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ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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127 : ◆MQKemQ7EZz9R [saga]:2017/11/14(火) 22:09:56.72 ID:TIjgsdFU0





                「フゥーッッ…!フゥーッッッ!」ギリッ






本来ならば眼球が"あった"部位からは止めどなく、油のようにどろりとした粘度の高い血液が、

そしてボタッ、という音と共に腐れて腐汁が溢れ潰れたトマトを思わせる眼球だったモノが落ちる








目の前の4本脚が息を荒げ熱り立ち発砲した女を睨むのも当然と言えた。






エミリア「…」チャキッ!




それに対し彼女、エミリアは臆することなく無言で銃を構え続ける


エミリア「貴女達、得意な分野は何?…見たところ術士の人もいるみたいだけど」

アセルス「…一応剣を、後ろの二人は術がメインだ」バッ



[幻魔]をいつでも鞘から引き抜けるように半妖の少女も抜刀の姿勢に入り、後ろの人間と妖魔も術を発動させる態勢へ移る



エミリア「…分かったアイツの足止めをする、貴女はあいつに一太刀浴びせて頂戴!後ろの二人も術で彼女を援護して!」





言うが早いか、それを合図に一角獣は額に生えた雄雄しい[角]の先端を戦槍の如く憎き相手の銅目掛けて突っ込む…ッ!


  「ギィヒィィィィィン!!」ダンッ

  エミリア「遅いっ!」ズダダダダダッ!!




 槍と銃、近接武器と飛び道具…ただの馬ではない4本足の瞬発力を以てすれば銃弾に勝ることすら可能であったが
相手はそれ以上の反射神経の持ち主であることは先の眼球を撃ち抜いた件でもハッキリとしていた



場数が違う、この女相当の修羅場を潜り抜けているのだ…レベルに差があり過ぎる




片手銃で[早撃ち]からの[地上掃射]という荒業を実践するエミリアの真横をアセルスが駆け抜ける!
 地団駄を踏む様に忙しなく四股を動かし、被弾しないように努める[ユニコーン]の喉元目掛け横凪に一閃
紅い劔の軌道上にワンテンポ遅れて一角獣の鮮血が後を追うように迸る


白薔薇「光熱よ降り注げ…っ!―――『<太陽光線>』」

128 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/14(火) 23:56:28.12 ID:TIjgsdFU0


 白薔薇姫が手を天に翳す、掲げた右手は太陽へ手を伸ばす女神の絵画を連想させ――掌は小さな淡い光に包まれ
その輝きから直径20p相当の光球が生み出される

風船が浮力を持って地を離れるように彼女の手から浮かびあがり…っ!






         ドジュウウウウウウウウゥゥゥゥ!!



「ぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいじぃぃじゅぅぅいいいいいいーーーっ」




熱線を放つッッ!アセルスが切りつけた剣傷をなぞっていく光線は肉の焼ける音と血の蒸発する異臭を漂わせる
『<太陽光線>』が照射されるタイミングに合わせて飛び退いたアセルスお嬢は生き物が焼ける匂いに顔を顰めたが
幸いにも他の3人は後方支援に徹している為、敵の最前線にいる彼女の顔を見る者はいなかった


陽術の神秘が純白の毛並みを黒く焦がし、肌を焼き、皮膚の裏側を―――傷口から焦熱が入り込む



外と内、両方への攻めに悶え苦しみ奇声を上げる[ユニコーン]は首を狂ったように振り回す
 苦し紛れの挙動、出鱈目に振り回す角の先端は宛ら執拗に肌を焼く光を薙ぎ払おうとしているようにも思えた




ルージュ「…これで、眠ってくれ!!『<インプロージョン>』」キュィィィン!!



 人に仇なす野生のモンスターとは言え、その有様にはさしものルージュも憐れみを覚えたのか、最後にそう言ってから
爆裂魔法を発動させる、二十二面体の光の檻が一角獣の棺となり―――獣を一瞬でこの世から消し去った







  せめて、痛みも苦しみも感じる間も無く、逝けるように彼がそんな念を込めて放った即死の魔術である







エミリア「」ポカーン


エミリア「貴女…、すごいじゃないの!なぁんだ!一撃でそれができるなら早く言ってよね!」


ルージュ「えっ、あ…はい」



"貴女"…金髪の女性の自分を見る目とニュアンスから…『ああ、またか…』と彼はうんざりした顔をした



エミリア「? ああ、自己紹介が遅れたわね!私はエミリアよ!貴女達は?」

アセルス「私はアセルス!そして」クルッ


白薔薇「白薔薇と申します」


エミリア「そう!(白薔薇…凄いあだ名ね)」


アセルス「そっちの銀髪の人はルージュっていうんだけど…その人は…その男の人なんだ」

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 00:02:32.04 ID:6/TbcSGm0




エミリア「へぇ!アセルスに白薔薇ちゃん!そしてルージュ…」










エミリア「…」













エミリア「ごめん、もっかい言って?」



ルージュ「僕は男なんです…今、こんな格好だけど、無理矢理着せられたんです…」





今度はアセルスではなくルージュ本人が答えた














エミリア「ええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」









仰天、そりゃそーだ、こんなセーラー服の似合う銀髪女子大生としか思えない人間が男とか誰も信じない


エミリアは色んな意味で叫んだ


『なにそれ!?似合い過ぎでしょ!』とか…『えっ、あの怪物<ヤルート>ってそういう趣味もあったの?』とか…




とにかく驚いた、目を白黒させた
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 00:42:20.62 ID:6/TbcSGm0


ハハハ、と乾いた笑みを出し始めたルージュを見て、ハッと我に返り彼女は
『それにしてもなんであんなのが基地に居るのかしら?』と目をそらしながら口にした



感情豊かな人なのだろう、表情をコロコロと変えるエミリアを見て率直な感情を胸にアセルスが回答を述べる


アセルス「きっとゾズマ―――私の知り合いの妖魔なんだけどね、そいつがこの基地を大騒ぎにしてやるって言ってた」


アセルス「さっきの[ユニコーン]もたぶん、アイツが連れ込んだんだ」




エミリア「えぇ!?グラディウス関係無いの!?」ガーン

エミリア「…ルーファス達はなにやってるのよぉ…」ハァ…



がっくり肩を落としてグラディウス…後に説明されたが、彼女エミリアが所属する組織らしい…そのグラディウスとやらが
自分を助けに来なかったことに落胆した


エミリア「…あぁっ!もうっ!良いわ!」キッ!

エミリア「貴女達、此処から出たいんでしょう?
      私はこれからあのヤルートの奴をとっ捕まえて色々聞き出さないといけないの!」


エミリア「荒っぽいことになるから、何処かに隠れるなり避難した方が良いわ」






アセルス「ヤルートを捕まえるの…?」

アセルス「ルージュ!白薔薇!」バッ!






振り返ったアセルスの眼を二人は見つめ返す

分かってる、手伝いたいのだろう…






白薔薇「アセルス様のご随意に」ペコリ
ルージュ「まぁ、見過ごせないよね!」ニコッ


アセルス「…ふたりとも、ありがとう」




  アセルス「エミリア!ヤルートを捕まえるなら私達も手伝うよ!……あんな奴は許しておけない!」



"あんな奴は許しておけない"その一言にはアセルスの個人的な感情も含まれていた



かくして、旅のトラブルはまだまだ続くのであった…

―――
――

131 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 02:13:09.19 ID:6/TbcSGm0






           ※ - 第2章 - ※



        〜 交叉するキグナス号の紅蒼 〜





132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2017/11/15(水) 02:56:45.86 ID:6/TbcSGm0















            [活力のルーン]を手に入れた!














…まさか、このような事になろうとはな


塞翁が馬、とでも言えばよいのか?






 今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 03:13:41.10 ID:6/TbcSGm0






















     弦楽器を背負ったニート「いやぁ〜良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」











                       ブルー「…」





今なら、この不快な空間に居る事すら笑って許してやれる程だった

彼は今現在、自分がこんな気色の悪い生物の体内に居る原因の一人を不問にしてやろう、と考えた







なぜこんなことになったのか?そう…あれは時を遡る事数時間前、まだ[クーロン]に居た頃だ…














【双子が旅立ってから…2日目、早朝 朝6時27分  [クーロン:安宿]】
*******************************************************
134 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 03:56:44.43 ID:6/TbcSGm0


 
 7時前に蒼き術士は起床し、気怠そうにラウンジへ脚を運んだ…薄っぺらい食パンにキツネ色の焦げ目がついていて
その上に溶けだしたバターの乗ったトーストが一枚、レタスとミニトマトだけのサラダが注文<オーダー>した朝食だった




昨晩は…疲れた、術力を使い果たす程には戦闘を重ね、肉体にもダメージを負い…ついでに悩みの種が出来た



ブルー「…不味い」モグモグ



味気ない、値段の割にカロリーが全くない薄いトーストと酸味の無いドレッシングの掛かったサラダという最低な朝飯だ
 淵が少し欠けたカップに注がれた苦みを喉に流し込む…角砂糖もミルクもついてこない100%のブラックは否応なしに
ブルーの瞼の裏に残る微睡を吹き飛ばす


 この安宿は食事等のオプションは別料金制になっている、それは以前書き記したことだろう
サービス自体は決して良い店舗とは言えないがそれでも物足りなそうな顔で頬杖をついている彼が
文句を言わずとも済む献立くらいは用意できた、金さえ払えば




ブルー「世の中、金か…チッ」ゴクゴク




肉体、精神ついでに悩みの種を作って来た一夜、その悩みの種というのが…





   - アニー『ん?"[解放]のルーン"と"[活力]のルーン"について教えて欲しいって?』 -


   - アニー『…ふっふっふ…良いわ、教えたげる、あっちの方に"イタ飯屋"はあるでしょ?そこ行ってみな』 -


   - アニー『そこに[解放]のルーンに詳しい女が居るのよ、…ついでに[活力]にも』 -


   - アニー『案内料は高くつくけど、その女にしか案内できないから、んじゃ!そういうことで〜♪』 -











  ブルー「 お 前 じ ゃ な い か !!ふざけるな!!!」机ダンッ!!



空になったコップを半ば叩き付けるように怒りと共に机を叩く



早速そのイタ飯屋に脚を運んでみればどうだ?シップ発着場で別れた女が何喰わん顔で店前で壁に寄りかかって
彼が来るのを待っていた、別れ15分も経たない再会であった

しかも開口一番にこう言ったのだ



   - アニー『よく来たわね、待ってたわよ?解放のルーンは刑務所のリージョン[ディスペア]にあるわ』 -

   - アニー『そ!アタシがその案内人の女ってワケ!んで案内にはとーぜんお金が要るわ、これも商売なんで♪』 -


ちろっと舌を出して、監獄に潜入するには定期的に行われる電気系統の修理点検や配管工に扮して入る他ない事

それをやるには彼女…アニーの協力が必要不可避という事を知らされたのであった
135 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/11/15(水) 04:41:16.48 ID:6/TbcSGm0


 ぴしっ、叩きつけた衝撃で元から欠けてたが安っぽい瀬戸物に罅が入る…

ブルーは額に手をやり深くため息を吐いた、これはいけないカルシムと糖分が絶望的に足りない


旅立ちから僅か2日で資金難に陥るなど誰に想像できようモノか



 無駄な出費が出そうになった所で冷静になろうと努める、如何せん彼は冷静さを象徴する色を名に持ちながら
直情的な一面がある……というよりも神経質な所があるのだ


今まで国家の誇る優等生として学院に大事に育てられた温室育ちのお坊ちゃんだったのも加味しているのだろうな




豪華客船のチケット代とバイキングディナーの料金…それに加えて[ディスペア]への潜入費用
 家族を養うべくお金が必要なアニーへの支払金は今のブルーの手持ちでは…"ギリギリ足りない"


いや、頑張ればどうにかできそうではあるが、その日から路上ホームレス生活まっしぐらである














           ブルー「…金を稼ぐ方法…そんなの俺は知らんぞ…どうすりゃいいんだ…」











そうなのだ、ブルーは"温室育ち"なのだ


両親がいない、物心ついたころから国家の保護施設に居て、『親』である御国の為に奉仕する、それがブルーだった

周りの学友の中には街でアルバイトというモノをやっていたのをブルーは聞いた事があった


自分でお小遣いを溜めて欲しいモノを買ったり、友達と遊んだり……だがブルーにはそれが無い

 欲しいモノなど無いし、特別仲の良い友人と呼べる間柄の人物も居なかった、青春の大半は術士としての学に励んだ
修行の日々、魔術の学問を追い求める、それだけ



ある意味で欲の無い男だった。



そして、『普通の人』とは明らかにズレていた、世間を全く知らない、善くも悪くも俗世に疎かった






  天才であると同時に努力家でもあった、…だが融通が利かない

   なんでも知ってるようで、本当はなんにもわかっちゃいない…"世間の一般的な事"を何一つ分かっちゃいない


  22歳になって金銭を稼ぐ方法をまったく分からない…そんな現実に天才は打ちのめされた

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 05:32:27.81 ID:6/TbcSGm0


途方に暮れる、と言った所だ

頭抱えて少しの間一考するも、濁り模様の思惑に光明が射すことはなかった




ブルー(…考えても仕方あるまい、今できる事をせねば)




今できること、修得可能な術の資質を手にすること…即ち陰陽のどちらかの資質を取得することだった




太陽の力、光を司る"陽術"

影を、闇の力を操る"陰術"



どちらを取得するかブルーは既に決めていた…宿でチェックアウトを済ませ『<ゲート>』で[ルミナス]へと飛ぶ










もう一度言おう、ブルーはあらかじめ取るべき資質を決めていた

そこまでは良かったのだ…








悪い事や不都合というのはどういうワケか一度起きるとドミノ倒しのように連動するようで…

[ルミナス]に到着したばかりのブルーは…







        ブルー「封鎖中だと!?おい!どういうことだ!!!」


  「お、落ち着いてください!…コホン、お客さん見たところ術士の御方ですよね…なんとも間が悪い」

  「いえ…昨日、このリージョンでちょっとした事件があったらしんですよ」

        ブルー「事件だと?一体なんだというのだ!」





  「それが…昨日の19時近く吊り橋の先、分岐路付近で戦闘行為があったらしいんですよ」

        ブルー「なっ!?修行者の聖地[ルミナス]で戦闘行為だと!?どこの馬鹿だ!」




おずおずと答える職員の口から告げられた事実にブルーは激昂する
 術士にとっての聖地と言っても過言でないこの地は…ルミナパレスとオーンブル以外は非戦闘区域と指定されている
にも関わらず戦闘を行うなどよっぽど非常識な輩に違いない、もし会おうものなら殴りつけてやりたいと思った



…ちなみ、その非常識な輩は今、緑髪の半妖少女、頭に花飾り乗っけた妖魔、金髪美女と軍事基地に居る
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 05:53:20.66 ID:6/TbcSGm0


「詳しい詳細は不明ですが…妖魔が関わっているとかで…今、IRPOの方にも捜査してもらっているのですが…」



そこまで言って職員は首を横の振る…



「誠に申し訳ございませんが、お客様の安全の為です…テロの可能性もありますので…当面の間は陰術も陽術も…」



ブルー「〜っ!くそっ!!」






術さえ使えば[ルミナス]にはいつだって飛べる、それは分かるがこれは何とも間が悪い話だ…


結局ブルーは[クーロン]に戻って銭を稼ぐ方法を調べるか、他のルーンを探す旅に出るかしかない訳だ









クレイジーなIRPO隊員「はぁ〜…ったく、なーんもわかんねぇ、か」

無口な妖魔のIRPO隊員「………」

クレイジーなIRPO隊員「あぁん?なんだって……マジか、妖魔の君絡みか…めんどくせぇ」

クレイジーなIRPO隊員「お前は引き続きこっちの調査やっといてくれ、俺?俺は別件でこれから[マンハッタン]だよ」

クレイジーなIRPO隊員「前々から話に挙がってたろ?ミス・キャンベルの件だ…ちょっくら行ってくるわ」






遠目にIRPOの捜査官と思わしき人物が何やら話し合っているのが見えた、だがそれはブルーには関係の無い出来事である

しばらくしてから来るしかない、ブルーはすぐに『<ゲート>』の術で飛び去った



―――
――


【双子が旅立ってから…2日目 朝7時14分】



弦楽器を背負ったニート「あ"ぁ"〜…」ヨロッ

弦楽器を背負ったニート「飲み過ぎたぁ……」



弦楽器を背負ったニート(酒には自信あったんだけどなぁ…ライザ飲み比べ強すぎるぜ)



