梨子ちゃんとマルの平穏な日々

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102 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:46:00.59 ID:VWLtwUnE0
16



幽かな振動を感じながら
縦置きのプラスチックケースが並べられたような足場を見る

背後には見知らぬ人
先を行く連れ合いは、その足場に運ばれて離れていってしまう

四辺が警告の黄線で縁どられた、切れ込みを入れられたアスファルトの様なその足場は
踏み出す意思を弄ぶかのように一定の速度で斜め上へと流れていく…


マルはエスカレーターに乗るのが苦手です

あの縦線が怖い
あそこに練った小麦の生地を投げ入れたら太麺ができそうで怖い

足場に乗ろうとするとススーッと速くなってひっくりこけてしまいそうで怖い

最初の足を置いた途端に加速されたら股割きのような格好になって
スカートが引き込まれてマルも呑み込まれて切り刻まれそうで怖い

ハイヒールを履いて乗ってる人を見かけると
あの溝にヒールの部分が刺さって抜けなくならないか心配で怖い

後ろに人がいると、もたついて迷惑をかけてしまうのが怖い


だからいつも、エスカレーターに乗る前には心構えをしてるんだけど
今日は寸前まで、一緒にお買い物に来た梨子さんとのお喋りに夢中で油断をした


梨子「それでね…あれ?花丸ちゃん?」


遠ざかっていく梨子さんが、マルがそばにいないことに気付いて首を振る


梨子「花丸ちゃんどうしたの?具合悪いの?」


エスカレーターの前で立ち止まってるマルを見つけた梨子さんは
心配そうにそう言うと、一瞬マルの方に降りて来ようとするけど
逆走するわけにもいかず困った表情でさらに遠のいていく



流石東京っ子
エスカレーターも簡単に乗り降り…あ、降りるタイミングずれてこけそうになってる
103 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:48:07.63 ID:VWLtwUnE0
それから


何人かに先を譲って、心構えをしてから乗り込んだマルは
心配して降りて来てくれた梨子さんとすれ違って
慌ててしまってさっきの梨子さんと同じように降りる時にこけそうになった

すぐに追いかけて来てくれた梨子さんは、降り際にまたちょっとふらついてたけど


梨子「私もね、エスカレーターとか回転寿司とかちょっと苦手なんだ」


そう言ってマルに笑いかけてくれました

そんな梨子さんの気遣いが嬉しくて
マルは回転寿司は得意なのは黙っておくことにしました



梨子「さて、と…そこのベンチで少し休憩しよっか?」

花丸「うん。そうだね」


エスカレーターそばに設置されたベンチに二人で腰掛けようとしたとき
ふと梨子さんを見やると、手慣れた手つきでハンカチを取り出し
一瞬動きを止めたかと思うとまた手慣れた手つきでハンカチをしまった

マルの視線に気づいた梨子さんは面映ゆそうに


梨子「あはは、ちょっと癖でね」


そう言ってそのままマルの隣に腰を下ろす

マルは特に何も言わず笑顔を返した
104 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:50:47.15 ID:VWLtwUnE0
梨子「最近歌の練習が多くて喉が…」


おもむろに、鞄から飴を取り出して口に含む梨子さん


梨子「花丸ちゃんも、いる?」


微笑んで同じ飴の包みをマルに差し出す


花丸「うん。ありがとう梨子さん」


喉のケアに定評のあるその飴を受け取るとマルも口の中に放り込む

…この飴の歴史は長く
海の向こうではその効能の信頼の高さから神の薬なんて呼ばれるほど

舐め終えた後に喉にしつこく味が残ることも無く
喉風邪の気配を感じたときなんかにマルもよく舐めてます


花丸「梨子さん喉痛めたの?」

梨子「ううん、そういうわけじゃないんだけど、なんていうか、気配がね」

花丸「気配?」

梨子「季節の変わり目とかに喉に違和感が出る前の…なんていうか、気配がね」

花丸「気配…」

梨子「ああっ、ごめんね。こんなこと言っても分からないよね」


慌てた様子で胸の前で振ってる梨子さんの両手をぎゅっと握ってマルは言う


花丸「分かるずら!その気配はよ〜く分かるずら」
105 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:53:36.22 ID:VWLtwUnE0
花丸「声が出辛くなったり、痛みを感じるようになる前の何とも言えない感覚だよね」

梨子「そう!花丸ちゃん。分かる?」

花丸「うん。今までなかなかこの感覚を共有できる人と出会えなかったずら〜」


マルが何気なく考えてたことが伝わったかのように
気配と言う単語を梨子さんが口にしたことに興奮して
やや大げさに喜んでしまったマルでした


梨子「私も〜♪」


梨子さんも気分が高揚したのか嬉しそうににこにこして
マルが握ったままの両手をぶんぶんと縦に振りました




一時
ベンチで休憩をする梨子さんとマル


梨子「エスカレーターじゃなくてエレベーターで上がればよかったね」


数メートル先にあるエレベーターを指さしながらそう言う梨子さん


梨子「でも私エレベーターもちょっと苦手で…動きはじめと止まる時こう…ふわっとなるのが」


ちょこんと肩をすくめて小さく首を振る


梨子「花丸ちゃんは?エレベーター苦手だったりする?」

花丸「エレベーター!」パンッ


待ってましたとばかりにももを叩いて応える
106 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:56:24.95 ID:VWLtwUnE0
梨子さんは肩をすくめた姿勢のまま驚いて少し体を引く

けれどマルは構わずに続ける


花丸「エレベーターは…鬼門ずら」

梨子「き…鬼門?」

花丸「梨子さんの言う通りあの箱は人の魂を吸い取ってしまうずらあ…」


両手を胸の前で垂らして幽霊のポーズから両手をそのまま上に上げて言うマル…


梨子「・・・・・・」ジーーッ

花丸「・・・・・・・・・・・・」


これは…外した…外してしまった…


梨子「!あ、ああ…えっと…どっちだろう…」


何かを察した様子の梨子さんだったけど
マルの意図を二つにまで絞り込んだところで行き詰ったみたい

たぶん、今のがマルの冗談だったことまでは気付いてくれたんだろうけど
驚かせようとした冗談なのか、笑わせようとした冗談なのかを計り兼ねてるんだと思う


鬼門なんて言葉を選んだのが間違いだったずら…


梨子さんはマルのお家がお寺なのは知ってるから
そのマルが口にした
鬼門という言葉に何かしらの意図があるかもしれないと思ったに違いない

挙句、魂なんて言葉まで持ち出したものだから
余計に曖昧な冗談になってしまったんだなあ…
107 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:57:56.92 ID:VWLtwUnE0
そうして
マルがどうでもいい自省にふけっていると


梨子「ふふふ…ダメだよ花丸ちゃん。花丸ちゃんじゃ可愛すぎて幽霊でも怖くないよ♪」


いつまでも幽霊のポーズのままのマルを真似て
悪戯っぽい表情をして梨子さんが言う


花丸(「その言葉そっくりそのままお返しするズラ♪」って言いたいけどそんな勇気は無い)

結局マルは、「えへへ」と照れ笑いで返すことしかできませんでした


梨子さんは時々ドキッとするようなことを言ったりしたりする



いけないいけない
やっぱり東京のお嬢さんは違うずら

ここは東京オーラにのまれてはいけない


花丸「コホン」


わざとらしく咳払いをして、マルは話題を元に戻す


花丸「エレベーターは苦手ずら」

梨子「あ、そうなんだ。また一緒だね♪」


とても嬉しそうに言う梨子さん
思わずマルは、またそのペースに惹き込まれそうになる



いけないいけない
やはり東京オーラが…
108 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/25(土) 00:01:04.02 ID:kyj2MrAw0
気を取り直して


花丸「マルは一度にたくさんの本を買うことが多くて、リュックを使うことが多いんだけど、エレベーターに乗ると周りの人の迷惑になりそうで」

梨子「確かにちょっとスペースを取っちゃうかもしれないね」

花丸「実際人がいっぱい乗ったときとか、身動きすら取れなくなって降りるのも一苦労だったり」

梨子「すし詰めだと横向いただけでぶつかっちゃいそうだね」


花丸「一人のときに中に入ってボタンを押そうと思って手を伸ばした反対側にパネルがあったり」

梨子「あー、あれ何とも言えない気持ちになるよね」


花丸「ボタン係になったときの謎の重圧感」

梨子「嫌っていうわけじゃないんだけどね。手際が悪くなっちゃうと申し訳ない気持ちになるよね」


花丸「だけど笑顔でありがとうねなんて声かけられるとその日一日あたたかい気持ちになれるずら」

梨子「感謝されたくてやってるわけじゃないのにお礼を言われると嬉しくなるって不思議だよね…」


そこで言葉を区切ると梨子さんは、マルの顔をじっと見つめて


梨子「花丸ちゃん」

花丸「?」


梨子「ありがとう」


笑顔で不意に、そんなことを言う

何についてお礼を言われたのか分からずマルが返事も出来ずにいると


梨子「一緒にお買い物に来てくれてありがとう。私、今日とっても楽しいよ」


これだ

最近こんなふうに梨子さんが東京オーラを放つことが多い気がする
それはとても強力で、度々マルを幻惑する


今日もまた梨子さんの東京オーラに翻弄されてしまう予感がしたマルは
案の定その日のお買いものでの目当ての本を
梨子さんとのお喋りに夢中になって買い忘れたことを帰宅後に気付きました


しまったしまったと心の中で焦ったのも束の間
『また一緒にお出かけする口実』ができたと考え直しました

すぐに連絡してお出かけの約束をしようかとも考えたけど

Aqoursの練習で明日も顔を合わせるのだから、その時でいいか
むしろ顔を合わせて直接その話をしたいなと思い
マルはお布団をかぶり眠りにつきました
109 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/25(土) 00:03:00.64 ID:kyj2MrAw0
次 は 十日以内
110 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:14:36.86 ID:ScXdePKj0
17


梨子「こんにちはー」ガラガラー

花丸「いらっしゃ〜い」パタパタ


梨子「お父さんのお土産で面白いものがあったから持って来たよ」

花丸「ほんと?それは楽しみずら♪はいスリッパどーぞ」

梨子「ありがとう花丸ちゃん。私もちょっと楽しみなんだ〜」


とことこ


花丸「じゃあお茶淹れてくるから、くつろいで待っててね」

梨子「うん。ありがとう」


とことことこ


花丸「おまたせー。今日のお茶は地元の玄米茶だよ〜」

梨子「わあ、いい香り」

花丸「何となく玄米茶な気分…ということで」

梨子「そうだね、最近お茶請け甘いもの多いもんね」

花丸「一助有りずら」
111 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:16:59.87 ID:ScXdePKj0
梨子「はあ〜」

花丸「ふう〜」

梨子「玄米茶おいしいねえ…」

花丸「玄米茶おいしいよねえ…」


梨子「それじゃあ、お土産をお披露目―――」

花丸「ちょっと待った!」


梨子「…えっ…と?」


花丸「ごめんね急に、ちょっとそのお土産当てさせて」

梨子「当てる?…何を持って来てるかを言い当てるってこと?」

花丸「うん」


梨子「そういえば花丸ちゃん推理物とか好きだったっけ。でもこれは当たっても推理じゃなくて透視とかそっち系だよね?」

花丸「ふっふっふ…桜内君、この世には不思議なことなど何も無いずら」

梨子「確かにお土産は箱入りだけど、魍魎とかは入ってないからね」

花丸「あーっ!お土産が箱に入ってるって言い当てたかったのにー」><

梨子「袋の形を見れば分かるからダメです」

花丸「むむむ…」
112 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:18:32.88 ID:ScXdePKj0
梨子「それで、花丸ちゃん本当にこのお土産の中身を推理できたの?」

花丸「もちろん!…梨子さんのお父さんはどこでそのお土産を?」

梨子「今から推理材料集めるの!?…愛知の出向先で買ったって言ってたよ」


花丸「お店の名前と、値段とかは?」

梨子「事情聴取みたいになってるんだけど…私もお土産を買ったお店とかまでは聞いてないし…というか、花丸ちゃん値段で分かるの?」


花丸「…分かんないね」


梨子「ヒント、要る?」

花丸「待って、まだもう少し猶予を」

梨子「分かった」スッ

花丸「…どうしてお土産を後ろに隠したの?」

梨子「ヒント要らないって言うから」

花丸「梨子さん意外と容赦ないずら」

梨子「じゃあヒント、要る?」

花丸「う〜〜〜〜〜〜ん…やっぱりもう少し考えてみる」
113 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:20:30.44 ID:ScXdePKj0
花丸「箱入りの…お菓子?」

梨子「答えていいの?」

花丸「だめずら」


花丸「このくらいの大きさの、箱」

梨子「うん」

花丸「・・・確か、梨子さん靴を脱ぐとき荷物の傾きを気にしてなかったずら」

梨子「うんうん」

花丸「つまり傾けたりひっくり返してはいけないような物ではない」

梨子「なるほど」


花丸「だからどうしたずらああ〜」

梨子「そんな頭抱えて嘆かなくても…」

花丸「そんな近所でもないのに傾けられないような物を手提げ袋で持ってくる人なんていないずら〜〜」

梨子「花丸ちゃん…そろそろお土産出しちゃいたいんだけど、いいかな?」


花丸「いいよ。食べよう」

梨子「あれ?食べ物だって分かってたの?」

花丸「ヒントいただきずら」

梨子「もしかして花丸ちゃんまだ続ける気なの?」

花丸「なんか悔しかったから鎌かけただけだよ」


梨子「あぁ、なるほど。上手いね花丸ちゃん」

花丸「感心されてしまったずら…梨子さんの方が上手だったね」

梨子「?…ああ、私の上手いねに上手で返したんだね」


花丸(こりゃかなわんずら)
114 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/03(月) 22:23:19.72 ID:ScXdePKj0
17の話のまま明日か明後日に続く
115 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:25:01.79 ID:tjsRNNrr0
梨子「これが、お土産だよ♪」ストン

