魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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279 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:02:34.58 ID:L6USqMm1o

――酒場

魔剣士「ラム酒うめえ!」

ダンッ、と俺はグラスをカウンターに叩きつけた。
こうなりゃやけ酒だ。カナリアはまだ事情聴取が終わらないらしい。

魔剣士「次は旧レッヒェルン領産の赤ワインを一杯ください」

重斧士「もっとゆっくり飲め。体に悪いぞ」

バーテンダー「お兄さん、飲酒は初めてなのでしょう。無理しないでくださいよ」

バーテンダー「もう一時間以上飲みっぱなしじゃないですか」

魔剣士「へーきっす」

魔剣士「あーやっぱこのワインおまえにやるわ」

重斧士「どうしてだよ」

魔剣士「母親の目の色みたいで飲む気失せた」

重斧士「ほんとに飲まねえのか? これかなりうまいぞ」

魔剣士「いらね。あ、梅酒ください」

近くに座っていた軍人がビールを飲みながら愚痴を言い始めた。

小隊長「ヘリオスめ……兵養所卒の平民のくせにトントン昇進しおって」
280 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:03:53.59 ID:L6USqMm1o

父さんが子供の頃は、様々な時代背景が重なって士官学校の学費が高かった。
そのかわり、安い兵士養成所等の訓練施設がたくさんあったらしい。

今ではほとんどの士官学校の学費は無料である。

副小隊長「入軍も遅かったくせに……あっという間に抜かされたな」

小隊長「いくら魔王を倒した英雄だからといって優遇されすぎではないのか!?」

副小隊長「俺達なんて嫌がらせがバレてこんな国境近くの町に左遷されたしな……」

副小隊長「一泡吹かせてやりたいもんだ」

小隊長「何か弱味を握るか……不正の一つでもやってくれればな……」

魔剣士「はあ? 嫉妬かよ。いい年こいた大人が見苦しいぜ」

小隊長「なんだとこのガキ!! もう一度言ってみろ」

魔剣士「見苦しいっつってんだよおっさん共」

副小隊長「軍人を侮辱するか!?」

魔剣士「くくっ」

重斧士「おいやめとけ」

小隊長「ただで済むと思うなよ」

魔剣士「上官を陥れようとしてたって俺が通報したら……あんたらどうなるかな」
281 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:05:04.95 ID:L6USqMm1o

小隊長「うぐっ……ガキの言うことなど誰が信じるものか!」

副小隊長「この北方人のガキ……今すぐ北の大陸に送り帰してやる」

俺は南育ちなんですがね。

魔剣士「じゃあ賭けでもやるか?」

魔剣士「俺が勝ったらチクらせてもらうぜ」

小隊長「俺達が勝ったらこの国を出ていってもらうぞ!」

副小隊長「ついでに俺等の飲み代はおまえ持ちだ!」

小隊長「これからテキーラを飲み続け、先に酔い潰れた方が負けだ。いいな」

魔剣士「あ、そんな簡単な勝負でいいの? 俺は構わないぜ」

俺の余裕の笑みに、奴等は少し臆したようだ。

バーテンダー「安全性のことを考えると私はやめてほしいのですが……」

副小隊長「隊長の酒豪っぷりを見て驚くなよ!」

――――――――
――
282 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:05:50.60 ID:L6USqMm1o

小隊長「もう九杯だというのに……まだ酔わんのか」

魔剣士「余裕」

西の大地で育った竜舌蘭から作られた酒……なかなか美味である。

小隊長「ええい! 十杯目だ!」

バーテンダー「し、しかし……」

戦士「おまえ達、一体何をやっている」

小隊長「ひっ! 大佐!?」

副小隊長「あああのこれはですねこのガキが」

魔剣士「父さん俺また外人扱いされた〜」

小隊長「え、と、父さん……?」

副小隊長「お、俺たち帰りま〜す……」

バーテンダー「一万Gになります」

小隊長「ひっ」
283 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:06:35.97 ID:L6USqMm1o

重斧士「なんで全く酔わねえんだ?」

魔剣士「アルコールは全部魔力に溶かしてるからな」

重斧士「なるほど……だが、それじゃあやけ酒してた意味あったのか……?」

魔剣士「気分の問題だ」

戦士「おまえ、あいつらを煽りでもしたんじゃないのか?」

魔剣士「だってあいつら父さんのこと」

戦士「構うな」

戦士「……おまえがここにいると部下から聞いてな。少し話がしたい」

重斧士「じゃあ俺は席外すか」

魔剣士「え、行っちまうの?」

重斧士「親父さんと水入らずでゆっくり話してこいよ」

戦士「気を遣ってもらってすまないな」

ガウェインは自分の分のお代を払って店を出て行った。
正直寂しい。
284 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:08:49.68 ID:L6USqMm1o

魔剣士「…………」

戦士「ちょっと雑談しにきただけだから気を抜いてくれ」

魔剣士「……キャロルさん、父さんのことすげえ心配してた」

父さんの副官のことである。

魔剣士「身内が人質じゃあ冷静じゃいられなくなるかもって言ってた」

戦士「そんなこと言ってたのか。信用されてないんだな……」

戦士「レザールの奴も……あ、俺と戦ってた男な。俺を焦らせるか、」

戦士「もしくは本気にさせるためにカイロスを人質にとったんだろうと思うが、」

戦士「家族が人質だったとしても、俺は冷静に対処するよ」

父さんは魔物だらけの時代で育った。
そのせいか、肝が据わっているというか……『喪う覚悟』ができているのだと思う。

戦士「……あいつ、戦いについては真っ直ぐだったな」

戦士「弟を人質にしたくらいだから、もっと卑怯な手を使われるかと思った」

魔剣士「母さんが人質に取られても、冷静でいられる?」

戦士「自信ないな……母さんは特別だ」
285 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:09:16.29 ID:L6USqMm1o

魔剣士「……父さんってさあ」

魔剣士「人生で一番つらかった出来事、なんだった?」

戦士「一番つらかったことか? ……母さんから永遠の別れを告げられた時かな」

ハードだな。

魔剣士「その次は」

戦士「ん……母さんが苦しんでるのに何もできなかった時はつらかったな」

戦士「あと、母さんに告白して振られた時は死ぬかと思った」

魔剣士「え、振られたの? なんで?」

戦士「……その時、母さんは……自分が長生きできないって思ってたからな」

全部母さん絡みだ。
286 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:09:42.26 ID:L6USqMm1o

魔剣士「……母さん、もう泣き止んだ?」

魔剣士「ああ。泣き疲れて寝てるよ」

魔剣士「……父さんはなんで母さんのこと好きになったの」

戦士「え? うーん……理由を訊かれても、上手く答えられないんだよなあ」

戦士「強いて言えば、俺にだけは素を見せてくれたのがきっかけだったかもしれない」

魔剣士「…………」

戦士「カナリアちゃん達とは上手くやってるのか」

魔剣士「うん」

俺はカクテルを飲み干した。甘酸っぱい。父さんはビール飲んでる。

戦士「……おまえとこうして酒を飲めるようになって嬉しいよ」

魔剣士「…………」

魔剣士「父さん、俺、本気で好きな子ができた」

戦士「そうか」
287 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:11:09.39 ID:L6USqMm1o

魔剣士「精霊なんだけど、何処に本体の木があるのかわかんなくてさ」

魔剣士「会いに行けなくてすげえ寂しい」

戦士「そりゃつらいな。どんな子なんだ」

魔剣士「……俺の理想のお嫁さん像にすっごく近いんだ」

魔剣士「清楚で控えめで、落ち着きがあって、心の芯が強そうな子」

魔剣士「んでもって俺のために泣いてくれたんだ」

魔剣士「いやまだ一回しか会ったことないんだけどさ」

魔剣士「相手の魔力見れば大体どんな子なのかわかるじゃん」

戦士「……はは」

魔剣士「え、なんで笑ったの。俺なんか変なこと言った?」

戦士「いいや。俺の子だなって思ったんだ」

戦士「若い頃の俺と同じこと言ってる」

魔剣士「……母さんってあんまり控えめじゃないし、情緒が不安定だし、」

魔剣士「精神的に脆いし……尚更なんで結婚したの」

戦士「まあ、理想通りの人を好きになるとは限らないだろ」
288 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:11:49.92 ID:L6USqMm1o

戦士「……上手くいくといいな」

魔剣士「本体を見てすらない相手をこんなに好きになるなんて思いもしなかったよ」

ユキがどんな木なのか気になって仕方がない。

魔剣士「すみません、馬乳酒ください」

戦士「あ、ちょっと待て」

魔剣士「なかなか酸味が……うっ」

喉が熱い。

魔剣士「っ……」

戦士「動物の乳から作った酒じゃあ成分を制御できないんじゃと思ったんだが……」

魔剣士「お察しの通りだよ……」

たったの一口で酔っ払ってしまった。

暑いな。頭がぼうっとする。息が苦しい。
289 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:14:44.68 ID:L6USqMm1o

魔剣士「うう……あっ……」

なんか涙が出てきた。

戦士「……よしよし。おまえ、泣き上戸なんだな」

父さんが背中をさすってくれた。

魔剣士「ねえ、父さん……俺、誰かを好きになる資格なんてあるの」

戦士「あるに決まってるだろ。何言ってんだ」

魔剣士「ねえ、俺、なんで『普通』に生まれてこられなかったの?」

戦士「たまたまちょっと個性的だっただけじゃないか」

魔剣士「…………」

戦士「おまえがどんな人間だろうと、おまえは俺の自慢の息子だよ」

魔剣士「…………」

戦士「つらかったら帰ってきてもいいんだぞ」

魔剣士「…………」

戦士「旅、続けたいんだろ」

俺は頷いた。
290 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:15:26.47 ID:L6USqMm1o

