魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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179 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:25:05.91 ID:adNNrz6Bo

――――――――

武闘家「エリウス……大丈夫かしら」

重斧士「なあカナリア」

武闘家「何?」

重斧士「…………」

重斧士「やっぱなんでもねえ」

武闘家「……そう」

青い石(これはつらい)

――――――――
180 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:26:05.35 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「いてえ……いてえよ」

痛いしやけに熱い。

赤髪の精霊「ごめんなさい。もう少しの辛抱です」

彼女は俺を慰めるように頭を撫でた。涙が滲んでくる。

赤髪の精霊「……少々お待ちを」

蔦の付着根から、何かが俺の体の中に流し込まれた。
腹の痛みと圧迫感が強制的に快楽に変えられていく。

魔剣士「っ!?」

魔剣士「あっ……ぁ……」

これはこれでおかしくなりそうだ。

赤髪の精霊「耐えてくださいっ!」

少女にぎゅうっと抱き締められた。
181 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:27:54.53 ID:adNNrz6Bo

――――――――
――

武闘家「エリウス!」

色々な意味で疲れ果てた俺は、蔓に運ばれて戻ってきた。

青い石「あぁ……よかった」

魔剣士「……今日はもう寝る」

ふらふらと車の中に向かって歩いた。

武闘家「一体何があったの?」

魔剣士「……明日話す」

重斧士「おまえ、初めてカマ掘られた奴と同じ歩き方してるぞ」

魔剣士「…………」

武闘家「そ、そういう歩き方の人を見たことがあるの?」

重斧士「俺、族に入っててよ」

重斧士「男ばっかの族だったから、俺以外にもちょくちょく男に走る奴がいたんだよ」

武闘家「あらぁ〜……」

よくわからん喪失感に襲われながら座席に倒れこんだ。

植物と交われたのは嬉しい気がするが、それ以上に羞恥心が強かったし、
俺に掘られる趣味はないためなんだか屈辱だった。

本気で愛している相手に、というわけでもなかったし。
俺はこっそりシートを涙で濡らして寝た。

植物を救いうる力の種を与えてもらえたのは喜ばしいことだ。そう自分に言い聞かせた。
182 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:29:01.01 ID:adNNrz6Bo

――――――――

地質研究員「口外しません! 見逃してください!」

売人「この場を見られた以上、生きて返すわけにはいかぬわ」

売人「残念だが死んでもらおう」

兇手「待て。貴様、名はなんという」

地質研究員「ひっ……カイロス・レグホニアです」

兇手「……利用できる。生かしておけ」

兇手「ついにあの男を葬り去る好機が訪れた」

兇手「ヘリオス・レグホニア……!」


――――――――
183 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:29:49.96 ID:adNNrz6Bo
kokomade
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 23:32:42.86 ID:/OG8zjstO
非処女になっちゃった
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 20:22:25.37 ID:kFrbM/kB0
乙!
186 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 15:54:43.28 ID:6UVmOBCDo
訂正的な補足を
>>178の「精霊が強い力を持つ」というのは、争う力ではなく、
主に人との干渉能力のことです
187 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 15:55:12.57 ID:6UVmOBCDo

第七株 「あなたは難物」


とある町の本屋に立ち寄った。

魔剣士「……女向けの雑誌立ち読みしてんのか」

重斧士「女の気持ちでも勉強しようと思ってな」

重斧士「ずっと男社会にいたからよ、女がどんな生き物なのかよく知らねえんだ」

魔剣士「勉強熱心なのはいいことだと思うぞ」

重斧士「にしても、女向けの小説に登場する男って……なんつーかな」

魔剣士「綺麗すぎるってか」

重斧士「ああ」

魔剣士「まあそれが女の理想なんだろうな」

重斧士「……こういう男キャラみたいに振る舞えば女にモテるのか?」

魔剣士「無理に小綺麗に振る舞うよりはいつも通りの方がいいんじゃねえか」

魔剣士「ワイルドな男が好きな女にならおまえ受けがよさそうだし」

重斧士「お、まじか」

魔剣士「キャラ作っても不自然だったらキモいしな」
188 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 15:55:41.73 ID:6UVmOBCDo

重斧士「……しかしなあ、どうすりゃ好きな女の心を掴めるのかさっぱりだ」

魔剣士「カナリアの男の趣味は俺も知らねえけど、まあよかったな」

魔剣士「あいつが自分に好意がある男と友達付き合いできるタイプの女で」

うちの母親だったら絶対そんな大人の対応できねえ。下心を持った男はまず受け付けない。


幼い頃、俺と母さんは二人で定期的に城下町へ出かけていた。
俺の通院のためだ。

村と違い、町には知らない男が大勢いる。
母さんは子連れだったにも拘らず、しばしば男に声をかけられていた。

そんな時、母さんは具合の悪そうな表情を浮かべていた。

あんだけ綺麗なんだから言い寄られ慣れてそうなもんだが、
父さん以外の男に好意を持たれるのがマジで気持ち悪くて仕方がないんだそうだ。

そんな女に片想いをしてしまった男が不憫だ。
母さんだって、町に行かなけりゃ嫌な思いをせずに済んだってのに。
189 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:50:52.74 ID:6UVmOBCDo

病院に行ったって、時間と金を無駄にするだけだった。
いや、おかげである程度の社会性を身に着けることはできたかもしれない。
だが、息子が精神病院通いだからと、父さんが白い目で見られることだってあった。

城下町の、人気の少ない石畳の細い通り。
病院帰りに母さんはしゃがんで、8歳の俺と目の高さを合わせた。

『……エル、こっち向いて』

憐れみの瞳を向けられているのが嫌で、俺はその言葉を無視した。
もっと幼い頃のある日を境に不愛想になった俺を、母さんはひどく心配していた。

『どうして、笑ってくれなくなっちゃったの?』

道の端に咲いているヒメオドリコソウが気になって、俺は手を伸ばした。

『エル!』

その手を母さんが掴んだ。

『雑草は食べ物じゃないんだよ』

どうして放っておいてくれないんだ。俺が何やったって俺の自由じゃないか。
大体、食べられる野草を摘んでる人なら普通にいるじゃないか。何が違うっていうんだ。

ヒメオドリコソウの花の蜜を吸う子供だって珍しくもなんともない。
……と、当時とても不満に思ったことを憶えている。

『植物ばかりじゃなくて、他のことにも興味持ってみよ? ね?』

俺は母さんの説教臭さに辟易していた。
190 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:51:44.78 ID:6UVmOBCDo

『全然言うことを聞いてくれないの。相変わらず目も合わせてくれない』

『イヤイヤ期が長引いているだけだろう。深く気にすることはないよ』

父さんは楽観的だった。

『でも……』

『あんまり構い過ぎても逆効果だろうし』

『ん……』

母さんは不安そうに父さんに甘えた。まるで子供だ。

『このままじゃ、あの子……社会に融け込めなくなっちゃう』

当時の俺は、植物ばかりに依存して、あまり人と関わろうとしていなかった。
何度も飛び級していたから、長期間共に過ごす友人もいなかったんだ。

『賢い子なんだ。大人になるまでには人との付き合い方を覚えるだろう』



ある日のことだ。九歳の頃だっただろうか。
こっそりトリカブトを食べているところを母さんに見つけられてしまった。

母さんは悲鳴を上げて卒倒した。
俺の魔力の特性のことは知っているってのに、余程心臓に悪い絵面だったらしい。
191 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:53:06.98 ID:6UVmOBCDo
ルツィーレを抱いたアウロラとアルバが、病室で寝かされている母さんを心配そうに覗きこんでいた。

『大げさだっつうの』

俺が小さく悪態をつくと、アウロラはキッと俺を睨んだ。
アルバは『母さんをいじめるな!』と言ってポカポカ叩いてきた。
まだ一歳だったルツィーレも、状況はよくわかっていないようだがつられて俺を殴った。

『アルカさん!』

父さんが仕事を抜け出して駆け付けた。

『あなた……あの子、トリカブト食べてた……トリカブト……』

父さんの顔を見ると、母さんは泣き出した。
いくら毒草を食おうが俺は平気だってのに、どうしてそう嘆くのか理解できなかった。

『ふう…………まあ、意識が戻ってよかった』

安堵した父さんに向かって医者が口を開いた。

『ご懐妊なさっているようですので、あまり心身共に負担をおかけになりませんよう』

『なんと』
192 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:53:57.12 ID:6UVmOBCDo

その日の夜。

『なあ、ちょっとドライブに付き合ってくれないか』

父さんに連れ出された。普段は日が沈んでから出かけることなんてまずない。
俺と二人で話をするための外出なのだとすぐにわかった。
流石に俺を放っておけなくなったのだろう。


『ほら、見てみろ。今夜は星が一段と綺麗だぞ』

父さんは当たり障りのない内容から会話を始めた。
夜の涼しい風が音を立てていた。

『若い頃、母さんはよく夜空を眺めてたっけなあ』

『母さんまた妊娠したの?』

『あのなあ』

めんどくさそうな俺の口調に、父さんは呆れたようだった。
193 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:54:37.99 ID:6UVmOBCDo

『過保護なのどうにかなんないの。俺、自由に草食べたいのに、わざわざ探しに来たりしてさ』

俺は不満を漏らした。

『……おまえを見た誰かが、おまえの真似をして腹を壊すかもしれないだろ』

事故の原因になる可能性は否定できなかった。
でも、毒性の強い草だけは人目を避けて食べるようにしていたし、
人前でどうしても我慢できない時は真似しないよう言うようにだってしていた。