花丸「・・・・・・」

梨子「…あれ?無反応?」

花丸「…ここで問題です」

梨子「えっ?」

花丸「マルは今とてもびっくりしています。それはなぜでしょうか?」

梨子「んー…分かんない。教えて」ニコッ

花丸「…ヒントは、帽子と―――」

梨子「おしえて、花丸ちゃん」ニコニコ

花丸「…実はマルもちょっと珍しいものを用意してて…あ、ちょっと待っててね…」


とことことことこ


花丸「おまたせ、これが問題のブツずら」ストン

梨子「…これは?」

花丸「辻占煎餅だよ」

梨子「なんだか…私が持ってきたフォーチュンクッキーと似てるね」

花丸「原型だからね」

梨子「あっ、そうなんだ?」

花丸「元々はね…あ、長々話してもよくないよね」

梨子「そんなことないよ〜私花丸ちゃんのお話好きだよ。それに面白そうだし」

花丸「そう?それじゃあ改めまして、まず辻占というのは――――」
116 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:37:05.65 ID:tjsRNNrr0
梨子「えーっと、『このおみくじを10人に配りましょう』…なにこれ」

花丸「マルのは、『クッキーさんクッキーさんおいでください』…?」


パリパリ


梨子「『怪魚とヨロイには気をつけましょう』なにこれ?」

花丸「『意中の相手にスキー旅行に誘われたら要注意』随分具体的ずら」


ポリポリ


花丸「『コーヒー牛乳を愛する』…?」

梨子「『ラッキークッキーお好み焼き』…ああ、お好み焼き。お好み焼ちょっと食べたいかも」


花丸「梨子さんこれ本当にどこで買ったの?」

梨子「そうだね、今度聞いてみるね。本当に」


花丸「じゃあ次は煎餅の方を」

梨子「大凶引きませんように…」

〜〜〜

花丸「『大吉、待てば海路の日和あり』ほうほうなるほど」

梨子「『大吉、待てば甘露の日和あり』…あれ?」


バリバリ


花丸「『星に手を伸ばせば願いは叶うだろう』ふむふむ…これはこれは」

梨子「『愛は全てを救う』うん…まあ、うん」


ボリボリ


梨子「『月が綺麗ですね』…ねえ花丸ちゃん…」

花丸「『事件は会議室で起きてるんじゃない』…?」

梨子「これ私が持ってきたフォーチュンクッキーと同じ店で買ったとかじゃないよね」

花丸「…あながちありえないと言い切れないずら」

〜〜〜

梨子「玄米茶おいしいねえ」

花丸「玄米茶おいしいよねえ」

梨子「…このフォーチュンクッキー実はまだおうちにあるんだけど、明日聖良さんと理亞ちゃん来る日だしみんなで食べようか」

花丸「そうだね、この内容だったらみんなでの方が盛り上がるかもしれないね」


梨子「ところで、花丸ちゃん牛乳ダメだったよね?コーヒー牛乳もダメ?」

花丸「そうだけど…もしかしてコーヒー牛乳飲みたい?あるよ冷蔵庫に」

梨子「あるの!?どうして?」

花丸「じーちゃんがたまに大人買いしてくるんだ。だから遠慮しないで飲んでいいよ」

梨子「そうなんだ。なんか時々無性に飲みたくなる時があってね…さっき名前聞いてから気になっちゃって」

花丸「マルもお好み焼き食べたくなったんだけど、よかったら梨子さん夕飯一緒にどう?もんじゃ焼きも作れるけど」

梨子「もんじゃで」

花丸「じーちゃんが腕鳴らして喜ぶずら♪」
117 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:39:31.41 ID:tjsRNNrr0
梨子「もんじゃ焼きおいしかった〜♪」

花丸「じーちゃん人をもてなすの好きだからコーヒー牛乳とかもんじゃ振る舞えてご機嫌だったずら」

梨子「エビたっぷりだし本当においしかった」


花丸「オマール海老だったらもっとおいしいのかなあ…」

梨子「…でも、オマールエビともんじゃ焼きは合わないんじゃない?」

花丸「そうかなあ…」


梨子「花丸ちゃんおなかいっぱいで眠くなってない?」

花丸「ちょっとね〜」

梨子「ふふふっ」



梨子「ねえ花丸ちゃん、この町の夜の空ってホントに綺麗だねえ」


花丸「今日は真ん丸お月様ずら」


梨子「星座ってよく知らないけど転校してくる前はこんなに星が輝いてるなんて知らなかったな…」



花丸「・・・・・・」



梨子「・・・・・・」
118 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/05(水) 22:40:36.15 ID:tjsRNNrr0
また17のまま明日か明後日に続く
119 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:43:57.01 ID:geImiDW00

梨子「月が綺麗ですね…って、言うところかなあ?ここ」


花丸「う〜〜ん…どうだろ…甘露待ち?かなあ」


梨子「あ〜…そうだね。そうかもねえ…」


花丸「梨子さんも眠くなってきてるんじゃない?」

梨子「うん…舟漕ぎそう…」

花丸「梨子さんって寝顔見られるの大丈夫な人?」


梨子「…ハッ!…それは恥ずかしい…」


花丸「実は梨子さんが泊まった夜ね…」

梨子「いつも花丸ちゃんの方が先に寝てるよ?」

花丸「…そうだね。ねえ梨子さんもしかしてマルの―――」

梨子「見てないよ!花丸ちゃんの寝顔見てないよ!」

花丸「う…うん」


梨子「…そこは恥ずかしがってよ…」

花丸「ええっ?マルがわるいの?」
120 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:46:57.00 ID:geImiDW00
花丸「生姜紅茶おいしいねえ〜」

梨子「生姜紅茶おいしいよねえ〜」


花丸「この間梨子さんが持って来てくれた鴨なんとかティーも良かったけどこれも良いね」

梨子「カモミールティー気に入ってくれてたんだね。また今度持ってくるよ」

〜〜〜

花丸「…ええっと、あとはスキー旅行と怪魚とクッキーさんと…」

梨子「?…それさっきのクッキーの中身の話?」

花丸「そう。スキー旅行は海路待ちとして、クッキーさんとヨロイと怪魚だけど…」

梨子「クッキーさんはこっくりさんだから障らぬ神ってことでいいよね」

花丸「うん」


梨子「ヨロイは、郷土資料館とかで展示されてるかもしれないね」

花丸「確かに。さすが梨子さん」

梨子「あとは怪魚だけど…怪魚って…」

花丸「アカメとかが現実的かなあ」

梨子「アカメ?そういう魚がいるの?」

花丸「うん。怪魚って呼ばれてるよ」

梨子「へえー…私てっきりこう、人間よりおっきくて手足の生えてる魚のおばけかと」

花丸「網タイツとか履いてるやつ?」

梨子「え?網タイツ?」

花丸「なんでもないずら。忘れて」
121 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:48:43.28 ID:geImiDW00
梨子「ああそうだ、ヨロイと怪魚に気をつけろっていうことだから見に行かなくてもいいんじゃないかな」

花丸「全くご尤もな意見ずら。…でもお出かけの口実としては…どうかな?」

梨子「花丸ちゃんヨロイとか怪魚とか見に行きたい?」

花丸「それなりに面白そうだと思うし、その、梨子さんと一緒だったら…ね」


梨子「…そっか///」

花丸「うん」



梨子「じゃあいつかスキー旅行とかも本当に行ってみる?」

花丸「雪山のペンションとかはちょっと行ってみたい気がするかなあ」


梨子「それなら、私の叔父さんが長野でペンションを経営してるんだけど、話聞いてみようか?」

花丸「そうなの?梨子さんの親戚の人のペンションなら安心できるね」

梨子「ミシシッピマッドケーキっていうちょっと変わったおいしいケーキも食べられるよ」

花丸「ほうほう、それはとっても心惹かれるずら」


梨子「じゃあいつか、都合がついたら一緒に行こうね♪」

花丸「うん。楽しみにしてるね♪」


かくして約束されたスキー旅行で
マルと梨子さんはちょっとした事件に巻き込まれるんだけど

それはまた、別のお話…
122 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/06(木) 21:50:21.12 ID:geImiDW00
17了 次は10日以内で
123 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/16(日) 14:36:53.19 ID:gvtNjXa00
18


花丸「梨子さんと打てば響く仲になりたい」

梨子「どうしたの花丸ちゃん。藪から棒に」

花丸「藪から棒ではあっても、寝耳に水ではないよね?」

梨子「そうだね、どちらかといえば耳よりな御話だね」

花丸「どちらかというべくもなくなるまで物語らいたいずら」


花丸「…物語らうはいまいちだね」

梨子「物語らうはいまいちかもね」

花丸「耳よりまでは良かったと思う」

梨子「そうだね、寝耳に水から綺麗につながったね」


花丸「そこで切り上げておくべきだったのかもしれないね」


梨子「打てば響くって難しいねえ」


花丸「まあ…マル的には十分楽しいけど」

梨子「私もこのくらいが丁度いいというかこれ以上はプレッシャーがかかるというか」

花丸「実際本当に打てば響く仲になったらなんか疲れちゃいそうだし」

梨子「そだねー。もうちょっとぼーっとしてたいよねー」



梨子「この白和えの味もぼーっとした感じだね〜」

花丸「そう?優しい味だしおいしいよ」

梨子「ほんと?気に入ってもらえたなら嬉しいな…実は私もこの味好きなんだけど」


花丸「食べやすいしこれ、コレが不思議な食感でマル好きかも」

梨子「ああそれアボカド。ときどき無性に食べたくなってね〜」


花丸「あぼかどかあ…変な名前♪」
124 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/16(日) 14:38:46.17 ID:gvtNjXa00
梨子「花丸ちゃん牛乳苦手だけどアイスクリームは食べてるよね」

花丸「アイスクリーム好きだよ♪」

梨子「私も大好きだよ♪」


花丸「バニラのね、すごく濃いのとかじゃなければ全然大丈夫」

梨子「じゃあ、花丸ちゃんコーヒーとか飲める?」

花丸「飲めるけどおとなの味っていう感じかなあ」

梨子「駅前に新しいお店ができたんだけど、コーヒーと紅茶がおいしいお店でね、花丸ちゃんアフォガート食べたことある?」

花丸「なんだかあぼかどと似たような響きだね」


梨子「あ、ほんとだ」


花丸「…そのあふぉがーとって、どういうものなの?」

梨子「アフォガートはね、アイスにコーヒーとか紅茶とかをかけたものだよ」

花丸「???…それっておいしいの?」

梨子「う〜んとね…ときどき無性に食べたくなる味、かな」

花丸「梨子さんときどき無性に食べたくなるもの多いね」

梨子「あ、ほんとだね。ふふっ」

花丸「ふふふっ」



梨子「それで、どうかな?今週末にでもそのお店、一緒に行かない?」

花丸「もちろん行くよ!今から週末が楽しみずら〜♪」
125 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage]:2019/06/16(日) 14:39:20.36 ID:gvtNjXa00
次は48時間以内
126 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 22:55:28.65 ID:afwAp0LL0
19


梨子「は〜い♪マフィン作ってきたよ〜♪」

花丸「わーい♪今日はどんなマフィンか楽しみずら〜♪…どれどれ…」

梨子「はいはい、お行儀よく座って待っててね〜♪」

花丸「いい匂いがするずら〜♪わくわく♪…ん?この匂いは…?」


梨子「今日は特別メニューだよ〜」

花丸「あっ!海老?海老が入ってる!」

梨子「そうだよ〜今日はエビとアボカドのイングリッシュマフィンと」

花丸「これオマール海老?」

梨子「もうっ、違うって分かってて言ってるでしょ花丸ちゃん」クスクス

花丸「えへへ」


梨子「伊勢エビだよ」マガオ

花丸「えっ!?そうなの?」ビックリ

梨子「うそだよ♪」エガオ

花丸「なんだ〜がっかりずら〜」ガックリ


梨子「花丸ちゃんてノリいいよね」
127 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 22:58:46.06 ID:afwAp0LL0
花丸「梨子さん梨子さん、こっちのマフィンは?」