 [クーロン]の屋台が立ち並ぶ通りで空がぼんやりと明るみだした頃…

 如何にも二日酔いです、といった風の男が1人歩いていた、ぼさぼさの長く伸びた髪に田舎者丸だしな服装
民族風の帽子を頭から落とさないように抑えながら彼は電柱やら建物の壁やらに無許可に張られた広告や求人のチラシに
視線を泳がせていた


138 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/11/15(水) 06:11:18.21 ID:6/TbcSGm0




弦楽器を背負ったニート(なぁんかエミリアは仕事で今は居ないっていうしなぁ、近場に寄ったから顔見せに来たけど)


弦楽器を背負ったニート(こりゃクーン達についてくべきだったかな…)ポリポリ




弦楽器を背負ったニート(…んと、何々?頭を取り外して笑える人大歓迎…ヌサカーン院…なんのバイトだよ…)チラッ



弦楽器を背負ったニート「…面白そうな事ねぇかな…」スタスタ













弦楽器を背負ったニート「…やっぱ、艦長さんトコにでも行ってみるべきかね」スタスタ













何処か不思議な男だった、飄々としていて、不思議と目を向けたくなる…そんな気にさせる男が歩いていた

 田舎から就職の為に上京してきたが、未だ職にありつけないでいる彼は
ひょんなことから出逢ったとあるリージョンシップの艦長の事を思い出した


自分の父親の知り合いらしい女性、そしてあまりにも無唐無稽な話を語り出した反トリニティの旗を掲げるリージョンの人






―――そこまで考えて彼は首を振った







弦楽器を背負ったニート「これからどーすっかなぁ…―――」




両腕を組んで後頭部に当てながらブラブラと街中を歩いていた彼は妙な気配を感じた

妙な、としか言いようがない、風も何も無い室内で木の葉が風に舞っている、そんな矛盾した感覚

彼はその方角へ目を向けるすると…




   ブルー「…いっそのこと先に[勝利]のルーンを探すべきか…」ブツブツ



何も無い空間から1人の人間が音も無く現れた、それをみて彼は思った『面白いモノを見つけた』と
139 :今回は一旦此処まで [saga]:2017/11/15(水) 06:25:58.05 ID:6/TbcSGm0



弦楽器を背負ったニート「なぁ!!!そこのアンタ!!」キラキラ!


ブルー「!?!?」ビクゥ!!




 朝っぱらから大音量の音声がブルーの鼓膜に直撃する、考え事をして足元を見ながら歩いていたのも相まって
その大声は効果抜群だった、術士が無駄に肺活量の高い人物の方を振り向くと




弦楽器を背負ったニート「今のスゲーな!どんな手品だ!?あっ!その恰好…はは〜ん分かったぞ術士だろ〜!」ニヤニヤ


ブルー「…」










ブルー(なんなんだこの男は)



変なの目をつけられた、瞬時に悟った彼は『すいません、先を急ぐ身なので』と逃げる様に立ち去ろうとするが…





弦楽器を背負ったニート「〜♪」テクテク

ブルー「…」テクテク





ブルー( な ぜ つ い て く る !! )



ブルー「あの、僕に何か用ですか?」クルッ

弦楽器を背負ったニート「ん?別に俺はあっちの方角に用事があるだけだぜ」




ブルー「そうですか…」

弦楽器を背負ったニート「おう!ところでアンタさ!」





1つ、失敗を犯した

此処で振り返ってこの男に声を掛けた、そのまま無視して相手が諦めるまで歩けば良いものの…

ブルーはこの男に『会話を切り出させる機会を与えてしまった』のだ




      成績優秀で融通が利かない世間知らずの天才

      田舎からやってきた無職<ニート>…なのだが、世間を巧く乗れる男



アニーに続く後の腐れ縁その2との出会いだった
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/15(水) 22:55:03.57 ID:2QrfuOapo

いい根性してんなアニーww
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 11:30:00.66 ID:LmV+rv+aO
乙乙
ボれるとこからはボっておく精神
そしてここでリュートか、続き楽しみ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/16(木) 17:01:43.09 ID:QXh9rXoy0
続き来てた

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 00:19:01.93 ID:1MyQWKN50




弦楽器を背負ったニート「その法衣、[マジックキングダム]の人だろ?俺、前に観光に行ったからよくわかるんだ〜」


ブルー「…そうですが何か?」



好奇の目に晒されるのは好かない、見世物小屋の珍獣じゃないんだぞ、と苛立ちが滲みだしそうなブルーは
さっさと会話を切り上げてしまいたかった





この返答はミステイクだった





弦楽器を背負ったニート「ふぅん…やっぱそうか〜[ルミナス]とも[ドゥヴァン]とも違うからそう思ったんだよな〜」

























弦楽器を背負ったニート「あの国ってさ、国民は他所のリージョンへ外出が禁止されてんだろう?アンタ何者なんだい?」

                    ブルー「!」ハッ!





[マジックキングダム]は国の最高機関である"学院"が定めた者以外、リージョン界の外遊を許可されない
ブルーの返答はこの男の興味心を更に掻き立てる返答だったのだ







ブルー「…貴様」ジロッ




空気が変わった、眉間に皺を寄せ不機嫌を露わにするブルーに動じない男は呑気な声調で
「おいおい、そんな怖い顔しなさんなって、単なる興味本位さ」と笑うのだ




怖いモノを知らないのか、それともこの男が大物なのか、その態度が彼は気に喰わなかった


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 00:43:33.17 ID:1MyQWKN50


だから…ちょっと脅してやろう、と彼は考えた、無論この鬱陶しい男を遠ざけたいのもあった


ブルー「…故郷のちょっとした風習でな、俺は外界でより高度な術を学ぶために資質を得る旅をしている」


弦楽器を背負ったニート「へぇ〜、それにしても『俺』かぁ、なんとなく思ったけどやっぱ猫被りだったんだなアンタ!」


ブルー「」イラッ


へらへらと笑いながら横を歩く男にムッとしながらも話しを続ける

ブルー「己の術を磨き、どこまでも洗練しそして…」




弦楽器を背負ったニート「そして?」ワクワク










          ブルー「故郷の慣例に従って、自分の身内を殺す」









御伽噺に出て来る魔女か何かだ、口元を歪めて悪い魔女が魅せる様な笑みを浮かべる

彼の予想通りとでも言うべきか、目の前のボサボサ髪の男は面食らったような顔で立ち尽くした




ブルー「国の習わしで、双子が生まれた場合…片割れがもう片方を殺すという風習なんだ」

ブルー「分かったか?血が繋がった相手を殺すという宿命なんだお前に構ってる暇なん「アンタ双子なのか!すげー!」





ブルー「……は?」




弦楽器を背負ったニート「いやぁ〜俺んトコの地元にも双子が居るんだけどさぁ、双子って珍しいからなァ」

弦楽器を背負ったニート「それにしても双子同士で争うって物騒だな、もっと平和的に解すりゃいいのに」






ブルー(…な、なんなんだこの男は!!)




頭痛がしてきた、自分からこの話題を振っといてなんだが、このノリは何だ!?


弦楽器を背負ったニート「宿命の対決かぁ…あっ、そういや俺まだ名前言ってなかったな俺、リュートってんだ!」

リュート「兄ちゃんアンタは」


145 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 01:21:46.60 ID:1MyQWKN50



ブルー「……なんでお前に名乗らねばならんのだ」


ペースが乱される、艶やかな金髪を鷲掴むように頭を抑え、この―――…鋭いんだか天然ボケなんだかよく分からん男に
目線も合わせずに答える




リュート「えぇー、別に良いだろう減るもんじゃねーしよぉ……なら、そうだな…」ジーッ




ブルー「…」アタマ、イタイ




リュート「よしっ!」グッ



リュート「アンタ蒼い服着てるから、ブルーな! Mr.ブルー!」ニカッ!



ブルー「っ!?」ドッ!




すっ転びかけた、本当にペースが乱される


リュート「んん?どうしたんだ?」


ブルー「…いや何でもない」


―――
――




リュート「って訳で俺は故郷から就職できる場所を探して旅してるってワケさ!」

ブルー「朝っぱらから酒臭い匂いを漂わせてる奴が言う台詞じゃないがな」




二日酔いのリュートに指摘する、終始調子を狂わされっぱなしの彼は、追い払うことを諦めた…



リュート「それにしてもアンタも銭稼ぐのに困ってんだなぁ」

ブルー「ふん…」



観念したブルーは口数の多い男を話しながら歩いていた、昨日のがめつい女に関する愚痴や[ルミナス]に行ったのに
無駄足だった事…

誰でも良いから胸の内を吐きたかった、追っ払えないなら精々コイツを話し相手ぐらいにしてやろうと開き直ったとも言う




リュート「しっかし、アンタ聞けばとんでもない女にふっかけられたんだな、そんな簡単に用意できないぜ?」

ブルー「ああ、まったくだ…」ハァ…


146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/06(水) 01:36:27.90 ID:1MyQWKN50


リュート「俺の知り合いにもお金が好きな女が居るけど…」


ブルー「はっ!そんな奴がこの世に何人も居るなんぞ考えたくも無いことだがな!」




鼻で嗤う金髪の術士は知らない、実は今隣を歩いている男の知り合いの金に目が無い女が同一人物であることを


リュート「…お金、金…カネ…」










リュート「!」(豆電球)ピコンッ!




リュート「なぁ!!さっきの術![ゲート]だっけ?あれって一度行った事ある場所ならどこでも行けるのか?」ガシッ


ブルー「なんだ突然藪から棒に…」



肩を強く掴まれ訝し気に眉を顰めるがそんなの知った事かとリュートは続ける








      リュート「俺とコンビ組まないか?今日一日でアンタを大金持ちにしてやれるぜ!」ニィ!!


                ブルー「…どういうことだ?」







リュート「へっへっへ!なぁに!真面目に働くのも良いことだけどさぁ〜、こういうのは財テクってのがあるんだ」


リュート「良いか!兄ちゃんよォ、まずアレを見な」びしっ



ブルー「?」チラッ





         金券ショップ:クーロン店『 金、銀、プラチナ…なんでも買います! 』ドンッ☆






ブルー「…あれがどうかしたか?」


リュート「移動しながら話す!まずはシップ発着場だ!そこから[ネルソン]へ行くんだよ!」ダッ

ブルー「お、おい!待て!まだ俺はお前と組むなんて一言も言ってないぞ!説明しろ!!」ダッ!


147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 01:54:39.75 ID:3xGmg1wE0
金転がしか、俺はジャンク屋で稼いでたなあ
148 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 03:06:44.07 ID:1MyQWKN50


―――
――




…これ弦楽器を背負ったニートことリュートとの出会いであり、今現在巨大生物[タンザー]に飲み込まれた発端である

割愛するが、リュートと名乗る青年の提案はこうだった




[ネルソン]というリージョンがあり、そこでは金塊を一つ500クレジットで購入できる…

世界を統括する政治機関…トリニティに属さないリージョンの為、グローバル通貨であるクレジットが手に入らない
つまり他所のリージョンから輸入ができない

そこで観光客に地元の品とクレジットの交換を求めるケースが多いのだ




金塊、金のインゴットが1つ辺り500という価値に対し、此処[クーロン]街における金相場は1000…

早い話が安い所から仕入れて物価の高い土地で売り払う、単純な転売という事だ


[ネルソン]は今説明した通り、少々特殊なリージョンで片道だけでも船の乗り継ぎが必要という手間の掛かる土地だ



船賃と時間、人件費を考えるなら大抵の人は素通りしていく、資産家が一気に買い占めて一気に売り払う
極力、安くないだろう船賃を払って何度も行ったり来たりしない、という前提で漸く利益を取れる




そう…"何度も船賃を払って往復するから収支差益があまり良いモノと呼べない"のだ






なら交通費用が無料<タダ>だったら?余計な経費が無ければその分黒字が増えるのは当然と言えよう


この案に術士は目を丸くした、このちゃらんぽらんなニート…中々面白いことを考えるじゃないか
ブルーはこれに承諾、さっそく船に乗り込み一攫千金目指して船内で身を休める事にした

















 世の中、甘くない

 乗った船が童話のピノキオに登場するオバケ鯨よろしく船を飲み込む怪獣[タンザー]に飲み込まれるアクシデントと遭遇







  ブルー「 ど う し て こ う な っ た !!」

  リュート「いや〜、ついてないなぁ!」ハッハッハ!


149 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 04:13:41.48 ID:1MyQWKN50


 巨大生物[タンザー]…あらゆる生物が生存不可能な混沌の海に唯一耐性がある生物であり
その体内は一つのリージョンとも呼ばれていた


がっくりと膝をついて項垂れる金髪術士の隣で何が可笑しいのかお気楽に笑う男、その少し先には他の乗客達が
困惑の色を浮かべ、思い思いに不安を口にしていた


「ここは何処だ!」
「ひょっとして[タンザー]とか言うのに飲み込まれちゃったの!?」

「嘘だろ…俺は船乗りたちのホラ話だと…」









緑の獣っ子「あれ〜?…ねぇメイレン、僕達[ヨークランド]に行く予定じゃなかったの?ここが[ヨークランド]?」

チャイナドレスの美女「違うわ…此処は[タンザー]よ…予定と違ったけど此処にも"指輪"があるわ」







リュート「ん?あれは―――…」

ブルー「…いや、こういう時こそ[ゲート]で脱出すれば」ブツブツ…







   「おらおら!!全員動くんじゃあねぇぞ!船から積み荷を降ろせぇ!」
   「へっへっへ…久々のシップだぜ…酒や食料はたーんとあるだろうなァ」



見るからに柄の悪い…ヨレヨレの服を着た男達、恐らく"不幸にもタンザー]の先住民となってしまった輩"なのだろう


   「このバケモンに飲み込まれてから俺達の食糧も底をつきかけてたんだ…天は俺達を見捨ててねぇぜ!」へへっ

   「オラァ!ハチの巣にされたくなけれりゃ全員荷物を寄こしなァ!ついでに金目のモンもだーーーっ!」ズドドド




リュート「おい、ブルー、いつまでもそうやってぶつくさ言ってる場合じゃないぜ?」ポンポン

<ヤメロー
<逆らう気か!?この獣!


ブルー「そうだ、此処にはアニーから聴いた話だと[活力のルーン]があるはずだ、ならば不運なんかじゃ――」ガバッ!

ブルー「…?なんだあの連中は」


<ほー、アンタら強いね


リュート「此処の先住民じゃないか、…ってかお前今アニ「ちょっと待ったぁ!」



     ザワザワ…

              …誰?


弁髪の男「その女についていってはならん!」

150 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/06(水) 05:14:55.97 ID:1MyQWKN50


弁髪の男「その女は悪名高いリージョン強盗団のノーマッドだ!」


「強盗!?」
「マジ!?」
「いい女だ…」ポーッ


ノーマッド「ああ、そうさ、あたしゃ外じゃそれなりに悪さしまくったさ」

ノーマッド「言い訳する気はさらさらないけど、どうすんだい?ちんたらしてたら[タンザー]の奥まで飲まれちまう」

ノーマッド「あたしについてくも良し、そのハゲ頭についてくのも良しさね」





弁髪の男「ハゲではないッ!!」




ノーマッド「ふんっ!」シュタッ!



ざわざわ…がやがや…



リュート「ほへ〜…なんか俺らが喋ってる間に色んな事が起きてんな〜…ってブルー?」チラッ











ブルー「…」スタスタ




リュート「あっ!?おい!勝手に独りで何処行く気だよ」トテトテ…!




