まゆり「トゥットゥルー!」岡部「・・・え?」

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193 : :2018/06/06(水) 16:46:05.30 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「とりあえず、岡部に異常は無いわ。きっとラボを立ち上げなければ、リーディングシュタイナーに気付くことも無かったでしょうね」



ダル「……皮肉な話だね」



ダル「皆が出会って、ラボメンになったのもきっと運命で、すごく楽しくなって……。でもラボを立ち上げて……大切なものが増えたからこそ」


ダル「オカリンはこの力に気付いた。そして苦しむことになるなんて……」



ダル「牧瀬氏だけでなく、もうちょっとみんなを頼れよな…オカリン」



紅莉栖「……」

194 : :2018/06/06(水) 16:49:54.34 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「本題に入るわ。まゆりに発現したリーディングシュタイナーは、岡部のものと同じくらい強力よ」



紅莉栖「自身の他の世界線での記憶を、おそらくほぼ100%、現実に近いカタチで夢に見る」


紅莉栖「それが辛ければ辛いほど……きっとそう、まゆりの場合は特に言葉に出来ないくらいの苦しみ」


紅莉栖「『死』が何度も何度も襲ってくる。寝るたびに。限りなくリアルに」


ダル「想像しただけで、吐き気がするお……絶対に眠りたくない」


紅莉栖「まゆりの顔の理由が、今身に染みて理解できたわ・・・」



ダル「僕でさえあれだけキツかったのに、まゆ氏は、死ぬんだよな。何度も何度も」


紅莉栖「橋田はまゆりの影響を受けたのよね?」



ダル「まゆ氏の影響を受けて共鳴したオカリンの影響かもしれないけど……多分そうだお」

195 : :2018/06/06(水) 16:57:20.90 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「どんな感じだったのか、差し支えなかったら聞いても、いい……」



ダル「……うん」



ダル「まず…夢じゃない。」



紅莉栖「それは、さっきの仮説の」


ダル「そう。『100%』なんだよ。確かに寝てるんだけど、夢に思えないくらいリアルなんだ」


ダル「そして色んな人……知ってる人も出る。そこで僕が違う僕として人生のほんの一部分を送る……」



ダル「娘が未来から来る世界線の時が一番キツかった。みんなでサイクリングなんかして、きつかったけど、楽しくて」

ダル「でもIBN5100を手に入れて未来を変える…その希望を託して、過去に送るんだ」


ダル「タイムマシンを僕が治して、娘はそれに乗って最後まで笑顔で過去にいく……でも」







ダル「失敗したんだ」













ダル「……タイムマシンは!!直ってなかったッッ!!!!」



紅莉栖「橋田……」
196 : :2018/06/06(水) 17:02:51.81 ID:Uj8q83PX0
ダル「タイムマシンは治ってなかった。僕は不完全な修理のまま娘を過去に送り出してしまった。そして娘からの失敗を報せる手紙が来る」




ダル「とうさんのせいじゃないとッ……手紙で僕をかばっていた!!」




紅莉栖「……」




ダル「そこで夢は終わるんだ。起きたときは汗びっしょりで涙も出てた。その日は怖くて悲しくて、何もできなかった」



紅莉栖「……そ、んな、そんなに苦しいだなんて」



ダル「まゆ氏はもっと痛くて、もっと怖くて、もっと悲しいよ。きっと」


紅莉栖「岡部も、そこにいたのよね」


ダル「うん。間違いなくいた」



紅莉栖「岡部はそんな絶望を、何度も何度も味わいながら生きてきた」



紅莉栖「そして今、まゆりも……」
197 : :2018/06/06(水) 17:20:12.48 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「……まとめるわ」




紅莉栖「リーディングシュタイナーは本来、他の世界線の記憶を断片的、瞬時的に知覚する程度の能力」



紅莉栖「岡部のリーディングシュタイナーは進化しており、自分の移動した他の世界線の記憶を、永続的に知覚する+保持しておく能力」



紅莉栖「対してまゆりのリーディングシュタイナーは、自分の移動した覚えのない他の世界線の記憶をアトランダムに、現実に限りなく近い夢として知覚する能力」



紅莉栖「そして二人とも持っているのが、さっきの橋田のように、『相手と接触することで、その者の他の世界線の記憶を強制的に夢やデジャヴとして知覚させる能力」


紅莉栖「二つ目の力に関して言えば、まゆりのリーディングシュタイナーは岡部のものよりずっと強力よ」



ダル「既に手に負えない件」



紅莉栖「激しく同意よ。でも、さらにもうひとつ、まゆりは岡部を超えた力を持ってる」
198 : :2018/06/06(水) 17:30:31.28 ID:Uj8q83PX0
ダル「」


紅莉栖「あくまで仮説にすぎないわ……。でも岡部がそこに倒れていることが、何よりの証拠だと私は思う」


ダル「最初に牧瀬氏言ってたよね、もう未来は決まったみたいなこと」


紅莉栖「ええ。岡部が倒れた時点で決まった。もう取り返しはつかない」



紅莉栖「このまま世界が進んでも……もうまゆりは救えない。」



紅莉栖「ディストピアは、形成されるわ」






ダル「……」


ダル「な、なんで」





ダル「なんで!?」

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 22:32:07.72 ID:DiZjhqSzO
岡部が倒れてるのほったらかしてしゃべってんの?
200 : :2018/06/07(木) 22:00:28.24 ID:YXotrATs0
再開
201 : :2018/06/07(木) 22:14:07.57 ID:YXotrATs0
紅莉栖「岡部には無くて、まゆりだけが持っている力」


紅莉栖「それはおそらく、まゆり自身の他の世界線の記憶を他人に知覚させる能力」


ダル「えっ」



ダル「……それってつまり、まゆ氏が他の世界線で何回も何回も死んだのを無理矢理体験させられるってこと?」



紅莉栖「そういうことになるわね。まゆりのリーディングシュタイナーは、今の彼女の精神に強く影響されているみたいだから、終わりを迎える瞬間が他人の脳に作用して流れ込むはず」


ダル「じゃあオカリンもそのせいで今……」



紅莉栖「岡部は、まゆりを助けるために世界線を跳び続けた」


紅莉栖「それは裏を返せば、時間を越えてしまうほどまゆりの死が辛くて悲しくて、受け入れられなかったということ」


紅莉栖「そんなトラウマになった瞬間を無理やりもう一度見せられたら、……」


202 : :2018/06/07(木) 22:31:29.45 ID:YXotrATs0
ダル「……」


紅莉栖「分かった?橋田。これがどれほど恐ろしくて、危険で、悲しい能力か」


ダル「分かるよ牧瀬氏……!まゆ氏がこの能力を持つ限り、もう人と接することができない。冗談言って笑いあったり、一緒に泣いて励まし合ったりできない! ふとした瞬間に自分の記憶で他人を傷つけるかもしれないからっ……! そういうことだろ!?」


紅莉栖「そう。まゆりにその力が備わってしまった以上、彼女はラボから去るでしょう。そして岡部は、絶対にまゆりを置いて自分たちだけ楽しく過ごすなんてできない。さらに他のメンバーのリーディングシュタイナーの発現……存続は不可能」


紅莉栖「ラボは解散する。そしてラボメンを頼ることのできない岡部は、たったひとりでタイムマシンを作ろうとする」




岡部「タイムマシンなど…俺は作らんぞ……。紅莉栖」



紅莉栖「岡部っ、大丈夫なの?」


岡部「平気……だ。こんなもの、まゆりの痛みにくらべれば……」
203 : :2018/06/07(木) 22:40:39.83 ID:YXotrATs0
岡部「俺は……俺は愚かだった。大馬鹿野郎だ。鈴羽が未来からきて……お前たちを頼り、まゆりと直接会って、やっとわかった」


岡部「心配をかけた……紅莉栖、ダル。もう大丈夫だ。少し一人にしてくれ」


ダル「ちょ、どこいくんオカリン!」


岡部「大丈夫だ。屋上で少し、頭を冷やす。お前たちはラボに戻ってろ」


紅莉栖「……」
204 : :2018/06/07(木) 23:13:19.92 ID:YXotrATs0
秋葉原某所――――


鈴羽「すぅー……すぅ……」


鈴羽「ハッ」


鈴羽(まっずー。ねむっちゃってた)


鈴羽「レーダーの確認、の前によだれよだれ」フキフキ


鈴羽「よしっ。でも一度未来に帰ってたみたいだからまだ……」



鈴羽(いや、帰ってきてる。しかも、反応が増えてる)