梨子「いちごのマフィンだよ〜♪ブルーベリーのマフィンが好評だったから甘酸っぱいつながりで」

花丸「あ〜、あれはおいしかったずら〜」

梨子「ブルーベリーを気に入ってくれた人は、大体このいちごのマフィンも気に入ってくれるんだよ♪」

花丸「へえ〜、もしかして梨子さんのお気に入りのレシピだったりするの?」

梨子「うん。小さい頃からよく作ってるんだぁ」

花丸「じゃあ今日のも期待できそうだね」

梨子「ふふっ、だといいけど…あっ、この前気になったって言ってた香り付けの香辛料は、今日は使わないようにしたからね」

花丸「ありがとう梨子さん」


梨子「お茶だけど、煎茶とルイボスティーを用意したよ」

花丸「るいぼす?」

梨子「甘くしてもおいしいお茶だよ。香りや風味が独特に感じるかも」

花丸「くんくん…ほんとだ。でもマル嫌いじゃないかも」

梨子「よかった。花丸ちゃんお茶に詳しいけど紅茶とかはあんまりなんだっけ」

花丸「そうだね。ああでも、詳しいってほどじゃないよ。おうちの付き合いとかそういうのでよくいろんなお茶頂いてたり、知識だって殆どじーちゃんたちの受け売りだし」

梨子「それでも十分詳しいよ〜」

花丸「えへへ」


花丸「ところでどうして別々のお茶淹れてきたの?」

梨子「うん。もしどっちかのお茶が花丸ちゃんの好みに合わなかったらって考えて…私は両方好きだから取り替えようかなって…あ、でもそれってお行儀悪いね」

花丸「練習中にも回し飲みしたりするし、二人きりだしそんなに堅苦しくしなくてもいいと思うずら」

梨子「それもそうだね」

花丸「それじゃあマルは折角だからるいぼすティーをいただくずら」

梨子「はーい♪どうぞ」コトン
128 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 23:00:03.83 ID:afwAp0LL0
花丸「マフィンの形って帽子みたいだよね」

梨子「そうだねえ…あ、ねえねえ花丸ちゃん」

花丸「ん?なあに?」

梨子「コックさんの帽子ってあるでしょ、あの長いやつ」

花丸「あー、あるね」

梨子「そうそう、あれってなんで長いのか知ってる?」

花丸「ううん、知らない」

梨子「あれはね、マフィアに空洞の部分を拳銃で撃たせるためにああなってるんだって」

花丸「へえ〜・・・・・・・」

梨子「・・・・・・・・・・・花丸ちゃんマフィン食べる?」ヒョイ

花丸「食べる〜♪」パクッ

〜〜〜

花丸「梨子さんさっきのマフィアの話いつ思いつい―――――」

梨子「はい花丸ちゃんマフィンおかわり♪」ヒョイ

花丸「むぐむぐ」マアイイカ
129 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/17(月) 23:01:32.13 ID:afwAp0LL0
19の話のまま、次は2,3日以内に
130 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/20(木) 18:45:27.34 ID:jN6zUPQq0
スクフェスのイベントストーリーとネタが丸被りしたので1週間くらい延期
131 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/25(火) 17:38:53.80 ID:31MoQRTe0
梨子「ところでどうかな?マフィンのお味は」

花丸「おいしいよ♪…でもそういえばなんだかいつもおいしいばっかりで、もしかして説得力無い?」

梨子「ううんそんなことないよ。自分で作った料理とかお菓子をおいしいって言ってもらえるのって、本当にとっても嬉しいんだよ」

花丸「そっかあ…実はちょっとね、いつも貰ってばっかりで気が引けてたんだ」

梨子「気にしなくていいよ。本当に好きで作ってるだけだし」


花丸「ねえ梨子さん、お菓子作りってそんなに楽しいの?」

梨子「そうだねえ、私はお菓子作りの材料の匂いとか好き。焼き上がるまでの匂いも」

花丸「におい?」

梨子「うん。バス停の近くにパン屋さんがあるよね」

花丸「あ〜あるね。あそこマルよく行くよ」

梨子「パン屋さんの近くを通ると時々焼きたてのパンのいい匂いがするでしょ」

花丸「するする〜!焼きたてのパンの匂いってなんだか幸せな気分になるよねえ…」シミジミ

梨子「お菓子を作るといつもそんな気分を味わえるんだよ〜♪」

花丸「なるほど!それは…病み付きになっちゃうかもだねえ〜」


花丸「つまみ食いしたりもするの?…この苺とか」

梨子「あははっ、そんなこと…ちょっとだけね♪」

花丸「それはそれは、病み付きになっちゃうのも無理ないずら」
132 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:42:23.13 ID:31MoQRTe0
花丸「最近、アボカドの食感が癖になりつつあるずら」

梨子「アボカドってワニ梨とも言うんだよ〜」

花丸「わに、なし?…鰐梨…へえ〜、そうなんだぁ…なんか聞いたことある気がするかも」

梨子「花丸ちゃんのお爺さんか知り合いの人たちが話してたのが聞くともなしに耳に入ってたとか?」

花丸「多分そうだと思う。…梨かあ…梨なんだ、これ」


梨子「花丸ちゃんは、梨は好き?」

花丸「好きだよ〜。梨子さんは?」

梨子「私も好き。ほら、梨子って名前に梨の漢字が入ってるから、一時期梨のお菓子に凝ってたりもしたんだぁ…花丸ちゃん知ってる?梨のドレッシングっていうのもあるんだよ」

花丸「そうなんだ?梨のドレッシングかあ…どんな味なの?」

梨子「えっと、爽やかで…あ、今度食べてみる?」

花丸「百聞は一食に如かず、だね。…梨子さんよかったらマルも一緒に作ってもいい?」

梨子「えっ?いいよ、もちろんだよ!花丸ちゃんがそう言ってくれるなんて思ってなかったから嬉しいなぁ〜♪」

花丸「えへへ、喜んでもらえてホッとしたずら。言ってから、もしかしたら梨子さんは二人で料理するの好きじゃないかもって思って不安になっちゃた」

梨子「ああ、そういうことってあるよね。でも大丈夫だよ、家でもよくお母さんと二人でお料理してるし」
133 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:44:02.98 ID:31MoQRTe0
梨子「まあでも確かに、一人で集中したいことってあるよね」

花丸「うん。マルも趣味の読書とか、一人で集中したい方だから…」

梨子「そっか、趣味繋がりで私の料理も一人でって考えたんだね」

花丸「うん。マル、なんだかんだで一人の時間って大切だと思うんだ…たとえば梨子さん、一人でじっくりお買いものしたい時って、無い?」

梨子「あぁ…そうだね、時間とかに急かされずにじっくり考えられるもんね」

花丸「梨子さん分かってくれるずら?」

梨子「分かるよ、考えすぎとかトロいとか言われるけど、やっぱり納得いくまで考えたいよね」

花丸「そうずら。結局初めの直感通りの結果になったとしても、買ってからいまいちだったなって思ったとしても、考えつくしてから買うとそれなりに納得できるけど、誰かと一緒だとどうしても時間を気にしちゃったりして焦って買ったものが良くなかった場合とか、なんか心に引っかかっちゃうずら」

梨子「うんうん」
134 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:45:31.86 ID:31MoQRTe0
花丸「…ついつい熱くなってしまったずら…」

梨子「でも分かるよ〜、花丸ちゃん」

花丸「…ほんとに?」

梨子「ほんとにだよ〜」

花丸「えへへ」

梨子「うふふっ」


花丸「あ、でもねマルは梨子さんと一緒にお買いものしてる時にそんな風に思ってるわけじゃないんだよ。じっくり見て買いたい時もあるっていうだけで…」アセアセ

梨子「だから」


ひとこと言うと梨子さんはマルの両手をそっと握って


梨子「分かってるから大丈夫だよ」


いつもの柔らかい笑顔でそう言ってくれた


梨子「だから花丸ちゃん、今度から私もじっくりお買いものしたい時はそう言うから花丸ちゃんもそういう気分の時は言ってね?っていう感じでどうかな?お互いに気を遣いすぎないように」

花丸「うん。…なんか、重い話になっちゃって申し訳ないずら」

梨子「重くなんてないよ?…私はむしろ、花丸ちゃんと仲良くなれた感じがして嬉しいな」

花丸「そう?えへへっ、よかったぁ」
135 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:47:16.87 ID:31MoQRTe0
梨子「ねえ花丸ちゃん」

花丸「ん?なあに?」

梨子「お菓子作りだけど、今度じゃなくて今から一緒にやってみない?」

花丸「えっ?いいの?わぁ〜たのしみずら〜♪」

梨子「よし♪じゃあ下のキッチンに行こっか」

とことこ

花丸「でも梨子さん、どうして急にお菓子作りを?」

梨子「えっ!?…ああ、えっとね…おなか空いたから…///」

花丸「梨子さんときどきマルより食いしん坊さんだよね」^^

梨子「それほどでも…あるかなぁ///」

とことことこ

梨子「じゃあ今日は――――」

花丸「あの〜梨子さん、マルはお菓子作り初心者なので簡単なものだと有難いずら」

梨子「なるほど…実は私も早く食べたくて我慢できない感じだったりするから、じゃあマフィンの簡単レシピとか、どう?もしマフィン飽きちゃってたら別なものにする?」

花丸「ううん、マフィンで。甘いやつで」

梨子「決まりだね♪あっ、花丸ちゃんホットケーキはダメだったりする?」

花丸「好きだよ?ホットケーキ」

梨子「よかった。じゃあ今日はこのホットケーキミックスを使ってマフィンを作ります」

花丸「おお〜」パチパチパチ


それから、マルは梨子さんに手取り足取りの指導を受けて
マフィンとか、いろんないい匂いも堪能して
ルイボスティーも堪能して…

梨子さんとマルの一日は今日も平穏です
136 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/25(火) 17:48:22.35 ID:31MoQRTe0
次は、5日以内
137 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:00:53.85 ID:RiTevVVj0
20



街灯もまばらな住宅地を抜けて
家路を辿る

自分でも何が面白いのか
吐く息を意識して白くさせながら、それが消えていくのを眺め、繰り返す

ときどき夜空に光る天馬を探してみるけど
どこにいるのかは分からない
いや、分からないというか知らない

プラネタリウムとか旅行先とかで何度か教えてもらった気がするのに…
というか、つい最近も教えてもらったばっかりなのに

星座って難しい

…忘れたわけだから知らないっていうのも違うかな?

そのことを覚えて無くても…
聞いたことも無いんじゃなくて、一度知ったはずなのに忘れちゃってる場合
忘れたっていうことを覚えてる場合って、それは知らないって言ってもいいのかな?
どっちでもいいかな?
どっちでもいいな


そんな感じで
ぐるぐるとどうでもいいようなことを考えながら歩く


暗い夜道は正直まだ慣れません
日の長い季節にはそれほど気にもなりませんが
練習を終えて家路につく時間帯は、冬にもなると真っ暗です


「真っ暗な海と波の音って、なんだか不思議ずら…」


不意に、つないでいた左手が引っ張られて
一緒に歩いていた花丸ちゃんが立ち止っていることに気付く

潮風で揺らされた繊細な髪が花丸ちゃんの頬をくすぐっている
ときどき見せる物憂げな表情が何を考えているのか、まだ私には分からない
138 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:03:58.94 ID:RiTevVVj0
普段は風景画とかしか描かないのに
この花丸ちゃんの横顔を描いてみたいと思う

こういう時は、話しかけるのを少しためらってしまう

自分だったらこんな時は何を考えているだろうかと考えてみれば
晩御飯の予想とか、もうくらげはいないかな〜…とか?

…うん、大丈夫かな
話しかけても


「花丸ちゃん、今何を考えてるの?」


花丸ちゃんはこちらに向きなおって


「梨子さん…海月っておいしいのかなあ」


と、無邪気な調子でつぶやく


「くらげかぁ…どうなんだろうね」


くらげを描いてみるのもいいなあ〜とか
ぼんやりと考えてみる

生き物を描くのは少し苦手なんだけど、くらげだったら大丈夫かな?
でも都合よく止まっててはくれないだろうなあ
写真を見て描くのは違うしなあ

くらげの味かあ…
そういえば普段何気なく食べてる料理もたくさんの動植物の命なんだなあ
うわ、料理って凄く猟奇的じゃない?

