都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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455 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 1/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:29:14.78 ID:MNOhVNoyo
 








 あれからどれぐらい時間が経ったろう
 両脚に力を込め、どうにか立ち上がった


 正直まだ心臓がバクバク鳴っている
 何度か深呼吸を繰り返した


 先ず、コスプレ女子に襲撃された
 あの子は俺のことを「変態クマ」と呼んでいた

 次に、あの子はANホルダー、つまり契約者だ
 あのANfxからして炎を扱う系統と見てほぼ間違いない

 そして、千十ちゃんに助けられた
 千十ちゃんに庇われなかったら、今頃火だるまにされてた筈だ

 そうだ、千十ちゃんだ
 あの後コスプレ女子と一緒に消失したが、あれは転送能力か何かか?


 心が、ざわつく


 さっきの状況から推測するに、千十ちゃんとコスプレ女子は友達、だと思う
 だがまさか、まさかとは思うけどコスプレ女子に誘拐された、なんてことはないよな?

 未だ混乱している頭を軽く振った、すると
 だしぬけに胸ポケットが震え、通知音が鳴った

 急だったのでビックリした、SNSアプリの音だ
 反射的に端末を引っ張り出し、確認する


 千十ちゃんからだった



 【脩寿くん、大丈夫?】

           【だいじょぶ、ありがと!】
           【それよりせとちゃんの方はだいじょぶ!?】



 考えるよりも前に指が動く
 この操作に慣れない、速く入力しようとするほど指がもつれそうになる
 それよりもなんかもうちょっと気の利いた言い回しをすべきなのか
 いや、こういうときこそシンプルイズベストだろ



 【私は大丈夫!さっきの友達と一緒だから】



 送信して間もなく千十ちゃんから返事がきた
 友達、だ。問題ない、誘拐なんかじゃない



 【さっきのこと、ちょっと友達に聞いてみるね】

           【わかった。なんかあったらいつでも連絡して】
           【変なことに巻きこんでごめんよ】

 【気にしないで 😎 】








 
456 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 2/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:29:55.91 ID:MNOhVNoyo
 


 ひとまず安心していいか、それに若干申し訳なく思う
 さっきのゴタゴタに千十ちゃんを巻き込んじまった状況だ

 どうしようか、千十ちゃんに一応こっちの事情も説明した方がいい
 事情というか、さっきの経緯というか
 でも大事な話をちまちまやるのは性に合わないし
 それにこういうのは電話か、直接会ってから話すべきだ

 色々考えなきゃいけないことが多すぎる
 とりあえずどっかで心を落ち着かせる必要があるな



 なんでまだ心がざわついたままなんだ
 さっきのコスプレ女子に気圧されたのが尾を引いているのは理解できる
 でも違う、なんだこの違和感は



 ひとまず端末をジャケットにしまおうとしたところで
 だしぬけに端末が鳴った
 今度は電話の呼び出し音、千十ちゃんか!?



『もしもーし、早渡こーはーい?』



 いよっち先輩でした



「はい早渡でございます、えっ何、先輩? な、何すか?」

『実はねー、今から早渡後輩のお家に遊びに行きたいんだけど
 ほら、前のお礼とかもしたいし
 それでねー、今ドーナツ屋さんに来てるんだけど、迎えに来てほしいんですけどもー?』

「は? い、今から? マジで?」

『マジなんですけどもー?』



 なんでそんな嬉しそうなんだ、いよっち先輩

 どうするかな
 今日はもう東区探索を続けられるような状態じゃない
 千十ちゃんの方の状況も気になる、けど今この時点で自分にできそうなことはあるか?



『……ちなみに、早渡後輩におことわりされたら、わたしショックの余りこの場で泣いちゃうかもだからね?
 店員さんに後輩男子に弄ばれて捨てられましたって泣き喚いてやるからね?』

「営業妨害っっ!! 虚偽申告っっ!! そういうのやめろ!!」



 あまりの返答に思わずツッコミを飛ばしてしまった
 いや待て、その前に今の言葉は何だ
 これは脅迫か? これはひょっとしていよっち先輩に脅されてるのか?