鈴羽「まさか……!」



鈴羽「おじさんに電話しないと!」
205 : :2018/06/07(木) 23:18:16.44 ID:YXotrATs0
ブラウン館工房ビル屋上――――



岡部「……」


岡部「……ふーー」



紅莉栖「……」ジトー


岡部「いつまでそうしている気だ」 


紅莉栖「別に」



岡部「何か言いたげだな」


紅莉栖「別にっ!」


岡部「なんだというのだ……」




岡部「少し考え事をしたいから、一人にしてくれと言っただけだろう」



紅莉栖「だから何も言ってないじゃない」


岡部「いぃーーやっ! 分かったことがあるくせに私には教えてくれないーとか思ってる顔だぞそれは」


紅莉栖「思っとらんわ! ただ……ちょっと心配なだけ」



岡部「何がだ」



紅莉栖「アンタが」



岡部「……」
206 : :2018/06/07(木) 23:20:59.04 ID:YXotrATs0
岡部「フゥーーーーハッハッハッハッハァ!!!」


岡部「この俺も堕ちたものだぁー狂気のマッドサイエンティストであり混沌の支配者である鳳凰院・凶真が気を、遣われる、体たらくゥゥ!!」



紅莉栖「アンタはマッドサイエンティストでもなければ混沌の支配者でもない」




紅莉栖「……ただの岡部倫太郎よ」



岡部「……フ」



岡部「この時間帯は組織が来る危険性が高い……ラボを頼むぞ」



紅莉栖「知るか。さっさと降りてきなさいよね」











岡部「…………」


207 : :2018/06/07(木) 23:25:54.18 ID:YXotrATs0
岡部「……いったか」


岡部「……ッッ」ブルブル


岡部「くそっ、まだ体、が」




先ほどの紅莉栖の推察は確かめようがないが、おそらく正解なのではと俺も思っている。やはりあいつは天才だ。




しかしあいつの言うまゆりの持つ力だけは、部分的に不正解だった。






俺は『まゆりの目線で何度も死ぬ』ことを体験したのではない。






『何度も死ぬまゆりを見る』ことを体験させられたのだ。




俺が世界線を行き来するきっかけになった出来事だ。


もちろん全て一度体験している。




だがそんなコトは関係無いッ!!
208 : :2018/06/07(木) 23:31:59.85 ID:YXotrATs0
まゆりが死ぬ!



それが嫌で嫌で仕方なくて、だから時空を跳んだのに!!


もう一度全てを!!俺のトラウマの全てを!!



繰り返す!!





俺はまゆりを斜め上から見下ろしている。

体は動かない。


駅のホームだ。



電車が来た。ぐんぐん近づいてくる!


まゆり!まゆり!!聞こえないのか!!俺の声が聞こえないのか!?


手が届かない!電車が来る!


後ろから綯が走ってきた!!悪意の無い目で!ただ純粋に抱きつこうと!!


やめろ!頼む動いてくれ、ダメなら声だけでもいい届いてくれ!!


隣にいる自分が、憎くて憎くてたまらない!!

お前は救えるのに!手も声も届くのに!なんでボーッとバカみたいに突っ立ってるんだよぉ!!


電車が、綯が、ああ、まゆり!!



手を伸ばせ!手を掴め!!なんでだよ後ろから足音が聞こえるだろう振り向けよ!!少し叱って制止しろよ!!


なんで、なんで止まらないんだよ!!



まゆり!!


まゆりが!!



誰か!!

誰か助けて!!


まゆりを助けてくれ!!


ああ!!

止まれ!!!



お願いだ…


とまってく

ドンッ
209 : :2018/06/07(木) 23:38:40.97 ID:YXotrATs0
涙が止まらなかった。


救えないんだ。どうしたって死んでしまう。


もうホントに辛くて、絶望ってこういうことなんだなって、俺初めて分かったよとか一人で言って笑って、



泣いてた。




紅莉栖が助けてくれなかったら、俺は確実に死んでいた。


あまりの辛さに自ら命を絶っていた。


そんな紅莉栖を好きになることは、本当に、本当に自然なことではないだろうか。


いや、そうだと思う。自分で分かっている。




しかし、リーディングシュタイナーによってまゆりの世界線に触れたおかげで、分かった。





まゆりが、いかに俺を想ってくれていたか。






俺は本当に馬鹿野郎だった。


こんなにも近くで。


こんなにも想ってくれていたのに。


命を助けることができた事ばかりに安堵して、あいつの気持ちに気付けなかった。


あげくの果てに紅莉栖と結ばれたことを大々的に公言して……


あいつが笑顔の裏で、どれだけ悲しんでいたかも知らずにッ!!
210 : :2018/06/07(木) 23:49:39.10 ID:YXotrATs0
俺は過去で行動を始めようとした時、己の行く末を予想してしまい激しく動揺した。



紅莉栖と付き合うとディストピア形成。

まゆりも紅莉栖も選ばなければディストピア形成。


したがって俺はまゆりと居続けるしか選択肢が無くなる。



その理不尽に激昂した。

神を恨んだ。


そして過去からタイムマシンで戻る途中、紅莉栖への告白を阻止するしか道はないのではないか、と鈴羽は言っていた。



だが違ったのだ。


まゆりの世界線に触れた今ならば分かる。









紅莉栖と結ばれたことが悪いのではなかった!



まゆりの想いを解放させてやれなかったことが、すべてを狂わせている要因なのだ!




だが、今なら。


鈴羽が俺を助けに来て、紅莉栖とダルを頼ることができた、今ならば。




まゆりが満たされた状態で紅莉栖と結ばれるならば、何の問題も無い。






行ける。


明るい未来へ。
211 : :2018/06/08(金) 00:03:41.57 ID:GX6BhTnR0
過去に戻って俺がやることはたった一つ。


何の迷いも無くまゆりの元へ向かい、その想いにケリをつける。


一対一で話して、あいつの気持ちを受けとめる。


そうしてまゆりの行動が変われば、世界線は――――



岡部「ハッ」


岡部(携帯・・・鈴羽か)




岡部「もしもし、俺だ。どうした」



鈴羽『オカリンおじさん?今平気?』



岡部「ああ、大丈夫だ。何かあったのか?」



鈴羽『ラウンダーが人員を補充して、未来から戻ってきたんだ。もう時間がない。世界線変動の原因は突きとめた?』


岡部「問題ない。奴らの今の動きは?」


鈴羽『……』















鈴羽『逃げて!!!!!!!おじさん逃げ』ブツッ
212 : :2018/06/08(金) 00:04:46.67 ID:GX6BhTnR0


岡部「す、鈴羽?おいすず」







「きゃああああああああああ!!!!」






岡部「!」




岡部「紅莉栖!!ダル!!」
213 : :2018/06/08(金) 21:31:11.37 ID:GX6BhTnR0
再開
214 : :2018/06/08(金) 21:41:37.28 ID:GX6BhTnR0
考えられる可能性は一つしかない。

ラウンダーだ。


岡部「急がねb…」





いや……待て。

鈴羽に、そしてラボにいるダルにも紅莉栖にも、今現在ラウンダーの魔の手が伸びている。そう考えて間違いないだろう。


だがこの世界線には電話レンジ(仮)もタイムリープマシンもない。


紅莉栖たちを助けにラボに行き、捕まってしまったら?




終わりだ。今回は、チャンスは一度きりなんだ。

それだけは避けねばならない!!









岡部「……けっこうな、高さだな」
215 : :2018/06/08(金) 21:43:56.26 ID:GX6BhTnR0
ラボ――――


紅莉栖「……ッ」

ダル「ド、ドアが」



???「あぁ……」



紅莉栖「誰っ!?」


???「あぁ、突然訪問していきなりドアを蹴り飛ばしたのは謝ろう……すまない」


紅莉栖「!!」


ダル「その声」



???「ここにもう一度立たねばならんのだと思うと、」



???「無性に怒りが抑えきれなくなってな……!!」



紅莉栖「お、岡部なの?」



岡部(未来)「フン。やはり声で分かるか。貴様らの前ではこんなお面必要無かったな」


ダル「ほんとにオカリン、なのかお……?」



岡部(未来)「そうだ。1%の間違いも無く、俺は岡部倫太郎本人だ。ただし」




岡部(未来)「未来のな」
216 : :2018/06/08(金) 21:53:25.78 ID:GX6BhTnR0
紅莉栖「未来の岡部が、ラボに何の用?」


岡部(未来)「何の、用?フ、フフ」


岡部「フゥーハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!」


ダル(笑い方変わってネェ…!)