とか

とりとめなく考えていると


「ところで今日の晩御飯は何だろうね」


また海の方へと視線を戻している花丸ちゃんがつぶやいて
…ああ、やっぱりこの横顔を絵に描いてみたいな
って思う

でもなんだか恥ずかしくて今は言い出せそうにない

その内言える時が来ればいいな
なんて思いながら私は


「ほら花丸ちゃん、身体冷えちゃうからもう行こう?」


そう言って離れかけていた手をつなぎなおして歩き出す


「はーい」


いつもの笑顔で返事をする花丸ちゃんは
握り返す指先で二つ目の返事をした
139 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:05:31.80 ID:RiTevVVj0
一週間以内に次を
140 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:46:52.65 ID:NBdnHv2K0
21

部室で二人きりで言葉を交わしたあの日に
梨子さんとのびじねすらいくな関係を卒業したはずのマルでしたが

あの後は何気ない言葉を一言二言交わしただけで帰宅したし
翌日校内で顔を合わせても軽い挨拶をするだけで
特段親しくなったと感じることはありませんでした

部室にいる時も挨拶はしても特に話さなかったし…

これは、普段マルの周りには1年生の二人が、梨子さんの周りには2年生の二人がいて
それが普通だったから当然と言えば当然なんだけど…


それでも、マルの中では梨子さんに対する意識の変化が確実に起きていて


以前は、2年生の中の一人
Aqoursのメンバーの一人としてしか認識してなかったのに

今では『桜内梨子』という存在がはっきりと縁どられて見えて
明らかに、マルは梨子さんを意識するようになっていました
141 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:49:59.62 ID:NBdnHv2K0
例えば、廊下で梨子さんが他の人と一緒に歩いて来ると
すれ違いざま挨拶をする時に、梨子さんとマルの視線が交わるようになりました


他にも、遠くに聴こえる梨子さんと他の人との会話…

例えば
“好きな色は桜色だけど壁紙に使ったら時々目に痛くて失敗だった”

だとか
“餃子にピーマンを隠して食べさせられてお母さんと喧嘩をした”

なんて話の内容が
自然とマルの記憶に留まるようになっていました


それはまるで、マルの記憶の目次の中に梨子さんの項目ができて
そこに梨子さんの情報が日々書き足されていってるようでした

だけどそうして梨子さんの情報が増えていく毎に
マルは不思議な満足感を得る一方で
人づての情報が増えれば増えるほど、なぜか梨子さんを遠くに感じてマルは
いつまでも自分から話しかけることができないまま悶々として過ごしていました
142 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:51:39.40 ID:NBdnHv2K0
思い返せば話しかける機会なんていくらでもあって

特にあの翌日、出会い頭にでもあの日の話題を持ち出せば
自然に会話が出来てたんじゃないかって

そんな後悔が、時間が経つほどに積もっていってました


自分と話がしたいと言ってくれた相手に話しかける

最初は単純な、それだけのことだったはずで…
確かにマルは自分から誰かに話しかけるのが得意な方じゃないし
引っ込み思案も自覚してたけど


上級生


そつがない


東京から来た都会の女の子


などなど、考えるほどに話しかけるまでの障壁が高く思えて来て
気がついたころには、マルはすっかり腰が引けてました
143 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/06(土) 16:54:23.10 ID:NBdnHv2K0
21の続き明日
144 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:09:32.27 ID:psbtFvU30
何日か後


休み時間


紙の束を抱えたプチ有名人が1年生の教室に現れた


生徒A「あっ、桜内先輩だー!どうしたんですかー?」


教室のドアを開けた途端
噂の転校生の姿に気付いた一人の生徒が底抜けに明るい調子で声をかけた


梨子「えっ!?ああ、これ…先生に頼まれて答案用紙持ってきただけだよ」


その子がいる方向とは別の方向に顔を向けていた梨子さんは突然話しかけられると
少し驚いた様子を見せた後、そう答えた


生徒A「そうなんですかーお疲れ様でーす!あ、これ私のだ〜♪いただきますねー」


その子は梨子さんと短く会話を交わすと、自分の答案用紙を手早く抜き取って
なんだかとても満足げな様子で離れていった


あれずら…あれが気さくに声をかける理想の姿、至高の技術ずら


その子はもと居た場所に戻ると、隣の仲の良さそうな友人と嬉しそうに話をしてる

…そういえば
あの子はAqoursの用事で曜さんが来た時にも同じような反応してたっけ

マルがスクールアイドルはじめた時にも
真っ先に応援してるねって声をかけてくれた
…爪の垢でも煎じてもらおうかな
145 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:12:00.59 ID:psbtFvU30
密かに落ち込んでいたマルは気が付かなかったけど
気を取り直して教室を見渡すと
いつの間にか梨子さんは教室からいなくなってて
答案用紙は机の上に置かれてた


花丸「時は得難くして失い易し・・・ずら」


落胆


自己嫌悪


実際のところ、言葉の印象ほどひどく落ち込んでるわけでもないけど
こう何度も機会を逸し続けてると、さすがにマルもへこんでしまいます


でも大丈夫


今日もお昼休みは食後に部室で集まるし

放課後もいつも通り練習で集まるから

話しかける機会はいくらでもある
そう、いくらでも
146 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:17:03.85 ID:psbtFvU30
そしてお昼休み

いつもよりお弁当の量を減らしてきてたマルは
ルビィちゃんや善子ちゃんにそのことをちょっとだけ心配されながらも
ほんの数分だけど、普段よりも早く部室に向かうことに成功しました


一緒にいる時間が長くなればその分話しかける機会も増える

その時のマルの頭の中は、これから梨子さんにどうやって話しかけようかと
そのことでいっぱいでした


もちろん、急いでいるからといって噛む回数を減らしたり
折角のお弁当をおいしくいただくことを疎かにしたりはしませんでした
そして今日はマルの好物も入っていたので気分は上々です


部室への道も意気軒昂と先頭を歩き
勢いのままマルが部室のドアを開けると


ダイヤ「あら、花丸さんたち今日はいつもより少しお早いのですね」


果南「おっ、なんだかずいぶんとやる気に満ちた顔してるね〜」


先に部室に来ていたダイヤさんと果南さんがマルの様子を見て声をかけてくれました
これは幸先がいいと思ったマルは気をよくして


花丸「もちろんですずら!」


なんだかおかしくなってしまった言葉遣いで返事をして、部室を見渡します


…いない


どうやら梨子さんはまだ部室には来ていないらしく
途端に、マルは出ばなをくじかれた気分になってしまいました
147 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:23:46.30 ID:psbtFvU30
しばし放心してると


ダイヤ「ではわたくしたちは先に始めてしまいましょうか。花丸さんのやる気に水をさしてはいけません」


果南「そうだね。さあ、こっちこっち」


花丸「えっ?」


そう言ってダイヤさんと果南さんの二人に挟まれ手を引かれ、部室の奥の机へ
そばに置かれたホワイトボードには“AZALEA”の文字


花丸「あっ・・・」


…そうでした
どうやら今日のお昼休みはユニット別のミーティングだったということを
マルは失念していたようなのです



千歌「こんちかーーー!!!」


間もなく2年生三人組が連れ立って部室に現れ、にわかに騒々しくなり


鞠莉「シャイニーー!!!」


すぐに鞠莉さんも部室に着くと
各々自分のユニットのメンバーで集まり、話を始めました


少しの間、ちらちらと梨子さんの様子をうかがっていたマルでしたが


ダイヤ「さあ、折角のユニットの活動ですし、より良いものを目指しましょう」


果南「そうだね〜かわいい後輩ちゃんもやる気になってるみたいだしこっちも気合入っちゃうねえ」


二人のそんな言葉を聞いているとなんだかマルも嬉しくなってきて
すぐにユニットについての話し合いに集中していったのでした


結局梨子さんとは挨拶もしないままだったけど
この日のミーティングはかつてないほどの充実感を得られました
148 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/07(日) 23:26:07.85 ID:psbtFvU30
このまま21の続き水曜までに
149 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 21:56:05.40 ID:s2HbqQpM0
お昼休みが終わるころ
充実のミーティングを終えたマルはユニットの二人に挨拶をすると部室内を見渡す

梨子さんの姿を探したけど見つからなかった

マルたちが特に熱が入っていたからか
梨子さんもAqoursの他のみんなももういなくて

おつかれさまと声をかけてダイヤさんも果南さんも部室を出ていった


…まだ、まだ大丈夫
まだ放課後があるから…


ミーティングの手ごたえもあって気落ちはしてないマルは
教室へ戻ろうと出口へ向かう
…途中
梨子さんが座っていた場所を何の気なしに見やると、机の上に何かが


花丸「これ…花?…の髪留め」


確かに見覚えのある、白い花をかたどった髪留め

机の上にぽつんと佇むそれを見つけて、思わずマルはつぶやいていました
150 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 21:58:43.92 ID:s2HbqQpM0
花丸「梨子さんの…だよね?」


何かの拍子に外した髪留めを
着け忘れたまま教室に戻っていっちゃったのかな?

改めてまじまじとそれを眺めていると
やがてマルの記憶の映像と合致する

この花の髪留めは梨子さんがステージ衣装や普段着に合わせて使ってる物だ


花丸「うん間違いない。これは梨子さんの髪留めずら」


願っても無い機会が訪れたと歓喜したマルはその髪留めを手に取りました

忘れ物を届けるなんてこんなもっともらしい口実を使える機会なんて
実際にはそうそう無い事です

部室の時計を見て時間を確認すると
お昼休みの終わりまではもう数分

今からでは、梨子さんのいる教室に髪留めを届けて
次の授業開始までに自分の教室に戻れるだけの時間は無い

よしんば間に合ったとしても、それでは梨子さんとお喋りをする時間まではとれない

そこまで考えた時、マルの心の中には迷いが生じました
だとしたら、これはマルが持って行ってもいいのだろうか?

もしかすると梨子さんが、髪留めを置き忘れて行った事を思い出して
この部室まで取りに戻って来るかもしれない
でも…

と、考えが堂堂巡りしだしたところで次の授業までもう2分

ええいままよ、と
マルは髪留めを掌に収めたまま1年生の教室へ戻ることを決めました
151 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 22:01:27.10 ID:s2HbqQpM0
授業終わりのチャイムが鳴って、休み時間

今すぐ2年生の教室に向かえば
梨子さんに髪留めを渡して、お話する時間も十分にある

…今の授業中に善子ちゃんが得意の堕天を披露したので弄ってあげたいけど
今日だけはごめんね!ルビィちゃん後は任せたずら


マルが、教壇で教材をまとめている日本史の先生の授業終了の合図を今か今かと心待ちにしていると

がらがらがらっと、教室のドアが開いて
世界史の先生が飛び込んで来ました


何やら慌てた様子で日本史の先生に訴えかけている様子
マルの席は教室の後ろの方なので、何を話してるのかは聴こえない

教壇に立ったままの先生は、最初は困った顔をして話を聞いてたけど
ふと何かに気付いたように頷くと、まくし立ててる先生をなだめるように肩を叩いて
まとめていた教材の中からプリントの束を差し出す


プリントを受け取った先生の顔は、驚きの表情から安堵の表情に
遠目からでも分かるほどの大きな変化を見せた


世界史の先生は、大事そうにプリントを抱えて
しきりに日本史の先生に頭を下げて謝った後
こちら側、生徒たちに対しても何度も頭を下げながら教室を出て行った


大事な書類か何かをどこかに置き忘れて探し回っていたのだろうか?
多分そんなところだと思う
152 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 22:03:56.24 ID:s2HbqQpM0
改めて教壇の上で咳ばらいをして、日本史の先生は授業終了の挨拶をして出て行った

時計を見ればもう次の授業開始の時間だ
間もなくチャイムが鳴り出すと、先ほど出て行った世界史の先生がまた駆け込んできた


先生「ご、ごめんなさいねお騒がせしちゃって!あ、あの休憩時間私のせいで無くなっちゃったからお手洗いとか行きたい人は行ってね?授業開始は10分遅らせるからね」


とても申し訳なさそうな顔をしながらそう言う先生

この先生は、今みたいに困ったり
先生自身が好きな内容の授業だと明らかに饒舌に早口になって
毎回生徒に指摘されて改めるというやり取りが、良くも悪くも定番になっていて
それでいて授業内容は丁寧かつ分かりやすいという不思議な先生で
生徒にも人気があります
マルも先生の授業は好きです
先生のことも好きなんだけど…

もう他のクラスは授業が始まっています
何人かトイレに出ていく生徒たちを横目に、小さい溜息

これでは梨子さんのところへ行っても授業中で、話なんてできるわけもありません


もしも、忘れ物に気が付いた梨子さんが
今の休み時間の内に部室に行ってて
そこに髪留めが無かったらどう思うだろう?

盗られたと思ったり?
…いやいや梨子さんはそんな風には思わないはず
でも、だけど…

頭の中に浮かんでは消える心配ごとで
授業の内容もろくに頭に入らないまま時間が過ぎて行きました


まだ放課後がある…


机の中にしまった花の髪留めを指先で確かめながら
マルは、何度も何度も心の中でそう繰り返していました
153 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/10(水) 22:04:53.81 ID:s2HbqQpM0
次もまだ21の話のまま日曜日までに
154 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/14(日) 22:28:03.22 ID:5Jxnn+Dj0
放課後

ホームルームの終了まで10分ずれたまま進んだので
解散する頃には廊下も下校する生徒たちのざわめきで溢れていた

教科書を鞄に詰め込んで
花の髪留めをポケットに大事に入れて
準備は万端

逸る気持ちを抑えながらかえりみる

お昼休みは早めに部室に行って失敗した
今度もそうなりはしないかと不安になるけど
考えても仕方の無い事だし、無心で行こう…と
無心とは程遠い邪念雑念を抱えたまま、マルは部室への道を行くのでした


部室の前

部屋の中から漏れ聞こえてくる耳に馴染んだ声たち


千歌さんに果南さん
ダイヤさん
曜さん
そして、梨子さんの声も

鞠莉さんは、放課後は特に合流が遅れることが多いけど
あ、今日はもう来てるみたい


ポケットの中の髪留めを握って、心の準備をする


ルビィ「みんなもう来てるみたいだね」


そう言ってルビィちゃんがドアを開ける
155 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/14(日) 22:33:28.27 ID:5Jxnn+Dj0
いつものようにダイヤさんのところへ駆け寄るルビィちゃんを見送って
マルは善子ちゃんと並んで部室に入る


善子「リトルデーモンリリー!今日も堕天するわよ!」


GuiltyKissの三人も、お昼のユニットミーティングが好調だったらしく
教室でもずっと機嫌の良かった善子ちゃんが
部室に入るなり梨子さんをビシッと指さしながら声を上げた

ビクッと微かに肩を震わせて、こっちを振り向く梨子さん

他のみんなはもう慣れた感じでその様子を眺めてる
鞠莉さんなんかはニヤニヤしながらとても楽しそうにしてる


またしても先を越された


と思っていると、梨子さんがこちらに近づいてくる

そうだ、声をかけたのは善子ちゃんで
その隣にはマルがいるんだから、梨子さんがこっちに来るのは当然だ


今だ

今しかない

『この髪留め梨子さんのだよね?』

その一言を口にするだけでいい
今なら忘れ物を届けるというこれ以上ない口実で話しかけることができる

マルは
てのひらの中の花の髪留めを梨子さんに差し出そうと顔を上げる


…あれ?


