイドステーションの瓦礫が、尚も転がっていた96式の残骸をそれを盾にしていた一個小隊ごと押し潰す。

ノハメ;゚听)「被害報告!」

《シーサイドステーション内部、崩落箇所は20を越え岡本班、徳居班、長田班と通信が途絶した!木田班も2名が巻き込まれ重篤、1名が死亡!医療員にも死傷者が出た!》

「即席堡塁・バリケードは約半数が沈黙!60m迫撃砲、110mm無反動砲他多数の重火器も失逸!」

《此方ヒトマル2号車、履帯を損傷し行動不能!主砲残弾も2、機銃も後10秒ほどで打ち止め!》

《こちらダスター2、我々も履帯をやられ移動不能!随伴歩兵隊も機銃掃射により半数が死傷!》

「一尉、磯浜さくら坂通りからの増援部隊が敵主力艦隊の艦砲射撃により進軍困難に陥っているとのこと!現在複数拠点が陽動を行っていますが効果は見られz」

「っ」

報告をしてくれていた通信士の頭が、機銃掃射の火線に射貫かれる。風船を針で突いたみたいな存外乾いた音を残して頭蓋骨と脳細胞とその他諸々がはじけ飛び、赤い肉片が私の頬や口元に付着した。

……人間の適応力は素晴らしくもあり、おぞましくもある。最早そんな光景を目にしても、私が抱いたのは多少の不快さと“また戦力が減ってしまった”ことに対する焦燥だけだった。
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/17(日) 06:12:33.92 ID:IuSBZxwA0
おつおつ
やっぱり火力がやべえなあ…
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/17(日) 21:59:45.83 ID:w5tYfehq0
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/18(月) 11:03:47.19 ID:FzCt1Sc70
乙です!
あぁもう大洗陥落かなぁ?
462 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/18(月) 23:33:13.05 ID:m3VtkzhB0
20秒に満たない交戦の中で、優に100を越える敵機を撃墜した。だがその戦果は敵の全体物量からすればごく微量であり、引き替えに私達が被った損害は甚大だ。

《敵航空隊、上空で隊列を再編!また急降下来ます!!》

「総員対空戦闘を継続して!総力を挙げて迎撃せよ!!」

89式を構え直しながら無線で檄を飛ばすけれど、殆ど意味がないことは誰よりも私自身がよく知っている。

急造ながら組まれていた対空迎撃用の隊形は膨大な欠員によって崩壊し、LAVはとうとう全滅、ヒトマルとM42も事実上無力化された。数挺の軽機関銃と一握りの歩兵自動小銃で迎撃できる物量ではない。

《これ以上、やらせません!!》

『『……───!!?』』

そのままなら全滅を待つしかなかった私達を救ったのは、2発の砲弾だった。一体の巨大な黒い獣と化したかのように寄り固まって押し寄せてきた【カブトガニ】の大群体は、立て続けに飛来したそれらを食らって一瞬陣形を乱し動きを止める。

『『『『!!!!!?!?!!?』』』』

ノハメ;゚听)そ「のわっ!?」

次の瞬間、“獣”の体内で炎がはじけた。炸裂した2発の中からは更に無数の小型弾が周囲にまき散らされ、次々と敵機に突き刺さり発火する。火だるまと化した敵機は更に別の機体にぶつかり、その機体は更に別の機体へ……物量に任せての密集突撃に移ってしまっていたことが大いに災いし、群体は中心部から巨大な火柱へと姿を変えていく。

『『『………────』』』

目算で大凡3割程度の機体が焼き尽くされたところで、ようやく残余の編隊が陣形を崩して火炎の渦から逃れ出る。流石に向こうとしても看過できる損害ではなかったようで、まだ爆弾を抱えているらしき機体もあったがほぼ全機が機首を返し学園艦の方に戻っていった。

《こ、こちら重巡【羽黒】!支援砲撃が遅れてごめんなさい!【三式弾】の効果を報告してください!》

「シーサイドステーションより羽黒、効果絶大!当方直上における敵編隊の一時後退を確認!

助かったわ、支援を感謝する!!」
463 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/18(月) 23:36:49.10 ID:m3VtkzhB0
三式弾。あまり艦娘の艤装事情に詳しくない私でも、その名は覚えている。

敵艦載機の圧倒的な物量を逆手にとり、深海棲艦が大量の航空戦力を一度に運用すればするほど効果が大きくなるという画期的な対空弾頭。第二次マレー沖やキュラソー沖海戦、ア号作戦・改、【イツクシマ作戦】等多くの戦場で戦果を上げたとは聞いていた。

正直半信半疑だったけれど……なるほど、今回がかなり出来過ぎたケースであろうことを差し引いても、聞きしに勝る威力ね。

「シーサイドステーションより羽黒、三式弾の残弾数を報告されたし!」

《羽黒よりシーサイドステーション、残弾8発!なお、現在再編集結中の戦力で運用可能なのは私と最上さんだけです!また、最上さんは所持数2発と確認済み!》

此方の聞いたこと以上の答えが、そしてその上で求めていた答えがさらりと返ってくる。先ほどの大戦果といい、垣間見える彼女の優秀さに舌を巻く。

合計10発。今のようにここぞの場面以外でおいそれと使えるほど潤沢とはお世辞にも言えないけれど、少なくとも要所要所で敵航空隊に対する戦果拡大と抑止力として使うには十分な量でもある。

現に、三式弾への警戒からか私達の上空からは敵航空隊の姿がほぼ完全に消え去り、大洗町全体でも爆撃が明らかに鈍化した。一先ず、空の脅威はしばらく払拭されたと見ていいだろう。

《大洗鎮守府より各隊に通達!!》

────まぁ、払拭された脅威はあくまで“片方”だけなわけだけど。

《大洗めんたいパーク方面に新たな敵艦隊戦力の上陸を確認!電探反応のため艦種は不明、数は二個艦隊十二隻前後と推察される!

反応は磯浜町方面へ進軍中、付近部隊は警戒されたし!》

《此方大洗文化センター前、既に今報告に上がったと思わしき敵から艦砲射撃を受けている!

当方に装甲戦力なく、迎撃が困難!増援を送ってくれ!》
464 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/19(火) 00:02:29.01 ID:GIou/mEJ0
「………シーサイドステーションより若見羽黒、陽炎、および随伴部隊各位に伝達。作戦を一部変更。速やかにめんたいパークからの敵艦隊迎撃に向かって」

《陽炎よりシーサイドステーション、正気!?敵航空隊は下がったとはいえそっちは装甲戦力も対空火力も損失したんでしょ!?仮に軽巡・駆逐主力だとしても五個艦隊超の深海棲艦相手に持ち堪えられる戦力じゃないわよ!》

「持ち堪えてみせるわ!心配してくれるなら速やかに敵艦隊を撃滅して!サンビーチ通りを寸断されればどのみち鎮守府や大洗海岸通りが保たなくなるわ!」

私達の正面の敵艦隊撃退、そしてシーサイドステーションや大洗港湾部の安全確保は作戦の第一段階に過ぎない。大目的はあくまでも、戦力の集中運用による海岸通り及び大洗鎮守府の奪還だ。

めんたいパーク方面で敵艦隊が橋頭堡を築けば、この“大目的”を果たすに当たって沿岸部の戦線が南北に分断されることになり作戦が根本から瓦解する。私達の方面を疎かにしていいわけではないが、現段階での優先順位は明らかに“新手”への対応の方が高い。

それに、各増援部隊の進軍速度的に十分な戦力が集結しきるまでには尚もかなりの時間がかかるだろう。羽黒と陽炎が到着したところで短時間での殲滅は不可能に近く、その間に南下してきた敵艦隊に側面攻撃を受ければどのみち壊滅は免れなくなる。

《………羽黒、了解!陽炎ちゃん、行きましょう!!》

《っ、陽炎了解!!蝶野一尉、絶対持ち堪えてよね!!》

無論この事情を口に出して事細かに説明するような時間はないが、幸いにして羽黒と陽炎は此方の意図を汲んでくれたらしい。

叫び声に近い無線の直後、左手で砲声が上がる。恐らく羽黒が進軍してくる新手の敵艦隊に向かって牽制射撃を行ったようね。








『『『『──────ォオオオォオオオオオオオアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』

そして………さながらその砲声が合図であったかのように、私達の正面で奴らが一斉に咆哮した。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 09:50:28.62 ID:AaeO3fGV0
おつ!
増援が来てもこの焼け石に水感ではワクワクが止まりませんな
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/19(火) 17:53:23.11 ID:98f/DyG60
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 20:24:11.30 ID:fW4j9ZGIO
468 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:07.83 ID:7h7NQTE30
排水量数千トンの軍艦と同等のスペックを持つ化け物30体超の、肺活量を最大限に用いた大音声による大合唱。正面で響き渡るそれの凄まじさたるや、“音で殴りつけられたかのような”とでも表現すればいいだろうか。

