【忍殺】ザ・グレート・トレイン・ラブリー他【オリキャラ】

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56 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:29:58.47 ID:a3bO0AX/0

『ザザザ……キャバーン!カミ=サンにプラス3000点!ワースゴーイ!……ザザザ』


 労働者宿舎の食堂は静かであった。
外の吹雪の唸りとノイズまみれのTVが吐き出す音のほかは、談笑する者もなく、食器がカチャカチャと触れる音、食べ物を咀嚼する音だけが響く。


タモツ「……」


 タモツも無言のまま夕食を済ませ、多くの労働者たちと同じようにぼんやりとTVを眺めた。
他の者たちは吹雪の荒れ狂う窓の外を無感動に眺めているか、机に突っ伏している。
はじめはストレスを爆発させて乱闘する労働者もいたが、そのたび同じ顔をしたヤクザたちに棒で叩かれて懲りた……
否、それ以上にモノクロームの中での強制労働が彼らの心を摩耗させていたのだと、タモツは考えていた。


タモツ「……」スック


 席を立ち、食堂を出る。
廊下をトラッシュルームのほうへ進み、あたりを見回してヤクザたちの目が無いことを確認。
横合いの扉のドアノブを掴み……鍵がかかっているが解錠する必要はない……持ち上げるようにして、押し開ける。
赤い非常灯だけが照らす、薄暗い空間がタモツを出迎えた。

 そこはまさにイール・ベッド……タタミを縦に5枚ほど並べたような、細長く狭い部屋だ。
一面の長辺には壁いっぱいに室外機が積み上げられて、ゴウゴウと唸りを上げている。
向かいの長辺の壁ではいくつも防雪換気扇が回っている。
一面の短辺には通用口と思しき扉があったが、一日中日陰となる場所に通じているらしく、堅く凍結していてビクともしなかった。


タモツ「フーッ……」

 タモツはどっかりと座り込み、閉じたドアに背をもたれさせる。
ここは数ヶ月前に偶然発見した彼の隠れ家だ。
労働者はもちろん、ヤクザたちが足を踏み入れているのも一度も見たことがない。
かつてはここに隠れるだけで彼らに反抗してみせたかのような快感を味わったが、そのうちそんな情動も白と黒の風景の中に霞んで消えた。
食後の彼がここに向かうのは孤独がもたらすリラックスのためであり、感情が削り落とされて最後に残ったルーティンだ。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:30:51.44 ID:a3bO0AX/0

タモツ(……俺は一体、何をやっているんだ?)


 天井の非常灯がジジジと音を立てたとき、タモツの心にふと他人事じみた疑念が湧いた。


タモツ(せっかくネオフクオカ大学を出たのに、なんでこんな山奥でヤクザにこき使われているんだ)


 思い出すことはできる。
タモツはネオフクオカのカチグミ家庭に生まれ、高倍率の入試を突破して晴れてネオフクオカ大学生となった。
巧みにムラハチを回避して他のカチグミ学生と欺瞞めいたユウジョウを交わし、学業も順調、キューシュー有数のメガコーポであるクラシマ・クラフトワークス社の内定を手に入れた。


タモツ(思えば、あそこがエンド・オブ・フォーチュンだったのかもしれん)


 内定祝いに訪れたバーがボッタクリで、カチグミとはいえ学生にはとても払えるはずがない額の請求を受けた。
タモツは焦燥の末に隙を見て逃走を図る。
普通ならヤクザ店員にすぐに追いつかれて取り押さえられ、親が身代金めいて請求金を振り込むことで解放されただろう。
ところがタモツは逃げ切ってしまったのだ。
メンツを潰されたヤクザ店員たちは怒り狂い、店に残された荷物を手がかりにしてミレノ家に殺到する。
タモツは囲んで棒で叩かれた挙句連れ去られ、気づけばこのジゴクめいた鉱山で採掘作業を強いられていた。


タモツ(理解できない)


 思い出すことはできる……しかし過去の心情を理解することはできなかった。
大学合格や内定獲得の歓喜、バーから逃走した時の恐怖さえ、どんなものだったかわからない。
タモツの人間的な情動は、ツクシの吹雪に晒されて凍りついてしまったかのようだった……ドンッ。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:31:29.29 ID:a3bO0AX/0

タモツ「?」


 何かがぶつかるような低い音が響いた。
通用口の扉のほうからだ。


タモツ(吹雪に巻かれた石でも転がってきたかな)


 タモツは無視して思索に戻った。
歓喜と、恐怖と……あとは、怒りか。
怒りとは、果たしてなんだったか……ドンッ。

 また通用口から音がした。
タモツは半ば反射的に、今夜倒れた労働者の姿を思い浮かべた。


タモツ(まさか、谷から這い上がってきたのか……しかし助けには行けないな。その扉は凍りついていて開かないし、外に回り込もうにもヤクザが出してくれないだろう。ナムアミダブツ)


 タモツは冷酷に見捨てて、三度思索に耽ろうと……


「イヤーッ!」


 CRAASH!
凍結したドアが強引に押し開けられ、轟々と吹き込む吹雪とともに赤黒のニンジャが姿を現した!
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:32:25.41 ID:a3bO0AX/0

タモツ「ア……アイエエエッ!?」ドタッ


 タモツは急性NRSを起こし、ひっくり返って絶叫!
ズボンが濡れる!


タモツ「ニ、ニ、ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」ジョワワー

「ハアーッ、ハアーッ……」バタンッ


 ニンジャは扉を閉め、荒い息をしながらタモツに向き直りアイサツした。
肩から雪と氷がバサバサと落ちた。


「……ドーモ、はじめまして……ミラ・ツヅリです……!」ペコリ

タモツ「!?ド、ドーモ、ミラ=サン……ミレノ・タモツです」ペコリ


 タモツは反射的にアイサツを返す。
日本人として慣れ親しんだその所作が彼に少しだけ冷静さを取り戻させた。
ミラは血走った眼でタモツを見据える。


ミラ「ハアーッ……ここはどこ……あなたは何者、ミレノ=サン……!」

タモツ「こ、ここは……ここはツクシの鉱山の、労働者の宿舎だ。俺はここで働かされてるんだ、無理矢理」

ミラ「そう……私、は……」グラリ ドサッ


 赤黒のニンジャの体がグラリと揺らいで、横に崩れ落ちた……意識を失ったらしい。
タモツは倒れるニンジャをおっかなびっくり見下ろした。
小柄な体……赤黒い装束に滲み、凍りついた血……吹雪に荒らされたポニーテール。


タモツ(あれっ……このニンジャ、女の子なのか?)
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:32:56.40 ID:a3bO0AX/0

 翌日。
日はとうに昇っている時間だが、日差しは分厚い雲に遮られ、明け方以上には明るくならない。
それがツクシの朝だ。


スノーウィンド「ドーモ、はじめまして。スノーウィンドです」ペコリ

グレイシア「ドーモ、はじめましてスノーウィンド=サン。グレイシアです」ペコリ

アイシクルランス「アイシクルランスです」ペコリ

サターン「サターンです」ペコリ


 管理棟執務室で四人のコリ・ニンジャがアイサツを交わす。
グレイシアらは早朝にスノーモービルでエメツ鉱山に乗りつけた、傭兵団本部直属の精鋭ニンジャたちだ。


スノーウィンド「早速ですが、『ニンジャ殺し』がこの近辺に潜伏しているというのは一体どういうブロウイング・ウィンドで……?」


 僻地勤めの彼でも「ニンジャ殺し」の噂は知っている。
カタナハント・ニンジャを圧倒的なカラテで殺して回るネオフクオカの死神、と……


グレイシア「……我々は奴が何らかの目的でこのエメツ鉱山への侵入を図っているという情報を掴み、山道で待ち伏せた」


 リーダーらしい大柄なグレイシアが苦々しげな表情で語る。


グレイシア「雪山というフーリンカザン、三人がかりでの待ち伏せアンブッシュ……完璧な作戦のはずだった。事実、奴はかなりの深手を負った。しかしカイシャクはできぬまま、取り逃がしてしまったのだ」