マルの目に映る梨子さんの右耳の上には…髪留めが…ある?
156 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage]:2019/07/14(日) 22:35:32.72 ID:5Jxnn+Dj0
 まだまだ21のまま明日に続く
157 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:18:44.08 ID:Q2Wt/dI60
マルの目の前に立つ梨子さんは

確かに髪留めを着けている


またよく見慣れた、白色の楕円の髪留めを


そういえば、制服姿の梨子さんがこれ以外の髪留めを着けていたことってあったかな?
…考えてもそんな覚えは無かった


じゃあ、この花の髪留めは?

どうしてあの時、梨子さんが座ってた場所に?

もしかしたら全然関係の無い誰かの髪留めだったり?


もしかしたら・・・もしかしたら・・・
頭の中がこんがらがって、もう考えもまとまらなくなってて
消沈する気持ちと一緒に、段々とマルの目線も下がっていって・・・

後になって思えば、髪留めが梨子さんのものであろうとなかろうと
話しかけるきっかけとしての効力になんら変わりなんて無かったのに

この時のマルは、特に根拠も無しに
梨子さんは髪留めを忘れて行ったのだから今は着けて無いと思い込んでて
もう頭が真っ白になって固まってしまっていました

きっと、今日一日何度も話しかける機会を逃していたこともあって
焦りや疲れで心に余裕が無くなっていたんだと思います
158 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:22:31.41 ID:Q2Wt/dI60
梨子「あ、花丸ちゃんそれ私の髪留め。お昼にここに忘れて行ったんだけど、もしかして拾って預かってくれてたの?ありがとう」


俯きかけてたマルの顔を上げさせたのは、梨子さんの声


花丸「はぇ?」


返事をしたら、自分でも驚くくらい間の抜けた声が出た


善子「ああそれ、お昼のミーティングの時に使ってたわねリリー。なぁに忘れて行ったの?」


鞠莉「あらあら梨子がそんなウッカリさんするなんて珍しいわねえ」


鞠莉さんも寄って来てGuiltyKissの三人が集まると
事のあらましを話してくれた

なんでも、GuiltyKissの次の曲の衣装に
三人でお揃いの髪飾りを着けようと梨子さんが発案した折に
この花の髪留めを使ってどこにどんな風に着けようかと
いろいろと試していたらしいのです


花丸「…そうだったんだ…でも、梨子さん今髪留め、あるよね?」


梨子さんがつけてる髪留めを指さしながらマルが尋ねると


梨子「髪留めはいつも予備を持って来てるんだよ。留め具とか壊れちゃったりすることもあるから」


花丸「…なるほど」


言われてみれば当然のように思えた
準備の良さそうな梨子さんだからその辺りの備えはしてても不思議は無い


梨子「ほんとにありがとうね花丸ちゃん」


花丸「あ、はい」


改めてお礼を言われ、マルはようやく花の髪留めを梨子さんに手渡す
159 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:26:34.06 ID:Q2Wt/dI60
梨子「そうだ、花丸ちゃん。今日は準備運動一緒にやらない?」


花の髪留めを受け取ると、梨子さんはそれを持ってロッカーの方へ歩きながら言う
荷物もしまわなくちゃいけないし、慌ててマルも梨子さんの後について行く


梨子「それにほら、いろいろとお話もしたいし…どうかな?」


ロッカーを開けて荷物をしまいながら言う梨子さんに


花丸「うん。マルも…お話したいです」


マルもやっとその一言を口にできました



練習着に着替え終わって
みんなが三三五五部室を出ていく

マルはいつも、着替えにもたついたりで遅くなるけど
ルビィちゃんや善子ちゃんが待っててくれて、一緒に屋上に行ってます

たまにルビィちゃんが遅れることもあって
そんな時は、マルや善子ちゃん
そして時々ダイヤさんが待ってます


今日はずっと梨子さんとお喋りをしていたからか
部室には梨子さんとマルだけが残ってる状態に

着替えながら話したことは、主にお昼休みのユニットミーティングでの出来事

梨子さんはGuiltyKissのこと、マルはAZALEAのことを話しました

やっぱり共通の話題があるから話しやすかったのか
今日までずっと話しかけられずに悩んでいたのがウソのように
マルは梨子さんと自然にお喋りができました
160 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:29:54.80 ID:Q2Wt/dI60
梨子「へえ〜、それじゃあ次の曲は花丸ちゃんがボーカルの中心なんだ?」


花丸「きっとマルだけ1年生だから気を遣ってくれてるずら…と思います」


梨子「そんなことないよ〜…ところで花丸ちゃん。言葉、かしこまらなくてもいいんだよ?」


お喋りは自然にできるけど、やっぱりちょっと緊張が残ってて
なんとなく言葉が固くなってしまうマルに、梨子さんはそう言ってくれる


花丸「え?ああ、ごめんなさい…梨子さん上級生だしなんかまだ慣れなくて」


3年生相手とも違う、2年生との一対一の会話

3年生相手だったら敬語で接しててもお互いに不自然も無いけれど
2年生の、それも梨子さん相手だと距離を測りかねてしまう


そんなことを考えてると、梨子さんは小さく笑って


梨子「花丸ちゃんは礼儀正しいんだね。じゃあ言葉遣いは追い追いと、ね」


と、マルの顔を覗き込みながらそう言ってくれました


花丸「はいっ!」


なんとなく嬉しくなったマルは元気に返事をしたんだけど
つい距離感がまた元に戻ってしまい


花丸「あっ」


しまったと思い、手で口を隠すしぐさをすると梨子さんは


梨子「ふふふっ…まああんまり難しく考えないで、ね」


そう言いながらマルに微笑みかける


花丸「ぜ、善処します。ずら」


マルが混乱した言葉でそう返事をした後で、二人で笑い合う

言葉遣いはまだ慣れないけど
梨子さんと二人のこの空気には、少しずつだけど馴染んできてるのを感じていました
161 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:32:59.29 ID:Q2Wt/dI60
練習が終わって、夕焼けの屋上

気合を入れ過ぎたマルは呼吸を整えるのに時間がかかっていました

ドアの前を見ると、梨子さんが鞠莉さんから屋上の鍵を受け取りこちらへ歩いてくる


梨子「花丸ちゃんどう?落ち着いた?」


首筋を滑り落ちる髪を手で抑えながら
ぺたんと座り込んでるマルの顔を覗き込んでくる梨子さん


花丸「…なんとか」


力なく返事をすると、梨子さんは片手をこちらに差し出す
マルはその手をつかむと、一息よいしょと気合を入れて立ち上がる


花丸「ふうーーっ」


深呼吸をすると大分体も楽になり、呼吸も落ち着いた


花丸「お待たせして申し訳ないずら」


頭をかきながら謝罪すると、梨子さんは


梨子「5分も待ってないし気にしなくていいよ」


微笑みながらそう言ってくれた

普段なら練習終わりもルビィちゃんや善子ちゃんと一緒に部室に戻るんだけど
マルがすすんで梨子さんと会話してるのを見て気を遣ってくれたのか
屋上には鞠莉さんから鍵を受け取った梨子さんだけが残って―――


ルビィ・善子「あっ」


花丸・梨子「あっ?」


―――二人ともドアの裏で待っててくれてました
162 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/15(月) 23:34:51.76 ID:Q2Wt/dI60
善子「ほら、これ飲みなさいずら丸」


ルビィ「マルちゃん汗拭いてあげるね」


スポーツドリンクとふわふわのタオルを差し出す二人に両脇を固められて
マルの部室への道中は至れり尽くせりでした

マルたちの前を歩く梨子さんは振り返ると


梨子「三人はほんとに仲がいいね」


と、なんだか嬉しそうに言います


善子「べっ、別に心配だからとかじゃないんだから!ヨハネのリトルデーモンの魔力を管理するのも堕天使としての―――」


どう聞いても照れ隠しに聴こえるいつもの善子ちゃんの言葉に
示し合わせてもいないのに


梨子・ルビィ・花丸「ほんと、善子ちゃんは良い子だね〜」


自然、三人の声がそろってしまいます


善子「なっ!?…善子ゆーな!ヨ・ハ・ネ!!」


勢いを増す善子ちゃんの照れ隠しを三人で優しく見守りながら
マルたちは部室へ向って歩いていきます
163 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/15(月) 23:37:20.73 ID:Q2Wt/dI60
ま〜だ21のまま水曜までに次を 水曜までが無理だったら土曜までに
164 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/17(水) 20:52:16.64 ID:gm5V7cAo0
部室前

先を行く梨子さんがドアを開けて、マルたちを部室の中へ


ルビィ「あっ、梨子さんありがとうございます」


善子「善きに計らえ!」


梨子「気にしないでルビィちゃん。…善子ちゃんは明日お話しましょうね」


善子「待ってごめん今の無し」


花丸「あはははっ堕天使も形無しずら」


そんなやりとりをしながら室内に入ると


ダイヤ「あら花丸さん、もう具合は大丈夫なのですか?」


鞠莉「今日は随分ハッスルしてたものね〜♪」


既に制服への着替えを終えたダイヤさんと鞠莉さんが、マルを心配して声をかけてくれた


花丸「はい、もう大丈夫です」


ルビィ「お姉ちゃん今日はもう帰れるの?だったら一緒に帰ろ」


ダイヤ「ええ、よろしいですけれど…寄り道はしませんよ」


ルビィ「海沿いのコンビニに新商品の抹茶プリンがあるから買って帰ろう?」


ダイヤ「…ですから寄り道は…」


ルビィ「ルビィお姉ちゃんと一緒にプリン食べたいなぁ〜」


ダイヤ「……まあコンビニくらいなら…」


ルビィ「わ〜い♪」


ルビィちゃんは小走りで自分のロッカーに駆け寄ると、急いで着替えをはじめる
165 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/17(水) 20:55:47.89 ID:gm5V7cAo0
梨子「鞠莉さんこれ、鍵です」


鞠莉「ハイ確かに。…失くしさえしなければ、梨子が持ったままでもいいのよ?失くしさえしなければ、ネ?」


鍵を受け取る鞠莉さんは
なぜか悪戯っぽい笑みを浮かべて梨子さんにウインクをしてみせた
梨子さんが髪留めを忘れて行った事が、やっぱり珍しかったからかな?

マルの位置からだと梨子さんの表情はよく見えなかったけど
「大丈夫です、お返しします」と返事をした梨子さんは微かに笑っている様に見えた


ルビィ「抹茶プリンが一個しか無かったらお姉ちゃんにあげるからね♪」


ダイヤ「ベ、別にそんな変な気を遣わなくても…こら走らないの!」


あっという間に着替え終わったルビィちゃんが
もうダイヤさんの手を引いて部室を出ようとしてる


ダイヤ「ではみなさん、お先に失礼します。帰り道も気をつけて下さいね」


ドアの前で振り返り挨拶をするダイヤさん
その向こうではすっかり上機嫌のルビィちゃんが


ルビィ「マルちゃん善子ちゃんみんなも、また明日ね〜♪」


手を振りながらそう言うとまたダイヤさんを引っ張り部屋を出て行った


善子「ホント仲いい姉妹ね〜かしましいわ〜」


梨子「でも、あの二人が仲良くしてるのを見るとほっこりするよね」


花丸「異論の余地は無いずら」


黒澤姉妹のやり取りに心を暖められながら、マルたちも着替える
166 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/17(水) 20:58:22.45 ID:gm5V7cAo0
善子「さて行きましょうかマリー、放課後の黒ミサへ…くっくっく」


一足先に着替えを終えた善子ちゃんが、いつものポーズで鞠莉さんに言う


鞠莉「カラオケは1時間までよ?あと揚げ物は頼んじゃダメ」


鞠莉さんはマルたちが戻って来た時からずっと同じ場所に腰掛けてて
今は梨子さんから受け取った鍵を左手で弄んでいる


善子「なんでよ!今宵は悪魔の絶唱でオデュッセイアを顕現させるのよ」


梨子「善子ちゃんオテロぐらいにしておいた方がいいんじゃない?」


鞠莉「それ伝わらないわよ〜梨子♪善子も意味分かってない言葉遣わないの」


楽しそうに笑いながら、短い鎖つきのキーホルダーの輪っかに指を通して
振り子のように鍵を揺らす


花丸「鞠莉さんと善子ちゃんカラオケ行くの?」


善子「善子じゃなくてヨ・ハ・ネ!」


梨子「そういえばよし…ヨハネちゃんと鞠莉さん前にAqoursのみんなで行ったカラオケでも息合ってたよね」


善子「そうよ、マリーとヨハネは地獄のハルモニアを体現するの!1時間しかないんだから早く行きましょうマリー!」


鞠莉「部室の施錠をしないといけないから、みんなが着替えて帰り支度するまで待ちなさ〜い、ヨ・ハ・ネちゃん☆」


花丸「ああごめんねよ…ハネちゃん、マル着替えるの遅くて」


梨子「私もごめんね、もう支度終わるからね…ヨ、ハネちゃん」


善子「…別に急がなくてもいいわよ…こういう時間も楽しいし…あと無理してヨハネって呼ばなくても…くすぐったい…」


梨子「よし、準備完了」


梨子さんがそう言ってロッカーから鞄を引き出したとき
なにかがこぼれ落ちた


コトン


花丸「あ、梨子さん何か落ちたよ」


床に落ちたものを拾い上げるとそれは、楕円形の白い髪留めでした
167 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/17(水) 21:02:05.43 ID:gm5V7cAo0
花丸「……梨子さんこれ…」


