埋もれる日々 (オリジナル百合)

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51 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 22:31:54.92 ID:7BtxinLWO
「あの、夜お詫びがしたいので、部屋に来ませんか?」

ほら、目の前に選択肢が現れる。
『行く』、『行かない』。
どちらかを選べ、と。
返事が私の口を飛び出る前に、

「紺野君」

部長が手招き。

「部長……」

都築さんが少し苛立っているように見えた。
この時ばかりは助かった。
部長、ナイスタイミング。

「ごめんね。続きはまた後で」

その日の夜まで、その続きはやってこなかった。
52 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 22:38:14.82 ID:7BtxinLWO
22時くらいに、仕事が一段落した。
なぜか部長がまだ会社に残っていて、帰ろうした矢先に呼び止められた。

「いつも御苦労様」

「いえ、仕事が遅くて」

遅い上に、量が多くて。

「疲れただろう。送っていこう」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

「この時間は終電もないだろう? 遠慮するな」

肩を引き寄せられた。
たばこの匂いと汗の匂いが入り混じって。
中年の香りとでも言うのかな。

「部長、ほんとに」

「今日、カミさんいないんだよ」

右肩を撫でられて、ぞわりとした。
53 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 22:43:57.20 ID:7BtxinLWO
「いつも仕事が多いのはなぜか知っているか? 君が文句を言わないから、周りの連中が君に回しているんだよ? 私なら、それを止めることができるし、君の仕事をもっと楽にできる」

青い顎を頬に寄せられた。
ジョリッとして身の毛がよだった。

「俺の家に来なさい。紺野君、独りは何かと寂しいこともあるんじゃないかい」

「離してッ」

部長の腕を引き剥がそうとしたら、

「君、会社辞めたいの?」

と壁に体を押し付けられた。


54 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 22:54:13.20 ID:7BtxinLWO
スカートの中に手がにゅるりと入ってきた。
お尻を掴まれて、悲鳴を上げた。
常夜灯のついた廊下には、警備員の影はない。
監視カメラもここにはついていなかった。

下着越しのお尻に下半身を押し付けられる。
怖くて体が動かない。
硬くてそそり立った何かがお尻や太ももを突刺していた。

「夜はどうしてるんだ。一人でしたりするのか」

左胸を下から掴まれる。
反射的に体を捩った。

「し、しません」

ぐりぐりと当てられていたモノから逃げようと足を踏み出すけれど、引っ張られてバランスを崩して倒れ込んだ。
崩れた態勢を支えながら、部長は私を壁に抑えつけた。

「い……やっ」

絞り出た声。
廊下に虚しく響く。
55 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 23:09:31.78 ID:7BtxinLWO
「君としたいと思ってたんだよ。気づいてただろ? いつも、呼ばれたら喜んでついて来たじゃないか」

何を勘違いしてるの。
このおっさんは。
荒々しく胸を揉みしだかれる。
普段の大人しそうな部長からは想像できなくて、そこにはダモノがいた。

「やだぁ……ッ」

着ていたブラウスのボタンを外されていく。
必死に抵抗しているのに、想像以上に部長の力は強く、全てのボタンを外された頃には私は相当息を荒げていた。
下着をまくし立てられ、素肌がひやりと外気に触れた。

「ひっ……」

ブラをずらされて、上から覆いかぶさるように跨られた。
顔を近づけてキスをしてくると思ったが、耳を舐められた。
不意打ちで、また悲鳴。

「君、良い声してるよね。むしゃぶりつきたくなる」

赤ん坊のように泣き叫ぶことすらできず、真っ白になった頭の中で、何かが聞こえた。

「そこで何してるんですか!!」

部長が、驚いて飛びのいた。
私の腕を掴んでその場を去ろうとしたけれど、私の身体は石のように全く動かなかった。

「ちっ」

舌打ちして、部長は走って去っていく。
暗がりに声をかけた人物が誰かすらどうでもいいくらい、私は恐怖ですすり泣く。
56 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 23:45:44.52 ID:7BtxinLWO
「紺野さん、大丈夫ですか……」