『『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』』

「つぅっ……!」

ノハ;メ )「が、ぁ、ぎっ」

いや、私達の正面だけじゃない。大洗町の至る所で、さながら梅雨時の蛙や真夏の蝉が鳴き出した時のように、戦場が奴らの声で満ちている。まさに津波の如く“音波”が押し寄せて、衝撃に視界が霞み脳幹を直接掴んで揺さぶられたみたいに身体がぐわんぐわんと揺れた。

「……何が、そんなに、嬉しいのよ……アンタらは……!」

咆哮の音量、奴らとの距離、私自身の声のか細さ、そもそもの言語の壁……どれをとっても、私の問いかけが届く要素はない。それでも、ヒトマルの残骸の縁を掴み、89式を杖代わりにし、意地でも卒倒するのを耐えて正面にひしめく敵艦隊を睨み付けながら、私はその問いを口にせずにはいられない。

「そんなに、私らを殺せるのが……嬉しいってのかしら…!?」

私は別に生物学の権威でもなければ、深海棲艦研究の第一人者でもない。モンスターパニックに有りがちな、怪物と心を通わせる少女的な能力も開花していない。……認めたくないけれど、そもそも“少女”と呼んでもらえる年齢でもない。

けれどそれらの声を聞いたとき、私は直感的に理解した。

奴らは、喜んでいる。

自分たちが抱く憎悪の対象を、殺意の矛先にある存在を。

『『『『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』』』』

《敵艦隊、一斉に艤装を再起動!!》

いよいよ私達人類を本格的に殺せることを、歓喜している。

《艦砲一斉射、来まs》
469 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:21:57.80 ID:7h7NQTE30
無線からの報告は、最後まで言い切られることなく途切れる。単に奴らの砲声にかき消されたのか、或いは砲撃によって通信元自体が吹き飛ばされたのか、今となっては解らない。

沖合、港湾部、沿岸、そして学園艦の甲板上。奴らが蠢いている場所で次々と光が瞬き、艤装から放たれた鉄と火薬と殺意の塊が空を切り裂いてこの町に降り注ぐ。地に突き刺さった砲弾が至るところで炸裂し、巨大な火柱が轟音と共に立ち上り天を焦がす。

《────見屋交wW-w──敵弾多s──〜ww……ヒトm───》

《此方名t×××wWww………は困難、至急──w──》

《──WwwWw───は応答を願───》

今までの奴らの攻撃がもしただの準備運動に過ぎなかったのだと言われれば、私はきっとそれを信じるだろう。

既に半壊状態にある大洗の町を完全に地図から消そうとしているかのように凄まじいペースで砲撃が飛来し、逆巻く炎に熱風が吹き荒ぶ。着弾点から吹き出した幾百筋の黒煙が、さながら地面から雲が湧いているかのように空を暗く覆っていく。恐らく拠点・部隊ごとの窮状を伝えているであろう無線は、間断なく──比喩表現ではなく文字通りの意味で──響き続ける爆発音と奴らの咆哮に飲み込まれ、殆どまともに聞こえるものはない。

「シーサイドステーション、崩落箇所更に拡大!屋内の狙撃班並びに医療班との通信が途絶えました!大洗駅他複数箇所からの支援砲火も沈黙!!」

「敵艦砲射撃苛烈!堡塁・陣地の完全沈黙が半数を突破!最早我々の残存火力では太刀打ちできません!」

「若見屋交差点に伝令を飛ばして!羽黒と陽炎はまだ生きてるはずよ、途中で他の隊に合うようならそいつらにもとにかくシーサイドステーションに直行するよう伝えて!

それと残存火砲並びに残存弾薬をここに全て集めなさい!集中運用でなんとしても奴らの動きを遅滞させて───」

ノハ;メ゚听)「一尉、北を……北を!!」

深海棲艦の咆哮や砲声に負けまいと声を枯らして周囲への指示を出す中、大隈二曹の絶望に濡れた叫びが耳に届く。

チラと彼女が指さす方角に視線をやる。

「………」

そこに、“火の海”が広がっていた。
470 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:27:06.89 ID:7h7NQTE30
「……確か大貫郵便局前に110mmを所持した部隊が居るはずよ。そっちにも伝令を派遣してもしまだ動けるようなら連れてきて、最悪装備だけでも確保を!

歩兵隊各班は私と共に敵への牽制・妨害射撃を行う人員と防火、負傷者救助に向かう人員に分かれて!特にシーサイドステーションは屋内部隊が全滅したとは考えがたいわ、一人でも多く救出しなさい!」

「「「了解!!」」」

東南アジアのスコールにも負けないような勢いで砲弾が飛んできている中で其方ばかり見ているわけにもいかず、視線を剥がして指示に戻る。周囲の隊員達も返答しつつすぐに散っていくが、空元気で無理矢理絞り出されたその声には明らかな焦燥と恐怖が滲み出ていた。

かくいう私も、脳裏には今し方目にした光景がしっかりと焼き付いている。

火の海。

我ながら、陳腐で使い古された表現だと思う。でも、アレを他にどう呼ぶべきか、私の語彙力では適切な表現を探すことは難しい。

大洗海岸通り、そして何より大洗鎮守府。この防衛線の命運を握る二つの重要拠点に、奴らの攻撃がとりわけ集中するのは考えてみれば自然なことだ。だけど、町そのものを完全に焼き払いかねない攻撃の中で更に念入りにリソースが割かれたその一帯は、見渡す限りの範囲が紅蓮の炎に飲み込まれまるでそこだけ昼間であるかのように照らし出されている。

無数の砲声に混じり、風に乗ってその方面からは奴らの悲鳴や呻き声も聞こえてきているため、両方かどちらか片方かは解らないがこの方面が完全に陥落したわけではないのだろう。
だけど、あの光景を見る限りそれは明らかに時間の問題だ。

そして私達にも、最早其方に気をかけられるほどの余裕は残されていない。

《こんのっ………照準ヨシ!撃て!!》

『グァッ……!? ォオオオオォオッ!!!』

まだ生き残っていたヒトマル2号車が、最後の一発となった主砲弾を放つ。軽巡ホ級の内一体が側面部分に直撃を受けて一瞬呻くが、急所を外したため効果は薄い。すぐに態勢を立て直したホ級は、背中の多段連装砲を2号車に向けながら今度は怒りの叫び声を上げた。
471 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:30:49.61 ID:7h7NQTE30
《退避急げぇ!!》

『ゴォアッ!!』

車内から転がり出た2号車の三人が殆ど飛び跳ねるようにして散開し終えたのは、ホ級の主砲が火を噴くコンマ一秒前。旧式とはいえ軽巡洋艦の艦砲射撃数発が一斉に直撃して無事で済むほど、ヒトマルの装甲は分厚くない。轟音と共に車体が爆発し、砕け散った残骸がアスファルトの上でカラカラと乾いた音を立てる。

『『『ォオオオオォオアアアアアッ!!!』』』

最後の装甲戦力の沈黙によって、完全に私達の側の脅威は排除されたと判断したのだろうか。再度雄叫びを上げた正面艦隊が、一斉に前進を開始した。

巨人が全体重をかけて地面を踏みしめるズンッ、ズンッという音が、ゆっくりと此方に近づいてくる。総重量数トンの化け物が足並みを揃えて歩を進めるせいで、視界が小刻みに揺れ89式小銃の照準がぶれ、弾丸が狙っているハ級の身体のあちこちで火花を散らす。

全く、人生とは解らないものね。軍靴の足音どころか、“軍艦の足音”なるワケの解らないものを体験することになるなんて、自衛隊に入って間もない頃思っても見なかったわ。

「一等陸尉、敵艦隊が前進を開始!恐らく我々の方面でも本格的な内陸浸透に移るつもりと思われます!!」

ノハメ;゚听)「LAVもヒトマルも96式もダスターも全部やられた!迫撃砲や無反動砲も六割方を喪失、残った仲間も現在進行形でどんどん砲撃に吹き飛ばされていってる!

