魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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580 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:14:39.69 ID:IbKbh14ho

携帯にメールが届いた。アルバからだ。

  送信者:アルバ・レグホニア “alalba_tross@Fmail.ac.south”

       ラベンダーを並べんだー!
       P.S.明日はルツィーレの誕生日だからね! 祝ってあげてね!


すごくくだらないのに笑ってしまった。
たまに駄洒落を思いついたら送ってくるんだよなこいつ。

添付画像には、収穫したラベンダーの花が写されていた。
これから束ねて廊下にでも干すのだろう。
ルツィーレももう十歳か。早いもんだな。

魔剣士「…………!」

精霊に呼ばれた。

歌姫「……顔色が悪いですわよ」
581 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:15:31.14 ID:IbKbh14ho

精霊を無視するわけにはいかない。
メルクにモルの石を預けて、森の奥へ歩を進めた。

恐怖で身体が震える。


辛夷精霊「……なんて弱々しい波動」

辛夷精霊「これじゃ、どんなに融合が進んでいても……何回も絶頂してもらわなくちゃ足りないね」




身体中を愛撫され、尻の中を貫かれた。
恥辱の極みだ。

辛夷精霊「他の子が必要以上に君を苛めたくなっちゃう気持ちがわかっちゃったかも」

辛夷精霊「君、精霊並みに綺麗な顔してるんだもの」

なんだよそれ。母さんに似なかったらここまでされなかったとでも言うのか。

辛夷精霊「ねえほら、ここ気持ちいいんでしょ?」

早く終わんねえかな……。

言葉を発せないんだから、どうせなら喘ぎ声とかも全部出なくなっちまえばいいのに。
自分の意思とは関係なく勝手に出る声は出ちまうんだ。
582 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:19.80 ID:IbKbh14ho

辛夷精霊「身体は気持ちよくなってるのに、心は辛そうだね」

辛夷精霊「……心も気持ちよくなれるようにしてあげよっか」

周囲の植物から妖しい茎が伸び出した。

辛夷精霊「まともに考えることができなくなっちゃうくらい、よくなれるよ」

辛夷精霊「ついでに、コレが元気になる成分も挿れてあげちゃう」

力の入っていない愚息をつつかれた。
どうせ勃起不全だよ。男失格だよ。ほっといてくれ大きなお世話だ。

辛夷精霊「折角こんな滅多にできないコトをしてるんだから、楽しまなくちゃね!」

まずい。植物側の自我が強いと俺は成分を操ることができない。

辛夷精霊「一回やったらクセになっちゃうかも。……あははは!!」

こいつが俺に打とうとしているのは麻薬に近い物と強制勃起薬だ。
麻薬は言うまでもなく危険だが後者も副作用でやばいことになるかもしれない。

やめろ! やめろ!!

辛夷精霊「怖がらなくても大丈夫だよ。ちょっと人間やめてる状態になっちゃうだけだから」

死なないなら問題ないってか!? 冗談じゃねえ!!

白緑の少女「おやめなさい!」
583 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:16:48.60 ID:IbKbh14ho

え……ユキ?

辛夷精霊「す、スファエラ様……」

白緑の少女「人間はあなたが思っている以上に脆いのです」

白緑の少女「乱暴にしたら……許しませんよ」

辛夷精霊「は、は、はい…………」

白緑の少女「エリウスさん、ごめんなさい」

白緑の少女「彼女に悪意はないのです。ただ、人間のことを知らなすぎるだけ……」

犯されているところを好きな女の子に見られた。


俺やっぱ死にたい。
584 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:17:37.04 ID:IbKbh14ho
kokomade
osokutegomennnasai
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/17(土) 19:17:36.62 ID:GXMFilMdo
おつおつ
忙しかったら生存報告だけでもいいよ
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 03:39:40.08 ID:AD87cDXgO
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/18(日) 23:53:11.30 ID:0Dr5MWzg0
カナリアとくっつく可能性はあるのか?
588 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:53:57.03 ID:x9vu2cVWo

第二十一株 緑ノ秩序ヲ創ル者


今、最愛の女の子が膝枕をして俺の頭を撫でてくれている。
だが俺の首から下は他の精霊に犯されている。とんだ羞恥プレイだ。

白緑の少女「エリウスさん……」

魔剣士「ぃ、っ……で……」

見ないで。出ない声を振り絞った。
あ、やばい。久々に朝立ち以外で勃った。

好きな子に対してはまだ反応するんだな……とか喜んでいる場合じゃない。

辛夷精霊「あ、魔力……おいしくなったね」

わりとマジで泣いてる。
589 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:54:38.36 ID:x9vu2cVWo




樹液と汗にまみれた身体をユキが拭いてくれた。

白緑の少女「上着、どうぞ」

魔剣士「…………」

惨めすぎる。

白緑の少女「ええっと……」

白緑の少女「人間は、性的な行為を隠そうとする生物……ですものね……」

白緑の少女「私も考えが足りていませんでした。……ごめんなさい」

性器である花を目立たせている植物は少なくない。
性的なものを隠す文化が植物にはないのだろう。

俺が気にしているほど気にするべきことではないらしい。
でも俺はなんだかんだで人間だから、見られたのはやはりとてもつらい。つらい。
590 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:55:12.04 ID:x9vu2cVWo

もうやだかっこ悪すぎる。死にたい死にたい死にたい死にたい。

魔剣士「っ…………!!」

やば、腹、痛い……侵食されてる。

白緑の少女「いけない!」

後ろからユキに抱きしめられた。

白緑の少女「生きて!」

魔剣士「…………」

    俺が犯されてるのを見て、ほんとになんとも思わなかったの。
    幻滅したでしょ。

白緑の少女「そんな、幻滅なんてしません」

白緑の少女「でも……なんとも思わなかったわけではありません」

魔剣士「…………」

白緑の少女「私、正直……嫉妬してしまっていました」

嫉妬?

白緑の少女「好きです、エリウスさん」
591 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:08.52 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「……初めて会った時から、私はあなたに惹かれていました」

白緑の少女「でも、あなたが私の恋人の生まれかわりだと気づいて……」

白緑の少女「今のあなたのことが好きなのか、彼の面影を追いかけていただけなのか、」

白緑の少女「わからなくなってしまったんです」

    だから、あの時泣いてたの?

白緑の少女「……はい」

白緑の少女「しばらく一人で考えてわかりました。私は今のあなたが好きです」

白緑の少女「しかし……彼、イウスのこともまだ愛してしまっています」

イウス……?

じゃあ、あれは幻なんかじゃなくて、前世の記憶?
今まで琥珀を通して見た映像もきっと……。

白緑の少女「ごめんなさい。こんな不誠実な気持ちをあなたに向けてしまって」
592 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:57:47.78 ID:x9vu2cVWo

    全然いいよそんなの。だって魂はおんなじなんだもん。

嫉妬する必要なんてなかったんだ。
あの男の精霊は俺の過去世だったんだから。

    俺の前世、人間に自分を伐るよう頼んでたよね?

