梨子ちゃんとマルの平穏な日々

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2 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/02(土) 05:27:21.99 ID:nZ7rv4Do0
花丸「はぁ〜・・・・・」

梨子「あたたかいねえ・・・・・・」



お日さまの暖かさが夜中の肌寒さを忘れさせてくれて
いい塩梅に心地良い時間の中
マルは梨子さんと縁側でくつろいでいます


花丸「梨子さん」

梨子「ん〜?」

花丸「マル、おばあちゃんみたいって言われることあるんだぁ〜」

梨子「ふ〜ん…私おばあちゃん好き〜」セノビ~

花丸「マルも〜」セノビ~
3 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/02(土) 05:30:04.83 ID:nZ7rv4Do0
今朝はマルの好きなお茶で梨子さんをおもてなししています


梨子「お茶うけおいしい」

花丸「お口に合ってよかったずら」

梨子「今日のおつけものはカブと大根?」

花丸「うん、今日のために用意したんだ」

梨子「花丸ちゃんが作ったの?」

花丸「浅漬けだから簡単だったよ」

梨子「水っぽくなくて食べやすくて私これ好きかも」

花丸「よかった〜梨子さんの好みに合わせたつもりだったから」

梨子「そうなんだ〜嬉しい、ありがとう♪」

花丸「えへへ」

梨子「ふふ」
4 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/02(土) 05:33:12.12 ID:nZ7rv4Do0
梨子「今度、おかえし持ってこないといけないね」

花丸「おかえしなんて大丈夫だよ、マルが好きでやってるんだし」

梨子「だから、私も好きでおかえしするんだよ♪」

花丸「ん〜…じゃあ、ありがたくちょうだいします」

梨子「なにがいいかな?甘いもの?」

花丸「なんでも嬉しいよ」

梨子「う〜ん…花丸ちゃんみかん好きだったよね」

花丸「うん、マルはみかん大好きずら」

梨子「ちょうどいただきもののみかんがあるからタルトタタンとかどうかな?」

花丸「た?たるたる?」

梨子「ふふ、とりあえず今度作って持ってくるね♪おたのしみに」

花丸「うん、たのしみにしてるね♪」


のんどりした午前
梨子さんとふたり

これから何をしようかなんて
おしゃべりをしているうちに時間は過ぎて
今日も何をするでもないままに半日が過ぎるのでした
5 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/02(土) 05:39:17.29 ID:nZ7rv4Do0
梨子「そうだ、またいっしょにお菓子作りでもしよっか?」

花丸「おお〜それは楽しみずら〜♪」

梨子「あっ、花丸ちゃん今度はお菓子の家の時みたいに出来上がる前に食べちゃダメだよ?」

花丸「それは約束はできません」

梨子「もう〜」

花丸「でも梨子さんだって途中から一緒に食べてたよ」

梨子「だ、だって目の前であんなにおいしそうに食べられたら…」

花丸「じゃあ、つまみぐいの分も考慮して材料を買うっていうことで♪」

梨子「さすが花丸ちゃん♪」
6 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/02(土) 05:44:59.43 ID:nZ7rv4Do0
花丸「甘い物もいいけど、なんかこう…変わったものも食べたいなあ」

梨子「変わったもの?例えば?」

花丸「そう…たとえば…海老とか…」

梨子「エビ…エビか〜」

花丸「ずいぶん食べてない気がするずら」

梨子「…オマールエビとか…食べたいね〜」

花丸「はあ〜おいしそうなオマール海老…オマール海老ってどんな海老だっけ?」

梨子「・・・・・・」

花丸「・・・・・・・・」

梨子「オマールの、エビ」

花丸「オマールってなに?」

梨子「フランスの…ごめん説明できないです」><

花丸「オマール…梨子さんはオマール海老って食べたことあるの?」

梨子「ないです」

花丸「マルもないです」

梨子「・・・・・・」

花丸「・・・・・・・・」

梨子「オマールエビ…」

花丸「食べてみたいな〜…」


ふたりのおなかがぐうぐうと鳴きだしたので
今日のお茶会は解散です

ワンピースの裾を抑えながら手を振り帰っていく梨子さんに
マルも手を振り返し見送ります

まあ、このあとすぐまた練習で顔を合わせるんだけどね
7 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/02(土) 05:46:57.01 ID:nZ7rv4Do0
またあした
8 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:20:22.01 ID:ihWIF6A80



冬の日
朝から降り始めた雪は
梨子さんとマルがこたつで幸せにひたっている間に
マルのおうちに、内浦の町に鮮やかな雪化粧を施しました


梨子「うわあ〜♪」

花丸「雪景色ずら!」

梨子「こんなに積もるとは思わなかったね〜」

花丸「ふふーん♪」

梨子「どうしたの花丸ちゃん?そんな得意そうな顔して」

花丸「こ ん な こ と も あ ろ う か と…あ、梨子さんちょっとここで待っててね」テクテク

梨子「えっ?…あ、うん」
9 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:23:23.14 ID:ihWIF6A80
花丸「おっまたせずら〜♪」ニッコニコ

梨子「あ〜それ!」

花丸「こんなこともあろうかと♪買っておいたずら〜」

梨子「なるほどね、すごいよ花丸ちゃんこれこそまさしく…」


花丸「雪見にふさわしいアイス!ずら」テテテテーテーレーテッテレー


梨子「それじゃあこの雪景色を堪能しながら」

花丸「ふたりでアイスも堪能しよう♪」


こたつから出て、ふたり縁側に腰掛けて雪見のお茶会
おたがいなんとなく選んだお茶を傍らに
アイスをお茶菓子に
いつもより静かな気がする銀世界を眺めながらのんびり過ごします
10 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:27:50.85 ID:ihWIF6A80
花丸「なぜか特売だったごぼう茶」

梨子「国木田さん家愛飲の焙じ茶」

花丸「ふあ〜…息がいつもより」

梨子「まっしろ〜い」

花丸「それにしても本当に積もったね〜」

梨子「5pくらい積もったかな?もう少しかな?手で雪のかたまりすくえそう」

花丸「・・・にんじゃ」

梨子「忍者?」

花丸「その昔忍者は冬山の任務で雪を口に含み吐く息で居場所をばれないようにしたらしいずら…」

梨子「へえ…ああ、冬に夏の時期の設定で撮影するときに役者さんが氷を口に含むようなもの?」

花丸「多分そう…マル、この情報どこで知ったのかさっぱり思い出せないずら…」

梨子「ふうん…」

花丸「・・・・・・・」

梨子「・・・・・・・・」

花丸「・・・・・・・・・・・・・」

梨子「花丸ちゃん…雪食べちゃダメだよ」

花丸「…いくらなんでも雪は食べないよ〜」

梨子「そうだよね、ごめんね?ついなんかノリで」

花丸「雪は食べないけど…」

梨子「…かき氷?」

花丸「うん」

梨子「食べたくなっちゃった?」

花丸「うん」

梨子「…こんなこともあろうかと?」

花丸「無念ずら」

梨子「さすがに用意してないか〜」

花丸「こうなったら買いに行くしか!」すくっ

びゅううう〜

梨子「・・・・・・・・」

花丸「・・・・・・・・・・・・さむっ」


花丸「マルの体はこの寒さに耐えられるようには出来てないずら…」

梨子「私も…お茶も無くなったしこたつに戻ろっか」

花丸「異論無し」


燃え上がりかけた食欲の情熱を吹き消す寒風に吹かれて
雪見のお茶会はお開き

おこたのある部屋に戻ってふたりでまどろんでいる間に
もう今日一日降り止む気の無い雪が舞いはじめたのでした
11 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:30:53.68 ID:ihWIF6A80
梨子「もうやみそうにないね」

花丸「泊まっていきなよ」

梨子「いいの?」

花丸「もちろん」

梨子「じゃあお言葉に甘えて…あ、お母さんに連絡しないと」

花丸「マルもじーちゃんたちに言ってくるね」

梨子「うん、いってらっしゃい♪」

花丸「いってきます♪」












梨子「あ…着信…」

12 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:32:01.28 ID:ihWIF6A80



梨子「向こうも…雪、降ったんだ…」


13 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/03(日) 00:34:46.95 ID:ihWIF6A80


花丸「ただいま〜♪お泊り問題なしだって」

梨子「おかえり」

花丸「どうかしたの?梨子さん」

梨子「ね、花丸ちゃん…写真撮ろ」

花丸「写真?どうして急に」

梨子「だってほら…こんなに綺麗な雪景色だよ」

花丸「梨子さんが写真撮ろうなんて珍しいよね」

梨子「ほらほら、こっち来て」


強引にマルの手を引いて外へ連れ出す梨子さん


花丸「うう〜、やっぱり寒いずら〜」

梨子「それじゃあ撮るよ〜♪」


肩を寄せ合って撮った写真を、梨子さんはにこにこ眺めてる
そうだ、マルも写真をもらおう と思って液晶を覗き込んだんだけど


花丸「ああっ、マル、ちゃんちゃんこ着たまんま撮っちゃったずら〜!」

梨子「ねっ、かわいいよね〜ちゃんちゃんこ♪」

花丸「も、もう一回撮るずら!もう一回!」


結局ちゃんちゃんこは脱ぎかけたけど、寒さに負けてすごすごとおうちに逃げ帰りましたとさ
14 : ◆QjbAJuMwBnbV :2019/03/03(日) 00:36:42.47 ID:ihWIF6A80
また明日か今夜
15 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/04(月) 02:42:08.73 ID:MgfMCOlr0