一尉、もう無理っスよ!!」

「増援に向かってきているはずの友軍部隊との通信もまともに繋がりません!これ以上ここでの継戦は不可能ですし、意味もありません!」
472 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:31:42.27 ID:7h7NQTE30
周囲の士官が、必死の形相で口々に撤退を具申してくる。さっきまでは寧ろ深海棲艦の攻勢に怯む私達を叱咤する側だった大隈二曹さえ、小銃を撃つ手を止めないながら疲労と諦観を宿した目でこちらを顧みる。

実際、この現状を鑑みればその具申は無理からぬことだ。元々限界ギリギリの中で消耗戦を強いられていた各拠点は、頼みの綱だった相互の連携を敵の戦場全域に対する圧倒的な火力投射で寸断され孤立し、敵の物量浸透にまともに抵抗する術を失った。この拠点単体で見ても、戦力の摩耗具合は疾うの昔に戦線維持の臨界点を超えている。

優れた指揮官ならば、きっと大隈二曹達の進言に従うべきなのだろう。少なくとも、この有様で尚“戦力の集結と敵艦隊の撃滅”という目的に固執し更に損害を重ねるようなら、それは典型的な“愚かな指揮官”であるに違いない。








「………撤退は許可できないわ」

そして私は────“愚かな指揮官”で有り続けることを選択した。
473 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:36:07.54 ID:7h7NQTE30
「なっ……」

ノハメ;゚听)「一尉、正気ッスか!?」

戦闘の真っ最中───それも、全滅間際の悪あがきに近い悪戦苦闘の中で、銃撃の手を止めるような愚は流石に誰も犯さない。それでも、私の言葉を聞いた隊員達は口々に驚愕と怒りが入り交じった声を上げる。

「蝶野一尉、状況を解っておられますか!?このシーサイドステーションどころか、既に町全体でどれほど甚大な損害が……」

「私達がこの防衛線を放棄すれば、犠牲になる人命はこんなものの比ではなくなるわ!!!」

一人が更に反駁の言葉を重ねようとしたのを遮り、砲声に負けぬよう、一人でも多くの隊員に伝わるよう、腹の底から叫ぶ。脱出後此方に合流しにきた2号車クルーの三人を始め、戦闘中の何人かの隊員の肩がぴくりと揺れたのを私は確かに見た。

「私達の背後には、ほんの十数キロ先には、市街地の住人が今なお避難中なのよ!?この町が落ちれば、その人達が空襲だけじゃなくて本格的な艦砲射撃の危機にさらされることになる!どころか、その更に先の町や市にだって空襲が行われるかも知れない!私達自衛隊は国民の盾よ、その役目を捨てる行為だけは絶対に許可できない!」

「し、しかし……現にこの戦況の打開は……!」

「まだ作戦は潰えていないわ、逆転への目は残されている」

決して、口から出任せの完全な嘘ではない。

実際北でも南でも、時折、深海棲艦側に向かって放たれる反撃の砲火が見ることができた。陸地に殺到する何百、何千という火線とは比べるべくもない量であることは違いないけれど、それは少なくとも未だ幾らかの友軍部隊・拠点が戦闘を継続しているという証拠でもある。

それらの戦力を糾合し、陸では鈍重な深海棲艦を逆に各個撃破する───即ち、当初私が描いた作戦は、まだ実行に移せるだけの余地を残している。
474 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/27(水) 23:37:10.17 ID:7h7NQTE30
………だから、“完全な”嘘ではない。単に、そのような状況をここから私達で作り出すことが、砂漠で一発のBB弾を探し当てるのと同じぐらい困難になっているというだけの話で。

それでも、私達は……私達自衛隊は、その奇跡のような可能性に賭けなければいけないのだ。

銃後の国民を、守るために。

「各員に伝達。現状、確かに苦境ではあるけれどまだ勝算はあるわ。それに、私達が自衛隊である限り、例え勝算がなかろうとも最後の一兵までこの拠点を死守する以外の選択肢は、もとより残されていない!!

“増援部隊”の到着後、反攻に打って出る。それまでなんとしても耐えきりなさい!」
  _,
ノハメ;゚−゚)「……無茶をおっしゃる上官だ!!」

大隈二曹が、眉間にしわを寄せ悪態をつく。……だけどその一方で、彼女の口元にはどこか小気味よさげな微笑みも浮かんでいた。

ノハメ#゚听)「日本陸上自衛隊・大隈瞳二等陸曹、蝶野亜美一等陸尉の命令を受諾!戦闘を継続する!!」

「……同、田島浩三二等陸尉、命令を受諾!職業選択を間違えたな畜生!」

「赤座智宏一等陸曹、指示に従います!各拠点への呼びかけを継続、なんとか戦力を集めてみます!」

「我妻美紀三等陸尉、了解!

ぶっ壊された私の愛しいヒトマルの敵よ、1隻でも多く吹っ飛ばしてやるわ!!」

「………」

大隈二曹を皮切りに、その場にいた全員が力強く吠え、拳や武器を突き上げ、そして戦闘に戻っていく。その光景を見て不覚にも胸の奥から何かがこみ上げてきて、滲む視界を迷彩服の袖で慌てて拭う。

「────ありがとう」

万感の意を込めたその一言は、すぐに私自身の構える89式小銃の銃声に掻き消された。
475 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/27(水) 23:45:52.23 ID:7h7NQTE30




一つ、“正直な話”をしなければならない。

実のところ、この作戦────即ち、大洗町に上陸した深海棲艦部隊の各個撃破という私の立案した作戦について、実行したとして“こうなる”ことは半ば私には予想がついていた。

「軽巡ホ級、ヘ級、駆逐イ級、相次いで発砲!軽機関銃堡塁、また一つやられました!!」

「シーサイドステーション崩落箇所より救護班並びに中内二曹ら負傷者複数名の救出を完了したとのこと!全員まだ息がある模様です!」

「急いで少しでも後方に下がらせろ!路上放置車両でも何でも使え!!」

無論、死ぬと決まっていながら作戦を強要したわけではない。実際あの時点では他に有効な策が思いつかなかったし、この町が陥落すれば例え一時であっても関東地方の広い範囲が奴らの攻撃範囲に含まれていたであろうことも紛れもない事実。大洗女子学園を見捨てたくないという私情を差し引いても、この戦線は日本にとって死守しなければならない場所だった。

だからあの時点で私達には、どれほどか細くとも目の前に垂れている“反撃の糸口”に縋り付く以外の選択肢自体が残っていなかったと言える。
476 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 00:15:04.67 ID:E0wWjTsW0
「大貫郵便局前より残存部隊が合流しました!パンツァーファウスト3は六門が残存!」

「速やかに射撃を開始!奴らは密集しているわ、撃てば当たる!!」

「蝶野一尉、加波山神社方面で陸地側からの砲煙を複数確認!恐らくキューマル数両のものと思われます!」

「伝令を走らせて至急こっちにこさせて!!」

だが、私も西住流に学び、あくまで“戦車道”の上でとはいえあの西住しほから戦術の手ほどきを受けた人間だ。例え“それしかなかった”にしろ、無謀な作戦であるという自覚は十二分に持っていた。

ただでさえ、人類の兵器と深海棲艦の間には陸戦において圧倒的な火力差が横たわる。加えて私達は対応が後手に回り数的にも劣勢で、対抗し得る火力を持つ艦娘部隊の主力たる大洗鎮守府とも分断されている状況下。おまけに制空権を握られ、私達の動きは筒抜けだった。

敵の指揮艦がよほどの間抜けでない限り、此方が何らかの動きを見せればその目的を類推し、対策を立ててくるのは必然的な動きだ。そして大洗女子学園に出現した“無敵砲台”の火力を活かせば、戦力集結の動きを寸断し逆に自衛隊側の防衛線を各個撃破の状況に持ち込むなど容易い。私の作戦をもし本気で成功させるなら、敵がよほど私達の動きを深読みするか或いは目を開けたまま寝てくれていることがその前提条件だったと言っても正直過言ではない。

「迫撃砲、60mmがまた一門やられました!!」

「敵艦隊、進軍速度遅滞も止まりません!なおも接近中!!」

「距離200を切りました……増援は、増援はまだか!!」

ノハメ;゚听)「クソッ…………!」








────現有戦力“のみ”でこの作戦を遂行しようとすれば、の話だが。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 06:31:32.40 ID:IiUbyqaAO
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 11:33:04.25 ID:L7WQmd0K0
投下乙!
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 16:42:07.70 ID:w+RGE5rA0
おつおつ
周辺でこれなら艦内はどんだけ…
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 21:32:29.84 ID:W/j38pzo0
おつー
481 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:07:12.12 ID:E0wWjTsW0
ブチュリ。その音をもし擬音で表現するなら、きっとこんな文字列になるんじゃないかしら。