マルが拾い上げた髪留めを素早く受け取ると梨子さんは


梨子「ありがとう花丸ちゃん。…今日これで二回目だね」


穏やかな声色でそう言い、ポケットに髪留めをしまい込んだ


善子「ほらほら早く〜時間は待ってくれないのよ〜」


鞠莉「ついさっきこういう時間も楽しいとか急がなくてもいいとか言ってなかった?」


善子「悪魔の言葉を信じるなんてまだまだ甘いわねマリー!ほらリリーずら丸!途中まで一緒に帰るわよ!」


鞠莉「ああ、そっちが楽しみで待ちきれないのねぇ」


善子「そっ、そんなんじゃないんだから!」


賑やかに話す二人の声が遠くに聴こえるような感覚…
マルの頭の中に何かが引っ掛かってる…


何かが…違和感が…気になる…


マルが髪留めを拾い上げたてのひらを見つめたままでいると
横からそのてのひらをそっと握られる


梨子「ほら、花丸ちゃん。一緒に帰ろう」


にっこりと笑うと梨子さんはそう言って優しく手を引く


花丸「…うん」


その笑顔と手の温もりが、よく分からない違和感ともやもやをかき消して

そして、今日初めて梨子さんに対して固さの取れた返事がマルの口から出せた


少しは距離が近づいたかな
思ったより近づけた気もするけど、それはまだまだ分からないかな
168 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/17(水) 21:09:02.85 ID:gm5V7cAo0
結局この後、四人でお喋りしながら歩いてたら思ったよりも時間が過ぎて
もう遅いからと鞠莉さんからカラオケ中止命令が
ガーン!と両手で頭を抱えて嘆く堕天使だったけど
代わりに延長した四人での下校中も、一番はしゃいでた

堕天使は帰りのバスに乗り込む時までカラオケの再約束を念入りに繰り返し
結局、今度四人でカラオケに行く約束をさせられてしまった


ほどなく鞠莉さんともお別れをして
梨子さんと二人きり


二人になってから梨子さんとお別れをするまで
特別なことを話したりはしなかったけれど
手は繋いだままだった

それから途中の分かれ道で
少しだけ名残惜しむように繋いだ手を放して
さようならの挨拶と一緒に、その手を振ってお別れをしました


そして、梨子さんに背を向け歩き出して少ししたところで後ろから


梨子「花丸ちゃーん!また明日ねー!」


と、梨子さんの声がして
その呼びかけに対してマルも


花丸「また明日―!」


そう返してもう一度手を振ってお別れをしました


振り返り歩き出す梨子さんの後ろ姿を少しの間見送ってから、マルも歩き始める

帰り道

新しい本を読み始める時の、期待で胸がいっぱいになる感覚
そんな感覚に似た、それでいてもっともっと大きなドキドキを感じながら
とても充実した気分でマルは家路についたのでした
169 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/17(水) 21:12:01.63 ID:gm5V7cAo0
 21おわり 次は日曜か、次の水曜までに
170 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/24(水) 22:10:50.03 ID:JzGIH7Dh0
5.5

道端の紫野菊にふと目を引かれる、梅雨も迫ったある日の放課後
私はいつもより不安な気持ちでそのドアを開いた

ガラララ

いつもは意識もしないドアを引く音が
やけに大きく、廊下中に響き渡っている様な気がして
まるで授業中に不意に大きな音を立ててしまった時のような焦りを感じた

一つ深呼吸をして、気を落ち着かせる

ドアを開ける前から感じていた静寂
室内を見渡したら、すぐにその理由が分かった

そこにいたのは、1年生のあの子
国木田花丸ちゃん
とても友達思いな文学少女
歌も上手

その彼女が、部室に一人きりで、口を半開きにして
こちらを凝視したまま硬直していた…

その表情からは、はっきりと緊張の色が窺える
いや、むしろ怯えていると言った方がいいかもしれない
そんな花丸ちゃんの様子を見て
私は正直少し…いや、結構ショックを受けました
ただそのショックのおかげか、さっきまで感じていた緊張感はすっと消え去って

梨子「あ、花丸ちゃん。早いね…一人?」

そう自然な調子と笑顔で話しかけることができました

私の問いかけに
数度の瞬きの後、花丸ちゃんはやっとこちらの世界へ戻って来たかのように硬直を解いて

花丸「あ…はい。ルビィちゃんと善子ちゃんはおうちの用事でお休みするって…」

と、一人きりで部室にいる理由を語ってくれた

梨子「そうなんだ…実は千歌ちゃんと曜ちゃんも今日は来られないんだって」

私の方も、一人きりでこの部室に来たのはこれが初めて
きっと花丸ちゃんもさっきまでの私と同じように緊張してたんだろうなあ、と
そんな風に思いながら自分の事情を話し、花丸ちゃんの向かいに座りました
171 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/24(水) 22:13:37.29 ID:JzGIH7Dh0
梨子「花丸ちゃん、どのくらい一人で待ってたの?」

自分で言いながらこの質問あんまり意味無いなあって思ったけど
とりあえず会話のきっかけがほしいから最後まで言い切る

花丸「あ、はい。…えっと、そんなには待ってない、です」

…なんだろう、花丸ちゃんに自分がすごく重なる
この感じはつまり、とっても緊張している…んだと思う

私がこういう状態の時は、いつも話し相手が助けてくれてた
気にせずにどんどんと話しかけてくれて、私の緊張をほぐしてくれてた
その内に自然と私からも話しかけることができるようになっていって
じきに話し相手は友達に変わっていった

梨子「そっかあ、待ってる間何してたの?」

この質問もあんまり気が利いてないなあと思ったけど、黙ってるよりはいいはず
問い掛けながら花丸ちゃんの様子を観察する

花丸「ええっと…特にはなにも…」

嫌がってはいない…と思う
返答を考えてる間、視線が泳いではいるけれど
しっかりとこちらを見据えて質問に答えようとしてくれてるし
距離を取ろうとしたりといった拒絶や拒否のサインも無い

梨子「そういえば、花丸ちゃん本好きだったよね?待ってる間に読んだりとかは」

花丸「ああ、マルは本を読むと集中しちゃって周りが見えなくなるから」

梨子「あーそうだね、本に集中するとそうなるよね」

花丸「だから、誰かが来ても分からなくなりそうだったから本は…」

本の話題で、なんとか会話が繋がりはじめたけど、そろそろ限界っぽい


もうじき3年生も来る頃だし、人数が増えれば…
そう考えていたとき、携帯に千歌ちゃんからの着信

『ダイヤさんも鞠莉さんも果南ちゃんも練習出られないってー。部室の鍵は――――』

それは3年生が来られなくなった旨と
部室の施錠の手順を記したメッセージでした
172 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/24(水) 22:16:01.35 ID:JzGIH7Dh0
今日はもう誰も来ないと知って思わず、えー?って言いそうになる
少しの間、画面を眺めたまま沈黙していると
花丸ちゃんの携帯にもルビィちゃんから連絡が来て

梨子「こんなこともあるんだね」

思わず苦笑しながらそう言うと
花丸ちゃんもぎこちなく苦笑を返した


部室の中
長机を挟んで向かい合い座っている私と花丸ちゃん

しばらく静かな時間が続いたからか、花丸ちゃんは少し居心地が悪そうな感じ

もう今日は他に誰も来ることもないし
普通ならこのまま部室に鍵をかけて下校…なんだろうけど


正直、このまま帰りたくないと思った


花丸ちゃんがもし、私に対してもう少し拒否の反応を見せていたら
こんなことは考えなかったと思うんだけど
花丸ちゃんの私への態度に自分を重ねたこともあるし
前から花丸ちゃんとは色んな本についてお話してみたいって言うのもあったし…

さっきは3年生が来ないことに落胆してたけど
よく考えれば二人きりっていうのは仲良くなる絶好のチャンスな気もする

自分と重なるからといって
必ずしも花丸ちゃんが私と同じように感じているとは限らないけど
“私ならどう思うか?”
を軸に考えていけば、この機会に仲良くなるきっかけくらいは掴めるのかも?
そう思った私は、内心の不安やドキドキを押し隠しながら
自分から友達をつくるという未知の領域に踏み込む決心をしたのです
173 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/24(水) 22:16:46.63 ID:JzGIH7Dh0
一週間以内に 次 を
174 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/31(水) 21:06:30.89 ID:/7O0IUmh0
時間とれないので一週間延期
175 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/08/07(水) 21:44:08.89 ID:bc1yKObP0
番外


梨子「花丸ちゃんよくパン食べてるよね」

花丸「うん」モグモグ

梨子「…それおいしい?」

花丸「うん」モグモグ

梨子「花丸ちゃんの食べ方って可愛いよね」

花丸「えっ?そう、かな?ん〜…マルは梨子さんの食べ方の方が上品で可愛いと思うよ」

梨子「私の食べ方って…これ?」

花丸「そうそれ、小さくちぎって口に運ぶその食べ方」

梨子「私はむせやすいからこういう食べ方してるだけだよ」

花丸「そういうところも可愛いと思うずら」

梨子「そういうもの?」

花丸「そういうものずら」


梨子「でもね、ちぎるとこぼれちゃうパンはこういう食べ方しないよ」

花丸「それは加点にしかなりません」

梨子「そうなの?」

花丸「そうです」
176 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/08/07(水) 21:45:53.55 ID:bc1yKObP0
花丸「紐とかの結び方ってあるよね」

梨子「えっ?…うん」

花丸「蝶結びとかもやい結びとか」

梨子「あるね」

花丸「大きな輪と小さな輪を作って編むように通していくもやい結び…っていう風に、言葉では表現できるんだけどね」

梨子「うん」

花丸「こう…紐を交差させたり、指で輪を抑えたりしてると、今どうなってるのかよく分からなくなって…」

梨子「あ〜…結ぶ途中で考えちゃうとよく分からなくなったりするよね」

花丸「そうなんだあ…小学校の時もしまっておいたなわとびが絡まってたりすると解けなくて往生したずら」

梨子「私もね、小学校で靴紐が解けた時、蝶々結びが綺麗にできなくて休み時間が終わっちゃったりしたことあるよ」

花丸「マルもマルも!結び方は教えてもらってたんだけど、いざ自分一人でやろうとすると、あれ?これでどうするんだっけ?ってなっちゃって…ちょっとずつやり方を変えてもちゃんとできなくて最後には解けなくなったり」

梨子「そういう風に困ったあとは、靴を履くときに毎回靴紐を結びなおして体に覚えさせたりしたの」

花丸「その手があったずら…マルは教えてもらってもそのまま時間がたって忘れた頃に解けてこんがらがってを繰り返してたずら…」

梨子「そういうことってあるよね」
177 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/08/07(水) 21:47:30.01 ID:bc1yKObP0
花丸「梅干し食べる?」>*<

梨子「花丸ちゃんまだ食べてないのに顔がすっぱそうだよ」>*<

花丸「そういう梨子さんも」>*<


梨子「これは国木田さん家の手作りさん?」

花丸「えーっとね…確か檀家さん家の手作りさん」

梨子「そっかー…白いご飯ほしくなるね」

花丸「あるよ」イケボ


花丸「梨子さんのおうちでは梅干しは桜内産?」

梨子「ん〜ん、スーパー産」

花丸「そっかあ、梨子さんはどんな梅干しが好き?」

梨子「檀家産地の梅干しさん」

花丸「美味しかったの?」

梨子「すごく」

花丸「じゃあ後でおすそ分けしましょう」

梨子「やったぁ♪」


花丸「それで、普段はどんな梅干しを?」

梨子「あ、その話続くんだ」
178 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/08/07(水) 21:49:11.75 ID:bc1yKObP0
次は出来たら一週間以内 無理だったら最悪一か月以内
179 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/08/14(水) 13:53:38.66 ID:f/yG6w6B0
暫く無理そうなので 9月7日までお休み
180 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/11(水) 20:08:26.25 ID:9cKd4Vxb0
どうにもならなかったので次は15日に
181 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/09/15(日) 21:41:28.21 ID:1/chMXNS0
22


梨子「花丸ちゃん絵を描いてるの?」

花丸「うわあっ!」ビクッ

梨子「ご、ごめんね驚かせちゃって」

花丸「だ、だいじょうぶずら」


ある日の放課後

一人中庭でスケッチブックを開き絵を描くことに集中してたマルは
斜め後ろから覗き込んでいる梨子さんに気付かず
声を掛けられて心臓が飛び出るほど驚いてしまい
スケッチブックを取り落としてしまいました


梨子「鉛筆画だね」


梨子さんはやけに絵になる姿で髪とスカートを抑えながらしゃがみ込み
マルが落としたスケッチブックを拾い上げると
それをこちらに差し出しながら言う


花丸「うん」


…というか、描くもの鉛筆くらいしか持ってなかっただけだけど
と、マルは喉まで出かけた言葉を飲み込みスケッチブックを受け取る


花丸「ありがとう梨子さん」


マルがお礼を言うと梨子さんはスケッチブックを見つめたまま少し間を置いて


梨子「…ねえ、花丸ちゃん」

花丸「なあに?」

梨子「私もこの辺で絵を描いてもいいかな?」

花丸「えっ?マルと一緒に?」

梨子「うーん…一緒っていうか、近くで別々に、好きに絵を描くだけというか…」


言葉を探すように、選ぶように言う梨子さん


梨子「もし花丸ちゃんの気が散っちゃわなければ、だけど」
182 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/09/15(日) 21:43:34.89 ID:1/chMXNS0
花丸「大丈夫だよ、うん。一緒に描こう」


