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ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 22:55:49.49 ID:RUt02vHU0
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  何か忘れてると思ったら、リージョン強盗団 ノーマッドに関してのちょっとした解説を書き忘れてた




 【リージョン強盗団ノーマッド】は作中で登場する場面が大きく分けて2カ所です




 @ キグナス号

 A タンザー




 サガフロは7人の主人公が居て、プレイヤーはその7人から1人選んで各主人公のシナリオを進めていく

 当然選んだ主人公次第では発生しないイベントやそもそも行けないリージョン等もある


例)クーンが[ファシナトゥール]や[時間妖魔のリージョン]に行けない等



原則的に一部を除いて術の資質集めイベントは誰であっても行うことは可能です

その中で"印術"を得る為、各地にある石の試練を通過する際、必ず[タンザー]には立ち寄ることになります





印術の試練を開始して、[勝利] [解放] [保護]何れかのルーンを1つ取得した状態でシップに乗ると強制的に

事故率が高いと(悪い意味で)有名なシップ、スクイッド型に搭乗します…



タンザーに飲み込まれ、そこで開幕早々にノーマッド一味に絡まれるというのが全主人公共通のシナリオです


※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる

正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり


逆に、我関せずのスタイルを崩さないブルー、呆れ顔で静観するエミリア、穏便に済まそうとするリュート等々…











さて、既にお気づきかもしれません…






>※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる
>正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり





レッド主人公の場合、自由行動が可能になるのはキグナス号強襲事件の後です…タンザーに行けるようになるのはその後


そう… "ブラック・レイによって粉微塵にされたはずのノーマッドが平然とタンザーの内部に居るのです!!"


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353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 23:08:06.02 ID:RUt02vHU0
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 タンザーに飲み込まれた後のレッド自身の台詞からも、あの時のパイレーツか!と発言する辺り

 サガフロ時系列的にノーマッドがタンザーに飲み込まれたのはキグナス強襲後の出来事…











 つまり、船が砲撃で粉微塵にされ、全員が混沌の海<宇宙空間>に放り出された直後

 死ぬより早くタンザーに飲み込まれ助かるという悪運の強さが分かるワケですね…



 女頭領、ノーマッドの悪運高さはこれだけに留まらず


 彼女が持つ【全て集めるとどんな願いも叶う魔法の指輪の1つ『盗賊の指輪』】を求めて来たクーンに追い詰められ


 タンザー内部の消化器官に喰われ、一定ターン以内にタンザーの器官を戦闘で倒せないと
 ノーマッドが飲み込まれるという結果に終わるのですが


 何故かクーン編のEDで普通に生存してる姿が確認できるという…







            \  すっごーい!   /

                     i`ヽ   ,`ヽ
            ,,,-、   .iヽi  ヽノ   }
            |  ` ‐-+、        i,-,  ,ノ⌒i
        __,-‐―!    { `ヽ :::.  _,,{_ノ_ i   }
       ヾ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.ヽ   ヽ、., '     ヽ、__{
          ,‐ミ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、   ノ            }
        ,-‐'  `ヽ‐-:::::::::::::::::::_{`´   ,、        ノ
      `ヽ、:.:.:.:.::.:.:::::::_,. -‐ ´ }    | ` 、   / {
         ` ‐- 、;;;;:{     人  {  ● ` ´ ●
              ヾ   } (  ヽ-、!        ノ
               }  ├i `‐-、  ` --─一´
           ,-‐‐´  _ノ .|  { !,, ,,-‐''´
           {`‐-< ̄   .{  {  X  } ヽ
           ヽ  ノ       ヽ_>‐{ !⌒   ヽ
            `´           { ノ''ヽ ̄`―´
                     `‐、  }
                       `´


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354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 23:25:08.10 ID:wxMc/4O00
異能生存体かな?
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 01:22:01.84 ID:tvb8a5nzO
星の海を股にかける大海賊だから多少はね?
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:33:23.10 ID:O7fjBJ/k0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人




 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩き、木陰でお互いに笑い合っていた






    『そのおもちゃよっぽど気に入ったんだな』ペラッ
    【そーれ!バーン!バーン!…えへへ!露店のおじさんがサービスでくれたもんね!】カチッ!


    『ああ、何故か服を着てない女の本を返しただけでな』
    【不思議だよねぇ〜、キミはその[ワカツ]の剣術の本面白いの?】


    『そうだな…魔術とは違い、闘気というモノを操る剣術は興味深い』
    【剣かぁー僕は運動神経よくないからなぁ…それに剣より銃の方が何か恰好良いもん】カチッ!カチッ!


    『フッ、飛び道具など術があるだろう、実用性を考えれば懐に入られた時の為の剣が良いに決まってる』
    【むぅ!意見が別れたね…】








    『…久々に笑った気がするな』
    【えっ?】






    『学院で同じ歳の奴らと話してて此処まで楽しいと思ったことはなかった…本当何故だろうな』

    『心が晴れ晴れとしているんだ…なんで安心するんだろうな』
    【……へー、不思議、僕もなんだか安心するんだ】


    【なんだかずーっと昔に落として無くなっちゃった宝物をタンスやベッドの裏で見つけたみたい】


    『…ぽっかりと、空いた何かが埋まった感じ、か?』

    【! そーそー!すごいね!今僕の考えてる事と同じだよぉ!…いやぁキミ人の考えを読むの巧いね】



    『いや…そうじゃないんだ…別にお前の思考を当てたワケじゃない…ただ』
    【?】






    『俺が、純粋に今、思ったことなんだ』


―――
――
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:43:47.30 ID:O7fjBJ/k0












パチッ…


         …? …あぁ、そうか鴨肉を焼いた後、アニーに丸投げして仮眠を取るため客室に戻ったんだな














時計は……【20時15分】…とんだアクシデントに見舞われたモノだ


陽の高い内に[クーロン]を出て帰って来るのが夜中とは…






…丁度今、発着場に着陸するとアナウンスも流れて来た…荷物を持って降りる支度でもしておくか



358 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 22:54:26.70 ID:O7fjBJ/k0






           ※ - 第3章 - ※



    〜 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 〜




359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 23:22:16.71 ID:NjW0TnI/0
いよっ!待ってました!
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 23:27:18.20 ID:fnGjHvzgO
素早い復帰で嬉しい
続きも待ってます!
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 23:18:38.97 ID:ks/1nI6H0
【双子が旅立ってから3日目 午後20時28分】




 仮眠を取り、目覚めてすぐの身体は節々がまだ少し鈍ったように思えた
術士は気怠げに蒼の法衣をはためかせながら発着場を後にした…目指す先は自分が金塊で得た資金にモノを言わせた安宿だ


 長期滞在、という形で宿室を確保した彼の半ば仮住まいと化したオンボロ宿屋へと向かう最中
ふと見覚えのある後ろ姿が目に留まった






リュート「はーい!皆さん拍手拍手!スライムの曲芸だよ〜!この輪っかを見事潜り抜けたら拍手〜」

スライム「(`・ω・´)」キリッ! ピョーンッ!



シーン…




 路上のど真ん中で曲芸とやらをやっている1人と1匹が居た、彼等の手前には空っぽの蓋がくり抜かれた缶詰の缶がある
おそらく道行く人の御捻りを入れて貰う為なのだろう…今のところの儲け?空っぽであることから分かる通りだ




リュート「…ちぇっ、世知辛い世の中だなぁ…」ポロロン♪

スライム「(´・ω・`)」シュン…





ブルー「…」







ブルーは見なかったことにした、というか他人のフリをした、知り合いだと思われたくない








リュート「おぉっ!?オイ見ろよスライム!ブルーだぜ!帰って来たんだな!おーい!ヤッホー!」手フリフリ

スライム「(`・ω・)ぶくぶくぶー!」ピョーン!ピョーン!



ブルー「畜生ッ!」




だが、人混みに紛れて姿を眩ませるのが間に合わなかった

敢え無く彼は、センスが無くて売れない路上パフォーマーの知り合いという奇異の眼で群衆の注目を浴びた



―――
――


リュート「はっはっは!なんだよ、そう怖い顔すんなよ〜俺達、一緒に大金稼いだ仲だろ、相棒?」ニコッ

馴れ馴れしく肩に手を置き笑ってくる男を恨めし気にブルーは睨みつけた
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 02:47:10.48 ID:P1zUPoOk0


 2人(と1匹)は[クーロン]の寂れた通りにある、おでん屋台の古木を組んで作った簡素な長椅子に腰掛けていた
悪態を吐いてすぐに立ち去ろうとしたが弦楽器を背負った無職にしつこく付き纏われ
最終的に折れて少しだけ話に付き合うという所に落ち着いたのだ

 眠らない魔都の雑踏や目が白黒するようなネオンライトが仮眠明けの覚醒し切ってない脳に嫌に響く
せめて静かな場所に移動しろ!とキレ気味に抗議した結果が寂れた通りのおでん屋の屋台に移動した経緯であった




…まぁ[クーロン]で"まともな静かな場所"など無いに等しく、今彼等の居る場所も比較的に静かな場所でしかないのだが



裸電球を針金で吊るしただけのか細い灯りと古めかしいラジオから流れる時代遅れの選曲がこれまた哀愁を漂わせていた
 おでんと書かれた赤提灯と紺色の暖簾…夕食をまだ取っていない彼は何か軽く胃に詰められるモノは無いかと思っていた
空腹を埋めれるのであれば店の外装なぞどうでも良かった、味さえ悪くなければ何でもいい


トクトクトク…


 硝子のコップに注がれる焼酎とやらを呷るように飲むリュート…飲み始める前からコイツは酔ってるのではないかと
ちびちびと飲みながら横目でブルーはこのプー太郎を訝しんだ


リュート「いんやぁ、災難だったなぁ〜船がハイジャックされたんだろう?」

ブルー「まったくだ…[タンザー]の件と良い、これと良い…どうも俺はシップと相性が悪い」



味の染みこんだ煮卵を割りばしとやらで器用に食っていくリュート
その横で味噌という調味料を塗ったくった"デンガク"という食べ物にがっつくスライム


箸、という食器を使うのはブルーにとってあまり馴染が無くどうにもモノを巧くつかめなかったがそれでも意地になって
串のように突き刺さずに苦戦しながらも大根を口に放り込んだ

 昨日の蟹すき鍋の時と良い、このリージョンの人間は何故ナイフやフォークでなく箸などという物を愛用したがるのか
言葉には出さずに少しだけ呆れとも感心ともどちらともつかない感情を抱いた





ブルー「…味は、悪くないな」モグモグ





食べ辛いのが難点だが、祖国の料理に勝らずとも劣らないなとオンボロ屋台のおでんを彼は高く評価した



リュート「だろぉ?なんだって食ってみるもんさぁ〜、えーっとどこまで話したっけ?」

リュート「あー、そうそう船がジャックされた話だな、そんで犯人たちと戦ったんだろう?」


ブルー「まぁな、奴らなど術で一網打尽だったがな」フッ


リュート「う〜ん、術かぁ…便利だよなぁ、やっぱ使えた方が就職に役立つよなァ」



[マジックキングダム]は完全な術の実力社会主義だ、魔術師としての才能の有無で将来性が決まる節がある
故にリュートのぼやきを相槌を半分流しで聴いていたブルーはそれには心の中で頷いた




リュート「しっかし考えてみると便利そうだけど、術だけってのも問題なんじゃないのかい?」

リュート「肝心な時に術力が切れて、うわーガス欠だーってなったら困るし術を反射したり効き目の無い敵と会ったら?」



ピタリ、不慣れな箸の動きが止まりブルーは眼を丸くした…
馬鹿だ馬鹿だと思っていた男が意外にも的を得た質問をしてきたのだから
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:12:02.02 ID:FFroIjC90


ブルー「貴様の言う事も一理あるな」




ブルーは術が使えなくなった時、自衛の手段が恐ろしい程に無くなる


 それは以前、アニーと二人で[保護のルーン]があった空間に行ったときに証明されている
巨蟲の一撃で術の詠唱ができない状況に陥ったあの時同様に喉や、肺をやられれば立ちどころに蹂躙される未来しかない


術の使えない術士など、非力な人間でしかないのだから…





彼は昔、本で学んだことがある…世には己の術力全てと引き換えに全てを焼き払う『<塔>』という術が存在すると


高位の術士が使えばその火力たるや現在確認されている術の中で隣に並ぶモノはいないと評されるほどである

使えばありとあらゆるものが屈服すること間違いなしだが、これは本当に最後の切り札と言っても過言ではない






もう一度言うが己の術力全てと引き換えに、だ




 短期決戦や1対1のサシでの勝負ならともかく、その後も敵の増援が控えて居たりと
長期戦を想定した場合に使えばどうなるか…


ガソリンが底を尽きた自動車が荒野のど真ん中に置き去りにされるようなモンである





ブルー「術に頼らずに戦う術を手にすることを考えねばな…」



顎に手を当て、空腹さえも忘れ黙り込む―――武器…銃、は…不要だな、とバッサリ考えから外す

 手頃で使いやすいだろうが…それでも敵との相性がある
例をあげれば[スケルトン]種のようなモンスターには銃撃は効果が薄い



…すぐさま浮かんだのは、剣だ



 運命のいたずらか、彼は自分の幼い日の夢を見た…顔はぼやけていて思い出せないが自分と同じ年頃で銀髪の少年と
祖国を廻って遊んだ一夏の思い出


記憶の中の自分は[ワカツ]剣術の本を読んでいて
その中には術の力とはまた別の闘気なるモノを用いた特殊な攻撃がある事を知った


よくよく思い返せばアニーが虫共に対して撃ち放っていたのもそうだ




ブルー「…アニーか、女の腕力でも技と速さを生かして十分に立ち回る…」フム



ブルー(癪だが奴に相談してみるか)


 隣の席で考え事に耽っているブルーのおでんを盗み食いしようとするリュートに気づくことさえなく
ブルーは今後の予定を決めた…
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:54:43.38 ID:FFroIjC90
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【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分】


噂通りの場所だなーっと、観光パンフレットを片手にルージュは呟いた

 乗客の大半はまだまだ警察…即ち[IRPO]の事情聴取を受けている中、ハイジャック騒動で刑事に協力したルージュ等は
優先的に手短な手続きだけで解放された…「面倒だがこれも規則なんでな、まっ!ちったぁ融通は利かせるぜ!」と
ヒューズ刑事の計らいで長い列に並ばされることなく済んだわけである



暗がりの街に目が痛くなる程の光の渦、耳鳴りを覚えそうなくらいに様々な音が流れていく



エミリア「ささ、こっちよ!着いて来て銃を販売してる店を紹介するから」


ルージュ「はいっ!ところで、ルーファスさんは?」

エミリア「うん?ああ、アイツならアニーと先に帰ったわ」


ルージュ「アニーさん…確かエミリアさんのお友だちの方ですね、僕はまだ一度もお会いしていませんが」

エミリア「ええ、あの海賊たちのドタバタで結局紹介できなかったわね…」


エミリア「この街で困った事があったら彼女を頼ると良いわって会わせてあげたかったんだけどねー」


ルージュ「この名刺を渡せば良い、んでしたっけ?」


エミリア「そうよ、私があげたグラディウスの名刺ね…あの子いつもイタ飯屋の前に立ってるから」

エミリア「なんかあったらエミリアから紹介を受けたって言って名刺を差し出すと良いわよ」



エミリア「それにアセルスと白薔薇ちゃんはもう彼女と面識があるし協力を取り付けやすい筈よ」




エミリア「…ところで二人は?」




約束通り、銃を扱う店を紹介してくれるとルージュは金髪美女の後をついてく…

…何故、マンホールの下へ降りて行こうとするのか疑問に思った所で話題に上がった同行者の話を振られた





ルージュ「あの二人は別行動中ですよ、心配だからついて行こうとかと言ったら、問題無いと言われまして」

ルージュ「なんでも、このリージョンにお住まいの"ヌサカーン"というお医者様の元を尋ねるそうでして」



エミリア「妖魔医師って白薔薇ちゃん言ってたわよね…アセルス、人間に戻れるのかしら?」

ルージュ「……僕には、何とも言えません」






ルージュ「…あの、さっきから気になってるんですが、なんでマンホールの下へ降りるんですか?」

エミリア「あ、この街の武器屋はマンホールを下りた下水道にあるのよ」ヒョッコリ


地中から顔をだした土竜のようにひょっこりと顔だけ出して引き攣った顔のルージュにエミリアは答えた
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 02:40:47.01 ID:FFroIjC90
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【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ&エミリアが武器屋に行く同時刻)】



ポツッ…ポツッ…




 光化学スモッグに薄汚れた街の配管から濁り水が流れ落ち、それは雨水が生み出した小さな溜まり場に行きつく
無数の交差する電線の上には行き倒れの人間そのものを喰らわんとする鴉が眼を光らせており…

常人ならば誰も好んで通りたくないだろうそんな裏通りを一組の女性たちが歩いていた


一人は美しい貴婦人のような出で立ちで頭に白い薔薇の飾りをつけた淑女

もう一人は可憐さよりも凛々しさの方が前に出る整った顔立ちで緑髪が目立つ少女





 綺麗な花には棘がある、などとはよく言ったモノで…一見すれば彼女等は治安の悪いこの街の通りでは
恰好の餌に見えるだろうが、この二人は人間<ヒューマン>ではない、妖魔だ


不用意に敵意を以て近づけば、路地裏に転がる冷たい骸になるのはこっちである



丁度、彼女等二人の眼界にある建物の主と同じ…危険な人物なのだから








アセルス「…此処が、そのヌサカーンって人の…」ゴクッ


白薔薇「はい、妖魔医師ヌサカーン様ですわ、この御方ならばあるいは…」





アセルスは一度だけ白薔薇の顔を見た、自分に付き添ってくれたこの姉の様な優しいヒトを

…固唾を飲み、不安とも期待とも取れる奇妙な感情を胸に暗黒街にひっそりと存在する闇医師の居城の門戸に手を掛けた




ガチャッ!ぎぃぃぃ…







アセルス「た、たのもーーーーっ!」

白薔薇「…アセルス様、それでは道場破りか何かですわ…」





…アセルスお嬢は緊張していた



アセルス「あ、あぁ…!そ、そうだね!ごめんくださーい!どなたかいませんかー!」


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 03:34:22.28 ID:FFroIjC90


 薄暗い室内、古びた柱時計に古き良き時代からあるダイヤル式の黒電話
鼻につんっ!と来る病院特有の薬品臭さ…病院の立地条件も相まって院内は不気味そのもので
10代半ばの少女アセルスは歳相応の反応をするのも無理は無かった





アセルス「…あのー…どなたか、…い、いらっしゃいませんかー…」ピトッ

白薔薇「アセルス様、大丈夫ですから」ナデナデ




 さっきまでの威勢の良さはどこへやら、普段は勝気でモンスターとの戦闘にもめげない彼女が語気を弱め
姉代わりの貴婦人の腕にぴたりと、夏場の樹に止まった蝉か何かようである

そんなアセルスを教育係の白薔薇姫は微笑ましくなでるのであった、そして…





白薔薇(それにしても、変ですわね…)ハテ?



白薔薇(ゾズマから聴いた話では来客を驚かせる"おもてなし"に精を出す奇人だとはお聞きしていましたが…)


白薔薇(にしては、あまりにも気配が無さすぎる…何処かに隠れている、ような感じにはとても)






そして、黒電話が置かれた受付机の上に置かれた来客者に宛てたであろう…この病院の主の文を見つけた












【 ちょっと、[ヨークランド]まで緑の獣っ子と往診に行ってきます

      あと各地を廻って奇病を抱えた女性客を診るので しばらく [クーロン]に帰りません ヌサカーンより】














アセルス「 」( ゚д゚)

白薔薇「…あらあら、まぁ…」







……かくして、アセルスの人間に戻れるかもしれない、という期待はいともたやすく崩れたのであった

367 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 11:50:22.33 ID:DMumBUm9O
あの仕掛けはリアルにビビる
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 21:48:15.92 ID:vBgNsOZB0
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【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ組、アセルス組がそれぞれ同時進行中)】




「ブラッククロスぅ〜?知らねぇな」スタスタ…

レッド「そうか、ありがとう」







暗黒街[クーロン]…海賊騒動の件を終え、レッド少年は自分の家族の仇である悪の秘密結社の情報を掴もうと
 キグナス号乗務員が次の小惑星<リージョン>へ旅立つ前の休息期間を利用して一人、…いや一機と闇市を歩いていた





BJ&K「…」ウィーン


レッド(…あの後、医務室でコイツに『異常発見、特殊な…』と言われかけた時はビビったな)



 医療ロボット、BJ&K…彼はレッドの生体反応を見て、通常の人間とは違う事に気が付いた
レッドが遠い宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た人物に力を託され一命を取り留めた人間だと
機械ゆえに生体反応から分かったのだ



レッド(バレたら俺はヒーロー協会の掟とやらで抹消されちまうからな)

レッド(咄嗟にそれ以上喋るな、喋ったらお前をぶっ壊す、俺の傍から離れても壊すっつっちまったからな)




 後ろ頭を掻きながら、乱暴な事を言ったもんだと彼は少し後悔した
そして医療ロボは「命令内容が不正ですが壊されたくないので私もついていきます」と律儀についてくるという



「…ひひっ」
「くすくす♥」





レッド「…」スタスタ




 齢19、まだ大人になりきれない年頃の彼は…正直に言うとこの街の雰囲気に少しだけ気圧されそうではあった
物陰でまだ年若い彼を見ながらほくそ笑む男女の声色や目線、その全てが
まだ大人になり切れない彼の少年の部分に触れてきそうで心細さはあった





BJ&K「…ピピッ、人の大規模な集まりを確認、情報収集に適しそうですよ」

レッド「!」ハッ

レッド「あ、あぁ…ありがとうな」





…たとえ、メカでも今は"独り"じゃなくて良かった、彼は思った

369 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 22:55:44.29 ID:vBgNsOZB0


情報収集に勤しむ少年は医療ロボと共にひたすら暗黒街を渡り歩く、彼はメカと違い人間<ヒューマン>だ

 動けばカロリーも消費する、あの騒動でそういえば何も食ってなかったなと身体が空腹の音で知らせ出した頃
適当に眼に止まったコンビニエンスストアで何か軽いモノを買って行こうと歩きだした





「へっへっ…よぉ!見ろよあの頭!」

「ヒューッ!まぁ〜ったく奇妙なヘアースタイルだぜぇ!!鳥の巣かww」
「ちっげーよ、サボテンだろぉ?」



「「「ぎゃーはははははっwwww」」」






…治安の悪い街でこの程度のゴロツキ共はまだタチの良い方だろう

どこの惑星<リージョン>にもまるでお決まりのようにいるコンビニ前で屯うガラの悪い若者という奴だ

 緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯の下
『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱の前に座り込み煙草の吸殻をこれでもかと言わんばかりに
撒き散らしているモヒカンヘアー達



レッドは何も言わずに彼等に背を向けた



「サボテンくぅ〜ん、アタシ等とあそんでかなぁ〜い…イイ事してあげるわよ!キャハハ」

「おい俺らが遊んでやるっつってんだ、無視すんなよ、なんとか言えよォ」




背を向けたレッドは無表情で静かに歩き出した



「へへっ、そんなこというなよなァ〜ビビッて逃げちゃうよ、弱虫くんなんだから、あっ!もう逃げてるか」


「「「「ぎゃーっはははははwwww」」」」


―――
――



暗がりの道を白熱灯の灯りを頼りに階段を降りていく、小さな安宿の横をレッドとBJ&Kが降りていく


レッド「…」



レッド「……昔の俺なら、蹴り入れてたな、オレも大人になったということか‥‥フッ」




[シュライク]に住んでた頃、まだ学生時代だった頃なら余裕でシメてただろうなと思った

…ヒーローになってから何が切欠で抹消されるか分からんと慎重になっていたのはあるかもしれない




以前の自分なら考えるよりまず行動だったが、少しだけ考えるようになった、そんな気がするのだ

370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/03(土) 00:30:17.81 ID:EDU40oww0


「聞いたか?この街の裏通りに居た闇医者が他所のリージョンへ行っちまったとよ!」

「あ〜、あの奇病フェチで無一文でも診察してくれる変人の…勿体ねぇ」




「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプでロープを切るのを!アイツぜってー[ワカツ]の剣豪だって!」




「さっき変な路上パフォーマーが居たんだけどさぁー、あの芸クッソつまんなかったわよねぇ」
「あっ!わかるぅ〜!」




レッドは歩いた、だが…得られた物は全くと言って良い程に何も無かった…

―――
――




レッド「…収穫無し、か…しゃーない、戻るか」クルッ



スタスタ…


白熱球の灯りに照らされた階段を昇り来た道を戻る…、一度通った道を戻るという事は当然ながら先のコンビニ近くを
通るわけで、当然―――




「お、お、おぉ…サボテンくん戻って来たよぉ…スゥ、ハァ…」



―――当然、ガラの悪い連中がまだそこには居た

透明なビニール袋に何か透明な液体が入っていて、彼等は"ソレ"の匂いをしきりに嗅いでいた


「へ…ふえへへ」スゥ…ハァ


「おひゃ、らいふえげ」





レッド少年は露骨に顔を顰めた、彼はヒーローになる前から正義感の強い男だった
 だから目の前の"行為"を行う集団に心底嫌悪感を抱いたのだ




レッド(こいつら、"ヤク"やってやがるな…)



犯罪都市[クーロン]では日常茶飯事な光景だが、観光客からしたらひどく不愉快な光景である
 これ以上、この手の輩に関わり合いたくないとその場を離れようとしたレッドは次の瞬間信じられないモノを目にする


「う、ウゴゴ…ウウゲエエエエエエエ」…ベキッ、 ベコッメキョ…グッ ボコボコ


「きゃあああああああああぁぁ!」

「らんらー。ろうしたんら?おまえあー ―――ウゲッ」ガッ!




