未来「未来に吹く風」

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36 : ◆Zg71aiNoxo :2019/05/23(木) 23:11:13.20 ID:mKt9f9jP0




夜風が顔に吹きつけた。
頭上には雲一つない星空が広がっている。
昨日に梅雨明けが発表された関東地方の夜は、
まだまだ夏本番とは言えない心地よい陽気で、
半袖で街を歩くには少し肌寒いほどだった。



と言っても私は今、夜道を歩いているわけではなく、
ヘッドライトが連なる幹線道路に車を走らせていた。
その後部座席には、今日の主人公がちょこんと座っていた。


「プロデューサーさん、後何分ぐらいで着きそうですか?」


「あー、大体十分ぐらいかな」


バックミラーを見ると、後部座席に座る未来の膝の上では、
さっき買ったケーキが大事そうに抱えられていた。


「そんな焦らなくても、まだそんなにみんな集まってないと思うぞ」


「じゃあ、私も早く行って、飾りつけの手伝いとかやりますね!」


「お前、今日、主役だろ……」


気持ちが急いている未来の顔は緩みきっていて、
とてもファンの人たちに見せられる表情ではなかった。
しかし、今日のお祝いと昨日の活躍に免じて、
少しの間はリラックスしている未来を温かく見守ることにした。




「おーい、未来、着いたぞー」


昨日今日の疲れのせいだろうか、劇場の駐車場に着いた頃には、
未来はスヤスヤと寝息を立てていた。
幸いにも、膝の上にあったはずのケーキは
隣の座席に避難させていたようなので、それを片手に持ち、
寝ぼけ眼の未来を連れて、劇場に帰ってきた。



37 : ◆Zg71aiNoxo :2019/05/23(木) 23:13:00.00 ID:mKt9f9jP0




「未来、誕生日おめでとう!!」


事務室に入った途端に、その声とともに鳴り響いた
多数のクラッカーの音に驚くようにして、未来は目を覚ました。


「未来、おめでとう」


「未来さん! 誕生日おめでとうございます!」


今日の誕生会には多くのメンバーが駆けつけてくれていたのだが、
その中には、静香と星梨花の姿もあった。


「星梨花〜、静香ちゃん、ありがとうー!」


未来は私の元を離れて、静香と星梨花の方に駆けていった。
しばらくこんな感じで談笑されてしまうと、
ちょうどいいタイミングを見失ってしまいそうだったので、
ここで一つ挨拶を挟むことにした。


「えーっと、まず、みんな集まってくれてありがとう。
今日は、昨日の定期公演の成功と、今日の未来の誕生日を祝う
パーティーだから、みんな適度に羽目を外して楽しんで欲しい。
それじゃあ、皆さんグラスをお手に……」


「あっ、私飲み物もってないー!」


「未来……じゃあ、待っててやるから、
テーブルから何か飲み物持ってこい」


「はーい」


なぜか、こういう大事な時に締まらないこの雰囲気も
また愛おしくどこか懐かしく感じられてしまうのは、
きっと夏の夜のせいだろう。



「じゃあ改めて……」


「初めての定期公演の成功と、未来の誕生日を祝って!」


「「「「かんぱーい!!」」」」




38 : ◆Zg71aiNoxo :2019/05/23(木) 23:14:51.05 ID:mKt9f9jP0




「未来、ちょっといいか?」


パーティーが盛り上がっている中、
私はとある理由で未来を部屋の外に呼んだ。


「どうしたんですか?」


「まあ、そんな大した用事ではないんだけど、
未来に渡したいものがあってな……」


私は、ポケットからそっと包装紙に包まれたプレゼントを取り出し、
未来の手に添えるように置いた。


「……あの、これって……」


「未来は、今回の定期公演を成功に導いてくれた立役者だからな、
それの感謝の意味も込めて、誕生日プレゼントとして、
未来のために選んだんだ」


出来るだけ平静を装ってはいたが、実際のところ、
心臓の鼓動が未来にも聞こえてしまうんじゃないかと思うほどに
緊張していたし、おそらく耳の先ぐらいは赤く染まっていたに違いない。


