魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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480 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:32:18.16 ID:tIICa6pJo

第十七株 恋しいのは樹木の体温


――――――――

副官「隊長〜見てくださいよこのニュース〜」

そう言ってキャロルは俺にパソコンの画面を見せた。

リポーター『このアルテの町にハルモニア嬢が流星の如く現れました!』

リポーター『そして、彼女の傍らには……な、なんと! オカリナを操る謎の美女が!』

魔剣士♀『エリシアと申しますわ』

ブフォッ
昼飯のラーメンを吹いた。

戦士「げほっげほっ……何をやってるんだあいつは」

化粧をしていていつもと雰囲気が違うが、あのオカリナは確かに俺が買ってやったものだ。

副官「やっぱりエリウス君なんですね! 美人ですよね〜」

戦士「……息子が娘になってしまった」

副官「うふふ。あの子が国に帰ってきたら一緒にショッピングにでも行きたいです」

戦士「……なあ、おまえはいつからそうなんだ?」

副官「え?」
481 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:33:03.55 ID:tIICa6pJo

戦士「いつから女のように振る舞うようになったんだ?」

キャロルは何処からどう見ても線の細い女性なのだが、妻子持ちのれっきとした男だ。

副官「隊長ったらも〜! 私は生まれつきこうですよ〜」

戦士「……はあ」

エリウスがアキレスと同じ道を進んでしまわないか、俺はひどく心配になった。


――――――――


――とある町

オウム「コーンニッチハッ」

武闘家「きゃっ! オウムだわ。お喋り上手ね〜」

飼い主「とても賢いんですよ」

オウム「アァー! オマエ、見タコトアル〜ッ!」

魔剣士「え、俺?」

オウム「若鳥ダッタ頃〜ッ! ナハト、ナハト〜ッ!」

オウム「髪変ワッタ〜ッ! アァー!」

魔剣士「ええと……何年前の話だよ……?」
482 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:33:41.98 ID:tIICa6pJo

飼い主「この子、26歳なんです」

飼い主「もしかしたら、勇者ナハトを見たことがあったのかもしれませんね」

武闘家「長生きするのね……」

魔剣士「しかし、そんな昔のこと覚えてるもんか……?」

飼い主「この子、とんでもなく記憶力がいいんです。ふふ」

オウム「アァーーーー!」

重斧士「……なあ、もやし」

重斧士「オウムの舌って……アレに似てないか?」

魔剣士「あ? ……ああ」

飼い主「もしかしてアレのこと言ってます?」

重斧士「先端とか完全にカメさんみてえじゃねえか?」

魔剣士「そうだがおまえの発想なかなかお下品だな」

重斧士「だってそうだろ。どう見てもアレなんだからよ」

飼い主「禁句ですよ〜」

武闘家「なんの話してるの?」

魔剣士「男にだけぶら下がってるブツの話」

武闘家「……男の子ってどうしようもないわねー」
483 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:34:15.76 ID:tIICa6pJo

武闘家「ちょっとお花摘んでくるわね」

重斧士「花摘んで一体どうすんだ?」

魔剣士「遠回しにトイレに行くっつってんだよ」

重斧士「ああ……なるほどな」


通りすがり1「あぁー美女に逆レイプされてぇー」

通りすがり2「触ってくれるえっちな子いねえかなぁ〜」

通りすがり1「結界のおかげで性犯罪なんて都市伝説だしな〜……」


魔剣士「…………」

魔剣士「なあ、男って女にエロいことされたら絶対嬉しいもんなの?」

重斧士「逆レイプから生まれてきて見事にグレた俺に聞くのかそれ」

魔剣士「あっ……ごめん」

重斧士「まあ喜ぶ奴はいるだろうが、犯された側であるにも拘らず責任取らされて、」

重斧士「好きでもねえ女と結婚……なんてことになったら悲惨だよな」

重斧士「そこまで行かなくても、養育費要求されたりとかよ」

魔剣士「怖っ……」
484 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:34:44.46 ID:tIICa6pJo

重斧士「暴走族の仲間で、女がトラウマになってる奴がいるんだが」

重斧士「色々苦労したみてえだ」

魔剣士「……そうか。てっきり、俺がおかしいのかなって思っちまってたんだ」

重斧士「…………」

魔剣士「あ、いや、昔女に襲われそうになったことがあってさ」

魔剣士「衛兵沙汰になったんだが、親以外は誰も俺が嫌だったのを理解してくれなかったんだよ」

魔剣士「『美少年だから仕方ないのよ』だの、『お姉さんにサービスしてもらえてよかったね』だのと」

魔剣士「そんなんばっかだった」

性犯罪防止結界にはデメリットもある。
自動的に通報されるため、嫌でも被害に遭ったことが表沙汰になるのである。

……過保護な母さんが泣き喚いて暴れまくったのは説明するまでもない。

重斧士「ひでぇ目に遭ったな」

武闘家「おまたせ。行こっか」
485 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:35:36.54 ID:tIICa6pJo

魔剣士「この辺、ネジバナがたくさん咲いてるな」

可愛らしくてもうたまらない。萌え。

重斧士「俺の故郷じゃ見ねえ花だな」

武闘家「よく見たら、1つ1つがランの花みたいな形をしてるのね」

魔剣士「実際ラン科だしな」

魔剣士「雑草としてはたくさん生えてるが、栽培しようとすると意外と難しいんだ」

魔剣士「菌類と共生しててさ。菌との関係を壊すと枯れちまう」

植物は菌類と共生関係にある。
俺がモノによっては菌類を操ることができる理由がこれである。

操ることはできなくとも、ある程度耐性ができている菌類もある。
致死量の毒キノコを食べても多分死にはしないだろう。やはり種類によるが。

武闘家「エリウスって、植物のお話をしてる時はすごく楽しそうよね」

武闘家「いっぱい聞かせて?」

魔剣士「え……語っていいなら語るけど」
486 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:36:14.42 ID:tIICa6pJo

武闘家「これはなんて名前の草なの?」

魔剣士「ムラサキだ。来月には白い花を咲かせてるだろうな」

武闘家「ムラサキなのに、花は白いの?」

魔剣士「根っこが紫なんだよ。染料の原料だ。火傷の薬にもなる」

俺には語り始めたら止まらなくなる癖がある。

だが、カナリアが何故だか楽しそうに聞いてくれるものだから、三時間ほど語り続けてしまった。
とんでもなく喉は疲れたが気分はすっきりした。

気まずさはどっか行った。……楽しく会話できて正直嬉しい。仲間っていいもんだな。
魔術の類を使わないガウェインにも薬草のことをたくさん教えた。

武闘家「やっぱりすごいわね。こんなにたくさんのこと知ってて」

魔剣士「ま、まあ……俺には植物しかないからな」

頭も疲れた。ブドウ糖が足りてない感がある。
体から雑草を生やして光合成を行った。

重斧士「ある意味植物人間だよな」
487 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:37:59.20 ID:tIICa6pJo

植物は太陽光からエネルギーを得ている。
植物以外もこのエネルギーを利用できたらな……。

魔剣士「あ…………」

どうしてこんなに簡単なことに気がつかなかったのだろう。
魔力は波動だ。そして、光も波動だ。どちらも電磁波の一種である。

太陽光を他のエネルギーに変換し、
利用することができれば……魔力の大量消費社会を変えることができるかもしれない。

そうすれば、魔力不足の弊害を受けている植物は助けることができるだろう。
人は不便な生活には戻れない。

だから、植物から魔力を吸おうとしたり、
遠方から木材を運搬するのに必要な魔力が足りないために、近場の森を過剰に伐採したりしている。



だが、魔力不足が解消することにより更に工業化が進み、
環境破壊が行われてしまう可能性も否めない。

……俺一人で考えてもどうしようもない。とりあえずは大学にいる人間に話をしよう。

魔剣士「もしもしセド? おまえまだ大学にいるよな?」

学部生の頃に一般教養で同じ授業を取っていた魔導工学オタクのショタコン紳士に連絡を取った。
当時十二歳だった俺は気持ち悪いほどこいつに可愛がられた。

そのためあまり関わりたくはないのだが、他に連絡先を持っている工学部の知り合いはいないし、
頭脳は確かだ。
488 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:39:06.68 ID:tIICa6pJo

工学院生『久しぶりじゃないか。僕も君と同じ博士課程一年だよ。どうした?』



魔剣士「……っての思いついたんだが」

工学院生『君はやはり天才だな。面白いじゃないか。博士論文のネタはそれでいくよ』



この世界に生きる、あらゆる生物は共生関係にある。
上手く共存していく生き方を、人間は探さなければならない。
知能が高く、急激に社会を変化させ、環境に影響を与える存在だからこそ責任は重いんだ。