サターン「タイミング悪く吹雪になったもんで、奴の足跡も吹き散らされちまってね」
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/08(木) 22:33:36.69 ID:a3bO0AX/0

 グレイシアは言い訳めいて口を挟んだサターンを一睨みしてから続ける。


グレイシア「……かろうじて捉えたニンジャソウル痕跡はこの鉱山に続いていた。もし侵入されていたら一大事だ、とにかく施設内を総当たりで捜索してみてくれ。我々もここに留まって警戒する」

スノーウィンド「はあ、あなた方もですか」

グレイシア「ん?我々の他にも滞在しているニンジャがいるのか?」

スノーウィンド「はい、カタナハントのシューゲイザー=サンが」

グレイシア「カタナハント?……ははあ、奴の目的が読めたぞ」


 グレイシアはメンポの裏で合点がいった顔をして頷く。


グレイシア「『ニンジャ殺し』はそのシューゲイザー=サンを殺すためにこの鉱山を目指していたのだ……もし彼に何かあればカタナハントと傭兵団の関係に亀裂が入りかねんぞ」

スノーウィンド「はあ、ナルホド……では今日の午前の採掘が終わり次第、監視のクローンヤクザを動員して施設を捜索します」

グレイシア「我々も協力しよう。それまでどこかで休ませてもらってもいいか?」

スノーウィンド「一階に宿直室がありますので、そこでよろしければ」


 退室するグレイシアたちを見送りつつ、スノーウィンドは内心辟易していた。
彼の心はツクシの曇り空よりなお暗い。


スノーウィンド(また厄介ごとが増えた……ブッダはよほど俺のことが嫌いらしいな)
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:08:31.24 ID:aMieaTZf0

ミラ「……!イヤーッ!」バババッ


 ミラは意識を取り戻すと同時に跳ね起き、三連続でバク転を繰り出してあたりを見回した。
赤い非常灯があるきりの薄暗い、細長い部屋だ。
壁いっぱいに積み上がった室外機と換気扇がゴウゴウと唸りを上げている。


ミラ(そうか、ここはエメツ鉱山の……)


 ミラは意識を失う直前の記憶を取り戻すとともに、足元に落ちているものに気がついた。


ミラ(……毛布?)


 それは粗末な毛布。
彼女にかけられていたものを、跳ね起きたときに吹き飛ばしてしまっていたのだ。
服の裏にも違和感がある。
装束をまくってみると、拙いやり方で包帯が巻かれていた。


ミラ(手当てされている……?)


 彼女が首を傾げたとき、室外機側の壁の扉が開いた。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:09:13.08 ID:aMieaTZf0

ミラ「!?イヤーッ!」グイッ

「アイエエエ!?」ドタッ


 ミラはとっさに侵入者の腕を極め、壁に叩きつけた。
扉を蹴って閉め、侵入者の後頭部を睨みつける。


ミラ「あんたは……」

タモツ「アイエエエ、俺だよ、俺だよミラ=サン」

ミラ「……ミレノ=サン。この包帯はあなたが?」

タモツ「ああ、俺だ……あっ!服、脱がせてしまってごめんよ!ひどい怪我だったから……」

ミラ「いえ、それはいいけれど」

タモツ「君のことは誰にも言ってない、バレてないよ……あの、そろそろ……手を離してくれないかな」

ミラ「……ごめんなさい」パッ


 ミラは謝罪とともにタモツの腕を離し、ドアに耳を当てて警戒した。
敵が騒音を聞きつけてやってくるのではないかと考えていたのだ。
やがて、そのまま五分が経過した。
外は静かだ。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:09:56.40 ID:aMieaTZf0

ミラ「……キユウ・アングザエティだったみたいね」


 ミラがドアから耳を離すと、タモツがオドオドしながら話しかけてきた。


タモツ「君は……君は、ニンジャなんだよな?本物の」

ミラ「……ええ、ニンジャよ。それでも昨日の怪我はまずかった。手当てしてくれてありがとう」

タモツ「なに、医務室から包帯をくすねてきて巻いただけだ。大したことじゃないさ……しかし、ニンジャは実在したのか……」

ミラ「ここを管理しているのもニンジャのはずだけれど」

タモツ「そうなの?働いているのは双子みたいな顔のヤクザばかりだよ。仲間かい?」

ミラ「ふざけたことを言わないで」


 赤黒のニンジャが殺気に満ちた目でタモツを見た。
タモツはまた漏らしそうになった。
しかしミラはすぐに自分の感情を押さえ込んで、フーッと息を吐いた。


ミラ「……ごめんなさい。私は彼らの敵よ」

タモツ「敵」

ミラ「双子みたいな顔の、っていうのはU&Qトコシエ社のクローンヤクザよ」

タモツ「クローンヤクザ」


 タモツは呆けたようにオウム返しした。
ミラは床にアグラし、携帯IRC端末を取り出して時間を確認する。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:11:28.27 ID:aMieaTZf0

ミラ「チッ……もう昼か。怪我があったとはいえ眠りすぎたわね……」

タモツ「ああ、俺たちもちょうど昼休みで……あっ、そうだ」


 タモツもミラの前にアグラして、おもむろにシャツをまくり、その裏から冷凍テリヤキバーガーの包みを取り出した。


タモツ「これ、よかったら食べてよ」

ミラ「……いいの?あなたの分とかじゃ……」

タモツ「そうだけど……お腹、空いてるだろ?」


 ミラの脳裏に「毒」という言葉がよぎり、答えに詰まる。
しかしタモツと出会ったのは作為のない偶然。
昨日の怯えようからするとニンジャを知ったのも初めてであろうし、それを相手にしてこうも自然に嘘をつけるとは考え難い。


ミラ「……いただくわ、ありがとう。何から何までスミマセン」


 ミラは受け取ったテリヤキバーガーを1分もかからず完食した。
十分な量とは言い難いが、夜通し雪山を歩いてきた彼女にとっては貴重なエネルギー源だ。
包み紙で口を拭いつつ部屋を見回す。


ミラ「ここはどういう部屋なのかしら」

タモツ「わからない、たぶん室外機置き場だと思うけど。外に直接置くと凍っちゃうんだよ、きっと」

ミラ「そうみたいね。で、ここはヤクザに見つかる心配はないの?」

タモツ「多分存在自体は知ってると思うけれど、入っているところはこの何ヶ月か一度も見たことがないよ。俺の隠れ家なんだ……ところで」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:12:25.83 ID:aMieaTZf0

 タモツはミラの顔を覗き込むようにして尋ねた。


タモツ「君は、ここへ何をしに来たんだい?そんな怪我までして……バイオグリズリーか何かに襲われたんだろう、それ?」

ミラ「……この怪我は、コリ・ニンジャに襲われたの。あなたを労働に駆り出している連中の仲間に」

タモツ「仲間……?ニンジャってのはそんなに一杯いるのかい?俺たちをこき使ってる奴っていうのは、どういう……」

ミラ「!こっちに!」バッ

「イヤーッ!」ブンッ


 SMAAASH!
扉を蹴り開け、コリ・ニンジャが小部屋にエントリーした!
重厚な氷の鎧を纏い、背中には氷の槍……アイシクルランスである!


アイシクルランス「……」ジロジロ


 アイシクルランスはカラテを構えつつ、注意深く視線を巡らせる。
非常灯の赤い光の中、室外機と換気扇だけが唸りを上げるイール・ベッド。
……無人である。


アイシクルランス「……」ジロッ


 首を巡らせ、開け放った扉を見やった。
その裏に、死角がある。
アイシクルランスはゆっくりと手を伸ばし、そのノブを掴んで……引く!