岡部(未来)「何をしにとは。鈴羽が来たことで何か変わったことがあるかと思ったが……。何も聞かされていないのか」


岡部(未来)「まぁ無理もないか……貴様らなど信用できるわけもない」


紅莉栖「!」


岡部(未来)「フン。鈴羽のやつめ、まさか過去の俺と接触していなかったのか。だとしたらここへ来たのは無駄足だったな……」


紅莉栖「聞いてるわよ!!!!」


岡部(未来)「あぁ?」



紅莉栖「私たちは岡部に話してもらって、全部知ってるって言ってんのよ!!!!」

ダル「ちょ…牧瀬氏!」

紅莉栖「とめんな橋田! ムカつく! この岡部ちょーームカつく!!」

ダル「分かるけど!ほら後ろで部下っぽいのが銃構えてるから!! やめて!!」
217 : :2018/06/08(金) 22:00:30.60 ID:GX6BhTnR0
ダル「それよりオカリン、ほんとに何しにきたん」


岡部(未来)「フン」


岡部(未来)「話を聞いたなら知っているんだろう?」



岡部(未来)「俺が未来の支配者であることを」



ダル(やっぱり…未来のオカリンは、本当に逃げ出したんだ。あまりの辛さに耐えきれなくて逃げ出したんだ)


紅莉栖「聞いてる。アナタがディストピアを形成したことは」


岡部(未来)「ハッ、何を馬鹿な」


岡部(未来)「他の人間にはそうかもしれんが、少なくともお前たちにとっては未来はユートピアのはずだ」


紅莉栖「……それは、私たちだけは幸せにしてくれるってこと?」


岡部(未来)「……」



ダル「……」


ダル(さっきはラボを憎んでいるようなこと言ってたのに、やってることはまるっきり逆)



ダル(未来のオカリンも、ラボメンを大事に思う気持ちは変わってない)
218 : :2018/06/08(金) 22:15:34.81 ID:GX6BhTnR0
ブラウン館工房ビル屋上――――


岡部「すーーーーーーーー」


岡部「…はーーーーーーーーーーーぅふ」


岡部「大丈夫だ落ち着け俺ーー……カームダゥーン、カームダ」


岡部「…」チラ


岡部「ぃや高いなっ!!」




岡部「しかし、グズグズしていたらラウンダーがここまで来てしまう」


岡部「俺は不死身のマッドサイエンティスト……鳳凰院凶真! 不可能はない!!」


岡部(まゆり……紅莉栖、ダル、鈴羽、るか!萌郁!!フェイリス!!)


岡部(帰るんだ!ラボが解散しない、みんなが幸せになれる、あの世界線へ!!)



岡部「ぅ…う……」


219 : :2018/06/08(金) 22:18:04.06 ID:GX6BhTnR0
ラボ――――


岡部(未来)「さて、時間も無い。さっさと本題に移るとしよう」


岡部(未来)「言った通り俺は未来の支配者だ。時間を操り権力を手駒にし密約を結ぶことで、事実上最高の地位に立った。しかしこれは完全ではなかった」


岡部(未来)「俺に仇なす反乱分子どもが沸いて出たのだ。まぁ当然のことと受け入れ、ひとつひとつ確実に潰していったわけだが、最後のひとつがどうしても潰れない」


ダル「それ僕たちだろ?」


岡部(未来)「!」



ダル「そっか、良かった。ねっ牧瀬氏☆」


紅莉栖「キモいわよ橋田。でも……ええ、未来の私たちも岡部を諦めていない」


紅莉栖「最後まで岡部の味方でいようとしてる……!」



岡部(未来)「何を言っている……? 奴らは敵だ。俺の邪魔をしてくるのだ!! 奴らと俺の道は、もう違えた!」


紅莉栖「大丈夫よ。もう全ての歯車は回り出してる」




紅莉栖「岡部は跳ぶわ。アナタを救うために」
220 : :2018/06/08(金) 22:20:20.21 ID:GX6BhTnR0










岡部「跳べよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」










221 : :2018/06/08(金) 22:24:59.80 ID:GX6BhTnR0
休憩
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2018/06/08(金) 22:39:37.11 ID:NpDW5hiZ0

メール欄にsaga入れるといいぞい
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/06/09(土) 18:23:20.86 ID:RCgsqoYA0
マユリ様!!
224 : [saga]:2018/06/09(土) 21:52:37.17 ID:kJhQF+ec0
再開
225 : [saga]:2018/06/09(土) 21:59:30.73 ID:kJhQF+ec0
ラボ――――


岡部(未来)「黙れ!!もう遅い、もう遅いんだよお前らが何を言っても止まらない!理想郷は完成する……鈴羽を捕まえさえすれば!」


岡部(未来)「お前らをエサに鈴羽をおびき出し未来へ連れ帰る、それで全て終わるのだ!もう一度、もう一度……」


ダル「何で分かんないんだお!過去のオカリンが全て変えてくれる! 幸せな世界線を絶対掴んでくれるはず!」


岡部(未来)「簡単に言うな!!できなかったらどうする。過去の俺が失敗してさらに絶望して、もっと悲惨な世界線になってしまったらどうするんだよ!? もう…嫌なんだよ辛いのはぁ!!」


岡部(未来)「だから俺がこの手でやりとげる。これ以上全てが悪くならないように!!」
226 : [saga]:2018/06/09(土) 22:13:36.41 ID:kJhQF+ec0
紅莉栖(世界線を変えるには、岡部と鈴羽さんが一緒に過去へ跳ぶ必要があるはず)


紅莉栖(だけど、今岡部は屋上から出られない。鈴羽さんも秋葉原のどこにいるかもわからない、そもそもこの状態を知らない可能性もある)



鈴羽さんが捕らえられるということは、


タイムマシンが使用不可能になることと同義。



それだけは止める、

たとえ私たちが死んでも……!



紅莉栖(でも、何も良い手が思い付かない。くそ、こんなときに私は・・・)



岡部(未来)「鈴羽と連絡をとれ」


ダル「僕たちはできないお。オカリンじゃないと」


岡部(未来)「チッ……この時代の俺はどこにいる?」


紅莉栖「……」


岡部(未来)「牧瀬紅莉栖。お前だ。答えろ」チャキ


紅莉栖「……知らないわ」


岡部(未来)「……」


岡部(未来)「近くだな。屋上か」


紅莉栖「ッ!!」


岡部(未来)「俺に嘘をつくな」


岡部(未来)「今まで何人もの人間が俺に嘘をついた。そいつらと同じように物言えぬようにしてやろうか?」


紅莉栖「……!」
227 : [saga]:2018/06/09(土) 22:26:36.56 ID:kJhQF+ec0
紅莉栖(体が、体が動かない……!あの蛇のような眼で睨まれただけで)

紅莉栖「こ、んなの、……こんなの岡部じゃない」


岡部(未来)「?そうだぞ、何を言っている?」


岡部(未来)「俺の名は鳳凰院凶真。岡部倫太郎は死んだ。ずっと……ずっと前にな」


岡部(未来)「屋上にいる俺を確保しろ」


ラウンダー4「了解」




岡部(未来)「……」



岡部(未来)「まゆりはいるのか。このラボに」



ダル「……今はいないお」



岡部(未来)「…………」



岡部(未来)「そうか」




・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・






ラウンダー4「鳳凰院様ッ」


岡部(未来)「!」


ラウンダー4「岡部倫太郎を発見できませんでした」


岡部(未来)「なんだと……!?」
228 : [saga]:2018/06/09(土) 22:32:15.42 ID:kJhQF+ec0
岡部(未来)「屋上に逃げ場など無い。銃を貸せっ俺がいぶりだしてやる」


ラウンダー1「いけません鳳凰院様!!この時代の自分と接触すると深刻なタイムパラドックスが発生する危険性があります!!お分かりでしょう!?」


岡部(未来)「黙れ。これは命令だ。お前たちは動かずにこいつらを見張れ。絶対に逃がすな」


ラウンダー234「はッッ!!」

ラウンダー1「……っ、はっ」




屋上――――



岡部(未来)「出てこい!」


岡部(未来)「どこに隠れようが無駄だ。もうよせ。諦めろ。お前も十二分に理解しているはずだ、未来を変えるのは簡単ではない」




隠れているとしたら、向かって右の陰になっている部分。そこしかない。



しかしお互いの姿を認知したとき、とんでもないことが起こる。昔の鈴羽はそう言っていた。






だが、もう……いいんじゃないか。


どうせこれ以上良くはならないなら。

あのクソみたいな未来が変わらないと分かっているなら。



いっそのこと、もう……
229 : [saga]:2018/06/09(土) 22:35:04.36 ID:kJhQF+ec0
奴と接触して、そのとんでもないこととやらを起こして。


その後奴を撃って、俺も消える――――それでこの時間の連鎖から逃れられるのなら。


それもいいかもしれない。



未来に帰っても虚しい。独りだ。理解してくれる人間などいない。まゆりは俺を見ていない。紅莉栖は敵。ダルは敵。
フェイリスも敵。るかも敵。


この作戦が成功したらまた昔みたいに戻れるかなって、いや戻りたいなって、昔みたいに皆で――――



岡部(未来)「ぐっ……う」




でもやっぱり。


無理かなって。






岡部(未来)「……!……!」




もう疲れた。


もう、もう――――




岡部(未来)「し、んでくれ……」
230 : [saga]:2018/06/09(土) 22:37:19.70 ID:kJhQF+ec0
岡部(未来)「!」




岡部(未来)「いない……」


岡部(未来)「まさか」




岡部(未来)「!」




ブラウン館前の道路に広がる、大きな大きな血痕。


それが現すこと、それは




岡部(未来)「と、跳んだのか?……ここから!?」




な、なにが



何がお前をそうまでさせる?