花丸「うわあっ!?」

梨子「花丸ちゃん!?」

花丸「り、梨子さんっ!」

梨子「どうしたの?」

花丸「シャンプーの容器から水が出てきたずら!」

梨子「えっ?うそ?」

花丸「ほんとだよ、ほら」シャコシャコ

梨子「は、花丸ちゃんそんなにいっぱい出さないで。このシャンプーはこういう色なんだよ」

花丸「…あ、梨子さんの匂いがする…」

梨子「いつもそれ使ってるからね」

花丸「へえ〜…なんか面白いずら」シャコシャコ

梨子「は、花丸ちゃん…それちょっと…あんまり遊ばないで…」
16 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/04(月) 02:44:28.30 ID:MgfMCOlr0
梨子「東京にいた頃、お母さんに連れて行ってもらった美容院でね、一緒に買ってもらってからずっと同じもの使ってるんだ」

花丸「へえ〜…なんか不思議ずら」

梨子「髪の毛を伸ばしたいって言ったらね、髪の毛のケアのこととか教えてくれて、こっちに越してきてからも同じお店から取り寄せてもらってるんだ」

花丸「梨子さん綺麗な長い髪だもんね…マルも伸ばしてみようかな」

梨子「花丸ちゃんの髪の毛繊細そうだから、伸ばすなら気をつけてあげた方がいいかもね」

花丸「梨子さんみたいになれるかな」

梨子「ふふっ、花丸ちゃんの方がサラサラで綺麗だと思うよ」
17 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/04(月) 02:48:58.10 ID:MgfMCOlr0
花丸「…少しの間だけね」

梨子「うん?」

花丸「今よりちょっとだけ長かったことがあるんだ」

梨子「そうなんだ」

花丸「でもね…」

梨子「うん」

花丸「お味噌汁とか汁物に毛先が浸かっちゃうことがあって今の長さに戻したの」

梨子「あー」

花丸「梨子さんもそういうことあったの?」

梨子「ううん、友達がね…ああ、東京の友達なんだけど、ラーメンが好きなショートカットの活発な子でね、その子と同じ部活動の先輩に綺麗な長い髪の人がいて、その人に長い髪が羨ましいって言ったんだって」

花丸「うん」

梨子「そしたらその人に、あなたも可愛い顔してるんだから、伸ばしても似合うし、とても美人さんになりますよって言われてね」

花丸「うんうん」

梨子「ウィッグっていうの…花丸ちゃん分かる?」

花丸「カツラだね」

梨子「…うん、まあ…うんそうだね。それ着けて友達やその先輩の前に出てみたんだ。…変だよ。似合ってないよ。なんて言われないかってドキドキしながらね」

花丸「うん、それで?どうなったの?」

梨子「みんなが驚いて、褒めてくれたの。とても似合ってるって」

花丸「よかったー」

梨子「でもね、次の日にはもう長い髪にはしないって言い切るようになっちゃってたの」

花丸「ええ〜?どうして?」

梨子「花丸ちゃんと一緒」

花丸「え、マルと?」

梨子「その子長い髪のウィッグをつけた姿をみんなに褒められたのがすごくすっごく嬉しくてね、そのままの格好で下校したの。それでね、普段通りに放課後を過ごしたんだけど」

花丸「うん」

梨子「その子の行きつけのラーメン屋さんでね」

花丸「!あー…」

梨子花丸『ラーメンに髪の毛が』

梨子「ラーメン食べづらいから髪は伸ばさない!って力強く宣言してね。ふふっ、花丸ちゃんの話聞いたらなんだかその子のこと思い出しちゃった」

花丸「そっか〜…ねえ、梨子さん」

梨子「なあに?」


花丸「前の学校や友達が恋しくなることって、ある?」
18 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/04(月) 02:50:53.77 ID:MgfMCOlr0




梨子「…………大丈夫だよ」

花丸「…………そっか」

梨子「そうだよ」


花丸「マルは、いつか離れ離れになった時、梨子さんに恋しがってほしいな」

梨子「…」

花丸「…」


梨子「…ずっと一緒にいたら問題ないけどね」

花丸「…あ〜…それなら、大丈夫だね」
19 : ◆QjbAJuMwBnbV :2019/03/04(月) 02:52:24.34 ID:MgfMCOlr0
次は水曜日までに 無理だったら週末までに
20 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/06(水) 22:47:47.07 ID:c5fLfwKX0





マルは雨傘をもって、街へのバスに乗り込みます

慣れ親しんだ道の揺れを感じながら、街の三つ手前のバス停で降りて
反対の方向にしばらく歩いていきます

通りからも、住宅地からも少し離れた場所に
山と呼ぶにはあまりにも小さな山があって
丸みを帯びた古い石の階段を十段ほど登ると
なんでこんなところに作ったのか
屋根つきのベンチが二つ並んでいます

バスの止まらないバス停みたいだと、梨子さんが言ってた通りの印象
少し感激して腰かけると、ほどなく天気予報通りの雨が降りはじめました


ぽつぽつ


ぽとぽと


ぱらぱら


と、少しずつ強くなっていく雨の音と匂いを感じながら
梨子さんの言っていた世界を思い浮かべます

雨の音

静かな世界

雨と自分以外何もなくなったような感覚

雨の音楽

いつもと違う世界
21 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/06(水) 22:49:16.75 ID:c5fLfwKX0
頭の中にたくさんの物語が浮かびました


それは、今まで読んだ本の御話の続きの空想

それは、好きな物語の登場人物が躍動する空想

それは、大切な友達に伝えたい言葉や想い


気が付けばあっという間に時間は過ぎていて

いつの間にか雨はばちばちと屋根を強く叩き
ほんの少し肌寒さも感じるようになってきました
22 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/06(水) 22:51:48.83 ID:c5fLfwKX0
用意してきた魔法瓶を取り出して、一服

梨子さんおすすめの紅茶
梨子さんの真似をしてみたら、梨子さんの気持ちが少しは分かるのかな
今度、マルも絵を描いてみようかな

なんて考えをめぐらせていると
次第に屋根上の演奏会も静まっていって


しとしと と


日暮れまで続くらしい静かな雨へと変わっていきました


持ってきた雨傘を開いて、小さな山を下ります


来た道をたどって
ちゃんとバスが止まる方のバス停へ
23 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/06(水) 22:53:49.12 ID:c5fLfwKX0
今日の予定は言っていません

途中で偶然巡り合って
運命みたい
なんて思うかもとか期待したりしていました

ほんの少しだけ
ほんとにほんの少しだけ


おうちに帰るまでまだまだ機会はあるから
どこかで会えるかもしれません

少しだけほんの少しだけ
会いたい人と出会えそうな道を歩いたり
立ち寄ったりするだけです
24 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/06(水) 22:56:55.10 ID:c5fLfwKX0
その間ずっといろんなことを考えています

次に会ったらどんな話をしようかな、とか
こういう話になったらこういうことを言おう、とか


マルは、黙ってる時とか、誰かと誰かの会話を聞いてる時になら
たくさんのことを考えられるんだけど

マル自身が誰かとお話をしてる時は、なぜだかいつもより考えがまとまらなかったり
自分が思ってることと少し違うことを口にしてたりします


だからこれは必要な準備なんです


言いたいことを言えるようになるために

もっとたくさん、大切な人と楽しくお喋りできるようになるために



だから、今日の傘は桜模様です
25 : ◆QjbAJuMwBnbV :2019/03/06(水) 22:58:04.66 ID:c5fLfwKX0
次は土曜までに 無理なら来週火曜までに
26 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:03:35.32 ID:4S5kaQrM0



梅雨の前、紫野菊の鮮やかさが
記憶の隅にほんのちょっぴりだけ残ってた放課後

いつもの練習の時間
同学年の二人が、家や魔界の用事で部活動をお休みした日
一番に部室に着いたマルは
椅子に腰掛けて、かばんの中の本に触れながらふと考えます

もしマルが本を読みだしたら
上級生が部室に入ってきた時に、気が付かないかもしれません
いつもなら一緒に部室に来る二人が教えてくれます
でももしマルが本を読んでて上級生の挨拶に気が付かずに無視してしまったら…?

急に怖くなって、不安でいっぱいになりました

もし、マルが一番乗りじゃなかったら
先に部室にいた相手とお話しするなりしてみんなを待てたけど
今はマルひとり

周りに気を配りながら本を読めば…そんなことはできません
本を読めば文章に集中してしまうし
周りを気にすれば文章は頭に入ってきません
27 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:05:06.20 ID:4S5kaQrM0
部室を端から端まで眺めたり
床や壁をよく分かりもしないのに観察したり
かばんやかばんの中身を台の上に出したり降ろしたりして待ちました

何をすればいいのやら分からず
自分が何をしているのかもよく分からないような
謎の緊張感に苛まれながら、ただひたすら待っていると


ガラララ



ようやく部室の扉が開く音が

思わず、助かった〜!と思いました

だけどその助かったという思いはすぐに消え去って
今度はなんて挨拶しよう?という難題が訪れるのでした
28 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:07:49.27 ID:4S5kaQrM0
こんにちは?妥当な気がするけどなにか他人行儀な気が

おはようございます?もう夕暮れ前です

こんばんは?論外ずら

おつかれさまです?こんにちはより他人行儀

待ってました?いろいろちがう


迷いに迷って混乱した頭でマルが出した結論は…
沈黙

花丸「・・・・・・」

口が半開きになっているのにも気づかず、開いた扉の方を見るとそこにいたのは


梨子「あ、花丸ちゃん。早いね…一人?」

花丸「あ…はい。ルビィちゃんと善子ちゃんはおうちの用事でお休みするって…」

梨子「そうなんだ…実は千歌ちゃんと曜ちゃんも今日は来られないんだって」

一言二言言葉を交わすうちに
それまで張りつめていた緊張感は薄れていきました
29 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:09:21.12 ID:4S5kaQrM0
梨子さんと部室で二人になって少し後

