まゆり「トゥットゥルー!」岡部「・・・え?」

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93 : :2018/06/05(火) 11:22:04.83 ID:pSJ8SQZq0
再開
94 : :2018/06/05(火) 11:28:40.59 ID:pSJ8SQZq0
フェイリスの家(高層マンション)――――


鈴羽「……バレてないよね、多分」


鈴羽(ここがフェイリスさん家……でっかいなー。たしか秋葉原の地主なんだっけ?セキュリティも頑丈そう)


鈴羽(どうしようかな。全部勘違いで、おじさんがもう椎名まゆりを見つけちゃってる、なんてことも……、いや!)


鈴羽「迷ったら攻める!それがあたしのモットーだよ!」


鈴羽(レッツ潜入!)





入口――――


鈴羽「と、と、と……ありゃりゃ」


黒木「…………」



鈴羽「フェイリスさんの友達なんだけど……」


黒木「申し訳ありませんが、あなたをお通しすることはできません。お帰りください」


鈴羽「なぜ?」


黒木「お嬢様の、ご命令ですので」



鈴羽「ふぅん……」


鈴羽「椎名まゆりが、ここにいるんだね?」


黒木「……お帰りください」




95 : :2018/06/05(火) 11:30:11.93 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽(居場所が分かっただけでも、良しとするか……。これ以上はおじさんに迷惑かかっちゃうし)


鈴羽(とりあえず後はおじさんに任せるとして、あたしは一旦退こう)



「……!……ッ……!!…………!……」



鈴羽「ん?」


鈴羽(なんだろ、自動ドアの後ろの方で……)



鈴羽(フェイリスさんの声……?)



フェイリス「…………めだよ……ちゃん!……そんな…………!」


黒木「?お嬢様、どうされました」


フェイリス「黒木!まゆりちゃんを…………あぁッ!」
96 : :2018/06/05(火) 11:33:18.58 ID:pSJ8SQZq0
柳林神社――――


岡部「ひどい顔?まゆりがか」


るか「あっ、ち、ちがうんです!ぼ、ぼくそんなつもりじゃなくて!そういうのじゃなくて、まゆりちゃんはかわいいんですけど、あの、だからこそ余計っていうか……」


ダル「もちつけルカ氏」


岡部「ひどい顔……ひどい顔とは具体的にどういうことだ?」


るか「あ、あの…………だから、その」



―――ーーー―――ーーー―――――ーーー―――ーー――ーーーー――――――ーー―――ー‐‐―ーー―‐――‐‐ーーーー‐‐―

るか『まゆりちゃん……眼が、真っ赤で』


―――ーーー――――ーーーー――――――‐‐ーーーー‐‐―――‐ー‐―ーー――‐‐ーー‐‐―‐‐ーーー‐‐――――


鈴羽「…………!!?」


まゆり「あなた……誰?」


――――ーーーー―――ーーーー――――ーーー――――ーー‐――‐‐ーーー‐‐‐―――――ーーー――――‐‐―‐―‐ーー‐‐――


るか『何日も寝てないなんてほどじゃないくらいに…………くまもひどくて』



―――ーーーー―――――ーー―――ーーーーーー――――――‐‐ーーー‐‐‐――‐‐ーーー‐――‐ー‐――――ーーー―‐‐‐――ーー――‐‐ーーー‐‐―



鈴羽「あ、……」


まゆり「まゆしぃに、なにか用ですか?それとも」



――――ーーーー―――ーー――ー―――ーーー―――――――‐ーーー‐‐―――‐‐ーー‐‐―――‐‐ーーー‐‐‐――‐‐‐―――‐‐


るか『瞳が、瞳の中が……すごく…………すごく真っ暗だったんです』


―――ーーー――――ーーー――――ーー―――ーーー―――――ーー―――‐‐―――‐―‐‐‐ーーー‐――ーー―――‐‐


まゆり「女の子だね〜、じゃあオカリンのお友達かなぁぁぁ?ふふふふ、あはははははははは!!!!」
97 : :2018/06/05(火) 11:34:44.96 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽「あ、……あ、」


フェイリス「ダメだよまゆりちゃん!!落ち着いて!!」


まゆり「離して!オカリンは、オカリンは!まゆしぃのなの!!誰にも渡さないの!!あなたなんかのところに、行くわけないんだよ紅莉栖ちゃん!!!」


フェイリス「黒木ィ!押さえて!まゆりちゃんを、止めてぇ!!」


黒木「はっ……まゆり様、どうか落ち着いて下さいっ」


まゆり「オカリンはいつもまゆしぃに優しかったの!オカリンだけがまゆしぃのことを大切に思ってくれたの!いつだって助けようとしてくれたし、ほんとの自分を見せてくれたの!!」


まゆり「ありえないよ!!認めないよ!!紅莉栖ちゃん、私は認めない!!オカリン、いかないで!いかないで!いかないで!いかないで!!」



まゆり「オカリンを返してぇぇぇぇ!!!!!」
98 : :2018/06/05(火) 11:36:23.04 ID:pSJ8SQZq0
気付いたら、あたしは駆け出していた。

後ろから椎名まゆりの叫び声が耳を突き刺したけど、決して振り返らなかった。


嫌、厭、いや。




怖い。恐い。こわい。




ようやく足を止めたのは、フェイリスさんと最初に会った元の場所に戻ってきてからだった。



鈴羽「はぁ、はぁ、はぁ」



大した距離じゃない。




鈴羽「……っ、ふう、はぁ、はぁ、」



この汗は、疲労のものじゃない。


この息切れも、疲労のものじゃ、ない。
99 : :2018/06/05(火) 11:37:45.09 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽(…………椎名まゆりを前にした瞬間)


鈴羽(頭がギュッてなって……苦しくなった)


鈴羽(きっとどこかの世界線の記憶を引き出されかけたんだ。だって……だって、)


鈴羽(色んな寂しさとか、こわさとか……申し訳なさが、頭の中に流れこんできた)


鈴羽(失敗した、失敗した、失敗した、……)


鈴羽(あたしは失敗した、失敗した、失敗した、失敗した!!)


鈴羽「やめて!!」






鈴羽「……うぅ、…………おじ、さん……」
100 : :2018/06/05(火) 11:42:41.99 ID:pSJ8SQZq0
柳林神社――――


るか「ぼく、こわくって」


岡部「むぅぅ……」


ダル「予想以上に、ヤバそうだお……オカリン」


るか「それとまゆりちゃんと眼があった瞬間、急に頭が痛くなったんです……その日から変な夢…を」


岡部「……!」




眼が合った瞬間、他人の別の世界線の記憶を呼び起こそうとする。

まゆりに発現したリーディングシュタイナーの影響が、それほど強くなっているということなのだろうか……。


…………危険だ。危険すぎる。



るか「凶真さん、まゆりちゃんに何が起こってるんですか……?」



岡部「ふん。フゥーハハハハ!!!ルカ子よ、案ずる事はない。すぅぐに全てにケリを着けてみせよーう。まゆりの事も、お前の夢にもだ!」


るか「は、はい……」


岡部「んむぅ?この俺を信じられないのくぁ、我が弟子よ?」

るか「い、いえ、そんなことありません!ただちょっと心配、で……」



岡部「…………ふぅー」


俺はルカ子の頭に軽く手を置いた。




岡部「俺を信じろ。ルカ子」



るか「!……」


るか「……はい。凶真さんがおっしゃるなら……ぼく、信じます」
101 : :2018/06/05(火) 11:49:11.84 ID:pSJ8SQZq0
岡部「それでいい」

頭を撫でてやると、ルカ子は眼をぎゅっと瞑って身体を緊張させた。


岡部「さて。そろそろ行くとするか。ダル」


ダル「オーキードーキー」


岡部「迷惑をかけたな、ルカ子」


るか「いえ、そんなことありません……」


岡部「今度礼でもするとしよう。鍛錬を怠るなよ?」


るか「は、はい!」



岡部「ではさらばどぅあ!!」


るか「あの、きょ、岡部さん!」


岡部「俺は鳳凰院凶真だっ」


るか「ぁ…………」


岡部「…………」


るか「…………」


岡部「…………どうかしたの、か」


るか「……い、いえ、何でも、ありません」


岡部「?そうか。ではな」


るか「はい。お気をつけて……」











るか「ぼくは、女の子じゃないから……男の子だから……」
102 : :2018/06/05(火) 11:52:35.73 ID:pSJ8SQZq0
ダル「なんか危機感上がって……怖くなってきたお」

