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魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」
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781 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:43:45.41 ID:QnccxTUoo
精霊王(スフィに聞こえねえようにおまえの脳内に直接話すけど)
精霊王(俺の精神体と融合すればおまえの精神は死なずに済むぞ)
魔剣士(融合?)
精霊王(スフィは二股をかけていることに負い目を感じている)
精霊王(俺とおまえが1人になれば、スフィを罪悪感から解放してやれるわけだ)
魔剣士(…………!)
精霊王(融合といっても、魂の中にある互いの部屋を繋ぐだけだ)
精霊王(おまえが強く表に出ることだってできるし、面倒な時は引っ込んでいられる)
精霊王(不要な感情を意識的に抑えることができるから人間よりも遥かに楽だ)
精霊王(ただ一つ、愛を求める感情だけは抑えられねえけど)
魔剣士(……それってさ、自閉症治んの?)
精霊王(この肉体を捨てれば脳に精神を支配されることはなくなるからな)
精霊王(そういったエラーからもおさらばだ)
782 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:44:47.13 ID:QnccxTUoo
精霊王(たかだか数十年しか生きられないおまえでも、俺と融合すれば永遠にスフィと共にいられる)
精霊王(悪い話じゃないだろ)
魔剣士「…………」
魔剣士(俺さ、自分のことがあんまり好きじゃないし、)
魔剣士(ユキと一緒にいられるなら、おまえと1つになることには抵抗ないんだけど)
魔剣士(俺はやっぱり父さんと母さんの子供だから)
魔剣士(2人が生きている限りはエリウス・レグホニアでいたい)
精霊王(そうか)
精霊王(ならしゃあねえな、他の方法考えるか)
精霊王(おまえが生きたまま敵を倒す方法をな)
魔剣士(わりぃ)
783 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:48:09.94 ID:QnccxTUoo
白緑の少女「あの……」
魔剣士「ん」
白緑の少女「難しい顔をしておられるので、イウスが妙なことでも言ったのではと……」
魔剣士「まあ、いつものことだから」
魔剣士「ほら、掴まって。鉢植え持ったままじゃ上手く登れないでしょ」
白緑の少女「ありがとうございます」
ユキは実体化を保ったまま空を飛べるが、飛行は消費魔力が多く、今は念のため魔力を節約している。
分身だから魔力容量が小さいのである。
実体化しなければ別に浮遊は何の負担でもない。
魔剣士「つらかったら俺が鉢植え持つから実体化解いてもいいよ」
精霊王「おまえがすっころぶからスフィは自分で依り代運んでんだろ」
魔剣士「うっせ!!!!」
苦笑いしているユキの細い手を掴む。
花弁のような、滑らかでひんやりとした肌触りだ。
ずっと繋がっていたい。
784 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:48:47.24 ID:QnccxTUoo
町に戻った。
少女「お父さん、晩御飯おいしかったね! また食べに行こうね!」
父親「ああ、今度はお母さんの誕生日にな」
父親が小さな女の子を両手で持ち上げて抱っこした。
青い石「いいなあ」
青い石「私は……この腕で娘を抱き上げることができなかった」
青い石「あんまり早く死んじゃだめだよ」
魔剣士「そうしてえわ」
白緑の少女「……もしかしたら、私の本体を使えば、」
白緑の少女「エリウスさんの命を犠牲にしなくても、」
白緑の少女「イウスの力を復活させることができるかもしれません」
魔剣士「ほんと?」
白緑の少女「悠久の時を生きた私の体なら、イウスの力の大きさに耐えられるでしょう」
白緑の少女「相性も問題ないはずです。ただ……」
魔剣士「ただ……なに?」
785 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:50:21.68 ID:QnccxTUoo
白緑の少女「その……ヒトの倫理的にはあまり女性が口にすべきことではないのですが」
精霊王「事前に魔力を交換して馴染ませなきゃいけないんだろ」
魔剣士「それはつまり」
精霊王「セックス」
魔剣士「…………」
魔剣士「普通に魔力送り込むのじゃだめなの」
白緑の少女「エリウスさんは人間ですから、肉体的に深く交わる必要がありますし、」
白緑の少女「そして、できるだけ昂っている魔力が望ましいので……」
魔剣士「…………」
786 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:50:57.73 ID:QnccxTUoo
白緑の少女「オディウム神の影響で不安定になっていた本体との通信状況も、」
白緑の少女「ある程度回復してきました」
白緑の少女「できれば、今のうちから……」
精霊王「良かったなあ一線を越える大義名分ができて!」
魔剣士「ちょっと待って」
未婚の状態でそんなことしたら母さんに去勢される……なんて言ったらマザコンだと思われそうだ。
魔剣士「……する前に、その……人間の価値観を押し付けるようで申し訳ないんだけど」
魔剣士「結婚の証が欲しい」
閉店時間間際の貴金属店に駆け込んで対の指輪を買った。
案外夜まで営業してる店ってあるもんだな。
787 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:51:29.01 ID:QnccxTUoo
俺達に用意された部屋は、まあ貴族のお屋敷なのでロマンチックだ。
初夜を迎えるには申し分ない。
俺だけ気持ち良くなるのはなんかやだなあと思っていたのだが、
ユキレベルの精霊は性感も再現できるらしい。
精霊王「はやくはやくー」
魔剣士「頼むから黙っててくれ」
魔剣士「……ユキ、こっち来て」
ユキと手をつなぎ、寝台に引き入れ、そっと押し倒した。
月光で彼女の白い肌がよく映える。
魔剣士「…………」
えっと……これからどうすればいいんだっけ。
788 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:52:28.86 ID:QnccxTUoo
やばい。
愚息だけじゃなく、全身が緊張でガチガチだ。
そもそも俺は人間の女性を抱いたことがない。
植物とはいえ、今現在人間の姿をしているユキをどう抱けばいいのかなんてわからないのである。
いや知識としては一応知っているのだがそれはあくまで生殖の知識であってうわああああ!!
白緑の少女「……エリウスさん、落ち着いてください。大丈夫ですよ」
ユキは俺の首に腕を回した。
白緑の少女「私に任せてください」
あ、あれ……俺、いつの間にユキの下に寝かされてたんだろ。
一つ一つシャツのボタンが外されていく。
魔剣士「ゆ、ユキっ……あの……」
なされるがまま愛撫され、愚息を口に含まれるとすぐに達してしまった。
普段はここまで早漏じゃないのに。嘘だろ……。
しかもこの後俺は自ら後ろを犯してほしいとねだってしまった。
疼いて仕方がなかったとはいえ……あー…………。
何かとやり直したいことの多い人生ではあるけど、せめて一晩だけでも時間を戻したい。
789 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/06(土) 22:52:58.26 ID:QnccxTUoo
ここまで
790 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/05/07(日) 01:29:22.35 ID:MovQ5wWpO
久々
素晴らしく乙
791 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:19:41.33 ID:ajS1yEwUo
第二十八株 花言葉は「実りある人生」
魔剣士「…………」
白緑の少女「あの……エリウスさん」
魔剣士「…………」
白緑の少女「可愛かったですよ」
魔剣士「…………」
白緑の少女「…………」
魔剣士「…………」
白緑の少女「……嫌、でしたか?」
魔剣士「嫌じゃない! ただ……」
こっちがリードして、もっとロマンチックな初夜を過ごしたかったんだ。
白緑の少女「ごめんなさい。私、あなたと体を重ねた精霊達に対する嫉妬心を募らせるあまり」
白緑の少女「あなたに欲をぶつけてしまいました」
精霊王「おまえは抱かれる側じゃなきゃ満足できない体になっちまってるからあれで納得しとけ」
魔剣士「…………」
情けなすぎる。
792 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:30:12.13 ID:ajS1yEwUo
白緑の少女「私の……私のエリウスさん」
ユキがべったりと俺を抱きしめた。ひんやりとしているが、不思議と優しい温もりがある。
求めて止まなかった体温。木と花の柔らかい香り。
抱きしめ返したかったけど、あんまりにも面映ゆくて、俺はユキの顔さえ見ないまま寝台から降りた。
魔剣士「あだっ」
ずっこけた。足腰が立たない。
精霊王「生まれたての小鹿かよぎゃはははは」
白緑の少女「ち、治療します!」
つらい。……つらい。
793 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:30:45.54 ID:ajS1yEwUo
客室を出た。
領主代理「昨晩は大変でしたね」
魔剣士「えっ」
領主代理「歩き方がぎこちないですね……余程お体に負担がかかったのでしょう」
お、おかしい……ユキが防音結界を張ってくれたはずだ。バレているはずがない。
い、いや、夢中になっている内に結界が弱まっていた可能性も……。
領主代理「氏神様とは無事にお会いできましたか?」
魔剣士「え、あっ……はい」
なんだ、そっちか……吃驚した。
氏神様とはシレンティウムさんのことだ。
エーアストさんに結果報告をした。
794 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:34:00.86 ID:ajS1yEwUo
領主代理「なるほど……。念のため、あなたの身体の守りを固めた方が安全でしょう」
領主代理「ここから西南西に向かうと、グレンツェント国の首都・ディアマントブルクの町があります」
領主代理「その町では、大精霊様の御力を借りた英傑が身に着けていたと言われている、」
領主代理「大粒のダイヤモンドがオークションにかけられています」
領主代理「しかしなかなか落札者が決まらないらしく……」
領主代理「もし手に入れることができれば、きっとお役に立つでしょう」
精霊王「ああ、あった方がいいかもしんねえな」
精霊王「スフィの身体を借りるにしても、おまえ自身が強いに越したことはないし」
魔剣士「あざます」
領主代理「ご健闘を祈ります」
795 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:36:33.16 ID:ajS1yEwUo
――――――――
――
魔剣士「でっけえ……流石都会の首都だな」
貴族の屋敷がくっっっそたくさん並んでいる。
富裕層御用達であろうお高い店も……これはすごい。
魔剣士「オークションが始まるまでにはまだ時間があるな」
魔剣士「宿探さねえと」
精霊王「セックスが盛り上がりそうな豪華なホテル探そうぜ!」
魔剣士(言われなくてもそうするつもりだっつの!!!!!!!)