白緑の少女「記憶があるのですね」

    ちょっとだけだけどね。

白緑の少女「……私が子供を望んだから、彼は私と同じ種族に転生しようとしたのです」

白緑の少女「ですが、彼の転生が完了する前に、」

白緑の少女「憎悪の神オディウムがもたらした厄災により私の種族は滅んでしまいました」

白緑の少女「私も枯れることができたらと、何度も思いました」

白緑の少女「しかし、あの後、私は死にたくても死ねない体になってしまいました」

だから俺の魂は一億年に近い時を彷徨っていたんだ。

ユキと子供を成せる体を求めて、ずっと。
593 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:58:17.87 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「精霊から精霊に転生する場合は、前世の人格と記憶を引き継ぐことができるんです」

白緑の少女「でも、今のあなたは人間。あくまで別の人格を持って生まれた存在です」

白緑の少女「それなのに、両方愛しているだなんて……」

俺は振り向いて彼女を抱きしめ返した。

白緑の少女「許してくださるのですか?」

    両方好きでいていいよ。死んだ恋人のこと忘れろだなんて酷なこと言わないよ。
    俺の前世ごと俺を愛して。

白緑の少女「……ありがとう、エリウスさん」

    好きだよ、ユキ。誰よりも。

俺が抱えていた孤独感なんて、ユキの孤独に比べればちっぽけなものだ。
どれだけ寂しい思いをしただろう。どれだけ苦しかっただろう。

    一億年も独りにしてごめん。
    俺の命が続く限り、君を愛するから。
594 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 16:59:14.21 ID:x9vu2cVWo

白緑の少女「この琥珀は、イウスの身体から生まれたものです」
白緑の少女「きっと彼があなたを守ってくれるでしょう」





歌姫「遅かったじゃ……随分顔色が良くなりましたわね」

魔剣士「うん」

歌姫「あら。声、治りましたの」

白旅人「元気を取り戻されたようでよかったです」

魔剣士「待たせて悪かったな。急げば夜までに町に着くはずだ。車飛ばすぞ」

傷が癒えたわけじゃない。
でも、好きな子と両思いだと確認できた喜びが心の芯を支えてくれる。
595 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:13.24 ID:x9vu2cVWo

白旅人「あなたを混乱させないために黙っていたのですが、」

白旅人「実は僕、あなたの事故現場にたまたま通りがかったわけじゃなかったんです」

魔剣士「随分都合よく助けてもらえたなとは思ってたんだ」

白旅人「ある日、いつも通りオディウム教徒の方々に強引な勧誘をされていたのですが」

白旅人「彼等、妙なことを言って去っていったんですね」

白旅人「『作戦が上手くいきそうだ』『最優先すべきエリウスを追うぞ』と……」

魔剣士「…………」

白旅人「気になったので、僕は彼等の後を追いました」

白旅人「彼等、あなたに探知されない距離を保ちつつ気配を極力抑えていましたね」

白旅人「そして、雇った外部の人間にあなた方の様子を報告させていたようです」

白旅人「ある時、彼等はあなた方のいる方向へ急接近しました」

白旅人「『生贄達の仲を決裂させることに成功した』と言ってね」
596 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:00:44.92 ID:x9vu2cVWo

白旅人「彼等は一人で出てきたあなたに睡眠の術をかけ、捕らえようとしました」

白旅人「普段のあなたなら術にかかりなんてしなかったでしょうけれど、」

白旅人「精神的に追い詰められると隙が大きくなりますからね」

あの時、俺は敵の気配を察知する余裕なんてなかったし、
ひたすらあの場から逃げることしか考えることができなかった。

白旅人「そこで僕が奴等を倒し、あなたを助けたわけです」

白旅人「おそらくカナリアさんは、彼等から何らかの術をかけられていたのでしょう」

魔剣士「……俺達、罠に嵌められたんだな」

クレイオーとのライブの後、微かだがあいつの魔力に違和感があった。
気のせいなんかじゃなかったんだ。

魔剣士「…………」

カナリア自身がやりたくてあんなことをやったわけじゃなかった。
裏切られたわけじゃなかったんだ。

そもそもあいつは俺の気持ちを無視してあんなことやらかすような女じゃない。
597 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:01:22.02 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「じゃあすぐにカナリア達と合流しねえと!」

白旅人「まだあなたとカナリアさんが顔を合わせるのは危険です」

魔剣士「だけど」

白旅人「絶対とは言い切れませんが大丈夫ですよ。彼女は現在プティア兵に保護されています」

白旅人「僕の祖国の両親に相談したら、いいように手を回してもらえたんですよ」

魔剣士「…………そうか」

白旅人「彼女もそう簡単には催眠にかからない精神の持ち主です」

白旅人「余程弱っているところを付け込まれたのでしょう。……許せませんね」

魔剣士「ちくしょう、あの時ちゃんと調べていれば…………!」

白旅人「心当たりがあるのですか」

歌姫「あ……」

歌姫「もしかして、あたくしと町に行ったあの日じゃありませんの……?」

歌姫「あたくし、カナリアさんに違和感を覚えた瞬間がありましたの」

魔剣士「…………」
598 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:07.38 ID:x9vu2cVWo

歌姫「その通りですのね?」

歌姫「……もし、あたくしがカナリアさんを傷つけたせいで、」

歌姫「あなた方に何かがあったのなら……」

魔剣士「……もう、あんま他人を煽ったりすんなよ」

歌姫「……ごめんなさい」

魔剣士「まあ、おまえに何も言われなくても元々弱ってたし、悪いのはオディウム教の連中だし」

魔剣士「また歌ってくれよ」

魔剣士「緊張したり、嫌なことばっか思い出したりしたら、また声出なくなりそうなんだ」

歌姫「それで、贖罪になるのでしたら」
599 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:02:42.44 ID:x9vu2cVWo

翌朝

魔剣士「昨晩は暗くてよくわかんなかったけど」

魔剣士「この町の雰囲気、あんま穏やかじゃないな」

歌姫「緊張してる感じですわ」

白旅人「近隣の森と揉めてるそうですよ」

魔剣士「マジ?」

町人「おお、あなたはもしかして森林保護活動を行っているというエリウスさんでは」

魔剣士「活動ってか、ネットで呼びかけたりしてる程度だけどな」

魔剣士「事情を教えてもらっていいか?」

町人「この町は、かつてオパールの採掘で栄えていたのですが」

町人「ほとんど掘り尽くしてしまい、貧困に苦しむこととなってしまいました」

町人「町全体が貧しくなれば、質のいい魔鉱石を買うことができなくなります」

町人「そのため、火を使いたければ大量の薪炭材を消費するしかなく……」

魔剣士「それだけじゃないだろ」
600 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:27.29 ID:x9vu2cVWo

町人「オパールが採掘できなくなった代わりに、周辺の森の木を木材として売り出しているのです」

魔剣士「まあ他の町もやってることだよな」

町人「…………」

魔剣士「他にまだあんだろ」

町人「実は……タバコの栽培を始めたのです」

町人「伐採した木の多くは、葉煙草の乾燥のために使用しています」

魔剣士「はあー……なんでよりにもよってんなもんで儲けようとするかね」

魔剣士「できる限り環境を破壊しないビジネスを確立しなきゃあ、」

魔剣士「結果的に余計貧しくなるだけだってのに」

町人「綺麗事だけで食っていけるほどこの世界は優しくないんですよ!」

町人「たとえその場凌ぎにしかならないとしても、稼がなきゃ妻子が飢えちまう」

魔剣士「でももうちょっと頭使えよ」

町人「この世界の人間全員があなたみたいに頭がいいわけじゃないんだ!」

魔剣士「…………」
601 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:03:55.95 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「……領主には相談したのか?」

町人「三十年前に町長が領主様と喧嘩して以来この土地は見放されてるんですよ」

町人「領主様と連絡を取ったってまともに相手をしてもらえるわけないんです」

魔剣士「いやそこは頭下げろよ」

歌姫「エリウス、クッション言葉のことは教えたでしょう」

魔剣士「あ……」

相手を否定する前に、相手を気遣う一言を挟んだ方がコミュニケーションは円滑になる。
医者からも、大学の先生からも、こいつからも教わったことだったのに忘れてしまっていた。

魔剣士「まあ……色々苦労して、苦肉の策がそれだったんだろうしな」

魔剣士「俺に話しかけたってことは、俺に頼みがあるんじゃないのか」

町人「ええ」
602 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:04:22.52 ID:x9vu2cVWo

町人「あなたが訪れると、樹木の精霊が話す能力を得て、」

町人「近隣の町村とのトラブルが解決していると聞いています」

町人「どうか、この町を助けていただけないかと……」

魔剣士「……とりあえず、精霊と話してきてやるよ」

魔剣士「その後町長のところに向かうから、話を通しといてくれ」

町人「ありがとうございます……」

遠くから何かが破壊される音が聞こえた。

町人「ああ、また精霊様からの罰だ……」

魔剣士「……少しでも早く行かないとやばそうだな」



歌姫「一人で森に入りますの?」

魔剣士「ああ。おまえらはできるだけ安全そうなところにいてくれ」

魔剣士「俺は大丈夫だから」

白旅人「お気をつけて」
603 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:04.32 ID:x9vu2cVWo