 
457 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 3/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:30:58.31 ID:MNOhVNoyo
 


「迎えに行くから!! 迎えに行くからお店に迷惑かけるのやめて!!」

『んふふ、早渡後輩ならそう言ってくれると思ったよ』

「ったくもー、……こっちはちょっと直前までゴタついててさ」

『えっ、あ、ごめ! なんか用事あったの!?』

「でもまあそれもそれで一旦落ち着いたから!
 もしまた急用入ったら、場合によっちゃ付き合ってもらうかもしらんが
 それでもいいなら迎えに行くよ、どうする?」

『いいの!? 勿論OKだよ、なんかごめんね』



 決まりだ
 千十ちゃんの方も気になるけど、今は先輩を迎えに行こう
 それにこれで気分転換になるかもしれない



「それで? そのドーナツ屋って何処にあるの?」

『えっとねー……』



 いよっち先輩から大まかな位置を教えてもらった
 多分これって学校町内だよな? ここからそう遠くないよな?

 了解の意を告げて通話を切り上げる
 徒歩で向かおう、そうすればこの緊張感もそのうち抜ける筈だ

 西日は大分傾いている
 けど、陽が完全に落ちるまでには辿り着けるかもしれない
 篠塚さんから聞いた「逢魔時の影」と「盟主様」の件もあるしな
 ちょっと急いだ方がいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 ショートカットしようと路地に入った所為で却って道に迷ったりしつつも
 ランドマーク的にそろそろドーナツ屋に近づいたんじゃないか、という頃合いだった


 再びSNSアプリの通知音


 反射的に端末を操作する
 やっぱり千十ちゃんからの連絡だった



 【脩寿くん、今いいかな?】
 【さっきのこと友達に話聞いてたんだけど】
 【脩寿くんのこと変質者だって疑ってたらしくて】
 【それで】


 
458 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 4/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:31:51.99 ID:MNOhVNoyo
 

 変質者? 俺が? 疑われて?
 少し固まった

 つまり、さっきのコスプレ女子は俺が変質者か何かだと勘違いしていたと、そういうわけだろうか
 これは誓っていいが、意図的に変態的行為に及んだ記憶はないし、何か誰かに迷惑を掛けた心当たりもない
 いや、過去のあれこれを振り返ってみると例えば花房君や「先生」の前でちょっとばかり取り乱した記憶はあるし
 篠塚さん家や墓守さんの面前でかなり恥ずかしい勘違いやアレなことを口走った記憶もある
 でも! だけども! 他人に迷惑を掛けるような、ましてや犯罪を疑われるような言動に及んだことは、……ない、筈だ

 だがもしあのコスプレ女子が、仮に「七尾」出身者だった場合は話が別だ
 あまり思い出したくない昔の話だが俺は「七尾」の施設時代、「セクハラ大魔王」という非常に有難くないあだ名を頂戴していた
 一応理由はある。いけ好かない女性職員に対し、その、なんだ、セクハラじみた行為で仕返しをしていた
 反省はした、大いにした
 一応言い訳させてもらうとあの当時だってセクハラは報復みたいなもんだったし、女性職員以外には決して手を出してない
 ここも誓っていい
 もっと言うと「七尾」出身者でANホルダーならお互いの色々を知ってる筈だが、あのコスプレ女子は初めてさんだ。こちらも心当たりがない



 【友達の話だと脩寿くんの行動してる場所が変質者と同じみたいで】
 【それから脩寿くんが夜中に東区をうろついてるとこ何度も見てるって言うの】
 【私は人違いじゃないかって言ったんだけど】
 【脩寿くんはこんなの心当たりないよね?】



 俺が色々考えてるうちに、千十ちゃんからガンガン送られてきた
 これはつまり、俺の東区探索をあのコスプレ女子が目撃していたわけか
 どうしよう、誤解だと弁明したいが、そうなるとこれは全部話さないといけない流れだろうか
 どう返事すべきか、できれば電話か直接会って話をしたい。切実に



