【艦これ】ex.彼女

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803 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/11(火) 21:44:44.00 ID:95/Cik0zO

『…あいつこそうちのエースだよ。
何でも俺が来るってなった時、訓練しまくったって…。』

『仕返し?何かひどい振り方でもしたの?』

「No.she is “bunny boiler”...」

「wow...is she “bunny boiler”?i see.」

『俺春からこっち来たんだけど、おかげで大変だったんだぞ…』

『そうは見えなかったけどね。』

『お前はまだあいつの恐ろしさを知らない。キレさせるとやべえから気を付けろよ?』

『そう、気を付けるね。』ニヤ

『待って、何する気。』

『何もしないよ。
これ頼んでもいい?日本酒飲んでみたかったんだ。』

『いいけど回んぞ?暴れんなよな。』

804 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/11(火) 21:48:02.77 ID:95/Cik0zO

…………で、案の定。

『なーにー?あたしの酒が飲めないってのー?』

『もう店の外だよバカタレ。重っ!?暴れんなコラ!』

アメリカ人に日本酒はキツかったか…無理矢理アトランタを背負い、俺は夜道を歩いていた。暴れるから。
笑い上戸と絡み酒を同時に発症したこいつは、店ん中でもシャレになんねえスラング連発…CとかDとか。
ここがアメリカだったら、どっからともなく発砲事件になってたぜ。

しかし酔っ払っての本音聞いてた限り、こいつもストレス溜まってたんだなぁ…。

どうも向こうの艦隊じゃいまいち馴染めなかったらしく、オマケに前の提督の件。
相当なパワハラ野郎だったようで、駆逐艦殴ろうとした所に花瓶ぶつけて頭カチ割ったんだとか。
流れでそれまで積んでた悪事もバレて、その提督もクビ飛んだって所らしい。


『だーかーらー、ムカついたから花瓶当ててやったんだよー。あのファ〇キンデ〇ックにさー。』

『その話、もう5回目ー。
…ま、やり方はともかく、嫌いじゃないぜ?そう言うの。その子を守ろうとしたんだろ?』

『………そんなんじゃない。』

『はいはい。』


……やっぱり、根っからのワルって訳じゃなさげだな。

こいつに対する監察は、俺、眼鏡、提督の許可があって解ける。
監察員の任を降りれる時が、イコールでこいつはもう大丈夫って証明になるんだ。

様子は見なきゃなんねえが、こいつがこの鎮守府に安心出来れば…やべえ、ちょっと限界だ。
805 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/11(火) 21:51:04.81 ID:95/Cik0zO

『重てえよお前…そこのコンビニで休ませろ。』

『いいよ。タバコ吸いたいし。』

コンビニ脇の喫煙所の所で、ようやく一息をつく。
もう7月も後半か…さすがに人担いで歩くにゃ堪えんぜ。

『…日本食、おいしかったなぁ。
空港でこっちのハンバーガー見た時、どうなるもんかと思ったけど。』

『確かに向こうのに比べりゃ小せえな。でもありゃアジア系の俺からすりゃデカすぎだ。』

『でかいのがいいんだよ。今度アトランタバ
ーガー食わせてあげるよ。』

『それ商品名?それともお前オリジナルって事?』

『あたしオリジナル。なかなかいけるよ?』

『胃薬用意して待っとくぜ。でも今日は夜平気なんだな?』

『…外いて気付いたけど、日本のは向こうの夜ほど怖くないんだよね。』

『…まぁ、確かに雰囲気は別だな。俺はこっちの方が落ち着く。』

『……昔はさ、そこまで嫌じゃなかった。
こんな風に外でタバコ吸ってると、ブルックリンが懐かしくなるね。』

『いくつからだ?不良娘。』

『あんたに言うとめんどいからパス。さてと…』

「…ぐえっ!?」

『ヘイタクシー、乗っけてってくれんでしょ?運賃は出世払いで頼むよ。』

『てめえ、立ち上がんのマジでキツいんだぞ…!』

『はい出発ー。』

『…後で覚えとけよ。』

無理矢理アトランタをおぶって、俺は帰路を急いだ。
あぁ、づほなら軽くて済むんだけどなぁ…二度とこいつにゃ飲ませねえ。


806 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/11(火) 21:52:31.45 ID:95/Cik0zO














「………へー…………そこ、私のポジションなんだけどなー…。」













807 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/11(火) 21:54:09.08 ID:95/Cik0zO
今回はこれにて。
シリアス風が続いてますが、その内どうせいつもの頭の悪さに戻るのでご安心ください。
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/11(火) 22:16:40.63 ID:N6+947b+o
おつ
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/11(火) 22:28:02.69 ID:A2SD8YCiO
おつおつ
スラング詳しいなぁ
810 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:47:02.67 ID:eqSmsJhmO


『被告人 ____・ジェンキンズ
xx年4月22日生 18歳
血液型 AB型

罪状 傷害並びに公務執行妨害
判決 懲役6ヶ月

ブルックリン区内にて出生。北欧系アメリカ人。
幼少期から実父より母親と共にDVを受けており、10歳の頃、耐えかねた母親が父親を殺害。母親は逮捕され服役するも、翌年獄中死。

その後同ブルックリン区内在住の祖父と生活するも、14歳の頃に祖父が死去。
以降は祖父のアパートにて一人で生活し、ギャングコミュニティでの目撃情報あり。
自供、並びに証拠は得られていないが、逮捕までの生活費は、祖父の遺産と犯罪行為で得たものを基としていたものと思われる。

仲間を狙撃した警官を襲撃、頭部裂傷を負わせ上記の罪状により逮捕。
負傷した警官は、被告の仲間への不当な発砲を働いており、これも考慮し上記の判決と処す。』


811 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:48:25.52 ID:eqSmsJhmO



「____、晴れてあなたも模範囚ね。きっと半年より早く出られるわ。出所後はどうするの?」

「…ホームレス以外無いでしょ。アパートもファミリーももう無い。
また『運送屋』でもやるか…それか、もう『街に立ちんぼ』するぐらいしかないもね。神様助けてってさ。」

「…フリートガールって知ってるかしら?」

「フリートガール?何か変なカッコしてバケモノと戦ってる奴らでしょ?」

「そう。見た目は派手だけど、立派な軍人よ。
適性がいるから、誰でもなれる訳じゃないけど…____、まだ人生を投げるには早いわ。
あなたは本当はいい子よ、神様もきっと見ててくれる。だから賭けてみない?」