何、が…




岡部(未来)「クソ、クソ……!!!」


岡部(未来)「やはり何があろうと……もう俺も……!」



岡部(未来)「引き下がれない!!!行くところまで行ってやるぞ、岡部倫太郎!!俺の名は鳳凰院……」





岡部(未来)「凶真だ!!!」
231 : [saga]:2018/06/09(土) 22:48:03.65 ID:kJhQF+ec0
ラボ――――


岡部(未来)「お前たちはタイムマシンに戻れ。残りは岡部倫太郎を追え。鈴羽は確保できたのか」

ラウンダー1「鳳凰院様……それでは」


岡部(未来)「逃げた。屋上から飛び降りてな」



紅莉栖「!!」


ダル「オカリン……無茶しやがって……」


ラウンダー2「申し訳ありません。橋田鈴羽の確保は失敗したとの報告が入っております」


岡部(未来)「フン……急いで行動にあたれ。そう遠くまでは行ってないはずだ」


ラウンダー34「了解」



岡部(未来)「確かに、運命は動き始めているようだ」



岡部(未来)「……もう会うこともあるまい」



紅莉栖「いいえ」






紅莉栖「次会う時は……笑顔でね。岡部」


ダル「またな。オカリン」



岡部(未来)「……」
232 : [saga]:2018/06/09(土) 22:49:50.78 ID:kJhQF+ec0
休憩
233 : [saga]:2018/06/11(月) 01:11:47.25 ID:I+t0YjPI0
再開
234 : [saga]:2018/06/11(月) 01:37:53.15 ID:I+t0YjPI0
秋葉原某所――――



鈴羽「おじさん!大丈夫!?」


岡部「だから大丈夫だと言ってるだろ……。骨がいくつか折れただけだ」


岡部「今この時このタイミングを逃したら、もう次はない。捕まれば全てが終わりだ」


鈴羽「ねぇ……その左腕、動くの?」


岡部「そう思うなら、安全運転で頼むぞ」


鈴羽「へへ、それは保証しかねるよ。じゃあ車に…」



まゆり「オカリン」















まゆり「どこいくの?」

235 : [saga]:2018/06/11(月) 01:39:45.74 ID:I+t0YjPI0
岡部「!」ドン


鈴羽「たっ・・・おじさん!?」


岡部「車を出せ」


鈴羽「何言って」


岡部「早く!!!」

鈴羽「…ッ」


岡部「後で必ず合流しよう」


鈴羽「……絶対だよ」

岡部「ああ。行け」

鈴羽「うん」








俺は、過去のまゆりと話さなければならない。


全てを聴いて、まゆりの想いを知らねばならない。




そして今のまゆりともし話すことができるなら、


それは願ってもないチャンス。

何かのヒントを知ることができるかもしれない。



……建前はこんな感じでいいだろう。





俺はただもう単純に



まゆりと話がしたかった。
236 : [saga]:2018/06/11(月) 01:41:56.89 ID:I+t0YjPI0
岡部「……」


まゆり「……」



右手にナイフを持つまゆりを見て、緩やかな衝動が体の中をめぐっていた。


ここは本当に、シュタインズゲートではないんだな。

でなければまゆりが俺に、ナイフを向ける訳がない。




まゆり「オカリン」

岡部「なんだ?まゆり」


まゆり「まゆしぃ、いろいろ考えたんだけど」






まゆり「やっぱり死んでくれないかな」



まゆりは自分の首元にナイフを向けた。






まゆり「いっしょに。」
237 : [saga]:2018/06/11(月) 01:46:22.25 ID:I+t0YjPI0
岡部「フゥーハッハッハッハッ!!なーかなか言うようになったではないかまゆりよ、この鳳凰院凶真に共に死んでくれと、は」


まゆり「うん……もうたえられないの。ねたくっても、ねむれないの」


岡部「ほう。何故眠れない?」


まゆり「寝たら死ぬからだよ。なんかいもなんかいも。オカリンにも見せてあげたでしょ。もう、ほんとにいやなの。くるしいの」

岡部「だから、死ぬのか。だが俺を殺す理由はなんだ?」



まゆり「ひとりで死ぬのはこわいけど、オカリンがいたらこわくないの。それどころか……すっごくしあわせ。それにやっぱり紅莉栖ちゃんにオカリンをとられるのはいやなの」


岡部「クク、だだっこめ」


まゆり「えへへ」
238 : [saga]:2018/06/11(月) 01:50:35.23 ID:I+t0YjPI0
岡部「だがまゆりよ、この鳳凰院凶真の命は決して安くないぞ。代償に何を支払う?」

まゆり「え、と、まゆしぃにできることならなんでもするよ。オカリンのやってほしいことなーーんでも」


岡部「え、何でも?」



まゆり「……オカリン、えっちなこと考えたでしょ」


岡部「考えとらんわっ!マッドサイエンティストに淫らな気持ちなど……」


まゆり「ウッソだぁー」


岡部「か、からかうのはよせっ!」



まゆり「あっはは!」


岡部「まったく。……フフ」




まゆり「……ずっと、こうやってたいな」



岡部「ん……?」
239 : [saga]:2018/06/11(月) 01:53:12.47 ID:I+t0YjPI0
まゆり「ふたりで、ずっとこうしてたいな。朝も夜もこないでほしい。オカリンが冗談言って、まゆしぃが笑って、今度はまゆしぃが冗談言って、オカリンが呆れた顔して仕方ないなって……」


まゆり「ううん、思ってたの。心のどこかでずっとふたりでこうしていられるって、思ってたの。でもダメだったね。オカリンは紅莉栖ちゃんを好きになっちゃったんだもん」


岡部「まゆり……」


まゆり「まゆしぃはあの日、もうオカリンといっしょにいれないんだって分かってすっごく悲しくなって、そしたらちがう世界のことが一気に頭にながれてきて……」



まゆり「……それがいけなかったのかな? まゆしぃはオカリンとずっといっしょにいたいって思っちゃいけなかったのかな?」



まゆり「泣いちゃ、ダメだったのかなぁ……?」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/11(月) 20:23:56.60 ID:8wUf0C0d0
掻き毟れ
疋殺地蔵
241 : [saga]:2018/06/11(月) 23:43:23.78 ID:I+t0YjPI0
岡部「バカなやつめ……」


まゆり「……バカじゃないよー」


岡部「俺などといっしょになったところで、お前にいいことはひとつもあるまいに」


まゆり「だって、オカリンの横が一番安心するんだもん」


岡部「それはお前が無知だからだ。世界は……本当はもっと広いのだ」


岡部「事実、お前が俺と全く関係をもたない世界線も存在したぞ」


まゆり「ないよぉ、そんなの」



岡部「……あったのだ」



まゆり「うーん……?」
242 : [saga]:2018/06/11(月) 23:46:46.59 ID:I+t0YjPI0
岡部「まゆりよ。お前の痛みは、想像を絶するものだ。だから俺はもはや、お前が死ぬのを止めはしない。むろん俺を殺すこともな」


岡部「だが、ひとつだけ頼みがある。聞いてくれるか?」


まゆり「……うーん」



まゆり「いいよ。いっこだけなら」


岡部「フッ……」


唇が、わなわなと震えた。





岡部「ならば聴け!!椎名まゆりよッ!!!」


岡部「俺は必ずお前を救う!! お前が今苦しんでいる全てを、跡形も無く消し去ってやることを約束しよう!! 悪夢も何もかも、俺が絶ち切ってやる!!」


岡部「俺は今からある場所へ行く!! そして帰ってきたら、殺すなりなんなりすればいい!!あまりの己の幸せに、そんなことをする気も起こらんだろうがな!!だから!、だからっ……」



岡部「少しだけ、待っていてくれ……。必ずお前を救うから……」


最後の方は、かすれた声しか出なかった。



悪いのは全て俺だ。

だがもう謝らない。それに何の意味も無い。



皆を幸せにすることこそが、俺に許された唯一の謝罪なのだ。
243 : [saga]:2018/06/11(月) 23:48:44.55 ID:I+t0YjPI0
まゆり「あはははは!」