 【私は友達の誤解をときたいんだけど、友達は脩寿くんのこと疑ってて】
 【証拠があるって言うんだけど】
 【今電話してもだいじょうぶ?】

           【おk!】



 電話だ、即答する
 数秒置いて着信音が鳴った


『もしもし脩寿くん? あの、……あの』

「さっきのことだよね!? 送ってきたの見たよ!!」

『うん、それで、あの』


 何だ、何だか物凄く切り出し辛そうだ
 あのコスプレ女子との話で、まずい方向に転がったっぽいな
 やっぱりさっきの時点でこっちの状況を先に説明しとくべきだったか?


『さっき、あり……ソレイユちゃんと会ったときのこと、詳しく確認したくて
 多分さっきのは誤解だと思うから、だからその、脩寿くんの話を聞きたいの
 脩寿くんがさっき何してたか、教えてくれないかな』


 千十ちゃん、凄く言葉を選んでるような雰囲気だ
 こっちも緊張してきた、どこから説明した方がいいだろ


 
459 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 5/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:33:05.14 ID:MNOhVNoyo
 

「俺は人、というか家を探してて。四月からずっと」

『夜になっても、ずっと探してたの……?』

「あー、うん。最近は別の用事が重なって
 夜に出歩かないといけない状況だったんだけど、それも先週解決して」

『……』

「あと、さっきの子が俺を変質者だって疑ってるのは流石に何かの間違いだと思うから
 直接会って話をしたいんだけど、……千十ちゃん?」

『……』


 重い沈黙が続いている
 何かまずったか、俺


『あの、あのね
 何日か前の夜、東区の中学校に居たのって、本当のこと?』

「っ!?」


 数日前の夜、東区の中学
 間違いない、いよっち先輩に会いに行った夜だ
 そういやさっきのコスプレ女子も俺を焼こうとしたときに話してたな
 恐らくいよっち先輩に会ってるときのことも遠くから観察してたんだろう


『脩寿くん、ありすちゃんはね。脩寿くんが都市伝説の子に、多分「飛び降りる幽霊の子」に襲い掛かってるのを見たって言うの
 私は違うんじゃないかって思うんだけど、でも、ありすちゃんはこの目で見たから間違いないって言ってて
 だから、あの、私! ……脩寿くん、そんなことやってないよね!?』

「誤解もいいとこだよ!?」


 思わず大声を上げてしまった
 いやもう周囲の状況に構ってられない


「確かに先輩に会ったのは事実だけども! 襲い掛かってなんかないよ!?
 話を聞きに行って、成り行きで助ける感じになっちゃったけどね!?
 その子本当に何を見てたんだ!? 大体一部始終を全部見てたんならその後『モスマン』が襲撃してきたのも、知、って……」





 待て、待て待て待て

 おい

 なんでだ?



 違和感が、はっきりと輪郭を伴った



 千十ちゃんは、都市伝説について、知ってるのか!?



「千十ちゃん……、千十ちゃん?」

『あっ、うん』



 口の中が急速に乾いていく
 心臓が急に縮み上がるような錯覚がした



 
460 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 6/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:34:00.58 ID:MNOhVNoyo
 


「千十ちゃん、あの、あのさ。第三種適合とかアンクスとかそういう言葉に聞き覚え、ある?」

『えっ? 何? あの、わ、わからない』


 思わず妙なことを口走ってしまった
 取り乱し過ぎだ、落ち着け俺


「あの、なんで千十ちゃんが都市伝説とか『繰り返す飛び降り』とか知ってるんだ?」

『えっ? あっ! あっ……あのっ、わ、私も契約者なの!』

「千十ちゃんが、     契約者」

『だから、あのっ、そのっ、ある程度、そういうことは知ってて!』

「……。さっきの子も、契約者だよね?」

『あっ、あっ、……う、うん』

「……」



 千十ちゃんが、契約者

 いや落ち着け、だから何だってんだ
 学校町に居るんだから契約者の一人や二人にかち合っても普通だろ、それは
 何も驚くことじゃない、その筈なんだ

 ひとまずコスプレ女子の誤解を解くのが先だ



『ごめんね、本当ならもっと早く言い出したかったんだけど
 タイミングが分からなくて。あっ、脩寿くんも契約者だよね?
 あのっ、私、脩寿くんは変質者じゃないって、ありすちゃんの誤解を解きたいの
 それで、脩寿くんと直接会って三人で話をしたいんだけど、大丈夫かな?』