岡部「だが、必要なことだったのだ。まゆりの状態は芳しくない……それは確認できた」


岡部「これで俺たちはまゆりの前で不用意な発言をすることは無い」


ダル「オカリン……やっぱいくん?」


ルカ子の話を聞いたダルは、すっかり萎縮してしまっている。

俺はひとつため息をついた。


岡部「なぁーにを怯えているのだマイ・フェイバリット・ライト・アームよ!未来を変えるためにはこれしきの覚悟は些細なこと!どーんと構えておけ!」


ダル「……」


岡部「どうしたダァルよー、悩みすぎは体に禁物だぞ。痩せたいならばちょうどいいかもしれんがな!フゥーハハハァ!!」


ダル「…………すごいな、オカリンは」

岡部「っはっはっは、あぁ?」
103 : :2018/06/05(火) 11:56:39.95 ID:pSJ8SQZq0
岡部「ククク……ようやく俺の偉大さに気付いたか」


ダル「オカリンはまゆ氏を助けるためにいろんな世界線を渡り歩いて来たんだよな。その中にはもちろん、怖いこととかショック受けることもあったっしょ?」

岡部「…………」



脳裏に浮かんだのはまず、ラボへのラウンダーの襲来。

あのとき日常を突き破られた感覚は、今でも俺の胃を締めつける。


まゆりの死。

どれだけあがいてもアトラクタフィールドの収束によってバッドエンドを突きつけられる、あの絶望感。しかも一度や二度じゃない。


他にも萌郁とミスターブラウンの死、綯の殺意、……まゆりを助ければ紅莉栖が死ぬことに気付いたとき。

辛いなんてものではない。


だからこそ、SG世界線にたどり着いたときどれだけ嬉しかったか。


そして、既にここがSG世界線ではないと告げられたとき……どれだけ悲しかったか。
104 : :2018/06/05(火) 11:58:21.84 ID:pSJ8SQZq0
ダル「オカリンは凄いよ。僕は今正直、ショックで仕方がない」


ダル「今までラボで三人で楽しくやってきて、ラボメンが増えてもっと楽しくなって……。これからもずっとこんな風にやっていけるって思ってたのに」


ダル「突然、こんなことになっちゃって……」


そうか。

ダルは今初めて日常を壊されたあの感覚を体験しているのか。


俺はどうやら度重なる世界線の行き来によって感覚が麻痺してしまっていたらしい。


そうだよな。


いきなり友達だった人間がおかしくなって。

唐突にタイムリープだのリーディングシュタイナーだの訳のわからない言葉を詰めこまれて。


怯えて当たり前。


ダルにとっては今この状況が、俺よりももっともっと不安で仕方がないのだ。
105 : :2018/06/05(火) 12:00:54.31 ID:pSJ8SQZq0
ダル「……怖がらない。怯えないって決めてたんだけど」


ダル「やっぱり少し、それはある…」

岡部「ダル」


ダル「?」


岡部「話した通りこの世界線では、世界が終わる。自由なんてものは消えて無くなる」

岡部「現時点でそれを止めることのできるのは、俺と鈴羽、そしてお前だけだ」

ダル「分かってるけど、さ……」


岡部「そういえば世界が終わるとしか言ってなかったな……これだけはまだ話していなかったが」


岡部「このままいくと世界を終わらせるのは、俺だ」



ダル「……!」

ダル「冗談、だよなオカリン」


岡部「俺はラボメンを信じられなくなってラボを解散し、孤独の支配者になるんだそうだ。フフ」


ダル「そんな……」
岡部「ダル」





岡部「俺にそんな真似、させないでくれよ」


ダル「!…………」
106 : :2018/06/05(火) 12:09:45.15 ID:pSJ8SQZq0
岡部「俺も怖いよダル。初めてのこの世界線では何が起こるか分からない。お前と同じだ」


岡部「だが俺はラボにいたい。ずっとラボメンのNo.001でいたい」


岡部「孤独の支配者なんかになりたくは、ない」


ダル「……」


岡部「……狂気のマッドサイエンティストは、設定の中だけで充分だろう」



ダル「……オカリン」


岡部「…なんだ」


ダル「オカリンみたいなチキンが、世界の支配者になれるわけない件」



岡部「……お前な」

ダル「だから…だから」






ダル「心配しなくていいお」



岡部「……」



ダルは俺の前をずんずんと歩きだした。






岡部「……まったく」






俺の友達が



お前で良かった



ダル。
107 : :2018/06/05(火) 12:11:09.71 ID:pSJ8SQZq0
フェイリスの家に向かおうとする途中、不意に携帯が鳴った。


岡部「ダル。少し待ってくれ」


ダル「把握!」


岡部「もしもし?」

鈴羽『おじ、さん?うぅッ……』


岡部「鈴羽どうした大丈夫か!?何かあったのか!?」


電話の向こうの鈴羽は苦しんでいるのか、息づかいが激しく、声に呻きが混じっていた。


岡部「まさかラウンダーが――」


鈴羽『違うよおじさん、大丈夫……それより聞いて』


岡部「そ、そうか。良かった……何だ?」



鈴羽『……椎名まゆりに、会っては、ダメ』
108 : :2018/06/05(火) 12:14:33.73 ID:pSJ8SQZq0
岡部「え?」


鈴羽『今の椎名まゆりは、危険だよ……うっ……お、思った、以上に』


岡部「し、しかしそれでは――ここでまゆりに接触しておかないと、」


鈴羽『ダメ、だよ。確かに不安要素はなるべく消しておきたいけど……それでもダメ』


岡部「む……分かった。落ち着いたらでいい。後で説明してくれ」


鈴羽『おじさん』


岡部「何だ?」



鈴羽『椎名まゆりを……牧瀬紅莉栖に、絶対接触させないで』


岡部「?どういうことだ」




岡部「……切れてる」
109 : :2018/06/05(火) 12:30:37.41 ID:pSJ8SQZq0
空港――――


紅莉栖「……ふぅ、結構あっという間だったわね」


紅莉栖「んーーっ……」


紅莉栖(ずっとパソコン使ってたから、眼が疲れた)


紅莉栖(研究所にも無理いって出てきちゃったんだし、せめて飛行機の中でくらいは研究しなきゃね)


紅莉栖「目薬、目薬、っと……」


紅莉栖(それにしてもなんなのよ岡部のやつ)


紅莉栖(緊急事態だからすぐ帰ってきてくれだなんて……こっちはこっちで忙しいっていうのに)


紅莉栖(まぁ帰ってきちゃう私も私だけどね)
110 : :2018/06/05(火) 12:33:37.87 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「これでもしくだらないことだったら、ホントに海馬に電極を……」


紅莉栖(……でも)



紅莉栖(岡部に、会える)


紅莉栖「………………はっ!?」


紅莉栖(別に、違うから!付き合います宣言してから初めて会うから、すごく緊張してるとか、嬉しかったりするとか、そんなんじゃないんだからな!)


紅莉栖(でも、あのときは恋人らしいことあんまりできなかったから)


紅莉栖(こ、今回はデートとか、しちゃったり……)


紅莉栖(手とかつないじゃったり……ってまた妄想に走ってるっ!)


紅莉栖(…………)



紅莉栖(もう一回、キ、ス……)





紅莉栖「ス、スイーツ乙! 私、スイーツ乙!」
111 : :2018/06/05(火) 12:36:15.23 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖(落ち着け私。落ち着け私。大事なことなので二回言いました)


紅莉栖(舞い上がってるのを気取られると、あいつを調子にのらせることになる)


紅莉栖(主導権を握るのは私!岡部じゃなくて私なの!)


紅莉栖(そこは譲らないようにしなくちゃ)


紅莉栖(でも)



紅莉栖(強引な岡部か……)



紅莉栖(…………)



紅莉栖(…………)


紅莉栖(わ、悪くないじゃない)




紅莉栖(こんなスイーツ(笑)みたいな感情、私にもあったんだ……)


紅莉栖(……ちょっと自分に素直になってみるのもいいかもしれない)





紅莉栖「岡部に、……会いたい」



紅莉栖「はやく、ラボにいきたいな」
112 : :2018/06/05(火) 12:37:24.84 ID:pSJ8SQZq0
ラボ――――


岡部「まぁなんやかんやで戻ってきた訳だが」

ダル「外での用事ももう済んだしね」


ダル「スーパーで牧瀬氏用のお菓子も買い終わったし……」

岡部「…………それはいいとして」


岡部「まぁーたダイエットコーラだ。まぁぁぁたダイエットコーラだあああ!!」

ダル「ちょ、うるさい」


岡部「我がラボにあるのはドクぺだけでいいと、何回言ったら分かるのだ貴様はぁぁぁぁ!!?」


ダル「いいじゃんわざわざ家に戻って、オカリンと牧瀬氏用のドクぺ買ってきたんだし……」
113 : :2018/06/05(火) 12:38:42.06 ID:pSJ8SQZq0
ダル「てか、着くの明日じゃなかったん?」