マルにはルビィちゃん経由で、梨子さんには千歌さん経由で

三年生が三人とも練習に来られないとの旨の連絡が入って

梨子「こんなこともあるんだね」
  
苦笑いで言う梨子さんに

マルは曖昧な笑みしか返せませんでした
30 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:13:47.74 ID:4S5kaQrM0
梨子さんとマル
ふたりきりの部室
今日はもう他に誰も来ない部室

上級生とふたりきり…その状況に
マルはまたじわじわと緊張し始めていました

もう練習も出来ないし、当然このまま解散で帰宅…
と思ってたマルに


梨子「ねえ花丸ちゃん…少しふたりでお話ししようか?」


梨子さんは意外な提案をしたのでした
31 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:14:55.14 ID:4S5kaQrM0
梨子「花丸ちゃんすごく緊張してるでしょ?」

花丸「ええっ?そ、そんなことは…」

梨子「そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ?とって食べたりはしないから…私がドアを開けた時、花丸ちゃんすごい顔してたよ」

微笑みながらそう言って
梨子さんはマルの隣に腰掛けると

梨子「正直言うと、ちょっとショック受けちゃった」

そう言って本当に、少し悲しそうな顔をした

梨子「本当に嫌なら無理にとは言わないけど、せっかくの機会だし…ね?」

マルの顔を覗き込みながら言う梨子さんに
マルは頷くことしかできませんでした
32 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/09(土) 12:16:31.59 ID:4S5kaQrM0
実際、梨子さんとお話しするのが嫌なわけではないし
梨子さんのことを嫌ってるわけでもありません

そもそもマルはルビィちゃんと善子ちゃん以外のみんなとは
ほとんどちゃんとした会話をしたことがありません

もちろん、Aqoursの活動に必要なことについてはちゃんと話し合っています
ルビィちゃんが言うには、こういうのをびじねすらいくな関係というらしいです

びじねすらいくな関係もかっこいいかもと思うけど…


ともあれ
梨子さんとマルの関係は
この日を境にびじねすらいくな関係から卒業することになったのです
33 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/09(土) 12:17:54.73 ID:4S5kaQrM0
次は水曜か 週末までに
34 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/16(土) 23:01:04.94 ID:EGQazRyy0



パキッ

この音…
あなたには何の音に聴こえましたか?

山中の夜、暗闇で暖をとっている時の
焚き火の音?

敵から身を隠した忍びの者が
気配を消しながらも踏み折ってしまった枯れ枝の音?

正解は…
35 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/16(土) 23:04:02.84 ID:EGQazRyy0
花丸「…」

梨子「…」


梨子さんがおうちに遊びに来るようになって少し経ったある日
縁側でくつろいでたマルが、ふと立ち上がろうとした時


関節が鳴りました


花丸「……」


そのままやり過ごしたらよかったんだと思うんだけど
その時のマルはなぜか
関節が鳴った瞬間に、凍りついたように動きを止めてしまって


梨子「……」


恐る恐る梨子さんの顔を見ると
軽く眉毛をハの字に曲げて、少し困ったような表情で…
少しだけ開いた唇は、マルにかける言葉を探してるようにも見えました


花丸「ちょ…っとお茶でも、入れてくるね」

梨子「あっ、うん。ありがとう」


マルは逃げるように台所へ歩き去りました
36 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/16(土) 23:05:16.58 ID:EGQazRyy0
いただきものの上等なお茶を淹れて縁側に戻り
漂う香りで気を持ち直して梨子さんの隣へ座りなおす


花丸「おまたせずら」

梨子「ありがとう。わあ〜いい香り〜♪」

花丸「じーちゃんの知り合いの人が毎年新茶を送ってくれてね、すごく香りのいいお茶なんだ〜」

梨子「優しくて柔らかくて落ち着く…あ、なんか曲が作れそう…」

花丸「お茶の香りにそんな効果が!?」


梨子「♪〜♪…ん〜…没」

花丸「なかったずら」
37 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/16(土) 23:07:20.96 ID:EGQazRyy0
花丸「ところで、曲ってどうやったらできるものなの?」

梨子「え?うーん…なにをすれば曲ができるのかは分からないけど、何をしてたら曲ができたのかは分かるの…ふふっ、ごめん。ちょっと分かりにくいよね」

花丸「ううん、梨子さんの言ってることちゃんと分かるから大丈夫だよ」

梨子「たった今このお茶のいい香りで閃きそうになったみたいに、音はふとしたきっかけで生まれてくるんだ」

花丸「どんな時でも突然閃いちゃうの?」

梨子「そうだねー…例えば…」


そう言って梨子さんは携帯端末を取り出しAqoursの曲の一覧表を指さしながら


梨子「これは肉じゃがを作ってる時にできた曲で、この曲は玉ねぎのみじん切りの歌で…これがすごく眠かった朝の歯磨きの歌。…あ、これは靴下を履く時に引っ掛けて転んだ拍子に生まれたフレーズだよ♪」

花丸「も、もういいずら…イメージが…」

梨子「そう?」


そう言った梨子さんは少し残念そうな顔をしていました
38 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/16(土) 23:10:00.98 ID:EGQazRyy0
梨子「ところでさっき花丸ちゃん関節鳴ったよね」

花丸「ごほっ!ごほっ!けほっ…」

梨子「だ…大丈夫花丸ちゃん?」

花丸「大丈夫ずら…でも正直恥ずかしいからその話は見逃して欲しかったずら…///」

梨子「ご、ごめんね。でも花丸ちゃんの関節が鳴って、目が合った時にね、その…」

花丸「…まさか…」

梨子「できちゃったんだ…新しいフレーズが…」

花丸「そんなことが…」

梨子「それが今作ってる新曲にぴったりな感じだから、ぜひ組み込みたいんだけど」

花丸「や…やめてほしいずら…///」


あとで聴かせてもらったそのフレーズはおどろくほど素敵で…
誰にも出来たいきさつを教えない という約束で
マルの関節の音から生まれたフレーズが新曲に組み込まれることになったのでした…
39 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/16(土) 23:11:02.32 ID:EGQazRyy0
次も水曜か 週末までに
40 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 20:54:27.23 ID:YHbU4A+s0



梨子「サプライズって、あるよね」

花丸「うん」

梨子「びっくりするよね」

花丸「そうだね」

梨子「小さい頃はね、よくびっくりさせられて泣いちゃったりしてたんだ」

花丸「そうなんだ。どんなどっきりで泣いちゃったの?」

梨子「小学1年生の時のことなんだけど、おうちに帰ったらね」

花丸「うん」

梨子「まだお昼の12時なのにお仕事に行ったはずのお父さんがいたの。いつもは夜にならないと帰ってこないのに」

花丸「ふむふむ」

梨子「その時の私はそんな疑問なんか持たないでただお父さんがいることが嬉しくって喜んだの。それで、お父さんに手を引かれて居間に入ったら…」

花丸「入ったら?」ドキドキ

梨子「学校のお友達がいてね、お誕生日会を開いてくれたの。もうびっくりして泣いちゃって…」

花丸「へえ〜・・・・・・いいお話だね」

梨子「あ、ごめんねなんか、オチが無くて」

花丸「う、ううん。ある意味予想外でびっくり、した…ような」
41 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 20:56:38.91 ID:YHbU4A+s0
花丸「だけど、泣いちゃうくらいびっくりしたんだね」

梨子「うん、小学校1年生の時で、お友達は出来たんだけどお誕生日に家に呼ぶ勇気は無くてね、それまでも毎年お父さんが帰って来てから家族だけでお祝いしてて…とにかく、想像もしてなくてびっくりしちゃってね、嬉しいのとかいろいろごちゃごちゃになって泣いちゃったんだと思う」

花丸「マルも、ルビィちゃんと仲良くなるまではお誕生日は家族とお祝いしてたよ」

梨子「そうなんだ?もしかしたら私たちって似てるのかもしれないね」

花丸「う〜ん…マルは梨子さんみたいにしっかりはしてないし、どうかなあ」

梨子「あはは、私はしっかりなんてしてないよ。今日だって靴下左右で違うの履いて来ちゃったし」

花丸「そうなの?」


花丸「…紺色で…同じものに見えるけど」

梨子「色はね、だけどよ〜く見てみて…」


花丸「ふ〜む・・・・・・あっ、縦の線の幅が違うずら!」

梨子「正解!あと実はしっかり伸ばすと長さも違うの」

花丸「へえ〜…どうしてそんな似た靴下持ってるの?」

梨子「同じものを買ったつもりだったけど今日間違えて履いて来て初めて気が付いたの」

花丸「でも本当によく見ないと見分けがつかないし、問題無いんじゃないかな」

梨子「そうだね、でも気が付いた時はすごく焦ったんだよ。みんな実は気が付いてるけど気を遣って黙っててくれてるのかもとか変に考えちゃって、急にものすごく恥ずかしくなって、そのせいか今もまだテンションが変に高くていっぱい喋っちゃうの」

花丸「そういえば梨子さんいつもより饒舌ずら」
42 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 20:58:26.13 ID:YHbU4A+s0
花丸「でも梨子さんってクールなイメージだからなんだか意外かも」

梨子「えっ?…そうなの?」

花丸「みんなそう言ってるよ」

梨子「そっか〜…ねえ、例えばどんな感じでクールなの?」

花丸「えーと、なんか、なんでもそつなくこなす感じがするとか…かな」

梨子「私ってそんな感じする?」

花丸「うん」

梨子「だけど私特に目立つところもないし、どちらかというと…地味っていうか…」

花丸「そんなことないずら!地味じゃないよ。こう…すごい東京オーラが出てるずら」

梨子「と、東京オーラ?」

花丸「梨子さんが練習中歌やダンスを間違えてるとこ見たこと無いし」

梨子「ああ、それは作曲の時点で歌詞を何度も読むし、ダンスも振り付け考えてる所から見てるから」

花丸「なるほど…でもギルティキスでも堂々としてるし」

梨子「それは完全にあの二人に引っ張られてるというか…ユニットに関しては他の皆も十分堂々としてるし」

花丸「確かに改めて考えてみるとそうずら…やっぱり東京オーラが」

梨子「だからなんなの東京オーラって〜」><
43 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:02:47.28 ID:YHbU4A+s0

