魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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681 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/28(月) 08:02:34.19 ID:tHcpMRvf0
>>680 sage
682 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:09:09.06 ID:sNgVk1I+o
魔剣士と魔道士の字面が似すぎていてややこしいので
魔道士→黒魔道士
です
683 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:13:35.14 ID:sNgVk1I+o

第二十四株 選択する先


魔導槍師「せっかく可愛い妹を連れて帰ることができたのに、」

魔導槍師「国王に私用で呼び出し食らってる隙に案の定誘拐されちゃったんですよねえ」

魔導槍師「というわけで、カナリアを返してもらいに来ました」

黒魔道士「何故ここがわかった……! 発信機は破壊したはずだ」

魔導槍師「カナリアにはお兄ちゃんマークのお守りを渡しておきましたからね」

黒魔道士「発信機は1つではなかったのか……!!」

魔導槍師「カナリアに手を出すこともできなかったでしょう」

黒魔道士「…………」

魔導槍師「ふむ、あそこの岩陰に張った結界に彼女を隠しているようですね」

黒魔道士「我が姪は渡さぬ……!」
684 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:16:56.15 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「とりあえずそいつはたのん」

黒魔道士「逃がすか!」

黒魔道士『逃げ惑う憐れな四匹の羊 世を断絶する檻』

奴はかなりの早口で詠唱した。

黒魔道士『目に見えぬ牢獄<プルシッド・プリズン>!』

魔剣士「うわああ出れねえ!」

歌姫「エリウス!」

次女「すごぉぉぉい!」

クレイオーはどうにか逃げられたが、俺達兄妹は閉じ込められた。

歌姫「カナリアさんの元に行きますわ!」

魔剣士「頼む!」

魔導槍師「旧魔術系統の呪術を専門とするオディウム教徒の信者達と違い、」

魔導槍師「あなたは現代魔術を専門としているはず」

魔導槍師「それなのに、わざわざ詠唱の長い旧式の術を使うとは」

魔導槍師「やはりあなたは……相当ムラムラしていますね」

黒魔道士「だからなんだ」

魔導槍師「思っていたよりもこちらが有利だと判明したというだけですよ、イガルク」

アーさんは術名を言わずに中の上レベルの雷魔術を放った。
おかしいな、以前より魔適傾向が上がっているような気が……。

魔導槍師「発動速度ならばこちらが圧倒的に早い!」

黒魔道士「おのれ……!」
685 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:17:48.94 ID:sNgVk1I+o

とにかく巻き添えを食らわないようにしねえと。かなり頑張って精神を落ち着かせる。

魔剣士「守護の壁<プロテクション・バリア>」

魔剣士「あーだめだ……脆いのしか張れねえ……」

次女「古い魔術ならムラムラしてても使えるの?」

魔剣士「ええと……」

携帯でネットに接続して調べた。

魔剣士「現代魔術よりは比較的発動成功率が高いらしい」

次女「へえぇ!」

雷がバリアに当たってバチリとでかい音が鳴った。

魔剣士「ひぃ……」

さっきは現代魔術も使っていたから、ある程度は性欲を制御できるのかもしれないが、
やはり術名を言うだけの現代魔術は不発が多いようだ。

成功率の高い旧魔術の方が安心して使えるのだろう。
686 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:18:30.71 ID:sNgVk1I+o

アーさんそっくりだし、「我が姪」とか言ってたし、マリナさんの兄弟っぽいなあの人。
アーさん(金髪)を黒髪にして眼鏡をとって老けさせたら絶対あんな感じだ。

魔剣士「バリア五重にしとこ……」

恐れで乱れた精神では、弱いバリアを重ねる程度の自衛しかできない。

次女「雷いっぱいで綺麗だねー!」

魔剣士「…………」

黒魔道士「その力は一体どうやって手に入れた……!」

黒魔道士「おまえの瞳はそのような色ではなかったはずだ」

魔導槍師「簡単なことですよ。後天的に魔適傾向を上げたのです」

魔導槍師「『他人の魔適傾向を上げる能力をもつ魔適体質者』に協力してもらいましてね」

魔剣士「それ国際法違反じゃ」

魔導槍師「カナリアが攫われて漸く許可が下りたんですよねー」

イガルクとかいう人が術を発動する前に、アーさんは中・上級の術であいつを嬲っていく。

魔導槍師「カナリアを見て母はたいそう嘆いていましたよ」

魔導槍師「娘“も”あなたと同じになってしまった、と」

魔導槍師「まあ私はまだなんの罪も犯していないので同類扱いはされたくないのですがね!」

黒魔道士「ぐあああああ!!」
687 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:19:23.87 ID:sNgVk1I+o

魔導槍師「よくも私の可愛い妹に穢れたあなたの魔力を注ぎ込んでくれましたね」

黒魔道士「…………」

魔導槍師「……ボロ雑巾が」

イガルクは一瞬気を失ったようだが、すぐに起き上がって小さな突風をアーさんの顔にぶつけた。
アーさんの眼鏡が吹っ飛ぶ。

黒魔道士「くくく……やはり大きな力をもった者は過信で動きが大振りになるな」

黒魔道士「そして、視力の弱い者は眼鏡を失った途端精神を乱す」

魔導槍師「…………」

黒魔道士「さあ、我が闇に包まれるがよ」

魔導槍師「あれ、伊達なんですよね」

魔導槍師「圧・神の雷霆<コンプレッセト・ケラウノス>」

次女「わあ! おっきい雷!」

魔剣士「雷系最強の攻撃魔術じゃねえか!! 圧縮してなきゃ余裕で町一個余裕で吹っ飛ぶぞ!!」

そんだけすごい術を食らっても、イガルクはまだ息があるようだった。しぶとい。

魔導槍師「何故私が眼鏡をかけているのか教えて差し上げましょうか」

魔導槍師「あなたに似ているからですよ」
688 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:19:54.09 ID:sNgVk1I+o

ゴッ

魔導槍師「父は私を母似だと言って可愛がってくれましたが、」

ドゴッ

魔導槍師「成長するにつれ、母は私の顔を直視しなくなりました」

ゴスッゴスッ

黒魔道士「ゲフッ!」

魔導槍師「そしてある時、両親の会話を聞いてしまったんですよね」

魔導槍師「母は、自分を穢した憎き兄に似た私の姿を見るのが怖いのだそうです」

ガッ

黒魔道士「う、くっ……!」

魔導槍師「だから私は私の顔を嫌いました」

アーさんはこれでもかというほどボロボロのイガルクを足蹴にしている。怖い。

魔導槍師「あー憎いですねー、あなたが。あなたに似て生まれた己の存在が」

黒魔道士「く……くくく…………はははははははは!」

魔導槍師「……何を笑っているのです」
689 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:20:27.48 ID:sNgVk1I+o

黒魔道士「おまえは私に似ている。姿形だけではない。精神そのものもだ」

黒魔道士「やがておまえの理性は蝕まれ、性欲を抑えられなくなる」

魔導槍師「…………」

黒魔道士「おまえはいずれ私と同じ罪を犯す。必ずだ」

魔導槍師「……黙りなさい」

黒魔道士「もう20は越しているだろう? 臨界点は近いぞ」

魔導槍師「黙れと言っている!」

アーさんが手をかざすと、イガルクの口から煙が上がった。

魔導槍師「……もう安心していいですよ。喉を焼きました。もう魔術は使わせません」

魔剣士「ヒェッ、ソッスカ」

次女「つよいつよーい! すごおおおい!」

魔導槍師「…………」

魔導槍師「私はいつか、罪を犯す…………」

魔導槍師「…………悍ましい血だ」
690 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:20:53.76 ID:sNgVk1I+o

次女「カナリアお姉ちゃんいないよー? クレイオーちゃんも」

魔剣士「まさか……」

魔導槍師「……イガルクを片づけるのに時間をかけすぎたようですね」

魔導槍師「他の呪術師に連れ去られたのでしょう」

重斧士「おい、カナリアは……」

魔剣士「あ…………」

重斧士「! エリウス」

魔剣士「…………」

重斧士「おまえ、無事だったんだな」

魔剣士「っ……」

気まずさに耐え切れず、俺は目を背けた。
あいつが寝ているすぐ横で、あいつの想い人に犯されたんだ。まともに顔を見ることができない。
691 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:21:31.35 ID:sNgVk1I+o

次女「ねえねえ、お姉ちゃん達探しに行かなきゃ!」

魔導槍師「……発信機の魔導波を遮断されているようです」

重斧士「……あっちだ!」

魔導槍師「便利ですねー、そのブレスレット」

次女「あれ雑貨屋さんで売ってるの見たことあるー」

次女「持ち主のところまで連れてってくれるんだって」

魔剣士「カナリアが持ってた奴だ」

魔剣士「魔力は本体の元に戻ろうとする性質があるからな」

魔剣士「それを利用しているんだろう」

次女「ぼく達も助けに行こ!」

魔剣士「っ…………」

魔剣士「おまえは兄ちゃんと一緒に逃げるの!!」

次女「えー…………」
692 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:22:11.68 ID:sNgVk1I+o