森に足を踏み入れると、精霊達がざわついた。
こいつらだいぶ気が立ってるな。

魔剣士「あんたがこの森の主か」

唐檜精霊「……ほう。おまえがエリウスか」

空気がピリピリする。
トウヒの大きな根が土を割って現れ、大きく波打って地面を叩きつけた。

唐檜精霊「人に植物の気持ちはわからない」

唐檜精霊「そう思っていたが、おまえは違うようだな」

魔剣士「前世は植物だったらしいし」

唐檜精霊「……ふむ」

唐檜精霊「おや、その琥珀……ただの死骸ではないだろう。貸してはくれぬか」

唐檜精霊「その力があれば、この町を一晩で滅ぼすことができそうだ」

魔剣士「これは何かを壊すためのもんじゃない」
604 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:06:32.35 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「我等の心が理解できるのならばわかるだろう」

唐檜精霊「あの知能の低い人間共! 散々警告を出したというのに!」

根が何度も地面を叩き、周囲の精霊達も怒りを露にしている。

魔剣士「警告って、どんな風に出したんだ?」

唐檜精霊「最初は蔓植物で阻塞を張った。次は軽く攻撃を加えた」

唐檜精霊「人間達は過剰な伐採をやめなかった」

唐檜精霊「となれば攻撃を強めるほかあるまい」

唐檜精霊「何故くだらない人間の嗜好品を作るためにこの森が破壊されなければならぬのだ!」

魔剣士「…………」

魔剣士「そりゃつらかったな」

魔剣士「……声、届かなくて、もどかしかったろ」

唐檜精霊「ああ」
605 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:07:42.07 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「声さえ届けば妥協案を出すことができただろう」

唐檜精霊「人間達に知恵を授けてやれただろう」

唐檜精霊「しかし我等が人間に対してできることは自衛の攻撃のみ」

唐檜精霊「『声があった頃』は……あの時代はよかった」

唐檜精霊「人と共に喜び、悲しみ、生活を共にすることができていた」

魔剣士「……それって、いつ頃の話だ?」

唐檜精霊「いつ? いつだったろうか……」

唐檜精霊「数えるのも面倒なほど古き時代のことだ」

唐檜精霊「なんせ、あの黒き憎しみの塊が暴れる前のことだからな」

魔剣士「オディウム神のことか?」

唐檜精霊「神などという立派な名で呼びたくはないな」

唐檜精霊「彼奴が暴れてくれたおかげで世の草木は弱り、声を持つ者は滅多に生まれなくなってしまった」

魔剣士「あんた、そんな昔からずっと記憶を引き継いでるのか?」
606 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:10.78 ID:x9vu2cVWo

唐檜精霊「己を失うのが嫌でな」

唐檜精霊「ああ、そうだ。あれは一億年近く前だ」

唐檜精霊「今は樹齢千年程度の木に宿っておるが、当時の私は樹齢五千年の大精霊でな」

唐檜精霊「イウス=スマラグディの阿呆が死にさえしなければ、もっと長く生きられたというのに……」

魔剣士「え、イウス?」

唐檜精霊「知っておるのか? ……ああ、なるほど」

唐檜精霊「おまえは奴の転生体か」

魔剣士「わかるもんなの? そういうの」

唐檜精霊「長く生きておると、魂そのものの波動を読めるようになるのだ」

唐檜精霊「イウスは他者に力を分け与えることに長けていた」

唐檜精霊「奴が生きておれば、あれほどの被害は免れただろう」

唐檜精霊「……今更一億年前に終わったことを言ってもなんにもならぬな」
607 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:08:45.78 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「俺があんたらに魔力を分け与えたら、この通り人間との意思の疎通が可能になる」

魔剣士「多少大勢の人間が来たって、そんなに気分も悪くならねえだろ」

霊的な存在は人酔いしやすい。

魔剣士「攻撃をやめて、町の連中と話し合いの場を設けてほしい」

唐檜精霊「よかろう。緑ノ精霊王の魂を持つ者の頼みだ」

魔剣士「そんな風に呼ばれてたのか」

唐檜精霊「ああ。奴はただの精霊ではなかったしな」

唐檜精霊「木の精霊でありながら女神の子でもあった」

唐檜精霊「しかし何故人間に転生したのか……」

魔剣士「…………」
608 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:11.51 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「ずっと、彷徨ってて……この星の裏側や海底まで行ってみたり、」

魔剣士「彼女と子供が作れる新種が生まれないか待ってみたりして……でも駄目で」

魔剣士「いっそ適当に転生しようかなと思っても、適合する新しい身体なんてのもなかなか見つからなくて」

魔剣士「もう諦めようかなって思った時、光が見えたんだ」

魔剣士「それは、波動の強い魂が入っても耐えられる、聖玉の力を受け継いだ肉体で」

魔剣士「それに、なんだかとても懐かしい感じがして……」

唐檜精霊「あー、それ以上思い出すな」

唐檜精霊「人格を引き継いでおらぬのに、前世の記憶を蘇らせるのは非常に危険なことなのだ」

唐檜精霊「今生の人格が崩壊しかねん」

魔剣士「そっか」

俺の前世がユキとどういちゃついてたのかとか色々気になるんだけどな。
609 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:09:44.51 ID:x9vu2cVWo

――――――――
――

歌姫「タバコなんてこの世から消えちゃえばいいんですわー!」

歌姫「体の弱いお母様はいつもタバコの煙に悩まされてるんですもの!」

魔剣士「喘息持ちはほんと苦労してるらしいな」

クレイオーのお袋さんは線の細い儚げな美人で病弱だ。

白旅人「なんとか落ち着いて交渉が進んでいるようでよかったですね」

魔剣士「決裂しなきゃいいんだけどな……」

町長や町のお偉いさん方は領主に頭を下げて援助を求めつつ、
植物達と和解するために奔走している。

歌姫「植物を怒らせたら恐ろしいことになるのは当たり前ですのに、」

歌姫「よくここまで状況を悪くできたものですわね」

魔剣士「魔族が復活していた間、精霊達は大地の穢れで弱って引きこもってたからな」

魔剣士「おっさん世代は精霊のことをよく知らねえんだよ」

魔剣士「だから舐めてかかってトラブルが起きるんだ」
610 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:10.64 ID:x9vu2cVWo

次男『もしもしにーちゃん?』

魔剣士「ん、どうした?」

次男『あーよかった、風邪治ったんだ』

次男『兄ちゃん、いつも風邪引いても薬草食べて症状抑えてたでしょ?』

次男『なのに喋れなくなるなんて、どんな酷い風邪だったんだろって』

魔剣士「あー、アウロラから風邪引いたこと聞いたのか。もう治ったよ」

魔剣士「心配してくれてありがとな」

次男『カナリアねーちゃんいる? ちょっと話したいなー』

魔剣士「あ……えっと……」

やべえ……緊張で声が出ねえ。
かすれ声でどうにか答えた。

魔剣士「今一緒にいないんだ。じゃあな」
611 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:10:39.63 ID:x9vu2cVWo

何度か深呼吸をして緊張を解いた。

町長「エリウスさん、ちょっとこの電話に出ていただけませんか」

町長「領主様に援助をごねられてまして……」

魔剣士「いいけど。もしもし?」

よかった。ちゃんと声が出た。

領主「誰が何を言おうとその町のことは知らんぞ」

魔剣士「植物学者のエリウス・レグホニアです。昔揉めた話は聞きましたけど、」

魔剣士「このままじゃ本格的に植物と戦争になっ」

領主「待て、エリウス・レグホニアだと?」

魔剣士「そうですけど」

領主「勇者ナハトの生まれかわりだというあの!?」

魔剣士「え」

領主「わ、わかりました! 住民の要求を呑みます! 呑みますから!!」

領主「国王陛下に町を放置していたことは通報しないでくださいね!!」
612 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:11:32.97 ID:x9vu2cVWo