岡部「あちらの研究所が予想外に快くOKを出してくれたらしくてな。急遽今日到着ということになった。今何時だ?」

ダル「午後9時だね」


岡部「ふむ。ならばそろそろ空港に着いている頃だろう」


ダル「あ゛あぁあぁあ〜」


岡部「どうしたダル。餌が欲しいのか?」

ダル「豚じゃねーよ。いや、牧瀬氏とオカリンの濃厚な絡みをこれから見せつけられると思うと……あ゛あぁあぁああ〜」

岡部「人がいるところでいちゃつく程バカップルではないわ」


ダル「ぶぉっほっ!!」


岡部「餌が欲しいのか?」
114 : :2018/06/05(火) 12:40:31.70 ID:pSJ8SQZq0
ダル「冗談きついぜオカリン……」


岡部「冗談などではない!お前のいる前ではいちゃつかないと約束しよう!」


ダル「……オカリンはそうでもなぁ〜」


岡部「なんだよ」


ダル「牧瀬氏がなぁ〜」

岡部「なんだよ」


ダル「リア充爆発しろよッッッッ!!」


岡部「なんだよ急に!!?」


ダル「あーなんか無性にイラついてきた件。一発殴らせてくれよオカリン」


岡部「はぁぁ!?!?」


ダル「この気持ちは壁では治まらない……!!」


岡部「いや意味がわか……痛ッ!!!」
115 : :2018/06/05(火) 12:44:50.11 ID:pSJ8SQZq0
岡部「なぁ」


ダル「なんぞ?」


岡部「理不尽だろ」


ダル「そうでもないお?」


岡部「いや、いちゃつかないって約束したのに何で俺は殴られたのだ?」

ダル「僕の前で彼女の話をしたのが運の尽きだお」


岡部「この豚……」


ダル「ま、それは置いといて。牧瀬氏が来るまでに状況整理しとかん?」


岡部「ったく……だがそうだな。紅莉栖には色々と理解してもらわなければならないことがある」


ダル「現在の状況だけでも僕たちがまとめておいたら、多少スムーズに事が進むんでない?」


岡部「よし。では紙にまとめるとするか」
116 : :2018/06/05(火) 12:47:18.75 ID:pSJ8SQZq0
未来――――


地下、ドーム状になった広い広い空間。

その中央の床には、大きく五ヶ所に白線が引かれている。




無論、タイムマシンのためのものだ。



そして今まさに、右端の白線の中に衛星を象ったタイムマシンが出現しようとしていた。




ラウンダー1「戻ってきます」


???「……構えろ。出てきたら撃て」


ラウンダー1「しかし……」


???「撃て」


ラウンダー1「…………了解」



???「使えない道具はいらない。至極単純な道理だろうが……」





ドームの中に、乾いた銃声が鳴り響いた。
117 : :2018/06/05(火) 12:49:40.10 ID:pSJ8SQZq0
ラウンダー1「脈、ありません。死亡しました」


???「ご苦労。他はタイムマシンが無事か確認しろ」


ラウンダー234「了解」


三人の男達がタイムマシンの状況を確認しにきた。


誰もたった今殺された、傍らに倒れている男には目も向けない。

もちろん命令した張本人も。


ラウンダー1は同胞だったこの男に対して短く謝罪の言葉を口にし、その場を離れた。


ラウンダー2「タイムマシン五号機、異常なし!」


???「ならばいい。死体を処理し、持ち場へ戻れ」


ラウンダー234「了解!」



三人の男たちは無表情で死体を担ぎ、ドームをあとにした。



そのあとにはラウンダー1、命令した男、そして点々とした血痕だけが残された。
118 : :2018/06/05(火) 12:54:37.29 ID:pSJ8SQZq0
???「どうした」


男は全く顔の筋肉を動かさない。


ラウンダー1「…………いえ」


???「…………フン」


???「……奴は、『タイムマシン前で鈴羽を待て』という俺の命令を無視したあげく、バイクを使い怪我を負った」


???「そしてなにより、鈴羽を、鈴羽を殺そうとした……!」

男の顔が怒りで醜く歪む。


???「貴様に銃殺を命じた理由としては以上だ。改めて聞くが、何か不服があるのか」


ラウンダー1「……あるはずも、なし」



ラウンダー1「全ては鳳凰院様の御心の、ままに」









岡部(未来)「…………」
119 : :2018/06/05(火) 12:57:20.08 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「もはや世界は、我々の手中にある」


二人はドームを出て、エレベーターで最上階へ向かっていた。

緊急時に素早く対処できるように、側近であるラウンダー1の手には自動小銃が握られている。


岡部(未来)「経済大国――――アメリカやロシアやイギリス、そして日本」


岡部(未来)「みな表向きは我が組織を認めない、その存在を許さないと言っているが……」


エレベーターが止まった。

岡部は自室の扉を開けた。



その壁には、各国が友好の証として贈ってきた様々な品が、ごみのように床に転がっていた。





岡部(未来)「現実は、こんなものだ」
120 : :2018/06/05(火) 13:01:21.76 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「この世界線では、タイムマシンを持つのはこの俺唯一人……。あれだけ恐ろしかったSERNすらも、俺を恐れている」


ラウンダー1「それは当然でございます。時間を握った人間を、敵に回すことはできません」


岡部(未来)「ほう。貴様もそうなのか」


ラウンダー1「…………」


岡部(未来)「他の者が俺の最初の呼びかけを一笑に付す中――――貴様だけが応えた。誰よりも早く」


岡部(未来)「貴様のその嗅覚は賞賛に値する」


ラウンダー1「光栄に、ございます」




岡部(未来)「…………世界は俺のものになる。俺のユートピアはまもなく完成するのだ。――――ただ不安要素が、ひとつ」







岡部(未来)「鈴羽……」
121 : :2018/06/05(火) 13:02:32.79 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「何故だ?俺は通達したはずだ。全てが終わった暁には、橋田至、牧瀬紅莉栖、橋田鈴羽、橋田由季、漆原るか、秋葉留未穂の6名を悪いようにはしないと!」


岡部(未来)「だがその一週間後に、鈴羽が跳んだ……」


ラウンダー1「その時点で彼らのタイムマシンは完成していたものと思われます」


岡部(未来)「…………俺の通達に対する、返事……」



岡部はクシャクシャになった白い小さな紙を広げた。





『待ってて。必ずあたしたちがおじさんを』







『救ってあげる。』
122 : :2018/06/05(火) 15:43:19.24 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「救ってあげる……とは何だ?何から救おうとしてるんだ?」


岡部(未来)「ぅぐっ……」


ラウンダー1「鳳凰院様、お薬を」


岡部(未来)「いらん!!」


ラウンダー1「理想郷完成の前に亡くなられては困ります」


岡部(未来)「……チッ」



岡部(未来)「…………ん」


ラウンダー1「…………何故タイムマシンをこちらに戻したのですか」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「私には粛正のためだけ、とは思えないのですが」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「…………失礼しました。出過ぎた真似を」
123 : :2018/06/05(火) 15:44:29.25 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「…………鈴羽だけだ」


岡部(未来)「あと鈴羽だけなのだ……」


岡部(未来)「鈴羽の計画を阻止することで、全ては完成する」


岡部(未来)「お前たちでは無理なことは十分分かった」



岡部(未来)「ならば直々に……この俺が行ってやろう。鈴羽よ」


ラウンダー1「鳳凰院様自ら……!」


岡部(未来)「そうだ」


ラウンダー1「おやめください。もし貴方の身に何かあったなら、私たちはどうすればいいのですか」

ラウンダー1「貴方に拾われて救われた人間も大勢いるのですよ?どうか考え直されて下さい」


ラウンダー1「……橋田鈴羽は、生け捕りでなくてはダメなのですか?」




岡部(未来)「!!!」
124 : :2018/06/05(火) 15:45:13.26 ID:pSJ8SQZq0
ラウンダー1「過去で殺してしまえば、もう彼らに対抗策は……っ!」


岡部(未来)「…………」


ラウンダー1「……あ……いえ、申し訳ありません」


岡部(未来)「…………タイムマシン五号機の準備をしろ。この場で殺されたくなければな」


ラウンダー1「はっ!鳳凰院様は……」


岡部(未来)「俺は少ししてから行く。お前はついてくるな」

ラウンダー1「了解しました」




岡部(未来)「…………」
125 : :2018/06/05(火) 15:48:50.63 ID:pSJ8SQZq0
岡部は自室の壁のスイッチを押した。


すると壁がゆっくりと上がり、ちょうど扉くらいの大きさの隙間が出来あがった。


その扉に小さくしつらえられたドアノブに、彼は手をかける。




そこはファンシー、という言葉がぴったり当てはまる部屋だった。


壁も天井も薄いピンク色で統一されており、床にはどこかで見たことのあるようなキャラクターのカーペットが敷き詰められている。


部屋の中央には巨大なお姫様ベッド。



ベッドの中には、お姫様がいた。



もう、とうの昔に壊れてしまったお姫様が眠っていた。
126 : :2018/06/05(火) 15:49:33.50 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「まゆり……」