白旅人「エリウスさん!」

魔剣士「無事か!?」

白旅人「ええ、どうにか」

白旅人「リモンは眠らせ、この国の兵士さんに保護していただきました」

魔剣士「クレイオーとカナリアが奴等に捕まってる」

魔剣士「ガウェイン達と一緒に助けに行ってくれねえか」

白旅人「……わかりました」

敵を薙ぎ払い、岩陰に隠れながら丘を登る。

魔剣士「ほら!」

次女「んー!」

ルツィーレに手を伸ばしたところで、すぐ近くの岩壁に何かが勢いよくぶつかって大量の石片を弾き飛ばした。

兇手「ぐあぁ!!!!」

魔剣士「うわやっべ」
693 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:22:43.51 ID:sNgVk1I+o

戦士「レザール!!」

兇手「くっ……」

父さんがでかい火の玉を宙に作っている。

魔剣士「待って待って今魔術使われたら俺達も巻き添え食らっちゃう!」

戦士「うわああいつの間にそんなところにいたんだおまえ達!」

兇手「足止めの氷<コンファインメント・アイス>!」

魔剣士「あばばばばば」

兇手「これで攻撃できまい!」

兇手「回復までの時間稼ぎに使わせてもらうぞ」

次女「…………」

次女「あ、そうだ!」

次女「白く灼ける炎 身を焦がす恋慕のように 熱き心を炭と化せ!」

次女「ヴァイス・フランメ!」

兇手「っ!? なんだこの強烈な胸焼けは」

兇手「うっ」

魔剣士「…………」

魔剣士「……おまえ今何したの?」

次女「あははは〜アニメの主人公の真似したら変なのできちゃったあ〜」

戦士「嘘だろ…………」
694 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:23:43.43 ID:sNgVk1I+o

兇手「俺はただ……力比べをしたいだけなのに……またしても邪魔が…………」

次女「かっこよく光線出したかったのにな〜」

戦士「戦闘不能になるほどの胸焼けを引き起こすとは……」

魔剣士「どんな原理で発動できたんだろ……」

魔術はただ呪文を唱えれば発動できるというものではない。

戦士「……今度こそ逮捕だ。脱獄はさせないぞ」

兇手「…………」





それから数時間経ち、争いは一応鎮静化した。

魔剣士「……疲れた」

戦士「……はあ」

魔剣士「オディウム教徒のリーダー格とか見つかんなかったの?」

戦士「ああ……上層部の人間はさっさと逃げたらしくてな」

戦士「だが、捕まえた連中から情報を聞き出せそうだ」

ルツィーレの世話を父さんの部下に任せて、ちょっと村を出歩くことにした。
695 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:24:46.05 ID:sNgVk1I+o

白旅人「あまり顔を見ないでください。不気味でしょう」

歌姫「…………」

クレイオーがメルクの顔をがしっと掴んだ。

歌姫「これくらい近くで見れば、虹彩と白目の境界がよくわかります」

歌姫「不気味なんてことはありませんわよ」

いい雰囲気のようだ。
邪魔をしちゃ悪いだろうと思って黙って去ろうとしたのだが、クレイオーに呼び止められた。

歌姫「エリウス。そちらも逃げ切れたようで、安心しましたわ」

魔剣士「まだ気を抜くわけにはいかねえけどな」

白旅人「いつ残党が襲ってくるかわかりませんからね」

歌姫「……カナリアさんのお兄様、随分とお強いのですね」

魔剣士「あの人マジ怖い……」

カナリアから離れたことに関して責められないかと俺はビクビクしている。

魔剣士「カナリアの様子、どうだった?」

歌姫「正気に戻られたようですわよ。しかし、悲しげな目をしておられました」

魔剣士「……そうか」

歌姫「伯父君の魔力を注ぎ込まれ、欲望を暴走させられていたと聞きました」

歌姫「親族であるが故に魔力の親和性が高く、取り除くのは大変だったそうですわ」

歌姫「攫われる前には解術が完了していたそうですが……」

武闘家「あ……」

魔剣士「っ……!」
696 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:31:41.72 ID:sNgVk1I+o

武闘家「あのね、エリウス、あのね」

魔剣士「…………」

武闘家「あたしね、あなたがいなくなった日のこと、よく憶えてないの」

武闘家「でも、自分が何をしたのかはなんとなくわかってて……」

武闘家「ごめんなさいっ…………」

カナリアはポロポロと涙を零した。

こいつは、好きであんなことをやったわけじゃない。
でも、顔を見ると反射的に恐怖が蘇って、声を出せなくなる。

魔剣士「…………」

俺はただカナリアの頭をぽんぽんと軽く叩いて、その場を去った。
697 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:32:07.09 ID:sNgVk1I+o

花壇の煉瓦に腰を下ろして溜め息をついた。
胸が緊張で苦しい。

重斧士「おい」

魔剣士「えっ!? いつの間に」

重斧士「おまえが来る前から俺はここにいたんだが」

魔剣士「…………」

全然周りが見えていなかった。

魔剣士「……勝手に消えてごめん」

重斧士「別に責めちゃいねえだろ」

魔剣士「…………」

重斧士「あいつを助けに行って、んでまた気持ちを伝えたんだが」

重斧士「しばらく時間がかかるかもしれないけど、それでもいいか……って」

重斧士「前向きな答えを貰えたぞ」

魔剣士「そうか。……おめでとう」

重斧士「おう。まあまだお兄様公認じゃあねえけどな」

魔剣士「アーさんは絶対厳しいぞ……」
698 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:32:33.71 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「ヴィーザルが来てなくてよかったな」

重斧士「まったくだ」

いたら絶対口を挟んできていただろう。

魔剣士「……俺とカナリアの間に何があったのかは」

重斧士「なんとなく察してるぞ」

魔剣士「…………」

魔剣士「あいつの身体、綺麗だから」

重斧士「じゃなけりゃカナリアの兄貴がもっと荒れてただろうな」

魔剣士「ああ、あの人ならそういう情報も魔力から読めるだろうな……」

魔剣士「…………」

重斧士「カナリアの兄貴もおまえを責める気はねえみてえだぞ」

重斧士「『これは仕方ありませんねーはぁー』って感じでよ」

魔剣士「…………」
699 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:33:10.10 ID:sNgVk1I+o

重斧士「おまえ、カナリアとは会ったのか」

魔剣士「さっき会った」

重斧士「どうだったんだ」

魔剣士「……まともに話せなかった」

魔剣士「どうしてもさ、顔見ただけでもつらいんだ」

魔剣士「……いつか、何年か経って、つらい記憶が薄れた頃にさ」

魔剣士「何事もなかったかのように、また友達になれたらな……って」

魔剣士「そう思う」

重斧士「そうか」

魔剣士「……おまえって大人だよな」

重斧士「そりゃおまえよりは年上だからな」

魔剣士「いくつだっけ」

重斧士「18だ」

魔剣士「同い年じゃねえか」

重斧士「来月で19なんだよ」

魔剣士「そっか」
700 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:33:38.58 ID:sNgVk1I+o

宿に行って、父さんとルツィーレにユキを紹介した。

次女「一億歳差のカップルだね〜すごいね!」

魔剣士「ユキは永遠の16歳だからぁ!」

白緑の少女「エリウスさん……」

戦士「……すごい子と恋人同士になったんだな」

戦士「大事にするんだぞ」

魔剣士「もちろん!!」

実体化しているユキを抱きしめた。甘い花の香りがする。

魔剣士「ん〜〜」

白緑の少女「ご、ご家族の前ではしたないですよ」

白緑の少女「人はそう感じるものなのでしょう?」

魔剣士「そうだけどぉ〜」

戦士「精霊のユキさんの方が人間の常識ありそうだな……」

白緑の少女「長い時間の中で、ずっと人の生活を見守っていましたからね」

白緑の少女「若き日のあなたがアクアマリーナに訪れた日のことも覚えていますよ」

戦士「え? なんだか恥ずかしいな……」
701 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:34:08.52 ID:sNgVk1I+o

翌朝。外に出ると、メルクやガウェイン達が何やら集まって談笑していた。

白旅人「初恋は司書のお姉さんでしたね……」

武闘家「騎士のお兄ちゃんだったなあ……初恋っていうか、憧れだったんだけどね」

武闘家「クレイオーさんは?」

歌姫「……お、覚えてませんわ!」

クレイオーは頬を赤く染めた。
あいつの初恋の相手? 心当たりはないな……まずあんまりあいつに興味なかったし。

重斧士「そもそも身内以外に女がいなかったな……。俺は自分をゲイだと思い込んでたんだが、」

重斧士「今思えば男に恋をしたこともなかった気がするしよ」

重斧士「だからカナリアが初恋だ」

武闘家「ちょ、ちょっと! オープンすぎ!」

武闘家「ねえ、お兄ちゃんは?」
702 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:35:06.87 ID:sNgVk1I+o

魔導槍師「初恋ですかー……」

魔導槍師「幼い頃、私はとある女性に恋をしました」

魔導槍師「煌びやかな金の髪、青い瞳、薔薇のような唇…………」

魔導槍師「私は彼女を見かける度に必死に追いかけましたが、彼女の素性を知ることはできませんでした」

ストーカーじゃねえか……?