ブルー「ふん、外野共が何をしようが知ったことか、俺は此処でルーンを見つけてあとは[ゲート]で出て行く」スタスタ



先の喧騒…弁髪の男と此処に呑まれたらしい強盗の女首領との小競り合いだの、なんだのは微塵も興味が無い
 自分の目的をとっとと達成して此処を出て行くだけである…[ネルソン]の金塊の売買に関しては何でもリュートに
コネの効く人物がいるらしい、リュートくらいは連れてってやろう、彼はそう言いて他の群衆とは違う道を―――


2人で[タンザー]奥へと歩いていくのであった





そして―――今現在




         リュート「いやぁ〜良かったじゃんか!探してたルーンが手に入ったんだろう?」






                       ブルー「…」

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 08:49:22.05 ID:vyhsoMPdO

金転がしの利益を思えばこの程度苦労でもなんでもないどころかルーンまで手に入るとかいいことづくめであるんだよなぁ
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 12:07:19.61 ID:FNLOgK98O
乙乙
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/06(水) 16:11:38.73 ID:1o+2dcah0
ブルー編だとそのまま本当にリージョン移動でフェイオン見捨てるから仲間にできないんだよなぁ
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:18:41.27 ID:eD7lB2/00



   リュート「しっかし凄かったなぁ!…あの術、[ヴァーミリオンサンズ]だっけ?」


 時折…足元にある無数の網目模様じみた緑色の血管が脈を打っていた
それは偏にこの巨大生物[タンザー]がちゃんと生きている証拠であり、ぶよぶよとした毒々しい肉の壁も
天井から垂れ下がった人間<ヒューマン>の肝臓に似た何かも規則的に動いていた


生物の体内に居るというのは本能的に居心地が悪い



今居る所が身体の部位で言うところの胃、消化器官にあたるのならば尚更であった




術士ブルー、放浪の詩人…もとい就活中の男リュートは[タンザー]内部の最深部へと脚を踏み入れた

磯巾着のような触手蠢く入口に自ら飛び込み別の区画に移動する事もあった、胃液の様な粘液で滑る下り坂も降りて行った
そうして、到達したのが通称"スライムプール"と呼ばれる場所だ


…尤も、この二人は此処に詳しかった先程の弁髪の男…フェイオンという名なのだが、その男を無視して手探りで来たから
そのような名称で呼ばれている事など露知らずなのだが



胃の消化液の代わりをしているのかどうかは分からない、だが此処に誤って入り込んだ者は
無尽蔵に湧いてくるゲル状モンスター[スライム]の群れに囲まれ四方八方から[溶解液]を噴きかけられて溶かされるだろう






 - アニー『―――ってわけよ、ヤバかったわマジで…全体攻撃無いとキツイわよ[活力のルーン]…』ハァ -





 ブルー(…早速情報が役に立ったか)





ブルーは予め此処に一度来た経験のある人物から覚えている限りの道順と対策を聞いていた
だから、弁髪の男達を無視して勝手に此処まで来れたのだ

そうでなければ、何の手がかりも無しでルーンを探すなどと言う無策には走らない


以前、此処に来たというアニーは自身含めた3人組で、剣、銃、拳で無限湧きの[大スライム]に苦戦したそうな





 複数の[大スライム]とその後ろに更に一際大きい[特大スライム]…それ等は
自分達に生を与えてくれる大事な物を護っていた

キラキラと輝く結晶体、水晶玉にも見えるその中に刻まれた"活力"を意味するルーン文字を




リュート「真っ赤なデケェ宝石が出てきて、バーン!って割れて皆ぶっ飛ばしちまうんだもんなぁ〜」

リュート「俺も覚えらんないか?あれが出来たらスゲーだろうしよぉ」



ブルー「貴様には無理だ、あれは【魔術の"資質"】を持った者だけが扱える高位の術だ」

ブルー「魔術の"資質"は[マジックキングダム]で生まれた人間にしか授かる事ができん、諦めろ」


155 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:40:09.04 ID:eD7lB2/00


 単細胞生物の群れを昨日の粗蟲共と同じく、自身が使える最大火力で消し飛ばし
粘液のプールから新たな生命を持って再誕する前に手早くルーンが刻まれた結晶体に[触れる]…これで手持ちの小石に
2つ目のルーンが刻まれた[保護]と[活力]…



 後は[解放]と[勝利]だけだ…それでブルーは【印術の"資質"】を会得できる…っ!
祖国の勅令に、育ての親への奉公がまた一歩出来る訳だ




ブルー「ふん…、用が済んだならこんなとこに長居は無用だ、リュート掴まれ、此処を出るぞ」つ【リージョン移動】




ブルー(身体中がベトベトだ……くそっ!一度シャワーを浴びたいくらいだ)チッ



リュート「おう、今行く…ぜ?」


ブルー「どうした!さっさとしろ!」

リュート「…なぁ、ブルー、アンタ「なんだ歯切れが悪い、さっさと言え」



リュート「んー、まぁいいや、アンタ早く出たそうだし後で言うよ」スタスタ



コイツは何を言ってるんだ?身体中、粘液塗れでどろどろのぬとぬと状態の術士が少しだけムッとした顔になる
彼は目の前のお気楽者が何を言いたがったのかすぐには察せなかった


舌打ちするくらい、早く帰って湯浴みをしたいと考えていたのも相まったのだろう










リュートが蒼いの術士の足元を凝視していた理由……水溜り(?)を踏みつけたブルーの脚に"そいつ"が這っていた事に






   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー。」ピトッ ヨジヨジ…







…こうして[ゲート]の術で 2 人 と "1 匹"  が[タンザー]から脱出したのであった











【双子が旅立ってから2日目 朝 10時25分  ブルー[タンザー]脱出】


―――
――

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156 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 04:43:06.02 ID:eD7lB2/00
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                オマケ【術士が去った後の[タンザー]】


 【双子が旅立ってから2日目 朝 10時 26分】


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157 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/10(日) 05:02:10.93 ID:eD7lB2/00



弁髪の男「ハイーーーーッ!!」ヒュッ!ゲシィッ


「ウゲェ!?」ドゴッ

「野郎!―――おぼげぇ!!」ドシャッ!




緑の獣っ子「…ふぅ、フェイオン!大丈夫?」



 [あびせ蹴り]を強盗団の一人にお見舞いした男は背後を狙われていた、凶器を振り下ろされるよりも先に
緑色の影が弁髪の男―――フェイオンを救うべく背後から不意打ちを仕掛けようとした相手の鳩尾目掛けて飛び出した




フェイオン「すまない、クーン助かったよ」


クーン「えへへ!褒められちゃったぁ!」



チャイナドレスの美女「クーン!フェイオン!まだ終わってないわ!和むのは後よ、後!」ジャキッ



ケモ耳と尻尾の生えた緑の子供とフェイオンに声を張り上げながら前方に[アグニCP1]を構え直す
3人は今現在リージョン強盗団の女首領ノーマッドを追っていた

ノーマッドが所有する"指輪"を手に入れる為だ



フェイオン「くっ、しかし…数が多すぎるメイレン!」


メイレン「ええ、雑魚に一々構っている時間は無いわ、そうこうしてる内に彼女は更に奥に逃げてしまう…っ」ギリィ




チャイナドレスを着た紫色の髪を結った美女が儘ならないこの状況に奥歯を噛み締める
このままでは"指輪"に逃げられてしまう、と




               グラッ…!





その矢先だった、突然、[タンザー]が苦しみ出すかのように暴れ出したのだ!


体内に居る彼等彼女等、皆に聴こえる程の唸り声を、…身体全体の細胞が地震災害に遭ったかのように揺れ動き
その場で交戦していたあらゆる者達が思わず、蹲る程の揺れ…






それもその筈だ



[タンザー]の体内、奥部で広範囲に渡る、とんでもない火力の全体魔術をどっかの金髪の蒼法衣の男がぶっ放したのだから





158 :今回此処まで [saga]:2017/12/10(日) 05:15:40.46 ID:eD7lB2/00



「な、なんだってんだ!今のは!!」

「う、うるせー!俺が知るかよ、んなことより野郎共を」










「てっ、てぇへんだ!てぇへんだぁぁァーーーーーーーーーーーーー!!」ハァハァ…!







「おお!丁度いい所に!お前!加勢し「ばっきゃろぉ!!それどころじゃねぇ!!フェイオンの旦那ァ!後生だ!」バッ






フェイオン「な、なんだ…一体?」

メイレン「気を付けて、私達を油断させる罠かも」ジャコッ!チャキッ!


フェイオン「ま、待ってくれ…相手はあの通り土下座までしてるんだ話くらい聞くんだメイレン」ガシッ

クーン「そうだよ、メイレン!鉄砲を下ろしてあげて」



メイレン「…引鉄は引かないわ、でも牽制の役目はさせてもらうから」



フェイオン「…昔からそうだった、こうなると君は梃子でも動かないからな、分かった」




フェイオン「すまない、そのままの状態で話してくれ!何があった!」





「い、今の揺れで…お頭が!お頭が[タンザー]に喰われちまったんだ!」

「な、なんだってーーー!?」
「お頭がァ!?」


フェイオン「何!?ノーマッドの奴が!?」

メイレン「!?!?!?"指輪"がっ!?」


クーン「??? 何言ってるの?ボク達は[タンザー]に飲まれてるでしょ?」



「い、いやそういう意味じゃなくてよぉ…なんか[タンザー]の器官だか何だか、にウチのお頭が喰われかけてて…」

「あぁ!!んなこたぁどうでもいい!頼む!フェイオンの旦那ぁ、俺達じゃどうにもできねぇ!お頭を!!」


フェイオン「うむ!例え悪党だろうと善人だろうと関係ない!あんな奴でも助けねば!」

メイレン「ええっ!指輪を手に入れなくちゃ!」

クーン「ああ!待ってよぉ〜!」

〜 オマケ1 完〜 
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159 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 14:10:27.27 ID:pUf27zNZo
おみやげはブルーが持っていったからクーンはもらわずにすむな
やったねクーン餌の取り合いにならずにすむよ!
ブルーさんは御愁傷様です
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 09:16:53.61 ID:RpCcFrYsO
そういえばスライムついてきてたなww
乙です
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 14:21:42.89 ID:7YoFnztT0
このメイレンさんの執着心・・・例のアレに冒されるの早すぎませんかねぇ(困惑)
乙乙
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 18:44:01.92 ID:IWh+TUR40
メイレンは許さない(半ギレ
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!red_res]:2017/12/12(火) 22:27:19.59 ID:oBhf20Wx0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
 露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
 額に浮き出る玉汗をハンカチで拭いながらも聖堂へ脚を運び、修士として勤行に励む者のあらば
 快晴からのさして嬉しくも無い贈り物に根をあげ、ポプラ並木の木陰で涼を取る住民…



 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩く







    【わぁ!見てよ!広場に青いシートが敷いてあるよ!キミの服と同じ色だね!!】
    『…何の変哲も無いブルーシートだろ、大袈裟な…』


    【えへへ〜!僕はお外で遊ぶ事ってあんまりないから色んな物が珍しいんだ】
    『そうか、…どうやらアレは露店のようだな、縁日にはまだ早いが他所のリージョンから来たようだ』


    【他所のリージョン!?凄い凄い!見てみよう!】
    『お、おい!引っ張るな!』



    「いらっしゃい!色んな品があるよ!」



    【わぁ…これ何ですか!】

    「それはおもちゃのピストルだよ、空気しか出せないけど恰好良いだろ?」

    『…ふむ、[ワカツ]剣道?…面白い本だな』

    「ほー、キミ[ワカツ]流の剣術に興味があるのかい?いやー[シュライク]書店から買った甲斐があったね」



    【? 露店のおじさん、この本は?】ペラペラ


    「あー、それは―――!?」





    【…?なんでこの女の人達みんな服脱いでるんだろう?】キョトン


    【ねぇキミ、なんでこの人暑いの?】スッ


    『……なんだ、この本、文字が全く書かれていない上に下品な女達の絵だけ…』ペラペラ


    『無意味な本だな』ポイッ




    「あ、あー、キミたちこれは見なかったことにしてくれ!なっ!」アセアセ

          【『???』】


―――
――

164 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/12(火) 22:35:31.15 ID:oBhf20Wx0
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―――って、ってば、ねぇ!ルージュ! 起きて!!そろそろ到着するよ!!























              ルージュ「…むにゃ?」パチッ













アセルス「はぁ〜、漸く起きた…確かに[ラムダ基地]でのドタバタで疲れたけど、油断し過ぎだよ」

アセルス「また荷物盗まれるよ?」



ルージュ「…あー、ごめん、なんか小さい頃の夢見てた…」ゴシゴシ


白薔薇「夢ですか?」



ルージュ「うん、夢だから顔がぼんやりとしか思い出せないけど…昔、仲の良い友達と遊んだ夢…」ふわぁ…







エミリア「3人とも![クーロン]行きのチケットどうにか手に入ったわ!」タッタッタ…!










【双子が旅立ってから2日目 朝 11時17分  [マンハッタン]:ショッピングモール】
165 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/13(水) 00:26:24.66 ID:hwTtdp/P0



 都市型リージョン[マンハッタン]…リージョン界を統括する政治機関"トリニティ"の御膝元であり
また最先端科学の髄は此処に在りとさえ言わしめる程に発展している


貿易センタービルが立ち並ぶ大都会の中央にはトリニティの"セントラルゲート"が聳えている
 今現在、彼等はショッピングモールの真ん中で別行動を取ったエミリアを待っていた



白薔薇(人がたくさん居ますわね…)キョロキョロ



[ファシナトゥール]から数百年余りは他所のリージョンに出た事が無い妖魔の姫君は現代の発展に目を丸くしていた

 何処もかしこもも、人、人、人…居眠りをしていたルージュとアセルス等と共に待つ傍ら、摩天楼を一頻りに眺めては
ある一点に目を向けた





白薔薇(…?あの塔、…いえ、"ビル"というのでしたね、妖魔の気配がしますが…)





妖魔は機械音痴の種族、それもあってこのリージョンでは妖魔は特に珍しい
…従って、"何故か大勢の妖魔が集まっている"場所が嫌でも目に付くのだ






後に、とある出来事が切欠で昇る事になるビル…"キャンベル貿易ビル"である




ルージュ「すいません、僕達の分のチケットまで確保して頂いて」


エミリア「いいーの!いいの!ヤルートの件を手伝ってくれたお礼も兼ねてるから」


 パチッとウインク一つ、金髪美女は朗らかな笑みで返してくれる…あの後、結局ヤルートには逃げられ
エミリアも追っていた仮面の男ジョーカーに関する情報は得られず終いに終わった


唯一の救い、とでも言えば良いのか…捜査中にアセルスの知り合い…ゾズマに出逢い
『モンスターを侵入させて基地を混乱させたんだから責任ぐらい取ってよね!!』と強気に出たアセルスが
拉致監禁された女性たちの身柄保護、そして基地から脱走の手助けをゾズマ率いる部下の妖魔達に手伝わせた事ぐらいだ






…どうでもいい話だが、最初ゾズマの恰好を見たエミリアは黄色い悲鳴をあげて銃をフルオート射撃しそうになったそうな


女装男子に続き、上半身裸で乳首に星型ニップレスという色黒イケメンという時代を先取りしたファッションの妖魔と遭遇



なんというか、その後もどっと疲れた様子で「ばかやろー…」と力無く嘆く姿が物悲しかった





ルージュ「ほんっとうにすいません!!」ペコッ ペコッ

アセルス「私からも本当にごめん!私のトコの変態が!」ペコッ ペコッ



エミリア「い、いや!良いから!二人共顔上げて!周りの人の目線が痛い!?」

166 :このレスは判定に含めない [saga]:2017/12/13(水) 01:46:42.60 ID:hwTtdp/P0




      エミリア「白薔薇ちゃん!この二人をどうにか…ってあれ?白薔薇ちゃんは?」








ピタッ、助けを求めだしたエミリアのその一言が"皮肉"にも目の前の二人を止めた




周りはこれでもかと言わんがばかりの人混み、その雑踏溢れる賑わいの中に花飾りの貴婦人の姿は―――無い





アセルス「し、しろばらぁぁぁぁぁ!!!」

ルージュ「白薔薇さんがいなくなったぁ!」ガーン!?