まゆり「そんなこと、信じろっていうのオカリン?まゆしぃに?あっはははは!」


まゆり「あっはははは」





まゆり「ふ、ふ……」







まゆり「……」








まゆり「…………」













まゆり「……早く帰ってきてくれなきゃ……殺すから」
244 : [saga]:2018/06/11(月) 23:50:13.87 ID:I+t0YjPI0
岡部「ああ。必ず帰ってくる」


まゆり「……」


岡部「では、もう行くぞ」


まゆり「待ってオカリン」


岡部「なんだ?」


まゆり「白衣。汚れてるよ?」



言われて見ると、骨の折れた左腕が出血し、俺の白衣は血まみれだった。

さらに泥などが真っ白な生地に色濃くこびりつき、とても見れたものではない。



岡部「あぁ……まぁ仕方あるまい。用事が全て済んだら、新調するとしよう」


まゆり「はい」



まゆりが自分のバッグを探り、取り出したのは、なんと俺のまっさらの白衣だった。
245 : [saga]:2018/06/11(月) 23:52:07.23 ID:I+t0YjPI0
岡部「なっ!なぜお前が俺の白衣を持っている!?」


まゆり「ラボにあったの、ナイショでもってかえっちゃったのです。ごめんね、オカリン?」


岡部「むぅ……ま、まぁ一枚減っているのに気づいていなかった訳ではないがなぁぁー、フハ、フハハハ」



まゆり「それがあるとね、ちょっとだけ安心してねむれるの」


岡部「?」


まゆり「夜になるとこわくて、ほんとにこわくって、がまんしてても、どうしてもねむたくなっちゃうのです。 でもそれをだきしめてると、オカリンが横にいてくれる気がしてちょっとだけ安心するんだよ」


まゆり「結局夢はみちゃうんだけど……泣きながら起きたときにそれをだきしめると、オカリンが守ってくれる気がして、ちょっとだけ、安心、するんだよ」



まゆり「オカリン、ぜったい帰ってくるよね…………?」
246 : [saga]:2018/06/11(月) 23:56:40.77 ID:I+t0YjPI0
まゆり。

まゆ、り、


まゆり…………!




岡部「……心配か?ならば何度でも言ってやる。俺は、必ず帰ってくる。絶対にお前を救ってやる。」


まゆり「うん……。わかった。じゃあこれは、オカリンに返すね。オカリンがぜったい帰ってきて、まゆしぃをたすけてくれるって、信じてるから……」



俺は血まみれの白衣を脱ぎ、まゆりから真っ白な白衣を受け取った。










まゆり「……いってらっしゃい。」



岡部「……いってきます。」
247 : [saga]:2018/06/11(月) 23:59:27.32 ID:I+t0YjPI0
秋葉原某所――――

鈴羽「おじさん!」


岡部「鈴羽」


鈴羽「大丈夫だったの!? どこも刺されたりとかしてない!?」


岡部「問題ない。それより奴らの動きは?」


鈴羽「大丈夫だよ。完全に巻いて、アイツらぜんぜん違うところ探してるから。やっぱり着地場所、変えといて正解だったね」


岡部「そうか。ならば急ぐぞ。問題は、未来に到着してからだ」


鈴羽「うん。未来ではポイントから離れすぎた場所には着地できない。奴らと近距離に着地せざるをえないからね」


岡部「そうなると、ハチ合う可能性が高い……いや、必ず接触するだろう。厄介だな」


鈴羽「だいじょーぶ!それはあたしがどうにかするよ!」
248 : [saga]:2018/06/12(火) 00:02:24.26 ID:5fxE77DU0
岡部「お前が一手に引き受けるのはリスクが高すぎる。別の方法を考えよう」


鈴羽「……おじさん」

鈴羽はため息がちにこちらを見た。


岡部「な、なんだ」


鈴羽「まだわかってないみたいだね」


岡部「どうしたというのだ鈴羽、急に……」


鈴羽「おじさんが言ってるリスクっていうのは、あたしのリスクでしょ?」


岡部「ああ。もちろんだ」



鈴羽「そんなことは考えなくていいよ。あたしに全部リスクが来ておじさんにノーリスクなら、こんなにいい作戦はない。そうでしょ?」


岡部「しかしそれではお前が!」


鈴羽「おじさん!!」
249 : [saga]:2018/06/12(火) 00:08:48.67 ID:5fxE77DU0
鈴羽「おじさんはあたしのこと、信じてくれてる?」


岡部「も、もちろんだ。俺はお前に全幅の信頼を置いて」


鈴羽「じゃあ、あたしは何のために過去に来たんだと思う?皆の悲しむ顔を笑顔に変えるために、何をしに来たんだと思う?」


岡部「お前は、ディストピアのある未来を変えに――――」


鈴羽「ちがうっ!!」



鈴羽「ちがうよ、ちがうんだよ、おじさん……」

鈴羽「あたしは、未来を変えに来たんじゃない!そんなこと、あたしにはできない!」


鈴羽「だってそうでしょ?それならおじさんの手を借りずに一人で過去へ跳んでるよ!ッ悔しいけど、悔しいけど……あたしにそんな力は無い!!」


鈴羽「助けに来たんだよ!! オカリンおじさん! 君を助けに来たんだよ!!」


鈴羽「未来変革の鍵が椎名まゆりである以上、未来を変えることができるのは君しかいないんだよ!!」



鈴羽「それが何!?たかが付き添いのあたしなんかのリスクを気にして!! 本当に大事なことを、見落として!!」


岡部「……!」


鈴羽「はぁ、はぁ、……覚悟をして、おじさん」




鈴羽「未来を変えられるのは、君だけなんだよ…………!」
250 : [saga]:2018/06/12(火) 00:10:50.78 ID:5fxE77DU0
鈴羽の迫真の説得に、思わずたじろぐ。


つまり鈴羽の意味するところは――――局面において、自分を見捨てろ。


こういうことだ。




だができるのか。俺に。

鈴羽を見捨てて、新たな世界線に到達して、それで俺は満足できるのか。



いや……良く考えたら、それは今までずっとやってきたことではないか。

他人を散々辛い目に合わせて、俺はこの世界線にたどり着いたのではないか――――
251 : [saga]:2018/06/12(火) 00:12:50.90 ID:5fxE77DU0
まゆりを助ける。

そのためだけに俺は、幾多の人々の願いを断ち切った。

だが、そのためMr.ブラウンや萌郁にまゆり、そして紅莉栖の命が助かった。

それも、……事実なのだ。



岡部「……ッ」




もう俺には、何が正しいのか分からなかった。



鈴羽「おじさん」


鈴羽は車を止めて、小さく震える俺の右手を手にとった。


岡部「な、何をしている……。俺たちには時間が、」


鈴羽「聴いて。おじさん」
252 : [saga]:2018/06/12(火) 00:16:20.86 ID:5fxE77DU0
鈴羽「オカリンおじさん。おじさんが気に病むことなんか、何にもないんだよ」


岡部「何を言ってる。俺は、多くの願いを失わせた。夢を持たせるだけ持たせておいて、最後には奪ったんだ……」

鈴羽「そうだよ。今自分で言ったじゃん!」


岡部「え……?」








鈴羽「『夢』なんだよ。『願い』なんだよ。本来は、無かった……無くて当然のものだったんだよ」


鈴羽「秋葉留未穂の父親は、飛行機事故で死亡している。漆原るかは、仕草は女のコにしか見えない」


岡部「……だが、男だ」


鈴羽「そう。そして椎名まゆりは、17歳の時点で死亡することは無い。牧瀬紅莉栖も、18歳の時点で死亡することは無い。それら全てを狂わせているのは……」



岡部「タイム、マシン……」



鈴羽「そう。」
253 : [saga]:2018/06/12(火) 00:30:41.59 ID:5fxE77DU0
鈴羽「わかるよね、おじさん。」

岡部「……」



鈴羽「今ここにいる……こうしてあなたと話しているあたしも、『夢』なんだよ。本来あってはならないもの」


岡部「……お前は夢などではない。幻などでは、ない!! お前が一体何度、一体何度……俺を……助けてくれたことか!!お前がいなければ、俺は」


鈴羽「ちがう。橋田鈴羽は、今から7年後に生まれてくる」


鈴羽「それが正常な未来。SG世界線。……あたしは歪な存在。消えてゆく運命じゃなければ、みんなが笑えない」
254 : [saga]:2018/06/12(火) 00:48:57.97 ID:5fxE77DU0
鈴羽は……

なぜ、平気なのだろう……


SG世界線を目指す。

その目的のためには、自分が必ず消えなければならないのに。



お前が過ごしてきた十余年は、俺から見れば歪かもしれないが、


お前にとってはかけがえのないものだというのに……。





いや。

本当は、平気ではないことくらい……分かっている。


けれど、分かっていてもお前の、

その仮初めの強気に縋らずにはいられない!!



