【艦これ】ex.彼女

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1 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 01:58:02.30 ID:RoopFMMpO
・独自設定あり
・主に憲兵さんがメイン
・息抜きにコメディを書きたくなって始めた、オムニバス形式のお話。なので更新は不定期です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520701082
2 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 01:59:16.17 ID:RoopFMMpO


「そんな……。」


ひどい雨の日の事だった。
あの時の彼女の震えた声は、今でも時折思い出す。

馴染みの公園で、別れ話をした時の事。

あれ以上に女の子を泣かせた事は、未だに無いな。
赤い傘に、彼女の長い髪。
でもその髪が頬に張り付いていたのは、雨で濡れたからじゃなくて……。





3 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:00:14.82 ID:RoopFMMpO


第一話・邂逅


4 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:01:05.85 ID:RoopFMMpO


「…………ひっでえ目覚めだな。」

なんつー夢だ。よりにもよって、異動初日にこれか。
あんまり思い出したくない元カノの夢。

何年前だっけなぁ…まあいいや。
寝覚めの悪さを振り払い、景気付けに豪快に顔を洗う。
ついでにヒゲ剃って歯も磨いて、そんで勝手知ったるカーキ色に袖を通せば、見慣れた姿の完成だ。

でも今日からは、2週間前までとは違う場所。

着任2年目、初めての異動。
さて、気合い入れましょう。

今日も一日憲兵稼業、頑張りますか!

5 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:02:25.76 ID:RoopFMMpO

「憲兵長殿!おはようございます!」

「ああ、おはよう。今日からよろしく頼むよ。」

「はい!どうぞよろしくお願い致します!」


意気揚々と詰所に入り、まずはここの長への挨拶だ。

着任の挨拶は引越しの時に済ませてるが、やっぱこの人怖そうだな…。
切れ長の目に銀縁眼鏡…ぱっと見イケメンだが、それ以上にインテリヤクザって印象なのが正直なところだ。

「赴任早々すまないが、今日はまだ警邏の時間じゃないんだ。
そこでなんだが…少し雑談をしないか?君の人となりを知りたい。」

「は、はい…そうですね!自分もまだちゃんとはお話出来ておりませんし!」

雑談かぁ…うーん、見るからに何考えてるか分からない人だぞ?前のとこじゃ当たらなかったタイプだ。
しかしここでも俺の使命は同じ。鎮守府の治安を守り、艦娘やここに勤める人達も守る。それが俺の仕事だ。

そうだ、これからこの人の下に付くんだ。
チームとして一丸となる為にも、些細な事でも必要な事じゃないか。

さて、何から訊かれるかな…誕生日?それとも出身かな?
おおう…眼鏡をくいっとやる動作がまた、冷徹そうなオーラを出してる…何か緊張してきたぞ…。


6 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:03:07.38 ID:RoopFMMpO



「君は女性の部位なら、どこに惹かれる?」




………………。




はい?




7 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:04:27.31 ID:RoopFMMpO

「ほう、なるほどな…今の話を分析するに、君はどちらかと言えば柔らかな雰囲気の女性が好み…。
髪はロング派…手の綺麗な人に弱い……要は可愛いよりは美人派と言う事か……。」

え?ゑ?ヱ?
一人でブツブツ言い始めたぞ。何でさっきより眼鏡が光ってんだよ…。

だんだん声が小さくなって、それに比例してボソボソと何か言ってる音は目立つ。
怖えよ…一体何考えてんだこの人…。

「君、どうして憲兵になった?」

「え?はい!所属志望を決める際、深海棲艦討伐に関わる皆様を、裏からお守りしたいと考えまして…。」

「そうか、立派な心掛けだ。私も気持ちは同じだ、共にここを守っていこうではないか。」

「え、ええ…今後ともよろしくお願い致します!」

「守りたいものがあると言うのは、この職務に於いてはとても重要だ……。
見てみろあの中庭を…愛でるべき年頃の娘達が華々しく過ごしているではないか。
ああ、女性と言うのは何故かくも美しく儚いのか。

あの艶やかな髪に透き通る肌それと曇りなき瞳にセイレーンの如く我々を惑わす美しき声華やかな笑顔弾むようなたわわな果実いや青々とした実りを待つそれもまた素晴らしいすらりとした脚はまるで芸術品の如くしなやかな腕は甘美なる陰影を持ってその美しさを我々の目に刻み込む平和のため髪をなびかせ戦う様は気品すら感じさせ戦の後に纏う血と潮の薫りでさえ花々をも凌駕する高貴なるスメルその存在はまさに神々しく天が与えたもうた地上の奇跡と呼んで何一つ差し支えない。

……私はね、そんな美しき彼女達を愛で……んんっ!
守る為にだね、こうしてこの職務に就いているのだよ。」


………………。


……やべえ、変態だ。


8 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:05:17.14 ID:RoopFMMpO

「憲兵長殿、早速ですが出動事案です。」

「一体どうしたと言うのかね?通報も無く、窓から見える中庭も至って平和ではないか。」

「憲兵詰所にて変質者出没!確保だ!軍法会議に掛けてやる!」

「離せ!何故私を逮捕しようとするのだ!
私はただこうしてお花さん達を視か…じゃなかった!艦娘達を見守っているだけではないか!」

「てめえ今視姦つったろ!大人しくしやがれエロ眼鏡!」

「貴様ぁ!上官に対してその口の利き方は何だ!許さんぞ!」

「容疑者に使う敬語は持ち合わせてねえ!」

9 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:07:10.15 ID:RoopFMMpO


「………で、何か言う事は?」

「も、もうひわけごらいまへんでひた……。」

俺ね、一応空手三段。
な、何故こんなひ弱そうな眼鏡にボコられたんだろう…嘘だろおい。

ちっ、腐っても憲兵長って事か…まあいい、癖のある上司に当たる事もあるだろ。
こんにゃろう、絶対いつか告発からの更迭コースにしてやるからな。

「ほー、貴様如きに私を更迭出来るとでも?」

「いいっ!?」

「貴様のような小童の思考などお見通しなのだよ。
まあまあ、これから貴様は私の部下だ…ここは一つ、私と共にここを守って行こうではないか。な?」

格闘技齧ってたからこそ分かるプレッシャーってのはあるもんだ…。
この時こいつのひと睨みだけで、俺は勝ち目が無い事を悟った。

何なんだこいつ…も、もしかしなくても、俺はとんでもねえ場所に飛ばされてしまったんじゃ…。

「ふぅ…まぁ安心しろ。私はただ女性を観察するのが好きなだけだ。
決して直接セクハラを働くなどと言った無粋な真似はせん。
あくまで彼女達は守り、時に正すべき対象だ。それが我々の仕事。」

「……本当ですか?」

「ああ。生憎問題を起こした艦娘については、私は一切の容赦はしない。
提督、並びに職員に対しても、該当すれば同じだ。

貴様のやる事はここでも変わらん。
前任地では優秀だったと聞いている、そのまま職務に邁進したまえ。」

「…はい。」

「時に貴様、質問したい事がある。」

「何でしょうか?」

「うなじの素晴らしさについてどう思う?」


………やっぱダメだこいつ!!


10 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:09:01.12 ID:RoopFMMpO

「はぁ〜〜〜………。」

お昼休み……の、喫煙所。
しかし昼メシなんて食う気も起きやしねえ。

結局あの後眼鏡に延々性癖についての話をされ続け、場所覚えついでの初警邏も何とも足取りが重かった。
あの野郎、話の節々でニヤニヤしやがって…人の性癖聞いて何が楽しいんだ?

溜息が止まらず、思わず2本目のタバコに手を付ける。
やべえな、こりゃ相当イライラしてる証拠だ。

そんな時、ガチャリと喫煙室の扉が開いた。
入ってきたのは白い制服……ああ、粗相が無いようにしないと。

「提督殿、ご無沙汰しております。先日のご挨拶以来ですね。」

「ああ、君か。今日から着任だったね。
君のお世話にならないよう気をつけるよ。」

「ははは、提督殿ならご心配には及びませんよ。」

「だといいけどなぁ。
あ、そう言えば今日の夜挨拶あるの知ってる?」

「新規赴任の挨拶ですよね?1800に食堂にてと伺っております。」

「そうか、ならそこでしっかり顔を覚えてもらうように。
うちは悪戯っ子も多いからな、今後は君を見たら大人しくなるよう頼むよ。」

「はい!何卒よろしくお願い致します!」

「まあ憲兵長はあの通りへんた…曲者だが、腕は確かだ。
彼の下でしっかり学んでくれ。」

今、変態って言いかけたよな……あいつやっぱり逮捕した方がいいんじゃねえか?
提督はタバコを吸い終えると、その人のいい笑顔のまま喫煙室を出て行った。

そう、『笑顔のままで』だ。

11 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:11:48.24 ID:RoopFMMpO


「時に貴様、現在交際相手はいるのか?」

またかよ……。

現在時刻1730、今日の任務は粗方終わり。
夕暮れ時でも腹は減らず、もうカップメンでいいやと考えていた時だった。

「はぁ……いやぁ、今は彼女はいないすねぇ……。」

「今はという事は、いた事はあるんだな?」

「ええ、まぁ……。」

「ほう、どんな女性だった?」

「………聞くんすか、それ…。」

「上官の質問には素直に答えろ。」

にやけた面で眼鏡を直すな。顔だけ無駄にイケメンなのがまた癪に触る。
本当割るぞてめえの眼鏡。ちくしょう、今度べったべたに指紋つけてやる。

あいつかぁ…あんまり思い出したくねえなぁ…。

12 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:13:02.74 ID:RoopFMMpO

「高校の同級生でしたね…。」

「ほう、青春じゃないか。どう言った経緯で?」

「告白されてですね…そこから卒業前まで付き合ってました。」

「という事は、卒業を機に別れてしまったという事か?」

「……いえ、卒業の少し前です。俺から振りました。」

「それは無体な…またどうして?」

「あー…ちょっと……いや、かなり重かったんですよね。
嫉妬深いって言うか…矢が飛んで来ると言うか……。」

「矢とは?」

「文字通りです。彼女、弓道部の県ベスト3だったんですよ…他の女の子と接触あろうもんなら……ふふ…。」

「それだけ愛されていたという事だろう?男ならハートで受け止めたまえよ。」

「心臓がいくつあっても足りませんよ…トドメはバレンタインのチョコレート。」

「バレンタイン?」

「鉄の味がしました。それでいよいよ精神的に持たなくなって…。」

「……ご褒美ではないか。」

ちょっと引き気味に言われても、説得力ねえっての。
ほれ見ろ、この変態ですら引いてんじゃねえか。

その後は結局、逃げるように進路にしてた軍学校に入ったっけ。
男所帯で揉まれて何年か、気付けば憲兵も2年目。その間新しい彼女は出来ず。

そう思うと結構前で、でもあいつの泣き顔だけは嫌に生々しく思い出す。
まぁ、だからどうって事は無いけどな。


13 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:13:59.81 ID:RoopFMMpO

「そうか……性交渉はあったのか?」

「そりゃありましたよ…今日び相手がいてなお純潔貫く10代なんていないでしょうに。
まあ、俺が喰われる側だったんですけど…。」

「………成る程な。その様な性質でそこまで行ったのならば、その子はきっと貴様の事を忘れずにいるだろう。
もしかしたら……今も尚、貴様の事を想い続けているのかもな。」

「………やめてください。切実に。」

「…さて、そろそろ良い時間だな。挨拶がある、食堂に行こうか。」

そう扉を開ける眼鏡の肩は、何とも軽やかだった。
今思えば、この時こいつの肩を引っ掴んで振り向かせれば良かったと思う。
きっとニヤニヤと笑ってやがったろうからな。

いや…でも時既に遅しだったか。
着任したその時点でもう、俺は足を踏み入れていたのだ。

この鎮守府と言う名の魔窟って奴に…!

14 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:15:11.73 ID:RoopFMMpO

「えー、では紹介しよう。本日より新たに配属された憲兵さんだ。
みんな、彼の世話になる事が無いよう頼むぞ。」

挨拶そのものは滞りなく終わった。
今日は新任組の歓迎会という事で、ここの面子が勢揃いだ。

しかしこうして見ると、ここは前いた所より大きな艦隊だ。
一人一人顔と名前を覚えなきゃだが、果たして覚えきれるのやら。
挨拶も終わったし座らなきゃな…空いている席は…と考えていた時、ある場所から声が掛かった。

「憲兵さーん、よかったらこっちに座りませんか?」

「良いんですか?ありがとうございます。」

ある一角にいた艦娘が、そう声を掛けてくれた。
お言葉に甘え促されるままにそのテーブルへ近付き、そこに座る面子が目に入り……。



俺の時間は、音を立てて止まった。



15 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:16:25.61 ID:RoopFMMpO




「あら…素敵な方ですね。

『初めまして』、正規空母・翔鶴と申します。」



16 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:17:29.99 ID:RoopFMMpO

そこにいたのは……まさに数分前に眼鏡との会話に出ていた噂の元カノ。
そしてその瞬間、ここにいた全員の目がこう笑ったのを俺は見逃さなかった。


「かかったなアホめが!」と。


これより始まるのは、艦娘になってたなんて想像もしてなかった元カノとの、再会以降の日々。
並びに、俺とこいつのヨリを戻させようとしてくる、ここのメンバー全員との攻防戦の日々である。

この時俺は、眼鏡や提督の笑顔の真意を知った。

こいつら……全員グルじゃねえかあああああああっ!!!!!!


17 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/11(日) 02:18:53.95 ID:RoopFMMpO
今回はここまで。
こんな感じで、気晴らしにポツポツと書いて行こうかと思います。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 03:02:36.60 ID:Nj72GiUDo
おつ
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 11:37:11.99 ID:XO8Cy2sY0
おつきたいはよ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/11(日) 22:42:27.56 ID:bBSEfadA0
期待待機
21 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:08:07.40 ID:Bb7Tt4iuO




第2話・白蛇さん



22 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:09:11.42 ID:Bb7Tt4iuO

「憲兵さん、どうかしましたか?」

席へ呼んでくれた艦娘は、固まる俺を見てそんな事をぬかす。
隠しきれてねえ薄笑いを浮かべてな。

どうしたもこうしたもねえよ…な、なんでこいつがいるんだよ…。
ああ…翔鶴って空母か…確かにこいつは適任だわ。

「まだお若いんですね。おいくつになられるんですか?」

白い髪をなびかせつつ、白白しい質問です。
お前と同い年だよこんちくしょう。

ええ、相変わらず綺麗な白髪です事……そんで隣に座らさせられた俺はカーキの軍服だ。
まさに白蛇に睨まれた蛙の色合い。ははは…このじっとりした視線、既視感しかねえなぁ…。

因みに今は乾杯寸前。寧ろそんな逃げられない空気に完敗寸前だ。
しばらくここにいるしかねえじゃんかよぉ…め、眼鏡は…ん?SMS?

23 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:10:10.61 ID:Bb7Tt4iuO

『携帯番号しか知らんので、こちらで失礼する。

事務作業があるので先に失礼させてもらった。
せっかくの歓迎会だ、大いに(主に翔鶴君と)楽しんでくれたまえ。

武運を祈る。』


……あの眼鏡、逃げたな。

いや、落ち着け俺。まだ乾杯だぞ?これだけテーブル数があれば、必然的に立ってあちこち回る事になる。
幸いまだ誰も料理や皿に手を付けていない、上手く立ち回ればしれっと違う場所に座れるチャンスだ。
よし、乾杯が終わったら誰か間に挟もう。それしかない。

「では今後の発展を願い…乾杯!」

提督の合図と共に、乾杯が始まる。
立ち上がって各テーブルを回り、様々な艦娘や職員とグラスを交わし…。

またしても、俺の時間は止まる結果となるのである。

24 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:11:56.28 ID:Bb7Tt4iuO


「あ、“どうも初めまして。 ”翔鶴型二番艦の瑞鶴です。」


うん…俺君の事よーく知ってるよ。
あいつは俺に対して重かったが、同時にシスコンの気もあった…そのめちゃくちゃ可愛がってた妹だね。何ならあいつに頼まれて迎えとか行った事あるね。
だからだろうね、別れた時俺の通学路まで怒鳴り込んできたよね。

引き笑い気味な俺を尻目に乾杯を交わすと、妹の方はそのまま次の面子へと向かう。
だがそのすれ違い様だ、俺のポケットに何か突っ込まれた感覚があったのは。

何だ?メモ……?



25 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:12:30.89 ID:Bb7Tt4iuO




『席変えたら爆撃。』





あ、死んだ。


26 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:13:35.81 ID:Bb7Tt4iuO

「憲兵さーん、戻るのはこっちですよー。」

しばらく石になっていると、そうオレンジの着物の艦娘から声が掛かる。
この子もグルか……!ああ、逃げ場がない!な、何か打つ手は…そうだ!

「あ、ごめんなさい。少しお手洗いに……。」

「場所分かります?」

「ええ、見取り図は持ってますので。」

よし、ひとまず時間稼ぎだ。
後はダメ押しに眼鏡に呼び出されたって体にしとけば、もうちょっと時間稼げる。

飲み始めれば段々席なんてグダッて来るだろ。
その辺でしれっと戻れば、上手くあいつから逃げ切れる。

トイレは……お、そこそこ遠いじゃん、ついてるぜ。この廊下の突き当たりか。

27 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:15:00.89 ID:Bb7Tt4iuO

『カツ…カツ…』


ここ、結構足音響くんだな。


『カツ…カツ…『カツ…』』


ん?


『カツカツカツ『カツカツカツ』』


なんかおかしい。


『カッカッカッ『カッカッカッ』』


いや、絶対おかしい。


『ダダダダダ『ダダダダダ』』


………なんかいる!!


いや、振り向くな俺!大丈夫!きっと幽霊だ!それより恐ろしいもんな訳ねえ!
よし!そこを曲がればトイレだ!
ん?壁に鏡……?


ものすごい笑顔の白髪の女が映ってました。


『つるっ…。』


あ、ひょっとしてワックス掛けたて…この角度、もうダメなやつだなぁ…。
床にぶっ倒れるなんて空手で散々やってる…問題は後ろの……。


“つ・か・ま・え・た”


蛇に食われる蛙の気持ち、よく分かったよ。

床に倒れるその瞬間、奴は強烈なタックルをかましてきた。
まさにレスリングのグラウンド。或いは獲物に巻き付く蛇。
どさ…と虚しい音が廊下に響いた時、俺の敗北は確定したのである。

28 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:16:07.15 ID:Bb7Tt4iuO

「ふふふ…この日をずっと待ちわびていたわ…。」

「離せ!俺は何も待ってねえ!何でお前がここにいるんだよ!!」

「あなたを追ってよ。」

「正気か!?」

本性出して来やがった……!
ちくしょう、下手に振り払おうもんなら問題になる。
いや、待てよ…今このシチュエーションなら俺の方が……!

「せ、正規空母翔鶴!これ以上暴れるならば、貴様を暴行の現行犯にて確保する!」

「………そう。」

職権濫用は嫌いだが、背に腹は変えられねえ。
今なら切れるカードだ、これでやめさせられれば…。

「………“憲兵さん”、今は大人しく退きますね。
ですが覚えておいてください…“ここの皆は私の味方”ですよ?

ふふ……お手洗いはそちらです。では、私は先に戻りますね。」

直後、頬にぬるりとした感触が走った。
奴は俺の頬をひと舐めし、何事も無かったかのように踵を返して去って行ったんだ。

その後宴会の場に戻り、以降は特に何かしてくる様子も無く終わった。
宴もたけなわ、後は部屋に戻るだけだが……俺にはその前に、行くべきところがあった。

俺の隣、202号室。
あの眼鏡の私室だ……!


29 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:17:16.85 ID:Bb7Tt4iuO

「てめえコラァ!!」

「ノックもせずに何だ貴様は。」

「何だじゃねえよ何だじゃ!どこから知ってやがった!!」

「貴様の資料が送られてきた時だ。
提督の所にも来ていて、たまたまその日の秘書艦が翔鶴君だったんだ。
貴様の写真も載っていてな、内容を確認する際、偶然貴様の着任を知ってしまい……ふふふ。」

「……何がおかしい?」

「……貴様のせいで、こちらは仕事が増えてしまったのだよ。確保ではなく、保護でな。

それからというもの、翔鶴君は暇を見ては弓道場に篭るようになった…昼夜を問わず、任務が無ければ常にだ。
貴様の写真を的に貼り、その下に体を書いてな。心臓の所にハートマークもばっちりだ。

貴様の名を呟きながら、今度は逃さないと虚ろな目で矢を射る姿は壮観だったぞ……いつしかこう呼ばれるようになっていた。

“いない元カレの名を呼ぶ病”とな。」

「う……。」

「お陰でこちらは毎晩毎晩保護の為出動…ただでさえ前任の異動は貴様が来るより早く、その間私はほぼ一人で面倒を見なくてはならなかった…。
中にはその様に魘される艦娘もいてな…まあ、瑞鶴と言うんだが。

ここは一つ、貴様に責任を取らせようと言うのが満場一致の結論だ。」

「……で、あんたの本音は?」

「そんなの面白そうだからに決まっているだろう!
あと私は、恋する乙女が最も美しいと思うから!以上!」

「よし!死ね!」

結果3秒でノックアウトでした。俺が。

30 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:18:50.52 ID:Bb7Tt4iuO

「まぁまぁ、当時は色々あったのかもしれぬが、翔鶴君は良い女ではないか。
容姿も整い、人当たりも柔らか…良い嫁になると思うぞ?考え直してはみないか?」

「俺の話聞いてた!?嫌だっての!あだだだだ!?」

ボストンクラブを決めながら、眼鏡はニヤニヤとこうぬかしやがる。
こ、この野郎…ちくしょう、絶対いつか告発してやる…!

「ふう…仕方がない、今日の所は勘弁してやろう。
あまり無理強いした所で、貴様が乗り気でないなら翔鶴君が可哀想だしな。

ああそうだ、貴様に渡すものがあった。」

「……何すかこれ?」

「この寮の部屋割りだ。渡したファイルに綴じ忘れていてな。
寮のトラブルで出動する際は、そちらを使うように。

私はおふざけも大好きだが、やるべき事はやりたい主義だ。そこはしっかりと頼むぞ。とっとと帰れ。」

「いって!」

紙を見る間もなくケツを蹴られて叩き出され、しぶしぶ部屋に戻る事にした。

資料に目を通すと、内部は結構でかい寮なのが分かる。
ああ、艦娘・職員共通なのか…えーと、2階が職員用で、3階から6階までが艦娘用区か……


く?


31 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:20:03.57 ID:Bb7Tt4iuO

この時俺は、恐ろしい事に気付いてしまった。

部屋ナンバーって奴は頭の数字が階、残り二桁が何番目の部屋かの意味になる。
例えばこの203号室なら、2階の3番目の部屋って事だ。

問題は…頭の数字を3に入れ替えた、真上の部屋。


『303号室・翔鶴』


さらに右下に視線をずらすと、改定日が一昨日。
つまり、俺が越して来る前日……!

待て!こんな時こそマニュアルだ!
これには艦娘の能力と、そこへの対処が載ってる!
頼むぜ…いくらなんでもそんな芸当は……。


『空母・本人と妖精のスキルによっては、ホバリングも可能。
高練度な者の中には、艦載機を虫のように操作出来る者もいる。』


パタンと資料を閉じ、からくり人形のように窓を見た。
カーテンの隙間、そこには……!


『きらーん』


ものすごく眩しい笑顔で、コックピットからサムズアップする妖精と目が合った。

艦載機には、何やら紙が括り付けられている。
それを妖精が窓に貼り付け、綺麗なホバリングで上に登って行った。内容は…。


32 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:21:37.70 ID:Bb7Tt4iuO


『ずっとあなたを待っていました。

追伸・最近DIYに凝っています。』


DIY…うん、縄梯子とか作るのかな?

逃げ場なし、外堀はもはや埋立地。
初日にして魔窟に迷い込んだ事を悟った俺は、ただ絶望感に灰になるのみだった。


『びたん!』

「ひいいいいいっ!?」


…なんて打ちひしがれてたら、また窓に紙!
こ、今度はな……


『ご自由にどうぞと書かれた笑顔の翔鶴の写真』


もう、還っていいかな……土に。

33 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:23:09.63 ID:Bb7Tt4iuO

気絶なのか疲れなのか、気付いたら寝落ちして初日は終わった。

その日の夜、夢を見た。
あれはまだ、あいつと仲良くしてた頃の春休み。

お互い大会も終わり、あいつがうちに遊びに来ていたものの、疲れて眠くなってしまって。
それで窓も閉めず、二人でぼんやりと昼寝をしていた。

春風が心地よく、時々窓から庭の桜が舞い込む。
それを手に取っては、綺麗だねなんて笑っていたものだ。

別に何をするでも話すでもなく、ただ体を預け合って眠る1日。
そんなひと時は、どうしようもなく幸せだったように思う。

……ん?て言うか夢だよなこれ?
夢だと気付いた瞬間、越して来たばかりの部屋に引き戻された。

あれ…?布団ちゃんと被ってる…?
俺、確かベッドに倒れてそのまま……。

いや、誰もいねえ。考えるな俺。
なんか妙に片側に寄ってるとか、空いてる側が生暖かいとかあるけど。

わあ、白い髪はっけーん。

現在時刻、朝の4時。
俺の波乱の憲兵生活は、こうしてひと息つく間も無く次へ次へと向かって行くのであった。

誰か…俺を助けてくれええええええっ!