「そのことなんだけど、千十ちゃん今どこにいるの?」

『えっと、ドーナツ屋さんなんだけど……』



 話を聞けば、俺がまさに向かおうとしていたお店じゃないか
 実にタイムリーじゃないですか、しかも三人とも契約者って言うなら話が早い



「千十ちゃん、提案なんだけど直接会って話せるなら
 俺が襲ったっていう『繰り返す飛び降り』の子から直接事情を説明してもらおうと思うんだ
 その方が色々手っ取り早いだろうし、どうかな?」

『えっ? あのっ、えっ!? と、都市伝説の子を、連れて、くるの? へっ!?』

「うん? なんかまずいかな?」

『あっ、でも、確かに、それができるなら、一番かもしれないけど、でも、あの』

「大丈夫、そんなに待たせないよ。もうそろそろドーナツ屋近くだから」

『えっ!? えっ!?』



 一旦通話を切り上げた
 一応いよっち先輩には事前に話をしといた方がいいだろう

 今度はいよっち先輩に電話した
 だが、出ない
 多分店内でドーナツを見てるか食うかしてるんだろう
 なら直接行って対面で説明するしかないな

 俺は未だ不規則な動悸を繰り返す胸を殴り、目的地へ駆け出した





 
461 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 7/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:34:38.47 ID:MNOhVNoyo
 








          ●



「脩寿くん、来てくれる、らしいんだけど」


 電話を終えた千十の様子がおかしい
 というか電話中から千十の様子がおかしい
 まあそれを言い出したら、電話の前から様子がおかしかったけど


「『飛び降り』の女の子を連れてきて、直接説明してもらうって話になっちゃって」

「えっ、嘘!? マジで!?」


 都市伝説を、「学校の怪談」を、連れてくる、ですって?
 ここに!?


「ありすちゃん、あの、お店の外に出た方がいいよね」
「そうね、ここじゃちょっと」
「あの、それから。ありすちゃん」


 撤収しようとドーナツの残りを口に押し込んで
 テーブルの上を綺麗にしていたところで、千十が不安そう顔をする


「あの、さっきソレイユちゃんの格好で脩寿くんと顔合わせてたから
 これから会う前に、その、ソレイユちゃんに着替えたりとか、必要だよね?」

「もご……」


 もっともな指摘だ、私の面割れを心配してくれてる


「んぐ。……大丈夫、必要ないわ」

「え、でも」

「アイツも契約者なんでしょ? なら変に隠してもバレるのは時間の問題だし
 ここは正々堂々と行くわ」

「ありすちゃんが、それでいいなら」


 確かに元々は正体を隠すためにソレイユの格好するようになったのもあるけど
 結局バレてしまうってことは、過去の「組織」の強引な勧誘の一件で思い知らされた
 まあ、あんな恥ずかしい格好をしている理由は勿論身バレ防止のためだけじゃないんだけど


「それで? ドーナツ屋の外でいいの?」
「うん、近くに居るって言ってた」
「なら早いとこ出ましょうか、アイツ待たせるとか嫌だし」



 
462 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 8/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:35:08.30 ID:MNOhVNoyo
 


 メリーを鞄に隠して、席を立つ
 千十と一緒にお店を出ようとして


「千十?」
「あっ、ううん。何でもない」


 ドアの前で店内を振り返っていた彼女に声を掛ける
 友達でも見つけたのかな?