…妖魔は機械音痴の種族である、そして浮世離れした妖魔の姫君は絶賛、機械仕掛けの摩天楼で迷子となっていた


―――
――





白薔薇「」ポツーン


白薔薇「こ、此処は一体どこなのでしょうか…」オロオロ







Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…んで、次は何処行くんだ?」テクテク



記憶喪失のロボット「レオナルド博士にメモリを増やして頂きました」

記憶喪失のロボット「その点を踏まえ次は[シュライク]、その次に[シンロウ]へ行く事を推奨します」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「なら次は[シュライク]だな…っと」

記憶喪失のロボット「どうされましたか?」


Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…いや、派手な格好だなって、あんまジロジロ見るのも悪ぃな、行くぜ!」

記憶喪失のロボット「はい」




白薔薇姫の姿はこの通り傍から見て目立つ、おとなしくしていればすぐに3人に見つかるのだが
 見慣れぬ環境…[ファシナトゥール]ではまずお目に掛かれないメカの存在が彼女を"じっと"はさせなかった

人は自分にとって慣れぬ物、理解できない物を見ると興味を示すか、訳も無く畏れてそれから遠ざかろうとする心理が働く


彼女が前者か後者か、どちらの心理が働いたのかは分からないが、その場でとどまるという事はさせなかった
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 02:13:57.68 ID:+OjESLO60
ワカツの剣豪!ワカツの剣豪じゃないか!
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 08:06:15.86 ID:TlvmAdiUO
ちょいちょいサブキャラが出てくるのが楽しいな
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/13(水) 14:15:37.96 ID:mc53ejAqO
乙乙
ゲンさんはカードと小石両方取って先にスタメン入りだったわ
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 23:37:55.77 ID:LuywdMZLo
物語が交差してる感じがすごくいい
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 15:45:37.81 ID:8tJ19dmT0







クレイジーなIRPO隊員「さぁ〜て…キャンベル社長のトコに行く前にちと早いがちょっくら昼飯にでも―――」スタスタ












白薔薇「」オロオロ



クレイジーなIRPO隊員(なんだぁ?ありゃぁ…映画の撮影か何かか?)




 近未来都市の摩天楼に一人の貴婦人が居る、通りがかりの男はその麗しの美人をマジマジと見つめていた
ブロードウェイのミュージカルシアターから舞台衣装のまま女優さんが逃げ出して来たのか、と通行人なら皆が思う

 男は全身黒づくめ、靴もジーンズもダークカラーで統一していて襟元に毛皮が付いた革ジャケットを羽織り
裾口から先の手首もこれまた真っ黒なグローブという服装だった

唯一、暖色が見えるとすれば、襟元の毛皮と紅いネクタイ…そして外側が少しはねたショートヘアのくすんだ金髪だ



ポケットに手を突っ込み、先程まで煙草をふかしながら歩いていた彼は遠目に見える"問題の企業"を目指していた

職業柄、いつも手帳と何処のリージョンでも使用可能なタブレット端末…そして、腰ベルトの背には銃が備わっている






彼は[IRPO]隊員だ



I…inter<インター>

R…region<リージョン>

P…patrol<パトロール>

O…organization<オーガニゼーション>






即ち…混沌の海に浮かぶ無数の惑星<リージョン>を跨いで、日々犯罪者を追い続けるリージョン警察である


 今日、彼は[IRPO]本部から[ルミナス]で起きた戦闘騒動の調査後
すぐに此処[マンハッタン]にある、とある企業を捜査する手筈だった、吸い殻をポイ捨てしたいトコだったが
 仮にも市民のみなさんを護るお巡りさんがそれをやると苦情が来るから面倒臭がりの性格である彼は渋々と
最寄りのコンビニによって煙草の吸殻を捨て、仕事前にお気に入りのファーストフード店にでも入ろうかとした矢先だった



クレイジーなIRPO隊員「…あー、そこの麗しいお嬢さん、何かお困りですかな?」ニッコリ


白薔薇「?」キョトン



紳士スタイルで美女に接する下心丸出しな隊員Hさん
172 :ちょっと席を外します [saga]:2017/12/19(火) 16:14:23.14 ID:8tJ19dmT0


クレイジーなIRPO隊員「あぁ、失礼、私はこういう者でしてね」ピラッ


黒ジャケットの男はそういうと腕に[IRPO]の正式隊員であることを証明する腕章を見せる、これに白薔薇はしばし戸惑った




彼女は外界を、世間一般の常識を知らない

無知という訳ではない、数百年あまりの悠久の時を鎖国状態のリージョンで過ごしたからだ



稀に[ファシナトゥール]にIRPO隊員が来る事があってもその腕章が何を意味するのか、知らぬのだ



白薔薇(…!そうですわ!アセルス様が教えてくださいましたわ、これは確かパトロールの御方の!)ハッ!


白薔薇「刑事さん、でよろしいのですね?」


クレイジーなIRPO隊員「ええ!そうです!見たところお困りのようですが、何かありましたか?」



男は大袈裟に両腕を広げておどけてみせる、芝居じみたその仕草に緊張が解けたのか白薔薇も小さく笑い
仲間とはぐれてしまった事を告げた



クレイジーなIRPO隊員「なるほど、…お仲間さんのお名前は?」スッ



情報端末を取り出す、全パトロール隊員に配布されたタブレットは各リージョンの住人は無論、シップ発着場から
下船したお客の情報も問い合わすこともできる

パスポートの偽装、違法シップの運用を想定してだ

パトロール隊員はあらゆる権限を持たされており、隊員1人の権限で企業、店舗の営業停止から突然の立ち入り捜査まで
許可されている……簡単に言えば、この広いリージョン界でほぼ何でもできる権力を持っている


 それゆえに権限の悪用や、"収拾がつかない状態"にならぬようにと、隊員は増やし過ぎず…それでいて
人格面、能力全てが厳選されている





余談だが隊員は全部で な ん と "6 名" …いや、1人殺害された、とのことで5名である


数多の惑星<リージョン>に対してたった5〜6名ほどしか任命されない、逆に言えばそれだけ権限を持った者達なのだ





白薔薇「…その機械は?」


クレイジーなIRPO隊員「ん?ああ、これは発着場から来た人達を調べる機械でしてね」

クレイジーなIRPO隊員「あぁ…妖魔の方ですか、通りでお美しいと思いましたよ」ピッピッ


人助けの為であって悪用する訳じゃないのでご安心を、と笑う男に白薔薇はどう答えるべきか困った








[ラムダ基地]から船を奪ってなんとか逃げ出して来た自分達をどう説明する?

もっと言ったら、12年前に行方不明となったアセルスの名前なんて出せるかッ!面倒な事になるに決まってるッッ!
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 16:50:06.40 ID:v3eHFheI0
エミリア、ゲンさん、ヒューズ、あぁそうか ブルーが印術√だからか
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 18:41:50.71 ID:qtK1GM2/O
なんか誰の名前出しても面倒くさそうww
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 20:08:34.96 ID:jCosaYnU0
エミリアなんて無実なのにヒューズに刑務所送りにされたもんなw
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 21:13:43.90 ID:0fm3HvFEO
>>173
何言ってるか分かんなかったけど秘術イベントで仲間に出来るキャラって今気がついた
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 00:48:58.49 ID:/NaxgDC30


 しばしの戸惑い、その一考に革ジャケットの男は少しだけ眉を顰めた、名前を言うのに何を躊躇う必要がある?
腐っても厳選される程には有能な刑事さんのようだ







   白薔薇「私のお連れの方なのですが…その"ルージュ"という殿方なのです」


クレイジーなIRPO隊員「ほー、ルージュ…フランス語で赤ですか」ピッピッ





クレイジーなIRPO隊員「………」ピッピッ




クレイジーなIRPO隊員「お嬢さん、お間違いはありませんかね…?ウチの機械に、"ルージュって名前が出ない"ですがね」







空気が変わった。









白薔薇「それもその筈ですわ」

クレイジーなIRPO隊員「はぃ?」



白薔薇「その御方は術士の方なのです、昨日[ルミナス]で出会い術の修行の旅にお付き合いすることになりまして」

白薔薇「ルージュさんは[ゲート]という術でリージョン間を移動できるのでして」

白薔薇「私達はシップに乗ってきたわけではないのです…だからどうご説明すればよいのか迷いました」



クレイジーなIRPO隊員「…」



男は下顎に手を当て考えた、なるほど、それなら入国…もといリージョン入りしても記録に残らない訳だ
術による移動事態はトリニティの制定した法律上、違法でも何でもない

名前を端末で検索しても情報が無いから徒労に終わる、彼女が名前を出すのに躊躇ったのも全て辻褄が合う









   クレイジーなIRPO隊員(俺の勘が告げてやがる…どうもそれだけじゃねぇな…それに[ルミナス]から来ただと?)


   クレイジーなIRPO隊員「なら此処は一つ、元来た道を戻ってみるってのはどうかな?」


   クレイジーなIRPO隊員「お連れさんとはぐれたんなら、向こうも探してるだろうし…可能性が高いと思うぜ?」



178 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga 15分ルール適用 安価採用可能]:2017/12/20(水) 01:19:24.77 ID:/NaxgDC30



クレイジーなIRPO隊員「自己紹介が遅れたが、俺はヒューズって言うんだ、麗しのお嬢さんお名前をお伺いしましょうか」



ニィ、と男は…ヒューズは笑う、…コードネーム、一度キレたら手の付けられない男<クレイジー・ヒューズ>

本名ロスター捜査官の通称だ



白薔薇「白薔薇と申します」ペコリ



ヒューズ「白薔薇さん…う〜ん、なんとも可憐なお名前だ、おっと途中から敬語じゃなくなってるがすいませんね」

ヒューズ「俺はどうにも敬語って奴ぁ苦手でしてね、教養の無さは多めに見てくださいよ、っと」



へへっ、と笑うヒューズ、ふふっと笑う白薔薇…



 掴みは上々、綺麗な女性に良い男アピールができたヒューズは此処でもう一押し
紳士的にエスコートして差し上げようと手を差し伸べる




うんうん、これも警察として当たり前の事だ、なーーんにも下心なんて無いモンねー、と内心で呟きながら




































   アセルス「この痴漢めぇぇ!!白薔薇から離れろおぉぉぉぉ!!」ゴスッ!!!!

   ヒューズ「へっぶぁぁぁぁっ!?」ボキャァ!!





鼻の下が思いっ切り伸びまくっていたお巡りさんに清々しい程に右ストレートが決まった


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 01:33:09.99 ID:/NaxgDC30



アセルス「このっ!このっ!このぉ!!!白薔薇逃げて!!」


白薔薇「あ、あのぉ…アセルス様」オロオロ


ヒューズ「ひでぶっ!?おい、おま――ちょ、やめ、あっぶぅ!?」












  ヒューズ「 や め ろ っって ん だ ろ が ッ!!こ の コ ギ ャ ル が ぁぁぁ!!」クワッ


   アセルス「きゃあああああああぁぁぁぁ!?!?」







ルージュ「白薔薇さんっ!やっと見つけ―――…えっとこれはどういう状況?」


<キャー!ヘンタイー!

<ウルセー!!



白薔薇「…何から説明すればいいのか」



―――
――





アセルス「ごめんなさい!ごめんなさいっ!」

ヒューズ「…あぁ、俺も悪かったわ」ポリポリ



アセルス「白薔薇を保護してくれてた人に、あんな早とちりを……」



どうにも白薔薇絡みになるとアセルスは冷静さを欠く傾向があるがある…ルージュは短い間だが一緒に居て分かった
アセルスの事情は知ってるし[ファシナトゥール]から此処に至るまでに幾度となく支えられてきた謂わば心の支えなのだ






――――もしも…もしも、だ








【白薔薇姫が "何らかの形" でアセルスの元から引き離されてしまったら】きっとアセルスの心は折れてしまうのでは?


そう一抹の不安さえも感じてしまう程に依存している傾向にあるのだ
180 :誤字 傾向があるがある… → 傾向があるがようだ… [saga]:2017/12/20(水) 02:20:08.56 ID:/NaxgDC30


ヒューズ「ま、お連れさんが見つかって良かったじゃねぇか」


白薔薇「はい」

アセルス「あの…!お礼とお詫びも兼ねて何かできませんか」



自分の早とちりで傷つけてしまった人に出来る限りのお詫びをしようと申し出るアセルスに対して


ヒューズ(血の気が多い娘だが、なんだい良い子じゃねぇか…)


ヒューズ(まだ子供だが後数年すりゃあいい女だな)ウンウン



アセルス「あの…?」


何故か自分を見て頷いた男に疑問符を浮かべる、殴った頬が傷むのだろうか?公務執行妨害とやらで逮捕されるのか?



ヒューズ「んじゃ、ご厚意に甘えて昼飯でも奢ってもらうか!」ニシシッ


ヒューズ「俺の気に入ってるファーストフード店があってな、そこでハンバーガーでも…」














          蒼褪めた、サーッと音が聞こえるくらいにみるみるうちに顔から血の気が引いた









読者諸氏、彼…クレイジー・ヒューズを知る人が居れば彼がどのような人物で過去に何をやったか知っていることだろう



彼の眼は人混みの中にある"一人"を捉えた、向こうはこちらに気づいていなかったのが幸いだ




モノクロ写真のように回りの風景だけは色をなくし、その人物だけは色があった…




リケーネカラーリングのスカートに緑色の上着を羽織り、艶のあるブロンドの髪を靡かせながら歩く見返り美人



[ラムダ基地]で着ていた衣装から本来の私服姿に着替えた"元スーパーモデル"…そして…





 ヒューズが冤罪で証拠も何も無いと知っていながら、キレて裁判もせず刑務所…[ディスペア]送りにした女エミリアだ



181 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 04:40:03.87 ID:/NaxgDC30


ヒューズ「」ダラダラ…


あっ不味い、見つかったら俺間違いなく殺られる、不良警官は思った

 汗が止まらない、なんか見つかったら関節技キメられそうな気がする
…もっと言ったら投げ技を極めた人物にしかできない一人連携技を喰らって頭蓋骨が陥没しそうな気がする



アセルス「ヒューズさん…や、やっぱり私が殴った所が痛かったんじゃ…」




ヒューズ「いや、違うんだ…なんつーか、ちょっと腹が痛くなって…あ、今度会えたら、なっ!お礼そん時で良いから!」

アセルス「えっ、あの、待って!」



ヒューズ「じゃ、じゃあな!!!」ダッッ!!





ルージュ/アセルス/白薔薇「「「…」」」ポカーン





エミリア「此処に居たのね!!白薔薇ちゃんが見つかって良かったわぁ…?どしたの3人共」ハァハァ…


ルージュ「いえ、なんでもないです…」


何がどうしたというのだ?3人共首を傾げるばかりであった…

―――
――



アセルス「白薔薇、今度ははぐれないようにしてね?」

白薔薇「申し訳ありませんでした…」



エミリア「さて、[クーロン]行きの船がもうすぐ出るけど…貴女達…[クーロン]へは何しに行くの?観光とか?」



[シュライク]行きのシップが滑走路から飛び立ち混沌の海へと飛んで行ったのを発着場のカフェレストランの窓際の席から
眺めながらエミリアは尋ねてみた


エミリアは[クーロン]に詳しい、というより詳しくなったという方が正しい…






  エミリア「私の仕事仲間が[クーロン]に居るのよ、それであの街には詳しくてね、観光名所巡りならできるわよ♪」


  ルージュ「仕事仲間、と言いますと、その"グラディウス"…ですっけ?」



法律で裁けない者や解決できない事件を"法に反する手段"を以て解決する組織…ルージュは小声で組織名を口にする




  エミリア「そっ!仕事仲間で…ライザ、それからアニーって気の合う女友達も居て、…後、女心の分からない上司も」


182 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 05:31:31.76 ID:/NaxgDC30


アセルス(うわぁぁ…エミリアさん、すっごく嫌そうな顔…)



 緑髪の半妖少女は目の前の綺麗なお姉さんがご機嫌から不機嫌に一変するのを垣間見た

基地から脱出の際、サングラスを掛けた彼女の上司に睡眠薬を盛られて寝てる隙に人攫いに自分を売り飛ばさせて
あの悪趣味なハーレムへ潜入させたという話は半ば愚痴のような形で聴かされはしたが…


 アセルスは自分達の目的を話す、という名目で話題を変えた方が良さそうだなーと
フォークに刺したハムエッグを口に運びながら考えた


ルージュ「僕は術の資質集めの旅を続けていて、リージョン界を廻る旅をしてます」

ルージュ「[クーロン]には情報収集のためにも前々行ってみたいとは思ってました」



そんな彼女の考えを察したのか紅き術士が先に口を挟む、


エミリア「…術の資質、ねぇ」んーっ



頬に手を当てて少し考える、それからエミリアは自分のポケットから"あるもの"を手渡したのだ



ルージュ「名刺ですか?」パクッ


ほうれん草とベーコンのキッシュを頬張りながら術士は小さな紙に書かれていた文を黙読する



ルージュ(…お困りごとなら何でも解決!裏組織 グラディウス![クーロン]イタリア料理店、詳しくは店前の女まで!)