父さんはあくまで優しく俺を諭した。

『それに、おまえはまだ子供だ。ある時いきなり魔力の働きが弱まるかもしれない』

眩しいほどの月明かりが草原を照らしていた。車のライトが要らないくらいだった。

『母さんはそれが一番怖いんだ』

『……でも、いちいち鬱陶しい』

父さんは車を停めると、少しシートを倒して星空を見上げた。

『母さんはな、子供の頃に家族を殺されてるんだ。だから、喪った時の悲しさをよく知ってる』

『…………』

『おまえが可愛くて可愛くて仕方ないんだ。どうか、優しくしてあげてくれないかな』

不憫な境遇だとは思うが、だからといって我慢しきれる自信なんてなかった。

『おまえの人生はおまえのものだ。父さんは、できるだけおまえに自由に生きてほしいと思ってる。
 でも、人を傷付けるようなことはしちゃいけない』

母さんが極端に過保護なだけだ。そう思った俺は返事をしなかった。
194 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:55:59.99 ID:6UVmOBCDo

父さんは深く息をつくと、上体を起こして苦笑いした。

『……頼むから、俺の大事な嫁さんを泣かせないでくれ』

突然父親の『男』の面を見せられて驚いたが、
俺を『息子』ではなく『一人の人間』として見てもらえたような気がして嬉しかった。

それ以来、以前よりは母さんにきつく当たらないようにしたし、
母さんが嘆きそうなことをする際は絶対に見つからないようにした。

旅立ちを決意するまでではあるが。
いい加減子離れしろよ……。

村を出る時は大変だったな。
父さんが母さんを抑えてくれている内に車に乗り込んだんだ。




他の二人よりも先に本屋を出た。しとしとと雨が降っている。

女性と少年が仲良く一本の傘の下に入っている。親子だろう。顔と魔力が似ている。
よくあんなに母親とくっついて町中を歩けるな。俺には真似できない。
195 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:56:28.67 ID:6UVmOBCDo

武闘家「あら、降ってきちゃったのね。今日はもう宿に行く?」

重斧士「そうしてえな。勉強進めてえし」

この頃、カナリアとガウェインは一緒にパソコンを覗くことが多くなった。
義務教育の内容をわかりやすくまとめたサイトを見つけたらしい。

カナリアは「護衛のお礼に」と言って奴に勉強を教えている。
思わせぶりな態度はせず、しっかり牽制しながらだ。器用だな。

重斧士「x=4か?」

武闘家「その通りよ。覚えるの早いわね」

魔剣士「なあ、次に立ち寄る町で多分育毛剤の材料揃うんだけどよ」

魔剣士「おまえどうすんの? 故郷に帰るのか」

重斧士「あ? ああ、おまえらについていくつもりだ」

重斧士「よく考えたら、俺から薬を渡されても親父は喜ばねえだろうし」

重斧士「妹宛てに手紙と一緒に送って手渡してもらうつもりだ」

魔剣士「そうか」
196 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:57:20.70 ID:6UVmOBCDo

武闘家「お父さんと仲悪いの?」

重斧士「親父に教わった剣術を喧嘩に使っちまったことがあってなあ」

重斧士「それ以来剣を持つことは禁じられてるし、仲が良いとは言えねえな」

重斧士「多分お互い嫌い合ってるわけじゃねえんだが」

重斧士「おまえはどうなんだ? 親父さんと」

武闘家「え? う〜ん……昔は、仲良かったんだけど……」

重斧士「は、話しづれぇならいいんだ。すまなかった」

重斧士「おいエリウス、おまえはどうだ」

魔剣士「父さんは好きだよ。基本的にほっといてくれてたし」

ばあちゃんがよく「子供なんてほっときゃ育つのよぉ」と言っていたのを思い出す。
父さんはかなり自由に育てられたらしい。

金には不自由したそうだが、
魔物が跋扈する時代に一人旅を許してもらえたくらいなんだから相当だ。

だが決して愛がなかったわけではないそうだ。
だから俺達兄弟に対しても放任主義だ。
197 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 17:58:09.42 ID:6UVmOBCDo

魔剣士「……小雨になってきたな。散歩してくる」

武闘家「皆で行こ?」

魔剣士「一人でぶらつかせてくれ」

魔剣士「オディウム教徒の連中なら大丈夫だ」

魔剣士「何度か遭遇してる内に、あいつら独特の気配を覚えた」

魔剣士「近くにいればわかるし、植物伝いに気配を察知する範囲を広げることもできる」

武闘家「……危なくなったらすぐ逃げてね」

俺が頑固な人間だというのがよくわかったのだろう。
そう強くは引き止められなかった。

魔剣士「ああ」

あいつらが何故英雄の子供を狙っているのかはいまだに謎だ。
襲ってきた連中に吐かせようとしても、そもそも下っ端には詳しい情報を与えられていないらしい。
198 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:00:33.53 ID:6UVmOBCDo

雨が上がった。露に濡れた草木が美しい。
町の郊外の森林に向かった。

最近、この辺りは木の伐採量が増加しているそうだ。
精霊達の様子を窺う必要がある。

この森に住む精霊が人と意思を疎通する能力を持っていない場合、
人を攻撃することでしか自衛することができないかもしれない。

大昔には可視化能力と発声能力を持った精霊が大勢いた時代もあったそうだが、
なんか知らんが今ではめっきり減ってしまった。

草木を物理的に操って人を攻撃する力を持つ精霊はちょくちょくいるため奇妙に思えるが、
攻撃能力と可視化・発声能力とでは使う力の種類が違うらしい。

過度に自然が破壊されると、普段は休眠している大地の上級精霊が目覚めて戦争に発展する。

黒檀精霊「あら、あなた……あたしの存在がわかるの?」

物理的に見えてはいないが、そこにいることはわかった。

俺は樹木の精霊に対してだけは干渉する能力が高いため、
常人であれば干渉できないレベルの精霊ともある程度意思の疎通を図ることができる。
199 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:01:58.73 ID:6UVmOBCDo

魔剣士「……間伐にしては伐られすぎてんな」

黒檀精霊「ほんと困ってるのよ」

黒檀精霊「遠くから木を輸入するための魔力が足りなくなったからって、」

黒檀精霊「このままじゃ全滅させられちゃうわ」

黒檀精霊「そろそろ攻撃する準備をしなきゃって思ってたの」

魔剣士「……町長や領主に電話でも入れるか」

魔剣士「植物学者が進言すりゃあ少しは改善されるかもしれねえし」

黒檀精霊「あなた、随分おいしそうな魔力を持ってるわね」

黒檀精霊「……ああ、あなたがエリウスね。お腹に結晶が埋まってる」

黒檀精霊「まだ融合し始めたばかりだけど……やってみる価値はあるかもしれないわ」

左右から木の枝が伸び、俺の両腕を捕らえた。

魔剣士「何する気だよ」

黒檀精霊「あなたの魔力、ちょうだい」
200 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:02:41.73 ID:6UVmOBCDo

黒檀精霊「すごいすごい! あなたに触れただけで可視化できちゃった!」

黒檀精霊「見えてるでしょ? あ、物理的に触れてる!」

周囲に隠れていた小さな精霊達も集まってきた。

魔剣士「おい、何で……俺の服剥いでんだよ……?」

黒檀精霊「この力は一時的な物」

黒檀精霊「長期間保つにはあなたの魔力をもっと食べなきゃいけないの」

黒檀精霊「だから……もっと結晶との融合を促さないと」

魔剣士「ちょっと待ってくれ!」

黒檀精霊「私達、この森を守るために必死なの。わかるでしょ」

黒檀精霊「あなたが逆らったら……木々を操って人を殺しちゃうかも」

ふざけんな。

黒檀精霊「動物の魔力の波動が最も高まる瞬間……その瞬間の光が欲しいわ」

黒檀精霊「知ってる? 動物って、交尾を終える瞬間に最も強い波動を放つのよ」
201 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:07:47.31 ID:6UVmOBCDo

魔剣士「……人間との干渉能力を得たら、ぜってえ人を襲わねえだろうな」

黒檀精霊「交渉の結果にもよるけど……せっかく力を分けてもらうんだし、」

黒檀精霊「命だけは奪わないって約束するわ」

黒檀精霊「あなたのおかげで自衛能力も高まりそうだし」

俺は体の力を抜いた。少女の形をした小さな精霊達が俺の体に吸い付いてくる。

黒檀精霊「ちょっと痛いでしょうけど、ごめんなさいね」

少し太い黒檀の枝が向かってきた。正直怖ぇよ。

魔剣士「俺に、尻犯される趣味なんてっ……ねえんだけどなっ……」

魔剣士「づっ……」

これじゃまるで強姦じゃねえか。
この辺りは性犯罪防止結界の範囲内だが、結界の効力は人間同士の行為にしか適用されない。
昔大学の女の先輩に襲われた時は、結界が作動して助かったっけな。

黒檀精霊「ふうん……これが人間のおしべね」

黒檀精霊「動物ってこうされるのが大好きなんでしょ?」

黒檀の精霊は、白い手で俺の愚息を擦り始めた。

気の強い女は好みじゃない。
こっちが喜ぶと思い込んでエロいことをしてくるようなタイプの女も俺は大嫌いだ。

この状況はかなり屈辱的である。植物なら誰だっていいわけじゃないんだ。
しかし、神経を刺激されたら多少なりとも感じてしまう。ちくしょう。

黒檀精霊「あら、他の子が媚薬成分作ってくれたみたい。すぐ気持ちよくなれるわ」
202 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:08:57.21 ID:6UVmOBCDo

黒檀精霊「……あたしの体に、人間のメスの生殖器を再現してみようかしら」

黒檀精霊「人間みたいに交わるのも、もしかしたら楽しいかも」

魔剣士「それは勘弁してくれっ……脱童したらそれこそ母さんに殺されちまうっ……」

黒檀精霊「え……? あなた、お母さんとどういう……まあいいわ」

魔剣士「っ……大腸より奥には行かないでくれ」

黒檀精霊「そのお願いは聞けないわね。もっと奥の方に結晶が入っちゃってるもの」

魔剣士「あ゛っ……い゛っづ…………」

魔剣士「……バンヤンの森の精霊はもっと上手かったぜ」

黒檀精霊「これね、力の結晶。刺激して融かしてあげる」

美少女に腹のとんでもなく奥の方を抉られながら竿を握られている。
ついでに他の小さな精霊達にも口や乳首を吸われている。
一体何のために存在しているのかいまいちよくわからない俺の乳首が……くすぐってえな。