レッド「!? な…なんだぁ!?あれは!!」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 22:43:36.89 ID:FWNstqpd0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時29分】



エミリア「どうかしら?」

ルージュ「色々種類はあるけど、いきなり強い銃はやっぱり扱い辛さもあるし」


ルージュ「これにしときます!」つ 【アグニCP1】


エミリア「確かに初心者向けではあるわね…ね、基本的に店頭に並ぶ銃は此処ぐらいしか良い店は無いわ」

エミリア「もし、それに慣れたら新しい銃を新調しに[クーロン]にくると良いわよ」


ルージュ「この場所以外にはないんですか?」



エミリア「…んー、銃、といえば銃だけど
       メカにパーツとして組み込んだ方が良さそうな重火器専門の店が一応裏通りにあるのよね…」


エミリア「横流し品で正規軍から色々と強いのを取り揃えてるけど…重火器は、ねぇ…」


ルージュ「何か不都合が?」キョトン

エミリア「いや…戦闘が終わった後の成長性が…」ブツブツ



ルージュ「???」


―――
――


ルージュ「それでは!エミリアさんお元気で!」ペコリ

エミリア「ええ、術の修行の旅ってのはイマイチ私には分からないけど大変なんでしょう?頑張るのよ!」



 腰まで伸びた白銀の長髪は去っていくブロンドの女性に礼を告げ、裏通りに住まう医者の居城へと向かうべく踵を翻す
おそらく、緑髪の少女らが居るからだ…待つよりどうせなら迎えに行った方がいいと判断してだ





タッタッタ…!

ルージュ「うん?」クルッ





巡礼者「 」バッッ! ドンッ



ルージュ「うわっ!」ドサッ


ルージュ「いたた…な、なんだぁ?あの人…凄く急いでるみたいだけど、人にぶつかって謝りもしないなんて…」ムゥ…


「てめぇ!!待ちやがれェ!!」タッタッタ!


ルージュ「…あれ?この声は…」ハッ!





レッド「でめぇ!!そこの巡礼者風の男ぉ!麻薬売りは貴様だな!!」タッタッタ!

372 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 23:15:10.86 ID:FWNstqpd0


ルージュ「君は…確かレッド!レッドじゃないか!」ダッ!



レッド「―――あっ!アンタは確かルージュ…だったな!丁度いい!アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」ダッ!




 見知った顔の少年が一人の巡礼者を追っていた
紅き術士は自分の名と同じ意味合いを持つ少年と奇しくも早い再会を果たす


 何事かと魔術師は少年に並走するように走り、事態を問うと追跡に夢中だったレッド少年は横目でチラリと
自分についてきたルージュの存在に漸く気づいたのだ…そして第一声が「アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」なのだから
術士は目を丸くした





レッド「話せば長くなっちまうから手短に言う!アイツはこのリージョンで麻薬<ヤク>を売ってんだ!」

ルージュ「麻薬だって!?」

レッド「ああ!」




マンホール下の武器屋で銃を品定めしていた合間に、レッド少年は奇妙な光景を目の当たりにした

あの屯って居たガラの悪い若者たちの内の一人が突然、"変貌"するという怪奇だ



 腕や顔…いや、身体全身の皮膚がボコボコと沸騰した鍋底の熱湯のように泡立ち膨れ上がり、瞬く間に人間から怪物へと
その姿を変えていき、手当たり次第近くにいた通行人を襲い始めたのだッ!



それは"ただの麻薬"ではない…飲む者の細胞を意図的に変質させ、人体を改造し化け物を生み出すという―――






レッド少年が追い続ける悪の秘密結社【ブラック・クロス】の人物が新薬の実験、組織の資金を集める為の物だったァッ!





 群衆の眼があるが故に"アルカイザーに変身することができなかった"彼はそのまま生身で改造戦士と化した男を倒し
事の成り行きを見ていた巡礼者風の装いをした男を見つける…そして奴こそが薬物を売っていた張本人と聴き

被害の出た一般人の治療をBJ&Kに任せ一人で追跡していたとうのが此処までの経緯であった







ルージュ「麻薬だなんて…っ!そんなの放っておけない!わかった!」ダッ!

レッド「っ!すまねぇ…恩に着るぜ!」





共闘はした、が出会ってそこまで過ごした時間は僅かだというのに…普通、こんなヤバい事件に首を突っ込んでくれる奴は
いないというのに、ルージュはレッドの突然の申し出に快く頷いてくれたのだ


"正義の心"を持つ少年と共に並走するこの紅き魔術師も、…彼もまた正しいと思う行動の為に動くタイプの男だった…っ!
レッドは心の中で、この青年の純粋な心に感謝した
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/11(火) 23:15:48.89 ID:6QiV02sE0


 鮮赤と深紅が暗黒街の闇を切り裂く様に並走する、ネオンの輝きも何事かと窺う人々の顔も目に映るモノ全てが
線になっては視界の端から逸れていく


竹笠の後を追い、街の闇へ奥へと進んでいく――ネオンの輝きも人の気配も失せ、ついには街の裏通りへと入り始めた頃だ







レッド「チクショウ!!…見失っちまった」ギリッ

ルージュ「レッド!落ち着くんだ!…僕達は此処までアイツとはそれ程距離に差をつけられずにつけて来た」

ルージュ「とすれば、何処かに隠れて息を潜めているんだ!」


レッド「あ、ああ…一体どこに」キョロキョロ




長い階段、雑居ビルの天辺まで一気に駆け上がれる錆びついた梯子…開きっぱなしのマンホール、候補など幾らでもある




ルージュ「危険ではあるけど、手分けして探さないか?」

レッド「二手に分かれるのか」

ルージュ「ああ、事前に裏通りは治安が悪いとは聞いていたけどキミと僕ならきっと余程の事が無い限りはきっと…!」


 レッドは[ソルジャービル]達との戦闘を顧みる、術士として後衛を務めながらも
懐に飛び込んで来た敵兵を避けて蹴り飛ばした姿を見るに護身術も多少は齧っている…ならば行けるか?と


レッド「わかった、その手で行こう無理はするなよ!危険だと思ったらすぐに退いてくれ」

ルージュ「うん、キミも気を付けてね」




互いに頷き、捜索を分担して行う事にした―――異臭のする配管が剥き出しの路地裏を一人ルージュは歩く…


"麻薬の売買"という悪行を許すわけにはいかないと、彼はつい勢いでレッドについて来てしまったが
 結果的に言えばこの裏通りの何処かにまだ居るかもしれない仲間のアセルス等をほったらかしにしてしまったことに
今更ながら後ろめたさを覚えた




ルージュ(緊急事態だったとはいえ、やっぱり悪い事だったかな…あとで二人と合流したら謝ろう)タッタッタ…


―――
――

時を同じくして…そのアセルスお嬢は…



「ひひひ、ね、ねぇ?そこのお嬢さんたちイイモノ売ってるんだけど買わない?今なら安くしておくよ」ヒヒヒ


アセルス「 お 断 り し ま す ! 」



あからさまに怪しい白衣の男に商談を持ちかけられていた

「…ちぇ、いいよ…[裏メモリボード]を50クレジットなんて破格なのに」ブツブツ スタスタ…


白薔薇「変わった方が多いリージョンですわね」

アセルス「…はぁ、ヌサカーンってお医者様が居ないのに変なのは居る、か」ガックシ…
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 02:09:50.35 ID:INgrk9Io0


一筋の希望が見えたと思えば、それは此処に在らず
目に見えて落胆する少女を見て白薔薇姫は暫し迷った、項垂れた緑髪が雨に濡れ余計に悲壮に見えてしまう


白薔薇「アセルス様、まだ手が無いワケではございません…」

アセルス「白薔薇…?」





白薔薇「望みは薄いかもしれませんが、良き知恵をお貸しくださる方に心当たりがございますわ」

アセルス「誰なの?その人は…」



 厳密に言えば知恵を貸してくれそうなのは"2人"だ、2人ではあるが…その内の一人[零姫]と呼ばれる女性が現在消息不明
何処かで生きていることは間違いないのだが、白薔薇はその人物が何処にいるか知らない為、残る一人の名だけを挙げた









 白薔薇「その御方は…妖魔の君の一人、氷炎の小惑星<リージョン>、[ムスペルニブル]に城を構える御仁」







        白薔薇「人呼んで、指輪の君…ヴァジュイール様に御座います」






アセルス「ヴァジュイール?え、でも妖魔の君って」

白薔薇「はい、…オルロワージュ様と同じく頂点に立たれる御方です」





それを聞いてアセルスは身の毛もよだつ怒りに駆られた、オルロワージュと同じ妖魔の君!?冗談じゃないッ!

 自分の都合だけで女の人を攫って、あまつさえ勝手に人間を辞めさせて自分の愛人に仕立てる奴と同格の妖魔なんて
そんな碌な奴じゃない!山豹を思わせる彼女の怒りに貴婦人は「どうかお怒りを鎮めください…」と宥める



白薔薇「ヴァジュイール様に限らず、妖魔の君と呼ばれる方々は
       全てがオルロワージュ様と同じ思想をお持ちではありません」




ある者は修行に明け暮れ術の道を究めて最終的に自身の"時"を停めたり

"退屈"を何よりも嫌い、客人を手厚く持て成し"興"に何よりもめり込むなど…その考え方は千差万別であると



 そして指輪の君も、相当な変わり者として妖魔の中ではあらゆる意味で有名な人であり
また人間から見て寛容な大人物と評する声もあるのだ…(一方で勝手に人をテレポートさせる自己中心的との声もあるが)




白薔薇「あの御方のお眼鏡に叶えば…あるいはお力添えを頂けるかもしれません」


ひょっとしたら零姫の事も何か存じていて、せめて居場所くらい教えて貰えるのでは?と淡い期待も貴婦人の中にはあった
無論、彼が彼女等を気に入り、良き友として見てくれるならばの話だが…
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 11:12:18.31 ID:Iy7IpdVQO
つ【ハイドハイドハイドハイドビハインド】
376 :>>375 ヴァジュ様「う、美しい…ッ!」花火ボーン! [saga]:2018/12/19(水) 00:44:33.38 ID:GIh0EGVY0


アセルス「…白薔薇がそこまで言う人なら…」



 納得、とまではいかないのも無理はない、彼女の境遇の元凶たる妖魔の君が如何様な存在か
彼女の知る最たる例が魅惑の君だけなのだから気持ちも分らなくはない膨れっ面のアセルスお嬢は渋々と頷きながらも
裏通りから[クーロン]の繁華街へと通ずる道へ向き返った



アセルス「なら帰ってルージュと合流しよう、そろそろ銃も手に入ってる頃だろうから…」



タッタッタ…



白薔薇「そうですわね――――アセルス様」


タッタッタ…


アセルス「!」ピクッ



タッタッタッタッタ…!!





 その足音に初めに気が付いたのは白薔薇姫だった
同じく妖魔と化したアセルスも遅れて此方に何者かが走って来る音に気が付く、犯罪都市の裏通りだ浮浪者の一人二人が
金品目当てに追剥をしたとしても何ら可笑しなことは無い


白薔薇は静かに[フィーンロッド]に手を伸ばす

同じくアセルスお嬢も侍が腰に差した刀に手を伸ばすように白薔薇姫と同じ武器の柄を握りしめる









       -『身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ』-





あの一件…キグナス号でサングラスを掛けた男、ルーファスに言われた言葉だ

妖刀[幻魔]を完全に扱い切れていない自分では…この武器に頼り切った自分ではいつか、地に膝をつくことになる
己自身が強くなり、成長した時こそ[幻魔]を手に戦おう、彼女はそう誓い、此処へ来る前に武器を新調したのだ


[幻魔]は今、ルージュの[バックパック]に預けてある



だから妖刀の力には頼れない、信ずるべきは己の力、ただそれのみッ!


アセルス(…落ち着け私、…そんじゃそこらの奴になんか負けっこない)キッ



 西洋剣の構えを取る白薔薇姫、侍が抜刀する様を彷彿させる東洋剣のスタイルで身構えるアセルス…同じ武器にして
全く異なる剣術の形を取る女性二人が目にした突然の来訪者…それはッ!



            巡礼者「 」タッタッタ…!


アセルス「ふえ!?…お、お坊さん…?」キョトン
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:14:31.43 ID:GIh0EGVY0




意外ッ!それは巡礼者ッ!






…身構えていたアセルスは毒気抜かれたような顔をした、浮浪者―――もしくはオルロワージュの放った刺客かと!?―と
本気で身構えていた分、草鞋で水溜りの上をばしゃっ!と踏み歩くお坊さんの登場に目を丸くした


勿論、単に獲物を油断させる為だけにそのような恰好をしていて、そこから懐に忍ばせた刃物でグサリ!なんてことも考え
すぐに緩んだ気を引き締めたのだが…




タッタッタ…


シーン…




白薔薇「…行ってしまわれましたわね」

アセルス「…そ、そだね」カァ///





 ただの通りすがりの坊さんだったようだ
自分達二人の真横を素通りして走り去る姿を見て水溜りに映る自分達の姿が滑稽に見えた


思い出したらなんだか顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた…






タッタッタ…!


アセルス「ってまた足音―――」









ルージュ「ハァ…ハァ……って、あ、あれ!?二人共!?」タッタッタ


アセルス「ルージュ!?なんで此処に…迎えに、来た、の?」


ルージュ「いや、人を追っかけてたら―――そうだ二人共!この辺で笠を被って、棒を持った人が走ってこなかった!?」

白薔薇「その御方でしたら彼方へ向かわれましたがどうかなさいましたか?」スッ


白薔薇姫の指差す方向を見てルージュは簡潔に理由を説明する



ルージュ「時間が無いから手短に言う、アイツは街で麻薬を売ってたんだ!レッドと捕まえる為に追ってる!」

アセルス「烈人くんも!?」


378 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:48:57.69 ID:GIh0EGVY0


アセルス「それだけ聞ければ十分だ!白薔薇!私達も追おう!麻薬なんて売る奴は放っておけないって!」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらばご一緒します」



ルージュ「二人共、巻き込んでごめん!ありがとう!」



三人が早速、巡礼者を追おうとしたその時だった























ゾワッ










三人の中でいち早く"ソレ"に察したのはルージュだった





それは彼自身が魔術師だからなのか、単に彼という人間の[霊感]が高かったからなのか、昔からそうだ

[ルミナス]でアセルス等があの全身青色で統一した妖魔…[水の従騎士]が正に彼女等に襲われる直前がそうだった



嫌な予感を直感的に察知することができた



背筋に嫌な感触が走り思わずルージュは立ち止り身震いした

次に気が付いたのは上級妖魔である白薔薇だ、最後に気が付いたのはアセルスお嬢





ルージュはゆっくりと、ゆっくりと裏通りの…薄汚れた街角の小さな一角を見た、降りしきる雨、雨樋<あまどい>から
伝ってくる汚水に晒され…錆びて腐り切った鉄材や何かの工事で使う気だったのか
キノコや苔、黴菌<かび>が繁殖してもはや使い物にならない角材



…その角材の上に腰を下ろして座りながら此方を眺める"ソイツ"とルージュは目が逢った


黴菌<カビ>だらけで、毒々しい茸が生えて…胞子のようなものをふよふよ漂わせていたソイツと…

379 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2018/12/19(水) 02:27:04.76 ID:GIh0EGVY0









               「ふしゅるるるる…終わりだ!!」






380 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 03:05:03.90 ID:GIh0EGVY0


妖魔だ、見た瞬間に理解した
今までアセルス等を追って来た刺客たちの中でもコイツだけは"別格"だ、と


騎士と呼ぶには細い体つきで、手に持った武器が杖である所からも魔法使いといった印象が強い


全身が緑系統の配色でこの濁った雨が降りしきりコンクリートジャングルではその姿はさぞ目立つ
 しかしながら、初めからそこに居るという気配を感じさせない、奇妙なこの感覚…


目の前にいるのに、居ない


魂だけのお化けか何かと対面しているように錯覚する、手を伸ばせば触れられず、雲をつかもうとでもしてるんじゃないか
そう思わせる程にソイツは…存在感を消していた、視界に入っているのに




森の従騎士「我こそは森の従騎士…主の御命令に従い、姫を取り戻しに来た邪魔立てする者は排除する」フシュルルル





白薔薇を庇うように前に出るアセルス、いつでも術を放てる姿勢に入るルージュ…一斉に戦闘態勢に入る



ルージュ(…なんだ、アイツの身体の周りに浮いてるあの白いのは…)ゴクリッ




白銀の魔術師は森の従騎士と名乗った妖魔の風貌に言いようの無い不安を抱いた…
緑色を基調とした身の周りに蛍のように薄らと半透明で光る"何か"が浮いてるのだ、直感的に分かる


"アレに触れてはいけない"




森の従騎士「立ち塞がるか、ならば死ね」コォォォォ…
白薔薇「! お、お二人共!一か所に固まっていてはいけません!散開してくだ―――」




騎士を名乗る者がどのような攻撃を放つか
  ――いや術を唱えるのか?ならば相手が先に詠唱を終える前に術を反射する術を掛ければ良い!

と、紅き術士も、体術や杖を用いた棒術が来るなら[ディフレクト]しようと構えていた麗人の少女も浅はかな考えでいた



あろうことか敵が仕掛けて来た戦法は術でもなければ剣技や棒術のような物理攻撃ですらなかった



    パカッ


従騎士の仮面の唇にあたる部位…マスクが音を立てて開いたのだ





 森の従騎士「ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""」キィィン





怒声、悲鳴、絶叫、奇声


無数の音が、騎士の声帯から同時に発せられ

それは無数の糸が絡み合い帯を造る様なうねりとなった…特定の魔物が使う技、音波攻撃の[スクリーム]だ
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 04:29:27.92 ID:GIh0EGVY0


 本来であれば不可視の衝撃波…もとい"音撃波<ソニックウェーブ>"は大気を震わせ空間をも歪め――そう喩えるならば
真夏の猛暑日に遠くの景色がぐらぐらと揺らいで見える陽炎現象に似たモノが垣間見える

輪っか、円環状の振動が相手の口部から放たれ波状に広がる様に伸びていくのが確かに認識できる




…もう一度言うが波状に広がるように伸びていく、[スクリーム]は大勢の敵を巻き込む範囲攻撃の一種として界隈で有名だ



一番後ろに居た白薔薇姫、その彼女を庇うように前に出ていたアセルス、そしてその二人より前に居たルージュ




直撃だった、音の振動が身体全身に響き渡り…銀髪の好青年は自らの身体から嫌な音が鳴るのを直に感じた
ビリビリとした痺れ、鈍い痛み、手足の指、関節が思う通りに動かなせない





ルージュ「――」ドサッ





硬い地面に前のめりに倒れ、血反吐を吐き出す…まだ意識はあるが受けたダメージは彼自身が思う以上に深刻だった

骨に罅、振動は体内を駆け巡り、内臓、脳…あらゆるものを文字通りシェイクしていった




アセルス「――っ ハァ、―フゥーッ…ぐぅ…ハ、  る、るーじゅ?」


偏に魔術師が盾になったのもあるが妖魔の血で人間<ヒューマン>ではなくなったアセルスと
一番後ろに居た妖魔の白薔薇姫だけである、まともに動ける状態なのは…



ルージュ「 」ピクッ、ピクッ




アセルスの目の前には目は焦点があわず、地に伏せたまま痙攣する親友の姿だ
上記の通り、体内にもダメージが行き届いている所為か彼は起き上がることもできずにいる

気絶はしていない意識は確かにある…だが指先から膝や肘、身体の自由がもう効かないのだ



アセルス「」プッツン



アセルス「あぁぁぁぁああああァァァ―――ッ!!お前ぇぇ!!よくも…っ!!」ダッ!!



目の前で親友がやられたッ!!激昂したアセルスは感情のままに[フィーンロッド]を構え突っ走る

 重傷のルージュを見て彼の生命を繋ぎとめようと迅速に回復術の詠唱に入った白薔薇はそれを見て何かを叫ぼうとして
一瞬躊躇った…森の従騎士の事は彼女がよく知っている、故に最初の[スクリーム]が来ると分かった時点で「散開しろ」と
そう言いたかった、間に合わなかったが


そして今回も音撃波から立ち直り、すぐにでも伝えるべきを伝えるべきだったがそれよりも生死に関わる彼を救うのが
最善手だと判断した…

事態は一刻を争う、1秒でも早く回復術を紅き魔術師に掛けねば手遅れになってしまう…っ!
アセルスに何かを叫びたかった白薔薇姫は『伝えるか』『ルージュを見殺しにするか』を天秤に掛けた結果、詠唱を続けた



だからこそアセルスが今行った、森の従騎士に対して行なってはならない禁忌<タブー>を伝えきれなかった

382 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 12:09:13.99 ID:cLWp4x5r0
炎と水は2人でも楽勝なクソザコなのにこいつからいきなり難易度はね上がるんだよなぁ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 20:09:46.23 ID:GSEMXO/TO
森の従騎士>>>(越えられない壁)>>>>>>>猟騎士


セアト・・・。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/01/30(水) 00:49:36.37 ID:yXOt2kS70


助走をつけてアスファルトを蹴り、[フィーンロッド]の先を目前の敵の喉首目掛けて突き立てる


ガッ!!