戦士「たまに愚痴聞くくらいならしてやれるから」

戦士「あんま溜め込むなよ」

魔剣士「……うん」

これからも犯され続けるとは限らない。
融合が進めば、犯されなくても精霊達に充分な魔力を提供できるようになるかもしれない。

また別の力が発現することもあるかもしれない。
暫くは耐えよう。

魔剣士「父さん……」

魔剣士「…………」

戦士「……寝たか。酒に弱いのは母さんに似たな」

戦士「お会計」

バーテンダー「息子さんのを合わせますと……6万Gになります」

戦士「おおう……」
291 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:17:05.29 ID:L6USqMm1o

翌朝。

カイロス兄さんは護衛の兵士に村まで送ってもらうことになった。
母さんも彼等に同行する。

父さんは、また別の仕事が入ったから家に帰られなくなった。

戦士「そのうち国外出張も入りそうだな……」

戦士「昇進しても昇進しても現場仕事ばかりだ」

戦士「デスクワークは苦手だから別にいいんだが」

「学が浅いから書類への苦手意識が拭えない」と、父さんは時折愚痴っていた。

戦士「年を取るとどうしても体の衰えを感じてしまってなあ……はあ」

副官「魔術の腕は上がってるじゃないですか」

戦士「まあそうなんだが」

魔剣士「性欲が減退したからだろ」

戦士「身も蓋もない言い方をするんじゃない」
292 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:17:52.01 ID:L6USqMm1o

地質研究員「エリウス君が来てくれて助かったよ」

魔剣士「無事に済んでよかった。気をつけてな」

三男「お母さんに近付くな!」

アルクスが蹴ってきた。

魔剣士「……母さん」

勇者「エル……」

魔剣士「別に、嘆く必要はないから」

魔剣士「安心して家に帰って」

勇者「…………」

母さんの右手が俺の左頬に添えられた。

勇者「何があっても、エルは、お母さんの大事な息子だから」

魔剣士「うん。じゃあ」

泣かせっきりじゃあ後味が悪いから、一応声をかけておいた。
293 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:19:10.37 ID:L6USqMm1o

武闘家「軍の人に通報発信機もらっちゃった」

重斧士「どんな機械だそれ」

武闘家「瞬間転移術で飛ばされた時には自動的に最寄の軍に通報されるようになってるの」

武闘家「ボタンを押しても通報できるわ」

武闘家「他にも防犯グッズをいっぱい」

武闘家「……そうだ、言いそびれてたわ」

武闘家「助けにきてくれてありがと」

魔剣士「おまえが捕まったのは、俺が攫われたせいもあっただろうしな」

重斧士「当然のことをしたまでだ」

車のエンジンをかけた。
陽に照らされた草原の緑が綺麗だ。

魔剣士「よし、国境越えるか」
294 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/17(日) 17:19:49.77 ID:L6USqMm1o
kokomade
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 23:30:46.20 ID:l4plPEde0
乙!
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/17(日) 23:56:36.77 ID:bMA1lpXFo
親子の会話いいな乙です
297 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/07/18(月) 00:20:47.64 ID:tEbmMAgto
補足
この世界の薬学部は(国にもよるが)四年で薬剤師免許を取ることができる
よってエリウスは現在博士課程の一年目
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 00:24:00.69 ID:V4Jx6Pg9O
勇者と戦士のお互いの呼び方の夫婦やってる感
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/18(月) 00:26:12.45 ID:gIWsTbxXO
案の定勇者がおじさんと同じウザキャラの道を
300 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/07/18(月) 18:32:42.74 ID:tEbmMAgto
あ、現代日本でも六年制を出たらすぐ博士課程行けるみたいですが
旧制の薬学部みたいな感じということで
301 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:40:45.75 ID:sq/eI797o

第十一株 無理解


――海岸付近の町・セルリア

武闘家「この頃食べる量増えたわね」

魔剣士「そうだな」

いつ犯されるかわからねえんだ。
ハードなことをされても大丈夫なよう精力つけとかねえと。

俺は必死に牡蠣フライを貪った。熱してあれば多分あたらないはずだ……。
俺は生で魚介類を食うと高確率で食中毒を起こす。

チラシ配り「そこのお二人さん!」

魔剣士「おん?」

チラシ配り「現在、あちらの会場で魔導器の見本市をやっておりまして」

チラシ配り「是非是非いらっしゃってください!」

チラシ配り「おうちに置きたい家電からアベックに嬉しいグッズまでなんでも並んでおりますので!」

魔剣士「ふ〜ん」

面白そうだな。チラシを見たら、俺が技術提供をしている企業の名前もいくつかあった。

魔剣士「行ってみようぜこれ」
302 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:41:44.01 ID:sq/eI797o

武闘家「いいけど……アベックってどういう意味?」

魔剣士「カップル」

武闘家「えっ……」

カナリアは赤面して俯いた。

そりゃ男女が二人でつっ立ってたらデキてると思われても仕方がない。
本当は一人でのんびりぶらつきたんだがなあ。

武闘家「ねえ、エリウス……」

魔剣士「ん」

武闘家「今はどんな花が好きなの」

魔剣士「この間好きになった子」

魔剣士「そこらに生えてる子じゃねえから見せらんねえけど」

武闘家「そう」

魔剣士「……人格を持った相手を好きになったのは初めてだから、」

魔剣士「また会えたとしても、どう接すりゃいいのか全然わかんねえや」

武闘家「!?」
303 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:42:35.70 ID:sq/eI797o

武闘家「人格?」

魔剣士「ああ。精霊の中でも高位だろうな……」

魔剣士「あ、ガウェイン。いい武器見つかったか」

重斧士「待たせたな。しっくりくるのは見つけられなかった」

魔剣士「なあ、これ見に行きてえんだけど」

重斧士「面白そうだな。付き合うぜ」

魔剣士「よし、行こうぜカナリア」

武闘家「うん…………」



重斧士「すげえな……未来に来たみてえだ」

魔剣士「やっぱ省エネ謳ってる企業が多いな」

武闘家「今時バッテリーを買おうとしても高つくものね」

家電に充分な魔力を補給できない家庭は、
他人の魔力を込めたバッテリーを買って生活することになる。

昔は安く買えたのだが、今時は魔力の需要が増えすぎて価格が高騰しているのだ。
俺も買おうかな……植物にかなり魔力吸われるもんな……。

魔剣士「魔力に替わるエネルギーでも見つかりゃあなあ」
304 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:43:09.78 ID:sq/eI797o

武闘家「あっちの部屋にもブースがあるみたいね。雰囲気が怪しいけど……」

重斧士「大人のコーナーって書いてあんな」

魔剣士「あー、アベックに嬉しいグッズがあるって言われてたろ」

魔剣士「そういうことだ」

さっきM性感の店が堂々と表に建っているのを見たし、
そういうのにオープンな町なのかもしれない。

M性感の開発……いや興味なんてないぞ。

武闘家「え、え……? あらぁ……」

魔剣士「興味あんのか?」

武闘家「ないわよ! 馬鹿!!」

魔剣士「くくっ」

魔剣士「あ、これこれ。俺が開発に協力したやつ」

販売員1「エリウスだ!! 一緒に写真撮っていただけませんか!?」

販売員2「俺も俺も!!」

魔剣士「いいっすけど」
305 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:43:43.08 ID:sq/eI797o

重斧士「どんな機械なんだ?」

魔剣士「傍に置いた植物にとって最も適した環境を自動的に作るんだ」

魔剣士「これの元になった装置を作ったのは……十四の頃だっけな」

北育ちの母さんは、故郷の観葉植物を集めていた。
だが、北の植物を南で育てるのは難しい。すぐに元気を失ってしまう株は多かった。

落ち込まれたら面倒だし、枯れてしまう植物を見るのはつらかったから、
植物を中に入れるとその植物に適した温度を自動的に測定し、
その温度を保つ小さな温室を作ったんだ。

喜ばれすぎて面倒だったな……。

販売員1「そうだ、あっちのブースにすごい物があるんですよ!」

販売員2「勇者ナハトを見れるんですよ!」

魔剣士「え?」
306 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:44:36.24 ID:sq/eI797o

示された方向を見てみると、スクリーンに何かが投影されているようだった。

技術者「こちらの製品はデジタルアナログコンバーター、略してDACと申しまして」

技術者「旧式の撮影魔術で保存された情報を新式の保存形式に変換し、」

技術者「こうしてデジタル形式の魔導器での再生を可能にしております!」

技術者「こちらは二十五年前、グレンツェント国の舞踏会の映像です」

技術者「北方の貴婦人から宝石をお借りして再生しております」

技術者「くう〜! 勇者ナハトが映っている映像を探すの大変だったんですよ〜!!」

そこに映し出されていたのは……キザな、俺とよく似た美青年だった。
紺色の髪、藍色の瞳、鉄紺の燕尾服……胸元には空色の石が嵌められたピンブローチが留められている。

若い女性とくるくる踊っている。これ、本当に俺の母さんか……?