黒檀精霊「すごいすごい! ヤればヤるほど力が漲ってくるわ!」

腹の痛みが媚薬成分のせいで快楽に変わり、
愚息もだいぶ気持ちよくなってきたが全く嬉しくない。
203 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:10:05.29 ID:6UVmOBCDo

黒檀精霊「あっ……これが、人間の……花粉なのね……ドロドロしてる……」

悔しいが精霊の手の平に射精してしまった。
彼女はもう片方の手で興味深そうに俺の精液をかき回している。

黒檀精霊「すごい……すごいの……当分普通の人間とも話ができるわ……」

そして、嬉しそうに俺の精液を舐めた。
強い主体性を持たない植物の精霊まで寄ってきた。

人間にある程度好きに利用されてもいいよう、植物の多くには微弱な自我しか宿らないようにできている。
創造神がそういう風に創ったらしい。

そのため、主体性のある意識を持っている精霊の数は限られている。

だが、どれほど微弱でも「生きたい」という本能はあるし、
生命を蔑ろにするようなことをすれば、当然同族の強い精霊の怒りを買う。

だから、恵みを頂いた際には謝罪と感謝が必要不可欠なんだ。
204 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:10:44.49 ID:6UVmOBCDo

黒檀精霊「ねえ、もう一回出せる? 出せるよね?」

黒檀の精霊は再び俺の愚息を扱き始めた。せめてもっと優しくしてくれ。
ああちくしょう苦しいな。

でも、俺だって……草花には僅かにしか自我が宿っていないことをいいことに、
好き勝手に性欲をぶつけてきたじゃないか。毟っては食ったじゃないか。

これってその報いなのかな。

腹の奥が熱い。生命の結晶が俺の魔力を侵食している。

そういやモルは……寝ているようだ。よし、そのまま寝てろ。
こんなところを人に見られたら死ねる。

黒檀精霊「あら……他人の魂がそこに宿っているのね。融合の邪魔だわ」

黒檀精霊「まあ眠っているなら問題ないかしらね」

この頃よく喋っていたし、俺に剣を教えているのもあってだいぶ力を使っていたんだ。
疲れが溜まっていたのだろう。
205 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:12:04.59 ID:6UVmOBCDo

魔剣士「やめろ! それ以上吸うな! 死ぬ! 死ぬ!」

ごっそり腹の中から魔力を吸われ、心臓に痛みが走った。魂に負担がかかっている。

黒檀精霊「もうちょっとだけ、お願ぁい」

魔剣士「無理だ! 無理! 無理!! 死んじまう!!!! あ゛っ……!」

二度目の絶頂を迎え、俺は漸く解放された。

黒檀精霊「あっは……ありがと」

体が重い。

俺って、好みじゃない女に犯されて興奮するようなドMだったっけ。
いいや、これは媚薬のせいだ。

植物由来の成分なら口から食べなくても体内に入りさえすれば操れるんだが、
こいつらの自我が強くて自由が利かなかった。

あー、悔しいな。でもこれで殺し合いには発展しなくなるんだよな。

黒檀精霊「お礼に、この森の花の蜜をプレゼントしてあげるわ」

黒檀精霊「その内また来てちょうだい」

俺、もしかして、行く先々でこんな目に遭うなんてことないよな……?
206 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:13:27.27 ID:6UVmOBCDo

武闘家「エリウス、遅かったじゃない。大丈夫……だった……?」

重斧士「その瓶詰め、蜂蜜か?」

魔剣士「……風呂入ってくる」

武闘家「泥だらけじゃない。どうしたの?」

魔剣士「うっせ」

武闘家「どうしたのって聞いてるのよ!」

魔剣士「ほっといてくれ!!」

人と話したくねえ。

武闘家「エリウス……」

魔剣士「……ははっ。昔父さんが言ってたんだけどさ、」

魔剣士「おまえ、女装したアキレスさんにそっくりらしいじゃん」

魔剣士「んで、ガウェインって自称ゲイなのにおまえに惚れてるわけじゃん」

魔剣士「おまえって実は男なんじゃねえの」

武闘家「なっ……」

武闘家「なんてこと言うのよ!!」

重斧士「おいエリウス」

魔剣士「ははははは」
207 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:14:22.46 ID:6UVmOBCDo

武闘家「なんなのよ……突然……」

武闘家「う……心配……しただけ……じゃない……」

泣き出したカナリアに背を向けて浴場に向かった。


……何やってんだろうな、俺。

我侭言って一人で出かけて犯されて、仲間に八つ当たりして。

馬鹿じゃねえの。

あいつらと顔合わせるのがこええや。気まずくなったら面倒だな。
……おかしいな。普段の俺ならもっと冷静なはずだ。

他人とトラブっても、大して気にしたことはなかった。
気が重て仕方がない。
208 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:15:00.33 ID:6UVmOBCDo

浴場を出た。外は再び雨が降り出していた。

ザーザーと激しい音を立てている。

時折稲光が廊下を照らしては雷鳴を轟かせた。

一歩一歩踏み出す度に緊張が胸を襲ってくる。


部屋の扉の前まで来てしまった。
どうにかドアノブを握り、扉を開けた俺を待ち受けていた光景は……。
209 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/10(日) 18:15:27.89 ID:6UVmOBCDo
kokomade
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/10(日) 22:52:34.93 ID:vn924Myto
エリウスが今迄の他者への認識というか価値観を変える岐路になるのかなこれ
てかこの調子だと開発されそうで心配だ
乙です
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/11(月) 01:45:08.73 ID:0unzgxLh0
乙!
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 00:28:43.47 ID:2z3dGvp1o
世界中を回って融合するのかな
サボテンに期待
213 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:20:56.04 ID:Zp9U63GDo

第八株 雪の珠


武闘家「長風呂だったじゃない。ご飯できたわよ」

重斧士「タイミングよかったじゃねえか」

魔剣士「……!?」

こいつらのいつも通りの態度に、俺は呆気にとられてしまった。

武闘家「ほら座って。よそってあげるから」

魔剣士「…………」

魔剣士「カナリア、さっきは……」

武闘家「はい、どうぞ」

魔剣士「あ、ああ……」

重斧士「おまえが持ってきた蜂蜜使っていいか?」

魔剣士「構わねえけど……」
214 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:21:30.41 ID:Zp9U63GDo

魔剣士「なあ」

武闘家「おいしい?」

魔剣士「…………」

武闘家「口に合わなかったかしら」

魔剣士「いいや、旨いけど……」

素直に謝るつもりだったのに、調子が狂ってしまった。

魔剣士「…………」

出されたスープは出汁が効いていて深みがある。具の煮込み具合も丁度良い。
だが、その味を楽しめるほど心に余裕がなかった。

重斧士「腕上がったよな」

武闘家「あら、ありがと」

魔剣士「……カナリア」

武闘家「何?」

魔剣士「すまなかった」

武闘家「いいわよ別に。あたしもしつこかったでしょうし」
215 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:21:57.99 ID:Zp9U63GDo

魔剣士「…………」

武闘家「よっぽど言い出しづらい嫌なことがあったんでしょ」

武闘家「あたしは気にしてないから」

魔剣士「でもよ」

武闘家「本心から馬鹿にしたわけじゃないでしょ? なら気にする必要なんてない」

武闘家「……ってガウィが言ってくれたのよ」

重斧士「それはバラさなくていいぞ」

武闘家「ほら、食べて食べて! 冷めちゃうでしょ!」

魔剣士「…………」

重斧士「この蜂蜜うめえな」

俺のプライドや魔力と引き換えに手に入れた物だけどな。
おかげで矜持がズタボロだ。

重斧士「ほら、一口舐めてみろよ」

武闘家「あらほんと。こんなにおいしい蜂蜜を食べるのは初めてよ」

魔剣士「……そんなにうめえの?」
216 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:22:26.17 ID:Zp9U63GDo

一掬いパンにかけてかじってみた。
ねっとりとした、だが決してしつこくはないまろやかな甘味が口内に広がった。

涙が滲む。

重斧士「なんて花の蜜なんだ?」

魔剣士「……いろんな花のが混じってる」

魔力の消耗で重くなった体が少しだけ癒された。

重斧士「そうか」

ガウェインに礼でも言いたかったが、
これ以上あの話題を続けるのもよくないような気がして言い出せなかった。



明かりを消し、床に入った。
布団は気持ち良いが、静かになると嫌でも今日の出来事を強く意識してしまう。
217 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:23:13.53 ID:Zp9U63GDo

あの精霊、俺を好き勝手に犯して楽しんでいやがった。
ニヤニヤとした笑顔が瞼の裏から離れなくて憎たらしい。

魔剣士「あ゛っ……ちくしょ……」

死ぬほど疲れてるのにイライラして眠れねえ。

重斧士「おいどうした」

魔剣士「……なんでもねえ」

重斧士「…………」

重斧士「なんかおもしれえ話でもしてから寝るか」

武闘家「あ、それいいわね。修学旅行みたい」


――
――――――――

……仲間とはぐれた。こんなだだっ広い森に俺一人だ。
突如木々の合間から蔓が伸びてきて、俺は茂みに引きずり込まれた。

『みーつけた!』

現れたのは緑髪の精霊達だ。本体は雌雄同株のようだが、少女の形をしている。
218 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:24:33.64 ID:Zp9U63GDo