アセルス(くっ…か、堅い!喉に全然突き刺さらないなんて!)


 苦虫を噛み潰したような顔をする彼女を見て従騎士の仮面は再び口元を開く
アセルスは口部が再びオープンフェイスになったことをみてゾッとした、この至近距離であの[スクリーム]を浴びるのかと

動揺の走るアセルスの意に反して目の前の騎士は――――!



森の従騎士「――――くくっ…」ニタァ




…アセルスお嬢の警戒した攻撃を放たなかった、いや放つ必要が無いのだ
彼奴が態々口を露わにしたのは…そのほくそ笑みを見せつける為だ



 アセルスの瞳に白い光の球が映った、自分と敵の合間に割って入って来た発光体
常に森の従騎士に纏わりつく様に浮いていた光るソレの正体をこの時、間近で見て漸く分かった







                  首だけの骸骨「ケカカ…」ボォォォ





アセルス「ぁ―――」


頭蓋骨が宙に浮いていた―――歪んだ並びの悪い歯並び、生身の人間なら突き出た鼻がある部位はガッポリと穴なっていて
その奥の空洞までくっきりと見える、眼球が収まっているはずの空虚には何も無い筈なのに

そこには確かにアセルスを凝視する目玉があるようにさえ錯覚する…っ!!







        白薔薇「『<スターライトヒール>』―――アセルス様ぁぁ!!!」パァァッ!

      森の従騎士「汝、呪いあれ『<カウンターフィアー>』」ボソッ






2人の詠唱が終わるのはほぼ同時であった奇跡の星光が傷つき倒れたルージュに生命を宿し

蚊の鳴くような呟きで囁かれた呪いの言葉が頭蓋骨を模った怨讐の思念に勅令を下す


ボッ!バシュッ!バシュッ!


 光と化した生首が流れ星のように一筋の線を描き少女の体内に入り込む、防具をすり抜け
肉体すら関係無いと言わんばかりに彼女の胸の中に入っていく


   "呪い" が アセルス の 精神 に 入り込む ! アセルス の 精神 が 侵食 されていく !



     アセルス「―――――――――」

385 :書き溜め分少しだけ投下 [saga]:2019/02/17(日) 02:19:36.90 ID:HGQPydB/0


 森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた



 何故ならばソレがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程に凶悪極まりなく、又、これまでに屠られてきたであろう
数多の標的達が苦しめられた戦法であるからだ

 ["カウンターフィアー"]その名に違わぬ性能を持つ不死の属性を持つモンスターが使う技
我が身に直接触れた相手に等しく精神汚染の呪いを掛けるのだ…
肉を切らせて骨を断つとは諺で言うが、これは骨を切らせて心を折るとでも言うべきか



 ―――ドクンッ!
    ――――ドクンッ!






      アセルス「は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!」




呪いを一身に受けた少女の眼は瞳孔が開き、悲鳴とも咆哮とも分からぬ叫びを空へ向かって放つ
 傷は癒え一時とは言え昏睡していたルージュが立ち上がり状況を飲み込もうとする最中で白薔薇がアセルスの名を呼ぶ



 アセルス「―――っ」ブツブツ ブンッ!ブゥンッ!



何かを小さな声で呪詛しながら手にした武器をあらぬ方向へ振り続ける少女はこちらへと向き返りそして



 アセルス「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!来ないで!私は人間…人間よ、バケモノなんかじゃないっ」ブツブツ、フーッ フーッ


 ルージュ(! なんだ、正気を失っているのか!?)


 アセルス「あああああああぁぁぁぁぁ!!来るなぁ!」ダッッ! グンッ!!



 精神に潜り込んだ呪いの影響で【混乱】したアセルスが刺突を構えて白薔薇に一直線に駆け出す
この瞬間、紅き術士は何が最適解か判断するのが僅かに遅れた

錯乱状態のアセルスが唯一の回復術の使い手である白薔薇へ攻撃
更に森の従騎士は泣きっ面に蜂とでも言うのか毒素をばら撒く[胞子]を構えていると来た

騎士を止めるか、アセルスを止めるか







 ルージュ「 ぼ、僕を護れッ!『<サイコアーマー>』!!」PSY UP!! VIT UP!!





 光の帯が術者を包み込んでいく…輝く環が脚の爪先から頭部まで覆い尽くし終えた後ルージュは己の術で
身体中を駆け巡る霊感能力の上昇と、肉体の強度が増した事を実感する



 ルージュ「くっ…!間に合えぇぇぇ―――っ!!」ダッ



視えざる強固な鎧を装備した彼はアセルスお嬢と白薔薇姫の間に割って入れるようにアスファルトを蹴る

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:22.45 ID:HGQPydB/0


 ふよふよ、緩やかに毒素をばら撒く死人茸の胞子が降って来る、冬の頭頃に見受けられる可愛らしい粉雪の様に
ファンシーな見た目とは裏腹な殺傷力を持つそれを浴びてしまう前に為さねばと脚を動かす




―――グシュッ!




 ルージュ「こっっ、ぁ――」ブジャッ!

 白薔薇「る、ルージュさん!!」


 ルージュ「いい!!肩がやられただけそれより下が――」



下がれ、言い切る前に[胞子]は無慈悲にもその場にいた3人に降り注いだ
 肉がジュウウウ!と音を立てて溶解する音、焼ける痛みに声を押し殺せない、ルージュも白薔薇もアセルスさえも



ルージュ「」ドサッ

白薔薇「」ドサッ

アセルス「」ドサッ…カランッカランッ



 術士も妖魔の貴婦人も武器を取りこぼした少女の姿も、森の従騎士の仮面奥にある瞳には映っていないのだろう、と
倒れた一行には冷たい雨が降る中で表情が一切窺えない騎士が何の感動も無くその様を見ているように思えた



アセルス「ぅ、うぅ… ふたり、とも、ごめんなさい…」


白薔薇「…正気に戻られたのですね」
ルージュ「…キミは悪くない、って暢気な事言ってる場合じゃないよね」チラッ



誰一人動けなかった…反省会なんてしてる場合ですらない、頭ではわかる


だが身体は言う事を聞かない、小指一本すら動かない、頭は動くというのにだ



 諦めの境地…っ! もはや悟りのような心境…っ!

      勝機を見いだせないからこそそんな事を言っていられる…っ! 絶対絶命の万事休す…っ!



倒れた一行の視線は皆、一点を見つめていた


森の従騎士「……」カシャッ


 従騎士の仮面は先程見せた口部の動きと同じように目元を開かせた、此処で初めて3人は自分達を見つめる
騎士の眼つきを知る事となる…


ゆっくりと取るに足らない虫けらを見るような眼つきで此方を観ながら歩み寄り
致命傷となるであろう[スクリーム]を直撃させるべく口部マスクを開いた森の従騎士の姿だ


誰もが思った、『嗚呼…ここで全滅するんだな』と


パカッ…!

森の従騎士「任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…」スゥゥゥ


これからの大絶叫の為にと肺に多量の空気を取り組むべく騎士は大きく息を吸い込んだ…
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:54.19 ID:HGQPydB/0






















            「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!























        ドゴシャァァァッッッッッッツ!!!! !  !  !     !












騎士は三人にトドメの一撃を繰り出すことはできなかった、否、逆に"奇妙な闖入者"に一撃喰らわされた


388 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:22:34.64 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時58分 (森の従騎士戦 開始直後)】



 ばしゃり、降り頻る雨のレースカーテンを掻き分ける様にレッド少年は犯罪都市の裏通りを疾走していた
偶々繁華街で出会った気の良い術士とは二手に別れて捜索しようという提案を受けた後だった



 レッド「くっ…見失っちまったってのかよ」



 目立つ格好、走り辛い見た目に反して男二人を振り切る脚力を持った巡礼者風の姿は既に影も形も無い

元より入り組んだ土地であったし、雑居ビルの屋上まで伸びる錆びた非常階段や鉄梯子、下水道へ繋がるマンホールと
逃げようと思えば何処にでも行けるし身を潜めることも容易いのだ

追跡対象を見失った彼は小さく舌を打ち、両手をズボンのポケットに入れて空を仰ぐように見つめた


喉の奥が少しだけ痛かった、こんなことは学生時代に誰にも負けまいという意志を持ったままゴールテープ切った時以来だ



僅かに開いた唇から零れる吐息は寒空の下で吐く白息に似ていて、煙雨に紛れて薄くなり消えていく…
 その様子をぼんやりと眺め、運動後の脳に酸素が回り始めた頃に彼はルージュの方は巡礼者を見つけられたのかと考えた



 レッド(此処でボケっと空見上げててもしゃーないか)



 少年は麻薬売りを追って全速力でかっ飛ばして来たが、そもそも奴がこちらの方面に逃げたという確証が無い
枝分かれした何処かの小道でルージュの向かった方角に逃げ去ったのかもしれない

ズボンに手を突っ込んだまま首を横に振って逆立った髪から水分を飛ばす、踵を返して来た道を歩み始めた時だった――















 -   ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""  -









  レッド「っ、な、なんだぁこの頭が割れそうな甲高い音は!?」キィィン





耐えかねてポケットから取り出した手を耳に当てる


…それは厳密に言えば"音"ではなく"声"だ
少年の見やる方角で今この瞬間にアセルス等を追って来た刺客の一人が[スクリーム]を放ったのであった



 レッド「…音が鳴り止んだ…?あっちの方角で何かあったのか」ダッ



休めていた脚に再び鞭を打ち、彼は何らかの事体が起こったと思わしき現場へ駆け始める
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:10.47 ID:HGQPydB/0



  レッド(くそっ!なんだってんだ…胸騒ぎがするぜ)ハァ…ハァ…



 自分でさえ自覚できる程に動悸がする、それは碌な休息も取らずに肺を酷使しているからでもはない
レッドは奇妙な既視感を覚えていた、あの日―――



   レッド「くそったれ、これじゃあまるで…っ!!」



――あの日、自分の家族を失ってしまった日と同じじゃあないか!!


 敬愛する父を自家用車の助手席に乗せて高速道路を走ったあの日

 悪の秘密結社なんていう餓鬼向けの番組に出てきそうなふざけた連中が突然やって来て父を、母を、妹を…

 レッド少年の家族とありふれた平穏な日常を焼き切った忌まわしき日を連想させるには十分だった…っ!




 郊外にあった小此木邸が炎に包まれ、赤焼け空に立ち昇っていく火粉、両腕が義手の大男の姿
組織のシンボルマークを表すバツ印を強調した全身タイツの戦闘員、己の腹部を抉る鉤爪…


どれもこれも忘れたいと思っても忘れえぬ記憶だ


 降っているのは建物が燃える煤でも火粉でもない、自分の頬にあたるのは濁った空が落とした涙滴
水分が火事の熱気で飛ばされ乾き切った空気とは真逆のじめりとした湿り気と水滴なのだ


だが、胸は煩いくらいに脈打つのだ…っ!


ここで走らなければ後悔する、間に合わなければ自分は"また失ってしまう"と警鐘を打ち鳴らしているのだ…ッ!



 レッド「…!なんだ、何か光が見えるぞ!」タッタッタ!


 雑居ビルで構築されたコンクリートジャングル、鉄骨と石材の雑木林を抜けた先に一点の星光を見た
それは[スクリーム]で危うく命を落とし掛けたルージュを救うべく白薔薇が唱えた[<スターライトヒール>]の輝きだった



 ―――間違いない、あれは"戦闘"の光だ


この先で戦闘行為が行われている、では誰だ?一体どこの誰が何者と対峙しているのか…






           アセルス『は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!』

            白薔薇『アセルス様ぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!』




 レッド「ッッッ!?」ビクッ




それは…幼少の頃、家族同然のように遊んでくれた"近所のお姉ちゃん"の悲鳴とその人の名を呼ぶ悲痛な叫びだった


 行方不明者として扱われて12年、生存はもはや絶望的で死亡者扱いされていた人、実姉のように慕ってきた人との再会は
家族を失い悪の組織への復讐心に燃えるレッド少年にとって何よりも心の救いだった


その彼女が…!そのアセルスが…っ!! この瞬間、今度こそ生命を断ち切られてしまうかもしれない場面に直面したッ!
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:36.50 ID:HGQPydB/0



 レッド(な、なんだよこれは…っ)



 息が詰まる、息が止まる、次々と飛び込んでくる景色――アセルスが錯乱して味方に刃先を突き立てようとする所
銀髪の術士が防御術を掛け身を挺して仲間を救いに行く場面、だが虚しくも敵の一撃で全員が倒れていく景色



無意識に強く握る拳があった、沸々と込み上げる激情があった




 キグナス号で共に海賊共と戦った仲だ、3人共戦闘に関してはそこそこやれる実力はあったのは彼とて知っている
だが、目の前の緑を基調とした魔導士を思わせる姿の妖魔は複数人を一度に相手しこうも打ち負かしている

恐らく、レッド少年一人が戦闘に加わった所で付け焼刃程度のモノだろうな










"レッド"であるならば、な









 レッド(…か弱い女に加勢するんだ、なら"ヒーローの掟破り"なんて言わねぇだろ、アルカールよ!!)グッ!







              レッド「 変 身 ッ!! ア ル カ イ ザ ー !!」カッッッッ!!ピカーッ!!







―――
――




森の従騎士『任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…』スゥゥゥ


 [変身]が終わると同時に駆けだす、ただの人間<ヒューマン>から変貌した彼は生身の時とは比較にならない速度で地を蹴る
肉体に滾るエネルギー、全身を駆け巡るエナジーッ!全てが物の僅か数秒で人間の領域を超え、"超人"のラインを跨ぐッ!





       正義の使者――アルカイザーッッ!!ここに推参ッッッ!!





          アルカイザー「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!




391 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:12.62 ID:HGQPydB/0

森の従騎士「なに!?まだ仲間が居たの、か"ぁ!?」ドゴッ


音撃波<ソニックブーム>を繰り出す寸での所で不発に終わる、闖入者の光り輝く蹴り[シャイニングキック]が炸裂したからだ

 オープンフェイスとなったマスクの瞳が初めて驚愕の色を覗かせた
振り向いた先に只ならぬ熱量を帯びた蹴りが迫っていたのだから仕方がない、強襲に近いソレを胸部に受け
森の従騎士は大きく身を仰け反らせながら水溜りに後ろ頭から突っ込んだ





             ドバシャアアアアアア―――z_____________________ァァァァッッッ!!






森の従騎士「ぐ、ご…き、貴様…何者だ…っ」ワナワナ



濁り水から顔を揚げ、トドメを刺すところで壮大に邪魔をしてくれた闖入者を怒り心頭の眼で睨みつける


 先述、奇妙な闖入者と称したがその出で立ちが正しく奇妙そのものであったからだ
赤とオレンジ、暖色系のカラーリングの脚部から頭部まで一切肌の露出が無い全身鎧
無論その人物の素顔も決して見ることができないフルフェイス仕様のヘルメットでバイク乗りが被るそれと同じ様に目元は
バイザーになっていて着用者の眼にはどう映るのか分からないが此方から見る限りは背中にはためくマントの色と同じ
孔雀青色の淡い輝きを放っている…、兜の天辺には鬼、否、一角獣のソレに見える角があり、耳の付け根の裏には翼が…


 ユニコーンとペガサス…有名な神話の生物の象徴を模した飾りをつけ、その鮮紅色のスーツを纏った拳から稲妻が迸る


彼が―――この惨状に対して抱いた怒りをそっくりそのまま表すように…



      アルカイザー「何者か、だと…?」





                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |
                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
                        .ヽ ./_//)'/ヽ_,r‐' \ヽ__.//  __/    .|
                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
                 |/  .|/ ./    /      ./ .|  }    .}`、   `、 ./
                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈
        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'


     アルカイザー「正義の使者ッ!アルカイザー!悪を挫く為に此処に見参したっ!!」バッ!



       森の従騎士「せ、正義の使者…だと?」

392 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:42.94 ID:HGQPydB/0



 ルージュ(う、うぐっ ぅ…い、一体何が起きたんだ…)チラッ



 毒素の塊を浴びて身体中、焼けるような痛みが走る…意識が朦朧とし掛ける最中、紅き魔術師は…赤い正義の姿を見る
自分達は今まさに死刑を執行される所だったがマントを靡かせる……男性?…なのだろうか?


全身鎧の所為で性別は分からない、―――いや、身長、体格の良さ、後は声の低さでやっぱり男性なのだろうな

"聞き覚えの無い声"だが、彼は何者だ…友人とか知人とかではないし、助けてくれる理由は一体何なのか…



 ルージュ(い、いや…そんな事どうでもいい、この機を逃すわけには――確か[傷薬]が僕の[バックパック]に)ゴソゴソ



 従騎士の注意は幸いにも目の前の謎の人物に向いている、気取られない様に薬を出して自分の体力を回復させる
そして、脚が動く様になったらヒーラーの白薔薇姫も目覚めさせなくては…っ!!








  森の従騎士「…ならば問おう正義の使者とやら、貴様なにゆえこの者達に肩入れする、無関係な者共であろう」

 アルカイザー「無関係?いいや、違うね」


  森の従騎士「なんだと?」ピクッ



 アルカイザー「目の前で殺されそうになっている人が居てそれを見て見ぬフリをするなど俺にはできない」

 アルカイザー「そんな人が居ると知ってしまった以上は、俺にとってもう"無関係"ではないッ!」



  森の従騎士「…ふっ、まるで人間<ヒューマン>の子供向けに造られた三文芝居の脚本をそのまま読んだような台詞を…」

  森の従騎士「話しにならんな、くだらん正義感で我ら妖魔の問題に首を突っ込んだ事を、死んで後悔するがいい!!」


 アルカイザー「むっ!?」ヒュバッ!



 従騎士は杖を振り翳す、するとアルカイザーが立っていた地点に妖気が収束され、それは蜘蛛の巣状に展開される
取り込んだ者の生命力を絡め捕り奪い去る呪法の一種[エクトプラズムネット]だ
 一早くそれに気が付いたヒーローは呪いの網が完全に広がり切る前に跳び発ち難を逃れようとする
そして鞘から光り輝く劔[レイブレード]を引き抜き、勢いに乗って敵に切りかかる…っ!!



  森の従騎士(…くくっ、愚か者め、そうやって私に近づく者は誰であろうと――――)









 …森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた

何故ならば触れた者を【混乱】させる[カウンターフィアー]こそがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程の戦法だから




それは、自他認める戦法であり

必然、この騎士にとっても今まで多くの敵を葬り去って来た実績共に不動の"勝ち確パターン"という奴だと自負していた

393 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:25:28.60 ID:HGQPydB/0
















―――――――――――――――――――… それゆえに …―――
















  森の従騎士(…待てよ、そういえば何故こやつは先の蹴りを私に放った時に…ッ!?)ハッ!











 …良く言えば自分の力に絶対的な、確固たる自信を持っていた

 …悪く言うならば、慢心、驕りでもあった



 迫りくる正義の使者の[シャイニングキック]をその身に受けた時、想定外の事態であるが為に気が回らなかった
自分に触れた者には何時だって必ず[カウンターフィアー]が発動して如何なる相手にも精神汚染の呪いが張り込む筈だった

だが実際はどうだ?

この全身鎧兜の人物は錯乱しているか、否、正気を保ち続けている
 従騎士はこの時点で気が付くべきだったのだ…、自分の必勝パターンが既に崩されているという事実に…ッッ!!




 積み上げて来た勝利の数だけ、『嗚呼、この闘い方をすれば絶対に勝てる、負ける通りなどありえない』と
信頼も等しく積み重なる…空気が1%も入っていない風船がはち切れそうな程に膨らんでいくのと同じで
騎士の油断もまた大きく膨らんでいったのだ


自分も認めるし、周囲の他人もまた、"こいつの戦法には隙が無いな"と認めたが故に誰も咎めない、忠告しない


自他認める戦法である――――それゆえに――――気が付くのに遅れた


生涯で全くもって一度たりとも予測しないレベル…っ!


想定する必要性が消え失せてしまった可能性…っ!



  森の従騎士「ぅ、ぅううおおおおおおおおおおおおおっっ!?」バッ!


騎士は淡く輝く空色の劔が身体を裂かんとする直前で、漸く"手遅れな受け身の姿勢"を取り始めた
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:02.34 ID:HGQPydB/0


        ズバシャァァァッッッッッ


  森の従騎士「ふ ぐっぅおお お おお"お  おお"おぉォ"ォ""ォ!!」



[レイブレード]の輝刃は相手の左肩から右脇腹まで大きな切り傷を生み出し、妖魔特有の青い血液が噴き出る
 半妖のアセルスの筋力を以てしても刀身が突き刺さりさえしなかった騎士を名刀で豆腐でも斬るかの如くやってのけた


  森の従騎士「ふ、ふしゅるるるる…っ、ギ、キ"サマ"アァ"…」ボタ…ボタッ…


 アルカイザー「その傷だ、帰還してすぐに手当すれば助かる…だから二度とこの人達に手を出すな!」


  森の従騎士「ふ、ふざけ"るなぁ"ぁああ あ あ !!ふしゅるるるるるぅぅぅ!」



 激昂すればするほどに青い血が傷から噴き出す、だが青い噴水の勢いと同じく騎士の怒りは収まらなかった
これまで上から受けた勅令はいつだって熟して来た誇りに罅を入れてくれたのだ

もう輝かしい誇りではない、埃を被った誇りだ

戦績に塗られた泥も、おめおめと逃げ帰ったとあれば主に始末されどちらにせよ退路など無い事も
 なによりもくだらん正義感で首を突っ込んで来た部外者という存在が一番、癇に障る



  森の従騎士「コロ"して"やる…っ コ"、コロ"ス、殺すッ…白薔薇姫以外全員だ
             黴<かび>と毒茸の菌糸に塗れて蛆虫の沸いた死骸にしてやるッ」ギリィ



 アルカイザー「……ならば、仕方ない」スチャ




 どういう訳か知らないがこの全身鎧スーツの戦士には[カウンターフィアー]が…いや、"『【状態異常】が効かない』"
一撃で意識を刈り取るべく[エクストラズムネット]を試みても恐らく先程の様に[見切り]をつけられるだろう



  森の従騎士「ならばこれはどうだ鎧の戦士よ!」ビュオオオオォォォ



杖を手にした腕を前に突きだし円を描く様に杖を旋回させる、無風の筈であるコンクリートの渓谷に小規模の竜巻が発生し
気流の塔は倒れ、縦から横へ……アルカイザー目掛けて獲物を丸のみにしようする蛇のように伸びていくッ!!


      ズバッ!  ズババッ
                     スパッ


 アルカイザー「くっ、[強風]か…!だがこれしきの事で!」ズバッ! ズシュッ!