首に下げた琥珀を木漏れ日にかざした。
……日光で褪色しないよう、ちゃんと魔法で保護している。

こいつはどれほど昔の木だったのだろう。
人とは仲良くできていたのだろうか。どんな精霊が宿っていたのだろうか。

鉱物と同様、樹脂の化石である琥珀にも記憶が刻まれている。
この石の記憶、見てみてえな。

そう思った瞬間だった。
一瞬視界がホワイトアウトし、超古代時代の服を着た人間達が見えた。



――人間達よ…………この私を斬り払え!――



頭の中に響いたその言葉は、明らかに古い言語だったものの何故だか意味がわかった。
人間達はひどく戸惑っている様子だった。
489 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:39:33.26 ID:tIICa6pJo

……石の記憶を見ている時とは、やはり少し感覚が違った。
気のせいかもしれないのだが……。

武闘家「エリウス? 大丈夫?」

魔剣士「……ちょっと立ち眩みしちまっただけだ。平気」

なんだか、胸が苦しい。
ユキ、今頃どうしてるのかな。この前会った時はなんで泣いたのだろう。

俺が失言したからってわけではないようだったし……。


――――――――
――

数日後、森の中。

魔剣士「……あ、精霊に呼ばれた。ちょっとここで待機していてくれ」



桜精霊「ここの近くに建てられた工場から有毒ガスが出てて迷惑してるのよ」

桜精霊「だから、クレームをつけるために人との干渉能力が欲しいの」

桜精霊「……でも、あたし、元々持ってる力が小さいから、」

桜精霊「けっこうたくさんの質のいい魔力が欲しくて……」

魔剣士「……俺がそこに警告出すんじゃ駄目か?」

桜精霊「助かるけど、やっぱり精霊が直接文句言った方が人間ってビビッてくれるし……」
490 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:40:00.54 ID:tIICa6pJo

……犯された。相変わらず勃たねえから主に尻穴を。

朝立ちはあるのに、犯される時はほとんど反応しないあたりやはり心因性なのだろう。
偉そうな奴じゃなかったからそう腹は立たなかったが屈辱は屈辱だ。



魔剣士「……待たせたな」

重斧士「お疲れさん」

武闘家「……エリウス」

カナリアに押されて、木に追い詰められた。

魔剣士「お、おい……どうした?」

重斧士「っ……」

武闘家「あ……ごめんなさい」

武闘家「なんだか、あんまりにも色っぽくて、クラッときちゃって……」

魔剣士「……い、いくら俺が美しくても、理性は保てよ」

武闘家「どうしちゃったのかしら、あたし……」

重斧士「……疲れてるんじゃねえか? 今夜はゆっくり休めよ」

武闘家「…………うん」

ま、まあ、思春期は女も性欲ヤバいらしいしな……そういう時もあるだろう。
491 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:40:28.33 ID:tIICa6pJo

――――――――
――

数日後。

山を進むと、ガウェインの携帯が鳴った。

重斧士「……妹からだ」

重斧士「どうした」

重斧士「…………そうか。まあよろしく伝えといてくれ。まだ帰るつもりねえから」

魔剣士「なんだって?」

重斧士「親父が俺に会いたがってるんだとよ」

武闘家「帰らなくていいの?」

重斧士「おまえらを放って帰れるかよ」

魔剣士「……なんか申し訳ねえな。もう随分守ってもらってるし」

武闘家「ありがとね、ガウィ。でも、無理はしなくていいから」

重斧士「恩人と好きな女に何かあったら一生悔んじまうよ」

武闘家「あはは。……あたしのことは諦めてくれるとありがたいんだけど」

武闘家「そんなすぐに気持ちを切り替えるのなんて難しいわよね」
492 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:41:09.78 ID:tIICa6pJo

魔剣士「山小屋があって助かったな」

重斧士「看板立ってるぞ」

  「
    この小屋は2つの性犯罪防止結界の狭間に位置しており、
    階段、2階B部屋、C部屋は結界外となっております。
    この部屋をご利用になる際は、携帯型結界等の自衛手段をお持ちください。
                                  管理人  」


魔剣士「まあ街道っつっても山中だしな」

2階B部屋以外には先客がいた。
間違いが起こることはないだろう。いつも通り三人で寝るだけだ。

武闘家「厨房、自由に使っていいみたい。晩御飯作ってくるね」

青い石「一日中お喋りしたら疲れちゃった」

俺が車を運転している間、モルはよくカナリアと喋っている。
事故りそうな道で、俺がカナリアと話す余裕がない時は特にそうだ。

でも、今日はいつも以上にたくさん喋ってたな。

魔剣士「起きすぎだ。寝ろよ」

青い石「そうするー。力を使いすぎるとこの世にいられなくなっちゃうし」
493 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:42:31.77 ID:tIICa6pJo

魔剣士「おまえ、料理の腕上げたよな」

武闘家「そう? よかったわ」

重斧士「いい嫁さんになれるぞ」

武闘家「んふふ」



魔剣士「じゃあもう寝るか。魔石灯消すぞ」

重斧士「ぐごが」

魔剣士「……えらい寝つきがいいな」

俺も寝台に横たわって眠りに落ちた。
494 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:43:27.36 ID:tIICa6pJo





違和感で目を覚ました。
俺の右膝に何かが激しく擦りつけられている。

武闘家「んっ……はぁっ……あっ……」

魔剣士「……!?」

……カナリアが、己の股を下着越しに俺の膝に擦りつけていた。
湿った熱が伝わってくる。

魔剣士「ななな何やってんだよ!!」

明らかに様子がおかしい。

武闘家「う……はあ…………好きな人とえっちなことしたいって思うのって、」

武闘家「別におかしいことじゃないでしょ?」

魔剣士「い、いや待てよちょっと」

カナリアは腰を止めた。

武闘家「あなた、植物と……やらしいことしてるんじゃない?」

魔剣士「え……」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/25(木) 20:45:19.41 ID:tIICa6pJo

武闘家「ガウィが言ってたこと、気になるのよね」

武闘家「カマ掘られた人の歩き方がどうとか、体が女性化していった人のこととか……」

魔剣士「…………」

武闘家「ねえ……どうなの?」

魔剣士「……好きでやってるわけじゃない」

武闘家「でも、どうせ喜んでるんでしょ?」

魔剣士「っ……」

あいつらは加減を知らない。
悪気がないにしても、乱暴にされるし、強く触られすぎてすげえ苦しかったりするし……。

ナチュラルに人間を見下してる奴や、気が立ってる奴なんかに犯される時なんて最悪だ。
死んでもおかしくないくらい激しくされちまう。

精霊との行為を嬉しいと思える余裕なんてない。
496 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:46:50.58 ID:tIICa6pJo

武闘家「あたしだってあなたと気持ちよくなりたいの」

魔剣士「でも、こんなの、駄目だって」

どうにかして逃げないと……っ!?
両腕を掴まれた。腕力ではカナリアに敵わない。

魔剣士「おい!」

隣で寝ているガウェインに目をやった。

武闘家「ガウィなら起きないわよ。一服盛っちゃったもの」

魔剣士「モル! 起きろ!」

武闘家「……起きないようにするために、いっぱいいっぱいお喋りしたのよ」

武闘家「万が一、あなたの魔力で叩き起こされないようカバーも被せてあるし」

窓際に置いたアウィナイトは、薄く青い透明な物で覆われていた。

魔剣士「や……やめろ……」

武闘家「ふぅ、んっ……あはは……」

首筋を吸われた。
涙が滲んでくる。

魔剣士「……今、やめてくれたら、ま、だ、なかったことにしてやれる」

魔剣士「だから、やめっ……」

武闘家「やめるわけないでしょ?」
497 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:48:03.46 ID:tIICa6pJo

魔術でどうにか抵抗を……駄目だ、性的快楽に魔力の流れを阻害されて発動できない。
精神も乱れている。

性犯罪防止結界は……そうだ、適用範囲外なんだ。

魔剣士「うっ……」

武闘家「乳首、元からこんなに敏感だったの?」

武闘家「それとも、精霊に触られて感じやすくなっちゃった?」

乳首が目立たないように貼っていた絆創膏を剥がされ、少し強めに抓まれた。

魔剣士「かな、りあ」

武闘家「……男の子らしさを取り戻すのを手伝ってあげたのに、」

武闘家「あなた、女装なんてしてくれちゃったわよね」

武闘家「……そういえば、あなた、男の子でいる意味あるの?」

武闘家「人間は愛せないんでしょ」

武闘家「どうせ一生独り身なんでしょ」

武闘家「……ねえ、エリウス」

武闘家「あなた、いっそのこと……別に女の子になっちゃっても、いいわよね?」

嫌だ。
ユキが純粋な女の子だから、俺は男でありたい。

女装はしたけど別に本当に女になりたいわけじゃない。
ただ、自分じゃない何かになりきって現実逃避をしたくなる時があるだけなんだ。
498 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:49:12.24 ID:tIICa6pJo