ゆっくりと抱き起こしてくれたのは、都築さんだった。
ああ。
酷い所を見られた。
一瞬だけ彼女の方を見て、すぐに視線を下げた。

「立てますか……」

私は首を振った。
ただただ都築さんにしがみついた。
助かった。
そればかり。

「っ……」

都築さんは私の背中をさすってくれた。
暫くそうしてくれて、私が落ち着いてきた頃には服を着るのも手伝ってもらった。

「ごめん……」

自分のものとは思えないくらい、弱弱しい声だった。
都築さんは何も聞かずに、私を支えるようにして会社から連れ出してくれた。
57 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/13(日) 23:59:57.24 ID:7BtxinLWO
彼女の車に揺られて、私はずっと自分の服を握りしめていた。

「さっきの、部長ですか」

彼女は聞いた。

「……うん」

と短く返した。
彼女はそれ以外は聞いてこなかった。

「許せない……」

彼女が言った。
そこには明確な怒気が含まれていた。

「できるものなら、殺してやりたいです」

「だ、ダメだよ」

何、物騒なこと言ってるの。

「……でも」

「この事は誰にも言わないで。お願い」

「それじゃ、紺野さんが……」

「何も言わないで」

何も聞きたくない。
58 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 00:07:36.03 ID:+2sCrRKnO
「私も、何が起きたか……困惑してる」

「すみません……家まで送ります。どこですか」

「家に帰りたくない……」

「あの」

「都築さん、泊めてもらっていいかな」

私は都築さんの顔を見ることなく言った。

「いいですよ」

都築さん。
ごめん。
59 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 00:18:41.44 ID:+2sCrRKnO
今日は仕事はなかったのかな。
彼女の住むマンションに連れていってもらいながら、そんなことを考えていた。
部屋に入るとソファに座るように言われたのでその通りにした。
持っていたバックにしがみついていたのだけど、都築さんがそっと私からバックを取り外して代わりに大きなクマのぬいぐるみを持ってきた。

「お風呂沸かしますね」

私はクマを動かした。

「エアコンつけましょうか。寒くないですか」

「寒くないよ。ありがと」

縮こまっていたのでそう見えたのだろう。
先ほどから、体を丸めてぬいぐるみを抱き続けていた。
60 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 00:19:25.81 ID:+2sCrRKnO
今日はここまでありがと
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 00:44:57.20 ID:KyXLcEYCo
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 02:18:30.09 ID:jVa5gUGSo
おつ
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 09:20:52.80 ID:hTU9moSio
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/14(月) 13:48:00.44 ID:O/fLeWWHO
オツ
65 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 21:45:55.39 ID:zWhOy6uzO
少し経ってから、彼女は小さいふかふかのタオルケットを持ってきてくれた。
それを私の身体に背中から被せて、隣にゆっくりと腰を降ろした。
その重みで私の身体もわずかに沈んだ。

「紺野さん」

肩に触られた瞬間、私の体に恐怖が蘇った。
力が抜けそうになる。

「いやっ!」

くまの人形を盾にして、彼女の手を払いのける。
かけてくれたタオルケットが床にずり落ちた。

「……落ち着いてください。大丈夫ですよ」

都築さんが優しく宥めてくれたけれど、やや錯乱してしまって、

「うん。分かってる、分かってるよ……」

同じ言葉を繰り返した。
彼女はタオルケットをもう一度かけ直してくれた。
甘い彼女の香水が、鼻をくすぐった。
部長の匂いを上書きしていく。
66 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 22:25:25.24 ID:zWhOy6uzO
都築さんはクマの人形を手に取り、