 喩えるなら渦中にいるヒーローは見えない換気扇のプロペラで幾度も刻まれているようなモノで、腕をクロスさせ
身を守る自身の身体にも切り傷が走り、赤い血液が滴り始める


だが、騎士の狙いはこれではない





  アルカイザー「…!なんだと!!」



 アルカイザー…否、"レッド少年"がバイザー越しに見た光景はこともあろうに、自ら使用した[強風]を利用して
倒れたままの"アセルス姉ちゃん"目掛けて飛んでいく森の従騎士の姿であった


   森の従騎士「ならば…キサマのそのくだらん正義感を利用させてもらおうではないか!!」

395 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:55.40 ID:HGQPydB/0


 自らの技で我が身を切り刻んででも人質を取る、―――任務はあくまで"白薔薇姫を[ファシナトゥール]に連れ帰る"
邪魔をする者は排除しても良いという命令であった

 なにより、従騎士の主人…セアトはアセルスお嬢が気に喰わなかった
願わくば外界に出て不慮の事故で死んでくれればとすら切に願う程だ、邪魔をしたから排除したとすればさぞ喜ばれる


二重の意味でアセルスを人質に取るのは都合が良かったのだ



只でさえ[レイブレード]に切られた箇所が痛む上、自滅同然の[強風]に自ら巻き込まれたダメージで仮面下の顔を曇らせる
しかし、リスクを背負ってでもやる価値がある…


今から少女を人質に鎧男を嬲った時の苦渋の色、そして死の寸前で少女の首を折り曲げて殺してみせた時の反応が楽しみだ


騎士はほくそ笑みながら未だ倒れたままの緑髪の少女目掛けて一直線に――――ッッ!!











              ルージュ「[エナジーチェーン]っ!」ギュイイイィィン






  森の従騎士脚部「」グルンッ!ギュルルルッ

    森の従騎士「―――!?!?お、お前は…まだ息が―――ッ!」




 ルージュ「…さっき[サイコアーマー]を掛けた分、VIT<丈夫さ>が上がってたんだ今度は失神しなかったさ!」ブンッ!


 森の従騎士「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ!?」グワァン!!



  アルカイザー「すまない助かった!恩に着るぞ![ディフレクトランス]!!」ダンッ!




 漁師の一本釣りよろしく、念波の鎖で脚を取られた騎士は渦の中から上空へ弾き飛ばされる
そこへ追い打ちで大地を蹴り上げ、雑居ビルの壁すらも利用した三角飛び蹴り…[ディフレクトランス]を繰り出すッッ!



 本日二度目の光り輝く蹴り技を喰らい、更に上空へと押し上げられる騎士は粉々になった仮面の破片
青血を口から吐きだしながら自分が人質にしようと目論んでいた少女が[スターライトヒール]で生気を取り戻し
立ち上がる姿をしっかりと見た





     アセルス「……皆には、本当迷惑かけてばっかりだったわね…」スチャ!



     アセルス「だから、最後くらいは…取り戻さないとね」




静かに、目を瞑り両手は拾い上げた[フィーンロッド]の鞘を握りしめる、刀身は空を差し

掲げるように自分の額へと運ぶ―――その佇まいは中世の貴族騎士が神に祈るように剣を掲げるようにも見える

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:27:54.37 ID:HGQPydB/0




  森の従騎士「おのれ…っ、おのれ…おのれ、おのれぇぇぇぇぇェェェェ!!」





オープンフェイスの従騎士は血走った眼で少女を睨む、彼奴の周囲には[カウンターフィアー]の怨念が未だ嘗てない程蠢く


祈るように目を閉じ姫騎士は精神を研ぎ澄ます、武器に想いを込める…強い敵意、降って来る殺意を退けるべく





  森の従騎士「ならばせめてお前だけでもみ、み、みぃ、道連れにぃぃぃいいいいい!!」




  アセルス「打ち砕けぇ!![ファイナルストライク]−―――っ!!」










                 ――――−カッッッッ!!










アセルスは、祈り…手にした剣…いや杖<ロッド>を天へと投げた、神話に語り継がれる戦女神の投擲槍のように





[フィーンロッド]は騎士の心臓に突き刺さる、そして膨大な熱量と光の迸流…稲妻が踊り、力が螺旋を描く


―――
――






 「ンッンン〜、アセルスってばやるねぇ〜♪こりゃ頑張って頼まれ事早めに終わらせて見に来た甲斐があったよ」



 雑居ビルの屋上でその様子を一人の妖魔が眺めていた、褐色の肌に黒髪を結った美青年…ではあるのだが
上半身が裸で唯一肌を隠すのが乳首の位置につけたお星さまという誰がどう見ても変態にしか見えない残念な美青年だった



 ゾズマ「いやぁ、これで従騎士を3人もやったのか…しかし森の奴、飼い主同様にやっぱり見苦しい妖魔だったね」

 ゾズマ「…そして、彼女達は今後どうするつもりか、これまた見物だね」シュンッッッ!!



見物人はそれだけ言うと姿を消していった…


―――
――

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:28:23.60 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後21時18分】


――――ザァァァァァァァァ

     ――――ザァァァァァァァァ




     アセルス「…」ジッ




光が収まった


常雨の犯罪都市[クーロン]の空に最後の従騎士が散ったのだ



  ルージュ「や、やったの…か?」ヨロッ


   白薔薇「はい、気配はもう微塵も感じませんわ…今ので完全に消滅したに違いありません」



  ルージュ「お、終わったぁ…」ヘナヘナ、べしゃっ



 水浸しの地面に両膝を着く、思いっ切りずぶ濡れになるけど構うものかっ!と銀髪の術士は天を仰ぐ
ジッと空を見つめていたアセルスも緊張の糸が解けたのか胸を撫で下ろしホッと安堵の吐息を漏らす、そんな彼女を見て
微笑ましい表情で見守る白薔薇、そして―――




  ルージュ「えっと、アルカイザー…さん?ありがとう、助かりましたよ…」ペコッ


  アルカイザー「いや、礼には及ばない、偶々アイツに襲われている君達の姿を見つけたから救援に入っただけさ」

  アルカイザー「それより、キミのさっきの術…良かったぜっ!!」ニィ


  ルージュ「えっ、い、いやぁ〜それ程でも…あはは///」テレッ



 照れくさそうに右頬をポリポリとかく紅き術士に赤き正義は手を伸ばす、そしてヒーローは言うのだ
「本当にナイスファイトだった、キミがいなければこうはならなかっただろう」と


 …正義のバイザーの下にある、"本当の彼"―――――"素顔であるレッド少年"――は実姉のように慕ってきたアセルスを
人質に取られることだけは何が何でも避けたかった




  アルカイザー「本当に助かったよ」スッ




……"また失ってしまう所だった"




 二度も家族を失うあの恐ろしさを痛感させられる所だった



  ルージュ「……よっと!立たせてくれてありがとう」ザバァ、…ポタッ ポタッ


  ルージュ「段々思い出してきたよ、新聞紙やテレビのニュース、それにこの惑星<リージョン>でも貴方の噂は聞いてた」

  ルージュ「確か、[シュライク]って惑星<リージョン>で子供の誘拐事件を解決したヒーローが居るって」

398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:29:19.94 ID:HGQPydB/0


  ルージュ「この星<リージョン>に来たのも何か事件がとかで?」


  アルカイザー「…ああ、実はパトロール中に麻薬の密売「ああああぁぁぁぁ!!」




…正義のヒーロー、アルカイザーは麻薬密売組織の調査をしていた時"偶然"妖魔に襲われている一行を見つけ救援に来た

…と、言う体裁にしておこう、そう思い立ちその内容で話し始めた時だったアセルスの甲高い声が上がったのは




  ルージュ「ど、どうしたんだ!?」





  白薔薇「あ、実は…」チラッ









  アセルス「わ、私の武器が……」


 [ファイナルストライク]を放って壊れたフィーンロッド『 』ボロッ



  ルージュ「うわっ、なんだコレ、もう使い物にならないじゃないか…」

  アルカイザー「きっとさっきの技を使用したことで耐え切れずに自壊したのだろう…」
  アルカイザー(…ビビったぁ、てっきりアセルス姉ちゃんに正体バレたかと、俺が掟で抹消されちまう)ドキドキ



  アセルス「ルーファスさんに言われたから、[幻魔]を扱う前に自分自身を鍛えようとしたけど…これじゃ」




身の丈にあった武器を使え、使い手が未熟では折角の剣も錆びつかせてしまうだけだ
 少女は助言を聞き、まずは剣術の基礎を磨こうと簡単な武器で心身共に鍛えるつもりであったが…肝心の武器がこれでは



  ルージュ「……」


  ルージュ「アセルスの武器もそうだけど、全体的に今の僕達自身にも問題があるのかもしれない…」



 顎に手を当てて術士は現状の問題点を挙げる、まず防具面に関してだが"耐性防具"が非常に乏しい
先の戦闘に関しても誰か一人が[音波無効]効果のある装備を付けていたらどうだろうか?[スクリーム]の直撃を受けても
助かり全滅の危険性が大幅に減ったのではないだろうか?


このパーティはその辺の工面が全くと言って良い程にできていないし、入手できる機会さえもなかった
 装備に関して仕方ない部分もあるから置いておくとして次に重要な問題があるとすれば"回復術"だ

誰か一人が倒れた、そうなった場合は[傷薬]片手に床に伏した仲間の元へ駆けつける必要がある


その倒れた誰かしか回復薬を持っていなかったら?あるいは回復術の使い手だったら?


 アセルスだけが無事で、ルージュ、白薔薇が先に戦闘不能になっていれば間違いなく戦線復帰は不可能で
チェスや将棋で言うところの"詰み"という状況であった筈だ


せめて全員が緊急時に備えて仲間、あるいは自分自身の傷を治癒する手段を持っていることが望ましいのだ

399 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:01.14 ID:HGQPydB/0




  ルージュ「…せめて僕かアセルスが白薔薇さんと同じように[スターライトヒール]を使えればいいのだけど」




……生憎とその[陽術]を覚える為の施設は、全身青一色の従騎士と乱闘騒ぎを起こした所為でしばらく封鎖中
資質も取れないし、術単品でテイクアウトもダメといった状態なのだ


今回は偶々強いヒーローが駆けつけてくれたから事なきを得たが、いつもそのような幸運が起きるとは限らない……
















            アルカイザー「ならば[京]に行ってみるのはどうだろうか?」








              ルージュ/アセルス/白薔薇「「「え?」」」






   アルカイザー「リージョンシップ『キグナス号』の次の目的地だ、なんでも全体的に"和"をイメージした惑星で」

   アルカイザー「毎年、各地の惑星<リージョン>から修学旅行の学生や観光客で賑わう」


   アルカイザー「ただの観光目的ではなく、そこでは[心術]の"資質"を得られる修行場もあるんだ」


   ルージュ「[心術]の資質…!」






――資質


[マジックキングダム]を旅立った双子の術士ブルー、ルージュの両名がこの旅で得るべき必要なモノ

資質を厳しい修行の末に得た人間は、その力を発展させてより高位の術を練りだす事ができる…魔術師として資質は大事だ
しかも人間の内なる心に眠る力、精神に宿る潜在能力を引き出す[心術]となれば身体の傷を癒すこともできる


…行って損はない筈だ




 アルカイザー「キミは見たところ術士だろ?なら今の話で[京]に興味が沸いたのではないだろうか?」

 アルカイザー「広い"宇宙空間<混沌の海>"から旅人もそれ目当てでやって来る、優れた剣や装備品の情報も恐らく」


  ルージュ「なるほど…」
  アセルス「[京]…か」

400 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:41.75 ID:HGQPydB/0


 リージョン界は広い、宇宙<ソラ>に煌めく数多の星々の数だけ知的生命体が生きる異世界<リージョン>がある
であらば[クーロン]では知り得なかった情報を知る機会もまたあるかもしれない



   白薔薇「アセルス様はどうなさいますか?」

  アセルス「…私は、行ってみたい」



 指輪の君、と呼ばれる上級妖魔の居城の門戸を叩くべく[ムスペルニブル]へ行くにしても準備だけは万全にしておきたい
白薔薇姫の事は当然ながら信頼しているが、あくまで白薔薇姫のこと『は』であって基本妖魔は信用したくない


鬼コーチだったり、突然背中を剣で突き刺すセアトだったり、半裸の変態だったり…etc



……


 まぁ、準備は大事だ、その人が半妖から人間<ヒューマン>に戻れる方法を知っていたとして教えてくれる保証はない上
知らなかったら知らなかったで無事に帰してくれる保証も無いのだから


 この時のアセルスは知らないが、実際問題ヴァジュイール氏は自分に無礼を働く者をその力で
何処ぞへと強制的に転移させる気難しい人物なのだ、丸腰で行ってモンスターの巣窟に飛ばされた日は堪ったモノではない




   アセルス「あっ、ルージュは…どうするの」


   ルージュ「とーぜんっ!僕も着いてくよ!此処まで来ちゃったら乗りかかった船って奴でしょ!」


  アルカイザー「話しは決まったようだな」ザッ



三人の旅の方針が決まった所で窮地を救ったヒーローはマントを翻し背を向ける



   アセルス「あっ、アルカイザー!…その、本当にありがとう!私達を助けてくれて!!」


  アルカイザー「当然の事をしたまでだ、麻薬組織の一員を追跡する任務がある、俺はこれで!――とうッ!」シュバッ!




  ルージュ「わわっ…すっげぇ、ビルの壁を山鹿みたいにピョンピョン蹴って飛んでっちゃったよ…」ほえ〜

  ルージュ「参ったな、めちゃくちゃ有名人だしサインとかもらっとくべきだったかな…」


   白薔薇「何にせよ今日はもうこの街で宿を取ってお休みになりましょう…皆さんずぶ濡れですし」

  アセルス「あはは…そうだね」クスッ


びっしょりと濡れた自分達を見て、アセルスは笑う


つられて術士も貴婦人も笑った





世界は雨だが、心はカラリとした空模様だった―――それは困難を乗り越え、お互いが無事であるからこそなのだろうな





  きっと …きっと この何が起きても大丈夫、不思議とそんな気になる瞬間だった…

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:31:24.66 ID:HGQPydB/0





 ルージュ「それにしてもあんな戦闘の後でも麻薬組織の一員を探す任務にすぐ戻るなんて」テクテク

 ルージュ「お休みも無くてヒーローって大変なんだなぁ…」テクテク







 ルージュ「……」テクテク


 ルージュ「………」テクテク






  ルージュ「………あれ?僕なんか大事な事忘れてるような?」ハテ?











―――
――







    巡礼者「  」タッタッタ…!




   レッド「ちっくしょう!!待ちがやれぇぇ――ッッ!!ぜぇぜぇ…!」ダダダダッ!


   レッド「見失ったのをやっと見つけたと思ったらこんな時間に……くっっっそぉぉぉぉ!!」ダダダダッ!











…ルージュがレッドの事を思い出し、慌てて宿を飛び出したのは深夜0時をとっくに過ぎ

麻薬密売人も[京]行きのキグナス号の乗客に紛れて完全に撒かれて

某ボクサー漫画の「燃え尽きたぜ…真っ白にな」状態で項垂れるレッドを丁度、おでん屋の屋台で発見したそうな…





402 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:35:29.39 ID:HGQPydB/0
*******************************************************



                 今 回 は 此 処 ま で !




   ルージュ、アセルス、白薔薇はレッド(あとBJ&K)の乗るキグナスに乗ってそのまま[京]へ向かいます













  森の従騎士「カウンターフィアー!」

  アルカイザー「あ、自分…原作のゲームシステム的に【混乱】とか状態異常効かないッス」

  森の従騎士「\(^o^)/」


*******************************************************
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 03:40:43.28 ID:9z34UB780

いつも楽しみにしています
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 11:53:09.86 ID:RTp4rglWO
乙でした
ところがどっこい、レッドはレッド編でしか登場しないから、残念ながらこのSSみたいな展開にはならないんだよなぁ…
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 14:25:06.69 ID:PacNkGlNO
乙乙
こういうゲームではできない展開が熱くて面白い
406 :少し投下 [saga]:2019/02/19(火) 04:54:20.20 ID:T2Ou5U2b0

―――
――


時間は少し遡る、ルージュ一行が森の従騎士を撃破する数分前の事――




【双子が旅立ってから3日目 午後21時12分(アセルス、[ファイナルストライク]発動直前)】





リュート「げへへぇ、ブル〜ぅ、もう一件くらい"はしご"しに行こうぜ、いい店知ってるんだ」


ブルー「やかましいッ!このへべれけ男がっ!…梯子酒がしたいなら一人で行け俺を巻き込むな」チッ


リュート「へべれけってなぁ〜俺酒は強い方なんだぜぇ、酔ってなんかいねぇよ[ヨークランド]魂なめんなよぉ」


スライム「(・ω・)ぶくぶくぶー」リュート ノ ニモツ ハコビチュウ




リュート「大体、お前こんな時間から何処行くんだよ…どう見ても安宿の方角じゃないだろう」

ブルー「…」スタスタ


ブルー「…力」


リュート「あい〜?」
スライム「(。´・ω・)ぶく〜?」キョトン?



ブルー「…力をつけたいんだ、今以上の力を」


リュート「…」
スライム「…」



ブルー「術が使えない局面とやらを想定したとき俺が生存できる可能性は絶望的になる」

 ブルー「…何が何でも俺は生き延びる、ルージュを殺して、俺が故郷に帰る為にも…っ」



 リュート「…あー、お前さ」ポリポリ

 リュート「なに、他所の国の風習だとか、ルールだかにあんま干渉する気はねぇけども」


 リュート「一つの事に囚われ過ぎなんじゃねーの?」



  ブルー「なんだと…?」


  リュート「お前見てるとそう思うんだよなぁ、良くも悪くもストイックでこう疲れねぇか?」


  リュート「……まぁ部外者の俺がとやかく言うのもあれだけどさ」


  ブルー「貴様はさっきから何が言いたいんだ」




   リュート「人生ってのはいつだってギャンブルなんだぜ?どんだけ万全を期したって100%成功するなんて」

   リュート「そんなモンは何処の誰が決めたんだい?」

407 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:55:44.32 ID:T2Ou5U2b0

  リュート「完璧にしたつもりでも失敗する時は失敗するし、逆に中途半端な奴が人生の成功者になることだってある」


  リュート「そりゃ準備しときゃ確率は上がったかもしれねぇけど…どうせ運なら最後の大勝負が来るまでの間に」

  リュート「人生たーっぷりと甘い蜜吸っときたいって思わねぇか?」

  リュート「ん〜、よくある子供向けの質問なんかであるだお、もし明日世界が滅ぶなら貴方は何したいですか〜的な」


  ブルー「…くだらん」


  ブルー「本当にくだらんな、ああ、餓鬼向けの莫迦な問答だ」クルッ、スタスタ…



  リュート「あっ、オイ!待てってよぉ〜!」タッタッタ…!


  ブルー「…酔っ払いとの無意味な会話に付き合う程暇じゃない」スタスタ


  リュート「だ〜か〜ら!酔ってねぇよォ!!なんか、なんかよ…その、アレだよ!アレなんだよ!!!」ハァハァ…!

















   リュート「――"お前の人生"、それでいいのかよ…!」



      ブルー「…」スタスタ…ピタッ










  リュート「俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ」


  リュート「お前のその、双子の弟さん…ルージュって奴とそう遠くない未来で殺し合うん…だ…ろ?」


  リュート「さっきも言ったが人生ってのはいつ何が起きるか分からない、それこそマジに運否天賦のギャンブルだ」


  リュート「…ルーレットを回して球っころが赤に入るか青に入るかみたいなモンなんだ」


  リュート「お前が強いのはそりゃ一緒に[タンザー]で暴れた仲だからわかっけど」


  リュート「万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――」




   ブルー「 黙 れ ッ !!俺が負けるだと!?俺がアイツより劣っているとでもいうのかっ!!」



リュート/スライム「「!!」」ビクッ
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:56:12.24 ID:T2Ou5U2b0


     ブルー「…ハァ…ハァ…っ」ハッ!


<ザワザワ…
<ナニナニ、喧嘩?イヤネェ
<でけぇ声だなァ


    ブルー「―――くっ!」ダッ!


   リュート「あ、待てって!」
   スライム「(;´・ω・)ぶくぶー!」


 …らしくない、このちゃらんぽらんな男に対しては怒声を浴びせることも多々あるが此処まで感情的に怒鳴るのは
自分らしくない、蒼き術士は自己嫌悪を覚えつつも人の大海を掻き分け突き進む


   ブルー「くそ…なんだっていうんだ!人生はギャンブルだの万が一にも俺が負けるだのと…ッ」ブツブツ



   ブルー「………俺が、負ける?」ブツブツ、ピタッ

   ブルー「俺が"死ぬ"、というのか…この俺が、……」



   ブルー「……」



   ブルー「…はっ!はははっ、なにを馬鹿げた事を…」

   ブルー(そうとも俺が負ける筈が無い、小さい頃からずっと鍛錬に打ち込んで来たんだ…)

   ブルー(周りの奴らの妬みや僻み、…陰口だってそんなものは聞き流して来た、できない奴らとは違う)

   ブルー(……ずっとそうしてきたじゃないか、寝る間も惜しんで血反吐を吐いてでも修練に明け暮れて)

   ブルー(それで…―――)





     - 『…おい、見ろよ、ブルーだぜ』 -

     - 『学院の成績トップ、首席は揺るがないってあの…』 -

     - 『アイツ気に喰わないよな、あのお高くとまった態度…ちょっと勉強できるからって』 -

     - 『なんでアイツに勝てないんだよ、俺達だって必死で勉強してんのに』 -

     - 『あいつ、死なねぇかな…』 -





   ブルー(……)





- リュート『俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ』 -


- リュート『万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――』-






  ブルー(………)

  ブルー(くだらない、努力した奴は報われる筈だ、対価を払うからこそ見返りがある…俺は、勝てる筈なんだ)

409 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:58:11.42 ID:T2Ou5U2b0



「おおっ、なんだ雷かぁ〜?裏通りの方が一瞬光ったなぁオイ」グビグビ、ウィック
「へぇー雨ならともかく雷たぁこの街じゃあ珍しいぜ、ぎゃははwww」



  ブルー(…うん?)チラッ、ジーッ





一瞬光った[クーロン]裏通りの方角『 』…シーン



  ブルー「…今、強い力の暴走があったな、ヌサカーンの家の方だ……」

  ブルー「いや、俺には関係の無い話か…」テクテク




 時を同じくして抹殺対象であるルージュの旅の同行者が放った[ファイナルストライク]の閃光を背にブルーは歩き出す
向かうべき先はこの数日既に何度も足を運んだ店先、緑白赤の三色旗<トリコローレ>だ


―――
――




  エミリア「うおらあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!![ジャイアントスイング]ぅぅぅぅ!!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!




  ブルー「 」




 『close』ではなく普通に『open』の札が掛かっていた、蜂蜜色の結った髪を持ち蒼の法衣に包まれたブルーは普通に
飲食店の店を開けました、そして思う『あれ、俺間違ってファイトクラブのドア開けちゃった?』と



剣術を教えてくれそうな知り合いを訪ねてイタリアンカフェレストランの戸を開けば、レスリング大会が行われていた

な、なにを言ってるのかわからねーと思うが催眠術とか超スピードじゃあry



  エミリア「睡眠薬盛られて直後にヤルートのハーレムに送り込まれた恨みぃぃ!!忘れてないわよぉ!!」ブゥンブゥン!