『ねえ、私達に……あなたのチカラ、ちょーだい』

彼女達は白い羽衣をめくり、脚を露わにした。

「な……」

そこには……大きなめしべがぶら下がっていた。

『うふふ……驚いちゃった? 可愛いなぁ』

精霊の一人が俺の頬に手を添えた。

『綺麗な青い瞳……』

彼女は俺の目を見つめると、徐に顔を近付け、深く口付けをした。
逆らえずなされるがままになっている内に、他の精霊が俺の上着を開けた。

さらさらと優しく肌を撫でられる。くすぐったい。
あまり見ないでくれ。他人に自信を持って見せられるような立派な体じゃないんだ。

ああでも、この頃は少しずつ筋肉が増えてきている気がする。


二人の精霊に、撫でられては肌を吸われ、口を吸われ、首筋を舐められ……そうされていると、
三人目の精霊が俺のズボンを下ろし、下着の上から陰茎に手を当てた。

『硬くなってるね……嬉しそうにビクビクしてる』
219 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:26:03.75 ID:Zp9U63GDo

妙に頭がぼうっとする。
女から責められる趣味はないはずなのだが、どうしてこれほど気分がいいのだろう。

本当に奇妙だ。あまり腹立たしくない。
まあ、この子達はみんな、容姿に関しては俺好みだしな……。声も甘くて可愛い。

プライド……? なんだったかな、それ。



下着もずらされた。愚息は勢いよく天を向いている。

『ここから、出てくるんだね……おいしい魔力の波動を持った、あなたの花粉が』

彼女はひんやりとした手で扱き始めた。

『動物の体温……あっつくて……ドキドキしちゃう』

二人目の精霊に耳を吸われた。
ああ、もう……蕩けてしまう。

『いっぱい……受粉、させて』

三人目の精霊は俺の愚息を扱く手を一旦止めると、めしべと裏筋を重ねて擦り合わせた。

『どう?』

……すっげーいい。
220 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:27:40.37 ID:Zp9U63GDo

雄を求め、彼女のめしべはぬるぬると柱頭を濡らしていた。

『いっぱい出せるよう、お手伝いさせてね』

最初に俺に口付けた子が、俺の耳元で囁いた。
後ろから体を抱えられた。

彼女の柱頭が穴に押し付けられる。
これから行われることを理解し、俺は怖気づいてしまった。

『大丈夫、ただ気持ち良くなるだけだから』

俺の後ろの穴は、柱頭分泌液で濡れた彼女のめしべをゆっくりと受け入れていった。
圧迫感に襲われる。

細胞壁に支えられているだけあってかなり硬い。だが、不思議と痛くはなかった。
『すごい……あなたの奥、きゅんきゅん締め付けてくる……』

じわじわと押し寄せてくる快楽に声が漏れそうだ。
愚息は相変わらずめしべと一緒に刺激され続けている。

穴には入れていないが、相手の女性器と擦り合わされていることには変わりない。
脱童したことにはなっちゃうのかな。



二人目の精霊が俺の体を愛撫する手を止めた。

『あなたの粘膜……すごいの。触れると、あなたの魔力が流れ込んでくる』

そう言うと、彼女はめしべを俺の上の口に宛てがった。
俺はそれを悦んで舐めた。甘い蜜の香りがする。
221 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:29:05.21 ID:Zp9U63GDo

喉の奥を突かれても、苦しさよりも悦びが勝った。
木々の合間から精霊達がぞろぞろと集まってきた。

『イキそう? イッて! いっぱいかけてぇ!』

大勢に見られながら俺は絶頂に達した。
めしべに白濁とした精液が付着し、淫らに垂れている。
……受粉したって、受精できるわけじゃない。俺はその事実に虚しさを覚えた。


無気力に辺りを見回した。
これだけ大勢の精霊の相手なんてできるだろうか。気が遠くなった。

ああ、でも、ある意味天国かもしれない……子供を残せなくとも、
俺の魔力は彼女達という生命に吸収され、生きるのだから……。




魔剣士「ふおっ!?」

魔剣士「はあっ、はあっ……」

なんだ夢か。そりゃそうだ。内容があまりにも滅茶苦茶だった。
犯されるなんてもう勘弁だ。俺は今自尊心を再構築しようと必死なんだ。

いやしかし、好みの子にだったら……アリかもしれな……う〜ん。

本当に俺好みの花だったらまず自分からエロいことはしない。
俺から頼んでしてもらうのならいいけど。
222 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:29:59.15 ID:Zp9U63GDo

雨はもうすっかり上がっていて、外から小鳥のさえずりが聞こえた。いい朝日だ。
俺は股間の様子を確認した。

よかった。朝勃ちはしているものの夢精はしていない。

重斧士「ん? すごい汗だぞ」

魔剣士「……おまえが昨晩変なことを言ったせいで妙な夢を見たんだよ」

――――――――

重斧士『なあ、この頃理科の勉強してて思ったんだけどよ』

重斧士『めしべとチンコって形似てねえか』

魔剣士『種類に因るがわからなくもない』

武闘家『……そういう話題はあたしがいないところで話してくれないかしら』

重斧士『わりいわりい』

――――――――

魔剣士「喉乾いたな……水……」

寝台から降りると、足元がふらついた。頭も痛い。
223 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:30:43.70 ID:Zp9U63GDo

武闘家「ふぁ〜おはよ……って、大丈夫?」

魔剣士「……風邪引いたっぽい」

武闘家「せっかく蜂蜜があるんだから、温かい蜂蜜牛乳でも用意するわ」

魔剣士「加熱したらビタミンが壊れる……蜂蜜大根がいい」

武闘家「わかったわ」

武闘家「……昨日何があったかは知らないけど、」

武闘家「一晩寝て魔力がこんなに回復しないなんてよっぽどよ」

武闘家「他に何か食べたい物とかある?」

魔剣士「……フキノトウのスープ」

魔剣士「冷凍保存してるやつがまだ残ってるんだが、そろそろ食べきらなきゃ味が落ちる」

武闘家「じゃあ作ってくるわ」

武闘家「……ゆっくり休んでてね」
224 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:31:56.88 ID:Zp9U63GDo

午前中寝たらだいぶ体調が回復したため、町を出発した。

車にはカナリアが魔力を補充してくれた。ありがたい。

武闘家「暇だわー……」

魔剣士「尿検査に引っかかった時の話でもしようか」

武闘家「ちょ」

重斧士「え、おまえ引っかかったことあんのか」

重斧士「実は俺もなんだ」

武闘家「もう嫌……」



盗賊「見つけたぞ! 親父の息子の仇の弟子の息子ー!」

魔剣士「は?」
225 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:32:27.42 ID:Zp9U63GDo

俺が剣を抜き切る前にカナリアが男をボコッた。

重斧士「なんだこいつ」

魔剣士「俺の父さんが勇者ナハトの弟子だったから息子の俺を狙ったんだろ」

盗賊「ちくしょう……ちくしょう!」

盗賊「ごめん親父……息子の仇……取れなかったよ……」

重斧士「……股間の息子のことか?」

魔剣士「まあそうだろうな」

盗賊「……てめえ、平和に暮らせるなんて思うなよ」

盗賊「貴様に復讐の矛先を向けている奴は大勢いるんだからな!」

うっせ。

盗賊「ヘリオスの息子であり、勇者ナハトと瓜二つの貴様に安息の日々は」

重斧士「黙ってろ」

重斧士「そういや、なんでおまえって勇者ナハトとそっくりなんだ?」

魔剣士「まあ血縁者だしな」
226 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:33:38.54 ID:Zp9U63GDo

すぐそこの町まで男を引きずって憲兵に突き出した。
国境近くのクレイの町だ。

重斧士「なんかこの町……雰囲気が殺伐としてんな」

武闘家「警備兵だらけね……」

魔剣士「あっちの方に山あんだろ」

魔剣士「あそこにオディウム教徒が立て籠もってるらしい」

盗賊を引き渡した時に憲兵から気をつけるように言われた。

武闘家「あら、物騒ね」

魔剣士「人質がいるから下手に突撃するのも困難だそうだ」

武闘家「立て籠もっている理由はなんなの?」

魔剣士「ネットで調べてみるか」

魔剣士「『ヘリオス・レグホニアを呼ぶよう要求している』だそうだ」

魔剣士「邪魔者を自分達にとって有利な場所におびき寄せて始末しようとしてるんだろ」

武闘家「おじさんピンチじゃない」

魔剣士「あっほんとだ」
227 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:35:48.08 ID:Zp9U63GDo

兵士達がバタバタしている。

「レグホニア大佐はまだ来ないのか!」

「他の仕事を片づけるのに手間取った上に車が故障したらしい」

父さんの車、だいぶボロだもんな……。
愛着があってなかなか買い換えられないでいるらしい。

魔剣士「お、あったあった。この木だよ」

魔剣士「月桂樹。原産地は他の大陸なんだが、この町にはたくさんあるって聞いてたんだ」

たくさんの花を咲かせている。雄株の花は黄色で雌株は白だ。

魔剣士「乾燥させたものだったらわりとどこでも入手できたんだが、生の葉が欲しくてな」

今までに集めた育毛剤の材料は冷凍保存してある。

街路樹の葉を勝手にちぎるのはまずいだろうから、
空き地に自生している株から葉を頂いた。

魔剣士「……感謝の気持ちを忘れんなよ。体をもらってんだから」

重斧士「ああ」

ふと辺りを見上げると、月桂樹の枝に腰をかけている少女の姿が一瞬見えたような気がした。
見間違いだろうか。
228 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:37:47.96 ID:Zp9U63GDo