「何もしないクマ。大丈夫クマ」

と彼女らしからぬ台詞を吐いた。
それで、張っていた気が抜けたのかは分からない。
目の奥に熱が込み上げて、溢れ出て来た涙が頬を濡らした。

「怖かった……」

もし、彼女があの時来てくれなかったら。
想像したくない。ぞっとする。

「一緒にいれば良かったです」

「……どうして、戻ってきたの」

「やっぱり、もう一度お詫びできないかと……迷ったんですが、引き返してきて正解でしたね」

「そう……だね」

私、考え無しだった。
部長の事も、都築さんの事も。
自分で自分を追いつめて。
バカな女。
67 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 22:48:42.96 ID:zWhOy6uzO
30分くらい私は静かに泣いた。その後、先にお風呂を使わせてもらった。
体が温まったせいか、今日一日の疲労がお風呂上りに眠気を誘った。
ベッドを使うように促されて一度断った。

「いいですから」

と押し切られ、ソファーで寝ると言って聞かなかった。
しょうがないので、私は言われた通り彼女の部屋で寝ることにした。
都築さんの部屋は、自分の部屋とは違って、化粧品や小物が多く落ち着かなかった。
ベッドに入っても、体がむずむずして寝付けず、無理やり目を閉じると、
誰かが私を襲いにくるんじゃないかとあり得ない想像に脅されて飛び起きた。

「はあっ……」

暗がりが怖い。
もともとそうだったけど。
ここまでじゃなかった。
のそりとベッドから這い出て、リビングに向かった。
68 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 23:08:48.34 ID:zWhOy6uzO
ソファーに横たわる都築さんに音もなく忍び寄った。
もう寝たかな。
起こしたら悪いと思いつつも、

「都築さん……」

「え?」

都築さんが飛び跳ねたので、ソファーがぎしっと鳴った。

「起きてた?」

素早い反応に、私もやや驚いた。

「あ、はい」

「ごめんね。なんだか寝られなくて。ここに座ってていい?」

と、ソファーを背もたれにして、床に腰を降ろした。
69 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/14(月) 23:10:02.84 ID:zWhOy6uzO
眠すぎるので、ここまで
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/15(火) 04:29:51.68 ID:cjlz9DPjo
おつ
71 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/15(火) 23:04:07.85 ID:ita4X0csO
都築さんの返事は待たずに、膝を抱えた。

「隣、座っていいですか」

部屋の豆電球をつけて、都築さんが言った。
私は頷いた。
彼女は自分が使っていた毛布を広げて、少し隙間を空けて隣に座る。

「テレビつけましょうか」

都築さんがリモコンに手を伸ばす。
首を振る。

「そうですか」

彼女の言葉。
仕草。
それはあまりに優しかった。
彼女に抱きついて、慰めを受けたくなって。
いいかな。
いいよね。

「都築さん……」

毛布の下から彼女の手を握った。





72 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/15(火) 23:26:06.15 ID:ita4X0csO
上から被せただけの指に、彼女の細い指が絡んできた。
目の前に視線を投げる。
だんだん左手が熱くなっていく。

「……都築さん、我がまま言っていい?」

「いいですよ」

「ぎゅってして」

言い終えた途端、体を引寄せられた。
73 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/15(火) 23:26:32.92 ID:ita4X0csO
ちょっと限界なので、また明日
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/16(水) 01:42:05.40 ID:6g+K7Jg3O
よい…よい…
75 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/16(水) 23:40:42.71 ID:Up4CglvSO
私は彼女に包まれながら朝を迎えた。
都築さんはいつの間にか寝てしまっていて、私に揺り動かされて起きた。
私は会社に行く気力が起きずに、今日の所は風邪で休むことにした。

「部屋にいてもらっていいですよ」

鍵を手渡され、彼女はそう言って会社に出かけた。
誰もいなくなった部屋で、私はまた縮こまってソファーに腰掛けた。
どんな気持ちで、いつも外に出かけていたっけ。
真っ黒いテレビの液晶にぼさぼさ頭の自分が映っている。