アイシクルランス「イヤーッ!」ブンッ


 同時にその裏にチョップ突きを!
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:13:16.61 ID:aMieaTZf0

アイシクルランス「……」スッ


 ……コンクリートの壁を睨み、手刀を収める。
扉の裏には誰もいなかった。
クローンヤクザが彼を追って部屋に入ってくる。


クローンヤクザ「発見しましたか」

アイシクルランス「……いや、気のせいだったようだ。たしかに何か聞こえたと思ったんだが」


 アイシクルランスは最後にあたりを見回してから、部屋を後にした。
扉の向こうで足音が遠ざかり、聞こえなくなった後、天井に張り付いていたミラが音もなく着地した。
抱えていたタモツを下ろしてやる。


タモツ「あ……ありがとう」

ミラ「今のがそのコリ・ニンジャの一人よ。私の敵ね」

タモツ「俺たちをこき使っている奴の、敵……もしかして君は、俺たちを助けに来てくれたのかい?」


 ミラは口ごもった。


ミラ「……違うわ、私はシューゲイザー=サンを……コリ・ニンジャたちの商売相手を殺しに来たの」

タモツ「殺しに?なぜ?」

ミラ「彼はネオフクオカのニンジャ組織、カタナハント・ユニオンの構成員……私の母の、仇の一人だからよ」

タモツ「そうか……ごめんよ、変なこと言って」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:13:55.12 ID:aMieaTZf0

ミラ「……いえ、でも……助けられるなら、助けたいとは……思っているわ」


 タモツが表情を明るくする。
ミラの胸を嫌な感覚が突き抜けた。


ミラ(私は……とんだ偽善者ね)

タモツ「……それにしても、カタナハント……カタナハントか」


 タモツは少し考え込むような仕草をしてから言う。


タモツ「『今日の夜、採掘場にカタナハントの人が来る』ってヤクザが言ってたけど……関係あるかな?」

ミラ「何ですって」


 ミラは目をギラリと光らせ、タモツに詰め寄った。
こんな僻地にカタナハント・エージェントが何人もいるとは思えない。
間違いなくシューゲイザーの話だ。


ミラ「採掘場はどこ?ここからどう行けばいいの」

タモツ「エッ、どうするつもりなのさ」

ミラ「殺すって言ったでしょ。待ち伏せをしかけて殺すの」

タモツ「無理だよ、下ではマシンガンを持ったヤクザが監視してるんだ!身を隠すような岩陰だってろくにないし……」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:14:57.15 ID:aMieaTZf0

 ミラは唸った。
クローンヤクザそのものは問題にならないが、採掘場は思った以上に目が行き届いていそうだ。
シューゲイザーを首尾よくアンブッシュで殺せたとしても、コリ・ニンジャたちに囲んで棒で叩かれてはたまらない。
かといってこの機会を逃してしまえば、次にいつシューゲイザーの尻尾をつかめるかわからない。


タモツ「……いや……待てよ。無理か、わからないかもしれない」


 ミラはぱっと顔を上げた。
タモツが顔に手を当てて考え込んでいる。


ミラ「どういう意味?」

タモツ「地上の警備をよそに振り向ける方法があるんだ。そうすれば、あとは採掘場の連中をどうにかするだけで……」

ミラ「どんな方法?」


 ミラは目を見開いてタモツを見据えた。
青年は少したじろぐような顔をしたが、やがて指を一本立てて言った。


タモツ「じゃあさ、ミラ=サン……その方法を教える代わりに、俺に協力させてくれない?」

ミラ「……えっ……なぜ?」

タモツ「俺たちを助けたいって思ってくれてるんだろ?二人ならできるぞ、きっと!」


 タモツの目は昨日までと同一人物とは思えないほどエネルギッシュだ。
ミラは思わずたじろぐ。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:16:20.17 ID:aMieaTZf0

ミラ「……危険よ?死ぬかもしれないわ」

タモツ「そんなの協力しなくったって同じさ、流れ弾で死ぬかもしれないんだから」


 ミラは再び唸った。


ミラ(改めて考えれば……今回の私の復讐は、彼らを巻き込む前提なのね)


 しかし今更引き下がろうとは思わないし、引き下がることはできないだろう。
下手に逃げ出して昨日の三人に追われれば今度こそ命はない。
この鉱山から脱出するには、奴らを混乱に巻き込んでおいて逃げ延びるしかないのだ。
ミラは覚悟を決めた。


ミラ「……わかったわ」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:17:03.36 ID:aMieaTZf0

 その夜。


スノーウィンド(ああ嫌だ嫌だ、憂鬱だ)


 ガコン……グイイイイン。
下降していく仮設エレベーターの中、スノーウィンドは眉間の奥でモヤモヤしたものが延々と駆け巡っているのを感じた。
隣を一瞥する。


シューゲイザー「ドゥードゥー、ドゥードゥルドゥー」


 相変わらずキザなスーツにメンポ姿のシューゲイザーは、ご機嫌にハミングさえしていた。
スノーウィンドの心はいよいよ曇る。


スノーウィンド(この視察でこいつが何を見ようとエメツ値下げは確定、たぶん俺の指は何本か飛ぶだろう。俺は何のためにエスコートなんかしているんだ?)


 ガコン、ガラガラガラ……
エレベーターが停止し、金網の扉が開く。


労働者A「ヨイショ、ヨイショ……」

労働者B「ヨイショ、ヨイショ……」


 天気は相変わらずの雪。
採掘場下層、露天掘りの最前線では、相変わらず労働者たちが機械的にツルハシを振るっていた。
シューゲイザーはその間を歩き回り、ついてくるスノーウィンドにご満悦で話しかける。


シューゲイザー「なかなかマッポーな光景ですね、これは!もしかしてこいつらの汗が染み込んでエメツを劣化させているんでしょうかな?」

スノーウィンド「ハ、ハハハ……」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:18:00.13 ID:aMieaTZf0

 スノーウィンドが適当に笑って誤魔化した、その時!
CABOOM!CABOOM!CABOOM!


スノーウィンド「!?」

シューゲイザー「何だ!?」


 はるか上で立て続けに三度爆発が起こった。
労働者たちも顔を上げて、無気力な目で音の源……鉱山管理棟を見上げる。
三筋の煙が立ち上って、低く立ち込める雪雲に届いていた。


シューゲイザー「……あの爆発の仕方は、ダイナマイトですね。まさか事故ですか?安全管理上の問題は?」

スノーウィンド「そ、そんなはずはありません!ダイナマイトは管理棟から遠く離れた地下保管庫に納めてあるはず……」


 ……これがタモツの作戦であった。
彼は雪のない時期の作業にも従事していたため、ダイナマイトの保管場所を知っていた。
ミラはタモツが持ってきた昼食を食べて体力を取り戻すと、ダイナマイトを盗み出して管理棟に仕掛けたのだ。
その目論見は成功し、地上のクローンヤクザ部隊とグレイシアたちは管理棟に急行する。
採掘場は今、まったくのノーマーク!


「イヤーッ!」ブンッ

シューゲイザー「グワーッ!?」ドガッ


 労働者の一人が防寒着を脱ぎ捨てたかと思うと、シューゲイザーめがけ砲弾じみた勢いのトビゲリ・アンブッシュを仕掛けた!
脇腹に痛打を受けて横に吹っ飛び、岩壁に激突するシューゲイザー!
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:18:47.20 ID:aMieaTZf0

スノーウィンド「貴様何者だ!?イヤーッ!」ブンッ


 スノーウィンドが虚空に拳を振るうと、BOOM!
衝撃波のごとく超低温の空気が打ち出されて襲撃者めがけ飛んだ!
コリ・ソニックカラテである!