魔導槍師「しかしある時、魔感力が冴えてきた頃……私は気がついてしまったのです」

魔導槍師「彼女が女装をした実の父親であることに」

武闘家「え……」

魔導槍師「ショックでしたねー……」

武闘家「いやあああああああああああああ!!!!」

魔導槍師「それ以来、私は女装の達人しか愛せなくなってしまいました」

武闘家「そこまで訊いてないから!!」

うわあ。
703 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:35:36.10 ID:sNgVk1I+o

重斧士「こ、広義のゲイなのか?」

魔導槍師「いいえ。異性愛者です」

魔導槍師「しかし、本物の女性は何かしら男を幻滅させる要素をもっているでしょう」

魔導槍師「それに対し、女性になりきった男性は男性の理想を最大限に再現していますからね」

魔導槍師「純女(じゅんめ)よりも女性らしく、それでいて男への理解もある」

魔導槍師「最高じゃないですか」

武闘家「やめてお兄ちゃん!!」

白旅人「いわゆるトラニーチェイサーですね」

専門用語が出てきてもうわけがわからない。

魔導槍師「そこで聞き耳を立てているエリウス」

魔剣士「え」

魔導槍師「あなたは妙に私を恐れているようですが……」

魔導槍師「私、あなたの女装の腕前だけは認めているんですよ」

魔剣士「…………」

魔剣士「ひいいいいいいいい!!」

本気でゾッとしたから、俺は震える脚をどうにか前に出してその場から逃走した。
704 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:36:03.69 ID:sNgVk1I+o

魔剣士「ユキ〜……!」

白緑の少女「どうしたのですか、エリウスさん。そんなに怯えて……」

魔剣士「未知の業界の人間に未知の業界へ引きずり込まれそうな感じがしたー!!」

白緑の少女「よしよし……」

あの人の前では絶対に女装しないと俺は誓った。

次女「むか〜しむかし、あるところに」

ルツィーレはこの村の子供達を捕まえて昔話を聞かせているようだ。

次女「玉無しのおちんちんが住んでいました」

は?

次女「玉無しおちんちんはお母さんおっぱいに訊きました」

次女「『どうして僕には玉がないの?』」

他人の振りしとこ……。

〜〜〜〜


戦士「おいエリウス」

魔剣士「ん」

戦士「これから遺跡の調査に行くんだが」

魔剣士「あー俺も手伝う」
705 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:36:35.37 ID:sNgVk1I+o

戦士「ルツィーレを頼む」

魔導槍師「ええ」

次女「ねえねえアークイラお兄ちゃんのおち」

魔剣士「こらー!!」

魔導槍師「サイズには自信があるんですよ」

次女「見せて見せてー!」

魔導槍師「ははは、それはちょっと」

もう……もう知らない…………。



戦士「っ止まれ!」

車に乗り込み、父さんの部下やこの国の兵士達と村を出た直後、呪術師達が姿を現した。

戦士「…………!」

奴等の内の一人は……ぐったりした母さんを腕に抱えていた。

四女「とーしゃ、にーいーに!」

末の妹も少し離れた所にいる別の呪術師に抱きかかえられている。

戦士「貴様等……!」
706 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:37:08.77 ID:sNgVk1I+o

勇者「う……」

呪術師「くくく……かつての勇者も弱ればただの女。捕らえるのは容易であった」

ルツィーレが誘拐されたせいで、母さんは寝込んでいた。

まともに戦える状態ではなかったのだろう。

魔剣士「あいつ、なんで母さんが勇者だったってことを……」

呪術師「ここは通さぬぞ。動けば……この者達の血を見ることになる」

戦士「…………」

魔剣士「なっ……!」

呪術師達は皆臨戦態勢をとっており、そして実力は相当なものだろう。
下手に動くことはできない。

戦士「……奴等の目的は、足止めだけじゃない」

戦士「激しい憎しみを抱えた復讐者を生み出そうとしているのだろう」

戦士「『蜜の八年間』……それは、アルカさんが復讐の旅をしていた期間だ」

父さんは不思議と冷静さを保っている。

呪術師「あれは良き時代であった」

呪術師「魔族により世には憎しみが溢れ、極上の復讐者が誕生した」
707 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:40:49.79 ID:sNgVk1I+o

呪術師「勇者ナハト……復讐のためだけに生きた鬼神」

呪術師「世を憎む破壊の化身と化した勇者ナハトを取り込み、オディウム神は復活を遂げるはずであった」

呪術師「おまえとの接触さえなければ、我等の悲願は果たされていたのだ!」

戦士「聖玉の波動をもった人間の復讐心は最高の養分らしい」

戦士「復讐心に己を支配されるんじゃないぞ。何があってもだ」


このままじっとしていても、誰かが奴等に殺されてしまう。
俺は奴等に気づかれないよう、こっそり奴等の足元の草の精霊に頼んで呪術師の一人を転ばせた。

「おい誰だ俺の足引っ張ったの!」

「俺じゃないぞ!」

「気を乱すな!」

隙が生まれたその瞬間、父さんは剣を抜いて走り出した。
奴等はすぐにでも態勢を整え直すだろう。一人で二人共を助けることは困難だ。

だが、俺は父さんが迷わず向かう先がわかっていた。
だから、俺も迷わずに行く先を選択することができる。

俺は勢いよくアクセルを踏み込んだ。
708 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/11/30(水) 18:41:38.42 ID:sNgVk1I+o
kokomade
遅くなって申し訳ない
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 19:41:09.72 ID:kabQncpA0
アーさんもそりゃ人格ひん曲がるわなwwww
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 19:47:14.91 ID:wTm1ew6uO
711 :sage :2016/12/15(木) 21:09:34.73 ID:lPzzHx0Q0
保守
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/19(月) 05:25:29.53 ID:LG6xGbIX0
保守
713 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/12/31(土) 00:15:04.64 ID:NrIwBDw4o
生存報告
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/31(土) 02:09:26.49 ID:HAn5qCcA0
書きため中かなww
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/10(火) 07:52:58.50 ID:27Yela8IO
わたしまーつーわー
716 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:54:45.37 ID:yl2oRthUo

第二十五株 憎悪の開花



呪術師を跳ね飛ばす勢いで、俺はラヴェンデルに向かって集団に突っ込んだ。

魔剣士「ユキ!」

白緑の少女「ええ!」

助手席から実体化したユキが手を伸ばす。彼女の株を乗せていてよかった。

「ぐぁっ!」

魔剣士「ラヴェンデルは!?」

白緑の少女「怪我はないようです」

四女「にー! にー!」

魔剣士「あー……よかった」

人を轢く衝撃を気にする余裕もなく、俺は車を飛ばして奴等から距離をとった。
717 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:57:55.00 ID:yl2oRthUo

まだ安心はできない。呪術師の連中は既に反撃の準備をしている。
父さんは……上手いこと母さんを奪取できたようだ。

父さんがこの世で最も大切に思っているのは母さんだ。
いざという時に迷わないよう、子供に対しては常に精神的に距離を置いている。

父親としての責任は果たしてくれているし、人並みに可愛がってはくれるが、
いつでも割り切れるよう情が移り過ぎないようにしているらしい。そういう人だ。

それを特に不満に感じたことはない。ちょっと寂しく感じたことがある程度だ。
718 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:59:05.40 ID:yl2oRthUo

素晴らしいハンドルさばきで呪術師達の術をかわす。
見たところ優秀な呪術師達のようだが、術の精度が不自然な程低い。

焦っているためだろう。


こっちの戦力は父さんと俺とその他兵士。向こうは呪術師二十数名ほどだ。

アーさんやメルクはカナリアやルツィーレを守るために村から離れられない。
あっちも別のグループに襲われている。
719 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 19:59:47.37 ID:yl2oRthUo

父さんは母さんを抱えながらも俊敏に動いて炎弾を打っている。すごい筋力だ。

幸いこの辺りは草がそこそこ生えている。
魔力を通して精霊達にメッセージを送り、俺も遠隔で術を発動しつつ呪術師達の攻撃を避けた。

呪術師達がてんやわんやしている隙に父さんの部下達が物理攻撃で更に敵の戦力を削いでくれる。


ザンッ!