砲声とも、爆発音とも質感の異なる、この場においてはあまりにも浮いた響き。無線すらまともに通らないほどの轟音が飛び交う中にあっても、それははっきりと私たちの耳に届いた。

「………何が」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!?!』

士官の一人が口にしようとした疑問への答えは、すぐに甲高い絶叫によって示される。

『ア゛ア゛ア゛、イ゛ア゛、グァアアアアッ!!!!?』

軽巡ホ級の内一隻が、周囲の味方艦に身体をぶつけて暴れ始める。そのホ級は右手の肘から先が吹き飛ばされ、辺りに奴ら特有の青く生臭い体液をまき散らしながら激しく悶え苦しんでいた。

普段人間に対する殺意と憎悪で突き動かされている深海棲艦も、痛覚はあり苦痛も感じる。人間に置き換えれば、自分の四肢の一つが引きちぎられたと考えればどれほどの激痛かは想像に難くない。

『アアア…ギィッ!?』

『ア゛ア゛ッ!?』

『グゴァッ!?』

眼前の友軍艦を突然襲った異常事態に動きを止めたイ級の横っ面で、炎がはじけ装甲の一部が砕け散る。間髪を入れず、今度は最前列にいたト級の右頭側頭部で爆発が起きる。爆風に煽られて横倒しになったト級に押し潰され、ハ級が一声苦しげな鳴き声を上げた。

「一体何事ですか!?どこからこれほどの威力の攻撃が……」

「敵艦隊、損傷艦多数発生し進軍停止!友軍による支援攻撃と思われます!」

ノハメ;゚听)「んなもんは解るッスよ!問題はそれがどっからって話で……うぉっ!?」

『『『ギィイイイイイイイイイッ!!!?』』』

今度は、敵艦隊の中程で立て続けに爆炎が起きる。十隻を優に超える個体が身体に何らかの損傷を受けて苦痛にのたうつ中、“何か”の影が凄まじい速度で私たちの真上を通過していく。

深海棲艦が奏でる“ジェリコのラッパ”とも、空母艦娘の子達が操る零戦や烈風の物とも質を異にする、私たちが聞き慣れた音────ジェットエンジンの駆動音を伴って。
482 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/28(木) 23:11:18.57 ID:E0wWjTsW0
「こ、航空支援!近接航空支援です!」

「他の戦闘地域でも同様の爆発を多数視認!深海棲艦の上陸艦隊に対してかなりの規模での空襲が行われている模様!」

「何だと!?い、いや待て!主力部隊が下がったとはいえまだ町全体で見れば敵の航空戦力がかなり居たはずだ!そんなところに低空飛行で通常の戦闘機が突入など自殺行為だぞ!」

「しかし現に……い゛っ!?」

拠点内が混乱の極みに達する中、上空から落下してきた火の玉がその会話を寸断する。地上にたたきつけられたそれは乾いた音を立てて破裂するように砕け散り、黒色の破片をそこら中に飛び散らせた。

『『『『─────!?!?』』』』

〈〈〈〈─────!!!!〉〉〉〉

頭上から、今度は猛獣のうなり声を思わせるレシプロエンジンの回転音が幾つも重なって降ってくる。空に視線を向ければ目に入るのは、今まで我が物顔で飛び回っていた【カブトガニ】や【オニビ】を、次々と銃火で撃ち抜きながら追い散らしていく獰猛な地獄の番犬ならぬ“地獄の番猫”の姿。

ノハメ;゚听)「………へ、【ヘルキャット】?」

「サラトガから再度発艦したのか…?いや、しかし威力偵察に投入されたF6Fは確か壊滅したはずじゃあ」

「…………まったく」

次々と起きる予期せぬ事態に、周囲の誰もが困惑した表情を──それでも深海棲艦への射撃の手を止めないのは流石だが──隠そうともしない。恐らく、町に展開するほぼ全ての隊員が同じような心境を抱いていることだろう。

かく言う、私はといえば、

「やっと、動いてくれたのね」

ようやく訪れた“待ち望んでいた展開”に、口元が綻ぶのを止められずにいた。
483 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:16:58.96 ID:E0wWjTsW0
西住流を学んだ者の端くれとして、十中八九こうなることは予想がついていた。故に私は、ああ言いながらそもそも“現有戦力だけ”でこの策を成功に導こうとは最初から殆ど思っていない。“この増援”が来ることを、最初から勘定に入れた上での迎撃だ。

尤も、それは私の直感に基づく予想であり、理論的な動機を説明することはできない。だから私は、友軍に指示を出すに当たっては努めて“増援”の存在には触れず、また万一私の直感が外れたときに備えてあくまで現有戦力のみでの戦闘を前提においた指揮を続けてきた。

そして、その心配はたった今杞憂に終わってくれた。

ええ、そうよ。貴方たちの増援が、たかが空母艦娘一人だけで終わるはずがない。この地の苦境が極まれば、絶対に何らかの動きがある、そう信じていたわ。

「本当に貴方たちは、野蛮で、傲慢で、粗雑だけど────頼りになる“トモダチ”よ」

一人呟く私の視線の先で、先ほど飛び去ったジェット音の主が────対地攻撃機A-10【サンダーボルト】の編隊が、白い機体を翻し再び深海棲艦に突撃していく。

『『『『グガァアアアアアアッ!!!?』』』』

《────りwW〜地各■■に通×、CPより市街地各拠点に通達!!》

投下された十数発のJDAMが正面艦隊のど真ん中で炸裂し、爆炎に焼かれた何体かが断末魔と共になぎ倒される。そんな中、機能を回復した無線機からは、それらの轟音にも負けない前線指揮所のオペレーターの叫び声が吐き出される。

まだ年若いと思われるその女性士官の声は、さながらクリスマスに思い人から好意を告げられたかのように歓喜と興奮に打ち震えていた。
484 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/28(木) 23:22:18.84 ID:E0wWjTsW0





《横須賀司令府より入電!現戦況の打破を目的とし、在日米空軍並びにアメリカ海兵隊、横須賀司令府直属艦隊、並びに国連“海軍”特殊部隊が当戦線に投入されたとのこと!!

我々大洗町防衛線はこれより残存兵力を全て投入、増援部隊と連携し攻勢に移ります!

各拠点は速やかに戦力を再編、反攻を開始してください!!》




.
485 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 00:19:24.30 ID:XlCsDid20






攻勢、反攻、総攻撃。軍人という職に就く人間の中で、これらの単語を耳にして高揚を覚えない存在というのはなかなか希少な側であるに違いない。

単純に自分たちが主導権を握った状態での戦闘を指すという点でもそうだし、端的に言葉の響きや文字列自体の勇ましさもそこに拍車をかけている節がある。そして、それらを実行できる状態になるまでの経緯が苦境であればあるほど、生じるカタルシスはなおさら大きくなる。

今横須賀司令府の地下司令室で発生している現象は、その尤もたるものといえるだろう。

「A-10【サンダーボルト】編隊第一波による対地爆撃、効果絶大!各地点における深海棲艦多数の撃沈、並びに進行の遅滞を確認!!

また、横田飛行場より出撃した“海軍”基地飛行隊も深海棲艦の制空部隊と交戦を開始しました!」

「第二波攻撃隊、大洗町上空に後10秒で突入!!また、“海軍”部隊並びに護衛航空隊も後続突入の用意を完了したとのこと!」

「空母【ロナルド・レーガン】より入電、予備戦力であるF-18二個編隊の整備が終了!此方の要請に従いあらゆる方面へ出撃させる用意がある、と!」

(☆...●)「ハメルス司令に謝意と現状は待機させるよう伝えろ、各方面の戦況に応じて臨機応変に投入する。

それとマスコミ対応の用意も急げ、良かれ悪しかれ在日米軍が動いたとなればネットで様々に憶測をばらまく筈だ。特に日の出新聞とNBS、合同通信のウェブサイトは徹底的に動向を監視しろ」

「「「了解!!」」」

所狭しと並べられた電子機器の間で立ち働く人員は、王嶋の指示に対し部屋の空気が震えるほどの声で返答する。彼らの表情は、弛緩とまでは言わないものの一様に明るい。先ほどまで全員恋人の葬式にでも参列しているかのような陰鬱とした有様だったのに、今はワールドカップ時にサッカーの生中継サービスをやっているスポーツバーの如き空気が室内に充満している。
486 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:38:40.88 ID:XlCsDid20
(☆...●)(………まぁ、気持ちは解るがな)