34 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/13(火) 01:23:58.75 ID:Bb7Tt4iuO
今回はこれにて終了。
次回はネタがまとまったらば。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 01:33:35.17 ID:Qel9f9/zO
おつ。けしの花びら〜の人ですな。
文体に特徴があるからすぐ分かったw。楽しみにしてます。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/13(火) 22:41:55.91 ID:SMfQZD8Io
翔鶴さんみたいな美人振るとかどう考えてもホモだろこの憲兵
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 00:01:15.13 ID:UvUXuaiGO
その理屈ならヤンデレから逃げた奴はみんなホモになってしまう
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 00:15:24.36 ID:+fWPp1MzO
翔鶴といえば前立腺開発だからなあ……
もう開発されてたりして。
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 10:31:48.97 ID:I/uapy+A0
まずは妖精さんを餌付けして仲間確保しなきゃな
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 15:27:00.01 ID:Ngx5fdJh0
つ異動願い
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 23:05:45.15 ID:2BEMW7W20
きらーんする妖精さん
可愛いだろうなぁ
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 22:04:47.93 ID:cfTTCqbJO

翔鶴じゃない、娼鶴だコレ
43 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:12:14.13 ID:nEuouCZeO





第3話・珍しい兵隊さん、略して…




44 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:13:33.50 ID:nEuouCZeO

「はぁ〜……」

勤務2日目、現在時刻は午後3時。
あの後結局二度寝も出来ず、死にそうな顔で仕事をこなしていた。

今は午後休憩に入ったが、寝不足だと逆につらい。
ちょっと気を緩めれば、途端に瞼が落ちそうだ。

「くくく、あの後は熱い夜でも過ごしたのか?随分憔悴しているじゃないか。」

「熱いどころか凍て付く夜でしたよ、主に肝がね。」

分かってて言ってんだろ、割るぞ。

いや、でも今は怒る気力も湧かねえ…とにかく眠い。
今日は夜警は無し、出動でも無い限りは帰って寝れる。あと3時間堪えれば勝ち。

あー、布団が恋しいぜ……。

45 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:14:58.30 ID:nEuouCZeO

「三千世界の鴉を殺し、鶴と朝寝がしてみたい、と言った顔だな。」

「鴉が鳴いたらさっさと布団と朝寝するのが人でしょう、何で鶴限定なんすか。
大体その鶴のせいで寝不足なんですよ……ふぁ…。」

「…致したのか?」

「んな能動的なマネするわけ無いでしょう。起きたらベッドの端が生暖かく、ダメ押しの白い髪一本です。
一体どう忍び込みやがったのか…。」

「ああ、そう言えばこの前鍵束を落としてしまってな。
その時鍵が一つ見つかっていなかったんだが、翔鶴君が届けてくれたな。」

「……何日後ですか?」

「3日後だな。」

「部屋は?」

「203号室だ。」

「次の夜警の時、背後に気を付けてくださいね。」

犯人はてめえか。その間に鍵屋行ってたってオチだろ。
どうなってんだここの警備は…ああ、こいつの気分次第か。

幸いここの寮は雨戸が付いてた、閉めりゃ昨日みたいな事態はまだ避けられる。
ドアは突っ張り棒かますとして…問題はやっぱ、ここにあいつがいる事そのものだな。あとこの眼鏡。

異動願いは半年経たないと申請不可、かと言って憲兵辞める気はさらさらねえ。
お上からの辞令なんて、当面来ない神の声…となると、諦めさせるしか道は無し。

……って何冷静に考えてんだ俺!さっきからキレる場面だろうが!?

はぁ〜……ダメだ、イラつく元気もねえんだな今は…。
もういいや、今日は帰ったら寝よ…。

46 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:16:25.74 ID:nEuouCZeO

「ふむ…昨日前任地からの報告書を読み返したのだが、なかなかやるじゃないか。2回犯罪者の逮捕に協力したとあるが。」

「ああ、そんな事もありましたね…。」

「夏と冬、休日にそれぞれひったくりと誘拐の現場に遭遇。持ち前の身体能力を活かし、犯人を確保。
……そんな正義感の持ち主が、どうして上司にはこんなに冷たいのか…。」

「そのレンズにベッタベタに指当ててよーく考えてください。
そんなに良いものじゃないですよ、実際は俺が逮捕寸前でしたから。」

「ほう、どうしてまた?」

「あー…とっさに繰り出した技が上段回し蹴りと踵落としで、どっちも気絶して。
まあ、事情を知らない警官からしたら、俺が暴漢ですよね…。」

前の上官に、やり過ぎだ馬鹿者!ってめちゃくちゃ怒られたな。
犯人が訴えてたら、過剰防衛でとっ捕まってる所だった…。

俺も分かっちゃいるんだが、ああいう場面に遭遇すると体が先に動いちまう。ダメなんだよな、人のピンチを見ちまうと加減が…。
そんな性分だから、こういう仕事を選んだフシもあるけど。

ああ、そもそもあいつとの馴れ初めも…やべ、頭痛がしてきた。



47 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:17:59.98 ID:nEuouCZeO

「なるほどな、それで翔鶴君の心を正拳突きしたわけか。」

「ぶっほっ!?」

「中高と空手部が無かった貴様は、放課後になればすぐ道場に通う日々。学校では目立たない方だった…。
一方弓道部の翔鶴君は、日暮れまで学校で練習に励む毎日。一見すれば接点の薄い二人…。

しかぁし!そんなある日、通り魔が翔鶴君を狙う!
襲い来る刃!恐怖に震える瞳!

…だが次の瞬間、通り魔は華麗なる回し蹴りにより吹っ飛ばされた!
よーく覚えているだろう…そう!そこに現れたヒーローこそ貴様だったのだ!」

「き、聞いてたんすか…。」

「そうとも…毎晩毎晩保護の度にここで体をくねらせ耳にタコが出来るまで語ってくれたぞ?
大丈夫か?と手を差し伸べてくれた時の輝く笑顔は忘れられないとも…。」

あいつ誇張してやがる…実際は苦笑いだよ。

通り魔の歯が2〜3本転がったのを見て、あいつを連れて速攻逃げたんだ…やべえ、やりすぎたって。
人間って、青ざめると笑っちゃうよね。

そこから色々あって付き合うに至ったんだが、何年前の話だよ…。うーん、いよいよ頭が痛え。


48 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:20:24.85 ID:nEuouCZeO
その後終業時刻になり、俺は速攻で自室へと戻った。
寝巻きに着替え、シャワー室でひとっ風呂浴び、やっとの思いでひと眠り。
まだ夕暮れではあるが、今夜はしこたま眠れそうだ。対策もしたし、昨日みたいなホラーも無いだろ。

あー、瞼が重てえ…。


うーん。


すう…。




「キャアアアアッ!?」



何事だ!?

悲鳴は…廊下じゃねえ、外か!
躊躇してる場合じゃねえ!裸足のまま外へ出ると、事は中庭で起こっていた。

……っ!?侵入者か!!

寝起きの目はまだ霞んじゃいたが、ナイフを持ってるのはすぐわかった。

「ひっ…助けて…。」

別の人影…やべえ!艦娘が襲われてる!

後になるとつくづく悪癖だと思うんだが…そこからの行動は早かった。
細かい事を考えるより先に、もう犯人は目の前。
何度も練習でやった動きを繰り出した時、俺の脚には重い感触が走っていた。

「へぶぅ!?」

あ、結構派手に吹っ飛んだな…。

いつもそうだ、犯人の悲鳴が耳に入ってようやく我に帰る。
やっちまったなぁ…まぁ、今回は事が事だ、お咎めなしだろう。
そうだ!まずは被害者の無事を確認しないと。

「大丈夫か!?」

「ええ…また私を助けてくれたのね!」


…また?



49 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:23:02.79 ID:nEuouCZeO

折しも、ちょうど目の霞みが抜けてきた頃。
冷静になった俺は、そこでようやく襲われていたのが誰かを理解した。

外灯の照明に照らされ、さらさらと輝く白い髪…何よりものすっっげー覚えのあるじっとりとした視線。
にも関わらず、しいたけかってぐらいキラキラもしてる矛盾した瞳。

さながら闇夜に降り立つ白い鶴…なわきゃ無く、俺には闇夜に浮かぶメドゥーサにしか見えなかった。

しかも…


翔鶴

E.大弓
E.装甲甲板
E.バルジ多数
E.艤装の核部分(艦娘の身体強化機能有り)


お前今ワンパンで反撃出来る仕様じゃねえか!?


50 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:24:07.80 ID:nEuouCZeO

「く……くくく……良い蹴りではないか…。」


あれ?どっかで聞いた声だなー。

後ろを向くと、口の辺りから血を垂らしながら立ち上がる目出し帽。
ん、んー…あのマスク越しでも分かる鋭い目つき、それにあの声…さっきまで話してた奴によーく似てるなぁ。

「ふふふ、私とした事が“うっかりさん”だ…今日は“時刻のみ抜き打ちの防犯訓練がある”と貴様に伝え忘れていたよ…。
やはり眼鏡が無いと何も見えんな…貴様ごときの蹴りもかわせんとは。」

「け、憲兵長…。」

「これは私のミスだ、本当は貴様の関節を5〜6個外してやりたい所だが、甘んじて受け入れよう。
しかし…“そちら”の方は、早くどうにかしないとしょっぴかねばならんぞ?」

「へ?


〜〜〜〜っっっ!!!!???」


皆、寝る時の格好はどうしてる?
パジャマを着るのか、それともラフな部屋着で行くのか。それぞれ嗜好があるだろう。

俺はまず、秋冬はジャージにパーカー。
それ以外は…


ボ、ボクサーパンツ、一丁だ…。


51 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:26:04.61 ID:nEuouCZeO

「ふふふ…相変わらず素敵な体…。」


さわさわとした感触がした頃には、もう遅かった。
メドゥーサの蛇は俺に纏わりつき、あの目を見た瞬間俺は硬直。

めっちゃ上気した顔の女がそこにいましたよ、と。

「ふう…貴様を捕まえる必要もなさそうだな。」

「ま、待て!」

「…おや、今の騒ぎで艦娘が集まって来たか。
では、怪我の手当てがあるので失礼する。事情説明は任せたぞ。」

「てめえハメやがったな!!」

「では明日なー。今夜はお楽しみでなー。」

「ふふふ、今日はお仕事は終わりでしょう?続きは私の部屋で…ね?
ほら、梯子使えば私の部屋に忍び込めるし。」

「てめえやっぱり作ってやがったのか!ま、待て!そんなとこに手ェ掛けたら…パンツが…!」

「「「翔鶴さん!!」」」

「皆来てるよ!あ……今ビリって……あ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっっ!!!!???」

その後しばらく、俺が裏ではチン兵さんと皆に呼ばれてたのは言うまでも無い。
忘れらんねえなぁ…駆逐の子達が、頬を赤らめ指越しにガン見してきた瞬間。あれ、目から汗が出てくるや…。


52 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:27:31.50 ID:nEuouCZeO

ストーカー気味の元カノとの再会、頭のイカレた上司と、異動早々無茶苦茶な展開だらけのこの鎮守府での憲兵生活。
だが無茶苦茶はまだまだ続くと、お仕事の方でも俺は思い知る事になるのである。

次の異動を勝ち取るのが先か、俺が胃潰瘍で集中治療室に移動するのが先か。
それは神のみぞ知るのであった。

神のみぞ知る…神の味噌汁とかふざけて言う奴いたよな。
飲んだ後の味噌汁は効く。だから『あいつ』にしこたま浴びせてえ。

そう思う事件が、後々待ってたんだよ…はは…。



53 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/27(火) 02:29:50.48 ID:nEuouCZeO
今回はこれにて終了。これから他の艦娘も絡めて行く予定です。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 03:44:58.48 ID:DEw0w68Wo
おつー
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 12:47:09.14 ID:+nZdPrpC0
乙!
ここはやはり駆逐艦などの幼い系の子たちの面倒を見て翔鶴が関わる隙間を減らすしかない……流石に自重する、よな?
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 13:46:05.80 ID:Ni673BkA0
おつん
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 14:57:33.35 ID:mRmKHuSKO
期待
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 23:05:34.51 ID:urRnnqxl0

期待
59 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:24:43.45 ID:tsUKKMS1O



※今回は色々と汚いのでご注意願います。


60 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:25:35.91 ID:tsUKKMS1O



第4話・バッカス様


61 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:26:39.14 ID:tsUKKMS1O
あれから数日。
ここの勝手にも慣れ始めたが、取り立てて何かが起こる事も無い日々だった。
それで日も落ちて、詰所で書類の整理と勤しんでいた時の事。


「……そう言えば、中庭にまだ落ちてたぞ。」

「何がですか?」

「貴様の破片がだ。」

「ふふ…まだ、あったんすねぇ……。」


うん。思い出すと涙が出ちゃう。

あの時ケツ押さえてたのがまずかった…結局隠すのが間に合わず、一瞬とは言え急所を公衆の面前に晒す羽目になったからな…。
まだ桜が残る今…しかし先に散り行くものは、俺のパンツとプライドか。ああ、つらい。

そんな風に涙を堪えていた矢先、詰所に着信音が鳴り響いた。

62 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:27:46.81 ID:tsUKKMS1O

「はい…ええ、“P”ですか。かしこまりました、すぐ向かいます。」

「どうしました?」

「……出動だ。」

「……!!事件ですか!?」

「事件と言えば事件だが…そうだな、常連さんって奴だ。」

「常連?」


現場は寮の4階。
最初は部屋かと思ったが、4階の艦娘達が3階まで避難していた。

ただ事じゃねえ…一体何が?

「憲兵長!」

「なぁに、私が来たからにはもう大丈夫だ。」

「はい……どうか妹を!」

妹?

その子をよく見ると、どうやら外国人のようだ。
確か海外から交換派遣で来てる子達もいるって聞いたな。

「さて、行くぞ。念の為にこれを飲んでおけ。」

「何すかこれ…。」

手渡されたものは、小さな金の缶…ってウコンじゃねえかこれ。

いよいよ何が起きているのか分からない。
促されるままぐいっとウコンを飲み、俺達は4階への階段を駆け上がった。

そして、俺達が目にしたものは。

63 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:28:57.16 ID:tsUKKMS1O

まず、泡吹いて倒れてる人影が目についた。
それぞれ青い制服、水着、赤い袴とスカート…全部で4人。
それらの死屍累々の先に、ゆらりと動く人影が……


銀髪とケツを揺らしつつ、男前に立っていた。



……えー、そりゃ俺だって男ですよ。
何かこう、Xでビデオなサイト見ちゃったりとか、スケベ拗らせる場面だってある。

だからこそだ…敢えて言わせてくれ。

こんなに反応出来ねえ全裸の女、初めて見たよ!


64 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:30:17.38 ID:tsUKKMS1O


「すぅ……。

……ポオオオオオウウゥゥゥルルルルゥァアアアアアアアアッ!!!!
むああああとぅあ貴様かあああああっっっっ!!!!!!」

「うおっ!?」


何!?こいつこんな大声出せんのかよ!?
眼鏡は大声の後、ガツガツと靴を鳴らして奴へと近づいて行く。
うわ、顔がすげえキレてる…あの子死んだな…。

「あれ〜憲兵長じゃないですか〜。一緒に飲みましょうよ〜。
あ、あなたは新しい憲兵さんですね〜。お近付きの印に一杯どうですか〜?」

「誰が飲むかぁ!!今日と言う今日こそは許さんぞ!!
女の子がぁ!裸でぇ!出歩いちゃ!ダメでしょうがああああああ!!!」

「いやキレるとこそっち!?」

眼鏡は上着を脱ぎ、手慣れた動作でポーラの肩に掛けた。
あ、ちゃんとボタンも掛けてあげるのね…って何か暴れてんぞ!?

「や〜だ〜。あついです〜。」

「暑いじゃない!一体何度目だと思ってるんだ!
こら!暴れるな!神妙に服を着ろ!!」

「や〜で〜す〜。離してくださ〜い。」

「誰が離すかぁ!ええい大人しくしろ!!」

「や〜め〜て〜ゆらさないで〜……


…………うぷ。」


………うぷ?


65 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:31:37.70 ID:tsUKKMS1O

直後、この空間だけがマレー半島南端の世界的金融センター都市…の、某公園になった。

しゃがんでボタンを掛ける眼鏡の頭へと、金色の雨が降り注ぐ。
それはスローモーションで優雅な曲線を描き、まず帽子へと押し寄せた。
帽子の崖を乗り越え、その波はレンズと肉眼の隙間へとこぼれ落ちて行く。

その者カーキの衣(眼鏡の)を纏い、金色の野を生み出すべし。
失われし理性との絆を破棄し、人々を不浄の地へと導かん。

きっと奴の視界は今、さぞかし黄金郷と化したことだろう。

うわぁ…やっぱり法被の似合う芸人みたいにキラキラしてないね。何て言うか、てりてりしてる。
俺、『ぎょぼ』って擬音で吐く人初めて見たよ…。

66 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:32:51.66 ID:tsUKKMS1O

「ギャァアアアアッッ!!?目が!目があああああ!!!」

「憲兵長!!傷は深いです!!そのまま死ね!!」

「却下だ!超生きる!!」

「はー…生き返りました〜…吐いちゃいましたね〜…。
と言うことは〜…みんなで飲み直すしかないで〜〜す!!」

「げぇっ!?」

酒瓶片手にポーラが俺に突っ込んで来る。
一瞬たじろぐが、ふと冷静になれば、相手は艤装の無い艦娘。
つまり今のこいつは普通の女の子、俺の身体能力なら取り押さえられるはずだ。

そうだ!このまま腕を押さえれば……!

え…消えた……?

「こっちですよ〜。さあ一杯行きましょう〜。」

次の瞬間、俺の口内はブドウの酸味に犯されていた。
ラッパ状態で瓶を突っ込まれ、どばどばと胃まで押し寄せて来るのは赤ワイン。因みに俺、赤ワインは大の苦手。

そんなもんをぶち込まれた日にゃ、結果は決まりきっていた。

67 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:33:58.48 ID:tsUKKMS1O


「おおおおおおおお!!!」


叫び声だと思ったか?吐瀉音だよ。
飲ませると言う事に関しては、こいつに艤装なんて関係無かった。
ナチュラル酔拳の使い手、それがポーラだったのだ。

「げほっ、ごほっ……。」

「ごちそうさまが〜聞こえな〜い。ほら飲んで飲んで〜。」

鼻が痛えんだよ。逆流してんじゃねえか…。
まじいな、早速回ってきやがった…上手く組手の体勢が取れねえ…。

ああ、こんな所で俺たちは負けてしまうのか…この後待っているのは酒浸り地獄。
ポーラが二度目の攻撃体勢に入り、ついぞ死を覚悟した。


68 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:34:45.87 ID:tsUKKMS1O


「行くわよ!全機、突撃!」



その声が聞こえた瞬間、背後から一斉に艦載機達が飛び出してきた。
艦載機に括り付けられたのは満タンのバケツ、それが爆撃代わりにスコールのようにポーラへと降り注ぐ。

「冷たいです〜…あ、お酒が…むにゃ…」

全ての水を浴びた後、酔いが落ち着いたポーラはその場へと倒れ伏す。
朦朧とする視界の中…こちらへ伸びる腕は、優しく俺を抱きしめていた。


「__……。」

「ふふ、久々にその名前を呼んでくれたのね。
今はゆっくり眠りなさい。」

吐き気のつらさに取り憑かれ、俺はされるがまま。
その苦痛と、抱かれた腕の心地よさに目を閉じた時。

「ふふふ、これで部屋まで…。」

「誰が行くかバカ!」

やっぱり相変わらずでした、このお方。

69 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:36:19.03 ID:tsUKKMS1O

「……ふう、今ので洗い流されたか。」

「憲兵長…。」

「さて、私はこの子を部屋へ連れて行くとしよう。
翔鶴君、今回は本当に助かった。ありがとう。」

嵐が去った…はぁ、終わったかな。
その場にへたり込んだ俺は、そこでようやく一息をつくことが出来た。

そうだな、まずは…。

「ありがとな、助かったよ。」

「大した事じゃないわ。

……てばかりにも行かないし。」

「何か言ったか?」

「いえ、何も言ってないわ。
さて、と……じゃあ着替えましょう?もちろん私の部屋で!!」

「却下だっての。」

今はもう、怒鳴る気も起きねえや。
ぺし、と軽いチョップをかますと、何でかこいつはくすくすと笑っていた。

……ん?そう言えば眼鏡の奴、ポーラを常連さんとか言ってたな。

「…なあ、もしかしてあの子っていつもああ?」

「あそこまでは珍しいわ。
でも、しょっちゅう脱いで憲兵長のお世話になってるわね。」

ははは…て事は、これからいつもって事か…。
ま、ひとまず今は、事件が片付いた事に安堵するとしよう。

さーて、帰ろ…


『かつん!』


ん?あ、酒瓶踏んだなぁ…

あれー?宙に浮いてるぞー?
体が回転して…待って、それでそっちコケたら…あ…ああああああああっ!?