まゆり(未来)「…………」


虚ろな表情をしたお姫様は、岡部の声に応えない。


岡部(未来)「まゆり。俺は少し、出掛けてくるよ。大切な用事ができたから」

まゆり(未来)「…………」


春風のように優しい声。

岡部は呼びかけながら、お姫様の美しく手入れされた髪を撫でる。


お姫様は、応えない。


岡部(未来)「やっとだ、やっと……これまでの全てに終止符が打たれ、これからの全てが渦巻く波となってやってくる!!俺たちの理想郷が完成するのだ……まゆり!」


まゆり(未来)「…………」


岡部(未来)「お前も……お前も…………ッ」



お姫様は、応えない。
127 : :2018/06/05(火) 15:50:13.90 ID:pSJ8SQZq0
岡部(未来)「どんな医者もお前を治すことができなかった」

岡部(未来)「だがきっと!新しい景色が見えれば、そうすれば……お前はもう一度、心を開いてくれるはずだ」


岡部(未来)「お前の祖母のお墓に行こう。スーパーに行こう。コミケに行こう。コスプレ、も……少し嫌だがやってやる」


岡部(未来)「お前の望むところ、どこでも行こう!!お前のどんな望みでも、叶えよう!!だから、」


岡部(未来)「だからもう一度、笑ってくれ」


岡部(未来)「俺の腕に触れて、名前を呼んで、笑いかけてくれ――――」



岡部(未来)「まゆり!!!!」




まゆり(未来)「…………」
128 : :2018/06/05(火) 15:51:06.09 ID:pSJ8SQZq0
開かれた虚ろな瞳に


   岡部は映っていない。



岡部(未来)「…………」


岡部(未来)「全てが、終われば」

岡部(未来)「また昔みたいに戻れるはずさ」


岡部(未来)「また皆で、昔みたいに笑いあえるはずさ」


岡部(未来)「鈴羽さえ、捕まえれば……」


ラウンダー1『殺した方が、いいのでは?』




岡部(未来)「できるわけないだろうが」

岡部(未来)「鈴羽は俺の恩人だぞ?」


岡部(未来)「アイツだってラボメンなんだ……。絶対に殺しはしない」



岡部(未来)「もう何もかも無駄なんだよ鈴羽。なのにお前は、何をしようとしている――――?」
129 : :2018/06/05(火) 15:51:39.98 ID:pSJ8SQZq0
2010年――――


ダル「ああ゛〜」


岡部「ポテチがあるぞ。冷蔵庫にプリンもある」


ダル「うんあのさ、何でため息=餌よこせみたいになってるん?」

岡部「……違うのか?」


ダル「傷つくわーその本気で分かんないみたいな顔。……ってか牧瀬氏まだなん?あれから時間けっこう経ったけど」


岡部「確かに遅いな。助手め、どこで道草を食っているのやら」


ダル「彼氏に会う前に激カワコスメで愛されメイク♪」


岡部「スイーツ(笑)」


ダル「スイーツ(笑)」
130 : :2018/06/05(火) 15:52:14.74 ID:pSJ8SQZq0
ル「まとめてはみたけど、大体いいのかなこんな感じで」

岡部「ふむ……助手は俺たちほど強くリーディングシュタイナーが発現していないからな。もう少しわかりやすい方が良いかもしれん」


ダル「そーさね。ちっと手を加えようか」


岡部「まぁ、話しながら説明するのならそれほど問題は無いだろう」


ダル「そう?でも暇だからなー。やっとくお」


岡部「そうか。……少し、夜風をあびてくる」


ダル「んー」







岡部「……鈴羽から連絡、は……無いな。紅莉栖からも無い」



もちろん、まゆりからも。
131 : :2018/06/05(火) 15:52:52.16 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽はまゆりに接触してはいけないと言っていた。

それは恐らくまゆりの精神状態が不安定なので、時期を見た方がいいということだろう。



だが最後の言葉は何だ?


『牧瀬紅莉栖に、椎名まゆりを接触させないで』

これはどういうことなのだろうか。


まゆりに紅莉栖を会わせると何かまずいことが起きる、とでも言うのか?




分からない。
132 : :2018/06/05(火) 15:58:34.99 ID:pSJ8SQZq0
未来から鈴羽が来た。

タイムマシンで過去へ跳んだ。

ダルに全てを話した。


……ダイバージェンスメータの数値は変動しているのか。


頭痛が来ない。

世界線変動の際に発動するあの痛みが来ない。


まだ足りない。

やはり過去へ跳んで、決定的に未来が変わる事象を引き起こすしかない。


しかし……どうすれば……


岡部「…………」






紅莉栖。


お前の力が必要だ。

俺たちだけじゃダメなんだ。



どこにいたって俺はお前を――――




――――だが、紅莉栖を選べばまゆりは……

133 : :2018/06/05(火) 15:59:21.13 ID:pSJ8SQZq0
店員「ありがとうございましたー」


紅莉栖「…………」

紅莉栖(ドクペ、買っちゃった。腐るほどあるんだろうけど)


紅莉栖(まぁ何にも買っていかないよりはマシよね。……と、もう11時だ。メールくれたからいるとは思うけど、寝ちゃってるかもしれないわね)



紅莉栖(……夜道怖い)


紅莉栖(走ってこっと)
134 : :2018/06/05(火) 15:59:54.46 ID:pSJ8SQZq0
その30分前・フェイリス家――――


フェイリス「本当に大丈夫?まゆりちゃん……うちにいくらでもいてくれていいんだよ?迷惑なんかじゃないんだよ?」

まゆり「ううん、ありがとう……でもごめんね。まゆしぃ、お家に帰るよ。こんなに泊めてくれてありがとう」

フェイリス「ほんと……?うちは全然……」


まゆり「あと話とか……聴いてくれてありがとう留未穂ちゃん。なんだか色々分かんなくなってたから……。すごく嬉しかった」


フェイリス「そんなこと……」


まゆり「まゆしぃはもう、大丈夫なのです!黒木さんもありがとうございました。お世話になりました……」


黒木「いえいえ。またいつでもいらっしゃってください」
135 : :2018/06/05(火) 16:00:44.72 ID:pSJ8SQZq0
まゆり「本当にありがとう。今度お菓子、作って持ってくるね」

フェイリス「……うん。じゃあまた、メイクイーンで会おうね」

まゆり「うん!さよならー!」


フェイリス「…………」



遠ざかっていくまゆりちゃんに手を振りながら。

彼女が前を向いたのを確認して、私は自分の涙を拭う。


どうしてかなぁ。

どうしてかなぁ。


まゆりちゃんの話、いっぱい聴いた。

まゆりちゃんの手を握って、慰めた。

泣いているまゆりちゃんに、タオルを渡した。


なのにどうしてまゆりちゃんの瞳はあんなに真っ黒なのかなぁ。

どうしてまゆりちゃんのくまは来たときより深くなってるのかなぁ。



フェイリス「黒木……」

黒木「……?」


フェイリス「私……何にもできなかった。友達なのに、何にもできなかったよ……!」


黒木「お嬢様……」


136 : :2018/06/05(火) 16:01:51.36 ID:pSJ8SQZq0
路地――――


紅莉栖「……ふぅ」

紅莉栖(疲れたから岡部の分のドクペちょっと飲んじゃった)


紅莉栖(まぁいっか……はっ)


紅莉栖(これを岡部が飲むってことは、か、か、)


紅莉栖(…………か)


紅莉栖(…………)ダダダダ
137 : :2018/06/05(火) 16:02:21.61 ID:pSJ8SQZq0
路地――――



まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ
138 : :2018/06/05(火) 16:04:20.11 ID:pSJ8SQZq0
路地――――



紅莉栖(もう!余計なことばっかり考える!)


紅莉栖(もうあそこを曲がればラボ!顔ちゃんと戻して……っ)



ドンッ
139 : :2018/06/05(火) 16:05:05.67 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「いたたた……あっごめんなさい。大丈夫ですか?」

鈴羽「!!」


鈴羽(牧瀬紅莉栖っ……)


鈴羽(前方からは……ッ)


鈴羽(椎名……まゆり!!?)


鈴羽「くっ!」ガシッ

紅莉栖「きゃっ!?」


鈴羽(隠れなきゃっ裏路地へ……ッ)


鈴羽(急げ……急げッ!!)