梨子「さっき…ちょっとだけね」

花丸「?」

梨子「クールなイメージのままにしててもいいかなって、考えたの」

花丸「そうなの?どうして?」

梨子「なんだろう…見栄っていうのかな?良く見られたいって思ってるんだと、思う」

花丸「見栄…?」

梨子「例えば、ポトフが好きでよく作るのに、ポトフはシンプルすぎてお料理って言うの恥ずかしいかも?とか、本当に言いたいことと少しずれて喋っちゃう時があるの」

花丸「ああ、名著の引用合戦で無理に意味を通しちゃう時みたいな?」

梨子「ごめんそれ分からない」

花丸「><」

梨子「まあ、つまりはね…」

花丸「?」


梨子「私は花丸ちゃんに良く見られたいし、良く思われたい…ってことなんだと思うの」


花丸「・・・・・・そっかあ・・・」


梨子「それでね、クールなイメージのままにしておこうかなとも少し考えたんだけど」

花丸「うん」

梨子「それじゃあ私が花丸ちゃんのこと良く知れないでしょ?」

花丸「マルのこと?」

梨子「うん。せっかくこうして一緒にいられるんだし、お話しする機会ができて、花丸ちゃんを通して自分の事が見えたりして…そういうのって特別っていうか、なんだか素敵なことだと思わない?」


花丸「…そうかも」

梨子「花丸ちゃんも…」

花丸「マルも、梨子さんのこともっと知りたいずら♪」

梨子「そっか…ふふっ、よかった」
44 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:04:40.29 ID:YHbU4A+s0
梨子「よく知りたいと言えば」

花丸「ん?」

梨子「このあいだ、新聞部の人達からインタビュー受けたよね」

花丸「えっ!?あ…あぁ〜あったねえ、ずいぶん急だったからびっくりしたずら」

梨子「確かに急な申し出だったよね。取材の前後もみんなソワソワしてたし」

花丸「そ…そんなにソワソワしてたかな」

梨子「してたよ〜私も…ううん私が一番落ち着き無かったとは思うけど、やっぱり緊張するっていうか不安っていうか…取材中もそうだけど取材が終わったあとも…今もちょっと落ち着かない気分かも」

花丸「…そうだねえ…なんだか気が気じゃないというか」

梨子「インタビューで新聞部の人に色んなこと聞かれて色んなこと答えたけど」

花丸「うん」

梨子「あのインタビューがそのまま記事になったらすごく恥ずかしいなあ…って」

花丸「あ〜…わかるずら…それは本当に、とってもわかるずら…」
45 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:05:39.72 ID:YHbU4A+s0
梨子「雑誌とかでインタビュー記事ってあるよね」

花丸「うん」

梨子「みんな質問に的確に答えてて、面白く話を膨らませたりしててすごいよねえ」

花丸「そうだよねえ」

梨子「私、最初の質問で5分くらい関係ない話に脱線したままだったんだあ…」

花丸「あー…」

梨子「どういう風に書かれるのかすごく怖い…」

花丸「マルもね…」

梨子「うん」

花丸「ほとんどの質問への最終的な答えが元の質問と関係ないようなことになってた気がする…」

梨子「あー…」

花丸「自分のことって改めて聞かれると…」

梨子「よく分からないというかはっきりと明言できないよねえ…」

花丸梨子『はぁ〜…』
46 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:06:59.17 ID:YHbU4A+s0
花丸「自己紹介とかもね、苦手なんだあ」

梨子「うんうん、私も」

花丸「一応前もって考えておいたりするんだけど」

梨子「うん」

花丸「自分の番が近づいてくると、用意してた自己紹介がおかしな内容なんじゃないかなって不安になって来て」

梨子「すごく分かるよ花丸ちゃん」

花丸「最終的に、趣味は読書です。で終わっちゃうんだ…」

梨子「なんなんだろうね?あの不安感」

花丸「なんかこう、首筋がざわざわってして顔が熱くなっちゃうよね」

梨子「自分の声と胸のドキドキがすごく反響して聞こえるよね」

花丸「それで自分の時だけその場が静まりかえってるように感じちゃって…」

梨子「早く終わらせなきゃって思っちゃう」

花丸「…想像してたらなんだかしんどくなってきたずら…」

梨子「うん…何か楽しいこと考えよう…」


花丸「そもそも人がたくさんいるところで話すのが苦手ずら」

梨子「楽しいこと考えるんじゃなかったの?」

花丸「道半ばで引き返すのもなんだかもやもやするし…」

梨子「今ならまだ間に合うってこともあるかもしれないよ」

花丸「…一理ある気もするずら」
47 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:14:53.31 ID:YHbU4A+s0
梨子「楽しいこと…あっそうそう、この前教えてもらった本、面白かったよ」

花丸「ほんと?気に入ってもらえてよかった〜」

梨子「故郷を離れた主人公が新しい土地でたくさんの人と出会って成長していく過程がとっても優しく描かれていて心が温かくなったよ」

花丸「ちょっと狙いすぎてて気を悪くしないかなとも思ったけど、梨子さんに読んでほしいと思ったんだ」

梨子「大丈夫。花丸ちゃんの気持ち、とっても嬉しかったよ」

花丸「えへへ…」

梨子「うふふっ」

花丸「な、なんか、こういうのって照れるね///」

梨子「そうだね。でも、いやじゃない」


梨子「…そうそうあの本の中で特に感動した場面がね」

花丸「主人公が自分の過去を無理に忘れ去ろうとしてたのに気が付いた友人が、主人公の色んな気持ちを全部受け入れた上で背中を押す場面?」

梨子「それも良い場面だったよね〜…新しい土地で出会った綺麗な夜の海を背景に、主人公が友達や今の居場所をより大事に思うようになって…でも、そこじゃなくてね」

花丸「ん〜…じゃあ、新しい土地で知り合った友人たちと一度別れて主人公が一人故郷に戻った時の話?」

梨子「あぁ、そこも良かったよね。故郷で過去の自分と向き合いながら、離れた友達との心のつながりを感じて前に進めるようになる場面。でもそこでもないんだ」

花丸「むむむ……降参ずら。梨子さんはどこが一番のお気に入りだったの?」

梨子「主人公が新しい土地に移ってすぐ、慣れない土地での決まり事や風習に戸惑っているのを見て不憫に思った地元紙の記者さんが、町内報で主人公を取り上げて記事にする場面」

花丸「!…あ、ああー、あの場面…ね」

梨子「あの記事の後、周りに知り合いも無くて、聞くに聞けない状況で四苦八苦していた主人公にみんなが手を差し伸べてくれるようになって…っていう展開が、内浦に越してきた自分に優しく接してくれたみんなと重なってじーんとしちゃった」

花丸「そ、そっかー…喜んでもらえてなによりずら〜…」

梨子「…どうしたの花丸ちゃん?なんだか反応が…」

花丸「ど、どうもしてないずら。大丈夫普通だよ平気平気」

梨子「そう?もしかしたら私の感想が地味で退屈しちゃったのかと思っちゃった」

花丸「とんでもない。梨子さんの感想を聞けて、マルは楽しいよ」

梨子「本当?なら良かった」

花丸「…ちょっとドッキリしただけずら」ボソッ

梨子「えっ?なあに?」

花丸「い、いやあ、なんでもない!なんでもないずら」

梨子「ふうん…あ、ところで花丸ちゃん。物語の本筋とは関わらない部分ですごく気になってるところがあるんだけど…」

花丸「気になるところ?」

梨子「うん。主人公と旅行者の会話の場面で、赤い洗面器を…」


しばらくその本の話で盛り上がった後
話題は元に戻って
48 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/23(土) 21:18:43.88 ID:YHbU4A+s0
梨子「そういえばあのインタビューで花丸ちゃんはどんなことを聞かれたの?」

花丸「え!?えーっと、曲のこととか衣装のこととか…あと、Aqoursの…みんな…の、印象とか…」

梨子「そっかあ〜一緒だね〜…って、Aqoursの紹介記事だし当たり前か」

花丸「そ、そうだね。記事楽しみだね」

梨子「あれ?記事の内容不安だねっていう話じゃなかった?」

花丸「えっ?ああ…えっと、梨子さんとお話ししてる内にだんだん楽しみになってきたというか…」

梨子「ああ〜…それ分かるかも」

花丸「え?」

梨子「ちょっとしたことだけど、不安な気持ちとかを共感できたりして気が楽になったし…今は、花丸ちゃんのインタビューを読むの楽しみかも」

花丸「マルの…うん。ちょっと恥ずかしいけど、梨子さんに読んでもらいたいずら」



後日、新聞部の発行した校内新聞は

『噂の転校生桜内梨子ちゃん特集記事』として
Aqoursを紹介しつつ
Aqoursのみんなの梨子さんに関するメッセージを中心にした構成の
梨子さんに対するサプライズイベントとして発表されました

奇しくも、マルが梨子さんに紹介した本の内容と重なるようなサプライズが企画されて
マルのせいで台無しにしてしまわないかと内心ずっと焦っていたんだけど
校内新聞のサプライズに梨子さんは見事に驚いてくれて
小学生の頃のお話のように泣いてしまっていました