「ねえ、あれエリウス・レグホニアじゃない?」

「キャーほんと! 確か、お尻だけお父さんそっくりっていう」

目尻の間違いだろ……。
ヒョロガリの俺の尻とガチムチマッチョの父さんのとじゃあ似ても似つかねえよ。


宿に着いた。

重斧士「明日は朝一でこの町を出た方がいいだろうな」

でも父さんが心配だな……。

魔剣士「機材がないから汚い作り方になるんだけどいいか」

重斧士「構わねえよ」

月桂樹の葉と解凍した他の材料を食い、俺の魔力に溶かして合成した。
そして、小瓶の中にそれを注ぎ込んで実体化させる。

魔剣士「んで、俺の魔力を抜けば完成……っと」

重斧士「おお」

武闘家「……こんなことができる魔術師、滅多にいないわ」

魔剣士「植物が原料の薬なら俺の魔力だけで作れるんだ」

魔剣士「藻類も操れる。菌類はモノによるな。動物や石は流石に無理だ」

食えば大体の薬効がわかるし、どう加工すればいいのかも大体見当がつくため、
この体質のおかげでとんでもなく多くの薬を開発できた。

重斧士「ありがとな」

魔剣士「ああ」
229 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:38:51.47 ID:Zp9U63GDo

――――――――
――

二人はもう眠りについたが、俺はなかなか寝付けなかった。
午前中ずっと寝ていたせいだろう。

魔力が回復しきっていないから、できるだけ休みたいのだが……。
安眠効果でもある草でも食べようと思ったところで、微かに外から歌声が聞こえた。

窓を覗くと、白い布を纏った少女が光の珠と戯れながら歌っていた。
その少女は淡く光を放っていて、夜闇の中でもはっきりとその姿を確認することができた。

俺は無性にその子と話をしてみたくなった。
……感覚を研ぎ澄ました。近くにオディウム教徒の気配はない。

俺は外に出た。


涼しい夜の空気が喉を通る。

白緑の少女「……私の声が聞こえるのですか?」

雌雄異株の木の精霊のようだが、
近くに彼女と同じ波動を放つ……つまり、本体だと思われる木は生えていない。

大抵は精霊を見れば本体がどのような植物なのか見当がつく。
しかし、彼女を見ても何の精霊なのかわからなかった。俺が知らない種だ。
230 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:40:13.79 ID:Zp9U63GDo

白い髪にはところどころ浅緑が入っている。

また、髪や服のあちらこちらに花や葉の飾りが生えていて、
確かに実際には見たことのない形なのだが、どこか見覚えがあるような気がした。

魔剣士「ああ。……君の、透き通るような綺麗な歌声が聞こえたんだ」

白緑の少女「……不思議な人」

彼女の柔らかな白さに、俺は見入ってしまった。

魔剣士「君は、一体……」

白緑の少女「私は……時代に置いていかれた、古い精霊です」

白緑の少女「あまりにも寂しくて、近い種の精霊に会いに来てしまいました」

植物の精霊は、余程力が強くない限り本体からそう遠く離れることはできない。
彼女は相当長く生き、大きな力を身に着けたのだろう。

白緑の少女「これは……」

小さな精霊が彼女の耳元で囁いた。俺のことを教えたようだ。

白緑の少女「……なんということでしょう」

白緑の少女「急激に異種の生命の結晶を溶かしたら、命に係わるというのに」

彼女の手が優しく俺の腹に添えられた。
231 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:41:54.65 ID:Zp9U63GDo

白緑の少女「本来、これは人に植え付けるものではありません」

白緑の少女「枯れかけた森を蘇生するために用いる最終手段なのです」

彼女は悲しそうに眉をひそめた。

白緑の少女「時間と共にゆっくりと馴染ませなければならないものを……ああ……」

魔剣士「な、泣かないで」

魔剣士「……俺、エリウス。君の名前は」

白緑の少女「私は……私は、雪の珠。スファエラ=ニヴィスです」

聞きなれない、古い言葉の名前だ。

白緑の少女「発音しづらければ、ただ、ユキとお呼びください」

彼女の波動から、俺の波動とよく似た何かを感じた。
バンヤンの森で感じたものとも近い。カナリアからも感じることがある。
232 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:42:22.17 ID:Zp9U63GDo

白緑の少女「……もうそろそろ帰らなければ」

魔剣士「ま、待って、ユキ」

魔剣士「また、会える?」

白緑の少女「……ええ。会いに来ます」

彼女は微笑むと姿を消した。
彼女の周囲に集まっていた光の珠……小さな精霊達も、自分の本体へと帰っていった。


魔剣士「ユ、キ……」

小さく彼女の名前を呟くと、激しく羞恥心のようなものを覚えた。
なんだろう、この切なさ。ひどく胸が苦しいんだ。
233 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/13(水) 19:42:53.48 ID:Zp9U63GDo
ここまで
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 20:31:15.61 ID:1zGjIwo70
すまん
武闘家と重斧士がやり合ってると思ってすまん
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 22:03:13.77 ID:4r7RGEF/O
>>234
俺もそうだと思ってたよ
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/13(水) 22:09:46.03 ID:tsQfdz25O
そのうちメス化しそう
237 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:00:12.71 ID:x9oGvsjKo

第九株 氷の刃


曇天だが、あちこちの雲の切れ間から光の柱が地上に降り注いでいる。

魔剣士「あぁ……」

俺は窓辺でぼけっとしていた。

昨晩のことが夢のようだ。いや、夢だったのかもしれない。
あんまりにも幻想的で、美しくて……。

武闘家「……どうしたの?」

魔剣士「あー、うん……」

重斧士「……出発の準備しねえのか?」

魔剣士「うん……」

重斧士「上の空だな」

武闘家「何かあったのかしら」
238 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:00:48.14 ID:x9oGvsjKo

魔剣士「う……うぅ……うあぁぁぁぁ……」

俺は情けない呻き声を上げながら寝台の上に転がり、布団を抱き締めた。
心も体も落ち着かない。分泌される脳内麻薬を止められない。

雌雄異株の子は、純粋な「女の子」なんだ。

女の子の形をしているだけの雌雄同株の子とは全然雰囲気が違うし、可憐で綺麗で、
特にユキは今まで出会った中でも無垢な感じがして……でも大人っぽい落ち着きもあったな。

ここまで誰かに夢中になったのは生まれて初めてだ。

重斧士「……好きな奴でもできたか?」

魔剣士「え!? いや!! 別に!!」

ちょっとバタバタしてしまった。どうしてこんなに恥ずかしいんだ。

重斧士「わかりやすいなおまえ」

武闘家「……嘘でしょ」

魔剣士「いや俺が花に恋してるなんていつものことだろ!?」

魔剣士「なんで今更そんなこと聞くんだよぉぉ!!」

顔が熱い。心臓がバクバクと脈打っている。
羞恥心を誤魔化したくて、俺は抱き締めた布団に顔をうずめた。
239 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:01:14.63 ID:x9oGvsjKo

過去の恋が全て色褪せて思える。
いいや、それらは本当に恋だったのだろうか。

憧れているアイドルに疑似的な恋愛感情をいだくのと同じようなものだったのではないだろうか。

ユキ……ユキ、ユキ。
ユキに会いたい。

魔剣士「んぐぅぅぅ」

武闘家「…………」

重斧士「……まあ、身支度はしろよな」

武闘家「い、いつの間に……」

武闘家「ずっと一緒にいた……はずなのに……そんな様子あったかしら」

重斧士「花ならそこら辺にたくさん生えてるからいつこいつが恋に落ちてもおかしくはないぞ」

次はいつ会えるのだろうか。
ああ、何処の子なのか聞いておけばよかった。
そうしたらこっちから会いに行けたのに。
240 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:01:59.03 ID:x9oGvsjKo

変装して外に出た。つっても俺は伊達眼鏡かけただけだが。

兵士「大佐! お待ちしておりました!」

戦士「人質はまだ無事なのか」

兵士「奴等はそう主張しています」

戦士「そうか。おまえ達は山の周囲で待機していてくれ」

戦士「俺一人で洞窟に入るのが奴等の要求だからな」

兵士「しかし危険すぎます。伏兵を忍ばせましょう」

戦士「バレたら人質に何をされるかわからんだろう」

戦士「合図するまでは絶対に動くな」

副官「隊長……」

戦士「俺が死んだら、後は頼むぞ」

副官「そんなぁ〜生きて帰ってきてくださいよぉ!」

戦士「ええい、縋りつくな」

戦士「仲間の死を覚悟できない者に軍人を名乗る資格はない」
241 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:02:24.92 ID:x9oGvsjKo

魔剣士「父さん!」

戦士「エリウス! この町に来ていたのか」

白髪増えたなあ。

魔剣士「……気をつけて」

戦士「ああ。……おまえ、雰囲気変わったな」

戦士「おまえも、最悪の事態は想定しておいてくれよ」

戦士「……あれ?」

重斧士「ん?」

魔剣士「こいつ仲間のガウェイン」

戦士「君、お父さんが剣豪だったりしないか……?」

重斧士「その通りだが」

戦士「……まあ気にしないでくれ。じゃあな」
242 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:03:07.20 ID:x9oGvsjKo

魔剣士「……やっぱり俺、父さんが無事に帰ってくるまでこの町にいたい」

父さんのことだからどうせ大丈夫だろうとは思うが、
妙にセンチメンタルになっているせいか気にかかって仕方ない。

武闘家「そうね、心配よね。出発は見合わせましょう」

重斧士「しゃあねえな」

武闘家「……人質を取るなんて卑怯よね」

武闘家「あたしが潰しに行きたいくらい腹立たしいわ」

武闘家「子供が手を出すべきことじゃないから、大人しくするけど」

副官「ああ、隊長……」

兵士「大丈夫ですか」

副官「身内が人質では、冷静さを失い、」

副官「正常な判断を下すことができなくなるかもしれません」

副官「心配でたまりません」

魔剣士「……身内?」
243 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:03:36.81 ID:x9oGvsjKo