まゆり「…………」ザッザッ
140 : :2018/06/05(火) 16:05:54.36 ID:pSJ8SQZq0
まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ





まゆり「…………」ピタ



まゆり「…………」


まゆり「…………」



まゆり「…………」ザッザッ


まゆり「…………」ザッザッ
141 : :2018/06/05(火) 16:07:23.39 ID:pSJ8SQZq0
鈴羽「はー……はーっ……!」


鈴羽(頭が……痛い!)


紅莉栖「あ、あの……大丈夫ですか?」

鈴羽「ラボ……」


紅莉栖「え?」


鈴羽「少ししたら、ラボへいって。岡部倫太郎がアナタを必要としてる」

紅莉栖「何で岡部のことを……」


鈴羽「いって!」


紅莉栖「!は、はい」



鈴羽「……ふ……ぅ」

鈴羽「椎名まゆり……」
142 : :2018/06/05(火) 16:08:35.35 ID:pSJ8SQZq0
ラボ前の階段――――


紅莉栖「…………あっ」


紅莉栖「岡部!」


岡部「……紅莉栖」

紅莉栖「待っててくれてたの……わっ」

岡部「…………」グッ


紅莉栖「……どうしたの?」


岡部「……」


紅莉栖「……顔、見せて」


紅莉栖「はぁ……ったく……」


岡部「?」


紅莉栖「ほら!これ飲んで元気出せ!」

岡部「ドクペ……」

紅莉栖「ね?」


岡部「……ああ」


岡部「ありがとう」
143 : :2018/06/05(火) 16:24:45.22 ID:pSJ8SQZq0
岡部「フゥーハッハッハッ鳳凰院凶真、復・活!」

紅莉栖「うるさい!ご近所に迷惑だろ!」

岡部「む……助手の分際で、」

紅莉栖「…………」

岡部「あ、すいません」



紅莉栖「それで?私を呼んだ理由は?」

岡部「……話せば長くなる。とりあえずラボに入ろう」


紅莉栖「そうね」


岡部「…………紅莉栖」


紅莉栖「ん?」






岡部「俺の話を、信じてくれるか」


紅莉栖「…………」





紅莉栖「科学的根拠の、ある話なんだろーなっ」





岡部「フ……。それでこそ助手だ」
144 : :2018/06/05(火) 16:25:36.82 ID:pSJ8SQZq0
ラボ――――


紅莉栖「ハロー。橋田」

ダル「おぉー牧瀬氏ー!久しぶりー……でもない件」

紅莉栖「こないだ会ったばっかりよ。まったく……研究所にも迷惑かけてきたんだから、下らない用事だったらホント、ぶっとば……」


ダル「そうそう!今回呼んだのはさ、この新しい未来ガジェット開発のためなんだけど」


そう言ってダルはおもむろに割り箸を取り出した。

紅莉栖「へ?」


ダル「うん、今回のは上手くいけば商品化も夢じゃないお!聞きたい?しょうがないなー、驚異の未来ガジェット!その名も『一刀両断!チョップスティックver……」



紅莉栖「は、橋田ああぁあぁぁ!!!!」
145 : :2018/06/05(火) 16:28:14.83 ID:pSJ8SQZq0
岡部「くくっダル、その辺にしておけ」


紅莉栖「えっ?」カシャッ


ダル「うほー!牧瀬氏のキョトン顔いただきましたぁン!これで勝つる!」


紅莉栖「は、橋田……」


ダル「反省はしている、後悔はしていない。でも、肩の力は抜けたっしょ」


紅莉栖「アンタねぇ……!ふざけるのもいい加減にっ…?」


そこで紅莉栖は気付く。

ダルの眼が、真剣なそれに切り替わっていることに。


ダル「牧瀬氏、今から大事な話をするけど」

ダル「リラックスして聞いてほしい件。僕たちの話を、熱くならずに聞いてほしい」


ダル「牧瀬氏の力を借りたいんだお」


紅莉栖「え……?」
146 : :2018/06/05(火) 16:30:26.44 ID:pSJ8SQZq0
俺とダルは長い長い話を始めた。


内容が内容なだけに、なるべく分かりやすく、誤解が生まれないようにゆっくりと説明する。


紅莉栖は相づちを入れたり、たまに息を飲んだりをしながらも、黙って俺たちの話を聴いてくれた。

だがこの世界線の未来を話した時だけは、すかさず声を上げた。



紅莉栖「そんなはずない!」


ダル「……気持ちは分かるぜ牧瀬氏。そうなんだけど」


紅莉栖「いや、岡部はそんなことしないわ!確かに厨二病だけどヘタレだし、度胸も無いし!」

ダル「そうなんだけど。SOUNANDAKEDO!!」

岡部「おい」



紅莉栖「良く分からない……良く分からないけど絶対無いわよ!そんな人間じゃない!」
147 : :2018/06/05(火) 16:36:07.20 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「えーっと、その……ほら、岡部ってビビりだし」

ダル「うんうん」


紅莉栖「でっかい事口にするくせに、いざとなったら逃げるし」


ダル「オカリンの逃げ足の速さは異常」



紅莉栖「カリスマだって……そりゃちょっとはあるけど、大人数の中じゃきっと埋没するわ!」


ダル「wwwwwwwwwwww」



紅莉栖「ほ、ほら!統率力も無いし、成績もそこまで良くないし、友達も少ないから!」

ダル「すっげぇ……こうして聞くとマジでダメ人間だお」



岡部「……もうほんと勘弁してくれ。心がおれる」

148 : :2018/06/05(火) 16:37:42.58 ID:pSJ8SQZq0
時計の針が、日にちが変わったことを示した。


岡部「こんなところか……」


ダル「そだね。だいたい話尽くした」


紅莉栖「……」


岡部「さて話も終わったところで、天才科学者牧瀬紅莉栖の御考察をお聞かせ願いたいところだが……少々時間が過ぎているな」


ダル「もう十二時回っちゃってる件」


紅莉栖「……橋田。その白い紙は何?」

ダル「あ、これ?牧瀬氏に渡すつもりで書いたやつ。ほい」

紅莉栖「ん……これ持って帰ってもいい?」


ダル「勿論。そのつもりで作ったんだお」


岡部「では、帰るとするか。鈴羽が来るかもしれんな、ラボは開けておこう」


ダル「えっ」


岡部「取られても大したものは無いしな」


ダル「エロゲが……」


岡部「無いしな」


ダル「エロ……」
149 : :2018/06/05(火) 16:42:38.89 ID:pSJ8SQZq0
岡部「とられるのが嫌なら持って帰ればいいではないくぅぁ」


ダル「ビジュアル的にOUTでしょ」


岡部「真夜中に エロゲを抱え 歩く[ピザ] その様まさに 犯罪者かな」


ダル「一句詠むなお。つーかそもそも多すぎて持ちきれない件」


岡部「こんなボロい建物に入る泥棒などおらん!」


紅莉栖「…………」


岡部「紅莉栖、出るぞ」


紅莉栖「あ、うん。……」


ダル「やっぱ持って……いやでも」


岡部「捕まるのがオチだぞ?」


ダル「なんかカバン的なもの無い?」


岡部「無い」



ダル「オカリンも持ってよ」


岡部「ぬぁぁんで俺がエロゲを持つのだ!!?」
150 : :2018/06/05(火) 16:44:31.15 ID:pSJ8SQZq0
岡部「やーめーろって。持たそうとするな!」


ダル「ちょっとだけ!ね、先っちょだけでいいから」


岡部「キモい!くどい!暑い!くさい!」


ダル「頼むよオカえも〜ん」


岡部「ダメだよジャイアン」


ダル「そこはのび太だろ常考……」



紅莉栖「…………」


岡部「……紅莉栖?」

紅莉栖「え?あ、ああ、出るわ」


岡部「…………?」
151 : :2018/06/05(火) 16:45:16.65 ID:pSJ8SQZq0
ダル「うー!寒くなってきたおー」


岡部「半袖だからだろ……。少しは世の中と同調しろ」


ダル「んじゃ、明日同じ時間くらいに来るお」


岡部「ああ」


ダル「じゃあオカリン牧瀬氏、また明日」


岡部「ああ。じゃあな」


紅莉栖「バイ、橋田」



ダルは足早にこの通りから去っていった。




岡部「送る、か」


紅莉栖「えっ……う、うん」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/06/05(火) 19:13:29.98 ID:10/oC7ufO
鈴羽って別の世界線の記憶を全部思い出したら結構な情報量ありそう
成功した橋田鈴と失敗した橋田鈴とβの鈴羽とか色々あるし
具体的な思い出す範囲がよくわからんけど
153 : :2018/06/05(火) 21:40:16.38 ID:pSJ8SQZq0
岡部「……」