勇者『君と会うのは十年ぶりかな……美しくなったね、アンジェリカ嬢』

赤服令嬢『ああ、こうしてあなたと再び踊ることができて……夢のようだわ』

重斧士「俺の親父って……男らしい男じゃなくこういう細いのが好きだったんだな」
307 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:45:14.27 ID:sq/eI797o

画面の端にはアルバそっくりの少年が突っ立っていた。
だが、アルバと違って目だけじゃなく眉もつり上がっており、雰囲気が堅そうだ。

二十五年前だから……十五歳の頃の父さんだろう。
今よりも随分小さいな。百七十あるかないかじゃないか。

父さんはどこか白けた感じの目で、紺色の髪の青年の方をチラ見している。

赤服令嬢『この夢が覚めなければいいのに』

勇者『夢はいつか覚めてしまうものだよ。僕はこの夜が明けたら消え去る定めなんだ』

うっわぁ……自分のこと『僕』って言ってる。
めっちゃ声低い。男の声だろこれ。体も出るべきところが全く出てない。

当時……ええと、十八歳だろ? 当然生理来てるだろ? なんでこんなに細いんだ?
あ、でも、体が成熟するのが遅くて俺を産めるか不安だったから云々って昔言ってたっけ……。

てか俺と同じくらい背があるような……ああ厚底か。なんでわざわざ……。

赤服令嬢『ああ、なんて甘い夢なのでしょう』

勇者『まるで君の唇のようだ』

赤服令嬢『まあ』

うっわくっさ。キザすぎ。マジキモい。

魔剣士「あ……あが……」

重斧士「おーい大丈夫か?」
308 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:46:19.79 ID:sq/eI797o

『そろそろ私と踊って!』

『いいえわたくしと!』

勇者ナハトの周囲に女性がたかった。母さんって呼びたくない。

大公娘『ナハト様、どうか一曲踊ってくださいまし』

勇者ナハトは、その内の一人に手を差し出した。

勇者『喜んで、ジークリンデ嬢』

大公娘『どうして私を選んでくださったのでしょう』

勇者『貴女の薔薇の様な瞳があまりにも魅力的だったものですから』

大公娘『薔薇の花言葉をご存じかしら』

勇者『ええ。紅色の薔薇は『死ぬほど焦がれる恋』』

勇者『そして、二本に束ねられた薔薇のメッセージは……『この世界は二人だけ』』

勇者『もう私の瞳には貴女しか映りません』

大公娘『お上手なこと』

踊っていた曲が終わり、二人は広間の外へ去っていった。
父さんはそれを心配そうに見つめていた。

魔剣士「…………」

魔剣士「あぁ……………………」

武闘家「エリウス!?」

重斧士「気を失ってるぞ」
309 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:47:00.46 ID:sq/eI797o

――――――――
――

目を開けると、そこには白い天井があった。
どれほど眠っていたのだろうか。

魔剣士「ここ何処」

武闘家「病院。あなた映像を見て気絶したのよ」

魔剣士「…………」

重斧士「なあ、いきなりですまないんだが、訊きてえことがあるんだ」

魔剣士「何?」

重斧士「おまえって、男から産まれたのか?」

魔剣士「は?」

重斧士「おまえ、『こんなの母さんじゃない』ってうわ言で何回も言ってたんだよ」

魔剣士「えっ……」

眩暈がした。

重斧士「おまえのお袋さんって、勇者ナハトだったのか?」

魔剣士「…………」

武闘家「…………」
310 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:47:35.67 ID:sq/eI797o

魔剣士「……勇者ナハトは実は女で今も生きてて俺達兄弟が生まれました!」

魔剣士「めでたしめでたし!!」

重斧士「ああ……そういうことか」

魔剣士「他人に漏らすなよこれ」

若い頃、母さんは男の格好をしていたとは聞いていたが……同一人物だと思えなかった。
今と当時とでは、肉付きも、表情の作り方も、立ち振る舞い方も、何もかもが違う。

重斧士「なあ、俺の親父は……ナハトが女だって知ってたのか?」

魔剣士「知ってたらしいぞモル曰く」

重斧士「ゲイじゃ……なかったんだな……」

ガウェインは窓際で黄昏始めた。

重斧士「そうか……こないだ会ったおまえのお袋さんが……」
311 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:48:22.70 ID:sq/eI797o

――――――――

勇者『あの……お父さん、元気にしてる?』

重斧士『あ、ああ……生きてはい……ますが』

勇者『そう……』

重斧士『親父のこと知ってん……知ってるんですか』

勇者『……あ、その、主人が若い頃お世話になったそうだから』

――――――――

重斧士「クレイの町を出る時にちょっと話しかけられたんだよ」

重斧士「そういうことだったんだな……」

青い石「アルカは彼のお父さんが誰なのか一目でわかっただろうね」

青い石「魔力から情報読めちゃうから」

重斧士「はあ……」

重斧士「じゃあ、自分はゲイだと思い続けていた俺の人生は一体……」

武闘家「大丈夫かしら……」

魔剣士「今、あいつは崩壊した自己同一性を再構成しようと戦っているんだ」

魔剣士「そっとしておいてやろうぜ」
312 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:49:15.30 ID:sq/eI797o

魔剣士「親父さんの女装趣味を知ってショックを受けたおまえの気持ちがわかった気がする」

武闘家「そう?」

魔剣士「俺って男から生まれたのかな……」

武闘家「気をしっかり持って」

深呼吸をした。

魔剣士「……俺さ、ずっと……」

魔剣士「どうしてまともな父さんから俺みたいなのが生まれてきたんだろうって思ってたんだ」

魔剣士「でも、あれを見たら……」

魔剣士「男同然の女に惚れた父さんって、意外と変態だったんじゃないかなって」

武闘家「あ、もしかしてギャップがよかったんじゃない?」

武闘家「普段は美青年だけど実は美女っていう」

魔剣士「う〜ん……」

でも普段は男同然なんだろ……父さんの女の趣味がわからない……。
313 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:49:43.15 ID:sq/eI797o

武闘家「あたしは見ててドキドキしちゃった」

武闘家「女の子にモッテモテだったわね、あなたのお母さん」

魔剣士「…………」

青い石「ナハトの……本当のナハトの真似してたからねえ、あの頃」

魔剣士「遠縁の男の子だろ? 魔族に殺された」

青い石「ちなみにあの子は今でもあの世で女の子口説きまくってる」

武闘家「あ、あの世のことがわかるの?」

青い石「寝てる間、お嫁さんや両親とだけは交信できるんだ」

青い石「だからちょっとだけ噂を聞いてる」

魔剣士「モルってさ、生前からそういう話し方だったわけじゃないだろ」

魔剣士「なんでそんな口調なんだ」

青い石「若い子とはこうした方が親しみやすいかと思って」

魔剣士「ふうん」

魔剣士「…………あれ」
314 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:50:38.20 ID:sq/eI797o

魔剣士「なあモル、母さんってあの頃は魔適体質だったんだろ」

青い石「そうだよ」

魔剣士「元々魔適体質じゃなかったのに、なんでそうなったんだ?」

魔剣士「それに、どうして魔王を倒した後は魔適傾向下がったんだよ」

青い石「ええと……まあ、いつか話す機会があったらね」

魔剣士「…………?」



夜、またあの歌声が聞こえた。

魔剣士「ユキ!」

白緑の少女「エリウスさん」

彼女は木の枝に座っていた。
315 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:51:35.98 ID:sq/eI797o

俺も木を登り、彼女の隣に腰をかけた。

な、何話そうかな。あんまりガツガツアピールしても引かれるかもしれないし。
どうしよう。

色々話したいことはあったはずなのに、いざ顔を見ると頭が真っ白になった。
俺が緊張していると、彼女の方から口を開いた。

白緑の少女「私が歌っていたのは、草花を元気づける歌なのです」

白緑の少女「波長が少し特殊で、通常、人には聞こえません」

魔剣士「じゃあ、俺が聞くことができたのは……」

白緑の少女「あなたが、草花を想う優しい心の持ち主である証です」

魔剣士「俺が……優しい心を?」

白緑の少女「ええ」

そうなのかな……幼い頃から植物が好きではあったけど。
316 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:52:03.22 ID:sq/eI797o

白緑の少女「あなたは、その身を犠牲にしてまでこの世界の植物を救おうとしてくださっています」

白緑の少女「それなのに、あなたに無礼を働いている精霊がいることに……」

白緑の少女「一体どう謝罪したらいいのでしょう」

魔剣士「えっ、あ、いや……君は何も悪くないし」

やっぱり、犯されてるところまで全部知られてるんだろうな……。

この子にだけじゃない。世界中の精霊達に知れ渡っている可能性が極めて高い。
生きているのがつらくなってきた。このことを考えるのはよそう。

白緑の少女「……優しい波動の魔力」

肩に頭を預けられた。

い、意外と積極的だな……それとも男として全く意識されていないのだろうか。
そりゃそうだよな。今時、精霊が人間の男になんて……。

魔剣士「……歌、聴きたいな」
317 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:52:50.44 ID:sq/eI797o

魔剣士「め、迷惑だったら別にいいんだけど」

魔剣士「君の歌を聴いてると……心が安らぐんだ」

白緑の少女「ええ、喜んで」

全ての疲れを癒すそうな、優しい歌声だ。心に直接響いてきて、体に染み渡る。
歌の流れと共に、小さな白い花が周囲の草木に振りかかった。まるで雪の様だ。

……雪の花。そう呼ぼう。
風が吹き、雪の花は夜空へと舞い上がった。


白緑の少女「また、いずれ」

彼女は左手を俺の右頬に添え、浅緑の瞳を細めて柔らかく微笑むと、姿を消した。

名残惜しさに胸が痛む。

夢のような甘いひと時だった。
318 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:53:37.99 ID:sq/eI797o