だってそうだろう?



俺は今から、お前を消すのだから。


7年後に生まれてくるはずの鈴羽と、今目の前で俺と話しているお前は、違う。

生まれた場所も、環境も、経験も、思想も、意思も、すべて異なる。


そんなお前のすべてを。培ってきたその存在のすべてを!!

今から抹消しようとしている!!

そんな男をなぜお前は!!!!






笑顔で励ますことが、できるんだ……?
255 : [saga]:2018/06/12(火) 00:56:08.43 ID:5fxE77DU0
鈴羽「あたしを見捨てて。何があっても、振り返らないで。まゆりさんの心を変えるまでは」


岡部「……」


鈴羽「おじさん?」






岡部「わかッた!わかった、わかったよ、わかった……!」


岡部「俺はお前を見捨てる。そのすべてを否定して、SG世界線へ跳ぶ!!」

岡部「それでいいんだろう。それがお前の望みでもあるのだからな。フゥーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!」

鈴羽「……おじさん」















鈴羽「泣くなよ。」
256 : [saga]:2018/06/12(火) 00:57:02.53 ID:5fxE77DU0
休憩
257 : [saga]:2018/06/14(木) 21:06:57.31 ID:HnDfFZYM0
再開
258 : [saga]:2018/06/14(木) 21:09:24.11 ID:HnDfFZYM0
その後、俺たちは山中に着地させたタイムマシンへ向けて三十分ほど車を走らせた。


その間はお互い、全く口をきかなかった。


俺は夢のように流れていく夜景を、ただ眺めることしかできなかった。


この景色を見るのも、これが最後になるかも――――ふとよぎったそんな考えを、すぐに振り払う。


すぐに、戻ってこれる。


その時は皆笑顔だ。





そうやって俺は、独り戦士の顔した鈴羽から逃げていた。
259 : [saga]:2018/06/14(木) 21:13:57.59 ID:HnDfFZYM0
鈴羽「着いたよ」


岡部「……ああ」


鈴羽「おじさん、やることは分かってるよね?」


岡部「俺は未来に着いたと同時にまゆりに会いにいき、あいつの心を変える。そしてお前は、ラウンダーをひきつける」

鈴羽「完璧。じゃあタイムマシンに乗る前に……」ゴソゴソ



岡部「なんだ、それは」



鈴羽はポケットから丸い卵型の機械を取り出した。


鈴羽「父さんの開発した未来ガジェットだよ。これのもう一方はラボに置いてるから、もし紅莉栖さん達がまだ中にいれば……」


岡部「!」
260 : [saga]:2018/06/14(木) 21:22:54.89 ID:HnDfFZYM0
ラボ――――


紅莉栖「……」


ダル「ふー。あいつら、行ったみたいだお」


紅莉栖「そう」


ダル「うん」


紅莉栖「…………」





紅莉栖「……別にショック受けたりなんてしてない!!」

ダル「うおっ!なんぞ急に」


紅莉栖「岡部が何も言わずに行っちゃったことに対してショック受けたりなんて」


ダル「おお……」


紅莉栖「うるさい!」


ダル「理不尽すぎだろ常考」

紅莉栖「なんでそんな、平然としてるの」


紅莉栖「もう、あえ、ないのに……ッ」



ダル(牧瀬氏のマジ泣きキタコレ!)


ダル(とかいったらマジで殴られそうだからやめとこ)


ダル(「岡部がいなくなってせいせいしたわ!」とか言い出さないとこ見ると、素でかなりショック受けてんなぁ……)

261 : [saga]:2018/06/14(木) 21:25:45.77 ID:HnDfFZYM0
ダル「ん?」


ダル(牧瀬氏の泣き声でかきけされかけてるけど、なんか鳴ってる)


ダル「僕の携帯じゃないな。牧瀬氏、けいた…」


ダル「ってテーブルにあるじゃん。じゃあ何なんだろ」


ダル「…………奥だ」










ダル「なんぞこれ。ちっちゃいメカ。鳴ってる……」


ダル「まさか、このボタン押したら」





岡部『誰だ?ダルか?』



ダル「オカリン!?」





紅莉栖「!!!!」
262 : [saga]:2018/06/14(木) 21:36:52.97 ID:HnDfFZYM0
紅莉栖「ノスタルジアドライブッ」


ダル「ぐわあああああああっ!?」



岡部『ちょっなっ……ダル!? まずいぞ鈴羽!まだラウンダーの残党がっ』

紅莉栖「岡部!!!???」


岡部『のわああああっ』


紅莉栖「ふー、ふー!」


岡部『紅莉栖……?』


紅莉栖「あんた、なんで……!」

岡部『待て紅莉栖、落ち着け。確かに何も言わずに行ったのは悪かった!』


紅莉栖「私がどれだけ心配したと思ってんのよ!? もう会えない、話も出来ないと思って私がどれだけっ」


岡部「何を言っている!?俺はすぐに帰ってくるのだから心配などする必要も無いッなぜならこの鳳凰院凶真に不可能はっ」


紅莉栖「うるさいっ!!!!」


岡部「はい」


紅莉栖「黙って聞きなさいっ……」


岡部「はい。」
263 : [saga]:2018/06/14(木) 21:43:40.83 ID:HnDfFZYM0
紅莉栖「私は一度あんたのことを諦めた!まゆりを不幸にしてまで、私は幸せになれないって!」

紅莉栖「でもダメ!!今分かったの!私はどうしてもあんたを諦めることができない!!だから、だから」


紅莉栖「私、自分勝手なお願いするわ!!私はあなたを、愛しているから!!どの世界線にいたって、そんなのありえないって、科学的におかしいって否定されたって……この想いだけは、変えようの無い事実だから!!」


紅莉栖「岡部!まゆり救って!!そしてSG世界線で、しっかりと私を抱きしめて!!」


紅莉栖「お願い……!」
264 : [saga]:2018/06/14(木) 21:46:17.74 ID:HnDfFZYM0
岡部『……!』



岡部『ふっ』


岡部『ふふふっ……』



岡部『フハハ……何を言っているのか、この天才HENTAI少女め……』


岡部『もう、後悔しても遅いぞ!覚悟していろっ、お前がどれだけ嫌がっても!どれだけ俺を拒んでも!』


岡部『お前をっ抱きしめてやるからなッ……必ず!』


紅莉栖「……うんっ!」


ダル「……グスッ」








紅莉栖「橋田……これ」


ダル「うん」




ダル「も、もしもし」



鈴羽『もし、もし……とうさん?』
265 : [saga]:2018/06/14(木) 21:49:08.38 ID:HnDfFZYM0
ダル「!あ……」

鈴羽。






だ、ダメだ、色んな、言いたかったことが頭の中で、ぐちゃぐちゃになって……声を聴いただけでこれだ、僕は……


いっぱいあるのに。オカリンを助けてくれたこと、前の世界線で何も言えなかったこと、謝りたい……くそっ何も、まとまらない、何もっ



いや、もう、それなら







ダル「鈴羽」


もう、ひとつでいい


鈴羽『はい……』



ダル「鈴羽……!」



今度こそ。



鈴羽『はい……!』





















ダル「がんばれ……!」
266 : [saga]:2018/06/14(木) 22:06:35.15 ID:HnDfFZYM0
鈴羽『………!』


鈴羽『うん……!』











ダル「……切れちゃった」


紅莉栖「ぐっ、ぐすっ、うぅ」




ダル「届いた」





やっと届いた――――











ダル「……がんばれ」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/14(木) 22:08:43.14 ID:EV9h8UIfO
蘭子「混沌電波第172幕!(ちゃおラジ第172回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1528712430/
268 : [saga]:2018/06/14(木) 22:12:02.75 ID:HnDfFZYM0
秋葉原某所――――


ラウンダー1「鳳凰院様」


岡部(未来)「どうした」


ラウンダー1「これだけ秋葉原全域を探しても見つからないということは、彼女らは既に過去へ跳んだものと思われます」


岡部(未来)「……」


ラウンダー1「我らも一刻も早く過去へ跳んで、彼女らを待ち伏せした方が良いかと」


岡部(未来)「そうかもしれんな。貴様らがノロマなおかげで、大助かりだ」ガッ


ラウンダー1「あっ……」


岡部(未来)「総員に伝えろ。各自持ち場へ戻れ。タイムマシンで過去の牧瀬紅莉栖たちが存在した時点のアメリカへ跳べ」


ラウンダー1「……了解。各自持ち場へ戻れ――」







あそこから全てが始まった。そんなことは、言われなくても解っていた。


だから跳んだ。ラボを出て、タイムマシンを自分で開発してからは何度も何度も――――期待に胸を膨らませて。
269 : [saga]:2018/06/14(木) 22:16:26.41 ID:HnDfFZYM0
やっと終わるって思った。


本当に辛かったんだ。

まゆりがおかしくなってから皆もおかしくなって、それに耐えきれなくて、俺はラボを出た。


タイムマシンを開発するために。



もう一度……あの楽しかった頃に戻りたかった。




岡部(未来)「……」





でもダメだった。


過去の俺にバレないように未来を変えようとしたが―――俺にはまゆりが壊れる原因がわからなかった。


独りで、途方もない時間考えた。仮説を立てては跳んだ。



だが……ッ





変わらない。変わらないんだ



どうしても変わらないんだ…………!