『ふに……。』


俺がすっこけた先には、もちろんあいつです。
受け身を取ろうと伸ばした手は、何て言うかこう、身に覚えのある柔らかいものに。

ダイビングパイタッチ、成立…相手は奴。

つ ま り 。


「……ふふ、ふふふ……やっとその気になってくれたのね!!」

「待て!事故だ!」

「事故も運命よ!全航空隊、発艦始め!」


結局一晩しこたま鬼ごっこをする羽目になり、逃げ切った時には俺はミイラのようでしたとさ。

70 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:37:11.79 ID:tsUKKMS1O

もう当分、ワインはいらねえ…。
あー、何か折れそうだ…馴染みとしょうもねえ話がしてえ。
そう考えた俺はスマホを取り出し、ある人物へとコンタクトを取った。
そっちの艦娘には仲良くしてくれてた奴らもいて、その中でも特に悪友って呼べる奴だ。

『久々だね、元気?』

『何とかな。早速積もる話だらけだよ。××日時間ある?飲みてえんだ。』

『あー、参ってるねぇ。
その日は空いてるよ、久々に大将のお店行こうよ。』

『お、いいね。じゃあまた連絡するよ。』


前いた鎮守府は、実は言うほどここから離れちゃいない。

車飛ばせば1時間半、電車使っても2時間あるか無いか。
早めに飲んで帰れば、全然日帰りも可能な場所だ。
さすがにあいつも、そんなとこまでストーキングはしねえだろ…。

…とか思ってたのが、間違いでした。

そう、別にあいつがストーキングする必要は無いんだよ。
ついでに言うと、文明の恐ろしさも俺は味わう事になるのである。

嗚呼、俺のプライベートはいずこ…。


71 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/03/29(木) 21:39:05.85 ID:tsUKKMS1O
今回はこれにて終了。
お食事並びに飲酒中の方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳ございませんでした。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 23:20:16.44 ID:CHlXJLSA0
目の前で他の子誉めたら行方不明になんのかね?
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/30(金) 12:43:59.00 ID:R51aWtb40
盛 り 上 が っ て 参 り ま し た !
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/03(火) 01:42:52.16 ID:itt/GOm4O

この翔鶴さんアグレッシブ過ぎる
75 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:08:29.87 ID:YAIwfqJuO

あの後「久々だし本気で飲むよ!」と言われ、予定が変わった。
当初俺が提案した日の前日という事になった訳だ。

こっちの仕事も夜警は無し、夕方にはすんなり終わった。
朝までコースか。外泊許可も取ったし、電車で寝過ごさなけりゃ朝帰りでも大した問題はない。

出撃明けにタフだなとも思うんだが、アレで意外と酒好きな奴だ。
もののついでに土産もリュックに詰めて、少しばかりの旅としけ込もう。

はぁ…何だか久々に一息つける気がするぜ。元気してっかなぁ、あいつ。

76 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:09:06.33 ID:YAIwfqJuO




第5話・LAN、卵、乱-その1-



77 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:09:50.22 ID:YAIwfqJuO

さて、懐かしの駅…って程でもねえけど、ちょっと久々の街に着きましたよと。
現在時刻は20時20分。電車の中で軽く寝たし、飲むには持ってこい。
えーと…あそこの券売の前って言ってたな。

で、待ち合わせ時刻になった訳だが。来ねえなぁ。
イヤホンから流れる音楽も、今日何度目になるのやら。

「…ねぇ。」

まあ、この時間にあそこから来るならちょっと掛かんだろ。
あいつならある意味目立つし…

「ねえってば!!」

「いってえ!?」

イヤホンを乱暴に引っこ抜かれたかと思えば、間近にいたよ。
ああ、ちっこいもんなこいつ…見えてなかったわ。

「むー、今なんか失礼な事考えてたでしょ?」

「い、いやー、別にー。久々だな、元気してたか?」

こいつは瑞鳳。
俺が前いた所の艦娘で、当時からの悪友でもある。

……因みに、こんなんでも俺と同い年。

78 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:11:51.20 ID:YAIwfqJuO

「「かんぱーい」」

馴染みの店に入って、早々に乾杯だ。
あそこにいた時は、週に一度は来てたっけなぁ。
ああ、ビールがうめえ…そんで大将の卵焼き…心に沁みるぜえ…。

「生き返るなぁ…。」

「実感こもってるわね…あっちはそんなに大変なの?」

「まぁ、色々とな…もうちょい飲んだら話すわ。そっちはどうよ?」

「相変わらずよ。君が異動して皆寂しがってるよー?
あ、写真撮らせてよ。LINEで回すから。」

「はーい。」

勝手知ったる奴と、気兼ね無く酒を飲む。
こんな些細な瞬間でさえ、今は何と有り難え事か…。

「大将ー、生二つ追加でー。」

「あいよ!あ、づほちゃんはコーラかな?」

「ひどーい、分かってる癖に〜。」

「あっはっは、最初来た時はびっくりしたもんだよ。
久々だ、ゆっくりしてきな!」

「くくく…。」

「むー、何ニヤニヤしてるのよ?」

「いや、知り合った時を思い出してよ。」

「ああ、あの時?君も私の事子供扱いしてたもんね。」

79 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:13:17.36 ID:YAIwfqJuO

こいつと仲良くなったきっかけは、そもそもは俺の勘違いだった。

まだ新人の時か…初めて一人夜警をしてたら、中庭で泣いてるづほを見つけたんだ。
その時はもう深夜、何事かと思って声掛けてな。

「どうしたんだ?こんな時間に。」

「…何でもないですよ。」

困ったもんだなんて思って、話を聞こうと横に座った。
で、その後俺が発した言葉が……いや、でもありゃしょうがねえよ。

「提督にでも怒られたのか?でも“駆逐艦”がこんな夜中に出歩いちゃいけねえな。
詰所に行こうぜ、話ぐらいならいくらでも聞くよ。」

「………“駆逐艦”?」

「そうそう、こっちも憲兵さんだからな。
“子供の深夜徘徊”は、これ以上はお説教しなきゃいけなくなっちまう。」

「……あなた、この前入った新人さんよね?軍学校出たての。」

「そうだけど?これでも君よりお兄さんだ。」

「〜〜〜〜っ!!!」

免許付きのビンタ、なかなか強烈だったな。
顔に張り付いた免許見て、え?え?え?ってなリアクションになったのはよく覚えてる。

結局泣いてた理由も、その頃付き合ってた奴に振られたからって話でな。
その後ヤケ酒と愚痴に延々付き合わされて、そこから始まった腐れ縁だ。
買い置きだから!ってしこたま発泡酒持ってきた時は、思わず二度見したもんさ。

……振られた理由は、俺の言葉にキレた理由に近かったらしいが。相当気が立ってたらしい。

「ちぇーだ。相変わらずちんちくりんですよー。」

「まぁあの件は制服のせいもあったし。
私服ん時はちゃんとちっこいだけの女に見えてる、安心しとけよ。」

「……そう?」

「そうそう、さっきは気付かなかったもんよ。」

「えへへ…。」

…待ち合わせの時、完全に身長で探してたのは黙っておこう。

「…でもさ、少し痩せたんじゃない?本当に大丈夫なの?」

「あー…実はな…。」

80 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:15:36.19 ID:YAIwfqJuO

「へ?向こうに元カノがいたって、あの元カノ?」

「あの元カノだ。妹とセットで翔鶴型やってんよ…。」

「あ、あー……それは…。」

察してくれる友は貴重だ…。
づほも大まかな過去は知ってるから、容易に俺がやつれた理由は想像出来たのだろう。

「キツいわね……。」

「早速色々と事件がな…。」

「……ねえ、“その翔鶴”ってどんな見た目の子?
あそこなら演習で何度か当たってるから、知ってるかも。」

ひとえに同型艦と言っても、適合者は世に複数いたりする。
人が違う訳だから、勿論容姿も皆違うんだけどな。
俺の知ってる『翔鶴』は、あいつな訳なんだけども…。

「白髪のロングだな。身長はそこそこある。」

「…………へぇ、あの人かぁ。」

「知ってんのか?」

「挨拶と演習しかした事ないけどね。
憲兵だとその辺見ないだろうけど、結構よそにも顔見知りぐらいは増えるものよ?
あの人同い年なんだ…そうは見えなかったけど。」

「言ってやるなよ…昔から結構気にしてんだから。」

「む。だめだよー?そうやって何だかんだ人の肩持つから付け込まれちゃうんだって。」

「そんなもんか?」

「そんなものよ。君は良くも悪くも人に甘いとこあるから、もうちょっとドライになろうよ。」

「お、何の話だ?とうとう二人も付き合いだしたかー。」

「あははは!ないない!大将ー、こいつとはそんなんじゃないわよー。」

「ははは、言うなー。」

大将はたまにこんな茶々を入れては来るが、実際異性としての意識はお互い無い。
だからこんな気兼ねない関係でいられてるし、何でも話せる間柄な訳だ。

酔えばお互い下ネタもぶちかますし、潰れたづほを何度も介抱したなぁ…。
憲兵って環境でそんな友達が出来たのは、つくづく恵まれたもんだと思う。


81 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:16:49.50 ID:YAIwfqJuO

「元カノの件もだし、上司もなかなかクレイジーな奴でさ。
何かもう疲れちまってなぁ…ありがとな、時間作ってくれて。これだけでも気楽になれるよ。」

「……帰ってきなよ。」

「へ?」

「半年やれば異動願い出せるでしょ?そしたら帰ってきなって。」

「ま、考え中だよ…異動が決まったとして、そっちにまた着任出来るとは限らねえしな。」

「そっかぁ…でもまた遊びおいでよ。今度はみんなで飲も。」

「そうだな…あ、お土産あるんだよ。」

そんでリュックを開けたんだ。
中には饅頭の箱が入って…



\やぁ/




いや、何も見てない。
何か饅頭頬張ってる小さいのがいた気がするけど、多分疲れてんだろ…。


「どうしたの?」

「あ、ああ、ちょっと電車で揉まれちまってな…今出…。」



\こんばんわー/


……………。


出てきちゃったよ、この子…。


82 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:17:59.07 ID:YAIwfqJuO

「あれ?この子艦載機妖精じゃない?かわいー。
誰かのが付いてきちゃっ………!?

ねえ、“艦載機の子”って事は…。」

「………ははは。」

妖精をつまみ上げると、何かを背負ってるし、抱えてもいた…あれー?どっかで見覚えがあんな、この背中の四角いの…。
確か前携帯変えた時、スマホ屋の一角に…。


妖精

E.小型ネットワークカメラ
E.ポケットwi-fi


ははは、遠方のペットの監視もばっちりってかこの野郎!
よーし!今ならわおーんとかにゃーんとか鳴いちゃうぞ!恐怖で!



83 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:18:56.18 ID:YAIwfqJuO

「うわぁ……ここまでやる?」

「これから話そうと思ってたんだが…やりかねんなぁ、あいつは…。
俺さえ絡まなけりゃ温厚なんだけど…。」

「ねえねえ妖精さん、ちょっとそのカメラこっち向けてくれる?
向けてくれたらいいものあげるよー。この美味しい卵焼き、食べりゅ?」

\たべりゅー/


へ?そんな餌付けして何やる気?

づほはカメラを自分の方に向けさせると、何やらにこっとレンズに向かって微笑んだ。

次の瞬間。




『お見せできない指の立て方をしております』




……お前自分が何やったかわかっとんのかー!?



84 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:19:58.04 ID:YAIwfqJuO

「な、な、なぁっ!?」

「……っく…あのねぇ、私こう言う陰湿な真似する女…。

大っ嫌いらんらよねーー!!」

あ、一番ダメなパターン来た。

何度かぶち当たった事のある、通称怪獣モードってやつ。
誰が呼んだか、仲間内で『ヅホラ出現』で通ってるそれ。

ん?SMS?誰だこの番号………



『面白いわね、その子。』



今の携帯番号は、あっちじゃ眼鏡ぐらいにしか教えてない。
流石のあいつも無駄なトラブルは嫌なのか、教えないとも約束してくれた。

そんな時、続け様にLINEが入る。今度は眼鏡だ。
それを開くと……


『すまない、あの翔鶴君は流石に止められなかった。』


あの眼鏡がガチ謝罪とな…あいつマジで何した?


85 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:21:53.96 ID:YAIwfqJuO

「ふふふ、美味しい?」

\おいちー!/

本日の戦犯様は、何事も無かったかのように妖精を可愛がっております。

ああ、鬼電とか無いのが余計怖い…酒の汗より脂汗、体温と心拍数に歯止めなし。
目下未来は暗黒の暗黒、そんな現実の末に…


「よっしゃあ!今夜は飲むぞ!」

「おー!行け行けー!」


俺はとうとう、考えるのをやめた…。


86 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/05(木) 13:23:21.63 ID:YAIwfqJuO
今回はこれにて終了。
他の艦娘が巻き起こす珍事件も絡めつつ、進めて行けたらなと思います。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:15:19.01 ID:I45nETuq0
(別にこれ艦これじゃなくてもよくね?)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:51:24.29 ID:q1M/nKOmO

瑞鳳ェ…大惨事鎮守府大戦が始まりそう
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 14:54:23.99 ID:5s3jKZtDO
面白いわ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 18:00:01.99 ID:2Und2ktR0
いっそ瑞鳳と付き合っちゃいなYO
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 19:49:21.61 ID:TGhy/bnN0
翔鶴vs.瑞鳳 見たい
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/07(土) 01:41:14.42 ID:H4lS7O4m0
づほと妖精さん可愛いなぁ……

しかしこれで艦娘が本気になったら憲兵なぞなんの役にも立たんという事がはっきり分かってしまったな……
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 09:13:02.97 ID:fKjRUiogO
別スレのが重い展開だけにこれは吹くw
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/10(火) 15:40:47.55 ID:122c3Se4O
なんかこの憲兵、DV受けてるのにでもでもだってでなかなか逃げない妻タイプな気がする
何が言いたいかというと、ずほ、ファイト!
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/11(水) 03:57:35.53 ID:5smrC9zC0
乙。
やっべ、初見だが今追っかけてるなかで一番楽しみなの出来たわw
96 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:42:49.48 ID:VF317A2nO




第6話・LAN、卵、乱-その2-



97 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:44:00.05 ID:VF317A2nO

「あはははは!!それでね!それでね!」

現在時刻、深夜24時。づほはとっても元気です。
…指の事とか、多分忘れてる。

2軒目は個室居酒屋で大正解だ、こいつはこうなるといよいよ止まらない。
さっきから会話の端々に要ピー音な単語が並びまくっているが、こりゃ朝は送りかな。慣れたもんではあるけども。

妖精からストーキング道具も取り上げ、今は俺のリュックですうすう眠ってる。
対応は済んだ…目下の問題は、やはりさっきのあの件。

こちとら元カレだ、性質ぐらいは人より知ってる。
妹は短気な方だが…あいつ自身は、キレると笑うタイプの女。

……オーケイ俺、大丈夫だ。
づほは酒が抜ければちゃんと反省できる子だ、この際泥は俺が被りゃいい。
あいつだって艦娘だ、あんまり無茶するなら俺もお仕事しなけりゃならない。

いや、待て。お仕事と言えば、目下の問題は…。

98 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:45:23.94 ID:VF317A2nO

「ごめん、ちょっとトイレ行く。」

「いってらっしゃーい。」

そう言えばあいつ、眼鏡相手に何やらかした?
連絡が来たって事は、傷害沙汰にはなっちゃいねえらしいが…電話してみよう。

「もしもし、お疲れ様です。生きてます?」

『ああ、さっきはすまなかったな…怪我は一切していない、大丈夫だ。』

「何されました?」

『ふふ…少し弱みをな。』

「……脅迫ですか?」

『ふっ…私を誰だと思っている?
ただ、私も女の涙には勝てなかったと言う事さ…。』

「分かりました。“嘘泣き”とか“目薬”って単語、100万回グーグル先生に聞いてください。
お疲れでしょうからゆっくり休んで下さいね、永遠に。」

…………あははぁ…そういやこういう奴だったよ…。

もはやここまで来ると、段々覚悟が決まってきた。
今は飲もう、全ては帰り道で考えよう。

そんな風に思いつつ個室に戻ると、づほがいない。
トイレかな?とか思ってると、肩にずしりと重さが来た。

99 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:46:56.95 ID:VF317A2nO

「ふふふ…君の格納庫は相変わらずかな?」

「ったく、やめろっての。」

「よいではないか、よいではないか〜…うん、この格闘技ならではの締まった胸筋…相変わらず揉みがいがあるわね。」

出たよおっぱいソムリエ。

づほは酔っ払うと男女関係無く揉む。ていうかまさぐる。
大体ターゲットは俺か、もしくは艦娘なら『あの人』か。
「無いからこそ愛でたいのよ!」とか、ちょっと悲しくなる事を言ってたな…。

「久々なんだよー、揉ませてよー。」

「普段何人も揉んでるだろ….。」

「女の子ばっかりじゃ飽きるのよ。たまには男の子も揉みたい…揉みしだきたい…。」

「お前が女で良かったよ。艦娘ならぬ艦息子だったらしょっぴいてたわ。」

じゃれてくるづほをあしらいつつ、そう言えば他の連中どうしてるかなーなんて考えてた。
いつもづほがこうなると、大体寮に着いたら『あの人』にお願いしてたっけ。

『久しぶりね、そちらはどうかしら?』

お、噂をすれば何とやら。
そう言えば皆にLINE回すって言ってたもんな。

100 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:48:45.24 ID:VF317A2nO

『ヅホラが出ました。』

『大変そうね。今夜は朝までかしら?』

『この調子だとそうですね、まあ元々誘ったのは俺なんで。朝そっちに送ります。』

『お願いね。私もそこで一度起きるわ。』

『すいません、ご迷惑をお掛けします。』

久々にあそこに行くなぁ…とは言え、他の皆は寝てるだろうけど。
今度は皆で飲もう、うん。

「ちぇー、少しは反応してよー。つまんないの。」

「お兄さんの気持ちになる。」

「ん?何か言った…?」

「いででで!つねるなっての!」

「へーんだ、どうせあの人相手だったら変な声出したりしてたクセにー。」

「ぶっ!?お前なぁ……。」

「図星かな?図星なのかな?ここがええのんか?んー?」

酒臭えが、それ以上にオーラにおっさん臭を感じる。
普段は女の子らしいんだけどなぁ…それが一緒に飲んでて面白くもあるんだけど。

「ふっふっふ…今度演習でかち合ったら両手で行ってやるわ…。」

「マジでやめろ。」

今度こそ胃が轟沈するわ。
はーあ……でも少しは気楽になれたな、見知った顔のお陰かね。感謝しねえとだ。

それでグダグダと飲み続けて、もう明け方。
店を出る頃には、すっかりグデングデンになったづほが完成していた。

途中までタクシー使うかとも思ったが、中でやらかされても困る。
そんな訳で少し遠いが、づほをおぶって鎮守府まで向かう事にしたんだ。

101 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:49:51.95 ID:VF317A2nO

リュックを前に掛けて、背中にはづほ。
海岸線を歩きつつ、朝まで飲んだ時はよくこんな風に連れて帰ってたなぁ、と思い出していた。
明け方の風は、良い感じに酒を抜いてくれる。うーん、良い朝だ。変わんねえなぁ。

その頃と違うのは、俺のリュックにあいつの妖精がいる事ぐらい。
正門が見えてきたな、着いたら連絡しないと…。


\おはよー/


お、這い出して来たぞ。
ははは、登ってくるなよくすぐってえ。こらこら、そんな耳んとこ来たら落ち…




「ねぇ…テレパシーって、知ってる?」




oh…何でそこだけそんなセクスィーボォオイス……。


102 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:50:38.33 ID:VF317A2nO





「ふふふ…楽しかったかしら?」





103 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:52:31.80 ID:VF317A2nO

頭ん中に亀裂、走る。

まず国道の方に振り返る。
そこには一台の車、ナンバーには思いっきり現職場の土地名。
視線を移動、運転席。おっと隈の深え緑のツインテールだ。顔が死んでる。
さあさあ心拍数は一気に上昇、いやしかし振り向くな俺。俺の真後ろ、歩道の方は見ちゃあいけねえ。
背中にはづほ、顔はカメラでバッチリ公開済み。
幾らづほが煽ったとは言え元は俺の問題、巻き込み事故だけは避けねばならない。
ゴールだ、ゴールを目指すんだ。正門に着けば『あの人』を頼れる、最悪俺が連れ帰られるだけで済む…!


「………ん…あれ?あなた…。」


おっと瑞鳳選手の覚醒だ。
あ、やめて、振り向かないで、肩から手ぇ離さないで。
あ、あ、腕の動きに釣られて俺の視線もおおおおおお!!!!


「帰りなさいよ、ばーか。」


さざめく潮騒…そのリズムに合わせ揺れる白い髪…
朝日に照らされる笑顔には……


「ふふ……本当に面白いわね、あなた。」


目元に暗黒が立ち込めておりました。

ゴール、決まったね……平和の。


104 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:53:27.18 ID:VF317A2nO

「……ちょっと降ろしてもらっていい?」

づほは固まる俺から勝手に降りると、つかつかとあいつへと近付いて行く。
何やる気だ…開幕クロスカウンターとかやめてくれ…。

「ふーん……ほうほう…。」

手が伸びる。え?何?襟掴む気か?
まずいまずい!止めねえと!

「づほ!待て!」

「……………えい。」


『もにゅん。』


「ふーん…85のEってとこかぁ……ふむ、この弾力と張り…恐らくは…。

___あなた、将来垂れるわね♪」


カウンターじゃねー!?おっぱいストレーーートゥ!!!

105 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:54:56.17 ID:VF317A2nO

「ふふ…そう、気を付けるわ。ちなみに歳はおいくつ?」

「あなたと同い年よ。聞くまでもっと上だと思ってたけどね。」

「ふぅん…あなた、ヒヨコに似てるわね。よく言われないかしら?
私“鶏は胸派”なのだけど…ああ、“その歳までヒヨコ”なら、もう“胸肉は育たない”のかしら?ふふふ。」


翔鶴選手、捻りの効いたリバーブロウです。
づほを見ると……表情が、無い。サンマみてえな目になってやがる…!


106 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:56:38.65 ID:VF317A2nO

「……ふふ、言うじゃない。

でも心は顔にも出るものよ?随分大人びて見えるけど、内心不安だからストーキングするのよね?
しかもとっくに切れてる男相手に…そう言うのを情緒不安定って言うのよ。だから嫌われる以上に怖がられちゃう。

あ、そっかー。メンタルが更年期だから、そんな大人びて見えるんだね!おばさん♪」

その瞬間、確かに重力が増した。
だ、大地を揺るがすアルカイックスマイル…!
付き合ってた時すら感じた事ねえプレッシャーが空間を支配しやがった。

「そう…見た目相応に幼いあなたが言うなら間違いないわね。
あなた、男性とお付き合いした事はある?」

「……あ、あるわよ、勿論…。」

「くす…二人で飲みに行くぐらいだから、今は違うと言うことでいいかしら?
そうね、その人は容姿で人を差別しないからいいでしょうけれど、お付き合いした方は大変だったでしょう?

例えば…お相手がロリコンさんと間違えられて、警察のお世話になっちゃったりとか。
それで段々肩身が狭くなったお相手の気持ちも冷めて……みたいな。
やっぱりお子様に恋は難しいかしら?ふふふ。」


もう、モノローグも出てこねぇ…なんだこの地雷原で相撲取るみてえな地獄絵図は…。

しかもよ…今のは……!

107 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 01:59:29.90 ID:VF317A2nO

「ふふ……ふふふ……。

…その通りよちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「づほ!やめろっての!!」

「離して!!こいつの脳みそかち割りゅうううううう!!」

その時のづほ、マジでこんなん→(´??Д??`)だったな…あいつ、づほのトラウマピンポイントで突きやがった…。
ああもう、どっちが悪いとか言ってる場合じゃねえ!妹も何やってんだよ、姉貴止めろよ!!



「騒がしいわね。」



そんな騒ぎの中、正門脇の通用口が開いた。
そこにいたのは、まさにづほの世話を頼もうとしてた『あの人』。


「…加賀さん!」


正規空母・加賀。
この鎮守府の艦娘の長にして、真の元締めと言われる人。

108 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:01:26.34 ID:VF317A2nO
【訂正】顔文字が反映されないの忘れてました。血の涙の顔文字と思っていただければ。
109 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:02:51.70 ID:VF317A2nO

「馴染みの声がすると思ったら、昔見た顔もいるわね。
……わざわざ隣から御足労ね、どう言う事かしら?五航戦。」

「………あ、あ、その…。」

あいつがたじろぐ…だと?
え、加賀さんって向こうと付き合い無いと思ってたけど、知り合いなのか?

「酔った子もいるようだし、場所を変えましょう………ふん!」

「……!?」

うお…ラリアット一発でのしちまった…。

「この子程度、鎧袖一触よ。
もう一羽いるようね、今度はうるさい方の鶴。」

姉を引きずりつつ、加賀さんはつかつかと車の方へ。
後部座席にあいつを突っ込んで…え、運転席開けた?何だ、すげえ揺れて……止まった。

すると間もなく、ゆっくりと俺たちの前へと車が近付いてくる。
ガーッと窓が開くと……

助手席で泡吹いてる妹がいました。

110 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:04:44.50 ID:VF317A2nO
「駐車場に停めてくるから、瑞鳳を中までお願い。立ち入り許可は出しておくわ。」

「は、はい…。」

行っちまった、なぁ…いけね、づほを離さないとだ。

「おーい、づほー?」

「ムス-」

「こらこら、いつまでもブーたれてもしょうがねえだろ?中入ろうぜ。」

「……おんぶ。」

「へ?」

「怒り疲れたからおんぶしてって言ってるの!そしたら入る!」

「まーだ酔ってんのか…しゃあねえ、乗りな。」

まぁこいつ軽いからいいけどよ…。
おぶってやると少しは機嫌が直ったのか、づほは終始ニコニコと笑っていた。
うちは姉貴一人だけど、妹とかいたらこんな感じ……

「……何か失礼な事考えた?」

「滅相もございません!」

……いや、今その事考えるのはやめよう。死ぬ気がする。

でも加賀さん、あいつらまで中に入れてどうすんだ?
ん?加賀さんからだ。

『中に入れたかしら?弓道場まで来てちょうだい。』

弓道場……とりあえず行くか。
………行かなきゃ良かったと、数分後の俺は心底思うんだけどな。

前夜の酒は序の口。
波乱の休日は、まだまだ続くと思い知る事になるのである。

ああ…夕方まで、タイムスリップしてえ…。



111 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/21(土) 02:07:20.78 ID:VF317A2nO
今回はこれにて終了。次回はいずれ。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 02:29:09.59 ID:rIKFPUdmO

次の更新を楽しみにしてる
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 03:26:59.52 ID:k/fa+gZYo
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 04:23:17.17 ID:65eg+GmO0
これはまごう事なき一航戦ですわ
頼りになるぅ!
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 09:19:38.22 ID:nn+x3jYA0
キャー加賀さんステキー
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/21(土) 20:46:49.21 ID:CsOzKkM60
レディ・カガ・・・
げに素晴らしき、一航戦のHOKORIよ
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/22(日) 01:39:05.77 ID:4uCL5eJs0
加賀さん、一生ついていきますっ!
翔鶴が妖怪じみてたから、普通の姿を見れて少しほっとした
118 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:35:09.57 ID:fgkf4R9fO




第7話・LAN、卵、乱-その3-



119 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:36:14.32 ID:fgkf4R9fO

「さて…。」

かつての職場なんて言っても、ほんの一月前までいた所。
迷わず弓道場に着いたんだが……。

「すぅ……すぅ……。」

づほ、遂に力尽きる。

どうしたもんか…いや、あいつらも気絶してるしな。とりあえず寝かせとく感じだろ。
そう思いつつ扉を開けると、目をぐるぐるさせたままの姉妹が寝かされてた。

加賀さんはと言うと……へ?道着?
さっきはジャージにクロックスとかだったのに、何やる気だ?