  ルーファス「 」グルンッグルンッ!



  エミリア「キグナス号じゃ海賊騒動のドタバタでこの"お礼"をしてやれなかったけどね!」

  エミリア「この機に乗じて有耶無耶になんてさせないんだからぁぁ!」

  エミリア「喰らいなさいぃライザ直伝怒りのプロレス技ぁぁぁ!!」キィーーーッ




   ドゴンッ! ボッゴンッ!! ゴシャァァ! メメタァ! ゴシカァン!



  ブルー「 」ボーゼン


 アニー「ヒュー♪ヒュー♪いいぞぉ!エミリアぁ!やっちまいなぁ!グラサンなんて叩き割っちゃえ」イエーイ

 ライザ「良い機会だから、女心を理解しない男はそうなるって叩き込んでやりなさい」

410 :ここまで [saga]:2019/02/19(火) 04:59:18.73 ID:T2Ou5U2b0

<オトコ ナンテー!![スープレックス]!!
<エ、エミリ――ゴボッ!?


  アニー「あっはっはっはww―――ん?」チラッ


  ブルー「 」ドンビキ


  アニー「あっ!なんだよブルーじゃないの!今ウチの上司と同僚が武闘会やってるとこなのよ」
  ライザ「あら、噂の術士さんね話は聞いているわ」ペコッ


  ブルー「あ、あぁ…」


引き攣った顔で奥の惨状を見ながら美人二人に返事を返す、妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ
 溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー…そして元スーパーモデルの美女エミリア

男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――



  エミリア「でぃぃいいいいえええええぃ!!!   [ D  S  C ]!!!」豆電球ピコン!



ズサァァーーーーーッ!! ガッ! ガシッ!ギュルンッ!ヒューッ ズッッッゴンッ!グッ! ドッッッゴンッ! グルンッグルンッ!ブンッ! タンッ!ガッ!


                 ゴッッッッッッッッッッ ッ  ッ ッ  ッ ッッ!




  アニー「き、決まったァ!!エミリアの[DSC<デンジャラス・スープレックス・コンボ>]だぁ〜!」ガッツポーズ!グッ!

  ライザ「ええっ!!ルーファスがそこそこの実力者だったから閃いたのね!!!おめでとう!!!」



ルーファス「 」ダメージ11243… - LP2



  エミリア「や、やったわッ!ライザ、アニー!遂に…遂に[DSC]をマスターしたわッ!!」


  エミリア「こんなに、こんなに…嬉しいなんて…グスッ、アニー、私少し泣く」
  アニー「うん…私でよければ胸くらい貸すって」


  エミリア「―――ふぅ、泣いてすっきしたわ、ライザ!次の技は!」


ルーファス「 」ドクドク…


  ライザ「もういいわ、貴女は免許皆伝よ…」フフッ

  エミリア「ライザ…」

  ライザ「これ以上何かを背負う必要はないわ」

  アニー「こんな時に変な言い方だけど、楽しかったよ、エミリア」


  エミリア「アニー…みんな、みんなのこと忘れないからっ!!」



ルーファス「」


  ブルー(……)

  ブルー(……え、これは…なんなんだ?)アゼン


 イタリアンレストランの室内でちょっとしたコント劇場が繰り広げられている様を見せつけられてブルーは困惑した
何故か[ヨークランド]の片隅にある小さな教会が背景に見えて、エンディングテーマが流れてる気さえする

411 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 10:33:16.79 ID:e3wAcppJO
やだ…なにこれ…
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/19(火) 18:23:05.58 ID:Gjy/T36D0
ジョーカー撃ち殺しエンドの方じゃないですかやだー
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:45:30.13 ID:omphqAj60

――−
――



【双子が旅立ってから3日目 午後22時11分】



アニー「悪いわね客のアンタにまで手伝ってもらっちゃって」

ブルー「いや、構わん…(なんで俺がこんなことを)」


小劇場後の店内は―――局地的なハリケーンでも到来したかのような惨状だった、お洒落なパイン材の円卓は綺麗な半月に
 四脚の椅子は三脚だったり二脚に早変わりで、しかも[ジャイアントスイング]の余波で椅子やらテーブルの木片
更には硝子コップや純銀製の食器<カラトリー>が東洋文化の手裏剣の様に壁や天井に突き刺さているのであった


…今更ながら蒼き術士は背筋に嫌な汗が伝うのを感じた


 見物人二人と同じく出入口付近に居たから良かったものの数歩先――例えば料金でも払ってどっかの席に着き
暢気にディナータイムでも過ごしてたら額にスプーンの一本でも突き刺さっていたやもしれん



ブルー「こっちの破片は箒で全部掃いたぞ、…この店いつもこんななのか?」

アニー「サンキュー、まぁ客居なくて暇なときとかね…大丈夫よ、ちゃんと一般客巻きこまないように加減してるから」


ブルー「……」ジトーッ


アニー「…いや、そんなジト目で見ないでよね、マジだからさ」



ブルー(…あの頭の悪そうな女といい、こいつといい…それにサングラスの男を介抱しているライザという女)

ブルー(こいつ等、相当戦い慣れてるな……この実力者揃いが単なるウェイトレスの訳が無い、何なんだこの店)ジトーッ





妖艶な大人の色香を魅せる紫髪を持つライザ

溌剌とした活力にあふれる魅惑的な女のアニー

そして元スーパーモデルの美女エミリア





男であれば誰もが脚を運びたがる甘い蜜蜂の巣のような店なのだが――


        ――――――暗黒街[クーロン]にある法律で裁けぬ者にも鉄槌を下す裏組織…"グラディウス"の支部…




それこそが妖香漂う蜜蜂の巣の実態なのだ…

言葉通り"蜜蜂の巣"だ…拾った小石を投げたり、枝で突くような真似をすれば泣きっ面を見る事になる



  アニー「でさ、アンタ此処へ何しに来たのよ…あ、もしかして[ディスペア]潜入の用意はできたかって催促?」

  アニー「まだ作業員に変装する為の一式やIDカードできてないんだから待っててよね」


  ブルー「いや、それもあるが…」



 …術が使えなくても、戦いたい…[剣術]や[体術]…いや最悪[銃技]に詳しい奴を教えて欲しかった訳だが

この店に来たのは本当に彼にとって"大当たり"だったかもしれない、それぞれの分野に特化した人材が居るのだから
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:46:47.49 ID:omphqAj60



  ブルー「貴様に借りを作るのは癪だがアニー、貴様に剣術を教わりたい」

  アニー「わーお、上から目線だなこの野郎」



しれっと言い放った言葉に、いらっと来るがこの男はこういう奴だと出掛けた言葉を飲み込んだ…
 この無礼極まりない大層ご立派な術士様がどんな心境の変化で剣術を学びたいかくらい聞いてやろうじゃないか、と



  アニー「一応聞いとくわ、理由は?」

  ブルー「……」









  ――自分の弟を殺す為





  アニー「…ん?なによアンタ理由も言えないワケ?そんな奴には教えたくないわね〜?借り作るの癪らしいしぃ〜?」




ワザとらしく人差し指を右頬につけてお道化てみせる守銭奴に術士は言った



  ブルー「……同郷の者でな、どうしても勝ちたい競い相手が居るんだ、そいつとの試合に勝つためだ」


  アニー「…? 故郷の競い相手と試合??? なによアンタ…熱血スポ根物の少年漫画みたいな事やってんのね」


  ブルー「報酬は弾む、頼む」




 帰って来た返事に「へぇ、以外だわ…」と目を丸くしてアニーは呟く
この冷血男は誰だか知らんが故郷に居る知人と試合をするために力をつけているのかと…

よくある不良が夕暮れの河川敷げ殴り合うアレか、とそう解釈した





『同郷の者』『競い相手』、『試合』――まぁ嘘は言ってない


ただ"詳細説明"……そして最終的に"敗者の末路"に関してを省いただけだ、訊かれなかったから答えなかった、それだけ



  アニー「まっ!金払ってくれるっていうならみっちり!アタシがしごいてやるわ!」フフンッ♪

  ブルー「ああ、それと剣術の他に体術にも詳しそうな奴が居ると思うのだが…」チラッ


  アニー「あ〜、アンタが見てる従業員以外立ち入り禁止ドアの先に居る2人ね」


  アニー「ライザは体術専門だけど、さっきルーファスをヤったエミリアは寧ろ[銃技]専よ」


  ブルー「…エミリア、か…そういえばリュート達と蟹鍋を囲んだ時にチラッと話してたな…あの女が」

  アニー「体術習うならライザだし、銃のプロなら彼女ね」


  ブルー「…今は[剣術]だけでいい、余裕を持てそうなら他の分野にも手を伸ばす」
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:47:21.00 ID:omphqAj60

ガチャッ、パタン…


  ライザ「アニー片づけは終わったようね?それとブルーさん、でしたねお見苦しい所をお見せして申し訳ありません」

  アニー「あのグラサンどうだった?流石にやりすぎたかもってエミリアと介抱したんでしょ」

  ライザ「1日寝てれば何事も無かったかのように復帰してるわよ」



 従業員以外お断り、そう書かれた扉の向こうからライザと呼ばれた紫髪の女性が戻って来た
身内にお恥ずかしい場面を見せて申し訳ないと頭を下げた彼女に蒼き術士も首を振って返す


   「アニー、ライザ、お客さんまだ居る〜?なんか私が荒しちゃった店内の片づけ手伝ってくれたってお礼とか――」



最近、"グラディウス"に加入したブロンドの美女エミリアもまた扉の向こうから姿を見せた―――そして…









      エミリア「………っ!  ―――ぇ、ぁ、なんで?」



      ブルー「?」






金髪美人は一瞬、時でも止まった様に彼の顔を、蜂蜜色の髪を持つ端麗な顔を見て息を呑んだ




     アニー「あぁ、そう言えばキグナス号の時は紹介できなかったわね」

     アニー「ほら?アタシさ言ってたじゃんか、食べ放題ビュッフェのあの席で―――」























      エミリア「ルージュ!こんなところで何をしているのよ!アセルス達は一体どうし―――」



       ブルー「―――――――――――――――――――――――――――――――」







416 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:48:15.75 ID:omphqAj60





  逆鱗に触れる、という言葉が世には在る、もしも触れたならば身を以て知るだろう祟り神に容易に手を出したことを





 電光石化の動きだった、破損していない椅子に腰かけていた蒼き術士が"名前"を耳に入れると同時に勢いよく立ち上がる

毛を逆立てる山豹、青筋を立てた悪鬼、血走った眼を向ける殺人鬼、荒れ狂う妖怪…もののけ




 端麗なその顔立ちは一変、おぞましいバケモノと見紛う程であった…



対面して座っていたアニー、ライザでさえ、ぞわりと身の毛がよだつ敵意




     ブルー「貴様ぁぁッ!!ルージュを見たのかッ!どこだ!?何処にいるッッ!言えぇぇぇッッ!!」ガシッ

     エミリア「キャアっ」ビクッ!




  アニー「ちょ!?ば、何やってんだブルー!!」ガタッ!

  ライザ「これは流石に止めないとマズイわ!」バッ!



     エミリア「い、痛いっ、やめ――っ!やめてってばっ…ほんとう、や、、め …ぁぁ!」



      アニー「っっ!いい加減にしろ!!なんだってんだ…このぉ!!」
      ライザ「手を離しなさいっ!」





         リュート「スライムッ!!いっけぇぇぇぇ!!」ブンッ!

         スライム「(`・ω・´)ぶくぶーーーーーっ」ヒューーン






        ブルー「なにィ!?ぐ―――がぼっ、ごぼっ!?」(顔面にスライム命中)




   リュート「そのままブルーの顔に引っ付けッ!呼吸できなくて気ぃ失っちまうまでだっ!!!」

   スライム「(; ・`д・´) ぶ!? ぶくぶ!」ガッ!グッグッ!




     ブルー「――! 〜〜〜っ!? −−!  −−−」 ジタバタ!ジタバタ!……バタッ!




  リュート「…や、やったか!?……ふ、ふぃーーーマジに焦ったぜぇ」ヘナヘナ…

  リュート「心配でスライムと二人で夜の町中探し回ったらまさかの修羅場とか…ビビったぞ」ハァ…


―――
――
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:49:04.61 ID:omphqAj60



     ロープぐるぐる簀巻きブルー「 」


  アニー「エミリア…本当ごめん、あたしの連れが…」

  エミリア「ううん、いいのよ何処か怪我した訳じゃないし…」


  アニー「……いきなり飛び掛かったこの馬鹿には後で事情聞いたり、みっちりと言い聞かせとくから、本当ごめんっ」

  アニー「暴れないようにロープで縛ったから目が醒めるまで奥の倉庫にでもぶち込んでくるわ」



  グッ…ズルズル…



 アニーはそう言うと騒ぎを起こした連れを『従業員以外立ち入り禁止』の奥…
この店の裏の顔の1つへと向かって引き摺っていく、そんな姿を見送り完全に姿が見えなくなったのを確認してから



   ライザ「さて、色々説明してもらおうかしら」

   エミリア「ライザ?」



   ライザ「リュート…彼と面識があるのでしょう、まぁその前にエミリアからね」

   ライザ「さっき貴女はブルーの顔を見て『ルージュ』と呼んだ、それからよ?何事も無かった彼が血相を変えたの」



   エミリア「あっ、その…なんていうか、よく見たら"人違い"だったっていうか…そのぉ」


   ライザ「人違い、というのはどういうことかしら」



支部とはいえ組織のトップであるルーファスの片腕を任される鉄の女はエミリアの発言が齎した変化に関して指摘を挙げる
 歯切れの悪い彼女の情報を整理すると、偶然知り合った魔術師のルージュなる人物とブルーの顔が瓜二つだった、と


ただ、髪色が違うし服装、細かい装飾も…なにより雰囲気だ






【銀髪の紅き術士】は温和で人懐っこい印象を受ける好青年だったが――

『金髪の蒼き術士』は冷たく気難しい感じのする何処か近寄りがたい人物だったように思える――



    ライザ「…無関係、では無いわよね、名前を耳にしてあの取り乱しようなのだから」



    リュート「…あー、そのことなんだが、よぉ…」ポリポリ



おずおず、と弦楽器を背負ったニートが話に割って入る
 エミリアが知り得る情報は顔が瓜二つの人物が居て蒼き術士は紅い方を知っていて…只ならぬ関係だと

それ以上の事は一切知らず、進展が無いと踏み…次いでブルーの知り合いであるリュートの話を聞くことにした



    ライザ「なにかしら、その切り出し方からして事情を知っているということでよろしくて?」

    リュート「ん、まぁな…これはアイツの人生に関わる個人的な問題だからあんま話すべきじゃないが…」


418 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:49:32.74 ID:omphqAj60

【双子が旅立ってから3日目 午後22時29分】



店内は嫌に静まり返っていた

 面白可笑しく生きるのがモットーである男の口から告げられたのは
何処よりも優れた魔法王国を謳う国家に生まれた双子の宿命であった―――



  エミリア「っ!」キュッ

   ライザ「…」



  リュート「―――と、これが俺の知る限り全てさ顔も見た事が無い、名前しか知らない血縁者を殺す」

  リュート「アイツはその為だけに術を究めようと世界各地を渡ってるってワケだ」





  エミリア「そんなのっ!!――残酷過ぎるわッ!」バンッ!


  ライザ「…エミリア机叩かないで頂戴、数少ない無事だった物なんだから」


  エミリア「でもっ、そんな…兄弟同士で命を奪い合うだなんてそんなの…!…あの、ルージュが…」ギュッ…!

  ライザ「ええ、倫理に反してるわね」










       ライザ「けどね、果たしてそれを"私達<裏社会の人間>"がどうこう言える立場かしら?」


       エミリア「っ」ハッ





   ライザ「私達はね…正義の味方じゃないの、法で裁く事のできない屑を違法を以て潰すわ」


   エミリア「……うん」


   ライザ「私は、他人が"そういう事"をしたとしてもとやかくは言わない」

   ライザ「誰かが誰かに対して"ソレ"をするのは、そこに抗えない理由や当人にしか理解できない葛藤があるから」


   ライザ「もしも、もしもの話よ?エミリア…」




  ライザ「貴女が自分の婚約者を殺したあの仮面の男、[ジョーカー]への復讐心を綺麗さっぱり忘れろ、と」


  ライザ「そう言われたら『はい、わかりました、シャバでのうのうと笑顔で生きてる仇は忘れます』と言い切れて?」




  エミリア「……」



…ブロンドの美女は口を開かない、否定ではなく沈黙で応じた

419 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:50:25.72 ID:omphqAj60


 エミリア「でも、それとこれとは話が」
  ライザ「違わないわよ、人間一人殺すのに必要な動機<エピソード>なんてものは精々、刑罰を軽くできるかどうか」

  ライザ「法廷でお高いスーツを着た人が書類片手に読み上げて情状酌量の材料にするかしないか程度の話でしかない」



   ライザ「殺人を犯したという"結果"はね…"人間よりも上の人"から見たら大差ないわ…」





どこか、…どこか疲れたような顔で裏組織に属する鉄の女は天を仰ぐように見つめた



モデルとしてスポットライトの光を浴びて来たエミリアとはまるで違う
 半生を薬莢と血生臭い世界を駆けて"知りたくも無かった醜悪なモノ"を数多く見て来た女性が言うのだ…



  ライザ「ブルーにはブルーでそうまでしなきゃならない理由がある、国からの命令だからする、そういうものよ」



  リュート「エミリア、俺ぁなんだ…裏社会の人間じゃねぇけどよ国によって独自の文化、風習とか掟だとかさ…」

  リュート「そういうのってある、とは思うんだわ」


  リュート「そこに干渉し過ぎちまうのも…やっぱマズイかな〜って、いや誰も死なないならそれが良いけどよぉ」


  エミリア「…リュートも"そっち側"、なのね」ハァ



   ライザ「勘違いだけはしないで頂戴、貴女の気持ちだって分かる…」

   ライザ「ただ、世の中には知っていて止められない流れや安易に首を突っ込むべきじゃない物事もあるって話よ」




  ライザ「……私は貴女に"ミイラ取り"になってほしくないの、お願いだからわかって」

  エミリア「…わかったわよ」ハァ




 5年分の歳月しか変わらない年上の、しかしその5年が自分以上に多くの物事を観て来た人生の先輩から助言を受け
エミリアは不満げに叩いた机に頬杖をつく、ライザとて『倫理に反している』と自身で言う様に"正しい事"とは思わない
ただ全否定をしないだけ、全肯定もしないだけなのだ




コインに裏と表があるのと同じ、元は同じ物質なのに角度を変えれば見解、見識が180℃グルリと変わる


戦争で"正義"の名の元に戦う軍隊があるとすれば敵は悪ではなく、単純に"別の正義"だったというだけの話





  ライザ「……」

  ライザ「でも、そう、ね…アニーにはこの事を隠しておいた方がいいかもしれないわ」


 エミリア「え?」



 簀巻きにされたブルーをアニーが奥へ連れ完全に見えなくなったのを見届けてからライザはこの話を切り出した
双子の兄弟で殺し合うとまでは流石に想像できなかったが、エミリアの知り合いの名前を聞いて激昂する辺り
何か面倒な事になるのであろうと…

冷静に分析し敢えてあのタイミングでライザは切り出したのだ
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:51:40.57 ID:omphqAj60


  リュート「ほ〜ん?なんでまたアニーにゃ黙っとくんだい」

   ライザ「あの子の性格を考えると一悶着ありそうなのよ…」ハァ



   ライザ「アニーも…このグラディウスのメンバーとして"裏"には長い事居るわ…」

   ライザ「大雑把で開放的な見た目に反して幼い頃から厳しい環境で育ったから自己保存と自己防衛本能が強い」

   ライザ「二人には前に話したけどこの仕事向きの"能力"ではあるわ…でも"性格"までそうかと言われると、ね」






   ライザ「昔、こんなことがあったのよ…家族を皆殺しにされた客が仇を討ちたいからアジトへ案内してくれって」


   ライザ「アニーは報酬の代金を受け取って契約通り案内を済ませた、後はそのまま帰って来るだけ、でも―――」





   エミリア「…帰らずに、その依頼人について行った?」


   ライザ「ご名答、頼まれたのは"道案内"だけであって一緒に戦うなんて契約には無い、無論お駄賃だってない」


   ライザ「『ここからは"ビジネス"じゃなくて"ボランティア"だからカネなんていらないわ』」

   ライザ「そういって依頼人の仇討に加担したのよ…無償で」ハァ…



   ライザ「能力は間違いなく裏社会での仕事向きよ、能力は、ね…」



   リュート「実は双子の弟殺す為に修行してまーすっ!、なんてブルーの目的知ったら…」


   ライザ「…」ハァ…



 本日何度目になるか分からない溜息をライザは吐き出した…、義理堅い、情に熱いというのは美徳だ
闇の中でも失われない光を持つのが手の掛かる妹分の美徳だと感じていて同時に危うくも思う


―――長所と短所は表裏一体だ、浅くない付き合いだから分かるエミリア以上にきっと



バタンッ!


  エミリア/リュート/ライザ「「「!?」」」ビクッ、ガタッ!




  アニー「ただいまー!あの馬鹿とりあえず適当に―――って何よ?どうしたの?」キョトン?


  エミリア「え、あぁ…ホラ?あれよ、アレ…あの人なんで怒ってたのか分かったわー」(目逸らし)

  リュート「お、おう話し合い終わったとこで急に来るもんだからな、心臓飛ぶかと思ったわ」


  リュート「あ、俺急用あったんだ!――ほら、スライム起きろ!行くぞ!」ユサユサ

  スライム「ぶくぶ…zzz……ぶくっ!?Σ(゚□゚;)」スヤァ……ハッ!?


  リュート「じ、じゃ!俺はこれで…さいなら!」ダダッ!

  アニー「えっ、ちょっとぉ!!」

421 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:52:19.61 ID:omphqAj60

ドタバタ…



  アニー「…なんだってのよ、…ってか事情分かったって?」クルッ


 慌ただしく出て行った知人とゲル状のモンスターから同僚に顔を向け、問いただす


  エミリア「ええ、そうよ…コホン、いいアニーよく聞いて頂戴…」

   アニー「いいけど」


―――
――


【グラディウス倉庫】



  ブルー「…うぐっ、…こ、ここは…」キョロキョロ

  ブルー(段々思い出して来たぞ…確かリュートにスライムを投げつけられて…)





  アニー「…どうやら気が付いたようね」ガチャッ!

  ブルー「!」バッ!