青い石「懐かしいな〜この町……」
魔剣士(来たことあんのか)
青い石「この国との国境を治めていたからね」
青い石「自分の国の首都よりもたくさん来てたと思う」
魔剣士(領主ってすげえコミュ力が要る仕事だっただろ)
青い石「コミュ力は基礎の基礎だね……それ以上に交渉力とか」
青い石「裏を読む力とか……駆け引きをする能力がないとすぐに食い潰されるよ」
魔剣士(俺には無理だな……)
魔剣士(にしてもやっぱり白い肌の人間だらけだな)
ラズ半島にある町の方が似たような容姿の人間は多かったが、この顔のせいで少々目立ってしまっていた。
この町ではそんなことはないため、特に浮くことはない。落ち着くのである。
青い石「あ、あっち! よくお世話になってた理容店だよ」
青い石「流石に代替わりしてるだろうけど、今でもお店自体はあったんだね……嬉しいな」
髪伸びてきてたし切るか。
796 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:37:54.57 ID:ajS1yEwUo
理容店主「お客さん〜私が子供の頃によくいらっしゃってた貴族の方にそっくりなんですよ〜」
理容店主「ああでも目尻だけ違うかな〜」
魔剣士「そんな大昔に会った人の顔なんてよく覚えてますね」
理容店主「可愛がってもらいましたからね〜」
青い石「彼にブルーベリーキャンディをあげたらいつも喜んでたよ」
青い石「舐めて小さくなったのを鼻に詰めて遊んでたなあ」
青い石「一回それで取れなくなっちゃってね、病院沙汰になったんだ」
魔剣士(髪切ってもらってる最中に笑わせにくるのやめろ)
理容店主「この頃物騒ですよね〜おっかない神様が復活したとかで」
理容店主「でもまだ特に何も被害が出てないので、皆危機感持ってないんですよね〜」
魔剣士「その神様をどうにかするためにこの町に来たんすよ」
魔剣士「英傑が使っていたとかいうダイヤモンドが欲しいんすけど」
理容店主「ああ〜……持ち主が財政難らしくてねえ」
理容店主「事業を立て直すのに必要な資金を得るために家宝をオークションにかけたらしいんですけど」
理容店主「最低落札価格が高すぎてねえ。誰も落札できないそうなんですよ〜」
797 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:39:01.08 ID:ajS1yEwUo
理容店主「しかし怖い話も聞きましてねえ」
魔剣士「怖い話?」
理容店主「誰も落札しないうちに盗もうとしてる輩がいるらしいんですよ〜」
理容店主「落札するおつもりでしたらお気をつけくださいね」
魔剣士「あざっす」
上手く落札できたとしても背後を狙われそうだな……。
魔剣士「ブルーベリーキャンディたくさん持ってるんですけどどうですか」
おすそ分けした。エーアストさんにいただいたものだ。
ブルーベリージャムとかもいただいている。
あの土地はブルーベリー栽培が盛んらしい。
理容店主「ああ、ありがとうございます。懐かしいなあ……」
798 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:40:12.53 ID:ajS1yEwUo
白緑の少女「さっぱりしましたね」
魔剣士「いい男でしょ」
魔剣士「ユキも髪型変えよ?」
ツインテだったのをポニテにしてもらってみた。
長い優雅なポニテであるため大人っぽい。
そういやダイヤの出品者ってどんな事業やってたんだろ。
一応調べるか……と思ったところで携帯が鳴った。
工学院生『もしもしエリウス君?』
魔剣士「ようセド」
工学院生『できたんだよ! 太陽光魔力変換装置!』
魔剣士「マジかよ! よくやった!」
工学院生『ところで頼みがあるんだけどさ』
魔剣士「なんだ」
工学院生『君の下の弟さんの写真……』
魔剣士「やらねえよ」
799 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:41:58.01 ID:ajS1yEwUo
オークション会場はこの町でもトップクラスのホテルにあるでかいホールだ。
俺は田舎者なので内心ビビっているのだが、それを顔に出すのはかっこ悪い。
余裕をかましている体を装った表情を浮かべて席を取る。
他の客は皆大金持ちなのだろう。高級な服を着ている。
ちゃんとした服を拵えてくればよかった。
司会「えー、最後はこちら! 今夜こそ落札者は現れるのか!?」
司会「大英傑のダイヤモンドです! 5億Gから!」
手を上げる人間はいない。
魔剣士「じゃあ俺最低落札価格で落札します」
司会「な、なんと」
会場がざわついた。
「なんだあの男の格好は……平民じゃないか」
「でもレッヒェルン家の人間の顔してるわよ」
「確か有名人じゃないか?」
800 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:42:39.64 ID:ajS1yEwUo
大商人「ま、待て! 私が落札するぞ! ローンを組めるだろう!? 5億5千万Gだ!」
魔剣士「んー、じゃ10億G、一括で」
青い石「待って待って待ってそんなにお金持ってたっけ!?」
魔剣士(購入したまま忘れてた株があってさ)
青い石「え、株なんて興味なかったでしょ」
魔剣士(付き合いの都合で仕方なく買ったのがあったんだよ)
大商人「ぐぬぬ……」
魔剣士「あ、出品者の方と色々話したいことがあるんすけど」
司会「連絡を取ってみましょう」
801 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:45:10.72 ID:ajS1yEwUo
オークションが行われたホテルにある小さな会議室を借りた。
社長「君……いえ、あなたが落札してくださったのですね」
魔剣士「どうも。あ、携帯いじっててすみません。今振り込み完了したんで」
社長「う、うむ……この頃は携帯ですぐに金銭のやり取りができるのか……便利な世の中になりましたね」
魔剣士「あなたの会社では環境保全活動をしていると聞きました」
社長「……はい」
魔剣士「利益よりも自然環境を優先し過ぎて倒産しかけているとも」
社長「…………」
社長「私は愚かでした」
社長「いくら世界のための活動を行っても、社員の生活も大事にしなければ、」
社長「会社が成り立たないのはごく当たり前だというのに……」
社長「技術は足りず、社員の心も見えず、目標ばかり大きかった」
魔剣士「組織マネジメントのことはよくわからないですけど、技術面ではお力になれるかもしれないんですよ」
魔剣士「実はうちの大学でこんな研究をしてまして」
802 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:46:54.78 ID:ajS1yEwUo
社長「……太陽の光から、魔力を?」
魔剣士「技術自体はもうできてるんで、後は実用化です」
魔剣士「あなたの会社のご協力を得るができれば」
魔剣士「魔力不足問題が解決される未来はぐっと近づくと思うんですよ」
社長「…………」
魔剣士「どうですかね」
社長「倍の額で買っていただけた上に、これほど素晴らしい話を……」
社長「ありがたい。あなたは私の……我が社の恩人です」
ちょっと照れくさい。
社長「ああ、あなたは誰かに似ていると思っていたのですが」
社長「子供の頃、馬車にはねられて怪我をした私を助けてくれた男性に瓜二つです」
社長「あの方がくださったブルーベリーキャンディはおいしかった……」
魔剣士(また飴かよ)
青い石「子供好きだったから……飴ちゃんを子供達に配るのが楽しくて楽しくて」
魔剣士「この飴要ります?」
社長「!?!?!?!?」
社長「な、なんと……まさか生まれ変わり……?」
魔剣士「孫なんすけどね……」
社長「え?」
803 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:48:06.30 ID:ajS1yEwUo
――――――――
――
夜の街を歩く。
魔剣士(ねえおじいちゃん)
青い石「『じ』の付く呼び方しないで私まだ24歳」
死んだら精神年齢伸びないのか……?
魔剣士(多分おまえはブルーベリー使った料理よく食べてただろ)
魔剣士(どんな料理があったのか教えてよ)
体質に合うのか、北の土地の食べ物を食べると調子が良くなる。
どうせならご先祖が食べていた料理も味わいたい。
殺し屋1「ちょっと待て、そこの兄ちゃん」
魔剣士「ん?」
殺し屋1「ダイヤを置いていってもらおうか」
魔剣士「……落札したがってた太ったおっさん、そこに隠れてんだろ」
大商人「…………」
804 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:49:29.41 ID:ajS1yEwUo
大商人「あのダイヤは出品された当初から私が目を付けていたものだ」
大商人「返してもらおう」
元々おまえのもんじゃねえ。
白緑の少女「……穢れた魔力。いつもあくどい手段で利益を得ているのでしょう」
仮に落札できたとしても、入金前に盗んでたんだろうな。
魔剣士「渡すわけねえだろ」
大商人「やむを得ないな。かかれ!」
50人くらい殺し屋が出てきた。
魔剣士「囲まれてることくらい最初っから気づいてんだよ!」
精霊王「俺の力を使ういい練習台になるな」
俺の魂からグリーンアンバーに、グリーンアンバーから身体にイウスの力を流し込み、
俺の魔力と混ぜて魔術を発動していく。
魔剣士(身体がバチバチいてえ)
精霊王「ダイヤで身体を強化しろ」
魔剣士(マルチタスクは苦手なんだよ!)