812 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:49:52.77 ID:eqSmsJhmO








第37話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-4-









813 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:52:19.87 ID:eqSmsJhmO


「むー…昨日私も暇してたんだけどなー。」

「そうね、私も暇だったわ。」

「あー…ま、まあ悪かったよ。」

翌日、俺はづほと元カノコンビに詰められていた。
せっかくなら私達もアトランタと飲みたかった!って事らしい。

まぁ親交深めたがってるくれてるなら何よりだが、俺も警戒しすぎたかなー…確かに連れてきゃ良かった。
こいつらなら、多分『アレ』も見てるだろうしな…あ、そうだ。

「なぁお前ら、風呂とかでアトランタって見た?」

「…リョウ、やっぱり大きい方好きでいてくれたのね…!」

「……ほっほー、やっぱりああいう乳が良いんだ?」

「ちげーよ、タトゥーの話だ。俺は腕のチラ見えしただけだからな。」

「あー、私この前被ったよ?二の腕ぐらいまで入ってたね。
あと湯気でちゃんと見えなかったけど、背中にもあったかな。」

「私も見たわ。綺麗な絵柄だったわね。」

こいつらはそう言うので偏見持たないから、訊くには早い。
アレも多分意味がある。全体像見た奴の印象を知りたかったんだ。

814 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:53:58.25 ID:eqSmsJhmO

「鷹や太陽、ひまわり…あとマリアね。私が覚えてるのは。」

「おじいちゃんも入ってたよね?キリスト風の奴。」

「…ふーん。背中は?」

「ちゃんと見てないけど、何か黒いのだったよ?派手には見えなかったかな。」

「なるほどな…ありがとな、二人とも。」

「いえいえ…リョウ、でも頑張りすぎないでね。
接した感じ、そんなに悪い子には見えなかったもの。きっとすぐに監察を解けるわ。」

「そうだね、クールだけど話も出来るし。
リョウちゃんちょっと顔疲れてるよ、アトランタちゃんにもプレッシャーになっちゃうよ?」

「…ああ、気をつけるよ。」

キリスト風の老人…ぶん取った調書見た限り、そういう事だろう。
ただ、でかいデザインじゃなく、小さいのをいくつも入れて二の腕まで…ね。

アトランタも最初はビビられてたけど、外面は上手くやってくれてるらしい。
1週間近く経った今、みんなはそこまで悪くは思ってなさそうだ。

……このまま放っておけば、監察自体は解けるかもな。
でも俺は、あいつが何か抱えてるのを見ちまった。

提督や眼鏡は、そこ込みで俺にこの件任せたんだと思う。
ここが本当に安心出来る場所になってくれりゃ、それがベストだ。

さて…部屋への訪問の時間か。
ただ、生きてんのかあいつ?

815 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:55:11.09 ID:eqSmsJhmO


『入るぜ。』

『………死ぬ。今日はマジで帰って。』


二日酔い・オブ・二日酔い。
昨日はアトランタが今日休みって知ってたから連れてったんだが、見事に休日を寝潰していたらしい。
下ろした髪は大爆発、声のトーンは更に低くなっていた。


『…まぁ、だと思ったよ。実際覚えてるか?』

『コンビニでタバコ吸ってからの記憶が無い。あたしどんなもんだった?』

『ここに寝かせた瞬間、俺の顔面に蹴りが来たよ。マーチン履いたままのな。』

『げ……ごめん。』

ギリギリ受け止めたけどな、本当は。ただ、ちょっとは反省してもらわねえとだ。
へへへ…さすがにしおらしいツラしてやがるぜ。

『うう……リョウ、そこにコーヒーメーカーあるから沸かしてくんない?』

『その前におめーはこれだ。』

『……スポドリ?』

『どうせ二度寝三度寝とキメてたんだろ?まず水分取っとけよ。』

『……ありがと……あー、生き返る…。』

『本当にキツそうだな…今日は戻るぜ、監察以前の問題だ。』

話すだけで頭痛拗らせそうなツラだ、俺もとっとと消えてやろう。
……とか考えてると、手を掴まれた。

816 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:56:39.59 ID:eqSmsJhmO


『………何だよ?』

『LINE。』

『は?』

『日本にLINEってアプリあるよね?あんたの教えて。基本的なのは習ったから。』

『あー、いいけどよ。何でまた?』

『これでまた潰れたらタクシー呼べる。いや、お馬さんかな。』

『…一つ、日本の都市伝説を教えてやる。』

『何それ?』

『イエローキャブならぬイエローアンビュランス。
てめえみてえな頭おかしい奴をぶち込む救急車だ。』

『大丈夫、あたしの専用車両はカーキのタクシーだから。』

『行先は地獄オンリー、運賃はお前の命な。
…ったく、しょうがねえな。スマホ出しな、登録してやる。』

それで登録して、とっとと部屋を出た。
ん?早速か…。


『Ryo,Fxxk you&thnx.』


……はは、どっちだよ。

817 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:57:34.96 ID:eqSmsJhmO

その後ポーラがひと暴れしてくれたお陰で、俺が仕事を終えられたのは22時近く。
例の如く眼鏡は着替える羽目になり、俺は一人で部屋にポーラをぶち込んだ。

“一応様子見とくか。”

何も無いのはわかっちゃいるが、念の為にアトランタの部屋の前も通る事に。
よし…特に物音も無いな。


『…人の部屋の前で何してんの?』

『…出てたのかよ。ポーラぶち込んだついでに様子見にな。』

『あのすぐ脱ぐ子?』

『あのすぐ脱ぐ子。』

『…スケベ。』

『アレのどこに興奮しろと。』

『そう…屋上に行かない?お風呂入ったら少しのぼせちゃった。』

色々とアレなもん見た後で、正直俺も気分が悪かった時だ。
願ったり叶ったり、アトランタに促されるまま屋上に付き合ったんだが、そこでふと気付く。

……夜、怖くねえのか?

818 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 22:59:09.22 ID:eqSmsJhmO

『いい月明かりだね。こうして石段に座ってると、ブルックリンの夜を思い出すよ。』

『……夜、怖いんじゃなかったっけ?』

『………正確には深いのが…かな。
あたしが住んでたアパートには屋上があって、よくこうして月を見てた。』

するとアトランタは、ダボついたロンTの袖を捲った。
顕になったのは、両手の二の腕まで達したいくつものタトゥー。


それをかざしながら、あいつはこう呟いた。

819 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 23:00:13.34 ID:eqSmsJhmO







『…“みんな”、こっちも月が綺麗だよ。』







820 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 23:02:00.08 ID:eqSmsJhmO

………。

…やっぱり、そういう事か。

何となく思い描いてたタトゥーの意味に、確信を持てた。
だから今は、あえて触れない事にした。

『……腕の事、何も訊かないんだね。』

『大体分かったよ。アトランタ、お前が話したくなってからでいい。』

「………no.」(違うよ。)

「………why?」(何がだ?)

「……please call me Shelly.it's my real name.」(シェリーって呼んで。あたしの本当の名前。)

資料に載ってた以上、それはもう俺も知ってる名前だ。
だけど実際にそう請われた時…俺は何か、切実な物を感じたんだ。

821 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 23:03:13.49 ID:eqSmsJhmO

『……ああ、仕事じゃなけりゃ呼んでやるよ。シェリー。』

『……ふーん、仕事中じゃなきゃいいんだ?
ねぇ、リョウ。今から部屋に来ない?見せたいものがあるんだ。』


今度は部屋に招かれて、俺は椅子に座らさせられた。
何か出てくんのかと思った時、アトランタに声をかけられた。


『……リョウ、こっち見てくれる?』

『へ……な!おま、馬鹿野郎!?』


ロンTを脱ぎ捨てたかと思えば、突然下着まで外しやがった。
俺が慌てて目を隠すと、見ろと言わんばかりに手を掴まれる。

『タトゥーの意味、教えてあげる。だから手をどかして?』

『……タトゥーの意味?』

『……分かった、じゃあ背中向けたら声掛けるから。それならいいよね?』

それで声が掛かり、恐る恐る手をどかした。
その時俺が目にしたのは…


「…………っ!!」



そこにあったのは、白い肌に刻まれた黒い影。
アトランタの背中にあったタトゥーは…


天を仰ぐように両手を広げた、死神の後ろ姿だった。


822 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/17(月) 23:05:41.47 ID:eqSmsJhmO
今回はこれにて。
アトランタに設定されてる本名も、他の子同様ちょっとした小ネタが入ってます。
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/18(火) 07:40:50.28 ID:ok1xBGeP0
乙です
824 : ◆xu2VpOlD.6 [22564]:2020/02/18(火) 21:07:42.25 ID:e6yselZzO






第38話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-5-






825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/02/18(火) 21:08:20.65 ID:e6yselZzO
酉間違えました。
826 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:10:46.66 ID:e6yselZzO
酉は変わりますが気を取り直して
827 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:11:57.99 ID:e6yselZzO