「なんだか、知ってる人の声が聞こえた気がして」


 そう言ってドアから出た千十は、もう一度お店の中へと振り向いた
 私もつられてそちらを見る


「あっ、すいませーん。チョコミントクルーラーも追加でー
 あとあと、オールドボストンってまだ残ってますかー?」


 小、中学生くらいの子がドーナツを注文していた
 白いマフラーを巻いた少女だ

 確かに朝晩は少しひんやりしてきたかな、とは思うけど
 マフラーにはまだ早いんじゃないだろうか
 寒がりな子なのかな?

 そんなことを思いながら、今度こそ本当にお店を後にした



          ●





















 
463 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 9/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:35:55.17 ID:MNOhVNoyo
 









 ドーナツ屋を見つけたとき、既に千十ちゃんがお店の前で待っていた
 あのコスプレ女子の姿は、ない
 いや、千十ちゃんの隣に同じ制服を着た眼鏡女子が立っていた
 俺と目が合う、その途端に一気に眼鏡女子の顔が険しくなった

 あの顔、見覚えがあるぞ!
 「ラルム」でやたら俺に熱視線を送ってきたあの子じゃねーか!?
 なるほど繋がった、あの眼鏡女子はコスプレ女子だったってわけか

 よし、なるべく穏便にいこう


「さっきはどうも」
「……」


 ヤバい、めっちゃ睨み付けてくる
 俺が変質者の容疑を掛けられてるから仕方ないとはいえ、だ
 できるだけ早く人違いだって理解してもらいたい


「脩寿くんあの、この子がさっきの」
「ええと、そ、ソレイユちゃんだっ「その名前で呼ばないでっ!!」


 心構えはしてきた、が、これは早くも不安になってきたぞ
 彼女の声はめっちゃ刺々しい、一瞬頭のなかが白みかけるが


「なんと呼べば」
「……日向(ひむかい)よ」
「日向、さん」
「……言っとくけど、さっきのこと。誰かに言おうなんて考えてたら、――アンタ燃やすわよ?」


 低い、脅すような声色だ
 いや待て、圧されるわけには行かねえだろ
 ここで俺が挙動不審気味になったら解ける誤解も拗れちまう


「しゅ、脩寿くん、あの」
「あ、うん。今その子はドーナツ屋のなかに居るから、ちょっと呼んでくる。そのまま待ってて」


 千十ちゃんに応じて、そのままドーナツ屋に入る
 客席をざっと追う――、居た。今まさに座ろうとしている


「いよっち先輩」
「お、あ! 早渡後輩! 丁度ドーナツ買ったとこ。こっちはお店で食べる用。一緒に食べる?」
「悪い先輩、急用が入った。顔を貸してほしい」
「えっ!? わたし? なんで!?」


 あまり時間は掛けられないな
 先輩に顔を近づけ、押し殺した声で状況を伝える


「全部説明すると長くなるけど、俺がいよっち先輩に会った夜に、俺達のことを見てた子が居て
 その子がどうも、俺がいよっち先輩を襲ったって勘違いしてんだよ。んで、俺は変質者だと思われてる」

「な、なにそれ。ちょっと、面白いんだけど」

「かなり穏やかじゃない状況なんだよ! とにかくその子に誤解だってことを説明したいんだけど」

「はーん、なるほど。それって、ドーナツ食べてからでも間に合うな感じ?」

「悪い、実はその子たちが直ぐ外で待ってんだ」

「あー、おーけー。分かった、後輩の頼みだ。でもちょっと待ってねー」




 
464 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 10/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:36:38.86 ID:MNOhVNoyo
 