都築さんが抱きしめてくれていた温もり。
それがまだ部屋に残っていた。
膝に顔を埋める。
部長は何食わぬ顔で出勤しているのだろうか。
そうだったら私はなんて惨めなんだろう。
彼に何か天罰は来ないだろうか。
来ないか。
そうだよね。
こうやって、引きこもっても変わらない。
76 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 00:06:16.74 ID:j2aWeKliO
無理にでも体を動かさないと。
自分を鼓舞して、思い立ったのは部屋の掃除をすることくらいだった。
人の部屋を物色するのも気が引ける。
掃除機をかける。
それくらいならいいかな。

彼女の部屋から掃除機を発見。
同時に、大人の玩具も発見。

「……うわ」

無造作に箱に入れていて、隠す気はあまりないみたい。
見なかったふりをしてもとに戻そう。
77 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 00:06:44.77 ID:j2aWeKliO
ちょとまた明日
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 08:47:02.14 ID:MeCpz6Yfo
待ってる
79 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 09:51:43.24 ID:oHfqW8iBO
片づけようと手に取った瞬間、自分の手が震えていることに気が付いた。

「え……なにこれ」

震えは徐々にうぶ毛が立つような悪寒を呼んだ。
胃の方が熱くなってきて、胃液がのど元に徐々にせり上がってきた。

「う……ッ」

しゃがみ込んで口元を抑えた。
今までにない感覚。
吐きそうだということだけは理解した。

「……げほっ」

体が何かを吐き出してラクになりたがっている。
洗面所に行こうと思ったけれど、腰がへなへなと崩れてしまった。
いったん横にならなきゃ。
固く冷たいフローリングへ、緩慢に転がった。

なに。
なんなのかな。
視線の先にある、ゴム製の玩具。
あれが、なんだか男性のアレに見えて。
想像したら、恐ろしくなって。

だめだ。
思い出すとだめ。
目を閉じて見ないようにしても、暗闇の中に浮き上がってきてしまう。
この部屋には私しかいないのに。
誰かが監視しているような気がする。
まるで命でも狙われているんじゃないかって気さえする。
気のせいだって分かってるのに。
止められない被害妄想。

「都築さん……」

早く帰ってきて。
お願い。

80 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 10:17:33.08 ID:oHfqW8iBO
時計の音が無機質に部屋に響く。
2時間くらい経って、私は漸く落ち着いた。
その頃には、なんであんな風になったのかわからないくらい、玩具を見ても特に何も起きなかった。
また、同じような感覚になりたくなかったので、私は掃除は諦めてご飯でも作ろうとキッチンに戻った。
人の家の冷蔵庫を勝手に開ける。

「何か……あるかな」

調味料と、牛乳と、あと卵。
食材としてはおしい。近くのスーパーで適当に買ってこよう。
スーツに着替えて外に出る。
マンションの入口で男性の住人とすれ違った。
体が硬直した。

「え……」

男性は急に立ち止まった私を不審に思ったのか、一瞬横目で見てから去っていく。
彼の足音が無くなった途端、金縛りみたいなものも解けた。
そうして、自分の身に何が起こっているのかを徐々に理解し始めた。

私は極力人に会わない道を選んでスーパーへ向かった。
スーパーにたどり着いても、下を向いて歩いた。
そこでも同じような症状があった。
私は、異性が怖くなってしまっていたのだった。
81 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 10:35:12.77 ID:oHfqW8iBO
自分の弱さを受け入れられなくて、そのうち治るだろうと私は楽観的な結論を出す。
こういう体験をしてる人は私だけではないから。
あんまり考えないようにしよう。

夜になってから、私はさらに自分の異常を目の当たりにした。
いつの間にか家中の灯りという灯りをつけてしまっていたのだ。
最後につけた玄関ではっとなる。
どうしても、どこか暗い所があるのが怖くて。
その暗がりから、何かが襲ってきそうで。
どうしてそんな風に思ったんだろう。
誰もいやしない。
私以外誰もいないじゃない。