805 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:52:35.10 ID:ajS1yEwUo
殺し屋25「こいつがどうなってもいいのかー!?」
一般人を人質にとってやがる。卑怯だ。
殺し屋達はやけに装備が整っている。
人数は多いし慣れない力を使っているしでちょっときつい。
魔剣士「あいだだだだイウスちょっと力抑えろ!」
精霊王「ヘタクソォー!」
ついでに腰の痛みも再発した。原因はセックスのし過ぎである。
白緑の少女「エリウスさん危ないっ!」
うっわやっべと思ったが、敵の攻撃が当たることはなかった。
重斧士「おいしっかりしろ!」
聞き覚えのある声だ。
魔剣士「ガウェイン!? なんでここに」
重斧士「着拒否のままにしやがって!!」
残りの殺し屋はほとんどガウェインがどうにかしてくれた。
806 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:54:06.02 ID:ajS1yEwUo
重斧士「ボスはこいつか?」
大商人「ひぃっ!」
国家憲兵が駆けつけた。あとは兵士に任せよう。
魔剣士「なんでここにいるんだよ」
重斧士「おまえを探しに来てやったに決まってるだろ」
魔剣士「いやでも……どうやってこんな北まで……高速で飛ばしてもこんなすぐに移動できないだろ」
重斧士「暴走族なめんな。あ、一応ギリギリ違法行為はしてねえからな」
魔剣士「…………」
重斧士「おまえあんまりしっかりしてねえしよ。ボディガードは必要だろ」
魔剣士「……ありがとな」
気まずいのと嬉しいのとで顔を合わせられず、横を向いたまま礼を言った。
807 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:55:16.67 ID:ajS1yEwUo
魔剣士「飯食うかー」
重斧士「俺もまだ食ってなかったな」
すぐ近くにあった酒場に入り、カウンターに座った。
がやがやした音が頭に響いてつらいが、一刻も早く腹を満たしたかった。
ユキは実体化を止めて休んでいる。
重斧士「おまえの親父さんから大体の居場所は聞けたからよ」
魔剣士「あくまで大体の居場所だろ……相当走り回ったんじゃないのか」
重斧士「まあな」
魔剣士「……カナリアはどうしてる」
重斧士「おまえのことをすげえ心配してた」
重斧士「でもおまえには会わない方がいいだろうからって」
重斧士「俺についてこようとはしなかったな」
魔剣士「……そっか」
808 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:57:30.50 ID:ajS1yEwUo
重斧士「おまえ、なんか雰囲気変わったよな」
魔剣士「しばらく前に父さんからも言われたけど……今度は何処が変わったんだ」
重斧士「ヘラヘラした感じが薄くなった」
魔剣士「……色々あったからなあ。あんまりヘラヘラする余裕がねえんだよ」
全くヘラヘラしないわけではないけど、ああいった笑みを浮かべることは確かに減ったと思う。
雑兵1「せっかく平和な時代になってたってのになあ」
雑兵2「魔王が復活したってのはデマで、こわーい神様が現れたのがマジなんだっけか?」
雑兵2「昔みたいに異常に強い勇者でもいれば少しは希望がもてるんだけどな」
雑兵1「そういやディオさん、あんた勇者ヘリオスと会ったことあるんだっけか?」
元騎士「ああ、あいつはおっかなかったな。危うくスパイ活動中に両腕と股間を切り落とされるところだった」
雑兵2「ひっ」
元騎士「見た目の割りに純で温厚な奴なんだが、キレると容赦がなくなるんだ」
雑兵1「絶対怒らせちゃ駄目なタイプってことかあ」
809 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:58:02.41 ID:ajS1yEwUo
雑兵1「そういや、勇者ナハトが女だって説あるよな」
元騎士「俺あいつの胸揉んだことあるぜ」
は?
雑兵2「えっマジかよ」
元騎士「ご存じのとおり俺はあいつに恨みがあったわけなんだが」
元騎士「あの時は少し気が晴れたな」
雑兵1「ディオさんパネェ」
元騎士「手にすっぽり収まるサイズでよ」
元騎士「乳首は可愛い桜色で、くりくり〜っとしてやったら可愛く啼いてたぜ」
810 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 22:59:29.37 ID:ajS1yEwUo
重斧士「おい、そのへんにしとけ」
魔剣士「……え?」
811 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 23:00:14.52 ID:ajS1yEwUo
足元にはボロボロになった金髪のおっさんが倒れている。
魔剣士「これ……俺がやったのか?」
重斧士「憶えてねえのかよ……」
キレすぎて記憶が吹っ飛んでいる。
魔剣士「俺、こんなことができるほど腕力ないはずなんだけど」
このおっさんの方がずっと体格がいい。
ヒョロガリの俺に殴りかかられたところで負けはしないだろう。
重斧士「普段のおまえなら到底できないような器用な動きでこのおっさんの重心を崩して」
重斧士「関節技を決めて動けなくなったところをボコボコに殴りまくってたんだぞ」
幼い頃身に着けた合気道の技を使っていたのだろう。
元騎士「キレ方が親父そっくりなんだよ……! うっ」
魔剣士「あ、えっと……治療費置いときます」
視界がチカチカする……。
自分で治療する気は起きなかったし、そもそも精神が安定してなくて治療術を使うのは困難だった。
頭を押さえながら店を出る。
812 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 23:00:46.01 ID:ajS1yEwUo
魔剣士「あれ……」
重斧士「どうした」
魔剣士「草にやけに白い粉ついてるなって」
よくよく観察してみた。イチゴやキュウリがなりやすい某病気とよく似ている。
白緑の少女「これは……!」
ユキが驚きながら実体化した。
白緑の少女「ああ、なんという……」
魔剣士「これなんなの」
白緑の少女「……オディウムがこの世にもたらず呪いの1つに、“白き粉”があります」
白緑の少女「あの神は……この粉を撒き散らし、草花を枯らすことで生命のバランスを崩そうとするのです」
魔剣士「は……!?」
魔剣士「やっぱりうどん粉病の神じゃねえか!!!!」
813 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/05/11(木) 23:01:24.98 ID:ajS1yEwUo
madekoko
814 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/05/12(金) 10:08:31.74 ID:hLbrp8/OO
乙
やはりうどん粉病w
815 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:52:35.10 ID:rDmS2C07o
第二十九株 花のローレライ
魔剣士「んーむ……」
重斧士「何見て……!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
重斧士「なっなんでっ……おまえがっ……そんな物をっ」
魔剣士「あ?」
重斧士「それは! 普通に女が好きな男が見る至って健全な!」
重斧士「ごく普通のエロサイトじゃねえか!!!!」
魔剣士「俺の嫁を見てみろ」
ユキは俺の携帯でレディコミを読んでいる。
重斧士「人間みてえな姿してんな」
魔剣士「だから参考程度にな」
重斧士「ああ……そうか」
魔剣士「納得したか?」
重斧士「納得っつうか……安心したぜ。すごく」
816 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:53:00.93 ID:rDmS2C07o
魔剣士「ちなみにこっちは樹木性愛者向けエロサイト」
重斧士「なんで存在してんだ」
魔剣士「んで、こっちが俺が作った樹木性愛者専用SNS」
重斧士「全アカウント数20……意外といるんだな……」
白緑の少女「…………」
魔剣士「あ、俺等そろそろ自分の部屋帰るわ」
重斧士「おう。宿代ありがとな」
魔剣士「ああ」
魔剣士(今夜こそ俺の方から……)
魔剣士(駄目だった……)
817 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:53:27.39 ID:rDmS2C07o
重斧士「よく眠れ……なかったのか? げっそりしてるぞ」
魔剣士「熟睡はした……んだけど……」
搾り取られた。5年分くらい。
魔剣士「おまえの絶倫具合を少しでもいいから俺に分けてくんねえかな……」
重斧士「……凄腕絶倫トレーナーを知ってるんだが、紹介してやろうか?」
魔剣士「……おまえの知り合いってことは掘られそうな気がするから遠慮しとくわ」
重斧士「まあ、そうだな」
重斧士「あれ、おまえの嫁は」
魔剣士「今日は緊急事態が起きない限り寝るらしい」
今晩はもっと張り切るんだそうだ。
……恐ろしい。触手何本生やすつもりなのかな。
精霊王「ん、そこの木が何か言いたそうだぞ。ちょっと近づいてくれ」
魔剣士「なんだろ」
818 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:54:04.53 ID:rDmS2C07o
精霊王「ここの近くの土地が、白き粉の呪いを強く受けちまったらしい」
魔剣士(精霊からの情報理解するの俺より早いなおまえ)
精霊王「そりゃあな」
携帯で地図を出した。
魔剣士(どの辺?)