車体に風の刃が叩きつけられた。
防護壁を張っているから傷はつかなかったが、衝撃そのものを防ぎきることはできなかったようだ。

ガタガタと音を立てて緑の車体は動きを止めた。

魔剣士「ちょ……俺のエメラルド号ー!」

白緑の少女「精霊達に応急処置をしてもらいます!」
720 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:01:10.89 ID:yl2oRthUo

精霊達は車の構造なんて把握していない。つまり修理してもらうことは不可能だ。
壊れた車を精霊の力で無理矢理動かすことになる。

とりあえず寄ってきてくれた精霊に魔力を分け与えた。

魔剣士「やばいやばいやばいってあー! なんか敵増えてる!!」

瞬間転移術を使ったのか、呪術師がまた二十名ほど増えていた。
容赦なく俺達に向かって呪術が放たれる。


母さんの叫び声が聞こえた。完全に意識を取り戻したらしい。

四女「かーしゃ、かーしゃ!」

魔剣士「わああじっとしてろラヴェンデル!」

車が動き始めたところで、ニタニタと笑う立派なローブを着た老人が現れた。

主教「いいぞ……殺せ! 憎しみの華を咲かせるのだ!」

魔剣士「冗談じゃねえ!!!!」

精霊ブーストで走る車はやや動きがぎこちないがパワーはある。
721 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:01:40.30 ID:yl2oRthUo

主教「さあ早く!」

司祭「遺跡の守護結界の発動は完了しました」

司祭「しかし、殺してしまって本当によろしいのですか」

主教「聖玉の波動をもつ者なら他にもいる。また捕らえればよい」

司祭「いくら強力な結界を張っても、勇者ナハトには破られてしまうかもしれませぬ」

司祭「遺跡を失えば、儀式を行うことができなくなってしまうでしょう」

主教「全盛期の力はない。力をもたぬ復讐鬼は養分にしか成り得ぬ」

奴等は朔の日の夜に儀式を行い、ルツィーレがもつ聖玉の波動を最大限に高め、
聖玉の結界にぶつけようとしていた。

もし成功していたら、魔族が復活してこの世には憎しみが溢れる上に、
母さんはルツィーレを失ったことで再び復讐者になる。

オディウム教にとっては一石二鳥だっただろう。
722 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:02:06.17 ID:yl2oRthUo

すげえイライラしてきたから、琥珀で魔力を増幅して幹部と思われる連中に向かってでかい攻撃魔術を放ってやった。
父さんのでかい炎弾で攻撃された直後だったから、タイミングよく命中させることができた。

主教「うぐっ! おのれ……!」

司祭「づっ……」

腹が立ちすぎて逆に集中力が上がっている。
普段は運転しながら強力な術を発動するなんて器用なことはできない。

ついでにトリカブトの毒も撒いてやったのだが、
すぐに魔導器で防がれ、致死量を体内に流し込むことはできなかった。

司祭「げ、解毒を……!」

新たに現れた呪術師達の半数がその場に倒れ、中には嘔吐する者もいた。ざまあ。
嘔吐していない奴も手足の痺れでしばらくは動けなさそうだ。
723 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:02:32.73 ID:yl2oRthUo

白緑の少女「彼等……トリカブトを解毒する術をもっているようですね」

魔剣士「解毒剤も解毒術もまだ開発されてねえのにな……呪術やべえわ」

主教「オディウム神の加護を最も強く受けたこの私が直々に手を下してやろう!」

空気がピリピリと張りつめた。まずい。どうにか発動を食い止めねえと。

白緑の少女「駄目です! 結界に阻まれて攻撃が一切通りません!」

魔剣士「やべえ!」

戦士「防御に集中しろ!!」

魔剣士「ユキ!」

白緑の少女「はい!」

聖玉の波動持ち同士が力を合わせると、特殊な反応が起きて術が強力なものになるらしい。
ユキの魔力は、聖玉のプロトタイプである聖結晶の波動を濃く編み込んでいる。

互いの力を合わせれば強力な守護壁を張れる……と思ったのだが、
あくまでここにいるユキは少しの力しかもっていない分身だ。

強大な力を誇る本体じゃない。
植物を活気づかせる俺の魔力を大量にユキに流し込み、やっとの思いで強固な結界を生み出した。
724 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:03:00.02 ID:yl2oRthUo

老人の呪術が発動した。この世を呪う死の波動が雷のように宙を裂く。

魔剣士「どうにか持ちこたえてくれ……!」

何度も黒い柱が結界と衝突する。右腕が痺れて弾けそうだ。
ユキの肩を抱える左手から、ユキが受けているダメージが伝わってくる。

白緑の少女「浄化……しきれません……!」

魔剣士「くっ……」

結界にひびが入った。琥珀を通す魔力の量を増やす。

魔剣士「あっ」

琥珀が激しく瞬き、目映い閃光を何度も放ち始めた。

四女「ひゃっ」

魔剣士「まずい暴走する!!」

魔力の爆発を防ぐため、咄嗟に琥珀の使用を中断した。
725 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:03:34.75 ID:yl2oRthUo

溢れた生の波動が木の枝となって伸び、黒い柱をいくらか防いだが、
俺が魔力の放出をやめたことで結界が弱まってしまった。

ユキとラヴェンデルを庇った瞬間、守護壁の欠片がガラスのように散った。
死の波動に体を撃たれる。

魔剣士「ってえ……」

四女「ふあ……にいに……うああああああああん!!」

魔剣士「急所には当たってないからっ……大丈夫だって」

白緑の少女「すぐに浄化を!」

魔剣士「そんな余裕はなさそうだぞ」

老人はでかい呪術を撃った直後で膝をついているが、部下達が次の攻撃の準備を終えていた。
痛む足でアクセルを踏む。

体のあちこちから血が流れるが、そんなことは気にしていられない。

「ええい、ちょこまかと!」

「あつっあつっ誰かヘリオスを止めろ!!」
726 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:04:06.41 ID:yl2oRthUo

再びさっきの術を放たれたら勝ち目はない。
あれは、イガルクとかいう人のよりも鋭い闇だった。

血に視界を塞がれ、何度も瞬きを繰り返すと、前方に白い軍服を着た兵士が見えた。
味方だ。轢くわけにはいかない。急ハンドルを切る。

ガツッ

でかい石を踏み、車体が浮いた。玉がヒュンとする。
左のタイヤが先に地面と接触した。

横転こそしなかったが、大きな隙が生まれ、鋭い棘で車体が刺された。

白緑の少女「……もう精霊の力を借りても走れません!」

呪術師「娘は貰うぞ!」

呪術師はまるで氷の上を滑るかのように移動し、ラヴェンデルに手を伸ばした。
庇おうとしたユキが振り払われ、実体化が弱まる。

魔剣士「させるかよ……!」



あれ、おかしいな。

歩けねえ。
727 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:04:46.38 ID:yl2oRthUo

脇腹に激痛が走る。目をやると、そこには闇が纏わりついていた。

四女「や! やーあー!!」

魔剣士「ラヴェンデル……ラヴェンデル!!」

主教「よくやった」

司祭「私が手を下しましょう」

主教「よかろう。さあ見よ、かつての勇者よ! 己の子がこの世から消え去る様を!!」

勇者「嫌……いやあああああああああ!!!!」

戦士「くっ……アルカさん!」

父さんも深い傷を負っている。

魔剣士「やめろ!!!!」

司祭「哀れな子羊 幼き娘よ」

司祭「其方は憎しみの糧 新たな時代の礎と成れ」

黒なのか白なのかわからない雷が、ラヴェンデルを撃った。

それと同時に、力が暴走しかけた影響なのかどうかわからないが、
琥珀越しに俺の魔力がどっと抜けた。手に力が入らなくなる。


幼い悲鳴が響き、末の妹の姿は消え去った。



守れなかった。


俺の力不足で。
728 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:05:20.26 ID:yl2oRthUo

ちくしょう……ちくしょう……!!
腹の底から怒りが込み上げる。何よりも憎いのは自分自身だ。


ただただ茫然とする母さんを、父さんが支えていた。
やがて母さんの目に憎悪の色が表れる。

主教「よいぞ……憎しみの波動じゃ……!」

司祭「オディウム神を祀る遺跡が近いこの土地で開花させることができました」

司祭「この波動はすぐに我等が神の糧となるでしょう」

主教「これで……これで漸く我等の時代が訪れるのじゃな」

主教「オディウム教の繁栄の時代じゃ!!」

勇者「よくも……よくも……」

勇者「…………殺してやる!!!!」
729 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:05:55.41 ID:yl2oRthUo