 古い木板の匂いがする床の上で目覚めた彼は最初暗がりに慣れず、何も分からなかった
立ち上がろうにも両脚の自由が利かず、また腕も拘束されている事に気づくのはすぐだった声は出せる辺り
口は封じられていない…

ボサボサ頭に民族帽を被った無職とゲル状生物の所為で失神さえられたこと、その件に対する怒りが込み上げるよりも先に
彼の心にまだ見ぬ弟との邂逅があったと思しき女の存在が入り込んだ


 なんとか此処から脱出してエミリアと呼ばれていた女に問い詰めねばッ!
そう思った矢先で部屋に廊下から漏れる灯りが雪崩れ込む、木製のドアを背凭れ代わりに
見知った顔が腕を組んで此方に睨みを利かせていた



   アニー「なんで縛られてるか、わかるわよね?」

   ブルー「…」プイッ



顔を背ける、言われるまでも無い



  アニー「はぁ〜〜〜、餓鬼かアンタは、…そうやって都合悪いと拗ねる辺りあたしの悪ガキの弟と同じだわ」スタスタ

  アニー「縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?」



  ブルー「…拘束を解く、だと?」



  アニー「別に怪我した訳じゃない、大事じゃなかったからいいってさエミリアも御人好しよね〜」スタスタ…ガシッ

  アニー「…」シュルッ…スルスル



  アニー「…ルージュって奴の事、エミリアから聴いたわ」

  ブルー「ッッ!?」

422 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:54:45.54 ID:omphqAj60


  ブルー「…そう、か…聞いたんだなっ」ワナワナ…!


知らず知らずのうちに術士は震えていた…

胃の底から込み上げてきそうな何かを抑え、溢れそうな部分を言葉に変化して出すように確認を取る


  アニー「ええ、…あたしがアンタを此処に運んでる間にリュートからも詳細を聞いたって」






    アニー「ブルー…あんた…」ジッ

    ブルー「…っ」ギリッ





 廊下から差し込むLEDライトの照明を背に伸びる彼女の影が歯軋りをしながら彼女を見返すブルーの顔を丁度隠す
逆光の中に入る女と、影で表情を窺い辛い男…二人の間に沈黙が流れ、そして…






   アニー「…ぷっww――いや、確かにアンタ見たまんま"エリート坊ちゃん"って感じの性格だからね」

   アニー「そりゃあ弟の方が優秀でスポーツ万能、性格良しとかじゃ敵意剥き出しにするわけだわ…ぷぷっ、くくっ」






   ブルー「……」


   ブルー「は?」




 呆気

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまった、パチンッ、倉庫の照明をOFFからONへ操作して未だ小馬鹿にしたような笑いを
絶やさぬ女がイマイチ状況の飲み込めない男に言い続ける



  アニー「いやいや、あたしに報酬払うから剣を教えてくれーとかキャラに似合わないことすんなぁ〜とか思ったわ」


  アニー「故郷の競争相手ってのはブルーの弟なんだろ、学生時代の自分より成績が上で」

  アニー「しかもコミュ力高くてリア充しまくってた弟の鼻を明かしてやろうって努力してるんだろう?全部聞いた」



  ブルー「お、おい、ちょっと待て…貴様さっきから何を――」



  アニー「…あー、うん分かってる、わかってるから"兄より優れた弟なんて存在しない"、だろ?うんうん」肩ポンポン

  アニー「しっかし、アンタさ…くくっw 澄ました顔しちゃってさ」

  アニー「そ〜んなコンプレックスの塊だなんて可愛いとこあんじゃんww」プッ…


  ブルー「 」


 この女は黙って聞いてれば何を頓珍漢な事をほざいているのだろうか、オイなんだその顔はやめろ!
その微笑ましいものを見るような慈愛に満ちた笑顔はやめろ!肩をポンポン叩くなァ!

ブルーはそう言いたかった
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:55:18.42 ID:omphqAj60


  アニー「あたしだって姉弟の中で一番上だしさ、情けない姿見せちゃあ面目が立たないとか気持ちは分かるわよ」

  アニー「けどさぁ、エミリアに掴みかかった時みたいなああいうのは良くないわよ?」


  アニー「ほらほら!向こうは許してやるって言ってんだ、ちゃちゃっと謝りに行くよ」スタスタ





  ブルー「お、おいィ!!……あ、あの女言いたい事だけ言って…ふ、ふざおってからにッ!!」プルプル




  ブルー「〜〜っ」プルプル

  ブルー「…」


  ブルー「リュートからも聞いただと?…だがあいつの口ぶり
           どうも【"決闘"】でなく『"ただの試合"』としか思ってないような」




"試合"と"死合"


 妙に緊張感の無い言い方、恐らく彼女は双子の闘いを学生がよくやるような剣道大会の試合
要はスポーツ感覚のソレと勘違いしているのだろう


 実際に行われるのは中世の騎士が立会人の下、どちらかが命尽き果てるまでに斬り合う決闘<デュエル>だ
魂の尊厳、何より自分自身の"生"の為に西部劇のガンマンが早さ比べをする様式とも取れるソレであって
 間違っても負けたら「いいファイトだったぜ、またやろう」みたいな爽やかな笑顔で握手し合う交流試合のノリじゃない



弱肉強食、負けた方が勝った方に生存の権利を譲る―――そういうモノであるはずなのだ




  ブルー「何をどう聞かされたのか、確認を取るか、ルージュの件もある」スッ、スタスタ…




 少し頭に血が昇り過ぎていたな、…蒼き術士は幾らかクールダウンした脳で先刻の接触は悪手だったと今更後悔した


初対面の人間に対する"猫かぶりの対応"を思わず忘れる程の激情、蒼は紅を体現した人物名でその彩に染まっていた
 どうにも故郷を発ってからこういう事が多い、情緒不安定な所が際立つ





 普段、名の通りの男と故郷で言われたが実際は違う、彼とて人の子だ……世間を知らず箱の中で育ち

外界など古臭い書物の紙面に乗った洋墨でしか知らない、鳥籠で産まれ、鳥籠で死ぬ小鳥と何が違うというのだ…



山も、川も、雲さえ知らない鳥がある日、飼い主の身勝手な都合で籠から追い出され野に放たれたも同然だ



見た目だけが成人を迎えた子供<お坊ちゃま>……ただの22歳児でしかない



コツコツッ……ピタッ



  アニー「エミリア、連れて来たわ」

  ブルー「……」

424 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:55:59.27 ID:omphqAj60


  エミリア「…貴方がブルー、ね…ふぅん確かによく見ると色々違うわね」ジーッ



   ブルー「…」



 ポーチ付きのベルトに紺色のスカート、春先の若葉を連想させる明るい緑色のジャケットを着た女は目を細める
親友に倉庫から拘束を解き放ちここまで連行して貰った男と記憶の中にある戦友の容姿を見比べた

 一点を凝視してみたり、離れて全身を軽く見まわしたり
彼に近づいて一本の大樹を中心にぐるぐる回る様に様々な角度から覗き込んで見たり


 観察対象の彼はその行為にじれったさを覚えた、何がしたいんだ、言いたい事があるならさっさと言え、失礼な奴だ、等


心中は投げつけたい文句が浮かぶが、立場上ブルーは"今現在は加害者であるが故"に強くは出れない




 双子が旅立ってから三日目の晩、遡って二日前だった―――丁度このリージョンでブルーが[保護のルーン]を手にする為
暗黒街の地下にある[自然洞窟]でアニーと出会った、その時に彼は確かに言った




 - ブルー『こちらに非があるならば謝罪の一つでもいれるのが筋だ、…顔に出てるぞ貴様』ジロッ -




 目の前の女はまるで自分を舐めるように観察してくる…こうなった発端は元を正せば後先考えずに行動したブルー自身だ
"自分に非がある"と認めてるからこそ咎めない、許容範囲を軽く越した蛮行でもせん限りは様子見に徹している



  エミリア「ん、んっ〜!ハイ、わかった、確かに違うわ、うん!アニー!ちょっと二人っきりでお話したいのよね〜」

  エミリア「ちょーっとだけこのカレ借りちゃっていい?」ガシッ


  ブルー「お、おい…」

  アニー「OK」ビシッ




 悪戯を思いついた、そんな顔で猫なで声で妹分に許可をねだる元モデル

 何か面白そうなんで、と了承の二つ返事を姉貴分に敬礼つきで出す仕事人



 反論を口しようとする彼はその場から連れ去らんとする腕に黙殺される、そして終止ニコニコ笑顔のブロンド髪で
誰もが見返る魅惑的な美女に誰も居ない深夜の厨房まで引き摺り込まれてそして―――






       エミリア「リュートから話は全て聞いたわ、"身内殺し"をしようとしてるってこと」





分厚い扉は重々しい音と共に締まる、外部に音声を漏らすことはないだろう


突然の隙間風、季節風の様に何の前触れもなく吹いた風が蝋燭の灯火を消していったように、ニコニコ笑顔はふっと消えた




術士の肩に、細く白い綺麗な指が沈み込む、霊獣の毛皮を剥いで創った肩掛けにギュッと強く…桜色の爪化粧が喰い込む


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:57:10.49 ID:omphqAj60

 静寂の中で石窯の傍に掛けられた木製の振り子時計が無言の睨み合い、緊迫した空気も読まずにただ己の役割を果たす
一瞬、驚いた顔をしたが何か合点が行った顔で肩を掴まれたままの男は目を細める、今度は自分が女を観察する番だ


  ブルー「……」

 エミリア「…っ」キッ!



  ブルー「まず、先程の件で詫びをさせてもらう、あれは全面的に俺が悪かったな」

  ブルー「他人に教えを乞う態度にしては乱暴が過ぎた、それは認める」スッ




  ブルー「そして、この先は別件だ、リュートから俺の目的を聞いた上で
            あの頭の悪い捏造シナリオを奴に吹き込んだのはお前か、何が目的だ?意図が読めん」


 エミリア「っ」キュッ!



 小さく頭を下げ、自分に非があったと睨みつけて来る女性に淡々と伝える
誠意の欠片も見当たらない謝罪後は一呼吸置いて、何が目的か問い始める


…元モデルというのが彼女の経歴だが
 一世を風靡する程のプロモーションと表現力を兼ねた彼女なら舞台女優でも通用することだろう

 ライザを交えてリュートから"家族殺し"をさせる狂った国家の話を聞いた時と全く同じ様に、目の前の男の言葉を聞き
彼女は下唇を噛んだ、行き場の無い怒りの行先だ




戦友ルージュの背負った理不尽な使命という悲運

目の前に居る戦友の兄ブルーはそれに何も感じないのかッ!という怒り

この双子にそのような命令を下す国家の残忍さ



あらゆるモノに対する腹立たしさが渦を巻いて胸の奥に燻っていた、よくもまぁアニーの前であんな上機嫌な女を演じたな



 エミリア「…意図、ですって?」

 エミリア「あなたねぇ、自分の弟を殺すのよ…何も思わないの、悲しいとか嫌だとか、…っ、辛いとか、感情は無いの」







  ブルー「無いな」






 そんなモノは無い、彼は正直に答えた



 エミリア「―――ッ!このっ」グッ!片手振り上げ


 エミリア「……っ」

 エミリア「…」

 エミリア「…。」


 エミリア「…ない、のね」スッ

426 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:57:49.28 ID:omphqAj60

 振り上げられた手は、エミリアの落胆した声と同じく、だらりと重力のままに降りていく
初めから期待していた訳じゃない、[ヨークランド]出身の友人が語った通り冷徹さを印象付ける色の彼は
弟に"勝つ気"でいるのだ


そこに、罪悪感だとか、嫌悪感、本当は嫌だけど仕方なく国の命令に従っているだとか、そういう淡い"救い"を求めた


…初めから期待していた訳じゃない、のだけれど





  ブルー「…」





 無いな、弟を殺すという事柄に対して悪感情はあるのかという質問にこの男は即答したが…


本当に無いのだ、いや、"考え方そのものが違う"




 彼とルージュが旅立つ初日、国家の元首でもある魔法学院の長はなんと言った事か
強き術士となる為であらば『自分の目的を果たす為ならばあらゆる手段を用いてよい』と…


倫理、道徳…必要最低限の"普通の"モラルを学ぶ子供ならば忌諱となるだろう行いを『国家の為だからソレは正義です』と
ブルーの場合は特にその傾向が強い教育だった



資質を手にする為なら、相手から奪う、殺人さえ許可する、と



必要な行為だから、する
良くも悪くも考え方が"国家に忠実な兵隊さん"思想な所がある、もっと言えば隔離されて育ったからこそ兄弟の実感が無い



殺らなきゃ自分が殺される、そういう意味じゃお互い様
ただの抹殺対象、それ以上でもそれ以下でもない、だから情がどうこう以前の話








…とどのつまり、エミリアに対して言った「無いな」に込められた"ニュアンス"は微妙に違う


辛いとか、悲しいとか、嫌だ、ではないが
 逆に…殺せて清々するとか、大っ嫌いだからボコボコにしたいでも、嬉々として倒したかった、とかですらもなく



家族という実感そのものがイマイチ、ピンと来てない




強いて言えば、"自分を育ててくれた里親である国家に親孝行をする"が動機





  ブルー「お前はその確認をしたいが為だけにあんな創り話を考えたのか?」


  エミリア「…それ、もあったけど違う」

  エミリア「……アニーにあなたの旅の目的、真相を知って欲しくないからよ」


427 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 00:58:56.77 ID:omphqAj60

  ブルー「なぜだ」


  エミリア「あの子、見た目はあんなふうだけどすごくいい子よ、家族思いで」

  エミリア「知ればきっと、あなたの事を止めようと食って掛かるわ…」


 ライザが危惧した内容をそのままエミリアはブルーに告げた、もしも、今この厨房に居るのが自分でなく
どんな会話が行われているのかも知らずに外で眠たげに欠伸でもしているアニーだったら



落胆の色を浮かべ振り上げた手を下げた自分とは違った行動を取ったことだろう

激怒の色を浮かべ勢いをつけ手をあげたに違いない



その後も、ブルーが白旗をあげるまで延々と彼の耳元で喚き続ける
 兄弟同士で殺し合うなんて間違ってる、長男が自分の下を傷つけるな!…姉弟で生きる為、頑張って来た長女なら言った



  エミリア「私の他にもう一人ライザって女性が居たでしょ、彼女もこのことは知ってる」

  エミリア「私もライザもあなたのことは止めたりはしないだから、これだけは約束して欲しい」


  エミリア「せめて、アニーにだけはそんなことを、残酷なことを教えたりしないで頂戴」キッ!



家族で殺し合う為の手助けをしてしまった

自分の知り合いが友達の戦友を殺させる切欠を作ってしまった


 事が終わった後にせよ、起こる前にしても、アニーはもう、ブルーに既に手を貸してしまっている
自分達家族が生きる為に報酬のカネを受け取った、仕事で仕方なくやった、としてもそれが少なからず小さな影を造る


こんな業界に居るから、いつかは…いや、エミリアが知らないだけで過去に似たような経験をアニーはしたかもしれない


…どちらにしても、そんなモノは無いなら、その方が断然いい

言ってしまえば気持ちの問題だ


  ブルー「…ふむ、言いたい事は分かった」


  エミリア「それで、約束は? YESかNO、決めてもらえないかしら」


  ブルー「アイツの性格はまだ知り合って日も浅いが大体わかる、[ディスペア]潜入や剣術の指南」

  ブルー「今後の予定に支障が出る不具合もある、良いだろう飲んでやる、あの馬鹿な脚本に従ってやろう」


  エミリア「…私、あなたのこと苦手、ううん、嫌いだわ…ルーファスとどっちがマシって言われたら悩むくらいよ」


  エミリア「正直、妹みたいに思ってるアニーに近づいて欲しくないくらいに、泣かせたら承知しないわよ」


   ブルー「そうか、それは結構、ところで…そちらから一方的に約束事を持ち出して虫が良いとは思わんか?」

  エミリア「…。」

  エミリア「…私が行動を共にしてた間のルージュの人柄や旅の様子を話す、前払いの契約金よ」スッ


   ブルー「そこまで"頼まれては"仕方ないな、約束を守るように善処しよう」ニコッ、スッ




…ガシッ、ギュッ

…金髪の美女はハッキリと嫌いだと物申した相手――満点の笑みを浮かべる金髪の男性と"仲直りの握手"をした

428 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:00:28.10 ID:omphqAj60
―――
――




  アニー「ふわぁ…二人で何話してんだろ…」脚ぷらんぷらん



 暇を持て余した彼女は樽の上に腰掛け足をぷらぷらとさせていた、この惑星の気候は肌寒く特に豪雨の夜は一層冷える
店の雰囲気重視を謳う少し薄暗い照明と合わせて暖房をつけていない…というのは建前で単に"ケチ"なだけなのだ


眠たげな彼女の服装はいつものデニムパンツに、ブラジャーの上から緑色のジャケットを羽織っただけのラフな格好だった

 夜風に晒されてまで自宅に戻って厚着して帰って来る気にもサラサラなれず
店内にあったブランケットを適当に引っ張り出して来てポンチョの様に身体に巻いていた



スッ


  アニー「…はれ?ライザ」

  ライザ「今夜はまた、一段と冷えるわね…ホットチョコレートよ、飲みなさい」

  アニー「へへっ!サンキュー!」


白いマグカップが4つ、白の陶器は湯気立つ茶色と溶け合うミルクの色が渦を描く、手渡されたカップの淵に口をつけ一口


  ライザ「お味はいかがかしら、お客さん」フフッ

  アニー「うーむ、くるしゅうないぞ!っなんてね」ハハッ


紫髪の女性も樽に腰掛ける金髪少女の傍に立ち、カカオの香りを嗜む


  アニー「あの二人さぁ、何話してんのかなー?」

  ライザ「さぁ、気になるの」


  アニー「そりゃ気になるわ、エミリア美人だし男と厨房で二人っきりとかさぁ」

  アニー「よく言うじゃん?男はオオカミなのよ、気を付けなさい〜♪って」

  ライザ「あら、懐かしい歌のフレーズね」


  ライザ「でも、大丈夫よ彼女はそんなヤワじゃない、そうでしょう」

  アニー「んー、それもそっか、ズズッ 温かくておいしい」


バタンッ!

   エミリア「二人共おまたせ〜」スタスタ

    ブルー「ああ、遅くなって済まない和解は成立した」スタスタ


  アニー「おっ!や〜っときたか、…まったく、ちゃんと反省してるわけ?」ヤレヤレ



    ブルー「あぁ、すまなかったな、ルージュのことになるとどうも頭に血が昇ってな」

    ブルー「エミリアも話してみれば大分話の分かる奴でな、…しっかりと"仲直りの握手"もできたくらいだ」

   エミリア「…ええっ!そうね!」ニコッ

    ライザ「……」

    アニー「えっマジ?なんか意外、アンタとエミリア絶対反りが合わないと思ったけど世の中わかんないものね」


    ライザ(仲直りの握手、…ねぇ)

429 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:01:03.89 ID:omphqAj60

エミリアがアニーに近づいて小声で耳打ちする、そんな姿には目もくれずにブルーは得たアドバンテージを考える


 握手には広義の意味がある、単純に仲直りの為であったり、挨拶代わり……政治家のやり取り、商談成立の合図にも



  ブルー(ルージュがどの術の資質を得ようとしているのか、試練の進行状況はどうか
         アイツのペースを知る事で鍛錬の積み方、休息のタイミングも図りやすくなる筈だ)


  ブルー(はは、運気の流れは確実に俺に吹いてきてい―――)ツンツン



ふと、肩を指で突かれる感触に水を差され「なんだ?」と振り返る、すると…

















    アニー「はい、んじゃ今日からビシバシ行くからヨロシクな新人アルバイト!」つ『ピンクのエプロン』








           ブルー「…。 えっ」








 アニー「エミリアに謝ったら、罰として暫く住み込みでウチのイタ飯屋手伝ってもらうつもりだったのよ」

 -アニー『縄解いてやるわよ…ただし!エミリアにはちゃんと謝る事、そしてアタシのいう事にも従う事良いわね?』-




 アニー「あの時、悪戯っぽい顔で連れてくから何かと思ったけど、ピンクのエプロン着せる為だったとは恐れ入ったわ」

 アニー「エミリアが耳元で教えてくれた、厨房で話し合ったんだろ?ピンクのエプロンで良いって」



  エミリア「そうよねぇ、ごめんなさいねぇ〜ピンクのフリフリが用意できなくてぇ、それで我慢してね」ニッコリ
  エミリア(タダでやられっぱなしなんてごめんよ、…フン!ざまぁみなさい陰湿男)



           ブルー「」


           ブルー「」



           ブルー( こ の ク ソ ア マぁ ぁ ぁ  ぁ   ぁぁぁぁ ぁ! ! !!!)




…笑顔の素敵な女優さんの心の声が彼には確かに見えた、エプロン渡され放心状態の彼の怒りの叫びが彼女には聞こえた
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/20(水) 01:18:42.20 ID:omphqAj60
*******************************************************


                 今 回 は 此 処 ま で !


                   △インフォメーション!▲


  現在経過日数 旅立ちから三日経過



 〜 資質修得状況 〜

『陰陽】

・陽術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)
・陰術(従騎士との乱闘騒ぎで現在取得不可)


【秘印』

・秘術(ルージュ、試練開始 4枚の何も書かれていないタロットカードを貰う)
・印術(ブルー、試練開始 4個の何も刻まれていないルーン文字の小石を貰う)


『時空】

・時術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)
・空術(現状どちらも手がかりをつかんでいない)



<心術>
・心術([京]にあるらしいのでルージュが試練を受ける予定)


状況

ルージュ 資質0 試練進行度 0/4 (エミリアから金のカードの情報を貰った)

ブルー 資質0 試練進行度 2/4(既に2つ攻略済み、残りの在処もアニー、ルーファスから知る)




 『パーティーメンバー】

-ブルー組-

・ブルー

・アニー(通常仲間キャラ)

・リュート(主人公級キャラ)

・スライム(通常仲間キャラ)

・ルーファス(通常仲間キャラ)

・エミリア(主人公級キャラ)

・ライザ(通常仲間キャラ)

※ヌサカーン先生はクーンのパーティーに入りました

-ルージュ組-

・ルージュ

・アセルス(主人公級キャラ)

・白薔薇(通常仲間キャラ)

・レッド(主人公級キャラ)

・BJ&K(通常仲間キャラ)




▼…ブルーがエミリアからルージュの情報を聞き出してしまった…、まだ余裕がある事を知り暫く自己鍛錬ができると知る

*******************************************************
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 22:39:06.44 ID:GtSfa+fT0
更新来てたのか、乙
ルージュが本編で実現不可能なドリームパーティーじゃないか
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/21(木) 22:43:15.71 ID:UkF5UJuX0
全員のシナリオを同時進行するサガフロとか見てみたいと思ってた
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 11:48:21.39 ID:qWc/sLQpO
乙乙
続きがめちゃめちゃ気になる
434 :書き溜め少し投下 [saga!red_res]:2019/02/22(金) 17:38:45.23 ID:EOANnSFz0










ペラッ…カキカキ


         僕は[クーロン]で一夜を明かして[キグナス号]へ二度目の乗船をしている








朝一番の始発で『7時27分』に僕は仲間と共に暗黒街の惑星から飛び立った、日記が書けそうな今の内に書いておく


黒一色の死の大空を飛ぶ船の展望エリアから矢の様に流れていく星々の灯りに目を奪われていた





外界に来て僕は友達がたくさんできたかもしれない、アセルス、白薔薇さん、エミリアさんやヒューズさん

それにルーファスさん、この船に一緒に乗っててさっき出逢ったレッドとBJ&Kもだ

本当に色んな人と出逢えて…良かったと思う、僕はきっとこの旅を忘れない。


    もうじき、[京]に着陸するらしい…ペンを置いて、船を降りる準備をすることにしておくよ


435 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:40:32.77 ID:EOANnSFz0

【双子が旅立ってから4日目 午前9時14分】

 紅き術士は、その美しさに目を奪われた




  ルージュ「……すっげぇ…」



多種多様な惑星<リージョン>が存在する広大な宇域でも、この[京]というのは独特な文化を誇っていた
 旅行ガイドに簡単な紹介文は載っていたが実際に見るモノは違う、まず驚いたのは発着場だ
船を降りてターミナルの待合室に着いたが[マンハッタン]や[クーロン]、[マジックキングダム]とも全然違った


"お座敷"という見た事もないモノがある…


見れば他所の惑星から来た観光客がなんと靴を脱いでその上に上がり座り込むのだ!!