翌日。

武闘家「すぴー……」

魔剣士「なあガウェイン、おまえ……よく平気そうに振る舞えるよな」

重斧士「ん?」

魔剣士「俺、好きな子のことが頭から離れなくてすげえつらい」

重斧士「俺もけっこう苦しんでるぞ」

魔剣士「あんま表に出さねえじゃん……尊敬するわ」

魔剣士「うああぁぁぁ……」

俺は布団を抱き締めて寝台の上を転がった。
心が痛むと体まで痛くなる。胸が軋む。
319 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:55:52.31 ID:sq/eI797o

町を出て森の近くを通りかかると、精霊に呼ばれた。
渋々カナリア達を置いて精霊に会いに行った。

魔剣士「もしオディウム教徒の奴等が近付いてきたら、あいつらを隠してやってくれねえか」

黄柏精霊「お安い御用よ。ただし……」

魔剣士「……俺の体、使わなきゃ駄目か」

黄柏精霊「ええ」

魔剣士「っおまえの前で自慰してやるよ。だから、触るのは……」

黄柏精霊「行為を行っている時から触った方が魔力を取りやすいもの」

仕方がないから脱いだ。ちくしょう。
ユキ以外とこんなことしたくねえのに。
320 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:56:50.33 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「実はね、人間のえっちなお店を覗いて……ちょっと勉強してきちゃったの」

黄柏精霊「どうせなら楽しんだ方がいいじゃない?」

魔剣士「ちょっ、おい」

キハダの葉で全身を優しく愛撫された。

魔剣士「やめろ! くすぐったいだけだ!」

黄柏精霊「あら、ほんと?」

指で首筋をなぞられ、そして乳首をこねくり回された。
体から力が抜ける。俺は地面に腰を下ろしてしまった。

黄柏精霊「すごいんだよ。女の人が体中を優しく愛撫して、男の人、すごく気持ち良さそうだった」

魔剣士「あっ……やめっ……」

膝を撫でられるのやばい。ゾクゾクして動けなくなる。
321 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:57:18.57 ID:sq/eI797o

軽く竿を扱かれた。

黄柏精霊「本当にやめてほしいなら、おしべを硬くしたりしないよね?」

魔剣士「これは、そのっ……」

魔剣士「嫌でも反応しちまっ……くっ……」

実際、嫌なのに何で勃っちまうんだろうな。それが更に屈辱なんだ。

黄柏精霊「お尻の穴で、もっと気持ち良くしてあげるね」

魔剣士「は?」

周囲から蔓が忍び寄ってきた。
小腸までゴリゴリ犯されたことを思い出し、俺は恐怖を覚えた。

魔剣士「嫌だっ! やめろ!!」

魔剣士「前を扱くのは妥協してやる! だからそれは……」

黄柏精霊「気持ち良くなるだけだよ?」

魔剣士「ひっ」

俺はその場を逃げ出そうともがいたが、あっさりと捕らえられてしまった。

四つん這いの状態のまま動けない。
322 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:57:51.90 ID:sq/eI797o

葉による愛撫が続いた。

魔剣士「うっ……!」

黄柏精霊「ここ、気持ち良いの?」

尾骨の辺りを撫でられると、どうしようもなく熱が走った。

黄柏精霊「動物みたいね」

黄柏精霊「動物は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」

肩に力が入らなくなる。情けなく尻を突き上げる体勢になった。

黄柏精霊「射精せずに男の人が絶頂することをメスイキって言うんだったかな」

黄柏精霊「できたら楽しいかもね!」

楽しいのはおまえ等だけだろ。

黄柏精霊「挿れるよ」

魔剣士「嫌だ!! やめてくれ!!」

粘液で濡れた蔓が肛門を突き破って侵入してきた。

魔剣士「ちょっ、待って…………」

ろくに開発してねえ尻で感じるわけねえだろ……と思ったのだが、

魔剣士「っ……!?」

信じられないほどの快楽が突き抜けた。
323 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:58:29.61 ID:sq/eI797o

以前注入された媚薬の副作用だろうか。
成分そのものは抜けきっているはずなのだが……腹の組織そのものが変質してしまったのかもしれない。

犯されていた時は激しい快楽で頭がどうにかなりそうだったから、
副作用まで認識する余裕がなかった。

前立腺らしき箇所だけではなく、腸壁を押されるだけで周囲の神経が刺激されて快楽が走った。

黄柏精霊「すごいすごい! 感じてるんだね!」

抑えきれない喘ぎ声が漏れる。

切なくて切なくてたまらない。
何故俺が女のように犯されなければならんのだ。

……どうして、守ろうとしている対象からこんな辱めを受けなければならないんだ?
情けなくて涙が出てきた。……耐えろ。耐えろ。きっと永遠に続くわけじゃない。




ああ、もう、何回達したっけな。
射精してねえのに……してねえからこんなに気持ち良いのかな。

黄柏精霊「お兄さん、もうお顔もトロトロだね!」

黄柏精霊「体の中でイキまくって、すっかり女の子みたい」
324 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 18:59:45.52 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「最後に、もっと面白いことしてみよっか」

精霊の少女が服をはぐると、彼女の股間には、大きなめしべ……ではなく、
人間の男根を模したモノがついていた。

黄柏精霊「お店でね、男の人にサービスしてた女の人が、」

黄柏精霊「こんな風に男の人を気持ち良くしてあげてたんだあ」

黄柏精霊「不思議だよね、やることが逆転しちゃってるの! 人間の発想ってすご〜い」

彼女はソレを俺に押し当てた。
今まで中に入っていた蔓よりもずっと太い。

魔剣士「やだ……こんな……い、やだ……」

さっきよりも僅かに奥の方を突かれる。
前立腺の奥って何があるんだっけ。精嚢だっけか。

また違った快楽に襲われた。

もう、俺は声を抑えることさえ諦めていた。早く終わってくれ。
親にこんなところ見られたら泣かれるだろうな。いやもう泣かれてたか。
325 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:00:13.76 ID:sq/eI797o





……あれ、俺、いつの間に射精してたんだろ。
萎えた愚息の先端から、力なく精液が垂れていた。

すかさず精霊達が俺の精液を吸いに来る。
すげえイカ臭いもんなのに、こいつらにとってはご馳走らしい。

黄柏精霊「ね、気持ち良かったでしょ?」

俺は力尽きるように横向きに倒れた。

魔力の消耗はそう激しくないが、体力を使い過ぎた。
体が重い。

魔剣士「…………」

どうにか起き上がり、服を着る。
ずっと無理な姿勢をとっていたせいで腰が痛い。

黄柏精霊「……どうしてそんなに悲しそうなの?」

魔剣士「……言ったじゃないか。嫌だって」
326 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:01:30.92 ID:sq/eI797o

黄柏精霊「え? でも……感じてたでしょ?」

黄柏精霊「動物は性的快楽を好む生き物だし、すっごく気持ち良さそうだったし……」

魔剣士「ああ、そうか、おまえら植物だもんな。俺の気持ちなんて量りようがねえよな」

なんで俺が苦しんでるのかなんて知るわけねえよな。
……普通の人間とも植物とも違う俺って、一体なんなんだろうな。

黄柏精霊「…………」

黄柏精霊「ごめん……なさい……」

背後から、小さくそう聞こえた。
327 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/20(水) 19:02:19.03 ID:sq/eI797o
ここまで
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/20(水) 21:16:14.82 ID:E+bdpvvHo
前作でも味わったけど心のすれ違いは読んでて切な苦しい乙です
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/21(木) 02:49:44.15 ID:GAQXd/XwO
330 : ◆qj/KwVcV5s [sage saga]:2016/07/22(金) 00:01:57.88 ID:tQtmzFIAo
訂正
>>332
黄柏精霊「動物みたいね」

黄柏精霊「動物は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」

黄柏精霊「獣みたいね」

黄柏精霊「獣は、オスがメスのここを押して気持ち良くしてあげてるんだよ」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/01(月) 06:47:58.67 ID:09RnrIzLO
続き待ってるよ
332 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:43:06.13 ID:MptHbmsLo
第十二株 古代の体


乱暴にしやがって……上手く歩けねえじゃねえか。

仲間の所へ戻ると、盗賊らしき連中が木々に体を貫かれていた。
カナリア達を隠してくれるだけでよかったのに……流血沙汰になってやがる。

武闘家「大丈夫?」

魔剣士「がっぽり吸われちまった。けっこうきつい」

魔力の大量消費以上に体力を奪われたことがつらい。

重斧士「しかし驚いたぞ。俺が斧を取るより先に木がひとりでに動いてよ、」

重斧士「一瞬でこいつらを倒しちまったんだ」

一応まだ生きているようだ。

魔剣士「なかなかグロいな……一応通報しとくか」

罪人はバッテリー用の魔力の供給源だ。
罪人の魔力はそのままでは穢れているため、浄化の処理を施してから利用されている。

武闘家「蔓が何か運んできてるみたいよ」

魔剣士「この辺で採れる果物や野草だな。……おまえらにやるよ」

これを食って体力を回復しろってことなんだろうが、食べる気にはなれなかった。
333 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:43:36.42 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