紅莉栖「……」




岡部「……悪かったな。無理を言って呼んでしまって」


紅莉栖「!……珍しく素直だな」



岡部「その……研究所の方々には何か言われなかったのか」


紅莉栖「意外とすんなりOKくれたわ。事前にその……」


岡部「?」


紅莉栖「か、彼氏が出来たって話……、してたの。だから」


岡部「そー、そうなのかっ」


紅莉栖「わ……私、いっつもムスッとしてるじゃない? 研究所だと、もっとひどいの。仲のいい人も何人もいないし…。でもその話をしてる時だけは、表情が明るいなって言われた」


岡部「……」




紅莉栖の小さな手が、俺の手に触れた。

かと思うと、少し強引に、きゅっと結ばれる。



岡部「お、お前っ」

紅莉栖「嫌なのかっ」

岡部「嫌…ではないが、こんな町中、で、だな」

紅莉栖「アンタの手…汗びっしょり」

岡部「嫌なら離すがいいっ」


紅莉栖「ふふっ」
154 : :2018/06/05(火) 21:45:31.57 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖のマンションへと歩く間、俺たちは他愛も無いことを話し続けた。


紅莉栖のアメリカでの話。

俺の日本での話。


なぜだろうか、タイムマシンとかディストピアなどと言う単語は道中一度も出てこなかった。






お互い口下手の人見知りのくせに、なぜ二人だとこうも饒舌に話せるのだろう。

意識しなくとも話題が浮かび上がってくるのだろう。



束の間の静寂の中でそんなことを考えているうちに、あっというまに紅莉栖のマンションに到着してしまった。
155 : :2018/06/05(火) 22:02:53.11 ID:pSJ8SQZq0
岡部「案外早かったな」


紅莉栖「……うん」


岡部「では明日は来る前に連絡をくれ。俺たちは多分朝からラボにいると思うが、一応な」


紅莉栖「分かった」


岡部「それと明日は、お前の考えを聞かせてもらいたい。……がそんなに気構える必要は無い。思いついたこと、気が付いたことを遠慮なく言ってくれ」


紅莉栖「うん……」


岡部「ではまた明日な。風邪などひかぬように! さらばだ……っ」


颯爽と去ろうとしたのだが、白衣の袖口を引っ張られてなんだか間抜けな姿になった。


岡部「おい……せっかく」


紅莉栖「アンタの家、こっから遠いんでしょ」


岡部「ん?まぁ……」


紅莉栖「ちょっと寒いし、コーヒーでも出すわよ。送ってくれたんだし」


岡部「こぉひぃ…?」


紅莉栖「もう!ニブい奴だな」




紅莉栖「あがってけばって言ってるの!」


岡部「んなっ! し、しかし、結婚前の男女が二人でホテルになどっOHフケツぅー!と言われてもしょうが」

紅莉栖「茶化すなら帰れっ!」クル


岡部「そこまで言うのなら仕方あるまい、行ってやろうではないかっルォンリヌェス…な助手のたーめーにーなーッ」


紅莉栖「……」スタスタ


岡部「っちょ、待っ…ウェイッ!ウェーーイッッ!!」



156 : :2018/06/05(火) 22:14:43.76 ID:pSJ8SQZq0
ホテル六階――――

エレベーターの、ドアが閉まる。



岡部「…………」


紅莉栖「何ぼーっと突っ立ってんのよ。さくさく歩く」


岡部「う、うむ」




くそっ。

少したじろいだ俺がバカみたいではないか。

助手め。



岡部「じゃ……邪魔するぞ」


紅莉栖「ん。……あああ待って!!ちょっと片付けるからまだ入るな!」


岡部「ぬおう!」


襟を掴まれて引き戻される。


何だというのだ!
157 : :2018/06/05(火) 22:18:42.28 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「はい、コーヒー。ブラックだけど」

岡部「ドクペはないのか」

紅莉栖「ドクペはどこにでも置いてあるわけじゃないのよ、鳳凰院さん」


俺は一口、コーヒーをすする。 苦い。



岡部「いい眺めだな、此処は」


紅莉栖「そう?」


岡部「ああ。秋葉原が一望できる」


紅莉栖もコーヒーを片手に、テーブルに着いた。



紅莉栖「私はたまに夢に見るくらいしか出来ないけど、岡部は体験してきたのよね」


紅莉栖「この秋葉原で――――何度も何度も。」


岡部「…………」




紅莉栖「……辛かった?」


岡部「…………」



岡部「…………そうだな」
158 : :2018/06/05(火) 22:22:17.37 ID:pSJ8SQZq0
岡部「何の変哲もない日々だったな……最初は。ダルはネット、まゆりはコミマの衣装づくり……そしてお前と出会って」


岡部「最初のお前というのが、生意気なのだこれが!」

紅莉栖「は、はぁっ?そんなこと言われたって分かんないわよ!」


岡部「タイムマシン議論で一戦交えて俺をことごとく論破し最後に『ね、鳳凰院さん?』ってああああ思い返すと腹が立ってきたぁぁぁぁ!!!!」


紅莉栖「それただの負け惜しみじゃない!!」


岡部「そんなこんなでお前はラボメンになったのだ。仮、だがな!」


紅莉栖「仮?」


岡部「我がラボに所属するメンバーには人間的に成熟した精神が必要なのであってだな……」


紅莉栖「日本に短期滞在だったから、とかでしょ理由は」


岡部「む……そうともいう」
159 : :2018/06/05(火) 22:24:21.12 ID:pSJ8SQZq0
岡部「それでだな……」

紅莉栖「うん」


岡部「Dメールから電話レンジがタイムマシンであることがわかって……」


紅莉栖「うん」


岡部「ラボメンは、どんどん増えていった……」


紅莉栖「うん」


岡部「そして、実験…………してだな…………」


紅莉栖「うん」


岡部「…………」



岡部「………………………………………………………………」


紅莉栖「…………」


岡部「…………まゆりが……………………死んで…………だな……………………」


紅莉栖「……うん」
160 : :2018/06/05(火) 22:25:45.35 ID:pSJ8SQZq0
岡部「…………何度も、助けようとして…………ッ…………」


紅莉栖「うん」


岡部「…………でも、無理で…………お前に助けてもらって…………だな…………」


紅莉栖「うん」


岡部「…………みん、なの想い…………踏みにじって、だな…………」


紅莉栖「うん」


岡部「…………………………………………」


岡部「…………っ」




岡部「お前を……っ…………っっっ……………………ぐッぅ」



紅莉栖「…………ほら」













紅莉栖「やっぱり、辛かったんじゃない」
161 : :2018/06/05(火) 22:30:14.07 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「がんばったんだよね。たった独りで世界線を越えて、ここまで来たんだよね」


岡部「……違う……助けてもらったんだ…………」


紅莉栖「そうね。でも心の底では思っていたはずよ。胸の中にある全ての悲しみも苦しみも、共有出来ない。皆には記憶が無いから。起こったことを、誰も知らないから」


岡部「……………………」


紅莉栖「私には記憶が断片的にしかないけど、今の岡部を見ればどれだけ苦しい想いをしてきたかが分かるわ」


岡部「……………………」
162 : :2018/06/05(火) 22:36:25.95 ID:pSJ8SQZq0
それでも岡部は泣かなかった。


私には、彼を心の底から労ってあげることが……できなかった。

彼と分かち合うに足るだけの記憶が、私にはないから。



紅莉栖「岡部、眠ったの……?」


岡部「……………………すー…………」


紅莉栖「……ふふふ」ギュ



岡部がたくさん辛いことを経験したのは分かる。


だからこそ、それを癒してあげられないことが悲しい。


悔しいけれど、私には出来ない。



そして、





――――まゆり。
163 : :2018/06/05(火) 22:40:44.58 ID:pSJ8SQZq0
橋田がくれたこの紙。


私にはわかる。


あなたが一番苦しんでいるのは、死んだことでも、殺されたことでも、その記憶でもない。




私と岡部が結ばれたこと。


それがあなたを何よりも苦しめている――――今も!



気付かなかった私をどうか許して。


気付いていたとしても岡部を欲してしまう私を――――どうか許して。





皆苦しんでいる。





この世界線では、





誰も 幸せ に なれない 。
164 : :2018/06/05(火) 22:45:25.74 ID:pSJ8SQZq0
岡部「……んぅ………………」


紅莉栖「!…………」


岡部「…………すぅ…………」




ごめんね。


岡部。


ここがゴールじゃなくて。


やっと幸せになれると思ったのにね。


ダメみたい。


この世界線の牧瀬紅莉栖じゃ、あなたを幸せにできない。


他の世界線の私のことはわからないけれど。


初めてこんなに、――――




岡部「…………すー…………すー」


紅莉栖「あったかい……」




この温もりを感じるのは、今日が最後。



やっと、やっと――――


いや、ダメ。




私は、




まゆりを不幸にして、




幸せになることなんてできない。
165 : :2018/06/05(火) 22:51:24.22 ID:pSJ8SQZq0
岡部「…………すぅ…………」




紅莉栖「ごめ…………っ岡部…………」

紅莉栖「…………ッ肩……濡らすね…………っ……うっ……ッ……」ギュゥゥ





ねぇ、アインシュタインさん。


ソースとか証明とか……生意気なこと言わないから。



今だけは。



相対性理論なんて……消えて、無くして。



お願い、時間、




今だけは止まって……!!