「イヤーッ!」バッ


 襲撃者は三点着地姿勢からバク転を繰り出してコリ・ソニックウェーブを回避!


労働者A「アバーッ!?」カキーンッ


 KBAM!背後の不運な労働者が流れ弾を受け、瞬時に全身を冷凍されてソクシ!ナムアミダブツ!
使い手の悲観的思考にそぐわない一撃必殺のジツだ!
襲撃者はそのまま五連続でバク転を繰り出して間合いを取った後、電撃的にオジギしアイサツする。


ミラ「ドーモ、はじめまして。ミラ・ツヅリです」ペコリ


 その正体は言わずもがなミラ!
タモツの手引きで労働者の中に紛れ込んでいたのだ!


スノーウィンド「ドーモ、ミラ・ツヅリ=サン。コリ・ニンジャ傭兵団のスノーウィンドです」ペコリ

シューゲイザー「カタナハント・ユニオンのシューゲイザーです」ペコリ


 シューゲイザーはいつのまにかスーツを脱ぎ捨て、紫色のニンジャ装束姿となっていた。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:19:28.62 ID:aMieaTZf0


シューゲイザー「狙いは俺か、『ニンジャ殺し』め。地上の爆発は陽動だな?」


 彼らの背後では三人のニンジャの対峙を目の当たりにした労働者たちがNRSを発症!


労働者B「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」オロオロ

労働者C「アイエエエ、コワイ!」ダダッ


 一瞬のうちに感情を取り戻し、恐慌のうちに工具を捨てて仮設エレベーターへ殺到!


クローンヤクザA「ザッケンナコラー労働放棄!」ジャキッ

クローンヤクザB「戻れッコラー!」ジャキッ


 その行く手をマシンガンを持ったクローンヤクザたちが遮り、労働者たちの足元へ発砲した。
BRATATATA!
悲鳴を上げて飛び下がる労働者たち!


スノーウィンド「ええいヤクザども、そんな奴らに構うくらいならこっちに加勢を……」

シューゲイザー「スノーウィンド=サン!来るぞ!」


 ミラがやにわ体をひねったかと思うと、赤黒の竜巻のごとく全身を高速回転させた!


ミラ「イイヤアアアーーーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 そこから多方向に無数のスリケンが放たれる!
大量殺戮奥義ヘルタツマキ!
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:20:08.20 ID:aMieaTZf0

スノーウィンド「ヌウーッ!」ガッ

シューゲイザー「ヌウーッ!」バチッ


 ニンジャたちは雪を裂いて猛然と飛来するスリケンの雨をなんとか防ぐ。
しかしクローンヤクザたちはダメだ!


クローンヤクザA「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザB「グワーッ!」グサッ


 監視クローンヤクザの七割ほどが急所にスリケンを受けてソクシ!
緑色のバイオ血液が雪の地面を染める!


タモツ「今だ、エレベーターに乗り込め!」


 ヤクザが落としたマシンガンを拾って叫ぶのはタモツだ!
怯えて混乱する労働者たちは彼の決断的な態度に引きつけられ、わずかに落ち着きを取り戻す!


タモツ「最初の便に乗りきれない奴らは銃を取って戦うんだ、やられっ放しじゃ気が済まないだろ!」


 タモツは左手を掲げる!キツネ・サイン!
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:20:59.60 ID:aMieaTZf0

タモツ「アンタイセイ!」ジャキッ


 BRATATATA!
タモツは右手のマシンガンで残存ヤクザたちへ銃撃!


労働者C「ウ、ウオオーッ!アンタイセイ!」ジャキッ

労働者D「クソーッ!やってやるーッ!」チャキッ


 半ばヤバレカバレながら労働者のうち何割かがマシンガンやツルハシや取って残存ヤクザに突撃し、激しい戦闘が展開!


ミラ「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブンブンブンッ

スノーウィンド(な、何故だ……)バシバシバシッ


 スノーウィンドはニンジャ聴力でそれを聞き取っていた。
ミラのカラテラッシュをぎりぎりで捌きながらも、頭の奥から疑念が湧いて止まらない。


スノーウィンド(何故このモノクロームの世界の中でそうもアグレッシブになれる?この世はこんなにも暗く、寒く、厳しいのに!何故!)

ミラ「イヤーッ!」ブンッ

スノーウィンド「グワーッ!」ドガッ


 ミラの鉄拳がガードをすり抜けて顔面に直撃!
スノーウィンドは雪の大地をバウンドしながら吹き飛ぶ!
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:21:39.43 ID:aMieaTZf0

ミラ「イヤーッ!」ビュンッ

シューゲイザー「イヤーッ!」バシッ


ミラは追撃のスリケンを投じるが、シューゲイザーが蹴り飛ばしインターラプト!
そのままステップインしてカラテ戦闘に突入!


シューゲイザー「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブンブンブンッ

ミラ「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」サッガッバチッ


 ミラはシューゲイザーのサバットめいた足技カラテを的確にかわし、防ぎ、弾いでいく!
彼女のニンジャ治癒力は非凡であり、コンディションはすでに全力のカラテを発揮可能な領域にまで回復している!


シューゲイザー「おのれ!イヤーッ!」ブウンッ

ミラ「イヤーッ!」サッ ブウンッ


 シューゲイザー渾身の回し蹴りをブリッジ回避し、逆立ちしながらのウィンドミル回転蹴りで反撃!


シューゲイザー「グワーッ!」ドガッ


 吹き飛ばされて再度岩壁に叩きつけられるシューゲイザー!
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:22:25.39 ID:aMieaTZf0

ミラ「イヤーッ!」ブンッ

シューゲイザー「ウ、ウオオーッ!」サッ


 CRASH!
シューゲイザーは岩壁を転がり、自らの頭を叩き潰さんとする拳を間一髪で回避!
カラテを構え直し、血走った目でミラを睨む!


シューゲイザー「何故だ!何故カタナハントに盾突くような真似をする!?よしんば俺を倒したところでさらに強力なニンジャが現れ、お前を殺す!その後に何が残る!?死体だけだ!」


 ミラは雪を踏んでシューゲイザーに近づく。
その一歩一歩が死神の足音、インガオホーのカウンドダウンのごとく!


ミラ「後のことなんて関係ない、私には過去と今があるだけ。その全部があんたたちを許さない!」

シューゲイザー「ウオオオオーッ狂人がアアアーーーッ!」


 シューゲイザーが飛び込む!


シューゲイザー「イイヤアアアーーーッ!」ブオンブオンブオンブオオンッ


 渾身の三回転ターボスピンキックが唸りを上げてミラの首を襲った!


ミラ「サツバツ!」ギュルンッブウンッ


 ミラは電撃じみた速さでその脚を絡め取る!
背負うようにして投げ飛ばし、力任せに地面へと叩きつけた!
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:22:59.51 ID:aMieaTZf0

シューゲイザー「グッワアアアーーーッ!」ドンッ


 ドンッ!シューゲイザーは大技の勢いのままに地面に激突し、頭に重篤なダメージを負って両目から血を噴出した!確実に致命傷!
しかし血まみれの目を見開き、自らの脚を極めるミラの腕を掴み返す!


ミラ「何!?」

シューゲイザー「ゴボッ、イヤーッ!」ブンッ


 血を吐きながらもその足払いは正確!
トモエナゲめいた動作でミラを引きずり倒し、先ほどのリフレインめいて顔面から地面に激突させる!


ミラ「グワーッ!」ドガッ

シューゲイザー「ゴボッゴボ、イヤーッ……!」グイッ


 そして一瞬朦朧としたミラを羽交い締めにし、無理矢理立ち上がらせた。
その目線の先には立ち上がったスノーウィンド!