精霊王「エーデルヴァイス領って書いてあるとこ」
魔剣士「えー……」
あそこの大叔父ちょっとめんどくさいんだよな……。
良い人なんだけど、愛情表現がオーバーで。
っていうかちょっと遠い。イウスは近いって言ってるけど遠い。
車で数時間飛ばさないと着かない。
精霊王「寄るぞ。ちょっと探し物もしてえし」
精霊王「あ、緑色の魔鉱石の玉を用意してくれ。魔力伝導率は低くてもいいから、」
精霊王「容量ができるだけでかい奴。それに俺達の魔力を込めて浄化の石にするから」
魔剣士(わかったよ)
まあ、顔出してくか。モルが大叔父……弟に会いたいって前ダダこねてたし。
819 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:54:41.57 ID:rDmS2C07o
――道中
重斧士「前世か……」
魔剣士「知ってもそんないいことないぞ」
魔剣士「気になるなら前世が見える人紹介するけど」
重斧士「おまえほんと色んな知り合いいるよな」
魔剣士「まあ、クレイオーのお母さんなんだけどさ」
――――――――
占術師「……あなた方の魂は、非常に縁が深いようです」
占術師「一代前は、互いに想い合っていたものの、身分の差により結ばれることが叶わなかったみたいですね」
占術師「それより前も、結ばれることもあれば、引き裂かれることもあったようです」
戦士「はあ」
勇者「素敵だね。そんなに昔から、何度も出会っていたなんて」
魔剣士「ケーキどうぞ」
手作りのケーキとお茶を出す。
詩人「すまないね。いつもご馳走になって」
820 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:55:44.26 ID:rDmS2C07o
次男「兄ちゃんゲームしよ」
魔剣士「いいよ」
勇者「あの子達には、どんな魂が宿っているの?」
占術師「アルバ君は……今のアルバ君自身とよく似た少年と遊んでいる光景が見えます」
戦士「!」
占術師「野山を駆け、楽しく遊んでいます。30年ほど前にこの村で暮らしていたわんちゃんのようですね」
戦士「ジョン…………ジョン!」
父さんがアルバに抱き着いた。
次男「お父さんどうしたの? ……泣いてるの!?」
戦士「ジョン……! うぅ……」
子供と精神的に距離を置いている父さんが、
まさか子供に抱き着いて泣くなんて……と驚いたのを覚えている。
占術師「エリウス君は……何も見えません。長らく転生していない可能性が高いです」
占術師「私が視ることができるのは、大体500年前まで」
占術師「どれほど集中しても、精々1000年前までですから……ごめんなさい」
――――――――
821 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:56:12.40 ID:rDmS2C07o
重斧士「まあそのうち気が向いたら訊いてみてえな。カナリアと一緒によ」
魔剣士(そういやイウスって人の前世とかわかるのか?)
精霊王「見れるけど今の状態じゃ疲れるからあんまやりたくねえな」
精霊王「知ってる奴の魂だったら会えばすぐわかるけど」
魔剣士(ふうん)
精霊王「カナリアとかいう娘っ子はまあ多分肉食獣だろうな」
精霊王「じゃなきゃ平気で生肉食ったり謎の筋力を発揮できたりしねえもん」
魔剣士(前世が肉食獣なら生肉食えるもんなのか……?)
精霊王「稀にいるんだよ前世の力が染み出してる奴。おまえがそうだろ」
魔剣士(あー、なる)
魔剣士(……おまえって俺の記憶どのくらいもってんの?)
精霊王「全部」
魔剣士(俺のプライバシー……)
822 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 20:59:05.37 ID:rDmS2C07o
――エーデルヴァイス領
名のとおりエーデルワイスの花が領のシンボルとなっている。
インクルージョンやクラックがたくさん入ったエメラルドの玉を手に入れ、
イウスの言う場所に移動した。町のすぐ近くだ。
精霊王「そうそうこの辺。ここが呪いの中心地」
魔剣士「こりゃひでえな……白い粉だらけになってやがる」
精霊王「魔法陣展開するぞ。おまえの身体越しに発動するから耐えろよ」
魔剣士「えっちょっあいだだだだだだだだだだ!!!!!!」
玉を中心に魔法陣が展開された。多分直径20メートルくらい。
重斧士「おい、大丈夫か?」
魔剣士「大丈夫じゃねえええええええええええええ」
精霊王「いくらスフィの力を借りれるにしても、おまえ自身が俺の力に馴れなきゃ何もできねえんだからがんばれよ!」
魔剣士「むりぃぃぃぃぃ!!!」
精霊王「はい終わりー」
魔剣士「う……うっ……」
重斧士「泣くほどいてえのか……」
精霊王「しっかりしろ」
魔剣士「う ご け な い」
重斧士「担いでくか」
823 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:00:06.66 ID:rDmS2C07o
少しずつこの土地からうどん粉が浄化され、美しい緑が戻っていく。
魔剣士「いっけねえ宿のネット予約すんの忘れてた」
重斧士「親戚いるんだろ? 泊めてもらえねえのかよ」
魔剣士「もらえるだろうけど……」
町に入る。
伯爵「あーーーーーーーーーーー! エリウス君!!!!!」
魔剣士「はい?」
なんでいるんだ。
伯爵「胸騒ぎがして来てみたら!! 体調悪いの!?!? 大丈夫!?!?!?」
伯爵「来るなら連絡入れてくれたらよかったのに!!!!!!!!」
青い石「あーくん? あーくん!!」
伯爵「ああっ兄さん!!」
寝たい。さっさと寝たい。
伯爵は石の声を聴く能力はそんなにないそうなのだが、モルの声を聴くことはできるらしい。
824 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:01:26.49 ID:rDmS2C07o
――伯爵の屋敷
青い石「うちの民族は家族との繋がりがすごく強いから、」
青い石「身内に危機が迫ってたりすると電波みたいなのが飛んでくることがあるんだよ」
魔剣士「めんどくせえ……」
貴族のお館のベッドだけあって寝心地は非常にいい。
部屋にはエーデルワイス……セイヨウウスユキソウの鉢植えがあるが、欲情する元気は残ってなかった。
伯爵「エリウス君大丈夫!? うちの領地を救ってくれてありがとね!!」
魔剣士「この石お貸しいたしますんで、兄弟水入らずでどうぞ話してきてください俺は休みたいです」
モルが宿った石をベッドサイドテーブルに置き、俺は布団を被った。
魔力はごっそり減るしイウスの力が流れ込んできたせいで身体は痛むしでとてもつらい。
人と喋る元気なんてない……。
825 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:01:58.67 ID:rDmS2C07o
……数時間後。寝て起きた。
重斧士「おいエリウス」
魔剣士「ん。入っていいぞ。なんだ」
ガチャリと扉が開く。
重斧士「……貴族の館って、落ち着かねえもんだな」
魔剣士「そりゃあな。仕方ない」
魔剣士「カナリアと付き合ってんなら豪華なもんにも馴れとけよ。一応あいつ王族なんだし」
重斧士「ああ、そうだな。晩飯だってよ。動けるか?」
魔剣士「なんとか」
こいつとまた友達として一緒にいられるのが妙に嬉しい。
826 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:02:44.23 ID:rDmS2C07o
伯爵「エリウス君少食だよね? 量多かったら言ってね」
伯爵「シェフに頼んで、お肉はあっさりめにしてもらったからね」
魔剣士「あ……どうも」
良い人なんだよな。
愛情表現の仕方が母さんそっくりで、鬱陶しいけど憎めない。
母さん……まだ眠ってのかな。
伯爵「本当に兄さんそっくりだなあ。レッヒェルン領に行った時騒ぎになったでしょ」
伯爵「明日にはもうこの地を離れるのかい? しばらくここにいてほしいなあ」
伯爵「ああでもそんなことを言っていられる場合じゃないもんね」
重斧士「この人すごい喋るな」
魔剣士「…………」
青い石「エリウスもいつかこうなるよ」
魔剣士(ならねえよ……)
827 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:03:35.06 ID:rDmS2C07o
晩餐が終わり、部屋に戻って月を眺める。
世界のピンチなんて忘れてしまうほど綺麗な夜空だ。
魔剣士「そういや前世様、探し物ってなんだ?」
精霊王「俺のおかんである女神ユースティティアが持ってるもの、わかるか?」
魔剣士「わかんねえ」
精霊王「剣だよ、剣」
魔剣士「剣? 俺あんまり剣の必要性感じてないんだけど」
精霊王「あれはただの剣じゃない。俺の力を高濃度で込めることができる」
魔剣士「俺の身体に負担をかけずに浄化の力を使えると」
精霊王「そうなる。今持ってるちっこい剣よりはでかいが、おまえの身体によく馴染むはずだ」
精霊王「おまえは俺の生まれ変わりなんだからな」
魔剣士「んで、その剣は何処にあんだよ」
精霊王「この領地にある山岳地帯」
魔剣士「……体力要りそうだな」
精霊王「体を鍛えるいい機会だろう」
828 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:04:15.89 ID:rDmS2C07o
精霊王「正邪を図る天秤は地球の裏っ側にあるし今は要らないか」
白緑の少女「……あの、エリウスさん」
魔剣士「ああ、ユキ、おはよう」
白緑の少女「今日、お疲れ……ですよね……」
魔剣士「……疲れない日なんて当分なさそうだし……一回くらいなら……」
精霊王「ヤッてる途中でちょっと多めに俺の力流し込むから覚悟しとけよ」
精霊王「まあおまえの身体は被虐趣味に目覚めてるから心配ないだろうけど」
魔剣士「目覚めてねえよ萎えるわ!!!!」
前世様に時折口を挟まれて腹を立てつつも結局3ラウンド致した。
829 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:04:54.21 ID:rDmS2C07o
青い石「あーくんと話せて嬉しかった」
魔剣士「そうか」
青い石「もう思い残すことないかも」
魔剣士「そうか、もうお別れの時か。あの世でも元気でな」
青い石「半分冗談だから……」