主教「漲る……漲るぞ! もう少しで我が神は復活する!」

空に黒い靄が現れた。まるでカラスの大群だ。

戦士「エリウス、母さんを気絶させてくれ!」

魔剣士「っ……気絶<フェイント>!」

勇者「っ――!」

……父さんは、至って冷静に判断を下した。黒い靄の増加が止まる。

呪術師「旭光の勇者ヘリオスからは、憎悪の波動が放たれていないようです」

呪術師「在るのは……静かでありながら激しい怒り」

主教「馬鹿な!! 我が子を目の前で殺されていながら冷静さを保つなど!!」

司祭「子を愛していなかったというのか!?」

魔剣士「ちげえよ……!」

父さんはただ……子供を見殺しにする覚悟ができていただけだ。
俺達は愛されていないわけじゃない。

主教「その男も殺せ!! 流石に2人も失えば少しは取り乱すだろう!」

司祭「しかし、エリウス・レグホニアは生かしておけば糧となるでしょう」

主教「奴は大精霊の力を秘めておる。あまりにも危険じゃ」

司祭「わかりました」

男が俺に向かって杖を掲げ、再び呪文を唱え始めた。
730 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:06:23.65 ID:yl2oRthUo

魔剣士「母さん! ずっと素直になれなくてごめん!」

魔剣士「俺、本当は母さんのこと大好きだから!!」

魔剣士「母さん…………」

気を失っている母さんに向かって、俺は虚しく叫んだ。

あー、俺もここで終わるのか。親孝行したかったのにな。

最後に悪足掻きでもしようと思ったが、
また琥珀に魔力を吸い取られ、大量に放出された。

もう、俺にできることは何も残されていない。体中が痛む。

起き上がったユキが俺に寄り添った。彼女は弱々しく消えかかっている。
俺達は互いの手を握り合い、見つめ合い、そして静かに目を閉じた。


激しい重力に引きつけられるような、無重力の空間に放り出されたような、
未知の感覚に襲われた。
731 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:07:02.91 ID:yl2oRthUo























732 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:07:57.32 ID:yl2oRthUo

魔剣士「……ここが天国かあ。緑が溢れてるんだな」

周囲には草原が広がっている。近くには森もあった。

魔剣士「はあ……意外と痛くなかったな……」

魔剣士「父さん……母さん……ラヴェンデル……ユキ……」

魔剣士「こんなことなら、カナリアとしっかり仲直りすればよかったな……」

白緑の少女「あの……エリウスさん」

魔剣士「はは……愛車も一緒に天国来てるのか……」

白緑の少女「エリウスさん!」

魔剣士「あれ……なんでユキまで天国にいるの」

姿は見えないが、声だけが苗から聞こえている。

白緑の少女「生きてるみたいですよ」

魔剣士「え?」

瞬きをして、よく景色を見渡した。
寒い地方に多く分布している針葉樹がたくさん生えている。
草もよく観察した。

魔剣士「この植生……おそらくセーヴェル大陸の真ん中より北らへんの土地だ……」
733 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:09:41.26 ID:yl2oRthUo

魔剣士「……なんで?」

白緑の少女「……何故でしょう」

白緑の少女「さっき、不思議な力を感じたのですが、私も弱っていたので……」

白緑の少女「はっきりと感じ取ることはできませんでした」

傷は治ってはいないが、闇がいつの間にか浄化されていた。

魔剣士「あっちに町があるな。行ってみるか……車修理してえし」

街道を走っていた高級車が俺達の目の前で止まった。
中から出てきたのは初老の気品のある貴族だ。

貴族「そこの君、血だらけじゃないか。一体どうし……」

貴族は俺の顔を見た途端に眉をひそめ、涙を流して俺に抱きついた。

貴族「う……うぅぅぅ……うぁあああ」

魔剣士「あの……」

一体なんなんだ。とてつもなく逃げたいがそんな気力は残っていない。

貴族「あぅ……ぁ…………ずまながっだ…………あぃじでだのに……」

魔剣士「すみません、俺そういう趣味ないんすけど……」

貴族「アルカ……ディア……」

魔剣士「んえ?」

知っている名前が聞こえたところで、俺は体力が尽きて意識を失った。
734 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2017/01/11(水) 20:10:27.75 ID:yl2oRthUo
kokomade
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/11(水) 21:17:42.44 ID:lKVUEA5Z0
736 : ◆O3m5I24fJo [sage]:2017/02/10(金) 22:00:14.36 ID:A4DH+0Roo

番外編スレでやらかしたので新しいトリップ使います
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/21(火) 14:40:39.91 ID:EhQodqGA0
まだか?
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/07(火) 22:54:59.03 ID:sJ27/pgnO
待ってる
739 : ◆O3m5I24fJo [sage]:2017/04/04(火) 21:36:01.29 ID:HPLoS3P1o
生きてますすみません
今月中に更新できたらいいな……
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 16:49:33.05 ID:BUrDLkIS0
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/05(水) 19:28:38.28 ID:oh72yMapo
生存報告乙
ゆっくり待ってるよ
742 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:12:42.19 ID:Io1ZmpR2o

第二十六株 インドールとかスカトールとか


甘いバラの香りがする。
目を開けると、品のあるデザインの天井が見えた。金持ちの館だろう。

上体を起こした。

メイドさん「あら、目を覚まされましたか。少々お待ちください」

白緑の少女「ああエリウスさん、よかった……」

魔剣士「ユキ……」

全長20cmほどの小さなユキが枕元で胸を撫で下ろした。
力が回復していないのだろう。完全には実体化しておらず、半透明だ。

青い石「あれここどこ」

魔剣士「モル久しぶり」

喋るのは面倒だから念で今までの状況をアウィナイトに注ぎ込んだ。

しばらくすると、この館の主であろう男性が部屋に入ってきた。
俺に抱きついてきた貴族だ。

魔剣士「助けていただいたようで」

貴族「…………」
743 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:13:40.40 ID:Io1ZmpR2o

まだ体が痛むが、思ったほどではない。

貴族「酷い傷だったからね。治療師を呼んだのだが、すぐには完治させられなかったそうだ」

貴族「まだ無理をしてはいけないよ」

魔剣士「はあ……どうも」

貴族「…………」

神妙な面持ちだ。

貴族「エリウス・レグホニア君だね。すまないが身分証を確認させてもらったよ」

魔剣士「……うちの母のことをご存じなんすかね」

貴族「…………」

貴族「彼女は……幸せかね」

魔剣士「…………」

魔剣士「はい」

貴族「そうか。それはよかった」

主に俺やルツィーレが泣かせてはいたけれど、母さんは……幸せに暮らしていたと思う。
744 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:15:01.17 ID:Io1ZmpR2o

貴族「今はゆっくり休みなさい。事情は落ち着いた後で聞かせてくれるかね」

魔剣士「はい」

貴族「ああ、まだ名乗っていなかったね。私はヴァルター・フォン・デーニッツだ」

ヴァルターさんは部屋を出て行った。

青い石「あー、彼のこと知ってる。アルカの文通相手」

あれから一体どうなったのだろう。父さん達は無事だろうか。
携帯で連絡を……と思ったが連絡機能が立ち上がらない。故障しているようだ。

通話器を借りようにも、そもそも番号を覚えていない。
パソコンは電源すらつかない。あれだけ揺れたら壊れもするだろう。

携帯の日付けを見たら、あれから1日後だった。

魔剣士「……精霊達に父さん達のことを聞きたいんだけど」

白緑の少女「精霊達はひどく怯えています」

白緑の少女「だいぶ距離も離れているようですし、情報の伝達は遅れるでしょう」

参ったな。
745 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:16:55.31 ID:Io1ZmpR2o

窓から外を見た。薄曇りだ。
しばらくしたら動く気力が湧いてきたから、執事に断りを入れて庭に出てみた。

魔剣士「うわすごい……こんな見事な薔薇園を見たのは初めてだ」

たくさんの夏薔薇が咲いている。
アポロン先生が手入れをしている大学の薔薇園よりすごい。

魔剣士「……あぁ」

いけない……性欲が……。

白緑の少女「…………」

魔剣士「ごめん」

ユキが嫉妬してぎゅっとしがみついてきた。

薔薇の花に情欲を掻き立てられはしたけど、これは決して浮気ではない。
普通の男だって、本命以外の女の裸を見ても勃つものは勃つんだろ。同じことだ。

手入れを施された薔薇の精霊達はいたって元気だ。
中指サイズのお色気お姉さんな精霊が手を振ってくれた。
746 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:17:46.35 ID:Io1ZmpR2o