 先輩は店員さんに話し掛け、少し席を外して店外へ出る意を伝えていた
 店員さんの反応は――問題なさそうだ


 そのままいよっち先輩と一緒に店を出る
 気づけば既に陽も暮れ、外は闇に染まり始めていた


「えーっ、と? この子たちが早渡後輩を変質者だって?」
「あ、いや、主に眼鏡の子が」


 問題の眼鏡女子、日向さんは若干険しさが和らいだ、というか困惑気味の表情になっていた
 まさか本当に連れてきたのか、とでも言いたげだ


「いえ、その……その子、本当に『学校の怪談』の子?
 確かに東中で見た子っぽいけど、何というか、『怪談』にしては雰囲気が普通よ?」

「う、うん。普通の、女の子に見える」

「千十は都市伝説の気配とか存在を、感覚で判別できるんだけど
 あなたまさか、無関係の子を巻き込んで適当言ってんじゃないでしょうね?」

「あ、あー」


 言わんとしていることを理解した、そしてその理由も
 マフラーの認識阻害効果は問題なく機能しているらしい


「先輩、悪いけど今だけマフラー外してもらえるか? ……先輩?」


 いよっち先輩は直前まで何か千十ちゃんの方を見入っていたようだけど、気の所為だろうか
 千十ちゃんの方はきょとんとしているが


「あっ、うん? マフラーね、いいの?」
「うん、今だけ」


 いよっち先輩が首に巻いていたマフラーに手を掛け、――ゆっくりと外した
 途端に周囲に“波”が漏れ出るのを肌で感じた。“感覚”を閉じていても直ぐ傍に立てば明確に知覚できる

 途端に「うっ」と小さい呻きを漏らして日向さんの顔が強張った
 千十ちゃんの方を見る――口に両手を当て、大きく目を見開いている



「えっあっ、うそっ、い、一葉さんですよね……!?」
「――ッッッ!?」
「や、やっぱり! 千十ちゃんだよね!?」



 まさか、知り合いか?
 しまった、そこまで想定してなかった!!



「あー、何年振りだっけ? 確か、えと、ちょうど三年かな?」

「え、なに千十と知り合いなの?」

「あの、ありすちゃん、この人は、あの……」






 
465 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 11/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:37:34.95 ID:MNOhVNoyo
 


「あー、千十ちゃんだいじょぶ! 自分で説明するからね!
 ……えっと、わたしは東一葉って言います。で、本当は三年前に死にました
 東中の連続飛び降り事件? 結構有名らしいけど、あ、知ってる?」

「え?     あ、はい。もちろん」

「良かった、いや良くないけどね! えっと、で、わたしもそれに巻き込まれて飛び降り自殺したことになってるんだけど
 わたしだけよく分からないけど、『繰り返す飛び降り』? 都市伝説だっけ? そういうのになって、いつ間にか戻って来ちゃって
 実際は契約者? が、なんか訳の分からないチカラ? を使って、生徒を飛び降り自[ピーーー]るように仕向けてた、……らしいんだよね
 わたしも最近知ったんだけど。あ、それで、三年前の状況を映像? で見たんだけど、そのとき早渡後輩――早渡君と居合わせて、ね?」

「あっ、おう!」


 目の前の状況に頭のなかが完全に真っ白になっていたが
 いよっち先輩に話を振られ、我に返った
 そうだ、今彼女が話していることは本来俺が説明しないといけないことだ


「三年前の東中の事件について、成り行きで色々教えてくれた奴らがいたんだけど、その流れでいよっち先輩に出会って
 そのとき先輩の様子がおかしかったから、心配で夜の東中に足運んでたんだ
 なかなか会えなかったけど、前の夜にようやくいよっち先輩に会えて――それが君が俺達を見たって日だよ」


 眼鏡女子に、なるべく睨み付けないよう自制しながら視線を向ける
 彼女は俺から目を逸らし、先輩と千十ちゃんの方を見て、より困惑気味の表情を浮かべていた


「それで色々助けてもらって、今は東中から離れて安心安全なところに避難したってわけ!」

「そう、だったんですか……」

「もー、千十ちゃんもビックリだよね? 一度死んでるのにこうやって戻ってきてさ!
 幽霊じゃなくて体も昔のままで戻って来ちゃって。お姉さんもビックリだよ! ……せ、千十ちゃん!?」