――エーデルヴァイス領・山岳地帯
咲き始めのエーデルワイスがとても美しい。
魔剣士「ああ、なんて可憐なんだ」
魔剣士「かつて険しい場所でしか咲き誇ることができなかった君達は、」
魔剣士「“花のローレライ”と呼ばれ、多くの罪人を死に至らしめたそうだね」
魔剣士「君達の気高さに僕はもう」
重斧士「人の背中の上で花口説いてんじゃねえよ」
魔剣士「ごめん」
830 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:05:39.96 ID:rDmS2C07o
すぐに体力切れを起こしたのでガウェインに背負ってもらっている。
白緑の少女「…………」
重斧士「しかも嫁さん怒ってんじゃねえか浮気者」
魔剣士「ごめん。つい癖で……」
精霊王「俺の彼女を泣かせやがって」
魔剣士「一億年も放置してたくせに彼氏面してんじゃねえ」
精霊王「一億年なんて大した時間じゃねえもん!」
魔剣士「いやどう考えてもなげえだろ!」
重斧士「俺には独り言言ってるようにしか聞こえねえんだが」
精霊王「おまえには俺の声聞こえるようにしとくわ」
重斧士「おおう」
白緑の少女「……長かったです。寂しかったです。イウスのバカ」
精霊王「ごめん……」
831 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:06:49.09 ID:rDmS2C07o
魔剣士「まだ剣がある場所まで着かねえの?」
精霊王「もうちょっと先ー」
魔剣士「てかなんでこんなとこにあるの」
精霊王「人間に悪用されないよう隠したんだよ」
重斧士「にしても白骨化死体が地味に多いな」
魔剣士「採集しに来た連中が足を滑らせたんだろ」
魔剣士「エーデルワイスの花は採集されすぎて極端に減っちゃったことがあってさ」
魔剣士「断崖絶壁とかにしか生息できなくなったんだよ」
重斧士「それを摘もうとした奴が死んだのか」
現在は手厚く保護されているため、この辺りではたくさん咲いている。
重斧士「……けどよ、あの死体とかちょっと新しくねえか。あれも」
魔剣士「特に崖とかもないのになあそこ。普通に転んだのかもしれないけど」
白緑の少女「……花を守ろうとする人もいれば、利益のために罪を犯す人もいます」
白緑の少女「密かに採集しようとした人間に怒った精霊が、彼等を死に至らしめたのでしょう」
魔剣士「…………」
832 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:07:49.09 ID:rDmS2C07o
白緑の少女「声をもたないがために、警告を出すこともできず」
白緑の少女「命を奪うことしかできなかったのでしょう」
白緑の少女「しばしば起こることです」
似たような話は散々聞いた。そのせいでとんでもない目にも遭ってきた。
白緑の少女「この世には足りないのです。人と草木を繋ぐ理が」
橋渡しをすることができるのは、俺の魔力。
しかし俺一人でできることは限られている。もどかしいな。
オディウム神を倒してからも、大学に戻らずに旅を続けようかな。
少しでも多くの植物を助けたい。犯されるのと殺されかけるのだけは勘弁だけど。
833 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:08:23.77 ID:rDmS2C07o
精霊王「この岩壊して」
魔剣士「攻撃魔術使う元気ない」
重斧士「俺に任せろ」
斧で割りやがった。頼りになる男だ。
ここからは自分の足で歩く。
洞窟内は水晶がテラテラ光っている。草花の魔力の影響を受けているのだろう。
しかし、足元を確認するにはちょっと暗かった。
魔法で明かりを灯す。
魔剣士「あれ」
水晶が激しく輝いた。眩しいくらいだ。
精霊王「俺達の魔力に反応してるんだ」
精霊王「女神ユースティティアに愛された魂の持ち主にのみ反応する」
奥に進むと、大きな水晶の中に閉じ込められた剣が地面に突き刺さっていた。
834 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:10:15.77 ID:rDmS2C07o
精霊王「触れてみろ」
おそるおそる手を伸ばす。
空色の水晶には淡い虹色が揺れていて、まるで青空の下に色とりどりの花畑が広がっているようだ。
表面に手が触れた瞬間、目映い光が視界を覆った。
――いらっしゃい、愛しの我が子――
優しい声が聞こえた。
白い空間に、水晶と同じ彩が緩やかに流れている。
俺の目の前で光が集まって、それはやがて人の輪郭を形作った。
女神「イウス、そしてエリウス」
精霊王「ママーーーーーッ! の残留思念!!!!」
女神「この子ったら」
可視化したイウスが女神に抱き着いた。こいつマザコンかよ。
とりあえず俺はサングラスをかけた。視覚過敏のある俺にこの空間は眩しすぎる。
835 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/06/09(金) 21:11:39.34 ID:rDmS2C07o
kkmd
836 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/06/09(金) 22:18:25.39 ID:orCQO64To
おつ
837 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/06/10(土) 08:37:45.02 ID:yxoBkXfUO
おつー
838 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/06/10(土) 21:10:59.62 ID:B2X5VlY8o
おつおつ
839 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/06/12(月) 23:31:26.97 ID:1WSOS5yD0
乙
840 :
◆O3m5I24fJo
[sage]:2017/07/12(水) 23:56:32.67 ID:ZZyY/WDno
self hoshu......himagahoshii
841 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/07/13(木) 00:12:53.63 ID:Cd23eMgVo
ganbatte
842 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/07/13(木) 15:16:42.39 ID:0Z7F7fsHO
syatikudamashiwomisero
843 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 20:54:55.04 ID:yEea0tfSo
第三十株 アーチン・ドライアンドラ
精霊王「ままー」
女神「……馬鹿な子。次に生を得る時は、安易に命を捨てちゃだめよ」
精霊王「ごめんなさい」
あれ見てたら俺もちょっと母さんに甘えたくなってきた。
大精霊は、神の代理としてこの世に生み出された存在だ。
本来は自分の後継を生み出す前に死んではいけなかったらしい。
女神「“概念”には“対”となるものが必ず在ります」
女神「生と死。愛と憎しみ。陰と陽が双方存在していなければこの世は成り立ちません」
女神「しかし、あれは本来存在した憎しみの神ではありません」
女神「オディウム神の抜け殻が、この世の憎悪を吸い取り続けて生まれた偽神」
女神「それがあれの正体。されど神に等しい力をもっています」
女神「あまりにも大きく膨らんでしまったあれは、」
女神「自らは理解しえぬ“愛”を憎しみで食い潰そうとしています」
精霊王「この世のバランスが崩れちまうわけだ」
魔剣士「母親に抱き着いたまま語るな」
844 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 20:55:30.18 ID:yEea0tfSo
女神「しかし、あれが膨れ上がったのと同様、古き時代よりもこの時代は愛が溢れています」
女神「故に、あれを消滅させてはなりません」
魔剣士「え?」
女神「急にあれを完全に消し去ってしまえば、この世を占める愛の割合が大きくなり過ぎてしまうのです」
女神「両者が釣り合うよう、あれを小さくしなければなりません」
ややこしいことになってきた。
女神「愛が世を占める割合の方が大きいに越したことはありません」
女神「ただ、変化が緩やかでならないと秩序が崩壊するのです」
女神「余剰となっている憎しみを削り、その後は少しずつ争いを治めていくのが最良の歴史となるでしょう」
魔剣士「え、え? ええ?」
845 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 20:56:06.95 ID:yEea0tfSo
精霊王「かーさん、それじゃどのくらいオディウムを浄化すればいいのかわかんないよ」
精霊王「正邪の天秤取りに行く余裕ないよ」
女神「スファエラ=ニヴィス。彼女は愛の子。天秤の役割を担ってくれるでしょう」
そういえば、ユキがどんな神様の加護を受けているのか知らなかったな。
生まれてから神様に愛されたらしいから、大精霊とはちょっと違う存在らしい。
女神「……エリウス、もっとこちらへ寄りなさい」
戸惑いながら近づくと、抱きしめられた。
女神「たくさん理不尽な目に遭ってきたのですね」
女神「納得できないことの多い人生でしょう。人との違いに孤独を覚えることも多かったでしょう」
女神「けれど、悲観する必要はありません。あなたは、心の痛みを知っている人です」
女神「大丈夫。幸せになれますよ」
胸が熱くなった。
恋みたいな激しいドキドキじゃなくて、もっと穏やかで、
まるで母さんに抱きしめられてるみたいな暖かさだ。
846 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 20:56:54.59 ID:yEea0tfSo
女神「さあ、私の剣を持ってお行きなさい」
女神「あなた達なら、使い道を誤ることはないと信じています」
いろいろと不安だけれど、乗り越えたいと思う。
再び景色が光に包まれ、目を瞑った。
目を開けると、俺達は洞窟に戻ってきていた。
剣が光の珠になって弾け、俺の身体に入っていく。