第38.話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-5-





828 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:14:34.59 ID:e6yselZzO

『…………。』

俺が背中のタトゥーをしっかり見たのを確かめると、アトランタはタンスから服を取り出した。
タンクトップに着替えたあいつは、俺に近付くと…まず、鷹のタトゥーを指差した。


『……この鷹はジェイムズ。15歳の時の最初のボーイフレンド。
こっちのヒマワリはニーナ、私の親友。この蝶は…。』

一つ一つの絵に対して、出てくるのは一人一人の名前。
それを語るあいつの顔は、どこか優しげな微笑みを浮かべていた。

『………監察員なら、あたしの調書も持ってるよね?』

『……ああ。』

『…いいよ、ちゃんと話してあげる。

あたしの親父は典型的なクズでね、酒に酔っちゃあたしや母親に暴力振るう奴だった。
思えばその頃から、暗い夜が苦手だったかな。またあいつが帰ってくるって…。』

『…………。』

『…10歳の時、とうとう母親が殺っちゃったんだ。
あたしがいつもみたいに殴られてたら、後ろから頭をガツって。

……その時大丈夫?って抱きしめてくれたママは、返り血まみれだった。
笑顔の母親なんて、本当に小さい頃以来に見たよ…それが最後だった。』
829 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:16:00.75 ID:e6yselZzO

『……その後は、じいさんの所にいたんだよな?』

『……この老いたキリストの絵。これがじいちゃん。

あいつらと血が繋がってるなんて思えないぐらい、本当に優しい人なの。
でも歳でさ、あたしが14の時に死んじゃった。人生で最初に尊敬出来た人だった。』

『……そうか。』

あの夜警の時、俺は懐中電灯振り回しながら廊下を探してた。

暗闇に浮かぶ人影…それも何かを振り回しながら。
あの時こいつが錯乱したのは、やっぱりそこに父親の影を見ちまったからか。

アトランタの両腕を見る限り、両親をモチーフにしたタトゥーは無い。
強くは言わなかったが、母親にも良い感情は持てなかったのだと思う。

……最初に尊敬出来る人間が出来たのは、10歳にしてやっと。
その言葉の意味を噛み締めるように、俺の拳は軋みを上げていた。

830 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:18:52.82 ID:e6yselZzO

『………それからは、どう生きてきた?』

『流れるようにストリートギャングの道へ…ってね。
食ってかなきゃいけなかったからね。でもその頃のあたしじゃ、他に生きてく術も無かった。

…今時のギャングコミュニティだと、あたしみたいな人種の奴は少ないんだ。力関係なら、ギャングの中のナードって言ってもいい。
あたしのいた所は少ないながら、あたしと似たような人種が集まってチームになってた。

だから手っ取り早い仕事はありつけなくてね…あたしのチームは、“運送屋”のバイトしてたよ。』

『……“運送屋”ね、そりゃまた大変な仕事だ。』

『…確かに、何度も危ない橋は渡ったね。
でも、あたしにとってはファミリーだった。

仕事が上手く行った時は、皆でパーティーをやっててさ。
あたしの作ったハンバーガーやフライドベーコン、皆好きでいてくれた。

……でも、一人、また一人と減ってったね。

さっき言った、最初のボーイフレンドのジェイムズ。
鷹が好きな人だった……初めて“そう言う事”した次の日、ポリに撃たれて死んじゃったよ。
別のやらかした奴と間違えられて、誤射でね。

ニーナは…どんな人生にも光はあるって、口癖みたいに言ってた。お守りだって、胸にヒマワリを入れてた子。
……どっかのイカレ野郎にヤられちゃってね、朝ゴミ捨て場で死んでたよ。
あたしのヒマワリのタトゥーは、あの子と同じ彫り師に頼んだ。

…独りで過ごす夜が、だんだん怖くなってた。
明日の朝、もう会えない奴が出るかもしれない。今度はあたしかもしれない。
そう思うと、暗闇が怖くて…よくこいつを抱いてたよ。』

そうアトランタが見せてくれたのは、くたびれたぬいぐるみ。
少し前の映画に出てた、クマのものだった。

元はじいちゃんに買ってもらったものだと、こいつは寂しげに笑う。

その後も、次々とタトゥーの意味を語ってくれた。
一つの絵に対して、誰か一人の人生と死が。
それをまた一つ聞く度、俺の中に、顔も知らない誰かの最期が描かれていく。

その会話の中で…アトランタはチームの最期を語ってくれた。

831 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:21:48.32 ID:e6yselZzO

『…あたしが逮捕された日が、チームの最期の日。

ポカしてでかいとこに狙われちゃってね…リーダーは、女と若い奴を秘密の場所に隠したんだ。
明け方手前に、少し遠くの方から銃声がして…それもすぐ止んだ。

夜明けまで絶対に出るなって言われてた。
それで朝、その場所に行ったら…あったのは、チームのみんなの死体だけ。

…リーダーの彼女が、死体に駆け寄ったの。
そしたら……その子は頭撃たれて、その場で脳ミソぶちまけた。

警官がいたんだ。
抗争中のギャングの残りを撃ったって体に出来ると思ったんだろうけど……そいつさ、笑ってやがった。

あたしの事には気付いてなかった…だから、落ちてたブロック持って…。』

『……それで逮捕されて、収監されてたって事か。』

『…………うん。』

…アトランタの目からは、一筋こぼれるものがあった。
だが、話はここで終わるわけじゃ無さそうだ。
制止しようかとも思ったが…俺は、最後までその話を聞くことにした。

832 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:24:47.89 ID:e6yselZzO

『…そうやって、一人誰かいなくなる度にタトゥーが増えてった。
あたしの中で生きてって、そう思ってね…。』

『……そのマリアは?』

『……実の母親じゃないよ。背中のとこれは、艦娘になった時に入れたやつ。

これはね…ムショの監察員のおばさん。
みんなからババアって慕われてた、うざったい人だよ。

出所してもアテが無かったあたしに、艦娘を勧めてくれた人。
色々うるさかったけど…あたしにとっては、初めてちゃんと向き合ってくれた大人の女だった。本当のママみたいにね。』

『………その人は、どうなった?』

『……あたしが出所した夜、新しく来たヤク中女にフォークで刺された。

あたしが出所前に適性検査を受けれたのは、その人のおかげ。
模範囚にしてくれたし、あちこち駆け回って口利きしてくれた…合格した時さ、二人で抱き合って泣いたよ。

出所する時も、思いっきりハグしてくれた……また休暇取って会いに行くって約束して。
でもそれが最後……あの人の匂いとぬくもりは、本当のママより覚えてる。

…報せが来たのは、埋葬も終わった後だった。
休みの日にこっそり制服持ち出して、あの人のお墓の前で敬礼したよ。

………一度くらい、見せてあげたかったからさ。』

『じゃあ…背中の死神は…。』

『…あたしの自画像。
自ら鎌を振るでも無く、ただ深入りした者の死を見るだけの人生…ってね。
ほら、こうして腕広げれば、みんなを見てるみたいになるでしょ?』

そう誇らしげにタトゥーを見せるアトランタの笑みは、その実、俺の目には痛々しく映った。
その直後…


アトランタは、全身を預けるように俺に抱きついてきた。


833 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/18(火) 21:27:03.27 ID:e6yselZzO

『………。』

すすり泣く声だけが、部屋に響く。
強く体を締め付ける腕は、怯えた子供のように加減を知らない。

「………fxxk you.」

「………。」

「Ryo.My heart hurts when I remember…please don't kind to me……fxxk you……fxxk you!!」(リョウ、思い出してつらいんだ……優しくしないで……クソ野郎…クソ野郎!!)

