淫魔の国と、こどもの日

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412 : ◆1UOAiS.xYWtC [saga]:2018/06/30(土) 02:37:57.27 ID:Au+5k+YW0

*****

その日は、いつものように執務室に籠もり、窓辺のカーテンを揺らす風に暖かさを感じながら過ごした。
もう積み重ねた本を机がわりにする必要もなく、椅子と机の高さに苦戦する事も無い。
夕食の時にはかねてより望んでいた美酒が出され、その芳醇な飲み口にひとときの夢心地を覚えた。
野菜を噛んでも苦味が走る事もない。
数週間が夢であったかのように、あっさりと――――“いつも通り”だ。

そんな、懐かしい“いつも通り”の一日を終え、寝室片隅の椅子に掛けてあったマントを見ながら、
ようやくひと心地ついた時――――扉が叩かれる。

勇者「?……どうぞ」

堕女神「……夜分遅く、申し訳ございません」

勇者「いや、別に……いつもの事だろ。どうした?」

堕女神「その……先ほど、私も……あの仔豚の肉を食して参りました。明日には、元の身体に戻るでしょう」

勇者「そうか。……少し、残念な気もするけどさ」

堕女神「陛下。その……ですね」

純白の薄く透けるネグリジェに身を包み、少女の姿の堕女神は見上げる。
その赤黒の竜にも似た瞳を揺らし、おずおずとした可愛らしさを身へ委ね、望みの薄い“おねだり”をする時のような頼りなさとともに。

堕女神「……抱、抱い、て……いただけ、ないでしょうか……?」
413 : ◆1UOAiS.xYWtC [saga]:2018/06/30(土) 02:38:46.29 ID:Au+5k+YW0

言葉によって起きたのは――――いつものままの、幾度もの夜の走馬燈。
この国で交わした夜の記憶達だ。
当然――――

勇者「……その。気持ちは、嬉しいんだけど……大丈夫、なの、か……?」

堕女神「?……い、いえ!違、違います!陛下、そうじゃ、なく、って……!」

慌てて取り繕う堕女神の様子に、勇者は感じ取り――――言葉を待つ。
彼女の今の体格は、隣女王よりも少し小さい。
無理をすれば、と心配したものの、彼女にはまだ先の言葉がありそうに思えたからだ。

堕女神「私、その……考えてみたのです。幼子の姿に戻った陛下と、共に眠った……あの日が、発端でした」

勇者「……あの日?」

勇者が子供の姿になってしまった夜の事。
堕女神の胸に抱かれ、脚を絡ませ合い、彼女の鼓動を子守唄としながら眠った夜のこと。

堕女神「私、には……された事が、無かったのです。なので、もしかすると……
     ふとしたそれをあの“仔豚”は感じ取ってしまったのかもしれない、……と」

胸の前で手を組み、堕女神は震えながら、勇気を唇へ込め、絞り出す。
今だからこそ、今だけ許される、“甘え”を。



堕女神「――――抱……抱っ、こ……抱っこ……して、ください…………」
414 : ◆1UOAiS.xYWtC [saga]:2018/06/30(土) 02:39:25.46 ID:Au+5k+YW0

*****

一本だけ残した蝋燭の火が揺れる室内で、ひとりの少女の夢が叶う。
窓辺に立つ勇者にその身を託すように、正面から――――木登りでもするように、小さな尻を支えられながら。
抱えきれないほどに今は広い背中をぎゅっと抱きしめ、数週前の“禁断のひととき”のように、ぴったりと体を寄せ合い、
細い脚は勇者の腰を挟み、絶対に離れることのないように。
胸元へ顔を寄せて息を吸えば、その匂いが胸の中に満ちてぬくもりへ変わる。
見上げればそこには、この数週間会えなかった、優しく強い“彼”の精悍な顔が笑いかける。

堕女神「……もっと……甘えても、構いません……か……?」

それが、再び嬉しさとして満ちて――――更に深く求めるように、その胸元へ顔を埋める。

“抱かれた”事ならあった。
“抱いた”事もあった。
だが、こうして子として“包み込まれた”事は、なかった。

精一杯に腕を回しても抱えきれない“大好きな人”に身を預ける、子どもだけが持てる至福の時は。


こうして、静かに過ぎていった。








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