不能になった。

勃たない。勃たないんだ。
性欲もあまり沸かない……というより、性的な感情に対して嫌悪を覚えるようになった。

俺はプライドが高いんだ。
相手に主導権を握られ、あられもない姿であんあん喘がされるというのはとんでもない屈辱なのである。

それに、魔力の供給のためとはいえ、
好きでもない奴と性的な行為をすることにはどうしても抵抗がある。

正直おぞましくてたまらない。
自覚している以上に精神に負担がかかっている。

今度ユキに会う時、俺は普通に振る舞えるだろうか。
犯され放題の俺なんかが、あの子に会う資格なんて……。

悲観的に考えるのはやめよう。悲劇のヒロインぶるのは嫌いなんだ。
俺は母さんとは違う。
334 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:44:22.73 ID:MptHbmsLo

大砂州近くの村。
道を行く人々の中には、俺を見ると股間を押さえて蹲る奴もいた。

皆壮年のおっさんだ。おそらく勇者ナハトのことを知っているのだろう。
この辺りの国で、勇者ナハトはかなりでかいテロ組織を潰している。
顔を見たことがある人間が多くてもおかしくはない。

勇者ナハトは、性犯罪者の股間を切り落とすだけではなく、
淫らな人間には不能になる呪いをかけまくってもいたらしい。

壮年の男「ひいっ!」

そんなに怯えんなよ。俺は不能にさせる側じゃないんだ。
335 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:45:47.90 ID:MptHbmsLo

老人「困ったのぅ……」

孫娘「司祭さんからも相手にしてもらえないもんね」

老人「仕方ないのじゃ、この頃教会の方々は忙しそうじゃからのう」

武闘家「何かあったのかしら」

魔剣士「他人のことに首突っ込むもんじゃねえぞ」

武闘家「ほっとけないわ。どうしたんですか?」

魔剣士「はあ、まったく……」

重斧士「俺はカナリアのそういうところが好きだ」

老人「実は、うちの敷地内から……夜な夜な女の子の泣き声が聞こえるのです」

孫娘「幽霊よ……絶対幽霊だわ! 昔ここで死んだ女の子よ!」

武闘家「まあ」

老人「一度声を追ってみたのですが、人影は一つも見つけられず……」

老人「怖いものですから、何度もそう探しに行く勇気も出ないのですじゃ」

武闘家「困りましたね。もしよければ、お手伝いさせてください」
336 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:46:53.12 ID:MptHbmsLo

青い石「幽霊……怖いよぉ」

魔剣士「おまえも幽霊だろ」

武闘家「あなた、植物の精霊とは意思の疎通ができるのよね?」

魔剣士「まあ一応」

武闘家「精霊なら幽霊がいるのを把握できるでしょうし」

武闘家「もし幽霊じゃなかったとしても、誰かが森にいるのなら探知できるでしょ?」

魔剣士「そりゃそうだが…………俺に頼ること前提かよ」

武闘家「お願い。協力して、ねっ!」

魔剣士「しゃーねえな」

老人「ありがたや……ご案内いたしましょう。こちらですじゃ」


孫娘「うちの裏の……あの山です」

老人「泣き声が聞こえる時間帯までもうしばらくございます」

老人「夕食をご用意しましょう」
337 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:47:48.20 ID:MptHbmsLo

少し暇ができた。

魔剣士「…………」

武闘家「何やってるの?」

魔剣士「自然破壊をしないようネットで注意喚起してる」

犯されたくない一心でだ。

武闘家「……難しいこと、いっぱい書いてるのね」

魔剣士「ただ呼びかけるだけじゃ駄目だからな」

魔剣士「精霊を怒らせない伐採量の目安や、」

魔剣士「伐採量を減らしたことにより発生する不利益への対策」

魔剣士「その他諸々をしっかり書いとかねえと何かとうるさいからな」

魔剣士「……書いても論争が巻き起こったりはするが、」

魔剣士「何もしねえよりはマシだろ、多分」

武闘家「……『英雄の子供』としてじゃなく、あくまで『あなた個人』としての社会への影響力、」

武闘家「すごく大きいのね。尊敬するわ」

魔剣士「親とは全く違う方向で成功してるからな」
338 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:49:06.57 ID:MptHbmsLo

魔剣士「そりゃ父さんの息子だからって理由で注目されることはあるが、」

魔剣士「一人の学者として評価されることのが圧倒的に多い」

青い石「それだけ薬学・植物学方面に突出してるんだよね」

青い石「正にエリウスは『天才と変態は紙一重』を体現してげふんげふんごめん」

魔剣士「父さんと同じ軍人志望のアルバは『英雄の息子』として見られることがどうしても多いみてえだけど、」

魔剣士「父さんの子供であることを心の底から誇りに思ってるみてえだから微塵も気にしてねえな」

魔剣士「それどころか、『父さんの百倍輝いて見せる』って息巻いてるくらいだ」

武闘家「…………」

武闘家「あたしだって、昔は……」

魔剣士「おまえ、魔導にも格闘にも自信ねえんだろ」
339 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:49:49.56 ID:MptHbmsLo

武闘家「そ、そうだけど」

魔剣士「今はまだ自分の好きなこと模索してればいいんだよ」

魔剣士「他に自分に合ったものが見つかるかもしれねえじゃん」

武闘家「…………」

魔剣士「ついでに言うと、親とは違う方面で実力を発揮するのも、同じような道を進むのも、」

魔剣士「ふっつーの一般人として生きるのもおまえの自由だ。無理に社会的成功を収める必要はない」

武闘家「…………」

魔剣士「英雄の子供のくせにヘボいとか言ってくる奴がいても無視すりゃいい」

魔剣士「英雄だって外面を剥げばただの人間なんだ」

魔剣士「だとしたら、その子供もただの人間だろ」

魔剣士「おまえ自身が親の地位に拘ってる限りはなんの進展もないだろうよ」

魔剣士「気楽に生きりゃいいんだ」

武闘家「……そう、よね。その通りだわ」

武闘家「エリウス、ありがとう」
340 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:50:15.60 ID:MptHbmsLo

武闘家「……そういえば、あなた春生まれよね?」

魔剣士「そうだけど」

武闘家「誕生日、いつ?」

魔剣士「先月終わったが」

武闘家「っどうして言ってくれなかったの? 祝えなかったじゃない!」

魔剣士「ええ……ほら、言う機会なかったし、」

魔剣士「自分から言い出したら祝ってもらいたがってるみたいで嫌だし」

武闘家「もう!」

重斧士「おい何喧嘩してんだよ。目が覚めちまったじゃねえか」

武闘家「あ……ごめん」

重斧士「おまえらも夕飯ができるまで仮眠とっとけ。今晩は夜更かしするんだからよ」
341 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:50:58.86 ID:MptHbmsLo

随分暗い夜だ。晴れてはいるが、月は弓の様に細い。

魔剣士「なあモル、おまえって自分以外の霊と干渉できないか」

青い石「ちょっとはできるけど……怖いから引っ込んでたい……」

魔剣士「あのなあ……」


うぅ……    
           うぁぁぁぁぁぁ……


武闘家「ねえ、今聞こえなかった?」

重斧士「微かに聞こえたな」

老人「恐ろしや……」

魔剣士「生きてる人間の声じゃあないな……この響きは」

重斧士「そういうのわかるのか?」

魔剣士「物理的な音と霊的な音は種類が違うんだよ」


タスケ  

       あ

         あ  


              たすケて
342 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:53:18.42 ID:MptHbmsLo

茂っている植物から情報をもらった。

魔剣士「……あっちの方らしい」

青い石「やばいよこれ、依り代なしでこの世にしがみついてるから悪霊になりかけてる」

青い石「ちゃんとした依り代に住まないと存在が安定しなくなるんだよ」

武闘家「ほ、ほんとに霊だったのね……」

重斧士「怖いなら俺の胸に飛び込んできていいぞ」

武闘家「遠慮しとくわね」

ガサッ

孫娘「きゃっ!」

腕に抱きつかれた。

魔剣士「おっと、大丈夫か」

孫娘「は、はい」

物音の正体はただのタヌキだ。

武闘家「っ……」

老人「全く動じないとは……肝が据わっておられますのう」

孫娘「す、すごいです。その、一緒にいてくださると……安心できます」

魔剣士「ん、そっすか」
343 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:53:53.18 ID:MptHbmsLo

魔剣士「あそこにいるな。女の子が蹲ってる」

老人「わしには何も見えませぬ……霊感がおありのようで」

魔剣士「ない方だと思ってたんだけどな」

青い石「多分私と長く一緒にいる影響だと思う」

武闘家「うっすら死んで冷たくなった魔力の塊が見えるわ……」

重斧士「何も見えねえ」

幽霊少女「見つカら……いの……」

魔剣士「ちょっくら行ってくる」

武闘家「あ、あたしも行くわ」

魔剣士「精霊もそうなんだが、霊ってのはエネルギー体だから他人の思念に敏感なんだ」

魔剣士「あまり大勢では行かない方がいい」

武闘家「そう……」
344 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:54:20.80 ID:MptHbmsLo

魔剣士「おい、俺の声聞こえるか?」

幽霊少女「ダ……レ……?」

モルに頼らなくても会話ができそうだ。

魔剣士「ええと……旅のもんなんだが」

幽霊少女「わたシが……見エてるノ?」

魔剣士「ああ」

魔剣士「どうして夜な夜な泣いてるんだ? どんな未練があるんだ」

幽霊少女「探シモノ……」

幽霊少女「わたシ……大切なモノを失くシて、」

幽霊少女「探シてたら、この山で足を滑らせて、死ンじゃって……」

幽霊少女「宝石……パパとママからもらった大切なモノ……見つかラないノ」

魔剣士「どんな宝石なんだ」

幽霊少女「琥珀……綺麗な緑色ノ……」

魔剣士「そうか、わかった。明日、明るくなったら探してやるから」

魔剣士「また明日の夜な」

幽霊少女「! あリが……とウ……」

幽霊少女「皆わたシのこと怖がるノに……あなタみたイな人、初メて……」
345 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:55:58.84 ID:MptHbmsLo