壁に背中をつけてずるずると座り込んだ。
頭が重たい。
昨日は一睡もできなかったから当たり前なんだけど。
次々と新しい不安が私の心を揺らす。
大丈夫。
大丈夫。

でも、明日からどうする。
明後日は。
来週は。
ずっとこんな風に生きていかないといけないのかな。
ううん。
もしかしたら、今日はぐっすり眠れて、明日には会社に復帰できるかもしれない。
そうだよ。
きっとそう。
でも、あんな会社に行く意味あるかな。
ないのかな。
わからない。
どうしたいの。
82 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 11:01:18.54 ID:oHfqW8iBO
玄関の鍵が外れた。

「……ッ」

驚いて、すごく驚いてしまって。ヒュッと喉が鳴った。
都築さんが私を見下ろしていた。
なんだか彼女の帰りを待っていたように見えたかもしれない。
実際、怖かったので、早く帰らないかなとは思っていたけど。
都築さんは靴を脱いで、私の真正面にしゃがみ込む。

「ただいま」

両手で頬を挟みながら言った。
冷たい手が寝不足で火照った頬には気持ち良かった。

「都築さん……おかえり」

「すごく良い匂いがします。夕飯、もしかして作ってくれたんですか」

「あ、うん。泊まらせてもらってるし、口に合うか分からないけど」

「ありがとうございます。嬉しいです」

小さく微笑む。

「ううん……」

今日の事を伝えようと思ったけど、気持ち悪いって思われたくなくて喉元で言葉が消えていく。

「立てますか?」

「うん」

「あと、普段着と下着買ってきたので良かったら使ってください」

鞄の中からごそごそと取り出して、私に手渡した。
私は悪いからと言ったけれど、結局断り切れずに使わせてもらうことにした。
83 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 11:22:16.83 ID:oHfqW8iBO
簡単な煮魚と野菜の炒め物を彼女は美味しいと食べてくれた。
食事中に、今日の社内の様子を聞いた。
特に何も変わりはなかったらしく、部長もいつも通りだったそうだ。
都築さんは部長の椅子にお茶をこぼしてきました、とさらりと言うので笑ってしまった。

「都築さん、危ないことはやめてよ」

いい気味ではある。
でも、それで都築さんに被害が及んでほしくない。

「私はいいんですよ。紺野さんの気が済むなら。他にして欲しい事とかあったら言ってください」

案外、好戦的な人。

「今は、泊めてくれるだけで、助かってるよ」

部長のことは確かに許せない。
でも、彼に今縛られていることの方がなお辛い。
彼が私の思考に絡んでくるのが苦しい。
土足で家に入られて、部屋のものを好き勝手に使われている。
そんな気分だ。
だから、復讐とかよりも部長のやったことを早く忘れてラクになりたかった。
84 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 11:49:45.36 ID:oHfqW8iBO
夕飯後、都築さんが家中の灯りがついていることに気が付いた。
なんでつけたのかは聞いてこなかった。
ただ、優しく、

「つけておきますね」

と言ってくれた。
その温かさに救われながら、平然と部屋の中を移動する彼女がとても羨ましくも思えた。
私はこんなに苦しいのに。どうして彼女は普通なのか。
どうして私だけ、不安にならないといけないのか。
そんなことを考えてもどうしようもないのに。
思わずにはいられなかった。

相変わらずソファーの上で縮こまりクマの人形を抱きしめる私。
テレビの軽快な音が、多少現実を忘れさせてくれる。
少し離れた所で、本を読んでいる都築さん。

「今日は夜のお仕事ないの?」

ぽつりと聞く。

「はい」

「もしかして、休みとってるんじゃ」

「そんなことは」

「ホントに?」

「ええ」

問いただしても本当の事は言ってくれなさそうだ。

「……今日、外に買い物に行けたから、明日は家に帰るね」

都築さんが本を閉じた。

「ずっと、いてくれていいんですよ」

85 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 12:18:56.50 ID:oHfqW8iBO
彼女の瞳を見つめた。