涙声のまま、アトランタはようやく感情の全部を俺にぶつけてきた。
そうか……観察員として向き合えば向き合うだけ、傷に塩塗ってるようなもんだったかもな。だが……



そうは問屋が卸すわきゃねえだろ、馬鹿野郎。



834 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:28:48.40 ID:e6yselZzO


「…………ow!?」


スコーンと1発、アトランタの脳天にチョップをかましてやった。
へへへ、さっきとは別の意味で涙目だ。ざまあみろ。


……ったく、世話あ焼ける奴だぜ。


835 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:31:26.76 ID:e6yselZzO

「Shut the fxxk up,fxxk'n biddie.」(…うっせーな、ワガママ娘が。)

「Oh shit…」(何すんの…)

『……理由はどうあれ、てめえは過去は犯罪者だった。
お前の運んだモンで、人生閉じちまった奴もいるかもしれねえ。それを忘れるな。』

『………っ!
…それ、ババアにも言われたね。』

『……だが、1度はブタ箱に入ってたろ?それも模範囚としてだ。
てめえのやった事は消えねえ。で、てめえを蝕んできた過去も消えねえだろう。

艦娘勧められた時、断らなかったんだよな?
お前は自分の意志で這い上がろうとしたって事だ。どれだけ否定しようがな。

…だったらよ、“どう生きて来たか”じゃねえ、“これからどう生きるか”じゃねえのか?
それがてめえの過去に対する復讐であり、贖罪だ。違うか?

…少なくとも死んでった人らは、お前の不幸を願う奴はいないと思うぜ。
せいぜい、例のクソ親父ぐらいなもんじゃねえか?

俺に腹の底ぶちまけた、それが答えだ。
ずっと、誰かに聞いて欲しかったんだろ?』

『………!!』

836 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2020/02/18(火) 21:33:26.52 ID:e6yselZzO

『……生憎そのババアみてえなのは、ここじゃ俺だけじゃねえぞ?

提督は、お前みてえなワケありも積極的に引き取ってる。居場所を作る為にな。
あの眼鏡は俺の師匠だ、俺より強引にお前を引きずり上げようとするだろう。

ここの艦娘連中だってそうだ…誰かしらあの手この手でお節介焼いちゃ、お前をほっときゃしねえ。
お前と飲み行った後、づほと翔鶴に怒られちまったぜ…何でお前と飲ませてくれなかったんだってな。

……おい問題児、逃げられると思うな。

ここに来ちまったのが運の尽き。
ここは“俺含め”、頭のおかしいキxガイどもの溜まり場だ。』


………あーあ、認めちまったよ俺。
ここは本当にクソッタレで、最高な鎮守府だってよ。
憲兵冥利に尽きも尽きる、大好きな場所になっちまったさ。


だからアトランタには、こう言ってやったのさ。

837 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:35:00.01 ID:e6yselZzO







「Atlanta…not.Shelly.This place is your home.」(アトランタ…いや、シェリー。ここがお前の家だ。)






838 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:36:34.73 ID:e6yselZzO


「Ryo………fxxk you.」

最初詰所から出てく時、俺に吐き捨てたFワード。
だが今は、その意味は180度違った。

俺に抱き着いて泣きじゃくるアトランタを見て、そんな事を思ったもんだった。

『………落ち着いたか?』

『………うん。』

『……ただ、抱き着くのは勘弁な。
日本じゃハグは恋愛的な意味が強えから、色々めんどくせえんだよ。元カノとかに見られるとやべえ。』

『……ショーカク?』

『あー…現在進行形で俺のストーカーなんだわ…。』

『…なるほどね、そりゃあんたの事よく知ってるよ。
最初会った時、こう言われたんだ…』

そうしてアトランタが、話してくれた事は……。

839 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:38:08.73 ID:e6yselZzO



?“Nice to meet you.あなたが新任の子かしら?”

??“うん、あたしはアトランタ。あなたは?”??

“私はね…翔鶴。正規空母よ、よろしくね。”

“うん、よろしく。”

“言いづらい事かもしれないけど…リョウが監察員に付く子って、あなたのこと?

“うん。昔色々やらかしちゃってね。
感じ悪いね、あいつ。”

“そうね、確かに口が悪い所はあるけど…でも、とってもいい人よ。
アトランタちゃん、困った事があったらあの人を頼って。あの人なら、きっとあなたの力になってくれるわ。


…誰よりも、暖かくて優しい人よ。”??


840 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:39:58.53 ID:e6yselZzO


『…………。』

『……複雑そうだね、何か。もしかして未練タラタラ?』

『……んな訳ねえだろ、俺が振ったんだからよ。
未だにあいつが一番のトラブルメーカーだ。』


……あいつ、今でもそんな風に。散々冷たくしたってのによ。


『……さて、俺も帰るかな。』

『…ショーカクオカズにして寝る?あ、それともショーカクと…。』

『生憎フリーなんでな。画面の中の手が届かねえまともそうなお姉様に癒してもらう。疲れちまったぜ。』

『ばーか。おやすみ。』

『ああ、おやすみ。』


………ふう。どうなるもんかと思ったぜ。

まぁこの調子なら、後は何事も無けりゃ監察も解けるだろ。
それでお役御免になれば、晴れてまたいつもの日常に集中するだけだ。

あー、ねっむ…抜く気も起きねえや。


841 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:40:51.36 ID:e6yselZzO









へえ、ならフリーか。

……ショーカク、ごめんね。









842 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:42:15.47 ID:e6yselZzO


あれから半月、監察もすっかりルーティンと化した。

また後で行かねえとな…まぁ、世間話だ。
食堂でコーヒー飲みつつ、そんな感じでこれからの予定を考えていた。

午後のひとときなせいか、周りの席もちらほら埋まってる。
で、一緒のテーブルにいるのは俺と眼鏡、それに元カノとづほ。たまーに隼鷹もいる。
最近休憩時間に食堂来ると、大体このメンツで喋ってる。

……まぁ、あんまり元カノとは話さねえけど。

お、アトランタだ。

843 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:44:22.44 ID:e6yselZzO

「あ、リョウ。ちょっと見せたいものがあるんだ。」

「どうしたよ?」

ポーカーフェイスなこいつが、珍しく機嫌が良さそうだ。
その理由は、どうも背中にあるらしい。


「この前タトゥー入れてきたの。人生最後のやつ。
アフターケアも落ち着いたからさ。」


襟を伸ばして見せてくれのは、丁度死神の上の辺り。
そこには一つ、星のタトゥーが刻まれていた。


『あたしはそれでも、光を追って生きる』


楽しげなアトランタの顔は、言葉はなくともそう語ってるようだった。








と こ ろ が だ 。









844 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:45:38.19 ID:e6yselZzO

「…ねえ、リョウ。」

「………ん?」








『…………ちゅっ…。』








…………は?