「……開けてみても、いいですか?」


「……ああ」


「これは……髪留め、ですよね?」


「そうだな。未来に似合うようなものを選んだつもりなんだけど……どうだ?」


「すっごく嬉しいです! 
ピンク色の髪留めって私好きですし、この先っぽにある花のデザインも可愛くて、
私とっても大好きです!」


そう言いながら、未来は嬉しそうに髪留めをつけた。
未来の溢れんばかりの笑顔と、それに添えられた髪留めが
未来自身の輝きをこの上なく表現している、
そんな気がしてならなかった。



「早速、みんなに見せてこよーっと!」


未来はスキップを交えたような足取りで部屋の中に戻っていった。
その背中と、昨日のステージに向かう未来の背中が重なって見えたとき、
これまで私の頭の中を巡っていた直感のようなものが、
ある種の像を帯びて、ストンと腑に落ちていくような感覚があった。




39 : ◆Zg71aiNoxo :2019/05/23(木) 23:17:22.03 ID:mKt9f9jP0



地上に出ると、潮風が肌を突き刺してきた。
夏という季節と潮風との親和性が高いというのは
多くの人が感じていることだろうが、私もその例外ではない。
朝、窓から差し込む陽の光を恨み、
あり合わせのもので作った朝食を「そんなに美味しくもない」と
批評的な面を浮かべて食べていた自分とはまるで別人のように、
潮風に当てられた私の心は清々しさで満ちていて、
今すぐにでも走り出したい気分だった。
とはいえ、この炎天下の中を走ったりするようなことはせず、
汗を拭いながら劇場へと歩き始めた。




劇場までの道の途中には、この間
静香からお勧めしてもらったうどん屋がある。
静香が言うことには、「ここのうどんは出汁が生きている」らしいので、
今日の昼食場所の候補として頭の中にメモしておいた。



劇場は、初めて自分が訪れたあの春に比べて、
ずいぶんと活気が溢れてきた。
定期公演以外にもアイドル個々人でステージをやったりするなど、
少しずつではあるが確実に、
彼女達はアイドルとしての活躍の場を広げ、
各々の目標への確かな道を踏みしめている。

これからいよいよ夏本番がやってくると同時に、
彼女達にとっても大事な時期が訪れることだろう。




劇場の前に立った私は、
始めてここに来た春の日のことを思い出していた。
この劇場の扉を初めて開いたその日から考えると、
およそ三カ月もの時をこの劇場と共に過ごしてきたことになるわけだが、
三カ月をあっという間に感じてしまうほどに、
濃密で充実した毎日を過ごしていたように思う。

そしておそらくだけど、今日からもまた忙しなく慌ただしい
日々が始まっていくであろうことが、ただ率直に楽しみだった。




これまでの日々に、そしてこれからの日々に想いを馳せて、
私は劇場の扉に手をかけた。




開かれた扉へと進んでいく身体を支えるように、
柔らかな温もりを持った風が背中を押した。




40 : ◆Zg71aiNoxo :2019/05/23(木) 23:20:06.50 ID:mKt9f9jP0

終わりです。最後までお読みいただきありがとうございました!
書いた当時は願望でしかなかったミリラジ三曲目の制作も決まり、今後もお三方の活躍が楽しみです!

依頼出してきまーす


41 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2019/05/24(金) 00:28:15.37 ID:w9UI4bI+0
成功までに未来らしさがあって好き
乙です

>>8
春日未来(14) Vo/Pr
http://i.imgur.com/LBASYmq.jpg
http://i.imgur.com/RvIBg6R.jpg

>>3
箱崎星梨花(13) Vo/An
http://i.imgur.com/5X2vmDa.jpg
http://i.imgur.com/PRKl5Cj.png

>>6
青羽美咲(20) Ex
http://i.imgur.com/N78dpoq.png

>>10
最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/VHDs2b4.png
http://i.imgur.com/roY9YXV.png

>>35
『U・N・M・E・Iライブ』
http://www.youtube.com/watch?v=tyXP1knryPQ
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