ニュースでは人質の個人情報は伏せられていた。

魔剣士「すみません、人質って……誰なんですか」

副官「エリウス君……大きくなりましたね」

副官「捕らわれているのはカイロスさんです」

父さんの一番下の弟で、俺の兄さんのような存在だ。
俺より七歳上で、大学院で地質の研究をしている。

じいちゃんが陶芸家だから、小さい頃から土、特に粘土に興味があったらしい。
この町の山からは良質な粘土が採れる。

研究のために訪れていたところをオディウム教徒に捕まったのだろう。


父さんのこともカイロス兄さんのことも心配だし、
ユキに会いたいしで他のことに手が付かない。
244 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:04:12.64 ID:x9oGvsjKo

重斧士「……よくそんな太さの枝に座れるな」

魔剣士「肉付いてねえからなー……身長のわりに体重がクソ軽いんだよ」

木に登っていると少しだけ心が落ち着く。

故郷にいた頃は、近くの山の木の上で自慰に耽ったものだった。
家族が多いおかげで、自宅じゃなかなか性欲処理に集中できなかったのである。

重斧士「宿に引き籠ってた方がいいんじゃねえか?」

重斧士「いつ奴等が近くに来るかわかんねえだろ」

魔剣士「そうだな。降りるわ。……っ!?」

一瞬で体を蔓に絡め取られた。

魔剣士「やばっ」

重斧士「モヤシ!!」

武闘家「エリウス!?」

魔剣士「うわああああ放せ!!」
245 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:04:55.42 ID:x9oGvsjKo

魔剣士「今はおまえらの相手をする余裕なんてないんだよ!!」

俺の意思なんてお構いなしに、植物達は俺を山の方へと運んでいった。



魔剣士「ひぃっ!」

魔剣士「強引すぎやしねえか」

俺は目の前に生えているブナの巨木に訴えた。

白椈精霊「ごめんなさい。でも、救世主が現れるのをずっと待っていたの」

幹の分かれ目に、一人の精霊が腰をかけている。

魔剣士「帰してくれ。今は敵が近くにいるから魔力を消費するわけにはいかねえし、」

魔剣士「精神的にも……つらいんだよ」

白椈精霊「……これ以上、待てないから」

強引にブナの枝に捕らえられ、幹に……彼女の隣に縛りつけられた。

白椈精霊「人間は随分自分勝手になったものね」

白椈精霊「粘土欲しさに私達を伐採する量が随分増えたの」

白椈精霊「魔族がいなくなってからだわ、人間が調子に乗り出したのは」
246 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:05:27.80 ID:x9oGvsjKo

白椈精霊「……精霊には逆らっちゃいけない。わかってるでしょ?」

魔剣士「…………」

白椈精霊「変な宗教の奴等が去ったら、町の人達はすぐに伐採を再開するでしょうね」

白椈精霊「大丈夫。魔力を根こそぎ奪ったりはしないわ」

白椈精霊「私達だって、人間とは上手く共生したいのよ」

白椈精霊「当分干渉能力を得られるくらいの力をもらうだけ」

白椈精霊「無理に融合を促進しなくても、私なら少し魔力をもらうだけで充分な力を得られそうだわ」

白椈精霊「黒檀のあの子よりは元々力を持ってるもの」

魔剣士「なら注ぎ込んでやるから、その……俺の矜持を打っ壊すようなことは……」

白椈精霊「脱いで」

魔剣士「え……」

白椈精霊「絶頂した瞬間の魔力が何よりもおいしいって聞いたの」

魔剣士「い、嫌だ……俺、マジで好きな子できたから、それは……」

白椈精霊「あ、これ……邪魔ね。預からせてもらうわ」

モルを奪われた。いざという時は助けてくれるんじゃなかったのか。役立たずめ。
247 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:06:13.32 ID:x9oGvsjKo

結局脱がされ、両手を頭上で拘束された。

俺の魔力に触れて実体化した彼女の手に乳首をつままれる。
泣きたい。肥大化したらどうしてくれるんだ。

白椈精霊「ここ、気持ち良いの?」

妙に切ない気分になってきた。

魔剣士「……はやく終わらせてくれ」

白椈精霊「人間のおしべって、タケリタケみたいな形ねぇ」

裏筋をつんつん突っつかれて、小さく声を上げてしまった。

白椈精霊「やっぱり粘膜から採る魔力があっつくておいしいわ」

白椈精霊「あ、ここ、敏感なのね。ふうん」

魔剣士「そこっ、デリケートだからっ! そんな強くされたら……苦しいんだよっ!」

白椈精霊「どんな風にされたい? こう? それともこうかしら」

魔剣士「うっ! ……うぅ……」

白椈精霊「ビクビクしちゃって……おもしろぉい!」
248 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:06:44.52 ID:x9oGvsjKo

白椈精霊「こうすればいいのね?」

魔剣士「はあ、あっ…………!」

白椈精霊「あっ出た出た! このまま続けたらどうなっちゃうの?」

魔剣士「やめっやめろ! あああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

あまりの快楽と強烈なくすぐったさに身をよじった。だが逃げられない。
叫びが腹の底から上がり続ける。脚も腰もガクガクと激しく揺れた。

白椈精霊「誰か押さえててあげて」

必死に逃げようとする俺の体に蔦が巻き付き、吸着された付着根から俺の魔力を吸い上げている。

白椈精霊「そんなにきもちぃの?」

苦しいんだよ。
壊れてしまいそうだ。


亀頭を手の平で強く撫で回された。
やばい。何か来る。熱い。

白椈精霊「きゃっ!」

白椈精霊「これ、何? おしっこでも精液でもない……」

すごい勢いで潮が吹き出た。
未知の快楽に、もう右も左もわからない。
249 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:07:10.32 ID:x9oGvsjKo

人と植物の共生のための魔力提供というだけなら、まだ割り切れる。
だが、こう楽しまれると……すごく腹が立つ。

おまえ達の愉悦のために我慢しているわけじゃないんだ。


俺が犯してきた花に意識が宿っていたら、彼女達は一体どの様な感情をいだいただろうか。
俺と波長の合う子だけを選んではいたが、彼女達には思考する能力は宿っていなかった。

もし、意思があったら……俺は恨まれていたのだろうか。

……考えたところで無駄だな。

胸が、痛い。

――――――――
――
250 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:07:59.24 ID:x9oGvsjKo

武闘家「――リウス! エリウス!」

魔剣士「う…………」

武闘家「よかった、気がついたのね」

気を失っていたようだ。

魔剣士「……俺、裸だったりしなかったか?」

武闘家「え? 服着てたわよ」

青い石「気がついたら地面に放られてたんだけど何があったの」

魔剣士「俺を守る気がないなら一生寝てろ」

青い石「え……ごめん」

武闘家「すぐに助けたかったのだけど、植物に行く手を阻まれちゃったの」

武闘家「……微かにあなたの叫び声が聞こえたのだけど、どんな目に遭ってたの」

言えるわけねえだろ……。

魔剣士「……俺の魔力のこととか、生命の結晶を埋め込まれたこととかは話しただろ」

魔剣士「だからその、植物に俺の魔力を吸われてたんだが……」

魔剣士「そのための……ええと、儀式の内容がなかなかエグいんだよ」

魔剣士「すげえ苦しい」
251 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:08:41.25 ID:x9oGvsjKo

武闘家「……死んじゃったりしないよね?」

魔剣士「…………多分な」

重斧士「ほら、掴まれ。肩貸してやるから」

魔剣士「すまんな」

疲労感に襲われる。
この調子じゃあ命がいくつあっても足りない。

腹上死するのも時間の問題だ。

武闘家「オディウム教徒が立て籠もってるところの近くまで来ちゃったわね」

俺がこいつらに嫌われることを恐れたのは、俺なりに不安を感じていたからなんだろうな。
襲ってくる敵がいる上に、自分の命に手を加えられて……一人じゃ心細かったかもしれない。
252 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:09:08.90 ID:x9oGvsjKo

乳首がじんじん痛む。乱暴にしやがって。

武闘家「可愛い花が咲いてるわね」

カナリアの視線の先には、薄桃色の小さな花が咲いていた。
花弁に紫色の筋が入っている。

武闘家「地元に咲いてるホシノヒトミって花に似てるわ」

魔剣士「……イヌノフグリ。花言葉は信頼だ」

武闘家「可愛い感じの名前ね」

魔剣士「犬のキンタマって意味だぞ」

武闘家「あ……そう」

小腹が空いたから、鞄から玉ネギを取り出してかじった。
この独特のつんとくる感じがたまらない。
253 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:10:00.79 ID:x9oGvsjKo

魔剣士「あ、まずい」

魔剣士「奴等が来る」

武器を持ったオディウム教徒が数人現れた。

「この魔力反応、間違いない。アキレスの娘だぞ」

魔剣士「妙な玉持ってんな」

「捕らえよ!」

重斧士「カナリアに手ぇ出させっかよ!」

ガウェインが大体ボコッってくれた。

重斧士「大したことねえな」

魔剣士「……待て。近くにヤバいのがいる」

黒ローブ「…………」

重斧士「あそこか!」

敵が落としたハルパーをガウェインが投げたが、あっさりと避けられた。

魔剣士「何か詠唱してるぞ」

黒いローブを身に纏った男から、ただならぬ邪気を感じた。
母さんほどの魔感力を持っていない俺でもわかる。

あの男はドス黒い何かを抱えている。
254 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:11:04.18 ID:x9oGvsjKo

その瞬間、俺達の足元に魔法陣が現れ、地面が崩壊した。
その上、地に向かって体が強く引き寄せられた。重力系の魔術だ。

動けねえ。

黒ローブ「この女は頂いていく」

遠く離れた所にいた男が、一瞬ですぐ傍に姿を現した。

武闘家「放して! 嫌!!」

魔剣士「くっ……」

重斧士「カナリアを放せ!!」

黒ローブ「この結界内で立っただと!? とんでもない馬鹿力の持ち主だ」

黒ローブ「だが」

男がガウェインに手を向けたかと思うと、ガウェインが後方へ吹っ飛ばされた。
やばい。この男の魔術の腕は超上級王宮魔術師レベルだ。

黒ローブ「おっと。何か小細工を仕掛けようなどとは思うなよ」

魔剣士「チッ……」

武闘家「あたしをどうする気なのよー!」

黒ローブ「……随分とあの男に似たものだな」

重斧士「カナ……リア……!」
255 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:11:32.33 ID:x9oGvsjKo