「ダメだよ……」

都築さんが立ち上がり、こちらに歩み寄って、手を伸ばす。
私の体を包んでくれる。
溺れそうになる。
都築さんに。
彼女の好意に甘える訳には――。

「どうしてです」

耳元で甘えたような声を出された。
びくりと体がしなった。

「ち、近いよ」

「わざとです」

わざとって。
女同士だと言うのに、押し付けられた胸の柔らかさにどきりとする。

「私がいなくて、寂しかったですか?」

「うん……」

それは事実だ。

「不安で、都築さんを呼んじゃった……恥ずかしい」

「こうやってしてると落ち着きますか?」

「そう……だね」

不思議なくらい。
彼女の声が心を満たして。
理由はもう分かっている。
愛されている。

それを、感じているのだ。
86 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 12:44:31.14 ID:oHfqW8iBO
あの夜の残酷な記憶を彼女の色で塗り消して欲しい。

「紺野さん」

委ねてしまいたい。

「都築さん……助けて」

細い呟きは、すぐに都築さんの口の中へ吸い込まれていった。
彼女の小さな唇が押し付けられ、舌が唾液をすくい取るように動く。
ねっとりしていたのは、互いに興奮していたからだろうか。

「ァ……ッ」

「紺野さん、可愛い」

残酷な事に、行為は私の不安を薄めていった。
不慣れな私に合わせるように、彼女はずっと優しくキスをし続けた。
時折、背中や頭をさすってくれる。
酸欠になりそうなくらい口の中を吸われた。
実際、呼吸ができずにくらくらとソファに背中から倒れ込んでしまう。

「口開けてください」

見上げた都築さんが荒い呼吸で言った。
私は小さく口を開いた。
彼女が指を絡めて、舌先を吸ってくる。
ぬるぬると舌同士が絡み合って、いやらしい水音を立てた。
口の端から顎下によだれがたれていく。
87 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 12:56:03.65 ID:oHfqW8iBO
キス、してしまった。
今からなら、引き返せるだろうか。
私の上に覆いかぶさり、体重をかけないようにして都築さんは首筋に顔を埋める。

「怖い?」

都築さんが掠れるような声で聴いた。
私は頷いた。

「止めますか」

「ううん、続けて」

「嫌な事があったらすぐ言ってくださいね」

「ありがと……」

背筋の鳥肌は、昼間とは別の意味だと思いたいから。
上着の上から丁寧に体をなぞられる。
少しづつ、ボタンを外されて。

「つ、都築さん……」

「どうしました?」

「私、自分で脱ぐよっ」

都築さんが頷いた。
無理矢理じゃないから平気だと思っていたけど、服を脱がされるのは怖い。
それでも、都築さんにもっと触れて欲しいという気持ちは増々強くなっていた。
88 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 13:13:27.94 ID:oHfqW8iBO
ブラまで脱ぎ終えると、おっぱいを揉まれながら、キスをされた。
私だけ全裸にされて、かなり恥ずかしい。
恥ずかしいのに体は都築さんに従いたがった。
都築さんの指が執拗に乳首を擦っている時は、下腹部が締め付けられてやばかった。

「ひぁ……ッ」

「紺野さん、胸感じる?」

「た、たぶん」

太ももの間に、にゅっと手を差し込まれる。

「けっこう、感じやすいみたいですよ」

唇の端をつり上げて笑って、股下をこすられた。
自分ではわからなかったけれど、彼女が目の前に掲げた指に粘液がべっとりと絡んでいた。

「み、見せなくていいよ」

自分でも行為が初めてではないにしろ、そんなに濡れた記憶がなかったので信じられなかった。
彼女の指が、クリトリスを弄り始める。
腰が浮いた。

「だ、ダメそれ……変になるから……ッ」

嫌なら止める、と言ってくれるのかと思ったが、

「ホントに、ダメですか?」

愛でるように擦ってくる。
ゆっくりと刺激が与えられて、腰がしびれていく。
89 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 13:31:14.28 ID:oHfqW8iBO
時折、小刻みに擦られた。
その刺激に耐えれずに、