845 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:47:20.93 ID:e6yselZzO

がっしり頭掴まれたかと思えば、気付くと思いっきりキスされてましたとさ。

気が動転してる俺をスルーして、アトランタはご丁寧に日本語で、周りに分かるようにこうぬかしやがった。


「リョウ……ギャングに狙われたら、逃げられないんだよ?もうあんたはあたしのもの。


…あんたに拒否権、無 い か ら 。」


変わらぬポーカーフェイス。
だが、桁違いのゴゴゴ…と言う擬音がアトランタの目からは見えていた。



そして……


846 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:49:15.15 ID:e6yselZzO


「………ねえ。」


絶対零度のオーラが、背後から俺を襲う。

ぎぎぎ…と、機械の様に首を回す。

そこには…。




「演習場に行きましょ?久々にキレちゃったわ…。

アトランタちゃん………愉快なオブジェに変わりたいようねぇ…!?」




同じ白髪でも、何かベクトルとか操れそうな方みたいな顔になった元カノ様がいらっしゃいました…。


……お母さん、先立つ不孝をお許しください。


847 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/02/18(火) 21:50:50.81 ID:e6yselZzO
今回はこれにて。
綺麗に終わらせる訳ないでしょう。いつもの感じにギヤを上げていきます。
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/20(木) 01:47:28.23 ID:FIOiA8Sp0
ヒェッッ...
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/21(金) 09:57:53.90 ID:aXP62vxb0
まあそうなるな…
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/05(日) 18:22:28.99 ID:PyoUQ81Do
まーつーわ
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/07(火) 13:44:25.09 ID:5HisyGtR0
いつまでもまーつーわ
852 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:44:01.00 ID:77LxSYSIO







第39話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-6-






853 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:45:34.51 ID:77LxSYSIO

「へえ?ショーカク、あたしのsculptureでも作ってくれんの?」

食堂はさながら冷凍庫。
一触即発の空気の中、アトランタと元カノは静かに睨み合っていた。
元カノは完全にブチ切れた笑み、それに対して…アトランタは、余裕ありげな微笑みだ。

正直あまりにもな急展開に、俺自身理解が追い付いていない。
だがこれだけは言える…このまま行くと、俺は何らかの形で召されてしまうと。

そうだ、俺は憲兵。まずはこの場を止めなくちゃならねえ。
そして意を決して動こうとすると…

854 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:47:06.81 ID:77LxSYSIO

「はーい、ストップー。」

「…提督…!?」

「なんか面白そうな事してるねー。でも演習場は僕の許可ないと使えないよ?」

「提督さん、じゃあリアルファイトでもいい?それこそあたしの勝ちだけど。」

「ふふ…あまり弓使いの地力を舐めない事ね。
分かりにくいけれど、これでもインナーマッスルには自信があるのよ?」

「待った待ったー。それも面白そうだけど、君らに始末書出ちゃうよー?
ただ…どうしてもって言うなら、許可出してもいいよ。僕プロデュースの演習ならね。」

「…乗った。」「乗りましょう。」

「くす……じゃあ2時間後、執務室においで。あ、瑞鳳は今着いてきて貰っていいかな?」

「……はい、分かりました…。」

「………!?」

そう提督に着いていくづほの目からは、静かな殺気が放たれていた。
な、何であいつもあんな…呆気に取られている間に、気付けば4人ともいない。
その場に残されていたのは、俺と眼鏡だけだった。


855 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:49:02.06 ID:77LxSYSIO

「……くくく…リョウ、面白い事になったじゃないか。
なるほどな、アトランタは『そういうタイプ』だったか。」

「ど、どういう事ですか…?」

「基本クールでドライではあるが…その分一度気に入った人間には、とことん執着するタイプと見た。
貴様は相当お気に召されたようだな?」

「えー…んな馬鹿な…。」

「……ついでに、ひとつ私の中で確信を得た事がある。」

「……は?」

「リョウ、世の中にはいるんだよ…貴様のようなタイプが。
どういう訳だか、ぶっ飛んだ女にばかり好かれる男と言うのがな…。

それがどういう事かと言うと…つまり、貴様にはまともで優しそうなお姉様どころか、普通の神経の女にモテる日など永遠に来ないのだ…!」

「…………!!!」

な、何だって……!

だが、ショックを受けてる場合じゃない。
俺を巡って演習バトル…下手すりゃ、否応無しにどっちかと付き合えって話になりかねねえじゃねえか…!
こうなりゃ善は急げだ…先手を打つ!多分今なら部屋に…。

856 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:50:32.76 ID:77LxSYSIO

『アトランタ!』

『…なぁにダーリン。シェリーって呼んでくれないの?』

『冗談はその辺にしとけ、何考えてんだおめえは!!』

『ふふ…提督さん、なかなかショーカクとやり合わせてくれないからさ。
まぁ理由は聞いてたけど、あたし的にはそろそろいいかな…ってね。』

『…どういう事だ?』

『…ここの工廠、本当凄腕だね。艤装が使いやす過ぎて、逆に慣れるの手間取っちゃった。
あたし自身まだ時差や気候に慣れてなかったし。

でも、それも慣れてきたから…やっと本来のあたしが出せるかなってね。
慣らしが終わるまで待てって、ずっと止められてたんだ。

あんたなら分かるでしょ?でかい鳥こそ喰ってみたくなるって…!』

その瞬間の笑みを見た時、正直ゾッとした。
うわ…こいつとことん戦闘狂だ。これからの事を心底楽しんでやがる。
でもそれ以前に、巻き込まれた俺はたまったもんじゃねえわけよ。
焚き付ける為でも、アレはよ…。

『聞くまでもねえけど、アレは嘘だよな?
いくらなんでもやり過ぎだ、フォローしきれねえぞ。』

『へぇ……嘘だと思う?』

「……!?」

俺の肩にしがみつくように、また無理矢理唇を奪われた。
思わず押しのけちまったが、アトランタはそれでも楽しそうな笑みを浮かべている。

857 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:52:22.61 ID:77LxSYSIO

『……言ったでしょ?あんたはもうあたしのもの。』

『ごめんなさい無理ですって言ってもか?
この際はっきり言っとくが、お前に恋愛感情は抱けねえな。』

『そりゃ今はそうだろうね、あんたからしたら当然。でもこれからは分からない。嫌よ嫌よも好きのうち…ってね。
色々あっても、明日はいい日になるもんだよ…あんたがあたしに堕ちれば。』

『…しつけえ女はもう間に合ってるんでな、お引き取り願うぜ。
いいか、お前が勝とうが負けようが付き合わねえからな。
演習はこの際仕方ねえが、それ以上のゴタゴタ起こすんなら容赦しねえぞ?』

『くす…容赦なく押し倒してくれんの?』

『あー言えばこう言う。もうちょっとお淑やかになって出直してこい。』

「darling,i love you.」

「thank you,fxxk'n nuts.」(ありがとよ、イカレ女)

ダメだ、ラチがあかねえ。
話にならねえと思った俺は、そのまま一旦部屋から出た。

はぁ…どうもあの様子じゃ、本当に俺に対してガチくせえな。
何度でも口説いてくるなら、何度でも振るしかない。長期戦かよ…。

…あいつ、今まで付き合った奴全員、あの手でかっさらって来たんじゃねえだろうな?


「…………。」


廊下を歩きながら、ふと乱暴に口を拭った。
説明し難い違和感が、どうにも取れなかったんだ。

858 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:53:23.91 ID:77LxSYSIO






“へえ、まずあたしの所に止めに来るんだ……。

余計やり合いたくなったよ、ショーカク。”






859 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 19:55:32.11 ID:77LxSYSIO

「で、来いとは言われた訳ですが……提督、それは無いんじゃないですか?」

「ん?大丈夫大丈夫、実戦ならよくあるパターンだし。」

いざ演習場にボートで乗り付ければ、アトランタに対するはづほと元カノコンビ。
1対2、どう見てもアトランタがボコられる未来しか見えない構図だ。

「今回はアトランタの防空力を見る意図もあるからね。
エース級の空母に補助の軽空も相手して、どれだけ落とせるかと。
逆に、空母コンビの攻撃力の見直しにもなるしさー。

あ、今回はインカムであの子達と会話出来るからねー。」

「……何でそんな余計な事したんですか?」

「そっちの方が燃えるかなってね。」

「提督、後で工廠裏行きましょう。」

「さて、始めようか。」

インカムはあるが、会話は一切無い。
アトランタは不敵な笑み…そして空母コンビからは、ガスバーナーみてえな殺気が放たれていた。

860 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:02:26.24 ID:77LxSYSIO


「始め!」


号令と共に、艦載機が一斉に放たれる。
前見た時に比べると少ない…様子見か?
しかしそれでも2人分、1人でこなすには多すぎる攻撃がアトランタに降り注ぐ。

爆煙がアトランタを覆う…だが、直後にインカムから聞こえた声に、耳を疑った。


「fxxk you thunder,you can suck my dxxk…♪
…ま、あんたたちのなんて、神様の屁にすら値しないけどね。」

余裕気な歌声と共に、爆煙が晴れていく。
そこには無傷のアトランタを、海面に浮かぶ艦載機の残骸が取り囲む光景。

あいつ…全部落としたってのか!?