武闘家「あたしの男の子になってくれないのなら、」

武闘家「女の子として玩具にしてあげるわ」

怖くてもう言葉が喉につっかえて出てこない。
やだよ。

武闘家「豊胸マッサージでもしてあげようか?」

ニヤニヤ笑いながら、カナリアは俺の胸を揉みしだいた。
嫌だ。これ以上でかくなったら服を着てても完全に目立っちまう。

やめてくれ。

拒絶の言葉を吐き出したくても、俺の口から漏れ出てくるのは、
快楽に反応する嬌声だけだ。

武闘家「あ、もし逃げようとしたら」

玉をガシッと捕まれた。

武闘家「容赦しないから」

息子を人質にとられて抵抗できるはずがない。
499 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:50:58.96 ID:tIICa6pJo

声、抑えねえと他の部屋に泊まっている客に聞こえちまう。

武闘家「あはっ……我慢してるの、すっごく可愛い」

武闘家「男の子の乳首でも、こんなに硬くなるものなのね。びっくりしちゃった」

勃起しきった俺の乳首を、こいつは舌で転がしながら股間を俺の体に再び擦りつけた。
そしてしばらくすると、自分の下着を下ろし、直に俺の膝に当てる。

武闘家「あっん、はあっ……」

何十回も腰を振り続ける。俺の脚がこいつの愛液で穢される。
樹液塗れにされる方がよっぽどマシだ。

武闘家「あっ……!」

大きく体を反らせ、絶頂したようだ。

武闘家「ふう、はあ……」

乳首責めを再開された。

あ、駄目だ、イくっ……。

武闘家「え、嘘……今、もしかしてイッちゃった?」

精霊達にとって、俺が絶頂しやすい身体の方が都合がいい。
すっかりイキ癖をつけられてしまった。ディープキスだけでも絶頂することがある。
500 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:52:18.44 ID:tIICa6pJo

下着ごと半ズボンを下された。

武闘家「ここ、寝てる間はおっきくなってたのにな」

武闘家「やっぱりあたし相手じゃ勃たない?」

今は誰に対しても勃たねえんだよ。

武闘家「……あたし、人間の女の子としては綺麗な方よね」

武闘家「大抵の男の子なら喜んでくれると思うんだけどなあ」

武闘家「……それなのに、これ、使い物にならないんじゃ、」

竿を握られた。痛い。

武闘家「あなた、本当に男失格よね」

尊厳が圧し折られる痛みが脳内で鳴ったような気がした。
思いっきり頭を殴られた気分だ。

武闘家「やっぱりあなたは、女の子みたいにされるのがお似合いよ」

一瞬の内に腰を持ち上げられ、腰と寝台の間に枕を挟まれた。

何する気だこいつ。
501 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:52:52.50 ID:tIICa6pJo

武闘家「さあ……もっと気持ちよくしてあげるわ」

カナリアは小瓶の蓋を開けた。……ローションだ。なんでそんなもん持ってんだ。
俺は現実から目を背けようと、壁に視線を向けた。

……怪しい箱が床に置かれている。
中には、たくさんの淫具や得体のしれない薬が詰め込まれていた。

武闘家「占い師さんからもらったのよ」

嘘だろ……。

玉の後ろから肛門にかけて、たっぷりと液を垂らされた。
そしてこいつは、しっかり医療用手袋をはめて指を突っ込んできた。

魔剣士「んぐっ……」

強烈な違和感に襲われる。

魔剣士「あっ、ぐ……ゃ、め……ぉ…………」
502 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:53:21.76 ID:tIICa6pJo

武闘家「ここ、いつも犯されてるんでしょ?」

武闘家「減るもんじゃなし。あたしだって好きにしていいじゃない」

一本一本、侵入する指を増やされる。

武闘家「あははは、感じちゃう?」

嫌でも反応してしまう自分の身体を許せない。

魔剣士「あぁ……あああぁぁぁぁ……」

前立腺をゴリゴリ押された。

武闘家「お魚みたいに跳ねちゃって」

脚がガクガクする。
503 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:53:47.56 ID:tIICa6pJo

カナリアは歪な形をした張り型を取り出すと、俺の穴にあてがった。

武闘家「力抜かないと、痛いかもよ?」

嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
張り型が中に押し入ってくる。

武闘家「わ……すごい。全部入っちゃった」

カチッと、スイッチを入れる音がした。
張り型が複雑にうねっているらしい。あまりにも強い甘さに大きな声が漏れた。

激しく腸壁を押されたら、もう……何も考えられなくなる。



ありえないほどの快楽に見舞われる。

脊髄がゾクゾクする。

衝撃が脳天を突き抜ける。
504 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:54:21.40 ID:tIICa6pJo

魔剣士「んぅー! んぐっああああああああああ!!!!」

武闘家「ああ、エリウス……あたしに犯されてそんなに感じてるのね……嬉しいわ」

カナリアは何度も張り型を出し入れし、俺の体内を突き続けた。

魔剣士「あああぁぁっ! くっ……!」

魔剣士「ユキ、ユキぃ…………!」

武闘家「……なんで、他の女の子の名前を呼ぶの?」

武闘家「今!! あなたとしてるのは!! あたし!!!!」

突きを強くされた。もう死んじまいそうだ。

武闘家「……ああ、そっか。快楽が足りないのね」

武闘家「もっとすごいやつに替えてあげるわ」

一気に今まで這入っていた張り型を引き抜かれ、
更に大きくて……形もエグいやつを突っ込まれた。

もうずっとイッてんのに。

武闘家「……こんなにおっきいのを簡単に飲み込んじゃうなんて、」

武闘家「今までどんなことされてきたの? ねえ??」
505 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:55:01.33 ID:tIICa6pJo

強い振動に内臓を揺らされる。
もう、俺、俺…………。

イキすぎて、おかしくなっちまう。

俺が悲鳴のような喘ぎ声を上げ、大きく絶頂して漸く行為は終わった。


武闘家「これで、あなたはあたしのもの……!」

武闘家「あはは……うふふふ……はははははははは……!!」

徐にカナリアは俺に覆いかぶさった。
人間の体温は、俺には熱すぎる。



人間としての尊厳も、男としての自尊心も、何もかも壊された。
仲間だったはずの女に。



力なく見上げる天井は、ひどくぼやけていた。
506 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/25(木) 20:55:34.67 ID:tIICa6pJo
kokomade
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/25(木) 21:15:08.00 ID:JC81syhl0
乙!
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 02:00:44.35 ID:CKaO/v9rO
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 02:06:09.26 ID:BDB1eJRQo

箱の中身が爆発物じゃなくて良かったと言うべきか……
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 16:06:31.16 ID:QkbooA1z0
アルカが来たら大変なことに
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/26(金) 18:17:34.71 ID:d0eT23je0
実際美少女(好きではない)に襲われたらどんな気持ちになるの?
S男がアナル犯されたらプライドが傷ついて悦ぶどころじゃなくなるとは聞いたことあるけど
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/08/27(土) 16:52:23.41 ID:hq7pLtwCO
読んでて苦しい…助けてくれ父さん!
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/27(土) 19:46:28.65 ID:opGZAilnO
>>512
うるせぇsageろks
514 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/08/27(土) 22:17:50.36 ID:ymyf3kvXo
明日から二週間多忙で来れないかもしれません
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/28(日) 22:21:39.34 ID:IM4L+nPdo
メイルレイプで調べるとセカンドレイプがやばいことがわかる
516 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:40:44.27 ID:GtURHtWlo

第十八株 心身一如


俺がシャワーを終えると、カナリアは俺が寝ていた寝台で眠りに落ちていた。
モルを回収して外に出た。

まだ夜は明けていない。静かだ。
車のエンジン音がよく耳に響く。


カナリアを置いていくこと、アーさんやヴィーザルには憤慨されるだろうな。
父さんもアキレスさんから信用を失ってしまうかもしれない。

やっぱり、俺駄目な奴だ。
でも、こんなことになって、もう一緒にいられるわけなんかないだろ。

ガウェインには「探さないでくれ」とだけメールを打って、アドレスを変更した。
電話番号を変えるのは流石に面倒だからそっちは着信拒否だ。
517 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:44:02.41 ID:GtURHtWlo