「来たわね。早速で悪いのだけれど、10分席を外してくれる?」

「はい、いいですけど…。」

で、10分経過。
いいわよと声が掛かり、扉を開けてみると…。

「………道着?」

「ええ、全員着替えさせたわ。」

「こいつらまだ落ちてますけど、何するんですか?」

「………こうするのよ。」

120 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:37:16.69 ID:fgkf4R9fO

ばっしゃーーん、と、直後に水しぶきが3人を襲った。
加賀さんは躊躇いもなく、30リットルはありそうなバケツの水を奴らにぶちまけたんだ。顔面から。

「ぶーーっ!?」

「ふえっ!?へっ!?」

「え?何!?」

三者三様のリアクションで目を覚ますと、ようやく状況を理解したらしい。
なんかメイクとか色々大惨事になってるけど、もうそんな事気にする余地も無さげだ。

皆、ある一点を見て固まったからな。


「………あなた達。」


ゴゴゴって擬音が目視できそうな威圧感だった。
加賀さん……め、めちゃくちゃ怒ってる…!

121 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:38:25.17 ID:fgkf4R9fO
「まず翔鶴。朝から人の鎮守府の前で騒ぐとはいい度胸ね。しかもうちの子と喧嘩という形で。」

「え…えーと、そのー…。」

「今日は休日よ。確かにあなた達がどこへ行こうが勝手。
……人に迷惑を掛けないのならば。」

「はい…!」

「瑞鶴。あなたの運転のようだけど、どうして車を降りて喧嘩を止めなかったのかしら?」

「…………からよ。」

「何かしら?よく聞こえないのだけど?」

「……こ、怖かったのよ!免許取りたてで初めて高速乗ったから!
それで着いたらもう、糸切れちゃって…。」

「そう。因みにどちらから言い出したの?」

「わ、私からよ……翔鶴姉の様子見て、つい運転するって言っちゃって…。」

「つまり自滅という事ね。次、瑞鳳。」

「は、はい!」

「たまに羽目を外すのは良いけれど、揉め事は感心しないわね。
どうしてそうなったのかしら?」

「え、ええ、それは……最初翔鶴さんの妖精さんが…。」

づほはそれをきっかけに、事の全てを加賀さんに話した。
話終えるまで、加賀さんは黙ってそれを聞いていたんだが……話が進むにつれ、3人ともどんどん顔色が青くなって行った。

それとは別に、加賀さんにも青いものが。
顔はいつものポーカーフェイスなんだが…組んでる腕にな、徐々に青い方の血管が浮いてきてた。


「…………そう、大体事情は分かったわ。」


すくっと立ち上がると、加賀さんは正座する3人の前に立ちはだかり…。

ごん!ごん!ごん!と三発、こっちの頭も痛くなりそうな音がこだました。

122 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:40:00.12 ID:fgkf4R9fO

「「「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」

「あなた達全員が悪いわね。

まず瑞鳳。
頭に来るのは分かるけれど、積極的に喧嘩を売ったのはいただけないわ。ストーキング道具の電源を落とすだけで充分よ。
ただでさえ__に面倒を見てもらっていたのだから、余計な迷惑を掛けてはダメ。

次に瑞鶴。
不慣れな時期の無理な運転は、事故の元よ。
それにストーキングの時点で止めなかったのかしら?
盗撮を知らなくとも、どう言う経緯で翔鶴が動いたのかは理解出来ると思うのだけれど。
止めようとしなかったのならば、いよいよ正真正銘の七面鳥よ。

次……翔鶴。
妖精の私的利用、ストーキング、おまけに揉める可能性を理解しつつこちらまで来た事……更に__への日頃の行い。五航戦の名にさえ恥じるわね。
あなたのような大人しい子が、__相手には豹変…人とは分からないものだわ。

__の立場も理解してあげるべきね。
憲兵とは言え今日は休暇、ましてや私達艦娘も、艤装なしではただの人。せいぜい少し腕っ節の強い女でしかない。
__のような武術に長けた男性が安易に止めようとしたら、あなた達に怪我をさせる可能性が高い…あまり強硬手段には出られないわ。

……それとも昔付き合っていたのなら、そんな性質を分かっていてやったのかしら?
それ如何によっては、更にあなたの罪は重くなるけれど。
また“餌やり”をさせられたいのかしら?

最後、__。
手は出せなくとも、口ぐらいはもう少し上手く出しなさい。
あなたは少し人が良すぎるきらいがある、それは時には人の為にならないわ。
こちらの安全と取り締まりを預けるのが憲兵、仕事以外でももう少し厳しくいなさい。」

「は、はい…!」

「翔鶴と瑞鳳、まずは各々に謝りなさい。それで手打ちにする事。いい?」

123 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:40:44.65 ID:fgkf4R9fO

……か、神様がいた。
すげえ人だと思ってたけど、こいつらをこうもまとめ上げられるなんて…。

「加賀さん、あの二人と知り合いなんですか?」

「そうよ。以前、空母合同合宿の教官を務めた時に。
特に五航戦の二人には、“魚に餌をたくさんあげてもらった”もの。」

魚の餌?
その時ふと、軍学校時代の訓練合宿を思い出した。

“コラァそこ!照準がヨレてんだよ!またタンポポさんに栄養あげるまで走らせんぞオウ!!”

あ…魚の餌ってそういう……。
なるほど、あいつらのビビリようも分かる。


「翔鶴さん、ごめんなさい。」

「いえ、私こそ。」

良かった…これで何とか解決…。

「ふふ…瑞鳳さん、プール帰りの子供みたいで可愛らしいわ。」

「あなたも濡れた道着がセクシーね。熟女みたい。」

「ふぅん?」

「何?」


し て ま せ ん で し た ! !

124 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:42:50.45 ID:fgkf4R9fO

俺たちの戦いはこれからだ!じゃねえんだよ…1R目は手打ちにして2R目で仕切り直しってかコラ。
おい、これ加賀さん本当にキレんぞ…ん?

…何で笑ってんのあんた。

「ふう…ああは言ったけれど、艦娘たるもの血気盛んでなくては務まらないのも事実かしら。

しかし醜悪な戦いはそこまでよ。私達は空母にして弓使い、ならば潔く弓で決着を付けなさい。
そこまで争うならば…“あの方法”を取るわ。」


…………で、何でこうなったんでしょうか。

母さん。俺は今、的の前にいます。
……頭にリンゴを載せて。

「空母式ウィリアム・テル。艦娘発足初期、喧嘩になった弓使いの空母2名が編み出した決闘法。
どうしても気に食わないのなら、こちらで決着をつけてもらうわ。

ルールは簡単。先に吸盤式の矢でリンゴを3回落とした者の勝ち、負けた方は大人しく引き下がる事。
尚、今回は“落とし方そのものは問わない”とする。」

「………加賀さん、ちなみにその空母って…。」

「激しい戦いだったわ。プリンの怨みとは山よりも高く、海よりも深いもの。
いえ、むしろ宇宙の彼方よりも。」

「あんたかい!!」

ん?殺気…?

射場の方を見ると、明らかにそっちだけ空気が張り詰めている。
こ、これが臨戦態勢の艦娘の気迫…!どっちからだ?

125 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:44:41.75 ID:fgkf4R9fO

「私が先行よ。」

吸盤式の矢…笑顔で構えるあいつ……嗚呼、蘇る青春時代。何度眼前で壁に吸い付くそいつを見ただろうか…。
はははやべえよ……む、武者震いがして来やがった……って思っとかねえと持ちゃしねえ…!

「__五航戦・翔鶴。参ります。」

来る!

………遅い…?

それこそ昔ソフトボールの授業で受けた球よりゆるく、矢はゆっくりとこちらへと飛んで来る。
でも軌道は揺れず、ただまっすぐに……え?急に落ち…


『ぽすん』


「……へ?」

俺の左胸に優しく触れたかと思うと、矢はポロリと足元へ。
拍子抜けして力が抜けた途端、今度は別の物が転がり落ちた。
そうか、頭の力も緩んだから、リンゴが…。

「ふふ…今度は逃がさないわ。私の狙いはあなたの心。
これでまず私が1点ね、瑞鳳ちゃん?」

昔から上手かったけど、これには俺もぽかんとした。
すげえ…矢をスローかつソフトに当てに行くなんて、なかなか出来る芸当じゃねえぞ。

126 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:45:28.31 ID:fgkf4R9fO

「翔鶴、腕を上げたわね。」

「いえ、それ程でも。まだまだ加賀さん達には及びません。」

「次、瑞鳳。」

づほが射場に立てば、今度はさっきと別の張り詰めた空気が場を支配する。
どう来る気だ……まだ酒残ってなきゃいいが…。

「翔鶴さん、あなたらしい捻りの効いた弓ね…正規空母の余裕ってやつ?
なら私は軽空母らしく、少数精鋭の精神で行かせてもらうわ。

___航空母艦・瑞鳳、推して参ります。」

……あいつが柔軟なら、づほは鋭角!構えまでに無駄がねえ…来る!

このスピード感、覚えがあるぞ?
そうだ…試合で相手の技が来る、何度も見たあの感覚…!

「……うおっ!?」

丁度顔に来た矢を、俺は咄嗟に避けた。
当然避けた弾みでリンゴは頭から落ち、足元にコロコロと転がっていた。

づほの奴、まさか…!

「ふふ、君なら避けるって思ってたよ。人の蹴りや拳のスピードを意識したもん。
翔鶴さん…これが互いの恥すら知る飲み仲間の信頼関係ってやつよ?」

やってくれんなぁ、あいつ…。

127 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:46:50.53 ID:fgkf4R9fO

「あなたもなかなかやるわね。
瑞鳳ちゃん、せっかくだからもう一つ賭けない?勝った方が……」

「ちょっと待ったぁ!!」

「?」

でかい声がしたかと思えば、どうやら声の主は妹の瑞鶴。
何だ物言いか?いや、あいつも弓持ってるな…いつの間に。

「加賀さん、私も混ぜてもらっていい?
こんな面白そうなの見てたら、燃えて来ちゃう。」

「いいわ、久々にあなたの弓も見たいし。」

おいおい、お前が混ざってもケリ着かねえだろ…ん?何か空気が…。
その時ふと、頭の中で眼鏡の言葉が蘇った。


“中には翔鶴君のその様に魘される艦娘もいてな…まあ、瑞鶴と言うんだが。”


明らかにさっきとベクトルの違う殺気を感じる。
何だろ、なんて言うんだろ。うん、狙うゆえの殺気じゃなく、文字通り殺す気な方。

射場の妹と目が合うと、妹はにっこりと笑った。
読唇術は座学でちょっとかじった事がある…だから何となく、何言ってるかも分かる…。

128 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:47:57.10 ID:fgkf4R9fO






“う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か・?”







129 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:49:45.04 ID:fgkf4R9fO

待て待て待て!!あいつ俺の頭リンゴみてえにパーンする気だ!
多分避けれねえ全速力で来る、逃げた所で出口は射場…となると、外させるしかねえ。

どうする?
そうだ、あいつは何となく『あの有名人』とキャラ被る……となれば!


「おい!妹!」

「…何よ。」

「……左で引けや。」


頼むぜ、乗ってくれ…!そして盛大に外せ!俺の命の為に!

130 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:51:09.08 ID:fgkf4R9fO

「はっ……乗らないわよそんな挑発!
こっちはあの番組やって以来、散っ々色んな人から似てるっていじられてるの!耐性なんかとっくに出来てるわよ!

遠慮なく、利き手で行かせてもらうわ…!」

「いいっ!?」

皆考える事は同じかよ!!
どうする!?逃げた所で狙って来るぞ!

「瑞鶴。」

「…何よ加賀さん。いい所なんだから邪魔しないで。」

「左で引きなさい。」

「……………。



……やってやろうじゃないのよこの野郎おおおおおおおお!!!!」

加賀さんあんた女神だ!
利き手じゃなけりゃ力は弱い!当たらねえ可能性はグッと上がる!

「……!?

__!!だめ!!」

ん?あいつなに叫んで…


「妹の弓は両利きよ!!避けて!!」


………はぁ!?


131 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:52:15.57 ID:fgkf4R9fO

「ふふふ……戦場に於いては、利き手に怪我をする可能性だってある…。
だから私は、日頃弓だけはどっちでも引けるように鍛えてんのよ!!

でも、“少しコントロールが甘くなるかも”ね…空母らしくアウトレンジで行かせてもらうわ!!」

上に射った!?どこだ…?

そうして上を見ると、予想外の刺客が俺を襲った。
太陽…しまった!逆光で何も見えねえ!!

どこから来る…避けるポイントを予測されてるか、それともストレートに来るか。
目を懲らせ……見えた!!この軌道ならこうするしかねえ!!

後ろに下がった俺の眼前を、スレスレのところで矢が落下していく。
視界を通り抜け、後は地面へ…そう安堵したその時だ。


鋭い痛みが、俺を通り抜けて行った。



132 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:53:16.42 ID:fgkf4R9fO

男には、防ぎようのない弱点がある。
数多のスポーツでも、防具を付ける場所。

所謂、漢のシンボルという奴だ。

袋の方にばかり気を取られがちだが、もう一つパーツがあるだろう?象の鼻的比喩をされるアレ。
アレもダメージを喰らえば、充分に痛い。

確かに矢は避けた…だが、ギリギリだった。
絶妙な角度で向かって来た矢は、象の鼻のみを引っ掻くように掠めたのだ。

よくあの痛みは地鳴りに例えられるが、そちらのみへの衝撃は……まるで雷に打たれたかのようだった。
長ったらしく回顧しちゃみてるが、実際のところは。



「 」



声にならない叫びすら、もはや上がらなかったよね。
そのまま倒れた記憶も無く、俺は意識を手放したのだった…。


133 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:55:00.05 ID:fgkf4R9fO

「うーん…。」

うう…なんか色々痛え…。
床が固えな…ここは…弓道場か。一体どんぐらい寝てた?

最初に目に入ったのは青空だったが、手を握られている感覚が。
ふと横を見ると…そこにはすうすうと眠る、あいつの姿があった。

「あなたが一番ね。皆疲れて眠ってしまっていたわ。」

「加賀さん…。」

起きて握られていた手を離すと、一瞬あいつは顔をしかめた。
変わんねえなあと、何となくあいつの手の感触にそんな事を思っていた。
周りを見渡すと、気持ち良さそうに寝てるづほに、何だか青い顔して寝てる妹……って、こいつまた気絶してねえか?

134 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:55:44.43 ID:fgkf4R9fO

「ふふ、瑞鳳も余程嬉しかったのでしょう。あの子があれだけはしゃいでる所は、久々に見たわ。
色々言ったけれど、あの子と遊んでくれてありがとう。」

「そんなんでしたか?変わんねえなぁって思ってましたけど。」

「表向きはね。でもあなたが異動して一番寂しがっていたのはあの子よ。」

「…確かに、しょっちゅうつるんでましたからね。」

「そうね。それにしても意外だったわ、まさかあなたの元相手が翔鶴だったなんて。
大人しい子だとばかり思っていたから、さっき目の当たりにするまでイメージが無かったもの。」

「……本当は普段通り大人しい、ちょっと気弱な奴なんですよ。
故に俺が絡むと、過激な行動に出ちまう。」

「そう…嫌いになったから振った、という訳では無さそうね。」

「…………。

……そうですね、心が折れたって言うのが、当時の正直な所だったのかもしれません。
今となっては、ビビったり苦手意識ばかりではありますけど。」

「異性としての意識は無いと?」

「ですね。戻る気も無いです。」

「…海とは非日常、陸とは日常。それを忘るべからず。
いつも下の子達に教えてる事よ。

帰る場所や守るものがあってこそ、私達は戦える。」

「…………そっちを守るのが、俺達の仕事って奴ですよ。
今の上司はクソ野郎ではありますけど、そこの所は同じですかね。」

「…相変わらず苦労しそうね、あなたは。」

「はは…よく言われます。
久々にお話できて、嬉しかったです。ご迷惑をおかけしました。」

「疲れたでしょう?更衣室にシャワー室もあるから、よかったら浴びて行きなさい。」

「ありがとうございます。少しお借りしますね。」

そうしてシャワー浴びてる間に、皆起きたみたいだ。
入れ違いに皆がシャワー浴びてる間、俺は射場に横になって、ぼーっと空を見上げていた。

色々あるけど、頑張らねえとな。

135 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:56:45.81 ID:fgkf4R9fO

「お邪魔しました。づほ、またな。」

「うん!今度は皆で飲み行こ!」


挨拶してあそこを後にすると、近くに一台の車が停まっていた。
あれは…ああ、あいつらもさっき出てったばっかか。

「__、乗って行かない?」

「大丈夫。ちょっと散歩して帰りてえんだ。」

「そう?電車だと結構あるけど…。」

「ちゃんと帰るよ。悪いけど、先に行っててくれ。」

「………分かったわ。気を付けてね。」

あいつもそれ以上は食い下がる事なく、車は遠く離れて行った。
妖精も返したし、今は正真正銘一人きり。

駅までの少し遠い道のりの中を、潮風を浴びつつ歩く。
夕暮れか。まだ時間あるな…。
そう思うと柵に腕を乗せて、ぼんやりと海を見ていた。

自分でも何でそうしたのかは、いまいち分からなかったけどな。

136 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:57:34.34 ID:fgkf4R9fO





「翔鶴姉、よかったの?」

「……いいのよ、今日は。」

「……………そう。」

「…眩しいわね、夕日。」

「…………。

ご飯食べて帰ろ?お腹空いちゃった。」





137 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 21:59:12.89 ID:fgkf4R9fO


「ああ、この事か。今印刷するから、このデータに目を通しておいてくれ。」

明けて数日後。
事務作業をしていると、眼鏡に声を掛けられた。
何枚かプリントアウトを待つ間、奴は資料についての説明をしてくれた。

「艦娘の交換異動制があるのは知ってるだろう?」

「ええ、経験を積ませる為、戦力の等しい艦娘を定期的にトレードする制度でしたよね?」

「そうだ。今年はうちと隣でやるらしい。
1ヶ月後に来るんだが、顔とパーソナリティを把握しておかねばならんからな。憲兵隊の方にも資料が来る。
隣という事は、恐らく貴様の知り合いでもあるだろう?この前そちらの者と飲みに行ったと言っていたものな。」

「…………。」

何だろう、この胸騒ぎ。
嬉しいような、嫌な予感もするような…。

「お、出てきたな。この子のようだ。
ほう、駆逐艦かな?随分可愛らしい…。」

その時、机に置きっぱにしてた携帯が震えた。
ちらりとそこを見ると、緑の通知…ま、まさかな…。


『今度そっちに行く事になったから、よろしくぅ!』

「ほう、瑞鳳と言うのか…貴様と同い年だと!?」

「……………はは…はははははは……。」


この一月後、当然のようにまた一悶着が起きるのだが。
その間にも、他の連中による事件は続くのである。

例えば『あいつ』とかな。



138 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 22:00:33.11 ID:fgkf4R9fO

ひとえに駆逐って言っても、年齢層は意外と広い。歳的には高校の高学年ぐらいとか、中学低学年ぐらいとか。

でも総合的に見れば、結局の所子供な訳で。色々な事に興味を持つ年頃だ。
物事のセンスの有無も、そんな興味の中で学んで行く歳だろう。

そんな学びの年頃により、俺の…いや、俺たちの胃腸は犠牲になるんだ…ストレスじゃなく、物理的にな。


まずてめえが食ってみろ。


『あいつ』に対して言いたい事は、これに尽きるぜ…。


139 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/04/30(月) 22:02:08.44 ID:fgkf4R9fO
瑞鳳編、ひとまず終了。
次回は亡国がイージスする予定です。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 22:06:05.97 ID:VrtD9AexO
乙です
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/04/30(月) 23:44:02.36 ID:TyAmJswxO
乙です。あいつ=メシマズ界最凶の彼女ですね……
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 09:44:49.89 ID:GC/SvjCMo
ヒダリデウテヤ
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 11:28:11.53 ID:aS/OEvenO
乙!
まさかのあのMMD作品ご本人設定かよ瑞鶴w
144 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:33:09.57 ID:YFzNwdWXO




第8話・かみにみすてられたやろうども



145 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:34:26.30 ID:YFzNwdWXO
ある日の事だった。

本当に何でもない昼下がりだ。
嘘のようにサクサク仕事が進んだ俺達は、詰所で暇を持て余していた。

「………暇ですね。」

「………滅多にないな、こんな事は。」

「警邏でも行きます?」

「さっき回ったばかりだろう?一応規定があるからな。」

「……次、いつでしたっけ?」

「2時間後だ。」

お互い本は部屋で読む派、手元にあるのはスマホのみ。
これじゃ通報でも無い限り、いよいよ給料泥棒になっちまう。

「ん?何か焦げ臭くないすか?」

「ふむ、甘い香りも混じっているな。」

そんな時、何やら独特な香りを感じた。

一応ここのガス周りを見るが、特に何かが燃えてる訳じゃない。
外を覗いてみても煙が上がってる様子も無く、騒ぐ声も無し。
そうして一体何だと思っている間に、次々と匂いが増えていく。

「甘くて焦げ臭くて、ジューシーかつ刺激的な匂いもしますね…。」

「柑橘系と磯の香りもするな。」

いや、まだるっこしいのはもういい。シンプルに言おう。


くせえ。


色々混じってるが、全体的に甘さと炎を纏ってるフレーバー。
段々それが濃くなってくる。

その正体は…匂いがピークに達した時に判明した。

146 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:35:28.53 ID:YFzNwdWXO

『どごおおおおおおおおん!!!!』


「爆発!?」

「い、いや、何処からも煙は上がっていないな…工廠で弾の実験でもしているんじゃないか?」

「いやいや何言ってんすか!実験やるって報告無いでしょ!!行きますよ!!」

この時は慌てていて気にしてなかったが、眼鏡が少し汗かいてたのを突っ込んでおくべきだった。
……爆発音の正体、多分知ってたと思うんだよなぁ。

147 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:38:14.52 ID:YFzNwdWXO

外へ出たものの、未だ出動要請は無し。しかし俺達は憲兵、トラブルを放置する訳にも行かない。
煙は一向に見当たらず、相変わらず騒ぎになってる様子も無い。
仕方なく匂いの元を探してみる事としたが、もはや何処からか分からない。

「一度戻ろう。工廠の報告ミスかもしれない。」

そう眼鏡に促され、渋々戻る事にしたんだが…あれ?むしろ戻る程匂いが強くなってるよーな…?

そう疑問を持ちつつ詰所に戻ると、中で誰かが座っている。
ん?あの子って、駆逐艦の…。


「何処に行っていた?差し入れを持って来たんだ。」


ああ、確か磯風って言ったな。
挨拶以来、特に接触も無かった子だ。

ん?差し入れ?その言葉にふと、後ろにいる眼鏡を見ると…。


「い、い、い、磯風じゃじゃじゃないか…。」


……眼鏡がめっちゃ焦ってる…。

一瞬そっちに気を取られたが、すぐに磯風の方に意識が向いた。
いや、強制的に向けさせられた。


くせえ。


さっきから感じる異臭の原因は、磯風が片手に持ってる箱。
そのよくある100均のケーキ箱は、ずもももも…と擬音が見えそうな紫色の臭気を放っていた。


148 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:39:59.69 ID:YFzNwdWXO

「いつも頑張っているからな!甘いものを食べて欲しいと思ったんだ。」

「そ、そうか…ありがたくいただこう…。」

笑顔が引きつってる眼鏡とか、初めて見たぞ…。

ん?そう言えばこの子って、誰かに似てるな…。
このドヤ顔にツリ目、赤い瞳…それにこの堅めな口調…あれ?何かいつもぶっ飛ばしたくなる奴にそっく…


「気にするな、私とあなたの仲じゃないか。」

「ああ、出来た従姉妹を持って幸せ者だよ…。」


従 姉 妹 ?


…え!?従姉妹ぉ!?