ルージュ「あの、これは…?」

エミリア「名刺よ」



ルージュ「いえ、そうではなく…」



裏組織が住所とか堂々と書いた名刺作るなよ…、ツッコミを入れたいと思うのは野暮だろうか
岩塩の塩っ辛さだけがやけに舌に残るキッシュだ、ハズレメニューを頼んだかなと水で口直しをする


エミリア「何かあったらそこを頼ると良いわ、私が居なくても、その名刺さえ見せれば」

エミリア「グラディウスの誰かがちゃんと手を貸してくれるから」



 ウチは術の資質を取りたいって人のために手助けもしてるってアニーから聴いたのよ、お金は取られちゃうけどね
それだけ言うと元モデルはカフェオレのカップに口をつけた








この段階ではまだ誰も知る由もないことである




後にエミリアから貰ったグラディウスの名刺が、 "悪の組織と戦う正義のヒーロー" を幹部のアジトまで導く事になると



183 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 05:36:54.97 ID:BgkODNfbO
なるほど、そう繋げるか
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 07:30:12.85 ID:/NaxgDC30


白薔薇「そういえばルージュさんは秘術と印術どちらを取得なさるのですか?」


 至極まともな問いが飛んできた、エミリアの友人のアニーさんとやらが術の資質集めを手伝う仕事も請け負っている
それは今聞いたが、問題はそれが『印術』なのか、はたまた『秘術』かだ


パチクリ、それを聞いて再びパニーニを口にした貴婦人を見返した



そうだった…よくよく考えてみたらまだ印術にするか秘術にするか決めてないじゃないか……



エミリア「ルージュ、あなたは希望とかあるの?」

ルージュ「実の所、とくには無くて…」




 ただ双子の兄とは相反するモノでなくてはならない…被ったら早い物勝ちの競争になること必須で、そうなってしまえば
先に相手に取得され、これまでの苦労が水の泡に終わる

そんなリスクだけは極力可能な限り避けたい


第一、ルージュは祖国からの使命にあまり乗り気じゃないのだ…


会った事が無いとは言え、双子の兄弟をこの手で殺めるなどと人道に反する行いだと重々承知している
できることならこのまま修行の旅が終わらなければいい




それこそ[ルミナス]で適当な旅人を見つけて『資質集めの旅をしてるんです!協力して一緒に集めよう』とでも言い
 その後、旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる


…思ってはいるけど現実問題そうは行かない


国家反逆罪で追われたくないから、体裁だけでも良いから取り繕うしか無いのだ、少なくとも今現在は



エミリア「…印術は、正直オススメできないわね」


ルージュ「何故ですか」



エミリア「んー、私と仲間二人が印術の試練に挑戦してるのよ、ほら」つ『ルーンの小石』×2


ルージュ「!? "解放"と"活力"のルーン!!凄い!昔、学校の本で見たのと同じだ!」



エミリア「…この二つ、滅茶苦茶厄介な所にあったのよにあったのよ」ハァ…



余程苦々しい思い出なのかエミリアは重いため息を吐く

1つは自分の復讐劇の序幕が上がった場所、2つは気色悪い巨大生物の体内のこれまた気色悪いゲル状モンスターのプール




エミリア「強制じゃないけど…私は秘術にした方が良いんじゃないかって思うのよ」






エミリア「それに、秘術の試練だけど、その内の1つは何をすれば良いのか知ってるわ」

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:11:52.99 ID:/NaxgDC30


ルージュ「試練の1つを知っている!?」ガタッ


アセルス「わっ!!ルージュ!突然身を乗り出さないでよ!飲み物が零れるでしょ!」



ごめん、と矢継ぎ早にアセルスを制しエミリアに続きを話して欲しいと促す




エミリア「私、ある任務でカジノのバニーガールをやってたのよ!」

ルージュ「……」




ルージュ「は、はぁ…?」



とりあえず、黙って続きを聞く事にした、細かい事は敢えて触れずに


エミリア「そのカジノ…[バカラ]ってリージョンなんだけど、そこの地下に金を集めるのが好きな精霊ノームが居たわ」


エミリア「金よ、金塊!…あの人(?)達はとにかく金が好きで」

エミリア「"たくさん"の金を持って来た人間には快く秘術の試練…アルカナのカード集めの1つ"金のカード"をくれるわ」


ルージュ「た、たくさんの金ですか…」





金塊をたくさん…そんなお金が何処にあるというんだ!!!




ルージュは頭を抱えたくなった、奇しくも今日、全く似たような悩みを双子の兄も抱えたという…









白薔薇「これでは足りませんか?」つ『金』×2




エミリア/ルージュ「「えっ」」


アセルス(あ、[ファシナトゥール]から逃げ出す時に飛ばし屋さんに払った貴金属…そういえばまだあったんだね)





白薔薇「ルージュさん、これでよろしければ…」


ルージュ「い、いやいや!受け取れませんって!」



アセルスと白薔薇は妖魔の王から逃げている最中、安定した衣食住だって保証できない、いつ終わるやも分からぬ逃亡生活

先立つモノが必要になるに決まってる、そんな人から何故これを受け取れようか…


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:27:58.49 ID:/NaxgDC30


ルージュ「二人共、お金は必要になるでしょう!!そうでなくてもこんな高価な…」



白薔薇「私もアセルス様も命を賭してまで助けて頂いたのは事実です」

白薔薇「であるならば今度は私がアセルス様の分も含めその恩をお返しするのが道理です」



ルージュ「で、でもですね―――」



白薔薇「では、こうしましょう、私は『秘術の資質』を得たいと思っています」

白薔薇「この金はその為に使用するモノであって貴方にはお渡ししません、私が"個人的"にノームへお渡しします」



白薔薇「これで如何でしょうか」



ルージュ「…(唖然)」



アセルス「…」フゥ…


アセルス「『君も術の資質を集めてるのかい?では協力して集めよう』」

アセルス「ルージュ、キミ自身が言った言葉だ、"協力"して集めよう…白薔薇はこうなると退かないんだ」



困ったように笑う緑髪の少女を見て、「参った、降参だ」と手をあげる術士
「アセルス様にこうなると退かないんだ、と申されますとは…」苦笑する貴婦人

これは面白い人達に出逢ったと笑顔でカップを傾ける金髪美女…



まだ100%秘術にするとは決まっていないが
どちらかといえば"アルカナ"のカード集めにするのも良いかなと彼は思い始めていた



昼、12時49分、シップ発着場のカフェレストラン…滑走路から飛び立つ宇宙船<リージョン・シップ>が一望できる窓際の一角は
談笑に包まれる温かな空間だったという…



















           ドォ ォ ォオ オオオオオオオオ オオ オオ オオ   オオ  ン!!!!









187 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:37:36.43 ID:/NaxgDC30





――――それは、何の前触れも無く起きた







エミリア「っ!!な、なんなのよ!今の音は!!」



店内、いや、発着場そのものさえ揺れる大きな振動、カップの中身がテーブルの上に零れる

アセルスは傍らに居た白薔薇の手を握り、周りを警戒する…そしてルージュは…!
















ルージュ「! み、みんな、見てくれ!あのビル!! あの一番大きな建物から煙が出てるぞ!!」












「て、て…!!」






「テロだぁーーーーーーーーっ!!!!」



「た、大変だぁぁぁぁ!!!!!」



「う、嘘だろぉ!あの建物は…っ、トリニティの中枢が!セントラルゲートが!!!」


「爆破テロ!?どうなってんだよぉ!!」
「お、落ちつけって!事故か何かかもしんねぇだろ!」




誰が開口一番にそう叫んだか、正午の穏やかな談笑など、いともたやすく消し飛んでしまった

そこかしこから悲鳴があがり、民衆はパニックに陥っていた…


―――
――


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 08:40:14.23 ID:/NaxgDC30
                 マム   マム \ / `マム:::::  |l;  /
                     マム    丶マムヽ    マム  マム/|
           \     __マム  冫ヽ\  |\   /|  マム     ボッゴォォォン!!
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    .|i  |i _,≪ii!-=ニi|   -=ニ二 ̄    \    /|       |ヘ   /,x  ´     .{ ハ   / /
    .|i-‐|i ̄ |i _.|i ̄二ミヽ三ニ―    ヘ  ヘ,'  Tヽ   .|i/    ̄        ’<三>´
    .|i  |i -=|i ̄ .|i_ニミi、 |i>ー。._   人      | ヘ   '           ,.  ´
    .|i_.‐|i ̄._.|i,x ≦|i ̄ ̄ i!ヽ|i `ヽi| .,イヘ´   _    ヘ |i       _ -=ァニ^¨
    .|i .._|i   |i   !|i     .!|i` 、゚.i!|/     j{ ヘ    ヘ,'     ,'; -ニ_
    .|iニ..|i   |i _ニ..|irぉiひ''*x!|i.  ./ ,イ ヘY  `ヽ         ´   _ニ-
    .|i_ |i_.ニ!|i  ...|i __   .|i /-=ニ ̄!  i´            ヽヘ ̄
    .|i  |i   |i_三ニ|i ̄ ̄`ヽi!.|i  `i|*。..|  {      `ヽ      }、` ト 、
    .|i  |i-三.|i _ニ|i―ニミヽ .|i`ト、..i| `.i|  人__      }   Tヽイ ≧=-
    .|i  |i_.=-.|i ̄ !|i     `ヽ|i` 、...i|i、  |  |i /i|`ト、 _,. ´   / ヘ ヘ
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    .|i  |i_-ニ!|i-ニ .|i ̄ ̄> !|i    |`'守| /` |i  ー'ト  i| ヘ     j
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189 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 09:16:52.54 ID:/NaxgDC30

【双子が旅立ってから2日目 昼 12時49分  [マンハッタン]:セントラルゲート前】



「た、たすけてぇぇぇ!!」



ヒューズ「IRPOの者だ!!一般人はさっさと現場から離れやがれ!!…クソったれッ!!キャンベルどころじゃねぇ!」


ヒューズ「おい!そこのアンタ!車どかすの手伝え!救急車が怪我人運べねぇだろ!」


ヒューズ「…あ"ぁ"ん"!?決まってんだろ壊れてんだから手で押すんだよ馬鹿野郎!!力入れろ!」ググッ!!




<ピーポー! ピーポー!

<ウゥーーー、ウゥーーー!!





「救急隊です!怪我人は!?」

「消火栓にホース運べ!急げ!」


「まだ中に人が居るんだ!お願いだ早く」


「おい!肩貸してくれ!この子両脚が潰れてるんだ!」



「生き残ったのはこれだけか…」

「何がどうなってるんだ…うぐっ」









「あ、嗚呼…! レオナルド博士がまだビルの中に閉じ込められてる!!」

「うっ…、駄目だ…見ろよ、あの爆発をよぉ」

「…博士のラボがある階が粉々に吹っ飛んじまったぁ!!」


「そんな、レオナルド博士が…」








この日、政治機関の中枢で爆破テロが起きるというリージョン界を震撼させる事件が発生した


これによりトリニティ上層部は、テロ実行犯の逃亡阻止、また他のリージョンで何らかの事件が起こる事を危惧し
トリニティ政府に属する全リージョンのシップの運行を丸一日ストップさせるという異例の法令を発した


犠牲者は数え切れず、その人数は裕に数千人規模…!





死亡者リストにはロボット工学の権威、[レオナルド]博士…レオナルド・バナロッティ・エデューソン氏の名前も載った


190 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2017/12/20(水) 10:00:26.56 ID:/NaxgDC30


政府の対応は早かった


爆破テロの実行犯、あるいは支援する組織が他所のリージョンで犯行を犯した際、逃げ場を潰して置くためにも
また、発着場、移動中の船内で爆破を起こされる二次被害が起きてはどうしようもない




ルージュ一行の居る発着場にも当然ながら、シップ運行緊急停止の法令がすぐに届いた
厳戒態勢が敷かれ、こうなってはどんな船も気づかれずに離陸は不可能である






エミリア「……なんか、大変な事になっちゃったわね」




 発着場のターミナルでは見当違いなクレームを、罵声の数々を同じく被害者である発着場職員にぶつける旅行客
理不尽な怒りを受けてなお、歯を食いしばりひたすら平謝りを続ける職員の光景がいつまでも続いていた


本来の持ち場から立ち往生を余儀なくされた旅行客にブランケットとクッションを配るキャビンアテンダントの女性

怒鳴り散らしてもどうにもならないと漸く悟り、一夜を発着場で過ごそうと不貞寝を始める客達

サイレンの音が今だ鳴り止まない街に勇気を振り絞って踏み出し、空いている格安宿を探しに出る者達…etc




アセルス「みんな、ピリピリしてるね…」



眉間に皺を寄せている男達を見て居心地の悪さを覚える女性陣…いや女でなくとも人の怒声なんて聞いて良いモンじゃない



ルージュ「[クーロン]経由の船も欠航…僕らも此処で一日足止め、か…」






ルージュに至っては術で他所へ行ける、が…[ゲート]は一度行った事のある場所にしか瞬間移動できない

つまり[ルミナス]か[ドゥヴァン]にしか行けない
仮に行った所で全シップが運行を停止されているのだから他所へは旅立てない


 こんな非常態勢が敷かれてる中で悠々と飛べる船があるとすれば、トリニティに属さない[ネルソン]の船か…
海賊が乗った違法シップくらいである





アセルス「はぁ…明日まで[クーロン]はお預けか」



エミリア「…そうだ」




ふとエミリアはさっき聞けなかったことを訊こうと思った

ルージュが[クーロン]に行きたがる理由は知った、だがアセルス達はどうして[クーロン]に行きたがる?


多種多様な種族が暮す街だから身を隠すのに丁度いい?ルージュの手伝いか、…いや
どちらかと言えば彼の方がアセルス等を手伝ってる方だし


エミリア「ねぇ、アセルス達はどうして[クーロン]を目指す気になったの?観光じゃないなら――」
191 :アセルス編没イベント A 妖魔訪問編 - 妖魔医師 - [saga]:2017/12/20(水) 10:19:59.79 ID:/NaxgDC30




     アセルス「…私が[クーロン]に行こうと思ったのは私の身体を"診て"もらうためなんだ」




     エミリア「診てもらう…って貴女」








アセルス「ルージュは知ってるし、エミリアさんにも基地から逃げる時簡単に説明したでしょ?」


アセルス「私は妖魔から元の人間に戻りたい」


アセルス「普通に歳をとって、普通に生きて、普通に死ねる身体に戻りたいんだ」

アセルス「剣で刺されてもゾンビみたいに塞がったり、血の色が紫だったりしない……元に戻りたい…っ!」ギュッ!






白薔薇「…[クーロン]にはゾズマの知り合いで上級妖魔の身でありながらも人の社会を好み、医者として働く方がいます」




エミリア「…ゾズマ、ああ、あの…」




白薔薇「…た、確かに人間社会で暮らしたがる変わり者という点でゾズマとは気が合ったらしいのですが!」

白薔薇「人間社会に順応なされている御方です、きっと服装は人と変わりませんよ、たぶん」





一瞬死んだ魚みたいな目をしかけたエミリアにすかさずフォローを入れる白薔薇姫、最後は妙に語気の弱い言葉だった…







白薔薇「コホン、兎に角、まずはその御方にお会いして、アセルス様の御体を診察して頂く事」


白薔薇「それが[クーロン]を目指す私たちの理由です」




アセルス「うん、…今は藁にも縋りたいんだ、人間のお医者さんじゃどうしようもできない、なら1%でも賭けたいから」



アセルス「だから[クーロン]に住んでるっていうそのお医者さん…名前は…確か」





その続きは白薔薇姫が答えた




       白薔薇「…妖魔医師 [ヌサカーン]様ですわ」

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 13:03:01.11 ID:+tJHnjJGO
>旅人の背中についてって自分の使命すっぽかして一生終わりの見えない旅をしたって良いとすら思ってる
だから誰彼構わずついていってたのかルージュ……
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 23:34:33.70 ID:aAt+rg8i0

一気に色々繋がってきたな
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 22:55:11.74 ID:Wwx/aAqe0


【双子が旅立って2日目 午後15時20分】



 結局、今日一日は機械仕掛けの摩天楼で足止め…
ルージュ等一行はエミリアの誘いで裏組織"グラディウス"の[マンハッタン]支部で一夜明かす事になった


 此度のドタバタ騒ぎでどこのホテルも空きは無い、路上のベンチや飲み屋街の看板を抱き枕にして倒れる旅行客すら居た
自棄酒もここまでくればいっそ清々しいモノだ




ルージュ「…それじゃ、明日はどうにかして[クーロン]のヌサカーン先生?って人に会いに行くとして」

ルージュ「僕は今の内に術を使って[ドゥヴァン]へ行こうと思うんだ…印術か秘術か、気になる方を取って来るから」




エミリア「二人は任せて頂戴、此処なら妖魔の1人、2人来たって平気だから」



 追われる身にある妖魔二人が匿ってくれる金髪美女達に恭しく頭を垂れる、行く宛てもなく、保護してくれる人も居ない
そんな彼女等にとってエミリアの誘いはこれ以上ない申し出であった


一夜限りとはいえ、安心して眠りにつけるのは有難い







             ルージュ「[ゲート]!…[ドゥヴァン]へ!」ヒュン!!