振った振られたの関係の男女が友達付き合いを続けるなんて、無理があったんだ。
すぐ近くにいるのに好きな相手が自分のものにならなかったらそりゃ苦しいだろう。


空が白み始めた。
あー、誰とも関わらずに山奥にでも引きこもりてえ。

人間と植物の共生のことを考える以前に、俺が人間と共生できてねえよ。
物心ついた頃から他人と関わることは苦手なんだ。めんどくさくてたまらない。

……カナリアと仲良くできていた頃が懐かしい。
あいつらとの旅はなんだかんだで楽しかったな。



518 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:45:23.62 ID:GtURHtWlo






魔剣士「…………!」

白旅人「ああ、よかった。気がついたんですね」

メルクだ。

青い石「よ゛がっだぁぁぁぁぁ」

青い石「私が起きた時にはもう怪我してて……」

愛車は……よかった、無事だ。俺のエメラルド号のすぐ前には岩壁があった。
交通事故を起こしかけていたらしい。

白旅人「事故防止装置が作動したようでしたが、」

白旅人「急停止のショックで額や首を損傷していたんですよ」

白旅人「もう少し遅ければ危ないところでした。治療が間に合ってよかったです」

そ、そうなのか……。ありがとう。

魔剣士「っ…………」

……おかしいな。声が出ない。
喋ろうとすると、喉が締め付けられるように苦しくなる。
519 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:45:52.02 ID:GtURHtWlo

メルクは俺の喉に手をかざした。

白旅人「……声帯に異常はないようです。脳の損傷でもありませんね」

魔剣士「…………」

白旅人「スープ、いかがですか。お腹が空いているでしょう」

あったけえな。薄味で俺好みだ。

青い石「ねえエリウス、カナリアっちとガウェっち何処?」

魔剣士「…………」

白旅人「何か事情があって別れたのでしょう」

青い石「え、じゃあ敵に捕まったわけじゃ……って」

青い石「そういえば、私の声聞こえるんだね」

白旅人「素の状態では聞こえません」

白旅人「魂が宿っているようでしたので『回線を繋ぐイメージ』をしました」
520 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:46:20.55 ID:GtURHtWlo

青い石「す、すごい。流石魔適体質者だね……」

青い石「エリウス、どうして他の二人とバラバラに行動してるの? 危ないでしょ?」

魔剣士「…………」

白旅人「しばらくはそっとしておいて差し上げませんか」

青い石「そうも言ってられないよ。強い敵ばかり襲ってくるようになってるのに」

青い石「ねえ、エリウス」

魔剣士「っ…………」

青い石「ええと…………」

白旅人「パイナップル、分けましょうか」

白旅人「丁度一人じゃ食べきれなさそうだなって困っていたところなんですよ」
521 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:46:52.68 ID:GtURHtWlo

青い石「……ねえ、メルク」

青い石「声が出ないの、治せないの?」

白旅人「できませんね」

白旅人「“どんな難病でも治す奇跡の力を持った魔適体質者”と謳われてはいますが、」

白旅人「どれほど魔適傾向が高くても、万能ではないんですよ」

白旅人「心因性の病気や精神疾患、先天的な脳障害はどうあがいても治療できませんね」

白旅人「僕だけでなく、魔適傾向100〜150マジカルの魔適体質者全員がお手上げなんだそうです」

ああ、じゃあ俺の頭がおかしいのも治せないんだ。
そこまで頼る気は毛頭ないけど。

白旅人「……一緒に行きましょうか」




助手席にメルクが乗った。
522 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:47:33.88 ID:GtURHtWlo

魔剣士「…………」

青い石「『もしよければ、君が今までどんな人生を歩んできたのか聞きたい』だって」

モルに代弁してもらった。

白旅人「いいですよ。自分語りをする機会なんてなかなかありませんし」

白旅人「生まれは西の、そのまた西の大陸です」

白旅人「ここから東にあるエスト大陸と文化や気候が似ていますね」

ほぼ地球の裏側だってのに、文化が似ているってのは不思議なもんだ。

白旅人「両親は国に仕える高官です」

白旅人「なので、身内に直接保護してもらえる環境で育ちましたね」

白旅人「まあ魔適体質者にしては比較的融通の利く身だったと思いますよ」

魔適体質者は厳重に保護され、常人以上に倫理観を叩き込まれて育てられるらしい。
なんでもかんでもできちまう存在だから仕方がないそうだ。
反社会的な人間に育ったら大変だ。

白旅人「兄弟は妹が一人います」

白旅人「幼い頃は仲が良かったのですが、今はもう疎遠になってしまいましたね」

白旅人「僕の目が怖いんだそうです」
523 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:49:47.73 ID:GtURHtWlo

魔剣士「…………」

白旅人「仕方がありませんね。自分でも不気味だと思うほどですから」

白旅人「たとえ魔適体質でも、魔力が白じゃなければよかったのですが」

魔剣士「…………」

青い石「『よくこんなに優しい性格に育ったな』って」

白旅人「……ははは。捻くれていた時期もありましたよ」

白旅人「特に反抗期真っ盛りの頃は天狗になっていましたね」

白旅人「そんな時でしたよ、治療できない相手に出会ったのは」

白旅人「ショックでしたね。無力感を覚えたのはあの時が初めてでした」

白旅人「どうしても悔しくて、必死に心理学や精神医学を学びました」

白旅人「そうしている内に、いつの間にか丸くなりましたよ」

魔剣士「…………」

青い石「『年、いくつ?』」

白旅人「18です」
524 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:50:48.48 ID:GtURHtWlo

青い石「『同い年なのに悟っててすごい』だって」

白旅人「悟ってるなんてそんな……」

白旅人「落ち着いて生きる穏やかさに慣れることができただけです」

白旅人「それに、僕以上に僕の孤独を嘆いてくれる人に出会えましたからね」

白旅人「孤独と言えるほど寂しい境遇だったわけではありませんが、」

白旅人「僕はこの体質が元で、孤独感を……周囲との疎外感を抱え続けていました」

白旅人「だから、世の中に対して斜に構えることで寂しさを誤魔化そうとして……」

白旅人「近くにいてくれる『他人』が現れたのは、人生の大きな転機でしたね」

魔剣士「…………」

青い石「『痛いほどよくわかる』」

家族でもないのに見捨てず傍にいてくれる他人の存在は貴重だ。
ユキと一緒にいると心があったかくなるし、優しくなれる。

白旅人「僕の従者だった彼女は、魔適体質者としての僕とではなく、僕自身と向き合ってくれました」

白旅人「必ず取り戻します」
525 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:51:46.84 ID:GtURHtWlo

――――――――
――

白旅人「ここは、勇者ナハトとヘリオスが出会った村だそうですよ」

へえ。
よくある、小さくて平和そうな村だ。

携帯が鳴った。

長女『もしもし兄さん?』

長女『母さんの子宝草が無尽蔵に増えすぎてすごいことになっているのだけど……』

喋れないのを忘れて通話ボタンを押してしまった。
仕方がないから通話を切って、

『風邪引いてて声出ない。幸い外来種じゃないから平原にでも放っとけ』と返信した。

新婚だった頃に『子宝草を育てると妊娠する』というジンクスを聞いて育て始めたらしい。
でもあれとんでもなく増えるんだよ。増えすぎた子株は俺が食べて処理してた。
本来食用にはならないから真似してはならない。

(※生態系が崩れる危険性があるので日本では子宝草を野に放たないでください)


やけに夕日が赤いな……。
感動するような心は沸いてこなくて、なんだかただただ虚しい。

526 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:53:56.14 ID:GtURHtWlo

白旅人「二人部屋でいいですか」

俺は頷いた。一人でいたかったはずなのに、すっかり気分が変わっていた。
夜が来るのが怖くて心細い。


勇者ナハトが泊まっていたとかいう部屋……の真上の部屋を借りた。
料理をする気力どころか食欲すらない。

食べられるのは汁物か柔らかい果物くらいだ。
宿には小さな食堂があり、幸いあっさりしたスープが置いてあった。

女将「お兄ちゃん随分顔色悪いじゃない」

女将「特別にお粥作ってあげたわよ。これなら食べられるでしょ」

女将「ほら、サービスだから」

頭を下げた。ありがとうの一言も言えねえや。もどかしいな。
……人と話すことができない精霊の苦しみが、少しだけわかったような気がした。

白旅人「すみません、彼今話すことができなくて。代わりに僕がお礼を言います」

メルクが気を利かせてくれた。

女将「早く元気におなりなさいね」
527 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:55:27.64 ID:GtURHtWlo

お粥……かあ。

――
――――――――

『エル、お粥なら食べれそう?』

『はい、あーんして』

あっついよ。

『ああ、ごめんね。ふーふーしてあげるからね』

――――――――
――

母さん、今頃どうしてるかな……。
俺は赤ん坊の頃から母親への依存心が希薄だった。

でも別に最初から嫌いだったわけじゃない。




もう……会えないな。
今の俺が母さんに会ったら、この間以上に泣かせちまう。

俺の魔力を必要としているわけでもない人間に、それも戦友の娘に犯されたんだから。
母さんの魔感力なら、相手が誰かなんてのもすぐにわかってしまうだろう。



おかしいな。俺が母さんのことを想いながら泣くなんて。
528 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:55:59.16 ID:GtURHtWlo