149 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:41:30.61 ID:YFzNwdWXO

「…同じ場所に着任したのは偶然だが、磯風は叔母の娘でな。
たまにこうして差し入れをくれるんだ。

せっかくだ…貴 様 も 一 緒 に 食 べ な い か ? 」


(逃げるな喰え)って心の声が、ミシミシと掴まれた肩からよーく伝わって来た。

いや、絶対やべえだろこの匂い…。
恐る恐る箱を開けると、一層匂いが目に沁みる…が、中にあるのは普通のマカロンだった。見た目だけは。

「今回は自信作だ。心して食え。」

「ありがとう、いただくよ。」

一口で行った!?
今まで見た事ねえ菩薩のような笑顔でマカロンを頬張ると、眼鏡は数回の咀嚼の後、えづく様子も無くそれを飲み込んだ。

え…?意外と食えるのか…?

「どうだ!?」

「ああ、とても美味しいよ…五臓六腑に染み渡るようだ。」

この時眼鏡の瞳から、ポタポタと雫がこぼれ落ちた。
いや、瞳に限った話じゃない。顔面の穴という穴から次々と液体がこぼれ落ちていく。

それはもう赤黒い、出たらまずい色の血がな。

150 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:43:19.45 ID:YFzNwdWXO

「貴様モどうダ?とテもうマイぞ?」


……いや、んな昔のホラゲみてえなツラで言われても説得力ねえから。
顔から羽根とかフジツボとか生えて来そうだよ今のあんた。

「そこの新人さんもどうだ?是非食べてみてくれ。」

おっとロック・オン。

あまりの事態に逆に冷静になっちまってたが、よーく考えなくても危険じゃねえか…メシマズってレベルじゃねえ…!
いや…しかし今は善意、心遣いな訳だ。
はははそうだ、なんか副作用あるだけで本当に食える代物かもしれねえだろ?邪険には出来ねえ。
ええいままよ!男なら黙って食う!

「ありがとう、いただくよ。」

………まずははじっこだけ一口ね。


『かり……。』


……。

………。

…………。

……………塩酸って、固形物だっけ?


151 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:45:03.02 ID:YFzNwdWXO

「どうだ!?美味いだろう!?」

「…………。」

俺、まだ20代前半だけどよ……大人には、時に心を鬼にしなくてはならない瞬間がある。
自分より年若い者に、間違いを教えなくてはならない瞬間がある。

想像してみよう。
こいつが将来彼氏を作ったり、もしくは結婚したりしたとする。
キノコが採れた!とか言ってうっかり死の天使召喚したり、毒草のおひたし出しちゃったりな可能性もある訳だ。
そんな悲劇は食い止めなくてはならない。

故に俺のやるべき事は、一つしかない。

「……磯風。」

「どう……むがっ!?」

「……!?待て!!」

眼鏡よ、止めてくれるな。

片手で頬をむにっとやって、開いた口にマカロンを放り込む。ただそれだけだ。
食えば分かる、それ以上の教育など何も無い。

決してさっき一瞬意識が無かったとか、未だに喉の奥で血の味がするとか。
あるいは死にかけた事に俺がブチ切れてるとか、そんな事は無いからな。無いったら無い。

ごくりと音がし、しばしの静寂。
その間一体何秒か。やがて磯風は、さっき同様のドヤ顔に戻って口を開いた。

152 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:46:16.87 ID:YFzNwdWXO

「ふふ、なるほどな……。


………○*マ?#ョ♪%〆ぎゃ÷^\-:ソ々〒ロ=☆っ!!!ニ_??ん?」


その言葉を遺し、磯風は泡吹いて倒れた。
ああ、終わったな……二つの意味で。


「………貴様、自分が何をしたのか分かっているのか?」

「憲兵長…俺は憲兵としての使命を果たしたまでです。
ここの平和のため、体を張った…それだけですよ。

……よく見てください憲兵長、これが指導です。」

「………憤!!」


俺の顔面がディストラクション。
掌底を打ち込む瞬間の眼鏡は、範馬の血が流れてそうな顔をしていた。

153 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:48:32.70 ID:YFzNwdWXO

あれから数時間を経て、警邏に出ている。
眼鏡は磯風を寮に運び、俺一人で回っている最中だ。

可愛い従姉妹を傷付けたくないのは分からなくもねえけど、やっぱ甘やかしちゃダメだ。
何かが起きてからでは遅い……本当に、遅すぎるぐらいだ。
いや、もう起こっているのかもしれない。

え?今どこにいるかって?


………トイレだよ。



へへへ…やられたぜ畜生。
わずかひとかけのマカロンで、俺の腹はバイオテロを起こしていた。

仕事どころじゃねえ、出れねぇんだよ…!さっきから15分ぐらい籠ってんだけど。
あ、あのガキ…つくづくとんでもねえもんこさえやがって……アレか?あの一族はどっかしらネジが外れてんのか?

ふー…やっと波が引いたか……ケツ痛えけど、拭かなきゃ出れねえ…。

…………。


………紙が、無い。


154 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:50:53.80 ID:YFzNwdWXO

指先に掴めたのは、一反木綿の如くひらひらと揺れる切れっ端。
シングルロールのこいつは、どう見ても足りねえ。
どうする?いや、こうなった時は文字通り身を切る覚悟を決めるしかない。

芯で拭く。

痛えだろうなぁ…切れたりすんのかなぁ……ええいままよ!いざオープンセサミ!
ははは最近のトイレットペーパーってすげえよな!最後まで紙ぎっしりだもん!

……って芯なしぺーーパーーー!!!

今ポケットティッシュは無い…だからこんなテンションになってる訳で。
あるのは憲兵道具以外は、財布とスマホ。

仕方ねえ。弱み握られるが、ここは眼鏡を頼るか。

『もしもし?』

「すいません、トイレの紙が無くて…。」

『ふっ…腹を壊したのか?あの子の料理を邪険にした罰だ。』

「…いや、アレに関しては俺謝んないっすよ。
むしろ従兄弟のあんたが教育するべきでしょう。どう考えても原因アレです。」

『貴様も学生時代、陸軍式のキャンプは経験しただろう?
蛇やヤモリを焼き、虫を食い…おおよそ現代人とは思えぬ食事をしたはずだ。それしきで腹を下すとは情けない。』

「ゾンビになってた人に言われたくないです。不味いもんと、体調崩すもんは別ですからね。
て言うかあんたどこいるんすか今?」

『……いつの時代も、ヒット曲と言うのはあるものだな。』

「………は?」

『………私は今、懐かしの“トイレの神様”だ。』


お 前 も か 。


155 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:52:45.10 ID:YFzNwdWXO

無言で携帯を切り、俺は途方に暮れた。

状況整理。
まず整備や事務方は頼れない。まだ付き合いねえし、各部署にトイレ完備。偶然助けが来る事も無い。
提督も同じくだ…執務室近くにトイレあり、俺らとの連絡は詰所の電話が主。個人的な連絡先は知らない。

で、このトイレは、前元カノに追っかけられた時に使った場所…廊下の突き当たりだ。
艦娘はちょちょく隣の女子トイレを使うようだが、男衆はあまり使わない…俺だって、腹痛で駆け込んで久々に使った場所。

つまり、助け舟は期待出来ない。よって『やる』しか無い。

みっともねえ半ケツを晒し、洗面台上の棚から紙を出す。他の選択肢は滅んだ。
幸いここの入り口は扉がある、注意を払えば見られる事は無い…よし、これで行こう。

いざ行かん!この監禁からの脱出へ!

156 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:54:47.91 ID:YFzNwdWXO

『がちゃ…ばたばたばた……がちゃん』


誰か隣に来た…!紙はねえけど、神の救いはやってきたぞ!

『じゃばああああああ……』

…いや、待て。
初っ端から派手に水流してる…て事は、今隣にいるのは音を気にする層の人間。

1年目の頃に学習したが、女所帯ゆえ女子高的なノリも強い…女子トイレが満員で、難を逃れにこっちに逃げ込んだ艦娘の可能性が高い。
誰だ…?この際背に腹は変えられねえ、ノックだ!


「………誰かいないか?」


そう拳を握った瞬間、先に弱々しいノックと声が隣から響いた。

……この声、さっき聞いたな。
ああ、そうだ…これはまさに俺の腹痛の元凶…!


「……磯風、てめえか。」

「その声はさっきの新人だな。
ふふ……紙が、無いんだ…助けてくれ…。」

「……お前もか。」

「まさか…あなたもか。」

「ああ…紙は尽き、神は死んだ。」

壁一枚隔て、しかし共に堕ちるは蟻地獄。

地獄への道は善意で舗装されている…まさにその通り。
眼鏡への善意で文字通りの飯テロリズムをぶちかましたこいつもまた、己の身すら地獄に叩き落としたのだ。

…食わせたの、俺だけど。

157 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 03:58:06.93 ID:YFzNwdWXO

「そうだ、兄ぃに紙を持ってきてもらおう!」

「兄ぃって憲兵長の事か?あいつならトイレの神様になったぞ。お前のアレで。
こっちは頼れる筋は全滅、もう万事休すだ。
磯風…逆に誰かに連絡を取れないか?お前なら姉妹艦を頼れるだろ?」

「ふっ…この磯風を誰だと思っている?スマホなど、部屋で絶賛充電中だ……!」

「……GUSOHを漏洩させて大惨事を引き起こした挙げ句、自沈もするとはマヌケだな。“いそかぜ”だけに。」

「ふふふ、言うじゃないか“チン兵”さん?
今更下半身以上に晒す恥など無いだろう?大人しくこの磯風の為に紙を取りに行くんだ…。」

「言ったなてめえ。そもそも何で女子トイレが埋まってるんだ?お前、何人かに食わせただろ?」

「ああ、見た目はよく出来たから、皆褒めてくれたよ…お裾分けして、そのまま詰所に向かったんだ。
浜風、浦風、谷風…良い仲間を持った…。」

「きっと今隣で唸ってるのはそいつらだぞ。
近くで見てて鼻がバカになってたんだろ、アレ臭かったし。」

「な…臭いだと!?私は臭い物を兄ぃに喰わせてしまったと言うのか!?」

「確かに将来臭い飯喰わされそうな奴だけどな。
あいつの事を思うんなら、せめて人間に食えるもん作ってやれよ。冗談抜きにその内死ぬぞ。
折角作ってくれたもんを無下にしたくなくて、今まで無理して食ってたんじゃないか?
女に甘いバカだけど、従姉妹なら尚更だろ。」

「……そうか。私は…何と言う事を……うっ!?」

何度となく水洗音が、隣から響いた。
ああ、まるっと一個喰わせたもんな…そいつがやっと落ち着いた頃、弱々しい声が聞こえてくる。

「……兄ぃはな、小さい頃から何度も遊んでくれたんだ。艦娘になった今だって面倒を見てくれて…。
少しでもそんな兄ぃを労いたくて、今まで何度も作って……サンマだって、やっと少し焦がす程度に収められるようになったのに…。

ああ、この腹の痛みが罰なのだな…ふふ、きっと私は夜までここから出られず、クソ風とか言われてしまうんだ……。」

……………。

……ちっとばかり、言い過ぎたかな。

158 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:01:34.36 ID:YFzNwdWXO

「…ま、確かにお前の言った通りだな。今更晒す恥なんてありゃしねえ。
これで貸し一つな、俺が取りに行ってやる。」

「新人…ありがとう…!」

「これに懲りたら、今度は美味いもんあいつに作ってやれよ。」

はぁ…大の男が半ケツによちよち歩きかよ…しゃあねえなぁ。
でも可愛げのねえクソガキだと思ってたが、人思いなとこもあんじゃねえか。だったら一肌脱いでやる。

ずり落ちたズボンのまま移動する様はマヌケ以外の何者でもねえが、俺の気持ちは晴れやかだった。
最初からこうしときゃ良かったんだ、さーて、棚を開ければ……。


「…………磯風。」

「どうした……?」

「天は俺達を見捨てた。」


棚の中は、何度瞬きをしてもがらんどうだった。
棚に紙など無い。そしてこの世に神など無い…!!

この男子トイレに個室は2つ、どっちも俺達が使っていた。
水道んとこもペーパータオルじゃなくエアータオル、もう一体どうしろってんだ。

うなだれたまま、すごすごと個室へと戻る。
磯風も察したのだろう、もはや何も言わない。
沈黙が重い、人は真の絶望を前にはもはや言葉も出ないのか。

ここのトイレ掃除、確か艦娘の当番制だったな…サボった奴、絶対シメる。

「ふっ……なぁ新人、もう仲良くクソ艦娘とクソ憲兵になるしかなさそうだな…。」

「クソを連呼するな。前んとこの問題児を思い出す…ん?」

…着信?ああ、メルマガね。眼鏡かと期待したんだが……。


………待て、一つだけ手はある。

159 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:02:52.62 ID:YFzNwdWXO

「磯風…翔鶴と俺の関係は知ってるか?」

「知っているぞ。あなたは翔鶴さんの元カレだろう?
皆ロマンチックだとか騒いでいたが…あなたはどうやら、彼女の事は苦手なようだな。」

「ああ、まぁ色々あって別れたからな…。」

「……まさか!?」

「……そのまさかだよ!」


あいつなら、艦載機を使って俺達に紙を届ける事も出来る。

やべえ、ドキドキすんなぁ…でもやるしかねえ。
俺とこのクソガキの名誉の為、何より最後に犠牲になるのは年長の務めだ。

ふー……行くぜ、発信!!


『もしもし?』

「頼みがある…。」

『ふふ…言ってみて?』

「ああ、実はな……。」

『そう…磯風ちゃんも災難ね。いいわ、届けてあげる。

今度一日、デートしてくれたらね♪』


…………一日かぁ。

もう、迷ってる場合じゃねえな。

160 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:04:46.83 ID:YFzNwdWXO

「わかった。どっかの休みで一日くれてやる。だから俺達を助けてくれ。」

『了解♪ちょっと待っててね。』

「ありがとう…。」

『ふふ、どういたしまして。』


5分もしない内に、窓からエンジン音が聞こえてきた。
上の方から放り込まれたのは、まさに蜘蛛の糸の如き白さを放つトイレットペーパー。
本来なら真っ先に自分のケツを拭いて渡す所だが…。

俺はまず、そいつを隣の個室に放り込んだ。

「先に使いな。そんで何事も無かったかのように出てけ。いいな?」

「……良いのか?」

「俺も憲兵としての立場がある。変にタイミング被って、訳わかんねえ誤解になるのは勘弁だからな。後から出てくよ。」

「……ありがとう…本当に、ありがとう…!」

「これに懲りたら、まともなもん作れるように頑張れよ。
甘いもんは嫌いじゃねえ、今度は美味えの期待してるぜ?」

「……ああ、この磯風に任せておけ!」

磯風は自分の方を済ませると、俺の個室に紙を放り込み、またありがとうと言って去って行った。

161 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:05:48.83 ID:YFzNwdWXO

「ふーー……。」

さっきはああ言ったが、実際の所後から出ると決めたのは、あの約束のせいだった。

デートか……この土地に来て間もない今じゃ、あいつ主導になる流れだよな…何が起こるんだろ。
今になって、ものすっっっごく不安になって来てたんだ…。

ああ、考えてもらちが明かねえ…まずは出るか…。
今は紙があると言う事に感謝し、この地獄から脱しゅ……


「痛ぅううううううううっ!!??」


隙間から入る、夕暮れのオレンジに染まる個室の中。



俺のケツは、切れていた。


162 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/05/13(日) 04:07:53.97 ID:YFzNwdWXO
今回はこれにて終了。
そろそろ艦娘側にもツッコミ枠が必要かな…。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 08:08:56.25 ID:Y/NcsmEX0
うむ、面白かった
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:16:17.40 ID:Z7UZmZZcO
銀魂みたいに紙幣で拭けばよかったんでね?
更新乙さま
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:19:06.29 ID:ZEP5v09CO
乙です。相変わらず別作品とのギャップが酷いw。
突っ込み役……霞ちゃんとか?年長組なら飛龍あたりかな。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 09:58:10.13 ID:yxzAL8V30
何故瑞鳳を頼らなかった!?
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 10:06:48.71 ID:ZEP5v09CO
>>166
づほまだ来てなかったんじゃなかったっけ。
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 12:40:48.00 ID:PV11j0MGO
飯テロ枠にちゃんと厳しく当たる主役も、メシマズを素直に認め受け入れる艦娘も珍しいからすっきりした。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 15:12:21.14 ID:iDsVhFOA0
更新感謝
乙おつ
そういや昔の駅のトイレってだいたい臭かったな
紙が無いときの絶望感と来たら……
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/16(土) 14:34:50.95 ID:h+MUqiKA0
まだ?
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 03:10:30.04 ID:Rc8F7EBx0
今更だが、ex彼女って英語で元カノって意味だったのか
172 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:31:59.36 ID:wOWVZ7vhO

実は前のとこで揉めた件以来、あいつは大人しくしていた。

過激だったストーキングの度合いも、暇な時にこっちを覗いてくるぐらいに。
特に話しかけてもこないし、もちろん俺からは声掛けたりもせずだ。

このままただの艦娘と憲兵の関係に…と思ったが、結局それは数日も持たなかった。
磯風がマカロンと言う名のGUSOHをおみまいしてくれた件で、助けてもらう代わりにデートの約束をしちまったからだ。
あの時トイレに紙があればな…と、今でも思う。

だが、約束は約束だ。
大人しく休みの日程をあいつに献上し、日取りも決まった。

自分から振った元カノとデート…響きだけでも気まずさ満載。
さて、一体何が起きるやら……。


何も起こらない訳、無かったけどな。

173 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:32:40.67 ID:wOWVZ7vhO



第9話・布団の精



174 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:34:39.44 ID:wOWVZ7vhO

駅前広場にて、ぼんやりと立つ午前。遂にこの日が来ちまったか。

一緒に鎮守府から出てくのは、さすがに全力で断った。
眼鏡を始めとした冷やかし組が、こっそり覗いて来るのは分かりきってたからな。
何なら今だって、尾行班がいねえか確認しながら来たぐらいだ。

よって今回は待ち合わせ。
少しでも一緒にいる時間を削る腹積もりでいたが、待ち合わせにしようと言った時、あいつは何でか妙に嬉しそうだった。

リュックの中も徹底的に探った、妖精も隠れてない。
まぁ、今回は街をぶらつくだけだ。ついでに買い物したかったし、そっちに集中してれば1日も終わるだろう。

さて…ぼちぼち来るかな。

175 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:36:48.92 ID:wOWVZ7vhO

「お待たせ。」

「…おう、おはよう。」

めかし込んで来たあいつにそう挨拶すると、何とも説明し難い気持ちになった。
高校ん時を思い出すな…当時と違うのは、俺のテンションはさっきの通りって事。

そもそもデート自体、こいつと別れてからはした事ねえしな。
あの時はいずれ違う人となんて思ってたが…まさか成人した今、知らない街でまたこいつとなんて思わなかった。

「まずはどこに行こうかしら?」

「店覚えがてら回りたいんだよ、服屋とか分かる?」

「そうね、それならこっち。行きましょう。」

ごくごく自然に手を掴まれ、繁華街の方へと引っ張られていた。
表向きは微笑みぐらいなもんだが、随分と機嫌が良いのが理解出来るのは、昔取った杵柄って奴か。

「へー、結構栄えてるもんだな。」

「そうよ、大体の買い物はこの辺りで済むの。下見は出来なかったって言ってたものね。」

「前んとこ終わってからも、本部研修や引越しで忙しかったからな。
あそこもここに近いけど、結局あっちの方で大体済んでたし。」

…だからこいつがいるの、知らなかったんだけどな。

176 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:38:33.61 ID:wOWVZ7vhO

何度か異動してりゃ多少顔も効くが、去年は新人だったわけで。
担当の鎮守府以外、特に交流も無かった身だ。

あっちの問題児なんてたかが知れてたんだけどなぁ…こいつ抜きでも、なかなか今の所は骨が折れるぜ…。
ああ、思い出すとケツが痛え…診てもらったら軽傷だったけど、まだちょっと気になるんだよなぁ。

あ、そうだ。せっかくだし探してみるか。

「…悪いけど、後で寝具見てもいい?」

「枕が合わないの?」

「いや、こないだの磯風の件で、ちょっとケツがな…。」

「それなら買わなくても大丈夫よ、鎮守府に良いものがあるの。」

「どんなの?」

「うん。前に戦闘である艤装核を回収して、その核で艤装を組んだら…。」

「……待て、それ見た事あるかも。」

「駆逐や海防の子達が、よくあれで遊んでるわね。浮き輪さんって皆呼んでるけど。」

「アレに座れってか!?」

アレ、確か元々深海のだろ…何故か艤装と一緒に出来たって言う。
カンチョーとかされそうなんだけどよ…実は生きてたりしねぇだろうな。

「ふふ…冗談よ。あ、これあなたに似合いそうじゃない?」

「お前なぁ…。」

意外と茶目っ気があるというか、たまに人をおちょくってみたりするのは相変わらず。
久々だな、この読めない感じ。

ふむ…これはなかなか…。

「いいなこれ、買うか。」

「気に入ったの?」

「ああ、そろそろ暑くなるだろうしな。」

「ふふ…よく似合うと思うわ。」

何て事ない、新作のTシャツ1枚。
でもあいつは、俺がそれを買うと妙に嬉しそうだった。

……調子狂うな、何か。

177 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:40:39.49 ID:wOWVZ7vhO

集合は11時だったから、一旦買い物をストップしてメシを食う事になった。

まだ土地勘のない俺は、勧められるままにとある店へ。
そこはこいつのお気に入りのカフェで、今は丁度ランチをやってる時間帯のようだ。

「良いところでしょう?」

「そうだな…こっち来るまでは飲み屋ばっかりだったし、新鮮だ。」

「……あの子と?」

「づほとサシが一番多いけど、6〜7人で飲む事も多かったよ。
たまーにづほが暴走して、俺と加賀さんで止めたりな。」

「…本当に仲が良いのね。」

「あっちで一番仲良かったな。
今度異動してくるけど、前みたいに喧嘩すんなよ?あいつも酒乱の気はあるけどよ…。」

「大丈夫よ。あ、お姉さん元気?」

「……相変わらずだよ。盆と正月に会ったけど、あのバカ本当変わんねえ。
私生活の仲はともかく、仕事じゃ絶対関わりたくねえ。身内捕まえたくねえもん。」

「ふふ、こっちはお姉さんの所からは遠いからね。そうそう演習で来たりはしないでしょう。」

「だといいけどな。」

…変わんねえのは、姉貴だけじゃねえけどな。

こうしてメシ食いつつ話してると、付き合ってた頃みてえだなとデジャヴを覚える。
いや、でも変わったか…あの時は小遣いやりくりして安いファミレスだったが、今はそこそこするカフェ。
俺らも大人になったんだなぁと、妙に月日を感じた。

それでも会話の雰囲気だけは変わらない。
そんな矛盾が、妙にくっきりしたものに思える。

……再会してからゴタゴタばっかりだったけど、ちゃんと話したのは久しぶりだな。
178 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:42:03.38 ID:wOWVZ7vhO

カフェを出て次に向かったのは、街中のファッションビル。
見たいものがあるからってついて来たものの…おや、何やら俺には縁の無いものばかりな気が…。

「ごめん、ちょっと待っててもらっていい?下着見たいの。」

「ああ、じゃあロビーのベンチにいるよ。」

付き添いとは言え、俺も流石にそこは入りたくない。
ひとまずゲームで時間潰す事にして、没頭し始めた時だった。


『にゅっ…』

「冷たっ!?」


首に冷たいものが触れ、思わず声が出た。
あいつかぁ?たまーにこんなイタズラしてたけどよ…。




「ふふー、こんな所で何してるの?」

「………づほ。」



………お前にだけは、この台詞は言いたくなかった。
今は会いたくなかったぜ、親友よ。

179 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:44:06.38 ID:wOWVZ7vhO

「へへへへへへ……あ、ああああなたこそ何をしてらっしゃるんでしょうか…?」

「下見ついでに買い物よ。もうすぐ異動だし、色々見とこうと思ってね。
でもここ下着売り場だよ?こんな所で…あ、もしかしてそっちに目覚め…。」

「んな訳ねぇだろ!人待ってんだって!」

「……誰?」

「……翔鶴だよ。色々あってな、今日は一日付き合わなきゃいけねえんだ。」

「へー……何?脅された?」

ゴゴゴゴゴ…ってな擬音が聞こえて来そうなど迫力。
あ、ダメだこりゃ。あの時ゃ酒入ってたけどよ…づほ、シラフでもめちゃくちゃあいつの事嫌いだぁ…。

「貸しを作ったんだよ…それを返すだけの話だ。」

「そっか……じゃ、行こっか?」

「うん、俺の話聞いてた?」

いつの間にやら首に当たるのはペットボトルから、俺の襟をがっつり掴む拳に変わっていた。
やべぇ…今鉢合わせたら大惨事だ。てか、何でこんなにあいつを目の敵にすんのこの子は!