領主「すぐそっちに向かいます!!」

プツッ

魔剣士「なんなんだよ」

町長「よかったー……実はうちの領主様、」

町長「ルルディブルクの統治に関して勇者ナハトにダメ出しくらったことがあるんですよ」

町長「その時すごくビビっていたと噂になっていたのです」

町長「なので、生まれかわりだと謳われているあなたの言葉ならきっと聞いてくださると思ったんです」

珍しく勇者ナハトの生まれかわり説が役に立った。

歌姫「ルルディブルク……花の都ですわね」

歌姫「この町のお隣ですわ。行く予定ですの?」


  武闘家『あたし、ルルディブルクに行くのすっごく楽しみなんだ』


魔剣士「……気分乗らねえや。他の町村を経由してアクアマリーナに行こうと思う」

ユキは転生することなく、一億年の時を生きている。
樹齢一億年前後の木なんて心当たりは一つしかない。

アクアマリーナの大樹だ。
613 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:12:05.53 ID:x9vu2cVWo

有名だから、全景が写された写真や映像はよく見かけるが、
ちゃんと葉や花の形を見たのは幼い頃だ。

それも、写真ではなく図鑑の絵だった。
俺が彼女に覚えていた既視感の正体はそれだ。

俺好みの小ぶりな白いその花を見てみたいと思いつつ、
彼女が数千年に一度ほどしか花を咲かせないことを知って、当時の俺はひどく残念な気分になった。


魔剣士「そろそろこの町を出るか」

歌姫「どうなるか、見届けないんですの?」

魔剣士「そうすぐに解決する問題でもねえし、」

魔剣士「精霊が話せるようになったからこれ以上俺が口出しする必要もないしな」

町人「あの……定期的にこの町に来ていただくことってできませんかね……」

町人「精霊様もずっと話すことができるわけではないのでしょう?」
614 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:01.94 ID:x9vu2cVWo

魔剣士「めんどすぎるし俺が死んだ後どうすんだよ」

魔剣士「まあ自分達で頑張れよ」

俺は空に聳える彼女の本体を見上げた。
早く傍に行って寄り添いたい。

いっそ、彼女の根本に埋まって彼女の一部として永遠に一緒にいたい……はあ。

携帯が鳴った。

魔剣士「もしもし父さん?」

戦士『エリウス、無事か?』

魔剣士「お、俺は……まあなんとかやってるけど」

戦士『そうか』

戦士『実は……ルツィーレが奴等に誘拐された』

魔剣士「は……?」

戦士『おまえは絶対捕まるなよ。じゃあな』

血の気が引いた。
妹が……捕まった?
615 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/22(木) 17:13:38.57 ID:x9vu2cVWo
kokomade
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/22(木) 19:21:35.20 ID:0H3TmUlUO
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/23(金) 08:52:38.13 ID:x6eelSat0
勇者発狂
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/27(火) 01:46:53.38 ID:0i76Lr130
このまま植物とゴールインするのかどうか
619 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/09/28(水) 23:59:35.20 ID:w0w8rQDEo
番外編用のスレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475058552/
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/29(木) 22:06:37.41 ID:SYrPnr6A0
更新頻度も分散されんのかな?
621 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:45:46.69 ID:gTQto6xCo

第二十二株 海を焼く夕陽


魔剣士「もしもし母さん!」

事務連絡以外で俺から母さんに連絡を入れるのは初めてだ。

勇者『エル……』

魔剣士「なあ、母さんの魔感力でルツィーレ探せねえのか」

勇者『駄目……あいつら、瞬間転移術を使うの……追えなかった』

勇者『あの子ったら、学校から抜け出して……その間に……』

魔剣士「……何かわかったら連絡するから。じゃあ」

あまり遠くに連れ去られていたら父さんの能力でも追いかけるのは困難だ。

不安で胸が締め付けられる。
いつも暴れ回っていたルツィーレ。あいつには俺の植木鉢をいくつも割られている。

人の話は聞かないし片付けはできないしじっとしていられない。
でも俺の妹だ。大切な家族だ。
622 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:46:19.21 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナへの道中、植物伝いにオディウム教徒の気配を追った。
こっちから接触し、情報を持っていそうな奴を尋問するためだ。

魔剣士「…………」

歌姫「見つけられそうですの?」

魔剣士「町付近に黒い気の塊があるらしい。多分奴等だ」

歌姫「そう……」

魔剣士「……重苦しい空気にしちまってわりぃな」

魔剣士「町付近まであと数時間あるし何か雑談でもするか」

魔剣士「……俺も少しは気分転換してえし」

歌姫「そ、そうですわね」

歌姫「…………」

白旅人「…………」

魔剣士「…………」

魔剣士「そういやクレイオーさ、やけに女性化乳房の原因に詳しかったじゃん」

魔剣士「あれなんで?」

歌姫「……お父様が一時期それで悩んでましたのよ」

アポロン先生……そうだったのか……。
623 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:47:16.70 ID:gTQto6xCo

――町付近・茂みの中

魔剣士「戦争時に掘られた防空壕……隠れ家にはもってこいだな」

幹部「え、エリウス・レグホニア! 飛んで火に入る夏の虫とはこの」

魔剣士「せいっ!」

幹部「ギャーッ!」

洞窟の壁から木の根が現れ、幹部やその他信者を捕らえた。

魔剣士「ルツィーレ・レグホニアは何処にいるんだ」

幹部「し、知らん!」

魔剣士「ほんとに?」

白旅人「嘘吐いてる顔ですよ」

魔剣士「力づくでも吐かせるしかねえなあ……でも俺暴力は嫌いなんだよなあ……」

幹部「ひいぃ」

信者1「いやあああ! おお神よ、我等を救いたまえ」

信者2「オディウム神を信じていればこんな災難に遭わないはずじゃなかったんですかー!」

魔剣士「根っこ達ー、こちょこちょして差し上げて」

幹部「あひゃひゃひゃひゃやめひぇひゅひひひひひひひ」

魔剣士「吐く? 吐かない?」

幹部「ははひゃい! れっはいははひゃひいいいいいいい」

魔剣士「んー何言ってんのかわかんねえや」
624 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:50:58.31 ID:gTQto6xCo

幹部「うっ」

歌姫「……何をしましたの?」

魔剣士「アルコールやその他薬物をこいつの体内に流し込んだ」

魔剣士「まあ、自白剤みたいなもんだな」

魔剣士「んで、俺の妹何処?」

幹部「あう……ぅ……祭殿……に……」

魔剣士「祭殿? それ何処にあんの?」

幹部「我等が本拠地の……地球の裏側に……」

歌姫「地図ありましたわよ」

魔剣士「ナイス」

歌姫「……意外とここから近いですわね」

魔剣士「なんのために俺等を狙ってるわけ?」

幹部「蜜の八年間をもう一度……」

魔剣士「なんだよそれ」

幹部「これ以上は……ぅぅ……知らされていない……」

幹部「ただ、良質な憎しみが採れた八年間があったと……それを再び……」
625 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:18.70 ID:gTQto6xCo

魔剣士「まだルツィーレは無事なんだろうな?」

幹部「儀式は朔の日だ……それまでは……丁重に……」

魔剣士「そうか」

白旅人「リモンという名の女性を知りませんか。そちらにいるはずなのですが」

幹部「リモン……有能さ故に……他の幹部の副官になったはずだ……」

幹部「何処にいるかまでは……」

白旅人「そうですか」




魔剣士「もしもし父さん? ルツィーレの居場所がわかった」

戦士『早いな。息子に先を越されるとは……』

魔剣士「アクアマリーナの北北東にあるウィロウの村の近くだ」

魔剣士「父さんどのくらいで来れそう?」

戦士『早くて三日だな』

魔剣士「それまで俺、そこに近づいて情報集めてるから」

戦士『待て。……いや、任せよう』

戦士『信頼してるからな』

魔剣士「うん。ありがとう」

もう大人任せにするのはやめた。

俺には力がある。そして、奴等を打っ潰したい理由もできた。
オディウム神を復活させなんてしないし、妹は絶対に守る。
626 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:54:54.46 ID:gTQto6xCo