言葉は出てこないくせに嗚咽は出てくるんだ。変なの。
鼻水で鼻が詰まって料理の味わかんねえじゃねえか。

せっかく出してもらえたもんだってのに。

女将「人生色々あるものねえ。たまには泣いたっていいのよ」

背中をさすってくれた。
俺は泣きながらお粥を口に運んだ。

モルはまだ起きてるみたいだが、思うところがあるのか黙っている。
この女将さん、肝っ玉な感じがばあちゃんと似てるなあ。


南に帰りたい。

騒がしくて面倒なことも多いけど、家族のいる暖かい家が恋しい。
529 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:58:48.87 ID:GtURHtWlo

――――――――
――

何もやる気が起きない。
俺はすっかり引きこもりと化していた。

数日間寝てばかりだ。
髭、剃ってないわりに薄いな……はあ。

自分の不幸に酔うようなことは嫌いなんだが、どうしても気分がよくならない。

女将「起きてるかしら? お昼ごはん持ってきたわよ」

白旅人「ああ、ありがとうございます。渡しておきますよ」

白旅人「食べられますか?」

食べ物を無駄にするわけにはいかない。
かなり億劫だが、俺は布団から出た。

魔剣士「…………」

青い石「『ずっとこの村にいるけど、酷い目に遭ってないか』だって」

白旅人「心配しなくて大丈夫ですよ」

白旅人「物珍しがられはしてますけど、そう頼られ続けることはありませんね、今のところ」

白旅人「控えめな民族性なのかもしれません」

白旅人「穏やかで過ごしやすい村です。しばらく滞在していましょう」

優しさが痛い。
530 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 20:59:29.58 ID:GtURHtWlo

観葉植物……小さなパキラの鉢植えが視界に入った。

俺一人が世界中の植物を助けて回るなんて馬鹿げてる。無理だって。一人じゃ。
そもそもなんで人間の社会が引き起こしている問題のしわ寄せを俺一人が受けなきゃならんのだ。

おかしいだろ。
尊厳は粉々に砕かれるし、体の調子はおかしくなるし……。

それに、性的な行為を伴わなくても、魔力を吸われるのはすごくつらいんだ。
急激に血が抜けていくような、寿命が削られていくような、そんな感覚に襲われる。

もうやだよ。怖いよ。
いっそ死んでしまいたい。でも、自殺する勇気なんてないんだ。

白旅人「手、震えてますよ」

白旅人「ゆっくり深呼吸してください」

白旅人「何も考えず、腹式呼吸で」

白旅人「しばらく続けている内に、楽になりますから」
531 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:00:24.19 ID:GtURHtWlo

白旅人「心理学に、心身一元論という考え方があります」

白旅人「心がつらい時、今のように体も調子を落とすことがあるでしょう」

白旅人「逆に、体を癒すことで心を癒すこともできるんです」

白旅人「端的に言いますと、心と体は同じものなんですね」

白旅人「……大丈夫です。傷はいつか癒えますから」

俺がこんな状態になってる原因を一切探ろうとせずに、メルクは傍にいてくれる。
再会できてよかった。

白旅人「他に調子の悪いところはありませんか」

白旅人「心因性のものでなければ治せますよ」

魔剣士「…………」

青い石「『病院行けって言わないのか』」

白旅人「そこまで鬼じゃありませんよ」

俺がこんな状態だからサービスしてくれているみたいだ。

白旅人「それに、あなたなら僕の能力に依存することもないでしょう?」

信頼してくれているようだ。嬉しいな。

治してもらうよう頼むか迷ったが、俺は服をたくし上げて胸の肉を寄せた。
メルクなら馬鹿にしたりしないだろう。そう信じたからだ。
532 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:01:31.88 ID:GtURHtWlo

白旅人「ああ、これは余計に病院へは行きづらいですね」

白旅人「ちょっと失礼しますよ」

白旅人「……病気や腫瘍が原因ではありませんね」

白旅人「脂肪を取り除き、ホルモンバランスを調節しました。もう大丈夫ですよ」

ああ……助かった。

白旅人「あ、取り除いた脂肪はエネルギーに変換して血液に流しました」

白旅人「栄養が足りていませんでしたからね」

口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。
まだ外に出る気は起きないけれど、心が軽くなった。




「なんだあいつらは!」

「女子供は家の中へ!」

何やら外が騒がしい。
533 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:02:02.39 ID:GtURHtWlo

女将「あんた達、外に出ちゃ駄目だよ。変な連中がいるからね」

白旅人「どのような方々ですか」

女将「なんでも、『自分達の宗教に入らなきゃ命はないぞ』って武器持って暴れてるらしいんだよ」

オディウム教の奴等だ。
引きこもっている場合じゃない。どうにかしないと。

白旅人「エリウスさん!」

気がつくと俺は外に飛び出していた。



「こ、こいつ……エリウス・レグホニアだぞ!」

「この村にいたとはなんたる幸運! これもオディウム神のお導きか」

「捕らえるぞ!」

「しかし末端に毛が生えた程度の我々にぐふっ!」

敵が体勢を整える前に、周囲の草木に魔力を与えて攻撃した。
声が出せないということは、通常の魔法の使用がほぼ不可能であることを意味する。

精々術名を唱えなくても発動できるかなり小規模な術くらいだ。
攻撃は植物に頼るほかない。
534 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:03:26.39 ID:GtURHtWlo

村人1「きゅ、救世主だ!」

村人2「25年前にこの村を救ってくださった勇者様とそっくりだぞ!」

村人3「印象的だったもんな……俺も不思議なほど勇者様の姿を覚えてるよ」


精神的に弱り、魔力の波動のエネルギーが低下している今の状態でも対処できた。
でも、以前と比べると……やはり調子が…………っ!?


腹が、生命の結晶とその付近が異様に熱い。
俺はその場に倒れ込んだ。

白旅人「どうしましたか!」

魔剣士「っ…………!」

青い石「エリウス! エリウス!」

青い石「……すごい違和感だ」

白旅人「これは……一体……」
535 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:04:47.02 ID:GtURHtWlo

白旅人「……人知を超えた何かに体が蝕まれているようです」

青い石「生命の結晶っていう、森の生命力を濃縮したものが埋め込まれてるんだよ」

白旅人「生命の結晶……昔、文献を読んだことがあります」

白旅人「何か不思議な力を感じてはいましたが、正体はそれでしたか……」

青い石「助けようとしても魔力を弾かれちゃう……あいたたた」

俺の魔力が弱まり、結晶の力に負けてしまっているようだ。

白旅人「このままでは極めて危険です。何が起きるわかりません」

白旅人「いいえ、何かが起きる前に彼の命が…………」

腹の中から食われているような強烈な感覚に襲われる。
ああ、駄目だ、魂の本体が宿っている心臓まで侵食され始めた。



俺……もう…………





死ぬ…………







…………かも…………


536 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/30(火) 21:05:29.44 ID:GtURHtWlo
kokomade
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 01:37:32.87 ID:Itck3jRHo
乙乙
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 02:34:05.40 ID:0Y/ydthRO
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 07:17:11.68 ID:N1JXOFsg0
不憫な……
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/31(水) 21:40:25.89 ID:bV2hEqu1O
こっからどう立ち直るのか…
541 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:33:10.95 ID:Q5EWaLPro

第十九株 遡る記憶


今までの記憶が映像になって流れ込んでくる。

重斧士『おまえってすげえ奴なのに、昔の知り合いからは見下されることもあんだな』

魔剣士『理由はわかってんだろ』

魔剣士『奇行が多くて言動もおかしい奴なんて、劣った存在とみなされても仕方がない』

魔剣士『だからって周りに合わせて生きる気にもなれなくてさ』

魔剣士『普通の人間の振りをしようとしても、結局ボロが出る』

魔剣士『だから自分の好きなように生きることにしてんだ』

重斧士『おまえが割り切れてんならそれでいいけどよ』

魔剣士『とっくに割り切ってるよ』

正直に言えば、こんな人間に生まれて不幸だと思ったこともある。

でもそれ以上に恵まれているから、マイナスよりはプラスの方が多い。
そう自分に言い聞かせている。
542 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:34:26.85 ID:Q5EWaLPro