180 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:47:29.57 ID:wOWVZ7vhO


「………スポーツブラなら、下の階よ?」


嫌に立体音響な靴の音。そんで冷たい声色。

あ、あれ…寝違えたかなぁ…首が全然回んねえや……。
あはははは…あは、あははは、あは…。

「はい、あなたはこっち向いて♪」

「…あばっ!?」

……実際は関節通りだけどよ、心の首はメキャっと折れたよ。
ああ……目元に…目元に影がかかってらっしゃるスマイルゥ……!

「…ババシャツでもお探しですか?ここは少し年齢層が合わないと思いますけど。久しぶりね、翔鶴さん。」

「ええ、お久しぶりね。
ところで何をしているのかしら?苦しそうだから離してあげて。」

「後で離してあげるわ。ついでにあなたからもね。」

「づ、づほ…マジで締まって…る…。」

「あ!ごめん!」

パッと襟こそ離してもらったが、一向に息が吸えた気がしねえ。
酸素が薄い、空気が重い、ここは精神と時のベンチか!?

はぁ…でもここはこないだと違って鎮守府じゃねえ、普通の商業施設だ。
軍関係者が揉めようもんならもっと面倒になる、こうなりゃ意地でも止めるっきゃねえ。

「まぁまぁお前ら、ここは一般施設だ…穏便に行こうぜ…。」

「そうね…『穏便に』帰ってもらわないといけないわね。」

「そうそう、『穏便に』あなたに離れてもらわないとね。」

……加賀さんの教えを思い出せ、俺。手を出せなけりゃ、口を上手く出せだ。
今考えるべきは、どっちから止めるべきか…。

ここはまず、こいつだ!

181 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:48:44.06 ID:wOWVZ7vhO


「……俺、喧嘩っ早い女は苦手だなぁ。」

「「え"」」


…なんで二人とも反応すんだ?


「そ、そうね、確かにここじゃまずいわ。」

「うん、危ない危ない。怒られちゃうよ。」

元カノに言ったんだが、何でかづほも引き下がってくれたらしい。
……ふー、まぁ落ち着いて良かった。危ねえとこだった…。

二人とも、以降はにこやかに談笑してくれてる。
やれやれ、もう少ししたら仲間になるんだ、仲良くしてくれなきゃ仕事増える一方だぜ…。


182 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:50:24.82 ID:wOWVZ7vhO

“何やってくれてんのよ?弱みでも握ったぁ?”

“助け舟を出しただけよ。あなた器用ね、彼から見えない方だけそんな怖い顔して。”

“あんたに言われたくないわ。女狐が隠せてないわよ?その薄目。”

“先約よヒヨコさん。悪いけど私が先なの。”

“…『元カノ』のクセに。”

“『今カノ』ですらないあなたに言われたくないわね。”

“……私が異動したら覚えてなさいよ。”

“せいぜい涙用のティッシュを用意しておく事ね。”

「「じゃあ、またね。」」

づほと別れ、そこからしばらくは街を回っていた。

それでこの後、事件が起きたんだ。

183 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:51:36.42 ID:wOWVZ7vhO

そうは言ってもここは片田舎、メインストリートから離れると人通りは少ない。
15〜16時ぐらいの半端な時間になると、町外れはなかなか目立ちにくいもの。

小川を見に行こうとあいつに誘われ歩いていたが、やはり人通りはまばらだった。

“ん?づほだ。”

そんな時、そこそこ先にづほが歩いているのに気付く。
声でも掛けようかと思った矢先、ゆっくりとワンボックスがあいつの横を通って。


目にも留まらぬ速さで、づほが車の中に引きずり込まれた。


184 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:53:10.20 ID:wOWVZ7vhO

「誘拐だ!!」

「えっ!?あれ瑞鳳ちゃんよね!?」

「憲兵長と警察に連絡してくれ!俺は追う!」

「わかったわ!気を付けて!!」

ナンバーは見えた…まだスピードは出きってねえ…!
フルスモのが露骨にぶっ飛ばしゃ、怪しいですって言ってるようなもんだ。

…クソっ!でも生身じゃキツいぜ!離されてく!

『プーーッ!!!』

あぁ!?今それどこじゃねんだよ!!

「お困りのようだな!乗れ!」

「…憲兵長!?」



185 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:54:57.95 ID:wOWVZ7vhO
「たまたま近くにいてな、翔鶴くんから連絡を受けたんだ。
よし、ナンバー撮影済み。これで拡散出来る。」

「サイレン鳴らさないんすか!?ランプ積んでるでしょう!!早くしないと…」

「まぁ待て。誘拐直後の場合、脊髄反射で動くのは避けるべきだ。
大抵はアジトか停車地がある。仮に強姦や身代金目的として、動くのはそこからだ。
ワンボックスと言う事は、最低4人はいると見ていい。今刺激するのは危険だ、殺害される可能性がある。
ましてや追突などすれば、人質も無事では済まない。」

「……大通りに出たら、逃げられますよ。」

「翔鶴君の方で、瑞鶴に艦載機を飛ばすよう連絡してもらった。
全速力なら通常の飛行機並には速い、すぐ来るだろう。」

『こちら瑞鶴。憲兵長、応答願います。』

「こちら憲兵長。瑞鶴、発艦したか?」

『はい。ナンバーは?』

「××502 、_の○○-○○。車種は白のワンボックス。」

『了解です。妖精達に伝えます。』

「頼む。
……気が気でないのは分かるが、心は熱く、頭は冷静にだ。まず然るべき対処は全て行え。」

「……はい。」

「大通りに出たか…おっと、つい手が触れてしまうな。」

「…それ、サイレンのスイッチですよね。あんたの本音は?」

「………今すぐ鳴らして突っ込んで、連中の関節全てを外してやりたい所だな。」

「……あんた、バカだけどやっぱ憲兵ですね。バカだけど。」

「ふっ…その暑苦しい正義感に免じて、今の暴言は不問にしてやろう。」

付かず離れずを繰り返す内に、相手の車は大通りに紛れ、やがて見えなくなった。
これで頼れるのは艦載機が投下した、発信機付きマグネット。
車の天井に貼り付いたそいつだけが、俺達にづほの居場所を教えてくれる。

づほ、待ってろよ…絶対助けてやるからな。
186 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 03:57:31.49 ID:wOWVZ7vhO

「止まったな…。」

「はい。」

発信機が示したのは、とある廃倉庫だった。

少し離れた所に車を停め、俺達はゆっくりと倉庫へと近付く。
あの車だ…あれは!?

“待て。眠らされているな……ほう、随分辺りを見渡すじゃないか。よし、撮影完了。”

“まだですか!?”

“そう急くな。警察に提出する証拠だ。
見張りは立てないか…扉が閉まった瞬間だ、そこで犯人は油断する。”

最後の犯人が鉄扉を閉めた。

俺達は裏の事務所に近付くと、まずガラスを割った。
そこそこでかい所だ、どうやら気付かれちゃいねえ。この廊下を抜ければ倉庫だ。

187 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:00:13.41 ID:wOWVZ7vhO

“よし、いるな……さて、今から突っ込む訳だが、確認事項がある。
通常我々憲兵隊には、犯罪者と言えど一般人を捜査・逮捕する権限は無い。分かるな?”

“ええ、昔とっ捕まりそうになりましたからね。”

“そうだ。だが、軍関係者に被害を加えた一般犯罪者に関しては…。”

““その限りでは無い。””

“上出来だ…最近少し運動不足でな、そろそろ動かなくてはいかん。”

“奇遇っすね、俺もそろそろこっちの道場探そうと思ってました。”

“ふむ…10人はいるか。ノルマは1人4〜6人、一斉に行くぞ。3…2…”

「オラァ!!」

「ぶふっ!?」

手始めに1人に蹴りを入れ、そいつを狼煙に手当たり次第ぶっ飛ばして行く。
3人目まで倒した辺りで、眼鏡の方を見た…あいつの首尾は……。

「がああああああっっ!!???」

「何だみっともない、少し関節を外しただけではないか。」

もう5人!?
うわ、何か色々向いちゃいけねえ方向いてる…。

「この野郎!!」

「……っと、危ねえな!!」

4人目上がり!これであと一人…づほはどこだ!?

「動くんじゃねえ!!こいつ刺すぞ!!」

「「………!!」」

最後の一人は、抱えたづほにナイフを突き付けていた。
野郎……!


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 04:00:46.71 ID:KICpYbPsO
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
189 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:02:44.43 ID:wOWVZ7vhO

「てめえら警察かぁ!?邪魔しやがって!!」

「違うな。通りすがりの憲兵さんと言う奴だ。
だがその子は艦娘だ、私達の管轄になる。貴様への逮捕権はもう発生しているのだよ。」

「来るな!本当に刺すぞ!?」

ナイフの切っ先が、づほの頬に薄く触れる。
つう、と血が滴るのを見た時、俺の意識は真っ赤になりかけたが…。

「……待て。」

「憲兵長?」

それも、肩を掴む腕に制止された。
眼鏡は私服…次の瞬間、そいつと不釣り合いな物がジャケットから取り出された。

「……動けぬのなら、『飛ばす』までよ。」

……銃!?

「…正気かてめえ!!知ってるぜ!け、け、憲兵に一般人は撃てねえ!!」

「確かにそうだな……発砲しようものなら、大事件となる。だが…

それがどうしたと言うのだ?」

「………っ!!」

眼鏡の顔を見た時、確かに背筋に冷たいものが走った。
こいつ、本気だ…!

「………貴様のような素人のナイフと、私の銃弾。一体どちらが速いかな?」

「ひっ…!?」

動けねぇ…引き金がゆっくり動き、俺は思わず目を閉じた。


次の瞬間。

190 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:05:09.87 ID:wOWVZ7vhO


『ぱりぃん!!』



「何だ!?」

ガラスが割れる音と共に、何かが飛び込んで来た。
あれは…矢か!?

『ぷしゅううううう!!!』

「__!!今よ!!」

煙幕と、俺を呼ぶ声。

そいつに気を呼び戻された俺は、真っ先に犯人へと向かった。

「……くたばれやオラァ!!」

「がぎゃっ!?」

足の甲が、ガッツリこめかみを捕らえたのを感じる。
後は無様な悲鳴と、廃材に突っ込む音のみだ。

……ふー、終わったか…。

191 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:08:34.19 ID:wOWVZ7vhO

「づほ!!しっかりしろ!!」

「……ん……__!?」

「良かった…もう大丈夫だ!安心しろ!」

「……__…ありがとう!!怖かった…怖かったよぅ……!」

「…大丈夫だ。皆ぶっ倒したから。」

思わず抱き締めちまった通り、実際心底安心したのは俺の方だった。
づほは無二の親友だ…本当に、助けられて良かった。

「……良かったわね、本当。」

「__…いや、お前があちこち連絡してくれなかったら、こんな上手く行かなかったよ。ありがとう。」

「翔鶴さん…ありがとう。」

「ふふ、どういたしまして。」

……違う意味でも、礼を言わねえとだな。
もしこいつが煙幕撃ち込んでなかったら、眼鏡は本当に…。

「……さて、一件落着かな。」

「…憲兵長……。」

「この銃の事か?まぁ見ていろ。」

「げっ!?」

『ぽんっ…!!』

「………国旗?」

「ハッタリさ。ただのマジック用の玩具だよ。
プライベートでの銃器の携帯は禁止だろう?」

「……んだよもー!ビビって損した!」

「くく…まだまだヒヨッ子だな。」

ったく、ビビらせやがって…。
でもあの時の目、あれは……つくづく訳わかんねえ奴だな、このバカ。

192 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:10:08.67 ID:wOWVZ7vhO

のびてる奴らを全員縛って、警察が来るのを待つ事になった。
ん?眼鏡の奴どこ行った?

「失礼失礼、少し探し物をしていてな。」

「それタライですか?」

「ああ、裏に池もあった。君達、少し退いていたまえ。」

犯人グループに水をぶっかけると、全員釣られた魚みたいにビクビクと眼を覚ます。

……叩き起こしてどうすんだ?

「……所属は違えど、艦娘が被害者だからな。引き渡す前に、こちらとしても調べておきたい事がある。
さて…貴様らの動機は何だ?」

「……いいロリがいたと思ったから攫った。」

「ほう、つまり乱暴目的という事か?」

「……ロリ?」


あ。



193 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:13:04.34 ID:wOWVZ7vhO

「づほ、抑えろよ…。」

「うん、大丈夫…大丈夫だよ…。」

「くく…貴様らの攫ったこの子は、2×歳だがな。
だがどの道、貴様らのような外道の行き先は決まっている…もうじき貴様らの大好きなワンボックスが来るぞ?金網付きのな。」

「はぁ!?20代だぁ!?んだよババアだったのかよ!!」

「………………。」

空気が一気に重くなった。

づほはと言うと……あーあ…俺もう知らねえぞ…。

「………憲兵長さん、そいつの脚持ってもらっていい?
うん、もうちょっと股拡げて…そうそう、そんな感じ。
ふふ、九九艦爆と違って、全然可愛くない脚だね……真ん中の脚も憎たらしそう…

……死ねぇっ!!」

「______!!!!」

ぐしゃ…と、した音が聞こえた時、俺は思わず自分の股間を押さえた。
うわ…あいつ今日ブーツじゃねえか…えっぐぅ…。

「ふんっ!!ロリでもババアでも無いわよっ!」

「あはは……ず、瑞鳳ちゃん、大胆ね…。」

「翔鶴さん!女の敵に情けは無用!」

「はっはっはっ!瑞鳳君、なかなかやるじゃないか!」

「ははは……。」

194 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:17:22.49 ID:wOWVZ7vhO

犯人達も無事逮捕され、づほも念の為に病院に搬送された。
残ってるのは警察と、俺達ぐらいなもの。

「では、事情聴取はまた後日で宜しいですね?」

「はい、ご協力誠に感謝致します。」

眼鏡が上手く話を付けてくれて、どうやら今夜は帰れるらしい。
ふー…何だか疲れちまったな…。

「乗って行くか?」

「そうですね…正直もう歩きたくもねえっす。」

そう助手席に乗ろうとすると、運転席の眼鏡にドアをロックされた。
後ろに乗れ?あぁ…なるほどね。

「隣、乗ってくか?妹は先帰らせたんだろ?」

「いいの?」

「……鎮守府に帰るまでがデートです。」

「…うん!」

あいつも疲れてたんだろう、短い距離ではあったが、すぐに眠っちまった。
俺はと言うと、ぼーっと窓を見るばかり。

…だから手に触れるものがあったのは、特に気にも留めなかった。

195 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:19:28.02 ID:wOWVZ7vhO

“はーあ……ハードな1日だったぜ…。”


シャワーも浴びたし、ようやく愛しの我が部屋だ。
疲れた……このままベッドにダイブ…

「……おい、髪はみ出てんぞ。」

「だれもいませんよ。わたしはふとんです。」

「あー、何か固い所がいいなぁ。今日は床で寝るかぁ。」

もうダメだ、まともに追い出す元気もねぇ。
座布団を枕に寝入ろうとすると、ベッドの中からにゅっと手が出てきた。

おいでおいでしてる…いや、ちょっと怖えよ。

「かぜをひいてしまいますよ。ふとんへおいでなさい。」

………ま、そっちの方が疲れ取れるかぁ。

196 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:21:22.98 ID:wOWVZ7vhO

「言っとくけど、何もしねえからな。変な事したら確保。」

「うん…わかってるわ。」

ベッドに入ると、人肌で暖まった布団が何とも心地良かった。
あいつは片腕に頭を乗せて、体を寄せてくる。でも、ただそれだけだ。

…懐かしいな、何か。

「約束は今日一日だもの。まだ終わってないわ。」

「俺が寝るまでが一日か。長えもんだな。」

「……うん。もう一度、こうしてあなたと眠りたかったの。」

「……そうか。おやすみ。」

この時俺は、いつかの昼寝を思い出してた。

あの桜の日だけじゃねえな…あの頃はよく、何するでもなくこうして昼寝してた。
会うのは大体道場や部活の後で、お互い疲れてる時も多かったもんな。

……懐かしい匂いだ。

気付けば隣から、すうすうと規則正しいリズムが聞こえてくる。
それに釣られるがまま、俺も段々と意識が遠のいて行った。

197 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:22:54.75 ID:wOWVZ7vhO

寝る前最後に覚えてたのは、いつの間にか触っていた髪の感触。
そのまま朝になると、隣はもぬけの殻だった。

時間は…いつも通りか。
でも随分ぐっすり寝てたらしい、昨日の疲れもすっかり取れていた。

後に残っていたのは、あいつの匂い。
ゆうべ通りの懐かしさを払うように、俺はガバッと体を起こし、思わずぼやいた。



「……ったく、調子狂うぜ…。」



いつもより長く顔を洗って、ようやくそいつを振り払えた。
バカな上司と無茶苦茶な艦娘に振り回される、そんな一日が今日も始まる。


でも何となく、頭の中にはその匂いが残っていた。

198 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/20(水) 04:24:03.96 ID:wOWVZ7vhO
今回はこれにて終了。
次回から、いつもの頭の悪さに戻して行きます。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 15:36:23.74 ID:drHOiRGj0
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 15:50:23.41 ID:F9HQCXY5o
おつなのじゃ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 07:07:07.66 ID:PusqDkuj0
乙!
ずほ可愛い
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 23:13:21.20 ID:pBwBfngMO
超乙!

づほ、自分の想いに自覚ありだったかw
203 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:50:35.55 ID:c2YSnnAMO

憲兵の仕事は、何もやらかした奴をとっ捕まえるだけじゃない。

鎮守府内の見回りもだし、やって来た要人の警護もある。
他にも暗黙の業務なんて呼ばれるもんもあって、他の艦娘や提督に話しにくい悩み相談に乗ったり、時折遊び相手になってやったりもする。

そんな感じで表裏と色々仕事があり、その中の一つに夜警がある。
要は深夜の見回りだが、こいつが曲者だ。


俺、実はな……。


204 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:51:17.64 ID:c2YSnnAMO




第10話・食べ物は大切に



205 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:52:43.11 ID:c2YSnnAMO

深夜24時過ぎ、懐中電灯片手に廊下を歩く。

週に何度かある日常風景だが、生活臭を感じる場面だ。
例えば寮を回ると静かだったり、或いはテレビの音が聞こえて来たり。
次の日夜戦の子は遅く寝ないとだから、あの子は夜からかぁ、なんて思うもんだ。

ここの寮は6階建て。
各階をくまなく回るんだが、トイレに起きた駆逐や海防の子を保護するなんて事もある。
怖くなって帰れなくなった子もいたりするからな。

……ま、『お客さん』はそればっかりじゃないんだけど。

“うわ、先輩方かよ…ああ、どっかの爺さんもいる。やっぱ多いなぁ…この立地だと。”

軍服やらセーラー服やら爺さんやらおばさんやらが、廊下にポツポツと立っている。
でも侵入者であって、似て非なるもの。

この鎮守府の斜向かいには小さい山があって、そこには寺と墓地がある。
だからだろう、お散歩に来る皆様がいらっしゃる訳だ。


そうなんだよ…俺な、実は霊感あるんだよ…。


206 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:54:29.90 ID:c2YSnnAMO

「ふむ、今夜も異常無し。平和で結構だな。」

隣を歩く眼鏡は、呑気にそんな事をぬかす。
まぁ見えなそうな奴だし、そんなもんかと思う。

幽霊って言っても、別に何かして来る訳じゃない。
やらかして来るのは大体悪霊の類、そんな積極的な奴はそうそういないもんだ。
ましてや霊感が強いって言っても、俺は見えるだけ。基本的に、除霊や会話が出来る訳じゃない。

俺にとっては、言わばモブみたいなもん。
慣れちまえば恐怖心はまず感じない、あいつの妖精ストーキングの方が何倍もおっかねえ。
しかし、やっぱここ多いな…鎮守府は運動場じゃないんだけども。

「こうも暗いと、幽霊の一つや二つも出そうだな。
貴様、その類は信じているか?」

「いや、見た事無いっす。艦娘の艤装やら妖精やらあるぐらいだから、いるとは思いますけどね。」

「そうか、私も見た事が無くてな。
だがこうして夜警をしていると、時折駆逐の子を保護する事もある。
以前幽霊を見た!と動けなくなった子を見つけた事があってな、漏らすわ泣くわで大変なものだったぞ。」

……お仲間か。俺もガキの頃、そんな事あったなぁ。

積極的に人に言おうとは思わねえし、見えない奴からしたらただの変人だ。
あ、血塗れの婆さんだ。眼鏡ー、目の前にいるぞー。

『かんっ…。』

あ。

爪先を引っ掛けちまった俺は、咄嗟に眼鏡の肩を掴んだ。
そんで指が触れた瞬間。


「なーーーーっ!!!!???」

「うおっ!?」


廊下に響き渡るでかい声。
眼鏡は叫んだ後、らしくもねえ真っ青な顔をしてた。

207 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:56:19.29 ID:c2YSnnAMO

「どうしました?」

「い、いや…気のせいか。何でもない、先へ行こう。」

何だ一体…相変わらず周りに幽霊がいる事以外、変わった事は無い。
今日は特にウヨウヨしてんなぁ……ん?そう言えば聞いた事があるな。
確か近親者に霊感持ちがいたり、日頃霊感持ちと長時間過ごす事が多いともらうケースが…。

……ほーう。原理は分かんねえけど、俺が触れると見えるって事か

ふっふっふ…日頃の仕返しだ。
よーし、たっぷり見せてやろうじゃねえか。ようこそこちらの世界へ!

『ぽん。』

「あーーーーーっ!!!???」

「何なんすか騒々しい。」

「き、き、き、貴様も見ただろう!?今血塗れのババァが!!」

「疲れてんじゃないですか?何もいませんよ。」

いるけどな、血塗れのババァ。

くくく…弱みがねえと思ってたけど、良いビビリっぷりじゃねえか。こいつ、さては幽霊ダメだな?
おーおー、目が完全に焦ってる。よっしゃ、もう一発触れて…

208 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 00:58:06.37 ID:c2YSnnAMO

『がしっ…。』

「ぎゃあああああああああああっ!!??」

「のわっ!?」

え?何も触ってねえぞ?

何のこっちゃと眼鏡の足元を見ると、暗がりから伸びる手が一つ……。
いや、幽霊じゃねえなこれ…って白い髪が…。

「助けて…。」

「しょ、翔鶴君か…どうしたのだ?」

「その、腰が抜けちゃって…。」

「何かあったのか?」

「………え、ええ、ちょっとびっくりしちゃって…。」

大の女が腰抜かして廊下にぶっ倒れる…あれ?何か嫌ーな予感。
部屋まで送ろうと、あいつに手を伸ばした時だ。

「兄ぃ!!!」

「ふぐぅっ!?」

今度は眼鏡の脇腹がくの字に折れた。
眼鏡に縋り付く影…のTシャツには、燦然と輝く『メシウマ』の文字。
今度は磯風か…あれ?なんかヤバい奴らが揃ったよーな…。

「さ、サンマが!サンマが廊下で跳ねてたんだ!!」

「おいおい、まだ春だぞ?疲れてたんじゃねえか?」

……動物霊、確かにいるけどな。猫やら犬やらのは、俺も何度も見た事ある。
でもサンマってお前…んな事言ってたら市場なんて祟りだらけに…。

「………アツイ…ヨ…アツイヨ……」

………ん?

「あ…兄ぃ……!」

眼鏡が、眼鏡でなくなっていた。
軍帽の下はいつものムカつくドヤ顔で無く…これは……


顔が…顔がサンマになってやがる!!



209 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:00:17.71 ID:c2YSnnAMO

「「「うわぁああああああああああああっ!!!????」」」

「マッテ…アツイヨ…。」

馬鹿野郎!クリーチャーは門外漢だ!!
全速力で逃げる俺達を、サンマ化した眼鏡は猛然と追いかけてくる。

待て…あのサンマ透けてる…。
よく見ると顔が変化したんじゃなく、マスクみてえに半透明のサンマが張り付いてる。

って事は、取り憑かれてんのか!?

「………磯風、一体何匹のサンマを炭焼きの為に焦がして来た?」

「……あなたは今まで食べた魚の本数を覚えているのか?」

「てめえのせいじゃねえかコラ!!どう考えてもサンマの祟りだろ!!」

「そんな事は無い!ちゃんと心を込めて焼いて来たんだ!」

「…で、そのサンマは結局どうなった?」

「…み、皆に振る舞おうとしたら、浜風に捨てられたな…。」

「絶対それだ!!」

「階段よ!上に逃げましょう!!」

上階に上がると、廊下に誰か立っている。
あの銀髪…あいつは…。


210 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:01:40.15 ID:c2YSnnAMO

「浜風!逃げろ!!