私、



岡部と、



ずっとずっと一緒にいたい。




だからお願い。




今だけは……。
166 : :2018/06/05(火) 22:55:47.58 ID:pSJ8SQZq0
次の日・ラボの入口――――



岡部「……ダル」


ダル「なんぞ?」


岡部「一応聞いておこう。…………お前、何をやっているのだ」


ダル「監視カメラのとりつけ」


岡部「お前、頭がバカなのか?」


ダル「冗談キツいぜオカリン……。これは全て……オカリンのせいなのだぜ?」


紅莉栖「私、先に入ってるから」


岡部「ああ。……良く聞こえなかった。もう一度言ってくれダル」


ダル「……昨日の帰り、エロゲ」


岡部「だからそれはお前があんなに持って帰ろうとするからだろうがっ!」



ダル「甘ぇ、甘すぎるぜっ……金平糖かよてめえはっ、OKARYYYYYYYYYYYYNッッッ!!??」


岡部「なんだこいつ……」
167 : :2018/06/05(火) 22:56:44.72 ID:pSJ8SQZq0
岡部「お前がエロゲ持ち帰って恥ずかしかった、それだけだろう」


ダル「それだけならわざわざビックカメラで6900円も払ったりしないお」



岡部「意外と安いな」


ダル「ただのビデオカメラだからね」



岡部「分かった。では何があったのか話してみろ。謝るかどうかはそれから決める」


ダル「…………」



岡部「…………」



ダル「……に……れた」


岡部「んん?聞こえんぞぉ?」


ダル「ニヤニヤすんなお」


岡部「む……よし。いいぞ」


ダル「…………」


岡部「…………」


ダル「…………された」


岡部「ん?」




ダル「…………職務質問された」
168 : :2018/06/05(火) 22:58:50.64 ID:pSJ8SQZq0
岡部「…………」


ダル「…………」


岡部「…………うわあ」


ダル「ふんっ!」


岡部「痛っ!何でだよ!?」


ダル「僕がどれだけ情けない思いをしたか……」


岡部「待て、おかしいぞ!?俺はなんにも悪くないだろ!ただお前の風貌が犯罪者チックだったというだけの話……痛ッ!!ホントに痛い!やめろ!」


ダル「分かるか!?嫁を家に連れてかえっている時に警察に呼ばれる、僕の気持ちがぁっ」


岡部「ほんとに知るか!」


ダル「だから決意したよ……ラボを絶対安全な、エロゲの砦とする事をなぁぁぁぁぁぁあぁっ!!!!」


岡部「迷惑だ……すごく迷惑だ……」
169 : :2018/06/05(火) 23:01:24.50 ID:pSJ8SQZq0
岡部「そういえば、鈴羽はラボにいなかったか?」


ダル「見てないけど」


岡部「そうか……」

ダル「つかオカリン、なんか肩濡れてない?」


岡部「む?確かになにか濡れた跡が……」


ダル「…………ッ」

岡部「どうした?」

ダル「まさか、まさかこれはっ牧瀬氏の、マnぐァッッ!!」ドゴロシャボキャアアアア


紅莉栖「こ、こ…………このHENTAIッッ!!」


ダル「」



岡部「いくぞ、ダルよ。 円卓会議の始まりだぁ!フゥーハッハッハッハァ!!!!」



ダル「」
170 : :2018/06/05(火) 23:05:53.80 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「じゃ、始めるわよ!」


岡部「待て」


紅莉栖「何よ」


岡部「ぬぁぜお前が仕切るのだッ」


紅莉栖「あんたたち、私の力が必要でアメリカから引っ張ってきたんじゃなかったの? じゃあ、私が仕切るのが当然じゃない」


岡部「そんなことは関係ぬぁぁぁい!!いつ何時であろうとラボを仕切るのはこの俺!鳳凰院凶真な、の、だッッ!!」


紅莉栖「なによその非論理的な言い分!?私の意見が欲しいって言ってたろうが!」

岡部「覚えておーけぇ、マッドサイエンティストは常識を超えた存在だ」



紅莉栖「……帰るわよ!?」


岡部「帰るな!」


紅莉栖「えっ……」


岡部「お前の力が必要なんだ」


紅莉栖「……そっ、そんな言葉に……」




ダル「」
171 : :2018/06/05(火) 23:07:12.39 ID:pSJ8SQZq0
岡部「議題は無論まゆり、そして未来改変についてだ」


岡部「紅莉栖、昨日ここに来る前にまゆりに会ったか?」


紅莉栖「会ってないけど……変な女の子に押し倒された」


岡部「……鈴羽か?」


ダル「だろうね」


岡部「おそらくその娘が鈴羽だ、紅莉栖」


紅莉栖「あの、昨日橋田の娘って言ってた……」


ダル「そうだお」


紅莉栖「……私が二人の話を信じきれない原因は、そこにあるのかもしれないわ」


ダル「え?」


紅莉栖「だって橋田が結婚するって……そんな未来あるはずが……」


ダル「…………岡部。何笑ってる」


岡部「っ……っ……すいません、……橋田さん。っ」
172 : :2018/06/05(火) 23:10:42.29 ID:pSJ8SQZq0
紅莉栖「なんだか、すごく苦しそうだった」


岡部「……電話をかけてみる」





岡部「…………出ない、か」


ダル「…………」


岡部「心配するなダル。あいつは俺を何度も救ってくれた……そんなにヤワな女ではない。なんといっても、戦士だからな」


ダル「……うん」


ダルはふと微笑んで軽く縦に頭を振った。



ダル「さ、会議の途中に遠慮なくエロゲをやるおー!ついでに監視カメラ、スイッチオーン!」


ダルが一転して明るい表情でパソコンの電源をつける。


俺たちは、解っている。


少しでも油断すればすぐに負の雰囲気に飲み込まれてしまうことを。


だから必要以上にふざける。


ふざけて笑う。



下を向いていても、誰も救えない。



ダル「…………」



ダル「オカリーン」


ダルがこちらを向いた。

表情は少し堅い。



岡部「なんだ、エロゲをするのではなかったのか我が右腕よ」


ダル「いやー持ってくるの忘れちゃったおー」


なんだかわざとらしい。


紅莉栖「橋田……?どうしたの?」


紅莉栖もダルの不自然さを感じとったらしい。

173 : :2018/06/05(火) 23:11:41.49 ID:pSJ8SQZq0
ダル「ちょっとこっち来てよ二人とも」

声は明るいが、相変わらず表情は堅い。

不審に思ったのか紅莉栖がパソコンに近づいた。

画面には監視カメラの映像が写し出されているようだ。



紅莉栖「なによ…………ッ…………」


紅莉栖が息をのむ。


岡部「なんだ、どうした……?」



ダル「オカリンも来てよ」


俺は立ち上がり、パソコンの前にいる二人の間から、画面を見た。









画面には












ラボのドアにはりつく




















まゆり。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/06(水) 10:55:45.61 ID:vMxiC1iso
ひえっ...
175 : :2018/06/06(水) 11:38:37.61 ID:Uj8q83PX0
再開
176 : :2018/06/06(水) 11:48:00.40 ID:Uj8q83PX0
岡部「ま・・・ゆ、り・・・」


なんだ、その眼は・・・?

人はいったい何日間眠らなかったら、こんな顔になるのだろうか。


それだけでは無い。

まゆりが今までどれほど辛かったか、苦しかったか――――、その表情が、すべてを物語っている!