白旅人「朔の日まではまだ時間があります」

白旅人「今日はアクアマリーナで休みましょう」

魔剣士「……ああ」

車道を通り、町内部の駐車場に停めた。

歌姫「本っっっ当におっきいですわね、あの木……」

ユキの木だ。綺麗だな。

真下に巨大な魔鉱石『緑の聖結晶』が埋まっているため、古代から成長し続けている。

天に届きそうなほど高くて、青い空に枝を伸ばしていて……。

魔剣士「うっ」

歌姫「どうしましたの。前屈みになって」

魔剣士「……先に行っててくれ」

射精した……。
627 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:55:20.37 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの山に登り、北を眺めた。
オディウム教の祭殿がある場所は……流石に見えないか。

ここから見てわかるくらい目立つのだったら、とっくに噂になって兵士が取り締まりに行ってるだろう。

白緑の少女「……エリウスさん」

魔剣士「ユキ」

さっき射精してごめん。

白緑の少女「ようこそ、アクアマリーナの町へ。かつての……クリューソプラソシアへ」

妹のことがなければなんの憚りもなくユキとイチャついたのにな。

魔剣士「あっちにさ、妹が捕らえられてる場所があるんだ」

魔剣士「見えないかなって思ってここに来たんだけど、無駄足だったな」

白緑の少女「もっと高いところへ行きませんか」

白緑の少女「ここよりも、ずっと遠くまで見渡せるはずです」
628 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:12.16 ID:gTQto6xCo

アクアマリーナの大樹の傍に移動した。
本体に近ければ近いほど精霊の力は安定する。

白緑の少女「しっかり捕まってくださいね」

ユキに抱かれて宙に浮いた。

どんどん高度が上がっていく。高所恐怖症じゃなくてもこれはなかなか怖い。
タマがヒュンとなり、俺はユキに強くしがみついた。

魔剣士「あ……ユキ、花、咲かせたんだ」

白緑の少女「ええ。あなたと出会えたことが嬉しくて」

白緑の少女「自然と花を咲かせていました」

甘い香りがする。
この小ぶりな白い花に俺の精液をぶっかけられたら……いかん、勃ちそう。

妹がピンチの時に俺は一体何を考えているんだ。最低だ。兄失格だ。

ルツィーレは今頃それはそれは恐怖に苛まれていて……いやあいつが怖がっているところを想像できない。
あいつはどんな状況でも楽しむタイプだ。多分俺よりも抜けているネジが多い。
629 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:56:58.68 ID:gTQto6xCo

頂点付近の枝に足を下ろした。
地面が白く霞んで見える。

魔剣士「……ルツィーレがいるのは、多分、あの影だ」

いくつか小さな山が連なっている所がある。
兄ちゃんがすぐに助けてやるからな。

魔剣士「…………」

空がこんなにも近い。

ふと西を見た。夕日が海と空を紅く染めている。
水平線からは入道雲が顔を出していた。もうすぐ夏だ。

魔剣士「……ねえ、ユキ」

魔剣士「ユキの根元に埋まっている『緑の聖結晶』の波動、」

魔剣士「俺の家族や、バンヤンの森の波動と似てるんだ」

魔剣士「それって……」

白緑の少女「……緑の聖結晶や、バンヤンの森に散っている魔鉱石は、」

白緑の少女「七つの聖玉の制作段階で生み出されたものです」
630 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:57:33.38 ID:gTQto6xCo

カナリアも聖玉の波動をアキレスさんから受け継いでいる。
だから近い波動を感じていたんだ。

白緑の少女「一億年前。オディウム神の脅威が去った後、魔族が現れました」

白緑の少女「その対抗手段の聖玉の研究が、ここでも行われていたのです」

白緑の少女「緑の聖結晶は、聖玉としての力は不十分なものの、」

白緑の少女「生命を育む能力には長けていました」

白緑の少女「そして、私の波動は緑の聖結晶との相性が良すぎて……」

白緑の少女「枯れることができないまま、気の遠くなる年月を生きてきました」

魔剣士「……一人で見るより、俺と一緒の方が、ずっと綺麗に見えるでしょ。この夕焼け」

白緑の少女「ふふっ……ええ」

魔剣士「臭い口説き文句、嫌い?」

白緑の少女「いいえ」

……ユキの瞳から涙が零れた。
631 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:58:46.49 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「ごめんなさい。つい、懐かしくなってしまって」

魔剣士「イウスもこういうこと言う奴だったんでしょ。なんかそんな感じがする」

白緑の少女「はい」

ユキはやっぱり罪悪感を覚えているようだった。気にしなくていいのに。

魔剣士「母さんがさ、昔言ってたんだ。恋には二種類あるって」

魔剣士「今生限りの肉体的な恋と、魂が震える縁の深い恋」

魔剣士「俺、ユキのことを考えると魂がすっごい震えるんだ。ユキは?」

白緑の少女「私の魂も、震えています。これ以上ないほど」

魔剣士「俺とイウスのこと、別々で好きでいてくれてもいいし、」

魔剣士「逆に思いっきりダブらせてもいいよ」

魔剣士「魂同士が強く惹かれ合ってるんだ。両方好きになって当然なんだよ」

白緑の少女「……ありがとう」

魔剣士「もしこれからユキが他の誰かに生まれかわったとしても、」

魔剣士「俺もきっとどちらとも好きになるだろうからさ」

魔剣士「……キス、していい?」

白緑の少女「……はい」
632 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 20:59:12.57 ID:gTQto6xCo

白緑の少女「この株を持っていってください。私の枝を挿し木したものです」

白緑の少女「何処へ行っても、私の分身と会うことができますよ」

魔剣士「マジで!?」

――――――――
――

……結局イチャついてしまった。

だけど、精神が喜びで満たされた分魂の波動が強まった。
今ならなんでもできる気がする。愛は世界を救うんだ。

歌姫「楽しそうですわね。その木、今の彼女ですの?」

魔剣士「もうとっかえひっかえはしないよ。この子とは永遠だから。前世からラブラブだったの」

歌姫「まあ、幸せならそれでいいですわ」

魔剣士「おまえももう18なんだから嫁ぎ先確保しろよ」

歌姫「大きなお世話ですわー」
633 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:16.78 ID:gTQto6xCo

白旅人「好きな男性はいらっしゃらないんですか?」

歌姫「いませんわね」

魔剣士「そういやメルクさ、従者の女の子とは恋仲だったのか?」

白旅人「いいえ。理解されにくいですけど、彼女とは気の合う友達でしたね」

白旅人「それに彼女、もう二度と恋はしないって言ってましたし」

白旅人「元夫の元に残してきたお子さんへ仕送りするのが生きがいだそうです」

魔剣士「へえ……何歳なんだ?」

白旅人「16歳です」

魔剣士「えっ……」

16歳子有りバツイチ……? 闇を感じる。

白旅人「政略結婚で、無理矢理早く結婚させられたそうですよ」

白旅人「その後いろいろあったらしく。まあいいでしょうこの話は」

白旅人「クレイオーさんは、どのような男性がお好みですか?」
634 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:00:44.89 ID:gTQto6xCo

歌姫「……適当なノリで対等に付き合える相手ですわね」

歌姫「でもあたくし、性格が悪い自覚はありますのよ」

歌姫「あたくしの見た目に恋い焦がれる男性は多くとも、内面まで愛してくれる人なんていませんわ」

白旅人「そうとは限りませんよ。僕はあなたのこと……決して嫌いではありません」

歌姫「そ、それ口説いてますの?」

魔剣士「……恋愛のドロドロで関係を崩壊させることだけはするなよ」

白旅人「はは。そろそろ寝ますか」

歌姫「…………」

歌姫「……………………」

歌姫「ドキドキして眠れなくなったじゃありませんの!」

魔剣士「しゃーねーな安眠効果のあるハーブティでも淹れてやるよ」

白旅人「意外とウブなんですね。可愛いです」

歌姫「っ! っ〜〜!」

……なんだかんだで、仲間がいると面白いな。
635 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:11.91 ID:gTQto6xCo