 光の粒子に包まれて、何光年と先の遠い宇宙<ソラ>の先にある他所の小惑星<リージョン>へ瞬間移動したルージュを見届け
エミリアは受話器を取り、ダイヤルを回す…


アセルス「エミリアさん、何処へ電話を?」

エミリア「うん?あぁ、友達の所にね、…ほら?今日の騒ぎでシップのチケットが駄目になったからそのことで」




…プルルル! プルルルル!


エミリア「…もしもし!」








  受話器の向こうの声『エミリア!!!アンタ無事だったのね!!』



  エミリア「ええ!なんとか命からがらね、それとジョーカーの件だけど…収穫は無かったわ」



  受話器の向こうの声『…そっか、いや、そんなモンどうだって良いわ!無事で良かった、ライザも心配してたわ』


  受話器の向こうの声『あ、言っとくけどライザはグルじゃないからね…』


  エミリア「うん…」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 22:58:50.82 ID:72kpGaSCo
おお、続き来てる
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/23(火) 23:07:57.76 ID:Wwx/aAqe0




   エミリア「もう、ニュースになってると思うけどさ」


   受話器の向こうの声『ええ、シップが全便欠航でしょ…本当災難よね』



   エミリア「なんとかならない?できれば早めに[クーロン]に帰りたいのよ…」


   エミリア「訳あって連れてかなきゃいけない子が居て」



   受話器の向こうの声『ふーん…OK!アタシに任せな!何人だろうと問題無く[クーロン]に連れてくから!」



   エミリア「本当!?…詳しく事情は聴かないのね」



   受話器の向こうの声『なぁに言ってんのよ!アタシとエミリアの仲じゃん!気にしないっての!』






   エミリア「ありがとう、アニー」





   受話器の向こうの声『お安い御用よ、明日の便で帰れるように手配しとく!で?連れは何人』






―――
――



【双子が旅立ってから2日目 午後16時01分】


ルージュ「…」



「では!この4枚のカードを…ってお客さん聴いてます?」


ルージュ「え、あ、あぁ…ごめんなさい、少しボーっとして」


「なんだか顔色が優れませんが…ハッ!?まさかルーンの誘いのテントで怪しい勧誘でも受けたんじゃ!」


ルージュ「ははは…いえ、そういうんじゃないんで」


「あそこは悪徳ですからねー!それに比べて秘術は素晴らしいぃ!!」

「誠実、安心、最高の術ッ!あんなオンボロテントとは大違いです!あなたは実にお目が高い!!」ドヤァ


ルージュ「ははは…」




"既に双子の兄がやって来た"その事実を先程、そのオンボロテントで聞いた…自分を殺す為に旅立った双子の片割れの事を


…夢でもなんでもなく、本当に自分の兄が資質集めの旅、――自分を殺す旅路ををしてると実感を得る証言だった
197 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/24(水) 00:04:36.62 ID:CmfbuI/m0


出逢った事はなくとも、血の繋がりがあるのならばあるいは―――心の何処かでそんな淡い期待はあったかもしれない









 だが、実際に兄…ブルーの姿を見たという人間の証言を聞いてしまうと






「お客さん、本当に大丈夫ですか、冗談じゃなく本当に顔色悪いですよ…まるで」





まるで死人か何かだ



 そう言いかけて、慌てて取り繕うように「そんな時こそ!『杯』の術は如何ですかー」と誤魔化す目の前の人間に
気にかけて頂きありがとう、と愛想笑いをしてルージュは出て行く…





ルージュ(…ここに、本当に兄さんが来たんだ)フラフラ







                   ドンッ!










ルージュ「あっ!…す、すいません!よそ見してて」





余程、精神的にキていたのだろう…覚束ない足取りの彼は小さな少女とぶつかってしまった…








      転生した幼女巫女「……おぬし、嫌なニオイがするな」


      ルージュ「ぇ?」パチクリ


      転生した幼女巫女(…オルロワージュの匂い、いや…これは残り香というべきかのう)


      転生した幼女巫女「おぬし、最近妖魔か何かと知り合いになったか?」


      転生した幼女巫女「悪いことは言わん碌な目に遭わん内に縁を切るのじゃな」

198 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/24(水) 00:37:17.67 ID:CmfbuI/m0



出会い頭に奇妙な事を言われたものだ、紫色の髪…小さな背…しかし、目先の子供から感じる大人びた物腰




ルージュ「…あの、つかぬ事を窺いますか貴女は」




どう見ても自分よりも年下だ、だがこの人物には"目上の人に対する態度"で接せねばいけない、直感的に彼はそう思った




転生した幼女巫女「なに、そこの神社で巫女をやっておる身じゃ、忠告はしたからな」クルッ ザッザッ




ルージュ「あ、ちょ、ちょっと待ってください!…行っちゃったよ」



ルージュ「…どういう事だろう…」




<まぁまぁ!かてぇ事言うなって
<リュート!!貴様ァ!




ルージュ「なんだかあっちの方が騒がしいな…はぁ…僕も帰ろう」


―――
――

*******************************************************
【双子が旅立って2日目 午後15時31分】







リュート「いやぁ!にしてもアレだな!俺達はやっぱ運が良いよなぁ!」テクテク


ブルー「…」テクテク



リュート「俺達が[ネルソン]で金を買って、んでその直後だろ?なんか[マンハッタン]でテロがどうとかって」

リュート「シップは全便欠航、俺達はこの機に乗じて金塊を転売しまくる」

リュート「他の資産家は他所のリージョンに行けないから実質俺達の独占だったよな〜、金融市場」




ブルー「…」テクテク





   [タンザー]帰りのお土産「…(´・ω・`)ぶくぶくぶくぶー!」





ブルー「貴様はいつまで俺達の後をついてくるんだ」イラッ

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/24(水) 15:28:09.86 ID:CmfbuI/m0



  [タンザー]帰りのお土産「…(´;ω;`)」ブワッ


  リュート「オイオイ、ブルー…何もそんな冷たい言い方するこたぁないだろう?見ろよ?」

  リュート「このスライム泣いてるだろ」



  ブルー「俺には違いがさっぱり分からん」




 [タンザー]から脱出の際、ブルーの脚に引っ付いていたモンスターが1匹、ぬるぬるとしたゲル状のボディー
それ以上でもそれ以下でもない、そう[スライム]だ



スライム「ぶくぶくぶく…;つД`)」ポロポロ…



リュート「なぁブルー、こいつの目を見ろよ?こーんな円らな瞳なんだぜ?涙ぐんで、可哀想に」


ブルー「そいつの何処に目玉がついてるのか分からん、強いて言えばそのヌメッとした粘液が噴出してる所か?」



ゲル状生物の…顔?にあたる部分から湧き水のように粘液が出ている、そこが眼なのか…?




リュート「なんでもお前に一目惚れしたらしくスライムプールから出て来てお前についてきたってよ、健気だろ?」

スライム「ぶくぶー (`・ω・´)」キリッ



ブルー「俺はお前が何故『ぶ』と『く』しか発音できない生物がそう言ってるように思えるのか不思議だ、病気か?」




リュート「いや、俺ン所にモンスターの知り合いが多くて自然と分かるようになったっつーか、それよりもどうだ」

リュート「こいつを連れってやろうって思わないのかい?こんなに一途なんだぜ?」



ブルー「思わん」キッパリ



リュート「思う、だって!?良かったなァ!連れてってくれるってよ!」

スライム「ぶくぶーーーー!(`・ω・´)」



ブルー「言ってないだろうが!!」

リュート「ハハハハ!まぁまぁ!かてぇ事言うなって」ヒョイ(スライム抱き上げ)


スライム「Σ(・ω・ノ)ノ!ぶくっ!?」ビックリ!


リュート「そーれっ!」ポーン ベチャッ!



朗らかに笑いながら、抱き抱えたスライムちゃんをポーン!とブルーの肩目掛けて放り投げるリュート
べちゃっ!!ミネラル成分満載の可愛い可愛いスライムちゃんがブルーの肩に着地!



     ブルー「リュート!!貴様ァ!」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/26(金) 00:58:09.93 ID:hJQN+BIeo
スライムの表情……?言葉……?
こればっかりはブルーに全面的に同意するぞリュート……
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 22:35:58.78 ID:Squ3hirp0




 キィィ―ィィイイィン…!





ブルー「!」ピクッ





リュート「わわっ、悪かったって!確かに悪ふざけが過ぎ…ってあり?」

スライム「(。´・ω・)?」ノソノソ



 肩に乗ったモンスターを払いのけ、拳を強く握り後ろのお気楽男を怒鳴りつけた所で術士は魔力を感じ取った
それは…自分がよく使う[ゲート]の力と同じような









  ブルー「いや…まさか、…"居た"、というのか?」バッ!







急に熱が冷め、忙しなく周囲を、人の姿を探すかのようで、身構えていたリュートは思わず尋ねた



リュート「誰か知り合いでも見かけたのか?」



ブルー「…」

ブルー「…いや、気のせいだ」



リュート「そうか?一儲けができてすぐにこのリージョンに飛んだからてっきり此処に知り合いか誰か居て探したのかと」

ブルー「違う、そんな理由じゃない」スッ


術士が首を振り、蒼い法衣の袖先はこの土地で一番小高い場所を指さしていた
 鳥居の先にポツンと居を構える祭神の家、此処の観光地の1つともされる神社であり、彼が[クーロン]に戻らず
此処へ寄り道に来た理由の一つであった



ブルー「以前訪れた時には留守だったようだが、あそこの社に居る巫女が『"時術"』…『"空術"』に関して知っている」

ブルー「そう聞きつけてな、今日ならば帰ってきていると聞いたんだ」


リュート「ふぅん?」



 噴水広場を突っ切って、左手にアルカナ・パレスそして昨日の喫茶店を、と横切り奇妙な狛犬(?)達の間を抜けて
年中紅葉が頂上からヒラヒラ舞ってくる山の石段を登っていく…


―――
――


202 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 22:55:12.79 ID:Squ3hirp0
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【同時刻:マンハッタン 『キャンベル・ビル :社長室』




「しゃ、社長!例の物はなんとか回収し終えました!」




 機械仕掛けの摩天楼、そのリージョンの一等地にあたる立地条件で尚且つ大規模の高層ビルがある
大手ブランドメーカーとして名を馳せる、大企業"シンディー・キャンベル氏"の経営する会社だ

社長室内に慌ただしく駆け込んだ女性社員の声に落ち着きなさいな、と背を向けたまま口を開く



女社長「今日、[クーロン]行きになる筈だった品物は全品回収したのね?」


「は、はい……それにしてもとんだアクシデントでした、まさか爆破テロが起きてシップの立ち入り調査とは」




 ギィ、音を立ててキャスター付きのリクライニングチェアが向きを180℃変わる赤紫の帽子を被り
女社長ことミス・キャンベル氏は妖艶な笑みを浮かべて煙管<キセル>を吹かす…


キャンベル「うふふ…それもまた一興というものよ」ニコッ


「は、はい…//」ドキッ


キャンベル「あら?顔が赤いわね…階段を駆け上がるのに息を切らせたのかしら…それとも」スッ



煙管を手にしたまま、女社長は立ち上がる
 高そうな絨毯の上をゆったりと歩き、女性社員のすぐ間近で立ち止まる…品定めでもするように
息の上がった顔、少しはだけたカッターシャツから脚の爪先までをじっと眺める




キャンベル「私に逢いたくて堪らなかったのかしらねぇ?」クスクス


「しゃ、社長!お戯れを…」



キャンベル「あら、冗談ではないわよ、私の眼をごらんなさい」







女性社員は目の前の美しい瞳を見つめた、そして思うのだ「ああ、いつ見てもお美しい、ずっと眺めていたい」と






  まるで "蜘蛛" に絡めとられた蝶にでもなった気分だ



同じ女性でありながら、こうも夢中にさせられる、その辺の人間には決して感じられない色香に惑わされる
 …この会社に居る多くの人材がそうであった


キャンベル「…貴女、この後空いてるかしら?」

「はい?…あっ、いえ、あ、空いてますが…」


203 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/01/26(金) 23:24:33.38 ID:Squ3hirp0







          キャンベル「――――――」ボソボソ



               「〜〜〜〜っ!!///」







 - 貴女さえよければ、私の愛する人にならない?その気があるなら今夜、社長室にいらっしゃい -




耳元で愛の言葉を囁く



「あ、あぅ…」



言葉は女性社員の胸に火を灯す、耳たぶから顔全域が真っ赤だ




キャンベル「冗談ではなくてよ?…ふふ、貴女みたいな可愛い子は食べてしまいたいと思うわ」



ミス・キャンベルが舌なめずりをする、唇の端から反対側まで紅い舌の動きを目で追ってしまう…
 胸の動悸が収まらない、火照った身体が時よ、過ぎ去れ、陽よ今この瞬間に沈めと願ってしまう程に熱い
夜の冷えた外気に肌を晒したくて仕方ない、この女性の前で晒したいと強く想わずに居られない



キャンベル「どうかしら?……この世の物とは思えない多幸感を教えてあげるわよ」スッ…ススッ



ゆっくりと腕を女性社員の背に回し、後ろ首を撫でる…獲物を捕食せんとする蜘蛛の動きそのものだ



「わ、わたしでよろしければ…!!!」


キャンベル「ふふっ、良い子ね…そういう子は好きよ」ナデナデ


キャンベル「楽しみにしているわ、今夜をね」


「は、はい!…し、失礼しました…!」ダッ


キャンベル「まぁ、あんなに慌てて走ってしまって…そんなに恥ずかしいのかしらねぇ」




キャンベル「…今夜、私の元に来れば貴女に至福を与えることを約束するわ…」







     キャンベル「我らが【ブラッククロス】の劣兵として生まれ変われる至福を、ね」ジュルッ



…もう、後ろ姿さえ見えなくなった女性社員に、女社長はそう呟いた
204 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 00:10:06.93 ID:WitPJlKy0



キャンベル「…あの子を初め、社員の4割は事実を知らないわね…」スッ



煙管を再び口につけ、椅子に腰を下ろす背凭れに身体の重心を預け室内に誰も居ないことを再度確認して独り言ちる
 "表向き"は新作のブランド物バックに欠陥があったため、出荷前に全品回収という筋書きだ



だが、本当の所はそうじゃあない





[クーロン]の"シーファー商会"なる場所にあるブツを発送する手筈だった…法律に触れるヤバい奴を、だ


偶然にも今回のテロ騒動で全便欠航、立ち入り調査が起きた為、事が発覚する前に社員に急ぎで
 欠陥品のブランド物の衣服や鞄を回収、世間様に自社のお株が下がってしまうようなお恥ずかしい事がばれる前に
引き取りをしました、とでも普通の社員は思っているだろう





 まさかこの会社が国際的な犯罪組織の武器を秘蔵に創り

  組織の支部に送っていると…犯罪の方棒を担がされているなど夢にも思うまい






キャンベル「さて…」カタカタ



煙管を置き、オフィスデスクのPCを立ち上げ、明日のリージョンシップのデータを見る…



キャンベル「まったく…シュウザーも急な注文を寄越すものね…戦闘員の育成がうまく言ってないのかしら」カタカタ



キャンベル「……明日、[クーロン]にあれだけの荷物を積載しても問題なく、その上で最短で到達する船は―――」









――――液晶画面には、白く美しい白鳥のフォルムを模った船が映し出されていた







キャンベル「リージョン・シップ『キグナス号』…ええ、今日のテロ騒動で配達できなかった分はこの船に乗せましょう」





社長室で…人ならざる女社長は魔女のような唇を釣り上げて笑う


―――
――


205 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga!蒼_res]:2018/01/27(土) 00:59:40.76 ID:WitPJlKy0















            …俺は何をしてるのだろうか














俺には使命がある


国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある






 だというのに、どうしてこうなった…




206 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 01:54:54.97 ID:WitPJlKy0
*******************************************************
―――
――




【双子が旅立ってから2日目 夜19時07分 [クーロン] アニー視点 】





- エミリアも御人好しよねー、潜伏先に基地で知り合った男女3人を連れてきたいか -

- ブルーの奴に『キグナス号』の乗船代を約束させたけど、流石に明日までに用意しろー、とか無理よね -




- しゃーない

  そんときゃアタシのポケットマネーで建て替えときますかね、っと!このお惣菜半額シールじゃん!ラッキー! -





 九龍<クーロン>街にあるスーパーマーケット、そこは一般的な主婦もよく出入りする"普通"の店舗であった
大概、この街の店と呼べるモノは普通じゃない…マンホールの下で本物の拳銃の取引が行われたり
裏通りで政府軍の兵器が横流しで売られたり、白衣を着た怪しい学者風の男が[裏メモリーボード]を売ってたりする


 一見普通の飲食店にしか見えないイタリアンレストランだって金さえ振り込まれれば違法捜査やらなんやらを行う
裏組織があったりするのだから困る



買い物籠を腕にぶら提げ、"次の仕事"があるまで長期休暇の女が1人、仲間の無事を確認できたことからその祝いも兼ねて
ちょっとした酒盛りをしようとつまみを買いに来ていた


 活発な印象を受ける短髪の金髪ショートヘアー、男が見れば釘付けになるだろう裾の短いショートパンツに
ブラジャー一枚の上に緑のジャケットを羽織っただけのいつものラフな恰好




昨晩、ブルーと共に粗蟲の群れを撃退した女性アニーであった



余談だが、蟲に破かれたジャケットは自分で塗って縫合したらしい



アニー(エミリア帰還祝い、うんっ!パーッと飲み明かそうっと!)