「へぇ…やるわね。前は私にボコられてたのに。」

「ええ、小手調べに…と思ったけど、そんな必要は無かったわ。
瑞鳳ちゃん…これで全力で“殺れる”わね…!」

「翔鶴さん、どうどう。“楽しい後輩の歓迎会”だよ?
ここは一つ、私達と同じラインに上げてあげないと…。

ねえ、アトランタちゃん。」

「何?」

「そのほっぺたって自前?かわいいね、カ〇ビィみたい。アメリカでも有名だよね?
…いっぱい吸い込んだから、そんなに良い乳になったのかな?」

「そうね、よく似てるわ…ただ、頭には必要なものを吸収出来なかったようね?人前でいきなりあんな事…。」

「……Kixxby?
…fxxk…!人が気にしてる事を…!
c'mon!bunny boiler and pancake!!」

あー…言っちゃったよあいつら…。
悪口ってのは理解出来たんだろう、空母コンビの冷気が高まる。
そして俺のインカムに、地獄への誘いが来た。

861 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:05:09.30 ID:77LxSYSIO

「…ねえ、リョウちゃん。アレ何て言ったの?」

「……無理、訳せねえ。あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ。」

「リョウ… い い か ら 訳 し て ? 」

「……まずpancakeは、スラングでド貧乳って意味だ。」

「ふうん? じ ゃ あ 私 だ ね 。
翔鶴さんのは?」

「bunny boilerは……。
…スラングで、ヤンデレとかメンヘラって意味だな…。」

「…………。

…瑞鳳ちゃん、ちょっと耳を貸して。」

そのまま2人は、こそこそと何か話し始めた。
そして改めてアトランタの方に、仁王立ちで向き直る。

その時、妙な既視感と悪寒が俺を襲った。

元カノ169cm…づほは143cm。
立ち位置はそれぞれ左と右、結構な身長差のシルエット。

あれ?何かこの構図どっかで見た事ある。
そして2人とも、突然ものすごーく可愛く、にっこりと笑った。
それに気付いた時、悪寒は更に激しさを増し…



『大変お見苦しいエヘ顔ダブルファ〇クが発生しております。』



ポップでチームなエピックウウウゥ!!!???



862 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:08:02.40 ID:77LxSYSIO

だめー!ネイティブ相手にそれはだめー!!
本当に発砲事件になるわ!!死体になっても文句言えねえ奴だぞそれ!!

そして今度は、強烈な熱気が反対側から放たれる…その元は勿論…!


「ショーカク…ズイホー……てんめえら…。

fxxk……fxxk……fxxxxxxxxxxxxxxxxxxxk!!!!!!

i'll kill you all!!kiss my ass!!
you guys are dingleberries!!!you despicable fxxk'n cxxts!!

fxxk youuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!」



おウ〇コ おウ〇コ
おウ〇コー

あなた達を殺してあげます。くたばってください。
あなた達など拭き残しのトイレットペーパーです。絶対に許しませんよこのクサレ[検閲により削除]達よ。

おウ〇コどもめーーーー。



えー…何とか伏せて訳してもダメ。
余りにも肥溜めのような言葉の羅列に、意識が南国に逝きかけた。

呆然としてる間に、続けてまた通信が入る。


863 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:09:50.42 ID:77LxSYSIO

「リョウちゃん、アレなんて言ってるの?」

「ダメ!汚すぎて本当に訳せない!!」

「リョウ!!ねえ教えてよ!!」

「無理だっつってんだろ!!」

「はぁ…はぁ……あーあ。リョウ、本当下品だねあいつら。
待っててね、全部ハエ叩きしてやるから…!」

「アトランタ、鏡見てこい。心でな。」

「なあに?あたしはパス。
どうせ世界一美しい心が映ってるだけだと思うよ?」

「hehe…please go to psychiatry!!fxxk!!」(はは…精神科行ってこい!!ボケ!!)

「あはは…いいねー君達、そう来ないと楽しくないよ!!
3人とも!!思いっきりやっていいからねー!!」

「「「yes sir!!」」」

「油注ぐな責任者!!」


演習場の熱気は急上昇、これには提督も思わずニッコリだ。
この人が楽しそうにしてる…つまり、この演習が更に泥沼と化すのは確定したのである。


神様、マトモな神経の彼女を僕に下さい。

864 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/04/21(火) 20:11:06.44 ID:77LxSYSIO
今回はこれにて。
世の中大変な事になってしまっていますが、少しでも笑ってもらえれば幸いです。
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 20:47:38.82 ID:ZGcaIBLpO
おつおつ
アトランタって原作でもこんな感じなんすかね
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/21(火) 23:34:42.86 ID:kjLgK/gmO
せやで
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/04/23(木) 15:53:21.26 ID:VAhvK7SI0
らんらんがんばれー
いや、マジでがんばれー
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/03(日) 21:02:38.97 ID:YXdvG2YC0
この小説2年超えの大作なってるがな...次も楽しみ
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sega]:2020/07/31(金) 04:57:11.92 ID:lfMRttIX0
作者、コロナでイッた説
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/09/04(金) 19:34:53.25 ID:RTk4vpvQO
ゆっくり待ってる
871 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 00:57:17.88 ID:I69bmT020

「ふふ…さーて、あの3人どう出るかなー?」

「はは…楽しそうっすね…。」

「まあね。提督の僕からしたら、こういう時こそあの子達の日々の進歩が見られる訳だし。
演習は本人達のセンスでやらせておけば、作戦も立てやすいしねー。」

「……本音は?」

「格闘技観戦みたいな気持ち。」

……ああ、サイコだわ。

楽しそうな提督とは裏腹に、俺の気分は冷えて行く一方。
ガキの喧嘩レベルじゃねえ、殺し合いの宣言が行われたようなもんだ。
双方のいよいよ収拾つかないブチ切れ具合に、どうしようも無い絶望感を抱えていた。

元カノとづほが矢を構え、アトランタは再度迎撃の態勢に入る。
容易に想像出来る、戦闘の激化……だが、少し予想外な闘いがここから起こって行くのだった。



872 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 00:58:32.00 ID:I69bmT020







第40話・深刻なモザイク不足な奴ら、伏字も特盛-7-








873 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:00:30.33 ID:I69bmT020


「行くわよ瑞鳳ちゃん!」

「うん!!」

小手調べ無し、初撃より遥かに多い爆撃がアトランタを狙う。
しかしアトランタも負けちゃいない。爆煙は海面じゃなく上空で巻き起こり、それは撃ち合いが拮抗している事を表していた。

「あんた達そんなもん!?まだまだあたしには届いてないね!」

上がった声のトーンからは、アトランタにも最初程の余裕は無いのが見て取れた。
どちらも本気。均衡が崩れるまでのぶつけ合いの様相を呈している。

爆撃音は次第に減り、今二人が放った分が切れた事を告げる。
決着せず乗り切ったのかと思った、その時。

874 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:01:53.22 ID:I69bmT020


「……yikes!?」


一度アトランタが気を抜いた瞬間、背後から激しい水飛沫がアトランタを襲った。
あれは…低空飛行の飛沫か!? どこにいたんだ?