精霊王「念じればいつでも呼び出せるぞ」
魔剣士「持ち運びの苦労がなくていいな」
魔剣士「じゃあスモールソード売っ払っていいかな」
精霊王「一応持っとけ」
魔剣士「えー」
847 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:01:03.43 ID:yEea0tfSo
――ヴァールハイト国、勉学の都ミネルヴァブルク
北の大陸でも最高レベルの学校や研究施設が多く存在している。
この辺りもオディウムの白き粉の影響を受けているのだが、
持ち前の技術力ですぐに対策法を開発したためたいした被害はない。
俺の恩師も、この町のくっそ頭のいい大学出身だ。
なのにド田舎の大学なんかで研究してるのは、暖かい土地でのんびり過ごしたかったかららしい。
恩師の母校の門の前に立ち、校舎を見上げた。ゴシック様式の立派な建物だ。
ちなみに今は俺1人だ。たまにはゆっくり息抜きしたい。
構内に入り、医薬学部へと進む。気晴らしにちょっと覗いていこうと思ったのである。
花壇には黄色いドライアンドラの花が咲いている。花言葉は劣等感だ。
魔剣士「すんません、アポ無しなんですけど見学いいですか」
学生証を見せると、警備員はビビりながら通話器でどっかに連絡を入れた。
警備員「どうぞ」
俺の恩師の同級生という人がすぐに出迎えに来てくれた。
848 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:02:16.85 ID:yEea0tfSo
教授友人「去年の学会で会った時よりも身長が伸びたねえ」
魔剣士「あ、どうも」
そういえば、学会の時とかに俺の恩師とよく喋ってた人のような気がするけど、
俺は人の顔を覚えるのが苦手であるためうろ覚えである。
外観とは違い、校舎の内装は最新のものだ。
廊下を通る学生や学者達の人種は様々で、ちょっと驚く。
うちの大学と違い、世界中から人材が集まっているからだろう。
うちは地元民や、精々大陸内の別の国から来た人間がほとんどだ。
教授友人「あっちが医薬学図書館だよ」
人材と同様、世界中の本が集められているみたいだった。
植物と子作りするヒントになるような文献ないかな。
読み漁りたいけどそこまでゆっくりする時間はない。
魔剣士「あっちの植物園見たいんすけど」
教授友人「ああ、いいよ」
849 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:02:50.47 ID:yEea0tfSo
南じゃ滅多に見られない薬草がたくさん栽培されている。
あー癒されるー……。世界の危機といえども、やっぱり息抜きは必要だ。
魔剣士「きゃわいぃぃぃ」
教授友人「あ、相変わらずだね……」
教授友人「種をいくつかお裾分けしよう」
魔剣士「いいんですか!? あざっす」
教授友人「……何やら大変なようだが、もし落ち着いたらうちに留学しないかい」
教授友人「君の才能は世界最高峰の研究施設で生かされるべきだと思うのだけどね」
魔剣士「んー、留学っつうとちょっと重く感じるんで」
魔剣士「たまに遊びにきたいです」
教授友人「そうか。いつでも来ておくれ」
教授友人「場所にこだわらないところが彼とよく似ているよ」
魔剣士「今日はお忙しい中ありがとうございました」
850 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:03:48.95 ID:yEea0tfSo
さっぱりした気分で校舎を出た。
しかし緊張が解けたせいだろうか。急激な疲労感に襲われた。
そういえば昨晩も激しかったな……。
うごけねえ。だっる。
医学部生「……大丈夫ですか?」
俺と年の変わらなさそうな男に声をかけられた。
路考茶色の短い髪、目は何故か懐かしく感じるオリーブ。
医学部生「エリウスレグホニアそっくりですね」
魔剣士「本人です」
医学部生「あ、やっぱり」
医学部生「肩貸そうか」
魔剣士「頼んます」
俺とちょっとだけ魔力情報が似ている気がしたが、
あんまり深く情報を読み取る元気はなかった。
宿まではちょっと遠い。大学構内の喫茶店で休むことになった。
851 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:04:50.48 ID:yEea0tfSo
医学部生「俺、誰かわかる?」
魔剣士「どっかで会いましたっけ」
医学部生「実際に顔を合わせたのは10年くらい前に1回だけだね」
誰だっけ……。
医学部生「俺、エルナト・フォン・コーレンベルク」
魔剣士「俺のひいじいちゃんの曾孫か何か?」
医学部生「そうだよ」
思い出した。ひいじいちゃんと映像通話してる時にたまに端っこに映ってた奴だ。
ってことは、ええと……
魔剣士「はとこ」
医学部生「そうなるね」
なんか親近感湧くなあとは思ってたんだ。
エルナトはエルディアナばあちゃんの弟の孫だそうだ。
852 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:05:19.73 ID:yEea0tfSo
医学部生「何処の具合が悪くて蹲ってたんだ」
魔剣士「全身の疲労感。腰痛。軽い頭痛もある」
医学部生「まだ若いのに……」
治療を施してくれた。
当然薬学部出の俺よりも医学部の奴の方が治療魔術の腕は上だ。
だいぶ楽になる。
魔剣士「貴族の次男三男はよく医者か弁護士を目指すとは聞くけど」
医学部生「俺は長男なんだけどね。どうしても医者になりたいんだ」
魔剣士「そりゃまたなんで」
医学部生「母さんを看てくれた産科医が素晴らしい人でさ。それで憧れたんだ」
魔剣士「へえ」
こいつもきっと良い医者になるんだろうなと感じさせる何かが雰囲気から滲み出ている。
笑い方がひいじいちゃんとよく似てると思う。
853 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:06:43.14 ID:yEea0tfSo
俺は人の目を見るのが苦手なんだが、こいつのオリーブの目を見るのはなんでか平気だ。
でも、気味悪がられない程度に相手を見るっていうのができないから、すぐに目をそらした。
医学部生「君のお母様とおばあ様の目は、本当は俺のとおんなじオリーブだって、」
医学部生「ひいじい様がよく言ってたよ」
魔剣士「えっ……そうなのか」
知らなかった。そういえばセファリナの目もオリーブだ。母さんの遺伝だったのか。
魔剣士「医学部って忙しいだろ。大学行かなくて大丈夫なのか」
よく医学部の奴等に忙しい自慢されたなあ。今となっては懐かしい。
医学部生「今日は5限ないんだ。大丈夫だよ」
ちょっと一緒に遊ぶことになった。
店を出て、そこらへんの雑草に「ユキに晩飯は外で食べてくるって伝えてくれ」と情報を送る。
854 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:07:45.02 ID:yEea0tfSo
校門に向かって少し歩くと、エルナトの知り合いらしきグループとすれ違った。
医学部生友1「ようピストン! ……隣にいるの有名人じゃねえか!」
医学部生「はとこなんだ」
医学部生友2「俺達も混ぜろよピストン」
医学部生「また今度な。2人でゆっくり話したいんだ」
魔剣士「……ピストンってなんだよ」
医学部生「俺の名前、『ツノで突く』って意味なんだよ」
医学部生「親はただ星の名前つけてくれただけなんだけどさ」
医学部生「天文学好きの奴に元の意味を指摘されて以来、あんな仇名で呼ばれるようになったんだ」
ひどい……思春期じゃあるまいし……。
エルナトは苦笑いしつつも怒ってはいないようだ。
器のでかい奴なんだろうなと思う。それとも慣れてるのかな。
なんだか、劣等感がじわじわと刺激されていく。
855 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:08:34.74 ID:yEea0tfSo
俺はこいつほど穏やかじゃないし、器は小さいし、捻くれてるし。
親戚なのになんでこんなに違うんだろう。
特別な才能なんて要らないから、もっとまともな人間になりたかった。
……俺はいつまでこういうコンプレックスを抱え続けるんだろう。
どんな慰め方をされても、普通の人間とは違うコンプレックスを解消できることはなかった。
ユキに俺を肯定してもらえてるおかげで、だいぶマシにはなったつもりだけれど。
旅に出てから、コンプレックスを見ないふりすることが減ったな。
でもちゃんと向き合ってるわけでもない。
医学部生「どうした? 俺何か嫌なことでも言ったか?」
魔剣士「なんでもない」
医学部生「正直に言ってほしいんだけどな」
魔剣士「おまえが他人と当たり障りなく話してるのを見たらコンプレックスが刺激された」
医学部生「あ……ははは」
苦笑された。嫌味な感じはない。
856 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:10:52.50 ID:yEea0tfSo
医学部生「ちょっとついて来てくれるかな」
進む方向が変わった。
さっき俺が伺ったのとは別の棟に向かっているみたいだけど、建物自体は繋がっている。
同じく医学系の施設だろう。
魔剣士「アスペの当事者会でも紹介してくれるのなら大きなお世話だけど」
医学部生「そうじゃないよ」
魔剣士「じゃあ何? 俺より重度の奴でも見せてくれんの?」
医学部生「違うよ。まあ、知り合いにいっぱいいるけどね。ほら、こっちだよ」
一般論で慰められるのにはもう飽きている。
でも、エルナトはそういうことをするつもりじゃないみたいだ。
地下に降りていく。
医学部生「俺の専門じゃないんだけどね」
扉が開かれたその先には、たくさんの画面と、見たことのない機械がたくさんあった。
エルナトは部屋の中にいた人々と軽く挨拶をして、俺の方へ振り返った。
857 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:12:10.04 ID:yEea0tfSo
医学部生「一般世間には公表していない技術がこの町にはたくさんある」
医学部生「その1つがこの部屋にあるんだよ」
医学部生「君のコンプレックスの原因を治す技術は、実はもう理論上存在しているんだ」
魔剣士「え……?」
医学部生「今はまだ実験段階だけれど、全ての被験者の障害は改善されつつある」