「ゃあ――っア!」

ソファの上で髪を振って身を捩った。

「そ……れ、おかしくなるから……ッ」

「いいですよ。おかしくなる所見せてください」

ダメって言ってるのに。

「イッ……く」

私はすぐに軽く絶頂を迎えてしまった。
夜のお店で働いてるせいなのか、なんだか手慣れてる。

「まだ、ですよ」

「や、今、敏感に」

太ももを掴み、開脚させ、性器の方に顔を近づけていく。
都築さんは私のあそこを音を立てて吸った。
その快感はあまりにも強烈で声を出すこともできなかった。
何か掴んでいないと体が弾けそうで、舌で吸われている間、ずっと彼女の頭を掴んでいた。
90 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 13:40:05.53 ID:oHfqW8iBO
「声もっと聞かせてください」

「そんな……こと言われてもっんあ?!」

ダメだ。
イく。

「気持ちいのか、わからないです」

唇を離されて、昇りつめようとしていた快感が消える。

「気持ちい……。良かったから、続けていいから……」

「イきたいですか?」

「うん……」

もっと激しくてもいいから。
だから、もっと。
して。
キス。
乳首を舐められ、お腹をなでられて、そしてまた――。

「ィ……都築さ……あああ!?」

私は彼女の舌で果てた。
91 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 14:07:58.21 ID:oHfqW8iBO
体がびくびくと痙攣していた。
都築さんが今度は指を膣に挿入して、ゆっくりとかき混ぜていた。
私は止めどなく訪れる快感に翻弄されるばかりで。

「よだれ、出てますよ」

「や……」

どうしてこんなにいいんだろう。
都築さんに触れられている所が熱を持ち、理性を溶かしていった。
私の膣が彼女の指を締め付ける。

「紺野さん、指動かないですよ、こんなにされたら」

「そんなこと言われても……」

「すごい膣圧」

「笑わないで……」

微笑みながら、やることはえげつない。
指を3本に増やして、激しくかき混ぜ始めた。

「ああっ……んアアアっ!」

はしたない声が私の体を貫いていく。

「無理……っこんな、激しいの……都築さんっ!」

彼女の腕を掴んで引っこ抜こうとしたが、
力が上手く入らない。
欲望に支配され、3度目の絶頂が近くなると、
私自身もうなりふりかまっていられなくなった。

「もっと、お願いッ……かき混ぜてっ……ァあ!」

彼女の首筋を抱きしめる。
互いの乳首がこすれ合って、揺さぶられて。
もっと欲しくて、腰が勝手に動いてしまう。

「自分から動くなんて、いやらしいんですね」

もう、どうにでもなってしまえばいい。
私が私でなくなってしまえ。
何もかも。
嘘だったと、嘲笑って。
3度目は外に声が漏れてしまうのではと思うくらい、喘いでしまった。




「可愛かったですよ」

終わった後に、お風呂に一緒に入った。後ろから抱きしめられるようにして浸かっていたら、頭を撫でられた。
私、同い年といえど先輩なのに。

「都築さんは、その……あの」

「はい?」

「上手かったです……」

ちょっと悔しい。

「紺野さんが感じやすいんですよ」

「そ、それじゃ私がエッチな人みたいじゃんっ」

心外だ。
後ろ手で脇腹を掴む。

「ひゃあっ」

都築さんが声を上げた。

「ほら、都築さんも感じやすい」

「今のはずるいですよ」

狭い湯船を揺らして、互いに体を触り合った。
92 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 14:33:38.40 ID:oHfqW8iBO
女性の体と言うのは柔らかくてしっとりとしていて。
鼻孔を狂わす香りがして。
どうして、男の人がそれを求めてしまうのか、
都築さんと肌を重ねて、理解のできる所もあった。
だからと言って、部長の行いを理解するつもりもないけれど。
この一晩の行為は、私の欲望を解放することになる。