「ふふ…少しは頭が冷えたかしら?」

「fxxk…あんた最初から…!」

「……私だけじゃないわよ?」

「…………!?……ぶっ!!」


びたああぁあん……と言う音ともにアトランタの顔面に貼り付いたのは、でかい昆布一枚。

それをぶつけてきた艦載機は…


「ふっふー、昆布だしのお味は刺激が強かったかな?
まあでも、『牛』には相性いいよねえ…?」

「づほ…。」


あのドタバタの隙に、一機逃がして昆布探させてたのかよ…ムカつきすぎだろ、怖ぇなぁ。

してやったりと言わんばかりに、二人は悪そうな笑みを浮かべてる。
一方のアトランタは…顔面に昆布貼り付けたまま、微動だにする気配も見せずにいた。

875 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:05:10.58 ID:I69bmT020


「…思った通りね。防空力は大したものだけれど、手元と足元はそれに釣り合っていない。
いい?アトランタちゃん。鳥は撃てば終わりだけれど…艦載機には空母と言う撃ち手がいるのよ?それに他の艦もいる。
上ばかり見ていれば、横から心臓を撃たれても仕方ないわ。

今のは飛沫と昆布で済んでいるけれど…実戦ならとっくに死体よ?
あなた、よく今まで生きてこられたわね。」

「同感ね。煽り耐性も致命的に低いわ。
単にムカついて吠えるだけなら誰でも出来る…その怒りを、どう確実に殺る為の思考に変えられるか。そう言う最後の冷静さが足りない。

アトランタちゃん、向こうじゃ随分周りに助けられてたんじゃない?
仮にも軽巡が前を不得手にしてるんじゃ、前衛じゃなくて浮き砲台だよ?」

うわ…ちょっと言い過ぎじゃねえ?
確かにど素人の俺からしても、前後は劣って見えたけどよ…。



876 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:08:06.49 ID:I69bmT020

「あー…先走っちゃったかー、あの二人。
後で僕から筋道立てて言おうと思ってたんだけどねぇ。」

「空手に置き換えると、気配の察知と動体視力の甘さ…って所ですかね。
ただ、アトランタの性格にあの言い方は…。」

「うん……ちょっとまずいかもね。」

現状の構図だけで言えば、イキった後輩が先輩にやられてる図だ。
元はと言えば、元カノキレさせたのはアトランタな訳で。

しかし、奴らはもうお釣りが来るレベルでアトランタを煽り返し、そして心身共にボコボコにしてる。


そんな中、元カノは更に口を開いた。

877 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:11:38.32 ID:I69bmT020

「……艦娘の先輩として言えるのは、ここまでね。
ここからは、個人的な話をあなたにさせてもらうわ。

所詮私はあの人の元カノ…しかも振られた身なの。
実際の所、あなたや他の子に対してガタガタ言う権利なんて無い…リョウが誰に選ばれるかも、誰を選ぶのかもね。

それでもね、あなたはちょっと許せないのよ…あなたと私は、よく似ているから。
人への甘え方も上手くなくて、その癖甘ったれで。
あの人はそれを受け入れてくれる度量があったから、ただ無理矢理縋りつこうとしているだけ。

ふふ…本当に、私達はよく似てるわ。
結局、自分の事しか考えていないもの…あなたも私も。
私のエゴだけど…少なくとも、2回もそんな女に引っかかって欲しくないの。

似た者同士としてはっきり言うわ。
あなたは私と同じで、リョウを不幸にするだけなのよ。」


…………!?

ショウノ…今、なんて…。


878 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:15:30.09 ID:I69bmT020


「………リョウ君、アトランタを見て。」

「……!」


怒りに震える気配もなく、アトランタは顔面の昆布を鷲掴み、海面に叩き付ける。
その時顕になった顔には、さっきまでの怒りすら見えないポーカーフェイスが浮かんでいた。


「shut the fxxk up…shit,so smells fishy…(うるさいな…ちっ、磯臭い…)

In short…『お前は自分と同じで、優しくしてもらえれば誰でも良かったんだろ?』って言いたいの?

ふー……そうだね…日本語でサゲマンって言うんだっけ?あたしらみたいなの。
確かによく似てるよ……Cognate aversion…ドーゾクケンオって奴?

だからムカつくんだよね…。
似てても他人…勝手に同じ道辿るなんて決め付けんじゃねえよ…!
あたしは冷めてるかもしんないけど…あんたみたいなウジウジした奴とは違う!!

kill you…old battleaxe of a fxxk'n cakeface!!」

雄叫びを上げ、初めてアトランタがその場から動いた。

機銃の持ち方を変えた……あの持ち方は…!
やべえ!!あいつ機銃で殴る気だ!!

879 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:17:04.83 ID:I69bmT020






「……old battleaxe…聞いた事があるわね。」





だがその緊張感は、元カノのこの一言で凍り付いた。






880 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:20:18.91 ID:I69bmT020


「………リョウ。あの子、何て言ったのか訳せる?」

「……要は、ぶっ殺してやるって事だよ。」

「…………。

ねえ……正 確 に 訳 し て も ら っ て い い か し ら ? 」

「…………。

……”ぶっ殺してやる、厚化粧のクソババアが“……だな。」

「ふふ…… そ う 。 」


その瞬間、あいつが見せた笑顔。
それはさながら、氷の女王と呼ぶに相応しい恐ろしさを放っていた。

唯一その空気に殺られていなかったのは、アトランタのみ。
怒りのままに突進するあいつに反し、元カノは笑顔のまま拳を握り、そして姿勢を下げた。

あいつは高校の頃から、大人びて見られるのを相当気にしてた…アトランタは間違いなく、踏んではいけない地雷を踏んだ。
俺の空手家の本能が告げる。渾身のカウンターの後、アトランタは数mは確実に吹っ飛ぶと。

艤装ありきでも、間違いなく歯と骨の4~5本は逝く未来しか見えない。
あと数秒…提督けしかけて止めさせる時間は無い……。


………ならば!!


881 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:22:40.84 ID:I69bmT020

「………ショウノ。」

「………何かしら?」

「……降参しろ。でなけりゃ俺と二人の時の事をここでばらす。」

「………ど、どう言う時のかしら?」

「………。

……部屋の中、或いは街中や学校。
屋内外問わず、とにかく周りの誰にも見られない、正真正銘俺と二人っきりの時のお前をだ。」

「……………。」


その瞬間。
元カノが耳まで真っ赤になったのを、俺は見逃さなかった。





「ま……参りましたあああああ!!!!!!」




はは…まさか水上土下座なんて、生涯の中で見るとは思わなかったよ…。



882 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:25:38.89 ID:I69bmT020

『………よう。』

『何?また監察?』

演習の片付けも終わり、アトランタの部屋に様子を見に行った。
不機嫌そうにベッドに不貞寝してたが、服装はホットパンツにキャミ。
もうタトゥを隠す気はさらさら無さそうだった。

『…………腐っても先輩だね、あいつら。
あたしの艦娘としての欠点、全部見抜かれてた。』

『あの後あいつらにも言ったけど、他に言い方あったろって思うけどな。キツすぎだよ。』

『……ううん。アレで良かったんだよ。
何かさ、ムショのババアに怒られてる時思い出した。
いつもぐうの音も出ないぐらい痛い所突かれて…でも、大体後でそういう事かって分かるんだ…ムカつくけどね。』

『………日本酒みてえなもんだよな。』

『あの二日酔いはキツかったよ。

ねえ……。』

『いって!?』

ベッドの端に座ってた俺の膝に、アトランタは思いっ切り頭を乗せてきた。
太ももに痛みが響くが、そんな俺を無視するように、こいつはそのまますがり付いて来る。

883 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:27:39.27 ID:I69bmT020

『…………ごめん。ショーカクの言う通りだ…。
一旦これでおしまい。だからその前に、ちょっとだけ甘えさせてよ…。』

『…………。』




………いや、あいつをそうさせたのは…。

変われてねえのは、きっとよ…。




『……リョウ。ここがお前の家だって言ってくれたよね。
じゃああんたから見たら、あたしはどんなポジション?』

『……すっげー手のかかる妹分。』

『…なるほどね。』

『………へ……!?』

完全に油断してた。
一瞬だったが、またしても強引に唇を奪われちまったんだ。


……こ、こいつ…懲りてねえ……。



884 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:34:13.81 ID:I69bmT020


「………I'm gonna be your lover someday.
And then I'll make you the happiest man in the world.