泣いている梨子さんを心配して駆け寄る企画立案者の3年生組
嬉し泣きだと察して笑顔で冷やかしたりしている2年生組
普段のイメージと違う梨子さんにオロオロするルビィちゃんと善子ちゃん

そんな中で、ふと交わる視線で通じ合うように
マルと梨子さんは一瞬だけ 笑いあいました
49 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/23(土) 21:20:04.70 ID:YHbU4A+s0
次は週末までに
50 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/30(土) 23:58:20.86 ID:8+tFe4FV0



花丸「梨子さんってピアノ弾きながらよく鼻唄歌ってるよね」

梨子「ええっ!?」ガタッ

花丸「うわぁっ!?」ビクッ

梨子「…ご、ごめんね大声出しちゃって…なんでそのこと知ってるの?」

花丸「実は音楽室の扉の前でたまに聴いてたり…」

梨子「こ、声かけてくれればいいのに…恥ずかしい…///」

花丸「恥ずかしがること無いずら。梨子さんの歌声は優しくて綺麗だし」

梨子「そ、そうかな?…花丸ちゃんに歌声褒められるとすごく嬉しい♪」

花丸「それにとっても楽しそうに歌ってる姿もかわいかったずら」

梨子「そ、そんなとこまで見てたの?///」

花丸「えへへ…ついつい見入っちゃって…ごめんね?」

梨子「ううん。いいんだけど…やっぱり恥ずかしいな///」

花丸「本当にかわいかったから恥ずかしがること無いのに」

梨子「もうやめて〜///」
51 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/30(土) 23:59:06.71 ID:8+tFe4FV0
つぎはあす
52 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:02:39.28 ID:3+CSf/WK0



カラオケにて


花丸「〜♪」


梨子「ふふっ♪花丸ちゃんほんとに楽しそうに歌うんだね」

花丸「梨子さんもカラオケ楽しめてるみたいでよかったよ♪」

梨子「はじめは少し恥ずかしかったけどね…花丸ちゃんとルビィちゃんのおかげですっかり慣れちゃった」

花丸「慣れたどころか今は梨子さんの方が楽しんでるような気がするけど?」

梨子「ん〜…そうかも?ふふっ…だけどやっぱり花丸ちゃんの方が楽しんで歌ってると思うけどなあ〜」

花丸「まあたしかにそれは否定できないずら♪」


梨子「で、次はなに歌う?前に来た時にも歌ったこれとか…あ、でもこっちも歌いたいし…」

花丸「やっぱり梨子さんの方が楽しんでると思うずら」
53 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:05:58.91 ID:3+CSf/WK0

ひとしきり歌って…


花丸「梨子さんと歌うのが楽しい理由が分かったずら!」

梨子「え?どうしたの急に?」

花丸「梨子さんってAqoursの歌全部歌えるんだよね」

梨子「それは…一応作曲編曲仮歌入れまでしてますから♪」エッヘン

花丸「他のスクールアイドルとか、プロのアイドルさんとかの曲もたくさん歌えるよね」

梨子「アイドルの曲を作ることになってから色々聴いたからね」

花丸「でも結構昔の曲も歌えるよね?」

梨子「うん。私調べだすと止まらないの」

花丸「それマルもわかるずら!」

梨子「花丸ちゃんも何か読んでる時とか、すごい集中力だもんね」

花丸「梨子さんが鼻唄まじりにピアノ弾いてる時の集中力には負けるずら〜♪」

梨子「だっ…///だからそれやめてってば〜」
54 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:08:21.36 ID:3+CSf/WK0

梨子「…そろそろかな?」

花丸「そろそろだね」


ガチャ

店員さん入室


梨子「あ、それ、お茶は私です。ありがとうございます」

注文したドリンクをテーブルに置いて

花丸「今日はみかんジュース〜♪」


店員さん退室

ガチャ


梨子「かなり時間分かるようになってきたね」

花丸「うん。もう飲み物だけの注文ならほぼ分かるね」

梨子さんもマルも歌の途中で店員さんが来ると物凄く恥ずかしくなってしまうので
(二人とも店員さんが入って来た時に小声になったり歌うの止めたりしちゃいました)
注文をした後は店員さんが来るまで待ちます

ちょっと時間がもったいない気もするけど
注文をしてから店員さんが来るまでの時間を予測してみたり
喉を休める時間に充てています

梨子さんもマルも歌うのが楽しくてついつい連続で歌っちゃうので
喉を傷めてしまわないように気をつけなければいけません

梨子「よし、じゃあ再開しよっか♪」

花丸「準備は万端ずら!」

気をつけなければいけないんですけど
やっぱり歌うのは楽しくてついつい盛り上がってしまいます
55 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:11:11.94 ID:3+CSf/WK0
以前、Aqoursのみんなでカラオケに来た時には
店員さんが入って来た時、梨子さんとマル以外にも恥ずかしがる子もいたけど
恥ずかしがらない子もいてほぼ半々でした

中には店員さんとハイタッチする子もいて
マルもいつか同じようにやってみたいような気もしています

花丸「〜♪」

ガチャ

花丸「Mk#%&@っ!?」ビクッ

不意にドアを開けて店員さんが入って来て
驚いたマルは意味不明な言葉を叫んでしまいました

梨子「あっ、いいえそれ注文してないです」

ガチャ

失礼しましたとぺこぺこと何度も申し訳なさそうに頭を下げて
店員さんは出て行きました
部屋番号を間違えたようです

花丸「・・・・・・・・・」ドキドキ

はりきって後半戦に突入していたマルは突然の不意打ちに頭が真っ白です

いつかほんとうに店員さんとハイタッチしてみたいとは思ってます

花丸「でもまずは店員さんが入って来ても堂々と歌えるようにならないといけないずら…」

マルはこの時
ピアノの弾き語りを見られたのを恥ずかしがっていた梨子さんの気持ちが
本当の意味で理解できたような気がしたのでした
56 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/31(日) 00:12:39.46 ID:3+CSf/WK0
つぎまたしゅうまつまでに
57 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/06(土) 22:50:25.68 ID:xIV1LSl40
9.5

後日


梨子「花丸ちゃんこのまえ部室で一人で歌ってたよね」

花丸「ええっ!?」ガタッ

梨子「キャアッ!?」ビクッ


花丸「ご、ごめんなさい大声出しちゃって!…梨子さんあの時あそこにいたの?」

梨子「うん、忘れ物取りに行ったら聴こえてきて」

花丸「でも梨子さんあの日はいつも通り千歌ちゃんと一緒に下校したって聞いたけど」

梨子「そうだよ。花丸ちゃんの歌声だけ聞いて帰ったんだ。ほらこの間のおかえし…的な?」

花丸「声かけてくれればよかったのに梨子さんも人がわるいずら〜」><

梨子「ふふっ♪ごめんね。でも恥ずかしがってる花丸ちゃんも可愛いから仕方ないよね」

花丸「理不尽ずら〜///」


あの時梨子さんがすごく恥ずかしがっていた気持ちを
マルが本当に理解したのはこの時でした…
58 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/06(土) 22:52:15.04 ID:xIV1LSl40
次は明日か明後日か明々後日
59 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:18:00.57 ID:s1hSY5J50
10


冬が去って

お日さまの光があたたかくなって

桜の話をちらほらと耳にするようになった頃

マルは梨子さんとちょっとしたお花見の計画を立てました


梨子「おはよう♪花丸ちゃん」

花丸「あっ、梨子さんおはよう〜♪」

梨子「はいおみやげ」

花丸「こっ、これは…!」

梨子「期間限定、桜ホイップこしあん…なんだっけ?えっと…?」

花丸「なかなかおいしそうずら〜♪」

梨子「まあ名前は置いておいて、花丸ちゃん餡子好きだし丁度いいかなって思って」

花丸「桜の季節に桜菓子とは風情があっていいずら。しかもマルの好みにまで合わせてくれるなんてさすが梨子さん♪これはマルも何かお返しをしないと」

梨子「花丸ちゃんの喜んでくれる姿が見られただけで十分だよ」

花丸「えへへ」

梨子「ふふっ」
60 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:19:40.00 ID:s1hSY5J50
花丸「桜紅茶と桜緑茶、どっちがいい?」

梨子「紅茶で。…桜紅茶なんてのもあるんだね〜」

花丸「頂き物でちょっと特別な桜茶もあるんだけど、それは今度おうちでね」

梨子「わあ、それは楽しみだなあ♪」


持参した二つの魔法瓶から

梨子さんには桜紅茶

マルは桜緑茶を注いで、一服

ここ数日の花冷えが、温かいお茶のありがたみを増してくれてるみたいです


梨子「なんだか贅沢な感じだね〜」

花丸「風流ずら〜」


町を一望できるこの場所は

意外にも桜の時期には人がほとんど来なくて

マルのお気に入りの場所の一つになっています
61 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:23:11.70 ID:s1hSY5J50
人が来ない理由は、どこから来るにしてもそこそこの距離歩かないといけないことや
この場所には桜の木が無いこと

そして、ここは一時期開発計画か何かで立ち入り禁止だったらしくて
その後計画は中止になって何も手を入れられることの無いまま立ち入り禁止が解かれ
結果、人の足も遠のいた…っていうことらしいです

じーちゃんが言ってました


ここからは町や近くの山々の桜を望むことができて
強い風も少なく、行楽にはうってつけです

マルにとっては誰かに教えたいような教えたくないような
そんな特別な場所です


梨子「こんなところがあったんだね〜」

町のあちこちに咲いた桜を眺めながら梨子さんがつぶやいて

花丸「いわゆる穴場っていうやつずら」

ちょっと得意げにマルは返す

梨子「こんないい所なのにどうして人が来ないんだろう?」

首をかしげ疑問を口にする梨子さんに
マルは更に得意げにじーちゃんのうけうりをを語るのでした
62 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:24:44.55 ID:s1hSY5J50
しばし