医学部生「当然、すぐに障害の特徴が全て消えるわけじゃない」
医学部生「けれど、これらの装置で、発達障害者の神経細胞の働きを定型発達に近づけ、」
医学部生「リハビリを行うことによって、コミュニケーション能力や、」
医学部生「能力の偏りを大幅に……」
魔剣士「ちょ、ちょっと待ってくれ」
魔剣士「急すぎて思考が追いつかない」
目と耳を疑った。
発達障害の原因でさえもはっきりしていないと一般世間では言われているのに。
死んでイウスと融合しなくても、今、生きてる状態で、治療できるなんて。
まあ障害が治っても、多分性的嗜好はそのままだろうから、完全に普通になれるわけじゃないだろうけど。
それでも“普通”に近づける。
858 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:14:51.84 ID:yEea0tfSo
医学部生「被験者になってくれれば今すぐにでも治療を始められるし、」
医学部生「不安だったら、もう数年待ってくれたら世間にも公表できる治療法になるだろう」
医学部生「どうする?」
どうする、って……。
医学部生「もちろんデメリットはあるよ」
医学部生「特別な才能が失われる可能性は著しく高い」
魔剣士「…………」
医学部生「君はギフテッドではなくなるかもしれないんだ」
自閉が治っても、植物の成分を操る能力は残るだろう。
でも、能力を使いこなし、ものを開発する頭脳は失われる。
俺は研究が好きだ。人との関わりを避けながら、研究にばかり打ち込んできた。
普通になりたい。でも、研究できない俺なんて俺じゃない。
おかしいな。
才能よりも、マジョリティに溶け込めるようになることを望んでいたはずなのに。
いざ実現できると告げられると、自分が自分じゃなくなるのが怖くなってしまった。
859 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:15:26.52 ID:yEea0tfSo
自宅に、俺宛てのたくさんの手紙が届くことを思い出した。
全てお礼の手紙で、俺が作った薬や健康食品だとかで救われたって内容だった。
最初は嬉しかったけど、段々慣れて、いつの間にか手紙を受け取っても何も感じなくなっていった。
やっぱり普通との違いに悩んで自己嫌悪に陥った。
俺にしかできないことがあるって、今までいろんな人から散々言われ続けた。
その度に耳を塞いでいた。
今、才能を捨てたら、助けられるはずの人々も、植物達も、助けられなくなる。
医学部生「君は今の君のまま成長していけばいいと俺は思うけどね」
魔剣士「……いつか、人生に耐えられなくなったら、その時は頼ると思う」
医学部生「うん。それがいいよ」
860 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:15:52.11 ID:yEea0tfSo
望めば、いつでも“普通”に近づける。だから、今のままでいい。
それは、いつでも自殺できるんだからと自分を誤魔化して頑張るのと似ているかもしれないけど、
でも、それよりもずっと心は上を向いている。
魔剣士「ありがとう」
医学部生「どういたしまして」
屋外に出ると、再びドライアンドラの花が視界に入った。
良い意味の花言葉もあったっけな。自分の価値を評価する、だっけ。
さっき見た時よりも、なんだか綺麗に見えた。
861 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:18:24.91 ID:yEea0tfSo
重斧士「なんかおまえ、暗い感じっつうか……あれだ、厭世的な感じがしなくなったな」
魔剣士「難しい言葉覚えたじゃねえか」
重斧士「使い方合ってるよな?」
魔剣士「ああ」
更に南下し、(モルは嫌がってたけど)ひいじいちゃんの所に顔を出して、港町に出た。
道中、俺が生きていることに気が付いたオディウム教徒の連中に襲われることも何度かあったけど、
特に問題なく戦闘は終わった。
父さん達はずっと膠着状態らしい。
はやく終わらせないと。
海岸に立ち、サントル中央列島の方角を見る。
大樹の蒼いシルエットと、水平線から空に向かって渦巻く黒。
嫌でも覚悟が固まっていくのを感じた。
862 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/18(火) 21:19:15.35 ID:yEea0tfSo
kkmd
863 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/07/19(水) 01:37:50.51 ID:zLcty/nj0
今までで1番良かった乙
864 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/07/19(水) 10:02:01.83 ID:RCoxmFCpo
選択の余地って大事だよな
今回も面白かった乙乙
865 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2017/07/19(水) 21:13:29.39 ID:ZfhqcJlmo
乙です
866 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:34:51.62 ID:m8bMPIqxo
第三十一株 キンセンカ
魔剣士「栄養ないからってキュウリを馬鹿にするんじゃないぞ」
魔剣士「熱中症・夏バテ予防には塩揉みしたキュウリがとても効果的なのだ」
魔剣士「シャリシャリとした食感を楽しみながら、」
魔剣士「水分と塩分、ビタミンB群やミネラルを補給できる」
重斧士「うめえ」
魔剣士「だろ?」
重斧士「食欲ねえ時もこれなら食えるな」
魔剣士「表面の緑色が濃く、いぼが鋭いものを選ぶのがコツだ」
白緑の少女「梅キュウリにしてもおいしいですよ」シャリ
重斧士(植物の精霊が植物食ってる……共食い……)
867 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:35:23.23 ID:m8bMPIqxo
精霊王「エリウス君に嬉しいお知らせ」
魔剣士「んだよ」
精霊王「ラベンダー色のあの子が見つかりました」
魔剣士「マジでか!?」
青い石「ほんと!?!?」
精霊王「うおっハンドル操作ミスんなよ」
魔剣士「何処にいるんだよ!」
精霊王「竹とか桜とかたくさん生えてる島」
魔剣士「竹? 桜……?」
魔剣士「じいちゃんが取引してる商人の島か?」
精霊王「せーかい!」
魔剣士「あああじゃあすぐ迎えに行かねえといやでもうどん粉病野郎どうにかするのが先だしうわああどうしよう!!」
精霊王「落ち着け!!」
868 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:36:12.31 ID:m8bMPIqxo
魔剣士「ラヴェンデルはまだ全然喋れねえのに」
魔剣士「ほっといたらどうなっちまうか」
精霊王「まあ聞け」
精霊王「保護されてしばらく経った頃に、おまえのじいちゃん家のことを知ってる商人が身元を証言してくれたみたいでな」
精霊王「もう村には連絡が行ってるそうだ」
魔剣士「あーよかったー……はあ」
アクアマリーナの町に着いた。父さんも今はそっちにいるらしい。
車を停めて、軍が駐在している建物に向かう。
魔剣士「あっいたいたとうさーん!」
魔剣士「ラヴェンデルがっはあはあ、ラヴェっ、ぜっ、ぜえっ」
戦士「落ち着け」
869 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:36:45.33 ID:m8bMPIqxo
戦士「生きててくれてよかった」
一瞬ハグされた。
戦士「母さんの顔、見てくか」
魔剣士「うん」
病人ではないけれど、母さんは医療棟で寝かされていた。
まるで死人のようだ。
青い石「アルカディア……」
ルツィーレは母さんを見守っているが、いつもの元気はない。
次女「エルお兄ちゃん!」
俺を見つけると、すぐに抱き着いてきた。
次女「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
魔剣士「……よしよし」
870 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:37:39.54 ID:m8bMPIqxo
次女「お母さん、いつになったら起きていいの?」
魔剣士「もうすぐだよ」
次女「ラヴェンデルは?」
魔剣士「見つかったんだ。ちゃんと生きてる」
次女「お兄ちゃんとお父さん、また戦うんだよね? 死んだりしないよね?」
魔剣士「もちろん生き残るよ」
魔剣士「……母さん」
母さんの右手を両手で握る。
魔剣士「母さんが安心して目を覚ませる世界に、絶対、してみせるから」
僅かでも、オディウムに母さんの憎しみを吸わせるわけにはいかない。
ラヴェンデルは生きていたけれど……まだ、眠りの魔法を解くわけにはいかないんだ。
871 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:38:33.55 ID:m8bMPIqxo
今すぐにでもうどん粉病の神を倒しに行きたいけれど、慌てても仕方ないので空いた時間に中庭に出た。
俺がやることを各国の軍人だとかに説明して、作戦を練らなきゃいけないため、少々時間がかかるのである。
中庭には木が植えてあって、花も咲いている。休むには適した環境だ。
終わりかけている深い黄色の花はキンセンカだ。別名はカレンドラ。
カレンデュラが正しい発音だけどちょっと言いにくい。
花言葉は「寂しさに耐える」。元気な見た目の花なのに、花言葉は悲しい感じだ。
精霊王「エリウス君に残念なお知らせ」
魔剣士「んだよ」
精霊王「君の苦手な人がこっちに向かってきてまーす」
足音のする方向へ振り向くと、そこには
魔導槍師「……」
げっ、って思った。でも、前ほど怖くはなかった。全く怖くないわけじゃないけど。
障害のことを馬鹿にされたって、今なら跳ね返せる。
魔剣士「何の用?」
魔導槍師「死に損ないの顔を見ようと思いまして」
872 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:39:05.18 ID:m8bMPIqxo
この人の目は、相変わらず俺を蔑んでいる。
……あれ?