――――――――
――

祭殿から最も近い村に控え、植物伝いに奴等の動きを探った。
祭殿付近の山はほとんど岩山だが、幸い植物が生えていないわけではない。

精霊に頼んで情報を探ることができる。

白旅人「調子はどうですか」

魔剣士「順調だ。このまま奴等の行動パターンを把握して、」

魔剣士「ここらの兵士や父さんと協力して乗り込む」

集めたデータをパソコンに記録していく。

小精霊「女の子、建物の地下にいるみたいダヨ!」

魔剣士「さんきゅ。はい、俺の魔力3ml」

小精霊「わーい! おいしい!」

魔剣士「活気づきすぎて奴等に怪しまれないようになー」
636 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:01:37.63 ID:gTQto6xCo

歌姫「便利な能力ですこと」

魔剣士「俺の魔力を与えたら、精霊は活動範囲が広がる上に邪気への耐性もつくからな」

魔剣士「人間が忍び込んで調査するよりも遥かに安全に情報収集を行える」

クレイオーは本を読んでいる。

魔剣士「何読んでんだ?」

歌姫「この地方に伝わる物語ですわ」

歌姫「とんでもなく古い石版に彫られていた物の写本だそうですの」

魔剣士「へえ」

白旅人「……原文のままですか。古代言語ですよこれ」

歌姫「ええ。精霊王ユース=スマラグディと精霊スパエラ=ニウィスの恋物語です」

魔剣士「ん?」

発音の仕方が異なるが、ユキと俺の前世の名前だ。

白緑の少女「まあ、懐かしい。これ、イウスが書いたんですよ」

白緑の少女「私達のことをそのまま記したんです」

魔剣士「……イウスってけっこう恥ずかしい奴だったんだな」

自分の黒歴史を見ている気分になった。
637 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:02:11.28 ID:gTQto6xCo

歌姫「まあ、ヒロインご本人でしたの」

歌姫「考古学を専攻する者としては興味深いですわね」

歌姫「古代文明について色々と伺わせていただきたいですわ」

白緑の少女「一段落ついたら、たくさんお話ししましょう」

白緑の少女「エリウスさん以外の方ともお喋りしたいんです」

白旅人「ふむ。我ユースと愛しき乙女スパエラは手と手を取り合い……」

歌姫「読めますの?」

白旅人「教養はそこそこ積んでいるつもりですよ」

歌姫「まあ、素晴らしいですわ」

白旅人「彼女の肌は名の通り雪の如く儚く、その瞳は」

魔剣士「音読やめて!! それの作者俺の前世だから!」

白旅人「詩的で素晴らしい文章ですよ」

魔剣士「うわー!!」

白緑の少女「……ふふ。恥ずかしがってるの、可愛いです」

魔剣士「い、いじわる」
638 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:05:17.91 ID:gTQto6xCo

魔剣士「……だいぶ情報が集まった。そろそろ作戦を練れそうだ」

魔剣士「あ、おまえらは待機しててね。巻き込みたくないから」

白旅人「とんでもない。お手伝いしますよ」

白旅人「僕自身、彼等には用がありますからね」

歌姫「……あたくしの力はきっと役に立ちますわ。手助けさせてくださいまし」

魔剣士「まだ責任感じてんのか? もう気にしなくていいよ」

歌姫「それじゃあたくしの気が済みませんわ!」

魔剣士「おまえ言い出したら聞かないもんな。じゃあ頼むわ」


協力してくれるこの国の憲兵のリーダー格数名と共に祭殿の近くまで出向いた。

憲兵団長「オディウム教団の祭殿を見つけたとはとんでもないお手柄ですぞ」

憲兵「でっかいっすねー……大戦争になるんじゃないですか」

実際に乗り込むのは軍人の方々と更に作戦を練ってからだ。
他の国からも密かに少数精鋭の援軍が送られているらしい。

魔剣士「祭殿の南西部と北東部は警備が薄い。ここから奇襲をかけるのはどうでしょうかね」

憲兵団長「妥当ですな」

魔剣士「んで、敵を食い止める班と地下に進む班に分かれて……」

その時、祭殿から粉塵が巻き上がり、大きな爆発音が轟いた。
639 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:07.90 ID:gTQto6xCo

憲兵団長「な、何事だ!」



次女「ばんばばーん!」



魔剣士「ちょっ」

次女「じゅじゅちゅしのみんなと鬼ごっこだよー!」

天真爛漫なガキが約一名祭殿から飛び出して駆け回っている。

魔剣士「こらああああああああああああ」

魔剣士「ルツィーレええええええええええええ!!」


自力で脱走してくるなんて、兄ちゃん予想してなかったよ……。
640 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/01(土) 21:06:50.03 ID:gTQto6xCo
kokomade
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:09:49.11 ID:UYFEPLQ30
元気になったのはいいがガウェインとカナリアはどうしてるのか
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:11:51.23 ID:fWKIqOWA0
妹の両親アレだからそりゃ普通じゃないよなww
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 22:38:27.39 ID:xiDDG6gE0
じゅちゅちゅし今しゅじゅちゅちゅう
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/01(土) 23:39:22.54 ID:7WTDGbO3O
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/07(金) 16:13:06.92 ID:VgPLM/OTO
道理で親父もかーちゃんも、そこまで心配してる素振りがないと思ったらw
むしろ暴れまわって余計に状況を拗らせるほうが心配だったね。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/11(火) 00:30:47.09 ID:0m7GWN9I0
かごめが犬夜叉に対して自分も桔梗も好きでいていいよって言ってるようなもんだよなこれ
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/12(水) 18:58:27.10 ID:Thjz0PFb0
つずきが楽しみ
そのうちスイカの種を食べたらおなかの中でスイカが!!みたいなことになりそうでこわえ
648 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/10/20(木) 23:39:03.63 ID:yMADnXuyo
生存報告
近い内に更新します
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/21(金) 15:03:49.60 ID:rGgNrG5A0
はよはよ
650 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:03:50.97 ID:his6J3PBo

第二十三株 その能天気さが羨ましいよ


――――――――

数分前 地下牢

大男「嬢ちゃん、何か欲しい物ある? どんな物が好き?」

次女「お母さんのおっぱい!」

大男「え!? う、うーん……ここにはないなあ……」

大男「お腹空いてない? 何か食べる?」

次女「グラウンド・エルダーのキッシュ!」

大男「ぐ、ぐら?」

次女「お兄ちゃんがたまに作ってくれるんだ! すっごくおいしいんだよ!」

大男「え、えーと」

次女「お姉ちゃんのオニオンスープも飲みたいなあ」

大男「うーん……」

ガリ男「ほっとけよ。朔の夜まで生きてさえいればいいんだからよ」

大男「せめてその日まではさ……可哀想じゃん」
651 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:27.72 ID:his6J3PBo

次女「おじちゃん見ててね!」

大男「ん?」

バッ!

次女「ばんばばーん! おちんさまだよぉ!」

大男「!?」

ガリ男「お、おちんちんが付いてるだと!?」

次女「あきゃきゃきゃきゃ驚いてるー!」

大男「お、男の子? え?」

次女「あ、このカギ錆びてるよぉ!」

大男「わー出ちゃだめー!」

次女「あきゃきゃきゃ! えーい!」

大男「いてっ」

ガリ男「なんだこの腕力! 10歳の子供とは思えんぞ!」
652 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:04:55.90 ID:his6J3PBo

ガリ男「待てー!!」

次女「捕まらないよー!」

「子供が逃げたぞー! 追えー!」

「は、速い!」

「追いつけんぞ!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

ガシャーン!