少々の呆れを覚えつつ、少なくとも仕事に支障を来すような状態の人間は見受けられないので喝を飛ばそうとした口は閉じておく。

実際、一方的に蹂躙されるだけの大洗町の状況を指をくわえて見ているしかできないことに対する歯がゆさは王嶋も強く感じていた。例え自身が直接寄与できなくとも、百キロ離れた地で戦い続ける友軍の苦境が幾らか打開されたことを喜ぶのは人として自然な感情だ。

よほど羽目を外すようなことがない限り、水を差すのも野暮というものだろう。

(☆...●)「………」

彡(゚)(゚)「………」

だが、王嶋自身が───そして、その傍らで椅子に深く腰掛ける南が相好を崩すことはない。

艦娘部隊最高指揮官並びに日本国首相としての威厳を保つ必要性がある、という理由もある。だがそれ以上に、そもそも現状は彼らの立場から見るとまだ笑えるような段階からはほど遠い。

彡(゚)(゚)「キヨ、“日本海側”の動きはどうや」

(☆...●)「相変わらず不穏だよ。アメリカから衛星情報の共有があったが、対馬、尖閣、竹島、どの方面でも“不審な動き”のオンパレードだ」

ともすれば飛び交う電子音の中に?まれてしまいそうな、互いにしか聞こえない小声でのやりとり。その声色は、どちらも暗く重い。

(☆...●)「流石に“南側”は在韓米軍の手前もあってまだおとなしいが……万一の有事に対する備えと称して【文武大王】が臨戦態勢に入ったらしい」

彡(゚)(゚)「………ある意味あそこの国が一番読めんから厄介やな。元々対中、対北連携でもどっちつかずやし」

(☆...●)「米軍経由でフィリピン海方面への増援派遣を打診しているが、そっちも色よい返事は今のところ帰ってきてない。監視は続ける。

とはいえ、韓国は現状“危急の対処”が必要な存在ではない。注視すべきなのはやはり────」

彡(゚)(゚)「“太っちょのお隣さん”やな」
487 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 00:54:23.37 ID:XlCsDid20
南の口から、深いため息が漏れる。今日一日でどれぐらい幸せが逃げただろうかと、顔に似合わぬメルヘンチックな考えが一瞬脳裏をよぎった。

彡(゚)(゚)「何でこの期に及んで同じ人間の国家への対応考えなあかんねん……ハリウッド映画みたいに演説一発で団結できたら楽やのに……」

(☆...●)「これが“現実”だよ、ヨシ。この世界にゃ残念ながらホイットモア大統領はいねえんだ」

宇宙船地球号なんて思想が一時話題になったが、その“地球号”には最低でも200に迫る自己主張の激しい船長が居る。船頭多くして船、山に上るの諺は、この地球号にこそ最もよく当てはまる。

彡(゚)(゚)「とりあえず、外務省に話通して近隣諸国への根回しは更に念入りにやっとくで。特にモンゴル、インド、ロシアとの連携は強化しとかな」

(☆...●)「中国政府自体への牽制もしっかりやっとけよ。劉志那の野郎は前任とは比べものにならない妖怪ってツラだぜありゃ。不細工って意味でも切れ者って意味でもな」

彡(゚)(゚)「言われんでも解っとるわ……ところでお前なんで不細工のところでワイの顔チラ見しやがったか説明せーや」

(☆...●)「黙秘権を行使します」

彡(゚)(゚)「死ね」

(☆...●)「お前が死ね」
488 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:11:13.82 ID:XlCsDid20
軽口の応酬の後、南はぶつくさ言いながらもスマートフォンを取り出しどこかへ電話を始める。……軽く聞き流している限り、外務大臣経由ではなく直接外務省の職員に電話で指示を出しているらしい。

ともすれば越権行為として大スキャンダルになりかねない手段を必要とあれば臆することなく取れる身軽さは、南慈英という政治家の最大の武器だ。だが同時に、そうした破天荒な行為をされても「南なら仕方ない」と閣僚達に納得させてしまう人徳・カリスマもまたそうした彼の行動力を支える隠れた才であると王嶋は踏んでいる。

(☆...●)(……大方、在日米軍の大規模増援も杉浦辺り使ってこいつが“わたり”をつけたんだろうな)

これについてもやはり、横須賀司令府の元帥である王嶋や外務省、或いは防衛省を通じて段階的な手続きを本来は必要とするもののはずだ。だがそれを南は一足飛びに自分の“仕込み刀”で片付けてしまい、昔なじみという点を差し引いても頭ごなしの仕事をされたにも関わらず王嶋には不思議と不快の念がない。

つくづく、“政治家”としてのあらゆる能力が化け物じみている。……顔も別の意味で化け物だが。

(☆...●)(………化け物といえば、大洗町防衛線の崩壊を防いだのは何者なんだ?)

はっきりと言ってしまえば、威力偵察の失敗と【あきつしま】の轟沈、そして直後に行われた大規模空襲という深海棲艦の一連の攻勢を受けて、横須賀司令府では疾うの昔に大洗町並びに大洗女子学園、さらにはひたちなか市を始めとするその周辺地域の失陥まで視野に入れた防衛線の再設定を開始していた。無論完全に状況の打開を諦めたワケではなかったが、少なくとも今から“最悪”を想定しなければ間に合わないと思わせる程度にはあのとき大洗町の戦況は最悪だった。
489 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:28:07.28 ID:XlCsDid20
ところが現状はどうだ。大洗町は確かに壊滅的損害を受けながら見事に増援派遣まで命脈を繋ぎ、今まさに反転攻勢に移ろうとしている。

通信が一時的な途絶状態に陥る直前、防衛線のコマンド・ポストは何でも拠点指揮官の一人である一等陸尉に一部の艦娘部隊を含む戦線の指揮権を委任していたと聞く。そしてそこから、分断されていた各部隊は深海棲艦の攻勢に対し組織的な反撃を再開した。

(☆...●)(まるで、“ベルリンの奇跡”みてぇだな)

今や世界中の軍事関係者が伝説として語り継ぐ、ドイツ陸軍による“軽巡棲姫の陸戦における撃沈”。あれは実のところ、ドイツ軍の少尉───自衛隊における三尉相当の階級の人間が、その巧みな采配と自らの突撃をもって殆ど一人で成し遂げたのだという。

無論、膨大な尾鰭やかなりの誇張表現はあるだろう。だが、その後もドイツ軍がドレスデン以南への深海棲艦の侵攻を防ぎあまつさえ一部の地域で都市や地区の奪還に成功している点から見て、相当優秀な指揮官が何人か居るのは間違いない。

そして、もしも大洗町の絶望的な戦況を耐え抜けるだけの指揮を執れる人間がいるとすれば、その人物は件のドイツ軍人や青ヶ島を守る八頭進に匹敵する人材である可能性が高い。
490 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:41:45.23 ID:XlCsDid20
(☆...●)「………後で、杉浦に伝えておくか」

「は?」

(☆...●)「いや、こっちの話だ」

近くを通り過ぎようとした職員の一人が怪訝な顔で足を止めたので、王嶋はすまなさそうに眉をひそめて肩を竦める。

(☆...●)(この話は一旦後に回すか)

在日米軍ヘの交渉・指示をしていたとすればまだ杉浦の司令府到着には時間がかかるだろうし、そもそもあの強面のいけ好かない一等海尉は様々な面で自分より遙かに有能でめざとい。下手をすれば、現時点ではその陸尉の名すら知らない自分よりその人物について詳しい可能性すらある。

それよりも、今は自分も“元帥”としての仕事に徹すべきだ。

(☆...●)「誰か、通信を呉司令府に至急繋いでくれ。今のうちに指示を出しておきたい」

「了解しました。して、指示の内容は?」












(☆...●)「【大和】の警備を最大限強化するように手配を。学園艦すら深海棲艦化している中で、もう動かんとはいえ戦艦を放置しておいていいはずがないからな」
491 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/29(金) 01:48:49.57 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.23 ID:dk0utd44?
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:32.29 ID:bonsky01
スレの流れはやすぎぃ!!

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.48 ID:pp5astsw
>>173
こマ?

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:33.50 ID:cdd582in
>>173
ヒェッ

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:34.58 ID:hi06ngbs
>>173
非常事態対策の一環として、
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。
*レベル6が、最高ランクです。

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:35.66 ID:tnk6kd29
>>173マジやん

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.00 ID:mnayemna
>>177これを見に来た

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.16 ID:yakoni89
>>177
仕事早すぎて草

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:36.59 ID:pplm82t
>>173
マシソンじゃねえかwwwww

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:38.60 ID:f0m0cb24
お前ら落ち着け、減速しろ。

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.01 ID:jminnanj
>>177
これとウニのコピペほんすこ

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.27 ID:jamwikip
>>177
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:39.40 ID:nt94knkk
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:40.03 ID:bam0tki3
>>177
レベル4やんけ!まだいけるやん!!