浜風…?」

そう磯風が呼ぶと、くるぅり、と、銀髪が振り向く。
その時俺達の方に向いたのは…。

「浜風……は、はま、はま……ハマチカゼエエエエエエェェッッッ!!!??」

「ハマチじゃねえサンマだありゃ!!取り憑かれてんじゃねえか!!」

「アツイヨ…オイシイ……ヨ…ウメエエエエエエエエエエェッッ!!」

「アツイヨ…タベ……タベテェエエエエエエエエエエエエッッ!!!!!!」

「きゃあああああああああっっ!!!!」

「__っ!?」

サンマ化した二人が真っ先に襲いかかったのは、元カノの方。
一か八か、咄嗟にサンマの顔面を蹴飛ばそうとしたその時。

「…前(ぜん)!」

「……!?」

その声と共に、眩い光がサンマ共を吹っ飛ばした。

「……やけにうるさいと思ったら、こんな事になってたのかい?酒が抜けちまったよ。」

「お前は…!」

「……隼鷹さん!!」

211 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:03:59.00 ID:c2YSnnAMO

「へー…サンマの悪霊ねぇ…ま、大した奴じゃなかったね。
でも変だな…いつもはここの連中、もっと大人しいんだけど。」

「う….私は一体……?」

「何があったのですか…?」

「お。二人とも落ちたみたいだね。
危なかったねー、あんた達。あたしが気付かなかったら、朝まで全員サンマだったよ。」

「隼鷹さん、一体何が起こっているの?」

「…そうだねぇ、式神使いの空母になる条件って知ってるかい?
艤装への適合以外に、『霊能者でもある事』なんだけどさ。

…だからわかるんだよねぇ、『他人の能力』も。」

…………こっちを見るな。
はは、もしかしなくてこの騒動の原因って…。

「霊能力って奴は、波があるもんさ。
例えば『普段は見えるだけ』みたいな奴が、ある日だけそれ以上になっちゃったりね。
そうなるともう、わらわら寄って来ちゃうんだ。助けてくれるって思ってさ。
ついでに言うと、そんな時ゃあ周りに移っちゃったりもするねぇ…。

みんな、ちょっとこいつの体触ってみな。」

『ぽんっ。』

「「「「うわぁあああっっ!!!!???」」」」

「だろ?人が悪いねえ新入り…あんた、見えるクチだね?」

212 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:06:54.57 ID:c2YSnnAMO

「ほう…つまり貴様は気付きつつも、私を驚かそうと霊感があるのを隠していたと。」

「はい……そうです…。」

「因みに霊能力の暴走を止めるには、一度気絶させちまうのが一番だよ。
疲れとかで波が出来たりするからね。」

「ほう、いい事を聞いたな。」

「………!!」

暗闇に眼鏡が光る。

あ、もしかして過去最大級にブチ切れてる?
お?何か両腕に柔らかいものが…

「…磯風、浜風、何のつもりだ!!」

「憲兵さん、すみません…。」

「ふふふふふ、い、今だってあなたに触れるとササササンマが見えるんだ…悪く思うなよ…!」

「いやお前を祟ってんだろ!!」

あれ?そう言えばあいつどこ行った?
ん?今度は腰に重みが…ああ、しゃがんでホールドしてるぅ…!!

「待って、そこホールドされたら本当逃げらんないんだけど…。」

「…………ごめんね。」

「……………嘘だろ。」

「さて……3点ホールドもばっちり、これは外す事も無さそうだな。
そうだな、貴様のような腕の立つ者を一撃で落とすならば…私も本気を出さねばならん。」

ボキボキと拳が鳴る。眼鏡は尚も光り続ける。
近付く軍靴の音…やがて眼鏡の反射が切れ、奥にある目が見えた時。


「…ちょっとチビりそうになったでしょうがああああああ!!!!!!」


もはや痛みも重力も感じる事無く、俺の意識はそこで弾け飛んだのであった。

213 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:09:28.73 ID:c2YSnnAMO


「元気か?」

「ふぉの顔見れ何言っれんふか……」

本日ハ病欠ナリ。自室ニテ一日ヲ過ゴス。
湿布と冷えピタだらけの顔面でな。

で、最初に見舞いに来たのは、俺をぶっ飛ばした張本人と。

「聞きましたよ、結局あいつらでもホールドしきれなくて吹っ飛んだって。お陰さんで全身打撲ですよ。」

「元は貴様のイタズラ心だろう?灸を据えたまでだ。
まさか貴様が霊感持ちだったとはな…あのような事があっては、私も信じざるを得んよ。」

「見えるだけですけどね。後は会話も除霊も出来ませんよ。」

「そうか。ところで一つ、貴様に訊きたい事がある。」

「……何すか?」



「__学ラン姿の女の霊を見なかったか?」



本当に珍しい、何なら初めてじゃねえかってぐらいの事だった。
急に茶化せないような真面目な顔で、眼鏡はこう聞いて来たんだ。


214 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:11:55.59 ID:c2YSnnAMO

「いえ…見た事ないですね。」

「………そうか。では、そろそろ失礼するとしよう。
待たせたな、入っていいぞ。」

「はい!」

「げっ!?」

「ふふふ…大変でしょう?今日はしっかりお世話してあげるからね。」

「いや、今日一日大人しくしときゃ大丈夫だから…。」

「だーめ。上から下までちゃんと見てあげるから…ね?」

「……走れば治る!!」

「待ちなさい!全機発艦用意!!」

「何その艦載機のマジックハンド!?」


いつの間にやら追いかけっこも戻っちまった。

つくづく思うけど、ここの風紀どうなってんだよ?眼鏡だけのせいじゃねえよな。
あの提督、まだ若いし優しそうな人だけど…そう言えばそこまでキャラ掴んでねえなぁ。一体何考えてんだ?

後に俺は、知る事となるのである。
提督も大概やべー奴…いや、眼鏡と提督のコンビが、一番危険なのだと。

あとついでに、メイン秘書艦もバカだった。


215 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/06/22(金) 01:13:35.05 ID:c2YSnnAMO
今回はこれにて終了。次回はまたいずれ。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 07:55:22.99 ID:OB6z3ubAo
おつだズイ
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 08:38:51.39 ID:yXFBDCBP0
メイン秘書官はだれなんだ……wktk
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/23(土) 01:22:52.40 ID:Tyl5yr680
乙々

学ラン姿の女の霊でありますか・・・一体何んこきつきつ丸のことでありましょうな・・・

219 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:21:13.00 ID:bRZ+SN5f0

「貴様、この後は暇か?」

ある日の勤務終了後、眼鏡からそう声が掛かった。

一体何だと聞き返してみると、飲みに行かないかとの誘い。
正直気乗りしなかったが、ここのメンツについてはまだ分からない事だらけ。
他に誰かいるなら行こうかと思い、とりあえず訊いてみた。

「ああ、元々貴様と飲んでみたいと言っている奴がいてな。それで訊いてみたんだ。」

「誰です?」

「………提督だ。」


この瞬間、絶対に断れない飲み会が確定したのである。


220 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:21:58.32 ID:bRZ+SN5f0





第11話・キングギドラ




221 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:23:47.26 ID:bRZ+SN5f0

タクシーで拉致られた先は、よくある大衆居酒屋だった。

提督か…未だに人となりを掴みかねてる分、ちょっと不安になる相手だ。
何てったって、あのデタラメな連中の頭。今時な爽やかさの裏に、一体何を隠してんのか分かりゃしねえ。

「お連れ様ですか?ではあちらのお席の方ではないでしょうか?」

案内された先に向かうと、私服姿の提督…。

と、もう一人、私服の女がいた。

「お疲れ様です。すいません遅れてしまって…。」

「そんな恐縮しないでいいよー、君らは僕らを取り締まる側でしょ?いいのいいの。」

…立場上はな。

ついでに憲兵隊は一応陸の所属、提督は勿論海軍。
昔から敵対する関係なんて言われてる。

だが、そんなもんは過ぎたる過去の話。今となっては、そこまでいがみ合うような時代じゃない。
まだ2年目の若造からしたら、目上である事に変わりゃしねえ訳。

こう言う場は、緊張もするって…。

「ああ、じゃあ生4つ。」

「はーい。」

席に座ると、俺達と提督チームで向き合う形。
世間話ぐらいはしてるけど、こう言う場でこの人と何話しゃいいんだ……と思っていると、提督から声が掛かった。

「翔鶴、君の元カノなんだってね。
前から忘れられない人がいるって言ってたけど、君の事だったのか。」

「え、ええ、そうみたいですね…。」

「あの子も少し変わった子だから、君に迷惑をかけてしまっていないかとね。



で、再会してからヤったの?」



うん、いきなり何言ってんのこの人。



222 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:25:40.25 ID:bRZ+SN5f0

「はっはっはっ!貴様もぶっ込むな!こいつにそんな甲斐性は無い!」

「あはは、そっかぁヤってないかー。ヨリ戻ってれば良かったんだけど。
いやぁ、この前添い寝したって聞いたからさー。」

眼鏡はと言うと、馴れ馴れしく提督の肩をバッシバシ叩いてやがる。
ちょっと待てやお前、いくら何でもダメだろそれは…!

「け、憲兵長…。」

「どうした?青い顔をして。こいつの事なら心配いらんぞ。」

「そうそう、僕ら小1からの幼馴染だからねー。」

「…はぁ!?」

幼馴染…つまり提督はこのクソ眼鏡と親友且つ波長が合う人間……。
この時俺は、現職場がデタラメな奴だらけな理由をようやく理解したのである。

どう考えても、絶対やべえ奴じゃねえか…。

「……陸海の核弾頭コンビ。このお二人の、軍内でのあだ名ですね。
強力だが手に余ると言う意味です。」

その時ようやく、提督の横にいた女が口を開いた。
黒髪に眼鏡のそいつは、一見するとさぞかし出来る女に見える。

ええと、確か名前は…。

「改めまして、主に秘書艦を務めている大淀と申します。」

「はい、憲兵の__と申します。」

「翔鶴さんはうちの空母のエースなんですよ。



で、いつヤるんですか?」



親指を人差し指と中指で挟むな。


223 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:27:43.77 ID:bRZ+SN5f0

「あっはっはっ!はしたないぞ大淀君!」

「いえ、つい。既成事実が出来きれば丸く収まるかなって。」

テヘペロしてんじゃねえ、なんだこのイカれた女は…。
待て…そもそも提督に秘書艦のコンビって事は、まさにあいつの被害を喰らった連中って事じゃねえか。

ダメ押しに眼鏡もいる…つまり、ヨリ戻させたい組筆頭が3人…!

「いやー、そんな怖い顔しないでよ。
確かに君と翔鶴がヨリ戻せば僕らも得だけど、今日はただ飲みたいだけなの。
せっかくのお酒の席だよー?親交深める為にも、ゲスい話とかしたいじゃない。

で、翔鶴以降は何人ヤったの?」

「……ヤってないです。はい。」

「セカンド童貞ですか?」

「……え、ええ…。」

「濁すな?」

「あー…危なかった時が、一回…。」

「よし、翔鶴にLINEしよ!」

「マジでやめてください!」

んな事されたら大惨事だ!
ああもうウゼェ…何だこのドSトリオはよ。

ちくしょう….こいつ自分でゲスい会話OKって言ったよな?
いいじゃねえか、こうなりゃ逆に質問してやる。もう恥の晒し合いだ。

224 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:30:57.13 ID:bRZ+SN5f0

「そう言う提督はどうなんですか?モテそうですけど。
18行ってない艦娘に手ェ出したりしてないですよね?俺達出動しちゃいますよ。」

「んー…確かこの前…。」

「…提督、またですか。だからこの前頬が赤かったんですね。」

「頬?」

「18以上の子は自由恋愛ですが、提督は艦娘には手は出しません。ついでに駆逐艦はストライクゾーンじゃないから論外。
その点は憲兵さん達のお世話になる事は無いでしょう。

ただ…代わりに外で女作りまくってますからね、この人。」

「いやぁ、僕、部下って認識になるとダメなんだよねー。」

「ある艦娘に私生活バレて、医務室送りにされましたもんね。殴られて。」

「あの時はさすがに私も仕事したな。殴るのはいかん。
しかしまたか。今度は何をした?」

「日取り間違えて、マンションに全員来ちゃったんだよー。帰ったら速攻ビンタラッシュだった。」

「懲りん奴だ。」

「『そう言うお友達』だったんだけどねー、段々本気になられてさ。」

「ふふ、相変わらずクズですね。」

「お淀キッツいよー。」

ああ…確かに『憲兵としては』しょっぴけねえわそりゃ…。
でも何だろう、この熱く迸るブン殴りたい気持ち。

ダメだこいつ、業の深え話ばっか出て来そうだな…そうだ、この際眼鏡に聞いてやろうじゃねえか。
くくく…日頃変態トークばっかしてるこいつの事だ、どんな強烈な振られ話が出てくるかな?

「憲兵長は何か無いんですか?」

「私か…ふむ、ではまず持論を語らせてもらおう。

火遊びと言うのは、後腐れを残すからいかんのだ。割り切った関係と言うならば、長く続けるべきではない。
花火はちゃんと、最後は水を掛けるだろう?でなければこいつのようにビンタを喰らう。」

「はぁ…。」

「私のプライベートはな…ワンナイト・ラヴと言う奴だよ。
一夜を共にする…それ以降はない。一期一会の切なさと素晴らしさは、何と説明すれば良いのか…。」

「いや、あんたカッコつけて言ってるけどナンパしてるって事っすよね。
しかも相手にも一発だけって割り切られてる前提で。」

「ナンパではない!ワンナイト・ラヴだ!英雄色を好むと言うだろう!?」

言い方こだわるな、おい。

そうだ…こいつ、容姿だけはめちゃくちゃ良かったわ。
成る程ね、一発だけなら人格のボロ出さねえってか…自分をよく分かってるぜ、悪い意味で。

225 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:32:49.22 ID:bRZ+SN5f0

「軍人って私生活荒れてる奴多いんだけど、君、意外と硬派なんだねぇ…。
そうだね、じゃ、ゲームでもしよっか?」

「ゲームって、何やるんですか?」

「……ふふふ、それはね…。」

「失礼致します、ご注文の品をお持ちしました。」

提督がニヤリと笑うと、店員が何かを片手にやって来た。
ストレートグラスが2つ、中身は濃い赤……何か薬臭えな。

「……アルコール度数35度、実に56種類のハーブから成る、ドイツ版養命酒なんて言われるもの…。
近年ではテキーラ、コカレロと並びパーティドリンクとしてよく飲まれている…。

イェーガーマイスターって、知ってる?」

この時提督は、実に愉しそうに笑った。
おい、同列に挙がった酒、最っ高に不穏な名前しかねぇんだけど…。

「では僭越ながら…お相手はこの私、大淀が務めさせていただきましょう。

ルールはこのショットを先に飲みきった方が勝ち。
敗者は勝者の言う事を聞くだけの、簡単なゲームです。」

「……因みに、罰ゲームは常識の範囲内ですよね?」

「勿論。そこはこの大淀プロデュースです、ご安心ください。」

……あれ?負ける前提で話進んでね?

イェーガーか…飲んだ事ねえぞ…。
まぁ見るからに酒に強くなさそうな姉ちゃんだ、ちょっと頑張れば勝てるはず。
俺だって軍学校の地獄の酒宴を潜ってきた、テキーラだったら何度もブチ殺されてきてる。

負けねえぞ…負けたら死ぬ気がするんだ。
よし、行くぜ…!

「3…2…始め!」

「……ぶほっ!!!」

号令が掛かり、いざ口を付けグラスを傾けた…瞬間にはもうむせてました。

俺、この味生理的に無理だった。

226 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:35:07.46 ID:bRZ+SN5f0

「……ふう、物足りませんね。あれ?どうかしましたか?」

「あ、言うの忘れてた。お淀はうちで一番酒強いからね。」

「ふふ…私の勝ちのようですね。では、罰ゲームですが…

今から憲兵さんには、ナンパをしてもらおうと思います!」

この時キラリと光った眼鏡を、俺は忘れる事は無いだろう。
ついでに、他の2人の狐面みてえな笑みも。

こいつら…ドSのキングギドラだ…!

「い、居酒屋ナンパって…ハードル高くないっすか?」

「そこはほら、やっぱり行動する事自体が罰ゲームですから。
仮に成功したとして、そのままくっついてもらってもこちらとしては構いませんし。」

「……その心は?」

「……それで翔鶴さんが暴走しなくなれば、こちらとしては大助かりですから。」

「ねえ、俺の命は?俺の命の安全は?」

いくらあいつでも、そこまで過激じゃないのは知ってる。
でもその一線は超えたら刺されるビジョンしか浮かばねえのは何故。

「まぁまぁお淀、小突くのはそこまでにしてあげてよ。
君が来て悪い事ばかりじゃないんだよ。翔鶴の士気は高くなって、あの子の戦果はうなぎ登りなんだ。」

「……そうですか。」

「……ただ上司としては、少々思い詰めている節は感じるけどね。
君がいるからこそ、戦闘に対してピリピリしてる部分もあるのかもしれない。
まぁそれはそれとして…

じゃ、行ってこよっか?」

「切り替え速っ!?」

「だって罰ゲームだもん、そこはちゃんとやんないとさー。」

はぁ…ナンパか……した事ねえよ、どう声掛けりゃ良いんだか。
いや、でもよく考えたらこの状況で初回、どう考えても誰も引っかかんねえだろ。ここはしれっと失敗して場を切り抜けりゃいいだけだ。
227 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:37:09.00 ID:bRZ+SN5f0

暖簾で仕切られただけの席を立つと、店内の様子がよく見えた。
一人客は…いない。後は普通にグループ。
声掛けるってなったら、ここは一旦トイレに行ってみるか。途中で誰かいるかも。

そう思いつつ通路を歩いていると、目の前に女の子がいた。
あ、スマホ落としてんじゃん。

「お姉さん、スマホ落ちましたよ。」

「すいません、ありがとうございます。」

「いえいえ。」

「……お兄さんおいくつですか?」

「2×ですけど。」

「あ!じゃあ私とそんなに変わんないですね!今日はお友達とですか?」

「ああ、今日は…。」

おや、何だか話が弾んで来たぞ。
ダシに使うようでこの子にゃ悪いが、こりゃ良い。
話し掛けて別れたって時点で、ナンパの体裁にはなるじゃねえか。落し物拾っただけだけど。

白い服に暗い青髪のその子は、見た所女子大生風。結構かわいい。
身の上話をする内に、少し自分達の席で飲みませんか?と誘われた。

正直な所、ちょっと心が動く。
眼鏡や提督じゃあるまいし、ワンチャン狙おうなんて下心は湧かない。
だが日頃ぶっ飛んだ女性陣に囲まれている手前、たまには普通の女の子と普通に話したいのも事実。

すぐ戻るならと快諾し、彼女達の席へと向かう。
彼女は事情説明にと、先に暖簾をくぐり、仲間へと話を通す。
それでいいですよー、と声が掛かり、俺も暖簾をくぐる。




「待ってたわ。」




帰っていいですか。いや帰るべきだろ。帰るしかないだろ。帰らせてください何でもしますから。
228 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:38:31.52 ID:bRZ+SN5f0

「ふふ….試しにやってみたら、憲兵さん本当気付かないんだもーん。」

その席にいた他の面子を見た時、俺はようやくこの子の正体を理解した。
そうだ…歓迎会で何かと俺をあいつの隣から逃がそうとしなかった二人組…ダブルドラゴンの蒼い方…!

「蒼龍…お前だったのか…!」

「そうだよ。これでも普段とのイメージ差には自信があるんだ〜。」

「憲兵さん空母飲みへようこそ!今日は3人だけどね。」

「飛龍…!」

俺らがいるって気付いてやがったのか…!
いや、待て。そう言えばあの眼鏡2号、さっきスマホつついて…。

「あ!大淀さんからも返信来たよ!向こうも気付いてたみたいだねー。」

やってくれたなあの女。

畜生、どこから仕込んでやがった…飛龍のわざとらしいリアクションを見るに、少なくともこれ狙って罰ゲーム仕掛けたのは間違いねえ。
でもヤバい会話の時はスマホに触れてなかった、せめてあの件だけは伝わってなけりゃ…!

「……でも憲兵さんも隅に置けないね。
さっき横通った時聞こえたけど、一線超えかけた子がいるんだって?」

絶妙な匙加減の話の盛り具合大変ありがとうございます飛龍さん!龍の如く飛んでんのはてめーの頭だ!

229 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:40:33.30 ID:bRZ+SN5f0

「どこまで?」

「……はい?」

「どこまで行ったの?いつ?どこで?誰と?」

俺はあの世とこの世の一線越えそうだよ。お目目が大変怖いです。
言える訳ねえ。言ったら逝く。

「言う訳ねえだろ。んな義理もねえし、未遂とすら言えねえ。」

「……そう、瑞鳳ちゃんなのね。」


自己完結の前に、まずそのチーズナイフ離そ?


「あ!瑞鳳って今度来る子だ!」

「私演習で当たったよ!ちっちゃくて可愛いんだよねー。あ、憲兵さんってロリコン?」

「…あいつに絶対ロリって言うなよ、死ぬぞ?俺と同い年な。あとロリコン違う。」

「否定はしないのね?」

「………あ。」


空気が…お通夜だ。
ここでムキに否定しても、墓穴掘るだけだな…。
あいつももうじきこっち来る。俺とづほの潔白を証明する為にこそ、包み隠さず言うしか無いか。

…づほ、すまん。

230 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:42:54.21 ID:bRZ+SN5f0

「……そもそもづほと仲良くなったきっかけからか。
俺が新人の時、あいつがその頃の彼氏に振られて、庭で泣いてたんだよ。それを保護しようと話しかけた。」

「……それから?」

「づほの奴、相当病んでてなぁ…その後1週間は、延々ヤケ酒やら愚痴に付き合ってたんだ。
で、お互い次の日休みの時か。あいつが飲み過ぎて、休ませようと漫喫連れてった。

俺は目ぇ冴えてたから、横でヘッドフォンして動画見ててさ。
寝てるもんだと思ってたが、急にガバッて覆いかぶさって来た。

あいつ上脱いでて、ブラ一丁だったんだよ。
体調崩したのかと思ったけど、どうも違う。

涙目でさ、じゃあヤッてみてよなんて言うんだ。
同い年の女って思えるなら、興奮出来るでしょ?って。

あいつも色々あったんだよ…見た目の幼さに、内心ナーバスになってた時期じゃねえかな。
悪酔いしてたし、色々ヤケになっちまったんだと思う。」

「…それで、どうなったの?」

「正座させて説教した。」

「「「へ?」」」

「まずそれで後悔すんのはてめーだって所から始め、自分を大事にしろって話、公共施設でのそう言う行為はアウト、あと酒乱も大概にしろと。
ついでにそんなんで一発かましても嬉しくも何ともねえし、そんな見た目絡みのトラブルで冷める奴は忘れちまえってな。

…ま、あいつ覚えてねえと思うけど。
また寝てたし、帰り道で肩に吐かれたし。

だからあいつが来ても、この件は突っ込まないでやってくれ。
さっきボロ出した俺が悪いって話だ。」

「「……はー…。」」

231 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:44:39.42 ID:bRZ+SN5f0

俺の話を聞き終えると、何でか二航戦コンビはぽかんとした顔をしてる。
一方翔鶴はと言うと、そんな俺らの様子を見てくすくすと笑っていた。

「憲兵さんってアレだね、ハマる人はがっつりハマっちゃうタイプ。
でも刺されないように気を付けてね!」

「何の話だよ?」

「何でもないですよー。確かにこの話は本人に言えないね、黙っておくよ。」

「そうしてもらえりゃ助かるよ。」

ったく、死ぬかと思ったぜ…。
誤解も解けたのか、さっきまでのヤバいオーラは無くなっていた。

「ふふ…本当変わらないわね、そう言う所。」

「何だよ…今度はご機嫌か?忙しい奴。」

「何でもないわ。

……と、謝らないと…。

……でも、蒼龍ちゃんの誘いにはついて来たのよね?知らない子だと勘違いして。」

「………。」


…死んだな、俺。


「はは、ははは…たまには普通の女の子と普通に会話したいって思ったんだよねー…。」

「つまり私達は普通じゃないと…こっちは仕掛けた方だから許すけど、瑞鳳ちゃんにこの件話したら大変よ?」

「何であいつが出てくんだよ!」

「はい、あーん。」

「むほっ!?」

口に何かを無理矢理ブチ込まれた時、舌に電流が走った。
さすが元カノ…俺の弱点をよく知ってやがる。

パクチーは、パクチーはダメだ…!