翌日。

重斧士「こんな草木の生い茂った山中でどうやって探すんだよ」

魔剣士「まあ見てろって」

植物達に俺の魔力を与え、琥珀を探すよう頼んだ。
昼間の方が植物の活動が活発なため、夜明けを待ったのである。

生き物や意思を持った何かであれば夜間でも探せたのだが、今回は小さな石相手である。
活動が活発な時間帯でないと探すのは困難だった。

武闘家「植物達の生命力が上がってる……」

生命の結晶との融合前の俺の魔力ではできなかったことだ。
この様子なら、そう時間をかけずに終わるだろう。




魔剣士「……これか」

山の奥の方、草むらの中に落ちていた。柔らかい緑の輝きを放っている。
ペンダントトップになっているようだ。

青い石「天然のグリーンアンバーだ……とんでもなく珍しいよこれ」

俺はその石に手を伸ばした。

魔剣士「っ!」
346 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:56:25.68 ID:MptHbmsLo

――いつまでも待っています。あなたが再び生まれてくる日を――

――ああ。次は必ず、君と……――

――待って! まだ、もう少し……――

――…………、また、いつか――





武闘家「エリウス、エリウス!」

重斧士「おいしっかりしろ」

魔剣士「う……」

魔剣士「わり、なんか……白昼夢見てたみたいだ……」

今のは……石の記憶か?
いや、はっきりとはわからないが、違う気がする……。
347 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:57:55.15 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

魔剣士「ほら、あったぞ。おまえの琥珀」

幽霊少女「!」

魔剣士「これで成仏できるか?」

幽霊少女「うん……ありがとウ、お兄さん」

幽霊少女「コの子……お兄さんに持っててほしいノ」

幽霊少女「アノ世にハ……持っテいけなイから」

幽霊少女「そレに……こノ子、お兄さんのトころに行きたがってるみたイだから」

魔剣士「……そうか」

幽霊少女「拾っテもらエて……よかっタ……」

女の子は光の粒になって天に昇っていった。

武闘家「エリウス、ありがとね」

魔剣士「ああ……」

俺は月明かりに照らされた琥珀に目を落とした。

俺はこの石のことを知っているような気がした。
この石に関する記憶なんてものは全くないのだが、どこか懐かしい感覚を覚えたのである。
348 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:59:16.74 ID:MptHbmsLo

大砂州を渡り、サントル中央列島の本島の森に入った。
データ収集が楽しくて仕方がない。

魔剣士「よし、そろそろ行くか……っ!?」

武闘家「どうしたの?」

魔剣士「ちょっと先に車に乗っててくれ。用事ができた」

少し離れたところの大木の陰に隠れた。
俺の体に二体の精霊が貼り付いていたのだ。俺の魔力に魅かれたらしい。

魔剣士「この大きさの双子の精霊は珍しいな……」

まだ人間でいう一歳程の幼女だが、
いずれはこの森を守る立派な人格持ちの精霊になるだろう。

魔剣士「離れろって」

幼青精霊「んー」

幼黄精霊「あうーまよくー」

魔剣士「おい……あーもう!」

幼いとはいえ怒らせたらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
強く拒絶することはできなかった。
349 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 18:59:46.24 ID:MptHbmsLo

魔剣士「くすぐってえって……」

上着を開けられ、両乳首を強く吸われた。

魔剣士「動物の真似事してんじゃねえぞ……男の胸吸って楽しいか?」

引っ張っても離れてくれやしなかった。

魔剣士「あのなあ、困ってるわけでもないならおまえらにやる魔力なんて……っ……」

魔剣士「あっ……やべえ…………」

気持ち良くなってきちまった。
こいつら意外とテクニシャンだぞ。巧みに舌を使ってきやがる。


魔剣士「うっ!」

幼黄精霊「きゃっきゃっ!」

幼青精霊「おいちかったぁ!」

俺の体が大きく震えた瞬間、幼女達は満足して駆けていった。
嘘だろ……俺、乳首だけでイッた? イかされた? しかも幼女相手に?

しばらく呆然として動くけなくなってしまった。
俺の体……一体どうなってんだよ。
350 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:01:09.62 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

数週間、いくつかの村や町を転々とした。

武闘家「海、綺麗ねー。ちょっと見飽きてきちゃったけど」

魔剣士「しばらく内陸を旅するから見納めだな」

南には青い海が広がっている。

西の方角には、大きな木のシルエットがうっすらと聳え立っていた。
アクアマリーナの大樹だ。

武闘家「あたし、ルルディブルクに行くのすっごく楽しみなんだ」

重斧士「花の都だっけか?」

魔剣士「この調子だと、順調にいっても数週間後だな」

魔剣士「あ、なあ、この花すげえ可愛くないか?」

武闘家「確かに可愛いけど……あなたが他人に共感を求めようとするなんて珍しいわね」

魔剣士「あ……確かにな」

重斧士「なんつうか……雰囲気が女っぽいぞ」

魔剣士「冗談言うなよ」

武闘家「そろそろ宿に行きましょうか」

武闘家「っ!」

地面のタイルに躓いたカナリアを受け止めた。

武闘家「ご、ごめんなさい。ありがと」

武闘家「……あら?」

むにっ
351 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:01:36.52 ID:MptHbmsLo

武闘家「…………」

むにっ むにっ

魔剣士「んっ……おい……何揉んでんだよ」

武闘家「嘘でしょ……」

魔剣士「な、何がだ?」

むにっ

……むに?

武闘家「エリウスあなた……おっぱい出てるわよ」

魔剣士「…………」

魔剣士「…………!?!?!?!?」

服を着ていれば目立たない程度ではあるが、確かに膨らみかけていた。
言われるまで気がつかなかった。

魔剣士「何かの間違いだろおおぉぉおおお!?」

重斧士「落ち着け! たまにそういう奴いるからよ!!」
352 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:03:10.93 ID:MptHbmsLo

魔剣士「い、いるのか?」

重斧士「ネコやってる男がメス化することは珍しくなかったぞ」

重斧士「『男らしいのがよかったのに女っぽくなったから』という理由で別れるカップルが……」

重斧士「何組かいたくれえだ。俺が入ってる暴走族での話だが」

武闘家「ね、ネコ……?」

魔剣士「すごい世界だな」

そういや、性感を開発されたら女性化するって話を聞いたことがなくもないような……。

サントル中央列島に来てからも、何度か精霊から女のように犯されている。
ちくしょうめ。多分そのせいだろう。

武闘家「……肌も綺麗になったわね」

魔剣士「お、俺が美白なのは元からだろ」

武闘家「更にきめが細かくなってるわ。嫉妬しちゃうくらい」

武闘家「顔つきも……ちょっとだけだけど……」

重斧士「メス化するとそうなるんだぜ」

武闘家「……どうして女の子っぽくなっちゃったの?」

魔剣士「ホルモンバランスが崩れてんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

魔剣士「うわあああああああ!!」
353 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:03:43.09 ID:MptHbmsLo

筋トレ! 筋トレ! 肉! 肉! 筋トレ! 増えよテストステロン!

魔剣士「うおおおおおおお」

少しでも男らしさを取り戻すため涙目になりながら体を鍛えた。

武闘家「闇雲に運動するだけじゃ効果は薄いわ」

武闘家「男らしくなれる献立とトレーニング内容組んであげる」

重斧士「俺も付き合うぞ。仲間がいた方がモチベも続くだろ」

魔剣士「うう……」

過酷な日々が訪れた。



武闘家「次は腕立て二百回ね」

魔剣士「え゛っ」

武闘家「昼食後は一時間休んで町の周りを……五周よ」

武闘家「じゃあスタミナご飯作ってくるわね」

あの筋肉女あああああ!!