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:41.92 ID:mti55hdk
>>177
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:43.08 ID:ynks1ma8
>>184
今更何を話すねん
492 :>>491修正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:52:48.36 ID:XlCsDid20
【黙示録】大洗実況スレ part6【人類終了】?

273: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.23 ID:dk0utd44??
【悲報】てれ東、ゆーがたでいず!の放送を中止し深海棲艦に関する緊急特番を開始?

274: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:32.29 ID:bonsky01?
スレの流れはやすぎぃ!!?

275: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.48 ID:pp5astsw?
>>273?
こマ??

276: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:33.50 ID:cdd582in?
>>273?
ヒェッ?

277: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:34.58 ID:hi06ngbs?
>>273?
非常事態対策の一環として、?
ご家庭内の目につく場所に貼ってご活用ください。?
*レベル6が、最高ランクです。?

レベル1:NHCが特番を開始。(注意報発令)?
レベル2:日チャン、NBS、富士、テレひのが特番を開始。(警報発令)?
レベル3:てれ東がテロップを入れる(避難勧告発令)?
レベル4:てれ東が通常放送を打ち切る (避難命令発令)?
レベル5:総理大臣、国民に向けて会見(非常事態宣言)?
レベル6:てれ東、アニメを放送途中に打ち切り緊急特番を開始する(地球滅亡。少なくとも日本の終わり)?

278: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:35.66 ID:tnk6kd29?
>>273マジやん?

279: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.00 ID:mnayemna?
>>277これを見に来た?

280: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.16 ID:yakoni89?
>>277?
仕事早すぎて草?

281: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:36.59 ID:pplm82t?
>>273?
マシソンじゃねえかwwwww?

282: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:38.60 ID:f0m0cb24?
お前ら落ち着け、減速しろ。?

283: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.01 ID:jminnanj?
>>277?
これとウニのコピペほんすこ?

284: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.27 ID:jamwikip?
>>277?
まだアニメじゃなくて通常番組だから(震え声)?

285: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:39.40 ID:nt94knkk?
16時15分からまた茂名官房長官の記者会見来るってよ?

286: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:40.03 ID:bam0tki3?
>>277?
レベル4やんけ!まだいけるやん!!?

287: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:41.92 ID:mti55hdk?
>>277?
絶対投下する瞬間待ち構えてたわこいつ?

288: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)?
16:24:43.08 ID:ynks1ma8?
>>285
今更何を話すねん
493 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:14.84 ID:XlCsDid20
289: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:45.61 ID:pp5astsw
>>287
>>273の書き込みから2秒強で>>277が貼られてて草生える

290: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.17 ID:sk1to1sm
どこの報道も似たり寄ったりで全然最新情報入らへんな

291: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.20 ID:kyztih00
>>285
どーせ殆ど真新しい情報出ないやろ、パニック起こすなーって定型文しゃべって終わりや

292: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:46.93 ID:9ks31y
避難勧告対象地域この短時間で拡大しまくってて草

293: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:04:47.25 ID:anotssg1
ワイ末っ子、酸で教師勤務のアッニと保安官勤務のアッネが心配で震える

294: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.22 ID:bkrm83sl
>>293
酸になんかあったら在日米軍黙ってないやろ。それよりまだ茨城県沖から逃げてる最中のプラ学がヤバい
つながり深い露は四方から深海棲艦迫ってるから独自に救援なんて回せる余裕ないだろうし

295: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.30 ID:0i4mfseik
>>292
太平洋側だけじゃなくてオホーツク方面から来てる深海棲艦おるからな。国後に住んでる従兄弟からさっき鎮守府からの避難勧告きたってLINE入ったわ

296: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:51.63 ID:k1nk2njc
亜細亜板覗いたらお祭り騒ぎの韓国のニュースコメントのレスわざわざ翻訳貼りして発狂しまくってて草

297: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:57.09 ID:tnk6kd29
>>294
一番ヤバいのは日本海側定期。ビゲン、ポンプルとかなんかあったらどうすんやろ

298: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:24:58.98 ID:mik1istl
>>296
や亜糞
まぁお祭り騒ぎしてる側にも流石に問題あるとは思うが

299: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:01.85 ID:emd00rai
>>297
さては竹島、尖閣、佐渡、対馬の4鎮守府の戦力知らんな?チビるで?

300: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:04.19 ID:iyki4810
>>293
サンダースは長崎やろ?第七艦隊は横須賀の方に出払ってる分差し引いても佐世保の司令府とかあるしなんか起きてもなんとかなるやろ

301: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:07.37 ID:1bsy5kri
>>297
「万一に備えて」の名目で対馬、尖閣、竹島、佐渡に実質対中・韓・北として配備された艦娘と海自の部隊いるで。呉も日本海側やしなんなら在韓米軍もおる。

302: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:08.19 ID:stgrw9i0
>>297 スナフキンのところ忘れるとか頭宝木かよ

303: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:10.10 ID:jb54zy91
群馬県民を海岸線に並べときゃ深海棲艦なんか余裕よ(鼻ホジー
494 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:55:58.40 ID:XlCsDid20
304: 雨降れば名無し 2017/11/17(金)
16:25:14.63 ID:dDkK64Dkg

マジレスすると、大正義戦力で防衛されてるとはいえ人口密集地の東京やバリバリ沿岸都市の横須賀に動きがない限りはまだ慌てる時間じゃない。あんなおざなりの避難勧告が出ただけで自主避難任せにして放置されてるのはなんだかんだ言ってまだ政府とか自衛隊上層部は状況を打開できると踏んでるからやろ。あの辺り完全に止めたら日本経済死ぬし。

逆に、横須賀とか東京でそういった部分度外視した住民の強制ガチ避難が始まったらいよいよヤバい
495 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/29(金) 01:57:52.32 ID:XlCsDid20
今回分更新完了。ようやくまともなページ数更新できた…のに>>491の安価番号ミス誠に申し訳ない限りです

日本代表グループリーグ突破おめでとうございます。寝ます
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 09:34:00.73 ID:t0c5f2YSO
板コピペのせいで>>1が狂ったと思った
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:07:25.95 ID:p1UAN6GA0
おつです!
海軍きたあああ…となるけど、この期におよんで畜生共はw
…だいぶかかったけど、ようやくここまできたか
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 14:19:10.55 ID:ziVffcrs0
乙!
大洗増援間に合った、のか?(疑心暗鬼
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/29(金) 21:47:27.91 ID:f1ScJWeG0
500 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:10:23.43 ID:3IFCTjmT0






僕が小学生の頃は、ちょうど例の光の巨人が怪獣達と戦うヒーローシリーズが平成の世になってから復活した時期でね。特撮オタクだった父親の影響を色濃く受けていた僕は、シリーズが放映される毎週末の夕方を心の底から楽しみにしていたよ。

特に、最終回が秀逸でね。超古代の眠りから蘇った闇の大怪獣に、一時光の巨人は倒されて石像化してしまう。だけど、希望を信じる世界中の人々の善なる心に反応し、その巨人は最強の姿にパワーアップしてついに闇の大怪獣を討ち果たすんだ。

僕は心の底から感動した。人間はなんて素晴らしいんだろうって。その頃にはもう世界中で大小様々な紛争が転がっていたけれど、いざ“本当の危機”が訪れたときは、きっと人類は手を取り合うことができるんだって思ったよ。

……そして僕は愚かにも、この若気の至りに等しい思想をつい最近まで捨てることができぬまま過ごしてきた。
501 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:11:57.94 ID:3IFCTjmT0
提督に志願したのだって、最初は艦娘の皆と共に世界中の人々が融和の手を取り合う架け橋になれればと思ってのことだ。深海棲艦という共通の脅威に苦しむ人々が、自ら垣根を捨てて本質の“光”に気づき、大いなる“闇”を打ち払うきっかけになりたかった……我ながら、赤面するほど甘い考えだと今では思うよ。

現実はどうだ。滅亡寸前になった今も尚、人間は足の引っ張り合いを続けている。艦娘という、全てを人類の守護に捧げてくれる存在がありながら、彼らはその“献身”をさえ、意地汚く奪い合う。

人類は、生まれたての“雛”のような存在だ。隔てているのは壁ではなく“卵の殻”で、自らその殻を破る力もなくただ本能が赴くままに動くことしかできない幼稚で醜悪な“雛鳥”なんだ。そんな奴らに、この子のような艦娘やそれを率いる僕ら提督がどれほど献身したところで成長なんかするわけがない。自ら殻を破り手を取り合うなんて夢のまた夢だ。

だから我々は、彼女に“親鳥”になって貰うべきなんだ。彼女の献身に感謝し、その身を委ね、彼女の導きに従って殻を破り、真の融和を果たす。彼女の食べr

「ダメだ気色悪すぎて最後まで聞けねーわ。

とりあえず長ーよ死ね」
502 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2018/06/30(土) 00:14:27.16 ID:3IFCTjmT0
「いやほんっっっっっと長ーよ。お前絶対通信簿とかで先生になんかいろいろ書かれてたタイプだろ。もうなんつーか死ね。直球で死ね。

李牧に理不尽ワープ奇襲食らった麻鉱将軍みたいに死ね」

「要はアレだろ?てめえが勝手に中二病全開で地球人類を勝手に過大評価して勝手に失望しましたって言いたいんだろ?