ラウンダー1「鳳凰院様、準備が完了いたしました」


岡部(未来)「ああ。いくぞ」







だから俺はもう、





現在を変えることに決めた。







岡部(未来)「長かった……本当に長かったが、決着をつける」


岡部(未来)「このクソッタレな過去に、今日でさよならだ」
270 : [saga]:2018/06/14(木) 22:19:12.89 ID:HnDfFZYM0
イムマシン内――――

鈴羽「あともう少しで着くよ」



岡部「ああ。時間との勝負だ。しかし鈴羽、お前はどうやって過去の俺に接触するのだ?」


鈴羽「もちろんお母さんにのせてってもらうよ。すいませーん!って言って、ヒッチハイクだねっ」


岡部「そうか……それは二重で驚くだろうな過去の俺も」


鈴羽「おじさんはなんにも考えずにまゆりさんのところへダッシュでいって、未練を断ち切ってくること! それさえすればきっと大丈夫だよ!」


岡部「そうだといいがな」



あくまでも仮説。しかしチャンスは一回だ。

尻すぼみするのも、仕方がないと言え…


岡部「んぐっ」



そんなことを考えていたら、鈴羽に鼻をつままれた。




鈴羽「リラックスリラックス! だーいじょーぶ、なんとかなるって!」


岡部「……そうだな」






これから死ぬかもしれないのに、俺を気遣ってウインクができるお前に、




7年後、ちゃんとお礼を言いたい。
271 : [saga]:2018/06/14(木) 22:27:23.09 ID:HnDfFZYM0
ガコンと、タイムマシンが激しく揺れた。


鈴羽「着いた……」


岡部「あ……」


鈴羽「いくよおじさん!」


岡部「あ、ああっ」



タイムマシンの扉が開いた。

ラウンダーがいないのを確認して、鈴羽は勢い良く飛び出していく。




鈴羽「じゃあねっおじさん! また、7年後っ!」


鈴羽は笑顔でこちらに手を振った。


俺は何も言えず、手を振りかえして、雷ネットの会場へと走り出した。
272 : [saga]:2018/06/14(木) 22:28:20.92 ID:HnDfFZYM0
休憩
273 : [saga]:2018/06/20(水) 23:17:28.94 ID:QJwYwtJJ0
再開
274 : [saga]:2018/06/20(水) 23:24:35.58 ID:QJwYwtJJ0
岡部「ハァ、ハァ、……」



まゆりはどこだ。



雷ネット会場は広い。ただ闇雲に走っていては見つけられない。


俺は一度立ち止まって頭を回した。



思い出せ。


今は昼飯時……まゆりはどこにいた?




岡部(しまった……!)



この時間、俺は会場の店で猫耳メイドの格好をした紅莉栖を茶化していたのだ。


よってまゆりとは別行動――――




岡部「くっそ、俺のバカめ……!」



ラウンダーはまだ来ていないのだろうか。


鈴羽は引き付けると言ったが、全員はきっと無理だろう。


奴等が何人いるか俺は知らないが、そのうち何人かはこちらへ来て俺をとらえようとするはずだ。




心臓の音が痛いくらい大きくなり、冷や汗が流れる。




急がないと。急がないと。
275 : [saga]:2018/06/20(水) 23:26:23.43 ID:QJwYwtJJ0
怖い。

俺が捕まれば全てが終わりだ。

なのに、足がガクガクして力が入らない。


時間が無い。はやく、はやく――――!




「ねー、あれコスプレ?」



コスプレ!!


側にいた日本人がそう言ったのが、確かに聞こえた。



そうだ、コスプレだ。


コスプレを見せるために、まゆりはルカ子と一緒にお立ち台に行っているのだ!

あれはかなり反響を呼んだと言っていたから、雷ネット以外で人が集まっていて、シャッター音の絶えない場所へ行けばいい!


パァ、と目の前が明るくなった気がした。


しかし、そんな気分は次の一言で消し飛んだ。









「そうね……でもなんか恐くない?軍人みたい」










ラウンダーだ。
276 : [saga]:2018/06/20(水) 23:32:30.62 ID:QJwYwtJJ0

間違いない。



何人ものラウンダーが、人混みの中で俺を探している。

白衣を脱いで身をかがめる。


左腕に激痛が走ったが気にもならない。


バレたら終わりだ。


しかし幸運なことに、ラウンダーとは逆方向にルカ子の姿が見えた。




しめた――――。


俺が足早にお立ち台に近付くと、側にいたまゆりが手を振った。



まゆり「あーっ!オカリ」



岡部「しっ!出るぞ」


まゆり「えー?」








るか「ま、まゆりちゃ、え、どこいくの、えええ……」
277 : [saga]:2018/06/20(水) 23:38:32.81 ID:QJwYwtJJ0
足早に雷ネット会場から離れ、歩いて五分ほどにある公園のベンチに腰を下ろした。



岡部「飲むか」


買ったジュースの缶を渡す。


まゆり「わ、ありがとーオカリン」




まゆりは、元気だった。


目にクマが少しだけついているが、俺のいた時間ほどじゃない。



岡部「クマができているぞ。眠れなかったのか?」


嬉しくて、逆にそんなことを尋ねてみる。



まゆり「んー?……まゆしぃ、ちゃんと寝たよ?」






はっと、気づく。



今日の……この日の前日は、俺がまゆりをはねのけた、あの夜の日ではなかったか。


このクマは、まさか俺があの日、まゆりを拒絶したから眠れなくて……?



良く見ると、かすかに目も赤く腫れている。



岡部「あ……」


そして今日の夜、俺は紅莉栖と付き合うことになったとラボメンの皆に報告するのだ






幸せいっぱいのその笑顔で。





岡部「う、ああ……!」


まゆり「オカリン?」
278 : [saga]:2018/06/20(水) 23:41:58.59 ID:QJwYwtJJ0
吐き気がした。

俺はなんて、なんて――――ッ



岡部「う、」


まゆり「オカリン、大丈夫?」


まゆりが背中をさすってくれる。



まゆり「もし昨日のことでなやんでるなら、そんな必要、ぜんぜんないのです……まゆしぃ、気にしてないよ」


岡部「!」



涙が出そうになるのを必死にこらえる。

俺は本当に、バカ野郎だった。


何で気付かなかったんだ!?

まゆりはもう、今の時点で、こんなに苦しんでいたのに……


まゆり「オカリン」


岡部「ふ、ふふ。すまないなまゆり、もう、もう大丈夫だ。少し取り乱しただけだ」


まゆり「ほんと?」


岡部「……まゆり」














岡部「俺のこと、好きか」
279 : [saga]:2018/06/20(水) 23:57:40.71 ID:QJwYwtJJ0
まゆり「……? オカリン?」


岡部「答えてくれ、まゆり。俺のことが好きなのかどうか」


まゆり「……」




まゆり「まゆしぃ、好きだよ。オカリンのこと」


まゆり「でもね。もしオカリンがまゆしぃのこと好きだったとしても、それはとってもとってもうれしいことだけど……だけど」



まゆり「それはきっと、まゆしぃの好きとはちがうのです。」


まゆり「だからまゆしぃは、もうオカリンのこと好きでいたくない」









まゆり「……辛いから」
280 : [saga]:2018/06/21(木) 00:22:53.56 ID:BeltT/WJ0
岡部「そうか」


まゆり「うん」


岡部「……まゆりは俺のこと、好きなのか。くくくくッ」


まゆり「そ、そんな言い方してないよ……。好きでいたくないって言ったのです」


まゆり「だってオカリンは、紅莉栖ちゃんが好きなんでしょ?」



岡部「……ああ、そうだな…………」




俺はこの時間に出発する前、まゆりに「お前に関わらなかった世界線も存在した」と言った。


しかしそんなものは……真っ赤な嘘だ。


まゆりに見せられたどの世界線においても……岡部倫太郎は存在した。



α世界線で17歳の生涯を終えてしまうまゆり。


そんなまゆりと、俺は必ずどこかの時点で出逢っていた。



幼稚園で。


小学校で。


中学で。


高校で。




死にゆくまゆりの側には、いつも俺がいた。
281 : [saga]:2018/06/21(木) 00:26:37.30 ID:BeltT/WJ0
信じられない。


そんなことがあり得るのだろうか。


幾百、幾千を超える世界の中でただのひとつも、俺とまゆりが出逢わない世界線は無い。


そして彼女の、俺を想う強さが――――苦しくて。嬉しくて。





もう、分からない 。


こんな自分の気持ちにもケリをつけられない、弱い弱いこの俺が、まゆりに強くなれなどと言えるのか?