桜の無い場所で

お茶やお菓子から桜の香りを感じながら

遠くに見える無数の桜の景色を眺めてとりとめのない話をする二人


桜菓子を食べ終え、魔法瓶が少し軽くなってきた頃に

梨子「ねえ、花丸ちゃん」

花丸「…なんか、くどかった気が…」

梨子「ああ、同じこと思ってたんだね」

くすっと笑いながら梨子さんが言う

梨子「あんまり桜まみれにしても良くなかったね」

否定的な言葉とは裏腹に、とても楽しげな口調

花丸「少し贅沢が過ぎたかもしれないね」

嫌なわけでもダメなわけでもなくて、実際この時間はとても楽しくて

梨子「風流も塩梅が大事なのかもしれないねえ…」

花丸「そうだねえ…」

まったりと景色を眺めながら、ただなんとなく

この時間を満喫しすぎているような気分になってしまっていました
63 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:26:51.76 ID:s1hSY5J50
梨子「よし、じゃああの辺りの桜を見に行こうか」

気まずさの無い穏やかな沈黙を破って、突然梨子さんが言う

花丸「えっ?」

梨子「どうかな?なんとなく行ってみたくなったんだけど、花丸ちゃんは行きたい場所ある?」

花丸「マルは特には…」

梨子「じゃあ一緒に行こう?途中のコンビニで限定桜プリンも買って行こう」

いつもより強引に話を進める梨子さん

花丸「えっ?さっき桜くどいって…」

梨子「まあさっきはさっきだし、歩いたらまたおなか空くし」

花丸「それは、マルも否定はしないけど…」


マルがだんだんと乗り気になって来たのを見て取ると
梨子さんはマルにそっと顔を近づけて


梨子「ねえ、せっかくの桜日和だしもっと二人で贅沢な気分を味わっちゃおうよ」


微笑みながらそう囁きかけました


それは、ステージでの梨子さんとも
Aqoursのみんなといる時の梨子さんとも違う雰囲気で
マルの胸をそっとざわつかせました
64 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:27:51.50 ID:s1hSY5J50
結局その日一日は桜の食べ歩きになり

途中から桜の花だけでなく
桜の文字すら追いかけるように町を巡り
内浦の桜を文字通り食べつくす勢いでした


花丸「はぁ〜…堪能した〜」

梨子「探せばあるもんだね〜」

花丸「山のふもとにあんな反橋があるなんて思わなかったずら」

梨子「たくさんの蔦が絡まって、桜も借景みたいになってて不思議な景色だったね」

花丸「朱の褪せ具合も雰囲気出てたよね」
65 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:32:24.23 ID:s1hSY5J50
口々に一日を振り返りながら歩いていると

梨子「ねえ、花丸ちゃん」

ふと、梨子さんが立ち止り遠くを指さして言いました


梨子「あそこ、今日一緒に町を見渡したあの場所だよね」

花丸「うん。そうだね」

少し眩しくて、手で影を作りながら見ると

山の端に日が沈んでいて

桜尽くしの一日の締めにふさわしい眺めが目に入りました

夕陽に照らされた梨子さんと桜の景色…


梨子「花丸ちゃん…またふたりであの場所に行こうね。来年の桜を見に…ううん」


いつも通りの穏やかな声で


梨子「紅葉の季節でもいいよね…ううん、もっと早くても」


梨子さんの言葉を聞いていると、マルは少し寂しいような気持ちになってきて


梨子「どうかな?花丸ちゃん。次はいつ来ようか」


花丸「…明日…とかじゃだめかな」

梨子「えっ…」

花丸「もう、じきに暗くなるし、梨子さんのおうちまで結構あるし…今日はうちに泊まって、また明日もお花見なんて…えへへ…さすがに本当にくどいよね」


梨子「ふふっ…あはははっ」

花丸「な、なになに?」

梨子「あはは、急にごめんね。だって今日は二回目だから」

花丸「二回目?」

梨子「うん…私も今、花丸ちゃんと同じこと思ってたから…」

花丸「おなじこと?」

梨子「うん。まだ花丸ちゃんと一緒にいたいなって…あ、今朝の桜がくどいねっていうのが一回目でね」

花丸「そうだったね。…結局もっと桜まみれな一日になっちゃったけど」

梨子「明日も桜尽くしだよ。駅前の桜ケーキも桜クレープもまだ味わってないからね」

花丸「そ、そんなものまであるずら!?…梨子さんそんなにマルに気を遣って調べなくても大丈夫なのに」

梨子「花丸ちゃんのためじゃなくて、私が食べたかったんだよ?」

花丸「え?」


梨子「花丸ちゃんと一緒にね」


ほんの少しだけ間をおいて梨子さんが言ったとき
マルの顔は夕陽に染まっていました


梨子「だから、また明日も…一緒にお花見しようね」

花丸「うん」

66 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/09(火) 20:33:27.04 ID:s1hSY5J50
次一週間以内
67 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/17(水) 20:30:23.22 ID:OacCeo6A0
無理なので一週間後
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 21:23:23.57 ID:CN0eKn/c0
待っててやろう
69 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:47:32.89 ID:0fYfzTHF0

11



今日マルはCD屋さんに来ています

マルは最近梨子さんとよくお話をするようになりました


梨子さんは音楽への造詣が深くて

Aqoursの作曲担当で

ピアノが上手で

楽しそうに弾き語りをしてて…


とにかく、共通の話題を増やすために

梨子さんと音楽についても、もっとお話ができるように

マルはクラシック音楽を聴いてみることにしたのです
70 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:50:26.63 ID:0fYfzTHF0

花丸「ええと、クラシック…クラシック…」


CD屋さんといっても、実はいつも訪れている本屋さんの中にあるお店です

だけど勝手知ったる本屋さんの中でもほんの少しいつもと違う道を歩いただけで別世界に


花丸「交響曲8番…8番?」


本を買いに来ていたときには遠くに聴こえていた音楽がCDショップでははっきり聞き取れるし

壁の色も違う!原色が多い!


花丸「ぶらーむす…はいどん…おいどん…ハッ!?オラは何を…」


慣れない環境で軽いめまいのような感覚を覚えながらCDを物色していたマルだったけど


花丸「想像以上にどれを聴いたらいいかさっぱり分からないずら〜」@@


疲弊と困惑に負けてその日はすたこら退散したのでした
71 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:54:52.63 ID:0fYfzTHF0
花丸「そうだ!どんな曲を聴けばいいか梨子さんに聞けばいいずら!」


後日そんな当たり前のことに気付いたマルは梨子さんのお家を訪ねたんだけど…


梨子「おすすめの音楽?そうだな〜…ユメノトビラとかどう?」

梨子さんはお家ではクラシックを聴かない人だったのです

梨子「え?どうしてって?小さな頃から聴きすぎちゃって勉強と同じ感覚になってるのと…今は、自分たちのを含めてスクールアイドルの曲を聴いたり作ったりするのに夢中だからかな」


クラシックのCDはあるから貸してあげると言われたので

聴きやすいと言われたものをいくつか持ち帰りました


自主練習用にと買ってもらったCDラジカセで曲を聴きながらマルは
『クラシックを聴いて梨子さんともっとお話しよう作戦』に幕を下ろすことを決めました


そして新たに
『スクールアイドルの曲について梨子さんとお話しよう作戦』を決行することにしたのです


今度の作戦は簡単です

自分たちの曲、梨子さんが作った曲についてなら、いくらでもお話できる気がするから
72 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/24(水) 21:56:25.14 ID:0fYfzTHF0
ツギ ハ アシタ
73 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:16:50.81 ID:pEqUKw4t0
12



梨子「狭い道を歩いてる時にね」

花丸「うん」

梨子「向かいから歩いてくる人に気付くのが遅れて、相手も同じ状況で避けようとして」


花丸「同じ方向に避ける」


梨子「そうそう、それでお互いに謝り合って話が進まないの」

花丸「わかるずら」
74 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:25:36.86 ID:pEqUKw4t0
花丸「自分の好みとかを人に聞かれて」

梨子「うん」


花丸「答えた後でその好みが変わっちゃうことが多いんだあ」


梨子「ああー、分かるかも」



花丸「学校の行事とかで意見を聞かれて答えた後に、そのことについて改めて考えてると」


梨子「自分の言ったことと違う結論にたどりついたりするよね」

花丸「前もって考えてたのに自分で口にした後に限って疑問が生まれるずら」


梨子「わかるよそれ」
75 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:31:14.35 ID:pEqUKw4t0
花丸「連絡先を知らないくらいの間柄の相手に住所なんかを尋ねられて、それを伝えた後に」

梨子「うん」


花丸「その伝えた情報が間違いだったことに気付いた時の冷や汗」


梨子「あぁ〜><」
76 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:32:16.04 ID:pEqUKw4t0
梨子「外開きのドアがあって」

花丸「うん」

梨子「からだ一つ分開いてる状態のドア」

花丸「うんうん」


梨子「何となく音も立てたくないから、その隙間を通ろうとして」

花丸「通ろうとして?」


梨子「ドアノブに手をぶつけて痛っ!て声まで上げちゃって台無し」

花丸「あー」
77 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:33:12.53 ID:pEqUKw4t0
花丸「続きの気になる本を読んでて」

梨子「うんうん」

花丸「読書のお供の飲み物を用意するけど気が急いてて」

梨子「うん」


花丸「湯呑みに注ぎ損ねて台所のお掃除するはめに。高揚してた気分が台無し」

梨子「私それTV番組とかでも経験ある!」
78 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:35:00.61 ID:pEqUKw4t0
花丸「心待ちにしてた新刊を買いに行った本屋さんで」