お前漫画とか読んだことある?ジャンプどころかコロコロコミックで出てくるわその手の三下臭が凄い敵キャラ」

「しかも他人のエゴを散々批判しておきながら、一番エゴの塊なのもテメェ自身だしな。

いい年した大人が、自分たちでいろいろ解決すんの面倒だから艦娘たちを祭り上げて全部そいつらに任せて、自分たちは楽しますってニート宣言してるだけじゃねえか。

要はあの長ったらしいご高説は全部、“自分は艦娘のことを都合のいいお人形としか考えてません”って内容のクソみたいな自己紹介だ」

「………艦娘は、【艦娘】なんだよ。それ以上だのそれ以下だのはない。

こいつらにはこいつらそれぞれの感情があり、表情があり、思いがある。俺たち人間と何一つ変わらない。

ただ敵を殺すだけの兵器でもなければ、てめえの言う“献身”しかできないロボットでもない。ましてや、てめえの宗教ごっこに使われても何も感じないお人形じゃない。てめえが思うところの“人間の愚かさ”とやらを散々詰っておきながら、こいつらの……こいつのことを自分のエゴを実現する存在としか見られてねえてめえが一番醜悪だ」
503 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/06/30(土) 00:15:57.95 ID:3IFCTjmT0









( T)「お前に、こいつの提督である資格はない。

お精子からやり直せクソガキ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 07:35:33.22 ID:rArN8Qv6o
お疲れ様です
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/30(土) 21:26:00.62 ID:y7MIPLFx0
おtu
506 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:02:44.62 ID:2z8TBUqM0








随分と、古い夢。

起き抜けで中途半端にかき混ぜた溶き卵のようにはっきりしない状態の脳裏に、最初にぽつりと浮かんだのはそんな身も蓋もない感想だった。

この艦隊に加わる前、私が所属していた鎮守府の夢。そこで“あの人”に、今の私の提督に初めて会ったときの夢。これらがもう三年以上も前のことだと気づいて、一人密かに驚愕した。

それにしても、夢を見ること自体下手したら年単位で、本当に久しぶり。その久しぶりの夢の内容が、何故“アレ”だったのだろうか。

(正直、寝覚めはあんまりよくないなぁ……)

目玉焼きを作るためフライパンの上に割った卵の黄身が、着地と同時に崩れてしまったのを見たときのような、とでも言えばいいのかな。怒りと言うほどのもではないけれど、胸の内がもやもやしてすっきしない感じ。

心理学なんかでよく言われる、“現状の不満と過去への回帰願望”みたいな線は絶対にないと断言できる。今の提督との出会い自体は好ましいものではあるけど、その好ましい記憶は前の鎮守府での“忌まわしい記憶”とセットだ。ケーキを作る場に必ず用意される生卵と同じぐらい、切っても切れない関係。例えあの鎮守府にそのまま所属していれば「火の鳥の卵を料理する機会に恵まれる」と言われても、戻りたいとは思わない。
507 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:04:13.22 ID:2z8TBUqM0
となると、他にあの頃を夢に見た理由はなんだろう。

私自身は乗り越えたつもりだけど、実は自分もあずかり知らぬ深層心理に未だ眠るトラウマの表出か。

予知夢の代わりに特に不快な内容の夢を見せることで、この後に起きるであろう深刻な不幸に対する警告か。

ただの悪夢の類いで、特に理由はないのか。

或いは────




《War-Hog-01より統合管制機【Hedwig】、指定ポイントへの空襲の効果は絶大。多数の轟沈艦・損傷艦を確認した》

《Gladiator-01より【Hedwig】、当編隊は反転攻撃に移る。01より編隊各機、一機でも多く沈めつつなるべく敵の火線を引きつけろ、Over》

《Bison-01, Engage. 01より全機、対地爆撃を開始》

《輸送部隊各位、戦闘空域到達まで30秒。突入フォーメーションを取れ》

或いはアレが走馬燈の一種だと言われたら、私は其方の方が信じられる。

何せ私たちは、「何時ものように」死地へと踏み込んでいる真っ最中なのだから。
508 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:07:48.88 ID:2z8TBUqM0
ここは、“海軍”兵士のみんなが「オスプレイ」或いはV-22と呼んでいる兵員輸送用の回転翼機の中。私たちを含め30人ちょっとが詰め込まれて、お世辞にも空間に余裕があるとは言いがたい。

《統合管制機【Hedwig】より全輸送機へ。兵員の一部を自衛隊のF.O.Bへ合流させろ。展開地点はHyakuri-Airportだ、敵の空襲襲来に備え相応の対空火力もあることが望ましい》

《Cargo-02に利根改二が搭乗している、適任だ。Cargo-01よりCargo-10、F.O.Bへ向かえ》

《此方Cargo-10、命令を受諾した。指定地点に急行する》

《此方Gallop-01、当編隊は弾薬を使い果たした。補給のため一時戦域を離脱する、Over》

手狭な機内を、英語音声の無線通信がひっきりなしに飛び交っている。かなりの早口に加えて籠もっていたりぶつ切りだったりであまり聞き心地は良くないけれど、意味は難なく理解できた。

………提督から“マッスル英会話”とかいうバカげた英語学習を押しつけられたときは99式艦爆でぶっ飛ばしてやろうかと思ったのに、現実としてこのように結果はばっちり出てしまっている。正直、ありがたみよりも悔しさというか腹立たしい気持ちが先行する。買い置きしていた卵のパックの内一つをうっかり放置して、一個も使わずに賞味期限が切れてしまったときよりも悔しい。

《目標地点に到達》

《【Hedwig】より全部隊に通達、突入開始。

Good luck》

《Roger. Cargo-01 for All unit, follow me!!》

《Stork Team, Roger. Go go go!!》

《Taxi-01 for All team, Enemy Anti-Aircraft-Fire in coming!! Break, Break!!》

《Keep formation!!》

そんなことを暢気に考えていると、どうやら目的地である大洗町の上空に辿り着いたらしく無線でのやりとりが更に慌ただしいものに変わる。ドンッ、ドンッ、と大きな太鼓を渾身の力で叩いているみたいな低い音が機外で立て続けに響いて、床から身体に這い上るようにして震動が伝わってくる。

「……」

無言で傍らの丸窓から外を見る。ちょうど夕焼け空にあでやかな炎の花が咲き、直撃弾を受けた輸送機が電子レンジで温めた卵よろしく爆散した。
509 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 22:35:17.87 ID:2z8TBUqM0
《Stork-11 lost!!》

《Mules-09 One hit!! Mayday, Mayday!!》

《【Hedwig】より各位、学園艦上から新たな艦載機の発艦を確認した》

《護衛航空隊が迎撃開始!抜けてくる敵機に注意しろ!》

《Stork-01、回避運動に移る!》

(,,#゚Д゚)「揺れるぞ!掴まれ!」

「うわっとっと!!」

「ぽいぃっ!?」

外から聞こえてくる対空砲火の炸裂音の間隔が短く、より連続的なものに変わる。操縦士からの報告直後に斜め前の席に座っていたギコさんが叫び、次の瞬間機内がぐらりと大きく傾ぐ。集中砲火を受けているらしい私たちの機体の回避運動に、右隣で驚いたような声が二つ同時に上がった。

「全く、いい加減“海軍”司令部は僕の扱いを考え直した方がいいと思うね!僕ほどの美少女なら空調の効いたリムジンにテレビとフルコース料理付きで送迎すべきさ!」

(,,゚Д゚)「なるほど貴重な意見だ!」

声の主の内の片方───時雨が、なおもぐらぐらと不規則な軌道を取り続ける中で不愉快そうに悪態をつく。それに応じるギコさんの声も、負けず劣らず不機嫌そうだ。

(,,#゚Д゚)「俺からも上層部に掛け合ってやるよ!そしたら邪神も真っ青の性格してるクソガキのお守りなんて二度と任されなくて済むからな!