そのことが瞬時に見てとれたらしい。


ダルは目を伏せたまま、紅莉栖は口を手で覆ったまま、二人とも震えていた。
177 : :2018/06/06(水) 11:48:43.84 ID:Uj8q83PX0
岡部「くっ・・・!すべて、俺のせいだ・・・!!」

紅莉栖「違う!岡部は」

ダル「二人とも黙って!!」



紅莉栖「ッ・・・」



ダル「まゆ氏が、何か言ってる」




俺たちは、画面により耳をすませた。




まゆり「・・・は・・・れ」
178 : :2018/06/06(水) 11:50:43.58 ID:Uj8q83PX0
まゆり「まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。
まゆしぃはいつもなかまはずれ。 まゆしぃは」
179 : :2018/06/06(水) 11:51:53.09 ID:Uj8q83PX0
岡部「あ……あ……!」


まゆり「オカリン、まゆしぃがもういらなくなったんだね。」


岡部「ち、違う!!!」


紅莉栖「待って岡部!!行っては駄目!」

岡部「何故だ!まゆりが今、苦しんでるではないか!? ここで行ってやらなくて、なにがラボメンだ! 俺は行く!!」

紅莉栖「だって、でも・・・!」


岡部「はなせ、紅莉栖!」
180 : :2018/06/06(水) 11:58:17.25 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「岡部ッ……」

岡部「……すぐに戻るっ」





ダル「牧瀬氏……どうするん?追いかけた方が…」


紅莉栖「橋田……」




紅莉栖「私、岡部と別れることを決めたの」


ダル「……はい?」


ダル「……マジで?」


紅莉栖「ええ」


ダル「ッあぁーーっ、分かる!分かるお牧瀬氏!確かに彼女ほっぽり出して別の女のところいっちゃう男なんて最低!不潔!僕が仮に仮に女でもNO THANK YOU!! でも説明したとおり、オカリンにはなみなみならない事情があって・・・」



紅莉栖「違う、違うの」




181 : :2018/06/06(水) 12:01:37.87 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「でも私、岡部が好きなの」


紅莉栖「そう……好きなのよ!」


ダル「……」



ダル(何がなんだかわからない……)


ダル「好きなら一緒にいれば、」


紅莉栖「駄目なの。私、まゆりを傷つけたまま幸せになんかなれない」
182 : :2018/06/06(水) 12:09:45.77 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「それに……」

ダル「…?」


紅莉栖「この世界線の未来……支配者になった岡部の隣に、私がいると思う?」


紅莉栖「多くの人を苦しめている岡部と私が、のうのうと愛し合っていると思う?」


ダル「……!」



紅莉栖「そんなわけない。私は戦ってるはず! 岡部を救いたくて、運命に抗ってるはず!!私はそういう人間よ!」


紅莉栖「たとえ、それが岡部と敵対することになったとしても……!」
183 : :2018/06/06(水) 12:10:49.82 ID:Uj8q83PX0
ラウン館工房前――――


岡部「まゆりッ!!」


まゆり「……」


岡部「ハァ、ハァ・・・ぐっ」


俺は体力がない。それはラボメンならば誰もが知る周知の事実だ。


しかしさすがの俺でも、ラボから道路に出る階段を下ったくらいで息切れを起こすほどひ弱ではない。


なのに今の俺は、フルマラソンを終えた直後のように、息を荒げている・・・!

184 : :2018/06/06(水) 12:11:59.81 ID:Uj8q83PX0
まゆり「なぁに? オカリン」


岡部「フ…ハハ、どこへいくのだ。まゆり。安心しろ、まだ円卓会議は始まってはいないぞ」


まゆり「……」


岡部「さぁ、いくぞ」


まゆり「まゆしぃはいかない。いきたくない」


岡部「なぜだ、まゆ」

まゆり「オカリン」












まゆり「紅莉栖ちゃんを呼んでくれる?」
185 : :2018/06/06(水) 12:16:53.97 ID:Uj8q83PX0
岡部「……!」

-------------------------------------------------------------------------------------------

鈴羽『椎名まゆりを牧瀬紅莉栖に、絶対接触させないで』

----------------------------------------------―-----------------------------------------―





岡部「……まゆり。それはできん」


まゆり「どうして……ッ!」


岡部「まゆり、すまない。すべて俺が悪いんだ、だが俺は必ずお前を」



まゆり「そっか」



まゆり「紅莉栖ちゃんの方が大切だもんね……オカリンは。」


まゆり「まゆしぃはずっとオカリンを見てきたし、これからもいっしょにいれると思ってたけど」


まゆり「そんなの、まゆしぃの夢だったんだ……」


まゆり「誰もわるくないよ、オカリン」












まゆり「ただ、まゆしぃが苦しめばいいだけ。」




そしたらみんな、幸せになれるんでしょう――――?
186 : :2018/06/06(水) 12:17:37.17 ID:Uj8q83PX0













岡部「う゛あああ゛アアああああああああーーーーーーーーーッッ!!!!!」
187 : :2018/06/06(水) 12:19:25.76 ID:Uj8q83PX0
秋葉原某所――――

鈴羽(反応が、増えた)


鈴羽(それと同時にまたラウンダーたちが動き始めた)



鈴羽「まさか……」


鈴羽(おじさんの方は、準備整ったのかな)





鈴羽「電話でないや……まずいよ、おじさん」
188 : :2018/06/06(水) 12:22:16.23 ID:Uj8q83PX0
ブラウン館工房前――――


紅莉栖「岡部!」


ダル「オカリン!」


ダル「オカリンしっかりしろ!オカリン!」


岡部「」



紅莉栖(まゆりは、いなくなってる…)


岡部「う、」


ダル「オカリン! 良かった、心配かけんなよな!」



岡部「うっ、うう、あああぁぁああ」


岡部「ああ、あっ、あっあああああ! うっぐっ、う、ああああああ」




ダル「ちょ、どうしたオカリン!?」
189 : :2018/06/06(水) 12:26:21.34 ID:Uj8q83PX0
岡部「うっうっうっ」


ダル「もしかして泣いてんの?」

紅莉栖「ええ。マジ泣きね」


ダル「誰か説明プリーズ……」


紅莉栖「……多分」




紅莉栖「もう、未来は決まってしまった」


ダル「・・・what?」



紅莉栖「・・・その顔やめてくれる?蹴りたくなるんだけど」


ダル「正直スマンかった。マジメに聞くお」


紅莉栖「あんたたち、最初にまゆりのリーディングシュタイナーは他の人より強いって言ってたでしょ?」


ダル(そう言いながらさりげなくオカリンの横にポジチェンだと・・・?この女、やはりスイー)


紅莉栖「ふんっ!!」


ダル「あいったい!!」



紅莉栖「…その顔、やめろって言ったわよね」



ダル「あ……ありがとうございます」
190 : :2018/06/06(水) 16:29:45.72 ID:Uj8q83PX0


紅莉栖「普通の人は世界線移動の記憶を保持することはできないのよね」


ダル「そう……だお。オカリン以外は」



紅莉栖「整理しましょう」



紅莉栖「リーディングシュタイナーは誰しもが持っている能力。」

紅莉栖「けれど普通は弱すぎて、日常生活に支障をきたさない範囲、つまりデジャヴや夢というカタチでしか他の世界線を感じ取ることはできない」



紅莉栖「リーディングシュタイナーは共鳴するという特性も持ち合わせているけれど、一般人の能力は微弱なため共鳴しても他の世界線を知覚するには及ばない……」



紅莉栖「これが前提条件。でも、ここに例外が存在する」



ダル「オカリンと、まゆ氏……」



紅莉栖「そう」
191 : :2018/06/06(水) 16:35:07.09 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「岡部のリーディングシュタイナーは常人よりも強力に発現されている、と見て間違いないわ」


紅莉栖「世界線移動の際に記憶をキープできるのはおそらく岡部だけだから。そして、彼と接している私たちは普通の人よりも少し強い実感を持って他の世界線の記憶を知覚する……これも共鳴の特性を裏付ける根拠になる」


ダル「いきなり学者モード本気すぎだろ常考」



紅莉栖「ちゃんとついてきて橋田。大事なことなんだから」


ダル「把握」



紅莉栖「続けるわ。岡部は過去のどこかで何らかの理由でリーディングシュタイナーを強く発現。それでも今まで何事もなくやってこられたところを見ると、特に日常生活に異常は無し……と」



ダル「友達は少なかったお」



紅莉栖「それはリーディングシュタイナーのせいじゃないわ」
192 : :2018/06/06(水) 16:37:34.94 ID:Uj8q83PX0
紅莉栖「橋田は高校から岡部と友達なんでしょ?」


ダル「そだね」


紅莉栖「夢見はどうだった? やっぱり変わったの?」


ダル「う〜〜…ん、言われてみればあの頃からちょっとリアルな夢を見るようになった気も……」


紅莉栖「ま、その程度ね。岡部自身もおそらく時折そんな風に自分の夢見を感じていたはずよ」


ダル「ハッ…じゃあ、僕がロリ顔きょぬーのおにゃのこたちに囲まれてアッハンウッフンやってたのもどこかの世界線に存在するってことなん!?!?」



紅莉栖「それはアンタの妄想よ」



ダル「やってやる・・・やってやるぅぅぅぁぁぁあああぁあああ゛ああああ゛あ!!!!タイムマシン、もしくはDメールで世界線変更!!!たった今それが、生きる希望になったおお゛!!!」



紅莉栖「(汚物を見るような目)」
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