梨子「うんうん」


花丸「店員さんの手書きのおすすめ文句が地味にネタバレっぽかった時の台無し感」


梨子「それは悲しいね…」

花丸「でも読んでみたらそのネタバレっぽい文句が絶妙な騙し要素になってて、店員さん狙ったのかな?って」

梨子「それ面白いね。で、実際はどうだったの?店員さんは狙って書いてたの?」



花丸「…聞いてないずら」

梨子「…そっか」


花丸「!」ハッ

花丸「今のこの台無し感!」

梨子「あはは♪」
79 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:37:13.06 ID:pEqUKw4t0
次 は 一週間 以内 に
80 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:09:48.77 ID:qydflVIM0
13


少し前から

マルは放課後が待ち遠しくなりました


Aqoursの一員として活動を始めてから

友達が、仲間が増えて
今まで文章から想像するしかなかった色んな感動や苦しさを体験できてます


それはマルが想像していた通りのものだったり

全然違うものだったり

こころにもからだにも、新鮮な刺激が満ちる日々です
81 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:11:14.50 ID:qydflVIM0
最近

マルは放課後がさらに待ち遠しくなりました


梨子さんとお話ができるようになったからです

東京からの転校生
東京オーラを放ち、落ち着いた雰囲気で何でもこなすクールな先輩
近寄りがたく、少し怖い存在…

だったけど

実際に話してみれば、柔らかい物腰と声色で、穏やかな表情で話してくれるし
マルが話す時もマルの言葉を最後までじっくり聞いてくれるし

なにより、思っていたよりも
話していて共感できることが多くて

別世界の住人のように見えていた年上の女の子が
急速に自分の世界に近づいて、入り込んできているような感じがして
マルは不思議なドキドキを感じています
82 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:15:40.54 ID:qydflVIM0

一度距離が近づきだしたら早いもので

部室での二人きりのお喋りから

一緒に下校したり

準備運動や振付確認時にペアを組んだり

梨子さんと一緒の時間はどんどんと増えていきました

83 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:18:00.79 ID:qydflVIM0


マルは週末を心待ちにしています


なぜなら、梨子さんとお買い物に出かけることになったからです


今週末は、マルの大好きな作家『タゾノミウ』先生の新刊発売日で
なんと、梨子さんもタゾノ先生のファンということで話が盛り上がって
梨子さんは他にも画材とかが不足してて
丁度いいから一緒に町までお買い物に行こうということになったのです



約束をしてから一日二日はわくわく


でも、徐々に週末が近づいてくると、次第にそわそわしはじめて


約束の前夜には、ついにドキドキがおさまらなくなってしまってました
84 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:20:17.05 ID:qydflVIM0


お布団の中で

眠れないマル


はじめは、梨子さんは明日どんな服を着てくるだろう?とか
待ち合わせの時間より5分…いや、10分か15分前くらいに着くようにしようかな?
なんてことを考えてたんだけど、次第に…

マルは明日どんな服を着て行こうかな?
あんまり可愛い服着て行ったら変に思われないかな?
お気に入りの服を着て行って似合わないって思われたらどうしよう…

待ち合わせの時間より早く着いて、気を遣わせちゃったらどうしよう?
だからといってぎりぎりの時間を狙って途中で何かあって遅刻しちゃったら…
そもそも待ち合わせの場所を聞き違えちゃってたりして…


なんて
一度不安が頭をもたげると、恐い気持ちが雪崩のように襲ってきて…

必死で眠りに着こうとしても眠れなくて
ますます焦りが募りはじめた時


梨子さんからメールが届きました

85 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:26:21.52 ID:qydflVIM0
『こんばんは花丸ちゃん 夜遅くにごめんね もしかしたらまだ起きてるかな?って思って…』

読んでいると、すぐにいつもの梨子さんの声が想像できてしまう文面で…
梨子さんも眠れなくて、マルと同じような心境だということが綴ってありました


すぐにメールのお返事を送って


自分も同じような気持ちで寝つけなかったこと

明日の予定の再確認

立ち寄るお店のことや、目当ての新刊への期待から

タゾノ先生の過去作への感想

そこから別の本の話に移り

梨子さんの絵の話になったり

正座で足がしびれた話になったり


とめどなく脱線するやり取りが落ち付いた時
外には朝焼けが

結局マルと梨子さんは朝までメールでお喋りをしてしまって
週末のお買いものは次の機会へ持ち越しということに


少し残念な気もしたけど
それよりももっと大きな充実感が得られたような気がして
心地よいけだるさとまどろみに身を任せて
マルは眠りにつくのでした




そして
遅刻予防に前の日にじーちゃんに念入りにお願いしていた結果
マルは心地良い眠りについた直後に叩き起こされたのでした
86 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/30(火) 06:29:21.24 ID:qydflVIM0
次も、一週間以内に
87 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:17:44.87 ID:xa6140Cm0
14


梨子「おはよう花丸ちゃん♪」

花丸「あっ、梨子さんおはよう。随分早いね」

梨子「今朝はいい調子で曲作りが進んで気分がいいから勢いで早出しちゃって…ところで花丸ちゃんしゃがみ込んでなにしてるの?」


花丸「ふふふ…紹介するね。こちらはたいしょうさんだよ」


梨子「?」


たいしょうさん「ニャーーーーーーー」


梨子「わあ!おっきい猫さん」

花丸「たいしょうさん。こちらは梨子さんずら」

梨子「はじめましてたいしょうさん。桜内梨子です」ペコリ


たいしょうさん「ニャーーーーーーーー」


梨子「たいしょうさん声可愛い♪」

花丸「大きな体のたいしょうさんはとってもかわいい声の持ち主なんだ〜」


梨子「和毛だね〜♪撫でたりしたら…怒るかな?」

花丸「そうだねえ、一見さんには厳しいたいしょうさんだからね〜迂闊に手を出すとガブッ!と」

梨子「ひっ?そ、そうなんだ…」ビクビク

花丸「な〜んて、冗談ずら♪たいしょうさんは心の広い猫さんだから大丈夫だよ」

梨子「もう〜花丸ちゃんったら!ふふっ、じゃあ早速…」ワキワキ
88 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:18:58.81 ID:xa6140Cm0
梨子「〜♪」

花丸「梨子さんお顔が溶けてるよ〜」

梨子「至福の手触りです」

花丸「異論は無いずら」


梨子「それにしても」

花丸「ん?」

梨子「花丸ちゃんのお家に遊びに来るようになって結構経つけど、たいしょうさんを見かけたのは初めてだね」

花丸「たいしょうさんは平日の早朝にしか姿を見せないからね」

梨子「あ、そうなんだ?どうりで」

花丸「それに毎日現れるわけでもないから」

梨子「そっかあ…そういえば音ノ木にも神出鬼没な猫さんいたなあ…みんなはボスって呼んでた」

花丸「へえ〜、やっぱり東京ともなると名前も英語なんだねえ…未来ずら〜」

梨子「あはは、そういうことじゃないよ〜」
89 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:19:40.17 ID:xa6140Cm0
又一週間以内に
90 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:52:39.19 ID:7H95N31z0

15


梨子さんと一緒にTVを見ていたある日
こんなことがありました


とあるCMに出ている役者さんを見て梨子さんが言いました


梨子「映画で役所小路さんが出てるとつい見ちゃう」

花丸「役所小路さん…って、だあれ?」

梨子「あ、えっとね、ベテランの女優さんでたくさん映画に出てて…」


花丸「…あのー梨子さん…」

梨子「なあに?」

花丸「マルはなんていうか…有名人とかには疎くて…ごめんなさい」

梨子「どうしてあやまるの?」


花丸「あー…癖、かな…小さい頃からこういうことよくあって」

梨子「そうなんだ。そういうのって癖になっちゃうよね」

花丸「うん」

梨子「そのことについて、花丸ちゃんは話したい?」

花丸「ううん」

梨子「そっか、もし話したくなったらいつでも言ってね」

花丸「うん。ありがと」


梨子「あ、それと」

花丸「ん?」


梨子「言いたくならなかったらずっと言わなくても大丈夫だからね」


花丸「…ふふっ、ありがとう梨子さん。ほんとに」

梨子「うん」


花丸「えへへ」

梨子「ふふっ」
91 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:55:32.81 ID:7H95N31z0
花丸「よしっ、この間話した香りの良いお茶を奮発しちゃうずら♪」

梨子「実はそれ気になってたんだ〜♪楽しみ」


そう言ってマルは部屋を出て足早に台所へ

一秒でも早くお茶を持って梨子さんとの時間に戻りたくて気が逸ります


だけどこの香りの良いお茶を淹れる時、急いてはいけません

沸かしたお湯を数十秒置いて冷ましたりした後
ゆったりと注がなければいけません


おぼんに湯呑みを乗せて部屋に戻る時も、急いてはいけません

お茶菓子を乗せ忘れて台所に戻ることになっても、あわててはいけません


今し方10秒で来た道を、30秒かけて戻ります

部屋の前まで戻ると、足音でか察してくれた梨子さんが入口を開けて迎え入れてくれます
おぼんで両の手がふさがっているのに途中で気づいて少し悩んでたので助かりました


花丸「梨子さんありがとう。絶妙なタイミングだったけどどうしてマルが来たの分かったの?」

梨子「聞き耳を立ててたの♪花丸ちゃんが戻ってくるの待ちきれなくて」

なんてね。と付け加える梨子さんと、マルは笑いあいます
92 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:56:48.32 ID:7H95N31z0
満を持して湯呑みの帽子を取ると、和かな香りが広がって
二人の感嘆の溜息が部屋に響きます