父さんは強くて思いやりがある大陸一の戦士だし、母さんは優しくて教養があるし、
可愛がってくれるじいちゃんばあちゃんその他大勢の親戚はいるし、

俺自身才能に溢れているし、
これで不幸ぶったらバチが当たる。


『おまえ昨晩のオカズなんだったよ?』

『適当にネットで探した動画』

大学の男共が、講義室の後ろに溜まって猥談をしていた。

『ようエリウス! おまえは何オカズにしてんだ?』

魔剣士『月下美人だ』

『どんな美人だそりゃ』

俺は図鑑の297ページを開いた。

魔剣士『美しいだろう』

『は、はは、花ニーか、流石だな』

大学生活は気楽なもんだった。
ネジの外れた発言をしても虐げられることなんてなかった。

上級教育までと違い、人間関係が浅い上に変人なんて他に何人もいたからだ。
サカってる女が鬱陶しかった意外は特別嫌なこともそんなになくて、暮らしやすかったな……。
543 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:35:17.95 ID:Q5EWaLPro

教授『やあエリウス君。我が研究室へようこそ』

教授『研究したいことをなんでもやったらいい。君の才能はよく知っているよ』

学部一年の頃から、俺は特別にゼミへの配属が認められていた。

俺の夏休みの自由研究を毎年審査して、
俺の実力を認めてくれていた教授の所に早く行きたいと思っていたから、嬉しかったな。

俺の義務教育生・上級学生時代の自由研究は自由研究のレベルを大幅に越えていて、
毎年プラチナ賞を取っていた。

本来最優秀賞はゴールド賞だったのだが、次元が違っているという理由で新たな賞が設けられた。


俺は……幸せなはずなんだ。
544 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:36:14.86 ID:Q5EWaLPro

『やっぱり飛び級生に体育の授業はきついわよね〜』

『もう昼休み入ってんじゃん〜早くゴールしてよ』

これは……上級学生時代か。持久走は地獄だったな……。


『黒板の高い所届かなくて困ってる〜かわい〜!』

『誰だよあいつ用の台隠した奴。ははは』

飛んだ学年の多さのせいか、容姿のせいかは知らないが、軽くいじめられることもあった。
この頃、学校でだけは奇行を抑えていたのだが……浮くことは避けられなかった。


『いーよなあいつは女の注目集めてて』

『勉強できて顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ……』

『シッ! 聞こえっぞ』

男からは妬まれることが多かったな。

いじめが酷くならなかったのも、面と向かって文句を言われることがあまりなかったのも、
父さんの威光があったからだろう。

早くこんな狭い箱の中から抜け出したい。興味のない教科から解放されたい。
そう思って必死に勉強した。
545 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:40:22.25 ID:Q5EWaLPro

『おまえのにーちゃん頭おかしいんだろー!』

『やーいやーい』

次男『おれのにいちゃんおかしくなんてないもん!』

『おまえのにーちゃんが頭の病院行くところ俺のかーちゃんが見たって言ってたぞー!』

小さなアルバが悪ガキ共に囲まれている。

長男『……おまえら、何してんだよ』

悪ガキ達は俺達を馬鹿にしながら散っていった。
アルバは泣きじゃくっている。自分が馬鹿にされたわけじゃないのに。

次男『にいちゃんはおかしくなんてないよね、ね?』

長男『……ごめんな、アルバ』

俺のせいで、俺がおかしいせいで、弟が…………。

でも、まともな人間がどんなものなのかなんてわからなかったし、
俺らしく生きたい衝動を抑えるのは困難だった。特に幼い頃は、今以上に。
546 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:41:24.22 ID:Q5EWaLPro

『あたくしよりも先に更に飛び級だなんて生意気ですわ!』

クレイオー……すっぴんだ。そりゃそうだ、まだ子供の頃なんだから。

『あたくしがいないと何もできないくせに。心配でたまりませんわ』

周囲と馴染めなかった俺の世話を、頼んでもないのに焼いてくれたっけな。
言い方はいちいち高圧的だったが、思いやりがなかったわけじゃない。

『本当に……一人でも大丈夫ですの?』

あいつが俺に絡んでくるのは、俺が決してあいつを女として見ないからだ。
容姿が優れている分あいつも苦労している。だから俺と一緒にいると安心するらしい。

……どんな奴にだって、生きる苦しみはあるんだ。
547 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:42:56.90 ID:Q5EWaLPro

『ねーえ、何してるの?』

幼い頃のカナリアだ。俺も八歳くらいだろうか。
母さん達が食事をしている店の外に出て、俺は案の定草木を観察している。

そういえば俺、なんでこいつの名前覚えてたんだっけ。
アーさんの名前は覚えてなかったし、ヴィーザルなんて顔すら忘れてたのに。

あいつらの他の兄弟のこともあまり記憶に残っていない。
どうして、カナリアだけ……。

『何か言ってよ〜』

『……喋ったって、どうせ、おまえも俺のこと変だって言うんだろ』

『言わないよ?』

幼い俺は漸くカナリアの顔を直視した。

『植物好きなんでしょ? 将来は植物の学者さんかもね!』

そう言って、あいつはひまわりの花のように笑った。

『エリウス君、あたしの名前わかる?』

『…………』

『カナリアーナよ。みんなカナリアって呼ぶわ。ちゃんと憶えてね!』

そっか、あいつ……俺のこと否定しなかったんだ。



どうして、どうしてあんなことに…………。

俺がまともな人間で、もっと他人の気持ちに敏感だったら、
あいつの気持ちを量ることができていたら、違っていたのだろうか。
548 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:46:30.35 ID:Q5EWaLPro

『どうしよう、赤ちゃん、流れてくっついっちゃった』

ソファに座った母さんが泣いている。父さんは母さんの肩を抱いていた。
俺が七歳の頃のことだ。

『どうしよう、どうしよう、このままじゃ二人ともちゃんと生まれてこられないかも』

『アルカさんのせいじゃないよ。しばらく様子を見よう』

妊娠のかなり初期の頃で魂が宿る前だったのだが、
母さんは魔力で子供の性別がわかっていたらしい。

女の子と男の子の双子だった。流れたのは男の方だ。

母さんは、階段から降りてきた俺に気がつくといつも通り微笑んだ。

『ごめんね、今お風呂沸かすからね』

無理しなくていいのに。

なんで俺なんかが五体満足で生まれてきて、弟は一人の人間として生まれてこられなかったのだろう。
ひたすら虚しくて、気が重くなった。

母さんはどれだけ悲しかったのだろう。想像したくもない。
549 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:47:22.45 ID:Q5EWaLPro

子供……欲しいな。自分の子供が欲しい。
俺は何故だかガキの頃からそんな願望を持っていた。

人間を愛せないのに子供が欲しいだなんて、ひどく矛盾しているだろう。
でも俺は愛する花との間に本当に子供が欲しいんだ。

他人に理解してもらおうだなんて思っていない。
この望みを果たせないまま俺は死んでいくのだろう。



『エル! エルのためにね、山菜摘んできたんだよ』

母さんはわざわざ俺の好物を採ってきて調理してくれた。
家事や育児でクソ忙しいってのに。

重たいなって思った。
万が一人間と付き合うことがあっても、面倒で重い女だけは嫌だ。

『どう? おいしい?』

無愛想な俺に対して、母さんは何処か寂しそうに微笑んでいた。
俺は何も言わなかった。ただただ面倒だった。


いや違う。



本当はおいしかった。嬉しかった。
550 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:48:20.86 ID:Q5EWaLPro

俺、なんで親不孝しかできないんだろ……?


生まれつき他の赤ん坊と違った俺が更におかしくなったのは、あの夜のことだ。
三歳になる直前くらいのことだ。

俺は口数が少ない割に、難しい言葉の意味もある程度覚えていた。
俺は父さん、母さんと寝台の上で川の字になっていた。
幼いアウロラはベビーベッドですやすや眠っている。


ここ数年は落ち着いているが、当時、母さんは昔のことを思い出して突然泣き出すことがあった。
その夜も、母さんの嗚咽で目が覚めた。

『ごめんね、ごめんね』

(おかあさん、なんでないてるの?)