「ああっ憎しみの壺が!」

「オディウム神の彫像があああ!」

「まるで破壊神だ……」

「ええい! 子供一人に何を手古摺っている!!」

「それが、あの子妙に攻撃力が高くて……」

次女「こんなに大勢の人を騒がせるのは初めてだよぉー! おもしろおぉぉい!!」
653 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:05:21.94 ID:his6J3PBo

――――――――

次女「今日もテンション上げてくよ〜!」

魔剣士「あのアホンダラァァアアア!」

憲兵団長「ああっエリウスさん!」

崖を駆け下りた。

魔剣士「あ゛っ」

しかし俺はあまり運動神経がよろしくない。何度か転がった。かっこわりぃ。
だがアドレナリンが分泌されているためだろうか。大して痛みは感じなかった。

次女「あっげあげだよ〜!!」

魔剣士「ルツィーレ!!」

次女「あーエルお兄ちゃんだあ! ぼくのことはルーカスって呼んでね!」

次女「ルカでもいいよ!」

魔剣士「意味がわからん!!」

次女「男の子の名前がいいんだあ。だって番長だからね!」

俺はルツィーレの手を掴んで走った。とにかく走った。
敵から妨害は受けるものの、死なれたらまずいからかあまり強い攻撃はされない。
654 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:06:14.94 ID:his6J3PBo

憲兵団長「……すぐに団員を呼べ! ルツィーレちゃんの保護を最優先するぞ!!」

憲兵隊長「奴等は混乱を極めているようです。チャンスかもしれません」

歌姫「エリウスを援護しますわよ」

白旅人「ええ」

最早作戦もくそもあったもんじゃない。

憲兵副団長「第一憲兵団揃いました!」

憲兵団長「よし! 突撃いいいいい!!」

俺達が逃げ回っている内にたくさんの兵士が駆けつけ、その場は乱闘と化した。
オディウム教団の術者や戦士達はまともに陣形を組めていないようだ。

魔剣士「おまえっどんだけ暴れたんだよっ」

次女「今までのじんせーでこれいじょーないほど!」

魔術で砂煙を上げ、その隙に岩陰に隠れた。
655 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:06:42.78 ID:his6J3PBo

魔剣士「はあ……しばらくここに隠れるぞ」

次女「えーつまんない」

魔剣士「しーっ!」

とりあえず妹を抱きしめた。

魔剣士「心配させやがって……」

次女「んー! 放してー!」

魔剣士「こうしないとまた暴れ回るだろおまえ」

クレイオーの奏でる曲が聞こえる。世界の終わりを思わせる旋律だ。

敵は次々と絶望感に苛まれて項垂れていく。
都合よく味方の精神状態には影響しないようにできるため、こちらは戦意を喪失していない。

少し離れた所ではメルクが戦っているようだ。

魔適体質者の魔術は、イメージで操れるため通常の魔術よりも小回りが利く。
敵はそのテクニカルな術にまともに抵抗できずにいるようだ。
656 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:07:09.87 ID:his6J3PBo


信者A「見つけたぞ!」

信者B「お嬢ちゃん、こっちにおいで」

結界石を持っているようだ。奴等の体に毒草の成分を流し込むことは困難である。
だが攻撃魔魔術への耐性は薄いタイプかもしれない。ここは通常の魔法を……。

次女「おじちゃん達、よおく見ててね!」

魔剣士「ちょっまっ」

次女「ぼくは」

次女「おとこだあ!」

ベロン!

ルツィーレはスカートをはぐった。

魔剣士「こらあああ!!」

信者達「「えっ」」

こ、この隙に!

魔剣士「小紅焔<スモール・プロミネンス>!」

信者達「「ぎゃっ!」」

魔剣士「逃げるぞ!」

次女「あきゃきゃきゃ」
657 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:07:49.38 ID:his6J3PBo

魔剣士「パンツはどうしたの!!」

次女「めんどくさいからはいてないよ!」

流れた弟は今でも妹の身体の一部として生きている。
主にアスパラガスとして。タマはない。


戦士「なんじゃこりゃあ」

次女「わあ〜お父さんだあ〜」

戦士「ルツィーレ……母さんが寝込むほど心配してるんだぞ」

次女「ルーカスだよ」

魔剣士「ぜえ……疲れた……意外と早かったね父さん」

戦士「生まれて初めて見た植物の精霊? 妖精? に連れてこられたんだが」

魔剣士「気を利かせてくれたのか……ふう」

植物の精霊が父さんを案内してくれていたらしい。

次女「あのねえ誘拐されるのすっごい面白かった!」

魔剣士「怖かったよパパ〜」

戦士「お〜よしよし」

誘拐されていたルツィーレではなく俺が父さんに抱きついた。
658 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:08:41.23 ID:his6J3PBo

戦士「……何かがおかしい」

魔剣士「気のせいだよパパ」

戦士「ああ、うん、そうか。気のせいか。……はあ」

戦士「しかし……何故こんなことに……作戦を練ってからのはずじゃなかったのか」

魔剣士「じ、事情は後で説明するよ」

ルツィーレの姿を見て飛び出したの軽率だったかな……後で怒られるかな……。


ドゴオォォォオオン

大勢の兵士が吹っ飛んだ。
強力な術者が現れたようだ。

次女「わ〜おもしろそー! 行ってくるね!」

魔剣士「うわああああああああああああ!!」

戦士「待てええええええええええええ!!」
659 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:10:03.52 ID:his6J3PBo

兇手「貴様の相手は俺だ、旭光の勇者ヘリオス!」

戦士「今忙しいんだよ!! あと二つ名やめろ!!」

兇手「待て!!」

次女「おじちゃんだあれ!?」

兇手「おじっ……俺はおじちゃんなどと呼ばれるような歳ではない!!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

ズボッ

次女「おちんさまお父さんのより3センチちっちゃいね!」

兇手「えっ……」

戦士「こらあああああああああ!!!!」

兇手「…………」

兇手「うっ……ぐすっ……」

魔剣士「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
660 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:11:23.76 ID:his6J3PBo

次女「じゅじゅちゅしのみんなー! 見て見てぼくのおちん」

魔剣士「やめなさい!!!!」

次女「だってぇ〜ぼくのおっきなおちんさまみんなに自慢したいんだもん!」

魔剣士「にいちゃんののがでかいぞ」

次女「わぁ〜ほんとだぁ! でもねえお父さんのはもっと太いんだよぉ」

魔剣士「そりゃ父さんのは特別だからな」

戦士「…………」

歌姫「さっさと!! 逃げなさいな!!」

魔剣士「父さんおんぶして」

戦士「冗談言うんじゃない」

次女「体力なさすぎだよ〜!」

魔剣士「誰のせいで!! 疲れてると思ってんだよ!!」


上級呪術師「ヘリオスだ!! 退け!!」

下級呪術師「退こうにも兵士に包囲されてます!!」

中級呪術師「転移術を発動する隙さえありません!」

上級呪術師「例の魔術師はどうした!?」

中級呪術師「姿が見えません!」
661 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:03.78 ID:his6J3PBo

騒がしくなり、クレイオーの術の適用範囲がかなり狭まっている中、
父さんに執着しているストーカー臭い男含む強そうな連中に囲まれた。

魔剣士「そう簡単には逃がしちゃくれねえか」

もっとたくさん植物が生えてたら無双できたんだけどな。
こうなったら奥の手だ。

魔剣士「ギンピー・ギンピーを召喚!」

俺は魔力に溶かしていた葉を再構成し、両手に構えた。

戦士「なんだその葉っぱは」

魔剣士「まあ見ててよ」

攻撃をバリアで防ぎつつ、剣を扱うように葉で敵を攻撃した。
俺の攻撃を受けた敵は次々と断末魔のような声を上げて倒れていく。

次女「わーすごーい!」

魔剣士「ふははは! 世界最凶の毒草の威力を思い知ったか!」

魔剣士「この葉をトイレの紙代わりに使い、あまりの痛みに自殺した奴までいるんだぞー!」

魔剣士「あ、ちなみにその痛み、短くて数ヶ月、長けりゃ2年は続くから」

戦士「腰に下げてる剣は使わないのか」

魔剣士「剣で切る生々しい感触嫌い」

歌姫「剣で攻撃するよりずっと酷ですわね、これ……」
662 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:32.04 ID:his6J3PBo