重斧士「二百回くらい楽勝だろ、ほらやるぞ」

魔剣士「おまえらとは生きている次元が違うということを痛感した」

重斧士「やっぱカナリアとお似合いなのは俺だよな! な!」

魔剣士「へ? まあ二人とも筋肉の塊だよな」
354 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:04:30.06 ID:MptHbmsLo





ある日の夜、トレーニングに慣れてきたのか、寝る前に少しだけ体力が余るようになった。
昨晩までは寝台に乗った瞬間夢の中に突入したものだった。

武闘家「あら、植物以外の絵を描くなんて珍しいじゃない」

魔剣士「植物の精霊だから植物みたいなもんだ」

武闘家「……上手ね」

魔剣士「植物本体じゃねえのに、こんなに綺麗に描けるなんて自分でも思ってなかった」

魔剣士「はあ……ユキぃ……」

武闘家「例の、好きな子?」

魔剣士「あんま見るなよ……恥ずかしいだろ。その通りだよ」

武闘家「いつの間に会ってたの?」

武闘家「精霊に魔力をあげに行ってる時とか?」

魔剣士「いんや……その……おまえらが寝た後に……」

魔剣士「いいだろこの話は! 俺恋バナとかし慣れてねえんだって!」

武闘家「……あたし達が寝てる間に、こっそり一人で外出してたっていうの!?」

魔剣士「そんなに離れてるわけじゃねえし!」

寝る時には自衛用の結界装置を作動させている。金に物を言わせて強力な物を買った。
自分で自衛結界を長時間張り続けるよりも身体的にも魔力的にも負担が少ない。
野宿の時は交替で起きて見張りをすることもある。
355 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:05:11.26 ID:MptHbmsLo

魔剣士「安全には細心の注意を払ってるし別にいいだろ」

武闘家「女の子に夢中になってる間に襲われたらどうすんのよ!!」

魔剣士「そりゃ俺の自業自得だしおまえには関係ねえだろ」

武闘家「あるから言ってるんじゃない!」

青い石「喧嘩しないで」

魔剣士「そんなに俺に不満があるなら国に帰れよ!」

武闘家「それが嫌だからどんなに危険でも家出を続けてるのよ!!」

青い石「せっかく仲良くなったと思ったのに……」

重斧士「おい騒ぐな。他の部屋に響いたら迷惑だろ」

武闘家「……ムキになってごめん」

魔剣士「…………勝手な行動してばっかで悪かったな」
356 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:06:34.60 ID:MptHbmsLo

――――――――
――

魔剣士「なかなか男らしくならねえ……」

必死にメシを腹に詰め込んできつい筋トレにも耐えてるってのに。

武闘家「もう数週間続ければ変わってくるわ」

重斧士「もっと食う量増やさねえとな」

魔剣士「うっ……」

武闘家「よし、休憩終わり! スクワット始めるわよ!」

魔剣士「ひいぃ」

重斧士「おい誰かこっちに来るぞ」



聖騎士「漸く見つけたぞ……カナリアーナ!」

魔導槍師「やれやれ……随分と手間がかかりましたね」

現れたのは、プラチナブロンドの騎士の男と金髪の魔法使いだ。
騎士の方は……えーっと……。

魔法使いは誰なのか思い出せた。カナリアの兄ちゃんだ。名前は忘れた。
眼鏡をかけていて雰囲気が胡散臭い。

聖騎士「さあ、東に帰るぞ!」

騎士の男はカナリアの手を掴んだ。

武闘家「嫌よ!」
357 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:07:08.53 ID:MptHbmsLo

重斧士「おいてめえ、なにもんだ」

聖騎士「野蛮な口の利き方だな。育ちの悪さが窺える」

重斧士「んだとコラ」

武闘家「ちょっと二人とも、離れて離れて」

聖騎士「カナリアーナ、なんだこの男は!」

重斧士「こいつ知り合いか!? えらくおまえに馴れ馴れしいじゃねえか」

武闘家「ええっと……」

聖騎士「何故このような不良と共にいるのだ! 君には私こそが相応しい」

重斧士「てめえふざけてんじゃねえぞ!」

聖騎士「貴様は一体カナリアーナとどのような仲なのだ? まさか恋人ではあるまいな」
358 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:08:24.24 ID:MptHbmsLo

重斧士「恋人じゃあねえが……俺はカナリアに惚れてんだ」

重斧士「いきなり現れた男に強引に連れてかれるわけにはいかねえな」

聖騎士「ほおう? 私は幼少の時分より彼女に想いを寄せているのだがな」

武闘家「えっそうだったの?」

魔導槍師「いや〜若いっていいですね〜」

なんかやる気が削がれた。

聖騎士「エリウス、何処へ行くのだ!」

魔剣士「おまえ誰だっけ?」

聖騎士「なっ……」

奴は絶句した。

魔導槍師「エリウス君は相変わらずですね〜、ははは」

めんどくさそうなことになってるから宿に帰って絵でも描きたい気分だ。
あー、ユキが恋しい……。
359 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/02(火) 19:08:56.65 ID:MptHbmsLo
kokomade
次回までもちょっと時間かかるかもしれません
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/03(水) 10:37:36.05 ID:Qywp5FDJ0
乙!
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 18:45:37.01 ID:jm2iVtYk0
メス化怖い……
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 03:17:19.64 ID:4IQsKl17O
363 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:22:10.07 ID:z+NwFDT5o

第十三株 無理がある未来


武闘家「エリウス、彼ヴィーザルよ。エイルさんとこの」

武闘家「何回か会ったことあるでしょ」

魔剣士「……あー、あのめっちゃ生真面目な奴か」

真面目すぎて融通が利かずめんどくさかった記憶が蘇った。
格好からしてアモル教団の守護騎士団に所属しているようだ。

武闘家「こっちはアークイラお兄ちゃんね」

重斧士「お兄ちゃん……実の兄貴か!?」

武闘家「そうよ」

そうだそうだ。アーさんだ。確か俺は彼をそう呼んでいたはず。

聖騎士「貴様、以前は彼女と二人旅だったそうではないか」

聖騎士「何も間違いは起こさなかったのだろうな?」

魔剣士「俺人間に興味ないし」

武闘家「……あなたが恋してる子も人間の姿じゃない」

魔剣士「人間と人型精霊は別物だもん」

武闘家「…………」

魔剣士「俺にとってはこのアザレアの花のが遥かに性の対象として魅力的なくらいだ」

聖騎士「そ、そうか……」

武闘家「っ……」

魔導槍師「おや、これは……」
364 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:30:57.45 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「あー、マジ可愛い……」

性欲が減退しているおかげでムラムラは沸き起こらないが、その愛らしさに心が癒された。
本気で恋愛感情を感じているわけじゃないから決して浮気ではない。

……でもなんか胸はきゅんとするんだよな。

通りすがりのオタク1「りゅんたんマジ萌え〜」

通りすがりのオタク2「ぼきはラーナたん!」

ああ、そうか。この感覚は「萌え」なんだ。

魔剣士「アザレアたん萌え!! 萌え萌えしてる緑の葉っぱにも萌ええええ!!」

あくまで「萌え」だから浮気じゃない!!
まあ彼女と付き合ってるわけじゃないから浮気も何もないんだが。

聖騎士「な……なんだこいつ……」

重斧士「いつものことだ」

重斧士「とにかくカナリアを連れて行くなんぞ許さねえからな」

聖騎士「ならば力づくでも」

武器を抜く音が聞こえた。

魔導槍師「物騒になってきましたね〜」
365 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:32:53.43 ID:z+NwFDT5o

魔導槍師「ではここで解決法を提案しましょう。……ふふっ」

武闘家「あっ……」

武闘家「お願いエリウス、お兄ちゃんの悪い癖を止めて!」

魔剣士「悪い癖ってなんだよ」

魔導槍師「これから私が出す十二の試練に挑んでください」

魔導槍師「見事乗り越えられた方を、カナリアの婿候補として兄である私が認めましょう」

重斧士「……カナリアの兄貴公認の婿候補……やってやろうじゃねえか!」

聖騎士「よかろう。勝利を収めるのはこの私だ」

国に連れ帰るかどうかという話だったはずなのに、妙な方向に進んでいる。

武闘家「お兄ちゃんは玩具を見つけると、壊れちゃうまで無理難題をふっかけるのよ!!」

魔剣士「二人ともやる気みたいだしやらせとけよ」

武闘家「ちょっと」

魔剣士「男には白黒はっきりさせなきゃいけねえ時があるんだよ」

魔剣士「イヌツゲたん萌え〜〜」
366 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:34:38.01 ID:z+NwFDT5o

武闘家「うぅ……エリウス〜……」

聖騎士「…………」

聖騎士「どんな変態だろうが、やはり貴様とも決着をつけなければ気がすまん!!」

魔剣士「え、なんで?」

聖騎士「き、貴様……本気で言っているのか?」

重斧士「こういう奴なんだ」

聖騎士「大体貴様等その身長は嫌味か?? 嫌味なのか????」

重斧士「いくつだ?」

聖騎士「ひゃ……176だが?」

魔剣士「俺の母さんの2センチ下か。充分あるじゃねえか」

聖騎士「やはり貴様私を馬鹿にしているな」

そんなつもりはなかったのだが。

重斧士「俺なんて2メートル近くあるせいで不便してるんだぞ。羨ましいくれえだ」

魔導槍師「ちなみに私は188です」

父さんと同じくらいだ。3センチ負けた。

魔剣士「じゃ、俺関係ねえし勝手にやっててくれ」

聖騎士「待て!」

魔剣士「あ、カナリアは世話焼きたいタイプだからおまえみたいな男とは相性悪いと思うぞ」

聖騎士「なっ……」
367 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:35:19.78 ID:z+NwFDT5o

魔剣士「じゃあな」

武闘家「ああもう! また一人でどっか行こうとしてるー!」

武闘家「単独行動は駄目なのに!!」

聖騎士「危機管理能力が欠けているにもほどがあるな」

魔導槍師「心配する必要はありません。結界を張っておきました」

魔導槍師「安全は保障します」

武闘家「でも…………」



聖騎士「待てと言っているのがわからんか!」

魔剣士「おまえなかなかしつこいな……うっ」

犯されたおぞましさを突然思い出して気分が悪くなり、茂みで嘔吐した。

この頃はよくあることだ。
せっかく食ったのにな。食べ物がもったいねえ。

聖騎士「お、おい……大丈夫か」

魔剣士「ほっといてくれ」
368 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:36:07.01 ID:z+NwFDT5o

――――――――

ガサッ

聖騎士「待たせたな」

聖騎士「では勝負を始めるぞ。最初の試練はなんだ」

重斧士「あいつはいいのか?」

聖騎士「具合の悪い人間を無理矢理土俵に登らせるほど私は鬼畜ではない」

――――――――



胃が空になって腹が減ったが食欲はない。これじゃ鍛えようにも力なんて出せやしない。

まあ今日一日くらい休んだっていいだろう。連日超絶ハードな筋トレに耐えてんだ。
369 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:38:01.16 ID:z+NwFDT5o