正直、梨子さんと一緒に絵を描くのは少々やり辛い

なぜならそもそもマルが絵を描こうと思ったのは梨子さんのことを知りたいと思うからで
梨子さんの趣味である絵を描くという行為を自分でもやってみようと考えたから


マルは特別絵が上手いわけでもないし
絵についての知識があるわけでもない

今後、絵画を勉強して画材を揃えて…とか、そういうことは全く考えに無くて

もちろん、その可能性が一切無いと断言できるわけではないけれど
今のマルが興味を持っているのはあくまで梨子さんであって
絵を描くという行為はほんの気まぐれのようなものだから
もし今ここで親切心で梨子さんがマルに絵の事をいろいろと教えてくれたとしても
マルはただただ申し訳ない気持ちになるばかりだと分かっているから…


梨子「じゃあロッカーにスケッチブック取りに行ってくるね♪」


なんだか楽しげに言い残して歩いていく梨子さん
マルは少しだけ不安に思いながらその背中を見送った


でも結局のところ、マルの興味の対象である梨子さんと一緒に過ごせるのだから
これはこれでいいんじゃないかと思うも


花丸「直接本人にそんなこと伝えられるならこんな風に一人で絵を描いたりしないずら…」


残された中庭でそうひとりごちた
183 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/09/15(日) 21:47:13.70 ID:1/chMXNS0
それからスケッチブックを手に戻って来た梨子さんは
先ほど言っていたように思い思いの場所に止まりスケッチブックのページを埋めていった

途中目が合った時にも、特にマルに話しかけるでもなく
にっこり笑ったり、小さく手を振ったりするくらいだった

さっき考えてたようなそうなったら辛いなあと思ってたことは一切起きなかったんだけど
なぜだかそれはそれで少し寂しい感じがして
人の心は複雑なんだなあ…と、マルはよく分からない納得をしていた




梨子「ところで花丸ちゃんの描いた絵、見せてもらってもいいかな?」


そろそろ帰ろうかとなった時、梨子さんはそう切り出した


花丸「えっ?」


もしやここから怒涛の絵画の授業が?と身構えるも


梨子「あっ、もし花丸ちゃんがよかったらでいいんだけど…私、自分以外の人が描いた絵を見るの、結構好きなんだ〜」


押してくる気配は露程も無く


花丸「そうなんだ…うん、いいよ。でも別に見て面白いようなものでもないからがっかりさせちゃったらごめんずら…」


まるで、押してダメなら引いてみなを実践されているような
そして見事にそれに引っかかってしまったようにマルはスケッチブックを差し出してしまう



梨子さんは笑顔だったり
感心したような表情を見せたりしながらページをめくっていく

その様子を見ているとマルは、なんだかむず痒いような気持ちになって思わず目を逸らす


花丸「!」


逸らした視線の先には、梨子さんのスケッチブック
184 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/15(日) 21:49:07.51 ID:1/chMXNS0
22のまま続きは、明日中 もしくは、梨子ちゃんの誕生日に
185 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/19(木) 23:08:36.84 ID:GPQd4PEy0
梨子「見てもいいよ、花丸ちゃん」


マルの視線に気づいたのか、梨子さんが視線を自分のスケッチブックに向けながら言う


花丸「あ、うん。じゃあ…失礼して」


お言葉に甘えて梨子さんのスケッチブックを手に取る
描かれているのは当然この中庭のあちこち

ベンチだったり桜の木だったりに焦点が当てられていながらも
そよぐ草花の躍動や開きかけの窓なんかが印象的に描かれていて
やっぱり描く人が描くと違うんだなあなんて思った

そういえば梨子さんは人物画よりも風景画をよく描くって言ってた気がする

いくつか頁をめくっていく

一枚一枚絵を鑑賞しながら色々思いを巡らせるマル

…ふと気づく
この短時間で梨子さんはこの庭の絵を何枚描いていたのかと
そして驚く


花丸(どひゃあ!)


スケッチブックを持ったまま驚愕のポーズをとってみたけど
さすがに驚きの声まではあげなかった

さり気に梨子さんの方を見る
すると梨子さんもマルの方を見ていて


梨子(どひゃあ?)


…とは思ってはいないんだろうけど
「花丸ちゃんどうしたの?」と表情で訴えかけている
186 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/19(木) 23:11:54.88 ID:GPQd4PEy0
花丸「梨子さんこれ全部今の間に描いたの?」


マルは疑問に思っていることを率直に質問した
若干の気恥ずかしさとどう処理すればいいのか分からない空気には
話を逸らすのが一番ずら


梨子「え?ああ、うん。そうだよ」


僅かに困惑の色を見せかけた梨子さんだけど
すぐにいつもの穏やかな笑顔でマルにそう返した
スケッチブックはまだ開いたままだ


花丸「すごいずら〜、短い時間にこんなにたくさん描けるんだねえ」

梨子「いつもこうじゃないんだよ、今日は色々と重なって…ね」

花丸「いろいろ?」


梨子「実は最近作曲とか練習で忙しくてあんまり絵を描けてなくて…ちょっと久しぶりだったんだ」

花丸「なるほど…そういえばマルもあんまり本読めてないかも…」


梨子「大好きなことって、久しぶりだとすごく没頭しちゃわない?」

花丸「とってもわかるずら…おらも本を読んでて気付いたら朝だったなんてことが何度あったか!」


梨子「そうだよね♪…あ、でもごめんね花丸ちゃん」

花丸「えっ?なにが?」

梨子「ああほら、絵を描いてる最中に何度か目が合ったけどお話とか出来なくて」

花丸「あー…ああうん、それは大丈夫だよ」

梨子「絵を描くのが楽しくて嬉しくてつい夢中になっちゃってて…」


そうか、そういうことだったんだ
梨子さんはマルに絵のイロハを勧めるより何より
絵を描くことそのものが楽しくてたまらなかったんだ

分かってみれば納得
それはマルにもよく理解出来る感覚だったから
187 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/19(木) 23:15:01.74 ID:GPQd4PEy0
花丸「ところで梨子さん」

梨子「なあに?花丸ちゃん」

花丸「それなんだけど…」

梨子「ん?ああ、スケッチブック?花丸ちゃんの」

花丸「うん…梨子さんずっと見てるけど」


梨子「あっそうか感想言った方がいいよね!」

花丸「いやいやいやいや違うずら!そうじゃなくて」


正直ほんのちょっとだけそういう気持ちが無いわけでもないんだけど
ほんのちょっと以外の大きな気持ちの割合としては
気恥ずかしかったり不安だったりこそばゆかったりで感想なんて聞きたくなくて

でもこの時のマルが気にかかってたのはそういうことでもなくて


花丸「マル、一枚と描きかけの半分くらいしか描けてないのにそんなにじっくりと見るほどのものではないというか…」


そう、梨子さんがこれほどたくさんの絵を描き上げている間に
不慣れもあってかマルはようやくスケッチブックの一頁を埋めて
次の頁なんかは余白だらけの未完成の絵になってて…

ついさっき見た梨子さんの絵を見たマルは一層引け目というか
おこがましさすら感じているというかそんな感じで


梨子「そう?樹の根元とかベンチとか、花丸ちゃんが普段気にしてる所がよく分かるいい絵だと思うけど」

花丸「ええっ?梨子さんその絵一枚でそんなことがわかるずら!?」

梨子「当たってた?分かるっていうか、絵を見て私が感じたことなんだけど」


花丸「ご名答ずら」
188 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/09/19(木) 23:17:29.45 ID:GPQd4PEy0
引き続き22のまま 次はルビィちゃんのお誕生日か、次の水曜日までに
189 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/25(水) 21:53:51.91 ID:aYV1Vyjn0
花丸「だけどどうしてマルが樹の根元やベンチに注目してたなんてことが絵を見て分かったの?」

梨子「えっ?…さっきも言ったけど見てなんとなくそう感じたから…としか」


言い当てられたことが少し悔しくて
マルが再度同じ質問を投げかけると、梨子さんも同じ答えで返してくる

梨子さんは少し困り顔になり
もう一度マルの絵に目を落として


梨子「そうだな〜…」


と、小さく唸り改めて観察を始める


梨子「例えばこのベンチは筆圧が強くて、何かを思うか考えながら描いたみたいな…」

花丸「ふむふむ、なるほど…」

梨子「それからこの樹の根元はそう、他に比べて明らかに線が多いよね」

花丸「…たしかに」


梨子「私も丁寧に描こうとしたり、難しい物を描く時にこんな感じになること多いよ」

花丸「梨子さんもそういう風に絵にムラが出たりするんだ?」

梨子「もちろんだよ、描きながらもっと上手くもっと綺麗に描けたらいいのになって思うこと多いもん」


花丸「へえ〜…こんなに上手なのに…」


ぱらぱらと梨子さんのスケッチブックをめくりながらマルが言うと


梨子「そんなこと…でも、ありがとう」


梨子さんは謙遜の言葉を途中で切り、マルからの賛辞を受け取った
少しはにかんだその表情は、だけどもとても嬉しそうだった
190 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/25(水) 21:58:05.87 ID:aYV1Vyjn0
マルはそのまま梨子さんのスケッチブックの頁をめくり続ける

梨子さんのスケッチブックには


今日描かれた中庭の絵が複数


マルもよく知ってる内浦の海の絵


Aqours9人の練習風景


多分梨子さんの部屋と、ピアノ
蓋は閉じている


多分ピアノの鍵盤


多分バイオリンかな?そういう楽器の絵


6人だった時のAqoursの練習風景


3人の時の練習風景


浦の星じゃない学校の絵


さっきの頁で見た部屋とは違う部屋と、ピアノ
この絵ではピアノを弾いている制服姿の梨子さんも描かれてる
制服は裏の星のものじゃない


さらにマルの知らない風景の絵が何枚か続いて
その中には時々、先ほどの絵で梨子さんが着ていた制服と同じ制服を着た子が描かれていた

それらを見ていると、なぜかマルは胸に微かに痛みのようなものを感じた…


そして後の方の頁になると
一枚の紙の中に点々と、様々な物が描かれたページが続いた

髪飾り、果物、浦の星の制服…
とりとめなく並んだ絵たちは、その時の梨子さんの興味や関心を表していた
191 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/25(水) 22:01:13.09 ID:aYV1Vyjn0
いよいよ頁も終わろうかというところで、一つの奇妙な絵が目に留まる


花丸「…これは…」


思わず眉根にしわを寄せてまじまじと見入る


花丸「梨子さん…この…象…?これは…」

梨子「え?象?」


マルが困惑顔のまま梨子さんに顔を向けたものだから、梨子さんも少し戸惑い気味
慌ててスケッチブックを覗き込むと


梨子「ああ、この落書きね」


落書き…なるほどこの辺りの頁は落書きなんだ…
自分の落書きを思い浮かべながら腑に落ちないでいるマルには気づかず梨子さんは続ける


梨子「花丸ちゃんガネーシャって知ってる?」

花丸「梨子さんさすがにばちが当たるずら」

梨子「もちろんガネーシャを描いたのがこれって言うんじゃないよ」

花丸「…まあ若干…それらしさはあるような気もしないでもないけど…」


梨子「うんまあ確かにこれがガネーシャとは言わないけどガネーシャじゃ無いわけでもなくて…」


梨子さんは少し難しい顔をしながらなんだかよく分からないことを言う
192 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/25(水) 22:05:05.82 ID:aYV1Vyjn0
梨子「お父さんがね、まだ私が小さい頃…幼稚園くらいの時かな
お仕事の関係で海外の人からお土産かなんかで絵をもらったらしくて
それを一時期壁に飾ってあったんだ」

花丸「ガネーシャ絵を?…なるほど」

梨子「なんだかよく分からないけどその絵がずっと印象に残ってて
小さい頃は象の絵を描くとガネーシャ風というか…そんな感じになっちゃってたんだ」

花丸「なるほどそれでガネーシャじゃないけどガネーシャじゃないわけでもない、と」

梨子「うん、まあもっと厳密に言うとその絵は象でもなくて…何の絵なんだろう…」


そう言って考え込む梨子さん


梨子「まあ、気分転換だったりに時々描く何か…っていうところかなあ」


花丸「へえ〜…なんというか独特…だよね」

梨子「あははっ、そうだよね」


言ってからちょっと後悔するような微妙な感想を口にして
しまったと思ったマルだったけど
梨子さんが軽く笑って流してくれてほっとした


梨子「そういえば、小さい頃この絵を見た他の子に
ナシコの地上絵〜とか、からかわれたこともあったなあ」

花丸「こういう地上絵ってあったっけ?」

梨子「子供の言うことだからね、そこは感覚重視だよ」


花丸「…語感はいいかもしれないずら」
193 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/09/25(水) 22:07:39.69 ID:aYV1Vyjn0
まだまだ22のまま、続きは次の月曜日までに
194 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/09/29(日) 20:55:52.19 ID:01wT7mRb0
始まると思ってなかったスクスタが始まったので 水曜か週末に延期
195 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/10/07(月) 00:00:34.41 ID:RrPRutXN0
梨子「それでね、その時に庇ってくれた子がいたんだけど…ひとつ年下の子」