男はカナリアと共に姿を消した。

重斧士「ちくしょう……今日はやけに仲間が誘拐されるな」

魔剣士「……あいつ、妙だった」

魔剣士「確かにオディウム教徒の気配を纏っていたが、俺だって奴等には狙われてるんだ」

魔剣士「それなのにカナリアだけを連れ去った」

魔剣士「カナリアしか眼中になかったんだ」

魔剣士「早く助けねえと……ヤバい気がする」

魔剣士「傷を見せろ。治すから」

重斧士「だがおまえ、魔力残ってんのか」

魔剣士「四割ちょいくらいな」

魔剣士「……ありがたいことに、奴のドス黒い魔力の痕跡があちこちに残ってる」

魔剣士「追うぞ」
256 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:12:12.77 ID:x9oGvsjKo

――――――――

洞窟を進むと、やや広い空間に出た。

兇手「待っていたぞ、旭光の勇者ヘリオス」

戦士「二つ名で呼ぶのはやめろ。……恥ずかしいんだ」

あの男……レザールとは何度か剣を交えた。
奴の背後に控えている傭兵達が俺の末の弟を拘束している。

地質研究員「兄さん!」

戦士「カイロス、今助けるからな!」

兇手「此奴を解放してほしくば、俺と勝負してもらおう」

戦士「一対一でか」

兇手「そうでなければ意味がない」

兇手「俺の目的は、貴様と雌雄を決することだからな」

彼は二本の刀を構えた。

兇手「……行くぞ!」
257 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:14:40.94 ID:x9oGvsjKo

戦士「牢屋の修理費用を払ってもらおうか!」

こいつが脱獄したせいで税金が無駄になってるんだ。

後からよく調べたら、
こいつを逮捕できたのはうちの長男らしき男が術を使ったためだということがわかった。

尿路結石……痛いらしいな。あいつは何かと他人に容赦がない。

兇手「……氷の刃<アイス・エッジ>!」

レザールはこちらに向かって走りながら氷を放った。
炎で氷を融かし、一瞬で振り下ろされた斬撃を剣で受ける。

兇手「くくっ……!」

彼はギラギラと目を輝かせて笑った。根っからの戦闘狂だ。
この男は会う度に腕を上げている。

まだ若いというのに、
これ以上強くなったら……そこらの軍では太刀打ちできない凶悪な犯罪者となるだろう。
258 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:15:59.38 ID:x9oGvsjKo

だが腕力はこちらの方が上だ。腕に魔力を込めて押し飛ばした。
氷を融かしながら素早い攻撃に対応し続ければ勝機はある。

奴は即座に体勢を整えて俺の背後に向かって高く飛んだ。
俺が振り返った瞬間、氷の棘が数本飛ばされた。

すかさず熱気を発生させた。
体に刺さる直前で融かすことができたが、そうしている間にも奴は剣戟を繰り出した。

身のこなしが人間離れしている。

兇手「よくこの刃を受け止めることができたな……!」

戦士「伊達に場数を踏んできたわけじゃないんでな」

兇手「だが……」

兇手「薄氷の膜<クリア・アイス・フィルム>!」

足が滑った。地面に氷が張られたようだ。

片足を前に出して転倒は回避できたが、
この空間の気温が著しく低下していることに気がついた。

壁や天井のあちこちに埋め込まれた白藍色の石が輝いている。
この男の魔力の効果を強化しているようだ。
259 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:16:37.08 ID:x9oGvsjKo

戦士「ぐっ……!」

振り上げられた刀を防げたものの、俺は吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。

地質研究員「兄さん!」

戦士「……大丈夫だ」

常人なら死んでいただろうが、
身体能力及び防御力を強化しているため大したダメージは受けなかった。

地面に降りて体勢を立て直す。

兇手「流石だ……そうでなければな」

兇手「……雪の原<スノー・フィールド>」

辺り一面が雪に包まれた。
雪を見るなんて何年ぶりだろうか。

この地域は十年に一度くらいしか雪が降らない。

奴は雪に慣れているのだろう。
足元に雪が積もっているというのに、相変わらず足取りが軽やかだ。

俺は自分の周囲に炎を灯した。
この雪は奴の魔力で生成されたものだ。普通の雪よりも融かすのに時間がかかる。

だが俺の魔力の威力もそう弱いものではない。
足場の確保くらい容易にできる。
260 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:17:16.96 ID:x9oGvsjKo

兇手「さあ、俺に勝ってみろ! 俺にとって有利なこの空間で!!」

兇手「貴様の強さを見せてくれぇ!!」

戦士「はあ……全く」

戦士「後悔するなよ!」

直径一メートルほどの火の玉をレザールに向かって放った。

兇手「白氷の障壁<ホワイトアイス・ウォール>!」

いちいち術名を唱えなきゃ発動できないなんて不便だな。
俺はもう四玉発射した。

兇手「なっ……!」

氷の壁は砕けた。

奴が次の術名を唱えきる前に、もう一発でかいのをお見舞いする。

兇手「グワアアアアア!!」

雪が融けて派手に湯気が上がった。

俺は奴の魔力を探った。……まだ倒れていない。
261 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:18:12.42 ID:x9oGvsjKo

湯気の中から数十本の氷柱が飛ばされた。

ほとんど融かせたが、一本だけ防げず肩をかすめた。
いいや……防げなかったのは氷柱じゃない。

奴の刀の片割れだ。

兇手「……ふふふ……ははははははは! 素晴らしい!!」

兇手「やはり戦いはこうでなくては!!」

やるじゃないか。だが、俺に戦いを楽しむ趣味はない。

もうそろそろ終わりにしよう。

そう思った時、予想外の事態が起きた。


ああ、早く家に帰りたい。
262 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/15(金) 17:18:48.57 ID:x9oGvsjKo
kokomade
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/15(金) 22:31:57.12 ID:i+pCfCCH0
乙!
264 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:42:45.68 ID:L6USqMm1o

第十株 親と酒


……瞬間転移なんて、伝説級の術なんだがなあ。使える人間を見たのは初めてだ。
魔適体質者でも発動するのは困難らしい。

だが、洞窟内の曲がり角には移動した痕跡が残っているし、
直線的な道であっても数十メートル先には黒い魔力の残滓が見えた。

跡を辿るのはそう困難ではない……はずだったのだが。

魔剣士「うぉああ!?」

地面が抜けた。

やばい。やけに広くて白い場所に落下した。
咄嗟に風魔法を発動してダメージを軽減した。

魔剣士「おいガウェイン! 生きてるか!?」

重斧士「ってえ……折れたなこりゃ」

足があらぬ方向に曲がっている。

魔剣士「骨修復<リストア・ボーン>」

重斧士「おお」

魔剣士「行くぞ!」
265 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:43:24.86 ID:L6USqMm1o

重斧士「おまえってこんなに回復魔術得意だったんだな」

魔剣士「医療系の学部だったから必修で習ったんだよ」

医療に興味はなかったが、植物の研究をしたいがために薬学部に進学した。専攻は生薬だ。

理学部や農学部でも研究はできるのだろうが、薬師免許があれば一生食うのに困らないし、
色々と理由があってこっちを選んだ。

薬師が医者を意味する言葉だった時代もあるが、
今では薬を扱う職業のみを指すようになっている。薬剤師と呼ばれることもある。

兇手「おい…………」

魔剣士「あ、わりい! 後で治療すっから!」

どうやら人を下敷きにしてしまったようだ。
見たところ大きな怪我はなさそうだし一刻を争うから後回しだ。

戦士「え……えぇー……」

地質研究員「エリウス君……?」
266 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:45:12.59 ID:L6USqMm1o

魔剣士「なんでここ雪だらけなんだよ! 寒いわ!!」

滑って転びかけた。

魔剣士「走りづれえ! 俺は亜熱帯育ちなんだぞー!」

戦士「待て」

魔剣士「あ、父さん! 俺達今急いでるから!」

戦士「なんでおまえ達がここにいるんだ!」

魔剣士「カナリアが攫われたんだよ!!」

戦士「なんだと」

魔剣士「どうにかさっきの道に戻れねえかな……」

魔剣士「そうだ、父さんの力でカナリアを探してくれよ! 今マジヤバイから!!」

戦士「カナリアちゃんに何かあったらアキレスに合わせる顔がなくなっちまう」

兇手「お……い……」

父さんはカイロス兄さんを捕らえていた奴等を炎で攻撃した。

魔適傾向が高くて羨ましい。55マジカルくらいあるって言ってたかな。
普通よりも素早く術を発動できる上に微調整が利く。
267 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:46:15.67 ID:L6USqMm1o

戦士「……こっちの方向だ! 来いカイロス!」

地質研究員「わわっ」

兇手「待て……ヘリオス……」

魔剣士「あいつ敵?」

戦士「ああ」

魔剣士「あーよかった、善良な市民に怪我をさせちまったわけじゃなかったんだな」

兇手「勝負はこれからだ……旭光の勇者……」

戦士「二つ名はやめろ」

兇手「おのれ……二度までも息子に……うっ」

あいつにちょっと見覚えがあるような気がしたが思い出せなかった。


魔剣士「あれ、父さん今何か術使った?」

戦士「部下達に突入の合図をちょっとな」

邪魔をするオディウム教徒がちょくちょく現れた。

魔剣士「目ん玉に硫化アリル浴びせっぞ!」

玉ねぎから摂取した硫化アリルを敵にぶつけた。
玉ねぎを切った時と同じ状態になる。
268 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:48:40.89 ID:L6USqMm1o