翌日、私は家に帰った。
家族には部長のことは何も言わなかった。
ただ、会社を辞めるから、とだけ言った。
もちろん家族に反対されたけれど、今までの業務時間も知っていたので、猛反対されることはなかった。
そして、しばらく友達の家に泊まるとだけ伝えて、荷物をまとめて家を出た。

その足で、会社に辞職願いを出し、呆然と見ていた部長の顔を引っぱたいた。
上司からは辞めないでくれと頼まれたけれど、これ以上会社に同情するつもりもなく、丁寧に断った。
外に出ると、都築さんが立っていた。

彼女は満足そうな顔をしていた。

「私がニートになってそんなに嬉しい?」

嫌味を言うと、

「はい」

と微笑まれた。

「次の職、お探しじゃないですか」

「まあね」

「ぴったりのお仕事がありますよ」

「私、女の子が好きなわけじゃないんだけど」

「じゃあ、暫くは家事手伝いでもいいですよ」

「そのうち、ちゃんと仕事するもん」

93 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 14:50:26.06 ID:oHfqW8iBO
仕事も辞めて、家族とも離れて、トラウマだけは残ってて。
女の子が集まるバーの店員さんの所に転がり込もうとしている。
それでも、なんだか色々なことから解放された気もする。
これから私の人生が好転していくんじゃないかとさえ思う。

「これから、どうなるのかなあ」

「私とラブラブの毎日ですよ」

「うわ、気持ち悪い」

都築さんがやたらフランクに。

「紺野さん、私とエッチなことするの嫌いじゃないですよね」

「……」

「ほら」

否定はできない。

「私なしじゃいられない体になればいいな、って思います」

「さらっと怖い事言わないでってば」

「本気ですよ」

「……都築さんて」

私を救ってくれる天使なのか。
堕落させる悪魔なのか。

94 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 15:13:10.42 ID:oHfqW8iBO
結果的に、私も『良い子だったのに残念です』の仲間入りを果たした。
残念なのは、会社と部長だったけど。
あの掃き溜めのような日々とさよならできる。
あのままあそこいたら、それこそどうなっていただろうか。
考えたくないけど。
仕事をするために生きているわけじゃないし。
これで良かったと今は思わないとやってられないよね。

「私の事好きなの?」

今さらそんな質問をしてみる。
都築さんは昼日中の街中だと言うのに、私を抱き寄せてキスをした。

「ちょ、ちょちょっ」

「好きですよ。言ってませんでした?」

「言ってないと思うけど」

「じゃあ、今夜しっかり確かめましょうね」

「……う、うん」

その囁きは、悪魔のそれだった。
95 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 15:17:34.67 ID:oHfqW8iBO
「ねえ、紺野さん」

「なに?」

「部長の家に、火炎瓶でも投げ入れましょうよ」

「……考えておく」

やっぱり好戦的な子だな。






おわり
96 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/11/17(木) 15:18:40.80 ID:oHfqW8iBO
読んでくれてありがと。
ガールズバーで働き始める所まで書けなかったや。
お粗末様。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 16:01:32.72 ID:gVEdO+1xO
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/17(木) 17:56:20.43 ID:1THeYMCDo
久しぶりに見たな
ラビットや影送りは書かないの?
99 : ◆/BueNLs5lw [sage]:2016/11/17(木) 19:43:20.73 ID:plj3fuqaO
>>97
ありがと

>>98
書きたいんだけどモチベが上がらなくて
いつもこのssを書いたら続きを書こうと思ってる

あと一つ、イゼッタの百合ss書いたらラビットの続き書いて、年内に終わらせて、影送りの続きを来年から書きたいんだ(願望)
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/18(金) 09:27:28.00 ID:k6jQD0LYo
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