梨子さんとマルは、ただお茶の香りと味だけを楽しみながら
何を喋るでもなく過ごします


一緒に持ってきたお茶菓子に手を付けることも無く


お互い何かを促すことも無く


ただただお茶を楽しみながら向かい合い座って過ごします
93 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/13(月) 00:01:32.48 ID:xPnDf7Y70
二人がお茶を飲み終えて
その余韻を堪能し終えると

おもむろに梨子さんがTVの電源をつけました


梨子「あ、また役所小路さんだ」


さっきの会話のきっかけになったCMが再び流れて


梨子「花丸ちゃん。役所小路さんはいくつか本を出してるんだよ」

花丸「そうなの?」

梨子「“千石戦国”とか“三匹で着る”とか…花丸ちゃんは、時代劇とか見る?」

花丸「じーちゃんが見てたのを横で一緒に見てた覚えはあるよ。仕事屋シリーズは好きずら♪影の演出がかっこよくて」

梨子「そっかあ。“三匹で着る”っていう本は役所小路さんが出てた時代劇が元ネタでね、時代劇が好きなら一度見てみると楽しめるかもしれないよ」

花丸「そうなんだ。再放送とかやってるかなあ?」


後日、役所小路さんの本を読んで甚く感動したマルは
“三匹で着る”の元ネタの時代劇を見るために
梨子さんにおんでまんどとかうぇぶ番組だとかを一家総出でご教示いただきました

スマートフォンでも見られるように
あぷりっていうのをだうんろーど?してもらったりして
おうちの外でも時代劇を楽しめるようになりました



そして更に後日、携帯のデータ使用量の警告にあたふたすることになるのですが
それはまた別のお話
94 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/13(月) 00:04:06.84 ID:xPnDf7Y70
1日誤差があるのに今気づいたけど、また一週間以内に
95 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:21:42.37 ID:Y43jmR6h0


15.5



梨子「時代劇も好んで見てるっていうわけじゃないんだね」

花丸「うん。刑事ものとかは見るけど、TVを見ること自体が少ないずら」

梨子「花丸ちゃん刑事もの見るんだね」

花丸「動機とかトリックとかを考えるのが好きなんだ♪ミステリーを読むのも好きだよ」

梨子「そうなんだ…てっきり花丸ちゃんは純文学とかが好きなんだろうって思ってたけど…」


言いながら梨子さんはマルの部屋の本棚をひとしきり眺めて


梨子「違ったんだねえ」


感心したような、なんだか嬉しそうな表情でつぶやきました
96 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:24:00.62 ID:Y43jmR6h0
梨子「やっぱりたくさんあるけど、いろんな種類の本があるんだね」


そう言って立ち上がると、梨子さんは本棚の前に立って


梨子「これは…作者でまとめられてるけど、五十音順じゃないよね。どういう並び?」

花丸「ああこれはね、えーっと…今は、本の発行日順だよ」

梨子「へえ〜…今は、っていうことは前は違ったの?」

花丸「うん。ジャンルで分けることもあるし、分けた上で主人公の初登場時の年齢順にしたり、物語の舞台の時代や年代とか、北から南へ地理順に並べたり、取り扱ってる事件や出来事で分けたり…ハッ!…オラ、一人でべらべらと喋っちゃって…こんな話、梨子さんが聞いてもつまんないよね、えへへ…」


多弁に饒舌を重ねて頭の中でしまったやっちゃった。って後悔がグルグルしてるマルに


梨子「大丈夫だよ。私、話を聞くの結構好きな方だし」


気遣うでも無くごく普通にそう言う梨子さんは


梨子「ほら、前にも言ったでしょ?花丸ちゃんのこともっと知りたいって」


そう続けると、本棚とマルを交互に見ながら
さっきと同じような嬉しそうな表情をしてました
97 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:26:44.26 ID:Y43jmR6h0
梨子「本棚の数も思った通りというかたくさんあるね〜」

花丸「うん。残りの本は別室に保管してあって、ときどきここの本と入れ替えしてるんだ」

梨子「えっ!?別室にもまだ本があるの?…たくさん?」

花丸「う、うん…どっちかっていうとこっちの方が少ないっていうか…///」

梨子「ふふっ、照れなくてもいいのに」


そう言ってまた本棚に目を向けた梨子さんは急に何かを思い出したような顔をして


梨子「あっ!そういえばこの間のインタビュー記事で花丸ちゃん本棚の数も答えてたよね…ひょっとして、本棚の数増えてる?」

花丸「…実は、二つほど増えました」


マルはまた照れくさくなって頭をかきながら答えました


花丸「Aqoursに入ってから、アイドル関連の本とかをまとめた本棚を増やしたんだ」


梨子「これだね。他の本棚と違って明るい色だね」

花丸「何となく、お店で見かけたとき色合いが気に入って決めたんだ」


梨子「それでこっちの本棚は…まだ、あんまり本が並べられてないんだね」

花丸「そっちはこれから増えていく予定っていうか…その…」

梨子「?」


マルが良いよどんでいると梨子さんが小首を傾げ、そのままマルの顔を覗き込む
…顔が近い


花丸「ここには、Aqoursのみんなからおすすめされた本とかを並べていく予定なんだ…」


思わず梨子さんから目をそらしながらそう答えました
98 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:28:54.58 ID:Y43jmR6h0
梨子「ここは、やっぱり私がパッ!といい感じの作品をおすすめする場面だよね」


意気込んだ表情をした梨子さんは腕組みをすると小さく唸り
左手をあごに当てて考え込んでしまいました

正直なところ
梨子さんも本を読むという情報を得たことがこの本棚を置いた理由の大部分だったので
梨子さんからのおすすめは大いに期待してました


梨子「うーーーーん・・・・・・・」


表情が段々と困り顔に変化していく梨子さんは、しばらく思案してる様子だったけど
ふと、閉じていた眼を開きマルの方に向きなおって


梨子「よし、次までに考えておくね」


と、きっぱり口にしたあと、申し訳なさそうな顔をして


梨子「なんか、期待外れてごめんね。実は今読んでる本があってね、その本のことしか思い浮かばないの」


そう言って苦笑いを浮かべました



梨子「なにか夢中になってることがあると、他のこと考えててもついついそのことに考えが行っちゃうことって、無い?」

花丸「あー、よくあるずら」


マルはうんうんと頷き、言葉を続ける


花丸「前に夢中で読んでた本が終盤に差し掛かったところで学校に行った日なんか…あ、その本の主人公がうどん職人さんだったんだけど、通学路でパンの焼ける匂いを嗅いで小麦を思い浮かべて粉からうどん粉うどんと当たり前のように本のことに考えが滑り込んでいったときは自分でも驚いたずら」

梨子「ね、そういうことってあるよねえ」


梨子さんもうんうんと頷いて、マルに同意する
99 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:32:34.51 ID:Y43jmR6h0
花丸「ところで、梨子さんが今夢中になってる本って?」

梨子「ん?ああ、えっとね…」


マルが質問すると
梨子さんはゆっくりと一つの本棚の前に移動して、一冊の本を指さしました


梨子「これ」


花丸「それは…タゾノミウ先生の運命の幼馴染だね。その話の…」

梨子「ストップ!花丸ちゃん待って!」

花丸「!?」ビクッ


梨子さんは両の掌を開いて静止のポーズをとってマルの言葉を遮る


花丸「ど、どうしたの?」

梨子「ごめんね大きな声で。さっきも言ったけどその本今読んでてね、まっさらな気持ちで読みたいからちょっとした感想とかも耳に入れないようにしてるんだ」

花丸「あ〜…!そっか、そうだよね。マルとしたことが浅慮だったずら」><


同じ本好きとして禁忌を踏みそうになったことを悔いたマルが
手の先で軽く自分の頭を叩く仕草をすると


梨子「くすっ、あははっ♪…花丸ちゃんって、ときどき面白い動きするよね」

花丸「えっ?そ、そうかな」


突然笑い出してそういう梨子さんに、マルはドキッとして
小さい頃、マルの古くさい言葉遣いや習慣をからかわれた時のことを思い出しそうになりました


でも


梨子「そうだよ。すごく可愛くて私好きだよ」

花丸「えっ?…そ、そう、なの?」

梨子「うん。大好き」


そう、重ねて真っ直ぐな好意を言葉で伝えられて
少し哀しい思い出がそのまま嬉しい気持ちで上書きされていくように消え去っていきました
100 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:35:43.08 ID:Y43jmR6h0
梨子「そういえば、もうすぐタゾノミウ先生の新刊が出るから町の本屋さんに行こうと思ってるんだけど、花丸ちゃん一緒に行かない?」

花丸「えっ?あっ…うん。行く」

梨子「よかったあ♪断られたらどうしようってちょっと不安だったんだ」


急なお誘いにマルは完全に不意を突かれてしまって
実は何を言われてどうお返事をしたのかよく分かってませんでした


梨子「ちょうど絵具とか、画材の買い置きも無くなりかけてて、町まで出ないといけなくて…花丸ちゃんと一緒だと楽しめそうで嬉しいよ」


梨子さんの声を聞きながら、先ほどの会話を思い出して反芻し、理解する


梨子「ああでも、本屋さん以外にも付き合ってもらうのはちょっと迷惑かな?」

花丸「ううん、そんなことないよ。普段と違う場所に行ってみるのも楽しみずら」

梨子「ならよかった。花丸ちゃんもどこか行きたい場所があれば言ってね」

花丸「はーい♪」


手を挙げておどけた返事をすると梨子さんは笑って、マルも一緒に笑う
楽しみな気分があふれたまましばらくお話をして、夕方頃にはお別れをしました



わくわくした気持ちに包まれたまま眠りについたその日のマルは想像もしてませんでした

この幸せな気持ちが、少しずつ違うものへと変化していってしまうことを…
101 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/20(月) 20:36:28.24 ID:Y43jmR6h0
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