魔剣士「あーひゃひゃひゃ! 今の俺は機嫌悪いんだぞー!」

魔剣士「邪魔者は排除だー!!」

好きでもない女に好き勝手にされた屈辱により、
他人に八つ当たりせずにはいられなくなっていた。

魔剣士「お? お? おっかけてくるか? ここまで来れるかなー!?」

鞄の中からオニビシの実を取り出してばら撒いた。いわゆるマキビシである。

戦いに役立ちそうな植物をこっそり集めていたのだ。

信者1「この程度避けて走れば何の問題もっ!?」

魔剣士「撒いたのはそれだけじゃあなかったんだよなあ! 残念だったなあああ!!」

魔剣士「ひゃーひゃっひゃっひゃ!!」

最近食べたバナナの外皮を透明な状態で再構成し、
オニビシの実と共に地面に配置したのである。

信者2「ギャー!」

信者3「ひっ!? うがああああ!!!!」

信者4「っでえええええ!!」

それに気づかずすっ転んだ信者達は、次々とオニビシの実の棘の餌食となっていった。
269 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:49:06.53 ID:L6USqMm1o

魔剣士「やべえ……バナナの皮で滑る奴を実際に見たのは生まれて初めてだ……!」

魔剣士「ひゃひゃっふひっふひひっ!」

戦士「ど、どうしたんだ……? テンションがおかしいぞ?」

魔剣士「どいつもこいつも大したことねえなあ!! あーたのしぃー!!」

魔剣士「あっ」

魔剣士「ごめん先に行ってて」

重斧士「あ?」

魔剣士「疲れた。もう走れねえ」

元々体力がない上に二回もイかされた後なんだ。バテるのも無理はない。

戦士「……仕方ないな」

魔剣士「うおっ」

肩に担がれた。

魔剣士「あれ、父さん……血ぃー! 血が出てるー!! うわあああ!!」

戦士「騒ぐな!! 治療は後からで充分だ!!」
270 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:50:21.82 ID:L6USqMm1o

幹部1「アキレスの娘だけを連れてきたとは何事だ!」

幹部1「貴様ならばヘリオスの息子を連れてくることも容易だったであろう!!」

黒ローブ「ふん」

幹部1「我等が神に逆らうのか!?」

黒ローブ「黙れ」

幹部1「貴様の目的は後だ。まずはこの娘を祭殿に」

黒ローブ「黙れと言っている」

何やら揉めているようだ。

武闘家「…………」

部屋に突入した。

戦士「彼女を解放してもらおうか!」

父さんが部屋にいた連中に向かって炎を放った。

重斧士「無事か!?」

武闘家「ええ……」

武闘家「内輪で喧嘩してくれてたからなんとかね」
271 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:51:52.81 ID:L6USqMm1o

幹部1「レザールの奴、しくじりおったな」

幹部1「撤退だ!」

黒ローブ「チッ……いずれ再び迎えに行くからな。待っていろ」

数人の術師が同時に詠唱を始め、奴等は痕跡すら残さず消え去った。

戦士「……またこの術か」

俺達が使っている現代魔術とは系統が違う術だった。

武闘家「……はあ」

戦士「もう大丈夫だ。間に合ってよかった」

カナリアは脱力した。相当怖い思いをしただろう。

魔剣士「もう降ろしてよ」

武闘家「あの男……まさかね」

魔剣士「父さん傷見せて」

戦士「このくらい自分で治せる」

魔剣士「医療の勉強してないのに治療術使えるなんてずるいー」

戦士「おまえ、俺よりも魔力容量がでかいくせにやけに消耗してるじゃないか」

戦士「一体何やってたんだ」

魔剣士「…………」
272 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:53:00.69 ID:L6USqMm1o

床に何かが落ちていた。
カナリアや俺の個人情報をまとめたファイルの様だ。

魔剣士「……!」

戦士「おいどうした」

魔剣士「これは……」

俺の……カルテじゃないか。

   患者名[エリウス・レグホニア]

   ――――子供らしい情緒が見られず、雑草を詰んで食べるのをやめられない。
   極めて内向的であり、共感性に乏しい。他人との関わりを極端に避け――

   ――植物に執着しており、
   気に入っている草花を傷付けられた際には激しい攻撃性が見られる。

   ――母親に一切甘えようとせず、手を繋ぐことさえ――

   ――好きな女の子はいるのかと問うと、彼は花の名を口に出した。
   性嗜好異常者である可能性が高い。また、――

   ――長期のカウンセリングが必要であり、――――


……そこには、俺の異常性が長々と綴られていた。

おそらく、俺の弱点か何かを探すために病院から盗んだのだろう。
273 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:53:55.60 ID:L6USqMm1o

魔剣士「けっ」

俺が投げ捨てたそれを、父さんが拾い上げて開いた。

戦士「…………エリウス」

魔剣士「自分が人と違うことくらいとっくの昔に開き直ってるし」

魔剣士「他人に見られたところで痛くも痒くもないんだけど?」

戦士「…………」


洞窟から出たところで、再び武器を構えた連中に囲まれた。
撤退したんじゃなかったのか。

それとも別働隊は俺達を攻撃するよう命じられでもしてんのかな。
……武器を向けられるのってけっこう心臓に悪いんだよな。

何故俺がこんな危険な目に遭わなけりゃならんのだ。

兇手「ここを通りたくば……剣を抜け、ヘリオス!」

男は二本の刀を構えた。
274 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:54:29.00 ID:L6USqMm1o

……あの男以外からは戦意が感じられない。
あいつだけが戦うことに拘っているように思える。

しかし妙だな。こいつらからはオディウム教徒独特の気配を感じなかった。
金で雇われているだけなのかもしれない。

兇手「貴様と剣を交えることさえできれば、今回は仲間に手を出さないと約束しよう」

戦士「……しつこい奴だな」

父さんは渋々剣を構えた。

あーはやく終わんねえかなと思ったその時、




勇者「いやああああああああああ!!」

勇者「うちの子が剣向けられてる!!!!」

聞き覚えのあるめんどくさい声が響いた。
275 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:57:43.30 ID:L6USqMm1o

暴風が巻き上がり、敵は一瞬にして吹き飛んだ。

勇者「エル! 怪我してない!?」

魔剣士「…………」

なんでいるんだよ……。

地質研究員「義姉さん……!?」

戦士「母さん、どうしてここに来たんだ」

勇者「だってあなたとカイロス君が心配でたまらなくて……飛び出してきちゃった」

戦士「あぁ…………はあ。子供はどうしたんだ」

勇者「ラヴィとアルクスは離れてくれなかったから連れてきちゃった」

勇者「今は兵士さんに預かってもらってるの」

いやじいちゃんちに置いてこいよ……危ないだろ。

勇者「エル、会いたかったよ……ずっと会えなくて寂しかったぁ……」

旅立ってから一ヶ月しか経ってねえよ。電話だってたまにはしてるってのに。
母さんは俺に抱き付いた。

勇者「あれ……? エル……」
276 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 16:58:51.53 ID:L6USqMm1o

母さんに目を覗きこまれた。
葡萄酒色の虹彩に吸い込まれそうになる。

勇者「嘘…………」

母さんはポロポロと涙を流し始めた。

ああ、そっか。この人わかっちゃうんだもんな。他人の性交経験のこと。
プライバシーの侵害だ。ちくしょうめ。

泣き崩れた母さんの肩を父さんが支えた。

戦士「母さん!」

勇者「ぅ……お父さん……この子……」

泣くなよ。親が泣くようなことをされてるって強く意識しちまうじゃねえか。
これ以上惨めな気分にさせないでくれ。

武闘家「どうしたのかしら……」

魔剣士「…………」
277 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:00:30.73 ID:L6USqMm1o

――――――――
――

事情聴取から解放された。長かったな。

……ユキに会いたい。一人でいるのは落ち着くけど寂しいな。
しばらく宿でぼけっとしていると、父さんが訪ねてきた。

戦士「おまえ、何をやったんだ」

魔剣士「え? なんの話?」

戦士「何故母さんが泣いたんだ!」

魔剣士「知らないよそんなの」

戦士「とぼけるんじゃない」

父さんに胸倉を掴まれた。

戦士「心当たりくらいはあるだろう!」

魔剣士「……母さんさあ、いつも嫌なことがあった時はなんでも父さんに話してるじゃん」

魔剣士「それなのに何も言わないってことは、」

魔剣士「よっぽど父さんに知られたくないってことなんだよ。察せない?」

戦士「……答えろ」

魔剣士「…………」

魔剣士「…………レイプされた」
278 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:01:42.53 ID:L6USqMm1o

戦士「なっ……」

胸倉を掴む手が緩んだ。

魔剣士「俺さあ、行く先々の精霊から脅されて犯されてんの」

惨め過ぎて笑えてきた。

戦士「…………」

魔剣士「なんでショック受けてんの? 俺は別に気にしてないよ」

魔剣士「俺、男だし。精霊の子はみんな美人だし、気持ち良いし、」

魔剣士「大好きな植物が相手してくれてるわけだし、得ばっかしてるもん」

魔剣士「あ〜モテすぎて困るわ。ははは」

戦士「…………すまなかったな」

父さんは俺の頭をポンポン叩いて部屋を出ていった。
ちくしょう。なんでこんなこと親に言わなきゃならねえんだよ。

青い石「……ねえ、エリウス」

魔剣士「聞かなかったことにしてくれ」

外に出ようと思って階段を降りると、ある部屋から母さん達の魔力を感じた。
微かに嗚咽が聞こえる。まだ泣いてんのかよ。

ラヴェンデルとアルクスと父さんとで慰めてるんだろうな。
あーなんかすげえムカムカする。
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