そんなこと、言える筈がない。







自分の中で、何か大切なものが急速に萎えしぼんでいくのを感じた。
282 : [saga]:2018/06/21(木) 00:31:23.14 ID:BeltT/WJ0
岡部「なんでだろうな」


岡部「なんで俺はこんなに……」


まゆり「オカリン? 大丈夫?」


岡部「運命が、重い」


岡部「重い重い重い重い重すぎる!重すぎるんだ!!なんで、俺なんだ!」


まゆり「オ、オカリン」


岡部「俺はただ、普通に……ラボメンの皆と過ごしたい、仲良く、いつまでも、楽しく……。それだけ、本当にそれだけなのに、それだけなのに、なんでだろう。それはとても難しいんだ」












岡部「俺だけ。」











岡部「ぅ、ぅ、ぅ、ううううわああああああああああああ」


まゆり「だめ!オカリン!!」
283 : [saga]:2018/06/21(木) 00:35:34.38 ID:BeltT/WJ0
まゆり「ま、まゆしぃは分からないけど、ダメだよ!落ち着いて!」


岡部「な、なぜリーディングシュタイナーなど持ってしまったのだろう?それさえなければ俺は、皆と同じように俺は、」


まゆり「オ、オカリン。なに言ってるの」


岡部「ああああぁぁぁぁ」






???「あのー、発狂してるとこ悪いんだけど、至急この車に乗って欲しい件」


まゆり「だ、だぁれ?」




???「あぁ、ちょっと事情があってマスクとサングラスと帽子は取れないんだけど、この声でわからん?」


まゆり「もしかして……」






まゆり「ダルくん?」


岡部「!」



岡部「ダ、ダル……?」








ダル(未来)「久しぶり。……オカリン、まゆ氏。」
284 : [saga]:2018/06/21(木) 00:36:01.82 ID:BeltT/WJ0
休憩
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/21(木) 23:17:10.61 ID:q88f3CthO
いいねえ
286 : [saga]:2018/06/23(土) 22:55:11.52 ID:iNE4LDsT0
再開
287 : [saga]:2018/06/23(土) 22:59:19.51 ID:iNE4LDsT0
岡部「ダル……?」


ダル(未来)「一応はじめましてになるかな。君はこの時点より未来からきたんだろ?」


岡部「う、う、」


岡部「嘘だ!!」


ダル(未来)「お、……」



岡部「お前はSERNのッ…そうでなければラウンダーのまわしものだっ! もし本物のダルだと信じて欲しいなら、しっかりと顔を見せろ!!」


まゆり「オカリン、でもダルくんの声だよ……」


岡部「声など変声機を使えば誰にでも真似できるッ! さあ顔を見せろよ!……見せろ!!」


ダル(未来)「…………」


岡部「どうした!できないのか! できないのなら……俺はお前をダルだとは認めない!!」



ダル(未来)「同じ眼をしてる」


岡部「何!?」






ダル(未来)「僕らの時代のオカリンと」



岡部「!な……」
288 : [saga]:2018/06/23(土) 23:03:15.47 ID:iNE4LDsT0
ダル(未来)「悪いけど顔は見せられない。……今はね」


ダル(未来)「僕が僕だと証明してくれるものは今となっちゃ、これしかない。ずっと着けてたから……もうボロボロになってしまったけど」


岡部「それは……」




ラボメンバッジ――――。





岡部「――――いや、そんなもの、いくらでもコピーは」


ダル(未来)「そんなものよばわりするな」


岡部「!」


ダル(未来)「オカリンが作って僕らにくれたこのバッジを、そんなものよばわりするな」


ダル(未来)「僕はラボメンNo.003であることに誇りを持っている!」


ダル(未来)「どんなに笑われたって、あれがお遊びだったって、あの日々は僕の宝物なんだ」



ダル(未来)「……力を貸してくれよ。昔のオカリン。頼みがあるんだ」


岡部「俺に、何をしろと言うのだ……」




ダル(未来)「……鈴羽はこの世界線で命を落としたら、もう生まれてくることができない」
289 : [saga]:2018/06/23(土) 23:05:48.39 ID:iNE4LDsT0
鈴羽は死ぬ。


少なくともこの世界線では、奇跡が起きない限り、間違いなく。


そしてヤツがラウンダーを引き付けている間に、俺はまゆりの気持ちにふんぎりをつけさせ、それと同時に世界線変動。世界は救われる。それが俺たちの作戦。



ダル(未来)「鈴羽は気付いていないけど」


ダル(未来)「僕達はずっと未来から鈴羽の動きを観測していた。計画は、順調だった」


岡部「!?ならばお前たちが未来から原因を究明すれば良かったではないか!!」


ダル(未来)「僕達は長年、何がなんだかわからなかった。オカリンとまゆ氏は突然おかしくなって、僕や牧瀬氏もおかしな夢に苦しまされて、気づけばラボはバラバラさ」



ダル(未来)「やっと、やっとここまで来た。仮説を立てては議論を戦わして、ついに原因はリーディングシュタイナーの突発的発生だと解った」


岡部「そうだ!ならば――――」


ダル(未来)「落ち着けって、オカリン」


岡部「んぐっ……」



ダル(未来)「へへ、なんかこのやりとりも懐かしいな」
290 : [saga]:2018/06/23(土) 23:08:30.49 ID:iNE4LDsT0
ダル(未来)「少し冷静になって考えてみろよオカリン。僕達は確かに原因を突き止めた。でもそれは、更なる闇に踏み込んだだけだったんだ」



岡部「……! 原因、の、原因」


ダル(未来)「そう、原因の原因だ。一番大切なのは結局それだった」



ダル(未来)「《椎名まゆりのリーディングシュタイナーは何故突発的に発生したか―――?》」


まゆり「ダル君、さっきから何のこといってるのかな」


まゆり「りぃでぃんぐしたいなーってなぁに?」



ダル(未来)「」パン



まゆり「はうっ」プシュッ ドサ




岡部「まゆりぃぃーーーー!?ダルおまおまおまおま何をッ!!」


ダル(未来)「ちょっ、こっちくんなってオカリン!只の麻酔銃麻酔銃! まゆ氏が余計なこと知っちゃったら困るっしょ!?」

岡部「だからっておまっ」


ダル(未来)「いいから、車に乗れよ!説明はそれからする







ダル(未来)「時間が、無いんだ、時間が……」
291 : [saga]:2018/06/23(土) 23:11:49.99 ID:iNE4LDsT0
岡部「ダル、お前車ちゃんと洗っておけよ。なんかベタベタしたものがついているぞ」


ダル(未来)「借り物だからね。所有者がよっぽど激しいプレイでもしたんでない?」


岡部「あほか……」





車中――――



岡部「くっ、少し飛ばしすぎではないか」


ダル(未来)「鈴羽とラウンダーがカチ合うのはまだ先だけど、何しろ結構距離があるからね」


岡部「……で、さっきの話の続きだが」



ダル(未来)「ああ。とにかく原因の原因を究明しなきゃってことになって、牧瀬氏と色々考えたんだけど、まあわかるわけないよな。思い出すにしても限界があるし」


岡部「それはそうだな。というかお前、まさかずっと紅莉栖と一緒にいるのか」

ダル(未来)「お?」

岡部「……」


ダル(未来)「お?お?」


岡部「……」





ダル(未来)「気になる?気になる?」



岡部(うぜぇ……)
292 : [saga]:2018/06/23(土) 23:15:47.74 ID:iNE4LDsT0
岡部「まあ紅莉栖に限ってそんなことあるはずが」


ダル(未来)「甘いな……甘ェよオカリンッ金平糖かよてめえはッッ!?」


ダル(未来)「大人 なんだぜ……?牧瀬氏も、そして、この、僕、も……」


岡部「な、なぁ〜にを言っておるのかさぁ〜ぱりわからんなー我が右腕よ」



ダル(大人)「……」



岡部「……」





ダル(未来)「まぁいいや、話に戻ろうか」


岡部「いやちょっ、」


ダル(未来)「ん?」



岡部「ぐ……何でもない!話せ!」


ダル(未来)「KOWAAAAI」


岡部「だまれ!」

ダル(未来)「……」 

岡部「話せ!」

ダル(未来)「どっちだよ」
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