シューゲイザー「スノーウィンド=サン、今だ!さっきのジツで俺ごとこいつをやれーッ!」

スノーウィンド「!?」


 スノーウィンドは一瞬たじろいだ。


スノーウィンド(あれほど疎ましかったシューゲイザー=サンまでが、こんなカジバチカラを……では俺は何だ?何事にも理由を求めるばかりで全力になれない俺は何だ!)

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:23:45.50 ID:aMieaTZf0

スノーウィンド「ウ、ウオオオオーッ!イヤーッ!」ブンッ


 BOOM!コリ・ソニックウェーブ!
しかし直前の一瞬がミラの意識の靄を払い、対応を可能としてしまった!


ミラ「イヤーッ!」グイッ


 シューゲイザーを力任せに背負い上げ、スープレックスをかけるような形で盾とした!
KBAM!ソニックウェーブ着弾!


シューゲイザー「グ、グッワーーーッ……!」パキパキパキ


 ……シューゲイザーがかっと見開いた目が凍っていく。
そこから垂れた血までがその下の皮膚とともに白く凍結し、わずかに残った生命までも凍てつかせていく……


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ

シューゲイザー「グワーッ……」ドガッ
スノーウィンド「グワーッ!?」ドガッ


 ミラは凍りついたシューゲイザーをスノーウィンドめがけ投げつけておいて、右手でスリケンを振りかぶった。
上体をひねると、その背中に縄のような筋肉が浮かび上がる……これはジュー・ジツの禁じ手、ツヨイ・スリケンの構え!


ミラ「イイヤアアアーーーッ!」ビュウンッ


 ギュン!赤黒く燃えるスリケンが舞い散る雪を焼き切りながら飛んだ!
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:24:34.54 ID:aMieaTZf0

シューゲイザー「グワーッ……」ドガッ
スノーウィンド「グワーッ!」ドガッ


 殺意のスリケンは凍死寸前のシューゲイザーもろともスノーウィンドの体までも貫き、背後の岩壁を粉砕した。


シューゲイザー「サヨナラ!」ドカーンッ


 岩壁崩落の衝撃により雪が狂ったように舞い散る中、シューゲイザーは爆発四散した。


ミラ「ハアーッ……」


 ミラはザンシンを解くと、すぐさまエレベーターのほうへ走った。
BRATATATA!BRATATATA!
いまだエレベーター付近では銃撃戦が続いている。


ミラ「イヤーッ!」ビュビュンッ

クローンヤクザC「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザD「グワーッ!」グサッ


 ミラはスリケンで残党ヤクザを掃討した。
労働者たちは混乱しつつも勝利の雄叫びを上げ、その中でタモツが彼女の名前を呼ぶ。

タモツ「ミラ=サン!」

ミラ「引き上げよ、早く!すぐに地上の部隊が下りてくる!」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:25:32.94 ID:aMieaTZf0

 地上に残っていた好戦的労働者たちとミラは一斉にエレベーターに駆け込んだ。
ガコン……グイイイイン。
強制労働の日々と変わらぬはずの上昇のリズムさえ、憎たらしいほど遅く感じられる。
それでもエレベーターはやがて地上に到着する。
もう二度と降りることはないだろう。
ガコン、ガラガラガラ……金網の扉が開く。
その先に広がっていた光景に、労働者たちとミラはそろって驚愕した。


ミラ「な……!」

タモツ「そんな……!」


 それは雪の上に積み重なる、先に脱出した労働者たちのおびただしい数の死体だった。


クローンヤクザE「!ザッケンナコラー脱走労働者!」ジャキッ

クローンヤクザF「スッゾコラー反乱分子!」ジャキッ

クローンヤクザG「サボタージュ許さねッゾコラーッ!」ジャキッ


 その奥で警備にあたっていたクローンヤクザ部隊がミラたちにマシンガンを向ける。
先行脱出組は武器を持っていなかったために彼らに虐殺されてしまったのだ!
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:26:00.31 ID:aMieaTZf0

ミラ「イヤーッ!」ビュビュビュンッ

クローンヤクザE「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザF「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザG「グワーッ!」グサッ


 ミラは怒りに満ちたスリケンで瞬く間にクローンヤクザ部隊を殲滅!


タモツ「前あっちの倉庫にスノーモービルがあるのを見たんだ、みんなついてきてくれ!」


 好戦的労働者たちはミラとタモツに率いられ、銀色に沈む鉱山施設内を一丸となって走り抜けた。
仲間の死に脱出への決意を新たにした彼らは、まるで軍隊のように洗練された動きで遭遇したクローンヤクザを片っ端から撃ち殺した。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:27:43.47 ID:aMieaTZf0

 採掘場最下層には静寂が戻っていた。
ナイターめいた大型照明の明かりも遠く、暗い空からしんしんと雪が降る。
BRATATATA……BRATATA……
地上から微かに銃声が響いた。
土がむき出しになったシューゲイザーの爆発四散痕の近くの雪が、ボコリと隆起した。


スノーウィンド「プハアーッ、ハアーッ、ハアーッ、ハアーッ!」


 その下から姿を現したのは、おお、スノーウィンドだ!
シューゲイザーの爆発四散に紛れて、とっさのドトン・ジツで雪の中に潜り込んでいたのだ!
とはいえ土手っ腹に大穴が開いていることには変わりなく、スノーウィンドは自分の腸の断面を見ながら腹にバイオ包帯を巻くことになった。
おおがかりな手術が必要になるだろう……しかし今はまだ、休めない。


スノーウィンド(こういう場合どうなるんだ?1番、エージェントが殺されたからご破算で俺はセプク。2番、ミラ=サンのせいだからお咎めなし?ああ!俺はここの責任者だった、こういう時責任を押し付けられるのが仕事だ。答えは1番!)


 自分の今後についての不安が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
ガコン……ウイイイイン。
エレベーターで地上へ向かいつつ、ニンジャポーチからハッチャキ・タブレットを取り出して二粒噛み砕く。
腹の傷の痛みとだるさが消え、不健康な高揚感が全身を駆け巡った。


スノーウィンド(ミラ=サンは無理でも、脱走労働者どもを皆殺しすれば上司の心象が良くなってケジメが軽くなるかもしれん。今は俺の本質なんてどうでもいい!)


 ガコン……ガラララ。
スノーウィンドはしばし問いを封じ込め、追跡を開始した。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:29:28.29 ID:aMieaTZf0

 クローンヤクザ部隊を排除しながら逃走を続けたミラと労働者たち。
すべてがうまくいっているかに思われたが、破綻はすぐに訪れた。
三人の白装束ニンジャという形をとって!


グレイシア「ドーモ、脱走労働者の皆さん。コリ・ニンジャ傭兵団のグレイシアです」ペコリ

アイシクルランス「同じくアイシクルランスです」ペコリ

サターン「同じくサターンです。好き勝手やってくれたなあ、エエッ?」ペコリ


 多くのクローンヤクザを射殺してきた労働者たちも、三人のニンジャを見てたちまち戦意を喪失した。
震えだし、失禁する者もいる……しかし逃亡者が出る前に、赤黒のニンジャが進み出た。


ミラ「ドーモ、ミラ・ツヅリです。あなたたちの相手は私がする」ペコリ

グレイシア「!ミラ=サン、今回のことは貴様が元凶か……よくもまあダイナマイトまで仕掛けたものだ、すっかり騙されたぞ」

サターン「フン!だがよお、相手をするってのは何だい?相手をするってのは。昨日は尻尾を巻いて逃げ出したお前が、俺たちをまともに相手する気でいんのかよ!」


 三人のコリ・ニンジャはシューゲイザーやスノーウィンドより一段上の使い手であり、ほぼ無傷でスタミナ消耗も無し……万全の状態である。
対してミラは昨日のダメージも完全に消えたわけではないし、直前の戦いでも傷を負っている。


ミラ「一晩ぐっすり寝て、傷の手当てと食事をしたわ。あんたたちとカラテ比べをするくらいならそれで十分よ」


 しかしミラはコリ・ニンジャたちを指差し、そう不敵に挑発した。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:30:33.16 ID:aMieaTZf0

サターン「ほざけ!コリ・サテライト・ジツ!」ビュババッ


 サターンがシャウトとともに手で複雑なニンジャサインを組むと、その周囲に無数の氷塊が出現し彼の周囲を高速旋回する!