――
――――――
――――――――――――

『アークイラ君すごいな。史上最年少で宮廷魔導師になったんだろ』

『現代魔術の使い手としては、だけどね。マリナに似て優秀なんだ。エリウス君もすごいんだろ?』

『あの学力はアルカさんに似たんだろうな……。ヴィーザル君のニュース読んだか?』

『あー読んだ読んだ! 将来有望な法術師の卵ってやつでしょ』



俺は床にしゃがみこみ、店に置かれた観葉植物を観察していた。

『おい、少しは何か話したらどうだ』

『…………』

『せっかくじい様達が集まって楽しく食事してるのに、空気が悪くなるだろ』

『…………』

『聞いているのか? エリウス、おまえに言っているんだ』

白に近い髪色の奴が話しかけてきた。

『行儀が悪い。せめて席に戻れ』

渋々椅子に座った。ここにいても、楽しいことなんて一つもない。
大人達が話していることにも興味が沸かない。

窓の外を見た。青い空の下で、木が風に揺らされていた。
喋るよりも木の動きを見ている方がよっぽど楽しい。
370 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:38:30.05 ID:z+NwFDT5o

『……ずっと仏頂面で黙ってるじゃないか。話を聞いたり、周囲に合わせて笑ったりできないのか?』

好きで連れてこられたわけじゃないのに、なんでわざわざ他人に合わせなきゃいけないんだ。

『何を言っても無駄ですよ、ヴィーザル。彼は『そういう子』ですから』

アーさんが優しくそう呼びかけた。

柔らかく微笑んでいるが、俺はその目が怖くてたまらない。
俺を憐れむような、嘲笑しているような感じの目だった。

俺は気を紛らわせようと外を眺め続けた。
日の光の下で気持ちよさそうに枝を伸ばしている木が羨ましかった。

――
――――――
――――――――――――
371 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:40:21.28 ID:z+NwFDT5o

妙なこと思い出しちまった。気分わりぃ。
もう吐くもんなんて残ってねえのに吐き気が強くなった。

ふと俺は鏡を見た。
俺って美人だよな……。

魔剣士「もしもしアウロラ? 頼みがあんだけど……」


――――――――

魔導槍師「私の大切な妹を甲斐性のない男に任せるわけにはいきませんからね〜」

魔導槍師「そうですね……この頃、この辺りに家畜を荒らす獅子が現れるそうです」

魔導槍師「私の術で誘き寄せますので、退治してください」

武闘家「待ってよ!」

どうにかしてお兄ちゃんを止めないと。

重斧士「安心しろ、カナリア。俺はライオンなんぞに負けやしねえ」

重斧士「なんせストロンゲストタイガーの異名を持ってるくれえだからな」

聖騎士「試練にしては簡単すぎるな」

武闘家「最初は簡単な試練を出して後から絶望させるのがいつもの手口なのよ!!」

武闘家「大体、お兄ちゃんは私が大切だからこんなことやらせようとしてるわけじゃ」

魔導槍師「さあ行きますよ〜。ここでは一般人が犠牲になりかねませんからね」
372 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:41:12.73 ID:z+NwFDT5o

まともに止めようとして敵うわけがない。
お兄ちゃんはエスト大陸最強とまで言われているほどの魔導師だもの。

直接お兄ちゃんに何か言うより、二人の戦意の喪失を狙った方がいいかもしれない。

武闘家「あのね、あたし、どっちとも付き合う気ないから!」

武闘家「こんな争いしたって無・駄! 無駄なの!!」

重斧士「お義兄さんに認めてもらえるってのはでけえんだよ」

聖騎士「なんとしてもこの男には勝たなければならんのだ」

武闘家「このままじゃ二人とも、最低でも半年は病院から出られなくなるわ!」

武闘家「本当にあたしのこと、す、好きなら、あたしの言うこともうちょっと聞いてよ!」

重斧士・聖騎士「「好きだからこそだ」」

武闘家「えっ……」

重斧士「真似すんなよ」

聖騎士「おまえが真似したのだろう」

武闘家「……再起不能になっても知らないんだからー!」

魔導槍師「いい子だからここで大人しく見ていましょうね」
373 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:41:57.19 ID:z+NwFDT5o

町の外に出ると、巨大なライオンが現れた。
とんでもなく大きい。百人は殺していそうだわ。

聖騎士「我が法術で眠りの世界に落としてやろう」

聖騎士「誘眠の星光<スリーピング・スターダスト>!」

巨獅子「ガアァァァー!」

重斧士「利いてねえぜ!」

聖騎士「これほど獰猛とは……!」

重斧士「その首たたっ斬ってやる!」

ゴッ!

重斧士「俺の斧が……通らねえだと!?」

聖騎士「ふん、口ほどにもない」

硬いたてがみに引っかかって、首に刃が届かなかったみたいだった。

武闘家「嘘でしょ……あんなに強いなんて。ねえお兄ちゃん」

魔導槍師「大丈夫です。あの二人なら容易に倒せるでしょう」
374 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:43:13.02 ID:z+NwFDT5o

重斧士「狙ったところがちょいと悪かっただけだぜ」

ガウィはライオンの背や腹を……たてがみのない部分を狙い出した。
ライオンの動きを巧みに読んで、ありえない身体能力を生かして攻撃を繰り出している。

身体強化魔術を使用していないのに、
あんなに俊敏に動けるなんて……いつものことながらすごいと思った。

聖騎士「負けてはおれんな」

ヴィーザルは補助系の法術で自分の身体を強化したり、
ライオンの動きを鈍らせたりして剣を振るっている。

惚れ惚れするほど華麗な剣さばきね。惚れはしないけれど。

聖騎士「討ち取ったぞ!!」

重斧士「とどめを刺したのは俺だ!」

聖騎士「いいや私だ!!」

重斧士「カナリアー! この毛皮はおまえに捧げるぜ!!」

聖騎士「被害を受けた町の住民に寄付すべきだ! 君もそう思うだろう!?」

魔導槍師「では次行きましょうか〜」
375 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:44:08.32 ID:z+NwFDT5o

武闘家「恋愛って、めんどくさい……」

……想ってもらえるのはありがたいことなのだろうけれど、気持ちに応えることはできない。
だって、あたしは……。

武闘家「…………」

魔導槍師「耳を貸しなさい、カナリア」

魔導槍師「兄として忠告します。エリウス君はやめておきなさい」

武闘家「べ、別にあたしは……」

魔導槍師「脳機能の障害を持った相手を追いかけても苦労するだけですよ」

武闘家「っ! 確かに個性的な奴だけど、そんな言い方ないじゃない!! 彼に失礼よ!!」

魔導槍師「事実です」

武闘家「っ……」

――――――――
376 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:45:17.10 ID:z+NwFDT5o

青い石「ねー……エリウスー……」

魔剣士♀「…………」

M男1「あの!」

M男2「お願いがあります!」

魔剣士♀「あら……何かしら」

M男1「どうか、俺たちの……」

M男達「「女王様になってください!!」」





「おい……見ろよあの長い黒髪の美女……」

「ああ……やばいな……190以上ありそうなのに細くて綺麗なんだよな……」

「俺も奴隷にされたい……」

「切れ長のつり目がたまらん……」
377 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:46:31.25 ID:z+NwFDT5o

魔剣士♀「ヒールって歩きづらいのね」

魔剣士♀「調子に乗って10センチのなんて選ぶんじゃなかったわ。んっふ」

青い石「……………………」

母さんをすっきりさせた感じの美女に仕上がったわ。
アウロラにも負けてないんじゃないかしら。罪な兄ね。いいえ姉かしら。
ウィッグの重さにも慣れてきたわ。

M男8「荷物お持ちいたします!」

魔剣士♀「あらありがと」

青い石「うわあああ!!」



重斧士「ぜー……はー……これで……十個乗り越えたぞ……」

聖騎士「なかなか……やるではないか……だがもう限界ではないか……?」

重斧士「おまえこそ……息切れてんじゃねえか……」

魔導槍師「いや〜二人とも素晴らしいですね〜」

魔導槍師「大抵五つ目くらいでリタイアしてしまうんですけどね。これなら本当に……」

武闘家「やめてお兄ちゃん」



魔剣士♀「ご褒美にムチ五十回の刑よ〜! お〜ほっほっほ!」

M男8「ああっ!」

武闘家「え?」
378 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/11(木) 17:49:55.66 ID:z+NwFDT5o

魔剣士♀「そんなにこのムチが気持ちいいの? とんだド変態さんねぇ!」

M男8「ひぃんっ! あっ! いいっ!」

M男7「女王様! このゴミクズ同然の俺にもどうか情けのムチを!」

魔剣士♀「仕方ないわね……ゴミクズはゴミクズらしくもっと恥ずかしい格好で跪きなさぁい!」

重斧士「おい……あいつ……」

聖騎士「まだ日暮れ前だというのに淫らな奴等だな」

魔導槍師「あれは……なかなか……本当の女性でないのが惜しいですね……」

魔導槍師「父さん♀よりも美しいですよ」

武闘家「…………」

魔剣士♀「変態共ォ! そんなにあたくしのムチが欲しければ尻を突き出してそこに並びなさ」

武闘家「変態はどっちよ!!!!」

魔剣士♀「あっ」
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