『汚いお母さんでごめんね……!』

俺はその言葉の意味がわからなかった。
551 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:49:26.84 ID:Q5EWaLPro

おかしいな。大人が吃驚するくらい言葉を知っているはずなのに。
お母さんが謝っている理由がわからないんだ。


……幼い俺には、その言葉を処理しきれなくて、
母さんが、いつも守ってくれている母さんが、とんでもない悲しみを抱えている事実を受け入れられなくて、

それ以来、俺は母さんと向き合うことができなくなった。

『アルカさん、もう大丈夫だから。謝る必要なんてないんだよ』

父さんが起きて母さんを慰めていた。父さんは何を知っているのだろう。

『私、お母様ほど気丈になれない』

『いいんだよ、弱くたって。俺が支えるから』





『どうしたエリウス、一人で寝たいだなんて』

母さんが汚いなら、その母さんから産まれてきた俺も汚いのか。
謝るくらいなら産むなよ。


何故だか俺はそう思うようになった。
552 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:50:02.07 ID:Q5EWaLPro

どうして母さんは自分のことを汚いだなんて言っていたのだろう。
今でも俺はその理由は知らないし、知らない方がいいのだと思う。

たとえ親だろうが一人の人間なんだ。
俺の把握しきれない過去くらいあっても何もおかしくない。


……そう思うなら、どうして母さんに対してもっと優しくなれなかった?
結局意地を張って反抗していただけじゃないか。俺はガキのままだ。


俺がどんな馬鹿な息子でも、死んだら母さんは悲しむだろう。
それなら、もっと親孝行しておけばよかった。




母さん、ごめんなさい。
553 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/08/31(水) 22:50:29.20 ID:Q5EWaLPro
kokomade
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 02:06:59.69 ID:HN5nnOJDO
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/01(木) 05:36:52.77 ID:jb8WuSM10
走馬灯
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/02(金) 11:20:29.12 ID:AzQMMlT+0
〜BAD END 〜
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 01:14:53.46 ID:rJT4uZPI0
続き待ってる
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/09/16(金) 16:00:36.15 ID:IgdE7Xoo0
ヒロインは一体誰なのか
559 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:55:04.51 ID:IbKbh14ho

死にたい気分だったのに、いざ死ぬとなると未練が沸き上がってくる。
このままじゃ成仏できねえよ。

親孝行したかった。もっと研究したかった。弟や妹ともっと遊んでやりたかった。
ユキが泣いていた理由だってわからないままだ。

でも生きるのはつらすぎる。
嫌だ……死にたくない。生きていたくもない。

俺にとってこの世界はどうしても生きづらいんだ。


なんで人間になんて生まれてきたんだろう。
木になれたらいいのに。

誰にも伐られる心配のない何処か山奥で、何かを考える必要もなく、
幹を伸ばし、緑の葉を茂らせ、陽の光を浴びて……。
560 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:56:29.10 ID:IbKbh14ho

ここ、何処だろ。真っ白だ。あの世かな。

――僅かでも可能性のある器を――

男の声が響いた。

――例え、何千万の時が過ぎ去ろうとも――

頭の中で鳴ってるみたいだ。

――彼女の心を満たすために――


時が逆行し、景色は次々と移り変わった。
この魂は海を渡り、平原を駆け、樹海を彷徨い……そうやって、億近くの年月を過ごした。

そしてある時点で、時間がゆっくりと正常に流れ出した。


男女の精霊が、大きな木の枝に腰をかけて談笑している。

『ねえイウス、ずっと一緒よ』

『ああ、スフィ』

男の精霊は女の精霊の手に自分の手を重ねた。
女の子の方は……ユキだ。

今と少し容姿が異なるが、確かに俺が想いを寄せているあの子だ。
本名がスファエラ=ニヴィスだからスフィと呼ばれているのだろう。
561 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:15.73 ID:IbKbh14ho

てかあれ何? 彼氏??
でも今も付き合ってるのならユキは俺に会いに来たりしないよな多分。

種族が違っても俺男だし。……男だと思われていると思いたい。
ってことは元彼かな。

不安感と惨めさと嫉妬心が同時に沸き上がった。

『ああ……こんなにも愛し合っているのに、どうして種族が違うのかしら』

見たところ男は雌雄異株の木の雄株の精霊のようだが、ユキとは別の種類のようだ。

『種族なんて関係ないだろう?』

『……あなたとの子供が欲しいの』

ユキは物悲しそうに俯いた。

『…………君が、望むのなら……』


その瞬間、視界が真っ暗になった。
562 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:57:41.99 ID:IbKbh14ho

胸がじんじんと痛み、心が萎んでいく。
さっきの映像は一体なんだったんだろ。

走馬灯がネタ切れ起こして幻でも見たのかな。
人間としての俺が死んでいくのを感じた。さよなら人生。


来世はどうか植物でありますように。
















563 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:24.55 ID:IbKbh14ho

もう、何も感じない。
穏やかだ。







すぐ傍に誰かがいるような気がした。
でも何も見えない。聞こえない。


















明るい歌声が聞こえてきた。琴の音も聞こえる。
胸が熱を帯びた。
564 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:58:52.41 ID:IbKbh14ho

――…………きて……――

――生きて…………――

…………ユキ?

――お願い、生きて……エリウスさん!――

もう疲れたよ。

――ああ、やっと声が届いたのですね――

――今、あなたが死んだら……私は、再び長い孤独を生きることになってしまいます――


暗闇の中に、月明かりを浴びた雪のような儚い輝きを纏う彼女がいる。


俺のすぐそばにいる。
565 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 16:59:30.26 ID:IbKbh14ho

――私と一緒に、生の喜びを探しましょう?――

一緒にいてくれるの?

――ええ――

俺なんかと?

――今のあなたの温もりを、どうか私に……――





琴の音が大きくなる。

魔剣士「ユ……キ……」

魔剣士「俺まだ……生きていた……い……」

歌姫「生きてますわよ」

魔剣士「っ!?」

宿屋の寝台の上で目が覚めた。


第二十株 ある種の神話
566 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:00:15.96 ID:IbKbh14ho

クレイオー!?
名前を呼ぼうとしても声は出なかった。

愛用の竪琴を持っている。十歳の誕生日にアポロン先生に買ってもらった物らしい。

歌姫「散々寝言を言っていたくせに、起きたら話せなくなりますのね」

え……俺どんなこと言ってたんだろ?

歌姫「『母さんごめん』って何回も謝っていたんですのよ」

えっ……。

歌姫「本当はお母様のことが大好きな癖に」

うっわ恥ずかしい。

歌姫「それと、『ユキ、ユキ……』と何度も何度も」

…………。

そういえばおまえなんでここにいんの?

歌姫「事情の説明は後ですわ。ゆっくり体と心を休めなさいな」

っつか俺が考えてること読めてんのか?

歌姫「長い付き合いですもの。あなたが何を考えてるかくらい手に取るようにわかりますわ」

俺は深い安堵の溜め息をついた。
同郷の昔馴染みの顔を見たらひどく安心してしまった。
567 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:01:13.76 ID:IbKbh14ho

起きた時点で涙が流れていたのだが、俺は更に泣いた。

歌姫「お馬鹿泣き虫ウス。よっぽど怖い目に遭ったんですのね」

歌姫「心を落ち着ける曲を奏でて差し上げますわ。よくお聞きなさい」

クレイオーは竪琴を構えた。
防音結界を張り、俺が眠っている間も演奏してくれていたようだ。

やけに悲しく重い旋律から始まった。

歌姫「最初から明るい曲調を奏でても効果は薄いだろうと思いましたの」

歌姫「あなたの感情と音楽を同調させる必要がありますわ」

少しずつ希望の見えるようなメロディに変化していく。
窓からは朝日が差し込んでいた。
568 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:02:36.16 ID:IbKbh14ho

扉が開いた。

白旅人「ああ、よかった。これで一安心です」

白旅人「一時はどうなることかと思いました」

モルの石はベッドサイドテーブルに置かれている。
いつもより眠りが深いみたいだ。俺の琥珀も隣に置いてあった。

てか俺一体どうなったの。

白旅人「落ち着いて聞いてくださいね」

白旅人「あなたはここ数日の間、木になっていました」

え?

歌姫「何ちょっと嬉しそうな顔してますの……もう」

歌姫「助けるの大変でしたのに」

白旅人「正確には、木の形に発達した魔力結晶の核になっていましたね」

白旅人「いやー驚きましたよ。生命の結晶の能力は魔導学では証明しきれません」
569 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:03:18.76 ID:IbKbh14ho

――――――――

四日前

白旅人「どうにかしてこの力を押さえ込まなければ……!」

青い石「できそう!?」

白旅人「……極めて困難です」

白旅人「僕の魔力に彼と波動の近い魔力を乗せることができたら、可能性は有るかもしれませんが……」

青い石「私が魔力を出すよ」

白旅人「しかし…………わかりました」



白旅人「っ……抑えきれません!」

白旅人「何か、別の器があれば…………」

白旅人「っ!」
570 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:15.57 ID:IbKbh14ho

白旅人「そうだ、この琥珀」

白旅人「これにだったら、溢れ出る生命の結晶の力を流し込めるかもしれません!」

青い石「エリウスの魔力が染み付いてるし、」

青い石「普通じゃありえないくらいエリウスと波動が近いんだ」

青い石「確かにこれなら望みがあるかもしれない」

白旅人「回路の生成に成功しまし…………あっ」

青い石「あっ…………」

白旅人「…………木が生えましたね」

青い石「立派な大木だね…………」

白旅人「おそらく、あの琥珀の生前の姿なのでしょうけれど…………」

青い石「エリウス、完全に木の中に埋まっちゃったよ……」

青い石「あ……もうねむ……い…………」

――――――――

白旅人「とまあ、一命を取り留めることはできたものの、」

白旅人「そんな状態になっちゃったわけですね」
571 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:05:59.64 ID:IbKbh14ho