畳…タタミ、と呼ばれる床材でなんでも藺草<イグサ>という単子葉植物で作った独自の文化らしい

この惑星<リージョン>の人はその上で座ったり、寝っ転がって休んだりするそうな
 ちなみ、ルージュが眺めていた観光客たちは「オー、ジャパネーズ ブンカ デース!」と口にしていた
何言ってるのか意味はよく理解できなかったが"ブンカ"…文化と言ってる辺りカルチャーショックでも受けていたのだろう


 旅行鞄を持ったアセルスお嬢、白薔薇姫と合流し、術士は発着場を出て肌で感じ取った、空気が違う…

鼻孔を掠める紅葉と竹林の心穏やかにさせる香り、せせらぐ水と木造りの水車が回る音
 銀杏の実を蓄えた枝の先々には金色のイチョウの葉、今まで見た事も無い浴衣、着物……"和服"という民族衣装
靴だってそうだ、自分達が履いてるような動物の革や布のブーツではない

木の板に紐を通したような不思議な靴、アセルスが後に教えてくれたが草履や下駄という名前らしい


何もかもが新鮮、何もかもがルージュにとって見た事の無い未知だった



 彼は目を丸くして、キラキラと夜空の一番星のように輝かせた…齢22歳の好奇心旺盛な少年心を刺激するには十分過ぎた



  白薔薇「まぁ…!なんて綺麗な街並みなのでしょう!」


  ルージュ「! あ、あ、アセルス!!ねぇ!あれは!?アレは何!?あれって『寿司』って書いてあるよ!?」ソワソワ

  ルージュ「『天ぷら』とか薄らとだけど小耳に挟んだことあるよ!なんかその、食べ物なんでしょ!」ワクワク


  アセルス「もうっ!ルージュは落ち着いてってば、あぁ!!白薔薇勝手に景色を見に行かないで!迷子になるって!」



      「おーい!アセルス姉ちゃん!ルージュ!!」タッタッタ!!



  ルージュ「あっ、レッド!お仕事終わったんだね!」


  レッド「おう!遅れてすまねぇ…ユリアにお土産とか色々頼まれてよ…」

 アセルス「烈人君ごめんね、わざわざ忙しいのに時間見つけて私達の観光に付き合ってもらって」

  レッド「気に擦んなって!姉ちゃんにゃ昔っから世話になりっぱなしだからな!…所で、気になってたんだけど」


  レッド「白薔薇さんは一緒じゃないのかい?」ユビサシ



  ルージュ/アセルス「「…えっ」」クルッ


  アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁぁぁ!!!」

  ルージュ「う、うわぁぁぁぁちょっと目を離した隙に白薔薇さんが迷子になったぁぁぁぁ!?どうしよう!?」

436 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:41:19.12 ID:EOANnSFz0
―――
――


【[京]の庭園】



  白薔薇「 」ポツーン

  白薔薇「あら、あらあら?…どうしましょう…いつの間にかアセルス様たちとはぐれてしまいましたわ…」オロオロ



 [ファシナトゥール]とは全く違った芸術美に思わず蜜のかかった林檎に誘われる蟻の様に釣られてしまった
薔薇飾りを頭に乗せた何処かおっとりとした妖魔の貴婦人が途方に暮れだした、そんな時だった―――






   Tシャツに鉢巻姿の酔っ払い「…うぃーっく!…くぅぅ、やっぱ酒飲むならこういう日本庭園だよなぁ!」グビグビ

      記憶喪失のロボット「ゲン様、飲みすぎです、タイム隊長達に怒られます」


 "ゲン"、焼酎という酒が入った瓶を片手に豪快に笑う男の名前だ、顔を赤くしてバシバシと隣居るロボットの肩を叩く



   ゲン「わぁーってるって、そうケチケチすんなって!ガハハハハ!それによぉ
                こいつぁお前の記憶の手がかりが見つかった祝いみてーなモンだろ?」ハッハッハ!



   記憶喪失のロボット「はい、間もなく[シンロウ]で"仮面武闘会"が開催されます」

   記憶喪失のロボット「その間遺跡の探索は禁じられますから、[古代のシップ]でヒントを得たのは大きな収穫です」


   記憶喪失のロボット「HQの存在確認と私の任務が"RB3型"の破壊であること」

   記憶喪失のロボット「もっと詳細を知る為に一度レオナルド様にお会いしましょう」



   ゲン「の前に、あのでけぇコウモリにやられちまった、ナカジマと特殊工作車を治すことだろ」

   ゲン「遺跡の中で蝙蝠倒しまくってたらいきなり出てきやがって流石に俺もヤバいかと思ったぜ、たく」



   ゲン「ん?T-260G、何見てんだ?」



   T-260「…認識完了、メモリ内と100%合致、ゲン様、以前[マンハッタン]で見かけた女性です」


   ゲン「あん?」チラッ





   白薔薇「どうすれば…」オロオロ




   ゲン「ありゃ、本当だな…こりゃまた奇妙な縁だな……」


   ゲン「なんかあの姉ちゃん前見かけた時も困った顔してたな、どうすっかね…」う〜ん

   ゲン「…」


   ゲン「うっしゃ!決めた、これも何かの縁だろう、ちょっくらお節介焼きに行くぞ!」

   T-260「了解です」ウィーン

437 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:41:55.30 ID:EOANnSFz0

 この惑星の観光スポットとして名高い庭園でしなやかに揺れる柳の幕を潜り向けお節介を焼きに来た中年の男と
古臭いデザインのロボットは妖魔の貴婦人に声を掛けた


  ゲン「おーい、そこの姉ちゃんアンタなんかお困りかい?」テクテク


  白薔薇「あ、はい…知り合いとはぐれてしまいまして…失礼ですがどちら様で」


  ゲン「んあ?あぁ…わりぃわりぃ、俺ぁゲンってんだ、隣に居るのが」

  T-260「制式形式番号T260 認識ID7074−878「こいつぁT-260だ見ての通りロボで小難しい事を言う」


  白薔薇「ゲン様に…?てぃーにーろくまる…様?」


  ゲン「おう、この辺ぶらぶらしてたらなんか困り顔の女が居たもんだからついお節介焼きたくなっちまったんだ」

  ゲン「人間困った時はお互いさまっていうだろ」ガッハッハ!


 彼は人情溢れる人間という奴なのだろう、酒瓶を持ったまま豪快に笑い隣に居るロボットの肩をバシバシ叩く
そんな様子につい思わず白薔薇も釣られて笑ってしまう、見知らぬ土地で独りというのは不安がある

話し相手の一人や二人いるだけで、その不安の根は大きく取り払われるモノだ

 初めて来たリージョンに知り合いなどいる筈もなく、右も左も分からない白薔薇はご厚意に甘えることにした



  ゲン「だったら、シップ発着場の方に行きゃいいってことだろ?降りてすぐにこの庭園に来たっつーことは…」フム



  T-260「我々もここから南東の道を通って向かうべきです」

  T-260「白薔薇様の御知り合いが発着場から土産屋方面に向かったのなら、都度、通行人に確認を取り後を追います」


  ゲン「だな、向こうが姉ちゃん探してこっちに来てんなら途中でばったり鉢合わせだろうし」

  ゲン「逆に変に反対方向に行って行き違いになっちまうよりかはその方がいいな」


  白薔薇「ありがとうございます」ペコッ


…テクテク…スタスタ…ウィーン!


  T-260「時に白薔薇様は人間<ヒューマン>でなく妖魔でしょうか?検知された生体エネルギーが人間では無かったもので」

  ゲン「おい、ポンコツ!失礼だろがっ!…すまねぇ」

  白薔薇「ふふ…お気になさらずに、T-260様の仰る通り[ファシナトゥール]から来た妖魔にございます」クスクス1

  ゲン「[ファシナトゥール]…んー、俺ぁ妖魔についてあんまし詳しくねぇからそのリージョンはよく知らねぇや」


  白薔薇「T-260様とゲン様はどちらからお越しで?」



 道中、知り合ったばかりの3人…いや、2人と1機は退屈しのぎも兼ねた他愛もない世間話に花を咲かせていた
会話のキャッチボールが続く中でT-260が発した何気ない一言から何処からこの地へ観光に?という話題に移った…



    ゲン「…」ピタッ


   T-260「ゲン様」

    ゲン「いや、いいんだ……そうだな、だんまりも失礼だわな」ポリポリ


   白薔薇「…?」


    ゲン「俺は…[ワカツ]ってトコの生まれでな」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:42:20.80 ID:EOANnSFz0



  白薔薇「[ワカツ]…ですか?」



   ゲン「ああ、サムライの惑星<リージョン>、なんて他所の奴らはよく言ってたもんさ」

   ゲン「腕っぷしに自信のある奴が技を磨くために訪れたり、[剣のカード]目当てで来る修行者もいた」


   ゲン「俺も、故郷でそこそこ腕のある剣豪だったんだが、色々あって今は放浪の身って奴さ」



  白薔薇「"色々"ですか…」


   ゲン「ああ…"色々"な」



妖魔の貴婦人はつい最近になって時が止まった様な鎖国リージョンから出た、それゆえに世捨て人の如く世間に疎い

彼の言う"色々"というのは新聞やニュースを観ない者でもよく知っている事件なのだが
……あるいは妖魔だからこそ詳しくないと踏んで彼は話したのかもしれない


何か、話辛い失礼な事を聞いてしまったのではないか…、ゲンの横顔を見て白薔薇は少し居た堪れない気持ちになった
 この話題にはあまり深く踏み込むのは良くないと判断し話題を変える事にした


  白薔薇「あの、ゲン様は剣にお詳しいのですか?」


   ゲン「うん?剣かい?そらぁ、まぁな…」




  白薔薇「でしたら、女性でも扱いやすい強い剣をご存じありませんか?」




[クーロン]で自分達を助けてくれたアルカイザーは言っていた、此処には様々な人が集まる
 旅人も疲れを癒すために寄ることが多いのだから優れた剣、装備品に関する情報も聞けるだろうと


アセルスの[フィーンロッド]の代わりとなる武器、[幻魔]を扱えるようになるその日まで…!彼女の実力に見合った剣を!


  ゲン「…そうだな、女でも振りやすいか」


顎に手を当て、剣豪を目を細める、東洋剣を専門とする彼はふと思い当たる節を口にした



  ゲン「………女でも振りやすいかは兎も角だ、嘘か真か[シュライク]に名刀が眠ってるって話なら聞いたな」


  白薔薇「…![シュライク]に」


…シュライク、アセルスの故郷だ
12年間姿の変わらぬままで育ての親の元へ帰り、怖れられた…あまりいい思い出の無い土地


  ゲン「ああ、なんつったかな、昔の偉い奴を埋葬した古墳があって[草薙の剣]ってのが一緒にあるとか」

  ゲン「なんで強い剣を求めてるかは知らねーが墓荒しなんて碌な目に合わねぇからよ、あんまオススメはしないぜ」


  ゲン「店売りの剣になっちまうから金もかかるし威力もずば抜けて高い訳じゃねぇが[ゼロソード]くらいだな」


   白薔薇「いえ、それだけでも十分ですわ」ペコリッ


―――タッタッタ…!

 アセルス「し、白薔薇ぁぁぁぁ!!よかったぁやっとみつけたぁ…っ!」ゼェゼェ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:43:02.03 ID:EOANnSFz0
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午前10時20分】 [京]の旅館前


    特殊工作車「」HP0

    ナカジマ零式「」HP0




   レッド「この回路をこうして…んで[インスタントキット]を取り付けてっと」カチャカチャ

  ルージュ「あ、あれぇ〜?…れ、レッド!もしかして僕コード間違えちゃってる??」

   レッド「ん?…あー、そこはだな…」


    BJ&K「損傷がひどいですね、…所々に強い磁気を浴びたような形跡が」



  ゲン「わりぃな坊主たち、俺の仲間達を治すの手伝ってもらって」

  ゲン「最近の若い奴らは機械につえぇからなぁ、俺ぁそのインスタントなんちゃらは苦手だぜ…」ポリポリ


  ルージュ「いえいえ!白薔薇さんと僕達を探すの手伝ってくれたんです!このくらいお安い御用です」コード カラマリ


身体中にケーブルが絡まったルージュが胸を張っていい、それが可笑しいのかレッドが苦笑する


  レッド「ま、俺もBJ&Kの整備でメカ専用の回復道具の使い方は慣れてるしな!…しかし凄いなこのメカ」ジーッ

   ナカジマ零式「 」

  ゲン「そいつは[シュライク]で仲間になったんだ、中島製作所って所で縁があってなそこの社長から連れいけってな」

  レッド「へぇ!奇遇だなー、俺[シュライク]出身だからさ、故郷のメカって思うと尚更…」ジーッ


  ルージュ「れ、レッドぉ!たすけてぇ〜!」コード グルグルマキ ミイラ


  レッド「おまっ、何器用な絡まり方してんだよ!?」


―――
――



   ナカジマ零式「いやぁ〜、助かりました〜」

    特殊工作車「感謝いたします。」


    ゲン「おう、おめぇ等やっと目が醒めたか明日になったらレオナルドさんトコに行くからな!」


    T-260「私達は明日まではこのリージョンに滞在します、何か要件があればご相談ください」ウィーン


   アセルス「ありがとう!ゲンさん、T-260、私達は行ってくるからね!」


    ゲン「おう!お嬢ちゃん達も観光楽しんで来いよ!!」手ひらひら



[京]の情趣溢れた旅館で鉢巻をつけた一人の人間が、個性豊かな三機のメカが一行を送り出す
 旅の魅力は初めて行った土地での"出会い"にもある、その土地柄、独特な文化…行き交う人々の民族衣装、料理、方言
それに人柄だってそうだ、今回の旅で彼等の様な人情深い人達と出会い
ちょっとした世間話やお互い知らぬ土地の話題に花を咲かせる…それはきっとすばらしいことなのだろう

 勿論、出会う人全てが"いい人"とは限らないが、それも踏まえた上で他者とのふれあいが異国情緒を楽しむことに繋がる


旅人4人+1機が[京]の街を観光し始めたころ、陽はもうじき一番高い位置に上がろうとしていた

440 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:43:40.43 ID:EOANnSFz0


     ぐぅぅぅぅ〜〜…



  アセルス/レッド/白薔薇「「「えっ」」」クルッ





     ルージュ「ぁ…///」カァ///


 BJ&K「胃が強く収縮された時に生じる音を確認、空腹期収縮ですね、腹の虫が鳴くとも言われています」ピピッ



 ピタリと、歩みを止めて赤らめた顔をする紅き術士、と一歩先で振り返りそれを確認する面々、…冷静に分析するメカ
誰が一番に笑いを堪え切れなくなったのか、噴き出した声に一層照れくさそうにするルージュ


  アセルス「ふ、ふふ、し、白薔薇を探すのに夢中でまだご飯食べてなかったものね!」クスッ

   レッド「お、おう…くくっ、そうだな、もうじき昼メシ時だし…」ククッ


  ルージュ「わ、笑わないでくれよ!…しかたないじゃんか//」



  \ アハハハッ! /  \ ウフフッ! /    \ ヤ、ヤメテヨネ! /



  白薔薇「まぁまぁ、元はと言えば私の所為でもありますし…心術の試練より先にお昼に致しませんか?」

  ルージュ「そ、そうとも腹が減ってはなんとやらでしょ!ここはお昼が先だって!」



 豪華客船キグナス号は[京]で一泊二日の観光ツアー客を降ろし、翌日には[シンロウ]へ向かうスケジュールだった
この機を利用して乗務員も羽休めを許されている為、緊急に呼び出しでもない限りレッドも時間はある

旧知の仲であるアセルスお嬢、妙に意気投合できる気の置けない友人のルージュ、何か放っておけない白薔薇姫

三人に付き合って名所巡りや一緒に[心術]の資質を得る修行に挑戦するのも悪くないと思った


予定通りならば先に[心術]の修行場に行き"資質"修得に挑戦だったが…





   ルージュ「す、寿司ッ!…い、いよいよ僕はSUSHIとやらを食べるのか…」ドキドキ、ワクワク




    レッド「いや、あれは刺身だよ」
   アセルス「うん、寿司はそっちのお米の上にネタが乗ってる奴の事をいうんだよ」




まず、修行よりも腹の虫を鎮める方が大事である

 旅行者に優しい写真付きのメニュー看板を見て
『刺身』を『寿司』だと勘違いする異国人に指摘を入れる[シュライク]人二人、その後に続く妖魔の貴婦人


 BJ&K「…私は入口で店員さんにお願いしてバッテリー繋いで貰います」


物質を飲食できないメカは充電モードで待機してもらう事となった、メカだからね仕方ないね



   ルージュ「お、おぉ………!」キョロキョロ

    白薔薇「あらまぁ……」パチクリ

441 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:45:19.19 ID:EOANnSFz0

 [京]の建築物は木と紙、あとは土を焼いたモノ…屋根に使われている瓦だったり、基本的に自然と共存している印象を
紅き術士と妖魔の貴婦人は受け取った、木造建築の内装でよく見かける畳という床材に、"襖"という紙で出来た横扉だ

 どこの異世界<リージョン>でも料理人の正装は白一色と決まっているのか、"板前"と呼ばれるシェフは白い服に帽子という
姿で、手にした包丁で綺麗に魚を捌いていた



   レッド「二人共こっちの席に座ってくれ」


   ルージュ「ハッ! あ、うんっ!」トテトテ…

    白薔薇「ただいま其方に…」



"おてもと"とリージョン共通語で書かれた紙の入れ物に入った竹製の割り箸、陶器製のコップ――湯呑み、というらしい

 郷に入れば郷に従え、この惑星<リージョン>が発祥の諺らしい、生憎とルージュはこの地での作法を知らぬ
ふんわりとした長い銀髪を揺らしながら彼は目線をレッドとアセルスに向ける、どうやら座布団と呼ばれるクッションに
術の精神統一に行う座禅の体勢で座り込むようだ



  ルージュ(本当に僕の知らない世界だなぁ…っと、こうかな?)ちょこんっ



 白薔薇姫がアセルスお嬢に教えられ、別に正座でなくても掘り炬燵式なのだから楽な姿勢で良いと言葉通りに座る
そして、お品書きを手渡される



   レッド「今日は俺の奢りだ、なんでも頼んでくれよな!…あっ、でもめちゃくちゃ高いのはカンベンな」



 安月給の機関士見習いレッド少年が当店のおすすめ、という部分を開いて渡してくれたので術士はそれをジッと見た
どうやらお寿司、以外にも先の刺身や…天ぷら、どんぶり、という物が在るらしい

 和食は食べた事が無いから、何が美味しいのか分からない
向かいに座る少年曰く「なんでもうまいぜ!」との事だった……アバウトだなぁ、とルージュは内心で困ったように笑う

 値段もお手頃(?)で少し食べたい人向けの寿司を注文してからすぐに運ばれてきた木の板…下駄のような皿の上には
小さな長方形のライスボールの様な物があり、その上には魚肉を切って乗せたモノがあった



  ルージュ「この黒いソースにつけて食べるのかい?」

  アセルス「醤油だね、ちょこんとつけるといいわよ……っ、う〜ん!!久しぶりの和食だわぁぁ…」ホロリ



[ファシナトゥール]から[マンハッタン]…そして[クーロン]と旅してきた少女が久方ぶりの和テイストに感涙する
 隣に居る白薔薇も箸で一つまみ、お刺身を一口齧り「まぁ…!」と思わず頬肉を綻ばした




   ルージュ「いただきます、…ちょっと"ショーユ"つけて…もぐっ」パクッ






     ――――ポタッ

            ――――――ポタッ






      ルージュ「……」ポロポロ


      ルージュ「………感動したッ!」ポロポロ…(´;ω;`)ブワッ


泣きました。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:45:57.02 ID:EOANnSFz0


  レッド「なんだよお前大袈裟だなぁー」







  ルージュ「大袈裟なんかじゃないよ、お米についてるこの味、酢<ビネガー>かな…それにショーユのしょっぱさと」


  ルージュ「魚の甘み――魚って生で食べる機会無かった分かんなかったけど甘いんだね、あぁ、脱線しちゃったけど」


  ルージュ「それ等と別に何かピリッとしたモノがあって…っ!」




  ルージュ「そのスパイスが絶妙なハーモニーを生み出してるんだぁっっ!」ドンッ☆


<ハーモニーを生み出してるんだぁっっ!
<生み出してるんだぁ
<ウミダシテルンダァ



 ドン!っと漫画なら擬音でも出てそうな力説をかます紅き術士に「お、おう、そうか…」とレッドが気圧されかける
心なしか台詞にエコーでも掛かってそうなまである…まぁ気に入って貰えたなら何よりである



  アセルス「…というかルージュさ、何気にアレだったりするの?ほら…えっと、食通っていうの?」


湯呑みのグリーンティーを啜りながらアセルスお嬢が口を挟む、それにパチクリと目を瞬かせる


  アセルス「いや、酢飯を食べて酢<ビネガー>がどうとかさ初めて見る料理で何使ってるか一々分かる訳じゃないのに」

  アセルス「だから、思っただけ……味にもうるさそうだったし」



  ルージュ「んー、一応旅に出る前は僕が料理当番になること多かったからかな」


  レッド「うん?当番……あ、よくある家族で「今日は○○がお風呂洗い当番なー」みたいな?」



今日はお兄ちゃんが夕飯の夕飯のおつかい行く日ねー、あたしお料理当番だからー、みたいな感じかとレッドは尋ねる
 その答えはある意味近いと言えば近かったが…





    ルージュ「家族?……いや、"家族"、じゃないかな…僕、さ…物心ついた時から親居なくて国の施設に居たから」






  レッド「えっ」
 アセルス「えっ」


  白薔薇「施設、ですか…」



  ルージュ「そそ、[マジックキングダム]の魔法学院でずっと小さい頃から寮生活なんだよねー」

  ルージュ「みんな、僕が当番になると、やったー!ルージュの飯だーって喜んでくれてさ〜」ハハッ



……あっれれー?なんか重いハナシになっちゃったぞー、レッド少年とアセルスお嬢はお互いに顔を見合わせたが
当事者のルージュは笑い上戸か何かのように明るく話すので地雷踏んだワケじゃなかったかと一息である
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:46:28.15 ID:EOANnSFz0