魔剣士「見るのもいいけどローズティーにもしてえな」

貴族「メイドがこしらえたものがある。飲むかい」

魔剣士「ひえっ」

わりと近くにいることに気が付かなかった。

魔剣士「いただきます。できればテイクアウトもしたいです」

貴族「好きなだけ渡そう」

魔剣士「あざます」

貴族「…………」

魔剣士「なんでそんな悲しそうな顔してんすか」

貴族「…………」

いっけね聞いちゃいけないことだったかな。

貴族「……彼女と最後に会った時、私は彼女がアルカディアであることに気が付かなくてね」

貴族「酷いことを言ってしまった。……言わせてしまった」

魔剣士「…………」

貴族「君の姿を見ていると、その時のことを思い出してしまってね」

すみません。
747 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:18:22.32 ID:Io1ZmpR2o

貴族「彼女にこの薔薇園を見せることが、子供の頃の私の夢だった」

……結婚指輪をしているから既婚ではあるのだろうが、
若い頃のことには何かと悔いが残っているのだろう。

魔剣士「見せたいなら、俺が見せますよ。写真になりますけど」

幸い携帯のカメラ機能は生きていた。

撮影が特別得意というわけではないのだが、被写体が植物の場合は別だ。
プロのカメラマン並みの写真を撮ることができる。

貴族「……彼女はいい息子をもった」

どうだろう。俺はろくな息子じゃないと思う。親不孝ばっかで。

……母さん達、生きてるのかなあ。
748 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:22:23.95 ID:Io1ZmpR2o

貴族「君の車は修理に出している。……修理の見通しは立たないそうだ」

マジかよ……。

魔剣士「携帯とパソコンも修理に出したいんすけど、いい業者さんご存じじゃないですかね」

貴族「すぐに呼ぼう」

魔剣士「助かります」

メイドさん「ローズティーをお持ちいたしました」

魔剣士「どうも」

カップに浮かべられた花弁が何とも愛らしい。

魔剣士「……うめえ」

優雅な香りが神経を刺激する。

魔剣士「後で作り方教えてもらっていいすか」

メイドさん「すみません、門外不出でして」

貴族「いいよ」

メイドさん「え、いいのですか?」

魔剣士「あざっす。人に教えたりネットに上げたりはしないんで」

秘伝のレシピゲットだぜ。

精霊王「しかし美味だなこれ」

魔剣士「ほんと美味い」
749 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:23:06.50 ID:Io1ZmpR2o

魔剣士(なんだ今の声)

精霊王「生命の結晶の力が琥珀に馴染んできてさあ」

精霊王「思念体として魂の部屋の外に出られるようになってきたんだよ」

魔剣士(は?)

精霊王「説明しよう。死後、精神体は主に己の魂にある自室で過ごすのだ」

精霊王「だが俺は極めて強力な生命のエネルギーを浴びたことにより、」

精霊王「この琥珀越しに魂の外の世界と干渉できるようになったのである」

魔剣士(は?)

精霊王「いやだからおまえの前世である俺がおまえに話しかけられるようになったんだよ」

精霊王「ピンチの時に琥珀光ってたろ、あれ俺が助けてやったんだよ」

魔剣士(ふーん)

魔剣士(……名前なんだったっけ)

精霊王「おまえの名前俺から来てるんだけど」

魔剣士(え、そうなの)
750 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:23:39.89 ID:Io1ZmpR2o

精霊王「おまえの体に宿った時、おまえのおっかさんの夢の中で」

精霊王「『我が名はイウス!』って名乗ったら」

精霊王「エルディアナのエルとくっつけてエリウスになった」

魔剣士(マジかよ)

精霊王「これでもう忘れないだろう少なくともファーストネームは」

魔剣士(そういや似たような話母さんから何回も聞かされてたけど今の今まで忘れてた)

青い石「ひどい」

魔剣士(聞こえてんのかモル)

青い石「うん」

背後霊が増えてしまった。

白緑の少女「……イウス?」

精霊王「俺のスフィィィィィ!!」

白緑の少女「イウス、イウス!」

ユキが泣きながら琥珀にくっついている。
751 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:24:21.88 ID:Io1ZmpR2o

そりゃあなあ、死に分かれた恋人と話せたら泣いて喜ぶよなあ。
薔薇の棘が突き刺さったかのような痛みが胸に走る。

精霊王「敵の術を捻じ曲げて助けてやったんだから感謝しろよなー」

魔剣士(琥珀に魔力をごっそり抜かれたの、あんたの仕業だったのか)

魔剣士(……ってことは、ラヴェンデルは)

精霊王「生きてると思うけど何処に飛んだかわからん」

精霊王「植物が生えてる場所にさえいれば、」

精霊王「多少時間はかかるかもしれんがそのうち精霊が情報を寄越すだろう」

魔剣士(砂漠のド真ん中や雪山に飛んでたら)

精霊王「諦めてくれ」

……生きている可能性があるというだけでも希望が持てる。
母さんに知らせないと。

精霊王「礼の1つでも言ったらどうだ」

魔剣士(ありがとうございます前世様!)

青い石「孫を助けていただきましてありがとうございますありがとうございます」
752 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:25:01.69 ID:Io1ZmpR2o

魔剣士「…………」

精霊王「その体と魔力の回復し具合じゃあろくに行動できねえだろ」

精霊王「そわそわしてても仕方ないぞ」

魔剣士「…………」

精霊王「とにかく今は休んどけ」

「おい通せ! 中に入れろ!」

「どうかお帰りください」

「通せと言っている!」

貴族「また来たか……」

魔剣士「なんすかこの言い争い」

貴族「ローズティーのレシピを教えろとしつこく言ってくる喫茶店の店主がいてね」

魔剣士「よく貴族にそんなことできますね」

貴族「彼自身は平民なのだが、どこぞの王族の血を引いているらしくてね」

あーいるいる、先祖が王侯貴族だからって自分も偉いと勘違いしてる奴。
753 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:25:36.49 ID:Io1ZmpR2o

執事「お引き取りくださ……あああああ」

喫茶店主「あのローズティーのレシピを寄越せ! 利益の一部は払ってやる!」

喫茶店主「悪い話ではないだろう。これ以上勿体ぶるのであれば手段は選ばんぞ」

貴族「ふう……」

魔剣士「脅迫じゃないですかねそれ」

喫茶店主「なんだこのボロボロの男は!」

魔剣士「俺なりにおすすめのレシピ教えるんで勘弁してさしあげてくださいませんかね」

喫茶店主「おまえのような若造がレシピの1つも持っているものか!!」

魔剣士「あ???????????」

魔剣士「俺一応料理の道では有名人なんですけど???????」

魔剣士「俺が運営してる料理教室サイトは毎日1000万PVいただいてるんですけどぉ!?!?!?!?!?!?」

喫茶店主「で、出まかせを……あっ」

喫茶店主「ししししかし所詮は平民だ!」

魔剣士「あんたこそ平民だろ」

腹が立ったので、回復しかけの魔力で簡単な魔法を発動した。
754 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:26:15.30 ID:Io1ZmpR2o

喫茶店主「うっ」

青い石「何したの」

魔剣士(あいつの鼻に濃縮したとある成分を送り込んでやったんだが)

魔剣士(薔薇ととあるきったねえものはにおいの成分一緒だって知ってた?)

青い石「え、わかんない」

喫茶店主「うぉげえええげほっげほっ」

魔剣士(ヒントというか答えは『イッヒ フンバルト デ』)

青い石「ああうん言わなくていいよ」

喫茶店主「なんだこの臭いはあああああああ覚えていろ!」

奴は逃げ帰っていった。

魔剣士「ちょっと屋敷に簡単な術式を取り付けていいですかね」

貴族「か、構わんが」

魔剣士「……よし」

魔剣士「これであの人が来る度に、あの人の鼻を便臭が襲うんで」

魔剣士「あの人はもうこの屋敷に入れないっす」

貴族「う、うむ」

魔剣士「あ、バッテリーの補充はお忘れなく」

貴族「た、助かった……よ……?」
755 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:26:42.21 ID:Io1ZmpR2o

魔剣士「善行を積むのって気持ちいいな」

青い石「やり方が汚すぎる」

……回復しきらない状態で魔法使ったから疲労がやばい。

魔剣士「薔薇園のど真ん中で寝てていいすか」

貴族「い、いいよ」

薔薇の精霊達に元気を分けてもらおう。
愛されてる子達はバイタリティに溢れてて最高だ。

魔剣士「ふぅー……」

白緑の少女「風邪、引きますよ」

魔剣士「ユキの愛があったかいから大丈夫だよ」

精霊王「あ、それ俺が奪ったから。というか返してもらったから」

魔剣士「ちょっと待てや」

白緑の少女「イウス!!!!」
756 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:27:10.97 ID:Io1ZmpR2o