…So I'll let you off the hook for now.
You'll have to wait for them to shoot you down.」



「Good luck on that,genius.」(言ってろ、ばーか。)



885 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:37:39.43 ID:I69bmT020

………恋愛対象に無い奴を振り続けなきゃなんねえのは、変わんねえのか。
引き取ってくれる男が出てくるまで、この新しい妹分の面倒見なきゃなんねえな…。


『………ところでさ。』

『ん?』

『あんたと二人の時のショーカクって、実際どうだったの?』

『………。

…でかくて白い犬。』

『犬。』

『これ以上は黙秘な。』


…まぁ、言えねえよな。
誰もいなけりゃ本当にずーっと、抱きついてきたり手ぇ繋いできたりな甘えん坊だったとは。


886 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:41:03.49 ID:I69bmT020

「………おはよう、アトランタちゃん。」

「ショーカク…おはよ。」

次の日の食堂は、朝から緊張感が走っていた。

昨日の大立ち回りは皆の知る所、バトルが始まらないか身構えるのは当然か。
しかし俺や提督は、少しも心配しちゃいない。

「その…昨日はすみませんでした。センパイ。

えーと、コ、コンゴトモ、ブシド…no…!ゴ、ゴシドーゴベンタツ!!よろしくお願いします!」

「いえ…私の方こそごめんなさい。言い過ぎだったわ。
…大丈夫、あなたはきっと強くなれるから。」

「…ショーカク。」


……まぁ、少しは頭冷やしてくれたか。
ん…?何かアトランタの後ろに…。


「ほほーう?いい乳してるわねぇ…。」モニュンモニュン

「…ズイホー!て、てめえ…!」

「私も昨日はごめんね。あ、おっぱい揉ませてくれたから謝らなくていいよ。
昨日はぶつけちゃったけど、昆布って本当は美味しいんだ。

……昆布だしの卵焼き、食べりゅ?」

「……!…Taberyu!」

はは…卵焼き美味そうに食ってたもんなぁ。

づほの奴、わざわざ早起きして焼いてたのか。
……巨乳相手は若干態度ひねくれてる気もするけど。

雨降って地固まったと思いてえな。
後で提督に聞いたけど、艦娘の喧嘩に限っては俺ら呼ぶまでもなく、大体演習やらせれば収まるんだとか…道理で率先してた訳だ。
しかし憲兵としちゃ、ちょっと情けなくなる案件だった…。

あ、そうだ。仕事と言えば、今日は後でアレ書かねえとだ。
本当は昨日付けにする気だったけど、あいつらと仲直りするまで保留にしてたんだ。


『防空巡洋艦・Atlantaは監察解除に値すると本官は判断せり。』ってな。


これで晴れて、あいつも普通のここのメンバーだ。
もう札付きなんて言わせねえからな。


887 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:42:35.73 ID:I69bmT020



「翔鶴さん!さっきのどう言う事!?」


あの演習の後、私は寮の裏に翔鶴さんを呼び出した。

あの発言に、どうしても納得が行かない。
この時冷静さを欠いていた私は、思わず激しく詰め寄っちゃったんだ。


「どうって…そのままの意味よ?

本当はね…もう一度あの人の隣に並べるなんて思ってないの。」

「……どうして!?あんなに必死だったのに!!
……それに……リョウちゃんだって、きっと心のどこかじゃまだ…。」

「…………瑞鳳ちゃん、それ以上は言っちゃダメ。

…そうね、また今度飲みにでも行きましょう。
その時話してあげる……何で私が艦娘として戦場にいるのかもね。」


チビの私でも見えないぐらい俯いていて…垂れた前髪で、翔鶴さんの目は隠れてた。

口元には薄い笑み。
それは自虐的で、卑屈に見えて……私をキレさせるには、充分過ぎて。

「いい加減にしなさいよ……言え!!今すぐよ!!」

両手で胸ぐらを掴んで、激しく揺さぶる。
その時やっと翔鶴さんは顔を上げて、そこに見えたのは…。

888 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:43:39.51 ID:I69bmT020








「…………ごめんなさい。今は上手く、話せないの…。」






そう悲しげに笑う翔鶴さんの目からは、ぽたぽたと涙が流れていた。


889 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:45:44.49 ID:I69bmT020

「…………。」

「……お疲れ様。また明日ね。」


翔鶴さんもいなくなって、誰もいない寮の裏。
夕暮れの鬱蒼とした影の中で、私は呆然と立ち尽くしていた。


…思えば初めて、あの子の本音に触れた気がする。

頭の中が上手く整理出来なかった。
どうしたいのか、どうすればいいのか。それすらも整理出来ないまま。

普通に考えたら、あの子が諦めればライバルが消えるって事だ。
だけどこの時、私はとにかく納得出来なくて仕方がなかった。
あの子を殴ってでも、諦めるなとどやしつけてやりたくなった。


「…………っ!!」


気付いたら近くにあった電柱を、思い切り蹴飛ばしていた。
足裏のびりびりとした痛み。嫌でも目をかっぴろげたくなる脳への刺激。


そんな最中にあっても、胸につかえたモヤモヤは晴れてくれなかった。



890 : ◆2CwLAofVjc [saga]:2020/09/09(水) 01:52:25.80 ID:I69bmT020
大変お待たせしたアトランタ編もようやく終了。あえて訳してない英文は、どうしても気になる方は翻訳サイトへどうぞ。
ちょっとこの作品の辛い部分も出てきました。

次回は寒い時期になりそうですが、納涼と言えば…なお話の予定です。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 06:20:46.89 ID:mr6R6MEdO
おつう
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/09(水) 12:07:40.44 ID:Q6mvB37nO
おつおつ
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/10(木) 11:03:51.52 ID:VyKuDg07o
おつおつよー
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/09/10(木) 11:16:57.49 ID:uTJcGDsKo
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/29(金) 10:14:05.62 ID:08HxJyE9o
待つわ
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/02/12(金) 17:09:40.74 ID:kGyRhf4r0
作者、コロナでイッた説
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/03/21(日) 19:06:41.82 ID:iEx7fcoSo
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/07/17(土) 14:04:26.03 ID:yKEzjPov0
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/20(金) 02:27:40.37 ID:XIF9Yj5Q0
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/19(日) 19:57:30.14 ID:IK7Ahfm60
スパイクタンパク単体で心臓やその他臓器に悪影響を及ぼすことがわかっています

何故一旦停止しないのですか

何故CDCが接種による若い人の心筋炎を認めているのに情報発信がないのですか
20代はたった1ヶ月で接種後死亡がコロナ死と同等になってます
因果関係の調査は?
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/02(水) 22:10:12.27 ID:pFIuXi+uo
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/02(土) 00:54:32.86 ID:1Y/7oPbeO
もう3年も経つのかー…
完結しないまま終わるのは寂しいなぁ
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