ミラ「早く行って!」

タモツ「わ、わかった!」ダッ

労働者たち「「「オタッシャデー!」」」ダッ

サターン「イヤーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 労働者たちが迂回離脱した直後、無数の氷塊がスイングバイ射出されて殺人的速度でミラに襲いかかった!


ミラ「イヤーッ!」バババババ ダンッ


 ミラは五連続側転でこれを回避した後、おもむろにツカハラ跳躍で逆走回避!


アイシクルランス「イヤーッ!」ブオンッ


 その直後、アイシクルランスの突進刺突攻撃が側転移動の軌道を横切った!アブナイ!
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:32:07.41 ID:aMieaTZf0

ミラ「イヤーッ!」ビュンッ


 ミラはサターンめがけスリケンを投げるが、グレイシアがそれを遮るように位置取り、奇妙な中腰姿勢を取って叫ぶ!


グレイシア「ムテキ!」カキーンッ


 その瞬間、グレイシアの全身が長い年月をかけて押し固められたハコダテ氷河のごとく硬化した!
なすすべなく弾き返されるスリケン!


サターン「まだまだ行くぜーッ!イヤーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 横合いに回し込んだサターンがさらなる氷塊をスイングバイ射出!


ミラ「イヤーッ!」バババ ブンッ


 ミラは三連続のバク転で氷塊を回避したうえ、その場で逆立ち姿勢から叩きつけるような蹴りを放った!


アイシクルランス「グワーッ!」ドカッ


 再び突進刺突攻撃を試みたアイシクルランスは顔面を蹴られて転倒、なんとか後転をうって退避!
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:33:53.64 ID:aMieaTZf0

グレイシア「コリ・ジツ!イヤーッ!」ブウンッ


 グレイシアがツッパリめいた動作とともに超低音の冷気を噴射!BOOM!


ミラ「イヤーッ!」ゴロッ


 ミラは三点着地姿勢から横に転がってかわす!
冷気を浴びた背後の施設外壁は一瞬のうちに真っ白に凍りつき、バラバラと崩れる!


ミラ「捕まえてみろ!イヤーッ!」バッ ビュビュビュンッ


 ミラはバックジャンプを繰り出し、空中からスリケンを投げ散らしながら壁の穴の奥に飛び込み屋内を逃走!
コリ・ニンジャたちをタモツたちから引き離すため、徹底的な逃げの姿勢だ!


グレイシア「ウカツ!追いなさい!」

アイシクルランス・サターン「「ヨロコンデー!」」ダッ


 三人はそれを理解しながらもなお、自らの任務を最優先してミラを追う!
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:34:37.29 ID:aMieaTZf0

 一方タモツと労働者たちは鉱山施設を駆け、スノーモービルのある倉庫に向かう。
白い息を残して雪を踏み分け、ひたすら走る……


スノーウィンド「待て……!」ザッ


 おお、ナムサン!倉庫まで後一歩のところでスノーウィンドが立ちはだかった!
ミラが分かれたのを察知して姿を現したのだ!
腹の包帯に血を滲ませているが、ジゴクめいた形相で睨みつける姿は労働者たちの恐怖を煽るのには十分すぎる!


スノーウィンド「ナメた真似をしてくれたな、貴様ら……皆殺しだ!」

労働者C「ま、またニンジャ!?アイエエエーッ!」ジャキッ


 BRATATATA!恐慌した労働者が銃撃!


スノーウィンド「イヤーッ!」バッ ブンッ


 スノーウィンドは側転でかわし、コリ・ソニックカラテで反撃!BOOM!


労働者C「アバーッ!」カキーンッ


 KBAM!銃撃労働者は全身を冷凍されて即死!


スノーウィンド「イヤーッ!」ブンッ

労働者D「アバーッ!」カキーンッ


 BOOM!KBAM!また一人!
いかに手負いとはいえ、ニンジャであるスノーウィンドと労働者たちの戦闘力差は圧倒的だ!
たちまち恐慌に陥る労働者たち!
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:35:37.49 ID:aMieaTZf0

スノーウィンド(そうだ、俺はニンジャなんだ……!俺の邪魔をする奴はどいつもこいつもカラテで殺してやる!)

タモツ「あっ!ミラ=サン!」ビッ


 タモツがスノーウィンドの背後を指差して叫ぶ!


スノーウィンド「何イ!?」クルッ


 スノーウィンドは目を剥いて振り返るが……
そこには雪がしんしんと降っているばかりだ。


タモツ「今だ!」ジャキッ


 BRATATATA!タモツが銃撃!


スノーウィンド「グワーッ!?」バスバス ガクッ


 スノーウィンドは背後から両膝を撃ち抜かれて崩れ落ちる!


スノーウィンド(ハ、ハッタリだと…… )ドタッ


 足の傷、激しく動いて雑に巻いた包帯がずれたことで腹の傷からも出血。
スノーウィンドの意識が急速に薄れていく。
背後から朧げに労働者たちの声。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:36:09.11 ID:aMieaTZf0

(今の内だ、早くスノーモービルのところへ!)

スノーウィンド「に、逃がさん……イヤーッ……!」ビュンッ


 倒れたまま、後ろ手にコリ・スリケンを投擲する。


(グワーッ!)

スノーウィンド(当たったか……?)


 しかしその行方は確かめられない。
もはや起き上がる力さえなかったのだ。
やがて、倒れ伏すスノーウィンドを残して脱走労働者たちの声と足音は遠ざかっていく。


スノーウィンド(……非ニンジャのクズにまで出し抜かれるとは……俺こそ最低のクズだな……)


 スノーウィンドは薄れゆく意識の中自嘲しつつ、それでも安らかな気分だった。
冷たい雪が心地よいベッドに感じる。


スノーウィンド(これで死ねる……このクソみたいなモノクロームの人生から解放されるんだ……)


 彼は虚無感と自己嫌悪を重ね、死に救いを見出したのだ……
しかし、おお、ブッダ!
これまで多くの労働者を使い潰してきた彼にインガオホーが訪れる!
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:37:08.10 ID:aMieaTZf0

アイシクルランス「おいスノーウィンド=サン、その傷はどうした!」


 雪を踏んで駆け寄ってくるのはコリ・ニンジャ三人衆の一人、アイシクルランス!
ミラに撒かれてしまい、散開捜索中だったのだ!


スノーウィンド(!?今更来てどうしようというんだ、放っておいてくれ!死なせてくれ!)

アイシクルランス「待っていろ、今手当てをする」

スノーウィンド(何だと!?ミラ=サンは止められなかったくせに、なんでこんな時だけ手際がいいんだ!)