白緑の少女「…………」

魔剣士「両方好きでいていいよって言ったの俺だし」

魔剣士「俺にも愛を注いでくれたらそれでいいから」

ユキが申し訳なさそうにしながら添い寝してくれた。可愛い。

精霊王「なんだかんだで器のでかい今生だな」

どうだろう。

青い石「お父さんに似たんだよ」

自分に自信がないから諦めているだけかもしれない。
負い目を感じているユキに安心感を覚えるのも、やっぱり自信のなさの顕れなんだろう。

他人が失敗してるのを見たらほっとすることあるでしょ。
それと似たような……感じ…………ねっむ。

――――――――
――
757 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:27:39.62 ID:Io1ZmpR2o

2日後

貴族「……随分回復したようだね」

寝まくってたし、ヴァルターさんが呼んだ治療師の腕が良かったから早く回復できた。

車も今日中に直るらしい。
見通しが立たないと言われたのは、俺の車がフルオーダーであるために車種が特定できなかったからだったらしい。
設計書を提出してからはスムーズに修理が進んでいる。

貴族「この記事を見てみなさい」

新聞を出された。この間の戦いについて記述されている。
アークイラが前に出て、トップには逃げられたものの呪術師連中のほとんどは倒したらしい。

やっぱばけもんだわあの人。
父さんも生きている。母さんについては……何も書かれていない。
758 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:28:08.45 ID:Io1ZmpR2o

業者「携帯とノートパソコンをお届けに上がりました」

魔剣士「データは……」

業者「無事です」

よかった。

魔剣士「もしもし父さん」

戦士「……エリウス!? おまえ……」

魔剣士「ラヴェンデルも生きてるかもしれないんだ」

戦士「そうか……よかった」

魔剣士「……母さん、どうしてる?」

戦士「……アークイラ君に強力な眠りの魔術をかけてもらった」

母さんが起きたら、きっとオディウム神は更に憎悪を吸うだろう。
眠らさざるを得ないんだ。

魔剣士「こっちの詳細は後でメールで送るから」

もう一度新聞に目を落とした。
オディウム神は今にも復活しかかっているそうだ。
759 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:29:40.67 ID:Io1ZmpR2o

車を引き取りに行くため外に出た。

魔剣士「あ……ピカピカだ……」

涙が出た。

魔剣士「……オディウム神って一体どうすりゃいいの」

精霊王「俺そういうのそっちのけで来世の体探し回ってたからあんまよくわかんねえや」

精霊王「とりあえず他の大精霊に話聞きに行くか」

白緑の少女「ここから最も近くにいる大精霊様は……シレンティウム様です」

精霊王「げっ、俺あいつ苦手なんだよなあ」

魔剣士「どんな奴だそれ」

精霊王「シレンティウム=ラピスラズリィ。融通が利かない堅物だ」

青い石「ラズ半島の守護神だよ」

魔剣士「ってことはモルの故郷に行きゃいいんだな」
760 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:30:06.67 ID:Io1ZmpR2o

魔剣士「お世話になりました」

貴族「いつかまた顔を見せてくれ」

魔剣士「はい」

挨拶を済ませて町を出る。少々名残惜しいが、そう長く滞在する時間はない。

精霊王「他の大精霊のとこ行かない?」

白緑の少女「我がままを言う余裕はありませんよ」

ラズ半島……ラピスラズリの産地。母さんの故郷。

魔剣士「モルの墓参りかあ〜」

青い石「複雑な気分なんだけど」

南東に向かって車を走らせる。
南の空で、僅かに黒が揺れた気がした。
761 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/04/11(火) 23:32:38.14 ID:Io1ZmpR2o
ここまで
>>571でうっかり青い石が喋ってるのはあれです、消し忘れ的なミスです……
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/12(水) 09:43:41.65 ID:BFobnxWDO
乙ぅ
待ってたのよ
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/12(水) 19:19:36.73 ID:Xe7RpcvvO
待ってた‼乙‼
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/15(土) 13:26:01.60 ID:lp7JNG+/0
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/15(土) 19:14:16.61 ID:WLY0sTWbo
待ってた乙乙
766 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:29:12.03 ID:QnccxTUoo
第二十七株 瑠璃の土地


シコシコシコシコ

精霊王「あー性感ってすげえな、人間の体気持ちいー」

魔剣士「ちょっ、喋んなや」

シュン……

魔剣士「っだーもう萎えたじゃねえか!!」

精霊王「頑張って復活させろ」

魔剣士「ちくしょう!!!!」

魔剣士「…………うっ」

精霊王「ふぅ……」

魔剣士「こんな最悪なオナニーは生まれて初めてだ」
767 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:29:45.06 ID:QnccxTUoo

魔剣士「勝手に感覚共有するのやめろ」

精霊王「えーだって人間の身体興味深いんだもん」

精霊王「琥珀を置いてこなかったお前の自業自得だ」

魔剣士「装備してなかったらなかったで不安なんだっつの」

精霊王「え? 俺のこと頼りにしてくれてんの??」

魔剣士「そうじゃねえよ」

生命の結晶の力が循環する経路が形成されているため、下手に手放すことができないのである。
魔法も琥珀があった方が強力になる。

精霊王「ちなみに琥珀を装備しなくても、口を利いたり感覚の共有ができなくなったりするだけで」

精霊王「おまえのやってることは全部見えてるからな」

魔剣士「俺のプライバシー……」

非常に憂鬱である。
賢者モードになり、性的な嫌な記憶がじわじわと精神を圧迫してきたことで更に気が滅入……

魔剣士「はっ、ぐ、ぅっ……」

上手く呼吸ができない。

精霊王「おいしっかりしろ!」

――――――――
――
768 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:30:29.21 ID:QnccxTUoo

魔剣士「う……」

白緑の少女「エリウスさん……よかった」

パニック発作を起こして失神していたらしい。まだ体がだるい。

魔剣士「ユキ、ユキ」

普通の人間サイズに実体化しているユキに抱きついた。

白緑の少女「もう、あんな目に遭うことはないんです。大丈夫ですよ」

トラウマはそう簡単には解消できない。

不能はもう治ってるし、性欲も普通に湧くから処理をしないといけないのに、
今でもフラッシュバックを起こすことがある。

今はわざわざ強姦されなくても、充分質のいい魔力を植物に供給することができるし、
身の守りを固めれば、余程のことがない限り人間にも襲われないだろう。

でもつらいものはつらいんだ。
769 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:30:57.94 ID:QnccxTUoo

魔剣士「そういやさあ、俺の恋愛対象が植物なのってさあ」

魔剣士「前世があんただから?」

精霊王「おまえが変態なだけだぞ」

魔剣士「あっそ」

精霊王「ごめん適当に言った」

魔剣士「……俺が普通の男だったとしても、ユキとだったら恋に落ちていたような気がする」

精霊王「そりゃ運命の相手だし」

精霊王「陰陽太極図を思い浮かべてみろ」

魔剣士「なにそれ」

精霊王「検索しろ」

勾玉が2個くっついたような図形だ。

精霊王「俺達の魂が黒い方の勾玉だとしたら、俺のスフィの魂は白い勾玉なのだ」

魔剣士「つまりぴったり型が合うと」

精霊王「そのとおりだ」
770 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:31:38.20 ID:QnccxTUoo

精霊王「型が合わない相手と恋に落ちることは全く珍しくないし、結婚することもある」

精霊王「しかーし! 運命の相手と出会ったら必ず惹かれ合うのである」

精霊王「己のセクシュアリティとは関係なくな」

精霊王「ゲイでありながら1人の女性と愛し合ったって話たまにあるだろ」

魔剣士「知らねえよ」

精霊王「ちなみに俺のスフィも人間は恋愛対象じゃないからな」

魔剣士「いちいち『俺の』って付けるな」

精霊王「お? 嫉妬か? お?」

魔剣士「ユキはおまえの所有物じゃない。もちろん俺のでもない。ユキはユキ自身のものだ」

精霊王「一枚上手なこと言いやがって」

魔剣士「おやすみ」
771 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:32:44.97 ID:QnccxTUoo

――ラピスブラオの町

白緑の少女「シレンティウム様の許には夜に伺った方がいいでしょう」

精霊王「あいつの波動夜のが活発になるもんな。弱ってるわけだし昼は寝てそうだ」

魔剣士「夜までは時間あるな……。モル、おまえの墓何処?」

青い石「あっちの丘」

魔剣士「黒髪青目率たけえなこの町」

青い石「ラズ半島に住んでたら『瑠璃の民』が生まれてくる確率が高くなるからね」

瑠璃の民……前にモルが言っていた「うちの民族」のことだ。



青い石「これが第一次レッヒェルン領襲撃事変の集団慰霊碑」

青い石「あっちが第二次の方みたいだね」

魔剣士(おまえの名前一番でかく彫られてるんだな)

魔剣士「安らかにお眠りください」ペコリ

青い石「私がまだ眠ってないのは君のことが心配すぎるからなんだけど」

魔剣士(ところでさ)

青い石「うん」
772 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:33:16.03 ID:QnccxTUoo

魔剣士(主にジジババ世代が俺の顔見てめっちゃ拝んでくるんだけど)

青い石「私の顔……というか、代々領主になる人間の顔を知ってる人は」

青い石「君の顔を見たら期待しちゃうかも」

青い石「『やっと瑠璃の民の族長になる人物が生まれたんだ』って」

魔剣士(奇行に走って幻滅してもらおーっと)

青い石「やめて恥ずかしい」

魔剣士「ドクダミおいしー」

青い石「うう……」



領主代理「あのー……」

魔剣士「はい」

領主代理「もしかして、エリウスさんですか」

魔剣士「はい」

20代半ばか30前後くらいの、真面目そうな眼鏡の男だ。
髪色はクリームだが目はアウィナイトの色をしている。

領主代理「族長が現れたという騒ぎを聞いて、もしかしてエリウスさんではと思いまして」

領主代理「私はこの土地の領主代理を務めているエーアスト・フォン・ハーメルです」
773 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:35:28.04 ID:QnccxTUoo

魔剣士(親戚?)