序でにそのリムジンがル級の砲撃で吹っ飛ばされることも真剣に祈ってやるよ!」

「艦隊一の美少女を捕まえて邪神とはずいぶんな言いぐさじゃないか、お守りされる側のくせに!」

(,,#゚Д゚)「俺が知る限り人様のドタマくないでぶち抜きそうになることをお守りとは言わねえな!艦隊一の美少女名乗る前に艦隊一容量が少ないその頭をなんとかしやがれ!」

「僕が知る限り“ちょっとした運動”でくたくたになっちゃうようなクソ雑魚ナメクジ人間を助けてあげることは十分にお守りに分類されるはずだけどね!死ね!」

(,,#゚Д゚)「てめえが死ね!」
510 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:08:29.20 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

見かねた江風が反対側の席から少し身を乗り出し、事態の収拾を図る。因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
511 :申し訳ない>>510訂正 ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/01(日) 23:09:56.71 ID:2z8TBUqM0
二人とも、機内外双方での騒音に負けぬよう全力で声を張り上げながら罵り合いを続けている。今にも生卵の投げつけ合いを始めそうな声の調子を聞く限り、割と本気で互いに嫌っていそうだ。

戦場を目前にしてそんなことに労力を使う二人はきっと、卵を入れろとレシピに書かれてたら割らずにぶち込むタイプなんだろうなと思う。

「というか、とうとう僕を金剛以下扱いしやがったな!絶対今度こそ臑蹴り割るからね!」

(,,#゚Д゚)「なんでてめえはそんなに俺の臑に対して頑ななんだ!それこそ金剛の一つ覚えじゃねえか!」

多分この二人は金剛から訴えられたら勝ち目がないと思う。

「………っぷい」

「………大丈夫ですか?」

(*;゚ー゚)「確かエチケット袋がその辺りに……」

因みに右側のもう一人……夕立は、某魔法少女詐欺師のエイリアンみたいな声を上げて縮こまっている。

……顔色が青く頬の辺りがリスのように膨らんでいることから、どうも三半規管が深刻なダメージを負っているようだ。このまま行けば、彼女が朝に食べていた炒り卵が機内の床にぶちまけられる時もそう遠くはないだろう。幸い彼女の真向かいにいる不知火としぃさんが異変に気づいていろいろと対処しているようなので、それでなんとかなるよう祈るほかない。

────そして。

( T)「…………」

機内の最奥では、私たちの提督が座っている。
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/02(月) 11:15:40.01 ID:1SIxM3Mg0
更新乙です
マッスル鎮守府が百里基地経由で大洗へ向かう展開?
あと、地の文は誰のモノローグだろう
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 13:47:05.08 ID:d0La2nsA0
おつおつ
…ってか瑞鳳って思考は良識的なん!?w
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 21:21:31.84 ID:w4IM5ExD0
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/04(水) 06:58:15.02 ID:U0d4PKLjO
516 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:00:53.92 ID:IzoT3soA0
身長、196cm。体重、118kg。彼が敬愛して止まない某ハリウッド俳優と(凄く気持ち悪いことに)ピッタリ一致した、日本人としては規格外の数値。彼はその大きな身体を少し窮屈そうに背もたれに預け、腕と足を組んで椅子に腰掛ける。

ただ大きなだけではなく、彼の身体は徹底的に鍛え抜かれたものだ。0.1tを越える体重の大半は筋肉とそれを維持する骨格で構成されており、数値以上の存在感が彼の巨?に付与された結果“日本人離れ”は“人間離れ”にランクアップした。

ギコさんをはじめ、艦娘が生まれる前から深海棲艦と生身で戦い、そして沈めてきた猛者が集う“海軍”。その世界最強の部隊が20人以上も寄り集まった機内にあっても、彼の巨?は一際異彩を放つ。ましてやそんな人物が無言で俯き座ったままぴくりとも動かないとなれば、彼のことをよく知っている私でも言い知れぬ威圧感を感じてしまう。

( T)「……………」

そう、無言。

提督は、横須賀でこの輸送機に乗り込んでから──正確にはその直前数分頃から──、一言も発していない。

別に彼はトラブルメーカーでもないし、奇っ怪な出来事に事欠かない我が鎮守府においてもなんだかんだ言って彼自身がその「奇っ怪な出来事」を起こしたことは殆どない。とはいえいざ異常事態が起きれば怪異を虐殺しつつ艦娘共々お祭り騒ぎに興ずる程度には、彼もまた喧しい性格をしている。

そんな、私のよく知る提督ならば、少なくとも時雨とギコさんの(醜い)罵り合いに嬉々として参戦するかどちらもプロレス技で沈めるぐらいのことはしているはずだ。また、たかが敵の対空砲火のまっただ中を突っ切る程度で「いつものノリ」を失うような柔な神経でもない。

スーパーで買った12個入りの卵のパックに何故かイースターエッグが一つだけ混じっているのような、得体の知れない違和感。その気持ち悪さに、ワケもなく身じろぎする。

「………」

「………」

いつもと様子の違う彼の姿に、私は斜向かいに座る古鷹に視線を向ける。彼女の方もちらりと提督を見やった後、少し不安そうに小首をかしげた。
517 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:29:02.24 ID:IzoT3soA0
この中では一番の新顔であり提督と過ごした時間がまだ鎮守府の中では短い方の私に対し、古鷹は彼の指揮下としては古参の一人だ。その──本来提督の奇行には特に耐性がある方である筈の──彼女が困惑しているという事実が、彼の今の姿の異様さを表している。

「うわっ……本当によく揺れるね。ウチの妹が完全にダウンする前に早いとこ着陸して欲しいな」

(,,゚Д゚)「……空襲での敵艦隊排除が案外難航してるくせぇな、対空砲火がおさまらねぇ。こちとら早いところこのクソガキから離れてえってのに」

「は?」

(,,゚Д゚)「あ?」

……まぁ、“提督”になる前から彼と付き合いがあるギコさんやこと彼のことになるといろいろと敏感な時雨が特に意に介していないため、実際には大したことじゃないと見ることもできそうだけど。古鷹も提督に声をかけたそうな仕草を見せているが、自然体な二人の様子にそれほど心配すべき事なのかイマイチ判断しかねているらしい。

それでも心優しい彼女は、意を決し顔を上げ再び提督の方に視線を向ける。

「………あのっ、t!」

《Stork-01より全搭乗員に通達、後20秒で着陸する!総員戦闘用意!繰り返す、総員戦闘用意!》

「あう………」

──が、直後に操縦士からのアナウンスが機内に響き、かけるべき声を失った彼女はがっくりと頭を垂れる。元々私に“かける言葉”なんてない(ご飯に卵をかけるのは好き)けれど、それにしてもこの計ったような間の悪さは同情を禁じ得ない。

(,,#゚Д゚)「よし、戦闘用意だ!!敵は手強いぞ、心してかかれ!!」

「「「Sir, yes Sir!!」」」

「────んぇ」

因みに、端っこの席ではギコさんの大音声での檄を聞いて雲龍がようやく夢の世界から帰還した。……この騒音の中でというのもそうだし、流石にいつ撃墜されるか解らない状況下で安眠できるほど図太い艦娘は“海軍”全体でも両手の指におさまるぐらいの人数しかいないだろう。個性のサラダボールと化している我が鎮守府においても、彼女のメンタルの強靱さは群を抜いている。
518 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2018/07/07(土) 23:32:19.16 ID:IzoT3soA0
( T)「……」

自分の艤装を装着し異常がないか確認しながらちらりと提督の方を見ると、彼は既に戦闘用意を終えていた。相変わらずらしくない“無言”のままだけど、別に腑抜けた逆に気負っていたり調子が悪かったりという様子もない。少なくとも、見る限りは指揮や作戦行動に支障を来す状態ではなさそうだ。

(なら、今は提督を心配する必要はないかな)

様子がおかしいのは間違いないけど、それを戦場に持ち込むような人ではないことは知っているし、戦場で問題がないのなら私達も今は余計な雑念を持ち込むべきではない。

この任務がすむまでは、疑問は一先ず置いておこう。








「…………っ!?」

────そう決心した矢先に、私達の乗っている輸送機がぐらりと一際大きく揺れた。
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