  レッド「そうかぁ…しかし魔法学院の寮かぁ、なんか意外だったなぁ」



  ルージュ「意外ってなにが?あっ!僕が料理できるってこと!?ひっどいなぁ…」

  ルージュ「そりゃあ最初は魔法学院風味を利かせた精進料理もできなかったけど少しずつ腕をあげて」



  レッド「いや、そっちじゃなくて学院の寮ってとこのくだりだよ…なんつーか意外なモンだなぁって」

 アセルス「うん、…言われて見れば私も白薔薇も、ルージュが術の資質を得る修行の旅をしてることしか知らないわ」

  白薔薇「そうですわね、アセルス様が12年間眠り続けて、オルロワージュ様から現在逃げている事や
       レッドさんが犯罪組織の陰謀でご家族を亡くし"通りすがりの人"に病院に運ばれキグナスで働いている等」


  白薔薇「…私達お互いに深い所は知る関係になりましたが、考えてみればルージュさんの事は何も知りませんね」



アセルスと白薔薇は言わずもがな

レッドは……ヒーローの事は伏せるように、組織の幹部に殺されかけた時に"通りすがりの人"に病院に搬送され助かったと
 流石に『広大な宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た正義の味方アルカールに救われました』などと
馬鹿正直には言えない、言えば記憶を抹消されてしまう








 ルージュは、良くも悪くも世俗に囚われない…知らなすぎる節がある




単なる世間知らず、というには見る者全てに「なんかそういうんじゃねーなコイツ」と思わせる浮世離れした雰囲気がある


見る"モノ"全てが初めて


建物、人物、文化、土地の風習…それもだが、誰もが知ってる当たり前の常識でさえも何処か抜けてて

歳相応じゃない、22歳にしては純粋過ぎる、…人懐っこい犬みたいに誰にでもホイホイついていくその感性だ
 世の中は善人だけではない、"そういう人間"を利用して利潤を得ようとする者も残念ながら居るのだ



――――だが、[ルミナス]で旅人をぼんやりと道行く旅人を見つめていた時といい
                         見ず知らずの旅人でさえあっさり信じる危うさがある



[マジックキングダム]は名の通り、魔法大国として栄えたリージョンだ

 だから出身地を聞いた時、…ああ、裕福なお家で箱入り坊ちゃんとして育ったのか?ともその世間知らずな所で思ったが
それとも違うのだ






  ルージュは、隔離されて育った。



王国の闇、影の部分である問題のある子供を極秘裏に育てる"影の学院"で

いつか、来るべき日…兄弟同士で殺し合いをさせるという御国のプロジェクトの為

他所の惑星から見れば国のお偉いさんは倫理に反している!!と非難殺到間違いなし
 世論が国家を滅多滅多に叩きまくって惑星間を跨ぐネット上で炎上しまくるのが確実な魔法大国の"暗部"


その片割れを隠しながら育てる為に、だ……ルージュが何処か、現世の人間とは違った雰囲気なのもそれが原因である
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:47:02.18 ID:EOANnSFz0
―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後12時15分】



  レッド「…」トボトボ

  レッドのお財布『200クレジット』チャリン…




  レッド「…くっ!男児たるもの泣くもんかよっ」




  BJ&K「涙腺のゆるみを確認、感情の我慢は毒です」ピピッ

  レッド「うるせぇよ!」




 昼食を取り、[心術]の修行場へ赴くがてらに土産屋へ寄った、お祭りに使われる"提灯"という風変わりなランタンがあり
お菓子やお弁当の他に木刀や竹刀なんかも売ってたりする


  レッド「トホホ…ユリアが欲しがってたモンがこんな高いなんてなぁ、ん?」

  ルージュ「…」ジーッ



  インスタントカメラ『 』



  レッド「なんだルージュ、カメラが珍しいのかよ」トテトテ

  ルージュ「あっ、うん…ちょっとね」



 [京]と言えば、学生が修学旅行に遊びに来たいリージョンNo.1に選ばれる星だ、ちなみ次点はカジノの星[バカラ]
レッド少年も、アセルスお嬢も学校の行事で此処へは来た事があった

その時も、学生の旅の思い出にとよくカメラが売りに出されていたのは記憶に残っている



  ルージュ「これさ、いんすたんとかめら、っていうんだろ、上のボタンを押すと写真が出る」

   レッド「ああ、…良けりゃ買ってやろうか?安売りしてるみたいだし」


  ルージュ「えっ!いいの…!」パァァ…!



 気になる職場仲間の女の子への土産は買ったんだ、ならたかが時代遅れになりつつある消耗品のカメラの一つ二つ…
そんな気持ちで安売りされていたカメラを友人に気前よくくれてやった



  ルージュ「レッド!ありがとうっ!…これがカメラで、こっちの筒に入ってるのが替えフィルムかぁ…へへっ」トテトテ



   レッド「やれやれ、アイツ俺より本当に3歳年上なんだか」ハハッ

  アセルス「あっ、烈人君…ガールフレンドへの贈り物は決まったんだね」ヌッ


   レッド「おわっ!?ね、姉ちゃん!?」ビクッ



本来なら12歳年上の17歳女子高生が19歳男子の後ろからヌッと現れた、アセルス姉さんじゅうななさい

445 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:47:37.17 ID:EOANnSFz0


  レッド「あぁ…姉ちゃんは、その紙袋の中身は?」

  アセルス「ふふっ、あれだよ」スッ



 緑髪の少女が指差す方角は衣服が売りに出されている一角だった
浴衣や着物もそうだが宇宙開拓<フロンティア>が進むにつれ客層もグローバル化が進みつつある…何処の惑星でも通用する
カジュアル服も当然ながらある、物価の高い[マンハッタン]、そこよりかは安く済む[クーロン]よりもなるべくなら
資金を消耗せずに済ませたい、…次の目的地が[京]と決まった時に買うならこっちの方がよいと判断したのだ



  アセルス「ずーっとこの貴族服だからね…」クルッ


  レッド「あ、そっか…姉ちゃん追われてるんだよな…」


  アセルス「うん…服を作ってくれたジーナ…あ、友達のいい子なんだ、そこの子には悪いけどこの服は鞄に仕舞って」

  アセルス「こっちの、人間だった頃によく着てた奴を着ようかと」ゴソゴソ




 アセルス編OP時の歩行グラフィック水色パーカー『 』ピラッ




  レッド「うわっ、懐かしい…」

  アセルス「あはは…私からしたら懐かしい、って感覚じゃないんだけどね…」ポリポリ



レッドから見れば12年ぶりの服装、最近目覚めたアセルスからすれば実に数日前の服装である
 追われる身であるのならばせめて中世ファンタジーの王子様ファッションから目立たない恰好にしておきたい

 …尤も妖魔は特有のオーラで何処にいるか大体わかるから多種多様な人種入り乱れるリージョンで人混み
特に妖魔系のグループが大勢いる辺りに紛れてる時ぐらいしか役に立たないかもしれないが


ちなみ彼女曰くジーナから貰った大事な服は間違っても捨てたりしない、らしい




  白薔薇「まぁ…色鮮やかで綺麗ですわ、…こ、こんぺーとー?」

  ルージュ「へぇ、これお菓子なのかぁ」ヒョイッ



金平糖<コンペイトウ>、白、赤、緑、黄…透明な瓶の中にはお星さまが沢山入っている
 土産屋のカウンターから老婆が顔を出し、茶菓子に如何か?と尋ねて来る
紅き術士と妖魔の出で立ちから、他所から来た人ならお一つご試食を、とご丁寧に広げた和紙の上に乗った星をくれたのだ



  ルージュ「…おぉ!あまーい!」パァァ…!

   白薔薇「ええ、口の中で少しづつ溶けていく…飴細工のようですわ」

  ルージュ「おばあちゃん、ひとつ貰うよ!」つ【お財布】


  「おんや、まぁ…そんなに気に入ってくれたかえ?」



  白薔薇「あら?こちらにもありますね…?いえ、これは―――」



  「ああ、それは[京]で精製した[精霊石]じゃよ」


  ルージュ「[精霊石]?…へぇ、[マジックキングダム]以外でも売ってるんだ」

446 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 17:48:10.63 ID:EOANnSFz0

 土産屋の老婆が言うに、[京]の風水師や陰陽師が清めた魔道具や消耗品が特産品の1つでこの石もそうだという
投げれば、砕け散った破片が敵意を向けて来る者に刺さり自身を守ってくれると



  「ほっほっほ、それだけじゃないぞ、この[ラッキーコイン]や[アンラッキーコイン]やお守り各種も…」


  ルージュ「んー、ならコインを幾つかと[精霊石]を貰おうかな」



綺麗だし、旅の思い出ってことで良いかなと、故郷でも手に入る石をコインと一緒に購入した…



――――後に、この[精霊石]がブルーと出逢った時に役立つのだがそれはまだ先のお話




―――
――



  レッド「つーわけで、人間3人此処で修行したいんだ」

 アセルス「よろしくお願いしますっ!」

 ルージュ「頑張ります!」


  「うむ、では奥の部屋で座禅を組み、精神を集中させなされ…試練に挑戦できるのは一度のみじゃ」


 白薔薇「皆さん、頑張ってくださいね!」←見学

  BJ&K「応援してます」←見学



受付で[心術]の資質を得るべく、手続きを済ます…手続きと言っても特に変わったことをするでもなく
 ただ、受けたいからやらせてくれと言うだけである


 蝋燭の頼りない灯り、お香の独特な匂い…奥の広間で来客のルージュ等三人を出迎えたのは仏像という
変わった様式の彫像だった…物珍しいソレを眺める術士、「懐かしいなぁ学校行事で来た時はお試しコースだった」と
少女が言い、「こいつと睨めっこすればいいのか」と少年が頷く


赤の名を持つ少年が仏像の前に正座して目を閉じる、その隣に紫の血を持つ少女が、そんな二人に倣って紅き術士も




      ルージュ(二人と同じように眼を閉じてればいいのか…)パチッ

      ルージュ(……)

      ルージュ(…う、ん?)グニャァァ



―――
  ―――
      ―――
        ――…



      ルージュ「あれ?なんで草原みたいな所に…」

          「きぃぃぃぃーーーっ」     


      ルージュ「モンスター![ハーピー]か…ッ」シュタッ!



        「けけけっ! 血肉を寄越せェェ!!」グォンッ!

447 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/22(金) 18:04:45.07 ID:EOANnSFz0

 視界に広がるグリーンの絨毯に影がある、背中に生えた翼をはためかせた半鳥半人の化け物が陽光を遮って作った物だ

小さな豆粒ほどであったそれはルージュ目掛けて高度を落とすに連れて、…地表へ近づくことを示すように大きくなる
 両脚の鋭い爪が銀髪の垂れ下がる両腕の付け根を刺し、そのまま千切り取ってやろうと降りて来るも
彼は自分と地表の影が重なるタイミングを見計らい、それを[見切る]…っ!


頭上に豆電球でも灯った様な感覚だ、どうすれば避けられるか身体が自然と閃いたままに動く



    「ケェー!!、ちょこまかと…!」ガッ!


農夫が柔らかい土塊に渾身の力で鍬を振るったかのように[ハーピー]の両脚は突き刺さる、すぐに足を引き抜いて
 地の利を生かそうとホームグラウンドの蒼穹へ飛び立とうとするが…



    ルージュ「先に仕掛けて来たのはキミなんだ、…恨んでくれるなよっ!」カチャッ!BANG!


        「ゲゥ、…この餓鬼ぃぃ!よくも俺様の顔を…ケェエエエエエエエエェケッ」グォンッ


    ルージュ「エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!」ダァンッ!ダァンッ!



    「へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ」ゴォォォ…

    ルージュ「それはもう見切った――「甘ぇぇよ!!」ガッ! ボッコンッ



  同じ動作で再び紅き術士に爪を突き立てようとしたのか、否、人間の皮膚を切り裂くのが目的ではない
次はそのまま、土を掻っ攫うように地面に突き立てたまま前進し、地中の硬い大岩を踵爪に引っ掛ける
 土木建築のクレーン重機が持ち上げてみせるのと違わない動きを器用に熟して人の頭部を二周り以上大きくした岩を
ぐるぐると回転して遠心力付きでルージュに投げつける



    ルージュ「あく"ぅ―――っ」ガッ


     「いひゃひゃ!ヤッター、メイチュー、ストライクー、くひゃひゃ!」


 片脚に命中した大岩、衣服に広がる鮮血、尻餅をつき、片手で負傷した脚を引き摺ろうとするルージュを見て
モンスターは舌なめずりをする、狩りは鮮度の高い肉を喰えるから良いのだ


薄い桜色の脂、それを多く赤黒い体液、鉄の味がするワインに酔い、勝利の末に得た極上の肉を舌の上で溶かす


動きの鈍った獲物目掛けて[ハーピー]は今度こそトドメを刺そうと次は両脚をルージュの胸――心臓に狙いをつけて





        「心臓もーらいィ!それで俺様の顔の傷は許してヤルよ!あーひゃひゃひゃひゃ」


       ルージュ「…っ、[インプロージョン]!」キュィィン







            ボジュッ

                        ボトッ ベチャッ…ゴロゴロ…    バサッ…




笑った顔のまま、モンスターの"生首だけ"墜ちて転がった。

釣り上がった目元も舌を出して品性の欠片も無く哂った顔のまま、少し遅れて背中に生えていた筈の翼もバサっと墜ちた

448 :今回はここまで [saga]:2019/02/22(金) 18:05:54.79 ID:EOANnSFz0

―――
  ―――
      ―――
        ――…


     「おい、ルージュ。 起きろよ!ルージュ…!!」ユサユサ



  ルージュ「うっ、…あれ、…ここ、さっきの」




    レッド「お、やっと起きたな寝坊助め…どうだ?夢に出て来た魔物倒せたか?」

   アセルス「どういう理屈か知らないけど、自分の中の不安とかが形になって出る来るから倒せたら成功だって」


  ルージュ「え、そうなの…それならなんとか…」


  ルージュ「…」



   -ルージュ『エミリアさんみたく上手くはいかない!1発じゃ仕留めきれないかっ!』ダァンッ!ダァンッ!-

    -『へひゃひゃ!へたくそぉ!そんな豆鉄砲の腕じゃあ鳩だって堕とせねぇーぜ、ケヒッ』ゴォォォ…-


  ルージュ「…。」

  ルージュ「自分の不安、か」




  ルージュ(結局最後は僕、術で倒したんだ…術が使えなくなった時、足手まといになる、僕が仲間の脚を引き摺る…)



目を片脚に向ければ大岩をぶつけられた痕も、衣服の血汚れもそこには無かった



   レッド「俺は、なんか変な腕が出て来たな…いきなり[空気投げ]喰らってな、そのあと巻き返したけど」

  アセルス「私は蝙蝠が襲ってきたわ……昨日苦しめられた[スクリーム]を使ってくる敵よ」グッ!



それぞれ魔法生物系モンスターの[ダガーグラブ]と巨大蝙蝠の[ソニックバット]が襲って来たらしい
 結論から言うと友人達もルージュ同様に撃退に成功し試練に打ち勝ったと

―――
――


   「うむ、合格じゃ…これでそなたらは[心術の資質]を得た」


  レッド「…なぁ、資質って言われて姉ちゃんはなんか実感あるか?」ヒソヒソ

 アセルス「えぇぇ!?…いや、言われて見れば心がスッキリしてるような、ないような…」ボソボソ



  ルージュ「いや…あるよ、ハッキリわかる」




  ルージュ「あの大仏の部屋を出た辺りから何か、目覚めそうな気がするんだ…今まで分からなかった事が分かる」


  レッド「ほ、本当か?俺は…あんましそういうのピンと来ねぇぞ?」ヒソヒソ

  ルージュ「…ううん、戦いの最中で、自分の生命を賭す局面で[心術]を使えば、明光のように突然パーって…」


えらく抽象的で感覚的な事を言われるな、とレッドは思う、だが…不思議と"妙な説得力がある"のだ…否定できない
 自身の心が何処かでソレを"納得"しているのだ…っ!…これが資質を得ている、ということなのだろうか
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:26:54.59 ID:/iBvLIu90


  レッド「ま、俺は術の事はてんで素人だからな、術士のお前が言うならきっとそういうことなんだろうよ」

  レッド「そうと決まりゃ何か一つ基礎術のスクロール…で良いんだよな?」


  ルージュ「そうだね、お金で魔術書…スクロールを買って基礎術を教えて貰う、後は自分でモノにしてく感じだよ」

  アセルス「…だったらさ、全部買う必要ないんじゃない?頻繁に使いそうなの一つ買ってあとは節約するとか」


  レッド「おっ!いいなソレ!おーい受付の人、早速売ってる術見せてくれよー」




 「はい。」デンッ

・[克己] 料金300クレジット

・[呪縛] 料金300クレジット

・[隠行] 料金300クレジット





  レッド「 」


レッドのお財布『170クレジット』




  アセルス「へぇ〜!色んな術があるのね【麻痺】効果の[呪縛]に、自身の怪我を完全治癒する[克己]…良いわね!」

  アセルス「烈人君はどれにする?やっぱり[克己]?」


  レッド「エッ、アァ、ソレガイイヨナ、ジツヨウテキ ダヨナ。」



目が点だ。


試練に打ち勝ち、資質を得た…試練には勝てたが現実には勝てなかった、世の中は金という天下が回っているのだ



ここでアセルスに泣きついて、姉ちゃん!必ず返すから金貸してくれぇぇ!と泣きつくのは容易い
 男としての矜持をかなぐり捨てるだけで借用書が一枚できあがりだ


…おそらくアセルスならレッド、否、烈人君でなかったとしても利子無しで貸してくれるのだろう
女から小銭を借りる男、ヒーローの男児のプライドに罅が入りそうでそれは嫌だ




 ツンツン


  レッド「ぁ?」チラッ

  ルージュ「…」腕ツンツン


  ルージュ「レッド、これ…僕から」つ『300クレジット』

  レッド「!? お、お、お前ぇ…」プルプル



ひそひそ声で300クレジットこっそり渡してくれる友人に目頭が熱くなる、「カメラのお礼だよ」と人差し指を口に当てて
これ内緒ね?と…声には出さないが仕草で伝える、男の誇りを理解する者同士、言葉はなくとも分かり合ったのであった

持つべきモノは友だなぁ…

450 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:27:21.19 ID:/iBvLIu90

―――
――


【双子が旅立ってから4日目 午後14時32分】



このリージョンでの目的は最早果たしたも同然であった、…いやアセルスの武器はまだだが


 あの[森の従騎士]の様な一人で複数人を一斉に攻撃する範囲、又は全体攻撃の手段を所有する敵と対峙し
且つ回復が間に合わない状況下に陥ったとしても最低限、自身の傷は完治できる

それだけでも十分全滅の憂いを避けることができる…そして、ルージュにとって初の"資質"の入手だ…



       ちゃぷん…


                 カポーン!



  ルージュ(…資質、か)




国の命令を聞かなければ国家反逆罪で祖国の魔術兵が群れを成してルージュを追い回す
 それこそ大昔に何処ぞの惑星で実地された悪しき風習の魔女狩りを彷彿させる恐ろしさだ
最悪、紅き術士の身柄を拘束して洗脳や麻薬による狂戦士化状態でブルーと邂逅すらあり得る…馬鹿馬鹿しいと思う話だが
本当にその莫迦げた真似を実行するヤバさがあるからルージュにはどうしようも出来ない


自意識の無い幼子の頃から子供をどっちか死ぬまでの対決させるだけの為に施設に入れて国ぐるみで養育する狂気

しかも、ルージュの他に"裏の学院"には彼以外の子供の沢山いた、つまりそれだけ【そういうこと専用の候補生】が居た


出来ればそんな運命はまっぴら御免で、逃げられるなら何処へなりとも逃亡したい…

何処でどんな方法で監視か何かされてるのかさえ知らないが、体裁だけでも資質を集めている風に見せる必要がある




資質が手に入ったのは…純粋に今居る仲間の力になってあげれるから嬉しいがその反面で

自分の自由が終わる、兄弟同志で殺し合う為の舞台が整いつつある、そんな嬉しいとは真逆の相反する感情も孕んでいる




  ルージュ(…)ちゃぷっ!ちゃぷっ!


  ルージュ(…。旅してる内に解決策、何か考えないとイケナイ、わかってるけど何も思いつかないよ…)





        ザバァァァ!!




  ルージュ「うわっぷ!?」ばしゃぁぁあ!


  レッド「あっはっは!吃驚したか!」ハッハッハ!


  ルージュ「むぅ…!やったなレッド!」バシャァァ

   レッド「おっ!やるかぁ!」



……ちなみに彼等は今、[京]の日帰り温泉の露天風呂に居る、思いの外、手早く目的を果たせた、とお遊びモードだった

451 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/23(土) 21:28:08.20 ID:/iBvLIu90

 頭に乗っけた白いタオルがお湯を吸いずっしりと重くなる、おでんのはんぺんみたいになった布は銀髪の上で
しんどそうにだらけてて、お返しとばかりにお湯を掛けたサボテンヘアーの上のタオルも似たような状態になった

お風呂にタオルを入れてはいけない、と幸い他に客はいなく迷惑にはならないがマナーだからしないようにと言われた



…騒いだりお湯を飛ばすのは良いのかと問われれば首を傾げる所だがそこは触れないでおこう



  レッド「いやぁ、タダで入れる風呂っていいよなぁ…やっぱ[京]はいいなぁ」フゥ

  ルージュ「お湯の出が良いからなんだっけ?」


  レッド「そーそー、もっと広々として色んな効能ある湯に浸かりたきゃ値の張る宿だけどよぉ」

  レッド「俺もアセルス姉ちゃんもさ、学生やってた頃は学校行事でみんな一度は来るのさ」


  レッド「なんつったって[京]だからな!温泉入って仏像拝んで、んで帰りに土産屋で木刀とか買ってくんだよ」




  ルージュ「……。」



  ルージュ「機会があれば聞こうと思ったんだけど、度々聞く"シューガクリョコウ"っていうのがソレ、だよね?」


  レッド「ん?まぁ…そうなるな、ってかお前その言い方」

  ルージュ「そっか、これがシューガクリョコウなのか」


  レッド「お、おいおい…お前嘘だろ、修学旅行したことないのかよ」


  ルージュ「本で読んだことはあるよ、学生が自分達のリージョンから他所のリージョンへ遊びに行くんだろ?」

  ルージュ「僕は、一度だけ術の座学で[ルミナス]と[ドゥヴァン]に先生の術で数分くらい連れられたくらいかな」



人生で他所の国に遊びに行ったことがない

どころか魔法王国の学院生徒であった彼は修学旅行なんてもの一度も経験してない


基本的に[マジックキングダム]の民は他所への外遊を許可されていないのだから…





  ルージュ「…?レッド、震えてるけど、どうかしたの」


  レッド「〜〜〜っ!」ガシッ!

  ルージュ「えっ?えっ?えっ?」



  レッド「 よ く わ か っ た !  ! !! 俺に任せろ!!」


  ルージュ「ま、任せるってなにを?」


  レッド「ばっかやろう!お前22歳になって修学旅行の1つも行ったこと無いとか人生損じゃねーか!」

  レッド「ダチとワイワイ騒いで、遊んでって青春の一頁だぞ!無いなんて悲しいだろ!俺に任せろ!」




何かわからんが心に火が灯ったらしいレッド少年の気迫に負け、とりあえず術士は頷いた…

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