 思わず心臓を握り潰されたような錯覚がした
 千十ちゃんは、泣き出していた




「あっおっ、せっ千十ちゃん? ど、どうしたの!?」

「あの、あの……、中学校に、あがったときから、ずっと、学校町も、ちゅ、中学校も、怖くて
 はじめての、“外”の、学校が、なんだか、すごく、こ、怖くて、そ……そんなとき、声かけて、くれたの、一葉さんと、さ、咲李さんで
 ほんとに、良くしてくれて、私、私、いっぱい、助けて、もらったのに……っ、あんな……あんな……っ!!」

「あっ! なっ、泣かないで……!」



 いよっち先輩が慌てて千十ちゃんを抱きしめた、先輩まで泣きそうな顔になっている
 千十ちゃんはいよっち先輩と知り合いだった、今の話だと咲李さんとも知り合いのようだ


 胸の奥が締め付けられる。俺が浅はか過ぎた、こうなることを予想できてなかった
 



 



 
「……落ち着いた?」
「すいません……。私、迷惑ばかり」
「思ってない! 迷惑なんて思ってないからね!」


 しばらくの沈黙の後
 千十ちゃんはゆっくり先輩から離れたが、それでも先輩は彼女の手を握っていた
 街灯や照明の所為か、千十ちゃんの顔が赤く見える


「えーと、そうそう。それで、早渡後輩はあの日の夜、なんていうか、“取り込まれ”?
 そんな風になりかけてたわたしを助けるために、色々頑張ってくれたんだよね
 後半なんか、空からなんかモンスターっぽいの飛んできたし! それも早渡後輩が何とかしてくれたんだけど」

 
466 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 12/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:38:18.64 ID:MNOhVNoyo
 

 いよっち先輩は日向さんに話し掛けてるようだが
 当の彼女は顔を伏せていた


「だから早渡後輩がわたしを襲ってた、ってのは誤解も誤解だよ!」
「……ありすちゃん。脩寿くんは変質者なんて、そんな人を傷つけるようなこと、する人なんかじゃないよ」
「そ、そうそう! そもそもだよ? こんな見た目だけ不良っぽいヘタレな雰囲気の男子がそんなことする勇気なんか無いって!!」
「……わかりました」


 日向さんは顔を上げ、いよっち先輩に相対した
 表情はまだかすかに困惑しているようにも見える

 日向さんは先輩に頭を下げた


「すいませんでした。私の勘違いの所為で、迷惑を掛けてしまって」
「だから迷惑なんて思ってないから! はー、でもほっとしたー。良かったね早渡後輩!」
「勘違いしないで」


 それはもう静かな、しかし鋭い声色だった
 ようやくここで日向さんは俺の方に向き直った
 なんというか、形容しがたいほどの無表情だった


「東中のことは私の誤解、それは認める。でも、だから何?
 あなたが変質者じゃないって証明にはならないから
 犯人の正体を暴くまで、あなたに対する疑いが解消したわけではないから」

「あ、ありすちゃん……!」


 そう来るか、でもまあ言い分は一理ある
 いいだろ、乗ってやろうじゃねえか


「オーケー、今はそれでいい。東中の一件について理解してくれたんなら、それでいい
 これでもういよっち先輩に迷惑掛かることもないわけだしな」

「だーかーら! 迷惑なんて思ってないってばぁ!」

「要するに、後はその変質者とやらが俺じゃないってことを証明すればいいわけだろ?
 やってやるよ。とりあえずとっ捕まえてアンタの前に引きずり出せば納得してくれるか?」

「はいっ! 喧嘩ストップ! やめやめ! ドーナツ屋さんの前でやることじゃないでしょ!
 それに折角の千十ちゃんとの再会なのに、水差すような真似はやめてくれるかなー?
 早渡後輩も! ありすちゃんもだよ?」

「あっ、おっ、ごめん先輩!」

「う……、失礼しました」



 いよっち先輩の制止に思わず謝った
 そういやまだドーナツ屋前だってことをすっかり忘れてた
 思わず周囲に視線を向けるが、幸いか人の姿はさほど無かった
 あ、いや。今まさにドーナツ屋に入ろうとしていたOLっぽい女性がこちらを見ていた