魔導槍師「ああ、この目の色ですか。戻ってしまったんですよね」
魔力の色――琥珀みたいな、蜂蜜みたいな色に染まっていた目が、元の草色になっていた。
魔導槍師「『魔人』の力が弱かったらしいんですよね。本当は維持したかったのですが」
魔剣士「……魔人って、なんだよ」
魔導槍師「ああ、知りませんでしたか?」
魔導槍師「『他人の魔適傾向を上げる能力をもつ魔適体質者』のことですよ」
魔剣士「なんでそんな呼び方してんだよ」
まるで魔族みたいじゃないか。
魔導槍師「魔族に穢されて魔適体質者となった者は、通常の魔適体質者とは異なりますからね」
魔導槍師「彼等の魔適傾向は『穢れ』の種が発芽するにつれて上昇し、」
魔導槍師「そして彼等のみが他者の魔適傾向を上昇させることができます」
魔導槍師「“穢れた母”をもつあなたが知らないとは」
魔剣士「は?」
魔導槍師「あなたの母親は魔族と性行為をしたことで魔適体質者となったのですよ」
魔導槍師「魔適傾向が下がったのは、聖玉の浄化作用を直に受けたからです」
青い石「…………」
873 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:39:31.87 ID:m8bMPIqxo
母さんは、極端に男を恐れている。
アウロラ達が性的な暴力を受けないかどうかも、いつも過剰に心配してたし、
俺が大学の女に襲われかけた時も泣き叫んでた。
『汚いお母さんでごめんね』
魔剣士「…………」
魔導槍師「ショックでしたか? そうでしょうね」
魔導槍師「母親が父親以外と、ましてや魔族と関係をもっていたなんて」
魔導槍師「くくっ」
喉の奥から押し出すような嗤い。
874 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:39:58.25 ID:m8bMPIqxo
魔剣士「黙れ!」
魔剣士「母さんを侮辱することは許さねえ!」
ぶん殴ろうとしたけれど、あっさり俺の右手首は掴まれてしまった。
俺の動きが固まったところで腹に膝蹴りを食らわされる。
鈍いが激しい痛みに耐えきれず、俺は地面に倒れた。
精霊王「おい、しっかりしろ」
それでもアークイラを睨み返す。
こいつの目からは、もう笑みは消えていた。
やけに虚しい蔑みの目で俺を見下ろしている。
しゃがんだと思ったら、俺の前髪を左手で掴み、軽く顔を持ち上げた。
どうしてこの人は、こんなに俺のことを憎んでいるのだろう。
875 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:40:38.75 ID:m8bMPIqxo
殴られるのかなと思ったけれど、アークイラは一瞬建物の方を見ると去っていった。
走ってくるのは、アークイラと同じ髪の色の女の子だ。
武闘家「エリウス!?」
そういや、こいつらの名字……この花の名前だったっけなあ。
カナリアの姿を捉えたところで、視界が真っ暗になった。
精霊王「あの男、おまえを侮辱しているようで、本当は――」
武闘家「ねえ、何があったの?」
武闘家「お兄ちゃんとエリウスの気配がしたから、まずいんじゃないかと思って中庭に向かったのだけれど」
魔剣士「……喧嘩しただけだよ」
武闘家「喧嘩ってレベルじゃないわよ。暴力事件じゃない」
魔剣士「先に殴り掛かったの、俺だから」
武闘家「殴らせるようなことをお兄ちゃんが言ったんでしょ!?」
魔剣士「……心配してくれてありがとな」
やっぱり苦々しい記憶と恐怖が蘇ってぎこちなくはなったけど、
カナリアとちゃんと話せた。
細かいことを気にする余裕がなかったのも大きいけどさ。
876 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:41:22.54 ID:m8bMPIqxo
こいつ、お兄ちゃん大好きなのに。
大好きなお兄ちゃんが他人を傷つけて、どんなに苦しいだろう。
魔剣士「……多分なんだけどさ」
魔剣士「あの人、家族から嫌われたら、もっと歪むと思う」
魔剣士「だから、あの人が何しても、おまえはあの人のことを嫌いにならないでいてあげてほしい」
生育環境のせいであんな性格になったのかもしれないし、可哀想だとは思うけど、
俺がいじめられる筋合いはない。これ以上の八つ当たりは勘弁だ。
武闘家「エリウス……ごめんね、ごめんね」
泣かれた。
聖騎士「貴様ー! よくもカナリアーナを泣かせたな!」
窓からいきなり現れたのはプラチナブロンドの男だ。来てたのかこいつ……。
重斧士「おいヴィーザル、言っとくけどカナリアは俺の女だからな」
聖騎士「私はそのようなことを認めてはいない!」
武闘家「ちょっと静かにしてよ!」
魔剣士「いいじゃん、喧嘩させとけよ。俺はもう行くから」
武闘家「あ、まだ動いちゃだめよ」
魔剣士「もう治ってるよ」
内臓にダメージを受けた場合、治療を受けてもしばらくは安静にした方がいい。
しかし、俺の身体は生命の結晶のおかげで回復力が上がっている。動いても大丈夫だ。
877 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:41:48.59 ID:m8bMPIqxo
魔剣士(アーさんの感情ってオディウムのエサになんないの?)
精霊王「ならねえこともねえけど、オディウムが好む憎しみの情とは違うっぽい」
精霊王「なんつうか、あの男の負の感情は……寂しさから来てるものなんだよな」
英雄「うっぐすっ」
戦士「何泣いてんだよ」
アキレスさんだ。来てたのか。
英雄「アーキィも俺も国を離れるのはまずいって陛下に渋られてたところを、」
英雄「無理矢理こっちに応援に来る許可をもぎ取ったのにさあ」
英雄「兵士達が酷い噂してるの……聞いちゃって……」
アーキィってのは多分アーさんのことだ。
878 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:42:31.24 ID:m8bMPIqxo
戦士「どうしたんだ」
英雄「アーキィが……汚い手段で普通の男の子をメス堕ちさせてセフレにしたって……」
戦士「げっほっ。子供の性的な話はきついな」
英雄「しかも5人も……」
戦士「いつの間にそんな」
英雄「全員マリナっぽいきつめな印象の黒髪美女に仕上げたんだって」
英雄「俺のせいだ……」
戦士「…………」
英雄「あの子が“男が演じてる理想的な美女”と上辺だけの恋しかできなくなったのは明らかに俺のせいだし、」
英雄「あの子にばかりきつくあたるマリナを諭しきれなかったのも俺だから……」
戦士「全部が全部おまえの責任ってわけじゃないって」
体育座りで泣いているアキレスさんを、どう慰めればいいのか父さんは困っているみたいだ。
俺は気配を消しつつその場を去る。
879 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:43:01.76 ID:m8bMPIqxo
メルクはどうしてるかな。
建物をうろつくと、死んだ魚のような目をした女の子と2人で座っているメルクを見つけた。
クレイオーが、少し離れた所からあいつらの様子を伺っている。
歌姫「理詰めでリモンさんの洗脳を解いたんですのよ」
魔剣士「解けたんだ。よかったじゃん」
歌姫「しかし、彼女はオディウム教に協力していた罪の重さを自覚してしまったことで、」
歌姫「生きていく気力を失いかけてますの」
歌姫「カウンセリングには時間がかかるそうですわ」
魔剣士「そっか」
魔剣士「おまえは彼氏が浮気しないか見張ってんのか」
歌姫「ちっ違いますわよ。嫉妬はしてますけれど、あたくし、彼のことは信じてますもの」
歌姫「ただ、ただ気になってるだけですわ」
魔剣士「そりゃ好きな男が他の女と2人きりってのはなあ」
魔剣士「浮気の可能性がなくても複雑だよな」
歌姫「わかったような口を利かないでくださいまし!」
880 :
◆O3m5I24fJo
[saga]:2017/07/26(水) 19:43:30.25 ID:m8bMPIqxo
怒られたので俺に用意された部屋に帰ることにした。
扉を開けるとそこには……
白緑の少女(本体)「おかえりなさい、エリウスさん」
白緑の少女(分身1)「戦いに備えて、準備を最終段階に進めようと思うんです」
白緑の少女(分身2)「お体の負担が大きいでしょうけれど、がんばってくださいね」
白緑の少女(分身3)「ああ、シャワーは終わった後で大丈夫ですよ。あなたの汗のにおい、好きですから」
白緑の少女(分身4)「さあ、こっちへ」
魔剣士「……うん?」
目を疑った。最愛のユキがたくさんいる。
白緑の少女(本体)「ここは私の土地。分身はいくらでも増やせるんです。驚きましたか?」
うん。
魔剣士「ちょっと分身同士でいちゃいちゃしてみて」
白緑の少女(分身1)「こうですか?」
白緑の少女(分身2)「もう。人間の男の人って、どうしてこういうのがお好きなのかしら」
とても幸せな光景である。
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