青い石「そうだよ。前は彼の両親がこの土地を管理してくれていたんだ」

領主代理「もしよろしければ、領主の館にお招きしたいのですが」

魔剣士「え、泊めてもらえるんですか」

領主代理「はい」

そういえばまだ宿を取ってなかった。


青い石「実家が建て直されてる……ありがたいなあ。外観そのままだし」

青い石「ああ、エントランスの構造も昔のままだ……」

魔剣士(良い家に住んでたんだなおまえ……そりゃ大貴族だもんな)

青い石「意外と置き物とかも残ってて嬉しいな」

領主代理「こちらがあなたの祖父、モルゲンロート氏の肖像画です」

モルだけじゃなく、モルの兄弟や両親らしき人物も描かれている。

魔剣士「アルクスかと思った」

描かれているモルは10歳ほどの子供だ。アルクスが成長したらこんな感じになるだろう。

領主代理「アルクスさんのことは伺っております」

領主代理「私がきっとアルクスさんを立派な領主に育て上げてみせますよ」

魔剣士(え?)
774 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:35:56.50 ID:QnccxTUoo

魔剣士(どういうこと)

青い石「あー、えっと」

青い石「アルクスは瑠璃の民の族長、即ちレッヒェルン領の領主となる存在だから」

青い石「12歳になったらこっちに来ることが決まってるんだよ」

魔剣士(本人の意思と関係なくか?)

青い石「なんというか……代々当主となる人物は、この土地を守ろうとする本能があるから」

青い石「いずれ自ら来たがると思う」

魔剣士(母さんもこっちに来るわけじゃないんだろ)

魔剣士(あんなに母さんべったりなのに大丈夫なのかよ)

青い石「それ私もヘリオス君も心配してる」

よくわからんが、レッヒェルン家には「瑠璃の民の族長となる人物」が生まれてくるらしい。
んで、そいつ等は代々同じような顔をしていて、ラズ半島を守ろうとする本能があると。

それ以外の人物が領主になろうとしても、なかなか民から認めてもらえないらしい。
だからエーアストさんはあくまで領主“代理”なのだそうだ。
775 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:37:01.21 ID:QnccxTUoo

アルクスのことを大して可愛いと思ったことはなかったが、少し可哀想に思えた。
あいつ絶対母親離れできねえもん。
母さんも子離れできないだろうし……。


エーアストさんに晩餐をご馳走になって、それから鉱山に向かった。

精霊王「やっぱり行゛き゛た゛く゛ね゛え゛よ゛お゛」

魔剣士「うるせえぞ……」

白緑の少女「ええと、あの洞窟におられるようです」

魔剣士「暗っ……」

急な坂が続いている。

精霊王「だいぶ下まで潜る必要がありそうだぞ」

魔剣士「俺運動神経鈍いんだけど」

何度も怪我を負い、その度に回復魔術を使って洞窟の下層部に進んだ。

精霊王「可哀想なほど不器用な奴」

魔剣士「うっせ」
776 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:37:53.82 ID:QnccxTUoo

魔剣士「ちわ〜っす……」

瑠璃精霊「……来おったか、とちくるって我が眷属に転生した阿呆め」

精霊王「ほっとけ」

洞窟の奥にいる大精霊は、髪も目も夜空のような深い青だ。
そしてラピスラズリのように金が散っている。肌は白い。

勇者ナハトを彷彿とさせる容姿である。

青い石「私と顔立ちそっくりー」

精霊王「オディウムのことなんだけどさあ」

精霊王「多分大精霊達で協力して毎回封印してたんだろ」

精霊王「でもおまえらもう力残ってないじゃん」

瑠璃精霊「おまえ1人が欠けたおかげで、我等がどれほど苦労したか」

瑠璃精霊「おまえは知る由もないだろう。色ボケ男は一生死んでいればよかったものを」

精霊王「そう言うなよ……」

一生死んでいるというのもなかなか特殊な表現である。
777 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:38:50.07 ID:QnccxTUoo

精霊王「俺だって好きで転生し損ねたわけじゃないしー!」

瑠璃精霊「我等はオディウムが復活する度に蘇生術を使用した」

瑠璃精霊「戦う力を取り戻すには、まだあと数万年は要する」

魔剣士「蘇生術?」

瑠璃精霊「滅亡の危機に瀕した際、我等大精霊にのみ使用を許される術だ」

瑠璃精霊「瑠璃の民は私が人間の死体と魂を基に創った。おまえはその末裔だ」

精霊王「一応俺が直接治めていた土地の人間の子孫でもあるからな」

魔剣士「え、そうなの」

精霊王「おまえの親父さんの祖先は今で言うアクアマリーナから南に移住したのだ」

魔剣士「ふーん」

精霊王「あ、ついでに言うとおまえのおっとさんは俺の下僕のうまれかわ」

瑠璃精霊「話を戻すぞ」
778 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:41:38.26 ID:QnccxTUoo

瑠璃精霊「オディウムが完全に復活すればこの世は滅びる」

瑠璃精霊「おそらく自らの信徒をも皆殺しにするであろう」

瑠璃精霊「奴は生を司る神々を深く憎んでいるからな。命ある者全てを闇に葬るに違いない」

精霊王「対処法は」

瑠璃精霊「無い」

瑠璃精霊「……と思っていたのだがな」

瑠璃精霊「この世で唯一、奴と戦っておらぬ大精霊がいるだろう」

精霊王「俺じゃん」

瑠璃精霊「わかっているならば話は早い」

精霊王「いや俺自体は生きてないし全盛期の力は使えねえよ」

瑠璃精霊「使う手段はあるだろう」

精霊王「そりゃあるけど」
779 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:42:22.72 ID:QnccxTUoo

瑠璃精霊「幸いオディウムの復活は不完全だ。今ならばおまえ一体の力で葬ることができる」

精霊王「やだー! 怖ーい!」

白緑の少女「イウス、そんなことを言っている場合じゃないでしょう」

魔剣士「前世様が戦うってつまり俺も神様レベルの存在と戦わなきゃいけないんじゃ」

精霊王「もっとさあ、大精霊全員の回復速度を速める方法とかさあ」

瑠璃精霊「あったら苦労しておらぬ」

精霊王「マジかよ」

魔剣士「で、どうやったらおまえの力を復活させられるんだよ」

精霊王「1.おまえの中にある生命の結晶の力をフルに使って俺と相性の良い木を急成長させます」

精霊王「2.この肉体を捨ててその木に宿ります。以上」

魔剣士「あ、それなら多分すぐにでき……」

魔剣士「……俺はどうなんの? それ」

精霊王「死ぬ」

魔剣士「ええー……」

青い石「やだー!」
780 : ◆O3m5I24fJo [saga]:2017/05/06(土) 22:42:52.88 ID:QnccxTUoo

魔剣士「どうしても死ななきゃおまえの力復活させられねえの?」

精霊王「少しくらいならこの前のように琥珀越しに使えるんだが」

精霊王「フルパワーを出そうとしたらこの肉体は弾け飛ぶだろうな」

魔剣士「…………」

瑠璃精霊「我が加護の力を強めてやろう。その青き石を渡すがよい」

シレンティウムさんはアウィナイトを手に取り、力を注ぎ込んだ。

青い石「あっすごい。温泉に浸かってる気分」

瑠璃精霊「数ヶ月しかこの力は持続せぬが、少しは体が丈夫になるだろう」

瑠璃精霊「……疲れた。私は眠る精々健闘することだな」
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