少しの間を置いて、ぽつぽつと、梨子さんが語りだす


梨子「親からもらった大切な名前を馬鹿にするなんてしつけがなってないんじゃないかしら?って」

花丸「おお〜…すごい強気ずら」

梨子「だよね?その子は私の同級生の子…その子からしたら上級生に向かって
そんな風に堂々と言い切ったの…後で聞いたら怖くて足が震えてたらしいんだけど」


そう話す梨子さんの表情はマルが見たことの無いもので

ほのかに嬉しそうな、懐かしそうな
とても穏やかな微笑みだった


梨子「それでね、これも後で聞いたんだけど
その子も名前でからかわれたことがあってどうしても見過ごせなかったんだって」

花丸「あ、絵をからかったことに怒ったんじゃないんだ」

梨子「ふふふっ、絵についてはその子もその絵変よってハッキリ言ってた」


やっぱり嬉しそうに言う梨子さん


梨子「あとピアノつながりでね、同じピアノの先生に習ってたみたいで
先生から私の話を聞いてたみたい…
なんか、すごく楽しそうにピアノを弾く姿が私とその子でそっくりだったみたいで…」


柔らかな表情を浮かべ話をつづける梨子さん

マルはその庇ってくれた子について尋ねてみた


梨子「その子?うん、音ノ木坂にいるよ
その時のことが縁で時々ピアノのこととかいろいろ話したりしてたけど
音ノ木に入ってからはそういえば話してなかったな…」


そう言って目を伏せる梨子さんは寂しげで

マルは何も言うことができずにいた
196 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/10/08(火) 03:44:33.10 ID:mAUmuNYe0
梨子「あ、なんかごめんね急にこんな話しちゃって、反応に困るよね」

花丸「そんなことないよ」


稀にしか無いことだけど、物語の登場人物のみたいに

こういう時に何か気の利いた言葉を掛けられる人になりたいとマルは思う

でも実際そんな風にはなれないような気もしてる

ぼんやり思いながら梨子さんのスケッチブックの頁を遡る


花丸「…ねえ梨子さん、今のお話の子ってこの中に…」


描かれているのかと尋ねようとするマルに


梨子「その中には無いよ」


梨子さんはそう答えた


花丸「その中には、っていうことは描いたことが無いわけじゃないんだ?」

梨子「うん、多分はじめてちゃんと描いた人物画がピアノを弾いてるその子の絵で
それからも何枚か描いてるから」

花丸「ふうん…」


特別な人なんだね…と続けようとしたけど、なぜか言葉が出てこなかった


梨子「ねえ…花丸ちゃん」

花丸「…なあに?」

梨子「今度…花丸ちゃんの絵も、描いてみたいな…って、思うんだけど、どうかな?」



花丸「……え?うん、いいよ…」

梨子「よかった〜、それじゃあ今日はもう帰ろっか♪」

花丸「……うん!」

197 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/10/13(日) 22:36:16.23 ID:XWk5/DAv0
23


ある日の午後


梨子「花丸ちゃん推理もの好きなんだよね」

花丸「好きだけど推理は苦手ずら」

梨子「そうなの?」

花丸「うん、推理小説読んでても大体作者の意図した時点で気づくんだ」

梨子「そっかあ…怪しいなと思った登場人物が犯人だったりすることは無いの?」

花丸「それは…うーん、あるけど…そういうのって
推理して犯人を解き明かしたわけじゃないし…なんか違うかなあって」

梨子「なるほどね、花丸ちゃん真面目なんだねぇ」

花丸「そうかな?」

梨子「そうだよ」


花丸「梨子さんは推理とかどう?得意だったりする?」

梨子「私も苦手だなあ〜…というか、推理しない」

花丸「しないの?」

梨子「うん…まあ、してた時もあるんだけど
花丸ちゃんと同じで物語の展開で気づかされる感じかなぁ…あと」

花丸「あと?」

梨子「なんていうか、事件とか起きたとき、物語の主人公って
必ずしも自分が気になるところを調べてはくれないじゃない?」

花丸「あ〜、それはよくわかるずら。主人公は本当は気づいてるんだけど
読者や視聴者にはあえて見せないような表現っていうのも多いよね」

梨子「そうそう、でも私は自分が気になったことがずっと引っ掛っちゃって
他のこと考えられない状態になっちゃって」

花丸「あーよくわかるずら」

梨子「そんなことが何回もあって、だんだん推理とかしないで見るようになったの」

花丸「なるほど…でもその、気になったことが
事件の鍵になってたりっていうことは?あんまり無かったの?」

梨子「それなりにはあったけど、さっき花丸ちゃんが言ったのと同じような理由で
そこから推理できたわけでもないし、やっぱり納得いかないよね」

花丸「そっか、そうだよね」


梨子「だから結局」

花丸「推理とかしないで見る方が楽しい、と」

梨子「そういうことだね〜」

花丸「梨子さんって負けず嫌い?」

梨子「えっ?そんなことは…あるかも?」
198 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/10/13(日) 22:39:26.46 ID:XWk5/DAv0
梨子「花丸ちゃんはそういう対抗心とかは見せないよね」

花丸「見せないって言うなら梨子さんも見せてはいないよね」

梨子「そう?」

花丸「うん、少なくともマルにはそう見えてるよ」

梨子「…たしかに、普段自分以外に対してそういう感覚は持たない、かな」

花丸「自分には持つの?」

梨子「うん、なんて言ったらいいのかな?
こう…何かをしてるときにもう少し出来るはずとかもうちょっとでもっとよくなるから…とか」

花丸「こう…コップにジュースを注ぐときにいかに目いっぱい注げるか、みたいな」

梨子「ん〜…なんか違う気がするけど…注いだ後これじゃこぼれるって後悔するやつだね」

花丸「お行儀悪いけど置いたまま少し飲んじゃうやつずら」

梨子「そういうときに限って誰かに目撃されるんだよね」

花丸「いたたまれない気持ちになります」

梨子「なりますね」


花丸「…何の話してたんだっけ?」

梨子「じゃあ話を戻そっか。
花丸ちゃんは推理ものって小説が主なの?映画とかドラマの方も見る?」

花丸「やっぱり小説が多いかなあ…でもテレビでも割と見るよ。映画はあんまり」

梨子「刑事っ娘論簿って知ってる?」

花丸「あっ、それ知ってる!テレビドラマから小説になった作品だよね?」

梨子「ひょっとして花丸ちゃんは小説の方だけ知ってる?」

花丸「うん、茶雅の番頭っていうお話が好きだったずら〜。
自分たちの地域で栽培された茶葉の販売権を
余所の地域の大会社から守るために奔走する人たちの苦悩とかに胸が熱くなったずら。
…もしかしてテレビのとは内容違ってたりするのかな?」

梨子「どうだろうね?私はドラマの方しか知らないから…今度一緒に見てみる?」

花丸「そうだね、じゃあ梨子さんも小説版、読んでみる?」

梨子「うん、なんだかこういうのって楽しいね♪」

花丸「マルも、読書とか作品の話を共有できるのって新鮮だから嬉しいよ♪」
199 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/11/02(土) 21:17:50.28 ID:5/Rq4XSR0
また
ある日の午後


花丸「はぇ〜…小説版とは随分構成が違ったけど見ごたえあったずら〜」セノビ~

梨子「私も久しぶりに見た〜」セノビ~


花丸「小説版だと事件そのものより土地の事情や背景に焦点が当てられてるけど
ドラマ版は犯人と主人公の心理戦が主軸なんだねえ…」

梨子「物足りなかった?」

花丸「ああっ、違うよがっかりして溜息ついたんじゃなくて満足の溜息だよ」

梨子「クスッ、別に私に変に気を遣わなくても大丈夫だよ花丸ちゃん」

花丸「そうなんだけど…
マルね、誰かに自分の好きな本とかを薦めて色々失敗したりとかがあって…」

梨子「そうなの?」

花丸「うん。例えば、時代背景や組織間の思想の違いや
登場人物たちの信念が重要な作品を薦める時に
要点や物語の鍵を説明しすぎて楽しみを奪っちゃったり…」

梨子「あー…それは凄く…いけないね。わくわく感とかが無くなっちゃうね」

花丸「だよね。他にも、薦めた本を気に入ってはもらえたけど
マルとは違うところが気に入ったみたいで結局話が合わなかったり…」

梨子「それは本に限らず色んなもので起きるよね
同じものの同じ所が気に入る人に出会うことってなかなか無いよね」

花丸「自分にとって特別で印象深いものほどその傾向が強い気がするずら」

梨子「あー、なるほどそうだね。それは本当にそうかもね」


花丸「まあそういうわけで、実は今少し緊張しています」

梨子「そっかそっかぁ…無理に感想とか言わなくてもいいんだよ
…って言いたいところなんだけど
花丸ちゃんが嫌じゃなければやっぱり聞きたいかな、って…ダメ?」

花丸「そんなこと…マルも色々と語りたい部分のある作品だったし
…ただ少し自分の感想を伝えるのに不安を感じるだけで…」

梨子「もしかしてまだちょっと私のこと怖かったりする?」

花丸「とんでもない!
梨子さんとちゃんとお話しするようになってからは怖いだなんて思ったことは無いよ」

梨子「ふふっ♪そっか…よかった」
200 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/11/02(土) 21:23:05.67 ID:5/Rq4XSR0
ドラマの感想をひとしきり語り合った梨子さんとマル


梨子「ところで刑事っ娘論簿はイタリアでリメイクされててね…」

花丸「イタリア!イタリアといえばモンタル婆の事件レシピずら!」

梨子「…どんなお話なの?」

花丸「海沿いの街の事件を噂好きのモンタル婆さんが郷土料理を作りながら解決していくお話だよ」

梨子「へえ〜なんだか面白そうなお話だね。それはイタリアの小説なの?」

花丸「イタリアのドラマだよ」

梨子「あ、そうなの?てっきり小説の話かと思ってた」

花丸「小説もあるらしいけど日本語には翻訳されてないみたいなんだ」


梨子「それにしても、郷土料理を作りながら事件を解決ってすごいね」

花丸「梨子さん料理得意なんだよね
ドラマの中では調理の様子も結構詳しく見せてるんだけど
もしかしたら梨子さんの知ってる料理とかも出てるかも?」

梨子「いやあ…イタリアの郷土料理はさすがに知らないよ〜
というかイタリア料理をあんまり知らないかな」

花丸「そうなんだ…梨子さんってどんな料理が得意なの?
…フランス料理とか?」

梨子「フランス料理もそんなには知らないかなあ…ん〜…
というかどれがフランス料理でどれがイタリア料理なのか
よく分かってないものも多いかなぁ」

花丸「そうなの?」

梨子「レシピを見ながら一回しか作ったことのない料理も多くて…
あんまり使わない調味料とか材料が必要な物はちょっと…だし、ね」

花丸「あーそっか、調味料も期限が切れちゃったりしたら勿体無いもんね」

梨子「うん、前に使い道の少ない調味料を買って料理したら
あんまり好きな味じゃなくて使い切るのが辛かったから
それからはよく考えて買うようにしてるんだ」

花丸「そういうこともあるんだねえ」

梨子「だから結局は一般的な煮物系が多くなるね、お母さんも得意だし」

花丸「煮物かあ、煮物いいよねえ…あったかくて…」

梨子「鶏がらベースの煮込み料理とボルシチどっちがいい?」

花丸「どういう二択?」

梨子「今うちにある物で作れる二択」

花丸「なるほど、ボルシチで!」

梨子「おっけー♪じゃあ次のお休みにでも遊びにおいでよ、ご馳走するよ」





花丸「・・・・・・・・」

梨子「…どうしたの花丸ちゃん?じっと見つめて…」

花丸「うん…梨子さん『おっけー♪』とか言うんだなあって」

梨子「///」
201 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/12/02(月) 20:58:34.00 ID:+wQYyx3b0
24


冬の日

突然の雨に降られた梨子さんとマルは
予定していた買い出しを諦めて家に逃げ帰り
ずぶ濡れの冷えた体をシャワーで温めた

マルが体を拭き終えて台所に足を踏み入れると
先に上がっていた梨子さんが、食事の用意をしてくれていた


花丸「これおいしいずら」


熱々の野菜の煮込み料理を一口食べ、マルは感嘆の声を漏らす


梨子「有り合わせで作ったものだけど温まるくらいは出来るかなって」


はにかむ梨子さんはそう言ったけど、マルは目の前の料理しか見えてない


花丸「ううんちゃんと味も美味しいよ
シンプルなようで甘味があって歯ごたえもあるのに固くなくて」

梨子「市販のお出汁だけでの味付けだけど野菜の甘みが丁度いいでしょ」

花丸「うん」


返事もそこそこに、マルは熱々の野菜に夢中になっていた
そんな様子を見てにっこり微笑んで梨子さんも箸をつける


梨子「歯ごたえは煮込む時間が無かっただけだけど…案外丁度いい食感になってるのね…
これは調理時間をメモしておかなくちゃ」


小声でそう呟いた梨子さんの声は料理を堪能しているマルの耳には届かず

それから二人ともお椀の中身をたいらげるまで喋らなかった
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