 アホか俺は、熱くなり過ぎだ。しかも千十ちゃんが取り乱した後だってのに。アホか俺は



「うんうんよろしい、分かってくれればいいのだよー!
 とりあえずさ、仲直りと言ったらなんだけど。続きはドーナツ屋さんのなかで話さない? ね?」

「あー、いよっち先輩。時間的にちょっとマズい
 ただでさえ、その、近頃は変なのがあちこちに出没してるみたいだし」

「え? あっ、そっかー」

「そうね、もう遅い時間だし。千十もそろそろ帰らなきゃやばいでしょ?」


 日向さんも俺と同意見らしい
 一瞬耳を疑ったが、いや、冷静に考えれば結構な時間帯であることは一目瞭然だ
 日没前後の時間帯にのみ現れるという「逢魔時の影」、そして「盟主様」
 と言っても現時点では既に日没から時間も幾分か経過している頃合いだ、なので「盟主様」達にかち合う可能性はほぼ無いだろう

 
467 :次世代ーズ 33 「釈明とドーナツ」 13/13 ◆John//PW6. [sage]:2022/01/27(木) 04:39:01.62 ID:MNOhVNoyo
 

 だが、この町には同等かそれ以上に危険な存在がうろついている
 学校町内を徘徊する危険な都市伝説に加え、「赤マント」の集団、あるいは「モスマン」、「狐」の手勢、そして……問題の変質者
 付け加えると、この町の徘徊都市伝説は経験則上、日没を境に活性化するものと理解している
 つまりだ。この時間は、まあまあヤバい

 それはそれとして
 俺は眼だけ動かして日向さんを盗み見た
 まあ何というか、先ほどから俺に対して露骨に顔を背けている状況だ
 先ほどの会話に戻ると、俺が彼女に変質者を引きずり出そうかと言い放ったとき
 日向さんはやや狼狽えたような表情を見せた

 彼女の言い分が理にかなってるとして、それでも心情的にはムッときたし
 言い返した瞬間は若干留飲が下がった感はある、そこは認める。だが



 これで満足するつもりは勿論ない
 まだ問題の変質者が学校町内をうろついてるんだ、それも野放し状態で

 それなら
 変質者の正体を突き止め、できればとっ捕まえたい



「千十は私が送っていくから」
「ごめんねありすちゃん」
「ううん、私が巻き込んじゃったものだし」
「もうちょっと早い時間なら、ドーナツ食べながらお話できたんだけどねー……」


 千十ちゃんは日向さんが送っていくことになった
 俺もいよっち先輩送らないとだな、そういや高奈先輩の自宅って何処だ?
 うろ覚えの記憶が正しいなら、確か辺湖市だって話だったような


「あの、一葉さん。……また会えますよね」

「えっ? あっ! うん、勿論だよ! あっでも、えーと、千十ちゃん、あのさ
 わたしがこうやって都市伝説? になって戻って来た、ってことは周りの人にはヒミツにしてほしいな!
 ほら、死人が復活したなんて大パニックになっちゃうやつでしょ? だから……その」

「誰にも言いませんっ、約束します!」

「あっ、私も言いません。秘密は守ります」

「ありがとー! ありすちゃんもありがとね。 ……あっ」


 今度は千十ちゃんからいよっち先輩を抱きしめた
 ややあって、先輩が千十ちゃんを抱きしめ返した



 仲、良かったんだな



 しばらくして先輩から離れた千十ちゃんは、また泣きそうになっていた


「じゃあ、また。おやすみなさい」
「あっうん! また会おうね!!」


 去り際、千十ちゃんは一度だけこっちを見た
 街灯の光で、千十ちゃんの目元が光っている

 彼女は俺達に向かって小さく手を振っていた
 両手を大きくブンブン振ってる先輩の傍で、俺は片手を小さく挙げて応じるのがやっとだった













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