緑の買い物籠の中は缶飲料(チューハイ)や酒瓶が数本、あとは缶詰の類や閉店間近の値引きシール付きお惣菜で埋まる


アニー(店が閉まるギリギリだと財布に優しいから良いわよね〜、人参に大根、胡瓜、生野菜スティックも悪くない)ヒョイ



 瞬く間に籠の中身は埋まっていく、片手で持つには少し重くなった籠を両手で持ってレジへ運び会計を済ます
郵便局で施設に居る弟にも生活費の仕送りも済ませた、やるべきことは完璧、あとは友人…ライザ辺りを誘って
朝まで酔いつぶれてしまおうという算段だったが



アニー「えっ、ライザ来れないの!?」

受話器から聴こえる声『ごめんなさい、ルーファスと作戦の相談があって』

アニー「! へぇー、ルーファスとねぇ〜」ニヤニヤ

受話器から聴こえる声『…作戦の相談だけよ、他意はないわ』


アニー「わかってるわ、ちょっとからかいすぎたわ…それじゃ!頑張ってね!」

ちょっと、アニー!と受話器から聴こえてくる声を半ば無視して通話を切る
『close』と書かれた看板をぶら提げたイタ飯屋に帰って1人寂しく、店内で飲み会か、とアニーは夜空を仰いだ
207 : ◆zJZqNVVhtuCN [saga]:2018/01/27(土) 02:30:08.06 ID:WitPJlKy0





 - 独りで酒飲みかぁ…エミリアの帰還祝いをライザと祝うつもりだったけど、しゃーない、か… -






彼女は賑やかな雰囲気や盛り上がる事が好きだ


宵が深まれば輝きを増すネオンの煌めきも、この暗黒街の喧騒――住んでいる人々の営み―――も好きなのだ




どうにも湿っぽい空気というのは性格上、嫌いで…寂しがりなのかもしれない



酒は飲めば、気分が高揚してくる

嫌な事も辛いことも一時の思考の揺らぎに任せて投げだせる、だが、親友と隣同士、語り合って飲む酒は何よりも旨いのだ




身内を養う為、命を担保にして出稼ぎを行う人生を選んだ彼女が明日を生きていく上で学んだ事だ


誰かと飲んでふざけ合って、愚痴を聞いたり言い合ったり、それこそが最高の肴なのだと






アニー「他の連中もみーんな、次の作戦に備えて他所のリージョン…船は動かないから当然帰ってこないし、参ったわね」




ガサガサと両手のビニール袋が音を鳴らす、デザートを買おうにもお気に入りの物が売り切れていたから
多少、出費が上がるが一度荷物を置いて近場のコンビニエンスストアで適当に洋菓子でも買って行こう


ぼんやりとそんなことを考えながらアニーはイタ飯屋へと向かっていた





        その矢先である…




リュート「んじゃ!またなブルー!ほら行こうぜスライム!(金塊で)臨時収入も入ったから飯たらふく食わせてやるよ」

スライム「ぶくぶく…(´・ω・`)」シュン


ブルー「やれやれ…そいつを連れてさっさと行ってくれ」スタスタ




アニー「…ブルーに、リュート?何、アイツ等知り合いだったの?」ハテ?


アニー「…」

アニー「!!…ふふ!暇そうな奴みーっつけた!」ニヤリ




酒というのは誰かと飲んでこそ楽しい物である

  特に普段スカした態度の奴が酔いつぶれて醜態を晒せば、それは最高の笑いの種(酒の肴)になる
208 : ◆RUyHyPiEvo [saga]:2018/01/27(土) 02:37:42.71 ID:WitPJlKy0
*******************************************************



                                        , ソ , '´⌒ヽ、
                                 ,//     `ヾヽ
                                 ├,イ       ヾ )
                               ,- `|@|.-、      ノ ノ
                           ,.=〜 人__.ヘ"::|、_,*、   .,ノノ
                        , .<'、/",⌒ヽ、r.、|::::::| ヾ、_,ニ- '
                       〈 :,人__.,,-''"ノ.。ヘヾi::::::ト
                        Y r;;;;;;;;ン,,イ'''r''リヾヽ、|;;)
                        ヽ-==';ノイト.^イ.从i'' 人
                         .ヾ;;;;;イイiヘr´人_--フ;;;)
     .,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.    .,,.          ヾ;;;|-i <ニ イヽニブ;;;i、
   ,,,'""" ̄;|||' ̄''|ll;,.  ,i|l          ,;;;;;イr-.、_,.-'  ./;;;;;;;;i
  ,,il'    ,i||l   ,||l'  ,l|' ,,,,,. .,,,, ..,,,,,,   (;;ヾ'ゝ-'^    ,.イ;;;;;;;;;;;ヽ
  l||,,.    l|||,,,,,,;;'"'  ,l|' ,|l' .,|l .,,i' ,,;"   ヽ;;;||、_~'   .|`i;;;;;;;;;;;;;|
  ''"   ,l||l""""'ili,,.. ,|l .i|' .,i|' .,||'",,. .,,.  |;ノ|_`"'---´ゝ  `_'''''''r-、
 =======,|||=====||||=≡=≡≡=≡==≡= ~ リヽ`<二入oiン ' ン,人ヽ`ヽ、_
      .,|||'   .,,,i|ll'              /::::::/ヽ-ニ=ii@ く´  ゞ\;、_、`;ヽ、
    ''''''''''''''''''''''''''              /::::::/  .`'´ ヾヾヽ-、__ `゚  ""'''''''
                       /::::::::イ  |    .ヾ 、 `ヾ=、'
                     /::::::::/i´「`-、|     \\_,_._ンヽ- 、
                    <::::::::::::/ | └、 |      `ブ <ヽ、'~
                     レノ-'  |`-、、__ ト、、_, -' ´ _,ノヽ~
                          ~` -、、フヽ、__ ,, -'´ ̄ル~'
                            ヘ`~i、 ̄ ̄リ ノヽ ̄~
                            `|;;;;;;|ヽ〜-←−ヘ
                             |;;;;;|    ヽ- ┤
                             l::::人    .ヽ  .|
                             ///     ヽ .|
                            ノ´/      .ヽ  |
                           ` ̄        .ト、 .ヽ
                                      ヾ、.A
                                       .ヽノニ'






              今 回 は 此 処 ま で !!





                次回!飯テロ(酒飲み)回!



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209 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 13:42:18.72 ID:azD7lB7YO
ブルー逃げてー!
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 16:08:12.80 ID:rTEAR8ByO
いやむしろ捕まってしまえブルー!
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 00:36:41.79 ID:ADsMexAi0
続きまだー
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/20(火) 22:48:19.37 ID:uP7l6IcA0

―――
――



ブルー「しかし…あの男が居なければこうも短期間で金を工面することはできなかったのも事実か」スタスタ



 バチバチ、と消えかけのネオン看板の下で座り込んだ浮浪者の視線が突き刺さる
荒んだ眼差しが注がれているのは彼の片手に引っ提げられた黒いアタッシュケースだった…


[ネルソン]で購入した金塊を無法都市[クーロン]で売り捌いたのだ、当然ながら"鼻の利くハイエナ"達の間ですぐ噂になる

 近場の店で売られていた黒革のケースに眼を惹かれた彼は財布に到底収まらない額のクレジットを収納する為に
即決で買い取り、札束を入れ店を去った



世間知らずの魔術師お坊ちゃんをお金に困った方々が、これまたよろしくない感情の入り乱れた眼差しで見送った










…スライムとリュートが一緒だったため手出しはしなかったが

単独である今の彼はまさしくサバンナの真っ只中を歩く高級和牛肉と同じである、後ろからブスリとやって金を盗るだけだ










ブルー(…チッ、汚らわしい)


ブルー(人をジロジロと、敵意と欲望の籠った目線…本当に汚らしい、俗物共め)






 彼とて殺意に気がつかない訳では無い…襲い掛かって来ようものならその場で焼殺死体に変えてやろうくらいの気がある

さて、どうしてくれようか?そう考えていたら…殺意とも敵意とも違う、…欲望は含まれる声と視線が背後から掛けられた










           アニー「ブルー!!良い所であったわね!」タッタッタ!




ビニール袋引っ提げた金にがめつい女が、良からぬ事を考えながら走って来たのだ…



ここ、九龍街で喧嘩を売るとヤバい奴リストに含まれる裏組織の女が

つい最近も数人の男をぶちのめして刑務所送りになったばかりのヤバい奴が、だ

その姿を確認してある者は舌を打ち、ある者は苦々しい思い出をぶり返してブルーの尾行を止めた
 アニーの知り合いであり、金を持っている人物から金品を毟り取るという行為は…
自分のタマを投げ捨てるようなモンであると、金と命を天秤に掛けて割りに合わないと判断したのだろう
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 23:28:43.16 ID:vkrsvmLpO
キター
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/20(火) 23:58:50.44 ID:NdDuEhDAo
アニーの獲物を横取りとか遠回しですらない自殺という暗黙の了解さすがです
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/21(水) 00:08:58.04 ID:FhNODQ0S0




 ブルー「貴様か、アニー…」(すごく嫌そうな顔)


 アニー「何よ、その顔」



 アニー「ってか、その鞄どうしたのよ?随分良いモンじゃん」




本革製のアタッシュケース、それはビジネスに成功した経営者のトレードマークと言っても過言ではない

 安物の鞄ゆえに『間違って知らない誰かの鞄と取り違えましたー』などと言った不測の事態を
避けるという理由もそこにはある、値が張るものであればあるだけ仕事上の大事な書類の入った鞄を見失うリスクも減る


儲けている人間程ブランド品を好むが、何もただ単に成金趣味という訳では無いのだ




…このような土地では逆に悪手かもしれんが





ブルー「あぁ…これか、丁度良い嵩張るからな貴様にさっさと渡してしまうか」

アニー「はぃ?」




ブルー「ほら、約束の金だ、[ディスペア]への潜入に必要な費用、先日の礼代わりの船賃もそろって入ってるぞ」




アニー「…なっ!アンタ、マジで用意したワケぇ!?」ガーン


ブルー「…貴様が要求したんだろうが、要らんなら別に良いんだぞ」イラッ


アニー「あぁ!!嘘嘘、要るから!…っつーか見ろって!アタシ両腕塞がってるじゃん!」つ『ビニール袋』

ブルー「むっ」




アニー「はぁ…参ったなぁ、あわよくばアンタに荷物持ちさせようって思ってたのに」

ブルー「そんなこと考えってたのか貴様」




アニー「でも、そうねー…金払いの良い客はアタシ好きよ、特別に飲み会に付き合わせてあげるわ!」ニィ!



勿論、あたしの奢りで酒も飯も食わせてやる、感謝しなよ、などと言い出したが、むしろそれが本命である

べろんべろんにブルーを酔わせて、ダウンしたところを壮大に笑ってやろうと思っている
気前のいい客だから気に入った、酒と飯を奢ってやると一見善意に見えて相手を後々小馬鹿にするための口実を作る気だ



アニー「ほら、昨日イタ飯屋覚えてるでしょ、そこ行くわよ」ダッ!


ブルー「あっ、おい!」タッタッタ!


アニー「その重たい鞄でいつまでも手を塞ぎたくないんでしょ!なら置いて手も自由になる一石二鳥じゃん!ほら早く!」

216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/21(水) 02:51:14.10 ID:FhNODQ0S0


―――カラン、カラン





ブルー「ほう?中々悪くない店じゃないか」





『Close』そう書かれた札付きの戸を開錠して、店内へ脚を踏み入れた蒼の術士の感想は好意的なモノだった


 入口から入ってすぐの所にイーゼルに掛けた黒板があり、描いた者は絵心があるのだろう素人目から見ても
才あるデザインのチョークアートが施されていた

 赤茶色の床タイルは仄かに薄暗い照明に当てられて雰囲気が出ていてカウンター越しに見える
石窯や木製ピザピール・パドル等調理器具への拘りも見て取れた


厨房奥では当店自慢のミートソースが仕込まれて、置いてあるのだろう何やら良い匂いがした


 四枚羽の天井扇風機<シーリングファン>によって効率よく室内に行き届いた暖房の温かさは夜は冷え込みの増す九龍街を
歩いてきた来店客への気配りが行き届いていた




アニー「よっと!さぁ〜てブルー、どうやって一日で大金稼いだのよ?銀行強盗でもしたの?」クスクス

ブルー「おい、人聞きの悪いことを抜かすな」


ムッ、と眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする男に「冗談だってば、カリカリすんのはカルシウム足りてない証拠よ?」と
ビニール袋をカウンターレジの横に置いてアニーはケラケラと笑う



アニー「でさぁ、悪いんだけど中身だけ確認させてもらって良い?職業柄ね、こーいうのって見とかないいけないのよ」



偽札をつかまされたり、ずっしりと思い鞄をいざ開けてみたら中身は札束じゃなくその辺のスーパーのチラシの山でした
なんてことがザラなのが裏稼業というモノだ


ブルー「ふん、勝手にしろ」ドサッ


アニー「はいはい、じゃあお言葉に甘えて勝手にさせてもらいますよーだ」カチャッ パカッ!




    札束の山『 』




アニー「…」スッ


アニー「…本物みたいね」

ブルー「当たり前だ、前金で払ったんだ…仕事はしてもらうぞ」



アニー「OK、契約成立よ…代金はしっかり頂いたわ」


アニー「どうやって稼いだか知らないけど、実の所助かったわ…急遽明日までにシップの乗船代が欲しかったのよ」

ブルー「なんだと?」


アニー「友達が今色々あって[マンハッタン]に居るの、その子が連れを3人連れて[クーロン]に帰りたがってたのよ」

アニー「なんにしても助かったよ、自分のポケットマネーから立替たとしてかなり今月ピンチになる所だったわ」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:02:27.91 ID:HsaKbXJw0



その鞄諸共くれてやる、無駄に重い荷物を手放す為にブルーは彼女にそう言い放つ

その言葉にアニーはヒューッっと口笛を1つ、彼の持って来たアタッシュケースをレジ裏に置いて飲み会の準備を始める






アニー「っと、そうだったわね」ハッ!

アニー「あたしのお気に入りのデザート売り切れてたからコンビニ行こうと思ってたんだ、ねぇ!」


ブルー「なんだ」


アニー「お高い鞄を丸ごとくれた釣銭って訳じゃないけどさ、アンタもなんか奢ってやるからついてきなよ」

ブルー「荷物持ちなら御免だが」

アニー「わぁってるっての!」



カランカラン…!