232 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:46:44.71 ID:bRZ+SN5f0

「お、やってるねー。」

「提督だ!大淀さんも!」

「憲兵長もいるじゃん。」

「そこで草食って白目剥いてるのを拾いに来たのだよ。さて、席に戻るぞ。」

「提督、店員さんが団体席空いてるって教えてくれましたよ。」

「じゃあ皆で移動しちゃうかー?」

「さんせーい!」

そのままずるずると団体席に引っ張られ、後は終始ピー音だらけな飲み会だった。
こいつら頭おかしいなー、とは各々を知れば知るほど思うのだけど、段々と慣れて来たような気もする。

「あはは…て、提督と憲兵長、すごいわね…。」

慣れか…そう言えば、前よりこいつと普通に話す事も増えたな。
普段の、ちょっと気弱な所を見る場面も。

「憲兵長ー!陸軍魂見せてくださいよー!」

「任せておけ!私の宴会芸は煩悩の数だけあるぞ!」

そんな慣れを誤魔化すかのように、俺は眼鏡にヤジを飛ばしていた。
隣にあいつこそいるが、特に気にしないようにしたまま。


233 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:48:50.00 ID:bRZ+SN5f0

「じゃ、俺ちょっとコンビニ寄るんでここでー。」

「了解!じゃあまたね、おやすみなさーい。」

「おやすみなさい。」

買いたい物あったから、鎮守府近くのコンビニで皆と別れた。

会計して外に出たら、何となくタバコを一本。
大体よっぽどイラついてるか、飲んでる時に吸う程度なんだけどな。
珍しく飲んだ後の今、こうしてぼんやりと一服してる。

「ダメよ、タバコなんて。」

「……帰ってなかったのか?」

「用があってね。戻って来ちゃった。」

「まだ夜は冷えるぜ?早く帰んな。」

「うん…用が済んだらね。」

「…………!?」


ぽと、と、タバコが落ちる音は、夜中の駐車場には妙に響いた。

重ねられた柔らかな感触と、近寄られると改めて分かる俺より小さい身長。
数年ぶりなのに、よく覚えてるもんだとどこか冷静だった。

その間ずっと、あいつを離す事も出来ないままで。

234 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:50:42.06 ID:bRZ+SN5f0

「…ふふ、これで一歩リード。じゃあまたね!」

「あ…おい!!……行っちまったよ。」

何だよ、一歩リードってよ…。

落ちたタバコを灰皿に突っ込むと、俺はもう一本に火を灯す。
ぼーっと吐いた煙を眺めてると、今度は携帯が震えた。

『お疲れ!来週挨拶と引越し行くからね!』

……ああ、もう来週だっけ。あいつらまた喧嘩しなきゃいいなぁ。
そんな事を思いつつ、唇に残った物を流すようにペットボトルのコーヒーを飲んで。
誰に聞かせるでもなく、こんな独り言を吐いていた。


「……ったく、調子狂うぜ…。」


…まあ、調子どころか頭が狂いそうになるんだけどな。後日。


235 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/07(土) 06:51:41.28 ID:bRZ+SN5f0
今回はこれにて。今度は誰を出そうかな。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/07(土) 07:39:31.48 ID:fbB/wodk0
乙!
相変わらず楽しかった!
この憲兵なら信頼できるし駆逐達にモテモテとかもみたい
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 07:40:02.94 ID:fbB/wodk0
ごめん上げちゃった
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 08:51:59.42 ID:IM0xowK/O
乙!
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 10:18:30.42 ID:RBughahA0
乙おつ

いつも楽しませてもらってるよー
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/12(木) 22:02:51.39 ID:2ovVu42DO
いいねぇ
241 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:13:35.88 ID:XKVR9cgVO


「こんにちわー、○○運輸ですー!」


憲兵の仕事も色々あるが、その中に出入り業者の監査もある。
基本身元の確認だけど、その流れで何の業者かも分かるんだ。

ここはネット通販使う奴も多いから、運送屋が来るのはいつもの事。
でも今日のトラックは、いつもとちょっと形が違う。

今回来たのはいつもの運送屋の、引越し部門の方。
そうだ、この日がやって来たわけだ。


今日、遂にづほが引越してくる。


242 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:14:23.01 ID:XKVR9cgVO



第12話・山と風を合わせたら


243 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:16:02.27 ID:XKVR9cgVO

業者は来たが、肝心のづほはまだ来てない。
何でも空いてる艦娘何人かで来るって言ってたが……お、あのちっこいのはづほの車だ。やっと来たか。

「お待たせー。」

「やっと来たか。」

「こっち搬入口だよね、普通の駐車場どっち?」

「そっちの通路抜けるとあるぜ。
今日他に誰来てる?人数分許可証出すから。」

「まず私よ。」

声のする助手席の方を覗くと、加賀さんがいた。
まず?他に誰かいんのかと後ろの方を覗くと…


「……兄ちゃん、久しぶり…。」

「お前は…山風じゃねえか!久しぶりだなー!」

「うん、づほ姉のお手伝いに…。」

244 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:17:17.45 ID:XKVR9cgVO

山風は、前いた所で面倒見てた艦娘だ。
引っ込み思案な奴で、最初は大変だったっけ。

前んとこの提督、見た目だけはかなり怖い人でな。
提督が懐いてもらえなくて困ってた時、何でかづほと俺に世話を頼まれたってわけ。
…何で俺らなんですか?って理由聞いたら、「憲兵がお兄さん役、瑞鳳がお友達役で〜」って言われて、づほがマジギレしたって事もあったけどな。

そこから二人で面倒見て、その甲斐あってか今は他の連中にも馴染んでくれた。
俺もづほも末っ子だから、本当妹が出来たみてえだったなぁ…可愛い妹分の一人って奴だ。

「相変わらずもっふもふだなー、前より髪綺麗になったんじゃねえか?」

「えへへ…づほ姉にお手入れ教えてもらったの。」

「そうだよー。髪は女の命だもん!」

「良かったなー。でも大丈夫か?俺もづほもいなくて。」

「…うん…大丈夫!皆いるから!」

そうにこっと笑ってくれた時、思わずホロリと来たぜ。
…娘を育てた父親って、こんな気持ちかな…俺、泣きそうなんだけど。

「あ、じゃあ私車停めて来るから先降りてて。
__、誘導お願ーい。」

「あいよー。オーライ、オーライ…」

245 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:17:55.61 ID:XKVR9cgVO







「……兄ちゃんとづほ姉の邪魔する奴、嫌い……。」







246 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:20:46.35 ID:XKVR9cgVO

「すいません、運ぶ部屋って何号室ですか?」

「あ、はい。えーと…。」

業者の案内の為に、俺は部屋割りのプリントを広げる。
これは業者の迎えに行くギリギリの時、眼鏡に改訂版だと渡された奴だ。
まだ俺も確認出来てねぇんだよな…づほの部屋は……。


『304・瑞鳳』


アレ?疲れ目かなー。 ちょっとこすって……。


『304・瑞鳳』


……現実とは非情である。


「……この3階の、304号室ですね。エレベーターはあっちです。」

「分かりました。みんなー、じゃあ始めるぞー。」

リーダーと思しき人の号令と共に、トラックから次々と荷物が運ばれて行く。
づほはそれをにこにこと、俺はこないだのサンマ霊の如く死んだ目で見守っていた。

「………なぁ、部屋割りってもらってる?」

「うん!翔鶴さんの隣だよね。」

「……揉めない?」

「大丈夫、悪い人じゃないのは分かったから。ただ…」

「…ただ?」

「…__にまたイタズラしたら、何かしちゃうかもねぇ…?」

「俺の頭上で戦争はやめてね!?」

出動どころか、俺の救出劇になるわ!!

どいつのプロデュースだ畜生…提督か?それともあの眼鏡2号か?
やってくれたなー…あのドSトリオはよ…。

「……兄ちゃん、顔怖いよ?」

「…ああ、何でもないぞー山風。」

……っと、怖がらせちまったな。
あやそうと頭を撫でてやると、にへらと猫みたいな顔をしてた。
そうだ、今日は山風や加賀さんもいる。顔合わせても、いつもみたいに揉めたりしねえだろ。

「もー本当可愛い!山風ー、づほ姉いなくて寂しくなーい?」

「うん、大丈夫…。」

「うーん!今の内にいっぱいぎゅーしてあげるからねー!」

「ははは、づほ、山風顔潰れてんぞ?」

づほも本当山風大好きだもんなー。
実際寂しいのづほの方じゃねえか?私は妹欲しかったって、何かと駆逐の子達構ってたし。


……ん?そう言えば『あいつ』って…。

247 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:22:32.45 ID:XKVR9cgVO

さて、そうこうしてる内に搬入が終わった。
眼鏡からも行って来いと言われ、俺も荷解き手伝う事に。
家具のセッティングは俺と加賀さんがやるとして、山風はどうしよう。

「じゃ、山風はづほ姉と一緒に段ボール開けてこっか?」

「…うん、頑張る…!」

「お、バンダナ巻いてんじゃん。やる気だなー。」

次々と荷物を出しては、それらを指定の場所へ入れて行く。
こっちも家具周り終わったし、小物開けてくか。

「づほー、この衣類って書いてる箱どうする?いくつかあるけど。」

「あ、それ一回出さないとダメね、冬物と夏物分けるから。」

「了解、とりあえず開けるわー。」

「……あ!……ちょ、ちょっと待って!!」

……言うの、遅えよ。

止めに入られた時には、もう段ボール開けた後。
で、俺の視界に真っ先にこんにちわしてきたのは、四角く小さく畳まれた色とりどりの布地達と、大体そいつらと同じ柄した何某で。

…ああ、なるほどね。確かに小さい物から上にするわな。

「……づほ、下着は別にしとこうな。」

「見ないでよもー、それに入れたの忘れてたんだって。」

「じゃ、こいつは後だな。仕舞う時声掛けてくれ、出てくから。」

「……ちょっとは慌ててくれてもいいじゃん…。」

「何か言った?」

「ううん、何でもないよ。」

248 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:24:18.03 ID:XKVR9cgVO

その後も淡々と作業は進み、3時間もすれば部屋のセッティングは終わった。
今日は提督が出張で、挨拶は提督が帰って来てから。
ちょっと一休みするかぁ。

「皆待っててくれ、何か持ってくるわ。」

「いいの?ありがとー。」

引っ越しの手伝い決まった時、事前に茶とお菓子を買いに行ってたんだ。
たまにゃ都合の良い偶然もある、用意した中には山風の好物もあった。

「お待たせー、茶も冷えてるぜ。」

「ありがとう…あ!ウエハースだ!」

「そ、懐かしいだろ?」

妹分の嬉しそうな顔が見れて何よりだ。
何でか山風はこのやっすいウエハースが大好きで、よく一緒に食ってたのを覚えてる。

へへ…目えキラキラさせてまぁ。

「山風、本当それ好きだよなー。」

「うん…兄ちゃんとづほ姉が、最初にくれたから。」

世話係なんて言われたものの、俺らも最初は「構わないで」と嫌がられてた。
それでどうしたもんかとづほとベンチで話してる時に食ってたのが、このウエハース。

噂をすれば何とやらで、そこに山風が通りかかったんだよ。
小腹が空いてたんだろうな、チラッと見てきたもんだから、「食べるか?」って声掛けてみたわけ。
そこでゆっくり話す機会を得て、少しずつ心開いてくれたんだよな。

……泣かせるなよ、オイ。


「山風〜!!づほ姉嬉しいよおおおお!!」


…ってもう号泣してる奴がいたよ!

249 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:26:10.87 ID:XKVR9cgVO

「づほ、そんなすりすりすると山風減っちゃうから…。」

「大丈夫よ、いつもの事だもの。」

「……因みにやるのはづほだけでしたっけ?」

「そうね、すりすりは瑞鳳だけよ。
……私は、山風は抱いて寝る派だもの。」

「加賀さん、よだれ出てます。」

そうだ、山風大好き芸人がもう一人いたよ。

ま、何だかんだ愛されててホッとしたなあ…一時はどうなるもんかと思ったけど。

「お疲れ様です。」

そんな平穏を壊すように、ドアが開く。
入って来たのは元カノ…一気に俺の中を緊張が駆け抜けた。

頼む、揉めるなよお前ら…。

250 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:27:38.81 ID:XKVR9cgVO

「翔鶴さん、ご無沙汰してます。この前は助けていただいてありがとうございました。」

「いえ、気にしないで…こっちこそ、沢山ひどい事を言ってごめんなさい。」

「いえいえ、私も短気でしたし…今日からお世話になるので、今後ともよろしくお願い致します。」

「…ええ、こちらこそ!よろしくね、瑞鳳ちゃん。」

……怪我の功名って奴かな。
こないだ話した件で、あいつもづほのコンプレックスについて感じるものがあったらしい。
話せば分かる奴なんだよなぁ…話聞いてもらうまでが、ちょっと大変ではあるけど。

「ねえ、この子は?」

「こいつか?山風って言うんだ。前の所の子で、手伝いに来たんだよ。」

「……!!」

「…怖がられちゃったかしら?」

「山風は引っ込み思案だからな。大丈夫だぞー、怖くないから。」

「ふふ…山風ちゃん、おいで?」

恐る恐ると言った体で、俺の背中に隠れてた山風はあいつへと近付いて行く。
撫でて…おい、いきなり抱っこかよ。
づほの時結構苦労したけどなぁ…さすがは姉属性って事か。

ん?待て、確かあいつは…。

「…ハァ…よしよし、怖くないわよ?…ハァ…ハァ…。」

「おい…。」

「何かしら?」

「とりあえずよだれを拭け。」


出たよシスコン、転じてロリコン。

251 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:30:10.07 ID:XKVR9cgVO

忘れてた…こいつは重度のシスコンだ。
で、山風は娘ないし妹属性にステータス全振りしてるような奴。

こいつの『最愛は』実妹の瑞鶴ではあるが……それ以下の妹属性に該当する子にも、こいつは充分反応する。年齢問わずだ。
つまり、ちょっとシスコン超えてロリコンの気があるんだよ…こいつの妹センサーが反応した相手に対しては…!

「ふふ…ジュルリ……ハァ…ハァ…本当可愛いわね…。」

胸に埋められた山風は、苦しいのか、或いは邪気を感じてビビってるのかプルプル震えていた。顔見えないのに。
そんな山風を尻目に、あいつは心底嬉しそうに山風の髪を舐め回すように撫でている。

落ち着け俺、まだ愛でてるだけだ…憲兵さんのお仕事はまだ…でも手錠はしっかり準備だ。

『ポタ…。』

そう葛藤していた時、俺は確かにその水音を聞いた。

丹頂鶴とは白、黒、赤で構成される。

白はあいつの服。
黒は現在欲望に濁ってるあいつの心。

で…今目の前にある赤とは。
あいつの白い服の胸元にボタボタと広がる真っ赤なシミの事…ついでに目が椎茸だ。

こいつ…鼻血出してやがる…!

「正規空母・翔鶴。」

「何かしら?改まって。」

「……未成年者への淫行未遂により、貴様を確保する。」

「……可愛い妹を愛でる、それの何が罪だと言うの?」

「てめえの欲望ダダ漏れの鼻に聞けこの野郎!」

「ダメよ!私の心はもう確保されてるの!山風ちゃんに!」

「自重なさい五航戦。」

「へぶぅっ!?」

さすが加賀さん、えげつねえ逆水平チョップだ…。

252 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:32:10.97 ID:XKVR9cgVO

「兄ちゃん……。」

「よしよし、怖かったなー。」

「ど…どうしてなの…。」

「その血と欲望に塗れたツラ鏡で見てこい。」

「あ、あはは…気持ちは分かるけどねー。」

「づほ、そこは分かり合うな…。」

あーあー、山風の奴、腰にぴったり引っ付いて離れねえ。こりゃ大分ビビってんな。
元カノの方はと言えば、懲りずに山風に笑顔を送ってる。

「ふ、ふふ…山風ちゃん…お姉ちゃんと遊ぼ…?」

「………嫌。」

「……ぐはっ…!」

「……おばさん、嫌い。べーだ。」

「……お、おば…おば………おぼぁっ…!」

暴言で吐血して血涙まで出す奴、初めて見たわ…。
でも珍しいな、山風がここまで敵意剥き出しにするなんて。

253 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:34:55.46 ID:XKVR9cgVO

「こらこら、おばさんは言い過ぎだろ?」

「だって…あいつ、づほ姉いじめたから嫌い。」

「ああ、この前の騒ぎを聞いたのかしら?一部の子達がこっそり見てたみたいだけれど。」

「…アレ、見られてたんですか?」

「瑞鳳があなたと飲みに行ったって事は、皆知ってたもの。
夜戦明けの子が見てたみたいね。」

「山風ー、づほ姉あの事はもう怒ってないよ?ほら、翔鶴お姉ちゃんと仲直りしよ?」

「……づほ姉は、兄ちゃんのお嫁さんになるの。」

「「はい?」」

「……づほ姉、兄ちゃんにキスしてたもん。」


その瞬間、確かに空間が割れた。


「………瑞鳳ちゃん…。」

べチャリと音を立てながら、血だるまの顔面で奴がぬるりと立ち上がった。
確かに笑顔だ…にたぁ……って擬音が見えるぐらいに…。

「……どう言う事か説明してもらってもいいかしらぁ…!?」

幽鬼だ…白髪の幽鬼がいらっしゃるうううう!?

「山風!言葉!!言葉足りてないから!!」

「ひいいいいいいっ!?ちちち違うの!あ、あ、あ、アレはね!」

「……アレは、何なのかしら?」

「……いや、うん、そのー…確かにキス、したけど…。」

「おめーも言葉足りてねえよ!?」

「………有罪。」

語尾にハートマーク付きそうな言い方が余計怖え!!
そんな血塗れのツラで俺らを見るな!!きょ、恐怖で上手く説明が出来ねえ!!


「……そう言えば、確かに瑞鳳がキスしたわね。

その場にいた全員に。」


LADY KAGA……あんた、GODや……!!

254 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:38:21.81 ID:XKVR9cgVO

「……どう言う事ですか?」

「瑞鳳は少し酒乱の気があるのよ。
ある時うちの整備さんが、彼女の浮気で別れてしまった。そこで励ます為に飲み会が開かれたの。

そこで“だったらてめえなんか忘れてやらぁ!ってキスマークでも見せ付けてやれー!”
…と、何故か瑞鳳が口紅べったり付けて、全員の頬に無理矢理キスして回った。男女関係無くね。」

「……で、俺が取っ捕まって餌食になった所を、たまたま山風に見られたって訳さ。
あん時ゃ大変だったぞ…愛宕さんの顔とかキスマークだらけだったし…。」

「……いやぁ、お恥ずかしい…。」

「因みにその時の瑞鳳の写真がこれよ。」

「ぷっ!?ふふ…アナゴさんみたい…。」

「こんなんが迫ってくんだぞ?全員鼻水吹きそうになりながら逃げ回ったわ。」

はぁ…危なかった〜……。

づほのアナゴさん面がツボったのか、あいつもしばらくクスクスと笑ってた。
…こいつも顔面、血塗れだけど。

「……そう言う事だったのね。瑞鳳ちゃん、少しお酒は控えた方がいいわよ?」

「はーい…いつも日本酒飲むと楽しくなっちゃって。」

「基本飲み会の半分は覚えてねえもんな?」

「言わないでよもー。」

マジで怖かったー……。
…ん?そう言えば山風どこ行った?


「ハクハツコワイハクハツコワイハクハツコワイハクハツコワイハクハツコワイハクハツコワイ……」


あら、隅っこでガッタガタ震えてる…。

255 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:41:06.40 ID:XKVR9cgVO

「……山風ちゃん、大丈夫よ?」

「…ひっ!?ぶつよ!?ぶつからね!?」

「もう怒ってないから、ね?」

「………。」

あいつが打って変わって優しく微笑みかけると、山風は恐る恐る近付いて行く。
それで今度は普通に、ぽすんとあいつの胸に抱かれて行った。

……あんだけビビらせたのに手懐けるなんて、さすがの姉力だな。 鼻血拭いてねえが。

「……づほ姉の事、いじめないでね。」

「うん、もう大丈夫。あなたもお友達よ。」

「…うん、よろしく。翔鶴お姉ちゃん。」

「……お姉ちゃん…ふふ、ふへへ……。」

「これを使いなさい、五航戦。」

「ぶべっ!?」

箱ティッシュ掌底…うん、加賀さん正しいわ。

256 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:42:16.72 ID:XKVR9cgVO

「………山風、寝ちゃったねー。」

「ちょっと疲れてたんじゃねえか?慣れない所苦手だし。」

いつの間にやら、山風は俺の膝を枕に眠りこけていた。
づほか俺の膝で寝るのが好きなんだけど、決まって俺らの間に挟まるんだよな。

俺とづほで頭や肩を撫でてやると、気持ち良さそうな寝息が一層深まる。
癒されますなぁ…本当、可愛い妹分だよ。

「このタオルケット掛けてあげて。」

「ありがとう、お前は撫でなくていいの?」

「ふふ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが揃って嬉しかったんでしょう。邪魔出来ないわ。
小さい頃の妹を思い出すわね…久々に膝枕でもしてあげようかしら。」

「本当仲良いよなお前ら。」

「ええ、自慢の妹だもの。」

「お姉ちゃんと言えば、__のお姉ちゃん元気?」

「…元気も元気、あのバカは不死身だよ。」

「会ってみたいなぁ……あ、翔鶴さん、お手洗いの場所教えてもらっていい?」

「ええ、付いてきてちょうだい。」

あいつらが出て行くと、部屋には俺と山風だけになった。
加賀さんはお淀と話に行ってるし、部屋の中には山風の寝息だけ。


「……兄ちゃん…づほ姉…大好き…。」


ふと聞こえた寝言に嬉しさを覚えつつ、改めてちょっと心配にもなる。
そんな事を考えてる内に、膝の暖かさに俺もうたた寝してしまっていた。


257 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:44:21.66 ID:XKVR9cgVO



「…ふふ。」

「……何よー、人の顔見て。」

「あ…ごめんね、ついさっきの写真が…。」

「…あの後皆、ぶるるあって言ってとかすごかったわ。口紅、半分ぐらい減ってた。」

「……実際は、どこから酔いが覚めてたの?」

「描いた唇が滲んだぐらいから。」

「じゃあ確信犯ね、やるじゃない。」

「……うん、あれだけ皆と追いかけっこしたらね。
あいつ、最後の方まで逃げ回るんだもん。」

「取っておいたの間違いじゃなくて?」

「それは秘密。」

「…ごめんなさいね、今までひどい事を言って。」

「ううん、私も煽ったもん。おあいこ。
……あなたの事、嫌いじゃなくなったわよ。」

「私もよ。」

「ふふ…翔鶴さん、これからよろしくね。負けないんだから。」

「こちらこそよろしくね。簡単には勝たせてあげないわよ?」


258 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:46:53.28 ID:XKVR9cgVO

「じゃあ加賀さん、ありがとうございました。
山風もありがとな、助かったよ。」

引っ越しも終わり、二人の帰る時間になった。
あっちの別の艦娘が迎えに来て、あの車に乗ったらしばらくお別れだ。

「…づほ姉、兄ちゃん…。」

山風は名残惜しそうに、ぎゅっと俺らに抱き付いて来た。
可愛い奴だな本当…でも、ひとり立ちしないとな。

「山風、今日からづほもいなくなるけど…俺らがいなくても大丈夫か?」

「………。」

一瞬シュンとした顔をしたけど、あいつはすぐにまっすぐ顔を上げて、こう言ってくれた。


「…大丈夫!あたし強いから!」


よく出来ました、最っ高の笑顔だ。


259 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:48:15.33 ID:XKVR9cgVO

こうしてちょっとした嵐もあったが、何とか引っ越しは終わった。
そろそろ提督も帰ってくるな…次は挨拶か。

結果、この日はまだまだ長かった。

俺の時は異動シーズンだったが、づほの異動は季節外れに決まった。
だから俺の時は他の連中が来るのを待ってやった事で、づほの場合はすぐやる羽目になった事がある。
その答えは…。

……勿論やらかしてくれました。他ならぬづほがな。

夜はまだまだ長い。


260 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/07/15(日) 05:48:53.29 ID:XKVR9cgVO
今回はこれにて。次回はまたいずれ。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 07:38:00.76 ID:XOd5uIMjO
乙です
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 09:48:35.27 ID:IrPXt73aO
づほも山風も可愛い
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 14:20:30.40 ID:ahT2zDo0o
護りたい
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/15(日) 15:07:41.50 ID:c67Lj+Vl0
良かった… 闇風なんていなかったんや…

いないよね??
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