スノーウィンド「ああ、ううう……」


 スノーウィンドは心中で叫んだが、口からは無意味なうめきが出るばかりだ。
アイシクルランスはメディ・キットを広げて憎たらしいほど適切な応急処置を始めた。


アイシクルランス「気をしっかり持て、傷は浅いぞ。膝はサイバネになるだろうが仕事は続けられる」

スノーウィンド(知った風な口を聞くな!仕事さえも俺には苦痛のタネでしかないんだ!ヤメロ!ヤメロー!……アッ)


 スノーウィンドのニンジャ自律神経が「生存可能」と結論した。
彼は絶望に打ちひしがれて気絶した。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:37:54.55 ID:aMieaTZf0

ミラ「ここか……!」タタッ


 ミラは労働者たちに遅れて倉庫へ到着した。
入り口のシャッターはこじ開けられ、すでに何台ものスノーモービルが発進した形跡がある。
残っているのは一台のスノーモービルと、その上に腰かけた一人の青年。


タモツ「来たか、ミラ=サン……」

ミラ「ミレノ=サン!なんで先に行かなかったの?」

タモツ「ハハ……」グイッ


 タモツは大儀そうにマシンガンを持ち上げる……脇腹に、氷でできたスリケンが深々と突き刺さっていた。
ハッとして彼の足元を見ると、その傷から流れた血で血だまりができていた。


ミラ「それは……!」

タモツ「逃げる途中、ニンジャに出くわして……うまくやりすごしたと思ったんだけどね……ゲホ、ゲホッ」

ミラ(……私のせいか?私がミレノ=サンを巻き込んだから?)


 ミラは心臓にクサビを打ち込まれたかのような痛みを錯覚した。


タモツ「このスノーモービルを使って逃げるんだ、ミラ=サン……俺は置いて行ってくれ」

ミラ「わ、私が運転するから、後ろに乗って……!」

タモツ「ダメだ。あの三人はまだ追ってくるんだろう?二人乗りじゃスピードが出ない。足止め要員だって必要だろう?」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:39:08.54 ID:aMieaTZf0

 ミラは口ごもった。
タモツは達観した表情で灰色の空を眺めた。


タモツ「……ミラ=サンのせいじゃない。俺が選んだことだ……俺は、証明したかったんだ」

ミラ「証明……?」

タモツ「ああ。いつのまにかこんなに落ちぶれちまったけど、やる気を出せばやれるんだって、幼稚な考えさ。理由なんて、どうでもよかった、ゲホッ」


 タモツは血を吐いた。
ミラはうつむき、手をわななかせる。


ミラ「……幼稚なんかじゃ……幼稚なんかじゃない、ニンジャを相手に、こんなに……!」

タモツ「……ありがとう。君一人だけでも、そう言ってくれるだけで……さあ、もう行け」


 タモツは銃でスノーモービルのほうを示した。
ミラは一瞬躊躇した後、それに乗り込み、エンジンをかけた。
エンジンが無感動に唸り始める。


ミラ「……忘れないわ、あなたのこと」


 答えはなかった。
ミラはスノーモービルを発進させた。
もう、振り返らなかった。

 数分後、グレイシアがミラの後を追って倉庫に到着した。
もっとも新しいスノーモービルの走行痕を見抜いて目で追うが、その先はすでに雪山の圧倒的な白の中に消えている。
彼は苛立ちのままに、燃料缶の上の死体を蹴り飛ばした。
死体は裏口のドアを突き破って地面に転がる。
やがて雪が降り出して降り積もり、すべてのサツバツをモノクロームの世界の中に沈めていった。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:40:13.25 ID:aMieaTZf0

 ツクシ山中、コリ・ニンジャ傭兵団本部。


カースドハンド「本当に大丈夫なんだろうな?」

アバランシェ「心配性な奴だな、ダイジョブダッテ!」


 二人は薄暗く、やや肌寒いザシキに座っていた。
黒装束のカースドハンドと、白装束のアバランシェ……両者ともニンジャである。


カースドハンド「元カタナハントだってんで疎まれたりしないか?それに俺は、こんな腕だから……」


 カースドハンドは空っぽの右袖を見下ろす。


アバランシェ「クリンフロスト=サンはそんなみみっちいお方じゃないぜ、経験者は優遇されるくらいだ」


 ノックとともにショウジ戸が開き、氷でできた兵隊が姿を現した。
本部を警備するニンジャ・ジェネラルウィンターのジツで作り出されたオートマトンだ。
氷穴に響くような声で喋りかける。


氷兵『失礼シマス。カースドハンド=サン、首領ガオ会イニナリマス。コチラヘドウゾ』

カースドハンド「ハ、ハイ……」

アバランシェ「くれぐれもシツレイだけは無いようにな!」


 カースドハンドはアバランシェに見送られてザシキを出た。
氷兵に先導されて縁側を進む。
今は夏のはずなのに、横の庭には雪がしんしんと降っている。
カースドハンドはここがコリ・ニンジャの巣窟であることをあらためて思い知った。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:40:54.48 ID:aMieaTZf0

 やがて氷兵が一つのショウジ戸の前で止まり、縁をノックする。


カースドハンド(ここに傭兵団のトップが……?)

氷兵『失礼シマス。カースドハンド=サンガイラッシャイマシタ』

「入れ」


 部屋の中から答えがあった。
氷兵がショウジ戸を開けて部屋の中へ入り、カースドハンドもそれに続く。
中は狭いザシキだった。
カースドハンドを案内してきた氷兵が右奥に座り、左奥にいた氷兵とあわせて左右に控える形となった。

 その奥にあるのは一段高いタタミ玉座だ。
「氷の部屋」とショドーされた白いノレンで区切られた、平安貴族めいたゴザショである。


「ドーモはじめまして、カースドハンド=サン」


 ノレンの奥でオジギする気配があった。


クリンフロスト「コリ・ニンジャ傭兵団首領、クリンフロストです」


 想像よりずっと高くて細い声だ。
しかし凍りつくような緊張感があった。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:41:38.70 ID:aMieaTZf0

カースドハンド「ド……ドーモはじめまして、クリンフロスト=サン。カースドハンドです」


 カースドハンドはアトモスフィアに圧倒され、汗を流しながらオジギした。
首を伝う汗が急速に冷えて、凍りつくのがわかった。
寒い。
この部屋は外にもまして寒いのだ。


クリンフロスト「そなたのように経験豊富なニンジャを傭兵団に迎えられること、実に喜ばしい。それもこの美しい雪の日に……もっとも、この一帯は何十年も雪が降り続いているが」

カースドハンド「は……イエ、私など、傭兵団の皆さんに比べればニュービーで……」

クリンフロスト「ニュービーなのか?では雇うのはやめようか」

カースドハンド「!?エッ、それは……」

クリンフロスト「冗談だ、フフフ……」


 クリンフロストはノレンの奥で笑いを漏らす。
カースドハンドはまるっきり生きた心地がしなかった。


クリンフロスト「しかし、アバランシェ=サンから堅実で実直なニンジャと聞いているが、それがどうしてカタナハントをヌケニンすることになったのだ?」

カースドハンド「……半年前、カブナカマとの戦闘で右腕を失いまして……同時に、右手から発動していたノロイ・ジツも失いました」


 カースドハンドは再び苦々しげに右袖を見下ろした。


カースドハンド「すると任務失敗の責任を押し付けられたりと、冷遇が目立つようになり……これまで精一杯尽くしてきたつもりだっただけに、耐えられず……」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:42:49.36 ID:aMieaTZf0

クリンフロスト「なるほど……憂い話よな」

カースドハンド「は……しかしこれからは片腕は片腕なりに、全力で傭兵団の一員として貢献させていただきたく……」

クリンフロスト「うむ。では、近う寄れ」


 左右の氷兵がおもむろに立ち上がり、カースドハンドのほうへ近寄る。


氷兵『オ手ヲ』グッ

カースドハンド「ハ、ハイ」スッ


 氷兵たちはカースドハンドをゴザショの前へ導き、その左手を左右から掴み、ノレンの中へ差し入れた。
カースドハンドはその手にクリンフロストが軽く触れるのを感じた。
しなやかで、冷たい手……そう、冷たい……冷たすぎる!


カースドハンド「!?グッ、グワーッ!?」ミシミシ


 カースドハンドは自分の左手が凍りついたように感じ、反射的に引き戻そうとした。
しかし左右の氷兵が離さぬ!
クリンフロストも彼の左手を握りしめ、さらに冷気を送り込みつつ哄笑!