兇手「ええい! どいつもこいつも油断しおって!」

兇手「凍てつく槍<フリーズ・ランス>!」

戦士「おっと!」

戦士「先に行け! 俺はこいつの相手をする!」

次女「お父さん頑張ってねー!」

魔剣士「あのなあ試合じゃねえんだぞ!!」


白旅人「こっちです!」

魔剣士「メルク! 怪我はねえか!?」

白旅人「ええ」

  「行かせません!」

白旅人「…………!」

白旅人「…………リモン」

現れたのは、一目でメルクと同じ人種だとわかる若い女だった。
663 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:12:58.74 ID:his6J3PBo

従者「ねえ、メルク。まだわかってくれないの?」

従者「そっちの生活に、あなたの幸せはないのよ?」

次女「ねえ、あのおねーちゃん強いの?」

魔剣士「魔適体質者の従者ってことはかなりの術者のはずだ」

従者「彼等をこちらに引き渡して」

従者「本当の幸せを得るためには、彼等を生贄に捧げなければならないの」

白旅人「自分の言っていることがわかっているのですか」

白旅人「あなたは騙されているんです!」

従者「そっちにあなたの幸せはあるの!?」

従者「人と違う能力があるせいで、人々は無意識にあなたを孤独に陥れた」

従者「そのくせ媚びて力を利用しようとする」

白旅人「ということばかりではありませんでしたよ」

従者「他力本願のクズ共を庇うっていうの!?」
664 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:16:26.05 ID:his6J3PBo

白旅人「自分が理不尽な目に遭ったからといって、」

白旅人「多くの人々を粛清する気になんて全然なれないんですよ」

従者「やはり、力づくでも洗礼を受けてもらわなきゃいけないようね」

メルクの従者だった女は杖を構えた。
杖の先には、おそらくとんでもなく質が良いであろう魔鉱石が固定されている。

白旅人「彼女は僕が抑えます! 逃げてください!」

メルクは目を覆う包帯を取った。

イメージによる魔術を使う場合は、目を覆うと魔力の流れが阻害され、術の威力が弱くなりがちになる。
つまり、メルクは本気で戦うつもりだということだ。

魔剣士「わりぃ!」

歌姫「ご健闘を!」

次女「ぼくあっち行きたいー!」

魔剣士「駄目だ!!!!」

今の最優先事項はルツィーレを安全な場所まで避難させることだ。
俺は無理矢理妹の手を引っ張って走った。
665 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:17:35.29 ID:his6J3PBo

それほど得意ではない攻撃系魔術と植物を利用して敵を薙ぎ払う。
もう少しで……もう少しで乱闘と化した戦場を抜けられる!

森に入ってしまえばこっちのもんだ!

魔剣士「……!」

背後から悍ましい気配を感じた。

俺は体が凍りついて動けなくなった。
別に氷系魔術を受けたわけじゃない。あまりの殺気に硬直してしまったのだ。

魔剣士「この気配……奴だ!」

次女「え? なになに?」

黒ローブの男「…………」

この世の全てを恨むかのようなドス黒い魔力。
あの時、カナリアを攫っていった男だ。
666 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:18:43.71 ID:his6J3PBo

次女「おじちゃんも呪術師なのー?」

魔剣士「っルツィーレ!」

ルツィーレは後方へ駆けていってしまった。
俺は緊張で軋む体をどうにか振り向かせる。

ズボッ!

黒ローブの男「なっ」

次女「あれー? このおじちゃんのおちんちん機械混じりだよー?」

黒ローブの男「…………」

魔剣士「…………」

黒ローブの男「このガキィィィィィィィィィィ!!」

魔剣士「うわああああああああルツィーレエエエエエエエエエエエ!!」

歌姫「まあ」

叫び過ぎて俺の喉は枯れてしまいそうだ。

魔剣士「もう頼むからやめなさいやめてくれ!!!!!!!!」

即座にルツィーレを抱きかかえて俺は走った。
重たさを感じる余裕もない。
667 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:19:41.65 ID:his6J3PBo

しかし奴は短距離の瞬間転移術を使うことができる。
一瞬で俺達の目の前に姿を現した。

魔剣士「うちの妹がすみませんでしたああああああああああ!!」

黒ローブの男「許すかあああああああああああああ!!!!」

黒ローブの男「今すぐに殺してくれるわ!!!!」

次女「怒らせちゃったあ」

魔剣士「おまえなあ!!!!」

歌姫「あなたがしたことは男性のプライドを極限まで圧し折る行為でしてよ」

激昂したら何やらかすかわかんねえタイプだこいつ!
まずいまずいまずい奴に対抗できるレベルの術を発動するには圧倒的に植物が少ない。

俺は琥珀に魔力を込めた。こうなったら今できる限りの術を発動するしかない。

黒ローブの男『邪の世に揺蕩う黒き念』

黒ローブの男『闇に融けし憎悪の魂』

次女「わあ〜アニメみたいな呪文だあ〜」

魔剣士「とっくの昔に廃れた旧魔術だよ!!」

黒ローブの男『我が手に集い 我に抗う愚かなる者に』

魔剣士「長い詠唱してる隙に風の刃<ウィンドウ・エッジ>!」

黒ローブの男「げふっ」

魔剣士「よし走れ!!」
668 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:20:26.48 ID:his6J3PBo

次女「なんで旧魔術廃れっちゃったの〜?」

魔剣士「詠唱が長くて発動までに時間がかかるぜえぜえ」

魔剣士「そして何よりぜえぜえ呪文を言うのがクソ恥ずかしくて使いたがる奴が減ったんだよぜえぜえ」

黒ローブの男「地砕き<アースブレイク>!」

魔剣士「うぎょげ」

地面が砕かれた。

魔剣士「現代魔術使えるのかようわあああ!!」

さっきの俺の攻撃でローブが破れていたようだ。
男の顔をはっきりと確認することができた。
669 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:21:20.44 ID:his6J3PBo

魔道士「覚悟するがいい!」

なんか誰かと似てる気がする。その顔つきは、俺の苦手意識を激しく刺激した。

魔剣士「…………」

歌姫「エリウス! 何固まってますの!」

魔剣士「うわあああああアーさんそっくりだあああああああああああ」

魔導槍師「今……誰にそっくりだと言いました?」

魔剣士「ひいいいいいいいいいいい!!」

魔導槍師「失礼ですねー、人の顔を見て叫ぶなんて」

魔剣士「もうだめだあおしまいだあ」

俺は頭を抱えた。精神が乱れてまともに魔術を使えそうにない。
俺もう疲れたよ。争いなんてろくなもんじゃない。

次女「あきゃきゃきゃ」

おうちに帰りたいー!
670 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/10/22(土) 17:21:52.93 ID:his6J3PBo
kokomade
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 17:50:44.09 ID:+/+t04MCo
あのかーちゃんからなんでこんな子が…突然変異かな?
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 19:32:34.80 ID:C2hmA40QO
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/24(月) 00:34:55.80 ID:ruTxXAdlo
魔剣士(剣使わない)
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/25(火) 16:08:35.97 ID:U3CDwLyd0
なにこのふたなりようじょ型核爆弾は・・・
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/05(土) 14:05:07.20 ID:SHyU4GLVO
魔剣士が無事お家に帰れますように
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/10(木) 09:48:03.10 ID:vPy86Into
武闘家報われてほしい
677 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/11/22(火) 18:05:29.23 ID:I8L1NZnWo
短編集スレ向けの話ですがエロいのでこっちに
台本形式だとどうしても雰囲気崩れそうだったので小説形式です
親の初夜
http://cherryhunter.x.fc2.com/novel1.html
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/22(火) 18:13:36.62 ID:NjPldMXFo
魔剣士「親のセックス……おえぇ」
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/11/23(水) 23:29:22.10 ID:np454YtZ0
はよ
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