白旅人「あなた自身が『生きたい』という強い気持ちを持たない限り、」

白旅人「僕達には手の施しようがありませんでした」

白旅人「魔適体質者といえども他者の心を操ることまではできませんからね」

青い石「正直途方に暮れたよ……」

白旅人「そんな時に、たまたまクレイオーさんからあなたの携帯に電話が入りまして」

白旅人「申し訳ありませんでしたが、緊急時なので勝手に出させて頂きました」

歌姫「女装したあなたの評判が随分よかったので、また共演して頂こうと思いましたの」

歌姫「そのためにあなたの帰郷の予定を知りたかったのですけれど」

歌姫「死にかけてるなんて吃驚しましたわ」

白旅人「昨日クレイオーさんがこの村に来てくださったので、演奏してもらったんです」

歌姫「眠っていても、音楽はある程度脳に影響を及ぼしますの」

歌姫「あなたの生命力を強めるために必死に歌ってハープを弾きましたのよ」
572 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:07:46.21 ID:IbKbh14ho

白旅人「クレイオーさんの歌と、」

白旅人「あなたに寄り添っていた精霊の呼びかけによりあなたの生命力が回復したタイミングで、」

白旅人「どうにかしてあなたを木から引きずり出しました」

精霊……そっか、ユキ、ほんとに来てくれてたんだ。

白旅人「木と化していた魔力はその琥珀に封じてあります」

白旅人「取り扱いには注意した方がいいでしょう。再び暴走する可能性を否定できません」

白旅人「……すみません、もっと上手くあなたを助けることができたらよかったのですが」

助けてくれただけで充分だよ。ありがとう。

歌姫「これから帰るつもりだったのですけれど、しばらくは付き添いますわ」

歌姫「心配ですもの。あなたには音楽という名の薬を処方して差し上げないと」

学校はいいのか?

歌姫「フリーになった記念にライブツアーでもしようと思っていましたのよ」

歌姫「どうせ大学はもう暇ですし」

歌姫「ああ、ついでにあちこちの遺跡や古い文献も見て回りたいですわね」
573 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:08:20.67 ID:IbKbh14ho

村を出た。

俺があの村にいることがオディウム教の連中にバレてちょくちょく襲撃されていたらしい。
一箇所に長居するのは危険だ。

歌姫「ちょっと水浴びをして参りますわ。見張りを頼みます」

歌姫「あ、覗いたら許しませんわよ!」

魔剣士「…………」


可視化した魔力で文を書いた。
短い文章くらいだったらイメージだけで可視化することができる。

独特の精神制御が必要だから疲れるし、余程落ち着いてないとできないが。
あれから数日経ったが、モルはまだ目覚めない。

『あいつ、クセの強い性格してるだろ。傷つけられたりしてねえか』

白旅人「いいえ。僕あんな感じの子好きですよ。奴隷にされたいですね」

そ、それならよかった……のか?
574 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:09:34.48 ID:IbKbh14ho

『俺もすげえ無神経なところがあって、人から嫌われることはよくあるんだけど』

『俺といて嫌なことがあったらすぐはっきり言ってほしい。治すようがんばるから、』

『だから』

白旅人「見捨てませんよ。安心してください」

昔は人に嫌われようがどうでもよかった。縁が切れたって大して気にも留めなかった。
でも今は、仲間を失うことが恐ろしくて仕方がない。

あいつら大丈夫かな。捕まったりしてねえかな。
安否は気になるが、確認する気にはなれなかった。

……駄目だ、弱気になるとまた腹が熱くなってくる。




白旅人「今夜はここらで野宿ですね」

焚火を消した。
この暗さと睡眠が怖い。不安で眠れない。

クレイオー、歌、聞かせて…………。

歌姫「演奏してほしいんですの? いいですわよ」

歌姫「子守唄でも歌って差し上げますわ」
575 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:13.62 ID:IbKbh14ho

――
――――――――
――――――――――――――――

「みぃ――つけたぁ」

カナ、リア……?
木陰から、見慣れた金髪の美少女がこちらを覗いていた。

「随分探したのよ」

一歩一歩こちらに近づいてくる。
やめろ、こっちに来るな。

身体が動かない。逃げられない。

地面に組み敷かれた。

「よくも逃げてくれたわね」

玉を掴む手に力が込められていく。

「容赦しないって、言ったでしょ」

あ、やばい、俺、去勢され――――
576 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:10:57.35 ID:IbKbh14ho

魔剣士「っあああああああああああああああああ!!」

魔剣士「あ、あ、ぅああああああああああああああああああああ」

歌姫「んー、またパニックですの?」

白旅人「エリウスさん、大丈夫ですよ。怖い夢でも見たのですか」

魔剣士「はあ、はあ、あ、あ、あ、あ、あ」

ああ、なんだ、夢か。

地面をのたうち回って暴れていた俺を、メルクが抱えて背中をさすってくれた。
情緒不安定になって突然泣き出したり、パニックを起こしたりするのは、この頃よくあることだった。

…………少しだけ呼吸が整った。

もう全部吐き出したい。
俺がされたのは誰にも言えないことだけれど、誰かにぶちまけたい衝動に駆られた。

でも、この衝動に任せて暴露しようにも、言葉を発しようとすると喉が絞まって苦しくなるんだ。
気がつけば、俺は植物にするように意思を魔力に込めてメルクにぶつけていた。
577 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:11:34.38 ID:IbKbh14ho

  犯されたんだ。仲間の女に。信頼していた相手に。
  俺は愛してもない相手に無理矢理犯されてもただただ屈辱なだけなんだ。

  痛い。痛いんだよ。
  でもこんなこと人に言ったって馬鹿にされるだけだろ。

  男が女に犯されて苦しんでるなんて信じてもらえるわけない。
  もうどうすりゃいいのかわかんねえんだ。助けてくれ。


しばらくすると、メルクは俺が何をしたくて魔力を発しているのか察したようだった。

白旅人「……ああ、そういうことだったんですね」

白旅人「安心してください。僕はあなたの苦しみを否定しません」

ほんとに?

歌姫「ど、どういうことですの……?」

白旅人「ええと……」

歌姫「……話しにくいことならいいですわ。あたくしは寝ます」

二人にしてくれた。
578 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:12:27.78 ID:IbKbh14ho

白旅人「『女性が加害者になるわけがない』『男性なら抵抗できるはずだ』」

白旅人「『男性なら襲われても喜ぶはずだ』」

白旅人「……そういった思い込みが世間にあることは事実ですね」

白旅人「しかし、実際は長期的に苦しみを背負うことになる場合が少なくないそうです」

白旅人「ですから、あなたがデンドロフィリアであることとは関係なく、」

白旅人「あなたが苦しんでいることは何もおかしいことではないわけです」

魔剣士「…………」

白旅人「性犯罪防止結界に引っかかった犯罪の数なんですけどね」

白旅人「男性が被害に遭いかけた事件の数は、女性が被害の事件の五倍だそうですよ」

白旅人「それほど事件が起きるのは、」

白旅人「男性が被害者である場合は犯罪にならないと人々に認知されているためでしょう」

強姦神話とかいうやつだろう。今時は強姦そのものが神話になりかけているが。

白旅人「ご自分を責める必要はありませんよ」

でも、俺がもっとカナリアの気持ちをわかってやれていたら……。
自責の念は拭えなかった。

白旅人「それに……」

白旅人「…………いえ、なんでもありません」

白旅人「ご自分の心の傷を癒すことに集中してください」
579 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/09/17(土) 17:13:09.31 ID:IbKbh14ho

――――――――
――

歌姫「あなたの調理器具を貸しなさい。あたくしが昼食をこしらえて差し上げます」

あんまり自分の持ち物を他人に触られたくないんだが……。

歌姫「……包丁何種類ありますの? え、何これ……これはなんのための道具ですの?」

ああもう危なっかしいな。一緒にやるよ。

歌姫「どうせお料理には疎いですわよ。んもう」

こいつの歌のおかげで、一時的にだがとても気分がいい。
料理くらいならやる気が出た。




歌姫「……いつものあなたの味とは違いますわね。もちろんおいしいですけれど」

白旅人「お袋の味って感じですね〜」

……母さんの味を再現してしまっていた。
いつもの俺の料理の方がずっとレベルは上なのにな。

母さんの料理が家庭料理の中の上くらいだとしたら、俺の料理は最高級レストラン並みだ。
でも今は母さんのメシを食いたくて仕方がない。

母さん、今頃どうしてるかな。声を聞きたいけど、電話したところで俺喋れないしな。
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