クリンフロスト「MWAHAHAHA、BWAHAHAHA!」グググ

カースドハンド「グッ、グワーッ、グワーッ!何を!離して……離せ!」パキパキパキ

クリンフロスト「何故嫌がる?コリ・ニンジャになりたいのだろう、覚悟を決めろ!イヤーッ!」グググ

カースドハンド「グワッグワ、グワーーーッ!」ピキピキピキ
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:43:46.96 ID:aMieaTZf0

 カースドハンドの体内を冷たいエネルギーが駆け巡った。
全身を何度も何度も繰り返し氷漬けにされるような錯覚。
意識が飛びかけたとき、クリンフロストと氷兵たちが左腕を離した。


カースドハンド「グッワ……ハアーッ、ハアーッ、ハアーッ!」


 カースドハンドは両手をタタミに着いて荒く呼吸した……両手?
カースドハンドは自分の右腕を見た。
粗削りな氷塊が腕を形作っていた。


カースドハンド「これは……」

クリンフロスト「腕をくれてやった。コリ・ジツもだ」


 カースドハンドの意のままに、氷の義手は生身のごとく滑らかに動き、握り、放す。
ジツの発動を意識すると、その手のひらから微かに白い冷気が漏れた。
気づけば、全身の装束も真っ白に変わっていた。


クリンフロスト「今日この時より、お前は最強の軍団コリ・ニンジャが一人、『チルドハンド』だ」

チルドハンド「チルド……ハンド……」

クリンフロスト「訓練次第でコリ・ノロイジツと言うべきものも使えるようになろう……礼くらい言ってもいいのだぞ」

チルドハンド「……ハイ……アリガトウゴザイマス……」


 チルドハンドは呆然として、半ば夢うつつのままオジギした。


クリンフロスト「うむ、これから一年はここで鍛えなおすことだ……紹介してきたのはアバランシェ=サンだったか?施設は彼に案内してもらうがよい」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:44:51.50 ID:aMieaTZf0

 チルドハンドは氷兵の一人に伴われて退室した。
これから雪山で厳しい訓練を積んで一人前の傭兵となった後、キューシューのどこかの戦場に派遣されることとなるだろう。
過去に同様のプロセスでクリンフロストの「祝福」を受けた何人ものニンジャと同じように。


クリンフロスト「フウーッ……」


 クリンフロストはノレンの奥で細く溜息をつき、横のタク・テーブルから冷やしマッチャのお椀を取って一口飲む。
そのときショウジ戸の反対側の壁が回転して、その奥から一人のコリ・ニンジャが入室した。


コキュートス「ドーモ、クリンフロスト=サン。コキュートスです」ペコリ


 そして慇懃にアイサツした。
武器は帯びていないが、その所作からはただならぬカラテがにじみ出ている。


クリンフロスト「おや……ドーモ、コキュートス=サン。クリンフロストです……何かあったかね?」ペコリ

コキュートス「は、二件ほど……その前に少し、シツレイします」


 コキュートスは後ろ手にドンデンガエシを閉じ、会釈しつつノレンの前を横切って、ショウジ戸を開けて縁側を見回した。
人の目がないことを確認すると、クリンフロストの正面に戻って正座した。


クリンフロスト「壁に耳あり、か?……話せ」

コキュートス「では一件目から……マウント・セフリのエメツ鉱山が『ニンジャ殺し』の襲撃を受け、カタナハント側のネゴシエーターが死亡しました」

クリンフロスト「ほう、例の……フフ、アグレッシブなことよな。コリ・ニンジャの損害は?」

コキュートス「鉱山責任者のスノーウィンド=サンが負傷しました。命には別条ないとのことですが」

クリンフロスト「運の強い奴だ。どちらにしろケジメしてもらわなければならんが……カタナハントに連絡員を送って、言い訳させておけ。二件目は?」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:48:02.20 ID:aMieaTZf0

コキュートス「は、人目をはばかるのはそれでして……コトダマパルス分析を通して、『セイソ・ニンジャ』のニンジャソウルの憑依が確認されたとのことです」

クリンフロスト「ほう」


 クリンフロストのアトモスフィアがいくらか熱を帯びた。


クリンフロスト「場所は?憑依者の詳細はわからんのか?」

コキュートス「何分発展途上の技術ですので、北キューシューのどこか、としか……」

クリンフロスト「北キューシューか……人口が多いのは、ノースキューシュー……あるいは、ネオフクオカか」

コキュートス「手が遅れれば、カタナハントかカブナカマにスカウトされるおそれも……」

クリンフロスト「……フフフ、しばらく忙しくなりそうだな」


 ……今日もツクシには雪が降り続く。
白黒の景色はどこまでもどこまでも続き、地平線の向こうまでも飲み込まんばかりだった。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:48:37.32 ID:aMieaTZf0

◆忍◆ ニンジャ名鑑#20 【シューゲイザー】 ◆殺◆
 カタナハント・ユニオンのニンジャ。
主に企業や他組織との交渉役を務めるニンジャ・エージェントである。
東ツクシでコリ・ニンジャ傭兵団を相手に足元を見たビジネスをしていたが、ミラの襲撃を受けて殺された。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#21 【スノーウィンド】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャ。
ソウル由来のソニックカラテとクリンフロストからもたらされたコリ・ジツを組み合わせ、離れた相手を瞬時に凍結して殺すコリ・ソニックカラテを編み出した。
監督していた鉱山がミラの襲撃を受けたが、幸運にも生き残った。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#22 【グレイシア】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
ビッグカラテとムテキ・アティチュードとコリ・ジツを巧みに使いこなす、傭兵団内で五指に入るワザマエの持ち主。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#23 【アイシクルランス】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
氷の鎧を着込み、氷のニンジャランスを振るって戦う。
トイはナイトニンジャのリペイントで、メーカーに「主人公の宿敵の姿を軽々しく流用するな」という苦情が殺到した。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#24 【サターン】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
氷塊を周囲に旋回させたり射出したりするコリ・サテライトジツは攻防一体。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#25 【アバランシェ】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャ。
攻撃してきた相手をコリ・カラダチで凍結しタタミ・ケンで打ち砕く初見殺しの持ち主。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#26 【クリンフロスト】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団首領。
コリ・ニンジャクランの「ヒムロ・ニンジャ」のソウルを宿し、強大なカラテとコリ・ジツを操るほか、他のニンジャを祝福しコリ・ジツを与えることができる。
その正体は謎に包まれているが、熱烈なリアルニンジャ・ワナビーであるとされている。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#27 【ジェネラルウィンター】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部警備部隊の筆頭格。
コリ・カゲムシャジツによって氷でできたオートマトンの兵隊を作り出して操る。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#28 【チルドハンド】 ◆殺◆
 カタナハント・ユニオンからコリ・ニンジャ傭兵団へ移籍したニンジャ。
氷の義手で触れた相手の血中カラテ粒子の流れを凍結するコリ・ノロイジツの使い手。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#29 【コキュートス】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、首領クリンフロストの側近。
コリ・キリングフィールドジツは格上の敵でもジゴク送りにしうる恐るべきヒサツ・ワザだ。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [ saga]:2018/11/10(土) 14:52:17.68 ID:aMieaTZf0
以上で完結となります
お読みいただきありがとうございました
原作でも最近増えてる艦名直訳ニンジャネームはオシャレだけどネタ切れ感じるんでしたよね
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 15:43:26.92 ID:v/fskZ3To
よく出来てると思うけど、主人公はまんまフジキドのマイナーチェンジって感じで
設定も性格も大して違わないし普通にフジキドで良かったんじゃないか
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/10(土) 15:45:10.74 ID:V8h/S7ZIo
そうかい、俺は好きだぜ(画像略)

>>1はオツカレサマドスエ!定期的に見たくなるのでシリーズ化希望
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