 イタ飯屋の出入口を1組の男女が出てベルが鳴る、鍵を一度施錠し戸締りを確認したうえでアニーを先頭に歩き出した
魔術師はルーン探しの為に一通りこの無法都市を散策したものの地元民と比べれば圧倒的に土地勘が劣る


 徒歩10分もしない内に二人がとある店舗に辿り着く、緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯が見えた
幟が立ち並ぶ店先には『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱が綺麗に並び
その隣には煙草に火をつけながら屯うガラの悪い若者が座り込んでいた






ブルー「」ポカーン…キョロキョロ


アニー「ん?なんか欲しいモノでもあったわけ?」


ブルー「いや…この『"こんびにえんすすとあ"』とやらは…随分と変わった店なのだな、と」キョロキョロ







[マジックキングダム]にはコンビニという物が存在しない

異文化交流…ちょっとしたカルチャーショックを受ける魔術師、慣れた手つきで緑の籠に次々と甘味を放り込む女
なんとも奇妙な組み合わせであった


ブルー(…なるほど、確かにこの街は人口が多いし生活リズムも皆バラバラだ)

ブルー(24時間営業でも利用客はある程度確保できるか、人数も必要最低限で人件費も――)う〜む








アニー(…こいつ、何そんなに難しい顔してんの?、そんなにコンビニが珍しい文化なのかしら)ヒョイ、ガサゴソ



218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 22:30:10.80 ID:HsaKbXJw0




ブルー「むっ!!!」




『プッチンプリン』



ブルー(カスタードプティングか…)ジーッ



アニー「何か欲しいモンでもあった――――ぷっ!!」



不愛想な男が棚に置いてある商品を1つマジマジと眺めていた、何かと思えばそれはお子様なら誰もが喜んだことだろう
お皿にひっくり返してポキッ!とやるあの3個入りのプリンだったのだ


アニーは思わず笑いそうになって口を手で押さえた(堪えきれなかったが)





ブルー「…なんだ、貴様悪いか」ギロッ


アニー「…くっ、ぷぷ、…い、いえいえ、なぁ〜んにも悪ぅございませんよ?人それぞれですし」プッ ククッ…





 [ドゥヴァン]のカフェで砂糖とミルクたっぷりの珈琲を褒めちぎったストレスを貯め込みやすい優等生は迷わずプリンを
アニーの籠に入れてやった


レジで会計を済まし二人は荷物を置いてきたイタ飯屋前へと再び戻る、アイスクリームを購入した事もあって若干急ぎ足で
帰路についた彼女は鍵を開けて店内に入る…その彼女の後ろを根に持ったてるのか膨れっ面の魔術師が追う



アニー「…」

アニー「」チラッ





ブルー「…人が何を喰おうが勝手だろうが…そもそも、それを言えば…」ブツブツ






アニー「…」




 - なんだよ!姉ちゃんに関係ねーじゃん! -

 - うるせぇよ!好きなモンは好きなんだし仕方ねーじゃん!ふんだっ! -




アニー「そういうとこ、似てんのよね」ボソ

ブルー「は?」


アニー「なんでもないわ」


219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:17:30.77 ID:HsaKbXJw0
―――
――





ストトトトトト…!

ストンッ!




アニー「ほいっ!一丁あがり!」つ『生野菜スティック』


人参、大根、胡瓜、セロリ、買ってきた野菜を5pほどに均等に切り分け、透明なグラスカップに入れておく
小皿にそれぞれマヨネーズとケチャップ…オーロラソースを乗せて運んでくる


テーブルの上には半額シールの惣菜たち…焼き鳥だったり、コロッケや胡椒を利かせたイカ下足炒め
麻婆茄子と皿に薄く切り分けたチーズやハム等が並べられた




ブルー「アニー…これは、どうやって飲むんだ?」つ『缶チューハイ』

アニー「はぁ?どうって…普通に開けて飲むんだろ」



ブルー「…俺は生まれてこの方、缶を開けた事が無いんだ」

アニー「はぁ〜…ほれ、貸してみな…イイ?ここん所にプルタブってのがついてんでしょ?これに指を引っかけて」プシュ

ブルー「!…こうやって開けるのか」



アニー「アンタ、よくそんなんで世間に出て来れたわね、術よりまず一般教養を学びなよ」ヤレヤレ プシュッ


ブルー「…善処はする」









アニー「それじゃ!乾杯!」

ブルー「ああ、乾杯」










ブルー(……)


<んん〜!!うまいっ





        ブルー(…俺は…)


        ブルー(…俺は何をしてるのだろうか)


220 :>>205 冒頭 ブルー独白に戻る… [saga]:2018/02/23(金) 23:29:28.38 ID:HsaKbXJw0



ブルー(俺には使命がある)

ブルー(国家から、"親"である祖国に忠義を尽くすという大事な責がある)












ブルー(だというのに、どうしてこうなった…)チラッ







アニー「んっ、んっ…んぅ?何よ、アンタ飲まないワケ?」キョトン

















この女には【利用価値】がある



コイツが居なければ刑務所のリージョン[ディスペア]に潜入できない

"解放のルーン"を手にできなければ試練はクリアできない





それに、頭の悪そうな女だが…剣の腕は立つ、戦闘の際いざとなればコイツを囮や盾代わりにして保身に走ることもできる

…だから、"上辺っ面"だけでも取り繕い、友好的な関係を築いておいて損は無いのだろう







こいつの戯言に適当に付き合い、今のような突発的な誘いにも顔を出してご機嫌取りせねばならんのが癪だが…



せめて…[ディスペア]潜入、そしてルーン取得まではこの女の顔色を窺わねばならんな

用済みになったらすぐにでもこんな奴、こっちから捨てて――――





アニー「ちょっとぉ!!聞いてんのかって!」

ブルー「…」

ブルー「聴こえているぞ、叫ぶな」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/23(金) 23:59:54.00 ID:HsaKbXJw0


アニー「缶持ったまんま微動だにしないし、呼んでも返事しないし、そりゃデカイ声だって出すに決まってんじゃん」

ブルー「すまなかった、少し考え事をしていてな」










ブルー(…こんな下らん茶番に付き合う時間が惜しいというのに)

ブルー(俺が呑気にこんなことをしてる間にもルージュは資質を集めているかもしれんというのに…!)






アニー「だったら飲みなよ?酒飲みなんて一人でやってもつまんないから暇そうなアンタ誘ったのよ?」フゥー


アニー「酒は誰かと騒いで飲むのが一番楽しいからね」ゴクゴク




ブルー「…」ゴクッ



 缶に口をつける…祖国には缶飲料はあった、免税店や他所のリージョンからの観光客を狙った店先で扱われる事が多く
基本的に魔法薬を瓶詰で保管していた歴史から塩漬け、酢漬けのピクルスなどは皆、瓶と最先端魔法技術で保存してきた

学院の学生寮で育った彼は缶を見る機会こそあれど口にしたのは初だった





ブルー「美味い…」





自然と口に出していた言葉だった



アニー「でしょー、食わず嫌いせずまずは何でも飲んだり食ったりするもんなのよ、缶持って硬直してたけどさぁ」

アニー「自分トコじゃ珍しい文化だからって偏見を持つのはよくないわ、うん」ゴクゴク





…別に動きを止めていたのはそういう理由じゃなかったのだが

黒い背景に桃と柑橘系のイラストが描かれたチューハイ、香りも果物の独特のフレーバーを活かし初心者でも飲みやすい物
一方対面する女の手には対照的に白に染め上げた缶でまろやかな喉ごしのサワーだった




ブルー「……まぁ、見た目だけで判断するのは誤りがあるのは確かだな、貴様の言う通りだ」ゴクッ



 目の前の人物の第一印象は「ガサツな女」「頭の悪そうな奴」「どうせ男に身を売ってるような奴」だったが
正しく見た目で判断してはいけない例だったと、打ちのめされたばかりである

222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:32:25.62 ID:bwScDHXt0




ブルー「……貴様には兄弟が…『弟』が居た、のだったな」


アニー「ん、そうよ…前に話したじゃんか」ポリポリ



 頬杖を突きながら金髪の女はスティック胡瓜にマヨネーズをつけて食べていた
意外にも話しを切り出した男を少し意外そうに見ていた彼女に彼は続けた









    ブルー「お前にとって、『弟』というのは…自らの身を削ってでも守るべき存在なのか?」







ブルー(…俺は、本当に何を言ってるんだろうな)






 アニー「そんなん当たり前じゃん、『家族』なんだから」ポリポリ







女は男の質問に、さも事も無げに言ってのけた





 アニー「前にも話けど、あたしには妹と弟が居んのよ、んで妹は[ヨークランド]の金持ちの家に養子になったけどさ」

 アニー「悪ガキで小さい弟はあたしが養うしかないのよ」




前にも話された事だ、両親が居ないから長女である彼女が年下二人の面倒を見ていると





 ブルー「お前はその養育費を自分の為に使おうと思わんのか?」

 ブルー「今までつぎ込んできた仕送りの額がどれ程かは知らんが人間1人を食わせて行けるだけの金額だ」

 ブルー「命の危険を冒す職務などせずとも穏やかな土地で平穏に過ごせるだろう」




 ブルー「そいつの事を見捨てたとしてもそれを責める人間が、そのような環境がお前のすぐ傍にあるとでもいうのか」




この無法都市で、明日を生きるためなら隣人から財布を掠め盗るような街で


…そうでなくても365日、常に誰かが貧困の中でその命を消してしまうような土地で
誰に自身の生命を優先することを咎められようか?

ブルーが言ってるのはそういうことだ
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 00:55:27.20 ID:bwScDHXt0



アニー「…」ゴクッ



アニー「ま、アンタの言い分も分からなくないよ…そりゃあ誰だって自分で頑張って稼いだお金を自分の為に使いたい」

アニー「そう思うことは間違いじゃあないし、こんな街なら…ましてやあたし等みたいなのは庇護されない」

アニー「自分の身の安全も生活の保証も何もかも全部自分でどうにかするっきゃない」




アニー「ああ、アンタは間違ったことは言ってないよ…けどね、そういうんじゃないんだよ」




ブルー「…なんだというのだ」








アニー「そうだねー、あたしは頭良くないからさ、巧いこと説明できないけど、強いて言うなら『心』ね」


アニー「あたしの『心』がそうしたいから、損得とかそういう話じゃないのさ、…それじゃ納得できない?」







ブルー「……俺には理解できん、そこまでして『弟』を守ろうという思考が」








                弟<ルージュ>を殺す



その【思考】で祖国を出た男には、女の『感情』が今一つ理解できずに居る




アニー「ああああ!!もうっ!あたしは楽しく酒飲みたいの!なに!暗い話してんのよ!」


アニー「やめやめ!湿っぽいのは本当嫌いなんだってば!」ゴクゴクゴク!



ブルー「そんなペースだと酔いが回るぞ」ゴクッ

アニー「うっさい!!…あ、空になった、次の空けよ」ゴソゴソ






コンコン!!



<おーい!!アニー!エミリアー!ライザー!誰か居ないかー!開けてくれぃ
<ぶくぶくぶー!


ブルー「…この声は」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:06:37.72 ID:bwScDHXt0



アニー「はいはい、今開けるわよ…」ガチャガチャ



ブルー「お、おい…」









             バーーーン!!





リュート「イエーイ!アニー!久しぶりだなぁ!!さっき、そこの店でおっちゃんが蟹の安売りしてたんだ!」つ『蟹』

スライム「ぶくぶくぶー!(`・ω・´)」つ『白菜、ネギ、しらたき…etc鍋セット』





リュート「いやぁ!色々あって金塊売りまくって臨時収入があってさぁ、景気よくパーッと…んあ?」チラッ

ブルー「…」ゴクゴク



リュート「ブルー!お前こんなとこに居たのかよ!丁度いい!お前も鍋パーティー参加な!!」


スライム「ぶくぶくぶくぶく!(/・ω・)/」ワーイ!ワーイ!





ブルー「貴様、この女と知り合いだったのか…」

ブルー(…あの時、リュートが言ってた知り合いの女ってアニーの事だったのか)




リュート「おう!そうそう…いやぁ〜!なんつーか奇遇だよな!」

アニー「そうね、人の縁って不思議よね〜」ポリポリ



ブルー「…酔いが回ってきたのやもしれんな、頭が痛くなってきた」




自分は酒には強い筈だったんだがな、とため息交じりにブルーは席を外す、少し夜風に当たって来たいと一声かけて




<リュート、このスライムなに?

<ブクブクー

<面白れぇ奴だろ!話し見ると結構楽しい奴だぞ!



ワイワイ…ガヤガヤ…!



225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:25:46.59 ID:bwScDHXt0
―――
――




【店の外】



ブルー「…ふぅ…ドアの向こうから声が丸聴こえだ」カラン



 氷の入ったミネラルウォーターを口に含む…昼も夜も変わらない明るさが変わらない常灯の摩天楼で
イタ飯屋の壁に背を預け、騒がしい女と男、そしてゲル状生物の声を聴く








ブルー「…やれやれ、まったく喧しいったらありゃしない」ゴクッ

ヌサカーン「ほう?その割には中々にキミは楽しそうにしているがね?」

ブルー「フッ、まさか…そんな事あるわけないだろう…」ゴクッ





















ブルー「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」ブ―――ッ!!!


ヌサカーン「口に含んだ水を勢いよく噴き出すのは上品とは言えないな…」ヤレヤレ





ブルー「貴様ァ…!いつからそこに居た!」


ヌサカーン「うん?あぁ…今来たところだ、此処の店は良い所だ、偶にサングラスの店長が作ったグラタンが恋しくなる」






気がついたら、当たり前のように自分の隣に居た上級妖魔…そう、あの粗蟲共の元へ共に行った妖魔医師ヌサカーンだ


相変わらず白衣を身に纏い、そしてブルーの隣に違和感なくブランデー入りのグラスを持って立っていた





ヌサカーン「キミ、気づいていないのかもしれんがね、彼等の声に耳を傾けていた時何処となく楽しそうに見えていたよ」

ブルー「そうか、そう見えたのならば眼科へ赴くことを奨めるぞ、闇医者」

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/02/24(土) 01:40:08.84 ID:bwScDHXt0


ヌサカーン「中々にイイ傾向だ、他者との交流、会話は自分の感情に彩をつける」

ヌサカーン「現にキミは【呆れ】や【驚き】時に【怒り】そして……相手の思考が読めない事から【戸惑い】や【疑問】」

ヌサカーン「様々な『感情』を抱き始めているではないか、交流の無い者は次第に心を閉ざしていく」


ヌサカーン「キミの心に巣食い始める病の予防薬になるだろう」ゴクッ



ブルー「突然現れて訳の分からないことを抜かすな」








    ヌサカーン「そうかね…まぁ、良い、今日はキミにしばしのお別れを告げにきたのだよ」


       ブルー「"お別れ"…だと?」






ヌサカーン「うむ、実は…訳あって私はしばらく[クーロン]を去る事になったのだ」

ヌサカーン「勘違いしないでくれたまえ、ただ[ヨークランド]に病気の少女が居ると今日来院した者に言われてな」

ヌサカーン「少し往診をしに行くのだよ」




ブルー「ふん!そんなことをわざわざ俺に言いに来たのか、暇してるようだな藪医者」



ヌサカーン「本当ならキミの旅に同行しようかと思っていたのだがね、キミは中々興味深い人間だからね観察したかった」


ブルー「それを聞いて尚更安心した、さっさと往診に行くがいい、そして戻って来るな」





ヌサカーン「やれやれ冷たいものだ、……結構な長旅になるんだがなぁ」

ヌサカーン「[ヨークランド]で患者を診た後で、もう一人気になる患者が居るから…本当に当分の間戻って来れんのだよ」



ヌサカーン「しばらくの間、私の病院に留守にしている、という主旨の書置きは残しておくが」

ヌサカーン「念のためキミに伝えておこうと思ったのだ、何かあっても私は居ない、とね」スゥゥ…






それだけを言い残し白衣の男は影となって消えた、後には空になったグラスだけがアスファルトに取り残された…




ブルー「…夜風に当たりに来たというのに、余計に気分が悪くなったな」チッ

ブルー「戻るか…」



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